(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】キチン分解酵素に基づく植物保護剤
(51)【国際特許分類】
C12N 9/24 20060101AFI20240703BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240703BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240703BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240703BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20240703BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240703BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240703BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240703BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20240703BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240703BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20240703BHJP
A01N 63/20 20200101ALI20240703BHJP
【FI】
C12N9/24
C12N15/56
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/04
A01H5/00 A
A01P7/04
A01P3/00
A01N63/50 100
A01P21/00
A01N37/18
A01N63/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577990
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022066368
(87)【国際公開番号】W WO2022263545
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523471747
【氏名又は名称】グローバケム エヌヴイ
(71)【出願人】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デール,ガイ
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲルス,リスベス
(72)【発明者】
【氏名】ツワルツ,リスベス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン セルブロック,クリステル
(72)【発明者】
【氏名】アグドゥール,シハム
(72)【発明者】
【氏名】シュミッツ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ラッシェ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA88X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA47
4H011AA01
4H011AB03
4H011AC01
4H011BB21
4H011DD03
(57)【要約】
本発明は、キチン分解酵素、特に植物保護でのその使用のためのキチン分解酵素に関する。本発明はまた、キチン分解酵素をコードする核酸、キチン分解酵素を生成するための方法、キチン分解酵素またはそれをコードする核酸を含む植物、少なくとも1種のキチン分解酵素の組成物にも関する。本発明は特に、植物保護剤としてのキチン分解酵素またはそれを含む組成物の使用および有害生物から植物を保護する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列を含む、キチン分解酵素。
【請求項2】
前記第1のアミノ酸配列のN末端に融合された第2のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1に記載のキチン分解酵素。
【請求項3】
前記第2のアミノ酸配列が50アミノ酸長未満である、請求項2に記載のキチン分解酵素。
【請求項4】
前記第2のアミノ酸配列が、シグナルペプチド、好ましくはPelBリーダー配列(配列番号6)からなる、請求項2または3に記載のキチン分解酵素。
【請求項5】
前記第1のアミノ酸配列のC末端に融合された第3のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項6】
前記第3のアミノ酸配列が50アミノ酸長未満である、請求項5に記載のキチン分解酵素。
【請求項7】
前記第3のアミノ酸配列が、精製タグ、好ましくは6×Hisタグ(配列番号7)からなる、請求項5または6に記載のキチン分解酵素。
【請求項8】
前記酵素が、第1、第2および第3のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、請求項2~7のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項9】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項10】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項11】
配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項12】
配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項13】
配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項14】
本質的に、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、請求項1~13のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項15】
配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、請求項1または9~14のいずれか1項に記載のキチン分解酵素。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のキチン分解酵素をコードする核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸を含むベクター。
【請求項18】
発現ベクターである、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
請求項16に記載の核酸または請求項17もしくは18に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項20】
植物細胞または微生物細胞である、請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項22】
前記微生物細胞が細菌細胞である、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項23】
前記細菌が大腸菌である、請求項22に記載の宿主細胞。
【請求項24】
請求項1~15のいずれか1項に記載のキチン分解酵素、または請求項16に記載の核酸、または請求項17もしくは18に記載のベクターを含む植物。
【請求項25】
請求項19~23のいずれか1項に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のキチン分解酵素を生成するための方法。
【請求項26】
培養中および/または培養後に細胞および/または上清を回収するステップ、好ましくは、培養後に上清を回収するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記キチン分解酵素を精製するステップをさらに含む、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1~15のいずれか1項に記載の少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物。
【請求項29】
請求項1~15のいずれか1項に記載の少なくとも2種の異なるキチン分解酵素を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記少なくとも2種の異なるキチン分解酵素が相乗効果を発揮する、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記相乗効果が、不均衡に改善されたキチン分解速度(個別の酵素と比較して)により特徴付けられる、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
配列番号1を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素および配列番号2を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素を含む、請求項28~31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
配列番号3を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素をさらに含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
植物保護剤である、請求項28~33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
植物保護剤としての、少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の使用。
【請求項36】
前記組成物が、請求項28~35のいずれか1項に記載のものである、請求項35に記載の組成物の使用。
【請求項37】
キチンを含有する生物に対する植物保護剤としての請求項35または36に記載の組成物の使用。
【請求項38】
前記植物保護剤が、真菌に対する、かつ/または昆虫に対するものである、請求項35~37のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項39】
前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、請求項35~38のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項40】
非生物的ストレスに対する植物保護剤としての請求項35または36に記載の組成物の使用であって、該非生物的ストレスが、好ましくは、渇水ストレス、凍結(frost)ストレスまたは湛水ストレスである、上記使用。
【請求項41】
植物での非生物的ストレスに対するバイオスティミュラントとしての請求項35または36に記載の組成物の使用であって、該非生物的ストレスが、好ましくは、渇水ストレス、凍結ストレスまたは湛水ストレスである、上記使用。
【請求項42】
前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、請求項35~41のいずれか1項に記載の使用。
【請求項43】
植物またはその一部分に対する少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の施用を含む、有害生物および/または非生物的ストレスから植物を保護する方法。
【請求項44】
前記組成物が、請求項28~35のいずれか1項に記載のものである、請求項43に記載の有害生物から植物を保護する方法。
【請求項45】
前記植物または植物部分が前記組成物中に浸漬される、請求項43または44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物が、植物、または葉もしくは種子などの植物の一部分の表面に対して噴霧することにより施用される、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記有害生物が、キチンを含有する生物である、請求項43~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記有害生物が、真菌または昆虫である、請求項43~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、請求項43~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記非生物的ストレスが、渇水ストレス、凍結ストレスまたは湛水ストレスである、請求項43~50のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キチン分解酵素、特に植物保護でのその使用のためのキチン分解酵素に関する。本発明はまた、キチン分解酵素をコードする核酸、キチン分解酵素を生成するための方法、キチン分解酵素またはそれをコードする核酸を含む植物、少なくとも1種のキチン分解酵素の組成物にも関する。本発明は、特に、植物保護剤としてのキチン分解酵素またはそれを含む組成物の使用および有害生物から植物を保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、化学式(C8H13O5N)nを有する、糖グルコースの誘導体であるN-アセチルグルコサミンの多量体である。長鎖多糖は、異なる分岐群にまたがる多様な異なる生物に存在する。例えば、キチンは、真菌の細胞壁、甲殻類および昆虫などの節足動物の外骨格、軟体動物の歯舌、ならびに魚類の鱗の主成分である。キチンは、セルロースと同等の構造を有する。
【0003】
より短いオリゴマーへのキチン多糖の生物学的変換は、保存されたキチン結合性ドメインおよびキチン特異的活性部位を含む加水分解酵素を必要とする。多数のキチン分解酵素が、エネルギー源としてのキチンの分解のために、様々な細菌および真菌により産生される。それらのすべてがグリコシルヒドロラーゼであるが、反応メカニズム、熱安定性および生成物特性に関して異なる[Patil et al., Enzyme Microb. Technol., 2000. 26: p. 473-483]。キチン分解性ヒドロラーゼは、それらの作用様式に従って分類することができる。エンドキチナーゼ(EC 3.2.1.14)は、キチン多糖鎖に無作為に結合し、内部グリコシド結合を加水分解して、二量体から多量体の範囲の様々な断片サイズを生じる。対照的に、エキソキチナーゼ(EC 3.2.1.29)は、キチンの還元性または非還元性末端に結合し、単量体または比較的程度は低いが二量体GlcNAc単位を放出する。これらの酵素は、キチンの完全な分解に対して必要である。最後に、キトビアーゼ(EC 3.2.1.29)がGlcNAc二量体を切断し、GlcNAc単量体を放出する[Tews et al., Nat. Struct. Biol., 1996. 3: p. 638-648]。セルラーゼおよびリゾチームなどの他の酵素もまた、キチンを対象とするが、これらの基質に対して特異的でない幾分かの加水分解活性を示すことが公知である[Wu et al., J Food Sci Technol, 2012. 49(6): p. 695-703;Aiba, Carbohydr Res, 1994. 261: p. 297-306]。
【0004】
植物の一般的な有害生物としては、真菌、昆虫および軟体動物が挙げられる。有害生物の蔓延は、収穫高の減少および望ましくない副生成物を伴う農産物の汚染をもたらし得る。
【0005】
現在商業的に応用される化学殺虫剤は、殺昆虫剤、除草剤、殺真菌剤および殺鼠剤としての使用のための有機塩素剤、有機リン酸剤、カルバメート、ピレスロイド、トリアジンおよびネオニコチノイドの群の物質を含む。これらの殺虫剤は、農業領域に対してのみ用いられるのではなく、望ましくない生物種の存在を排除または防止するために、非農業的公衆都市緑地領域、運動場、ペットシャンプー、建築材料または船の底部に対しても用いられる。多数の健康への悪影響が化学殺虫剤に関連付けられており、高い職業的、意図的または偶発的曝露は入院または死亡につながり得る一方で、曝露は、皮膚接触、汚染消費財の摂取または吸入を介して起こり、これに際して代謝され、排出され、体脂肪中に貯蔵または蓄積される可能性があるので、これらの物質は、批判的に論評されてきた[Nicolopoulou-Stamati et al., Front. Public Health, 2016, 4:148]。
【0006】
理想的な殺虫剤は、ヒトの健康に対して無害であるべきであるだけでなく、環境に優しく、所与の有害生物からの植物の保護に対して可能な限り効果的かつ特異的でもあるべきである。さらに、殺虫剤は、理想的には有害生物中での耐性の発達を回避するべきである。これらの基準を満たす新規製品に対する必要性が未だにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Patil et al., Enzyme Microb. Technol., 2000. 26: p. 473-483
【非特許文献2】Tews et al., Nat. Struct. Biol., 1996. 3: p. 638-648
【非特許文献3】Wu et al., J Food Sci Technol, 2012. 49(6): p. 695-703
【非特許文献4】Aiba, Carbohydr Res, 1994. 261: p. 297-306
【非特許文献5】Nicolopoulou-Stamati et al., Front. Public Health, 2016, 4:148
【発明の概要】
【0008】
本発明は、有害生物防除に対する酵素に基づくアプローチを提供することにより、現行の植物殺虫剤の課題を克服することを目的とする。具体的には、本発明のアプローチは、有害生物から植物を保護するためのキチン分解酵素に依存する。酵素は、ヒトまたは他の高等動物で産生されないキチンを特異的に分解し、したがって、ヒト食物摂取に対するかまたは他の非標的生物に対するリスクをもたらさないと予期される。さらに、酵素は、完全に生物学的に分解可能であり、したがって環境に優しい。このことの他に、キチンが真菌または昆虫などの有害生物中、ならびに軟体動物の歯舌中の主要な構造成分であることを考えると、そのような有害生物がキチン分解酵素に対する耐性を容易に発達させることは予期されない。
【0009】
本発明者らは、キチン分解酵素を、実際に、真菌および昆虫などの有害生物から植物を保護するために用いることができることを見出した。さらに、本発明者らは、結晶性キチンの改善された酵素的分解を可能にする新規キチン分解酵素を見出した。そのように提供されるキチン分解酵素プロセスは、確立されたキチン分解の化学的方法に対して競争力を有する。本発明者らはさらに、酵素の分泌および精製のための好適な末端タグ、ならびに適切な精製プロセスを確立することにより、工業的生産に対して好適な構築物を開発した。
【0010】
本出願は、例えば、植物またはその一部分の表面に対するキチン分解酵素の施用を介して、有害生物蔓延に対抗するための植物保護剤として、どのようにキチン分解酵素が適用されるかを初めて示す。
【0011】
さらに、キチン分解酵素および植物保護剤としてのそれらのその後の使用が、確立された物質と比較して異なる利点を提供するので、本発明は、先行技術の殺虫剤に対して重要な貢献をする。そのような利点としては、取り扱い中の安全上の危険が存在しないことまたは食物連鎖への侵入時に病原性を有しないことが挙げられる。
【0012】
したがって、本発明は、以下の好ましい実施形態を提供する:
[1]配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列を含む、キチン分解酵素。
[2]前記第1のアミノ酸配列のN末端に融合された第2のアミノ酸配列をさらに含む、[1]に記載のキチン分解酵素。
[3]前記第2のアミノ酸配列が50アミノ酸長未満である、[2]に記載のキチン分解酵素。
[4]前記第2のアミノ酸配列が、シグナルペプチド、好ましくはPelBリーダー配列(配列番号6)からなる、[2]または[3]に記載のキチン分解酵素。
[5]前記第1のアミノ酸配列のC末端に融合された第3のアミノ酸配列をさらに含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[6]前記第3のアミノ酸配列が50アミノ酸長未満である、[5]に記載のキチン分解酵素。
[7]前記第3のアミノ酸配列が、精製タグ、好ましくは6×Hisタグ(配列番号7)からなる、[5]または[6]に記載のキチン分解酵素。
[8]前記酵素が、第1、第2および第3のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、[2]~[7]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[9]配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[10]配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[11]配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[12]配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[13]配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[14]本質的に、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、[1]~[13]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[15]配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、[1]または[9]~[14]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
[16][1]~[15]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素をコードする核酸。
[17][16]に記載の核酸を含むベクター。
[18]発現ベクターである、[17]に記載のベクター。
[19][16]に記載の核酸または[17]もしくは[18]に記載のベクターを含む宿主細胞。
[20]植物細胞または微生物細胞である、[19]に記載の宿主細胞。
[21]前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、[20]に記載の宿主細胞。
[22]前記微生物細胞が細菌細胞である、[20]に記載の宿主細胞。
[23]前記細菌が大腸菌(E. coli)である、[22]に記載の宿主細胞。
[24][1]~[15]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素、または[16]に記載の核酸、または[17]もしくは[18]に記載のベクターを含む植物。
[25][19]~[23]のいずれか1つに記載の宿主細胞を培養するステップを含む、[1]~[15]のいずれか1つに記載のキチン分解酵素を生成するための方法。
[26]培養中および/または培養後に細胞および/または上清を回収するステップ、好ましくは、培養後に上清を回収するステップをさらに含む、[25]に記載の方法。
[27]前記キチン分解酵素を精製するステップをさらに含む、[25]または[26]に記載の方法。
[28][1]~[15]のいずれか1つに記載の少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物。
[29][1]~[15]のいずれか1つに記載の少なくとも2種の異なるキチン分解酵素を含む、[28]に記載の組成物。
[30]前記少なくとも2種の異なるキチン分解酵素が相乗効果を発揮する、[29]に記載の組成物。
[31]前記相乗効果が、不均衡に改善されたキチン分解速度(個別の酵素と比較して)により特徴付けられる、[30]に記載の組成物。
[32]配列番号1を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素および配列番号2を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素を含む、[28]~[31]のいずれか1つに記載の組成物。
[33]配列番号3を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素をさらに含む、[32]のいずれか1つに記載の組成物。
[34]植物保護剤である、[28]~[33]のいずれか1つに記載の組成物。
[35]植物保護剤としての、少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の使用。
[36]前記組成物が、[28]~[35]のいずれか1つに記載のものである、[35]に記載の組成物の使用。
[37]キチンを含有する生物に対する植物保護剤としての[35]または[36]に記載の組成物の使用。
[38]前記植物保護剤が、真菌に対する、かつ/または昆虫に対するものである、[35]~[37]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[39]前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属(Septoria)生物種である、[35]~[38]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[40]非生物的ストレスに対する植物保護剤としての[35]または[36]に記載の組成物の使用であって、該非生物的ストレスが、好ましくは、渇水ストレス、凍結(frost)ストレスまたは湛水ストレスである、上記使用。
[41]植物での非生物的ストレスに対するバイオスティミュラントとしての[35]または[36]に記載の組成物の使用であって、該非生物的ストレスが、好ましくは、渇水ストレス、凍結ストレスまたは湛水ストレスである、上記使用。
[42]前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、[35]~[41]のいずれか1つに記載の使用。
[43]植物またはその一部分に対する少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の施用を含む、有害生物および/または非生物的ストレスから植物を保護する方法。
[44]前記組成物が、[28]~[35]のいずれか1つに記載のものである、[43]に記載の方法。
[45]前記植物または植物部分が前記組成物中に浸漬される、[43]または[44]のいずれか1つに記載の方法。
[46]前記組成物が、植物、または葉もしくは種子などの植物の一部分の表面に対して噴霧することにより施用される、[43]~[45]のいずれか1つに記載の方法。
[47]前記有害生物が、キチンを含有する生物である、[43]~[46]のいずれか1つに記載の方法。
[48]前記有害生物が、真菌または昆虫である、[43]~[47]のいずれか1つに記載の方法。
[49]前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、[48]に記載の方法。
[50]前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、[43]~[49]のいずれか1つに記載の方法。
[51]前記非生物的ストレスが、渇水ストレス、凍結ストレスまたは湛水ストレスである、[43]~[50]のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】キチンの加水分解に関するP.オラリウム(P. orarium)上清の分析を示す図である。A:30℃で16時間の基質としてのキチン粉末とのインキュベーション後のP.オラリウム由来の培養上清(SN)のキチン分解活性の定量化。大腸菌BL21野生型培養上清を、陰性対照(NC)として用いた。還元糖を、還元末端アッセイを用いて定量化し、N-アセチルグルコサミンの較正曲線を新たに作成した。還元末端アッセイは、3回反復で行なった(n=3)。B:単一炭素源としてキチンを用いて生育されたP.オラリウム培養物の新たに調製された上清のザイモグラム。活性キチン分解酵素の特定のために、10%(v/v)グリコールキチンをゲルに組み込み、30℃で2時間のゲルのインキュベーション後に蛍光色素を適用した。大腸菌BL21上清を、陰性対照(NC)として用いた。C:新鮮P.オラリウム培養上清を、30℃で16時間、5%(w/v)キチン粉末と共にインキュベートした。熱不活性化(95℃、10分間)後、0.3μLの加水分解物を、TLCにより分離した。大腸菌BL21上清を陰性対照(NC)として用い、市販のキチン標準分子(単量体~六量体)をサイズマーカーとして用いた。kDa=キロダルトン;DP=重合度。
【
図2】golden gateクローニング技術を用いて大腸菌DH5αにクローニングされた各予測上のキチナーゼ遺伝子に関する構築物変異体を示す図である。PelBシグナルペプチドおよび6×Hisタグ(赤色枠内)を含む変異体を、大規模化発現および精製に対して選択した。
【
図3】nmol還元末端/mg酵素として表わされる、作製されたすべてのキチナーゼ変異体の比活性の概要を示すスパイダープロットを示す図である。細胞溶解物および培養上清を、各変異体に関して別個に評価した。還元末端アッセイを用いて酵素活性を定量化し、酵素量を、免疫ブロット分析後にデンシトメトリーにより決定した。PelB:PelBシグナルペプチド;cyto:細胞質発現;dsbA:dsbA融合タンパク質;NL:天然シグナルペプチド;His:6×Hisタグ;T54:T54/6×His複合タグ;P:細胞ペレット溶解物;SN:培養上清。
【
図4】IMAC精製後のキチナーゼ1~5(C1~C5)の溶出画分のクマシーR-250染色SDS-PAGEゲル(左側パネル)および対応する免疫ブロット(6×Hisタグ検出;右側パネル)を示す図である。クマシー染色ゲルに関して、8μLの純粋サンプルをロードした。免疫ブロット分析に関して、C1に対するサンプルを、PBS(pH7.4)を用いて1:5に予め希釈し、4μLを各サンプルに関してロードした。kDa=キロダルトン;M=タンパク質マーカー。示される結果は、少なくとも3回の反復の代表である。
【
図5】大腸菌BL21で生成された組み換えキチナーゼ(C1~C5)の温度最適値および安定性を示す図である。基質としてキチン粉末を用いる還元末端アッセイを用いて、活性を決定した。最高の測定された絶対活性を、100%とした。A:pH8での温度範囲(10~60℃)内の活性。B:60℃での温度安定性。0~240分間の酵素の予備インキュベーション後に、標準条件で残留酵素活性を決定した。黒色丸:C1、黒色四角形:C2、黒色三角形:C3、黒色逆三角形:C4、黒色菱形:C5。データは、3回反復実験の平均を表わす(n=3)。
【
図6】大腸菌BL21で生成された組み換えキチナーゼ(C1~C5)の至適pHおよび塩濃度を示す図である。基質としてキチン粉末を用いる還元末端アッセイを用いて、活性を決定した。最高の測定された絶対活性を、100%とした。A:30℃での酵素活性に対する異なるpH(pH4~11)の影響。B:pH8、30℃での異なるNaCl含有量(0~20%w/v)内の活性。黒色丸:C1、黒色四角形:C2、黒色三角形:C3、黒色逆三角形:C4、黒色菱形:C5。データは、3回反復実験の平均を表わす(n=3)。
【
図7】組み換えキチナーゼ(C1~C5)のミカエリス・メンテンによりフィッティングされた線形プロット(GraphPadソフトウェア)を示す図である。挿入されたラインウィーバー・バークプロットは、反応速度を、キチン粉末の濃度(0~150mg/mL)に伴う放出GlcNAcに関連付ける。VmaxおよびKmを、非線形フィッティングモデルから算出した。データは、3回反復実験の平均を表わす(n=3)。
【
図8】キチン粉末、キトサンまたはコロイド状キチンと共に30℃で16時間インキュベートされた組み換えキチナーゼ1~5(C1~C5)からの酵素的加水分解生成物の薄層クロマトグラムを示す図である。重合度(DP)1から最大DP5の範囲のキチンおよびキトサン標準分子を、加水分解生成物を特定するために用いた。示される結果は、3回反復の代表である。
【
図9】4mg/mLの濃度で重合度2~6(DP2~DP6)のキチンオリゴマーと共に16時間インキュベートされた組み換えキチナーゼ(C1~5)からの酵素的加水分解生成物の薄層クロマトグラムを示す図である。右端のスポットは、未処理標準分子である。示される結果は、3回反復の代表である。
【
図10】golden gateクローニング技術の原理を示す図である。BsaIなどのII型制限酵素は、その認識部位(GAGACC)の外側を切断し、一本鎖オーバーハングおよび認識部位自体の喪失をもたらす。オーバーハング(N)は、遺伝子断片とベクター骨格との指向性ライゲーションを可能にするために、in silicoで特異的に設計される。したがって、個々の遺伝子の順序は予め決定され、クローニング効率が増加する。消化およびライゲーションは、1つの反応容器中で行なうことができる。
【
図11】不溶性基質としてキチンを用いる例示的なカスケード状多酵素プロセスの模式的概要を示す図である。固体基質残渣(SR)および生成物(P)は、異なる酵素(E)による逐次的な反応に対する追加の基質(S)として機能する場合がある。それにより、異なる最終生成物が得られるであろう。複雑さをさらに増す酵素的フィードバック反応は、本スキーム中で考慮されていない。
【
図12】基質としてキチンを用いる、組み換えキチナーゼ1~5の混合物DoEからの加水分解生成物の薄層クロマトグラムを示す図である。0.1μLの合計サンプル体積を、0.1μLの逐次的適用によりロードした。キチンオリゴマーの混合物を、生成物を特定するためのサイズマーカーとして用いた。還元末端アッセイからの定量的データによっても反映される総生成物収率に関して、差異を特定した。M=キチンサイズマーカー;DP=重合度。
【
図13】キチナーゼ混合物設計(ラン15および12)からの加水分解サンプルの例示的LC-MSスペクトルを示す図である。オリゴマーキチン生成物を、それらのそれぞれの分子量により特定した。ピーク積分を用いて、平均混合物組成を決定した。DP=重合度。Mono-d:モノ脱アセチル化生成物。
【
図14】キチナーゼ混合物設計からの試験された最適化溶液に関する応答プロット(nmol/mL×h)を示す図である。キチンからキチンオリゴマーへの変換速度を最大化するために3種類の溶液を試験し(黒色点)、最小化された変換速度に対して3種類の溶液を試験した(灰色点)。最小化溶液は、設計モデルの予測性をさらに検証するために用いた。総モル酵素濃度を、2μMに設定した。応答プロットは、どの因子の組み合わせが所望の出力を達成するために必要であるかを強調する(赤色=高応答;青色=低応答)。A:キチナーゼ1;B:キチナーゼ2:C:キチナーゼ3。
【
図15】最小化(S1~S3)および最大化(S1~S3)されたキチン変換速度に関する、試験された溶液についてのオリゴマーキチン生成物の薄層クロマトグラムを示す図である。0.3μLの合計サンプル体積を、0.1μLスポットで連続的にロードした。S1~S3 Maxに関するサンプルを、適用前にdH
2Oを用いて1:3希釈した。オリゴマーキチン標準を、サイズマーカーとして用いた。DP=重合度;M-Chi:サイズマーカーキチンオリゴマー;M-COS:サイズマーカーキトサンオリゴマー。
【
図16】最大化(S1 Max)および最小化(S1 Min)キチン変換速度に関する、2種類の最適化溶液からの例示的LC-MSスペクトルを示す図である。オリゴマーキチン生成物を、それらのそれぞれの分子量により特定した。ピーク積分を用いて、平均混合物組成を決定した。DP=重合度。
【
図17-1】植物保護剤としてのキチナーゼの使用を示す図である。F.クルモルム(F. culmorum)生育および植物健康状態を、キチナーゼの存在下で評価した。(A)対照;(B)対照+F.クルモルム;(C)キチナーゼ1+F.クルモルム。
【
図17-2】植物保護剤としてのキチナーゼの使用を示す図である。F.クルモルム生育および植物健康状態を、キチナーゼの存在下で評価した。(D)キチナーゼ2+F.クルモルム;(E)キチナーゼ3+F.クルモルム;(F)キチナーゼ4+F.クルモルム。
【
図17-3】植物保護剤としてのキチナーゼの使用を示す図である。F.クルモルム生育および植物健康状態を、キチナーゼの存在下で評価した。(G)キチナーゼ5+F.クルモルム。
【
図18A】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。植物長(PL)。A:渇水ストレスまたは湛水ストレスの存在下でのトウモロコシに対する葉面散布後。
【
図18B】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。植物長(PL)。B:渇水ストレスの存在下でのトウモロコシに対する葉面散布、種子施用または葉面+種子施用後。
【
図18C】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。植物長(PL)。C:塩ストレスの存在下でのイネに対する葉面散布後。
【
図18D】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。植物長(PL)。D:塩ストレスの存在下でのトウモロコシに対する葉面散布後。
【
図18E】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。植物長(PL)。E:渇水ストレスの存在下でのオオムギに対する種子施用後。
【
図19A】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。A:凍結ストレスの存在下での葉面散布後の西洋ナシの収穫量。
【
図19B】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのキチナーゼ1の使用を示す図である。B:凍結ストレスの存在下での葉面散布後のサクランボの収穫量。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中で具体的に定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語は、酵素学、植物保護、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0015】
本明細書中に記載されるものと類似または同等なすべての方法および材料を、本発明の実施または試験で用いることができ、好適な方法および材料が、本明細書中に記載される。
【0016】
本発明の文脈で用いる場合、用語「約」とは、用語「約」に続く値が、±20%の範囲内、好ましくは±15%の範囲内、より好ましくは±10%の範囲内で変わり得ることを意味する。
【0017】
本明細書中で引用されるすべての刊行物、特許および特許出願は、すべての目的のために、その全体で参照により本明細書中に組み入れられる。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が、引用される参考文献よりも優先されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、単に例示的であり、別途明記されない限り、限定的であることは意図されない。
【0018】
本明細書中で用いる場合、「含むこと」または「含む」などの用語の各出現は、任意により、「からなること」または「からなる」を用いて置換することができる。化合物または組成物の文脈での用語「本質的に~からなる」とは、化合物または組成物の必須の特性に実質的に影響しない特異的なさらなる成分が存在し得ることを意味する。例えば、本質的に特定のアミノ酸配列からなるキチン分解酵素は、当該アミノ酸配列ならびに酵素のキチン分解活性に実質的に影響しない追加のNおよび/またはC末端配列(本明細書中に規定される通りの第2および/または第3の配列など)からなることができる。
【0019】
本発明は、有害生物防除に対する酵素に基づくアプローチを提供することにより、現行の植物殺虫剤の課題を克服することを目的とする。具体的には、本発明のアプローチは、有害生物から植物を保護するためのキチン分解酵素に依存する。これらの酵素は、ヒトまたは他の高等動物で産生されないキチンを特異的に分解し、したがって、ヒト食物摂取に対するかまたは他の非標的生物に対するリスクをもたらさないと予期される。本出願では、用語「キチン分解酵素」は、用語「キチナーゼ」と同義的に用いられる。
【0020】
さらに、本発明者らは、先行技術のキチン分解酵素と比較して有利な特性を示し、かつ例えば、非常に改善された酵素代謝回転を可能にする、フォトバクテリウム属(Photobacterium)の新たに同定された生物種由来の新規キチン分解酵素を見出しかつ特性決定した。本発明者らは、驚くべきことに、キチン分解酵素の組み合わせが、相乗的に改善されたキチン分解速度を達成することができることを見出した。
【0021】
したがって、提供されるキチン分解プロセスは、キチン分解の確立された化学的方法に対して競争力を有する。
【0022】
本開示は、以下の通りにより詳細に説明される。
【0023】
キチン分解酵素
本発明は、キチン分解酵素、1種以上のキチン分解酵素を含む組成物、ならびに1種以上のキチン分解酵素を含むかまたは(本質的に)それからなる殺虫剤などの植物保護剤に関する。
【0024】
本明細書中に開示される通りのキチン分解酵素は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むことができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、酵素は、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0025】
これに従って、好ましいキチン分解酵素はまた、本質的に、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列からなることもできる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、酵素は、本質的に、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0026】
したがって、キチン分解酵素はまた、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列からなることもできる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、酵素は、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0027】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0028】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0029】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号3に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0030】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号4に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0031】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号5に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0032】
本明細書中に開示される通りのキチン分解酵素は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列を含むことができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、酵素は、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0033】
これに従って、本明細書中に開示される通りのキチン分解酵素は、本質的に、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列からなることができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、酵素は、本質的に、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0034】
したがって、本明細書中に開示される通りのキチン分解酵素は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列からなることができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、酵素は、配列番号1~5の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0035】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0036】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号2に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0037】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号3に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0038】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号4に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0039】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号5に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0040】
第1のアミノ酸配列が配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して100%未満同一であり、かつ/またはアミノ酸差異を有する場合、キチン分解酵素は、好ましくは、(本質的に)配列番号1~5のうちのいずれか1つからなる対応するキチン分解酵素と同じかまたはよりよい分解速度を有する。例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%(かつ100%未満)同一である場合、キチン分解酵素は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなるキチン分解酵素と同じかまたはよりよいキチン分解速度を有する。同様に、例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して最大15箇所(かつ少なくとも1箇所)のアミノ酸差異を有する場合、キチン分解酵素は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなるキチン分解酵素と同じかまたはよりよいキチン分解速度を有する。同じことが、配列番号2、3、4または5に準用される。
【0041】
第1のアミノ酸配列が配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列に対して100%未満同一であり、かつ/またはアミノ酸差異を有する場合、当業者は、(本質的に)配列番号1~5の群から選択されるアミノ酸配列からなる参照、すなわち、未改変配列と比較して、キチン分解速度を維持または改善するために、元の配列をどのように改変するかを知っている。キチン分解速度は、例えば、実施例中に記載される通りの方法により、例えば、キチン粉末を基質として用いて、決定することができる。典型的には、改変型酵素のキチン分解速度および参照配列のキチン分解速度を決定するために、同じ方法が用いられる。
【0042】
第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列との間での「配列同一性」のパーセンテージまたは「%同一」は、[第2のアミノ酸配列中の対応する位置でのアミノ酸残基に対して同一である第1のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数]を[第1のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の総数]により除算し、[100%]を乗算することにより算出することができ、第1のアミノ酸配列と比較した第2のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の各欠失、挿入、置換または付加は、単一アミノ酸残基での(すなわち、単一位置での)差異と見なされる。同じことが、ヌクレオチド配列に準用される。
【0043】
本明細書中で用いる場合、「アミノ酸差異」は、アミノ酸挿入、欠失または置換であり得、好ましくは、置換である。アミノ酸置換は、好ましくは、当技術分野で公知である通りの保存的置換である。そのような保存的置換は、以下の群(a)~(e)内の1つのアミノ酸が、同じ群内の別のアミノ酸残基により置換される置換であり得る:(a)小型脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、ProおよびGly;(b)極性、負に荷電した残基およびそれらの(非荷電)アミド:Asp、Asn、GluおよびGln;(c)極性、正に荷電した残基:His、ArgおよびLys;(d)大型脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、ValおよびCys;ならびに(e)芳香族残基:Phe、TyrおよびTrp。
【0044】
より具体的には、保存的置換は、以下の通りであり得る:AlaからGlyへもしくはSerへ;ArgからLysへ;AsnからGlnへもしくはHisへ;AspからGluへ;CysからSerへ;GlnからAsnへ;GluからAspへ;GlyからAlaへもしくはProへ;HisからAsnへもしくはGlnへ;IleからLeuへもしくはValへ;LeuからIleへもしくはValへ;LysからArgへ、GlnへもしくはGluへ;MetからLeuへ、TyrへもしくはIleへ;PheからMetへ、LeuへもしくはTyrへ;SerからThrへ;ThrからSerへ;TrpからTyrへ;TyrからTrpへ;および/またはPheからValへ、IleへもしくはLeuへ。
【0045】
キチン分解酵素は、エンドキチナーゼまたはエキソキチナーゼであり得る。好ましくは、キチン分解酵素は、真菌および/または昆虫の構造成分として存在するキチンを切断することが可能である。真菌の構造成分は、細胞壁であり得る。昆虫の構造成分は、外骨格であり得る。最も好ましくは、キチン分解酵素は、真菌の細胞壁中に存在するキチンを切断することが可能である。キチン分解酵素は、第1のアミノ酸配列のN末端に融合された第2のアミノ酸配列をさらに含むことができる。
【0046】
第2のアミノ酸配列は、典型的には、酵素のN末端に位置する。
【0047】
第2のアミノ酸配列は、好ましくは、50アミノ酸長未満、より好ましくは30未満、さらにより好ましくは25アミノ酸未満、例えば、22アミノ酸である。
【0048】
第2のアミノ酸配列は、典型的には、細菌細胞などの細胞からの分泌を引き起こす配列である。したがって、第2のアミノ酸は、シグナルペプチドであり得る。第2のアミノ酸配列の具体例としては、天然のシグナルペプチド、PelBシグナルペプチド(配列番号6)またはdsbAタンパク質が挙げられる。好ましくは、第2のアミノ酸配列は、PelBシグナルペプチドである。
【0049】
キチン分解酵素は、第1のアミノ酸配列に対してC末端に融合された第3のアミノ酸配列をさらに含むことができる。第3のアミノ酸配列は、典型的には、酵素のC末端に位置する。
【0050】
第3のアミノ酸配列は、好ましくは、50アミノ酸長未満、より好ましくは30未満、さらにより好ましくは20アミノ酸未満である。最も好ましくは、第3のアミノ酸配列は、10アミノ酸長未満、例えば、6アミノ酸である。
【0051】
第3のアミノ酸配列は、典型的には、細菌細胞などの細胞による産生後の酵素の精製を促進する配列である。したがって、第3のアミノ酸は、精製タグであり得る。精製タグの具体例としては、6×Hisタグ(配列番号7)またはTag54/6×His複合タグが挙げられる。好ましくは、第3のアミノ酸配列は、6×Hisタグである。
【0052】
本発明者らは、驚くべきことに、(N末端)PelBシグナルペプチドおよび(C末端)6×Hisタグの使用が、キチン分解酵素の最適化された生産収率を達成したことを見出した。つまり、本発明はまた、第1のアミノ酸配列、第2のアミノ酸配列および第3のアミノ酸配列を含むかまたは(本質的に)それらからなるキチン分解酵素も提供し、このとき、第2のアミノ酸配列はPelBシグナルペプチドであり、かつ第3のアミノ酸配列は6×Hisタグである。
【0053】
キチン分解酵素は、好ましくは、精製されたキチン分解酵素である。この文脈での「精製された」とは、5%未満の不純物、例えば、2%未満または1%未満でさえある不純物が存在することを意味する。この文脈での不純物とは、酵素および任意により溶媒以外のいずれかの物質を意味する。
【0054】
核酸、ベクターおよび宿主(細胞)
本発明はまた、キチン分解酵素をコードする核酸にも関する。より具体的には、本発明は、本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素をコードする核酸を提供する。例えば、核酸は、配列番号8~12の群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも50%同一(例えば、100%同一)であるヌクレオチド配列を含むことができる。例えば、ヌクレオチド配列は、配列番号8~12の群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一である。
【0055】
キチン分解酵素をコードする核酸はまた、本明細書中に記載される通りの2種以上のキチン分解酵素もコードすることができる。つまり、本発明は、配列番号1に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むキチン分解酵素および配列番号2に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むキチン分解酵素、および任意により配列番号3に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むキチン分解酵素をコードする核酸を提供する。
【0056】
核酸は、例えば、DNA、RNA、またはそれらのハイブリッドであり得、かつPNAなどの(例えば、化学的に)修飾されたヌクレオチドもまた含むことができる。核酸は、一本鎖または二本鎖DNAであり得る。例えば、本開示のヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNAであり得る。
【0057】
本発明は、キチン分解酵素をコードする核酸を含むベクターをさらに提供する。本明細書中で用いる場合、ベクターは、細胞へと遺伝物質を運ぶために好適なビヒクルである。ベクターとしては、プラスミドもしくはmRNAなどの裸の核酸、またはリポソームもしくはウイルスベクターなどのより大きな構造中に埋め込まれた核酸が挙げられる。
【0058】
ベクターは、一般的に、例えば、1つ以上の好適なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等などの1つ以上の調節エレメントに任意により連結されている、少なくとも1つの核酸を含む。ベクターは、発現ベクター、すなわち、例えば、ベクターが(例えば、細菌または植物)細胞へと導入される場合に、好適な条件下でコードされたポリペプチドまたは構築物を発現するために好適なベクターであり得る。DNAに基づくベクターに関して、これは、通常は、転写(例えば、プロモーターおよびポリAシグナル)および翻訳(例えば、Kozak配列)のためのエレメントの存在を含む。
【0059】
ベクター中では、当該少なくとも1つの核酸および当該調節エレメントは、互いに「機能的に連結」されていることができ、この表現は、一般的に、それらが互いに機能的な関係にあることを意味する。例えば、当該プロモーターがコード配列の転写および/または発現を開始するかまたはそれ以外に制御/調節することができる場合(このとき、当該コード配列は、当該プロモーター(promotor)の「制御下」にあると理解されるべきである)、プロモーターは、コード配列に「機能的に連結」されていると考えられる。
【0060】
また、好ましくは、キチン分解酵素をコードする核酸は、発現系の一部分を構成することができ、このとき、核酸は、オープンリーディングフレームを表わす。オープンリーディングフレームは、特定の生物に対してコドン最適化することができる。
【0061】
本発明はさらに、核酸またはベクターを含む(非ヒト)宿主または宿主細胞を提供する。好適な宿主細胞は、植物細胞または微生物細胞であり得る。
【0062】
例えば、農作植物または観賞植物由来の植物細胞を用いることができる。微生物細胞は、例えば、酵母または細菌細胞、例えば、大腸菌であり得る。好適な酵母の例は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である。
【0063】
本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素、それをコードする核酸、または核酸を含むベクターを含む植物もまた提供される。好ましくは、核酸またはベクターは、植物のゲノム中に含められることができる。植物の例としては、耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。植物の例としては、穀類、トウモロコシ、ナタネ、イネ、ダイズまたはジャガイモが挙げられる。
【0064】
生成方法
本発明はまた、本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素を生成するための方法も提供する。典型的には、方法は、本明細書中に記載される通りの宿主細胞、特に細菌宿主細胞、例えば大腸菌を培養するステップを少なくとも含む。培養は、宿主細胞の生育に対して好適な培地中で行なうことができる。
【0065】
方法は、培養中および/または培養後に宿主細胞および/または培養上清を回収するステップをさらに含むことができる。好ましくは、上清が、(好適な時間の)培養後に回収される。
【0066】
方法は、キチン分解酵素を精製するステップをさらに含むことができる。例えば、キチン分解酵素は、最初の硫酸アンモニウム沈殿ステップおよび可溶化されたタンパク質沈殿物の逐次的固相化金属アフィニティークロマトグラフィー精製により、培養上清から精製することができる。
【0067】
キチン分解酵素を生成するための方法は、例えば、1種以上のキチン分解酵素を発現する宿主細胞を培養することを含む発現系の構築を含むことができる。
【0068】
好ましくは、方法により生成されるキチン分解酵素は、培養培地中への酵素の分泌および/または培養上清からの精製を促進するために、本明細書中に記載される通りのNおよび/またはC末端改変を含む。例えば、方法により生成されるキチン分解酵素は、本明細書中に記載される通りの第2および/または第3のアミノ酸配列を含むことができる。
【0069】
したがって、方法は、最初の硫酸アンモニウム沈殿ステップにより培養上清からキチン分解酵素を精製するステップを含むことができ、このとき、可溶化されたタンパク質沈殿物の逐次的固相化金属アフィニティークロマトグラフィー精製が、酵素中に含められる6×Hisタグなどのアミノ酸タグを用いて行われる。
【0070】
組成物
本発明はまた、本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素のうちの少なくとも1種を含む組成物も提供する。
【0071】
好ましくは、組成物は、本明細書中に記載される通りの少なくとも2種の異なるキチン分解酵素を含む。
【0072】
有利には、少なくとも2種の異なるキチン分解酵素は、不均衡に改善されたキチン分解速度(個別のキチン分解酵素のそれぞれと比較して)などの相乗効果を発揮するように選択することができる。
【0073】
組成物は、例えば、配列番号1を含む本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素および配列番号2を含む本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素を含むことができる。
【0074】
組成物は、例えば、本質的に配列番号1からなる本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素および本質的に配列番号2からなる本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素を含むことができる。
【0075】
組成物は、例えば、配列番号1からなる本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素および配列番号2からなる本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素を含むことができる。
【0076】
組成物はまた、例えば、配列番号1を含むキチン分解酵素、配列番号2を含むキチン分解酵素および配列番号3を含むキチン分解酵素を含むこともできる。
【0077】
組成物はまた、例えば、本質的に配列番号1からなるキチン分解酵素、本質的に配列番号2からなるキチン分解酵素および本質的に配列番号3からなるキチン分解酵素を含むこともできる。
【0078】
組成物はまた、例えば、配列番号1からなるキチン分解酵素、配列番号2からなるキチン分解酵素および配列番号3からなるキチン分解酵素を含むこともできる。
【0079】
これらの実施形態のそれぞれでは、組成物は、好ましくは、他のキチン分解酵素よりも高い量で配列番号1を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素を含む。
【0080】
そのような相乗的組み合わせは、本明細書中に記載される通りの植物保護剤としての使用に対して特に有用である。
【0081】
組成物は、液体または乾燥組成物、好ましくは液体組成物であり得る。液体組成物は、好適には、水性組成物であり得る。
【0082】
組成物中のキチン分解酵素の濃度は、例えば、0.01mg/L~250g/L、例えば、0.025mg/L~100g/Lであり得る。濃度の具体例は、本明細書中にさらに記載される通りの用途に応じて、以下の通りである:
殺昆虫用途:0.01%~5%(w/v)、例えば0.05%~2.5%(w/v)、好ましくは0.1~1%(w/v)
殺真菌用途:0.25μg/100μL~25.0μg/100μL、例えば0.7μg/100μL~15.0μg/100μL、好ましくは1.25μg/100μL~10.0μg/100μL
間接的殺真菌用途:0.25μg/100μL~25.0μg/100μL、例えば0.7μg/100μL~15.0μg/100μL、好ましくは0.65μg/100μL~5μg/100μL
非生物的ストレス:0.01mg/L~1mg/L、例えば0.025mg/L~0.5mg/L、好ましくは0.05mg/L~0.25mg/L。
【0083】
好ましくは、組成物は、キチン分解活性の阻害剤を含まない。そのような阻害剤は、金属イオン(例えば、二価イオン、例えば、Zn2+、Cu2+、Ni2+)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Triton X100またはポリソルベート20)、または特定の他の化学物質(例えば、EDTA、イミダゾール)であり得る。つまり、例えば、組成物は、金属イオンおよび/またはSDSを含まない。
【0084】
植物保護
本発明者らは、驚くべきことに、キチン分解酵素を、真菌などの有害生物から植物を保護するために用いることができることを見出した。
【0085】
さらに、本明細書中に記載されるキチン分解酵素に対する至適温度(30~40℃)は、細菌キチナーゼに関して文献中で報告されたものよりも低く、なぜなら、これらの酵素は40~60℃の範囲の最適値を有する好熱性または耐熱性酵素として主に報告されるからである。このことは、本明細書中に新たに記載されるキチン分解酵素を、周囲温度での植物に対する施用に対して特に好適にする。
【0086】
本発明者らは、さらに驚くべきことに、本明細書中に新たに記載されるキチン分解酵素が、キチン粉末により例示される結晶性キチンを分解できることを見出した。粉末状キチンは、分解プロセスでの酵素のその後の適用に対する実際的なプロセスパラメータを反映する。つまり、結晶性キチンを分解する本明細書中に記載されるキチン分解酵素の能力は、それらを、有害生物中に存在するキチンの分解に対して非常に好適にする。
【0087】
つまり、本発明は、植物保護剤である本明細書中に記載される通りの少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物を提供する。本発明はさらに、植物保護剤である本明細書中に記載される通りの少なくとも2種のキチン分解酵素を含む組成物を提供する。
【0088】
本発明はまた、植物保護剤としての本明細書中に記載される通りの少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の使用も提供する。本発明はまた、植物保護剤としての本明細書中に記載される通りの少なくとも2種のキチン分解酵素を含む組成物の使用も提供する。
【0089】
植物保護剤は、好ましくは、キチンを含有する生物に対する。例えば、キチンは、真菌の細胞壁、昆虫などの節足動物の外骨格および軟体動物の歯舌の主成分である。したがって、植物保護剤は、真菌、昆虫または軟体動物、好ましくは真菌または昆虫、最も好ましくは真菌の蔓延に対するものであり得る。
【0090】
真菌の例としては、例えば、ベニアワツブタケ科(Nectriaceae)またはコタマカビ科(Mycosphaerellaceae)由来の子嚢菌が挙げられる。ベニアワツブタケ科由来の真菌の例としては、フザリウム属由来の真菌、例えば、フザリウム・オキシスポルム(Fusiarum oxysporum)、フザリウム・グラミネアルム(Fusiarum graminearum)、フザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)が挙げられる。コタマカビ科由来の真菌の例としては、セプトリア属由来の真菌、例えば、セプトリア・トリチシ(Septoria tritici)が挙げられる。他の例としては、アルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani)、フィトフソラ・インフェスタンス(Phytophtora infestans)、フハイカビ属(Pythium)、マグナポルテ・オリザエ(Magnaporthe oryzae)、リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、オオムギ網斑病菌(Pyrenophora teres)、リンコスポリウム・セカリス(Rhynchosporium secalis)、プッチニア・トリチシナ(Puccinia triticina)およびラムラリア・コロ-シグニ(Ramularia collo-cygni)が挙げられる。真菌は、糸状菌であり得る。真菌は、典型的には、病原性真菌である。
【0091】
昆虫の例としては、アブラムシ科(Aphididae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、ショウジョウバエ科(Drosophilidae)またはアワフキムシ科(Aphrophoridae)由来の昆虫が挙げられる。アブラムシ科由来の昆虫の例としては、シトビオン属(Sitobion)由来の昆虫、例えば、シトビオン・アバナエ(Sitobion avanae)が挙げられる。ゴミムシダマシ科由来の昆虫の例としては、トリボリウム属(Tribolium)由来の昆虫、例えば、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)が挙げられる。ショウジョウバエ科由来の昆虫の例としては、ショウジョウバエ属(Drosophila)由来の昆虫、例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)が挙げられる。アワフキムシ科由来の昆虫の例としては、フィラエヌス属(Philaenus)由来の昆虫、例えば、ホソアワフキ(Philaenus spumarius)が挙げられる。
【0092】
保護対象である植物は、特に限定されず、例えば、耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。
【0093】
植物の例としては、穀類、トウモロコシ、ナタネ、イネ、オオムギ、ダイズ、西洋ナシ、サクランボ、リンゴまたはジャガイモが挙げられる。好ましくは、植物は、トウモロコシ、イネ、オオムギ、西洋ナシまたはサクランボである。
【0094】
本発明はさらに、植物またはその一部分に対する、本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素などのキチン分解酵素または少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の施用を含む、有害生物から植物を保護する方法を提供する。典型的には、組成物は、植物またはその一部分の表面へと施用される。
【0095】
有害生物としては、例えば、真菌、昆虫または軟体動物が挙げられる。その例は、上記に与えられる。好ましくは、有害生物は、真菌または昆虫、最も好ましくは真菌である。
【0096】
キチン分解酵素または組成物の施用は、例えば、本明細書中に記載される通りの組成物中の植物または植物部分の浸漬を含むことができる。キチン分解酵素の別の例示的施用は、植物または植物部分へと本明細書中に記載される通りの組成物を噴霧することを含むことができる。
【0097】
植物部分は、例えば、葉、果実または種子(穀類など)であり得る。種子は、被覆種子または非被覆種子であり得る。被覆種子技術は、当業者に対して一般的に公知であり、かつ容易に修正可能である。
【0098】
有害生物は、好適には、キチンを含有する生物であり得る。したがって、有害生物は、例えば、真菌、昆虫または軟体動物、好ましくは真菌であり得る。そのような生物の例は、上記に記載される。
【0099】
保護対象である植物は、特に限定されず、例えば、耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。例は、上記に記載される。
【0100】
植物保護剤としてのいずれかの用途に関して、本明細書中に記載される通りの少なくとも2種のキチン分解酵素を含む組成物が、好ましく用いられる。
【0101】
植物保護はまた、植物または植物細胞中で本明細書中に記載される通りの少なくとも1種のキチン分解酵素を発現させることにより達成することもできる。したがって、本発明はまた、植物または植物細胞中でキチン分解酵素を発現させるための、本明細書中に記載される通りの核酸またはベクターの使用も提供する。発現は、構成的または誘導性であり得る。例えば、発現は、外部刺激、例えば、有害生物蔓延に応答して誘導性であり得る(例えば、組織損傷を検出することができる植物中の内因性知覚機構を介して)。
【0102】
本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素またはそれを含む組成物は、好適には、0~40℃、例えば、10~40℃、20~40℃または好ましくは25~35℃の温度で用いることができる。
【0103】
本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素またはそれを含む組成物は、好適には、4~11、例えば、5~10、6~10、7~10または8~10のpH値で用いることができる。
【0104】
本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素またはそれを含む組成物は、好適には、0~20%または0~10%または0~5%の塩濃度で用いることができる。
【0105】
植物保護とはまた、非生物的ストレスからの保護を意味する場合もある。非生物的ストレスとしては、例えば、凍結ストレス、渇水ストレス、塩ストレス、湛水ストレスまたは熱ストレスが挙げられる。好ましくは、非生物的ストレスは、凍結ストレスまたは渇水ストレスである。
【0106】
つまり、本発明はさらに、植物またはその一部分に対する本明細書中に記載される通りのキチン分解酵素などのキチン分解酵素または少なくとも1種のキチン分解酵素を含む組成物の施用を含む、非生物的ストレスから植物を保護する方法を提供する。典型的には、組成物は、植物またはその一部分の表面に対して施用される。
【0107】
非生物的ストレスの文脈では、本明細書中にさらに記載される通りの、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば、100%同一である第1のアミノ酸配列を含むかまたは(本質的に)それからなるキチン分解酵素が好ましく用いられる。有害生物から植物を保護する方法に関する説明が準用される。
【0108】
さらなる薬剤
キチナーゼは、植物保護剤として作用し得るさらなる薬剤、例えば、非生物的ストレスに対する薬剤、殺真菌剤および/または殺昆虫剤と好適に組み合わせることができる。そのようなさらなる薬剤は、例えば、アスコルビン酸、ベタインまたはサリチル酸であり得る。
【0109】
つまり、本発明はまた、アスコルビン酸、ベタインおよび/またはサリチル酸をさらに含む、本明細書中に記載される通りの少なくとも1種のキチナーゼを含む組成物およびその使用も提供する。
【0110】
つまり、本発明はまた、殺真菌剤および/または殺昆虫剤をさらに含む、本明細書中に記載される通りの少なくとも1種のキチナーゼを含む組成物およびその使用も提供する。
【実施例】
【0111】
本出願の以下の実験セクションは、本発明の非限定的な例示的実施形態に関する。
【0112】
実施例1
新規海洋キチン分解性細菌株であるフォトバクテリウム・オラリウムを、沿岸海水サンプルから単離し、16S rDNAの当初の遺伝子解析は、この菌株がフォトバクテリウム属に属することを明らかにした。この菌株は、複数のキチン分解酵素のカクテルを分泌することにより、GlcNACおよびGlcNAC2へのキチンの細胞外加水分解を行なった後に、炭素源および窒素源としてエビ殻由来の海洋キチンを利用することが可能である。
【0113】
P.オラリウムの培養上清のキチン分解活性を、還元末端アッセイ、ザイモグラフィーならびに薄層クロマトグラフィーを用いて評価した。すべての分析方法が、P.オラリウムが海洋キチンを分解することが可能であることを確認した。還元末端アッセイは、大腸菌BL21(DE3)陰性対照と比較して、相当量の還元糖が、30℃で16時間のキチン粉末とのP.オラリウム上清のインキュベーション後に放出されることを実証した(
図1A)。
【0114】
つまり、遊離糖の放出は、キチン内のグリコシド結合を加水分解するキチン分解酵素の存在に関連付けられる。ザイモグラフィーは、約37kDaから100kDa超の範囲の、分解プロセスに関与する少なくとも4種類のキチン分解酵素を確認した(
図1B)。TLCによる生成物分析はさらに、単量体および二量体化合物が生成されることを明らかにし(
図1C)、このことは、上清内のエキソキチナーゼ活性の存在を示す。
【0115】
P.オラリウムは、完全に新規の細菌株であり、かつ単量体および二量体糖への不溶性キチンの変換に対して用いることができるエキソキチナーゼ活性を有する酵素(enyzme)に対する供給源であることが証明された。これに関して、単一炭素源および窒素源としてキチンを利用するP.オラリウムの特性は、結晶性キチンに関する高い変換速度を有する新規かつ固有のキチン分解酵素を提示し得るであろう。
【0116】
実施例2
導入
P.オラリウムにより産生される個別のキチナーゼを、組み換え的に発現させ、別個に特性決定することができた。本実施例は、推定上のキチナーゼの遺伝子マイニング、それらのクローニングおよび大腸菌BL21での組み換え発現ならびにそれぞれの酵素の逐次的特性決定を概説する。さらに、可溶性加水分解生成物が、様々なキチン基質およびキチン標準分子を試験することにより、薄層クロマトグラフィーによって特定される。
【0117】
キトサンオリゴマー(COS)の生成のためにキチナーゼを利用するためには、GlcNAcへのエキソキチナーゼ、キトビアーゼおよびN-アセチル-β-グルコサミニダーゼによる加水分解を回避しながら、エンドキチナーゼによるキチンの限定された分解を確実にしなければならない。P.オラリウムは、同化可能なGlcNACおよびGlcNAC2へとキチンを解重合するために、キチン分解酵素の強力な混合物を分泌するので、そのようにエキソキチナーゼ活性の存在を示す活性培養上清は、COSの産生に対して直ちに利用することができない。本実施例では、したがって、エンドおよびエキソキチナーゼの特定ならびに活性最適値の決定のために単一酵素を得る目的で、キチナーゼをコードするすべての遺伝子をP.オラリウムゲノムデータから特定し、組み換え的に発現させた。
【0118】
結果
A.推定上のキチナーゼのクローニングおよび発現
次世代シーケンシング後に遺伝子マイニングを行ない、60種類のコンティグを、Pfamデータベース(バージョン2.9)を用いてキチナーゼホモログに関してスクリーニングした。数箇所の特徴的なキチナーゼドメインを示した5種類の遺伝子(C1~C5)を特定した(表4.1)。キチナーゼAならびにグリコシルヒドロラーゼ18、19および20ドメインが、互いに構造および作用機序が異なるキチナーゼおよびキトビアーゼに対して特異的であることが以前に報告されている。20~90kDaの範囲の現在報告されているキチナーゼと比較して、新規キチナーゼの予測分子量は、全体的に上位に位置付けられる。C1、C3およびC4は、それぞれ56.5kDaおよび65.4kDaを有するC2およびC5と比較して、83.9~86.8kDaを有して顕著により大きい。しかしながら、遺伝子内に追加のドメインまたは未知のドメインは特定されなかった。天然シグナルペプチド(天然リーダー配列、NLとも称される)がC1、C2、C3およびC4に関して発見され、このことは、推定上のキトビアーゼドメインも含むC5が、GlcNAG2をGlcNAGへとさらに加水分解するために細胞内に留まることを示唆した。
【0119】
【0120】
細胞質形態、dsbAタンパク質への融合体、天然およびPelBシグナルペプチドおよび6×HisタグならびにTag54/6×His複合タグを含む変異体を含む合計8種類の構築物を、大腸菌DH5αにおいて各推定上のキチナーゼ遺伝子に関してクローニングした(
図2)。
【0121】
【0122】
【0123】
構築物の完全性および正確性を、コロニーPCRおよびサンガーシーケンシングにより確認した。すべての構築物を、大腸菌BL21へと形質転換し、組み換え的に発現させた。標的酵素の発現レベルを、細胞質型および分泌型発現に関して、免疫ブロット検出後にデンシトメトリーにより決定した。酵素活性を、還元末端アッセイを用いてすべてのサンプルに関して決定した。発現レベルおよび活性からのデータを組み合わせて比酵素活性(nmol還元末端/mg酵素)を得て、PelBシグナルペプチドを含む変異体が全体的な最高活性を示すことが明らかになった(
図3)。さらに、これらの酵素が、培養上清へと効率的に放出されることを確認し、このことは、将来の生成サイクルに対して細胞溶解を不必要にした。これらのデータに基づいて、PelBシグナルペプチドを含む酵素バージョンを、さらなる特性決定研究に対して選択した。
【0124】
B.組み換えキチナーゼの精製
培養上清からの(form)PelBシグナルペプチドを含む選択された組み換え酵素の2段階精製を、最初の硫酸アンモニウム沈殿ステップおよび可溶化タンパク質沈殿物の逐次的IMAC精製を用いて行なった。溶出画分をプールし、SDS-PAGEおよび免疫ブロットを、各サンプルに関して同じ体積をロードして作製した(
図4)。5種類のキチナーゼの発現レベルは大きく異なり、C1が他のキチナーゼと比較してはるかに多量に検出された。クマシー染色SDS-PAGEゲル上では、C2に対する特異的バンドは、低い発現レベルに起因して精製後に検出することができず、しかしながら、免疫ブロット分析は、酵素の存在および完全性を明らかにした。SDS-PAGEゲルおよび免疫ブロットでのすべての酵素の観測上の分子量は、6×Hisタグが酵素に対してC末端に付加されたことを考慮して、予期された理論上の分子量と一致せず、全般的に、すべての酵素に関するバンドが、より高い分子量で検出された。すべてのサンプルに関して、非特異的バンドは、IMAC精製後に約25kDaおよび約50kDaで検出することができ、これは、宿主細胞タンパク質混入を表わすことが最もあり得た。培養培地、硫酸アンモニウム濃縮物および最終的な透析された溶出画分中のタンパク質の量がBCAアッセイを用いて決定され、同じ画分を、30℃で16時間、キチン粉末と共にインキュベートし、続いて、還元糖を定量化し、比キチナーゼ活性を測定した(表4.2)。それにより、すべての標的酵素が、比活性に従って、精製中に上首尾に富化されたことが確認された。
【0125】
【0126】
C.キチン分解酵素の特性決定
酵素が海水微生物から単離されたので、すべての酵素を、最初にそれらの温度およびpH最適値ならびに至適NaCl含有量に関して特性決定した。将来の意図は天然キチンの分解プロセス中にこれらの新規酵素を統合することであるので、すべてのパラメータを、コロイド状キチン、グリコールキチンまたは人工蛍光性基質などの前処理済み類似物の代わりに、キチン粉末を基質として用いて決定した。温度の影響を調べることにより、C1、C3およびC4が、10~50℃の温度範囲内で非常に活性であることが示され、それらの至適温度は30℃であった。C2およびC5は、比較的耐性が低く、それぞれ30℃および40℃で最高活性を示し、50℃および60℃で活性のうちの50%超を失った(
図5A)。次に、酵素温度安定性を調べた(
図5B)。すべての酵素は、60℃で15分間のインキュベーション後に低減された活性を示した。酵素C1は、60℃で240分間のインキュベーション後に50%の残留活性を保持したが、他のキチナーゼの活性は、15分間後に50%未満に低下し、このレベルを保持した。
【0127】
pHに関して、C1、C3およびC4は同様の挙動を示し、pH8での最適値を有した一方で、C2およびC5は、それぞれpH9およびpH10で至適反応条件を示した(
図6A)。
【0128】
P.オラリウム株の海洋起源を考慮して、標準バッファーへのNaClの添加を試験して、塩の影響も評価した。5%(w/v)までのNaCl量は、C1~C4に関して酵素活性に対する有益な影響を有し、細菌がそこから単離された北海の環境の平均3.5%の塩含有量を反映する(
図6B)。20%(w/v)までのNaCl量の増加は、C2、C4およびC5に関して10%まで実質的に酵素活性を低減させ、C1およびC3は最高の耐性を示した(65%活性)。予期される通り、P.オラリウムにより分泌されないC5は、塩含有量の増加に対して最低の耐性を示し、これは北海中の塩含有量と比較して全体的に低い細胞内塩濃度を反映した。温度、pHおよび塩濃度に関する酵素最適値を、表4.3にまとめる。
【0129】
【0130】
酵素活性を刺激または阻害するか否かを決定するために、様々な補因子および化学物質の添加を評価し、作用を、標準MATバッファー(33mM 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、33mM酢酸ナトリウム、33mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS);pH8.0)中の対照と比較して評価した。それぞれの濃度での試験した化合物の選択は、これまでの様々なキチナーゼに関する知見に基づいた[Zarei et al., J. Microbiol., 2011. 42: p. 1017-1029.]。様々な金属イオンおよび化合物との2μMの酵素のインキュベーションは、活性阻害剤を明らかにした(表4.4)。すべての酵素が、Zn2+およびCu2+ならびにSDS(0.5%w/v)により最も強力に阻害され、最大99%の活性の相対的喪失をもたらした。C2およびC5は、すべての試験したイオンによりさらに実質的に阻害され、酵素活性の増強因子は特定されなかった。酵素活性に対するNi2+およびイミダゾールの阻害作用はまた、溶出バッファーから残留Ni2+およびイミダゾールを除去するための、精製後の溶出画分の透析の要求も強調する。
【0131】
未処理キチン粉末を比較して新規キチナーゼの基質親和性を評価するために、様々なキチン性基質を試験した。様々な基質の試験は、全般的に、キチン粉末およびコロイド状キチンがすべての酵素により分解されることを明らかにした(表4.5)。予期される通り、コロイド状キチンの変換は、全体的により小さい粒径およびそれによってより大きい表面積を提供するので、キチン粉末と比較してより効率的である。キチン粉末(アセチル化度:15%)もまた効率的に分解され、高いキトサナーゼ活性が、特にC1、C3、C4およびC5に関して観察された。すべての酵素に関して、セルロースが基質として利用された場合に、基底活性のみが検出された。
【0132】
【0133】
【0134】
D.キチン粉末に対する酵素反応速度論
基質としてキチン粉末を用いて酵素反応速度論を決定し、最適な酵素-基質比ならびにVmax値およびKm値を決定することができた。キチン粉末の濃度は0mg/mLから150mg/mLまで変化させ、酵素の量は一定に維持した(2μM)。基質濃度([S])に対する初期速度(V0)を、GraphPadソフトウェアを用いて、ラインウィーバー・バーク曲線およびミカエリス・メンテン曲線としてプロットした(
図7)。
【0135】
非線形フィッティングされたミカエリス・メンテンモデルを用いて、最大反応速度(Vmax)およびミカエリス・メンテン定数(Km)を決定した(表4.6)。それにより、基質変換速度の最大化を可能にするであろう最適な酵素-基質比を決定した。さらに、Kmは、C1~C5に関する逆数酵素-基質親和性を示した。より高いKm値は、より低い全体的親和性およびしたがって低減された変換効率を反映する。データは、C1およびC3が、全体的に高いVmaxを維持しながら、不溶性キチンに対する最高親和性を有することを示した。比較すると、C2およびC5に関する比較的高いKm値は、不溶性キチンに対して全体的に比較的低い親和性を反映した。
【0136】
【0137】
E.加水分解生成物の分析
至適反応条件で様々な基質を用いて5種類の組み換えキチナーゼを試験し、TLCを用いて加水分解生成物を特定した(
図8)。基質に応じて、異なる酵素は、異なる生成物範囲を生じた。コロイド状キチンおよびキチン粉末は、主に、二量体、三量体および単量体オリゴマーへと分解された。キトサンは、二量体から五量体までの範囲の複数のオリゴマー、および出発点から若干移動した、より大型の不明確であるが水溶性の断片でさえ含む、粗混合物へと分解された。DP2~DP6のキチン標準分子を用いて、かつ個々の酵素と共に4mg/mL濃度でそれらをインキュベートすることにより、切断パターンのさらなる分析を行なった(
図9)。
【0138】
二量体キチン分子は、酵素のうちのいずれによっても変換されなかった。驚くべきことに、Pfam検索は、C5が、二量体を切断してGlcNAcを生じることが予想されるキトビアーゼドメインを含むことを明らかにしたので、エキソキチナーゼ活性は観察されなかった。C1、C3およびC4のみがキチン三量体を二量体および単量体へと切断し、C2およびC5は三量体に対する活性を示さなかった。すべてのキチナーゼが、キチン四量体を単一生成物として二量体へと分解した。キチン五量体は、C1およびC3により二量体および単量体へと変換され、C2、C4およびC5により三量体および二量体へと変換された。キチン六量体は、二量体および三量体へと分解された。すべてのキチナーゼはそれらの構造が異なり、かつ異なるグリコシルヒドロラーゼドメインを提示するが、加水分解生成物は大まかには同様であった。
【0139】
考察
キチナーゼは抗真菌剤として直接的に利用されるかまたは代替的に機能性オリゴマーへとキチンを酵素的に分解する新規メカニズムを明らかにするために利用されるので、キチン分解酵素の組み換え過剰発現は、直近数十年間で大きな関心を集めた。キチン分解性細菌は、その代謝のためにキチンを利用し、したがって、利用可能なGlcNAcへとキチンを変換するために必須のエンドおよびエキソキチナーゼに対する大きな供給源を代表する。5種類の異なる推定上のキチン分解酵素がP.オラリウムのゲノム内で発見され、これらはGlcNACおよびGlcNAC2への不溶性キチンの完全な分解のために利用される。Pfam検索は、エンドおよびエキソキチナーゼ活性に対して特徴的であるグリコシルヒドロラーゼファミリー18、19および20に対する相同性を明らかにした。天然シグナルペプチドがC1~C4に関して特定され、このことは、それぞれの酵素が、細胞外分解を行なうためにP.オラリウムにより分泌されることを示した。C5に関する配列はいかなる特異的シグナルペプチドも含まず、このことは、同化された二量体キチンのさらなるプロセシングに対して酵素が細胞内に留まることを表わした。このことは、キトビアーゼドメインの存在により、さらに支持される。
【0140】
特定されたキチナーゼの個別の適切な特性決定を行なうために、単一酵素を最初に単離し、残留培地成分ならびに類似のキチン分解酵素による考えられる干渉を取り除くために精製しなければならない。複合P.オラリウム上清からの単一キチナーゼの単離および精製を、イオン交換クロマトグラフィーアプローチを用いて先に調べた。しかしながら、結果は、単一酵素の完全な単離が達成できなかったことを明らかにした(データは示していない)。したがって、大腸菌BL21を用いて別々にすべてのキチナーゼを生成するために、組み換えアプローチに従った。
【0141】
細菌発現プラスミドへと対象となる遺伝子の様々な変異体を導入するために、golden gateクローニングアプローチを用いた。天然シグナルペプチドおよびPelBシグナルペプチドの両方を大腸菌BL21による分泌に関して試験し、それにより、正しいタンパク質フォールディングを促進するペリプラズム空間(periplasmatic space)中の酸化的環境を利用した。同様に、dsbAタンパク質への標的酵素のN末端融合体を、活性酵素の生成のためのジスルフィド結合の形成を強化するために調べた。その導入がタンパク質発現および活性に干渉するか否かを調べるために、2種類の異なる精製タグ(6×HisタグおよびTag54/6×Hisタグ)を試験した。全5種類の遺伝子に関して、分泌のためのN末端PelBシグナルペプチドおよび精製のためのC末端6×Hisタグを含む構築物が、最高比活性を有する酵素をコードし、さらなる研究に対して選択された。Ni2+チャージChelating Sepharose FFカラム上に直接的に注入された培養上清からの酵素精製の当初の実験は、消費された培地が未知の金属錯体形成成分を含有してイオン漏出を引き起こし、これが結合能の顕著な喪失をもたらしたことを明らかにした(データは示していない)。つまり、PBS(pH8.0)へのバッファー交換により、干渉性物質を除去するために、IMAC精製前に硫酸アンモニウム沈殿ステップを行なうことが必要になった。
【0142】
典型的には、キチン粉末は、高度に結晶性であり、粒径およびDAに関してあまり規定されておらず、比較的低い比表面積を有し、初期分子量を算出することが困難であるので、キチナーゼパラメータを決定するために利用されない。しかしながら、酵素特性を決定するために多くの場合に用いられる、グリコールキチン、コロイド状キチンまたは合成蛍光性基質などのより人工的かつ前処理された基質と比較して、粉末状キチンは、分解プロセスでの酵素のその後の適用に対する実際的なプロセスパラメータを反映する。
【0143】
酵素特性決定研究は、全5種類の酵素に関して、温度、pHおよびNaCl含有量に関する至適条件、機能的基質ならびに推定上の補因子の影響を特定した。さらに、酵素反応速度論の決定は、最適な酵素-基質比を示す。C1~C5に関する至適温度(30~40℃;
図5A)は、細菌キチナーゼに関して文献中で報告されたものよりも全体的に低く、なぜなら、これらの酵素は40~60℃の範囲の最適値を有する好熱性または耐熱性酵素として主に報告されるからである[Krolicka et al., J Agric Food Chem, 2018. 66(7): p. 1658-1669.;Menghiu et al., Protein Expr Purif, 2019. 154: p. 25-32;Pechsrichuang et al., Bioresour Technol, 2013. 127: p. 407-14.;Zhang et al., Biotechnol. Biofuels, 2018. 11(1): p. 179.]。典型的には、工業的プロセスでは、疎水性化合物の溶解度および全体的な生分解プロセスが強化され得るので、高温は好ましい。つまり、より長い期間にわたって活性を維持しながら、より高い温度に耐えることができるので、好熱性酵素がそのようなプロセスで実装される。そのような好熱性酵素は、典型的には、好熱性細菌および真菌から単離されるか、またはタンパク質工学により合成的に改変される。P.オラリウムの新規キチナーゼは、より穏やかな温度で高度に活性であることが示され、60℃で最大50%の活性を維持することができる。全体的により低い最適値は、5~25℃の平均温度を有するP.オラリウムの天然の海水環境に関連付けることができる。工業的キチン分解プロセスに関して全体的に、酵素がキチン粉末に対して高度に活性であり、温度上昇を必要とせず、したがって、総エネルギー費およびプロセス労力を低減するので、これらの特性は、有益となり得るであろう。
【0144】
5種類の新規酵素に関して、至適pH条件はpH8~10であると決定され(
図6A)、これはP.オラリウム株が単離された海水中の若干塩基性の条件(pH7.5~8.4)に対する適応を反映した。文献データは、酵素が元来単離された環境に依存して、異なるキチン分解酵素に関して、pH4~8の範囲の様々なpH最適値を報告した。塩(1~5%(w/v)NaCl)の添加は、酵素活性の増加をもたらし(
図6B)、これは海洋条件に対するキチナーゼの適応を反映する。C1、C3およびC4は、20%(w/v)塩含有量で最大75%の相対的活性を維持した。数種類のキチナーゼもまた以前に海洋供給源から単離され、酵素が特定の塩含有量でより高い活性を保持するために進化している可能性があるので、塩濃度は必須のパラメータであるが、キチナーゼの至適塩濃度の決定に関して、文献中には限られたデータしか公表されていない。しかしながら、C1~C5に関する知見は、最大20%(w/v)の塩濃度での活性の保存に関して報告されたデータと合致する。キチナーゼの穏やかな温度最適値(30~40℃)は非無菌反応条件での細菌汚染を促進し得るであろうから、反応混合物への塩の添加は、汚染のリスクを最小化し得るであろう。
【0145】
酵素活性が改善され得るか否かを明らかにするために、かつ考えられる反応阻害剤を特定するために、数種類の補因子を試験した。補因子分析は、すべての試験された金属イオン(Mg2+、Zn2+、Ca2+、Cu2+、Ni2+、K+)、化学物質(EDTA、イミダゾール)および界面活性剤(SDS、Tween 20、Triton X100)を活性抑制因子と考えることができ、活性化因子は特定されなかったことを明らかにした。C1は、対照と比較して84.3%の最小残留活性を伴って、Mg2+、Ca2+、K+イオン、Tween 20、Triton X100およびイミダゾールに対する高い耐性を示す。一方で、C2、C4およびC5は、初期活性の40%未満に低減された最大残留活性を伴って、略すべての化合物により強く阻害された(表4.4)。これらの結果は、様々な細菌キチナーゼに関しても報告された通り、研究されたキチナーゼが金属酵素(metalloenyzme)でないことをさらに証明することができる[Zarei et al., Microbiol., 2011. 42: p. 1017-1029.]。
【0146】
基質としてキチン粉末を用いて、酵素反応速度論を決定した。基質特性は、酵素反応速度論に対して大きな影響を有することができ、コロイド状キチンおよび未処理キチン粉末は、それらの全体的な材料特性に関して大きく異なる:(1)コロイド状キチンの粒径および結晶性はキチン粉末よりも実質的に低い、(2)コロイド状キチンの表面積は比較的高く、酵素のアクセス可能性を増加させる。これらの異なる材料パラメータは、キチナーゼの全体的酵素活性に大きく影響し、それにより、変換速度は、コロイド状キチンに対して実質的に増加する。しかしながら、酵素特性決定に関して利用される基質は、正確なプロセス条件下で酵素パラメータを評価するために、意図される将来の適用に基づいて常に選択されるべきである。新規キチナーゼが、COSへのキチンの完全に酵素的な変換プロセス中に実装され、過酷な化学的基質前処理方法は、最小化されるかまたは完全に除外さえもされるべきである。したがって、キチン粉末の使用は、反応速度を最適化するために、最適な酵素-基質比を評価することを助けた。
【0147】
消化実験は、主に単量体GlcNAG~GlcNAG3の範囲の可溶性オリゴマーの混合物が、基質としてキチンを用いて生成され、より大きなオリゴマー(五量体以上)が、キトサンが分解された場合に観察されたことを明らかにした。切断メカニズムに関するさらなる分析は、単量体GlcNACがTLCにより検出されたので、C1およびC3が、オリゴマーまたは多量体キチン基質に依存しないエキソキチナーゼ活性を示したことを明らかにした。C2、C4およびC5は、不溶性基質と共にインキュベートした場合に、同様の生成物パターンを生じた。標準分子の消化後にさらに明らかになった通り、C2、C4およびC5はGlcNAcを生じず、それにより、エンドキチナーゼ活性を示した。提示されたデータは、新規キチナーゼがすべて、いかなるさらなる過酷な化学的前処理も伴わずに、粉末状キチンの分解に対して好適であることを強調する。
【0148】
酵素的分解反応が、複数の側面でさらに調べられるであろう:(1)特異的DPを有する単一オリゴマーの生成を刺激し、かつ望ましくないオリゴマーおよびGlcNAcの量を低減する;(2)3未満のDPを有するオリゴマーを生成する;(3)総括変換速度および生成物収率を最大化する。したがって、多酵素反応の相乗効果が評価され、プロセス最適化が実験計画法アプローチを用いて行なわれるであろう。
【0149】
結論
5種類の新規な潜在的キチナーゼに対する遺伝子が、新規細菌株P.オラリウムのゲノムデータから特定され、大腸菌BL21から成功裏に発現および精製された。新規酵素は、現在報告されている細菌キチナーゼと比較して比較的大きく、基質としてキチン粉末を用いてより低い温度およびpH最適値、ならびに塩濃度に対する実質的な耐性も示す。30℃での比較的低い温度最適値は、プロセスを確立および維持する際により小さな労力および費用を要するので、より大規模での反応を考慮する場合に特に有益であろう。細菌汚染を阻害する可能性があるより高い塩含有量を用いる非無菌分解反応を確立するために、高い塩耐性をさらに利用することができるであろう。すべてのキチナーゼが、主に二量体、三量体および単量体化合物へとキチンおよびコロイド状キチンを変換し、異なるCOSの粗混合物へとキトサンを変換することも見出された。変換速度を最適化し、かつDPに関して異なる分解生成物が多酵素反応により得られるか否かを調べるために、将来の分析は、in vitroカクテル中の異なるキチナーゼの実装に焦点を当てるであろう。
【0150】
実験セクション
材料
研究で用いたすべての化学物質は、最高純度のものであり、Carl-Roth社(Germany)から取得された。Chelating Sepharose FFは、GE Healthcare社(Sweden)から購入した。すべての利用されたバッファーは、脱塩水中に新たに調製した。
【0151】
細菌株およびプラスミド
新規な海洋キチン分解性P.オラリウム株を、Oostende、Belgium由来の海水サンプルから単離した。大腸菌株DH5αdam-/dcm-(New England Biolabs社、Ipswich、USA)は、溶原性ブロス(LB)培地中で生育させた。大腸菌BL21(DE3)(New England Biolabs社)株は、テリフィックブロス(TB)培地中で生育させた。必要な場合、両方の培地に、適切な濃度のアンピシリン(100μg/mL)またはカナマイシン(50μg/mL)を添加した。
【0152】
次世代シーケンシングおよび遺伝子マイニング
ゲノムDNAを、製造業者の説明書に従って「NucleoBond AxG500」キット(Machery Nagel社)を用いて、P.オラリウムの液体培養物から抽出した。DNAサンプルを、「Ion Xpress Plus gDNA Fragment Library Preparation」キット(Machery Nagel社)を用いてde novo全ゲノム配列決定のためにさらに処理し、Fraunhofer Institute for Molecular Biology and Applied Ecology IME、Aachenによりion torrentシーケンシングを行なった(Ion Torrent Personal Genome Machine PGM、Thermo Fisher Scientific社)。DNA-STARアセンブリ法は60種類のコンティグをもたらし、これらを足場上にアセンブルさせた(10倍範囲)。タンパク質ファミリーデータベース(Pfam;https://pfam.xfam.org)を用いて、相同な多糖結合性ドメインおよび推定上のキチナーゼの存在を反映する足場中のキチナーゼ活性部位を特定した。SignalP 4.1サーバーを用いて、酵素の分泌を担う潜在的なシグナルペプチドを取得した(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP-4.1)。
【0153】
キチナーゼ遺伝子のクローニングおよび配列決定
golden gateクローニング技術を利用して、pET39b(+)発現ベクターへと標的遺伝子をクローニングし、対象となる各遺伝子に関して複数の構築物を得た。golden gateクローニングは、その認識部位の外側を切断するII型制限酵素を用いる、ベクター骨格への複数の遺伝子断片またはブロックの同時指向性ライゲーションを可能にする[El-Shemy et al., PLoS ONE, 2008. 3(11): p. e3647;Engler et al., PLoS One, 2009. 4(5): p. e5553.]。特異的切断部位およびオーバーハングの先行するin silico設計は、単一容器制限およびライゲーションステップでの複数の遺伝子ブロックからの構築物のハイスループットアセンブリを可能にする。golden gateクローニングの一般的原理を、
図10に示す。出現順での
図10中の配列は、配列番号13~17として配列表に含められる。
【0154】
大腸菌BL21(DE3)による新規酵素の上首尾のインテグレーションおよび機能的発現を可能にする複数遺伝子エレメントを評価した。Pfam検索後に特定された天然シグナルペプチドおよびエルウィニア・カロトボラ(Erwinia carotovora)由来の一般的に用いられるPelBシグナルペプチドを、培養培地への標的酵素の分泌に関して、N末端で試験した。ジスルフィド結合を酸化するためのフォールディングエンハンサーとして機能する細菌ペリプラズム酸化還元酵素(dsbA)への融合体ならびに細胞質発現のための変異体を試験した。6×Hisタグまたは代替的にtag54/6×His複合タグを、精製タグとして、両方ともC末端に導入した。これらの異なるエントリーベクターをpET39b(+)から設計し、正しい向きで構築物をアセンブルさせた(表4.7):標的酵素の分泌のためのpGR_SigP;dsbAタンパク質への融合のためのpGR_dsbAおよび細胞質発現のためのpGR_cyto。
【0155】
最終構築物をアセンブルするためのすべての遺伝子ブロックおよびベクター骨格を、構築物(表4.1)の指向性アセンブリを確実にするために、正しい向きで適正なオーバーハングを伴う隣接BsaI認識部位(5'…GGTCTC(N)1↓…3'および3'…CCAGAG(N)5↑…5')を含んで改変および合成した(Thermo Fisher Scientific社、Waltham、USA)。製造業者の説明書(New England Biolabs社)に従ってgolden gateアセンブリミックスを用いて、クローニングを行なった。挿入物の完全性(integration)および正確性を、クローニングされた構築物に隣接するT7プライマーT7F(5'AAATTAATACGACTCACTATAGGG3'、配列番号18)およびT7R(5'ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG3'、配列番号19)を用いるコロニーPCRおよびサンガーシーケンシングにより検証した。
【0156】
【0157】
大腸菌BL21(DE3)での組み換えキチナーゼの発現
キチナーゼ構築物の発現分析のために、新たに熱ショック形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を用いて、50μg/mLカナマイシンを添加した20mL TB培地中での一晩出発培養物(180rpm、37℃)に接種した。出発培養物を用いて、100mL Ultra YieldTMフラスコ(Thomson Instrument社、Oceanside、USA)を用いて25mL TB培地中、1:100で主培養物に接種した。200rpmの振盪速度の軌道振盪器中、37℃で培養を行なった。4時間の培養(OD600nm=4)後、培養液への1mMイソプロピル-β-D-チオ-ガラクトピラノシド(IPTG)の添加により、対数期の中間で細胞を誘導し、温度を28℃に下げた。合計培養時間が18時間に達した後、細胞と上清とを遠心分離(8000×g、30分間)により分離した。細胞溶解のために、ペレットのアリコートをBugBuster(登録商標)マスターミックス(Merck Millipore社、USA)中に再懸濁し、オーバーヘッド振盪器(60rpm)中でRTにて2時間インキュベートした。細胞残渣を遠心分離(8000×g、2分間)により分離し、得られた溶解物上清ならびに培養上清を、免疫ブロット画像のデンシトメトリー分析および酵素活性アッセイに供した。選択された最適酵素候補を、800mL TB培地および2.5L Ultra YieldTMフラスコを用いて、より大規模で生成させた。出発培養物の培養、誘導および回収手順は、小規模発現に関して上記に記載されたものと同様であった。
【0158】
培養上清からのキチナーゼの精製
6×Hisタグ付きキチナーゼの精製のためのプロトコールは、「Affinity Chromatography Vol.2: Tagged Proteins」(GE Healthcare社)から適応させ、2ステップからなった:
ステップ1. 硫酸アンモニウム沈殿
固体硫酸アンモニウムを、70%の最終濃度まで培養上清にゆっくりと添加し、室温で2時間撹拌した。沈殿物を遠心分離(8000×g、30分間)により回収し、出発体積に対して0.1×体積のPBS(pH8.0)中に溶解させた。濃縮サンプルを、いかなる不溶性粒子も除去するために、遠心分離(8000×g、10分間)およびろ過(0.45μM)した。
【0159】
ステップ2. 固相化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
ステップ1からのサンプルを、0.2M NiSO4をチャージしたChelating Sepharose FF(GE Healthcare社、Sweden)樹脂[カラム体積(CV)5mL]に添加した。カラムをAKTA pure 25(GE Healthcare社)に連結し、3CV PBS(pH8.0)を用いて平衡化を行ない、サンプルポンプ(2mL・分-1)を用いてサンプルをカラムに直接的に注入した。UV280nmシグナルが30mAU未満に達するまで、平衡化バッファーを用いてカラムを洗浄し、弱く結合した非特異的タンパク質を、PBS(pH8.0)中の50mMイミダゾールを用いて最初にカラムから溶出させ、続いて、PBS(pH8.0)中の250mMイミダゾールを用いる第2の溶出ステップを行なった。すべてのステップを、2mL・分-1の一定流速で行なった。フロースルー画分、洗浄画分および溶出画分を、フラクションコレクターを用いて回収し、キチナーゼを含有する溶出画分をプールし、33mM MES、33mM CAPS、33mM TRIS(MATバッファー;pH8)の混合物に対して透析した。
【0160】
SDS-PAGE、免疫ブロット分析および酵素アッセイ
12%分離ゲルを用いるSDS-PAGEによりタンパク質分析を行ない、タンパク質バンドを、クマシーブリリアントブルーR-250を用いる染色により可視化した。免疫ブロット分析に関して、SDS-PAGEゲルからのサンプルを、タンクブロッティングによりニトロセルロースメンブレンにトランスファーし;一次マウスモノクローナル6×Hisタグ抗体[0.2μg/mL](Thermo Fisher Scientific社)を用いて検出を行ない、基質としてNBT/BCIPを用いて、二次抗マウス抗体アルカリホスファターゼコンジュゲート[0.2μg/mL](Thermo Fisher Scientific社)によって逐次的なバンド可視化を行なった。6×Hisタグ付きタンパク質K12v105(Fraunhofer IME)と比較して、AIDA5ソフトウェア(Raytest Isotopenmessgerate社)を用いて、デンシトメトリーによりサンプルを定量化した。精製タンパク質の定量化を、較正のための標準としてウシ血清アルブミンを用いるビシンコニン酸アッセイ(BCA)を介して行なった[Smith et al., Anal. Biochem., 1985. 150: p. 76-85.]。
【0161】
組み換えキチナーゼの酵素活性の決定のために、還元末端アッセイを行なった[Svein et al., Carbohydr Polym, 2004. 56(1): p. 35-39.]。キチナーゼを含有する画分を、周囲温度(標準条件)でオーバーヘッド振盪器中、2時間にわたってMATバッファー中で、エビ殻から抽出した5%(w/v)キチン粉末(約400.000g/mol;Carl Roth社)と共にインキュベートした。サンプルを13000×gで2分間遠心分離し、40μLの上清を、40μL 0.5M NaOHならびに1.5mg/mL 3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾンおよび0.75mg/mLジチオトレイトールを含有する40μLの試薬と混合した。サンプルを80℃で15分間インキュベートし、続いて、80μLの0.5%(w/v)FeNH4(SO4)2)x12H2O、0.5%(w/v)スルファミン酸および0.25M HClと共に十分に混合した。室温までの冷却後、100μLのサンプルを、620nmで測定した。N-アセチル-グルコサミンの較正曲線を、各測定サイクルに関して新たに構築した。1単位[U]は、1時間当たり1μmolの還元糖を放出するために必要な酵素の量として定義した。
【0162】
均質キチン粉末の調製
エビ殻由来のキチン(約400.000g/mol;Carl Roth社)を、6000rpmでGyroGrinder(Fritsch社、Germany)を用いて機械的に前処理し、それにより、80μM平均粒径の均質粉末へと変換した。粉末を、すべてのキチン分解実験に対する基質として、いかなるさらなる処理も行なわずに用いた。
【0163】
コロイド状キチンの調製
コロイド状キチンの調製は、数点の軽微な差異を伴って、Murthy and Bleakleyにより記載された方法と同様であった[Murthy et al., Microbiol., 2012. 10(2): p. 1-5.]。キチン粉末(Carl Roth社)を濃塩酸(HCl)中に溶解させ(100mL中5g)、4℃で24時間撹拌し、その後、混合物を、4000×g、4℃で15分間遠心分離した。沈殿物を、蒸留水を用いて中性pHまで洗浄し、4℃で保存した。
【0164】
組み換えキチナーゼの特性決定
至適反応条件を決定するために、酵素サンプルを、異なるバッファー系(酢酸塩、Tris-HCl、MES、総モル濃度100mM)、ならびにNaCl含有量(0、1、2.5、5、10および20%w/v)を用いて、異なる温度(10~60℃、10℃増分)およびpH(4~11、増分1)でインキュベートした。100mM MATバッファー中の2μMのそれぞれの酵素およびエビ殻から抽出したキチン粉末(約400.000g/mol;Carl Roth社)の5%(w/v)懸濁物を用いて、1.0mLスケールですべての実験を行なった。基質特異性の決定のために、キチン粉末(5%w/v)、グリコールキチン(10%w/v)、コロイド状キチン(5%w/v)、キトサン[DA:15~25%、中間分子量、Sigma-Aldrich社](5%w/v)および微結晶性セルロース粉末(Sigma Aldrich社)(5%w/v)を、それぞれ調べた。活性に対する数種類の考えられる補因子の影響を、1mMの濃度で明らかにした。加えて、酵素活性に対する界面活性剤[SDS 0.5%(w/v)、Tween-20およびTriton X-100、両方とも0.5%(v/v)]および化学物質(イミダゾール100mM、EDTA 1mM)の影響を評価した。サンプルを、サーモミキサー中、900rpmで16時間インキュベートした。インキュベーション後、酵素アッセイを用いてサンプルを分析した。異なる持続時間にわたる60℃での組み換えキチナーゼのインキュベーション、およびそれに続く標準アッセイ条件下での残留酵素活性の定量化後に、熱安定性を評価した。組み換えキチナーゼの酵素反応速度論を、0~150mg/mLキチンとの一定量の酵素(2μM)のインキュベーションおよび逐次的な還元糖の定量化に先行するミカエリス・メンテンモデルのラインウィーバー・バーク表示によるKmおよびVmaxの決定により決定した。
【0165】
薄層クロマトグラフィーによる生成物分析
10×10cm TLCシリカゲル60 F254プレート(Merck社、Darmstadt、Germany)および移動相としてブタノール:メタノール:25%アンモニア:H2O(5:4:2:1)の混合物を用いて、加水分解生成物を分析した。0.5μLの合計サンプル体積を、0.25μLスポットに適用した。キチン標準糖(Megazyme社、Chicago、USA)(5mg/mL)を、DPの決定のためのサイズ標準としてプレートに適用した(0.25μLスポット中0.5μL)。分離後、プレートを風乾させ、発色溶液(200mLアセトン、30mLリン酸(85%)、4mLアニリン、4gジフェニルアミン)をプレート上に噴霧し、続いて、ヒートガンを用いて300℃でのスポット可視化を行なった。
【0166】
実施例3
導入
本実施例は、実施例2で組み換え的に生成され、かつ特性決定されたキチナーゼを用いるキチン粉末の制御された分解のための完全に酵素的な解重合プロセスの開発を記載する。重合度(DP)に関する個別の酵素反応の生成物スペクトルは大きな差異を示さなかったので、様々なキチナーゼの組み合わせの相乗効果を調べた。カスケード酵素-基質相互作用およびフィードバック効果が起こり得るので、異なる加水分解ドメインとの酵素の混合は、単一酵素反応と比較して異なる生成物を生じ得る。特に、ある酵素反応の生成物は、異なる酵素に対する基質として機能し、それにより、異なる特性を有する最終生成物が生じ得る(
図11)。多酵素プロセスからのさらなる考えられる利益は、相乗効果であり、これは、生成物阻害の低減に伴う反応平衡のシフトに起因して、より高い総括生成物収率をもたらし得るであろう。
【0167】
酵素反応は制御性および選択性に関して化学反応よりも優れているが、主な欠点は、生成物阻害ならびに限定された基質利用可能性に起因する比較的低い変換速度である。これまでのところ、規定されたCOSへの不溶性キチンからの完全カスケード多酵素変換プロセスは報告されていない。未だ、化学的前処理および分解ステップを完全に排除することならびに完全に酵素的なプロセスを達成することが望まれる。異なる触媒メカニズムおよび基質特異性を伴うキチン分解酵素の多様な性質に起因して、プロセスの強化は、多酵素反応をモデル化することにより達成することができる。プロセス分析および最適化は、混合型酵素反応などの複雑な多因子手順を評価するための必須の方法論である。プロセスを調査および最適化するための一般的な方法は、1つの推定上の影響因子を連続的に変化させ、かつすべての他の因子を一定に保つことである。この一時一事法(OFAT)アプローチは、しかしながら、因子相互作用を見えなくし、所与の出力に対する2種以上の因子の相乗的相互依存性を明らかにすることができず、それにより、真の最適条件を見逃す。対照的に、実験計画法(DoE)アプローチは、因子影響および因子相互作用に関する有意義な情報を得る目的で、体系的方法で低減された数の実験を行なうための数学的ツールである。基礎となる統計解析は、(1)すべての重要な因子および因子相互作用を同時に評価すること、(2)最適な因子組み合わせを特定すること、(3)所望の出力を達成するための因子組み合わせを外挿および内挿することを可能にする[Buyel and Fischer, J Vis Exp, 2014(83): p. 1-17;Rasche et al., Sci Rep, 2016. 6: p. 1-6;Vasilev et al., PLoS One, 2014. 9(8): p. 1-7;Kumaret al., Microbiol. Biotech. Res., 2011. 1(2): p. 33-53]。
【0168】
本実施例では、別個の特殊立方体混合物設計がキチナーゼに関して作成される。各酵素は、混合物中の別個の因子と見なされ、総変換速度および生成物特性に対する影響が研究される。予測の平均分散が最小化され、最適混合物のより正確な予測をもたらすので、I-optimal最適設計タイプが両方の混合物設計に関して選択される。キチナーゼに関して最適化された混合物を、実験的に検証し、部分的脱アセチル化COSへのキチン粉末の変換に関する解重合および脱アセチル化反応に実装した。
【0169】
結果
単量体および二量体多糖への結晶性キチンの変換を行なうために、DoEに実装された全5種類のキチナーゼは、これらの酵素を発現する新規海洋フォトバクテリウム属株に由来した。実施例2で、すべてのキチナーゼを、大腸菌BL21(DE3)を用いて組み換え的に産生させ、至適反応条件および生成物特性に関して特性決定した。これまでには単一酵素反応のみが行なわれたので、DoEアプローチを、(1)生成物速度を最大化するための理想的な酵素の組み合わせを決定し、(2)DPに関して生成物分布を変化させるための考えられる酵素の組み合わせを特定するために用いた。個別の因子(キチナーゼ1~5;C1~5)の作用ならびに2因子および3因子相互作用を評価するために、I-optimal混合物設計を構築し、特殊立方体モデルを評価のために実装した。混合物設計計画により推奨される等体積を添加するために、MATバッファー(pH8)を用いて酵素を透析および事前希釈した。一貫した実験条件を確実にするために、同じバッチ由来のキチンおよび酵素を用いた。酵素的分解からの放出された還元糖の量を、還元末端アッセイにより定量化し、一次応答として用いた。
【0170】
分散分析(ANOVA)は、すべての主要因子が基質の分解に対して極めて有意な影響を有することを示した。さらに、主要因子間の極めて有意な2因子および3因子相互作用が特定された(表6.1)。モデルの有意性を、非有意不適合度検定により確認し、予測されたR2値は、補正済みR2値と合理的に一致した(表6.2)。
【0171】
【0172】
【0173】
縮小立方体モデルは、因子AおよびCが、複数の極めて有意な(p値<0.0001)2因子(AB、AD、AE、BC、CD、CE)および3因子相互作用(ABE、BCD、BCE)に参加することをさらに明らかにした。興味深いことに、因子Aと因子Cとの間の直接的な相互作用は、モデル中で有意ではなかった。総括最高変換速度は、ラン19(2μM因子A;502nmol/mL×h)により達成された。生成物を特定し、かつDPに関する生成物特性での考えられる変化を明らかにするために、加水分解生成物をTLC(
図12)およびLC-MS(
図13)による分析に供した。
【0174】
DPを予測しかつDP>2を有するキチンオリゴマーの生成を改善するためのキチナーゼ混合物を特定する目的で、モデルを評価するためのさらなる応答として、DP2、DP2 mono-d、DP3、DP3 mono-d、DP4およびDP4 mono-dの相対的分布を予測した。したがって、LC-MSスペクトルの個別の化合物ピークを設計ランのために統合し、相対的存在量を応答として用いた。しかしながら、総括生成物収率がピーク統合を行なうためには低すぎたので、16種類のランは定量的に評価できなかった(ラン3、10、17、20、24、25、27、34、35、36、39、43および45~48)。したがって、これらのランに対する応答はゼロに設定された。しかしながら、ANOVA評価は、統計的非有意モデルを生じた。
【0175】
10種類の代表的ランに関して平均を算出し、キチンオリゴマーの全体的な比例配分が、個別のラン間で同様であることを確認した(表6.3)。したがって、個々のキチナーゼ混合物は全体的な生成物組成を変化させず、かつ総括変換速度にのみ影響を及ぼしたと結論付けた。オリゴマーキチン混合物へのキチンの総括変換速度を最大化するための酵素混合物をモデル化するために、Design Expertの最適化関数を用いた。最大化キチン(S1~S3 Max)オリゴマー速度に対する3種類の混合物溶液を試験し、定量化データを、モデルにより予測された値と比較した。加えて、最小化キチンオリゴマー速度(S1~S3 Min)に対する3種類の混合物溶液を、モデルの予測性を検証するために試験した。
【0176】
【0177】
最大化変換速度に対するすべての溶液は、因子A(キチナーゼ1)および因子B(キチナーゼ2)の混合物を含み、因子Aが優勢な成分であった(表6.5)。溶液3はまた、比較的少ない成分として因子C(キチナーゼ3)も導入した。すべての溶液を、3回の技術的反復で、1mL規模で実験的に検証した。達成された速度(達成速度)は、予測された値(予測速度)と合致し、設計中の最良ラン(ラン19;502nmol/mL×h)と比較して、変換速度の実質的な増加が達成された(表6.4)。最適化混合物は、ラン19と比較して、80%(S1 Max)、73%(S2 Max)、53%(S3 Max)まで、速度を改善することができた。最小化溶液に関する結果は、変換速度の信頼できる予測を行なうためにモデルを用いることができることをさらに確認した。
【0178】
【0179】
混合物モデルの応答プロットを、
図14に示す。試験した最適化混合物およびすべての溶液に対する対応する応答(1~3 Max黒色ドット;1~3 Min灰色ドット)がプロット中に含められ、Max溶液は設計制約(design constrain)内の最高の達成可能な変換速度を満足したことを示した。つまり、応答プロットは、最大化速度に関して最適な酵素の組み合わせを上首尾に予測するためにモデルを用いることができたことを示す。最小化速度に対する試験された溶液が、モデルの予測力(predicative power)をさらに検証するために含められ、応答プロットを用いて、最小速度を達成するための酵素の組み合わせを上首尾に予測することができた。
【0180】
TLCおよびLC-MSによる生成物分析は、生成物混合物の組成をさらに明らかにした(
図15および
図16)。S1 Max~S3 Maxの生成物組成は同一であり、設計ランの組成から変化しなかった。DP2を有するキチンオリゴマーが優勢な生成物であり、DP1、DP3およびDP4を有する化合物は、TLCにより比較的少量で特定された。LC-MSデータは、限定された分離解像度および部分的に脱アセチル化された標準分子がないことに起因してTLCにより検出できなかった、部分的に脱アセチル化されたキチンオリゴマーの存在をさらに明らかにした。
【0181】
TLCおよびLC-MSによる生成物分析は、生成物混合物の組成をさらに明らかにした(
図15および
図16)。S1 Max~S3 Maxの生成物組成は同一であり、設計ランの組成から変化しなかった。DP2を有するキチンオリゴマーが優勢な生成物であり、DP1、DP3およびDP4を有する化合物は、TLCにより比較的少量で特定された。LC-MSデータは、限定された分離解像度および部分的に脱アセチル化された標準分子がないことに起因してTLCにより検出できなかった、部分的に脱アセチル化されたキチンオリゴマーの存在をさらに明らかにした。
【0182】
総括的な基質変換収率を、出発材料と比較して、反応後の残留基質を決定した後のすべての最大化溶液に関して決定した。溶液S1 Maxを用いて、28.9±0.7%(28.9mg/mL)の最高基質変換収率およびラン19(18.3±0.5%)と比較して58%までの改善が達成された。
【0183】
結論として、キチナーゼ混合物モデルを用いて、単一酵素反応と実質的に比較して総括変換速度が上首尾に増加した。しかしながら、モデルを用いて、生成物のDPを予測し、それにより生成物特性を変化させることはできなかった。
【0184】
考察
実験計画法アプローチは、統計学的モデル化のみを用いて、複雑な生物学的系の評価を可能にする。それにより、重要な因子および因子相互作用、最適な因子組み合わせならびに速度予測を、実際の系に対して行なうことができる。堅牢なプロセスモデル化を得るために、因子事前選択を行なうことおよび大多数の決定的な因子に対して焦点を当てて系を最適化し、それによりモデルの全体的な有意性を改善することが必須である。本研究に関して、酵素-基質相互作用を評価し、かつ改善された生成物速度に関して最適化された酵素カクテルをつくり出す目的で2種類の個別の混合物モデルを開発するために、様々なキチン分解酵素を分析した。さらに、異なる酵素組み合わせが、重合度(DP)に関して生成物分布を変化させることに対して有意な作用を有したか否かを調べた。モデルの評価は、キチナーゼの異なる組み合わせが、生成物速度に対して有意な作用を有したことを明らかにした。相乗的な酵素作用を示した重要な因子および因子相互作用が特定された。
【0185】
キチナーゼ混合物モデルは、すべての主要因子(キチナーゼ1~5)ならびに複数の2因子および3因子相互作用が、総括生成物速度に対して有意な影響を有したことを明らかにした。2個、3個または4個のGlcNAc単位を含む、DP2、DP3およびDP4を有するキチンオリゴマーの相対的存在量を用いることによるモデルの評価(すなわち、応答は生成物スペクトルが異なる酵素混合物を用いることにより変更できなかったことを実証したので)。このことは、すべての実装されたキチナーゼが、総括的な関連反応メカニズムによりキチンを加水分解することを強調する。したがって、モデルのさらなる分析は、生産速度の最大化に焦点を当てられた。
【0186】
生成物速度に対する作用をより正確に評価するために、DesignExpertソフトウェアの最適化関数を用いて、最大化変換速度に対して酵素カクテルを特定した。最高予測速度を有する3種類の溶液を検証した。さらに、モデルの予測性をさらに検証するために、最小化溶液の試験を行ない、達成されたデータは、予測された速度と合致した。すべての試験された混合物は、キチナーゼ1(因子A、配列番号1)が生産速度に対して最も強い正の影響を有し、かつキチナーゼ2および3(因子B、配列番号2;および因子C、配列番号3)が総括的変換を増強したことを明らかにした。予測された速度は、設計(ラン19)で達成された最高収率を73%超過し、すべての溶液の実験的検証は、予測と大きく合致した。キチナーゼ1への比較的少量のキチナーゼ2の添加による活性の実質的増加に対する説明は、異なる酵素ドメインから生じる相乗効果である。両方の酵素が、基質に対する活性部位のアクセス可能性の増加を担う異なるキチン結合性ドメインを含む。キチナーゼ2は全体的に低いキチン分解活性を有するので、キチン結合性ドメインは、キチナーゼ1に対する全体的なアクセス可能性を強化して、増加した総括変換速度を生じ得る可能性があるであろう。
【0187】
これまでに、様々な細菌または真菌供給源由来のキチン分解酵素が、オリゴマーへのキチンの分解に関して試験され、異なるオリゴマーの広いスペクトルが得られた。典型的には、キチンは、結晶構造を破壊し、かつ全体的な基質利用可能性を増加させるために、過酷な化学的または機械的方法を用いて、最初に前処理される。文献中に報告されたデータと比較して、最適化酵素カクテルは、DP1~DP4の範囲の同様の総括生成物収率を生じることができた。つまり、キチン粉末と比較してより高い表面積およびより低い結晶性を提供するので、例えば、コロイド状キチンなどの化学的に前処理されたキチンを用いて、最適化酵素カクテルから、より高い生成物速度および収率でさえも予期することができる。
【0188】
まとめると、キチナーゼ混合物モデルの実装は、有意な酵素相互依存性を成功裏に明らかにし、モデルは、単一酵素反応と比較してキチン粉末の変換速度の実質的な増加を可能にする最適化酵素組み合わせを予測することができた。モデルの設計制約(design constrain)(502nmol/mL×h)さえも超える信頼性の高い予測力は、変換効率の実質的な増加を可能にする非常に特異的な酵素カクテルを開発するためにDoEを用いることができることをさらに実証した。設計をさらに行ない、2作業日以内で評価して、最適化混合物をもたらした。
【0189】
結論
キチナーゼに関する混合物モデルは、重要な主要因子および酵素間での因子相互作用を特定することが可能であった。設計により示唆される最適化酵素混合物を検証し、変換速度の実質的な増加を達成するために、非常に特異的な酵素混合物が必要とされることが明らかになった。最大58%の速度増加を伴う外挿された応答が達成されたので、設計の予測性は、予想外に信頼性が高かった。そのような特異的混合物は、いかなる因子相互作用も考慮しないので、OFATアプローチを用いては戦略的に決定することができなかった。さらに、DoEアプローチを用いて、すべての至適混合物を、個別の実験の最小値を用いて体系的に決定し、このことは、このアプローチを時間および資源効率的アプローチにした。最適化混合物はさらに、28.9%の総括収率を伴って、キチン粉末からDP2~DP4のモノ脱アセチル化COSを生成することが可能であり、これは現行の化学的分解反応に対して競争力を有する。
【0190】
実験セクション
材料
研究で用いたすべての化学物質は、Carl-Roth社(Germany)から購入し、最高純度のものであり;Chelating Sepharose FFはGE Healthcare社(Sweden)からのものであった。すべてのバッファーは、脱塩水中に調製した。
【0191】
酵素の組み換え生産
キチナーゼに関して以前にクローニングされた構築物(実施例2)を、すべて大腸菌BL21(DE3)細胞中に形質転換し、組み換え的に発現させた。100mL TB培地中の出発培養物を一晩培養し(180rpm、37℃)、これらの培養物のうちの10mLを、主培養物に接種するために用いた(OD600nm:0.1)。Ultra YieldTMフラスコ(2.5L;Thomson Instrument社、Oceanside、USA)を、軌道振盪器中、37℃および200rpmの振盪速度での1000mL TB培地中の主培養物の増殖のために用いた。培養液への1mMイソプロピル-β-D-チオ-ガラクトピラノシド(IPTG)の添加により、培養の4時間後の対数期の中間(OD600=4)で誘導を行ない、続いて、温度を28℃に下げた。合計培養時間が18時間に達した後、細胞と上清とを遠心分離(8000×g、30分間)により分離した。
【0192】
培養上清からの酵素の精製
6×Hisタグ付きキチナーゼの精製のためのプロトコールを、実施例2から適応させ、2つの逐次的ステップを行なった:
ステップ1. 硫酸アンモニウム沈殿
固体硫酸アンモニウムを、70%の最終濃度まで950mLの培養上清にゆっくりと添加し、室温で2時間撹拌した。沈殿物を遠心分離(8000×g、30分間)により回収し、100mL PBS(pH8.0)中に溶解させ、ろ過(0.45μm)した。
【0193】
ステップ2. 固相化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
ステップ1からの溶解サンプルを、0.2M NiSO4をチャージしたChelating Sepharose FF(GE Healthcare社、Sweden)樹脂(カラム体積(CV)15mL)に添加した。カラムをAKTA pure 25(GE Healthcare社、Uppsala、Sweden)に連結し、3CV PBS(pH8.0)を用いて平衡化した。サンプルポンプを用いてサンプルを直接的に注入し、続いて、UV280nmシグナルが30mAU未満に低下するまで、平衡化バッファーを用いる洗浄ステップを行なった。弱く結合した非特異的タンパク質を、PBS(pH8.0)中の50mMイミダゾールを用いてカラムから溶出させ、続いて、PBS(pH8.0)中の250mMイミダゾールで第2の溶出ステップを行なった。すべてのステップを、5mL・分-1の一定流速で行なった。それぞれの酵素を含有する2mLの溶出画分をプールし、MATバッファー(33mM TRIS、33mM CAPS、33mM MES[pH8])に対して透析した。較正のための標準としてウシ血清アルブミンを用いるビシンコニン酸アッセイ(BCA)により、タンパク質を定量化した。
【0194】
基質調製
エビ殻由来のキチン(約400.000g/mol;Carl Roth社)を、6000rpmでGyroGrinder(Fritsch社、Germany)を用いて機械的に前処理し、それにより、80μM平均粒径の均質粉末へと変換した。粉末を、すべてのキチン分解実験に対する基質として、いかなるさらなる処理も行なわずに用いた。
【0195】
キチナーゼおよびキチンデアセチラーゼ活性の定量化
還元末端アッセイを行なうことにより、組み換えキチナーゼの酵素活性を決定した[J., H., Svein, E., and H., V.G., Carbohydr Polym, 2004. 56(1): p. 35-39.]。加水分解サンプルを8000×gで2分間遠心分離し、40μLの上清を、40μL 0.5M NaOHおよび40μLの水性MBTH試薬溶液(1.5mg/mL 3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾンおよび0.75mg/mLジチオトレイトール)と混合した。サンプルを80℃で15分間インキュベートし、続いて、80μLの発色溶液(0.5%(w/v)FeNH4(SO4)2)x12H2O、0.5%(w/v)スルファミン酸および0.25M HCl)と混合した。サンプルを室温まで冷却し、吸光度を620nmで決定した。N-アセチル-グルコサミンの較正曲線を、各測定サイクルに関して新たに作成した。1活性単位[U]は、1時間当たり1nmolの還元糖を放出するために必要な酵素の量として定義した。
【0196】
市販の酢酸アッセイキット(K-ACETRM;Megazyme社、Bray、Ireland)をマルチタイタープレート形式で用いて、CDA反応中の放出酢酸塩の量を測定した。標準として酢酸を用いて、各測定サイクルに関して較正曲線を新たに作成した。1活性単位[U]は、1時間当たり1μgの酢酸を放出するために必要な酵素の量として定義した。
【0197】
薄層クロマトグラフィーおよびLC-MSによる生成物分析
加水分解生成物の特定のために、可溶性サンプルを、10×10cm TLCシリカゲル60 F254プレート(Merck社、Darmstadt、Germany)および移動相としてブタノール:メタノール:25%アンモニア:H2O(5:4:2:1)の混合物を用いるTLC分析に供した。サンプルおよびキチン標準糖(Megazyme社、Chicago、USA)(1mg/mL)に関して、0.3μLの合計体積をプレートに添加した。分離後、プレートを風乾させ、200mLアセトン、30mLリン酸(85%)、4mLアニリンおよび4gジフェニルアミンを含有する溶液を用いて発色させた。300℃でヒートガンを用いて、スポットを可視化した。
【0198】
LC-MSによる分析に関するプロトコールを、Hamer et al.[Sci Rep, 2015. 5: p. 8716.]により記載された方法に基づいて開発した。可溶性オリゴマーサンプルの分析を、SIL-30ACオートサンプラー、CTO-20ACカラムオーブンおよびLCMS-2020質量分析計に連結されたShimadzu LC-30 ADシステム(Shimdazu社、Kyoto、Japan)を用いて行なった。1μLのサンプル体積を、Acquity UPLC BEHアミド1.7μm VanGuardプレカラム(2.1×5mm)に連結されたAcquity UPLC BEHアミドカラム(1.7μm、2.1×150mm)(両方ともWaters社、Milford、USA)を用いる親水性相互作用クロマトグラフィーにより分離した。流速は一定0.5mL・分-1に設定し、カラムオーブン温度を30℃に設定した。A(アセトニトリル+0.1%(v/v)ギ酸)およびB(水)の勾配を用いて、サンプルをカラムから溶出させた。サンプル分離を以下の勾配を用いて16分間にわたって行なった:0~2.5分イソクラチック80%A;2.5~12.5分、80%~35%(v/v)A線形、続いて、カラム再平衡化12.5~13.5分、35%~80%A(v/v)線形;13.5~16.0分、イソクラチック80%A。4.5kVの界面電圧、1.5L/分のネブライザーガス流速、15.0L/分の乾燥ガス流および249℃の乾燥温度を用いて、ポジティブモードでMS検出を行なった。質量スペクトルを、m/z 100~1500のスキャン範囲にわたって記録した。
【0199】
標的化合物からのピークを特定し、実行後分析ソフトウェアのChromatopacアルゴリズム(Shimadzu社)を用いて自動的に統合した。ベースライン補正法を無効にしながら、ピーク平坦化をオフにし、ベースライン追跡度を1に設定した。ASTM法を用いてノイズを算出した。
【0200】
実験計画法モデル
COSへのキチン粉末の変換効率の改善に対して酵素の組み合わせを最適化するために、Design Expert 11ソフトウェア(Stat-Ease社、Minneapolis、USA)を用いて、可変因子として全5種類のキチナーゼを含む立方体モデル次数を有する混合物設計を作成した。加えて、単一キチンオリゴマーを得るために生成物特性を変化させることができるか否かを評価するために、設計を用いた。0~2.0μMの総モル濃度範囲(0~240μLの体積を表わす)を、すべてのキチナーゼに対して選択した(表6.8)。すべての実験に関して合計反応体積を1000μLに固定し、この体積範囲内で、総モル酵素濃度を設定した。3因子相互作用を評価するために特殊立方体モデルを作成し、合計48種類のランを得た。pH8のMATバッファーを用いて、1000μLの作業体積で100mgの粉砕キチン粉末を用いて、2mL遠心分離チューブ中にすべてのランを調製した。サンプルを、1000rpmのサーモミキサー中、30℃で16時間インキュベートした。インキュベーション後、還元糖の総量を決定するために還元末端アッセイを行ない、生成物特性の変化を評価するためにTLCを用いた。これらの応答を用いて、Design Expert 11ソフトウェア内の分散分析(ANOVA)により設計を評価し、最適な酵素組み合わせを明らかにした。
【0201】
【0202】
最適化された解重合および脱アセチル化反応
最適化されたキチナーゼとCDAとの混合物を用いて、逐次的解重合および脱アセチル化反応を行なった。したがって、キチン粉末(100mgキチン)を16時間インキュベートし、pH8および30℃で、2μMの総モル濃度で1種類の最適化キチナーゼ混合物を用いて、最初にキチン分解酵素反応を行なった。続いて、酵素の熱不活性化(95℃、10分間)によりキチン分解反応を停止させた。2μMの最適化デアセチラーゼ混合物の添加により第2の反応を開始させ、30℃で16時間、再度インキュベートした。上記の通りに酵素を再度不活性化し、生成物を、凍結乾燥後にTLCおよびLC-MSを用いて分析した。
【0203】
生成物の定量化
0.3125、0.625、1.25、2.5および5mg/mLの濃度範囲内で単量体、二量体、三量体および四量体キチン標準オリゴ糖の較正曲線を確立することにより、TLCを用いて、個別のオリゴマーキチンおよびキトサン生成物を定量化した。1μLの合計標準体積を適用し、記載された通りに分析を行なった。AIDAイメージアナライザーソフトウェア(Raytest Isotopenmessgerate社、Straubenhardt、Germany)を用いて、デンシトメトリーサンプル定量化を行なった。
【0204】
実施例1~3に関する結論
P.オラリウムゲノムの次世代シーケンシングを行ない、アセンブルしたデータを、キチナーゼ(グリコシルヒドロラーゼ)およびキチンデアセチラーゼ(NodB)に関する相同かつ特徴的な酵素ドメインの遺伝子マイニングのために用いた。実施例2では、キチナーゼに関して5種類の異なる標的遺伝子を、golden gateクローニング技術を用いて、異なる構築物として大腸菌BL21へと成功裏にクローニングした。分泌のためのPelBシグナルペプチドおよびIMACによる精製のための6×Hisタグを含む構築物を、発現に対する最も好適な候補として特定した。精製キチナーゼを、そのpH、温度および塩最適値ならびにそのそれぞれの基質特異性および反応速度論に関して、キチン粉末を用いて特性決定した。オリゴマー生成物の分子量および鎖長を決定した。新規酵素は、典型的な報告されたキチナーゼとはサイズが異なり、かつ一般的により高いpH(8~10)およびより低い温度(30~40℃)最適値を示すことが決定された。さらに、1~5%(w/v)NaClの塩濃度が酵素活性に対して有益であった。四量体、三量体、二量体および単量体オリゴマーが、異なる量的分布で、キチンおよびコロイド状キチンの酵素消化後に主に取得された。結果は、新規酵素を、むしろ限定されたDPの範囲を伴って、穏やかな温度でのキチンオリゴマーへの不溶性キチンの生物学的分解プロセスのために用いることができることを示唆した。
【0205】
キチン粉末から部分的に脱アセチル化されたCOSを直接的に生成するための完全に酵素的な変換プロセスを探索するために、キチナーゼおよびキチンデアセチラーゼを用いた。つまり、最適化生産速度に対する最適な酵素組み合わせならびにDPおよびDAに関する生成物特性に対する推定上の変化を明らかにするために、実験計画法アプローチを用いて、特異的酵素カクテルを開発した。実施例3では、キチナーゼに関する混合物設計を用いて、変換速度を最大化するための酵素混合物を作製した。総変換速度は、単一酵素反応および非最適化酵素反応と比較して、キチナーゼ混合物に関して80%まで増加させることができることが見出された。しかしながら、異なる酵素混合物は、DPに関して全体的な生成物組成を変化させなかった。
【0206】
現行の化学的COS生産プロセスと比較して、新規酵素的プロセスの収率は同様の範囲であり、したがって、プロセスは、効率的であると考えることができる。さらに、DoEアプローチは、複雑な多酵素反応をモデル化するためにOFATアプローチよりも有用かつ迅速なツールであり、かつ変換速度を最大化するための最適な酵素組み合わせを決定することを実証した。
【0207】
実施例4
真菌蔓延に対するキチン分解酵素の保護的活性を試験した。この目的のために、実施例2で特定および特性決定されたキチン分解酵素を、大腸菌BL21細胞で生成させた。酵素を培養上清から精製した。
【0208】
最小阻害濃度(MIC)試験で用いられた各キチナーゼの出発濃度は、100μg/mLであった。
【0209】
異なる真菌病原体に対するMIC試験での直接的作用を評価した。試験されたすべてのキチナーゼが、真菌病原体の生育を阻害することができた:
【0210】
【0211】
キチナーゼ1は、フザリウム・クルモルムに対するMICアッセイでも試験し、同様の阻害を示した。
【0212】
キチナーゼを、発芽試験でのそれらの保護的活性に関してさらに試験した。簡潔には、以下のステップを行なった:
1. バイオセーフティーキャビネット中、10分間の10%漂白剤でのコムギ種子の殺菌
2. ろ紙上での発芽
3. 葉面散布3dps(播種後日数)および1dbi(感染前日数)
4. 4dps:病原体フザリウム・クルモルムを添加する
5. 発芽および植物健康状態/植物毒性のモニタリング。
【0213】
結果を
図17に示す。結果は、キチナーゼ1の添加が、真菌生育の強力な阻害および植物健康状態の改善(対照と比較したバイオスティミュラント効果)をもたらしたことを示す。
【0214】
つまり、これらの結果は、キチナーゼ、特に本明細書中に記載されるキチナーゼが、植物上での真菌などの有害生物の生育を効率的に阻害できることを示す。それにより、植物健康状態が改善され得る。つまり、キチナーゼは、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができる。
【0215】
実施例5
昆虫に対するキチナーゼの作用を、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)卵に関して試験した。簡潔には、卵を、キチナーゼ1または対照を用いて処理し、幼虫生存率を、処理の3日間後(DAT)に評価した。10%~0.1%の濃度のキチナーゼ濃度に関する結果は、以下の通りであった:
【0216】
【0217】
つまり、これらの結果は、キチナーゼ、特に本明細書中に記載されるキチナーゼが、昆虫などの有害生物の生存率を低下させることができることを示す。このことは、キチナーゼを、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができることをさらに支持する。
【0218】
実施例6
キチナーゼ1を、非生物的ストレスに対する保護作用に関して試験した。試験された非生物的ストレスは、渇水ストレス、湛水ストレス、塩ストレス、または凍結ストレスであった。試験された植物は、トウモロコシ、イネ、オオムギ、西洋ナシおよびリンゴであった。試験条件は、以下の通りであった:
渇水ストレス
植物をトレイ中に筋蒔きする
25℃/15℃(日/夜)明16時間、暗8時間での発芽
10日間後の施用
2日間後に、8×8cmの植木鉢に植え替える
3種類の考えられるレジメン
*水やりなし
*浸水システムを用いて毎日水やり
*継続的(continous)水やり。
【0219】
塩ストレス
植物をトレイ中に筋蒔きする
25℃/15℃(日/夜)明16時間、暗8時間での発芽
10日間後の施用
2日間後に、8×8cmの植木鉢に植え替える
3種類の考えられるレジメン(3 possible regimes regimes)
*植え替えの瞬間の直接的塩ストレス
*植え替え4日間後の塩ストレス
*植え替え7日間後の塩ストレス
塩ストレス=100mLの120g/L NaClの溶液。
【0220】
葉面散布、種子施用または葉面および種子併用施用後の植物長(PL)に関する結果を、
図18に示す。対照(CTL)に対する標準化。
【0221】
さらに、
図19は、凍結ストレス時のキチナーゼ1の葉面散布後の西洋ナシおよびサクランボ収穫量に対する結果を示す。
【0222】
結果は、様々な植物に対するキチナーゼ1の施用が、渇水ストレス、湛水ストレス、塩ストレスおよび凍結ストレスをはじめとする様々な非生物的ストレスから植物を保護することを明らかに示す。特定の理論に拘泥することを望まないが、この驚くべき知見に対する1つの説明は、キチナーゼ、特にキチナーゼ1が、非生物的ストレスに対する植物防御(defence)メカニズムを活性化できることである。
【産業上の利用可能性】
【0223】
本明細書中に記載されるキチン分解酵素、特に植物保護でのその使用のためのキチン分解酵素、ならびに関連する製品および本明細書中に記載される使用は、例えば、農業での使用のための、例えば、商業的植物保護剤に応用することができる。したがって、本開示は、産業上利用可能である。
【配列表】
【国際調査報告】