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特表2024-525239化合物SMTP-7を含有する医薬組成物
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  • 特表-化合物SMTP-7を含有する医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-11
(54)【発明の名称】化合物SMTP-7を含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20240704BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K47/18
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/34
A61K47/26
A61K47/28
A61K9/08
A61P29/00
A61P9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563075
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022025462
(87)【国際公開番号】W WO2022226013
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2021070892
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524201848
【氏名又は名称】ジーシン ファーマシューティカルズ ホンコン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニシムラ、ナオコ
(72)【発明者】
【氏名】ハセガワ、ケイコ
(72)【発明者】
【氏名】ハスミ、ケイジ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC04
4C076CC11
4C076DD09F
4C076DD46F
4C076DD50Z
4C076DD51Z
4C076DD70F
4C076EE23F
4C076EE53F
4C076FF16
4C076FF61
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZB11
(57)【要約】
本出願は、SMTP-7またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物を有効成分として含有する安全性の高い医薬組成物であって、塩基性添加剤及び両親媒性添加剤の一方または両方をさらに含有する当該医薬組成物を提供する。本発明は、急性虚血性脳梗塞を含む脳梗塞などの虚血性障害の予防または治療、特に血栓溶解薬で治療できない患者の治療に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物
【化1】

またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物、ならびに塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物は、式(II)で表されるSMTP-7である、請求項1に記載の医薬組成物。
【化2】
【請求項3】
前記塩基性添加剤として、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記塩基性添加剤として、メグルミン、トリエタノールアミン、及びトロメタモール塩酸塩からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記両親媒性添加剤として、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデオキシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、及びデソキシコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記両親媒性添加剤として、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤の両方を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記塩基性添加剤としてメグルミンを含み、前記両親媒性添加剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
静脈内投与用製剤である、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
虚血性障害または炎症性疾患の予防または治療に使用される、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記虚血性障害は、脳梗塞または一過性脳虚血発作である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記脳梗塞は、虚血性脳梗塞である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記虚血性脳梗塞は、急性虚血性脳梗塞である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1、3~13のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法であって、前記式(I)で表される化合物またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物を、前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤のいずれか一方または両方と混合することを含む、前記方法。
【請求項15】
請求項2、3~13のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法であって、前記式(II)で表される化合物またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物を、前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤のいずれか一方または両方と混合することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年4月20日に出願された日本特許出願第2021-070892号に対する優先権を主張し、その開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、SMTP-7及び塩基性添加剤及び/または両親媒性添加剤を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
虚血性障害とは、身体のあらゆる部位の血流の制限によって引き起こされる全ての症状を含む病的状態であると理解される。虚血領域では、エネルギーの枯渇により細胞が死滅し、その結果、この領域は機能不全に陥る。血栓による虚血の治療法として、血栓を溶解して血液を虚血部位に再供給する目的で血栓溶解薬及びこの血栓溶解薬を用いた血栓溶解療法が開発されている。
【0004】
例えば、プラスミノゲン活性化因子(t-PA)の作用に着目した血栓溶解薬であるアルテプラーゼ(遺伝子組換え組織型プラスミノゲン活性化因子(rt-PA))が開発されている。アルテプラーゼは、プラスミノゲンを活性化してプラスミンに変換し、これによって、血栓を形成するコアとなるフィブリンが分解される(非特許文献1)。
【0005】
SMTP(Stachybotrys Microsporaトリプレニルフェノール)化合物は、トリプレニルフェノール骨格を有しており、糸状菌により産生される化合物群であり、血栓溶解促進効果及び血管新生阻害効果を有することで知られている(特許文献1~3)。血栓溶解促進効果に対しては、SMTP化合物がプラスミノゲンの立体構造変化を引き起こすことによって、プラスミノゲンのt-PAへの感受性及びプラスミノゲンとの結合(例えば、血栓)が亢進し、その後、血栓の溶解が促進されるような作用機序が提案されている(非特許文献2)。SMTP化合物は、優れた抗炎症効果(非特許文献3)、細胞保護効果、及び虚血性障害の治療剤としての有用性を有していると報告されている(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、SMTP化合物であるSMTP-7を有効成分として含む、安全性の高い医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、SMTP-7を製剤化するとき、塩基性添加剤及び/または両親媒性添加剤を組み合わせて使用することにより、SMTP-7の安全性が向上することを見出した。
【0008】
より具体的には、本発明は、以下の[1]~[13]に関する。
[1]式(I)で表される化合物
【化1】

またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物、ならびに塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方を含む医薬組成物。
[2]前記化合物は、式(II)で表されるSMTP-7である、[1]に記載の医薬組成物。
【化2】

[3]前記塩基性添加剤として、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群から選択される1種以上を含む、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]前記塩基性添加剤として、メグルミン、トリエタノールアミン、及びトロメタモール塩酸塩からなる群から選択される1種以上を含む、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[5]前記両親媒性添加剤として、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデオキシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、及びデソキシコール酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[6]前記両親媒性添加剤として、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[7]前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤の両方を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[8]前記塩基性添加剤としてメグルミンを含み、前記両親媒性添加剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[9]静脈内投与用製剤である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[10]虚血性障害または炎症性疾患の予防または治療に使用される、[1]~[9]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[11]前記虚血性障害は、脳梗塞または一過性脳虚血発作である、[10]記載の医薬組成物。
[12]前記脳梗塞は、虚血性脳梗塞である、[11]に記載の医薬組成物。
[13]前記虚血性脳梗塞は、急性虚血性脳梗塞である、[12]に記載の医薬組成物。
[14][1]、[3]~[13]のいずれか1つに記載の医薬組成物の製造方法であって、前記式(I)で表される化合物またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物を、前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤のいずれか一方または両方と混合することを含む、前記方法。
[15][2]~[13]のいずれか1つに記載の医薬組成物の製造方法であって、前記式(II)で表される化合物またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物を、前記塩基性添加剤及び前記両親媒性添加剤のいずれか一方または両方と混合することを含む、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、SMTP-7を有効成分として含む安全な医薬組成物が提供される。本発明により、SMTP-7を幅広い対象に適用可能であり、かつ幅広い範囲の用量で使用可能であり、さらに高い効果を有する薬物療法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1における安全性試験の評価結果である。
図2】本発明の実施例2における医薬組成物の毒性スコアである。
図3】本発明の実施例3で試験された医薬組成物の溶血レベルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数値範囲をA「~」Bと表現する場合、「~」の前後の数値は、それぞれ下限値及び上限値として含まれる。
【0012】
本明細書において、組成物の成分の量が記載されている場合、当該組成物中にその成分に対応する複数の物質が存在する場合、特に明記しない限り、その量は、組成物中に存在する物質の総量を指す。
【0013】
本明細書において、「ステップ」という用語は、独立したステップだけでなく、他のステップと明確に区別できない場合であってもそのステップで目的の作業が達成できれば、その区別がつかないステップも含む。
【0014】
本明細書において、「質量%」及び「重量%」は互換的に使用され、「質量部」及び「重量部」は互換的に使用される。
【0015】
本明細書において、「質量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」という用語は、特に明記しない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、またはTSKgel G2000HxL(いずれも商品名、Tohso Corporation製)カラム及びTHF(テトラヒドロフラン)溶剤を使用するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で分離し、示差屈折計で検出して得られ、ポリスチレンを標準物質として換算した分子量を指す。
【0016】
1.本発明の医薬組成物
1.1成分
本発明の医薬組成物は、式(I)で表される化合物、具体的には、式(II)で表されるSMTP-7、またはその塩、そのエステル、もしくはその溶媒和物、ならびに塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方を含むことを特徴とする。
式I:
【化3】

化学名:2,5-ビス-[8-(4,8-ジメチル-ノナ-3,7-ジエニル)-5,7-ジヒドロキシ8-メチル-3-オキソ-3,6,7,8-テトラヒドロ-1H-9-オキサ-2-アザシクロペンタ[a]ナフタレン-2-イル]-ペンタン酸
分子式:C516810
分子量:869.09
式II:
【化4】

化学名:(S)-2,5-ビス((2S,3S)-2-((E)-4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエン-1-イル)-3,5-ジヒドロキシ-2-メチル-7-オキソ-3,4,7,9-テトラヒドロピラノ[2,3-e]イソインドール-8(2H)-イル)ペンタン酸
分子式:C516810
分子量:868.49
【0017】
本明細書において、特に明記しない限り、「SMTP-7」という用語は、SMTP-7だけでなく、その塩、そのエステル、またはその溶媒和物も含むと定義される。
【0018】
(1)SMTP-7
本発明者らは、トリプレニルフェノール骨格を有しており、糸状菌により産生された化合物(SMTP化合物)の誘導体として、本発明の医薬組成物に使用される式(II)で表される化合物を開発した。SMTP-7は、血液中に存在し、血栓溶解に関与するプラスミンの前駆体であるプラスミノゲンに作用してその立体構造変化を誘発し、プラスミノゲン活性化因子で活性化を促進することにより、血栓溶解促進効果を発揮する。SMTP-7は、抗炎症効果、抗酸化効果、及び細胞保護効果を有することがさらに知られている。
【0019】
SMTP-7は、遊離化合物として、または薬学的に許容される塩、エステル、もしくは溶媒和物の形態で使用され得る。SMTP-7の薬学的に許容される塩の形成には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、またはクエン酸などの無機酸、及びギ酸、フマル酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、またはp-トルエンスルホン酸などの有機酸が好適である。また、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、もしくはマグネシウムなどのアルカリ金属、または塩基性アミンもしくは塩基性アミノ酸などのアルカリ土類金属を含む化合物が、SMTP-7の薬学的に許容される塩を形成するのに好適である。さらに、SMTP-7の薬学的に許容されるエステルの形成には、1~10個の炭素原子を有するアルコールまたはカルボン酸、好ましくは、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、酢酸、またはプロピオン酸が好適である。例えば、水は、SMTP-7の薬学的に許容される溶媒和物を形成するのに好適である。
【0020】
前述の本発明の医薬組成物におけるSMTP-7の薬学的に許容される塩、エステル、または溶媒和物(水和物)のうち、SMTP-7の薬学的に許容される塩が好ましい。より具体的には、SMTP-7のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、もしくはマグネシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましく、SMTP-7のナトリウム塩がより好ましい。
【0021】
SMTP-7は、化学合成で得られるか、またはStachybotrys microsporeなどの糸状菌の培養物を精製することにより得られるものであってよい。SMTP-7の製造方法は、例えば、特開第2004-224737号、特開第2004-224738号、及び国際公開第WO2007/111203号に記載されている。
【0022】
SMTP-7は、エナンチオマー、ジアステレオマー、エナンチオマーの混合物、またはジアステレオマーの混合物であってよく、これらは、化学合成によって得られるか、または糸状菌の培養物を精製することにより得られるものであってよい。SMTP-7が糸状菌の培養物を精製することにより得られる場合、糸状菌培養用培地にD体またはL体のアミノ酸化合物を添加すると、対応する異性体を得ることができる。
【0023】
本発明の医薬組成物において、SMTP-7(遊離化合物)の含有量は、医薬組成物の剤形によって異なるが、医薬組成物の全質量に基づき、好ましくは約1質量%~80質量%、より好ましくは約5質量%~60質量%である。例えば、使用時に調製(再構成)される注射の場合、医薬組成物の全質量に対するSMTP-7の含有量(希釈のための注射の質量を除く)は、好ましくは10~80%、より好ましくは20~60%である。
【0024】
特定の実施形態において、医薬組成物を含有するSMTP-7は、液体製剤である。他の実施形態において、SMTP-7含有医薬組成物は、液体製剤が凍結乾燥された凍結乾燥製剤である。
【0025】
特定の実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約0.5mg/mL~約20mg/mLである。他の実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約1mg/mL~約15mg/mLである。また他の実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約1mg/mL~約10mg/mLである。いくつかの実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約5mg/mL~約10mg/mLである。いくつかの実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約10mg/mLである。また他の実施形態において、医薬組成物中のSMTP-7は、約0.5mg/mL、0.6mg/mL、0.7mg/mL、0.8mg/mL、0.9mg/mL、1.0mg/mL、1.1mg/mL、1.2mg/mL、1.3mg/mL、1.4mg/mL、1.5mg/mL、1.6mg/mL、1.7mg/mL、1.8mg/mL、1.9mg/mL、2.0mg/mL、2.5mg/mL、3.0mg/mL、3.5mg/mL、4.0mg/mL、4.5mg/mL、5.0mg/mL、5.5mg/mL、6.0mg/mL、6.5mg/mL、7.0mg/mL、7.5mg/mL、8.0mg/mL、8.5mg/mL、9.0mg/mL、9.5mg/mL、10.0mg/mL、またはそれよりも高い濃度である。
【0026】
(2)塩基性添加剤
本発明の医薬組成物に用いられる塩基性添加剤の例としては、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、または2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールなどのアルカノールアミン;トロメタモール(トリスヒドロキシメチルアミノメタン(トロメタミン))またはその塩;グリシン、アルギニン、ヒスチジン、またはリシンなどのアミノ酸;メグルミンまたはグルコサミンなどのアミノ糖;及びトリエチルアミン、エチレンジアミン、エポラミン、またはグアニジンなどのアミンが挙げられる。
【0027】
これらのうち、アミノ糖、アルカノールアミン、及びトロメタモール塩からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、メグルミン、トリエタノールアミン、及びトロメタモール塩酸塩からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、メグルミン及びトロメタモール塩酸塩のいずれか1種を含むことがより好ましく、メグルミンを含むことがさらに好ましい。
【0028】
医薬組成物が塩基性添加剤を含む場合、塩基性添加剤の含有量は、医薬組成物の剤形によって異なるが、医薬組成物の全質量に基づき、好ましくは0.1質量%~50質量%、より好ましくは1質量%~30質量%である。例えば、使用時に調製(再構成)される注射の場合、医薬組成物の全質量に対する塩基性添加剤の含有量(希釈のための注射の質量を除く)は、好ましくは1~50%、より好ましくは5~30%である。
【0029】
SMPT-7の質量に対する塩基性添加剤の含有量は、好ましくは5質量%~80質量%、より好ましくは10質量%~60質量%、さらに好ましくは20質量%~50質量%である。
【0030】
特定の実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約1mM~約200mMである。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約2mM~約100mMである。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約5mM~約50mMである。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約10mM~約30mMである。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約20mMである。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の塩基性添加剤は、約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17m、18m、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mM、36mM、37mM、38mM、39mM、40mM、またはそれよりも高い濃度である。
【0031】
いくつかの実施形態において、塩基性添加剤はメグルミンである。
【0032】
(3)両親媒性添加剤
本発明の医薬組成物に用いられる両親媒性添加剤は、医薬製剤中に使用できる限り、特に制限されない。アニオン性両親媒性添加剤、カチオン性両親媒性添加剤、両性両親媒性添加剤、及び非イオン性両親媒性添加剤のうちのいずれか1種を使用し得る。特に、非イオン性両親媒性添加剤が好ましい。
【0033】
非イオン性両親媒性添加剤は、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50及び60)、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20))、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ウルソデスオキシコール酸、ソルビタン脂肪酸エステル、デスオキシコール酸ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノオレイン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、ポリグリセリル-3-ジオレート、及びホスファチジルコリンからなる群から選択される1種以上が好ましく、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群から選択される1種以上がより好ましく、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がさらに好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が特に好ましい。
【0034】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に含まれるオキシエチレン単位の総数は、特に限定されないが、好ましくは2~150、より好ましくは10~100、さらに好ましくは40~70、特に好ましくは50または60、最も好ましくは60(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)である。
【0035】
医薬組成物が両親媒性添加剤を含有する場合、両親媒性添加剤の含有量は、医薬組成物の剤形によって異なるが、医薬組成物の全質量に基づき、好ましくは1質量%~80質量%、より好ましくは5質量%~60質量%、さらに好ましくは5質量%~50質量%である。例えば、使用時に調製(再構成)される注射の場合、医薬組成物の全質量に対する両親媒性添加剤の含有量(希釈のための注射の質量を除く)は、好ましくは10~80%、より好ましくは20~60%である。
【0036】
SMPT化合物の量に対する両親媒性添加剤の含有量は、好ましくは40質量%~300質量%、より好ましくは60質量%~200質量%、さらに好ましくは70質量%~150質量%である。
【0037】
特定の実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.001%~約10%(w/v)である。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.01%~約10%(w/v)である。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.01~約1%(w/v)である。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.01%~約1%(w/v)である。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.01%、約0.1%、または約1%(w/v)である。いくつかの実施形態において、SMTP含有医薬組成物中の両親媒性添加剤は、約0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%(w/v)、またはそれよりも高い濃度である。
【0038】
いくつかの実施形態において、両親媒性添加剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である。
【0039】
限定されるものではないが、本発明の医薬組成物の好ましい例には、SMTP-7またはその塩(好ましくはナトリウム塩)、塩基性添加剤としてメグルミン、及び両親媒性添加剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含まれる。
【0040】
(4)他の添加剤
本発明の医薬組成物は、医薬組成物の用途(標的疾患)及び医薬組成物の剤形に応じて適切に選択される他の薬学的に許容される担体(添加剤)を含有し得る。
【0041】
医薬組成物が他の添加剤を含む場合、他の添加剤の含有量は、医薬組成物の剤形によって異なるが、医薬組成物の全質量に基づき、好ましくは0.1質量%~80質量%、より好ましくは1質量%~60質量%である。
【0042】
1.2剤形
本発明の医薬組成物の剤形は、特に限定されないが、好ましくは非経口製剤、好ましくは静脈内投与製剤(注射)である。静脈内投与製剤として使用される場合、医薬組成物は、使用時に調製される製剤であるか、または使用準備済みの製剤であってよい。
【0043】
医薬組成物は、静脈内投与製剤として使用される場合、例えば上記のように、SMTP-7、塩基性添加剤、及び両親媒性添加剤に加えて、無菌水溶液または非水溶液を含有してよい。水性溶媒としては、注入用蒸留水または食塩水が挙げられる。非水性溶媒としては、例えばエタノールなどのアルコールが挙げられる。その他、本発明の医薬組成物は、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤、pH調整剤、または溶解助剤などの薬学的に許容される担体をさらに含有してもよい。
【0044】
1.3用法及び用量
SMTP-7は、血栓溶解促進効果のみならず、抗炎症効果及び抗酸化効果を有し、さらに細胞保護効果を発揮することが知られている。したがって、本発明の医薬組成物は、虚血性障害に対する予防または治療効果(血栓溶解促進効果に基づく)のみならず、虚血性障害及び虚血/再開通後の細胞損傷(虚血/再開通損傷)に対する予防または治療効果(細胞保護効果に基づく)に加えて、炎症性疾患に対する予防または治療効果(例えば、WO2011-004620を参照のこと)をも有する。
【0045】
本明細書において、「虚血性障害」とは、身体のあらゆる部分における血流の制限に起因する全ての症状を含む病的状態を指し、血流の回復後の組織損傷(虚血/再開通に起因)を含む。
【0046】
本発明の医薬組成物は、虚血性障害、特に血栓症に有効である。血栓症は、一般的に、血管内の血液の凝塊として理解される。より具体的に、血栓症の例としては、一過性脳虚血発作、播種性血管内凝固症候群、血栓性微小血管症、血栓性静脈炎、深部静脈血栓症、特発性血栓症、脳梗塞(脳血栓症、脳塞栓症)、心筋梗塞、及び肺血栓塞栓症が挙げられる。それらのうち、脳梗塞とは、本発明の医薬組成物を好適に適用できる疾患である。
【0047】
本明細書では、脳梗塞と虚血性脳梗塞とを区別せずに使用する。虚血性脳梗塞は、一般的に、全ての脳卒中のほぼ90%を占める急性虚血性脳梗塞である。
【0048】
本明細書において、「炎症性疾患」とは、外部刺激または内部原因による炎症によって引き起こされる全ての病的状態を意味する。特に、本発明の医薬組成物は、好ましくは、間質性腎炎、腎盂腎炎、及び糸球体腎炎などの腎炎、クローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、ならびにギラン・バレー症候群などの自己免疫性末梢神経障害及び慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)における神経障害に使用される(WO2007/040082及びWO2011/125930を参照すること)。
【0049】
本発明の医薬組成物の用量は、用途(標的疾患)及び剤形に応じて異なるが、通常、SMTP-7(遊離形態)相当量で成人一人あたり一回につき、0.01mg/kg~100mg/kgが好ましく、0.1mg/kg~30mg/kgがより好ましい。投与回数は、特に限定されないが、単独投与、反復投与、または継続投与が許容され得る。投与間隔及び投与期間は、臨床所見、画像所見、血液学的所見、併存疾患、及び病歴に応じて当業者によって選択され得る。
【0050】
本発明における医薬組成物の成人一人あたり一日の用量は、SMTP-7の種類、虚血性障害の重症度、及び身体の患部に応じて異なるが、SMTP-7(遊離形態)相当量で0.01mg/kg~100mg/kgが好ましく、0.1mg/kg~50mg/kgがより好ましい。
【0051】
反復投与の場合、投与計画は、発症直後、発症後12時間以内、その後に1日1回で約7日間が好ましい。連続投与の場合、1日あたり1~24時間投与することが好ましい。
【0052】
医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、及び経口投与などの種々の投与から選択され得る。例えば、急性期の疾患では、所望の用量を直ちに確実に患者に投与するために、静脈内投与、より具体的には、静脈内注射または点滴が好ましい。例えば、投与方法としては、1回用量の10%をボーラスとして投与し、30分~1時間かけて注入によりその用量の90%を投与し得る。
【0053】
本発明の目的が達成され得る限り、本発明の医薬組成物は、他の薬剤と組み合わせて使用されてよい。他の薬物としては、例えば、血栓溶解薬が挙げられる。併用する血栓溶解薬の例としては、アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、デスモテプラーゼ、及びモンテプラーゼが挙げられる。
【0054】
脳梗塞発症後、一部の患者は血管の損傷(例えば、再灌流時)により出血しやすい。それに対して、本発明の医薬組成物は、細胞保護効果を有する。このため、当該組成物は、このような出血状態への移行を効果的に防止し、出血する傾向を低減させる。
【0055】
本発明の医薬組成物は、発症から時間が経過したため、血栓溶解薬の投与が中止された患者に有効に適用される。例えば、脳梗塞が発症して3時間以上経過し、アルテプラーゼなどを投与する治療を受けることができない脳梗塞患者に本発明の医薬組成物を適用すると、虚血性障害が抑制される場合がある。発症時刻が明確に分からない場合には、最も直近の無症状時刻(患者に症状が発現していないと確認された最も直近の時刻)を発症時刻とみなすことに留意されたい。
【0056】
本発明の医薬組成物を血栓症(血栓性塞栓症を含む)に適用する場合、血栓溶解薬が禁忌された患者にも適用することが可能である。あるいは、本発明の医薬組成物は、血栓溶解薬の投与中に禁忌症状または徴候が現れたため、血栓溶解薬の投与が中止された患者に適用され得る。禁忌徴候の例としては、出血性素因、出血、高血圧、及び血糖障害(コントロール)が挙げられる。また、本発明の医薬組成物は、例えば、頭蓋内出血のリスクが高いために血栓溶解薬を投与する治療を受けることができない脳梗塞患者に適用され得る。
【0057】
本発明の医薬組成物を血栓症(血栓性塞栓症を含む)に使用する場合、血栓溶解薬による治療を受けることができない通常の患者に有効に適用される。そのような患者の例としては、例えば、一過性脳虚血発作、播種性血管内凝固症候群、血栓性微小血管症、血栓性静脈炎、深部静脈血栓症、及び特発性血栓症を有する患者が挙げられる。
【0058】
本発明の医薬組成物の使用はヒトに限定されず、当該組成物を牛、馬、羊などの家畜、犬、猫、サルなどのペットに使用し得る。
【0059】
2.医薬組成物の製造方法
本発明の医薬組成物の製造方法は、前述のように、SMTP-7と、塩基性添加剤及び/または両親媒性添加剤とを混合することを含む。これらを混合する方法は、特に限定されないが、当該技術分野で既知の方法を使用してよい。医薬組成物が他の薬学的に許容される担体(添加剤)を含有する場合、この担体は、混合ステップにおいて塩基性添加剤及び/または両親媒性添加剤と一緒に混合され得る。
【0060】
SMTP-7及び添加剤の混合物は凍結乾燥されてよく、アンプルまたはバイアルに入れ、気密に封止されてよい。凍結乾燥製剤を使用する場合は、少量の注射液で再構成し、さらに食塩水などの希釈用注射液で適宜希釈し、使用する。あるいは、本発明の医薬組成物は、適切な濃度を有するように事前に製造された使用準備済みの製剤であってもよい。
【0061】
3.虚血性障害を治療または予防する方法
本発明では、本発明の医薬組成物を必要とする患者に投与することを含む、虚血性障害を治療または予防する方法が提供される。当該医薬組成物の投与対象、用量、投与間隔、投与期間、及び投与方法は、本発明の医薬組成物の説明に予め示されている通りである。
【0062】
本発明の医薬組成物は、刺激が低減されており、より効果的かつ安全性の高いSMTP-7による治療を可能にする。
【実施例
【0063】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、特に明記しない限り、「%」は質量%を表す。
【0064】
実施例1:マウスにおける医薬組成物の安全性試験
医薬組成物の調製
SMTP-7(ナトリウム塩)は、Stachybotrys microspora IFO30018株を有機アミノ化合物としてL-オルニチンを含有する培地で培養することにより得られた培養物を、特開第2004-224738号に記載の方法によって精製して得た。精製したSMTP-7を乾燥させた。0.3mol/LのNaOH及び生理食塩水(0.9質量%のNaCl)を乾燥固体のSMTP-7に添加して、50mg/mlの溶液を調製した。次に、0.3mol/LのHCl及び生理食塩水を使用して、溶液の濃度が10mg/mlで低pH(弱アルカリ)になるように調整した。この溶液を濾過により滅菌し、小分けにして、-30℃で凍結保存した。
【0065】
異なるロットでSMTP-7を得て、それぞれSM0X02、N152403-01、GMP様、及びN01YH/G01HNと指定した。
【0066】
塩基性添加剤、両親媒性添加剤、及び参照化合物
本明細書で使用される塩基性添加剤、両親媒性添加剤、及び参照化合物は、以下の通りである。
【0067】
メグルミン(カタログ番号:M9179、SIGMA-ALDRICH製、St.Louis,MO、USA):単にMegと称する。
【0068】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(NIKKOL HCO-60、Nikko Chemicals Co.,Ltd.製、Tokyo):本実施例では、単にHCO-60またはHCOと称する。
【0069】
ポリエチレングリコール4000(Macrogol 4000、NOF Corporation製、Tokyo):単にPEGと称する。
【0070】
D-マンニトール(日本薬局方で定義されたD-マンニトール注射液、Terumo Corporation製、Tokyo):単にManと称する。
【0071】
マウスへの投与
SMTP-7と、塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方とを生理食塩水に溶解し、参照化合物を生理食塩水に溶解することにより、医薬組成物1~8及び比較医薬組成物1~6をそれぞれ調製した。医薬組成物及び比較医薬組成物中のSMTP-7の最終濃度を10mg/mLに制御した。医薬組成物及び比較医薬組成物中のSMTP-7のロット番号、ならびに塩基性添加剤、両親媒性添加剤、及び参照化合物の種類と濃度を表1に示す。
【0072】
調製した医薬組成物及び比較医薬組成物を、尾部静脈を通して、10mL/kg(100mg/kgのSMTP-7(遊離形態))の比(用量)でICRマウス(6~12週齢)に投与した。投与において、各医薬組成物の1/10をボーラスとして投与し、次いで当該組成物の残りの9/10を30分間連続投与した。
【表1】
【0073】
上記の表において、「%(w/v)」の表記は、医薬組成物(100mL)に含まれる両親媒性添加剤または参照化合物の質量(g)を指す。「HCO+Meg」の表記は、HCO-60(0.01%(w/v)または1%(w/v))及びメグルミン(20mM)の両方を含むことを示す。
【0074】
評価方法
投与中及び投与してから約1時間後のマウスの状態を観察した。観察項目は以下の通りである。結果は、0から整数(括弧内に示す)で表される最大値までのスコアによって示される。
【0075】
観察項目
投与中のマウスの状態:尾部静脈の透過性及び発赤の亢進(1)、尾部の充血(1)、呼吸悪化(4)
【0076】
投与してから約1時間後のマウスの状態:尾部の充血(4)、身体活動の低下(8)、呼吸悪化(8)、麻酔からの覚醒(4)。
【0077】
異なるロットのSMTP-7ナトリウム塩をそれぞれ単独投与した場合に得られたスコア(比較医薬組成物1、3、4、または5を投与したときのスコア、より具体的には全ての観察項目のスコアを加算した合計スコア)を1とし、医薬組成物及び比較医薬組成物を投与して得られたスコアを相対値で表した。
【0078】
評価結果を図1に示す。図1において、縦軸は、SMTP-7ナトリウム塩を単独で投与した場合の観察項目の合計スコアに対する、当該医薬組成物及び比較医薬組成物をそれぞれ投与した場合の観察項目の合計スコアの比を示す。
【0079】
図1から、以下のことが見出された。
【0080】
D-マンニトールをSMTP-7(ロットSM0X02)に添加したとき、スコアは参照化合物の1.36倍であった。一方、SMTP-7(ロット152403-01)にメグルミンを添加したとき、スコアは参照化合物の0.90倍であり、HCO-60(1%(w/v))及びメグルミン(20mM、pH8.5)を組み合わせて添加したとき、スコアは参照化合物の0.61倍であった。メグルミンをSMTP-7(ロット「GMP様」)に添加したとき、スコアは0.48倍であった。HCO-60(0.01%(w/v))をSMTP-7(ロット「N01YH/G01HN」)に添加したとき、スコアは1.05倍であった。HCO-60(0.01%(w/v))及びメグルミン(20mM、pH8.5)を組み合わせて添加したとき、スコアは0.34倍であった。HCO-60(0.1%(w/v))及びHCO-60(1%(w/v))を添加した場合、スコアはそれぞれ0.79倍及び0.44倍であった。HCO-60(1%(w/v))及びメグルミン(20mM、pH8.5)を組み合わせて添加したとき、スコアは0.34倍であった。一方、ポリエチレングリコール4000(1%(w/v))をSMTP-7(ロット「N01YH/G01HN」)に添加した場合のスコアは、ポリエチレングリコール4000を添加しなかった場合のスコアの0.95倍であった。
【0081】
以上のことから、本開示に係る医薬組成物によって、SMTP-7をより安全に使用できることが理解され得る。
【0082】
実施例2:ラットに対する医薬組成物の毒性試験
SMTP-7(ナトリウム塩)を実施例1に記載したように調製した。異なるロットでSMTP-7を得て、N1533-62-1と指定した。実施例1と同様のMeg及びHCO-60を使用した。
【0083】
SMTP-7と、塩基性添加剤及び両親媒性添加剤のいずれか一方または両方とを生理食塩水に溶解することにより、医薬組成物9~11をそれぞれ製造した。医薬組成物中のSMTP-7の最終濃度は10mg/mLに制御した。医薬組成物9~11中のSMTP-7のロット番号、ならびに塩基性添加剤、両親媒性添加剤、及び参照化合物の種類と濃度を表2に示す。
【表2】
【0084】
医薬組成物9~11を、尾部静脈を通して、10mL/kg(100mg/kgのSMTP-7(遊離形態))の比(用量)で、雄雌SDラット(6~7週齢、及び162~268g)に投与した。投与において、各医薬組成物の1/10を迅速に投与し、次いで当該組成物の残りの9/10を30分間連続投与した。
【0085】
留置針を介して尾部静脈内へ薬物を静脈内投与した。投与体積の10%を迅速に投与した(迅速投与)。迅速投与中に、使い捨てシリンジ、留置針、及び延長チューブを使用して医薬組成物を投与した。急速投与速度は、1mL/kg/5秒である。迅速投与が完了した後に、シリンジチューブを直ちに交換した。そして、残りの90%の投与体積を30分間、連続して投与した(連続投与)。連続投与中に、注入ポンプ(BS-8000、Braintree Scientific Inc.)を使用して医薬組成物を投与した。連続投与速度は9mL/kg/30分である。
【0086】
投与後約1時間、約4時間、翌日(薬物投与後約24時間)のラットの状態を観察した。
【0087】
尿検査を行った。投与してから翌朝まで16時間尿を採取した。投与翌日の解剖4時間以内に新たな尿を採取した。解剖は、薬物投与の翌日に行った。
【0088】
医薬組成物9~11それぞれについて、6回の実験の平均毒性スコアに基づき、毒性を評価した。毒性スコアは、以下のように、異なる重み係数(括弧内)による評価項目の合計である。
i.注射部位異常(1)
ii.尿色の異常(1)
iii.赤色尿(2)
iv.注射部位の浮腫(1)
v.注射部位の暗紫色尾部(1)
vi.注入部位の赤色巣または痂皮(0.5)
vii.肺の暗赤色巣(4)
viii.腎盤拡張(2)
ix.尿管拡張(2)
x.膀胱の暗緑色の内容物(1)
【0089】
評価結果を図2に示す。図2において、縦軸は、医薬組成物9~11をそれぞれ投与したときの平均毒性スコア(評価項目の合計)を示す。
【0090】
一方、医薬組成物9の毒性は、医薬組成物10と変わらない。医薬組成物11の毒性は、医薬組成物9及び10よりも著しく低い。
【0091】
実施例3:溶血試験
マウスのクエン酸全血(100μl)を、食塩水(200μΜ)中でSMTP-7含有医薬組成物1mlと混合し、この混合物を37℃で1分間インキュベートした。SMTP-7含有医薬組成物を以下の表3に示す。SMTP-7(ナトリウム塩)を、実施例1に記載したように調製した。実施例1と同様のMeg及びHCO-60を使用した。
【0092】
次いで、この混合物を3,500rpmで2分間遠心分離し、得られた上清を食塩水で10倍に希釈した。希釈した上清(100μl)の530nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダーを使用して測定した。図3に示すように、陽性対照(100%の溶血)に対する溶血レベル(%)を計算した。
【表3】
【0093】
産業上の利用可能性
本発明は、急性虚血性脳梗塞を含む脳梗塞などの虚血性障害の予防または治療、特に血栓溶解薬で治療できない患者の治療に有用である。
【0094】
本明細書で援用される全ての刊行物、特許、及び特許明細書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
参考文献
特許文献
1.特許文献1:特開2004-224737
2.特許文献2:特開2004-224738
3.特許文献3:WO2007/111203
4.特許文献4:WO2011/004620
非特許文献
1.非特許文献1:Kano et al.,“Hemorrhagic transformation after fibrinolytic therapy with tissue plasminogen activator in a rat thromboembolic model of stroke”Brain Res2000、854:245-248
2.非特許文献2:Takayasu et al.,“Enhancement of fibrin binding and activation of plasminogen by staplabin through induction of a conformational change in plasminogen”FEBS Letter1997、418:58-62
3.非特許文献3:Matsumoto et al.,“Soluble Epoxide Hydrolase as an Anti-inflammatory Target of the Thrombolytic Stroke Drug SMTP-7”J Biol Chem2014、289:35826-35838
図1
図2
図3
【国際調査報告】