(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】慢性歯肉口内炎の治療で使用するための間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240702BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500056
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2022068552
(87)【国際公開番号】W WO2023280835
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521400224
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム ヴェテリナリー メディスン ベルギー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】ジャン スパース
(72)【発明者】
【氏名】シャーロット ビアーツ
(72)【発明者】
【氏名】リーサ タック
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA67
(57)【要約】
本発明は、被験体、好ましくはネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)の治療で使用するための間葉系幹細胞(MSC)または治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関する。第2の態様において、本発明は、慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患している被験体、好ましくはネコおよびイヌのCGS炎症反応の急性期および/または慢性期に免疫調節剤として使用するためのMSCまたは治療上有効な量のMSCを含む医薬組成物に関する。最後の態様において、本発明は、末梢血由来MSCを含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体、好ましくはネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)の治療で使用するための間葉系幹細胞(MSC)または治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項2】
前記MSCが天然である、請求項1に記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項3】
前記MSCが血液、好ましくは末梢血に由来する、請求項1~2のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項4】
前記MSCが同種MSCまたは異種MSCであり、好ましくは異種MSCである、請求項1~3のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項5】
前記MSCが動物由来、好ましくは哺乳動物由来、より好ましくはウマ由来である、請求項1~4のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項6】
前記MSCが静脈内投与される、請求項1~5のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項7】
被験体あたり10
5-10
7MSCの用量が投与される、請求項1~6のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項8】
単一用量が投与される、請求項1~7のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項9】
複数用量が投与され、各用量は異なる時点で投与される、請求項1~8のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物の一投与量が最大で約5mLの体積を有し、好ましくは前記体積は約1mLである、請求項1~9のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項11】
前記MSCが、MHCクラスII分子および/またはCD45について陰性である、請求項1~10のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項12】
前記MSCが間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90について陽性であり、MHCクラスII分子およびCD45について陰性である、請求項1~11のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項13】
前記MSCが炎症環境または状態に存在する場合、免疫調節性プロスタグランジンE2サイトカインを分泌する、請求項1~12のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項14】
前記MSCが炎症性環境または状態に存在する場合、同じ特徴を有するが前記炎症性環境または状態にさらされていない細胞と比較して、IL-6、IL-10、TGF-β、NOもしくはそれらの組み合わせから選択される分子の少なくとも1つの分泌が増加し;および/または、IL-1の分泌が減少する、請求項1~13のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項15】
前記MSCがPBMCの存在下にある場合、PgE2、IL-6、IL-10、NOもしくはそれらの組合せの発現を刺激し、および/または、PBMCの存在下にある場合、TNF-α、IFN-γ、IL-1、TGF-β、IL-13もしくはそれらの組合せの分泌を抑制する、請求項1~14のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項16】
前記MSCが滅菌液体中に存在する、請求項1~15のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項17】
前記治療が、慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患しているネコおよびイヌの口腔炎症性病変の治療であり、前記病変の重症度が、スコア化スキーム、例えばネコでは口内炎疾患活動性指標(SDAI)スコア化スキーム、またはイヌではイヌ潰瘍性口内炎疾患活動性指標(CUSDAI)スコア化スキームなどを用いて病変スコアを算出することによって評価される、請求項1~16のいずれかに記載の使用のためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項18】
前記ネコまたはイヌが、前記MSCまたはMSCを含む医薬組成物の投与前に少なくとも5の病変スコアを有し、前記病変スコアは、前記MSCまたはMSCを含む医薬組成物の1回または複数回の投与後3ヶ月の期間内に、治療されたネコまたはイヌの少なくとも35%において少なくとも20%の相対的減少を示す、請求項17に記載の使用のための治療有効量のMSCまたはMSCを含む医薬組成物。
【請求項19】
前記口腔炎症性病変が、以前の治療に対して難治性であり、前記以前の治療は、イヌまたはネコの口腔からの1つまたは複数の歯の抜歯を含む、請求項17~18のいずれかに記載の使用のためのMSC。
【請求項20】
慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患している被験体、好ましくはネコおよびイヌにおけるCGS炎症反応中の免疫調節剤として使用するためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物。
【請求項21】
末梢血由来のMSCを含む医薬組成物であって、前記MSCは動物由来、好ましくは哺乳動物由来であり、前記組成物1mL当たり10
5-10
7MSCの濃度で滅菌液体中に存在し、前記組成物の一投与量は約0.5~5mLの体積を有し、前記MSCは間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90について陽性であり、MHCクラスII分子およびCD45について陰性であり、前記MSCは10μm~100μmの懸濁液径を有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体、好ましくはイヌおよびネコの慢性歯肉口内炎の治療で使用するための間葉系幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
ネコまたはイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)は、歯肉、頬粘膜および尾側口腔粘膜の重度の炎症を特徴とする、重度の特発性炎症性口腔疾患である。この疾患は一般的なネコ個体群の約0.7-10%が発症している。CGSはイヌの患者でも発生率が増加している。CGSの病因はよくわかっていないが、微生物因子および自然免疫反応の変化が本疾患の発症に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。組織学的に、ネコまたはイヌの傷害はリンパ球、主にエフェクターT細胞とB細胞による炎症によって特徴づけられる。この疾患は痛みを伴う粘膜病変を引き起こし、生活の質を著しく低下させる。臨床徴候は疼痛、中等度から重度の口腔不快感、食欲不振、体重減少、グルーミングの減少および唾液分泌過多など様々である。
【0003】
今のところ、ネコまたはイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)に対して100%有効な治療はなく、その結果、数匹の罹患したネコおよびイヌを安楽死させることになりかねない。約70%のネコは、全体的または部分的な抜歯からなる標準的な治療に反応する。残りの30%は抜歯に反応せず、抗生物質、副腎皮質ステロイドおよび他の鎮痛薬による治療が生涯必要となる。このような難治性の状況では、抗炎症薬での治療または免疫調節療法が考えられ得る。
【0004】
T細胞増殖を抑制し、T細胞アネルギーを刺激するMSCの能力は、MSCによる療法がCGSの治療にかなり有望であることを示唆している。
【0005】
それゆえ、間葉系幹細胞(MSC)は、CGSの炎症プロセスを抑制し、その進行をごく短期間で遅らせ、さらには持続的な損傷の回復を引き起こす可能性のあるその免疫調節特性から、CGS治療の代替となりうるものとして提案されてきた。いくつかの研究で、慢性歯肉口内炎の治療における安全性と有効性が調査され、非常に興味深い結果が示されている。
【0006】
これらの研究の大半は、脂肪組織または骨髄(BM)由来の自己MSCを用いている。しかし、場合によっては、健康で質の高い幹細胞ドナーの厳格な選別を提供することから、同種または異種MSCの使用がより有利な選択肢となる。それらは、各個体の患者からのMSCの侵襲的な採取および時間のかかる培養を避け、すぐに使用できる製品を製造することを可能にする。イヌおよびネコのMSCの培養能力は相対的に低いため、特に商業的用途、例えばイヌおよびネコの慢性歯肉口内炎の治療で使用する場合には、異種(例えばヒトまたはウマ)のMSCが有利に使用される可能性がある。加えて、異種MSCには伝染性の種特異的病原体がない。
【0007】
同様に、骨髄からのMSCの抽出は侵襲的でリスクの高いアプローチである。MSCの供給源としての脂肪組織は、より安全であるが、侵襲的な選択肢である。
【0008】
場合によっては、天然のMSCの使用は、最小限の製造と取り扱いですぐに使用できる製品の生産を可能にし、それによって製造コストを削減できるため、好ましい選択肢となる。
【0009】
当技術分野では、ネコおよびイヌ科においてCGSの疾患の進行を遅らせる、および/または、病的状態を回復すらさせるMSCの改良された使用に対する必要性が存在する。本発明は、前述の欠点の少なくとも1つを解決することを目的とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明およびその実施形態は、上記の欠点の1つまたは複数に対する解決策を提供する役割を果たす。この目的のために、本発明は、請求項1に記載の被験体、好ましくはネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎の治療で使用するための間葉系幹細胞(MSC)または治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関する。ある実施形態では、前記MSCは血液、好ましくは末梢血に由来する。実施形態において、前記MSCは静脈内投与される。実施形態において、前記MSCは、天然のMSCである。実施形態において、前記投与されるMSCは、異種MSCである。本発明の使用のためのMSCの好ましい実施形態は、請求項2~19のいずれかに示される。
【0011】
第2の態様において、本発明は、請求項20に記載の、慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患しているネコおよびイヌのCGS炎症反応の急性期および/または慢性期に免疫調節剤として使用するためのMSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関する。
【0012】
第3の態様において、本発明は、請求項21に記載の、天然の末梢血由来のMSCを含む静脈内投与用医薬組成物に関し、前記MSCは動物由来であり、滅菌液体中に存在する。
【0013】
血液、好ましくは末梢血からMSCを導くことにより、非侵襲的で痛みを伴わない供給源がMSCの単離に使用される。このようにして、MSCを簡単かつ安全に採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】コンカナバリンA刺激ネコ末梢血単核細胞(PBMC)を用いた混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおける、本発明のある実施形態による300.000ePB-MSCを10匹の健康なネコに静脈内注射する前(0日目、T0)と後(6週目、T3)のPBMC増殖平均を示す図である。
【
図2】本発明のある実施形態による、DMEM低グルコース中に2-5×10
5個の放射標識ePB-MSCを含む組成物を1mLの体積でIV注射した後の、異なる時点におけるネコCGSに罹患しているネコにおける放射能測定を示す図である。組成物を橈側皮静脈に静脈注射すると、肺、腎臓および膀胱が見えるようになる。さらに、組成物のIV注射の10分後および6時間後に、口のレベルでの放射性取り込みが観察される(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎の治療で使用するための、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関し、前記MSCは、血液、好ましくは末梢血に由来し得る。血液由来のMSCは、骨髄および脂肪組織由来のMSCと同様の形態を示す。しかし、末梢血からMSCを導くことにより、MSCの単離に非侵襲的で痛みを伴わない供給源が使用される。このように、MSCは簡便かつ安全に採取することができる。
【0016】
定義
他に定義されない限り、技術用語および科学用語を含め、本発明を開示する際に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。
【0017】
本明細書において、以下の用語は以下の意味を有する:
【0018】
本明細書で使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、単数および複数の参照語を指す。例として、「1つの区画」は1つまたは2つ以上の区画を指す。
【0019】
本明細書において、パラメータ、量および時間持続時間などの測定可能な値を指して使用される「約」は、開示された本発明において実行するのに適切な限りにおいて、規定値の+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、さらに好ましくは+/-1%以下、いっそう好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する。ただし、修飾語「約」が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0020】
本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」、および「含む(comprises)」および「含むこと(comprising of)」は、「含む(include)」、「含むこと(including)」、「含む(includes)」または「含有する(contain)」、「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、例えば構成要素に続くものの存在を特定する包括的またはオープンエンドな用語であり、当該技術分野において既知であるか、またはそこに開示されている、追加の、言及されていない構成要素、特徴、要素、部材、ステップの存在を除外も排除もしない。
【0021】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、第1、第2および第3などの用語は、特定されない限り、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的または時系列的な順序を説明するために使用されるものではない。このように使用される用語は、適切な状況下では交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の順序で運用可能であることを理解されたい。
【0022】
端点による数値範囲の記載は、記載された端点だけでなく、その範囲に含まれるすべての数値と分数を含む。
【0023】
用語「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」、例えば、一群のメンバーのうちの1つもしくは複数または少なくとも1つのメンバーは、それ自体は明白であるが、さらなる例示によって、この用語は、特に、前記メンバーのうちの任意の1つ、または前記メンバーのうちの任意の2つ以上、例えば、前記メンバーのうちの任意の≧3、≧4、≧5、≧6または≧7等、および最大ですべての前記メンバーへの言及を包含する。
【0024】
他に定義されない限り、技術用語および科学用語を含め、本発明を開示する際に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために、本明細書で使用される用語の定義が含まれる。本明細書で使用される用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。
【0025】
本明細書全体を通して「一実施形態」または「ある実施形態」という言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態において」または「ある実施形態において」という句が現れるのは、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではないが、その可能性もある。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1つまたは複数の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な方法で組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含み他の特徴は含まないが、当業者であれば理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することが意図される。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0026】
「間葉系幹細胞」または「MSC」という用語は、特定の表面抗原セットを発現し、in vitroで培養した場合またはin vivoで存在する場合に、脂肪細胞、軟骨細胞および骨細胞を含むがこれらに限定されない様々な細胞型に分化することができる、多能性の自己複製細胞を指す。
【0027】
「単離された」という用語は、細胞培養物または血液のような生物学的試料から細胞を物理的に同定および単離することを指し、これは、細胞培養物の検査と基準に対応する細胞の特徴付け(加えて可能で所望の場合には物理的分離)、または抗原の有無および/もしくは細胞の大きさによる細胞の自動選別(FACSなどによる)の何れかに基づく適切な細胞生物学的技術を適用することによって行うことができる。いくつかの実施形態において、「単離すること」または「単離」という用語は、特にフローサイトメトリーを実施することによる、細胞の物理的分離および/または定量化というさらなるステップを含み得る。
【0028】
本明細書で使用される「in vitro」という用語は、体外または体の外側を示す。本明細書で使用される「in vitro」という用語は、「ex vivo」を含むと理解されるべきである。「ex vivo」という用語は、典型的には、身体から取り出され、体外、例えば培養容器またはバイオリアクター内で維持または増殖された組織または細胞を指す。
【0029】
「継代」または「継代すること」という用語は当分野では一般的であり、培養された(間葉系幹)細胞を培養基材から、また細胞同士を剥離および分離することを指す。簡略化のため、細胞を接着培養条件下で初めて増殖させた後に行う継代を、一般に「最初の継代」(または継代1、P1)と呼ぶ。細胞は少なくとも1回、好ましくは2回以上継代してもよい。継代1以降の各継代は、例えば継代2、3、4、5、またはP1、P2、P3、P4、P5など、1ずつ増加する番号で呼ばれる。
【0030】
「細胞培地」または「細胞培養培地」または「培地」という用語は、細胞の維持または増殖に使用できる栄養素を含む水性液体またはゲル状物を指す。細胞培地は血清を含んでもよいし、無血清でもよい。細胞培地は、成長因子を含んでもよいし、添加してもよい。
【0031】
本明細書で使用する「成長因子」という用語は、様々な細胞型の増殖、成長、分化、生存および/または遊走に影響を及ぼし、単独でまたは他の物質によって調節された場合に、生物の発生的、形態的および機能的変化に影響を与え得る生物学的に活性な物質を指す。成長因子は、典型的には、細胞に存在する受容体(例えば、表面または細胞内受容体)にリガンドとして結合することにより作用する。
【0032】
本文脈におけるMSCの「自己」投与とは、ドナー由来のMSCをレシピエントに投与することをいい、レシピエントとドナーは同一である。
【0033】
本文脈におけるMSCの「同種間」投与とは、ドナー由来のMSCをレシピエントに投与することであり、レシピエントとドナーは同種であるが、同一ではない。
【0034】
本文脈におけるMSCの「異種間」投与とは、ドナー由来のMSCをレシピエントに投与することであり、レシピエントとドナーは異なる種に由来する。
【0035】
本発明の文脈における「天然のMSC」とは、炎症性メディエーターなどの刺激環境に曝されていないMSCを指す。本明細書で使用する場合、「炎症環境」または「炎症状態」とは、(i)少なくとも1つの炎症誘発性免疫細胞、炎症誘発性サイトカイン、または炎症誘発性ケモカインの増加;および(ii)少なくとも1つの抗炎症性免疫細胞、抗炎症性サイトカイン、または抗炎症性ケモカインの減少を特徴とする状況または状態を指す。
【0036】
「抗炎症性の」、「抗炎症」、「免疫抑制性の」および「免疫抑制剤」という用語は、局所的な炎症の少なくとも1つの徴候(熱、痛み、腫れ、発赤および機能低下などであるが、これらに限定されない)の減少を特徴とする任意の状況もしくは状態、ならびに/または(i)少なくとも1つの炎症誘発性免疫細胞、炎症誘発性サイトカインもしくは炎症誘発性サイトカインの減少;および(ii)少なくとも1つの抗炎症性免疫細胞、抗炎症性サイトカインもしくは抗炎症性ケモカインの増加を特徴とする全身状態の変化を指す。
【0037】
本発明の「集団倍加時間」または「PDT」は、次式で算出され得る:PDT=T/(ln(Nf/Ni)/ln(2))、ここでTは80%培養密度に達するまでの細胞培養時間(日単位)、Nfは細胞剥離後の最終細胞数、Niは時点ゼロでの初期細胞数である。
【0038】
「抗凝固剤」という用語は、血液の凝固を阻害することができる組成物を意味する。本発明で使用される抗凝固剤の例には、EDTAまたはヘパリンが含まれる。
【0039】
本発明の「バフィーコート」という用語は、凝固していない血液の画分として理解されるべきであり、これは、好ましくは、白血球と血小板を有する画分を濃縮する密度勾配遠心分離によって得られる。
【0040】
「血液間相(blood-inter-phase)」という用語は、主に赤血球と多形核細胞からなる下部画分と、主に血漿からなる上部画分の間に位置する、好ましくは密度勾配によって得られる血液の画分として理解されるべきである。血液間相は、単球、リンパ球およびMSCを含む血液単核球(BMC)の供給源である。
【0041】
本明細書で使用される「懸濁液径」という用語は、懸濁液中にある細胞の平均直径として理解される。直径を測定する方法は当技術分野で既知である。可能な方法は、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡、イメージサイトメーター、または当技術分野で知られている他の方法である。
【0042】
「治療有効量」という用語は、疾患の症状を軽減する、または状態を改善するのに有効な化合物または組成物の最小量または濃度のことである。
【0043】
「治療」という用語は、病的な状態または障害の発生または進行を抑えるまたは予防するための、治療的、予防的、または防止的な措置の両方を指す。
【0044】
「慢性歯肉口内炎(CGS)は、歯肉、頬粘膜および尾側口腔粘膜の重度の炎症を特徴とする重度の特発性炎症性口腔疾患であり、(とりわけ)ネコおよびイヌ、特に一般的なネコ個体群の約0.7~10%が発症している。CGSの病因はよくわかっていないが、微生物因子および自然免疫反応の変化がこの疾患の発生に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。組織学的に、ネコおよびイヌの傷害はリンパ球、主にエフェクターT細胞とB細胞による炎症によって特徴づけられる。この疾患は痛みを伴う粘膜病変を引き起こし、生活の質を著しく低下させる。臨床症状は疼痛、中等度から重度の口腔不快感、食欲不振、体重減少、グルーミングの減少および唾液分泌過多など様々である。
【0045】
「患者」、「被験体」、「動物」または「哺乳類」という用語は、互換的に使用され、治療される哺乳類の被験体を指す。好ましくは、哺乳動物はイヌ科動物またはネコ科動物、例えばそれぞれイヌまたはネコなどである。
【0046】
本発明における「ネコ」または「ネコ科動物」とは、ネコ科のネコを指す。この科のメンバーはネコ科とも呼ばれる。現生するネコ科は、2つの亜科:ヒョウ亜科とネコ亜科に分けられる。ヒョウ亜科には5種のパンテラ(Panthera)属と2種のウンピョウ(Neofelis)属が含まれ、ネコ亜科には10属34種が含まれ、イエネコ、チーター、サーバル、オオヤマネコおよびクーガーなどがいる。
【0047】
本発明における「イヌ」または「イヌ科動物」とは、イヌ科のイヌ様肉食動物を指す。この科のメンバーはイヌ科と呼ばれる。イヌ科には3つの亜科があり、それは絶滅したボロファグス亜科とヘスペロキオン亜科、および現存するイヌ亜科である。イヌ亜科はイヌ科として知られ、イエイヌ、オオカミ、キツネ、コヨーテ、ジャッカルなどの現存種と絶滅種が含まれる。
【0048】
「混合リンパ球反応(MLR)」アッセイは、外用剤がT細胞増殖を刺激するか、または抑制するかを調べるために伝統的に用いられている。MLRアッセイを用いることで、MSCの免疫調節特性を調べることができる。このMLRアッセイでは、レスポンダーT細胞を、特定の光周波数にさらされると緑色に光る蛍光色素でマークする。次に、これらのレスポンダーT細胞を植物マイトジェンであるコンカナバリンA(ConA)で刺激して、増殖を誘導または刺激する。ConAは抗原非依存性のマイトジェンであり、代替的なT細胞刺激として使用できる。このレクチンは、T細胞刺激実験において抗原提示細胞の代用として頻繁に使用される。コンカナバリンAは細胞表面の糖タンパク質に不可逆的に結合し、T細胞を増殖に向かわせる。これは転写因子とサイトカインの産生を迅速に刺激する方法である。T細胞が分裂を始めると、色素はその娘細胞に分配されるので、細胞分裂のたびに色素は連続的に希釈される。そのため、色の減少を見ることでT細胞の増殖量を測定することができる。したがって、MSCの免疫調節特性を調べるためには、これらのMSCを、刺激されたレスポンダーT細胞に加え、数日間コインキュベートする。試験が正常に行われるかどうかを確認するために、適切な陽性対照と陰性対照を含める。コインキュベーション期間終了時に、フローサイトメトリーを用いてT細胞増殖量を測定し、MSCがT細胞増殖を抑制したかどうかを確認することができる。
【0049】
説明
MSCは、その免疫調節特性から、炎症関連疾患の治療での使用が提唱されている。このような免疫調節特性は、中でもネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎の過剰な炎症プロセスを抑制し、その進行をごく短期間で遅らせ、さらには持続的な損傷の回復を引き起こす可能性がある。これまでの研究では、被験体の治療、特にネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎の治療における安全性と有効性が検討され、非常に興味深い結果が得られている。これらの研究の大半は、脂肪組織または骨髄(BM)由来の自己MSCを使用している。
【0050】
第1の態様において、本発明は、被験体、好ましくはネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)の治療で使用するための、または、被験体、好ましくはネコおよびイヌのCGSを治療する方法としての、または、被験体、好ましくはネコおよびイヌのCGSの治療用薬物の調製に使用するための、間葉系幹細胞(MSC)または治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関する。
【0051】
前記ネコは、ネコ科、好ましくはネコ亜科のネコ、より好ましくはイエネコ(Felis catus)であってもよい。前記イヌは、イヌ科、好ましくはイヌ亜科のイヌ様肉食動物、より好ましくはイエイヌ(Canis familiaris)であってもよい。
【0052】
ある実施形態では、使用する前記MSCは天然である。このような天然のMSCは、まずin vitroで、炎症性メディエーターまたは炎症環境などの刺激剤に曝されていない。このような炎症環境とは、(i)少なくとも1つの炎症誘発性免疫細胞、炎症誘発性サイトカイン、または炎症誘発性ケモカインの増加、および(ii)少なくとも1つの抗炎症性免疫細胞、抗炎症性サイトカイン、または抗炎症性ケモカインの減少を特徴とする状況または状態を指す。天然のMSCの使用は、時には、最小限の製造と取り扱いですぐに使用できる製品の製造を可能にし、それによって製造コストを削減できるため、好ましい選択肢となる。
【0053】
好みにより、MSCは10μm~100μm、より好ましくは15μm~80μm、より好ましくは20μm~75μm、より好ましくは25μm~50μmの細胞サイズを有する。ある実施形態では、本発明による使用のためのMSCは、フィルターシステムによってサイズ別に選択され、ここで細胞は、40μmのフィルターを使用する二重ろ過ステップにかけられる。二重または複数回のろ過ステップが好ましい。後者は、単一細胞の高い集団を提供し、細胞凝集体の存在が回避される。このような細胞凝集体は、凍結による細胞の保存中に細胞死を引き起こす可能性があり、細胞の更なる下流への応用に影響を与える可能性がある。例えば、細胞凝集体は静脈内投与時に毛細血管塞栓症の発生リスクを高める可能性がある。
【0054】
これまでに発表された研究の大半は、脂肪組織または骨髄(BM)由来の自己または同種MSCを用いている。
【0055】
本発明による使用のためのMSCは、様々な組織または体液、特に血液、BM、脂肪組織または羊膜組織に由来し得る。MSCの骨髄採取は、出血、慢性疼痛、神経血管損傷、さらには死亡と関連することが報告されている。MSCの供給源としての脂肪組織は、より安全な選択肢とみなされている。しかし、脂肪組織からMSCを採取するには、ドナー動物の切開をなお必要とし、従って侵襲的な手技であることに変わりはない。血液由来のMSCは、骨髄および脂肪組織由来のMSCと同様の形態を示す。結果として、好みにより、MSCは、限定するわけではないが臍帯血および末梢血を含む、血液由来とする。より好ましくは、MSCは末梢血由来とする。血液は、非侵襲的で苦痛を伴わない供給源であるだけでなく、採取が簡単で安全であり、その結果、容易に入手でき、その後合併症も起こしにくい。MSCまたはMSCを含む血液は、ヒト、家畜および農場動物、動物園動物、スポーツ動物、ペット動物、コンパニオンアニマルおよび実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタおよび霊長類、例えば、サルおよび類人猿を含むがこれらに限定されない全ての哺乳動物に由来し得;特に、ウマ、ヒト、ネコ、イヌ、げっ歯類等である。ある実施形態では、前記起源はウマである。特に、MSCは、末梢血、好ましくはウマの末梢血に由来するものであってもよく、これにより、ドナー動物に対する不快感または病的状態を最小限に抑えながら、1年に複数回のMSC採取が可能となる。
【0056】
場合によっては、同種または異種MSCの使用は、健康で質の高い幹細胞ドナーの厳格な選定を提供することから、より好ましい選択肢となる。各個体の患者からMSCを侵襲的に採取することおよび時間のかかる培養を避け、すぐに使用できる製品を製造することができる。イヌおよびネコのMSC培養能力は、例えばウマまたはヒトのMSCと比較すると相対的に低いため、特に商業的用途、例えばイヌおよびネコのGCS治療で使用する場合には、同種のイヌまたはネコのMSCよりも異種(例えばヒトまたはウマ)のMSCの使用が好ましい。
【0057】
したがって、特定の実施形態において、本発明のMSCは、被験体への同種または異種投与に使用することができる。既に示したように、同種または異種の使用は、異なるドナーをスクリーニングし、最適なドナーを選択することができるため、MSCの品質をより良好に制御することを可能にする。機能的なMSCを調製することを考えると、後者が不可欠である。これは、MSCの自己使用とは対照的で、この場合、細胞の質を確保することがより難しくなるからである。とはいえ、自己使用にも利点があり得る。ある例では、血液MSCが単離されるが、そのために、後に単離されたMSCのレシピエントにもなるドナーの血液が使用された。別の例では、ドナーの血液から単離されたMSCのレシピエントと好ましくは同じ科、性別または血統のドナーからの血液が使用される。特に、これらのドナーは、幹細胞を介した病態または疾患の水平伝播の危険性を回避するために、一般的な現在伝播可能な疾患または病態について検査される。好ましくは、ドナー/ドナー動物は隔離された状態で飼育される。ドナー馬を使用する場合、例えば以下のような病態、ウイルスまたは寄生虫について検査を行うことができる:馬伝染性貧血(EIA)、馬鼻肺炎(EHV-1、EHV-4)、馬ウイルス性動脈炎(EVA)、ウエストナイルウイルス(WNV)、アフリカ馬疫(AHS)、媾疫(トリパノソーマ)、馬ピロプラズマ病、鼻疽(マレウス、鼻疽)、馬インフルエンザ、ライムボレリア症(LB)(ライム病ボレリア、ライム病)。
【0058】
ある実施形態では、本発明の使用のためのMSCは、以下のマーカーCD29、CD44、CD90、CD105、ビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、CK18、またはそれらの任意の組み合わせのうちの1つまたは複数が存在することによって特徴づけることができ/陽性である。さらなる実施形態において、本発明の使用のためのMSCは、間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90の存在によって特徴付けることができる。後者によって、得られたMSCの純度を分析し、MSCの割合をもとめることができる。
【0059】
CD29はインテグリンβ1遺伝子によってコードされる細胞表面受容体で、リガンドとの結合時に他のタンパク質と複合体を形成して、生理活性を調節する。CD44抗原は細胞-細胞相互作用、細胞接着および遊走に関与する細胞表面糖タンパク質である。加えて、CD44はヒアルロン酸のレセプターであり、オステオポンチン、コラーゲンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のような他のリガンドとも相互作用できる。CD90抗原は、MSCのような幹細胞のマーカーとして考えられている保存された細胞表面タンパク質である。本発明のMSCはCD29/CD44/CD90についてトリプル陽性であるため、当業者はMSCを迅速かつ明確に選択することができ、さらなる下流への応用にとって重要なMSCの生物学的特性を提供する。
【0060】
ある実施形態では、本発明の使用のためのMSCは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子、好ましくは現在知られている全てのMHCクラスII分子が存在しないことによって特徴づけられ/陰性であり、その細胞は、ネコまたはイヌの細胞療法などの哺乳動物の細胞療法に使用できる細胞として分類される。MSCが部分的に分化していても、MSCはMHCクラスII分子について陰性のままである。MHCII分子の有無の検出および発現の定量化は、フローサイトメトリーを用いて行うことができる。
【0061】
別のさらなる実施形態では、MSCは造血細胞のマーカーであるCD45抗原について陰性である。
【0062】
ある実施形態では、MSCはMHCクラスII分子とCD45の両方について陰性である。
【0063】
特に好ましい実施形態では、本発明の使用のためのMSCは、間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90について陽性であり、MHCクラスII分子およびCD45について陰性である。
【0064】
一般に、MSCはその表面にMHCクラスI抗原を発現している。特定の実施形態において、本発明の使用のためのMSCは、MHCクラスIマーカーが低レベルであるかまたは検出されないレベルである。最も好ましい実施形態では、前記MSCは、MHCクラスIIマーカーについて陰性であり、MHCクラスIマーカーが低レベルであるかまたは検出されないレベルであり、前記細胞は、極めて低い免疫原性表現型を示す。本発明のために、前記低レベルとは、全細胞の25%未満、より好ましくは15%未満が前記MHC IまたはMHC IIを発現していると理解されるべきである。MHC IおよびMHC II分子の発現の有無の検出および定量化は、フローサイトメトリーを用いて行うことができる。
【0065】
MSCのこのような免疫学的特性は、細胞移植後にレシピエントの免疫系が細胞、好ましくは同種細胞または異種細胞を認識し拒絶する能力を制限する。MSCによる免疫反応を調節する因子の産生は、局所的な刺激下で適切な細胞型に分化する能力とともに、MSCを細胞療法に望ましい幹細胞にしている。
【0066】
ある実施形態では、本発明の使用のためのMSCは、炎症環境または状態に存在する場合、免疫調節性プロスタグランジンE2サイトカインを分泌する。
【0067】
炎症環境または状態は、血液中の免疫細胞の動員によって特徴づけられる。炎症性メディエーターには、プロスタグランジン、IL-1β、TNF-α、IL-6およびIL-15などの炎症性サイトカイン、IL-8などのケモカインならびにTNF-αおよびIFN-γなどの他の炎症性タンパク質が含まれる。これらのメディエーターは、主に単球、マクロファージ、T細胞、B細胞によって産生されて炎症部位に白血球を動員し、その後、刺激性と抑制性の複雑な相互作用ネットワークを刺激して、組織の破壊と炎症プロセスからの組織の治癒を同時に行う。
【0068】
プロスタグランジンE2(PgE2)は、プロスタグランジンファミリーのサブタイプである。PgE2は、膜リン脂質から放出されたアラキドン酸(AA)から連続的な酵素反応によって合成される。プロスタグランジン-エンドペルオキシダーゼ合成酵素として知られるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)は、AAをプロスタグランジンH2(PgH2)に変換し、PgE2合成酵素はPgH2をPgE2に異性化する。COX-2は律速酵素として、成長因子、炎症性サイトカインおよび腫瘍促進物質による刺激などの生理的条件に応じてPgE2の合成を制御する。
【0069】
特定の実施形態において、炎症環境に存在する前記MSCは、可溶性免疫因子プロスタグランジンE2(PgE2)を1mLあたり103~106ピコグラムの範囲の濃度で分泌して、MSC制御免疫抑制を誘導または刺激する。
【0070】
これらの特定の濃度範囲におけるMSCのPgE2分泌は、in vitroでの抗炎症プロセスを刺激し、適切な細胞型に分化する能力とともに、それを細胞移植に望ましいものにする。
【0071】
好ましい実施形態では、本発明の使用のためのMSCは:
-間葉系マーカーCD29、CD44、CD90について陽性であり;
-ビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、またはそれらの組み合わせからなる群に含まれる1つまたは複数のマーカーについて陽性であり;
-MHCクラスII分子について陰性であり;
-造血マーカーCD45について陰性であり;
-好ましくは、MHCクラスI分子が低レベルであるかまたは検出されないレベルであり、前記低レベルとは、全細胞の25%未満、より好ましくは15%未満がMHC Iを発現していると理解すべきである。
【0072】
最も好ましい実施形態では、本発明の使用のためのMSCは:
-間葉系マーカーCD29、CD44、CD90について陽性であり;
-ビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、またはそれらの組み合わせからなる群に含まれる1つまたは複数のマーカーについて陽性であり;
-MHCクラスII分子について陰性であり;
-造血マーカーCD45について陰性であり;
-好ましくは、MHCクラスI分子が低レベルであるかまたは検出されないレベルであり、前記低レベルとは、全細胞の25%未満、より好ましくは15%未満がMHC Iを発現していると理解すべきであり、
ここで、前記細胞は、炎症環境または状態に存在する場合、免疫調節性PgE2サイトカインを1mL当たり103~106ピコグラムの濃度で分泌する。
【0073】
別のまたはさらなる実施形態において、本発明による使用のためのMSCは、炎症環境または状態に存在する場合、同じ特徴を有するが前記炎症環境または状態にさらされていないMSCと比較して、IL-6、IL-10、TGF-β、NOまたはそれらの組み合わせから選択される分子の少なくとも1つの分泌が増加し、IL-1の分泌が減少する。
【0074】
好ましい実施形態において、MSCは、炎症環境または状態に存在する場合、IL-6、IL-10、TGF-β、NO、またはそれらの組み合わせから選択される分子の少なくとも1つの分泌が増加し、IL-1の分泌が減少する。比較は、上記に示したのと同じ特徴を有するが、前記炎症環境または状態にさらされていない間葉系幹細胞との間で行うことができる。
【0075】
好ましくは、MSCは、上記の因子のうちの2つ以上と組み合わせて、PgE2の分泌が増加する。
【0076】
PgE2、IL-6、IL-10、TGF-BおよびNOは、T細胞およびB細胞のような主要な免疫細胞集団の増殖および機能を抑制するのに役立っている。加えて、MSCはその表面に低レベルのMHCクラスI分子を発現し、および/または、MHCクラスII分子について陰性であり、免疫原性反応を免れている。さらに、本MSCは、上記の因子の分泌を増加させることによって白血球の増殖を抑制することができ、重ねて宿主の免疫原性反応を回避するのに役立っている。
【0077】
別のまたはさらなる実施形態において、単離されたMSCは、末梢血単核球(PBMC)の存在下で、PgE2、IL-6、IL-10、NOもしくはそれらの組み合わせの分泌を刺激し、および/または、TNF-α、IFN-γ、IL-1、IL-13もしくはそれらの組み合わせの分泌を抑制する。別のまたはさらなる実施形態において、MSCは、PBMCの存在下でTGF-β1の分泌を抑制する。
【0078】
炎症環境において、MSCは宿主の免疫応答を調節する複数の因子を分泌する。さらに、MSCは、PgE2、IL-6、IL-10、NOまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の因子の分泌を誘導または刺激する刺激作用を有する。炎症環境におけるPBMCに対するMSCの刺激作用の次に、MSCは、PBMCの分泌を抑制する作用も有し、その結果、TNF-α、IFN-γ、IL-1、TGF-β1、IL-13またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の因子が減少する。MSCは炎症環境において調節作用を有し、自身をあらゆる種類の疾患、特に免疫系の障害の治療に有用なものにする。
【0079】
一般に、特定の細胞型(例えば、間葉系、肝系、造血系、上皮系、内皮系マーカー)、または特定の局在(例えば、細胞内、細胞表面、または分泌型)を有する細胞マーカーを同定し、特徴付けるための技術であって、文献に発表されているものであれば、MSCの特徴付けに適切であると考えられる。このような技術は、2つのカテゴリー:解析中に細胞の完全性を維持できるものと、そのような細胞を用いて生成された抽出物(タンパク質、核酸、膜などを含む)に基づくものに分類することができる。このようなマーカーを同定し、陽性か陰性かを測定する技術の中では、免疫細胞化学または細胞培養液の分析が、(ウェスタンブロットまたはフローサイトメトリーの場合のように)少量の細胞でも、それらを破壊することなくマーカーを検出できるため好ましい。
【0080】
MSCの免疫調節特性は、MLRアッセイを用いてアッセイすることができる。このMLRアッセイでは、レスポンダーT細胞を、特定の光周波数にさらされると緑色に光る蛍光色素でマークする。次に、これらのレスポンダーT細胞を植物マイトジェン(ConA)で刺激して、増殖を誘導または刺激する。T細胞が分裂を始めると、色素はその娘細胞に分配されるので、細胞分裂のたびに色素は連続的に希釈される。そのため、T細胞の増殖量は色の減少を見ることで測定できる。したがって、MSCの免疫調節特性を調べるためには、これらのMSCを刺激されたレスポンダーT細胞に加え、数日間コインキュベートする。試験が正常に行われるかどうかを確認するために、適切な陽性対照と陰性対照を含める。コインキュベーション期間終了時に、フローサイトメトリーを用いてT細胞増殖量を測定し、MSCがT細胞増殖を抑制したかどうかを確認することができる。
【0081】
MSCの関連する生物学的特徴は、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、質量分析、ゲル電気泳動、イムノアッセイ(例えば、イムノブロット、ウェスタンブロット、免疫沈降、ELISA)、核酸増幅(例えば、リアルタイムRT-PCR)、酵素活性、オミックス技術(プロテオミクス、リピドミクス、グリコミクス、トランスラトミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクス)、および/または他の生物学的活性などの技術を用いて同定することができる。
【0082】
本発明のMSCは、当該技術分野において既知の任意の標準的なプロトコルによって導くことができる。ある実施形態では、前記MSCは、MSCが血液または血液相から単離され、前記細胞が基本培地、好ましくは低グルコース培地中で培養および増殖される方法を介して得ることができる。
【0083】
当該技術分野で既知の基本培地配合物としては、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(α-MEM)、基本必須培地(BME)、イスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、BGJb培地、F-12栄養混合物(Ham)、リーボビッツL-15、DMEM/F-12、必須改変イーグル培地(EMEM)、RPMI-1640、199培地、ウェイマスの10MB 752/1またはウィリアムズ培地Eならびにそれらの改変物および/または組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。上記の基本培地の組成は、当技術分野で一般に知られており、培地および/または培地補充物の濃度を、培養される細胞の必要に応じて変更または調節することは、当業者の技術の範囲内である。好ましい基本培地配合物は、DMEMのような商業的に利用可能なものの1つであってよく、これは、MSCのin vitro培養を維持することが報告されており、その適切な成長、増殖、所望のマーカーおよび/もしくは生物学的活性の維持、または長期保存のための成長因子の混合物を含んでいる。
【0084】
このような基本培地配合物は、哺乳動物細胞の発育に必要な成分を含んでおり、それ自体が既知である。例示であって限定するものではないが、これらの成分には、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、Pおよび場合によってはCu、Fe、SeおよびZnを含む塩)、生理的緩衝液(例えば、HEPES、炭酸水素塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤(例えば、グルタチオン)ならびに炭素の供給源(例えば、グルコース、ピルビン酸、例えば、ピルビン酸ナトリウム、酢酸、例えば、酢酸ナトリウム)などが含まれ得る。また、多くの培地が、ピルビン酸ナトリウムの有無にかかわらず、低グルコース配合物として利用可能であることも明らかであろう。
【0085】
血液または血液相からMSCを単離し、該細胞を培養および増殖させる方法は当該技術分野で既知であり、例えば国際公開第2014/053418号または国際公開第2014/053420号に記載されている。
【0086】
ある実施形態では、血液または血液相からMSCを単離し、低グルコース培地中で前記細胞を培養および増殖させるこのような方法は、以下の:
a)抗凝固剤でコーティングされた試料バイアルに、ドナーから1つまたは複数の血液試料を採取するステップと;
b)前記血液試料を遠心分離して、血漿相、バフィーコートおよび赤血球相からなる3相分布を得るステップと;
c)前記バフィーコートを採取し、密度勾配に載せるステップと;
d)ステップc)の密度勾配から得られた血液間相を採取するステップと;
e)遠心分離により前記血液間相からMSCを単離するステップと;
f)2.5×105/cm2~5×105/cm2のMSCを培養液に播種し、デキサメタゾン、抗生物質および血清を添加した低グルコース増殖培地中にそれらを維持するステップとを含み得る。
【0087】
ある実施形態では、抗凝固剤をMSCに添加してもよい。非限定的な例は、EDTAまたはヘパリンである。
【0088】
播種の回数は、最終的に純粋で生存可能な集団のMSCを、許容可能な濃度で得るために極めて重要である。密に播種しすぎると、増殖中に大量の細胞死を引き起こし、MSCの集団が不均一になり、分散させすぎた播種は、MSCのコロニー形成がほとんどまたは全く起こらないため、増殖ができないか、ほとんどできないか、または増殖に時間がかかりすぎるからである。どちらの場合も、細胞の生存率に悪影響が及ぶ。
【0089】
本発明の好ましい実施形態では、MSCは高い細胞生存率を有し、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%の前記細胞が生存している。
【0090】
血液間相は、単球、リンパ球およびMSCを含む血液単核球(BMC)の供給源である。好みにより、リンパ球は37℃で洗い流し、単球は生存に必要なサイトカインの非存在下で2週間以内に死滅させる。こうしてMSCが精製される。血液間相からのMSCの単離は、好ましくは、血液間相を遠心分離した後、細胞ペレットをリン酸緩衝液などの適切な緩衝液で少なくとも1回洗浄することによって行われる。
【0091】
さらなる実施形態では、本発明のMSCは単球およびマクロファージについて陰性であり、いずれも0%~7.5%の範囲内である。
【0092】
特に、間葉系細胞は増殖培地中で少なくとも2週間維持される。好ましくは、1%デキサメタゾンを有する増殖培地が使用される。これは、MSCの特異的な特徴が前記培地中で維持されるからである。
【0093】
最低2週間(14日間)、好ましくは3週間(21日間)後、MSCのコロニーが培養瓶の中に確認できるようになる。続くステップg)では、少なくとも6×103幹細胞/cm2が、MSCを増殖させる目的で、低グルコース、血清および抗生物質を含有する増殖培地に移される。好ましくは、MSCの増殖は最低5回の細胞継代で行われる。こうして十分な細胞を得ることができる。好ましくは、細胞は70%~80%のコンフルエントで分割される。MSCは最大50継代まで培養液中で維持することができる。これを過ぎると、生命力の喪失、老化または突然変異の形成のリスクが生じる。
【0094】
さらなる実施形態では、MSCの増殖中の各継代間の集団倍加時間(PDT)は、トリプシン化後0.7~3日であることが好ましい。MSCの増殖中の各継代間の前記PDTは、好ましくは、トリプシン化後0.7~2.5日である。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明による使用のためのMSCは紡錘形の形態を有する。本発明のMSCの形態学的特徴付けによると、該細胞は細長い繊維芽細胞様の紡錘形細胞として分類される。このタイプの細胞は、ほとんどが三角形または星型の細胞形状を示す小さな自己複製細胞を有するMSCの他の集団、および、顕著な核を有する大きな立方状または扁平なパターンを有するMSCの他の集団とは異なる。生物学的マーカーとともにこのような特異的な形態学的特徴を有するMSCを選択することにより、当業者は本発明のMSCを単離することができる。細胞の形態学的分析は、位相差顕微鏡を用いて当業者が容易に行うことができる。さらに、フローサイトメトリーにおける前方および側方散乱図、または当業者に既知の他の技術を用いて、MSCのサイズおよび粒状性を評価することができる。
【0096】
別のまたはさらに好ましい実施形態では、MSCは10μm~100μmの懸濁液径を有する。本発明の使用のためのMSCは、サイズ/懸濁液径に基づいて選択されている。好みにより、MSCは10μm~100μm、より好ましくは15μm~80μm、より好ましくは20μm~75μm、より好ましくは25μm~50μmの細胞サイズを有する。好ましくは、細胞サイズに基づく細胞の選択は、ろ過ステップによって行われる。例えば、細胞濃度が1mLあたり103~107MSCの範囲にあるMSCは、好ましくは低グルコースDMEM培地で希釈され、細胞が40μmフィルターを使用する二重ろ過ステップを経るフィルターシステムによってサイズによって選択される。二重または複数回のろ過ステップが好ましい。後者は、単一細胞の高い集団を提供し、細胞凝集体の存在を回避する。このような細胞凝集体は、凍結による細胞の保存中に細胞死を引き起こす可能性があり、細胞の更なる下流への応用に影響を及ぼす可能性がある。例えば、細胞凝集体は静脈内投与時に毛細血管塞栓症の発生リスクを高める可能性がある。
【0097】
ある実施形態では、前記治療有効量のMSCは、前記組成物中、105-107MSCである。
【0098】
好ましい実施形態では、本発明による使用のためのMSCは、静脈注射または点滴による被験体への投与用に製剤化される。
【0099】
ある実施形態では、各静脈注射または注入で治療有効量のMSCがイヌまたはネコの患者に投与され、好ましくは、各静脈注射または注入は105-107用量の前記MSCを含んでいる。好ましくは、MSCは静脈注射により投与される
【0100】
ある実施形態では、治療有効量のMSCが被験体、好ましくはネコまたはイヌの患者に投与され、好ましくは患者当たり105-107MSCの用量が投与される。ある実施形態では、単一用量が投与される。
【0101】
被験体に治療上の利益をもたらす最小治療有効用量は、1回の投与あたり少なくとも105のMSCである。好ましくは、各投与は静脈注射によるものであり、1投与あたり105~5×105MSCを含み、前記MSCは好ましくは天然および/または異種である。
【0102】
ある実施形態では、前記MSCは少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、好ましくは間隔を空けて投与される。
【0103】
別のまたはさらなる実施形態において、治療はさらに以下の:MSCまたはMSCを含む組成物の複数回の投与、一被験体あたり、好ましくはイヌまたはネコの一患者あたり105-107MSCの用量の複数回の静脈内投与を含み、ここで、前記複数用量は、以下の時点の1つまたは複数を含むがこれらに限定されない、様々な時点で投与される:1日間隔、2日間隔、3日間隔、4日間隔、5日間隔、6日間隔、7日(1週間)間隔、2週間間隔、3週間間隔、4週間間隔、5週間間隔、6週間間隔、7週間間隔、8週間間隔、3ヶ月間隔、6ヶ月間隔、9ヶ月間隔、および/または1年間隔。好ましくは、各用量は少なくとも2週間間隔、より好ましくは少なくとも3週間間隔、さらにより好ましくは少なくとも4週間間隔、最も好ましくは少なくとも6週間間隔で投与される。
【0104】
ある実施形態では、前記組成物は、滅菌液体中に存在する前記MSCを含む。このような滅菌液体の非限定的な例は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)などの最小必須培地(MEM)である。前記滅菌液体は、哺乳動物患者への静脈内投与、例えば注射または点滴による投与に対して安全であるべきである。
【0105】
非限定的な例として、前記滅菌液体は、基本培地のような最小必須培地である。当技術分野で知られている基本培地配合物としては、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(α-MEM)、基本必須培地(BME)、イスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、BGJb培地、F-12栄養混合物(Ham)、リーボビッツL-15、DMEM/F-12、必須改変イーグル培地(EMEM)、RPMI-1640、199培地、ウェイマスの10MB 752/1またはウィリアムズ培地E、ならびにそれらの改変物および/または組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。上記の基本培地の組成は、当技術分野で一般に知られており、培地および/または培地補充物の濃度を、培養される細胞の必要に応じて変更または調節することは、当業者の技術の範囲内である。好ましい基本培地配合物は、DMEMのような商業的に利用可能なものの1つであってよく、これは、MSCのin vitro培養を維持することが報告されており、その適切な成長、増殖、所望のマーカーおよび/もしくは生物学的活性の維持、または長期保存のための成長因子の混合物を含んでいる。
【0106】
このような基本培地配合物は、哺乳動物細胞の発育に必要な成分を含んでおり、それ自体は既知である。例示であって限定するものではないが、これらの成分には、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、Pおよび場合によってはCu、Fe、SeおよびZnを含む塩)、生理的緩衝液(例えば、HEPES、炭酸水素塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤(例えば、グルタチオン)ならびに炭素の供給源(例えば、グルコース、ピルビン酸、例えば、ピルビン酸ナトリウム、酢酸、例えば、酢酸ナトリウム)などが含まれ得る。また、多くの培地が、ピルビン酸ナトリウムの有無にかかわらず、低グルコース配合物として利用可能であることも明らかであろう。
【0107】
好みにより、前記組成物は少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%の単一細胞を含み、それによって前記単一細胞は10μm~100μm、より好ましくは15μm~80μm、より好ましくは20μm~75μm、より好ましくは25μm~50μmの懸濁液径を有する。前述したように、細胞の直径とその単一細胞性は、静脈内投与などの下流への応用および細胞の生命力にとって重要である。
【0108】
好みにより、前記組成物は少なくとも90%のMSCを含み、より好ましくは少なくとも95%のMSCを含み、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%のMSCを含む。
【0109】
MSCを含む滅菌液体の形態の組成物の体積および濃度は、好ましくは静脈注射に適合される。ある実施形態では、医薬組成物は、最終調整後、1mL当たり105-107細胞の濃度のMSCを含む滅菌液体の形態で動物に投与することができる。
【0110】
ある実施形態では、各静脈注射または点滴で治療有効量のMSCが投与され、好ましくは、各注射または点滴は、105~107の用量の前記MSCを含む。
【0111】
ある実施形態では、医薬組成物は、前記組成物1mL当たり105-107MSC、好ましくは1mL当たり105~106MSC、より好ましくは1mL当たり105-5×105MSCの治療有効量のMSCを含む。
【0112】
ある実施形態では、前記組成物の1投与量は、約0.5~5mL、好ましくは約0.5~5mL、好ましくは約0.5~3mL、好ましくは約0.5~2mL、より好ましくは約0.5~1.5mL、最も好ましくは約1mLの体積を有する。別のまたはさらなる実施形態では、前記組成物の1投与量は、最大で約5mL、好ましくは最大で約4mL、より好ましくは最大で約3mL、さらに好ましくは最大で約2mLの体積を有し、最も好ましくは、前記体積は約1mLである。この量は静脈内投与に適している。
【0113】
前記投与量は、バイアルまたはプレフィルドシリンジに製剤化することができる。
【0114】
ある実施形態では、患者への注射ごとに投与される組成物の体積は、患者の体重に応じて適合される。別の実施形態では、患者当たり105-107MSC、好ましくは105~106MSC、より好ましくは105-5×105MSC、最も好ましくは3×105MSCの固定された用量が投与される。
【0115】
本発明者らはさらに、特に効果的な治療が、いずれかの実施形態において上述した使用のためのMSCまたは使用のための医薬組成物の少なくとも2つの投与量を含む投与レジメンによって達成されることを発見した。
【0116】
したがって、さらなる実施形態は、被験体、好ましくはネコおよびイヌの慢性歯肉口内炎の治療で使用するための医薬組成物に関し、ここで:
-前記治療は、好ましくは静脈内に、患者あたり105-107MSCの総用量を含む前記組成物の第1の量を投与するステップを含み、
-前記治療は、好ましくは静脈内に、前記組成物の第2の量を投与するステップをさらに含み、前記第2の量は、105-107MSCの第2の総用量を含み、前記MSCは、好ましくは、天然および/または異種であり、
ここで、前記第2の用量は、前記第1の量の1日後、前記第1の量の2日後、前記第1の量の3日後、前記第1の量の4日後、前記第1の量の5日後、前記第1の量の6日後、前記第1の量の7日後(1週間後)、前記第1の量の2週間後、前記第1の量の3週間後、前記第1の量の4週間後、前記第1の量の5週間後、前記第1の量の6週間後、前記第1の量の7週間後、前記第1の量の8週間後、前記第1の量の3ヶ月後、6ヶ月後、前記第1の量の9ヶ月後、および/または前記第1の量の1年後に投与される。好ましくは、各用量は、前記第1の量の少なくとも2週間後に投与され、より好ましくは、前記第1の量の少なくとも3週間後に投与され、さらにより好ましくは、前記第1の量の少なくとも4週間後に投与され、最も好ましくは、前記第1の量の少なくとも6週間後に投与される。
【0117】
ある実施形態では、前記第2の用量は、前記第1の用量と同一である。別の実施形態において、前記第2の用量は、前記第1の用量よりも少ない。さらに別の実施形態では、前記第2の用量は、前記第1の用量よりも多い。
【0118】
ある実施形態では、前記組成物の第3、第4および/または第5の量さえも、前記患者に、好ましくは静脈内に投与され得、前記第3、第4および/または第5の量は、105-107MSCの第3、第4および/または第5の総用量を含み、前記MSCは、好ましくは、天然および/または異種である。
【0119】
ある実施形態では、前記組成物の第6またはそれ以上の量が、前記患者に、好ましくは静脈内に投与され得、ここで、前記第6またはそれ以上の量は、105-107MSCの第6またはそれ以上の総用量を含み、ここで、前記MSCは、好ましくは、天然および/または異種である。
【0120】
CGSは痛みを伴う口腔粘膜の病変を引き起こし、生活の質を著しく低下させ、しばしば重大な関連リスクと副作用を伴う長期の免疫抑制療法を必要とする。慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患しているネコおよびイヌなどの被験体では、口腔炎症性病変が存在し、口腔上皮および上皮下間質が、主にリンパ球、形質細胞および好中球からなる混合炎症性浸潤によって拡大する。口腔炎症性病変の表面上皮の潰瘍化がしばしば観察される。しばしば、残存する表面上皮は過形成性で、隣接する間質の深部まで伸びる多発性上皮突起を伴う。免疫組織化学的には、CD3+T細胞が上皮内および上皮下間質に存在する一方、口腔炎症性病変の上皮下間質にはCD20+B細胞が限局して存在する。病変は、口腔の尾側、口蓋舌襞付近で最もよく確認され、粘膜歯肉接合部を横切る頬粘膜および歯肉粘膜に沿って伸びる。
【0121】
ある実施形態では、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物は、慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患しているネコおよびイヌなどの被験体における口腔炎症性病変の治療で使用される。
【0122】
口腔炎症性病変の治療は、慢性歯肉口内炎に罹患している、または罹患する危険性のあるネコまたはイヌなどの被験体における口腔炎症の予防、軽減、緩和、改善および/または回復を含む。
【0123】
口腔炎症性病変の治療はまた、当技術分野で既知の任意の方法(例えば、炎症性病変の改善のための、口腔内、例えば、上顎頬粘膜、下顎頬粘膜、上顎付着歯肉、下顎付着歯肉、臼歯唾液腺、口蓋舌襞の外側の領域、口腔咽頭組織、舌および/または舌下組織の目視検査)、血液マーカーの変化ならびに被験体における行動の変化(例えば、食欲、固形食を食べる能力、グルーミング、社交性、活動レベル、体重増加、快適さの増大の提示)を用いた測定可能な量で、被験体の口腔炎症の1つまたは複数の症状を抑制または阻害することを指す。口腔炎症の1つまたは複数の症状は、該1つまたは複数の症状の測定可能なパラメータが、MSCの投与前の1つまたは複数の症状の測定可能なパラメータと比較して、少なくとも約10%、20%>、30%>、50%>、80%、または100%減少している場合に治療されている。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の症状の測定可能なパラメータは、MSC投与前の1つまたは複数の症状の測定可能なパラメータと比較して、少なくとも約1倍、2倍、3倍、4倍、またはそれ以上阻害または抑制され、減少または低下する。
【0124】
治療が可能な患者には、疾患のリスクはあるが症状を呈していない患者および現在口腔炎症の症状を呈している患者が含まれる。
【0125】
予防の目的では、被験体は無症状であるが、CGSのような口腔炎症または口腔炎症性疾患を発症するリスクまたは素因を有する場合がある。このような場合、MSCを投与することで、疾患の発症または口腔炎症の後期への進行を予防もしくは遅延させることができ、および/または、発症後の疾患の重症度を低減させることができる。
【0126】
ある実施形態では、前記口腔炎症性病変の重症度は、例えばネコの口内炎疾患活動性指標(SDAI)またはイヌの潰瘍性口内炎疾患活動性指標(CUSDAI、表1参照)のような病変スコア化スキームを用いて評価される。
【0127】
【0128】
口内炎疾患活動性指標は半定量的なスコア化シートであり、口腔炎症パラメータに基づいた疾患の重症度、および飼い主が報告したパラメータに基づいた生活の質を段階分けするために使用される。口内炎疾患活動性指標の判断基準は以下の通りであり、これら個々の判断基準の合計は最大30点である。
【0129】
「食欲」基準:3=ピューレ状にしたフードしか食べない、または手で与えたときのみ食べる、2=ウェットフードを自分で食べるが;ドライフードは食べられない、1=ウェットフードもドライフードも食べるが、量は通常より少ない、0=普通に食べる。
【0130】
「活動レベル」基準:3=人および他のペットに興味がなく、ほとんどの時間を寝て過ごす、2=活動レベルは低いが、人および他のペットに構われると時々遊ぶ、1=自発的に遊ぶが頻繁ではない、0=通常の活動レベル(遊び好きで活発)。
【0131】
「グルーミング行動」基準:3=グルーミングしない、2=時々グルーミングするが「病気前」のレベルではない、1=過剰にグルーミングする、0=普通にグルーミングする。
【0132】
「知覚された快適さ」基準:0~3の3段階で(0が最も快適で、3が最も痛みがある)ネコの現在の快適さレベルをランク付けする。
【0133】
「体重」基準:0=>0.5kg増加、1=>0.25kg増加ただし<0.5kg、2=0<.25kg増加、3=体重減少(直近の来診時との比較)。
【0134】
「口腔部位の炎症」基準:0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度。炎症は口腔内の複数の部位でスコア化される。
【0135】
同様のスコア化スキームであるイヌ潰瘍性口内炎疾患活動性指標(CUSDAI)は、口腔内の潰瘍の程度に基づくイヌの疾患の重症度、および飼い主が報告するパラメータに基づく生活の質を段階分けするために使用することができる。このスコア化スキームで得られる最高スコアの合計は32点である。
【0136】
ある実施形態では、前記ネコまたはイヌは、MSCまたはMSCを含む医薬組成物の投与前に少なくとも5の病変スコアスコアを有する。ある実施形態では、前記病変スコアは、MSCまたはMSCを含む医薬組成物の1回または複数回の投与後3ヶ月の期間内に少なくとも20%の相対的減少を示す。
【0137】
CGSの現在の標準治療である完全または完全に近い抜歯に対して、約70%のネコが完全治癒(28.4%)または大幅な改善(39%)を示している。しかし、完全または完全に近い抜歯は、ネコに苦痛と痛みを与える侵襲的な処置であるため、侵襲的で痛みを伴う処置を行わずに症状を軽減できる治療が必要とされている。
【0138】
さらに、残りの30%のネコは抜歯に反応しない(難治性FGCS)。これらのネコは、OLP、天疱瘡および類天疱瘡を含む口腔炎症性疾患を持つヒトと同様に、抗生物質、副腎皮質ステロイドおよび鎮痛剤による生涯にわたる治療が必要である。前述のヒトの口腔粘膜疾患と同様、治療法はなく、CGSのネコでは疾患の自然治癒は報告されていない。CGSの衰弱性により、治療に反応しない重症の罹患ネコは安楽死させられることが多い。
【0139】
同様に、CGSに罹患しているイヌでは、不快感が強く、飼い主が歯磨きをできない、または行いたくない場合には、プラークが蓄積する接触面を除去するために、病変に関連するすべての歯を抜歯する必要がある場合がある。これは病変の抑制には役立つが、プラークは舌を含む口腔内の粘膜表面に形成されるため、治癒には至らない。完全な抜歯を行ういくつかの症例でも、プラークに対する過剰免疫反応によってイヌの病変を発生し続ける。
【0140】
ある実施形態では、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物は、ネコまたはイヌの慢性歯肉口内炎(CGS)の治療において、第一選択治療として使用される。そうすることにより、CGSに罹患しているネコまたはイヌは、抜歯という痛みを伴う処置から免れることができる。別の実施形態において、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物は、ネコまたはイヌの難治性の慢性歯肉口内炎(CGS)の治療で使用され、例えば、ネコまたはイヌの1本または複数の歯を抜歯してもCGSに関連する症状の顕著な改善が得られなかった場合に使用される。MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物を投与することにより、(難治性の)CGSに罹患しているネコまたはイヌにおいて、口腔炎症の1つまたは複数の症状を軽減、緩和、寛解および/または回復させることができる。
【0141】
CGSの病因は依然として解明されていないが、基礎となる口腔疾患または臨床的/無症候性ウイルス感染に続発する慢性的な口腔抗原刺激に対して宿主免疫系が不適切に反応することが原因であると考えられている。組織学的プロセスは一貫して、主に、Th1表現型に偏った、活性化されたエフェクターT細胞およびB細胞による組織浸潤を伴う。
【0142】
第2の態様において、本発明は、慢性歯肉口内炎と診断された、または慢性歯肉口内炎に罹患している被験体、好ましくはネコまたはイヌにおけるCGS炎症反応中の免疫調節剤として使用するための、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物に関する。
【0143】
ある実施形態において、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物は、リンパ球増殖を阻害または抑制することにより、免疫調節剤として機能する。リンパ球増殖の阻害または抑制は、可溶性メディエーターおよびMSCとリンパ球の直接接触の両方に依存し得る。例えば、MSCから分泌される可溶性免疫因子プロスタグランジンE2(PgE2)は、リンパ球の細胞周期停止および/またはリンパ球のアポトーシスの開始に関与している。本発明のMSCの機能に従って、MSCまたは治療有効量のMSCを含む医薬組成物の投与後の臨床的改善は、ネコまたはイヌなどの被験体の口腔におけるT細胞およびB細胞の炎症の病理組織学的消失と関連する。
【0144】
最後の態様において、本発明は、末梢血由来のMSCを含む特定の医薬組成物に関する。前記組成物は、天然の末梢血由来のMSCを含み、前記MSCは動物由来、好ましくは哺乳動物由来であり、前記組成物1mLあたり105-107MSCの濃度で滅菌液体中に存在し、前記組成物の一投与量は約0.5~5mLの体積を有し、前記MSCは間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90について陽性であり、MHCクラスII分子およびCD45について陰性であり、前記MSCは10μm~100μmの懸濁液径を有する。
【0145】
ある実施形態では、前記医薬組成物は静脈内投与される。好ましい実施形態において、前記MSCはウマ由来である。
【0146】
ある実施形態では、前記組成物の一投与量は、約0.5~5mL、好ましくは約0.5~5mL、好ましくは約0.5~3mL、好ましくは約0.5~2mL、より好ましくは約0.5~1.5mL、最も好ましくは約1mLの体積を有する。別のまたはさらなる実施形態では、前記組成物の一投与量は、最大で約5mL、好ましくは最大で約4mL、より好ましくは最大で約3mL、より好ましくは最大で約2mLの体積を有し、最も好ましくは前記体積は約1mLである。この量は静脈内投与に適している。
【0147】
別のまたはさらに好ましい実施形態では、MSCは15~80μm、より好ましくは20~75μm、より好ましくは25~50μmの懸濁液径を有する。
【0148】
当業者であれば、上記の、ネコおよびイヌなどの被験体における慢性歯肉口内炎の治療で使用するためのMSCもしくは医薬組成物、または免疫調節剤として使用するためのMSCもしくは医薬組成物の態様の要素は、本発明の医薬組成物の態様に戻ることを理解するであろう。その結果、本発明の全ての態様は関連している。上述した態様の1つに記載されている全ての特徴および利点は、特定の態様と関連して記載されている場合であっても、これらの態様のいずれにも関連し得る。
【0149】
本発明の使用のためのMSCまたはMSCを含む医薬組成物は、場合によっては上述のさらなる成分とともに、MSCまたは組成物の長期保存を可能にするために、好みにより凍結される。好ましくは、MSCまたは組成物は、-20℃未満の温度のような低温かつ一定温度で凍結される。これらの条件は、MSCまたは組成物の保存を可能にし、MSCがその生物学的および形態学的特性、ならびに保存中および解凍後の高い細胞生存率を維持することを可能にする。
【0150】
より好ましい実施形態では、本発明の使用のためのMSCまたはMSCを含む医薬組成物は、最高温度-80℃で少なくとも6ヶ月間、任意で液体窒素中で保存することができる。MSCの凍結において重要な要素は、極低温培地、特にDMSOを含むものである。DMSOは凍結プロセスにおいて培地中の氷結晶形成を防ぐが、高濃度では細胞に対して毒性を示すことがある。好ましい実施形態では、DMSOの濃度は最大20%、より好ましくは最大15%、より好ましくは寒剤中のDMSO濃度は10%である。極低温培地は、低グルコースDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)のような低グルコース培地をさらに含む。
【0151】
その後、本発明の使用のためのMSCまたはMSCを含む医薬組成物は、好ましくは、室温付近の温度、好ましくは20℃~37℃の温度、より好ましくは25℃~37℃の温度で、最大20分間、好ましくは最大10分間、より好ましくは最大5分間、投与前に解凍される。
【0152】
さらに、MSCの生命力を保護するために、MSCまたは組成物は、好ましくは解凍後2分以内に投与される。
【0153】
本発明は、本発明をさらに例示する以下の非限定的な例によってさらに説明されるが、これらは本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また限定すると解釈されるべきではない。
【0154】
次に、本発明を以下の実施例を参照してさらに例示する。本発明は、与えられた実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0155】
実施例1:健康なネコにおける混合リンパ球反応(MLR)
設定:
ネコにおけるePB(馬末梢血由来)-MSCの免疫調節特性を調べるために、10匹の健康なネコに、本発明の実施形態に従う、3×105ePB-MSCをDMEM低グルコースおよび10%DMSO中に含む組成物を、1mLの体積で、3つの時点(T0、T1およびT2)で、各注射の間に2週間をおいて静脈(IV)注射する。健康なネコ10匹(オス4匹、メス6匹)は、品種が異なり、特にヨーロピアンショートヘア、ヨーロピアンロングヘアおよびメインクーンであり、平均年齢は6±4歳である。
【0156】
ePB-MSCの単離と培養
既述の方法に従い、ePB-MSCを1頭のドナー馬の頸静脈から採取した静脈血から単離する。ePB-MSCの培養に先立ち、Broeckx et al. 2012に記載されているように、血清中の複数の感染性疾患の有無を検査する。その後、優良医薬品製造基準(Good manufacturing practice, GMP)認定製造施設において、GMPガイドラインに従って幹細胞を継代(P)5まで培養し、生存率、形態、細胞表面マーカーの存在および集団倍化時間について特性評価を行う。特定の細胞表面マーカーの存在(表面抗原分類CD29、CD44およびCD90)と非存在(主要組織適合抗原(MHC)IIおよびCD45)の評価は、以前に記載されたようにフローサイトメトリーを用いて行う(Spaas et al.)。しかしながら、詳細な発現および分泌パターンは、以前に国際公開第2020/182935号に記載されている。
【0157】
細胞生存率はトリパンブルーを用いて評価する。その後、細胞をさらにP10まで培養し、トリプシン処理し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)低グルコースに最終濃度300.000細胞/mLで再懸濁する。ePB-MSCは、さらに使用するまで-80℃で凍結保存する。最終製品の無菌性は、好気性細菌、嫌気性細菌、真菌、エンドトキシン、マイコプラズマが存在しないことにより検査する。
【0158】
研究
すべてのネコを毎日世話係が視診し、獣医師が0日目(T0)、2週目(T1)、4週目(T2)および6週目(T3)に、直腸温、心拍数、呼吸数、粘膜の様子および毛細血管再充填時間の評価からなる全身の身体検査と、血液学的および生化学的分析を行う。
【0159】
さらに、改変混合リンパ球反応(MLR)を、各個体のネコからの新鮮な末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、T0(治療投与前)とT3(最後の(3回目の)治療から2週間後)に実施する。このアッセイは、ePB-MSCの免疫調節(刺激PBMCを介した)特性を調べるものである。PBMCを刺激するために、コンカナバリンA(ConA)とコインキュベートする。
【0160】
T0、T1およびT2において、全身の身体検査の後、ネコに3×105ePB-MSCを静脈(i.v.)注射した。手のひらで凍結バイアル(cryovial)を融解した後、内容物の透明度と清澄度をチェックし、22Gのi.v.カテーテルを用いて細胞懸濁液を直ちに注射した。
【0161】
MLRアッセイでは、コンカナバリンA(ConA)で刺激したネコPBMCとこれらの細胞を4日間コインキュベートし、ネコPBMCの増殖を評価することで、ePB-MSCの免疫調節特性を調べる。非刺激ネコPBMCまたは刺激ネコPBMCをそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いる。その結果、PBMCの増殖(%)を、カルボキシフルオセインサクシニミジルエステル7-アミノアクチノマイシンD(CFSE-7AAD)標識法を用いたフローサイトメトリーで評価する。このアッセイは、すべてのネコについて、治療の前後に実施する。
【0162】
そのために、各個体のネコからEDTA採血管でネコの静脈血を採取し、HBSSで希釈して同量のパーコール密度勾配に重ねた。パーコール上で遠心分離した後、PBMCを含む間相を回収した。PBMCを3回洗浄した。次に、各ネコのPBMCを1mL当たり1×106細胞の濃度にした。次に、PBMC細胞懸濁液1mLあたり1μLのCFSE溶液を用いて、PBMCをCFSEで標識した。CFSEで標識したPBMCを洗浄し、MLR培地(20%FBS、1%AB/AM(抗生物質/抗マイコプラズマ薬)および1%BME(B-メルカプトエタノール)100倍補充DMEM)に再懸濁し、最終濃度を1mLあたり2×106PBMCとした。次に、陰性対照試料を除くプレートの全ウェルにConA溶液を加えた。最後に、指定したネコのPBMCを関連ウェルに加えた。4日間のインキュベーション後、全試料をFACSチューブに移し、遠心分離し、フローサイトメトリー解析のために7-AADで染色した。
【0163】
結果
両方の時点(T0とT3)で、刺激したネコPBMCと共培養したePB-MSCの増殖(T0:12.6±10%、T3:26.2±9.8%)は、関連する陰性対照(T0:3.4±2.7%、T3:4.9±1.3%)と比較して有意に高かった(それぞれp値=0.05と0.008)。しかし、ベースライン時(79.7±4.7%)(p値=0.008)と治療後(83.2±5.7%)(p値=0.008)では、共培養の増殖は陽性対照より有意に低かった。ePB-MSCと刺激したネコPBMCの共培養では、ベースライン(12.6±10%)と比較して、治療後(26.2±9.8%)ではPBMC増殖の平均値に有意差は認められなかった(p値=0.017)(
図1)。
【0164】
結論
本研究の結果は、ネコPBMCに対するePB-MSCの免疫調節特性を確認するものである。これは、異種ePB-MSCがネコの治療で使用できることを示している。
【0165】
実施例2:健康なイヌにおけるePB-MSCによる治療前後の混合リンパ球反応(MLR):
設定:
イヌにおけるePB(馬末梢血由来)-MSCの免疫調節特性を調べるために、12匹の健康なイヌに、本発明の実施形態に従う、3×105ePB-MSCをDMEM低グルコースおよび10%DMSO中に含む組成物を、1mLの体積で、3つの時点(T0、T1およびT2)で、各注射の間に2週間をおいて静脈(IV)注射する。
【0166】
ePB-MSCの単離と培養は、上記実施例1に記載したように行う。
【0167】
研究
すべてのイヌを毎日世話係が視診し、獣医師が0日目(T0)、2週目(T1)、4週目(T2)および6週目(T3)に、直腸温、心拍数、呼吸数、粘膜の様子および毛細血管再充填時間の評価からなる全身の身体検査と、血液学的および生化学的分析を行う。
【0168】
さらに、改変混合リンパ球反応(MLR)を、各個体のイヌからの新鮮な末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、T0(治療投与前)とT3(最後の(3回目の)治療から2週間後)に実施する。このアッセイは、ePB-MSCの免疫調節(刺激PBMCを介した)特性を調べるものである。PBMCを刺激するために、コンカナバリンA(ConA)とコインキュベートする。
【0169】
T0、T1およびT2において、全身の身体検査の後、ネコに3×105ePB-MSCを静脈(i.v.)注射した。手のひらで凍結バイアル(cryovial)を融解した後、内容物の透明度と清澄度をチェックし、22Gのi.v.カテーテルを用いて細胞懸濁液を直ちに注射した。
【0170】
MLRアッセイでは、コンカナバリンA(ConA)で刺激したイヌPBMCとこれらの細胞を4日間コインキュベートし、イヌPBMCの増殖を評価することで、ePB-MSCの免疫調節特性を調べる。非刺激イヌPBMCまたは刺激イヌPBMCをそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いる。その結果、PBMCの増殖(%)を、カルボキシフルオセインサクシニミジルエステル7-アミノアクチノマイシンD(CFSE-7AAD)標識法を用いたフローサイトメトリーで評価する。このアッセイは、すべてのイヌについて、治療の前後に実施する。
【0171】
そのために、各個体のイヌからEDTA採血管でイヌの静脈血を採取し、HBSSで希釈して同量のパーコール密度勾配に重ねた。パーコール上で遠心分離した後、PBMCを含む間相を回収した。PBMCを3回洗浄した。次に、各イヌのPBMCを1mL当たり1×106細胞の濃度にした。次に、PBMC細胞懸濁液1mLあたり1μLのCFSE溶液を用いて、PBMCをCFSEで標識した。CFSEで標識したPBMCを洗浄し、MLR培地(20%FBS、1%AB/AM(抗生物質/抗マイコプラズマ薬)および1%BME(B-メルカプトエタノール)100倍補充DMEM)に再懸濁し、最終濃度を1mLあたり2×106PBMCとした。次に、陰性対照試料を除くプレートの全ウェルにConA溶液を加えた。最後に、指定したイヌのPBMCを関連ウェルに加えた。4日間のインキュベーション後、全試料をFACSチューブに移し、遠心分離し、フローサイトメトリー解析のために7-AADで染色した。
【0172】
結果
両方の時点(T0とT3)で、刺激したイヌPBMCと共培養したePB-MSCの増殖は、関連する陰性対照と比較して有意に高かった。しかし、ベースライン時と治療後では、共培養の増殖は陽性対照より有意に低かった。ePB-MSCと刺激したイヌPBMCの共培養では、ベースラインと比較して、治療後ではPBMC増殖の平均値に有意差は認められなかった。
【0173】
結論
本研究の結果は、イヌPBMCに対するePB-MSCの免疫調節特性を確認するものである。これは、異種ePB-MSCがイヌの治療で使用できることを示している。
【0174】
実施例3:ネコ慢性歯肉口内炎(fCGS)におけるウマ末梢血由来間葉系幹細胞の安全性と有効性を評価する臨床的実現可能性研究
設定:
fCGSの治療におけるePB(ウマ末梢血由来)-MSCの静脈内(IV)投与後の臨床的安全性および有効性を調べるため、fCGSに罹患している4匹のネコに、本発明の実施形態による、DMEM低グルコースおよび10%DMSO培地中の本発明の3×105ePB-MSCの組成物を、1mLの体積でIV注射する。MSCは99mTcで標識されている。すべてのネコを毎日世話係が視診し、獣医師が0日目、1日目、14日目および15日目に全身の身体検査を行う。獣医師は研究開始5ヵ月後にネコの世話係に電話で連絡して動物のフォローアップを行う。
【0175】
0日目に、研究者によりスコア化された口腔炎症病変の重症度ならびにネコの食欲、活動レベル、グルーミング行動および知覚される口腔内の快適さに関する世話人の認識に基づいて、口内炎疾患活動性指標(SDAI)を算出する。SDAIスコアは0(疾患なし)から30(重度の疾患)までである。
【0176】
結果
0日目のネコの平均SDAIスコアは11.5だった。研究14日目には、4匹中3匹で少なくとも20%の臨床的改善が認められた。さらに、研究中に有害事象は記録されなかった。最初の注射から5ヵ月後、3匹のネコで生活の質が試験前と比較して改善した。4匹目のネコは研究14日目でも臨床的な改善がみられず、治療に対する反応がなく疾患が悪化したため安楽死させなければならなかった。しかし、このネコでは口腔領域での幹細胞レベルの生体内分布が最も低かった。一方、治療に成功した他の3匹のネコでは、口腔へのMSCの明確な生体内分布が見られた。
【0177】
実施例4:イヌの慢性歯肉口内炎(CGS)におけるウマ末梢血由来間葉系幹細胞の安全性と有効性を評価する臨床的実現可能性研究
設定:
イヌのCGSの治療におけるePB(ウマ末梢血由来)-MSCの静脈内(IV)投与後の臨床的安全性および有効性を調べるため、CGSに罹患しているイヌに、本発明の実施形態による、DMEM低グルコースおよび10%DMSO培地中の本発明の3×105ePB-MSCの組成物を、1mLの体積でIV注射する。MSCは99mTcで標識されている。すべてのイヌを毎日世話係が視診し、獣医師が0日目、1日目、14日目および15日目に全身の身体検査を行う。獣医師は研究開始5ヵ月後にイヌの世話係に電話で連絡して動物のフォローアップを行う。
【0178】
0日目に、イヌ潰瘍性口内炎疾患活動性指標(CUSDAI)を、研究者によりスコア化された口腔病変の重症度、体重減少、疼痛スコアおよび世話人の食欲の認識に基づいて算出する。CUSDAIスコアは0(疾患なし)から32(重度の疾患)まである。
【0179】
結果
平均CUSDAIスコアを0日目のイヌについて算出した。研究14日目には、ほとんどのイヌで臨床的改善が見られた。さらに、研究中に有害事象は記録されなかった。初回注射から5ヵ月後、大部分のイヌで研究前と比較して生活の質が改善した。
【0180】
実施例5:ネコ慢性歯肉口内炎(fCGS)のネコにおけるePB-MSCの生体内分布研究
設定:
これは、ウマ末梢血由来間葉系幹細胞(ePB-MSC)をネコ慢性歯肉口内炎(fCGS)に罹患しているネコの橈側皮静脈に静脈(IV)注射した後の生体内分布を評価するパイロット研究である。この研究では4匹のネコに、本発明の実施形態による、DMEM低グルコース中に2-5×105個の放射標識ePB-MSCを含んだ組成物を1mLの体積で注射する。ネコは、99mTc標識ePB-MSCを含んだ1mLの組成物のIV注射を受ける。ePB-MSCの分布は、2ヘッドガンマカメラを用いて全身を通して主観的に評価する。最初の撮影開始は、放射性化合物の注射後1時間以内である。次に、プラセボ対照と標識ePB-MSC投与の6時間後と24時間後に全身スキャンを1回ずつ行う。
【0181】
結果
99mTc標識ePB-MSCをIV注射すると、肺、肝臓、口、腎臓および膀胱に放射能が取り込まれた(
図2)。
【0182】
結論
本研究は、放射能のシンチグラフィー評価によって測定された、慢性歯肉口内炎に罹患しているネコにおけるIV与の生体内分布を説明するものである。結果は、fCGSに罹患しているネコに静脈注射した後、ePB-MSCが口内の炎症ゾーンにホーミングすることを示している。これは、fCGSの治療におけるePB-MSCの使用をさらに支持し、fCGSの治療におけるその作用機序についてさらなる洞察を与えるものである。
【0183】
実施例6:慢性歯肉口内炎(CGS)のイヌにおけるePB-MSCの生体内分布研究
設定:
これは、ウマ末梢血由来間葉系幹細胞(ePB-MSC)をイヌ慢性歯肉口内炎(CGS)に罹患しているイヌの橈側皮静脈に静脈(IV)注射した後の生体内分布を評価するパイロット研究である。この研究では4匹のイヌに、本発明の実施形態による、DMEM低グルコース中に2-5×105個の放射標識ePB-MSCを含んだ組成物を1mLの体積で注射する。イヌは、99mTc標識ePB-MSCを含んだ1mLの組成物のIV注射を受ける。ePB-MSCの分布は、2ヘッドガンマカメラを用いて全身を通して主観的に評価する。最初の撮影開始は、放射性化合物の注射後1時間以内である。次に、プラセボ対照と標識ePB-MSC投与の6時間後と24時間後に全身スキャンを1回ずつ行う。
【0184】
結果
99mTc標識ePB-MSCをIV注射すると、肺、肝臓、口、腎臓および膀胱に放射能が取り込まれた。
【0185】
結論
本研究は、放射能のシンチグラフィー評価によって測定された、慢性歯肉口内炎に罹患しているイヌにおけるIV投与の生体内分布を説明するものである。結果は、CGSに罹患しているイヌに静脈注射した後、ePB-MSCが口内の炎症ゾーンにホーミングすることを示している。これは、CGSの治療におけるePB-MSCの使用をさらに支持し、CGSの治療におけるその作用機序についてさらなる洞察を与えるものである。
【0186】
本発明は、実施例に記載され、および/または図に示された実施形態に決して限定されない。それどころか、本発明による方法は、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの異なる方法で実現され得る。
【国際調査報告】