(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】C1エステラーゼ阻害剤によるウイルス感染関連症状の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/57 20060101AFI20240702BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240702BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240702BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240702BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K38/57
A61P31/12
A61P31/14
A61P25/00
A61P3/02
A61P25/14
A61P9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500270
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2022068912
(87)【国際公開番号】W WO2023280981
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505144016
【氏名又は名称】ファーミング・インテレクチュアル・プロパティー・ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャンネッティ、ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】リラン、アヌラグ
(72)【発明者】
【氏名】メラメド、イサーク
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA17
4C084CA18
4C084CA36
4C084CA53
4C084CA56
4C084DC32
4C084MA16
4C084MA66
4C084ZA02
4C084ZA21
4C084ZA36
4C084ZB33
4C084ZC21
(57)【要約】
この発明は、ウイルスに関連する神経学的症状の治療、特に補体阻害剤を投与することによるそのような症状の治療方法に関する。この発明で治療できるウイルスに関連する神経学的症状のタイプには、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦及び脳卒中が含まれ、SARS-CoV-2などのコロナウイルスの感染に関連付けることができる。この発明は、組換え又は精製C1阻害剤の場合がある補体阻害剤を投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染に関連する神経学的症状に苦しむ患者の治療に使用するC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)であって、前記治療は治療有効量のC1INHを前記患者に投与することを含む、C1INH。
【請求項2】
前記患者は、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦又は脳卒中の患者である、請求項1に記載のC1INH。
【請求項3】
前記神経学的症状はCOVID-19に関連する、及び/又は、前記ウイルス感染はコロナウイルス感染で前記コロナウイルスは好ましくはSARS-CoV-2である、請求項1又は2に記載のC1INH。
【請求項4】
前記患者は以前にコロナウイルスに感染した、及び/又は、前記患者はSARS-CoV-2に対する抗体を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項5】
前記C1INHは、前記神経学的症状が明らかとなる前若しくは前記神経学的症状が臨床的に認識される前に投与する、又は、前記C1INHは、前記神経学的症状が明らかとなった後若しくは前記神経学的症状が臨床的に認識された後に投与する、請求項1~4のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項6】
前記患者はヒトである、及び/又は、前記C1INHのアミノ酸配列は、内因性ヒトC1INHのアミノ酸配列と少なくとも70%同一である、請求項1~5のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項7】
前記C1INHは組換えヒトC1INHである、前記C1INHの半減期は6時間未満である、及び/又は、前記C1INHのシアル酸残基の量は内因性で血漿由来のヒトC1INHとは異なる、請求項1~6のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項8】
前記C1INHは、トランスジェニック動物、好ましくはトランスジェニックウサギ、又は、組換え細胞培養系が産生する、請求項1~7のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項9】
前記C1INHはルコネスト(登録商標)である、及び/又は、前記C1INHは血漿由来のヒトClエステラーゼ阻害剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項10】
前記C1INHを、静脈内、皮下及び/若しくは筋肉内に投与する、並びに/又は、前記C1INHを自己投与する、請求項1~9のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項11】
前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約25Uの用量で投与する、又は、前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約50Uの用量で投与する、請求項1~10のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項12】
前記C1INHを毎週投与する、前記C1INHを少なくとも8週間投与する、及び/又は、前記C1INHを少なくとも週2回投与する、請求項1~11のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項13】
前記C1INHを、1以上の神経心理学的指標、患者評価質問票又は免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態を下回るか、正常値に達するまで投与し、ここで、前記神経心理学的指標は、好ましくは、BRIEF-A、RBANS、BDI II及びMoCAからなる群から選択され、前記患者評価質問票は、好ましくは、FSS質問票、MIDAS質問票、HIT質問票、日常生活動作スライド式尺度及び質問票、SFマクギル疼痛質問票、GSRS質問票並びにSF-36質問票からなる群から選択され、前記免疫学的バイオマーカーは、好ましくは、Toll様受容体、GAD-65、C4、C1INH、免疫グロブリン又はTH1/TH2サイトカインからなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項14】
前記C1INHを用量約4200単位で投与する、請求項1~13のいずれか一項に記載のC1INH。
【請求項15】
前記患者に、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与する、請求項1~14のいずれか一項に記載のC1INH。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ウイルス感染後の神経学的症状の治療、特にC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)の投与によるそのような症状の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、自然免疫の不可欠な要素で、病原体や死にゆく細胞のオプソニン化後に炎症反応を誘発する、防御の第一線として機能する多くの異なる血漿タンパク質で構成されている(Walport 2001, N.E.J.M. 344:1058-1066;Walport 2001, N.E.J.M. 344:1140-1144)。補体系、特にレクチン経路は、多くのウイルスと相互作用し、それらのクリアランスに関与することが判明している(Thielens 2002, Immunobiology 205:563-574;Kase et al. 1999, Immunology 97:385-392;Bibert et al. 2019, PLoS Pathol. 15;Schiela et al., Front. Immunology 9:2177;Bermejo-Jambrina et al., Front. Immunology 9:590)。しかし、制御されていない補体の活性化は、インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)、コロナウイルス(CoV)を含むウイルスによって誘発される症状の病因に関与している可能性がある。例えば、ある実験モデルは、補体系が、全身の炎症誘発反応の調節を介して、SARS-CoV誘発肺疾患に関与している可能性があることを示唆している。SARS-CoVに感染した補体欠損マウスは、対照のマウスと比較して、それほど深刻な影響を受けず、肺浸潤が少なく、局所及び全身のサイトカインレベルが低いことが示された(Gralinski et al. 2018, mBio 9(5))。この発見と一致して、補体C5aシグナル伝達の阻害は、MERS-CoVモデルマウス(Jiang et al. 2018, Emerg. Microbes Infect. 7:77)及びインフルエンザH7N9モデルサル(Sun et al. 2015, Clin. Infect. Dis. 60:586-595)の肺損傷を軽減した。鳥インフルエンザに感染した重度のモデルマウスでも、早期に補体(C3a)カスケードを阻害すると、同じことが観察された(Sun et al., 2013, Am. J. Resp. Cell Mol. Bio. 49:221-230)。
【0003】
最近の発見は、SARS-CoV-2ウイルス感染後症候群の患者における感染後応答と神経学的変化との関係性を示唆する。この出願の神経学的症状は、極度の疲労、感覚及び味覚の喪失、認知変化、発作、振戦、並びに、希少な事例では脳卒中を含む。これらの変化は、さまざまな神経学的症状がもたらされる感染後免疫応答の形態であってもよい。いくつかの例では、SARS-CoV-2から回復した患者はウイルス感染後疲労症候群を経験している。このウイルス感染後症候群を治療する分野における必要性が依然として存在する。この明細書で開示する発明は、その必要性をSARS-CoV-2ウイルス感染後症候群の患者に治療有効量のC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)を投与することを含む方法で満たす。
【0004】
セリンプロテアーゼ阻害剤のセルピンスーパーファミリーのメンバーであるC1INHは、多様な標的並びに生物学的機能、例えば白血球の阻害並びに内皮細胞及び微生物との相互作用を有する急性期タンパク質である。さらに、C1INHは、補体の古典及びレクチン経路(補体活性化の初期段階)、並びに、第XII因子及び接触系の血漿カリクレインの天然の強力な阻害剤である。C1INHは、11番染色体上の8つのエクソンと7つのイントロンで構成される単一の遺伝子(SERPING1)でコードされている。その全ゲノム配列は既知であり、22アミノ酸残基のシグナル配列を含む500アミノ酸のタンパク質をコードしている(Carter P. et al. 1988, Euro. J. Biochem. 173; 163)。血漿C1INHは、約105kDaの糖タンパク質で、高度にグリコシル化されており、その分子量の最大で50%が炭水化物で構成されている。
【0005】
C1INHの精製品及び組換え型は治療薬として承認されており、現在も使用されている。現在、4種のC1INH治療用製剤があり、そのうち3種類(シンライズ(登録商標)、ベリナート(登録商標)及びハエガルダ(登録商標))は血漿由来で、1種類(ルコネスト(登録商標)、Pharming、Leiden、The Netherlands)は組換え型、すなわち組換えヒトC1INHである。組換えヒトC1INHは、タンパク質の構造に関しては血漿由来のC1INHと同一であるが、グリコシル化のパターンが異なり(豊富なオリゴマンノース残基を含む)、これは、半減期が血漿由来C1INHよりも短い(3時間対30時間)原因である(Davis and Bernstein 2011, Clinical Risk Management 7:265-273;van Veen et al. 2012, J. Biotechnology 162:319-326)。いくつかのカスケードと標的とのかなり広範な干渉にもかかわらず、組換えヒトC1INHが投与されたウサギアレルギー患者におけるアレルギー反応の可能性を除き、主だった有害事象又は固有の毒性は以前の研究では実証されていない。
【0006】
C1INH治療用製剤は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の治療に使用されている。HAEは、ほとんどの場合、C1INH発現の喪失又は機能が欠損したC1INHの発現につながるSERPING1の遺伝的な欠陥によって引き起こされる。HAEは、蕁麻疹や掻痒を伴わない血管性浮腫の再発を特徴とし、C1INHによる治療は、欠乏した又は存在しないC1INHを置き換えることにより、これらの急性症状を緩和できる。特定のC1INH製剤による長期的な予防がHAEの治療として行われ、血管性浮腫発作の回数と重症度を、予防し又は最小化することを目的としている。
【0007】
C1INHは、古典経路の補体活性(C1成分)及び/又は接触系の活性(第XIIa因子、カリクレイン、第XIa因子)が望ましくない免疫反応又は炎症反応に寄与する他の疾患又は状態の治療に有用であることが確認されている(米国特許出願公開第2005/0223416号;Caliezi et al. 2000, Pharm. Rev. 52(1):91-112)。例えば、C1INHは、虚血再灌流傷害を軽減するための治療薬として(米国特許第8,071,532号)、移植臓器の抗体介在性拒絶反応を予防するための治療薬として(国際公開第2015/077543号)、子癇前症を治療及び予防するための治療薬として(国際公開第2019/166556号)の使用が提案されている。
【発明の概要】
【0008】
この出願による開示は、C1エステラーゼ阻害剤(C1INH)のような補体阻害剤の治療有効量を投与することを含む、ウイルス感染後の神経学的症状に苦しむ患者の治療方法を対象とする。いくつかの態様では、患者は、神経学的症状、例えば極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦及び/若しくは脳卒中の患者であるか、又はそれらを経験した患者である。いくつかの態様では、患者はヒトである。
【0009】
いくつかの態様では、この方法は、コロナウイルスに感染した患者の治療を対象とする。例えば、特定の態様では、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。いくつかの態様では、患者はSARS-CoV-2に対する抗体を有する。いくつかの態様では、神経学的症状は2019コロナウイルス疾患(「COVID-19」)に関連する。他の態様では、患者はコロナウイルスに感染した経験がある。いくつかの態様では、患者は、もはや活動性感染の徴候を示していない。
【0010】
いくつかの態様では、C1INHは神経学的症状が明らかとなる前に投与する。いくつかの態様では、C1INHは神経学的症状が明らかとなった後に投与する。
【0011】
いくつかの態様では、投与したC1INHのアミノ酸配列は、内因性ヒトC1INHのアミノ酸配列と同一である。いくつかの態様では、投与したC1INHは、内因性ヒトC1INHのアミノ酸配列と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である。いくつかの態様では、C1INHは組換えヒトC1INHである。いくつかの態様では、C1INHの半減期は6時間未満である。いくつかの態様では、C1INHのシアル酸残基の量は、内因性で血漿由来のヒトC1INHとは異なる。いくつかの態様では、C1INHは、トランスジェニック動物又は組換え細胞培養系が産生する。いくつかの態様では、C1INHはトランスジェニックウサギが産生する。そして、特定の態様では、C1INHはルコネスト(登録商標)である。あるいは、いくつかの態様では、C1INHは血漿由来のヒトC1エステラーゼ阻害剤である。
【0012】
この発明のさまざまな態様によれば、C1INHは、さまざまな生物学的経路で投与できる。例えば、いくつかの態様では、C1INHは静脈内に投与する。いくつかの態様では、C1INHは皮下に投与する。そして、いくつかの態様では、C1INHは筋肉内に投与する。いくつかの態様では、C1INHを自己投与する。
【0013】
C1INHは、さまざまな投与スケジュールにより、さまざまな用量で投与できる。いくつかの態様では、C1INHを、患者の体重1kgあたり少なくとも約25Uの用量で投与する。いくつかの態様では、C1INHを、患者の体重1kgあたり少なくとも約50Uの用量で投与する。いくつかの態様では、C1INHを、患者の体重1kgあたり少なくとも約60Uの用量で投与する。いくつかの態様では、C1INHは毎週投与する。いくつかの態様では、C1INHは、少なくとも8週間、毎週投与する。いくつかの態様では、C1INHは少なくとも週2回投与する。いくつかの態様では、C1INHを用量約4200単位で投与する。いくつかの態様では、患者に、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与する。
【0014】
いくつかの態様では、C1INHは、1以上の神経心理学的指標、患者評価質問票又は免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態未満に減少するか、正常値に達するまで投与する。いくつかの態様では、C1INHは、1以上の神経心理学的指標が、その最初の病理学的状態を下回るか、正常値に達するまで投与し、神経心理学的指標は、成人版実行機能行動評価目録(Behavior Rating Inventory of Executive Function - Adult;「BRIEF-A」)、アーバンス(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status;「RBANS」)、ベック抑うつ目録II(Beck Depression Inventory II;「BDI II」)及びモントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment;「MoCA」)からなる群から選択される。いくつかの態様では、C1INHは、1以上の患者評価質問票において、最初の病理学的状態からの改善又は正常な状態に達したことが明らかになるまで投与し、患者評価質問票は、疲労重症度尺度(Fatigue Severity Scale;「FSS」)質問票、片頭痛障害評価(Migraine Disability Assessment;「MIDAS質問票」)、頭痛インパクト尺度(Headache Impact Scale;「HIT」)質問票、日常生活動作スライド式尺度及び質問票(Activities of Daily Living Sliding Scale and Questionnaire)、SFマクギル疼痛質問票(SF McGill Pain Questionnaire)、消化器症状評価尺度(Gastrointestinal Symptoms Rating Scale;「GSRS」)質問票、並びに短縮版クオリティ・オブ・ライフ(Short Form - Quality of Life;「SF-36」)質問票からなる群から選択される。いくつかの態様では、C1INHは、1以上の免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態を下回るか、又は正常値に達するまで投与し、免疫学的バイオマーカーは、Toll様受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(「GAD-65」)、補体タンパク質C4、C1INH、免疫グロブリン及びTH1/TH2サイトカインからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、ウイルス感染後に神経学的症状を示す患者の治療におけるC1INHの能力の臨床試験の代表的なスケジュールを示す。特に、ルコネスト(登録商標)の毎週投与における16週間の各週に行う活動を示す。
【
図1B】
図1Bは、ウイルス感染後に神経学的症状を示す患者の治療におけるC1INHの能力の臨床試験の代表的なスケジュールを示す。特に、ルコネスト(登録商標)の毎週投与における16週間の各週に行う活動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この開示は、C1INHの投与を含むウイルス感染に関連する神経学的症状の治療方法に関する。例えば、この開示は、SARS-CoV-2ウイルス感染後症候群の患者における感染後の神経学的応答及び神経学的変化を治療する方法に関する。
【0017】
I. 一般的な用語と表現の定義
この開示を容易に理解できるようにするために、最初に用語を定義する。この出願では、明細書中に明示的に定める場合を除き、以下の用語は、以下に示す意味を有するものとする。補足的な定義は、この明細書全体に記載されている。矛盾する場合、定義を含むこの出願が優先する。文脈が他を要請しない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるものとする。この明細書で言及した全ての刊行物、特許及び他の参考文献は、あたかもそれらの刊行物又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
【0018】
他に定義しない限り、この明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、この開示に関連する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 2nd ed., 2002, CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 3rd ed., 1999, Academic Press及びthe Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology, Revised, 2000, Oxford University Pressは、この開示で使用する多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。
【0019】
この明細書に記載のものと同様又は同等の方法及び材料をこの開示の実施又は試験に使用できるが、適切な方法及び材料を以下で説明する。材料、方法及び実施例は、単に説明のためのものであって、限定することを意図したものではない。この開示の他の特徴及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかである。
【0020】
この明細書における用語「投与する(administer、administering)」、「投与(administration)」等は、生物学的作用の所望の部位に、治療薬、例えばC1INHの送達を可能にするために使用される方法を指す。この明細書に記載の薬剤及び方法で使用できる投与技術は、例えば、Goodman and Gilman, The Pharmacological Basis of Therapeutics、最新版、Pergamon及びRemington's, Pharmaceutical Sciences、最新版、Mack Publishing Co., Easton, Paに示されている。投与は、当業者に知られているさまざまな方法及び送達系により、対象に、治療薬を含む組成物を物理的に導入することを指す。この明細書で開示する製剤の代表的な投与経路には、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄内、又は他の非経口投与経路、例えば注射又は注入が含まれる。この明細書では、用語「非経口投与」は、経腸及び局所投与以外の投与方法を意味し、通常は注射によるもので、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ管内、病変内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、クチクラ層下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外及び胸骨内への注射及び点滴、並びにin vivoエレクトロポレーションが含まれるが、これらには限定されない。いくつかの態様では、製剤は、経口などの非腸管外経路で投与される。他の非腸管外経路には、例えば、鼻腔内、膣内、直腸内、舌下又は局部といった、局所、経皮又は経粘膜投与経路が含まれる。投与は、例えば、1回、複数回、及び/又は一定の期間、行うこともできる。
【0021】
用語「C1阻害剤」、「C1エステラーゼ阻害剤」、「C1-INH」及び「C1INH」は、プロテアーゼC1r及びC1s並びにMASP-1及びMASP-2などの補体系、血漿カリクレイン及び第XIIa因子などのカリクレイン-キニン系、並びに第XIa因子などの凝固系と関係があるプロテアーゼを阻害するセリンプロテアーゼ阻害剤として機能するタンパク質又はその断片を指す。さらに、C1INHは、セレクチンを介した白血球の内皮細胞への接着を減らす抗炎症分子として機能する。この明細書では、C1INHは、天然のセリンプロテアーゼ阻害剤若しくはその活性断片の場合があり、又は、例えば、プロテアーゼC1r及びC1s、MASP-1、MASP-2、第XIIa因子、並びに/又は第XIa因子の阻害といった同様の機能を提供する組換えペプチド、合成ペプチド、ペプチド模倣体若しくはペプチド断片を含むことができる。この明細書では、C1INHは、血漿由来のC1INH(例.ヒト血漿から精製されたもの)及び組換えにより産生されたC1INH(例.ウサギ又は細胞培養系で産生されたもの)を含む。
【0022】
この明細書では、用語「ウイルス感染」は、患者においてウイルスの存在で引き起こされる感染を指す。ウイルス感染に関連する症状には、ウイルスの直接的な影響と、ウイルスに対する患者の(例えば免疫系の)反応の結果として生じる身体への影響又は変化が含まれる。
【0023】
この明細書では、用語「コロナウイルス」は、コロナウイルス科(Coronaviridae)の既存又は未知のウイルスを指す。コロナウイルス科の代表的なウイルスの1種は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)である。コロナウイルス科の別のウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。SARS-CoV-2は、2019年の新型コロナウイルス疾患(COVID-19)の原因となるウイルスである。SARS-CoVやSARS-CoV-2のように、未知のコロナウイルス科のウイルスは、細胞に侵入する際の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)を使用する可能性がある。
【0024】
用語「神経学的症状」は、神経系により引き起こされるか、又は神経系において生じる症状を指す。代表的な神経学的症状には、嗅覚の喪失、味覚の喪失、頭痛、疲労、明晰に思考することの困難、認知変化、発作、振戦及び脳卒中が含まれるが、これらには限定されない。そのような症状は、それらが、患者、患者の世話をする医師、又は患者を観察するその他の者により気付かれる場合に「明らかとなる」。そのような症状は、それらが、患者の医療の一部分として見つけられたか、又は報告される場合に「臨床的に認識」される。
【0025】
この明細書では、用語「ウイルス感染後症候群」は、ウイルス感染後に同時に生じる一連の症状、又は一組の関係がある症状で関係付けられる状態を指す。例えば、SARS-CoV-2ウイルス感染後症候群は、患者がCOVID-19から回復した後であっても生じる症状、例えば疲労、息切れ、ブレインフォグ及び他の症状を特徴とする。SARS-CoV-2ウイルス感染後症候群は、極度の疲労、味覚喪失を含む感覚喪失、頭痛、認知変化、発作、振戦、及び、希少な事例では脳卒中を含む、神経学的症状と関係がある。
【0026】
SARS-CoV-2におけるウイルス感染後症候群は、長期COVID症候群として公知であるか、あるいはCOVID-19急性期後後遺症(post-acute sequelae of COVID-19;PASC)と呼ばれる、一群の症状に苦しむ患者の形態をとることができる。長期COVID症状には、肺、神経、及び心臓血管組織における症状が含まれる。症状には、咽頭痛、持続性の咳、嗄れた声、息切れ、頭痛、疲労、ブレインフォグ、ニューロパチー、嗅覚の喪失、胸部疼痛、頻脈、胸部絞扼感、下痢、食欲の喪失、筋肉疼痛、骨疼痛及び関節疼痛が含まれる。
【0027】
この明細書では、用語「対象」及び「患者」は同じ意味で用いられる。対象は動物の場合がある。いくつかの態様では、対象は、非ヒト動物(例.ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、マウス、サル又は他の霊長類)などの哺乳動物である。いくつかの態様では、対象はカニクイザルである。いくつかの態様では、対象はヒトである。
【0028】
この明細書では、「治療(treatment)」、「治療する(treat、treating)」又は「改善(amelioration)」という用語を、疾患、障害又は病状について用いる場合、治療的処置と予防的手段の両者を指し、その目的は、症状又は状態の進行又は重症度を、予防し、反転させ、緩和し、改善し、阻害し、軽減し、減速し、及び/又は停止することである。用語「治療する(treating)」は、少なくとも1つの悪影響又は症状を、軽減又は緩和することを含む。一般に、1つ以上の症状又は臨床マーカーが減少した場合、治療は「有効」である。あるいは、疾患、障害又は医学的状態の進行が、軽減又は停止した場合、治療は「有効」である。つまり、「治療」には、症状又はマーカーの改善のみならず、治療を行わない場合に想定される症状の進行又は悪化の、停止又は少なくとも遅延も含まれる。また、「治療」は、たとえ、それが失敗に終わったとしても、有益な結果を追求若しくは取得すること、又は、個人が発症する可能性を下げることを意味する場合がある。治療が必要な人には、すでにその状態にある人のみならず、その状態に陥りやすい人、又はその状態を予防すべき人も含まれる。
【0029】
用語「治療有効量」は、所望の治療又は予防結果を達成するのに有効な薬物(例.C1INH)の量を指す。治療有効量は、また、必要な投与及び期間で、所望の治療効果を達成するのに有効な量を指す。したがって、治療有効量は1回以上の投与で送達できる。治療有効量は、病状、年齢及び体重などの要因によって異なる。いくつかの例では、望ましい結果は、対象における疾患又は障害の治療である。特定の態様では、望ましい結果は、ウイルスに関連する神経学的症状の治療である。
【0030】
単位、接頭辞及び記号は、国際単位系(SI)で承認された形式で示される。数値範囲には、範囲を規定する数値が含まれる。この明細書中の見出しは、本明細書全体を参照することによって得られるこの開示のさまざまな側面を限定するものではない。したがって、以下で定義する用語は、明細書全体を参照することによってより完全に限定される。
【0031】
この開示及び特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に示さない限り、複数形も含む。
【0032】
発明の態様が用語「含む(comprising)」でこの明細書に記載されている場合は常に、用語「からなる(consisting of)」及び/又は「から本質的になる(consisting essentially of)」で説明される類似の態様も提供されることを理解されたい。この開示では、「含む(comprises、comprising、containing)」及び「有する(having)」などは、米国特許法においてそれらに帰せられる意味を有することができ、「含む(includes、including)」などを意味でき;同様に、「から本質的になる(consisting essentially of、consists essentially)」は、米国特許法に帰せられる意味を有し、この用語は無制限(open-ended)で、列挙されているものの基本的又は新規な特徴が列挙されたものよりも多くの存在によって変化しない限り、列挙されたものよりも多くの存在を可能にするが、先行技術の態様を除外する。
【0033】
この明細書では、具体的に説明されないか、文脈から明白でない限り、用語「又は、若しくは」は包括的であると理解される。明細書において「A及び/又はB」といったフレーズで使用される用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」及び「B」を含むことを意図している。同様に、「A、B及び/又はC」といったフレーズで使用される用語「及び/又は」は、以下の各態様:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)を包含することを意図している。
【0034】
用語「約」は、値又は組成(composition)がどのように測定又は決定されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する、当業者によって決定される特定の値又は組成の許容誤差の範囲内にある値又は組成を指す。例えば、「約」又は「本質的に含む(comprising essentially of)」は、当技術分野の慣例により、1標準偏差内であるか、1標準偏差を超えることを意味できる。あるいは、「約」又は「本質的に含む」は、最大で20%までを意味できる。さらに、特に生物学的な系又は工程では、これらの用語は、最大で1桁又は最大で5倍の値を意味できる。特定の値又は組成が明細書及び特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、「約」又は「本質的に含む」の意味は、その特定の値又は組成について許容誤差の範囲内にあると想定する必要がある。
【0035】
この明細書で提供する組成物又は方法は、この明細書で提供する他の組成物及び方法の1つ以上と組み合わせることができる。
【0036】
II. C1エステラーゼ阻害剤
この発明の態様では、C1エステラーゼ阻害剤(C1INH)は、当業者に公知のC1INHであってもよい。この発明のいくつかの態様では、C1INHは血漿由来のC1INHである。この発明のいくつかの態様では、C1INHは組換えC1INHである。この発明のいくつかの態様では、C1INHのアミノ酸配列は、ヒトC1INHのアミノ酸配列と同一である。いくつかの態様では、C1INHのアミノ酸配列は、ヒトC1INHのアミノ酸配列と類似(C1INHの活性を保持しながら、ヒトC1INHのアミノ酸配列と少なくとも90%同一である)する。いくつかの態様では、C1INHは、C1INHの機能的活性を保持しながら、ヒトC1INHのアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である。組換えC1INHは、当業者に公知の組換えC1INHの場合がある。それは、組織培養細胞など微生物細胞で組換えにより産生されてもよい。組織培養細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト組織培養細胞などの哺乳動物組織培養細胞の場合がある(参照によりこの明細書に組み込まれる国際公開第2016/081889号を参照)。組換えC1INHは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物などのトランスジェニック動物で産生できる。組換えC1INHは、マウス、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、又はウサギを含むウサギ科(Leporadae)などのウサギ目(Lagomorpha)の動物で産生できる。ある態様では、組換えC1INHは、参照によりこの明細書に組み込まれる国際公開第2001/57079号に記載の方法で産生されたものである。この発明のいくつかの態様では、C1INHはルコネスト(登録商標)である。
【0037】
この発明のいくつかの態様では、C1INHは、ヒト血漿由来のC1INHを修飾したC1INHである。C1INHの半減期を調節するために修飾できる。特定の修飾を行ったC1INHをコンジュゲートして、半減期を延長する。半減期を延長するコンジュゲートしたC1INHの例は、国際公開第2017/176798号によるコンジュゲートしたC1INHであり、この文献は本明細書に組み込まれる。いくつかの態様では、コンジュゲートしたC1INHは、ポリシアル酸(PSA)結合C1INH又はポリエチレングリコール(PEG)結合C1INHである。C1INHの修飾は、ヒト血漿由来のC1INHの炭水化物による修飾の場合がある。特定の修飾C1INHは、血漿由来のC1INHと比較して、末端シアル酸残基が減少しており、この末端シアル酸残基の減少は、半減期を6時間未満に短縮させる可能性がある。血漿由来のC1INHと比較して末端シアル酸残基が低下した特定のC1INHは、国際公開第2001/57079号、国際公開第2004/100982号及び国際公開第2007/073186号によるC1INHであり、これらの文献は本明細書に組み込まれる。
【0038】
III. C1INHを有する医薬組成物の投与方法
この発明のC1INHは、医薬組成物の一部として投与できる。いくつかの態様では、医薬組成物は、C1INH及び薬学的に許容される添加物を含む。いくつかの態様では、医薬組成物は、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む。いくつかの態様では、医薬組成物は、C1INH及び薬学的に許容される安定化剤を含む。したがって、生理学的に許容される担体、添加物及び/又は安定化剤中に所望の純度を有するC1INHを含む組成物がこの明細書で提供される。許容される担体、添加物又は安定化剤は、使用する用量及び濃度でレシピエントに対して無毒である。薬学的に許容される担体、添加物及び安定化剤に関するガイダンスは、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 22nd ed., Pharmaceutical Press (2012);Gennaro, Remington: The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons: Drugfacts Plus, 20th ed. (2003);Ansel et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 7th ed., Lippencott Williams and Wilkins (2004);Kibbe et al., Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd ed., Pharmaceutical Press (2000)に記載されている。
【0039】
この発明の医薬組成物は、静脈内、経皮及び皮下投与などが例示されるが、これらには限定されない、当業者に知られている手段で投与できる。静脈投与は、国際公開第2001/57079号、国際公開第2004/100982号及び国際公開第2007/073186号に、幅広く記載されている。皮下投与は、国際公開第2014/145519号、米国特許第9616111号(B2)及び欧州特許第2968434号(B1)(これらは、参照によりこの明細書に組み込まれる)に記載のように行うことができる。
【0040】
この明細書では、C1エステラーゼ阻害剤の1単位(U)は、ヒト血漿1mL中に存在するC1INHの量である。このような単位は、血漿由来のC1INH、約275mgに相当する。いくつかの態様では、治療有効量のC1INHが投与される。C1INHは、投与あたり、体重1kgにつき25単位から100単位の用量で投与できる。いくつかの態様では、C1INHは、投与あたり、体重1kgにつき約50単位から約100単位の用量で投与できる。投与あたりの用量は、25単位/kg体重、50単位/kg体重又は100単位/kg体重の場合がある。投与あたりの総用量は、例えば、C1阻害剤の500単位、600単位、700単位、800単位、900単位、1000単位、1100単位、1200単位、1300単位、1400単位、1500単位、1600単位、1700単位、1800単位、1900単位、2000単位、2100単位、2200単位、2300単位、2400単位、2500単位、2600単位、2700単位、2800単位、2900単位、3000単位、3500単位、4000単位、4200単位、4500単位、4900単位、5000単位、5600単位、6000単位、6300単位、7000単位、7500単位、8000単位、8400単位又は9000単位の場合がある。
【0041】
いくつかの態様では、C1INHを含む組成物は無菌である。無菌組成物は、例えば、無菌ろ過膜によるろ過で容易く調製できる。
【0042】
IV. ウイルス感染後の神経学的症状の治療方法
いくつかの態様では、この発明は、治療有効量のC1INHの投与によるウイルス感染に関連する神経学的症状の患者の治療方法を提供する。C1INHは、この明細書で開示するC1INHの変異体の場合がある。いくつかの態様では、神経学的症状は、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦及び/又は脳卒中のうちの1以上である。
【0043】
いくつかの態様では、ウイルス感染はコロナウイルスの感染である。例えば、いくつかの態様では、コロナウイルスの感染は、SARS-CoV感染、SARS-CoV-2感染又はMERS-CoV感染である。いくつかの態様では、コロナウイルスの感染は、細胞に侵入するための受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)を使用するコロナウイルスである。他の態様では、ウイルス感染は神経学的症状を引き起こす起源が不明のウイルスの感染である。
【0044】
この発明の態様は、SARS-CoV-2又は他のウイルス感染後の任意の時点にC1INHの投与を開始できる。この発明のいくつかの態様では、治療は、神経学的症状が明らかとなる前又は臨床的に認識される前に開始する。いくつかの態様では、治療は、患者の神経学的症状が明らかとなった時点若しくは臨床的に認識された時点に、又はその後に開始する。いくつかの態様では、治療は、SAR-CoV-2ウイルス又は他のウイルスが患者の血液中で検出可能である時に開始する。いくつかの態様では、治療は、SAR-CoV-2ウイルス又は他のウイルスが患者においてもはや検出可能でない時に開始する。
【0045】
いくつかの態様では、この発明のC1INHは、少なくとも月に1回又は少なくとも週に1回、対象に投与する。いくつかの態様では、C1INHは、少なくとも月に1回、2回、3回又は4回投与する。いくつかの態様では、C1INHは、少なくとも週に1回、2回、3回、4回、5回、6回又は7回投与する。いくつかの態様では、C1INHは、2日に1回、毎日又は1日2回投与する。いくつかの態様では、最初の投与後、C1INHは、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、5時間ごと、6時間ごと、7時間ごと、8時間ごと、9時間ごと、10時間ごと、11時間ごと又は12時間ごとに投与する。
【0046】
いくつかの態様では、C1INHは1回だけ投与する。いくつかの態様では、C1INHによる治療は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、又は必要に応じてそれ以上続ける。いくつかの態様では、患者の神経学的症状が治まるまでC1INH治療を継続する。いくつかの態様では、患者の神経学的症状の改善が、実施例1の表1で概説する神経心理学的指標、患者評価質問票、神経学的検査又は免疫学的バイオマーカーで測定した場合に観察されるまで、C1INH治療を継続する。
【0047】
この明細書で説明する医療処置は、神経学的症状に苦しむ患者を治療する方法であって、治療有効量のC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)を投与することを含み、神経学的症状はウイルス感染に関連する方法である。これらの方法と組み合わせて使用する同等の製剤もこの明細書で説明する。例えば、製剤は、ウイルス感染に関連する神経学的症状に苦しむ患者の治療に使用するC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)であって、治療は、治療有効量のC1INHを患者に投与することを含む;並びに神経学的症状に苦しむ患者の治療用医薬の製造のためのC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)の使用であって、神経学的症状はウイルス感染に関連し、治療は治療有効量のC1INHを患者に投与することを含む、使用を含む。これらの同等の考案の態様及びその特徴は、交換可能である。
【0048】
この明細書で説明する方法及び製剤は、ウイルス感染に「関連する」神経学的症状の治療における使用に適切である。症状は、例えば、ウイルス感染の結果として生じるか、ウイルス感染との繋がりで生じるか、ウイルス感染の帰結として生じるか、又はウイルス感染の後に生じる場合に、ウイルス感染に関連する。例えば、症状が感染に対する免疫系の応答によって引き起こされる場合に、そのような症状はウイルス感染に関連する。症状がウイルスに感染した個体で生じる可能性が高い場合にも、ウイルス感染に関連する。
【0049】
追加の態様
1. 神経学的症状に苦しむ患者を治療する方法であって、治療有効量のC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)を投与することを含み、前記神経学的症状はウイルス感染に関連する、方法。
2. 前記患者は、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦又は脳卒中の患者である、態様1に記載の方法。
3. 前記患者は感覚喪失の患者である、態様2に記載の方法。
4. 前記患者は味覚喪失の患者である、態様3に記載の方法。
5. 前記神経学的症状はCOVID-19に関連する、態様1~4のいずれか一つに記載の方法。
6. 前記ウイルス感染はコロナウイルスの感染である、態様1~5のいずれか一つに記載の方法。
7. 前記コロナウイルスはSARS-CoV-2である、態様6に記載の方法。
8. 前記患者は以前にコロナウイルスに感染した、態様1~5のいずれか一つに記載の方法。
9. 前記患者はSARS-CoV-2に対する抗体を有する、態様1~8のいずれか一つに記載の方法。
10. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなる前又は臨床的に認識される前に投与する、態様1~9のいずれか一つに記載の方法。
11. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなった後又は臨床的に認識された後に投与する、態様1~9のいずれか一つに記載の方法。
12. 前記患者はヒトである、態様1~11のいずれか一つに記載の方法。
13. 前記C1INHのアミノ酸配列は、内因性ヒトC1INHのアミノ酸配列と少なくとも70%同一である態様1~12のいずれか一つに記載の方法。
14. 前記C1INHは組換えヒトC1INHである、態様1~13のいずれか一つに記載の方法。
15. 前記C1INHの半減期は6時間未満である、態様1~14のいずれか一つに記載の方法。
16. 前記C1INHのシアル酸残基の量は、内因性で血漿由来のヒトC1INHと異なる、態様1~15のいずれか一つに記載の方法。
17. 前記C1INHは、トランスジェニック動物又は組換え細胞培養系が産生する、態様1~16のいずれか一つに記載の方法。
18. 前記C1INHはトランスジェニックウサギが産生する、態様17に記載の方法。
19. 前記C1INHはルコネスト(登録商標)である、態様1~18のいずれか一つに記載の方法。
20. 前記C1INHは血漿由来のヒトC1エステラーゼ阻害剤である、態様1~13のいずれか一つに記載の方法。
21. 前記C1INHを静脈内に投与する、態様1~20のいずれか一つに記載の方法。
22. 前記C1INHを皮下に投与する、態様1~20のいずれか一つに記載の方法。
23. 前記C1INHを筋肉内に投与する、態様1~20のいずれか一つに記載の方法。
24. 前記C1INHを自己投与する、態様1~23のいずれか一つに記載の方法。
25. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約25Uの用量で投与する、態様1~24のいずれか一つに記載の方法。
26. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約50Uの用量で投与する、態様1~25のいずれか一つに記載の方法。
27. 前記C1INHを毎週投与する、態様1~26のいずれか一つに記載の方法。
28. 前記C1INHを少なくとも8週間投与する、態様27に記載の方法。
29. 前記C1INHを少なくとも週2回投与する、態様1~25のいずれか一つに記載の方法。
30. 前記C1INHを、1以上の神経心理学的指標、患者評価質問票又は免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態を下回るか、正常値に達するまで投与する、態様1~29のいずれか一つに記載の方法。
31. 前記神経心理学的指標は、BRIEF-A、RBANS、BDI II及びMoCAからなる群から選択される、態様29に記載の方法。
32. 前記患者評価質問票は、FSS質問票、MIDAS質問票、HIT質問票、日常生活動作スライド式尺度及び質問票、SFマクギル疼痛質問票、GSRS質問票並びにSF-36質問票からなる群から選択される、態様30又は態様31に記載の方法。
33. 前記免疫学的バイオマーカーは、Toll様受容体、GAD-65、C4、C1INH、免疫グロブリン又はTH1/TH2サイトカインからなる群から選択される、態様30~32のいずれか一つに記載の方法。
34. 前記C1INHを用量約4200単位で投与する、態様1~33のいずれか一つに記載の方法。
35. 前記患者に、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与する、態様1~34のいずれか一つに記載の方法。
36. ウイルス感染に関連する神経学的症状に苦しむ患者の治療に使用するC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)であって、前記治療は、治療有効量のC1INHを前記患者に投与することを含む、C1INH。
37. 前記患者は、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦又は脳卒中の患者である、態様36に記載のC1INH。
38. 前記患者は感覚喪失の患者である、態様37に記載のC1INH。
39. 前記患者は味覚喪失の患者である、態様38に記載のC1INH。
40. 前記神経学的症状はCOVID-19に関連する、態様36~39のいずれか一つに記載のC1INH。
41. 前記ウイルス感染はコロナウイルス感染である、態様36~40のいずれか一つに記載のC1INH。
42. 前記コロナウイルスはSARS-CoV-2である、態様41に記載のC1INH。
43. 前記患者は以前にコロナウイルスに感染した、態様36~42のいずれか一つに記載のC1INH。
44. 前記患者はSARS-CoV-2に対する抗体を有する、態様36~43のいずれか一つに記載のC1INH。
45. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなる前又は臨床的に認識される前に投与する、態様36~44のいずれか一つに記載のC1INH。
46. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなった後又は臨床的に認識された後に投与する、態様36~44のいずれか一つに記載のC1INH。
47. 前記患者はヒトである、態様36~46のいずれか一つに記載のC1INH。
48. 前記C1INHのアミノ酸配列は、内因性ヒトClINHのアミノ酸配列と少なくとも70%同一である、態様36~47のいずれか一つに記載のC1INH。
49. 前記C1INHは組換えヒトC1INHである、態様36~48のいずれか一つに記載のC1INH。
50. 前記C1INHの半減期は6時間未満である、態様36~49のいずれか一つに記載のC1INH。
51. 前記C1INHのシアル酸残基の量は、内因性で血漿由来のヒトC1INHと異なる、態様36~50のいずれか一つに記載のC1INH。
52. 前記C1INHは、トランスジェニック動物又は組換え細胞培養系が産生する、態様36~51のいずれか一つに記載のC1INH。
53. 前記C1INHはトランスジェニックウサギが産生する、態様52に記載のC1INH。
54. 前記C1INHはルコネスト(登録商標)である、態様36~53のいずれか一つに記載のC1INH。
55. 前記C1INHは血漿由来のヒトClエステラーゼ阻害剤である、態様36~48のいずれか一つに記載のC1INH。
56. 前記C1INHを静脈内に投与する、態様36~55のいずれか一つに記載のC1INH。
57. 前記C1INHを皮下に投与する、態様36~55のいずれか一つに記載のC1INH。
58. 前記C1INHを筋肉内に投与する、態様36~55のいずれか一つに記載のC1INH。
59. 前記C1INHを自己投与する、態様36~58のいずれか一つに記載のC1INH。
60. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約25Uの用量で投与する、態様36~59のいずれか一つに記載のC1INH。
61. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約50Uの用量で投与する、態様36~60のいずれか一つに記載のC1INH。
62. 前記C1INHを毎週投与する、態様36~61のいずれか一つに記載のC1INH。
63. 前記C1INHを少なくとも8週間投与する、態様62に記載のC1INH。
64. 前記C1INHを少なくとも週2回投与する、態様36~60のいずれか一つに記載のC1INH。
65. 前記C1INHを、1以上の神経心理学的指標、患者評価質問票又は免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態を下回るか、正常値に達するまで投与する、態様36~64のいずれか一つに記載のC1INH。
66. 前記神経心理学的指標は、BRIEF-A、RBANS、BDI II及びMoCAからなる群から選択される、態様64に記載のC1INH。
67. 前記患者評価質問票は、FSS質問票、MIDAS質問票、HIT質問票、日常生活動作スライド式尺度及び質問票、SFマクギル疼痛質問票、GSRS質問票並びにSF-36質問票からなる群から選択される、態様65又は態様66に記載のC1INH。
68. 前記免疫学的バイオマーカーは、Toll様受容体、GAD-65、C4、C1INH、免疫グロブリン又はTH1/TH2サイトカインからなる群から選択される、態様65~67のいずれか一つに記載のC1INH。
69. 前記C1INHを用量約4200単位で投与する、態様36~68のいずれか一つに記載のC1INH。
70. 前記患者に、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与する、態様36~69のいずれか一つに記載のC1INH。
71. 神経学的症状に苦しむ患者の治療用医薬の製造のためのC1エステラーゼ阻害剤(C1INH)の使用であって、前記神経学的症状はウイルス感染に関連し、前記治療は治療有効量のC1INHを前記患者に投与することを含む、使用。
72. 前記患者は、極度の疲労、味覚喪失などの感覚喪失、認知変化、発作、振戦又は脳卒中の患者である、態様71に記載の使用。
73. 前記患者は感覚喪失の患者である、態様72に記載の使用。
74. 前記患者は味覚喪失の患者である、態様73に記載の使用。
75. 前記神経学的症状はCOVID-19に関連する、態様71~74のいずれか一つに記載の使用。
76. 前記ウイルス感染はコロナウイルス感染である、態様71~75のいずれか一つに記載の使用。
77. 前記コロナウイルスはSARS-CoV-2である、態様76に記載の使用。
78. 前記患者は以前にコロナウイルスに感染した、態様71~77のいずれか一つに記載の使用。
79. 前記患者はSARS-CoV-2に対する抗体を有する、態様71~78のいずれか一つに記載の使用。
80. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなる前又は臨床的に認識される前に投与する、態様71~79のいずれか一つに記載の使用。
81. 前記C1INHを、前記神経学的症状が明らかとなった後又は臨床的に認識された後に投与する、態様71~79のいずれか一つに記載の使用。
82. 前記患者はヒトである、態様71~81のいずれか一つに記載の使用。
83. 前記C1INHのアミノ酸配列は、内因性ヒトC1INHのアミノ酸配列と少なくとも70%同一である、態様71~82のいずれか一つに記載の使用。
84. 前記C1INHは組換えヒトC1INHである、態様71~83のいずれか一つに記載の使用。
85. 前記C1INHの半減期は6時間未満である、態様71~84のいずれか一つに記載の使用。
86. 前記C1INHのシアル酸残基の量は、内因性で血漿由来のヒトC1INHと異なる、態様71~85のいずれか一つに記載の使用。
87. 前記C1INHは、トランスジェニック動物又は組換え細胞培養系が産生する、態様71~86のいずれか一つに記載の使用。
88. 前記C1INHはトランスジェニックウサギが産生する、態様87に記載の使用。
89. 前記C1INHはルコネスト(登録商標)である、態様71~88のいずれか一つに記載の使用。
90. 前記C1INHは血漿由来のヒトC1エステラーゼ阻害剤である、態様71~83のいずれか一つに記載の使用。
91. 前記C1INHを静脈内に投与する、態様71~90のいずれか一つに記載の使用。
92. 前記C1INHを皮下に投与する、態様71~90のいずれか一つに記載の使用。
93. 前記C1INHを筋肉内に投与する、態様71~90のいずれか一つに記載の使用。
94. 前記C1INHを自己投与する、態様71~93のいずれか一つに記載の使用。
95. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約25Uの用量で投与する、態様71~94のいずれか一つに記載の使用。
96. 前記C1INHを、前記患者の体重1kgあたり少なくとも約50Uの用量で投与する、態様71~95のいずれか一つに記載の使用。
97. 前記C1INHを毎週投与する、態様71~96のいずれか一つに記載の使用。
98. 前記C1INHを少なくとも8週投与する、態様97に記載の使用。
99. 前記C1INHを少なくとも週2回投与する、態様71~95のいずれか一つに記載の使用。
100. 前記C1INHを、1以上の神経心理学的指標、患者評価質問票又は免疫学的バイオマーカーが、その最初の病理学的状態を下回るか、正常値に達するまで投与する、態様71~99のいずれか一つに記載の使用。
101. 前記神経心理学的指標は、BRIEF-A、RBANS、BDI II及びMoCAからなる群から選択される、態様99に記載の使用。
102. 前記患者評価質問票は、FSS質問票、MIDAS質問票、HIT質問票、日常生活動作スライド式尺度及び質問票、SFマクギル疼痛質問票、GSRS質問票並びにSF-36質問票からなる群から選択される、態様100又は態様101に記載の使用。
103. 前記免疫学的バイオマーカーは、Toll様受容体、GAD-65、C4、C1INH、免疫グロブリン又はTH1/TH2サイトカインからなる群から選択される、態様100~102のいずれか一つに記載の使用。
104. 前記C1INHを用量約4200単位で投与する、態様71~103のいずれか一つに記載の使用。
105. 前記患者に、C1INH及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与する、態様71~104のいずれか一つに記載の使用。
【実施例】
【0050】
実施例1 COVID-19後関連神経学的症状に苦しむCOVID-19患者におけるC1INHの効果についての臨床試験
C1エステラーゼ阻害剤(C1INH)は、補体とレクチン経路活性化の両者の直接的な天然の阻害剤であり、この炎症カスケードの最も強力な公知の天然の阻害剤である。ルコネスト(登録商標)の投与は、COVID-19後ニューロン症状の一部分として生じる有害な補体活性化に対抗することを我々は仮定する。SARS-CoV-2感染及びCOVID-19疾患の結果としてもたらされる症状に対するC1INHの効果を分析するために、ルコネスト(登録商標)の有効性を試験する二重盲検、無作為化、プラセボ対照、クロスオーバー臨床試験を行う。この試験は、最大2週のスクリーニング期、2か月の治療又はプラセボ期、2か月の治療又はプラセボに対するクロスオーバー期、及び、試験の終了(end of study visit;EOS)を検討する1週の治療後来院を含む。18歳以上の40人が参加できる。
【0051】
参加者が約40人の2つのアームがある。参加者は、各アームに1:1の比で無作為化される。アーム1では、参加者には、8週間、週1回ルコネスト(登録商標)を静注し、クロスオーバーして、8週間、週1回プラセボを投与する。アーム2では、参加者には、8週間、週1回プラセボを投与し、クロスオーバーして、8週間、週1回ルコネスト(登録商標)を投与する。試験全体の長さは約19週である。この試験のスケジュールを
図1A及び
図1Bに要約する。
【0052】
目的
この試験の主要な目的は、SARS-CoV-2ウイルス感染後疲労症候群に関連する神経免疫障害におけるルコネスト(登録商標)の潜在的な利益を評価することである。
【0053】
試験のアウトカムは、以下の神経心理学的指標、患者評価質問票、神経学的検査及び免疫学的バイオマーカーで測定する。これらのアウトカム指標を以下の表1で特定する。
【0054】
【0055】
実験室での免疫学的バイオマーカー試験及び安全性試験は、以下の表2に列記するスケジュールに従って行う。
【0056】
【0057】
成人版実行機能行動評価目録(BRIEF-A)は、日常環境における成人の実行機能又は自己調節の観点を捕捉する標準化された指標である。自己報告と情報提供者報告の両者が使用される。9つのオーバーラップしない理論的に及び経験的に導出される臨床的な尺度がある:抑制(Inhibit)、セルフモニター(Self-Monitor)、計画(Plan)及び組織化(Organize)、シフト(Shift)、開始(Initiate)、タスクモニター(Task Monitor)、情緒のコントロール(Emotional Control)、ワーキングメモリー(Working Memory)、並びに道具の体制化(Organization of Materials)。それは、多様な発生学的、全身的、神経学的及び精神医学的障害のために有用であり、2つの広域指数、3つの妥当性尺度及び要約スコアが含まれる。
【0058】
アーバンス(RBANS、バージョンA、B及びC)は、認知低下及び全体的な神経認知状態を検出及びモニターするための個々に管理されるバッテリーを提供する。該手段は、注意力、即時及び遅延記憶、言語、並びに視空間/構成力(Visuospatial/Constructional)を含む、複数の領域を臨床医が評価することを可能にする。
【0059】
ベック抑うつ目録II(BDI II)は、国際的に認識される、自己管理される21項目の自己報告尺度であり、複数の選択形式で提示され、成人においてうつ病の存在を検出するために、特定の理論的なバイアスから独立したうつ病の特徴的な態度及び症状を測定するために設計されている。目録中の項目の各々は、うつ病症状及び/又は態度の特有のカテゴリーに対応する。各々のカテゴリーは、うつ病特有の行動的現れを記載するとされ、4つの自己評価的陳述の等級付けされたシリーズからなる。陳述は、中立から最大重症度までの症状の重症度の範囲を反映するように順位付け及び重み付けされる。重症度の程度を指し示すために、0、1、2又は3の数値が各々の陳述に割り当てられる。21個全ての質問についてスコアを足し合わせて、うつ病の強度を指し示す単一の合計スコアが生成される。
【0060】
モントリオール認知評価(MoCA、バージョン8.0、及び7.1、7.2)は、認知機能障害についてのスクリーニング手段として設計された。それは、異なる認知領域:注意力及び集中、実行機能、記憶、言語、視覚構成能力、概念的思考、計算、並びに見当識を評価する。
【0061】
治験対象集団
COVID-19後の神経学的症状に苦しむ約40人の患者を登録する。条件を満たすために、参加者は、18歳以上であり、SARS-CoV-2の診断が以前に確認されており、SARS-CoV-2感染からの回復の4週後にSARS-CoV-2ウイルス感染後疲労症候群を経験しており、疲労を含む神経学的症状を経験しており、血液採取を含む、プロトコールの全ての側面に従う意思がある者でなければならない。
【0062】
除外基準には、急性又は予防的治療として、形態を問わないC1-INH療法を受けていること、ウサギアレルギーの病歴又は疑い、傷害に関連する神経学的状態、糖尿病関連ニューロパチー、現時点での妊娠又は授乳、概して不能又は寝たきりであること、この試験と科学的又は医学的に適合性でないと判断される他の臨床試験に登録されていること、及び治療責任医師の意見において、安全上の理由から試験のために好適でない可能性がある参加者が含まれる。
【0063】
治療
同意後に、参加者はスクリーニング期(最大2週-来院0)に入る。治療期の前に、参加者は、ブロック法を使用して薬剤師により1:1の比に無作為化される。参加者は、8週間、週1回でルコネスト(登録商標)又はプラセボが静脈注射され、続いて、更に8週間、クロスオーバー治療が行われる。来院17は、来院16の注入後1週以内にスケジュールされる。対象が参加する全体の長さは約19週である。
【0064】
ルコネスト(登録商標)は、ヒトC1INHをコードする遺伝子を発現するウサギの乳から精製される。ルコネスト(登録商標)は、注入用に再構成するための、無菌で防腐剤を含まない白色/オフホワイト色の凍結乾燥粉末として提供される。各バイアルには、ルコネスト(登録商標)2100単位、ショ糖937mg、クエン酸ナトリウム二水和物83.3mg及びのクエン酸一水和物1.0mgが含まれている。C1INH活性の1国際単位(U)は、プールされた正常な血漿1mL中のC1INH活性と同等であると定義される。注射用滅菌水14mLで再構成した後、各バイアルには、pH6.8の20mMクエン酸ナトリウム緩衝液1mLあたり150Uのルコネストが含まれており:バイアルは使い捨てである。
【0065】
ルコネスト(登録商標)は、末梢又は中心静脈内ラインを介してゆっくり(5分)と静脈内注射される。体重にかかわらず4200Uの均一な用量が選択された。C1INHのための認可された投薬量は体重ベースである(84kgまでは50U/kg、84kg以上の体重について4200U)。これは、参加者でC1INHが少なくとも0.7U/ml(C1INH活性の正常値の下限)を達成するという目標に基づく。シミュレーションにより、認可された用量でこの目的が達成できることが明らかとなった。しかし、このシミュレーションでは、体重が84kg未満の参加者で50U/kgを適用すると、4200Uの投与と比較してC1INHの量が低くなることも示されている。ルコネスト(登録商標)注入後のフラッシュために食塩水が使用される。
【0066】
プラセボは、同じポンプ及び速度を使用してルコネスト(登録商標)と同じ体積で投与する無菌食塩水である。
【0067】
統計的方法
この試験は概念実証(PoC)試験であり、探索的にのみ肯定的な結果を示す必要があり、記述統計的方法を使用する。試験エンドポイントは、スクリーニング期、治療期間及び最後の観察の間に記録された全ての値の平均として定義される。以下の記述統計が提供される:観察の回数、平均、標準偏差、標準誤差、中央値、四分位数間範囲、分散、最小及び最大。治療期間中のこれらの値における傾向が、相関又は有効性を決定するために分析される。二次有効性分析及び探査的サブ分析を含む、より詳細な統計分析が、更なる分析のために完了時に使用されてもよい。
【0068】
この発明を十分に説明してきたが、当業者であれば、この発明の範囲又はその態様に影響を与えることなく、条件、処方及び他のパラメーターの広く同等な範囲内で同じことを行うことができることを理解する。
【0069】
この発明の他の側面は、本明細書に開示されたこの発明の説明及び実施を考慮すれば、当業者には明らかである。明細書及び実施例は、単なる例示としてみなされることを意図しており、この発明の真の範囲及び精神は、以下の特許請求の範囲に示される。
【国際調査報告】