(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】C20テルペノイドアルコールの組換え製造
(51)【国際特許分類】
C12P 7/02 20060101AFI20240702BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240702BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240702BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240702BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20240702BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240702BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240702BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240702BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240702BHJP
A01K 67/0275 20240101ALI20240702BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240702BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240702BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C12P7/02 ZNA
C12N15/54
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/64 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A01K67/0275
C12P21/02 A
C07K19/00
C12N9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500159
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2022068104
(87)【国際公開番号】W WO2023280677
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520064986
【氏名又は名称】アイソバイオニクス ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビークワイルダー,マルティヌス ユリウス
(72)【発明者】
【氏名】スタイルズ,マシュー クイン
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ,ヘンドリック ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フォス,アウリン ミンネルト
(72)【発明者】
【氏名】ファン ハウエリンゲン,アデル マルガレータ マリア リドゥイナ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AC13
4B064AG27
4B064AG30
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD15
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA57X
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4B065AA88X
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4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB40
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA51
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA83
4H045DA89
4H045EA61
4H045FA74
(57)【要約】
ゲラニルゲラニルピロリン酸をコパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換する工程と、CPP又はLPPを少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換する工程とを含む、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造する方法であって、前記変換は、CPPをマノオールに、LPPをスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ポリペプチドは、特許請求の範囲に規定されるようなアミノ酸配列を含む、方法が開示される。本発明は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す上述のポリペプチド及び前記ポリペプチドを含む融合タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物、前記ベクター又は遺伝子構築物を含む宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、遺伝子構築物又は宿主細胞を含む非ヒトトランスジェニック生物並びに少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造するためのその使用に更に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造する方法であって、
a)ゲラニルゲラニルピロリン酸をコパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換する工程;及び
b)CPP又はLPPを少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換する工程であって、前記変換は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができる、工程
を含み、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
【請求項2】
ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができ、及び好ましくは、
a)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、LPPをアビエノールに変換することができ、及び好ましくは、
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a)の前記変換は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/又はCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示す更なるポリペプチドによって行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程b)又は前記工程a)及びb)は、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物において行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物並びに請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを含む組成物であって、前記宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物は、組換えにより、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
を有する、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す少なくとも1つのポリペプチドを含む、組成物。
【請求項7】
ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドであって、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができ、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ポリペプチド。
【請求項8】
前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができ、及び好ましくは、
a)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、LPPをアビエノールに変換することができ、及び好ましくは、
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるような前記アミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような前記核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載のポリペプチドと、(i)好ましくはゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/若しくはCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すか、(ii)マルトース結合特性を有するか、又は(iii)チオレドキシン若しくはチオレドキシン融合タンパク質である少なくとも1つの更なるポリペプチドとを含む融合ポリペプチド。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか一項に記載のポリペプチド若しくは請求項10に記載の融合ポリペプチド又はその逆相補配列若しくは相補配列をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物。
【請求項13】
請求項12に記載のベクター又は遺伝子構築物を含む宿主細胞。
【請求項14】
請求項11に記載のポリヌクレオチド、請求項12に記載のベクター若しくは遺伝子構築物又は請求項13に記載の宿主細胞を含むトランスジェニック非ヒト生物。
【請求項15】
少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するための、請求項7~9のいずれか一項に記載のポリペプチド若しくは請求項10に記載の融合ポリペプチド、請求項11に記載のポリヌクレオチド、請求項12に記載のベクター若しくは遺伝子構築物、請求項13に記載の宿主細胞又は請求項14に記載の非ヒトトランスジェニック生物の使用。
【請求項16】
ジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するバリアントポリペプチドを調製する方法であって、
a)請求項11に記載の核酸を選択する工程;
b)前記選択された核酸を改変して、少なくとも1つの変異核酸を得る工程;
c)宿主細胞又は単細胞生物を前記変異核酸配列で形質転換して、前記変異核酸配列によってコードされるポリペプチドを発現させる工程;
d)少なくとも1つの改変された特性及びジテルペンアルコールシンターゼ活性について前記ポリペプチドをスクリーニングする工程;及び
e)任意選択により、前記ポリペプチドが所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有しない場合、所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドが得られるまで前記プロセス工程(a)~(d)を繰り返す工程;
f)任意選択により、所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドが工程(d)で同定された場合、工程(c)で得られた前記対応する変異核酸を単離する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C20テルペノイドアルコールの組換え製造の分野に関する。特に、本発明は、ゲラニルゲラニルピロリン酸をコパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換する工程と、CPP又はLPPを少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換する工程とを含む、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造する方法であって、前記変換は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができ、前記ポリペプチドは、a)配列番号3~7又は34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;b)配列番号3~7又は34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;c)配列番号1、又は2、又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;d)配列番号1、又は2、又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及びe)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法に関する。本発明は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す上述のポリペプチド及び前記ポリペプチドを含む融合タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物、前記ベクター又は遺伝子構築物を含む宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、遺伝子構築物又は宿主細胞を含む非ヒトトランスジェニック生物に更に関する。更に、本発明は、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するための、前記ポリペプチド、融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター若しくは遺伝子構築物、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物の使用を企図する。更に、本発明は、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するためのキットを包含する。
【背景技術】
【0002】
スクラレオール((+)-スクラレオール)、アビエノール(Z-アビエノール)及びマノオール((+)-マノオール)は、ラブダンジテルペンのメンバーである。ジテルペンは、C20テルペンであり、植物及び微生物で天然に生じる。これらのラブダンジテルペン分子は、フレグランス産業に適用されるアンバーノートに変換することができるため、商品価値がある。アンバーノートの例としては、アンバーケタール、マノオールケトン、アンブロキシド及びスクラレオリドが挙げられる。ジテルペン分子をアンバーノートに変換するために、いくつかの化学経路又は生体触媒経路が開示されている。スクラレオールは、アンブロキシド、例えばBarrero et al.1993,tetrahedron 49,10405-10412;Farboodの欧州特許第0 204 009 B1号明細書)又はスクラレオリド(Farboodの欧州特許出願公開第0 419 026 A1号明細書)に変換することができる。マノオールは、アンバーケタール、例えば米国特許第7,294,492号明細書(クリプトコッカス属(Cryptococcus))又はマノオールケトン(欧州特許第1 688 501 B1号明細書)に変換することができ、アビエノールは、アンブロキシド(例えば、Barrero et al.1993,tetrahedron 49,10405-10412)又はスクラレオリド(米国特許第5,525,728号明細書)に変換することができる。
【0003】
これらの化合物の植物供給源としては、スクラレオールではサルビア・スクラレア(Salvia sclarea)及びニコチアナ・グルチノサ(Nicotiana glutinosa)、マノオールではハロカルプス・ビフォルミス(Halocarpus biformis)(ピンクパイン又はイエローパイン)並びにアビエノールではバルサム・ファー(Balsam fir)(アビエス・バルサメア(Abies balsamea))が挙げられる。
【0004】
ジテルペンを生成するテルペンシクラーゼをコードする遺伝子は、広範に記載されており(Zerbe,Trends Biotechnol 2015 Jul;33(7):419-28.)、これらの化合物の微生物生成が実証されている(例えば、Schalk J.Am.Chem.Soc.2012,134,18900-18903)。ジテルペンの生合成は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から開始される。GGPPは、カロテノイド、植物ホルモンなどの前駆体として自然界に広く存在する。GGPPシンターゼは、広く知られており、例えばシネココッカス属種(Synechococcus sp.)PCC 7002、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、メンタ・ピペリタ(Mentha piperita)、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)由来のcrtE(Feng Front.Plant Sci.,25 May 2020及びその中の参考文献)が挙げられるが、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)由来のidsA遺伝子も挙げられる(Heider FEBS Journal 281(2014)4906-4920)。
【0005】
GGPPから出発して、ジテルペンの生合成は、通常、2つの工程:環化二リン酸(例えば、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸、即ちLPP、コパリル-PP、即ちCPP)とするための工程1及びこの基質を最終生成物に変換する工程2によって媒介される。通常、工程1は、II型ジテルペンシンターゼによって行われるが、工程2は、I型ジテルペンシンターゼによって行われる。両方の工程を行うことが知られているII型シンターゼ、例えばアビエス・バルサメア(Abies balsamea)由来のアビエノールシンターゼが存在する(Zerbe JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL.287,NO.15,pp.12121-12131,April 6,2012)。通常、工程Iの酵素は、αβγドメインタンパク質であり、γドメインにDXDDモチーフが存在することを特徴とする。工程2の酵素は、αβγドメインタンパク質又はαβドメインタンパク質であり得、βドメインにDDXXDモチーフが存在することを特徴とする。ジテルペンシンターゼに関する総説は、Zerbe et al.,Trends in Biotechnology,2015,33(7),419-428内にある。
【0006】
関連するジテルペンの生合成について、以下の遺伝子が記載されている:スクラレオールについては、サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)由来のLPPシンターゼ(LPPS)及びスクラレオールシンターゼ(SS)(Caniard et al.BMC Plant Biology 2012,12:119;Schalkの国際公開第2009/101126号パンフレット)であり、LPPSは、αβγタンパク質(II型)であり、SSは、αβタンパク質(I型)であり、Ignea et al(Metabolic Engineering 27(2015),65-75)では、ニコチアナ・グルチノサ(Nicotiana glutinosa)由来のLPPS及び同様の酵素のみによる酵母内でのスクラレオール合成が実証されている(Julien、国際公開第2014/022434A1号明細書)。
【0007】
アビエノールについては、ニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のLPPS及びABS(Salaud,The Plant Journal(2012)72,1-17;国際公開第2008/07031A1号明細書)であり、いずれの工程でも実行することができるアビエス・バルサメア(Abies balsamea)のABS(Zerbe JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL.287,NO.15,pp.12121-12131,April 6,2012)並びにアビエス属(Abies)のABS及びニコチアナ属(Nicotiana)のABS又はサルビア属(salvia)のSS(国際公開第2016/94178A1号明細書)である。
【0008】
マノオールについては、トリチカム・エスチバム(Triticum aestivum)、又はサルビア・ミルティオリザ(Salvia Miltiorrhiza)、又はタラロマイセス・ベルルキュロサス(Talaromyces verruculosus)、又はコレウス・フォルスコリ(Coleus Forskohlii)、マルビウム・バルガレ(Marrubium vulgare)、ロスマリナス・オフィシナーレ(Rosmarinus officinale)由来の工程1のCPPS;工程2ではサルビア属(salvia)のSS(米国特許第2019/0352673号明細書)であり、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来の工程1のCPPS;工程2ではオリガナム・マジョラナ(Origanum majorana)由来のOmTPS4(Johnson J.Biol.Chem.(2019)294(4)1349-1362;国際公開第2020/028795号明細書)である。
【0009】
スクラレオール、マノオール又はアビエノールを産生するための遺伝子操作微生物が記載されている。この遺伝子操作微生物には、以下の遺伝的エレメントの導入が含まれる。
【0010】
GGPPシンターゼは、例えば、Feng Front.Plant Sci.,25 May 2020に記載されているGGPPシンターゼの群から選択した。GGPPを生成する目的のため、CrtE型の微生物酵素、例えばパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)由来のcrtE(AAA24819)も採用されている(Schalk J.Am.Chem.Soc.2012,134,18900-18903)。コリネバクテリウム属(Corynebacterium)のIdsAは、極めて高い触媒効率を有することが示されている(Heider FEBS Journal 281(2014)4906-4920)。
【0011】
LPP又は(+)-CPPをもたらす工程1の遺伝子は、先行技術では異なる供給源から選択されていた。サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)由来のLPPS(Caniard et al.BMC Plant Biology 2012,12:119;Schalkの国際公開第2009/101126号パンフレット)、ニコチアナ・グルチノサ(Nicotiana glutinosa)由来のLPPS(国際公開第2014/022434号パンフレット Allylix)、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCfLPPS(Pateraki Plant Physiol.,164,1222-1236;国際公開第2015/091943号明細書)、ニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のNtLPPS(Salaud,The Plant Journal(2012)72,1-17;国際公開第2008/07031A1号明細書)、グリンデリア・ヒルスツラ(Grindelia hirsutula)由来のGhLPPS、トリプテリジウム・ウィルフォルディ(Tripterygium wilfordii)由来のTwLPPS、シスタス・クレティカス(Cistus creticus)由来のCcLPPS(Falara,Plant Physiology,2010,Vol.154,pp.301-310)。トリチカム・エスチバム(Triticum aestivum)、又はサルビア・ミルティオリザ(Salvia Miltiorrhiza)、又はタラロマイセス・ベルルキュロサス(Talaromyces verruculosus)又はコレウス・フォルスコリ(Coleus Forskohlii)、マルビウム・バルガレ(Marrubium vulgare)、ロスマリナス・オフィシナーレ(Rosmarinus officinale)由来のCPPS(米国特許第2019/0352673号明細書)も同様に使用されている。
【0012】
Ma及び共同研究者は、タイワニア・クリプトメリオイデス(Taiwania cryptomerioides)のジテルペンシンターゼの生化学的特徴について述べている(Ma Li-Ting et al.,The Plant Journal,vol.100,no.6,1254-1272)。具体的には、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP、TcCPS2)及び(+)-コパリル二リン酸(CPP、TcCPS4)を形成する単官能のクラスII酵素と、それぞれビホルメン(TcKSL1)、レボピマラジエン(TcKSL3)及びフィロクラダノール(TcKSL5)を生成する3つのクラスIのdiTPSとを含む、これまで裸子植物に観察されなかった5つの単官能diTPS機能の特性を明らかにした。更に、これらのジテルペンシンターゼのいずれも、スクラレオール、マノオール又はアビエノールの生成はおろか、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示さなかった。
【0013】
実際に、スクラレオール、マノオール又はアビエノールをもたらす工程2の遺伝子は、稀である。サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)のスクラレオールシンターゼは、CPPSと組み合わせた場合にマノオールを生成することが知られている(米国特許出願公開第2019/0352673号明細書)。オリガナム・マジョラナ(Origanum majorana)由来のOmTPS4は、CPPSを有するマノオールシンターゼであるが、LPPSを有する場合、スクラレオールを生成せず、マノイルオキシドを生成する(Johnson 2019)。Jia(ACS Catal.2018,8,3133-3137)では、残基N431をI、D又はEに変異させることによってサルビア属(salvia)スクラレオールシンターゼをイソアビエノールシンターゼに変換することができ、N431Qを変異することによって13R-スクラレオールシンターゼから13S-スクラレオールシンターゼに変更することができることが開示されている。Jiaらは、スクラレオールシンターゼが、例外的に、ラブダノイル-PPに水を添加してスクラレオールを形成するために重要となる、その残基の周囲の産物成果決定領域にアスパラギン(N431)を有していることを主張している。N.タバカム(N.tabacum)のアビエノールシンターゼは、サルビア・フルティコサ(Salvia fruticosa)由来のCPPSによってZ-ビホルメンを生成する。Jia et alは、サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)由来のスクラレオールシンターゼと、異なる種に由来する多数の工程2のジテルペンシンターゼシンターゼ、例えばコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のマノイルオキシドシンターゼ(GenBankアクセッション:KF444508);1 IrMS、イソドン・ルベッセンス(Isodon rubescens)由来のミルチラジエンシンターゼ(KX831652);CfMS、C.フォルスコリ(C.forskohlii)由来のミルチラジエンシンターゼ(KF444509);RoMS1、ローズマリウス・オフィシナリス(Rosemarius officinalis)由来のミルチラジエンシンターゼ1(KF805858);SmMS、サルビア・ミルティオリザ(Salvia Miltiorrhiza)由来のミルチラジエンシンターゼ(ABV08817);RoMS1、ローズマリウス・オフィシナリス(Rosemarius officinalis)由来のミルチラジエンシンターゼ(KF805859);SfMS、サルビア・フルティコサ(Salvia fruticosa)由来のミルチラジエンシンターゼ(KP091841);MvELS、マルビウム・バルガレ(Marrubium vulgare)由来の9,13-エポキシ-ラブダ-14-エンシンターゼ(KJ584454)とのアライメントを行った。そこでは、SsSSの残基N438が、スクラレオール又はマノオールなどの13-ヒドロキシル化ラブダンジテルペンを生成する能力を決定することが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
様々な工程2の酵素コード遺伝子が先行技術で報告されているが、それにもかかわらず、C20テルペノイドアルコール、特にアビエノール、スクラレオール及び/又はマノオールの製造における工程2の反応を触媒するのに適用することができる高効率の酵素に対する必要性が存在する。更に、1つのみのC20テルペノイドアルコールの生成に限定されない酵素を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の根底にある技術的問題は、上述の必要性に適合する手段及び方法の提供として理解されるものとする。この技術的問題は、特許請求の範囲及び下記の本明細書で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0016】
従って、本発明は、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造する方法であって、
a)ゲラニルゲラニルピロリン酸をコパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換する工程;及び
b)CPP又はLPPを少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換する工程であって、前記変換は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができる、工程
を含み、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は配列番号35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は配列番号35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法に関する。
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲において、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、それが使用される文脈に応じて、以下に言及される項目の1つ以上を意味し得ることを理解されたい。従って、例えば、「1つの」項目に対する言及は、少なくとも1つの項目を利用できることを意味し得る。
【0018】
以下に使用されるように、「有する」、「含む」又は「包含する」という用語は、非限定的な意味又は限定的な意味を有することが意図される。従って、限定的な意味のこれらの用語を有することは、記載された実施形態に、これらの用語によって導入された特徴以外の他の特徴が存在しない状況を指す可能性があり、即ち、この用語は、「からなる」又は「から本質的になる」という意味で限定的な意味を有する。非限定的な意味を有する場合、この用語は、記載される実施形態に、これらの用語によって導入される特徴以外に1つ以上の他の特徴が存在する状況を指す。
【0019】
更に、以下で使用されるように、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「詳細には」、「より詳細には」、「典型的には」及び「より典型的には」という用語は、これらの特徴が好ましい特徴であることを示すため、特徴と共に使用され、即ち、この用語により、本発明に従って代替的な特徴も想定され得ることが示されるものとする。
【0020】
更に、本明細書で使用される「少なくとも1つの」という用語は、その用語に続いて言及される項目の1つ以上が本発明に従って使用され得ることを意味することが理解されるであろう。例えば、この用語が少なくとも1つの項目を使用しなければならないことを示す場合、このことは、1つの項目又は2つ以上の項目、即ち2つ、3つ、4つ、5つ又は任意の他の数の項目であるものと理解され得る。その用語が言及する項目に応じて、当業者は、存在する場合にその用語がどの上限を指す可能性があるのかについて理解している。
【0021】
本発明による方法は、上記に言及される工程(a)及び(b)からなり得るか、又は追加の工程を含み得る。このような追加の工程は、前処理の工程であり得るか、又は精製工程などのC20テルペノイドアルコールの製造に必要とされる工程であり得る。
【0022】
本明細書で使用される「製造」という用語は、CPP又はLPP(CAS番号1000876-36-7)から少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、特に環状C20テルペノイドアルコール、より好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを生成することを指す。この製造により、任意の程度の純度の前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを得ることができる。想定される純度の程度が高いほど、更に追加の精製が必要となる。本方法は、エキソビボで、例えば1つ以上の反応バイアル中で行われ得る。代替的に、本方法は、本明細書の他の箇所で言及される宿主細胞を含む微生物又は植物を含む非ヒトトランスジェニック生物などの生物内で全体的又は部分的に行われ得る。
【0023】
本発明に従って使用される「C20テルペノイドアルコール」という用語は、アルコール部分を含むC20テルペノイドに関する。テルペンは、高分子のイソプレンである。テルペノイドは、機能的な化学部位を更に有し得る。C20テルペノイドは、ジテルペノイド又はジテルペンとも称される。好ましくは、本発明に従って言及される前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールは、環状C20テルペノイドアルコールである。より好ましくは、マノオール(CAS番号596-85-0、分子式C20H34O)、スクラレオール(CAS番号515-03-7、分子式C20H36O2)又はアビエノール(CAS番号17990-16-8、分子式C20H34O)である。
【0024】
本発明に従って使用される「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに連結されたアミノ酸の連続配列を指す。本発明によるポリペプチドは、典型的には、アミノ酸鎖が本明細書の他の箇所で言及される酵素活性を発揮するのに必要とされる三次元構造を形成することができるように、少なくとも50、少なくとも100又は少なくとも200アミノ酸長から構成される。「タンパク質」という用語は、本明細書において互換的に用いられ得る。
【0025】
本明細書に使用される「ジテルペンアルコールシンターゼ活性」という用語は、LPP又はCPPなどの出発物質をC20テルペノイドアルコールに変換することができる酵素の活性を指す。ジテルペンシンターゼは、多様な主鎖構造をもたらす複雑な求電子的環形成及び/又は転位を受ける。ジテルペンシンターゼは、クラスIIの酵素からのゲラニルゲラニルリン酸から生成されるテルペン二リン酸を基質として使用するクラスIの酵素に分類することができる。上記に言及されるジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドは、典型的にはI型酵素である。好ましくは、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性により、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)(CAS番号1000876-36-7)をスクラレオールに、且つ/又はLPP(CAS番号1000876-36-7)をアビエノールに変換することができる。好ましくは、本発明によるジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドは、配列番号24に示されるような保存領域又は配列番号24に1つ若しくはいくつかのアミノ酸変異を有する配列を含み、配列番号24の4位のセリンはスレオニンに変換されるか又は置換され、この位置のセリンは変換されていることが好ましい。
【0026】
加えて、本発明によるジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドは、PfamドメインであるPF01397.23(テルペンシンターゼ、N末端ドメイン)、PF03936.18(テルペンシンターゼファミリー、金属結合ドメイン)及びPF19086.2(テルペンシンターゼファミリー2、C末端金属結合)(PFAMバージョン35.0);Pfam:The protein families database in 2021;J.Mistry,S.Chuguransky,L.Williams,M.Qureshi,G.A.Salazar,E.L.L.Sonnhammer,S.C.E.Tosatto,L.Paladin,S.Raj,L.J.Richardson,R.D.Finn,A.Bateman Nucleic Acids Research(2020)doi;10.1093/nar/gkaa913を参照されたい。
【0027】
本発明によるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドであって、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができる、ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0028】
好ましくは、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができる。より好ましくは、前記ポリペプチドは、
a)配列番号4、6、7、9、10又は配列番号34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は配列番号34に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0029】
好ましくは、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、LPPをアビエノールにも変換され得る。より好ましくは、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0030】
上記で本明細書に言及される配列同一性は、アミノ酸配列又は核酸配列間の関係を定義し、これらの配列を比較することによって決定することができるものである。通常、配列同一性は、2つの配列を配列の全長にわたって比較することにより決定されるが、互いにアライメントした配列の一部のみでも比較され得る。好ましくは、配列同一性は、本明細書では、配列の全長にわたって比較される。配列同一性は、ポリペプチド配列又は核酸配列間の関連性の程度を指す。配列同一性は、互いに比較された2つの配列内の同一のアミノ酸又はヌクレオチドの割合で表される。従って、2つの配列をアライメントした際、それらの配列間で一致するアミノ酸又はヌクレオチドの数を一般に決定し、アライメントした配列又は配列の一部におけるアミノ酸又はヌクレオチドの総数と関連付ける。例えば、バリアント配列は、親配列、即ち配列番号3~7若しくは配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列又は配列番号1若しくは2若しくは35に示されるような核酸配列と比較したときのそれらの配列同一性によって定義され得る。2つの配列間のパーセント同一性を決定するために、最初の工程で、これらの2つの配列間でペアワイズ配列アライメントを生成し、この2つの配列をそれらの完全、全体又は全長にわたってアライメントする(即ちペアワイズグローバルアライメント)。アライメントは、本明細書に記載されるプログラム又はソフトウェアを用いて生成される。本発明の目的に好ましいアライメントは、最大配列同一性を決定することができるアライメントである。
【0031】
配列アライメントは、Needleman及びWunschアルゴリズム-Needleman,Saul B.&Wunsch,Christian D.(1970).“A general method applicable to the search for similarities in the amino acid sequence of two proteins”.Journal of Molecular Biology 48(3);443-453などの多くのソフトウェアツールを用いて生成することができる。このアルゴリズムは、例えば、2つの配列のグローバルアライメントを行う「NEEDLE」プログラムに組み込まれている。NEEDLEプログラムは、例えば、European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS)内に含まれる。EMBOSS - 様々なプログラムの一群:The European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS),Trends in Genetics 16(6),276(2000)。BLOSUM(BLOcks SUbstitution Matrix) - 例えば、タンパク質ドメインの保存領域のアライメントに基づいて通常生成される(Henikoff S,Henikoff JG:Amino acid substitution matrices from protein blocks.Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA.1992 Nov 15;89(22);10915-9)。多くのBLOSUMの1つに「BLOSUM62」があるが、これは、タンパク質配列をアライメントするときに多くのプログラムで多くの場合に「デフォルト」設定になっている。BLAST(Basic Local Alignment Search Tool) - 大規模な配列データベースにおいて類似配列を検索するために主に使用されているいくつかの個々のプログラム(BlastP、BlastN)からなる。BLASTプログラムは、ローカルアライメントも生成する。典型的には、改良バージョン(「BLAST2」)である、NCBI(全米バイオテクノロジー情報センター)により提供される「BLAST」インターフェースが使用される。「元の」BLAST:Altschul,S.F.,Gish,W.,Miller,W.,Myers,E.W.&Lipman,D.J.(1990)“Basic local alignment search tool.”J.Mol.Biol.215:403-410;BLAST2:Altschul,Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman(1997),“Gapped BLAST and PSI-BLAST;a new generation of protein database search programs”,Nucleic Acids Res.25:3389-3402。
【0032】
本明細書で使用されるような配列同一性は、好ましくは、EMBOSSペアワイズアライメントアルゴリズム「Needle」により決定されるような値である。特に、「最長同一性」を計算するNOBRIEFオプション(‘Brief identity and similarity’to NO)を使用して、EMBOSSパッケージからNEEDLEプログラムを使用することができる(バージョン2.8.0以降、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite-Rice,P.,et al.Trends in Genetics(2000)16;276-277;http://emboss.bioinformatics.nl)。このような場合、アライメントされた2つの配列間の同一性は、以下のように計算される:両配列において同一のアミノ酸を示すアライメントにおける対応する位置の数を、アライメントにおけるギャップの総数の減算後のアライメントの全長により除する。アミノ酸配列のアライメントでは、デフォルトパラメータは、マトリクス=Blosum62;オープンギャップペナルティ=10.0;ギャップ伸長ペナルティ=0.5である。核酸配列のアライメントでは、デフォルトパラメータは、マトリクス=DNAfull;オープンギャップペナルティ=10.0;ギャップ伸長ペナルティ=0.5である。
【0033】
本明細書で言及されるバリアントアミノ酸配列又は核酸配列は、対立遺伝子バリアント又はオーソログ、パラロガス若しくは相同バリアントなどの天然に存在するバリアントであり得る。代替的に、このような配列は、例えば、分子進化若しくは合理的設計のような当業者に公知の生物学的技術により、又は当技術分野で公知であり、本明細書の他の箇所に記載される変異誘発技術(ランダム変異誘発、部位特異的変異誘発、定向進化、遺伝子組換えなど)を使用することにより、酵素又は核酸の特性を改善(例えば、酵素の発現の改善又は酵素の酵素活性の増加)するために人為的に生成され得る。
【0034】
配列番号1、2、16、17、18若しくは35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列又は配列番号1、2、16、17、18若しくは35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%同一であるアミノ酸配列によってコードされるバリアント核酸配列は、少なくとも1つのヌクレオチド置換、付加及び/又は欠失により、本明細書の他の箇所に記載される理由のために配列番号1、2、16、17、18又は35に示される核酸配列と異なり得る。本明細書で言及されるそのようなバリアント核酸配列を含むポリヌクレオチドは、好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズできることが理解されるであろう。本明細書で言及されるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、好ましくは、約45℃で6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、続いて50~65℃で0.2×SSC、0.1%SDS中で1回以上の洗浄工程を行うことである。当業者は、これらのハイブリダイゼーション条件が、緩衝液の温度及び濃度に関して、例えば有機溶媒が存在する場合、核酸の種類に応じて異なることを知っている。例えば、「標準的なハイブリダイゼーション条件」下では、温度は、核酸の種類に応じて異なり、0.1~5×SSC(pH7.2)の濃度の水性緩衝液中で42℃~58℃である。上述した緩衝液中に有機溶媒が存在する、例えば50%ホルムアミドである場合、標準条件下の温度は約42℃である。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは、0.1×SSCで20℃~45℃、好ましくは30℃~45℃である。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは、0.1×SSCで30℃~55℃、好ましくは45℃~55℃である。上述したハイブリダイゼーション温度は、例えば、ホルムアミドの非存在下の長さ約100bp(=塩基対)及びG+C含有量50%の核酸に対して決定されたものである。当業者であれば、上記の教本又は以下の教本:Sambrook et al.,“Molecular Cloning”,Cold Spring Harbor Laboratory,1989;Hames and Higgins(Ed.)1985,”Nucleic Acids Hybridization:A Practical Approach”,IRL Press at Oxford University Press,Oxford;Brown(Ed.)1991,“Essential Molecular Biology:A Practical Approach”,IRL Press at Oxford University Press,Oxfordのような教本を参照することにより、必要とされるハイブリダイゼーション条件をどのように決定するかを知っている。従って、バリアント核酸配列は、配列番号1、2、16、17、18若しくは35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列又は配列番号1、2、16、17、18若しくは35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列をコードする核酸配列と、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドから誘導することができる。
【0035】
更なる実施形態では、本発明のポリペプチドは、
図5又は6に示される位置に保存アミノ酸を含み、好ましくは
図6に示されるものである。保存アミノ酸位置は、
図5及び6において黒い背景に白いフォントの文字で示されている。
【0036】
本発明のジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドは、典型的には、1文字コードでEKKSFGSMCI(配列番号56)、又はENKSFGSMCI(配列番号58)、又はENNSFGSMCI(配列番号55)、又はEKNSFGSMCI(配列番号57)である一連のアミノ酸をN末端領域に含むことが判明した。好ましくは、本発明のポリペプチドは、配列番号56又は58に示されるような配列を含む。この配列のストレッチ内の最初のリシンをアスパラギンに置換するか、又はこの配列のストレッチ内のアスパラギンをリシンにそれぞれ置換しても、本明細書で言及される少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールの生成における酵素の性能に著しい影響を与えることはなかった。
【0037】
本発明のジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドのフラグメントは、上記に明記されるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すのに十分な長さを有する、上述の配列及び配列バリアントの任意のアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。これに関連して、上記で言及したポリペプチドの保存領域は、本発明に従って同定された。この領域は、配列番号24又は配列番号24に1つ若しくはいくつかのアミノ酸変異を有する配列に示され、配列番号24の4位のセリンがスレオニンに変換又は置換され(前記セリンは変換されているのが好ましい)、配列番号3のアミノ酸486~アミノ酸497又は配列番号4のアミノ酸486~アミノ酸497に位置する。ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す本発明によるポリペプチドにおけるこの領域は、相同な他のシンターゼにおける産物決定領域、特に公知のサルビア属(Salvia)スクラレオールシンターゼと異なる。従って、好ましくは、ポリペプチドの上述の生物活性を有するフラグメントは、上記に明記されるような保存された産物成果決定領域のアミノ酸配列を含むことが想定される。典型的には、フラグメントは、上述の配列又は本発明の配列バリアントに由来する少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150又は少なくとも200の連続したアミノ酸長を含むか又はそれからなり、且つジテルペンアルコールシンターゼ活性を提供する。
【0038】
コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す上述のポリペプチドは、融合ポリペプチドにも含まれ得る。このような融合ポリペプチドは、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドのアミノ酸配列に加えて、1つ以上の追加のアミノ酸配列を含む。前記追加のアミノ酸配列は、例えば、工程1の触媒用のII型ジテルペンシンターゼ活性などの他の酵素活性を有するポリペプチド、ジテルペンシンターゼ活性を示すポリペプチドを機能させるためのサポート機能を有するポリペプチド又は例えば適切な発現をモニターするため若しくは精製目的のためのマーカー若しくは標識機能を有するポリペプチド若しくはペプチド、例えばタグ(例えば、MYCタグ、FLAGタグ、Hisタグなど)若しくは蛍光タンパク質(例えば、GFP、BFP、YFP若しくはCFP)であり得る。
【0039】
更に、本開示は、C20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを調製する方法に関し、本方法は、酵素の存在下でそれぞれコパリル二リン酸(CPP)及び/又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールに変換することを含み、酵素は、タグペプチドを含む第1のセグメントと、本発明によるジテルペンアルコールシンターゼを含む第2のセグメントとを含む。前記第1のセグメントと前記第2のセグメントとを含む酵素を、本明細書では「タグ化酵素」と称し得る。
【0040】
タグペプチドは、好ましくは、窒素利用タンパク質(NusA)、チオレドキシン(Trx)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ユビキチン類似因子(SUMO)又はカルシウム結合タンパク質(Fh8)及びその機能的相同体の群から選択される。本明細書で使用されるように、タグペプチドの機能的相同体は、非タグ化酵素と比較して、タグ化酵素の溶解性に少なくともほぼ同じ効果を有するタグペプチドである。典型的には、相同体は、その相同体のペプチドに1つ以上のアミノ酸が挿入、置換、欠失又は延長されている点で異なる。相同体は、特に、親水性アミノ酸の別の親水性アミノ酸への1つ以上の置換又は疎水性アミノ酸の別の疎水性アミノ酸への1つ以上の置換を含み得る。相同体は、特に、NusA、Trx、MBP、GST、SUMO又はFh8の配列と少なくとも40%、より詳細には少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%の配列同一性、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有し得る。
【0041】
特に好適なものは、大腸菌(Escherichia coli)由来のマルトース結合タンパク質又はその機能的相同体である。
【0042】
本発明によるタグ化酵素を使用することは、生成物の増加、具体的にはテルペノイド又はテルペン、例えばC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールの細胞生成の増加に寄与し得る点で特に有利である。
【0043】
タグ化酵素の溶解性を改善(タグ化されていない酵素と比較して)するために、酵素の第1のセグメントがそのC末端で第2のセグメントのN末端と結合されていることが好ましい。代替的に、タグ化酵素の第1のセグメントは、そのN末端で第2のセグメントのC末端と結合されている。
【0044】
更に、本発明は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸に関し、ポリペプチドは、タグペプチド、好ましくはMBP、NusA、Trx、GST、SUMO若しくはFh8-タグ又はこれらのいずれかの機能的相同体を含む第1のセグメントと、ジテルペンアルコールシンターゼを含む第2のセグメントとを含む。第2のセグメントは、例えば、配列番号3~7、28~30、34若しくは40~54のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列又はその機能的類似体を含み得る。
【0045】
更に、本発明は、前記タグ化ジテルペンアルコールシンターゼをコードする前記核酸を含む宿主細胞に関する。タグ化酵素をコードする本発明による特定の核酸を、配列番号8~配列番号10及び配列番号28~30のいずれか1つに示す。宿主細胞は、特に、それらの配列のいずれかを含む遺伝子又はその機能的類似体を含み得る。
【0046】
更に、本発明は、タグペプチドを含む第1のセグメントと、ポリプレニル二リン酸をテルペンに変換するための酵素活性を有するポリペプチド、特にジテルペンアルコールシンターゼを含む第2のセグメントとを含む酵素に関し、タグペプチドは、MBP、NusA、Trx又はSETの群から選択されることが好ましい。本発明によるタグ化酵素を含む特定の酵素を配列番号8~配列番号10及び配列番号28~30のいずれか1つに示す。
【0047】
好ましくは、融合タンパク質は、II型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すポリペプチドを更に含むものとする。工程a)における変換は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/又はCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示す、更なるポリペプチドによって行われる。従って、ジテルペンシンターゼ活性を示すポリペプチドは、好ましくは、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/若しくはCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すか、マルトース結合特性を有するか、又はチオレドキシン若しくはチオレドキシン融合タンパク質である少なくとも1つの更なるポリペプチドを含む融合ポリペプチドに含まれることが好ましい。より好ましくは、前記更なるポリペプチドは、好ましくは、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のLPPシンターゼ(CfLPPS)(Pateraki,Plant Physiol.,164,1222-1236(2014);国際公開第2015/091943号明細書)又はニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のLPPシンターゼ(NtLPPS)(Salaud,The Plant Journal(2012)72,1-17;国際公開第200807031A1号明細書)、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCPPシンターゼ(CfCPPS)(Johnson,J.Biol.Chem.(2019)294(4)1349-1362;国際公開第2020028795号明細書)、チオレドキシン及びマルトース結合タンパク質(MBP)からなる群から選択される。
【0048】
本発明の方法の工程a)では、ゲラニルゲラニルピロリン酸が、コパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換される。前記変換は、典型的には、酵素的に行われる。ゲラニルゲラニルリン酸をCPP又はLPPに変換することができる酵素は、当技術分野でよく知られている。好ましくは、変換は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/又はCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼ、より好ましくはLPPシンターゼであり、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のLPPシンターゼ(CfLPPS)又はニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)(NtLPPS)由来のLPPシンターゼ、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCPPシンターゼ(CfCPPS)の酵素活性を示すポリペプチドによって行われる。II型ジテルペンシンターゼ活性を示すポリペプチドは、本明細書の他の箇所でより詳細に記載されるように、本発明のジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドと共に融合ポリペプチドに含まれることが理解されるであろう。
【0049】
上述の工程a)は、インビトロで、即ち上記に記載されるような変換に必要とされる全ての成分を含有する好適な反応バイアル中で実施され得る。当業者は、反応が効率的に行われるように、反応条件をどのように調整するのかを十分に認識している。例えば、好適な緩衝液を使用して、好適なpH及び好適な塩濃度を有する環境で成分を供給することができる。このような設定における好適な温度も同様にそのまま適用することができる。
【0050】
代替的に、工程a)は、本明細書の他の箇所で記載されているような宿主細胞中で行われ得る。宿主細胞は、上記に明記されるようなII型変換酵素と同様に、GGPを生成することができるものとすることを理解されたい。必要であれば、このようなII型酵素又はGGP合成に必要とされる他の酵素若しくはタンパク質を発現させるために、宿主細胞を遺伝子改変する必要がある。宿主細胞は、上述の酵素を発現させ、GGPをCPP及び/又はLPPに変換することが可能となるのに十分な条件下及び時間で培養するものとする。特に好ましい条件は、下記に添付される実施例にも記載されている。
【0051】
更に、本発明の方法の工程a)は、生物、典型的には本明細書の他の箇所で言及されるトランスジェニック非ヒト生物などの多細胞生物でも実施することができる。典型的には、前記生物は、GGPからCPP及び/又はLPPに変換するのに必要とされるII型酵素が発現されるように遺伝子改変される。
【0052】
本発明の方法の工程b)では、CPP又はLPPは、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換され、前記変換は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、好ましくは、本発明のジテルペンアルコールシンターゼにより、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができる。
【0053】
本発明の方法の工程b)は、インビトロでも実施され得るか、又は上記の工程a)に明記されるような宿主細胞若しくは生物において行われ得る。特に好ましい条件は、下記に添付される実施例に記載されている。
【0054】
好ましくは、前記工程b)又は前記工程a)及びb)は、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物において行われる。より好ましくは、前記宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物は、本明細書の他の箇所でより詳細に記載されているような本発明の宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物である。宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物において工程b)又は工程a)及びb)を実施するために適用される必要のある条件は、前記宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物に応じたものであることが理解されるであろう。しかしながら、当業者は、所与の宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物の選択に応じて、どのような条件を適用する必要があるのかを十分に認識している。
【0055】
好ましくは、本発明の方法は、前記製造された少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを得る工程を含む。
【0056】
本明細書で使用される「得る」という用語は、工程b)後に少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを任意の程度の純度で提供することを指す。従って、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールは、本質的に純粋な形態において又は追加の成分を含む組成物として提供され得る。従って、本発明の方法は、工程b)が完了した後、1つ以上の精製工程を包含し得る。適用する必要のある精製技術は、本発明の方法の工程a)及び/又はb)をどのように実施するのかによる。例えば、これらの工程がインビトロで、即ち単離された成分、例えば単離された酵素、付加物及び補助成分、例えば反応緩衝液を使用して反応バイアル中で実施された場合、例えば本質的に純粋な少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを得るためには、より少ない精製が必要となることが理解されるであろう。しかしながら、工程a)及びb)をインビボで、即ち本明細書の他の箇所で定義されるような宿主細胞において実施する場合、更なる精製工程と前処理工程とが必要となる可能性がある。典型的には、回収する必要のある宿主細胞と回収された細胞とを、前記細胞からC20テルペノイドアルコールを放出させるために溶解しなければならない可能性がある。その後の精製工程では、残存成分からC20テルペノイドアルコールを精製することを目的として、細胞片も同様に除去しなければならない。更に、工程を動物又は植物においてインビボで実施する場合、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを得るために、より更なる前処理及び/又は精製工程が必要となる可能性がある。当業者は、工程a)及びb)が実施される所与の状況に応じた好適な前処理及び/又は精製工程を十分に認識している。想定される精製技術は、抽出技術、LC、GC又はHPLCなどのクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、蒸留、遠心分離、濾過などであり得る。想定される前処理工程は、回収、熱処理、超音波処理、化学物質及び/又は酵素による処理などであり得る。特に好ましい処置は、下記に添付される実施例に記載されている。
【0057】
有利には、本発明の基礎をなす研究により、キュプレサ・ギガンテア(Cupressa gigantea)由来の工程2の酵素のファミリー、即ちCup2v1及びCup2v2bは、CPP及びLPPをC20テルペノイドアルコールであるマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールに効率的に変換できることが明らかになった。特に、Cup2v1及びCup2v2b酵素を例えばロドバクター属(Rhodobacter)において発現させた場合、下記に添付されている実施例に記載されているように、C20テルペノイドアルコールを組換え製造するのに特に効率的であることが判明した。更に、Cup2v2a及びCup2v2b酵素、即ち本明細書の他の箇所に明記されるような配列番号4、6、7、9、10若しくは34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのバリアントは、2つのC20テルペノイドアルコール、即ちマノオール及びスクラレオールを生成することができることが判明した。Cup2v1、即ち本明細書の他の箇所に明記されるような配列番号3、5若しくは8に示されるようなアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのバリアントは、アビエノールを生成するのに効率的であった。
【0058】
本発明により、C20テルペノイドアルコールを特に組換え製造手法においてより効率的に製造することが可能となる。
【0059】
一実施形態では、ある酵素がC20テルペノイドアルコールを優先的に生成する場合、その酵素は本発明の方法において有用であると見なされる。更なる実施形態では、C20テルペノイドアルコールを優先的に生成するとは、酵素によって生成される生成物間において酵素が活性化するのに好適な条件下で酵素に多種多様な基質が提供される場合、C20テルペノイドアルコールが優勢となることを理解されたい。例えば、酵素によって生成される全ての分子から、分子の50%超がC20テルペノイドアルコールである。
【0060】
別の実施形態では、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す本発明のポリペプチドは、CPPからマノオールを、且つ/又はLPPからスクラレオールを、且つ/又はLPPからアビエノールを優先的に生成するという事実を特徴とする。
【0061】
更なる実施形態では、マノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを優先的に生成するとは、酵素によって生成される生成物間において酵素が活性化するのに好適な条件下で酵素に好適な基質、例えばLPP又はCPPが提供される場合、マノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールが優勢となることを理解されたい。例えば、酵素によって生成される全ての分子から、分子の50%超がこれらマノオール、スクラレオール又はアビエノールのいずれか1つである。
【0062】
本発明は、
a)本発明の方法、好ましくは請求項1~5のいずれか一項に記載の方法に従い、1つ以上のC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを生成する工程、
b)任意選択により、前記1つ以上のC20テルペノイドアルコールを精製する工程、及び
c)前記1つ以上のC20テルペノイドアルコールによって芳香組成物を調製及び配合する工程
を含む、芳香組成物を生成する方法に更に関する。
【0063】
本明細書で使用される芳香組成物は、例えば、香味料、芳香剤又は香料であり得、例えばChemistry and Technology of Flavors and Fragrances,Editor(s);David J.Rowe,First published;26 October 2004,Print ISBN:9781405114509|Online ISBN:9781444305517|DOI:10.1002/9781444305517,Blackwell Publishing Ltd.を参照されたい。
【0064】
以上の本明細書でなされた用語の定義及び説明は、別途指定される場合を除いて、本発明の以下の実施形態に変更すべき点を変更して適用される。
【0065】
本発明は、本発明の方法によって得ることができる前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを含む組成物又は芳香組成物も提供する。
【0066】
加えて、本発明は、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物並びに本発明の方法、好ましくは請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを含む組成物であって、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物は、組換えにより、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
を有する、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す少なくとも1つのポリペプチドを含む、組成物に関する。
【0067】
更に、本発明は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドであって、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができ、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ポリペプチドにも関する。
【0068】
好ましくは、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができる。より好ましくは、前記ポリペプチドは、
a)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0069】
好ましくは、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、LPPをアビエノールに変換することもできる。より好ましくは、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0070】
本発明は、本発明のポリペプチドと、(i)好ましくはゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/若しくはCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すか、(ii)マルトース結合特性を有するか、又は(iii)チオレドキシン若しくはチオレドキシン融合タンパク質である少なくとも1つの更なるポリペプチドとを含む融合ポリペプチドも意図する。より好ましくは、前記更なるポリペプチドは、好ましくは、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のLPPシンターゼ(CfLPPS)又はニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のLPPシンターゼ(NtLPPS)、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCPPシンターゼ(CfCPPS)、チオレドキシン及びマルトース結合タンパク質(MBP)からなる群から選択される。
【0071】
本発明は、本発明のジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドを生成する方法であって、
(a)ジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドを発現させるために、本発明の核酸配列で宿主細胞又は単細胞生物を形質転換すること;
(b)工程(a)の宿主細胞から、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を有する前記ポリペプチドを得るか又は単離すること;及び
(c)任意選択により、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を有する前記ポリペプチドを精製すること
を含む方法にも関する。
【0072】
本発明は、
a)本発明の核酸又は本発明のポリペプチドをコードする核酸を選択する工程;
b)選択された核酸を改変して、少なくとも1つの変異核酸を得る工程;
c)宿主細胞又は単細胞生物を変異核酸配列で形質転換して、変異核酸配列によってコードされるポリペプチドを発現させる工程;
d)少なくとも1つの改変された特性及びジテルペンアルコールシンターゼ活性についてポリペプチドをスクリーニングする工程;及び
e)任意選択により、ポリペプチドが所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有しない場合、所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドが得られるまでプロセス工程(a)~(d)を繰り返す工程;
f)任意選択により、所望のバリアントジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するポリペプチドが工程(d)で同定された場合、工程(c)で得られた対応する変異核酸を単離する工程
を含む、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を有するバリアントポリペプチドを調製する方法に更に関する。
【0073】
本発明は、本発明のポリペプチド若しくは本発明の融合ポリペプチド又はその逆相補配列若しくは相補配列をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0074】
本明細書に従って使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを指し、別途限定されない限り、それらが天然に存在するヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸)と同様に一本鎖核酸とハイブリダイズする点において天然ヌクレオチドの基本的性質を有する既知の類似体を包含する。本明細書で使用される用語は、本明細書で明記された配列と同様に、その相補配列又は逆相補配列を包含する。従って、用語は、安定性又は他の理由のために修飾された主鎖を有するDNA又はRNAを包含する。更に、2つ例を挙げると、イノシンなどの通常のものではない塩基又はトリチル化塩基などの修飾塩基を含むDNA又はRNAも、ポリヌクレオチドとして包含される。当業者に公知の多くの有用な目的を果たすDNA及びRNAに対して、多岐にわたる修飾がなされてきたことが理解されるであろう。本発明の特定のポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列は、遺伝コードの縮重によるサイレント変異を有し得る。遺伝コードの縮重により、同一のポリペプチドをコードする非常に多くの機能的に同一なポリヌクレオチドが生じる。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUは、全てアミノ酸のアラニンをコードする。従って、コドンによってアラニンが指定される全ての位置において、コードされるポリペプチドを変更することなく、記載される対応するコドンのいずれかにコドンを変更することができる。このような核酸変異は、サイレント変異である。
【0075】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするものとし、即ち本発明の前記ポリペプチドをコードする核酸配列を含むものとする。加えて、本発明のポリヌクレオチドは、追加の核酸配列を含み得る。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレームに加えて、コード遺伝子領域の3’末端及び5’末端、即ちコード領域の5’末端の上流の配列の少なくとも500、好ましくは200、より好ましくは100ヌクレオチドと、コード遺伝子領域の3’末端の下流の配列の少なくとも100、好ましくは50、より好ましくは20ヌクレオチドとに更なる非翻訳配列を含み得る。
【0076】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、単離されたポリヌクレオチド(即ち精製された若しくはその天然の遺伝子座などの自然な状況から少なくとも単離された)として又は遺伝子改変された若しくは外因的に(即ち人為的に)操作された形態で提供されるものとする。単離されたポリヌクレオチドは、例えば、核酸が由来する細胞のゲノムDNA内で核酸分子に天然に隣接する約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb又は0.1kb未満のヌクレオチド配列を含み得る。ポリヌクレオチドは、好ましくは、二本鎖又は一本鎖分子の形態で提供される。本発明は、本発明の前述のポリヌクレオチドのいずれかに言及することにより、前に言及された特定の配列又はそのバリアントの相補鎖又は逆相補鎖にも言及することが理解されるであろう。ポリヌクレオチドは、cDNA及びゲノムDNAを含むDNAポリヌクレオチド又はRNAポリヌクレオチドを包含する。
【0077】
しかしながら、本発明は、本発明のポリヌクレオチドに由来し、本発明のポリヌクレオチドの転写又は翻訳を妨害することができるポリヌクレオチドバリアントにも関する。このようなバリアントポリヌクレオチドとしては、アンチセンス核酸、リボザイム、siRNA分子、モルホリノ核酸(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴ)、三重らせん形成オリゴヌクレオチド、阻害オリゴヌクレオチド又はマイクロRNA分子が挙げられるが、これらの全ては、相補配列又は実質的な相補配列の存在により本発明のポリヌクレオチドを特異的に認識するものとする。これらの技術は、当業者によく知られている。上述の種類の適切なバリアントポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドの構造に基づいて容易に設計することができる。
【0078】
更に、グリコシル化若しくはメチル化ポリヌクレオチドなどの天然に存在する修飾されたポリヌクレオチド又はビオチン化ポリヌクレオチドなどの人為的に修飾されたポリヌクレオチドを含む、化学的に修飾されたポリヌクレオチドも含まれる。
【0079】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物にも関する。
【0080】
「ベクター」という用語は、好ましくは、ファージ、プラスミド、コスミド、ウイルスベクター及び細菌又は酵母人工染色体(YAC)などの人工染色体を包含する。本発明のポリヌクレオチドを包含するベクターは、好ましくは、宿主における増殖及び/又は選択のための選択マーカーを更に含む。ベクターは、当技術分野でよく知られた様々な技術によって宿主細胞に組み込まれ得る。宿主細胞に導入する場合、ベクターは、細胞質に存在し得るか、又はゲノムに組み込まれ得る。後者の場合、ベクターは、相同組換え又は異種挿入を可能にする核酸配列を更に含み得ることを理解されたい。ベクターは、従来の形質転換技術又はトランスフェクション技術によって原核細胞又は真核細胞に導入することができる。これに関連して使用される場合、「形質転換」及び「トランスフェクション」、コンジュゲーション及び形質導入という用語は、リン酸カルシウム、塩化ルビジウム又は塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、f因子による接合、天然コンピテンス、炭素系クラスター、化学的媒介導入、エレクトロポレーション又は微粒子銃を含む、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための複数の先行技術のプロセスを含むことが意図される。植物細胞を含む宿主細胞の形質転換又はトランスフェクションに好適な方法は、Sambrook et al.(Molecular Cloning;A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)及び他の実験手引書、例えばMethods in Molecular Biology,1995,Vol.44,Agrobacterium protocols,Ed.;Gartland and Davey,Humana Press,Totowa,New Jerseyに見出すことができる。代替的に、熱ショック又はエレクトロポレーション技術によってプラスミドベクターを導入し得る。ベクターがウイルスである場合、宿主細胞に適用する前に適切なパッケージング細胞株を使用してインビトロでパッケージングし得る。
【0081】
好ましくは、本明細書で言及されるベクターは、クローニングベクター、即ち微生物系で複製可能なクローニングベクターとして好適である。このようなベクターにより、細菌、好ましくは酵母又は真菌における効率的なクローニングが確実となり、植物の安定的な形質転換が可能となる。挙げるべきベクターは、特に、T DNAに媒介される形質転換に好適な様々なバイナリーベクター系及び同時組み込みベクター系である。このようなベクター系は、通例、少なくともvir遺伝子(アグロバクテリウム属(Agrobacterium)に媒介される形質転換に必要とされる)と、T-DNAの境界を定める配列(T-DNAボーダー)とを含むことを特徴とする。これらのベクター系には、好ましくは、プロモーター及びターミネーターなどの更なるシス調節領域並びに/又は好適な形質転換宿主細胞若しくは生物を同定することができる選択マーカーも含まれる。同時組み込みベクター系は、vir遺伝子とT DNA配列とが同じベクター上に配置されている一方、バイナリー系は、少なくとも2つのベクターをベースとしたものであり、その一方は、vir遺伝子を有するが、T-DNAがなく、第2のものは、T DNAを有するが、vir遺伝子がない。結果として、後者で述べたベクターは比較的小さく、操作が容易であり、大腸菌(E.coli)及びアグロバクテリウム属(Agrobacterium)の両方で複製可能である。これらのバイナリーベクターとしては、pBIB-HYG、pPZP、pBecks、pGreenシリーズのベクターが挙げられる。好ましくは、本発明に従って使用されるのは、Bin19、pBI101、pBinAR、pGPTV及びpCAMBIAである。バイナリーベクター及びそれらの使用についての概要は、Hellens et al,Trends in Plant Science(2000)5,446-451に見出すことができる。更に、適切なクローニングベクターを使用することにより、ポリヌクレオチドを宿主細胞又は植物若しくは動物などの生物に導入することが可能となり、これにより、Plant Molecular Biology and Biotechnology(CRC Press,Boca Raton,Florida),chapter 6/7,pp.71-119(1993);F.F.White,Vectors for Gene Transfer in Higher Plants;in;Transgenic Plants,vol.1,Engineering and Utilization,Ed.;Kung and R.Wu,Academic Press,1993,15-38;B.Jenes et al.,Techniques for Gene Transfer,in;Transgenic Plants,vol.1,Engineering and Utilization,Ed.;Kung and R.Wu,Academic Press(1993),128-143;Potrykus 1991,Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Molec.Biol.42,205 225に公開及び引用されているものなどのような植物の形質転換に使用することができる。
【0082】
より好ましくは、本発明のベクターは発現ベクターである。このような発現ベクターでは、即ち、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターは、原核細胞若しくは真核細胞又はその単離分画に発現させることができる、発現制御配列(「発現カセット」とも呼ばれる)に作動可能に連結された核酸配列を有する。好適な発現ベクターは当技術分野で公知であり、例えばOkayama-Berg cDNA発現ベクターであるpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogene)又はpSPORT1(GIBCO BRL)である。更なる典型的な融合発現ベクターの例は、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith 1988,Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs、Beverly、MA)及びpRIT5(Pharmacia、Piscataway、NJ)であり、それぞれ、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質及びプロテインAが組換え標的タンパク質と融合されている。好適な誘導可能な非融合性大腸菌(E.coli)発現ベクターの例は、特に、pTrc(Amann 1988,Gene 69:301-315)及びpET 11d(Studier 1990,Methods in Enzymology 185,60-89)である。pTrcベクターの標的遺伝子の発現は、宿主のRNAポリメラーゼによるハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの転写に基づいて行われる。pET 11dベクターによる標的遺伝子の発現は、T7-gn10-lac融合プロモーターの転写に基づいて行われ、この転写は、同時発現させたウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)によって媒介される。このウイルスポリメラーゼは、lacUV 5プロモーターの転写制御下にあるT7 gn1遺伝子を保有する常在性ラブダ-プロファージに由来する宿主株BL21(DE3)又はHMS174(DE3)により提供される。当業者は、原核生物に好適な他のベクターに精通しており、これらのベクターは、例えば、大腸菌(E.coli)ではpLG338、pACYC184、pBR322などのpBRシリーズ、pUC18又はpUC19などのpUCシリーズ、M113mpシリーズ、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、lambdagt11又はpBdCl、ストレプトマイセス属(Streptomyces)ではplJ101、plJ364、plJ702又はplJ361、バチルス属(Bacillus)ではpUB110、pC194又はpBD214、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)ではpSA77又はpAJ667である。酵母であるS.セレビシエ(S.cerevisiae)における発現用のベクターの例は、pYep Sec1(Baldari 1987,Embo J.6:229-234)、pMFa(Kurjan 1982,Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz 1987,Gene 54:113-123)及びpYES2(Invitrogen Corporation、San Diego、CA)を含む。ベクター及び糸状菌などの他の真菌に使用するのに好適なベクターを構築するためのプロセスは、van den Hondel,C.A.M.J.J.,&Punt,P.J.(1991)“Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi,in;Applied Molecular Genetics of fungi,J.F.Peberdy et al.,Ed.,pp.1-28,Cambridge University Press;Cambridge又はMore Gene Manipulations in Fungi(J.W.Bennett&L.L.Lasure,Ed.,pp.396-428;Academic Press;San Diego)に詳細に記載されているプロセスが含まれる。更に適切な酵母ベクターは、例えば、pAG-1、YEp6、YEp13又はpEMBLYe23である。別の方法として、本発明のポリヌクレオチドは、バキュロウイルス発現ベクターを使用して昆虫細胞に発現させることもできる。培養した昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)にタンパク質を発現させるために利用可能なバキュロウイルスベクターは、pAcシリーズ(Smith 1983,Mol.Cell Biol.3:2156-2165)及びpVLシリーズ(Lucklow 1989,Virology 170:31-39)を含む。
【0083】
更に、ベクターは、組み込みベクターであり得る。組み込みベクターは、例えば、細菌のゲノムなどの微生物のゲノムに組み込むことができる直鎖状又は環状DNA分子を指し、本発明のアルコールアシルトランスフェラーゼなどの目的のポリペプチドをコードする遺伝子の安定な遺伝的形質をもたらす。組み込みベクターは、一般に、その転写をもたらす更なる核酸セグメントの制御下で(即ち作動可能に連結された)目的のポリペプチドをコードする遺伝子配列を含む1つ以上のセグメントを含む。
【0084】
このような更なるセグメントは、プロモーター及び終結配列並びに通常、相同組換えのプロセスによって標的細胞のゲノムに目的遺伝子の組み込みを誘発する1つ以上のセグメントを含み得る。典型的には、組み込みベクターは、標的細胞に導入することができるベクターであるが、その生物で機能しないレプリコンを有する。目的遺伝子を含むセグメントの組み込みは、そのセグメント内に適切なマーカーが含まれる場合に選択され得る。本発明の宿主細胞で発現させるポリペプチドに天然には関係しない、適切なシグナルペプチドをコードする1つ以上の核酸配列が、(発現)ベクターに組み込まれ得る。例えば、シグナルペプチドリーダーのDNA配列は、本発明のアルコールアシルトランスフェラーゼがシグナルペプチドを含む融合タンパク質として最初に翻訳されるように、本発明の核酸にインフレームで融合され得る。シグナルペプチドの性質に応じて、発現されるポリペプチドは、異なる標的化を受ける。意図される宿主細胞において機能的な分泌シグナルペプチドにより、例えば発現されたポリペプチドの細胞外分泌が促進される。他のシグナルペプチドにより、発現されたポリペプチドが、葉緑体、ミトコンドリア及びペルオキシソームのような特定のオルガネラに誘導される。シグナルペプチドは、意図されるオルガネラへの輸送時又は細胞からの輸送時にポリペプチドから切断され得る。ポリペプチドのアミノ末端又はカルボキシル末端では、更なるペプチド配列の融合を生じさせることが可能である。
【0085】
本明細書で使用される「遺伝子構築物」という用語は、本発明のポリヌクレオチド及び追加の機能的な核酸配列を含むポリヌクレオチドを指す。本発明による遺伝子構築物は、好ましくは、線状DNA分子である。典型的には、本発明による遺伝子構築物は、標的構築物のゲノムDNAへのランダム又は部位特異的組込みが可能な標的構築物であり得る。このような標的構築物は、好ましくは、下記に詳細に記載されるように、相同組換え又は異種組換えのいずれかを行うのに十分な長さのDNAを含む。いずれの場合も、構築物は、好ましくは、プロモーター、転写開始部位、ポリアデニル化部位及び転写終結部位などの遺伝子発現を制御するための構造を有する、完璧なものでなければならない。
【0086】
更に、本発明は、本発明のベクター又は遺伝子構築物を含む宿主細胞に関する。
【0087】
本発明の宿主細胞は、本発明のベクター又は遺伝子構築物に含まれる本発明のポリペプチドを発現することができる。宿主細胞は、典型的には、本発明のポリペプチドをベクター又は遺伝子構築物から発現することができるように前記ベクター又は遺伝子構築物で形質転換される。形質転換されたベクター又は遺伝子構築物は、非組み込み型ベクター、例えばプラスミドとして維持され得るか、又は代替的に、本明細書の他の箇所でより詳細に明記されているように宿主細胞ゲノムに組み込まれ得る。
【0088】
本発明による宿主細胞は、例えば、Sambrook,J.,and Russell,D.W.“Molecular Cloning;A Laboratory Manual”3d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,(2001);及びF.M.Ausubel et al,eds.,“Current protocols in molecular biology”,John Wiley and Sons,Inc.,New York(1987)並びにそれに対する後日の追補に記載されているような、一般に当技術分野で公知の標準的な遺伝学的及び分子生物学技術に基づいて作製され得る。
【0089】
好ましくは、前記宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、藻細胞又はシアノバクテリア細胞、非ヒト動物細胞又は非ヒト哺乳動物細胞及び植物細胞からなる群から選択される。より好ましくは、宿主細胞は、以下の生物のいずれか1つから選択することができる。
【0090】
細菌:
細菌宿主細胞は、例えば、エシェリキア属(Escherichia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、アミコラトプシス属(Amycolatopsis)、ロドバクター属(Rhodobacter)、シュードモナス属(Pseudomonas)、パラコッカス属(Paracoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)又はパントエア属(Pantoea)からなる群から選択され得る。
【0091】
グラム陽性:バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces):有用なグラム陽性細菌宿主細胞としては、バチルス属(Bacillus)細胞、例えばバチルス・アルカロフィウス(Bacillus alkalophius)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・シルキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・クラウシイ(Bacillus clausii)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・フィルムス(Bacillus firmus)、バチルス・ジャウツス(Bacillus Jautus)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)及びバチルス・ツリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)が挙げられるが、限定されない。最も好ましい原核生物は、バチルス属(Bacillus)細胞、好ましくはバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)又はバチルス・レンツス(Bacillus lentus)のバチルス属(Bacillus)細胞である。
【0092】
いくつかの他の好ましい細菌としては、放線菌目(Actinomycetales)、好ましくはストレプトマイセス属(Streptomyces)、好ましくはストレプトマイセス・スフェロイデス(Streptomyces spheroides)(ATTC23965)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)(IFO12382)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)又はストレプトマイセス・ムリヌス(Streptomyces murinus)又はストレプトベルティシラム・ベルティシリウム種ベルティシリウム(Streptoverticillum verticillium ssp.verticillium)の株が挙げられる。他の好ましい細菌としては、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドモナス・パルストリ(Rhodomonas palustri)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)が挙げられる。更なる好ましい細菌としては、ミクソコッカス属(Myxococcus)に属する株、例えばM.ビレスセンス(M.virescens)が挙げられる。
【0093】
グラム陰性:大腸菌(E.coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ロドバクター属(Rhodobacter)、パラコッカス属(Paracoccus):好ましいグラム陰性細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス属種(Pseudomonas sp.)、好ましくはシュードモナス・プロシニア(Pseudomonas purrocinia)(ATCC15958)又はシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)(NRRL B-11)、ロドバクター・カプスラツス(Rhodobacter capsulatus)又はロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)又はパントエア・アナナチス(Pantoea ananatis)である。
【0094】
真菌:
アスペルギルス属(Aspergillus)、フザリウム属(Fusarium)、トリコデルマ属(Trichoderma):宿主細胞は、真菌細胞であり得る。本明細書で使用される「真菌」としては、子嚢菌門(Ascomycota)、担子菌門(Basidiomycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)及び接合菌門(Zygomycota)並びに卵菌門(Oomycota)及び不完全菌亜門(Deuteromycotina)及び全ての栄養胞子形成真菌が挙げられる。子嚢菌門(Ascomycota)の代表的な群としては、例えば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ユーペニシリウム属(Eupenicillium)(=ペニシリウム属(Penicillium))、エメリセラ属(Emericella)(=アスペルギルス属(Aspergillus))、ユーロチウム属(Eurotium)(=アスペルギルス属(Aspergillus))及び下記に列挙される真正酵母が挙げられる。担子菌門(Basidiomycota)の例としては、キノコ、さび病及び黒穂病が挙げられる。ツボカビ門(Chytridiomycota)の代表的な群としては、例えば、カワリミズカビ属(Allomyces)、ブラストクラジエラ属(Blastocladiella)、ボウフラキン属(Coelomomyces)及び水生真菌が挙げられる。卵菌門(Oomycota)の代表的な群としては、例えば、アクリャ属(Achlya)などのサプロレグニオミセトス(Saprolegniomycetous)水生真菌(ミズカビ)が挙げられる。栄養胞子形成真菌の例としては、アスペルギルス属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)、カンジダ属(Candida)及びアルテルナリア属(Alternaria)が挙げられる。接合菌門(Zygomycota)の代表的な群としては、例えば、リゾプス属(Rhizopus)及びムコール属(Mucor)が挙げられる。
【0095】
いくつかの好ましい真菌としては、不完全菌亜門(Deuteromycotina)に属する株、不完全糸状菌綱(Hyphomycetes)、例えばフザリウム属(Fusarium)、フミコラ属(Humicola)、トリコデルマ属(Tricoderma)、ミロセシウム属(Myrothecium)、ベルティシリウム属(Verticillum)、アルスロマイセス属(Arthromyces)、カルダリオマイセス属(Caldariomyces)、ウロクラジウム属(Ulocladium)、エムベリシア属(Embellisia)、クラドスポリウム属(Cladosporium)又はドレスクレラ属(Dreschlera)、特にフザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)(DSM2672)、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、トリコデルマ・レシイ(Trichoderma resii)、ミロセシウム・ベルカナ(Myrothecium verrucana)(IFO6113)、ベルティシリウム・アルボアツルム(Verticillum alboatrum)、ベルティシリウム・ダーリイ(Verticillum dahlie)、アルスロマイセス・ラモサス(Arthromyces ramosus)(FERM P-7754)、カルダリオマイセス・フマゴ(Caldariomyces fumago)、ウロクラジウム・チャルタルム(Ulocladium chartarum)、エムベリシア・アリ(Embellisia alli)又はドレスクレラ・ハロデス(Dreschlera halodes)が挙げられる。他の好ましい真菌としては、担子菌類亜門(Basidiomycotina)、担子菌類綱(Basidiomycetes)、例えばコプリナス属(Coprinus)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、コリオルス属(Coriolus)又はトラメテス属(Trametes)、特にコプリナス・シネレウスf.ミクロスポルス(Coprinus cinereus f.microsporus)(IFO8371)、コプリナス・マクロリズス(Coprinus macrorhizus)、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)(例えば、NA-12)又はトラメテス属(Trametes)(以前はポリポルス属(Polyporus)と呼ばれている)、例えばT.ベルシカラー(T.versicolor)(例えば、PR4 28-A)に属する株が挙げられる。
【0096】
更に好ましい真菌としては、接合菌亜門(Zygomycotina)、ミコラセアエ網(Mycoraceae)、例えばリゾプス属(Rhizopus)及びムコール属(Mucor)、特にムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)に属する株が挙げられる。
【0097】
酵母、ピキア属(Pichia)、サッカロマイセス(Saccharomyces)属:真菌宿主細胞は、酵母細胞であり得る。本明細書で使用される酵母としては、有子嚢胞子酵母(ascosporogenous yeast)(エンドマイセス目(Endomycetales)、担子胞子酵母(basidiosporogenous yeast)及び不完全真菌(Fungi lmperfecti)(ブラストミセテス(Blastomycetes)に属する酵母が挙げられる。有子嚢胞子酵母(ascosporogenous yeast)は、スペルモフソラセア科(Spermophthoraceae)及びサッカロミセタセア科(Saccharomycetaceae)に分けられる。後者は、4つの亜科、シゾサッカロミコイデア(Schizosaccharomycoideae)(例えば、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces))、ナドソニオイデア(Nadsonioideae)、リポミコイデア(Lipomycoideae)及びサッカロミコイデア(Saccharomycoideae)(例えば、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)及びサッカロマイセス属(Saccharomyces))から構成される。担子胞子酵母(basidiosporogenous yeast)としては、ロイコスポリジム属(genera Leucosporidim)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、スポリジオボルス属(Sporidiobolus)、フィロバシジウム属(Filobasidium)及びフィロバシジエラ属(Filobasidiella)が挙げられる。不完全真菌(Fungi lmperfecti)に属する酵母は、2つの科、スポロボロミセタセア(Sporobolomycetaceae)(例えば、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)及びブレラ属(Bullera))並びにクリプトコッカセア(Cryptococcaceae)(例えば、カンジダ属(Candida))に分けられる。
【0098】
真核生物:
真核宿主細胞としては、非ヒト動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞、鳥類細胞、爬虫類細胞、昆虫細胞又は植物細胞が更に挙げられるが、限定されない。
【0099】
最も好ましくは、宿主細胞は、細菌宿主細胞、特にロドバクター属(Rhodobacter)宿主細胞である。
【0100】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト生物、本発明のベクター若しくは遺伝子構築物又は本発明の宿主細胞に関する。
【0101】
本明細書で使用される「トランスジェニック非ヒト生物」という用語は、本発明のポリヌクレオチド、ベクター又は遺伝子構築物を含むように遺伝子改変された生物を指す。前記遺伝子改変は、相同組換え事象若しくは異種組換え事象、変異誘発又は遺伝子編集プロセスのいかなる種類の結果であり得る。従って、トランスジェニック非ヒト生物は、そのゲノムに天然に存在しない(即ち異種)ポリヌクレオチド、ベクター又は遺伝子構築物を含む点でその非トランスジェニック対応物と異なるものとする。本発明によるトランスジェニック非ヒト生物として想定される非ヒト生物は、多細胞生物であることが好ましい。更に、非ヒト生物は、動物又は植物であることが好ましい。好ましい動物は、哺乳動物、特にげっ歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなどのような実験動物又はヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマなどのような畜産動物である。好ましい植物は、特に、アラビドプシス属種(Arabidopsis spp.)、ニコチアナ属種(Nicotiana spp)、シコルム・インチブス(Cichorum intybus)、ラクツカ・サティバ(Lactuca sativa)、メンタ属種(Mentha spp)、アルテミシア・アニュア(Artemisia annua)、塊茎形成植物、油料作物、例えばブラシカ属種(Brassica spp.)又はブラシカ・ナピュス(Brassica napus)、果実のなる顕花植物(被子植物)及び樹木からなる群から選択される作物又は野菜である。
【0102】
一実施形態では、非ヒトトランスジェニック生物は、本発明のポリペプチド、前記ポリペプチドを含む融合タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物に対してトランスジェニックな非ヒトトランスジェニック生物である。
【0103】
一実施形態では、宿主細胞は、インビトロでの、例えば細胞培養における非ヒト細胞である。
【0104】
別の実施形態では、「非ヒト」という用語は、動物でないヒト以外の生物(例えば、植物、真菌若しくは微生物)又は哺乳動物以外の動物であり、好ましくは脊椎動物でない動物を指すことが理解されるであろう。
【0105】
トランスジェニック非ヒト生物を作製する方法は、当技術分野でよく知られており、例えばLee-Yoon Low et al.,Transgenic Plants;Gene constructs,vector and transformation method.2018.DOI.10.5772/intechopen.79369;Pinkert,C.A.(ed.)1994.Transgenic animal technology;A laboratory handbook.Academic Press,Inc.,San Diedo,Calif.;Monastersky G.M.and Robl,J.M.(ed.)(1995)Strategies in Transgenic Animal Science.ASM Press.Washington D.C);Sambrook,loc.cit,Ausubel,loc.cit)を参照されたい。
【0106】
本発明は、一般に、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するための、本発明のポリペプチド若しくは本発明の融合ポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター若しくは遺伝子構築物、本発明の宿主細胞又は本発明の非ヒトトランスジェニック生物の使用を企図する。
【0107】
本発明に従って製造されるC20テルペノイドアルコールは、異なる産業分野において様々な有用性を有し得る。特に、前記C20テルペノイドアルコールは、香味料、農薬、香料、医薬組成物、化粧品又は化学的構成要素を生産するために使用される。
【0108】
更に、本発明は、本発明のポリペプチド若しくは本発明の融合ポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター若しくは遺伝子構築物、本発明の宿主細胞又は本発明の非ヒトトランスジェニック生物を含む、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するためのキットにも関する。
【0109】
本明細書で使用される「キット」という用語は、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造するための本発明の方法を実施するのに必要とされる構成要素の集合を指す。キットは、上述の構成要素のいずれかを、単一構成要素又はその任意の組み合わせのいずれかとして含むものとする。典型的には、キットの構成要素は、別々の容器において又は単一の容器内に提供される。容器は、典型的には、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造するための本発明の方法を実施するための指示書も含む。更に、キットは、好ましくは、インキュベーション試薬、培養培地、洗浄溶液、溶媒及び/又は少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールの精製に必要となる試薬若しくは手段など、本発明の方法を実施するために必要な更なる構成要素を含み得る。
【0110】
以下の実施形態は、本発明に従って想定される特に好ましい実施形態である。上記でなされた用語の定義及び説明の全ては、変更すべき点を変更して適用される。
【0111】
実施形態1:少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを製造する方法であって、
a)ゲラニルゲラニルピロリン酸をコパリル二リン酸(CPP)又はラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)に変換する工程;及び
b)CPP又はLPPを少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールに変換する工程であって、前記変換は、ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドによって行われ、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができる、工程
を含み、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
【0112】
実施形態2:前記ポリペプチドは、配列番号24に示されるような保存領域のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【0113】
実施形態3:前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールは、環状C20テルペノイドアルコールである、実施形態1又は2に記載の方法。
【0114】
実施形態4:前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールは、マノオール、スクラレオール又はアビエノールである、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
実施形態5:ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができる、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
実施形態6:前記ポリペプチドは、
a)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、実施形態5に記載の方法。
【0117】
実施形態7:ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、LPPをアビエノールに変換することができる、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
実施形態8:前記ポリペプチドは、
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、実施形態7に記載の方法。
【0119】
実施形態9:工程a)の前記変換は、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/又はCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示す更なるポリペプチドによって行われる、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
実施形態10:ジテルペンシンターゼ活性を示す前記ポリペプチドは、好ましくは、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/若しくはCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すか、マルトース結合特性を有するか、又はチオレドキシン若しくはチオレドキシン融合タンパク質である少なくとも1つの更なるポリペプチドを含む融合ポリペプチドに含まれる、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
実施形態11:前記更なるポリペプチドは、好ましくは、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のLPPシンターゼ(CfLPPS)又はニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のLPPシンターゼ(NtLPPS)、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCPPシンターゼ(CfCPPS)、チオレドキシン及びマルトース結合タンパク質(MBP)からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
【0122】
実施形態12:前記工程b)又は前記工程a)及びb)は、宿主細胞又は非ヒトトランスジェニック生物において行われる、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
実施形態13:前記製造された少なくとも1つのC20テルペノイドアルコールを得る工程を更に含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
実施形態14:実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法によって得ることができる前記少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはマノオール、スクラレオール及び/又はアビエノールを含む組成物。
【0125】
実施形態15:ジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドであって、前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができ、前記ポリペプチドは、
a)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3~10又は配列番号34のいずれか1つに示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1、2、16、17、18又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、コパリル二リン酸(CPP)をマノオールに、ラブダ-13-エン-8-オール二リン酸(LPP)をスクラレオールに、且つ/又はLPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ポリペプチド。
【0126】
実施形態16:配列番号24に示されるような保存領域のアミノ酸配列を含む、実施形態15に記載のポリペプチド。
【0127】
実施形態17:前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができる、実施形態15又は16に記載のポリペプチド。
【0128】
実施形態18:
a)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号4、6、7、9、10又は34に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号2、16、17又は35に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、CPPをマノオールに、且つLPPをスクラレオールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、実施形態17に記載のポリペプチド。
【0129】
実施形態19:前記ジテルペンアルコールシンターゼ活性は、LPPをアビエノールに変換することができる、実施形態15又は16に記載のポリペプチド。
【0130】
実施形態20:
a)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列;
b)配列番号3、5又は8に示されるようなアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列;
c)配列番号1又は18に示されるような核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
d)配列番号1又は18に示されるような核酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;及び
e)(a)~(d)のいずれか1つのフラグメントであって、LPPをアビエノールに変換することができるジテルペンアルコールシンターゼ活性を示すポリペプチドをコードするフラグメントのアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、実施形態19に記載のポリペプチド。
【0131】
実施形態21:実施形態15~20のいずれか1つに記載のポリペプチドと、(i)好ましくはゲラニルゲラニルピロリン酸(GGP)をLPP及び/若しくはCPPに変換するII型ジテルペンシンターゼの酵素活性を示すか、(ii)マルトース結合特性を有するか、又は(iii)チオレドキシン若しくはチオレドキシン融合タンパク質である少なくとも1つの更なるポリペプチドとを含む融合ポリペプチド。
【0132】
実施形態22:前記更なるポリペプチドは、好ましくは、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のLPPシンターゼ(CfLPPS)又はニコチアナ・タバカム(nicotiana tabacum)由来のLPPシンターゼ(NtLPPS)、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のCPPシンターゼ(CfCPPS)、チオレドキシン及びマルトース結合タンパク質(MBP)からなる群から選択される、実施形態21に記載の融合ポリペプチド。
【0133】
実施形態23:実施形態15~20のいずれか1つに記載のポリペプチド又は実施形態21若しくは22の融合ポリペプチド或いはその逆相補配列又は相補配列をコードするポリヌクレオチド。
【0134】
実施形態24:実施形態23に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又は遺伝子構築物。
【0135】
実施形態25:実施形態24に記載のベクター又は遺伝子構築物を含む宿主細胞。
【0136】
実施形態26:細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、藻細胞又はシアノバクテリア細胞、非ヒト動物細胞又は非ヒト哺乳動物細胞及び植物細胞からなる群から選択される、実施形態25に記載の宿主細胞。
【0137】
実施形態27:実施形態23に記載のポリヌクレオチド、実施形態24に記載のベクター若しくは遺伝子構築物又は実施形態25若しくは26に記載の宿主細胞を含むトランスジェニック非ヒト生物。
【0138】
実施形態28:少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するための、実施形態15~20のいずれか1つに記載のポリペプチド又は実施形態21若しくは22に記載の融合ポリペプチド、実施形態23に記載のポリヌクレオチド、実施形態24に記載のベクター又は遺伝子構築物、実施形態25又は26に記載の宿主細胞或いは実施形態27に記載の非ヒトトランスジェニック生物の使用。
【0139】
実施形態29:前記C20テルペノイドアルコールは、香味料、農薬、香料、薬剤、化粧品又は化学的構成要素を生産するために使用される、実施形態28に記載の使用。
【0140】
実施形態30:実施形態15~20のいずれか1つに記載のポリペプチド又は実施形態21若しくは22に記載の融合ポリペプチド、実施形態23に記載のポリヌクレオチド、実施形態24に記載のベクター又は遺伝子構築物、実施形態25又は26に記載の宿主細胞或いは実施形態27に記載の非ヒトトランスジェニック生物を含む、少なくとも1つのC20テルペノイドアルコール、好ましくはアビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを製造するためのキット。
【0141】
本明細書全体を通して引用される全ての参考文献は、その全体又は具体的に言及される開示内容に関して参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【
図1】キュプレサス・ギガンテア(Cupressus gigantea)からのジクロロメタン抽出物のGC MS分析。マノオール標準物質のRtに対応する19.7分にマノオールの明確なピークが観察された。
【
図2a】株pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdA及びpBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdAのGC分析。a)及びb);分析から、13.61分に溶出する化合物が明らかとなった(その後、アビエノールと同定された);c、d、eは、Cup2v2a及びCup2v2bをLPPシンターゼと組み合わせて発現させた構築物からの結果である。分析から、14.03分に溶出する新たな化合物が明らかとなった(その後、スクラレオールと同定された);f)株pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfCPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdAのGC分析から、13.29分に溶出する化合物が生成された(その後、マノオールと同定された)。
【
図3a】株のGC MS分析。a)pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCupr2v1-Prplm-CgIsdAのGC MS分析により、この化合物がアビエノールに対応することが確認された;b)pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCupr2v2b-Prplm-CgIsdAのGC MS分析により、この化合物がスクラレオールに対応することが確認された;c)pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfCPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdAのGC MS分析により、この化合物がマノオールに対応することが明らかとなった。
【
図4】産物決定領域のアライメント。CfMOS、コレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)由来のマノイルオキシドシンターゼ(GenBankアクセッション:KF444508);IrMS、イソドン・ルベッセンス(Isodon rubescens)由来のミルチラジエンシンターゼ(KX831652);CfMS、C.フォルスコリ(C.forskohlii)由来のミルチラジエンシンターゼ(KF444509);RoMS1、ローズマリウス・オフィシナリス(Rosemarius officinalis)由来のミルチラジエンシンターゼ1(KF805858);SmMS、サルビア・ミルティオリザ(Salvia Miltiorrhiza)由来のミルチラジエンシンターゼ(ABV08817);RoMS1、ローズマリウス・オフィシナリス(Rosemarius officinalis)由来のミルチラジエンシンターゼ(KF805859);SfMS、サルビア・フルティコサ(Salvia fruticosa)由来のミルチラジエンシンターゼ(KP091841);MvELS、マルビウム・バルガレ(Marrubium vulgare)由来の9,13-エポキシ-ラブダ-14-エンシンターゼ(KJ584454);SsSS サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)スクラレオールシンターゼ(JN133922);イソアビエノールシンターゼであるSsSSのSsSS-iASバリアント(Jia et al ACS Catal.2018,8,3133-3137)。
【
図5-1】Cup2v2b(配列番号4)、Cup2v2a(配列番号34)、Cup2v1(配列番号3)並びにそれぞれアクセッション番号KT588484、KT588485及びKT588489の下で全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースに見出されるTcKSL1、TcKSL2及びTcKSL8;更に国際公開第2009101126号パンフレットの配列番号3に見出されるようなScSSの配列のタンパク質のアライメント。
【
図6-1】Cup2v2b(配列番号4)、Cup2v2a(配列番号34)、Cup2v1(配列番号3)並びにそれぞれアクセッション番号KT588484、KT588485及びKT588489の下で全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースに見出されるTcKSL1、TcKSL2及びTcKSL8のタンパク質のアライメント。
【発明を実施するための形態】
【0143】
以下の配列は、本明細書全体及び添付の配列プロトコルにおいて参照される。
配列番号1:Cup2v1 cDNA配列
配列番号2:Cup2v2b cDNA配列
配列番号3:Cup2v1タンパク質
配列番号4:Cup2v2bタンパク質
配列番号5:切断Cup2v1タンパク質
配列番号6:切断Cup2v2aタンパク質
配列番号7:切断Cup2v2bタンパク質
配列番号8:MBP切断Cup2v1タンパク質
配列番号9:MBP切断Cup2v2aタンパク質
配列番号10:MBP切断cup2v2bタンパク質
配列番号11:SsSS切断タンパク質
配列番号12:Trx-CfCPSタンパク質
配列番号13:Trx-CfLPPSタンパク質
配列番号14:Trx-NtLPPSタンパク質
配列番号15:CgIdsAタンパク質
配列番号16:MBP-Cup2v2b DNA
配列番号17:MBP-Cup2v2a DNA
配列番号18:MBP-Cup2v1 DNA
配列番号19:SsSS cDNA
配列番号20:Trx-CfLPPS DNA
配列番号21:Trx-CfCPS DNA
配列番号22:CgidsA cDNA
配列番号23:Trx-NtLPPS DNA
配列番号24:Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bタンパク質の保存領域
配列番号25:CfMOSタンパク質の産物決定領域;IrMSタンパク質の産物決定領域;CfMSタンパク質の産物決定領域;CRoMS1タンパク質の産物決定領域;SmMSタンパク質の産物決定領域;RoMS2タンパク質の産物決定領域;SfMSタンパク質の産物決定領域;MvELSタンパク質の産物決定領域
配列番号26:SsSSタンパク質の産物決定領域
配列番号27:SsSS-iASタンパク質の産物決定領域
配列番号28:MBP-Cupr2v2b-2ポリペプチド
配列番号29 MBP-Cupr2v2b-3ポリペプチド
配列番号30 MBP-Cupr2v2b-4ポリペプチド
配列番号31 MBP-Cupr2v2b-2 DNA
配列番号32 MBP-Cupr2v2b-3 DNA
配列番号33 MBP-Cupr2v2b-4 DNA
配列番号34 Cup2v2aタンパク質
配列番号35 Cup2v2a DNA
配列番号36 切断Cup2v1 DNA
配列番号37 切断Cup2v2b DNA
配列番号38 切断Cup2v2a DNA
配列番号39 DNA C末端及びN末端二重切断Cup2v1
配列番号40 タンパク質C末端及びN末端二重切断Cup2v1
配列番号41 バリアント1タンパク質
配列番号42 バリアント2タンパク質
配列番号43 バリアント3タンパク質
配列番号44 バリアント4タンパク質
配列番号45 バリアント5タンパク質
配列番号46 バリアント6タンパク質
配列番号47 バリアント7タンパク質
配列番号48 バリアント8タンパク質
配列番号49 バリアント9タンパク質
配列番号50 バリアント10タンパク質
配列番号51 バリアント11タンパク質
配列番号52 バリアント12タンパク質
配列番号53 バリアント13タンパク質
配列番号54 バリアント14タンパク質
配列番号55 CupモチーフENNSFGSMCI
配列番号56 CupモチーフEKKSFGSMCI
配列番号57 CupモチーフEKNSFGSMCI
配列番号58 CupモチーフENKSFGSMCI
【0144】
更に、所与の単一アミノ酸置換を有する以下のポリペプチドも本発明によるポリペプチドである。配列番号4において、84位のLysがAsnによって置換され得る。配列番号6において、3位のAsnがLysによって置換され得る。配列番号7において、3位のLysがAsnによって置換され得る。配列番号9において、375位のAsnがLysによって置換され得る。配列番号10において、375位のAsnがLysによって置換され得る。配列番号3において、398位がIle又はThrで埋められている。配列番号5において、317位がIle又はThrで埋められている。
【実施例】
【0145】
実施例は、本発明を単に説明するものとする。これらは、決して範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0146】
実施例1:Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bのクローニング
キュプレサス・ギガンテア(Cupressus gigantea)テルペンの分析。
キュプレサス・ギガンテア(Cupressus gigantea)の木をEsveld(Boskoop)から入手した。皮層物質を液体窒素下で微粉となるまで粉砕し、この粉末100mgをジクロロメタン1mlで抽出することにより、茎の皮層から抽出物を調製した。このジクロロメタン相をGC MSで分析した。マノオール標準物質のRtに対応する19.7分に、マノオールの明確なピークが観察された。
【0147】
RNA抽出を行い、キュプレサス(Cupressus)の組織のcDNAから配列決定を行った
約15mLの抽出緩衝液(2%のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、2%のポリビニルピロリジノンK30、100mMのTris-HCl(pH8.0)、25mMのEDTA、2.0MのNaCl、0.5g/Lのスペルミジン及び2%のβ-メルカプトエタノール)を65℃に温めた後、3gの粉砕した皮層組織を加えて混合した。等体積のクロロホルム:イソアミルアルコール(1:24)で混合物を2回抽出し、10MのLiClの四分の一の体積を上清に加えて混合した。RNAを4℃で一晩沈殿させ、10000gで20分間の遠心分離によって回収した。500μLのSSTE[1.0MのNaCl、0.5%のSDS、10mMのTris-HC1(pH8.0)、1mMのEDTA(pH8.0)]中でペレットを溶解し、等体積のクロロホルム:イソアミルアルコールで1回抽出した。2体積のエタノールを上清に加え、-20℃で少なくとも2時間インキュベートし、13000gで遠心分離して上清を除去した。ペレットを風乾し、水中で再懸濁した。全RNA(60μg)をVertis Biotechnology AG(Freising、Germany)に送った。PolyA+RNAを単離し、ランダム化N6アダプタープライマー及びM-MLV H-逆転写酵素を使用してランダムプライムドcDNAを合成した。cDNAをせん断して断片化し、更なる分析のために500bpのサイズのフラグメントを使用した。このcDNAは、Illuminaにより定められるように、それらの5’末端及び3’末端に連結されたアダプター配列A及びBを有する。続いて、この物質をIllumina MiSeqシーケンシング装置上で分析した。このMiSeqにより、全部で19,608,859個の配列を読み取った。Trimmomatic-0.32を使用してIlluminaシーケンシングアダプターからの配列をトリミングし、Seqprepを使用してペアエンド配列をオーバーラップさせ、bowtie2(バージョン2.2.1)を使用してphiX混入を除去した(phiX DNAは、スパイクインコントロールとして使用され、通常、<1%で存在する)。ペアエンドリードとシングルリードをTrinityアセンブリ(trinityrnaseq-2.0.2)で使用した。Trinityにより、合計で88667個のコンティグを組み立てた。
【0148】
セスキテルペンシンターゼを同定するために、C.ギガンテア(C.gigantea)のコンティグを使用して、cDNA配列のデータベースを作成した。このデータベースにおいて、TBLASTNプログラムを利用して、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)由来のカウレンシンターゼ(Q9SAK2)、サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)由来のスクラレオールシンターゼ(AET21246.1)、アビエス・バスサミフェラ(Abies balsamifera)由来のアビエノールシンターゼ(H8ZM73.1)、サルビア・スクラレア(Salvia sclarea)由来の13-ラブデン-8,15-ジオールピロリン酸シンターゼ(AET21248.1)を含む、セスキテルペンシンターゼのタンパク質配列と同一性を示すタンパク質をコードするcDNA配列を同定した。C.ギガンテアア(C.giganteaa)のcDNAデータベース内の合計184のコンティグを、セスキテルペンシンターゼとかなりの相同性を有するものとして同定した。このコンティグを、配列中のオーバーラップに従って68のグループに分類した。これらの68のコンティグを、UniProtデータベース(2015年8月28日にダウンロードされた)に存在するタンパク質配列にそれらをアライメントするBLASTXプログラムを使用して分析することによって更に特性を明らかにした。本発明者らは、それらのUniProtに存在するテルペンシンターゼ配列との相同性及びそれらの特徴に従い、手作業でそれらの12個を推定上のジテルペンシンターゼ配列として同定した。
【0149】
Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bの同定
cDNA配列の特徴の熟達した分析に基づいて、それらの3つが最も有望な候補遺伝子として本発明者らにより選択された。配列番号1及び2に示されるcDNA配列は、それぞれCup2v1及びCup2v2bとして同定された。Cup2v1タンパク質は配列番号3として示され、Cup2v2bタンパク質は配列番号4として示される。Cup2v1とCup2v2bタンパク質は、アミノ酸レベルで互いに93.8%同一である。
【0150】
3番目のcDNA配列はCup2v2bに類似しており、Cup2v2aと命名した。
【0151】
本発明者らは、人為的に短縮した配列のバージョンを生成し、それによって色素体標的化シグナルを除去し、N末端を変更した。これらの切断アミノ酸配列(trcup2v1、trcup2v2a及びtrcup2v2bと命名した)を、それぞれ配列番号5~7に示す。完全長のCup2v2aタンパク質は、配列番号34に示され、そのcDNA配列を配列番号35に示す。
【0152】
既知のサルビア(Salvia)属スクラレオールシンターゼ(SsSS)のうち、切断バージョンをコントロールとして作成した(trSsSS)。
【0153】
NCBIのnrタンパク質データベースのBLASTにより、これらのタンパク質の最も近縁の相同体は、タイワニア・クリプトメリオイデス(Taiwania cryptomerioides)由来の未知の生成物特異性を有するジテルペンシンターゼ(AOG18231.1)であり、67.6%のアミノ酸同一性を有することが明らかになった。特性が明らかとなったタンパク質のuniprotデータベースのBLASTにより、39.1%のアミノ酸同一性を有するバイテックス・アグナスカスタス(Vitex agnuscastus)由来のent-カウレンシンターゼが明らかになった。
【0154】
【0155】
Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bタンパク質は、本発明者らにより、アビエノール、マノオール及び/又はスクラレオールを生成するための工程2のジテルペンアルコールシンターゼの候補となることが同定された。本発明者らにより、Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bの間で本質的に保存された領域が同定された(アライメントである
図4を参照されたい)。シンターゼにおけるこの領域は、他のシンターゼの産物決定領域に対応する位置にあるが、前記他のシンターゼの産物決定領域、例えば既知のサルビア属(Salvia)スクラレオールシンターゼにおける産物決定領域と異なる。Cup2v1、Cup2v2a及びCup2v2bは、異なる生成物特異性を有するが(下記を参照されたい)、既知の他のジテルペンシンターゼにおいて生成物特異性を決定するのに典型的に関与する領域は、前記Cupタンパク質の間では極めて異なりながらも保存されている。
【0156】
実施例2:ロドバクター属(Rhodobacter)における工程1及び工程2の遺伝子を発現するためのプラスミドの構築
ロドバクター属(Rhodobacter)における発現のため、融合タンパク質を、マルトース結合タンパク質を含むCup2v1、Cup2v2a、Cup2v2bの切断バージョン(mbpCup2v1、mbpCup2v2a及びmbpCup2v2bと命名し、それぞれ配列番号8~10を参照されたい)と、多くの工程1の遺伝子である、CfLPPS、CfCPPS及びNtLPPSのチオレドキシンTrxとの融合タンパク質(配列番号12~14を参照されたい)とを設計した。比較のため、CfLPPSをサルビア・スクラレア(Salvia sclarea)のスクラレオールシンターゼ(SsSS)の切断バージョンと組み合わせて発現させた構築物も調製した。この切断バージョンは、Schalk J.Am.Chem.Soc.2012,134,18900-18903に公開されたようなSsSSに対応する。
【0157】
パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)由来のメバロン酸オペロンを、国際公開第2018/160066 A1号明細書に記載されているようなLppaプロモーターから発現させたCgIdsA並びにcrtEプロモーター、次いでtrx-工程1の遺伝子、リボソーム結合部位及びmbp-工程2の遺伝子から構成されるオペロンと共に、欧州特許出願公開第2 336 310 A1号明細書に記載されているようなその天然プロモーターにより発現させた構築物を作製した。
【0158】
以下の一連の構築物を調製した。
a.pBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdA
b.pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdA
c.pBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdA
d.pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdA
e.pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v2b-Prplm-CgIsdA
f.pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfCPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdA
g.pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-SsSS-Prplm-CgIsdA
【0159】
これらの構築物を大腸菌(E.coli)S17-1に導入し、得られた株は、標準的な手順を用いてロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)Rs265-9cにコンジュゲートするために使用した。得られた株を、それらのプラスミドにちなんで命名した。
【0160】
実施例3:C20テルペノイドアルコールの小規模組換え製造
米国特許出願公開第2020/0010822A1号明細書に基本的に記載されているように、各株を小規模生産試験に使用した。この目的のために、100mg/Lのネオマイシンを含むRS102培地20mlと1白金耳のグリセロールストックを含む、バッフルのない100mlの振盪フラスコ中で種培養を行った。種培養フラスコを、110rpmで軌道50mmの振盪インキュベーター内において30℃で72時間培養した。
【0161】
72時間が終了した時点で、培養液の正確な量を計算するために培養液のOD600を評価し、より大型のフラスコに移した。
【0162】
2つの底面バッフルを備える300mlの振盪フラスコで振盪フラスコ実験を行った。20mlのRS102培地と最終濃度を100mg/Lとしたネオマイシンを、2mlの滅菌n-ドデカンと共にフラスコに加えた。20mlの培地中で最終的なOD600値が0.05となるように、接種物の量を調整した。
【0163】
このフラスコを、110rpmで軌道50mmの振盪インキュベーター内において30℃で72時間保持した。その後、培養液をあらかじめ計量された50mlのPPチューブに回収し、次いで4500×gで20分間遠心分離した。その後のGC分析のため、n-ドデカン層をマイクロ遠心チューブに移した。
【0164】
10mlのガラス製バイアルに10マイクロリットルのラウリン酸エチルを秤量し、これに800μlの単離したドデカン溶液を加えて秤量した。その後、より正確にGC分析を行うために、8mlのアセトンをバイアルに加え、ドデカンの濃度を希釈した。約1.5mlのテルペン含有ドデカンのアセトン溶液を、クロマトグラフィーバイアルに移した。米国特許出願公開第2020/0010822A1号明細書に記載されているように、各試料をガスクロマトグラフィーで分析した。化合物を同定するため、約2μLを、Cankar et al.(2015)に詳細に記載されているようなガスクロマトグラフを用いるGC/MSによって分析した。スクラレオール、マノオール及びアビエノールの標準物質(Sigma-Aldrich)と保持時間及び質量スペクトルを比較することによって生成物を同定した。
【0165】
株pBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdA及びpBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdAのGC分析から、13.61分に溶出する化合物が明らかとなった(
図2a、b)。GC MS分析により、この化合物がアビエノールに対応することが確認された(
図3a)。アビエノールに関し、構築物により以下の力価(g/kg n-ドデカン)であることが判明した:pBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdAでは1.9及びpBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v1-Prplm-CgIsdAでは3.5。
【0166】
株pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfCPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdAのGC分析(
図2f)から、13.29分に溶出する化合物が生成された。GC MS分析により、この化合物がマノオールに対応することが明らかとなった(
図3c)。マノオールに関し、構築物により以下の力価(g/kg n-ドデカン)であることが判明した:pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfCPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdAで1.5。
【0167】
株pBBR-MEV-PcrtE-TrxNtLPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdA、pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v2a-Prplm-CgIsdA、pBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-SsSS-Prplm-CgIsdA及びpBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v2b-Prplm-CgIsdAのGC分析から、14.03分に溶出する新たな化合物が明らかとなった(
図2c、d、e)。GC MS分析により、この化合物がスクラレオールに対応することが確認された(
図3b)。異なる構築物によるスクラレオールの定量分析を下記の表に示す。
【0168】
【0169】
配列番号7と比較してN末端に追加の配列を有するCup2v2bの更なる配列バリアントも、N末端にMBPを有する融合タンパク質(配列番号28~30)として同様の設定で試験した。上記表1の4行目のpBBR-MEV-PcrtE-TrxCfLPPS-mbpCup2v2b-Prplm-CgIsdAで示されるように、3つ全てが同様のレベルのスクラレオール生成物であることが示された。
【配列表】
【国際調査報告】