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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】量子処理素子の電気制御
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20240705BHJP
   G06N 10/40 20220101ALI20240705BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240705BHJP
   H01L 29/66 20060101ALI20240705BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
G06N10/40
H01L29/78 301J
H01L29/66 M
G06F7/38 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578897
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 AU2022050649
(87)【国際公開番号】W WO2022266720
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2021901923
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522366705
【氏名又は名称】ディラック プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レオン、ロス チョ チュン
(72)【発明者】
【氏名】サライバ デ オリベイラ、アンドレ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チ - ファン ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ドズラク、アンドリュー スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】タントゥ、トゥオモ
(72)【発明者】
【氏名】リム、ウィ ハン
(72)【発明者】
【氏名】ラウホテ、アーネ
【テーマコード(参考)】
5F140
【Fターム(参考)】
5F140BA01
5F140BB18
5F140BB19
5F140BD05
(57)【要約】
量子処理素子を制御する方法であって、量子処理素子が、半導体基板と、バリア材料であって、半導体基板とバリア材料との間に界面が形成されるように、半導体基板の上に形成されたバリア材料と、ゲート電極の配置と、外部磁石と、電子コントローラと、を備え、方法が、制御可能な数の電子又は正孔を結合するために、ゲート電極の配置に電圧を印加することによって静電閉じ込め電位を生成し、第1の量子ドットを形成することと、外部磁石を使用して、量子処理素子に定磁場を印加することであって、磁場が、第1の量子ドット内の制御可能な数の電子又は正孔のうちの不対電子又は正孔に関連付けられたスピン状態のエネルギー準位を分離する、印加することと、電子コントローラを使用して、ゲート電極の配置の電圧を変化させて、不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させることとを含む、方法。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子処理素子を制御する方法であって、前記量子処理素子が、
半導体基板と、
バリア材料であって、前記半導体基板と前記バリア材料との間に界面が形成されるように、前記半導体基板の上に形成されたバリア材料と、
ゲート電極の配置と、
外部磁石と、
電子コントローラとを備え、前記方法が、
制御可能な数の電子又は正孔を結合するために、前記ゲート電極の配置に電圧を印加することによって静電閉じ込め電位を生成し、第1の量子ドットを形成することと、
前記外部磁石を使用して前記量子処理素子に定磁場を印加することであって、前記磁場が、前記第1の量子ドット内の前記制御可能な数の電子又は正孔のうちの不対電子又は正孔に関連付けられたスピン状態のエネルギー準位を分離する、印加することと、
前記電子コントローラを使用して、前記ゲート電極の配置の前記電圧を変化させて、前記不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させることと
を含む方法。
【請求項2】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧を修正して、前記閉じ込め電位の前記波形を変化させることを更に含み、前記変化させることが前記第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、前記不対電子又は正孔の前記スピン状態の高速制御を可能にする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲート電極の配置に追加の交流電圧を印加して、前記不対電子又は正孔の前記スピン状態間の遷移を電気的に駆動することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧を修正して、前記第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させることを更に含み、前記変化させることが、前記第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、前記不対電子又は正孔の前記スピン状態間の高速緩和を可能にする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記量子処理素子が、制御可能な数の電子又は正孔を有する第2の量子ドットを更に含み、前記方法が、
前記不対電子又は正孔を、前記第1の量子ドットから、不対電子又は正孔を含有する前記第2の量子ドットに一時的に移動させることと、
前記2つの電子又は正孔間の交換エネルギーを制御するために、前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧を修正して、前記第2の量子ドットの波動関数の形状を調節することと
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧を修正して、前記第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、前記電子又は正孔の前記スピン状態に依存する前記不対電子又は正孔の前記波動関数の変化をもたらすことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記量子処理素子が、他の量子ドットを含み、前記第1の量子ドットの波動関数の前記形状の前記変化が、前記他の量子ドットに対する静電反発を引き起こす結果、第2の量子ドット内の前記不対電子又は正孔のスピン依存周波数シフトをもたらす、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不対電子又は正孔の波動関数の前記スピン依存性変化によって作り出された電界が共振器に結合し、光子を生成するか又は吸収する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記量子処理素子が、共振器を介して第2の量子処理素子に結合されており、前記第2の量子処理素子が、制御可能な数の電子又は正孔と、不対電子又は正孔とを有する第2の量子ドットを含み、前記方法が、前記不対電子又は正孔の前記波動関数の前記スピン状態依存性変化によって作り出された電界によって、前記不対電子又は正孔を前記共振器に結合し、光子を生成するか又は吸収することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧を修正して、前記共振器に結合された前記第1の量子ドットの波動関数及び前記第2の量子ドットの波動関数の前記形状を変化させることを更に含み、前記第1の量子ドットの前記不対電子又は正孔の前記波動関数の前記スピン依存性変化によって生成された前記光子が、前記第2の量子ドットの前記不対電子又は正孔によって吸収され、そのスピン状態を変化させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
量子処理素子であって、
半導体基板と、
バリア材料であって、前記半導体基板と前記バリア材料との間に界面が形成されるように、前記半導体基板の上に形成されたバリア材料と、
制御可能な数の電子又は正孔を結合するための静電閉じ込め電位を生成するように構成され、第1の量子ドットを形成する、ゲート電極の配置と、
前記第1の量子ドットに定磁場を印加して、前記第1の量子ドット内の前記制御可能な数の電子又は正孔のうちの不対電子又は正孔に関連付けられたスピン状態のエネルギー準位を分離するように構成された外部磁石と、
前記ゲート電極の配置に印加される電圧を変化させて、前記不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させるように構成された電子コントローラと
を備える量子処理素子。
【請求項12】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧が修正されて、前記閉じ込め電位の前記波形を変化させ、前記変化させることが、前記第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、前記不対電子又は正孔の前記スピン状態の高速制御を可能にする、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
追加の交流電圧が前記ゲート電極の配置に印加されて、前記不対電子又は正孔のスピン状態間の遷移を電気的に駆動する、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧が修正されて、前記第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、前記変化させることが、前記第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、前記不対電子又は正孔の前記スピン状態間の高速緩和を可能にする、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記量子処理素子が、制御可能な数の電子又は正孔を有する第2の量子ドットを更に含み、前記第1の量子ドットからの前記不対電子又は正孔が、不対電子又は正孔を含有する前記第2の量子に一時的に移動され、前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧が、前記2つの電子又は正孔間の交換エネルギーを制御するために、前記第2の量子ドットの波動関数の形状を調節するように調整される、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧が修正されて、前記第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、前記電子又は正孔の前記スピン状態に依存する前記不対電子又は正孔の前記波動関数の変化をもたらす、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記量子処理素子が、他の量子ドットを含み、前記第1の量子ドットの波動関数の前記形状の前記変化が、前記他の量子ドットに対する静電反発を引き起こす結果、第2の量子ドット内の前記不対電子又は正孔のスピン依存周波数シフトをもたらす、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記不対電子又は正孔の波動関数の前記スピン依存性変化によって作り出された前記電界が共振器に結合し、光子を生成するか又は吸収する、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記量子処理素子が、共振器を介して第2の量子処理素子に結合されており、前記第2の量子処理素子が、制御可能な数の電子又は正孔と、不対電子又は正孔とを有する第2の量子ドットを含み、前記不対電子又は正孔の前記波動関数の前記スピン状態依存性変化によって作り出された電界が、前記共振器に結合し、光子を作り出すか又は吸収する、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記ゲート電極の配置に印加される前記電圧が修正されて、前記共振器に結合された前記第1の量子ドットの波動関数及び前記第2の量子ドットの波動関数の前記形状を変化させ、前記第1の量子ドットの前記不対電子又は正孔の前記波動関数の前記スピン依存性変化によって生成された前記光子が、前記第2の量子ドットの前記不対電子又は正孔によって吸収され、そのスピン状態を変化させる、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、量子処理システムに関連し、より具体的には、シリコンベースの処理システムに関連する。
【背景技術】
【0002】
過去半世紀のマイクロエレクトロニクスの指数関数的進歩は、シリコン技術に基づいており、多くの新材料に関する研究にも関わらず、シリコンは、古典的な計算のためのコア技術プラットフォームのままである。ここ数十年にわたり、シリコンが、全く新しい世代のデバイス(電荷及びスピンの量子力学的特性に基づいて動作する量子コンピューティングデバイス)の優れたホスト材料であり得ることがますます明白になってきた。シリコンは、その弱いスピン軌道結合と、ゼロ核スピンを有するシリコン同位体の豊富さとのため、固体デバイスでのスピンに理想的な環境である。古典的コンピュータで現在使用されている既存の製造技術と量子スピン制御を組み合わせるというビジョンは、シリコンベースの量子コンピューティングデバイスにおける広範囲にわたる作業を促進している。
【0003】
大規模な量子コンピュータは、古典的コンピュータよりも指数関数的に高い効率で、特定のクラスの計算上困難な問題に高速解法を提供する可能性を有する。そのような大規模な量子コンピュータを実現するには、量子ハードウェアを制御及びプログラムするための量子アーキテクチャの設計及び実装におけるいくつかの課題を克服する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本開示の第1の態様によれば、量子処理素子を制御する方法が提供される。量子処理素子は、半導体基板と、バリア材料であって、半導体基板とバリア材料との間に界面が形成されるように、半導体基板の上に形成されたバリア材料と、ゲート電極の配置と、外部磁石と、電子コントローラと、を備える。本方法は、制御可能な数の電子又は正孔を結合するために、ゲート電極の配置に電圧を印加することによって静電閉じ込め電位を生成し、第1の量子ドットを形成することと、外部磁石を使用して量子処理素子に定磁場を印加することであって、磁場が、第1の量子ドット内の制御可能な数の電子又は正孔のうちの不対電子又は正孔に関連付けられたスピン状態のエネルギー準位を分離する、印加することと、電子コントローラを使用してゲート電極の配置の電圧を変化させて、不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させることと、を含む。
【0005】
本開示の第2の態様によれば、量子処理素子であって、半導体基板と、バリア材料であって、半導体基板とバリア材料との間に界面が形成されるように、半導体基板の上に形成されたバリア材料と、制御可能な数の電子又は正孔を結合するための閉じ込め静電電位を生成するように構成され、第1の量子ドットを形成するゲート電極の配置と、第1の量子ドットに定磁場を印加して、第1の量子ドット内の制御可能な数の電子又は正孔のうちの不対電子又は正孔に関連付けられたスピン状態のエネルギー準位を分離するように構成された外部磁石と、ゲート電極の配置に印加される電圧を変化させて、不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させるように構成された電子コントローラと、を備える量子処理素子が提供される。
【0006】
いくつかの実施形態では、ゲート電極の配置に印加される電圧が修正されて、閉じ込め電位の波形を変化させ、これが第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、不対電子又は正孔のスピン状態の高速制御を可能にする。
【0007】
いくつかの実施形態では、不対電子又は正孔のスピン状態間の遷移を電気的に駆動するために、追加の交流電圧がゲート電極の配置に印加される。
【0008】
更に、いくつかの実施形態では、ゲート電極の配置に印加される電圧が修正されて、第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、これが第1の量子ドットの励起スペクトルを変更して、不対電子又は正孔のスピン状態間の高速緩和を可能にする。
【0009】
いくつかの他の実施形態では、量子処理素子は、制御可能な数の電子又は正孔を有する第2の量子ドットを更に含む。そのような実施形態では、第1の量子ドットからの不対電子又は正孔は、不対電子又は正孔を含有する第2の量子に一時的に移動され得、ゲート電極の配置に印加される電圧が、2つの電子又は正孔間の交換エネルギーを制御するために、第2の量子ドットの波動関数の形状を調節するように調整され得る。
【0010】
更に、そのような実施形態では、ゲート電極の配置に印加される電圧が修正されて、第1の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、電子又は正孔のスピン状態に依存する不対電子又は正孔の波動関数の変化をもたらす。
【0011】
いくつかの他の実施形態では、量子処理素子は、他の量子ドットを含み、第1の量子ドットの波動関数の形状の変化は、第2の量子ドット内の不対電子又は正孔のスピン依存性周波数シフトをもたらす、他の量子ドットに対する静電反発を引き起こす。
【0012】
いくつかのそのような実施形態では、量子処理素子は、第1の量子ドットと他の量子ドットのうちの1つとの間に位置決めされた共振器を含み、第1の量子ドットにおける不対電子又は正孔の波動関数のスピン依存性変化によって作り出された電界が、共振器に結合し、光子を生成するか又は吸収する。
【0013】
更に他の実施形態では、量子処理素子は、共振器を介して第2の量子処理素子に結合されており、第2の量子処理素子は、制御可能な数の電子又は正孔と、不対電子又は正孔と、を有する第2の量子ドットを含み、不対電子又は正孔の波動関数のスピン状態依存性変化によって作り出された電界は共振器に結合し、光子を生成するか又は吸収する。更に、ゲート電極の配置に印加される電圧が修正されて、共振器に結合された第1の量子ドットの波動関数及び第2の量子ドットの波動関数の形状を変化させ、第1の量子ドットの不対電子又は正孔の波動関数のスピン依存性変化によって生成された光子は、第2の量子ドットの不対電子又は正孔によって吸収され、そのスピン状態を変化させる。
【0014】
本明細書で使用される場合、状況が変更を必要とする場合を除き、「含む(comprise)」という用語及び用語の変形、例えば「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含まれる(comprised)」は、更なる添加物、構成要素、整数又はステップを除外することを意図するものではない。
【0015】
本発明の更なる態様、及び前段落に記載の態様の更なる実施形態は、例として及び添付の図面を参照して与えられる以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面を参照して、実施例としてのみ、本発明の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0017】
図1A】例示的な量子ドットデバイスの概略側断面図を示す。
図1B】例示的な量子ドットデバイスの概略側断面図を示す。
図1C】本開示の実施形態のいくつかによる、例示的な量子処理ユニットの概略上面図を示す。
図2】5個の電子を有する多電子量子ドットの定性的な図である。
図3】量子ドットの形状に対するEDSR誘起スピン回転の速度の依存性の例を示す。図3Aは、低速EDSRの設定を示し、図3Bは、高速EDSRの設定を示す。
図4A】ゲート電圧の関数としての量子ドットにおける電子の最も低い4つの固有状態の例示的なエネルギー線図を示す。
図4B】以下の3つのレジームにおける量子ドットの閉じ込め電位及び波動関数の概略図を示す:電子がアイドルであるとみなされる2つのレジーム(左及び中央の列)、並びにスピン依存性電気分極がキュービットに影響を与える1つのレジーム(右の列)。
図5】多電子量子ドットのスピン回転を制御するための方法を例解するフローチャートである。
図6】3電子量子ドットの交換ゲート上のバイアス電圧の関数としての量子ドットの励起状態エネルギーを示す。
図7A】3電子量子ドットの離調及びゲートバイアスの関数としての測定ラビ周波数を示す。
図7B】二重量子ドットスピンブロッケード実験における一重項を測定するトレース確率を、(電気スピン共鳴)ESRバースト時間の関数として示し、ドットのうちの1つは、図7Aの3電子量子ドットである。
図8A】ゲートのうちの1つに印加された電圧バイアスと、アンテナに印加されたマイクロ波信号の周波数と、の関数として、二重量子ドットスピンブロッケード実験における一重項を測定する確率を示す。
図8B】ゲートのうちの1つに印加された電圧バイアスと、マイクロ波バーストの持続時間と、の関数として、二重量子ドットスピンブロッケード実験における一重項を測定する確率を示す。
図8C-8E】異なるラビ振動周波数、1.5MHz、8.5MHz、及び17MHzにそれぞれ対応する異なるゲート電圧バイアスに対するマイクロ波バースト時間及びマイクロ波周波数の関数として、二重量子ドットスピンブロッケード実験における一重項を測定する確率を示す。
図9A】量子デバイスのエネルギーバンド図の概略図を示す。
図9B-9C】T緩和及びラビ制御較正実験それぞれに対するパルス列の概略図を示す。
図9D-9F】1個、5個及び13個の電子をそれぞれ有する多電子量子ドットに対するゲート電圧の関数として、スピン共鳴、スピン緩和時間及びラビ周波数のシュタルクシフトを示す。
図10A】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10B】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10C】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10D】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10E】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10F】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10G】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図10H】記載された実施形態の量子システム及び方法を使用する、改善されたEDSRへのアプローチを示す。
図11】複数のキュービットのシステムの概略図を示し、複数のキュービットにおいて、2つのキュービットを除く全てのキュービットは、電界から保護されるように構成されており、スピン依存性の電気的分極可能な状態にあるように構成された2つのキュービットは、中距離の双極子結合を介して互いに相互作用する。
図12】マイクロ波共振器を介して接続された2つの量子ドットのブロック図である。
図13】本開示のいくつかの態様による、2キュービット演算を実行するための例示的な方法を例解するフローチャートである。
図14A】2キュービット多電子量子ドットシステムの概略図を示す。
図14B】スピンシャトルを用いた図1Bの2キュービットシステムの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概要)
量子コンピューティングシステムの一種は、半導体量子チップ内の電子スピン及び/又は核スピンである個々のキュービットのスピン状態に基づいている。これらの電子スピン及び/又は核スピンは、ゲート定義量子ドットに閉じ込められ、量子ビット又はキュービットと呼ばれている。
【0019】
ゲート定義量子ドット内の電子スピンに基づくキュービットアーキテクチャは、キュービットの電気的及び/又は磁気的操作だけで単一及び多キュービットコヒーレント演算が実現される高レベルの可制御性から利益を得る。特に、そのようなキュービットアーキテクチャのシリコンマイクロエレクトロニクス製造との直接の互換性は、大規模な量子コンピュータにスケールアップするためのまたとない機会を提供する。
【0020】
任意の大規模な量子コンピュータの構成要素は、量子ゲート、すなわち、1つ又は2つのキュービットに作用する基本的な量子演算である。量子ゲートの例としては、一致ゲート、パウリゲート、制御ゲート、位相シフトゲート、スワップゲート、トフォリゲートなどが挙げられる。半導体においてスピンベースのキュービットを操作すること、特に、キュービットのスピン状態で高速演算を実行することは、量子ゲートを構築するための重要な手段である。特に、高速の、個別にアドレス指定可能な(ユニタリ変換、量子測定、及び初期化などの)キュービット演算は、拡大縮小が可能なアーキテクチャに不可欠である。
【0021】
これまでのところ、キュービットのスピン状態を操作/制御するための主な手段は2つあり、磁気制御及び電気制御である。磁気制御では、オンチップ生成磁場又はオフチップ外部生成(又はグローバル)磁場のいずれかが量子チップに印加されて、キュービットを駆動/制御する。特に、キュービット制御は、印加されたDC磁場に垂直な方向に交番磁場を導入することによって、実現することができる。このことは、一般に、キュービットの近くのオンチップアンテナ電極にAC電流を印加することによって行われる。AC電流は交番磁場を生成する。この磁場の周波数が、キュービットの共振周波数と一致すると、スピンキュービットは時間の関数として回転し始める。これらの振動はラビ振動と呼ばれ、単一キュービット回転及び制御の基礎を形成する。
【0022】
磁気制御は、シリコンベースのキュービットにおける高忠実度の単一キュービットゲート及び2キュービットゲートを可能にするが、ナノメートルスケール(量子ドットが製造されることが多いスケール)で局所振動磁場を生成する技術的な複雑さは、磁気制御の将来的な拡張性にとって大きな障害のままである。更に、局所振動電流は、量子コンピューティングチップで熱を生成することが多く、キュービットコヒーレンスに必要な極低温環境と適合しない。オンチップアンテナによって磁場が生成される場合、アンテナは、量子コンピューティングチップ上の貴重な不動産を占有する。これらの困難は、スピンを電気的に操作するための動機付けを与える。
【0023】
スピンを電気的に制御するための1つの方法は、電子双極子スピン共鳴(EDSR)を使用することによる。EDSRは、一般に、スピンキュービットをその電荷自由度に結合することによって達成され、電荷自由度は、スピン軌道結合(SOC)によって誘起され得る。SOCは、一般に、相対論的効果により原子及び固体中に存在し、電界内を移動する電子は、それぞれの基準系内で有効な磁場の影響を受ける。しかしながら、シリコンの場合、SOCは本質的に弱い。SOCの強度を高めるために、大きなスピン軌道結合材料、又はマイクロ磁石からの磁場勾配の使用など、いくつかの異なる機構を使用することができる。
【0024】
オンチップマイクロ磁石は、SOCを強化するのに役立つが、これらのオンチップマイクロ磁石は、量子処理チップ上の有益な不動産を占有する。更に、対応するキュービットに近接した量子処理チップ上にそのような小さなマイクロ磁石を製造することは、エンジニアリング上の課題である。いくつかの既知の技法は、マイクロ磁石を必要とせず、自然なSOCのみを利用して、キュービットを電気的に駆動及び/又は制御しようとしてきたが、これらの技法では、ラビ振動の速度は、高忠実度制御を提供するには、デコヒーレンス時間(すなわち、量子コヒーレンスを失うのにかかる時間)と比較して低すぎた。
【0025】
本開示の態様は、電気的操作を介してキュービットを制御するための新しい技法を提供する。特に、本開示の態様は、各々が制御可能な数の電子を含有する1つ以上の量子ドットを含む量子コンピューティングデバイスと、量子ドットの波動関数の操作を通じて、量子ドット内の電子の制御スピン回転を容易にする技法と、を提供する。いくつかの実施例では、量子ドットの波動関数形状は、量子ドットを閉じ込める静電電位(閉じ込め電位とも呼ばれる)の操作を通じて調節され得る。波動関数の他の種類の修正を利用して、同じ効果をもたらすこともできる。
【0026】
本開示での波動関数の操作は、量子ドット内の電子の量子化エネルギー準位を制御することによって達成される。有利なエネルギー構成は、3つ以上の電子を有する量子ドットに対するこのような操作を介して達成することができる。しかしながら、本効果はまた、単一電子の波動関数の操作によって達成することもできる。
【0027】
量子ドットの波動関数を操作することにより、本開示の態様は、従来のキュービット制御/演算技法よりも10~100倍速くキュービット演算を実行することができ、それにより、キュービット忠実度を大幅に改善する。更に、本開示のいくつかの実施例では、本開示の技法を使用して、オンチップマイクロ磁石を使用することなく、キュービットを電気的に操作することができる。
【0028】
本開示のキュービットデバイス及び制御/演算技法のこれら及び他の利点は、以下の節で詳細に説明される。
【0029】
(例示的なキュービットデバイス)
図1Aは、本開示の態様による例示的な量子処理素子100を示す。この例では、量子処理素子100は、多電子量子ドット110、すなわち、複数の電子を含む量子ドットを含む。
【0030】
量子処理素子100は、誘電体バリア材料104によって覆われた半導体基板102を含む。この例では、半導体基板102は、(従来のシリコン基板上で成長したエピタキシャル層であり得る)同位体濃縮28シリコン(Si-28)であり、誘電体は、二酸化シリコン(SiO)である。半導体基板102及び誘電体104は、この例では、Si/SiO界面である界面106を形成する。ゲート電極108は、誘電体104上に位置決めされ、界面106で量子ドット110を形成するように制御可能である。特に、ゲート電極108に印加された十分に正の電圧は電子を閉じ込め、量子ドット110を形成する。
【0031】
誘電体バリア材料104は、典型的には、電子又は正孔の移動を絶縁する材料を含むであろう。例としては、二酸化シリコンなどの酸化物、又はシリコンと他の元素との合金(シリコン-ゲルマニウムなど)、又は電子又は正孔の貫通に対するエネルギーバリアを作り出す他の材料が挙げられる。
【0032】
いくつかの実施例では、量子ドット110は、N個の電子を含み得、ここで、Nは1以上の奇整数である。キュービットは、以下で詳細に説明されるように、N個の電子のうちの1つのスピンに符号化され得る。ゲート電極108は、1)(図示されていないリザーバから)量子ドット内に電子を導入することと、2)AC電界を使用して、電子のスピンを直接制御することと、3)量子ドット110内の電子の波動関数を変えることと、を行うために使用され得る。いくつかの実施例では、上記の機能のうちの1つ以上を実行するために、他の専用電極が提供され得る。例えば、1つのゲート電極は、量子ドット110内の波動関数を変えるために提供されてもよく、一方、別のゲート電極は、量子ドット110の電子の電子スピンを制御するために利用されてもよい。量子処理素子100の一部として設けられたゲート電極は、ゲート電極の配置を形成する。
【0033】
図1Bは、2つの多電子量子ドット110、126を含む、本開示の態様による量子処理素子120の別の例を示す。図1Aの量子処理素子100と同様に、量子処理素子120は、誘電体104によって覆われた半導体基板102を含む。この例では同様に、半導体基板102は同位体濃縮シリコンSi-28であり、誘電体104はSiOである。半導体基板102及び誘電体104は、この例ではまた、Si/SiO界面106でもある、界面106を形成する。
【0034】
更に、この例では、量子処理素子120は、ともにゲート電極の配置を形成する3つのゲート電極(108、122及び124)を含む。ゲート電極108は、誘電体104上に位置決めされ、界面106で第1の量子ドット110を形成するように動作可能である。ゲート電極124は、誘電体104上に位置決めされ、界面106で第2の量子ドット126を形成するように動作可能である。ゲート電極122は、バリアゲート又は交換ゲートであり得る。ゲート108、122及び124は、量子ドット110、126内の電子を閉じ込め、動作中に電子のスピンを制御し、及び/又は動作中に量子ドット110、126の波動関数を変えるために使用することができるゲート電極の配置を形成する。他の実施例では、ゲート電極の配置は、より多くのゲート電極を含み得る。
【0035】
前述のように、2つの量子ドット110及び126の各々は、複数の電子を含み得、キュービットは、量子ドット(110、126)の各々で隔離された電子のスピンを使用して符号化される。この配置は、N-M占有率を有する二重量子ドットを形成するために利用され得る。N-M占有率を有する二重量子ドットは、左の量子ドット110にN個の電子、右の量子ドット126にM個の電子を有するキュービットデバイス120であると理解され、ここで、NはMと等しくてもよく、又は等しくなくてもよい。
【0036】
いくつかの実施例では、電圧バイアスは、バリア電極122に印加されて、量子ドット110及び126に閉じ込められた電子のスピンに符号化されたキュービットの結合を制御し得る。更に、ゲート電極108、122、124の配置に印加された電圧の組み合わせは、2つの量子ドット110及び126の各々におけるスピン間の交換結合を制御するために使用され得る。
【0037】
いくつかの実施例では、Si/SiO界面に閉じ込められた二次元電子ガスは、ゲート108、122及び124を通る静電界を使用することによって、量子ドット110及び126を隔離するために空乏化され得る。他の実施例では、他の表面ゲート電極構造もまた、量子ドットの閉じ込めを支援するために用いられ得る。いくつかの実施形態では、電子閉じ込めを促進するために、ドープ領域又は誘電体領域などの更なる要素を界面に導入することができる。界面における電子の全濃度は、デバイスの上の隔離されたグローバルゲート(図示せず)を使用して、あるいはデバイスの下の隔離されたグローバルゲート(図示せず)を使用することによって修正され得る。
【0038】
図1Cは、本開示の実施形態による、別の例示的な量子処理ユニット130の概略上面図を示す。量子処理ユニット130は、最大9個の多電子量子ドット136A~Iの閉じ込め電位を生成するための、ゲート電極132A~I(まとめてゲート電極132と呼ばれる)及びバリア電極134A~L(まとめてバリア電極134と呼ばれる)を含む電極の配置を備える。
【0039】
いくつかの実施例では、量子処理ユニット130は、複数の量子処理素子100のアレイによって形成されてもよい。そのような実施形態では、量子処理ユニット130内の量子ドット136A~Iの各々は、量子ドット110と同様であり、複数の電子を含み得る。しかしながら、各量子ドット136A~Iの電子数は同じである必要はない。キュービットは、各量子ドット136A~I内に隔離された電子のスピンに符号化され得る。
【0040】
例えば、量子ドット136Aは、量子ドット136A内の制御可能な数の電子を結合するために、ゲート電極132A並びにバリア電極134A及び134Cの配置によって生成された閉じ込め静電電位によって形成され得る。
【0041】
図示されていないが、図1A図1Cに示される量子処理素子は、ゲート電極108、122、124、132、134に印加される電圧及び/又はバイアスを制御及び修正するように構成された1つ以上のコントローラを更に含み得る。特に、コントローラは、ゲート電極に印加される電圧を制御して、量子ドットを形成するための閉じ込め静電電位を生成し、かつ/あるいは量子ドット内の不対電子又は正孔の閉じ込め電位の波形を変化させるために使用され得る。
【0042】
(多電子量子ドットの物理的性質)
量子処理デバイス100及び120で使用されるもののような多電子量子ドットは、人工原子とみなされることが多い。そのような多電子量子ドットは、量子処理ユニット(例えば、量子処理ユニット130)で使用するための安定したキュービットを作り出すことができ、単一電子量子ドットよりも電荷ノイズに対してより抵抗力があるため有用である。更に、多電子量子ドットで形成されたキュービットは、単一電子キュービットと比較してより高く、調節可能なトンネル結合強度を有する。
【0043】
図2は、5個の電子204A~Eを含む例示的な多電子量子ドット200の概略図である。(x軸に沿った)距離の関数としての(y軸に沿った)閉じ込め電位は、キュービットデバイス120内のゲート電極、例えばゲート電極108、122及び124の配置に印加された電圧について示される。図2に見られるように、この場合の閉じ込め電位202は三次元の電位ウェルである。このような閉じ込めウェルのナノスケールサイズは、離散的なエネルギースペクトルをもたらす。Si/SiO界面は、一次元の閉じ込めを提供し、他の2つの次元は静電界によって閉じ込められる。
【0044】
一般的に言えば、シュレーディンガー方程式の波動方程式解は、量子ドット内の電子分布を規定する軌道を生成する。特に、軌道は、量子ドットに結合した電子の最も可能性の高い場所及び波状特性を記述する数学的関数である。これらの量子ドット軌道の特性は、原子核に結合した電子の軌道に類似してもよい。特に、量子ドット軌道は、原子軌道と同様の量子数及び縮退を有し得る。
【0045】
典型的には、各原子軌道は、量子数(すなわち、n、l及びm)の固有のセットによって特徴付けられる。これらの量子数のうちの第1のものnは主量子数であり、電子のエネルギーを表す。第2の量子数lは、軌道角運動量量子数である。これらの原子軌道自体は、s、p、d、fなどと表され、それぞれ、軌道角運動量数l=0、1、2、3、…である電子の確率分布を表す。第3の量子数mは磁気量子数であり、軌道の角度自由度内の縮退を規定する。縮退とは、電子が有し得、更に同じエネルギーを有し得る、異なる軌道状態の数である。原子軌道s、p、d及びfは、それぞれ、対応する縮退1、3、5及び7を有する。
【0046】
これら3つの量子数(n、l、m)は、原子内の原子軌道又はエネルギー準位を規定し、原子の電子配置を記述するために使用される。原子の離散的なエネルギー準位又は原子軌道の電子充填は、より高いエネルギー軌道を充填する前に、より低いエネルギーの原子軌道が先に充填されるとする構造原理に従う。
【0047】
構造原理は、2つの電子が全く同じ量子数を持つことはできないとするパウリの排他原理と併せて使用される。したがって、量子数(n、l、m)によって規定された単一の原子軌道には、2つの電子だけが存在し得る。スピン量子数として知られている第4の量子数、すなわち、mは電子の固有角運動量、すなわち、電子スピンを表す。この第4の量子数は、同じ原子軌道内の2つの電子を区別するために必要である。したがって、これら4つの量子数(n、l、m、m)は、原子内の電子の量子状態を完全に記述する。
【0048】
原子中の電子と同様に、多電子量子ドット中の電子は、離散的なエネルギー準位を占有する。図2に戻ると、量子ドット200は、5つの電子204A~204E及び3つの異なるエネルギー準位206A~206Cを有する多電子量子ドットである。電子204A~Eは、量子力学の規則に従って、閉じ込め電位202によって規定された量子ドット200内の離散的なエネルギー準位206A~Cを充填する。このように、2つの電子は、特定のエネルギー準位を占有することができ、より高いエネルギー準位の前に、より低いエネルギー準位を充填する。したがって、2つの電子204A~Bはエネルギー準位206Aを占有し、2つの電子204C~Dはエネルギー準位206Bを占有する。
【0049】
最後の不対電子204Eは価電子と呼ばれ、価電子は量子ドット200内のエネルギー準位206C(最高の占有準位とも呼ばれる)を占有する。本開示の態様では、キュービットはこの不対価電子204Eのスピンに符号化される。
【0050】
原子軌道と同様に、量子ドット軌道はそれぞれを列挙する量子数を有し、縮退又は準縮退(2つ以上の軌道が、非常に類似しているが同一ではないエネルギーを有する状況)を有する。
【0051】
量子ドット内の量子数は、原子内の量子数とは異なるが、軌道は原子軌道に類似しており、すなわち、量子ドットはまた、s、p、d及びfと表す角運動量を有する。それにも関わらず、軌道ごとの縮退は、原子の場合とは異なる。量子ドットシステムにおける縮退は、それぞれ1、2、3及び4である。
【0052】
特にシリコンでは、電子は、シリコン伝導帯の複数の最小値に関連付けられた追加の量子数を有する。この量子数は谷と呼ばれる。シリコン((001)結晶学的方向)とSiOとの間の界面に対して閉じ込められた電子によって形成された量子ドットでは、電子は2つの谷状態のいずれかにあり得る。これらの谷状態は、谷の分裂と呼ばれる鋭い界面電位によって引き起こされるエネルギー分離を有する。
【0053】
量子ドット内の第1の占有エネルギー準位(すなわち、エネルギー準位206A)は、完全に対称な原子軌道、すなわち、s型軌道に類似している。量子ドット内の第2の占有エネルギー準位(すなわち、エネルギー準位206B)もまた、完全に対称なs型軌道に類似しているが、異なる谷量子数を有するため、より高いエネルギーを有する。第3のエネルギー準位(すなわち、エネルギー準位206C)は、最高の占有エネルギー準位であり、p型軌道に類似している。本システムにはまた、価電子が励起された場合に占有し得る高次のエネルギー準位が存在する。この例では、第4のエネルギー準位206D、すなわち、最も低い空軌道もまたp型軌道に類似している。
【0054】
一般的に言えば、球対称原子では、3つのp軌道(p、p、p)があり、これらの軌道は縮退している(すなわち、同じエネルギー準位を有する)。しかしながら、静電閉じ込めが二次元である量子ドットシステム200では、2つのp型軌道(p及びp)が利用可能である。例えば、第3のエネルギー準位206C(すなわち、最高占有軌道)はp軌道であり得、第4のエネルギー準位206D(すなわち、最低空軌道)はp軌道であり得る。p及びpの命名の選択は任意であり、それぞれの方向は、量子ドットの楕円度のみにより決定される。更に、それぞれの縮退は、閉じ込め電位202の波形を変えることによって持ち上げることができる。
【0055】
同様のやり方で、N=13及びN=25個の電子を有する量子ドットは、それぞれ、d量子ドット軌道及びf量子ドット軌道において単一電子を有する。また、N=1個の電子を有する量子ドットは、最低谷量子数を有する最低のs軌道にのみ電子を有する。同様に、N=3個の電子を有する量子ドットは、s軌道では1個の価電子を有するが、より高い谷量子数では1個の価電子を有する。
【0056】
(量子ドットの形状の調節)
前述のように、本開示の態様は、閉じ込め電位202の波形を変化させ、それによって、量子ドットの励起スペクトルの制御を可能にする。様々な波動関数の変化は、該制御を達成することを目標にできるが、特定の実施形態では、閉じ込め電位の波形を変化させることは、量子ドットの波動関数の形状も変化させる。閉じ込め電位の波形及び/又は量子ドットの波動関数の形状におけるこのような変化は、以下の節で説明されるアプリケーションのうちの1つで使用することができる。
【0057】
図3A及び図3Bは、本開示の態様による、2つの異なる楕円度における量子ドットの波動関数形状の調節を示す。特に、図3A及び図3Bは、量子ドット200を取り囲むゲート電極の配置に異なる電圧が印加されるときの、対応する閉じ込めウェル202の形状及び電子p軌道とともに、例示的な多電子量子ドット200の概略図を示す。これらの実施例では、量子ドット200は5個の電子204A~Eを含む。
【0058】
図2を参照して前述したように、5電子量子ドットは、量子ドット200の2つの最低エネルギー準位206A~B(すなわち、各々が異なる谷量子数を有する2つのs型軌道)を占有する4個の対(したがって、不活性)電子204A~204Dを含む。第5の価電子204Eは、最高占有軌道としても知られている第3のエネルギー準位206Cを占有する。この例では、ここで図3を参照すると、価電子204Eはp軌道206Cを占有する。最低空軌道はp軌道(206D)である。p及びpの命名の選択は任意であり、それぞれの方向は、(前述のように)量子ドットの楕円度のみにより決定される。
【0059】
ゲート電極の配置を通して印加されたDC電界の組み合わせは、量子ドットの波動関数の形状を操作する。すなわち、印加されたDC電界は、量子ドットの波動関数の楕円度を効果的に変化させる。量子ドットの波動関数の楕円度におけるこのような変化は、次に、最高の占有エネルギー準位(p軌道)と最低の空エネルギー準位(p軌道)との間のエネルギーギャップを変更する。
【0060】
図3Aは、1つ以上の電極(例えば、図1Aのゲート電極108)の配置を介して静電電位を量子ドット200に印加して、より楕円形の量子ドットの波動関数形状310を作り出す場合を示す。このように更に高い楕円度は、p軌道とp軌道との間のエネルギーギャップを拡大する。これにより、p軌道は、価電子204Eが励起されて入るには、エネルギー的に不利な軌道となる。したがって、p軌道に残っている価電子の確率を増加させる。
【0061】
図3Bは、ゲート電極(例えば、図1Aのゲート電極108、又は量子処理ユニット130のゲート電極132、134のいくつかの組み合わせ)の配置を介して静電電位を量子ドット200に印加して、より円形の量子ドットの波動関数形状320を作り出す場合を示す。このように低い楕円度は、p軌道とp軌道との間のエネルギーギャップを縮小する/狭める。これにより、p軌道は、価電子204Eが励起されて入るには、エネルギー的により有利な軌道となる。したがって、価電子が(まだp軌道を好んでいても)p軌道にいる確率を高める。このような状態では、少しのポテンシャルエネルギーは、価電子204Eをp軌道からp軌道に励起するのに十分である。
【0062】
静電電位を(ゲート電極の配置を介して)量子ドット200に印加して、真円形の量子ドットの波動関数を作り出した場合、p軌道及びp軌道は縮退し、すなわち、同じエネルギーを有することになる。この場合、価電子がp軌道又はp軌道のいずれかにいる確率は等しくなる。この場合、p軌道及びp軌道の任意の量子重ね合わせはまた、電子204Eにとっての定常状態でもあり、電子204Eは、エネルギーコストなしでp軌道からp軌道に変化することができる。
【0063】
より楕円形から非楕円形又は円形への量子ドットの波動関数形状の横方向の「圧縮」、及びその逆は、量子ドット200の内部エネルギー準位を効果的に制御する。
【0064】
図3A及び図3Bに示される特定の実施例では、量子ドットの波動関数の横方向の圧縮は、p軌道とp軌道との間のエネルギーギャップを変更する。その結果として、価電子204Eがp軌道からp軌道に励起される可能性が影響を受ける。このようにエネルギー準位を制御することにより、アプリケーションの節で更に論じられるように、複数のアプリケーションをキュービットで実行することを可能にする。
【0065】
ここで論じられる特定の実施例は、量子ドットの楕円度と、異なる軌道状態の縮退との関係と、に関連していることに留意すべきであるが、谷縮退、異なる角運動量(例えば、p及びd)を有する2つの軌道間の縮退、及びWigner分子などの電子-電子相関によって生成された2つの状態間の縮退などの他の形態の縮退を、同じやり方で作り出すことができる。任意の形態の電気的に制御可能な縮退は、本明細書に記載のアプリケーションに同じ条件を提供し、本開示内で使用することができる。
【0066】
図4Aは、ゲート電圧の関数としての量子ドットにおける電子の最も低い4つの固有状態のエネルギー線図400を示す。特に、図4Aは、ゲート電圧V(例えば、ゲート電極108に印加される電圧)の関数としてのスピンキュービットの概略エネルギー線図である。多電子量子ドット、例えば、量子ドット200では、価電子204Eは、それぞれエネルギーE及びE図4Aで、水平線及び斜線としてそれぞれ示される)を有する準縮退軌道状態|Ψ>及び|Ψ>を占有する。例えば、5電子量子ドット200では、軌道状態|Ψ>及び|Ψ>は、p状態及びp状態に対応し得る。
【0067】
異なるスピンを有する2つの軌道状態のエネルギー、すなわち|Ψ,↑>及び|Ψ,↓>は、図4Aに示すように、量子ドットの楕円度(ここでは、状態間のエネルギー差Δとして表される)を調節することによって、交差及び混成し得る。図4Aの灰色の垂直破線は、反対のスピンを有する2つの軌道状態が混成するゲート電圧を示す。
【0068】
ゲート電極108及び/又は122の電圧を調節することにより、量子ドット200の形状を変形し、軌道エネルギー差Δ=E-Eの変化をもたらす。この軌道エネルギー差Δが減少し、E(所与の軌道状態における異なるスピン間のエネルギーギャップ)に近づくと、例えば、|Ψ,↑>と|Ψ,↓>との間の混成の効果が顕著になる。
【0069】
このような混成は、そのスピン状態に依存し得る価電子密度分布の変化をもたらす。図4Bでは、電子の密度分布は、以下の3つの状況における概略を記す。1つの状況では、ドットは縮退点Δ=Eから離れて構成され(左の列402)、第2の状況では、ドットは縮退点から離れて構成され、例えば、近くの共振器、又は近くのキュービットの移動からの追加の電界の影響を受け(中央の列404)、第3の状況では、ドットは、該縮退点の近くに構成され、スピン依存性電子密度分布を呈する(右の列406)。
【0070】
量子ドット電位の変化の下で電子密度が再配列するやり方は、電子分極率である。電子分極率は、縮退がない場合の電子のスピン状態には依存しないが、点Δ=Eの近くでスピン依存性になる。このようなスピン依存性電子分極率は、図4Bの右の列406に表される。
【0071】
したがって、左及び中央の列(402及び404)は、スピンがアイドル状態とみなされる状況であり、一方、右の列406は、本開示に記載されている制御技法を実行できる構成を表す。
【0072】
上述の調節技法は、5電子量子ドットに関して説明されてきたが、これはただの一例にすぎないことが理解されよう。上述の調節技法は、1つの価電子を有する任意の量子ドットで機能する。そのような量子ドットの例としては、N=1、3、13及び25電子量子ドットが挙げられる。
【0073】
(較正方法)
図5は、以下に説明するアプリケーションのいずれかを実行する前に、量子処理素子(例えば、処理素子100、120)を較正するために実行される例示的な方法500を例解するフローチャートである。特に、方法500は、本明細書に記載の様々なアプリケーションを実行するためのゲート電極の配置のバイアス構成を決定するために実行される。
【0074】
較正方法は、量子ドットが不対電子を含むように、1つ以上の電子が量子ドット(例えば、量子ドット200)に装填される、ステップ502で開始する。電子は、前述の量子力学の規則に従って、閉じ込め電位202によって規定された離散的なエネルギー準位を充填する。例えば、多電子量子ドット200は、5個の電子を有し得、不対電子は、最高の占有エネルギー準位、すなわちp型軌道を占有する。
【0075】
次に、ステップ504では、多電子量子ドット200のエネルギー準位スペクトルが、励起状態分光法によって測定される。特に、励起状態のエネルギー、すなわち、最低空軌道206Dのエネルギーが、ゲート電極に印加されるバイアス電圧の関数として測定される。励起状態206Dが、最高の占有エネルギー状態206Cで縮退すると、価電子204Eは、いずれかの軌道を占有することができる。特に、例示的な量子ドット200では、p軌道及びp軌道は縮退しているため、価電子は、いずれかの軌道及びエネルギー準位を占有し得る。更に、電子が2つの縮退状態の間を移動するためのエネルギーコストは存在しない。この測定は、最高の占有エネルギー準位及び最低の空エネルギー準位の縮退をもたらすバイアス電圧の範囲を決定するために実行される。
【0076】
同様に、励起状態エネルギーは、エネルギー準位206Cから励起状態206Dまでの価電子の励起をもたらさない(ゲート電極に印加される)バイアス電圧の範囲を決定するために、バイアス電圧の関数として測定される。無励起の状態は、励起状態206Dと最高の占有エネルギー状態206Cとの間のエネルギーギャップが大きいときに生じる。これは、価電子を励起するエネルギーコストが大きすぎることを意味し、したがって、そのような遷移が生じる確率は無視できる。ステップ504では、これらの測定が、以下に開示される異なるアプリケーションのためにキュービットが動作すべき関心ある領域を決定する。これは、きめの粗い測定ステップとみなされる。
【0077】
次に、ステップ506では、磁場がキュービットに印加されて、不対電子のスピン状態のエネルギー準位を分離する。一実施例では、磁場強度は0.01~1.5Tの範囲内である。
【0078】
次に、ステップ508では、ドットの形状の関数としての不対電子のスピン状態間の緩和速度が測定される。特に、この測定は、きめの粗い測定(すなわち、ステップ504)中に電圧バイアスの範囲内で決定された各電圧バイアスにおける不対電子のスピン状態の緩和時間を決定することによって行うことができる。縮退点付近では、緩和速度が最大値を示す。この較正ステップは、きめの細かい測定ステップと呼ばれる。
【0079】
これらの較正ステップは、所与のアプリケーションで使用するための所与のキュービットデバイスのための特別な動作点をともに識別する。
【0080】
上述の同じ方法は、量子ドット内の正孔ベースのスピンの場合に適合され得る。これは、正孔の励起スペクトルを制御するために、電圧の範囲及びドットの形状を調整することによって行われ、これらの励起の微視的性質は、価電子帯の異なるパラメータによって、伝導帯と比較して異なることを認識する。更に、谷の自由度の代わりに、正孔は、軽い正孔と重い正孔との間の結合に関連付けられた追加の帯を提示することになる(エネルギー準位の順序は、材料及び動作電圧の選択の詳細に依存する)。
【0081】
(アプリケーション)
(高速EDSR)
前述のように、量子ドットの波動関数を調節することは、最高の占有エネルギー状態に対する励起状態のエネルギーに影響を及ぼし、量子ドットシステムの内部エネルギー準位を効果的に制御する。これにより、量子ドット内の異なる対称励起状態の近接性を介して制御される、より高速のEDSRスピン回転が可能になる。
【0082】
そのような静電的に調節可能な縮退の一実施例は、制御可能な楕円度を有するドットの場合である。しかしながら、谷励起又は相互作用誘起遷移などの、前述の他の実施例もまた有効である。
【0083】
5個の電子を有する略円形状の量子ドットの特定の実施例では、楕円形状310とより円形状320との間の量子ドットの波動関数形状を調節することによって、不対電子204Eは、制御可能な効率で2つの状態(p軌道及びp軌道)の間を移動することができる。量子ドットの波動関数形状のこのような変化を適切な周波数で駆動することにより、共振及びラビ振動をより速い速度で達成する(すなわち、価電子204Eのスピンを反転させる)ことが可能である。更に、多電子キュービット内のラビ周波数は、スピン軌道状態|Ψ,↑>と|Ψ,↓>がほぼ縮退している(図4を参照のこと)、すなわち、Δ≒gμBのとき、増強及び最大化され得る。式中、gは電子のg因子であり、μはボーア磁子であり、Bは印加された外部磁場である。
【0084】
したがって、上述の技法を使用することによって、マイクロ磁石を必要とせず、キュービットを電気的に制御することができる。軌道縮退310を伴わない量子ドットを形成するようにゲート電極電圧が選択される場合、EDSRの増強は観察されず、シリコンの非常に弱いSOCのみがスピンフリッピングに関与する。代替的に、量子ドット200が、軌道縮退320を伴う構成の近くで調節されると、価電子204Eの追加の内部移動(この特定の実施例では、p軌道とp軌道との間)は、EDSRのラビ周波数の大幅な増強をもたらす。このように、高速EDSRは、p軌道及びp軌道が縮退するか、又はほぼ縮退するときに達成される。これは、静磁場の任意の値に対して生じるが、静磁場が変化した場合、正確なバイアス構成を再較正する必要がある。
【0085】
単一電子を有する量子ドットはまた、非調和性(すなわち、調和振動子であることからのシステムの逸脱)、界面の乱れ、及びひずみ効果を含む、量子ドットの他の内部特性からの調節可能な励起エネルギースペクトルも提示し得る。これらの量子ドットはまた、強化されたEDSR制御を可能にする電圧バイアス構成を提示することになる。
【0086】
一実施例では、ラビ周波数の増強は、(図1Bに示されるシステム120と同様の)3-1占有率の二重ドットシステム内の3個の電子を有する多電子量子ドットで決定及び実証される。重要なことには、二重ドットシステムは、スピン回転のための電気駆動を容易にするためのマイクロ磁石を含まない。励起状態分光法を実施して、2つの量子ドット110と126との間の電極122に対する励起スペクトルを測定した(較正方法500のステップ504を参照のこと)。
【0087】
図6は、(3、1)占有二重量子ドットシステムにおける2つの量子ドット110、126の間の交換ゲート電極122上の電圧(V)の関数としての本システムの励起状態エネルギーを示す。励起エネルギーがゼロに収束し、高速EDSRに到達する点を示すことがわかる。この例では、電子の数は、s軌道の励起谷状態とp軌道のより低い谷状態との間に縮退が生じることを示し、p及びpの縮退を利用した前の実施例とは異なる。
【0088】
図7Aは、励起状態分光法によって識別された点の近くの、測定ラビ周波数を隣接量子ドット間のエネルギー離調(x軸)及び交換ゲートバイアス(y軸)の関数として示す。これは、最大ラビ周波数の領域を示しており、ラビ回転は「標準の」バイアス構成よりも約8倍速い。特に、この図は、エネルギー/軌道状態の縮退をもたらす交換ゲートバイアスに向かって交換ゲート電圧が増加するにつれて、ラビ周波数が増加することを示す。
【0089】
図7Bは、約10MHzの速度でのコヒーレントラビ振動を示す、電子スピン共鳴(ESR)バースト時間の関数としての3電子量子ドットにおけるスピンアップを測定する確率を示す。バイアス構成により、より低い軌道エネルギーとより高い軌道状態のエネルギーとの間に縮退が作り出されたとき、ラビ周波数が最も高いことが観察された。
【0090】
図8A及び図8Bは、最大ラビ周波数の点を中心とするマップを示す。特に、図8Aは、スピンアップ確率を、マイクロ波周波数(x軸)、及び3-1電子占有におけるキュービットデバイス120内の2つの量子ドット110及び126間の離調(y軸)の関数として示す。図8Bは、スピン確率を、マイクロ波バースト時間(x軸)、及び3-1電子占有におけるキュービットデバイス120内の2つの量子ドット110及び126間の離調(y軸)の関数として示す。
【0091】
図8C図8Eは、スピンアップ確率を、マイクロ波周波数(x軸)及びマイクロ波バースト時間(y軸)の関数として示す。特に、図8Aに丸、四角及び星としてそれぞれ表された点で測定され、図8Cはラビ振動周波数1.5MHzを示し、図8Dはラビ振動周波数8.5MHzを示し、図8Eはラビ振動周波数約17MHzを示す。これらのプロットは、この縮退条件によって提供される正確な高速化を決定する。
【0092】
これらの図から、2つの量子ドット110、126の間の離調を変えることによるラビ周波数の高速化が10倍よりも大きいことがわかる。
【0093】
別の実施例では、ラビ周波数の増強は、マイクロ磁石の存在下で、多電子量子ドットで決定及び実証される。このシステムでは、ゲート電圧(G2)は、量子ドットの形状、及びリザーバに対するトンネル速度を変化させるために変わる。補償電圧が、第2のゲート(G1)に印加され、フェルミ準位(E)に対して量子ドットのエネルギー準位を維持する。図9Aは、そのような量子デバイスのエネルギーバンド図の概略図である。
【0094】
そのような量子デバイスのスピン緩和時間Tは、図9Bに示すように、パルス列を使用して測定される。U、R/I、C及びWとしてマークがつけられた電圧バイアス構成は、各実験のアンロード、初期化/読み出し、制御、及び待機の点にそれぞれ対応する。
【0095】
更に、デバイスのラビ周波数は、図9Cに示すように、パルス列を使用して測定される。キュービット制御点は電荷安定線図内の破線に沿って変わり、電荷遷移に平行であり、電子占有はN=1、5又は13のいずれかである。
【0096】
図9D図9Fは、それぞれ電子占有がN=1、5又は13のいずれかである量子ドットの実験結果を示す。図8D図8Fの各々は、電子占有が異なる量子ドット間の比較用の非線形シュタルクシフト、スピン緩和時間(T)及びラビ周波数を示す。
【0097】
図9Dの電子がN=1の場合、図9B及び図9Cの破線に沿ってキュービット制御点が変化すると、キュービット共振周波数の非線形シュタルクシフトが観察される。特定の電圧レベルでは共振周波数が劇的にシフトし、結局、キュービット読み出しは達成できない。更に、図9DのN=1の電子について、差動ESR共振周波数(f-f)の振幅とキュービット緩和時間Tとの間に相関が観察される。更に、図9DのN=1の電子について、f-fとラビ周波数fRabiとの間にもまた相関が観察される。
【0098】
図9Eに示すN=5の電子について、及び図9Fに示すN=13の電子について、最大ラビ周波数とシュタルクシフトの非線形性との間には、定性的相関がある。Tの低下と、高度に非線形なシュタルクシフトを有する領域との間の明確な相関は、前の文献と同様である。このことは、ゼーマン励起の近くの励起軌道又は谷状態の存在を示し、Tの減少をもたらす。
【0099】
仮想励起状態(谷又は軌道のいずれか)は、EDSRにおいて不可欠な役割を果たすため、励起エネルギーは、キュービットラビ周波数に直接影響を与える。図9Cのパルス列を実行すると、Tの低下と相関があるp軌道及びd軌道のラビ周波数に対する増強がもたらされる。
【0100】
ゲート電圧(ΔVG2)の変化の関数としてのラーモア周波数及びラビ周波数は、いくつかの電荷配置では非単調であり得、それぞれの極値の間に識別可能な相関がある。これらは、pスピン及びdスピンが、s軌道のものとは異なる性質の励起状態に結合されていることを示している。電荷遷移(又は、電荷安定線図における目に見える特徴)はなく、基底状態の配置が変化していないことを示す。なお、一部のラビ周波数の増強はまた、N=1の電子配置でも観察されるが、N=5及び13の電子のものよりも桁の大きさが小さいことに留意すべきである。
【0101】
高速のラビ振動と長いスピン寿命との間にバランスが存在する有利なキュービット動作電圧の実施例は、垂直点線901、902及び903によって図9C図9Dに示される。N=1、5又は13のいずれかの電子を有する量子ドットの対応するfは、それぞれ、f=41.835GHz、41.870GHz及び41.826GHzである。
【0102】
図10A図10Hは、本明細書に記載の量子システム及び方法を使用する、改善された(高速)EDSRの実現を示す。量子ドットデバイスの走査電子顕微鏡写真は、図10Aに示される。
【0103】
図10Bは、4個の電子を含有する隔離された二重量子ドットの励起状態分光法を、V及びドット間電圧バイアスΔVの関数として示す。エネルギーE及びEは、ドット間トンネル速度の段階的増加に適合され、基底状態及び第1の励起状態の発生を示す。
【0104】
キュービット制御は、量子ドットを変形させて、制御可能な軌道縮退を達成することによって達成される。図10Cは、横方向Jゲートを使用する量子ドットの制御配列を示し、単なるスピンのみであるアイドル状態(例えば、(i)及び(iv))、並びにスピン軌道混合である制御状態を含む。
【0105】
図10Dは、マイクロ波周波数及びゲート電極電圧バイアスを変えながら、固定の電力及び持続時間のマイクロ波のバースト後のスピン反転を測定する確率からなる、パルス電子スピン軌道分光法(PESOS)マップ(a)を示す。バーストの電力及び持続時間は、純粋なスピン状態のπ回転に対応するように大まかに較正される。スピン光子結合がより強くなり、スピンが数π回転するにつれて、フリンジがゲート電圧の関数として現れる。追加のPESOSマップ(b)~(e)は、異なるデバイス、様々な材料、電荷配置、磁場、及び/又は他の変形について行われた測定から取得され得る。
【0106】
図10Dに示す実施例では、(f)~(j)は、マップ(a)~(e)からのデータを最良に再現する一連の4準位モデルを示し、様々な交差レジーム及びそれぞれのスピンダイナミクスへの影響を実証する。シミュレートPESOSマップ(k)は、測定PESOSマップに適合するように、電圧依存性ラビ周波数及びラーモア周波数を有する2準位システムとしてスピン軌道キュービットをモデル化することによって取得される。適合シミュレーションから抽出されたラビ周波数を(l)により示す。また、ΔVの関数として経時的な測定ラビ振動を示し、ラビ高速化(すなわち、(m)として)、及びデバイスDからの測定ラビシェブロンの解釈を確認し、キュービットは、(すなわち、(n)として)ゲートCB1を介して全電動で駆動される。
【0107】
図10Eは、方形波で測定された外部磁場400mTでのPESOSマップ(a)を示す。400mTでは、縮退点に非常に近いところまで共振を追跡することができ、ラビ周波数のほぼ3桁の増加をもたらす。また、(b)に示されるのは、(明確にするためにオフセットされた)7MHzの振動をもたらすV=1.62Vと、81MHzの振動をもたらすVJ=1.58Vとにおけるラビ測定値である。(V>1.65Vの場合、ラビ周波数は測定できないほど低くなる)。ガウス形パルスで測定した700mTにおけるPESOSマップもまた(c)に示される。700mTでは、ラビ高速化はより控えめだが、キュービット周波数もまた電界変動の影響をそれほど受けず、400mTと比較して、全体的により正確なキュービット動作をもたらす。(d)に示されるのは、ラビ周波数(四角)、ラビ減衰率(三角)、及びQ因子(ひし形)であって、縮退点への近接に伴って増加し、Q因子は、ΔV=13.6mVで最適値に達する。ハーンエコー(拡張データを参照のこと)のコヒーレンス減衰率(交差)は、縮退点に非常に近い場合のみ増加する。
【0108】
図10Fは、クリフォード集合(すなわち、(a))上のランダム化ベンチマークを介した単一キュービットゲート忠実度の測定値を示す。平均的な基本ゲート及び平均的なクリフォードゲートは、それぞれ、99.93%及び99.87%の忠実度を有する。(b)ではまた、ゲートセットトモグラフィーで特徴付けられるように、個々の基本ゲートに関連付けられた忠実度及びエラーも示される。推定母集団は、それぞれの極性を有する領域として表示される。第1のパネルの左上位置の同心四角形は、1.0、0.1、0.01、及び0.001の母集団を表す。
【0109】
図10Gは、(1、3)配置におけるデバイスAのPESOSマップ(a)を示す。点線は、ラインカットの例を示す。プロット(b)~(e)は、(a)に示された点線で得られたPeven振動のラインカットを示す。トレースは、式4に基づいて、実験データ及び対応する適合線を示す。(f)に示されるのは、電圧ΔVの関数としての抽出されたラビ周波数fRabiである。適合のエラーバーもまた示される。(g)及び(h)に示されるのは、それぞれ、PESOSマップに重畳させた適合キュービット分散体f、及び(b)~(e)に示される適合トレースに基づくシミュレートPESOSマップである。
【0110】
図10Hは、適合中心周波数f0(点)と、4準位モデルからの適合キュービット分散体(線)との両方を有するPESOS(a)~(e)を示す。研究の関連するキュービットのみが示される。(f)~(j)に示されるのは、対応するPESOSマップへ適合から抽出されたラビ周波数fRabi、及び4準位モデルからの適合ラビ周波数である。(j)の場合、エラーバーは、fRabi=-5MHzの下方に延びるが、ラビ周波数の実際の範囲を強調するために、示されないことに留意する。正のエラーバー及び負のエラーバーの両方が同じ大きさである。適合パラメータから得られた4準位エネルギー線図を(k)~(o)に示す。
【0111】
(スピン緩和)
明確に規定された初期状態にするためのキュービットの準備は、量子計算アルゴリズムの重要要件のうちの1つである。更に、再初期化は、フルスケールの量子計算動作にとって重要である。典型的には、初期化又は再初期化は、環境への残留結合によって決定される熱状態へのキュービットの緩和に依存する初期化プロトコルを通して達成される。そのような受動的なプロトコルは、本質的に低速である。
【0112】
高速かつ正確なキュービットの初期化は、大規模な量子コンピューティングにおいて有利であり、これは、キュービットを初期化し、キュービットで演算を実行し、次の演算のためにキュービットを再初期化する必要があり得る。
【0113】
本開示のいくつかの態様によれば、量子ドットの形状を調節することは、高速初期化(及び再初期化)を可能にする。DCバイアス電圧をゲート電極に印加することによって、スピン緩和時間が増大又は減少するように量子ドットの形状を調節することができる。例えば、図9Fの中央のグラフは、13電子量子ドット100の様々なゲート電圧(x軸)に対して秒単位で測定されたスピン緩和時間T(y軸)のプロットを示す。スピン緩和時間は、-100mV~約-10mVのゲート電圧に対してはほぼ一定のままであるが、25mV付近のゲート電圧に対してははるかに高速である。13個の電子を有する量子ドットを再初期化するために、ゲート電圧25mVをパルス的に印加することができ、これにより、閉じ込め電位が減少し、キュービットが縮退状態に近づき、その結果、約10-5秒の時間スケールで電子スピンが緩和される。ゲート電圧の値は状況に依存し、特定のドット構成ごとに較正する必要があることに留意すべきである。
【0114】
(双極子の中距離結合)
半導体スピンキュービットは、現在、量子情報処理向けにエラー訂正アーキテクチャを想定するのに十分に高い性能指数に到達しているが、実行可能な量子コンピューティングプロセッサをシリコンにおいて実証され得る前に、いくつかの未解決の課題が残っている。そのような課題の1つは、プロセッサチップ上の量子ドットの配列に関する。キュービット間の交換相互作用は、量子ドット分離で指数関数的に減衰することが知られており、量子ドットは数十~数百ナノメートル離れて密接かつ正確に配列される必要があることを意味する。密集した二次元キュービットアレイに配置されている場合、制御及び読み出しに必要なゲートを、アレイの中心にある量子ドットに含めることは極めて困難になる。更に、量子ドット及び制御エレクトロニクスのそのような高密パッキングは、キュービットコヒーレンスに必要な極低温度と現在適合しない放熱速度を意味する。
【0115】
本開示の態様は、半導体デバイスの材料のSOC、又はマイクロ磁石の磁場不均一性を利用して、電子のスピンと量子ドット内の電子の軌道との間の結合を作り出す。量子ドット内の電子(又は複数の電子)の軌道自由度とスピン自由度との間の結合は、スピン間の制御可能な相互作用に関連するアプリケーションのために利用され得る。この種の相互作用は、量子情報処理にとって重要であり、万能量子計算に必要な2キュービット量子ゲートを含む、2つのキュービットのもつれた量子状態の制御を可能にする。
【0116】
キュービット-キュービット相互作用のためのスピンと軌道自由度との間の結合のこのようなアプリケーションの一実施例は、キュービット間の中距離の双極子結合である。中距離の双極子結合は、1つの量子ドット内の不対電子と他の量子ドット内の不対電子との間のクーロン反発に依存する。1つの量子ドット内の不対電子が、そのスピンに応じて異なる軌道配置を取得する場合、その不対電子と周囲の量子ドット内の不対電子との間にクーロン反発が作り出され得る(それらの電子のスピン状態に依存する)。これは、キュービットで条件付き演算を実行するために使用することができる。
【0117】
図11は、中距離の双極子結合を介して相互作用する隣接キュービットを有する量子処理ユニット130の概略構造を示す。この例では、量子ドット136A~Iの少なくともいくつかは、量子ドットの最高の占有状態にある1つの不対電子を有する量子ドットである。いくつかの実施例では、量子ドット136A~Iは、同じ数の電子を有し得るが、一方、他の実施例では、量子ドットは、異なる数の電子を有し得、少なくともいくつかの量子ドットは、外部軌道に不対電子を有する。
【0118】
量子ドット内の最高の占有状態及び最低の空状態がほぼ縮退する特定のバイアス範囲の場合、量子ドット内の不対電子は、そのスピン状態に応じて異なる位置を占有することができる。例えば、キュービット1004、すなわち、量子ドット136Dの価電子がスピンアップ状態にあるとき、それは、スピンダウン状態にあるキュービットを有する量子ドットと比較して、量子ドット電位において異なる位置を占有する(例えば、量子ドット136Aを参照のこと)。これは、スピン依存性電子分極率の条件を作り出し、離れたキュービット間の双極子結合を介して中距離のスピン相互作用を容易にする。
【0119】
ゲート電極(132及び134)の配置に印加されるDC電界/電圧バイアスの組み合わせは、閉じ込め電位の波形を変化させ、実際には、本開示の態様に従って、量子ドットの形状を調節する。一実施例では、量子ドット136Dの形状は、キュービット1004がスピンアップ状態にあり、したがって、量子ドットの閉じ込め電位内の特定の位置を占有するように調節される。
【0120】
そのスピン状態に依存するキュービット1004の位置のこのような変化は、周囲の量子ドット電子に対するより強いクーロン反発又はより弱いクーロン反発のいずれかをもたらす。この実施例では、対象キュービット1006を除く全ての周囲のキュービットは、それぞれの内部軌道エネルギー準位が縮退とは程遠くなり、したがって、これらの他のキュービットのスピン状態が、このようなクーロン反発に反応しにくいように、ゲート電極の配置に印加されるDC電圧バイアスを介して調節される。
【0121】
キュービット1004及びキュービット1006におけるスピンの結合は、対象量子ドットの閉じ込め電位202の波形を、キュービット電子波動関数の位置がスピン依存性になる点に調節することによって、達成することができる。この構成では、2つのキュービット間で中距離のスピン-スピン結合を達成することができる。例えば、第1のキュービットにおけるスピン反転は、電子の位置を変化させ、このことは、次にクーロン反発を通して近くの電子の位置をシフトさせるが、このことは、スピン依存性電子分極率に対応するバイアス領域に調節された対象キュービットにおけるスピン共振周波数の変化をもたらすだけである。
【0122】
制御又は対象となるのは、1つ以上のキュービットであり得、多キュービットゲートの実装を可能にすることが理解されよう。量子ドットが1つ以上の電子を有し得、本開示の範囲から逸脱することなく、量子ドットが同じ数の電子又は異なる数の電子を有し得ることもまた理解されよう。
【0123】
他の実施例では、量子ドット136Dと量子ドット136Fとの間に複数の量子ドットが存在し得、したがって、キュービット1004とキュービット1008との間の複数のキュービットをオフにすることができ、最も近い隣接物ではないチップ上の量子ドット間、あるいは最も近い隣接物だがドット間トンネリングを可能にするには互いに離れすぎているチップ上の量子ドット間の双極子相互作用を可能にする。このような相互作用のための特定の最大距離は、採用された材料スタックの誘電特性に依存する。
【0124】
キュービット1004とキュービット1008との間の複数のキュービットの各々は、キュービット1004との双極子結合を経験し得る。この結合の強度は、キュービット1004とキュービット1008との間の量子ドットの形状を調節することによって制御され得、その結果、それぞれの相対的な内部エネルギー準位が縮退とは程遠くなり、したがって、双極子相互作用によってあまり影響されない。
【0125】
中距離の双極子結合を使用してキュービットで実行され得る演算の一実施例は、条件付きZ回転であり、キュービットのうちの1つ(対象キュービット、例えばキュービット1008)は、異なる量子ドット(制御キュービット、例えばキュービット1004)内の電子のスピン状態に依存するZ軸(量子化軸)の周りの回転を取得する。これは、制御キュービット1004の2つの可能な量子状態(スピンアップ又はスピンダウン)が、ドットの閉じ込め電位ウェル内で異なる位置を有するという事実によって引き起こされる。結果として、制御電子1004と対象電子1008との間の反発は、制御キュービット1004のスピン状態に依存する。対象キュービットのシュタルクシフト(スピン周波数の電界依存性)の結果として、これは、制御キュービットのスピン状態次第で、対象キュービットの歳差運動周波数間の差をもたらす。
【0126】
上記で報告されたスピン-スピン結合の説明は、量子ドット電位内の電子の位置が、スピン状態に応じて変化し得るという事実に基づいている。しかしながら、電子の位置におけるこれらのシフトはまた、電子の位置における物理的シフト(仮想遷移)の代わりに、電子の位置の量子揺らぎから生じ得る。これらの揺らぎが電子のスピンによって異なる場合、(このような長距離結合の強度の定量的変化のみによって)同じ効果が達成される。
【0127】
(スピン光子変換を通した長距離結合)
前述の距離の問題を克服するための別の技法は、量子コンピューティングシステムに複数のノードを含ませることであり、各ノードは、限られた数の量子ドットと、それぞれの関連付けられた回路とを含む。量子処理ユニット130は、そのようなノードの一例である。同様に、二重ドットデバイス120は別の例示的なノードである。ノードは互いに接続されてもよく、総合密度の問題を軽減しながらも、量子計算を実行することを可能にする。そのためには、1つのノードの外縁キュービットは、別のノードの対応する外縁キュービットと結合される必要がある。ノードを跨ってエッジキュービットを結合するための主要な技法は、マイクロ波共振器及びスピン光子結合を介してである。
【0128】
しかしながら、電子スピンとマイクロ波光子との間の直接スピン光子結合は、電子スピンとマイクロ波光子との間の小さな磁気双極子相互作用のために、本質的に難題である。更に、これまで、スピン軌道結合を達成するために、マイクロ磁石又はナノ磁石がオンチップで製造されてきたが、これは、数百個のキュービットにスケールアップするときに新しい課題をもたらす複雑な製造プロセスである。
【0129】
電子スピンとマイクロ波光子との間の磁気双極子相互作用が小さいため、電子スピンとマイクロ波光子との間の電気的結合が望ましい。本開示の量子ドット形状の調節技法を使用することによって、キュービットと光子との間の電気的結合を作り出し、強化することができる。
【0130】
図12は、マイクロ波共振器1106を通して、(例えば、2つの隣接量子処理ノード上で)2つの長距離量子処理素子1102及び1104を接続するための全体構造を示す。各量子処理素子1102、1104は、図1Aに示すように単一量子ドットであってもよく、あるいは図1Bに示すように二重量子ドットであってもよい。図12に示される実施例では、各量子処理素子1102、1104は単一量子ドットである。しかしながら、これは二重量子ドットによって容易に置き換えることができる。更に、マイクロ波共振器1106の両端は、処理素子1102、1104のゲート電極1108、1110に接続されている。
【0131】
共振器1106は電界を生成する。本開示のシステムでは、量子ドット1112、1114は、共振器1106のこの電界に結合され、共振器モードの周波数でそれぞれの閉じ込め電位の変調の影響を受ける。閉じ込め電位のこのような変調は、内部に閉じ込められた不対電子の波動関数の形状を変調し、(変調された形状に応じて)エネルギー準位間のギャップを減少又は増加させることができる。量子ドットの形状の変調が、縮退点に近いようなものである場合、スピン軌道結合(SOC)が強化され、量子ドット1112又は1114のスピンが、超伝導マイクロ波共振器1106に直接結合されることを可能にする。
【0132】
(ノイズ耐性交換)
量子ドットの形状を調節する方法はいくつかの用途を有する。そのような例の1つは、2つのキュービット間のノイズ耐性交換相互作用を提供することである。
【0133】
従来、交換相互作用を制御するために、電圧バイアスを、量子ドットの蓄積に使用される電極(例えば、108、124)の間に配列された中間電極(例えば、122)に印加することができる。隣接量子ドットに閉じ込められた電子の場合、この中間交換電極上のバイアスを減少させることによって交換エネルギーを低減することができ、ここのことは、量子ドット間のポテンシャルエネルギーバリアを増加させる。逆に、交換電極バイアスを増加させることによって、交換エネルギーを増加させることができる。典型的には、このゲート上のバイアスは低く保たれ、例えば、2キュービット量子ゲート演算を実行する際、キュービットが相互作用する所望の短期間の間だけ増加する。
【0134】
隣接量子ドットの電子間の交換エネルギーは、交換電極電圧バイアスに指数関数的に依存する。この感度は、小電圧バイアスのための広範囲の交換エネルギーの制御を可能にするが、例えば、制御エレクトロニクスからの電圧バイアス信号に存在する任意のノイズは、交換エネルギーに大きな影響を与える。これは、量子演算の忠実度の低下及び量子計算上のエラーをもたらす可能性がある。したがって、改善が望ましい。
【0135】
本開示の態様は、2つの隣接キュービット間、及び特に、図1Bに示すように、2つの隣接多電子量子ドットに属する2つの電子スピンキュービット間のノイズ耐性交換を作り出すために利用することができる。
【0136】
いくつかの実施例では、二重量子ドットのうちの1つ(例えば、量子ドット110)からの価電子は、2つのキュービット演算が単一の量子ドットで実行されるように、スピンシャトル又は交換媒介結合を介して、第2の量子ドット(例えば、量子ドット126)に移動される。そのようなやり方で動作すると、相互作用に関与する電子が同じ物理的量子ドットに位置しているため、典型的には、交換相互作用を介して導入されるノイズが除去される。
【0137】
特定の実施形態では、図1Bに示されるデバイスと同様のデバイスを使用して、本開示の態様による、2キュービット演算を実行することができる。図13は、2キュービット演算を実行するためのそのような例示的なプロセスを示す。本方法は、2つの多電子量子ドットに電子が装填され、各量子ドット内に一価の人工原子を形成するステップ1202で開始する。2つの量子ドット110、126は、同じ数の電子(例えば、3、5、13、25など)を有し得ることが理解されよう。しかしながら、これは必須ではない。代わりに、量子ドット110、126は、それらが最外軌道/シェルに1つの価電子をそれぞれ有する限り、異なる数の電子を有し得る(例えば、量子ドット110は5個の電子を有し得、量子ドット126は13個の電子を有し得る)。図14Aは、二重量子ドットシステム110、126の概略図を示し、各ドットは5個の電子が装填され、キュービットは各量子ドットの価電子に符号化される。
【0138】
次に、ステップ1204では、2つの量子ドット110、126が満たされると、2つの量子ドット110、126間の離調は、(例えば、ゲート108、122及び124に適切なバイアスを印加することによって)調節されて、量子ドット126内の価電子1304を量子ドット110に移動させ、特に、量子ドット110の最外軌道に移動させることができる。図14Bはこのことの概略図を示し、量子ドット126からのキュービット1304が、量子ドット110に移動されている。これにより、あまり高速ではない(負の100MHz~正の100MHzで変わる)交換振動がもたらされ、したがって、良好な制御忠実度を提供する。
【0139】
その後、ステップ1206では、2つの電子1302、1304が存在する量子ドット110の形状は、交換結合の強度を高めるように変更され得る。これは、交換結合が、軌道間のエネルギー分離によって支配されるようになるからである。一実施例では、これは、対応するゲート(例えば、ゲート108)に好適な電圧を印加することによって達成され得る。量子ドット形状のこのような変更は、2つの電子1302、1304間の交換結合の強度に影響を与える。すなわち、量子ドット110の形状の楕円度が高いほど交換結合の強度が高く、量子ドットの形状の楕円度が低いほどキュービット間の交換結合の強度が低くなる。
【0140】
交換結合の特定の値を達成するために必要な電圧の特定の範囲は、材料スタックの制御不能な化学的な詳細と、対象量子ドットの周りのゲートに印加された全ての電圧によって設定される特定の状況に影響されるため、ケースバイケースで較正される必要がある。
【0141】
次に、ステップ1208では、2つのキュービット間で必要な演算(例えば、スワップ演算)が実行され得、ステップ1210では、交換結合ゲート122にもう一度好適な電圧を印加することによって、第2のキュービット1304を第2の量子ドット126に戻すことができる。
【0142】
したがって、量子ドットの不対電子の閉じ込め電位を操作することは、EDSRを高速化し、より速いスピン緩和を可能にし、中距離及び長距離結合、並びにキュービット間のノイズ耐性交換結合を可能にするために使用され得る。
【0143】
本明細書に記載の例示的なスピンベースのシステム及び方法は、電子を利用する。しかしながら、本システム及び方法は、電子の代わりに正孔で同様に容易に実装され得ることが理解されよう。そのような場合、量子ドットは、制御可能な数の正孔を結合することによって形成され得、量子ドット内の不対正孔の楕円度又は閉じ込め電位は、ゲート電極の配置の電圧を変化させることによって変更され得る。
【0144】
また、本明細書に記載のシステム及び方法は、バリア材料として量子ドット及び二酸化シリコンを形成するための半導体材料としてシリコンを採用するが、本発明は、シリコン-ゲルマニウム合金、ヒ化ガリウム、ゲルマニウム、及び半導体材料及びバリア材料の他の組み合わせを含む他の材料で等しく実装することができることも理解されよう。
【0145】
本明細書に記載の方法及び量子プロセッサアーキテクチャは、計算を実行するために量子力学を使用する。プロセッサは、例えば、様々なアプリケーションに使用され得、強化された計算性能を提供し得、これらのアプリケーションは、とりわけ、情報の暗号化及び復号、高度な化学シミュレーション、最適化、機械学習、パターン認識、異常検出、財務分析及び検証を含む。
【0146】
多くの変形及び/又は修正が、広範に説明されているように、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示すように、本発明に対して行われ得ることが、当業者によって理解されよう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C-8E】
図9A
図9B-9C】
図9D-9F】
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
図11
図12
図13
図14A
図14B
【国際調査報告】