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特表2024-525427タイヤ及び地面の間の界面条件を決定する、特にアクアプレーニング現象の開始を決定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】タイヤ及び地面の間の界面条件を決定する、特にアクアプレーニング現象の開始を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20240705BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240705BHJP
【FI】
B60W40/068
B60W30/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579627
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 IB2022055947
(87)【国際公開番号】W WO2023275711
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】102021000017588
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523405801
【氏名又は名称】イージー レイン アイ.エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブランディナ、ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】ピエラリーニ、マウロ
(72)【発明者】
【氏名】カセリーニ、ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ファシオ、ダヴィデ
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BB52
3D241DC47A
(57)【要約】
動力車両におけるタイヤ及び地面の間の界面条件を決定する、特にアクアプレーニング現象の開始を決定する方法であって:前記車両の参照長手方向加速度(aXPTMDL)を決定する段階、前記車両の実際の長手方向加速度(aXCAN)を測定する段階、前記参照長手方向加速度及び前記実際の長手方向加速度の間の差を計算する段階、前記差に基づくタイヤ及び地面の間の界面における更なる抗力(F、PWTMDL_Drag_Level)、及び前記更なる抗力(F)に基づくタイヤ及び地面の間の界面における揚力(F)を決定する段階、前記地面からの前記タイヤの浮き上がりが生じる閾値力を決定する段階、前記揚力を前記閾値力と比較し、アクアプレーニング条件に対する、タイヤ及び地面の間の界面条件の近接度を決定する段階を備える、方法が説明される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力車両におけるタイヤ及び地面の間の界面条件を決定する、特にアクアプレーニング現象の開始を決定する方法であって、
-前記動力車両の参照長手方向加速度(aXPTMDL)を決定する段階、
-前記動力車両の実際の長手方向加速度(aXCAN)を測定する段階、
-前記参照長手方向加速度及び前記実際の長手方向加速度の間の差を計算する段階、
-前記差に基づくタイヤ及び地面の間の界面における更なる抗力(F、PWTMDL_Drag_Level)、及び前記更なる抗力(F)に基づくタイヤ及び地面の間の界面における揚力(F)を決定する段階、
-前記地面からの前記タイヤの浮き上がりが生じる閾値力を決定する段階、
-前記揚力を前記閾値力と比較し、アクアプレーニング条件に対する、タイヤ及び地面の間の界面条件の近接度を決定する段階
を備える、方法。
【請求項2】
前記更なる抗力(F、PWTMDL_Drag_Level)を決定する段階は、
-前記更なる抵抗(F、PWTMDL_Drag_Level)を、その値に基づいて複数の進行レベルに分類する段階、ここで、前記複数の前記進行レベルは、前記更なる抗力の増加する値に対応する、
-前記動力車両の前進速度に対する前記更なる抗力の依存性の存在(PWTMDL_Drag_Type)を決定する段階
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記更なる抗力の前記値(PWTMDL_Drag_Level)が、前記閾値力に等しいか又はそれよりも大きい揚力を生み出す値よりも低く、かつ前記動力車両の前記前進速度からの前記更なる抗力の依存性が存在しない場合に緩んだ又は低グリップ地面上を移動しているという条件をシグナリングする段階、
-前記動力車両の前記前進速度からの前記更なる抗力の依存性が存在する場合、かつ前記更なる抗力の前記値(PWTMDL_Drag_Level)が、前記閾値力に等しいか又はそれよりも大きい揚力を生み出す値よりも低い場合には、アクアプレーニング現象の可能性の条件をシグナリングする段階、
-前記更なる抗力の前記値(PWTMDL_Drag_Level)が、前記閾値力に等しいか又はそれよりも大きい揚力を生み出す値に等しいか又はそれよりも大きく、かつ前記動力車両の前記前進速度からの前記更なる抗力の依存性が存在する場合にアクアプレーニング現象に対する近接性の条件をシグナリングする段階
を備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
-前記動力車両の長手方向グリップ力を決定する段階、
-前記動力車両の横断方向グリップ力を決定する段階、
-前記長手方向グリップ力及び横断方向グリップ力(WHEMDL_LongGrip_Level、VEHMDL_LatGrip_Level)のコンプレックスを、その合力に基づいて複数の進行レベルに分類する段階、ここで、前記複数の前記進行レベルは、前記合力の減少する値に対応する、
を更に備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
-車両サイドスリップインジケータ(VEHMDL_SideSlip_Level)を決定する段階、
-前記動力車両のタイヤの長手方向スリップ(WHEMDL_Slip_Level)を決定する段階
を更に備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
-前記更なる抗力の値(PWTMDL_Drag_Level)が、前記閾値力に等しいか又はそれよりも大きい揚力を生み出す値に等しいか又はそれよりも大きく、かつ前記動力車両の前進速度からの前記更なる抵抗の依存性が存在する場合、
-前記動力車両の長手方向グリップ力及び横断方向グリップ力のコンプレックスが進行レベルの最後に分類される場合、及び
-前記車両サイドスリップインジケータ及び長手方向スリップのうちの少なくとも1つが非ゼロ値を有する場合、
アクアプレーニング現象の発生の条件を示す段階
を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
-前記更なる抗力の値(PWTMDL_Drag_Level)が、前記閾値力に等しいか又はそれよりも大きい揚力を生み出す値よりも低く、かつ前記動力車両の前進速度からの前記更なる抗力の依存性が存在しない場合、
-前記動力車両の長手方向グリップ及び横断方向グリップのコンプレックスが進行レベルの中間レベルに分類される場合、及び
-前記車両サイドスリップインジケータ及び長手方向スリップのうちの少なくとも1つが非ゼロ値を有する場合、
緩んだ地面、特に泥又は砂利上を移動しているという条件を示す段階
を更に備える、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
-前記更なる抗力の値(PWTMDL_Drag_Level)が進行レベルの最初に分類され、かつ前記動力車両の前進速度に対する前記更なる抵抗の依存性が存在しない場合、
-前記動力車両の長手方向グリップ力及び横断方向グリップ力のコンプレックスが前記進行レベルの中間レベルに分類される場合、及び
-前記車両サイドスリップインジケータ及び長手方向スリップのうちの少なくとも1つが非ゼロ値を有する場合、
凍結した地面上を移動しているという条件をシグナリングする段階
を更に備える、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
-前記更なる抵抗の値(PWTMDL_Drag_Level)が進行レベルの中間レベル又は最後に分類され、かつ前記動力車両の前進速度に対する前記更なる抵抗の依存性が存在しない場合、
-前記動力車両の長手方向グリップ力及び横断方向グリップ力のコンプレックスが前記進行レベルの最初のレベル又は中間レベルに分類される場合、及び
-前記車両サイドスリップインジケータ及び長手方向スリップのうちの少なくとも1つが非ゼロ値を有する場合、
積雪地面上を移動しているという条件をシグナリングする段階
を更に備える、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記動力車両に搭載されたアクアプレーニング防止システムの介入をアクティベートする段階を更に備える、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力車両のための診断方法及びシステムに関する。具体的には、本発明は、動力車両が走行している間のタイヤ及び地面の間の界面条件の診断を参照して開発された。
【背景技術】
【0002】
動力車両におけるタイヤ及び地面の間の界面条件を決定するための複数の方法及びシステムが既知であり、それらの大半は、車両運転及び/又は安定性のための制御システムの動作、又は自律又は半自律運転システムに依存している。
【0003】
しかしながら、そのような方法及びそのようなシステムの実装から導出される情報のコンプレックスは、タイヤ及び地面の間の特定の界面条件から導出されるアクアプレーニング等の特定の現象を決定及び対比することにおいては有効性がほとんどない。換言すれば、本状況では、そのような事象を決定又は対比するのに有用であり得る情報の項目を、既知の方法を介して導出することができない。
【0004】
この欠点は、大半の高度なアクアプレーニング防止システムでさえ有効性を損ない得る(これに関して、本出願人は、例えば、102021000011108、102021000011111、102021000011117又は102014902296915等の複数の国内特許出願の特許権者である)。なぜならば、車両が対処しなければならないアクアプレーニング条件に対して具体的な、そして最終的にはより有効な介入を取得するような方式でアクアプレーニング防止システムを制御することが不可能であり、車両が直面している条件がアクアプレーニング事象を被る強い確率を示す場合の介入のためにアクアプレーニング防止システムを準備することも可能ではないためである。
【0005】
他方、既知の方法及びシステムは、アクアプレーニング防止システムを制御する目的で、通常車両上には存在せず、かつコストの理由でほとんど実装可能ではない更なるセンサ又は機器に依拠することなく、タイヤ及び地面の間の界面条件の診断を可能にしない。
【0006】
[発明の目的]
本発明の目的は、前述で言及された技術的課題を解決することである。具体的には、本発明の目的は、とりわけ、一般的に動力車両に搭載されて存在するものに加えて、更なるセンサ又は機器に依拠する必要を伴わずに、アクアプレーニング防止システムの動作を管理することを可能にするタイヤ及び地面の間の界面条件を決定する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、以下に続く特許請求の範囲において記載された特徴を有する方法によって実現され、当該特許請求の範囲は、本発明を参照して本明細書において提供される技術的開示の一体部分を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明は、ここで、添付図面を参照して説明され、添付図面は、純粋に非限定的な例として提供される。
図1】本発明に係る方法のブロック図である。
図2】本発明に係る方法の第1の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図3】本発明に係る方法の第1の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図4】本発明に係る方法の第1の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図5】本発明に係る方法の第1の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図6】本発明に係る方法の第1の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図7】本発明に係る方法の第2の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図7A】本発明に係る方法の第2の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図7B】本発明に係る方法の第2の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図8A】本発明に係る方法の第2の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図8B】本発明に係る方法の第2の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図9】本発明に係る方法の第3の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図9A】本発明に係る方法の第3の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図9B】本発明に係る方法の第3の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図9C】本発明に係る方法の第3の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図10】本発明に係る方法の第3の要素の好ましい実装に関するブロック図である。
図11】本発明に係る方法の各出力に関連付けられた論理図である。
図12】本発明に係る方法の各出力に関連付けられた論理図である。
図13】本発明に係る方法の各出力に関連付けられた論理図である。
図14】本発明に係る方法の各出力に関連付けられた論理図である。
図15】本発明に係る方法の各出力に関連付けられた論理図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1における参照符号1は、全体として、本発明の実施形態に係る、動力車両におけるタイヤ及び地面の間の界面条件を決定する、具体的には、アクアプレーニング現象の開始を決定する方法のブロック図を指定する。
【0010】
全体としての機能図(異なる実施形態が図1において示されている機能ブロックのうちの1つ又は複数を有するように適応されている)を参照すると、本発明に係る方法は、入力データのコンプレックス2、リアルタイム計算ステージ4、出力データの中間コンプレックス6、(リアルタイム)分析ステージ8、及び出力データの最終コンプレックス10に基づいている。
【0011】
前述において言及された各ステージ又はコンプレックス内の機能的定義は、処理需要(又はリソース)に従って、及び/又は計算方法のリアルタイム実装を要求する制御需要に従って変動し得る。
【0012】
最も厳密な処理及び/又は制御要件を満たさなければならない実施形態では、全体構造は図1において示されているとおりであり、ここで、リアルタイム計算ステージ4は、車両パワートレインアセンブリからのデータに基づいて動作するように構成された第1の計算モジュール12、車両の全体ダイナミクスデータに基づいて動作するように構成された第2の計算モジュール14、及び車両の各単一の車輪のダイナミクスデータに基づいて動作するように構成された第3の計算モジュール16を含む。本発明によれば、計算モジュール14及び16は任意選択であり、すなわち、それらは、本発明に係る方法のために更なる情報レベル及び更なる出力データを決定するために提供されてよく、一方、モジュール12は、全ての実施形態において全体的に提供され、これはなぜならば、(モジュール14及び16からの情報の更なるレベルの不在時であっても)それが、アクアプレーニング現象に対するタイヤ及び地面の間の界面条件の近接度を決定することを可能にするためである。
【0013】
図2は、以下で簡潔にするために「パワートレインモジュール」として定義される計算モジュール12のブロック図を示している。本発明に係る方法では、パワートレインモジュール12は、車両の各車輪に対して作用する揚力の推定値を用いて、及び当該揚力を、地面からの車両の浮き上がり、すなわち、タイヤ及び地面の間の接触の分離を引き起こすことになる閾値力値と比較することを用いて、アクアプレーニング条件に対する近接度を確立することを可能にする。
【0014】
図2において18、20、22、24によって示されている機能ブロックは、前述において言及された決定を実装する方法段階を概略的に示している。
【0015】
具体的には、本発明によれば、パワートレインモジュールは、
-車両の参照長手方向加速度aXPTMDLを決定すること(図3及び図4)-ブロック18、
-車両の実際の長手方向加速度aXCANを測定すること、
-参照長手方向加速度aXPTMDL及び実際の長手方向加速度aXCANの間の差を計算すること、
-上記差に基づいてタイヤ及び地面の間の界面における更なる抗力値(アクアプレーニングにおいて、これは、流体力学的性質である)を決定し、当該更なる抗力に基づいてタイヤ及び地面の間の界面における揚力を決定すること、
-地面からのタイヤの浮き上がりが生じる閾値力を決定すること、
-上記揚力を上記閾値力と比較し、アクアプレーニング条件に対するタイヤ及び地面の間の界面条件の近接度を決定すること-ブロック24
を行うような方式で、入力データのコンプレックス2(通常車両に搭載されて存在するものに対して追加のセンサ又は機器を必要とすることなく、CANネットワーク上で通常利用可能であるデータ及びパラメータを含む)、及び具体的にはパワートレインアセンブリに関するサブコンプレックスを処理するように構成されている。
【0016】
上記で言及された段階の各々が、ここで、図3図6を参照して詳細に説明される。
【0017】
図3は、本発明に係る方法のための理論的参照として取られる地面G上の水膜WFに面する車両の車輪Wの図を示している。車輪Wのトレッド面上の点P1において、流体力学的抗力成分F及び揚力成分Fを含む流体力学的力の合力が加えられ、これは、流体力学的抗力成分Fの値に依存する。
【0018】
全ての流体力学的抗力成分が1つの単一の軸(すなわち、車両の前車軸)に対して作用すると仮定すると、前車軸に対して作用する全体抗力成分は、
D,Faxle=m(aXPTMDL-aXCAN
として表されてよく、すなわち、これは、参照長手方向加速度aXPTMDL及び実際の長手方向加速度aXCANの間の差の関数である。
【0019】
図4を参照すると、車両の長手方向動的バランスの全体方程式は、
【数1】
として記述されてよく、ここで、
【数2】
は、車両長手方向加速度であり、ΣFx_i,jは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)に対して作用する長手方向力の総和である。AeroResは、車両に対して作用する空気力学的抗力の合力である。HydroResは、(タイヤの水膜WFとの相互作用に起因した)流体力学的抗力の合力である。Fslopeは、地面傾斜(上向き又は下向きの勾配)から導出される抗力又は駆動力の合力である。採用される符号変換に起因して、Fslopeは、抗力を受ける場合には正であり、駆動力を受ける場合には負である。
【0020】
これらの仮定を所与とすると、未知の成分HydroResは、実質的に以下の2つの方程式を減算することによって、タイヤ及び地面の間の界面において水膜が存在しない参照のケースからの差として決定されてよい:
maXPTMDL=ΣFx_i,j-AeroRes-Fslope(参照のケース)
maXCAN=ΣFx_i,j-AeroRes-HydroRes-Fslope(水膜WFの存在時の実際の状況)
ここから:
m(aXPTMDL-aXCAN)=HydroRes=FD,Faxle
したがって、図5を参照すると、車両CANネットワークから、以下を含む複数の動作及び動的パラメータが既知である:
-係合されるギア
-エンジン回転速度[rpm]
-エンジンによって伝達されるトルク[Nm]
-制動トルク[Nm]
-ステアリング角[°]
-横方向加速度[m/s2]
-ピッチ角[°]。
【0021】
そのようなデータは、必ずしもCANネットワークから取得されるとは限らず、車両の任意のデータネットワークから取得されてよいことが観察され得る。この理由で、本明細書がCANネットワーク上に存在するデータの使用を参照するたびに、データは、CANネットワークから又は車両の他の任意のデータネットワークからのいずれかで導出され得ることを理解されたい。
【0022】
したがって、そのようなデータを利用することによって、リアルタイムにおいて、車両の参照長手方向加速度の値aXPTMDLを計算すること(ブロック18)、及びそれを、CANネットワーク(又は車両の任意のデータネットワーク)上で利用可能なデータの更なる項目である加速度aXCANと比較すること(ブロック20)が可能であり、それにより、水膜WFによって引き起こされる流体力学的抗力値FD,Faxle(HydroRes)が決定される(ブロック22)。
【0023】
その後(図6)、値FD,Faxleを利用することによって、揚力成分Fを決定することが可能であり、それにより、それを、閾値力(揚力)値と比較し、これは、地面からタイヤを浮き上がらせるために必要であり、かつ車軸間の重量の分布及び前及び後ホイールベース(質量中心からの距離)から等の車両の静的値に大きく依存する。値FD,Faxle及びFの間の関係は、方法及び関連計算モデルの較正中に決定される。
【0024】
幾つかの計算上の注記。
【0025】
参照長手方向加速度の計算において、幾つかの単純化された仮定が好ましくは立てられ、これはなぜならば、図4における図を参照して記述され得る動的バランスの方程式に関与する様々なパラメータが運転中に変動し得るためである。例えば、車両質量、及び各単一のタイヤの回転抵抗は、運転中に変動し得る。概して、車両の長手方向動的バランスに影響を及ぼすパラメータの値を繰り返し更新するべきであるが、本発明に係る方法は、アクアプレーニング条件に対する複数(好ましくは3つ。ブロック24A、24B、24Cを参照)の近接レベル又は近接度を決定することによってこの計算問題を解くことを可能にする。そのような分割を用いると、例えば、経時的な車両の質量中心の厳密な位置も車両質量ももはや知得する必要がなく、それにより、長手方向加速度の最小限補正された参照値で十分すぎるほどである。アクアプレーニング現象に対する近接度、すなわち、アクアプレーニング現象に対する実質的に無限の近接レベル又は近接度を含む条件の連続モニタリングが望まれる場合、明らかに、(利用可能なデータに基づいて(及び、そのために、車両それ自体が搭載された電子制御ユニットによる更新を提供する))運転中に変動する車両パラメータを更新することが必要であり、それにより、そのような変動を参照長手方向加速度の計算に組み込む。
【0026】
例えば、車両質量は、リアルタイムにおいて、及び/又は低速度操縦中の加速度計算に基づく始動ごとに、更新されてよい。例えば、車両始動時、第1の操縦を利用することが可能であり、これらは、車両加速度を検出し、車両再始動時に質量を推定するためにほぼ確実に低速度操縦(ガレージ又は駐車場を退出する)であり、これはなぜならば、質量は、例えば、搭乗するより大人数の乗員及び/又はより大量の燃料又は貨物の存在に起因して、既知の最後のデータとは異なり得るためである。
【0027】
タイヤが地面を離れて浮き上がる閾値力値の計算に関しては、計算負荷は概してより低くなり得、これはなぜならば、非常に多くの条件において、車両質量の変動性は、閾値力値の計算に有意には影響を与えないことがあるためであり、したがって、車軸間の重量分布は、前及び後ホイールベースの値(全てのこれらの値は、根本的には質量中心の位置に依存する)と同じように、合理的に一定(又は計算要件のためには少なくとも十分に一定)であるとみなされ得る。当然ながら、車両の質量中心の位置の、及び車両質量それ自体の展開のより精緻でかつより動的なマッピングが、より正確な推定値をもたらし、これは、特に状況がそれを要求する場合には、需要に従って依拠され得る。
【0028】
まとめると、以下のリストは、パワートレインモジュール12の好ましい実施形態を特徴付ける入力データ及び出力データのコンプレックスを報告する。
【0029】
直接入力データ
-車輪(前左、前右、後左、後右車輪)の速度[rpm]又は[rad/s]
-車両前進速度[m/s]
-係合されるギア[-]
-エンジン速度[rpm]又は[rad/s]
-駆動トルク[Nm]
-ステアリング角[°]
-制動トルク[Nm]
【0030】
間接入力データ
-タイヤ/地面界面力の横断方向合力F[N]-モジュール14からの(存在する場合)、又はそうでなければCANデータから推定される
要求されるパラメータ
-タイヤ回転半径[m]-各車輪について;
-(前輪駆動又は後輪駆動車両における)エンジン及び車輪の間の伝達比T_ratio又は(四輪駆動車両における)前車軸及び後車軸の間のトルク配分比によって媒介されるエンジン及び車輪の間の伝達比
-エンジンの質量慣性モーメント[kg・m
-車輪の質量慣性モーメント[kg・m]-各車輪について
-車両質量[kg]
-長手方向空気力学的抗力係数C[-]
-車両前部の面積[m
【0031】
出力データ
-アクアプレーニング条件に対する近接度[-](ブロック24)
-地面タイプのインジケーション(ブロック26)
図7図8及び図9を参照すると、計算モジュール14及び16のブロック図及び動作ロジックが説明され、これらはそれぞれ、車両のダイナミクスモジュール(14)及び車輪の長手方向ダイナミクスモジュール(16)に対応する。これらの計算モジュールは、モジュール12と並行して、全条件において高信頼度であり得る車両の運転条件のマッピングを実装する。換言すれば、各計算モジュール12、14、16は、車両の運転条件の全範囲をカバーするのではなく、そのサブセットをカバーする信頼区間を有する。ドメイン12、14、16の信頼区間は、各モジュールによって実装される決定の一貫性制御のための手段として使用され得る重複エリア、及びより高信頼度の結果を提供するモジュールが車両制御のための参照として利用され得る非重複エリアを有する。信頼区間は、車両上のセンサの品質によって影響を受ける。車両上のセンサが高度になるほど(例えば、自律車両用)、信頼区間が広くなる。これに関して、モジュール12のみを含むか又は前述で説明されたようにモジュール12をモジュール14、16と統合しない実施形態では、車両及び搭載されたアクアプレーニング防止システムの制御は、任意選択で介入ロジックにおいてより慎重に、実行され、それにより、モジュール12の計算結果のみに基づいて、信頼区間の境界における影響が軽減される。
【0032】
図7及び図8を参照すると、車両のダイナミクスモジュール14は、ここでも、入力データコンプレックスとして、モジュール12と同じように、CANネットワーク上(又は車両の別のデータネットワーク上)の情報のコンプレックスを採用する。
【0033】
モジュール14は、5つの主な動作、すなわち:
-CANネットワークから(又は車両の別のデータネットワークから)データを取得すること、
-車両の長手方向ダイナミクス(ブロック141)及び横断方向ダイナミクス(ブロック142)を処理すること、
-車両ダイナミクスに基づいてグリップ力の展開を分析すること(ブロック143)、
-地面との接触の全体条件を分析すること(ブロック144)、
-瞬時グリップ値及び経時的なその展開に基づいて地面条件を定義すること(ブロック145)
を実行する。
【0034】
モジュール14は、以下:
-横断方向グリップ(ブロック28)
-長手方向グリップ(ブロック28)
-ドリフト(ブロック30)
の推定値を取得するような方式で、CANネットワーク上(又は車両の別のデータネットワーク上、例えば、車両の慣性プラットフォームから)のデータを処理するように構成されている。これは、車両の全体グリップ条件を評価するために、及び地面との界面において交換される力の4つのタイヤへの分布に対する何らかの初期評価のために有用である。これは、パワートレインモジュール12において考慮される変数からは独立した評価であり、したがって、前述で言及されたように、モジュール14は、車両の動的状態の異なる観点及び異なるマッピングを提供し得ることは注記されなければならない。
【0035】
以下のリストは、車両のダイナミクスモジュール14の好ましい実施形態を特徴付ける入力データ及び出力データのコンプレックスを要約する。
【0036】
直接入力データ
-ステアリング角δ[°]
-長手方向加速
【数3】
[m/s
-横断方向加速度
【数4】
[m/s
-ヨーレートr[°/s]又は[rad/s]
【0037】
間接入力データ
-なし
要求されるパラメータ
-車両質量m[kg]
-車両の質量慣性モーメント(極慣性モーメント)I[kg・m
-車両質量中心の位置(l及びl(前ホイールベース及び後ホイールベース)及びh(地面からの質量中心の高さ)によって定義される)
-長手方向空気力学抗力の係数C[-]
-鉛直空気力学抗力の係数C[-](概して非常に小さく;それは、概して動力車両に対して作用する鉛直力の計算に影響を及ぼし得、最終的には、それは、車輪に対して作用する鉛直荷重に影響を及ぼし得る)
出力データ
-横方向グリップ[N]
-長手方向グリップ[N]
-ドリフト角[°]
-スリップ
車両の使用に起因する質量変動の計算は、通常のグリップ条件において、車輪及び車両加速度のためのトルクデータを分析することによって実行される。軸zの周りの極モーメントに関しては、その変動に対する低い感度に起因して、運転中にそれを更新することを必要とせずに提供された値を指すことが可能である。任意選択で、慣性モーメントの計算に含まれる成分の中で運転中に変動を受け得る実質的に唯一の成分である車両質量に基づいて、軸zの周りの極慣性モーメントの値を更新することが可能である。具体的には、質量の増減は、同等の方式で、極慣性モーメントの増減を生成する。これに関して、車両質量の値を更新することに関して以前に観察されたものと同じ検討が当てはまる:それは、特定の参照操縦(例えば、低速度操縦)中の加速度を検出することによって更新されてよく、それは、車両の全体動的バランスに基づいて更新されてよく、ここで、固定かつ既知のパラメータ(例えば、前及び後ホイールベース)及び慣性プラットフォーム上で利用可能な値が考慮に入れられる。
【0038】
車両の横方向ダイナミクスに関しては、好ましい理論的仮定は、図7Aにおいて示されている「二輪車形状」モデルに対応する(明らかに、他の計算モデルが可能であるので、この二輪車形状モデルは一例とみなされなければならない)。モジュール14における車両の長手方向ダイナミクスの計算のための理論的参照が図7Bにおいて示されている。
【0039】
好ましい実施形態では、モジュール14は、車両の慣性プラットフォームから取得されたデータに基づいて動作し、これは、軸xに沿った加速度成分(
【数5】
、長手方向軸)、軸yに沿った加速度成分(
【数6】
、横断方向軸)及び回転加速度
【数7】
(又は、それはヨーレート/ヨー速度ω(rとしても示される)の時間微分に対応するので、
【数8】
)を示す。
【0040】
x及びyに沿って各単一の車輪に対する力を分解することによって、及び加速又は制動(荷重伝達)における鉛直力の関数として前車軸及び後車軸の間の長手方向力Fxの分布を推定することによって、横方向並進時及び回転時の単純なバランスから、質量(m)、質量中心のホイールベース(l及びl(前ホイールベース及び後ホイールベース)及び車両の極慣性モーメントI(使用に起因した前述で言及された近似の正味))を知得することによって、図7Aにおける「二輪車形状」モデルを参照して以下の力を決定することが可能である:
【0041】
Fxf:前車軸に対する長手方向力
Fxr:後車軸に対する長手方向力
Fyf:前車軸に対する横断方向力
Fyr:後車軸に対する横断方向力
【0042】
その上、ここでも慣性プラットフォームから利用可能であるロールに起因した荷重伝達のデータを知得することによって、右側及び左側の間の(すなわち、各単一の車輪に対する)上記で言及された力の分布を決定することが可能である。
【0043】
鉛直力Fzを知得することによって(質量、ここでも慣性プラットフォームから知得され、かつとりわけ値Iy、すなわち、軸yの周りの極慣性モーメント及びω、すなわち、ピッチ速度に依存する、ピッチに起因した空気力学的荷重及び長手方向荷重伝達に起因する。図7Bを参照)、前車軸及び後車軸に対して作用する鉛直力Fzf及びFsr、及び最終的には車両の各単一の車輪に対する摩擦係数μを決定することが可能である。
【0044】
前車軸及び後車軸の摩擦係数間の差の分析から、アクアプレーニング条件の可能な存在を推測することが可能であり、これはなぜならば、この現象は、本質的には、前車輪に関するためである(凍結した地面上の運転等の低グリップの他の状況では、前及び後摩擦係数は類似又は同一であるべきである)。
【0045】
力Fxf、Fxr、Fyf、Fyrの決定は、以下のように、周知である動的バランス方程式のコンプレックスから具体的に導出される:
(全体の長手方向及び横断方向のバランス)
【数9】
【数10】
(横断方向並進におけるバランス)
【数11】
(回転におけるバランス、二輪車形状モデル)
【数12】
(軸xに沿った並進におけるバランス)
Fxf+Fxr=Fx
ただし、Fxf,Fxr=(Fzf,Fzr)の関数車軸に対して作用する鉛直力(車両の重量分布に依存する)によって横方向グリップ力Fyf、Fyrを除算することによって、各車軸及び各方向についての横断方向グリップ係数を推定することが可能である。
-μfx=Fxf/Fzf(前車軸に対する長手方向グリップ係数)
-μfy=Fyf/Fzf(前車軸に対する横断方向グリップ係数)
-μrx=Fxr/Fzr(後車軸に対する長手方向グリップ係数)
-μry=Fyr/Fzr(後車軸に対する横断方向グリップ係数)。
【0046】
ステアリング角δの存在時には、前車軸に対するグリップ係数は、ステアリング方向に沿って力Fyf及びFxfを分解することによって、すなわち、ステアリングされた車輪の中央面を参照して長手方向Fxf(δ)及び横断方向Fyf(δ)成分を再計算し、それゆえ、以下を取得することによって、計算される。
Fyf(δ)=Fyf・sen(δ)+Fxf・cos(δ)
Fxf(δ)=Fxf・[0]cos(δ)+Fyf・sen(δ)
モジュール12を参照して既に述べたように、幾つかの簡略化した仮定が計算において立てられ、これはなぜならば、図7A図7Bの図を参照することによって記述され得る動的バランス方程式に関与する様々なパラメータは運転中に変動し得るためである。例えば、質量中心の位置は、運転中に変動し得、一般的に言えば、車両の動的バランスに影響を及ぼすパラメータの値を繰り返し更新することが要求されることになるが、本発明に係る方法は、(前述において言及されたように)異なる大きさレベルの出力データを通して、離散構成において出力データを提供することによってこの計算問題を解くことを可能にする。この差別化を通して、例えば、経時的な車両の質量中心の厳密な位置も車両質量も知得することは必要ない。
【0047】
当然ながら、計算負荷が問題を課さない場合、かつ出力データを連続的に決定することが可能である場合、文献において利用可能であり、かつ車両ダイナミクスの電子制御において現在使用されている1つ又は複数のモデルに従って運転中に変動し得る車両のパラメータを更新することが必要となる。
【0048】
タイヤの各々によって地面に放出され、明らかに車両に沿って重量分布によって媒介され、慣性プラットフォームからの入力値にのみ依存する力の平均値を規定するために動的バランス評価を設定することが可能である。
【0049】
各タイヤに対するグリップ係数が決定されると、それらは、図8A及び図8Bにおいて示されている図に従って分析される。図8Aのケースでは、計算は、4つの車輪に対するグリップ係数の絶対値の分析に対応する。図8Bのケースでは、計算は、前車軸及び後車軸のグリップ間の差動分析に対応する。これは、地面条件の第1の分析を同時に可能にする。例えば、長手方向グリップ係数が1.1に達すると検出された場合、凍結した地面の存在を除外することが合理的である。しかしながら、車両がアクアプレーニング事象に対処しなければならない場合、長手方向グリップ係数の計算は、この条件を、凍結した地面上での運転と混同することを引き起こし得る値を提供する。これに関して、図8Aにおいて概略的に示されている定量的分析は、図8Bにおいて示されている論理的分析と組み合わされる。そのような分析の目的は、前車軸及び後車軸の間の長手方向グリップ係数の差を決定することである。理論的仮定は、アクアプレーニング現象の物理的特性から直接導出される:本質的には、それは、車両の前車軸に対して影響を与え、一方、後車軸はごくわずかにのみ関与し、これはなぜならば、ほとんど全ての水膜が前車軸の通過によって吹き飛ばされるためである。そのような考慮に基づいて、様々な地面タイプを互いに区別し、したがって、アクアプレーニング条件とは対照的なものとしてそのような地面タイプのうちの1つの上での運転を区別することが可能になる。
【0050】
モジュール16(又は「車輪モジュール」)は、モジュール14の同じ目的で駆動している車輪のグリップ係数の評価を繰り返す(すなわち、グリップ係数に基づいて様々な地面を区別する)機能を有するが、それは、クリティカル条件の信頼性のレベルを高めるために、車両のデータネットワーク(CAN又は他のもの)上で利用可能な他のパラメータを用いて計算を実行する。
【0051】
図9及び図9Aを参照すると、車輪モジュール16は、ここでも、入力データコンプレックスとして、モジュール12及びモジュール14と厳密に同じように、CANネットワーク(又は車両の別のネットワーク)上の情報を利用する。
【0052】
モジュール16は、5つの主な動作、すなわち:
-CANネットワークから(又は車両の別のネットワークから)データを取得すること、
-各車輪のスリップを処理すること、
-各駆動している車輪及び長手方向摩擦/グリップ係数の動的バランスを計算すること、
-制御喪失を分析すること、
-地面条件を定義すること
を実行する。
【0053】
したがって、モジュール16は、以下:
-他のモジュール12、14に制御喪失の原因のインジケーションを提供するように、低グリップ係数を有する地面によって潜在的に引き起こされるグリップ喪失の条件を定義する、スリップに基づくインジケーション;
-各単一の車輪についての動的バランスに対して作用する力に関するインジケーション:パワートレインに基づくグリップ/摩擦係数の計算
を取得するような方式で、CANネットワーク(又は車両上の別のネットワーク)上のデータを処理するように構成されている。
【0054】
以下の論述の要約及び部分的予想によって、以下のリストは、車輪モジュール16の好ましい実施形態を特徴付ける入力及び出力データのコンプレックスを要約する。
【0055】
直接入力データ
コンプレックス1
-車輪(前左、前右、後左、後右)の速度[rpm]又は[rad/s]
-車両の前進速度[m/s]
【0056】
コンプレックス2
-係合されるギア[-]
-車輪(前左、前右、後左、後右)の速度[rpm]又は[rad/s]
-駆動トルク[Nm]
-制動トルク[Nm]
【0057】
コンプレックス3
-長手方向加速[m/s
-横断方向加速度[m/s
【0058】
間接入力データ
-なし
要求されるパラメータ
-車輪の回転半径[m]又は[mm];
-(前輪駆動又は後輪駆動車両の場合)エンジン及び車輪の間の伝達比T_ratio又は(四輪駆動車両の場合)前車軸及び後車軸の間のトルク配分比によって媒介されるエンジン及び車輪の間の伝達比;
-車輪の質量慣性モーメントIzW[kgm];
出力データ
-長手方向グリップ[N];
-長手方向スリップ[-]。
【0059】
車輪モジュール16の機能は、両方の有効性の区間を広げるよう、かつそれらをモジュール12(これは、ここでも本質的には、長手方向ダイナミクスに関する)と統合するような方式で、車両の長手方向ダイナミクスを計算するために車両のダイナミクスモジュール14と相乗的に協働することであり、それゆえ、本発明に係る方法の有効性の大域的区間が広がる。
【0060】
例えば、強力な制動アクションの条件において、車両が制動する挙動をモデル化することは容易ではない。したがって、パワートレインアセンブリの分析に基づくグリップ/摩擦係数の計算は非一貫的になり、一方、計算モデルは、それがモジュール14において実装されるように車両の慣性プラットフォームに基づく場合により効率的である。
【0061】
しかしながら、車輪の動的バランスのモデルが最も一貫的かつ正確である他の条件が存在し得、これはなぜならば、様々な車輪に対する力分布は推定されるのではなく、反対にそれは直接計算されるためである。
【0062】
図9Cを参照すると、スリップは、コンプレックス1の入力データに基づいて、及び文献において既知のモデルに従って計算される。
Slipij(Sij)=[(ωij・Rij)/vij-1]
ここで:
ωij=前/後車軸(j)の右/左車輪(i)の回転速度
ij=前/後車軸(j)の右/左車輪(i)の回転半径
w_ij=前/後車軸(j)の右/左車輪(i)の長手方向速度、これは、車両の長手方向速度vの、ヨーレートrの積との総和を、前/後車軸
(j)の右/左車輪(i)における軌道の曲率半径Dijによって乗算した値に等しい。
【0063】
図9Bは、タイヤの長手方向動的バランスモデルを示しており、これは、モジュール12の値に基づく車輪モジュール16の計算プロセスに関与する。図9Cに関しては、それは、車両の長手方向ダイナミクスを記述するパラメータのためのモジュール16を厳密に指す。横断方向ダイナミクスを記述するパラメータは、本質的には、例えば、値Fy_ij等のモジュール14に関し、これは、横断方向グリップ値Fyf及びFyrから導出され得る。
【0064】
より具体的には、車両(コンプレックス2)のCANネットワーク(又は別のネットワーク)上のデータは、各単一の車輪によって地面に放出される長手方向力の値を決定するために使用される。
【0065】
動的バランス方程式は、非常に単純であり、以下のとおりである:
【0066】
x_ij=Meng_ij-Mbrk_ij-Iw_ijωij'
ここで:
【0067】
x_ijは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)によって地面に放出される長手方向力であり、
eng_ijは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)に対して作用する駆動トルクであり、
brk_ijは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)に対して作用する制動トルクであり、
w_ijは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)の質量慣性モーメントであり、
ωij'は、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)の角加速度値である。
【0068】
それゆえ、比Fx_ij/Fz_ijとして定義される、各車輪についての摩擦/グリップ係数μx_ijの値を取得することが可能であり、ここで、Fz_ijは、前/後車軸(j)の右/左車輪(i)に対して作用する鉛直荷重であり、これは、コンプレックス3の値から既知であり、長手方向荷重伝達及び横断方向荷重伝達の値を推定することが可能になる。
【0069】
車輪ダイナミクス(Fx_ij,μx_ij)及び車輪スリップ(Sij)のバランス方程式の出力データは、図10において示されているように、以下の分析のための入力データとして使用される。
【0070】
したがって、以下を行うことが可能である:
-車両がその上を駆動している地面タイプを定義すること。搭載されたセンサの典型的な性能を用いると、地面タイプを高/中/低グリップ/摩擦に分割することが可能である。その上、スリップの変動頻度に起因して不規則な地面(泥/砂利等)を検出することが可能である。
-車両の動的バランスに関しては、車両の長手方向ダイナミクスのためにモジュール14において取得されるものと同様の出力データのコンプレックスを抽出することが可能である。前述において既に説明されたように、異なる計算モジュールから出力データの同様のコンプレックスを提供することは、システムの信頼性を改善し得るとともに、その有効性の区間を広げ得る。その上、車輪モジュール16は、車輪の長手方向成分に対して動作し、一方、モジュール14は、地面に横方向及び長手方向の両方に放出される力を処理するように構成されている。
【0071】
全体として、モジュール12、14、16の組み合わされた計算実装は、出力データの以下の3つのコンプレックスを提供することをもたらす(再び図1、コンプレックス10を参照):
i)地面タイプ
ii)グリップ条件
iii)アクアプレーニング条件に対する近接性の情報。
【0072】
データコンプレックスi)~iii)の中で、データコンプレックスi)及びiii)は、離散的コンプレックスであり、一方、コンプレックスii)は、連続的(運転中に変動する車両パラメータのリアルタイム更新を伴う)又は離散的であってよい。3つの計算モジュール12、14、16の結果を組み合わることを可能にするために、各コンプレックスi)~iii)を離散的コンプレックスに簡約する論理的単純化が好ましくは実行される。
【0073】
図10を参照すると、以下の単純化が実行される:
【0074】
モジュール12の出力データコンプレックス
PWTMDL_Drag_Level(ブロック24):それは、本発明に係る方法によって決定される更なる抗力Fの値に対応し、それは、3つのレベルに分類される(全てが各単一のインスタントを参照する)
-レベル0(ブロック24A):更なる抗力の成分は検出されず、したがって、車両はアクアプレーニング事象に直面している可能性がない
-レベル1(ブロック24B):更なる抗力の実質的な成分が検出され、したがって、車両はもはや基準状態にはなく、アクアプレーニング条件の発生の具体的な可能性が存在する
-レベル2(ブロック24C):地面からタイヤを浮き上がらせるのに十分な揚力値を生み出す成分よりも高い更なる抗力の成分が検出される。アクアプレーニング事象は確実である。
【0075】
PWTMDL_Drag_Type(ブロック26):本発明に係る方法によって決定される更なる抗力Fの値は、車両がその上を駆動している地面タイプの第1の推定値のためにも使用される。
2レベル分類:
-レベル0(ブロック26A):更なる抗力値は車両速度に対して一定である。これは、緩んだ地面(泥、砂利)又は乾燥ターマックを示す
-レベル1(ブロック26B):更なる抗力値は、車両の速度とともに増加する。それは、アクアプレーニング事象の可能なインジケーションである。
【0076】
モジュール14及び16の出力データのコンプレックス
VEHMDL_LatGrip_Level(ブロック144、ブロック28-モジュール14、横断方向グリップ)、WHEMDL_LongGrip_Level(ブロック144、ブロック28-モジュール14、長手方向グリップ;ブロック162、ブロック32-モジュール16、長手方向グリップ):グリップ力値Fxf、Fxr、Fyf、Fyr、及び(各単一の車輪に対する)図9B及び図9Cにおいて示されている値Fx,ij(ここで、i=1(前),2(後)、j=1(左),2(右)である)に対応する、モジュール14及び16によって計算される長手方向グリップ力及び横断方向グリップ力の値は、組み合わされて合力にされ、3つのレベルに分類される:
-レベル0(ブロック28A、32A):高レベルのグリップが検出される。車両は、地面と高い量の力を交換することが可能である道路上を駆動している。
-レベル1(ブロック28B、32B):グリップの減少が検出される。この条件は、様々な地面(泥/砂利/雪)を含み得る。
-レベル2(ブロック28C、32C):グリップはゼロに接近する。車両は、アクアプレーニングを経験している場合もあるし、又は氷の上を移動している場合もある。
【0077】
その上、前述における説明は、車両ダイナミクスモジュール14が長手方向グリップ値を計算すること、すなわち、それが同様に長手方向グリップレベル(LongGrip_Level)も計算するように適応されていることを明確にする。したがって、横断方向グリップの計算は、モジュール14によって実行され、一方、長手方向グリップの計算は、モジュール14及び16の両方によって実行される。各モジュールからの両方の出力信号(異なる運転条件に依存する)の信頼性に基づいて、いずれの読み値に依拠すべきかを選択することが可能である。信頼性チェックの後にのみ、値が組み合わされ得る。
【0078】
VEHMDL_SideSlip_Level(ブロック145、ブロック30-モジュール14、ドリフト)、WHEMDL_Slip_Level(ブロック164、ブロック34-モジュール16、スリップ):モジュール14及び16によって計算されるタイヤのドリフト条件又はインジケーション(タイヤのサイドスリップ/車両のドリフト角)及び長手方向スリップ条件は、2つのレベルに分類される:
-レベル0:スリップ及び/又はドリフトなし:車両は制御下にある(ブロック30A、ブロック34A)
-レベル1:スリップ及び/又はドリフト:車両は、制御を失っている(ブロック30B、ブロック34B)。
【0079】
図12図15を参照すると、ここで、本発明に係る方法によるアクアプレーニング条件に対する近接性及び地面タイプが説明される。
【0080】
アクアプレーニング条件に対する近接性(図12
開始点は、パワートレインモジュール12である。そこからの出力データに基づいて、二重チェックが実行される:
a)更なる抗力成分が存在するか否か。存在する場合、第2のチェックが実行される
b)更なる抗力成分が速度とともに変動するか否か。変動する場合、アクアプレーニングの可能性が存在し、変動しない場合、アクアプレーニングの可能性は存在せず、したがってプロセスは、対応するインジケーションで終了する。車両がアクアプレーニングシステムを備える場合、後者がスタンバイ条件に保たれる。
【0081】
チェックa)及びb)が肯定的な結果を与える場合、アクアプレーニングの可能性に関して車両運転者に事前警告することが可能であり、その上、アクアプレーニングシステム(存在する場合)を事前トリガ又は事前アラート条件にすることが可能である。そのような状況では、車両は、単にその前進速度が十分に高くなく、したがって、生成された更なる抗力はタイヤを地面から離れさせる揚力をもたらすのには十分ではないので、アクアプレーニング条件に到達していない場合がある。論理出力は、更なる抗力成分が、閾値力値を超え、タイヤを地面から離れさせるのに十分な揚力を生み出すことになる値に等しいか又はそれよりも高い場合、ブロック201(アクアプレーニングの可能性)又は202(アクアプレーニングに対する近接性)に対応する。
【0082】
全ての計算モジュール12、14、16が存在する好ましい実施形態では、更なるチェックを実行することが可能であり、したがって、モジュール14、16に起因して結果物の信頼性が高まる。
【0083】
まず第1に、グリップレベルを検出することが可能である。このために、モジュール14によって横断方向及び長手方向グリップレベル(VEHMDL_LatGrip_Level及びVEHMDL_LongGrip_Level値、ブロック144、ブロック28)を、及びブロック16によって長手方向グリップ(WHEMDL_LongGrip_Level値、ブロック162、ブロック32)を計算することが可能であり、モジュール14によって車両ドリフト(VEHMDL_SideSlip_Level値、ブロック145、ブロック30)を、及びモジュール16によってサイドスリップ(WHEMDL_Slip_Level、ブロック164、ブロック34)を計算することが可能である。アクアプレーニングの確実性の条件(ブロック203)は、グリップデータVEHMDL_LatGrip_Level及びWHEMDL_LongGrip_Levelのコンプレックスがレベル2にあり、かつスリップデータVEHMDL_SideSlip_Level及びWHEMDL_Slip_Levelのコンプレックスがレベル1にある場合にのみ到達される。この状況では、車両運転者は警告を受け、車両に搭載されたアクアプレーニングシステムは、スリップ、グリップ及びドリフトの瞬時値に依存し得る方式に従って、すなわち、そのようなパラメータの関数としてパワー及びその液体流量を変動させることによって、アクティベートされる。
【0084】
緩んだ地面(泥/砂利)又は氷の条件の検出-図13及び図14
泥/砂利又は氷等の他の低グリップ条件を決定することが試みられる場合、検出プロセスは、アクアプレーニング条件に対する近接性を決定するプロセスとは異なる。
【0085】
開始点は、ここでもパワートレインモジュール12、具体的には更なる抗力のタイプである。泥/砂利のケース及び氷のケースの両方において、更なる抗力は、粘性成分によって引き起こされず、したがって、それは、異なる速度において一定であるべきである(PWTMDL_Drag_Typeはレベル0にある)。更なる抗力の経時的な展開は、その値が車両速度とともに実際に変化しないか否かを理解するために、比較的短い時間ウィンドウにわたって調査され得る。
【0086】
したがって、このコンテキストでは、重要なパラメータは、スリップ(長手方向スリップ及びドリフト)であり、すなわち、車両制御の状況を記述するものである。スリップデータVEHMDL_SideSlip_Level及びWHEMDL_Slip_Levelのコンプレックスがレベル1にある場合、車両は、安定性制御システム(例えば、ESC)によってまだ補正されていないレベルにおいてグリップを失っていることが推測され得る。したがって、制御可能性に影響を与える地面条件に関して調査し、これに対応して運転者に警告することが可能である。
【0087】
モジュール12を参照すると、凍結した地面(図13)は、前進に対してほとんど抵抗を有しない道路とみなされ得る。したがって、モジュール12によって計算される更なる抗力は、レベル0に含まれるべきである。泥又は砂利等の緩んだ地面は、更なる抗力をレベル0からレベル1に変化させ得る。換言すれば、多くのケースにおいて、それは1に等しいが、幾つかのケースではグリップレベルは、レベル0に到達するほど低い。スリップ頻度分析SFAは、緩んだ地面(ブロック300、図13)を氷(ブロック400、図14)から最終的に区別するのに有用であり得、後者のケースでは、PWTMDL_Drag_Levelは、確実にレベル0にある。アクアプレーニング防止システムは、アクティベートされず(それは、スタンバイ条件のままにされる)、運転者は、運転に関連付けられた従来の警告灯及び車両の安定性制御によって警告を受ける。車両制御ユニットも同様に、運転をより安全かつより快適にするように、トルク伝達、制動又はサスペンションの剛性を規制するための有用な情報を提供され得る。
【0088】
積雪地面条件の検出-図15
積雪地面上で、演繹的論理は、アクアプレーニング条件に対する近接性を決定する論理及び泥/砂利又は氷等の低グリップ地面を区別するために採用される論理の間の或る種の妥協である。
【0089】
雪は、概して、かなり高い更なる抗力を生成し、したがって、PWTMDL_Drag_Levelは、確実にレベル1又はレベル2にあることになる。他方、PWTMDL_Drag_Typeは、確実にレベル0にあることになり、これはなぜならば、更なる抗力の量は、粘性タイプのものではなく、速度とともに変動しないためである。グリップ値VEHMDL_LatGrip_Level及びWHEMDL_LongGrip_Levelのコンプレックスが検討される限り、それらは、確実にレベル2(アクアプレーニングの典型的なレベルである)にはなく、レベル0又はレベル1にあり得る。積雪地面の検出(ブロック500)は、任意選択で、グリップ喪失によって完遂される:このケースでは、スリップ値VEHMDL_SideSlip_Level及びWHEMDL_Slip_Levelのコンプレックスは、レベル1になる。アクアプレーニング防止システムは、アクティベートされず(それは、スタンバイ条件のままにされる)、運転者は、運転に関連付けられた従来の警告灯及び車両の安定性制御を介して警告を受ける。
【0090】
詳細に論述及び実証されたように、本発明に起因して、アクアプレーニング条件の関数として最も高信頼度でかつ一貫したデータを選択することを可能にするモジュール12、14、16間のシナジーを活用して、その条件に対する近接性のみではなく、車両が移動している地面のタイプも区別することが可能である。その上、これは、いずれの種類の更なるセンサ機器も要求せず、車両、及び後者に搭載されたアクアプレーニング防止システムとの完全な統合を生み出す。
【0091】
当然ながら、実装の詳細及び実施形態は、添付の特許請求の範囲において定義されるように、本発明の範囲から逸脱することなく本明細書において説明及び図示されたものに対して大幅に変動し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図7A-7B】
図8A
図8B
図9
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】