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特表2024-525229グリコシダーゼインヒビターを含む医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-10
(54)【発明の名称】グリコシダーゼインヒビターを含む医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20240703BHJP
   C07D 417/12 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K31/496
C07D417/12
A61P25/00
A61P25/20
A61P25/28
A61P35/00
A61P9/00
A61P21/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580797
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2021068532
(87)【国際公開番号】W WO2023280381
(87)【国際公開日】2023-01-12
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517065910
【氏名又は名称】エースニューロン・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ベーハー,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ぺルマン,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ポコルニー,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】クアトロパニ,アンナ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC85
4C086GA02
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZA36
4C086ZA94
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、式(I)の化合物またはその薬学的に使用可能な溶媒和物、塩もしくは互変異性体を含む医薬組成物および医薬、ならびにヒト患者へのその投与のための投与レジメンに関する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)
【化1】
の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度をトラフにおいて少なくとも約35ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【請求項2】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度がトラフにおいて約45ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、請求項1記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項3】
ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)
【化2】
の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、定常状態における24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度を少なくとも約155ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【請求項4】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度が24時間にわたって約270ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、請求項3記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項5】
ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)
【化3】
の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、約1650~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【請求項6】
ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)
【化4】
の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、約13850~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【請求項7】
前記の1日投与頻度で投与される式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約150mg~約500mgの範囲である、請求項1~6のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項8】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxが約3580~約7390ng/mLである、請求項5記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項9】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCが約30150~約90500ngh/mLである、請求項6記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項10】
前記の1日投与頻度で投与される式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約300mg~約500mgの範囲である、請求項1~9のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項11】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の反復投与用量が一定のままである、請求項1~10のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項12】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日投与頻度が1日2回または1日3回である、請求項1~11のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項13】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量が、経口投与される場合、1日当たり約240mg~約1500mgである、請求項1~12のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項14】
約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量の投与を含む、請求項1~13のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項15】
ヒト対象が疾患もしくは病態に罹患しており、または疾患もしくは病態を発生する増加したリスクを有する、請求項1~14のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項16】
疾患または病態が1以上のプロテイノパチーから選択される、請求項15記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項17】
疾患または病態が神経障害または神経変性疾患、睡眠障害、神経精神病態、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される、請求項15または16記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項18】
疾患または病態が、1以上のタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症、嗜銀顆粒症、行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia)、非流暢性および意味性変異型原発性進行性失語症(non-fluent and semantic variant primary progressive aphasia)、ブルーイット病(Bluit disease)、皮質基底核変性症、ボクサー痴呆、レビー小体型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化(diffuse neurofibrillary tangles with calcification)、ダウン症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17)、前頭側頭葉変性症、神経膠腫、神経節細胞腫、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、球状グリアタウオパチー、グアドループパーキンソニズム、ハレルフォルデン-スパッツ病、鉛脳症、リポフスチン沈着症、髄膜血管腫症、多系統萎縮症、筋強直性ジストロフィー、ニーマン-ピック病、淡蒼球橋黒質変性症(Pallido-ponto-nigral degeneration)、パーキンソン病、パーキンソン病認知症、グアムのパーキンソニズム-痴呆症候群、ピック病、脳炎後パーキンソニズム、プリオン病、致死的家族性不眠症、クールー病、進行性皮質上神経膠症(progressive supercortical gliosis)、進行性核上性麻痺、純粋自律神経不全症、リチャードソン症候群、亜急性硬化性全脳炎、タングルオンリー(Tangle-only)認知症、結節性硬化症、ハンチントン病または軽度認知障害、慢性外傷性脳症、原発性進行性失語症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症、スティール-リチャードソン-オルシェフスキー症候群、てんかん、慢性および急性炎症、クローン病、神経炎症、くも膜下出血、多発性硬化症、フリードライヒ運動失調ならびに副腎白質ジストロフィーの群から選択される、請求項15、16または17のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項19】
化合物および/またはその互変異性体がその薬学的に使用可能な溶媒和物および/または塩の形態で投与される、請求項1~18のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【請求項20】
化合物および/またはその互変異性体がその塩酸塩の形態で投与される、請求項19項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、O-GlcNAcaseインヒビターを含む医薬組成物および医薬、ならびにタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病のような神経障害を含むプロテイノパチーのような種々の障害の治療のためのヒト患者への投与のためのそれぞれの投与レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
核、細胞質およびミトコンドリアの広範な細胞タンパク質は、O-グリコシド結合で結合する単糖2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド(β-N-アセチルグルコサミン)の付加によって翻訳後修飾される。この修飾は一般にO-結合型N-アセチルグルコサミンまたはO-GlcNAcと称される。β-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を多数の細胞質/核細胞質タンパク質の特定のセリンおよびスレオニン残基に翻訳後に結合させる酵素はO-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGTまたはOGTase)である。O-GlcNAcaseとして公知であるもう1つの酵素はこの翻訳後修飾を除去してGlcNAcを遊離させて、O-GlcNAc修飾を、タンパク質の寿命中に数回生じる動的な事象にする。
【0003】
O-GlcNAc修飾タンパク質は、転写、プロテアソーム分解および細胞シグナル伝達(これらに限定されるものではない)を含む広範な重要な細胞機能を調節する。O-GlcNAcは多数の構造タンパク質上にも見出される。例えば、それは、神経フィラメントタンパク質、シナプシン、シナプシン特異的クラスリン集合タンパク質AP-3およびアンキリンGを含む多数の細胞骨格タンパク質上で見出されている。O-GlcNAc修飾は脳内に豊富に存在することが判明している。また、それは、タウオパチー、アルツハイマー病(AD)、シヌクレイノパチー、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症およびがん(以下、癌と表記される)を含む幾つかの疾患の病因に明らかに関与しているタンパク質上でも見出されている。
【0004】
例えば、AD、ならびにダウン症候群、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、皮質基底核変性症(CBD)、嗜銀顆粒症(AGD)、球状グリアタウオパチー(globular glial tauopathy)(GGT)、17番染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome-17)(FTLD-17)、ニーマンピック病C型を含む多数の関連タウオパチーは、部分的には、神経原線維変化(NFT)の発生によって特徴付けられることが十分に確認されている。NFTは、外傷性脳損傷の結果である慢性外傷性脳症の組織病理学的特徴でもある。これらのNFTはペア形成螺旋フィラメント(PHF;paired helical filaments)の凝集物であり、細胞骨格タンパク質「タウ」の異常形態から構成される。通常、タウは、タンパク質および栄養素をニューロン内に分布させるのに必須である微小管の鍵細胞ネットワークを安定化させる。しかし、AD患者においては、タウは過剰リン酸化されて、その正常機能を破壊し、PHFを形成し、最終的には凝集してNFTを形成する。ヒトの脳内ではタウの6個のアイソフォームが見出される。AD患者においては、タウの6個全てのアイソフォームがNFTにおいて見出され、全ては著しく過剰リン酸化されている。健康な脳組織におけるタウはリン酸基を2~3個しか含有しないが、AD患者の脳で見出されるものは平均8個のリン酸基を含有する。AD患者の脳内のNFTレベルと痴呆の重症度との間の明らかな対応はADにおけるタウ機能不全の中心的役割を強く支持している。タウのこの過剰リン酸化の厳密な原因は依然として解明されていない。したがって、a)タウ過剰リン酸化の分子生理学的基礎を解明するために、およびb)タウ過剰リン酸化を抑制しうる方法を特定して、これがタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病の進行を阻止し、または更には逆転させることを期待して、相当な努力がなされている。幾つかの証拠は、多数のキナーゼのアップレギュレーションがタウの過剰リン酸化に関与している可能性を示唆しているが、ごく最近、この過剰リン酸化に関する別の基本的理解が進展している。
【0005】
特に、タウのホスファートレベルはタウ上のO-GlcNAcレベルによって調節されることが最近明らかになった。タウ上のO-GlcNAcの存在は、O-GlcNAcレベルをタウのリン酸化レベルと相関させる研究を促進させている。この分野における最近の関心事は、リン酸化されることが同様に知られているアミノ酸残基において多数のタンパク質上でO-GlcNAc修飾が生じることが判明したという観察に由来する。この観察と一致して、リン酸化レベルの増加はO-GlcNAcレベルの減少をもたらし、逆に、O-GlcNAcレベルの増加はリン酸化レベルの減少と相関することが判明している。O-GlcNAcとリン酸化との間のこの相互関係は「陰陽仮説」と称されており、タンパク質からホスファート基を除去するように作用するホスファターゼと酵素OGTが機能的複合体を形成するという最近の発見によって、強力な生化学的裏付けを得ている。リン酸化と同様に、O-GlcNAcはタンパク質の寿命中に何度か除去および再導入されうる動的修飾である。O-GlcNAcaseをコードする遺伝子は、ADに関連する染色体遺伝子座にマッピングされていると示唆される。ヒトAD脳における過剰リン酸化タウは、健康なヒトの脳において見出されるものよりも著しく低いO-GlcNAcレベルを有する。ごく最近、ADに冒されたヒト脳からの可溶性タウタンパク質のO-GlcNAcレベルは健康な脳からのものより顕著に低いことが示された。更に、罹患脳からのPHFはO-GlcNAc修飾を完全に欠いていることが示唆された。タウのこの低グリコシル化の分子的基礎は不明であるが、それはキナーゼの活性の増加および/またはO-GlcNAcのプロセシングに関与する酵素の1つの機能不全に起因する可能性がある。この後者の見解を裏付けるように、PC-12神経細胞とマウスの脳組織切片との両方において、タウO-GlcNAcレベルを増加させるために非選択的N-アセチルグルコサミニダーゼインヒビターを使用したところ、リン酸化レベルが低下することが観察された。更に、タウのO-GlcNAc修飾は、タウモノマーのコンホメーション特性を乱すことなく、その凝集を直接阻害することが記載されている。これらの総合的な結果が意味するのは、例えばO-GlcNAcase(OGA)の作用を阻害することによって、AD患者における健常O-GlcNAcレベルを維持することによって、タウの過剰リン酸化およびタウ過剰リン酸化の関連効果(NFTの形成および下流効果を含む)の全てを阻止しうるはずだということである。しかし、リソソームβ-ヘキソサミニダーゼの適切な機能は決定的に重要であるため、O-GlcNAcaseの作用を遮断するAD治療のための潜在的な治療的介入は、リソソームヘキソサミニダーゼAおよびBの両方の同時阻害を回避しなければならないであろう。
【0006】
ヘキソサミン生合成経路の公知特性、O-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)の酵素特性、およびO-GlcNAcとリン酸化との間の相互関係と一致して、脳内のグルコース利用可能性の低下はタウ過剰リン酸化につながることが示されている。グルコースの輸送および代謝が徐々に損なわれると、O-GlcNAcの減少およびタウ(および他のタンパク質)の過剰リン酸化が生じる。したがって、O-GlcNAcaseの阻害は、健康な個体およびADまたは関連神経変性疾患に罹患している患者の脳内のグルコース代謝の加齢関連障害を補うはずである。
【0007】
これらの結果は、タウO-GlcNAcレベルを調節するメカニズムの機能不全がNFTの形成および関連神経変性において極めて重要でありうることを示唆している。治療上有用な介入としてタウ過剰リン酸化を遮断することに関する良好な裏付けは、ヒトタウを有するトランスジェニックマウスをキナーゼインヒビターで処置すると、それは典型的な運動障害を発生せず、別の場合には不溶性タウのレベルの低下を示すことを示す研究から得られる。これらの研究はAD疾患のマウスモデルにおけるAD様行動症状の軽減とタウリン酸化レベルの低下との間の明確な関連性を示している。
【0008】
O-GlcNAcでの修飾が、有害なタンパク質凝集を予防する一般的機能を果たしうることを示す証拠が存在する。これは、タウタンパク質に関して、そしてまた、パーキンソン病を含むシヌクレイノパチーに関連する毒性凝集性タンパク質であるタンパク質α-シヌクレインに関しても、直接実証されている。筋萎縮性側索硬化症に関連する他の凝集性タンパク質[Tar DNA結合タンパク質-43(TDP-43)およびスーパーオキシドジスムターゼI(SOD-I)]および前頭側頭葉変性症に関連する他の凝集性タンパク質(TDP-43)はO-GlcNAc修飾を含有することが公知である。これらの結果は、OGAインヒビターでのO-GlcNアシル化の増加が、タンパク質凝集または好ましくは他のタンパク質ミスフォールディングに関連する疾患、およびその結果生じる疾患または状態、すなわちプロテイノパチーにおいて、一般に有益でありうることを示している。
【0009】
また、O-GlcNAcタンパク質修飾レベルの増加がストレスの病原性効果に対する防御をもたらすことを示す多数の証拠も存在する。
【0010】
ヒトは、末端β-N-アセチル-グルコサミン残基を複合糖質から切断する酵素をコードする3つの遺伝子を有する。これらの最初のものは、酵素(タンパク質)-3-O-(N-アセチル-D-グルコサミニル)-L-セリン/スレオニンN-アセチルグルコサミニルヒドロラーゼ(O-GlcNAcase)をコードする。O-GlcNAcaseはグリコシド加水分解酵素のファミリー84のメンバーである。O-GlcNAcaseは、翻訳後修飾タンパク質のセリンおよびスレオニン残基においてO-GlcNAcを加水分解するように作用する。多数の細胞内タンパク質上のO-GlcNAcの存在と合致して、酵素O-GlcNAcaseは、II型糖尿病、ADおよび癌を含む幾つかの疾患の病因において或る役割を果たしているらしい。O-GlcNAcaseはもっと早くに単離されていたようだが、タンパク質のセリンおよびスレオニン残基からO-GlcNAcを切断する作用におけるその生化学的役割が理解されるまでに約20年が経過した。より最近になって、O-GlcNAcaseがクローニングされ、部分的に特徴づけられ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼとしての追加的活性を有することが示唆されている。
【発明の概要】
【0011】
発明の概括
本発明は、式(I)
【化1】
の化合物および/またはその互変異性体(それぞれの遊離塩基形態またはそれぞれの薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩の形態のもの)を含む医薬組成物および医薬、ならびにヒト患者へのそれらの投与のための投与レジメンに関する。更に、本発明は、ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体に関するものであり、該方法は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、本明細書中に後記で更に具体的に開示されている適切な用量および適切な1日投与頻度(daily dosing frequency)で反復投与することを含む。もう1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を本明細書中に後記で更に具体的に開示されている適切な用量および適切な1日投与頻度で反復投与することを含むヒト対象の治療のための医薬の製造における、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の使用に関する。化合物(I)およびグリコシダーゼインヒビターとしてのその使用は例えばWO2016/030443に開示されている。本発明の目的は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む医薬および医薬組成物、ならびに神経障害、例えばタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病の治療のための投与レジメンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】健康な男性被験者における7つの用量レベル(20mg、40mg、80mg、160mg、300mg、600mgおよび1000mg)での化合物(I)の単回経口投与の後の化合物(I)の算術平均血漿濃度 - パート1a。
図2】男性および女性の高齢被験者における100mg、250mgおよび500mgの用量レベルでの化合物(I)の12日間のBID投与の後の第12日における化合物(I)の算術平均血漿濃度 - パート2。
図3】男性および女性の高齢被験者における100mg、250mgおよび500mgの用量レベルでの化合物(I)の12日間のBID投与の後の第12日における化合物(I)の算術平均CSF濃度 - パート2。
図4】被験者1004の積分PETスキャンイメージ:ベースライン,500mgの化合物(I)の投与の6.9時間後および300mgの化合物(I)の投与の8.1時間後。
図5】最初の読み取り値:PK-RO(血漿濃度対受容体占有率)分析。以下に従い計算された曲線。 RO=100Cp/(Cp+EC50) (ここで、RO=受容体占有率、Cp=化合物(I)の血漿濃度、EC50=50% ROに相当するCp)
図6】化合物(I)のカプセル剤および錠剤の溶解プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細
本発明によれば、式(I)の化合物を含む医薬および医薬組成物ならびにヒトへのその投与のための投与レジメンは、O-GlcNAcase活性によって引き起こされる、媒介されるおよび/または増殖する疾患の予防的もしくは治療的処置および/またはモニタリングに特に適している。本発明の範囲に含まれる疾患としては、神経疾患および神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中、より好ましくは神経変性疾患、最も好ましくは1以上のシヌクレイノパチーおよびタウオパチー、非常に好ましくはアルツハイマー病および認知症が挙げられる。
【0014】
式(I)の化合物または式(I)を含む医薬もしくは医薬組成物が本発明による予防または治療に適用されうる他の疾患には、1以上のプロテイノパチーから選択される疾患または状態が含まれる。そのようなプロテイノパチーは、好ましくは、タウオパチー、限定的なものではないが例えばアルツハイマー病(AD)、皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)慢性外傷性脳症、またはシヌクレイノパチー(α-シヌクレイノパチーとも称される)、限定的なものではないが例えばパーキンソン病、多系統萎縮症を含む群から選択される。
【0015】
本発明のもう1つの態様は、神経変性疾患、睡眠障害、例えば不眠症、ならびに精神神経病態、例えばうつ病および統合失調症、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中、好ましくはタウオパチーの治療方法であって、式(I)の化合物および/またはその生理学的に許容される塩を含む医薬または医薬組成物を、本明細書に開示されている投与レジメンに従い、そのような治療を要するヒトに投与する、治療方法に関する。好ましい投与方法は経口投与である。式(I)の化合物を含む本発明による医薬および医薬組成物が特に好ましい。
【0016】
神経変性疾患または状態は、より好ましくは、以下のものの群から選択される:1以上のタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、嗜銀顆粒症、行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia)(bvFTD)、非流暢性および意味性変異型原発性進行性失語症(non-fluent and semantic variant primary progressive aphasia)(nfvおよびsvPPA)、ブルーイット病(Bluit disease)、皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー痴呆、レビー小体型認知症(DLB)、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化(diffuse neurofibrillary tangles with calcification)、ダウン症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17)(FTDP-17)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、神経膠腫、神経節細胞腫、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、球状グリアタウオパチー(globular glial tauopathy)、グアドループパーキンソニズム、ハレルフォルデン-スパッツ病(脳鉄蓄積を伴う神経変性1型)、鉛脳症、リポフスチン沈着症、髄膜血管腫症、多系統萎縮症(MSA)、筋強直性ジストロフィー、ニーマン-ピック病(C型)、淡蒼球橋黒質変性症(Pallido-ponto-nigral degeneration)、パーキンソン病、パーキンソン病認知症(PDD)、グアムのパーキンソニズム-痴呆症候群、ピック病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、プリオン病[クロイツフェルト-ヤコブ病(GJD)、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)を含む]、致死的家族性不眠症、クールー病、進行性皮質上神経膠症(progressive supercortical gliosis)、進行性核上性麻痺(PSP)、純粋自律神経不全症、PSPリチャードソン症候群とも称されるリチャードソン症候群、亜急性硬化性全脳炎、タングルオンリー(Tangle-only)認知症、結節性硬化症、ハンチントン病または軽度認知障害(MCI)、慢性外傷性脳症、原発性進行性失語症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症、スティール-リチャードソン-オルシェフスキー症候群、てんかん、慢性および急性炎症、例えばクローン病、神経炎症、くも膜下出血(SAH)、多発性硬化症(MS)、MSの進行性形態、例えば原発性または続発性進行性MS、フリードライヒ運動失調ならびに副腎白質ジストロフィー。最も好ましいのは1以上のタウオパチー、PSP、シヌクレイノパチー、パーキンソン病およびアルツハイマー病である。
【0017】
式(I)の化合物またはその薬学的に使用可能な溶媒和物、塩もしくは互変異性体は、本発明による用量および投与レジメンに従い、ヒト対象、例えばそれを要する患者に有利に投与されうることが、本発明において判明した。
【0018】
本明細書全体を通して、本発明による投与レジメンは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、適切な用量および適切な1日投与頻度でヒト対象に反復投与することを意味し、または含む。
【0019】
好ましくは、本発明による投与レジメンは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、適切な用量および適切な1日投与頻度で反復投与することを含む、ヒト対象の治療方法を意味する。
【0020】
本発明はまた、網膜変性疾患、好ましくは、緑内障、加齢性黄斑変性(AMD)、網膜色素変性および糖尿病性網膜症から選択される網膜変性疾患の治療および治療方法のための、式(I)の化合物および/またはその互変異性体ならびに本明細書に開示されている投与レジメンの使用に関する。
【0021】
本発明はまた、炎症性腸疾患、好ましくは、大腸炎、例えば潰瘍性大腸炎、およびクローン病から選択される炎症性腸疾患の治療および治療方法のための、式(I)の化合物および/またはその互変異性体ならびに本明細書に開示されている投与レジメンの使用に関する。
【0022】
化合物自体の医学的使用に関する開示は、その化合物が医薬組成物もしくは医薬中に含まれている場合のその化合物の使用と同様に、またはその化合物が、本明細書に開示されている治療方法もしくは投与レジメンにおいて使用される場合のその化合物の使用と同様に適用されるものと理解されるべきである。同じことが逆にも当てはまり、例えば、医薬組成物、医薬、もしくは化合物の投与を含む治療方法に含まれる化合物の使用、または投与レジメンの一部としての化合物の使用の開示は、その化合物自体の医学的使用に同様に適用されるものと理解されるべきである。
【0023】
本明細書中で用いる「約」なる語は、特定の値、例えば、範囲のエンドポイントを指す場合、具体的に列挙されている値自体に加えて、その具体的に列挙されている値の上下の特定の変動を包含し、開示する。そのような変動は、例えば、通常の測定変動性から生じうる。「約」なる語は、厳密な言及値自体に加えて、示されている特定の値の上下の変動範囲を包含し開示するものとして理解されるべきであり、該変動性は、例えば、特定の列挙値自体に対するものである。「約」なる語は±5.0%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±4.5%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±4.0%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±3.5%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±3.0%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±2.5%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±2.0%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±1.5%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±1.0%の変動性を包含し開示しうる。「約」なる語は±0.5%の変動性を包含し開示しうる。特に示されていない限り、「約」なる語が数値範囲の第1のエンドポイントの前には挙げられているが、その範囲の第2のエンドポイントの前には挙げられていない場合、この語、および開示においてそれが意味する変動性は該範囲の第1のエンドポイントと該範囲の第2のエンドポイントとの両方を指す。例えば、「約X~Y」の列挙範囲は「X~Y」と解釈されるべきである。また、「約」なる語が範囲の上限と下限との両方に適用されている場合、同じ範囲の上限および下限に異なる度合の変動性が適用されうると理解されるべきである。全てのそのような可能な異なる度合の変動性も本出願の開示の範囲内である。例えば、「約X~約Y」の範囲において、本出願は、とりわけ、下限Xが表示値の1.5%の許容範囲内で変動する一方、上限が表示値の2%の許容範囲内で変動する範囲を開示している。もちろん、これは単なる例示に過ぎず、前記の許容範囲の全組合せが本出願の開示に含まれると理解される。
【0024】
「ヒト対象」なる語は、好ましくは、疾患を有する患者、または疾患に罹患するリスクが高いヒト対象を意味すると解釈され、ここで、疾患は、好ましくは、本明細書の全体にわたって言及されている疾患から選択される。より好ましくは、「ヒト対象」なる語は、神経障害もしくは神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される状態を有する患者、または該障害もしくは疾患に罹患するリスクが高いヒト対象を意味すると解釈される。
【0025】
好ましくは、神経障害または神経変性疾患、例えばPSPまたはアルツハイマー病に罹患するリスクに関しては、幾つかの実施形態においては、対象は、神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを発生する増加したリスクを有すると特定可能であり、あるいは、神経障害または神経変性疾患を有すると特定可能であり、これは、例えば、少なくとも部分的には、例えば、微小管関連タンパク質タウ(MAPT)をコードする遺伝子における遺伝的変化[例えば、MAPT遺伝子における逆位多型のいずれか、MAPT遺伝子におけるハプロタイプ特異的多型のいずれか、レアコーディング(rare-coding)MAPT変異体(A152T)、またはMAPT遺伝子におけるエクソン10のスプライシングを増強する突然変異(例えば、Hoglingerら,Nature Genet.43:699-705,2011およびHinzら,Cold Spring Harb.Perspect Biol.に記載されているもの)]を検出することによって行われうる。MAPTをコードする遺伝子における遺伝的変化の非限定的な例には、S285R、L284R、P301LおよびG303Vの1以上の点突然変異を含む、MAPTタンパク質の産生をもたらす突然変異が含まれる。神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを発生する増加したリスクを有するものとして対象を特定するために使用されうる、あるいは神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを有するものとして対象を特定するために使用されうる、MAPTタンパク質をコードする遺伝子における追加的な特定の遺伝的突然変異は、例えば、Boxerら,Lancet 16:552-563,2017に記載されている。
【0026】
幾つかの実施形態においては、対象は、プレセニリン1(PSEN1)もしくは2(PSEN2)またはβ-アミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子における遺伝的変化によって、あるいはアポリポタンパク質E(APOE)遺伝子のε4対立遺伝子の存在によって、あるいはそれらの遺伝子におけるこれらの変化を有する血縁者を有することによって、神経障害または神経変性疾患、例えばアルツハイマー病を発生する増加したリスクを有するものとして特定されうる。
【0027】
幾つかの実施形態においては、対象は、例えば、少なくとも部分的に、タウタンパク質沈着(例えば、4反復タウタンパク質沈着)を検出すること、中脳および/もしくは上小脳脚の萎縮を検出すること[例えば、本明細書に記載されているまたは当技術分野で公知であるイメージング技術のいずれか、例えば、磁気共鳴イメージング(MRI)または陽電子放射断層撮影(PET)スキャンを用いて行う]、ならびに/または対象における前頭葉、尾状核および/もしくは視床における代謝低下を検出すること(例えば、本明細書に記載されているまたは当技術分野で公知であるイメージング技術のいずれか、例えば、MRI、CTスキャンまたはPETスキャンを用いて行う)によって、神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを発生する増加したリスクを有するものとして特定可能であり、あるいは神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを有するものとして特定可能である。
【0028】
幾つかの実施形態においては、対象は、例えば、少なくとも部分的に、対象における1以上のバイオマーカーの存在または(例えば、健常対照対象におけるレベルと比較された)そのレベルの上昇を検出することによって、神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを発生する増加したリスクを有するものとして特定可能であり、あるいは神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを有するものとして特定可能である。
【0029】
幾つかの実施形態においては、対象は、スポーツ活動(例えば、ボクシング、アメリカンフットボール)、軍事爆傷または交通事故の結果として脳震盪/脳外傷を経験したことによって、神経障害または神経変性疾患を発生する増加したリスクを有するものとして特定されうる。
【0030】
幾つかの実施形態においては、対象は、65歳を超える年齢に達していることによって、神経障害または神経変性疾患を発生する増加したリスクを有するものとして特定されうる。
【0031】
幾つかの実施形態においては、対象は、例えば心疾患、脳卒中、高コレステロール血症、肥満、高血圧および糖尿病のような素因疾患を有することによって、神経障害または神経変性疾患を発生する増加したリスクを有するものとして特定されうる。
【0032】
化合物の「溶媒和物」なる語は、化合物上への不活性溶媒分子の付加体を意味すると解釈され、これはそれらの相互引力によって形成される。溶媒和物は、例えば、一水和物もしくは二水和物またはアルコキシドである。本発明はまた、本発明による化合物の塩の溶媒和物を含む。
【0033】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体は、好ましくは、その非ラセミ形態で使用され、すなわち、鏡像異性的(エナンチオマー的)に純粋な化合物、またはエナンチオマーのその鏡像異性的に富化している混合物として使用される。最も好ましくは、鏡像異性的に富化している混合物は、95%を超えるまたは98%を超えるエナンチオマー過剰率を有する式(I)の化合物および/またはその互変異性体を意味する。
【0034】
望ましくは、本発明の組成物は、対応異性体、例えば、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のエナンチオマーを実質的に含有しない。1つの態様においては、対応異性体を実質的に含有しないは、該医薬組成物において、式(I)の化合物および/またはその互変異性体が少なくとも90重量%であること、ないし、対応異性体が10重量%以下であることを意味する。もう1つの態様においては、対応異性体を実質的に含有しないは、該医薬組成物において、式(I)の化合物および/またはその互変異性体が少なくとも95重量%であること、ないし、対応異性体が5重量%以下であることを意味する。更にもう1つの態様においては、対応異性体を実質的に含有しないは、該医薬組成物において、式(I)の化合物および/またはその互変異性体が少なくとも99重量%であること、ないし、対応異性体が1重量%以下であることを意味する。
【0035】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体はそれらの最終的な非塩形態で使用されうる。一方、本発明は、薬学的に許容される酸付加塩の形態での化合物(I)および/またはその互変異性体の使用をも含み、該形態は、それぞれの化合物を薬学的に許容される有機および無機酸で処理することによって形成可能であり、該酸としては、例えば以下のものが挙げられる:ハロゲン化水素、例えば塩化水素、臭化水素またはヨウ化水素、他の鉱酸およびその対応塩、例えばスルファート、ニトラートまたはホスファートなど、ならびにアルキル-およびモノアリールスルホナート、例えばメタンスルホナート、エタンスルホナート、トルエンスルホナートおよびベンゼンスルホナート、ならびに他の有機酸およびその対応塩、例えばカルボナート、アセタート、トリフルオロアセタート、タルトラート、マレアート、スクシナート、シトラート、ベンゾアート、サリシラート、アスコルバートなど。したがって、本発明による化合物の薬学的に許容される酸付加塩には以下のものが含まれる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アルギナート、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(ベシル酸塩)、重硫酸塩、重亜硫酸塩、臭化物、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、カプリン酸塩、カプリル酸塩、塩化物、クロロ安息香酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、桂皮酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、リン酸二水素塩、ジニトロ安息香酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、グリコール酸塩、フマル酸塩、ガラクテラート(galacterate)(粘液酸由来)、ガラクツロン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセルオリン酸塩、ヘミコハク酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、馬尿酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、イソ酪酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタリン酸塩、メタンスルホン酸塩、メチルベンゾアート、リン酸一水素塩、2-ナフタレンスルホナート、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、オレイン酸塩、パルモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、フタル酸塩。しかし、この一覧は限定的なものであるとは意図されない。
【0036】
塩酸、マレイン酸、酒石酸、硫酸またはp-トルオールスルホン酸と式(I)の化合物との酸付加塩が特に好ましい。式(I)の塩酸塩が最も好ましい。
【0037】
本発明のもう1つの態様は、グリコシダーゼを阻害するためのヒトへの投与のための、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む医薬および医薬組成物ならびにそれぞれの投与レジメンの使用に関する。そのような使用は、性質上、治療用または非治療用でありうる。「阻害」なる語は、認識、結合および遮断を可能にする様態で標的グリコシダーゼと相互作用しうる特定の本発明の化合物の作用に基づく、グリコシダーゼ活性の任意の低減を意味する。
【0038】
本発明の好ましい実施形態においては、グリコシダーゼはグリコシドヒドロラーゼ、より好ましくはファミリー84グリコシドヒドロラーゼ、最も好ましくは(タンパク質)-3-O-(N-アセチル-D-グルコサミニル)-L-セリン/スレオニン N-アセチルグルコサミニルヒドロラーゼ(O-GlcNAcase)、非常に好ましくは哺乳類O-GlcNAcaseを含む。本発明による式(I)の化合物はO-GlcNAcaseに選択的に結合し、それによって、例えば、2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド(O-GlcNAc)の切断を選択的に阻害する一方で、リソソームβ-ヘキソサミニダーゼを実質的に阻害しないことが特に好ましい。
【0039】
本明細書に記載されているとおり、グリコシダーゼシグナル伝達経路は、種々の疾患、好ましくは神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中に関連している。したがって、本発明による化合物は、シグナル伝達経路の1以上との相互作用によって、該シグナル伝達経路に依存する疾患の予防および/または治療において有用である。したがって、本発明は、本明細書に記載されているシグナル伝達経路、好ましくはOGA媒介性シグナル伝達のインヒビターとしての、本発明による化合物の治療的使用および非治療的使用に関する。
【0040】
本発明のもう1つの態様は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体および/またはそれらの薬学的に使用可能な塩、溶媒和物を含む医薬に関する。本発明の意味における「医薬」は、患者の全体的な状態または生体の特定領域の状態の病原性変化が少なくとも一時的に確立する様態で、OGA活性に関連する疾患の罹患患者の予防、治療、経過観察およびアフターケアにおいて使用されうる、式(I)の化合物またはその製剤(例えば、医薬組成物または医薬製剤)を含む、医学の分野における任意の物質である。医薬は、好ましくは、非化学的方法で製造され、例えば、有効成分を少なくとも1つの固体、流体および/または半流体の担体または賦形剤と一緒にすることによって、および所望により、単一または複数の他の活性物質と組合せることによって適切な剤形で製造される。
【0041】
本発明の意味においては、「アジュバント」は、同時、同時期または連続的に投与された場合に、本発明の有効成分に対する特異的応答を可能にする、増強する、または修飾するあらゆる物質を意味する。注射溶液用の公知のアジュバントとしては、例えば、アルミニウム組成物、例えば水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム、サポニン、例えばQS21、ムラミルジペプチドまたはムラミルトリペプチド、タンパク質、例えばガンマ-インターフェロンまたはTNF、M59、スクアレンまたはポリオールが挙げられる。
【0042】
特に、本発明は、本発明による医薬または医薬組成物を、それを要するヒト患者に投与するための投与レジメンを提供する。投与レジメンは、タウオパチー、例えばPSP、アルツハイマー病または認知症を含む神経疾患または神経変性疾患の治療に特に適している。
【0043】
治療メカニズムとしてのO-GlcNAcase阻害に関しては、24時間にわたる高度の酵素または標的の占有および/または阻害が好ましい。この点において、トラフにおける十分なO-GlcNAcaseインヒビター濃度の維持は、治療中の酵素活性の回復を最小にすることを保証するための重要な決定要因である。
【0044】
したがって、好ましくは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の治療的有効量は、トラフにおいて少なくとも約35%、好ましくは、トラフにおいて少なくとも約40%または50%、より好ましくは、トラフにおいて少なくとも約60%または70%、最も好ましくは、トラフにおいて少なくとも約80%、90%または95%の標的占有率を保証する。
【0045】
1つの実施形態においては、トラフにおける標的占有率の範囲は約40%~約95%である。もう1つの実施形態においては、トラフにおける標的占有率は約60%~約95%である。もう1つの実施形態においては、トラフにおける標的占有率は少なくとも約70%~約95%である。もう1つの実施形態においては、トラフにおける標的占有率は少なくとも約80%~約95%である。
【0046】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の治療的有効量は、好ましくは、式(I)の化合物を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる平均標的占有率が少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%または85%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%であることを保証する。
【0047】
1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる平均標的占有率の範囲は約80%~約95%である。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる平均標的占有率の範囲は約85%~約98%である。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる平均標的占有率の範囲は約88%~約99%である。
【0048】
好ましくは、治療的有効量は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中に、トラフにおいて脳内の少なくとも約70%の標的占有率、および24時間にわたる少なくとも約80%の平均標的占有率を保証する。
【0049】
好ましくは、治療的有効量は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中に、トラフにおいて脳内の少なくとも約80%の標的占有率、および24時間にわたる少なくとも約90%の平均標的占有率を保証する。
【0050】
好ましい実施形態においては、標的占有は、神経障害または神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中、好ましくは神経障害または神経変性疾患、例えばPSPを含む疾患の徴候および症状の進行の低減または改善をもたらす臨床効果をもたらす。1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは、神経障害または神経変性疾患、例えばPSP、特に脳タウ負荷、全脳および局所中脳萎縮、日常活動を行う能力の低下、認知障害の徴候および症状の進行を低減または改善する。更に、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンはバイオマーカーの結果、全体的な臨床状態および生活の質を改善する。
【0051】
1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは神経炎症を軽減する。1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは神経保護的である。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは神経変性を治療する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは脳の萎縮または変性を軽減する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは黒質、淡蒼球、視床下核および/または小脳の萎縮または分解を軽減する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンはミトコンドリア機能を改善する。これは行動の改善、生存(すなわち寿命)の改善および脳変性の減少をもたらす。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは異常タウタンパク質またはタウタンパク質の断片の凝集を減少させる。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは脳内の神経保護タンパク質の減少を改善する。更にもう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは脳由来神経栄養因子およびBcl2の減少を低減する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは、例えば[18F]-フルオロ-デオキシグルコースPETによって評価されるとおり、脳グルコース代謝の低下を改善する。
【0052】
更に、好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む投与レジメンは、ベースライン値と比較して、以下の疾患パラメータ、バイオマーカーおよびスコアのうちの1以上の改善をもたらす:
- PSP評価尺度(PSPRS)(28項目の尺度)
- 修正PSPRS(10項目の小尺度)
- 皮質基底神経節機能尺度(CBFS)
- PSP機能障害尺度(PSPFDS)
- シュワブおよびイングランドの日常生活活動尺度(SEADL)
- 変化の臨床上の全体的印象(CGI-C)
- 進行性核上性麻痺の生活の質の尺度(PSP-QoL)
- モントリオール認知評価(MoCA)
- 次元アパシー尺度(Dimensional Apathy Scale)(DAS)
- カラー・トレイル(Color Trails)試験パート1および2(CTT-1およびCTT-2)
- 文字流暢さ試験
- 神経変性および神経炎症CSFバイオマーカー、例えば神経変性パネル:総タウ、p-タウ、NfLおよび神経炎症パネル
- 脳体積測定(volumetric brain)MRIによって測定された全脳体積
- 脳体積測定MRIによって測定された局所(中脳、前頭葉、第三脳室)体積
- 血漿およびCSF(NfL、総タウ、p-タウ)濃度。
【0053】
前記で確定された脳内の必要な標的占有を満たすためには、血漿中の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の特定の濃度がヒト患者において達成される必要がある。脳酵素、受容体または標的占有を、陽電子放射断層撮影法(PET)トレーサーとして使用される選択的放射能標識O-GlcNAcaseインヒビターの、式(I)の化合物による競合置換によって定量した。[18F]-放射能標識選択的O-GlcNAcaseインヒビターとして[18F]-LSN3316612を選択した。なぜなら、それはヒト研究用のPETトレーサーとして及び前臨床研究において脳内のO-GlcNAcase酵素の定量のための適切な選択性および薬物動態を示すことが示されているからである(Paul S.ら J.Nucl.Med.2019,60(1),129-134)。他の適切なPETトレーサーも同様の結果をもたらす。必要な標的占有率と薬物の血漿濃度との相関性は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体によるPETトレーサーの競合置換中の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度を測定することによって確立される。
【0054】
したがって、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度が以下に示されているとおりである場合、脳内の好ましい標的占有率が達成されうることが判明した。血漿濃度は、特に示されていない限り、定常状態で測定され、示されている。
【0055】
本明細書の全体を通じて、本発明の全ての実施形態は、明示的に除外されていない限り、本明細書に開示されている本発明の任意の他の実施形態と組合されうる。一般に、そのような組合せ実施形態は、それらが含有する個々の実施形態がより好ましい場合に、より好ましい。
【0056】
好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約35ng/mL、好ましくは少なくとも約45ng/mLまたは55ng/mLまたは65ng/mLまたは80ng/mL、より好ましくは、トラフにおいて少なくとも約100ng/mLまたは少なくとも約125ng/mLまたは155ng/mLまたは195ng/mL、最も好ましくは、トラフにおいて少なくとも約270ng/mL、335ng/mL、610ng/mL、755ng/mL、1290ng/mLまたは1600n/mLである。
【0057】
非常に好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約45ng/mL、または好ましくは、トラフにおいて少なくとも約55ng/mLまたは80ng/mL、より好ましくは、トラフにおいて少なくとも約125ng/mLまたは195ng/mL、最も好ましくは、トラフにおいて少なくとも約335ng/mL、755ng/mLまたは1600ng/mLでありうる。
【0058】
もう1つの好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のトラフにおける血漿濃度の範囲は約45ng/mL~約2000ng/mL、好ましくは約55ng/mL~約1600ng/mLである。もう1つの実施形態においては、トラフにおける血漿濃度の範囲は約100ng/mL~約2000ng/mL、好ましくは約125ng/mL~約1600ng/mLである。もう1つの実施形態においては、トラフにおける血漿濃度の範囲は約155ng/mL~約2000ng/mL、好ましくは約125ng/mL~約1600ng/mLである。もう1つの実施形態においては、トラフにおける血漿濃度の範囲は約270ng/mL~約2000ng/mL、好ましくは約335ng/mL~約1600ng/mLである。
【0059】
定常状態における式(I)の化合物を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は、好ましくは少なくとも約155ng/mL、少なくとも約195ng/mL、または好ましくは少なくとも約270ng/mL、335ng/mL、380ng/mLまたは475ng/mL、より好ましくは少なくとも約610ng/mLまたは750ng/mL、最も好ましくは少なくとも約1290ng/mLまたは1600ng/mLである。
【0060】
非常に好ましい実施形態においては、式(I)の化合物を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は少なくとも約195ng/mL、好ましくは少なくとも約335ng/mLまたは475ng/mL、より好ましくは少なくとも約750ng/mL、最も好ましくは少なくとも約1600ng/mLである。
【0061】
1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度の範囲は約270ng/mL~約2000ng/mL、好ましくは約335ng/mL~約1600ng/mLである。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度の範囲は約380ng/mL~約5000ng/mL、好ましくは約475ng/mL~約4120ng/mLである。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤での治療中の24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度の範囲は約490ng/mL~約10000ng/mL、好ましくは約615ng/mL~約8330ng/mLである。
【0062】
1つの実施形態においては、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約155ng/mLまたは195ng/mLであり、一方、24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は少なくとも約270ng/mLまたは335ng/mLである。
【0063】
非常に好ましい実施形態においては、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約195ng/mLであり、一方、24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は少なくとも約335ng/mLである。
【0064】
もう1つの実施形態においては、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約270ng/mLまたは335ng/mLであり、一方、24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は少なくとも約610ng/mLまたは755ng/mLである。
【0065】
非常に好ましい実施形態においては、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度はトラフにおいて少なくとも約335ng/mLであり、一方、24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度は少なくとも約755ng/mLである。
【0066】
本発明は、式(I)および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を、それを要する個体、例えば、神経障害または神経変性疾患、例えば軽度ないし中等度のADまたはPSPを有する個体に投与して、一定期間にわたって血漿中の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の所望の濃度の所望の薬物動態プロファイルを得るための投与レジメンを提供する。式(I)の化合物および/またはその互変異性体の好ましい血漿濃度を維持することによって、好ましい標的占有率が達成される。
【0067】
好ましい薬物動態プロファイルおよび/またはエンドポイントは、好ましくは、例えば約100mg、約120mg、約150mg、約180mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約375mg、約400mg、約450mg、約500mgまたは約750mgの式(I)の化合物および/またはその互変異性体(これはその薬学的に使用可能な溶媒和物または塩の形態としても投与されうる)を含む1以上の単位剤形の投与によって達成されうる。
【0068】
好ましい薬物動態プロファイルおよび/またはエンドポイントは、より詳細には、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の特定の1日用量、好ましくは1日経口用量の投与によって達成可能であり、好ましくは、1日当たり約240mg~約1500mg、より好ましくは1日当たり約300mg~約1200mg、最も好ましくは1日当たり約360mg~約1000mgの範囲の用量の投与によって達成可能である。もう1つの好ましい実施形態においては、1日用量は1日当たり約300mgまたは約450mgまたは約500mgまたは約600mgまたは約900mgまたは約1000mgである。
【0069】
好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量のそれぞれの部分をBIDまたはTID投与することを含むBIDまたはTID投与レジメンによって達成される。これは、好ましくは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1つまたは2つの単位剤形、例えば錠剤またはカプセル剤を投与ごとに投与することによって達成される。
【0070】
BIDまたはTID投与レジメンが適用される好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の即時放出製剤が好ましい。式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日1回の投与(QD)が適用されるもう1つの実施形態においては、修飾、制御または遅延もしくは持続放出製剤が好ましく、より好ましくは、一定の様態(すなわち、用量の大部分が一度に放出される大きな「バースト」効果を伴わない様態)で用量を放出する製剤である。
【0071】
本発明による即時放出製剤および即時放出単位剤形は、錠剤またはカプセル剤のようなそれぞれの剤形のコーティングのような外殻が溶解した直後に式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩が放出されるように設計される。これは、好ましくは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の迅速な吸収および体内への急速な全身移行、すなわち、その血中濃度の迅速な増加をもたらす。本発明による即時放出製剤および即時放出単位剤形はサシェ(小袋)またはサシェ製剤をも含む。
【0072】
好ましくは、本発明による即時放出剤形は、USPパドル試験において、好ましくは、溶解媒体としての0.01M 塩酸中の0.1% 臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)中、75rpmのパドル速度で、45分の時点で式(I)の化合物および/もしくはその互変異性体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも95%を放出し、ならびに/または15分の時点で式(I)の化合物および/もしくはその互変異性体の少なくとも90%を放出した。最も好ましくは、本発明による即時放出剤形は、実施例4に記載されているUSPパドル試験において、45分の時点で式(I)の化合物および/またはその互変異性体の少なくとも75%を放出した。
【0073】
非常に好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または製剤の投与レジメンは以下のとおりのそれぞれの用量および投与頻度を含む:式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量約150mg、1日3回(TID)または用量約250mg、1日2回(BID)、あるいは、好ましくは、用量約300mg、1日3回、または式(I)の化合物の用量500mg、1日2回。
【0074】
個々の患者が、本明細書に開示されている好ましい用量および投与レジメンに耐えられない場合でも、低い用量および低い投与レジメンでそれぞれの適応症に対する臨床的に有益な効果が尚も見られうる。この低い用量および低い投与レジメンは、より好ましくは、実施形態A~Fにおいてより具体的に開示される。
【0075】
A.ヒト対象の治療方法における使用のための化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を或る用量および1日投与頻度(daily dosing frequency)で反復投与することを含み、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約75mg~約250mgの範囲である、化合物および/またはその互変異性体。
【0076】
B.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約125mg~約250mgの範囲である、実施形態A記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0077】
C.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の反復投与用量が一定のままである、実施形態AまたはB記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0078】
D.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日投与頻度が1日2回または1日3回である、実施形態A~Cのいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0079】
E.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量が、経口投与される場合、1日当たり約225mg~250mgの範囲である、前記実施形態A~Dのいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0080】
F.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の約75mgの経口用量を1日3回または約125mgの経口用量を1日2回投与することを含む、前記実施形態A~Eのいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0081】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約1650~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約1940~約6750ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約2050ng/mL~約2160ng/mL、または約2200ng/mL~約2950ng/mL、または約3030ng/mL~約3150ng/mL、または約4250ng/mL~約4350ng/mL、または約4400ng/mL~約6000ng/mL、または約6130ng/mL~約6250ng/mLである。
【0082】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約1650~約3520ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約1940~約3340ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、Cmaxは約2050ng/mL~約2160ng/mL、または約2200ng/mL~約2950ng/mL、または約3030ng/mL~約3150ng/mLである。
【0083】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約1650~約2930ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約1940~約2380ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約2050ng/mLまたは約2100ng/mLまたは約2160ng/mLまたは約2200ng/mLまたは約2250ng/mLである。
【0084】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約2500~約3520ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約2700~約3340ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約2950ng/mLまたは約3000ng/mLまたは約3030ng/mLまたは約3100ng/mLまたは約3150ng/mLである。
【0085】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約3580~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約3910~約6750ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約4250ng/mL~約4350ng/mL、または約4400ng/mL~約6000ng/mL、または約6130ng/mL~約6250ng/mLである。
【0086】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約3580~約5600ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約3910~約4790ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約4250ng/mLまたは約4300ng/mLまたは約4350ng/mLまたは約4400ng/mLまたは約4450ng/mLである。
【0087】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約5150~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxは、好ましくは約5510~約6750ng/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体のCmaxは約6000ng/mLまたは約6100ng/mLまたは約6130ng/mLまたは約6200ng/mLまたは約6250ng/mLである。
【0088】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約13850~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約18550~約63220ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約20000ngh/mL~約23200ngh/mL、または約25750ngh/mL~約29000ngh/mL、または約43000ngh/mL~約46780ngh/mL、または約52680ngh/mL~約55000ngh/mLである。
【0089】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約13850~約40365ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約18550~約30900ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約20000ngh/mL~約23200ngh/mL、または約25750ngh/mL~約29000ngh/mLである。
【0090】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約13850~約39800ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約18550~約27850ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約20000ngh/mLまたは約21000ngh/mLまたは約23200ngh/mLまたは約25000ngh/mLまたは約26000ngh/mLである。
【0091】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約15990~約40365ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約20600~約30900ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約22000ngh/mLまたは約23000ngh/mLまたは約25750ngh/mLまたは約25750ngh/mLまたは約28000ngh/mLまたは約29000ngh/mLである。
【0092】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約30150~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約37420~約63220ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約43000ngh/mL~約46780ngh/mL、または約52680ngh/mL~約55000ngh/mLである。
【0093】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約30150~約74230ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約37420~約56130ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約43000ngh/mLまたは約44000ngh/mLまたは約46780ngh/mLまたは約49000ngh/mLまたは約50000ngh/mLである。
【0094】
1つの実施形態においては、本発明は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬を提供し、また、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む医薬または医薬組成物を個体に投与する方法を提供し、ここで、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約30750~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCをもたらすのに十分な量で供与する。もう1つの実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCは、好ましくは約42140~約63220ngh/mLである。もう1つのより好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたるAUCは約49000ngh/mLまたは約50000ngh/mLまたは約52680ngh/mLまたは約54000ngh/mLまたは約55000ngh/mLである。
【0095】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxに達する時間は、治療される個体に左右されるが、好ましくは0.5~6時間である。種々の好ましい実施形態においては、tmax(Cmaxまでの時間)は約0.75~2時間、または約1.00時間~約1.75時間、または約1.5時間である。好ましくは、tmaxは投与後1~1.5時間の範囲である。
【0096】
更に、本発明は、約1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、好ましくは1年以上にわたり、これらのレベルを達成するために、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を反復投与することを含む。
【0097】
本明細書全体にわたって示されている全ての投与量は、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の、それぞれの遊離塩基の形態での量を指している。したがって、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の酸付加塩の任意の用量または投与量は、それぞれの酸の追加的な分子量を考慮して、それに応じて適合化されるべきである。式(I)の化合物および/またはその互変異性体の溶媒和物にも同じことが同様に当てはまる。
【0098】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体は1以上のそれぞれの薬学的に使用可能な溶媒和物または塩の形態で投与されうるが、血漿濃度は、本明細書全体にわたって、それぞれの塩基形態、すなわち、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の遊離化合物として示されていると理解される。
【0099】
好ましい実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体はそれぞれの塩酸塩の形態で投与される。
【0100】
好ましい投与間隔は規則的であり、または規則的なパターンに従う。より好ましくは、本発明の医薬は1日2回または3回投与される。最も好ましくは、投与間隔は1日2回の投与の場合は約4~約10時間ないし約12時間であり、日中の1日3回の投与の場合は約4~約6時間であり、その後夜間に例えば8~16時間の非投与期間が続く。
【0101】
低投与レジメンは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を、約450mgまたは約500mgの1日用量で個体に提供する。低投与レジメンは、例えば、約900mgまたは約1000mgの1日用量のようなより高い用量の投与レジメンの前または後に使用されうる。
【0102】
式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量の好ましくは1日2回または3回で少なくとも約4ヶ月間、好ましくは少なくとも約6ヶ月間または少なくとも約8ヶ月間、より好ましくは少なくとも約1年間、または少なくとも約2年間の経口投与は認知機能の低下、生化学的疾患マーカーの進行および/またはプラーク病理の改善または軽減をもたらす。
【0103】
1つの態様においては、好ましい剤形は単位剤形、例えば錠剤である。もう1つの態様においては、好ましい剤形はカプセル剤である。もう1つの態様においては、好ましい剤形は散剤であり、好ましくはサシェに含有されているものである。他の態様においては、医薬または組成物は、生化学的疾患マーカーの進行、プラーク病理、生活の質の指標または任意の疾患パラメータの組合せの低下の改善または軽減をもたらす。
【0104】
認知機能の低下は、好ましくは、認知試験によって特徴付けられうる。認知機能の低下の軽減は、プラセボで処置された個体と比較して少なくとも25%、より好ましくは少なくとも40%、より一層好ましくは少なくとも60%であることが好ましい。例えば、おそらく軽度ないし中等度のアルツハイマー病を有し、プラセボで処置された個体は、特定の期間(例えば、1年)の後、ADAS-cog試験で約5.5ポイント高いスコアを示すと予想されるが、同じ期間にわたって本発明の組成物で処置された個体はADAS-cog尺度でわずか約3.3ポイント高いスコアを示す(すなわち、未処置個体と比較して60%の認知機能の低下を示す)、または同じ特定の期間にわたって処置された場合に2.2ポイント高いスコアを示す(すなわち、未処置個体と比較して40%の認知機能の低下を示す)に過ぎないであろう。
【0105】
本発明のこの態様の特定の実施形態においては、式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容されるその塩、所望により使用されてもよい放出用物質(release agent)および所望により使用されてもよい追加的な成分から構成される医薬または医薬組成物として、投与量を供与する。
【0106】
本発明のこの態様のもう1つの特定の実施形態においては、単位剤形、好ましくは錠剤またはカプセル剤である医薬または医薬組成物として、投与量を供与する。単位剤形は、好ましくは、式(I)の化合物および/またはその互変異性体、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムから構成される。本発明のこの態様のもう1つの特定の実施形態においては、式(I)の化合物、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウム(全てはラクトース一水和物、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、トラセチン/グリセロールトリアセタートおよび酸化鉄中にカプセル化される)から構成されるカプセル剤である医薬組成物として、投与量を供与する。
【0107】
医薬製剤は、任意の所望の適切な方法、例えば経口(頬側または舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所(頬側、舌下または経皮を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内または皮内を含む)方法による投与に適合化されうる。そのような製剤は、薬学分野で公知の方法を使用して、例えば、有効成分を賦形剤または補助剤と混合することによって製造されうる。
【0108】
本発明の医薬組成物は、一般的な固体または液体の担体、希釈剤および/または添加剤ならびに薬品製造工学用の通常の補助剤(アジュバント)を使用して、適切な投与量で、公知方法で製造される。単一剤形を製造するために有効成分と一緒にされる賦形剤の量は、治療される宿主および特定の投与方式に応じて変動する。適切な賦形剤には、経腸(例えば、経口)、非経口または局所適用のような種々の投与経路に適している、式(I)の化合物またはその塩と反応しない有機または無機物質が含まれる。適切な賦形剤の例としては、水、植物油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセタート、ゼラチン、炭水化物、例えばラクトースまたはデンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびワセリンが挙げられる。
【0109】
本発明の非常に好ましい実施形態においては、医薬組成物は経口投与に適合化される。製剤は滅菌可能であり、ならびに/または補助剤、例えば担体タンパク質(例えば、血清アルブミン)、滑沢剤、保存剤、安定剤、充填剤、キレート剤、抗酸化剤、溶媒、結合剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、塩(浸透圧に影響を及ぼすためのもの)、バッファー物質、着色剤、香味剤および1以上の他の活性物質、例えば1以上のビタミンを含みうる。添加剤は当技術分野でよく知られており、種々の製剤において使用される。
【0110】
経口投与に適合化された医薬製剤は、別個の単位、例えばカプセル剤または錠剤;散剤または顆粒剤;水性または非水性液体中の溶液または懸濁液;可食性泡状物または泡状食品;あるいは水中油型液体エマルジョンまたは油中水型液体エマルジョンとして投与されうる。
【0111】
言うまでもなく、前記で特に言及した成分に加えて、製剤は、特定のタイプの製剤に関して当技術分野で通常使用される他の物質をも含みうる。したがって、例えば、経口投与に適した製剤は香味剤を含みうる。
【0112】
本発明によるカプセル剤または錠剤コア製剤の好ましい例は、好ましくは例えば塩酸塩のような塩の形態の式(I)の化合物および/またはその互変異性体、充填剤、結合剤、崩壊剤、流動促進剤、乾燥結合剤、滑沢剤および所望により溶媒を含む。
【0113】
カプセル剤または錠剤コア製剤の非常に好ましい例は、好ましくは例えば塩酸塩のような塩の形態の式(I)の化合物および/またはその互変異性体、微結晶セルロース、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、シリカ、コポビドンおよびナトリウムステアリルフマラートおよび所望により溶媒、例えば水を含む。
【0114】
更に、本発明による医薬組成物および医薬は、単独で、または他の治療と組合せて投与されうる。医薬組成物または医薬中に複数の活性医薬成分を使用することによって、相乗効果が達成されうる。すなわち、この場合、式(I)の化合物および/またはその互変異性体は有効成分としての少なくとももう1つの物質と組合される。有効成分は同時または連続的に使用可能であり、式(I)の化合物ともう1つの薬学的に活性な成分または物質との両方を含む単一の単位剤形へと製剤化されうる。本化合物は当業者に公知の物質(例えば、WO 2008/025170)との組合せに適しており、本発明による医薬組成物および医薬で有用である。
【0115】
幾つかの実施形態においては、本発明による医薬組成物および医薬ならびに本発明による投与レジメンは、例えば神経変性疾患、炎症性疾患、心血管疾患、免疫調節疾患または本明細書に記載されている任意の状態を治療するために、併用療法がO-GlcNAcase活性をモジュレーションするのに有用でありうる任意の他の活性物質または医薬組成物と併用して(組合せて)提供されうる。幾つかの実施形態においては、本発明による医薬組成物および医薬ならびに本発明による投与レジメンは、タウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病の予防または治療に有用な1以上の物質と組合せて提供されうる。そのような物質の例には、限定的なものではないが以下のものが含まれうる。
【0116】
- アセチルコリンエステラーゼインヒビター(AChEI)、例えばアリセプト(Aricept)(登録商標)(ドネペジル)、エクセロン(Exelon)(登録商標)(リバスチグミン)、ラザダイン(Razadyne)(登録商標)[ラザダインER(登録商標)、レミニル(Reminyl)(登録商標)、ニバリン(Nivalin)(登録商標)、ガランタミン(Galantamine))、コグネックス(Cognex)(登録商標)(タクリン)、NMDAアンタゴニスト、例えばメマンチン[アクシュラ(Axura)(登録商標)、エビキサ(Ebixa)(登録商標)]、ヒューペルジン(Huperzine)A、フェンセリン(Phenserine)、デビオ(Debio)-9902 SR(ZT-1 SR)、ザナペジル(Zanapezil)(TAK0147)、ガンスチグミン(ganstigmine)、NP7557、α7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT6受容体アンタゴニスト、M1ムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニストおよびポジティブアロステリックモジュレーター、ならびにコリン作動性シグナル伝達を回復/増強し、または認知促進効果を示す他の物質。
【0117】
- タウ凝集インヒビター、例えばメチレンブルー、モルフォマーなど。
【0118】
- タウに直接結合することによるタウの隔離によって細胞内および細胞外のタウ播種および経細胞伝播を阻止する物質、例えばタウ抗体および他のタンパク質/ペプチド由来タウ結合物質。
【0119】
- タウ結合/隔離抗体の力価を誘導するワクチン。
【0120】
- 微小管安定化物質、例えばAL-108、AL-208、パクリタキセルなど。
【0121】
- 神経保護物質またはそのようなものとして主張されているもの(例えば、AZP2006)。
【0122】
- 抗炎症物質、例えば非ステロイド性抗炎症薬、TNFα/抗リウマチ薬、例えばエンブレル、ヒュミラなど。
【0123】
- タウの発現を低減もしくは修飾する、および/またはAβの生成をダウンレギュレーションするsiRNA、shRNA、遺伝子治療またはCRISPER由来の治療用物質。
【0124】
- アミロイドβ(Aβ)ペプチド低下物質、例えばβ-セクレターゼ(BACE-1)またはγ-セクレターゼインヒビターまたはモジュレーター。
【0125】
- 老人斑を除去するAβモノマーまたはオリゴマー結合性生物製剤、例えばAβ抗体、およびそのような抗体の力価を誘導するAβワクチン。
【0126】
- キナーゼを阻害することによってタウリン酸化を阻害する化合物、例えばGSK3インヒビター[チデグルシブ(Tideglusib)]。
【0127】
- TREM2およびCD33結合/調節薬/抗体/ワクチン。
【0128】
- コレステロール低下薬、例えばゾコール(Zocor)/リピトール(Lipitor)、ApoE4標的薬。
【0129】
- 降圧薬、例えば利尿薬、アンジオテンシン-1受容体ブロッカー、アンジオテンシン変換酵素インヒビター、カルシウムチャネルブロッカーまたはβブロッカー。
【0130】
- 気分安定薬、例えば抗うつ薬(例えば、フルオキセチン、デュロキセチン、ブプロピオン、アミトリプチリン、イミプラミン)。
【0131】
- 不眠症治療薬、例えばゾルピデム。
【0132】
- 栄養補助食品、例えばコエンザイムQ10。
【0133】
- ドーパミン作動薬、例えばカルビオドーパ/レボドーパ、モノアミノオキシダーゼインヒビター(ラザギリン)、COMPTインヒビター、遺伝子治療など。
【0134】
- レビー小体/α-シヌクレイン結合生物学的製剤、例えばα-シヌクレイン抗体、およびそのような抗体の力価を誘導するα-シヌクレインワクチン。
【0135】
- TDP43またはFUS結合生物製剤、例えばTDP43またはFUS抗体、およびそのような抗体の力価を誘導するTDP43またはFUSワクチン。
【0136】
- プログラニュリン調節物質。
【0137】
- 認知力を改善するための、シナプス可塑性および/またはニューロンネットワークを増強する細胞ベースの療法。
【0138】
- 脳深部刺激(DBS)は、記憶および認知に関与するニューロン経路を刺激するために、脳円蓋および/またはマイネルト基底核のような脳の主要領域(それらに限定されるものではない)に電極を埋め込むことからなる(Mirzadeh Z.ら(2016)J.Neural Transm(Vienna)123:775-783;Ponce FAら(2016)J Neurosurg 125:75-84;Sankar Tら(2015)Brain Stimulat 8:645-654;Lozano AMら(2016)J Alzheimers Dis 54:777-787;Kuhn Jら(2015)Brain Stimulat 8:838-839)。
【0139】
前記に列挙した慢性的に適用される薬物療法に加えて、細胞ベースの療法、遺伝子治療、脳深部刺激および脳回路の標的損傷を含む、より侵襲的な脳治療における、短期または長期のO-GlcNAcase阻害も有利でありうる。例えば、パーキンソン病のような疾患におけるiPSC細胞の細胞移植は培養細胞において細胞ストレスを生成する可能性があり、これはO-GlcNAcaseインヒビターでの処置によって軽減されて、該処理時および該処理後の機能および生存を改善しうる。Martinezら(2017)によって概説されているとおり、O-GlcNAcは、転写、ストレス顆粒形成、熱ショックタンパク質合成、代謝フラックスの変化、小胞体(ER)ストレスの減少およびミトコンドリア機能の改善(これらは全て、移植細胞の即時的および長期的な機能および生存の決定において役割を果たしている可能性がある)を含む多数の経路を経由して細胞生存決定をもたらすことに関連づけられている。また、手術部位における細胞ストレスの低減および後続の神経炎症反応の低減も有益でありうる。
【0140】
幾つかの実施形態においては、本発明による医薬組成物および医薬ならびに本発明による投与レジメンは、タウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病の予防または治療に有用な1以上の物質と組合せて供与されうる。そのような物質の例には、限定的なものではないが、認知を改善するために罹患脳領域に移植される神経細胞の生成からなる細胞置換療法が含まれる。神経細胞は直接的に体細胞から生成可能であり(Vierbuchen T.ら(2010)Nature 463:1035-1041;Zhang SZ.ら(2016)Stem Cells Int.2016:2452985;Addis RC.ら(2011)PLoS ONE 6:e28719;Zhao J.ら(2012)PLoS ONE 7:e41506;Lim MS.ら(2015)J.Biol.Chem.290:17401-17414)および/または神経特異的転写因子の任意の組合せを使用して誘導多能性幹細胞(iPSC)から生成可能である(Kim J.ら(2011)Proc Natl Acad Sci USA 108:7838-7843;Matsui T.ら(2012)Stem Cells 30:1109-1119;Sheng C.ら(2012)Cell Res 22:208-218;Lujan E.ら(2012)Proc Natl Acad Sci USA 109:2527-2532;Lim MSら(2015)J Biol Chem 290:17401-17414;Han DWら(2012)Cell Stem Cell 10:465-472)。
【0141】
本発明はまた、式(I)の化合物ならびに/またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物の有効量と、薬学的有効成分を含むもう1つの医薬の有効量との個別のパックからなるセット(キット)に関する。セットは、適切な容器、例えば箱、個々のボトル、袋またはアンプルを含む。セットは、例えば、式(I)の化合物ならびに/またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物の有効量をそれぞれが含有する個別の単位剤形と、更なる単位剤形、例えば錠剤または溶解状態もしくは凍結乾燥形態のものの中に薬学的有効成分を含むもう1つの医薬の有効量とを含みうる。
【0142】
本発明による医薬組成物および医薬は、疾患の発生の前または後に1回または数回、治療として作用させるために投与されうる。前記の医薬組成物および医薬は特に治療的処置に使用される。治療上関連する効果は障害の1以上の症状を或る程度軽減し、あるいは疾患もしくは病態に関連する又はその原因となる1以上の生理学的または生化学的パラメータを部分的または完全に正常に戻す。例えば応答を増強し、疾患の症状を完全に消失させるために、医薬組成物および医薬が明確な間隔で投与される限り、モニタリングは一種の治療とみなされる。本発明の意味においては、対象が、前記の生理学的または病理学的状態の何らかの前提条件、例えば家族性素因、遺伝的欠陥または既往疾患を有する場合には、予防的処置が推奨される。
【0143】
本発明の特に好ましい実施形態は以下のとおりである。
【0144】
A.ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度をトラフにおいて少なくとも約35ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0145】
B.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度がトラフにおいて約45ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、実施形態A記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0146】
C.ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、定常状態における24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度を少なくとも約155ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0147】
D.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度が24時間にわたって約270ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、実施形態C記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0148】
E.ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、約1650~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0149】
F.ヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む1以上の単位剤形を、約13850~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度で反復投与することを含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0150】
G.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約150mg~約500mgの範囲である、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0151】
H.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxが約3580~約7390ng/mLである、実施形態E記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0152】
I.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCが約30150~約90500ngh/mLである、実施形態F記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0153】
J.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の用量が経口投与され、約300mg~約500mgの範囲である、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0154】
K.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の反復投与用量が一定のままである、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0155】
L.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日投与頻度が1日2回または1日3回である、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0156】
M.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量が、経口投与される場合、1日当たり約240mg~約1500mgである、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0157】
N.約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量の投与を含む、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0158】
O.ヒト対象が疾患もしくは病態に罹患しており、または疾患もしくは病態を発生する増加したリスクを有する、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0159】
P.疾患または病態が1以上のプロテイノパチーから選択される、実施形態O記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0160】
Q.疾患または病態が神経障害または神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される、実施形態OまたはP記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0161】
R.神経障害もしくは神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される疾患もしくは病態に罹患している、またはそれらを発生する増加したリスクを有するヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量の投与を含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0162】
S.疾患または病態が、1以上のタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、嗜銀顆粒症、行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia)(bvFTD)、非流暢性および意味性変異型原発性進行性失語症(non-fluent and semantic variant primary progressive aphasia)(nfvおよびsvPPA)、ブルーイット病(Bluit disease)、皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー痴呆、レビー小体型認知症(DLB)、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化(diffuse neurofibrillary tangles with calcification)、ダウン症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17)(FTDP-17)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、神経膠腫、神経節細胞腫、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、球状グリアタウオパチー(globular glial tauopathy)、グアドループパーキンソニズム、ハレルフォルデン-スパッツ病(脳鉄蓄積を伴う神経変性1型)、鉛脳症、リポフスチン沈着症、髄膜血管腫症、多系統萎縮症(MSA)、筋強直性ジストロフィー、C型ニーマン-ピック病を含むニーマン-ピック病、淡蒼球橋黒質変性症(Pallido-ponto-nigral degeneration)、パーキンソン病、パーキンソン病認知症(PDD)、グアムのパーキンソニズム-痴呆症候群、ピック病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、プリオン病[クロイツフェルト-ヤコブ病(GJD)および変異型クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)を含む]、致死的家族性不眠症、クールー病、進行性皮質上神経膠症(progressive supercortical gliosis)、進行性核上性麻痺(PSP)、純粋自律神経不全症、リチャードソン症候群、亜急性硬化性全脳炎、タングルオンリー(Tangle-only)認知症、結節性硬化症、ハンチントン病または軽度認知障害(MCI)、慢性外傷性脳症、原発性進行性失語症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症、スティール-リチャードソン-オルシェフスキー症候群、てんかん、慢性および急性炎症、クローン病、神経炎症、くも膜下出血(SAH)、多発性硬化症(MS)、フリードライヒ運動失調ならびに副腎白質ジストロフィーの群から選択される、実施形態O、P、QまたはR記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0163】
T.化合物および/またはその互変異性体がその薬学的に使用可能な溶媒和物および/または塩の形態で投与される、前記実施形態のいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0164】
U.約100mg、約120mg、約150mg、約180mg、約200mg、約250mg、約300mg、約375mg、約400mg、約450mg、約500mgまたは約750mgから選択される量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体と、所望により、1以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む単位剤形。
【0165】
V.約150mg、約250mg、約300mgまたは約500mgの量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む、実施形態U記載の単位剤形。
【0166】
W.単位剤形が経口投与されるように適合化されている、実施形態UまたはV記載の単位剤形。
【0167】
X.単位剤形が錠剤、カプセル剤またはサシェの形態である、実施形態U、VまたはWのいずれか1項記載の単位剤形。
【0168】
Y.化合物および/またはその互変異性体がその薬学的に使用可能な溶媒和物および/または塩の形態である、実施形態U、V、WまたはXのいずれか1項記載の単位剤形。
【0169】
Z.実施形態U~Yのいずれか1項記載の単位剤形の投与を含む、実施形態A~Tのいずれか1項記載の使用のための化合物および/またはその互変異性体。
【0170】
Za.疾患もしくは病態に罹患している、またはそれを発生する増加したリスクを有するヒト対象の治療方法における使用のための式(I)の化合物および/またはその互変異性体であって、該方法が、約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量の投与を含む、前記の式(I)の化合物および/またはその互変異性体。
【0171】
本発明の更なる好ましい実施形態は以下のとおりである。
【0172】
1.式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、定常状態における式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度をトラフにおいて少なくとも約35ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度でヒト対象に反復投与することを含む投与レジメン。
【0173】
2.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿濃度がトラフにおいて約45ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、実施形態1記載の投与レジメン。
【0174】
3.式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、定常状態における24時間にわたる式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度を少なくとも約155ng/mLに維持するのに十分な用量および1日投与頻度でヒト対象に反復投与することを含む投与レジメン。
【0175】
4.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の平均血漿濃度が24時間にわたって約270ng/mL~約2000ng/mLの範囲に維持される、実施形態3記載の投与レジメン。
【0176】
5.式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、約1650~約7390ng/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度でヒト対象に反復投与することを含む投与レジメン。
【0177】
6.式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物もしくは塩を含む1以上の単位剤形を、約13850~約90500ngh/mLの式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCを定常状態において維持するのに十分な用量および1日投与頻度でヒト対象に反復投与することを含む投与レジメン。
【0178】
7.前記の1日投与頻度で投与される用量が経口投与され、約150mg~約500mgの範囲である、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0179】
8.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の血漿Cmaxが約3580~約7390ng/mLである、実施形態5記載の投与レジメン。
【0180】
9.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の24時間にわたる血漿AUCが約30150~約90500ngh/mLである、実施形態6記載の投与レジメン。
【0181】
10.前記の1日投与頻度で投与される用量が経口投与され、約300mg~約500mgの範囲である、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0182】
11.反復投与用量が一定のままである、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0183】
12.1日投与頻度が1日2回または1日3回である、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0184】
13.式(I)の化合物および/またはその互変異性体の1日用量が、経口投与される場合、1日当たり約240mg~約1500mgである、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0185】
14.約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量の投与を含む、前記実施形態のいずれか1項記載の投与レジメン。
【0186】
15.実施形態1~14のいずれか1項記載の投与レジメンを含む、神経障害または神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される病態の治療方法。
【0187】
16.約150mg、1日3回、または約250mg、1日2回、または約300mg、1日3回、または約500mg、1日2回の式(I)の化合物および/またはその互変異性体の経口用量をヒト対象に投与することを含む、神経障害もしくは神経変性疾患、糖尿病、癌、心血管疾患および脳卒中から選択される病態の治療方法。
【0188】
17.病態が、1以上のタウオパチー、シヌクレイノパチーおよびアルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知障害を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALSci)、嗜銀顆粒症、行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia)(bvFTD)、非流暢性および意味性変異型原発性進行性失語症(non-fluent and semantic variant primary progressive aphasia)(nfvおよびsvPPA)、ブルーイット病(Bluit disease)、皮質基底核変性症(CBD)、ボクサー痴呆、レビー小体型認知症(DLB)、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化(diffuse neurofibrillary tangles with calcification)、ダウン症候群、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、17番染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17)(FTDP-17)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、神経膠腫、神経節細胞腫、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、球状グリアタウオパチー(globular glial tauopathy)、グアドループパーキンソニズム、ハレルフォルデン-スパッツ病(脳鉄蓄積を伴う神経変性1型)、鉛脳症、リポフスチン沈着症、髄膜血管腫症、多系統萎縮症(MSA)、筋強直性ジストロフィー、ニーマン-ピック病(C型)、淡蒼球橋黒質変性症(Pallido-ponto-nigral degeneration)、パーキンソン病、パーキンソン病認知症(PDD)、グアムのパーキンソニズム-痴呆症候群、ピック病(PiD)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、プリオン病[クロイツフェルト-ヤコブ病(GJD)、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)を含む]、致死的家族性不眠症、クールー病、進行性皮質上神経膠症(progressive supercortical gliosis)、進行性核上性麻痺(PSP)、純粋自律神経不全症、リチャードソン症候群、亜急性硬化性全脳炎、タングルオンリー(Tangle-only)認知症、結節性硬化症、ハンチントン病または軽度認知障害(MCI)、慢性外傷性脳症、原発性進行性失語症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症、スティール-リチャードソン-オルシェフスキー症候群、てんかん、慢性および急性炎症、クローン病、神経炎症、くも膜下出血(SAH)、多発性硬化症(MS)、フリードライヒ運動失調ならびに副腎白質ジストロフィーの群から選択される、実施形態15または16記載の病態の治療方法。
【0189】
18.約100mg、約120mg、約150mg、約180mg、約200mg、約250mg、約300mg、約375mg、約400mg、約450mg、約500mgまたは約750mgから選択される量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体またはその薬学的に使用可能な溶媒和物、塩もしくは互変異性体と、所望により、1以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む単位剤形。
【0190】
19.約150mg、約250mg、約300mgまたは約500mgの量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む、実施形態18記載の単位剤形。
【0191】
20.経口投与されるように適合化されている、実施形態18または実施形態19記載の単位剤形。
【0192】
21.錠剤またはカプセル剤またはサシェである、実施形態18、19または20のいずれか1項記載の単位剤形。
【0193】
22.実施形態1~14のいずれか1項記載の投与レジメンにおける使用のための、実施形態18、19、20または21のいずれか1項記載の単位剤形。
【0194】
本明細書中で引用されている全ての参考文献を参照により本明細書の開示に組み入れることとする。
【0195】
実施例
式(I)の化合物はWO/2016/030443に従い製造される。
【0196】
実施例1:例えば、ヒトO-GlcNAcase酵素阻害アッセイ
2% DMSO中のマキルベイン(Mcllvaine)バッファー(pH6.5)中のインヒビターの適切な濃度の溶液5μl(用量反応曲線計算用)を384ウェルプレート(Greiner,781900)の各ウェルに加える。次いで20nMのHisタグ付きhOGAおよび10μMのFL-GlcNAc[フルオレセインモノ-ベータ-D-(2-デオキシ-2-N-アセチル)グルコピラノシド;Marker Gene Technologies Inc,M1485]を384-ウェルプレートに最終体積20μlで加える。室温で60分間インキュベートした後、10μLの停止バッファー(200mM グリシン,pH10.75)の添加によって反応を停止させた。蛍光レベル(λexc485nm;(λemm520nm)をPHERAstar装置で読み取った。測定された蛍光の量をインヒビターの濃度に対してプロットして、IC50を計算するためのシグモイド用量応答曲線を作成した。バックグラウンドを差し引くことによって全ての個別データを補正し(Thiamet G 3μM=100% 阻害)、一方、0.5% DMSOを対照値(阻害なし)とみなした。
【0197】
実施例2:薬力学モデル
総タンパク質O-GlcNアシル化イムノアッセイ(RL2 mAb、メソスケール電気化学発光(ECL)アッセイ)
試験化合物をC57BL/6Jマウスに経口投与した。化合物投与後の所定時間間隔(典型的には2~48時間、好ましくは4~24時間の範囲)の後、採血および前脳解剖のためにマウスを断頭によって犠死させた。右脳半球を2ml Precellysチューブ内に配置し、ドライアイス中で急速冷凍し、-80℃で保存した。左半球を2ml エッペンドルフチューブ内に配置し、ドライアイス中で急速冷凍し、更に処理するまで-80℃で保存した。血液サンプルを、35 IUのヘパリンを含有するSarstedtチューブ内に収集し、4℃で維持した。3800×g、4℃で10分間の遠心分離の後、各サンプルからの血漿50μLを1.5ml エッペンドルフチューブに移し、-80℃で保存した。イムノアッセイ用の可溶性脳タンパク質の調製のために、プロテアーゼインヒビターカクテルを含有する氷冷サイトバスター(Cytobuster)試薬(71009 - Merck Millipore)バッファー中で半球をホモジナイズした。17000×g、4℃で15分間の遠心分離の後、上清をポリカーボネートチューブ(1ml)に移した。上清を100000×g、4℃で1時間の遠心分離によって清澄化し、BCAキット(23227 - Pierce,Rockford,IL)を製造業者の指示に従い使用してタンパク質濃度を測定した。
【0198】
総タンパク質O-GlcNアシル化イムノアッセイ:
サンプルを無作為化し、120μg/ml(25μl/ウェル)の可溶性脳タンパク質をマルチアレイ96ウェルハイバインドプレート(L15XB-3ハイバインド-Meso Scale Discovery)上に4℃で一晩直接コーティングした。洗浄(PBS-Tバッファーで3回)後、プレートを、攪拌下、MSDブロッカーA溶液で室温(RT)で1時間ブロックした。洗浄(PBS-Tバッファーで3回)後、O-GlcNAc部分に対するマウスモノクローナル抗体(RL2;MA1-072 - Thermo Scientific)0.1μg/mlと共にプレートを攪拌下で室温で1時間インキュベートした。ECLアッセイのために、洗浄(PBS-Tバッファーで3回)後、1μg/mlのSULFO-TAG(商標)標識抗マウス二次抗体(Meso Scale Discovery)を加え、プレートを攪拌下で室温で1時間インキュベートし、遮光した。洗浄(PBS-Tバッファーで3回)後、150μl/ウェルの1×Read Buffer Tをプレートに加えた後、Sector Imager 6000(Meso Scale Discovery)での読み取りを行った。
【0199】
実施例3:前臨床モデル
A.DSS大腸炎モデルに対するinvivo治療効果:
Zhao M,ら(2018)EMBO Mol.Med.10:e8736。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)は約36~50kDaの負荷電硫酸化多糖であり、飲料水中の5%(重量/体積)で数日間投与されると大腸炎を誘発する(Okayasu I.ら(1990)Gastroenterology 98:694-702)。成体(balb/c)マウスを無作為化し、1週間順応させる。この後、式(I)の化合物またはビヒクルを経口胃管栄養法によって21日間投与する。これはDSS治療の2週間前(-第14日)に開始し、DSS治療中および実験の終了(+第9日)まで継続する。第0日に、動物が、+第5日まで、飲料水中の5%(重量/体積)DSS溶液に近づけるようにする。次いでDSS溶液を除去し、+第9日まで更に4日間、飲料水に置き換える。第0日から実験の終了(+第12日)まで、体重減少、軟便および/または下痢ならびに便中の潜血または肉眼的血液の存在を含む大腸炎の臨床徴候に関して動物を毎日モニターする。+第12日に、または動物が人道的エンドポイントに達したら、結腸を解剖して、その長さを測定し、その内容物を観察する。遠位結腸のサンプルを組織病理学のために処理する。別のサンプルを組織サイトカイン分析のためにホモジナイズし、-80℃で保存する。被検化合物の治療効果を、Alenghatら 2013(Alenghat T.ら(2013)Nature 504:153-157)に従い、以下のものを含む疾患スコアの決定によって評価する:i)体重減少、ii)便の外観、iii)便中の血液の存在、およびiv)動物の全身外観:
- 体重減少(減少なし=0;<5%=1;5~10%=2;10~20%=3;>20%=4);
- 便(正常=0;水様性軟便=1;非常に軟らかい、半形成=2;液体、粘着性、または排便できない=3)。
【0200】
- 便中の血液(血液なし=0;直腸における視認可能な血液=1;毛皮上の視認可能な血液=2)。
【0201】
- 全身外観(正常=0;立毛=1;無気力および立毛=2;動きが少ない=4)。
【0202】
組織学的損傷および炎症を、Gilbertら(2012)(Gilbert S.ら(2012)EMBO Mol.Med.4:109-124)に記載されているとおりにスコア化する。スコア化パラメータは浮腫(尺度:1~4)、上皮単層のびらん/潰瘍形成(尺度:1~4)、陰窩の喪失/損傷(尺度:1~4)および粘膜内への免疫細胞の浸潤(尺度:1~4)を含む。
【0203】
式(I)の化合物での治療後、体重減少の減少、便中の血液の非存在または減少、より良好な便粘稠度およびより良好な全身外観に起因する疾患スコアの減少が観察される。組織学的検査によれば、式(I)の化合物での治療は組織炎症の有意な低減をもたらす。
【0204】
B.パーキンソン病(PD)モデル(系統61)に対するインビボ治療効果:
Levine PM.ら(2019)Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.116(5):1511-1519。
【0205】
マウスThy-1プロモーターの調節制御下で野生型ヒト アルファ-シヌクレインタンパク質(hAsyn)を過剰発現するトランスジェニックマウス(系統61)は、広範に使用されているパーキンソン病(PD)動物モデルである。経時的に、このモデルは、黒質を含む脳の皮質および皮質下領域において、hAsynの蓄積、およびセリン129においてリン酸化されたhAsyn(pser129-Asyn)の凝集沈着を示す(Rockenstein Eら(2002)J.Neurosci.Res.68(5):568-78)。また、運動障害、例えば調整能力の欠如、筋力の低下および平衡感覚障害が2~4月齢で観察される(Flemingら 2004,J Neurosci 24(42):9434-40)。式(I)の化合物の治療効果は、行動(運動能力)の評価、ならびに組織学的検査による及び脳内に存在する凝集hAsyn(治療動物の「不溶性画分」)の生化学的測定による凝集hAsynおよびpser129-Asyn沈着の定量に基づく。このために、トランスジェニック系統61マウス(4週齢)および年齢/性別を釣り合わせた非トランスジェニック同腹子を、まず、ベースラインにおいて、アーウィン(Irwin)試験バッテリー試験、ロータロッド、ワイヤーサスペンション、ビームウォークおよびパスタかじり試験において試験する。アーウィン試験は、全身健康状態(体重、体温、ひげの存在、被毛および眼の構成、立ち直り反射、まばたきによる神経反射)を評価するために行われる。ワイヤーサスペンション試験および垂直ポール試験は、神経筋異常を検出するために行われる。ロータロッド試験は運動調整能力を評価する(一定の速度で落下するまでの時間をrpm/minで測定する)。ビームウォーク試験は、運動調整能力および平衡感覚(ビームを横断する時間およびエラー/スリップの数)を評価するために用いられる。パスタかじり試験は口腔顔面運動障害(かむ回数およびかむエピソードの頻度)を評価する。動物を式(I)の化合物の24週間の強制経口投与によって毎日治療する。治療期間中、動物は治療の12週間後および24週間後に更に2回の行動試験(前記のとおり)を受ける。治療期間の終わりに、全てのマウスは深麻酔下の安楽死に付され、生理食塩水による経心臓灌流を受ける。脳を取り出し、半切断する。左半脳を生化学分析のためにドライアイス上で瞬間凍結し、一方、右半脳を組織学的評価のために4% PFAで後固定し、クライオモールドにおいて包埋し凍結する。右半脳をOCT媒体において包埋し、10μmの凍結切片を収集して、治療動物の海馬および皮質におけるhAsynおよびpser129-Asyn沈着のレベルを免疫組織化学によって定量する。
【0206】
可溶性および不溶性のhAsynの生化学分析のために、急速冷凍した半脳を10容量の細胞溶解バッファー[20mM Tris-HCl,pH7.4,50mM NaCl,1% Triton X-100,0.2mM オルトバナジン酸ナトリウム,プロテアーゼインヒビターカクテルおよびホスファターゼインヒビターカクテル]中でホモジナイズし、湿潤氷上で30分間インキュベートした。遠心分離(15,000g、60分、4℃)後、上清を収集し、「Triton X-100可溶性画分」と命名する。Triton X-100不溶性ペレットを細胞溶解バッファー中で1回洗浄し、2% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する細胞溶解バッファーに再懸濁させる。2% SDS中の得られたホモジネートを収集し、「Triton X-100不溶性画分」と命名する。「Triton-X-100可溶性画分」および「Triton X-100不溶性画分」に存在するヒト アルファ-シヌクレインのレベルを、MesoScale Discovery(MSD)のhAsyn免疫吸着アッセイキット(カタログ番号K151TGD)を使用する電気化学発光によって定量する。
【0207】
式(I)の化合物での治療は、1)組織学的に、神経内凝集pser129-Asyn沈着物の数の減少を示しており、2)「Triton X-100不溶性画分」における不溶性hAsynの減少を示しており、3)アーウィンバッテリー、ロータロッド、ワイヤーサスペンション、ビームウォークおよび/またはパスタかりじ試験の行動試験のいずれかにおいて機能的利点(運動能力の改善)を示している。
【0208】
C.急性緑内障誘発性虚血再灌流(I/R)モデルに対するインビボ治療効果:
Chen YJら(2015),Invest Ophthalmol.Vis Sci.56(3):1506-16。
【0209】
式(I)の化合物の有効性を急性緑内障動物モデルにおいて評価する。体重250~300gの8週齢の雄Sprague-Dawley(SD)ラットを、温度および湿度が制御された動物室内で12時間の明/12時間の暗のサイクルで飼育し、この場合、飼料および水を自由に与える。いずれの実験の前にも、動物を1週間順応させる。SDラットを対照群および/または治療群にランダムに割り当てる。式(I)の化合物を経口(胃管栄養法)経路によって投与する。2つのプロトコールを考慮し、この場合、急性緑内障誘発性I/R損傷の誘発の24時間前または1時間後に治療を開始する。
【0210】
I/R損傷を誘発するために、50mg/kgのケタミンと2mg/kgのキシラジンとの混合物の腹腔内注射によって全身麻酔を誘発する。角膜鎮痛剤を、局所0.5% 塩酸プロパラカイン点眼液の滴下を用いて投与し、瞳孔拡張を0.5% トロピカミドおよび0.5% フェニレフリンで維持する。鎮痛および瞳孔拡張の後、左眼の前房に、眼の150cm上において、生理食塩水リザーバーに接続された30ゲージの針をカニューレ挿入して、110mmHgの高い眼内圧(IOP)をもたらす。網膜虚血の存在を眼底によって検査する。カニューレ挿入を60分間継続する。前房から注入針を除去した後、IOPは正常に戻る。トブラマイシンを含む抗生物質眼科用ジェルを処置の前および後に眼に局所適用する。I/R損傷の7日後にラットを犠死させて、式(I)の化合物の治療の長期効果を観察する。収集後、網膜の厚さを組織学的染色によって検査する(Mayer P,(1896),Mitt.zool.Stn.Neapel.,12,303)。また、網膜神経節細胞の数を免疫組織化学検査によって定量する。最後に、網膜電図検査(ERG)によってI/R損傷の7日後に網膜の機能を評価する。
【0211】
式(I)の化合物での治療は、1)H&E染色によって測定される網膜の厚さの減少を緩和しており、2)免疫組織化学検査によって染色される網膜神経節細胞の数の増加を示しており、3)網膜電図検査によって得られる種々の電気応答を分析することによる網膜機能を改善している。
【0212】
D.カイニン酸誘発性側頭葉てんかん(TLE)モデルに対するインビボ治療効果
Sanchezら(2019)Neurobiology of Disease 124:531-543。
【0213】
式(I)の化合物をカイナート誘発性発作ラットモデルにおいて評価する。Sprague-Dawleyラットを、発作を誘発するためのカイナート(10mg/kg)の腹腔内注射によって、またはビヒクル対照としての生理食塩水によって治療(処置)する。カイナート注射後の行動発作の重症度を、ラシーヌ(Racine)尺度(Racine R.J.(1972).Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.32(3),269-279)に従い、以下のとおりに軽度(スコア1)からより重度(スコア5)までスコア化する:1)口および顔のクローヌスおよび点頭;2)片方の前肢の間代性けいれん;3)両側前肢クローヌス;4)前肢クローヌスおよび立ち上がり;5)立ち上がりおよび落下を伴う前肢クローヌス。てんかん重積状態(SE)の発生は、カイナート注射から、4時間にわたる連続的発作活動(ラシーヌスコア4~5)の発生までの時間として定義される。カイナートの投与の4週間後、動物は硬膜表面における電極移植のためのEEG手術を受ける。カイナート投与の5週間後、ベースライン(EEG)を24時間記録する。次いで動物は式(I)の化合物の連続3日間の毎日の投与(強制経口投与)を受け、その間、脳活動をEEG記録によってモニターする。ベースラインの96時間(4日)後、動物を最終的に犠死させる。
【0214】
式(I)の化合物での治療は治療動物のてんかん活動を低減しており、これはEEGによって決定され、発作回数、発作持続時間または発作間欠性スパイク頻度の減少によって特徴付けられる(Sanchezら(2019)Neurobiology of Disease 124:531-543)。
【0215】
E.タウオパチーのhTauP301L-Tgマウスモデルに対する式(I)の化合物のインビボ効果
この研究において使用したhTauP301L-Tgモデルは、脳幹、中脳ならびにより低い度合ではあるが皮質および海馬におけるタウの過剰リン酸化(AT8およびAT100によって検出される)によって特徴付けられる年齢依存性神経タウオパチーを示す。過剰リン酸化タウは、タウ凝集を招くコンホメーション変化を示し、マウスは6月齢から神経原線維変化を発生する。病理的状態に伴い、これらのマウスは、全身運動性の低下を伴う握り行動のような運動障害を進行的に発生し、8~11月齢で早期に死亡する(reMYND,未公開データ、Terwelら,2005)。
【0216】
式(I)の化合物によるhTauP301L-Tgマウスの治療は、1)生存率における有意な利益を示しており、2)運動機能の改善を示しており(握りしめ行動、ビームウォーク)、3)神経病態の度合を軽減しており、4)脳組織サンプルの不溶性画分における凝集および/または過剰リン酸化タウのレベルを低下させている。
【0217】
実施例4:単位剤形(製剤、DP)の製造
A.化合物(I)のカプセル剤の説明および製造
式(I)の化合物は即時放出カプセル剤として製剤化されうる。製剤化製品は、例えば、サイズ00のスウェーデンオレンジハードゼラチンカプセル内に100mgの化合物(I)(遊離塩基換算)を含有するドライブレンドである。定性的および定量的な組成を表1に示す。
【0218】
【表1】
【0219】
化合物(I)は、即時放出カプセル製剤の開発のための適切な物理的、生物医薬品的および化学的特性を有する原薬である。それは適度に安定である。カプセル内に充填されるブレンド粉末は、一般的な賦形剤、すなわち、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、コロイド状二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムを含有する。これらの賦形剤の機能および特性を表1に要約する。全ての成分は、固体経口製剤に典型的な濃度で使用された。カプセル剤粉末のための賦形剤の選択は適合性研究および短期安定性研究に基づいていた。これらの研究は、選択した賦形剤との不適合性を示さなかった。
【0220】
粉末ブレンドの製造のために、賦形剤および有効成分を使用前に篩にかける。約半分の微結晶セルロース、化合物(I)およびコロイド状二酸化ケイ素を混合した。ブレンドを篩にかけ、残りの微結晶セルロースを加え、バッチを、混合しながら均質化(ホモジナイズ)した。ステアリン酸マグネシウムをブレンドに添加し、再度均質化した。
【0221】
カプセル化のために、カプセル化装置を使用して、ブレンドをサイズ00ゼラチンカプセル内に充填した。カプセルから粉塵を除去し、重量を選別し、カプセルをHDPEボトル内に充填した。前記と同様の手順に従い、種々の強度の式(I)の化合物を含有するカプセル剤を製造した。
【0222】
HPLCによる溶解速度のモニター方法
HPLCによる溶解
溶解速度をモニターするための方法は確立されている。溶解条件を以下に示す。
【0223】
【表2】
【0224】
ピーク保持時間:式(I)の化合物に対応するピークは約2.1分で溶出する。カプセル剤の溶解プロファイルは図6に見出されうる。
【0225】
B.化合物(I)のフィルムコーティング錠の説明および製造
化合物(I)は、例えば1錠当たり300mgの化合物(I)(遊離塩基換算)を含有するフィルムコーティング錠として製剤化されうる。製剤化DPを与える製造単位操作は水性湿式造粒ならびにそれに続く打錠および水性フィルムコーティングプロセスを含みうる。定性的および定量的な組成を以下の表2に示す。
【0226】
【表3】
【0227】
化合物(I)は、通常の技術によって製造される即時放出経口DP製剤の開発のための適切な物理的、生物医薬品的および化学的特性を有する原薬である。それは適度に安定である。最終的なDPは錠剤コア用の以下の賦形剤を含有する:微結晶セルロース、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、コポビドン、無水シリカコロイドおよびフマル酸ステアリルナトリウム。ヒプロメロース、マクロゴール、二酸化チタンおよび酸化鉄から構成される水ベースのフィルムコートをコア錠剤に噴霧した。使用した各賦形剤の機能および特性を表2に示す。全ての成分は、経口固形製剤に典型的な量で使用された。賦形剤の選択は主要成分の二成分混合物の適合性研究および短期安定性研究によって更に裏付けられた。
【0228】
典型的なバッチ配合を活性バッチの約8,000個のフィルムコーティング錠に関して以下の表3に示す。
【0229】
【表4】
【0230】
製造プロセスの種々の工程を以下に記載する。
【0231】
造粒工程
・化合物(I)(HCl塩)、微結晶セルロース、およびポビドンの一部をバッチ配合に従い正確に秤量し、篩にかけ、適切なボウルサイズの高せん断ミキサー造粒機で5~15分間混合する。
【0232】
・乾燥減量および嵩密度の決定(湿潤塊化前の開始報告値)。
【0233】
・半透明溶液が得られるまでポビドンを精製水に溶解することによって造粒溶液を調製する。
【0234】
・造粒溶液(すなわち、湿式造粒)をドライブレンドに添加し、同時に、湿り気を増した顆粒を連続的に混練し、細断する。造粒時間は、全ての造粒溶液を添加した後少なくとも3分である。
【0235】
・湿潤顆粒を3.0mmメッシュの篩で篩分ける。
【0236】
・篩にかけた湿潤顆粒を以下の条件下で乾燥オーブン内で乾燥する:目標:それぞれ、活性製剤では3.5%以下、そしてプラセボ製剤では4.5%以下の乾燥減量が得られるまで、温度50~60℃。インプロセス制御:乾燥減量:目標:3.5%以下(活性物)、4.5%以下(プラセボ)。
【0237】
・乾燥顆粒を1.4mmメッシュの篩にかける。
【0238】
・同じ仕様および追加的なIPC(嵩密度およびタップ密度、流動性)において乾燥減量の測定を繰り返す。
【0239】
・顆粒をサブバッチで製造する場合、重力ブレンダーで画分を10分間混合し、混合後、同じ仕様下のIPCの嵩密度およびタップ密度、流動性ならびに乾燥減量の測定を繰り返す。
【0240】
・収量を決定する。
【0241】
圧縮塊の混合
・必要に応じて、顆粒間相の量を顆粒の収量に合わせて調整する。
【0242】
・クロスカルメロースナトリウムおよび二酸化ケイ素を1.4mmメッシュの篩を通して篩い分けして、篩にかけた乾燥顆粒を含有するステンレス鋼ドラムに直接入れる。
【0243】
・重力混合
目標:混合時間:8~15分。
目標:ミキサー速度:20~30rpm。
【0244】
・フマル酸ステアリルナトリウムを0.8mmメッシュの篩を通して篩にかけて、前のステンレス鋼のドラムに直接入れる。
【0245】
・重力混合
目標:混合時間:3分。
【0246】
目標:ミキサー速度:20~30rpm。
【0247】
・圧縮塊のインプロセス制御:
○乾燥減量:目標:4.0%以下(活性製剤)および4.5%以下(プラセボ製剤)。
○流動性目標:自由流動性。
【0248】
打錠プロセス
・最終圧縮塊をコア錠剤へと圧縮する。
【0249】
・錠剤コアのパラメータ:
質量:目標:550.0mg±5%(522.5~577.5mg)
長さ:目標:16.6mm+0.2mm(16.6~16.8mm)
幅:目標:7.4mm+0.2mm(7.4~7.6mm)
高さ:目標:5.2~5.8mm
耐圧潰性:目標:140N以上
破砕性:目標:最大1.0%
崩壊時間:目標:15分以下
・コアの塵埃除去および収量計算
化合物(I)(HCl塩)の錠剤のコーティング
・プロペラスターラーで精製水を撹拌して渦を形成させながら、コーティング化合物(例えば、Aquapolish(登録商標))を加える。懸濁液を高速で15分間撹拌し、次いで速度を下げ、更に45分間撹拌する。
【0250】
・精製水の残りを適切なサイズのビーカーに入れ、酸化鉄を徐々に加えながら均質化(例えば、Ultra Turrax)し、約30分間継続する。
【0251】
・この分散液を、連続的に撹拌しているポリマー溶液に添加し、約30分間撹拌を続けた後、最終的な懸濁液を0.5mmの篩に通す。
【0252】
・錠剤コアをドラムコーターに移し、吸入空気で温める(ドラムコーター速度:間隔)。
○製品温度:目標:35~45℃
・懸濁液をコーティングプロセス中にプロペラスターラーで撹拌し、自動噴霧プロセスによって塗布する。
○製品温度:目標:35~45℃
○噴霧空気圧:目標:1.6~2.0bar
○相対噴霧速度:目標:最大3.5g/分/kg
・最終的な所望の重量が得られるまで、錠剤コアをコーティングする。
【0253】
・フィルムコーティング錠のパラメータ:
○外観:薄桃色、切れ込みのない長楕円形
○質量:目標:583.0mg±5%(553.9~612.2mg)
○長さ:目標:16.6mm+0.3mm(16.6~16.9mm)
○幅:目標:7.4mm+0.3mm(7.4~7.7mm)
○高さ:目標:5.4~6.0mm(活性物)、報告値(プラセボ)
○重量増加:約33.0mg/錠剤
・ドラムコーターをインターバルモードで吸気温度約30℃で約40分作動させながら、フィルムコーティング錠を乾燥させる。
【0254】
全ての最終製品バッチを、ライナー間に乾燥剤を含むライナー内に二重PEを有する緊密に密閉されたステンレス鋼ドラム内で貯蔵する。
【0255】
前記と同様の手順に従って、種々の強度の式(I)の化合物を含有する錠剤を製造した。
【0256】
HPLCによる溶解速度のモニター方法
溶解速度をモニターするための方法は確立されている。溶解条件を以下に示す。ここで、各実施でn=6の対象が試験される。
【0257】
【表5】
【0258】
ピーク保持時間:式(I)の化合物に対応するピークは約1.2分で溶出する。錠剤の溶解プロファイルは図6に見出されうる。
【0259】
実施例5:第1相臨床試験
以下に記載されている臨床試験に使用される全ての単位剤形は実施例4に従い製造された。
【0260】
健康な成人および高齢者における式(I)の化合物の単回および複数回経口投与の安全性、忍容性、薬物動態および食事の影響を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照第1相試験
この研究(試験)は、18~80歳の健康な男性および女性(妊娠の可能性がない)ボランティアにおける、単一施設の無作為化プラセボ対照の単回および複数回漸増用量研究であった。研究の目的は安全性、忍容性、食物の影響および薬物動態であった。18~55歳の健康な男性被験者における安全で忍容可能な単回用量を特定した後、食物の影響を評価するために別のコホートに投与を行った。更に、複数回投与(複数用量)の安全性、忍容性、薬物動態、CSF薬物レベルおよび薬力学を高齢者(55~80歳)の男性または健康で妊娠の可能性のない女性のボランティアにおいて評価した。研究の種々のパート(部分)を次の表に概略的に示す。
【0261】
【表6】
【0262】
ヒトにおける薬物動態
1.単回投与の薬物動態
式(I)の化合物の7つの漸増用量レベル(絶食状態における化合物(I)の20、40、80、160、300、600および1000mg)の単回用量薬物動態を健康な若いボランティアにおける無作為化・プラセボ対照・時間差・並行/クロスオーバー群試験のパート1aにおいて評価した。化合物(I)の薬物動態データを投与後72時間まで血漿および尿において測定した。化合物(I)の薬物動態は、種々の用量レベルにおいて、急速な吸収、20~1000mgにおけるほぼ用量比例的なCmax増加および平均3.9時間~平均10.7時間の範囲の終末半減期(t1/2)を示す一貫した用量依存的プロファイルによって特徴付けられる。曝露(24時間にわたるAUC)は300、600および1000mgの3つの最高用量レベルにおいて用量比例性を示した。これは、これらの用量レベルで約10%を超えて逸脱しない用量正規化AUCによって示唆されるとおりである。
【0263】
漸増用量の薬物動態評価に加えて、食物の影響の評価が研究のパート1bに含まれ、この場合、12人の健康な高齢被験者の別のコホートが絶食状態と摂食状態との両方において300mgの化合物(I)の投与を受けた。これは、食物が化合物(I)の曝露(AUC)にほとんど影響を及ぼさないことを示した。すなわち、絶食状態における曝露の約90%が摂食状態において達成された。しかし、吸収は約3時間遅れ、摂食状態における化合物(I)のCmaxは絶食状態における化合物(I)のCmaxの約60%に達した。絶食状態での化合物(I)300mgにおける健康高齢者コホートの化合物(I)の薬物動態を、パート1aの絶食状態での化合物(I)300mgにおける健康若者コホートのそれぞれの値と比較すると、曝露(AUC)とCmaxとの妥当な差(すなわち、15%の差)はなかった。
【0264】
【表7】
【0265】
要約すると、血漿化合物(I)のピーク濃度(Cmax)および全身曝露(AUC0-tおよびAUC0-inf)は化合物(I)の20mg~1000mgの用量の単回投与の後で明らかに増加した。化合物(I)のTmax中央値は0.50時間~1.50時間であり、20mg~1000mgの用量レベルに関する個々の値の同等範囲(0.50時間~1.50時間の範囲)を伴っていた。160mg、300mgおよび1000mgの用量レベルでは、幾らか高い値が観察された(0.50時間~3.00時間の範囲)。化合物(I)の平均終末半減期は7つの用量レベルにわたって4.59時間~8.84時間の範囲であった。20mg~1000mgの用量範囲で化合物(I)のCmaxに関して、用量比例性が観察された。300mg~1000mgの用量範囲で化合物(I)のAUCに関して、用量比例性が観察された。
【0266】
・化合物(I)のCmaxは、摂食状態においては、絶食状態と比較して約42.1%低かった。しかし、化合物(I)のAUC0-tおよびAUC0-infによる全体的曝露は、300mgの用量レベルが投与された場合、摂食状態と絶食状態との両方に関して同等であった。
【0267】
・300mgの化合物(I)と共に供与された高脂肪、高カロリーの食事はCmaxを約40%減少させ、Tmaxの中央値を1.00時間から4.00時間へと延長させたが、絶食状態と比較して化合物(I)の吸収の度合(AUC0-tおよびAUC0-inf)には影響を及ぼさなかった。
【0268】
2.複数回投与の薬物動態
化合物(I)の3つの漸増用量レベル(BID、すなわち1日2回投与される100、250および500mgの化合物(I))の複数回投与薬物動態を健康な高齢ボランティアにおける無作為化・プラセボ対照・時間差・並行群試験のパート2において評価した。第1日:1日2回(BID)の投与。第2日:投与なし。第3日~第11日:9日間のBID投与。第12日:朝(午前中)に1回投与。
【0269】
化合物(I)の薬物動態データを投与後72時間まで血漿および尿において測定した。化合物(I)の薬物動態は、種々の用量レベルならびにそれぞれ単回投与および複数回投与条件において、急速な吸収、100~500mg BIDでのほぼ用量比例的なCmaxおよび曝露(AUC)の増加ならびに平均3.9時間~平均10.7時間の範囲の用量非依存的終末半減期(t1/2)を示す一貫した用量依存的プロファイルによって特徴付けられる(図2)。
【0270】
第1日から第12日までの化合物(I)血漿濃度の蓄積は最小であり、計算された終末半減期(t1/2)と一致していた、すなわち、該投与間隔における第1日および第12日の曝露を比較すると、蓄積比は1.35~1.38であった。
【0271】
【表8】
【0272】
要約すると、
第1日:
・化合物(I)のCmax、AUC12-24およびAUC0-tauは100mg、250mgおよび500mgの用量のBID投与の後で明らかに増加した。
【0273】
・BID 100mg~BID500mgの用量の用量範囲で、第1日における化合物(I)のピーク曝露(Cmax)および全身曝露(AUC0-tauおよびAUC12-24)に関して、用量比例性が観察された。
【0274】
第12日:
化合物(I)のCmax、AUC0-48およびAUC0-tauは100mg、250mgおよび500mgの化合物(I)の用量の複数回BID投与の後で明らかに増加した。
【0275】
・BID 100mg~BID500mgの用量範囲で、第12日における化合物(I)のピーク曝露(Cmax)および全身曝露(AUC0-tauおよびAUC0-48)に関して、用量比例性が観察された。
【0276】
3.脳脊髄液(CSF)の薬物動態
CSFにおける化合物(I)の複数用量の薬物動態を、健康な高齢ボランティアにおいて、化合物(I)の3つの漸増用量レベル(BIDで、すなわち1日2回投与される100、250および500mgの化合物(I))での無作為化・プラセボ対照・時間差・並行群試験で評価した。第1日:1日2回(BID)の投与。第2日:投与なし。第3日~第11日:9日間のBID投与。第12日:朝(午前中)に1回投与。
【0277】
化合物(I)の薬物動態データを最終投与後72時間までCSFにおいて測定した。化合物(I)の薬物動態は、化合物(I)の薬物動態は、種々の用量レベルならびにそれぞれ単回投与および複数回投与条件において、急速な吸収、100~500mg BIDでのほぼ用量比例的なCmaxおよび曝露(AUC)の増加ならびに平均3.9時間~平均10.7時間の範囲の用量非依存的終末半減期(t1/2)を示す一貫した用量依存的プロファイルによって特徴付けられる(図3)。
【0278】
【表9】
【0279】
要約すると、化合物(I)のCSF PKパラメータは、100mg BID用量レベルでは、データ点が不十分であったため、1人の被験者に関してのみ報告可能であった。化合物(I)の複数回投与後の第12日におけるcSFにおけるその検出によって証明されるとおり、化合物(I)は血液脳関門を通過した。化合物(I)の場合、平均ピークおよび平均全身曝露に関するCSF対血漿比は、250mgのBID用量レベルでは、それぞれ2.5%および3.4%であり、500mg BID用量レベルでは、それぞれ4.2%および4.6%であった。
【0280】
前記の実験結果に基づいて定常状態指標の以下の要約統計量が決定された(“Mathematical Modeling of Pharmacokinetic Data”,D.W.A.Bourne,Routledge,2018)。
【0281】
【表10】
【0282】
単回経口投与後の化合物(I)の血漿中濃度と脳標的占有率との関係を決定するための、健康な被験者における第1相非盲検陽電子放射断層撮影試験
ヒト脳のO結合型N-アセチルグルコサミニダーゼ(O-GlcNAcase)酵素占有率を、陽電子放射断層撮影法(PET)トレーサーとして使用される選択的放射能標識O-GlcNAcaseインヒビターの、式(I)の化合物による競合置換によって定量した。PETトレーサーは、典型的には、放射能標識原子として18Fまたは12Cを含有しうる。[18F]-放射能標識選択的O-GlcNAcaseインヒビターとして[18F]-LSN3316612(これに限定されるものではない)が選択されうる。なぜなら、それは、前臨床試験における脳におけるO-GlcNAcase酵素の定量のための、およびヒト研究用のPETトレーサーとして、適切な選択性および薬物動態を示すことが示されているからである(Paul S.ら(2019)J.Nucl.Med.60:129-134)。
【0283】
この試験の主要目的は、化合物(I)の単回経口投与後、[18F]-LSN3316612陽電子放射断層撮影(PET)を用いて脳O-GlcNAcase占有率を測定することであった。副次的目的は、化合物(I)の単回経口投与後、[18F]-LSN3316612 PETを用いて、化合物(I)の血漿濃度と脳O-GlcNAcase占有の時間経過との間の関係を決定することであった。6人の健康な男性ボランティアに関して、PETイメージングデータを取得し、分析した。各被験者はベースラインPETスキャンおよび2回の投与後PETスキャンを受けた。O-GlcNAcase受容体占有率を化合物(I)(100~1000mgの範囲)の経口投与の約7時間後または28時間後に調べた。占有率の対応推定値は17~98%の範囲であった。図4に示されているとおり、化合物(I)の単回投与は、ベースラインと比較して有意な受容体占有を示した。
【0284】
化合物(I)の血漿濃度とO-GlcNAcaseとの関係は単純飽和モデルによって良好に示され、EC50は84.1ng/ml(95%信頼区間:68.0~100.1ng/ml)であった(図5)。化合物(I)の最大用量以内で化合物(I)の完全占有が達成された。
【0285】
実施例6:第2相臨床試験
臨床研究プロトコル:進行性核上性麻痺の治療に関する式(I)の化合物の有効性および安全性を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照試験
以下に記載されている臨床試験に使用される全ての単位剤形は実施例4に従い製造された。
【0286】
主要目的:PSPの治療において、2つの異なる用量の化合物(I)の安全性および忍容性をプラセボと比較して評価すること。
【0287】
副次的目的:以下のものを評価すること:
・化合物(I)の薬物動態(PK)パラメータ
・脳のタウ負荷
・全脳および局所的中脳萎縮のMRI評価
・血漿および脳脊髄液(CSF)におけるバイオマーカーの変化
・日常活動を行う能力
・被験者の臨床状態
・生活の質
・認識機能障害
試験デザイン: これは、PSPリチャードソン症候群の疑いのある患者における化合物(I)の安全性および忍容性を研究するための無作為化・多施設・二重盲検・プラセボ対照試験である。約40人の患者(40歳~85歳を含む)を2:1:1の比で300mgまたは150mgまたはプラセボTID PO(食事付き)に無作為化する。
【0288】
全ての被験者に関して、適格性を判断するために、投与の6週間前までにスクリーニング来院が実施される。適格な患者は、治験薬(化合物(I)またはプラセボ)を約12週間、毎日経口摂取する。安全性および忍容性のデータを研究施設への必要な訪問時に収集する。また、安全性評価および採血のための「在宅訪問」も準備される。最初の二重盲検治療期間の完了後、52週間の非盲検延長期間が設けられる。二重盲検治療を完了し、治験薬治療の適切な遵守を示した被験者は、非盲検延長試験にシームレスに移行するのに適格である。
【0289】
試験製品、用量および投与方法: 化合物(I)の300mgまたは150mgを1日3回、経口(PO)投与し、あるいは対応するプラセボを投与する。
【0290】
主要安全性エンドポイント: 第12週に3つの治療群において記録された治療中に発生した有害事象の頻度
探索的有効性エンドポイント:
以下の評価のベースラインスコアからの変化:
・PSP評価尺度(PSPRS)(28項目の尺度)
・PSPRS小尺度(10項目の尺度)
・皮質基底神経節機能尺度(CBFS)
・PSP機能障害尺度(PSPFDS)
・シュワブおよびイングランドの日常生活活動尺度(SEADL)
・変化の臨床上の全体的印象(CGI-C)
・進行性核上性麻痺の生活の質の尺度(PSP-QoL)
・モントリオール認知評価(MoCA)
・次元アパシー尺度(DAS)
・カラー・トレイル(Color Trails)試験パート1および2(CTT-1およびCTT-2)
・文字流暢さ試験
以下のパラメータのベースラインからの変化:
・神経変性および神経炎症CSFバイオマーカー、例えば神経変性パネル:総タウ、p-タウ、NfLおよび神経炎症パネル
・脳体積測定MRIによって測定された全脳体積
・脳体積測定MRIによって測定された局所(中脳、前頭葉、第三脳室)体積
・血漿およびCSF(NfL、総タウ、p-タウ)濃度
安全性エンドポイント:
・治療中に発生した有害事象(TEAE)
・重篤な有害事象(SAE)
・心電図(ECG)
・臨床検査測定
・コロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)
統計分析:
分析集団:完全な分析セットは全ての無作為化患者を含む。安全性セットは、化合物(I)の少なくとも1用量の投与を受ける全ての患者を含む。プロトコールごとのセットは、プロトコールから大きく逸脱することなく試験を完了した全ての患者を含む。
【0291】
化合物(I)の好ましい投与レジメンは特に安全であり、忍容性が良好である。
【0292】
実施例7:第2相臨床試験、投与延長
この実施例7の試験デザインは、PSPリチャードソン症候群の疑いのある患者における化合物(I)の安全性および忍容性を研究するための無作為化・多施設・二重盲検・プラセボ対照試験である実施例6に記載されている試験に類似している。約40人の患者(40歳~85歳を含む)を2:1:1:1の比で300mgまたは150mgまたは75mgまたはプラセボTID PO(食事を伴うまたは伴わない)に無作為化する。
【0293】
化合物(I)の好ましい投与レジメンは特に効果的であり、安全であり、忍容性が良好である。より高い用量に耐えられない患者には、75mg TIDの用量が用いられうる。
【0294】
実施例8:進行性核上性麻痺(PSP)の治療のための化合物(I)の無作為化二重盲検プラセボ対照第2相試験
【0295】
【表11】
【0296】
前記試験によれば、化合物(I)の好ましい投与レジメンは特に効果的であり、安全であり、忍容性が良好である。
【0297】
参考文献
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図2
図3
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図5
図6
【国際調査報告】