IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロイヤル メルボルン インスティチュート オブ テクノロジーの特許一覧

特表2024-525415バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法
<>
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図1
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図2
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図3
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図4
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図5
  • 特表-バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】バイオアナライトを検出するための導電率センサ及びその検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240705BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240705BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
G01N33/53 D
G01N33/542 Z
C07K16/00
C07K14/705
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579385
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 AU2022050633
(87)【国際公開番号】W WO2022266710
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2021901897
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517333347
【氏名又は名称】ロイヤル メルボルン インスティチュート オブ テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】124 La Trobe Street,Melbourne,Victoria 3000,Australia
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スリラム,シャラート
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ,ガンガナート
(72)【発明者】
【氏名】バースカラン,マドゥー
【テーマコード(参考)】
2G060
4H045
【Fターム(参考)】
2G060AA07
2G060AA15
2G060AD06
2G060AE20
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG10
2G060GA04
2G060JA07
2G060KA09
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、バイオアナライトを検出するためのセンサであって、基板と、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間にあり、一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、センサ素子が、(i)基板の半導体部分であって、高抵抗率非酸化物半導体を含み、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のバイオアナライト結合部位であって、バイオアナライト結合部位へのバイオアナライトの結合がセンサの電気抵抗の変化を引き起こす、バイオアナライト結合部位とを含む、センサを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオアナライトを検出するためのセンサであって、
基板と、
互いに離間して対向する関係で前記基板上に配置された一対の端子電極と、
前記一対の端子電極の間にあり、前記一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、前記センサ素子が、
(i)前記基板の半導体部分であって、高抵抗率非酸化物半導体を含み、前記端子電極間の導電路が前記半導体部分を貫通する、半導体部分と、
(ii)前記半導体部分の表面上のバイオアナライト結合部位と
を含み、
前記バイオアナライト結合部位へのバイオアナライトの結合が前記センサの電気抵抗の変化を引き起こす、センサ。
【請求項2】
前記非酸化物半導体が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記非酸化物半導体が、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、好ましくは約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項1又は請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記非酸化物半導体が、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択され、好ましくは元素半導体である、請求項1から4のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項6】
前記非酸化物半導体が、シリコン半導体である、請求項1から5のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記シリコン半導体が、真性シリコン半導体である、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記シリコン半導体が、フロートゾーンシリコン半導体である、請求項6又は請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記基板が、その一体部分として前記半導体部分を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記基板が、前記非酸化物半導体のウェハである、請求項9に記載のセンサ。
【請求項11】
前記バイオアナライト結合部位が、前記半導体部分に化学的に結合している、請求項1から10のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項12】
前記バイオアナライト結合部位が、(i)前記非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)前記バイオアナライト結合部位を含む前駆体を前記末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体層に化学的に結合される、請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
前記シラン化剤が、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される、請求項12に記載のセンサ。
【請求項14】
前記バイオアナライト結合部位が、生体分子又は分子インプリントポリマー上に存在する、請求項1から13のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項15】
前記バイオアナライト結合部位が、タンパク質、ペプチド、リポペプチド、タンパク質結合炭水化物及びタンパク質結合リガンドからなる群から選択される生体分子上に存在する、請求項1から13のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項16】
前記生体分子が捕捉タンパク質である、請求項14又は請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
前記捕捉タンパク質が、タンパク質結合足場、T細胞受容体、TCRの結合断片、可変リンパ球受容体、抗体及び/又は抗体の結合断片である、請求項16に記載のセンサ。
【請求項18】
前記タンパク質結合足場が、アドネクチン、アフィリン、アフィボディ、アフィマー分子、アフィチン、アルファボディ、アプタマー、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質系足場、アトリマー、アビマー、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)、フィノマー、阻害シスチンノット(ICK)足場、Kunitzドメインペプチド、モノボディ及び/又はナノフィチンからなる群から選択される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項19】
前記抗体の結合断片が、Fab、(Fab’)2、Fab’、一本鎖可変断片(scFv)、ジ及びトリscFv、単一ドメイン抗体(sdAb)、ダイアボディ、又は抗体の結合ドメインを含む融合タンパク質を含む、請求項17に記載のセンサ。
【請求項20】
前記バイオアナライト結合部位がインターロイキン-6(IL-6)又はC反応性タンパク質(CRP)に結合する、請求項1から19のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項21】
前記バイオアナライト結合部位がウイルスタンパク質に結合する、請求項1から19のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項22】
バイオアナライトを検出するための方法であって、
a)請求項1から21のいずれか一項に記載のセンサのセンサ素子を、バイオアナライトを含み得る物質と接触させる工程と、
b)前記センサの抵抗に対応する前記センサの電気化学パラメータを測定する工程と、
c)工程b)で測定された電気化学パラメータに基づいて前記センサ素子上の前記バイオアナライトの有無を検出する工程と
を含む方法。
【請求項23】
前記センサの電気化学パラメータを測定することが、(i)前記センサの両端間に電圧を印加すること、及び(ii)前記センサを通る電流フローを測定することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記バイオアナライトの有無を検出することが、工程b)で測定された前記電気化学パラメータを前記センサのそのパラメータの基準値と比較することを含む、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記バイオアナライトがインターロイキン-6(IL-6)又はC反応性タンパク質(CRP)である、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記バイオアナライトがウイルスタンパク質である、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記物質が試料溶液であり、任意に、前記試料溶液が体液を含む、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
バイオアナライトを検出するためのセンサを製造する方法であって、
半導体部分を含む基板を用意する工程であって、前記半導体部分が高抵抗率非酸化物半導体を含む、基板を用意する工程と、
互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極を前記基板上に作製する工程であって、前記基板の前記半導体部分が前記端子電極間に配置されて前記端子電極と電気的に接触し、前記端子電極間の導電路が前記半導体部分を貫通する、工程と、
前記半導体部分の表面にバイオアナライト結合部位を固定化し、それにより、(i)前記半導体部分及び(ii)前記バイオアナライト結合部位を含むセンサ素子を作製する工程と
を含む、方法。
【請求項29】
前記非酸化物半導体が、100オーム・cmよりも大きい抵抗率を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記非酸化物半導体が、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、好ましくは約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記センサが、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記非酸化物半導体が、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択され、好ましくは元素半導体である、請求項28から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記非酸化物半導体が、シリコン半導体である、請求項28から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記シリコン半導体が、真性シリコン半導体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記シリコン半導体が、フロートゾーンシリコン半導体である、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記基板が、その一体部分として前記半導体層を含む、請求項28から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記基板が、前記非酸化物半導体のウェハである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記バイオアナライト結合部位を固定化することが、前記バイオアナライト結合部位を前記半導体部分に化学的に結合させることを含む、請求項28から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記バイオアナライト結合部位を前記半導体層に化学的に結合させることが、(i)前記非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)前記結合部位を含む前駆体を前記末端官能基と反応させることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記シラン化剤が、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記結合部位を含む前記前駆体が生体分子又は分子インプリントポリマーである、請求項39又は請求項40に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関し、特に、流体中のバイオアナライトを検出するための導電率センサ及びそのようなセンサを用いてバイオアナライトを検出するための方法に関する。本発明は、主に、体液中の様々なバイオアナライトの検出に使用するために開発されたものであり、この例示的な用途を参照して以下に説明される。
【0002】
本発明の背景の以下の議論は、本発明の理解を容易にすることを意図している。ただし、当然のことながら、その議論は、言及された内容のいずれかが、本明細書の特許請求の範囲のいずれか1つの優先日に、オーストラリア又は他の国において公開された、又は公知の、又は共通の一般知識の一部であったことを肯定又は承認するものではない。
【背景技術】
【0003】
センサは、従来、組織及び/又は生体流体中の標的バイオマーカー(以下、バイオアナライト)のレベルをモニタリング/測定するために使用されている。1つの手法は、センサの構成要素が組織又は体液と直接接触し、感染、組織の損傷及び不快感を引き起こす可能性がある侵襲性センサを使用する。別の手法は、体液の試料を含む試料溶液中のバイオアナライトのレベルを測定する非侵襲的センサの使用に依存する。
【0004】
そのような用途のセンサは、光吸収及び電気化学的方法などの様々な検出技術に依存している。光吸収ベースのセンサは、体液中に存在し得る様々なバイオアナライトの弱い吸収バンドが密接に重なり合っていること、並びにそのようなアッセイの温度感受性のために、あまり正確ではない。
【0005】
一方で、電気化学センサは、より正確であるので、現在バイオセンシング分野を支配している。そのようなセンサは、関心対象のバイオアナライトとセンサに関連するセンサ素子との相互作用後に生成された電気信号を測定することによって動作し、生成された電気信号は、バイオアナライトの濃度に比例する。バイオアナライトとセンサとの相互作用は、電流(アンペロメトリックセンサ)、電荷蓄積又は電位(電位差センサ)、センサ素子の導電特性(導電率センサ)又はセンサ素子のインピーダンス(インピーダンスセンサ)の測定可能な変化を生じさせる。
【0006】
電気化学的形質導入を使用するアンペロメトリックセンサ及びポテンショメトリックセンサは、典型的には、作用電極、対電極(又は補助電極)及び参照電極を必要とする。参照電極は、既知の安定した電位を確立するために、生物学的認識要素及びアナライトの相互作用の場所から離れて維持される。作用電極は、相互作用が生じると変換成分として作用する一方で、対電極は電流を測定し、電解液の送達を促進して作用電極への電流伝達を可能にする。
【0007】
導電率センサの場合、センサ素子のアナライト感受性抵抗は、2つの電極間に電圧を印加し、電極間のアナライト感受性センサ素子を通る電流応答を測定することによって測定される。したがって、有利には、そのようなデバイスは基準電極を必要としない。更に、導電率センサは、低振幅の交流電圧で動作することができるので、電極上のファラデー反応を防止し、また、単純な動作原理のために小型化して様々な電子デバイスに組み込むことができる。したがって、導電率センサは、アンペロメトリックセンサやポテンショメトリックセンサと比較して特定の利点を提供するが、多くの導電率センサの感度は、センサ素子としてポリマーを使用することによって妨げられ、耐久性が低く、長期安定性が低いセンサをもたらす可能性がある。
【0008】
同時係属中の国際出願PCT/AU2020/051396号には、薄膜金属酸化物ベースのセンサ素子を備える導電率センサが開示されている。これらのデバイスは、体液中の様々なバイオアナライトを検出するときに優れた感度及び選択性を提供するが、デバイス構造が複雑であり、金属酸化物検出層を調製するために通常必要とされる薄膜製造技術の使用を回避することが望ましい。
【0009】
直接導電率センサの代替として、電界効果トランジスタに基づくセンサも開発されている。電界効果トランジスタは、ソース、ゲート及びドレインの3つの端子を有するデバイスである。バイオアナライトとセンサ素子(ゲート)との相互作用は、ソースとドレインとの間の導電性を変化させる電界効果をもたらす。
【0010】
例えば、米国特許出願公開第2010/2016256号明細書には、基板と、基板上のソース電極と、基板上のドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間の基板の表面上の少なくとも1つの官能化金属酸化物ナノベルトとを含むバイオセンサが記載されており、官能化ナノベルトは、検出される生物学的アナライトと結合するための1つ以上の検出分子に結合した化学官能化表面を有し、その結果、ナノベルト表面に結合した1つ以上の検出分子にアナライトが結合することによって電界ゲート効果が生じる。アナライトの結合によってナノベルト(ゲート)の電界効果が変更され、その結果、ソースとドレインとの間の経路の導電率が変更されて、導電率の変化をモニタリングすることができるようになる。
【0011】
この種のデバイスは、一般に、いくつかの欠点を抱えている。第1に、電界効果トランジスタは、典型的には、オン及びオフして、非線形応答を有するデバイスである。これらのデバイスでは、典型的には線形応答の小さな領域はその後プラトーになるため、抵抗は直線的に変化せず、これは、このデバイスが広範囲の条件にわたって使用することが困難であることを意味する。第2に、当業者には当然のことながら、そのようなデバイスが説明されるように動作するためには、ソースとドレインの間の導電路とゲートバイアス(米国特許出願公開第2010/2016256号明細書におけるナノベルト)との間に絶縁(誘電)層が存在することが必要である。したがって、この種のデバイスは、異なる構造要素の数のために製造が比較的複雑であり、ひいては工業的規模で製造するのが困難であるという欠点を有する。第3に、多くの電界効果センサは、薄膜又は他の微細構造構成の官能化金属酸化物をセンサ素子として使用する。繰り返しになるが、そのようなデバイス構造を製造するために必要とされる微細加工技術の複雑さを回避することが望ましいであろう。
【0012】
本発明は、バイオアナライトの検出に使用するためのセンサ及びバイオアナライトの検出方法を提供しようとするものであり、従来技術の欠点の少なくとも一部を克服又は実質的に改善するか、又は少なくとも有用な代替物を提供するであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際出願PCT/AU2020/051396号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/2016256号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、バイオアナライトを検出するためのセンサであって、基板と、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間にあり、一対の端子電極と電気的に接触しているセンサ素子とを備え、センサ素子が、(i)基板の半導体部分であって、高抵抗率非酸化物半導体を含み、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のバイオアナライト結合部位とを含み、バイオアナライト結合部位へのバイオアナライトの結合がセンサの電気抵抗の変化を引き起こす、センサが提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、100オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、又は約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、センサは、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は元素半導体である。
【0018】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体はシリコン半導体である。シリコン半導体は、真性シリコン半導体であってもよい。シリコン半導体は、フロートゾーン型のシリコン半導体であってもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、基板は、その一体部分として半導体部分を含む。基板は、非酸化物半導体のウェハであってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、例えば、シラン化剤の残基であり得る有機リンカーによって、半導体部分に化学的に結合している。バイオアナライト結合部位は、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)バイオアナライト結合部位を含む前駆体を末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体層に化学的に結合され得る。シラン化剤は、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、生体分子又は分子インプリントポリマー上に存在する。
【0022】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、タンパク質、ペプチド、リポペプチド、タンパク質結合炭水化物及びタンパク質結合リガンドからなる群から選択される生体分子上に存在する。
【0023】
いくつかの実施形態では、生体分子は捕捉タンパク質である。捕捉タンパク質は、タンパク質結合足場、T細胞受容体、TCRの結合断片、可変リンパ球受容体、抗体及び/又は抗体の結合断片から選択され得る。
【0024】
好適なタンパク質結合足場は、アドネクチン、アフィリン、アフィボディ、アフィマー分子、アフィチン、アルファボディ、アプタマー、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質系足場、アトリマー、アビマー、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)、フィノマー、阻害シスチンノット(ICK)足場、Kunitzドメインペプチド、モノボディ及び/又はナノフィチンからなる群から選択され得る。
【0025】
抗体の結合断片は、Fab、(Fab’)2、Fab’、一本鎖可変断片(scFv)、ジ及びトリscFv、単一ドメイン抗体(sdAb)、ダイアボディ、又は抗体の結合ドメインを含む融合タンパク質を含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、インターロイキン-6(IL-6)又はC反応性タンパク質(CRP)に結合する。
【0027】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位はウイルスタンパク質に結合する。
【0028】
センサは、好適には導電率センサである。したがって、センサは、端子電極間に電圧を印加し、センサの導電路を通る電流フローを測定するための装置を備えることができる。この装置は、好適にはポテンショスタットであってもよい。したがって、実施形態では、センサは電界効果トランジスタではない。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、バイオアナライトを検出するための方法であって、a)第1の態様のいずれかの実施形態によるセンサのセンサ素子を、バイオアナライトを含み得る物質と接触させる工程と、b)センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータを測定する工程と、c)工程b)で測定された電気化学パラメータに基づいてセンサ素子上のバイオアナライトの有無を検出する工程とを含む方法が提供される。
【0030】
いくつかの実施形態では、センサの電気化学パラメータを測定することは、(i)センサの両端間に電圧を印加すること、及び(ii)センサを通る電流フローを測定することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、バイオアナライトの有無を検出することは、工程b)で測定された電気化学パラメータをセンサのそのパラメータの基準値と比較することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、バイオアナライトは、インターロイキン-6(IL-6)又はC反応性タンパク質(CRP)である。
【0033】
いくつかの実施形態では、バイオアナライトはウイルスタンパク質である。
【0034】
いくつかの実施形態では、物質は試料溶液であり、任意選択で試料溶液は体液を含む。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、バイオアナライトを検出するためのセンサを製造する方法であって、半導体部分を含む基板を用意する工程であって、半導体部分が高抵抗率非酸化物半導体を含む、基板を用意する工程と、互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極を基板上に作製する工程であって、基板の半導体部分が端子電極間に配置されて端子電極と電気的に接触し、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通する、工程と、半導体部分の表面にバイオアナライト結合部位を固定化し、それにより、(i)半導体部分及び(ii)バイオアナライト結合部位を含むセンサ素子を作製する工程とを含む方法が提供される。
【0036】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、100オーム・cmを超える抵抗率を有する。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、約500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、又は約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、センサは、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する。
【0038】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は元素半導体である。
【0039】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体はシリコン半導体である。シリコン半導体は、真性シリコン半導体であってもよい。シリコン半導体は、フロートゾーン型のシリコン半導体であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、基板は、その一体部分として半導体層を含む。基板は、非酸化物半導体のウェハであってもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位を固定化することは、バイオアナライト結合部位を半導体部分に化学的に結合させることを含む。バイオアナライト結合部位を半導体層に化学的に結合させることは、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)結合部位を含む前駆体を末端官能基と反応させることを含み得る。シラン化剤は、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)からなる群から選択され得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、結合部位を含む前駆体は生体分子又は分子インプリントポリマーである。
【0043】
本発明の他の態様も開示される。
【0044】
本発明の範囲内にあり得る他の形態にもかかわらず、本発明の好ましい実施形態は、ここでは添付の図面を参照して単なる例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明の実施形態による、バイオアナライトを検出するための導電率センサの概略図を示し、センサは、高抵抗率非酸化物半導体を含むセンサ基板の半導体部分を含むセンサ素子を有し、バイオアナライト結合部位が半導体部分の表面に固定化されている。
図2図2は、図1に示す導電率センサを製造するための方法の概略図を示す。
図3図3は、本発明の実施形態による、高抵抗率非酸化物半導体を含む半導体部分の表面上にバイオアナライト結合部位を固定化するための方法の概略図を示す。
図4図4は、本発明の一実施形態による、固定化された抗IL-6抗体で官能化された導電率センサ上のIL-6の濃度の関数としての抵抗の変化(%)を反映するプロットを示す。
図5図5は、本発明の別の実施形態による、固定化抗CRP抗体で官能化された導電率センサ上のCRPの濃度の関数としての抵抗の変化(%)を反映するプロットを示す。
図6図6は、本発明の別の実施形態による、固定化プラスチック抗体(MIP)で官能化された導電率センサ上のSARS-COV-2ウイルスタンパク質の濃度(mg/L)の関数としての抵抗の変化(%)を反映するプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、バイオアナライトを検出するための導電率センサに関する。センサは、基板と、基板上に相互に離間して対向する関係で配置された一対の端子電極と、一対の端子電極の間に配置され、一対の端子電極と電気的に接触するセンサ素子とを備える。センサ素子は、(i)高抵抗率非酸化物半導体を含む基板の半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のバイオアナライト結合部位とを含む。端子電極間の電気的な導電路は、半導体部分を貫通している。使用時に、バイオアナライト結合部位へのバイオアナライトの結合は、センサの電気抵抗の変化を引き起こす。抵抗の増加は、センサの両端間に電圧が印加されたときの電流応答を測定することによって確認することができ、したがって、バイオアナライトの有無及び/又は濃度を検出することができる。
【0047】
したがって、本発明のセンサは、内科的疾患の予後診断/診断のために、流体、例えば、ヒトの唾液、汗、尿、涙、血液、血漿、間質液又は呼吸器のエアロゾル/液滴などの体液中の様々なバイオアナライトを検出するための導電率感知技術を使用する。以下でより詳細に説明するように、導電率センサは、単純で比較的容易に製造することができるデバイス構造を有し、これは、特殊な基板を必要とするか、又はその精度を制限する検出技術を採用するかのいずれかである従来の非侵襲的センサに対して費用効果の高い代替手段を提供する。
【0048】
特に、センサは、国際出願PCT/AU2020/051396号に開示されているように、導電率層に関して薄膜金属酸化物層に依存せず、代わりに、真性シリコン半導体などの高抵抗率非酸化物半導体をセンサ素子に使用する。驚くべきことに、本発明者らは、様々なバイオアナライト結合部位をそのような半導体材料上に直接固定することができ、それにより、様々な相補的なバイオアナライトに対して優れた感度及び選択性を有するセンサ素子を得ることができることを見出した。したがって、有利には、反応性スパッタリングなどの技術によって基板に金属酸化物層を付着させる必要はない。代わりに、センサ素子の半導体部分は、基板自体の一体部分であってもよく、これにより、非常に単純でありながら非常に効果的なデバイス構造が得られる。
【0049】
本発明者らは、以下でより詳細に説明する導電率センサがCMOS回路との互換性を有しており、それゆえ、可撓性/ウェアラブル電子機器に容易に組み込んで、体液を介して標的化されたバイオアナライトのレベルを侵襲的な手順を必要とすることなく連続的にモニタリングするために使用することができる携帯型のパーソナライズされた再使用可能なセンサを提供することができると考えている。これらのバイオアナライトは、個体の状態及び健康を示すバイオマーカーとして機能することができる。
【0050】
以下は、体液中の様々なバイオアナライト(例えば、バイオマーカー)のレベルを検出するための非侵襲的導電率センサ及びその適用方法の詳細な説明である。以下の説明では、異なる実施形態における同様の又は同じ参照番号は、同じ又は同様の特徴を示すことに留意されたい。
【0051】
センサ
最も単純な形態では、図1の概略図に示すように、センサ100は、基板102と、基板上に互いに離間して対向する関係で配置された一対の端子電極104、106と、端子電極104、106の間にあり、端子電極と電気的に接触するセンサ素子108とを備える。センサ素子108は、高抵抗率非酸化物半導体112を含む半導体部分110と、半導体部分110の表面116上のバイオアナライト結合部位114とを含む。端子電極104と端子電極106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては非酸化物半導体112を貫通している。
【0052】
図1に示す実施形態では、基板102は、基板の一体部分として半導体部分110を含み、したがって、基板の残りの部分は、同じ高抵抗率非酸化物半導体112から構成される。端子104と106との間の導電経路120は、使用時にセンサの両端間に電圧が印加されたときに確立される電界線によって基板の表面層(半導体部分110に対応する表面層)に実質的に限定される。したがって、有利には、センサ基板上に個別の薄膜半導体層を製造する必要がない。したがって、基板102は、例えば、高抵抗率非酸化物半導体112のウェハを使用するときに与えられるような任意の好都合な厚さであってもよい。
【0053】
あるいは、センサ素子108は、基板102上の、少なくとも端子電極104と106との間の個別の表面層として、ただし任意選択で基板表面全体にわたって延在する個別の表面層として形成された半導体部分110を含むことができる。そのような実施形態では、基板102は、半導体層110を受け入れて支持することができる任意の適切な材料から構成されてもよい。
【0054】
使用時に、センサ100は、バイオアナライト124を含有する(又は含有し得る)試料溶液122などの物質と接触する。バイオアナライトは、それが存在する場合、バイオアナライト結合部位114に結合し、それによってセンサの電気抵抗の変化を引き起こす。電気抵抗の変化は、バイオアナライトが結合するときに、半導体への電子の供与又は半導体からの電子の受容による電荷移動によって起こる。センサの両端間に、すなわち端子電極104と106との間に電圧が印加されると、その結果として導電経路120に沿って端子電極間を流れる電流を測定することができ、したがってセンサの電気抵抗を求めることができる。この抵抗をセンサの所定の基準抵抗と比較することにより、試料溶液122中のバイオアナライトの有無を検出することができる。
【0055】
当業者には当然のことながら、センサ素子108は、典型的には複数のバイオアナライト結合部位114を含み、バイオアナライト124に結合するそれらのバイオアナライト結合部位の割合は、試料溶液122中のバイオアナライトの濃度に依存し得る。導電経路120の抵抗は、ふさがった結合部位114の割合に比例するので、流体116中のバイオアナライト124の濃度は、例えば、較正曲線で決定された抵抗を比較することによって求めることができる。
【0056】
以下、導電率センサの各構成要素について説明する。
【0057】
基板
本発明の最も広い形態では、基板は総じて特に限定されず、例えば、半導体、ポリマー、ガラス又はセラミックからなる群から選択される材料から製造されてもよい。そのような実施形態では、センサ素子の半導体部分は、基板の支持層上に支持されてもよく、任意選択でセンサ素子によって覆われた基板領域内でのみ、基板の支持層上に支持されてもよい。ただし、いくつかの好ましい実施形態では、基板は高抵抗率非酸化物半導体分を含むか、又はそれからなる。したがって、図1に見られるように、センサ素子の半導体部分は、基板の一体部分として、デバイス構造を単純化してもよい。いくつかの実施形態では、基板は、高抵抗率非酸化物半導体のウェハを含む。
【0058】
電極
センサは、互いに離間して対向する関係で基板上に配置された一対の端子電極を備える。したがって、センサのセンサ素子は、離間した端子電極間の検出領域に配置される。当業者には明らかなように、端子電極は導電性であり、センサの両端間に電圧を印加するための装置、例えば、ポテンショスタットに電気的に接続するように構成される。
【0059】
図1に示すように、端子電極は、基板表面の上に個別の構造として形成され、基礎となる高抵抗率非酸化物半導体を含む半導体部分と電気的に接触している。ただし、他の構成も想定される。例えば、端子電極は基板内に陥凹していてもよく、センサ素子の半導体部分は基板表面に沿って端子電極間に水平に横たわっていてもよい。
【0060】
端子電極は、導電性金属又は合金、好ましくは化学的に不活性な金属又は合金を含んでいてもよい。金は、好適な金属の一例である。
【0061】
いくつかの実施形態では、微細加工技術によって基板上に端子電極が形成される。電子ビームリソグラフィを使用して、半導体層上に金薄膜(100nmのクロム接着層を有する250nm)を蒸着させることによって、金端子電極を形成することができる。次いで、堆積した状態の金薄膜は、一対の端子電極を画定するために標準的なフォトリソグラフィ及びウェットエッチング技術を使用してパターニングされる。
【0062】
端子電極は、一般に、導電率センサに適した任意の構成で互いに対して寸法決め及び配置されてもよい。いくつかの実施形態では、端子電極は、1マイクロメートルから100マイクロメートルの範囲の距離だけ離間している。いくつかの実施形態では、端子電極は、200から4000マイクロメートルの範囲の長さ(すなわち、電極間ギャップ距離に直交する方向の長さ)を有する。本発明者らは、40マイクロメートル離間した、長さ4000マイクロメートルの2つの平行電極を使用して良好な結果を得て、16×10-8の面積を有する検出領域を実現した。
【0063】
センサ素子
センサは、(i)高抵抗率非酸化物半導体を含むか、又はそれからなる基板の半導体部分と、(ii)半導体部分の表面上のバイオアナライト結合部位とを含むセンサ素子を備える。
【0064】
センサ素子は、端子電極間に位置し、両端子電極と電気的に接触している。したがって、デバイスは、端子電極間の電気導電路が半導体部分を貫通し、ひいてはその半導体部分の高抵抗率非酸化物半導体を貫通するように構成される。
【0065】
いくつかの実施形態では、図1に見られるように、半導体部分は、基板の一体部分、具体的には、端子電極間の検出領域を横切って延在する基板の領域又は表面部分である。
【0066】
他の実施形態では、半導体部分は、下地となる基板の支持層上に支持された基板の別個の表面層である。半導体層は、少なくとも端子電極間の検出領域内に位置するが、任意選択で基板表面全体にわたって延在していてもよい。そのような実施形態では、端子電極は、基板の別個の半導体層の表面上に、例えば、金属堆積によって形成されてもよい。あるいは、端子電極は支持層上に形成されてもよく、基板の半導体部分は、続いて、少なくとも端子電極間の検出領域において基板の支持層上に形成される。
【0067】
基板の半導体部分は、高抵抗率非酸化物半導体を含み、典型的には高抵抗率非酸化物半導体からなる。本明細書で使用される場合、非酸化物半導体は、元素半導体材料及び化合物半導体材料の両方を含むが、金属酸化物半導体は含まない。
【0068】
ドープされたシリコンなどの多くの非酸化物半導体を含む電気化学デバイスに使用される一般的な半導体は、導電率センサ素子で使用するには導電性が高すぎる。バイオアナライトが表面に結合することによって引き起こされるそのような半導体の電子特性へのいかなる影響も、十分な感度を得るには小さすぎる。このため、従来の導電率センサは、典型的には、高抵抗率ポリマー又は金属酸化物材料の個別の導電率検出層で構成されている。
【0069】
しかしながら、驚くべきことに、次に、導電率センサ素子に高抵抗率非酸化物半導体を使用すると、良好な導電率センサ性能が得られ得ることが分かった。高抵抗率を有する非酸化物半導体を選択することにより、センサは、センサ素子表面に結合したときにバイオアナライトの検出に適した範囲に収まる全体的な抵抗を有する。
【0070】
いくつかの実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体は、100オーム・cm超、又は200オーム・cm超、又は500オーム・cm超、又は1000オーム・cm超の抵抗率を有する。対照的に、電気化学的検出デバイスに一般的に使用されるドープされたシリコン半導体は、一般に、約1から10オーム・cmの抵抗率を有する。
【0071】
いくつかの実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体は、500オーム・cmから約50,000オーム・cmの範囲、例えば、約1000オーム・cmから約10000オーム・cmの範囲の抵抗率を有する。本発明者らは、1000~2000オーム・cm及び5000~10000オーム・cmの抵抗率を有する非酸化物半導体で良好な結果を得た。
【0072】
高抵抗率非酸化物半導体は、端子電極間で(且つ導電路に沿って)測定されるときに、センサが適切な電気抵抗を有するように選択されてもよい。いくつかの実施形態では、センサは、例えば、バイオアナライト結合部位にバイオアナライトが結合していない場合、約10キロオームから約10000キロオームの範囲の電気抵抗を有する。本発明者らは、低抵抗センサを使用すると、バイオアナライトに対する非常に低い感度が得られることを見出した。
【0073】
いくつかの実施形態では、非酸化物半導体は、元素半導体及び化合物半導体からなる群から選択される。
【0074】
好適な元素半導体としては、シリコン及びゲルマニウム半導体、好ましくはシリコン半導体が挙げられる。高純度の真性(ドープされていない)シリコン半導体は、それらの抵抗特性のために特に適していることが分かっている。真性シリコン半導体は、フロートゾーン精製技術によって調製された高純度シリコンであるフロートゾーンシリコンであってもよい。この技術では、溶融領域はシリコンのロッドに沿ってゆっくりと通過し、不純物は再結晶シリコンに再び組み込まれずに溶融領域に優先的に残る。対照的に、ほとんどのシリコン半導体はチョクラルスキー法によって製造され、それ故に高度の不純物を組み込んで、導電率センサ素子で使用するにはシリコンの導電性を高くしすぎる。適切なフロートゾーンシリコンは、典型的な直径(例えば、3インチ及び4インチの直径)の<100>配向シリコンウェハである。
【0075】
真性シリコン半導体が特に適していることが分かっているが、ドーピングレベルが十分に低く、半導体が高抵抗に維持されているのであるならば、非酸化物半導体がドープ元素半導体であってもよく、これを排除するものではない。
【0076】
適切な化合物半導体としては、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)及びインジウムアンチモン(InSb)などの二元半導体、ガリウムアルミニウムヒ素(GaAlAs)などの三元半導体などが挙げられる。
【0077】
既に述べたように、高抵抗率非酸化物半導体を含む半導体部分は、基板の一体部分であってもよく、すなわち、基板は、非酸化物半導体を含むか、又は非酸化物半導体からなってもよい。例えば、基板は、高抵抗率真性シリコン半導体のウェハなどの非酸化物半導体のウェハであってもよい。
【0078】
半導体部分の表面でナノ構造化する必要はなく、したがって、いくつかの実施形態では、高抵抗率非酸化物半導体はナノ構造化されず、すなわち、ばらばらのナノ粒子(寸法100nm未満)又はナノ構造の表面特徴(寸法100nm未満)を有する形態としては存在しない。
【0079】
センサ素子は、検出部分の表面上にバイオアナライト結合部位を含む。いくつかの実施形態では、センサ素子は、複数のそのようなバイオアナライト結合部位を含む。
【0080】
バイオアナライト結合部位は、物理吸収又は化学結合のいずれかによって基板の検出部分に固定化されてもよい。好ましい形態では、バイオアナライト結合部位は半導体部分の表面に化学的に結合している。いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、有機リンカーによって半導体部分につながれ、有機リンカーは、半導体部分の表面に共有結合している。共有結合は、任意の適切な反応、例えば、シラン化反応によって生じ得る。有機リンカーの長さは、バイオアナライト結合部位を半導体部分の表面から適切に離間させるように選択してもよい。バイオアナライトのバイオアナライト結合部位への結合が強いセンサ応答を生じさせることを確実にするために、典型的には、より短いリンカーが好ましい。しかしながら、いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位がバイオアナライトを受け入れて結合することを可能にするために、ある程度の間隔が好ましい。したがって、有機リンカーは、バイオアナライト結合部位(又はバイオアナライト結合部位を含有する生体分子)と、表面に共有結合している有機リンカーの末端官能基との間の連結基に少なくとも3個又は少なくとも4個、例えば、5個又はそれ以上の原子を含み得る。
【0081】
シリコン半導体を含む非酸化物半導体は、典型的には、シラン化剤(アルコキシシランなどのシラン化基を含む表面改質剤)などの表面改質剤との共有結合形成反応の影響を受けやすいヒドロキシ基などの表面官能基を含む。したがって、バイオアナライト結合部位は、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)バイオアナライト結合部位を含む前駆体を末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体部分に化学的に結合され得る。このプロセスの結果として、結合部位は、シラン化剤の残基である有機リンカーによって半導体部分の表面に固定される。
【0082】
適切なシラン化剤としては、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)などが挙げられる。例えば、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)などのエポキシ官能化シラン化剤が使用される場合、非酸化物半導体のシラン化は、ペンダントエポキシ基でその表面を官能化する。したがって、バイオアナライト結合部位を含む前駆体分子は、前駆体分子中に存在するアミンなどのエポキシ反応性官能基の抱合反応によってこの表面に固定化され得る。
【0083】
別の一連の実施形態では、バイオアナライト結合部位は、シラン化基などの表面反応性官能基で予め官能化された生体分子又は他の実体上に最初に存在する。したがって、バイオアナライト結合部位は、共有結合形成を可能にするのに適した条件、ひいては表面固定化を可能にするのに適した条件下で、予め官能化された生体分子(又は他の実体)を非酸化物半導体と接触させることによって、半導体部分に化学的に結合され得る。
【0084】
センサ素子の半導体部分は、非酸化物半導体上に酸化物表面層を含んでいてもよく、酸化物層は、表面改質剤との共有結合形成反応を受けやすい表面官能基を含んでいてもよい。そのような不動態化層は一般に非常に薄く、例えば、シリコン半導体上の天然酸化ケイ素層では約1nmであり、その結果、バイオアナライトのバイオアナライト結合への結合は、使用中にその下の高抵抗率非酸化物半導体の抵抗を変化させ、その層を通る電流のトンネリングを可能にする。したがって、半導体部分の表面における非酸化物半導体上の任意の酸化物表面層は、厚さが10nm未満であってもよい。
【0085】
バイオアナライト結合部位
センサのセンサ素子は、半導体部分の表面上に少なくとも1つのバイオアナライト結合部位、典型的には複数のバイオアナライト結合部位を含む。バイオアナライト結合部位は、好適には、半導体部分上に固定化された生体分子又は非生物学的実体上に位置し得る。本明細書で既に説明したように、結合部位は、物理吸収又は化学結合のいずれかによって半導体部分に固定化され得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、半導体部分に固定された天然又は合成生体分子上に存在する。広範囲の生体分子が、生物学的試料からの所望のバイオアナライトの選択的結合のための結合部位として利用され得る。例えば、そのような生体分子としては、タンパク質、ペプチド、リポペプチド、タンパク質結合炭水化物又はタンパク質結合リガンドを挙げることができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、生体分子は捕捉タンパク質である。好適には、捕捉タンパク質は、タンパク質結合足場、T細胞受容体、TCRの結合断片、可変リンパ球受容体、抗体及び/又は抗体の結合断片である。
【0088】
タンパク質結合足場は、タンパク質を含む様々なバイオアナライトと結合するための実現可能な分子として浮上してきている。タンパク質結合足場は、典型的には、結合ドメインの相対的な配置を変更することなく、指定された結合領域内のアミノ酸の修飾に耐えることができる安定なタンパク質構造(足場)を含む。これらのタンパク質結合足場としては(限定するものではないが)、アドネクチン、アフィリン(ナノフィチン)、アフィボディ、アフィマー分子、アフィチン、アルファボディ、アプタマー、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質系足場、アビマー、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)、フィノマー、阻害剤シスチンノット(ICK)足場、Kunitzドメインペプチド、モノボディ(AdNectins(商標))及びナノフィチンが挙げられる。
【0089】
アフィリンは、約20kDaの人工的に作製されたタンパク質である。それらは、8つの表面に露出した操作可能なアミノ酸を有する、ヒトユビキチン及び脊椎動物ガンマ-Bクリスタリンに構造的に関連する足場を含む。アフィリンは、標的バイオアナライトに特異的に結合するように設計することができ、部位特異的突然変異誘発及びファージディスプレイライブラリーなどの技術を使用して、多種多様な分子に結合するように特異的に適合させることができる。
【0090】
アフィボディは、IgGアイソタイプ抗体のZドメインのタンパク質足場を含む約6kDaのタンパク質であり、その2つのアルファヘリックスの結合ドメインに位置する13個のアミノ酸残基のうちの1つ又は複数に対する修飾を有する。
【0091】
アフィマー分子は、シスタチンのシステインプロテアーゼ阻害剤ファミリーに由来するタンパク質足場を利用する約12から14kDaのタンパク質である。アフィマー分子は、標的特異的結合に適合させることができるN末端配列に加えて、2つのペプチドループ領域を含む。結合部位に1010のアミノ酸の組み合わせを有するアフィマー分子は、ファージディスプレイライブラリー及び適切な技術を使用して生成することができる。
【0092】
アフィンは66個のアミノ酸残基(約7kDa)からなるタンパク質であり、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)に見出されるDNA結合タンパク質Sac7dに由来するタンパク質足場を使用する。それらは、原核細胞培養物からインビトロで容易に産生され、3×1012を超える構造変異体を産生するように変異させることができる14個の結合アミノ酸残基を含む。表面プラズモン共鳴などのスクリーニング技術を使用して、これらの分子の特異的結合を同定することができる。
【0093】
アルファボディは、大部分の高分子とは異なり、(固定化されない場合)細胞膜を貫通することができ、したがって細胞内及び細胞外分子に結合することができる約10kDaの分子である。アルファボディの足場は、天然構造に類似していない3つのアルファ-ヘリックス(A、B及びC)を有するコンピューターで設計されたコイルドコイル構造に基づいている。A及びCアルファヘリックス上のアミノ酸は、特異的抗原を標的化するように修飾することができる。
【0094】
タンパク質へ結合するアプタマーとしては、特定の標的分子への結合についてスクリーニングすることができる様々な核酸(DNA、RNA及びXNA)及びペプチドが挙げられる。核酸アプタマーのデータベースは、インビトロで同定されたDNAアプタマーの選択を可能にする。ペプチドアプタマーは、一般に、安定なタンパク質足場フレーム内のループ構造(「フレーム上のループ」)に埋め込まれた短いアミノ酸配列からなる。典型的には、5から20残基のペプチドループが、標的分子への選択的結合の可変性の原因である。コンビナトリアルライブラリー及び酵母-2ハイブリッドスクリーニングなどの技術を使用して、ペプチドアプタマーを生成してスクリーニングすることができる。タンパク質アプタマーの生成及びスクリーニングのための他の技術は、文献[16]に記載されている。
【0095】
アンチカリンタンパク質は、リポカリンに由来するタンパク質結合分子である。典型的には、アンチカリンは抗体よりも小さな分子に結合する。アンチカリンをスクリーニング及び開発する方法は、文献に記載されている。
【0096】
アルマジロリピートタンパク質ベースの足場は、それぞれ3つのαヘリックスで構成される反復単位のスーパーヘリックスに形成された、約42個のアミノ酸からなるタンデムアルマジロリピートで構成されるアルマジロドメインを特徴とする。保存された結合ドメイン内の残基の修飾は、標的特異的結合剤の選択に使用することができる様々なコンビナトリアルライブラリーの調製を可能にする。
【0097】
アビマー(アビディティー多量体、マキシボディ又は低密度リポタンパク質受容体(LDLR)ドメインAとしても知られている)は、システインに富む細胞表面受容体タンパク質の範囲のAドメインに基づく少なくとも2つの連結された30から35アミノ酸長のペプチドを含む。Aドメインの修飾は、同一の標的上の、又は複数の標的に跨った様々なエピトープへの指向性結合を可能にし、連結されたペプチドの数によって、アビマー1個あたりの可能な標的の数が決まる。Creative Biolabsのライブラリーなどの市販のライブラリーを含む様々なアビマーファージディスプレイライブラリーが当技術分野で公知である。
【0098】
設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)は、アンキリンタンパク質に由来する操作された結合タンパク質である。DARPinをスクリーニング及び同定するための方法は、文献に記載されている。
【0099】
阻害剤シスチンノット(ICK)足場は、高い配列可変性を有する一連のループを接続する3つのジスルフィド架橋を含む安定した三次元構造を形成するミニタンパク質(30から50アミノ酸残基長)のファミリーである。阻害剤シスチンノットには、ノッチン、シクロチド及び成長因子システイン-ノットという3つのファミリーメンバーが含まれる。当技術分野では、配列、構造及び機能などの既知のノッチン及びシクロチドの特定の特性を開示するデータベース、例えば、KNOTTINデータベース(www.dsimb.inserm.fr/KNOTTIN/)が公知である。更に、ICKを作製し、結合についてスクリーニングする方法が文献に記載されている。
【0100】
モノボディ(商標名AdNectinsとしても知られる)は、多様で操作可能な可変基を有するFN3(フィブロネクチンIII型ドメイン)足場を利用する。アドネクチンは、抗体可変ドメイン及びベータシートループを抗体と共有する。モノボディの結合親和性は、mRNAディスプレイ、ファージディスプレイ及び酵母ディスプレイなどのインビトロ進化法によって多様化及びカスタマイズすることができる。モノボディをスクリーニング及び産生させる方法は、文献に記載されている。
【0101】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位を含む生体分子は、抗体又はその結合断片である。抗体は、単一の個体において潜在的に1011から1012個ものユニークな分子を有する典型的な多様性を有するタンパク質結合分子であり、個体間の遺伝的差異によって、さらなる多様性が可能になる。インビボでの抗体の多様性は、V(D)J連結における一連の遺伝子のランダムな組換えによって誘導される。
【0102】
抗体の結合は、主に、相補性決定領域(CDR)1、2及び3と呼ばれる重鎖及び軽鎖の3つの超可変領域によって決定される。したがって、各成熟抗体は6つのCDR(可変重(VH)鎖CDR1、CDR2及びCDR3並びに可変軽(VL)鎖CDR1、CR2及びCDR3)を有する。これらの超可変領域は三次元抗原結合ポケットを形成し、抗体の結合特異性はCDR、主にCDR3の特異的アミノ酸配列によって決まる。
【0103】
特定のバイオアナライトに対する抗体は、商業的に入手することができ、又は当技術分野で公知の方法によって作製することができる。例えば、特定のバイオアナライトに対する抗体は、文献(例えば、Howard and Kaser,Making and Using Antibodies:A Practical Handbook,CRC Press,2007)に一般的に開示されている方法を使用して調製することができる。
【0104】
対象内で産生された抗体の特異性、結合活性及び親和性は、親和性成熟などのインビトロプロセスによって改変することができる。したがって、インビボ由来抗体を更に改変して、別の抗体であるが系統的に関連する抗体を作製することができる。その結果、「抗体」という用語は、インビボ由来の抗体と、インビボで産生された抗体と比較してユニークな配列を有するようにCDR結合部位を改変する変異のプロセスを経たインビトロ由来の分子とを包含する。
【0105】
抗体という用語はまた、ラクダ科動物、サメ類及び顎魚などの種から産生される非在来型抗体を含む。したがって、抗体という用語は、ラクダ抗体、IgNAR及び可変リンパ球受容体(VLR)などの重鎖抗体を含む。更に、これらは、それらの結合部分(例えば、VNAR-IgNARの単一結合部分)に断片化され得るか、又は融合タンパク質に組み換え技術によって組み込まれ得る。そのような非在来型抗体を作製及び適合させるための方法は文献に記載されている。
【0106】
いくつかの実施形態では、生体分子は抗体結合断片である。抗体結合断片は、抗体に由来し得るか、又は抗体若しくは抗体断片のCDRと同一の配列を用いて組み換え技術によって作製され得る。実際、これらのCDRは、親和性成熟抗体に由来し得、したがって、インビボ由来抗体と同一ではない場合がある。
【0107】
抗体は、4本の鎖(2本の重鎖及び2本の軽鎖)から構成され、Fc(結晶化可能部分)ドメインとFab(抗体部分)ドメインとに分離することができる。抗体のFc部分は、Fc受容体及び補体系と相互作用する。したがって、Fc部分は、抗体の免疫機能にとって重要である。また一方、Fab部分は抗体の結合領域を含み、所望のエピトープに対する抗体の特異性にとって重要である。
【0108】
したがって、いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位を含有する生体分子は抗体のFab断片である。Fab断片は、個々のFab断片(すなわち、抗体断片は、連結ジスルフィド架橋が外れると生じる)又はジスルフィド架橋を介して連結された抗体の2つのFab断片を含むF(ab’)2断片であり得る。これらの断片は、典型的には、ペプシンなどの消化酵素を使用して抗体を断片化することによって生じる。方法は文献に記載されている。
【0109】
抗体の各Fab断片は合計6つのCDRを有し、VH鎖及びVL鎖はそれぞれ3つのCDRを含む(4つのフレームワーク領域からなるフレームワーク内に)。Fab断片の定常領域を取り除いて、抗体のVH及びVL領域のみを残すことができる。個々のVH鎖及びVL鎖(それぞれ3つのCDRのみを含む)は、高い親和性で特異的に結合することが分かっている。一般に、個々の結合領域は、単一抗体ドメイン(sdAb)として知られている。あるいは、VH鎖及びVL鎖をリンカーを介して連結して、一本鎖可変断片として知られる(scFv-ダイアボディとしても知られる)融合タンパク質を形成することができる。Fabとは異なり、scFvは抗体から断片化されるのではなく、むしろ通常は抗体のCDR及びフレームワーク領域に基づいて組み換え技術によって形成される。更に、sdAbを組み換え技術によって産生させて、より大きな融合タンパク質の結合成分を形成することもでき、これはまた、結合領域を安定化し、センサ素子又は中間層への固定を改善又は促進し、例えば、結合領域の可撓性を提供するか又はバイオアナライト結合部位の長さを最適化することによって結合を改善し、それによってバイオアナライトの抗原性領域へのアクセスを可能にするように作用し得る部分を含み得る。その結果、いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位を含む生体分子は、scFv又はsdAbであるか、それらを含む。scFvは、互いに連結してジscFv又はトリscFvなどの多価scFvを形成する複数のVH鎖及びVL鎖を含み得る。
【0110】
特定のバイオアナライトに対する抗体及び抗体の断片、又は抗体由来配列を含有する融合タンパク質は、商業的に入手することができ、又は先に述べたような当技術分野で公知の方法によって作製することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位を含む生体分子は、タンパク質と相互作用し、タンパク質に結合するタンパク質受容体又はリガンドである。そのような受容体及びリガンドとしては、あらゆる受容体若しくはリガンド、又はその特異的断片(例えば、受容体又はリガンドの結合ドメインを含む断片)が挙げられる。具体的に想定される受容体としては、免疫系の状態に関する情報をもたらし得るインターロイキン又はケモカインなどのサイトカインの受容体が挙げられる。いくつかの実施形態では、受容体又はリガンド(又はその断片)は、組み込まれて融合タンパク質を形成し得る。
【0112】
例えば、インターロイキン-6(IL-6)は、炎症性多能性サイトカインであり、癌治療中の免疫応答をモニタリングするために使用することができる重要なバイオマーカーである。それはまた、心理的ストレス及びインスリン活性をモニタリングするために使用することができる。
【0113】
例えば、本発明者らは、IL-6の選択的認識及び結合について抗インターロイキン-6(IL-6)抗体を使用した場合に良好な結果を得た。例えば、本発明者らは、CRPの選択的認識及び結合について抗C反応性タンパク質(CRP)抗体を使用した場合に良好な結果を得た。
【0114】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、半導体部分に固定化された非生物学的実体上に存在する。いくつかの実施形態では、非生物学的実体は、標的生体分子アナライトの生物学的結合部位を模倣する結合部位を有する分子インプリントポリマーである。このようなポリマーは非生物学的であり、経時的な分解/変性に起因して貯蔵寿命が限られている生物学的抗体のように分解も変性もしないので、貯蔵寿命が延びる可能性がある。本発明者らは、SARS-COV-2タンパク質への選択的結合のために特注設計された市販の分子インプリントポリマーを使用して良好な結果を得た。
【0115】
検出方法
本発明はまた、バイオアナライトを検出する方法に関する。本方法は、本明細書に記載のセンサのセンサ素子をバイオアナライトを含み得る物質と接触させる工程と、センサの抵抗に対応するセンサの電気化学パラメータを測定する工程と、測定された電気化学パラメータに基づいてセンサ素子上のバイオアナライトの有無を検出する工程とを含む。
【0116】
導電率センサの典型的な動作では、直接測定されるパラメータは、既知の電圧(又は電圧プロファイル)がセンサの両端間に印加されたときの電流応答である。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、センサの両端間に電圧を印加する工程と、センサを通る電流フローを測定する工程と、電流フローに基づいてセンサ素子上のバイオアナライトの有無を検出する工程とを含む。ポテンショスタットなどの導電率センサ用の従来の装置を使用して、電圧を印加し、電流フローを測定することができる。
【0117】
ただし、センサ抵抗に対応する異なる電気化学パラメータを測定してもよく、これを排除するものではない。例えば、原則として、センサに所定の電流を流し、この電流を達成するために必要な電圧を測定することが可能である。その場合、測定された電圧は、センサ抵抗に対応する。
【0118】
センサと接触する物質は、目的のバイオアナライトを含有するか、又は含有し得る任意の物質であり得る。いくつかの実施形態では、物質は、試料溶液、例えば、唾液、汗、尿、涙、血液、血漿、間質液又は呼吸器エアロゾル/液滴などの体液であるか、又はそれを含む液体試料である。
【0119】
バイオアナライトの有無は、測定された電気化学パラメータをセンサのそのパラメータの基準値と比較することによって検出することができる。測定されたパラメータが電流応答である場合、電流フロー又は電流フローから決定されたセンサの電気抵抗は、センサ素子上のバイオアナライトの有無に対応するセンサの予め定義された基準電流フロー又は抵抗と比較することができる。例えば、物質と接触した後のセンサの電流フロー(又は抵抗)を、バイオアナライトを含まない参照溶液と接触した後のセンサの電流フロー(又は抵抗)と比較することができる。
【0120】
その最も単純な形態では、そのような比較を使用して、物質中のバイオアナライトの有無を判定することができる。あるいは、バイオアナライトを含有する試料溶液との接触後のセンサの電流フロー(又は抵抗、又は他の測定された電気化学パラメータ)を、既知濃度のバイオアナライトを有する一連の参照溶液との接触後のセンサの電流フロー(又は抵抗、又は他の測定された電気化学パラメータ)をプロットする較正曲線と比較することができる。このようにして、試料溶液中のバイオアナライトの濃度を算出することができる。
【0121】
本方法は、任意選択で、センサ素子を物質と接触させる工程と電圧を印加する工程との間に、1つ以上の調製工程を含むことができる。例えば、物質が試料溶液である場合、バイオアナライト(試料溶液中にそれが存在する場合)のバイオアナライト結合部位への結合を可能にするために、規定の条件(例えば、温度)で規定の時間、センサ素子をインキュベートすることができる。次いで、試料溶液をセンサから除去し、導電率測定を実行する前にセンサ素子を乾燥させることができる。
【0122】
あるいは、センサは、例えば、マイクロニードルに組み込めば、バイオアナライトのin situ検出のために人体に挿入される侵襲性センサとして使用することができる。別の実施形態では、センサは、ヒトの汗中のバイオアナライトをモニタリングするためのウェアラブルデバイスに組み込まれる。
【0123】
本明細書に記載のバイオアナライト結合部位に対応する様々なバイオアナライトを、本開示の方法によって検出することができる。したがって、バイオアナライトの非限定的な例としては、ウイルスタンパク質、サイトカイン、及びC反応性タンパク質(CRP)を含むタンパク質が挙げられる。
【0124】
センサの製造方法
本発明はまた、バイオアナライトを検出するためのセンサを製造する方法に関する。本方法は、半導体部分を含む基板を用意する工程を含み、半導体部分は高抵抗率非酸化物半導体を含む。基板の半導体部分が端子電極間に配置され、端子電極と電気的に接触し、端子電極間の導電路が半導体部分を貫通するように、一対の端子電極が基板上に互いに離間して対向する関係で作製される。次いで、バイオアナライト結合部位を半導体部分の表面に固定化し、それにより、(i)半導体部分と、(ii)バイオアナライト結合部位とを含むセンサ素子を作製する。
【0125】
本発明の一形態では、図2の概略図に示すように、基板102は工程Aで用意される。基板102は、本明細書に記載の非酸化物半導体112を含む半導体部分110を含む。図2に示す実施形態では、基板102は、基板の一体部分として半導体部分110を含み、したがって、基板の残りの部分は、同じ高抵抗率非酸化物半導体112から構成される。あるいは、基板102は、半導体層110を受け入れ且つ支持することができる任意の適切な材料から構成され得る、下地となる支持層上の個別の薄い表面層として形成された半導体部分110を含み得る。
【0126】
工程Bでは、基板102上に、互いに離間して対向する関係にある一対の端子電極104、106を作製する。電極は、基板の半導体部分110が端子電極104、106の間に配置され、端子電極と電気的に接触するように製造される。したがって、端子電極104と106との間の導電路120は、半導体部分110を貫通し、ひいては非酸化物半導体112も貫通している。
【0127】
工程Cでは、バイオアナライト結合部位114が半導体部分の表面116に固定化され、それによってセンサ素子108が作製される。図1は単一の結合部位を示しているが、当然のことながら、複数のバイオアナライト結合部位114を表面116に固定化することができる。センサ素子108は、半導体部分110及びバイオアナライト結合部位114を含む。したがって、図1を参照して本明細書で前述したように、センサ100は、工程A、B、及びCを実行した後に製造される。
【0128】
半導体部分を含む基板は、本発明のセンサに関連して本明細書に記載される実施形態のいずれかによるものであり得る。
【0129】
端子電極は、任意の適切な方法によって基板上に作製することができる。いくつかの実施形態では、端子電極は微細加工技術によって形成される。電子ビームリソグラフィを使用して、半導体層上に金薄膜(100nmのクロム接着層を有する250nm)を蒸着させることによって、金端子電極を形成することができる。次いで、堆積した状態の金薄膜は、一対の端子電極を画定するために標準的なフォトリソグラフィ及びウェットエッチング技術を使用してパターニングされる。
【0130】
バイオアナライト結合部位は、物理吸収又は化学結合のいずれかによって半導体部分の表面に固定化され得る。好ましい形態では、バイオアナライト結合部位は半導体部分の表面に化学的に結合している。
【0131】
シリコン半導体を含む非酸化物半導体は、典型的には、シラン化剤(アルコキシシランなどのシラン化基を含む表面改質剤)などの表面改質剤との共有結合形成反応の影響を受けやすいヒドロキシ基などの表面官能基を含む。したがって、バイオアナライト結合部位は、(i)非酸化物半導体を、エポキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基からなる群から選択される末端官能基を有するシラン化剤でシラン化すること、及び(ii)バイオアナライト結合部位を含む前駆体を末端官能基と反応させることを含むプロセスによって、半導体部分に化学的に結合され得る。このプロセスの結果として、結合部位は、シラン化剤の残基である有機リンカーによって半導体部分の表面に固定される。
【0132】
適切なシラン化剤としては、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MTS)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AEAPTS)などが挙げられる。
【0133】
例示的な一実施形態では、図3の概略図に示すように、金(Au)端子電極の下及びその間の基板の半導体部分310は、高抵抗率非酸化物半導体、この場合は高抵抗率真性シリコンウェハを含む。半導体部分の表面を、任意選択で(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)などのエポキシ官能化シラン化剤であってもよい、シラン化剤350と接触させる。シラン化剤は、半導体部分の表面ヒドロキシ(-OH)官能基と反応し、その結果、共有結合を介してシラン化剤を表面に固定し、ペンダント共役基352、この場合はエポキシ基で表面を官能化する。次いで、バイオアナライト結合部位314を含む前駆体分子354は、前駆体分子中に存在するエポキシ反応性官能基、この場合はアミン(-NH)の抱合反応によって表面に固定化される。すなわち、バイオアナライト結合部位314は、シラン化剤350の残基である有機連結基356によって半導体部分310の表面に固定される。
【0134】
バイオアナライト結合部位は、典型的には、バイオアナライト結合部位を含む既存の前駆体を固定化することによって半導体部分の表面に固定化される。前駆体は、一般に、本発明のセンサに関連して本明細書に記載される実施形態のいずれかによるバイオアナライト結合部位を含む任意の分子又は他の実体(生体分子及び非生物学的実体を含む)であり得る。いくつかの実施形態では、前駆体は、バイオアナライト結合部位を含有する生体分子である。
【0135】
いくつかの実施形態では、バイオアナライト結合部位は、シラン化基などの表面反応性官能基で予め官能化された生体分子又は他の実体上に最初に存在する。したがって、バイオアナライト結合部位は、共有結合形成を可能にするのに適した条件、ひいては表面固定化を可能にするのに適した条件下で、予め官能化された生体分子(又は他の実体)を非酸化物半導体と接触させることによって、半導体部分に化学的に結合され得る。
【実施例
【0136】
材料及び方法
抵抗率1000~2000オーム・cm及び5000~10000オーム・cmの高抵抗率シリコンウェハ(直径100mm)を日本のD&X社から購入し、いずれのタイプも片面研磨シリコンウェハであった。1000~2000オーム・cmウェハの配向は<100>であり、厚さは500±10μmであった。5000~10000オーム・cmウェハの配向は<100>であり、厚さは450±25μmであった。
【0137】
シリコンウェハセンサは、標準的なフォトリソグラフィプロセスを使用して高抵抗率シリコンウェハ上に2つの端子面内電極をパターニングすることによって作製した。電極ギャップは、1~2μmから100μmの範囲で異なっていた。ただし、この電極ギャップは、最良のセンサ性能のために40μmになるように最適化した。電極の長さは、200μmから4000μmの範囲で異なっていた。最適電極長は4000μmとした。したがって、センサ素子面積(電極間のシリコン基板面積)は16×10-8であった。
【0138】
インターロイキン-6(IL-6)、抗IL-6、C反応性タンパク質(CRP)及び抗CRPを市販業者(Sigma-Aldrich)から購入し、受け取った状態で使用した。SARS-CoV-2分子インプリントポリマー(MIP)はMIP Diagnostics Ltd.から購入した。Hisタグを有するSARS-CoV-2スパイクタンパク(S-RBD)はThermoFisher Scientificから購入し、受け取った状態で使用した。
【0139】
受け取った状態の抗IL-6ストック溶液の濃度は48mMであった。シリコンウェハセンサの表面に抗IL-6を固定化する際に使用するために、抗IL-6ストック溶液をリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)で1:10希釈した。受け取った状態の抗CRP原液の濃度は4μMであった。抗CRPを固定化するために、受け取った状態の抗CRP溶液をPBS(pH7.4)で1:50に希釈した。受け取った状態のSARS-CoV-2 nanoMIP溶液の濃度は0.339mg/mLであり、実験のために希釈せずに使用した。
【0140】
受け取った状態のIL-6粉末をオートクレーブした既知量のMilli-Q水に完全に溶解し、pH7.4のPBS溶液で希釈して、標準的な一連のIL-6溶液を調製した。調製したIL-6濃度は、4nM、4pM及び4fMであった。標準的な一連のCRP溶液もまた、受け取った状態のCRP溶液を所定の体積のpH7.4のPBS中で希釈することによって調製した。調製されたCRP濃度は、13nM、13pM及び13fMである。受け取った状態のSARS-CoV-2スパイクタンパク溶液の濃度は1mg/mLであり、所定の体積のpH7.4のPBS溶液で希釈することによって、標準的な一連のSARS-CoV-2スパイクタンパク溶液を調製した。標準的な一連のSARS-CoV-2スパイクタンパクは、0.1mg/mL、0.01mg/mL、1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、1ng/mL、0.1ng/mL、0.01ng/mL及び1pg/mLで構成されていた。
【0141】
センサのコンダクタンスは、市販の電流源計(Keysight Technologies製のB2901A精密源/測定ユニット)を使用して測定した。センサは、すべての測定において、センサホルダとしてのLTS120 Linkamステージ上に配置した。Keysight Quick I-V Measurementソフトウェアをデータ取得に使用した。
【0142】
電極間のバイアスは1.8Vに維持した。抗体を固定化し、且つ抗原を固定化した後に、センサの抵抗測定値を取得した。所与のセンサのデータ取得時間を1分とした。
【0143】
実施例1.GPSシラン化シリコンウェハセンサの調製:
(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPS)(Sigma Aldrich)を用いたシリコンウェハセンサ表面のシラン化は、新たに調製したセンサデバイスをOプラズマ(プラズマクリーナーPDC-002、Harrickプラズマ)に10分間曝露してシリコン表面のヒドロキシル基を活性化した後に行った。次いで、新たに調製したGPS溶液20μLをAl箔上にドロップキャストし、これを真空デシケータ内に配置し、デシケータ内にGPS蒸気を生じさせた。次いで、Oプラズマ洗浄シリコンセンサを、LC200グローブボックスシステム内でこのGPS蒸気に30~45分間曝露した。その後、シラン化シリコンウェハセンサをMilli-Q水で2分間十分にすすいで、表面から未結合シラン基を除去した。次いで、洗浄したセンサを150℃で10分間加熱して、シリコンウェハ表面へのシラン基の結合を強化した。次いで、基板表面に化学的に結合した表面エポキシド官能基で官能化されたこれらのGPSシラン化シリコンウェハセンサを使用して、抗体(抗原結合部位を含む)を含む様々なバイオアナライト結合部位を固定化した。
【0144】
実施例2.生物学的抗体の固定化及び抗原の導電率測定:
GPSシラン化シリコンウェハセンサへの抗体(IgG)の固定化は、以下のように行った。新たに調製した15μLの量の1:10希釈抗IL-6溶液(すなわち、48nMの濃度)を、新たにGPSシラン化したシリコンウェハセンサの表面に均一にドロップキャストし、1時間インキュベートして、IL-6抗体をセンサの表面に固定化した。この固定化は、抗体上のアミンなどのエポキシド反応性官能基とシラン化シリコンウェハ表面上のエポキシド官能基との反応によって起こる。次いで、センサをpH7.4のPBS溶液ですすぎ、結合していない抗体を除去した。次いで、PBSで洗浄した官能化センサをNガス流中で乾燥させた。これらの抗IL-6抗体固定化センサをIL-6抗原濃度測定に用いた。同じ手順に従って、15μLの新たに調製した1:50希釈抗CRP溶液(すなわち、80nMの濃度)を使用して、CRP固定化GPSシラン化シリコンウェハセンサを調製した。
【0145】
抗原の添加前に、抗体固定化シリコンウェハセンサのベースラインコンダクタンスを測定した。15μLの量の既知濃度の抗原溶液(IL-6濃度4nM、4pM、4fM、CRP濃度13nM、13pM、13fM)を抗体固定化シリコンウェハセンサの表面にドロップキャストし、10分間インキュベートした。かかる時間が経過した後、センサ上に残った抗原溶液を除去し、Nガスの流れの下で表面を乾燥させた。次いで、センサをコンダクタンス測定に供して、各抗原溶液濃度に対応するセンサ抵抗を測定した。所与の抗原濃度に対して3つの個々のセンサを使用し、平均抵抗変化を計算した。
【0146】
図4及び図5に示す結果は、1000~2000オーム・cmの抵抗率のシリコンウェハ上に作製されたセンサから得られた。
【0147】
IL-6抗原及びCRP抗原の両方に対する抵抗の変化は、抗原濃度の増加と共に増加を示した。抗原固定化前のセンサの抵抗(R)に対する抗原固定化前(R)及び固定化後(R)のセンサの抵抗値の差(すなわち、R-R)を求めることによって、抵抗の変化を計算した。IL-6抗原及びCRP抗原の両方が、抗原濃度の関数として抵抗の変化について非線形の増加を示した。対応する抗体固定化センサ上のPBSの抵抗変化を求めることによって、抵抗変化に対するマトリックスの寄与を評価した。IL-6抗体及びCRP抗体で官能化されたセンサでのPBSの抵抗性変化は、それぞれわずか1%及び6%であった。対照的に、健康なヒトの汗及び唾液中のIL-6及びCRPの濃度では、センサはPBSよりもはるかに高い抵抗変化を生じた。これは、PBSからの干渉が臨床的に重要なIL-6及びCRPの濃度で無視できることを示している。
【0148】
本非酸化物半導体センサは、健康なヒトの唾液及び汗中のこれら2つの抗原の報告された濃度とは異なるIL-6及びCRP濃度の両方を検出した。報告されているIL-6濃度は、健康なヒトの汗では、約0.4pM(10ng/L)(Journal of Immunological Methods,2006,315,99)であり、健康なヒトの唾液では、約0.6pM(16ng/L)(BioMed Research International、2018、2018,8531961)である。報告されているCRP濃度は、健康なヒトの汗では、約0.5pM(12ng/L)(Inflammatory Bowel Disease,2020,26,1533)であり、健康なヒトの唾液では、約12pM(285ng/L)(Journal of Immunological Methods,2011,373,19)である。典型的には、ヒトの汗及び唾液中のこれら2つの抗原の濃度は、健康な体液中のそれらの濃度と比較して、炎症が起こった場合に上昇する。本センサは、4fMのIL-6濃度について約3%の抵抗の変化を示し、13fMのCRP濃度について約7%の抵抗の変化を示した。これらのIL-6及びCRPの濃度は、健康なヒトの唾液及び汗中の報告された濃度よりも少なくとも1/100倍未満のより低い濃度である。これは、本発明に導入された導電率センサが、ヒト体液中のIL-6抗原及びCRP抗原の検出において極めて高感度であることを示唆している。
【0149】
実施例3.プラスチック抗体(MIP)の固定化及びSARS-CoV-2スパイクタンパクの導電率測定:
プラスチック抗体としても知られるSARS-CoV-2分子インプリントポリマー(MIP)を以下のように非酸化物半導体センサ上に固定化した。15μLの量の受け取った状態のSARS-CoV-2 nanoMIP溶液(0.339mg/mL)を、新たにGPSシラン化したシリコンウェハセンサの表面に均一にドロップキャストし、1時間インキュベートしてSARS-CoV-2 nanoMIPをセンサの表面に固定化した。次いで、センサをpH7.4のPBS溶液ですすぎ、結合していないnanoMIPを除去した。次いで、PBSで洗浄した官能化センサをNガス流中で乾燥させた。これらのSARS-CoV-2 nanoMIP固定化センサをSARS-CoV-2スパイクタンパクの濃度測定に使用した。
【0150】
nanoMIP固定化シリコンウェハセンサのベースラインコンダクタンスを、SARS-CoV-2スパイクタンパクの添加前に測定した。既知濃度(0.1mg/mL、0.01mg/mL、1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、1ng/mL、0.1ng/mL、0.01ng/mL及び1pg/mL)の15μLの量のSARS-CoV-2スパイクタンパク溶液を、nanoMIP固定化シリコンウェハセンサの表面にドロップキャストし、10分間インキュベートした。かかる時間が経過した後、センサ上に残ったSARS-CoV-2スパイクタンパク溶液を除去し、Nガスの流れの下で表面を乾燥させた。次いで、センサをコンダクタンス測定に供して、各SARS-CoV-2スパイクタンパク溶液濃度に対応するセンサ抵抗を決定した。所与の抗原濃度に対して3つの個々のセンサを使用し、平均抵抗変化を計算した。
【0151】
図6に示す結果は、抵抗率1000~2000オーム・cmのシリコンウェハ上に作製されたセンサから得られた。
【0152】
SARS-CoV-2スパイクタンパクについての抵抗の変化は、タンパク質濃度の増加と共に非線形に増加した。SARS-CoV-2スパイクタンパク固定化前のセンサの抵抗(R)に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク固定化前(R)及び固定化後(R)のセンサの抵抗値の差(すなわち、R-R)を求めることによって、抵抗の変化を計算した。最も小さい正の変化は0.1ng/mLのSARS-CoV-2スパイクタンパク溶液で観察され、提案されたセンサの検出限界が0.1ng/mLであることを示唆している。PBSの寄与は-48%であり、タンパク質測定においてPBSからの干渉はなかったことを示唆している。
【0153】
定義
本明細書で範囲、例えば、温度範囲、時間範囲、又は濃度範囲が与えられるときはいつでも、すべての中間範囲及び部分範囲、並びに与えられた範囲に含まれるすべての個々の値が本開示に含まれることが意図される。当然のことながら、本明細書の説明に含まれるあらゆる部分範囲、又は範囲若しくは部分範囲内の任意の個々の値は、本明細書の特許請求の範囲から除外することができる。
【0154】
本明細書で定義及び使用されるすべての定義は、当然のことながら、辞書の定義、参照により組み込まれる文書における定義、及び/又は定義された用語の通常の意味に優先すると理解されるべきである。
【0155】
本明細書で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、そうでないことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0156】
本明細書で使用される「及び/又は」という語句は、そのように結合された要素、すなわち、場合によっては結合的に存在し、他の場合には選言的に存在する要素の「いずれか又は両方」を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」を用いて列挙された複数の要素は、同じように、すなわちそのように結合された要素の「1つ又は複数」と解釈されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が、具体的に特定される要素に関連するか否かにかかわらず、任意選択で存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などのオープンエンドの表現と共に使用される場合、一実施形態では、Aのみ(B以外の要素を任意選択で含む)を指す場合があり、別の実施形態では、Bのみ(任意選択でA以外の要素を含む)を指す場合があり、更に別の実施形態では、A及びBの両方(任意選択で他の要素を含む)を指す場合がある、といった具合である。
【0157】
本発明を限られた数の実施形態と共に説明してきたが、当業者には当然のことながら、前述の説明に照らして多くの代替、変更、及び変形が可能である。したがって、本発明は、開示される本発明の趣旨及び範囲内に含まれ得るようなすべてのそのような代替、変更及び変形を包含することが意図される。
【0158】
「含む/備える(「comprise」、「comprises」、「comprised」、又は「comprising」)」という用語が本明細書(特許請求の範囲を含む)で使用される場合、それらは、記載された特徴、整数、工程又は構成要素の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又は構成要素、又はそれらの群の存在を排除しないと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】