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特表2024-525338湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法及び予備成形された熱可塑性積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法及び予備成形された熱可塑性積層体
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20240705BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 51/26 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C03C27/12 R
B32B27/00
B29C51/08
B29C51/14
B29C51/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577286
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 NL2022050349
(87)【国際公開番号】W WO2022271015
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2028493
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522320453
【氏名又は名称】オートグラス ディーアンドケー ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】バルトロメウス レオナルダス マリウス ボルチャード ドリーハイス
【テーマコード(参考)】
4F100
4F208
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AA33
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100CB00B
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ17
4F100EJ24
4F100EJ42
4F100EJ50
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JD02
4F100JL11B
4F208AC03
4F208AG03
4F208AG05
4F208AH17
4F208AJ08
4F208AR02
4F208AR06
4F208MA05
4F208MB01
4F208MC03
4F208MC10
4F208MG04
4F208MH06
4F208MK20
4G061AA13
4G061BA02
4G061CB05
4G061CB12
4G061CB16
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
(57)【要約】
本発明は、構成された車載ウインドウに組み込まれる湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法であって、方法は、熱可塑性積層体を提供する処理ステップと、熱可塑性積層体を第1及び第2の柔軟な挟持層の間の対向平坦面により挟み込む処理ステップと、熱可塑性積層体に挟持力を付与する処理ステップと、挟持された熱可塑性積層体を加熱する処理ステップと、挟持及び加熱された熱可塑性積層体を成形する処理ステップと、熱可塑性積層体を冷却する処理ステップと、を備える。本発明はまた、上記方法によって予備成形された予備成形熱可塑性積層体、及び上記熱可塑性積層体を予備成形するシステムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成された車載ウインドウに組み込まれる湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法であって、
a)熱可塑性積層体を提供する処理ステップであって、該熱可塑性積層体は、少なくとも1枚の熱可塑性フィルム、及び好ましくは少なくとも1層の結合材の隣接層を備える、処理ステップと、
b)前記熱可塑性積層体を第1及び第2の柔軟な挟持層の間の対向平坦面により挟み込む処理ステップと、
c)前記熱可塑性積層体に挟持力を付与する処理ステップであって、該挟持力は少なくとも前記第1及び第2の挟持層の間に位置する前記熱可塑性積層体に垂直な成分を有する、処理ステップと、
d)挟持された前記熱可塑性積層体を所定温度に加熱する処理ステップと、
e)挟持及び加熱された前記熱可塑性積層体を少なくとも1つのモールド部品に接触させて成形する処理ステップであって、前記モールド部品の接触面が二重湾曲接触面である、処理ステップと、
f)前記熱可塑性積層体を冷却する処理ステップと、
を備え、
前記処理ステップc)中に付与される前記挟持力は、前記処理ステップd)中に少なくとも部分的に維持される、湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項2】
前記柔軟な挟持層は、実質的にガス不透過性である、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項3】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は前記第1及び第2の柔軟な挟持層によって前記熱可塑性積層体の対向面から前記熱可塑性積層体に付与される、請求項1又は2に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項4】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は、前記熱可塑性積層体の少なくとも1つの平坦面の、好ましくは両前記対向平坦面の実質的に全面にわたって付与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の柔軟な挟持層は個々のフレームに取り付けられ、該フレームは、該フレームが相互に押圧される挟持位置と、該フレームが離隔される不活性位置との間で移動される、請求項1から4のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項6】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は、前記第1及び第2の柔軟な挟持層の間を真空として前記熱可塑性積層体の前記対向平坦面に真空圧をもたらすことによって増加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項7】
相互に挟持された前記第1及び第2の柔軟な挟持層によって囲まれた空間から、該空間に取り付けられた真空ホースを介して、ガスが抜かれる、請求項6に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項8】
前記処理ステップf)中に、前記熱可塑性積層体は、冷却ガスを前記モールド部品の少なくとも1つに強制的に通すことによって冷却される、請求項1から7のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項9】
前記熱可塑性積層体は少なくとも2枚の熱可塑性フィルムを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項10】
相互に向き合う前記熱可塑性フィルムの面の少なくとも一方、好ましくは両方が、導電性材料によって、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)によって、コーティングされる、請求項9に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項11】
前記少なくとも2枚の熱可塑性フィルム間において、前記熱可塑性積層体は、分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス及び/又はエレクトロクロム基板を備える、請求項9又は10に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項12】
前記処理ステップd)中に、前記熱可塑性積層体は、80℃~160℃、好ましくは115℃~135℃の温度に加熱される、請求項1から11のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項13】
前記処理ステップe)中に、少なくとも2つの協働モールド部品が使用され、両モールド部品が二重湾曲接触面を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項14】
前記第1又は第2の柔軟な挟持層の少なくとも一方の前記接触面には粘着防止層が設けられ、該粘着防止層は、好ましくは脱気面構造を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項15】
前記処理ステップe)は、特に、2つの対向するモールド部品の間の前記挟持及び加熱された前記熱可塑性積層体を成形するものであり、前記モールド部品の接触面は二重湾曲接触面である、請求項1から14のいずれか一項に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項16】
予備成形された熱可塑性積層体であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法によって予備成形された熱可塑性積層体。
【請求項17】
熱可塑性積層体を予備成形するシステムであって、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行するために構成されたシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成された車載ウインドウに組み込まれる湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法に関する。本発明は、さらに湾曲熱可塑性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、より多くの機能をガラスに付加することの需要が増している。そのために、アクティブ中間層状のポリマー分散型液晶(PDLC)、浮遊粒子デバイス(SPD)、エレクトロクロム技術、電気泳動及びさらにパッシブ中間層も、車載ガラスにさらに一体化される。
【0003】
現在市場で入手可能な多くのアクティブ中間層は、2以上のコーティングされた熱可塑性フィルムから組み立てられる。多くの場合、これらのフィルムは、ITO(酸化インジウムスズ)コーティングを対向面の各々に有し、及び/又は2つの導電コーティング間に分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス若しくはエレクトロクロム基板を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)若しくはPEN(ポリエチレンナフタレート)系フィルムである。これらの全ての層は、電流が2つの導電層間に流れると、フィルムの活性状態が静的な半透明拡散状態から半透明クリア状態に又はその逆に変化する点で共通する。したがって、この状態の変化によって、中間層の光透過及び/又は色が変化する。この技術は、「スマートフィルム技術」としても知られ、又は2枚以上のガラスシート間に一体化される場合には「スマートフィルム中間層技術」としても知られる。PET及び他の、例えば、TAC(三酢酸セルロース)のようなプラスチックフィルムは、例えば、それらの赤外反射特性及び/若しくは加熱特性のために、既に車載湾曲ガラスに広く使用され、並びに/又はそれらはその光学的使用のために使用されている。自動車のフロントガラスは、少なくとも一方向に湾曲することが多い。車載ウインドウ内部に熱可塑性フィルムを組み込むことの需要が増しているため、そのようにするための技術への高い要望がある。2枚のガラスシート間の熱可塑性フィルムを曲げることによって、一般に、薄い熱可塑性フィルムは折れ曲がり又は皺となる。この望ましくない影響を克服するために、熱可塑性フィルムを一方のガラスシートのみに設けてその熱可塑性フィルムの当該スタック及びガラスシートを所望の形状に予備成形することが知られている。第2のガラスシートがその後に付加される場合もあり、それは熱可塑性フィルムの皺の量を減少させる。一方で、これらの技術を用いても、特に二重曲率が必要な場合、又は曲線の程度がより大きな場合、皺の量が顕著となる。また、積層前に熱成形することも、周知の方法である。しかし、既存の製造方法は、スマートフィルム(又は熱可塑性積層体)を熱成形するためには使用可能でない。これは、幾つかの状況によって引き起こされる。例えば、分散ポリマーは熱成形温度において脆弱となり、スマートフィルムは通常は適用されるバスバー及びコネクタを有し、スマートフィルムは通常は天候条件の影響を受け易いので、縁部カプセル化を与えるように全ての縁部が積層スタック内部に全体的に被覆されるべきである。
【0004】
一般に、フィルム材料が平坦形状から二重湾曲面に曲げられる場合、一部の領域は局所的な圧縮及び/又は圧縮解除(伸張)を受ける一方で、フィルムの他の領域は影響を受けない。これは面がどのように湾曲しているかに応じ、さらに外側境界の形状はフィルムにおける局所的な圧縮及び/又は圧縮解除の有無に強い影響を与える。フィルム材料の局所的な圧縮及び/又は圧縮解除によって、フィルム材料は、通常はその縁部に沿って皺となる。フィルム材料のサイズが増加するにつれて、又は曲率、特に二重曲率が強く若しくは大きくなると、皺の程度は増加する。一般に、多くの球状に曲げられた複層ガラスパネルは、ガラスパネル内部に配置されたフィルムが伸張される(圧縮解除される)重心の中央付近の中心領域、及び4本の長辺(縁部)の中央付近の4個の圧縮領域を有する。
【0005】
圧縮解除又は圧縮が発生する領域は、球状屈曲面にわたる測地スプライン(gs″)のセットを描写することによって数学的に決定可能であり、全ての測地スプライン(gs″)は面上の同じ中心点(cp)から開始される。この背景における測地とは、それが、面の開始中心点(cp)から境界周縁までの最短可能経路(弾性ストリング)を、面上の同じ点(cp)について開始する隣接測地スプライン(gs-next)に対して所与の角度で反復的に新しい方向で記載することを意味する。反復は、面の360度が網羅されるように行われる。全ての測地スプライン(gs″)は所与数の等しいセグメントに分割され、等しいセグメントは測地交差スプライン(gcs″)によって相互接続されるので、測地三角形(gs´、gcs´、gcs″)を生成する。その後、局所的表面積が、曲面の各三角形状片について計算される。開始点及び対応する隣接ラインの角度を考慮しつつ、別個のスプライン(a″)の長さが計算されて、同じ開始点(cp)から、対応する測地スプライン(gs″)と同じ長さの平坦ライン(fl″)と同じ方向に再描写される。その後、平坦ラインのこれらの新たなセットが、対応する測地スプライン(gs)と同数の等しいセグメントに分割され、ここでこれらの等しいセグメントが相互接続される場合、平坦な交差ライン(fcl´)は平坦な三角形を生成する。その後に局所的な平坦な三角形表面積が計算され、その結果がその対応する局所三角形曲面の結果で除算されると、その特定領域の圧縮解除又は圧縮のパーセンテージが決定される。特定領域についての結果が1より大きい場合には、その領域は圧縮され、結果が1未満である場合には、その領域は圧縮解除される(伸張される)。結果が1に等しい場合、応力は局所的に付与されない。開始点(sp)が面上で変化する場合、数学的結果は異なる。また、ラインの平坦化セットからの相対平面は、結果に影響を与えるので、好ましくは、面の重心から垂直軸に対して90度となるように水平化されるべきである。反復角度が小さいほど、かつラインセグメントの数が大きいほど、圧縮解除/圧縮の決定の精度は高くなる。
【0006】
また、特定の熱可塑性スマートフィルムの補正のレベル及び柔軟性を知るために可塑性モジュールが計算される必要があり、それはその特定のフィルムの特定の圧縮及び/又は圧縮解除の許容可能な量の示唆を与える。
【0007】
従来技術に係るアクティブ中間層フィルムは積層処理時に容易に皺となり及び/又はひび割れするので、アクティブ中間層フィルムを用いることの現在の欠点の1つは、二重曲げ曲率に対してそれを用いる可能性が制限されていることである。積層するアクティブ中間層フィルム(スマートフィルム又は熱可塑性積層体)が問題を起こし始めるレベルは約0.2%縁部圧縮(1.002)及び/又は約0.3%圧縮解除(0.997)である(可塑性モジュールは補正されていない)。これらのレベルを超える湾曲ガラス形状にスマートフィルム中間層が使用される場合、望まれない皺を回避するために中間層スマートフィルムの予備成形が必要となる。フィルムを伸張することによって圧縮解除は部分的にのみ吸収されることになるが、材料は境界から中心に向けて引っ張られることにもなるため、皺を生成することにもなる。実際に、応力(圧縮解除)の許容可能なレベルは、圧縮の許容可能なレベルよりも若干高い場合がある。
【0008】
周知の方法を用いることの結果は、内側及び外側PET層の収縮が完全には同時及び/又は同質とはならず、2層が局所的に相互に剥離し及び/又は皺となり得ることでもある。これらの問題は、フィルムが一方側ではモールドに吸引されるが他方(反対)側では吸引は与えられない状況においてモールドから真空引きされる場合にさらに悪化する。そのため、予備切断、予備結合及び予備形成されたスマートフィルムは、皺及びひび割れを回避するための解決策とはならない。
【発明の概要】
【0009】
本出願において、熱可塑性積層体という場合、これは少なくとも1枚の熱可塑性フィルム、好ましくは少なくとも1層の結合層として理解され得る。好ましくは、上記熱可塑性積層体は、少なくとも2枚の熱可塑性フィルムを備え、任意選択的に、熱可塑性積層体は、少なくとも2枚の熱可塑性フィルムの間に、分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス、エレクトロクロム基板及び/又は電気泳動デバイスを備える。またさらに、熱可塑性積層体は、少なくとも2枚の結合層を備えていてもよく、当該結合層は、好ましくは、熱可塑性積層体の外側層を成形する。
【0010】
したがって、本発明の目的は、二重曲率成形時に皺になり難くかつひび割れし難い二重湾曲積層体を予備成形する方法を提供することである。
【0011】
本発明は、構成された車載ウインドウに組み込まれる湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法を提案し、その方法は、a)熱可塑性積層体を提供する処理ステップであって、当該熱可塑性積層体は少なくとも1枚の熱可塑性フィルム及び好ましくは少なくとも1層の結合材の隣接層を備える、処理ステップと、b)熱可塑性積層体を第1及び第2の柔軟な挟持層の間の対向平坦面より挟み込む処理ステップと、c)熱可塑性積層体に挟持力を付与する処理ステップであって、当該挟持力は少なくとも第1及び第2の挟持層の間に位置する熱可塑性積層体に垂直な成分を有する、処理ステップと、d)挟持された熱可塑性積層体を所定温度に加熱する処理ステップと、e)挟持及び加熱された熱可塑性積層体を少なくとも1つのモールド部品に接触させて成形する処理ステップであって、モールド部品の接触面が二重湾曲接触面である、処理ステップと、f)熱可塑性積層体を冷却する処理ステップと、を備え、処理ステップc)中に付与される挟持力は、処理ステップd)中に少なくとも部分的に維持される。
【0012】
第1及び第2の挟持層に起因して、積層体が比較的強い二重曲率において予備成形されても、本発明は皺のない熱可塑性積層体を予備成形することを可能とする。従来技術によると、多くの場合、積層体は加熱されてからモールドの圧力下のみで成形されるので、上記は可能ではない。一方、モールドが二重湾曲モールド面を有する場合、これによって積層体は過大に圧縮及び圧縮解除され、圧縮又は引張が閾値以上に増加する領域での積層体における皺となる。これは、本発明では、挟持力を積層体に付与することによって防止される。好ましくは、処理ステップc)中に、挟持力は第1及び第2の柔軟な挟持層によって熱可塑性積層体の対向面から熱可塑性積層体に付与される。力が積層体に両面から付与されると、すなわち、積層体の上面及び下面の双方から付与されると、特に有益である。これにより、均一に圧縮された積層体となり、それはモールドを介した成形時に積層体に皺が寄る機会を大幅に減少させる。モールドのみから真空引きするだけでは不十分であることが分かった。なぜなら、積層体は、その後にモールドに一方の面のみにおいて吸引されるが、他方の面は抑圧されずに依然として皺となり易いためである。これは、特に多層積層体を用いる場合に言えることである。それは、真空はその単層のみを保持することになるが、他方の層は上記真空保持層に対して大きく皺となり得るためである。積層体は、実質的に平坦な配向で第1及び第2の挟持層の間に位置決めされ得る。これにより、特に多層積層体が使用される場合に積層体を上記の平坦な配向に位置決めするのは容易であるので、有用性が高まる。これにより、複数の積層体が複数の第1及び第2の挟持層の間に予め位置決めされ、各々が別個に保存され得るので、効率の向上がさらに可能となる。積層体が一方の(第1の)挟持層上に位置決めされた後、他方の(第2の)挟持層が積層体の上面に位置決めされて積層体を被覆することになり、したがって挟持層、積層体及び挟持層のサンドウィッチ体を成形し、このサンドウィッチ体は、このようにして容易に取り扱われて保存され得る。なお、挟持層の間に割り当てられる積層体は、それでも実質的に平坦な配向にあることになり、これはさらにその容易な取扱い及び保存に寄与する。ただし、本発明はこの例に限定されず、既に若干湾曲した配向にある挟持層の間に積層体を位置決めすることも考えられる。
【0013】
積層体が挟持層間に配置された後に、挟持力が積層体にかけられる。この挟持力は、第1の挟持層に対する押圧など、片面からかけられ、それは積層体全体を第2の挟持層に向けて押圧する。ただし、挟持力は、第1及び第2の柔軟な挟持層の双方によって熱可塑性積層体に熱可塑性積層体の対向面から付与されることが好適である。挟持力を積層体全体にかけることによって、成形ステップ下で剪断力が制限されたとしても積層体上の位置が保持される。積層体を成形する前に、挟持された熱可塑性積層体が加熱され、それにより、積層体がより容易に成形可能となる。好ましくは、加熱ステップ中に、熱可塑性積層体の温度が熱可塑性積層体のガラス転移温度以上に加熱され、さらに任意選択的に、熱可塑性フィルムのゴム状態まで加熱されてもよい。加熱ステップ中、挟持層は、熱可塑性積層体を平坦に維持させる。好ましくは、ステップe)は、熱可塑性積層体は所定温度に達した後に実行される。この所定温度は、好ましくは、熱可塑性積層体、特にその熱可塑性層のガラス転移温度以上である。このようにして、本質的に皺のない二重湾曲熱可塑性積層体が、予備成形され得る。また、熱可塑性フィルムは、当初は応力のない状態で提供され得る。すなわち、少なくとも1枚の熱可塑性フィルムは、挟持層内で、伸張張力などの張力なしで配置される。本発明に係るこの具体的順序、すなわち、最初に積層体を加熱し、続いて積層体を成形するという順序は、有利である。積層体を成形する前に積層体を加熱することによって、熱可塑性フィルムの分子又はポリマー鎖は、過度な内部張力を熱可塑性フィルムに導入することなく、上記分子又はポリマー鎖の、より大きな相互移動性又は移動を可能とする状態となり、したがって皺が減少する。熱可塑性フィルムが平坦状態において加熱されると有利である。したがって、好ましくは、熱可塑性積層体、特に熱可塑性フィルムは、曲げ及び/又は伸張の力を受けない状態で加熱される。これにより、熱可塑性積層体がより均一に加熱可能となる。さらに、熱可塑性積層体、特に熱可塑性フィルムを加熱することによって、分子又はポリマー鎖は、より移動性となり、熱可塑性積層体、特に熱可塑性フィルムの縁部周縁に張力を及ぼし難くなる。圧縮張力をもたらすことで熱可塑性フィルムに皺を寄せ得るのは、特に上記張力である。したがって、移動性が増加した熱可塑性フィルムが、皺を導入することなく、より容易に成形され得る。好ましくは少なくとも1層の、好ましくは少なくとも2層の柔軟な挟持層は、上記柔軟な挟持層の間に位置する熱可塑性フィルムのサイズを越えて延在する。すなわち、熱可塑性積層体は、本質的には、柔軟な挟持層の内面、すなわち、相互に向き合う挟持層の面によって挟持されるだけである。好ましくは、少なくとも2層の柔軟な挟持層は、実質的に熱可塑性積層体全体を包囲する。すなわち、熱可塑性積層体の面は、柔軟な挟持層の柔軟な面よりも小さい。これにより、熱可塑性積層体上に、その周縁まで、均一な圧力に供することが可能となる。このようにして、上記熱可塑性積層体をその周縁に挟持することは不要である。これにより、直接使用可能な作製物を成形可能となり、余剰な材料、特に挟持された周縁の材料のセグメントを切除することが不要となる。熱可塑性フィルムのサイズ、機能的フィルム(例えば、液晶層又はその代替物)及び/又は結合層は、相互に異なり得る。したがって、熱可塑性フィルムのサイズは、結合層のサイズよりも小さくてもよく、それは、熱可塑性積層体の縁部シールを成形する際に有利となる。
【0014】
現在のところ、従来技術に係る熱成形法では、高モジュラス層及び低モジュラス層の組合せを同時に予備成形することは可能でない。高モジュラス層は、例えば、PET層又はTAC層であり、低モジュラス層は、例えば、PVB層又はTPU層であり得る。ただし、本発明は、これらの例に限定されない。この問題は、特に、高モジュラス層が低モジュラス層の周縁まで伸張しない場合に起こる。
【0015】
例えば、熱可塑性積層体を有する場合、高モジュラス熱可塑性フィルムは低モジュラス結合層の周縁まで伸張せず、熱可塑性積層体は予備成形のために挟持されてしまい、その挟持は低モジュラス結合層の周縁に位置してしまう。周知の方法に従って予備成形する場合、特に、低モジュラス結合層は、それが高モジュラス熱可塑性フィルムを越えて挟持される場所まで伸張する部分で伸張してしまう。これは望ましくない。なぜなら、それは低モジュラス層と高モジュラス層との伸張の相違を導入し、その結果として、皺及び/又は不整合が熱可塑性積層体に導入され得るためである。
【0016】
すなわち、例えば、PET層は、PVB層の周縁まで伸張しない。周知の予備成形法は、皺を導入してしまい、これは望まれない影響である。これは、特に車載ウインドウの場合に重要である。なぜなら、熱可塑性フィルム、特にその機能的フィルムは、天候などの外部の影響から熱可塑性積層体を保護する結合層によってカプセル化される必要がある。これは、結合層が熱可塑性フィルムの周縁の、好ましくは大部分又は部分全体を越えて伸張することを要する。一方、本発明では、熱可塑性フィルム及び結合層が、延長率の相違が減少するように、面の大部分、好ましくは全体にわたって挟持可能となる。さらに、熱可塑性積層体全体は挟持層の間に位置し、真空が熱可塑性積層体上の本質的に均一な圧力に供するように、クランプが熱可塑性フィルム及び結合層の最大層の周縁外部に位置してもよい。この目的のため、挟持層は柔軟な挟持層であることが有益となる。これにより、挟持層が熱可塑性積層体の両面上に位置決め可能となり、皺の成形を防止し得る。すなわち、柔軟な挟持層は、真空を形成する前に、熱可塑性積層体の形状に応じて調整され得る。このようにして、皺は、積層体の予備成形時に抑制され得る。したがって、熱可塑性積層体、特に結合層及び熱可塑性フィルムは、本質的に同じ割合で伸張することになるので、上記層が不均一に伸張し、このようにして皺及び/又は不整合を形成することを防止し得る。他の有利な効果は、熱可塑性積層体を、好ましくは気密に囲むことで「バッグ化する」柔軟なクランプ、したがって柔軟な挟持層の内部の真空が熱可塑性層及び結合層のスタックを脱気し得ることである。これにより、加熱後に少なくとも部分的に溶解されて後に冷却、凍結された結合層がそれらのカプセル化された機能層又はフィルムを有する全体を成形することが可能となる。結合層は、繊細な機能層又はフィルムをダメージから保護する。これは、成形時にモールド又はクランプへの直接の接触がないためである。しかし、保護は、予備成形後でも、搬送時及びガラスの両面の最終積層処理時に維持される。
【0017】
成形ステップe)中に、挟持及び加熱された積層体は、少なくとも1つのモールド部品によって成形される。当該モールド部品は、特に二重湾曲モールド部品である。当該二重湾曲モールド部品は、凸状二重湾曲面又は凹状二重湾曲面のいずれかであり得る。ステップc)中に付与される挟持力は、加熱ステップd)中に少なくとも部分的に維持される。好ましくは、ステップc)中に付与される挟持力は、ステップe)での成形時に少なくとも部分的に維持され、好ましくは、挟持力は成形ステップ及び加熱ステップ中に実質的に全体的に維持される。これは、成形又は加熱ステップ中に積層体に皺が寄ることを防止する。この成形ステップに起因して、通常は、すなわち、上記挟持層がなければ、剪断力又は他の力が積層体に導入されて所定量の変形後に積層体の皺をもたらしてしまう。ステップd)における加熱の前に、挟持された積層体が成形される(ステップe))ことも考えられる。すなわち、ステップb)及びc)中に挟持されるような熱可塑性積層体は、ステップd)におけるように、熱可塑性積層体を加熱する前に所望の形状に成形される。積層体を所望の二重湾曲形状に成形した後に、積層体は冷却される。積層体の冷却は、好ましくは、積層体が依然として成形位置にある間に行われる。この目的のため、積層体は、第1及び第2の挟持層間にある間に冷却され得る。より好ましくは、積層体は、挟持層間にありかつその好適な二重湾曲形状で少なくとも1つのモールド部品上に位置決めされている間に冷却される。この冷却ステップは、本質的に積層体の形状を安定化させ、すなわち「凍結」させる。
【0018】
本発明は、従来技術に対して顕著な有利な効果に供する。例えば、絞り成形ともいわれることがある真空成形には、幾つかの不利益がある。まず、真空成形は、材料のシートが、工具に引っ張られるようにするために、その周縁に挟持されることを要する。この工具は、ネガティブモールド又はポジティブモールドであり得る。引張りは、例えば、真空によって開始され得る。材料のシートから製品を成形した後に、縁部は最終成形品を得るためにトリミングされる必要がある。本発明の熱可塑性材料のシートは柔軟な層の間に挟持されるので、成形ステップ中に材料のシートを挟持する必要はない。したがって、周縁の余剰の材料を切除する必要はない。これには大きな重要性がある。なぜなら、熱可塑性フィルムは、特に液晶が適用される場合、製品に欠陥をもたらし得るためである。これは、主に、熱可塑性積層体の切断は、液晶又は他のサンドウィッチ可能なフィルム若しくはアクティブ中間層が適用される場合、そのサンドウィッチ可能なフィルム又はアクティブ中間層を、その後に酸化し得る環境に曝露することになるためである。そのため、本発明によって、熱可塑性積層体をトリミングする製造ステップの全てを排除することが可能となる。
【0019】
本出願では、構成された車載ウインドウに組み込まれる熱可塑性積層体を予備成形すると言う場合、それは特に熱可塑性積層体のみを意味する。すなわち、さらに同時に1枚以上のガラスシートを成形することはない。このような手順は、本質的に熱可塑性積層体のみが、所定の曲率で提供されるなど、予備成形される場合に、本発明の課題とは大きく異なる。これは、予備成形される熱可塑性積層体が車載ガラスとは別個に作製され得るという有利な効果を与える。さらに、より強い又はより大きな曲率が望まれる場合、ガラスシートと熱可塑性積層体の間の材料特性の差は非常に大きく、それによって熱可塑性積層体には不可避的に皺が寄る。したがって、熱可塑性積層体の予備成形は、そのような事例において、特に二重曲率の場合に、比較的強い又は大きな曲率を達成する解決手段に供し、熱可塑性積層体は皺とならない。
【0020】
好ましくは、第1及び第2の挟持層は、実質的にガス不透過性である。すなわち、熱可塑性積層体は、ステップb)中、第1の実質的にガス不透過性の挟持層と第2の実質的にガス不透過性の挟持層との間に挟持される。これは、任意のガスが挟持層を透過することを防止し、これは上記層の挟持能力を増加させ、さらに、より良好な挟持力が積層体にかかることを可能とし、それはさらに皺が寄る機会を減少させる。この目的のため、挟持層又は柔軟な膜は、シリコーン、ゴム、EPDM、気密布などから構成され得る。
【0021】
他の実施形態では、処理ステップc)中に付与される挟持力は、熱可塑性積層体の少なくとも一方の平坦面、好ましくは両対向平坦面の実質的に全面にわたって付与される。熱可塑性積層体の少なくとも一方の平坦面、好ましくは両対向平坦面の全面にわたって挟持力を付与することによって、挟持力の最適な分散が実現され得る。これによって、積層体の全ての位置が均等に加圧可能となる。言い換えると、挟持力は、積層体の各位置で、少なくともその水平配向において実質的に同一である。
【0022】
更なる実施形態では、第1及び第2の柔軟な挟持層(柔軟な膜)は個々のフレームに取り付けられ、当該フレームは、そのフレームが相互に押圧される挟持位置と、そのフレーム部が離隔される不活性位置との間で移動される、好ましくは、第1及び第2の柔軟な挟持層は、層が最適に挟持されるように、相互に向き合うフレームの面上に設けられる。さらに、相互に向き合うフレームの面に封止要素が設けられる場合に柔軟な挟持層が内向きのフレームの面に取り付けられることも考えられ、それにより、2つのフレームは、挟持位置において相互に押圧される場合に、実質的に全体的に気密となることが確実となる。個々のフレームのサイズは、積層体がフレーム(の境界)の内部に位置決めされ得るように、熱可塑性積層体のサイズよりも大きい。この目的のため、さらに、2つのフレームが、端部のない個々のフレームであることが好適である。フレームは、例えば、スチール、アルミニウムなどのような金属から構成され得る。好ましくは、上記フレームの少なくとも一方、好ましくは上記フレームの各々の内周縁は、熱可塑性積層体の周縁よりも大きい。このように、熱可塑性積層体は、柔軟な挟持層の柔軟な部分間に実質的に全体的に位置する。これにより、予備成形積層体が製造可能となり、積層体は、周縁の余剰な材料のトリミングなどの更なる処理を必要としない。
【0023】
好ましくは、処理ステップc)中に、挟持力は、第1及び第2の柔軟な挟持層の間を真空として熱可塑性積層体の対向平坦面に真空圧をもたらすことによって増加される。真空は、成形及び加熱ステップ中に熱可塑性積層体の層を平行に維持するために適用され得る。好ましくは、ガスが、相互に挟持された第1及び第2の柔軟な挟持層によって囲まれた空間から、この空間に取り付けられた真空フィードを介して抜かれる。真空フィード、例えば、ホースは、第1及び/又は第2の挟持層で一体成形されてもよいし、バルブ、好ましくは一方向バルブを通じて取り付けられてもよい。加熱又は成形時に、第1及び第2の柔軟な挟持層によって囲まれた空間から空気を抜く真空フィードは、加熱時及び成形時に、場合によっては冷却時にも、真空圧が可能な限り低く維持されるように接続状態に維持される。準備時に、すなわち、第1及び第2の柔軟な挟持層の間に積層体を位置決めする間に、真空が適用され得るように、一方向バルブが使用されることも考えられる。続いて、真空が適切に適用されると、真空ホースが取り外され得る。これにより、挟持層間の空間はその真空圧を喪失しないとすると、後続のステップの前に、第1及び第2の柔軟な挟持層の間に結果として挟持されるとともに真空圧が付与される積層体が保存可能となる。好ましくは、熱可塑性積層体の曲率は、最大0.2ジオプトリ、好ましくは0.145ジオプトリ、より好ましくは0.07ジオプトリのレンズ形成を備える。任意選択的に、熱可塑性積層体は、本質的に、0.2ジオプトリ、好ましくは0.145ジオプトリ、より好ましくは0.07ジオプトリよりも大きなレンズ形成はない。好ましくは、両方向の曲率は、少なくとも0.01ジオプトリである。本発明は車載ウインドウのための熱可塑性積層体に関するので、レンズ形成は望まれない効果である。なぜなら、それによって運転手は車の距離を前後に誤認し得るためである。
【0024】
好適な実施形態では、熱可塑性積層体は、処理ステップf)中に、冷却用ガスを少なくとも1つのモールド部品に強制的に通すことによって冷却される。このようにして、熱可塑性積層体は、所望の形態となり、その位置において積層体を冷却することによって、積層体は当該位置において安定化(「凍結」)され、結果として積層体は所望の形状に保持される。これは、成形時に、モールドの下面から積層体に向く面まで延在する複数の細孔を備えるモールドを用いて実現され得る。上記孔を通じて冷却ガスを吹き込むことによって、冷却ガスは柔軟な挟持層の一方に対して強制され、それにより、そこに挟持された積層体を冷却する。モールドに当接する挟持層の外面は微細面を有するため、すなわち、無限に滑らかな材料はないため、モールドを通じて吹き込まれた空気は挟持層の面及び当該層に向くモールド面を通り抜けることができる。2つのモールド二分割体が用いられることも考えられ、この場合、この実施形態は両モールド二分割体に適用されることにより、積層体が両面から冷却される。
【0025】
したがって、積層体は、2つのフレームによって熱予備成形可能であり、各フレームは柔軟な(気密の)膜によって被覆され、その膜は伸張され、好ましくはフレームに気密嵌合される。したがって、2つのフレームはともに、柔軟な真空クランプを形成し、熱可塑性積層体であるスマートフィルムが中央に位置決めされる。その後、好ましくは熱可塑性積層体が依然として平坦でかつ加熱されていない状態で、真空が適用され得る。続いて、フレームが挟持層(柔軟な膜)とともに真空下に維持され、熱可塑性積層体はガラス転移温度以上に、好ましくは90~170℃に加熱される。加熱された熱可塑性積層体は、その後、少なくとも1つのモールドに対する/モールドを介した形状に押圧され得るが、好ましくは2つのモールド部品の間に押圧される。熱可塑性積層体の加熱成形後、熱可塑性積層体(スマートフィルム)は、それが所望の形態/形状を保持するように冷却され得る。冷却は、例えば、モールド部品の接触面を通じて冷却空気又は他のガスを付与することによって実現され得る。挟持層によってかかる圧力は、好ましくは、加熱段階全体及び少なくとも冷却段階の開始時に熱可塑性積層体上に充分な圧力を維持するレベルであるべきである。真空及び挟持層によってかかる圧力の双方は、フィルムが加熱及び成形時に皺となることを防止し、加熱及び成形時に熱可塑性積層体の層が引き裂かれるのを防止する。好ましくは、挟持層は、1又は2層の結合層を熱可塑性積層体の外部に統合することを可能とする粘着防止コーティング及び/又は分離層を有し、それにより、1又は2層の外部結合層を含む単一ステップにおいて熱可塑性積層体を組み立てる。好ましくは、柔軟な挟持層の少なくとも一方の接触面に粘着防止層又はコーティングが設けられ、その粘着防止層は脱気面構造を有してもよい。そのような脱気面構造は、又はその代替物として、熱可塑性積層体の外部層に存在してもよく、挟持層間の空間を真空化するのに役立つことになる。この点において、熱可塑性積層体の外部層の1又は2層の脱気面は、多層ガラスパネル(ウインドウシールド)における熱可塑性積層体(スマートフィルム)の後続の積層処理においても有用となり得ることが注記される。柔軟な挟持層の厚さは、成形される熱可塑性積層体の厚さ及び挟持層によってかけられる必要なレベルの圧力に関係し得る。
【0026】
好ましくは、熱可塑性積層体は、少なくとも2枚の熱可塑性フィルムを備える。本発明に係る方法を使用すると、2枚以上の熱可塑性フィルムを備える積層体は、皺がフィルム層のいずれかに導入されることなく、予備成形され得る。熱可塑性フィルムに加えて、積層体は、PVB、EVA又はTPUなどの結合材の1以上の層を備え得る。好ましくは、相互に向き合う熱可塑性フィルムの面の少なくとも一方、より好ましくは両方が、導電性材料、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)によってコーティングされる。さらに、少なくとも2枚の熱可塑性フィルムの間に、熱可塑性積層体は、分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス及び/又はエレクトロクロム基板を備えることが考えられる。これにより、予備成形された積層体が、所定の機能を有することが可能となる。ただし、本発明は、これらの例に限定されない。任意の機能的フィルム又はスマートフィルムが熱可塑性積層体に含まれ、したがって本発明に従って予備成形されてもよく、結果として、含まれる層のいずれにおいても実質的に全体的に皺のない二重湾曲積層体がもたらされることが考えられる。
【0027】
好ましくは、処理ステップd)中に、熱可塑性積層体は、80℃~160℃、好ましくは115℃~135℃の温度に加熱される。これらの温度範囲は、層を損傷せずに、熱可塑性積層体の充分なレベルの変形性をもたらすことが分かっている。
【0028】
本発明に係る更なる実施形態では、少なくとも2つの協働するモールド部品が用いられ、両モールド部品は、処理ステップe)中に使用される二重湾曲接触面を有する。すなわち、ステップe)は、特に、挟持及び加熱された熱可塑性積層体を2つの対向するモールド部品の間に成形するものであり、モールド部品の接触面は、二重湾曲接触面である。これにより、熱可塑性積層体の正確な形成が可能となる。挟持層によってかけられる圧力に加えて、モールド力は、2つのモールド二分割体を相互に多少加圧することによって付与される。この目的のために2つの協働するモールド二分割体が使用されると有利である。なぜなら、これが、均一に分散された圧力分布をもたらすためであり得る。モールド二分割体は、相互に互換可能である。例えば、一方のモールド二分割体は凸状二重湾曲面を有し、他方の二分割体は一方の二分割体に相補的な凹状二重湾曲面を有し得る。モールドの形状として、好ましくは、車載ガラスにおいて望まれる最終曲率に対してわずかにさらに湾曲したものが選択される。これは、積層体の材料の記憶状態に対抗するために行われる。すなわち、積層体がガラスシート間に位置決めされて再加熱されると、材料はわずかに緩み、それが充分に湾曲しない可能性があるような態様で、予備成形された積層体に影響を与え得る。予備成形段階で、このわずかな変形を考慮することによって、積層体の曲率は、車載ガラスのガラスシート間に融合されるように再加熱されると、ちょうど正確なものとなる。
【0029】
本発明は、予備成形された熱可塑性積層体にも関し、当該予備成形された熱可塑性積層体は、少なくとも1枚の熱可塑性フィルムと、少なくとも1層の結合層とを備え、当該結合層は熱可塑性フィルムの面に直接に又は間接的に取り付けられ、当該結合層は熱可塑性フィルムの周縁の少なくとも一部を越えて伸張し、熱可塑性フィルムは曲率、特に二重曲率を備え、熱可塑性積層体には本質的に内部応力がない。二重湾曲熱可塑性積層体に関して応力がないことは、少なくとも熱可塑性フィルムと結合層の間の相互の応力が無視できることとして理解され得る。さらに、これは、結合層及び熱可塑性フィルムが本質的に同じ延長率及び/又は圧縮率を有することとしても理解され得る(特に、熱可塑性積層体の湾曲していない当初の平坦な状態と比較して)。これは、特に、本発明に係る処理によって達成され得る。好ましくは、熱可塑性積層体は、少なくとも2枚の熱可塑性フィルムを備える。特に、相互に向き合う熱可塑性フィルムの面の少なくとも一方、好ましくは両方が、導電性材料、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)によってコーティングされる。少なくとも2枚の熱可塑性フィルムの間に、熱可塑性積層体は、分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス及び/又はエレクトロクロム基板を備える。好ましくは、熱可塑性積層体は、熱可塑性フィルムの上面及び下面に付与される2層の結合層を備える。これに関して、好ましくは、両結合層と熱可塑性フィルムとの間には相互(残留)応力は存在しない。予備成形された熱可塑性積層体は、好ましくは、本発明に係る方法を介して予備成形される。本発明に係る方法に関して実証されたのと同じ利点が当てはまる。
【0030】
本発明は、さらに、予備成形熱可塑性積層体に関し、特に、熱可塑性積層体が本発明に係る方法によって予備成形される予備成形熱可塑性積層体に関する。本発明に係る予備成形熱可塑性積層体に関して、本発明に係る方法に関して詳述したのと同じ有利な効果が当てはまる。したがって、方法に関する有利な効果は、本発明に係る予備成形熱可塑性積層体の上記有利な効果に関する有利な効果を参照してここに取り込まれる。
【0031】
本発明は、さらに、熱可塑性積層体を予備成形するシステムに関し、そのシステムは本発明に係る方法を実行するために構成される。本発明に係る予備成形熱可塑性積層体に関して、本発明に係る方法に関して詳述したのと同じ有利な効果が当てはまる。したがって、これらの有利な効果は、熱可塑性積層体を予備成形するシステムに関してもここに取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】方法を実行するためのシステムの模式側面図である。
図2】システムの模式斜視部分分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を、以下の図面に示す非限定的な実施形態を参照してさらに詳述する。
【0034】
図1は、第1のモールド二分割体1及び第2のモールド二分割体1´の模式側面図を示し、熱可塑性積層体5に向いている第1のモールド二分割体1の面2は、二重曲面、特に凸状二重曲面である。熱可塑性積層体5は、第1の柔軟な挟持層3と第2の柔軟な挟持層3´との間に位置決めされたものとして図示される。第1及び第2の柔軟な挟持層3、3´は、双方ともそれぞれ第1及び第2のフレーム部4、4´に伸張されて取り付けられる。図示する状況において、挟持層3、3´によって積層体5上にかかる挟持力はない。一方、第1の挟持層3に取り付けられる真空ホース6が、第1及び第2の挟持層3、3´並びにフレーム部4、4´によって囲まれた空気を抜くために作動され得る。負圧が挟持層3、3´の間に実現される場合、これらの挟持層3、3´は熱可塑性積層体5に挟持力をかけることになる。この非限定的な実施形態における挟持力が、挟持層3、3´及びフレーム部4、4´の双方によって囲まれる空間において生成される真空によって誘発されるので、挟持力は熱可塑性積層体の対向面から自動的にかけられる。
【0035】
図2は、湾曲熱可塑性積層体の予備成形における処理ステップの模式分解斜視図を示し、図1における表示の対応する要素は、同一の符号で記載される。同図において、積層体5は、挟持層3´上に位置決めされる。続いて、積層体5が挟持層3´上に正しく位置決めされると、上部及び下部フレーム部4、4´が、矢印6、6´によって示すように、相互に向かって移動される。2つのフレーム部4、4´が相互に合わせられると、(図1に示す状況に沿って)挟持力が積層体5上に付与されて積層体5の個々の層の相互の配向を維持し得る。挟持力が付与された後、積層体5は加熱され、その後、2つのモールド二分割体1、1´は、それらを相互に向けて移動することによって相互に押圧される(矢印7、7´参照)。モールド二分割体が相互に押圧され、それにより、積層体5がモールド面2、2´の形状に沿うように強制された後、積層体5をその位置に安定化させるように、積層体5は、例えば、冷却ガスをモールド二分割体1、1´に強制的に通すことによって冷却される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成された車載ウインドウに組み込まれる湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法であって、
a)熱可塑性積層体を提供する処理ステップであって、該熱可塑性積層体は、少なくとも1枚の熱可塑性フィルム、及び好ましくは少なくとも1層の結合材の隣接層を備える、処理ステップと、
b)前記熱可塑性積層体を第1及び第2の柔軟な挟持層の間の対向平坦面により挟み込む処理ステップと、
c)前記熱可塑性積層体に挟持力を付与する処理ステップであって、該挟持力は少なくとも前記第1及び第2の挟持層の間に位置する前記熱可塑性積層体に垂直な成分を有する、処理ステップと、
d)挟持された前記熱可塑性積層体を所定温度に加熱する処理ステップと、
e)挟持及び加熱された前記熱可塑性積層体を少なくとも1つのモールド部品に接触させて成形する処理ステップであって、前記モールド部品の接触面が二重湾曲接触面である、処理ステップと、
f)前記熱可塑性積層体を冷却する処理ステップと、
を備え、
前記処理ステップc)中に付与される前記挟持力は、前記処理ステップd)中に少なくとも部分的に維持される、湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項2】
前記柔軟な挟持層は、実質的にガス不透過性である、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項3】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は前記第1及び第2の柔軟な挟持層によって前記熱可塑性積層体の対向面から前記熱可塑性積層体に付与される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項4】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は、前記熱可塑性積層体の少なくとも1つの平坦面の、好ましくは両前記対向平坦面の実質的に全面にわたって付与される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の柔軟な挟持層は個々のフレームに取り付けられ、該フレームは、該フレームが相互に押圧される挟持位置と、該フレームが離隔される不活性位置との間で移動される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項6】
前記処理ステップc)中に、前記挟持力は、前記第1及び第2の柔軟な挟持層の間を真空として前記熱可塑性積層体の前記対向平坦面に真空圧をもたらすことによって増加される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項7】
相互に挟持された前記第1及び第2の柔軟な挟持層によって囲まれた空間から、該空間に取り付けられた真空ホースを介して、ガスが抜かれる、請求項6に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項8】
前記処理ステップf)中に、前記熱可塑性積層体は、冷却ガスを前記モールド部品の少なくとも1つに強制的に通すことによって冷却される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項9】
前記熱可塑性積層体は少なくとも2枚の熱可塑性フィルムを備える、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項10】
相互に向き合う前記熱可塑性フィルムの面の少なくとも一方、好ましくは両方が、導電性材料によって、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)によって、コーティングされる、請求項9に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項11】
前記少なくとも2枚の熱可塑性フィルム間において、前記熱可塑性積層体は、分散型液晶配合物、浮遊粒子デバイス及び/又はエレクトロクロム基板を備える、請求項9に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項12】
前記処理ステップd)中に、前記熱可塑性積層体は、80℃~160℃、好ましくは115℃~135℃の温度に加熱される、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項13】
前記処理ステップe)中に、少なくとも2つの協働モールド部品が使用され、両モールド部品が二重湾曲接触面を有する、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項14】
前記第1又は第2の柔軟な挟持層の少なくとも一方の前記接触面には粘着防止層が設けられ、該粘着防止層は、好ましくは脱気面構造を有する、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項15】
前記処理ステップe)は、特に、2つの対向するモールド部品の間の前記挟持及び加熱された前記熱可塑性積層体を成形するものであり、前記モールド部品の接触面は二重湾曲接触面である、請求項1に記載の湾曲熱可塑性積層体を予備成形する方法。
【請求項16】
予備成形された熱可塑性積層体であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法によって予備成形された熱可塑性積層体。
【請求項17】
熱可塑性積層体を予備成形するシステムであって、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行するために構成されたシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
図1は、第1のモールド二分割体1及び第2のモールド二分割体1´の模式側面図を示し、熱可塑性積層体5に向いている第1のモールド二分割体1の面2は、二重曲面、特に凸状二重曲面である。熱可塑性積層体5は、第1の柔軟な挟持層3と第2の柔軟な挟持層3´との間に位置決めされたものとして図示される。第1及び第2の柔軟な挟持層3、3´は、双方ともそれぞれ第1及び第2のフレーム部4、4´に伸張されて取り付けられる。図示する状況において、挟持層3、3´によって積層体5上にかかる挟持力はない。一方、第1の挟持層3に取り付けられる真空ホースが、第1及び第2の挟持層3、3´並びにフレーム部4、4´によって囲まれた空気を抜くために作動され得る。負圧が挟持層3、3´の間に実現される場合、これらの挟持層3、3´は熱可塑性積層体5に挟持力をかけることになる。この非限定的な実施形態における挟持力が、挟持層3、3´及びフレーム部4、4´の双方によって囲まれる空間において生成される真空によって誘発されるので、挟持力は熱可塑性積層体の対向面から自動的にかけられる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【国際調査報告】