(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】工具ホルダのための挟持デバイス
(51)【国際特許分類】
B23B 31/30 20060101AFI20240705BHJP
B23B 31/02 20060101ALI20240705BHJP
B23B 29/20 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
B23B31/30 A
B23B31/02 601B
B23B29/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579041
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2022058420
(87)【国際公開番号】W WO2022268372
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マトリック, グンナル
【テーマコード(参考)】
3C032
3C046
【Fターム(参考)】
3C032FF10
3C032KK11
3C046MM01
(57)【要約】
工具ホルダシャンク(71)を解放可能に保持するための挟持デバイスであって、 - ハウジング(2)と、 - 前進解放位置と後退係止位置との間で第1の軸方向(D1)においてハウジングにおけるボア3内で軸方向に移動可能である引張棒(8)と、 - 引張棒の影響下で工具ホルダシャンクと係止係合するように移動可能である係合部材(20)と、 - 引張棒の一部分を取り囲み、かつ、引張棒に対して軸方向に移動可能である、スリーブ形状の作動部材(30)と、 - ボア内に受け入れられ、かつ、作動部材に固定される、ピストン(40)と、 - 引張棒の外側上に配置され、かつ、第1の軸方向におけるピストンおよび作動部材の移動により引張棒の長手方向中心軸に向かって内方に押されたときに引張棒を後方に移動させるように構成された、くさび(50)と、を備える、挟持デバイス。
【選択図】
図4b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダシャンク(71)を解放可能に保持するための挟持デバイスであって、
- 前方端部(2a)、後方端部(2b)、および前記前方端部(2a)と交わりかつ前記前方端部(2a)から後方に延在するボア(3)を有するハウジング(2)であって、前記工具ホルダシャンク(71)を受け入れるための取付け部分(7)が前記ボア(3)の前方端部に設けられた、ハウジング(2)と、
- 第1の軸方向(D1)において前進解放位置から後退係止位置へ、および反対の第2の軸方向(D2)において前記後退係止位置から前記前進解放位置へ前記ボアの長手軸(L)に沿って前記ボア内で移動可能であるように前記ボア(3)の内側に摺動可能に取り付けられた、引張棒(8)と、
- 前記引張棒(8)の前方端部において前記引張棒(8)の周りに配置された係合部材(20)であって、前記前進解放位置から前記後退係止位置への前記引張棒(8)の移動の影響下で第1の位置から第2の位置へ移動可能であり、前記第1の位置では、前記工具ホルダシャンク(71)が前記取付け部分(7)を出入りすることを可能にし、前記第2の位置では、前記工具ホルダシャンク(71)と係止係合して前記工具ホルダシャンク(71)を前記ハウジング(2)に固着させておく、係合部材(20)と、
- 前記ボア(3)内に配置された、液圧で動作される作動部材(30)であって、前記引張棒(8)に対して軸方向に移動可能である、作動部材(30)と、
- 前記ボア(3)内に配置され、かつ、前記引張棒(8)に対する前記第1の軸方向(D1)における前記作動部材(30)の軸方向移動を前記前進解放位置から前記後退係止位置への前記引張棒(8)の移動に伝達するように構成された、少なくとも1つのくさび(50)と、
- 前記ボア(3)の内側の空間内に摺動可能に取り付けられ、かつ、前記空間をピストンの第1の側における第1の液圧チャンバ(41a)と前記ピストンの反対側の第2の側における第2の液圧チャンバ(41b)とに分割するように構成された、ピストン(40)であって、前記作動部材(30)が、前記ピストン(40)に固定され、かつ、前記第1の液圧チャンバ(41a)内に液圧流体を供給することにより前記第1の軸方向(D1)に前記ピストン(40)と一緒に移動可能でありまた前記第2の液圧チャンバ(41b)内に液圧流体を供給することにより前記第2の軸方向(D2)に前記ピストン(40)と一緒に移動可能である、ピストン(40)と、
を備える、挟持デバイス(1)において、
- 前記くさび(50)が、前記引張棒(8)の外側上に配置され、かつ、前記引張棒の長手方向中心軸(C)に向かって内方に押されたときに前記引張棒(8)を前記後退係止位置に向かって押すように構成されること、
- 前記くさび(50)が、外方に面する第1の圧力受け表面(51)を備えること、
- 前記作動部材(30)が、スリーブの形態を有し、かつ、前記引張棒(8)の一部分を取り囲み、前記作動部材(30)が、前記くさび(50)上の前記第1の圧力受け表面(51)と接触するために内方に面する第1の圧力印加表面(31)を、その内側側面上に備え、前記第1の圧力印加表面(31)が、前記第1の軸方向(D1)に見たときに増大する前記長手軸(L)までの径方向距離を有すること、および、
- 前記第1の圧力印加表面(31)が、前記作動部材(30)が前記第1の軸方向(D1)に移動されるときに前記くさび上の前記第1の圧力受け表面(51)を圧迫することにより前記くさび(50)を前記引張棒(8)の前記長手方向中心軸(C)に向かって内方に押すように構成されること
を特徴とする、挟持デバイス。
【請求項2】
- 前記挟持デバイス(1)が、前記ボア(3)内に配置されかつ前記ハウジング(2)に固定される支持要素(60)を備え、前記支持要素(60)が、前記くさび(50)を支持するように構成されること、および、
- 前記くさび(50)が、傾斜したくさび表面(53)を備え、前記傾斜したくさび表面(53)が、前記ハウジングの前記前方端部(2a)に面し、かつ、前記ハウジングの前記後方端部(2b)に面している前記支持要素(60)上の傾斜した摺動表面(63)に摺動可能に当接すること
を特徴とする、請求項1に記載の挟持デバイス。
【請求項3】
前記くさび(50)が、接触表面(54)を備え、前記接触表面(54)が、前記ハウジングの前記後方端部(2b)に面し、かつ、前記ハウジングの前記前方端部(2a)に面している前記引張棒(8)上の肩(14)に当接し、前記くさび(50)が、前記作動部材(30)の影響下で前記引張棒(8)の前記長手方向中心軸(C)に向かって内方に押されたときに、前記接触表面(54)を介して前記肩(14)を圧迫することにより前記引張棒(8)に押す力を及ぼすように構成されることを特徴とする、請求項2に記載の挟持デバイス。
【請求項4】
前記引張棒(8)が、細長い主要部(8a)と、前記主要部(8a)の後方端部において前記主要部(8a)に固定されかつ前記主要部(8a)から径方向に突出する環状部(8b)とを備え、前記肩(14)が、前記環状部(8b)上に設けられることを特徴とする、請求項3に記載の挟持デバイス。
【請求項5】
前記支持要素(60)が、案内手段(65a、65b)を備え、前記案内手段(65a、65b)が、前記くさびを前記支持要素(60)上に正確に位置決めさせておくと共に前記くさび(50)が前記支持要素(60)上の関連する前記摺動表面(63)に沿って長手方向に摺動することを可能にするために、前記くさび(50)上の対応する案内手段(55a、55b)と協働するように構成されることを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項6】
前記支持要素(60)が、前記引張棒(8)を取り囲み、前記引張棒(8)が、前記支持要素(60)に摺動可能に取り付けられ、かつ、前記支持要素における中央開口部(62)を貫通することを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項7】
前記ピストン(40)が、前記第2の液圧チャンバ(41b)内に液圧流体を供給することにより前記第2の液圧チャンバ(41b)内で生じる液圧の影響下で前記引張棒(8)の後方端部(8c)と接触して前記引張棒を前記第2の軸方向(D2)に押すように構成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項8】
前記第1の圧力印加表面(31)および前記第1の圧力受け表面(51)が、前記長手軸(L)に直角な横断平面において見たときに湾曲していることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項9】
前記第1の圧力印加表面(31)および前記第1の圧力受け表面(51)が、前記引張棒(8)が前記作動部材(30)および前記くさび(50)の影響下で強制的に前記後退係止位置に着かされたときに前記くさび(50)が前記作動部材(30)を前記ボア(3)内の自己係止軸方向位置に保つような角度αにより、前記長手軸(L)に対して傾けられていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項10】
- 前記くさび(50)が、外方に面する第2の圧力受け表面(52)を備えること、
- 前記作動部材(30)が、前記くさび(50)上の前記第2の圧力受け表面(52)と接触するために内方に面する第2の圧力印加表面(32)を、その内側側面上に備え、前記第2の圧力印加表面(32)が、前記第1の軸方向(D1)に見たときに増大する前記長手軸(L)までの径方向距離を有すること、
- 前記第2の圧力印加表面(32)および前記第2の圧力受け表面(52)が、前記角度αよりも大きな角度βにより前記長手軸(L)に対して傾けられていること、ならびに、
- 前記第1および第2の圧力印加表面(31、32)ならびに前記第1および第2の圧力受け表面(51、52)が、前記作動部材(30)上および前記くさび(50)上にそれぞれ連続的に配置され、その結果、前記第1の軸方向(D1)における前記作動部材(30)の移動時に、前記第2の圧力印加表面(32)が、第1の移動段階中に摺動して前記第2の圧力受け表面(52)を圧迫するように構成され、前記第1の圧力印加表面(31)が、後続の第2の移動段階中に摺動して前記第1の圧力受け表面(51)を圧迫するように構成されること
を特徴とする、請求項9に記載の挟持デバイス。
【請求項11】
前記第2の圧力印加表面(32)および前記第2の圧力受け表面(52)が、前記長手軸(L)に直角な横断平面において見たときに湾曲していることを特徴とする、請求項10に記載の挟持デバイス。
【請求項12】
前記挟持デバイス(1)が、前記引張棒(8)の円周方向において離隔した2つ以上の前記くさび(50)を備えることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項13】
前記くさび(50)が、全部で3つであることを特徴とする、請求項12に記載の挟持デバイス。
【請求項14】
前記くさび(50)が、前記引張棒(8)の前記円周方向において均等に分散されることを特徴とする、請求項12または13に記載の挟持デバイス。
【請求項15】
前記作動部材(30)および前記ピストン(40)が、一かたまりに形成されることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ホルダを工作機械に接続するために使用されることが意図されている、請求項1のプリアンブルに記載の挟持デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属切削のための工作機械の分野では、金属材料の被加工物を機械加工するために使用される例えば旋盤工具の形態である切削工具は、しばしば工具ホルダに固定され、工具ホルダは、工作機械に取り付けられる挟持デバイスに分離可能に固定され得る。そのような工具ホルダのシャンクをハウジング内に配置された挟持機構により挟持デバイスのハウジングに挟持することが、従来知られている。切削工具の交換を必要とする場合、工具ホルダは挟持デバイスのハウジングから解放され、別の切削工具を有する新たな工具ホルダがハウジングに挟持される。このタイプの挟持デバイスは、例えば、工作機械に含まれる工具タレットの周辺に分離可能に固定され得る。
【0003】
すでに知られている上述のタイプの多くの挟持デバイスは、工具ホルダの挟持または解放をもたらすために、手動操作を必要とする。自動工具変更動作に適した挟持デバイスも存在し、そのような挟持デバイスでは、例えば、挟持機構の状態を制御するために液圧ピストンが使用される。
【0004】
液圧で動作される挟持デバイスは、EP1060819A2からすでに知られている。この挟持デバイスは、ハウジングにおけるボアの内側に摺動可能に取り付けられた引張棒およびピストンを備え、作動部材がピストンに固定され、かつ、引張棒の後方端部における軸方向に延在する凹部内に受け入れられる。引張棒に対する作動部材の後退が、複数のくさびにより、後退係止位置(retracted locking position)への引張棒の移動に伝達され、後退係止位置では、工具ホルダがハウジングに挟持される。EP1060819A2に記載の挟持デバイスでは、くさびは、引張棒における径方向に延在するそれぞれの開口内に摺動可能に受け入れられ、ここで、作動部材は、ピストンの影響下で引張棒における関連する凹部の内側で後方に移動されるときにくさびをそれらの開口内で径方向外方に押すことにより後退係止位置への引張棒の変位を達成するように構成される。
【0005】
発明の目的
本発明の目的は、新規かつ好ましい設計を有し、また、工作機械の工具タレットとの使用に適している、上述のタイプの挟持デバイスを提供することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、前述の目的は、請求項1において定められる特徴を有する挟持デバイスによって達成される。
【0007】
本発明による挟持デバイスは、
- 前方端部、後方端部、および前方端部と交わりかつ前方端部から後方に延在するボアを有するハウジングであって、工具ホルダシャンクを受け入れるための取付け部分がボアの前方端部に設けられた、ハウジングと、
- 第1の軸方向において前進解放位置(advanced releasing position)から後退係止位置へ、および反対の第2の軸方向において後退係止位置から前進解放位置へボアの長手軸に沿ってボア内で移動可能であるようにボアの内側に摺動可能に取り付けられた、引張棒と、
- 引張棒の前方端部において引張棒の周りに配置された係合部材であって、前進解放位置から後退係止位置への引張棒の移動の影響下で第1の位置から第2の位置へ移動可能であり、第1の位置では、工具ホルダシャンクが前述の取付け部分を出入りすることを可能にし、第2の位置では、工具ホルダシャンクと係止係合して工具ホルダシャンクをハウジングに固定させておく、係合部材と、
- ボア内に配置された、液圧で動作される作動部材であって、引張棒に対して軸方向に移動可能である、作動部材と、
- ボア内に配置され、かつ、引張棒に対する第1の軸方向における作動部材の軸方向移動を前進解放位置から後退係止位置への引張棒の移動に伝達するように構成された、少なくとも1つのくさびと、
- ボアの内側の空間内に摺動可能に取り付けられ、かつ、この空間をピストンの第1の側における第1の液圧チャンバとピストンの反対側の第2の側における第2の液圧チャンバとに分割するように構成された、ピストンであって、作動部材が、ピストンに固定され、かつ、第1の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより第1の軸方向にピストンと一緒に移動可能でありまた第2の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより第2の軸方向にピストンと一緒に移動可能である、ピストンと、
を備える。
【0008】
本発明によれば、前述の少なくとも1つのくさびは、引張棒の外側上に配置され、かつ、引張棒の長手方向中心軸に向かって内方に押されたときに引張棒を後退係止位置に向かって押すように構成され、くさびは、外方に面する第1の圧力受け表面を備える。作動部材は、スリーブの形態を有し、かつ、引張棒の一部分を取り囲み、ここで、作動部材は、くさび上の第1の圧力受け表面と接触するために内方に面する第1の圧力印加表面を、その内側側面上に備える。前述の圧力印加表面は、第1の軸方向に見たときに増大する長手軸までの径方向距離を有し、ここで、第1の圧力印加表面は、作動部材が第1の軸方向に移動されるときにくさび上の第1の圧力受け表面を圧迫することによりくさびを引張棒の長手方向中心軸に向かって内方に押すように構成される。したがって、引張棒は、第1の軸方向における作動部材の移動による作動部材およびくさびの影響下で、前進解放位置から後退係止位置へ移動可能である。作動部材の第1の圧力印加表面は、第1の軸方向に増大する長手軸までの径方向距離を有するので、第1の軸方向における作動部材の移動は、第1の圧力印加表面によりくさび上の第1の圧力受け表面に圧力を印加させることになる。この圧力は、くさびが引張棒の中心軸に向かって径方向内方に押されるように、径方向における成分を有する。引張棒の外側上に配置されかつ引張棒における開口または凹部内に配置されないくさびおよび作動部材を有することにより、引張棒の設計は容易になり、また、引張棒を非常にコンパクトに作ることができる。本発明の挟持デバイスは、軸方向にコンパクトに作ることができ、したがって、工具タレットでの使用に適している。本発明の挟持デバイスに含まれるハウジングは、回転不能なハウジングとして設計されることが好ましく、これは、旋盤工具または他のタイプの非回転工具を備えた工具ホルダを挟持するために挟持デバイスが使用されるべきであることを意味する。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、挟持デバイスは、ボア内に配置されかつハウジングに固定される支持要素を備え、支持要素は、くさびを支持するように構成され、くさびは、傾斜したくさび表面を備え、この傾斜したくさび表面は、ハウジングの前方端部に面し、かつ、ハウジングの後方端部に面している支持要素上の傾斜した摺動表面に摺動可能に当接する。作動部材によりくさびが径方向内方に押されると、くさびは、支持要素上の摺動表面に沿って摺動して、引張棒を強制的に後退係止位置に向かって移動させる。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、くさびは、接触表面を備え、この接触表面は、ハウジングの後方端部に面し、かつ、ハウジングの前方端部に面している引張棒上の肩に当接し、くさびは、作動部材の影響下で引張棒の長手方向中心軸に向かって内方に押されたときに、接触表面を介して前述の肩を圧迫することにより引張棒に押す力を及ぼすように構成される。したがって、くさびは、この接触表面を通じて引張棒に作用するように構成される。前述の肩は、有利には、引張棒の環状部上に設けられ、この環状部は、引張棒の後方端部において引張棒の細長い主要部に固定され、この主要部から径方向に突出する。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、支持要素は、案内手段を備え、案内手段は、くさびを支持要素上に正確に位置決めさせておくと共にくさびが支持要素上の関連する摺動表面に沿って長手方向に摺動することを可能にするために、くさび上の対応する案内手段と協動するように構成される。したがって、案内手段は、作動部材からくさびへの押す力が解放されたときにくさびが支持要素に対して正しい位置に維持されることを確実にする。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、支持要素は、引張棒を取り囲み、引張棒は、支持要素に摺動可能に取り付けられ、かつ、支持要素における中央開口部を貫通する。その結果、支持要素は、引張棒のための摺動支持体を形成し、かつ、ハウジングのボア内で中央に配置された引張棒を保つのを支援することができる。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、ピストンは、第2の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより第2の液圧チャンバ内で生じる液圧の影響下で引張棒の後方端部と接触して引張棒を第2の軸方向に押すように構成される。したがって、ピストンは、引張棒が後退係止位置から前進解放位置へ移動されるべきときに引張棒を第2の軸方向に押すために使用され得る。
【0014】
本発明の別の実施形態によれば、第1の圧力印加表面および第1の圧力受け表面は、引張棒が作動部材およびくさびの影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときにくさびが作動部材をボア内の自己係止軸方向位置に保つような角度αにより、長手軸に対して傾けられている。その結果、作動部材は、ピストンからの力を必要とすることなしに引張棒を後退係止位置に保つことができ、これは、ピストンが工具変更動作に関連する力を及ぼすことだけを必要とすることを意味する。この場合、第1の圧力印加表面および第1の圧力受け表面はどちらも、ハウジングの長手方向断面において見たときに同じ方向に延在する。角度αは、引張棒がボアの内側で後退係止位置に変位されたときに作動部材がくさびに対して自己係止軸方向位置に達するように、自己係止閾値角度を下回るように選択される。自己係止軸方向位置を得るために、角度αは、十分に小さいものであるべきであり、すなわち、自己係止閾値角度を下回るべきである。自己係止軸方向位置は、くさび上の第1の圧力受け表面と作動部材上の第1の圧力印加表面との間の静止摩擦力が、長手軸に直角な径方向においてくさびに印加される力によって生じる摩擦面における対抗する力を上回る、軸方向位置を指す。したがって、くさび上の第1の圧力受け表面と作動部材上の第1の圧力印加表面との間の摩擦係数に依存する角度範囲内で、自己係止軸方向位置が得られる。この摩擦係数は、使用される材料、表面上のコーティング、潤滑剤の使用、などのような様々なパラメータに依存する。したがって、自己係止閾値角度は、そのようなパラメータに依存する。当業者は、共通の一般知識および/もしくは通例の実験を使用することにより各特定の事例に適用される自己係止閾値角度を決定するか、または、ある角度がそのような自己係止閾値角度を下回るかどうかを少なくとも予測するかもしくは見積もることができるであろう。一般に、自己係止閾値角度を十分に下回る角度αを選択することにより自己係止構成を確実にすることが好ましい。小さな角度αを使用することのさらなる便益は、作動部材の比較的長い軸方向変位が引張棒の比較的短い軸方向変位をもたらすことを小さな角度αが意味するという事実により、力増幅効果が得られることである。しかし、過度に小さな角度αは、非効率的であり、実際にはうまく機能しないことがある。例えば、非常に小さな角度αは、作動部材を自己係止軸方向位置から解放することを困難にし得る。角度αは、有利には2°から10°の間である。この範囲内の角度αにより、自己係止効果だけでなく、適切な力増幅効果を得ることができる。
【0015】
本発明の別の実施形態は、
- くさびが、外方に面する第2の圧力受け表面を備えること、
- 作動部材が、くさび上の第2の圧力受け表面と接触するために内方に面する第2の圧力印加表面を、その内側側面上に備え、第2の圧力印加表面が、前述の第1の軸方向に見たときに増大する長手軸までの径方向距離を有すること、
- 第2の圧力印加表面および第2の圧力受け表面が、角度αよりも大きな角度βにより長手軸に対して傾けられていること、ならびに、
- 第1および第2の圧力印加表面ならびに第1および第2の圧力受け表面が、作動部材上およびくさび上にそれぞれ連続的に配置され、その結果、第1の軸方向における作動部材の移動時に、第2の圧力印加表面は、第1の移動段階中に摺動して第2の圧力受け表面を圧迫するように構成され、第1の圧力印加表面は、後続の第2の移動段階中に摺動して第1の圧力受け表面を圧迫するように構成されること
を特徴とする。
【0016】
その結果、引張棒は、より大きな角度βの影響下で、挟持の初期段階中に軸方向に急速に移動され得る。この初期挟持段階は、多くの力を必要としない。しかし、挟持の最終段階中、引張棒を短い距離だけ変位させるために、大きな力が必要とされる。実際の挟持が起こるとき、つまり、係合部材が上述の第1の位置を取るときに、引張棒は、引張棒の軸方向移動が作動部材の軸方向移動と比較して小さくなり、それにより「パワーブースト」とも呼ばれる力増幅効果がもたらされるように、より小さな角度αの影響下で軸方向に移動される。角度βは、適切には10°から75°の間であり、好ましくは35°から65°の間であり、これは、引張棒の効率的な初期軸方向移動を提供する。引張棒の初期軸方向移動のための急な角度β、および実際の挟持のための小さな角度αを使用することにより、作動部材(したがって、挟持デバイス全体)は、なおも自己係止挟持機構にかなりの力増幅効果を提供しながら、軸方向において比較的短く作られ得る。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、第1の圧力印加表面および第1の圧力受け表面は、長手軸に直角な横断平面において見たときに湾曲しており、これは、作動部材の製造を容易にする。また、第2の圧力印加表面および第2の圧力受け表面は、有利には、長手軸に直角な横断平面において見たときに湾曲している。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、挟持デバイスは、引張棒の円周方向において離隔した2つ以上の、好ましくは3つのそのようなくさびを備える。くさびは、引張棒の円周方向において均等に分散されることが好ましい。その結果、良好な力分布を有する均衡の取れた挟持デバイスが得られる。
【0019】
本発明による挟持デバイスのさらなる有利な特徴が、以下に続く説明から明らかになるであろう。
【0020】
添付の図面を参照しながら、例として挙げられる本発明の実施形態の詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】工具ホルダが挟持デバイスから分離された、本発明の一実施形態による挟持デバイス、および工具ホルダの斜視図である。
【
図2】挟持デバイスの引張棒が後退係止位置にある、
図1の挟持デバイスの部分的に破断された斜視図である。
【
図3】引張棒が前進解放位置にあり、工具ホルダが挟持デバイスから分離された、
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの部分的に破断された斜視図である。
【
図4a】引張棒が前進解放位置において示されている、
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの長手方向断面図である。
【
図4b】引張棒が後退係止位置において示されている、
図4aに対応する長手方向断面図である。
【
図5】
図4bにおける線V-Vに対応する断面図である。
【
図6】
図1の挟持デバイスに含まれるくさびの、ある方向からの斜視図である。
【
図7】
図1の挟持デバイスに含まれるくさびの、
図6とは異なる方向からの斜視図である。
【
図8】
図1の挟持デバイスに含まれる支持要素の斜視図である。
【
図10】
図9における線X-Xに対応するカットである。
【
図11】
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの分解組立図である。
【
図12】
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの別の方向からの分解組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態による挟持デバイス1が、
図1~
図12に示されている。挟持デバイス1は、工具ホルダ70(図面では非常に概略的に示されている)を挟持デバイスのハウジング2に解放可能に挟持し、かつ、工具ホルダ70に固定された切削工具(図示せず)による被加工物の機械加工を可能にするように、構成される。
【0023】
ハウジング2は、前方端部2a、後方端部2b、および、前方端部2aと交わりかつ前方端部2aから後方に延在するボア3を有する。したがって、ボア3は、ハウジングの前方端部2aに入口開口部を有する。
図1に示された実施形態では、ハウジング2は、支持体4に固定され、かつ、この支持体4を介して工作機械の工具タレットに接続可能である。
【0024】
引張棒8が、前進解放位置(
図3および
図4a参照)と後退係止位置(
図2および
図4b参照)との間でボア3の長手軸Lに沿ってボア3内で相反的に移動可能であるように、ハウジング2のボア3の内側に摺動可能に取り付けられる。引張棒8は、前進解放位置から後退係止位置へ第1の軸方向D1においてハウジング2に対して移動可能であり、かつ、後退係止位置から前進解放位置へ反対の第2の軸方向D2においてハウジング2に対して移動可能である。引張棒8は、ボア3の入口開口部に面する前方端部、および反対側の後方端部を有する。ヘッド部分9およびネック部分10が、引張棒8の前方端部に設けられる。ヘッド部分9は、引張棒の長手方向に見たときにネック部分10の前方に位置し、ヘッド部分9は、ヘッド部分9上の後方に面する傾斜表面11を介してネック部分10に接続されている。
【0025】
スリーブ形状の支持要素60が、ボア3内に配置され、かつ、引張棒8を取り囲む。支持要素60は、引張棒8を支持するように構成され、かつ、その中心軸がボアの長手軸Lと一致した状態で、ボア3内で中央に配置される。引張棒8は、支持要素60における中央開口部62を貫通し、かつ、ボア3の長手軸Lに沿って支持要素60に対して軸方向に摺動可能であるように支持要素60に摺動可能に取り付けられる。支持要素60は、ハウジングの軸方向においてハウジングに対して移動するのを防止されるように、ハウジング2に固定される。密閉リング12が、引張棒8と支持要素60の内側表面との間に配置される。示された例では、この密閉リング12は、支持要素60の内側側面上の溝内に受け入れられる。
【0026】
示された例では、支持要素60は、ハウジング2に取り付けられる別の部品として形成されているが、支持要素60は、代案として、ハウジング2の一体部品として形成されてもよい。
【0027】
工具ホルダ70上の取付けシャンク71を受け入れるための取付け部分7が、ボア3の前方端部に設けられる。この取付けシャンク71は、本明細書では工具ホルダシャンクと呼ばれる。
【0028】
示された実施形態では、ハウジング2は、ベース部5、および、ハウジングの前方端部2aにおいてベース部5に取り付けられた端部品6を備える。端部品6は、上述のボア3の一部分を形成する軸方向貫通穴を含むスリーブの形状を有する。この場合、上述の取付け部分7は、端部品6の貫通穴内に位置する。代案として、ボア3に対応するハウジング2の部分は、上述のタイプの端部品を伴わずに一かたまりに形成されてもよい。
【0029】
工具ホルダシャンク71は、ハウジング2の前方端部2における入口開口部を介してボア3の取付け部分7内に挿入可能である。引張棒のヘッド部分9は、工具ホルダシャンク71における係合ボア72内に受け入れられ、工具ホルダシャンクの管状壁73が、ヘッド部分9と端部品6の内側表面との間の空間内に受け入れられる。示された実施形態では、取付け部分7は、円錐形に成形され、かつ、同様に成形された工具ホルダシャンク71を受け入れるように適合されたある程度「三角形の」または多角形の非円形断面形状を有する。円錐形状は、工具ホルダシャンク71とハウジング2との間の径方向および軸方向における遊びのない接続を確実にし、一方で、非円形断面は、ハウジング2に対する工具ホルダシャンク71の回転不能な固定を確実にする。しかし、取付け部分7はまた、他のタイプの工具ホルダシャンクを受け入れるための任意の他の適切な形状を有することができる。
【0030】
セグメントの形態をした係合部材20が、引張棒8の前方端部において引張棒8の周りに配置される。前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動の影響下において、係合部材20は、第1の位置(
図4a参照)から第2の位置(
図4b参照)へ移動可能であり、第1の位置では、係合部材20は、工具ホルダシャンク71がボア3の取付け部分7を出入りすることを可能にし、第2の位置では、係合部材20は、工具ホルダシャンク71内の係合ボア72における係合溝74と係止係合することにより、工具ホルダシャンク71をハウジング2に固着させておく。
【0031】
示された実施形態では、係合部材20は、引張棒8のネック部分10の周りに配置され、かつ、保持リング21(
図4a参照)および弾性Oリング22によりネック部分の周りの所定の位置に保持され、弾性Oリング22は、ボア3内に配置され、かつ、ネック部分10を取り囲む。各係合部材20は、保持リング21における内側溝内に係合される、外方に面するフランジ部分23を有する。Oリング22は、各係合部材20の後方端部における外方に面する溝内に受け入れられる。圧縮ばね24、スラストリング25、およびストッパリング26もまた、ボア3内に配置され、引張棒8を取り囲むように構成される。圧縮ばね24は、引張棒8上の肩とスラストリング25との間に取り付けられ、また、圧縮ばね24は、スラストリング25、保持リング21、および係合部材20を前方に付勢するように構成される。ボア3の入口開口部に向かう保持リング21の前方移動は、支持要素60の内側表面における溝内に取り付けられるストッパリング26によって制限される。保持リング21、スラストリング25、および圧縮ばね24は、支持要素60の内側の空間内に受け入れられ、保持リング21は、支持要素60の内壁と接触し、かつ、支持要素60の軸方向においてこの壁に対して摺動可能である。
【0032】
各係合部材20は、外方に向けられた係合フランジ27をその前方端部に備え、係合フランジ27は、係合部材20が上述の第2の位置にあるときに工具ホルダシャンク71における係合溝74と係合するように構成される。
図4aに示されるように、引張棒8が前進解放位置にあるときに、係合部材20の前方端部は、引張棒8のヘッド部分9の後側に位置し、係合フランジ27は、工具ホルダシャンク71における係合溝74との係合から外れている。引張棒8がボア3の長手軸Lに沿ってボア3内で軸方向に移動されると、引張棒のヘッド部分9上の傾斜表面11は、係合部材20の前方端部と接触することになり、ここで、係合部材20の前方端部は、係合部材上の係合フランジ27が工具ホルダシャンク71における係合溝74と係合するように、この傾斜表面11上を摺動し、かつ、外方へ押され、その結果、工具ホルダシャンク71は、引張棒8によって引っ張られて、ボア3の取付け部分7内でスピンドル2の内側表面としっかり接触する。
【0033】
挟持デバイス1は、液圧で動作される作動部材30をさらに備え、この作動部材30は、ボア3内に配置され、かつ、引張棒8に対して軸方向に移動可能である。作動部材30は、スリーブの形状を有し、かつ、引張棒8の一部分を取り囲むように構成される。作動部材30は、ボア3の長手軸Lに沿ってピストン40と一緒にハウジング2に対して移動可能であるように、ピストン40に固定される。示された実施形態では、作動部材30およびピストン40は、一かたまりに形成されている。しかし、作動部材30およびピストン40は、代案として、ねじ式継手によりまたは任意の他の適切な態様で互いに固定される別々の部品として形成されてもよい。
【0034】
ピストン40は、ボア3の内側の空間内に摺動可能に取り付けられ、かつ、この空間をピストンの第1の側における第1の液圧チャンバ41aとピストンの反対の第2の側における第2の液圧チャンバ41bとに分割するように構成される。作動部材30は、第1の液圧チャンバ41a内に液圧流体を供給することにより第1の軸方向D1にピストン40と一緒に移動可能であり、また、第2の液圧チャンバ41b内に液圧流体を供給することにより第2の軸方向D2にピストン40と一緒に移動可能である。作動部材30は、第1の液圧チャンバ41a内に受け入れられ、液圧流体が第1の液圧チャンバ41a内に供給されると、この液圧流体は、ピストン40に作用し、また、作動部材30の前方端部(
図4b参照)における端部表面35にも作用する。
【0035】
密閉リング16が、ピストン40とボア3の内側表面との間に配置される。この密閉リング16は、ピストン40の外側表面上の溝内に受け入れられる。
【0036】
支持要素60は、それを通じて支持要素がハウジング2に固定される前方部60aと、後方部60bとを備え、後方部60bは、前方部60aに固定されて前方部60aによって支持され、かつ、作動部材30の内側の空間内へ延在する。作動部材30の前方端部は、ボア3の内側表面と支持要素60の後方部60bの外側側面との間に形成された環状空間内に遊びを有して受け入れられる。液圧流体は、作動部材30の前方部と支持要素60の外側側面との間に形成された間隙を介して第1の液圧チャンバ41a内に供給可能でありまた第1の液圧チャンバ41aから放出可能である。
【0037】
密閉リング17が、支持要素60の前方部60aとボア3の内側表面との間に配置される。示された例では、この密閉リング17は、ボア3の内側表面における溝内に受け入れられる。
【0038】
1つまたは複数のくさび50が、ボア3内に配置され、かつ、第1の軸方向D1における引張棒8に対する作動部材30の軸方向移動を前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動に伝達するように構成される。第1の軸方向D1は、ハウジング2の後方端部2bに向かう方向であり、第2の軸方向D2は、ハウジング2の前方端部2aに向かう方向である。したがって、前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動は、引張棒8に沿った後方への作動部材30の軸方向移動によってもたらされる。
【0039】
示された実施形態では、挟持デバイス1は、引張棒8の円周方向において離隔した3つのくさび50を備える。くさび50は、引張棒8の外側に配置され、かつ、それらが引張棒8の長手方向中心軸Cに向かって径方向内方に押されたときに引張棒8を後退係止位置に向かって連帯して押すように構成される。示された実施形態では、引張棒8の長手方向中心軸Cは、ボア3の長手軸Lと一致する。挟持デバイス1は、任意の適切な数のくさび50を備えることができる。くさび50は、引張棒8の円周方向において均等に分散されることが好ましい。
【0040】
くさび50は、作動部材30の内側側面と支持要素60の後方部60bの外側側面との間に嵌合される。各くさび50は、長手軸Lと反対の側を向いた、外方に面する第1の圧力受け表面51を備え、作動部材30は、各くさび上の第1の圧力受け表面51に接触するために内方に面する第1の圧力印加表面31を、その内側側面上に備える。第1の圧力印加表面31は、上述の第1の軸方向D1に見たときに増大する長手軸Lまでの径方向距離を有する。第1の圧力印加表面31は、作動部材30が第1の軸方向D1に移動されるときにくさび上の第1の圧力受け表面51を圧迫することによりくさび50を引張棒8の長手方向中心軸Cに向かって径方向内方に押すように構成される。
【0041】
示された実施形態では、作動部材30上の前述の第1の圧力印加表面31は、環状の回転対称の表面の形態を有する。この場合、作動部材30上には単一の第1の圧力印加表面31が存在する。しかし、作動部材30は、代案として、くさび50の数に対応するいくつかの別々の第1の圧力印加表面31を備えてもよく、ここで、各くさび50上の第1の圧力受け表面51は、作動部材30上のそれ特有の第1の圧力印加表面31と関連付けられる。
【0042】
各くさび50はまた、傾斜したくさび表面53を備え、このくさび表面53は、ハウジング2の前方端部2aに面し、また、ハウジングの後方端部2bに面している支持要素60上の傾斜した摺動表面63に摺動可能に当接する。各くさび50は、接触表面54をさらに備え、この接触表面54は、ハウジング2の後方端部2bに面し、また、ハウジングの前方端部2aに面している引張棒8上の肩14に当接する。示された実施形態では、接触表面54および肩14は、長手軸Lに直角な横断平面において延在する。くさび50が作動部材30により径方向内方に押されると、各くさび50は、支持要素上の対応する摺動表面63に沿って下方に摺動し、くさび上の接触表面54を介して引張棒上の肩14を圧迫することにより引張棒8に押す力を及ぼし、それにより、引張棒8を強制的に後退係止位置に向かって軸方向に移動させる。
【0043】
示された実施形態では、各くさび50上のくさび表面53、および支持要素60上の関連する摺動表面63は、長手方向Lに直角なハウジング2の長手方向断面において見たときに長手軸Lに対して傾けられた平坦な表面として形成される。この場合、これらの表面53、63は、
図5に示されるように、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに、直線的である。各くさびのくさび表面53、および支持要素上の関連する摺動表面63は、代案として、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに、湾曲していてもよい。後者の場合、これらの表面53、63は、非平面である。さらなる代案として、これらの表面53、63のうちの1つは、長手軸Lに直角なハウジング2の長手方向断面において見たときに、湾曲していてもよい。
【0044】
示された実施形態では、引張棒8は、ピストン40の影響下で後退係止位置から前進解放位置へ第2の軸方向D2において移動可能である。この場合、ピストン40は、第2の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより第2の液圧チャンバ41b内で生じる液圧の影響下で引張棒8の後方端部8cと接触して引張棒を第2の軸方向D2に押すように構成される。
【0045】
示された実施形態では、支持要素60は、案内手段65a、65bを備え、案内手段65a、65bは、くさびを支持要素60上に正確に位置決めさせておくと共に各くさび50が支持要素60上の関連する摺動表面63に沿って長手方向に摺動することを可能にするために、くさび50上の対応する案内手段55a、55bと協動するように構成される。示された例では、支持要素60上の案内手段は、支持要素60のどちらかの側で各摺動表面63と平行に延在する肩65a、65bとして形成され、一方で、くさび50上の案内手段は、くさび50のどちらかの側で各くさび上のくさび表面53と平行に延在する対応する肩55a、55bとして形成される。各くさび50上の肩55a、55b、および支持要素60上の関連する肩65a、65bは、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに、くさび50がそれぞれの摺動表面63に沿って長手方向に移動することを可能とされるが任意の他の方向において支持要素60に対して移動することを防止されるような傾斜を有する。くさびおよび支持要素上の案内手段55a、55b、65a、65bはまた、任意の他の適切な態様で設計され得る。
【0046】
示された実施形態では、引張棒8は、細長い主要部8aと、主要部8aの後端部において主要部8aに固定されかつ主要部8aから径方向に突出する環状部8bとを備え、前述の肩14は、環状部8b上に設けられる。環状部8bは、ねじ式継手15(
図4a参照)によりまたは任意の他の適切な態様で主要部8aに固定され得る。引張棒8もまた、当然ながら、任意の他の適切な態様で設計され得る。
【0047】
第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面51は、引張棒8が作動部材30およびくさび50の影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときにくさび50が作動部材30を支持要素60上の自己係止軸方向位置に保つような角度α(
図4b参照)により、長手軸Lに対して傾けられていることが好ましい。自己係止軸方向位置では、作動部材30とくさび50との間の摩擦力が、作動部材が第2の軸方向D2において軸方向に変位されることを防止する。
【0048】
各くさび50はまた、長手軸Lと反対の側を向いた、外方に面する第2の圧力受け表面52を備えることができ、ここで、作動部材30は、各くさび上の第2の圧力受け表面52に接触するために内方に面する第2の圧力印加表面32を、その内側側面上に備える。第2の圧力印加表面32は、第1の軸方向D1に見たときに増大する長手軸Lまでの径方向距離を有する。第2の圧力印加表面32および第2の圧力受け表面52は、上述の角度αよりも大きな角度β(
図4a参照)により、長手軸Lに対して傾けられている。第1および第2の圧力印加表面31、32、ならびに第1および第2の圧力受け表面51、52は、作動部材30上および各くさび50上にそれぞれ連続的に配置され、その結果、第1の軸方向D1における作動部材30の移動時に、第2の圧力印加表面32は、最初の第1の移動段階中に摺動して関連する第2の圧力受け表面52を圧迫するように構成され、そこで、第1の圧力印加表面31は、後続の第2の移動段階中に摺動して関連する第1の圧力受け表面51を圧迫するように構成される。
【0049】
示された実施形態では、作動部材30上の前述の第2の圧力印加表面32は、環状の回転対称の表面の形態を有する。この場合、作動部材30上には単一の第2の圧力印加表面32が存在する。しかし、作動部材30は、代案として、くさび50の数に対応するいくつかの別々の第2の圧力印加表面32を備えてもよく、ここで、各くさび50上の第2の圧力受け表面52は、作動部材30上のそれ特有の第2の圧力印加表面32と関連付けられる。
【0050】
図5に示されるように、第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面51は、有利には、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに湾曲している。また、第2の圧力印加表面32および第2の圧力受け表面52は、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに湾曲していてもよい。しかし、代案として、圧力印加表面31、32および圧力受け表面51、52のうちの1つまたは複数は、平坦な表面の形態を有してよく、したがって、長手軸Lに直角な横断平面において見たときに直線的であってもよい。
【0051】
図4aに示されるように、工具ホルダ70がハウジング2に挟持されるべきときに、工具ホルダシャンク71は、引張棒8が前進解放位置に位置決めされた状態で、ボア3の取付け部分7内に挿入される。その結果、引張棒のヘッド部分9は、工具ホルダシャンク71における係合ボア72内に受け入れられ、工具ホルダシャンク71における係合溝74は、係合部材20の係合フランジ27の外側に位置決めされる。その後すぐに、ピストン40を第1の軸方向D1に移動させることにより第1の軸方向D1における作動部材30の対応する軸方向移動を達成するために、液圧油が第1の液圧チャンバ41a内に供給される。作動部材30のこの軸方向移動の第1の段階中、作動部材30上の第2の圧力印加表面32は、摺動してくさび50上の第2の圧力受け表面52を圧迫する。その結果、くさび50は、引張棒8の長手方向中心軸Cに向かって径方向内方に押され、かつ、引張棒8上の肩14に逆らって第1の軸方向D1において軸方向後方に押され、それにより、後退係止位置に向かう引張棒8の軸方向変位がもたらされる。第2の圧力印加表面32および第2の圧力受け表面52の比較的急な傾斜βにより、くさび50は、最初にかなり速く内方に移動することになり、それにより、引張棒8の比較的急速な変位がもたらされる。比較的急な傾斜βは、引張棒8の初期変位が多くの力を必要としないので、有利である。第1のおよび第2の圧力印加表面31、32、ならびに第1および第2の圧力受け表面51、52は、第2の圧力印加表面32が第2の圧力受け表面52を通過し第1の圧力印加表面31が第1の圧力受け表面51に到達するような距離だけ作動部材30が移動されたときに、つまりこれらのそれぞれの表面の間を移行しているときに、引張棒8がボア3内でその最終後退位置にほとんど到達しているように、配置される。したがって、大きな力が有益である最終挟持段階に対して、第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面51が有効である。この段階では、作動部材30の比較的大きな移動が、くさび50の非常に小さな径方向変位、および、引張棒8のさらに小さな軸方向変位をもたらし、それが結果的に、引張棒8が工具ホルダシャンク71を大きな力で引っ張ってハウジング2としっかりと係合させることを可能にする、力増幅効果を提供する。さらに、第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面51の小さな傾斜αは、自己係止効果を提供し、かつ、任意の追加的な係止手段を必要とすることなしに挟持デバイスが挟持状態のままでいることを確実にする。その結果、引張棒8が後退係止位置に達したときに、第1の液圧チャンバ41a内の液圧が解放され得る。
【0052】
工具変更動作が行われるべきとき、および、工具ホルダ70がハウジング2から解放されるべきときに、ピストン40を第2の軸方向D2に移動させることにより第2の軸方向D2における作動部材30の対応する軸方向移動を達成するために、第2の液圧チャンバ41b内に液圧油が供給される。作動部材30が第2の軸方向D2における十分な力にさらされると、作動部材30上の第1の圧力印加表面31とくさび50上の第1の圧力受け表面51との間の自己係止摩擦係合が解放され、そこで、作動部材30およびピストン40は、第2の軸方向D2においてハウジング2および支持要素60に対して移動可能になる。ピストン40がこの方向に移動されると、ピストン40は、第2の液圧チャンバ41b内で生じた液圧の影響下で引張棒8の後方端部8cと接触して引張棒を第2の軸方向D2に押す。引張棒8が前進解放位置に向かって移動されると、引張棒8のヘッド部分9の外側端部は、工具ホルダシャンク71における係合ボア72内の表面75に当たり、それにより、工具ホルダシャンク71をハウジング2から解放する。前進解放位置に向かう引張棒8の移動中、引張棒8上の肩14は、くさび50上の対応する接触表面54に押し付けられ、それにより、くさびを支持要素60上の摺動表面63に沿って強制的に上方に摺動させる。その結果、くさび50は、第2の圧力印加表面32の軸方向後側で作動部材30の内側側面上に設けられた環状凹部34内へ径方向外方に押される。くさび50および支持要素60上の案内手段55a、55b、65a、65bは、くさび50が作動部材30における環状凹部34内に受け入れられたときに、くさびを支持要素60上に正確に位置決めさせておく。
【0053】
当然ながら、本発明は、決して上記の実施形態に限定されるものではない。反対に、添付の特許請求の範囲において定められるような本発明の基本的理念から逸脱することなしに、本発明の修正に対する多くの可能性が、当業者には明らかになるであろう。
【国際調査報告】