(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】超高感度無抽出脂肪酸定量法を使用した、医薬製剤中のポリソルベートの加水分解のモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240705BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20240705BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20240705BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240705BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240705BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240705BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240705BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20240705BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N27/62 V
H01J49/16 500
H01J49/42 150
H01J49/00 400
G01N33/15 Z
G01N30/88 C
G01N30/72 C
B01J20/287
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577114
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 US2022033492
(87)【国際公開番号】W WO2022266143
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】チャン シシ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ フイ
(72)【発明者】
【氏名】リ ニン
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA03
2G041HA01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA50
4H045GA45
(57)【要約】
本発明は、概して、医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量する方法に関する。具体的には、本発明は、抽出ステップを使用せずに、液体クロマトグラフィ-質量分析を使用して、医薬物質、ポリソルベート、及び遊離脂肪酸を含む医薬製剤中の、ポリソルベートの加水分解によって放出される遊離脂肪酸を定量する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量するための方法であって、
(a)医薬物質、ポリソルベート、及び遊離脂肪酸を含む製剤をインキュベートすることと、
(b)前記遊離脂肪酸を分離するために、前記製剤を液体クロマトグラフィに供することと、
(c)前記遊離脂肪酸を定量するために、質量分析計を使用することと
を含み、
前記遊離脂肪酸が、前記製剤を液体クロマトグラフィに供する前に、前記製剤から抽出されない、方法。
【請求項2】
前記製剤をインキュベートする前に、前記製剤に内部標準遊離脂肪酸を加えること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記定量された遊離脂肪酸濃度を前記内部標準に対して補正すること
を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
既知の濃度のスパイク脂肪酸を使用して、検量線を作成することであって、前記定量された遊離脂肪酸濃度が、前記検量線に対して補正される、検量線を作成すること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1回の追加のインキュベーション時間を使用して、請求項1に記載のステップを繰り返すことと、
経時的な遊離脂肪酸濃度の変化率を決定するために、各繰り返しで得られた遊離脂肪酸の定量を比較することと
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬物質が、薬物、化合物、核酸、毒素、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、又はタンパク質医薬物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記医薬物質が、モノクローナル抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬物質の濃度が、約1mg/mL~約200mg/mLである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリソルベートが、ポリソルベート20又はポリソルベート80である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリソルベート濃度が、約0.001%~約1%である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記遊離脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、又はそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記遊離脂肪酸の濃度が、約10ng/mL~約100μg/mLである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記インキュベーションが、プラスチックチューブ内又はガラスバイアル内で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記インキュベーションが、約0時間~約36か月行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記インキュベーションが、約5℃~約37℃で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記内部標準が、重同位体で標識される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記内部標準が、ラウリン酸-d
23、ミリスチン酸-d
27、オレイン酸-
13C
18、又はそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
液体クロマトグラフィシステムが、前記質量分析計につなげられている、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記液体クロマトグラフィが、逆相クロマトグラフィである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記質量分析計が、トリプル四重極質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記質量分析計が、LC-MS分析又はLC-MRM-MS分析を行うことができる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記製剤が、1つ以上の賦形剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記製剤が、ヒスチジンを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記逆相クロマトグラフィに使用されるカラムが、Acquity UPLC BEH C4カラムである、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリソルベートの濃度が、約1%である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年6月14日に出願された米国仮特許出願第63/210,340号の優先権及び利益を主張し、当該米国仮特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本願は、医薬製剤中のポリソルベートの加水分解によって放出される遊離脂肪酸を定量するためのアッセイ方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
薬物製品のうち、タンパク質ベースのバイオ医薬品は、モノクローナル抗体(mAb)を用いた臨床試験が過去数年間で大幅に増加していることからもわかるように、高レベルの選択性、効力、及び有効性を提供する重要なクラスの薬物である。臨床的及び商業的に実現可能なバイオ医薬品にとって重要な側面の1つは、製造プロセス及び保存期間という点での薬物製品の安定性である。ポリソルベートなどの界面活性剤が、タンパク質ベースのバイオ医薬品の物理的安定性を高めるためによく使用される。市販されているモノクローナル抗体治療薬の70%以上には、タンパク質ベースのバイオ医薬品に物理的安定性を与えるために、界面活性剤の1つであるポリソルベートが0.001%~0.1%含まれている。
【0004】
ポリソルベートの酵素的加水分解は、バイオ医薬品製剤におけるポリソルベート分解の主な経路として認識されており、分解の結果、望ましくない粒子形成を促進する遊離脂肪酸が放出される。放出された遊離脂肪酸の定量は、ポリソルベートの分解レベルをモニタリングするために使用できる。ごく最近では、液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)が遊離脂肪酸の高感度検出法として使用される。しかし、現在の遊離脂肪酸の定量法では、サンプルをクロマトグラフィに供して分析する前に固相抽出(SPE)などの抽出ステップが必要であるが、これには時間のかかるサンプルの追加処理が必要となり、ハイスループット分析が制限される。
【0005】
分析前に遊離脂肪酸の抽出を必要としない、医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量する改良された方法の必要性が存在することが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0006】
概要
医薬製剤中のポリソルベートの分解の特性評価は、安定した医薬物質の製造において重要な問題である。医薬製剤中の遊離脂肪酸を確実かつ効率的に定量する改良された方法が必要とされている。本願は、抽出ステップを必要とせずに、医薬製剤中の遊離脂肪酸を高感度に定量する方法を提供する。
【0007】
本開示は、医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、(a)医薬物質、ポリソルベート、及び遊離脂肪酸を含む製剤をインキュベートすることと、(b)上記遊離脂肪酸を分離するために、前記製剤を液体クロマトグラフィに供することと、(c)上記遊離脂肪酸を定量するために質量分析計を使用することと、を含み、上記遊離脂肪酸は、上記製剤を液体クロマトグラフィに供する前に、上記製剤から抽出されない。
【0008】
一態様では、本方法は、製剤をインキュベートする前に、上記製剤に内部標準遊離脂肪酸を加えることを更に含む。別の態様では、当該方法は、定量された遊離脂肪酸濃度を内部標準に対して補正することを更に含む。更に、別の態様では、当該方法は、既知の濃度のスパイク脂肪酸を使用して、検量線を作成することを更に含み、定量された遊離脂肪酸濃度は、検量線に対して補正される。
【0009】
一態様では、本方法は、少なくとも1回の追加のインキュベーション時間を使用して、方法のステップを繰り返すことと、経時的な遊離脂肪酸濃度の変化率を決定するために、各繰り返しで得られた遊離脂肪酸の定量を比較することと、を更に含む。
【0010】
一態様では、医薬物質は、薬物、化合物、核酸、毒素、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、又はタンパク質医薬物質である。特定の態様では、医薬物質は、モノクローナル抗体である。別の態様では、医薬物質の濃度は、約1mg/mL~約200mg/mLである。
【0011】
一態様では、ポリソルベートは、ポリソルベート20(PS20)又はポリソルベート80(PS80)である。別の態様では、ポリソルベートの濃度は、約0.001%~約1%である。特定の態様では、ポリソルベートの濃度は、約1%である。
【0012】
一態様では、遊離脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、又はそれらの組み合わせを含む群から選択される。別の態様では、遊離脂肪酸の濃度は、約10ng/mL~約100μg/mLである。
【0013】
一態様では、インキュベーションは、プラスチックチューブ内又はガラスバイアル内で行われる。別の態様では、インキュベーションは、約0時間~約36か月行われる。更に、別の態様では、インキュベーションは、約5℃~約37℃で行われる。
【0014】
一態様では、内部標準は、重同位体で標識される。特定の態様では、内部標準は、ラウリン酸-d23、ミリスチン酸-d27、オレイン酸-13C18、又はそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0015】
一態様では、液体クロマトグラフィシステムは、質量分析計につなげられている。別の態様では、液体クロマトグラフィは、逆相クロマトグラフィである。特定の態様では、逆相クロマトグラフィに使用されるカラムは、Acquity UPLC BEH C4カラムである。
【0016】
一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である。別の態様では、質量分析計は、トリプル四重極質量分析計である。更に、別の態様では、質量分析計は、LC-MS又は液体クロマトグラフィ多重反応モニタリング質量分析法(LC-MRM-MS)の分析を行うことができる。
【0017】
一態様では、製剤は、1つ以上の賦形剤を更に含む。更なる態様では、製剤は、ヒスチジンを更に含む。
【0018】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく評価され、理解されるであろう。以下の説明は、様々な実施形態及びその多くの特定の詳細を示すが、例示として与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で、多くの置換、修正、追加、又は再配置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】例示的な実施形態による、ポリソルベート中の主要な予想されるポリエチレンオキシド(POE)エステルの化学構造の図を示す。
【
図1B】例示的な実施形態による、ポリソルベートの加水分解及び遊離脂肪酸(FFA)の形成の図を示す。
【
図2A】例示的な実施形態による、ポリソルベート分析のためのLC-MS及び液体クロマトグラフィ-荷電エアロゾル検出(LC-CAD)アッセイを示す。
【
図2B】例示的な実施形態による、2D-LC-CADによって分離及び検出された、PS20標準物質(A)、及びmAb製剤中のPS20(B)の、CADクロマトグラフィを示す。標識されたピークは、POEソルビタンモノラウレート(1)、POEイソソルビドモノラウレート(2)、POEソルビタンモノミリステート(3)、POEイソソルビドモノミリステート(4)、POEモノパルミチン酸イソソルビド(5)、POEモノステアリン酸イソソルビド(6)、POEソルビタン混合ジエステル(7~9)、POEソルビタントリラウレートとPOEソルビタンテトララウレート(10)である。
【
図2C】例示的な実施形態による、2D-LC-CADによって分離及び検出された、PS80標準物質(A)、及びmAb製剤中のPS20(B)の、CADクロマトグラフィを示す。標識されたピークは、モノリノレン酸POEソルビタン(1)、モノオレイン酸POEイソソルビド(2)、モノオレイン酸POEソルビタンとモノオレイン酸POE(3)、POEジオレイン酸ソルビタン(4)、POEイソソルビドジオレイン酸とPOEジオレイン酸(5)、POEソルビタン混合トリオレイン酸とテトラオレイン酸(6)である。
【
図2D】例示的な実施形態による、10mMのヒスチジン、pH6.0中、37℃で0日(A、T0)及び5日(B、T5)インキュベートした75mg/mLのmAb-7中の0.1%のPS20のクロマトグラムを示す。
【
図3】
図3Aは、例示的な実施形態による、200mg/mLのmAb-3製剤中のラウリン酸濃度の経時的変化を示す。
図3Bは、例示的な実施形態による、経時的なラウリン酸-d
23の損失百分率を示す。
【
図4】例示的な実施形態による、200mg/mLのmAb-3製剤中のミリスチン酸濃度の経時的変化を示す。
【
図5A】例示的な実施形態による、経時的なミリスチン酸-d
27の損失百分率を示す。
【
図5B】例示的な実施形態による、経時的なオレイン酸-
13C
18の損失百分率を示す。
【
図6A】例示的な実施形態による、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)における経時的なラウリン酸-d
23の損失百分率を示す。
【
図6B】例示的な実施形態による、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)における経時的なミリスチン酸-d
27の損失百分率を示す。
【
図7】
図7Aは、例示的な実施形態による、異なるWaters社のガラスバイアルを使用した2週間にわたるラウリン酸-d
23の回収を示す。
図7Bは、例示的な実施形態による、Waters社のガラスバイアル186000327C中での7日間のインキュベーションにわたる8つのmAbのラウリン酸-d
23の回収を示す。
【
図8A】例示的な実施形態による、ラウリン酸-d
23補正を行わない、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)内のラウリン酸濃度の経時的変化を示す。
【
図8B】例示的な実施形態による、ミリスチン酸-d
27補正を行わない、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)内のミリスチン酸濃度の経時的変化を示す。
【
図8C】例示的な実施形態による、ラウリン酸-d
23補正を行った、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)内のラウリン酸濃度の経時的変化を示す。
【
図8D】例示的な実施形態による、ミリスチン酸-d
27補正を行った、プラスチックチューブ(1)又はガラスバイアル(2)内のミリスチン酸濃度の経時的変化を示す。
【
図9A】例示的な実施形態による、PS20分解測定のためのサンプル調製手順を示す。
【
図9B】例示的な実施形態による、多重反応モニタリング(MRM)及びFFAの保持時間を示す。標識されたピークは、ラウリン酸C12(1)、ミリスチン酸C14(2)、リノール酸C18:2(3)、パルミチン酸C16(4)、オレイン酸C18:1(5)、及びステアリン酸C18:0(6)である。
【
図9C】例示的な実施形態による、10mg/mLのmAb-5中のラウリン酸、ミリスチン酸、及びオレイン酸の検量線を示す。
【
図9D】例示的な実施形態による、(I)注入量20μLの10mg/mLのmAb-5又は(II)注入量5μLの80%/20%のイソプロパノール/メタノール(IPA/MeOH)にスパイクされた1μg/mLのラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸の混合物の比較を示す。
【
図9E】例示的な実施形態による、3日間のインキュベーションによるmAb-1、mAb-6、及びPS20の、抽出あり又はなしの遊離脂肪酸含有量の定量を示す。
【
図10】例示的な実施形態による、PS20及びPS80からの最も一般的な脂肪酸を含むIPA/MeOH中のスパイクFFA混合物の総イオン電流(TIC)クロマトグラムを示す。標識されたピークは、ラウリン酸C12(1)、ミリスチン酸C14(2)、リノール酸C18:2(3)、パルミチン酸C16(4)、オレイン酸C18:1(5)、及びステアリン酸C18:0(6)である。トレースIは、IPA/MeOHにスパイクされた遊離脂肪酸の混合物の5μLの注入である。トレースIIは、IPA/MeOHにおける遊離脂肪酸の混合物の20μLの注入である。
【
図11A】例示的な実施形態による、PS20の百分率の減少と相関するラウリン酸(C12)及びミリスチン酸(C14)のFFA濃度の定量を示す。PS20及びFFA含有量は、2℃~8℃で保存されたmAb-1製剤中で経時的に測定された。
【
図11B】例示的な実施形態による、インキュベーション中に放出されたオレイン酸によって定量された、36か月にわたる5℃でのmAb-1におけるPS80分解(実線)、及びLC-CADを使用して測定されたPS80種(破線)を示す。
【
図11C】例示的な実施形態による、インキュベーション中に放出されたラウリン酸によって定量された、36か月の5℃でのmAb-2におけるPS20分解(実線)、及びLC-CADを使用して測定されたPS20種(破線)を示す。
【
図12A】例示的な実施形態による、mAb-1におけるPS80分解によるオレイン酸放出速度の37℃での日数と5℃での月数の比較を示す。37℃でmAb-1を3日モニタリングし(1)、5℃でmAb-1を15か月モニタリングする(2)。
【
図12B】例示的な実施形態による、mAb-2におけるPS20分解によるラウリン酸放出速度の37℃での日数と5℃での月数の比較を示す。37℃でmAb-2を6日モニタリングし(1)、5℃でmAb-1を12か月モニタリングした(2)。
【
図12C】例示的な実施形態による、LC-MRMによって測定された、5℃でのmAb-3におけるPS80の分解によって放出されたオレイン酸(月)と、mAb-1に基づいて確立された式1による推定値との比較を示し、ドットとトレースは測定値を表し、ひし形は推定値を表す。
【
図12D】例示的な実施形態による、LC-MRMによって測定された、5℃でのmAb-4におけるPS20の分解によって放出されたラウリン酸(月)と、mAb-2に基づいて確立された式2による推定値との比較を示し、ドットとトレースは測定値を表し、ひし形は推定値を表す。
【
図13A】例示的な実施形態による、POEエステル種の2D-LC-CAD測定を使用したPS20の分解を示す。
【
図13B】例示的な実施形態による、抽出を必要としないFFA定量を使用した、PS20の分解を示す。
【
図14A】例示的な実施形態による、4℃~8℃で36か月の保存中のmAb-2中のPS20レベルを示す。
【
図14B】例示的な実施形態による、PS20分解によって4℃~8℃で36か月の保存中にmAb-2薬物製品中で測定された2μm粒子/mLを示す。
【
図14C】例示的な実施形態による、PS20の分解により、mAb-2薬物製品中のラウリン酸及びミリスチン酸の濃度が4℃~8℃での36か月の保存中に増加し、ミリスチン酸濃度は18か月後に増加が停止したが(ミリスチン酸:4)、2μm粒子は18か月目に顕著に増加し、mAb-2の保存期間がPS20の分解によって放出されたミリスチン酸によって制限されることを示す。
【
図15】例示的な実施形態による、37℃で3日インキュベートした場合のmAb-1、mAb-7及びPS20中のラウリン酸の定量の比較を示す。
【
図16】
図16Aは、例示的な実施形態による、2D-LC-CADを使用したPOEエステル種の測定を示す。
図16Bは、例示的な実施形態による、無抽出でのFFAの定量を使用した遊離脂肪酸の測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
ポリソルベート20(PS20)及びポリソルベート80(PS80)は、タンパク質の安定性を向上させ、タンパク質製品を凝集や変性から保護するために、バイオ医薬品のタンパク質製剤で最も一般的に使用される非イオン性界面活性剤である(Martos et al.,J Pharm Sci.106(7):1722-1735(2017);Kiese et al.,J Pharm Sci 97(19):4347-4366(2008);Dwivedi et al.,Int J Pharm 552(1-2):422-436(2018))。
図1Aに示すように、PS20及びPS80の主構造はモノラウレートとモノオレエートで、それぞれラウリン酸(C12:0)とオレイン酸(C18:1)でエステル化されたポリエチレンオキシド(POE)鎖を持つソルビタン頭部基で構成される。PS20及びPS80においてエステル化された脂肪酸の組成は表1に示される(Martos et al.)。薬物製品中の典型的なポリソルベート(PS)濃度は、保存期間にわたってタンパク質の安定性を維持するために0.001%~0.1%(w/v)の範囲である(Martos et al.)。
【0021】
【0022】
PSは、自動酸化と加水分解という2つの主要な経路を介して分解されやすいことが知られている(Dwivedi et al.;Kishore et al.,Pharm Res.28(5):1194-1210(2011);Larson et al.,J Pharm Sci.109(10):633-639(2020);Kishore et al.J Pharm Sci.100(2):721-731(2011))。
図1Bに示すように、酵素による加水分解は、高濃度タンパク質製剤におけるPS分解の主な経路であると考えられており、その結果、医薬製剤中の望ましくない粒子形成を引き起こす遊離脂肪酸(FFA)が蓄積する。酸化はPS分解の2番目の主要な経路であり、過酸化物、アルデヒド、ケトン、短鎖エステル化POEソルビタン/イソソルビド種の形成につながる(Kishore et al.2011a;Larson et al.;Kishore et al.2011b;Donbrow et al.,J Pharm Sci.67(12):1676-1681(1978);Yao et al.Pharm Res.26(10):2303-2313(2009))。PSの加水分解は、PS濃度を低下させるだけでなく、特に2℃~8℃の保存温度で蓄積されたFFAの溶解度が低いことから粒子の形成にも関連するため、薬物製品の品質に対する大きな脅威として認識される(Doshi et al.,J Pharm Sci.110(2):687-692(2021);Saggu et al.,J Pharm Sci.110(3):1093-1102(2021);Doshi et al.Mol Pharm.12(11):3792-3804(2015))。
【0023】
薬物製品中に存在する残留リパーゼ又はエステラーゼがPS加水分解の主な原因である(Chiu et al.,Biotechnol Bioeng.114(5):1006-1015(2017);Hall et al.J Pharm Sci.105(5):1633-1642(2016);Labrenz et al.J Pharm Sci.103(8):2268-2277(2014);McShan et al.PDA J Pharm Sci Technol.70(4):332-345(2016);Zhang et al.J Pharm Sci.109(11):3300-3307(2020);Zhang et al.J Pharm Sci.109(9):2710-2718(2020))。通常、最終薬物製品中の残留リパーゼの濃度は、下流の複数の精製ステップを経た後では非常に低く(10ppm未満)、PS分解の影響は、通常の保存温度(2℃~8℃)で数か月又は数年保存した後まで顕著ではない。従って、リパーゼ活性をより早い時点で観察できる加速条件でこの低いリパーゼ活性をモニタリングすることが望ましい。
【0024】
PS種又はFFAを定量することによってPS分解を直接的又は間接的に測定するための様々なアッセイが開発されている。PSの直接定量は通常、蛍光ミセルアッセイ(Brito et al.Anal Biochem.152(2):250-255(1986);Khossravi et al.Pharm Res.19(5):634-639(2002))、液体クロマトグラフィ-荷電エアロゾル検出 (LC-CAD)(Hewitt et al.J Chromatogr A.1215(1-2):156-160(2008))、蒸気光散乱検出(Zhang et al.J Chromatogr Sci.50(7):598-607(2012))、又はLC-質量分析(LC-MS)プロファイリング(Khossravi et al.;Zhang et al.2012;Borisov et al.Anal Chem.83(10):3934-3942(2011);Hvattum et al.J Pharm Biomed Anal.62:7-16(2012);Borisov et al.J Pharm Sci.104(3):1005-1018(2015))によって行われる。間接的なPS定量では、FFAは、通常、抽出及び誘導体化後に分光光度計で測定される(Tomlinson et al.,Mol Pharm.12(11):3805-3815(2015))。しかし、これらの方法のほとんどは、精度、感度、正確さ、及び/又はスループットのいずれかが欠けている。
【0025】
例えば、高性能LC-CAD(HPLC-CAD)を使用したPS定量は、CADシグナルの一般的な相対標準偏差パーセント(%RSD)が11%であるため、精度が低いことが知られ、(Soliven et al.J Pharm Biomed Anal.143:68-76(2017);Honemann et al.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.1116:1-8(2019))、それは、PS含有量の小さな変化を検出するためのこの技術の適用を制限する。PSの加水分解から生成されるFFAの定量はTomlinson et al.によって提案され、いくつかのグループによって採用されている(Tomlinson et al.)。しかし、この方法では、固相抽出とFFAの誘導体化が含まれるため、サンプル前処理に複数のステップが必要であり、スループットが低く、変動性が高くなる。最近、いくつかのグループが、薬物製品中に放出されるFFA含有量の定量に、より高感度な方法であるLC-MSを適用し、この方法がPS分解の高感度で信頼性の高い定量技術として機能できることを実証した(Honemann et al.;Puschmann et al.J Chromatogr A.1599:136-143(2019);Cheng et al.J Pharm.Sci 108(8):2880-2886(2019))。しかし、これらの方法は全て、MS検出前に抽出ステップを必要とし、時間がかかる。
【0026】
本明細書は、ポリソルベート濃度の小さな変化を検出するために使用できる、抽出を必要としない定量法を開示する。インキュベーション条件は、FFAの検出を最大化し、物理吸着によるFFAの損失を最小限に抑えるように最適化される。更に、正確な定量を確保するために、インキュベーション前に内部標準(ISTD)が導入される。以下に記載の例は、このアプローチにより、複数の薬物製品における低レベルのPS分解を1日以内に検出できることを実証する。最適化されたインキュベーション条件は、どのリパーゼが存在するかに関係なく、PS20又はPS80の分解に適用できる。加速保存条件下で短期間に測定されたFFAの放出を使用して、典型的な保存条件でのポリソルベートの長期分解を予測するモデルを導出する方法も提供される。
【0027】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と同様又は同等の任意の方法及び材料は、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料が、これより記載される。
【0028】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、端点が含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量するための方法を提供する。医薬製剤は、例えば、医薬物質、ポリソルベート、及び遊離脂肪酸を含み得る。医薬物質は、追加の賦形剤を含み得る。いくつかの例示的な実施形態では、追加の賦形剤はヒスチジンである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「組成物」という用語は、1つ以上の薬学的に許容されるビヒクルと一緒に製剤化される医薬物質を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「医薬物質」という用語は、薬物製品の生物学的に活性な成分を含み得る。医薬物質は、薬理活性を与えること、または疾患の診断、治療、軽減、処置、予防に直接効果をもたらすこと、又は動物の生理学的機能を回復、矯正、若しくは修飾することに直接効果をもたらすことを目的として、薬物製品に使用される任意の物質又は物質の組み合わせを指す。医薬物質を調製するための非限定的方法は、発酵プロセス、組換えDNA、天然資源からの単離及び回収、化学合成、又はそれらの組み合わせの使用を含み得る。いくつかの例示的な実施形態では、医薬物質は、薬物、化合物、核酸、毒素、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、又はタンパク質医薬物質である。
【0032】
いくつかの例示的な実施形態では、製剤中の医薬物質濃度は、約1mg/mL、約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約7mg/mL、約8mg/mL、約9mg/mL、約10mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mL、約30mg/mL、約40mg/mL、約50mg/mL、約60mg/mL、約70mg/mL、約80mg/mL、約90mg/mL、約100mg/mL、約110mg/mL、約120mg/mL、約130mg/mL、約140mg/mL、約150mg/mL、約160mg/mL、約170mg/mL、約180mg/mL、約190mg/mL、又は約200mg/mLであり得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「タンパク質医薬物質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質は、当技術分野で一般に「ポリペプチド」として知られる、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然に存在するペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が当業者に知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つまたは複数のポリペプチドを含み得る。タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。目的のタンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア種)、哺乳類系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの生産系を使用して生産できる。生物治療用タンパク質及びその生産について論じた最近の総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence, impact, and challenges of non-human sialylation”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)、その教示全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。タンパク質は組成と溶解度に基づいて分類できるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、リポタンパク質などの複合タンパク質、及び一次派生タンパク質、二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0034】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質医薬物質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、適切な宿主細胞に導入された組換え発現ベクターに担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として生成されるタンパク質を指す。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体であり得る。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。ある特定の例示的な実施形態では、抗体分子は全長抗体(例えば、IgG1又はIgG4免疫グロブリン)であり、あるいは抗体は断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域と散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分できる。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順序で配置される。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成、又は遺伝子操作されたポリペプチド若しくは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の適切な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは既知である、及び/又は、例えば、商業的供給元、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能である、又は合成することができる。DNAは、化学的又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な配置に配置したり、コドンを導入したり、システイン残基を作成したり、アミノ酸を修飾、追加又は削除したりすることができる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、無傷の抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、scFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、いくつかの例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合する、及び/又は抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体断片は、いかなる手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、無傷の抗体の断片化によって酵素的又は化学的に生成することができる、及び/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成することができる。任意選択的に、又は更に、抗体断片は、全体又は部分的に合成的に生成され得る。抗体断片は、必要に応じて、一本鎖抗体断片を含み得る。任意選択的に、又は更に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、必要に応じて、多分子複合体を含み得る。機能的抗体断片は、典型的には少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0038】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合できる抗体を含む。二重特異性抗体は一般に、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上、又は同じ分子(例えば、同じ抗原上)のいずれかで異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1エピトープと第2エピトープ)に選択的に結合できる場合、第1エピトープに対する第1重鎖の親和性は一般に、第2エピトープに対する第1重鎖の親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁若しくは4桁低くなり、また、その逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ標的上に存在することも、異なる標的上に存在することもできる(例えば、同じタンパク質上又は異なるタンパク質上)。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合することができ、そのような配列は免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現させることができる。
【0039】
典型的な二重特異性抗体は、それぞれ3つの重鎖CDR、次いでCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを持つ2つの重鎖と、抗原結合特異性を与えないが各重鎖と会合することができる、又は各重鎖と会合することができ、重鎖抗原結合領域によって結合される1つ以上のエピトープに結合することができる、又は各重鎖と会合することができ、1つ若しくは2つの重鎖を1つ若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖とを有する。BsAbは、Fc領域(IgG様)を持つものとFc領域を欠くものの2つの主要なクラスに分類でき、後者は通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbとしては、トリオマブ、knobs into holes IgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツー・イン・ワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG一本鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどの様々なフォーマットが挙げられるが、これらに限定されない。非IgG様の様々なフォーマットは、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重アフィニティーリターゲティング分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドック・アンド・ロック(DNL)法によって生産される抗体を含む((Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications, 8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130;Dafne Mueller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、その教示全体が本明細書に組み込まれる)。
【0040】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。このような分子は、通常、2つの抗原(例えば、二重特異性抗体、bsAb)とのみ結合するが、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの追加の特異性を有する抗体も、本明細書に開示されるシステム及び方法によって対処することができる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能な又は公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一クローンに由来することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で公知の広範な技術を使用して調製することができる。
【0042】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質医薬物質は、哺乳類細胞から生成され得る。哺乳類細胞はヒト由来又は非ヒト由来であってもよく、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎上皮細胞及び網膜上皮細胞)、確立された細胞株及びその菌株(例えば、293胚腎細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit 562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13細胞、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I細胞、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK-細胞、PK-15細胞又はそれらの誘導体)任意の組織又は器官(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃体、骨髄、血液)、脾臓を含むが、これらに限定されない)からの線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、デトロイト551細胞、デトロイト510細胞、デトロイト525細胞、デトロイト529細胞、デトロイト532細胞、デトロイト539細胞、デトロイト548細胞、デトロイト573細胞、HEL 299細胞、IMR-90細胞)、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、菌株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、スイス/3T3細胞、インドスエード細胞、SIRC細胞、Cn細胞及びJensen細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はそれらの誘導体)を含み得る。
【0043】
いくつかの例示的な実施形態では、組成物は、疾患又は障害の治療、予防及び/又は改善のために使用され得る。本発明の医薬製剤を投与することによって治療及び/又は予防することができる例示的な非限定的疾患及び障害は、感染症、呼吸器疾患、神経因性、神経性又は傷害性疼痛に関連する疾患に起因する疼痛、遺伝疾患、先天性疾患、がん、ヘルペス様、慢性特発性蕁麻疹、強皮症、肥厚性瘢痕、ホイップル病、良性前立腺過形成、軽度、中等度又は重度の喘息、アレルギー反応などの肺疾患、川崎病、鎌状赤血球症、チャーグ・シュトラウス症候群、バセドウ病、子癇前症、シェーグレン症候群、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性溶血性貧血、バレット食道、自己免疫性ブドウ膜炎、結核、腎臓病、慢性関節リウマチを含む関節炎、クローン病や潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、炎症性疾患、HIV感染症、AIDS、LDLアフェレーシス、PCSK9活性化突然変異(機能獲得型突然変異、「GOF」)に起因する疾患、ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症(heFH)に起因する疾患、原発性高コレステロール血症、脂質異常、胆汁うっ滞性肝疾患、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下、肥満、アテローム性動脈硬化、心血管疾患、神経変性疾患、新生児発症多系統炎症性疾患(NOM ID/CINCA)、マックル・ウェルズ症候群(MWS)、家族性感冒自己炎症症候群(FCAS)、家族性地中海熱(FMF)、腫瘍壊死因子受容体関連周期性症候群(TRAPS)、全身型若年性特発性関節炎(スティール病)、1型糖尿病と2型糖尿病、自己免疫疾患、運動ニューロン疾患、目の病気、性感染症、結核、VEGFアンタゴニストによって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、PD-1阻害剤によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、インターロイキン抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、NGF抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、PCSK9抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、ANGPTL抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、アクチビン抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、GDF抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、Fel d1抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、CD抗体によって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状、C5抗体又はその組み合わせによって改善、阻害、又は軽減される疾患又は症状を含む。
【0044】
いくつかの例示的な実施形態では、組成物は患者に投与され得る。投与は、当業者に許容される任意の経路を介して行うことができる。非限定的投与経路は、経口、局所、又は非経口を含む。ある特定の非経口経路を介した投与は、滅菌注射器又は持続注入システムなどの他の何らかの機械装置によって推進される針又はカテーテルを通して、本発明の製剤を患者の体内に導入することを含み得る。本発明によって提供される組成物は、シリンジ、注射器、ポンプ、又は非経口投与用の当該技術分野で認識されている他の任意の装置を使用して投与することができる。本発明の組成物は、肺又は鼻腔内での吸収のためのエアロゾルとして投与することもできる。組成物はまた、口腔投与など、粘膜を介して吸収するために投与され得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、製剤は、緩衝剤、増量剤、等張化剤、可溶化剤、及び保存剤を含むがこれらに限定されない賦形剤を更に含み得る。他の追加の賦形剤もまた、機能に基づいて選択することができ、製剤との適合性は、例えば、REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY,(2005)、U. S.Pharmacopeia:National formulary、LOUIS SANFORD GOODMAN ET AL.,GOODMAN & GILMANS THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS(2001)、KENNETH E.AVIS,HERBERT A.LIEBERMAN & LEON LACHMAN,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS:PARENTERAL MEDICATIONS(1992)、Praful Agrawala,Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets.Volume 1, 79 Journal of Pharmaceutical Sciences 188(1990)、HERBERT A.LIEBERMAN, MARTIN M.RIEGER & GILBERT S.BANKER,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS:DISPERSE SYSTEMS(1996)、MYRA L.WEINER & LOIS A.KOTKOSKIE,EXCIPIENT TOXICITY AND SAFETY(2000)(それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見いだされ得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、組成物中の界面活性剤は、ポリソルベートであり得る。本明細書で使用される場合、「ポリソルベート」は、撹拌、凍結融解プロセス、空気/水界面などの様々な物理的ストレスから抗体を保護するために製剤開発で使用される一般的な賦形剤を指し(Emily Ha,Wei Wang & Y.John Wang,Peroxide formation in polysorbate 80 and protein stability,91 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2252-2264(2002);Bruce A.Kerwin,Polysorbates 20 and 80 Used in the Formulation of Protein Biotherapeutics:Structure and Degradation Pathways,97 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2924-2935(2008);Hanns-Christian Mahler et al.,Adsorption Behavior of a Surfactant and a Monoclonal Antibody to Sterilizing-Grade Filters,99 Journal of Pharmaceutical Sciences 2620-2627(2010))、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステルからなる非イオン性両親媒性界面活性剤を含み得る。エステルには、ポリオキシエチレンソルビタン頭部基、及び飽和モノラウレート側鎖(ポリソルベート20、PS20)又は不飽和モノオレエート側鎖(ポリソルベート80、PS80)のいずれかを含み得る。いくつかの態様では、ポリソルベートは、製剤中に約0.001%~1%(重量/体積)の範囲で存在することができる。ポリソルベートは、様々な脂肪酸鎖の混合物も含み得、例えば、ポリソルベート80は、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸脂肪酸を含み、モノオレイン酸画分が多分散混合物の約58%を占める(Nitin Dixit et al.,Residual Host Cell Protein Promotes Polysorbate 20 Degradation in a Sulfatase Drug Product Leading to Free Fatty Acid Particles,105 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 1657-1666 (2016))。ポリソルベートの非限定的例は、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-65、及びポリソルベート-80を含む。
【0047】
ポリソルベートは、pH及び温度に依存して自動酸化されやすい可能性があり、更に、紫外線への曝露によっても不安定になる可能性があり(Ravuri S.k.Kishore et al.,Degradation of Polysorbates 20 and 80:Studies on Thermal Autoxidation and Hydrolysis,100 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 721-731(2011))、その結果、ソルビタン頭部基とともに溶液中に遊離脂肪酸が生成される。ポリソルベートから生じる遊離脂肪酸は、炭素数6~20の脂肪族脂肪酸を含む。遊離脂肪酸の非限定的例としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
いくつかの例示的な態様では、ポリソルベートは遊離脂肪酸粒子を形成することができる。遊離脂肪酸粒子のサイズは少なくとも約5μmであり得る。更に、これらの脂肪酸粒子は、そのサイズに応じて可視粒子(約100μm超)、可視未満粒子(約100μm未満であり、ミクロン(1~100μm)とミクロン未満(100nm~1000nm)に細分できる)、及びナノメートル粒子(約100nm未満)に分類できる(Linda Narhi, Jeremy Schmit & Deepak Sharma,Classification of protein aggregates,101 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 493-498)。いくつかの例示的な態様では、脂肪酸粒子は、可視粒子であり得る。可視粒子は、目視検査によって判定できる。いくつかの例示的な態様では、脂肪酸粒子は、可視未満粒子であり得る。可視未満粒子は、米国薬局方(USP)に準拠した光遮断法によってモニタリングすることができる。脂肪酸粒子の増加により、製品が許容できる品質でなくなる可能性があるため、脂肪酸粒子の増加率が製品の保存期間の尺度として使用され得る。遊離脂肪酸が製剤中に放出され、可溶性の濃度を超えると、脂肪酸粒子が形成され、それによって溶液から沈殿することがある。従って、ポリソルベートの分解又は放出された遊離脂肪酸の濃度を測定することは、脂肪酸粒子の形成の指標となり得、予測される製品の保存期間を延長することによっても可能である。
【0049】
いくつかの例示的な態様では、製剤中のポリソルベート濃度は、約0.001%w/v、約0.002%w/v、約0.003%w/v、約0.004%w/v、約0.005%w/v、約0.006%w/v、約0.007%w/v、約0.008%w/v、約0.009%w/v、約0.01%w/v、約0.015%w/v、約0.02%w/v、0.025%w/v、約0.03%w/v、約0.035%w/v、約0.04%w/v、約0.045%w/v、約0.05%w/v、約0.06%w/v、約0.07%w/v、約0.08%w/v、約0.09%w/v、約0.1%w/v、約0.2%w/v、約0.3%w/v、約0.4%w/v、約0.5%w/v、約0.6%w/v、約0.7%w/v、約0.8%w/v、約0.9%w/v、又は約1%w/vであり得る。例示的な実施形態では、製剤中のポリソルベート濃度は、約1%w/vである。
【0050】
いくつかの例示的な態様では、製剤中の医薬物質濃度は、製剤中の遊離脂肪酸濃度は、約10ng/mL、約20ng/mL、約30ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、約100ng/mL、約200ng/mL、約300ng/mL、約400ng/mL、約500ng/mL、約600ng/mL、約700ng/mL、約800ng/mL、約900ng/mL、約1μg/mL、約2μg/mL、約3μg/mL、約4μg/mL、約5μg/mL、約6μg/mL、約7μg/mL、約8μg/mL、約9μg/mL、約10μg/mL、約20μg/mL、約30μg/mL、又は約40μg/mLであり得る。
【0051】
いくつかの例示的な態様では、ポリソルベートは、組成物中に存在する宿主細胞タンパク質によって分解され得る。本明細書で使用される場合、「宿主細胞タンパク質」という用語は、宿主細胞に由来するタンパク質を含み、所望の医薬物質とは無関係な場合もある。宿主細胞タンパク質は、製造プロセスに由来し得るプロセス関連の不純物であり得、細胞基質由来、細胞培養由来、下流由来の3つの主要なカテゴリを含み得る。細胞基質由来の不純物は、宿主生物由来のタンパク質及び核酸(宿主細胞のゲノム、ベクター、又は全DNA)を含むが、これらに限定されない。細胞培養由来の不純物は、誘導物質、抗生物質、血清、及びその他の培地成分を含むが、これらに限定されない。下流由来の不純物は、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化剤及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、及びその他の浸出物を含むが、これらに限定されない。いくつかの例示的な実施形態では、宿主細胞タンパク質は、リパーゼ又はエステラーゼであり得る。製剤中の残留リパーゼ活性は、ポリソルベートの分解、遊離脂肪酸の放出、又は可視脂肪酸粒子若しくは可視未満脂肪酸粒子の濃度を測定することによって間接的に評価することができる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィ」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、静止した液相又は固相を通って流れる(又は流れ込む)際の成分の分布の差の結果として、成分に分離できるプロセスを指す。液体クロマトグラフィの非限定的例は、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、アフィニティークロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、又は混合モードクロマトグラフィを含む。例示的な実施形態では、ブチル逆相カラムが使用される。例示的な実施形態では、Acquity UPLC BEH C4カラムが使用される。
【0053】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を認識し、その正確な質量を測定できる装置を含む。当該用語は、ポリペプチド又はペプチドを特性評価することができる任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、検出器という3つの主要な部分を含む。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。検体の原子、分子、クラスタは気相に移送され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)又は別のプロセスを通じてイオン化される。イオン源の選択は用途によって異なる。いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数段階の質量選択と質量分離を使用してサンプル分子の構造情報を取得する技術を含む。前提条件は、最初の質量選択ステップの後に、予測可能かつ制御可能な方法で断片が形成されるように、サンプル分子が気相に変換されてイオン化されることである。多段階MS/MS又はMSnは、有意義な情報が得られる、又はフラグメントイオン信号が検出可能である限り、先ず前駆体イオンを選択して分離し(MS2)、断片化し、一次フラグメントイオンを分離し(MS3)、断片化し、二次フラグメントイオンを分離し(MS4)、などによって実行することができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に実行される。ある特定の用途にどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、速度だけでなく、サイズ、コスト、可用性など、様々な要因によって決まる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデムインスペースとタンデムインタイムであり、しかし、タンデムインタイム分析器が空間内で結合されたりタンデムインスペース分析器と結合されたハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、生成イオンがm/z分離とデータ収集のために別の分析器に送信されるように設計できる。タンデムインタイムでは、イオン源で生成された質量分析計イオンを同じ物理装置内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0054】
いくつかの態様では、本願の方法又はシステムにおける質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり得、質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに接続され得、質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィ-質量分析)又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィ-多重反応モニタリング-質量分析)分析を行うことができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスタを分離できる装置を含む。使用され得る質量分析計の非限定的例は、飛行時間型(TOF)、磁気/電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及び加速器質量分析(AMS)の技術である。
【0056】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、溶液を含むエレクトロスプレーニードルの先端と対向電極との間に電位差を与えることによって発生する高電荷液滴の流れを大気圧下で形成して脱溶媒することにより、溶液中のカチオン又はアニオンが気相に移行するスプレーイオン化プロセスを指す。溶液中の電解質イオンから気相イオンを生成するには、一般に3つの主要なステップがある。それらは、以下のとおりである:(a)ES注入チップで荷電液滴を生成すること、(b)溶媒の蒸発と繰り返しの液滴崩壊による荷電液滴の収縮により、気相イオンを生成できる小さな高度に荷電した液滴を生成すること、及び(c)非常に小さく、高度に荷電した液滴から気相イオンを生成するメカニズム。段階(a)~(c)は通常、装置の大気圧領域で発生する。いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であり得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、「抽出」という用語は、混合物中の化合物を、その特有の物理的及び化学的特性に基づいて他の化合物から分離するために使用されるプロセスを指す。混合物の種類と分離される化合物の種類に基づいて、固相抽出(SPE)、液液抽出(LLE)、電気抽出(EE)など、抽出には多くの種類がある。現在の遊離脂肪酸の定量法は、LC-MSなどによる分析前に製剤から遊離脂肪酸を抽出することに依存する。この抽出ステップにより、分析用のサンプルの成分が簡素化されるが、その代償として、時間のかかるステップが導入され、結果にばらつきが生じる可能性がある。いくつかの例示的な実施形態では、本願は、抽出ステップを行わずに製剤中の遊離脂肪酸を定量する方法を記載する。
【0058】
本開示は、医薬製剤中の遊離脂肪酸を定量するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、(a)医薬物質、ポリソルベート、及び遊離脂肪酸を含む製剤をインキュベートするステップと、(b)前記製剤を液体クロマトグラフィに供して、上記遊離脂肪酸を分離するステップと、(c)質量分析計を使用して、上記遊離脂肪酸を定量するステップであって、上記遊離脂肪酸は、上記製剤を液体クロマトグラフィに供する前に、上記製剤から抽出されないステップとを含む。
【0059】
いくつかの態様では、上記遊離脂肪酸の定量は、前記ポリソルベートの分解の測定として使用される。いくつかの態様では、上記遊離脂肪酸の定量は、上記医薬製剤中の残留リパーゼ活性の測定として使用される。いくつかの態様では、前記遊離脂肪酸の定量は、脂肪酸粒子形成の測定として使用される。いくつかの態様では、前記遊離脂肪酸の定量は、上記医薬製剤の保存期間を予測するために使用される。保存期間は、遊離脂肪酸粒子が可溶性となる濃度を超える遊離脂肪酸粒子濃度の増加に基づいて予測することができ、その結果、脂肪酸粒子が形成され、医薬製剤が許容できないものとなる可能性がある。
【0060】
いくつかの態様では、遊離脂肪酸の測定を改善するために、医薬製剤中のポリソルベート濃度を最適化することができる。実施例1に記載したように、過度に高濃度のポリソルベートは、イオン抑制及び医薬物質の希釈を引き起こす可能性がある。しかし、濃度が低すぎると、放出されたFFAが吸着によって過度に失われる可能性がある。一態様では、ポリソルベートの最適濃度は、約1%である。
【0061】
以下の実施例5に示す式1及び2は、長期のFFA放出及びPS分解を予測するために本発明の無抽出法を使用するためのモデルを提供する。例えば、本発明の定量法は、加速保存条件、例えば、約37℃、及び典型的な保存条件、例えば、約5℃での製剤に適用することができる。約37℃での日数に対応する約5℃での月数を表す線形方程式を導き出すことができる。表3及び表4に示すように、37℃での数日にわたる放出されたFFA濃度の変化率を使用して、5℃での数か月にわたる放出されたFFA濃度の変化を予測できる。この方法と、FFAが沈殿して脂肪酸粒子を形成し得る溶解度の既知の限界を使用すると、数日にわたる簡単かつ迅速な測定によって医薬物質の保存期間を予測でき得る。
【0062】
本発明は、前述の製剤(複数可)、医薬物質(複数可)、賦形剤(複数可)、タンパク質(複数可)、抗体(複数可)、細胞(複数可)、組成物(複数可)、ポリソルベート(複数可)、遊離脂肪酸(複数可)、宿主細胞タンパク質(複数可)、液体クロマトグラフィシステム(複数可)又は質量分析計(複数可)のいずれにも限定されず、任意の製剤(複数可)、医薬物質(複数可)、賦形剤(複数可)、タンパク質(複数可)、抗体(複数可)、細胞(複数可)、組成物(複数可)、ポリソルベート(複数可)、遊離脂肪酸(複数可)、宿主細胞タンパク質(複数可)、液体クロマトグラフィシステム(複数可)又は質量分析計(複数可)が、任意の適切な手段によって選択され得ることが理解される。
【0063】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0064】
材料
ギ酸、メタノール(MeOH)、イソプロパノール(IPA)、及びアセトニトリル(ACN)は、Thermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から購入した。酢酸アンモニウム、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、ラウリン酸-d23(CAS番号59154-43-7)、ミリスチン酸-d27(CAS番号60658-41-5)及びオレイン酸-13C18(CAS番号287100-82-7)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。超精製PS20は、Croda(East Yorkshire、UK)から購入した。全てのmAbは、Regeneron Pharmaceuticals,Inc.で調製された。Oasis MAXカラム、Acquity UPLC BEH C4カラム、及びAcquity UPLC CSH C18カラムは、Waters(Milford、MA)から購入した。ガラスバイアルはWaters社から購入し、Eppendorf(登録商標) LoBind微量遠心管は、Sigma Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。ヒト肝臓カルボキシルエステラーゼ(CES-1)は、Abcam(Cambridge UK)から購入した。
【0065】
mAb-1は、検出可能な濃度のリソソーム酸性リパーゼ(LAL)(0.5ppm未満)を含む抗体である。mAb-2、mAb-3、及びmAb-6も、様々な濃度のLAL(1ppm未満)を含む抗体である。mAb-4は、抗体の処理中サンプルであり、mAb-5は、同じ抗体を更に精製したものである。mAb-7は、2℃~8℃で6か月保存した後に粒子仕様を満たさなかったIgG4抗体サンプルである。
【0066】
脂肪酸定量のためのPS20加水分解のインキュベーション条件の最適化
本発明の脂肪酸定量法に使用されるmAb製剤中のPS20の加水分解は、60μLの200mg/mLのmAb-3(10mMのヒスチジン、pH6.3)と、0.62μL、1.26μL、3.2μL及び6.8μLの10%PS20(1.5μLのISTD混合物(20%のメタノール中の200μg/mLのラウリン酸-d23、40μg/mLのミリスチン酸-d27、及びオレイン酸-13C18)を含む、又は含まない)とを、Eppendorfプラスチックチューブ(カテゴリ番号022431064)又はWaters社のガラスバイアル(SKU 600000668CV)中に混合し、37℃で1又は3日インキュベートすることによって最適化された。インキュベーションサンプルは、抽出後にLC多重反応モニタリング(LC-MRM)によって分析された(表2)。
【0067】
【0068】
製剤化mAbからのFFAの抽出
インキュベーション条件は、抽出後にLC-MRMを使用して脂肪酸含有量を測定するために最適化された。最適化された沈殿バッファと抽出時間を備えた、Honemann et al.によって開発された抽出プロトコルを使用して、mAb溶液から脂肪酸を抽出した(Honemann et al.)。ラウリン酸-d23、ミリスチン酸-d27、及びオレイン酸-13C18を80%のIPA/20%のメタノールで希釈し、各重同位体標識脂肪酸の最終濃度1μg/mLの沈殿バッファを得た。次に、10μLの製剤化したmAbを90μLの抽出バッファに加えた。サンプルをボルテックスで混合し、室温(25℃)で2.5時間維持した。mAbを沈殿させ、25℃、14,000rcfで30分遠心分離することによって遠心分離した。続いて、40μLの上清を96ウェルプレートに移し、5μLをLC-MRMに供して定量した。ISTDとインキュベートしたmAbの場合、表2に示すように、重同位体標識脂肪酸を加えずに80%のIPAと20%のMeOHを混合することで沈殿バッファを調製した。
【0069】
脂肪酸定量用に調製された製剤化抗体中のポリソルベート20の加水分解
脂肪酸定量によって分析された製剤化mAb中のPS20の加水分解は、Waters社のガラスバイアル内で60μLの200mg/mLのmAb(10mMのヒスチジン(pH6.3)、6.8μLの10%のPS20)と1.5μLのISTD混合物(20%のMeOH中の200μg/mLのラウリン酸-d
23及び40μg/mLのミリスチン-d
27酸)を、ラウリン酸-d
23 5μg/mL及びミリスチン酸-d
271μg/mLの最終濃度になるように混合し、37℃で1又は3日間インキュベートすることによって試験された。
図9Aに示すように、LC-MRM分析の前に、各溶液の1つのアリコート(4μL)を水で最終体積80μLに希釈した。
【0070】
FFAのLC-MRM定量
LC-MRM分析を、Agilent 1290 Infinity ultra-HPLC(UHPLC)(Agilent、Wilmington、DE)を備えたAgilent 6495 QQQ質量分析計(Agilent、デラウェア州ウィルミントン)で行った。このステップでは、20mMの酢酸アンモニウム水溶液を移動相Aとして、メタノールを移動相Bとして使用して、20μLの希釈サンプルをAcquity BEH C4カラム(2.1×50mm、1.7mm)に40℃で注入した。注入後、カラムを35%の移動相Bで0.5分間平衡化し、4.5分かけて90%のBまで直線的に増加させ、1.5分間保持し、その後、35%の移動相Bで2.9分間再平衡化した。溶出は0.4mL/分で行われ、1~7分のピークは、ガス温度200℃、ガス流量12L/分、ネブライザーガス圧力20psi、シースガス温度300℃、シースガス流量11L/分、キャピラリー電圧-3000V、及びノズル電圧500Vで、ネガティブモードで動作するESIソースを使用して分析した。ラウリン酸とラウリン酸-d
23は、199.1/199.1及び222.3/222.3でモニタリングし、ミリスチン酸とミリスチン酸-d
27は、227.2/227.2及び254.4/254.4でモニタリングし、パルミチン酸、オレイン酸、オレイン酸-
13C
18、ステアリン酸、及びリノール酸は、CE5でそれぞれ255.2/255.2、281.2/281.2、299.2/299.2、283.2/283.2、及び279.2/279.2でモニタリングした。次に、5μg/mLのラウリン酸-d
23、1μg/mLのミリスチン酸-d
27、及び1μg/mLのオレイン酸-
13C
18と混合した1mLの10mg/mLのmAb-5に、20μLの脂肪酸混合物(メタノール中のラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、及びリノール酸の0.5mg/mLの混合物)を加えて、10μg/mLのスパイク脂肪酸ストック溶液を調製した。脂肪酸ストック溶液と10mg/mLのmAb-5を混合することにより、一連の1:1希釈によって12個の較正標準物質を調製した(5μg/mLのラウリン酸-d
23、1μg/mLのミリスチン酸-d
27、及び1μg/mLのオレイン酸-
13C
18を使用)。ピーク積分は、Skylineによって行われ、脂肪酸濃度は、
に対して、スパイク脂肪酸濃度プロットから作成された検量線に基づいて計算された。
【0071】
2D-CAD測定用に調製された製剤化抗体における、PS20の加水分解
製剤化mAb中のPS20の加水分解は、27μLの200mg/mLのmAb(10mMのヒスチジン(pH6.3)、3μLの0.5%のPS20)を混合し、その後、37℃で12又は28日インキュベートすることにより、二次元液体クロマトグラフィ-荷電エアロゾル検出(2D-LC-CAD)によって分析された。LC-CAD分析の前に、各溶液の1つのアリコート(6μL)を、69μLの10mMのヒスチジン(pH6.0)を加えることで希釈した。
【0072】
PS分解を分析する2D-LC-CAD
図2Aに示すように、CHO無細胞培地又は製剤化抗体におけるPS20の分解を、2D-HPLC-CADシステムによって分析した。設定の詳細は、Borisov et al.によって以前に説明される。PSは、Oasis MAXカラム(2.1×20mm、30mm)によって、製剤化されたmAbから分離され、初期勾配は、99%の溶媒A(0.1%のギ酸水溶液)と1%の溶媒B(0.1%のギ酸アセトニトリル溶液)で1分間保持された。次に、勾配を1.5分かけて20%の溶媒Bまで増加させ、更に1.5分かけて1%まで減少させた。溶媒Bの増加及び減少の勾配サイクルを10分にわたって3回繰り返して、PSからのmAbの完全な除去を確保した。切り替え弁を介して、Acquity BEH C4カラム(2.1×50mm、1.7mm)を使用してPSを逆相クロマトグラフィによって分離に供した。分離中、10分間の勾配サイクルの終了時に、溶媒Bを1.5分かけて1%から20%に増加させ、次に、溶媒Bを45分で99%まで徐々に増加させ、5分間保持し、続いて1%のBで5分間平衡化ステップを行った。流量は、0.1mL/分、カラム温度は、40℃に維持した。
【0073】
2D-LCシステムは、定量のために75psiの窒素圧下で動作するCorona Ultra CAD検出器と組み合わせたThermo UltiMate 3000で設定された。システム制御とデータ分析には、Chromeleon10ソフトウェアを使用した。
図2B及び2Cに示すように、各エステルのピーク面積を分離してCADクロマトグラムから統合し、その面積を合計して、PS20中の損なわれていないエステル総量を計算した。この研究で使用したPS20の残りの百分率は、
図2Dに示すように、各時点でのPOEエステルのピーク面積の合計を時間0でのピーク面積の合計と比較することによって計算した。
【0074】
実施例1 インキュベーションのために加えられる百分率の最適化
最高のPS分解速度を達成するために、様々なパラメータを変更することでインキュベーション条件を最適化した。PS20の%の影響は、Eppendorf LoBind微量遠心管内の200mg/mLのmAb-3溶液に様々な百分率のPS(0.1%、0.2%、0.5%、及び1%)を加え、37℃で1、4、又は6日間インキュベートすることによって決定された。MSシグナルの潜在的なイオン抑制とmAbの更なる希釈を避けるために、PS20の%は1%以下に維持された。各時点からのサンプルを抽出し、LC-MRM-MSに供して、放出されたFFAを定量した。
図3Aに示すように、ラウリン酸の濃度は、0.1%、0.2%、0.5%のPS20と比較して、1%のPS20でのインキュベーション下ではるかに速く増加した。同様に、
図4に示すように、ミリスチン酸濃度も1%のPS20で最も急速な増加を示した。興味深いことに、4日間のインキュベーション後のラウリン酸の濃度が5μg/mL未満であり、製剤中ラウリン酸の溶解度(20μg/mL超)よりもはるかに低いという事実にもかかわらず、放出されたFFAの増加は4日間のインキュベーション後に停止又は減速した。この発見は、PS20の連続的な加水分解にもかかわらず、放出された脂肪酸がインキュベーション中に失われたことを示唆している。
【0075】
インキュベーション中に脂肪酸が失われる理由を調査するために、同位体標識脂肪酸が使用された。様々な百分率のPS20(0.1%、0.2%、0.5%、及び1%)を、5μg/mLのラウリン酸-d
23、1μg/mLのミリスチン酸-d
27、及び1μg/mLのオレイン酸-
13C
18を含む200mg/mLのmAb3とインキュベートし、続いて脂肪酸の抽出と定量を行った。3つの重同位体標識脂肪酸の全てで継続的な損失が観察された。
図3Bに示すように、1%のPS20の添加は、6日目に0.1%のPS20よりもラウリン酸の損失を防ぐのに5倍効果的であり、これが、1%のPS20でのインキュベーション下で6日目にラウリン酸濃度が増加し続けた理由を説明している。ラウリン酸濃度は、0.5%、0.2%、又は0.1%のPS20とインキュベートした場合、6日目に増加が停止するか、更には減速した。
図5A及び5Bに示すように、重同位体標識ミリスチン酸及びオレイン酸についても同じ損失傾向が観察された。脂肪酸の炭素鎖長が増加するにつれて、脂肪酸の損失は遅くなる。1%のPS20との6日間のインキュベーション後に失われたオレイン酸は15%のみであるが、ラウリン酸では50%、ミリスチン酸では34%である。
【0076】
実施例2 インキュベーション容器の最適化
PS20の百分率が高いほど脂肪酸の損失を遅らせることができるという発見は、脂肪酸の損失がインキュベーション容器への吸着によって生じる可能性があることを示唆している。Yao et.alによる最近の研究では、プラスチックがメタボロミクス試験におけるパルミチン酸塩の定量の不正確さを引き起こすことを示した(Yao et al.,Metabolomics 12(2016))。脂肪酸の定量に対する容器の影響を評価するために、5μg/mLのラウリン酸-d
23、1μg/mLのミリスチン酸-d
27、及び1μg/mLのオレイン酸-
13C
18を含む200mg/mLのmAb-3を、1%のPS20とともにEppendorf LoBindプラスチックチューブ及びWaters社のガラスバイアル(SKU.186000327C)中、37℃で1、3、又は5日インキュベートした。含有脂肪酸を抽出し、ラウリン酸については
図6Aに、ミリスチン酸については
図6Bに定量結果を示す。Eppendorf LoBindプラスチックチューブをWaters社のガラスバイアルに置き換えると、重同位体標識脂肪酸の損失が大幅に低下した。従って、本発明の脂肪酸定量法におけるインキュベーションにはガラスバイアルが好ましい。
図7A及び7Bに示すように、濃度は大幅に低下するものの、ガラスバイアル中では脂肪酸の損失が依然として発生することに留意すべきである。容器の吸着効果を完全に排除するには、更に最適化する必要がある。
【0077】
実施例3 ISTDとのインキュベーション:重同位体標識脂肪酸
典型的には、ISTDは、インキュベーション後、標的の脂肪酸を正確に計算できるようにLC-MRM-MS分析前に追加される。インキュベーション中に吸着損失が発生するという上記発見から、重脂肪酸と軽脂肪酸はインキュベーション中に同じ速度で減少するため、脂肪酸の吸着損失の影響を考慮して、代わりに重同位体標識脂肪酸をインキュベーション前に加えた。5μg/mLのラウリン酸-d
23、1μg/mLのミリスチン酸-d
27、及び1μg/mLのオレイン酸-
13C
18を含むmAb3(200mg/mL)を、1%のPS20とともにEppendorf LoBindプラスチックチューブ及びWaters社のガラスバイアル中、37℃で1、3、又は5日インキュベートした。ISTDによる補正を行わずにピークFFA面積から計算した定量結果を、
図8A及び8Bに示す。測定されたFFAは、ガラスバイアルとプラスチックバイアルで異なる値を示し、ガラスバイアルの方が顕著に高い値を示した。ISTDによる補正後、ラウリン酸及びミリスチン酸の濃度は両方の容器で同じであると測定され、
図8C及び8Dに示すように、インキュベーションステップの前にISTDを加える新規なアプローチが容器の影響をうまく排除したことを示した。更に、ラウリン酸及びミリスチン酸の濃度は両方とも、ISTD補正後の方が補正なしの場合よりも高く、本発明の方法を使用したより正確な定量が示唆された。
【0078】
実施例4 LC-MRM-MSを使用した、医薬製剤中の脂肪酸の抽出を必要としない定量
医薬製剤中の個々のFFAを定量するためのこれまでの全ての方法には抽出が含まれており、それは、このステップによってLC-MRM-MS分析前のサンプル組成が大幅に簡素化されるためである。しかし、いかなるサンプル処理ステップの追加も、定量にばらつきを生じさせ、時間と労力が増加する可能性があるため、ハイスループット分析の目標が損なわれる。抽出ステップを回避できれば、FFA定量の効率を大幅に向上させることができる。PS分解の脂肪酸定量では、サンプル組成は非常にシンプルで、主要成分はPS、FFA、及び組換えタンパク質(mAbなど)の3つだけである。3つの成分をクロマトグラフィで分離できる場合は、直接注入が可能である。mAbからFFAを確実に分離し、mAbによるカラムの閉塞を回避するために、C4カラムを選択した。原理の証明として、FFA標準物質を10mg/mLのmAb-5(抽出を行わないFFA定量の最終mAb濃度に等しい[200mg/mLのmAbの20倍希釈])にスパイクし、脂肪酸検出のためにサンプルをLC-MSに直接注入した。
図9Bに示すように、本方法により、通常、PS20分解後に形成される複数のFFA(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸)の混合物のベースライン分離が可能になる。PS80分解後に形成される分解物であるパルミチン酸、リノール酸、及びオレイン酸は、TICでは部分的に重なったが、別のm/zチャネルでは十分に分離できる。
図9Cは、19ng/mL~10μg/mLの濃度範囲にわたって、mAb-5にスパイクされた主要なPS20及びPS80のFFA分解物(ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸)について、線形回帰R
2>0.999で、高い特異性及び直線性が達成され得ることを実証する。ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸の検出限界は、それぞれ22、680、211ngl/mLと測定された。ラウリン酸とオレイン酸の検出限界は低いため、PS20とPS80の微妙な変化をモニタリングできる。0.02%のPS20が分解されると、17.81μg/mLのラウリン酸の増加が観察され、これは、本方法がPS20の変化を0.000024%という低い値でモニタリングできることを意味する。PS80では、0.025%のPS80の分解による、33.25μg/mLのオレイン酸の増加が観察され、これは、0.00016%のPS80の減少が検出できることを示す。
【0079】
最小限のサンプル前処理でFFAの定量を可能にする鍵となる脂肪酸定量に対するmAbマトリックスの影響を評価するために、3つの代表的な脂肪酸標準物質(ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸)を10mg/mLのmAb-5及び80%のIPA/20%のメタノールにスパイクした。水溶液では、有機溶液と比較して、逆相クロマトグラフィでより多くの注入量(20μL)が可能になる。
図10に示すように、IPA/MeOH中のFFAを5μL超で注入すると、ピークの分割が発生した。従って、ピークFFA面積を比較するために、10mg/mLのmAb-5中の20μLの脂肪酸と80%のIPA/20%のメタノール中の5μLの脂肪酸を逆相LCに注入した。
図9Dに示すように、このアプローチの感度は、mAbマトリックスによって損なわれることはなかった。ラウリン酸とオレイン酸の回収率は、IPA/MeOH溶液よりもmAbマトリックスの方が高かったのに対し、ミリスチン酸の回収率は、mAbマトリックスとIPA/MeOH溶液で同等であった。
【0080】
図9Eに示すように、抽出あり又はなしのアプローチを用いたFFA定量の精度を、0.5ppm未満の濃度の活性リパーゼ(LAL)を含む2つのmAbについて評価した。mAb-1は、リパーゼ活性レベルが低い抗体である。2℃~8℃で18か月間インキュベートした後、この製剤化抗体では0.02%のPS20分解が観察された。mAb-6は、mAb-1と同等のLAL濃度を持つ抗体である。両方のmAbを1%のPS20とともに3日インキュベートした後、LC-MRM-MS分析に供した。抽出を必要としない方法によるFFA定量の精度は、抽出ベースの方法と比較した場合、mAbマトリックスの影響を受けず、どちらの方法でも同等の結果を示した。RSD%はどちらの方法でも15%未満であった。この結果は、本発明の方法が、抽出ステップの追加の複雑さを伴うことなく、従来の方法と同じ精度でFFA放出を測定できることを実証する。
図9Eはまた、陰性対照(mAb又はリパーゼを含まないPS20のみ)についてのFFAの定量を示し、リパーゼ活性を有するmAbを含むサンプル中で測定された脂肪酸の量と陰性対照との間の差が、測定における変動よりもはるかに大きいことを明確に示す。
【0081】
実施例5 脂肪酸生成とPS分解の相関関係の検証
FFA形成がPS分解と正の関係があることはよく理解されているが、脂肪酸定量を使用したPS分解の間接測定とPS分解の直接測定との間の直接比較は不足している。ここでは、安定性試験を受けた抗体(mAb-1)のインキュベーション後に、放出されたFFA濃度の増加とPS20の百分率の減少とが比較された。mAb-1を、2℃~8℃で6、12、及び最大18か月間インキュベートした。FFA含有量及びPS20含有量の両方を各時点で測定したが、これら2つの数値は、
図11Aに示すように、相関係数が0.99を超えて、高度に相関した。ラウリン酸の測定は線C12に示され、ミリスチン酸の測定は線C14に示される。更に、5℃で36か月にわたってmAb-1におけるPS80分解を調査した場合、
図11Bに示すように、放出されたオレイン酸は、LC-CADを使用して測定されたPS80種と相関し、放出されたオレイン酸とPS80分解とは、最初の約15か月間は直線的に増加し、その後両方の速度が減少した。同様に、mAb-2のPS20分解を5℃で36か月間調査した場合、
図11Cに示すように、放出されたラウリン酸は、LC-CADを使用して測定されたPS20種と相関し、放出されたラウリン酸とPS20分解とは、最初の約12か月間は直線的に増加し、その後両方の速度が減少した。まとめると、これらの発見は、PS分解の測定として脂肪酸定量を使用することの有効性を実証する。
【0082】
放出された遊離脂肪酸濃度は、典型的な保存温度での長期的なPS分解を予測する形で、より暖かい温度で保存するとはるかに急速に上昇した。オレイン酸については
図12Aに、ラウリン酸については
図12Bに示すように、例えば、わずか数日後、37℃で保存されたPSの放出された遊離脂肪酸濃度は、4℃~8℃で数か月又は数年間保存されたPSの放出された遊離脂肪酸濃度と相関する。
【0083】
mAb-1及びmAb-2の安定性データに基づいて、加速保存条件からの測定値を使用して、数か月間にわたる典型的な保存条件における薬物製品からのFFA放出を予測するためのモデルが作成された。オレイン酸の放出に関して、37℃での保存日ごとに5℃で保存した場合の同等の月数は、式1(5℃での月数=1.13*37℃での日数-0.36)で表すことができる。ラウリン酸の場合、同じ関係が式2(5℃での月数=2.51*37℃での日数-0.02)によって表すことができる。
【0084】
オレイン酸については表3に、ラウリン酸については表4に示すように、本発明のLC-MRM法によって測定された各保存条件下での放出されたFFAの量を、上記モデルを使用した放出FFAの予測量と比較した。放出されたオレイン酸の量を予測するために、式1を、37℃で数日インキュベートした後の測定されたオレイン酸濃度に適用して、式3(オレイン酸濃度(μg/mL)=3.84*5℃での月数+1.76)を導き出した。放出されたラウリン酸の量を予測するために、式2を、37℃で数日インキュベートした後の測定されたラウリン酸濃度に適用して、式4(ラウリン酸濃度(μg/mL)=0.11*5℃での月数-0.04)を導き出した。
【0085】
結果として、これらのデータは、本発明の方法を使用して37℃で保存した場合の数日間にわたるFFA放出の測定を、本モデルとともに使用して、通常の保存温度4℃~8℃で数か月間にわたるFFA放出、ひいてはPS20又はPS80分解とリパーゼ活性を予測できることを実証する。
【0086】
(表3)LC-MRMによって測定された、5℃でのmAb-3におけるPS80分解によって放出されたオレイン酸(月)と、mAb-1に基づいて確立された式1による推定値との比較
【0087】
(表4)LC-MRMによって測定された、5℃でのmAb-4におけるPS20分解によって放出されたラウリン酸放出率(月)と、mAb-2に基づいて確立された式2による推定値との比較
【0088】
実施例6 直接的なPS分解測定と間接的なFFA定量測定との比較の事例研究
5つのmAb及び陰性対照におけるPS20分解を、抽出ベースの方法と抽出を使用しない方法の両方で分析し、PS20分解を確実に定量するのに必要な時間を比較した。
図13に示すように、5つのmAbは全て、低濃度の活性リパーゼを含んだ。mAb-1のLAL濃度は、0.5ppm未満である。mAb-2とmAb-3には同じリパーゼがわずかに異なる濃度で含まれるが、それでも1ppm未満である。mAb-4は低濃度のリパーゼを含む抗体の製造途中のサンプルで、mAb-5は最終濃縮mAb製品(FCP)である。このサンプルでは、
図14A及び
図14Bに見られるように、2℃~8℃で18か月間保存した後、微粒子の顕著な増加及びPS20回収率の継続的な減少が観察された。
【0089】
放出されたFFAが薬物製品中での溶解度を超えることにより、粒子数が増加し、製品の保存期間が制限される。
図14Bに示すように、mAb-2薬物製品で測定した2μm粒子/mLは、4℃~8℃で36か月間の保存中に増加した。逆に、
図14Cに示すように、遊離脂肪酸濃度は、薬物製品中での溶解度を超えた後、増加が停止した。mAb-2薬物製品中のラウリン酸及びミリスチン酸濃度は、PS20分解により、4℃~8℃で36か月間の保存中に増加した。しかし、ミリスチン酸濃度は18か月後に増加が停止したが、2μm粒子は18か月で大幅に増加し、これは、mAb-2の保存期間がPS20分解によって放出されたミリスチン酸によって制限されることを示唆していまる。従って、薬物製品中の脂肪酸濃度を測定することにより、FFA(ラウリン酸、ミリスチン酸)の溶解度を決定できるため、これを、上記予測モデルに基づいて薬物製品の保存期間を計算するために使用できる。
【0090】
このような低いリパーゼ活性を有するmAbであっても、
図13Bに示すように、LC-MRM-MSによるFFA定量を使用することにより、陽性のPS20分解を1日以内に確実に定量することができる。より高いリパーゼ活性を持つmAb(例えば、2℃~8℃で6か月保存した後に粒子仕様を満たさなかったmAb-7)の場合、
図15に示すように、リパーゼ活性はインキュベーションの2時間以内に検出できる。対照的に、
図13Aに示すように、2D-LC-CADによる直接PS定量法は、CADの11%の方法変動を超えるために少なくとも4~19日を必要とする。
【0091】
同様の戦略を、mAb製剤中の低レベルのPS80分解の測定にも適用できる。インキュベーション中に放出されたオレイン酸の増加を定量することによって、たとえこの濃度の変化がCADを使用するPS80含有量の直接測定によって捕捉できないとしても、本発明の方法を使用して微量レベルのPS80分解を検出することができる。例えば、肝臓のカルボキシルエステラーゼ(50ng/mL)を、0.2%のPS80を含む200mg/mLのmAb-5にスパイクし、37℃で最大9日間インキュベートした。CADとの9日間のインキュベーション後にPS80濃度の低下は観察されなかったが(
図16A)、一方、本発明の無抽出法を使用すると、わずか3日間のインキュベーションでもmAb(0.279μg/mLはPS80の0.0002%減少に相当)中のオレイン酸濃度の増加が明らかに検出された(
図16B)。
【0092】
ポリソルベートは残留リパーゼによって加水分解を受ける可能性があり、薬物製品中に望ましくない粒子が形成されたり、極端な場合には分解して製剤が不安定になったりすることがある。ほとんどの場合、最終薬物製品中のリパーゼ活性は非常に低いため、従来の方法を使用した安定性試験でPS分解が観察されるまでに数か月、更には数年かかる場合がある。従って、PS分解を測定するための、迅速かつ高感度かつ正確な方法が緊急に必要とされている。本開示は、脂肪酸抽出ステップを行わずにFFAを正確に定量するために最適化されたインキュベーション条件で開発された迅速なリパーゼ活性アッセイについて説明する。ラウリン酸(22ng/mL)及びオレイン酸(211ng/mL)の検出限界は低いため、ラウリン酸又はオレイン酸の増加レベルをモニタリングすることで、わずか0.000024%のPS20の減少又は0.00016%のPS80の減少を検出することが可能になった。このステップでは、インキュベーション容器への吸着を防ぐことで放出されたFFAを保存できることが示されるため、以前の方法と比較してより高い百分率のPS20が適用された。ガラスバイアルはプラスチック容器と比較して脂肪酸の吸着を最小限に抑えることができるため、インキュベーションに適した容器であることがわかった。プロセス全体を通じて重同位体標識脂肪酸をISTDとして使用することにより、容器の吸着効果を制御でき、それによってこの方法の精度が保証される。
【0093】
PS20加水分解を受ける安定性サンプルについて、PS20定量によるPS分解の直接測定と、放出されたFFA定量によるPS20分解の間接測定との間で比較を行った。インキュベーション中の放出されたFFAの濃度増加とPS20の減少とは高度に相関することが実証され、新しく開発された方法がPS分解の正確な測定であることが実証された。新しく開発された方法は、PS分解をモニタリングするために2D-LC-CADよりもはるかに高い感度を提供する。事例研究では、リパーゼ活性の低い多数のmAbにおけるPS20分解を検出するのに必要な時間をこれら2つの方法で比較したところ、新しく開発された方法ではmAb薬物製品中の低レベルのリパーゼ活性を1日以内に検出できることが実証された。この新しいハイスループットアッセイを使用すると、PS分解を数日以内にモニタリングでき、以前の方法に比べて劇的な改善が見られる。
【0094】
更に、加速温度での迅速に測定された分解を使用して、典型的な保存温度で数か月にわたるポリソルベートの分解を予測するモデルが提供され、残留リパーゼ活性、PS分解、製品の保存期間を迅速かつ簡単に予測できる。
【国際調査報告】