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特表2024-525147空気を殺菌するための組成物及びデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】空気を殺菌するための組成物及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   A01N 55/10 20060101AFI20240703BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240703BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20240703BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240703BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A01N55/10 100
A01P3/00
A01N25/08
A61L9/01 B
A61L9/01 M
A61L9/16 F
A61L9/01 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576430
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 EP2022065548
(87)【国際公開番号】W WO2022258686
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2711
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MC
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523465001
【氏名又は名称】ミッチェル・ニューデルマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル・ニューデルマン
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CC01
4C180DD09
4C180EA14Y
4C180EA28X
4C180EB06X
4C180EB38X
4C180FF01
4C180FF06
4C180FF07
4C180LL20
4C180MM03
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB16
4H011BC18
4H011DD05
(57)【要約】
本発明は、殺生物剤と組み合わせたバイオ炭を含む、空気殺菌組成物に関する。特定の実施形態によれば、殺生物剤は機械的に活性であり、すなわちこれは優先的には化学的作用を介さずに機械的作用により病原性微生物を破壊し、又は病原性微生物が活動するのを防ぐ。別の態様は、組成物及び支持体を含む、空気殺菌デバイスに関する。別の態様は、気流中の病原性微生物の量を減少させるための、本発明による空気殺菌組成物又は本発明による殺菌デバイスの使用に関する。本発明は空気殺菌の分野に関する。より詳細には、これはウイルス、細菌、真菌などの病原性微生物を排除することを目的とした、空気の処理において使用されることになる。本発明は、建物又は任意の輸送車両における全体の構造又は特定の空間などの閉鎖空間を処理するための、任意の処理装置に応用されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺生物剤(2)と組み合わせたバイオ炭(1)を含む、空気を殺菌するための組成物。
【請求項2】
前記殺生物剤(2)が機械的に活性である、請求項1に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項3】
前記バイオ炭(1)が殺生物剤(2)により含浸、浸漬、又はコーティングされている、請求項1又は2に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項4】
前記殺生物剤(2)が固体ナノメートル層を形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項5】
前記固体ナノメートル層が50~300nm、好ましくは150~300nmの厚さを有する、請求項4に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項6】
前記固体ナノメートル層が、その表面上に、スパイク(12)を含み、前記スパイク(12)が病原性微生物と接触すると病原性微生物を破壊するように構成される、請求項4又は5に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項7】
前記スパイク(12)がそれぞれ主な方向に伸び、前記主な方向と垂直な面でこの主な方向の半分の高さにおいて得られるスパイクの断面が、25nm(10-9メートル)未満、好ましくは18nm未満の最大寸法Dmaxを有し、Dmaxが好ましくは0.01nm~18nmであり、Dmaxが好ましくはおよそ0.5nmである、請求項6に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項8】
前記殺生物剤(2)がクワット-シルセスキオキサンを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項9】
前記殺生物剤(2)が二酸化ケイ素を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項10】
前記殺生物剤(2)が製品Liquid Guard(登録商標)である、請求項1から9のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項11】
前記バイオ炭(1)が親水性である、請求項1から10のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の空気を殺菌するための組成物と、前記組成物を付着させた支持体(6)とを含む、空気を殺菌するためのデバイス。
【請求項13】
前記支持体(6)が、空気が通って流れることができる少なくとも1つの表面を備えた空気フィルターであり、前記組成物が前記表面の少なくとも1つの面に固定及び/又は配置されている、請求項12に記載の空気を殺菌するためのデバイス。
【請求項14】
前記支持体(6)が、空気が通って流れることができる内部体積を画定する空気フィルターを含み、前記組成物が前記内部体積内に配置されている、請求項12に記載の空気を殺菌するためのデバイス。
【請求項15】
空気をろ過することを意図したマスクである、請求項12から14のいずれか一項に記載の空気を殺菌するためのデバイス。
【請求項16】
気流中に存在する病原性微生物の量を減少させるための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物又は請求項12から15のいずれか一項に記載の殺菌デバイスの使用。
【請求項17】
SARS-CoV-2ウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)の殺菌のための、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
液体状である殺生物剤(2)により前記バイオ炭(1)を含浸又はコーティングする工程を含む、請求項12から15のいずれか一項に記載のデバイスを製造する方法。
【請求項19】
前記含浸工程の前又は後にバイオ炭(1)を支持体(6)上に固定する工程を含む、請求項18に記載の製造する方法。
【請求項20】
空気を循環させることにより気流を形成する工程と、気流を前記殺生物剤と接触させる工程とを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物又は請求項12から15のいずれか一項に記載の殺菌デバイスにより気流を殺菌する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気の殺菌の分野に関する。より詳細には、本発明はウイルス、細菌、及び真菌などの病原性微生物を抑制する目的における、空気の処理に適用可能である。本発明は、空気取入れシステムを含む、建物又は任意の輸送車両における全体の構造又は特定の空間などの閉鎖空間を処理するための、任意の空気処理デバイスに応用することができる。
【背景技術】
【0002】
空気の処理は、特に建物の内部で空気を清浄化することを目指す、長年の問題である。通常、空気処理は、化学的排出物、揮発性粒子、又はさらには臭気からの空気を清浄化するための様々な既知の技術的方法により行われる。
【0003】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)により引き起こされるCOVID-19(コロナウイルス疾患2019)の大発生は、数千万の感染者及び数十万の死者をもたらした。ウイルスは特に空気を介して広がるので、空気感染性の病原体、特にSARS-CoV-2ウイルスを除去するための空気の処理は世界的な健康問題となった。
【0004】
空気の殺菌において既に知られている解決策の1つは、光触媒反応による処理を含む。これらは触媒、典型的には二酸化チタンTiO2をUV-A放射線と組み合わせる。気流中に存在する病原性微生物がUV-A放射線により活性化された触媒と接触すると、微生物はOHラジカルにより破壊される。この方法は機能するが、しかし病原体が触媒と直接接触することが必要であり、このことは処理される空気の体積又は流量を制限する。
【0005】
さらに、このパンデミックの間、含水アルコールジェルなどの殺菌製品の増加は、空気を処理する、より正確には大量の空気を処理する解決策を提案することが可能とならなかったが、なぜならこれらの製品は表面の殺菌のみを可能にするためである。永久的な殺菌剤コーティングと同様である殺菌製品が近年開発された。この製品はLiquid Guard(登録商標)の商品名で販売されている。この製品は、単純な含水アルコールジェル及び他の既知の殺菌製品よりも永久的な作用を有する。しかし、その唯一の目的は、病原体が表面に定着することを防ぎそれにより接触を介した汚染を制限することである。したがってこの製品は空気を殺菌することを意図していない。
【0006】
したがって、空気処理を最適化するという現在の問題に対処する、空気の殺菌、より正確には大量の空気の殺菌のための解決策を開発することは緊急を要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、病原性微生物からの空気を殺菌することを可能にする解決策を提供することである。
【0008】
本発明の他の主題、構成、及び利点は以下の説明及び添付の図面に示される。他の利点も当然含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を実現するために、一実施形態によれば、本発明は、殺生物剤と組み合わせたバイオ炭を含む、空気を殺菌するための組成物を提供する。
【0010】
バイオ炭及び殺生物剤の組み合わせは、殺菌剤処理、及びバイオ炭による殺生物剤の処理表面の最適化の両方を提供することを可能にする。本発明は、一定体積の空気中に含有される病原性微生物を処理することを可能にする。好ましくは、移動する空気の殺菌を可能にする。
【0011】
特定の実施形態によれば、殺生物剤は機械的に(mechanically)活性であるように構成されている、すなわちこれは好ましくは化学的活性を介さずにその機械的活性を介して、病原性微生物を破壊し、病原性微生物が活動するのを防ぐ。
【0012】
特定の実施形態によれば、バイオ炭は殺生物剤によりコーティング又は含浸又は浸漬されている。バイオ炭は、殺生物剤が塗布される表面積を大幅に増加させ、それにより所与の表面における利用可能な処理表面積を大幅に増加させることを可能にする。
【0013】
有利には、本発明にしたがって塗布される殺生物剤は、機械的プロセスにより病原性微生物を破壊する、すなわちコーティングはスパイクとも呼ばれるナノメートルサイズの先端を含む。有利には、正に帯電した窒素原子が負に帯電した細胞膜を引きつける。すると病原性微生物の細胞膜は破壊され、これにより好ましくは前記病原性微生物に穴をあけることによって前記病原性微生物を殺す。有利には、スパイクは準尖頭状の、好ましくは尖頭状の遠位端を有する。
【0014】
別の態様は、組成物及び組成物を付着させた支持体を含む、空気を殺菌するためのデバイスに関する。デバイスは、空気中、好ましくは循環空気中に含有される病原性微生物の数を減少させる又は抑制することを可能にする。
【0015】
別の態様は、本発明による空気を殺菌するための組成物又は気流中の病原性微生物の量を減少させるための本発明による殺菌デバイスの使用に関する。
【0016】
別の態様は、液体状である殺生物によりバイオ炭を含浸する又はコーティングする工程を含む、本発明によるデバイスを製造する方法に関する。
【0017】
別の態様は、空気を循環させることにより気流を形成する工程と、気流を殺生物剤と接触させる工程を含む、本発明による組成物又は殺菌デバイスを使用した気流の殺菌の方法に関する。好ましくは、殺生物剤は気流の動的作用のおかげで機械的殺菌作用を実現する。例えば、殺生物剤は、動的効果によりこの機械的作用を可能にする機械的構造を有する、ピークとも呼ばれるナノメートルサイズの先端部を含む。
【0018】
本発明のねらい、目的、並びに構成、及び利点は、以下の添付の図面により例証される、本発明の実施形態の詳細な説明において示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】バイオ炭が殺生物剤と組み合わされる第1の実施形態による空気殺菌組成物を示す図である。
図2】空気循環ダクト中の、図1による組成物を含む本発明の実施形態によるデバイスの図である。
図3】空気フィルター中の、図1による組成物を含む本発明の実施形態によるデバイスの図である。
図4】支持体に固定された、図1による組成物を含む本発明の実施形態によるデバイスの図である。
図5】バイオ炭に塗布された殺生物剤の表面の詳細な図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面は例として示され、本発明を限定するものではない。それらは本発明の理解を助けることを意図した原理の略図であり、実用におけるスケールに必ずしも忠実ではない。特に、バイオ炭及び殺生物剤及びそのピークは現実を表すものではない。
【0021】
本発明の実施形態の詳しい概要を示す前に、組み合わせで又は代替として使用されてもよい任意選択の構成を以下に述べる。
【0022】
一例によれば、殺生物剤は機械的に活性である。
【0023】
一例によれば、バイオ炭は殺生物剤により含浸、浸漬、又はコーティングされている。
【0024】
一例によれば、殺生物剤は、有利にはバイオ炭に塗布された固体ナノメートル層を形成する。
【0025】
一例によれば、固体ナノメートル層は50~300nm、好ましくは150~300nmの厚さを有する。
【0026】
一例によれば、固体ナノメートル層は、その表面上に、スパイクが病原性微生物と接触すると病原性微生物を破壊するように構成されたスパイクを含む。
【0027】
一例によれば、スパイクはそれぞれ主な方向に伸び、主な方向と垂直な面でこの主な方向の半分の高さにおいて得られるスパイクの断面は、25nm(10-9メートル)未満、好ましくは18nm未満の最大寸法Dmaxを有し、Dmaxは好ましくは0.01nm~18nmであり、Dmaxは好ましくはおよそ0.5nmである。
【0028】
一例によれば、殺生物剤はシランクワット(silane quat)とも呼ばれるクワット-シルセスキオキサンを含む。
【0029】
一例によれば、殺生物剤は二酸化ケイ素を含む。
【0030】
一例によれば、殺生物剤は製品Liquid Guard(登録商標)である。
【0031】
一例によれば、殺生物剤は製品Zoono(登録商標)である。
【0032】
一例によれば、バイオ炭は親水性であり、バイオ炭は正、負、又は中性の電気伝導度を有し得る。
【0033】
一例によれば、支持体は空気が通って流れることができる少なくとも1つの表面を備えた空気フィルターであり、組成物は前記表面の少なくとも1つの面に固定及び/又は配置されている。
【0034】
一例によれば、支持体は空気が通って流れることができる内部体積を画定する空気フィルターを含み、組成物は前記内部体積内に配置されている。
【0035】
一例によれば、空気殺菌デバイスは空気をろ過するためのマスクである。
【0036】
一例によれば、デバイス又は組成物の使用は、SARS-CoV-2ウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)を殺菌することを意図している。
【0037】
一例によれば、製造方法は、含浸工程の前又は後でバイオ炭を支持体上に固定する工程を含む。
【0038】
バイオ炭は植物由来の炭である。バイオ炭は、有機植物材料のバイオマス、例えば果物の殻の熱分解により得られる炭である。
【0039】
「バイオ炭(biochar)」という用語は、生物由来であることを表す接頭語「バイオ」及び英単語「炭」を有する「バイオ炭(bio-charcoal)」の略称である。
【0040】
熱分解は酸素欠乏環境での有機物質の熱的分解であり、非凝縮性ガスのガス状混合物、バイオオイル、及びバイオ炭として知られる炭含量の高い固体残渣の3つの構成成分の生成につながる。熱分解は好ましくは180℃を超える、例えば200℃を超える温度、好ましくは180℃~1000℃で行われる。バイオ炭は、職人技により又は工業的に製造することができる炭である。
【0041】
バイオ炭は土壌改良剤としてのその用途で知られている。
【0042】
国際バイオ炭イニシアチブ(International Biochar Initiative)による従来の方法では、バイオ炭という用語は、土壌への施用又は炭を隔離する目的のために炭化された任意の有機材料を表す。
【0043】
バイオ炭は有利には、その芳香族構造の豊富な組成に起因して、土壌中の微生物による無機化に耐性がある安定で炭素が豊富な固体である。そのためこれは土壌中の炭素固定剤として、ひいては炭素吸収源として作用し、このことは地球温暖化に関する懸念を背景としてなぜバイオ炭が興味深いものであるかという理由を説明する。
【0044】
バイオ炭は様々な由来(農業残渣、肥料、森林残渣など)の有機物質から製造することができる。
【0045】
病原体、特に人間の健康にとって危険である病原体で汚染された空気の処理の分野におけるその使用は、あまり知られていないか又は知られてさえいない。
【0046】
好ましくは、バイオ炭は直径が1ミリメートル~数センチメートル、例えば1mm~15cmのサイズの粒子を含む。粒子のサイズは粒子の最大寸法として定義される。
【0047】
有利には、バイオ炭は多孔質である。バイオ炭の粒子は細孔を含む。細孔は有利には開放している。開放細孔は、直接、又は他の細孔を介して、及び/若しくは流路若しくはクラックのネットワークを介して外側に連通している。流体は開放細孔中に拡散することができ、そのため実際の表面を増加させる。したがって実際の表面は有利には外側と接触している表面に相当する。
【0048】
好ましくは、バイオ炭は多孔性を有し、より具体的にはウイルスの侵入を可能にする寸法を有する細孔を有する。好ましくは、細孔は18nm以上、あるいは25nm、あるいは100nmを超える寸法を有する。
【0049】
単に例として、アーモンドの殻のバイオ炭は本発明に有利である40~60μmの細孔径範囲を有する。したがって、汚染された気流は本発明にしたがい殺生物剤により処理されたバイオ炭の細孔に入ることができ、又はこの気流中に存在する大部分の病原体は捕捉され死滅することになる。
【0050】
バイオ炭は内部体積を画定する粒子の外周によって画定されるみかけの表面を有する。有利には、多孔性は内表面、すなわち内部体積において空気にさらされるバイオ炭の表面を画定する。空気にさらされるバイオ炭の実際の表面積はしたがって、有利には気流中に含有されるナノメートルサイズの病原体が到達できる、みかけの表面積及び内表面積の合計である。
【0051】
有利には、バイオ炭の多孔率は、バイオ炭1mm3当たりおよそ250mm2の実際の表面積を画定するように構成されている。
【0052】
バイオ炭は、格子、流路、及び/又は細孔のその内部構造に起因して、視認できる表面積よりも大幅に広い実際の表面積を有する。
【0053】
バイオ炭粒子の寸法及び多孔率は1.5以上である実際の表面積とみかけの表面積との比を遵守するように構成されており、この比は有利には少なくとも3、好ましくは10である。好ましくは、大型の空気ろ過システム用途に関しては比がより大きい場合がある。
【0054】
好ましくは、バイオ炭は100m2/g以上の比表面積を有し、1つの可能性によれば、500m2/g以下、又は厳密には500m2/g未満の比表面積を有する。比表面積は、材料の量に対する実際の表面積の比に相当する質量面積とも呼ばれる。質量面積は、例えばBrunauer-Emmett-Teller法すなわちBET法によるガス吸着により決定される。
【0055】
バイオ炭は有利には70%を超える炭含量を有する。通常、炭はより低い炭含量を有する。バイオ炭は熱分解により得られ、その後の活性化工程を行うか又は行わない。活性化工程はタールを抑制するのに使用してもよい。
【0056】
好ましくは、バイオ炭は親水性であるように選択される。この品質により、バイオ炭上の殺生物剤の最適化された接着が可能になる。有利なことに、これは殺生物剤の接着性を改善するための固定プライマーを使用する必要性を抑える。
【0057】
バイオ炭は剥離されてもよく又は剥離されなくてもよい。剥離されたバイオ炭は空気にさらされた、より正確には気流にさらされた表面への接着を最適化し、殺生物剤の接着を促進する。
【0058】
バイオ炭の電気的極性は、病原体の捕捉を最適化するように標的とする病原体に応じて選択することができる。主な病原体の極性が一旦決定されると、それにしたがってバイオ炭の極性を反発的ではなく引力的となるように調整することができる。例えば、1つの例となる実施形態によれば、アーモンドの殻のバイオ炭は低い負の電荷の極性を有する。
【0059】
有利には、バイオ炭は殺生物剤とのより良好な組み合わせを確実にするための低い電気陰性度を有するように選択される。
【0060】
一実施形態によれば、バイオ炭は疎水性であり、例えば殺生物剤に対する接着性能を保持するわずかに負の極性を有する。これは反発の電磁力に起因して、殺生物剤に耐える変異株の選択及び出現のリスクを軽減する又は回避さえすることも可能にする。
【0061】
1つの可能性によれば、組成物は固定プライマーを含み、有利にはバイオ炭への殺生物剤の付着を改善するための層を形成する。固定プライマーは例えば接着活性剤又は促進剤である。例えば、固定プライマーは液体状でバイオ炭に塗布され、固定プライマーが乾燥したら殺生物剤を塗布する。一実施形態によれば、固定プライマーは例えばバイオ炭への殺生物剤の接着を促進するためのホスフェートを含む。
【0062】
本発明による組成物は殺生物剤も含む。殺生物剤は、有害な生物体を破壊する、遠ざける、若しくは無害なものに変える、又はそれらの作用を防ぐ又はそれらに対抗することを意図した製品である。本発明によれば、殺生物剤は、化学的若しくは生物学的作用により又は好ましくは機械的に作用する。
【0063】
好ましい実施形態によれば、殺生物剤は、機械的作用により、好ましくはそれのみにより作用するように選択される。殺生物剤は機械的に作用する殺菌剤である。有利には、殺生物剤は、殺生物剤に当てられる気流により運ばれる病原性微生物の運動エネルギーの作用により機能する。
【0064】
殺菌剤はナノメートルサイズである。殺菌剤は病原性微生物を破壊及び/又は阻害することによりナノメートルレベルで機能する。
【0065】
殺生物剤はまた、有利にはナノメートルサイズの、好ましくは機械的な、病原性微生物の阻害剤であると理解される。
【0066】
バイオ炭が殺生物剤を塗布するための基材又は支持体を形成するという点において、殺生物剤はバイオ炭と組み合わされる。殺生物剤は、直接、又は特に下記で説明される固定プライマーを介して間接的に、バイオ炭と接触している。
【0067】
一実施形態によれば、殺生物剤はバイオ炭の少なくとも1つのコーティング層を形成する。
【0068】
有利には、殺生物剤は例えば150~300nmの範囲内の、ナノメートルサイズを有する固体層をバイオ炭の表面上に形成する。
【0069】
殺生物剤は有利には、バイオ炭に永久的に結合する、例えば単分子の層を形成する。
【0070】
殺生物剤は、あらゆる到達可能な細孔、導管、及び内部空間を含めた、バイオ炭の露出した領域に浸透するように構成されている。
【0071】
バイオ炭は殺生物剤によりコーティング又は浸漬又は含浸されている。有利には、殺生物剤はバイオ炭の少なくとも視認可能な表面をコーティングするが、特に殺生物剤がバイオ炭を浸漬する又はバイオ炭に含浸される場合、内表面の少なくとも一部、すなわち細孔もコーティングする。殺生物剤はバイオ炭の実際の表面の少なくとも一部を被覆する。このように、バイオ炭は、殺生物剤の塗布表面を増加させそれにより処理を最適化することを可能にする。したがって、殺生物剤を塗布することができる実際の表面は、バイオ炭の視認可能な表面よりもはるかに広い。図1において、殺生物剤2はバイオ炭1の視認可能な表面及び部分的に内表面をコーティングする。
【0072】
有利には、本発明にしたがって塗布される殺生物剤は、機械的プロセス、すなわち、スパイクとも呼ばれるナノメートルの先端部を含むコーティングを使用して病原性微生物を破壊する。
【0073】
殺生物剤は有利には、バイオ炭に共有結合している分子を含む層を形成する。殺生物剤配合物層は正に帯電したピークを含む。正に帯電したスパイクは負に帯電した微生物を引き寄せ突き刺す。スパイクは細胞壁を破壊する。これは致死的効果による微生物の分解を引き起こす。好ましくは、分子はシラン系ポリマーから選択される。シランクワット又はシルセスキオキサンを含む殺生物剤が表面に塗布される。殺生物剤が乾燥するとシランクワット分子は表面に共有結合する。シランベースをアンカーとして使用することにより、長鎖分子が処理済み表面上に針のように「立つ」。病原性微生物が結合したシラン-4分子と接触すると、炭化水素メチル部分から成る炭素系の槍が微生物の膜を突き刺す。シランクワット分子と接触すると、ベースにおける正に帯電した窒素分子がゆっくりと微生物を炭化水素基へとさらに引き寄せ電気的に中和する。
【0074】
一実施形態によれば、殺生物剤はスパイクを形成するナノメートル構造を含む。好ましくは、病原性微生物がスパイクと接触するとスパイクは病原性微生物を穿孔する。
【0075】
一例によれば、スパイクはそれぞれ主な方向に伸びている。主な方向と垂直な面でこの主な方向の半分の高さにおいて得られるスパイクの断面は、25nm(10-9メートル)未満、好ましくは18nm未満の最大寸法Dmaxを有し、Dmaxは好ましくは0.01nm~18nmである。Dmaxは好ましくはおよそ0.5nmである。スパイクの断面が円形である場合、Dmaxはスパイクの直径に相当する。好ましくは、スパイクは例えばおよそ0.5nmのナノメートルサイズの直径を有する。ピークはミクロ的又はナノメートルサイズであるとさえ言われている。好ましくは、ピークはシルセスキオキサンに相当し、より正確にはおそらくメチル化炭化水素鎖に相当する末端部及びおそらく中央部に相当する。
【0076】
一実施形態によれば、このようにして形成されるナノ構造は小さい先端又はスパイクで構成され、これは、補助される空気の動きのエネルギーの力による機械的現象によって、又は電気的効果によってではなく、特に正に帯電した窒素原子による電磁気効果によってではなく、例えば元々負に帯電した微生物が到達すると立ち上がって、有利には起電力を加えて病原体を突き刺し、接触するとその即時かつ迅速な破裂をもたらす。したがって殺菌は機械的であり非化学的である。それはまた即時的である。ナノテクノロジーは、製品に全く含まれないナノ粒子を形成するためではなく、ナノ構造を形成するために使用することができる。
【0077】
殺生物剤は、例えば1,000スパイク/μm2を超える、好ましくは10,0000スパイク/μm2を超える、好ましくは500,000スパイク/μm2を超えるスパイク密度を有する。
【0078】
一実施形態によれば、殺生物剤はクワット-シルセスキオキサン又は第4級アンモニウムオルガノシランを含み、及び/又は一般にはシランクワットとして知られる
【0079】
クワット-シルセスキオキサンは第4級アンモニウムのグループに属し、液体状の殺生物剤として分類される。その化学名はオクタデカンアミニウム-N,N-ジメチル-N-{3-(トリメトキシシリル)プロピル}-クロリドである。実験式: C26H58ClNO3Si。
【0080】
シランクワットは3つの部分を含む分子を含み、ベース部分は表面に共有結合するためのシランを含み、中央部分は正に帯電した窒素成分を含み、末端長鎖部分はメチル化炭化水素基から成る。この末端部分が殺生物剤の機械的機能に関与する。
【0081】
一実施形態によれば、殺生物剤はアモルファス二酸化ケイ素を含む。
【0082】
好ましくは、殺生物剤はシラン官能基をアルキル基上に有する第4級アンモニウムクロリドの混合物である。
【0083】
好ましい実施形態によれば、殺生物剤はNano-Protection社によりフランスで販売されている、Nano-Care社の製品Liquid Guard(登録商標)である。
【0084】
Liquid Guard(登録商標)は、1つの可能性によれば、クワット-シルセスキオキサン、ポリマー、アモルファス二酸化ケイ素、及び脱塩水を含む。
【0085】
一実施形態によれば、殺生物剤はZoono社の製品Zoono(登録商標)Z-71である。この製品は第4級アンモニウムを含み、より具体的には機械的作用による殺菌を可能にするオルガノシラン第4級アンモニウムを含む。
【0086】
殺生物剤は有利には、非軟質、半硬質、又は硬質と考えられる上記のようなピークを形成するように選択される。殺生物剤は有利には、特に病原性微生物の細胞膜を破裂させることにより、気流の機械的殺菌を確実にするように構成された、上記のようなピークを形成するように選択される。
【0087】
一態様によれば、本発明は、本発明による組成物と、組成物を付着させた支持体とを含む、空気を処理するためのデバイスに関する。
【0088】
1つの可能性によれば、本発明によるデバイスは、殺生物剤の支持体上への付着を促進させるための固定プライマーを含む。固定プライマーは場合により、例えばホスフェートを含む接着活性剤又は促進剤を含む。
【0089】
固定プライマーは有利には殺生物剤の前に支持体上に配置される。例えば、固定プライマーは液体状で塗布され、次いで固定プライマーが乾燥したら殺生物剤が塗布される。
【0090】
一態様によれば、空気殺菌組成物及び/又は空気殺菌デバイスは、ウイルスの殺菌、特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2: SARS-CoV-2の殺菌を意図している。
【0091】
一態様によれば、本発明による組成物は、例えば空気を処理するための外科用マスクなどの保護マスクと共に使用されることを意図している。
【0092】
一態様によれば、殺菌デバイスは空気ろ過マスクである。マスクは様々なタイプであってもよく、有利には本発明による組成物のための支持体、例えばろ紙又は織物又はろ過バルブを含む。
【0093】
一態様によれば、本発明は、本出願に記載されるような組成物又は空気殺菌デバイスを使用して気流を殺菌する方法に関する。殺菌プロセスは機械的作用により気流を殺菌する工程を含む。殺菌プロセスは、例えばファンによる、空調システムによる、制御された機械的換気による、又は自然循環による、例えば窓を開けることによる、気流の動きを含む。殺菌方法は、気流中に含まれる病原性微生物(複数可)と殺生物剤との接触による気流の殺菌をさらに含む。
【0094】
一態様によれば、本発明は、有利には液体状である殺生物剤をバイオ炭に含浸又はコーティングする工程を含む、組成物の調製方法に関する。好ましくは、バイオ炭は液体状である殺生物剤と接触される。
【0095】
第1の可能性によれば、バイオ炭は液体殺生物剤に浸漬される。含浸されたバイオ炭を乾燥させ、殺生物剤が視認可能な表面上で少なくとも部分的に、好ましくはバイオ炭の内表面全体で固化する。
【0096】
有利には、この方法はコーティングしようとするバイオ炭1m2当たり少なくとも5mlの殺生物剤、好ましくは10ml、より好ましくは15ml、より好ましくは少なくとも25ml/m2を使用する。
【0097】
一実施形態によれば、殺菌デバイスを製造する方法は、支持体上に組成物を固定する工程を含む。
【0098】
第1の可能性によれば、この固定の工程は、組成物を得た後、ひいてはバイオ炭に殺生物剤を含浸及び/又はコーティングする工程の後に行われる。
【0099】
第2の可能性によれば、バイオ炭は含浸工程の前に支持体上に固定され、支持体及びバイオ炭の組立体が殺生物剤で被覆及び/又は含浸される。
【0100】
一実施形態によれば、空気殺菌デバイスは組成物及び支持体6を含む。支持体6は様々であってもよく、組成物は前記支持体に固定されるか又は固定されなくてもよい。
【0101】
1つの可能性によれば、支持体6は組成物が好ましくは固定されずに単純に配置される内部体積を画定する。内部体積は有利には空気入口10及び空気出口11を含む。例えば、図2に示すように、支持体6は空気ダクト7であり、この中に組成物が単純に導入される。ダクト7は、組成物を所定の位置に保持し、それが気流により運び去られることを防ぐための特定の形態、例えばサイフォンなどの形態を有していてもよい。処理しようとする気流3は空気入口10を通って内部体積に再び入り、処理済みの気流が空気出口11を通って内部体積から出る。図3に示される別の例によれば、支持体6は2つのフィルタースクリーン8、9を含み、その間に組成物が好ましくは固定されずに埋め込まれている。
【0102】
図4に示される別の可能性によれば、支持体6は組成物が特に固定プライマー5により固定される表面である。支持体6は有利にはフィルタースクリーンであってもよい。
【0103】
本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明により網羅されるすべての実施形態に及ぶ。
【符号の説明】
【0104】
1 バイオ炭
2 殺生物剤
3 流入気流
4 排気流
5 固定プライマー
6 支持体
7 ダクト
8 フィルタースクリーン
9 フィルタースクリーン
10 空気入口面
11 空気出口面
12 スパイク
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】