(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】レーザー発振器システムおよび光パルスを発生させる方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/13 20060101AFI20240705BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20240705BHJP
H01S 3/1106 20230101ALI20240705BHJP
H01S 3/0804 20230101ALI20240705BHJP
H01S 3/108 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01S3/13
H01S3/16
H01S3/1106
H01S3/0804
H01S3/108
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575682
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2022065388
(87)【国際公開番号】W WO2022258610
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/065370
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ルートヴィヒ‐マクシミリアン‐ユニバーシタット ミュンヘンが2022年1月21日付で、大学の図書館にて、発明者ナタリー レンケ、旧氏名ナタリー ナグルの博士論文に係る発明を公開。 2. https://edoc.ub.uni-muenchen.de/27405/(https://edoc.ub.uni-muenchen.de/27405/1/Nagl_Nathalie.pdf) ルートヴィヒ‐マクシミリアン‐ユニバーシタット ミュンヘンが2022年1月26日付で、上記アドレスのウェブサイトで公開された刊行物において、出願に係る発明について公開。
(71)【出願人】
【識別番号】594056568
【氏名又は名称】マツクス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシャフテン エー フアウ
(71)【出願人】
【識別番号】513157604
【氏名又は名称】ルートヴィヒ‐マクシミリアン‐ユニバーシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】カファイ マク
(72)【発明者】
【氏名】フェレンツ クラウス
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シュタインライトナー
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー レンケ
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AE26
5F172EE07
5F172EE13
5F172NN14
5F172NN17
5F172NQ61
5F172NR21
(57)【要約】
いくつかの実施形態は、キャビティ内レーザービーム(13)を閉じ込めるための共振器キャビティ(12)を備えるレーザー発振器システム(10)に関する。レーザー発振器システムは、さらに、共振器キャビティ(12)内に配置されたCrドープII-VI族利得媒質(14)と、及び共振器キャビティ(12)の一部を形成する結像ユニット(18)とを備える。結像ユニット(18)は、利得媒質(14)におけるキャビティ内レーザービーム(13)のスポットサイズ(100)を、共振器キャビティ(12)のキャビティ内長さ(102)からデカップリングするように適合化されている。さらに、共振器キャビティ(12)及び結像ユニット(18)は、レーザー発振器システム(10)が50MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化されている。さらなる実施形態は、レーザーシステム(30)、および少なくとも2μmの波長のスペクトル成分を有する光パルスを生成する方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振器システム(10)であって、
キャビティ内レーザービーム(13)を閉じ込めるための共振器キャビティ(12)と、
前記共振器キャビティ(12)内に配置されたCrドープII-VI族利得媒質(14)と、
前記共振器キャビティ(12)の一部を形成する結像ユニット(18)と、
を備え、
前記結像ユニット(18)は、前記利得媒質(14)における前記キャビティ内レーザービーム(13)のスポットサイズ(100)を前記共振器キャビティ(12)のキャビティ内長さ(102)からデカップリングするように適合化され、また、
前記共振器キャビティ(12)および前記結像ユニット(18)は、前記レーザー発振器システム(10)が50MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記結像ユニット(18)は調整可能なキャビティ内長さ(102)を得るように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)における前記キャビティ内レーザービーム(13)の前記スポットサイズ(100)は調整可能である、レーザー発振器システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記結像ユニット(18)はキャビティ内レーザービーム(13)を結像するための1つ以上の望遠鏡を含み、該1つ以上の望遠鏡は、随意的に1つ以上の4f望遠鏡(20)を含む、レーザー発振器システム。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器キャビティ(12)の端部ミラー(12a、12b)は前記1つ以上の望遠鏡における結像面の1つに配置されている、レーザー発振器システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器キャビティ(12)および随意的に前記結像ユニット(18)は1つ以上のマルチプルパスセルを含み、該1つ以上のマルチプルパスセルは随意的に1つ以上のヘリオット型セルを含む、レーザー発振器システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記CrドープII-VI族利得媒質(14)はZnSおよび/またはZnSeを含む、またはZnSおよび/またはZnSeから成り、該ZnSおよび/またはZnSeは随意的に多結晶である、レーザー発振器システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)は、前記キャビティ内レーザービーム(13)の中心波長におけるブリュースター角または前記キャビティ内レーザービーム(13)の法線入射角で配向している、レーザー発振器システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器(12)および前記結像ユニット(18)は、前記レーザー発振器システム(10)が40MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記レーザー発振器(10)システムは、FWHM30fs以下のパルス幅、および/または少なくとも0.75MW、また随意的に少なくとも1MWのピークパワーを有するレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記放射したレーザーパルスは、少なくとも2.0μm~2.8μmのスペクトル領域をカバーする、レーザー発振器システム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記レーザー発振器システム(10)は、カー・レンズモード・ロックド・レーザー発振器システム(10)として適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項13】
請求項12に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)は、カー・レンズモード・ロッキングのためのカー媒質の機能をもたらすように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項14】
請求項12に記載のレーザー発振器システム(10)であって、さらに、カー媒質を備え、該カー媒質(24)は前記利得媒質(14)から別個に設けられている、レーザー発振器システム。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記CrドープII-VI族利得媒質(14)は直接ダイオード励起される、レーザー発振器システム。
【請求項16】
レーザーシステム(30)であって、
少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを放射するように適合化されている請求項1~15のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)と、
1mm以下の厚さを有する非線形光学素子(28)と、
を備え、
前記レーザーシステムは、レーザー発振器システム(10)によって放射されたレーザーパルスを非線形光学素子(28)に放射して、スペクトル拡幅したレーザーパルスが少なくとも半光オクターブにわたるように、レーザーパルスのスペクトルを拡げるように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項17】
請求項18に記載レーザーシステム(30)において、前記レーザーシステムは前記レーザーパルスを前記非線形光学素子(28)上に集光するように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項18】
請求項16または17のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)において、前記レーザーシステムは、前記レーザーパルスの前記スペクトルが前記非線形光学素子(28)を伝搬した後、15fs秒以下のパルス幅をサポートできるように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)は前記入射レーザーパルスに面する表面に反射防止コーティングを含む、レーザーシステム。
【請求項20】
請求項16~19のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)は、前記レーザーパルスの中心波長において前記レーザーパルスの入射方向に対してブリュースター角で配置され、また該非線形光学素子(28)は、前記入射レーザーパルスのkベクトルが複屈折結晶の光軸に平行となるように、斜めにカットされた複屈折結晶で形成されている、レーザーシステム。
【請求項21】
請求項16~19のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)はTiO
2を含むまたはTiO
2から成る、レーザーシステム。
【請求項22】
請求項21に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)はルチル型TiO
2を含むまたはルチル型TiO
2から成る、レーザーシステム。
【請求項23】
請求項16~20のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)であって、さらに、中赤外スペクトル領域でスペクトルを拡げるための第2の非線形光学素子(36)を含み、該第2の非線形光学素子(36)は随意的に、ZnGeP2を含むまたはZnGeP2から成り、また、前記レーザーシステムは前記第2の非線形光学素子(36)を伝搬する前記レーザーパルスが非線形周波数変換を受けるように適合化されている、レーザーシステム(30)。
【請求項24】
少なくとも波長2μmのスペクトル成分を有する光パルスを発生させる方法であって、以下のステップ、すなわち、
FWHM30fs以下のパルス幅、少なくとも0.75MWのピークパワー、および中心波長1.8μm以上を有する、レーザー発振器から放射したレーザーパルスを供給するステップと、
厚さ1mm以下、かつ、波長2μmにおいて少なくとも5・10-19m
2/Wの非線形屈折率n
2を有する非線形光学素子上に、前記レーザーパルスを集光するステップと、
を備える、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記非線形光学素子は、ZnGeP
2を含むまたはZnGeP
2から成る非線形周波数変換のための非線形光学素子である、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法において、前記非線形光学素子(28)は、TiO
2を含むまたはTiO
2から成り、また随意的にルチル型TiO
2を含むまたはルチル型TiO
2からなる、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、前記非線形光学素子(28)は、前記非線形光学素子に集光される前記レーザーパルスの片側レイリー長の10倍以下の厚さを有する、方法。
【請求項28】
請求項26または27のいずれか一項に記載の方法であって、さらに、前記レーザーパルスを、ZnGeP
2を含むまたはZnGeP
2から成る第2の非線形光学素子(36)に集光するステップを備え、前記第2の非線形光学素子(36)を経て伝搬していく該レーザーパルスは非線形周波数変換を受ける、方法。
【請求項29】
請求項24~28のいずれか一項に記載の方法において、前記レーザー発振器は請求項1~15のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)である、方法。
【請求項30】
50MHz以下の繰り返し率で少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを発生させるための、請求項1~15のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)の使用。
【請求項31】
少なくとも1.5μm~3.5μmのスペクトル領域をカバーし、そして、FWHM30fs以下のパルス幅を有するスーパーコンティニューム光パルスを発生させるための、請求項16~23のいずれか一項に記載のレーザーシステム(30)の使用。
【請求項32】
少なくとも波長1μmのスペクトル成分を有するレーザーパルスの非線形スペクトル拡幅のためのバルクのルチル型TiO
2使用。
【請求項33】
請求項32に記載の使用において、前記レーザーパルスのスペクトル成分は1μm~4μmの領域の波長を有する、使用。
【請求項34】
請求項32または33のいずれか一項に記載の使用において、前記レーザーパルスのスペクトル成分は少なくとも2μmの波長を有する、使用。
【請求項35】
請求項32~34のいずれか一項に記載の使用であって、少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスでルチルを照射するステップを含む、使用。
【請求項36】
請求項32~35のいずれか一項に記載の使用において、前記レーザーパルスは2μm~3μmの領域の波長を有する、使用。
【請求項37】
請求項32~36のいずれか一項に記載の使用であって、多重波混合用途を含むまたはから成る、少なくとも1つの非線形光学用途を含む、使用。
【請求項38】
請求項32~37のいずれか一項に記載の使用において、前記ルチルの使用は、前記非線形光学用途のためにルチルを含むまたはルチルから成る非線形光学素子(28)を使用するステップを含む、使用。
【請求項39】
請求項38に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は1mm以下の厚さを有する、使用。
【請求項40】
請求項38または39のいずれか一項に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は前記非線形光学素子に集光されるレーザーパルスの片側レイリー長の10倍以下の厚さを有する、使用。
【請求項41】
請求項38~40のいずれか一項に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は100μm以上の厚さを有する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザー発振器システム、レーザーシステム、少なくとも2μmの波長のスペクトル成分を有する光パルスを発生させる方法、50MHz以下の繰り返し率(repetition rate)で少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを発生させるためのレーザー発振器システムの使用、およびレーザーパルスの非線形スペクトル拡幅のためのルチル型TiO2の使用に関する。従って、本実施形態は、レーザー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高輝度および高光子束を有する中赤外(MIR:mid-infrared)領域のフェムト秒光源は、周波数領域および時間領域の両方で、分光用途等、様々な用途に求められている。多くの分子、特に生体分子は、このスペクトル領域で特徴的なスペクトル吸収痕跡を示すため、MIRスペクトル領域は特に興味深い。さらに、非線形光学プロセスの研究および利用には、フェムト秒のパルス幅を有するこのようなMIRレーザーパルスが有益であり、同時に、高いレベルの測定感度を達成するために、発生するパルスの振幅揺らぎ及びタイミング揺らぎ(ノイズ)が小さい。
【0003】
このような用途では、およそ0.75MW以上のピークパワーを有する数サイクルパルスは、非線形周波数変換によって、MIRだけでなく紫外線スペクトル領域までスペクトル範囲を拡大することができる(非特許文献1を参照)。このような光パルスが数MHzの繰り返し率で利用できれば、分子科学だけでなくナノ科学においても数多くの新しい用途の探求が可能になる。
【0004】
直接ダイオード励起モードロックレーザー発振器システムは、フェムト秒レーザーパルスの発生に一般的に使用されている。他の固体(例えばファイバー)レーザーによって励起されるモードロックレーザーと比較して、直接ダイオード励起超短パルスレーザー発振器は、例えば特許文献1(US 8976821 B2、“Directly diode-pumped, Kerr-lens mode-locked, few-cycle Cr:ZnSe oscillator,” Opt. Express 27, 24445 (2019))、および非特許文献2に記載されているように、低い強度ノイズを示す数サイクルパルスを効率的に発生させるのに特に適している。
【0005】
しかし、このようなシステムでは100kWを超えるピークパワーレベルに達するのがやっとで、効果的な周波数変換またはその他の用途に光学非線形性を利用するには不十分である。数MHzの繰り返し率でMWレベルのピークパワーは、このような発振器から放射される全パルス列を外部レーザー増幅器で外部増幅することでしか達成できない。外部増幅には、一般的に、ノイズが加わり、達成可能な測定感度が低下するという欠点がある。
【0006】
非特許文献3では、波長800nmのチタンサファイアレーザーを用いた300nmの薄膜ルチルの使用について記載されており、このルチルの非線形屈折率は、2.7×10-17m2/Wである。
【0007】
非特許文献4では、波長約800nmのチタンサファイアレーザーで励起される導波路の製造におけるルチル型TiO2の使用について記載されている。
【0008】
非特許文献5では、波長1.550nmで励起される導波路の製造におけるTiO2の使用について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S. Vasilyev et al. Octave-spanning Cr:ZnS femtosecond laser with intrinsic nonlinear interferometry, Optica 6, 126-127 (2019
【非特許文献2】N. Nagl, et al., “Directly diode-pumped few-optical-cycle Cr:ZnS laser at 800 mW of average power,” CLEO, paper SF3H.5 (2020)
【非特許文献3】Long et al.: "Third-order optical nonlinearities in anatase and rutile TIO2 thin films", THIN SOLID FILMS, ELSEVIER, AMSTERDAM, NL, vol. 517, no. 19, 3 August 2009 (2009-08-03), pages 5601-5604
【非特許文献4】Koichi et al.: "Nonlinear optical waveguides with rutile TiO", OXIDE-BASED MATERIALS AND DEVICES II, SPIE, 1000 20TH ST. BELLINGHAM WA 98225-6705 USA, vol. 7940, no. 1, 10 February 2011 (2011-02-10), pages 1-7
【非特許文献5】Manon et al.: "Titanium Dioxide Waveguides for Supercontinuum Generation and Optical Transmissions in the Near- and Mid-Infrared", 2019 21ST INTERNATIONAL CONFERENCE ON TRANSPARENT OPTICAL NETWORKS (ICTON), IEEE, 9 July 2019 (2019-07-09), pages 1-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、高い繰り返し率かつ、低い技術的複雑性および製造コストで、少なくとも数100kWのピークパワーを有する中赤外スペクトル領域のフェムト秒パルスを発生させる解決策を提供することが望まれる。低い技術的複雑性および低い製造コストで、MIR領域で数サイクル光パルスを発生させるための効率的なスペクトル拡幅を実現するための解決策を提供することがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
解決策は、特許請求の範囲独立請求項の特徴を有する実施形態によって提供される。随意的な実施形態は、従属請求項および明細書の要旨である。
【0013】
一実施形態は、キャビティ内レーザービーム(intra-cavity laser beam)を閉じ込める共振器キャビティ(resonator cavity)と、共振器キャビティ内に配置されたCrドープII-VI族利得媒質とを含む、レーザー発振器システムに関する。レーザー発振器システムは、さらに、共振器キャビティの一部を形成する結像ユニットを含み、該結像ユニットは、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポットサイズを共振器キャビティのキャビティ内長さからデカップリングするように適合化される。共振器キャビティおよび結像ユニットは、レーザー発振器システムが50MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化される。
【0014】
別の実施形態は、実施形態によるレーザー発振器システムを備えるレーザーシステムに関し、該レーザー発振器システムは、少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを放射するように適合化される。レーザーシステムはさらに、1mm以下の厚さを有する非線形光学素子を含み、該レーザーシステムは、レーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスを非線形光学素子に照射して、スペクトルが拡大されたレーザーパルスが少なくとも半光オクターブに及ぶように、レーザーパルスのスペクトルを拡大するように適合化される。
【0015】
さらに別の実施形態は、少なくとも2μmの波長のスペクトル成分を有する光パルスを発生させる方法に関する。本方法は、FWHMが30fs以下のパルス幅、少なくとも0.75MWのピークパワー、および1.8μm以上の中心波長を有するレーザー発振器によって放射されるレーザーパルスを供給するステップを含む。本方法はさらに、厚さ1mm以下、および波長2μmにおける非線形屈折率n2が少なくとも5・10-19m2/Wである非線形光学素子にレーザーパルスを集光するステップを含む。
【0016】
さらに別の実施形態は、繰り返し率50MHz以下で少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを発生させるための実施形態によるレーザー発振器システムの使用に関する。
【0017】
さらに別の実施形態は、少なくとも波長1μm、随意的に少なくとも波長2μmのスペクトル成分を有するレーザーパルスの非線形スペクトル拡幅のためのバルクのルチル型TiO2の使用に関する。スペクトル成分は、1μmから4μmの波長範囲であってもよく、随意的に2μmから3μmの波長範囲であってもよい。
【0018】
レーザー発振器システムは、共振器キャビティにおける利得媒質内でレーザー活性を付与するレーザー発振器である。レーザー発振器システムは、共振器キャビティから光を取り出した後の、レーザーパルスの外部増幅を含まない。レーザー発振器システムは、ポンプレーザーなどの外部励起手段を含んでいてもよく、該ポンプレーザーは、レーザー発振器システムの一部であってもよく、または、レーザー発振器システムとは別に設けられてもよい。例えば、レーザー発振器システムは、発光ダイオードおよび/またはレーザーダイオードによってもたらされる放射によって直接ダイオード励起されてもよい。
【0019】
キャビティ内レーザービームは、共振器キャビティ内に閉じ込められたレーザービームである。キャビティ内レーザービームは、レーザーキャビティ内で複数往復するよう維持され、ここで、キャビティ内レーザービームの僅かな部分が、共振器キャビティにおける一方の共振器ミラーによって外部に取り出される。
【0020】
CrドープII-VI族利得媒質は、クロム原子がドープされたII-VI族バルク媒質を含む。II-VI族媒質は、周期表による第2主族および第6主族の元素で構成される。II-VI族媒質は、クロムがドープされたII-VI族結晶を含んでもよい。特に、II-VI族材料は、ZnSおよび/またはZnSeを含んでもよい。しかしながら、他の実施形態によれば、異なるII-VI族材料を使用することができる。CrドープII-VI族利得媒質は、MIRスペクトル領域におけるフェムト秒レーザーパルスの発生に適した特性を提供する。しかしながら、スペクトル的にフェムト秒パルス幅に対応しているMIRスペクトル領域のレーザーパルスの発生に適している限り、代替的または追加的に、1つまたは複数の他の利得媒質を使用してもよい。
【0021】
結像ユニットは、共振器キャビティの長さ(キャビティ内長さとも称される)を延長し、これによってレーザー発振器システムによって放射されるレーザーパルスの繰り返し率を低減するための光学的構成である。結像ユニットは、キャビティ内レーザービームの横モードおよび/またはビームプロファイルを少なくともある程度維持するように、キャビティ内レーザービームを結像するように適合化させることができる。結像ユニットは、1つ以上の光学レンズなどの透過型光学素子、並びに/又は、平面ミラー及び/若しくは曲面ミラーなどの反射型光学素子を含んでもよい。結像ユニットは、共振器キャビティに一体化されてもよい。いくつかの実施形態において、結像ユニットは、共振器キャビティの端部ミラーを少なくとも1つ含んでよい。
【0022】
繰り返し率が50MHz以下のレーザー発振器システムとは、レーザー発振器システムがパルスモード、例えばモードロック動作で動作していることを意味し、レーザー発振器システムから放射されるレーザーパルスの周波数は50MHz以下である。従って、連続して放射される2つのレーザーパルス間の時間距離は、約20ns以上である。
【0023】
レーザー発振器システムを備えるレーザーシステムは、さらに、放射されたレーザーパルスを変化させるための他の手段を含んでいてもよい。例えば、レーザーシステムは、レーザーパルスのスペクトルを拡げるための他の手段を含んでいてもよい。レーザーシステムはさらに、レーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスを一層増幅するためのレーザー増幅器および/または光パラメトリック増幅器を含んでもよい。
【0024】
レーザーパルスのピークパワーとは、レーザーパルスが最大電界強度を持つ時点で達成されるパワーのことである。言い換えれば、ピークパワーはレーザーパルスの最大パワーである。レーザーパルスが0.75MW以上のピークパワーを有するとは、レーザーパルスが、時間領域の電界の最大値において、0.75MWのパワーに相当する電界強度を有することを意味する。
【0025】
非線形光学素子の厚さが1mm以下とは、入射レーザーパルスの伝搬方向と平行な方向における非線形光学素子の空間的な拡がりが1mm以下であることを意味する。
【0026】
少なくとも半オクターブに及ぶスペクトルが拡大したレーザーパルスとは、レーザーパルスが、特定の第1の周波数から、該第1の周波数の少なくとも1.5倍の周波数を有する第2の周波数に拡がる周波数領域の範囲をカバーすることを意味する。スペクトル範囲が拡がる閾値パワーとは、スペクトルパワー分布が最大パワーを有する波長または周波数と比較して30dB減衰するそれぞれの波長または周波数のことである。
【0027】
レーザーパルス幅は、一般的に使用されるパラメーターFWHMを用いて示され、これは、半値全幅(full width at half maximum)を意味する。
【0028】
ルチル型TiO2の使用は、ルチル型結晶構造を有するバルクのTiO2媒質が使用されることを意味する。明確に指定された結晶構造を有さないTiO2の使用は、アナターゼ、ブルッカイト、ルチルなど既存の任意な結晶構造のTiO2の使用を含んでよい。しかしながら、ルチル型TiO2を指定する実施形態において、TiO2のルチル型結晶構造のみがそれぞれの目的のために使用される。ルチル型TiO2の使用は、バルクのルチル型TiO2を使用することを含み得る、またはから成り得る。この意味での「バルク」とは、ルチル型TiO2を含むまたはルチル型TiO2から成る導波路構造を使用する代わりに、ルチル型TiO2のバルク片を非線形光学素子として使用することを意味する。
【0029】
いくつかの実施形態は、レーザー発振器システムから直接、中赤外スペクトル領域の高ピークパワー数サイクルレーザーパルスを発生させることを可能にするという利点を提供する。言い換えれば、いくつかの実施形態は、レーザー発振器システムに加えて、追加の外部レーザー増幅器システムをさらに必要とすることなく、中赤外スペクトル領域の高ピークパワー数サイクルレーザーパルスを発生させることができるという利点を提供する。このような高ピークパワーレーザーパルスを発振器システムから直接発生させることにより、コンパクトなシステムを実現することができ、このようなレーザーパルス光源を、分光装置および/またはセキュリティ装置および/または医療機器および/または機械加工ツールなど、他の様々なシステムに組み込むことが容易になり得る。
【0030】
さらに、いくつかの実施形態において、このようなレーザー発振器システムの技術的複雑さを、レーザー増幅器システムを含む従来のレーザーシステムよりも大幅に低いレベルに抑えることができるという利点を提供する。さらに、いくつかの実施形態は、レーザー増幅器システムを含む従来のレーザーパルス光源と比較して、レーザーパルス光源がより低い製造コストで提供され得るという利点を提供する。
【0031】
共振器キャビティのキャビティ内長さを長くして、結果的にレーザー発振器システムから発振されるレーザーパルスの繰り返し率を下げる方が有利である。これにより、高い繰り返し率を有するレーザー発振器システムよりも、個々のパルスの高パルスエネルギーおよびそれに伴う高ピークパワーを達成することができる。
【0032】
この利点および実施形態の実現は本発明者らによって理解されたが、当該分野では従来、CrドープII-VI族利得媒質を使用するレーザー発振器システムにおいて高ピークパワーを達成することは、高い非線形屈折率に起因して発生する技術的不利または問題をもたらすと信じられていた。例えば、ZnSeの非線形屈折率n2は、波長2、3μmで約1・10―14cm2/Wである。高い非線形屈折率のため、Cr:ZnSおよびCr:ZnSeレーザー利得媒質では、同程度の発振パラメーターを持つチタンサファイアレーザー利得媒質と比較して、空間的および時間的な寄生効果、それゆれカー・レンズモード・ロッキングにおける不安定性が、低出力レベルで既に発生すると予想された。
【0033】
従って、従来、CrドープII-VI族レーザーでは、(i)共振器のキャビティ内長さが長いほど、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポット径が小さくなり、強度が増大すること、および(ii)キャビティ内長さが長いほど、繰り返し率が低いためピークパワーが高くなり、強度がさらに増すことが障害と考えられていた。これらの障害は、従来、非線形屈折率が高いために、CrドープII-VI族レーザー発振器から高ピークパワーのレーザーパルスを発生させる妨げになると考えられていた。従って、本発明者らが、CrドープII-VI族レーザー発振器システムのキャビティ内長さを延長するための結像ユニットを用いることにより、従来、高い非線形屈折率に起因すると考えられていた障害を回避しつつ、キャビティ内長さを増加させ、それに応じて繰り返し率を低減させることができることを見出したことは驚くべきことである。CrドープII-VI族利得媒質と結像ユニットの組み合わせは、キャビティ内長さのスポットサイズをデカップリングすることを可能にし、従って、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポットサイズを大幅に縮小することなく、繰り返し率を低減することを可能にする。従って、結像ユニットによってキャビティ内長さが長くなり、その結果、レーザーパルスのピークパワーが高くなったとしても、利得媒質における非線形効果および関連する障害は回避または許容可能なレベルまで低減することができ、0.75MW以上のピーク出力を有するレーザーパルスを発生させるための、CrドープII-VI族利得媒質に基づくレーザー発振器システムを実現することができる。
【0034】
バルクのルチル型TiO2を使用することで、バルク媒質においてスーパーコンティニュームのようなスペクトル拡幅を実現することができ、このためには、自己収束、自己位相変調、物質分散および多光子吸収によるプラズマ生成の間のバランスの取れた相互作用が常に必要となる。特に、バルクのルチル型TiO2を使用することで、バルク媒質中で2μm~3μm、随意的に1μm~4μmの波長領域でレーザーパルスのスペクトル拡幅を達成できるため、長い伝搬距離にわたってレーザーパルスを小さな半径に閉じ込める導波路構造を提供する必要がない。その代わりに、バルク材料自体がスペクトル拡幅のための分散を定める。本開示によれば、バルクのルチル型TiO2におけるスペクトル拡幅は、スペクトル拡幅後のレーザーパルスの使用を容易にするビームプロファイルの高品質を維持しながら、1mm以下の相互作用長で達成される。良好なビームプロファイルを維持することは、スペクトル拡幅後のレーザーパルスの集光に有利である。波長1μm~4μm、特に2μm~3μmで、nJのパルスエネルギーを持つレーザーパルスをバルク材料内で効率よく拡大させるには、最適な群遅延および高次分散、高い損傷しきい値および高バンドギャップなどの材料特性が強く要求される。
【0035】
本発明者らが発見したように、ルチル型TiO2は強いスペクトル拡幅だけでなく、幾つかの他の材料には欠けていることがあり得る、長時間の安定性ももたらす。類似の分散特性を持つ材料であっても、本発明者らはその拡がる挙動に本質的な違いがあることを発見し、ルチル型TiO2が1μm~4μm、特に2μm~3μmのスペクトル領域において非常に有益なスペクトル拡幅性能を発揮することを見出した。
【0036】
ルチルの高い非線形屈折率、大きな光バンドギャップ、および2、3μm付近での光分散のゼロクロスというユニークな組み合わせにより、CrドープII-VI族レーザーでnJレベルのパルスエネルギーのレーザーパルスを、強い残留多光子吸収なしにスペクトルスーパーコンティニュームとして発生させることができる。さらに、厚さ1mm以下の薄いルチル板を使用することで、ガウス分布に近いビームプロファイルを保つことができ、レーザービームの高い空間品質を表す。しかし、該薄いルチル板は、少なくとも100ミクロンの最小厚さを有するのがよく、この厚さは、非線形性が蓄積するのに十分な厚さであり、その結果、スペクトル拡幅をもたらす。わずか数100ナノメートルの薄いルチル層は、CrドープII-VI族レーザー発振器と組み合わせても、実質的なスペクトル拡幅にはつながらないだろう。
【0037】
スペクトル拡幅後のビームプロファイルの特性が、レーザーパルスの意図された用途にとって本質的に重要でない場合、例えば、1mm~5mmの間の厚さを有し、より大きな非線形相互作用、したがって、より高いスペクトル拡幅を提供するような、より厚いバルクのルチル型TiO2を使用してもよい。しかし、バルクのルチル型TiO2の厚さを1mm以下に保つことで、ビームプロファイルの品質を維持しながら、適切なスペクトル拡幅を得ることができる。
【0038】
いくつかの随意的な実施形態において、結像ユニットは、可変キャビティ内長さを得るように適合化される。キャビティ内長さは、所定の範囲で可変であってもよい。例えば、結像ユニットは、1つ以上の望遠鏡を含んでもよく、キャビティ内長さをチューニングするステップは、1つ以上の望遠鏡を含むミラーおよび/またはレンズの少なくとも1つ又はいくつかを動かすステップを含んでもよい。結像ユニットは、キャビティ長を連続的にチューニングすること、および/または共振器長を所定のステップサイズごとにチューニングすることを可能にすることができる。キャビティ内長さをチューニングすることで、レーザー発振器システムが今まで通りモードロック動作をすることができる。特に、キャビティ内長さのチューニングは、チューニングにより変化したキャビティ内長さに対してキャビティ内レーザービームのスポットサイズが変化しないように実施することができる。他の随意的な実施形態によれば、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポットサイズは、共振器キャビティのキャビティ内長さをチューニングすることに応じて僅かに変化することがある。例えば、キャビティ内長さを約10%変化させると、キャビティ内レーザービームのスポットサイズは約10%変化する。共振器キャビティのキャビティ内長さをチューニングすることは、共振器キャビティおよび/または結像ユニットの一方又は双方の光学素子を交換および/または変更する必要なく実施することができる。他の実施形態によれば、キャビティ内長さをチューニングするには、結像ユニットおよび/または共振器の光学素子の一方又は双方を交換および/または変更する必要がある場合がある。キャビティ内長さのチューナビリティは、対応する範囲においてレーザー発振器システムの繰返し速度をチューニングする利点を提供し得る。このように、キャビティ内長さをチューニングすることで、所望の用途に対してレーザー発振器システムの繰り返し率を調整する性能を提供することができる。
【0039】
いくつかの随意的な実施形態において、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポットサイズは調整可能である。これにより、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームの強度、ひいては利得、および/または利得媒質の非線形屈折率に由来する効果の発生または回避を調整することができる。例えば,共振器キャビティは,キャビティ内レーザービームを利得媒質に集光するための追加の集光素子を含んでいてもよい。これらの追加集光素子を調整することで、利得媒質におけるスポットサイズを調整することができる。
【0040】
いくつかの随意的な実施形態において、結像ユニットは、キャビティ内レーザービームを結像するための1つ以上の望遠鏡(テレスコープ:telescopes)を備え、該1つ以上の望遠鏡(テレスコープ)は、随意的に、1つ以上の4f-望遠鏡を含む。これにより、共振器キャビティの横モード(transversal mode)、特に結像ユニット外の共振器キャビティの部分におけるキャビティ内レーザービームのビーム径を維持することができる。さらに、これにより、利得媒質においてキャビティ内レーザービームのスポットサイズを維持することが可能となり、利得媒質においてスポットサイズからキャビティ内長さをデカップリングすることが容易になる。いくつかの実施形態において、共振器キャビティの端部ミラーは、1つ以上の望遠鏡における結像面のうちの1つに配置される。これによりさらに、キャビティ内レーザービームの適切な共振器モードを維持することが容易になる。
【0041】
いくつかの随意的な実施形態において、共振器キャビティおよび随意的に結像ユニットは、1つ以上のマルチパスセルを備え、該1つ以上のマルチパスセルは、随意的に1つ以上のヘリオット型セルを含む。言い換えると、結像ユニットは、共振器キャビティのキャビティ内長さを長くするためにマルチパスセルを含んでもよい。マルチパスセルは、平面ミラーおよび/またはカーブミラーなどの反射光学素子に基づいてもよい。この場合、共振器キャビティ内の分散を低く抑えることができるという利点がある。さらに、損傷しきい値を達成できるという利点もある。マルチパスセルを含む結像ユニットを使用することで、キャビティ内長さを長くすることが容易になる。代替的にまたは付加的に、共振器キャビティ内で各半周回する間に、キャビティ内レーザービームが利得媒質を複数回通過するよう、共振器キャビティはマルチプルパスセルを含んでもよい。これによりさらに繰り返し率を下げ、1往復あたりのレーザー利得を増やすことができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、CrドープII-VI族利得媒質は、ZnSおよび/またはZnSeを含む、またはZnSおよび/またはZnSeから成る。II-VI族利得媒質は、多結晶ZnSeおよび/またはZnSとして提供されてもよい。CrドープZnSおよびCrドープZnSe利得媒質は、レーザー利得媒質として広く使用され、適切な品質で豊富に入手可能であるため、好ましい。いくつかの実施形態において、利得媒質はキャビティ内レーザービームの中心波長におけるブリュースター角、または利得媒質が反射防止コーティングで随意的に被覆されている場合にはキャビティ内レーザービームの法線入射角で配向される。これにより、利得媒質から外れたキャビティ内レーザービームからの望ましくない反射による損失を低減することができる。
【0043】
いくつかの随意的な実施形態において、共振器キャビティおよび結像ユニットは、レーザー発振器システムが40MHz以下、随意的に30MHz以下、随意的に20MHz以下、及び随意的に10MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合されている。これによりさらに、パルスエネルギー、及びそれに伴う放射されるレーザーパルスの達成可能なピークパワーを増加させることができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、レーザー発振器システムは、FWHM30fs以下のパルス幅を有するレーザーパルスを放射するように適合されている。放射されたレーザーパルスは、少なくとも0.75MW、随意的に少なくとも1MWのピークパワーを有してもよい。これらのレーザーパルスは、スペクトル拡幅および/または時間分解分光用途など、多種多様な非線形光学用途に適している場合がある。
【0045】
いくつかの随意的な実施形態において、放射されたレーザーパルスは少なくとも2.0μm~2.8μmのスペクトル領域をカバーする。スペクトル強度分布が、スペクトルパワー分布の最大値と比較して30dB減衰する波長、すなわちスペクトル強度が最大値の1.000倍低くなる波長は、スペクトルが拡がるカットオフ波長とみなされる。2.0μm~2.8μmまで拡がるスペクトルは、30fsパルスの発生をサポートする。
【0046】
いくつかの随意的な実施形態において、レーザー発振器システムは、カー・レンズモード・ロックド・レーザー発振器システムとして適合化される。これにより、レーザー発振器システムからフェムト秒レーザーパルスを効率的に発生させることができる。いくつかの随意的な実施形態において、利得媒質は、カー・レンズモード・ロッキングのためのカー媒質の機能をもたらすように適合化される。言い換えれば、利得媒質は、レーザー媒質の機能、およびさらにカー媒質の機能をもたらすことができる。代案として、レーザー発振器システムは、利得媒質とは別個に設けられるカー媒質を含むことができる。これにより、利得媒質におけるキャビティ内レーザービームのスポットサイズを、カー媒質におけるスポットサイズから独立して調整することができるため、レーザー活性とカー・レンズモード・ロッキングとを分離することができる。
【0047】
いくつかの随意的な実施形態において、CrドープII-VI族利得媒質は直接ダイオード励起される。利得媒質は、発光ダイオードおよび/またはダイオードレーザーによってもたらされる光放射を用いて直接ダイオード励起されてもよい。直接ダイオード励起は、他の励起技術と比較して、より低い振幅ノイズが達成され得るという利点を提供し、したがって、より安定したレーザー出力を提供し得、これは、レーザーパルスに基づく用途に対してより高い測定感度をもたらし得る。さらに、直接ダイオード励起レーザー発振器システムは、ファイバーレーザーによって励起されるレーザー発振器システムよりもコンパクトな方法で実現することができる。加えて、レーザー発振器を直接励起するためのレーザーダイオードは、多くの場合、ファイバーレーザーよりも低い製造コストで提供されるため、コストに敏感な用途での使用が可能になり得る。さらに、直接ダイオード励起レーザー発振器は、ウォールプラグ効率が高く、消費電力を削減できる可能性がある。
【0048】
いくつかの随意的な実施形態において、レーザーシステムは、レーザーパルスを非線形光学素子に集光するように適合化される。これにより、非線形光学素子内で高い強度を達成し、従って、非線形光学素子内で発生する非線形光学効果を効率的に利用することができる。特に、レーザーパルスを非線形光学素子に集光することで、所望の非線形光学効果を達成しながら非線形光学素子の厚さを薄くすることができ、低いビーム品質係数M2、随意的に1.2に近いビーム品質係数を有するなど、高い品質を有するビームプロファイルを維持するのに有益となり得る。
【0049】
いくつかの随意的な実施形態において、レーザーシステムは、レーザーパルスのスペクトルが、非線形光学素子を伝搬した後、FWHM15fs以下のパルス幅に対応できるように適合される。言い換えれば、スペクトルは、スペクトルパワー分布のフーリエ変換が15fs以下のパルス幅を有するレーザーパルスの時間的パワー分布に対応するように、非線形光学素子におけるスペクトル拡幅後に適合化されてよい。15fs以下のパルス幅を有するレーザーパルスを供給するためには、分散を制御することが有利である。分散の事前補償のため、非線形光学素子の後および/または非線形光学素子の前に、レーザーパルスのパルス圧縮を適用して、15fs以下のパルス幅を有するレーザーパルスを得ることができる。
【0050】
いくつかの随意的な実施形態において、非線形光学素子は、入射レーザーパルスに面する表面に反射防止コーティングを備える。これにより、非線形光学素子の前面から外れた、望ましくない反射に起因する光損失を低減し得る。
【0051】
いくつかの随意的な実施形態において、非線形光学素子は、レーザーパルスの中心波長において、レーザーパルスの入射方向に対してブリュースター角で配置される。非線形光学素子は、入射レーザーパルスのkベクトルが複屈折結晶の光軸に平行になるように、斜めにカットされた複屈折結晶で形成されてもよい。したがって、非線形光学素子は、両方の要件を満たすのに適した特定の角度でカットされた結晶を含んでもよいし、またはから成ってもよい。
【0052】
いくつかの随意的な実施形態において、非線形光学素子は、TiO2を含むまたはTiO2から成る。TiO2を含むまたはTiO2から成る非線形光学素子は、約10~14cm2/W(ルチル結晶構造の場合)の高い非線形屈折率n2をもたらし、中赤外スペクトル領域のレーザーパルスに適した透明性を提供する。特に、非線形光学素子は、したがって、ルチルを含むまたはルチルから成ってもよい。加えて、ルチル型TiO2は、2~3μmのスペクトル波長領域および随意的に1~4μmのスペクトル波長領域において、スーパーコンティニュームのようなオクターブ幅のスペクトル拡幅に対して有益な、中赤外領域における分散ゼロクロスを特徴とする。これは、約1.8μm~2.6μmの範囲における中心波長を有するCrドープII-VI族レーザー発振器システムによって放射されるレーザーパルスのスペクトルを、より短い波長、すなわちレーザー発振器システムによって放射されるレーザーパルスの基本波長スペクトルより下のスペクトル領域を拡幅するのに有利な特性を提供し得る。例えば、TiO2、および特にルチルをベースとする非線形光学素子は、レーザーパルスを波長約1.2μmにまで(スペクトルパワー分布の最大値に対して30dB減衰)スペクトルを拡げるために使用することができる。加えて、TiO2、および特にルチルをベースとする非線形光学素子は、さらにMIRスペクトル領域の長い波長に向かってスペクトルを拡げることができる。
【0053】
いくつかの随意的な実施形態において、レーザーシステムはさらに、中赤外スペクトル領域においてスペクトル拡幅する第2の非線形光学素子を含む。第2の非線形光学素子は、随意的に、ZnGeP2(ZGPとも呼ばれる)を含む、またはZnGeP2から成る。レーザーシステムは、第2の非線形光学素子を伝搬するレーザーパルスが非線形周波数変換を受けるように適合化されるのがよい。いくつかの随意的な実施形態によれば、非線形周波数変換は、パルス内差周波発生を含み得る。MIRスペクトル領域でスペクトル拡幅のために第2の非線形光学素子を使用することにより、長波長側に向けたスペクトル拡幅の最適化とは別に、短波長側に向けたスペクトル拡幅の最適化を行うことが可能になる。これは、スペクトル拡幅に関するさらなる自由度を提供し得る。非線形光学素子および第2の非線形光学素子は、レーザーパルスが第2の非線形光学素子を伝搬する前に非線形光学素子を伝搬するように、カスケード状に配置されてもよい。しかしながら、非線形光学素子の配置順序は逆であってもよい。いくつかの随意的な実施形態において、レーザーパルスは、非線形光学素子を伝搬した後、第2の非線形光学素子を伝搬する前に圧縮される。代替的にまたは付加的に、パルスは、第2の非線形光学素子を伝搬した後に圧縮されてもよい。例えば、レーザーシステムは、回折格子および/またはプリズムおよび/またはグリズムおよび/またはチャープミラーなどの1つ以上のレーザーパルス圧縮要素を含んでよい。いくつかの実施形態において、非線形光学素子はTiO2、特にルチルから形成されてもよく、第2の非線形光学素子はZGPから形成されてもよい。したがって、いくつかの実施形態において、少なくとも2μmの波長のスペクトル成分を有する光パルスを発生させるための方法は、さらに、ZnGeP2を含むまたはZnGeP2から成る第2の非線形光学素子にレーザーパルスを集光することを含み、第2の非線形光学素子を伝搬する該レーザーパルスは、非線形周波数変換を受ける。本方法は、提示された随意的な実施形態の1つによるレーザー発振器システムを適用することができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、レーザーシステムは、少なくとも1.5μm~3.5μmのスペクトル領域をカバーし、FWHM15fs以下のパルス幅を有するスーパーコンティニューム光パルスを発生させるために使用することができる。
【0055】
一実施形態は、非線形スペクトル拡幅のためのルチル型TiO2の使用に関する。いくつかの実施形態において、この使用は、少なくとも0.75MWのピークパワーおよび少なくとも波長2μmのスペクトル成分を有するレーザーパルスをルチルに照射するステップを含む。これにより、外部増幅を必要とすることなく、レーザー発振器システムから放射されるレーザーパルスに基づいて、MIRスペクトル領域で数サイクルレーザーパルスを提供することが可能になる。
【0056】
いくつかの随意的な実施形態において、非線形光学用途のためのルチル型TiO2の使用は、多重波混合用途を含む、または多重波混合用途から成る。さらに、いくつかの随意的な実施形態において、ルチルの使用は、非線形光学用途にルチル型の非線形光学素子を使用するステップを含む。
【0057】
いくつかの随意的な実施形態において、TiO2は、特に短波長へのCrドープII-VI族レーザー発振器システムによって放射されるレーザーパルスのスペクトル拡幅のために使用される。従来、TiO2は、導波路および、MIRとは異なるスペクトル領域においてのみ、スペクトル拡幅およびスーパーコンティニューム発生に使用されてきた(例えば、"Spectral broadening in anatase titanium dioxide waveguides at telecommunication and near-visible wavelengths," Opt. Express 21, 18582-18591 (2013)およびK. Hammani et al., “Octave Spanning Supercontinuum in Titanium Dioxide Waveguides,” Applied Sciences 8, 543 (2018) を参照)。
【0058】
これまでのところ、TiO2、特にルチルは、CrドープII-VI族レーザー発振器から放射するパルスのスペクトル拡幅のために使用されていない。理由の1つは、特にフェムト秒CrドープII-VI族発振器の1MWレベルのピークパワーに対して、薄い非線形媒質で1オクターブを超える強いスペクトル拡幅を得るためには、媒質が非常に大きな非線形屈折率n2を持つ必要があるためかもしれない。しかし、n2が大きいと通常バンドギャップが小さくなり、非線形光学素子でスポットサイズが小さいレーザービームには、強い多光子吸収(MPA)が生じる。MPAは拡大能力を著しく低下させ、極端な場合には結晶の不可逆的な劣化にさえつながる。加えて、ルチル型TiO2の分散は、CrドープII-VI族発振器の対応するスペクトル領域でゼロクロスを特徴とする。したがって、自己圧縮およびそれに伴う自己収束によって、スペクトル拡幅がさらに改善される可能性がある。しかしながら、本発明者らは、TiO2、および特にルチルが、波長2μm付近のスペクトル領域でレーザーパルスのスペクトルを拡幅するための薄い非線形光学素子に適した特性を有することを見出した。この点で、TiO2は、約10-14cm2/Wという大きなn2値および約3.2eVの大きなバンドギャップを併せ持つ、かなり珍しい材料であり、波長2μm付近のスペクトル領域において、最小のMPAでスペクトル拡幅するのに適した材料となっている。
【0059】
さらに、非線形スペクトル拡幅のためにルチル型TiO2を、特に1mm以下の厚さを有する非線形光学素子として使用することにより、MIRスペクトル領域におけるフェムト秒パルスの実質的なスペクトル拡幅を達成することができる。さらに、ビームが高い空間的および/または時間的品質を維持できるという利点をもたらし、これはスペクトルを拡大したレーザーパルスのさらなる利用、および特にその集光性において有益である。
【0060】
非線形光学素子としてバルクのルチル型TiO2を使用することは、入射ビームのポインティングの微小な変動に対して鈍感であるという利点をもたらし、その結果、空間閉じ込めに基づく光導波路でしばしば観察されるような、透過率およびスペクトル拡幅の安定性の大きな変動は生じない。
【0061】
別の態様ではレーザーシステムが設けられ、該レーザーシステムは、少なくとも0.75MWのピークパワーを有し、放射されたレーザー放射光は中心波長が1μm~4μmの範囲、随意的に2μm~3μmの範囲内である、レーザーパルスを放射するように適合されたレーザー発振器システムを備える。レーザーシステムはさらに、1mm以下の厚さを有する非線形光学素子を含む。レーザーシステムは、レーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスを非線形光学素子に照射して、スペクトル的に拡幅したレーザーパルスが少なくとも半光オクターブに及ぶように、レーザーパルスをスペクトル的に拡幅するように適合化される。非線形光学素子は、TiO2を含んでもよく、またはから成ってもよいし、特にルチル型TiO2を含んでも、またはから成ってもよい。レーザー発振器システムは、ツリウムレーザー、すなわちツリウムに基づく利得媒質を有するレーザーとして適合させてもよい。
【0062】
非線形光学素子は、非線形光学素子に集光されるレーザーパルスの片側レイリー長のほぼ10倍以下の厚さを有してもよい。この文脈における「ほぼ(Essentially)」とは、厚さと片側レイリー長の10の倍数との間の偏差が非線形素子の厚さの10%未満であることを意味する。
【0063】
上述した特徴ならびに以下の説明および図における特徴は、明示的に開示された実施形態およびその組み合わせにおいて開示されるだけでなく、他の技術的に実現可能な組み合わせならびに単独の特徴も本開示に含まれることが当業者には理解される。以下では、本発明を説明された実施形態に限定することなく、いくつかの随意的な実施形態および具体例を説明のために図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
以下の図面を参照して、さらなる随意的な実施形態を説明する。
【
図1】第1の随意的な実施形態によるレーザー発振器システムの概略図である。
【
図2】第2の随意的な実施形態によるレーザー発振器システムの概略図である。
【
図3】レーザーのスペクトル拡幅のための、随意的な実施形態による非線形光学素子の使用を概略的に示した図である。
【
図4】スペクトル拡幅の前後における、波長に対する正規化されたスペクトル強度を示した図表である。
【
図5】随意的な実施形態によるレーザーシステムの図である。
【
図6】別の随意的な実施形態によるレーザーシステムの図である。
【
図7】発生させたMIR放射のスペクトルパワー分布を例示的に示した図表である。
【0065】
図面では、異なる図面において対応するまたは類似する特徴には同じ参照符号を使用する。
【0066】
図1は、第1の随意的な実施形態によるレーザー発振器システム10を概略的に示す。レーザー発振器システム10は、キャビティ内レーザービーム13を閉じ込めるための共振器キャビティ12を含む。共振器キャビティ12の両端には、それぞれのキャビティミラー(cavity mirrors)12a、12bが配置されている。キャビティミラー12a、12bは、エンドミラーと称されることもある。随意的な実施形態によれば、キャビティミラー12a、12bのうちの一方は、キャビティ内レーザービーム13の一部を共振器キャビティ12の外に取り出すためのアウトカプラの機能を含んでよい。例えば、アウトカプラを形成するキャビティミラー12aは、キャビティ内レーザービーム13の僅かな部分を透過させるために、部分的に透明なものとすることができる。
【0067】
さらに、レーザー発振器システム10は、レーザー活性媒質として機能するCrドープII-V族I利得媒質14を含む。提示した実施形態によれば、利得媒質14は、約1.8μm~3.0μmのスペクトル領域における光放射を増幅するのに適したCr:ZnSeまたはCr:ZnS利得媒質であってもよい。利得媒質は、適切なレーザーダイオード(図示せず)によって直接ダイオード励起されてもよい。利得媒質14においておよび利得媒質14内で適切なスポットサイズ100、すなわち適切なビームウエストを呈するようにキャビティ内レーザービーム13を整形するために、キャビティ内レーザービーム13を適宜集光およびコリメートするための2つの光学素子16が設けられる。光学素子は、光学レンズとして設けられてもよい。
【0068】
本実施形態によれば、利得媒質14は、キャビティ内レーザービーム13を増幅するためのレーザー活性媒質として機能するだけでなく、レーザー発振器システム10のカー(Kerr)・レンズモード・ロッキングを実現するためのカー媒質としても機能する。言い換えれば、利得媒質14は、利得媒質及びカー媒質を1つの同一素子で兼ねている。
【0069】
レーザー発振器システム10は加えて、キャビティ内レーザービーム13のスポットサイズ100を、
図1において破線の二重矢印で示される共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102からデカップリングするための結像ユニット18を含む。本実施形態によれば、結像ユニット18は、キャビティミラー12bの近傍に4f-望遠鏡(テレスコープ)20によって形成される。この4f-望遠鏡は、それぞれ焦点距離fを有する2つの光学レンズ22を含み、該2つの光学レンズ22は、互いに焦点距離fの2倍の距離、すなわち2fの距離、に配置されている。さらに、光学レンズ22の一方は、キャビティミラー12bから焦点距離fに対応する距離に置かれている。このように、結像ユニット18は、結像面104から結像ユニット18に隣接配置したキャビティミラー12bまでのキャビティ内レーザービーム13を結像するように構成されている。従って、結像ユニットを含む共振器キャビティ12の光学的構成は、結像面104においてキャビティミラー12bの像を仮想的に提供する。従って、左側のキャビティミラー12aから結像面104まで延在している、共振器キャビティ12の一部におけるキャビティ内光ビーム13の共振器モードは、右側のキャビティミラー12bがあたかも結像面104に置かれたかのような共振器モードと同一様態の共振器モードを画定する。従って、結像ユニット18によって共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102が延長されても、共振器モードは変化せず、また特に、利得媒質におけるキャビティ内レーザービーム13のスポットサイズ100に影響を与えない。これは、結像ユニット18なしで共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102を単に延長した場合とは対照的であり、この単に延長した場合には、キャビティミラー12aおよび12bによるキャビティ内レーザービーム13の集光に起因して、キャビティ内長さ102の増加に伴ってビームウエスト100が変化する。
【0070】
結像ユニット18の使用による共振器キャビティ12の延長した長さに起因して、レーザー発振器システム10の繰り返し率は、結像面104にキャビティミラー12bを配置する場合と比較して低下する。これにより、50MHz以下の繰り返し率を実現することができる。いくつかの実施形態では、40MHz以下、又は30MHz以下でさえもの繰り返し率が実現される場合もある。平均レーザー出力パワー(基本的に変化しない)が、より少ないパルス数に集中されるため、減少した繰り返し率によって、より高いパルスエネルギー、ひいては放射されるレーザーパルスのより高いピークパワーを達成することが可能になる。特に、提示した実施形態は、6.0メートルのキャビティ内長さに対応する25MHzの繰り返し率を実現することができる。したがって、レーザー発振器システムは、1MW以上のピークパワーを持つフェムト秒レーザーパルスを提供することができる。
【0071】
随意的な実施形態によれば、レーザー発振器システム10は、調整可能なキャビティ内長さを有する。例えば、共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102を短縮および/または延長するために、キャビティミラー12b、および随意的に結像ユニット18の位置を移動させてもよい。例えば、キャビティ内長さは、連続的に調整可能であってもよい、および/または、段階的に調整可能であってもよい。いくつかの随意的な実施形態によれば、共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102は、結像ユニット18の光学素子22の変更を必要とすることなく、ある程度の変更することができる。いくつかの実施形態によれば、共振器キャビティ12のキャビティ内長さ102の変更は、光学素子22の少なくとも一方を、異なる焦点距離を有する異なる光学素子によって交換することを必要とし得る。
【0072】
図2は、第1の実施形態によるレーザー発振器システム10にほとんどの観点で対応する、第2の随意的な実施形態によるレーザー発振器システム10を概略的に示している。しかし、第2の実施形態は、利得媒質14とは別にカー・レンズモード・ロッキング用のカー媒質24を設けるという特徴において、第1の実施形態とは異なる。加えて、第2の実施形態によるレーザー発振器システム10はさらに、キャビティ内レーザービーム13をカー媒質24に集光およびコリメートするための2つの光学素子26を含む。これらの付加的な特徴を有することにより、第2の随意的な実施形態によるレーザー発振器システム10は、利得媒質におけるキャビティ内レーザービーム13のスポットサイズおよびカー媒質24におけるスポットサイズを互いに独立して調整することが可能になる。従って、利得は、利得媒質におけるキャビティ内レーザービーム13のスポットサイズを調整し、利得媒質14を取り囲む光学素子16の焦点距離および位置決めを選択および調整することで制御でき、そして、カー・レンズモード・ロッキングは、カー媒質24を取り囲む光学素子26の焦点距離および位置決めを選択および調整することにより、カー効果を調整することで、独立して制御することができる。これにより、レーザー発振器システム10のパラメーターを制御するための自由度がさらに高まる。
【0073】
このデカップリングはさらに,レーザー発振器システム10によって放射されるレーザーパルスのピークパワーのスケーリングを可能にし、これはすなわち、利得媒質14におけるスポットサイズ100、および随意的にソフト・アパーチャーモード・ロッキングのためのポンプビームとキャビティ内レーザービーム13との間のオーバーラップが、モードロック動作の最適な開始および維持のためのカー非線形性の最適化とは独立して、最大レーザー利得のために最適化することができるからであり、これは、別個のカー媒質24における厚さおよび/または位置および/または集光スポットサイズを介して最適化され得る。
【0074】
結果として生じるレーザー発振器システム10で達成可能なピークパワーは、1MWに達する、または1MWを超える場合、適切な非線形媒質において、自己位相変調(SPM)を介したスペクトル拡幅などの非線形プロセスを効率的に駆動するのに十分大きい。スペクトル幅が広がるだけでなく、スペクトル幅が広がったパルスは、時間領域で圧縮され、より短い持続時間にすることもできる。
【0075】
図3は、それぞれの光学素子27によって集光およびコリメートされたレーザービーム29として入射するレーザーパルスのスペクトル拡幅のための、随意的な実施形態による非線形光学素子28の使用を概略的に示している。非線形光学素子28は、ルチル結晶構造を有するバルクのTiO
2から作製され、入射レーザー光29に導波性を付与するようないかなる巨視的構造をも有しない均質な材料として提供される。非線形光学素子は、レーザービームの伝搬方向における厚さが1mm以下である。これにより、レーザービーム29のスペクトル拡幅後に高い集光性を保証する高ビーム品質係数M
2と、及び従って、強い集光を必要とする用途のためのスペクトル拡幅したレーザーパルスの良好な有用性とを維持することが可能になる。非線形光学素子の厚さが限られているため、スペクトル拡幅中のビームプロファイルの起こり得る劣化が制限され、その結果、高いビーム品質係数が得られる。薄い非線形光学素子でかなりのスペクトル拡幅を達成するためには、非線形光学素子28を、数ミリメーターの厚さを有するより厚い非線形光学素子の通常の位置と比較して、レーザービーム29の焦点により近い位置に置くことが有利である。薄い非線形光学素子28内のレーザービーム29の小さなスポットサイズは、レーザービーム29の波長成分の再混合をもたらす強いカーレンズ効果につながり、したがって、ビームプロファイル上のスペクトル分布の均質性を増加させる。このスペクトル成分の均質化により、スペクトル拡幅に伴うビームプロファイルの劣化が低減される。
【0076】
このように、スペクトル拡幅のために1mm以下の厚さを有する薄い非線形光学素子28を使用することで、透過したレーザービームは、その後の中赤外放射の生成などのさらなる使用に有利な高い空間的および時間的品質を保持する。
【0077】
図4は、波長(ナノメートル単位)における正規化されたスペクトル強度(縦軸、対数スケール)を図表400に示す。グラフ402は、任意の追加的なスペクトル拡幅前の、一実施形態によるCrドープII-VI族レーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスの正規化されたスペクトル強度を表す。見てとれるように、スペクトル強度は波長2.2μm付近でピークに達し、急激に減少する前に、短波長側で約2.05μmまで拡がる。カットオフ波長は、最大と比較して約30dB減衰し、すなわち10
-3の正規化強度を有し、波長約1.95μmに達する。長波長側では、スペクトルは約2.45μmまで広がる。したがって、随意的な実施形態によるレーザー発振器システム10によって放射されるレーザーパルスのスペクトルは、約1.95μmから約2.45μmにわたる。
図3を参照して詳述した装置でレーザーパルスをスペクトル拡幅した後、スペクトルはグラフ404に示されるように、追加のスペクトル成分を大幅に得る。レーザーパルスのスペクトル拡幅は、厚さ0.5mmのバルクのルチル型TiO
2プレートで形成された非線形光学素子28にレーザーパルスを集光することによって達成された。グラフ404から、特に短波長側でかなりのスペクトル幅の広がりが生じ、その結果、スペクトル強度分布が約1.2μmの波長まで広がってからノイズの中で消失していることがわかる。同様に、長波長側では、約2.2μmら約2.4μmの波長範囲でスペクトル強度が増加した。このように、スペクトル拡幅により、レーザー発振器システムから放射されたレーザーパルスの元のスペクトルの短波長側ならびに長波長側のスペクトル成分が大幅に増加した。
【0078】
いくつかの随意的な実施形態では、レーザーパルスは、例えば
図3に示されるような非線形光学素子28におけるスペクトル拡幅の有無にかかわらず、MIRスペクトル領域内のさらに長波長に拡がる中赤外放射の生成のために使用され得る。前記MIR放射の生成は、
図3に示されるように、追加的なスペクトル拡幅なしでレーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスを使用する、またはスペクトル拡幅を含むレーザーシステムによってもたらされたレーザーパルスを使用して、非線形周波数変換を介して実施することができる。どちらの手法も、レーザー発振器システム以外の増幅器ステージでレーザーパルスをさらに増幅する必要なく、MIR放射を生成することに適している。
【0079】
図5に示すレーザーシステム30の一実施形態では、少なくとも0.75MWのピークパワーを有するCrドープII-VI族レーザー発振器システム10によって放射されたレーザーパルスは、非線形周波数変換およびMIR生成のための(第2の)非線形光学素子に直接集光される。光分散と、その結果生じる放射したレーザーパルスのパルス形状の劣化とを低減するために、
図5に示す非線形周波数変換のためのレーザーシステム30は、反射光学素子を含み、該反射光学素子は、レーザーパルスを非線形周波数変換およびMIR放射36の生成のための非線形光学素子上に集光し、レーザーパルス(第2の非線形光学素子36とも称される)をコリメートするための、2つのステアリングミラー32および2つの光軸外パラボリックミラー34を含む。点線38はレーザーパルスの光路を示す。破線40は、非線形周波数変換、特にパルス内差周波発生によって、第2の非線形光学媒質内でレーザーパルスによって生成されたMIR放射の光路を示す。示されているように、レーザーパルスおよび生成されたMIR放射の伝搬方向は同一である。
【0080】
図6は、別の実施形態による非線形周波数変換を含むレーザーシステム30を示し、これは、ほとんどの観点において、
図5に提示された装置30の実施形態に対応する。しかしながら、本実施形態による装置30は、MIR放射の生成のために使用されるレーザーパルスが、(
図3に例示的に示されるような)非線形光学素子における事前のスペクトル拡幅およびパルス圧縮を受けるという特徴において、
図5に示される装置30とは異なる。この目的のため、CrドープII-VI族レーザー発振器システム10によって放射されたレーザーパルスが、非線形周波数生成およびMIR放射の生成のためにレーザーパルスを第2の非線形光学素子36に集光する前に、非線形スペクトル拡幅および時間的パルス圧縮のためのそれぞれに対応する装置42および44に適用される。
【0081】
図7は、
図5につき提示されたレーザーシステム30によって生成されたMIR放射のスペクトルパワー分布を例示的に図表700で示し、ここで、非線形周波数変換およびMIR放射生成は、1MWのピークパワーを有するCr:ZnSレーザー発振器システムによって放射されたレーザーパルスによって駆動された。MIR放射生成の前にスペクトル拡幅およびパルス圧縮は適用されなかった。
【0082】
ダイヤグラム700は、縦軸にスペクトルパワー(単位:mW/nm)、下側横軸に波長(単位:マイクロメートル)、上側横軸に周波数(単位:THz)を示す。グラフ702の実線は、レーザーパルスによって駆動される非線形周波数変換によって得られるスペクトルパワーを示しており、レーザーパルスの焦点に配置された非線形周波数変換用の非線形光学媒質において、87GW/cm2の推定ピーク強度をもたらす。グラフ702は、10-1mW/nmから約10-6mW/nmの範囲のスペクトルパワーで、スペクトルパワー分布が約15μmにわたることを示している。従来のCrドープII-VI族レーザー発振器システムで到達可能なピークパワーである、わずか13GW/cm2の焦点ピーク強度で生成された(本質的に存在しない)MIR放射のスペクトルパワー(グラフ704)と比較すると、このプロセスで生成されたMIR放射の相当量がさらに明らかになる。グラフ704が示すように、グラフ704はほぼ検出ノイズに相当するため、13GW/cm2の強度のMIRでは基本的にスペクトルパワーは発生しない。したがって、ダイヤグラム700は、少なくとも0.75MW、あるいはさらに少なくとも1MWのピークパワーを有するレーザーパルスを提供する実施形態によるCrドープII-VI族レーザー発振器システムは、事前のスペクトル拡幅およびパルス圧縮がなくても、MIR放射の生成に十分に適している一方、従来のCrドープII-VI族レーザー発振器システムは、さらなる外部増幅なしでは、MIR放射を生成するのに十分なピークパワーを有するレーザーパルスを提供しないことを示している。
【符号の説明】
【0083】
10 レーザー発振器システム
12 共振器キャビティ
12a、12b キャビティミラー/端部ミラー
13 キャビティ内レーザービーム
14 利得媒質
16 光学素子
18 結像ユニット
20 4f-望遠鏡
22 結像ユニットの光学素子
24 カー媒質
26 光学素子
27 光学素子
28 非線形光学素子(スペクトル拡幅のため)
29 レーザービーム
30 レーザーシステム
32 ステアリングミラー
34 パラボリックミラー
36 (第2の)非線形光学素子(非線形周波数変換のため)
38 レーザーパルスの光路
40 生成されたMIR放射の光路
42 スペクトル拡幅のための装置
44 時間的パルス圧縮のための装置
f 光学素子22の焦点距離
100 スポットサイズ/利得媒質におけるビームウエスト
102 共振器キャビティのキャビティ内長さ
104 4f-望遠鏡の結像面
400 スペクトル拡幅前後のスペクトル強度を示した図表
402 放射したレーザーパルスの正規化した強度
404 スペクトル拡幅後の正規化した強度
700 MIR生成後のスペクトル強度を示したダイヤグラム
702 87GW/cm2で生成されたMIR放射のスペクトルパワー
704 13GW/cm2で生成されたMIR放射のスペクトルパワー
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振器システム(10)であって、
キャビティ内レーザービーム(13)を閉じ込めるための共振器キャビティ(12)と、
前記共振器キャビティ(12)内に配置されたCrドープII-VI族利得媒質(14)と、
前記共振器キャビティ(12)の一部を形成する結像ユニット(18)と、
を備え、
前記結像ユニット(18)は、前記利得媒質(14)における前記キャビティ内レーザービーム(13)のスポットサイズ(100)を前記共振器キャビティ(12)のキャビティ内長さ(102)からデカップリングするように適合化され、また、
前記共振器キャビティ(12)および前記結像ユニット(18)は、前記レーザー発振器システム(10)が50MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記結像ユニット(18)は調整可能なキャビティ内長さ(102)を得るように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)における前記キャビティ内レーザービーム(13)の前記スポットサイズ(100)は調整可能である、レーザー発振器システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記結像ユニット(18)はキャビティ内レーザービーム(13)を結像するための1つ以上の望遠鏡を含み、該1つ以上の望遠鏡は、随意的に1つ以上の4f望遠鏡(20)を含む、レーザー発振器システム。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器キャビティ(12)の端部ミラー(12a、12b)は前記1つ以上の望遠鏡における結像面の1つに配置されている、レーザー発振器システム。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器キャビティ(12)および随意的に前記結像ユニット(18)は1つ以上のマルチプルパスセルを含み、該1つ以上のマルチプルパスセルは随意的に1つ以上のヘリオット型セルを含む、レーザー発振器システム。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記CrドープII-VI族利得媒質(14)はZnSおよび/またはZnSeを含む、またはZnSおよび/またはZnSeから成り、該ZnSおよび/またはZnSeは随意的に多結晶である、レーザー発振器システム。
【請求項8】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)は、前記キャビティ内レーザービーム(13)の中心波長におけるブリュースター角または前記キャビティ内レーザービーム(13)の法線入射角で配向している、レーザー発振器システム。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記共振器(12)および前記結像ユニット(18)は、前記レーザー発振器システム(10)が40MHz以下の繰り返し率でレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記レーザー発振器(10)システムは、FWHM30fs以下のパルス幅、および/または少なくとも0.75MW、また随意的に少なくとも1MWのピークパワーを有するレーザーパルスを放射するように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項11】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記放射したレーザーパルスは、少なくとも2.0μm~2.8μmのスペクトル領域をカバーする、レーザー発振器システム。
【請求項12】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記レーザー発振器システム(10)は、カー・レンズモード・ロックド・レーザー発振器システム(10)として適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項13】
請求項12に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記利得媒質(14)は、カー・レンズモード・ロッキングのためのカー媒質の機能をもたらすように適合化されている、レーザー発振器システム。
【請求項14】
請求項12に記載のレーザー発振器システム(10)であって、さらに、カー媒質を備え、該カー媒質(24)は前記利得媒質(14)から別個に設けられている、レーザー発振器システム。
【請求項15】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)において、前記CrドープII-VI族利得媒質(14)は直接ダイオード励起される、レーザー発振器システム。
【請求項16】
レーザーシステム(30)であって、
少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを放射するように適合化されている請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)と、
1mm以下の厚さを有する非線形光学素子(28)と、
を備え、
前記レーザーシステムは、レーザー発振器システム(10)によって放射されたレーザーパルスを非線形光学素子(28)に放射して、スペクトル拡幅したレーザーパルスが少なくとも半光オクターブにわたるように、レーザーパルスのスペクトルを拡げるように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項17】
請求項1
6に記載レーザーシステム(30)において、前記レーザーシステムは前記レーザーパルスを前記非線形光学素子(28)上に集光するように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項18】
請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)において、前記レーザーシステムは、前記レーザーパルスの前記スペクトルが前記非線形光学素子(28)を伝搬した後、15fs秒以下のパルス幅をサポートできるように適合化されている、レーザーシステム。
【請求項19】
請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)は前記入射レーザーパルスに面する表面に反射防止コーティングを含む、レーザーシステム。
【請求項20】
請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)は、前記レーザーパルスの中心波長において前記レーザーパルスの入射方向に対してブリュースター角で配置され、また該非線形光学素子(28)は、前記入射レーザーパルスのkベクトルが複屈折結晶の光軸に平行となるように、斜めにカットされた複屈折結晶で形成されている、レーザーシステム。
【請求項21】
請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)はTiO
2を含むまたはTiO
2から成る、レーザーシステム。
【請求項22】
請求項21に記載のレーザーシステム(30)において、前記非線形光学素子(28)はルチル型TiO
2を含むまたはルチル型TiO
2から成る、レーザーシステム。
【請求項23】
請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)であって、さらに、中赤外スペクトル領域でスペクトルを拡げるための第2の非線形光学素子(36)を含み、該第2の非線形光学素子(36)は随意的に、ZnGeP2を含むまたはZnGeP2から成り、また、前記レーザーシステムは前記第2の非線形光学素子(36)を伝搬する前記レーザーパルスが非線形周波数変換を受けるように適合化されている、レーザーシステム(30)。
【請求項24】
少なくとも波長2μmのスペクトル成分を有する光パルスを発生させる方法であって、以下のステップ、すなわち、
FWHM30fs以下のパルス幅、少なくとも0.75MWのピークパワー、および中心波長1.8μm以上を有する、レーザー発振器から放射したレーザーパルスを供給するステップと、
厚さ1mm以下、かつ、波長2μmにおいて少なくとも5・10-19m
2/Wの非線形屈折率n
2を有する非線形光学素子上に、前記レーザーパルスを集光するステップと、
を備える、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記非線形光学素子は、ZnGeP
2を含むまたはZnGeP
2から成る非線形周波数変換のための非線形光学素子である、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法において、前記非線形光学素子(28)は、TiO
2を含むまたはTiO
2から成り、また随意的にルチル型TiO
2を含むまたはルチル型TiO
2からなる、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、前記非線形光学素子(28)は、前記非線形光学素子に集光される前記レーザーパルスの片側レイリー長の10倍以下の厚さを有する、方法。
【請求項28】
請求項26または27のいずれか一項に記載の方法であって、さらに、前記レーザーパルスを、ZnGeP
2を含むまたはZnGeP
2から成る第2の非線形光学素子(36)に集光するステップを備え、前記第2の非線形光学素子(36)を経て伝搬していく該レーザーパルスは非線形周波数変換を受ける、方法。
【請求項29】
請求項24~
27のいずれか一項に記載の方法において、前記レーザー発振器は請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)である、方法。
【請求項30】
50MHz以下の繰り返し率で少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスを発生させるための、請求項1~
3のいずれか一項に記載のレーザー発振器システム(10)の使用。
【請求項31】
少なくとも1.5μm~3.5μmのスペクトル領域をカバーし、そして、FWHM30fs以下のパルス幅を有するスーパーコンティニューム光パルスを発生させるための、請求項1
6に記載のレーザーシステム(30)の使用。
【請求項32】
少なくとも波長1μmのスペクトル成分を有するレーザーパルスの非線形スペクトル拡幅のためのバルクのルチル型TiO
2使用。
【請求項33】
請求項32に記載の使用において、前記レーザーパルスのスペクトル成分は1μm~4μmの領域の波長を有する、使用。
【請求項34】
請求項32または33のいずれか一項に記載の使用において、前記レーザーパルスのスペクトル成分は少なくとも2μmの波長を有する、使用。
【請求項35】
請求項32
または33のいずれか一項に記載の使用であって、少なくとも0.75MWのピークパワーを有するレーザーパルスでルチルを照射するステップを含む、使用。
【請求項36】
請求項32
または33のいずれか一項に記載の使用において、前記レーザーパルスは2μm~3μmの領域の波長を有する、使用。
【請求項37】
請求項32
または33のいずれか一項に記載の使用であって、多重波混合用途を含むまたはから成る、少なくとも1つの非線形光学用途を含む、使用。
【請求項38】
請求項32
または33のいずれか一項に記載の使用において、前記ルチルの使用は、前記非線形光学用途のためにルチルを含むまたはルチルから成る非線形光学素子(28)を使用するステップを含む、使用。
【請求項39】
請求項38に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は1mm以下の厚さを有する、使用。
【請求項40】
請求項3
8に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は前記非線形光学素子に集光されるレーザーパルスの片側レイリー長の10倍以下の厚さを有する、使用。
【請求項41】
請求項3
8に記載の使用において、前記非線形光学素子(28)は100μm以上の厚さを有する、使用。
【国際調査報告】