(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】XX型コラーゲンのアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240703BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240703BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240703BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/543 545A
G01N33/53 U
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574821
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2022066635
(87)【国際公開番号】W WO2022263675
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522403778
【氏名又は名称】ノルディック バイオサイエンス エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ソーラシウス-ユーシング,ジェッペ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルムセン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】カルスダル,モーテン,アッサー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA51
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本明細書に記載するのは、患者における癌を検出および/またはモニターする免疫アッセイであって、患者の試料を、XX型コラーゲンのC末端に対応するC末端アミノ酸配列に特異的に結合するモノクローナル抗体に接触させることを含む免疫アッセイである。また、該免疫アッセイの実施に用いる該モノクローナル抗体および免疫アッセイキットについて説明する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における癌を検出および/またはモニターする、および/または患者における癌の重症度を評価する免疫アッセイ法であって、該方法が:
(i)患者の試料を、C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)に特異的に結合するモノクローナル抗体に接触させる工程;
および
(ii)該試料における該モノクローナル抗体とペプチドとの間の結合量を検出および測定する工程、
を含む、
方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ここで該方法が:
(iii)工程(ii)で測定するような該モノクローナル抗体の結合量を、正常な健常対象に関連する値および/または公知の疾病重症度に関連する値および/または以前の時点で該患者から取得した値、および/または既定のカットオフ値に相関させる工程をさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法であって、ここで該癌が、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、黒色腫、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、または胃癌である、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLWES(配列番号:2)である該C末端アミノ酸配列の伸長型には特異的に結合しない、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLW(配列番号:3)である該C末端アミノ酸配列の短縮型には特異的に結合しない、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該モノクローナル抗体がC末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を有する合成ペプチドに対して作成される、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該試料が、血液、血清、または血漿から選択される生物液試料である、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該免疫アッセイが競争アッセイまたはサンドイッチアッセイである、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該免疫アッセイが放射免疫測定法または酵素免疫測定法である、方法。
【請求項10】
C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)に特異的に結合するモノクローナル抗体を含む免疫アッセイキットであって、該キットが:
・ ストレプトアビジンコーティングしたウェルプレート;
・ ビオチン化ペプチドであるBiotin-L-QGASTQGLWE(配列番号:4)、
ここでLは任意選択的リンカーであり;
・ サンドイッチ免疫アッセイに用いる2次抗体;
・ C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を含む較正蛋白質;
・ 抗体ビオチ化キット;
・ 抗体HRP標識キット;
・ 抗体放射性標識キット;および
・ アッセイ可視化キット
のうちの少なくとも1種類を含む、
キット。
【請求項11】
請求項10の免疫アッセイキットであって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLWES(配列番号:2)である該C末端アミノ酸配列の伸長型には特異的に結合しない、キット。
【請求項12】
請求項10または11の免疫アッセイキットであって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLW(配列番号:3)である該C末端アミノ酸配列の短縮型には特異的に結合しない、キット。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の免疫アッセイキットであって、ここで該モノクローナル抗体が、該C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を有する合成ペプチドに対して作成される、キット。
【請求項14】
C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)に特異的に結合するモノクローナル抗体。
【請求項15】
請求項14のモノクローナル抗体であって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLWES(配列番号:2)である該C末端アミノ酸配列の伸長型には特異的に結合しない、モノクローナル抗体。
【請求項16】
請求項14または15のモノクローナル抗体であって、ここで該モノクローナル抗体が、QGASTQGLW(配列番号:3)である該C末端アミノ酸配列の短縮型には特異的に結合しない、モノクローナル抗体。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体であって、ここで該モノクローナル抗体が、該C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を有する合成ペプチドに対して作成される、モノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫アッセイ、特に、患者における癌を検出および/またはモニターする免疫アッセイに関し、また該免疫アッセイの実施に用いるモノクローナル抗体および免疫アッセイキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は主要な世界的健康問題であり、癌発生の負荷および死亡率は全世界で増え続けている[1]。この問題の一部は、特に、癌をより早期に検出し、治療に対する応答を予測することのできる妥当なバイオマーカーツールが欠如していることである。さらに、従来のバイオマーカーは通常、組織生検などの浸潤的手段を含むのである[2]。これらのアプローチに対する有望な代替は液体生検である。近年、癌細胞の周りの腫瘍微小環境がより注目されるようになっており、これは非浸潤性バイオマーカーを探す最も重要な部位である。
【0003】
特に、組織の非細胞部分と定義される細胞外マトリックスは、癌発生の重要部分と認識されるようになっている[3]。主要なECM蛋白質はコラーゲンであり、これは腫瘍の硬さ、腫瘍免疫、および癌転移にとって重要なものである[4]。癌においては、ECM形成と分解の動的バランスが破壊されている。腫瘍微小環境では、細胞がコラーゲンのリモデリングに影響を与え、また相互的にコラーゲンが細胞の挙動に影響を与えるのである[4、5]。IV型などのコラーゲンについては、癌関連発現パターン、局在および機能に関する詳細な報告がある。これは基底膜に偏在し、浸潤性腫瘍細胞に対する障壁作用を有するのだが、腫瘍細胞はそれを分解することが可能であり、それによって転移が容易になる[6、7]。しかし、コラーゲン類に関心を持つ癌研究のほとんどが、I型、III型、またはIV型コラーゲンなどの豊富に存在し、詳細な特徴付けの行われているコラーゲンに注目しており、特徴付けがあまり成されていないコラーゲンの多くは未調査のままである。
【0004】
XX型コラーゲンはそのような未調査コラーゲンの1つである。その構造的特徴に基づけば、XX型コラーゲンは断続性らせんを有する線維付随性コラーゲン(FACIT)ファミリーの一部である。このコラーゲンファミリーは、線維状コラーゲンに会合してその組織化および相互作用を制御すると考えられる[8]。XX型コラーゲンの構造的特徴としては、複数のIII型フィブロネクチン反復配列、フォンヴィレブランド因子Aドメイン、トロンボスポンジン様ドメイン、ならびに散在性の非コラーゲン性ドメインを伴うコラーゲン性三重ヘリックスドメイン(G-X-Y)が挙げられる[8]。FACITファミリー内では、XII型およびXIV型が、XX型コラーゲンに最も近縁である;その理由は、それらだけがフィブロネクチンドメインをも有するFACITだからである[8]。
【0005】
XX型コラーゲンの発現、局在、および機能についてはごく僅かの知見しかない。XX型コラーゲンは元々ニワトリ胚からクローン化されたものであり、その発現はほぼ角膜上皮に限定されるのであるが、胎児の皮膚、肺、胸肋軟骨、および腱には検出可能である[8]。複数の論文が癌と発生との間の平行性について指摘している[9、10]。ヒト蛋白質アトラス(https://www.proteinatlas.org/ENSG00000101203-COL20A1/tissue)のRNA発現データもまた、ヒトの脳にはCOL20A1が強く発現し、また精巣および脾臓の組織において比較的弱い発現の存在を示唆している。脳における役割はまた癌ゲノムアトラス(TCGA)戦略のデータによって確認されるのであるが、COL20A1レベルは神経膠腫組織において比較的高い(https://www.proteinatlas.org/ENSG00000101203-COL20A1/pathology)。このように、発現レベルについて注意深く見るならば、XX型コラーゲンは脳機能および脳腫瘍において一定の役割を果たしていると考えられる。このような見地からすれば、XX型コラーゲンが他の組織では大量に存在するようには思われないのである。
【0006】
XX型コラーゲンの発現が明らかに稀であるにもかかわらず、癌関連の文献にはCOL20A1についての記載がある。報告は通常、COL20A1についてDNAまたはRNAレベルで記載されており、また通常、広範かつ一般的スクリーニングにおけるものである。上記のcDNAマイクロアレイに基づく脳関連と一致して、通常の神経膠腫細胞株および正常脳星状膠細胞に比べて、いわゆる脳腫瘍開始細胞では、COL20A1が増加していた[12]。別の一試験においては、生検に由来する神経膠腫細胞モデルを用い、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による処理後に、COL20A1 RNAの下方制御が観察された[13]。他の癌では、XX型コラーゲンについての報告は稀であるが、中国人集団における乳癌の再発、転移および低生存率に関連する16の遺伝子シグニチャーにCOL20A1が含まれていた[11]。また、初期段階前立腺腫瘍形成においてCOL20A1が上方制御されることも報告されている[14]。特に、これらのスクリーニングでは、XX型コラーゲンについての何らかの機能試験による追跡調査は行われておらず、その機能および分布に対する考察は現在のところ成されていない。
【発明の概要】
【0007】
本出願者は現在までに、血液におけるXX型コラーゲンのバイオマーカー(本明細書では、「PRO-C20」とよぶ)の存在を定量する酵素免疫測定法(ELISA)を開発している。このアッセイを最適化して検証を行い、癌患者および健常対照の血清における循環XX型コラーゲンレベルの測定に用いた。このアッセイが安定したものであり、XX型コラーゲンに特異性を有しており、また健常対照および疾患(癌)患者の両方においてレベル検出する感度を有していることを見いだした。このデータは、健常対照に比較して癌患者の血清では、PRO-C20レベルが有意に高いことを示している。このデータはまた、癌患者においてPRO-C20のレベルが高いことが低い全生存率に関連することをも示している。
【0008】
したがって、第1の局面においては、本発明は、以下の工程(i)および(ii)を含む免疫アッセイ法を提供する:
(i)患者の試料をC末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)(そのC末端アミノ酸配列を、本明細書では「PRO-C20」および/または「標的配列」とよぶ;該C末端アミノ酸配列から成るペプチドまたは同上を含むペプチドはまた本明細書において「PRO-C20」および/または「標的ペプチド」とも称する)に特異的に結合するモノクローナル抗体に接触させる工程;および
(ii)試料中の該モノクローナル抗体とペプチドの結合量を検出および測定する工程。
【0009】
該方法は、好ましくは患者における疾患を検出および/またはモニターする免疫アッセイ法および/または患者における疾患の重症度を評価する免疫アッセイ法である。該方法は、好ましくは以下の工程(iii)をさらに含む:
(iii)工程(ii)において測定するような該モノクローナル抗体の結合量を、正常な健常対象に関連する値、および/または公知の疾病重症度に関連する値、および/または以前の時点において該患者から得た値および/または既定のカットオフ値に相関させる工程。
【0010】
好ましい実施態様においては、該疾患は癌である。該癌は、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、黒色腫、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、または胃癌であってもよい。該疾患は、特に膵臓導管腺癌(PDAC)であってもよい。
【0011】
上記のように、該方法は、特定の実施態様においては、患者の疾患、例えば癌などの重症度を評価する方法であってもよい。例えば、該方法は、患者における癌の予後を測定する方法であってもよく、例えば、可能な生存期間および/または患者の生存確率を測定するなどの方法であってもよい。
【0012】
好ましい実施態様においては、該モノクローナル抗体は、標的配列QGASTQGLWES(配列番号:2)の伸長型(すなわち、そのC末端にセリン残基を付加することによって、伸長させたPRO-C20標的配列のバージョン)には特異的に結合しない。好ましくは、該抗体の伸長型標的配列に対する親和性を基準とした場合の、該抗体のPRO-C20標的配列への親和性の比は、少なくとも10:1、およびより好ましくは少なくとも20:1、または少なくとも30:1である。
【0013】
好ましい実施態様においては、該モノクローナル抗体は、標的配列QGASTQGLW(配列番号:3)の短縮型(すなわち、最後のグルタミン酸残基を除去することによって、短縮したPRO-C2標的配列のバージョン)には特異的に結合しない。好ましくは、該抗体の短縮型標的配列に対する親和性を基準とした場合の、該抗体のPRO-C20標的配列への親和性の比は、少なくとも10:1、およびより好ましくは少なくとも20:1、または少なくとも30:1である。
【0014】
好ましくは、該モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を有する合成ペプチドに対して作成されるモノクローナル抗体である。
【0015】
該試料は好ましくは生物液である。該生物液としては、血液、血清、血漿、尿または細胞培養または組織培養の上清であってもよいが、これらのみに限定されるものではない。好ましくは、該生物液は血液、血清または血漿である。
【0016】
該免疫アッセイは、競争アッセイまたはサンドイッチアッセイであってもよいが、これらのみに限定されるものではない。該免疫アッセイは、例えば、放射免疫測定法または酵素免疫測定法(ELISA)であってもよい。そのようなアッセイは、当業者にとって公知の技術である。
【0017】
本明細書中の用語「結合量」は、モノクローナル抗体と患者試料中のペプチドとの間の結合の定量を指す。該定量は、例えば、患者試料における結合の測定値を、該抗体が特異的に結合する既知濃度のペプチドを含む標準試料における結合測定値を用いて作成される較正曲線と比較することによって評価するのであってもよく、それによって患者試料において該抗体が特異的に結合するペプチド量を決定する。本明細書中で後述する実施例においては、ELISA法を用いるが、ここで患者試料における結合量測定および較正曲線作成における結合量測定の両方に分光学的分析を用いる。しかし、任意の好適な分析法を用いることができる。
【0018】
本明細書中の用語「既定のカットオフ値」は、患者において疾患の高い可能性またはその特定重症度を示唆するものとして統計的に測定される結合量を意味するが、ここで患者試料における該標的ペプチドの測定値が統計的カットオフ値と同一またはそれよりも高い場合には、該疾患の存在またはその特定の重症度に関して、少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも75%の確率、より好ましくは少なくとも80%の確率、より好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、および最も好ましくは少なくとも95%の確率に対応する。例えば、PDAC患者において、PRO-C20レベルが2.59nMである場合には、特定の実施態様においては、該患者が次の6か月以内にほぼ高確率(例えば、約75%)で死亡する、および/または次の約2年間以内に非常に高い確率(例えば、少なくとも95%)で死亡するような癌の重症度を示す既定のカットオフ値として用いるのであってもよい。
【0019】
本明細書中の用語「正常の健常対象に関連する値」は、健常と考えられる(すなわち疾患を有していない)対象から得られる試料について、上記の方法で測定した結合の標準化量を意味する;また、用語「公知の疾病重症度に関連する値」は、公知の重症度の疾患を有する既知の患者から得られる試料について、上記の方法で測定した結合の標準化量を意味する。
【0020】
本明細書中の用語「C末端」は、ポリペプチド末端部に存在するC末端ペプチド配列、すなわち該ポリペプチドのC末端を指すのであって、その一般的方向を意味するものであると解釈すべきではない。
【0021】
本明細書においては、用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は同意語として用いられる。
【0022】
本明細書中の用語「モノクローナル抗体」は、完全抗体およびその断片の両方を指すが、ここで該断片は、該完全抗体の結合特異性を保持し、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、一本鎖Fv断片、またはその他の当業者には公知のそのような断片などである。周知であるように、完全抗体は、典型的には同一である2対のポリペプチド鎖の「Y字型」構造を有しており、各対が1本の「軽」鎖および1本の「重」鎖で構成される。各軽鎖および各重鎖のN末端領域は、可変領域を含むが、各軽鎖および各重鎖のC末端部分は定常領域を形成する。該可変領域は3つの相補性決定領域(CDR)を含み、この領域は主に抗原認識の役割を担う。該定常領域によって、抗体による免疫系の細胞および分子の動員が可能となる。結合特異性を保持する抗体断片は、少なくともCDRおよび該結合特異性を保持するのに充分な可変領域の残りの部分を含む。
【0023】
本発明の方法においては、当該技術分野で公知のいずれかの定常領域を含むモノクローナル抗体を利用することができる。ヒトの軽鎖定常領域は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖に分類される。重鎖定常領域は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンに分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEの抗体アイソタイプとして定義される。IgGアイソタイプには複数のサブクラスが存在し、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むが、これらのみに限定されるものではない。モノクローナル抗体は、好ましくはIgGl、IgG2、IgG3、またはIgG4のうちのいずれか1種類を含むIgGアイソタイプであってもよい。
【0024】
抗体のCDRは、Kabatらが報告するような当該技術分野において公知の方法を用いて決定することができる。抗体は、実施例に記載されるようなB細胞クローンから生成させることができる。該抗体のアイソタイプは、ヒトIgM、IgGまたはIgAアイソタイプ、またはヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブクラスに特異的なELISAによって決定することができる。生成した抗体のアミノ酸配列は標準的技術を用いて決定することができる。例えば、該細胞からRNAを単離して、逆転写によるcDNAの生成に用いることができる。次いで、該抗体の重鎖および軽鎖を増幅するプライマーを用いて、このcDNAをPCRに供する。例えば、全VH(可変性重鎖)配列のリーダー配列に特異的なプライマーを、以前に決定されているアイソタイプの定常領域に位置する配列に結合するプライマーと共に用いることができる。軽鎖は、VカッパまたはVラムダのリーダー配列にアニーリングするプライマーと共に、カッパ鎖またはラムダ鎖の3’末端に結合するプライマーを用いて増幅することができる。全長の重鎖および軽鎖を生成させて、配列決定を行うことができる。
【0025】
該モノクローナル抗体またはその断片は、好ましくは:
CDR-H1:DYSMH(配列番号:11)
CDR-H2:WINTETGEPTYADGFKG(配列番号:12)
CDR-H3:GPY
CDR-L1:RSSQSIVHNNGKIYLE(配列番号:13)
CDR-L2:KVSNRFS(配列番号:14)
CDR-L3:FQGSHVPYT(配列番号:15)
から選択される1種類以上の相補性決定領域(CDR)を含むのであってもよい。
好ましくは、該抗体またはその断片は、上記のリストに示されているCDR配列のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、または6つを含む。
【0026】
好ましくは、該モノクローナル抗体またはその断片は、以下のCDR配列を含む軽鎖可変領域を有する:
CDR-L1:RSSQSIVHNNGKIYLE(配列番号:13)
CDR-L2:KVSNRFS(配列番号:14)
および
CDR-L3:FQGSHVPYT(配列番号:15)
【0027】
好ましくは、該モノクローナル抗体またはその断片は、CDR間にフレームワーク配列を含む軽鎖を有するが、ここで該フレームワーク配列は、下記の軽鎖配列のCDR間のフレームワーク配列と実質的に同一である、または実質的に類似している(下記において、CDRは太文字で下線を附している;また、フレームワーク配列は斜体で示している):
【化1】
【0028】
好ましくは、該モノクローナル抗体またはその断片は、以下のCDR配列を含む重鎖可変領域を有する:
CDR-H1:DYSMH(配列番号:11)
CDR-H2:WINTETGEPTYADGFKG(配列番号:12)
および
CDR-H3:GPY
【0029】
好ましくは、該モノクローナル抗体またはその断片は、CDR間にフレームワーク配列を含む重鎖を有するが、ここで該フレームワーク配列は、下記の重鎖配列のCDR間のフレームワーク配列と実質的に同一である、または実質的に類似している(下記において、CDRは太文字で下線を附している;また、フレームワーク配列は斜体で示している):
【化2】
【0030】
本明細書において、抗体のCDR間のフレームワークアミノ酸配列が、別の抗体のCDR間に存在するフレームワークアミノ酸配列に対して少なくとも70%、80%、90%、または少なくとも95%の類似性または同一性を有する場合には、二者は実質的に同一、または実質的に類似するものである。該類似のアミノ酸または同一アミノ酸は、連続するのであっても非連続的であってもよい。
【0031】
該フレームワーク配列が、1種類以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むのであってもよい。アミノ酸置換は保存的であってもよく、これは置換したアミノ酸が元々のアミノ酸に類似の化学的特性を有することを意味する。どのアミノ酸が類似の化学的特性を共有するかについては、当業者であれば理解するであろう。例えば、以下の群のアミノ酸は、類似の化学的特性(サイズ、電荷、および極性など)を共有する:
群1: Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
群2: Asp、Asn、Glu、Gln;
群3: His、Arg、Lys;
群4: Met、Leu、Ile、Val、Cys;
群5: Phe Thy Trp。
【0032】
CLUSTALプログラムなどのプログラムは、アミノ酸配列比較に用いることができる。このプログラムは、アミノ酸配列を比較して、必要に応じていずれかの配列に空白を挿入することにより最適アラインメントを見つけ出す。このプログラムは、最適アラインメントを得るためにアミノ酸同一性または類似性(アミノ酸の種類の同一性と保存性)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは、類似配列の最長部分を整列化して、その適合に対する値を決める。このようにして比較を得ることができるが、その比較によって、それぞれ異なるスコアを有する複数の類似性領域が検出されるのである。本発明では、両種類の分析が意図される。同一性または類似性は、好ましくはフレームワーク配列全長にわたって計算される。
【0033】
特定の好ましい実施態様においては、該モノクローナル抗体またはその断片は、
下記の軽鎖可変領域配列:
【化3】
および/または
下記の重鎖可変領域配列:
【化4】
を含むのであってもよい(CDRは太字で下線を附した;フレームワーク配列は斜体で示した)。
【0034】
第2の局面において、本発明は、C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)に特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。該モノクローナル抗体は、本発明の第1の局面にしたがう免疫アッセイにおける利用に好適である;また、本発明の第2の局面にしたがうモノクローナル抗体の好ましい実施態様および他の任意選択的実施態様は、本発明の第1の局面およびその好ましい実施態様および他の任意選択的実施態様において利用するモノクローナル抗体に関する上記の考察から明白である。
【0035】
第3の局面において、本願は、免疫アッセイキットに関するが、該キットは:
第2の局面にしたがうモノクローナル抗体、
および
・ ストレプトアビジンコーティングしたウェルプレート;
・ ビオチン化ペプチドであるBiotin-L-QGASTQGLWE(配列番号:4)、
ここでLは任意選択的リンカーである;
・ サンドイッチ免疫アッセイに用いる2次抗体;
・ C末端アミノ酸配列QGASTQGLWE(配列番号:1)を含む較正蛋白質;
・ 抗体ビオチ化キット;
・ 抗体HRP標識キット;
・ 抗体放射性標識キット;
および
・ アッセイ可視化キット
のうちの少なくとも1種類を含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】PRO-C20アッセイの特異性試験である。標準ペプチド(RHLEGRGEPGAVGQMGSPGQQGASTQGLWE(配列番号:6))、伸長型ペプチド(QGASTQGLWES(配列番号:2))、短縮型ペプチド(QGASTQGLW(配列番号:3))、ならびにナンセンス型標準ペプチド(SHAHQRTGGN(配列番号:8))およびナンセンス型コーターペプチド(ビオチン-SHAHQRTGGN(配列番号:9))の阻害曲線。ペプチドを段階的2倍希釈して、それらの抗体結合に関する競争能を評価した。シグナル(B)は、僅かなバックグラウンド吸光度(B0)である;これは、アッセイ緩衝液に対応するものであり、対数目盛のペプチド濃度の関数として表される。誤差棒は、2回の測定における標準偏差を示す。
【
図2】複数の癌患者群の血清においてPRO-C20を測定した。健常対照(n=33)ならびに膀胱癌(n=20)、乳癌(n=20)、結腸直腸癌(n=20)、頭部頸部癌(n=20)、腎臓癌(n=20)、肝臓癌(n=3)、肺癌(n=20)、黒色腫(n=20)、卵巣癌(n=19)、膵癌(n=20)、前立腺癌(n=20)および胃癌(n=20)の血清におけるPRO-C20の定量。PRO-C20レベルを、データ点変動を含むテューキー型のボックスプロットで表す。水平のバーは中央値を表す;ボックスの上部および下部のヒンジは、第1および第3の四分位数(25パーセンタイルおよび75パーセンタイル)を表す;正の方向または負の方向のいずれかのヒゲ状の部分はヒンジから最大値および最小値へと伸びるが、1.5*IQR未満である(ここでIQRは第1と第3の四分位数の間の四分位範囲である)。PRO-C20の検証において測定した場合に、測定範囲下限(LLMR)よりも低値として測定された試料については、LLMR値を与えた。癌罹患群と健常対照との間のPRO-C20レベルの差を、通常のANOVAにより評価し、ダネット検定を用いて対照の多重比較を行った。****は、0.0001未満のp値を表す。*** 0.001未満。** 0.01未満。* 0.05未満。
【
図3】健常対照(n=20)およびPDAC患者(n=36)の血清におけるPRO-C20の定量。
【
図4】PDAC患者における高いPRO-C20レベル(2.59nM超)と総生存率の間の関連性を評価するカプラン=マイヤー曲線。
【0037】
実施例
以下の実施例において本開示の実施態様を説明するが、これは本開示の理解を助ける目的で提示するものであり、後述する請求項において規定されるような開示範囲を限定するものと見なすべきではない。以下の実施例は、記載の実施態様の作成法および利用法を当業者に完全開示し説明するものであり、本開示の範囲を限定する意図ではなく、また後述の実験が実施した全ての実験、あるいは実施した実験のみを示すものであると表明する意図でもない。用いた数値(例えば、量、温度など)に関して精度を確保する努力を行ってはいるが、ある程度の実験的誤差および変動は含まれるであろう。特段に他でそうでないことが示されるのでない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は℃であり、また圧力は大気圧もしくは大気圧に近い圧である。
【0038】
材料と方法
PRO-C20を標的とするモノクローナル抗体の作成
XX型コラーゲン(UniprotKB:Q9P218)のC末端に対応する10アミノ酸の標的ペプチド1275QGASTQGLWE1284(配列番号:1)は、Genscript(ピスカタウェイ、ニュージャージー州、米国)から購入して免疫に用いた。
【0039】
より具体的には、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸塩、SMCC(Thermo Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国;カタログ番号:22322)を用いて、標的ペプチドをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)運搬蛋白質と共有結合で架橋することによって、免疫原性ペプチド(KLH-CGG-QGASTQGLWE(配列番号:7))を作成した。運搬体蛋白質に対して正しく連結されるように、グリシン残基およびシステイン残基をN末端に付加した。Sigmaアジュバントシステム(Sigmaのカタログ番号:S6322)と混合した100μgの免疫原性ペプチドを含む200μLの乳化抗原で、6週齢のBalb/Cマウスを皮下免疫することによりモノクローナル抗体を作成した。安定な血清力価レベルとなるまで2週間隔で連続免疫を実施した。最高力価のマウスを4週間休息させ、次いで、100μgの免疫原性ペプチドを含む100μLの0.9%NaCl溶液を静脈内にブースター注射した。以前に報告されている方法(Gefter、Margulies and Scharff、1977)で、脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合することにより、ハイブリドーマ細胞を作成した。次いで、得られたハイブリドーマ細胞を96穴マイクロタイタープレートで培養し、標準的な限界希釈法を用いてモノクローナルに増殖させた。
【0040】
モノクローナル抗体は、蛋白質Gカラム(GE Healthcare Life Sciences、リトルチャルフォント、UK;カタログ番号17-0404-01)を用い製造元の指示にしたがって精製した。
【0041】
バイオマーカーに関する最良の抗体クローンを、選択ペプチド(標的ペプチド、QGASTQGLWE(配列番号:1))に対する反応性ついて予備的な競争ELISAに基づいて選択した;ただし、伸長型ペプチド(QGASTQGLWES(配列番号:2))、短縮型ペプチド(QGASTQGLW(配列番号:3))、およびナンセンス型KLH共役ペプチド(IRQCPDRTYG-GGC-KLH(配列番号:10))に対する反応性は有していないものである。
【0042】
最良性能のクローンが産生する抗体の配列決定を行い、CDRを決定した。該鎖の配列を以下に示す(CDRは太字で下線を附した;定常領域は斜体で示した):
重鎖:アミノ酸配列(511aa)
【化5】
【0043】
PRO-C20 ELISAプロトコル
ELISAに対して複数の最適化を行った;そのような最適化としては、アッセイ緩衝液の選択、インキュベーション時間および温度、ならびに抗体およびペプチドの濃度が挙げられる。最終的なPRO-C20アッセイプロトコルは、以下のように実施した:ストレプトアビジンコーティングした96穴のELISAプレートを、1.25ng/mLのビオチン化標的ペプチド(ビオチン-QGASTQGLWE(配列番号:5))を用いて100μL/ウェルでコーティングした;ここで該ペプチドは、アッセイ緩衝液(25mM TBS、1% BSA(w/v)、0.1% Tween-20(w/v)、2g/L NaCl、pH8.0)に溶解したものである;このプレートを300RPMで振盪しながら、20℃で30分間インキュベートした。洗浄緩衝液(25mM Tris、50mM NaCl、pH7.2)で5回洗浄した後、試料を2重複とし20μL/ウェルで添加してから、50ng/mLのHRP標識モノクローナル抗体を含むアッセイ緩衝液を100μL/ウェルで加え、300RPMで振盪しながら、20℃で1時間インキュベートした。第2洗浄サイクル後に、TMBを100μL/ウェルで添加して、暗所にて300RPMで振盪しながら、20℃で15分間インキュベートした。1%のH2SO4を100μL/ウェルで添加することによって、反応を停止させた。650nmをリファレンスとし、450nの吸光度を測定した。標準曲線を作成するため、50ng/mLの標準ペプチド(RHLEGRGEPGAVGQMGSPGQQGASTQGLWE(配列番号:6))を20μL/ウェルで段階的2倍希釈して、適切なウェルに添加した;4パラメータロジスティック回帰モデルを用いて曲線をフィットさせた。各プレートに、1種類のヒト血清、1種類のウマ血清、1種類のヒト血漿、および2種類のペプチド・イン・アッセイ緩衝液試料を含む5種類の品質管理試料を用いて、アッセイ内変動およびアッセイ間変動のモニターを行った。
【0044】
PRO-C20 ELISAの技術的検証
標準ペプチド(RHLEGRGEPGAVGQMGSPGQQGASTQGLWE(配列番号:6))、伸長型ペプチド(QGASTQGLWES(配列番号:2))、短縮型ペプチド(QGASTQGLW(配列番号:3))、ならびにナンセンス型標準ペプチド(SHAHQRTGGN(配列番号:8))およびナンセンス型コーターペプチド(ビオチン-SHAHQRTGGN(配列番号:9))を段階的2倍希釈してシグナル阻害を行うことにより、抗体特異性を評価した。
【0045】
ヒト血清試料を段階的2倍希釈して希釈に対する%回収を算出することにより、直線性または平行性を評価した。既知量の標準ペプチドをヒト血清試料に添加し、非添加試料の予想濃度と添加した既知量に対する添加試料の測定濃度の%回収を算出することにより、精度を評価した。同様に、1種類のヒト血清試料を異なる比(例えば、50:50または25:75)で別のヒト血清試料に添加し、個別に定量したそれらの値の総計に対して%回収を算出することによっても、精度を評価した。
【0046】
既知量の干渉物質(ヘモグロビン、低濃度=2.5mg/mL、高濃度=5mg/mL;脂質類、低濃度=1.5mg/mL、高濃度=5mg/mL;ビオチン、低濃度=5ng/mL、高濃度=100ng/mL)をヒト血清試料に添加し、非添加試料に対して相対的な%回収を算出することにより、ヘモグロビン、脂質類、およびビオチンを含む、通常干渉する物質の影響について評価した。
【0047】
10種類の品質管理試料を用いて2回測定でアッセイを独立して10回実施することにより、アッセイ変動を試験した。品質管理試料のうちの5種類は、ヒト血清、1種類のウマ血清、1種類のヒト血漿であり、3種類は様々な濃度でアッセイ緩衝液に含まれる標準ペプチドであった。アッセイ内変動は、10回実施のそれぞれについて2回測定間の分散の平均係数(CV%)として算出した。アッセイ間変動は、10回実施の全測定についての全体的CV%として算出した。測定範囲の下限および上限(LLMRおよびULMR)を、アッセイの直線範囲の限界を表す濃度として測定した。下の検出限界を、アッセイ緩衝液のみを含む21ブランク試料の補間平均濃度、プラス3の標準偏差として算出した。上の検出限界を、標準曲線の最高濃度に対応する標準ペプチドの補間平均濃度マイナス3の標準偏差として算出した。
【0048】
被検物質安定性を、4℃または20℃のいずれかで2時間、4時間、24時間、または48時間インキュベートした3種類のヒト血清試料について評価した;この評価は、-20℃に保持した対応する対照試料に相対的なインキュベート試料の%回収を算出することによって実施した。凍結/解凍に関する安定性は、ヒト血清試料を最大で4サイクル繰り返し凍結/解凍し、単一冷凍/解凍サイクルを経た対応する対照試料に対して相対的な上記複数サイクルの試料の%回収を算出することにより評価した。
【0049】
患者試料 - コホート1
このコホートは、222癌試料および33健常試料を含むものであった。それぞれ膵臓癌、結腸直腸癌、腎臓癌、胃癌、乳癌、膀胱癌、肺癌、黒色腫、頭頸部癌および前立腺癌の20患者、卵巣癌の19患者、肝臓癌の3患者および年齢の一致する健常対照33名を含んでいた。全ての癌試料をProteogenex(ロサンゼルス、カリフォルニア州、米国)から取得し、健常対照のものはBioIVT(ウェストベリー、ニューヨーク州、米国)から取得した。コホート特性の概要を表1に示す。
【0050】
【0051】
統計 - コホート1
群間のPRO-C20レベル比較を通常の一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った後に、ダネット検定を用いて対照群に対するペアワイズ比較を実施した。受信者動作特性(AUROC)曲線下面積により、診断精度を評価した。0.05未満のp値は、有意であると考えられる。図中のアステリスクは、以下の有意水準を表す: * p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001; **** p<0.0001。
【0052】
統計分析およびグラフ化は、GraphPad Prism(ウインドウズ用バージョン9.1.0、GraphPadソフトウエア;サンディエゴ、カルフォルニア州、米国;www.graphpad.com)およびRバージョン4.0.4(R Core Team(2021)、R Foundation for Statistical Computin、ウィーン、オーストリア;https://www.R-project.org)で実施した。
【0053】
患者試料 - コホート2
このコホートは、20名の健康なドナーおよび36名の膵臓導管腺癌(PDAC)患者を含むものであった。患者は全て、デンマークBIOPAC試験「膵癌患者におけるバイオマーカー(BIOmarkers in patients with Pancreatic Cancer)」(NCT03311776)の患者であった。デンマークの6つの病院の2008年12月~2017年9月の患者を採用した。PC患者は、組織学的に確認された腫瘍を有していた。PDAC患者は、国の指針(www.gicancer.dk)にしたがう様々な種類の化学療法による治療を受けていた。本試験は健康関連研究倫理に関するデンマーク地域委員会の推奨にしたがって実施した。BIOPACプロトコルは、健康関連研究倫理に関するデンマーク地域委員会(VEK ref. KA-20060113)およびデータ保護機関(j.nr.2006-41-6848)によって承認された。血液(血清)試料は、診断時または手術前に取得した。全対象が、ヘルシンキ宣言にしたがう書面でのインフォームドコンセントを提出した。コホート特性の概要を表2に示す。
【0054】
【0055】
統計 - コホート2
ウィルコクスン検定を用いて、健常試料とPDAC試料でPRO-C20レベルを比較した。PRO-C20診断精度は、受信者動作特性曲線(AUC)下面積を用いて評価した。さらに、ヨーデンの指標が最大となるPRO-C20カットオフ値における感度、特異性、正の予測値、および負の予測値を測定した。PDAC試料におけるPRO-C20レベルの75パーセンタイル(すなわち、2.59nMのPRO-C20レベル)を切断点として用い、高いPRO-C20レベルを有する群を定義した。高いPRO-C20レベルと総生存との間の関連性を、カプラン=マイヤー曲線とログランク検定を用いて評価した。加えて、多変量コックス回帰分析を用いて、転移の存在ならびに年齢と性別について補正した場合の高いPRO-C20レベルとの関連性についても評価した。以下の有意水準をアスタリスクによって示す:**** p<0.0001。
【0056】
結果
PRO-C20 ELISAの開発
ELISAプロトコルの最適化は、インキュベーションの最適時間および最適温度、アッセイ緩衝液の選択およびキット成分の濃度を含むものであった。設定は、下に概説する技術的要件を満たしながらヒト血清において最大感度となるように選択した。ELISAについて選択したフォーマットは競争的ELISAであり、モノクローナル抗体への結合について異なるペプチドが競争する能力によってアッセイの特異性を評価した。ペプチドのセットは、XX型コラーゲンのC末端に対応する標準ペプチド(RHLEGRGEPGAVGQMGSPGQQGASTQGLWE(配列番号:6));余分なアミノ酸を有するC末端エピトープに対応する伸長型ペプチド(QGASTQGLWES(配列番号:2));1アミノ酸少ない短縮型ペプチド(QGASTQGLW(配列番号:3));非関連エピトープに対応するナンセンス型標準ペプチド(SHAHQRTGGN(配列番号:8));および最後に、ナンセンス型コーターペプチド(ビオチン-SHAHQRTGGN(配列番号:9))を含むものであった。
【0057】
標準的ペプチドのみが、意味のある様式で用量依存性にシグナルを阻害した;他方、伸長型および短縮型の場合には、高濃度でも最小の競争であった(
図1)。標準ペプチドの10アミノ酸長のバリアント(QGASTQGLWE(配列番号:1))も試験したが、30アミノ酸のバリアント(データ非提示)と全く同一の挙動を示した。ナンセンス型コーターペプチドでは、予想通り検出可能シグナルを与えなかった。この設定によって、モノクローナル抗体がXX型コラーゲンのC末端の目的エピトープに特異的であることの確認が得られる。
【0058】
技術的検証の他の局面については、表3に概要を示す。
【0059】
【0060】
希釈の直線性または平行性は、無希釈~1:2希釈では合格であった。1:4希釈では、ヒト血清試料の回収が、被検物質80%回収の合格限界未満に低下した。添加回収試験を用いた精度試験では、ヒト血清中の標準ペプチドが良好に回収されることが明らかとなり、その回収は101%であった。ヒト血清試料の被検物を別のヒト血清試料に添加した場合に回収95%であったマトリックス・イン・マトリックス添加法でも同様であった。通常の干渉物質による干渉は観察されず最高濃度のビオチンでも15%以内の回収であった。アッセイ変動については優れており、アッセイ間変動およびアッセイ内変動の両方でおおよそ6%であった。被検物安定性の評価は、4℃または20℃のいずれかにおいて、最長48時間まで行った;回収は15%であった。凍結/解凍4サイクル後の安定性もまた良好であり、回収は90%であった。
【0061】
癌患者の血清中のPRO-C20(コホート1)
PRO-C20レベルは、健常対照と比較して全癌において有意に上昇した(
図2)。AUROC値から明白であるように、PRO-C20は健常と癌の識別に優れていることが証明された(表4)。
【0062】
【0063】
PRO-C20は、肺癌と健常対照の識別に特に良好であった(AUROCが0.92であった)。全体として、これらの結果は、PRO-C20の循環レベル、すなわちXX型コラーゲンの循環レベルが複数の異なる癌種で上昇することを示唆するものである。
【0064】
PDAC患者の血清中のPRO-C20(コホート2)
健常対照(n=20)およびPDAC患者(n=36)の血清におけるPRO-C20の定量によって、健常対照と比較してPDACではPRO-C20のレベル上昇が検出された(
図3)。AUC、感度、および特異性の値によって示唆されるように、PRO-C20は良好な診断精度を有していた(表5)。PDAC患者では、高いPRO-C20レベル(2.59nM超)が、低い総生存率に関連する(
図4)。また、高いPRO-C20レベルは、年齢、性別および転移の存在について補正した後の生存に関する独立予測因子であった(表6)。
【0065】
【0066】
【0067】
結論
この研究において、血液におけるXX型コラーゲンの存在を定量するELISAの開発に成功し、最適化と検証を行った。PRO-C20 ELISAは、技術的に安定で、高精度、高感度であった。癌患者および健常対照の血清中の循環XX型コラーゲンレベルを評価することが可能であり、健常対照と比較して、試験した全ての癌でPRO-C20レベルが有意に高かった。膵臓導管腺癌(PDAC)患者の血清では、さらに、PRO-C20の高レベルが低い全生存率に相関することが明らかになった。
【0068】
本明細書において、他で特段にそうでないことが明言されるのでない限り、用語「or(または)」は、言及する条件のいずれかまたは両方を満たす場合に、真の値を返す演算子の意味で用いられるが、これは、該条件のうちの1つのみを満たすことを要件とする演算子「排他的OR(または)」とは対照的である。用語「comprising(を含む)」は、「including or consisting of~(~を含む、または~から成る)」を意味するものとして用いられる。上述した従来の知見は全て参照として本明細書に組み入れられる。以前に公開された文献であって本明細書に引用するいずれの文献についての同意も、その内容が出願時においてオーストラリアであるか他所であるかを問わず共通の一般的知見であるとの了承や表明であると見なすべきではない。
参考文献
【表7】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】