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特表2024-525434充填床細胞培養を監視するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】充填床細胞培養を監視するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/36 20060101AFI20240705BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12M1/36
C12M1/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579742
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022032817
(87)【国際公開番号】W WO2023278117
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/216,844
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ゴラル,ヴァシリー ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロメオ,ロリ アイリーン
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029CC02
4B029DF01
4B029DF02
4B029DF04
4B029DF05
4B029DF06
4B029DF07
4B029DF09
4B029DG06
(57)【要約】
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムを提供する。本システムは、内部貯留槽と、貯留槽に流体接続された入口及び出口とを有する細胞培養容器を備えている。流体流路が、入口に流体を供給するとともに、出口から流体を受け取り、細胞培養容器には、培地調質容器が流体接続されている。また、本システムは、細胞培養容器の出口に配置された出口センサも備えている。出口センサは、出口を介して細胞培養容器から排出される細胞培養培地の特性を検出することができ、バイオリアクタシステムは、出口センサによって検出された特性に基づいて細胞培養培地の特性を調整することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムであって、該バイオリアクタシステムは、
少なくとも1つの内部貯留槽、前記貯留槽に流体接続された入口、及び前記貯留槽に流体接続された出口を備える細胞培養容器と、
前記入口に流体を供給するとともに、前記出口から流体を受け取るように構成された流体流路と、
前記細胞培養容器に流体接続された培地調質容器と、
前記細胞培養容器の前記出口に配置又は前記出口より下流側に配置された出口センサと、
を備え、
前記出口センサは、前記出口を介して前記細胞培養容器から排出される細胞培養培地の特性を検出するように構成され、
前記バイオリアクタシステムが、前記出口センサによって検出された前記特性に基づいて前記細胞培養培地の特性を調整するように構成される、バイオリアクタシステム。
【請求項2】
前記出口センサにより検出される前記特性が、前記細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを含み、
調整される前記細胞培養培地の前記特性が、該細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項3】
前記バイオリアクタシステムが、前記流体流路内の流量を制御するように構成されたポンプをさらに備え、
前記バイオリアクタシステムは、前記出口センサにより検出される前記特性に基づいて前記流量を調整するように前記ポンプを制御するように構成される、請求項1に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項4】
前記バイオリアクタシステムは、前記溶存ガスの量が所定レベルを下回るまで減少すると前記流量を上げるように構成される、請求項3に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項5】
前記バイオリアクタシステムが、前記培地調質容器内の培地特性を検出するように構成された少なくとも1つの培地調質センサをさらに備え、
前記培地特性が、溶存ガスレベル、pH、温度、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項6】
前記バイオリアクタシステムが、前記細胞培養培地の1つ以上の培地特性を制御するように構成された培地調質制御ユニットをさらに備ええ、
前記1つ以上の培地特性が、溶存ガスレベル、pH、温度、栄養素レベル、及び流量を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項7】
前記培地調質制御ユニットが、前記少なくとも1つの培地調質センサから信号を受信し、受信した前記信号に基づいて前記少なくとも1つの調質コンポーネントを制御するように構築される、請求項6に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項8】
前記培地調質制御ユニットが、前記出口センサから信号を受信し、前記出口センサから受信した前記信号に基づいて前記少なくとも1つの調質コンポーネント及び前記ポンプのうちの少なくとも1つを制御するように構成される、請求項6に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項9】
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムの制御方法であって、
細胞培養培地が細胞培養容器に入る入口、及び該細胞培養培地が該細胞培養容器から出る出口を有する細胞培養容器を通過するように細胞培養培地を灌流するステップと、
前記細胞培養容器の前記出口に設けられた出口センサを用いて、前記細胞培養培地の出口特性を測定するステップと、
測定された前記出口特性に基づいて、前記細胞培養培地の入口特性を調整するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
測定された前記出口特性が、前記流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記入口特性が、前記細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞培養培地が前記細胞培養容器に入る前に、該細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベルのうちの少なくとも1つを調整するように、培地調質容器内で前記細胞培養培地を調質するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞培養容器を通る細胞培養培地の流量を調整するように、ポンプを制御するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記出口センサを用いて前記細胞培養培地中の溶存酸素レベルを経時的に測定して、細胞培養による経時的な酸素消費量変化率を算出するステップと、
前記酸素消費量変化率を用いて、前記細胞培養の健全性品質を判定するステップと、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養の前記健全性品質が、前記細胞培養により産生される生物量である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記出口センサが、前記出口に取り付けられたチューブアセンブリに一体化又は結合されたセンサ及びインラインセンサのうちの少なくとも一方である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年6月30日を出願日とする米国仮特許出願第63/216844号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、細胞を培養するためのバイオリアクタシステム及びこれに関する方法に関する。特に、本開示は、バイオリアクタ内の細胞培養を監視、制御するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチン、治療用タンパク質、及び細胞治療薬の製造を目的として、大規模な細胞培養が行われている。細胞治療及び遺伝子治療の市場は急成長中の市場であり、有望な治療法は、臨床試験に進み、さらに、商業化に向けて急速に進むことになる。しかし、細胞治療では、1回の細胞治療に対して、数十億個の細胞又は数兆個のウイルスが必要になる場合がある。そのため、臨床上の成功を収めるためには、短時間に大量の細胞産物を提供できることが極めて重要となる。
【0004】
バイオプロセスで使用する細胞の大部分は足場依存性であり、これはすなわち、これらの細胞が増殖、機能するためには、細胞が付着するための面が必要であることを意味している。接着細胞の培養は、従来、Tフラスコ、ペトリ皿、セルファクトリー、セルスタック容器、ローラーボトル、HYPERStack(登録商標)容器などの様々な種類の容器のいずれかに組み込まれた2次元(2D)の細胞接着面上で行われていた。しかし、これらの手法は、治療薬や細胞を大量生産できるほど高い細胞密度を実現することが困難であるなどの重大な欠点を抱えている場合があった。
【0005】
そこで、培養細胞の体積密度を上げるべく、これに代わる他の方法が提案されている。攪拌槽で行うマイクロキャリア培養などである。しかし、この手法では、マイクロキャリアの表面に付着した細胞に、常にせん断応力がかかるため、増殖・培養性能に深刻な影響が生じていた。また、高密度な細胞培養システムの他の例として、中空糸バイオリアクタも挙げられるが、かかるバイオリアクタの場合、細胞が繊維の隙間空間で増殖して巨大な3次元凝集塊が形成される可能性がある。ところが、これが起こると、栄養素不足のために、細胞の増殖や生産力が著しく阻害されてしまう。よって、この問題を軽減するため、かかるバイオリアクタは小型化されており、大規模製造に適していなかった。
【0006】
足場依存性細胞の高密度な培養システムのもう1つの例が、充填床バイオリアクタシステムである。この種類のバイオリアクタでは、細胞基材を利用して、接着細胞が付着するための面を提供している。そして、半多孔質基材の表面又は内部を通るように培地を灌流することにより、細胞増殖に必要な栄養素と酸素の供給を行っている。例えば、特許文献1~3には、細胞を捕捉するための充填床支持体又はマトリクスシステムを有する充填床バイオリアクタシステムが開示されている。充填床マトリクスは、通常、多孔質粒子を基材として構成されるか、又は、ポリマーのマイクロ繊維不織布で構成される。かかるバイオリアクタは、再循環式フロースルー型バイオリアクタとして機能する。しかし、このようなバイオリアクタが抱える深刻な問題の1つに、充填床内の細胞分布が不均一になってしまうという問題がある。例えば、充填床が、主に入口領域で細胞を捕捉するデプスフィルタとして働いた結果、接種工程で細胞の分布に勾配が生じてしまうことがあった。また、繊維の充填が不規則に行われているため、充填床断面における流通抵抗や細胞捕捉効率も均一ではなかった。例えば、細胞の充填密度が低い領域を通過する培地の流れは速くなり、捕捉されている細胞の数が多いために抵抗が大きい領域を通過する培地の流れは遅くなる。そのため、細胞の体積密度の低い領域には栄養素や酸素が比較的効率よく送達される一方、細胞密度の高い領域は欠乏状態の培養条件に保たれてしまうというチャネリング効果が生じていた。
【0007】
そして、先行技術に開示されている充填床システムのもう1つの大きな欠点が、培養プロセスの終了時に、生細胞を無傷の状態で効率的に採取することができないという点である。最終産物が細胞である場合、あるいは、細胞集団を或る容器で増殖させてから、別の容器に移して更に増殖させる「シードトレイン(seed train)」の一部にバイオリアクタを利用する場合には、細胞の採取は重要な工程である。特許文献4には、細胞採取工程における充填床からの細胞回収効率を向上させるバイオリアクタの設計が開示されている。これは、充填床マトリクスをほぐし、充填床の粒子を攪拌して(かき混ぜて)多孔質マトリクスの衝突を起こすことにより細胞を剥離する工程に基づいた設計である。しかしながら、この手法は手間がかかる上、細胞に大きなダメージを与える可能性があるため、全体的な細胞生存率を低下させる恐れもあった。
【0008】
現在市販されている充填床バイオリアクタの例として、ポール・コーポレーション(Pall Corporation)製のiCellis(登録商標)が挙げられる。「iCellis」では、不織布状に配列した不規則な向きの繊維からなる細胞基材材料の小細片を利用している。そして、かかる細片を容器に充填することにより、充填床が形成されている。しかし、同様の市販ソリューションのように、この種類の充填床基材にも欠点がある。具体的には、基材細片が不均一に充填されているため、充填床内に目に見えるレベルの流路が形成されており、充填床内の培地流及び栄養素分布を選択的かつ不均一にしてしまう点である。「iCellis」に関する論文には、「システム全体として、細胞の数が固定床の上部から下部に向かって増加する不均一な細胞分布が見られる」こと、並びに「栄養素勾配により、(中略)細胞の増殖と産生に制限が加えられる」こと、さらに、これらが相まって「トランスフェクション効率を損なう恐れのある不均等な細胞分布」が生じることが指摘されている(非特許文献1)。論文にはさらに、充填床を攪拌することより分散性を向上させることができるかもしれないが、その場合には別の問題が生じてしまうこと(すなわち、「接種及びトランスフェクション時に分散性を向上させるのに必要な程度の攪拌を行えば、せん断応力が増加し、ひいては細胞生存率の低下につながる」(非特許文献1)こと)も指摘されている。また、「iCellis」に関しては、他の論文も、細胞が不均一に分布してしまうと、生物量センサを用いて細胞集団を監視することが難しくなる(「(前略)細胞が不均一に分布している場合、最上層キャリアの細胞から得られる生物量信号が、必ずしもバイオリアクタの全体像を示すものとならない可能性がある」(非特許文献2))と指摘している。
【0009】
さらに、「iCellis」では、基材細片内の繊維配列が不規則であること、充填床ごとに細片の充填にばらつきがあることから、培養間で基材が異なることになる。よって、顧客にとっては、細胞培養の生産力予測が困難な場合がある。さらに、「iCellis」では、充填床により細胞が捕捉されると考えられるため、「iCellis」の充填基材から細胞を効率的に採取することは、非常に困難ないし不可能である。
【0010】
また、どのようなプラットフォームを使用するかにかかわらず、プロセス開発の初期段階でユーザに要求されていることは、細胞の挙動、ウイルスの産生、培養の進行状況をより深く理解するための情報をつかむことである。上流のバイオリアクタプロセスの開発では、重要なパラメータと品質特性を見つけ出すこと、さらには、パラメータを定義してこれらを最終製品と関連付けることが要求されている。プロセスの開発及び効率化にとっては、これらのパラメータがどのようなものであるかを理解すること、そして、より高密度で大規模なシステムではパラメータがどのようにスケールアップするのかを理解することが重要である。
【0011】
また、上流のバイオプロセス生産は、適正製造規範(good manufacturing process:GMP)という規制、及びプロセス解析工学(process analytical technology:PAT)と呼ばれる要件の下で行われる。PATは、生産プロセスの設計、解析、制御を行うためのツールと考えられている。プロセスパラメータと産生物の特性とを測定することにより、最終製品の品質保証を行うことが可能となる。PATには、培養プロセスの詳細なオンライン監視が含まれ得るが、これにより、プロセスの特性評価やプロセスの変化検出に有用なツールが得られる。充填床バイオリアクタプロセスの特性評価及び制御に関するパラメータとは、pHと、温度と、溶存酸素又は酸素供給量(oxygen delivery:DO)と、二酸化炭素(CO)である。しかし、充填床バイオリアクタに確認されている欠点として、基材サンプルを採取して、細胞の状態や細胞培養全体の進行状況を直接評価することが難しいという点が挙げられる。基材サンプルの採取により培養物全体を汚染してしまう危険性があるほか、プラットフォームが不均一である場合には、基材サンプルの採取により得られるデータが誤解を招くもの又は不正確なものとなる危険性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4833083号明細書
【特許文献2】米国特許第5501971号明細書
【特許文献3】米国特許第5510262号明細書
【特許文献4】米国特許第9273278号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Rational plasmid design and bioprocess optimization to enhance recombinant adeno-associated virus (AAV) productivity in mammalian cells. Biotechnol. J. 2016, 11, 290-297
【非特許文献2】Process Development of Adenoviral Vector Production in Fixed Bed Bioreactor: From Bench to Commercial Scale. Human Gene Therapy, Vol. 26, No. 8, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、初期段階の臨床試験用のウイルスベクターの製造であれば既存のプラットフォームでも可能であるが、後期段階の商業生産規模までカバーするためには、高品質な生成物をより大量に生産することが可能なプラットフォームが必要とされている。また、これに加えて、培養プロセスの各側面のリアルタイム制御の向上と、培養状態の異常の検出・診断とを図るために、バイオリアクタの運転中に細胞培養物から特定の測定可能なパラメータを収集することを可能にするシステム及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の一実施形態によれば、細胞を培養するための充填床バイオリアクタシステムが提供される。本システムは、少なくとも1つの内部貯留槽、貯留槽に流体接続された入口、及び貯留槽に流体接続された出口を備える細胞培養容器と、入口に流体を供給するとともに、出口から流体を受け取るための流体流路と、細胞培養容器に流体接続された培地調質容器と、細胞培養容器の出口に配置された出口センサと、を備えている。出口センサは、出口を介して細胞培養容器から排出される細胞培養培地の特性を検出することができ、バイオリアクタシステムは、出口センサによって検出された特性に基づいて細胞培養培地の特性を調整することができる。
【0016】
いくつかの実施形態の一態様によれば、出口センサにより検出される特性は、細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つとすることができる。溶存ガスは、空気、溶存酸素、及び二酸化炭素のうちの少なくとも1つとすることができる。調整される細胞培養培地の特性は、細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つとすることができる。本システムは、流体流路内の流量を制御するように構成されたポンプをさらに備えることができる。バイオリアクタシステムは、出口センサにより検出される特性に基づいて流量を調整するようにポンプを制御する。いくつかの実施形態の一態様として、バイオリアクタシステムは、溶存ガスの量が所定レベルを下回るまで減少すると流量を上げるように構成される。
【0017】
1つ以上の実施形態によれば、細胞を培養するためのバイオリアクタシステムが提供される。本システムは、少なくとも1つの内部貯留槽、貯留槽に流体接続された入口、及び貯留槽に流体接続された出口を有する細胞培養容器と、細胞培養容器の出口又はその近傍に配置された出口センサと、入口に流体を供給するためのポンプと、を備えている。ポンプは、出口センサからの信号に基づいてバイオリアクタシステムにおける流体の灌流流量を調整することができる。いくつかの実施形態の一態様において、出口センサは、細胞培養容器を出る流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを測定することができる。
【0018】
1つ以上の実施形態によれば、細胞を培養するためのバイオリアクタシステムの制御方法が提供される。本方法は、細胞培養容器を通過するように細胞培養培地を灌流するステップと、細胞培養容器の出口に設けられた出口センサを用いて、細胞培養培地の出口特性を測定するステップと、測定された出口特性に基づいて、細胞培養培地の入口特性を調整するステップと、を含む。測定された出口特性は、流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つである。入口特性は、細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つである。また、本方法は、細胞培養培地が細胞培養容器に入る前に、細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベルのうちの少なくとも1つを調整するように、培地調質容器内で細胞培養培地を調質するステップをさらに含むことができる。いくつかの実施形態の一態様において、本方法は、細胞培養容器を通る細胞培養培地の流量を調整するように、ポンプを制御するステップをさらに含む。また、本方法は、出口センサを用いて細胞培養培地中の溶存酸素レベルを経時的に測定して、細胞培養による経時的な酸素消費量変化率を算出するステップと、酸素消費量変化率を用いて、細胞培養の健全性品質を判定するステップと、をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】1つ以上の実施形態に係る細胞培養システムを示す模式図
図2】1つ以上の実施形態に係る、細胞培養システムの灌流流量制御工程を示す図
図3】1つ以上の実施形態に係る、図1に示すバイオリアクタシステムを使用した例示的なバイオリアクタ運転中における、バイオリアクタ灌流流量及び酸素濃度の経時的な推移を示すグラフ
図4A図3に示すバイオリアクタ運転中における溶存酸素濃度の経時的な推移を示すグラフ
図4B図3に示すバイオリアクタ運転中におけるpHの経時的な推移を示すグラフ
図4C図3に示すバイオリアクタ運転中における培地調質温度の経時的な推移を示すグラフ
図5図3に示すバイオリアクタ運転中の充填床細胞培養における酸素消費量の経時的な推移を示すグラフであり、曲線の傾きαを含む図
図6】1つ以上の実施形態に係る、傾きαをバイオリアクタの細胞播種密度に対して示すグラフ
図7】1つ以上の実施形態に係る、傾きαを細胞培養基材の表面積に対して示すグラフ
図8】1つ以上の実施形態に係る、傾きαを細胞採取収量に対して示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の種々の実施形態について、図面が存在する場合には図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、種々の実施形態についての記載により限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。さらに、本明細書に記載するいずれの例も、本発明を限定するものではなく、請求対象の発明について可能な多数の実施形態うちのいくつかを示すものに過ぎない。
【0021】
本開示の複数の実施形態は、細胞培養の監視と制御を行うためのシステム及び方法を含んでいる。本開示は、バイオリアクタ運転中に特定の信号シグネチャを収集することにより、重要側面のリアルタイム制御の向上と、培養状態の異常の検出・診断とを図るシステム及び方法を説明するものである。本開示に記載の細胞培養シグネチャパラメータを同定することにより、これを、プロセス解析工学(PAT)実施ツールや上流プロセスのオンライン監視ツールとして使用することができる。したがって、シグネチャ動作パラメータのルーチン及び再現性を開発することにより、最適化された細胞培養生産プロセスを確立することが可能となる。
【0022】
本開示の実施形態によれば、細胞培養処理中におけるバイオリアクタシステム内の細胞培養の状態を監視するためのバイオリアクタシステム及び方法が提供される。特に、複数の実施形態において、細胞培養バイオリアクタ又は容器の出口に出口センサを有するバイオリアクタシステム、並びに当該出口センサなどのセンサからのセンサ信号のリアルタイム信号収集及びリアルタイム処理を行う機能を有するシステム、並びにかかるシステムを用いた細胞培養方法について説明を行う。例えば、本方法では、かかるセンサ信号を、細胞培養プロセスにおける重要ステップのトリガ点として利用する工程、又は、かかるセンサ信号を利用して、或るバイオリアクタサイズや播種密度における現在の細胞培養の健全性を経時的に予測・評価する工程が含まれる。これらのシステム及び方法の利点として、充填床基材を物理的にサンプリングしてオフラインで分析を行う必要なく、リアルタイムかつ能動的に、バイオリアクタの状態監視を行うことができる点が挙げられる。また、バイオリアクタの状態を連続的に監視することにより、バイオプロセスにおいて、充填床バイオリアクタ内の培養プロセスの進行状況に依存するステップの調整を、エンドユーザが能動的に行うことも可能となる。さらに、バイオプロセス処理の進行状況について、特性評価を行い、ログに記録することが可能となるため、これにより、プロセスにおけるバッチ間の一貫性を、エンドユーザが監視、記録することも可能となる。このように複数の細胞培養処理にわたり横断的に、進行状況と一貫性を追跡することには、非常に大きな利点があると考えられる。
【0023】
従来の大規模な細胞培養バイオリアクタでは、様々な種類の充填床バイオリアクタが使用されてきた。通常、これらの充填床には、接着細胞又は浮遊細胞を保持して、成長と増殖を支援するための多孔質マトリクスが内包されている。充填床マトリクスは、体積に対する表面積の比率が高いため、他のシステムに比べて細胞密度を高くすることができる。しかし、充填床がデプスフィルタとして働き、細胞をマトリクスの繊維に物理的に捕捉したり絡め取ったりしてしまう場合も少なくなかった。つまり、接種された細胞は充填床内を直線的に流れるため、充填床内において細胞の分布が不均一となり、充填床の深さ及び幅全体に亘って細胞密度のばらつきが生じていた。例えば、バイオリアクタの入口領域の細胞密度が高く、バイオリアクタの出口に近づくほど大きく細胞密度が低下する場合があった。他の例では、充填床に不均一性があると、細胞培養培地が充填床の特定の領域に優先的に流れる一方で、充填床の他の領域への到達が制限されるチャネリング効果が生じ、この場合も、細胞の不均一な分布や培地又は栄養素の不均一な(一貫性のない)分布が生じていた。このように充填床内において細胞が不均一に分布すると、バイオプロセス製造におけるかかるバイオリアクタの拡張性及び予測精度が著しく阻害されるとともに、充填床の単位表面積当たり又は単位体積当たりの細胞の増殖効率又はウイルスベクターの生産効率の低下を招くことすらあった。
【0024】
先行技術に開示された充填床バイオリアクタに見られるもう1つの問題が、上述のチャネリング効果である。かかるバイオリアクタでは、充填されている不織布繊維が持つ不規則性のため、充填床の断面における局所的な繊維密度が、いかなる断面をとっても均一とはならない。そして、培地の流れは、繊維密度が低い(充填床の透過性が高い)領域では速くなり、繊維密度が高い(充填床の透過性が低い)領域ではこれに比べて大幅に遅くなる。その結果、充填床全体で見ると培地灌流が不均一となり、これによりチャネリング効果が生じ、深刻な栄養素勾配や代謝物勾配として顕在化する。そしてこれが、全体としての細胞培養及びバイオリアクタの性能に悪影響を及ぼしていた。培地灌流流量の少ない領域に位置する細胞が飢餓状態に陥り、非常に多くの場合、栄養素不足又は代謝物中毒により死滅するのである。さらに、不織布繊維足場で充填されたバイオリアクタを使用する際に突き当たるもう1つの問題として、細胞採取の問題がある。充填床がデプスフィルタとして働くため、細胞培養プロセスの最後の工程で剥離した細胞が、充填床内に捕捉されてしまい、細胞の回収率が非常に低くなってしまう。これが大きな制約となり、生細胞を産生物とするバイオプロセスへのかかるバイオリアクタの利用は、非常に限定的なものとなっていた。つまり、かかるバイオリアクタでは、このような不均一性により、流れやせん断への曝露度が異なる領域が生じ、これにより、有効な細胞培養領域が事実上減少する、培養が不均一となる、トランスフェクション効率や細胞剥離が妨げられる、といった事態が引き起こされていた。
【0025】
既存の細胞培養ソリューションが持つ上記の問題などの問題に対処するため、本開示の実施形態では、効率的かつ高収率な足場依存性細胞の細胞培養及び細胞産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子)の産生を可能にする、バイオリアクタシステム、細胞増殖基材、細胞増殖基材マトリクス、並びにかかるバイオリアクタシステム及び基材を用いた方法を提供する。複数の実施形態は、均一な細胞播種及び培地・栄養素灌流、並びに効率的な細胞採取を可能にする、規則正しく配列された多孔質の基材材料で構成された多孔質細胞培養マトリクスを含む。また、複数の実施形態は、細胞の播種及び増殖、細胞産物の採取、又はその両方を行う機能を有する基材及びバイオリアクタの規模を、その均一な性能を損なうことなく、プロセス開発規模からフル生産規模まで拡張できる拡張性を持った細胞培養ソリューションを可能にするものである。例えば、いくつかの実施形態では、拡張後の生産規模の全体にわたって基材の単位表面積当たりのウイルスゲノム数(VG/cm)を概ね維持したまま、バイオリアクタの規模をプロセス開発規模から生産規模まで容易に拡張することができる。本明細書の各実施形態は、それが持つ採取性と拡張性により、同一細胞基材上で細胞集団を様々な規模で増殖させる高効率のシードトレインに利用することができる。これに加えて、本明細書の各実施形態は、表面積の大きい細胞培養マトリクスを提供するものでもある。かかる細胞培養マトリクスを、本明細書に記載の他の特徴と組み合わせることにより、高収率の細胞培養ソリューションが可能となる。いくつかの実施形態では、例えば、本明細書において説明する細胞培養基材、バイオリアクタ、又はその両方は、1バッチ当たり1016~1018個のウイルスゲノム(VG)を産生することができる。
【0026】
本開示の実施形態は、1バッチ当たり約1014個を上回るウイルスゲノム、1バッチ当たり約1015個を上回るウイルスゲノム、1バッチ当たり約1016個を上回るウイルスゲノム、1バッチ当たり約1017個を上回るウイルスゲノム、1バッチ当たり最大約1016個又は約1016個を上回るウイルスゲノムの規模でウイルスゲノムを産生することが可能な、実用的なサイズのウイルスベクタープラットフォームを実現することができる。いくつかの実施形態では、1バッチ当たり約1015~約1018又はそれを上回る数のウイルスゲノムが産生される。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルスゲノム収量は、1バッチ当たり約1015~約1016個のウイルスゲノム、又は1バッチ当たり約1016~約1019個のウイルスゲノム、又は1バッチ当たり約1016~1018個のウイルスゲノム、又は1バッチ当たり約1017~約1019個のウイルスゲノム、又は1バッチ当たり約1018~約1019個のウイルスゲノム、又は1バッチ当たり約1018以上のウイルスゲノムとすることができる。
【0027】
さらに、本明細書に開示の複数の実施形態によれば、細胞培養基材への細胞の接着及び増殖するだけでなく、培養した細胞を生きた状態で採取することも可能となる。生きた状態で細胞を採取できないことが、現行のプラットフォームの重大な欠点であり、そのために、生産能力に見合う十分な数の細胞を構築、維持することが難しかった。本開示の複数の実施形態の一態様によれば、80%~100%の生存率、又は約85%~約99%の生存率、又は約90%~約99%の生存率で、細胞培養基材から生細胞を採取することができる。例えば、採取される細胞に占める生細胞を、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%とすることができる。細胞培養基材からの細胞の剥離は、例えばトリプシン、TrypLE、又はAccutaseなどを用いて行うことができる。
【0028】
1つ以上の実施形態によれば、細胞培養バイオリアクタは、バイオリアクタ容器内に細胞培養基材を含むことができる。基材は、充填床バイオリアクタ構成で設置することも、バイオリアクタ容器の3次元培養チャンバ内の他の構成で設置することもできる。汚染の懸念があるため、容器は、使用後に廃棄可能な使い捨て容器とすることができる。
【0029】
図1に示すように、本開示の複数の実施形態は、細胞培養容器110内で細胞を培養するためのバイオリアクタシステム100を含む。細胞培養容器110は、細胞培養容器110の内部貯留槽111に流体接続された入口112及び出口114を備えている。内部貯留槽111は、細胞を中に入れて培養するための空間を有しており、接着系の細胞を培養することができる細胞培養基材(図示せず)をさらに含むこともできる。いくつかの実施形態では、培地、細胞、及び/又は栄養素を細胞培養容器110に投入するための入口112が、細胞培養容器110の一端部に設置され、培地、細胞、又は細胞産物を細胞培養容器110から取り出すための出口114が、反対側の端部に設置される。内部貯留槽内の基材は多くの形態をとることが可能であるが、本明細書では、例としてそのいくつかを説明する。いくつかの実施形態では、入口112と出口114の一方又は両方を使用して、培地又は細胞などの内容物の細胞培養容器110への流入及び流出を行うことができる。例えば、入口112は、細胞播種段階、灌流段階、及び/又は培養段階において、培地又は細胞を細胞培養容器110内に流入させるために使用できるだけでなく、採取段階において、入口112から培地、細胞、又は細胞産物のうちの1つ以上を取り出すためにも使用することができる。したがって、「入口(inlet)」及び「出口(outlet)」という用語は、これらの用語が指す開口部の機能を限定することを意図したものではなく、通常の細胞増殖過程において、流体の注入に使用されるポート及び流体の排出に使用されるポートをそれぞれ意味するものと広義に理解されたい。細胞培養容器110の出口114には出口センサ118が設けられている。本明細書において、「出口に(at the outlet)」とは、センサ検知が、出口114から受け取った培地をシステムの他の部分(例えば、培地調質容器)に還流させる流体流路においてインラインで行われる状態を意味することができるほか、センサが細胞培養容器110内に設けられる状態を意味することもできるが、好ましくは、センサが、細胞培養容器110内の細胞培養基材又は充填床などの細胞培養ゾーンよりも後方に設けられることを意味している。これにより、出口センサ118は、充填床又は細胞培養基材などの細胞培養ゾーン通過後の培地の特性を検出することができる。
【0030】
複数の実施形態によれば、出口センサ118はインラインセンサとすることができ、出口114、出口114に接続された接続流路(例えば、チューブ、配管、又は導管)、又はその両方に対して、一体化する、結合する、及び/又は着脱可能に取り付けることができる。出口センサ118は、例えば、使い捨てのインラインセンサとすることができる。出口114又は出口114に接続されたチューブにインラインセンサとして設けることにより、出口センサ118は、バイオリアクタ内の細胞培養を妨げることも、停止させることもなく(例えば、バイオリアクタを通過するように培地を灌流しながら)培地の特性を感知することができる。
【0031】
また、システムは、細胞培養培地122を保持し、調質することができる培地調質容器(media conditioning vessel:MCV)120をさらに備えている。流体流路142、144により、調質済の培地112が培地調質容器120から細胞培養容器110に送られ、使用済みの培地が細胞培養容器110から培地調質容器120に還流される。培地調質容器120は、複数のセンサ及び/又は調質コンポーネント124a、124b、124c、124dに結合することができ、このセンサ及び/又は調質コンポーネント124a、124b、124c、124dを利用して、細胞培養中に細胞培養培地の特性を感知し、必要に応じてその培地を調整(調質)することが可能となる。センサ及び/又は調質コンポーネント124a、124b、124c、124dとしては、溶存ガス(例えば、O、空気、CO、N)センサ及び溶存ガス供給装置、pHセンサ、酸素発生/ガススパージャユニット、温度プローブ及び温度制御デバイス、栄養素添加ポート及び塩基添加ポートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スパージャユニットに供給される混合ガスは、Nガス、Oガス及びCOガスを制御するガス流量制御装置により制御することができる。培地調質容器120は、培地混合のためのインペラを内蔵することもできる。
【0032】
また、システムは、培地調質制御ユニット130をさらに備えることができる。培地調質制御ユニット130は、複数のセンサ及び/又は調質コンポーネント124a、124b、124c、124dに動作可能に接続されており、これらのセンサから検出された信号の処理を行ったり、及び/又は調質コンポーネントを制御することにより培地調質容器120内の培地122の調質を行ったりする。また、培地調質制御ユニット130は、ポンプ150にも動作可能に接続されており、ポンプ150の制御、ひいては、流体流路142、144を通過する流体の流量及び細胞培養容器110を通る灌流流量の制御を行うことができる。また、これに代えて、ポンプ150と出口センサ118を直接接続することができるほか、ポンプ150と出口センサ118を、培地調質制御ユニット130とは別体の灌流制御ユニットを介して接続することもできる。なお、本明細書のいくつかの実施形態では、蠕動ポンプを使用しているが、他の種類のポンプを使用することもできる。図1に示すように、培地調質容器120は、バイオリアクタ容器110とは別体の容器として設けられる。この構成には、細胞を培養している場所から切り離した場所で培地を調質して、調質済の培地を細胞培養空間に供給できるという利点がある。ただし、いくつかの実施形態では、バイオリアクタ容器110内で培地調質を行うこともできる。
【0033】
いくつかの実施形態では、培地調質制御ユニット130を使用することにより、培地調質容器120内の細胞培養培地122の種々のパラメータを、定常レベル又は所望のレベルに維持することができ、よって、バルク培地122の温度、酸素飽和度、pH、及びCO濃度を特定のレベルに維持することが可能となる。例えば、所与の細胞株に関して、又は細胞培養プロセスの所与の段階において、細胞の健全性及び/又は細胞増殖を最適なものとするために、細胞培養培地122の温度、pH、溶存ガス含有量、又は栄養素レベルを特定のレベルとすることが望ましい場合がある。培地調質容器120の培地122は、入口112を介して細胞培養容器110に送られる。入口112は、細胞の播種及び培養開始を目的とした接種細胞の注入ポートをさらに備えることもできる。細胞培養容器110は、出口114をさらに備えることができる。この出口114を介して、容器110から細胞培養培地122が排出される。また、出口114から細胞又は細胞産物を取り出すこともできる。細胞培養容器110から出る流体流の内容物を分析するために、出口センサ118が設けられる。上述したように、培地調質制御ユニット130は、出口センサ118(例えば、Oセンサ)から信号を受信し、この信号に基づいて、細胞培養容器110の入口112の上流にあるポンプ150(例えば、蠕動ポンプ)に信号を送信することによって、細胞培養容器110を通る流体の流れを調整することができる。したがって、出口センサ118が測定した因子のうちの1つ又はその組み合わせに基づいて、細胞培養容器110への流量をポンプ150で制御することにより、所望の細胞培養条件を実現することができる。流量を変化させることにより、培地調質容器120内の細胞培養培地122を所望の状態に保つことができるということは、流量を変化させることにより、事実上、細胞培養容器110内の細胞が必要としているあらゆるものに対処することができるということである。例えば、培地調質容器120から出る細胞培養培地122は、最適な生産力が得られるように調質されるため、入口112から流入する培地は、培地の最適要件を満たしている必要がある。出口114にある出口センサ118により、細胞培養容器110に存在する細胞培養培地が所望のレベルを下回る状態にあることを検出した場合、例えば、培地中の溶存ガス(例えば、酸素)又は細胞栄養素が、培養中の細胞によりある程度の量だけ消費されたため、少なくとも一部の細胞(すなわち、培地の消耗が最も大きい出口付近の細胞)の培養が最適に行われていないことを意味している場合がある。したがって、例えば、出口センサ118での細胞培養培地中の溶存酸素レベルが、最適レベル(例えば、所与の種類の細胞、所与の培養段階などにとって最適なレベル)を下回っている場合、灌流流量を上げることにより、調質済の培地の供給流量を、すべての細胞(出口付近の細胞も含めて)を最適条件で培養するために必要な流量まで上げることができる。
【0034】
培地灌流流量の制御は、培地調質制御ユニット130によって行われる。培地調質制御ユニット130は、出口センサ118と同様に、培地調質容器120及び培地調質容器120内のセンサ124a~124dからもセンサ信号を収集し、センサ信号の比較を行う。細胞培養容器110内の充填床基材を通る培地灌流の充填流としての性質上、充填床に沿って栄養素や、pH、酸素の勾配が形成される。バイオリアクタの灌流流量は、ポンプ150に動作可能に接続された培地調質制御ユニット130により自動制御することができる。この制御方式を図2のフロー図に示す。図2に示す感知及び制御プロセス200では、ステップ202で、バイオリアクタ最適化を1回実行することにより、最適条件を予め決定する。これらの最適条件には、出口センサ118における最小pH、最小酸素レベル、及び最小栄養素(例えば、グルコース)レベル、並びに培地調質容器120内におけるpH、酸素レベル、及び栄養素(例えば、グルコース)レベルが含まれる。なお、これらのパラメータは一例として示したものであり、当業者であれば、用途によっては、重要なパラメータがこの他にもある(例えば、温度など)場合があることが理解できるであろう。培地調質容器120内のpHレベルと酸素レベルの制御は、培地調質容器120内に設置されたそれぞれのセンサからの入力に基づいて、独立して行われる。培地調質容器120内の栄養素(例えば、グルコース)レベルは、出口センサ118からの信号に一部に基づき、出口センサ118により検出される栄養素レベルを培地調質容器120内の栄養素レベルが絶えず上回る状態となるように維持される。細胞培養の実行中、ステップ204とステップ206は並行して実施される。ステップ204で、出口センサ118を使用して、細胞培養容器110の出口114での状態(例えば、pH、O、グルコース)を測定する。ステップ206で、センサ124a~124dを使用して、培地調質容器120内の状態(例えば、pH、O、グルコース)を測定する。ステップ208で、ステップ202及びステップ204から得られる情報に基づき、制御ユニットが灌流ポンプ150の制御を行う。ステップ210では、出口センサ118のpHがステップ202で決定した最小pHより大きいかどうかの判定、出口センサ118の酸素レベルがステップ202で決定した最小酸素レベルより大きいかどうかの判定、及び培地調質容器120内の栄養素レベルが出口センサ118における栄養素レベルより大きいかどうかの判定、及び出口センサの栄養素レベルがステップ202で決定した最小レベルより大きいかどうかの判定を行う。上記の条件がすべて成立する場合、現在の流量でポンプによる灌流を継続する(ステップ212)。一方、上記の条件が成立しない場合、ステップ214で、現在の灌流流量が最大流量以下であるかどうかを判定する。判定結果がいいえの場合、システムは、出口114の最小pH、O、グルコースレベルを見直すか、培地調質容器120内の栄養素レベルを上げる。一方、現在の灌流流量が最大流量より小さい場合には、ステップ218で、灌流流量を上げる指示を出す。そして、感知及び制御方式200は、図2のフロー図の最上部に戻り、再びステップ204及びステップ206に進む。
【0035】
したがって、本開示の実施形態によれば、細胞培養容器内の細胞が消費する栄養素及び/又は酸素の量を直接測定し、細胞にとって望ましい条件を維持するように応答することが可能となる。例えば、細胞培養の実行中、培地調質制御ユニット130は、センサ124a~124dにより測定されるバルク培地の酸素飽和度が、大気下での飽和状態に対して特定のレベルに維持されるように予めプログラムされている。また、バイオリアクタ出口114に第2のセンサ(出口センサ118)を設置して、細胞培養容器からの排出直後の培地の酸素飽和度を測定する。これらのセンサ及び制御装置を利用して灌流流量を自動調整することにより、酸素消耗度を生理的条件の範囲内の一定のレベルに維持することができる。
【0036】
本開示のいくつかの実施形態によれば、細胞培養プロセスを監視するための改良されたシステム及び方法が提供され、これにより、細胞培養プロトコルのプロセス開発を加速し、細胞培養プロセスの効率性と再現性を向上することが可能となる。また、これらのバイオプロセス処理の進行状況について、特性評価を行い、ログに記録することが可能となるため、これにより、プロセスにおけるバッチ間の一貫性を、エンドユーザが監視、記録することが可能となる。プロセスの特性評価に関するパラメータとは、細胞の増殖、細胞の品質、培地の状態(温度、pH、pO、pCO)、代謝物(グルコース、乳酸、グルタミン、アンモニウム)の濃度である。今日、細胞培養では、バルク培地の温度、pH、pO、pCOの制御は、通常、オンラインで定期的に行われているが、動的なシステムの上記を含むプロセスパラメータのオンライン監視は行われていない。したがって、本開示の実施形態は、例えば、充填床灌流バイオリアクタにおける酸素消費パラメータを取得した上で、かかるパラメータが、与えられたバイオプロセスの特性を示していること、ひいては与えられたバイオプロセスのシグネチャパラメータとして使用できることを実証するシステム及び方法を提供する。
【0037】
上述したように、図1は、バイオリアクタシステム(例えば、充填床灌流バイオリアクタ)の模式図を示している。入口112から細胞培養容器110に入る時点では、細胞培養培地を、大気下で酸素が100%飽和した状態とすることができる。なお、ヘンリーの法則によれば、液相中の気体の濃度は、ヘンリー定数(k)に気相中の気体の分圧を掛けたものに等しい。したがって、酸素が飽和した状態を細胞培養培地中の酸素濃度として示すことができ、通常の大気圧で酸素が100%飽和した状態は、酸素濃度204μM(204×10-6モル/L)に等しいと換言することができる。そして、細胞培養培地が細胞培養容器を通過する間に、固定細胞により溶存酸素が消費されて、細胞培養培地中の酸素濃度が低下する。酸素の消費速度は、細胞の種類によって異なる。しかし、本開示の感知・制御システムを備えたバイオリアクタシステムによれば、ユーザは、出口センサ118で測定されるバイオリアクタ出口における酸素濃度を所定の濃度とした状態でプロセスを実行することが可能となり、培地調質及び灌流制御システムは、図2のフロー図に示されるロジックに従って動作する。
【0038】
上記のバイオリアクタシステムの感知及び制御について、いくつか例を挙げて説明したい。具体的には、図3は、出口センサ118で測定されるバイオリアクタ運転中の経時的な溶存酸素の推移(302)(%)と、これに対応するシステムの培地灌流流量(304)(mL/分)を示す典型的なグラフを示している。流量の制御は、蠕動式灌流流量制御ユニットによる自動制御で行った。この例では、時間0:00にバイオリアクタへの細胞播種が行われ、出口センサ118での培地の最小酸素飽和度が、ユーザにより30%に設定された。また、初期の培地灌流流量は33mL/分に設定された。次に、接種細胞をバイオリアクタシステムに供給し、これにより、接種細胞の充填床基材への接着と増殖が始まった。これに伴い、酸素消費量が増え、播種後26時間で、出口での培地の酸素飽和度が、大気飽和の約30%(% a.s.)まで低下した。すると、バイオリアクタ出口114の酸素飽和度を最小飽和度である30%に維持するように、制御システムが自動的に灌流流量を上げる。その後、接種後72時間の時点で、出口での最小酸素飽和度の設定がユーザにより30%から15%に引き下げられ、自動モードで細胞培養が進められた。ここで留意されたいのは、培地条件の維持が、培地調質制御ユニットにより培地調質容器内で独立に行われた点である。培地調質容器のパラメータの例を、図4A図4B、及び図4Cに示す。具体的には、図4Aは、培地調質容器内の培地における酸素濃度(%)の経時的な推移を示している。また、図4Bは、当該培地のpHの経時的な推移を示し、図4Cは、当該培地の温度の経時的な推移を示している。
【0039】
上述したように、実施形態は、信号のリアルタイム処理と、バイオリアクタシステムの制御と、特定のバイオリアクタ運転の特性を示す信号シグネチャの開発とを含み、これらを解析ツールとして使用することにより、独立したバイオリアクタ運転の比較及び検証を行うことが可能となる。したがって、特性信号シグネチャを利用して、細胞培養容器内で培養している細胞の健全性の評価や、バイオリアクタ運転中に行う次の処理ステップに関する決定を行うことができる。例えば、上述したように、図3は、細胞培養プロセス中に経時的に記録したバイオリアクタ出口114での酸素飽和濃度を示している。バイオリアクタ出口の酸素濃度は、0時間の時点で約82%であったのが、バイオリアクタ運転開始後26時間で約30%まで低下した。この間、図4Aに示す培地調質容器120内の検出値から分かるように、バイオリアクタ入口112での酸素濃度は一定に保たれていた。入口での酸素濃度と出口での酸素濃度を用いて、式1により培養中の細胞の酸素消費量を求めることができる。
【0040】
【数1】
【0041】
求められた酸素消費量の経時的な推移(単位:時間)を図5に示す(単位は% a.s./分)。また、図5に示す点線は、グラフの近似的な傾きαを表しており、この傾きαを、バイオリアクタの運転の特性を示す信号シグネチャとして使用することができる。換言すれば、バイオリアクタシステム内の細胞培養の進行状況が、図5に示すデータの傾きαの値に直接反映される。この値は、上流バイオプロセスを制御、説明するためのプロセス解析ツールとして使用することができる。以下の例により、図5と同様のグラフに由来する傾きαが、細胞培養の健全性と直接関係し、充填床マトリクス内の生物量に基づくことを実証する。
【0042】
パラメータαの利用について説明するため、細胞培養基材のサイズ、充填床の高さ、細胞播種密度の異なる複数のバイオリアクタシステムを用いて複数の細胞培養プロセスを行った。実行した7つの細胞培養処理例のパラメータを、表1にまとめる。
【0043】
【表1】
【0044】
表1からわかるように、1億5100万~4億5300万の範囲で異なる数の細胞を複数のバイオリアクタに播種した。3台の同型バイオリアクタ(バイオリアクタ#1、#2、#3)は、充填床の高さ(2.7cm)と播種細胞数(1バイオリアクタ当たりの細胞数:1億5100万個)とが同一とされ、充填床の総表面積(6780cm)と細胞播種密度(22222個/cm)も同一とされた。他の3台の同型バイオリアクタ(#4、#5、#6)も、充填床の高さ(5.4cm)と播種細胞数(1バイオリアクタ当たりの細胞数:3億200万個)とが同一とされ、充填床の総表面積(13560cm)と細胞播種密度(22227個/cm)も同一とされた。最後の1台のバイオリアクタ(#7)は、充填床の高さ(8.1cm)と、播種細胞の総数(1バイオリアクタ当たりの細胞数:4億5300万個)と、充填床の表面積(20340cm)は大きかったが、と細胞播種密度(22222個/cm)は同程度とされた。5日間の培養プロセス期間中、本明細書に記載の1つ以上の実施形態に係る制御システムにより、バルク培地条件(pH、DO2、温度、CO)を自動モードで維持した。つまり、制御システムにより、培地条件を維持するように培地調質容器を動作させた。制御された状態の培地が示す典型的な測定値が、図4A図4Cに示すものとなる。また、バイオリアクタシステムの培地灌流流量も、バイオリアクタ出口におけるDOを特定の飽和度に保つ流量に自動的に維持された。図3に示すグラフは、これらの実験中に見られた灌流流量と培地出口DOを示す典型的なグラフでもある。そして、図3に示すグラフのようなグラフから、図5に示すグラフと同様の総酸素消費量の値を導き出した。さらに、これらのグラフの線形曲線近似(linear curve fit)の傾き(図5のαと同様)を、バイオリアクタ処理のそれぞれについて求めた。これを、表1の最終列(「傾きα」)に示している。このように求めた傾きαの値は、上流バイオプロセスを制御、説明するとともに、充填床マトリクス内で産生される生物量を予測するためのプロセス解析ツールとして使用することができる。
【0045】
例えば、図6図7図8は、表1のαの値を、それぞれ播種細胞数、充填床表面積、採取密度に対してプロットしたものである。これらのグラフの直線性を利用して、様々な細胞培養システムパラメータに応じた細胞培養応答を予測することができる。例えば、図6に示すグラフが直線性を有していることから、表1の小型バイオリアクタ#1及び#2用に開発された上流プロセスの規模を2倍、3倍に拡張して、バイオリアクタ#4~#7に適した規模とすることができることがわかる。したがって、傾きαの値を、常時監視してログに記録することにより、これを上流プロセスの拡張性を判断する際に用いることができる。また、プロセスの拡張性を検証する他の方法として、図7に示すように、傾きαをバイオリアクタの表面積に対してプロットする方法も挙げられる。なお、図6及び図7における灰色のデータ点は、表1の失敗したバイオリアクタ#3に対応している(これについては、以下に説明する)。
【0046】
バイオリアクタ運転中の傾きαの値を監視することにより、これを細胞培養の健全性と増殖度が反映された特性信号シグネチャとして用いることができる。例えば、表1に示すように、バイオリアクタ#1、#2、#3に播種した細胞数は同一であり、これらすべてのバイオリアクタについて、特性信号シグネチャ(傾きα)を測定した。図8は、傾きαをリアルタイムで監視することにより、これを同型のバイオリアクタ間の生産力比較と、バイオリアクタの生産性予測に利用できることを示している。図8から、バイオリアクタ#3の運転は、欠乏状態の条件下で行われ、そのために細胞の収量が最も少なくなったことがわかる。したがって、バイオプロセスの実行中に傾きαの値を監視することにより、これを、所定のプロセスの特性信号シグネチャとして使用することができ、プロセス開発の最適化時に定義しておいた範囲から所定の値が外れた場合に、プロセスに何らかの逸脱が生じていることを検知することができる。
【0047】
いくつかの実施形態によれば、制御装置により、培地調質容器は、温度、pH、O、及び栄養素を適切なものとするように制御される。いくつかの実施形態では、制御装置は、バイオリアクタの制御も行うことができるが、他の実施形態では、バイオリアクタを別体の灌流回路に設け、ポンプを利用して、灌流回路を通過する培地の流量を、バイオリアクタの出口又はその近傍で行ったOの検出に基づいて制御することもできる。
【0048】
細胞培養マトリクスは、所望のシステムに応じて、培養チャンバ内に複数の構成で配置することができる。例えば、1つ以上の実施形態において、システムは、培養チャンバ内に画成された細胞培養空間の幅にわたる層幅を有する1層以上の基材層を含んでいる。このように複数の基材層を積層することにより、所定の高さとすることができる。基材層は、1つ以上の層の第1の面及び第2の面が、培養チャンバ内に画成された培養空間を通る培養培地のバルク流れ方向に対して垂直となるように配置することができるほか、1つ以上の層の第1の面及び第2の面を、このバルク流れ方向に対して平行とすることもできる。1つ以上の実施形態において、細胞培養マトリクスは、このバルク流れ方向に対して第1の向きとされる1つ以上の基材層と、第1の向きとは異なる第2の向きとされる1つ以上の他の層とを含む。例えば、様々な層の第1の面及び第2の面を、このバルク流れ方向に対して平行、垂直、又はその中間の角度とすることができる。
【0049】
1つ以上の実施形態において、細胞培養システムは、充填床構成をなすように設けられた複数の不連続な細胞培養基材片を含むことができる。各細胞培養基材片の長さ及び/又は幅は、培養チャンバに比べて小さい。本明細書において、基材片の長さ及び/又は幅が培養空間の長さ及び/又は幅の約50%以下である場合に、基材片の長さ及び/又は幅が培養チャンバに対して小さいと見なすものとする。したがって、細胞培養システムは、複数の基材片を所望の配置で含み、これにより培養空間を充填することができる。基材片の配置は、不規則配置又は半不規則配置とすることができるほか、実質的に同様の向き(例えば、水平、鉛直、又はバルク流れ方向に対して0°~90°の角度)とするなど、所定の規則性又は配列を有することもできる。
【0050】
本明細書において、「画成された培養空間(defined culture space)」とは、培養チャンバ内において、細胞培養マトリクスによって占められる空間であって、細胞の播種及び/又は培養が行われる空間を指している。画成された培養空間は、培養チャンバのほぼ全体を占めることができるほか、培養チャンバ内の空間の一部を占めることもできる。また、本明細書において、「バルク流れ方向(bulk flow direction)」とは、細胞培養中、培養チャンバに対する培養培地の流入中若しくは排出中、又はその両方において、細胞培養マトリクスの中又は上を流れる流体又は培養培地の全体的な質量流の方向として定義される。
【0051】
本開示のいくつかの実施形態では、画成された培養空間、充填床、及び/又はバイオリアクタ容器内に存在するバルク流れ方向は1つの方向のみとされ、その場合、液体又は培地の流れは、バイオリアクタ入口から充填床を通ってバイオリアクタ出口まで主に一方向に進む。液体又は培地の流れは、充填床空間内の複雑な流路に妨げられることなく、主に一方向に充填床を進む。これにより、従来のバイオリアクタで行われていた複雑な流路の形成を行う必要がなくなる。従来のバイオリアクタでは、細胞培養基材全体に細胞培養培地が行き渡るようにするため、フロースペーサ、フローセパレータ、又は流路が使用される場合があったが、これは、バイオリアクタ自体又は細胞培養基材自体が不均一性を有しているためであることが多かった。これに対し、本開示の実施形態では、そのような複雑な流路を必要とすることなく、培地の流れを、バイオリアクタの入口からバイオリアクタの出口まで単一の方向に保つことができる。ただし、上記の説明は、バイオリアクタプレートの入口及び出口に流量分配プレートを設けることを排除することを意図するものではない。充填床内のバルク流れ方向やバイオリアクタ容器内部の細胞培養空間内のバルク流れ方向に影響を与えない限り、バイオリアクタ容器の幅全体に流体を行き渡らせる、リアクタ内の圧力差を制御する、又はその両方の目的で、流量分配プレートを用いることができる。
【0052】
1つ以上の実施形態の充填床細胞培養マトリクスは、均一かつ規則的な多孔質構造を有するように構築された基材材料を含むことができる。なお、この基材を、「規定された構造を有する(structurally defined)」基材と呼ぶ場合があるが、これは、基材の物理的構造が、不規則な構造ではなく、既定のパラメータに従う規則性を持った構造であることを意味している。1つ以上の実施形態において、規定された構造を有する基材は、基材の多孔性を規定する複数の開口部を有しており、複数の開口部は、各基材片又は基材層において規則的又は均一なパターンで配列される。1つ以上の実施形態において、充填床細胞培養基材は、細胞培養メッシュ織布基材を含むとともに、細胞培養マトリクス内に他の形態の細胞培養基材を配置する又は組み入れることがない構成とすることができる。すなわち、本開示の実施形態の細胞培養メッシュ織布基材は、既存のソリューションで使用されている、規則性のない不織布タイプの基材を必要としない、効果的な細胞培養基材である。これにより、細胞培養システムの設計及び構造の簡素化を可能としながら、本明細書において説明している、流れの均一性、採取性などに関する他の利点も備えた高密度な細胞培養基材を提供することができる。
【0053】
1つ以上の実施形態において、マトリクスは、接着細胞の接着・増殖用に規定された構造を有する表面領域を有している。この表面領域は、優れた機械的強度を有するとともに、充填床などのバイオリアクタに組み込むことにより、非常に均一な多重相互接続流体ネットワークを形成するものである。特定の実施形態では、機械的に安定した非分解性のメッシュ織布を、接着細胞の産生を支援するための基材として使用することができる。本明細書に開示の細胞培養マトリクスは、体積密度が高い構成での足場依存性細胞の接着及び増殖を支援するものである。かかるマトリクスにより、均一な細胞播種や、細胞などのバイオリアクタ生成物の効率的な採取を実現することができる。これに加えて、本開示の実施形態は、細胞培養において、接種工程で均一に細胞を分布させること、及び、本開示のマトリクス上にコンフルエントな単層又は多層の接着細胞層を形成することを支援することにより、細胞が3次元的に凝集して、大型の、制御不能な、又は大型で制御不能な細胞凝集塊が形成されて、栄養素の拡散が制限され、代謝物濃度が高くなってしまう事態を防ぐことができる。したがって、このマトリクスによって、バイオリアクタ動作中の拡散性の制限が解消される。また、このマトリクスにより、バイオリアクタからの細胞採取が容易かつ効率的に行えるようにもなる。1つ以上の実施形態に係る、規定された構造を有するマトリクスによれば、バイオリアクタの充填床から細胞を完全に回収したり、細胞を着実に採取したりすることが可能となる。
【0054】
規定された構造を有する、十分な剛性の培養マトリクスを使用することにより、マトリクス又は充填床全体に高い流れ抵抗の均一性(high-flow-resistance uniformity)を達成することができる。種々の実施形態によれば、マトリクスは単層構造でも多層構造でも設けることができる。この柔軟性により、拡散性の制限がなくなり、マトリクスに付着した細胞に栄養素と酸素が均一に供給される。これに加えて、開放系マトリクスでは、充填床構成内に細胞が捕捉される領域がないため、培養終了時に、細胞を高い生存率で完全に採取することが可能となる。また、マトリクスにより充填床の充填が均一となるため、プロセス開発ユニットから大規模な工業用バイオプロセスユニットへと直接拡張することも可能となる。また、充填床から細胞を直接採取することができるため、攪拌又は機械的振とうに付される容器内にマトリクスを入れて再懸濁を行う必要もない。かかる再懸濁を行えば、複雑性が高まるうえ、細胞に有害なせん断応力を与えてしまう恐れがあった。さらに、細胞培養マトリクスの高い充填密度により、産業規模で管理可能な体積で行うバイオプロセスの生産性を高めることもできる。
【0055】
細胞培養バイオリアクタに使用される既存の細胞培養基材(すなわち、不規則に並んだ繊維の不織布基材)とは異なり、本開示の実施形態は、規定された規則構造を有する細胞培養基材を含んでいる。この規定された規則構造により、一貫した、予測精度の高い細胞培養結果が得られる。これに加えて、本基材は開放多孔質構造を有しているため、細胞が捕捉されることがないうえ、充填床を通過する流れを均一とすることもできる。この構造により、細胞の播種、栄養素の送達、細胞の増殖、細胞の採取を向上させることができる。1つ以上の特定的な実施形態によれば、マトリクスは、比較的薄いシート厚により隔てられた第1の面と第2の面とを有する薄いシート状の構造を持つ基材で形成される。よって、かかる構造の基材のシート厚は、当該基材の第1の面及び第2の面の幅及び/又は長さに比べて小さい。さらに、基材の厚さを貫通する複数の孔(開口部)が形成されている。開口部間に存在する基材材料の大きさ及び形状は、まるで基材表面がほぼ2次元(2D)の表面であるかのように細胞が基材表面に付着することができるとともに、基材材料の周囲と開口部内に適度な流体流を生じさせることができる大きさ及び形状とされる。いくつかの実施形態では、基材はポリマー系材料であり、成型により形成されたポリマーシート、厚さを貫通する開口部を有するポリマーシート、3Dプリントにより形成された基材、多数のフィラメント同士が融着したメッシュ状の層、又は複数のフィラメントを織り合わせたメッシュ層として形成することができる。マトリクスの物理的構造は、足場依存性細胞の培養に適した高い対体積表面積比を有している。種々の実施形態によれば、本明細書に記載の特定の方法でマトリクスをバイオリアクタに配置又は充填することにより、均一な細胞播種並びに細胞増殖、均一な培地灌流、及び効率的な細胞採取を実現することができる。
【0056】
1つ以上の実施形態によれば、細胞培養基材は、米国特許出願第16/781685号、同第16/781723号、同第16/781764号、同第16/781807号、同第16/781847号、同第16/781883号、及び同第16/765722号の各明細書に開示された細胞培養マトリクス及び/又は基材材料に従ったものとすることができ、これらの特許明細書のすべての内容は、参照により本明細書に援用されるものとする。
【0057】
また、いくつかの実施形態によれば、治療用タンパク質、抗体、ウイルスワクチン、又はウイルスベクターのバイオプロセス産生用のマトリクスを有するバイオリアクタを使用する細胞培養方法も提供される。
【0058】
本開示により提供される細胞培養基材とバイオリアクタシステムには、数多くの利点がある。例えば、本開示の実施形態は、多数のウイルスベクターのいずれか(例えば、AAV(すべての血清型)及びレンチウイルスなど)の産生を支援することができ、インビボ(in vivo)及びエクスビボ(ex vivo)の遺伝子治療用途に応用することができる。均一な細胞の播種、分布により1容器当たりのウイルスベクター収量が最大化されているうえ、生きた状態で細胞を採取することが可能な設計となっているため、同一のプラットフォームを用いた複数の増殖期間からなるシードトレインに有用であると考えられる。さらに、本明細書の実施形態は、プロセス開発規模から生産規模まで規模を拡張することができるため、最終的には開発時間と開発コストが抑えられる。また、本明細書に開示の方法及びシステムにより、細胞培養プロセスの自動化及び制御が可能となるため、ベクター収量の最大化と、再現性の向上を図ることができる。さらに、生産レベルの規模のウイルスベクター数(例えば、1バッチ当たり1016~1018個のAAV VG数)まで到達するのに必要な容器の数を、他の細胞培養ソリューションに比べて大幅に低減することができる。
【0059】
なお、各実施形態は、長手方向中心軸を中心とした容器の回転に限定されるものではない。例えば、容器の非中心に位置する軸を中心に、容器を回転させることもできる。さらに、回転軸は、水平方向又は鉛直方向の軸とすることもできる。
【0060】
定義
「完全合成(wholly synthetic、fully synthetic)」とは、合成原料のみで構成され、動物由来又は動物起源の原料をまったく含まない、マイクロキャリアや培養容器の表面などの細胞培養用品を指す。本開示の完全合成の細胞培養用品は、異種混入の危険性を排除するものである。
【0061】
「含む(include、includes)」などの用語は、対象を包含するがこれに限定されないこと、つまり、排他的(exclusive)な意味ではなく包括的(inclusive)な意味を示している。
【0062】
「ユーザ(user)」とは、本明細書に開示のシステム、方法、物品、又はキットを使用する者を指し、細胞又は細胞産物を採取する目的で細胞を培養する者、又は本明細書の各実施形態に従って培養及び/又は採取した細胞又は細胞産物を利用する者を含む。
【0063】
本開示の実施形態の説明において、「約(about)」を用いて、組成物中の成分量、濃度、体積、プロセスの温度、プロセスの時間、収量、流量、圧力、粘度などの値及び範囲、又はコンポーネントの寸法などの値及び範囲を修飾する場合があるが、この「約」は、これが導く数量に変動の可能性があることを示している。かかる変動としては、例えば、材料、組成物、合成物、濃縮物、構成部品、製造物品、又は使用配合の調製に用いる典型的な計測・操作手順において生じる変動や、これらの手順における不注意ミスにより生じる変動、本方法を実施する際に使用する出発物質又は出発成分の製造、調達源、又は純度の違いにより生じる変動、同様の検討事項により生じる変動が挙げられる。また、「約」という用語は、特定の初期濃度又は初期混合比を有する組成物又は配合が経年により変化する量、及び特定の初期濃度又は初期混合比を有する組成物又は配合が混合又は処理を経ることにより変化する量を包含する。
【0064】
「任意選択的(optional、optionally)」とは、この後に記載される事象又は状況が発生する可能性も発生しない可能性もあること、及び、この記載が当該事象又は状況が発生する例と発生しない例の両方を含むことを意味している。
【0065】
また、別段の定めがない限り、本明細書において、不定冠詞「a」、「an」及びこれに対応する定冠詞「the」は、「少なくとも1つ(at least one)」又は「1つ以上(one or more)」を意味している。
【0066】
当業者に公知の略語を使用する場合もある(例えば、時間の略語「h」又は「hrs」、グラムの略語「g」又は「gm」、ミリリットルの略語「mL」、室温の略語「rt」、ナノメートルの略語「nm」などの略語)。
【0067】
コンポーネント、成分、添加物、寸法、条件などの側面並びにその範囲について具体的な値や好適な値を開示している場合があるが、これは例示を目的としたものに過ぎず、その他の定義値や定義範囲内の他の値を排除するものではない。本開示のシステム、キット、及び方法は、本明細書に記載の値、具体的な値、より具体的な値、及び好適な値のうちの任意の値又は任意の組み合わせ(明示的又は暗黙的に示される中間値及び中間範囲を含む)を含むことができる。
【0068】
別段の明示的な記載がない限り、本明細書に記載のいかなる方法も、各ステップ(工程)を特定の順序で実施することを要請していると解釈されることを意図するものではない。したがって、方法クレームにおいてステップの順序を実際に記載している場合を除き、又は、各ステップが特定の順序に限定される旨のその他の記載が請求の範囲又は発明の詳細な説明において明確になされている場合を除き、各ステップの順序として特定の順序が推測されることはまったく意図していない。
【0069】
当業者であれば、本開示の実施形態の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲で、種々の変形及び変更を行うことができることは明らかであろう。当業者であれば、本開示の実施形態の意図及び趣旨を盛り込んだ上で、これらの実施形態の変形、組み合わせ、部分的組み合わせ、及び変更を想到することができると考えられるため、本開示の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にあるすべてを含むと解釈すべきものである。
【0070】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0071】
実施形態1
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムであって、該バイオリアクタシステムは、
少なくとも1つの内部貯留槽、前記貯留槽に流体接続された入口、及び前記貯留槽に流体接続された出口を備える細胞培養容器と、
前記入口に流体を供給するとともに、前記出口から流体を受け取るように構成された流体流路と、
前記細胞培養容器に流体接続された培地調質容器と、
前記細胞培養容器の前記出口に配置された出口センサと、
を備え、
前記出口センサは、前記出口を介して前記細胞培養容器から排出される細胞培養培地の特性を検出するように構成され、
前記バイオリアクタシステムが、前記出口センサによって検出された前記特性に基づいて前記細胞培養培地の特性を調整するように構成される、バイオリアクタシステム。
【0072】
実施形態2
前記出口センサにより検出される前記特性が、前記細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1に記載のバイオリアクタシステム。
【0073】
実施形態3
前記溶存ガスは、空気、溶存酸素、及び二酸化炭素のうちの少なくとも1つを含む、実施形態2に記載のバイオリアクタシステム。
【0074】
実施形態4
調整される前記細胞培養培地の前記特性が、該細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つを含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0075】
実施形態5
前記流体流路内の流量を制御するように構成されたポンプをさらに備える、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0076】
実施形態6
前記バイオリアクタシステムが、前記出口センサにより検出される前記特性に基づいて前記流量を調整するように前記ポンプを制御するように構成される、実施形態5に記載のバイオリアクタシステム。
【0077】
実施形態7
前記バイオリアクタシステムが、前記溶存ガスの量が所定レベルを下回るまで減少すると前記流量を上げるように構成される、実施形態6に記載のバイオリアクタシステム。
【0078】
実施形態8
前記培地調質容器内の培地特性を検出するように構成された少なくとも1つの培地調質センサをさらに備える、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0079】
実施形態9
前記培地特性が、溶存ガスレベル、pH、温度、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを含む、実施形態8に記載のバイオリアクタシステム。
【0080】
実施形態10
前記培地調質容器内の前記細胞培養培地の特性を調整するように構成された少なくとも1つの調質コンポーネントをさらに備える、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0081】
実施形態11
前記調質コンポーネントが、ガス供給装置、温度制御ユニット、栄養素送給装置、及び塩基供給装置のうちの少なくとも1つを含む、実施形態10に記載のバイオリアクタシステム。
【0082】
実施形態12
前記ガス供給装置が、前記細胞培養培地中にガスを放出するように構成されたスパージャユニットを備える、実施形態11に記載のバイオリアクタシステム。
【0083】
実施形態13
前記ガス供給装置が、酸素、窒素、空気、及び二酸化炭素のうちの少なくとも1つを前記細胞培養培地に供給するように構成される、実施形態11又は12に記載のバイオリアクタシステム。
【0084】
実施形態14
前記培地調質容器が、前記培地調質容器内の前記細胞培養培地を攪拌するように構成されたインペラをさらに備える、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0085】
実施形態15
前記細胞培養培地の1つ以上の培地特性を制御するように構成された培地調質制御ユニットをさらに備える、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0086】
実施形態16
前記1つ以上の培地特性が、溶存ガスレベル、pH、温度、栄養素レベル、及び流量を含む、実施形態15に記載のバイオリアクタシステム。
【0087】
実施形態17
前記培地調質制御ユニットが、前記少なくとも1つの培地調質調整センサから信号を受信し、受信した前記信号に基づいて前記少なくとも1つの調質コンポーネントを制御するように構築される、実施形態15又は16に記載のバイオリアクタシステム。
【0088】
実施形態18
前記培地調質制御ユニットが、前記出口センサから信号を受信し、前記出口センサから受信した前記信号に基づいて前記少なくとも1つの調質コンポーネント及び前記ポンプのうちの少なくとも1つを制御するように構成される、実施形態15~17のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0089】
実施形態19
前記貯留槽内に配置され、細胞培養のために細胞を付着させるように構成された細胞培養基材をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0090】
実施形態20
前記細胞培養基材が、規定された構造を有する多層基材を含む、実施形態19に記載のバイオリアクタシステム。
【0091】
実施形態21
前記多層基材の各層が、実質的に規則的かつ均一な物理的構造及び多孔性を有している、実施形態20に記載のバイオリアクタシステム。
【0092】
実施形態22
前記細胞培養基材が、実質的に均一な多孔性を有している、実施形態19~21のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0093】
実施形態23
前記細胞培養基材が、該細胞培養基材を均一な流体流が流れるように構成される、実施形態19~22のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0094】
実施形態24
前記貯留槽が、長さ及び幅により規定され、
前記長さが、前記入口に隣接する前記貯留槽の第1の端部から前記出口に隣接する前記貯留槽の第2の端部まで延び、
前記基材の各層の幅が、実質的に前記貯留槽の幅にわたって延びる、実施形態19~23のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0095】
実施形態25
前記規定された構造を有する多層基材が、前記貯留槽内に積層された複数の基材ディスクを含む、実施形態19~24のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0096】
実施形態26
前記複数の基材ディスクの積層は、前記複数の基材ディスクの各ディスクの幅にわたって実質的に均一な流体の流れが生じるように構成される、実施形態25に記載のバイオリアクタシステム。
【0097】
実施形態27
前記規定された構造を有する多層基材が、多孔性を規定する複数の開口部を備え、
前記複数の開口部が、前記複数の基材ディスクの各ディスクにおいて、規則的又は均一なパターンで配列される、実施形態25に記載のバイオリアクタシステム。
【0098】
実施形態28
前記規定された構造を有する多層基材が、成型により形成されたポリマー格子、3Dプリントにより形成された格子、及び織布基材のうちの少なくとも1つを含む、実施形態19~27のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0099】
実施形態29
前記細胞培養基材が複数の基材層を含み、
前記複数の基材層の少なくとも一部においてスペーサ材料又はバリアによる分離が施されていない、又は前記複数の基材層の少なくとも一部が互いに物理的に接触している、実施形態28に記載のバイオリアクタシステム。
【0100】
実施形態30
前記細胞培養容器は、前記入口から前記出口に向かって連続的に細胞培養培地が流れるように構成される、先行する実施形態のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0101】
実施形態31
前記バイオリアクタシステムが、前記貯留槽から細胞又は細胞副産物の採取を行うように構成されており、
前記細胞副産物が、タンパク質、抗体、ウイルス、ウイルスベクター、ウイルス様粒子(VLP)、マイクロベシクル、エクソソーム、及び多糖類のうちの少なくとも1つを含む、先行する実施形態のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0102】
実施形態32
90%を上回る採取細胞生存率を示す、実施形態31に記載のバイオリアクタシステム。
【0103】
実施形態33
前記出口センサがインラインセンサである、実施形態1~32のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0104】
実施形態34
前記出口センサが、前記出口より下流側で、前記流体流路に一体化又は結合されている、実施形態1~33のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0105】
実施形態35
前記出口センサが、前記出口に取り付けられたチューブアセンブリに一体化又は結合されている、実施形態33又は34に記載のバイオリアクタシステム。
【0106】
実施形態36
前記出口センサが、前記出口に一体化又は結合されている、実施形態1~33のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0107】
実施形態37
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムであって、該バイオリアクタシステムは、
少なくとも1つの内部貯留槽、前記貯留槽に流体接続された入口、及び前記貯留槽に流体接続された出口を備える細胞培養容器と、
前記細胞培養容器の前記出口又はその近傍に配置された出口センサと、
前記入口に流体を供給するように構成されたポンプと、
を備え、
前記ポンプが、前記出口センサからの信号に基づいて前記バイオリアクタシステムにおける流体の灌流流量を調整するように構成される、バイオリアクタシステム。
【0108】
実施形態38
前記出口センサが、前記細胞培養容器を出る前記流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを測定するように構成される、実施形態37に記載のバイオリアクタシステム。
【0109】
実施形態39
前記バイオリアクタシステムが、前記細胞培養容器に流体接続された培地調質容器をさらに備え、
前記バイオリアクタシステムが、前記出口センサによって検出された前記特性に基づいて前記流体の特性を調整するように構成される、実施形態37又は34に記載のバイオリアクタシステム。
【0110】
実施形態40
前記特性が、前記流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つを含む、実施形態39に記載のバイオリアクタシステム。
【0111】
実施形態41
前記出口センサがインラインセンサである、実施形態37~40のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0112】
実施形態42
前記出口センサが、前記出口より下流側で、流体流路に一体化又は結合されている、実施形態37~41のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0113】
実施形態43
前記出口センサが、前記出口に取り付けられたチューブアセンブリに一体化又は結合されている、実施形態37~42のいずれかに記載のバイオリアクタシステム。
【0114】
実施形態44
前記出口センサが、前記出口に一体化又は結合されている、実施形態37~41のいずれか1つに記載のバイオリアクタシステム。
【0115】
実施形態45
細胞を培養するためのバイオリアクタシステムの制御方法であって、
細胞培養容器を通過するように細胞培養培地を灌流するステップと、
前記細胞培養容器の出口に設けられた出口センサを用いて、前記細胞培養培地の出口特性を測定するステップと、
測定された前記出口特性に基づいて、前記細胞培養培地の入口特性を調整するステップと、
を含む方法。
【0116】
実施形態46
測定された前記出口特性が、前記流体のpH、温度、溶存ガスレベル、及び栄養素レベルのうちの少なくとも1つである、実施形態45に記載の方法。
【0117】
実施形態47
前記入口特性が、前記細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベル、及び流量のうちの少なくとも1つである、実施形態45又は46に記載の方法。
【0118】
実施形態48
前記細胞培養培地が前記細胞培養容器に入る前に、該細胞培養培地のpH、温度、溶存ガスレベル、栄養素レベルのうちの少なくとも1つを調整するように、培地調質容器内で前記細胞培養培地を調質するステップをさらに含む、実施形態45~47のいずれかに記載の方法。
【0119】
実施形態49
前記細胞培養容器を通る細胞培養培地の流量を調整するように、ポンプを制御するステップをさらに含む、実施形態45~48のいずれかに記載の方法。
【0120】
実施形態50
前記出口センサを用いて前記細胞培養培地中の溶存酸素レベルを経時的に測定して、細胞培養による経時的な酸素消費量変化率を算出するステップと、
前記酸素消費量変化率を用いて、前記細胞培養の健全性品質を判定するステップと、
をさらに含む、実施形態45~49のいずれかに記載の方法。
【0121】
実施形態51
前記細胞培養の前記健全性品質が、前記細胞培養により産生される生物量である、実施形態50に記載の方法。
【0122】
実施形態52
前記出口センサが、前記出口に取り付けられたチューブアセンブリに一体化又は結合されている、実施形態45~51のいずれかに記載の方法。
【0123】
実施形態53
前記出口センサがインラインセンサである、実施形態45~52のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0124】
100 バイオリアクタシステム
110 細胞培養容器、バイオリアクタ容器
111 内部貯留槽
112 バイオリアクタ入口
114 バイオリアクタ出口
118 出口センサ
120 培地調質容器
122 細胞培養培地
124a~124d センサ、調質コンポーネント
130 培地調質制御ユニット
142、144 流体流路
150 灌流ポンプ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】