(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスpreS1抗原の肝細胞受容体結合部位に特異的に結合するヒト抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/08 20060101AFI20240703BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240703BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240703BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240703BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20240703BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240703BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240703BHJP
G01N 33/576 20060101ALI20240703BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C07K16/08 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/20
A61P1/16
A61K39/395 S
G01N33/576 B
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577967
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 KR2022007679
(87)【国際公開番号】W WO2022265264
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0077615
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0093625
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523473453
【氏名又は名称】アピットバイオ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ ジョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】キョンヒ ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】ジス ホン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ジン チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジウ リー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA92Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085BA89
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA53
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、B型肝炎ウイルスpreS1抗原の受容体結合モチーフに特異的に結合する抗体及びその用途に関する。
本発明の抗体は、HBVの多様な遺伝子型をターゲットとするため、HBV中和またはB型肝炎ウイルスの感染抑制、治療が必要な分野に有用に使用することができる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBV(Hepatitis B virus)のpreS1抗原内の特定位置のアミノ酸に結合する抗体であって、
前記preS1抗原内の特定位置は、配列番号19を基準として22番、23番及び25番の位置に対応する、抗体。
【請求項2】
前記抗体は、配列番号5のLCDR3配列の8番チロシン及び配列番号9のHCDR3配列の6番ロイシンをパラトープとして有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体は、配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸をパラトープとして有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸は、アラニンまたはセリンである、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体は、
(a)配列番号3の軽鎖CDR1、配列番号4の軽鎖CDR2、及び配列番号5の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;及び
(b)配列番号7の重鎖CDR1、配列番号8の重鎖CDR2、及び配列番号9の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体は、
(a)配列番号3の軽鎖CDR1、配列番号4の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;及び
(b)配列番号10の重鎖CDR1、配列番号11または12の重鎖CDR2、及び配列番号13の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体は、HBVの遺伝子型A、B、C、D、E及びFから選択された一つ以上の遺伝子型に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号1で構成される、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号2で構成される、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体は、配列番号14で記載された軽鎖可変領域;及び配列番号15または16で記載された重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を含む、HBV感染に対する予防または治療用薬学的組成物。
【請求項15】
前記組成物は、B型肝炎の予防または治療のためのものである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を用いて、HBV感染の疑いのある個体から分離した生物学的試料に存在するpreS1を抗原抗体反応を通じて検出する段階を含む、HBV感染の診断方法。
【請求項17】
前記方法は、B型肝炎の診断をするためのものである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を含む、HBV検出用組成物。
【請求項19】
前記組成物は、B型肝炎診断用である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の組成物を含む、HBV検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルスpreS1抗原の肝細胞受容体結合部位に特異的に結合するヒト抗体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus;HBV)の感染は、公衆衛生において最も深刻で蔓延した問題である。2016年に地球上のHBV慢性感染者は約2億9000万人である。
【0003】
現在までHBV遺伝子型は、合計10種(A-J)が存在することが確認された。遺伝子型A及びDはアフリカ及びヨーロッパに分布し、遺伝子型B及びCはアジアに主に分布し、遺伝子型E-Jはヨーロッパ、アメリカ及びアジアにしばしば出現する。最も多く存在する遺伝子型はA-Dで、B型肝炎の約90%を占める。
【0004】
HBVエンベロープは、構造的に関連したS(small)、M(middle)及びL(Large)の3つのタンパク質を含む。Sタンパク質はこれらの外被タンパク質の中に最も多く存在するタンパク質であり、Mタンパク質はpreS2及びSで構成され、Lタンパク質はpreS1、preS2、及びSで構成される。
【0005】
HBVに感染した肝細胞は、感染性HBV粒子(virion)だけでなく、非感染性である球状及び繊維型サブウイルス(subviral)粒子を生成する。このサブウイルスの粒子は、大部分がSタンパク質で構成され、一般には、ビリオンに比べて1000倍~10000倍多く生成される。このサブウイルスの粒子は、ウイルス特異的免疫反応を減少させると推定される。
【0006】
Sタンパク質とは異なり、Lタンパク質のpreS1は、主に感染性ビリオンに存在する。また、preS1の20-26番(A-C、F遺伝子型;D遺伝子型である場合、9-15番;E遺伝子型である場合、19-25番)のアミノ酸は、肝細胞受容体であるNTCP(sodium taurocholate cotransporting polypeptide)に結合してHBV感染を媒介する。この受容体結合部位は、HBV遺伝子型の間に高度に保存されているため、HBV感染の治療及び予防のターゲットになり得る。
【0007】
B型肝炎免疫タンパク質(Hepatitis B immune globulin;HBIG)は、偶発性(accidental)または周産性(perinatal) のHBV曝露後の予防医学的な治療のために使用されている。HBIGは、高い抗Sタンパク質抗体力価の血清を収集して製造される。しかし、HBV感染にpreS1領域が重要である点を考慮すると、HBV感染の予防及び治療においてHBVの感染を抑制することができるpreS1特異的モノクローナル抗体(monoclonal antibody;mAb)が有望な方法となり得る。臨床的に、抗preS1抗体の存在は、B型肝炎患者の回復に関連していることが明らかになった。最近、Liらは、preS1の肝細胞受容体結合部位(アミノ酸20-26番、A-C、F遺伝子型)のdownstream部分であるアミノ酸31-38番(A-C、F遺伝子型)に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体(2H5-A14)がヒト肝細胞を移植したマウスモデルでHBVの感染を予防するだけでなく、Fc-mediated effector functionにより治療効果も示すことを証明した(Dan Li, Wenhui He, Ximing Liu, Sanduo Zheng, Yonghe Qi, Huiyu Li, Fengfeng Mao, Juan Liu, Yinyan Sun, Lijing Pan, Kaixin Du, Keqiong Ye, Wenhui Li, Jianhua Sui.2017.A potent human neutralizing antibody Fc-dependently reduces established HBV infections.eLife 6:e26738.DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.26738)。
【0008】
HBV粒子または組換えpreS1抗原で免疫化されたマウスから多数のHBV中和活性を有する抗preS1 mAbが製造された(Heermann K, Goldmann U, Schwartz W, Seyffarth T, Baumgarten H, Gerlich W.1984.Large surface proteins of hepatitis B virus containing the pre-s sequence.Journal of virology.52: 396-402; Pizarro JC, Vulliez-le Normand B, Riottot M-M, Budkowska A, Bentley GA.2001.Structural and functional characterization of a monoclonal antibody specific for the preS1 region of hepatitis B virus.FEBS letters.509: 463-468; Kim JH, Gripon P, Bouezzedine F, Jeong MS, Chi SW, Ryu SE, Hong HJ.2015.Enhanced humanization and affinity maturation of neutralizing anti-hepatitis B virus preS1 antibody based on antigen-antibody complex structure.FEBS letters.589: 193-200; Wi J, Jeong MS, Hong HJ.2017.Construction and characterization of an anti-hepatitis B virus preS1 humanized antibody that binds to the essential receptor binding site.Journal of microbiology and biotechnology 27, 1336-1344.など)。しかし、このように製造されたほとんどの抗体は、HBV遺伝子型の全てを中和しないという問題が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Dan Li, Wenhui He, Ximing Liu, Sanduo Zheng, Yonghe Qi, Huiyu Li, Fengfeng Mao, Juan Liu, Yinyan Sun, Lijing Pan, Kaixin Du, Keqiong Ye, Wenhui Li, Jianhua Sui.2017.A potent human neutralizing antibody Fc-dependently reduces established HBV infections.eLife 6:e26738.DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.26738
【非特許文献2】Heermann K, Goldmann U, Schwartz W, Seyffarth T, Baumgarten H, Gerlich W.1984.Large surface proteins of hepatitis B virus containing the pre-s sequence.Journal of virology.52: 396-402
【非特許文献3】Pizarro JC, Vulliez-le Normand B, Riottot M-M, Budkowska A, Bentley GA.2001.Structural and functional characterization of a monoclonal antibody specific for the preS1 region of hepatitis B virus.FEBS letters.509: 463-468
【非特許文献4】Kim JH, Gripon P, Bouezzedine F, Jeong MS, Chi SW, Ryu SE, Hong HJ.2015.Enhanced humanization and affinity maturation of neutralizing anti-hepatitis B virus preS1 antibody based on antigen-antibody complex structure.FEBS letters.589: 193-200
【非特許文献5】Wi J, Jeong MS, Hong HJ.2017.Construction and characterization of an anti-hepatitis B virus preS1 humanized antibody that binds to the essential receptor binding site.Journal of microbiology and biotechnology 27, 1336-1344.
【非特許文献6】Kim JH et al.Enhanced humanization and affinity maturation of neutralizing anti-hepatitis B virus preS1 antibody based on antigen-antibody complex structure.FEBS Lett.589:193-200
【非特許文献7】Koeher and Milstein、1976,Nature、256:495
【非特許文献8】METHODS:A Companion to Methods in Enzymology 2:119,1991
【非特許文献9】J.Virol.2001 Jul;75(14):6692-9
【非特許文献10】Ann.Rev.Immunol.12:433,1994
【非特許文献11】Biotechnology letters.17: 871-876(Kim HS, Hong HJ.1995.Efficient expression, purification and characterization of hepatitis B virus preS1 protein from Escherichia coli
【非特許文献12】Min,J.-K.ら、Clin.Cancer Res.16(14);3571-80,2010
【非特許文献13】Cho S.et al.,MABS 8(2)、414-425,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような背景の下に、本発明者らは、より効率的な予防や治療のために、HBVの多様な遺伝子型に結合することができ、preS1の肝細胞受容体結合部位に特異的なモノクローナル抗体を提供するために鋭意努力した結果、B型肝炎ウイルスの大部分を占める遺伝子型A~Fに全て結合し、肝細胞受容体結合部位に結合してHBV感染抑制効能を示すヒトモノクローナル抗体を開発して本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、B型肝炎ウイルスpreS1抗原の受容体結合部位に特異的に結合する新規な抗体を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、前記抗体の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドが含まれた発現ベクター及び前記ベクターが導入された宿主細胞を提供することにある。
【0014】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体を含むHBV感染の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体を用いてHBV感染を予防または治療する方法を提供することにある。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体を用いてHBV感染の疑いのある個体から分離した生物学的試料に存在するpreS1を抗原抗体反応を通じて検出する段階を含む、HBV感染の診断のための情報の提供方法を提供することにある。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体を含む、HBV検出用組成物を提供することにある。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、前記抗体を含むHBV検出用キットを提供することにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抗体は、HBVの多様な遺伝子型が共有する配列をターゲットとし、HBVの多様な遺伝子型に結合することができ、HBVとの結合能に優れるため、HBV感染の検出及び診断だけでなく、治療が必要な分野にも有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】HBV preS1 N末端アミノ酸配列を整列したものである(遺伝子型A-F、HBV遺伝子型Aに応じて番号付けする)。アミノ酸20番-26番は、preS1の必須の受容体結合モチーフであり、灰色の影で表示した。Bio-preS1-Lペプチドに含まれた配列は、アンダーラインで表示した。
【
図2】ヒトFab合成ライブラリーから抗preS1モノクローナルFabを分離する実験結果を示したものである。
図2Aは、各パンニングラウンドごとにファージのインプット及びアウトプット力価を示したものである。pfuは、plaque-forming unitを示す。
図2Bは、indirect ELISAにより決定された陽性ポリクローナルファージの増幅を示したものである。モノクローナルFabの分離のために、preS1に対して最も多く増幅された4番目ラウンドのパンニングが選択された。
図2Cは、4番目パンニングのアウトプットから選び出した陽性Fabクローン中、バイオ-preS1-Lペプチドに対する抗原結合活性が最も優れたAbS0 Fabファージのindirect ELISAの結果を示したものである。
【
図3】AbS0 FabからIgG1に変換及び精製されたAbS0 mAbの抗原結合活性を分析したものである。
図3Aは、non-reducing(NR、6%)の条件及びreducing(R、10%)の条件で精製されたAbS0のSDS-PAGEを示す。Mはタンパク質マーカー、HCは重鎖、LCは軽鎖を示す。
図3Bは、HBV遺伝子型(A-D)のpreS1に対する精製されたAbS0 mAbの抗原結合活性をELISAで評価したものである。
図3Cは、Octet RED384を利用したBLIによるAbS0の親和度の分析結果を示したものである。HBV遺伝子型Aの組換えpreS1は、2倍数連続希釈で製造された(25、12.5、6.25、3.125、1.5625nM)。全ての値は、複数のウェルから得て平均値±SEMで表現した。
図3Dは、AbS0抗体のpreS1に対する非特異的結合の可能性を排除するために、L1CAMを発現するが、preS1を発現しないヒト卵巣癌細胞株SKOV3にAbS0抗体が結合しないことをFACSで分析した結果である。
【
図4】HBV遺伝子型Dに対するAbS0のビリオン結合活性及びin-vitro HBV中和活性を評価した結果である。
図4Aは、AbS0によるHBV遺伝子型D粒子の免疫沈降である。HzKR127-3.2(ref: Kim JH et al.Enhanced humanization and affinity maturation of neutralizing anti-hepatitis B virus preS1 antibody based on antigen-antibody complex structure.FEBS Lett.589:193-200)が陽性対照群として使用され、マウスIgGは、陰性対照群として使用された。RC DNAは、弛緩した環状DNA、DSL DNAは二本鎖線形DNAを示す。
図4Bは、HBV遺伝子型D粒子をAbS0(10、1、0.1μg)またはマウスIgG(10μg)とプレインキュベーション(pre-incubation)した後、培養されたHepG2-NTCP細胞に添加した後、2日ごとに培地を交換し、感染7日後に細胞を得た。得られた細胞からHBV DNAを抽出してサザンブロットハイブリダイゼーションを行った結果である。
【
図5】AbS0抗体のエピトープマッピングをするために、GST-preS1(aa 1-56)-strepの19-34番のアミノ酸のアラニン置換変異体の発現、精製及びSDS-PAGEを行った結果である。
【
図6】GST-preS1(aa 1-56)-strepの19-34番のアミノ酸のアラニン置換変異体に対するAbS0抗体の結合能をindirect ELISAで分析した結果である。
【
図7】AbS0抗体のpreS1抗原に結合する部位(Paratope)を分析するために、AbS0抗体のLCDR3(
図7A及び7C)、HCDR3(
図7B及び7D)の各残基をアラニンで置換させた抗体変異体の抗原結合能をindirect ELISA(7A、7B)及びquantitative ELISA(7C、7D)で分析した結果である。
【
図8】AbS0抗体のpreS1抗原に結合する部位(Paratope)を分析するために、AbS0抗体のHCDR1のAla33(
図8A-C)、HCDR2のSer50(
図8D)を他の残基で置換させた抗体変異体の抗原結合能をindirect ELISAで分析した結果である。
【
図9】AbS1及びAbS0抗体の保存的(NPLGFFP;WT)及び他の配列(NPLGFLP;preS1-L25)の受容体結合モチーフを有するGenotype AのGST-preS1(aa 1-56)-strepタンパク質に対する抗原結合能をindirect ELISAで分析した結果である。
【
図10】AbS1抗体のGenotype E、FのGST-preS1(aa 1-56)-strepタンパク質に対する抗原結合能をquantitative ELISA(
図10A)及びindirect ELISA(
図10B)で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本出願をより詳細に説明する。一方、本願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用することができる。即ち、本出願で開示された多様な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。また、本明細書の全体にわたって多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として組み込まれ、本出願が属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0022】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本発明の特定様態に対する多数の等価物を認知または確認することができる。また、このような等価物は、本発明に含まれることが意図される。
【0023】
本明細書の全体を通じて、天然的に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが使用される。また、本明細書で略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載された。
【0024】
アラニンAla、A アルギニンArg、R
アスパラギンAsn、N アスパラギン酸Asp、D
システインCys、C グルタミン酸Glu、E
グルタミンGln、Q グリシンGly、G
ヒスチジンHis、H イソロイシンIle、I
ロイシンLeu、L リシンLys、K
メチオニンMet、M フェニルアラニンPhe、F
プロリンPro、P セリンSer、S
スレオニンThr、T トリプトファンTrp、W
チロシンTyr、Y バリンVal、V
【0025】
本発明の目的を達成するための本発明の一態様は、B型肝炎ウイルスpreS1抗原に特異的に結合する新規な抗体を提供する。
【0026】
本出願において、用語「抗体」とは、免疫学的に特定抗原と反応性を有する免疫グロブリン分子を含む、抗原を特異的に認識する受容体の役割をするタンパク質分子を意味し、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、全体(whole)抗体及び抗体断片をすべて含む。
【0027】
また、前記用語は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体及び2価(bivalent)または二重特異性分子(例えば、二重特異性抗体)、ダイアボディ、トリアボディ及びテトラボディを含む。前記用語は、さらにFcRnに対する結合機能を保有した単鎖抗体、スキャップ、抗体定常領域の誘導体及びタンパク質スキャフォールドに基づいた人工抗体を含む。全抗体は2個の全長の軽鎖及び2個の全長の重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されている。前記全抗体は、IgA、IgD、IgE、IgM及びIgGを含み、IgGは亜型(subtype)で、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む。前記抗体断片は、抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fd、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvなどを含む。前記Fdは、Fab断片に含まれている重鎖の部分を意味する。前記Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域と軽鎖の定常領域及び重鎖の最初の定常領域(CH1ドメイン)を有する構造で1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと差がある。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を成しながら生成される。Fv(variable fragment)は、重鎖可変部位及び軽鎖可変部位のみを有している最小の抗体断片を意味する。二重ジスルフィドFv(dsFv)は、ジスルフィド結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位が連結されており、単鎖Fv(scFv)は、一般に、ペプチドリンカーを通じて重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されている。このような抗体断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全抗体をパパインで制限切断し、Fabを得ることができ、ペブシンで切断すれば、F(ab’)2断片を得ることができる)、具体的には、遺伝子組換え技術を通じて製作することができる。
【0028】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。
【0029】
本出願において、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に同一の抗体集団で得られた単一分子組成の抗体分子を指し、このようなモノクローナル抗体は、特定のエピトープに対して単一結合特異性及び親和度を示す。
【0030】
典型的に、免疫グロブリンは、重鎖及び軽鎖を有し、それぞれの重鎖及び軽鎖は、定常領域及び可変領域(前記部位は、ドメインとしても知られている)を含む。軽鎖及び重鎖の可変領域は、相補性決定領域(complementarity-determiningregion、以下「CDR」という)と呼ばれる3個の超可変領域及び4個のフレームワーク領域(framework region)を含む。前記CDRは、主に抗原のエピトープ(epitope)に結合する役割をする。それぞれの鎖のCDRは、典型的にN末端から始めて順にCDR1、CDR2、CDR3と呼ばれ、さらに特定のCDRが位置する鎖によって識別される。
【0031】
本発明の抗体は、ヒト抗体であってもよい。
【0032】
本出願において、用語「ヒト抗体」とは、ヒト免疫グロブリンに由来する分子であり、相補性決定領域、フレームワーク領域を含む抗体を構成するすべてのアミノ酸配列の全体がヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列で構成されていることを意味する。ヒト抗体は、通常、ヒトの疾病の治療に使用されるが、これは、三つ以上の潜在的な長所を有する。第一に、これは、ヒト免疫体系とより良好に相互作用し、例えば、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity,CDC)または抗体依存性細胞性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity,ADCC)により目的細胞をより効率的に破壊させることができる。第二に、ヒト免疫体系が前記抗体を外来のものとして認識しない利点がある。第三に、さらに少量、より少ない頻度の薬物を投与した時にもヒトの循環系内半減期が天然の発生抗体と類似するという利点がある。
【0033】
また、前記のような本発明の抗体が定常領域を含む場合、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来またはそれらの組み合わせ(combination)またはそれらのハイブリッド(hybrid)による定常領域を含むことができる。
【0034】
本出願において、用語「組み合わせ(combination)」とは、二量体または多量体を形成する時、同一起源の単鎖免疫グロブリン定常領域をコードするポリペプチドが相異した起源の単鎖ポリペプチドと結合を形成することを意味する。その例として、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMの定常領域からなるグループから選択された2個以上の定常領域から二量体または多量体を形成することができる。
【0035】
本出願において、用語「ハイブリッド(hybrid)」とは、単鎖免疫グロブリン重鎖定常領域内に2個以上の相異した起源の免疫グロブリン重鎖定常領域に該当する配列が存在することを意味し、その例としてIgG、IgA、IgD、IgE及びIgMのCH1、CH2、CH3及びCH4からなるグループから選択される1個~4個のドメインからなるドメインのハイブリッドが可能である。
【0036】
本出願において、用語「B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus)」は、HBVと互換的に使用される用語であり、感染する場合、これに対する免疫反応によりB型肝炎を起こすウイルスである。
【0037】
本出願において、用語「preS1抗原」とは、HBV DNAのS、C、X、Pの4個の遺伝子の一つであるS遺伝子によりコードされるタンパク質を意味する。具体的には、S遺伝子は、表面抗原をコード(encode)する遺伝子であり、その前にPre-S領域が存在し、Pre-SはPreS1領域とPreS2領域に分かれている。これらにより表面タンパク質であるS(small)タンパク質、M(middle)タンパク質、L(large)タンパク質がコードされる。Sタンパク質は、S遺伝子でコードされ、Mタンパク質はpreS2とSタンパク質で構成されており、Lタンパク質はpreS1、preS2、Sタンパク質で構成されており、主に感染性ウイルス粒子(ビリオン)に存在する。したがって、preS1はウイルスの表面タンパク質を構成し、主に感染性ビリオンに存在する。
【0038】
本発明で提供する抗体は、多様な遺伝子型のHBVに結合することができ、具体的には、遺伝子型A、B、C、D、E及びFの全部に結合できるものであってもよい。一つの具現例として、本発明で提供する抗体は、preS1の遺伝子型A、B、C、D、E及びFが共有する受容体結合モチーフ配列に結合することができるが、これに制限されない。
【0039】
本出願において、用語「B型肝炎ウイルスpreS1抗原に結合する抗体」は、HBVの表面抗原であるpreS1に結合してHBVに対する中和活性及び/又はHBV感染抑制活性を示す抗体をいう。
【0040】
一つの具現例として、本発明で提供する抗体は、preS1抗原の特定位置のアミノ酸に結合するものであってもよく、前記位置は、配列番号19を基準として22番、23番及び25番に対応する位置であってもよい。
【0041】
前記配列番号19は、任意のpreS1抗原で本発明の抗体が結合する位置を特定するための参照配列(reference sequence)に過ぎず、本発明のpreS1抗原は配列番号19に制限されず、任意のpreS1抗原タンパク質において配列番号19を基準として22番、23番及び25番に対応する(corresponding)位置は、配列アラインメント(alignment)を通じて確認することができる。このような配列アラインメントには、当業界に知られているNeedleman-Wunschアルゴリズム、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム、多重配列整列などが利用され得るが、これに制限されない。
【0042】
前記preS1抗原のアミノ酸配列は、公知となったデータベースからその情報を得ることができ、例えば、配列番号17または18の配列を含むものであってもよい。前記22番、23番及び25番のアミノ酸は、配列番号17または18のアミノ酸配列においてそれぞれ3番、4番及び6番で示されるアミノ酸であってもよい。しかし、これに制限されない。
【0043】
前記配列番号19を基準として22番、23番及び25番のアミノ酸は、本発明の抗体が結合する部位であり、本発明の抗体が認識するpreS1抗原の「エピトープ(epitope)」は、配列番号19を基準として22番、23番及び25番に対応する位置で表現することができる。一方、前記配列番号19を基準として22番、23番及び25番に対応する位置は、preS1抗原が肝細胞受容体と結合する部位に含まれてもよい。したがって、本発明の抗体は、preS1抗原が肝細胞受容体と結合する作用を抑制することができる。
【0044】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号19を基準として22番の位置に対応するロイシン(Leu22)、23番の位置に対応するグリシン(Gly23)及び25番の位置に対応するフェニルアラニン(Phe25)またはロイシン(Leu25)に結合するものであってもよい。
【0045】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号5のLCDR3配列の8番のチロシン及び配列番号9のHCDR3配列の6番のロイシンをパラトープ(paratope)として有する抗体であってもよい。
【0046】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸をパラトープとして有する抗体であってもよい。前記配列番号8の1番のアミノ酸は、アラニンまたはロイシンであってもよい。
【0047】
本発明において、用語「パラトープ」は、抗体または抗体断片が抗原に特異的に結合する、即ち、抗体または抗体断片が抗原に物理的に接触する抗体または抗体断片上の領域または区域を意味する。
【0048】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号3の軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号4の軽鎖CDR2(LCDR2)、及び配列番号5の軽鎖CDR3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域;及び配列番号7の重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号8の重鎖CDR2(HCDR2)、及び配列番号9の重鎖CDR3(HCDR3)を含む重鎖可変領域を含む、preS1に特異的に結合する抗体であってもよい。
【0049】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号3の軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号4の軽鎖CDR2(LCDR2)、及び配列番号6の軽鎖CDR3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域;及び配列番号10の重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号11または12の重鎖CDR2(HCDR2)、及び配列番号13の重鎖CDR3(HCDR3)を含む重鎖可変領域を含む、preS1に特異的に結合する抗体であってもよい。
【0050】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号1で記載されたアミノ酸配列で構成されるものであってもよい。具体的には、配列番号14で記載されたアミノ酸配列で構成されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0051】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号2で記載されたアミノ酸配列で構成されるものであってもよい。具体的には、配列番号15または16で記載されたアミノ酸配列で構成されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0052】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号1で記載された軽鎖可変領域及び配列番号2で記載された重鎖可変領域を含むものであってもよいが、これに制限されない。具体的には、配列番号14で記載された軽鎖可変領域;及び配列番号15または16で記載された重鎖可変領域を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0053】
本発明の一具現例では、配列番号14の軽鎖可変領域及び配列番号15の重鎖可変領域を含む、preS1領域に特異的に結合する抗体をAbS0と命名し、AbS0がHBV遺伝子型A、B、C及びDの全部に対して優れた結合能を示すことを確認した。
【0054】
また、前記配列番号6のLCDR3配列の8番のチロシン、配列番号13のHCDR3配列の6番のロイシン及び配列番号11で示されるHCDR2配列の1番のセリンが前記AbS0抗体のパラトープ(paratope)であることを確認し、前記AbS0抗体においてHCDR2の1番のセリンを他のアミノ酸(アラニン)で置換した結果、配列番号12で示されるHCDR2配列を有する抗体がAbS0に比べても優れた結合能を示すことを確認し、配列番号12のHCDR2配列を有する抗体をAbS1抗体と命名した。
【0055】
このような本発明のpreS1に結合するヒト抗体は、既存の抗体に比べて高親和度及び低免疫原性を提供してHBVに対する優れた中和及び感染抑制活性を示すため、本発明の抗体をpreS1に対する抗原認識乃至はHBVの中和、感染抑制を有用に使用できる任意の適用に使用することができる。
【0056】
本発明のもう一つの様態は、前記抗体を製造する方法を提供する。
【0057】
本発明の抗体は、公知の抗体製造技術により容易に製造されることができる。例えば、モノクローナル抗体を製造する方法は、免疫動物から得たBリンパ球を用いてハイブリドーマを製造することにより行われるか(Koeher and Milstein、1976,Nature、256:495)、またはファージディスプレイ(phage display)技術などを用いることにより行われるが、これに制限されるものではなく、その他に公知の抗体製造技術を用いて容易に製造することができる。
【0058】
ファージディスプレイ技術を利用した抗体ライブラリーは、ハイブリドーマを製作せずに、すぐにBリンパ球から抗体遺伝子を得てファージ(phage)の表面に抗体を発現させる方法である。ファージディスプレイ技術を用いると、B細胞不滅化(immortalization)によりモノクローナル抗体を生成するのに関連した既存の多くの困難を克服することができる。一般に、ファージディスプレイ技術は、1)ファージの外被タンパク質(coat protein)のpまたはpの N末端に該当する遺伝子部位にランダム配列のオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)を挿入する段階;2)天然型の外被タンパク質の一部と前記ランダム配列のオリゴヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの融合タンパク質を発現させる段階;3)前記オリゴヌクレオチドによりコードされたポリペプチドと結合できる物質を処理する段階;4)前記物質に結合された抗体ファージ粒子を低いpHや結合競争力のある分子を用いて溶出させる段階;5)パンニング(panning)により溶出されたファージを宿主細胞内で増幅させる段階;6)目的とする量を得るために前記方法を繰り返す段階;及び7)パンニングにより選別されたファージクローンのDNA配列から活性のある抗体の配列を決定する段階を含むことができる。
【0059】
本発明のモノクローナル抗体の製造方法は、ファージディスプレイ技術を用いて行われてもよい。当業者は、公知のファージディスプレイ技術、例えば、Barbasら(METHODS:A Companion to Methods in Enzymology 2:119,1991及びJ.Virol.2001 Jul;75(14):6692-9)及びWinterなど(Ann.Rev.Immunol.12:433,1994)の論文などに公知となった方法を参考にして前記本発明の製造方法の各段階を容易に行うことができる。抗体ライブラリーを構築するために用いられるファージは、例えば、フィラメント性ファージ(filamentous phage)としてfd、M13、f1、If1、Ike、Zj/Z、Ff、Xf、Pf1またはPf3ファージがあるが、これに制限されるものではない。また、前記フィラメント性ファージの表面上に異種遺伝子の発現のために用いられるベクターとしては、例えば、fUSE5、fAFF1、fd-CAT1またはfdtetDOGなどのファージベクターまたはpHEN1、pComb3、pComb8またはpSEXなどのファージミドベクターがあるが、これに制限されるものではない。また、増幅のための組換えファージの成功した再感染のために求められる野生型外被タンパク質を提供するために用いられるヘルパーファージとしては、例えば、M13K07またはVSCM13などがあるが、これに制限されるものではない。
【0060】
本発明のモノクローナル抗体またはファージディスプレイクローンをコードするポリヌクレオチドは、通常の手続きを用いて容易に単離し、配列分析されることができる。その例として、ファージ鋳型DNAから当該重鎖及び軽鎖コード領域を特異的に増幅させるようにデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーを使用することができる。一度前記ポリヌクレオチドが単離すると、これを発現ベクター内に入れることができ、その後、前記発現ベクターを適当な宿主細胞に導入し、形質転換された宿主細胞(即ち、形質転換体)から目的とするモノクローナル抗体を生産することができる。したがって、本発明の前記ヒトモノクローナル抗体の製造方法は、ヒトモノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにおいて前記ヒトモノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドを増幅させる段階を含む、ヒトモノクローナル抗体の製造方法であってもよいが、これに制限されない。
【0061】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドが含まれた発現ベクター及び前記ベクターが導入された宿主細胞を提供する。
【0062】
前記抗体については、前記で説明した通りである。
【0063】
本発明で提供する前記抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、特にこれに制限されないが、哺乳類細胞(例えば、ヒト、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、マウス細胞など)、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞またはバクテリア細胞(例えば、大腸菌など)を含む真核または原核細胞で前記ポリヌクレオチドを複製及び/又は発現できるベクターであってもよく、具体的には、宿主細胞において前記ヌクレオチドが発現できるように適切なプロモーターに作動可能なように連結され、少なくとも一つの選別マーカーを含むベクターであってもよい。その例としてファージ、プラスミド、コスミド、ミニ染色体、ウイルスまたはレトロウイルスベクターなどに前記ポリヌクレオチドが導入された形態であってもよい。
【0064】
前記抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、前記抗体の重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドをそれぞれ含む発現ベクターまたは重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドをすべて含む発現ベクターであってもよい。
【0065】
本発明で提供する前記発現ベクターが導入された宿主細胞は、特にこれに制限されないが、前記発現ベクターが導入されて形質転換された大腸菌、ストレプトミセス、サルモネラ・ティフィムリウムなどのバクテリア細胞;酵母細胞;ピキア・パストリスなどの菌類細胞;ドロソフィラ、スポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞;CHO(中国ハムスター卵巣細胞、chinese hamster ovary cells)、SP2/0(マウス骨髄種)、ヒトリンパ芽球(human lymphoblastoid)、COS、NSO(マウス骨髄種)、ボウズメラノーマ(Bowes melanoma)細胞、HT-1080、BHK(ベビーハムスターの腎臓細胞、baby hamster kidney cells)、HEK(ヒト胚性腎臓細胞、human embryonic kidney cells)、PERC.6(ヒト網膜細胞)などの動物細胞;または植物細胞であってもよい。
【0066】
本出願において、用語「導入」とは、前記抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に伝達する方法を意味する。このような導入は、カルシウムホスフェートDNA共沈殿法、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション法、ポリブレン媒介形質感染法、電気衝撃法、微細注射法、リポソーム融合法、リポフェクタミン及び原形質体融合法などの当分野に公知となった種々の方法により行われ得る。また、形質導入は、感染(infection)を手段とし、ウイルス粒子を用いて目的物を細胞内に送達させることを意味する。併せて、遺伝子銃ボンバードメント(gene gun bombardment)などによりベクターを宿主細胞内に導入することができる。本発明における導入は、形質転換と混用され得る。
【0067】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体を含むHBV感染の予防または治療用薬学的組成物を提供する。具体的には、前記組成物は、B型肝炎の予防または治療のためのものであってもよい。
【0068】
本出願において、用語「B型肝炎」とは、HBVに感染した場合、これによる免疫反応により肝臓に炎症が起こる疾患をいう。本発明の抗体は、HBVに対する優れた中和能及び感染抑制能を示すため、これをB型肝炎の予防または治療に使用することができる。
【0069】
本出願において、用語「予防」とは、前記組成物の投与によりHBV感染の発病を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味し、前記「治療」とは、前記組成物の投与によりHBV感染による症状が好転したり有益に変更されるあらゆる行為を意味する。
【0070】
前記薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。
【0071】
本出願において、用語「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激することなく投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体または希釈剤をいう。液状溶液に製剤化される組成物において許容される薬学的担体には、滅菌及び生体に適したものとして、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれら成分中の1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など、他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0072】
前記薬学的組成物は、経口または非経口の種々の剤形であってもよい。製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤される。経口投与のための固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、一つ以上の化合物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどのような潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、一般に使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0073】
前記薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、油剤、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれか一つの剤形を有することができる。
【0074】
前記本発明の組成物は、薬学的に有効な量で投与する。
【0075】
本出願において、用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、個体の種類及び重症度、年齢、性別、癌の種類、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野によく知られている要素により決定され得る。本発明の組成物は、個別治療剤として投与したり他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次または同時に投与することができる。そして単一または多重投与されてもよい。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定することができる。
【0076】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体を用いてHBV感染を予防または治療する方法を提供する。
【0077】
具体的には、前記方法は、前記抗体をHBV感染の疑いのある個体に投与する段階を含むものであってもよい。
【0078】
前記方法は、抗体及び薬学的に許容可能な担体をさらに含む薬学的組成物をHBVが感染したり感染個体に投与する段階を含むHBV感染を予防または治療する方法であり、前記薬学的に許容可能な担体は、前記で説明した通りである。
【0079】
前記個体は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ、イヌ、ヒトなどを含む哺乳動物、鳥類などを含み、本発明の前記組成物の投与によりHBV感染が治療される個体を制限なく含む。この時、前記抗体は、薬学的に有効な量で単一または多重投与されてもよい。この時、抗体は、液剤、散剤、エアロゾル、カプセル剤、腸溶皮錠剤またはカプセル剤または坐剤の形態で投与することができる。投与の経路は、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下内投与、内皮投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などを含むが、これに制限されない。
【0080】
前記方法は、また、B型肝炎の予防または治療に使用することができ、具体的には、HBV遺伝子型A、B、C、D、E及びFから選択されたいずれか一つ以上のHBV感染治療に用いられるが、これに制限されない。
【0081】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体をHBV感染の予防または治療のための医薬品の製造に用いるための用途である。前記医薬品は、また、B型肝炎の予防または治療に使用することができ、HBV遺伝子型A、B、C、D、E及びFから選択されたいずれか一つ以上のHBV感染の治療に使用することができるが、これに制限されない。前記抗体及びHBV感染の予防または治療については前述の通りである。
【0082】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体を用いてHBV感染の疑いのある個体から分離した生物学的試料に存在するpreS1を抗原抗体反応を通じて検出する段階を含む、HBV感染の診断のための情報の提供方法を提供する。
【0083】
前記方法は、HBV感染の診断方法であってもよい。また、前記方法は、B型肝炎の診断のために使用することができる。
【0084】
前記抗体、HBVについては、前述の通りである。
【0085】
前記HBV診断のための情報の提供方法は、本発明のpreS1に特異的な抗体を、HBV感染が疑われる個体から分離した生物学的試料と反応させ、抗原抗体複合体の形成を検出することによりpreS1を検出することができ、これを通じてHBV感染の診断のための情報を提供することができる。
【0086】
具体的には、(a)前記抗体をHBV感染が疑われる個体から分離した生物学的試料に処理し、preS1を抗原抗体反応を通じて検出する段階;(b)前記(a)から検出されたpreS1の水準を対照群と比較し、対照群に比べてpreS1の水準が高ければ、HBV感染患者として判定する段階を含む、方法であってもよい。
【0087】
本出願において、用語「生物学的試料」とは、組織、細胞、全血、血清、血漿、組織剖検試料(脳、皮膚、リンパ節、脊髄など)、細胞培養上澄液、破裂した真核細胞及び細菌発現系などが挙げられるが、これに制限されるものではない。これら生物学的試料を操作したり操作していない状態で本発明の抗体と反応させてpreS1の存在またはHBV感染有無を確認することができる。
【0088】
本出願において、用語「抗原抗体複合体」とは、試料中のpreS1抗原とそれを認知する本発明による抗体の結合物を意味し、このような抗原抗体複合体の形成は、比色法(colormetric method)、電気化学法(electrochemical method)、蛍光法(fluorimetric method)、発光法(luminometry)、粒子計数法(particle counting method)、肉眼測定法(visual assessment)及びシンチレーション計数法(scintillation counting method)からなる群から選択される任意の方法で検出することができる。しかし、必ずしもこれらのみに制限されず、多様な応用と適用が可能である。
【0089】
本発明では、抗原抗体複合体を検出するためのものとして種々の標識体を用いることができる。具体的な例としては、酵素、蛍光物、リガンド、発光物、微小粒子、放射性同位元素からなるグループから選択されることができ、必ずしもこれらのみに限定されるものではない。
【0090】
検出標識体として使用される酵素としてはアセチルコリンエステラーゼ、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、β-ラクタマーゼなどを含み、蛍光物としてはフルオレセイン、Eu3+、Eu3+キレートまたはクリプテートなどを含み、リガンドとしてはビオチン誘導体などを含み、発光物としてはアクリジニウムエステル、イソルミノール誘導体などを含み、微小粒子としては金コロイド、着色ラテックスなどを含み、放射性同位元素としては57Co、3H、125I、125I-ボルトン(Bolton)ハンター(Hunter)試薬などを含むが、これに制限されない。
【0091】
具体的には、前記検出方法は、抗原抗体複合体を酵素免疫吸着法(ELISA)を用いたものであってもよい。酵素免疫吸着法(ELISA)には、固体支持体に付着した抗原を認知する標識された抗体を用いる直接的ELISA、固体支持体に付着した抗原を認知する抗体の複合体において捕獲抗体を認知する標識された二次抗体を用いる間接的ELISA、固体支持体に付着した抗体と抗原の複合体において抗原を認知する標識されたもう一つの抗体を用いる直接的サンドイッチELISA、固体支持体に付着した抗体と抗原の複合体において抗原を認知するもう一つの抗体と反応させた後、この抗体を認知する標識された2次抗体を用いる間接的サンドイッチELISAなど、多様なELISA方法を含む。
【0092】
前記抗体は、検出標識を有することができ、検出標識を有さない場合は、これらモノクローナル抗体を捕獲することができ、検出標識を有するもう一つの抗体を処理して確認することができる。
【0093】
本発明のもう一つの様態は、本発明で提供する抗体を含む、HBV検出用組成物を提供する。前記抗体については、前述の通りである。
【0094】
前記HBV検出は、HBVのpreS1を検出することであってもよい。
【0095】
一つの具現例として、前記組成物は、検査対象の試料を採取または検出試薬を適用するための道具、抗原抗体結合を確認するための試薬または装置など、抗体を用いて生物学的試料から抗原タンパク質の存在有無を確認する通常の検出用組成物に含まれる道具、装置または試薬がさらに含まれてもよい。
【0096】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体を含むHBV検出用キットを提供する。前記HBV検出については、前述の通りである。
【0097】
一つの具現例として、前記キットは、また、肝炎診断キットの形態であってもよい。前記組成物及びB型肝炎、診断については、前述の通りである。
【0098】
本発明のもう一つの形態は、前記抗体をHBV検出のための組成物の製造に用いるための用途である。前記抗体及びHBVについては、前述の通りである。
【0099】
以下、本発明を実施例及び実験例を通じてより詳細に説明する。しかし、これら実施例及び実験例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0100】
実施例1:preS1抗原の製造
Biotechnology letters.17: 871-876(Kim HS, Hong HJ.1995.Efficient expression, purification and characterization of hepatitis B virus preS1 protein from Escherichia coli)などに開示された方法を使用してHBV遺伝子型CのGST-preS1(1-119)、GST-preS1(1-56)、及びpreS1(1-119)を製造した。そして、NTCP結合モチーフ(20-NPLGFFP-26)を含む、ビオチン化合成preS1ペプチド(biotin-SGSGNPLGFFPDHQLDP,Bio-preS1-L peptide)は、AnyGen、Inc(South Korea)に製作依頼して用いた。このように製作された組換えpreS1抗原及びBio-preS1-Lペプチドを抗体ライブラリーのパンニングのための抗原として用いた。また、発掘された抗体の種々のHBV遺伝子型のpreS1抗原に対する結合有無を分析するために、HBV遺伝子型A-FのGST-preS1(1-56)-strep tagを大腸菌で発現及び精製した。遺伝子型A-FのpreS1(1-56)の配列は、
図1に示されている。
【0101】
実施例2:ファージディスプレイされたヒト合成FabライブラリーからpreS1の肝細胞受容体結合部位に特異的なFabの選別
HBV preS1の肝細胞受容体結合部位に特異的なFabを分離するために、ヒト合成Fabファージディスプレイライブラリーを4個のpreS1抗原に対しパンニングした。
【0102】
具体的には、実施例1のGST-preS1(1-119)、GST-preS1(1-56)、Bio-preS1-LペプチドとpreS1(1-119)の4個のpreS1抗原に対し、それぞれ1、2、3及び4ラウンドの標準パンニング手続きによりヒト合成Fabライブラリー(多様性1.35x10
9)のパンニングを行った。それぞれのpreS1抗原をimmunotube(Bio-preS1-Lペプチドの場合は、streptavidin-coated plate)にコーティングして一晩中4℃で保管した。抗体ライブラリーファージは、抗原と共にインキュベーションし、結合されていないファージは、0.1% PBST(PBS内に0.1% Tween 20)で洗浄した。37℃で30分間トリプシン溶液10μg/mlを用いて結合されたファージを溶出した。E.coli TG1細胞に溶出したファージを感染させて37℃で1時間生長させて37℃で一晩中インキュベーションした。増幅されたファージで次のラウンドのパンニングを行い、各ラウンドごとに次第に洗浄の程度を強化した。各ラウンドごとにファージ数のインプット及びアウトプットは、希釈とCFUで計算した(
図2A)。
【0103】
パンニングが進行されながらpreS1抗原に対する抗体クローンが増幅されたかどうかを確認するために、各ラウンドのアウトプットファージに対してindirect ELISAを行った結果、組換えpreS1抗原及びBio-preS1-Lペプチドに結合するFabクローンが3次パンニング後から増幅されることを確認した(
図2B)。
【0104】
したがって、preS1抗原に最も高い活性を示すFabクローンを選別するために、4番目のラウンドのパンニング後、188個のファージFabクローンをランダムに選別してHBV遺伝子型(A-D)のpreS1抗原に共通のBio-preS1-Lペプチドを用いたindirect ELISAを行った(
図2C)。
【0105】
具体的には、パンニングの4ラウンドを行った後、合計188コロニーをランダムに選別し、それぞれ培養した後、モノクローナルFabファージを得るために、ヘルパーファージに感染させた。その後、陽性クローンを確認するために、このファージにindirect ELISAを行った。Indirect ELISAで100ngのBSA、Bio-PreS1-Lペプチドを固定抗原として用い、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートされた抗M13(1:5000v/v、GE Healthcare)を2次抗体として用いた。Quantitative ELISAで抗M13抗体(100ng/well,GE Healthcare)及び抗ヒトkappa HRP(1:2000v/v、Novex)をそれぞれ固定抗体及び2次抗体として用いた。
【0106】
分析の結果、AbS0 FabファージがBio-PreS1-Lペプチドに最も高い抗原結合能を示すことを確認することができ、実施例1のpreS1(1-119)抗原に対する結合能も高く示すことを確認した(
図2C)。
【0107】
実施例3:AbS0 FabのヒトIgG1への変換及び抗原結合能の分析
AbS0 FabをヒトIgG1に変換し、HEK293F細胞で発現させ、培養上清液に対してタンパク質の精製を行った。
【0108】
3-1 AbS0 FabのヒトIgG1への変換
選別されたFabをIgG1の形態に変換するために、重鎖可変領域(VH)及びカッパ軽鎖可変領域(VK)の配列をPCRで増幅した後、組換えPCRを用いてIgG重鎖及び軽鎖リーダー配列とそれぞれ結合させた。結果物であるVH及びVK配列をヒトCγ1及びCκ遺伝子が入っているpdCMV-dhfrC発現プラスミドのEcoRI-ApaI及びHindIII-BsiWI部位にサブクローニングし、pdCMV-dhfrC-AbS0発現プラスミドを製作した。
【0109】
3-2抗体精製
3-1で製造した発現プラスミドをポリエチレンイミン(PEI;polyethyleneimine)を用いて1:4の比率(30μg:120μg)でHEK293F細胞30mLに導入した。形質転換された細胞を7日間培養し、培養上清液としてProtein Aを用いた親和度クロマトグラフィーを行った後、UV-Vis Spectrophotometerを用いて抗体の濃度を決定し、SDS-PAGEにより精製された抗体の純度を検証した(
図3A)。
【0110】
3-3結合活性の分析
精製されたAbS0 mAbの種々のHBV遺伝子型のpreS1抗原に対する抗原結合活性を分析するために、各ウェルに遺伝子型A-D(
図1)のGST-preS1(1-56)-strep(30nM/well)をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体と反応させた。結合されたAbS0抗体は、抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Jackson)を2次抗体として用いて検出した。
【0111】
その結果、精製されたAbS0抗体が遺伝子型A-Dの組換えpreS1に全て良好に結合することを確認した(
図3B)。これにより、AbS0抗体は、遺伝子型A-DのpreS1抗原に対して結合活性を示すことを確認することができた。
【0112】
3-4 AbS0の抗原結合親和度の分析
Octet RED384(ForteBio)を用いてBio-Layer Interferometryで抗体の親和度を決定した。具体的には、0.1% PBA(PBS内に0.1% BSA)内で96-well microtiter plate(Greiner Bio-One)を1000rpmで20分間撹拌してanti-human Fc-coated biosensor tips(AHC,ForteBio)を活性化させた。AbS0抗体(1μg/ml、200μl)を加えて10分間捕獲し、0.1% PBAで2分間洗浄した。HBV遺伝子型AのGST-preS1(1-56)-strep抗原を0.1% PBAで2-fold serial dilution(25、12.5、6.25、3.125、1.5625nM)を行い、チップに結合した抗体とそれぞれ5分間assotiation step及び10分間dissociation stepを行った。Baseline driftに対して抗体がないランニングバッファーのみに露出したcontrol sensor(antibody-captured AHC sensor)値を除いて測定値を補正した。作動温度は30℃に維持した。データは、1:1 interaction model(fitting global,Rmax unlinked by sensor)を用いてForteBio data analysis software version 7.1を用いて分析した。
【0113】
その結果、AbS0抗体の親和度は、0.5nMであることを確認した。
【0114】
【0115】
3-5 AbS0抗体の抗原結合特異性(specificity)の評価
AbS0抗体のpreS1抗原に対する非特異的結合の可能性を排除するためにL1CAMを発現するが、preS1を発現しないヒト卵巣癌細胞株SKOV3(Min,J.-K.ら、Clin.Cancer Res.16(14);3571-80,2010)を用いてflow cytometryを行った。
【0116】
具体的には、培養されたSKOV3細胞(2x10
5)にAbS0または陽性対照群としてAb417(L1CAM特異ヒト抗体:Cho S.et al.,MABS 8(2)、414-425,2016)を1μg(in 100μl of 0.1% PBA)を加え、4℃で1時間反応させた後、0.1% PBAで二回洗浄した。この細胞にanti-human IgG Fc-fluorescein isothiocyanate(FITC) conjugate(1:2000v/v、BD Pharmingen)を加え、4℃で1時間反応させた後、propidium iodide(1:200v/v、Sigma)を加え、FACSCalibur(Becton Dickinson)を用いて細胞を分析した。実験の結果、Ab417はSKOV3に結合したが、AbS0抗体はSKOV3細胞に結合しなかった(
図3D)。
【0117】
これを通じて、AbS0抗体がpreS1抗原に特異的に結合することを確認することができた。
【0118】
実施例4:AbS0抗体のHBV中和活性の評価
4-1免疫沈降(Immunoprecitation)の分析
AbS0抗体がHBVビリオンに結合するかを確認するために、HBV遺伝子型Dを用いて免疫沈降分析を行った。
【0119】
既存のHBV中和効能を示す抗preS1ヒト化抗体HzKR127-3.2をHBV遺伝子型Dの陽性対照群として用い、マウスIgGを陰性対照群として用いた。免疫沈降後、ウイルスDNAを抽出してサザンブロッティングで測定した。
【0120】
具体的には、HBV遺伝子型DのHBV粒子の製造のために、HepG2細胞を6ウェルプレートに6Х105の密度で播種し、37℃で培養した。翌日、HepG2細胞をpHBV1.2(HBV遺伝子型D)で形質注入し、4日間インキュベーションした。培養上清液を回収し、AbS0、HzKR127-3.2(陽性対照群)、またはmouse IgG(陰性対照群)1μg/mlと4℃で一晩中インキュベーションした後、protein A bead 20μlと6時間4℃で免疫沈降を行った。免疫沈降させた複合体をPBSで3回洗浄した後、次のようにウイルスDNAを検出した。即ち、形質注入されたプラスミドDNAを除去するために、免疫複合体にDNase I(Sigma)及びmung bean nuclease(Takara,Kusatsu,Shiga,Japan)を37℃で20分間処理した。Core-associated HBV DNAを製造するために、沈降した免疫複合体にProteinase K(20 mg/ml、Roche)を37℃で2-3時間0.5% SDSの存在下に加えて分解した後、phenol/chloroform/isoamyl alcohol(25:24:1)(Sigma)を用いてHBV DNAを抽出し、エタノールと3M酢酸ナトリウムを用いて精製した。精製されたDNAを1%のアガロースゲルから分離し、HBV DNAをサザンブロッティングで検出した。
【0121】
その結果、HBV DNAのRC(relaxed circular)及びDSL(double-stranded linear)の形態がAbS0またはHzKR127-3.2抗体沈降物と共に検出され、mouse IgGによってはHBV DNAが検出されなかった(
図4A)。
【0122】
これを通じてAbS0抗体がHBV遺伝子型Dのビリオンに結合されることを確認することができた。
【0123】
4-2 AbS0のHBV中和活性の評価
AbS0がHBV感染を中和できるかどうかをテストするために、遺伝子型DのHBV粒子を互いに異なる濃度の抗体とプレインキュベーション(pre-incubation)し、細胞受容体NTCPを過剰発現するHepG2-NTCP細胞に添加した。
【0124】
具体的には、NTCPを過剰発現するHepG2(HepG2-NTCPと称する)細胞株を用いてAbS0のHBV中和活性を分析した。HepG2-NTCP細胞を6ウェルプレートに6x105密度で播種し、37℃で培養した。翌日、HepG2-NTCP細胞を4% PEG(polyethylene glycol)と2.5% DMSOを含むPMM(primary hepatocyte maintenance medium)培地で遺伝子型DのHBV粒子に感染させた(細胞当たりウイルスゲノム等価物~2000個)。
【0125】
中和の分析のために、HBV粒子を希釈されたAbS0抗体(10、1、0.1μg)またはmouse IgG(10μg)とそれぞれ1時間常温でそれぞれプレインキュベーションした後、培養されたHepG2-NTCP細胞に添加し、2.5% DMSOを含むPMM培地で毎日2時間ごとに交換して7日間細胞を培養した。感染したHepG2-NTCP細胞から細胞内HBV DNAを抽出し、サザンブロッティングを行った。
【0126】
その結果、AbS0抗体は、用量に比例するようにHBV中和効果を示したが、mouse IgGは中和効果を示していないことを確認した(
図4B)。
【0127】
これを通じてAbS0は、HBV感染を中和する能力があることを確認することができた。
【0128】
前記のような結果は、本発明の新規抗体であるAbS0がHBV遺伝子型A-Dに全て結合することができ、前記遺伝子型のウイルスを効果的に中和させることを示唆し、前記遺伝子型のウイルス感染を予防したりウイルス感染による肝炎患者の治療に効果的であることを示唆する。併せて、前記HBV遺伝子型A-D感染有無も特異的に検出できることを示唆する。
【0129】
前記本発明の新規抗体AbS0の軽鎖可変領域は配列番号14で、重鎖可変領域は配列番号15で示した。
【0130】
実施例5:AbS0抗体のfine epitopeの決定
AbS0抗体のHBV中和効能の機序を理解するために、AbS0のpreS1内における結合部位(fine epitope)を正確に決定し、このfine epitopeのアミノ酸配列がHBVごとに保存されているかを分析した。
【0131】
5-1 PreS1(19-34)のalanine scanning mutagenesis
AbS0抗体は、genotype CのpreS1(20-32)ペプチドを用いたヒト抗体ライブラリーのパンニングを通じて発掘したものであるため、この抗体がpreS1(20-32)領域内に結合することと推定し、如何なる残基がAbS0抗体に結合するかを分析するために、genotype CのpreS1(19-34)の各残基をアラニン(alanine)で置換させた変異体を作り、AbS0抗体の各変異体に対する抗原結合能を分析した。
【0132】
具体的には、突然変異配列が含まれたプライマーを用いて組換えPCR方法でpreS1(19-34)の各残基をアラニンで置換させたDNAを合成し、BamHIとEcoRI(NEB)制限酵素で切断した後、wild typeのpreS1配列が含まれている前記pGST-preS1(1-56)-strep発現プラスミドのBamHI-EcoRI部位にそれぞれsubcloningすることにより、wild typeのpreS1(1-56)の代わりにアラニン置換変異体を有する発現プラスミドを製作した。その後、各変異体を発現するために、組換えE.coli DH5αを0.2 mMのIPTGが含まれた培地で18℃で19時間培養した。その後、sonicationにより細胞を破砕した後、グルタチオンビード(Genscript)を用いた親和性クロマトグラフィーによりGST-preS1(1-56)-strepタンパク質を精製し、精製されたタンパク質の純度を12% SDS-PAGEで確認した(
図5)。
【0133】
5-2.preS1のアラニン置換変異体に対する抗体の抗原結合能の分析
各アラニン置換変異体に対するAbS0抗体の抗原結合能をindirect ELISAで分析した(
図6)。
【0134】
具体的には、各ウェルに突然変異されたGST-preS1(1-56)-strep抗原(200ng)をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体とインキュベーションした。結合されたAbS0抗体は、抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Thermo)を2次抗体として用いて検出した。
【0135】
その結果、L22A、G23AまたはF25A突然変異体は、wild typeのpreS1抗原に比べて抗体結合活性を完全に喪失することを確認した。その結果は、AbS0抗体がpreS1抗原のLeu22、Gly23及びPhe25に直接的に結合することを意味する。
【0136】
実施例6:AbS0抗体のepitope結合部位(paratope)の決定及び親和度が増加した変異体の確認
AbS0抗体のCDRs中で抗原と直接的に結合するアミノ酸残基を探すために、CDR残基をalanine scanning mutagenesisと位置指定突然変異(site-directed mutagenesis)させた後、その変異体の抗原結合能を分析した。
【0137】
6-1.AbS0抗体のHCDR3及びLCDR3のalanine scanning mutagenesis
AbS0抗体のHCDR3(配列番号15基準V95、I96、Y97、S99、L100)及びLCDR3(配列番号14基準S91、Y92、S93、S94、Y96)の各残基をアラニンで置換させた変異体を製作するために、突然変異配列が含まれたプライマーを用いてVHまたはVL遺伝子を組換えPCR方法を用いて合成した。HCDR3変異体の場合には、それぞれ合成されたVH遺伝子をEcoRIとApaI制限酵素で切断した後にAbS0抗体の重鎖遺伝子が入っている発現ベクター(pCMV-dhfr-AbS0H)のEcoRI-ApaI位置にsubcloningし、LCDR3変異体の場合には、それぞれ合成されたVL遺伝子をHindIIIとBsiWI制限酵素で切断した後にAbS0抗体の軽鎖遺伝子が入っている発現ベクター(pCMV-dhfr-AbS0k)のHindIII-BsiWI位置にsubcloningし、次のように合計10個のアラニン置換変異体の発現プラスミドを製作した。
【0138】
【0139】
各変異体を生産するために、前記製作された発現プラスミドをポリエチレンイミン(PEI;polyethyleneimine)と1:4の比率(30μg:120μg)で混合した後、HEK293F細胞に導入した。形質転換された細胞を7日間培養して変異体抗体を発現させた後、培養上清液を回収し、これらの抗原結合能をindirect ELISAで分析した。具体的には、各ウェルにHBV遺伝子型Cの組換えGST-preS1(1-56)-strep抗原(100ng)をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体またはAbS0変異体を結合させ、2次抗体として抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Thermo)を加えて反応させた。
【0140】
Indirect ELISAに使用されたAbS0抗体またはAbS0変異体の濃度は、quantitative ELISAにより決定された。各ウェルに抗ヒトIgG kappa抗体(100ng,Thermo)をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体または変異体を結合させ、2次抗体として抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Thermo)を加えて反応させた。
【0141】
その結果、HCDR3変異体L100A及びLCDR3変異体Y96Aは、抗原結合活性がないか、または非常に低い一方、他の6個の変異体(HCDR3のV95A、S99A;LCDR3のS91A、Y92A、S93A、S94A)は、wild typeのAbS0と同一の抗原結合能を示した(
図7)。CDR3変異体I96A及びY97Aは発現しなかったため、分析できなかった。その結果からAbS0のHCDR3のLeu100、LCDR3のTyr96が抗原結合に非常に大いに関与することを確認した。
【0142】
6-2 AbS0抗体HCDR1及びHCDR2の位置指定突然変異
一般に、抗体でHCDR1の33番のアミノ酸とHCDR2の50番のアミノ酸は、抗体ごとに異なって多様性が高く、抗原結合に関与することが知られているため、AbS0抗体の場合、33番、50番の残基が抗原結合に関与するかを分析するために、位置指定突然変異を行った。(33番及び50番の位置は、配列番号15を基準として記載した位置である)
【0143】
AbS0抗体の場合、HCDR1の33番のアミノ酸がアラニンとなっており、その残基が抗原結合に関与するかを調べるために、アラニンを8個の他の残基(S、P、V、T、G、D、L、N)で置換し、50番のアミノ酸はセリンとなっており、6個の他の残基(A、Y、E、F、V、P)で置換した。変異体遺伝子の製作のために、degenerate primerを利用した組換えPCRを行い、合成されたVH遺伝子をEcoRIとApaI制限酵素で切断した後にpdCMV-dhfr-AbS0のEcoRI-ApaI位置にsubcloningして変異体の発現プラスミドを得、塩基配列の分析を通じて前記の合計14種の変異体を確保したことを確認した。それぞれの発現プラスミドを前記6-1と同様な方法でHEK293F細胞に導入し、7日間培養後に得た培養上清液を前記6-1と同様にindirect ELISAとquantitative ELISAで分析した。
【0144】
その結果、重鎖HCDR1 33番のアミノ酸の場合、アラニンをアスパラギン(A33N、
図8A)、ロイシン(A33L、
図8B)、アスパラギン酸(A33D、
図8C)で置換した場合には抗原結合能を示さず、グリシンで置換された変異体(A33G、
図8C)もwild type AbS0抗体に比べて抗原結合能が大きく減少したことが示された。その結果は、重鎖HCDR1の33番のアミノ酸が抗原結合に関与することを意味する。一方、3個の変異体であるA33S(
図8A)、A33V及びA33P(
図8B)は、wild type抗体と類似の抗原結合能を示した。
【0145】
HCDR2の50番セリンの変異体の場合、S50A変異体は、AbS0抗体に比べて若干増加した抗原結合能を示し、S50Y変異体の抗原結合活性は大きく減少した一方、S50F及びS50E変異体は抗原結合活性を示さないことを確認した(
図8D)。S50V及びS50P変異体の場合、発現が検出されないため、抗原結合能を分析できなかった。その結果は、HCDR2の50番の残基が抗原結合に重要に作用し、セリンよりはアラニンが抗原結合に、より最適であることを意味する。
【0146】
AbS0抗体HCDR2の52a番のグルタミン(配列番号11を基準として4番のアミノ酸)も抗原結合に関与するかを分析するために、グルタミンを4個の他のアミノ酸(Y、A、F、M)で置換した変異体を製作してHEK293F細胞で一時的に発現させた結果、変異体(Q52aA、A52aF、A52aM)は、AbS0抗体と同一の抗原結合能を示し、Q52aY変異体は、発現が検出されず、分析できなかった。この結果からHCDR2アミノ酸52a番がpreS1抗原との相互作用に関与しないことと推定した。
【0147】
前記実施例5及び6の結果に基づいて、AbS0抗体でHCDR1のAla33、HCDR2のSer50、HCDR3のLeu100、LCDR3のTyr96がpreS1のLeu22、Gly23、Phe25に直接的に結合することを推定することができた。また、実施例6の実験を通じてAbS0より抗原結合能がより向上した変異体S50Aを得ることができ、その変異体抗体を「AbS1」と命名した。
【0148】
実施例7:AbS1抗体の抗原結合特性の分析
7-1 AbS1とAbS0抗体のgenotype A及びCのpreS1抗原に対する結合能の比較
前記実施例6-2においてAbS0抗体及び変異体の抗原結合能を分析するために、HBV遺伝子型Cの組換えGST-preS1(1-56)-strep抗原を使用したため、AbS1抗体が他の遺伝子型のpreS1抗原に対してもAbS0より結合能がより高いかを分析するために、遺伝子型Aの組換えGST-preS1(1-56)-strep抗原に対してindirect ELISAを行った。その結果、AbS1は、AbS0より遺伝子型AのpreS1に対してより高い抗原結合能を示すことを確認した(
図9)。
【0149】
7-2 AbS1抗体の他のreceptor-binding motifを有するpreS1抗原に対する結合能の分析
AbS1抗体のepitope(preS1のLeu22、Gly23、Phe25)がHBV receptor-binding motif内に入っているため、AbS1抗体が地球上に存在するHBVに広範囲に結合可能かどうかを推定するために、HBV database(https://hbvdb.lyon.inserm.fr/HBVdb/)に登録されている9639個(2021年4月30日現在)のpreS1遺伝子の受容体結合部位(aa 20-26、genotype A)の配列を分析した結果、96.6% preS1配列がreceptor-binding motifとしてNPLGFFP配列を有しており、2.6%は25番の位置にフェニルアラニンの代わりにロイシンがあるNPLGFLPを有していた(表3)。
【0150】
【0151】
したがって、AbS1抗体がNPLGFLPにも結合するかを分析するために、NPLGFLP配列を有するgenotype AのGST-preS1(1-56)-strep抗原を発現及び精製してindirect ELISAを行った結果、AbS1抗体は、NPLGFLPに対してNPLGFFPに対する結合能より若干低いが、良好に結合することを確認した(
図9)。
【0152】
前記結果から、AbS1抗体が遺伝子型A、CのpreS1抗原に対してAbS0より高い抗原結合能を示すことを確認し、両抗体はいずれもNPLGFLP配列の肝細胞受容体結合モチーフを有するHBVにも良好に結合することを予測することができた。
【0153】
7-3 AbS1抗体のgenotype E、FのpreS1抗原に対する結合能の分析
前記実施例を通じてAbS1抗体がHBV遺伝子型A-D及び変異体のpreS1抗原に結合することを確認したため、AbS1抗体が遺伝子型E、FのpreS1抗原に対しても結合できるかどうかを確認するために、遺伝子型E、Fの組換えGST-preS1(1-56)-strep抗原に対してquantitative ELISA(
図10A)及びindirect ELISA(
図10B)を行った。この時、実施例5のgenotype CのF25A変異体preS1抗原をnegative controlとして使用した。その結果、AbS1は遺伝子型E、FのpreS1に良好に結合することを確認した(
図10)。
【0154】
前記のような結果は、本発明の新規抗体であるAbS0、AbS1がHBV遺伝子型A-Fに全部結合することができ、preS1の肝細胞受容体結合モチーフに結合するため、HBVが肝細胞に入る過程を遮断することによりHBVの中和だけでなく、HBVの感染を効果的に阻害するHBV entry inhibitorの作用機序を有するところ、HBV感染の予防及び治療にも有用に用いられることを示す。
【0155】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBV(Hepatitis B virus)のpreS1抗原内の特定位置のアミノ酸に結合する抗体であって、
前記preS1抗原内の特定位置は、配列番号19を基準として22番、23番及び25番の位置に対応する、前記抗体。
【請求項2】
前記抗体は、配列番号5のLCDR3配列の8番チロシン及び配列番号9のHCDR3配列の6番ロイシンをパラトープとして有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体は、配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸をパラトープとして有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸残基は、アラニンまたはセリンである、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体は、
(a)配列番号3の軽鎖CDR1、配列番号4の軽鎖CDR2、及び配列番号5の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;及び
(b)配列番号7の重鎖CDR1、配列番号8の重鎖CDR2、及び配列番号9の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体は、
(a)配列番号3の軽鎖CDR1、配列番号4の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;及び
(b)配列番号10の重鎖CDR1、配列番号11または12の重鎖CDR2、及び配列番号13の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体は、HBVの遺伝子型A、B、C、D、EまたはFから選択された一つ以上の遺伝子型に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号1で構成される、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号2で構成される、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体は、配列番号14で記載された軽鎖可変領域;及び配列番号15または16で記載された重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を含む、HBV感染の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項15】
前記組成物は、B型肝炎の予防または治療のためのものである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を用いて、HBV感染の疑いのある個体から分離した生物学的試料に存在するpreS1タンパク質を抗原抗体反応を通じて検出する段階を含む、HBV感染の診断方法。
【請求項17】
前記方法は、B型肝炎の診断をするためのものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を含む、HBV検出用組成物。
【請求項19】
前記組成物は、B型肝炎の診断をするためのものである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の組成物を含む、HBV検出用キット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
前述した具現例のいずれか一つによる具現例として、前記抗体は、配列番号8で示されるHCDR2配列の1番のアミノ酸をパラトープとして有する抗体であってもよい。前記配列番号8の1番のアミノ酸は、アラニンまたはセリンであってもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0079】
前記個体は、ヒトを含む哺乳動物などを含み、本発明の前記組成物の投与によりHBV感染が治療される個体を制限なく含む。この時、前記抗体は、薬学的に有効な量で単一または多重投与されてもよい。この時、抗体は、液剤、散剤、エアロゾル、カプセル剤、腸溶皮錠剤またはカプセル剤または坐剤の形態で投与することができる。投与の経路は、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下内投与、内皮投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などを含むが、これに制限されない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0109
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0109】
3-2AbS0の抗体精製
3-1で製造した発現プラスミドをポリエチレンイミン(PEI;polyethyleneimine)を用いて1:4の比率(30μg:120μg)でHEK293F細胞30mLに導入した。形質転換された細胞を7日間培養し、培養上清液としてProtein Aを用いた親和度クロマトグラフィーを行った後、UV-Vis Spectrophotometerを用いて抗体の濃度を決定し、SDS-PAGEにより精製された抗体の純度を検証した(
図3A)。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0110】
3-3AbS0の結合活性の分析
精製されたAbS0 mAbの種々のHBV遺伝子型のpreS1抗原に対する抗原結合活性を分析するために、
indirect ELISAを行った。具体的には、各ウェルに遺伝子型A-D(
図1)のGST-preS1(1-56)-strep(30nM/well)をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体と反応させた。結合されたAbS0抗体は、抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Jackson)を2次抗体として用いて検出した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
4-2 AbS0のHBV中和活性の評価
AbS0がHBV感染を中和できるかどうかをテストするために、ヒト肝細胞受容体NTCPを過剰発現するHepG2(HepG2-NTCPと称する)細胞株を用いてAbS0のHBV中和活性を分析した。遺伝子型DのHBV粒子を互いに異なる濃度の抗体とプレインキュベートし、続いて培養したHepG2-NTCP細胞に添加した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0124
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0124】
具体的には、HepG2-NTCP細胞を6ウェルプレートに6x105密度で播種し、37℃で培養した。翌日、HepG2-NTCP細胞を4% PEG(polyethylene glycol)と2.5% DMSOを含むPMM(primary hepatocyte maintenance medium)培地で遺伝子型DのHBV粒子に感染させた(細胞当たりウイルスゲノム等価物~2000個)。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0130
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0130】
実施例5:AbS0抗体のfine epitopeの決定
AbS0抗体のHBV中和効能の機序を理解するために、AbS0の結合部位(fine epitope)を正確に決定し、このfine epitopeのアミノ酸配列がHBVの遺伝子型ごとに保存されているかを分析した。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0134
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0134】
具体的には、各ウェルに突然変異されたGST-preS1(1-56)-strep抗原(200ng)または野生型preS1抗原をコーティングした後、連続して希釈されたAbS0抗体とインキュベーションした。結合されたAbS0抗体は、抗ヒトIgG Fc-HRP(1:10,000v/v、Thermo)を2次抗体として用いて検出した。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0138
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0138】
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0148
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0148】
実施例7:AbS1抗体の抗原結合特性の分析
7-1 AbS1とAbS0抗体の抗原結合能の比較
前記実施例6-2において
AbS1はAbS0と比較してHBV遺伝子型CのpreS1抗原
に対する増強された抗原結合能を示した。そのため、この実験においてはAbS1抗体が他の遺伝子型のpreS1抗原に対してもAbS0より結合能がより高いかを分析するために、遺伝子型A
のpreS
1抗原
を使用してindirect ELISAを行った。その結果、AbS1は、AbS0より遺伝子型AのpreS1に対してより高い抗原結合能を示すことを確認した(
図9)。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0149
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0149】
7-2 AbS1抗体の他のreceptor-binding motif配列を有するpreS1抗原に対する結合能の分析
AbS1抗体のepitope(preS1のLeu22、Gly23、Phe25)がHBV receptor-binding motif内に入っているため、AbS1抗体が地球上に存在するHBVに広範囲に結合可能かどうかを推定するために、HBV database(https://hbvdb.lyon.inserm.fr/HBVdb/)に登録されている9639個(2021年4月30日現在)のpreS1遺伝子の受容体結合部位(aa 20-26、genotype A)の配列を分析した結果、96.6% preS1配列がreceptor-binding motifとして確証されたNPLGFFP配列を有しており、2.6%は25番の位置にフェニルアラニン(Phe25)の代わりにロイシン(Leu25)があるNPLGFLPを有していた(表3)。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0150
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0150】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】