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特表2024-525076血管内の流速を測定するためのセンサカテーテル及び信号処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】血管内の流速を測定するためのセンサカテーテル及び信号処理
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/12 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01P5/12 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500166
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2022068365
(87)【国際公開番号】W WO2023280736
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】102021117575.5
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518040459
【氏名又は名称】メディリア アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】セッテ,マウロ マッシモ
(57)【要約】
血管(100)内の流速を測定するための装置であって、血管(100)内に挿入されるように構成されるカテーテル(104)と、カテーテル(104)に結合される複数の流速センサ(106)と、複数の流速センサ(106)に結合されるセンサネットワーク(108)と、センサネットワーク(108)に結合されるプロセッサ(110)とを備え、複数の流速センサ(106)のそれぞれが、血流の速度を感知するように構成され、センサネットワーク(108)の出力が、プロセッサ(110)に記憶される数理モデル(152)に入力されるように構成され、数理モデル(152)が、カテーテル(104)が位置される血管(100)内の流速を計算するように構成される、装置。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管(100)内の流速を測定するための装置であって、
血管(100)内に挿入されるように構成されるカテーテル(104)と、
前記カテーテル(104)に結合される複数の流速センサ(106)と、
前記複数の流速センサ(106)に結合されるセンサネットワーク(108)と、
前記センサネットワーク(108)に結合されるプロセッサ(110)と、
を備え、
前記複数の流速センサ(106)のそれぞれは、血流の速度を感知するように構成され、
前記センサネットワーク(108)の出力は、前記プロセッサ(110)に記憶される数理モデル(152)に入力されるように構成され、
前記数理モデル(152)は、前記カテーテル(104)が位置される血管(100)内の流速を計算するように構成される、
装置。
【請求項2】
前記センサネットワーク(108)が圧力センサを更に備え、前記圧力センサが血管(100)内の圧力を感知するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記数理モデル(152)は、関数、多項式関数、回帰モデル、集中パラメータモデル、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、又は数値モデルを含み、或いはこれらであり、前記数理モデル(152)は、流速の速度ベクトルを出力するように構成される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記速度ベクトルが前記カテーテルの向きとは独立している、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
感知されるパラメータ(150)の品質が、回帰係数、相関係数、又はフィッティング係数のうちの少なくとも1つによって評価されるように構成される、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記数理モデル(152)は、前記カテーテル(152)の幾何学的形状及び/又は流速に対する前記カテーテル(104)の影響に関する情報を含み、前記情報は、前記数理モデル(152)が前記カテーテル(104)の幾何学的形状及び/又は流速に対する前記カテーテル(104)の影響を補償できるようにするべく構成される、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記数理モデル(152)の出力がユーザに信号で伝えられる、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記数理モデル(152)は、異なる血管(100)の幾何学的形状及び流れ状態に特有となるように調整されるべく構成される、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記数理モデル(152)は、血管(100)内の層流状態及び/又は遷移状態及び/又は乱流状態を識別するように調整される、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の流速センサ(106)が熱線式風速計センサである、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記複数の流速センサ(106)のそれぞれは、前記複数の流速センサ(106)における少なくとも1つの他の流速センサ(106)に熱的に影響を与えるように構成される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記数理モデル(152)が数値モデルであり、前記数理モデル(152)がナビエ・ストークス方程式を含み、前記ナビエ・ストークス方程式の出力が感知された血流速度と比較され、その比較に基づいてメリット指標が計算されるように設定される、請求項3に従属する場合の先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記数理モデル(152)が集中パラメータモデルであり、前記集中パラメータモデルは、前記複数の流速センサの前記出力の挙動を近似するように構成される離散エンティティを含む又は該離散エンティティから成り、前記集中パラメータモデルは、
によって規定され、
ここで、Qは、ジュール単位の熱エネルギー、hは、前記カテーテル(104)と血流との間の熱伝達係数、Aは熱伝達の表面積、Tは前記カテーテル(104)の表面の温度、Tenvは環境の温度、ΔT(t)は環境と前記カテーテル(104)との間の時間依存の熱勾配である、請求項3に従属する場合の先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
アラームを更に備え、前記アラームは、血流速度が所定の範囲外にあるかどうかをユーザに知らせる、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
装置によって血管内の流速を測定するための方法(200)であって、
前記装置は、
血管内に挿入されるように構成されるカテーテルと、
前記カテーテルに結合される複数の流速センサと、
前記複数の流速センサに結合されるセンサネットワークと、
前記センサネットワークに結合されるプロセッサと、
を備え、
前記方法は、
前記複数の流速センサのそれぞれによって血管の血流の速度を感知するステップ(S210)と、
前記流速センサのそれぞれによって感知される速度を前記センサネットワークに送信するステップ(S220)と、
前記センサネットワークの出力を前記プロセッサに記憶される数理モデルに入力するステップ(S230)と、
前記数理モデルにより、前記カテーテルが位置される血管内の流速を計算するステップ(S240)と、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内の流速を測定するための装置及び関連する方法に関する。装置は、カテーテルと、カテーテルに結合される複数の流速センサと、複数の流速センサに結合されるセンサネットワークと、システムネットワークに結合されるプロセッサとを備える。
【背景技術】
【0002】
インターベンション処置又は低侵襲処置と呼ばれる類の外科的処置の分野があり、この外科的処置は、圧力や血流速度などの量を測定するために人間の血管系内にカテーテルを導入することを含む。一般的な処置では、カテーテルが、血管の開口、例えば鼠径部又は上腕動脈の開口から導入される。その後、この開口を通して、カテーテルが、血管を通じて関心領域へと、多くの場合には、冠動脈枝へと押し進められる。その後、関心領域でインターベンション処置が実行される。
【0003】
カテーテルによって一般的に測定される2つのパラメータは圧力及び血流速度であり、これらのパラメータは、その後、冠血流予備量率(FFR)及び冠動脈血流速予備能(CFVR)と呼ばれる2つの指標を計算するために処理される。
【0004】
圧力から導き出される心筋の冠血流予備量率(FFR)及び冠動脈血流速予備能(CFVR)はいずれも、非侵襲的な負荷試験によって測定される誘導性虚血の予測因子として評価されており、ステント留置後の有害事象を示す。
圧力と流速とを組み合わせて充血性狭窄抵抗性の指標とすることにより、特に従来のパラメータ間の結果が一致しない場合に、非侵襲的虚血検査によって評価される診断精度が大幅に向上する。
【0005】
遠位冠動脈速度と狭窄横断圧力勾配との間の関係は、ほぼ完全に冠動脈狭窄によって決定されるため、定義上、その血行力学的重症度を評価するのに良く適している。
【0006】
狭窄部のステント留置術やバルーン拡張術などの全ての血管処置、例えば冠動脈又は末梢の処置では、流速測定値と圧力測定値とを常に診断ツールとして又は処置の成功を監視するために使用できる。
【0007】
血流速度とそこから導き出される指標とを測定するために一般的に使用される技術は超音波である。カテーテルには圧電結晶が備えられており、該圧電結晶は、励起されると、超音波を放射できる。その結果、超音波は自然な血液の散乱によって反射され、流体の速度を導き出すためにドップラー周波数シフト又は飛行時間の測定値が使用される。
【0008】
例えば、血管内の流体の流れを説明するには、圧力及び流速の両方が必要となり得る。圧力及び流速の両方を正確に知ることは、流体の流れの完全な特性評価と、末梢血管のインピーダンスなどの重要な診断量の定義とにつながる。
例えば、血流速度と圧力とを組み合わせた測定は、狭窄のレベルを評価するためのガイドワイヤの一部として使用され得る。
【0009】
超音波/ドップラーセンサを用いて行なわれる測定は、以下の式に従って、血流速度の方向と共に超音波の入射角の影響を受ける場合がある。
ここで、
fd=周波数シフト
fs=音源の周波数
v-流体の速度
c-音速
cosθ-速度の方向と放出される音の方向との間の角度
である。
【0010】
したがって、測定は、血管内処置では制御できない角度θに大きく依存し、すなわち、カテーテルの位置に応じた角度θは、全く異なる測定値を与える0°~90°の範囲に及ぶ可能性がある。
【0011】
一般的な問題点は、瞬間的な血流速度の信号を平均血流速度に依存するのに十分な精度で測定できないため、冠動脈内アデノシンを繰り返し注入するという点である。
【0012】
国際出願公開第2019/149954号には、(血管内の)カテーテルの位置合わせの情報を与えるためのセンサの配置が記載される。国際出願公開第2019/149954号の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
この出願には、ヨー方向に関して血管内でセンサの位置合わせを行なうための方法が記載される(図1のz軸を参照)。
【0013】
この出願では、血管の放射対称に起因してピッチ方向を無視できると想定された。提供される情報はセンサによって識別された面に関するもののみであり、3次元に関する情報が欠落しているため、ヨー方向のみの識別では空間内の流れを特徴付けるのに十分ではない場合がある。したがって、ロールに関する情報は、考慮する必要がある重要な自由度を表わす。
【0014】
例えば、カテーテルは、センサの面が流れと位置合わせされる最適な位置(図2、ロール=0°)、又はセンサが最小速度(図4の円柱の周囲の速度分布を参照)の領域に配置される傾斜した位置(図3、ロール=90°)となり得る。これらの位置の違いで、流速の読み取り値が大きく異なる場合がある。
【0015】
この問題に対する想定し得る解決策は、術者が手動でカテーテルを回転させることによって流れに伴ってカテーテルを方向付けて流れの最適な推定を可能にする測定値を得る、術者による手動修正であり得る。
【0016】
カテーテルが近位側で操作される場合、カテーテルの剛性により遠位チップの1:1制御を行なうことができないため、この操作は常に実行できるわけではない。その結果、スティックスリップタイプの回転が生じ、カテーテルを最適に配置できなくなる場合がある。更に、血管内でプラークが遊離する危険を減らすために、血管内での操作の回数を最小限に抑えることが好ましい。
【0017】
更に、図5では、円柱形状の周囲の流速分布が観察され、
-流れに面する表面の境界層では、この領域で流れが円柱によって停止されるため、速度が非常に低く、
-上下の表面の境界層では、流れが円柱によって加速されるため、速度が高く、
-円柱の後の表面の境界層では、流れが円柱自体の影になるため、流れが非常に低い、
ことが分かる。
【0018】
このことは、流れに対して完全に位置合わせされないカテーテルの表面上に配置された単一のセンサにとって、実際の血管流速を測定することが困難であることを意味する。これは、流れの中に無視できない幾何学的形状があることから、いずれの場合にも流速が加速又は減速し、測定値が変化する場合があるという事実によるためである。
【0019】
カテーテル上のセンサの位置決めに関して装置を最適化しなければならない場合がある。いずれにせよ、より良好な測定精度を可能にする装置を形成することが望ましい。
したがって、血流速度の改善された測定を可能にし、それによってカテーテルの正しい位置決めに関する正確な情報を与えるセンサ装置をカテーテルに装備するための概念を提供することが求められている。
そのような要求は、特許請求の範囲の主題によって満たされ得る。
【発明の概要】
【0020】
本発明は独立請求項に記載される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に概説される。
第1の態様によれば、血管内の流速を測定するための装置が記載される。装置は、血管内に挿入されるように構成されるカテーテルと、カテーテルに結合される複数の流速センサと、複数の流速センサに結合されるセンサネットワークと、センサネットワークに結合されるプロセッサとを備える。複数の流速センサのそれぞれは、血流の速度を感知するように構成される。センサネットワークの出力は、プロセッサに記憶される数理モデルに入力されるように構成される。数理モデルは、カテーテルが位置される血管内の流速を計算するように構成される。
【0021】
カテーテルは、血管に挿入されるように構成される任意の市販のカテーテルであってもよい。カテーテルは、例えば、PVC及び/又はゴム及び/又はシリコンなどの任意の適切な材料を含んでもよい。カテーテルは、複数の流速センサを前記カテーテルに結合又は配置できるようにするような形態設計であることが好ましい。カテーテルは、断面が円筒形であることが好ましいが、もう一つの方法として、立方体、三角形、又は特注の形状であってもよい。幾つかの例において、カテーテルは、代わりに、カテーテルとして使用するのに適していなくてもよい長尺体又は要素である。ここでは、この説明の中で、血管が記載される。しかしながら、カテーテル/長尺体又は要素は、例えば空気及び/又は水及び/又は油などの流体が流通する任意のチャネルに挿入されてもよい。
【0022】
流速センサは、血流の速度をベクトル形式で測定するように構成されるセンサであってもよい。ベクトル形式は、センサのx軸、y軸、及びz軸に対応する3つの成分を含むことが好ましい。複数の流速センサは、センサネットワークの一部を形成するようにセンサネットワークに結合されてもよい。換言すれば、複数の流速センサは、センサネットワークの一部として構成されてもよい。流速センサはカテーテルとともに血流速度に対して傾斜(θ>0°)されてもよい。例えば、カテーテルが0°よりも大きい又は0°よりも小さい角度で傾けられる場合、2つの測定値が相互に影響を与える場合があり、つまり、1つのセンサが僅かに温められた流体と電力を交換し、その結果、2つの測定値が異なることになる。これらの測定値は、その後、個別にセンサネットワークに送信されてもよく、又はセンサネットワークに送信する前に組み合わされてもよい。
【0023】
センサネットワークは、複数の流速センサに結合され、流速に関するデータを送信できるようにする構成要素を備える。複数の流速センサは、有線結合又は無線結合によってセンサネットワークに結合されてもよい。結合が有線結合である場合、構成要素を結合する配線は、流速センサからの読み取りを妨げないように小さい直径を有することが好ましい。流速センサからのデータが個別にセンサネットワークに送信される場合、センサネットワークは、受信されるデータ測定値を組み合わせてもよい。
【0024】
プロセッサは、センサネットワークに結合されるとともに、センサネットワークによって送信されるデータを受信するように構成される。プロセッサは、数理モデルを介して流速を計算できてもよい。プロセッサは、プロセッサの結果を記憶する及び/又はプロセッサが使用する数理モデルを記憶するように構成され得るメモリに結合されてもよい。センサネットワークが複数の流速センサから受信されるデータ測定値を組み合わせない場合、プロセッサは、モデル内で前記測定値を使用する前にこれらの測定値を組み合わせてもよい。幾つかの例では、受信される測定値がモデルで使用されない。
【0025】
幾つかの例では、センサネットワークが圧力センサを更に備え、圧力センサは血管内の圧力を感知するように構成される。流速センサと圧力センサとの組み合わせにより、充血性狭窄抵抗性の指標が可能になり得る。圧力センサは、ファブリペロー干渉計の原理に基づく圧電圧力センサ及び/又は光学式圧力センサであってもよい。圧力センサからの信号は、本明細書本文に記載される数理モデルのための入力として使用されてもよい。圧力センサの信号を流速センサと組み合わせて使用される場合、これは、臨床用途で特に有利となり得る末梢/血管抵抗の測定値をもたらし得る。これにより、特に従来のパラメータ間の結果が一致しない場合、非侵襲的虚血検査によって評価される診断精度が大幅に向上させることができる。
【0026】
幾つかの例において、数理モデルは、関数、多項式関数、回帰モデル、集中パラメータモデル、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク又は数値モデルを含む又はこれらであり、数理モデルは、流速の速度ベクトルを出力するように構成されている。数学関数は、流速センサによって測定されるべきパラメータ及び/又はカテーテルが存在する環境に基づいて選択され得る。
【0027】
幾つかの例では、速度ベクトルがカテーテルの向きとは独立している。これにより、流速センサの向きに関係なく血流速度の測定が可能となり得る。これにより、血流速度のより正確な測定が可能になり得る。
【0028】
幾つかの例において、感知されるパラメータの品質は、回帰係数、相関係数、又はフィッティング係数のうちの少なくとも1つによって評価されるように構成される。これは、プロセッサが流速センサからの結果を数理モデルからの予想される結果と比較できるようにし得る。その後、結果の品質が、ユーザにより見ることができる表示画面に送信され、表示された品質に基づいてユーザがカテーテルの位置を変更できるようにしてもよい。
【0029】
幾つかの例において、数理モデルは、カテーテルの幾何学的形状及び/又は流れに対するカテーテルの影響に関する情報を含み、情報は、数理モデルがカテーテルの幾何学的形状及び/又は流れに対するカテーテルの影響を補償できるようにするべく構成される。これにより、血管内にあるカテーテルによって引き起こされる血流の阻害を軽減して数理モデル内でとらえることができるため、血流のより正確な測定が可能となり得る。
【0030】
幾つかの例では、数理モデルの出力がユーザに信号で伝えられる。この信号伝達は、LEDのシステム及び/又は表示画面を介して行なわれてもよい。表示される出力は、血管内の血流速度及び/又は圧力であってもよい。これにより、血流速度及び/又は圧力が所定のパラメータから外れる場合にユーザが処置を中止できるため、より安全な操作が可能になり得る。
【0031】
幾つかの例において、数理モデルは、異なる血管の幾何学的形状及び流れ状態に特有となるように調整されるべく構成される。これにより、血流のより正確な測定が可能になり得る。特に、数理モデルは、血管(例えば、大動脈又は冠動脈)の直径に基づいて、及び/又は逆行する流れの状況(例えば、動脈血管対静脈血管)に基づいて変更され得る。
【0032】
幾つかの例において、数理モデルは、層流状態及び/又は遷移状態及び/又は乱流状態を識別するように調整される。数理モデルは、使用されているモデルのパラメータ及び/又はハイパーパラメータを変更することによって調整され得る。数理モデルは、一連のベンチマークテストが行なわれた後にこれらのテストの結果を使用して数理モデルを調整する実験的方法によって調整されてもよい。幾つかの例では、結果が回帰アルゴリズムに入力され、これらのアルゴリズムの結果はモデルを調整するために使用される。これに加えて又は代えて、数理モデルは、異なるシミュレーションが実行され得る実験的方法によって調整されてもよく、その後、これらのシミュレーションからパラメータが抽出される。これらのパラメータは、その後、モデルを調整するために使用され得る。これに加えて又は代えて、数理モデルが機械学習方法によって調整されてもよい。機械学習の使用は当業者に知られている。これにより、より正確な血流速度の測定が可能になり得る、及び/又はインターベンション中に問題が発生した場合にそのような測定が可能になり得る。次に、これは、ユーザがインターベンションを中止できるようにし、それにより、より安全なインターベンションプロセスにつながり得る。
【0033】
幾つかの例では、複数の流速センサが熱線式風速計センサである。熱線式風速計センサは、乱流が存在する状況で特に役立ち得るとともに、多成分流の条件付きでサンプリングされた時間領域及び周波数領域の解析及び/又は測定の機会を与え得るアナログ出力も可能にし得る。
【0034】
幾つかの例において、複数の流速センサのそれぞれは、複数の流速センサにおける少なくとも1つの他の流速センサに熱的に影響を与えるように構成される。血流に対するカテーテルの位置合わせは、複数のセンサ間の熱クロストークを使用することによって決定されてもよい。例えば、カテーテルが流速の流れと正確に位置合わせされる場合、すなわち、血流に対する角度が0°である場合、複数のセンサは同じ測定値を与えることができる。これにより、より正確な血流速度測定が可能になり得る。
【0035】
幾つかの例では、数理モデルが数値モデルであり、数理モデルはナビエ・ストークス方程式を含み、ナビエ・ストークス方程式の出力が感知された血流速度と比較され、メリット指標が比較に基づいて計算されるように設定される。これにより、数理モデルを特に粘性流体に関してモデル化できるようになり、それによって血流速度のより正確な測定が可能になる。メリット指標により、ユーザは、計算された血流速度が信頼できるかどうかが分かり、それにより、インターベンションの安全性が維持される。
【0036】
幾つかの例では、数理モデルが集中パラメータモデルであり、集中パラメータモデルは、複数の流速センサの出力の挙動を近似するように構成される離散エンティティを含む又は該離散エンティティから成り、集中パラメータモデルは、
によって規定され、
ここで、Qは、ジュール単位の熱エネルギー、hは、カテーテルと血流との間の熱伝達係数、Aは熱伝達の表面積、Tはカテーテルの表面の温度、Tenvは環境の温度、ΔT(t)は環境とカテーテルとの間の時間依存の熱勾配である。これにより、計算の結果をユーザに簡単に示すことができるため、血流速度測定の改善及び/又はユーザの安全性の向上が可能になり得る。
【0037】
幾つかの例では、装置がアラームを更に備え、アラームは、血流速度が所定の範囲外にあるかどうかをユーザに知らせる。これにより、インターベンション処置に伴って問題がある場合にユーザに簡単に通知できるため、インターベンションの安全性が向上し得る。
【0038】
第2の態様によれば、装置によって血管内の流速を測定する方法が記載される。装置は、血管内に挿入されるように構成されるカテーテルと、カテーテルに結合される複数の流速センサと、複数の流速センサに結合されるセンサネットワークと、センサネットワークに結合されるプロセッサとを備える。方法は、複数の流速センサのそれぞれによって血管の血流の速度を感知するステップと、センサネットワークの出力をプロセッサに記憶される数理モデルに入力するステップと、数理モデルによって、カテーテルが位置される血管内の流速を計算するステップとを含む。
【0039】
カテーテルは、血管に挿入されるように構成される任意の市販のカテーテルであってもよい。カテーテルは、例えば、PVC及び/又はゴム及び/又はシリコンなどの任意の適切な材料を含み得る。カテーテルは、複数の流速センサを前記カテーテルに結合できるようにするような形態であることが好ましい。カテーテルは、その断面が円筒形であることが好ましいが、もう一つの方法として、立方体、三角形、又は特注の形状であってもよい。
【0040】
流速センサは、血流の速度をベクトル形式で測定するように構成されるセンサであってもよい。ベクトル形式は、センサのx軸、y軸、及びz軸に対応する3つの成分を含むことが好ましい。複数の流速センサは、センサネットワークの一部を形成するようにセンサネットワークに結合されてもよい。換言すれば、複数の流速センサは、センサネットワークの一部として構成されてもよい。
【0041】
センサネットワークは、複数の流速センサに結合され、流速に関するデータを送信できるようにする構成要素を備える。複数の流速センサは、有線結合又は無線結合によってセンサネットワークに結合されてもよい。結合が有線結合である場合、構成要素を結合する配線は、流速センサからの読み取りを妨げないように小さい直径を有することが好ましい。
【0042】
プロセッサは、センサネットワークに結合されるとともに、センサネットワークによって送信されるデータを受信するように構成される。プロセッサは、数理モデルを介して流速を計算できてもよい。プロセッサは、プロセッサの結果を記憶する及び/又はプロセッサが使用する数理モデルを記憶するように構成され得るメモリに結合されてもよい。
【0043】
幾つかの例では、これらのステップの全てが必要なわけではない。幾つかの例では、ステップが異なる順序になる場合がある。幾つかの例では、ステップの幾つかが同時に起こる。
【0044】
当業者に明らかなように、本明細書に記載される記述は、ハードウェア回路、ソフトウェア手段、又はそれらの組み合わせの使用下で実施されてもよい。ソフトウェア手段は、プログラムされたマイクロプロセッサ又は一般的なコンピュータ、ASIC(特定用途向け集積回路)及び/又はDSP(デジタル信号プロセッサ)に関連し得る。例えば、処理ユニットは、コンピュータ、論理回路、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ(μC)、又はアレイプロセッサ)/コア/CPU(中央処理ユニット)、FPU(浮動小数点ユニット)、NPU(数値処理ユニット)、ALU(算術論理ユニット)、コプロセッサ(メインプロセッサ(CPU)をサポートするための更なるマイクロプロセッサ)、GPGPU(グラフィックス処理ユニット上の汎用計算)、マルチコアプロセッサ(複数のメインプロセッサ及び/又はグラフィックプロセッサで算術演算を同時に実行するなどの並列コンピューティング用)、又はDSPとして少なくとも部分的に実装されてもよい。
【0045】
更に、当業者に明らかなように、本明細書に記載される詳細が方法に関して記載される場合でも、これらの詳細は、適切なデバイス、コンピュータプロセッサ、又はプロセッサに接続されたメモリにおいて実施又は実現されてもよく、メモリには、プロセッサにより実行されるときに方法を実行する1つ以上のプログラムが与えられ得る。したがって、スワッピングやページングなどの方法を展開できる。
【0046】
たとえ前述の態様の幾つかが装置に関連して記載されたとしても、これらの態様は方法にも適用することができ、その逆もまた同様である。
ここで、添付図面を参照しながら、単なる例として、本発明のこれら及び他の態様について更に説明するが、図面中、同様の参照番号は同様の部分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】従来技術に係る3軸幾何を示す。
図2】従来技術に係るカテーテル及び流速センサの図を示す。
図3】従来技術に係るカテーテル及び流速センサの図を示す。
図4】従来技術に係る円柱の周囲の速度分布を示す。
図5】従来技術に係る円柱の周囲の速度分布を示す。
図6】本明細書に記載される実施形態に係るカテーテル及び流速センサの図を示す。
図7】本明細書に記載される実施形態に係るカテーテル、流速センサ、及びセンサネットワークの図を示す。
図8】本明細書に記載される実施形態に係るデータフローのフロー図を示す。
図9】本明細書に記載される実施形態に係るカテーテルの斜視図を示す。
図10】本明細書に記載される実施形態に係るカテーテルの切断図を示す。
図11】本明細書に記載される実施形態に係るデータフローのフロー図を示す。
図12】本明細書に記載される実施形態に係る血管内の流速を測定するための方法のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、従来技術に係る3軸幾何を示す。
従来技術では、血管内の血液の流れは主にx軸に沿っている。血流速度は、血管のヨー方向に関して、つまりz軸周りで流速センサによって測定される。従来技術は、血管の放射対称に起因して、ピッチ方向、すなわちy軸周りを考慮しない。したがって、ロール情報は考慮されるべき重要な自由度を表わす。
【0049】
図2及び図3は、従来技術に係るカテーテル及び流速センサの図を示す。
血管10は、矢印12の方向と実質的に同じ方向の血流を含む。血管10内には、単一の流速センサ16が結合されたカテーテル14が位置される。流速センサ16は、血管10内の血流の速度を感知するように構成される。
【0050】
カテーテル14は、ロール角が0°の場合、図2に示されるように最適な向きとなり得る。この最適な向きでは、流速センサ16の主面が血流と位置合わせされる。或いは、カテーテル14は、ロール角が90°である場合、図3に示されるように、次善の向きとなる場合がある。この次善の向きでは、流速センサ16の主平面が最小速度の領域に配置される、すなわち、カテーテル14の背後に隠れる。更に、流速センサ16がカテーテル14の背後にあるため、流速センサは、血管10内の血流の速度を正確に測定しない場合がある。
【0051】
図4及び図5は、従来技術に係る円柱周りの速度分布を示す。
図4は、カテーテル14が血管10の内部にあるときの速度場を示す。
更に、図5では、円柱形状の周囲の流速分布を観察でき、
-流れに面する表面20の境界層では、この領域で流れが円柱によって停止されるため、速度が非常に低く、
-カテーテル14の上下の表面22、24の境界層では、流れがカテーテル14によって加速されるため、速度がより高く、
-カテーテル14の後の表面26の境界層では、流れがカテーテル14自体の影になるため、流速が非常に低い、
ことが分かる。
【0052】
このタイプの流体力学は当業者に知られている。上記において、このことは、流れに対して完全に位置合わせされないカテーテル14の表面上に配置された単一の流速センサにとって、実際の血管流速を測定することが困難であることを意味する。これは、カテーテル14が流れの中で無視できない幾何学的形状を有し、いずれの場合にもカテーテル14が流体力学に起因して流速を加速又は減速するという事実によるためである。
【0053】
図6は、本明細書に記載される実施形態に係るカテーテル及び流速センサの図を示す。
図6は、血管100内の血流が矢印102と実質的に平行な方向で移動している血管100を示す。カテーテル104が血管100内に位置される。2つの流速センサ106がカテーテル104に直接に結合される。流速センサ106は、圧力によって血流の速度を感知できてもよく、その場合、血流によって流速センサ106に及ぼされる圧力が、流速を計算できるようにし得る。流速センサ106は、流速センサ106がそのセンサ106によって感知される流速を計算できるようにする電子回路を備え得る。この実施形態では、2つの流速センサ106がカテーテル104の両側でカテーテル104に結合され、すなわち、センサ106は互いに180°離れて位置される。幾つかの実施形態において、流速センサ106は、互いに180°離れて位置されず、例えば45°、90°、又は120°など、互いに任意の適切な角度で離れてもよい。幾つかの実施形態では、3つ以上の流速センサ106が存在する。3つ以上の流速センサ106を伴う実施形態では、流速センサ106が互いに等間隔で離間されてもよい。例えば、3つの流速センサ106がある場合、センサ106が互いに120°離間されてもよい。或いは、センサ106が互いに任意の適切な距離を隔てて配置されてもよい。
【0054】
図7は、本明細書に記載される実施形態に係るカテーテル、流速センサ、及びセンサネットワークの図を示す。
図7は、カテーテル上の流速センサ106に結合されるセンサネットワーク108を示す。流速センサ106とセンサネットワーク108との間の結合は、有線結合であっても無線結合であってもよい。無線結合において、各流速センサ106は、その感知された読み取り値をセンサネットワーク108に送信するように構成される送信機を備えてもよく、センサネットワーク108は、送信された読み取り値を受信するように構成される。この実施形態において、センサネットワーク108は、コンピュータ及び/又はプロセッサ(図8参照)内に位置され、又はコンピュータ及び/又はプロセッサに結合されてもよく、及び/又はクラウドストレージ内に位置されてもよい。センサネットワーク108は、センサハウジング内に組み込まれる2つ以上のセンサ106を備える(図9を参照)。センサ106がカテーテル104の周囲に対称的に位置されることが特に好ましい。例えば、カテーテル104が3つのセンサ106を有する場合、センサ106は、120°離れて配置されることが好ましい。これは、流速の測定にとって特に有利である。
【0055】
有線結合において、センサネットワーク108は、各流速センサ106に結合される電線を備えてもよく、電線は、流速センサ106の感知された読み取り値を、例えばコンピュータ及び/又はプロセッサに送信するように構成される。また、電線は、それらが血管100内で緩まないように及び/又はカテーテル周囲の流体力学の乱れを最小限に抑えることができるように、カテーテル104に結合されてもよい。これに加えて又は代えて、電線がカテーテル104内に位置されてもよい。
【0056】
また、センサネットワーク108は、複数の流速センサ106からの感知された読み取り値を単一の3次元速度ベクトルに照合できるようにもし得る。幾つかの実施形態において、センサネットワークは、感知された読み取り値を照合せず、それらを別個のデータフローに保持する。
【0057】
説明を容易にするために、図7はカテーテルを切断図で示す。当業者であれば分かるように、センサネットワーク108が流速センサ106及びカテーテル104に対して任意の適した向きにあってもよい。
幾つかの例では、更なるセンサが存在してもよい。例えば、圧力センサ及び/又は血管100の壁との衝突を感知するセンサ及び/又はインターベンションを支援するように構成される任意の他の適切なセンサがあってもよい。
【0058】
図8は、本明細書に記載される実施形態に係るデータフローのフロー図を示す。
図8は、流速センサ106がその一部であるセンサネットワーク108を介して流速センサ106からの感知された読み取り値がプロセッサ110に送信されることを示す。プロセッサ110が処理ユニットを備えてもよい。プロセッサは、以下で更に詳細に説明されるように、メモリユニット及び/又はディスプレイユニットに結合されてもよい。流速センサ106とセンサネットワーク108との間の結合は、前述したように、有線であっても無線であってもよい。センサネットワーク108とプロセッサ110との間の結合は、有線であっても無線であってもよい。有線結合において、センサネットワーク108の電気ケーブルは、前述したように、感知された読み取り値をプロセッサ110に直接に送信することができる。無線結合において、センサネットワーク108は、流速センサ106の感知された読み取り値を送信するように構成される送信機を備えてもよく、プロセッサ110は、センサネットワーク108から感知された読み取り値を受信するように構成される受信機を備えてもよい。
【0059】
図9は、本明細書に記載される実施形態に係るカテーテルの斜視図を示す。
図9は、血管104に挿入されるように構成されるカテーテル104を示す。カテーテル上には、複数の流速センサ106及び圧力センサ107がある。圧力センサは、前述の圧力センサ107と同様でよい。センサ106、107は、カテーテル104の遠位端に位置するハウジング112内に位置される。センサハウジング112は、例えばプラスチックなど、カテーテルで用いるのに適した任意の材料を含み得る。ハウジング112は、カテーテル104の動きをより容易にし得るように可撓性を有することが好ましい。センサネットワーク108は、ハウジング112内に位置されることが好ましい。カテーテル104の遠位端には、インターベンションに適したチップ114が位置される。センサネットワーク108は、ハイポチューブ116を介して複数のセンサ106、107からの測定データを外部の場所に位置されるプロセッサ110に送信する。或いは、ハイポチューブ116は、データを送信してカテーテル104の一部として使用されるのに適した任意のタイプのチューブであってもよい。カテーテル104の上記以外の残りの部分は当業者に知られている。
【0060】
図10は、本明細書に記載される実施形態に係るカテーテルの切断図を示す。
カテーテル104は、カテーテル104の周囲に等しい角度間隔で位置されるセンサ106、107を有することが好ましい。例えば、カテーテル104が3つのセンサ106、107を有する場合、センサ106、107は120°離れて配置されることが好ましい。これは、流速の測定にとって特に有利である。幾つかの実施形態では、カテーテル104がチャネル118を備える。このチャネル118は、センサ106、107からセンサネットワーク108へ、その後プロセッサ110へデータを送信するために使用されることが好ましい。或いは、このチャネル118は、例えばガイドワイヤなど、インターベンション中に使用される必要があるかもしれない追加の器具のために使用されてもよい。
【0061】
図11は、本明細書に記載される実施形態に係るデータフローのフロー図を示す。
プロセッサ110では、該プロセッサ110が、前述したように、流速センサ106からセンサネットワーク108を介して測定感知データ150を受信する。プロセッサ110は、該プロセッサ110自体内で又はメモリユニット(図示せず)を介してのどちらかによって、数理モデル152を受ける。数理モデル152は、流速センサ106によって感知される予期される流速を推定できてもよく、及び/又は、流速センサ106によって感知される流速をモデル152自体に入力してもよい。
【0062】
数理モデル152は、異なる性質を有してもよい。例えば、モデル152は、正確な流量測定を行なうために係数が調整される多項式関数であってもよい。
ここで、
f( )
は多項式関数であり、
x1,…,xnは異なる測定入力であり、
は速度ベクトルである。
多項式関数によって出力される速度ベクトルは3つの成分を含むベクトルであり、各成分は、血管の異なる軸、つまりx軸、y軸、及びz軸に関連する。幾つかの実施形態では、速度ベクトルが3つ未満の成分しか有さない。この縮小されたベクトルによって表わされる軸は、ユーザの希望に基づいて変更され得る。
【0063】
数理モデル152は、前述の多項式関数であってもよく、及び/又は以下の数理モデル152のうちの少なくとも1つを含んでもよい。以下に記載される数理モデル152の全てにおいて、当業者は、各モデル152の限界、及び前記モデル152に対して行なわれ得る想定し得る変更を理解する。
【0064】
-1変量回帰
カテーテル104の向きの影響を適切に表わす特徴が選択され、その特徴は、補正がカテーテル104の周囲の流体力学を補償できる特徴である。特徴は、例えば、センサ106、107から受信される生の信号を表わす量であってもよい。特徴は、これに加えて又は代えて、センサ106、107から受信される生の信号間の比率であってもよい。式1は、カテーテル104の周囲の流体力学を表すための特徴x、目的y、及び重みcを伴う1変量回帰式の一般的な表示を示し、この式は、流速の推定に使用することができる。目的は、例えば、血管100内の流速であってもよく、重みはモデルパラメータであってもよい。特徴及び目的(補正)の選択、並びにモデルの次数nは、想定し得るハイパーパラメータである。このモデル152には調整の可能性が殆どない。
【0065】
[式1]
【0066】
-多変量線形回帰
多変量線形回帰は1変量回帰に似ている。式2は、i番目の特徴値x、目的y、及び重みcを伴う、多変量線形回帰の一般的な表示を示す。目的(補正)、特徴の数m、及びこれらの特徴の構成が想定し得るハイパーパラメータである。
【0067】
[式2]
【0068】
-決定木
決定木アルゴリズムは、ノード、ブランチ、及びリーフを含む又はこれらから成る。モデル152のフィッティング中に、それぞれのノードごとに比較が確立され得る。与えられる値に応じて、決定が2つのブランチのうちの一方をたどって次のノードに進む。最後に、決定木の一番下のリーフに到達すると、決定が下される。決定木は、大幅に調整が可能であり、以下の表1に挙げられるように、調整され得る様々なハイパーパラメータを与え得る。
【0069】
[表1]
決定木に関して利用できるハイパーパラメータの概要
【0070】
決定木は、それらの調整可能性及び汎用性に起因して、広範囲のデータを予測できる。更に、決定木は、分類だけでなく回帰にも使用できる。しかしながら、これは、モデルをデータに過剰にフィッティングするリスクを与える。更に、大きな深さと多数のノード/リーフを伴う大きなツリーの場合、実装及び予測に時間がかかる可能性がある。当業者であれば分かるように、様々なパラメータが、例えば、速度ベクトルの単一成分の血流速度、及び/又は速度の増加又は減少、及び/又は速度ベクトルの成分が所定のパラメータの範囲外にあるかどうかとなり得る。
【0071】
-ランダムフォレスト
ランダムフォレストモデルはアンサンブル手法であり、そのため、最終的な推定に関し、複数のモデルの推定が考慮される。ランダムフォレストの場合、アンサンブルは、所定量の決定木「n_estimators」を含んでもよく、又は所定量の決定木「n_estimators」から成ってもよい。各ツリーは、完全データ「max_samples」のサンプルに対して個別に規定される。これらの2つのパラメータは、個々の決定木からのパラメータに対する追加のハイパーパラメータであり、モデル152を調整するために使用され得る。最後に、各決定木が予測を行ない、最終結果が決定木の個々の推定の平均である。
【0072】
-集中パラメータ
集中パラメータ物理モデルは、複雑な物理現象を、分散システムの挙動に近似する離散エンティティを含む又は該エンティティから成るトポロジに単純化する。このモデル152は以下によって規定され得る。
ここで、Qはジュール単位の熱エネルギー、hは、カテーテル104と血流との間の熱伝達係数、Aは熱伝達の表面積、Tはカテーテル104の表面の温度、Tenvは環境の温度、ΔT(t)は、環境とカテーテル104との間の時間依存の熱勾配である。
【0073】
-回帰用ディープニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは、層状構造の接続されたノード又はユニットの集合である。各ユニットは非線形関数に相当し、この非線形関数は、前の層の出力を入力として受け取り、非線形関数を適用した後の加重和、つまり活性化関数を出力として与える。最後の層は、出力層であり、前の層で見られたような非線形関数をなしで済ませ、その入力の加重和を出力する。
【0074】
それぞれの加重和ごとに重みを計算するために、損失関数を最適化するべく入出力例を処理することによってニューラルネットワークがトレーニングされる。ニューラルネットワークは、勾配降下法と逆伝播法とに基づく最適化アルゴリズムを使用して、全ての層の全てのノードの重みを調整する。これにより、特に正確な深層学習数理モデルが可能になり得る。
【0075】
-リカレントニューラルネットワーク
リカレントニューラルネットワーク(RNN)は、隠れ状態を有することによって以前の出力を考慮するニューラルネットワークのサブクラスである。したがって、リカレントニューラルネットワークは時間的な動的挙動を示す。
ゲート付きリカレントユニット(GRU)及び長・短期記憶ユニット(LSTM)は、勾配消失の問題に対処するRNNのサブタイプであり、長期的な依存関係を捕捉できるようにする。
【0076】
そのようなネットワークのトレーニングの場合、逆伝播法が各時点で実行される(時間を通じた逆伝播法)。したがって、全ての時系列点が各単一ユニットの重みに影響する。
これは、ディープラーニング(深層学習)技術の向上に起因して、特に正確なモデルを可能にし得る。
【0077】
-数値モデル
カテーテル104の周囲の流速分布を表わすナビエ・ストークス方程式の数値解の結果は、流速センサによってとられた測定値を比較するために使用される。測定値と三次元流速ベクトルを規定するモデル152との間のフィッティングを評価するためのメリット指標を生成することができる。
【0078】
上記に加えて、数理モデル152は、カテーテル104の周囲の流体力学、及び/又は、流速センサ106及び/又はカテーテル104の未知の向きの影響を補正するように構成される補正構成要素を含んでもよい。補正構成要素は以下のうちの少なくとも一方であってもよい。
【0079】
-出力補正
センササンプルの出力-速度曲線に対するヨー方向の影響を考えることは、ヨー方向を補償するための想定し得る方法を可能にし得る。ヨー方向は、出力が方向に関係なく特定の範囲内になるように流速センサ106及び/又はカテーテル104の方向に応じてセンサ106の出力値を調整することによって補償され得る。出力を調整するための2つの想定し得る手法がある。第1に、方向に応じて出力値を加算/減算することにより、出力を上下にシフトできる。第2に、方向に依存する係数によって出力をスケーリングできる。
【0080】
一般に、必要な補正は、代表的な出力-速度曲線を決定して、測定値を決定された曲線に移動するために必要なシフト/係数を計算することによって規定される。想定し得る代表的なp-v曲線として、選択されたデータセットの最小値、平均値、及び最大値が考慮され得る。しかしながら、p-v曲線の平坦化挙動に起因して、最小値は、補正値が有効範囲外になり得る高いリスクをもたらすため、良い選択であるとは考えられない。
【0081】
最後に、代表的な曲線が計算されるデータセットの区分を規定する必要がある。したがって、2つの主要な手法が特定される。第1に、各センササンプルを個別に考慮される。このことは、それぞれのセンササンプルごとに代表的な曲線が計算されることを意味する。利点は、これがセンササンプル間の差異を無視するという点である。しかしながら、それによって、センサの挙動を決定するためにそれぞれのセンサ106ごとに個別の較正が必要となる。第2に、全てのセンサ106が代表的な曲線に関して考慮される。利点は、この補正によりセンサ106の挙動をうまく一般化できるという点である。しかしながら、それにより、サンプル間の差異が考慮されなければ、精度の低下につながる場合がある。
【0082】
-測定精度の評価
回帰係数、相関指標、及びモデルへのデータのフィッティングを評価するための指標を使用して、データの品質を評価できる。これは、収集された測定値の品質に関する情報を与えることができる。
このようにして、システムモデル-センサネットワーク108は、例えば、センサ106が血管100の壁に触れているときなど、流れに対する最適でない曝露によって引き起こされる、最適でない測定値を推定することもできる。この最適でない測定値は、ネットワーク108内の異なる測定値を比較することによって、及び悪いデータ品質を示し得る指標(例えば、モデルや関数の回帰指標との相関関係)を規定することによって推定され得る。
【0083】
モデル152は、例えば、血管100の直径、カテーテル104が位置される場所、及び/又は血管100の逆行流に基づいてユーザによって選択され得る。この変更は、プロセッサ110に結合されるディスプレイを介してユーザによって行なわれ得る。或いは、モデル152の変更は、プロセッサ110内の機械学習アルゴリズムの形でプロセッサ110によって自動的に行なわれてもよい。
【0084】
モデル152が選択された後、感知された読み取り値150は、その後、比較ユニット154においてモデル152の結果と比較される。感知された読み取り値150は、比較が行なわれる前にモデル152に通されてもよい。
その後、比較ユニット154は、この比較に関するデータを品質測定ユニット156に送信する。品質測定ユニット156は、モデル152からの推定速度ベクトルに関して感知された読み取り値150の品質を測定する。その後、品質測定ユニット156は、感知された読み取り値150の品質に対して決定を行なう。次に、この決定は、読み取り値150の品質をユーザに示すためにプロセッサ110に結合されたディスプレイユニットに表示されてもよい。その後、ユーザは、読み取り値150の品質に基づいてインターベンションに関する決定を行なうことができる。
【0085】
幾つかの実施形態では、プロセッサがアラームユニット158を更に備える。アラームユニット158は、血流の速度ベクトルの成分が所定の範囲外になったとき、及び/又は比較ユニット154がモデル152と感知された読み取り値150との間の大きな相違を見出すときにユーザに知らせることができる。アラームは、音声アラーム、及び/又は触覚アラーム、及び/又は視覚アラームであってもよい。アラームが視覚アラームである場合、これはプロセッサ110に結合されたディスプレイユニット上に表示され得る。
【0086】
図12は、本明細書に記載される実施形態に係る血管内の流速を測定するための方法のブロック図を示す。
血管100内の流速を測定するための方法200は、4つの主要なステップから構成される。
【0087】
最初に、複数の流速センサ106のそれぞれによって血管100の血流の速度が感知される(S210)。これにより、血管100の流速を正確に決定することができる。
その後、流速センサ106のそれぞれによって感知された速度がセンサネットワーク108に送信される(S220)。これにより、感知された速度を1つの読み取り値に照合することが可能になり得る。
【0088】
その後、センサネットワーク108の出力は、プロセッサ100に記憶された数理モデル152に入力される(S230)。これにより、感知された速度150を流体力学不規則性に関して補正することができ、及び/又は血管100内の血流速度をより正確に規定できる。
その後、カテーテル104が位置される血管内の流速が、数理モデル152によって計算される(S240)。これにより、血流速度の正確な読み取りが可能になり得る。
【0089】
当業者であれば、他の多くの効果的な代替案を思いつくことは間違いない。本発明は、記載された実施形態に限定されず、当業者にとって明白であって添付の特許請求の範囲内にある変更を包含することが理解され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】