(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】粒子の除去のための滅菌された多成分組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/734 20060101AFI20240702BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240702BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240702BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/734
A61P13/12
A61K9/06
A61K47/02
A61K47/36
A61K47/22
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024519966
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 EP2022065643
(87)【国際公開番号】W WO2022258734
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202021103106.9
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523466891
【氏名又は名称】プレヌム・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・グリュンヴァルト
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・シュテーシュライン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB21
4C076BB28
4C076CC17
4C076CC41
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD38
4C076DD59
4C076DD60
4C076DD67
4C076EE30
4C076EE41
4C076FF35
4C076FF53
4C076FF61
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA24
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA56
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの架橋性ポリマーを含有する成分と、少なくとも1つの架橋剤を含有する成分とを含む、滅菌されたゲル形成性多成分組成物に関する。さらに、本発明は、患者から望ましくない粒子を除去する方法において用いるためのこうした組成物またはゲル、ならびにこうした組成物を作製する方法、およびこうした方法によって製造可能であるかまたは製造された組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルを形成するための滅菌されたゲル形成性多成分組成物、好ましくは2成分組成物であって、
前記組成物が、
成分(A)であって、
(i)1つ以上の架橋性ポリマー、好ましくはカチオン架橋性ポリマーであって、前記ポリマー(またはその1つ)がアルギン酸ナトリウムである、架橋性ポリマー、
(ii)水、
(iii)成分(A)の総質量に基づいて0.3~1.2質量%の範囲のNaCl、および
(iv)1つ以上のリン酸緩衝液、
を含む、成分(A)と、
成分(B)であって、
(a)成分(A)の成分(i)の前記架橋性ポリマー(単数または複数)を架橋するための1つ以上の架橋剤であって、好ましくは前記架橋剤(またはその1つ)がCaCl
2である、架橋剤、および
(b)水
を含む、成分(B)と、
からなるか、またはそれらを含む、滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項2】
成分(A)中の前記リン酸緩衝液が、H
3PO
4、H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3、ならびにその塩、好ましくはナトリウムおよびカリウム塩、ならびに前記リン酸とその塩との混合物、好ましくはナトリウムおよびカリウム塩との混合物からなる群より選択される1つ以上のリン酸を含有する、請求項1に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項3】
成分(A)において、
アルギン酸ナトリウム(成分(i))が成分(ii)の質量に基づいて0.5~10質量%、好ましくは0.5~7.5質量%、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは0.5~2.5質量%、より好ましくは0.5~1.25質量%、より好ましくは0.75~1.0質量%の範囲で存在し、
かつ/または
成分(B)において、
CaCl
2(成分(a))が成分(b)の質量に基づいて0.25~5.0質量%、好ましくは0.75~2.5質量%、特に好ましくは1.5~2.0質量%の範囲で存在する、請求項1または2に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項4】
成分(A)および/または成分(B)が少なくとも1つの色素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項5】
成分(A)および成分(B)が少なくとも1つの色素を含み、成分(A)中の前記色素が成分(B)中の前記色素とは異なる、請求項4に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項6】
2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含み、かつ/または2つの成分(A)および(B)の一方がリボフラビンを含み、
好ましくは2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含み、かつ2つの成分(A)および(B)の他方がリボフラビンを含む、請求項4または5に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項7】
2つの成分(A)および(B)の一方において、デキストランブルーが成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.75質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲で存在し、
かつ/または
2つの成分(A)および(B)の一方において、リボフラビンが成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.0001~0.05質量%、好ましくは0.0005~0.01質量%、特に好ましくは0.001~0.005質量%の範囲で存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項8】
成分(A)および/または成分(B)および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、中性のpHを有し、好ましくは6.5~8の範囲のpH、特に好ましくは7.0~7.5の範囲のpHを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項9】
成分(A)、成分(B)、および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、前記アルギン酸ナトリウムの前記架橋および/または安定性を改善するための1つ以上の物質、特に架橋剤を含有し、好ましくは前記物質の1つ以上またはすべてが、アミノ酸、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成二量体または多量体、糖プレポリマー、および合成プレポリマーからなる群より選択され、
かつ/あるいは
成分(A)、成分(B)、および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、成分(A)の成分(i)の前記架橋性ポリマー、好ましくは前記アルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための1つ以上の物質を含有し、好ましくは前記物質の1つ以上またはすべてが、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成ポリマー、糖プレポリマー、糖単量体、糖二量体、たとえばショ糖もしくはグルコース、合成プレポリマー、親水性コポリマー、エピクロロヒドリン、またはグリセロールからなる群より選択される、請求項8に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項10】
患者から望ましくない粒子を除去する方法において使用するための滅菌されたゲル形成性多成分組成物であって、
好ましくは前記粒子がデブリ、沈殿物、異物および/もしくはその断片、ならびに/または内在性構造物の破片である、請求項1~9のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項11】
前記患者から望ましくない粒子を除去する方法が、
(i)滅菌された成分(A)および(B)を提供するステップ、
(ii)成分(A)および(B)を、患者の身体内の除去されるべき粒子を含有する区域に導入するステップであって、
成分(A)と成分(B)とが接触したときに、前記架橋性ポリマー(単数または複数)が架橋して除去されるべき前記粒子を部分的または完全に包囲する架橋されたゲルを形成し得る条件下で行われる、導入するステップ、
(iii)前記患者の身体の区域から、架橋されたゲルをそれが包囲する前記粒子と共に除去するステップ
を含む、請求項10に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項12】
前記患者から望ましくない粒子を除去する方法が、時間的にステップ(ii)の前に行われる次のさらなるステップ:
前記患者の身体の前記領域内で1つ以上の粒子を断片化することによって、前記粒子(単数または複数)の2つ以上、好ましくは複数の断片が得られるようにするステップ
を含む、請求項11に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物を調製する方法であって、
(i)請求項1~12のいずれか一項において定義した成分(A)を提供するステップ、
(ii)請求項1~12のいずれか一項において定義した成分(B)を提供するステップ、
(iii)任意選択で、請求項9において定義した成分(C)を提供するステップ、
(iv)ステップ(i)において提供した成分(A)ならびに任意選択で成分(B)および/または成分(C)を滅菌するステップ
を含むか、または前記ステップからなる、方法。
【請求項14】
ステップ(iv)が蒸気滅菌のステップを含むか、または蒸気滅菌のステップからなり、
好ましくは前記蒸気滅菌における温度が少なくとも121℃、より好ましくは121℃~134℃の範囲であり、
好ましくは前記蒸気滅菌の際の圧力が少なくとも2バール、より好ましくは2~3バールの範囲であり、かつ、
好ましくは前記蒸気滅菌の持続時間が少なくとも5分間、より好ましくは5~25分間の範囲である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14のいずれか一項に記載のプロセスによって製造可能であるかまたは製造された、請求項1~12のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの架橋性ポリマーを含有する成分と、少なくとも1つの架橋剤を含有する成分とを含む、滅菌されたゲル形成性多成分組成物に関する。さらに、本発明は、患者から望ましくない粒子を除去する方法において用いるためのこうした組成物またはゲル、ならびにこうした組成物を作製する方法、およびこうした方法によって製造可能であるかまたは製造された組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のさらなる態様、または本発明に関連するさらなる態様、および好ましい実施形態は、以下および添付の請求項に記載される。
【0003】
さまざまな種類の望ましくない沈殿物または堆積物の蓄積は、人体における一般的な問題である。これらの公知の形態は、胆石または腎結石を含む。胆石は成人人口の約10~15%において生じ、欧米の工業化された国は特に罹患している。ドイツの60歳より上の人口の約半数が胆石を有する。胆石は無症状のままであることが多いが、場合によっては激痛を伴う疝痛、肝酵素の上昇、および黄疸(jaundice)を含む疾患の全身症状に発展する。
【0004】
疫学的な観点からいうと、腎結石疾患は人類に最も一般的な疾患の1つであり、2000年のドイツにおける発生率は1.45%であり、これは年間で約1,200,000の新たな症例に相当する。ドイツだけで1年当り合計約750,000の処置症例が想定され得る。ドイツにおける結石除去のための処置数は約400,000/年と推定され、そのうちの約半数は再発性結石の処置である。これらの数字から、世界中で何百万ものこうした処置が行われていると推測できる。合計15億ユーロを超えることから、腎結石疾患はドイツの医療システムにおけるかなりのコスト要因を表す。加えて腎結石は、激痛、腎臓の炎症の発生、腎臓の損傷を引き起こすか、または(通常は片側性の)急性腎不全すらもたらし得る。
【0005】
両方の問題の原因はさまざまであり、不健康な高脂肪食または脱水症または運動不足から、たとえば糖尿病または痛風などの疾患、遺伝的素因にまで及ぶ。
【0006】
胆石または腎結石は、すでに進行した段階になるまで発見されないことが多く、通常発見されるのは最初の(より重篤な)症状が現れたときである。ほとんどの場合、形成された結石は、最小限の侵襲的な手順によってそのまま身体から除去するにはすでに大きくなり過ぎている。この場合、形成された結石は粉砕され、それらの個々の断片が除去される。複数の結石が形成される場合もあり、これらも完全に除去される必要がある。
【0007】
四級アンモニウム塩を用いた堆積物の選択的溶解によって腎結石を処置する方法が、たとえば特許文献1などに記載されている。
【0008】
いくつかの不要な粒子を患者から除去する必要があるのは、身体内の胆石または腎結石またはその他の結石の場合だけではない。他の場合においても、たとえば粉砕骨折の場合には身体自身の骨の破片、あるいは擦過傷の場合にはたとえば石、金属、プラスチック、もしくは木の破片、またはその断片などの異物など、多数の粒子をできる限り完全に患者から除去する必要がある。
【0009】
これらすべての場合に共通するのは、患者から多数の粒子をできる限り簡単に、しかし同時にできる限り完全に除去する必要があることである。
【0010】
たとえば、胆石もしくは腎結石が自然に身体から出ないとき、または即時治療の医療適用があるときなどに、内視鏡検査(最小限侵襲的なミラー技術)および体外衝撃波結石破砕術(ESWL:extracorporeal shock wave treatment)は治療の「絶対的基準」を表す。ESWLの結果の方が悪いというエビデンスの増加に鑑みると、内視鏡手順が好ましい。現在、すべての結石患者の60~70%が内視鏡によって処置されると推定される。この傾向は増加している。内視鏡技術の補助によって、腎結石はその場で粉砕されて除去される。まだ解決されていない問題は、特に処置の際に効果的に除去できない小さな残余断片(<2mm)によってもたらされる。残存する腎結石断片が「結晶核」の役割をして、症例の最大70%においてそこから新たな結石が発達する。次いでこれが新たな医学的問題をもたらし、処置が必要となる。こうした断片は、以前は臨床に無関係の残余断片(CIRF:clinically irrelevant residual fragments)と呼ばれていたが、近年それらは臨床に非常に大きく関係することが明らかになっている。
【0011】
砕石術においては、体外衝撃波か、または内視鏡的に導入されたレーザーもしくは圧縮空気プローブによって腎結石が断片化される。これによってさまざまなサイズの断片が生成され、それらはバレル器具を用いて除去され得るか、または流し出され得る。砕石術が直面する問題は、断片化の際に断片が分散し得るか、またはアクセスが困難な領域に到達し得ることである。
【0012】
特許文献2は、ポリマープラグを用いて特定の区域内に腎結石を閉じ込める(包囲はしない)方法に関し、これによって断片化の際にもたらされる断片による組織の損傷を大幅に防止できる。特許文献2によると、腎結石の少なくとも1つの側部において管腔内にゲル形成液が注入され、それはたとえば体温でゲルプラグを形成する温度感受性ポリマーなどである。ポリマーは通常は腎結石に接触しないが、腎結石の移動を防ぐことによって砕石術の効率を増加させ、かつ周囲組織を断片化による損傷から保護する働きをする。このシステムの適用は、明確に推奨されるか、または腎臓の外側のみで許可される。
【0013】
特許文献3には、接着剤を用いて身体からたとえば血餅などの目的物を除去するためのアプローチが開示されている。このアプローチにおいては、カテーテルを用いて接着剤が表面に広げられて身体内に導入される。目的物が表面に接着すると、カテーテルは目的物を伴って引き抜かれる。
【0014】
生体高分子および特にゲル形成性ポリマー系に基づく接着剤は、医療技術における適用が増加している。それらの生体適合性が高いことは、最も重要な選択基準の1つである。
【0015】
特許文献4には、身体内でたとえば腎結石などの目的物を固定するための方法が記載されており、この方法においては身体内にゲル形成液が注入される。目的物と接触したときにゲルが形成されて、目的物と少なくとも部分的に係合してそれを固定する。この固定によって、その後断片が分散するリスクなしに目的物を断片化することが可能になるか、または内視鏡器具によって目的物もしくは断片を身体から除去することが可能になる。それを行うときに、ゲルは目的物または断片が滑って器具が捕らえられなくなることを防ぐ。目的物または断片を除去した後、内視鏡器具を用いてゲルが溶解または抽出される。この方法の欠点は、腎結石が断片化されたときにすでに硬化していたゲルが破壊されて断片を再び放出し得ること、または個々の断片がポリマーから脱出し得ることである。従来のグリップ器具によってゲル中の断片をグリップすることはできない。加えて、記載される手順は結石または結石断片を個別にグリップして除去するため、非常に多くの労力を要する。結果として、個々の結石断片が比較的残存しやすくなる。
【0016】
砕石術の特定的な問題は、「グリット」とも呼ばれる中間サイズの結石断片(特に<2mm)が生じることである。なぜなら、これらの断片は効率的に把持することもリンスすることもできないからである。このサイズの残余断片は、把持器具(バレル鉗子またはバスケット)のメッシュをすり抜けるため、より多量の結石に対するグリットの抽出は非常に時間がかかって実際に実用できない。しかし、こうした腎結石断片を保持すると、それらの断片または断片が「結晶核」の役割をするため、症例の非常に高いパーセンテージで新たな腎結石の形成がもたらされる。
【0017】
特許文献5は、1つ以上の架橋性ポリマー(単数または複数)を含有する成分と、1つ以上の架橋剤(単数または複数)を含有する成分と、任意選択で磁化可能な粒子を含有する成分とを含むゲル形成システムを記載する。このゲル形成システムは、尿路結石を除去するために用いられ得る。このプロセスにおいて、尿路結石(単数または複数)は断片化される。その後、1つ以上の架橋剤を含有する成分と、磁化可能な粒子を含有する成分とが混合され、内視鏡デバイスを介してカテーテルによって、粉砕された尿路結石(単数または複数)の断片を含有する尿路の区域に注入される。次いで、1つ以上の架橋性ポリマーを含有する成分が加えられ、結果としてゲルの形成がもたらされる。凝固したゲルによって、尿路結石またはその断片が部分的または完全に包囲され、ゲルは外科用内視鏡を介してグリップ器具によって尿路結石またはその断片と共に除去され得る。
【0018】
ゲルを形成する成分を混合後に注入することはしばしば、ゲルが特に容易に形成され得るような十分に高い粘度と、それぞれの成分が特に良好に注入され得るような十分に低い粘度との間の好適なバランスを見出すことの困難さを提示する。加えて、結果として得られるゲルは、特に容易に再び除去され得るような好適な強度を有するべきである。加えて、成分を混合する時間は、たとえば医療手順をできる限り迅速に行い得るように十分に短くするべきである。しかしそれと同時に、その時間が短くなり過ぎないようにするべきであり、そうでなければ成分が十分に混合されないことがあり、非常に不均質なゲルがもたらされ得るか、またはゲル形成の際に塊が形成され得る。
【0019】
別の困難な点は、医療的使用のために成分をしばしば滅菌する必要があることである。滅菌後、成分または成分の構成要素はしばしば、特にゲル形成に対する大きく低減した機能しか有さない。成分の貯蔵にも同じことが当てはまる。よって、特にこうした成分の架橋性ポリマーは滅菌中に分解するため、その後にゲルを形成する能力が大きく低減するか、または完全に失われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5,244,913号
【特許文献2】国際公開第2005/037062号
【特許文献3】米国特許出願第2008/0065012号
【特許文献4】米国特許第6,663,594(B2)号
【特許文献5】国際公開第2014/173467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の最初の目的は、患者から粒子を除去することができ、かつ挙げられた欠点を伴わないか、または欠点をできる限り少なくして、上記の利点またはこれらの利点のできる限り多くを達成し得る可能性を提供することであった。
【0022】
特に、本発明の課題は、身体から粒子を信頼性高く抽出するために好適な、改善された滅菌された手段を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の最初の問題は、ゲルを形成するための滅菌されたゲル形成性多成分組成物、好ましくは2成分組成物によって解決され、
この組成物は、
成分(A)であって、
(i)1つ以上の架橋性、好ましくはカチオン架橋性ポリマー(単数または複数)であって、好ましくはそのポリマー(またはその1つ)がアルギン酸ナトリウムである、架橋性ポリマー、
(ii)水、
(iii)成分(A)の総質量に基づいて0.3~1.2質量%の範囲のNaCl、
(iv)1つ以上のリン酸緩衝液、および
(v)任意選択で、1つ以上の色素
を含む、成分(A)と、
成分(B)であって、
(a)成分(A)の成分(i)の架橋性ポリマー(単数または複数)を架橋するための1つ以上の架橋剤であって、好ましくはその架橋剤(またはその1つ)がCaCl2である、架橋剤、および
(b)水、および
(c)任意選択で、1つ以上の色素
を含む、成分(B)と、
からなるか、またはそれらを含む。
【0024】
好ましくは、成分(A)の成分(i)はアルギン酸ナトリウムを含み、成分(B)の成分(a)はCaCl2を含む。
【0025】
好ましくは、成分(A)の成分(i)はアルギン酸ナトリウムであり、成分(B)の成分(a)はCaCl2である。
【0026】
アルギン酸ナトリウムは、炎症反応または免疫拒絶反応を引き起こさず、かつ組織外傷のリスクが低いので、身体内で架橋性ポリマーとして用いるために特に好適である。加えて、アルギン酸ナトリウムは生分解性である。架橋は迅速に起こるが、患者の微細な組織構造または内視鏡検査器具には接着しない。結果として得られるゲルは、粒子と一緒に抽出されるために十分な安定性および柔軟性を有する。
【0027】
好ましくは、成分(A)中のアルギン酸ナトリウムの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%は、少なくとも110,000g/mol、好ましくは少なくとも125,000g/mol、好ましくは少なくとも150,000g/mol、好ましくは少なくとも175,000g/mol、好ましくは少なくとも200,000g/mol、好ましくは少なくとも225,000g/mol、好ましくは少なくとも250,000g/mol、好ましくは少なくとも275,000g/mol、好ましくは少なくとも300,000g/mol、好ましくは少なくとも325,000g/mol、好ましくは少なくとも350,000g/mol、好ましくは少なくとも375,000g/mol、好ましくは少なくとも400,000g/molのモル質量を有する。
【0028】
好ましくは、成分(A)中のアルギン酸ナトリウムの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%は、最大700,000g/mol、好ましくは最大600,000g/mol、好ましくは最大550,000g/mol、好ましくは最大500.000g/mol、好ましくは最大475,000g/mol、好ましくは最大450,000g/mol、好ましくは最大425,000g/mol、好ましくは最大400,000g/mol、好ましくは最大380,000g/mol、好ましくは最大360,000g/mol、好ましくは最大350,000g/mol、好ましくは最大340.000g/mol、好ましくは最大320,000g/mol、好ましくは最大300,000g/mol、好ましくは最大280,000g/mol、好ましくは最大260,000g/mol、好ましくは最大250,000g/mol、好ましくは最大240,000g/mol、好ましくは最大220,000g/mol、好ましくは最大200,000g/molのモル質量を有する。
【0029】
記載される最小および最大のモル質量の任意の組み合わせは、本明細書において記載されるアルギン酸塩の任意の量に対して開示される。異なる量のアルギン酸塩に対して最小および最大のモル質量が適用される場合も同じことが当てはまる。
【0030】
アルギン酸塩またはアルギン酸ナトリウムは、グルロン酸(G)およびマンヌロン酸(M)の2つのウロン酸から構築された多糖である。アルギン酸塩において、アルギン酸塩分子におけるGの割合およびMの割合は、大きく変動し得る。Gの割合がMの割合を決定し、すなわちGの割合が75%のとき、Mの割合は25%である。
【0031】
好ましくは、成分(A)中のアルギン酸ナトリウムの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のG含有量を有する。
【0032】
好ましくは、成分(A)中のアルギン酸ナトリウムの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%は、最大99%、好ましくは最大98%、好ましくは最大97%、好ましくは最大96%、好ましくは最大95%、好ましくは最大90%、好ましくは最大85%、好ましくは最大80%、好ましくは最大75%、好ましくは最大70%、好ましくは最大65のG含有量を有する。
【0033】
記載される最小および最大のGの割合の任意の組み合わせは、本明細書において記載されるアルギン酸塩の任意の量に対して開示される。異なる量のアルギン酸塩に対して最小および最大のGの割合が適用される場合も同じことが当てはまる。
【0034】
本明細書によって、アルギン酸塩の記載される最小および/または最大のモル質量と、記載される最小および/または最大のGの割合との任意の組み合わせも開示される。異なる量のアルギン酸塩に対して最小および/もしくは最大のモル質量、ならびに/または最小および/もしくは最大のGの割合が適用される場合も同じことが適用される。
【0035】
CaCl2は、生理学系において自然発生するカチオンを提供し、そのカチオンは生物学的に適合性の溶液の形態で容易に投与され得る。それらの溶液は好適な錯体化学を有し、架橋すなわちゲル形成のための安定したキレート錯体を形成し得る。
【0036】
本明細書において用いられる「ゲル形成性組成物」という用語は、その組成物がゲルを形成できるだけではなく、組成物の成分を混合することによってゲルが実際に形成されることを意味するものと理解されることが好ましい。
【0037】
組成物の成分を混合することによって形成されるゲルは、好ましくはヒドロゲルである。
【0038】
驚くべきことに、本発明による組成物において記載される成分(A)は有利に滅菌でき、滅菌プロセスが行われた後に成分(A)は機能性のままであることが見出された。よって、たとえば侵襲的または外科的な分野などの医療分野、特に患者への導入に適用されるように、個々もしくはそれらの個々の成分または多成分組成物を滅菌し得る。
【0039】
本発明による組成物において記載される成分(A)におけるNaClとリン酸(単数または複数)との組み合わせは、滅菌後のゲル形成の低減を有意に低減させた(実施例3を参照)。驚くべきことに、滅菌を行った後にもゲル形成を有利に生じさせるためには、成分(A)におけるリン酸の存在に加えて、NaClの濃度も重要であることが見出された。驚くべきことに、本発明による組成物において記載されるリン酸およびNaClは、滅菌後の機能の保存に対する相乗効果を発揮する(実施例3を参照)。
【0040】
好ましくは、NaClの量は成分(A)の総質量に基づいて0.3~1.2質量%の範囲、より好ましくは0.4~1.0質量%の範囲である。
【0041】
成分(iii)に加えて、成分(A)の1つ以上の成分がNaClを含有するべきであるとき、成分(A)中に存在する合計のNaClを用いてNaClの質量%が計算される。たとえば、成分(A)の成分(iv)のリン酸緩衝液もNaClを含有するとき、リン酸緩衝液のNaClも用いて成分(iii)のNaClの質量%が計算される。
【0042】
本明細書において用いられる「リン酸緩衝液」という用語は、特にH3PO4
-、H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-、ならびにその塩、特にナトリウムおよびカリウム塩、ならびにリン酸とその塩、特にナトリウムおよびカリウム塩との混合物からなる群より選択される1つ以上のリン酸を含有する緩衝溶液を記載する。「緩衝溶液」という用語は、酸または塩基が添加されたときに、非緩衝系において起こるよりも有意に小さいpH変化を起こす物質の混合物を記載する。好ましくは、「緩衝溶液」という用語は水溶液を記載する。
【0043】
好ましくは、本明細書において用いられる「Na2HPO4」および「KH2PO4」という用語は、それぞれNa2HPO4およびKH2PO4の水和物を含む。特に好ましくは、「Na2HPO4」という用語は水和物Na2HPO4・12H2OおよびNa2HPO4・2H2Oを含む。
【0044】
好ましくは、緩衝溶液中の1つ以上のリン酸(単数または複数)は、Na2HPO4、特にNa2HPO4・12H2O、Na2HPO4・2H2O、KH2PO4からなる群より選択される。
【0045】
特に好ましくは、緩衝溶液中の1つ以上のリン酸は、Na2HPO4および/またはKH2PO4である。
【0046】
成分(B)は、NaClをさらに含んでもよい。
【0047】
好ましくは、本発明によるゲル形成性多成分組成物の成分(A)において、
アルギン酸ナトリウム(成分(i))は、成分(ii)の質量に基づいて0.5~10質量%、好ましくは0.5~7.5質量%、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは0.5~2.5質量%、より好ましくは0.5~1.25質量%、特に好ましくは0.75~1.0質量%の範囲で存在し、
かつ/または
存在する場合にはNa2HPO4(成分(v))は、成分(ii)の質量に基づいて0.005~0.3質量%、好ましくは0.01~0.2質量%、より好ましくは0.05~0.1質量%の範囲で存在し、
かつ/または
存在する場合にはKH2PO4(成分(vi))は、成分(ii)の質量に基づいて0.001~0.1質量%、好ましくは0.005~0.05質量%、より好ましくは0.0075~0.025質量%の範囲で存在する。
【0048】
好ましくは、本発明によるゲル形成性多成分組成物の成分(A)中に、各々の場合に成分(iii)の質量に基づいて0.001~10質量%、好ましくは0.005~5質量%、より好ましくは0.01~1質量%、最も好ましくは0.05~0.5質量%の本明細書に記載されるリン酸緩衝液が存在する。
【0049】
好ましくは、本発明によるゲル形成性多成分組成物の成分(A)中に、各々が成分(iii)の質量に基づいて0.0005~0.1質量%、より好ましくは0.00075~0.05質量%、最も好ましくは0.001~0.01質量%の本明細書に記載される1つ以上のリン酸が存在する。
【0050】
付加的または代替的に、本発明によるゲル形成性多成分組成物の成分(B)中に、
存在する場合にはNaCl(成分(d))は、成分(b)の質量に基づいて0.05~1.5質量%、好ましくは0.1~1.0質量%、より好ましくは0.25~0.75の範囲で存在し、
かつ/または
CaCl2(成分(a))は、成分(b)の質量に基づいて0.25~5.0質量%、好ましくは0.75~2.5質量%、特に好ましくは1.5~2.0質量%の範囲で存在することも好ましい。
【0051】
本成分の量は、架橋反応の速度と、架橋されたゲルの安定性および柔軟性との両方に影響する。上述の好ましい量は、必要であればそのまま身体から除去し得る安定で柔軟なゲルをできる限り速く形成することを確実にする。
【0052】
驚くべきことに、本発明によるゲル形成性多成分組成物は、より長い有効期間を有することも見出された。このため、個々の成分の機能をほとんどまたはまったく失わずに貯蔵することができる。
【0053】
「滅菌」という用語は、好ましくは材料または目的物から微生物、好ましくは生存する微生物、および/もしくはウイルスおよび/もしくはプリオンおよび/もしくは核酸、好ましくはプラスミドをなくすか、またはそれらの数を低減させ、かつ/あるいは微生物を死滅させるプロセスを記載する。好ましくは、微生物はその休止期(例、胞子)のものも微生物として理解されるべきである。
【0054】
付加的または代替的に、「滅菌」という用語は、好ましくはそのプロセスを行った後に生存する大腸菌(Escherichia coli)も生存するサルモネラも存在しなくなるプロセスを含む。
【0055】
好ましくは、「滅菌」という用語は、そのプロセスを行った後に好気性微生物の総数が103CFU/g(CFU:コロニー形成単位(colony forming unit))の値を超えず、かつ/または酵母および真菌の総数が102CFU/gの値を超えなくなるプロセスを記載し、ここでの質量(グラム)は滅菌される物品または材料を示す。
【0056】
好ましくは、「無菌(sterile)」という用語は生存する微生物が存在しないことを記載し、1単位の滅菌された(sterilized)材料中の生存する微生物の残余含有量は最大10-6である。10-6以下の残余含有量とは、同等に処理された百万単位の滅菌材料中に生存する微生物が1つしか存在しないことを意味する。
【0057】
好ましくは、「生存する微生物」という用語は、増殖可能な微生物を記載する。
【0058】
好ましくは、「無菌」という用語は付加的または代替的に、複製可能なウイルスまたはビリオンが存在しないことを記載し、1単位の滅菌材料中の複製可能なウイルスまたはビリオンの残余含有量は最大10-6である。最大10-6の残余含有量とは、同等に処理された百万単位の滅菌材料中に複製可能なウイルスまたはビリオンが1つしか含有されないことを意味する。
【0059】
好ましくは、「無菌」という用語は付加的または代替的に、プリオン、好ましくは機能性プリオンが存在しないことを記載し、1単位の滅菌材料中のプリオンまたは機能性プリオンの残余含有量は最大10-6である。最大10-6の残余含有量とは、同等に処理された百万単位の滅菌材料中にプリオンまたは機能性プリオンが1つしか含有されないことを意味する。
【0060】
好ましくは、「機能性プリオン」という用語は、タンパク質の立体構造を変化させてそのタンパク質もプリオンにし得るプリオンを記載する。
【0061】
好ましくは、「無菌」という用語は付加的または代替的に、核酸、好ましくは機能性核酸が存在しないことを記載し、1単位の滅菌された材料中の核酸または機能性核酸の残余含有量は最大10-6である。最大10-6の残余含有量とは、同等に処理された百万単位の滅菌材料中に核酸分子または機能性核酸分子が1つしか含有されないことを意味する。
【0062】
好ましくは、「機能性核酸分子」という用語は、なおも転写および/または翻訳され得る核酸分子を記載する。
【0063】
好ましくは、「無菌」という用語は付加的または代替的に、少なくとも1x10-6のSALを記載する。滅菌プロセスのSALは、そのプロセスを受けた後の生成物構成要素における微生物の生存の確率として表現される。たとえば、10-6のSALは、最終生成物の1x106の滅菌された構成要素中に最大1つの非無菌構成要素がある確率を示す。所与の生成物に対するプロセスのSALは、適切な検証試験を通じて確立される(出典:欧州薬局方(Ph.Eur.)10.-10.0/5.01.01.00)。
【0064】
可能な滅菌プロセスは、化学物質を用いるプロセス、物理的方法を用いるプロセス、またはその組み合わせを含む。特に、こうした方法は蒸気滅菌、高温空気滅菌、照射、ガス滅菌、および無菌濾過からなる群より選択されてもよい。
【0065】
蒸気滅菌において、滅菌デバイス、好ましくはオートクレーブの内側の空気は、水蒸気に置換される。好ましくは、滅菌されるべき材料は、好ましくは少なくとも2バール、好ましくは2~3バールの範囲の圧力にて、少なくとも121℃、好ましくは121℃~134℃の範囲の温度にされる。好ましくは、滅菌されるべき材料は、前記条件に少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも15分間、好ましくは5~25分間の範囲の時間露出される。
【0066】
好ましくは、滅菌されるべき材料は、水蒸気中で少なくとも2バールの圧力にて少なくとも121℃の温度に少なくとも20分間さらされる。
【0067】
好ましくは、滅菌されるべき品物は、少なくとも水蒸気中で3バールの圧力にて少なくとも134℃の温度に少なくとも5分間さらされる。
【0068】
好ましくは、滅菌プロセスは少なくとも8のF0値を有する。
【0069】
高温空気滅菌において、滅菌されるべき品物は、好ましくは少なくとも160℃、好ましくは少なくとも170℃、特に好ましくは少なくとも180℃、特に好ましくは少なくとも220℃の温度にさらされる。好ましくは、滅菌されるべき品物は、その温度に少なくとも30分間、好ましくは少なくとも60分間、より好ましくは少なくとも120分間露出される。
【0070】
照射の際に、滅菌されるべき材料は電離放射線に露出される。電離放射線は、好ましくはUV放射線、X線放射線、ベータ放射線、およびガンマ放射線から選択される。好ましくは、電離放射線によってもたらされるエネルギー線量は少なくとも25kGyである。
【0071】
ガス滅菌において、滅菌されるべき品物は、たとえば微生物を死滅させるガスに露出される。好ましくは、そのガスはエチレンオキシドである。
【0072】
無菌濾過において、滅菌されるべき材料は濾過される。好ましくは最大0.25μm、好ましくは最大0.22μm、特に好ましくは最大0.2μm、特に好ましくは最大0.1μmの細孔サイズを有するフィルタが用いられる。
【0073】
好ましくは、無菌濾過の際にフィルタの品質をチェックするために、濾過後にバブルポイントテストが行われる。
【0074】
有利には、医療用デバイスの滅菌は最終梱包において行われる。なぜならこの手順は、無菌提供される製品のより簡単な証明を可能にし、(全体の)製造プロセスのより簡単な維持を提供するからである。
【0075】
驚くべきことに、本発明によるゲル形成性多成分組成物は、たとえば生理食塩溶液などの水溶液の存在下でもゲルを形成することも見出された。これは通常、過去に公知の組成物または接着剤では起こらないか、またはこれらの組成物または接着剤は水溶液の存在下で十分な強度を示す好適なゲルを形成できない。
【0076】
さらに好ましくは、本発明によるゲル形成性多成分組成物の成分(A)および/または成分(B)は、少なくとも1つの色素を含む。この状況において、この色素は生理的に無害であり、よって患者に対する/おける適用に問題なく使用され得ることが特に好ましい。
【0077】
患者からの望ましくない粒子の除去において、着色されたゲルはいくつかの利点を有することが示されている。注入される成分(単数または複数)の正確な量および位置が正確に制御され得る。加えて、ゲル形成がすでに完了したかどうかを決定でき、形成されたゲルを内視鏡によって容易に回収することができる。加えて、適切な機能を保証できない程度まで成分を希釈する可能性があるリンス溶液または過剰な投与の使用によって、それぞれの成分が渦巻いているかどうかを決定できる。
【0078】
こうした利益を利用するために、クルーティエ(Cloutier)J、コルデイロ(Cordeiro)ER、カンフィス(Kamphuis)GM、ヴィラ(Villa)L、レテンドル(Letendre)J、デ・ラ・ロゼット(de la Rosette)JJ、トラクサー(Traxer)O(2014)「グルークロット技術:小さい腎杯結石断片除去のための新たな技術の説明(The glueclot technique:a new technique description for small calyceal stone fragments removal)」ユロリサイアシス(Urolithiasis)42(5):441-444には、自己の血液を使用することが記載されている。しかし、凝固した血液からの血餅の形成は、本明細書に記載される成分からの凝固されたゲルの形成よりも顕著に長い時間がかかる。加えて、血液と患者の組織との色のコントラストが低いために、血液の使用は困難である。さらに、処置を行う医師は、手順の成功(success)の対照(control)として、埋め込まれた結石断片を見ることを望む。しかし、血餅においては血液固有の色が強いためにこれが実現できない。しかし、血液を希釈することは、固体の血餅の形成を妨げるか、またはその強度を大きく低減させる。加えて、自己の血液は、微細なカテーテルを用いてたとえば遠位腎杯などの結石断片の区域に特定的に適用することができない(このためには血液の粘度が高過ぎる)。
【0079】
加えて、少なくとも1つの色素またはその少なくとも1つは、多成分組成物が適用される患者の組織に対して高いコントラストを有することが好ましい。よって、少なくとも1つの色素またはその少なくとも1つは、赤色または黄橙色の着色を提供しないことが好ましい。
【0080】
少なくとも1つの色素またはその少なくとも1つは、黒色または白色の着色を提供しないことがさらに好ましい。これは、除去されるべき粒子がすでにゲルに包囲されているかどうか、またはどの粒子がすでに包囲されているか、および粒子を除去するためになおもどこにゲルが必要かの成功のさらに良好な照合(control)を可能にする。
【0081】
加えて、凝固したゲルおよび/または色素を含有するその成分(またはその1つ)から色素が漏出しないことが特に有利である。この場合、患者の周囲組織が染色されず、色素は、その色素を含有するゲルおよび/または成分(単数または複数)に対する標識の働きをし得る。したがって、凝固したゲルが患者から完全に除去されたかどうかをチェックできる。加えて、着色された成分は、量および実際の適用場所に関してより良好に投与され得る。加えて、ゲルと患者の組織との混同が最小化され、その後ゲルが除去されるときに、ゲル自身のみが中に包囲した粒子と共に除去され、除去されるべきでない患者の(内在性)組織は除去されない。よって、周囲の患者組織の偶発的な損傷が最小化される。
【0082】
成分(A)および成分(B)が少なくとも1つの色素を含み、成分(A)中の色素(単数または複数)は、成分(B)中の色素(単数または複数)とは異なることがさらに好ましい。これは特に、成分(A)と(B)との色の区別ができるようになる点で有利であることが証明されている。加えて、好ましくかつ有利には、このやり方で成分(A)および(B)がすでに混合されたか、または混合されているかどうかを決定できる。なぜなら、2つの成分を混合することによって、好ましくは着色された成分(A)および/または(B)の色とは異なる色がもたらされるからである。
【0083】
「成分(A)中の色素(単数または複数)は、成分(B)中の色素(単数または複数)とは異なる」という語句は、成分(A)および(B)の一方または両方に複数の色素がある場合に、一方の成分の色素の組み合わせが色素(単数または複数)の組み合わせと同じではないことを意味することが理解されるべきである。結果的に、少なくとも一方の成分が別の異なる色素も含有する限り、両方の成分が同じ色素を含有してもよい。
【0084】
特に、2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含むことが好ましい。驚くべきことに、特にデキストランブルーは、この色素がゲルの外に拡散しないために周囲組織を染色しないという追加の利点を有することが見出され、それは周囲組織を損傷せずに包囲された粒子と共にゲルを除去するとき、およびゲルが完全に除去されたかどうかをチェックするときに特に有利である。
【0085】
特に好ましくは、2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含み、2つの成分(A)および(B)の他方がリボフラビンを含む。
【0086】
好ましくは、2つの成分(A)および(B)の一方において、デキストランブルーは成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.75質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲で存在する。
【0087】
付加的または代替的に、リボフラビンは2つの成分(A)および(B)の一方において、成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.0001~0.05質量%、好ましくは0.0005~0.01質量%、より好ましくは0.001~0.005質量%の範囲で存在する。
【0088】
「成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて」という表現は、デキストランブルーまたはリボフラビンが成分(A)中に存在するときには「質量%」の表示が成分(ii)の質量を示し、一方でデキストランブルーまたはリボフラビンが成分(B)中に存在するときには「質量%質量」の表示が成分(b)の質量を示すというやり方で理解されるべきである。
【0089】
これは患者の周囲組織に対する高いコントラストを有するゲルの着色を提供するので、特に有利である。同時に、この濃度のデキストランブルーまたはリボフラビンは、特に良好な上述の成功の照合を可能にする。
【0090】
特に好ましくは、成分(A)および/または成分(B)および/または組成物に任意選択で含有される別の成分(C)は中性のpHを有し、好ましくは6.5~8.0の範囲のpH、特に好ましくは7.0~7.5の範囲のpHを有する。中性のpHは、特に体組織に無害であることが示されている。さらに、これらの成分は、たとえば蒸気滅菌、オートクレーブなどの滅菌の際に、まったくまたはほぼまったく分解も損傷もされない。
【0091】
本発明による組成物は、付加的に他の成分を含有してもよい。たとえば、ゲルの形成および/または粒子の取り込みを促進する物質が、本発明による組成物の成分(A)および/または(B)および/または1つ以上のさらなる成分に加えられてもよい。こうした物質は、たとえばゲルの安定性を増加させるための架橋剤などであってもよい。
【0092】
したがって本発明によると、成分(A)、成分(B)、および/または組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)は、アルギン酸ナトリウムの架橋および/または安定性を改善するための1つ以上の物質、特に架橋剤を含有することが好ましく、好ましくはその物質(1つ、複数またはすべて)は、アミノ酸、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成二量体または多量体、糖プレポリマー、および合成プレポリマーからなる群より選択される。
【0093】
本発明による組成物は、付加的または代替的にさらなる成分を含有してもよい。たとえば、ゲルの形成および/または粒子の取り込み、ならびに密度を促進する物質が、本発明による組成物の成分(A)および/または(B)および/または1つ以上のさらなる成分に加えられてもよい。
【0094】
こうした物質は、たとえばゲルの成分、特に架橋性ポリマー、好ましくはアルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための物質などであってもよい。こうした物質は、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成ポリマー、糖プレポリマー、糖単量体、糖二量体、たとえばショ糖もしくはグルコース、合成プレポリマー、親水性コポリマー、エピクロロヒドリン(フィコール(Ficoll)(登録商標))、またはグリセロールからなる群より選択されてもよい。
【0095】
したがって本発明によると、成分(A)、成分(B)、および/または組成物に任意選択で含まれるさらなる成分(C)は、成分(A)の成分(i)の架橋性ポリマー、好ましくはアルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための1つ以上の物質を含有することが好ましく、好ましくはその物質(1つ、複数またはすべて)は、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成ポリマー、糖プレポリマー、糖単量体、糖二量体、たとえばショ糖もしくはグルコースなど、合成プレポリマー、親水性コポリマー、エピクロロヒドリン(フィコール(Ficoll)(登録商標))、またはグリセロールからなる群より選択される。
【0096】
好ましくは、成分(A)、成分(B)、および/または組成物に任意選択で含まれる別の成分(C)は、成分(A)の成分(i)の架橋性ポリマー、好ましくは本明細書に記載されるアルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための1つ以上の物質を、成分(A)または成分(B)または組成物に任意選択で含まれるさらなる成分(C)の総質量に基づいて1~30質量%、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~10質量%の量で含有する。組成物中のいくつかの成分が1つ以上のこうした物質を含有するとき、その量は好ましくは各成分に対して個別に計算される。
【0097】
密度を増加させるためのその物質(単数または複数)またはその1つが成分(A)の成分(i)に従う架橋性ポリマーであるとき、成分(A)の成分(i)の質量を計算するため、またはその成分の質量に基づくデータを計算するために、その架橋性ポリマーが成分(A)の成分(i)の一部として考慮に入れられる。
【0098】
好ましくは、「ゲルの成分、特に架橋性ポリマー、好ましくはアルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための物質」という用語は、使用される本発明による組成物の成分(A)の成分(i)の架橋性ポリマーを示さない。
【0099】
さらに本発明は、患者から望ましくない粒子を除去するための方法において使用するための、本発明による組成物に関する。
【0100】
前述の望ましくない粒子の除去は、侵襲的な外科手順を構成する。純粋に美容的な適用はこの対象ではない。不要な粒子の除去は標的方式で行われ、不要な粒子は身体から意図的に除去される。
【0101】
望ましくない粒子は、医学的観点から患者の身体から除去する必要があるか、または除去し得る任意の種類の粒子であり得る。
【0102】
好ましくは、粒子は堆積物、沈殿物、異物および/もしくはその断片、ならびに/または内在性構造物の破片である。堆積物は、特に尿路結石または腎結石であってもよい。沈殿物は、たとえば胆汁または膵臓もしくは唾液腺の沈殿物としての胆石などの粒子であってもよい。異物は、たとえば擦過傷などの傷害などの際に身体に入るたとえば鉱物の断片、金属、プラスチック、または木の破片などであり得る。「その断片」という用語は前述の粒子形態を示し、これらの粒子が除去前または除去中により小さい部分または断片に粉砕され得ることを明確にしている。ここでは、この適用によって一部(断片)のみが除去され、残りの断片はさらなるステップまたはプロセスにおいて除去されることもあり得る。身体自身の構造体の破片は、たとえば移植片の挿入または除去などの手術中に生じることがあり、したがってそれはたとえば骨の破片または粉砕残留物などであり得る。しかし好ましくは、この破片は、たとえば事前または同時に行われた外科的介入などの際に生じたたとえば軟骨組織または腫瘍の断片などの他の構造体の破片も含む。破片という用語は、任意の形状およびサイズの構造体を含む。
【0103】
好ましくは、望ましくない粒子の除去は、以下のステップを含むプロセスとして行われる。
(i)滅菌された成分(A)および(B)ならびに(存在する場合には)さらなる成分(単数または複数)を提供するステップ、
(ii)成分(A)および(B)ならびに(存在する場合には)さらなる成分(単数または複数)を、患者の身体内の除去されるべき粒子を含有する区域に導入するステップであって、
成分(A)と成分(B)とが接触したときに、アルギン酸ナトリウムが架橋して除去されるべき粒子を部分的または完全に包囲する架橋されたゲルを形成し得る条件下で行われる、導入するステップ、
(iii)患者の身体の区域から、架橋されたゲルをそれが包囲する粒子と共に除去するステップ。
【0104】
成分(A)、(B)、および(存在する場合には)他の成分は、ステップ(ii)において同時または連続的に導入されてもよい。加えて、それらの成分は身体内への導入の前に混合されてもよい。個々の成分も身体内への導入の前に混合されてもよく、一方で他の成分は身体内で最初に1つ以上の他の成分と接触する。成分(A)、(B)、および(存在する場合には)任意選択の他の成分は、同時だが別々に、すなわち互いに分離された形態で身体内に導入されてもよい。
【0105】
好ましくは、この方法は、時間的にステップ(ii)の前に行われる次のさらなるステップ:
患者の身体の区域内で1つ以上の粒子を断片化することによって、粒子(単数または複数)の2つ以上、好ましくは複数の断片が形成されるようにするステップ
を含む。
【0106】
このステップが行われるとき、粒子はすでに断片として存在していてもよく、それらはその後のこのステップによって自身の断片に断片化される。
【0107】
好ましくは、「複数の断片」という用語は少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15、最も好ましくは少なくとも20の断片を含む。このステップで断片化される粒子がすでに断片として存在するとき、「粒子(単数または複数)の複数の断片」という用語は、すでに断片化された粒子と、それから生じた断片とを示す。
【0108】
加えて本発明は、本発明による組成物を調製するためのプロセスに関し、このプロセスは以下のステップを含むか、またはそれらのステップからなる。
(i)本明細書に記載される成分(A)を提供するステップ、
(ii)本明細書に記載される成分(B)を提供するステップ、
(iii)任意選択で、本明細書に記載される成分(C)を提供するステップ、
(iv)ステップ(i)において提供した成分(A)ならびに任意選択で成分(B)および/または(存在する場合には)成分(C)を滅菌するステップ。
【0109】
ゲル、ゲル形成性多成分組成物、ゲル形成性多成分組成物の成分または個々の成分の特性および利点に関して上述されたことは、製造プロセスにおける成分または個々の成分に対してもそれに応じて適用される。たとえば、すでに上述されたとおり、成分(A)および/または(B)は上述の少なくとも1つの色素を含有してもよい。特に好ましくは、上述のとおり、成分(A)はNa2HPO4および/またはKH2PO4を含んでもよい。代替的または付加的に、上述のとおり、成分(B)はNaClを含んでもよい。
【0110】
好ましくは、本発明によるプロセスのステップii)における滅菌は、蒸気滅菌、高温空気滅菌、照射、ガス滅菌、および無菌濾過からなる群より選択される。
【0111】
高温空気滅菌と比較して、蒸気滅菌は生体材料および多くのプラスチックに対しても使用できるという利点を提供する。なぜなら、蒸気滅菌はこれらの材料を破壊しない(またはより低い程度にしか破壊しない)ためである。
【0112】
照射と比較して、蒸気滅菌は、たとえばガンマまたはベータ放射線などの高エネルギー放射線と比較してバイオポリマーを破壊しない(またはより低い程度にしか破壊しない)という利点を有する。微生物を死滅させるためには、生物の基礎を形成する生体分子を破壊することが確かに望ましい。しかし、バイオポリマーの形態の機能性生体分子を含む医療用デバイスの場合には、高エネルギー照射によって、鎖断片化による機能の大幅な損失ももたらされる。
【0113】
ガス滅菌と比較して、蒸気滅菌は、医療用デバイスをその最終梱包においても有利に滅菌し得るという利点を提供する。たとえばエチレンオキシドによるガス滅菌の場合、もし物質を最終梱包において滅菌しようとすれば、エチレンオキシドは滅菌されるべき物質と接触しないか、またはほとんど接触しないだろう。
【0114】
加えて蒸気滅菌は、医療用デバイスを最終梱包において有利に滅菌し得るという点で、無菌濾過に対する利点を有する。無菌濾過は医療用デバイスの製造および梱包の最終ステップではないため、最終のプロセスではない。
【0115】
好ましくは、本発明によるプロセスのステップ(iv)は蒸気滅菌のステップを含むか、または蒸気滅菌のステップからなり、
好ましくは蒸気滅菌の際の温度は少なくとも121℃、より好ましくは121℃~134℃の範囲であり、
好ましくは蒸気滅菌の際の圧力は少なくとも2バール、より好ましくは2~3バールの範囲であり、
かつ好ましくは蒸気滅菌の持続時間は少なくとも5分間、より好ましくは5~25分間の範囲である。
【0116】
特に好ましくは、本発明によるプロセスのステップ(iv)における滅菌は蒸気滅菌、好ましくは本明細書に記載される蒸気滅菌であり、ここで提供される成分(単数または複数)は、少なくとも水蒸気中で2バールの圧力にて少なくとも121℃の温度に少なくとも15分間、好ましくは少なくとも20分間露出される。
【0117】
最も好ましくは、本明細書に記載されるとおりに成分(A)が提供されるプロセスにおいて、成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4もしくはKH2PO4を含むか、または成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4およびKH2PO4を含む。
【0118】
さらに好ましいのは本明細書に記載されるとおりに成分(A)が提供される方法であり、ここで成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4もしくはKH2PO4を含むか、または成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4およびKH2PO4を含み、かつ本発明の方法のステップii)における滅菌は蒸気滅菌、好ましくは本明細書に記載される蒸気滅菌であり、ここで好ましくは成分(A)ならびに任意選択で成分(B)および/または(存在する場合には)成分(C)は、水蒸気中で少なくとも2バールの圧力にて少なくとも121℃の温度に少なくとも15分間、好ましくは少なくとも20分間露出される。
【0119】
好ましくは、本発明によるプロセス、特に好ましいとして記載されるプロセスのステップiv)における滅菌は、少なくとも8、好ましくは少なくとも10、特に好ましくは少なくとも15のF0値を有する。
【0120】
特に好ましいのは、本明細書に記載される成分(A)が提供されるプロセスであり、ここで成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4もしくはKH2PO4を含むか、または成分(A)、好ましくは成分(A)のリン酸緩衝液はNa2HPO4およびKH2PO4を含み、かつ本発明によるプロセスのステップiv)における滅菌は蒸気滅菌であり、好ましくは成分(A)ならびに任意選択で成分(B)および/または(存在する場合には)成分(C)は、水蒸気中で少なくとも2バールの圧力にて少なくとも121℃の温度に少なくとも15分間、好ましくは少なくとも20分間露出され、ステップii)における滅菌は、少なくとも8、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15のF0値を有する。
【0121】
さらに本発明は、本発明によるプロセスによって製造されたかまたは製造可能な、本発明による組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0122】
以下において、選択された実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0123】
成分(A)、(B)、および(C)の調製
例示的な成分(A)を調製するために、5gのデキストランブルーおよび4gのアルギン酸ナトリウムを1Lの水に溶解する。
【0124】
アルギン酸ナトリウムは、200,000g/molのモル質量および55%のG含有量を有する。
【0125】
例示的な成分(B)を調製するために、10gの塩化カルシウム二水和物を1Lの水に溶解する。
【0126】
例示的な成分(C)を調製するために、水または生理緩衝液中に4~40mMの鉄(1リットル当り0.35~3.5g)を含有する粒子懸濁液を調製する(M.ゲッパート(Geppert)ら、ナノテクノロジー(Nanotechnology)22(2011)145101)。この溶液を1%~50%にてAまたはBに加える。
【実施例2】
【0127】
尿路結石の除去のための本発明によるゲル形成システムの適用。
尿路管腔(例、腎盂腎杯系)へのアクセスは、腎盂尿管鏡によって(尿道、膀胱、および尿管を通じて)得られるか、または経皮的に(側腹部の皮膚穿刺によって)得られる。3~9mmの内径を有する特殊なシース(おそらくは金属成分を有するポリマーチューブ)が内側に置かれる。提供されたアクセスシャフトを通じて、尿路管腔(例、腎盂腎杯系)に内視鏡が挿入され、外科的区域が検査され、尿路結石(単数または複数)が可視化される。たとえばホルミウムレーザーなどを用いて、尿路結石(単数または複数)が断片化される。大きい断片および中間サイズの断片は、結石捕捉器具によって除去される。次いで、(アクセスを通る)内視鏡デバイスを介してカテーテルが挿入され、最大3mL、特に300~500μLの実施例1による成分(A)が、断片化された尿路結石(単数または複数)の結石または断片をAが包囲するか、または埋め込むようなやり方で、尿路の区域(例、腎盂腎杯系の中)に適用される。その後、やはり内視鏡の中に位置するカテーテルを介して、最大9mLの実施例1による成分(B)がBの近傍に適用される。AとBとの積極的な混合は必要ない。数秒間から1分間以内にゲルの形成が起こる。AおよびBの適用の間に、カテーテルに0.9%NaCl溶液が流されてもよい。次いで、アクセスシースを介して外科用内視鏡を通じて把持器具が挿入される。この把持器具を用いて、一片または複数片の凝固したゲルを把持し、それを抽出によって身体から除去する。
【実施例3】
【0128】
滅菌の前後の異なるゲル形成性組成物の比較。
アルギン酸ナトリウムを含有する以下の調合物を提供した。
【0129】
【0130】
各々の調合物を蒸気滅菌によって、121℃にて20分間滅菌した。
【0131】
上述のとおり、蒸気滅菌はアルギン酸ナトリウム鎖の切断ももたらすため、より長い分子鎖がより短い鎖に転換する。この分子鎖の切断は、特に粘度を測定することによって分析できる。粘度測定に対して、文献には鎖長が短くなると粘度の値(通常mPa・sの単位で与えられる)も減少すると記載されている。通常、分子鎖長の低減には機能の損失も付随する。
【0132】
したがって、25℃にて粘度計を用いて蒸気滅菌の前後の調合物の粘度を測定した。
【0133】
この目的のために、CPA-41Zスピンドルを有するブルックフィールド(Brookfield)-AMETEK DV2T粘度計が用いられ、ブルックフィールド(Brookfield)-AMETEK TC-550槽サーモスタットを用いて温度が一定に保たれた。ゲル形成能力も測定した。この目的のために、皿にそれぞれの成分を一緒に入れて、液体の接触表面の区域において、もし可能であればグリッパー(たとえばピンセットなど)を用いてヒドロゲル糸を引き出した。
【0134】
個々の調合物に対して、以下の結果が得られた。
【0135】
【表2】
滅菌後の粘度[%]は、滅菌後の粘度[mPa・s]の滅菌前の粘度[mPa・s]による商として計算される。
【0136】
本発明による調合物3の粘度は、滅菌後に調合物1と比較して7.8倍に増加した。調合物2と比較すると、滅菌後の粘度はさらに13倍に増加した。滅菌後のゲル形成は、本発明による調合物3のみが可能であった。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルを形成するための滅菌されたゲル形成性多成分組成物、好ましくは2成分組成物であって、
前記組成物が、
成分(A)であって、
(i)1つ以上の架橋性ポリマー、好ましくはカチオン架橋性ポリマーであって、前記ポリマー(またはその1つ)がアルギン酸ナトリウムである、架橋性ポリマー、
(ii)水、
(iii)成分(A)の総質量に基づいて0.3~1.2質量%の範囲のNaCl、および
(iv)1つ以上のリン酸緩衝液、
を含む、成分(A)と、
成分(B)であって、
(a)成分(A)の成分(i)の前記架橋性ポリマー(単数または複数)を架橋するための1つ以上の架橋剤であって、好ましくは前記架橋剤(またはその1つ)がCaCl
2である、架橋剤、および
(b)水
を含む、成分(B)と、
からなるか、またはそれらを含
み、
前記組成物の成分を混合することによってゲルが形成される、滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項2】
成分(A)中の前記リン酸緩衝液が、H
3PO
4、H
2PO
4
-、HPO
4
2-、PO
4
3、ならびにその塩、好ましくはナトリウムおよびカリウム塩、ならびに前記リン酸とその塩との混合物、好ましくはナトリウムおよびカリウム塩との混合物からなる群より選択される1つ以上のリン酸を含有する、請求項1に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項3】
成分(A)において、
アルギン酸ナトリウム(成分(i))が成分(ii)の質量に基づいて0.5~10質量%、好ましくは0.5~7.5質量%、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは0.5~2.5質量%、より好ましくは0.5~1.25質量%、より好ましくは0.75~1.0質量%の範囲で存在し、
かつ/または
成分(B)において、
CaCl
2(成分(a))が成分(b)の質量に基づいて0.25~5.0質量%、好ましくは0.75~2.5質量%、特に好ましくは1.5~2.0質量%の範囲で存在する、請求項1または2に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項4】
成分(A)および/または成分(B)が少なくとも1つの色素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項5】
成分(A)および成分(B)が少なくとも1つの色素を含み、成分(A)中の前記色素が成分(B)中の前記色素とは異なる、請求項4に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項6】
2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含み、かつ/または2つの成分(A)および(B)の一方がリボフラビンを含み、
好ましくは2つの成分(A)および(B)の一方がデキストランブルーを含み、かつ2つの成分(A)および(B)の他方がリボフラビンを含む、請求項4または5に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項7】
2つの成分(A)および(B)の一方において、デキストランブルーが成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.75質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲で存在し、
かつ/または
2つの成分(A)および(B)の一方において、リボフラビンが成分(ii)または成分(b)の質量に基づいて0.0001~0.05質量%、好ましくは0.0005~0.01質量%、特に好ましくは0.001~0.005質量%の範囲で存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項8】
成分(A)および/または成分(B)および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、中性のpHを有し、好ましくは6.5~8の範囲のpH、特に好ましくは7.0~7.5の範囲のpHを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項9】
成分(A)、成分(B)、および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、前記アルギン酸ナトリウムの前記架橋および/または安定性を改善するための1つ以上の物質、特に架橋剤を含有し、好ましくは前記物質の1つ以上またはすべてが、アミノ酸、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成二量体または多量体、糖プレポリマー、および合成プレポリマーからなる群より選択され、
かつ/あるいは
成分(A)、成分(B)、および/または前記組成物に任意選択で含有されるさらなる成分(C)が、成分(A)の成分(i)の前記架橋性ポリマー、好ましくは前記アルギン酸ナトリウムの密度を増加させるための1つ以上の物質を含有し、好ましくは前記物質の1つ以上またはすべてが、(バイオ)ポリマー、糖ポリマー、合成ポリマー、糖プレポリマー、糖単量体、糖二量体、たとえばショ糖もしくはグルコース、合成プレポリマー、親水性コポリマー、エピクロロヒドリン、またはグリセロールからなる群より選択される、請求項8に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項10】
患者から望ましくない粒子を除去する方法において使用するための滅菌されたゲル形成性多成分組成物であって、
好ましくは前記粒子がデブリ、沈殿物、異物および/もしくはその断片、ならびに/または内在性構造物の破片である、請求項1~9のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項11】
前記患者から望ましくない粒子を除去する方法が、
(i)滅菌された成分(A)および(B)を提供するステップ、
(ii)成分(A)および(B)を、患者の身体内の除去されるべき粒子を含有する区域に導入するステップであって、
成分(A)と成分(B)とが接触したときに、前記架橋性ポリマー(単数または複数)が架橋して除去されるべき前記粒子を部分的または完全に包囲する架橋されたゲルを形成し得る条件下で行われる、導入するステップ、
(iii)前記患者の身体の区域から、架橋されたゲルをそれが包囲する前記粒子と共に除去するステップ
を含む、請求項10に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項12】
前記患者から望ましくない粒子を除去する方法が、時間的にステップ(ii)の前に行われる次のさらなるステップ:
前記患者の身体の前記領域内で1つ以上の粒子を断片化することによって、前記粒子(単数または複数)の2つ以上、好ましくは複数の断片が得られるようにするステップ
を含む、請求項11に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物を調製する方法であって、
(i)請求項1~12のいずれか一項において定義した成分(A)を提供するステップ、
(ii)請求項1~12のいずれか一項において定義した成分(B)を提供するステップ、
(iii)任意選択で、請求項9において定義した成分(C)を提供するステップ、
(iv)ステップ(i)において提供した成分(A)ならびに任意選択で成分(B)および/または成分(C)を滅菌するステップ
を含むか、または前記ステップからなる、方法。
【請求項14】
ステップ(iv)が蒸気滅菌のステップを含むか、または蒸気滅菌のステップからなり、
好ましくは前記蒸気滅菌における温度が少なくとも121℃、より好ましくは121℃~134℃の範囲であり、
好ましくは前記蒸気滅菌の際の圧力が少なくとも2バール、より好ましくは2~3バールの範囲であり、かつ、
好ましくは前記蒸気滅菌の持続時間が少なくとも5分間、より好ましくは5~25分間の範囲である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14のいずれか一項に記載のプロセスによって製造可能であるかまたは製造された、請求項1~12のいずれか一項に記載の滅菌されたゲル形成性多成分組成物。
【国際調査報告】