(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電解質ヒドロゲル及び電気化学セルにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
H01M 6/22 20060101AFI20240703BHJP
H01M 6/12 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20240703BHJP
H01M 6/40 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240703BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M6/22 A
H01M6/12 Z
H01M4/42
H01M4/38 Z
H01M4/50
H01M6/40
H01M4/06 R
H01M4/06 C
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577351
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022065155
(87)【国際公開番号】W WO2022263206
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】502350250
【氏名又は名称】ヴァルタ マイクロバッテリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】508013571
【氏名又は名称】フンダシオン シデテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ウルダンピレタ ゴンザレス イドイア
(72)【発明者】
【氏名】クレープス マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス アグンデス イニャキ
(72)【発明者】
【氏名】コルメナレス ラウッセオ ルイス セサル
(72)【発明者】
【氏名】ブラスケス マルティン ホセ アルベルト
【テーマコード(参考)】
5G301
5H024
5H025
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H024AA03
5H024AA11
5H024FF21
5H024HH01
5H025CC01
5H025CC17
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA01
5H050BA07
5H050CA05
5H050CB13
5H050DA11
5H050GA20
(57)【要約】
電解質ヒドロゲル(14)は、架橋ノニオン性ポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中の塩を含むセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づいている。電解質ヒドロゲルの調製プロセスにおいては、組成物(100)が提供され、ここで、組成物は、(i)架橋性ノニオン性ポリマー;(ii)カチオン性ポリマー;(iii)水性溶剤及び/又は分散剤;及び、(iv)水性溶剤及び/又は分散剤に可溶性である塩を含む。組成物は層の形態で支持体(13)上に適用される。電解質ヒドロゲルは、ノニオン性ポリマーの架橋が生じるよう層を処理することにより得られる。電解質ヒドロゲルは、電気化学セルにおけるイオン伝導性電解質としての使用に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルにおいて使用するための電解質ヒドロゲル(14)であって、架橋ノニオン性ポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中の塩を含むセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づく、電解質ヒドロゲル(14)。
【請求項2】
以下の追加の特徴:
a.前記ノニオン性ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)又はその誘導体である;
b.前記ノニオン性ポリマーはジアクリレート-ポリエチレングリコール(PEGDA)である
の少なくとも1つを有する、請求項1に記載の電解質ヒドロゲル。
【請求項3】
以下の追加の特徴:
a.前記カチオン性ポリマーは高分子主鎖及びカチオン性官能基を含む;
b.前記カチオン性ポリマーは、カチオン性官能基を含有するセルロースである;
c.前記カチオン性官能基は第四級アンモニウムカチオンである;
d.前記カチオン性ポリマーは、第四級アンモニウムカチオンを含有するヒドロキシエチルセルロースエトキシレートである;
e.前記カチオン性ポリマーは、トリアルキルアンモニウム基でカチオン置換されたヒドロキシエチルセルロースである
の少なくとも1つを有する、請求項1又は請求項2に記載の電解質ヒドロゲル。
【請求項4】
以下の追加の特徴:
a.前記電解質ヒドロゲルは中性電解質系に基づいている;
b.前記塩は亜鉛塩である;
c.前記塩は塩化物である;
d.前記塩はZnCl
2である
の少なくとも1つを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質ヒドロゲル。
【請求項5】
以下の追加の特徴:
a.前記電解質ヒドロゲルはアルカリ性電解質系に基づいている;
b.前記塩は金属水酸化物である;
c.前記金属水酸化物はKOH又はNaOH又はLiOH又はCaOH
2であり、好ましくはKOHである
の少なくとも1つを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質ヒドロゲル。
【請求項6】
電解質ヒドロゲル(14)の調製プロセスであって、前記電解質ヒドロゲルの調製のために以下の:
a.組成物(100)であって、
i.架橋性ノニオン性ポリマーと、
ii.カチオン性ポリマーと、
iii.水性溶剤及び/又は分散剤と、
iv.前記水性溶剤及び/又は分散剤に溶解した塩と
を含む前記組成物(100)を提供するステップ;
b.前記組成物の層を支持体(13)上に形成するステップ;並びに
c.前記層を、前記ノニオン性ポリマーの架橋が生じるように処理し、これにより、前記電解質ヒドロゲル(14)をセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づいて形成するステップ
を実行する、電解質ヒドロゲル(14)の調製プロセス。
【請求項7】
以下の追加の特徴:
a.前記組成物(100)中の前記ノニオン性ポリマー、特にポリエチレングリコールの濃度は、1重量%~25重量%の範囲内、好ましくは5重量%~15重量%の範囲内、より好ましくは10重量%である
を有する、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
以下の追加の特徴:
a.前記組成物(100)中の前記カチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性セルロースの濃度は、0.1重量%~10重量%の範囲内、好ましくは1重量%~7重量%の範囲内、より好ましくは3重量%~4重量%の範囲内である
を有する、請求項6又は7に記載のプロセス。
【請求項9】
以下の追加の特徴:
a.前記塩は亜鉛塩、好ましくはZnCl
2であり、並びに、前記水性溶剤及び/又は分散剤中の前記塩の濃度は、0.1M~2.5M、好ましくは0.5M~1.5Mの範囲内、より好ましくは1Mである;又は
b.前記塩は金属水酸化物、好ましくはKOH又はNaOH又はLiOH又はCaOH
2であり、並びに、前記水性溶剤及び/又は分散剤中の前記金属水酸化物の濃度は、0.1M~10M、好ましくは0.5M~7M、より好ましくは4M~6Mの範囲内である
の1つを有する、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
以下の追加の特徴:
a.前記ノニオン性ポリマーの前記架橋は、熱処理及び/又はレドックス処理及び/又はプラズマ処理及び/又は化学処理、特に、pH処理により実行される;
b.前記架橋は、UV処理により実行される
の少なくとも1つを有する、請求項6~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
以下の追加の特徴:
a.前記組成物(100)は光開始剤を含み、及び、前記架橋は、UV処理により実行される;
b.前記光開始剤は水溶性光開始剤である;
c.前記光開始剤は、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンである;
d.前記組成物(100)中の前記光開始剤の濃度は、0.01重量%~1重量%、好ましくは0.05重量%~0.15重量%の範囲内、より好ましくは0.1重量%である
の少なくとも1つを有する、請求項6~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
電気化学セル(10)であって、以下の特徴:
a.前記電気化学セル(10)は、少なくとも1つの負極(11)及び少なくとも1つの正極(12)を備える;並びに
b.前記電気化学セル(10)は、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質ヒドロゲル(14)であるイオン伝導性電解質を含む
を有する、電気化学セル(10)。
【請求項13】
以下の追加の特徴:
a.前記電気化学セルは、非導電性支持体(13)上に、前記少なくとも1つの負極(11)及び前記少なくとも1つの正極(12)を共面構成で備える;
b.前記電気化学セルは、前記少なくとも1つの負極(11)及び前記少なくとも1つの正極(12)をスタック構成で備え、前記電解質ヒドロゲル(14)は、前記スタック中の反対極性の電極を分離する1つ以上の層を形成する;
c.前記少なくとも1つの負極(11)及び/又は前記少なくとも1つの正極(12)は印刷電極である;
d.前記電気化学セルは、前記少なくとも1つの負極(11)に接続する第1の導電体(15)及び前記少なくとも1つの正極(12)に接続する第2の導電体(16)を備える;
e.前記セルは、前記電極及び前記電解質ヒドロゲルを収容する筐体を備える
の少なくとも1つを有する、請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
以下の追加の特徴:
a.前記少なくとも1つの負極(11)は、層として形成されると共に、粒子状金属亜鉛又は粒子状金属亜鉛合金である活性材料を含み、及び、好ましくは、弾性バインダ又は弾性バインダ混合物をさらに含む;
b.前記少なくとも1つの正極(12)は、層として形成されると共に、粒子状金属酸化物、好ましくは二酸化マンガンである活性材料を含み、並びに、好ましくは、弾性バインダ若しくは弾性バインダ混合物、及び/又は、前記少なくとも1つの正極の導電性を向上するために、少なくとも1種の添加剤をさらに含む;
c.前記電気化学セルは亜鉛-二酸化マンガンセルである
の少なくとも1つを有する、請求項12又は13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
少なくとも1つの負極(11)及び少なくとも1つの正極(12)及び請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質ヒドロゲル(14)であるイオン伝導性電解質を有する請求項12~14のいずれか一項に記載の電気化学セル(10)の製造プロセスであって、ヒドロゲル電解質を調製するために、請求項6~11のいずれか一項に記載のプロセスが実施される、電気化学セル(10)の製造プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質ヒドロゲル、電解質ヒドロゲルの調製プロセス、電気化学セル及び電気化学セルの製造プロセスに関し、ここで、電気化学セルはイオン伝導性電解質としての電解質ヒドロゲルを含む。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの機能はエネルギーの貯蔵である。これらは、セパレータによって互いに分離されている正極及び負極を備える。この種のエネルギー貯蔵セルにおいては、2つの電気的に連係しているが相互に空間的に分離された部分反応からなる電気化学的反応及びエネルギー放出反応が生じる。比較的低い酸化還元電位で生じる部分反応は、負極で進行する。他の部分反応は、比較的高い酸化還元電位で正極で進行する。放電の最中、電子は酸化プロセスにより負極で放出され、その結果外部負荷を介して正極に流れる電子流が生じ、正極で相当する量の電子が受け取られる。従って、正極で還元プロセスが生じる。同時に、電荷等化のために、電極反応に対応するイオン流がセルに存在する。このイオン流は、通常イオン伝導性電解質を介してセパレータを通過する。
【0003】
二次電気化学セルにおいて、この放電反応は可逆的であり、すなわち、放電の最中に化学エネルギーから電気エネルギーへの変換を逆転させることが可能である。他方で、一次セルにおいては、放電反応は不可逆的であるか、又は、セルの再充電は他の理由により禁止されている。
【0004】
電気化学セルは、予め製造された個別のコンポーネントを組み立てるだけでは製造できない。近年において、セルの個別の機能性部品の製造、特に電極及び/又はセパレータ及び/又は導電路の印刷による製造、すなわち溶剤及び/又は分散剤を含有するペーストからの製造も重要視されている。
【0005】
多くの事例において、印刷電気化学セルは多層構造を有する。従来の設計において、印刷電気化学セルは通常、スタック配置された2つの集電体層、2つの電極層及び1つの電解質/セパレータ層を備える。電解質層は2つの電極層の間に位置しており、一方で、集電体が電気化学セルの上部と下部を形成する。このような構造を有する電気化学セルが、例えば米国特許第4119770A号明細書に記載されている。
【0006】
極めて平坦な電気化学セルでは、非導電性基板上において電極が相互に隣接して位置されている(共面構成)。このようなセルは、例えば国際公開第2006/105966A1号パンフレットに記載されている。電極は、例えばゲル化塩化亜鉛ペーストであり得るイオン伝導性電解質層を介して相互に接続されている。電解質は、フリース状又はネット状の材料によって強化及び安定化され得る。
【0007】
米国特許出願公開第2010/0081049A1号明細書には平面セルを製造する方法が開示されており、ここでは、電極が印刷可能なペーストを用いて可撓性支持体に適用されている。電解質はゲルの形態で適用可能である。電解質を調製するために、伝導性塩としての塩化亜鉛及び増粘剤としてのヒドロキシエチルセルロースを含むゲル状ペーストが用いられる。
他のアプローチでは、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)がゲル化電解質に用いられる。
【0008】
科学論文“Advanced semi-interpenetrating polymer network gel electrolyte for rechargeable lithium batteries”(Lu et al.,Electrochimica Acta 152(2015)489-496)には、直鎖PVDF-HFPポリマー(ポリフッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)を伴うポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)-コ-PVCネットワークに基づくリチウム-イオン-セル用のゲルポリマー電解質が記載されている。
【0009】
米国特許出願公開第2016/0049690A1号明細書には、リチウム-イオンの技術分野における半相互侵入高分子網目構造の高イオン伝導性電解質組成物が開示されている。
【0010】
国際特許出願第03/069700A2号パンフレットには、少なくとも1つの印刷電極を有する薄型の可撓性炭素亜鉛セルが開示されている。このセルに関して、ゲル化電解質が記載されている。ゲル化電解質を製造するために、天然グアーガムのノニオン性又はアニオン性誘導体を塩化亜鉛水溶液に添加することが提案されている。好ましい添加剤はGalactasol A4である。ゲル化電解質の製造に係るさらなる可能性として、低分子量ポリエチレングリコール(PEG)系、好ましくはポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)系のポリマーを塩化亜鉛溶液に熔解し、これをUVの照射によって架橋することが提案されている。光開始剤及び増粘剤としてのポリエチレンオキシド及びTriton(界面活性剤)を添加し得る。ポリエチレンオキシドは一般的な理解によればポリエチレングリコールの同義語であり、これにより、国際公開第03/069700A2号パンフレットの文脈では高分子量のポリエチレンオキシドが使用される。ポリエチレンオキシド及びTritonに対する代替としては、増粘剤としてのヒュームドシリカの使用が提案されている。
【0011】
従来技術から公知であるゲル化電解質は、特に亜鉛系電極を備えるセルについて、取り扱いが容易ではない場合がある。このようなセルでは通常、度々沈殿を示す二価Zn2+イオンを伴う電解質が必要とされる。ゲル化電解質の製造中には、亜鉛イオンはアニオン性であるためにカルボキシメチルセルロースナトリウムと相互作用し得、これにより、凝集及び沈殿が生じてしまう。その結果、添加され得る亜鉛塩の濃度が限定されてしまい、ゲル、特にヒドロゲルの形成は不可能であるか、又は、極めて限られた範囲でのみ可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、向上したヒドロゲル電解質及びその調製プロセスを提供することを目的とする。ヒドロゲルは最適なイオン伝導性を実現するべきである一方で、他方では、ヒドロゲルは、必要な機械特性、特に充分な機械的安定性を有するべきである。好ましくは、ヒドロゲル電解質を、異なるタイプの電気化学セルに、例えば少なくとも部分的に印刷プロセスにより調製されたセルに組み込むことが可能であるべきである。電解質ヒドロゲルにより、高濃度の電解活性物質、すなわち伝導性塩が可能となるべきである。対応するイオンは水性マトリックス中を自由に移動可能となり、これにより、ヒドロゲル電解質の向上したイオン伝導性がもたらされるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、独立請求項に定義されている、電解質ヒドロゲル、及び、このような電解質ヒドロゲルの調製プロセス、及び、このような電解質ヒドロゲルを含む電気化学セル、及び、このような電気化学セルの製造プロセスにより解決される。本発明の好ましい実施形態は従属請求項からもたらされる。
【0014】
本発明に係る電解質ヒドロゲルは主に、電気化学セルにおける使用が意図されている。電解質ヒドロゲルは、好ましくは、架橋ノニオン性ポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中の塩を含むセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づくものである。
【0015】
本発明の文脈においては、以下の定義が適用される。
-ノニオン性ポリマーは、カルボキシレート基又はアンモニウム基といったアニオン性基又はカチオン性基を含まないポリマーである。通常、ノニオン性ポリマーは中性pHで荷電していない。
-カチオン性ポリマーは、アンモニウム基といったカチオン性基を含むポリマーである。通常、カチオン性ポリマーは、中性pHで正電荷である。
-水性溶剤及び/又は分散剤は、水を少なくとも50重量パーセントの量で含有する。好ましくは、水性溶剤及び/又は分散剤は水である。電解質ヒドロゲルは、例えば、水性溶剤及び/又は分散剤中に可溶である塩、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中に単に分散性である他の成分といった成分を含有し得るために、「溶剤及び/又は分散剤」という表記が用いられる。
-「架橋ポリマー」又は「架橋性ポリマー」という用語は、それぞれ、架橋官能基又は架橋性官能基を含有するポリマーを指す。架橋性は、例えばカチオン性、アニオン性又はフリーラジカル反応を介して生じ得る。フリーラジカル反応については、架橋性官能基は、例えばアクリレート基であり得る。
-「塩」という用語はまた、2つ以上のタイプの塩の2種以上の塩の混合物を含んでいてもよい。
【0016】
本発明に係る電解質ヒドロゲルの特定の利点は、電解質ヒドロゲルの形成中に、電解質ヒドロゲル中に凝集又は沈殿が生じないことである。これは、架橋性ノニオン性ポリマーに加えて、カチオン性ポリマーの使用に起因すると考えられる。ヒドロゲルにおいては、イオン性ポリマーが埋め込まれたマトリックスを架橋ノニオン性ポリマーが形成する。埋め込まれたポリマーのカチオン性の性質により、極めて安定で不活性な電解質ヒドロゲルが生成可能である。これにより、マトリックス、すなわち、電解質ヒドロゲル中における塩のイオンの良好な易動性が保障され、従って、電解質の良好なイオン伝導性が保障される。
【0017】
しかも、本発明では、電解質ヒドロゲル中における高濃度の塩の使用が可能とされる。また、電気化学プロセス中における、電極マトリックス中、並びに、電極と、ゲル電解質及び電解質ヒドロゲルのそれぞれとの界面相中におけるイオンの濃度勾配を低減可能であるか、最低限とすることが可能であり、これにより、電気化学的観点における、得られる電気化学セルの特性がさらに向上する。
【0018】
電解質ヒドロゲルは固体様セルフスタンディング性の挙動を示す。これは、ヒドロゲルの形成及び架橋性プロセスの最中に、ヒドロゲルは流体から固体様状態に変化することを意味し、これは種々のバッテリーシステムにおける本発明に係る電解質ヒドロゲルの多くの用途に特に適切である。
【0019】
特に好ましい実施形態において、本発明の電解質ヒドロゲルは、亜鉛塩を伴う電解質系を含む電気化学セルにおいて使用されるためのものである。
【0020】
しかも、特に好ましい実施形態において、本発明の電解質ヒドロゲルは、少なくとも1つの亜鉛電極を有する電気化学セルにおいて使用されるためのものであり、ここで、好ましくは、亜鉛電極は、負極であると共に、好ましくは、粒子状亜鉛又は粒子状金属亜鉛合金である活性材料を含み、例えば亜鉛-二酸化マンガンセルである。より好ましくは、電気化学セルは、亜鉛電極との組み合わせで亜鉛塩を含む電解質系を含む。
【0021】
一般に、本発明に係る電解質ヒドロゲルに使用され得るノニオン性ポリマーは、相互に共有結合した直鎖高分子主鎖から組成される。このマクロ構造は、所望の特性に応じて異なる戦略で形成することが可能である。戦略のほとんどは、ポリマーがノニオン性及び水溶性である限りにおいてはこの系に適用が可能である。戦略は、三次元構造の合成に関連する化学に応じて2つの主なグループに分けることが可能である。
【0022】
最初のグループは、高架橋ネットワークを得るための、二官能性又は多官能性(マクロ)モノマー又はこれらの組み合わせでもあり得る多官能性ポリマーのフリーラジカル重合に関する。しかも、ポリマーの多官能性部分は、単官能性(マクロ)モノマーと混合されていてもよく、及び/又は、これで部分的に置き換えられていてもよい。この戦略では、外部刺激(例えば熱、放射線、プラズマ又はレドックス反応)を介して重合反応を開始する開始剤が必要とされる。この戦略は、ネットワーク構造(メッシュサイズ)を変更するが同一の合成プロセスに包含される一連の変形を含む。
【0023】
第2のグループは、架橋剤を伴う付加反応による多官能性部分の架橋に関する。これらの反応では必ずしも開始剤が必要ではないが、メカニズムは、反応媒体に既に存在する化学的刺激(例えばpH)を必要とする。外部刺激は必ずしも必要ではないが、熱が反応を促進させ得る。上記のフリーラジカル重合と同様に、数々の変形がこの合成プロセスで可能である。
-多官能性部分の性質:この要素は4つ以上官能基を有しているべきである。好ましくは、これは、繰返し単位中に官能性側基を有するポリマーである。
-架橋剤の性質:好ましくは、これは、少なくとも2種の反応性基分子及び/又は低分子量ポリマーである。
【0024】
以下の非限定的なリストは、反応性基に応じて官能性ポリマー(又はマクロモノマー)のいくつかのファミリーを要約したものである。これらのポリマーは、フリーラジカル重合により架橋され得る。
・アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド及びメタクリルアミド:
-単官能性:ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリルアミド。
-二官能性:N,N’-メチレンビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリルアミド
-多官能性:(メタ)アクリレート化多糖類(修飾により得られる);4,6及び8アームポリエチレングリコール(メタ)アクリレート
・ビニル及びアリル:
-単官能性:4-ビニルピリジン、ビニルピロリドン、アリルアミン、ポリエチレングリコールメチルビニル(アリル)エーテル
-二官能性:ポリエチレングリコールジビニル(アリル)エーテル。
-多官能性:ビニル(アリル)多糖類(修飾が必要)。
二官能性又は多官能性ポリマーもまた架橋剤として使用し得る。
【0025】
以下の開始剤が使用され得る。
-熱開始剤:4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(V-501);2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086);2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩化水素化物(VA-044);2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061);2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物(V-50);2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物(V-057);過硫酸カリウム(KPS)。
-UV開始剤:2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン(Irgacure184)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン(Irgacure369)、2-メチル-4’(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure907)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure651)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)、VA-086
-レドックス開始剤:過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム(NaPS)
【0026】
以下のポリマーは付加反応により架橋され得る。
・多官能性ポリマー
-ポリ(ビニルアルコール)
-ポリ(アリルアミン)
-ポルカーボハイドレート(Polcarbohydrate):セルロース及びその誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、デキストラン、グリコサミノグリカン、ガム(アラビア、グアー)、キトサン、アミロース及びアミノペクチン、カラゲーナン、デンプン
-タンパク質:膠
【0027】
以下の架橋剤が使用され得る。
-ビニルスルホン:ジビニルスルホン及びビニルスルホン末端PEG。
-グリシジル:エピクロロヒドリン及びグリシジル末端ポリエチレングリコール。
-ジアルデヒド:グルタルアルデヒド、マロンジアルデヒド、アルデヒド末端PEG。
-無水物:1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(BTCA)、コハク酸無水物、クエン酸。
-ジチーオル
【0028】
ノニオン性ポリマーに関して、本発明に係る電解質ヒドロゲルは、好ましくは、以下の追加の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる。
a.ノニオン性ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)又はその誘導体である。
b.ノニオン性ポリマーはジアクリレート-ポリエチレングリコール(PEGDA)である。
【0029】
PEGは、モノマーであるエチレンオキシドから構成されている。好ましくは、ポリエチレングリコールは低分子量のポリエチレングリコールである。この文脈において、300~1500g/molの範囲内の分子量のポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0030】
PEGDAは、架橋後にヒドロゲルを形成可能である架橋性官能基(アクリレート基)を有するポリエチレングリコールの誘導体である。本発明に係るプロセスにおいて、比較的低分子量のPEGDAが好ましく、特に300~1500g/molの範囲内の分子量のPEGDAが好ましい。
【0031】
PEGDAは、式:
【化1】
により記載可能であり、nの大きさに応じて、モノマーの長さ、それ故、分子量が異なる。好ましい実施形態において、5~20のnを有するPEGDAが用いられる。n=15が特に好ましい。
【0032】
本発明の電解質ヒドロゲル中のカチオン性ポリマーに関して、電解質ヒドロゲルは、好ましくは、以下の追加の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる。
a.カチオン性ポリマーは高分子主鎖及びカチオン性官能基を含む。
b.カチオン性ポリマーは、カチオン性官能基を含有するセルロースである。
c.カチオン性官能基は第四級アンモニウムカチオンである。
d.カチオン性ポリマーは、第四級アンモニウムカチオンを含有するヒドロキシエチルセルロースエトキシレートである。
e.カチオン性ポリマーは、トリアルキルアンモニウム基でカチオン置換されたヒドロキシエチルセルロースである。
【0033】
原理上は、種々のカチオン性ポリマーが、本発明に係る電解質ヒドロゲルの調製に好適である。カチオン性ポリマーに係る可能な高分子主鎖は、特に、多糖類(例えばセルロース、キトサン、デンプン、ゴム等)、又は、ポリビニル、又は、ポリアリル、又は、ポリエーテル、又は、ポリアミン、又は、ポリアクリレート、又は、ポリアクリルアミド、又は、ポリメタクリレート、又は、ポリメタクリルアミド、又は、ポリウレタン、又は、ポリカーボネート、又は、ポリアミド、又は、ポリエステルである。
【0034】
可能なカチオン性基は、例えば、アルキル残基(メチル、エチル等)若しくはアルコキシ残基を有する四置換アンモニウム、又は、ピリジニウム、又は、イミダゾリウム、又は、トリアゾリウム、又は、ピロリジニウム、又は、ピペリジニウム、又は、モルホリニウム、又は、グアニジウム、又は、アルキル残基(メチル、エチル等)若しくはアルコキシ残基を有する四置換ホスホニウム塩である。カチオン性ポリマーのカチオン性基に係る対イオンとしては、Cl-若しくはBr-若しくはI-などのハロゲンイオン、又は、スルホネート若しくはスルフェート若しくはメチルスルホネート若しくはトリフレート、又は、例えばアセテート残基を伴うカルボキシレートを使用可能である。
【0035】
いくつかの場合において、官能基は、好適なスペーサを介して高分子主鎖に結合している。好適なスペーサは、例えば、追加のC原子を有するメチル、エチル又はアルキル基に基づくアルキルスペーサである。さらに好適なスペーサは、エチレンオキシドスペーサ、又は、チオエーテルスペーサ、又は、エステルスペーサ、又は、アミドスペーサである。
【0036】
本発明に係る電解質ヒドロゲルの特に好ましい実施形態において、カチオン性ポリマーは、カチオン性官能基を含有するセルロース、特にカチオン性官能基として第四級アンモニウムカチオンを含有するセルロース(第四級セルロース)である。本発明者らは、トリアルキルアンモニウム基、特にトリメチルアンモニウム基又はトリエチルアンモニウム基でカチオン置換されたヒドロキシエチルセルロースで特に良好な結果を示すことが可能であった。意外なことに、このようなカチオン性セルロースで極めて均質な電解質ヒドロゲルを生成可能であった。
【0037】
電解質系及び塩に関して、本発明に係る電解質ヒドロゲルは、好ましくは、以下の追加の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる。
a.電解質ヒドロゲルは中性電解質系に基づいている。
b.塩は亜鉛塩である。
c.塩は塩化物である。
d.塩はZnCl2である。
「中性電解質系」とは、電解質ヒドロゲル又はヒドロゲルを形成する組成物中におけるpH値が、中性pH(pH7)又は中性に近いpH、例えばpH6.5~pH7.5であることを意味する。
【0038】
中性電解質系の好ましい塩は亜鉛塩である。本発明者らにより行われた実験において、得られる電気化学セルの電気化学的特性に関して塩化亜鉛が特に有利であることが示されたため、主に好ましくは、塩化亜鉛(ZnCl2)である。
好適な塩化物系の塩の他の例は塩化アンモニウムであり、これもまた好ましい場合がある。
【0039】
電解質ヒドロゲルが中性電解質系に基づく場合、架橋性ノニオン性ポリマーに追加して、好ましくは、カチオン性セルロースがカチオン性ポリマーとして用いられる。
【0040】
中性電解質系の使用が特に好ましい。特に好ましい実施形態において、中性水性電解質の塩は上記の特徴b.及びc.に従い塩化亜鉛であり、これは、得られるセルの電気化学的特性に関して塩化亜鉛が特に有利であることが示されたためである。
【0041】
それにもかかわらず、アルカリ性電解質系を本発明に係る電解質ヒドロゲルに適用することも可能である。「アルカリ性電解質系」とは、電解質ヒドロゲル又はヒドロゲルを形成する組成物中におけるpH値が、中性pH(pH7)よりも高い、すなわち、pH7.5超であることを意味する。
【0042】
それ故、本発明に係る電解質ヒドロゲルは、以下の追加の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられることもまた好ましい場合がある。
a.電解質ヒドロゲルはアルカリ性電解質系に基づいている。
b.塩は金属水酸化物である。
c.金属水酸化物はKOH又はNaOH又はLiOH又はCaOH2であり、好ましくはKOHである。
【0043】
主に好ましくは、アルカリ性電解質系中の塩としてKOHである。
架橋に係る上記の戦略はすべて、本発明に係るセルフスタンディング性電解質ヒドロゲルの合成を可能とする。しかしながら、電解質系(中性又はアルカリ性)によっては、架橋性ノニオン性ポリマーに関して、特に水溶液のpHによって、いくつかの制限を加えなければならない場合がある。
-中性:ほとんどの水溶性ポリマーはこの媒体と適合性であり、従って、フリーラジカル重合メカニズム(熱、UV、プラズマ、レドックス等)に制限はない。しかしながら、付加反応は、特定のpH(酸又はアルカリ性)又は触媒の存在が必要とされることから好適ではない。
-アルカリ性:この場合、フリーラジカル重合及び付加反応の両方の反応メカニズムで、ヒドロゲルをもたらす実現可能な例がいくつか存在する。しかしながら、アルカリ性媒体では、化学安定性及び/又は反応メカニズムによって使用可能な材料が制限されてしまう。
【0044】
すべての材料及び反応メカニズムが中性及びアルカリ性電解質系の両方に好適であるわけではない。以下の表は、水性媒体による上記の成分の分類を示す。
【0045】
【0046】
本発明の電解質ヒドロゲルは半相互侵入高分子網目構造に基づいている。このネットワーク自体は架橋ノニオン性ポリマー、例えばPEGDAにより形成されている。カチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性セルロースは、ネットワークに浸透する相互侵入成分である。この半相互侵入高分子網目構造は、電解質のイオン、特に亜鉛イオン及び各対イオン(これらは、得られる電気化学セルの電気化学プロセスに関して電解質ヒドロゲルの好ましい電解活性種である)に対するマトリックスを形成する。本発明の中心的な態様は、カチオン性官能基を有するポリマーが相互侵入成分として用いられていることである。半相互侵入高分子網目構造の相互侵入成分としての、カチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性セルロースの使用は、塩化亜鉛といった亜鉛塩又は金属水酸化物化合物について特に有利である。特に、本発明に係る電解質ヒドロゲルの設計は電解質ヒドロゲルにおいて凝集又は沈殿をもたらすことはなく、従って、高濃度の塩が許容される。
【0047】
本発明者らは、本発明に係る電解質ヒドロゲルの形成プロセスは、極めて有利で、セルフスタンディング性で、軟質で、且つ、同時に固体であるヒドロゲルであって、一方で得られる電気化学セルのエネルギー貯蔵機能に非常に良好な電気化学的特性を示すと共に、他方では、例えば多岐にわたる用途のための平面及び薄型電気化学セルの形成に非常に好適となる好適な機械特性を有するヒドロゲルの形成に使用可能であることを示すことが可能であった。
【0048】
さらに、本発明は、上記に記載されている電解質ヒドロゲルの調製プロセスを含む。このプロセスは、以下の:
a.組成物であって、
i.架橋性ノニオン性ポリマーと、
ii.カチオン性ポリマーと、
iii.水性溶剤及び/又は分散剤と、
iv.水性溶剤及び/又は分散剤に溶解した塩と
を含む組成物を提供するステップ;
b.組成物の層を支持体上に形成するステップ;並びに
c.層を、ノニオン性ポリマーの架橋が生じるように処理し、これにより、電解質ヒドロゲルをセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づいて形成するステップ
により特徴付けられる。
【0049】
それ故、本発明に係る方法によれば、電解質は、ノニオン性ポリマーの架橋が生じるように層を処理することにより得られ、ここで、架橋によりヒドロゲルの形成がもたらされる。架橋ポリマーによる層は、電気化学セルのイオン伝導性電解質として特に好適であると共に有用である。
【0050】
組成物の成分のさらなる詳細に関して、すなわち、架橋性ノニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、溶剤及び/又は分散剤、並びに、塩に関しては、上記の記載を参照されたい。
【0051】
支持体に対する層の適用は、異なる方法により、例えば、ドクターブレードを用いたコーティングステップにより、又は、組成物の支持体上への吹付けにより達成可能である。特に好ましい実施形態において、支持体に対する層の適用は、印刷プロセスにより行われる。一般に、印刷プロセスでは、平坦な領域又は非常に狭く確定された領域を、極めて実用的な方法でコーティングすることが可能である。それ故、好ましくは、支持体に対する層の適用は、印刷プロセスにより、好ましくはスクリーン印刷プロセスにより達成される。
【0052】
好ましくは、層は、1mmの未満の厚さで、特に1μm~750μm、好ましくは50μm~600μm、より好ましくは100μm~450μmの範囲内の厚さで支持体上に調製される。
【0053】
本発明に係るプロセスの特に好ましい実施形態において、ゲル電解質用の組成物を支持体上に付着させた後であって、架橋の前に湿潤化ブレイク(wetting break)を実行する。これは、特に、支持体が、電気化学セルの少なくとも1つの負極及び/又は少なくとも1つの正極である場合に適用される。湿潤化ブレイクの最中に、新たに塗布された電解質ヒドロゲル用の組成物は、支持体を充分に濡らすことと共に浸透することが可能である。この目的のために、例えば1分間~10分間、好ましくは5分間といった数分間の時間を設定可能である。
【0054】
組成物を支持体に付着させた後、及び、場合により、湿潤化ブレイクの後に、組成物中に架橋を形成する処理が、ノニオン性ポリマーを架橋することにより実行される。
【0055】
組成物中の架橋性ノニオン性ポリマーの濃度に関して、本発明に係るプロセスは、特に好ましい実施形態において、以下の追加の特徴により特徴付けられる。
a.組成物中のノニオン性ポリマー、特にポリエチレングリコールの濃度は、1重量%~25重量%の範囲内、好ましくは5重量%~15重量%の範囲内、より好ましくは10重量%である。
【0056】
組成物中のカチオン性ポリマーの濃度に関して、本発明に係るプロセスは、好ましくは、以下の特徴により特徴付けられる。
a.組成物中のカチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性セルロースの濃度は、0.1重量%~10重量%の範囲内、好ましくは1重量%~7重量%の範囲内、より好ましくは3重量%~4重量%の範囲内である。
【0057】
本発明者らは、10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースを含有する組成物による電解質ヒドロゲルの形成において特に良好な結果を達成することが可能であった。
【0058】
塩の濃度に関して、塩のタイプに応じて、本発明に係るプロセスは、好ましくは、以下の追加の特徴:
a.塩は亜鉛塩、好ましくはZnCl2であり、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中の塩の濃度は、0.1M~2.5M、好ましくは0.5M~1.5Mの範囲内、より好ましくは1Mである;又は
b.塩は金属水酸化物、好ましくはKOH又はNaOH又はLiOH又はCaOH2であり、並びに、水性溶剤及び/又は分散剤中の金属水酸化物の濃度は、0.1M~10M、好ましくは0.5M~7M、より好ましくは4M~6Mの範囲内、もっとも好ましくは4Mである
の1つにより特徴付けられる。
【0059】
本発明者らは、1Mの塩化亜鉛(ZnCl2)を、10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで含有する電解質ヒドロゲル用の組成物で特に良好な結果を達成した。
【0060】
特に好ましい実施形態において、本発明に係る方法は、以下の特徴:
a.ノニオン性ポリマーの架橋は、熱処理及び/又はレドックス処理及び/又はプラズマ処理及び/又は化学処理、特に、pH処理により実行される;
b.架橋性は、放射線処理、特にUV処理により実行される
の少なくとも1つにより特徴付けられる。
【0061】
原理上は、ノニオン性ポリマーの架橋、それ故、電解質ヒドロゲルの形成は、異なる方法で実施が可能である。例えば、前記熱処理及び/又はレドックス処理及び/又はプラズマ処理及び/又は化学処理、例えばpH処理をこの目的のために実行可能であり、これにより、これらの処理は、好ましくは、電解質ヒドロゲル用の組成物を支持体上に付着させた後であって、それぞれ、組成物の支持体への塗布後に実行される。
【0062】
本発明に係るプロセスの特に好ましい実施形態において、架橋は、放射線処理、特にUV処理により実行される。
【0063】
一般に、架橋は、ノニオン性ポリマー画分の分子内及びその間においてのみ生じ、カチオン性及びノニオン性ポリマー間に架橋相互作用は存在しない。
【0064】
放射線処理、特にUV処理の場合、本発明に係る方法は、好ましくは、以下の特徴:
a.組成物は光開始剤を含み、及び、架橋は、UV処理により実行される;
b.光開始剤は水溶性光開始剤である;
c.光開始剤は、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンである
の少なくとも1つにより特徴付けられる。
【0065】
特に好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲル用の組成物は光開始剤を含み、ここで、好ましくは、架橋はUV処理により実行される。この好ましい実施形態は、架橋は非常に迅速に行われ、これにより、組成物を支持体に付着させた後であって、架橋が完了する前における電解質の乾燥が最低限となるという特定の利点を有する。
【0066】
光開始剤2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンは、商品名Irgacure(登録商標)で入手可能である。特に、Irgacure(登録商標)D-2959は、本発明者らによる実験において非常に良好な結果をもたらした。それにもかかわらず、他の架橋剤、及び、特に他の光開始剤を使用し得、好ましくは水溶性光開始剤を使用し得る。
【0067】
光開始剤の好ましい濃度に関して、本発明に係るプロセスは、好ましくは、以下の追加の特徴:
d.組成物中の光開始剤の濃度は、0.01重量%~1重量%、好ましくは0.05重量%~0.15重量%の範囲内、より好ましくは0.1重量%である
により特徴付けられる。
【0068】
本発明者らは、1Mの塩化亜鉛、10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで光開始剤の濃度が0.1重量%であった組成物による電解質ヒドロゲルの形成に関して、特に良好な結果を達成することが可能であった。
【0069】
本発明の他の実施形態において、電解質ヒドロゲルを形成するための組成物は、光開始剤ではなく、硬化系に応じて異なる開始剤(例えば、熱又はレドックス刺激との併用)又は架橋剤(例えばpH刺激との併用)を含む。
【0070】
例えば、本発明者らは、1Mの塩化亜鉛、10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで、熱開始剤、特に2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物の濃度が0.1重量%であった組成物をそれぞれ架橋する熱重合による電解質ヒドロゲルの形成に関して、良好な結果を達成することが可能であった。熱処理は、50~80℃、例えば65℃で、約10~30分間、例えば15分間、例えばオーブン中において行われ得る。
【0071】
架橋剤が組成物に含まれる場合、架橋剤の濃度は、好ましくは0.1重量%~10重量%の範囲内、より好ましくは1重量%~5重量%の範囲内、さらにより好ましくは2重量%~4重量%の範囲内である。いくつかの実施形態における架橋剤の性質に応じて、アクリルアミド(ノニオン性ポリマー)と組み合わせた、例えばN,N-メチレンビスアクリルアミドといった架橋剤の1重量%の濃度が好ましい場合がある。
【0072】
例えば、本発明者らは、4 KOH、2重量%のセルロース誘導体(ノニオン性ポリマー)、特にヒドロキシエチルセルロース、及び、3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで、架橋剤、特にエピクロロヒドリンの濃度が2重量%である組成物をそれぞれ架橋するpH媒介重合による、アルカリ性電解質系を伴う電解質ヒドロゲルの形成に関して、良好な結果を達成することが可能であった。アルカリ性媒体中における架橋は、約10~45分間以内、例えば30分間以内で終了し得る。
【0073】
しかも、本発明者らは、4 KOH、10重量%のアクリルアミド(ノニオン性ポリマー)、及び3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで、熱開始剤、特に過硫酸カリウムの濃度が0.1重量%であると共に、架橋剤、特にN,N-メチレンビスアクリルアミドの濃度が1重量%であった組成物をそれぞれ架橋する熱重合によるアルカリ性電解質系を伴う電解質ヒドロゲルの形成に関して、良好な結果を達成することが可能であった。熱処理は、50~80℃、例えば65℃で、約10~30分間、例えば15分間、例えばオーブン中において行われ得る。
さらなる例示的な開始剤及び架橋剤は既に上記に記載されている。
本発明の電解質ヒドロゲルは、好ましくは、上記のプロセスにより入手可能である。
【0074】
本発明の電解質ヒドロゲルの好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲル中のノニオン性ポリマーの濃度、特にポリエチレングリコールの濃度は、1重量%~25重量%の範囲内、好ましくは5重量%~15重量%の範囲内、より好ましくは10重量%である。
【0075】
本発明の電解質ヒドロゲルの好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲル中のカチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性セルロースの濃度は、0.1重量%~10重量%の範囲内、好ましくは1重量%~7重量%の範囲内、より好ましくは3重量%~4重量%の範囲内である。
【0076】
本発明の電解質ヒドロゲルの特に好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲルは、10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースを含有する。
【0077】
塩が亜鉛塩、好ましくはZnCl2である場合、本発明の電解質ヒドロゲルの好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲル中の塩の濃度は、0.1M~2.5M、好ましくは0.5M~1.5Mの範囲内、より好ましくは1Mである。
【0078】
本発明者らは、1Mの塩化亜鉛(ZnCl2)を10重量%のPEGDA及び3重量%のカチオン性セルロースとの組み合わせで含有する電解質ヒドロゲルで特に良好な結果を達成した。
【0079】
塩が水酸化物塩、好ましくはKOH又はNaOH又はLiOH又はCaOH2である場合、本発明の電解質ヒドロゲルの好ましい実施形態において、電解質ヒドロゲル中の塩の濃度は、0.1M~10M、好ましくは0.5M~7M、より好ましくは4M~6Mの範囲内である。
【0080】
さらに、本発明は、以下の特徴:
a.電気化学セルは、少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を備える;並びに
b.このセルは上記の電解質ヒドロゲルであるイオン伝導性電解質を含む
を有する電気化学セルを含む。
【0081】
上記の特徴b.によれば、電解質ヒドロゲルは、架橋ノニオン性ポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに、塩、好ましくは亜鉛塩又は水酸化物塩を含むセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づくものである。ZnCl2といった亜鉛塩、又は、KOH若しくはNaOH若しくはLiOH若しくはCaOH2といった水酸化物塩が特に好ましい。より好ましくは、電解質ヒドロゲルは、架橋ポエチレングリコールジアクリレート及び第四級セルロース及び亜鉛塩又はヒドロキシ塩を有するセルフスタンディング性ポリマーネットワークに基づいている。
【0082】
好ましくは、本発明に係る電気化学セルの電解質ヒドロゲルは、上記のとおり調製される。
【0083】
好ましくは、電気化学セルの電極は非導電性支持体上に配置される。
【0084】
好ましい実施形態において、本発明に係る電気化学セルは共面構成で電極を有するセルであり、ここで、電解質ヒドロゲルは電極を覆う層を形成する。他の好ましい実施形態において、電気化学セルはスタック構成の電極を備え、ここで、電解質ヒドロゲルは、スタック中の反対極性の電極を分離する1つ以上の層を形成する。
【0085】
電極のスタック構成の利点は、電気化学セルがより強い電流を供給可能であることである。
【0086】
従って、本発明に係る電気化学セルの特に好ましい実施形態において、電気化学セルは、以下の特徴a.~e.:
a.セルは、非導電性支持体上に、少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を共面構成配置で備える;
b.セルは、少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極をスタック構成で備え、電解質ヒドロゲルは、スタック中の反対極性の電極を分離する1つ以上の層を形成する;
c.少なくとも1つの負極及び/又は少なくとも1つの正極は、印刷プロセスにより形成された電極である;
d.セルは、少なくとも1つの負極に接続する第1の導電体及び少なくとも1つの正極に接続する第2の導電体を備える;
e.セルは、電極及び電解質ヒドロゲルを収容する筐体を備える
の少なくとも1つにより特徴付けられる。
【0087】
負極及び正極が共面構成で支持体上に配置されている場合、電極間の距離は、例えば、1μm~10mmであることが可能である。100μm~1mmの範囲内の距離が特に好ましい。電気化学プロセス中の電極間のイオン伝導性は、少なくとも部分的に、及び、より好ましくは完全に電極を覆うことが好ましい電解質ヒドロゲルによって達成される。電解質ヒドロゲルは電極の表面から突出して設けられていてもよい。電極の共面構成では、電気化学セルの特に平坦な設計が可能である。
【0088】
前述の特徴b.に係るスタック構成で負極及び正極を備える電気化学セルの実施形態においては、追加のセパレータが電極間に配置されていることが好ましい場合がある。このセパレータは、ヒドロゲルが突出することが可能である細孔又は空隙部を含有することが好ましい。代替的な実施形態においては、例えばセラミック性質の非導電性粒子又は繊維を、ヒドロゲルの調製用の組成物に添加することが可能である。これらの粒子及び/又は繊維は、ヒドロゲルの層に機械的耐性及び強度をもたらすことが可能である。
【0089】
上記の特徴d.によれば、電気化学セルは、好ましくは、電極に接続する導電体を備える。これらは、非導電性支持体に対するメタライゼーションにより適用される伝導性のフォイル、例えば金属フォイル、又は、金属層であることが可能である。他の実施形態において、導電体は、例えば銀粒子を含有する印刷可能なペーストを用いることにより、印刷プロセスで適用することも可能である。フォイル、好ましくは、プラスチックフォイルが、支持体として特に好適である。
【0090】
前述の特徴e.に係る筐体は、好ましくは、フィルムを含むか、又は、フィルム、例えばプラスチックフィルム若しくは多層プラスチック-金属-複合体フィルムから構成されている。
【0091】
好ましい実施形態において、本発明に係る電気化学セルは、以下の追加の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる。
a.少なくとも1つの負極は、層として形成されると共に、粒子状金属亜鉛又は粒子状金属亜鉛合金である活性材料を含み、及び、好ましくは、弾性バインダ又は弾性バインダ混合物をさらに含む;
b.少なくとも1つの正極は、層として形成されると共に、粒子状金属酸化物、好ましくは二酸化マンガンである活性材料を含み、並びに、好ましくは、弾性バインダ若しくは弾性バインダ混合物、及び/又は、少なくとも1つの正極の導電性を向上するために、少なくとも1種の添加剤をさらに含む;
c.電気化学セルは亜鉛-二酸化マンガンセルである。
好ましい実施形態において、上記の特徴a.~c.は組み合わせで実現される。
【0092】
好ましくは、前述の特徴a.及びb.に係る電極を有する本発明に係る電気化学セルの電解質ヒドロゲルは、溶解した塩化亜鉛又は塩化アンモニウム又はKOHといった金属水酸化物を含有する。
【0093】
電極に好適なバインダ又はバインダ混合物は当業者に公知である。負極は、例えば、バインダ又はバインダ混合物として、セルロース及びその誘導体、特にカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリレート(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ-トリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、並びに、上記の材料の混合物を含む群の少なくとも1つの構成要素を含んでいてもよい。
【0094】
正極は、例えば、弾性バインダ又はバインダ混合物として、セルロース及びその誘導体、特にカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリレート(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及び、上記の材料の混合物を含む群の少なくとも1つの構成要素を含んでいてもよい。
【0095】
例えば、セルロース誘導体とSBRとの組み合わせを、負極及び/又は正極用のバインダ混合物として使用することが可能である。例えば、正極及び負極は、0.5重量%~5重量%のカルボキシメチルセルロース、及び/又は、0.5重量%~10重量%のSBRを含有し得る。
【0096】
少なくとも1つの正極の導電性を向上させるための添加剤は、活性炭素、活性炭素繊維、カーバイド由来の炭素、炭素エアロゲル、グラファイト、グラフェン及びカーボンナノチューブ(CNT)を含んでいてもよい。
【0097】
電気化学セルの特に好ましい実施形態において実現される亜鉛-酸化マンガンセルは特に有利である。これにより、低コストのセルの製造が可能となり、安全上の理由でも、及び、環境面に関しても非常に有利である。
【0098】
本発明に係る電気化学セルは、例えば広く多様な消費財におけるセンサシステムのエネルギー供給といった、異なる種類のバッテリーシステムを含む広く多様な用途に好適である。
【0099】
本発明に係る電気化学セルは、特定のタイプのバッテリー又はエネルギー貯蔵システムに制限はされない。特に好ましくは、本発明に係るセルは印刷電気化学セルである。すなわち、セルの少なくとも1つの機能性部分、例えば電極又はイオン伝導性電解質を形成する電解質ヒドロゲルの1つは、印刷プロセスにより形成される。それにもかかわらず、本発明の電解質ヒドロゲルはまた、円筒型セル又はボタン型セル又は角柱型セル又はバッテリーといった他のセルと連係して適用が可能である。この文脈において、「バッテリー」という用語は、エネルギー貯蔵要素の最小単位である複数の電気化学セルを含むことを意味する。バッテリーにおいては、2つ以上の電気化学セルが相互に電気的に接続されている。
【0100】
最後に、本発明は電気化学セルの製造プロセスを含む。このプロセスは、少なくとも1つの負極と、少なくとも1つの正極と、イオン伝導性電解質とによる電気化学セルの製造を指す。このプロセスの重要な態様は、セルのイオン伝導性電解質を生成する上記のプロセスに従って調製されるヒドロゲル電解質の調製である。
【0101】
本発明に係る電気化学セルの製造プロセスは、平面及び薄型、並びに、使用される支持体の種類に応じて、可撓性電気化学セルの調製に特に有用である。それにもかかわらず、円筒型又は角柱型セル又はバッテリーといった他のタイプの電気化学セルもまた提供可能である。普通、本発明に係る方法により入手可能である電気化学セル又はバッテリーは、非常に良好なエネルギー貯蔵特性により特徴付けられる。同時に、この電気化学セル又はバッテリーは本発明に係る電解質ヒドロゲルの設計により優れた機械特性を有し、これにより、セル又はバッテリーは多様な用途に好適となる。
【0102】
さらに、本発明に係る電気化学セルの製造プロセスは特に有利な方法で自動化に適しており、従って、このプロセスは、電気化学セルの特にコスト効率の高い大量生産に、特に好適である。
【0103】
好ましくは、電気化学セルは、印刷プロセスにより少なくとも部分的に製造される。本発明に係るプロセスが、印刷プロセスによる正極及び/又は負極の形成を含むことが特に好ましい。最新技術では、各電極用の対応する活性材料を含有する印刷可能なペースト又はインクに基づいて電極が製造される。例えば、亜鉛電極又は酸化マンガン電極を製造するためのペースト及びインクは、周知のルクランシェ系又はアルカリ性系で市販されている。印刷は、スクリーン印刷プロセスにより行われ得る。好ましくは、電極及びヒドロゲル電解質は共に印刷プロセスにより支持体に塗布され得る。
好ましくは、電気化学セルの支持体は非導電性支持体である。
【0104】
いくつかの実施形態において、電解質ヒドロゲルを形成するための組成物が支持体に直接適用され、次に架橋が達成され、次いで、架橋された層が製造されるセルの電極間に配置される。しかしながら、好ましい実施形態において、本発明に係る電解質の形成は、電極の少なくとも一方との直接的な接触で達成される。これらの事例においては、組成物の層を少なくとも1つの負極及び/又は少なくとも1つの正極上に直接付着させ、直後に、架橋が続くことが好ましい。
【0105】
好ましい実施形態においては、少なくとも1つの負極及び/又は少なくとも1つの正極が例えば共面構成で配置されている非導電性支持体が提供される。次いで、電解質層が電極上に形成される。
【0106】
本発明に係るプロセスの特に好ましい実施形態において、ゲル電解質用の組成物を支持体上に付着させた後であって、架橋の前に湿潤化ブレイクを実行する。これは、特に、支持体が、少なくとも1つの負極及び/又は少なくとも1つの正極である場合に適用される。湿潤化ブレイクの最中に、新たに塗布した電解質ヒドロゲル用の組成物は、支持体を充分に濡らすことと共に浸透することが可能である。この目的のために、例えば1分間~10分間、好ましくは5分間といった数分間の時間を設定可能である。
【0107】
組成物を支持体に付着させた後、及び、場合により、湿潤化ブレイクの後に、組成物中に架橋を形成する処理が、ノニオン性ポリマーを架橋することにより実行される。
【0108】
全体として、本発明に係るプロセスでは、特にコスト効率が高く、同時に、環境に優しく、資源を節約できる電気化学セルの製造が可能とされる。同時に、このプロセスは、実施が容易であり、工業規模で容易に実装が可能である。
【0109】
例えば、電極は、連続プロセスで、例えばプラスチックフォイルといった支持体上に、公知の方法で、例えば共面電極として印刷可能である。好ましい実施形態において、支持体は、その上に電極が印刷された導電体を備える。その後、電極を、電解質ヒドロゲル用の組成物により、例えば印刷プロセスで、又は、ドクターブレードを用いてコーティング可能である。その後、例えばUV光により架橋を行うことが可能である。スタック構成の電極を有するセルを製造するために、共面構成の電極を有する支持体を折り畳むことが可能である。
【0110】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面と併せて好ましい実施形態の以下の記載から読み取られる。個々の特徴は、個別に、又は、相互に組み合わせて実現することが可能である。
図面においては以下のように示されている。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【
図1】
図1は、共面構成の電極を有する電気化学セルの構造の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る電解質ヒドロゲルの調製に係るプロセスステップの例示である。
【
図3A-C】
図3A、3B、3Cは、本発明に係るセルの電気化学的特徴を例示するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
実施例
実施例I-UV重合による中性ヒドロゲル形成プロセス
【0113】
図1は、帯状の印刷正極11、特に亜鉛正極、及び、帯状の印刷負極12、特に炭素-二酸化マンガン負極を有するセル10の構造を概略的に示す。電極11及び12は、例えばプラスチックフィルムといった平坦な非導電性支持体13上に印刷される。電極11及び12の上には、本発明に係る平坦な電解質ヒドロゲル14が設けられており、ここで、電解質ヒドロゲル14は、電極11及び12の領域の両方、且つ、これらをわずかにさらに超えて延在する領域に位置されている。さらに、正極11及び負極12のそれぞれとの電気端子を形成する導電体15及び16が設けられており、これにより、負極及び正極を外部に導通して、電気消費体をこれらに接続することが可能である。
【0114】
このようなセル10のさらなる実施形態において、必要に応じて筐体を設けてもよい。例えば、両方の電極及び電解質ヒドロゲルを保護する筐体を支持体13と共に形成するさらなるプラスチックフィルム(図示せず)が設けられていてもよい。
【0115】
図2は、本発明に係る電解質ヒドロゲルの調製に係る個々のプロセスステップを例示する。先ず、電解質ヒドロゲルの調製用の組成物100を調製し、混合した(ステップA)。好ましい例におけるこの初期溶液(EPS)組成は以下のとおりであり、ここで、溶剤として水を用いた。
-カチオン性セルロース 3重量%
-PEGDA 10重量%
-光開始剤(Irgacure(登録商標)) 0.1重量%
-ZnCl
2 1M
【0116】
用いたカチオン性セルロースは第四級ヒドロキシエチルセルロースエトキシレート(商品名Polyquaternium-10、Sigma-Aldrich,US)であった。用いたPEGDAは、700g/mol分子量(Sigma-Aldrich,US)(n=15)であった。用いた光開始剤は2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Sigma-Aldrich,US)であった。成分を水溶液中で一緒にして組成物100を形成し、磁気ミキサ102上のビーカ101中において均質になるまで撹拌した。次のステップは、コーティングプロセス(ステップB)であった。平坦キャリア103上において、支持体13として正極11を設けた。組成物100を、スキージ104により電極11上に均一に延展した。
【0117】
この目的のために、50mm/minのコーティング速度に設定した。達成したコーティング厚は、150~750μmの範囲内であった。コーティングした正極11を5分間静置して、組成物100に対して充分な濡れと浸透を達成した(湿潤化ブレイク)。その後、UV処理を5分間、35~40W/cm2で行った(正極11のサイズ:14~16cm2)。BSM-03照射チャンバ(UV-Messtechnik Opsytec Dr.Groebel GmbH,DE)を照射に用いた。短時間の内に、形成している電解質ヒドロゲル中の架橋が完了した(ステップC)。ヒドロゲル14は正極11上の半透明層の外観を呈していた。セルを調製するために、さらなるステップにおいて、ヒドロゲル層14上に負極を印刷することが可能である。
【0118】
このようにして製造したセル10を、その電気化学的特性に関してさらに調べた。特に、セルを以下により特徴付けた:(i)定電流条件下での放電(50μA)、(ii)パルス電流放電条件下での放電(6秒間の間100μW、続いて、開回路電圧で30秒間の休止)、(iii)充電/放電サイクル条件下での容量変化(各サイクルにおける充電又は放電毎に1時間の間50μW)。
図3Aは、システムは、定電流条件下で放電された場合に16mAhの容量を提供することが可能であることを示す(ボルト対容量(mAh))。
図3Bは、システムは、約2mAhの全体容量を示すパルス電流条件下で、16,800サイクルを提供可能であることを示す(ボルト対時間(h))。
図3Cは、600時間までの可逆性を示す異なるサイクルでのシステムの充電/放電プロファイルを示す(ボルト対時間(h))。全体として、計測データは、本発明に係る電解質ヒドロゲルで製造可能であるセルの非常に良好な電気化学的特性を証明した。
【0119】
実施例II-熱重合による中性ヒドロゲル形成プロセス
【0120】
熱重合による中性電解質ヒドロゲルの形成について、光開始剤を熱開始剤により置き換えたことを除き実施例Iにおけるものと同一の化合物を初期溶液(EPS)に用いた。それ故、初期溶液は以下のとおりであり、ここでは、水を溶剤として用いた。
-カチオン性セルロース 3重量%
-PEGDA 10重量%
-熱開始剤 0.1重量%
-ZnCl2 1M
用いた熱開始剤は、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物(Sigma-Aldrich,US)であった。
【0121】
実施例Iと同様に混合及びコーティングした後、コーティングした正極を5分間静置して、組成物に対して充分な濡れと浸透を達成した(湿潤化ブレイク)。その後、熱処理を、65℃で15分間、オーブン中において行った。短時間の内に、形成している電解質ヒドロゲル中の架橋が完了した。この実施例においても、ヒドロゲルは正極上において半透明層の外観を呈していた。セルを調製するために、例えば、さらなるステップにおいて、ヒドロゲル層上に負極を印刷することが可能である。
【0122】
実施例III-pH媒介架橋によるアルカリ性ヒドロゲル形成プロセス
【0123】
pH媒介架橋によるアルカリ性電解質系に基づく電解質ヒドロゲルの形成のために、初期溶液(EPS)に以下の化合物を用い、ここでは、水を溶剤として用いた。
-カチオン性セルロース 3重量%
-セルロース誘導体 2重量%
-架橋剤 2重量%
-KOH 4M
【0124】
用いたカチオン性セルロースは第四級ヒドロキシエチルセルロースエトキシレート(商品名Polyquaternium-10、Sigma-Aldrich,US)であった。用いたセルロース誘導体は、ヒドロキシエチルセルロースであった(商品名Natrosol、Ashland,US)。架橋剤はエピクロロヒドリン(abcr GmbH,DE)であった。カチオン性セルロース及びセルロース誘導体を水溶液中で一緒にして組成物を形成し、磁気ミキサ上のビーカ中において均質になるまで撹拌した。その後、架橋剤を添加し、均質になるまで2分間撹拌した。
【0125】
実施例I同様にコーティングした後、コーティングした正極を30分間静置して、組成物に対して充分な濡れと浸透を達成し(湿潤化ブレイク)、並びに、溶液をアルカリ性媒体により架橋させた。30分以内に、形成している電解質ヒドロゲル中の架橋が完了した。ヒドロゲルは正極上において半透明層の外観を呈していた。セルを調製するために、例えば、さらなるステップにおいて、ヒドロゲル層上に負極を印刷することが可能である。
【0126】
実施例IV-熱重合によるアルカリ性ヒドロゲル形成プロセス
【0127】
それぞれ架橋する熱重合によるアルカリ性電解質系に基づく電解質ヒドロゲルの形成のために、初期溶液(EPS)に以下の化合物を用い、ここでは、水を溶剤として用いた。
-カチオン性セルロース 3重量%
-アクリルアミド 10重量%。
-架橋剤 1重量%
-熱開始剤 0.1重量%
-KOH 4M
【0128】
用いたカチオン性セルロースは第四級ヒドロキシエチルセルロースエトキシレート(商品名Polyquaternium-10、Sigma-Aldrich,US)であった。アクリルアミド(Sigma-Aldrich,US)及び架橋剤はN,N-メチレンビスアクリルアミド(Sigma-Aldrich,US)であった。熱開始剤は過硫酸カリウム(KPS、Sigma-Aldrich,US)であった。カチオン性セルロース、アクリルアミド、架橋剤及び開始剤を水溶液中で一緒にして組成物を形成し、磁気ミキサ上のビーカ中において均質になるまで撹拌した。
【0129】
実施例Iと同様にコーティングした後、コーティングした正極を5分間静置して、組成物に対して充分な濡れと浸透を達成した(湿潤化ブレイク)。その後、熱処理を、65℃で15分間、オーブン中において行った。短時間の内に、形成している電解質ヒドロゲル中の架橋が完了した。ヒドロゲルは正極上において半透明層の外観を呈していた。セルを調製するために、例えば、さらなるステップにおいて、ヒドロゲル層上に負極を印刷することが可能である。
【0130】
すべての実施例(実施例I~IV)は、他の共面又はスタック型バッテリー構成、並びに、標準的なコイン型、円筒型、ポーチ型又は角柱型エネルギー貯蔵セル及びバッテリーにおいて容易に実装が可能である。
【国際調査報告】