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特表2024-525121高レベルrAAV生産のためのシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】高レベルrAAV生産のためのシステム
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240703BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/35
C12N15/85 Z
C12N15/861 Z
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573566
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022068080
(87)【国際公開番号】W WO2023275260
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21183218.3
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】508334199
【氏名又は名称】シャリテ-ウニヴェルジテーツメディツィン・ベルリン
【氏名又は名称原語表記】CHARITE-UNIVERSITAETSMEDIZIN BERLIN
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ウェガー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハイルブロン,レギーネ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、研究および治療用途において使用するための組換え型アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子の新規生産方法を対象とする。特に、本発明は、AAV Repタンパク質をコードする第1の組換え型アデノウイルスベクターと、AAV Capタンパク質をコードする第2の組換え型アデノウイルスベクターとに細胞を感染させる、組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子を生産するための有利な方法を開示する。この細胞には、さらに、導入遺伝子を含むAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされた発現カセットを内包する導入遺伝子ベクターが提供される。本発明はさらに、導入遺伝子ベクター、AAV Repタンパク質をコードする第1の組換え型アデノウイルスベクター、およびAAV Capタンパク質をコードする第2の組換え型アデノウイルスベクターを含む、本発明の方法に従ってrAAVベクターを生産するためのキットまたは組成物を開示する。本発明の方法、キット、および組成物は、安定なシステムにおけるAAVベクター粒子の生産の増加を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子を生産する方法であって、
a)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクター(rep-rAdV)であって、前記rep遺伝子がRIS-Adを含まず、前記repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクターに、細胞を感染させることと、
b)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクター(cap-AdV)であって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクターに、細胞を感染させることと、
c)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、前記発現カセットがAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている、導入遺伝子ベクターを提供することとを含み、
a)およびc)が、AAVウイルス様粒子の生産のために適宜行われる、方法。
【請求項2】
前記方法が、rAAVベクターを生産するためのものであり、前記方法が、
a)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクター(rep-rAdV)であって、前記rep遺伝子がRIS-Adを含まず、前記repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクターに、細胞を感染させることと、
b)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクター(cap-AdV)であって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクターに、細胞を感染させることと、
c)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、前記発現カセットがAAV ITRによってフランキングされている、導入遺伝子ベクターをさらに提供することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入遺伝子ベクターが、スターターrAAVであり、
好ましくは、前記スターターrAAVが、10~1500ゲノム粒子(GP)/細胞のMOIにおいて、好ましくは20~50GP/細胞のMOIにおいて、前記細胞に投与される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記導入遺伝子ベクターが、スタータートランスフェクションプラスミドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記導入遺伝子ベクターが、スターター組換え型アデノウイルスベクターである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記rep-AdVの前記発現カセットの前記プロモーターが、弱いプロモーター、誘導性プロモーター、および構成的プロモーターを含む群から選択される異種プロモーターである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記異種プロモーターが、TATAボックスおよび少なくとも1つのSP1結合部位を含み、前記プロモーターが、CTF結合部位を含むCCAATボックスをさらに含んでいてもよい、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記cap-AdVの前記発現カセット中の前記プロモーターが、TATAボックスおよび少なくとも1つのSP1結合部位を含むプロモーターであり、前記プロモーターが、CCAATボックスおよび少なくとも1つのCTF結合部位をさらに含んでいてもよい、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記プロモーターが、HSV-TKプロモーターまたはSV40プロモーター、好ましくはHSV-TKプロモーターである、請求項6から8のいずれかに記載の方法。Repオープンリーディングフレームが、配列番号1のヌクレオチド位置1911において停止コドンを導入することによってアミノ酸531において終止する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第2の組換え型アデノウイルスベクター上の前記cap遺伝子が、AAV血清型1、2、3、4、5、6、7、8、および9を含む群から選択されるAAV血清型の構造タンパク質VP1、VP2およびVP3をコードし、好ましくは、前記構造タンパク質が、AAV血清型1、2、5、6、8または9のものである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記AAV rep遺伝子の3’領域における配列番号1のヌクレオチド1701から2186が、RepオープンリーディングフレームのC末端部内のp40プロモーターの転写活性を野生型p40プロモーターのものの30%以下に低減させるように再コードされており、
好ましくは、前記AAV rep遺伝子の3’領域における配列番号1のヌクレオチド1782から1916が、適宜、配列番号4のsRep配列を得るために再コードされている、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
GGT結合部位を包含する前記AAV rep遺伝子の3’領域における配列番号1のヌクレオチド1781~1797と、ヌクレオチド1853におけるp40転写開始部位(TSS)を内包する前記AAV rep遺伝子の3’領域における配列番号1のヌクレオチド1851~1856とが、RepオープンリーディングフレームのC末端部におけるp40プロモーターの転写活性を野生型p40プロモーターのものの30%以下に低減させるように再コードされている、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記rep-rAdVと前記cap-rAdVとの両方が、100~2000GP/細胞のMOIにおいて、好ましくは100~500GP/細胞のMOIにおいて、前記細胞に投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記rep-rAdVおよび前記cap-rAdVが、第一世代の組換え型アデノウイルスベクターである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、ヒト細胞、好ましくはHEK293細胞である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、組換え型AAVウイルス様粒子を生産するためのものであり、前記方法が、野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクターに細胞を感染させることを含み、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1~17のいずれかに記載の方法に従って組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを生産するためのキットまたは組成物であって、
a)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、前記発現カセットがAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている、導入遺伝子ベクター、好ましくは、スターターrAAVベクター、
b)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクター(rep-rAdV)であって、前記rep遺伝子がRIS-Adを含まず、前記repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクター、および
c)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクター(cap-AdV)であって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクター
を含む、キットまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば研究および治療用途において使用するための組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子の新規生産方法を対象とする。特に、本発明は、AAV Repタンパク質をコードする第1の組換え型アデノウイルスベクターと、AAV Capタンパク質をコードする第2の組換え型アデノウイルスベクターとに細胞を感染させる、組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子を生産するための有利な方法を開示する。この細胞には、さらに、導入遺伝子を含むAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされた発現カセットを内包する導入遺伝子ベクターが提供される。本発明はさらに、導入遺伝子ベクター、AAV Repタンパク質をコードする第1の組換え型アデノウイルスベクター、およびAAV Capタンパク質をコードする第2の組換え型アデノウイルスベクターを含む、本発明の方法に従ってrAAVベクターを生産するためのキットまたは組成物を開示する。本発明の方法、キット、および組成物は、安定なシステムにおけるAAVベクター粒子の生産の増加を可能にする。
【背景技術】
【0002】
遺伝子修飾されたウイルスは、遺伝子療法との関連においてヒト細胞に遺伝子を移入するためのベクターとして非常によく適している。アデノウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターに加えて、アデノ随伴ウイルスに由来する組換え型ベクター(rAAV)の重要性がますます増加している。rAAVベクターは、様々な単一遺伝子疾患の前臨床動物モデルおよび臨床試験において、長期にわたる発現と合わせて、卓越した有効性、非常に良好な安全性プロファイル、高い形質導入率、および安定なベクター持続性を示している。これらの特性は、前臨床研究および臨床研究の両方において、種々の遺伝子疾患の処置のための遺伝子移入プロトコールにおけるrAAVの使用を促進している。臨床研究では、アルファ1アンチトリプシン(Flotte et al., 2011, Hum Mol Gent 20)またはリポタンパク質リパーゼ欠損(Gaudet et al., 2013, Gene Ther 20)などの代謝欠陥、血友病A(Rangarajan et al., 2017 N Engl J Med 377)およびB(Nathwani et al., 2014 N. Engl J Med 371)、ならびにレーバー先天黒内障(LCA)(Bennett et al., 2016, Lancet 388)またはレーバー遺伝性視神経萎縮症(Feuer et al., 2016, Opthalmology 123)などの遺伝型の盲目の少なくとも部分的な是正を実現することができた。LUXTURNAという商品名のもとで、LCA患者の網膜におけるRPE65遺伝子のrAAVベクター媒介性発現が、米国では2017年12月に、欧州では2018年11月に臨床認可を受けた。脊髄性筋萎縮症(SMA)の処置のためのrAAVベクター(Mendell et al, 2017 N Engl J Med. 377)は、米国では2019年5月に、欧州では2020年7月に、ZOLGENSMAという商品名のもとで臨床認可を受けた。
【0003】
臨床設定における、特に全身への遺伝子移入を要するヒト疾患の処置におけるrAAVベクターの使用は、高度に精製された感染性のベクター粒子を大量に生成することが可能な生産および精製のシステムを必要とする(Clement and Grieger, 2016, Mol Ther Methods Clin Dev 3)。rAAV生産のための最初の手法である、ベクターおよびヘルパープラスミドの混合物を用いたHEK293細胞のコトランスフェクションは、臨床グレードのベクター調製物のために依然として広く使用されている(Clement and Grieger, 2016, Mol Ther Methods Clin Dev 3)。簡単に説明すると、このコトランスフェクション方法において使用されるプラスミドコンストラクトのうちの1つは、ベクターゲノムの複製およびパッケージングのためにシスで必要とされるAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされた治療用導入遺伝子を含有する。第2のプラスミドは、AAV Rep/Capカセットをトランスで提供する。必要なアデノウイルス(AdV)ヘルパー機能のE2a、E4orf6およびVA RNAは、多くの研究所で使用されているpDGプラスミドのような(Grimm et al., 1998, Gene Ther 26)、第2のプラスミドにおいてRep/Cap機能と共に提供されるか、または第3のプラスミドにおいて別々に提供される。しかし、後者は、その場合、計3つのプラスミドコンストラクトのコトランスフェクションを必要とする。HEK293細胞を使用する場合、追加で必要とされるアデノウイルス機能のE1aおよびE1bは、宿主ゲノム内に構成的に組み込まれたアデノウイルス配列から発現される。
【0004】
このようなトランスフェクションベースの生産システムを懸濁細胞に適合させることにおいては、近年かなりの進歩が遂げられているが(Grieger et al., 2016, Mol Ther 24)、トランスフェクション工程は依然として、ベクター収量および取り扱い易さに関する制限因子である。
【0005】
臨床試験における全身適用の場合は特に、rAAVの使用には、患者当たり最大1016個ほどのゲノム粒子という、特定の大量のベクター粒子が必要である(Clement et al, 2016, Mol Ther Methods Clin Dev 3)。しかし、上述のrAAVベクターのための従来のトランスフェクションベースの製造プロセスでは、精製前には、使用される細胞当たり最大で5.0×10~1.0×10以下のゲノムベクター粒子[GP/細胞、あるいは、vg/細胞(ウイルスゲノム/細胞)、いわゆる「バーストサイズ」]の収量が実現でき、精製後には2.0~3.0×10GP/細胞の収量が実現できる(Clement et al, 2016)。懸濁細胞への適合における前述の進展(Grieger et al., 2016)にもかかわらず、これらの方法はさらに、依然として大半が接着細胞に限定されている。したがって、生産プロセスにおいて最大収量でゲノム粒子1016個のベクター調製物を実現するには、およそ3.0~5.0×1011個の細胞が必要であり、それ故、従来のトランスフェクションベースの製造方法は、多くの時間およびコストを要するものとなっている。
【0006】
哺乳動物細胞におけるrAAVのトランスフェクションベースの生産に代わる手段は、昆虫細胞における生産である。昆虫細胞は、パルボウイルスの中のデンソウイルス亜科(Densovirinae)のための宿主細胞として機能する。デンソウイルスは、AAVとよく似た機序により、それらのゲノムを複製する(Ding et al., 2002, J Virol 76)。Spodoptera frugiperdaから単離されたSf9細胞は、追加のヘルパー機能なしで、AAV-ITRフランキングベクターゲノムのRepタンパク質媒介性複製を支持できることが示された(Urabe et al., 2002, Hum Gene Ther 13)。これは、AAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットならびにAAV RepおよびCapタンパク質をデリバーするために複数の組換え型バキュロウイルスを使用する、Sf9懸濁培養物における初めての感染ベースのrAAV生産手順の確立を可能にした(Urabe et al., 2002)。この最初の感染ベースの方法は、AAV RepおよびCapタンパク質の誘導性発現を行う安定な昆虫株など(Aslanidi et al., 2009, Proc Natl Acad Sci 106、Mietzsch et al., 2014, Hum Gene Ther 25)、いくつかのさらなる発展を経て、現在、臨床試験用のrAAVベクターの生産のために首尾よく使用されている(Clement et al, 2016)。しかし、昆虫細胞において生産されたrAAVは、ヒト細胞において生産されたrAAVと比較すると劣等な形質導入特徴を呈するように見受けられ(Rumachik et al., 2020 Molecular Therapy Methods & Clinical Development 18)、その原因はおそらくカプシドタンパク質の示差的翻訳後修飾である。
【0007】
バキュロウイルスによる昆虫細胞の感染に基づくrAAV生産方法に加えて、哺乳動物細胞において、アデノウイルスまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)に由来する組換え型ヘルパーウイルスを用いて、AAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットならびにAAV RepおよびCap機能を提供するための試みが、以前から行われている。感染後、これらのウイルスは、rAAV生産に必要なヘルパー機能を同時に提供することができる。このような感染のみのrAAV生産システムは既に、HSVでは実施に成功しており(Conway et al., 1999, Gene Ther 6)、臨床試験のために必要な懸濁細胞における大規模rAAV生産に適合されている(Clement et al., 2009, Hum Gene Ther 20、Thomas et al., 2009, Hum Gene Therapy 20)(図5)。しかし、HSVは、AAVヘルパーウイルスとしてアデノウイルス(Ad)ほど十分に特性解析されていない。さらに、HSVベクターは、Adベクターほど安定でなく、高い力価レベルまで増幅させるのがより困難である。
【0008】
一方、組換え型アデノウイルス(rAd)のみに基づくrAAV生産システム(図6)の確立は未だ成功していない。これは、アデノウイルスがAAVに関して最もよく研究されているヘルパーウイルスであるという事実にかかわらない。
【0009】
必要な構成要素のうちの1つである、AAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットを有するrAdベクターは、良好に増殖させることができ、かつ、AAV-2 RepおよびCapタンパク質の発現のための安定細胞株と組み合わせて、大規模rAAV生産のために首尾よく使用することもできる(Zhang et al., 2009, Hum Gene Ther 20)。しかし、第2の必要な構成要素である、AAV repおよびcap遺伝子を含む組換え型アデノウイルスは、まったく増殖できなかったか、または遺伝子的に不安定であったため、大規模への適合には不適切と考えられている(Zhang et al., 2001, Gene Ther 8)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、臨床設定における、特に全身への遺伝子移入を要するヒト疾患の処置におけるrAAVベクターの使用は、高度に精製された感染性のベクター粒子を大量に生成することが可能な生産および精製のシステムを必要とする。したがって、本発明者らは、現在の技術水準を考慮して、例えば前臨床および臨床の要件に合わせて、組換え型AAVベクターの生産をスケールアップするための新規かつ高度に効率的な方法を提供する課題に対処した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、本発明により、特に請求項の主題によって解決される。
【0012】
第1の態様において、本発明は、組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターまたはAAVウイルス様粒子を生産する方法であって、
a)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクターであって、rep遺伝子がRIS-Adを含まず、repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクターに、細胞を感染させることと、
b)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクターであって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクターに、細胞を感染させることと、
c)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、発現カセットがAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている、導入遺伝子ベクターをさらに提供することとを含み、
a)およびc)が、AAVウイルス様粒子の生産のために適宜行われる、方法を対象とする。
【0013】
好ましい態様において、本発明は、組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを生産する方法であって、
a)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクターであって、rep遺伝子がRIS-Adを含まず、repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクターに、細胞を感染させることと、
b)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクターであって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクターに、細胞を感染させることと、
c)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、発現カセットがAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている、導入遺伝子ベクターをさらに提供することとを含む、方法を提供する。
【0014】
代替的に、本発明は、組換え型AAVウイルス様粒子を生産する方法であって、野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクターに細胞を感染させることを含み、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、方法を提供する。
【0015】
AAVは、エンベロープを持たない正二十面体カプシドを有する一本鎖DNAウイルスのファミリーであるパルボウイルス科(Parvoviridae)の中のディペンドウイルス属を形成する。AAVのDNAの複製および新しい感染性ウイルス粒子のアセンブリーを伴うその生産的感染サイクルは、好適なヘルパーウイルス、例えばアデノウイルスまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)の存在に依存し、これがその名称および分類学的分類の理由である(図1)。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは潜伏感染を確立することができる。インビトロ(In vitro)では、多くの場合、その結果としてウイルスDNAが培養細胞のゲノムに組み込まれ、一方、インビボ(in vivo)では、AAV DNAは主に染色体外状態で安定なエピソームとして存在すると考えられている。今のところ、AAVはヒトにおける既知の疾患と因果的に関係付けられていない。
【0016】
本発明において、「組換え型AAV」という用語は、人工的手段によって、例えば遺伝子エンジニアリングを介した組換えDNA技術によって、導入遺伝子を含み、かつ遺伝子療法などにおいてベクターとして使用され得るAAVを取得するために、ゲノムが修飾されているAAVを指す。
【0017】
これと比較して、「AAVウイルス様粒子」という用語は、実際のAAVに類似するが、いかなるウイルス遺伝物質も含有せず、故に非感染性である分子を指す。ウイルス様粒子は、ウイルスカプシドを形成するタンパク質などのウイルス構造タンパク質からアセンブルされる。AAVウイルス様粒子は、遺伝子または他の治療剤のためのデリバリーシステムとして機能することもあれば、ワクチンとして使用されることもある。本発明の方法によって生産された空のAAVウイルス様粒子は、患者の免疫系によって生産されたAAV特異的抗体に対するデコイとして機能することもでき、したがって遺伝子療法中のAAV媒介性遺伝子移入に有益な影響を与えることができる。
【0018】
本発明において、rAAVベクターまたはAAVウイルス様粒子を「生産すること」という用語は、プロデューサーまたはパッケージング細胞のタンパク質生合成機構を利用することによるそれらの生成を指す。生産することは、rAAVを増幅させること、例えば、低量のスターターrAAVを、本明細書に記載されるように、例えば臨床レベルにおける適用のために十分に高い力価まで増幅させることも意味し得る。
【0019】
AAVゲノム
最もよく特性解析されているAVV血清型AAV-2のゲノムは、約4.7kbの長さを有し、各々145bpの2つの逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされた、4つの調節性(Rep)タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40ならびに3つのカプシド(Cap)タンパク質VP1、VP2およびVP3に対する、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を必須のエレメントとして含有する(図2)。
【0020】
本発明において、本開示の方法によって生産されるAAVベクターは、好ましくは、AAV-2血清型に基づく。したがって、AAV-2は、本発明の全体を通して参照血清型として使用される。別段明記されない限り、AAVゲノム、個々のAAVタンパク質、およびAAVの核酸配列またはアミノ酸配列への言及はすべて、AAV-2に関して行われている。当業者であれば、AAV-2ゲノムに関して与えられたすべての情報を他のAAV血清型へと容易に転用することができる。
【0021】
AAV-2のrep遺伝子およびcap遺伝子は、共通のイントロンを有するため、部分的に重なる。大型Repタンパク質であるRep78およびRep68は、内因性p5プロモーターの制御下で発現され(Redemann et al., 1989, J Virol 63)、AAV-ITRに対する配列特異的DNA結合を介してAAV-2 DNA複製において不可欠な役割を果たす(McCarty et al., 1994 J. Virol 68)。これらはさらに、ヘルパーウイルスの存在下で、AAV-2ゲノムにおける他のエレメントおよび複数の細胞転写因子に結合することにより、小型Repタンパク質であるRep52/Rep40およびカプシドタンパク質の発現を刺激する(Pereira and Muzyczka, 1997, J Virol 71)。小型Repタンパク質であるRep52およびRep40は、p19プロモーターによって発現され、DNA複製中に予め形成されたカプシドへと新しく形成された一本鎖DNAを挿入するために必要である(King et al., 2001, Embo J 20)。Rep78およびRep52は、スプライシングされていない転写物によってコードされるが、より短い変異体であるRep68およびRep40の転写物は、rep遺伝子の3’部に局在するイントロンを切り取る。複数の複製研究により、小型Repタンパク質のRep52またはRep40のうちの1つと合わせた、大型Repタンパク質のRep78またはRep68のうちの1つが、AAV-2 DNAの複製およびウイルス生産に十分であることが示されている(Ward et al., 1994, J Virol 68)。
【0022】
3つのカプシド(Cap)タンパク質であるVP1、VP2およびVP3は、p40プロモーターの制御下で、選択的にスプライスされた転写物および翻訳開始コドンを使用することにより(Becerra et al., 1988, J Virol 68、Muralidhar et al., 1994, J Virol 68)、最終的なカプシドにも存在する1:1:10の化学量論比において生産される(Xie et al., 2002, Proc Natl Acad Sci 99)。rep遺伝子の3’部においてRep68およびRep40の発現におけるものと同じイントロンが切り取られている、主に形成されるスプライス変異体のうち、VP2の合成は、非標準のACG開始コドンによって引き起こされ、主なカプシドタンパク質VP3の合成は、さらに下流で通常のAUG開始コドンによって引き起こされる。より存在度の低い選択的にスプライスされたp40転写物は、同じスプライスドナー部位を使用するが、より上流のスプライスアクセプター部位を使用するため、この転写物は、VP1のAUG開始コドンを依然として含有する。カプシド構造は、AAVにコードされたアセンブリー活性化タンパク質(AAP:assembly activating protein)などのシャペロンの関与により、カプシドタンパク質の臨界濃度を超えるとアセンブルされる。AAPは、AAV-2血清型では感染性ウイルス粒子の形成に必要であり、他の血清型ではこのプロセスを増進する(Earley et al., 2017, J Virol 91、Sonntag et al., 2011, J Virol 85、Sonntag et al., 2010, Proc Natl Acad Sci 107)。これは、cap遺伝子の選択的リーディングフレームによってコードされる。AAV DNAの複製、および完成したDNA含有ウイルス粒子のアセンブリーは、連動したプロセスを構成すると考えられている。
【0023】
rAVVなどのウイルスベクターは、ターゲット生物に対して有害であってはならないため、その使用における重要な要素は安全性である。したがって、依然としてターゲット細胞に治療用遺伝子を導入することができるが、もはやその中で複製することはできない、複製欠損性AVVを開発する必要がある。これは、複製に不可欠なウイルス遺伝子を除去することによって実現される。
【0024】
AAVは非病原性であり、生産的複製のためにヘルパーウイルスに依存すると考えられているが、組換え型ゲノムにおけるコーディングウイルス配列(Rep/Cap)は通常、完全に除去される。その目的は、ひとつには、ベクターゲノムの最大パッケージング能力が長さ4.7kbの野生型ゲノムの大きさほどであることから、治療用導入遺伝子のための場所をあけるためである。もうひとつには、例えば細胞培養下のRep78について、とりわけ細胞増殖および細胞周期に対する複数の阻害効果が報告されていることから、高いRep濃度による有毒作用の可能性を回避すべきである。rep遺伝子の欠失により、rAAVベクターは、形質導入されたターゲット細胞のゲノムに組み込まれる能力も喪失する。しかし、エピソーマルベクターゲノムは、いわゆるコンカテマーの形成により、分化細胞において非常に高い安定性を示す。
【0025】
本発明者らは、本明細書においてそれぞれrepベクターおよびcapベクターまたはrep-rAdVおよびcap-rAdVと呼ばれる2つの別個の組換え型アデノウイルスベクターからAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子を提供することにより、AAVベクター生産が首尾よく実現され得ることを見出した。本発明者らは、別個のrep-rAdVおよびcap-rAdVによる細胞の重感染が、従来のプラスミドベースの生産方法のRep/Capカセットおよびアデノウイルスヘルパー機能を完全に機能的に置き換え得ることを実証することができた。この手法はまた、以前の標準的なトランスフェクションプロセスにおいて必要であった、高度に精製されたプラスミドDNAを大量に生産する必要性をなくす。
【0026】
ベクターとしてのアデノウイルス性ウイルス
アデノウイルスは、26~45キロベースペア(kbp)の長さの線状二本鎖DNAゲノムを有する、エンベロープを持たない正二十面体ウイルスのファミリーを指す。組換え型アデノウイルス(rAd)は、ゲノムサイズが大きく、生成が複雑でなく、複雑な補完細胞株の必要性なしに高力価まで増幅することが可能であるため、研究用途および遺伝子移入のための魅力的なベクターと考えられている。
【0027】
長年にわたり、rAdベクター(rAdV)技術は、その安全性および治療可能性を向上させるために絶えず進歩してきた。今までに、三世代のrAdVが設計されている。第一世代の組換え型アデノウイルスベクターは、依然として、ウイルス複製に不可欠であるE1a/E1bおよびE3領域を除くすべてのアデノウイルス遺伝子を含有する。E3領域は、その機能が専ら免疫調節性であることから、細胞培養におけるrAdV増殖そのものには不要であり、生産的AAV感染のためのヘルパー作用に関与してもいないが、rAdV増幅に必要な欠損しているE1a/E1b機能は、例えば、HEK293細胞などの遺伝子修飾されたパッケージング細胞によって提供され得る。第一世代rAdVは、約8.2kbのクローニング能力を有する。第二世代rAdVは、非構造的なE2遺伝子およびE4遺伝子をさらに欠いており、これは約12kbの増加したクローニング能力をもたらす。最後に、第三世代rAdVは、そのすべてのウイルスタンパク質コード配列が除去されており、アデノウイルスITRおよびパッケージングシグナルのみをシスで保持する。したがって、第三世代rAdVは、トランスでのウイルスタンパク質の提供のために、ヘルパーアデノウイルスを用いた重感染に依拠する。
【0028】
第一世代rAdVは、十分に確立されており取り扱いが容易なHEK293などの補完細胞株の単純感染によって、非常に高い力価まで安価に増幅させることができる。さらに、第一世代AdVのクローニング能力は、AAV repまたはcapオープンリーディングフレームを内包するのに十分に大きい。したがって、好ましい実施形態において、組換え型アデノウイルスのrepベクターおよびcapベクターは、第一世代の組換え型アデノウイルスベクター(rAdV)である。しかし、rep-rAdVおよびcap-rAdVは、別の実施形態では、第二世代rAdVでもよい。rep-rAdVおよびcap-rAdVは、第三世代rAdVでもよい。しかし、本発明の方法における第三世代rAdVの使用は、上述のように好適なヘルパーアデノウイルスを用いた重感染を必要とするため、あまり好ましくない。
【0029】
AAV RepおよびCapタンパク質の発現のために使用される2つの異なるrAdVは、現在の技術水準から公知である任意の方法によって生産され得る。例えば、以下の実施例に記載するように、Agilent Technologies社によるAdEasy(商標)Adenoviral Vector Systemを使用することで、rAdVを生産することができる。しかし、当業者は、本明細書に記載されるrep-rAdVおよびcap-rAdVを取得するために、当技術分野において公知の異なるrAdV生産システムを参照してもよいし、商業的に提供される特注のAdVサービスに依拠してもよい。
【0030】
rAAVの大規模生産のためにAAV-2のrepおよびcapの両遺伝子を発現するrAdVを安定に増殖させようとするこれまでの試みは失敗している。RepおよびCapを発現するrAdVは、複製不可能であったか、または本質的に遺伝子的に不安定であった。AAV rep遺伝子のみを含有するrAdVでもアデノウイルス複製の阻害も観察され(Carlson et al., 2002, Mol Ther 6、Recchia et al., 1999, Proc Natl Acad Sci USA 96、Recchia et al., 2004, Mol Ther 10、Wang and Lieber, 2006, J Virol 80)、したがって、rAd-rep/capベクターの安定な増殖の失敗は、Repタンパク質発現に起因するとされた。しかし、Sitaramanら(Sitaraman et al., 2011, Proc Natl Acad Sci USA 108)および本発明者らによる最近の研究により、これらのハイブリッドAAV/Adベクターの複製の制限は、AAV-2 rep遺伝子の3’部におけるシス阻害性配列が主な原因であることが示され、それ故、当該配列はRIS-Ad(アデノウイルス複製のRep阻害配列)と名付けられた。RIS-Adは、プロモーターと近位で一時停止したRNA IIポリメラーゼとの複合体によって媒介されると思われる転写関連機序によって、アデノウイルスゲノム複製を阻害する(Weger et al, 2016, J Virol 90)。
【0031】
RIS-Adは、配列番号2のヌクレオチド配列に対応し、AAV-2ゲノム(配列番号1)のヌクレオチド(nt)位置1701から2186にわたることが示された。RIS-Adは、機能的なRepタンパク質を発現することはできないが、Capタンパク質およびAAVイントロンの大部分の発現に関与するp40プロモーターと、Capタンパク質をコードする転写物のスプライシングに不可欠である、配列番号1のnt位置1906におけるスプライスドナー部位とを依然として含む。理論に拘束されるものではないが、シスでのアデノウイルス複製の阻害は、cap転写物の発現に必要なp40プロモーターからの短い転写物の発現に基づくと考えられている(Weger et al., 2016, J Virol 90)。これらの短い転写物を生産するRNAポリメラーゼIIは、p40プロモーターの直ぐ下流で一時停止し、この領域におけるrep-Adゲノムの複製の立体障害をもたらす可能性がある(図7)。
【0032】
RIS-Ad全体の再コードはrep-Adゲノム複製の阻害を逆転させ得ることが示された。核酸の再コードとは、翻訳されるアミノ酸配列が変化しないように、個々のアミノ酸をコードするトリプレットコドンを同義のトリプレットコドンで置換することを指す。したがって、一次核酸配列のみが再コードによって改変される。これを行うことができるのは、64コドンの遺伝コードには冗長性があるが多義性はない、すなわち、複数の異なる核酸コドンが全く同一のアミノ酸をコードするからである。rep遺伝子の3’領域内のRIS-Adを再コードすることにより、コードされたポリペプチド、すなわち、AAV Repタンパク質は影響を受けないが、それは、前記Repタンパク質を構成するアミノ酸配列が改変されないからである。しかし、再コードは、Rep ORF内のp40プロモーターを修飾するか、または好ましくは完全に破壊し、ひいてはrep遺伝子の3’末端へのRNAポリメラーゼ結合に干渉する。したがって、挿入されたRep78カセットによるrAdV複製の阻害が無効になり得る。
【0033】
本発明の一実施形態において、rep遺伝子は、もはやRIS-Adを含まず、すなわち、RIS-Ad全体が、例えば、Sitaramanらにより既報のように、配列番号3に対する100%の配列同一性を共有する核酸配列へと再コードされる。代替的に、再コードされた領域は、配列番号3に対する、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つ核酸配列を有してもよい。好ましくは、再コードされたRIS-Adは、配列番号2、すなわち野生型RIS-Adの核酸配列に対する、95%未満、90%未満、80%未満、または70%未満の配列同一性を有する。
【0034】
本発明者らはまた、RIS-Adを、配列番号1のnt1781~2060にわたり、配列番号12に対応するヌクレオチド配列へとさらに絞り込めることを示した。このいわゆる最小RIS-Adは、上記のRIS-Adについて記載したように再コードされ得る。したがって、再コードされた最小RIS-Adは、配列番号13による核酸配列を有し得る。代替的に、再コードされた最小RIS-Adは、配列番号3に対する、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つ核酸配列を有してもよい。好ましくは、再コードされた最小RIS-Adは、配列番号12、すなわち野生型最小RIS-Adの核酸配列に対する、95%未満、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、または50%未満の配列同一性を有する。
【0035】
さらに、本発明者らは、rep-AdVゲノム複製の阻害を無効にするには、配列番号1のnt1782から1916にわたるRIS-Adのサブ領域を再コードするだけで十分であることを見出した。したがって、好ましい実施形態では、配列番号1のnt1782~1916を包含する領域のみが再コードされ、例えば、配列番号4に対する100%の核酸配列同一性を共有し、本明細書においてsRepと呼ばれる核酸配列になる。sRepは、Rep78タンパク質(配列番号5)のアミノ酸488から531に対応する。代替的に、rep遺伝子の再コードされたサブ領域は、sRep(配列番号4)に対する、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つ核酸配列を有してもよい。好ましくは、配列番号1のnt1782から1916にわたるRIS-Adの再コードされたサブ領域は、配列番号1のnt1782から1916の領域に対する、80%未満、70%未満、60%未満、または50%未満の配列同一性を有する。
【0036】
特筆すべきことに、RIS-Adまたは上述したそのサブ領域の再コードは、rep遺伝子の3’カルボキシ末端におけるスプライスドナー部位を破壊する。その結果、rep転写物の選択的スプライシングが無効になる。したがって、一実施形態において、本発明によれば、2つの代替的なRepタンパク質であるRep68およびRep40は、もはや発現されない。しかし、AAV-2 DNAの複製およびウイルス生産には、Rep78およびRep52の発現だけで十分であることが見出されているため、Rep68およびRep40は不要である。
【0037】
核酸領域の再コードは、前記核酸配列内のあらゆるトリプレットコドンが再コードされる必要があるということを意味するものではない。いくつかの実施形態において、核酸配列の再コードは、前記配列内の1つまたは複数の選択されたトリプレットコドンだけの再コードを指す。例えば、RIS-Ad内の選択されたトリプレットコドン、例えば、p40プロモーターにおいてRNAポリメラーゼまたは特定の転写因子が結合する領域を再コードするだけで十分な場合がある。一実施形態では、ヌクレオチド1853においてp40転写開始部位(TSS)を内包するAAV rep遺伝子の3’領域における配列番号1のヌクレオチド1851~1856のみの再コードが、p40プロモーター機能を低減させ、rep-AdV複製の阻害を少なくとも部分的に軽減するのに十分であり得る。代替的に、配列番号1のnt1781~1797に対応するGGTモチーフを包含する17ヌクレオチドの領域が再コードされてもよい。好ましい実施形態では、配列番号1のnt1851~1856に対応するp40 TSSと、配列番号1のnt1781~1797に対応するGGTモチーフを包含するp40領域との両方が再コードされ、RIS-Adの残部は未改変のままであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、rep-AdV複製の阻害を逆転させるには、配列番号1のnt位置1802~1810に及ぶSp1結合部位および/または配列番号1のnt1813~1820にわたるAP1結合部位を再コードすることで十分な場合もある。p40 TSS、または配列番号1のnt1781~1797にわたるGGTモチーフを包含する領域に加えて、Sp1結合部位および/またはAP1結合部位が再コードされてもよい。また、本明細書に記載されるように、p40 TSS、配列番号1のnt1781~1797のGGTモチーフを包含する領域、Sp1結合部位、およびAP1結合部位を同時に再コードし、RIS-Adの残部を未改変のままにすることが、特に有利であり得る。こうすれば、代替的なRepタンパク質であるRep68およびRep40の発現に必要なRep ORFのカルボキシ末端部におけるスプライスドナー部位を保存することも可能であり得る。
【0039】
まとめると、「RIS-Adの再コード」または「RIS-Adを含まない」という用語は、本明細書では、例えば、配列番号1のnt1701から2186に対応するRIS-Ad全体、配列番号1のnt1781~2060に対応する最小RIS-Ad、配列番号1のnt1782~1916に対応するRIS-Adのサブ領域、または、例えば、本明細書に記載されるp40 TSSおよび/もしくは個々の転写因子結合部位を包含するRIS-Adの選択されたコドンだけの再コードを意味すると理解され得る。
【0040】
RIS-Adの再コードは、p40プロモーターがrep-AdVの複製に干渉しなくなる程度まで、Rep ORFの3’領域における生理学的なp40プロモーターの活性を低減させるべきである。本発明において、これは、RIS-Adの再コードによってp40プロモーターの活性が野生型p40プロモーターのものの30%以下に低減すると実現される。好ましくは、RIS-Adの再コード後のp40プロモーターの活性は、野生型p40プロモーターの活性の30%未満ですらあり、例えば、p40プロモーターの活性は、好ましくは、野生型p40プロモーターのものの25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下に低減する。特に好ましい実施形態において、RIS-Adの再コードは、p40プロモーター機能の完全な妨害をもたらし、すなわち、p40プロモーターは、測定可能な転写活性を全く呈さない。
【0041】
本発明の方法によれば、rep-AdVによって提供されるAAV-2 rep遺伝子の5’末端は、大型Repタンパク質の発現を駆動することが可能なプロモーターに作動可能に連結されている。プロモーターは、関連する遺伝子の転写のタイミング、速度、および位置を調節するDNAエレメントである。プロモーター領域は、それぞれの関連する遺伝子の上流に見出され、RNAへの遺伝子の転写の方向を示すように非対称的に構成されている。RNAポリメラーゼは、遺伝子のプロモーター領域に結合することによって前記遺伝子の転写を開始する。プロモーターは、転写因子の結合部位として機能し得る種々の特定のサブ領域をさらに含む。プロモーターに結合した転写因子のタイプに応じて、それぞれの遺伝子の転写は活性化されるか、または抑制される。
【0042】
遺伝子などの核酸配列は、プロモーターが、前記核酸配列との関連で、当該配列の転写を制御するために正しい機能的位置および/または配向で位置付けられているとき、前記プロモーターに「作動可能に連結された」とみなされる。天然には、大型のAAV-2 Repタンパク質であるRep78およびRep68は、Rep ORFの5’末端に位置付けられたAAV-2 p5プロモーターの制御下で転写されるが、より小型のRepタンパク質であるRep52およびRep40は、Rep ORF内に存在する内部p19プロモーターから転写される。したがって、一実施形態において、rep-AdVにおけるAAV-2 rep遺伝子の5’末端に作動可能に連結されたプロモーターは、内因性AAV-2 p5プロモーターである。しかし、本発明者らは、生理学的なAAV-2 p5プロモーターの制御下でのRep78の発現が、高いベクター不安定性に関連するrep-AdV複製の著しい阻害をもたらしたという驚くべき発見をした。おそらく、rep-AdVの遺伝子不安定性は、p5プロモーターに存在する大型Repタンパク質に対する比較的強力な結合エレメント(RBE)に起因し得る。したがって、好ましい実施形態において、rep-AdV内部のAAV-2 rep遺伝子に作動可能に連結された生理学的なプロモーターは、AAV-2 p5プロモーターではなく、むしろ異種プロモーターである。
【0043】
異種プロモーターは、目的の遺伝子に人工的に連結されたプロモーターを指すが、前記プロモーターは通常、遺伝子の発現を制御しない。異種プロモーターを使用することにより、導入遺伝子の発現を増進または低減させることができる。代替的に、異種プロモーターは、化学的トリガー因子の存在下でのみ遺伝子発現を誘発することができる誘導性プロモーターであり得る。異種プロモーターは、それらの関連する遺伝子の細胞特異的または組織特異的な発現を確実にする細胞特異的または組織特異的なプロモーターでもよい。
【0044】
rep-AdVの異種プロモーターは、ウイルスベクターにおける導入遺伝子の発現に好適ないかなるプロモーターでもよい。
【0045】
しかし、高いRepタンパク質の発現はトランスでアデノウイルス複製を阻害することが以前に示されているため、好ましい実施形態において、rep遺伝子に連結された異種プロモーターは、MMTVプロモーター、PGK1遺伝子プロモーター、UBC遺伝子プロモーターなどの弱いプロモーターか、またはテトラサイクリン誘導性プロモーター、Cumate誘導性プロモーター、電気感応性プロモーター(electrosensitive promoter)、もしくはオプトジェネティクススイッチ(optogenetic switch)などの誘導性プロモーターである。
【0046】
別の実施形態において、異種プロモーターは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CAGプロモーター(CMV初期エンハンサーエレメント、ニワトリベータアクチンのプロモーター、第1のエキソンおよび第1のイントロン、ならびにウサギベータグロブリン遺伝子のスプライスアクセプターを含む)、CMVおよびニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、第1のアデノウイルスサブタイプ5イントロンありまたはなしのアデノウイルスサブタイプ5主要後期プロモーター(MLP)、ヒトβ-アクチンプロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、EF1a遺伝子プロモーター、ならびにヒトベータアクチン遺伝子プロモーターなどの構成的活性プロモーターでもよい。
【0047】
特に好ましい実施形態において、rep-rAdVの異種プロモーターは、少なくとも1つのTATAボックスと、少なくとも1つのSP1結合部位とを含み、CTF結合部位を含む少なくとも1つのCCAATボックスを含んでいてもよいプロモーターである。好ましくは、プロモーターは、TATAボックスと、2つのSP1結合部位(近位および遠位)と、CTF結合部位を含むCCAATボックスとを含む。
【0048】
Goldberg-Hognessボックスとしても知られるTATAボックスは、プロモーター領域において一般的に見出され、反復するチミン(T)およびアデニン(A)塩基対によって特徴付けられるコンセンサス配列を含むDNAの配列である。TATAボックスは、転写因子結合部位として機能し、転写開始に関与している。Sp1転写因子は、グアニン(G)およびシトシン(C)塩基対が豊富なプロモーターモチーフに結合する、いわゆるジンクフィンガー転写因子である。Sp1転写因子は、配列番号22を有する核酸配列に特に良好に結合することが見出された。したがって、異種プロモーターは、配列番号22の核酸配列を有する少なくとも1つのSp1結合部位を含むことが好ましい。CCAATボックスは、コンセンサス配列GGCCAATCTを含む一続きのDNAであり、通常、最初の転写部位に対して約60~100塩基の位置にある。CCAATボックスは、CCAATボックス結合転写因子(CTF)などのための転写因子結合部位として機能する。好ましくは、異種プロモーターは、転写因子E2Fによってさらに誘導可能であり、転写因子E2Fは、アデノウイルス機能E1Aによって誘導可能である。E2F媒介性誘導は、上述のプロモーターエレメントによって、特に、少なくとも1つ、好ましくは2つのSp1結合部位によって媒介される。代替的に、CCAATボックスと重なるコンセンサスE2F結合部位が、重要な程度までE2F活性化に関与することなく、プロモーター配列内に存在してもよい。
【0049】
プロモーターが2つのSp1結合部位を内包する場合、好ましくは、TATAボックスと、TSSの近位に位置する上流の第1のSp1結合部位(近位SP-1結合部位)との間の距離は、13~41塩基対(bp)、例えば、15~20bp、20~25bp、25~30bp、30~35bp、または35~41bpの範囲内である。特に好ましい実施形態において、TATAボックスと近位Sp1結合部位との間の距離は、17~23bp、例えば、19bpである。異種プロモーターが、CTF結合部位を含むCCAATボックスを含む場合、近位Sp1結合部位と、CCAATボックス、およびTSSから遠位に位置する第2のSp1結合部位(遠位Sp1結合部位)を含む配列との間の距離は、好ましくは、12~32bp、例えば、12~15bp、15~20bp、20~25bp、または25~32bpの範囲内である。最も好ましくは、近位Sp1結合部位と、CCAATボックスおよび遠位SP1結合部位を含む領域との間の距離は、20~25bp、例えば、22bpである。CCAATボックスおよび遠位Sp1結合部位は、互いの間の距離を10bp以下として密接に並列しているべきである。言及されたエレメントを本明細書に記載される順序で含む例示的なプロモーターのスキームを図8に示す。TATAボックスの上流にある前述のプロモーター配列は、元々の遠位Sp1結合部位が反転した故に新しい近位Sp1結合部位になった後に上述のようにTATAボックスから約13~41bp離れた距離にある限り、反転してもよい。
【0050】
特に好ましい実施形態において、プロモーターは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーターである。以下の実施例において示されるように、本発明者らは、HSV-TKプロモーターの制御下でのRepタンパク質の発現が、rAAVベクター生産中にrAAVベクターゲノムの特に高い複製をもたらしたことを見出した。HSV-TKプロモーターは、上述のエレメント、例えば、それらのすべてによって特徴付けられ、配列番号6の核酸配列を有し得る。HSV-TKプロモーターは、配列番号6に対する少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つ核酸配列を有するHSV-TKプロモーターの変異体でもよい。HSV-TKプロモーター変異体は、配列番号6に対する70%未満の配列同一性、例えば、配列番号6に対する65%未満、60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、または25%未満の配列同一性を有する核酸配列を有してもよい。一実施形態において、HSV-TK変異体は、配列番号6に対応するが、5’末端における最後の90bpを欠いている。このような切断型HSV-TK変異体は、本明細書ではHSV-106と称され、配列番号15の核酸配列を有する。別の実施形態において、rep遺伝子の5’末端に作動可能に連結された異種プロモーターは、配列番号6のHSV-TKプロモーターと、TATAボックス、各々10bpの1つまたは2つのSP1結合部位、および12bpのCCAATボックスのみを共有する。
【0051】
異種プロモーターがHSV-TKプロモーターである場合、一実施形態では、CCAATボックスおよび遠位Sp1結合部位を含有する配列をTATAボックスの近位に寄せるために、第1の近位Sp1結合部位を欠失させてもよい。本発明において、近位Sp1結合部位を欠いているこのような切断型HSV-TKプロモーターは、HSV-M1と称され、配列番号16の核酸配列を有し得る。代替的に、切断型HSV-TKプロモーターは、反転した構成でCCAATボックスおよび残存する唯一のSp1結合部位を含むエレメントを含んでもよく、これにより、例えば、本明細書においてHSV-M3と呼ばれ、配列番号17の核酸配列を有し得るプロモーターコンストラクトが得られる。本発明者らは、驚くべきことに、TATAボックスおよび遠位Sp1結合部位のみを含み、近位Sp1結合部位およびCCAATボックスを欠いている切断型HSV-TKプロモーターが、依然としてRepタンパク質発現を駆動するのに十分であったことを見出した。したがって、さらに別の実施形態では、HSV-TKプロモーターの第1の近位Sp1結合部位に加えて、CCAATボックスも欠失させることで、残存する遠位Sp1結合部位をTATAボックスの近位に寄せてもよい。得られるプロモーターコンストラクトは、本明細書ではHSV-M2と称され、配列番号18の核酸配列を有し得る。前述のように、残存する唯一のSp-1結合部位を反転させて、例えば、本発明においてHSV-M4と称され、配列番号19の核酸配列を有し得るプロモーターコンストラクトをもたらすこともできる。さほど好ましくない実施形態において、異種プロモーターは、遠位Sp1結合部位およびCCAATボックスを含む5’領域を欠いており、故に近位Sp1結合部位のみを含むHSV-TKプロモーター変異体でもよい。このようなHSV-TK変異体は、本明細書ではHSV-59と称され、配列番号20の核酸配列を有し得る。
【0052】
言及された機能的エレメントを有し、配列番号16、17、18、19または20のいずれかに対する少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する、切断型HSV-TKプロモーターのいずれかの変異体を使用してもよい。
【0053】
別の好ましい実施形態において、rep-AdVの異種プロモーターは、少なくとも1つのTATAボックスと、少なくとも1つのSP1結合部位とを含み、SV40プロモーターである。以下の実施例において示されるように、本発明者らは、SV40プロモーターの制御下における切断型の大小のRepタンパク質の発現が、HSV-TKプロモーターの制御下におけるRepタンパク質発現と比較して同様であるか、またはさらに高いことを予想外に見出した。SV40プロモーターの活性は、HSV-TKプロモーターの活性と同様に、主に細胞転写因子Sp1の結合部位によって調節され、TATAボックス以外に他の転写因子は必要ないと思われる。SV40プロモーターは、配列番号21の核酸配列を有し得る。SV40プロモーターは、配列番号21に対する少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を持つ核酸配列を有するSV40プロモーターの変異体でもよい。SV40プロモーター変異体は、配列番号21に対する70%未満の配列同一性、例えば、配列番号21に対する65%未満、60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、または25%未満の配列同一性を有する核酸配列を有してもよい。
【0054】
上記のように、Rep78およびRep52の両タンパク質が、アデノウイルス複製をトランスで阻害することが以前に示されている。理論に拘束されるものではないが、この阻害は、AAV-2イントロンによってコードされるRep78およびRep52のカルボキシ末端(C末端)部における特定のアミノ酸によって媒介されると考えられている。特に、AAV-2イントロンは、Rep78およびRep52の両タンパク質の最もC末端側の92アミノ酸をコードする。これらの、C末端側の、イントロンによってコードされる92アミノ酸は、Rep78のアミノ酸530から621に対応する。特筆すべきことに、Rep78/Rep52の両方の終止コドンも前記イントロン内に位置する。これに対し、Rep mRNAの選択的スプライシングから生じるRep68およびRep40タンパク質は、イントロンによってコードされるこれらのアミノ酸を欠いているが、その代わり、スプライスアクセプター部位の直ぐ下流に位置する一続きのヌクレオチドによってコードされる7つの追加のアミノ酸をC末端に含む。これら7つのRep68/Rep40特異的C末端アミノ酸は、したがって、Rep78およびRep52には存在しない。これは、他のAAV血清型、例えば、AAV-1、AAV-3、AAV-4、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、またはAAV-12のうちのいくつかに関して、対応する様式で当てはまる。
【0055】
Rep78/Rep52のC末端側のイントロンによってコードされる92個のアミノ酸のうちの少なくともいくつかは、アデノウイルス複製のために通常必要とされるキナーゼであるcAMP依存性タンパク質キナーゼA(PKA)との直接的な相互作用を媒介することが以前に見出されている。Rep78/Rep52のC末端とPKAとの間の相互作用は、PKA活性を阻害し、ひいてはアデノウイルス複製に干渉すると思われる。Rep78/Rep52とPKAとの相互作用は、Rep78のアミノ酸526から621にマッピングされた(Schmidt, JVirol 2002)。実際、特定のRep78アミノ酸533、536、539および540の交換は、Rep78/Rep52とPKAとの相互作用を妨害することで、アデノウイルス複製の阻害を無効にするために十分であるように思われる(diPasquale, EMBO J 2003)。
【0056】
したがって、HSV-TKプロモーター、SV40プロモーター、または内因性AAV-2 p5プロモーターなどの構成的活性プロモーターからのRepタンパク質の発現は、好ましくは、Rep78およびRep52のC末端部をコードするAAVイントロン配列の欠失を伴う。例えば、組換え型アデノウイルスrepベクターにおけるRep ORFは、Rep78および/またはRep52の92個のC末端アミノ酸のすべてを欠失させるように終止し得る。欠失は、Rep78/Rep52の92個未満のC末端アミノ酸を包含してもよい。例えば、Rep ORFは、以下の実施例に記載されるように、Rep78/Rep52のイントロンによってコードされるC末端アミノ酸のうちの91個のみを欠失させるように終止し得る。他の実施形態では、イントロンによってコードされる、90個未満、85個未満、80個未満、75個未満、70個未満、65個未満、60個未満、55個未満、50個未満、40個未満、30個未満、20個未満、10個未満、またはさらには5未満のアミノ酸が、切断型Rep78/Rep52タンパク質において欠失している。いくつかの実施形態では、Rep78/Rep52タンパク質とPKAとの間の相互作用を媒介するのに必要であることが分かっている、例えばRep78のアミノ酸533、536、539および/または540などの、C末端内の選択されたアミノ酸のみを欠失させれば十分であり得る。これらの選択されたアミノ酸は、Repタンパク質とPKAとの相互作用を無効にするために、置換されてもよい、すなわち他のアミノ酸と交換されてもよい。
【0057】
好ましい実施形態において、Rep78/Rep52タンパク質における、イントロンによってコードされるアミノ酸の欠失は、停止コドンを好ましくは配列番号1のヌクレオチド位置1911で導入することにより、スプライスドナー部位のほぼ直後で開始する。前記停止コドンの挿入は、アミノ酸531において終止するRep ORFをもたらし、したがって、切断された大型Repタンパク質および切断された小型Repタンパク質の発現をもたらす。実際、以下の実施例に記載されるように、このように切断されたRepタンパク質をHSV-TKプロモーターの制御下で発現させた場合、数ラウンドの増幅にわたり最高3×1011GP/mLの高力価におけるrep-AdVの予想外に安定な複製が可能であった。しかし、本明細書に記載されるRepタンパク質のC末端部の欠失に関連する利点は、Rep ORFがHSV-TKプロモーターまたはSV40プロモーターなどの構成的活性プロモーターに連結されている実施形態に必ずしも限定されない。むしろ、Rep発現を駆動するために使用されるプロモーターとは無関係の、本明細書に記載される切断型Repタンパク質を発現させることが有利である場合がある。したがって、好ましい実施形態において、組換え型アデノウイルスrepベクターにおけるRep ORFは、配列番号1のヌクレオチド位置1911に停止コドンを導入することにより、アミノ酸531において終止する。Rep ORFを切断することは、RIS-Adの再コードを不必要にするわけではないことを理解されたい。そうではなく、rep-AdV複製を特に高い程度まで安定化させると考えられるのは、RIS-Adの再コードおよびRep ORFの切断の組み合わせである。したがって、RIS-Adの再コードは、依然として、sRep(配列番号4)に対応する核酸配列を得るために、例えば切断型Rep ORFの配列番号1のヌクレオチド位置1782において開始し得る。切断型Rep ORFのRIS-Adは、本明細書に記載されるように部分的に再コードされてもよい。いずれにせよ、配列番号1のnt位置1911において停止コドンが挿入されるため、再コードは、配列番号1のヌクレオチド位置1910において終了するのが好ましい。
【0058】
RIS-Adの再コードおよび配列番号1のnt位置1911におけるRep ORFの切断により、本明細書においてRep1/530と呼ばれ、好ましくは配列番号5によるAAV-2 Rep78アミノ酸1~530からなるアミノ酸配列を有する大型Repタンパク質と、本明細書においてRep225/530と呼ばれ、好ましくは配列番号5によるAAV-2 Rep78アミノ酸225~530からなるアミノ酸配列を有する小型Repタンパク質とを発現することが可能である、rep-AdVがもたらされる。
【0059】
発現がHSV-TKプロモーターまたはSV40プロモーターなどの異種プロモーターの制御下にあることが好ましいRep1/530とは異なり、Rep225/530タンパク質の発現は、その生理学的なp19プロモーターの制御下に留まることが好ましい。p19プロモーターはRep78/Rep68 ORF内に位置するため、それを異種プロモーターで置き換えると、Rep1/530発現の望まれない妨害をもたらすことになる。
【0060】
本発明の方法において使用され得る好適な第一世代rAdVは、当業者によって調製され得る。例示的なrep-rAdVは、配列番号7の核酸配列を含む。rep-rAdVは、配列番号7に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を含んでもよい。これは、配列番号7からなってもよい。代替的に、本発明に係る第1のAdVは、配列番号7におけるものとは異なるプロモーター領域、例えば、本明細書において教示される別の好適なプロモーターを含んでもよい。
【0061】
細胞を感染させるために使用される、本明細書においてcapベクターまたはcap-rAdVと呼ばれる第2のアデノウイルスベクターは、野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む。
【0062】
cap-rAdVによって提供されるAAV cap遺伝子は、正二十面体AAVカプシドへとアセンブルされる構造タンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。本発明において、カプシドとは、ウイルスゲノムを取り囲むウイルスのタンパク質シェルを指す。カプシドは通常、プロトマーとして知られる反復構造サブユニットからなり、それらの幾何学的構造に従って分類され得る。
【0063】
cap-rAdVによって提供されるcap遺伝子によってコードされるカプシドタンパク質は、AAV血清型AAV-2のカプシドタンパク質であり得、すなわち、パッケージング細胞においてcap遺伝子が発現すると形成されるカプシドは、AAV-2カプシドであり得る。ウイルスの「血清型」は、表面抗原に基づいて、すなわち、AAVの場合にはそれらの血清型特異的ウイルスカプシドに基づいて、ひとつに分類される単一のウイルス種内のバリエーションである。
【0064】
現在、12を超える異なるAAV血清型、および100を超える天然に発生するカプシド変異体が知られている。血清型AAV-2、AAV-3、AAV-5、AAV-6およびAAV-9はヒトから初めて単離され、血清型AAV-4、AAV-7、AAV-8、AAV-10、AAV-11およびAAV-12はサルから導出され、血清型AAV-1はヒトおよびサルの両方から単離された。別個のAAV血清型は、それらの組織親和性において実質的に異なり得、すなわち、別個の細胞型および組織をターゲティングし、それらに感染し得る。例えば、血清型AAV-1、AAV-2、AAV-4、AAV-5およびAAV-8は、網膜の細胞に形質導入するのに特に好適であるが、血清型AAV-6およびAAV-7は、骨格筋細胞に形質導入するために使用され得る。AAV血清型9のカプシドは、AAVが血液脳関門(BBB)を回避することを可能にし、したがって、全身投与による中枢神経系(CNV)の形質導入のための主要なカプシドである(Wang et al., 2019, Nat Rev Drug Discov.)。
【0065】
したがって、cap-rAdVによって提供されるcap遺伝子は、任意の既知のAAV血清型または任意の既知のカプシド変異体の構造カプシドタンパク質をコードすることができる。特に、AAV血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9およびrh10のいずれのカプシドタンパク質もコードすることができ、ここで、構造タンパク質は、好ましくは、AAV血清型1、2、5、6、8および9のものである。これにより、特定の細胞型または目的の組織への形質導入のために特に好適である、いわゆる偽型rAAV-2ベクターの生産が可能になる。当業者には、最終的に偽型AAV-2ベクターを得るためにAAV-2ゲノムを修飾する方法が分かるであろう。例えば、スプライスアクセプター部位の機能にとって重要なピリミジンリッチ領域内に位置するAAV-2イントロンの5’部を、それぞれの他のAAV血清型のイントロンの3’部および後続の血清型特異的カプシドリーディングフレームと融合してもよい。重要なことに、AAV rep遺伝子の3’部に局在するカプシド発現の調節配列によるアデノウイルス複製の阻害は、血清型2特異的現象ではなく、他のAAV血清型の対応するゲノム領域についても当てはまる。したがって、代替的なAAV血清型のカプシドタンパク質を、生理学的なもの以外のプロモーターの制御下に置くことも必要である。
【0066】
別の実施形態において、cap遺伝子は、生産されるAAVのターゲティング特異性を向上させるように特異的に修飾されているAAVカプシドをコードし得る。例えば、cap遺伝子は、例えば、特定の細胞受容体が結合できるカプシド表面上のペプチド配列を発現するように、遺伝子修飾され得る。そのような修飾の一例は、例えば、Girod et al.[1999, Nature Medicine 5(9)]に見出すことができる。代替的に、単鎖可変フラグメント(scFv)などのペプチド配列を、例えば、VP2タンパク質に融合して、細胞表面マーカーの抗体様認識をもたらすこともできる(Wang et al., 2019)。現在の技術水準を考慮すれば、当業者は、AAVの親和性を改変するためまたは細胞特異的ベクターターゲティングを向上させるためにAAVカプシドを修飾するための多数の追加の手段を案出することができるであろう。cap遺伝子は、AAV血清型2、6、8および9からのフラグメントを含むSCH9変異体のように、コンピュータ支援事前選択の有無を問わず、指向性進化手法から導出することもできる(Ojala, Molecular Therapy 26, 304-319, 2018)。
【0067】
cap-AdVによってコードされるcap遺伝子は、AAVカプシドの安定性を増加させ、かつ/またはrAAVベクターの親和性を変化させるのに有効な、少なくとも1つの点突然変異を含み得る。例えば、AAV-2 VP3タンパク質の表面露出チロシン残基Y252、Y272、Y444、Y500、Y700、Y704、およびY730の部位特異的突然変異誘発は、AAVカプシドをプロテアソーム分解から保護し得る(Zhong et al., 2008, Proc. Natl. Acad. Sci 105)。Wu et al.[2006, J. Virol. 80(22)]による研究は、AAV-6による実質細胞の優先的形質導入には、531位におけるリジン残基が必要であることを実証した。AAV-2のT251、T503部位、またはAAV-8カプシドのK137部位における単一点突然変異は、AAV-2およびAAV-8の形質導入効率を劇的に高め得る[Gabriel et al., 2013, Hum Gene Ther Methods 24(2)、Sen et al., 2013, Hum Gene Ther Methods 24(2)]。ヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に対するAAV血清型2カプシドの天然の親和性は、ベクターを他の受容体に対してさらに特異的にターゲティングするように、アルギニン残基585および588の点突然変異によって除去され得る[Sullivan et al. Gene Therapy 25(3), 205.219, 2018]。したがって、点突然変異は、好ましくは、配列番号14のY444F、Y730F、T251A、またはR585A/R588Aなどの突然変異であり得る。
【0068】
上述のように、AAV cap遺伝子は通常、Rep ORFの3’領域内に位置するその生理学的なp40プロモーターから転写されるが、これは、アデノウイルスベクターゲノムの複製に干渉する。この問題を克服するためには、本明細書に記載されるように、rep遺伝子の3’領域内のRIS-Adが再コードされる必要がある。しかし、再コードは、p40プロモーターの活性を低減させるか、または完全に消失させるため、repおよびcapの両遺伝子が同じAdVにおいてデリバーされる場合、Capタンパク質の発現が妨げられる。したがって、本発明者らは、第1の方策として、repおよびcap遺伝子を分割し、それらを2つの別々のAdVから提供することにした。
【0069】
野生型p40プロモーターはRIS-Adの主要なエレメントを構成するため、AAV Capタンパク質を発現するrAdVの生成のためにこれを使用することはできない。したがって、第2の方策として、野生型p40プロモーターではないプロモーターの制御下でcap遺伝子を発現させる必要がある。
【0070】
一実施形態において、cap遺伝子に作動可能に連結された(operably liked)プロモーターは、本明細書に記載されるような再コードされたp40プロモーターであり得る。したがってこれは、その核酸配列において上述のsRep領域の各エリアに対応するp40プロモーターであり得る。したがって、再コードされたp40プロモーターは、配列番号8に対する、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を有し得る。いくつかの実施形態において、再コードされたp40プロモーターは、配列番号8に対する100%の配列同一性を有する核酸配列を有してもよい。いくつかの実施形態において、再コードされたp40プロモーターは、上述のように、その核酸配列において、配列番号1のnt1851~1856に対応するp40転写開始部位と、適宜、配列番号1のヌクレオチド1781~1797に対応するGGTモチーフを包含するp40領域とを除いて、野生型p40プロモーターに対応し得、かつ、配列番号9の核酸配列を有し得る。
【0071】
別の実施形態において、cap-AdVによって提供されるcap遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターは、異種プロモーターである。cap-rAdVの異種プロモーターは、ウイルスベクターにおける導入遺伝子の発現に好適ないかなる異種プロモーターでもよい。これは例えば、CMVプロモーター、CAGプロモーター、CBAプロモーター、RSVプロモーター、HIVプロモーター、SV40プロモーター、HSV-TKプロモーター、第1のアデノウイルスサブタイプ5イントロンありまたはなしのMLP、ヒトβ-アクチンプロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、EF1a遺伝子プロモーター、PGK1遺伝子プロモーター、UBC遺伝子プロモーター、およびヒトベータアクチン遺伝子プロモーターなどの構成的活性プロモーターであり得る。これはまた、上述のような誘導性プロモーター、例えばテトラサイクリン誘導性プロモーター、Cumate誘導性プロモーター、電気感応性プロモーターおよびオプトジェネティクススイッチなどでもよい。しかし、好ましい実施形態において、cap-rAdVの異種プロモーターは、本明細書に記載されるように、少なくとも1つのTATAボックスと、少なくとも1つのSP1結合部位とを含み、少なくとも1つのCCAATボックスおよび少なくとも1つのCTF結合部位を含んでいてもよいプロモーターである。
【0072】
特に好ましい実施形態において、プロモーターは、HSV-TKプロモーター、または本明細書に記載されるその変異体のいずれかである。
【0073】
別の好ましい実施形態において、プロモーターは、SV40プロモーター、または本明細書に記載されるその変異体のいずれかである。
【0074】
本発明の方法において使用できる例示的なcap-rAdVは、配列番号10の核酸配列を含む。cap-rAdVは、配列番号10に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を含んでもよい。これは、配列番号10からなってもよい。代替的に、本発明に係るcap-rAdVは、配列番号10におけるものとは異なるプロモーター領域、例えば、本明細書において教示される別の好適なプロモーターを含んでもよい。
【0075】
好ましくは、rep-rAdVおよびcap-rAdVの両方が、各々100~2000ゲノム粒子(GP)/細胞のMOI、例えば、各々100~500、500~1000、1000~1500、または1500~2000GP/細胞のMOIにおいて、細胞に投与される。好ましくは、2つのAdVは、各々、150~1000GP/細胞のMOIにおいて、より好ましくは175~750GP/細胞のMOIにおいて、最も好ましくは200~400GP/細胞のMOIにおいて投与される。MOI(感染多重度)は、ウイルス粒子の、それらの感染ターゲット、すなわち感染させられるターゲット細胞に対する比率を表す。したがって、rAdVを200GP/細胞のMOIで投与することは、単一のターゲット細胞に200個のrAdV粒子が接種されることを意味する。MOIは、所定の細胞に最終的に侵入するウイルスの数に関して間接的な結論を導き出すことを可能にする。ポアソン分布を使用することで、所定の細胞集団について、特定のMOIで接種を行ったときに細胞が特定の量のウイルス粒子を吸収する確率を計算することができる。MOIが増加するにつれて、少なくとも1つのウイルス粒子に感染する細胞のパーセンテージも増加する(https://en.wikipedia.org/wiki/Multiplicity_of_infection)。
【0076】
さらに、rep-rAdVおよびcap-rAdVは、好ましくは、1:2から2:1の比、より好ましくは1:1の比で細胞に投与される。
【0077】
細胞には、プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターがさらに提供され、この発現カセットは、AAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている。
【0078】
導入遺伝子ベクターは、好ましくは、rep-rAdVおよびcap-rAdVと併せて細胞に提供されるスターター組換え型AAVベクターである。しかし、他の実施形態において、導入遺伝子ベクターは、プラスミドまたは第3の組換え型アデノウイルスベクターでもよい。
【0079】
本発明において、導入遺伝子ベクターを「提供する」という用語は、カーゴ導入遺伝子を含む発現カセットが、ターゲットのパッケージング細胞によってウイルスベクター粒子中にパッケージングされ得るように、前記細胞中に導入遺伝子ベクターをデリバーする方法を指す。導入遺伝子ベクターの「提供」の具体的な方法は、ベクターの厳密な性質に依存する。導入遺伝子ベクターがスターターAAVベクターまたはアデノウイルスベクターなどのウイルスベクターである場合、導入遺伝子ベクターは、細胞の感染によって前記細胞に提供される。感染の間、導入遺伝子を含む発現カセットは、形質導入として知られるプロセスによって細胞に導入される。したがって、本発明の方法が導入遺伝子デリバリーのためにウイルスベクターを使用する場合、本方法は完全に感染に基づくものである。
【0080】
導入遺伝子ベクターがプラスミドである場合、これは、好ましくは、現在の技術水準から公知である好適なトランスフェクション方法によって、例えば、電気穿孔、微量注射、遺伝子銃の使用、インペールフェクション(impalefection)、静水圧、連続注入、超音波処理、リポフェクション、Fugeneなどの非リポソーム試薬、または好ましくは、リン酸カルシウム沈降ベースのトランスフェクションによって、細胞に提供される。
【0081】
本発明において、「導入遺伝子」、「治療用遺伝子」または「カーゴ配列」という用語は同義に使用され、それ自体で有効な核酸配列(例えば、調節性RNA)、または治療用ポリペプチドもしくはタンパク質をコードする核酸配列のいずれかを指し、これらは各々、プロモーターまたは転写後調節エレメント(例えばポリアデニル化配列)など、発現に必要なすべての制御エレメントを含む。導入遺伝子の選択は、生産されるrAAVの意図される用途に依存する。導入遺伝子がポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列である場合、導入遺伝子は、目的の遺伝子から転写されるメッセンジャーRNA(mRNA)からの逆転写によって生成され、かつ目的の遺伝子に通常存在するイントロンを欠いている、相補性DNA(cDNA)であることが好ましい。代替的に、導入遺伝子は、その長さが最終的なrAAVベクターのパッケージング限界を超えないことを条件として、イントロンを含み、調節性領域を含んでいてもよい、完全な目的の遺伝子であってもよい。導入遺伝子は、代替的に、合成的にエンジニアリングされてもよい。これは例えば、ターゲット細胞における目的の遺伝子の効率的な発現を確実にするためにコドン最適化されていてもよく、例えば、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよい。カーゴ配列は、適宜、内部リボソーム侵入部位(IRES)、すなわち、5’キャップ構造の非存在下でmRNA翻訳を媒介し、単一のプロモーターの制御下で複数の遺伝子の共発現を可能にするRNAエレメントをさらに含んでいてもよい。
【0082】
代替的な実施形態において、カーゴ配列は、マイクロRNA、低分子ヘアピンRNA、シングルガイドRNA、および長鎖ノンコーディングRNAを含む群から選択される調節性RNAへと転写され得る。
【0083】
導入遺伝子発現カセットのプロモーターは、好ましくは、CMVプロモーター、CAGプロモーター、CBAプロモーター、RSVプロモーター、HIVプロモーター、SV40プロモーター、HSV-TKプロモーター、ヒトβ-アクチンプロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、EF1a遺伝子プロモーター、PGK1遺伝子プロモーター、およびUBC遺伝子プロモーターなどの構成的活性プロモーターか、第1のアデノウイルスサブタイプ5イントロンありもしくはなしのMLPか、TET誘導性プロモーター、Cumate誘導性プロモーター、電気感応性プロモーター、およびオプトジェネティクススイッチを含む群から選択される誘導性プロモーターか、または組織特異的プロモーターである。
【0084】
導入遺伝子発現を制御するプロモーターは、代替的に、AAV特異的プロモーターでもよい。これは例えば、AAV-2 p5、p19またはp40プロモーターであり得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、導入遺伝子ベクター中の発現カセットは、導入遺伝子発現を増進することが可能なプロモーター以外に追加の調節エレメントをさらに含み得る。例えば、遺伝子発現を強力に刺激する多くのDNAエレメントが転写配列の最初の1キロベースにおけるイントロン内に位置することを示唆する証拠が増加している。したがって、導入遺伝子は、例えば、導入遺伝子発現を増進することが可能な追加のイントロンを含み得る。導入遺伝子ベクターは、適宜、ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含んでいてもよい。WPRE RNA配列は、DNAから転写されると発現を増進する三次構造を作り出す。この配列は、ウイルスベクターによってデリバーされる遺伝子の発現を増加させるために、分子生物学において一般的に使用されている。導入遺伝子はさらに、コドン最適化されているのが好ましく、すなわち、導入遺伝子における特定のコドンが、遺伝子の発現を向上させるためにヒトなどの生物によって好ましく使用される同義コドンによって置換されていてもよい。コドン最適化は、好ましくないGC含有量、クリプティックスプライス部位、転写終止シグナル、RNA安定性に影響するモチーフ、および/または導入遺伝子に通常存在し得る核酸二次構造の影響を克服するのに役立ち得る。
【0086】
導入遺伝子ベクターの発現カセットをフランキングする末端のAAV ITRは、核酸レベルにおいて(シスで)、ゲノム複製、および複製されたAAVゲノムのパッケージングのために必要である。好ましくは、AAV ITRは、AAV-2血清型に由来する。代替的な実施形態において、AAV ITRは、血清型2以外のAAV血清型に由来してもよい。
【0087】
上述のように、導入遺伝子ベクターは、好ましくは「スターターrAAVベクター」である。スターターrAAVは、rAAV生産を開始するために使用されるウイルスrAAVベクターである。これは、臨床研究または遺伝子療法において最終的に使用されるrAAVベクターと同一である。スターターrAAVベクターは、比較的少量で事前に生産され、その後、前臨床および臨床用途のために十分に高いベクター力価を得るために、数ラウンドにわたり本発明の方法によって増幅される。本発明者らは、本発明の方法を使用すると、スターターrAAVを最大で1000倍~1500倍に増幅できることを見出した。スターターrAAVベクターは、当業者に知られているいずれかのrAAVベクター生産方法によって元々取得されたものであり得る。例えば、スターターrAAVベクターは、例えば、上述のような、ベクタープラスミドおよび1つまたは複数のヘルパープラスミドの混合物を用いた、パッケージング細胞の従来のコトランスフェクションによって取得可能であり得る。代替的に、スターターrAAVベクターは、例えば、AAV-ITRによってフランキングされた目的の導入遺伝子カセットならびにAAV RepおよびCapタンパク質をコードするバキュロウイルスに昆虫細胞を感染させることなどによる、感染ベースの生産方法を介して取得可能であり得る。スターターrAAVベクターは、本発明の方法によって取得することもでき、すなわち、本明細書で開示される方法によって取得されたrAAVベクターは、後に行われるラウンドのrAAVベクター増幅のための新しいスターターrAAVベクターとして機能し得る。したがって、本発明の方法は、最終的なベクター収量が最大になるように、連続的なrAAVベクター増幅のために数ラウンドにわたって繰り返すことができる。スターターrAAVベクターは、10~1500GP/細胞の範囲内の比較的低いMOIにおいて、例えば、10~100、100~500、500~1200GP/細胞のMOIにおいて、または好ましくは、20~50GP/細胞もしくはそれ未満のMOIにおいて、細胞に投与され得る。
【0088】
本発明の方法において導入遺伝子ベクターとして使用され得る導入遺伝子を欠いている例示的なスターターrAAVベクターは、配列番号11の核酸配列を含む。スターターrAAVベクターは、配列番号11に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を含んでもよい。代替的に、本発明に係るスターターrAAVベクターは、配列番号11におけるものとは異なるプロモーター領域、例えば、本明細書において教示される別の好適なプロモーターを含んでもよい。
【0089】
別の実施形態において、導入遺伝子ベクターは、スターター組換え型アデノウイルスベクターであり得る。スターター組換え型アデノウイルスベクターとは、rAAV生産を開始するために使用される組換え型アデノウイルスベクターベクターである。したがって、スターター組換え型アデノウイルスベクターは、rep-rAdVおよびcap-rAdVと併せて感染細胞に投与される第3の組換え型アデノウイルスベクターである。導入遺伝子のサイズに応じて、導入遺伝子AdVは、第一世代、第二世代、または第三世代のAdVであり得る。rep-rAdVおよびcap-AdVのように、導入遺伝子AdVは、100~500、500~1000、1000~1500、または1500~2000GP/細胞のMOIにおいて細胞に投与され得る。これは、好ましくは、150~1000GP/細胞のMOIにおいて、より好ましくは175~750GP/細胞のMOIにおいて、最も好ましくは200~400GP/細胞のMOIにおいて投与される。
【0090】
他の実施形態において、AVV-ITR導入遺伝子を含む発現カセットは、スターターAAVでもAdVでもないウイルスベクターによって提供されてもよい。例えば、ウイルス導入遺伝子ベクターは、レトロウイルスベクターに由来し得る。これは例えば、レンチウイルスベクターでもよい。
【0091】
導入遺伝子ベクターは、スタータートランスフェクションプラスミド、すなわち、rAAV生産を開始するために使用されるプラスミドでもよい。プラスミドは、分子クローニングにおいてベクターとして広く使用されている、比較的小さい環状DNA分子である。導入遺伝子ベクターがプラスミドである場合、前記プラスミドは、細菌または酵母のいずれかに由来するプラスミドであり得る。当業者であれば、導入遺伝子デリバリーのために好適なプラスミドを特定するために、現在の技術水準から公知である様々なプラスミドのタイプから選択することができるであろう。AAVベクター生産のための好適な導入遺伝子プラスミドは、例えば、以下の実施例に記載されるような、pTR-UF5プラスミドである。
【0092】
本発明の方法が空のウイルス様粒子ではなくAAVベクターを生産するためのものである場合、導入遺伝子ベクターは、好ましくはスターターrAAVベクターである。本発明者らは、プラスミドベクターまたは第3のrAdVを介した導入遺伝子の提供が、より高レベルの空カプシドをもたらしたことを見出した。いくつかの報告は、空カプシドが、AAVベクターに対して免疫系によって生産された抗体のためのデコイとして機能する可能性があり、したがって、共投与された導入遺伝子搭載rAAV粒子が抗体によって捕捉されることを防ぐのに役立ち得ることを示唆している。しかし、高い割合の空AAVカプシドがAAVベクター生産中に取得されるのは、通常はあまり望ましくない。空カプシドはさらに、AAVベクターに対する望まれない免疫応答を刺激する故に、所定の遺伝子療法の成功の確率を低減させる可能性がある。
【0093】
本明細書に記載されるように、rep-rAdVおよびcap-rAdVに感染させられ、導入遺伝子ベクターが提供される細胞は、rAAVベクターアセンブリーのためのパッケージング細胞として機能する。この細胞は、好ましくは、例えば、ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞、HEK293T細胞、またはHeLa細胞などのヒト細胞株の細胞である。好ましくは、この細胞は、HEK293細胞またはHEK293T細胞であり、最も好ましくはHEK293細胞である。この細胞は、接着細胞でもよく、すなわち、成長のために表面または人工基質を必要とし得る。しかし、本発明に係る生産方法は、自由浮遊細胞、すなわち懸濁細胞におけるベクター生産に容易に適合することができ、それ故、より大規模なAAVベクター生産が可能である。したがって、パッケージング細胞として使用される細胞は、好ましくは、好適な培地、例えばGibco(登録商標)CD 293 Medium、Freestyle(商標)293 Expression Medium、またはExpi293(商標)Expression Medium(すべてThermoFisher Scientificによる)などの無血清培地に存在する、懸濁下の細胞である。したがって、この細胞は、例えば、Gibco(登録商標)293-F細胞、好ましくはGibco(登録商標)FreeStyle(商標)293-F細胞、またはGibco(登録商標)Expi293F(商標)細胞であり得る。懸濁細胞は、rep-AdVと、cap-AdVと、適宜、導入遺伝子rAdVとに、それぞれ約100~2000GP/細胞のMOI、例えば、それぞれ100~500、500~1000、1000~1500、または1500~2000GP/細胞のMOIで感染させてもよい。導入遺伝子ベクターがスターターrAAVである場合、これは、10~1500GP/細胞のMOIにおいて、例えば、10~100、100~500、または500~1200GP/細胞のMOIにおいて、懸濁細胞に投与され得る。懸濁細胞の感染は、24~96時間、例えば24~36時間、36~48時間、48~60時間、60~72時間、72~84時間、または84~96時間持続し得る。好ましくは、懸濁細胞の感染は、64~96時間持続する。
【0094】
rAdVを介してrepおよびcap遺伝子が提供されるため、アデノウイルスヘルパー機能を提供するために細胞をさらに遺伝子修飾する必要はない。
【0095】
導入遺伝子ベクターがウイルスベクターである場合、repおよびcap遺伝子を搭載した2つのrAdVならびに導入遺伝子ベクターは、重感染によって細胞に同時に投与され得る。代替的に、ウイルス導入遺伝子ベクターを最初に投与し、続いてrepおよびcap遺伝子を含む2つのrAdVの提供を行うなど、ベクターを順次投与してもよい。感染の順序は、特に重要ではないと考えられる。導入遺伝子ベクターがプラスミドである場合、細胞をまず2つのrAdVに感染させ、その後に導入遺伝子ベクタープラスミドをトランスフェクトしてもよく、またはその逆でもよい。
【0096】
パッケージング細胞を異なるAdVに感染させ、導入遺伝子ベクターを提供した後、新しく生成されたウイルス粒子を回収する必要がある。ウイルス回収に適切な時点は、ウイルス侵入によって引き起こされるパッケージング細胞の構造変化によって特徴付けられる。これらの構造変化は、当業者によく知られている「細胞変性効果」という用語によってまとめられる。パッケージ細胞の感染/トランスフェクションと、生産されたAAVベクター粒子またはAAVウイルス様粒子の回収との間の時間は、数時間から数日、例えば、12~96時間、24~72時間、36~60時間、または40~50時間を要し得る。本発明者らは、ウイルス粒子が、通常、パッケージング細胞の感染/トランスフェクションから約64~72時間後に回収され得ることを見出した。
【0097】
本発明の方法の典型的に最終の工程として、新しく生産され回収されたrAAVベクターまたはAAVウイルス様粒子は、当業者に知られている標準的な実験技術に従って精製される。AAV粒子の精製は、例えば、以下の実施例に記載するようなAVBセファロースを用いたHPLCアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー方法によって実現され得る。rAAVベクターまたはウイルス様粒子はさらに、投与のために製剤および/またはパッケージングされてもよい。
【0098】
本発明によってさらに開示されるのは、本明細書に記載される組換え型アデノウイルスcapベクターに細胞を感染させることを含む、空のAAVウイルス様粒子(AAV-VLP)を生産することに特化した方法である。本発明者らは、cap-AdVによるHEK293細胞単独の感染が、高レベルの空AAVカプシドを生産するのに十分であることを見出した。これらは、完全なrAAVベクターと同じように、アフィニティークロマトグラフィーによって高収量で精製され得る。AAV-VLPは、既存の抗体のための結合ダミーとして働くため、例えば、AAVに対する既存のB細胞免疫応答を克服するのに使用され得る。AAV-VLPの他の考えられる用途は、例えば、それらが様々なAAV血清型に対する抗体の特異的検出のための抗原として使用され得る、診断法におけるものである。
【0099】
最後に、本発明は、本発明の方法に従って組換え型アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを生産するためのキットまたは組成物であって、
a)プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含む導入遺伝子ベクターであって、発現カセットがAAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている、導入遺伝子ベクター、
b)プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスrepベクター(rep-rAdV)であって、rep遺伝子がRIS-Adを含まず、repベクターがAAV Capタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスrepベクター、および
c)野生型p40プロモーターではないプロモーターに作動可能に連結されたAAV cap遺伝子を含む発現カセットを含む組換え型アデノウイルスcapベクター(cap-AdV)であって、前記capベクターがAAV Repタンパク質をコードしない、組換え型アデノウイルスcapベクター
を含む、キットまたは組成物をさらに対象とする。
【0100】
導入遺伝子ベクターは、好ましくは、異種プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットを含むスターターrAAVベクターであり、この発現カセットは、AAV逆方向末端反復(ITR)によってフランキングされている。
【0101】
キットは、3つの異なるウイルスベクターがひとつに混合される単一のコンパートメントを含み得る。代替的に、3つの異なるウイルスベクターは、キットの使用前または使用中にのみ混合される、最大3つの別個のコンパートメントに物理的に分離される。キットは2つのコンパートメントを含んでもよく、その場合、好ましくは、一方のコンパートメントがスターターrAAVベクターを含み、他方のコンパートメントが2つのAdVを含む。キットの構成要素、すなわち3つの異なるウイルスベクターは、全く混合されなくてもよく、例えば、3つの別々の感染工程の間に好適なパッケージング細胞に別々に投与されてもよい。異なるベクターは、凍結中のウイルスベクターを安定化させるために、PEG 6000などの好適な貯蔵培地、またはグリセロールを含む溶液中に存在してもよい。キットまたは組成物は、2~6℃の温度で数日から数週間、例えば、1日から4週間、1日から3週間、1日から2週間、または1日から7日にわたって貯蔵され得る。好ましくは、キットまたは組成物は、2~6℃で2週間未満にわたって貯蔵され得る。長期貯蔵の場合、キットまたは組成物は、使用前に-80℃で数週間から数か月の期間にわたって、例えば4週間から24か月、2か月から20か月、4か月から16か月、8か月から14か月、または約12か月にわたって貯蔵され得る。いくつかの実施形態において、キットまたは組成物は、使用前に-80℃でさらに長い期間にわたって、例えば3年間、4年間、5年間、6年間、7年間、8年間、9年間、またはさらには最長10年間にわたって貯蔵され得る。
【0102】
本明細書で開示される、AAVベクター生産のための製造方法およびキットは、例えば、事前に生産された少量のrAAVを、単一の単純な重感染工程において最大で1000倍~1500倍に増幅させることを可能にする。最初に挿入された細胞当たりの収量は、新しく生産されたrAAVのアフィニティークロマティック(chromatic)精製後に、2~4×10ゲノムコピー/挿入細胞の範囲内である。さらに、他の感染ベースのrAAVパッケージング方法では絶対的に必要である、新しい導入遺伝子特異的なパッケージング細胞株またはヘルパーウイルスの長時間を要する生成は、必要とされない。単純な取り扱いおよび高いrAAV収量のため、この新規生産システムは、例えば、研究室で既に特性解析されたrAAVベクターを動物モデルでの試験および臨床応用へと迅速に移すことを望むすべての使用者にとって、興味深いものとなるはずである。
【0103】
本発明の全体を通して、「約」という用語は、「±10%」として理解されることを意図する。「約」が範囲に関連する場合、これは、その範囲の下限および上限の両方を指す。「ある(a)」は、別段明記されない限り、「1つまたは複数の」を意味することを意図する。
【0104】
本明細書で引用されるすべての文献は、これにより完全に援用される。本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それによって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1図1:アデノ随伴ウイルス(AAV)の感染サイクル。アデノウイルスまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)などのヘルパーウイルスの存在下での生産的感染と、ヘルパーウイルスの非存在下でのヒト19番染色体上のAAV-S1部位への部分的に部位特異的な組み込みによる潜伏感染との二部からなる、細胞培養におけるAAV血清型2の感染サイクル。AAV-2は、潜伏状態から、ヘルパーウイルスによる感染によってレスキューされ、生産的複製サイクルに再び入ることができる。
図2図2:AAV血清型2のゲノム構成。囲み線によって示される、逆方向末端反復(ITR)、4つのRepタンパク質Rep78、Rep68、Rep52、Rep40、カプシドタンパク質VP1からVP3、およびAAP(アセンブリー活性化タンパク質)を含むAAV-2のゲノム構成。対応する転写物は、矢印の付いた線によって示されている。右に向いた矢印は、マップユニット5、19および40における3つのAAV-2プロモーターの転写開始部位を表し、縦の矢印は、マップ位置96におけるすべての転写物に共通するポリアデニル化(ポリA)部位を示す。
図3図3:組換え型AAVベクター(rAAV)の生産のための標準的な実験方法。AAV-2 RepおよびCapタンパク質ならびにアデノウイルス5型(Ad5)E2a、E4orf6およびVA-RNA機能をコードするヘルパープラスミド(pDGプラスミドなど)と、AAV-2 ITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットを内包するベクタープラスミドとを用いる、rAAVの生産のための標準的な2プラスミドコトランスフェクションシステム。追加で必要とされるAd5 E1aおよびE1b機能は、HEK293細胞によって提供される。
図4図4:偽型AAVベクターの生産のためのヘルパープラスミド。標準的なヘルパープラスミドにおけるAAV-2カプシド遺伝子の、AAV-2血清型1、5、6、8および9のカプシド遺伝子への交換。これらの改変されたcap遺伝子、および対応するアセンブルされたカプシドは、異なるパターンの囲み線によって示されている。偽型rAAVベクターの好ましいターゲット臓器が下に示されている。
図5図5:組換え型HSV/AAVハイブリッドベクターを使用した組換え型AAVベクターの生産。repおよびcap機能を提供する組換え型HSV(rHSV)ベクター(左側)ならびにAAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子を提供する第2のrHSVベクター(右側)を用いる、rAAVベクターのパッケージング。
図6図6:組換え型アデノウイルス/AAVハイブリッドベクターを使用した組換え型AAVベクターの生産。repおよびcap機能を提供するrAdベクター(rAdV)(左側)ならびにAAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子を提供する第2のrAdVを用いる、想定されるrAAVベクターのパッケージング。
図7図7:AAV-2ヌクレオチド1701~2186(RIS-Ad)によるアデノウイルス複製の阻害の推定機序。(A):RNA Pol II一時停止に関与する可能性のあるAAV-2 p40プロモーター中のエレメント。Inrエレメント、一時停止ボタン(PB)、およびGAGAエレメントの組み合わせは、TSS付近の不釣り合いに高いレベルのPol IIを伴うプロモーターを高度に予測することが示されている。ヌクレオチド位置は、TSSに対して相対的に示されている。略語:TBP、TATAボックス結合タンパク質;GAF、GAGA因子。(B):p40プロモーターにおける機能停止したRNA Pol II複合体による立体障害を介したAd5/AAVハイブリッドベクターゲノム複製の阻害の提唱されるモデル。略語:DSIF、DRB感受性誘導因子;NELF、負の伸長因子。
図8図8:大型Rep遺伝子の発現のための例示的なプロモーターのスキーム。(A):転写開始部位(TSS)、TATAボックス、近位および遠位のSp1結合部位、ならびにCCAATボックス(CTF結合部位)を含むプロモーター。(B)および(C):Sp1部位を1つだけ含む代替的なプロモーター。異なるエレメント間の好ましい距離は、塩基対(bp)で示されている。
図9図9:3’阻害性RIS-Ad配列の再コード後のアデノウイルスシャトルプラスミドによるAAV-2 Repタンパク質の発現。(A):rep遺伝子の3’部におけるRIS-Ad(アデノウイルス複製のRep阻害配列)の詳細を含むAAV-2のゲノム構成。AAV-2の逆方向末端反復(ITR)、4つのRepタンパク質Rep78、Rep68、Rep52、Rep40、カプシドタンパク質VP1からVP3、およびAAP(アセンブリー活性化タンパク質)が、異なる囲み線によって示されている。右に向いた矢印は、マップユニット5、19および40における3つのAAV-2プロモーターの転写開始部位を表し、縦の矢印は、マップ位置96におけるすべての転写物に共通するポリアデニル化(ポリA)部位を示す。拡張されたRIS-Ad領域の詳細と、RIS-Adの阻害機能を無効にするのに十分なAAV-2ヌクレオチド1782から1916の再コード(sRep)とが、図の下部に示されている。特徴的なヌクレオチド位置は、囲み線の上に示されている。(B):rAd生成のために使用されるシャトルプラスミドの導入遺伝子カセットの概略表現(E.coliにおける相同組換えのためのpShuttleコンストラクト、およびその結果得られる、HEK293細胞のトランスフェクションのためのpAdEasyプラスミド)。囲み線は、Rep78/Rep52 ORF、再コードされた(sRep)配列、およびプロモーターカセットを表す。HEK293細胞への対応するPacI線形化pAdEasyプラスミドのトランスフェクション後のrAdVの形成が、「+」および「-」の記号によって示されている。「(+)」は不安定なrAdVを示す。
図10図10:機能的Repタンパク質を発現するrAdVの特性解析。(A):HEK293細胞を64時間にわたり、示されているMOI(ゲノム粒子/細胞)でrAd-MMTV-sRep(増幅ラウンド5)およびrAd-M2-Tet-sRep(ラウンド6)に感染させた後の、抗Repウエスタンブロット分析。pTR-UF5 rAAVベクタープラスミドのトランスフェクションを陰性対照として使用し(「陰性」のレーン)、pDGプラスミドトランスフェクション(トランスフェクション効率約70%)を陽性対照として使用した。上のパネルは、等しいMOIにおけるrAd-MMTV-sRepおよびrAd-M2-Tet-sRep(後者(the later)はドキシサイクリンの存在下)の比較を示し、下のパネルは、異なるMOIにおけるrAd-M2-Tet-sRepについてのドキシサイクリン(1μg/ml最終濃度、「dox」と表記)の効果を示す。(B)および(C):rAAV複製DNA中間体のサザンブロット分析。ウイルスDNAをトランスフェクション/感染の64時間後に抽出し、それぞれの導入遺伝子カセットに対するプローブとハイブリダイズした。矢印は、単量体および二量体の複製rAAV-DNA中間体(RF-MおよびRF-Dと表記)を示す。(B):HEK293細胞にpTR-UF5をトランスフェクトすることにより、AAV-2 ITRによってフランキングされたCMV-GFP導入遺伝子カセットを提供し、細胞をさらに、ドキシサイクリンの非存在下または存在下において、示されているMOIで64時間にわたってrAd-M2-Tet-sRepに感染させた。レーン2の陽性対照は、pTR-UF5/pDGコトランスフェクト細胞を表す。(C):AAV-2 ITRによってフランキングされたCBA-GFPカセットを、プラスミドの形態で提供したか(pShuttle-ITR-GFP)、または示されている2つの異なるMOIでの対応するrAdによる感染によって提供した(rAd-ITR-GFP)。レーン2は、pShuttle-ITR-GFP/pDGコトランスフェクションを表す。
図11図11:単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーターの制御下でAAV-2カプシドタンパク質を発現するrAdVの生成。(A):AAV-2 Capタンパク質発現のためのアデノウイルスシャトルプラスミドの概略表現。異なる囲み線は、Cap ORF、主要AAV-2イントロン、再コードされた(sRep)配列、および異なるプロモーターカセットを表す。HEK293細胞への対応するPacI線形化pAdEasyプラスミドのトランスフェクション後のrAdVの形成が、「+」および「-」の記号によって示されている。(B):rAd-HSV-TK-Cap増幅の増幅ラウンド3~8からの等量の凍結融解上清を用いた64時間にわたるHEK293細胞の感染と、その後の全細胞抽出物の抗Capウエスタン分析。矢印はカプシドタンパク質VP1からVP3の位置を示す。pDGトランスフェクトHEK293細胞を陽性対照として使用した。(C):示されているMOIにおいて64時間にわたる増幅ラウンド6(左側のレーン)および5(右側のレーン)からのrAd-HSV-TK-Cap凍結融解上清によるHEK293細胞の感染後の抗Capウエスタンブロット分析。
図12図12:rAdV媒介性rAAV2-GFPベクターパッケージングの最適化。A:図の上部は、HEK293細胞におけるrAAV2-GFPベクターのrAdV媒介性パッケージングのための異なる実験手法である、(I)rAd-M2-Tet-sRep(rep-rAdVと表記)およびrAd-HSV-TK-Cap(cap-rAdVと表記)の混合物によるpTR-UF5トランスフェクト細胞の感染、(II)rep-rAdVおよびcap-rAdVを用いた重感染による低投入量のスターターrAAV2-GFPの増幅、ならびに(III)ITR-GFP-rAdV、rep-rAdVおよびcap-rAdVによる三重rAd感染の概要を示す。B:図の下部は、6ウェルプレートにて5×10個のHEK293細胞を用いて行ったパッケージング実験からの凍結融解ライセートの少量のアリコート(1/15)による3×10個のHeLa細胞の形質導入の後に得られたGFP陽性細胞のパーセンテージを示す。GP/細胞として表示されているMOIは、HEK293細胞におけるパッケージングのために使用されたものを指す。(II)および(III)では、rAd-Capを1000GP/細胞のMOIで使用した。陽性対照は、pTR-UF5およびpDGを用いる標準的なコトランスフェクションプロトコールによって行った。rAdV媒介性rAAV-GFP増幅(II)では、示されているとおり、6ウェル陽性対照の凍結融解ライセートからの1/30または1/150の画分を、同じ6ウェル形式における次工程のrAdV媒介性増幅のためのスターターrAAV-GFPとして使用した。
図13図13:組換え型アデノウイルスを利用して生成された、アフィニティー精製済みrAAV2-GFPベクター調製物の特性解析。(A):示されているように異なるパッケージング手法を用いて生成された、アフィニティー精製済みの個々のrAAV2-GFPベクター調製物に関する、細胞当たりのゲノム粒子(GP/細胞)としてのバーストサイズ。陽性対照は、標準的なコトランスフェクションプロトコールに対応し、rAdV媒介性パッケージングプロトコールは、図12に詳細に示されている。2つの独立した代表的な調製物が各セットアップについて示されている。(B):(A)に示す異なるセットアップに対応するパターンコーディングが付された、アフィニティー精製済みrAAV2-GFP調製物を5つの異なるMOI(GP/細胞として表されている)で用いた、HeLa細胞の形質導入後のGFP陽性細胞のパーセンテージ。(C):(A)に示す精製されたrAAV2-GFPベクター調製物からの4つの異なる量のゲノム粒子(1×10、5×10、2×10および1×10)を用いたカプシドタンパク質含有量のウエスタンブロット分析。より高いバーストサイズを有する各調製物を、4つの異なるパッケージング方法の各々の分析のために選択した。(D):(C)と同じrAAV2-GFPベクター調製物からの異なる量のゲノム粒子(1×10、5×10、2×10および1×1010)をロードしたSDS PAGEゲルの銀染色。
図14図14:一連の増幅ラウンドにわたるrAd-M2-Tet-sRepおよびrAd-HSV-TK-Capの収量、ゲノム安定性、およびタンパク質発現。rAd-Me-Tet-sRep(rep-rAdV、AおよびBの左パネル)およびrAd-HSV-TK-Cap(cap-rAdV、AおよびBの右パネル)を、HEK293細胞において15ラウンドにわたって増幅させた。基本的には、1×10個の細胞(175cmフラスコ)を44~50時間にわたって先行ラウンドからの2.5×1010個のゲノムrAd粒子に感染させ、3回の凍結融解サイクルによって5mlの残留培地中に溶解させた。(A):方法のセクションに記載されるようにPCR分析によって決定された凍結融解上清におけるゲノムrAdV力価。(B):それぞれの導入遺伝子カセットの最末端に結合するオリゴヌクレオチドを用いたPCR増幅によるゲノムの完全性の分析。rAdVの生成のために使用したpAdEasyプラスミドを陽性対照として使用した。(C)および(D):200のMOIで64時間にわたる、示されているrep-rAdVまたはcap-rAdVの増幅ラウンドからの凍結融解上清によるHEK293細胞の感染後の、抗Rep(C)または抗Cap(D)のウエスタンブロット分析。
図15図15:構成的HSV-TKプロモーターを用いた、機能的な大型Repタンパク質のrAd媒介性発現の向上。(A):rep遺伝子の3’部におけるRIS-Ad(アデノウイルス複製のRep阻害配列)の詳細を含むAAV-2のゲノム構成(さらなる詳細については図9Aを比較されたい)、ならびに、大型Repタンパク質Rep68、およびスプライスドナー部位の直後で終止する切断型sRep1/530タンパク質の描写。両方が、AAV-2ヌクレオチド1782から1906の領域において再コードされている。異なる囲み線は、アデノウイルスシャトルプラスミドにおけるタンパク質の発現のために使用される、Rep-ORF、再コードされた領域(sRep)、およびHSV-TKプロモーターを表す。(B):精製されたスターターrAAV-GFP(MOI 100)、およびrAd-M2-Tet-sRep、rAd-HSV-TK-sRep68、またはrAd-HSV-TK-sRep1/530のいずれかを図示のように用いた、64時間にわたるHEK293細胞の重感染後の抗Repウエスタンブロット分析。ゲノム粒子/細胞としてのMOIも示されている。pTR-UF5およびpDGがコトランスフェクトされた細胞を陽性対照として使用した。(C):実験手法は(B)と同一だが、ウイルスDNAをトランスフェクション/感染の64時間後に抽出し、CMV-GFP導入遺伝子カセットに対するプローブとハイブリダイズした。矢印は、単量体(RF-M)および二量体の複製(RF-D)rAAV-GFP DNA中間体を示す。
図16図16:HSV-TKプロモーター制御下の切断型Repタンパク質のrAdV媒介性発現後のrAAV-GFP増幅。(A)および(B):(A)rAd-HSV-TK-sRep68および(B)rAd-HSV-TK-sRep1/530の異なる増幅ラウンドからの上清におけるrAdV導入遺伝子カセットの分析。PCR増幅のために使用したオリゴヌクレオチドは、pAdEasyプラスミドにおいて導入遺伝子カセットをフランキングするアデノウイルス配列内で結合する。rAdVの生成のために使用したこれらのpAdEasyプラスミドを、PCR増幅のための陽性対照としても使用した。rAd-HSV-TK-sRep68のより高い増幅ラウンドからのプローブにおいて観察された予想サイズのPCR産物およびオーバーサイズのバンドが、矢印によって示されている。(C)および(D):5×10個のHEK293細胞(6ウェル形式)を用いて行った、rAAV2-GFPのrAd媒介性増幅からの凍結融解ライセートの少量のアリコート(1/30)による、3×10個のHeLa細胞の形質導入の後に得られたGFP陽性細胞のパーセンテージ。(C):示されているように、一定量のrAAV-GFP投入ベクター(MOI 100)、ならびに様々なMOIのrAd-HSV-TK-sRep1/530(rep-rAdVと表記)およびrAd-HSV-TK-Cap(cap-rAdVと表記)を使用した。(D):一定量のrAd-HSV-TK-sRep1/530(MOI 200)およびrAd-HSV-TK-Cap(MOI 400)を漸増量のrAAV-GFP投入ベクターと共に使用した。(CおよびD):rep-rAdVは、図12および14のもの(rAd-M2-Tet-sRep78)とは異なるrAdVベクター(rAd-HSV-TK-sRep1/530)に対応することに留意されたい。スターターrAAV-GFPのrAd-HSV-TK-sRep-Stop531およびrAd-HSV-TK-Capを介した増幅によって生成された、中規模アフィニティー精製済みrAAV-GFP調製物1および2(表1を比較されたい)の、(E):抗Capウエスタン分析および(F):銀染色。ロードした精製済みrAAV-GFPゲノム粒子の数が示されている。
図17図17:異なるAAV血清型のcapタンパク質の発現のためのアデノウイルスベクター(rAdV)の生成。(B):様々な濃度におけるrAd-HSV-TK-Cap感染後のCap発現。(A):それぞれのAAV血清型のイントロンの3部および下流Cap ORFを、pShuttle-HSV-TK-Cap AAV-2コンストラクトのAAV-2イントロンにおける対応する部位に融合させることによって生成された、アデノウイルスシャトルプラスミドの概略表現。異なる囲み線は、HSV-TKプロモーター、AAV-2イントロンの5’部、AAV血清型イントロンの3’部、およびそれぞれのCap ORFを表す。(B):示されているように、MOI 1000(左上)および400~4000(図の右上および下の部分)における、AAV血清型1、2、3、5、6、8および9のcap-rAdVベクターによる、HEK293細胞の64時間にわたる感染と、その後の抗Cap MAb B1を用いたCap発現のウエスタン分析。
図18図18:対応する標準的なコトランスフェクションプロトコールと比較した、AAV血清型1およびAAV血清型8ベクターについての、rAdV媒介性rAAV-GFP増幅の収量。(A):示されているように、接着性HEK293細胞において、標準的なコトランスフェクションプロトコールまたはrAdV媒介性ベクター増幅のいずれかによって生成された、アフィニティー精製済みrAAV1-GFPベクター調製物に関する、細胞当たりのゲノム粒子(GP/細胞)としてのバーストサイズ。各セットアップについて、2つの独立した代表的な調製物からの平均データが、標準偏差と共に示されている。(B):示されているように、接着性HEK293細胞において、標準的なコトランスフェクションプロトコールまたはrAdV媒介性ベクター増幅のいずれかによって生成された、個々のアフィニティー精製済みrAAV8-GFPベクター調製物に関する、細胞当たりのゲノム粒子(GP/細胞)としてのバーストサイズ。各セットアップについて、2つの独立した代表的な調製物からの平均データが、標準偏差と共に示されている。
図19図19:異なるHEK懸濁細胞におけるAAV血清型2についてのrAdV媒介性rAAV-GFP増幅の収量。示されているように、8×10個のFreeStyle 293-FまたはExpi293F懸濁細胞のrAdV媒介性ベクター増幅によって生成された、アフィニティー精製済みrAAV2-GFPベクター調製物に関する、細胞当たりのゲノム粒子(GP/細胞)としてのバーストサイズ。各細胞株について、2つの独立した調製物の平均データが示され、標準偏差が示されている。
図20図20:SV40初期プロモーターまたは単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーターの様々な変異体の制御下でAAVの非構造タンパク質および構造タンパク質を発現するrAdVの生成。(A):rAdVにおいて、(B)3つのAAV-2 Capタンパク質VP1からVP3のすべて、または(C)C末端が欠失した部分的に再コードされたAAV-2の大小のRepタンパク質の発現のために使用される、様々なHSV-TKプロモーター変異体および完全長SV40初期プロモーターの概略表現。HSV-TK変異体は、近位および遠位のSp1結合部位ならびにCCAATボックス(CTF結合部位)の存在および/または配向において異なる。すべてのプロモーター変異体が同一のTATAボックスおよび転写開始部位(TSS)を有する。(B):対応するrAdV-Capベクターの増幅ラウンド1からの等量のゲノム粒子を用いた70時間にわたるHEK293細胞の感染と、その後の全細胞抽出物の抗Capウエスタン分析。矢印は、カプシドタンパク質VP1からVP3の位置を示す。(C):対応するrAdV-Repベクターの増幅ラウンド1からの等量のゲノム粒子を用いた70時間にわたるHEK293細胞の感染と、その後の全細胞抽出物の抗Repウエスタン分析。矢印は、大型および小型の、C末端が欠失し、部分的に再コードされたRepタンパク質の位置を示す。
【0106】
【表1】


【実施例
【0107】
[実施例1]
【0108】
材料および方法
プラスミドおよびクローニング。
AAV-2 ITRによってフランキングされたCMVエンハンサー/プロモーター駆動型のGFPカセットを搭載したプラスミドpTR-UF5(Zolotukhin et al., 1996)は、親切にもNick Muzyczka(University of Florida)から提供された。AAV-2 p5プロモーターおよび完全なRep78コード領域を含有するプラスミドのpShuttle-p5-RepおよびpShuttle-p5-sRepについては既報である(Weger et al., 2014)。sRepという用語は、Sitaramanら(Sitaraman et al., 2011)によるAAV-2のnt1782から1916が再コードされたRep78配列を意味する。pShuttle-MMTV-RepおよびpShuttle-MMTV-sRepの生成では、対応するpShuttle-p5-Repコンストラクトにおける、p5プロモーターに先行するBglII部位と、Rep-ORF内のユニークなSalI部位(AAV-2 nt1428)との間の配列を、MMTV-LTRおよびRep ORFのアミノ末端部を含有するpDG(Grimm et al., 1998)からのBamHIパーシャル/SalI制限フラグメントによって置き換えた。pShuttle-M2-Tet-Repコンストラクトのクローニングでは、CMVプロモーター、rtTA(M2)トランスアクチベーター、およびTetプロモーター(7つのTetオペレーター配列とそれに続くCMVコアプロモーターのアレイ)を含有するカセットをプラスミドpD-Tet-M2-K1からHindIII/AgeIフラグメントとして切り取り、これを、3成分ライゲーションにより、HindIII/XbaI消化されたpShuttleベクターにおいて、フランキングするAgeI/XbaI部位によってPCRフラグメントとして生成された対応するRep78 ORF(野生型またはsRepヌクレオチド配列のいずれか)とアセンブルした。プラスミドpShuttle-p40-CapおよびpShuttle-s-p40-Capについては既報である(Weger et al., 2014)。異種プロモーターであるCMV(ヒトサイトメガロウイルス初期エンハンサー/プロモーター)、PGK(マウスホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター)、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーター)、およびアデノウイルスサブタイプ5 MLP(主要後期プロモーター)の制御下でAAV-2 Capタンパク質を発現させるために、pShuttle-p40-Cap内のAAV-2 nt1882におけるHindIII部位までのp40プロモーター配列を、クローニングのためのXbaIおよびHindIII部位を生成するプライマーを用いて好適な親プラスミドから増幅した対応する異種プロモーター配列によって置き換えた。Ad-MLP配列は、第1のリーダー配列を含む後期Ad5転写物のための開始部位を基準としてnt-506から+192を含有するが、Ad-MLP-Iと称される配列は、完全な第1のイントロンおよび第2のリーダー配列(転写開始部位を基準としてnt-506から1134)をさらに含有する。AAV-2 ITRによってフランキングされたCBA(ニワトリβ-アクチンCMVハイブリッドプロモーター)駆動型のGFP遺伝子を含有するpShuttle-ITR-GFPの生成のために、完全なITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットを、まずpBluescript II SK(+)へとサブクローニングされ、次いでpShuttleベクターへのクローニングのためにEcoRV/XbaIで切り取られたPstIを含むpTR-UF26(Mietzsch et al., 2014)から切り取った。導入遺伝子カセットの非必須領域内に存在する追加のPacI部位を、部分的消化、フィルイン反応、および再ライゲーションによって欠失させた。pShuttle-M2-Tet-sRep内のCMV-M2-Tetカセットを、サブクローニングのためのHindIIIおよびAgeI部位を生成するプライマーを用いて増幅させたHSV-TKプロモーターと交換することにより、pShuttle-HSV-TK-sRep78を生成した。pShuttle-HSV-TK-sRep68およびpShuttle-HSV-TK-sRep1/530については、pShuttle-HSV-TK-sRep78内のsRep78カセットを、Rep ORFをフランキングするAgeIおよびXbaI部位を通して、部分的に再コードされた対応するRep配列に交換した。5’末端においてAgeI部位を生成し、3’末端においてRep78アミノ酸530から下流の終止コドンTAAおよびXbaI部位を導入するプライマーをそれぞれ用いて、sRep1/530配列をpShuttle-M2-Tet-sRepから増幅させた。sRep68配列は、5’末端においてAgeI部位を生成するプライマーと、Rep78アミノ酸529とインフレームのBssHII制限を含む最初の3つのRep68特異的アミノ酸をコードするプライマーとを用いて、pShuttle-M2-Tet-sRepから増幅させた。残り4つのRep68特異的アミノ酸を含有するBssHII/XbaIリンカーおよび終止コドンを使用して、AgeI/BssHII切断増幅産物をAgeI/XbaI切断ベクターにライゲートした。すべてのpAdEasyコンストラクトは、pAdEasy-1プラスミド(Genbankアクセッション番号AY370909)を含有するE.coli BJ5183-AD-1細胞(Agilent)において、PmeI線形化DNAの相同組換えを介して、対応するpShuttleプラスミドから生成した。
【0109】
細胞培養およびトランスフェクション。
5%COで37℃における、10%のウシ胎仔血清(FCS)ならびに100μg/mlのペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、HEK293(ヒト胎児腎臓、ATCC CRL-1573)およびHeLa(ヒト子宮頸癌)細胞を増殖させた。HEK-293細胞のトランスフェクションは、既報(Winter et al., 2012)のリン酸カルシウム沈降技法によって行った。トランスフェクションの前日に播種した細胞の数は、それぞれ、6ウェルプレートでは細胞3×10個、25cmフラスコでは細胞6×10個、または14.5cmディッシュでは細胞4×10個であった。
【0110】
組換え型アデノウイルスベクター(rAdV)の生成および増殖。
rAdVの生成は、概ね既報のとおりにAdEasyシステム(He et al., 1998、Luo et al., 2007)を用いて行った。対応するpShuttleコンストラクトをPmeIによって線形化し、安定に形質転換されたpAdEasyプラスミドに含有されたE1/E3欠失Ad5ゲノムとの相同組換えのために、E.coli BJ5183-AD-1細胞に電気穿孔で挿入した。組換え型pAdEasyプラスミドDNAをE.coli XL-1-Blue細胞中で増幅させ、PacIによって線形化し、25cmフラスコ内のHEK-293細胞にトランスフェクトした。一次rAdV調製物を、トランスフェクションの12~14日後に、2mlの培地中で、液体窒素/37℃の水浴における4回の凍結融解サイクルによって回収した。1.5mlの上清を第1ラウンドの増幅のために使用し、2×10個の細胞を感染の前日に75cmフラスコ内に播種した。増幅のさらなるラウンドおよびCsCl勾配遠心分離による精製を既報のとおりに行った(Luo et al., 2007)。
【0111】
ゲノムrAdV粒子の数量化。
最近報告されたように(Weger et al., 2014)、Ad5-E4領域からの202bp領域の増幅のためにプライマーE4-Q1およびE4-Q2を使用した、GoTaq qPCR Master Mix(Promega)を用いるLight-CyclerベースのリアルタイムPCRによって、rAdV凍結融解上清またはCsCl精製済みrAdV中のアデノウイルスゲノム粒子を決定した。
【0112】
組換え型アデノウイルス(rAdV)によるHEK-293細胞の感染。
rAAVのウエスタンまたはサザンブロット分析および生産のために、HEK-293細胞を、適切な細胞培養容器において、細胞培養培地を予め除去せずに、示された量(概して、細胞当たりのゲノム粒子として表されるMOI)のrAdV凍結融解ライセートまたはCsCl精製済みrAdVに感染させた。
【0113】
ウエスタン分析。
カプシド含有量についての精製済みrAAV-2調製物のイムノブロット分析、または、AAV-2 CapもしくはRep発現についてのトランスフェクトHEK-293細胞もしくはrAdV感染HEK-293細胞からの全細胞抽出物のイムノブロット分析を、それぞれ、1:20に希釈した抗Capモノクローナル抗体B1または1:10に希釈した抗Repモノクローナル抗体303.9(いずれもProgen、Heidelberg、Germany)を用いて行い、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体とのインキュベーションおよび増強化学発光検出(ECL)を既報(Winter et al., 2012)のとおりに行った。
【0114】
銀染色。
タンパク質サンプルバッファーに直接溶解させ、95℃で5分間インキュベートし、8%ポリアクリルアミド/SDSゲル上で分離させた、1.0×10から1.0×1010のゲノム粒子に対応する様々な量のベクターを含む銀染色ゲルにおいて、精製済みrAAV-2ベクター調製物のカプシドタンパク質含有量を分析した。染色反応は、既報(Mietzsch et al., 2014)のとおりに行った。
【0115】
ウイルスDNAの抽出およびサザンハイブリダイゼーション。
改変されたHirt手順によるウイルスDNAの抽出を、基本的に既報(Winter et al., 2012)のとおりに行った。2時間にわたって40ユニットのDpnIによって消化された6μgのHirt-DNAを用いてサザンブロット分析を行った。0.8%アガロースゲルでの電気泳動の後、DNAをキャピラリーブロッティングによってナイロン膜(Hybond-N、GE Healthcare)に転写し、CMVプロモーター、GFP-ORFおよびSV40ポリアデニル化部位を含むpTR-UF5からのビオチン-11-dUTP標識された1.9kbのEcoRIプローブとハイブリダイズした。結合したビオチン化プローブを、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(高感度HRPコンジュゲート、Thermo Scientific)と、その後の増強化学発光検出(ECL)によって検出した。
【0116】
HEK-293細胞におけるrAAVの生産および精製。
HEK-293細胞を25~30%のコンフルエンシーで播種した。24時間後、(I)細胞に、pTR-UF5をトランスフェクトし、これをさらに、RepおよびCapタンパク質発現のための2つのrAdVに感染させたか、(II)細胞に、予めパッケージングされたスターターrAAV-GFPを形質導入し、これをRepおよびCapタンパク質発現のための2つのrAdVに重感染させたか、または(IV)細胞を、ITRによってフランキングされたGFPベクターDNAを提供するITR-GFP-rAdVならびにRepおよびCapタンパク質発現のための2つのrAdVに三重感染させた。1:1の分子比率のpDGヘルパーおよびpTR-UF5 GFP発現ベクタープラスミドをコトランスフェクトした細胞を、概して陽性対照(pc)として使用した。トランスフェクションを用いる手法では、細胞培地をトランスフェクションの16時間後に新鮮培地に置き換えた。細胞は概してトランスフェクション/感染の64時間後に回収した。6ウェルプレートにおけるrAAVパッケージングの最適化のために、掻爬した細胞を3回の凍結融解サイクルによって培地に直接溶解させ、遠心分離後、上清を以後の使用まで-80℃で貯蔵した。中規模のrAAV生産および精製では、回収した細胞をPBSで洗浄し、14.5cmディッシュ当たり1mlの溶解バッファー(10mM Tis-HCl pH8.5、150mM NaCl、1mM MgCl、および1% Triton-X-100 v/v)に再懸濁し、3回の凍結融解サイクルによって溶解させた。粗製のライセートを、ライセート1ml当たり250Uのベンゾナーゼ(Merck)によって37℃で1時間処理して、パッケージングされていないAAV DNAを分解し、8,000gで30分間遠心分離して、細胞残屑をペレット化した。上清を-80℃で少なくとも1時間凍結させた。融解および8,000gで15分間の遠心分離の後、その上清を、AEKTA精製システム(GE Healthcare)で1mlの充填済みHiTrapカラムを使用する、既報(Mietzsch et al., 2014)のとおりの一工程のAVBセファロースアフィニティークロマトグラフィーに供した。
【0117】
rAAVベクター調製物の数量化。
アフィニティー精製済みrAAV-GFPベクター調製物のアリコートを、400μg/mlの最終濃度のプロテイナーゼK(Roth、Germany)によって、56℃で2時間にわたり、溶解バッファー[1%(w/v)N-ラウロイルサルコシン、25mM Tris pH8.5、10mM EDTA pH8.0]中で消化して、カプシドからベクターゲノムを放出させた。フェノール-クロロホルム抽出およびエタノール沈殿の後、サンプルを20μlのTris-EDTAバッファーpH7.6に溶解し、GoTaq qPCR Master Mix(Promega)を用いるLight-CyclerベースのリアルタイムPCRによるゲノムコピー数の決定のために1:100に予め希釈した。ベクターバックボーンのウシ成長ホルモン由来ポリA部位に特異的なプライマーを、既報(Mietzsch et al., 2014)のとおりに使用した。
【0118】
FACS分析によるHeLa細胞中のrAAV-GFP形質導入効率の決定。
12ウェルプレートにおける3×10個のHeLa細胞に、rAAV-GFPパッケージングのために使用したHEK-293細胞からの小容量の凍結融解上清(通常、元のHEK-293 6ウェルの1/15に対応する容量を適用した)、または示されているMOI(gp/細胞)におけるアフィニティー精製済みrAAV-GFPのいずれかを形質導入し、これを、10のMOI(感染力価)におけるアデノウイルス2型に重複感染させた。形質導入の44時間後に細胞を回収し、PBSによって1回洗浄し、500μlの20%FCS含有PBSに再懸濁した。FACS Caliburを製造元のプロトコール(Becton & Dickinson)に従って用いてFACS分析を行った。形質導入されていないAd2感染HeLa細胞を対照として用いて、GFP陽性細胞についてのカットオフレベルを決定した。
【0119】
結果
機能的なRepタンパク質を発現する安定な組換え型アデノウイルス(rAdV)の生成。
シスでアデノウイルス複製を阻害するAAVゲノム中の調節エレメントであるRIS-Ad(図9A)は、Rep ORFの一部を構成するだけでなく、p40プロモーター活性およびAAV-2スプライスの制御を介した効率的なCapタンパク質発現にも必要である(Weger et al., 2016)。したがって、AAV RepおよびCapタンパク質のrAdV媒介性発現のための我々の基本的なストラテジーは、これらのAAV遺伝子を2つの異なるベクターに分離させることに依拠した。Repタンパク質の発現に関し、我々は、Rep78アミノ酸488から531の再コード(図9A、sRepという)により、RIS-Ad機能を妨げた。Rep78はトランスでアデノウイルス複製を阻害することが示されているため(Timpe et al., 2006、Weger et al., 2014)、我々は、生理学的なAAV-2p5プロモーターだけでなく、より弱いMMTV-LTR(図9B、MMTV-RepおよびMMTV-sRep)および誘導性システムも並行して使用して、その発現を駆動した。後者は、Rep ORFの上流の対応する応答エレメントに直接連結されたテトラサイクリン依存性トランスアクチベーター(rtTA/M2)のための構成的発現カセットからなるものであった(図9B、M2-Tetコンストラクト)。小型Repタンパク質は、概して、内部AAV-2 p19プロモーターの制御下で発現した。rAdVの生成のためにpAdEasyプラスミドを使用した場合、反復実験における野生型Rep配列を内包するコンストラクトはいずれも、rAdVを生じさせなかった(図9B)。この所見は、以前の研究(Weger et al., 2016、Weger et al., 2014)において確立されたRIS-Adのシス阻害性機能を裏付けた。p5-sRepコンストラクトは、初期増幅ラウンドにおいて少量のRepタンパク質を発現する低力価のrAdV上清調製物をもたらした。しかし、後続の増幅ラウンドにおいて観察されたウイルス力価およびRepタンパク質発現の低減(データは示さない)は、ウイルスが安定でないことを暗示した。これに対し、MMTV-sRepおよびM2-Tet-sRepコンストラクトから得られた初期のrAdV調製物は、5~6回の増幅ラウンド後に得られた凍結融解培地上清において3×1011から6×1011ゲノム粒子(gp)/mlの範囲内の力価で首尾よく継代することができた。これらの力価は、rAdV-CMV-GFP対照ウイルスのものと同等であった。CsCl勾配密度精製により、rAdVベクターを2~4×1012gp/mlの力価まで濃縮することができた。これらの5~6回の増幅ラウンド後に、陽性対照として機能するrAAV-2ベクター生産のための十分に確立された標準的なプラスミドpDG(Grimm et al., 1998)をトランスフェクトした(約70%の効率において)細胞からのタンパク質抽出物を用いて、rAdV媒介性Rep発現レベルの並列比較を行った。400~1000gp/細胞のベクター用量において既に(図10A、上のパネル、レーン7および8)、rAdV-M2-Tet-sRepは、陽性対照(レーン2)と比べて同様のRep52レベル、およびわずかに高いRep78レベルを示し、2000または4000gp/細胞のベクター用量(レーン9および10)では、さらなる大きな増加はなかった。同等の多重度において、rAdV-MMTV-sRepは、より低い量のRep52、そして特にRep78を発現し、Rep78レベルは、4000gp/細胞のベクター用量においてのみ陽性対照の範囲内であった(図10A、上のパネル、レーン3から6)。対応するpShuttleおよびpAdEasyプラスミドを用いた以前のトランスフェクション実験(データは示さない)とは異なり、Rep78発現のドキシサイクリン媒介性誘導は、rAdV-M2-Tet-sRepについてはほとんど観察されなかった(図10A、下のパネル)。これは、テトラサイクリン応答エレメント(TRE)の一部を構成する最小のCMVプロモーターを刺激する初期アデノウイルス機能に起因する可能性がある。なぜなら、アデノウイルス感染の存在下では、pShuttleコンストラクトのトランスフェクション後にも調節が失われたからである(データは示さない)。AAV-2 ITRによってフランキングされたGFPカセットのDNA複製を促進するrAdV-M2-Tet-sRepの能力を、pTR-UF5トランスフェクト細胞の感染によってアッセイした。2000~8000gp/細胞の適用後、単量体(RF-M)および二量体(RF-D)の複製中間体の存在度は、pDG/pTR-UF5コトランスフェクション陽性対照についてスコアリングされたものと同様に高かった(図10B)。驚くべきことに、高いMOIでは、ドキシサイクリンの添加は、むしろITR依存性複製を低減させた(図10B、レーン9から12)。より低いレベルのAAV-ITR依存性DNA複製がrAdV-MMTV-sRepについて観察された(データは示さない)。トランスフェクションだけでなく感染工程にもよるrAAVパッケージングのための鋳型を提供するために、我々は、AAV-2-ITRによってフランキングされたGFP導入遺伝子を内包するrAdV(rAdV-ITR-GFP)を生成した。このITRによってフランキングされたGFP導入遺伝子も、rAdV-M2-Tet-sRepによって複製でき、典型的な単量体および二量体の複製形態が、トランスファーベクターのトランスフェクション後(図10C、pShuttle-ITR-GFP、レーン1から4)、およびrAdV-ITR-GFP/rAd-M2-Tet-sRep重感染後(図10C、レーン5から12)の両方で検出された。
【0120】
組換え型アデノウイルスは、HSV-TKプロモーターの制御下でのAAV-2 Capタンパク質の高レベルの発現を媒介することができる。
野生型p40プロモーターはRIS-Adの主要なエレメントを構成するため(図9A)、AAV-2 Capタンパク質を発現するrAdVの生成のためにこれを使用することはできなかった(Weger et al., 2014)。したがって、CMV、PGK、HSV-TK、そしてさらにアデノウイルスサブタイプ5主要後期主要後期プロモーター(MLP)を含む様々な異種プロモーター(図11A)を、Capタンパク質発現を駆動するそれらの能力について、AAV-2イントロンの上流で試験した。第1のAd5由来イントロンの非存在/存在のみが異なる2つの異なるバージョンのMLP(図11A、MLP-CapおよびMLP-I-Cap)、そしてさらに、sRep配列を含む突然変異型AAV-2 p40プロモーター(図11A、s-p40-Cap)を分析に含めた。HEK293細胞へのpAdEasyプラスミドのトランスフェクションの後、特にCap発現がHSV-TKまたは突然変異型AAV-2 p40プロモーターによって制御されたものは、最終的にrAdVゲノム粒子を生じさせた(図11A)。一過性トランスフェクション後のpAdE-p40-CapコンストラクトのVP発現レベルがほとんど検出できないこと(データは示さない)、そして、rep-rAdVに含有されたカルボキシ末端Rep配列とのp40プロモーター配列の組換えの可能性を考慮して、rAdV-HSV-TK-Capのみを、rAAVパッケージングのためのカプシドタンパク質を提供する手段としてさらに追求した。増幅ラウンド3~8からの培地上清を用いて感染させたHEK293細胞からのタンパク質抽出物のウエスタンブロット分析は、陽性対照として使用したpDGトランスフェクションのものと同等の化学量論比で、3つのカプシドタンパク質VP1~VP3の高レベル発現を示した(図11B)。1000~4000gp/細胞のrAdベクター用量において、飽和したカプシドタンパク質レベルが観察された(図11C)。
【0121】
rAAVベクターのrAd媒介性パッケージングの最適化。
新しく生成されたrAdVによるAAV-2 RepおよびCapタンパク質の発現をその後に使用して、AAV-2 ITRによってフランキングされたCMV駆動型のGFP導入遺伝子を組換え型AAV粒子中にパッケージングした。様々なMOIのrAdVを使用した広範な最適化スキームにおいて、陽性対照として使用した、ヘルパープラスミドpDGとベクタープラスミド(CMV-GFP導入遺伝子カセットを含むpTR-UF5)をコトランスフェクトする十分に確立された標準的なパッケージングシステム(Grimm et al., 1998)と、3つの異なるセットアップ(図12、上部)、すなわち、(I)RepおよびCap発現のための2つのrAdVによるpTR-UF5トランスフェクトHEK293細胞の過剰感染、(II)低いMOIで提供される精製されたスターターrAAV-GFP調製物のrep-rAdV/cap-rAdV媒介性増幅、そして最後に、(III)RepおよびCapのための2つのrAdVによる、ITRによってフランキングされたGFP導入遺伝子を含有するrAdV(ITR-GFP-rAdV)の三重感染を比較した。後者2つのシステム(IIおよびIII)は、DNAトランスフェクションとは無関係である。初期実験において(データは示さない)、rAdV-MMTV-sRepを含む形質導入rAAV粒子の収量は、概して、rAdV-M2-Tet-sRepを用いて実現されたものよりも明らかに低かった。したがって、さらなる最適化のために、rAdV-M2-Tet-sRepのみを使用した。以下および図12では、簡略化を目的として、これをrep-rAdVと表記する(同様に、rAdV-HSV-TK-Capも単にcap-rAdVと表記する)。ドキシサイクリンの存在下または非存在下において大きな差は観察されず、提示するすべての実験は、ドキシサイクリンの非存在下で行った。rAAVベクター生産に関する測定値として、凍結融解上清中の形質導入rAAV-GFP粒子をHeLa細胞の二次形質導入によって決定した。各実験に含まれた陽性対照(標準的なコトランスフェクション)を用いる3つのセットアップの各々についての代表的な実験を、図12の下部に示す。概して、最適化されたMOI(GP/細胞として示される)のウイルス成分を用いた場合、陽性対照と同様の量の形質導入粒子が3つのセットアップすべてで得られた。rAdV媒介性スターターrAAV-GFP増幅プロトコールでは、スターターrAAV-GFPの供給源として凍結融解上清を使用すると、形質導入単位の数を100倍~200倍に増幅させることができた(図12、II)。GFPベクター鋳型をrAdVとして提供した場合にも(セットアップIII、rAd三重感染)、高収量の形質導入rAAV-GFP粒子がもたらされ、これは、ITR-GFP-rAdVのMOIが上昇するに連れて明らかに減少した(図12、IIIにおいて、MOI 10000について示されている)。これはおそらく、ウエスタン分析によって実証されたように(図示せず)、RepおよびCap発現に関するrAdVへの干渉によるものである。まとめると、粗製の凍結融解ライセートでは、AAV-2 RepおよびCapタンパク質の発現のためにrAdVを用いる3つのシステムすべてが、標準的なコトランスフェクションプロトコールと同様か、またはさらに良好な収量の形質導入rAAV-GFP単位をもたらした。
【0122】
組換え型アデノウイルスを用いて生成された精製済みrAAVベクター調製物の収量および特性解析。
新規のrAdV依存性パッケージングシステムを用いて生成されたrAAV-2ベクターをさらに詳細に分析するために、上述の実験セットアップの各々について(図12、IからIIIを比較されたい)、最適化された条件下で、2つの独立した中規模rAAV-GFPベクター調製(トランスフェクション/感染時で8×10個のHEK293細胞)を行い、標準的なコトランスフェクションプロトコールの2つの調製を陽性対照として並行して実行した。すべてのrAAV-GFP調製物を一工程AVBアフィニティー精製に供した。最適化実験からのデータに一致して、精製されたrAAV-GFPベクター画分の収量は、パッケージングのために使用したセットアップにかかわらず、約1×10GP/細胞(バーストサイズ)の同様の範囲内であった(図13A)。AAV-2野生型ゲノムは、すべての調製物において、PCRベースのアッセイの検出限界を下回った。また、すべての精製済みベクターが、ゲノム粒子に対して正規化した場合、広範囲のMOIにわたり、HeLa細胞における同様の形質導入率を示した(図13B)。唯一の例外は、rAdV三重感染によって生産されたrAAV-GFPベクターであり、これらは、より高い形質導入率をもたらす傾向があった。後者の所見は、ベクター鋳型を提供するrAdVの性質が原因で、これらのベクターにおけるプロモーターがわずかに異なること(ニワトリβ-アクチンCMVハイブリッドかCMVプロモーターか)に起因する可能性がある。rAdV媒介性スターターrAAV増幅方法では(図12、方法II)、ゲノムrAAV-GFP粒子の投入数の約100倍~200倍の増加、および形質導入粒子の約200倍~400倍の増加が実現された。
【0123】
粒子カプシド含有量/組成および完全性の判断のために、4つのセットアップの各々について、より高いバーストサイズを有するそれぞれの調製物からの同数のゲノム粒子を、SDS PAGEと、それに続く銀染色に供した。すべての調製物について、個々のカプシドタンパク質の比率が見かけ上同様であるバックグラウンドのないVP1~3のバンドが検出され(図13D)、これら3つの主要な銀染色バンドの同一性は、抗Capウエスタンブロット分析において確認された(図13C)。しかし、プロトコールIおよびIII(それぞれ、pTR-UF5トランスフェクション/rAdV過剰感染およびrAdV三重感染)によって生成されたrAAVベクター調製物は、従来のコトランスフェクションプロトコールによって生成されたものよりも最大10倍高いカプシドタンパク質含有量を示し、過剰の空粒子の可能性を示唆している。
【0124】
rAAVパッケージングのために使用される組換え型アデノウイルスの安定な増幅。
rAAVベクターの再現可能なパッケージングにおけるrAdVの使用に関する重要な要件は、段階的増幅の全体にわたるゲノムの完全性である。AAV-2 RepおよびCap発現のための新しく生成されたrAdベクター(rAdV-M2-Tet-sRepおよびrAdV-HSV-TK-Cap)のゲノム安定性を評価するために、これらを15ラウンドにわたって継代したところ、各個の増幅ラウンドについて、ゲノム粒子量の分析により決定して50~150の増幅係数が実現された。凍結融解ライセート(約3.0~4.0×10個の細胞を1mlの培地に溶解させた)において得られたゲノム力価は、2回の増幅ラウンド後のrAdV-M2-Tet-sRep(図14A、左パネル)と、5回の増幅ラウンド後のrAdV-HSV-TK-Cap(図14A、右パネル)とについて、それぞれ、2~6×1011GP/mlの概ね一定の範囲内であった。両ベクターについて、完全な導入遺伝子カセットにわたるプライマーを用いたPCRベースの分析によるベクターの完全性の評価により、上位シリーズの(ラウンド4を始点とする)増幅ラウンドの全体を通して、ただ1つの独特な主要増幅産物が明らかになった(図14B、左のrep-rAdVおよび右パネルのcap-rAdV)。これらのバンドは、rAdベクターの生成のために使用されたそれぞれのpAdEasyプラスミドから得られたPCR産物(図14Bの陽性対照)との比較によっても判断されるように、サイズにおいてそれぞれの完全長配列に対応した。rAdVベクターの分集団における導入遺伝子カセットの一部の欠失の可能性を示唆する、より低いサイズのバンドは観察されなかった。これらの所見は、200のMOIにおける順次増幅ラウンド(やはりラウンド4を始点とする)からのrAdV上清によるHEK293細胞の感染後の、Rep(図14C)およびCap(図14D)のタンパク質発現のウエスタンブロット分析によって確認された。さらに、増幅ラウンド4および15からのrep-rAdV上清がrAAV2-GFPベクターパッケージングを支持する能力を小規模および中規模のセットアップにおいて比較すると、この実験セットアップのバリエーションの範囲内では、わずかな差しか見出されなかった(データは示さない)。まとめると、これらの所見は、新しく生成されたrAdVが高度に安定であり、標準的な細胞株HEK293において、一貫してRep/Capを発現し、連続的な増幅ラウンドにわたってrAAVパッケージングを支持することを示す。
【0125】
HSV-TKプロモーターの制御下で発現されたカルボキシ末端欠失型Repタンパク質を使用した、向上したrAdV媒介性rAAVパッケージング。
前述のように、組換え型アデノウイルスを利用してパッケージングされたrAAV2-GFP調製物のいくつかは、比較的高いカプシド含有量を示した(図13CおよびDを参照されたい)。したがって我々は、rAdV-HSV-TK-Capから発現されたCapタンパク質の存在度はおそらく、パッケージングに関する制限因子を表すものではないと推論した。これに対し、rAdV-M2-Tet-sRepによる感染後の組換え型AAVベクターゲノムのDNA複製は、陽性対照である標準的なコトランスフェクションシステムのレベルに完全には達しなかった(図10Bを比較されたい)。したがって我々は、AAV DNA複製に関与する大型Repタンパク質の発現率を増加させるために、Capタンパク質のrAdV媒介性発現によく適していることが既に証明されている構成的HSV-TKプロモーターでCMV-M2-Tet制御カセットを置き換えた。同時に、AAV2イントロンによってコードされるアミノ酸モチーフについて報告されている(Di Pasquale and Chiorini, 2003)、アデノウイルス複製に対して生じ得る阻害効果を防止するために、Rep78およびRep52のカルボキシ末端部を含むAAV2イントロン配列を欠失させた。7つのRep68/Rep40特異的カルボキシ末端アミノ酸を含むRep68 ORF、またはスプライスドナー部位のほぼ直後で終止するRep ORFのいずれかを含有する、2つの異なるコンストラクトを生成した(図15A、それぞれRep68およびRep1/530という)。以前のベクターに関しては、アミノ酸488(AAV-2ヌクレオチド1782)を始点としてRep ORFを再コードした。対応するrAdVを首尾よく生成することができた。その後、それぞれの増幅ラウンド5から得られた上清によるHEK293細胞の感染は、その前のrAdV-M2-Tet-sRep78ベクターと比較すると、rAdV-HSV-TK-sRep68およびrAdV-HSV-TK-sRep1/530の両方について、対応する大型Repタンパク質の割合を明らかに増加させた(図15B)。それぞれの大型Repタンパク質の発現レベルの上昇と一致して、rAdV-HSV-TK-sRep68およびrAdV-HSV-TK-sRep1/530はまた、組換え型AAVゲノムの供給源として精製済みスターターrAAV2-GFPベクターを用いた重感染後の複製中間体の強い存在度をもたらした(図15C)。200および1000のMOIでは、rAAV-GFP複製中間体のこれらのレベルは、陽性対照であるpDG/pTR-UF5コトランスフェクションよりも明らかに高かった(図15C)。
【0126】
rAAVパッケージングにおけるrAdV-HSV-TK-sRep68およびrAdV-HSV-TK-sRep1/530の適用のために、rAdV媒介性スターターrAAV増幅の手法(図12、IIを参照されたい)を選択した。初期の小規模実験では、CapおよびRep発現のためのrAdVならびに予め精製されたスターターrAAV-GFPベクターに関するMOIを、パッケージング反応からの未処理の凍結融解ライセート中で得られた形質導入単位の数を測定値として用いて最適化した。これらの実験において、rAAVパッケージングを促進するrAdV-HSV-TK-sRep68の能力は、このrAdVの増幅がラウンド5を超えると急激に低下することが観察されたが、ラウンド5からのベクター調製物は、AdV-HSV-TK-sRep1/530のものと同等であった(データは示さない)。これには、ラウンド6を始点とするrAdV-HSV-TK-sRep68についてのRep発現レベルにおける喪失が付随した(データは示さない)。フランキングアデノウイルス配列内に位置するプライマーを用いるrAdV導入遺伝子カセットのPCR分析により、2.5kbの予想サイズよりも大きい約1.0kbの追加のバンドが明らかになり、これは、増幅ラウンド6からの物質において明らかに見られ、ラウンド7からの物質中でさらにより顕著になった(図16A)。これは、導入遺伝子カセットにおける挿入の可能性を示唆する。これに対し、rAdV-HSV-TK-sRep1/530については、調査された最高の増幅ラウンドであるラウンド10まで、予想サイズのバンドしか見られなかった(図16B)。したがって、後続のパッケージング実験はすべて、それ故に、rAdV-HSV-TK-sRep1/530を用いて行った。rAdV-HSV-TK-sRep1/530およびrAdV-HSV-TK-Capの両方を200~400のMOIで提供すると、効率的なスターターrAAV-GFP増幅がもたらされた[図16C(ここでは、図12および14とは異なり、rep-rAdVがrAdV-HSV-TK-sRep1/530に対応することに留意されたい)]。2つのrAdVのうちの1つだけのMOIをさらに上昇させると、形質導入効率がさらに低下したため、有益ではなかった。高いMOIにおいて両ベクターを適用した場合(MOI 1000におけるrAdV-HSV-TK-sRep1/530およびMOI 2000におけるrAdV-HSV-TK-Cap)、形質導入単位の収量はわずかに向上したに留まり、また、これらの条件下では、空粒子の含有量が高いrAAVの生産に関する懸念が高まる。最適化されたMOI(2つのrAdVについては200~400、投入rAAV-GFPについては20~50)を適用して、3回の独立した中サイズのrAAV-GFP増幅を行い、後にrAAV粒子のアフィニティー精製を行った。1.51~2.84×10GP/細胞のバーストサイズが実現された(表1)。これらは、302から1419の間のゲノムスターターrAAV-GFP粒子の投入数の増幅係数に対応した。後者は、ほんの20のMOIのスターターrAAV-GFPを使用した調製物について得られた。粒子カプシドの含有量および組成をアッセイするために、精製された調製物のうちの2つを、標準的なコトランスフェクションプロトコールから得られた調製物と並列して、Capウエスタン分析および銀染色によって分析した。2つの調製物のうちの一方については、カプシド含有量がそれぞれの陽性対照と同等であった(図16E、左パネル)。他方については、カプシド含有量がさらに低く(図16E、右パネル)、空カプシドの割合がより小さいことを示唆している。銀染色により判断して、両方のrAAV-GFP調製物が夾雑タンパク質を含んでいなかった(図16F)。まとめると、向上したrAdV-HSV-TK-sRep1/530ベクターおよびrAdV-HSV-TK-Capベクターをかなり低いMOIで用いた重感染により、少量の予め精製されたスターターrAAVベクターを高い効率で増幅させることができ、好ましい特性を有するrAAV調製物が得られた。rAd-HSV-TK-sRep1/530は、少なくとも10回の増幅ラウンドにわたり、ゲノムの完全性(図16B)もRepタンパク質発現も喪失することなく(データは示さない)、安定に増殖することができた。
【0127】
表1: rAdV-HSV-TK-sRep1/530およびrAdV-HSV-TK-Cap(AAV-2)を用いて行った3回の独立したスターターrAAV-GFP血清型2増幅の特徴
【表2】


【0128】
他のAAV血清型のカプシドタンパク質へのrAd媒介性rAAVベクター生産の適合。
AAV-2 Repタンパク質を他の血清型のカプシドタンパク質と共発現させることにより、AAV2-ITRベースのベクターゲノムを対応する異種カプシドへとパッケージングすることもできる。そのようなベクターは、したがって、偽型rAAVベクターといわれる(図4、「rAAV-2/X」も参照されたい。ここで「X」は、使用されるカプシドタンパク質の血清型を表す)。新しく開発されたrAdVベースのrAAV-2パッケージング方法を偽型rAAV-2/Xベクターに適用するために、AAV血清型1、3、5、6、8および9のカプシドタンパク質の発現のためのrAdVベクターを生成した。AAV rep遺伝子の3’部に局在するカプシド発現の調節配列によるアデノウイルス複製の阻害は、血清型2特異的現象を表すものではなく、他のAAV血清型の対応するゲノム領域にも適用される(Weger et al., 2016)。したがって、代替的なAAV血清型のカプシドタンパク質もHSV-TKプロモーターの制御下に置いた。
【0129】
HSV-TKプロモーターの下流で、AAV-2イントロンの5’部を代替的な血清型のイントロンの3’部と融合させ、これに続いて、対応する下流に配置されたカプシドリーディングフレームを配し、融合部位は、それぞれのスプライスアクセプター部位のピリミジンリッチ領域の直ぐ上流に配置した(図17A)。言及したすべてのAAV血清型について、それぞれのHSV-TK駆動型カプシドリーディングフレームを有するrAdVを、少なくとも6回の増幅ラウンドにわたって安定に増殖させることができた。400GP/細胞のMOIにおいて既に、これらのrAdVは、それぞれのカプシドタンパク質の強力な発現をもたらした(図17B)。これにより、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3が、クローニングされた血清型のすべてについて適正なサイズおよび化学量論比で発現された。文献と一致して、AAV血清型5および8のカプシドタンパク質は、他の血清型と比較して著しく異なる泳動挙動を示した。AAV血清型3のカプシドタンパク質に対するrAdVを例外として、カプシド発現の明らかな飽和が1000GP/細胞のMOIから既に観察された。
【0130】
発現率は、AAV-2 p40プロモーターの制御下でカプシドタンパク質を発現する(データは示さない)、対応する標準的なヘルパープラスミド(Grimm et al., 2003)のトランスフェクション後(トランスフェクション効率は陽性細胞50~70%の範囲内であった)よりも有意に高かった。
【0131】
rAdV-Tet-M2-sRep78またはrAdV-HSV-TK-sRep1/530を用いた重感染により、AAV血清型1、3、5、6、8および9のカプシドタンパク質の発現のためのこれらのrAdVは、rAAV血清型2パッケージングのための図12に概説されるセットアップI(プラスミドトランスフェクションによる、AAV-2 ITRによってフランキングされたCMV-GFP導入遺伝子の提供)およびII(スターターrAAV-2-CMV-GFPベクターの増幅)を用いた、対応する偽型rAAVベクターのパッケージングのために首尾よく利用された。
【0132】
最適化後、調査したすべての血清型について、rAdVベースの方法により、それぞれの標準的なコトランスフェクション手法によるものと同様の収量の形質導入rAAVベクター粒子を得ることができた(データは示さない)。rAAV2-5ベクターについては、rAdVベースの方法および標準的なプラスミドコトランスフェクション手法の両方で得られた収量がかなり低かった。この結果は、既報である、AAV5カプシド構造とのAAV2 Repタンパク質およびAAV-2 AAV-2 ITRの適合性の欠如(Chiorini et al., 1999a、Chiorini et al., 1999b)によって説明され得る。また、rAAV-2ベクターについて上述したrAAVベクター粒子のクロマトグラフィー精製を用いた初期の中規模アッセイにおいて、ゲノム粒子における収量は、それぞれの陽性対照のものと同等であったか、またはそれよりも高かった。
【0133】
これらの所見は、rAdVベースのrAAVパッケージングのセットアップが、一般的なAAV血清型およびカプシド変異体へと好都合に適用され得ることを暗示する。
【0134】
考察
種々のヒト遺伝子疾患の処置へのAAVベースのベクターの適用の成功は、rAAV大規模生産システムの需要の増加をもたらした。毒性学、安全性、用量、および体内分布の評価のための前臨床研究だけでも、多くの場合、大型動物モデルにおける全身適用については特に、最大で1E15から1E16のベクターゲノムを必要とし得る(Clement and Grieger, 2016)。臨床試験において使用される多くのベクターが依然として懸濁細胞に適合した従来のプラスミドコトランスフェクションプロトコールによって生産されているが、専ら感染ベースのrAAVパッケージングシステムは、取り扱い易く、高度に精製されたプラスミドDNAを大量に必要としないという点で有利であり得る(Clement and Grieger, 2016、Grieger et al., 2016)。哺乳動物細胞の場合、このようなシステムは、組換え型単純ヘルペスウイルス(rHSV)を用いて実施に成功しており(Conway et al., 1999)、臨床研究で使用するための大規模生産に適合されている(Clement et al., 2009)。アデノウイルス(Ad)は、原型的な(Atchison et al., 1965)、かつ最もよく特性解析されているAAVヘルパーウイルスを表すが、専ら第一世代の組換え型アデノウイルス(rAdV)に基づくrAAVパッケージングシステムには、これまで、AAV Repタンパク質を発現するrAdVの限られた複製および安定性という問題があった(Zhang et al., 2001)。
【0135】
我々のrAdVベースの新規システムへの鍵のうちの1つは、シスでアデノウイルス複製を阻害する(Sitaraman et al., 2011、Weger et al., 2016)、rep遺伝子の3’部におけるAAV-2配列であるRIS-Adの機能的不活性化であった。RIS-Adは、一方ではRepコード領域の一部として、また一方ではp40プロモーター駆動によるcap転写のための制御領域として、AAV-2複製における二重機能を有するため、我々は、RepおよびCapのORFを別々のrAdVに割り当てた。この手法はまた、相対的なRepおよびCapの発現レベルの調整に関する高い柔軟性を提供し、非AAV-2血清型ベクターまたはカプシド変異体にシステムを適合させることを容易にする。RIS-Ad内の厳密に制限された領域(sRepという)におけるRep ORFの再コードは、Repタンパク質の安定なrAdV媒介性発現を可能にした。シス阻害性配列として作用するRIS-Adに加えて、大型Repタンパク質であるRep78/Rep68は、トランスでアデノウイルス複製を制限し得る(Timpe et al., 2006、Weger et al., 2014)。したがって、MMTV-LTRの制御下での低減したRep78/Rep68発現が、従来のコトランスフェクションシステムを用いた組換え型AAV粒子の生産のために有利であることも示されていることから(Grimm et al., 1998)、低い(MMTV-LTR)または厳重に調節された(M2-Tet)発現に関して、Rep78発現のためのプロモーターを最初に選択した。これらの考察の妥当性は、我々が、p5プロモーター制御下で再コードされたRep78を発現するrAdVを安定に増殖させるのに失敗したことによって確認されたが、この限られた安定性には、p5領域内の多機能性Rep結合エレメントとのRep78の相互作用が関与している可能性もある(Murphy et al., 2007)。pShuttleトランスファープラスミドについて見られた、ドキシサイクリンによるCMV-M2-Tet媒介性sRep78発現の強力な誘導は、対応するrAdVでは失われた。類似のシステムでは、再コードされたRep78タンパク質の誘導が保たれることが示されているため(Sitaraman et al., 2011)、その理由は完全に明らかではない。特筆すべきことに、後者のシステムにおいて、M2トランスアクチベーターの発現は、HSV-TKプロモーターによって駆動されており、我々のコンストラクトのようにCMVプロモーターによって駆動されてはいなかった。低いRep78誘導にもかかわらず、rAdV-M2-Tet-sRepにおけるRep78のRep52に対する比は、我々の研究の全体を通して陽性対照として使用した、rAAV-2パッケージングコトランスフェクションプロトコール(Grimm et al., 1998)のために最適化されたpDGプラスミドについて見られたものと同様であった。しかし、rAdV-M2-Tet-sRepによる組換え型AAVゲノムのDNA複製は、この陽性対照と比較するとわずかに低減したように見受けられた。pDGトランスフェクションと比較して、MMTVプロモーターは、対応するrAdVによる感染後、明らかに低下したRep78/Rep52比をもたらした。結果として、rAdV-MMTV-sRepは、rAAV-DNA複製およびパッケージングの促進においてrAdV-M2-Tet-sRepほど有効ではなく、したがって、さらなる追求は行わなかった。我々の研究の過程において、AAV-2イントロンによってコードされる配列が欠如した大型Repタンパク質の発現のためのHSV-TKプロモーターを使用することにより、rAdV媒介性rAAVパッケージングのさらなる向上が実現された。これらは、rAAV-DNA複製を支持するうえで完全に機能的であり、rAdVにおいて高レベルで発現することができた。AAV-2イントロンによってコードされるタンパク質ドメインは、直接的なタンパク質間相互作用を介してPKA活性を阻害することにより、アデノウイルス複製を抑制することが示されている(Di Pasquale and Chiorini, 2003)。これらの所見と一致して、我々は、HSV-TKプロモーターの制御下で発現される再コードされたRep78タンパク質を含むrAdVを安定に増殖させることができなかった(データは示さない)。HSV-TKプロモーターは、試験した一連の細胞プロモーターおよびウイルスプロモーターのうち、AAV-2カプシドタンパク質の安定かつ高レベルの発現をもたらすことが見出された唯一のものでもあったため、AAV-2機能のrAdV媒介性発現のためにそれを使用することは、我々の新規システムのもう1つの重要な構成要素であった。この異種ウイルスプロモーターは、アデノウイルスまたはAAV機能による阻害に対する屈折性(refractiveness)が高いため、AAV-2機能のrAd媒介性発現のために特に好適であるという仮説が立てられる。
【0136】
カプシド含有量により判断された、ゲノム含有rAAV粒子に対する空粒子の大過剰が、我々の初期のrAdV-M2-Tet-sRepベースのrAAVパッケージングシステムの主要な欠点のうちの1つであると思われた。空粒子は、ベクター適用後の自然免疫応答および適応免疫応答を増加させる可能性を有する(Mingozzi and High, 2013)。臨床グレードのベクター調製物の下流精製は、通常、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる、このような空粒子の除去を要する(Qu et al., 2007)。重要なことに、rAdV-HSV-TK-sRep1/530を用いる進歩したシステムは、rAAVゲノムのより高い複製につながり、標準的なコトランスフェクションプロトコールと比べて同様かまたはさらに低い割合の空粒子をもたらした。特筆すべきことに、特定の量の空粒子は、インビボのrAAV形質導入のために有益ですらあり得る。デコイとして機能する最大で100倍過剰量の空カプシドが、第IX因子遺伝子療法において、形質導入効率を喪失することなく、全身rAAVデリバリーを行う際の主要な課題である既存のB細胞媒介性液性免疫を克服するために使用されている(Mingozzi et al., 2013)。これに関して、我々は、高力価のウイルス様粒子(VLP)調製物が、rAdV-HSV-TK-Cap単独での感染によって効率的に生産され得ることを実証することができた(図示せず)。概して、2つの別々のrAdVからのRepおよびCapの発現は、広範囲にわたり、カプシドレベルを調整し、それによってほぼ確実に空粒子の割合も調整する可能性を提供する。
【0137】
大規模なrAAVベクターパッケージングにおいてrAdVを定型的に使用するためには、これらが複数の増幅工程を通じて高いゲノム安定性を示す必要がある。特筆すべきことに、組み合わされた野生型RepおよびCapの発現カセットを含有するrAdベクターについては、ほんの数回の増幅ラウンドにおいて、このカセットの部分的な喪失が報告された(Zhang et al., 2001)。これに対し、我々のrAdVは、rAdV-M2-Tet-sRepおよびrAdV-HSV-TK-Capについては少なくとも15回の増幅ラウンド、そしてrAdV-HSV-TK-sRep1/530の場合には少なくとも10回の増幅ラウンドにわたり、ゲノムの完全性および導入遺伝子発現に関して完全に安定であった。機能的な大型Repタンパク質の向上した発現のための後者のベクターについては、この10回目の増幅ラウンド以降は試験していない。rAdV-HSV-TK-sRep1/530と比較して7つの追加のカルボキシ末端アミノ酸を含有するrAdV-HSV-TK-sRep68ベクターについては、増幅ラウンド6を始点として、Rep発現およびrAAVパッケージングの支持の低減が観察された。これは、先行ラウンド(日付は示さない(date not shown))からの物質の再増幅後にも認められた。実に驚くべきことに、増幅中に導入遺伝子カセットの一部の欠失は起こらなかったが、より大きなバンドがPCR分析において現れ、導入遺伝子配列の重複の可能性が示唆された。ユニークな7つのカルボキシ末端アミノ酸のうちの1つである535SにおけるRep68のリン酸化は、14-3-3タンパク質ファミリーのメンバーとのその相互作用を媒介し、Rep68-S535A点突然変異体は、AAV DNA複製の促進において野生型タンパク質よりも効率的である(Han et al., 2004)。我々は、rAd導入遺伝子カセットにおける推定上の重複がこのような相互作用に起因し得るかどうかについては、未だ解明していない。しかし、我々は、Rep68固有の7つのアミノ酸を欠いている部分的に再コードされたsRep1/530タンパク質が、rAAV DNA複製に関して完全に機能的であり、rAdV内で安定に増殖できることについては、しっかりと確立した。
【0138】
最初のrAdV-M2-Tet-sRepに関し、ピーク画分のみを考慮した、精製後の異なるrAdVベースのrAAV生産スキームでのバーストサイズは、7×10~1.6×10vg/c(ベクターゲノム/細胞)の範囲内であり、したがって、高いトランスフェクション効率において標準的なプラスミドコトランスフェクションシステムとよく似ていた。これは、rAAV鋳型が、プラスミドのトランスフェクションによって提供されたか、少量のスターターrAAVベクターを用いた感染によって提供されたか、またはrAd/rAAVハイブリッドベクターによって提供されたかに関係しなかった。カルボキシ末端欠失型sRep1/530タンパク質を使用する向上したシステムは、スターターrAAVベクターの増幅を使用して少なくとも2倍高い収量につながり、アフィニティー精製後にほぼ3×10vg/cのバーストサイズをもたらした。最適化されたrHSVベースのrAAV生産システムは、現在、粗製の細胞ライセートまたは上清において8×10~1×10vg/cの最大バーストサイズを呈し(Chulay et al., 2011、Thomas et al., 2009)、大規模調製物の精製後に約2.0×10vg/cの最終収量をもたらす(Chulay et al., 2011、Clement and Grieger, 2016)。Rep/Cap発現および導入遺伝子のデリバリーのためにいくつかの組換え型バキュロウイルス(rBac)を用いる最初のSf9昆虫細胞ベースのrAAV生産システム(Urabe et al., 2002)は、バイオリアクタースケールの生産において2×10vg/cのrAAVバーストサイズをもたらすのが普通である(Cecchini et al., 2011)。宿主ゲノムに安定に組み込まれたAAV repおよびcap遺伝子を含有するSf9細胞株を用いた場合、イオジキサノール勾配遠心分離後に最大で1.4×10vg/c(Aslanidi et al., 2009)、粗製細胞ライセートでは9×10vg/c(Mietzsch et al., 2015)のrAAV-2収量が報告されている。
【0139】
大規模rAAV生産のための十分に確立されたrHSVおよびバキュロウイルスに基づくシステムと比較して、ベクター収量における明らかな差はあまりないが、それでも、我々のrAdVベースの新規プロトコールは有利な代替手段を提示し得ると我々は考える。主な利点の1つとしては、標準的なHEK293細胞株における連続継代によって、RepまたはCap発現を喪失することなく、対応するrAdVを高い力価まで容易に増幅させることができる。これに対し、HSVベースのシステムは、増殖のために対応する細胞株によって補完されなければならないICP27欠失型rHSVベクターに依拠しており、必要なrHSV成分の収量がかなり低くなる(Clement et al., 2009)。さらに、rHSVは通常、第一世代アデノウイルスベクターほど安定しておらず、取り扱い易くもない。昆虫細胞における第一世代rAAVパッケージングシステムにおいて使用された、RepおよびCapタンパク質を発現する組換え型バキュロウイルスは、遺伝子的に不安定である(Kohlbrenner et al., 2005、Smith et al., 2009)。この問題は、前述のSf9 repおよびcapパッケージング細胞株によって対処されたが、昆虫細胞ベースのシステムについて残っている大きな課題は、rHSVまたはプラスミドコトランスフェクション生成によるrAAVと比較して、報告されている粒子対感染力比が著しく高いこと(>1000)である。これは、適正な比率で3つのカプシドタンパク質を発現させるのが困難であり(Kohlbrenner et al., 2005、Urabe et al., 2002)、いくつかのAAV血清型では限定的なVP1量が発現される(Mietzsch et al., 2015)ことに起因し得る。哺乳動物細胞および昆虫細胞におけるAAVカプシドタンパク質の示差的翻訳後修飾も、昆虫細胞において生産されるベクターの形質導入効率の低下に寄与し得る(Rumachik et al., 2020)。
【0140】
我々は、rAdV媒介性パッケージング用のrAAV鋳型を提供するための2つの異なる感染ベースの手法を研究した。一方は、AAV-ITRによってフランキングされた導入遺伝子カセットを提供する第3のrAdVに依拠するものであり、他方の手法では、少量のスターターrAAVベクターを増幅させる。いくつかの理由で、我々は、簡略化された感染ベースの大規模rAAV生産システムのために、後者のシステムの方が好ましいと考える。予めパッケージングされたrAAVスターターベクターは、標準的なコトランスフェクションプロセスを使用して生産することができる。これは、新規の治療用遺伝子および/または制御エレメントを含む導入遺伝子カセットが、AAV-ITRベースのベクタープラスミドへのクローニングおよび初期特性解析の直後に、大規模生産プロセスへと移され得ることを意味する。他の感染ベースのrAAVパッケージングシステムでは必要とされる、新しい導入遺伝子特異的なヘルパーウイルスまたはパッケージング株の長時間を要する生成が、省略され得る。rAdV三重感染システムは、パッケージングしようとする各導入遺伝子のために新規rAdVを生成する必要性に加えて、再現可能な取り扱いに関するいくつかの問題も提起した。3つの個別のrAdVを用いた場合、2つだけを用いた場合よりも、異なるrAdVの間の競合効果が顕著であり、最適化がかなり困難になる。これは例えば、より高い量のITR-GFP-rAdVがrAAVベクターの収量を強く低減させている図12パネルIIIにおいて見ることができ、その原因は、他の2つのrAdVからのRepおよびCapタンパク質レベルの低下(図示せず)であるのがほぼ確実である。これに対し、rAAV増幅スキームにおける投入rAAVベクターの量は、パッケージング効率を喪失することなく、広範囲にわたって変化させることができた(図16D)。rAd/rAAVハイブリッドベクターは大規模rAAV調製において既に使用されているが(Zhang et al., 2009)、増幅ラウンドの増加に伴うrAAVパッケージング効率のいくらかの低下も認められた(データは示さない)。
【0141】
我々の研究によって実証されたように、2つの安定な第一世代組換え型アデノウイルスからAAV2 RepおよびCapタンパク質を別々に発現させることには、大規模rAAV生産のための大きな見込みがある。このパッケージングシステムをHEK293懸濁細胞に適合させ、かつ/または、さらなるrAAV血清型およびカプシド変異体に拡大適用することが可能である。
[実施例2]
【0142】
非AAV2血清型のためのrAdV媒介性ベクター増幅の使用
AAV-2 ITR(逆方向末端反復)によってフランキングされたGFP導入遺伝子を含む単量体rAAVサブタイプ2ベクターを、接着性HEK293細胞において、rAdV-HSV-TK-sRep1/530(AAV血清型2)と、AAV-1またはAAV-8血清型発現のためのそれぞれのrAd-HSV-TK-Cap(図17)との重感染によって増幅させた。増幅プロセス中、AAV-2フランキングベクターゲノムは、これにより、それぞれAAV-1またはAAV-8カプシドで偽型化される。増幅されたベクターをアフィニティー精製し、その収量を、同数の細胞に対して並行して行ったそれぞれの標準的なコトランスフェクションプロトコールと比較した(図18AおよびB)。
【0143】
材料および方法
rAAV-2-GFP(50GP/細胞のMOI)、rAdV-HSV-TK-sRep1/530(AAV血清型2、400~500GP/細胞のMOI)、およびrAd-HSV-TK-Cap-AAV-1(400~500GP/細胞のMOI)を用いた8×10個の接着性HEK293細胞の重感染によって、偽型rAAV血清型1(rAAV2/1)-GFPベクターについてのrAdV媒介性ベクター増幅を行った。コトランスフェクションプロトコールでは、270μgのpDP1-rsヘルパープラスミド(AAV-2 Rep遺伝子、AAV-1 Cap遺伝子、ならびにアデノウイルスヘルパー機能E2a、E4orf6およびVA-RNAを含有する)と、実施例1で既に上述したような90μgのベクタープラスミドpTR-UF5との混合物を用いたリン酸カルシウム沈降技法によって、8×10個のHEK293細胞をコトランスフェクトした。
【0144】
偽型rAAV血清型8(rAAV2/8)-GFPベクターについては、rAAV-2-GFP(MOI 50GP/細胞)、rAdV-HSV-TK-sRep1/530(AAV血清型2、MOI 200~400GP/細胞)、およびrAd-HSV-TK-Cap-AAV-8(MOI 2000GP/細胞)を用いた重感染によってrAdV増幅を行った。コトランスフェクションプロトコールでは、180μgのpHelperプラスミド(アデノウイルスヘルパー機能E2a、E4orf6およびVA-RNAを含有する)、90μgのpAAV2-8(AAV-2 RepおよびAAV-8 Cap)、および90μgのベクタープラスミドpTR-UF5の混合物を用いた。トランスフェクションを用いる手法では、細胞培地をトランスフェクションの16時間後に新鮮培地に置き換えた。細胞は概してトランスフェクション/感染の64時間後に回収した。
【0145】
実施例1に記載したようなAVBセファロースマトリックス上でのHPLCアフィニティークロマトグラフィーによる凍結融解ライセートの一工程ベクター精製の後に、使用された細胞当たりのパッケージングされたベクターゲノム(GP/細胞)の数を示すバーストサイズを評価した。
【0146】
結果
rAAV2/1-GFPベクターのrAdV媒介性増幅は、AAV Rep血清型2およびCap血清型1機能ならびにアデノウイルスヘルパー機能の発現のためにベクタープラスミドおよびpDP1rsプラスミドを用いる2プラスミドシステムに基づく標準的なコトランスフェクション方法によって得られた並行調製物と比較して、3~4倍良好なゲノム粒子収量をもたらした(図18A)。本発明に係る方法を用いて実現されたバーストサイズは、アフィニティー精製後に1×10の範囲内であった。
【0147】
rAAV2/8-GFPベクターのrAdV媒介性増幅は、ベクタープラスミド、アデノウイルスヘルパー機能のためのpHelperプラスミド、ならびにAAV Rep血清型2およびCap血清型8機能の発現のためのpAAV2-8プラスミドを含む3プラスミドシステムに基づく標準的なコトランスフェクション方法を用いて行われた並行調製において得られたものと同等のゲノム粒子収量をもたらした。本発明に係る方法によって実現されたバーストサイズは、アフィニティー精製後に7.5×10~1×10の範囲内であった(図18B)。特筆すべきことに、rAdV媒介性ベクター増幅によって得られたrAAV2/8-GFP粒子については、コトランスフェクション手順によって得られたものと比較して、インビトロで永久細胞(HeLa)のおよそ2~3倍良好な形質導入が認められた。
【0148】
まとめると、rAdV媒介性rAAV増幅は、それぞれのコトランスフェクション方法と比較すると、AAV血清型1および8について著しく高い収量(2~4倍)の形質導入単位(TU)を可能にした。
[実施例3]
【0149】
HEK293懸濁細胞へのrAdV媒介性rAAV血清型2増幅の適合
異なるHEK293懸濁細胞におけるAAV血清型2についてのrAdV媒介性rAAV-GFP増幅の収量を評価した(図19)。
【0150】
材料および方法
FreeStyle(商標)293-F細胞[Gibco(登録商標)]またはExpi293F(商標)[Gibco(登録商標)]を、それぞれ、対応する無血清培地[Freestyle(商標)293 Expression MediumまたはExpi293(商標)Expression Medium、すべてThermoFisher Scientificによる]において培養し、感染の前日に5×10/mLの細胞密度で播種した。1×10/mLの密度で、500mLのPETG三角フラスコ内の100mLの細胞培養物(1×10細胞)を、rAAV-2-GFP(MOI 80GP/細胞)、rAdV-HSV-TK-sRep1/530(AAV血清型2、MOI 600GP/細胞)、およびrAd-HSV-TK-Cap-AAV-2(MOI 400GP/細胞)の混合物によって44時間にわたり重感染させた。感染細胞を遠心分離によって回収した後、凍結融解ライセートを調製し、基本的に接着性HEK293細胞について上述したとおりのAVBセファロースマトリックス上でのHPLCアフィニティークロマトグラフィーによる一工程ベクター精製に供した。
【0151】
結果
FreeStyle(商標)293-FおよびExpi293F(商標)の両細胞について、rAdV媒介性rAAV-2-GFPベクター増幅は、使用された細胞当たりゲノム粒子0.7~1.0×10個の範囲内の、アフィニティー精製済みrAAV-2-GFPベクター調製物の高度に再現可能なバーストサイズをもたらした。
[実施例4]
【0152】
組換え型アデノウイルスベクター(rAdV)との関連におけるAAV RepおよびCapタンパク質の発現に関する好適性についての様々なHSV-TKプロモーター変異体および追加のウイルスプロモーターの詳細な分析。
以下では、アデノウイルスとの関連におけるAAV RepおよびCapタンパク質の発現のためのHSV-TKプロモーター内の個々の配列エレメントの重要性を試験した(図20)。さらに、2つの追加のウイルスプロモーター、すなわちRSV(レトロウイルスであるラウス肉腫ウイルスのU3領域)プロモーターと、初期SV40プロモーター(シミアンウイルス40、ポリオーマウイルス)とを、rAdVとの関連においてRepおよびCapタンパク質を発現する好適性について同様に調査した。
【0153】
材料および方法
図20Aに示すHSV-TKプロモーターエレメント、RSV U3領域、またはSV40初期プロモーターのいずれかの制御下でsRep1/530またはAAV-2 Capタンパク質を発現するpShuttleコンストラクトを、E.coli BJ5183-AD-1細胞における相同組換えのために使用し、その後、実施例1に記載したようなrAdVの生成のための対応するpAdEasyコンストラクトを接着性HEK293細胞にトランスフェクトした。次いで、HEK293細胞における2回のさらなるrAdV増幅ラウンドを行った。
【0154】
結果
文献によると、HSV-TKプロモーターの活性に重要なエレメントは、TATAボックス、近位Sp1結合部位、CCAATボックス(CTFのための結合部位)、および遠位Sp1結合部位を含む。
【0155】
予想されたように、完全長HSV-TKプロモーター(HSV-FL)は依然として、RepまたはCap発現を大きく喪失することなく(それぞれ図20BおよびC)、5’末端において(遠位Sp1部位に対して、コンストラクトHSV-106)、90塩基対だけ短縮することができた。5’配列のさらなる欠失(遠位Sp1部位およびCCAATボックスの欠失、コンストラクトHSV-59)に応じて、対応するrAdV capは、Cap発現の著しい喪失を呈したが、rAdV-Repに対して活性は概ね保存された。
【0156】
TATAボックスに加えて遠位Sp1部位のみを含有するrAdVでは、CCAATボックスの存在および配向にかかわらず、完全長HSV-TKプロモーターと比較して、ほんのわずかに低減したRepまたはCapの発現が観察可能であった(コンストラクトHSV-M1からHSV-M4。Repについては、コンストラクトHSV-M3がいくらか遅れたrAdV形成を示したため、これについては試験しなかった)。興味深いことに、大小のRepタンパク質の比率は、完全長HSV-TKプロモーターと比較して、小型Repタンパク質に有利なようにわずかにシフトしているように見受けられた。小型Repタンパク質はパッケージング工程に必須であるため、このことは、これらのコンストラクトを含むrAAVベクターのパッケージングのために潜在的に有利であり得る。
【0157】
RSVプロモーターについては、AAV-2 Repタンパク質(C末端部分が再コードされた切断型Repタンパク質、rAAVパッケージングのために首尾よく使用されるrAdVと同じRepカセット)の発現のためにも、AAV-2 Capタンパク質の発現のためにも、安定なrAdVを生成することができなかった(データは示さない)。実施例1において示した他のプロモーターと同様に、RSVプロモーターの使用は、アデノウイルス複製を阻害するようであった。
【0158】
これに対し、SV40プロモーターは、対照コンストラクトと同様の効率および収量で、Rep発現およびCap発現の両方のための組換え型アデノウイルスを首尾よく生成した。後者は、CMV-GFPカセットを含むrAdVの形成をもたらし、rAdVの生成中、HEK293細胞におけるトランスフェクションおよびrAdV形成のための対照として常に含まれた。第1ラウンドから第2ラウンドの増幅後、SV40プロモーターを含むrAdVは、HSV-TKプロモーターを搭載したrAdVと同等である、切断型の大小のRepタンパク質ならびに3つのcapタンパク質VP1、VP2、およびVP3のそれぞれの発現を示した(図20BおよびC)。
【0159】
結論
初期SV40プロモーターおよびHSV-TKプロモーターの共通の特徴は、それらの活性が主に細胞転写因子Sp1の結合部位によって調節されること、そして、TATAボックス以外に他の配列エレメントは必要ないと思われることである。
【0160】
総括すると、これらの結果は、Sp1結合部位が、AAV-2 RepおよびCapタンパク質の発現のためのrAdVの生成を成功させるために特に重要なプロモーターエレメントを表すことを示唆している(Repタンパク質の場合において示されたように、部分的な再コードおよびC末端の切断は、必要とされる重要な追加の特徴を表す)。
【0161】
参考文献
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A-B】
図10C
図11A
図11B-C】
図12A-B】
図13A-B】
図13C-D】
図14A-B】
図14C-D】
図15
図16A-D】
図16E-F】
図17
図18
図19
図20
【配列表】
2024525121000001.app
【国際調査報告】