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特表2024-525215単離膵島を保存するための培地及び単離膵島の保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】単離膵島を保存するための培地及び単離膵島の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240703BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023579439
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 PL2021050051
(87)【国際公開番号】W WO2023277715
(87)【国際公開日】2023-01-05
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523480934
【氏名又は名称】ポルビオニカ スポルカ ジー オグラニクゾナ オドパウイエドジアルノシア
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】ウツォラ,ミヒャル
(72)【発明者】
【氏名】クラック,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】バーマン,アンドレフ
(72)【発明者】
【氏名】ブリニアルスキー,トマス
(72)【発明者】
【氏名】コソヴスカ,カタルツィーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB18
4B065BB19
(57)【要約】
本発明は、単離された膵島を保存するための培地、及び、単離された膵島を保存するための方法に関する。このような培地は、生理学的温度及び冷蔵の両方で膵島を保存するのに適している。
【選択図】図9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離膵島を保存するための培地であって、市販培地CMRL1066又はRPMIをベースとしており、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の添加物を含んでいることを特徴とする、培地。
【請求項2】
前記ベースが前記市販培地CMRL1066である、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
前記ECMタンパク質の添加剤が、以下のタンパク質を培地1L当たり適量の重量で含んでいる、請求項1又は2に記載の培地。
-培地の67~100mg/L、好ましくは培地の84.3mg/Lの量のラミニン
-培地の5~8mg/L、好ましくは培地の6.7mg/Lの量のヒアルロン酸
-培地の32~48mg/L、好ましくは培地の40.7mg/Lの量のコラーゲンI
-培地の100~145mg/L、好ましくは培地の122.3mg/Lの量のコラーゲンIV
【請求項4】
前記ECMタンパク質の添加剤が、以下のタンパク質を培地の体積に対して適切な体積%で含んでおり、
-ラミニン:培地の6.74~10.12体積%、好ましくは8.43体積%、
-ヒアルロン酸:培地の0.10~0.16体積%、好ましくは0.13体積%、
-コラーゲンI:培地の3.26~4.88体積%、好ましくは4.07体積%;及び
-コラーゲンIV:培地の9.78~14.67体積%、好ましくは12.23体積%、
ここで、濃度1mg/mLのラミニン、濃度5mg/mLのヒアルロン酸、濃度1mg/mLのコラーゲンI、及び濃度1mg/mLのコラーゲンIVが培地に添加される、請求項3に記載の培地。
【請求項5】
前記ヒアルロン酸は、高分子ヒアルロン酸又は低分子ヒアルロン酸であってもよい、請求項3又は4に記載の培地。
【請求項6】
前記ECMタンパク質の添加物として、界面活性剤を含まない、好ましくは動物由来のdECM溶液が使用されている、請求項1又は2に記載の培地。
【請求項7】
前記ECMタンパク質の添加剤を、1~2.5体積%、好ましくは1%含有している、請求項6に記載の培地。
【請求項8】
前記培地が、凍結防止剤及び/又は抗生物質及び/又は殺菌剤及び/又はグルコース及び/又は血清及び/又はアミノ酸を更に含んでいる、請求項1乃至7の何れか1項に記載の培地。
【請求項9】
好ましくはベース培地500mL当たり5mLの量のL-グルタミン、好ましくはベース培地500mL当たり5mLの量の100Xペニシリン-ストレプトマイシン、好ましくはベース培地500mL当たり5mLの量のアムホテリシンB、好ましくはベース培地500mL当たり280mMグルコース溶液10mLに相当する量のグルコース、及び、好ましくはベース培地500mL当たり50mLの量のFBSを含んでいる、請求項8に記載の培地。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の培地中で、4~37℃、好ましくは4℃の温度で、単離膵島を保存することを特徴とする、単離膵島の保存方法。
【請求項11】
膵島を培地中に配置する前に、膵島が処理されているか、又は、未処理のままにされていることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記培地の成分を構成するdECM溶液の形態のECMタンパク質の添加剤が、特許出願EP19218191に記載の方法によって得られることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離された膵島を保存するための補充培地、及び、単離された膵島を保存するための方法に関する。このような培地は、生理学的温度及び冷蔵の両方で膵島を保存するのに適している。
【背景技術】
【0002】
単離された細胞、組織、及び器官を保存するための多くの培地が当技術分野で知られている。このような培地には、細胞外マトリックス(ECM)及びタンパク質添加剤などの様々な成分が含まれている。
【0003】
文献KR1020170011676Aは、脱細胞化生体組織(ECM)由来の濃縮物を使用して幹細胞を肝細胞に分化させる方法を開示しており、ECMは、哺乳動物の肝臓、心臓、腎臓、胃、小腸、結腸、脾臓、膀胱、肺、又は肌に由来していてもよい。著者らは、ECMは、in vivo細胞特有の微小環境を模倣しており、特定の組織から天然の細胞外マトリックスを取得して使用することで最適な増殖環境を提供できると指摘している。彼らはまた、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、又はマトリゲルの単一タンパク質を組み合わせて使用しても、そのような結果が得られないことにも注目している。実施形態では、肝臓由来ECM(LECM)が、2、5、10、及び20%で培地に添加されている。
【0004】
文献WO2019185017Aは、L-グルタミン及びpH調節剤を補充した基本培地に基づく肝細胞及びオルガノイドを培養するための培地に関する。肝細胞の生存を改善するために、肝細胞をECMと接触させるが、ECMは天然由来であっても市販由来のもの(例えば、Matrixgel TM、BD Biosciences)であってもよい。
【0005】
次に、文献BR112013002249A2は、上皮成長因子(EGF)、Wntアゴニスト、線維芽細胞成長因子(FGF)、及びニコチンアミドを補充した基本培地中でECM(マトリゲル)と接触させた肝臓断片由来の幹細胞の培養に関する。
【0006】
別の文献であるUS20080241919A1は、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、及びゼラチンを含み得るECMを含有する培地を含む細胞培養用の容器を含んだ胚性幹細胞を培養するためのシステムを記載している。ECM成分も溶液中に存在する可能性がある。培地には、bFGF、インスリン、及びアスコルビン酸も含まれている。
【0007】
文献US20030026788A1には、培養細胞の独特の特性を保存するために組織ドナーから採取されたECMを含む細胞外マトリックス(ECM)片の使用が記載されている。
【0008】
文献AU2002314621A1は、ラミニン及び/又はIV型コラーゲンであり得るECM成分を含有する培地中で、血管組織を有する器官から単離された細胞クラスター(ランゲルハンス島)を培養するための方法に関する。
【0009】
文献US5985539Aは、ECM成分(コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン又はグリコサミノグリカン)を含む細胞培養培地溶液を血管系を通して臓器に灌流することを含む、動物臓器を再構築する方法に関する。例としては、0.25%のI型コラーゲンの使用が挙げられる。
【0010】
文献EP0703978A1には、細胞、特に造血細胞及び骨髄間質細胞の短期及び長期の増殖及び成長のための無血清又は血清除去培地が記載されている。この培地は、Iscoveの改変ダルベッコ培地などの標準的な培地に基づいている。コラーゲン(好ましくはI型及びIV型)、フィブロネクチン、及びラミニンなどの細胞外マトリックスの成分は、表面への細胞接着に使用される。
【0011】
文献US20080248570A1は、他の細胞外マトリックス成分(例えば、コラーゲンI、III及びIV、塩基性接着分子、プロテオグリカン又はそれらのグリコサミノグリカン)の有無、並びに、ホルモン及び/又は成長因子の有無にかかわらず、ヒアルロン酸上又はヒアルロン酸中でex vivoで肝臓前駆体を含む肝臓細胞を増殖させる方法を開示している。ECMを含む組成物も開示されている。実施例は、1%ヒアルロン酸ゲルの使用を開示している。
【0012】
文献US20110150823A1は、0.01~100:1の重量比でコラーゲンとヒアルロン酸とを含むゲル、及び、幹細胞を培養するためのその使用を開示している。その実施形態では、細胞を、20%ウシ胎児血清及び200U/mLゲンタマイシンを添加した低グルコースDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Gibco BRL、Life Technologies)中に10~10cells/mLの濃度で再懸濁させ、種々の量のヒアルロン酸と混合して懸濁液を形成している。コラーゲンはブタの真皮から得られ、0.01N HClに溶解されて、pH4~7のコラーゲン溶液が生成された。コラーゲン溶液を、同じ容量の幹細胞を含む懸濁液と混合して、6mg/mLのコラーゲンと0.05mg/mL、0.2mg/mL若しくは0.5mg/mLのヒアルロン酸、又は9mg/mLのコラーゲンと0.2mg/mLのヒアルロン酸とを含む混合物が形成された。
【0013】
文献US20070155009A1には、(a)単離された肝臓前駆細胞を提供すること、及び、(b)肝臓からの細胞外マトリックス成分の層上で単離された肝臓由来前駆細胞を培養することを含む、in vitroでの肝臓前駆細胞の増殖方法が記載されている。細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニン、ヒアルロナン、又はそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0014】
文献WO2013116446A1は、コラーゲン又はコラーゲン-ラミニン懸濁液における平滑筋培養物に関する。
【0015】
文献CN1816279Bは、液体栄養基剤を含有する、臓器、生物組織、又は生細胞を保存するための培地に関するものであり、高分子量ヒアルロン酸及び塩化ナトリウムを含み、動物由来の成分を含まないことを特徴としている。培地は、80~4000mg/l、好ましくは100~200mg/l、好ましくは100~160mg/lの高分子量ヒアルロン酸を含有している。培地は、CMRL1066培地に基づいていてもよい。
【0016】
文献WO2007009981A1には、例えば50mg/Lのヒアルロン酸を補充したDMEM/F12培地に基づいた組織培養培地が記載されている。
【0017】
文献CN112608899Aは、球状腫瘍組織培養における血清培地の使用に関する。1.3mg/Lコラーゲンを含むF-12培地をベースとしたコラーゲンゲルも培養に使用されている。
【0018】
文献JP1993184356Aは、無脊椎動物の神経組織を培養するための培地及び方法を開示している。ターゲット培地は、(A)L-15培地、(B)不活化血清、(C)グルコース、及び(D)抗生物質を含むコラーゲンゲルから構成されている。好ましくは、成分Bの量は培地に対して10~20重量%であり、成分Cの量は好ましくは10~20mg/mLである。培地中のコラーゲン含有量は、0.1~0.3重量%が好ましい。
【0019】
文献US7550294B2は、CMRL1066に基づく培地中で細胞、組織、及び器官をin vivoで培養する方法を開示しており、一方、文献JP1988146785Aは、L-カルニチンを補充した培地(例えばCMRL1066)中での動物細胞の培養を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、単離された膵島を、生理学的温度及び冷蔵の両方で、分泌特性を損なうことなく保存できる培地を開発することである。これは、細胞外マトリックス(ECM)又はその単離タンパク質を適切な割合で市販の培地に添加することによって達成された。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による、単離膵島を保存するための培地は、市販培地CMRL1066又はRPMIをベースとしており、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の添加物を含んでいる。
【0022】
好ましくは、ベースは、市販培地CMRL1066である。
【0023】
好ましくは、前記ECMタンパク質の添加剤が、以下のタンパク質を培地1L当たり適量の重量で含んでいる:
-培地の67~100mg/L、好ましくは培地の84.3mg/Lの量のラミニン
-培地の5~8mg/L、好ましくは培地の6.7mg/Lの量のヒアルロン酸
-培地の32~48mg/L、好ましくは培地の40.7mg/Lの量のコラーゲンI
-培地の100~145mg/L、好ましくは培地の122.3mg/Lの量のコラーゲンIV
【0024】
好ましくは、前記ECMタンパク質の添加剤は、以下のタンパク質を培地の体積に対して適切な体積%で含んでいる:
-ラミニン:培地の9.78~14.67体積%、好ましくは12.23体積%、
-ヒアルロン酸:培地の0.10~0.16体積%、好ましくは0.13体積%、
-コラーゲンI:培地の3.26~4.88体積%、好ましくは4.07体積%;及び
-コラーゲンIV:培地の9.78~14.67体積%、好ましくは12.23体積%、
ここで、開始濃度1mg/mLのラミニン、濃度5mg/mLのヒアルロン酸、濃度1mg/mLのコラーゲンI、及び濃度1mg/mLのコラーゲンIVが培地に添加される。
【0025】
好ましくは、前記ヒアルロン酸は、高分子ヒアルロン酸又は低分子ヒアルロン酸であってもよい。
【0026】
好ましくは、前記ECMタンパク質の添加物として、界面活性剤を含まない、好ましくは動物由来のdECM溶液が使用されている。
【0027】
好ましくは、培地は、1体積%~2.5体積%、好ましくは1%のECMタンパク質の添加物を含んでいる。
【0028】
好ましくは、前記培地は、凍結防止剤及び/又は抗生物質及び/又は殺菌剤及び/又はグルコース及び/又は血清及び/又はアミノ酸を更に含んでいる。
【0029】
好ましくは、培地は、ベース培地500mL当たり5mLの量のL-グルタミン、好ましくはベース培地500mL当たり5mLの量の100Xペニシリン-ストレプトマイシン、好ましくはベース培地500mL当たり5mLの量のアムホテリシンB、好ましくはベース培地500mL当たり280mMグルコース溶液10mLに相当する量のグルコース、及び、好ましくはベース培地500mL当たり50mLの量のFBSを含んでいる。
【0030】
本発明による単離膵島の保存方法は、本発明による培地中で、4~37℃、好ましくは4℃の温度で、単離膵島を保存することを特徴としている。
【0031】
好ましくは、膵島を培地中に配置する前に、膵島が処理されているか、又は、未処理のままとされている。
【0032】
好ましくは、前記培地の成分を構成するdECM溶液の形態のECMタンパク質の添加剤は、特許出願EP19218191に記載の方法によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本実施形態における本発明の目的は、下記の図面に示されている。
【0034】
図1~3は、4℃及び37℃の温度で24時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島及び処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、1及び2.5%の界面活性剤を含まないECMが富化されたCMRL1066培地が含まれ、対照サンプルはCMRL1066培地中でインキュベートした。
【0035】
図4~6は、4℃及び37℃の温度で48時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島及び処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、1及び2.5%の界面活性剤を含まないECMが富化されたCMRL1066培地が含まれ、対照サンプルはCMRL1066培地中でインキュベートした。
【0036】
図7は、4℃及び37℃の温度で72時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島及び処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、1及び2.5%の界面活性剤を含まないECMが富化されたCMRL1066培地が含まれ、対照サンプルはCMRL1066培地中でインキュベートした。
【0037】
図8は、4℃及び37℃の温度で96時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、1及び2.5%の界面活性剤を含まないECMが富化されたCMRL1066培地が含まれている。
【0038】
図9は、4℃の温度で120時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、1及び2.5%の界面活性剤を含まないECMが富化されたCMRL1066培地が含まれ、B2-ECM1%、未処理、4℃であり、E1-未処理の対照、4℃であり、E2-ECM2.5%、未処理、4℃である。
【0039】
図10は、4℃の温度で72時間膵島をインキュベートした後の未処理膵島の機能性を示すグラフであり、培地には、市販の添加材であるラミニン、ヒアルロン酸、コラーゲンI及びIVが富化されたCMRL1066培地が含まれている。
【0040】
図の下軸は15分ごとの時点を表している。1-低グルコース対照点;2、3-低グルコースでの15分及び30分後の測定、4-高グルコース対照での測定、5~8-高グルコースでの15、30、45及び60分における測定、9-低グルコース対照点;10~13-低グルコースでの15、30、45、及び60分における測定。
【0041】
本発明による培地は、単離された膵島を保存するために使用される。前記培地は、生理学的温度条件下、即ち37℃、及び、冷蔵状態、即ち標準的な冷蔵保存温度、即ち4℃の両方で膵島を保存するのに適している。
【0042】
Llacuaらが発表した文献データ(Collagen type VI interaction improves human islet survival in immunoisolating microcapsules for treatment of diabetes. ISLETS (2018), vol. 10, no. 2, 60-68)によれば、膵島を単離する際に、膵島を取り囲んで内分泌細胞同士を連結するECM粒子が、コラゲナーゼを添加する結果として損傷する。これは、膵島の構成成分であるラミニン並びにコラーゲンI、III、IV、V、及びVI型の両方に悪影響を及ぼし、最終的にはECM構造全体に損傷を与える。外部から供給されるECM又はECM成分を培地に補充すると、生存率が向上し、膵島の機能が維持される。生化学組成、繊維構造、粘弾性特性などの培地によって提供される条件が標的臓器の条件に近いため、細胞は増殖することができる。
【0043】
本発明の目的において、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、好ましくは動物起源(例えば、豚、牛、羊などに由来する)のECM、好ましくは脱細胞化/無細胞(dECM)ECM、好ましくは欧州特許出願EP19218191に記載された方法を用いて得られるECM、又は、市販のECMタンパク質、即ち、ラミニン、ヒアルロン酸、コラーゲンI、及びコラーゲンIVの適切な比率の混合物である、ECMを定義している。
【0044】
好ましい実施形態において、培地中のECMの各タンパク質成分は以下の通りである:
-ラミニン:培地の8.43体積%、
-ヒアルロン酸:培地の0.13体積%、
-コラーゲンI:培地の4.07体積%、
-コラーゲンIV:培地の12.23体積%、
【0045】
ここで、開始濃度1mg/mLのラミニン、濃度5mg/mLのヒアルロン酸、濃度1mg/mLのコラーゲンI、及び濃度1mg/mLのコラーゲンIVが培地に添加される。
【0046】
本発明による混合物に使用されるヒアルロン酸は、高分子量の酸であってもよく、低分子量の酸であってもよい。
【0047】
培地はまた、凍結保護剤、抗生物質、殺菌剤、グルコース、血清(FBS)、当該技術分野で通常使用される濃度で添加されたアミノ酸などの他の任意の成分を含んでいてもよく、例えば、培地は、FBS、D-グルコース、抗生物質(ペニシリン,ストレプトマイシン,アムホテリシンB,セファロスポリン)の混合物、及びL-グルタミンを含んでいてもよい。
【0048】
本発明による培地は、上記各成分を適当な割合で混合することにより得られる。混合は、ディップスティックを使用して手動で行うことも、マグネチックスターラーなどの適切なスターラーを使用して自動的に行うこともできる。好ましくは、選択された方法に関係なく、混合は無菌条件下で行われる。
【0049】
本発明において、上記及び下記で使用される「約(approximately)」という語は、本発明による組成物の調製プロセスの過程、例えば成分を測定する過程で生じる可能性のある不正確さを反映して、表示値から+/-5%の偏差として理解されるべきである。
【0050】
実施形態
【0051】
以下の実施形態を実行すべく、試験材料を得るために、多数の手順が実施された。これらの手順は、各実施形態に共通であるため、例自体を説明する前に説明する。
1) 素材の準備(harvesting)
【0052】
膵臓は、繁殖豚から採取した。膵臓採取の第一段階では、十二指腸口付近の膵管を切開し、そこに氷冷保存液UW20mLを逆行的に注入した。洗浄後、膵臓をハサミを使用して周囲の組織から分離し、500mLの氷冷UW保存液を入れた滅菌バッグに入れ、砕いた氷の入った容器に入れて隔離実験室に移した。全平均温虚血時間は10分であった。
【0053】
2)膵島の分離
【0054】
膵島の分離は、臓器が分離ラボに届けられた直後に開始された。最初の行程では、膵臓に3ステップの除染プロセスが行われた。臓器を除染するために、膵臓を1×PBS中の5%ベタジンの氷冷溶液に5分間浸漬した。次いで、膵臓を冷抗生物質溶液(ペニシリン/ストレプトマイシン-1xPBS中10,000U/10,000U)で2回洗浄した。次の行程では、残りの血管、リンパ節、脂肪組織を除去することにより、臓器を機械的に洗浄した。洗浄プロセスは、低温条件下で実行された。次いで、臓器の重量を測定した後、コラゲナーゼNB8(2.73mg/g膵臓)及び中性プロテアーゼ(100DMC‐U)の氷冷溶液を用いて、膵管に近位に挿入したカテーテルを介して注入した(150mLのリンゲル液、pH7.2~7.4、18mMのHEPES、7mMのCaCl及び0.05%のNaHCO)。液体は、Wirsungチューブを通して約5mL/分の速度で投与した。膵臓の重量を量り、機械的に断片化し、Ricordiチャンバに入れた。次いで、システムに1リットルのプライミング溶液(pH7.2~7.4のリンゲル液中、1.25%ニコチンアミド、0.5%グルコース、0.025%NaHCO、37℃に加熱、14mMHEPES、5mMピルビン酸ナトリウム、及び44U/44Uペニシリン/ストレプトマイシン)を充填した。ビーズを入れたRicordiチャンバを振盪することにより、膵臓の消化を機械的に補助した。消化の進行は,30~60秒ごとにシステムから作動液のサンプルを採取し、それらを0.1%ジチゾンで染色し、顕微鏡下で膵島を定量することによりモニターした。大量の膵島が視野に現れた場合、消化は、システムに約200mLのFBSを添加し、冷却器を氷の中に置くことによってクエンチされた(恣意的評価;平均消化時間は19分40秒であった-グループ間に統計的差異は認められなかった)。その後、プライミング溶液を5l希釈溶液(pH7.2~7.4のリンゲル液中、1.2%ニコチンアミド、0.05%グルコース、0.0255%NaHCO、14mMのHEPES、及び4.3mMのピルビン酸ナトリウム)に置き換えた。得られた濾液を、あらかじめ4℃に冷却しておいた5mLのFBSを満たした150mLコーニングチューブに集めた。次に、膵島を含む濾液を遠心分離した:750xg、2分、4℃。上清を除去し、膵島及び消化された外分泌組織を含むペレットを100mLのStore Protect溶液(UW溶液)に懸濁した。単離された膵島相当量を計数するために、100μlの膵島懸濁液サンプルを収集し、2~3滴の0.1%ジチゾンを加えた。
【0055】
膵島は標準化された方法で計数され、得られた結果はIEQ数に変換された。
【0056】
3)単離された膵島の任意選択的な精製
【0057】
膵島を精製するために、Histopaqueを試薬として使用して、単離された膵島から外分泌組織を除去した。
-膵島ペレットを10mLのHistopaqueに懸濁し、ペレットを穏やかに砕き、続いて別の5mLのHistopaqueを懸濁ペレットに添加した;すべての試薬は室温であった。
-15mLのHBSS(FBSを含まない)をHistopaque内の膵島の層に滴下した。
-これを勾配精製し、2100rpmで24分間遠心分離した。
-遠心分離後、Histopaque層全体をペレットから収集した(約15mL)。
-収集した層を50mLのFalconチューブに移し、50mLHBSS+10%FBSで満たした。
-これを1000rpmで2分間遠心分離した。
-上清を除去して最終容量を30mLとし、新鮮なHBSS+10%FBSを最大50mLまで充填した。
-これを1000rpmで2分間遠心分離した。
-上清を除去して最終容量20mLを残し、新鮮なHBSS+10%FBSで最大50mLまで満たした。
-これを1000rpmで2分間遠心分離した。
-上清を除去して最終体積10mLを残し、新鮮なHBSS+10%FBSを最大50mLまで充填した。
-これを1000rpmで2分間遠心分離した。
-上清を除去して最終容量5mLを残した。
-この体積では、膵島が懸濁されていた。
-得られた膵島を重量で数えた。
-膵島のみを10mLのFalconチューブに収集した。
-これを1000rpmで2分間遠心分離した。
【0058】
或いは、COBEデバイスを使用して膵島を扱うこともできる。これには、勾配精製(Islet勾配1.108及び1.069又は別の勾配溶液を使用)も含まれる。
【0059】
テスト用サンプルの準備
【0060】
種々の保存条件における試料の熱安定性を試験するために、適切な培地を調製し、試料当たり3000個のiEQ膵島を3mLの培地中に懸濁させた。サンプルを試験温度で120時間インキュベートし、24時間ごとにサンプリングを実行し、島の機能を評価するためにGSISテストを実行した。
【0061】
全ての実施形態において、3mLの市販のCRL1066塩基培地(重炭酸ナトリウムを含まないL-グルタミンを含むCMRL1066、Sigma-Aldrich, Inc. https://www.sigmaaldrich.com/deepweb/assets/sigmaaldrich/product/documents/254/3 08/c0422dat.pdf)を使用した。
【0062】
何れの場合も、試験サンプル及び対照サンプルの両方について、使用前にCMRL1066培地に追加成分(培地500mLあたり)を補充した:
・L-グルタミン-5mL
・100Xペニシリン/ストレプトマイシン-5mL
・アムホテリシンB-5mL
・グルコース280mM-10mL
・FBS-50mL
【0063】
4)膵島機能の評価
【0064】
膵島の機能は、グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)を使用して評価した。2.5及び16.7mMグルコースの溶液を、滅菌Krebs緩衝液(25mMのHEPES、115mMのNaCl、24mMのNaHCO、5mMのKCl、1mMのMgCbx6HO、0.1%BSA、2.5mMのCaClx2HO)中でグルコースを希釈することによって調製し、0.22μmフィルタを通して濾過した。溶液は事前に37℃に加熱されており、両方の溶液からサンプルは収集されなかった。3000IEQを各インサートに配置し、2.5mMグルコース溶液に浸した。30分後、インサートをティッシュペーパ上で乾燥させ、16.7mMのグルコース溶液中に60分間置き、乾燥させ、更に60分間2.5mMのグルコース溶液中に置いた。
【0065】
それぞれ100μLのサンプルを15分ごとに収集した。試験全体を通じて、プレートは、細胞培養インキュベータ内で37℃において保管され、GSISテスト中に収集されたすべてのサンプルは、ELISAテストを実行する前に-80℃で凍結された。ELISA検査は、インスリンELISAキットを使用して実行された。
【0066】
実施例1-膵島を、dECM溶液の形態のECM調製物を含有する培地中で4℃及び37℃で保存する。
【0067】
以下の成分を混合することにより、それぞれECM調製物の濃度が1%及び2.5%の培地が得られた。
【表1】
【0068】
実験を行うために、各培地3mLを処理済み及び未処理の膵島と混合し、120時間インキュベートした。実験結果を図1~5に示す。対照サンプルは、添加剤を含まないCMRL1066培地であった。
【0069】
ECMの追加は、膵島の機能に大きな影響を与えた。同様の効果は、保存温度を下げ、単離直後の未処理の島を使用した場合にも観察された。
【0070】
得られたグラフは、膵島の機能が、37℃で24時間保存した場合、4℃で保存した場合よりも2倍以上低下したことを明確に示している。また、膵島の機能性は、未処理の場合に優れていたことも観察できる(4℃で24時間保存した後、未処理の膵島の活性は、処理した膵島の活性よりも100単位近く高かった)。
【0071】
また、ECMの添加が膵島機能に大きな影響を与えたことにも注目すべきである。2.5%ECMで得られた結果は、対照サンプルの結果より15%高くなったが、1%ECM調製物で得られた結果よりは低くなった。したがって、膵島を貯蔵するための最適条件は次の通りである:CMRL1066市販培地中のECM調製物含量1%、温度4℃、未処理の膵島。
【0072】
実施例2-ECMタンパク質混合物の形態のECM調製物を含有する培地中で膵島を4℃で保存する。
【0073】
ECMタンパク質成分の混合物を含む培地は、以下の成分を混合することによって得られた:
【表2】
【0074】
実験を行うために、3mLの培地を未処理の膵島と混合し、それぞれ4℃で72時間インキュベートした。実験結果を図6に示す。対照サンプルは、添加剤を含まないCMRL1066培地であった。
【0075】
72時間のインキュベーション後、本発明による培地に保存された膵島機能の増加が、対照サンプルと比較して観察された。
【0076】
高分子量ヒアルロン酸と低分子量ヒアルロン酸との間に差はなかった(図10は平均的な結果を示している)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】