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特表2024-525097部分的に変形可能なインペラ及び同インペラを組み込んだカテーテル血液ポンプ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】部分的に変形可能なインペラ及び同インペラを組み込んだカテーテル血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/13 20210101AFI20240702BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20240702BHJP
   A61M 60/414 20210101ALI20240702BHJP
   A61M 60/808 20210101ALI20240702BHJP
   A61M 60/857 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
A61M60/13
A61M60/237
A61M60/414
A61M60/808
A61M60/857
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500629
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 US2022036235
(87)【国際公開番号】W WO2023283250
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】63/219,257
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/858,615
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524008443
【氏名又は名称】エフビーアール メディカル, インク.
【氏名又は名称原語表記】FBR MEDICAL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ピフェリ,ピーター ジー.
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD10
4C077FF04
(57)【要約】
部分的に変形可能なインペラが少なくとも2つのブレードを有し、各ブレードの外縁が変形可能であり、外縁はブレードの幅の最も外側の5~20パーセントである。幾つかの実施形態では、カテーテル血液ポンプは、部分的に変形可能なインペラを組み込む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に変形可能なインペラを含む装置であって、前記部分的に変形可能なインペラは少なくとも2つのブレードを有し、各ブレードの外縁が変形可能であり、前記外縁は前記ブレードの幅の約5~約20パーセントである、装置。
【請求項2】
前記少なくとも2つのブレードは材料を含み、前記材料のデュロメータ硬度は前記ブレードの前記外縁においては低い値を有し、前記材料の前記デュロメータ硬度は、前記ブレードの前記外縁から離れたところでは相対的に高い値を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つのブレードのそれぞれは、デュロメータ硬度が相対的に低い第1の材料と、デュロメータ硬度が相対的に高い第2の材料と、を含み、前記第1の材料は、前記ブレードのそれぞれの前記外縁に配置されており、前記第2の材料は、前記ブレードのそれぞれの前記外縁から離れたところに配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つのブレードのそれぞれは、第1の材料及び第2の材料を含み、前記第1及び第2の材料の濃度は、前記ブレードのそれぞれの前記外縁からの近さに応じて変化している、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも2つのブレードは繊維複合材料を含み、前記繊維複合材料の繊維体積率は、前記ブレードの前記外縁において相対的に低く、前記ブレードの前記外縁から離れたところで相対的に高い、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つのブレードは、繊維及び樹脂基体を含む繊維複合材料を含み、前記繊維複合材料の第1の特性は、各ブレードの非変形可能部分と各ブレードの前記外縁との間で異なり、前記第1の特性は、繊維の長さ、繊維の配向、繊維のタイプ、及び樹脂のタイプからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも2つのブレードは、それらの前記外縁において相対的に薄く、それらの前記外縁から離れたところで相対的に厚い、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも2つのブレードのそれぞれは、それらの前記外縁の近くに配置されたパッシブヒンジを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記部分的に変形可能なインペラが変形可能であることは、
(i)前記ブレードのそれぞれを形成する1つ以上の材料のデュロメータ硬度を、各ブレードにおいて前記デュロメータ硬度が、前記ブレードのそれぞれの、前記外縁において相対的に低く、前記外縁から離れたところで相対的に高くなるように変化させることと、
(ii)前記ブレードのそれぞれの厚さを、各ブレードにおいて、前記ブレードが、その前記外縁において相対的に薄く、その前記外縁から離れたところで相対的に厚くなるように変化させることと、
(iii)各ブレードの前記外縁の近くに配置されたパッシブヒンジと、
からなる群から選択される少なくとも1つの物理的適合に由来する、
請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記装置はカテーテル血液ポンプであり、前記カテーテル血液ポンプは、患者の血管系に挿入される複数の固定径チューブを含み、前記カテーテル血液ポンプは、
前記部分的に変形可能なインペラであって、モータと作用的に結合されていて、第1の(未変形の)直径を有する前記部分的に変形可能なインペラと、
圧潰状態から膨張状態へと膨張可能なインペラハウジングと、
シースであって、前記シースは、前記複数の固定径チューブのうちの最大の外径を有し、前記第1の(未変形の)直径は、前記部分的に変形可能なインペラが前記シース内にあるには大きすぎる、前記シースと、
アクチュエータであって、前記アクチュエータは、前記カテーテル血液ポンプを少なくとも2つの物理的形態にするように物理的に適合されており、前記少なくとも2つの物理的形態は、
a)前記インペラハウジングが前記圧潰状態で前記シース内にあり、前記部分的に変形可能なインペラが、前記インペラハウジングより遠位にあり、前記カテーテル血液ポンプの最遠位特徴物である、第1の形態と、
b)前記インペラハウジングが、前記シースの外にあり、前記シースより実質的に遠位にあり、前記膨張状態であり、前記部分的に変形可能なインペラが前記インペラハウジング内の前記インペラハウジングの近位端部に配置されている、第2の形態と、
を含む、前記アクチュエータと、
を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
カテーテル血液ポンプであって、前記カテーテル血液ポンプは、患者の血管系に挿入される複数の固定径チューブを含み、前記カテーテル血液ポンプは、
第1の(未変形の)直径を有する部分的に変形可能なインペラであって、少なくとも2つのブレードを有し、各ブレードの外縁が変形可能であり、前記外縁は前記ブレードの幅の約5~約20パーセントである、前記部分的に変形可能なインペラと、
駆動ケーブルであって、前記駆動ケーブルの近位端部においてモータと作用的に結合されていて、前記駆動ケーブルの遠位端部において前記部分的に変形可能なインペラと作用的に結合されている、前記駆動ケーブルと、
シースであって、前記シースは第2の直径を有し、前記第2の直径は、前記シースの外径であり、前記複数の固定径チューブのいずれのうちでも最大の直径であり、前記第1の(未変形の)直径は、少なくとも前記第2の直径と同等である、前記シースと、
インペラハウジングであって、
(a)前記インペラハウジングが前記シースとともにある圧潰状態と、
(b)前記インペラハウジングが前記シースの外にあり、前記インペラハウジングの内径が前記第1の(未変形の)直径より大きい膨張状態と、
を有する前記インペラハウジングと、
を含むカテーテル血液ポンプ。
【請求項12】
前記インペラハウジングが前記圧潰状態のときは、前記部分的に変形可能なインペラは前記シースの遠位端部に配置されており、前記部分的に変形可能なインペラの大部分が前記シースの外にある、請求項11に記載のカテーテル血液ポンプ。
【請求項13】
患者の血管系に挿入される複数の固定径チューブを含むカテーテル血液ポンプであって、前記カテーテル血液ポンプは、
第1の(未変形の)直径を有する部分的に変形可能なインペラであって、少なくとも2つのブレードを有し、各ブレードの外縁が変形可能であり、前記外縁は前記ブレードの幅の約5~約20パーセントである、前記部分的に変形可能なインペラと、
第2の外径を有するシースであって、前記第1の(未変形の)直径は、少なくとも前記第2の外径と同等である、前記シースと、
インペラハウジングであって、
(a)前記インペラハウジングは前記シース内にあり、更に、前記部分的に変形可能なインペラは前記カテーテル血液ポンプの遠位端部にある、第1の状態と、
(b)前記インペラハウジングが前記シースの外にあり、前記部分的に変形可能なインペラが前記インペラハウジング内の前記インペラハウジングの近位端部にある、第2の状態と、
を有する前記インペラハウジングと、
を含むカテーテル血液ポンプ。
【請求項14】
患者の血管系に挿入される複数の固定径チューブを含むカテーテル血液ポンプであって、前記カテーテル血液ポンプは、
第1の(未変形の)直径を有する部分的に変形可能なインペラであって、少なくとも2つのブレードを有し、各ブレードの外縁が変形可能であり、前記外縁は前記ブレードの幅の約5~約20パーセントである、前記部分的に変形可能なインペラと、
シースであって、前記シースは、前記固定径チューブのうちで最も大きく、前記第1の(未変形の)直径の結果として、前記部分的に変形可能なインペラは前記シース内に収まらない、前記シースと、
インペラハウジングであって、直径が膨張可能且つ収縮可能な前記インペラハウジングと、
アクチュエータであって、前記アクチュエータは、前記カテーテル血液ポンプを第1の状態にするために前記インペラハウジングの直径を膨張させることと、前記カテーテル血液ポンプを第2の状態にするために前記インペラハウジングの直径を収縮させることと、を行うように動作可能であり、
a)前記第1の状態では、前記カテーテル血液ポンプはポンプ動作を行うように構成されており、(i)前記インペラハウジングは直径が膨張した状態であり、(ii)前記部分的に変形可能なインペラが前記インペラハウジング内に配置されており、
b)前記第2の状態では、前記カテーテル血液ポンプは前記血管系内を動くように構成されており、(i)前記インペラハウジングは直径が収縮した状態であり、前記シース内に配置されており、(ii)前記部分的に変形可能なインペラは、前記カテーテル血液ポンプのどのチューブにも他の構造物にも収容されない、
前記アクチュエータと、
を含むカテーテル血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本明細書は、参照によって本明細書に組み込まれている、2021年7月7日に出願された米国特許出願第63/219,257号の優先権を主張するものである。本明細書は又、参照によって本明細書に組み込まれている米国特許第10,668,195号に関連している。
【0002】
本発明は、全般的には、カテーテルポンプ、及びカテーテルポンプとともに使用されるインペラに関する。
【背景技術】
【0003】
心不全を抱える一部の患者、及び心不全を発症するリスクを抱える患者の一部は、医療処置又は手術の前又は途中に、且つ/又は回復期の間に、心臓を一時的に補助することを意図された介入を受ける。この介入は、通常は一週間も続かないが、数週間続くこともある。このような介入として、薬及び/又は医療機器(心臓補助装置を含む)がある。
【0004】
幾つかの心臓補助装置は、心臓のポンプ動作を補助するポンプを含む。このような「血液ポンプ」は、心臓のポンプ機能の一部を担うことにより、心臓の負荷を軽減して心臓の回復を助ける。心臓補助装置は、一時的なものであることも永久的なものであることもありうる。
【0005】
幾つかの血液ポンプは経皮的であり、インペラは(そして装置によってはポンプのモータも)一時的に患者の体内に置かれる。このような血液ポンプは、カテーテルと結合されることが多いため、「カテーテル血液ポンプ」と呼ばれている。幾つかのカテーテル血液ポンプは、確立されたカテーテル検査技術で患者に挿入され(典型的には大腿動脈又は橈骨動脈から入って)血管系内を進んで患者の心臓に至る。この方式は、心臓手術や他の比較的複雑な処置に比べて侵襲性が著しく低い。
【0006】
カテーテル血液ポンプは血管系を通って心臓まで進むため、カテーテル血液ポンプの最大特徴物の許容可能な直径に関して制限がある。具体的には、血管系の外傷や挿入のための手術に伴う外傷を最小限に抑えるために、カテーテル血液ポンプの直径が可能な限り小さいことが望ましく、好ましくは16Fr未満、より好ましくは12Fr未満であることが望ましい。又、患者にとって十分な循環を実現するためには、そのようなポンプのポンピング能力が大きいことが望ましく、好ましくは毎分2リットル、或いは更に大きいことが望ましい。更に、そのようなポンプは、血液を溶血の形で損傷すること(即ち、赤血球の破壊)を可能な限り避けなければならない。
【0007】
固定径の非圧潰可能/非膨張可能インペラを有するポンプの場合は、一般にシースと呼ばれる最も外側のチューブが通常は最大径の特徴物であり、一方、血液ポンプのうちの、血管系内に導入されることを意図されている他の要素(例えば、インペラハウジング、インペラ等)はシース内に収容されている。従って、インペラの直径は必然的に、シースより小さく、インペラハウジングより小さい。この結果として、典型的には、インペラの直径は9~12Frの範囲であり、このことは、毎分約2リットル超のポンプ流量を発生させる上での重大な制限となる。
【0008】
この問題を認識して、膨張可能インペラを有するカテーテル血液ポンプが提案されてきた。膨張可能インペラは、体内に挿入されて、血管系を通って大動脈又は心臓まで送達される際には、(例えば、インペラブレードを折り畳む/曲げる/ヒンジ式にすること等により)圧潰して非常に小さな直径になってチューブ(例えば、シース等)内に収まる。ポンプが配置されたら、膨張可能インペラは(例えば、チューブを部分的に後退させること等により)チューブの拘束から解放されて、その直径では患者の血管系に収まらないであろう大きな直径まで膨張する。通常、膨張可能インペラは、膨張可能インペラと同時にシース/チューブから解放される膨張可能ハウジングを伴っており、これら両方の直径が膨張することが可能になっている。
【0009】
この、直径が大きくなったインペラは、少なくとも理論的には、直径が大きくない場合に可能なポンピング能力より著しく大きなポンピング能力を発揮する。しかしながら、膨張可能インペラの設計には、インペラ自体の設計を含む実装上の重大な課題、並びに、急速回転するインペラブレードと周囲のインペラハウジングとの間のギャップを繰り返し正確に制御することに関連する問題がある。更に、実験及びシミュレーション(即ち、計算流体力学)により、提案された膨張可能インペラ設計のほとんどが、血流を発生させることに関して、幾つかの固定径のインペラ設計で達成可能なものに比べて相対的に効率が悪いことが示されている。
【0010】
米国特許第10,668,195号(‘195特許)は、膨張可能カテーテル血液ポンプの要素(即ち、膨張可能インペラハウジング)と非膨張可能血液ポンプの要素(固定径インペラ等)とを組み合わせた経皮式カテーテル血液ポンプを開示している。その血液ポンプの主要な要素として、シース、膨張可能インペラハウジング、及び固定径インペラがある。幾つかの実施形態では、体外のモータと作用的に結合された駆動ケーブルが、インペラの回転を駆動するトルクを伝達する。
【0011】
‘195特許で開示された血液ポンプの場合、血管系の直径によって課せられる制限とぶつかる特徴物は、固定径インペラを取り巻くいずれの構造物(例えば、インペラハウジング、シース等)の直径でもなく、固定径インペラの直径である。そのような実施形態では、固定径インペラの直径は、少なくとも、カテーテル血液ポンプの、体内に入る、他のどの特徴物の外径とも同等である。つまり、固定径インペラを有するカテーテル血液ポンプの場合は、‘195特許で開示された設計であればインペラの直径が最大になる。
【0012】
‘195特許で開示されている血液ポンプのインペラは固定径であり、それゆえ膨張しないため、その設計は、血液動力学及びポンピング効率の考察に基づいており、膨張可能インペラの実施詳細には無関係である。この結果、インペラ設計はより効率的になる。更に、‘195特許の固定径インペラは、他の固定径インペラに比べてサイズが相対的に大きいため(例えば、固定ブレード円径が約14Fr~約16Frの範囲である)、所与のポンプ流量を発生させることが、既存のカテーテル血液ポンプで使用される固定径インペラより相対的に低い回転速度で回転することで可能である。このように回転速度が低くなると、結果として、せん断応力が小さくなり、従って、患者の血液の溶血が少なくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の技術における課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の幾つかの実施形態は、部分的に変形可能なインペラを提供し、他の幾つかの実施形態は、そのような部分的に変形可能なインペラを組み込んだカテーテル血液ポンプを提供する。本明細書に開示の幾つかの実施形態では、部分的に変形可能なインペラは、‘195特許で開示されたカテーテル血液ポンプとともに使用される。
【0015】
‘195特許で開示された血液ポンプの、露出している固定径インペラは、そのポンプの挿入又は取り出しの際に血管系に外傷を引き起こしうる可能性がある。本発明の教示によれば、‘195特許の血液ポンプのようなカテーテル血液ポンプとともに使用されるインペラは、部分的に変形可能なインペラブレードを有する。具体的には、インペラブレードの最も外側の部分(ブレードの幅の約5%~約20%)が変形可能である。これにより、固定径インペラより傷つけないインペラが得られる。
【0016】
本発明の教示による部分的に変形可能なインペラの変形が起こるのは、例えば、インペラの公称直径(未変形の直径)より小さい内径を有する血管にインペラが入る場合である。変形は、大動脈弓のような、血管中の小半径の湾曲部をインペラブレードが横切る際にも起こりうる。もちろん、従来の膨張可能インペラを有する血液ポンプの場合には、シースは通常、インペラの(全体的な)変形を引き起こす。但し、‘195特許で開示されたようなカテーテル血液ポンプとともに使用される場合、インペラの(部分的な)変形を引き起こすのは患者の解剖学的構造だけである。
【0017】
インペラが、直径方向に対向する2つのブレードを含むと仮定すると、インペラ全体の直径は、幾つかの実施形態では、最大で約40%(両ブレードが最大変形した場合)小さくなることが可能である。注目すべき点として、血管のサイズに応じて、或いは、小半径の湾曲部を横切る際に、一方のインペラブレードだけが変形することが可能である。
【0018】
本発明の教示による部分的に変形可能なインペラブレードの製造は、(1)インペラブレードの材料組成を変えること、(2)ブレードの厚さを変えること、(3)物理的設計の考察、又はこれらの任意の組み合わせによって可能である。
【0019】
本発明による部分的に変形可能なインペラの変形可能性は最小限であるため、(典型的には膨張量の範囲が約300%~500%である)膨張可能なインペラ設計に通常はつきものの妥協が存在しない。従って、‘195特許で開示された固定径インペラを有する血液ポンプと同様に、本明細書に開示の部分的に変形可能なインペラは、血液動力学及びポンピング効率の考察に重点を置いた設計が可能である。
【0020】
更に、本発明の教示による部分的に変形可能なインペラは、その変形可能性により、例えば、‘195特許で開示された固定径インペラより少し大きいことが可能である。
【0021】
前述のように、幾つかの先行技術のカテーテル血液ポンプは膨張可能インペラを含む。それらの血液ポンプは、ブレードがシュラウド内に拘束された、高度に圧潰した/圧縮された状態のインペラとともに血管系に挿入される。そのようなポンプが解剖学的構造における動作位置まで進む際に、シュラウドの一部が引き出されてインペラが解放され、それによってインペラは、圧潰されたサイズの何倍にも膨張することが可能になる。本発明の部分的に変形可能なインペラの動作はこれとは異なる。この部分的に変形可能なインペラは、必要に応じて、患者の解剖学的構造によって変形され、カテーテル血液ポンプが血管系内を進むにつれて、変形した状態と変形していない状態とを繰り返すことが想定される。従って、この部分的に変形可能なインペラは、動作位置に到達したときに先行技術の膨張可能ポンプのように膨張するのではなく、血管系内を進むにつれて、必要に応じて変形する。
【0022】
読みやすさを促進するために、特徴物は必ずしも正しい縮尺では描かれておらず、これは、カテーテル血液ポンプの特徴物のサイズの範囲が広いためである。更に、内部を示す図では、必要に応じて、全てではない幾つかの特徴物を断面で示している場合があるが、これは、付随する説明に関連する特徴を最良の形で伝えるためである。同じ理由で、全ての内部特徴物を「破線」で表しているわけではないのは従来通りである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】本発明の例示的実施形態によるカテーテル血液ポンプの遠位部分を示す。
図1B】分かりやすくするために幾つかの特徴物を省略して、図1Aのカテーテル血液ポンプの遠位部分を示す。
図1C図1Bから省略された、図1Aのカテーテル血液ポンプの特徴物を示す。
図1D図1Aのカテーテル血液ポンプのベアリング及び関連する特徴物の詳細を示す。
図2A図1Aのカテーテル血液ポンプの遠位部分の第1の形態を示す。
図2B図1Aのカテーテル血液ポンプの遠位部分の過渡的形態を示す。
図2C図1Aのカテーテル血液ポンプの遠位部分の第2の形態を示す。
図3】本発明の例示的実施形態によるカテーテル血液ポンプの使用方法を示す。
図4A図3の方法の操作の幾つかを実施するためのアクチュエータを内蔵しているハンドルを示す。
図4B図4Aのハンドルの一部分の更なる詳細を示す。
図5A】血管系への導入のために構成された、図1Aのカテーテル血液ポンプの近位端部及び遠位端部を示す。
図5B】ポンプ動作のために再構成されつつある中間的構成の、図1Aのカテーテル血液ポンプの近位端部及び遠位端部を示す。
図5C】ポンプ動作のために構成された、図1Aのカテーテル血液ポンプの近位端部及び遠位端部を示す。
図5D】血管系からの引き抜きのために再構成されつつある中間的構成の、図1Aのカテーテル血液ポンプの近位端部及び遠位端部を示す。
図5E】血管系からの引き抜きのために構成された、図1Aのカテーテル血液ポンプの近位端部及び遠位端部を示す。
図6図1Aのカテーテル血液ポンプの体外特徴物を示す。
図7】本発明の一例示的実施形態による部分的に変形可能なインペラを示す。
図8図7の部分的に変形可能なインペラのブレードの側面断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義。以下の語句の定義は、添付の特許請求項を含む本明細書とともに使用するためのものである。
【0025】
「約」又は「ほぼ」は、公称値の±15%を意味する。
【0026】
「軸方向」は、デバイス又は特徴物の方位のことを言う場合には、デバイス/特徴物が(駆動ケーブルに沿って)存在する位置における駆動ケーブルの方位に平行な方向を参照する。
【0027】
「カテーテル」又は「カテーテルアセンブリ」は、これらの用語が血液ポンプの技術分野及び本明細書で使用される場合には、カテーテル血液ポンプの一部を成す複数のチューブをひとまとめにしたものを意味する。
【0028】
「遠位」及び「近位」。本明細書に記載のカテーテル血液ポンプの文脈では、「遠位」は、駆動モータをインペラに接続する駆動ケーブルの第1の端部から相対的に遠い側を意味する。駆動モータは、駆動ケーブルの近位端部に位置し、インペラは、駆動ケーブルの遠位端部に配置される。カテーテル血液ポンプの特定の特徴物(例えば、インペラハウジング、ベアリング等)の「遠位」端部の参照は、血管系内を進む、相対的に遠い端部(又は駆動ケーブルの遠位端部に相対的に近い端部)を意味する。逆に、カテーテル血液ポンプの特定の特徴物の「近位」端部の参照は、駆動ケーブルの近位端部に相対的に近い端部を意味する。
【0029】
「ブレード円」。この用語は、回転するインペラブレードの外周によって範囲が定まる「円」を意味する。
【0030】
「作用的に結合されている」は、1つのデバイスの動作が別のデバイスに作用することを意味する。例えば、駆動ケーブルがインペラに「作用的に結合されている」場合、駆動ケーブルはインペラを駆動する(即ち、インペラを回転させる)ことが可能である。作用的に結合されているデバイス同士は、互いに物理的に直接結合されていなくてもよい(即ち、作用的に結合されているデバイス同士の間に(例えば、他のデバイス、チューブ、流体等の)中間的なリンク機構が存在してよい)。
【0031】
「近接」は「~の近く」を意味する。
【0032】
他の定義は、本開示の別の場所の文脈中に与えられている場合がある。
【0033】
本発明の例示的実施形態は、部分的に変形可能なインペラを含む装置である。本文脈では、「部分的に変形可能な」は、ブレードの外縁(ブレードの最も外側の部分)が変形可能なインペラを意味する。本明細書及び添付の特許請求項では、インペラブレードのことを言うときの「外縁」又は「外縁領域」又は「変形可能部分」という用語は、ブレードの幅の最も外側の約5パーセントから約20パーセントを意味する。従って、変形可能部分は、最小で個々のブレードの幅の約5パーセント、最大で個々のブレードの幅の約20パーセントでありうる。
【0034】
幾つかの実施形態では、本装置はカテーテル血液ポンプであり、例えば、‘195特許で開示されたカテーテル血液ポンプである。本カテーテル血液ポンプは経皮的デバイスであり、その一部分が患者の体の外側(体外)に残り、一部分が患者(生体内)に挿入されて心臓又は心臓付近まで進む。具体的には、数ある要素の中でも特に、血液ポンプのインペラ及びインペラハウジングが患者に挿入される。
【0035】
部分的に変形可能なインペラ。図7は、部分的に変形可能なインペラ(「PDI」)120を示す。PDI120は、ハブ780及びブレード782を含む。各ブレードは、ほぼ非変形可能な部分784と、外縁領域/変形可能部分/外縁786とを含む。本明細書に開示の部分的に変形可能なインペラは、以下の技法のうちの少なくとも1つを用いて製造可能である。
【0036】
材料の選択による変形可能性。幾つかの実施形態では、ブレード782のデュロメータ硬度は、ハブ780の近くの相対的に高いデュロメータ硬度から、外縁786のほうに近い相対的に低いデュロメータ硬度まで減少する。「ショアA」硬度計は、可撓成形ゴムの硬度を測定し、その硬度範囲は、非常に軟らかく撓みやすい硬度から、中間的な多少撓みうる硬度を経て、ほぼ全く可撓性がない硬度までである。ショアA硬度計の上限付近では、半剛体プラスチックも測定可能である。「ショアD」硬度計は、硬質ゴム、半剛体プラスチック、及び硬質プラスチックの硬度を測定する。例えば、固形ゴムの消しゴムのショアA硬度は約40(40A)であり、靴のヒールのショアA硬度は約80(80A)である。靴のヒールのショアD硬度は約30(30D)であり、ショッピングカートのホイールのショアD硬度は約50(50D)である。
【0037】
PDI120の幾つかの実施形態では、ブレード782の、ハブ780に最も近い部分の硬度は約70D~約85Dの範囲であり、外縁領域786(即ち、ブレード782の先端近く)の硬度は約35D~約45Dの範囲である。当業者であれば、本開示と関連して、外縁領域786用、非変形可能部分784用、及びハブ780用として、それぞれ適切なデュロメータ硬度を選択することが可能であろう。
【0038】
幾つかの実施形態では、硬いハブ780から変形可能なブレード外縁786へと徐々に移り変わるように、1つの材料を様々なデュロメータ硬度で製造して使用する。
【0039】
幾つかの実施形態では、幾つかの材料(例えば、限定ではなく、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、アセタールデルリン、及びPEBAX(登録商標)(アルケマ(Arkema)から調達可能))の組み合わせを混合して適切に使用することが可能である。例えば、そのような幾つかの実施形態では、上述の材料のうちの少なくとも2つを使用して、硬度が、ハブ780の最も近くでの相対的に最大の硬度から、ブレード782の先端の最も近くでの相対的に最小の硬度へと適切に移り変わるブレード782が形成される。これは、(それぞれが異なるデュロメータ硬度で形成されている)各材料の相対的な濃度を変えて所望のデュロメータ硬度を実現することにより、達成可能である。他の幾つかの実施形態では、各材料の相対的な濃度が相対的に一定に保たれ、各材料が、単純に、異なるデュロメータ硬度になるように形成される。
【0040】
他の幾つかの実施形態では、複数の材料を使用してデュロメータ硬度の移り変わりを形成することが可能である。例えば、幾つかの実施形態では、ブレード782の形成に使用する材料を半径方向の位置に応じて変えてよい(例えば、第1の材料を使用してハブ780及び非変形可能部分784を製造し、第2の材料を使用して変形可能部分786を形成する)。又はより大まかには、相対的にハブ780に近い部分に第1の材料を使用し、ブレード782の変形可能部分786には第2の材料を使用する。そのような実施形態の幾つかでは、材料間の移り変わりに加えて、ハブ780から半径方向に遠ざかるにつれて、所与の材料の硬度を変えていく。当業者であれば、本開示と関連して、変形可能部分786、非変形可能部分784、及びハブ780の製造用として、それぞれ適切な材料を選択することが可能であろう。
【0041】
幾つかの実施形態では、インペラの製造に繊維複合材料が使用される。そのような実施形態では、繊維体積率(樹脂基体中の繊維の体積)が変えられ、インペラブレードの外縁近くでは繊維体積率(FVF)が小さくなる。この結果として、インペラブレードの外縁では、インペラブレードの、インペラハブに近い部分に比べて弾性係数が相対的に小さくなる。複合材料は、弾性係数が大きいほど変形しにくい。例えば、繊維体積率が2倍になれば、他の要因次第で弾性係数も2倍になりうる。
【0042】
代替として、繊維の長さ及び/又は配向の選択によって、インペラブレード782の各部分の剛性を変えることが可能である。例えば、繊維が相対的に長くなれば、複合材料の剛性が高くなる。そして、非変形可能部分784内では、繊維がその部分の長さ方向に並ぶように繊維を配向し、変形可能部分786内では半径方向に(即ち、非変形可能部分784内の繊維に対して垂直に)繊維を配向すると、非変形可能部分784の剛性が変形可能部分786より相対的に高くなる。従って、非変形可能部分784内では相対的に長い繊維をインペラブレード782の長さ方向に配置し、変形可能部分786内では相対的に短い繊維を半径方向に配置することにより、インペラブレード782の所望の特性が得られる。
【0043】
追加又は代替として、変形可能部分786と非変形可能部分784とで異なるタイプの繊維が使用されてよい。例えば、炭素繊維はガラス繊維よりかなり可撓性が低い。従って、幾つかの実施形態では、非変形可能部分784で炭素繊維が使用され、変形可能部分786でガラス繊維が使用される。更に、繊維複合材料の場合は、樹脂を変えてよく、それによって、(樹脂同士が互いに適合する限り)インペラブレード782のこれら2つの位置に(弾性係数が異なる)別々の樹脂が使用される。当業者であれば、本開示と関連して、FVF、繊維の長さ、繊維の配向、繊維のタイプ、樹脂のタイプ等に基づいて、所望の特性を有するPDIを複合材料から設計及び製造することが可能であろう。
【0044】
ブレードの厚さによる変形可能性。図8は1つのインペラブレード782の一部分を示しており、そのような幾つかの実施形態では、ブレードの厚さが変えられている。具体的には、ブレード782は、外縁786では相対的に薄く、ほぼ非変形可能な部分784では相対的に厚く、ハブ780に向かって徐々に厚みが増している。幾つかの実施形態では、移り変わりは徐々にではなく「ステップ状」の変化である。
【0045】
構造設計による変形可能性。幾つかの実施形態では、インペラブレードは、図8に示したような「パッシブ」ヒンジ又は「リビング」ヒンジ888を含む。これは、例えば、インペラブレードの外縁に近接する、外縁に平行な配向を有する材料の、又は内向きに湾曲した(インペラハブに向かって湾曲している)、相対的に薄い区間として実施可能である。そのような実施形態のいずれにおいても、回転力によってインペラブレードの外縁が変形して、効率的なインペラ形状になる。
【0046】
他の幾つかの実施形態では、材料の選択、ブレードの厚さ、又は構造設計を任意に組み合わせて、本発明の教示による部分的に変形可能なインペラを実現することが可能である。当業者であれば、本開示を考慮に入れて、部分的に変形可能なインペラを実現するための材料、デュロメータ硬度、ブレードの厚さ、及び/又は構造設計を選択することが可能であろう。
【0047】
幾つかの実施形態では、ガイドワイヤの迅速な交換を可能にするために、PDI120は(例えば、その先端にチャネルを形成することによって)ガイドワイヤを受け入れるように設計されている。
【0048】
幾つかの実施形態では、本発明の教示によるPDIの公称直径(未変形の直径)は、14Fr(4.7mm)~16Fr(5.3mm)の範囲にある。
【0049】
幾つかの実施形態では、本発明の教示によるPDIの公称直径(未変形の直径)は、17Fr(5.7mm)~18Fr(6mm)の範囲にある。
【0050】
本開示のバランスは、PDI120を組み込むことに適する、カテーテル血液ポンプの設計に関係する。当業者であれば、本開示と関連して、PDIを本明細書に記載のように使用することが、他のカテーテル血液ポンプとともに使用する場合に適切かどうかを決定することが可能であろう。
【0051】
部分的に変形可能なインペラ120を組み込んだカテーテル血液ポンプの概要。PDIを組み込んだカテーテル血液ポンプの一実施形態の主要な要素として、シース、膨張可能インペラハウジング、及びPDIがある。例示的実施形態では、体外のモータと作用的に結合された駆動ケーブルが、PDIの回転を駆動するトルクを伝達する。
【0052】
幾つかの実施形態では、カテーテル血液ポンプのシースと膨張可能インペラハウジングは、互いに独立して可動(軸方向に変位可能)である。これにより、シース、膨張可能インペラハウジング、及びPDIの軸方向の相対位置が互いに対して変化することが可能であり、それによって、カテーテル血液ポンプが様々な状態又は形態になることが可能である。それらの様々な状態は、様々な使用フェーズ、即ち、ポンプを血管系に挿入してポンピング部位まで進めること、ポンピング動作、及びポンプを患者から取り出すことの各フェーズを促進する。
【0053】
例示的実施形態では、カテーテル血液ポンプは、以下を含む2つの主要な形態/状態を達成するように物理的に適合されている。
・末梢動脈(例えば、大腿動脈等)に挿入されて心臓に向かって進むこと、又は心臓から取り出されることのための第1の形態/状態。この第1の形態では、膨張可能インペラハウジングはシース内に位置しているが、PDIはそうではない。
・動作状態である第2の形態/状態。この場合、膨張可能インペラハウジングはシースの拘束から解放され、PDIは、膨張可能インペラハウジングの近位端部内に位置する。
カテーテル血液ポンプは、上述の各形態/状態になる場合に、上述の第1の状態と第2の状態との間を移行するための特定の中間状態を採用してよい。
【0054】
例示的実施形態では、シース及び膨張可能インペラハウジングのそれぞれの軸方向位置は、ユーザインタラクションにより変更可能であり、これはカテーテル血液ポンプの近位端部近くで行われる。このインタラクションは、アクチュエーションシステムを介して行われ、アクチュエーションシステムは、例示的実施形態では、体外ハンドル内に配置された2つの摺動可能部材を含む。一方の摺動可能部材はシースと結合されており、他方の摺動可能部材は膨張可能インペラハウジングと結合されている。これらの部材の一方をハンドルに沿って摺動させるとシースが後退又は前進し、他方の部材を摺動させると膨張可能インペラハウジングが後退又は前進する。
【0055】
本発明の実施形態はカテーテル血液ポンプを提供し、血管系の直径によって課せられる制限とぶつかる特徴物は、PDIを取り巻くいずれの構造物(例えば、インペラハウジング、シース等)の直径でもなく、PDIの直径である。そのような実施形態では、PDIの未変形の直径は、少なくとも、カテーテル血液ポンプの、体内に入る、他のどの特徴物の外径とも同等である。
【0056】
血管系内の相対的狭窄によってPDIのブレードが患者の解剖学的構造に接触する限り、インペラブレードが部分的に変形可能であることのおかげで、そうでない場合に引き起こされうる外傷を最小限に抑えることが期待される。
【0057】
PDIは、先行技術の膨張可能インペラに比べて変形可能性が最小限であるため、そのような先行技術よりも血液動力学及びポンピング効率の考察に重点を置いた設計が可能である。更に、PDIは、ほとんどの固定径インペラに比べてサイズが相対的に大きい(例えば、未変形のブレード円径が約14Fr~約18Frの範囲である)。結果として、本発明の教示によるPDIは、所与のポンプ流量を発生させることが、既存のカテーテル血液ポンプで使用される固定径インペラより相対的に低い回転速度で回転することで可能である。このように回転速度が低くなると、結果として、せん断応力が小さくなり、従って、患者の血液の溶血が少なくなる。
【0058】
カテーテル血液ポンプの設計の詳細。例示的実施形態では、カテーテル血液ポンプは経皮的デバイスである。即ち、カテーテル血液ポンプの一部分が患者の体の外側(体外)に残り、一部分が患者(生体内)に挿入されて心臓又は心臓付近まで進む。具体的には、数ある要素の中でも特に、血液ポンプのPDI及びインペラハウジングが患者に挿入される。便宜上、「ポンプアセンブリ」という語句は、本明細書では、カテーテル血液ポンプのPDI、インペラハウジング、及び他の遠位特徴物を意味する。
【0059】
ポンプアセンブリには幾つかの可能な配置場所がある。カテーテル血液ポンプの例示的実施形態において最も好ましいのは、大動脈弁にまたがる場所である。他の可能な場所として、上行大動脈、又は左心室内がある。そのような場所では、大動脈弁を横断する「シュノーケル」のような追加特徴物が必要になる。ポンプアセンブリは、他の、あまり好ましくない場所に位置することも可能であり、例えば、限定ではないが、下行大動脈内や適切なサイズの末梢血管内、更には心臓の右側部内や右側部関連の血管系内に位置することも可能である。そのような代替的な場所では、例示的実施形態に対して1つ以上の修正が必要であるが、これは、当業者であれば、本開示と関連して可能であろう。例えば、心臓の右側部内又は右側部関連の血管系内に位置する場合には、インペラ設計、インペラ回転方向、並びに他の特徴物に対して修正が必要であろう。
【0060】
図6は、本発明の一実施形態によるカテーテル血液ポンプの体外要素を示しており、これは、モータアセンブリ670、コントローラ672、洗浄液/潤滑剤リザーバ674、及び廃液受け676を含む。
【0061】
幾つかの実施形態では、モータアセンブリ670は、モータと、駆動ケーブル116と駆動モータとの間の接続器(例えば、流体シール等)と、カテーテル血液ポンプの各部分(例えば、ベアリング表面、駆動ケーブル等)に(洗浄、潤滑等のための)流体を導入するための流体コネクタ及びマニホールドと、電源コネクタ及び信号コネクタと、センサインタフェースと、そのような要素を全て収容するハウジングと、を含む。
【0062】
モータアセンブリ670のモータは、ポンプアセンブリを駆動し、約5,000rpm~約50,000rpmの範囲で動作可能である。幾つかの実施形態では、モータは、速度の検出及び調整の機能を有するブラシレスDCサーボモータである。モータは、37℃で、流体粘度が約4cP、ポンプ両端の平均圧力差が60mmHgで、毎分2.5リットル以上の平均ポンプ流量を提供するようにポンプアセンブリを駆動することに適する。当然のことながら、モータの比出力要件は、数ある要因の中でも特に、インペラ設計(即ち、ポンプ効率)と送達系の直径とに依存する。システムの設計及び性能の要件に応じてモータを指定する方法は、当業者には既知である。
【0063】
本明細書の後のほうで図4A及び4Bと併せて開示するような幾つかの実施形態では、モータアセンブリ670は、ハンドルの形態であり、上述の機能性に加えて、カテーテル血液ポンプの形態を変更する機能性を含む。
【0064】
コントローラ672は、信号線671でモータアセンブリ670に電気的に接続されており、例示的実施形態では、(例えば、信号線673で)洗浄液/潤滑剤リザーバ674にも電気的に接続されている。例示的実施形態では、コントローラ672は、電源、モータコントローラ電子回路、センサ電子回路、及びディスプレイを含む。コントローラ672は、典型的には、以下の機能のうちの1つ以上を、他の任意の機能に加えて提供する。
・モータを電気的に駆動する(モータに電力を供給する)
・モータ用信号を制御する
・リザーバからの洗浄液/潤滑剤の放出を制御する
・センサデータ(例えば、血圧の読み等)を受信して処理する
・システムの性能を監視する
・インペラ速度及びポンプ流量を表示する
・聴覚アラート及び/又は視覚アラートを発報する
【0065】
洗浄液/潤滑剤リザーバ674は、摩耗デブリを洗い流すこと及び/又は潤滑を与えることのために、モータアセンブリ670へ、そしてそこから配管を通ってベアリング表面及び駆動ケーブルへ運ばれる1つ(以上)の流体を格納する。前述のように、幾つかの実施形態では、コントローラ672は、リザーバ674からの流体の送達を制御する。様々な洗浄液及び潤滑剤がカテーテル血液ポンプとの使用に適するが、そのようなものとして、生理食塩水、グルコース、又は当業者には既知の様々な市販の溶液があり、そのような溶液として、限定ではないが、ヘパリン/D5W溶液がある。潤滑剤及び/又は洗浄液の廃液は、配管からモータアセンブリ670に戻されてから廃液受け676に放出される。
【0066】
例示的実施形態では、駆動ケーブル116(並びに、本明細書で後述するが図6には示していない、カテーテルの一部を成す他の配管)がモータアセンブリ670と結合されている。様々な実施形態では、そのような他の配管の一部が、モータアセンブリ670内のマニホールド又は他の流体分配機構を通して洗浄液/潤滑剤リザーバ674に流体結合されている。例示的実施形態では、駆動ケーブル116は、モータと作用的に結合されていて、モータからのトルクを受け、最終的には、カテーテル血液ポンプの遠位端部近くに配置されているPDI120までそのトルクを伝達する。駆動ケーブル116、上述の配管、並びに他の遠位配置される、カテーテル血液ポンプの特徴物は、患者の血管系に挿入され、血管系を通り抜けて、ポンプ動作に備える。他の幾つかの実施形態では、モータは、カテーテル血液ポンプの生体内部分の一部であり、この場合、駆動ケーブルは不要である。そのような実施形態では、モータの駆動シャフトは、多少なりとも直接的に、PDI120の駆動シャフトに結合されている。
【0067】
次に図1Aを参照すると、本発明によるカテーテル血液ポンプ100の遠位部分が示されている。図1Aに示された主要な要素は、シース102、インペラハウジング104、ベアリング108、外側チューブ112、内側チューブ114、駆動ケーブル116、及び部分的に変形可能なインペラ120を含み、これらは図示のように構成されている。図1Aに示したように、カテーテル血液ポンプ100は、患者の血管系に挿入されて血管系内を移動することに適する構成になっている。
【0068】
例示的実施形態では、シース102は、末梢血管に挿入されてから心臓に届くのに十分な長さであるように、近位端部があるモータアセンブリ670(図6を参照)から遠位端部まで延びている。シースの必要な長さは、子どもか大人か、男性か女性か、大柄な大人か小柄な大人かで異なり、典型的なシースの長さは、体外に残る部分を含めて約1メートルから約2メートルの範囲である。
【0069】
シース102は、血管系に挿入されるカテーテル血液ポンプ100の固定径チューブのうちで最大の直径を有する。PDI120の未変形の直径は、少なくとも、シース102の外径と同等である。シースの典型的な直径は、約9~約16Frの範囲にある。
【0070】
引き続き図1Aを参照し、更に図1Bを参照すると、駆動ケーブル116は、本質的には、モータアセンブリ670(図6を参照)からPDI120まで、カテーテル血液ポンプ100の全長にわたって延びている。駆動ケーブル116は、インペラを高速で回転させるトルクを駆動モータからPDI120まで伝達する。駆動ケーブル116は、インペラ駆動シャフト118でPDIと結合されている。駆動ケーブルは、PDI120を心臓内又は心臓近くの動作場所まで進められるように可撓でなければならない。幾つかの実施形態では、駆動ケーブル116は、ワイヤの多層コイルを含み、例えば、参照によって本明細書に組み込まれている米国特許第9,962,475号に記載のそれを含む。駆動ケーブルの直径は、約0.05~約0.1ミリメートル(mm)(約0.002~約0.004インチ)の範囲にある。
【0071】
PDI120は、患者への挿入、血管系内の通過、及び患者からの取り出しが行われるように構成された、カテーテル血液ポンプ100のうちの最も遠位にある主要特徴物である。
【0072】
インペラ駆動シャフト118は、PDI120から延びて、駆動ケーブル116と結合されている。駆動ケーブル116は可撓であるため、剛体である駆動シャフト118が、ベアリング108とともに、回転するPDI120を、(インペラハウジング104内の)中心に保たれるように安定させている。駆動シャフト118は、ステンレス綱の管材料(例えば、ハイポチューブ)又は別の剛体の医療適合材料を含む。幾つかの実施形態では、PDI120は、ハイポチューブ上にオーバモールドされている。
【0073】
ベアリング(即ち、スリーブベアリング)108は駆動ケーブル116を受けている。このベアリングは、その内側表面が、動作中は5,000rpm超の速度で回転しうる駆動ケーブル116と当接するため、潤滑性を有する耐摩耗性材料で作られている。幾つかの実施形態では、ベアリング108は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を含む。幾つかの実施形態では、ベアリング108の内側表面のほとんどが低摩擦面109を含み(図1Dを参照)、それによって、ベアリングの他の部分については材料の選択肢が広がる。
【0074】
引き続き図1A及び1Bを参照し、更に図1Cを参照すると、インペラハウジング104は、シース102内の、ベアリング108より遠位にある場所に配置されている。インペラハウジング104の近位端部は、ベアリング108の遠位端部に取り付けられている。インペラハウジング104は膨張可能である。これは、シース102内にある間は相対的に小さい直径に拘束されており、シースによる拘束が解除されると、解放されて、相対的に大きな直径まで膨張する。インペラハウジング104が膨張しているときのPDI120とインペラハウジング104との間のギャップのサイズは、ポンプ性能に影響するため、設計上の重要な検討事項である。ギャップサイズは、例えば、計算流体力学で決定されてよく、これは、当業者であれば可能であろう。このギャップは、典型的には、約0.025~約0.127mm(約0.001~約0.005インチ)の範囲にある。インペラハウジング104の長さ(即ち、軸方向)は、典型的には、約75~約102mm(約3~約4インチ)の範囲にある。
【0075】
例示的実施形態では、インペラハウジング104は、その近位端部の最も近くに位置する複数の開口106を含む。本明細書の後のほうで述べるが、開口106は、固定径インペラ116の動作によってインペラハウジングの遠位端部から引き込まれた血液がインペラハウジングから流れ出ることを可能にする。これにより、ポンプは、例えば、心臓の左心室内に配置されたことに基づいて、大動脈弁を横断して上行大動脈に血液を送達することが可能になる。
【0076】
幾つかの実施形態では、インペラハウジング104は、ニチノール、レーザーカットされた管材料、又は編組ニチノールワイヤで作られている。幾つかの実施形態では、インペラハウジングは薄膜で覆われており、例えば、ニチノールワイヤにポリエチレンテレフタレート(PET)材料を編み込んで両者を熱接着したもので覆われている。
【0077】
更に図1Dを参照すると、外側チューブ112及び内側チューブ114は、それぞれの遠位端部においてベアリング108と結合している。例示的実施形態では、これらのチューブのそれぞれの近位端部は、モータアセンブリ670/ハンドル422に延びている(図4A、4Bを参照)。幾つかの実施形態では、内側チューブ114は医療適合グレードのPEBAXを含み、幾つかの実施形態では、PEEK又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がライニングされた複合管材料でライニングされている。幾つかの実施形態では、内側チューブ114は、(解剖学的構造に従って)指定の場所で曲がることを可能にするために、複数のデュロメータ硬度を有する管材料で作られている。幾つかの実施形態では、外側チューブ112はライニングされていないが、同様に医療適合グレードのPEBAXで作られている。内側チューブ114と同様に、幾つかの実施形態では、外側チューブ112は、指定の場所で曲がることを可能にするために、複数のデュロメータ硬度を有する管材料で作られている。外側チューブ112の直径は、約2.5~約3.6mm(約0.100~約0.140インチ)の範囲にあり、内側チューブ114の直径は、約1.5~約2.3mm(約0.06~約0.09インチ)の範囲にある。
【0078】
内側チューブと外側チューブは、環状ギャップ113で隔てられて配置されている。環状ギャップは、洗浄液/潤滑剤リザーバ674(図6を参照)から送達される新しい洗浄液/潤滑剤を受ける。ベアリング108の近位部分の外側表面は、複数の表面溝110を含む。これらの溝は、環状ギャップ113から流れてくる新しい洗浄液/潤滑剤を受ける。表面溝110のうちの少なくとも2つの表面溝の遠位端部は貫通穴111を含み、貫通穴111は、それがある溝110の表面から(駆動ケーブル116に近接する)ベアリング108の内側表面まで延びている。新しい洗浄液/潤滑剤は、これらの穴を通って流れ、駆動ケーブル116上に流れる。新しい洗浄液/潤滑剤は圧力がかかっていて、駆動ケーブル116の近位端部に流れる際に、駆動ケーブルの回転によって発生したデブリをモータアセンブリ670まで運び、運ばれたデブリはその場所で廃液受け676に排出される。駆動ケーブル116と内側チューブ114との間のギャップは、約0.05~約0.08mm(約0.002~約0.003インチ)の範囲にある。
【0079】
図2A及び2Bは、カテーテル血液ポンプ100の遠位端部を示しており、図2Aは、圧縮状態のインペラハウジング104を示し、図2Bは、膨張状態のインペラハウジング104を示す。これらの図のいずれにおいても、シース102は一部がベアリング108まで後退して、インペラハウジング104が膨張するのを可能にしている。この点において、インペラハウジングは、シースによる拘束を解除されると、本質的には直ちに膨張するので、図2Aに示した形態は一時的な状態又は形態であると考えられたい。
【0080】
注目すべき点として、インペラハウジング104は、図2Aに示したように圧縮されているときには外径がPDI120のそれより小さい。これに対し、インペラハウジング104が図2Bに示したように膨張しているときには、その内径がPDI120のそれより大きい。
【0081】
図2Bに示した形態は動作形態(即ち、ポンピング形態)ではなく、動作形態を図2Cに示す。図2Cに示すように、カテーテル血液ポンプ100の形態は、PDI120がここではインペラハウジング104内に配置されているように変わっている。具体的には、PDI120は、インペラハウジング104の近位端部に配置されている。カテーテル血液ポンプが動作しているときには、急速回転するPDI120がインペラハウジングの遠位端部から血液を引き込み、それを開口106から放出する。
【0082】
図4Aは、モータアセンブリ670(図6)の一実施形態であるハンドル422を示す。ハンドル422は、近位開口438を有するハウジング424と、スロット434及び436とを含む。ハウジング424は、モータ442、マニホールド444、遠位摺動可能部材426、及び近位摺動可能部材430を含む。
【0083】
シース102は、遠位開口438からハウジング424に入って、遠位摺動可能部材426と物理的に結合されている。外側チューブ112及び内側チューブ114(図示せず)は、遠位摺動可能部材426を通り抜けて、近位摺動可能部材430と物理的に結合されている。摺動可能部材426及び430は、それぞれの指パッド428及び432を含み、これらは、それぞれのスロット434及び436を通して臨床医が触ることができる。摺動可能部材426を(摺動可能部材430に向けて)近位方向に摺動させると、シース102が同等距離だけ後退する。摺動可能部材430を(摺動可能部材426に向けて)遠位方向に摺動させると、インペラハウジング104が同等距離だけ前進する(これは、内側チューブ112及び外側チューブ114がベアリング108と結合されていて、インペラハウジング104がベアリング108と結合されていることにより、インペラハウジングは内側チューブ及び外側チューブとともに動くことを踏まえている)。図5A~5Eと併せて詳述するが、摺動可能部材は、カテーテル血液ポンプ100を再構成するためにマニピュレートされる。ストッパ440が、摺動可能部材430の近位方向の移動を制限する。
【0084】
駆動ケーブル116は、モータ442と作用的に結合されており、マニホールド444並びに摺動可能部材430及び426を通り抜けて、遠位開口438から出る。ハイポチューブ446が、駆動ケーブル116のモータ442近くを取り巻いており、マニホールドから延びて、近位摺動可能部材430を通り抜けている。幾つかの実施形態では、ハイポチューブ446は、摺動可能部材426の近位端部近くで終わっており、これは、ハイポチューブ446が、摺動可能部材430が摺動する際に沿うレール又はガイドとして働くためである。摺動可能部材426は、外側チューブ112に沿って摺動する。
【0085】
図4Bは、図4Aの丸く囲った範囲を拡大して示す。この図は、摺動可能部材430の内部構造の一実施形態を示しており、洗浄液/潤滑剤がカテーテル血液ポンプ100を出入りする流れを示している。
【0086】
ハウジング424の流体入口ポート454は、導管456を通して摺動可能部材430の入口452と流体結合されている。流体入口ポート454は、リザーバ654からの洗浄液/潤滑剤を受ける。導管456はそのような流体を入口452に送達し、そこから環状キャビティ450に送り込む。環状キャビティ450は、摺動可能部材430内で外側チューブ112を取り囲んでいる。外側チューブ112の開口は、流体が圧力を受けて、外側チューブと内側チューブ114との間のギャップに流れ込むことを可能にする。前述のように、流体は、これら2つのチューブの間を移動してベアリング108に到達し、その時点で流体はベアリングの穴111を通り抜けて(例えば、図1Dを参照)駆動ケーブル116を湿らせる。
【0087】
廃液(即ち、デブリで汚染された洗浄液/潤滑剤等)は、圧力を受けて駆動ケーブル116の近位端部に向かって流れ、廃液受け676と流体結合されている、ハウジング424の流体出口ポート464で取り出される。より具体的には、廃液は、マニホールド444において駆動ケーブル116から引き抜かれる。シール457は、駆動ケーブル116からモータシャフト443に流れた流体がモータ442に入るのを防ぐ。マニホールド444のポート462、及びモータハウジング458のポート460は、それぞれの導管468及び466によって流体出口ポート464と流体結合されている。従って、廃液は、これらの導管と流体出口ポートとを通って流れて廃液受けに至る。
【0088】
導管456は、図4Aと併せて記載されて、図5A~5Eに関してより詳細に記載されている、摺動可能部材430の前方移動を吸収するのに十分な長さである。
【0089】
図3は、カテーテル血液ポンプ100の操作方法300を示す。操作S301では、カテーテル血液ポンプを患者の末梢動脈(典型的には大腿動脈)に挿入する。これは、セルディンガー法として一般に知られる処置により、カテーテル検査室で日常的に行われている。挿入後は操作S302により、カテーテル血液ポンプの遠位端部が血管系内を通って所望の部位(典型的には、大動脈弁にまたがる部位)まで進む。操作S301及びS302の場合、カテーテル血液ポンプ100は、図5Aに示した形態である。この形態では、シース102内に位置するのは、PDI120ではなくインペラハウジング104である。例示的実施形態では、この形態は、インペラハウジング104の動きを制御する摺動可能部材430を後退位置(即ち近位位置)に置き、シース102の動きを制御する摺動可能部材426を前進位置(即ち遠位位置)に置くことによって達成される。
【0090】
操作S303では、カテーテル血液ポンプ100をポンプ動作に備えて再構成する。例示的実施形態では、これは2段階のプロセスである。第1段階では、図5Bに示すように、摺動可能部材426を後退させて(近位方向に移動させて)摺動可能部材430に当てる。これによってシース102が後退して、インペラハウジング104が解放されて膨張可能になる。この第1段階の終わりでは、PDI120はまだ、カテーテル血液ポンプ100の最遠位部分であり、解剖学的構造に対して露出している。図5Cに示す第2段階では、摺動可能部材430を前進させ(遠位方向に移動させ)、それとともに摺動可能部材426も前進する。これによって、シース102及びインペラハウジング104の両方が前進して、PDI120が、インペラハウジングの近位端部近くでインペラハウジング内に捕捉される。注意すべき点として、この操作では、インペラハウジングとシースは、互いに対しては動かず、一緒に遠位方向に動く。ポンプ動作は、膨張したインペラハウジング104によって解剖学的構造から保護された状態で開始できる。
【0091】
(インペラハウジングが大動脈弁にまたがって位置している場合の)ポンプ動作中に、血液が心臓の左心室からインペラハウジング104の遠位端部に入る。血液は、インペラハウジングを通って大動脈弁を横断し、開口106から上行大動脈内に放出される。
【0092】
典型的には数時間から一週間以上続くことになるポンプ動作の終了時には、カテーテル血液ポンプ100をもう一度再構成する。今度は血管系から取り出すための再構成である。前と同様に、再構成は2つの段階を含む。図5Dに示す第1段階では、摺動可能部材426を後退させ(近位方向に移動させ)、それとともに摺動可能部材430も後退する。これによって、シース102及びインペラハウジング104の両方が(互いに対しては動かずに)後退し、その結果として、PDI120はもはやインペラハウジング内に残らない。これによって、カテーテル血液ポンプ100は、図5Bと同じ形態になる。そして、図5Eに示す第2段階では、摺動可能部材426を前進させ(遠位方向に移動させ)、それによって、シース102がインペラハウジング104の上を前進し、それにつれてインペラハウジングの直径が収縮する。カテーテル血液ポンプは、この時点では引き抜かれるための形態であり、図5Aに示した、挿入のための形態と同じ形態である。
【0093】
当業者であれば理解されるように、カテーテル血液ポンプの2つの基本形態(即ち、(i)挿入/引き抜き形態及び(ii)動作形態)を実現するための、シースと膨張可能ハウジングと駆動ケーブルとの間の相対的な動きは、後述のように様々な形で形成される。
【0094】
例示的実施形態では、駆動ケーブル116/PDI120が固定された軸方向位置にとどまる一方、シース102及びインペラハウジング104は独立に動く。第1の代替実施形態では、インペラハウジング104が固定された軸方向位置にとどまる一方、シース102及び駆動ケーブル/PDIは独立に動く。そのような実施形態では、シース102を後退させる(即ち、近位方向に移動させる)ことによって、インペラハウジング104が解放されて膨張する。駆動ケーブル116を後退させると(即ち、近位方向に移動させると)、膨張したインペラハウジングの中にPDI120が移動して、カテーテル血液ポンプのポンプ動作の用意が整う。ポンプ動作の完了後、PDI120がインペラハウジング104の拘束から解放されるように、駆動ケーブル116を前進させる(遠位方向に移動させる)。そして、シース102を前進させると(遠位方向に移動させると)、それによって、インペラハウジング104の直径が収縮して、インペラハウジングの全体がシース内に入る。
【0095】
第2の代替実施形態では、インペラハウジング104だけが可動であり、シース102及び駆動ケーブル/インペラは固定された軸方向位置にとどまる。この実施形態では、インペラハウジング104を前進させると(即ち、近位方向に移動させると)、インペラハウジング104はシース102を越えて移動したときに膨張し、なおも、PDI120がインペラハウジング内の、インペラハウジングの近位端部近くの(即ち、開口106の近くの)所望の動作場所に来るまでインペラハウジング104を前進させ続ける。
【0096】
駆動ケーブルが使用されない(即ち、モータが内部にある)実施形態では、駆動ケーブル及びPDI120ではなく、モータ及びPDI120を移動させる。
【0097】
本発明の教示に従ってカテーテル血液ポンプを再構成するためにそのような代替方法が用いられる限り、ハンドル422(図4A)の修正が必要になりうる。当業者であれば、そのような修正を行うことが可能である。
【0098】
要約すると、図示及び上述したように、カテーテル血液ポンプは、(i)PDI、(ii)シース、及び(iii)膨張可能インペラハウジングを含む。カテーテル血液ポンプは更に、以下の特徴物のうちの少なくとも1つを、(矛盾しない)任意の組み合わせの形で含んでよい。
・固定径インペラにトルクを伝達するモータ。
・固定径インペラにトルクを伝達するために固定径インペラと結合された駆動ケーブル。
・PDIの直径は概ね、血管系に挿入されるカテーテル血液ポンプの最大径チューブの外径以上である。
・PDIの直径は、シースの外径より大きい。
・シースは、血管系に挿入される血液ポンプの複数の固定径チューブのいずれのうちでも最大の外径を有するが、PDIはシース内にあるには大きすぎる。
・PDIは、血液ポンプの遠位端部に配置され、血液ポンプが血管系内を進む際の血液ポンプの最遠位特徴物である。
・インペラハウジングには2つの状態があり、第1の状態では、インペラハウジングは、その直径が小さくなるように圧縮/圧迫されて、シース内にあり、第2の状態では、インペラハウジングは、シース外にあり、インペラハウジング内にPDIを配置することに適するサイズまで膨張する。
・インペラハウジングは、インペラハウジングの近位端部近くに配置された複数の穴を含み、カテーテル血液ポンプの動作中に血液がそれらの穴を通ってインペラハウジングから流れ出る。
・インペラハウジングは、その遠位端部に開口を含み、動作中はその開口から血液が引き込まれる。
・インペラハウジングは、ベアリングの遠位側に物理的に結合されている。
・ベアリングの近位側に内側チューブ及び外側チューブが物理的に結合されており、洗浄液及び/又は潤滑剤が内側チューブと外側チューブとの間のギャップを通ってベアリングに向かって流れる。
・ベアリングを半径方向に貫通して配置された複数の穴。これらは、内側チューブと外側チューブとの間のギャップを通って流れる洗浄液及び/又は潤滑剤がベアリングを通り抜けて駆動ケーブル上に達することを可能にする。
・カテーテル血液ポンプを少なくとも2つの物理的形態にするように物理的に適合されたアクチュエータ。第1の形態は、血管系に挿入される/血管系から取り出される/血管系内を前進するための形態であり、第2の形態はポンピング用の形態である。
・シースとインペラハウジングとPDIとを互いに相対的に軸方向に動かすように物理的に適合されたアクチュエータ。
・シースとインペラハウジングとを軸方向に独立に動かし、PDIを動かさないように物理的に適合されたアクチュエータ。
・それぞれが軸方向に独立に可動な第1の摺動可能部材及び第2の摺動可能部材を含むアクチュエータ。第1の摺動可能部材はシースの近位端部と物理的に結合されており、第2の摺動可能部材はインペラハウジングと作用的に結合されている。
・それぞれが軸方向に独立に可動な第1の摺動可能部材及び第2の摺動可能部材を含むアクチュエータ。第1の摺動可能部材はシースと作用的に結合されており、第2の摺動可能部材はインペラハウジングと作用的に結合されている。カテーテル血液ポンプを2つの状態(第1の状態は血管系を動くための状態、第2の状態はポンプ動作用の状態)にするために、摺動可能部材の3通りの位置が必要とされる。
・少なくとも第1の摺動可能部材を含むアクチュエータ。第1の摺動可能部材は、洗浄液及び/又は潤滑剤の源と流体結合されている。
・それぞれが軸方向に独立に可動な最遠位摺動可能部材及び最近位摺動可能部材を含むアクチュエータ。アクチュエータは、最近位摺動可能部材の動きをガイドするために最近位摺動可能部材を軸方向に貫通しているハイポチューブを含む。
・それぞれが軸方向に独立に可動な第1の摺動可能部材及び第2の摺動可能部材を含むアクチュエータ。第1の摺動可能部材はシースの近位端部と物理的に結合されており、第2の摺動可能部材はインペラハウジングと作用的に結合されている。アクチュエータは更に、モータを含む。
・ポンプを少なくとも2つの物理的形態にするために、シースと固定径インペラとを軸方向に独立に動かし、インペラハウジングを動かさないように物理的に適合されたアクチュエータ。
・ポンプを少なくとも2つの物理的形態にするために、インペラシースを軸方向に独立に動かし、シース及びPDIを動かさないように物理的に適合されたアクチュエータ。
・軸方向に可動な単一の摺動可能部材を含むアクチュエータ。第1の摺動可能部材は、インペラハウジングと作用的に結合されている。
・ポンプ動作中のPDIを安定させるベアリングの近くでは、カテーテル血液ポンプは、以下のチューブ、即ち、最小径から最大径の順に内側チューブ、外側チューブ、及びシースで構成されている。
・シースとインペラハウジングとを軸方向に独立に動かし、PDIを動かさないように物理的に適合されたアクチュエータが、以下のチューブ、即ち、最小径から最大径の順にハイポチューブ、内側チューブ、外側チューブ、及びシースで構成されている。
【0099】
当然のことながら、本開示に記載の実施形態は少数であり、当業者であれば本開示の読後に本発明の様々な変形を容易に考案することが可能であり、本発明の範囲はこの後の特許請求項によって決定されるものとする。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
【国際調査報告】