(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマー及びポリエチレンをベースとするゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240705BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240705BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240705BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240705BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240705BHJP
C08F 4/6192 20060101ALN20240705BHJP
C08F 4/44 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K3/013
C08K3/36
C08K3/04
B60C1/00 A
C08F4/6192
C08F4/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577442
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 FR2022051014
(87)【国際公開番号】W WO2022263737
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ピブレ ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ラフォール フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァスール ディディエ
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J015
4J128
【Fターム(参考)】
3D131AA04
3D131AA11
3D131AA13
3D131AA14
3D131AA15
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3D131BB01
3D131BB03
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3D131BB07
3D131BC02
3D131BC07
4J002BB032
4J002BB101
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4J002DA036
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4J002EK037
4J002EK046
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4J002GN01
4J015DA04
4J128AC10
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4J128CB34B
4J128EB02
4J128EB13
4J128EC02
4J128FA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、大量の補強フィラーを使用しないか又は補強樹脂を使用せずに、高剛性を示し、同時に改善された限界特性を有する、ゴム組成物に関する。
【解決手段】この組成物は、エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーを50phrより多く含有する少なくとも1種のエラストマーマトリックスと、0~50phrの補強フィラーと、少なくとも3phrのポリエチレンと、架橋系とをベースとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーを50phrより多く含有するエラストマーマトリックスと、0~50phrの補強フィラーと、少なくとも3phrのポリエチレンと、架橋系とをベースとするゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマーが、エチレンと1,3-ジエンのコポリマーである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記1,3-ジエンが1,3-ブタジエンである、請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記コポリマー中のエチレン単位が、前記コポリマーのモノマー単位の50モル%と95モル%の間、好ましくは55モル%と90モル%の間を占める、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記コポリマーがランダムコポリマーである、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレンが非架橋ポリエチレンである、請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、及びこれらのポリエチレンの混合物から成る群より選択され、好ましくは前記ポリエチレンが高密度非架橋ポリエチレンである、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ポリエチレンが、940~970kg/m
3に及ぶ範囲内、さらに優先的には940~965kg/m
3に及ぶ範囲内の密度を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ポリエチレンが、5kg下190℃で、2~25g/10分に及ぶ範囲内、好ましくは2.5~22g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレートを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記ポリエチレンが官能化されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記官能化ポリエチレンが、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基を含む、請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記ポリエチレンの含量が、3~75phr、好ましくは4~60phrに及ぶ範囲内である、請求項1~11のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記補強フィラーの含量が、0~40phr、好ましくは0~35phrに及ぶ範囲内である、請求項1~12のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記補強フィラーが、カーボンブラック、シリカ、及びその混合物から成る群より選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むタイヤであって、前記ゴム組成物が、好ましくは前記タイヤの少なくとも1つの内部層に存在する、前記タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にタイヤの製造を意図したゴム組成物、特にタイヤの内部層、特にタイヤのトレッドの下層を構成するゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送分野における温室効果ガス排出量の削減は、タイヤ製造業者が直面している主要な課題の1つである。転がり抵抗は車両の燃料消費に直接影響を及ぼすので、これを低下させることによってタイヤを通じて大きく進歩してきた。
タイヤ内では、以下の3つのタイプの領域を定義することができる。
-周囲空気と接触している放射状の外部領域であり、この領域は、本質的にタイヤトレッド及びタイヤの外側のサイドウォールから成る。外側のサイドウォールは、クラウンからビードまで伸長するカーカス補強材の領域を全体的又は部分的に覆うように、クラウンとビードの間にあるタイヤの内部空隙に対してカーカス補強材の外側に位置するエラストマー層である。
-膨張ガスと接触している放射状の内部領域であり、この領域は、一般的に膨張ガスに対して気密な層からなり、内部気密層又はインナーライナーとして知られることもある。
-タイヤの内部領域、すなわち外側領域と内側領域の間の領域。この領域には、本明細書でタイヤの内部層と呼ぶ層又はプライが含まれる。これらは、例えば、カーカスプライ、トレッド下層、タイヤベルトプライ、又は周囲空気若しくはタイヤの膨張ガスと接触ていない他の任意の層である。
【0003】
タイヤの内部層、特にトレッドの下層及び/又はビード領域の内部層を構成するゴム組成物は、トレッドの下層の場合にロードホールディングを改善するためであろうと、ビードに関して、カーカス補強材からの応力を吸収し、サイドウォールからリムまでタイヤが経験する力を伝達するためであろうと、十分な剛性を持たなければならない。
高剛性を有するゴム組成物を得るために、これらのゴム組成物に大量の補強フィラーを導入することが提案されてきた。しかしながら、この解決策はヒステリシスに有害であり、転がり抵抗に悪影響を与える。
ゴム組成物の剛性を高めるための別の解決策は、フェノール樹脂等の補強樹脂を使用することにある。しかしながら、この解決策もヒステリシスの増加を伴うが、一般的に限界特性の低下をも伴う。さらに、該樹脂の使用は、ある一定の樹脂がタイヤの製造中にホルムアルデヒドを放出するので、衛生及び環境の観点から不利である可能性がある。
従って、高剛性を保持し、かつ補強樹脂を使用せずに高剛性を保持しながら、ゴム組成物の補強フィラー含量を少なくするか、又は排除さえすることによってヒステリシスを低減させることは、タイヤ製造にとって未だに技術的に極めて困難なままである。
その研究の継続中に、出願人は、驚いたことに、ゴム組成物に特殊なポリオレフィンを使用すると、補強フィラーの全て又は一部の交換を可能にし、かつ前記ゴム組成物の特に低歪みでの剛性を保存し、又は改善さえし、かつそのようにしながら、同時にゴム組成物の限界特性、特に破断点伸び及び破壊応力をも保存し、又は改善さえできるようにすることを見出した。
【発明の概要】
【0004】
従って、本発明の1つの主題は、
-エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーを50phrより多く含有するエラストマーマトリックスと、
-0~50phrの補強フィラーと、
-少なくとも3phrのポリエチレンと、
-架橋系と
をベースとするゴム組成物である。
本発明の別の主題は、本発明の組成物を含むタイヤである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
I-定義
触媒系又は組成物の成分を定義するために用いる表現「をベースとする」は、これらの成分の混合物、又は少なくとも部分的に、触媒系又は組成物の種々の生産段階中の、これらの成分の一部若しくは全ての互いの反応生成物を意味すると理解される。従って、組成物の場合、反応生成物は、全体的又は部分的に架橋状態又は非架橋状態であり得る。
「エラストマーマトリックス」は、以下に定義するコポリマーを含め、組成物のエラストマーの全てを意味すると理解される。
本発明の意味の範囲内で、表現「エラストマー100重量部当たりの重量部」(又はphr)は、検討中のゴム組成物に存在するエラストマーの100質量部当たりの質量による比率を意味するものと理解すべきである。
本テキストでは、明示的に別段の指示がない限り、全ての指示百分率(%)は、質量百分率(%)である。
さらに、「aとbの間」という表現で示される値のいずれの区間も、a超からb未満に及ぶ値の範囲(すなわち、限界a及びbは除外される)を表し、一方で、「a~b」という表現で示される値のいずれの区間も、aからbまでに及ぶ値の範囲(すなわち、厳密な限界a及びbを含む)を意味する。本文書では、値の区間が「a~b」という表現で示されるとき、「aとbの間」という表現で表される区間をもかつ優先的に意味する。
【0006】
「主」化合物に言及するとき、これは、本発明の目的では、この化合物は、組成物中の同タイプの化合物の中で主であること、すなわち、同タイプの化合物の中で質量で最大量を占める化合物であることを意味すると理解される。従って、例えば、主エラストマーは、組成物中のエラストマーの総質量に対して最大質量を占めるエラストマーである。同様に、「主」フィラーは、組成物のフィラーの中で最大質量を占めるフィラーである。例として、1種だけのエラストマーを含む系では、このエラストマーは、本発明の目的では主であり、2種のエラストマーを含む系では、主エラストマーは、エラストマーの質量の半分より多くを占める。対照的に、「少量(minor)」化合物は、同タイプの化合物の中で最大質量分率を占めない化合物である。好ましくは、用語「主」は、50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超、90%超で存在することを意味すると理解され、さらに優先的には「主」化合物は100%を占める。
本特許出願では、表現「コポリマーのモノマー単位の全て」又は「コポリマーのモノマー単位の総量」は、重合によってコポリマー鎖にモノマーを挿入することから生じるコポリマーの全ての構成反復単位を意味する。別段の指示がない限り、エチレンと1,3-ジエンのコポリマー中のモノマー単位又は反復単位の含量は、コポリマーの全てのモノマー単位に基づいて計算されるモル百分率で与えられる。
本説明で言及する化合物は、化石起源のものであるか又はバイオベースであり得る。後者の場合、それらは部分的又は全体的にバイオマス由来であるか又はバイオマス由来の再生可能出発材料から得られることがある。同様に、言及化合物は、使用済み材料の再利用に由来することもあり、すなわちそれらは部分的若しくは全体的に再利用プロセスに起因するか、又はそれら自体再利用プロセスの結果として生じる出発材料から得られることもある。ポリマー、可塑剤、フィラー等が、特に関係する。
別段の指示がない限り、本明細書に記載の全てのガラス転移温度「Tg」値は、DSC(示差走査熱量測定)によって既知の方法でASTM規格D3418(1999)に準拠して測定される。
【0007】
II-発明の説明
II-1 エラストマーマトリックス
本発明によれば、エラストマーマトリックスは、エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマー(以降、「コポリマー」と呼ぶ)を50phrより多く含む。
用語「エラストマーマトリックス」は、組成物の全てのエラストマーを意味すると理解される。
用語「エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマー」は、その構造内に、少なくともエチレン単位及びジエン単位を含むいずれのコポリマーをも意味すると理解される。従って、コポリマーは、エチレン単位及びジエン単位以外のモノマー単位を含むことができる。例えば、コポリマーは、αオレフィン単位、特に3~18個の炭素原子を有する、有利には3~6個の炭素原子を有するαオレフィン単位を含んでもよい。例えば、αオレフィン単位は、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン又はこれらの混合物から成る群より選択され得る。
既知の方法で、表現「エチレン単位」は、エラストマー鎖へのエチレンの挿入の結果として生じる-(CH2-CH2)-副単位を指す。
用語「ジエン単位」は、共役ジエンモノマー又は非共役ジエンモノマーの重合の結果として生じるモノマー副単位の挿入に由来するモノマー単位を意味すると理解され、ジエン単位は炭素-炭素二重結合を含む。好ましくは、ジエン単位は、ブタジエン単位、イソプレン単位及びこれらのジエン単位の混合物から成る群より選択される。特に、コポリマーのジエン単位は、4~12個の炭素原子を有する1,3-ジエン単位、例えば、1,3-ブタジエン又は2-メチル-1,3-ブタジエン単位であり得る。さらに好ましくは、ジエン単位は、主に、又は優先的には排他的にさえ1,3-ブタジエン単位である。
コポリマー中、エチレン単位は、有利にはコポリマーのモノマー単位の50モル%と95モル%の間、すなわちコポリマーのモノマー単位の50モル%と95モル%の間を占める。有利には、コポリマー中のエチレン単位は、コポリマーのモノマー単位の55モル%と90モル%の間、好ましくは60モル%~90モル%、好ましくは70モル%~85モル%を占める。
【0008】
有利には、コポリマー(すなわち、忘備録として、エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマー)は、エチレンと1,3-ジエン(好ましくは1,3-ブタジエン)のコポリマーであり、すなわち、本発明によれば、コポリマーは、排他的にエチレン単位及び1,3-ジエン(好ましくは、1,3-ブタジエン)単位から成る。
コポリマーがエチレンと1,3-ジエンのコポリマーであるとき、前記コポリマーは、有利には下記式(I)及び/又は(II)の単位を含有する。式(I)の飽和6員環状単位、1,2-シクロヘキサンジイルのコポリマー中のモノマー単位としての存在は、ポリマー鎖の成長中にポリマー鎖にエチレン及び1,3-ブタジエンの一連の非常に特有の挿入に起因し得る。
【化1】
【0009】
例えば、エチレンと1,3-ジエンのコポリマーが式(I)の単位を持っていないことがある。この場合、コポリマーは、好ましくは式(II)の単位を含有する。
エチレンと1,3-ジエンのコポリマーが式(I)の単位若しくは式(II)の単位又は式(I)の単位と式(II)の単位を含むとき、式(I)の単位及び式(II)の単位のコポリマー中のモル百分率、それぞれo及びpは、好ましくは下記方程式(eq. 1)、さらに優先的には下記方程式(eq. 2)を満たし、o及びpは、コポリマーの全てのモノマー単位に基づいて計算される。
0<o+p≦25 (eq. 1)
0<o+p<20 (eq. 2)
【0010】
本発明によれば、コポリマー、好ましくはエチレンと1,3-ジエン(好ましくは1,3-ブタジエン)のコポリマーはランダムコポリマーである。
有利には、コポリマー、好ましくはエチレンと1,3-ジエン(好ましくは1,3-ブタジエン)のコポリマーの数平均質量(Mn)は、100,000~300,000g/モル、好ましくは150,000~250,000g/モルに及ぶ範囲内である。
コポリマーのMnは、下記ポイントIV-1.2に記載どおりにサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって既知の方法で決定される。
コポリマーは、当業者に既知の種々の合成方法に従って、特にコポリマーの目標とするミクロ構造に応じて得ることができる。一般的に、コポリマーは、少なくともジエン、好ましくは1,3-ジエン、さらに好ましくは1,3-ブタジエンと、エチレンとの共重合によって、既知の合成方法に従って、特にメタロセン錯体を含む触媒系の存在下で調製可能である。この点において、メタロセン錯体をベースとする触媒系に言及することができ、この触媒系は、出願人名義の文献EP 1 092 731、WO 2004035639、WO 2007054223及びWO 2007054224に記載されている。コポリマーは、それがランダムである場合を含め、文献WO 2017093654 A1、WO 2018020122 A1及びWO 2018020123 A1に記載のもののような予備形成タイプの触媒系を用いるプロセスを経て調製してもよい。
コポリマーは、エチレン単位及びジエン単位を含有するコポリマーであって、それらのミクロ構造及び/又はそれらのマクロ構造の理由で互いに異なるコポリマーの混合物から成り得る。
【0011】
本発明によれば、エラストマーマトリックスは、エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマーではない少なくとも1種の他のエラストマーを含むことができるが、これは必須でもなく好ましくもない。従って、優先的には、エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーの含量は、50~100phr、好ましくは60~100phr、さらに好ましくは80~100phrに及ぶ範囲内である。有利には、エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーは、組成物の唯一のエラストマーである。すなわち、それはエラストマーマトリックスの100質量%を占める。
エラストマーマトリックスが、エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマーでない少なくとも1種の他のエラストマーを含むとき、この少なくとも1種の他のエラストマーは、例えば、ポリブタジエン(BRs)、天然ゴム(NR)、合成イソプレン(IRs)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー、及びこれらのエラストマーの混合物から成る群より選択されるジエンエラストマーであり得る。ブタジエンコポリマーは、特にブタジエン/スチレンコポリマー(SBRs)から成る群より選択される。
【0012】
II-2 ポリエチレン
本発明のゴム組成物は、少なくとも3phrのポリエチレンを含むという本質的特徴をも有する。
驚いたことに、出願人は、特にタイヤの製造を意図したゴム組成物に通常使用されている補強フィラーの全て又は一部をポリエチレンに置き換えることができ、かつ顕著に改善された機械的特性を示すゴム組成物を得ることができることを見出した。
ポリエチレン(「PE」とも呼ばれる)は、熱可塑性ポリマーのファミリーに属する半結晶性ポリオレフィンである。
本発明の文脈では、用語「ポリエチレン」は、エチレンホモポリマー、すなわち唯一のモノマーとしてのエチレンから得られるポリマーを意味する。しかしながら、このポリマーにおけるプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン又は1-オクテンモノマーの存在は除外される。しかしながら、これらのモノマーが存在する場合、それらは不純物として、かつ好ましくはポリエチレンと不純物の総質量に対して5質量%未満の少量で存在する。エチレンとプロピレンのコポリマー(「エチレンプロピレンゴム」の代わりにEP、EPM又はEPRとも呼ばれる)は、上記ポリエチレンの定義の範囲内に入らない。
【0013】
好ましくは、本発明の文脈で使用できるポリエチレンは、非架橋ポリエチレンである。本発明の目的では、用語「非架橋ポリエチレン」は、架橋反応を受けたことがないポリエチレンを意味すると理解される。従って、それは、(「架橋されたPE」の代わりに)PEXとも呼ばれる架橋ポリエチレンでない。架橋ポリエチレンPEXは、エチレンモノマーの重合後に、ペルオキシドを用いる架橋であり得る架橋反応(PEX-Aプロセス)、照射による架橋(PEX-Cプロセス)、シラン及び架橋触媒による架橋(PEX-Bプロセス)によって得られる。当然に、非架橋ポリエチレンは、本発明のゴム組成物へのその組み入れ後に、例えば本発明のゴム組成物を含むタイヤの硬化中に架橋ステップを受ける可能性がある。
優先的には、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、及びこれらのポリエチレンの混合物から成る群より選択される。高密度ポリエチレンが特に好ましい。
優先的には、ポリエチレン、特に高密度ポリエチレンは、940~970kg/m3に及ぶ範囲内、さらに優先的には940~965kg/m3に及ぶ範囲内、さらに優先的には950~970kg/m3に及ぶ範囲内の密度を有する。密度は、ISO規格1183-2019に従って23℃で測定される。
優先的には、ポリエチレン、特に高密度ポリエチレンは、5kg下190℃で2~25g/10分に及ぶ範囲内、好ましくは2.5~22g/10分に及ぶ範囲内、さらに優先的には10~25g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレートを有する。メルトフローレート(MFR 190℃/5kg)(「質量流量(Mass Flow Rate)」の代わりに「MFR」)は、5kgの質量で加重したピストンの作用下で標準化ダイを介して190℃でISO規格1133-1-2012に従って測定される。
本発明の文脈で使用できるポリエチレンは、官能化又は非官能化ポリエチレンであり得る。
【0014】
用語「非官能化ポリエチレン」は、その重合後に、Si、N、S、O及びClから選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む官能基をグラフトすることによって修飾されなかったポリエチレンを意味すると理解される。言い換えれば、非官能化ポリエチレンは、本質的に炭素原子と水素原子の混合物から成り、Si、N、S、O及びClから成る群より選択されるヘテロ原子を含まない。ポリエチレンにこれらのヘテロ原子が存在する場合、それらは不純物として存在する。
さらに優先的には、ポリエチレンは非官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特に非官能化かつ好ましくは非架橋高密度ポリエチレンであり、23℃でISO規格1183-2019に準拠して測定される940~970kg/m3に及ぶ範囲内の密度及びISO規格1133-1-2012に準拠して測定される2~25g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレート(190℃/5kg)を有する。さらに好ましくは非官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特に非官能化かつ好ましくは非架橋高密度ポリエチレンは、23℃でISO規格1183-2019に準拠して測定される950~970kg/m3に及ぶ範囲内の密度及び10~25g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレート(190℃/5kg)を有する。
【0015】
使用可能な非官能化ポリエチレンは、既知の通常のプロセス、例えば、特に、メタロセン触媒の存在下での重合によって得ることができる。重合の最後に、ポリエチレンは、如何なる架橋反応もなくペレット化される。非官能化ポリエチレンは、例えばDow Global Technologies, BASF, Silon, ENI等の供給業者から商業的に入手可能である。
本発明の文脈で使用できるポリエチレンは、官能化ポリエチレンでもあり得る。本発明目的では、用語「官能化ポリエチレン」は、その重合後に、Si、N、O、S及びClから成る群より選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む少なくとも1つの官能基を含めるように、修飾反応を受けたポリエチレンを意味すると理解される。特に適切な官能基は、例えば、シラノール、アルコキシシラン、塩素原子のような少なくとも1つの機能を含むものである。ポリエチレンの修飾又は官能化は、いずれの既知の手段によっても、特に少なくとも1個のヘテロ原子を含む官能基をグラフトすることによって達成することができる。この反応の最後に、官能化ポリエチレンは架橋反応を受けない。官能化ポリエチレンは、例えばDow Global Technologies, BASF, Silon, ENI等の供給業者から商業的に入手可能であり得る。
【0016】
優先的には、官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレンは、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基を含む。本説明の残りの部分では、このポリエチレンは、表現「アルコキシシラン官能化ポリエチレン」又は表現「シラングラフトポリエチレン」又は「アルコキシシランポリエチレン」によって示されることになり、これらの3つの表現は等価かつ互換性がある。
アルコキシシラン官能化ポリエチレンは、ポリエチレンの上に下記式(I)のシラン化合物をグラフトすることによって得られる。
CH2=CR-(COO)x(CnH2n)ySiR'3 (I)
式中:
-Rは、水素原子又はメチル基であり;
-x、yは、0又は1に等しい整数であり、但し、x=1のときはy=であり;
-nは、1~12、好ましくは1~4の範囲の整数であり;
-各R'は、同一であるか又は異なってよく、1~12個の炭素原子を有するアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ)、6~12個の炭素原子を有するアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、1~12個の炭素原子を有する脂肪族アシルオキシ基(例えばホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロパノイルオキシ)、置換又は非置換アミノ基(例えばアルキルアミノ)から成る群より選択される化学基である。
【0017】
特に、式(I)の好ましい化合物は、
-Rが水素原子又はメチル基であり;
-x、yが、0又は1に等しい整数であり、但し、x=1のときはy=1であり;
-nが、1~12、好ましくは1~4の範囲の整数であり;
-各R'が、同一であるか又は異なってよく、1~12個の炭素原子を有するアルコキシ基、好ましくはメトキシ、エトキシ、ブトキシである、
化合物であり得る。
式(I)の化合物は、ペルオキシドの存在下、ラジカル反応によってポリエチレンの上にグラフトすることができる。グラフト反応は、押出機内で行うことができる。押出機の出口で、シラングラフトかつ非架橋ポリエチレンが得られる。グラフトプロセスの例は、文献EP2407496A1の段落[0042]~[0048]に記載されている。シラングラフトポリエチレンは、例えばDow Global Technologies, BASF, Silon, ENI等の供給業者から商業的に入手可能である。
【0018】
優先的には、官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特にアルコキシシラン官能化ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、及びこれらのポリエチレンの混合物から成る群より選択され得る。さらに優先的には、官能化かつ非架橋ポリエチレン、特にアルコキシシラン官能化かつ非架橋ポリエチレンは、高密度ポリエチレンである。
優先的には、官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特にアルコキシシラン官能化ポリエチレンは、940~970kg/m3に及ぶ範囲内、さらに優先的には940~965kg/m3に及ぶ範囲内の密度を有する。密度は、23℃でISO規格1183-2019に準拠して測定される。 優先的には、官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特にアルコキシシラン官能化かつ非架橋ポリエチレンは、5kg下190℃で2~25g/10分に及ぶ範囲内、好ましくは2.5~22g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレートを有する。メルトフローレート(MFR 190℃/5kg)(「質量流量(Mass Flow Rate)」の代わりに「MFR」)は、5kgの質量で加重したピストンの作用下で標準化ダイを介して190℃でISO規格1133-1-2012に従って測定される。
さらに優先的には、官能化かつ好ましくは非架橋ポリエチレン、特にアルコキシシラン官能化ポリエチレンは、23℃でISO規格1183-2019に準拠して測定される940~970kg/m3に及ぶ範囲内の密度及びISO規格1133-1-2012に準拠して測定される2~25g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレート(MFR 190℃/5kg)を有する。さらに好ましくは、23℃でISO規格1183-2019に準拠して測定されるその密度は、940~960kg/m3に及ぶ範囲内であり、かつそれは、2~10g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレート(190℃/5kg)を有する。
優先的には、ゴム組成物中のポリエチレンの含量は、それが官能化、特にアルコキシシラン官能化されていようが、非官能化であろうが、3phr~75phr、好ましくは4~60phr、さらに好ましくは5~50phrに及ぶ範囲内である。
【0019】
II-3 補強フィラー
本発明のゴム組成物は、0~50phrの補強フィラーを含むというさらなる本質的特徴を有する。言い換えると、組成物は、補強フィラーを含まなくてよく、或いは、組成物が補強フィラーを含む場合、50phr未満である含量で補強フィラーを含む。
有利には、本発明の組成物中の補強フィラーの含量は0~40phr、好ましくは0~35phr、好ましくは0~20phrに及ぶ範囲内である。例えば、本発明の組成物中の補強フィラーの含量は2~40phr、例えば5~35phr、例えば5~20phrに及ぶ範囲内であり得る。
補強フィラーは、特にタイヤの製造に使用できるゴム組成物を補強するその能力で知られるいずれのタイプの「補強」フィラーであってもよく、例えば、カーボンブラック等の有機フィラー、シリカ等の無機フィラー、又はこれら2タイプのフィラーの混合物でもあり得る。該補強フィラーは、典型的にナノ粒子から成り、その(質量)平均サイズは、1μm未満、一般的に500nm未満、通常は20nmと200nmの間、特にかつさらに優先的には20nmと150nmの間である。有利には、補強フィラーは、カーボンブラック、シリカ、及びその混合物から選択される。
適切なカーボンブラックには、全てのカーボンブラック、特にタイヤ又はタイヤトレッドに従来使用されているブラックが含まれる。後者のブラックの中で、さらに特に100、200及び300シリーズの補強カーボンブラック、又は500、600若しくは700シリーズ(ASTM D-1765-2017グレード)のブラック、例えばN115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683及びN772ブラックに言及することになる。これらのカーボンブラックは、市販されているように、単離状態で、又はいずれの他の形態でも、例えば使用するゴム用添加剤のいくつかの支持体として使用可能である。カーボンブラックは、例えば、ジエンエラストマー、特にイソプレンエラストマーに、マスターバッチの形態で既に組み込まれていることもある(例えば、特許出願WO97/36724-A2及びWO99/16600-A1参照)。
有利には、補強フィラーが組成物に存在する場合、それは、主に、好ましくは排他的にカーボンブラックを含む。
【0020】
補強無機フィラーを使用するとき、それは特にシリカ質タイプの鉱物フィラー、優先的にはシリカ(SiO2)、又はアルミナ質タイプの鉱物フィラー、特にアルミナ(Al2O3)であり得る。使用するシリカは、当業者に既知のいずれの補強シリカであってもよく、特にBET比表面積及びまたCTAB比表面積が両方とも450m2/g未満、好ましくは30~400m2/g、特に60~300m2/gに及ぶ範囲内であるいずれの沈降シリカ又はヒュームドシリカでもあり得る。
用語「補強無機フィラー」は、本明細書では、その色及びその起源(天然又は合成)が何であろうと、カーボンブラックとは対照的に、「ホワイトフィラー」、「クリアフィラー」又は「非ブラックフィラー」としても知られ、中間カップリング剤以外の手段なしで、それ自体単独で、タイヤの製造を意図したゴム組成物を補強する能力があるいずれの無機又は鉱物フィラーをも意味するものと理解すべきである。既知の方法で、特にそれらの表面のヒドロキシル(-OH)基の存在によって特徴づけ得る補強無機フィラーもある。
【0021】
いずれのタイプの沈降シリカをも、特に高度に分散した沈降シリカ(「高分散性」又は「高分散性シリカ」の代わりに「HDS」と呼ばれる)を使用することができる。高分散性であるか又は高分散性でないこれらの沈降シリカは当業者に周知である。例えば、特許出願WO03/016215-A1及びWO03/016387-A1に記載のシリカに言及することができる。市販のHDSシリカの中で、特にEvonikからのUltrasil(登録商標)5000GR及びUltrasil(登録商標)7000GRシリカ又はSolvayからのZeosil(登録商標)1085GR、Zeosil(登録商標)1115MP、Zeosil(登録商標)1165MP、Zeosil(登録商標)Premium 200MP及びZeosil(登録商標)HRS 1200 MPシリカを利用してよい。非HDSシリカとして、下記市販シリカ:EvonikからのUltrasil(登録商標)VN2GR及びUltrasil(登録商標)VN3GRシリカ、SolvayからのZeosil(登録商標)175GRシリカ又はPPGからのHi-Sil EZ120G(-D)、Hi-Sil EZ160G(-D)、Hi-Sil EZ200G(-D)、Hi-Sil 243LD、Hi-Sil 210及びHi-Sil HDP 320Gシリカを利用してよい。
補強無機フィラーは、種々の補強無機フィラーの混合物であってよく、この場合、補強フィラー中の補強無機フィラーの割合は、全ての補強無機フィラーに関するものである。
【0022】
補強無機フィラーをジエンエラストマーに連結するために、周知の方法で、満足できる結合を与えることを意図した少なくとも二官能性のカップリング剤(又は結合剤)、無機フィラー(その粒子の表面)とジエンエラストマーの間の化学的及び/又は物理的性質を利用することができる。特に少なくとも二官能性であるオルガノシラン又はポリオルガノシランを利用する。用語「二官能性」は、無機フィラーと相互作用する能力がある第1の官能基及びジエンエラストマーと相互作用する能力がある第2の官能基を有する化合物を意味すると理解される。例えば、該二官能性化合物は、ケイ素原子を含む第1の官能基を含むことができ、前記第1の官能基は、無機フィラーのヒドロキシル基と相互作用する能力があり、かつ硫黄原子を含む第2の官能基を含むことができ、前記第2の官能基は、ジエンエラストマーと相互作用する能力がある。
優先的には、オルガノシランは、オルガノシランポリスルフィド(対称又は非対称)、例えば、Evonikにより名称Si69で販売されているビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPTと略記)、又はEvonikにより名称Si75で販売されているビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPDと略記)、ポリオルガノシラン、メルカプトシラン、ブロックトメルカプトシラン、例えば名称NXTシランでMomentiveにより販売されているS-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)オクタンチオアートから成る群より選択される。さらに優先的には、オルガノシランは、オルガノシランポリスルフィドである。
当然に、上記カップリング剤の混合物を利用してもよい。
補強無機フィラーを使用するとき、当業者なら本発明の組成物中のカップリング剤の含量を容易に調整することができる。典型的に、カップリング剤の含量は、補強無機フィラーの量に対して、0.5質量%~15質量%に相当する。
【0023】
II-4 架橋系
架橋系は、タイヤ用ゴム組成物の分野の当業者に既知のいずれのタイプの系であってもよい。それは、特に硫黄及び/又はペルオキシド及び/又はビスマレイミドをベースとし得る。
優先的には、架橋系は、ペルオキシド、好ましくは有機ペルオキシドを含み、好ましくはそれで構成される。
用語「有機ペルオキシド」は、有機化合物、すなわち-O-O-基(単共有結合で連結された2個の酸素原子)を含む炭素含有化合物を意味すると理解される。架橋プロセス中に、有機ペルオキシドは、その不安定なO-O結合のところで分解してフリーラジカルを与える。これらのフリーラジカルが架橋結合の生成を可能にする。
有機ペルオキシドは、好ましくは、ジアルキルペルオキシド、モノペルオキシカルボナート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシケタール及びペルオキシエステルを含むか又はこれらから成る群より選択される。
好ましくは、ジアルキルペルオキシドは、ジクミルペルオキシド、ジ(t-ブチル)ペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-アミルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサ-3-イン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-アミルペルオキシ)ヘキサ-3-イン、α,α'-ジ[(t-ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼン、α,α'-ジ[(t-アミルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ(t-アミル)ペルオキシド、1,3,5-トリ[(t-ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,3-ジメチル-3-(t-ブチルペルオキシ)ブタノール及び1,3-ジメチル-3-(t-アミルペルオキシ)ブタノールを含むか又はこれらから成る群より選択される。
【0024】
特定のモノペルオキシカルボナート、例えばOO-tert-ブチルO-(2-エチルヘキシル) モノペルオキシカルボナート、OO-tert-ブチルO-イソプロピルモノペルオキシカルボナート及びOO-tert-アミルO-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカルボナートを使用することもできる。
ジアシルペルオキシドの中で、好ましいペルオキシドは、ベンゾイルペルオキシドである。
ペルオキシケタールの中で、好ましいペルオキシドは、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレラート、エチル3,3-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブチラート、2,2-ジ(t-アミルペルオキシ)プロパン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリペルオキシノナン(又はメチルエチルケトンペルオキシド環状トリマー)、3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン、n-ブチル4,4-ビス(t-アミルペルオキシ)バレラート、エチル3,3-ジ(t-アミルペルオキシ)ブチラート、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、及びこれらの混合物を含むか又はこれらから成る群より選択される。好ましくは、ペルオキシエステルは、tert-ブチルペルオキシベンゾアート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート及びtert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノアートから成る群より選択される。
【0025】
要約すると、有機ペルオキシドは、特に好ましくは、ジクミルペルオキシド、アリール又はジアリールペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(tert-ブチル)ペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)バレラート、OO-(t-ブチル)O-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカルボナート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、tert-ブチルペルオキシベンゾアート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノアート、1,3(4)-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの混合物から成る群より選択される。さらに好ましくは、有機ペルオキシドは、ジクミルペルオキシド、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)バレラート、OO-(t-ブチル)O-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカルボナート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、tert-ブチルペルオキシベンゾアート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノアート、1,3(4)-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0026】
組成物中のペルオキシド、好ましくは有機ペルオキシドの含量は、有利には、0.1~10phr、好ましくは0.5~5phr、さらに好ましくは1~4phrに及ぶ範囲内である。
本発明の文脈で使用できる市販のペルオキシドの例としては、Hercules Powder Co. からのDicup、Noury van der LandeからのPerkadox Y12、Montecatini Edison S.p.A.からのPeroximon F40、Noury van der LandeからのTrigonox、R.T.Vanderbilt Co.からのVarox、又はWallace & Tiernan Inc.からのLuperkoに言及し得る。
さらに、本発明の組成物は、有利には、加硫剤として硫黄を含まず、或いは0.9phr未満、好ましくは0.5phr未満、好ましくは0.3phr未満、好ましくは0.2phr未満、好ましくは0.1phr未満の硫黄を含有する。硫黄は、分子硫黄であるか又は硫黄供与剤、例えばアルキルフェノールジスルフィド(APDS)であり得る。
【0027】
II-5 可能な添加剤
本発明のゴム組成物は、場合により、タイヤ用エラストマー組成物に慣用されている有用な添加剤の全て又はいくつか、例えば可塑剤(例えば、可塑化油及び/又は可塑化樹脂)、顔料、保護剤、例えば抗オゾンワックス、化学抗オゾン剤、酸化防止剤、抗疲労剤、補強樹脂(例えば、出願WO02/10269に記載のもの)を含んでもよい。
組成物は、特にそれらのヤング率又はまた複素動的せん断モジュラスG*を高めることによって、ゴム組成物を堅くすることで当業者に知られている補強樹脂(又は硬化性樹脂)の使用を必要としない。特に有利には、本発明の組成物は、補強樹脂を含まないか、又は1phr未満、好ましくは0.5phr未満の補強樹脂を含む。該補強樹脂の例は、特許出願WO20198679A1のII.3章で見つけられる。
【0028】
II-6 ゴム組成物の調製
本発明の組成物は、適切なミキサー内で、当業者に周知の下記2つの連続調製段階を用いて製造可能である。
-第1の熱機械加工又は混練段階(「非生産」段階)、これは単一の熱機械ステップで行うことができ、この間に、架橋系以外の全ての必要成分、特にエラストマーマトリックス、補強フィラー及び種々の他の任意的添加剤が、(例えばバンバリー型の)標準的内部ミキサー等の適切なミキサーに導入される。エラストマーへの任意的フィラーの組み込みは、熱機械的に混練しながら1回又は複数回に分けて行ってよい。例えば、特許出願WO97/36724及びWO99/16600に記載されているように、マスターバッチの形態で、エラストマーに全体的又は部分的にフィラーが既に組み込まれている場合、直接混練されるのはマスターバッチであり、適宜、マスターバッチの形態でなく組成物に存在する他のエラストマー又はフィラー、及び架橋系以外の種々の他の任意的添加剤も組み込まれる。非生産段階は、110℃と200℃の間、好ましくは130℃と185℃の間の最大温度までの高温で、一般的に2分と10分の間の時間にわたって行ってよい;
-第2の機械加工段階(「生産」段階)、これは、第1の非生産段階中に得られた混合物を典型的に120℃未満、例えば40℃と100℃の間のより低い温度まで冷却した後に、オープンミル等の外部ミキサー内で行われる。その後、架橋系が組み込まれてから、混ぜ合わさった混合物が数分間、例えば5分と15分の間の時間にわたって混合される。
該段階については、例えば、特許出願EP-A-0501227、EP-A-0735088、EP-A-0810258、WO 00/05300及びWO 00/05301に記載されている。
【0029】
このようにして得られた最終組成物は、次に、例えばシート又はスラブの形態で、特に実験室特徴づけのためにカレンダー加工されるか、或いは例えば、タイヤのサイドウォールとして使用可能なゴム半完成品(又は異形要素(profiled element))の形態で押し出される(又は別のゴム組成物と共押し出しされる)。これらの製品は、次に当業者に既知の技術に従って、タイヤ製造のために使用することができる。
組成物は、未加工状態(架橋又は加硫前)又は硬化状態(架橋又は加硫後)のどちらかであってよく、かつタイヤに使用可能な半完成品であり得る。
架橋(又は硬化)、又は、適切な場合には、加硫は、既知の方法で、特に硬化温度、採用された架橋系及び検討中の組成物の架橋動に応じて、一般的に130℃と200℃の間の温度で、例えば5分と90分の間の範囲であり得る十分な時間にわたって行われる。
【0030】
II-7 タイヤ
本発明の主題は、本発明のゴム組成物を含むタイヤでもある。
本説明で定義した組成物は、タイヤの内部層に特によく適している。従って、好ましくは、本発明の組成物は、少なくとも、タイヤの少なくとも1つの内部層に存在する。
有利には、タイヤの内部層は、カーカスプライ、クラウンプライ、ビードワイヤーフィリング、クラウンフィート、デカップリング層、エッジゴム、フィラーゴム、トレッド下層及びこれらの内部層の組み合わせから成る群より選択され、好ましくはトレッド下層である。本テキストでは、用語「エッジゴム」は、補強プライの端部、補強要素の端部又は別のエッジゴムと直接接触してタイヤ内に配置される層を意味すると理解される。
本発明のタイヤは、乗用車タイプの自動車、SUV(スポーツ用多目的車(sport utility vehicle))、又は二輪車両(特にオートバイ)、又は航空機、或いはバン、ヘビーデューティー車両、すなわち地下鉄、バス、ヘビーロード輸送車両(ローリー、トラクター、トレーラー)又はオフロード車両、例えば重量農業用車両若しくは民間のエンジニアリング設備等から選択される産業用車両に備え付けることを意図し得る。
【0031】
III-好ましい実施形態
上記の観点から、本発明の好ましい実施形態を以下に述べる。
1. エチレン単位とジエン単位とを含有する少なくとも1種のコポリマーを50phrより多く含有するエラストマーマトリックスと、0~50phrの補強フィラーと、少なくとも3phrのポリエチレンと、架橋系とをベースとするゴム組成物。
2. エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマーが、エチレンと1,3-ジエンのコポリマーである、実施形態1に記載のゴム組成物。
3. 1,3-ジエンが1,3-ブタジエンである、実施形態2に記載のゴム組成物。
【0032】
4. コポリマーが、下記式(I)の単位若しくは下記式(II)の単位又は式(I)の単位及び式(II)の単位を含有する、実施形態2及び3のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【化2】
【0033】
5. コポリマー中の式(I)の単位及び式(II)の単位のモル百分率、それぞれo及びpが、下記方程式(eq. 1)を満たし、優先的には下記方程式(eq. 2)を満たし、O及びpはコポリマーの全てのモノマー単位に基づいて計算される、実施形態4に記載のゴム組成物。
0<o+p≦25 (eq. 1)
0<o+p<20 (eq. 2)
6. コポリマー中のエチレン単位が、コポリマーのモノマー単位の50モル%と95モル%の間、好ましくは55モル%と90モル%の間を占める、実施形態1~5のいずれか1つに記載のゴム組成物。
7. コポリマーがランダムコポリマーである、実施形態1~6のいずれか1つに記載のゴム組成物。
8. コポリマーが、100,000~300,000g/モル、好ましくは150,000~250,000g/モルに及ぶ範囲内である数平均質量Mnを有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載のゴム組成物。
9. エチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマーの含量が、60~100phr、好ましくは80~100phrに及ぶ範囲内である、実施形態1~8のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0034】
10. ポリエチレンが非架橋ポリエチレンである、実施形態1~9のいずれか1つに記載のゴム組成物。
11. ポリエチレンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、及びこれらのポリエチレンの混合物から成る群より選択される、実施形態1~10のいずれか1つに記載のゴム組成物。
12. ポリエチレンが非架橋高密度ポリエチレンHDPEである、実施形態1~11のいずれか1つに記載のゴム組成物。
13. ポリエチレンが、940~970kg/m3に及ぶ範囲内、さらに優先的には940~965kg/m3に及ぶ範囲内の密度を有する、実施形態1~12のいずれか1つに記載のゴム組成物。
14. ポリエチレンが、5kg下190℃で2~25g/10分に及ぶ範囲内、好ましくは2.5~22g/10分に及ぶ範囲内のメルトフローレートを有する、実施形態1~13のいずれか1つに記載のゴム組成物。
15. ポリエチレンが官能化されている、実施形態1~14のいずれか1つに記載のゴム組成物。
16. 官能化ポリエチレンが、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基を含む、実施形態15に記載のゴム組成物。
17. ポリエチレンの含量が、3~75phr、好ましくは4~60phrに及ぶ範囲内である、実施形態1~16のいずれか1つに記載のゴム組成物。
18. 補強フィラーの含量が、0~40phr、好ましくは0~35phrに及ぶ範囲内である、実施形態1~17のいずれか1つに記載のゴム組成物。
19. 補強フィラーが、カーボンブラック、シリカ、及びその混合物から選択される、実施形態1~18のいずれか1つに記載のゴム組成物。
20. 補強フィラーが、主に、好ましくは排他的にカーボンブラックを含む、実施形態1~19のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0035】
21. 架橋系が、硫黄及び/又はペルオキシド及び/又はビスマレイミドをベースとする、実施形態1~20のいずれか1つに記載のゴム組成物。
22. 架橋系が、好ましくはジクミルペルオキシド、アリール又はジアリールペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(tert-ブチル)ペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)バレラート、OO-(t-ブチル)O-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカルボナート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、tert-ブチルペルオキシベンゾアート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノアート、1,3(4)-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの混合物から成る群より、好ましくはジクミルペルオキシド、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)バレラート、OO-(t-ブチル)O-(2-エチルヘキシル)モノペルオキシカルボナート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、tert-ブチルペルオキシベンゾアート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノアート、1,3(4)-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及びこれらの混合物から成る群より選択される少なくとも1種の有機ペルオキシドを含む、実施形態1~21のいずれか1つに記載のゴム組成物。
23. ペルオキシドの含量が、0.1~10phr、好ましくは0.5~5phr、さらに好ましくは1~4phrに及ぶ範囲内である、実施形態1~22のいずれか1つに記載のゴム組成物。
24. 組成物が、加硫剤として硫黄を含まないか、又は0.9phr未満、好ましくは0.5phr未満、好ましくは0.3phr未満、好ましくは0.2phr未満、好ましくは0.1phr未満の硫黄を含む、実施形態1~23のいずれか1つに記載のゴム組成物。
25. 組成物が、補強樹脂を含まないか、又は1phr未満、好ましくは0.5phr未満の補強樹脂を含む、実施形態1~24のいずれか1つに記載のゴム組成物。
26. 実施形態1~25のいずれか1つに記載のゴム組成物を含むタイヤであって、ゴム組成物が、好ましくはタイヤの少なくとも1つの内部層に存在する、タイヤ。
27. タイヤの少なくとも1つの内部層が、カーカスプライ、クラウンプライ、ビードワイヤーフィリング、クラウンフィート、デカップリング層、エッジゴム、フィラーゴム、トレッド下層及びこれらの内部層の組み合わせから成る群より選択され、好ましくはトレッド下層である、実施形態26に記載のタイヤ。
【実施例】
【0036】
IV-例
IV-1 使用した測定及び試験
IV-1.1 エラストマーのミクロ構造の決定:
エチレン-ブタジエンコポリマーのミクロ構造は、1H NMR分析により決定し、1H NMRスペクトルの分解能が全ての種の帰属及び定量化を可能にしないときは13C NMR分析により補助する。Bruker 500MHz NMR分光計を用いてプロトン観測のためには500.43MHzの周波数で、カーボン観測のためには125.83MHzの周波数で測定を行う。溶媒中で膨潤する能力がある不溶性エラストマーについては、プロトン及びカーボン観測のためにプロトンデカップリングモードで4mm z-grad HRMASプローブを使用する。4000Hz~5000Hzの回転速度でスペクトルを取得する。可溶性エラストマーに関する測定では、プロトン及びカーボン観測のためにプロトンデカップリングモードで液体NMRプローブを使用する。不溶性サンプルの調製は、分析材料と、膨潤を可能にする重水素化溶媒、一般的に重水素化クロロホルム(CDCl3)とを満たしたローター内で行う。使用溶媒は常に重水素化したものでなければならず、当業者ならその化学的性質を適応させ得る。十分な感度及び分解能のスペクトルを得るように使用材料の量を調整する。可溶性サンプルは重水素化溶媒(1mlに約25mgのエラストマー)、一般的に重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶かす。使用する溶媒又は溶媒ブレンドは常に重水素化したものでなければならず、当業者ならその化学的性質を適応させ得る。両ケース(可溶性サンプル又は膨潤サンプル)において、プロトンNMRでは30°シングルパルスシーケンスを用いる。スペクトル窓を設定して、分析分子に属する全ての共鳴線を観測する。各単位の定量化に十分な信号対雑音比を得るために累積数を調整する。各パルス間のリサイクルディレイ(recycle delay)を適応させて定量的測定値を得る。カーボンNMRでは、取得中だけプロトンデカップリングを伴う30°シングルパルスシーケンスを用いて核オーバーハウザー効果(NOE)を回避し、定量性を保つ。スペクトル窓を設定して、分析分子に属する全ての共鳴線を観測する。各単位の定量化に十分な信号対雑音比を得るために累積数を調整する。各パルス間のリサイクルディレイを適応させて定量的測定値を得る。NMR測定は25℃で行う。
【0037】
IV-1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるポリマーのマクロ構造の決定:
a)測定原理:
サイズ排除クロマトグラフィーすなわちSECは、多孔性ゲルを詰めたカラムを通すことによって溶液中の巨大分子をそれらのサイズに従って分離できるようにする。巨大分子は、それらの流体力学的容積に従って分離され、最も嵩高いものが最初に溶離される。
3台の検出器(3D)、すなわち屈折計、粘度計及び90°光散乱検出器を組み合わせると、SECは、ポリマーの絶対モル質量の分布を把握できるようにする。種々の数平均(Mn)絶対モル質量及び重量平均(Mw)絶対モル質量並びに分散度(D=Mw/Mn)を計算することもできる。
b)ポリマーの調製:
各サンプルをテトラヒドロフランに約1g/lの濃度で溶かす。この溶液を次に0.45μmのポロシティを有するフィルターで濾過した後に注入する。
c)3D SEC分析:
ポリマーの数平均モル質量(Mn)、並びに必要に応じて重量平均モル質量(Mw)及び多分散性指数(PI)を決定するため、下記方法を利用する。
ポリマー(以後サンプル)の数平均モル質量(Mn)、重量平均モル質量(Mw)及び多分散性指数は、三重検出サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により絶対的方法で決定する。三重検出サイズ排除クロマトグラフィーは、平均モル質量を較正せずに直接測定するという利点を有する。
サンプル溶液の屈折率増分dn/dcの値は、液体クロマトグラフ装置の屈折計(RI)により検出されるピーク面積を用いてオンラインで計測する。この方法を適用するためには、サンプル質量の100%が注入され、カラムを通して溶離されることを検証しなければならない。RIピーク面積は、サンプル濃度、RI検出器の定数及びdn/dcの値によって左右される。
平均モル質量を決定するため、前もって調製かつ濾過した1g/lの溶液を利用して、クロマトグラフシステムに注入する。使用装置は、Waters Allianceクロマトグラフラインである。溶離溶媒は、250ppmのBHT(2,6-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシトルエン)を含有するテトラヒドロフランであり、流速は1ml.分-1であり、システムの温度は35℃であり、分析時間は60分である。使用カラムは、商品名PL Gel Mixed B LSの3本のAgilentカラムのセットである。注入されるサンプル溶液の体積は100μlである。検出システムは、商品名Viscostar IIのWyatt示差粘度計、商品名Optilab T-Rexの波長658nmのWyatt示唆屈折計、及び波長658nmかつ商品名Dawn Heleos 8+のWyatt多角静的光散乱検出器で構成される。
数平均モル質量及び多分散性指数の計算のためには、上記で得られたサンプル溶液の屈折率増分dn/dcの値を積分する。クロマトグラフデータ処理用ソフトウェアは、WyattからのAstraシステムである。
【0038】
IV-1.3 結晶化度の決定
エチレンと1,3-ジエンのコポリマーの場合に観測される融解エンタルピーを測定することにより結晶化度の測定を行う。この吸熱現象は、DSC(示差走査熱量測定)のサーモグラムの解析中に観察される。この測定は、不活性(ヘリウム)雰囲気下20℃/分の勾配で、-150℃から200℃まで前後に走査することにより行う。
吸熱(融解)現象に対応する信号は統合され、結晶化度は、測定されたエンタルピーと完全に結晶性のポリエチレンのエンタルピー(290J/g)との比である。
%結晶化度=(測定されたエンタルピー(J/g))/(100%結晶性ポリエチレンの理論的エンタルピー(J/g))。
【0039】
IV-1.4 動的特性(硬化後):引張試験
これらの引張試験は、弾性応力及び破断点特性の測定を可能にする。別段の指示がない限り、2018年2月の規格NF ISO 37に準拠してこれの試験を行う。引張記録の処理は、伸び率の関数としてモジュラスの曲線をプロットすることをも可能にする。ここで用いたモジュラスは、最初の伸びで測定される真のセカントモジュラスであり、試験の任意の瞬間における試験片の真断面積に正規化することによって計算される。MSV10と称する10%の伸びにおける公称セカントモジュラス(又は見掛けの応力(MPa))は、最初の伸びで測定される。
破断点伸び(EB%)及び破壊応力(BS)試験は、H2ダンベル試験片に関する2005年12月の規格NF ISO 37に基づき、500mm/分の引張速度で測定する。破断点伸びは伸びの百分率として表される。破壊応力はMPaで表される。
全てのこれらの引張測定は、仏国規格NF T 40-101(1979年12月)に従って、温度(23±2℃)及び湿度測定(50±5%の相対湿度)の標準条件下で実施する。
粘度分析器(Metravib VA4000)でASTM規格D 5992-96に従って動的特性G*(10%)を測定する。10Hzの周波数で、規定温度条件、例えば60℃下、ASTM規格D 1349-14に従って単純交互正弦せん断応力を受けた架橋組成物のサンプル(4mmの厚さ及び400mm2の断面を有する円筒試験片)の応答を記録する。歪み増幅掃引を0.1%~50%まで(外向きサイクル)行ってから50%~1%まで(戻りサイクル)を行う。利用する結果は、複素動的せん断モジュラスG*である。戻りサイクルについては、10%歪み、60℃での複素動的せん断モジュラスG*を示す。
もっと読み易くするため、結果をベース100(百分率)で示し、値100をコントロール に割り当てる。100より大きい結果は、関心のある特性の改善を意味する。
【0040】
IV-2 コポリマーの合成
ポリマーの合成では、メタロセンを除き全ての反応物質は商業的に得る。ブチルオクチルマグネシウムBOMAG(ヘプタン中20%、C=0.88モル.l-1)はChemturaに由来し、不活性雰囲気下でシュレンク管に保管する。N35グレードのエチレンは、Air Liquide社から得、事前精製せずに使用する。
下記手順に従って、エチレンと1,3-ブタジエンのコポリマー、エラストマーE1(本発明に準拠)を合成する。
80℃で、メチルシクロヘキサン、及びまたエチレン(Et)とブタジエン(Bd)を表1に示す割合で含有する反応器にブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)を加えて反応器内の不純物を中和してから、触媒系を添加する(表1参照)。この時、反応温度を80℃で制御すると重合反応が始まる。重合反応は8バールの一定圧力で起こる。重合の間じゅうエチレン及びブタジエン(Bd)を表1に示す割合で反応器に供給する。冷却、反応器の脱気及びエタノールの添加によって重合反応を停止させる。酸化防止剤をポリマー溶液に添加する。真空下オーブン内で一定質量まで乾燥させることによってコポリマーを回収する。触媒系は事前形成触媒系である。それは、メチルシクロヘキサン中、表1に示す含量のメタロセン、[Me2SiFlu2Nd(μ-BH4)2Li(THF)]、共触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)、及び事前形成モノマー、1,3-ブタジエンから調製する。それは、特許出願WO 2017/093654 A1の段落II.1に準拠する調製方法に従って調製する。
コポリマーE1のミクロ構造及びその特性を表2及び表3に示す。ミクロ構造に関して、表2は、エチレン(Eth)単位、1,3-ブタジエン単位、及び1,2-シクロヘキサンジイル(環)単位のモル含量を示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
IV-3 組成物の調製
下記例では、上記ポイントII-6で述べたとおりにゴム組成物を作製した。特に、「非生産」段階は、0.4リットルのミキサー内で2分間、80回転/分の平均ブレード速度で、130℃の最高降下温度に到達するまで行った。「生産」段階は、オープンミル内で23℃にて10分間行った。
組成物の架橋は、MAプレートタイプの型内で170℃の温度で15分間圧力下で行った。
【0045】
IV-4 ゴムの試験
以下に示す例の目的は、本発明の3つの組成物(C1、C2、C3)の機械的特性を2つのコントロール組成物(T1及びT2)と比較することである。試験した組成(phr)、並びに得られた結果を表4及び表5に提示する。
【0046】
【表4】
(1)天然ゴム
(2)上記で調製したエラストマーE1:79モル%のエチレン単位、7モル%の1,2-シクロヘキサンジイル単位、8モル%の1,2単位及び6モル%の1,4単位を含有するエラストマー
((3))Sigma-Aldrichからの高密度ポリエチレン「427985」。ISO規格1183-2019に準拠して測定した密度=0.952g/cm
3。190℃で、5kgの質量で加重したピストンの作用下でISO規格1133-1-2012に準拠して測定したメルトフローレート(MFR)=12g/10分
(4)Sigma-Aldrichからの「Dicup」ペルオキシド
【0047】
【0048】
発明者は、本発明のエチレン単位とジエン単位とを含有するコポリマー及びポリエチレンとの特殊な組み合わせが、測定した全ての機械的特性、特に限界特性の顕著な改善を可能にすることを実証した。
【国際調査報告】