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特表2024-525090平面物体をコーティングするためのコーティングプラントおよび平面物体をコーティングするための方法
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  • 特表-平面物体をコーティングするためのコーティングプラントおよび平面物体をコーティングするための方法 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】平面物体をコーティングするためのコーティングプラントおよび平面物体をコーティングするための方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240702BHJP
   C23C 14/56 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/56 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500439
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2022064537
(87)【国際公開番号】W WO2023280464
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】102021117574.7
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン シュヴァート
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ザムシュ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA25
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB12
4K029DB13
4K029DB18
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
本発明は、平面物体(2)、例えばストリップをコーティングするためのコーティングプラント(1)に関する。ストリップは、搬送ローラー(3a、3b)を使用して搬送される。コーティングプラント(1)は、
真空チャンバ(4)と、
蒸発部分(7)、ノズル部分(8)を備える材料の蒸着のための装置(6)と、
を備え、ノズル部分(8)は、ノズル出口を有するノズル(9)を備える。ノズル出口は、延長部分(D0)を有することができる。ノズル(9)は、方向(10)に回転可能に取り付けられている。さらなる概念は、平面物体をコーティングするための方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面物体(2)、好ましくはストリップ、特にストリップ鋼などのストリップ金属を、気相中の材料でコーティングするためのコーティングプラント(1)であって、
コーティングされる前記平面物体(2)を通して供給するための真空チャンバ(4)と、
前記材料を前記気相中に蒸発させるための蒸発部分(7)、および前記蒸発部分(7)に結合されたノズル部分(8)を有する、前記材料の前記蒸着の装置(6)と、を備え、前記ノズル部分(8)は、前記真空チャンバ(4)内に配置され、表面に作用して凝縮する材料で前記物体を連続的にコーティングするために、ノズル出口(11)から前記真空チャンバ(4)を通過する平面物体(2)のコーティングされる前記表面(2)に向かって前記気相中に存在する前記材料を誘導して排出するための前記ノズル出口(11)を有するノズル(9)を有し、
前記ノズル(9)は、コーティングされる前記表面に対する前記ノズル出口(11)の前記向きを変えるために回転可能に取り付けられている、
コーティングプラント(1)。
【請求項2】
前記ノズル出口(11)はスロットとして設計されることを特徴とする、請求項1に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項3】
前記ノズル(9)は、前記ノズル(9)が回転するとき、コーティングされる前記表面と平行な面内で前記ノズル出口(11)が回転運動を行うように取り付けられていること、および/または、
コーティングされる前記表面に対して前記ノズル(9)を回転させるための回転軸が垂直に配向されていること、
を特徴とする、請求項1または2に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項4】
前記ノズル(9)は、円筒形、好ましくは円形-円筒形の外部金型部を有し、前記外部金型部は、その円周の周縁部分において、またはその円周全体にわたって、歯が歯付されており、前記歯は、カウンタエレメント(13、16)を駆動することによって前記ノズル(9)を回転させるために、前記歯に係合する駆動可能な前記カウンタエレメント(13、16)と係合していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項5】
前記ノズル(9)は、円筒形、好ましくは円形-円筒形の外部金型部を有し、前記外部金型部は、その円周の周縁部分において、もしくはその円周全体にわたって歯が歯付されているスプロケット(12)に嵌め込まれているか、またはその円周の周縁部分において、もしくはその円周全体にわたって歯が歯付されているスプロケットを有し、前記スプロケット(12)は、前記カウンタエレメント(13、16)を駆動することによって前記ノズル(9)を回転させるために、前記スプロケット(12)に係合する駆動可能なカウンタエレメント(13、16)と係合していることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項6】
前記ノズル(9)と前記スプロケット(12)とが、前記ノズル(9)の前記外部金型部と前記スプロケット(12)との間に配置された熱絶縁手段(15)によって互いに熱的に絶縁されるように設計されており、
前記熱絶縁手段(15)は、好ましくは絶縁リングであり、特に好ましくはセラミック材料を有するか、またはセラミック材料からなる絶縁リングである、
ことを特徴とする、請求項5に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項7】
前記カウンタエレメント(13)は、前記真空チャンバ(4)から引き出されるシャフト(14)に結合されるピニオンであり、前記シャフト(14)は、前記シャフト(14)を回転させ、その結果として前記ノズル(9)を回転させるための回転駆動装置に結合されていることを特徴とする、請求項4から6のいずれか一項に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項8】
前記カウンタエレメント(16)は、前記真空チャンバ(4)から引き出されるシャフトに結合されるウォームシャフトであり、前記シャフトは、前記シャフトを回転させ、その結果として前記ノズル(9)を回転させるための回転駆動装置(19)に結合され、前記シャフトは、好ましくは、前記シャフトを冷却するための冷却剤フィードスルー(20)を有することを特徴とする、請求項4または5に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項9】
前記シャフトは、好ましくはユニバーサルジョイント(17)として設計された、横方向の運動の自由度を有する連結要素によって調整され、前記シャフトは、連結片およびそれに結合された横方向の駆動手段によって、前記スプロケット(12)との係合から外れ、かつ前記スプロケット(23)との係合に戻るように移動可能であることを特徴とする、請求項8に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項10】
前記回転軸は前記回転軸に垂直な方向に移動可能に設計されており、および/または、
前記回転軸は前記ノズル出口(11)に対して偏心して調整され、
前記回転軸は前記ノズル出口(11)に対して偏心して調整可能であり、および/または、
前記外部金型部は、少なくとも歯を有する周縁部分、好ましくは前記スプロケットの歯付き周縁部分において、前記歯の中心軸に回転軸を有する周縁部分、好ましくは前記スプロケットの前記歯付き周縁部分を有する円形-円筒形であり、さらに前記回転軸は前記ノズル出口に対して偏心して配置される、
ことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項11】
前記ノズル部分は、前記ノズル出口(11)を部分的にまたは完全に閉鎖するための少なくとも1つの閉鎖手段を有し、例えば、前記ノズル出口(11)に対する前記回転軸の前記偏心を調整するための移動可能なスライディングフラップとして設計され、前記ノズル出口(11)は、好ましくはスロットとして設計される、請求項10に記載のコーティングプラント(1)。
【請求項12】
前記気相中に存在する材料で、平面物体(2)、好ましくはストリップ、特にストリップ金属を、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングプラント(1)によってコーティングするための方法であって、前記ノズル(9)、特に前記ノズルのノズル出口(11)の長手方向延長部分は、前記平面物体(2)のその横方向の幅よりも大きく、コーティングされる前記表面に対する前記ノズル(9)の前記向きは、
前記全幅が前記ノズル出口(11)から出る材料でコーティングされ、
かつ、少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、前記表面を越えて向けられる材料が許容される最大オーバーハングを超えない、
ように前記ノズル(9)を回転させることによって変更される、方法。
【請求項13】
前記ノズル出口(11)の前記長手方向延長部分D0を有する前記ノズル(9)は、sin(アルファ’)×D0が、その全幅にわたって作用されている前記平面物体に対応するように、前記平面物体の搬送方向に対して回転角度アルファ’=アルファ×kを中心に回転され、kは経験的に決定された補正係数である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ノズルの前記向きは、
少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、前記表面を越えて向けられる材料が許容される最大オーバーハングを超えないように、および/または
前記ノズルの外部金型部は、少なくとも歯を有する周縁部分、好ましくは前記スプロケットの歯付き周縁部分において、前記歯の前記中心軸に回転軸を有する周縁部分、好ましくは前記スプロケットの前記歯付き周縁部分を有する円形-円筒形であり、さらに前記回転軸は前記ノズル出口に対して偏心して配置され、好ましくは、前記ノズルの前記向きは、少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、前記表面を越えて向けられる材料が許容される最大オーバーハングを超えないように調整されるように、
前記回転軸を前記回転軸に垂直な方向に移動させること、および/または
前記ノズルを前記ノズル出口に対して偏心した回転軸を中心に回転させること、
前記ノズル出口(11)に対する前記回転軸の偏心を調整すること、
によっても変更される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記回転軸は、D1/D2=デルタ1/デルタ2となるように、前記ノズル出口の前記長手方向延長部分D0=D1+D2を分割し、デルタ1は前記回転軸の第1の側における幅減少であり、デルタ2は前記回転軸の第2の側における幅減少である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
長手方向に変化する幅を有する平面物体(2)は、現在コーティングされる前記平面物体の長手方向位置の関数として、コーティングされる前記表面に対する前記ノズル出口(11)の前記向きの前記変更をその都度連続的に設定しながらコーティングされる、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面物体をコーティングするためのコーティングプラントおよび平面物体をコーティングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる蒸着の原理に基づく方法は、平面物体、例えばストリップ、特にストリップ鋼などのストリップ金属をコーティングするために知られている。蒸着は、気相中に存在する材料を堆積させることによって、例えばストリップ鋼またはガラス板などであり得る平面物体の表面をコーティングするという原理に基づいている。この目的のために、材料はまず、出発材料として提供される。その後、出発材料を気相に導入する。気相中に存在する材料の成分、特に原子および/またはイオンは、コーティングされる表面に沈降し、それによってコーティングを形成する。
【0003】
既知の蒸着法には、いわゆる化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)、物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)、および、いわゆるアーク蒸発がある。これらの方法は、特に、気相をもたらすために使用されるメカニズムの点で異なる。
【0004】
蒸着の利点の1つは、広い特性範囲の中で、その特性に大きな影響を与えることができるコーティングを、極めて経済的に製造できることである。別の利点は、蒸着がさまざまな材料のコーティングを製造するのに適していることである。蒸着は、例えば、高融点材料を含むコーティングの製造にも適している。蒸着はまた、材料が準安定相に存在し、それによって安定相状態には存在しない機械的特性や光学的特性などの特定の特性を有するコーティングを容易にする。
【0005】
最近開発された物理蒸着の変形例は、ジェット蒸着、もしくは略してJVDの名で当業者に知られている。ジェット蒸着は、材料を蒸着させるための装置の蒸発部分で、例えば、るつぼとして設計された蒸発器などで、出発材料を蒸発させ、比較的高い圧力で気相中に存在する材料を、蒸着によってコーティングされる表面の方向のノズル部分を通して目標に導くという原理に基づいている。この目的のために、蒸着によってコーティングされる表面は、通常、蒸発部分において広まっている雰囲気に対して、負圧の雰囲気に置かれる。多くの場合、負圧は、例えば0.1mbar~20mbar、好ましくは1mbar未満の残留ガス圧を有する真空である。JVD法は、特にストリップ金属、とりわけストリップ鋼の平面物体の大面積コーティングにおいて、その利点を明らかにする。JVDの利点は、気相中に存在する材料が蒸着によってコーティングされる表面に向けられる圧力が比較的高いため、高速ストリップでのコーティングが容易であり、その結果、極めて経済的であることである。
【0006】
国際公開第2016/042079号は、出発材料を気相に導入することができ、その結果、蒸着によってコーティングされる表面上に堆積させることができる装置を開示している。それぞれのコーティングを形成するために使用される材料は、例えばワイヤ状またはストリップ状である。蒸発部分の上流の予蒸発部分において、出発材料は、電気アークの影響範囲内に導入され、好ましくは、出発材料の2本のワイヤまたは2本のストリップが存在し、そのうちの1本は陰極とし、そのうちの1本は陽極として直流電圧源に接続され、直流電圧源を使用してアークを形成するのに十分な電圧が設定される。アークからのエネルギーによって溶解および/または蒸発した材料は、ガスまたはガス混合物のガス流によって、チャンバとして設計された蒸発部分に流れ込み、その壁は、コーティングプロセスに使用される材料の基本成分の蒸発温度を上回る温度を有する。チャンバ内において、材料の成分は完全に蒸発し、その後チャンバ内の開口部を通過してノズル部分に入り、このノズル部分を通ってコーティングされる表面の方向に導かれる。材料の成分はコーティングされる表面に作用し、そこでコーティングを形成する。
【0007】
冒頭で説明したJVDと、国際公開第2016/042079号に記載された材料の蒸着のための装置の例示的な実施形態は、いずれも蒸着の2つの例示であり、国際公開第2016/042079号の場合、蒸発部分内の出発材料は、アーク蒸発のための上流の予蒸発部分による蒸発によってその気相に追加的に導入され、その後、ノズル部分を通ってコーティングされる表面に導かれる。気相中に存在する粒子、特に原子および/またはイオンの運動は、少なくとも実質的に、好ましくは完全に、蒸発部分と、コーティングされる平面物体が配置されるか、またはそれを通って導かれる空間、例えば真空チャンバと、の間の圧力差によってもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/042079号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Komarenko, P., et al.“Handbook of Deposition Technologies for Films and Coatings Science, Applications and Technology”, 2010年、881頁~901頁,[2022年5月30日検索]、インターネット<URL:https://doi.org/10.1016/B978-0-8155-2031-3.00018-1>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
蒸発を利用した材料の蒸着のための装置によって平面物体をコーティングする場合、1つの課題は、平面物体の横方向において、例えばストリップ幅全体に沿って、コーティングの層厚の良好な均一性を得ることである。さらに、横方向の延長部分全体に沿って層厚分布の良好な均一性を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有する平面物体をコーティングするためのコーティングプラント、および請求項12の特徴を有する平面物体をコーティングするための方法によって達成される。
【0012】
本発明によるコーティングプラントは、平面物体をコーティングできるという目的を果たす。特に、ストリップ、好ましくはストリップ鋼などのストリップ金属を、平面物体として提供することができる。コーティングプロセスは、気相中に存在する材料を用いて、特に冒頭で説明したメカニズムの1つに基づいて実施される。
【0013】
コーティングプラントは真空チャンバを有し、そこにコーティングされる平面物体を導くことができる。
【0014】
コーティングプラントは、材料の蒸着のための装置も備える。蒸着装置は、特に蒸発部分およびノズル部分を備える。
【0015】
蒸発部分は、例えば蒸発るつぼとして設計され、好ましくは円筒形、特に円形-円筒形(circular-cylindrical)の部分を有する。蒸発部分は、部分的または完全にグラファイトまたは炭素繊維強化炭素(Carbon Fiber Reinforced Carbon:CFC)からなることが好ましい。出発材料の蒸発温度を上回る温度に蒸発部分を加熱するために、蒸発部分におけるベース部および/または壁、好ましくは全ての壁は、例えば加熱コイルによって加熱可能に設計される。
【0016】
「気相」および「蒸発」という用語は、記載された技術の分野で典型的なものであるため、本明細書全体を通じて使用されている。この場合の「気相」という用語は、気相中に存在する材料の低重量分率、例えば最大30重量%、好ましくは10重量%以下が、物理的な意味において気相中に存在せず、代わりにエアロゾルとして、および/またはクラスタとして存在する場合があるという事実を含む。「蒸発」という用語には、使用される材料および技術によっては、粒子が他のメカニズム、例えば昇華によって少なくとも部分的に気相に転移することも含まれる。したがって、「蒸発」という用語は、厳密な物理的意味での蒸発、すなわち「液相→気相」転移に加えて、さらなるメカニズム、特に昇華を追加的に含む。
【0017】
ノズル部分は、蒸発部分に間接的または直接的に結合されている。ノズル部分は、真空チャンバ内に配置され、気相中に存在する材料の成分がノズルから流出することができる開口部を備えるノズルを有する。ノズル出口は、ノズル出口から出る気相粒子が、コーティングされる表面、すなわち平面物体が配置されている場所に向けられるように、コーティングプラント内で配向されている。平面物体を真空チャンバに通過させることで、コーティングされる平面物体の表面は、その表面に連続的に塗布され、そこに堆積する凝縮材料でコーティングされる。
【0018】
本発明によれば、ノズルが回転可能に取り付けられていることが提供される。回転可能な取り付けは、コーティングされる表面に対するノズル出口の向きを変更するのに役立つ。ノズルは回転可能なように取り付けられ、コーティングされる表面に対するノズル出口の向きは可変であるため、気相中に存在する材料が平面物体の表面に向けられる方法を、目標とする方法で影響または調整することができる。特に好ましいのは、蒸発部分に寄り掛かるようにノズル部分が回転可能に取り付けられている、すなわち、蒸発部分がノズル部分のための滑り軸受として機能する実施形態である。このような実施形態において、特に、グラファイトおよび/またはCFDから部分的または完全に製造された蒸発部分は、炭素が天然の潤滑剤として機能するという利点をもたらす。代替的または付加的に、蒸発部分が構成する材料に関係なく、粉末および/またはペースト状のグラファイトを潤滑剤として使用し、この目的のために、互いに摺動する蒸発部分とノズル部分の隣接する表面間に導入することも可能である。
【0019】
ノズル出口は、例えばスロットとして設計することができる。ノズル出口は、少なくともコーティングプロセスが行われる部分において、コーティングされる表面と平行な平面内にあることが特に好ましく、特に好ましくは、ノズルは、コーティングされる表面の移動方向(搬送方向としても)に対してスロットが垂直に位置し、コーティングされる表面に対して垂直な回転軸を中心としてその周囲でスロットが回転可能である位置を想定することができる。特に、スロット状ノズルの長さは、搬送方向とスロット状ノズルとの間の90度の角度αにおいて、真空チャンバが設計されているフィードスルーのために、最大幅を有するストリップについて、平面物体の幅、例えばストリップ幅が完全に覆われるように選択されることを提供することができる。角度αを調整することで、ストリップ進行方向に対して垂直な有効コーティング幅を、係数sin(α)で変更することができる。このようにして提供される装置は、特に、意図された通りに平面物体をコーティングする場合、特に、スロット状ノズル出口の長手方向延長部分よりも小さいストリップ幅を有するストリップを、高い効率で容易にするのに適しており、表面のコーティングに利用されることなく、2つのストリップ端部を越えて真空チャンバ内で、気相中に存在する材料が堆積しないように、または許容量を超える材料の割合が堆積しないようにする。
【0020】
回転可能なノズルを設けることで、特に2つの利点が達成される。一方では、供給された出発材料が可能な限り効率的に配備および使用され、他方では、幅の狭いストリップをコーティングする際の真空チャンバの汚染が回避される。より一般的には、本発明によるコーティングプラントおよびその発展型により、経済性および効率を損なうことなく、搬送方向に対して垂直にコーティングされる表面の可能な幅に関して高い柔軟性があることが達成される。
【0021】
好ましい実施形態において、コーティングされる物体は、ストリップ、特にストリップ金属、例えば鋼製であり、コーティングプラントは、ストリップを搬送するためのベルト搬送装置を有し、好ましくは、真空チャンバの第1の端部における第1の搬送ローラー装置と、真空チャンバの第2の端部における第2の搬送ローラー装置とを備え、ストリップは、ノズルを通過して、第1の端部と第2の端部との間を通って搬送され、真空チャンバを通過する。
【0022】
好ましい実施形態において、ストリップは、ノズル出口とストリップ上の堆積物との間のガスの過剰な高冷却およびそれに起因する早期凝縮を防止するために、ノズル出口の領域において加熱されたチャネル内に導かれる。
【0023】
好ましい実施形態では、ノズルは、ノズルが回転するとき、ノズル出口が表面と平行な面内で回転運動を行うように取り付けられている。表面と平行に行われる回転の結果、すなわち、ノズル出口は、回転中にコーティングされる表面と平行な平面にある表面を描写し、ノズルが搬送方向に対して回転する回転角度に関係なく、横方向、すなわち、搬送方向に垂直な方向におけるコーティングされる表面の均質なコーティングが保証される。
【0024】
ノズルを回転させるための回転軸が、表面に対して垂直に配向されていることが特に好ましく、このことは、平面物体の搬送を考慮して、真空チャンバ内に蒸着装置を対応させて配置することにより、この発展型を実行するように委託された当業者によって従来の設計手段で常に実施することができる。
【0025】
特に好ましいのは、ノズル出口から出る気相中の材料が回転軸の方向にノズルから出るように、すなわち、例えばコーティングされる表面に対して回転軸が垂直に配向されている場合に、気相中の材料が、コーティングされる表面に対して垂直な方向に表面に作用するように、ノズル内に位置するノズル出口が形成されている実施形態である。また、ノズル出口が、気相中の材料の主な出口方向がノズル出口で表される領域を垂直に通過するように追加的に形状される場合、非常に特に好ましい。
【0026】
コーティングプラントの特に好ましい発展型において、ノズルは、円筒形、好ましくは円形-円筒形の外部金型部(external mold section)を有し、外部金型部は、その円周の周縁部分において、またはその円周全体にわたって、歯が歯付されている。歯は、歯に係合する駆動可能なカウンタエレメント(counterelement)と係合しており、カウンタエレメントを駆動することによってノズルが回転するようになっている。「外部金型部」という用語は、ノズル部分の一部を示し、その名称は、外部金型部の外側のケーシングが、その形状に起因する機能、例えば歯を備える機能を有するという事実に関連する。
【0027】
カウンタエレメントは、シャフトに結合されたピニオンであることが好ましい。好ましくは、シャフトは、既知の設計の適切なシールエレメントによって真空チャンバの外に導かれる。シャフトは、シャフトを回転させ、その結果ノズルを回転させるための回転駆動装置に結合されている。言い換えれば、ノズル、特にノズル出口は、ピニオンと係合する歯を介して真空チャンバ内に挿入されたシャフトによって、真空チャンバの外側から回転させることができる。コーティングプラントの特に好ましい展開において、ノズルは、円筒形、好ましくは円形-円筒形の外部金型部を有し、外部金型部は、スプロケットに嵌め込まれるか、またはスプロケットを備える。スプロケットは、スプロケットに係合する駆動可能なカウンタエレメントと係合しており、カウンタエレメントを駆動することによってノズルが回転するようになっている。
【0028】
カウンタエレメントは、シャフトに結合されたピニオンであることが好ましい。好ましくは、シャフトは、既知の設計の適切なシールエレメントによって真空チャンバの外に導かれる。シャフトは、シャフトを回転させ、その結果ノズルを回転させるための回転駆動装置に結合されている。言い換えれば、ノズル、特にノズル出口は、ピニオンと係合するスプロケットを介して真空チャンバ内に挿入されたシャフトによって、真空チャンバの外側から回転させることができる。特に好ましい実施形態では、ピニオンを備えるシャフトとノズルの回転軸とが互いに平行に配向されており、これは、コーティングプラントの潜在的に構造的な実施という利点に関連する。特に好ましくは、ピニオンとスプロケットの両方に平歯を設けることであり、その結果、特に実施しやすく機械的に堅牢な実施形態となる。
【0029】
スプロケットを備える一実施形態において、スプロケットは、例えば、その円周の周縁部分に、または例えば、その円周に完全に、歯を備える。好ましい実施形態では、ノズルおよびスプロケットは、ノズルの外部金型部とスプロケットとの間に配置された熱絶縁手段によって、互いに熱的に絶縁されるように設計されている。これにより、スプロケットおよびスプロケットに係合する駆動可能なカウンタエレメント、ならびに、真空チャンバから引き出される上述のシャフトなど、存在し、それに結合され得るさらなるエレメントが、高温による構造的完全性の早期の喪失から確実に保護される。このことは、特に、ノズルと間接的または直接的に接触する蒸発部分が、材料を蒸発させるために加熱され、使用される温度が、その蒸発温度に応じて、蒸発させる材料の関数として非常に高い値を想定することができるという事実に照らして有利である。
【0030】
熱絶縁手段は、絶縁リングとして設計されていることが好ましい。特に好ましくは、絶縁リングはセラミック材料を含むか、またはセラミック材料からなる。可能なセラミック材料の例としては、酸化アルミニウム(Al2O3)が挙げられる。セラミック材料を使用する利点は、化学的劣化に対する耐性が高く、熱伝導率が低いことである。
【0031】
代替的な実施形態では、カウンタエレメントは、真空チャンバから引き出されるシャフトに結合されるウォームシャフトとして設計されている。シャフトは回転駆動装置に結合され、シャフトは回転可能に設計されており、シャフトの回転がノズルの回転をもたらす。シャフトは、好ましくはノズルの回転軸に対して垂直に、好ましくはさらに歯、例えばスプロケットに対して接線方向に配向されており、歯、例えばスプロケットは、ウォームシャフトと相補的な方法で、すなわちヘリカル歯が歯付されている。シャフトは、好ましくは、シャフトを冷却するために冷却剤を通すことができる冷却剤フィードスルーを有する。この実施形態では、上記で説明した実施形態とは対照的に、スプロケットは、絶縁手段によって蒸発部分から絶縁されておらず、その代わりに、シャフト、好ましくはウォームシャフトの直接的な冷却は、シャフト内に配置された冷却剤フィードスルーに冷却剤を通すことによってもたらされ、この冷却剤フィードスルーは、冷却剤回路の構成要素であることが好ましい。
【0032】
特に好ましくは、シャフトは結合手段、例えばユニバーサルジョイントを備え、この結合手段によりシャフトは横方向の運動の自由度を与えられる。シャフトは、連結片とそれに結合された横方向駆動手段によって、歯、例えばスプロケットとの係合から外れ、かつ歯、例えばスプロケットとの係合に戻るように移動させることができ、移動の自由度は、好ましくは、ノズルの回転軸に対して垂直に配向される。ウォームシャフトが歯から離れ、例えばスプロケットから離れ、かつスプロケットに向かう可動性を提供することにより、ノズルの回転運動を生じさせるために実際に接触が必要な期間に接触時間を短縮することによって、ウォームシャフトおよびシャフトにかかる熱負荷を低減することができ、他の期間では、ウォームシャフトを遠ざけることによって、つまり、ウォームシャフトを、歯から、例えばスプロケットから離すことによって、ウォームシャフトおよびシャフトにかかる熱負荷を低減することができる。特別な場合には、ウォームシャフトを有するシャフトが、2つ前の段落で説明した冷却剤フィードスルーと、ノズルの回転軸に垂直な方向における前段落で説明した移動の自由度との両方を有し、加えて、スプロケットと外部金型部との間に熱絶縁手段を明示的に有しない、すなわち、ウォームシャフトおよびそれを駆動する軸に対する熱負荷の期間を最小化することが可能である結果として、熱絶縁手段を省くことができるという付加的な利点が達成されることが、提供される。特に具体的な実施形態では、歯はスプロケットとして実現され、スプロケットは外部金型部の一体部分である。
【0033】
特に好ましくは、回転軸はさらに、回転軸に垂直な方向に移動可能である。
【0034】
代替的にまたは付加的に、ノズル出口は回転軸に対して偏心して調整することができ、すなわち、ノズル入口および/または回転軸は、回転軸がノズル出口の対称点にないように調整することができる。スロット状のノズル出口を例にとると、これは例えば、回転軸は、好ましくはノズル出口と交差するが、ノズル出口を長さの異なる2つの長手部分に分割することを意味する。
【0035】
例えば、ノズル部分は、ノズル出口を部分的にまたは完全に閉鎖するための少なくとも1つの閉鎖手段、すなわち、ノズル出口を一時的に少なくとも部分的に閉鎖することができる機械的手段を有する。ノズル出口の一部閉鎖により、ノズル出口に対する回転軸の対称位置が、ノズル出口に対する回転軸の非対称位置に変更され、これにより、ノズル出口の開放されたままの部分に対する回転軸の偏心が調整される。このように、偏心の調整可能性は、ノズル出口から排出される材料が通過するノズル出口の表面部分を変更することによってもたらされるか、または比例してもたらされる。
【0036】
ノズル出口を調整するために、例えば、スライディングフラップとして設計された閉鎖手段を、ノズル出口を一端から部分的に閉鎖するために設けることができ、それによって、ノズル出口が回転軸の一方の側で他方の側よりも短くなるように、すなわち、回転軸が結果として生じるノズル出口に対して偏心して配置されるように達成される。このような場合、シャフトを回転させ、コーティングされる表面に射出される回転軸の長手方向延長部分を調整することによって、コーティングの適応をさらに柔軟に調整することができ、それによって、コーティングされる平面物体、特にストリップの柔軟な選択も保証される。
【0037】
ノズル出口の偏心運動をもたらすための代替的または付加的な手段として、歯付き周縁部分、好ましくはスプロケットの歯付き周縁部分において、外部金型部は、歯の中心軸に回転軸を有する周縁部分、好ましくはスプロケットの歯付き周縁部分を有する円形-円筒形であり、さらに回転軸はノズル出口に対して偏心して配置される、具体的な実施形態も提供することができる。例えばスプロケットの、歯付き周縁部分における外部金型部分が、例えばスプロケットの、歯付き周縁部分の中心軸を回転軸とする円形-円筒形であるという規定は、例えばスプロケットの、周縁部分が歯付き円形円筒の一部を表し、この歯付き円形円筒の軸がノズル部分の回転軸に対応することを意味すると理解されたい。この規定に加え、必要に応じて回転軸がノズル部分のノズル出口に対して偏心して変位する。ノズル部分のノズル出口に対する回転軸の偏心変位は、好ましくは、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸とノズル出口との交差点がノズル出口の対称点でないように理解されたい。ノズル出口がスロットとして設計される具体的な場合には、ノズル部分のノズル出口に対する回転軸の偏心変位は、好ましくは、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸の交差点がスロットの長手方向にスロットを半分にしないように理解されたい。特に有利な方法において、スロット形状のノズル出口の偏心回転は、特に好ましい実施形態の場合、スロットの長さがスロット幅の少なくとも20倍、好ましくは100倍に相当し、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸の交差点がスロットを2つの部分に分割し、長い方の部分が短い方の部分の長さの少なくとも110パーセント、好ましくは少なくとも120パーセントであるという効果を奏する。
【0038】
既に上述したように、「外部金型部」という用語は、ノズル部分の一部を指し、その名称は、外部金型部の外側のケーシングが、その形状に起因する機能、例えば歯を備えるという事実に関連する。スプロケットを備える実施形態において、外部金型部とは、例えば、軸方向におけるノズル部分のうち、スプロケットに嵌め込まれる部分である。
【0039】
代替的または付加的に、ノズル出口に対する回転軸の偏心方向は、ノズル出口がそれに応じて位置決めされることによって、例えば、外部金型部がその軸上に回転軸を有する円形-円筒形であるが、ノズル出口が回転軸から離隔しているか、または回転軸がノズル出口と交差するが、それを半分にしないことによって、設計上簡単な方法で実施することもできる。
【0040】
好ましい具体的な変形例では、材料の蒸着のための装置はジェット蒸着プラントであり、蒸発部分は、好ましくはるつぼとして設計される。当業者であれば、「ジェット蒸着プラント」という用語は、コーティング材料が熱を使用して気相にされ、次いで、典型的には不活性ガスのキャリアガス流で、好ましくは音速を上回る、特に好ましくは500m/sを上回るガス流速度で、基板に搬送されるプラントであると理解するであろう。この操作モードは、例えば、Handbook of Deposition Technologies for Films and Coatings Science, Applications and Technology, 2010, pp.881-901, https://doi.org/10.1016/B978-0-8155-2031-3.00018-1(出願日にリンク)の総説に記載されている。本発明は、このようなジェット蒸着プラントを用いて実現することができる。
【0041】
代替的な好ましい実施形態では、予蒸発部分が蒸発部分の上流に配置され、この予蒸発部分は、特に、スプレーヘッドへのキャリアガス流供給を含むスプレーヘッドと、スプレーヘッドから蒸発部分へ向かう噴射管とを備える。出発材料は、好ましくはワイヤまたはストリップの形でスプレーヘッドに供給される。出発材料は、スプレーヘッド内で処理される。これは、液相に存在する粒子として、好ましくは、陰極として接続された出発材料と陽極として接続された出発材料との間のアーク蒸発によって、蒸発および/または出発材料から出発材料の成分が分離されることを意味する。処理された出発物質は、完全に気相に存在するのではなく、特に気相と液体粒子または部分的に液体粒子との混合物からなり、この混合物は、そこで再蒸発させるために、すなわち、そこで行われる加熱によって完全にまたは大部分完全に気相に転換させるために、蒸発部分に導かれるのに適している。
【0042】
蒸発部分は、好ましくはるつぼとして設計される。蒸発部分は、処理された出発物質を気相に変換するために加熱される。蒸発部分を加熱する温度は、コーティング材料によって異なるが、一般的には、処理した出発材料の蒸発温度より高くなければならない。サイクロン形状は、るつぼを通してガス流を効率的に導くことができる省スペース設計であるため、蒸発部分は、好ましくはサイクロンとして設計されたるつぼとして設計される。サイクロンの形で設計されたるつぼのさらなる利点は、そこを流れる材料をほぼ完全に蒸発させるその高い信頼性であり、それによって堆積されたコーティングが高品質であることを保証し、適切に使用すれば、液相中にまだ存在するコーティング材料によるストリップへの衝撃は、事実上排除することができる。
【0043】
別の概念は、気相中に存在する材料で平面物体をコーティングするための方法に関する。コーティングには、冒頭で述べたタイプのコーティングプラントまたはその発展型の1つが使用される。例えばスロットとして設計されたノズルの長手方向延長部分は、その横方向(横方向:進行方向、例えばストリップの進行方向に垂直な表面上の方向)における平面物体の幅よりも大きい。コーティングされる表面に対するノズルの向きは、ノズル出口から出る材料でコーティングされる表面の横方向範囲全体がコーティングされ、かつ、少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、表面を越えて向けられる材料が許容される最大オーバーハングを超えないように、ノズルを回転させることによって変更される。
【0044】
上記の説明と同様に、1つの変形例によれば、ノズルの外部金型部は、少なくとも歯を有する周縁部分において、円形-円筒形であり、周縁部分の中心軸に回転軸を有するが、回転軸もノズル出口に対して偏心して配置されることを提供することができる。
【0045】
例えば、1つの変形例によれば、ノズルの外部金型部が、少なくともスプロケットを有する部分において、円形-円筒形であり、スプロケットの中心軸に回転軸を有するが、回転軸もノズル出口に対して偏心して配置されることを提供することができる。
【0046】
例えば、ノズル部分は、ノズル出口を部分的にまたは完全に閉鎖するための少なくとも1つの閉鎖手段、すなわち、ノズル出口を少なくとも部分的に一時的に閉鎖することができる機械的手段を備えることができる。ノズル出口の一部閉鎖に伴い、ノズル出口に対する回転軸の対称位置が、ノズル出口に対する回転軸の非対称位置に変更され、これにより、ノズル出口の開放されたままの部分に対する回転軸の偏心が調整される。このように、偏心の調整可能性は、ノズル出口から排出される材料が通過するノズル出口の表面部分を変更することによってもたらされるか、または比例してもたらされる。
【0047】
ノズル出口を調整するために、例えば、スライディングフラップとして設計された閉鎖手段を、ノズル出口を一端から部分的に閉鎖するために設けることができ、それによって、ノズル出口が回転軸の一方の側で他方の側よりも短くなるように、すなわち、回転軸が結果として生じるノズル出口に対して偏心して配置されるように達成される。このような場合、シャフトを回転させ、コーティングされる表面に射出される回転軸の長手方向延長部分を調整することによって、コーティングの適応をさらに柔軟に調整することができ、それによって、コーティングされる平面物体、特にストリップの柔軟な選択も保証される。
【0048】
コーティング前および/またはコーティング中の平面物体の寸法に応じて、閉鎖手段は、好ましくは、全幅がノズル出口から出る材料でコーティングされ、少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、表面を越えて向けられる材料が許容される最大オーバーハングを超えないように調整される。コーティングプロセス中に調整可能なように、閉鎖手段は、例えば、電気的または電磁気的に作動することができるアクチュエータに結合することができる。この手順の利点は、ノズル出口の開度を変更した結果、コーティングプラントの内部に作用する過剰なコーティング材料が減少し、コーティングプラントの清掃に必要な労力がそれによって削減されることである。
【0049】
歯付き周縁部分、好ましくはスプロケットの歯付き周縁部分において、歯の中心軸に回転軸を有する周縁部分、好ましくはスプロケットの歯付き周縁部分を有する円形-円筒形であり、さらに回転軸もまたノズル出口に対して偏心して配置される。例えばスプロケットの、歯付き周縁部分における外部金型部分が、円形-円筒形であり、例えばスプロケットの、歯付き周縁部分の中心軸を回転軸であるという規定は、例えばスプロケットの、周縁部分が歯付き円形円筒の一部を表し、この歯付き円形円筒の軸がノズル部分の回転軸に対応することを意味すると理解されたい。この規定に加え、必要に応じて回転軸がノズル部分のノズル出口に対して偏心して変位する。ノズル部分のノズル出口に対する回転軸の偏心変位は、好ましくは、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸とノズル出口との交差点がノズル出口の対称点でないように理解されたい。ノズル出口がスロットとして設計される具体的な場合には、ノズル部分のノズル出口に対する回転軸の偏心変位は、好ましくは、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸の交差点がスロットの長手方向にスロットを半分にしないように理解されたい。特に有利な方法において、スロット形状のノズル出口の偏心回転は、特に好ましい実施形態の場合、スロットの長さがスロット幅の少なくとも20倍、好ましくは100倍に相当し、回転軸がノズル出口と交差しないか、または、回転軸がノズル出口と交差する場合、回転軸の交差点がスロットを2つの部分に分割し、長い方の部分が短い方の部分の長さの少なくとも110パーセント、好ましくは少なくとも120パーセントであるという効果を奏する。
【0050】
柔軟性が存在しないにもかかわらず、記載された方法におけるノズル部分の形状の結果として偏心した回転軸を備えるコーティングプラントの実施形態は、潜在的に保守性の高い多数の構成要素が存在することなく、コーティングされる物体を、簡単な方法で、ノズル出口の形状のみによって、所望のように作用するという利点を有する。
【0051】
回転軸の偏心変位が上記のように対処される全ての場合において、当業者によって適切に実施されると、結果として、気相中に存在する材料が、コーティングされる表面に対して垂直に配向された出口方向にノズルから出ない場合に、塗布および層形成が改善される。その理由は、出口方向が垂直でないことに起因する回転中の表面に対する射出の非対称な歪みが、回転軸の偏心変位によって補正され得る、または部分的に補正され得るからである。
【0052】
方法の特に好ましい変形例によれば、ノズルは、D0のノズルの長手方向延長部分を有し、長手方向延在部分は、sin(α’)×D0が、その全幅にわたって作用されている平面物体に対応するように、平面物体の搬送方向に対して回転角α’=α×kを中心に回転する。係数kは、経験的に決定された補正係数で、好ましくは0.75~1.25の値を想定する。一方、説明した手順は、ノズルが長手方向延長部分を有し、長手方向延長部分がストリップの搬送方向に対してα=90度の回転角度で垂直に配向され、好ましくはノズル開口部もストリップ表面と平行な平面内にある、という概念からなる。理想化されたモデルでは、90度の向きから回転角αだけノズルを回転させると、平面物体上のコーティングの横方向範囲が減少し、ストリップの例では、幅の小さいストリップのみが、その横方向範囲全体にわたって完全にコーティングされることになる。言い換えれば、この手順によって、ノズル開口部から出る気相中に存在し、真空チャンバの内部でストリップ端部を越えて分布する材料の割合を最小限に抑えることができるため、より小さな幅を有するストリップも同様に高い効率でコーティングすることができる。係数kは、経験が示すように、実際のコーティングシナリオで一般的な比率が、上述の角度α=90度でコーティングされる物体の横方向延長部分において最大のコーティング幅を達成せず、その代わりに、特定の状況に応じて、経験的に補正されるべき個々のケースで偏差が存在するという事実を考慮に入れている。こうして説明された本発明の具体的な実施形態は、特に、経験的に決定された補正係数が存在し、使用されるという具体的なステップを含む。
【0053】
本発明による方法の発展型において、ノズルの向きが以下によっても変更されることが、さらに提供される。
回転軸を回転軸に垂直な方向に移動させること、または、
回転軸に対するノズル出口の偏心を調整することによる。この変更は、少なくとも一方の端部において、好ましくは両方の端部において、表面を越えて向けられる材料が、許容される最大オーバーハングを超えないように行われる。言い換えれば、材料が塗布される横方向延長部分の量の観点から、平面物体の表面に材料が塗布される横方向延長部分に加えて、ノズルの位置を平面物体、例えばストリップの搬送方向に対して垂直に変化させることによって、その位置も考慮することができる。
【0054】
特に好ましくは、回転軸は、回転軸がノズルをその長手方向延長部分D0において2つの部分D1およびD2に分割するように、ノズルに対して配置され、ここで、D0=D1+D2であり、これにより、D1/D2=デルタ1/デルタ2となり、ここで、デルタ1は、回転軸の第1の側における平面物体の幅の減少であり、デルタ2は、回転軸の第2の側における平面物体の幅の減少であり、特に、平面物体を搬送するために使用される搬送装置の対称軸に対する幅の減少である。この手段により、回転可能なノズルの向きの変更は、平面物体の両方の端部に平面物体の回転軸に対して対称に設けられた平面物体の横方向延長部分の変更に関して調整することができるだけでなく、横方向延長部分の非対称に実施された変更を考慮するために、回転可能なノズルの向きの調整もまた実施することができることが保証される。
【0055】
平面物体は、長手方向に変化する幅を有することが特に好ましい。例えば、平面物体はストリップ金属、特にストリップ鋼とすることができ、ストリップ鋼は、その長手方向の位置の関数として変化する横方向延長部分を有する。好ましい方法変形例によれば、このような平面物体がコーティングされ、コーティングプロセス中、コーティングされる表面に対するノズル出口の向きが連続的に調整され、その結果、ノズルの向きが、現在コーティングされる平面物体の長手方向位置にその都度調整される。この連続的な調整は、例えば光学的な長さ検出によって行われる、コーティングプロセス中の横方向延長部分のその場測定に基づくことができるか、あるいは、平面物体の横方向延長部分と、その長手方向位置との間に既知の依存関係がある場合には、コーティングプロセス中のノズル回転の時間依存制御に基づいて行うことができる。
【0056】
本発明の主題のさらなる詳細、特徴、および利点は、例として本発明の実施形態を示す図面に関連して以下の説明から得られる。
【0057】
上述および後述の特徴は、示した組み合わせだけでなく、他の組み合わせまたは単独でも使用することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図面は次のとおりである。
図1a】本発明によるコーティングプラントの概略図である。
図1b】本発明によるコーティングプラントの概略図である。
図2】回転可能に取り付けられたノズルの第1の実施形態の概略図である。
図3】回転可能に取り付けられたノズルの第2の実施形態の概略図である。
図4】ストリップの横方向におけるZnコーティング厚である。
図5】回転可能に取り付けられたノズルの第3の実施形態の概略図である。
図6】ノズルおよびノズル出口の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1aは、ストリップ金属2として設計された平面物体2をコーティングするように設計されたコーティングプラント1を示す。コーティングプラント1は、ストリップコーティングプラントとして設計されており、この理由から、ストリップ金属、特にストリップ鋼の製造およびコーティングの分野で知られているように、ストリップを搬送するための装置を備える。図示の実施形態では、ストリップは、搬送ローラー3a、3bによって搬送される。ストリップは、真空チャンバ4に挿入され、例えば0.1mbar~20mbarの圧力で真空が存在する真空チャンバに通される。
【0060】
ストリップは、真空チャンバ内を搬送方向5に導かれ、材料を蒸着するための装置6を通過し、この装置は、本実施形態では、その基本的な動作モードの点で当業者に知られているジェットPVD装置6として設計されている。蒸着装置では、気相中に存在する材料をストリップ金属の表面に向け、そこで凝縮によってコーティングを形成する。装置6は、材料を気相に蒸発させるための蒸発部分7と、蒸発部分7に結合されたノズル部分8とを有する。ノズル部分8は、特に、真空チャンバ4内に配置され、ノズル出口から出て気相中に存在する材料を表面に向けて導き、そこで凝縮させてコーティングを形成することができるようにするために、コーティングされるストリップの表面に向けられたノズル出口を有するノズル9を備える。ノズル8は回転可能に取り付けられ、蒸発部分7に結合されている。概略図では、蒸発部分7は真空チャンバ4内にも部分的に延びているが、これは必須でも必要でもなく、本発明の実施を任された当業者が必要に応じて実施することができる。しかし、ストリップの表面を確実にコーティングするために、ノズル9が真空チャンバ4内にノズル出口と一緒に配置されていることが不可欠である。
【0061】
ノズル9は、矢印10で表されるように、回転可能に取り付けられている。回転によって、コーティングされるストリップ2の表面に対するノズル出口の向きを変えることができ、図示の実施形態では、コーティングされる表面に対してノズル9の回転軸が垂直に配向されることに従って、かつノズル内に位置するノズル出口が、ノズル出口から出る気相中の材料が、回転軸の方向にノズルから出るような形状であることに従って、好ましい実施形態が選択された、つまり、コーティングされる表面に対して回転軸が垂直に向いている図示の例では、気相中の材料は、コーティングされる表面に対して垂直な方向の表面に作用する。
【0062】
図示の実施形態では、ノズル9は、長手方向延長部分D0を有するスロットの形態のノズル出口を備える。ノズル9がその回転軸を中心に回転するとき、ノズル9の回転運動がストリップ表面と平行な面内で行われ、同時にノズル出口が気相中に存在する材料の主な出口方向に対して垂直になるように、ノズルがノズル9に取り付けられるか、またはノズル出口がノズル9に配置される。図示の例では、ノズル9はストリップの搬送方向に対してゼロの角度αで配向されている。図の向きでは、ストリップの細いストリップのみがコーティングされる。対照的に、図示した回転軸を中心に90度回転させると、幅を有するストリップ、すなわち、本表現では紙面に垂直に配向されているその横方向の延長部分を有するストリップが、コーティングされることになり、これは、ストリップの長手方向延長部分D0に対応し、ノズル出口から流出する粒子の流れプロファイルに起因するわずかな偏差が可能である。
【0063】
図1bは、図1aに示されるコーティングプラント1を表す平面図である。特に、スロット11として設計されているノズル9のノズル出口11は、ストリップ2の搬送方向に対して90度の角度α、すなわち、図1aからの位置に対して90度回転されたと想定する。ノズル出口11の長手方向延長部分は、ストリップの横方向の幅よりも大きい。ストリップ2が、図1bに示されるものよりも横方向の幅が小さい場合、角度αを小さくすることによって、ストリップ幅が小さくなっているにもかかわらず、ノズル出口から出ない材料、またはノズル出口から許容されるわずかな量しか出ない材料が、ストリップ端部を通過して真空チャンバ内に、特にストリップの下方に位置する真空チャンバの領域内に入ることによって、コーティングの形成のためにもはや利用できなくなることが保証され得る。回転可能なノズルを設けることによって、ストリップの幅が異なっても、また同じストリップ内で幅が変わっても、効率的なコーティングが可能であることが保証される。
【0064】
図2は、本発明によるコーティングプラントの可能な構成要素としての蒸着装置の一実施形態の概略図を示す。図2に示されるノズル9は、スプロケット12がクランプされる円形-円筒形の外部金型部を有する。ピニオン13として設計されたカウンタエレメント13は、スプロケット12と係合している。ピニオン13は、真空チャンバ4から引き出されるシャフト14に結合されており、シャフトは、シャフトを回転させ、その結果ノズルを回転させるための回転駆動装置(図2には図示せず)に結合されている。高温のノズル9を駆動構成要素から確実に熱的に絶縁するために、セラミックリング15として設計された熱絶縁手段15が、ノズル9とスプロケット12との間に配置されている。
【0065】
図3は、本発明によるコーティングプラントの可能な構成要素としての蒸着装置のさらなる実施形態を示す。図2の実施形態とは対照的に、図3の実施形態では、ヘリカルスプロケット12が設けられており、このヘリカルスプロケット12は、ウォームシャフト16として設計されたカウンタエレメントと係合しており、そしてカウンタエレメントは、壁22を通って真空チャンバ4から引き出されるシャフトに結合されている。シャフトは、回転駆動装置19に結合されている。シャフトは、シャフトを冷却するための冷却剤フィードスルー20、すなわち、シャフトを貫通し、冷却剤回路の構成要素であるラインを有する。図2の実施形態では、こうしてスプロケット12に対する高温のノズル9の受動的な絶縁が設けられているのに対し、図3の実施形態では、ノズルに接触する要素の能動的な冷却が行われる。シャフトは、横方向の運動の自由度を有するユニバーサルジョイント17によって調整される。シャフトは、連結片23とそれに連結された横方向駆動手段を介して、スプロケットとの係合から外され、かつスプロケットとの係合に戻されることができる。シャフト18はまた、スプロケット12と間接的に接触する構成部品としてのシャフト18を能動的に冷却するために、給排ライン21を介して冷却剤回路に結合されている。
【0066】
図4はZnコーティングであって搬送方向に対して90度の角度で1回、45度の角度で1回塗布されたコーティングの層厚プロファイルを示している。ノズルを回転させることによって層の幅を調整することができることがわかる。
【0067】
図5は、回転可能に取り付けられたノズルの第3の実施形態の概略図である。第3の実施形態は、図2による実施形態の適応変形例であり、そのため、第3の実施形態と第1の実施形態との相違点のみが示されており、図2の説明も参照されたい。
【0068】
図5の概略図に基づいて、回転軸Dがノズル出口11に対して偏心して配置されることが達成される、3つの手段を説明する。
【0069】
第1の手段は、回転軸Dがノズル出口11に対して偏心して変位することであり、これは、スロット状のノズル出口を長手方向に半分に切断するノズル出口11の中心軸上にある対称点で、回転軸Dがノズル出口と交差しないように、ノズル出口の形状および位置ならびに回転軸Dが選択されていることを意味する。
【0070】
第2の手段は、本構造実施形態において、クランプ25によって特徴付けられる領域において軸方向に延びるノズルの部分である外部金型部は、点U1と、そこからU2に向かって反時計回りのシートレベルとの間の領域において、一方では歯を有し、他方ではこの部分において、歯の中心軸にノズル部分の回転軸Dを有する周縁部分U1-U2を有する円形-円筒形である、周縁部分から構成されることにある。一方、周縁部分に隣接する部分は円形-円筒形ではなく、より楕円形の形状を表す。これは、ピニオン13による駆動がU1-U2内でのみ可能であることを意味し、ノズル出口の偏心運動がもたらされるという所望の効果を有する。
【0071】
第3の手段は、ノズル部分が、ノズル出口を部分的に閉鎖することができるスライディングフラップ24を有していることである。
【0072】
図5に示され、上述された図2の実施形態の適応は、他の実施形態、例えば図3の実施形態においても同様に実施されることは言うまでもない。
【0073】
図6を使用して、ノズル出口に対して偏心した回転軸の効果を説明する。図6は、図5のノズル部分25に類似したノズル26の平面図である。ノズル26の回転軸D’は、ノズル出口11の中心Mに対してずれていることがわかる。変位は距離X0によって与えられる。図示されたノズル26では、軸D’を中心に矢印Uで特徴付けられる時計回りの回転中に、非対称性の部分的な補正を達成することができる。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】