(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240705BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20240705BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240705BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20240705BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240705BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20240705BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/16 A
C12N1/14 B
C12N5/071
C12N5/074
C12N5/078
C12N1/20 C
A23K10/18
C12N9/16 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580411
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 US2022035530
(87)【国際公開番号】W WO2023278582
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397060588
【氏名又は名称】インターナショナル エヌ アンド エイチ デンマーク エーピーエス
(71)【出願人】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】リテーシュ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヘレーネ・ケーン
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ブディナフ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA03
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4B065CA19
(57)【要約】
本明細書においては、特に、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞等)の増殖を向上させるための方法であって、細胞を、培地中に存在する少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地中で培養することによる、方法を提供する。この方法に従い培養された細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地で培養される細胞の増殖を向上させるための方法であって、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培地で前記細胞を培養することを含み、前記細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上する、方法。
【請求項2】
増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養される細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞は、組換え細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌細胞は、プロバイオティクスである、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記真菌細胞は、糸状菌細胞である、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記真菌細胞は、酵母細胞である、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記組換え細胞は、酵素を産生する、請求項8~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組換え細胞は、抗体を産生する、請求項8~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記培地に外因的に添加される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記液体培地中の細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
対象が消費するためのプロバイオティクスを培養するための方法であって、プロバイオティクス細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養することを含み、前記プロバイオティクス細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養されたプロバイオティクス細胞と比較して、向上する、方法。
【請求項23】
増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記プロバイオティクス細胞は、細菌又は真菌細胞である、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は、組換え細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記真菌細胞は、酵母細胞である、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記組換え細胞は、酵素を産生する、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記プロバイオティクス細胞を回収することを更に含む、請求項33~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記プロバイオティクス細胞を凍結乾燥(freeze drying)又は凍結乾燥(lyophilizing)させることを更に含む、請求項22~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記対象は、ヒト、伴侶動物又は家畜である、請求項22~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記家畜は、家禽、ブタ又は反芻動物である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記プロバイオティクス細胞を、経腸投与に適した剤形に製剤化することを更に含む、請求項36又は請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記プロバイオティクス細胞を、動物飼料と組み合わせることを更に含む、請求項36又は請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記プロバイオティクス細胞を、前記対象に送水ラインを介して投与することを更に含む、請求項36又は請求項37に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記培地に外因的に添加される、請求項22~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記液体培地中の前記プロバイオティクス細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない、請求項22~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項22~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
発酵乳製品の製造に使用するための細菌細胞を生産するための方法であって、前記細菌細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養することを含み、前記細菌細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細菌細胞と比較して、向上する、方法。
【請求項45】
増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項44又は請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項4464に記載の方法。
【請求項48】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項44~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である、請求項45~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記細菌細胞は、好熱性である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記細菌細胞は、ラクトバチルス属細菌(Lactobacillus spp.)、ストレプトコッカス属細菌(Streptococcus spp.)及びラクトコッカス属細菌(Lactococcus spp.)からなる群から選択される、請求項50又は請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記発酵乳製品は、ヨーグルト、クリーム、熟成クリーム、チーズ、フロマージュ・フレ、乳飲料、プロセスチーズ、クリームデザート、カッテージチーズ、乳児用ミルク又はケフィアである、請求項44~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記培地に外因的に添加される、請求項44~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記液体培地中の前記細菌細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない、請求項44~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項44~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む細胞培養培地であって、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、a)組換え産生され;b)前記培地に外因的に添加される、培地。
【請求項58】
前記培地は、1又は複数の細胞を含まない、請求項57に記載の培地。
【請求項59】
前記培地は、1又は複数の細胞を含み、前記1又は複数の細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を組換え産生しない、請求項57に記載の培地。
【請求項60】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項57~59のいずれか一項に記載の培地。
【請求項61】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項60に記載の培地。
【請求項62】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項57~61のいずれか一項に記載の培地。
【請求項63】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項60に記載の培地。
【請求項64】
前記細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である、請求項59~63のいずれか一項に記載の培地。
【請求項65】
前記細胞は、組換え細胞である、請求項64に記載の培地。
【請求項66】
前記細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である、請求項64又は請求項65に記載の培地。
【請求項67】
前記細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である、請求項64又は請求項65に記載の培地。
【請求項68】
前記細菌細胞は、プロバイオティクスである、請求項64~67のいずれか一項に記載の培地。
【請求項69】
前記真菌細胞は、糸状菌細胞である、請求項64又は請求項65に記載の培地。
【請求項70】
前記真菌細胞は、酵母細胞である、請求項64又は請求項65に記載の培地。
【請求項71】
前記哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である、請求項64又は請求項65に記載の培地。
【請求項72】
前記組換え細胞は、酵素を産生する、請求項65~71のいずれか一項に記載の培地。
【請求項73】
前記組換え細胞は、抗体を産生する、請求項65~71のいずれか一項に記載の培地。
【請求項74】
前記初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である、請求項71~73のいずれか一項に記載の培地。
【請求項75】
前記免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される、請求項74に記載の培地。
【請求項76】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項57~75のいずれか一項に記載の培地。
【請求項77】
液体細胞培養培地を作製するための方法であって、細胞培養培地を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の組換え酵素と組み合わせることを含む、方法。
【請求項78】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項77~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の組換え酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項77~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
第1組換えタンパク質を産生するように操作された細胞の増殖を向上させるための方法であって、前記細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培地で培養することを含み、1)前記細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上し;2)少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、a)前記培地に外因的に添加されたものであり;及び/又はb)前記第1組換えタンパク質に加えて、前記操作された細胞により組換え発現されたものである、方法。
【請求項84】
増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い第1組換えタンパク質の産生量のうちの1つ又は複数が含まれる、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む、請求項83又は請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである、請求項83~86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記培養される細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である、請求項83~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である、請求項89に記載の方法。
【請求項92】
前記真菌細胞は、糸状菌細胞である、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
前記真菌細胞は、酵母細胞である、請求項89に記載の方法。
【請求項94】
前記哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である、請求項89に記載の方法。
【請求項95】
前記組換え細胞は、酵素を産生する、請求項83~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記組換え細胞は、抗体を産生する、請求項83~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前記初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である、請求項94~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチドが、前記細胞内の1種又は複数種の染色体外ベクターで組換え発現する、請求項83~98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチドが、前記細胞の染色体に安定的に組み込まれることにより組換え発現する、請求項83~98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の酵素は、前記操作された細胞によって、前記第1組換えタンパク質に加えて、組換え発現され、前記細胞によって分泌されるように更に操作されている、請求項83~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する前記1種又は複数種の組換え酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む、請求項83~101のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月29日に出願された米国仮特許出願第63/216193号明細書、2022年4月13日に出願された米国仮特許出願第63/330693号明細書及び2022年4月27日に出願された米国仮特許出願第63/335419号明細書に対する優先権を主張するものであり、これらの各々の開示全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本明細書においては、特に、液体培地で細胞を培養するための改良方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
食品、動物飼料、栄養補助食品等のプロバイオティクスに基づく製品に微生物を接種する前に、微生物は液体培地で培養され、多量の微生物を含む懸濁液となる。通常、この懸濁液は、続いて遠心分離、濾過、蒸留、沈降又は凝集を用いて濃縮される。この濃縮ステップに続いて、多くの場合、微生物を保存及び/又は保管するために、凍結若しくは凍結乾燥若しくは乾燥が行われるか、又は微生物濃縮物が凍結製品として保管される。
【0004】
このようなプロバイオティクスに基づく製品の製造を制限する段階が、液体培養で産生できる微生物の量及び生存能である。このことを理由として、また、この種の製品に対する需要が高まる一方であることを鑑みて、製造時並びにそれに続く処理及び保管時の両方において、生物学的活性の損失を制限すると共に生存可能な微生物の損失を制限しながら、高濃度の微生物懸濁液が得られるように、微生物を含む懸濁液を液体培養により製造するための方法の効率を改善することが依然として求められている。これらの方法は、あらゆる規模で、しかしながら特に大量の懸濁液が濃縮される工業規模で実現可能であることが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する主題は、この要求に対処すると共に更なる利点も提供する。
【0006】
本明細書においては、特に、液体培地で培養される細胞の増殖を向上させるための方法を提供する。この方法は、細胞を、培地中に存在する少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養することを必要とする。この方法に従い培養された細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上する。
【0007】
したがって、本明細書における幾つかの態様では、液体培地で培養される細胞の増殖を向上させるための方法であって、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培地で細胞を培養することを含み、この細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上する、方法を提供する。幾つかの実施形態では、増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い増殖速度、増加した細胞量(cell mass)、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、培養される細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である。幾つかの実施形態では、細胞は、組換え細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である。幾つかの実施形態では、細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、プロバイオティクスである。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、真菌細胞は、糸状菌細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、真菌細胞は、酵母細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は、酵素を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は、抗体を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は:ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、培地に外因的に添加される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、液体培地中の細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0008】
本明細書における更なる態様では、対象が消費するためのプロバイオティクスを培養するための方法であって、プロバイオティクス細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養することを含み、プロバイオティクス細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養されたプロバイオティクス細胞と比較して、向上する、方法を提供する。幾つかの実施形態では、増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、プロバイオティクス細胞は、細菌又は真菌細胞である。幾つかの実施形態では、細胞は組換え細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である。幾つかの実施形態では、細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、真菌細胞は酵母細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は酵素を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、この方法は、プロバイオティクス細胞を回収することを更に含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、この方法は、プロバイオティクス細胞を凍結乾燥(freeze drying、lyophilizing)させることを更に含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、対象は、ヒト、伴侶動物又は家畜である。幾つかの実施形態では、家畜は、家禽類、ブタ又は反芻動物である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、この方法は、プロバイオティクス細胞を経腸投与に適した剤形に製剤化することを更に含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、この方法は、プロバイオティクス細胞を動物飼料と組み合わせることを更に含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、この方法は、プロバイオティクス細胞を対象に送水ラインを介して投与することを更に含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、培地に外因的に添加される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、液体培地中のプロバイオティクス細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0009】
本明細書の他の態様では、発酵乳製品の製造に使用するための細菌細胞を生産するための方法であって、この細菌細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養することを含み、細菌細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細菌細胞と比較して、向上する、方法を提供する。幾つかの実施形態では、増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い培養後生存率のうちの1つ又は複数が含まれる。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である。幾つかの実施形態では、細菌細胞は好熱性である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、ラクトバチルス属細菌(Lactobacillus spp.)、ストレプトコッカス属細菌(Streptococcus spp.)及びラクトコッカス属細菌(Lactococcus spp.)からなる群から選択される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、発酵乳製品は、ヨーグルト、クリーム、熟成クリーム(matured cream)、チーズ、フロマージュ・フレ、乳飲料、プロセスチーズ、クリームデザート、カッテージチーズ、乳児用ミルク又はケフィアである。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、培地に外因的に添加される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、液体培地中の細菌細胞によって組換え産生又は自然に産生されるものではない。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0010】
本明細書における更なる他の態様では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培養培地であって、前記少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、a)組換え産生され;b)培地に外因的に添加される、培養培地を提供する。幾つかの実施形態では、培地は1種又は複数種の細胞を含まない。幾つかの実施形態では、培地は1又は複数の細胞を含み、前記1又は複数の細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を組換え産生しない。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である。幾つかの実施形態では、細胞は組換え細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、グラム陽性又はグラム陰性である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、細菌細胞は、プロバイオティクスである。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、真菌細胞は、糸状菌細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、真菌細胞は、酵母細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は酵素を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は抗体を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、免疫細胞は:ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0011】
本明細書の他の態様では、液体細胞培養培地を作製するための方法であって、細胞培養培地を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の組換え酵素と組み合わせることを含む、方法を提供する。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の組換え酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0012】
本明細書の更なる他の態様では、第1組換えタンパク質を産生するように操作された細胞の増殖を向上させるための方法であって、この細胞を、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培地で培養することを含み、1)細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して向上し;2)少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、a)培地に外因的に添加されたものであり;及び/又はb)第1組換えタンパク質に加えて、操作された細胞により組換え発現されたものである、方法を提供する。幾つかの実施形態では、増殖の向上には、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量、より多い細胞数又はより高い組換えタンパク質産生量のうちの1つ又は複数が含まれる。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、TTP及び/又はUTPのうちの1種又は複数種を含む。幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸は、ATPを含む。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、酵素は、1種又は複数種のホスファターゼである。幾つかの実施形態では、ホスファターゼは、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はアピラーゼのうちの1種又は複数種である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、培養される細胞は、細菌、真菌、古細菌、植物、昆虫又は哺乳動物細胞である。幾つかの実施形態では、細菌細胞はグラム陽性又はグラム陰性である。幾つかの実施形態では、細菌細胞は、好気性菌又は嫌気性菌である。幾つかの実施形態では、真菌細胞は、糸状菌細胞である。幾つかの実施形態では、真菌細胞は、酵母細胞である。幾つかの実施形態では、哺乳動物細胞は、初代細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞である。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は酵素を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、組換え細胞は、抗体を産生する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、初代細胞は、幹細胞又は免疫細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は:ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球、白血球及び単球からなる群から選択される。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチドは、細胞内の1種又は複数種の染色体外ベクターで組換え発現する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチドは、細胞の染色体に安定的に組み込まれることにより組換え発現する。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、操作された細胞によって、第1組換えタンパク質に加えて、組換え発現され、細胞によって分泌されるように更に操作されている。本明細書に開示する任意の実施形態のうちの幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素は、配列番号:1、2、3、4、5及び/又は6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約60%である1種又は複数種の酵素を含む。
【0013】
本明細書に記載した態様及び実施形態のそれぞれは、その実施形態又は態様の状況から明示的又は明確にのいずれかで排除されない限り、一緒に使用することができる。
【0014】
本明細書を通して、様々な特許、特許出願及び他のタイプの刊行物(例えば、学術論文、電子データベース入力等)が参照される本明細書で引用される全ての特許、特許出願及び他の刊行物の開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】外因的に添加されたATP(菱形)、外因的に添加されたATP及びアピラーゼ(丸)並びに外因的に添加されたアピラーゼ(三角)が存在する液体培養培地におけるビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis)の経時的な増殖をOD
600により測定して比較し、細胞のみの対照(四角)と比較して示したグラフである。
【
図2】外因的に添加されたアピラーゼの存在下及び非存在下における液体培地中の経時的なATP存在量(nM)を示した棒グラフである。
【
図3】外因的に添加されたアピラーゼ(四角)及び外因的に添加された加熱失活(heat-killed)させたアピラーゼ(三角)が存在する液体培養培地におけるビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis)の経時的な増殖をOD
600により測定して比較し、細胞のみの対照(丸)と比較して示したグラフである。
【
図4A】ATPアーゼのCHO細胞増殖に対する効果を示すものである。添加されたジャガイモ由来アピラーゼの効果を示している。
【
図4B】ATPアーゼのCHO細胞増殖に対する効果を示すものであいる。添加されたCRC22110ホスファターゼの効果を示している。細胞数は60時間培養後に測定した。
【
図4C】ATPアーゼのCHO細胞増殖に対する効果を示すものである。添加されたジャガイモ由来アピラーゼの存在下で培養したCHO細胞の細胞生存率に対する効果を示している。
【
図5】接着培養におけるCHO-GFP細胞株の検出可能なGFP発現に対する外因的に添加されたアピラーゼの効果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
アデノシン三リン酸(ATP)は、細胞生存能力の最も重要な指標の一つである。細胞外ATP(eATP)は、真核細胞及び原核細胞のどちらの培養においても一般に検出されるが、細胞増殖の調節因子としての研究は行われてこなかった。従来、ATPの放出は、主に細胞溶解及びアポトーシスに起因して起こると考えられてきたが、最新の証拠は、ATPの漏出は多様な微生物種の増殖期でも起こり得、微生物生理に重要な役割を果たしている可能性があることを示唆している(Spari & Beldi,Int J Mol Sci.2020 Aug 4;21(15):5590)。eATPは真核細胞のシグナル伝達を調節することが示されているが、原核細胞のシグナル伝達におけるeATPの役割については十分に研究されていない。
【0017】
細胞を懸濁液中で増殖させる場合、細胞はストレスを受ける。理論に束縛されるものではないが、このストレスがアポトーシス及び細胞死の一因となるか又は原因となる可能性がある。アポトーシス後の細胞溶解によってATPが放出され、細胞培養液内において更にアポトーシスが促進されることに加えて、細胞の健康状態及びタンパク質産生という意味での生産性が影響を受ける。驚くべきことに、本出願の発明者らは、数種の微生物種の増殖が液体培養培地中のeATPの存在に影響を受けやすいことと、ヌクレオシド三リン酸を加水分解することができる酵素を添加することにより、ATPが細胞増殖及び/又は生存能力に与える悪影響を打ち消すことができることを見出した。したがって本発明は、原核細胞、真菌細胞、真核細胞及び昆虫細胞株をベースとする基盤における生産の制約を克服する新規な方法を提供する。
【0018】
実施例項に示すように、本発明者らは、液体培地の複数の実施例を用いて、多くの微生物種が細胞培養中に増殖依存的にATPを放出することと、この放出されたeATPが細胞増殖を抑制できることとを示した。更に、ATPを加水分解することができる任意の酵素を添加することによって、eATPが微生物の増殖に与える悪影響を逆転し、その結果として、増殖収率及び/又は生存細胞を増加させることが示された。
【0019】
I.定義
本明細書において使用される「ヌクレオシド三リン酸」は、五炭糖(リボース又はデオキシリボースのいずれか)に結合している窒素塩基を含み、この糖に3つのリン酸基が結合している分子を指す。ヌクレオシド三リン酸の非限定的な例としては、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)、デオキシリボースアデノシン三リン酸(dATP)、グアニン三リン酸(GTP)、デオキシリボースグアニン三リン酸(dGTP)、シトシン三リン(CTP)、デオキシリボースシトシン三リン酸(dCTP)、デオキシリボースチミン三リン酸(dTTP)及びウラシル三リン酸(UTP)が挙げられる。
【0020】
「少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する酵素」という句は、ヌクレオシド三リン酸の少なくとも3番目(即ち、ヌクレオシド三リン酸の五炭糖の塩基の位置に対し最も外側)のリン酸エステルを切断することができる任意の分子を指す。このような酵素としては、ホスファターゼが挙げられるが、これに限定されない。
【0021】
「ホスファターゼ」は、「NTPase」という用語と同義で使用され、リン酸モノエステルをリン酸イオンと遊離水酸基を有する分子とに加水分解することによって、その基質からリン酸基を除去する酵素を指す。例示的なホスファターゼとしては、アルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ、又はアピラーゼが挙げられる。
【0022】
本明細書において使用される「酸ホスファターゼ」(EC 3.1.3.2)は、酸性環境下(即ち、pH7未満)でリン酸エステルの加水分解を最適に触媒する任意の供給源から誘導された任意のホスファターゼを指す。
【0023】
本明細書において使用される「アルカリホスファターゼ」(EC 3.1.3.1)は、アルカリ性環境下(即ち、pH7超)でリン酸エステルの加水分解を触媒する任意の供給源から誘導された任意のホスファターゼを指す。
【0024】
「アピラーゼ」(EC 3.6.1.5)は、NTPの加水分解を触媒することによりNMP及び無機リン酸(phosphate)を生成する任意の酵素を指す。アピラーゼはまた、NDP及び他のヌクレオシド三リン酸及び二リン酸にも作用することができ、その一般的な反応は、NTP->NDP+Pi->NMP+2Piである。
【0025】
「液体培地で培養された細胞の増殖を向上させる」又は「増殖の向上」という句は、栄養素に富む液体培地で所与の期間培養される又は発酵する任意の細胞の収率又は生存率を向上させることを指す。細胞増殖向上の非限定的な例として、培養後の光学濃度(OD)がより高いこと、培養後のコロニー形成単位(cfu)/mLがより高いこと、細胞溶解がより少ないこと、細胞増殖速度がより速いこと、細胞量がより多いこと、細胞数がより多いこと又は培養後生存率がより高いことが挙げられる。
【0026】
本明細書において使用される「微生物(microorganism)」又は「微生物(microbe)」は、細菌、真菌、原生動物、藻類、古細菌及び他の微生物又は微視的生物を指す。更に、「微生物」という用語はまた、他の真核細胞(即ち、真菌及び藻類細胞以外の真核細胞、例えば、酵母、昆虫(これらに限定されないが、ショウジョウバエS2細胞など)、哺乳動物細胞又は哺乳動物細胞株(これらに限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞、幹細胞、初代細胞など))及び植物細胞)も包含する。
【0027】
本明細書で使用される「プロバイオティクス」という用語は、対象(例えば、ヒト)が消費するための組成物であって、適切な量で投与された場合に対象に健康上の利益を与える、生存能力がある(即ち、生きている)微生物、即ち、生存及び増殖可能な微生物を含有する組成物を指す(Hill et al.2014 Nature Revs Gastro & Hep 11,506-514参照、その全体を参照により本明細書に援用する)。プロバイオティクスは、例えば、低温殺菌又は熱処理により死滅した細菌組成物とは区別される。生育不能微生物を含む組成物もまた、本明細書に開示する方法の特定の実施形態において想定されている。
【0028】
本明細書に使用される「株」は、増殖又は繁殖する際に遺伝的に変化しないままである微生物を指す。同一の微生物の多様性(multiplicity)も包含される。
【0029】
「少なくとも1種の株」は、単一株のみならず、少なくとも2種の微生物の株を含む株の混合物も意味する。「少なくとも2種の株の混合物」は、2、3、4、5、6種又は更に多くの種類の株の混合物を意味する。株の混合物の幾つかの実施形態では、その比率は、1%~99%で変化し得る。混合物が2種を超える株を含む場合、これらの株は、この混合物中に実質的に等しい比率で存在することもできるし、又は異なる比率で存在することもできる。
【0030】
本開示の趣旨に関する「生物学的に純粋な株」は、株であって、この株の複製を妨げるのに十分な量か又は通常の細菌学的技法により検出可能となるのに十分な量の他の細菌株を含まない株を意味する。「単離された」は、本明細書で説明される生物及び培養物に関連して使用される場合、生物学的に純粋な株のみならず、天然に見られるものと異なる形で増殖するか又は維持される生物の任意の培養物も包含する。幾つかの実施形態では、株は、変異体、多様体又は株の誘導体である。
【0031】
本明細書に使用される「初代細胞」という用語は、組織から単離され、in vitroでの増殖が確立された細胞を指すことが当該技術分野において知られている。対応する細胞は、集団倍加が、たとえあるとしてもほとんど起こらず、したがって、連続継代性細胞株と比較して、それらが由来する元の組織の主要な機能要素をより反映しており、したがって、in vivo状態をより反映しているモデルである。様々な組織からサンプルを採取する方法及び初代細胞株を樹立する方法は当該技術分野においてよく知られている。初代細胞の非限定的な例としては、幹細胞及び免疫細胞が挙げられる。
【0032】
本明細書に使用される「幹細胞」という用語は、増殖する能力及びより多くの前駆細胞を発生する能力を有する未分化細胞を指し、この前駆細胞は、分化した又は分化可能な娘細胞を生み出すことができる多数の母細胞を生成する能力を有する。娘細胞自体を、増殖させ、後に1又は複数の成熟型細胞に分化する後代を作らせる一方で、親の発生能を有する1又は複数の細胞も保持するように誘導することも可能である。「幹細胞」という用語は、特定の環境下では、より特殊化された又は分化した表現型に分化する能力又は潜在性を有し、特定の環境下では、実質的に分化することなく増殖する能力を保持する、前駆細胞のサブセットを指す。一実施形態では、概して、幹細胞という用語は、その子孫(後代)が、例えば胚細胞及び組織の漸進的な多様化で起こるように、分化によって個々の特徴を完全に獲得することにより、多くの場合は異なる方向に特殊化する、天然の母細胞を指す。細胞の分化は、典型的には多くの細胞分裂を介して起こる複雑なプロセスである。分化細胞は、多能性細胞から誘導することができ、そしてこの多能性細胞自体は、多能性細胞から誘導される、などである。これらの多能性細胞のそれぞれを幹細胞と見なすこともできるが、それぞれが作り出すことのできる細胞の種類の範囲はかなり多様であり得る。分化した細胞の中には、より高い発生能を持つ細胞を生成する能力を有するものにある。このような能力は本来備わっていることもあるし、又は様々な因子で処理することによって人工的に誘導することもできる。多くの生物学的な例において、幹細胞は、1種を超える明確に異なる種類の後代細胞を作り出すことができることから「多能性」でもあるが、これは「幹細胞性」に必須ではない。自己複製は、幹細胞の定義のもう一つの古典的な部分であり、本文書に使用する場合、これは必須である。理論上は、自己複製は、2つの主要な機序のいずれかによって起こり得る。幹細胞は非対称分裂することができ、一方は、幹細胞状態を保っている娘細胞であり、他方は、それとは異なる他の何らかの特定の機能及び表現型を発現する娘細胞である。或いは、集団の中の一部の幹細胞は、2個の幹細胞に対称分裂することができ、したがって、全体としては、集団の中に幹細胞はある程度保持され、一方で、集団の中の他の細胞は、分化した後代のみを作り出す。形式上は、幹細胞として出発した細胞は分化した表現型に向かって進行することができるが、その後、「逆行」して幹細胞表現型を再発現することも可能であり、この用語は、当業者に「脱分化」又は「再プログラミング」又は「逆分化」と称されることも多い。本明細書において使用される「多能性幹細胞」という用語には、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎盤幹細胞等が含まれる。
【0033】
本明細書に使用される「免疫細胞」という用語は、免疫系(適応免疫系又は自然免疫系のどちらかであり得る)の一部を構成する細胞を指す。免疫細胞には、リンパ球、単球、マクロファージ、樹状細胞等の白血球細胞(白血球)が含まれ得る。リンパ球には、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及びB細胞が含まれ得る。本明細書において使用される免疫細胞は、養子細胞移植(自家移植又は同種移植のどちらか)用に作製されたものであり得る。養子移植に関連して、免疫細胞は、初代細胞(即ち、ヒト又は動物組織から直接単離され、培養されていない又は短時間のみ培養された細胞)であってもよいが、細胞株(即ち、長期間にわたり連続して継代され、同種の遺伝子型及び表現型の特徴を獲得した細胞)であってもよいことに留意されたい。
【0034】
本明細書に使用される「組換え(体)」は、(1)それが自然発生した環境から取り出されているか、(2)その遺伝子が自然界で見出されるポリヌクレオチドの全部若しくは一部を伴わないか、(3)自然界では連結していないポリヌクレオチドに機能的に連結しているか、又は(4)自然に発生しない、生体分子、例えば、遺伝子又はタンパク質を指す。「組換え(体)」という用語は、クローン化されたDNA単離物、化学合成されたポリヌクレオチド類似体又は異種系により生物学的に合成されたポリヌクレオチド類似体に加えて、このような核酸によってコードされるタンパク質及び/又はmRNAに関連して使用することができる。したがって、例えば、微生物により合成されたタンパク質が、例えば、細胞内に存在する組換え遺伝子から合成されたmRNAから合成されたものである場合、それは組換え体である。
【0035】
本明細書に使用される「組換え細胞」「遺伝子操作された細胞」及び「合成細胞」は、1種又は複数種の核酸配列を発現させるために遺伝子改変された細胞を指すために互換的に使用される。この細胞は、同一の核酸配列を内因的にも発現するものであってもよいし、同一の核酸配列を発現しないものであってもよい。
【0036】
本明細書に使用される「対象」という用語は、あらゆる非反芻動物(哺乳動物、例えばヒト等)及び反芻動物を含む。一実施形態では、対象は、非反芻動物及びヒト等の単胃対象である。単胃対象の更なる例としては:子ブタ、育成ブタ、雌ブタ等のブタ(pig)及びブタ(swine);エミュー、雉、雷鳥、七面鳥、アヒル、鶏、ブロイラー雛、卵用鶏等の家禽類;サケ、マス、ティラピア、ナマズ、コイ等の魚類;並びにエビ、クルマエビ等の甲殻類が挙げられるが、これらに限定されない。更なる実施形態では、対象は、ウシ、幼ウシ、ヤギ、ヒツジ、キリン、バイソン、アメリカヘラジカ、ヨーロッパヘラジカ、ヤク、水牛、シカ、ラクダ、アルパカ、ラマ、レイヨウ、プロングホーン及びニルガイ等の反芻動物であるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書に使用される「投与する」又は「投与すること」は、対象に1種又は複数種の微生物(例えば、1種又は複数種の微生物株)を含む1種又は複数種の組成物を、例えば、給餌するか又は経腸的に(例えば、経口的又は直腸的に)摂取させることにより導入する行為を意味する。この1種又は複数種の微生物株を含む組成物は、1回又は複数回の用量で投与することもできる。
【0038】
本明細書に使用される「経腸投与」は、内服、頬、舌下及び/又は胃腸管を介して吸収させることによる投与を意味する。経腸投与としては、経口及び舌下投与、胃内投与又は直腸投与を挙げることができる。
【0039】
本明細書に使用される「発酵乳製品」とは、ヒト又は動物による消費を目的とした、発酵により、且つ乳酸菌の使用により得られる製品を指す。非限定的な例として、「発酵乳製品(fermented dairy product)」は、ヨーグルト、チーズ及び発酵乳製品(fermented milk product)からなる群から選択される製品を指す。
【0040】
本明細書に使用される「凍結乾燥(freeze-drying)」(及び凍結乾燥(lyophilization)等の他の形態)は、水をまず凍結させ、次いで減圧及び/又は熱を加えることにより水を固相から気相に直接昇華させることによって除去する任意のプロセスを指す。
【0041】
本明細書に使用される、細胞培養液又は液体培地に関連する、「外因的に添加された」、酵素(例えば、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する酵素)及び同種のもの等の分子は、細胞培養液又は液体培地に添加される、細胞培養液又は液体培地中で細胞により組換え産生又は自然産生されない分子を指す。
【0042】
本明細書において、ある特定の範囲を提示する際に、「約」という語が先行する数値を用いる。本明細書において、「約」という用語は、この用語に先行される厳密な数並びにこの用語に先行される数に近い数又は近似した数に関するリテラルサポート(literal support)を提供するために使用される。ある数が、具体的に列挙された数に近い数又は近似した数であるかどうかを判定するに当たっては、それが示されている文脈において、具体的に列挙された数と実質的な均等物を提供することができる数が、列挙されていない近い数又は近似した数である。例えば、ある数値に関する「約」という用語は、この用語が文脈において別途明確に定義されない限り、この数値の-10%~+10%の範囲を指す。
【0043】
本明細書で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈において特に明示的に示されていない限り、複数の指示対象を含む。
【0044】
特許請求の範囲があらゆる任意選択的な要素を排除するように記載され得ることにも更に留意されたい。その場合、この記載は、特許請求の範囲の構成要素を列挙する又は「消極的な」限定を使用する状況において、「唯一の(solely)」、「のみ(only)」等の排他的な用語を使用する場合の先行詞(antecedent basis)として機能することが意図されている。
【0045】
本明細書において使用される「~から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、この用語の後の成分が、その総量が組成物全体の30重量%未満であり且つこの成分の作用又は活性に寄与も干渉もしない他の既知の成分の存在下にある、組成物を指すことにも留意されたい。
【0046】
更に、本明細書において使用される「~を含む(comprising)」という用語は、「~を含む(comprising)」の後の成分を含むが、それに限定されないことを意味することに留意すべきである。「~を含む」という用語の後の成分は、必要であるか又は必須であるが、この成分を含む組成物は、他の非必須の又は任意選択的な成分を更に含み得る。
【0047】
本明細書において使用される「~からなる(consisting of)」という用語は、「からなる」という用語の後の成分を含み且つこの成分に限定されることを意味することにも留意されたい。したがって、「からなる」という用語の後の成分は、必要であるか又は必須であり、この組成物中に他の成分は存在しない。
【0048】
本明細書を通して示されるあらゆる個々の上限の数値は、それよりも低い個々の下限の数値を、そのようなより低い個々の下限の数値が本明細書に明示的に記載されているかのように含むことが意図されている。本明細書全体を通して示されるあらゆる個々の下限の数値は、それよりも高い個々の上限の数値を、そのようなより高い個々の上限の数値が本明細書で明示的に記載されているかのように含むことになる。本明細書全体を通して示されるあらゆる数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に含まれるあらゆるより狭い数値範囲を、あたかもそのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明示されているかのように含むことになる。
【0049】
本明細書において別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0050】
本明細書全体を通して、用語の他の定義が出現する場合がある。
【0051】
II.組成物及び方法
本明細書では、特に、液体培地で培養される細胞の増殖を向上させるための組成物及び方法を提供する。一実施形態では、この方法は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素(例えば、1種又は複数種の外因的に添加された酵素)を含む培地で細胞を培養することを含む。培養された細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、増殖が向上する。
【0052】
A.少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する酵素
任意の供給源生物から得られるヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを除去することができるあらゆる酵素を、本明細書に開示する細胞培養方法及び組成物に使用することができる。幾つかの実施形態では、酵素は、EC 3.1.3.x(xは1~86の整数、即ち、リン酸モノエステル加水分解酵素である)に属するホスファターゼである。このような酵素としては、以下の酵素分類番号に該当するものが挙げられるが、これらに限定されない:EC 3.1.3.1 アルカリホスファターゼ、EC 3.1.3.2 酸ホスファターゼ、EC 3.1.3.3 ホスホセリンホスファターゼ、EC 3.1.3.4 ホスファチジン酸ホスファターゼ、EC 3.1.3.5 5’-ヌクレオチダーゼ、EC 3.1.3.6 3’-ヌクレオチダーゼ、EC 3.1.3.7 3’(2’)、5’-ビスリン酸ヌクレオチダーゼ、又はEC 3.1.3.8 3-フィターゼ。他の実施形態では、ホスファターゼは、EC 3.6.1.5 アピラーゼ(例えば、ジャガイモ由来アピラーゼ)である。
【0053】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを除去することができる酵素は、配列番号:1との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:1との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0054】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを加水分解することができる酵素は、配列番号:2との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:2との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0055】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを加水分解することができる酵素は、配列番号:3との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:3との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0056】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを除去することができる酵素は、配列番号:4との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:4との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0057】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを加水分解することができる酵素は、配列番号:5との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:5との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0058】
幾つかの実施形態では、ヌクレオシド三リン酸の3番目のリン酸エステルを加水分解することができる酵素は、配列番号:6との同一性が少なくとも約60%であるアミノ酸配列(例えば、配列番号:6との同一性が約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であるもののいずれか)を含む。
【0059】
ホスファターゼは、本明細書に開示する例示的な液体細胞培養培地のいずれか等の液体細胞培養培地に、約5nM~約500nMの濃度、例えば、約50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、110nM、120nM、130nM、140nM、150nM、160nM、170nM、180nM、190nM、200nM、210nM、220nM、230nM、240nM、250nM、260nM、270nM、280nM、290nM、300nM、310nM、320nM、330nM、340nM、350nM、360nM、370nM、380nM、390nM、400nM、410nM、420nM、430nM、440nM、450nM、460nM、470nM、480nM、490nM若しくは500nM又はそれを超える濃度のいずれか(これらの値の間にあるあらゆる濃度を含む)等で添加することができる。
【0060】
B.代表的な細胞
本明細書に開示する方法に従い、細菌細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞のいずれかであってもよい任意の細胞を、液体培地で、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素と一緒に培養することができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、細胞は真菌であり、その例として、アスペルギルス属(Aspergillus)の種、例えば、アスペルギルス・オリゼ(A.oryzae)及びアスペルギルス・ニガー(A.niger)、サッカロミセス属(Saccharomyces)の種、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)の種、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(S.pombe)及びトリコデルマ属(Trichoderma)の種、例えば、トリコデルマ・リーセイ(T.reesei)が挙げられる。
【0062】
幾つかの実施形態では、細胞は糸状菌細胞である。「糸状菌」という用語は、真菌亜門(subdivision Eumycotina)の全ての糸状形態を指す(例えば、Alexopoulos,C.J.(1962),Introductory Mycology,Wiley,New Yorkを参照されたい)。これらの真菌は、キチン、セルロース及び他の複合多糖類から構成される細胞壁を備える栄養菌糸によって特徴付けられる。糸状菌は、形態学的、生理学的及び遺伝学的に、酵母とは区別される。糸状菌の栄養成長は、菌糸伸長であり、炭素異化作用は、絶対好気性である。糸状菌細胞は、トリコデルマ属(Trichoderma)菌(例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、以前はトリコデルマ・ロンギブラギアツム(T.longibrachiatum)として分類されていたハイポクリア・ジェコリナ(Hypocrea jecorina)の無性生殖構造(asexual morph)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)(Sheir-Neirs et al,Appl.Microbiol.Biotechnol 20:46-53,1984;ATCC No.56765及びATCC No.26921);ペニシリウム属菌(Penicillium sp.)、フミコラ属菌(Humicola sp.)(例えば、フミコラ・インソレンス(H.insolens)、フミコラ・ラヌギノース(H.lanuginose)又はフミコラ・グリセア(H.grisea));クリソスポリウム属菌(Chrysosporium sp.)(例えば、クリソスポリウム・ルクノウェンセ(C.lucknowense))、グリオクラジウム属菌(Gliocladium sp.)、アスペルギルス属菌(Aspergillus sp.)(例えば、アスペルギルス・オリゼ(A.oryzae)、アスペルギルス・ニガー(A.niger)、アスペルギルス・ソーヤ(Asojae)、アスペルギルス・ジャポニカス(A.japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)又はアスペルギルス・アワモリ(A.awamori))(Ward et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.39:7380743,1993及びGoedegebuur et al,Genet41:89-98,2002)、フサリウム属菌(Fusarium sp.)(例えば、フサリウム・ロゼウム(F.roseum)、フサリウム・グラミウム(F.graminum)、フサリウム・セレアリス(F.cerealis)、フサリウム・オキシスポルイム(F.oxysporuim)又はフサリウム・ベネナタム(F.venenatum))、ニューロスポラ属菌(Neurospora sp.)(例えば、ニューロスポラ・クラッサ(N.crassa))、ヒポクレア属菌(Hypocrea sp.)、ムコール属菌(Mucor sp.)(例えば、ムコール・ミエヘイ(M.miehei))、リゾプス属菌(Rhizopus sp.)及びエメリセラ属菌(Emericella sp.)(Innis et al.,Sci.228:21-26,1985も参照されたい)の種の細胞とすることができるが、これらに限定されるものではない。「トリコデルマ(Trichoderma)」又は「トリコデルマ属菌(Trichoderma sp.)」又は「トリコデルマ属菌(Trichoderma spp.)」という用語は、以前又は現在トリコデルマ(Trichoderma)として分類されている任意の真菌属を指す。
【0063】
幾つかの実施形態では、真菌は、アスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)、アスペルギルス・アワモリ(A.awamori)、アスペルギルス・オリゼ(A.oryzae)、アスペルギルス・アクレアツス(A.aculeatus)、アスペルギルス・ニガー(A.niger)、アスペルギルス・ジャポニカス(A.japonicus)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、フサリウム・オキシスポラム(F.oxysporum)又はフサリウム・ソラニー(F.solani)である。アスペルギルス(Aspergillus)属菌株は、Ward et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.39:738-743,1993及びGoedegebuur et al.,Curr Gene 41:89-98,2002に開示されており、これらの各々の全体を、特に真菌に関し、参照により本明細書に援用する。特定の実施形態では、真菌は、トリコデルマ(Trichoderma)属株、例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)株である。トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の株は公知であり、非限定的な例として、ATCC No.13631、ATCC No.26921、ATCC No.56764、ATCC No.56765、ATCC No.56767及びNRRL 15709が挙げられ、これらの各々の全体を、特にトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の株に関し、参照により本明細書に援用する。幾つかの実施形態では、宿主株はRL-P37の誘導体である。RL-P37は、Sheir-Neiss et al.,Appl.Microbiol.Biotechnology 20:46-53,1984に開示されており、その全体を、特にトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の株に関し、参照により本明細書に援用する。
【0064】
幾つかの実施形態では、細胞は、サッカロミセス属菌(Saccharomyces sp.)、シゾサッカロミセス属菌(Schizosaccharomyces sp.)、ピキア属菌(Pichia sp.)又はカンジダ属菌(Candida sp.)等の酵母である。
【0065】
幾つかの実施形態では、細胞は、バチルス・リケニフォルミス(B.lichenformis)、バチルス・サブチルス(B.subtilis)等のバチルス属(Bacillus)の株、パントエア・シトレア(P.citrea)等のパントエア属(Pantoea)の株、シュードモナス・アルカリゲネス(P.alcaligenes)等のシュードモナス属(Pseudomonas)の株、ストレプトマイセス・リビダンス(S.lividans)、ストレプトマイセス・ルビギノーサス(S.rubiginosus)等のストレプトミセス属(Streptomyces)の株又はエシェリキア・コリ(E.coli)等のエシェリキア属(Escherichia)の株等の細菌である。
【0066】
本明細書で使用される「バチルス(Bacillus)属」には、当業者に知られている「バチルス(Bacillus)」属内の全ての種が含まれ、これらに限定されないが、バチルス・サブチリス(B.subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)、バチルス・レンツス(B.lentus)、バチルス・ブレビス(B.brevis)、バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、バチルス・アルカロフィルス(B.alkalophilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)、バチルス・ベレゼンシス(B.velezensis)、バチルス・クラウシイ(B.clausii)、バチルス・ハロデュランス(B.halodurans)、バチルス・メガテリウム(B.megaterium)、バチルス・コアグランス(B.coagulans)、バチルス・サークランス(B.circulans)、バチルス・ラウツス(B.lautus)及びバチルス・チューリンギエンシス(B.thuringiensis)が挙げられる。バチルス属(Bacillus)の分類学的再編成が続いていることは認識されている。したがって、この属には、これらに限定しないが、現在は「ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)」という名称が付けられている、「バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)」等の生物をはじめとする再分類された種が含まれることが意図されている。酸素の存在下で耐性内生胞子を生成することはバチルス(Bacillus)属を定義付ける特徴と考えられるが、この特徴はまた、最近命名されたアリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)属、アンフィバチルス(Amphibacillus)属、アネウリニバチルス(Aneurinibacillus)属、アノキシバチルス(Anoxybacillus)属、ブレビバチルス(Brevibacillus)属、フィロバチルス(Filobacillus)属、グラシリバチルス(Gracilibacillus)属、ハロバチルス(Halobacillus)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、サリバチルス(Salibacillus)属、テルモバチルス(Thermobacillus)属、ウレイバチルス(Ureibacillus)属及びビルジバチルス(Virgibacillus)属にも当てはまる。
【0067】
幾つかの実施形態では、宿主細胞は、グラム陽性菌である。非限定的な例として、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の株(例えば、ストレプトマイセス・リビダンス(S.lividans)、ストレプトマイセス・コエリカラー(S.coelicolor)又はストレプトマイセス・グリセウス(S.griseu))s)及びバチルス(Bacillus)属の株が挙げられる。幾つかの実施形態では、供給源生物は、エシェリキア・コリ(E.coli)又はシュードモナス属菌(Pseudomonas sp.)等のグラム陰性菌である。
【0068】
幾つかの実施形態では、細胞は、植物、例えば、ファボイデアエ(Faboideae)亜科等のファボセア(Fabaceae)科からの植物である。幾つかの実施形態では、供給源生物は、葛、ポプラ(ポプラス・アルバ×トレムラ(Populus alba x tremula)CAC35696等)、アスペン(ポプラス・トレムロイデス(Populus tremuloides)等)又はヨーロッパナラ(クエルカス・ロブ(Quercus robur))である。
【0069】
幾つかの実施形態では、細胞は、緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クロララクニオン藻類、ユーグレナ藻類、クロミスタ又は渦鞭毛藻類等の藻類である。
【0070】
幾つかの実施形態では、細胞は、ラン藻類であり、形態に基づき以下の群に分類される任意のラン藻類等である:クロオコックス目(Chroococcales)、プレウロカプサ目(Pleurocapsales)、ユレモ目(Oscillatoriales)、ネンジュモ目(Nostocales)又はスチゴネマ目(Stigonematales)。
【0071】
他の実施形態では、細胞は、プレボテラ属(Prevotella)(プレボテラ・コプリ(P.copri)等)、アッケルマンシア属(Akkermansia)(アッケルマンシア・ムニシフィラ(A.municiphilia)等)、メガスフェラ属(Megasphaera)(メガスファエラ・エルスデニイ(M.elsdenii)等)、オシリバクター属(Oscillibacter)、バクテロイデス属(Bacteroides)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ブレビバクテリア属(Brevibacteria)、クロストリジウム属(Clostridium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、サッカロミセス属(Saccharomyces)及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・サブチルス(Bacteroides subtilis)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス420(Bifidobacterium animalis subsp.lactis 420)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エシェリキア・コリ・ニッスル(Escherichia coli Nissle)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ロイテリー(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)及びサッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)に属する株を含む。
【0072】
幾つかの態様では、本明細書に開示する方法に従い液体培地で培養される細胞は、プロバイオティクスである。幾つかの実施形態では、プロバイオティクス細菌はグラム陰性細菌である。幾つかの実施形態では、プロバイオティクス細菌はグラム陽性細菌である。現在、非病原性細菌の一部の種、株及び/又は亜型がプロバイオティクス細菌として認められている。プロバイオティクス細菌の例としては、ビフィズス菌(Bifidobacteria)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)及びサッカロミセス属(Saccharomyces)に属する特定の株、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エシェリキア・コリ・ニッスル株(Escherichia coli strain Nissle)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)及びサッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)が挙げられるが、これらに限定されない。プロバイオティクスは、細菌の変種又は変異株とすることもできる(Arthur et al.,2012;Cuevas-Ramos et al.,2010;Olier et al.,2012;Nougayrede et al.,2006)。非病原性細菌は、所望の生物学的特性、例えば、生存性を強化又は改善するために遺伝子操作されたものとすることもできる。非病原性細菌は、プロバイオティクス特性を付与するために遺伝子操作されたものとすることもできる。プロバイオティクス細菌は、プロバイオティクス特性を強化又は改善するために遺伝子操作されたものとすることもできる。
【0073】
更なる実施形態では、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞等の哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞はまた、幹細胞又は免疫細胞等の初代細胞であってもよい。ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球(Bリンパ球、Tリンパ球等)、白血球又は単球(マクロファージ等)等の任意の免疫細胞を使用することができるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書で使用される「白血球(leukocyte)」という用語は、体が感染症その他の疾患と闘うのを助ける、白血球細胞(white blood cell)と呼ばれる細胞を指し、例えば、顆粒球(例えば、好中球、好酸球、好塩基球)、単核食細胞、リンパ球(例えば、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞)が含まれる。
【0075】
本明細書で使用される「B細胞」又は「Bリンパ球」は、リンパ球の主な2種類のうちの一方である。B細胞は、抗体分泌細胞である形質細胞の前駆体であり、それ自体が液性免疫応答を誘導する中心となる。成人におけるほとんどの液性免疫応答の誘導に、一般にT細胞と呼ばれる胸腺由来のTリンパ球、抗原提示細胞(APC)及びB細胞間の多くの細胞相互作用が関与している(J.Exp.Med 147:1159,1978;PNAS 77:1612,1982;PNAS 79:1989,1982;Immunol.Rev.95:914,1987)。
【0076】
本明細書に使用する「T細胞」又は「Tリンパ球」は、胸腺で発達すること及びCD3複合体のタンパク質と会合したヘテロ二量体受容体が存在することにより定義されるリンパ球のサブセットである。更にT細胞は、ヘルパーT細胞(CD4+細胞)及び細胞傷害性T細胞(CD8+細胞)に分けることができる。
【0077】
「ナチュラルキラー細胞」又は「NK細胞」は、自然免疫系の重要な構成要素である大型リンパ球の種類である。
【0078】
本明細書に使用する「単球」という用語は、免疫系において以下の2つの主要な機能を果たす白血球細胞の1種を指す:(1)正常状態では常在マクロファージ及び樹状細胞を補充し、(2)炎症シグナルに応答して、単球は組織の感染部位に速やかに(約8~12時間)移動し、マクロファージ及び樹状細胞に分裂/分化して免疫応答を起こすことができる。その半数は脾臓に貯蔵されている。単球という用語には、これらに限定されるものではないが、古典的単球及び非古典的炎症促進性単球の両方が含まれ、どちらもヒトの血液中に存在する。
【0079】
本明細書に使用する「マクロファージ」という用語は、貪食細胞であることを特徴とする単球の分化により誘導されるCD14+陽性細胞を指し、非特異的防御(自然免疫)において作用するのみならず、脊椎動物の特異的防御機構(獲得免疫)の開始も助ける。その役割は、静止細胞又は移動細胞のいずれかとして細胞の残骸及び病原体を貪食(飲み込んだ後、消化)すること並びにリンパ球及び他の免疫細胞を病原体に反応するように刺激することである。
【0080】
他の実施形態では、動物細胞はオルガノイドである。本明細書で使用される「オルガノイド」という用語は、本物の器官に存在する細胞の自己組織化、構成及びシグナルの相互作用の特徴を再現した細胞の集合体を指す。「オルガノイド」という用語には、懸濁細胞培養により形成されたスフェロイド又は細胞塊も含まれる。
【0081】
C.例示的な液体細胞培養培地
本明細書で使用される「培地(medium)」又は「培地(media)」という用語は、細胞を増殖させることが可能な栄養素を含む液体増殖培地を指す。典型的な培地は以下を含む:(1)細胞増殖のための炭素源;(2)種及び増殖条件に応じて異なり得る様々な塩;(3)タンパク質又はアミノ酸の1種又は複数種の供給源;並びに(4)水。炭素源は、グルコースのような単純な糖から、より複雑な、酵母エキス等の他のバイオマスの加水分解物まで、幅広く異なり得る。塩は、概して、細胞がタンパク質及び核酸を合成できるようにするためのマグネシウム、窒素、リン、硫黄などの必須元素を提供する。培地にはまた、特定のプラスミド等を維持するための選択を行う抗生物質等の選択剤を添加することもできる。例えば、微生物がアンピシリンやテトラサイクリン等の特定の抗生物質に耐性を持つ場合、その耐性を持たない細胞の増殖を阻止するために抗生物質を培地に添加することができる。培地には、必要に応じて、所望の生理学的又は生化学的特性を選択するために、特定のアミノ酸等の他の化合物を添加することもできる。
【0082】
細胞を培養するための任意の炭素源を使用することができる。「炭素源」という用語は、細胞又は生物によって代謝されることが可能な1種又は複数種の炭素含有化合物を指す。例えば、細胞を培養するための培地は、細胞の生存能力の維持又は増殖に適した任意の炭素源を含むことができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、炭素源は、炭水化物(単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類等)、転化糖(例えば、酵素処理されたショ糖シロップ)、グリセロール、グリセリン(例えば、バイオディーゼル又は石鹸製造過程で副生するグリセリン)、ジヒドロキシアセトン、一炭素供給源(one-carbon source)、油(例えば、トウモロコシ油、パーム油、大豆油などの植物(plant)油又は食用植物(vegetable)油)、動物脂肪、動物油、脂肪酸(例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸又は多価不飽和脂肪酸)、脂質、リン脂質、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、ポリペプチド(例えば、微生物又は植物由来タンパク質又はペプチド)、再生可能炭素源(例えば、加水分解されたバイオマス炭素源等のバイオマス炭素源)、酵母エキス、酵母エキス由来成分、ポリマー、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミノ酸、コハク酸エステル、乳酸エステル、酢酸エステル、エタノール又は上に挙げたものの2種以上の組合せである。幾つかの実施形態では、炭素源は、光合成の生成物であり、グルコースが挙げられるが、これに限定されない。
【0084】
例示的な単糖類としては、グルコース及びフルクトースが挙げられ、例示的なオリゴ糖類としては、ラクトース及びスクロースが挙げられ、例示的な多糖類としては、デンプン及びセルロースが挙げられる。例示的な炭水化物としては、C6糖(例えば、フルクトース、マンノース、ガラクトース又はグルコース)及びC5糖(例えば、キシロース又はアラビノース)が挙げられる。幾つかの実施形態では、細胞用培地は、炭水化物に加えて、炭水化物以外の炭素源(例えば、グリセロール、グリセリン、ジヒドロキシアセトン、一炭素供給源、油、動物脂肪、動物油、脂肪酸、脂質、リン脂質、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、再生可能炭素源又は酵母エキス由来成分)を含む。幾つかの実施形態では、細胞用培地は、炭水化物に加えて、ポリペプチド(例えば、微生物又は植物由来タンパク質又はペプチド)を含む。幾つかの実施形態では、微生物由来ポリペプチド(microbial polypeptide)は、酵母又は細菌由来のポリペプチドである。幾つかの実施形態では、植物由来ポリペプチド(plant polypeptide)は、大豆、トウモロコシ、カノーラ、ナンヨウアブラギリ、パームヤシ、落花生、ヒマワリ、ココヤシ、からし、菜種、綿実、パーム核、オリーブ、ベニバナ、ゴマ又は亜麻仁由来のポリペプチドである。
【0085】
幾つかの実施形態では、炭水化物の濃度は、ブロス1リットル当たり少なくとも又は約5グラム(g/L、ブロスの体積には細胞用培地の体積及び細胞の体積の両方が含まれる)、例えば、少なくとも又は約10、15、20、30、40、50、60、80、100、150、200、300、400g/L又はそれを超える。幾つかの実施形態では、炭水化物の濃度は、約50~約400g/Lの間、例えば、約100~約360g/Lの間、約120~約360g/Lの間又は約200~約300g/Lの間にある。幾つかの実施形態では、この炭水化物の濃度には、宿主細胞の培養前及び/又は途中に添加される炭水化物の総量が含まれる。
【0086】
幾つかの態様では、細胞は、グルコース制限条件下で培養される。「グルコース制限条件」とは、添加されるグルコースの量が、細胞により消費されるグルコースの量の約105%未満(約100%等)であることを意味する。特定の実施形態では、培養培地に添加されるグルコースの量は、特定の期間に細胞が消費するグルコースの量にほぼ等しい。幾つかの実施形態では、細胞増殖速度は、添加するグルコースの量を制限することによって、細胞用培地中のグルコースの量により支援できる速度で細胞が増殖するように、制御される。幾つかの実施形態では、グルコースは、細胞が培養されている期間に蓄積しない。様々な実施形態では、細胞は、グルコース制限条件下で約1時間超、約2時間超、約3時間超、約5時間超、約10時間超、約15時間超、約20時間超、約25時間超、約30時間超、約35時間超、約40時間超、約50時間超、約60時間超又は約70時間超培養される。様々な実施形態では、細胞は、細胞が培養される総時間の約5%超、約10%超、約15%超、約20%超、約25%超、約30%超、約35%超、約40%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、約95%超又は約100%を超えてグルコース制限条件下で培養される。特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、グルコース制限条件下では、細胞をより好都合に制御することが可能になると考えられる。
【0087】
幾つかの実施形態では、細胞は、過剰のグルコースの存在下に培養される。特定の実施形態では、添加されるグルコースの量は、特定の期間に細胞が消費するグルコースの量の約105%を超える(例えば、約110%超、約120%超、約150%超、約175%超、約200%超、約250%超、約300%超、約400%超又は約500%超)か又はそれを超える。幾つかの実施形態では、グルコースは、細胞が培養されている期間に蓄積する。
【0088】
例示的な脂質は、飽和、不飽和又は分岐のC4以上の脂肪酸である1種又は複数種の脂肪酸を含む任意の物質である。例示的な油は、室温で液体である脂質である。幾つかの実施形態では、脂質は1種又は複数種のC4以上の脂肪酸を含む(例えば、4個以上の炭素を有する1種又は複数種の飽和、不飽和又は分岐脂肪酸を含む)。幾つかの実施形態では、油は、大豆、トウモロコシ、カノーラ、ナンヨウアブラギリ、パームヤシ、落花生、ヒマワリ、ココヤシ、からし、菜種、綿実、パーム核、オリーブ、ベニバナ、ゴマ、亜麻仁、油糧微生物(oleagineous micribial)細胞、ナンキンハゼ又は上に挙げたものの2種以上の組合せから得られたものである。
【0089】
例示的な脂肪酸としては、式RCOOH(式中、「R」は炭化水素である)を有する化合物が挙げられる。例示的な不飽和脂肪酸としては、「R」が少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物が挙げられる。例示的な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、パルミトエライジン酸及びアラキドン酸が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な多価不飽和脂肪酸としては、「R」が複数の炭素-炭素二重結合を含む化合物が挙げられる。例示的な飽和脂肪酸としては、「R」が飽和脂肪族基である化合物が挙げられる。幾つかの実施形態では、炭素源としては、1種又は複数種のC12~C22脂肪酸、例えばCu飽和脂肪酸、CM飽和脂肪酸、Ci6飽和脂肪酸、C18飽和脂肪酸、C20飽和脂肪酸又はC22飽和脂肪酸が挙げられる。例示的な一実施形態では、脂肪酸はパルミチン酸である。幾つかの実施形態では、炭素源は、脂肪酸(例えば、不飽和脂肪酸)の塩、脂肪酸(例えば、不飽和脂肪酸)の誘導体又は脂肪酸(例えば、不飽和脂肪酸)の誘導体の塩である。好適な塩としては、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられるが、これらに限定されない。ジ-及びトリグリセロールはグリセロールの脂肪酸エステルである。
【0090】
幾つかの実施形態では、脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの濃度は、ブロス1リットル当たり少なくとも又は約1グラム(g/L、ブロスの体積には細胞用培地の体積及び細胞の体積の両方が含まれる)、例えば、少なくとも又は約5、10、15、20、30、40、50、60、80、100、150、200、300、400g/Lであるか又はそれを超える。幾つかの実施形態では、脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの濃度は、約10~約400g/Lの間、例えば、約25~約300g/Lの間、約60~約180g/Lの間又は約75~約150g/Lの間にある。幾つかの実施形態では、この濃度には、宿主細胞の培養前及び/又は途中に添加される脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの総量が含まれる。幾つかの実施形態では、炭素源は、(i)脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリド及び(ii)グルコース等の炭水化物の両方を含む。幾つかの実施形態では、脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリド対炭水化物の比は、炭素基準で約1:1(即ち、炭水化物の炭素1個当たり脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの炭素1個)である。特定の実施形態では、脂質、油、脂肪、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの量は、約60~180g/Lの間にあり、炭水化物の量は、約120~360g/Lの間にある。
【0091】
例示的な微生物由来ポリペプチド炭素源としては、酵母又は細菌由来の1種又は複数種のポリペプチドが挙げられる。例示的な植物由来ポリペプチド炭素源としては、大豆、トウモロコシ、カノーラ、ナンヨウアブラギリ、パームヤシ、落花生、ヒマワリ、ココヤシ、からし、菜種、綿実、パーム核、オリーブ、ベニバナ、ゴマ又は亜麻仁由来の1種又は複数種のポリペプチドが挙げられる。
【0092】
例示的な再生可能炭素源としては、チーズホエイ透過液、コーンスティープリカー、てんさい糖蜜、大麦麦芽及び上に挙げたもののいずれかの構成成分が挙げられる。例示的な再生可能炭素源としては、トウモロコシ、スイッチグラス、サトウキビ、発酵プロセスの細胞廃棄物及び大豆、トウモロコシ又はコムギの製粉から得られる副産物タンパク質等のバイオマス中に存在する、グルコース、ヘキソース、ペントース及びキシロースも挙げられる。幾つかの実施形態では、バイオマス炭素源は、リグノセルロース、ヘミセルロース又はセルロース系材料、例えば、コムギ、コムギワラ、バガス、サトウキビバガス、針葉樹パルプ、トウモロコシ、トウモロコシの穂軸若しくは皮、トウモロコシ穀粒、トウモロコシ穀粒由来の繊維、コーン・ストーバー、スイッチグラス、コメ籾殻産物又は穀粒(例えば、トウモロコシ、モロコシ、ライムギ、トリティケート(triticate)、オオムギ、コムギ及び/又はジスチラーズグレイン)の湿式又は乾式製粉から得られる副産物が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なセルロース系材料としては、木材、紙及び廃棄パルプ、草本植物並びに果肉が挙げられる。幾つかの実施形態では、炭素源としては、茎、穀粒、根、塊茎等の任意の植物部位が挙げられる。幾つかの実施形態では、以下に示すいずれかの植物の全体又は一部分が炭素源として使用される:トウモロコシ、コムギ、ライムギ、モロコシ、トリティケート(triticate)、コメ、キビ、オオムギ、キャッサバ、ソラマメやエンドウ等のマメ科植物、ジャガイモ、サツマイモ、バナナ、サトウキビ及び/又はタピオカ。幾つかの実施形態では、炭素源は、キシロース及びグルコースの両方を含むか又はスクロース及びグルコースの両方を含むバイオマス加水分解物等のバイオマス加水分解物である。
【0093】
幾つかの実施形態では、再生可能炭素源(バイオマス等)は、細胞培養培地に添加される前に前処理されている。幾つかの実施形態では、前処理は、酵素的前処理、化学的前処理又は酵素的及び化学的前処理の両方の組合せを含む(例えば、Farzaneh et al,Bioresource Technology 96(18):2014-2018,2005;米国特許第6,176,176号明細書;米国特許第6,106,888号明細書を参照されたい;これらの各々の全体を、特に再生可能炭素源の前処理に関し、参照により本明細書に援用する)。幾つかの実施形態では、再生可能炭素源は、細胞培養培地に添加される前に、部分的又は完全に加水分解されている。
【0094】
幾つかの実施形態では、炭素源(例えば、再生可能炭素源)の濃度は、少なくとも又は約0.1、0.5、1、1.5 2、3、4、5、10、15、20、30、40又は50%グルコース(w/v)に相当する。グルコース相当量は、標準的なHPLC法を用いて、グルコースを標準物質として、炭素源から生成したグルコースの量を測定することにより決定することができる。幾つかの実施形態では、炭素源(例えば、再生可能炭素源)の濃度は、約0.1~約20%グルコースの間、例えば、約0.1~約10%グルコースの間、約0.5~約10%グルコースの間、約1~約10%グルコースの間、約1~約5%グルコースの間又は約1~約2%グルコースの間に相当する。
【0095】
幾つかの態様では、炭素源は、酵母エキス又は酵母エキスの1種若しくは複数種の成分を含む。幾つかの態様では、酵母エキスの濃度は、酵母エキス0.1%(w/v)、0.09%(w/v)、0.08%(w/v)、0.07%(w/v)、0.06%(w/v)、0.05%(w/v)、0.04%(w/v)、0.03%(w/v)、0.02%(w/v)又は0.01%(w/v)である。幾つかの態様では、炭素源は、酵母エキス(又はその1種若しくは複数種の成分)とグルコース等の他の炭素源との両方を含む。
【0096】
幾つかの態様では、細胞は、生理学的塩及び栄養素を含む標準的な培地で培養される(例えば、Pourquie,J.et al.,Biochemistry and Genetics of Cellulose Degradation,eds.Aubert et al.,Academic Press,pp.71-86,1988及びIlmen et al.,Appl.Environ.Microbiol.63:1298-1306,1997を参照されたい、これらの各々の全体を、特に細胞用培地に関し、参照により本明細書に援用する)。例示的な増殖培地は、LB培地(LB)ブロス、サブローデキストロース(SD)ブロス又は酵母生育培地(Yeast medium)(YM)ブロス等の商業的に調製された一般的な培地である。他の限定又は合成増殖培地を使用することもできる。特定の宿主細胞の増殖に適切な培地は微生物学又は発酵科学の当業者に知られている。
【0097】
適切な炭素源に加えて、細胞用培地は、望ましくは、好適なミネラル、塩、補因子、緩衝剤及び細胞の増殖に適した当業者に知られている他の成分を含む。
【0098】
本明細書に開示する方法に従い細胞を培養するために使用することができる任意の液体培地製剤を用いることができる。例示的な液体培地製剤としては、例えば、MRS培地(特に、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌の培養用)が挙げられる。MRS培地は、1リットル当たり、デキストロース(20g)、ゼラチンペプトン(10g)、ビーフエキス(8g)、酢酸ナトリウム(5g)、酵母エキス(4g)、クエン酸アンモニウム(2g)、リン酸二カリウム(2g)、ポリソルベート80(1g)、硫酸マグネシウム(0.2g)及び硫酸マンガン(0.05g)を含む。
【0099】
更なる例示的な液体培地は、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地である。BHI培地は、1リットル当たり、仔ウシ脳浸出液(200g)、ウシ心臓浸出液(250g)、プロテオースペプトン(10g)、デキストロース(2g)、塩化ナトリウム(5g)、リン酸二ナトリウム(2.5g)を含み、最終pHは7.4+/-0.2である。
【0100】
更なる例示的な液体培地は、トリプシン大豆ブロス(TSB)培地である。TSB培地は、1リットル当たり、トリプトン(カゼイン膵液消化物;17g)、ソイトン(大豆ペプシン消化物;3g)、グルコース(2.5g)、塩化ナトリウム(5g)、リン酸二カリウム(2.5g)を含み、最終pHは7.3+/-0.2である。
【0101】
他の例示的な液体培地は、Anaerobe Systems(Morgan Hill,CA)から市販されている、ムチン添加又は無添加のYeast Casitone Fatty Acids Broth with Carbohydrates(YCFAC Broth)である。
【0102】
幾つかの態様では、培地は馴化培地である。本明細書で使用される「馴化培地」という用語は、細胞を既に一定期間増殖させた培地を指す。この培地は、これらに限定されるものではないが、その中に溶解した酵素(但し、幾つかの態様では、馴化培地は少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を全く含まないか又は最小量(例えば5nM未満)で含むものになる)、増殖因子、サイトカイン、ホルモン等の分泌された因子を含むことになり、その後、この馴化培地を新しい細胞に移動させることにより、移し替えることができる。当業者は馴化培地の作製に精通しており、培地を馴化するためのインキュベーション時間は、培地で増殖する細胞の種類及びその培地中の濃度に応じて1~5日間の範囲となり得る。
【0103】
D.例示的な細胞培養条件
以下に液体培地中で組換え細胞を維持及び増殖させるのに適した材料及び方法を、例えば実施例項で説明する。細胞培養の維持及び増殖に適した他の材料及び方法は当該技術分野において知られている。例示的な技法が、Manual of Methods for General Bacteriology Gerhardt et al.,eds),American Society for Microbiology,Washington,D.C.(1994)又はBrock in Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition(1989)Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,Mass.に記載されている。
【0104】
細胞の培養には標準的な細胞培養条件を使用することができる。幾つかの態様では、細胞は、適切な温度、気体混合物及びpH(約20℃~約37℃、約6%~約84%CO2及び約5~約9の間のpH等)で増殖及び維持される。幾つかの態様では、細胞は、適切な細胞用培地を用いて35℃で増殖される。幾つかの態様では、発酵を行うためのpH範囲は、約pH5.0~約pH9.0の間(約pH6.0~約pH8.0の間又は約6.5~約7.0の間等)である。細胞は、細胞の要求に基づき、好気、無酸素又は嫌気条件で増殖させることができる。
【0105】
様々な実施形態では、細胞は、回分式、流加又は連続式プロセス等の任意の公知の発酵方式を用いて増殖される。幾つかの実施形態では、回分発酵法が用いられる。古典的な回分発酵は、培地の組成が発酵開始時点で決められており、発酵中に人為的に変更されない閉鎖系である。したがって、発酵開始時点で細胞用培地に所望の宿主細胞が接種され、系に何も追加しなくても発酵が可能となる。但し、典型的には「回分発酵」は、炭素源の添加に関して「回分式」であるが、pH及び酸素濃度等の因子を制御する試みは頻繁に行われる。回分系では、系内の代謝産物及びバイオマスの組成は、発酵を停止する時点まで変化し続ける。回分培養液中では、細胞は静止遅滞期を経て高速対数増殖(high growth log)期にゆっくりと進み、最終的に増殖速度が低下又は停止する静止期に進む。
【0106】
幾つかの実施形態では、標準的な回分系の変形形態である流加系等が使用される。流加発酵プロセスは、発酵の進行に伴い炭素源が漸増的に添加されることを除いて、典型的な回分系を含む。流加系は、異化代謝産物抑制が細胞の代謝を阻害する傾向にあり、細胞用培地中の炭素源の量を制限することが望ましい場合に有用である。流加発酵は、制限された又は過剰量の炭素源(例えば、グルコース)を用いて実施することができる。流加系で実際の炭素源濃度を測定することは困難であり、したがって、pH、溶存酸素及びCO2等の廃ガスの分圧等の測定可能な因子の変化に基づいて推定される。回分及び流加発酵は一般的であり、当該技術分野において知られており、その例が、Brock,Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition(1989) Sinauer Associates,Inc.に記載されており、その全体を、特に細胞培養及び発酵条件に関し、参照により本明細書に援用する。
【0107】
幾つかの実施形態では、連続発酵法が用いられる。連続発酵は、規定の発酵培地をバイオリアクターに連続的に添加し、それと同時に、処理を行うために等量の馴化培地を抜き出す開放系である。連続発酵は、一般に、細胞が主として対数期増殖にある一定の高密度で培養を維持する。例えば、一方法では、炭素源又は窒素源などの制限栄養素の量は固定比率で維持され、他の全てのパラメータは調節することができる。他の系では、細胞濃度(例えば、培地の濁度によって測定される濃度)を一定に保ちながら、増殖に影響する多数の因子を連続的に変化させることができる。連続系では、定常状態の増殖条件が維持されるように企図される。したがって、培地を抜き出すことによる細胞損失は、発酵中の細胞増殖速度と均衡が保たれるようにする。連続発酵プロセスで栄養素及び増殖因子を調節する方法並びに産生物形成速度を最大化するための手法は、工業微生物学の技術分野においてはよく知られており、様々な方法が Brock,Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition (1989) Sinauer Associates,Inc.に記載されており、これらの全体を、特に細胞培養及び発酵条件に関し、参照により本明細書に援用する。
【0108】
幾つかの実施形態では、液体培養ボトルは、液体に酸素を導入すると共に培養液の均一性を維持するために、振盪機に配置される。幾つかの実施形態では、培養液の増殖を行う温度、湿度、振盪速度及び/又は他の条件を制御するために、培養器が使用される。最も単純な培養器は、典型的には-65℃まで昇温する調節可能なヒーターを備えた断熱箱である。より精巧な培養器では、温度を低下させる能力(冷蔵により)又は湿度若しくはCO2濃度を制御する能力を含むものもある。大部分の培養器にはタイマーが含まれており;異なる温度や湿度水準等を周期的に変化させるようにプログラムできるものもある。培養器は、卓上型サイズから小部屋サイズまでの様々なサイズのものとすることができる。
【0109】
所望により、栄養素を補充するため並びに/又は有害な可能性のある代謝副産物及び死細胞の蓄積を回避するために、細胞用培地の一部又は全体を交換することができる。懸濁培養の場合、懸濁培養液を遠心分離又は濾過した後、細胞を新鮮な培地に再懸濁させることにより、細胞を培地から分離することができる。接着培養の場合は、培地を吸引によって直接除去した後、交換することができる。幾つかの実施形態では、連続培養(希釈を行わない連続培養等)において、その細胞用培地により、細胞の少なくとも一部が、少なくとも又は約5、10、20、40、50、60、65回又はそれを超えて細胞分裂するような分裂が可能になる。
【0110】
幾つかの態様では、細胞は、グルコース制限条件下で培養され、添加されるグルコースの量は、細胞によって消費されるグルコースの量の約105%以下(約100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%等)である。特定の態様では、培養培地に添加されるグルコースの量は、特定の期間に細胞が消費するグルコースの量にほぼ等しい。幾つかの態様では、細胞増殖速度は、添加するグルコースの量を制限することによって、細胞用培地中のグルコースの量により支援できる速度で細胞が増殖するように、制御される。幾つかの態様では、グルコースは細胞が培養されている期間に蓄積しない。
【0111】
様々な態様では、細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素の存在下に、約1時間超、約2時間超、約3時間超、約5時間超、約10時間超、約15時間超、約20時間超、約25時間超、約30時間超、約35時間超、約40時間超、約50時間超、約60時間超又は約70時間超培養される。様々な態様では、細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素の存在下に、グルコース制限条件下で、約1時間超、約2時間超、約3時間超、約5時間超、約10時間超、約15時間超、約20時間超、約25時間超、約30時間超、約35時間超、約40時間超、約50時間超、約60時間超又は約70時間超培養される。様々な態様では、細胞は、細胞が培養される総時間の約5%超、約10%超、約15%超、約20%超、約25%超、約30%超、約35%超、約40%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、約95%超又は約100%を超えて、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素の存在下に、グルコース制限条件下で培養される。特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、グルコース制限条件下では、細胞をより好都合に制御することが可能になると考えられる。
【0112】
幾つかの態様では、細胞は、回分培養で培養される。細胞を流加培養又は連続培養で増殖させることもできる。更に、細胞を最少培地で培養することもできる。最少培地には、1.0%(w/v)のグルコース又は他の任意の六炭糖若しくはそれよりも低級の糖を更に添加することもできる。具体的には、最少培地には、1%(w/v)、0.9%(w/v)、0.8%(w/v)、0.7%(w/v)、0.6%(w/v)、0.5%(w/v)、0.4%(w/v)、0.3%(w/v)、0.2%(w/v)又は0.1%(w/v)のグルコースを添加することができる。更に、最少培地には、0.1%(w/v)以下の酵母エキスを添加することができる。具体的には、最少培地には、0.1%(w/v)、0.09%(w/v)、0.08%(w/v)、0.07%(w/v)、0.06%(w/v)、0.05%(w/v)、0.04%(w/v)、0.03%(w/v)、0.02%(w/v)又は0.01%(w/v)の酵母エキスを添加することができる。或いは、最少培地には、1%(w/v)、0.9%(w/v)、0.8%(w/v)、0.7%(w/v)、0.6%(w/v)、0.5%(w/v)、0.4%(w/v)、0.3%(w/v)、0.2%(w/v)又は0.1%(w/v)のグルコース及び0.1%(w/v)、0.09%(w/v)、0.08%(w/v)、0.07%(w/v)、0.06%(w/v)、0.05%(w/v)、0.04%(w/v)、0.03%(w/v)、0.02%(w/v)又は0.01%(w/v)の酵母エキスを添加することができる。
【0113】
幾つかの態様では、細胞は、低酸素条件又は嫌気条件下で増殖させることができる。他の態様では、細胞は、約4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15%(境界値を含み、これらの百分率の間にある全ての値を含む)のいずれかの酸素を含む大気条件下で増殖される。他の態様では、細胞は、約3~8%、約3.5~8.5%、約4~9%、約4.5~9.5%、約5~10%、約5.5~10.5%、約6~11%又は約6.5~11.5%のいずれかの酸素を含む大気条件下で増殖する。
【0114】
E.液体培地で培養される細胞の増殖を向上させる方法
本明細書においては、特に、液体培地で培養される細胞の増殖を向上させるための方法を提供する。細胞(例えば、プロバイオティクス細胞又は組換え細胞)は少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地(本明細書に開示するいずれかの液体培地等)中、本明細書に開示するいずれかの条件下で培養される。このように培養した場合、細胞は少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞(例えば、プロバイオティクス細胞)と比較して、増殖が向上することになる。
【0115】
幾つかの実施形態では、増殖の向上は、光学濃度(OD)を波長600nm(OD600)で測定することにより決定される。OD600は、液体中の細菌又は他の細胞の濃度を推定するために一般に使用される分光光度法である。この濃度を測定することにより、培養された細胞集団の成長段階、即ち、遅滞期、対数期又は静止期のどこにあるかを示すことができる。これは、分光光度計を使用してOD600の光の吸光度を測定することにより行われる。次いで、吸光度の測定値を時間の関数として表すことにより、増殖曲線を作成することができる。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、OD600が、少なくとも約10%~500%高くなり、例えば、OD600が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて高くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0116】
他の実施形態では、増殖の向上は、コロニー形成単位(cfu)/mLを測定することにより決定することができる。コロニー形成単位(CFU、cfu、Cfu)は、微生物学において試料中の生存細胞数を推定するために使用される単位である。生存(viable)とは、制御された条件下で二分裂を介して増殖する能力として定義される。コロニー形成単位の計数では、微生物を培養し、生存細胞のみを計数することが必要であるが、それに対し、顕微鏡検査では、生細胞又は死細胞である全ての細胞が計数される。細胞培養液中のコロニーが視認できるようになるにはかなり増殖することが必要であり、コロニーを計数する際は、そのコロニーが1個の細胞から生じたものなのか細胞群から生じたものなのかを確かめられない。結果をコロニー形成単位として表す場合は、この不確実さが反映される。Cfuは、目視検査により手作業で決定することができ、又はソフトウェアツールを用いてプレートの写真から計数することもできる。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、Cfu/mLが少なくとも約10%~500%高くなり、例えば、Cfu/mLが約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて高くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0117】
他の実施形態では、増殖の向上は、細胞溶解又は培養後の生存率を測定することにより決定することができる。培養液の細胞の健全性及び生存率を評価するための多くの技法が当該技術分野において知られており、例えば、トリパンブルー等の色素が透過しない生細胞の細胞膜を利用する色素排除法等がある。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、溶解が少なくとも約10%~500%少なくなり、例えば、溶解が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて少なくなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。他の実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、培養後の生存率が少なくとも約10%~500%高くなり、例えば、培養後の生存率が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて高くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0118】
更なる他の実施形態では、増殖の向上は、細胞増殖速度を測定することにより決定することができる。本明細書において使用される「細胞増殖速度」という用語は、単位時間当たりの細胞数の変化又は細胞分裂までの細胞周期の進行のマーカーを示す細胞の数の単位時間当たりの変化を指す。この種のマーカーは、DNA複製の形態学的指標又は発現した遺伝子産物であり得るが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、増殖速度が、少なくとも約10%~500%速くなり、例えば、増殖率が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて速くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0119】
他の実施形態では、増殖の向上は、増加した細胞量を測定することにより決定することができる。本明細書で使用される「細胞量」、「細胞密度」及び同種の語は、細胞の集合体(collection)を指す。例えば、細胞量は、細胞ペレット又は細胞ペレットを構成する細胞の総数若しくは細胞の重量を指し得る。本明細書において使用される「細胞量の単位」及び同種の語は、細胞量を表す多くの方法、例えば、細胞数、細胞密度、細胞容積、圧縮細胞量、乾燥細胞重量等を表す。当業者は、細胞量の単位に応じて、細胞量の単位のピークが、ピーク細胞数、ピーク細胞密度、ピーク細胞容積、ピーク圧縮細胞量、ピーク乾燥重量等のいずれかで表されることになることを容易に理解するであろう。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、細胞量が、少なくとも約10%~500%増加し、例えば、細胞量が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて増加する(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0120】
更なる他の実施形態では、増殖の向上は、増加した細胞数を測定することにより決定することができる。本明細書において使用される「細胞数」は、所与の培養液中の細胞の絶対数を指す。細胞数は、当該技術分野において知られている多くの手段、例えば、これらに限定されるものではないが、コールターカウンター又は血球計算盤を用いる計数により評価することができる。幾つかの実施形態では、細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した細胞(プロバイオティクス細胞又は組換え細胞を含む)と比較して、細胞数が、少なくとも約10%~500%多くなり、例えば、細胞数が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて多くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【0121】
F.発酵乳製品の製造に使用する細菌を生産するための方法。
本明細書においてはまた、発酵乳製品の製造に使用する細菌を生産するための方法であって、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で細菌を培養することを含み、細菌の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細菌と比較して、向上する、方法も提供する。
【0122】
こうして生産された細菌を、好熱性発酵を促進するために乳基質に接種することができる。好熱性発酵乳を製造するための「乳基質」は、本明細書において提供する方法に従い発酵、例えば、好熱性発酵に付すことができる任意の生乳及び/又は加工乳材料とすることができる。したがって、有用な乳基質としては、全乳又は低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、還元粉乳、練乳、乾燥乳、ホエイ、ホエイ透過液、ホエイタンパク質濃縮物又はクリーム等の、タンパク質を含む任意の乳又は乳様製品の溶液又は懸濁液が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、乳基質は、任意の哺乳動物に由来するものとすることができ、例えば、実質的に純粋な哺乳動物乳又は還元粉乳である。
【0123】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示する方法に従い生産される1種又は複数種の細菌は、スターター培養物又は非スターター性培養物等の細菌組成物に含まれる。幾つかの実施形態では、1種又は複数種の細菌株は、スターター培養物に含まれる。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、発酵、例えば、好熱性発酵を助けることができる生菌の調製物である。幾つかの実施形態では、スターター培養物に乳基質が接種される。幾つかの実施形態では、1種又は複数種の細菌株は、保護培養物等の非スターター培養物に含まれる。幾つかの実施形態では、保護培養物は、酵母やカビ等の生物学的汚染物質の増殖を低減又は防止することができる培養物である。幾つかの実施形態では、乳基質はスターター培養物及び非スターター培養物、例えば、保護培養物に接種される。接種及び添加という用語は、例えば、スターター培養物や保護培養物といった細菌組成物に含まれるような1種又は複数種の細菌を乳基質に接触させることを指す場合は、互換的に使用することができる。
【0124】
幾つかの実施形態では、乳基質には、1種又は複数種の細菌株が別々に接種される。例えば、複数の菌株は、乳基質に添加する前に混合されない。幾つかの実施形態では、複数の菌株は、乳基質に添加される前に混合される。菌株が乳基質にどのように添加されるかに関わらず、接種に使用される菌株又は菌株の混合物を、スターター培養物又は保護培養物と称するか又はこれらに含まれると称することができる。
【0125】
幾つかの実施形態では、好熱性細菌等の好熱性微生物とは、43℃を超える温度で優先的に機能する微生物を指す。工業的に最も有用な好熱性細菌としては、ストレプトコッカス属細菌(Streptococcus spp.)及びラクトバチルス属細菌(Lactobacillus spp.)が挙げられる。
【0126】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、純粋な培養物、即ち、単一の細菌株を含むか又は単一の細菌株からなる。幾つかの態様では、スターター培養物は、混合培養物である、即ち、本明細書に記載する本発明の少なくとも1種の細菌株及び少なくとも1種の他の細菌株を含むか又はこれらからなる。例えば、少なくとも1種又はそれを超える、特に、1、2、3、4又は5種の他の細菌株がスターター培養物に含まれる。
【0127】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、1種又は複数種の乳酸菌を含む。乳酸菌発酵プロセスにおいては、スターター培養物として混合培養物を適用することは普通であるため、組成物は、幾つかの実施形態では、同一種に属するか又は異なる種に属する多数の株を含み得る。例えば、場合によっては、スターター培養物中の乳酸菌は、ラクトバチルス・デュルブレッキイ亜種ブルガリカス(Lactobacillus dulbrueckii subsp bulgaricus)株及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株の混合物であるか又はこの混合物を含む。
【0128】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、少なくともストレプトコッカス属(Streptococcus)及びラクチカゼイバチルス属(Lacticaseibacillus)の細菌を含む。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)菌、ラクチカゼイバチルス属(Lacticaseibacillus)菌、ロイコノストック属(Leuconostoc)菌、ペディオコッカス属(Pediococcus)菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌、パララクトバチルス属(Paralactobacillus)菌、アセチラクトバチルス属(Acetilactobacillus)菌、アグリラクトバチルス属(Agrilactobacillus)菌、アミロラクトバチルス属(Amylolactobacillus)菌、アピラクトバチルス属(Apilactobacillus)菌、ボンビラクトバチルス属(Bombilactobacillus)菌、コンパニラクトバチルス属(Companilactobacillus)菌、デラグリオア属(Dellaglioa)菌、フルクチルラクトバチルス属(Fructilactobacillus)菌、フルフリラクトバチルス属(Furfurilactobacillus)菌、ホルザプフェリア属(Holzapfelia)菌、ラクチカゼイバチルス属(Lacticaseibacillus)菌、ラクチプランチバチルス属(Lactiplantibacillus)菌、ラピディラクトバチルス属(Lapidilactobacillus)菌、ラティラクトバチルス属(Latilactobacillus)菌、レンチラクトバチルス属(Lentilactobacillus)菌、レビラクトバチルス属(Levilactobacillus)菌、リジラクトバチルス属(Ligilactobacillus)菌、リモシラクトバチルス属(Limosilactobacillus)菌、リクオリラクトバチルス属(Liquorilactobacillus)菌、ロイゴラクトバチルス属(Loigolactobacilus)菌、パウシラクトバチルス属(Paucilactobacillus)菌、シュレイフェリラクトバチルス属(Schleiferilactobacillus)菌、セカンディラクトバチルス属(Secundilactobacillus)菌又はこれらの任意の組合せを含むか又はこれらからなる。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)菌、ラクチカゼイバチルス属(Lacticaseibacillus)菌、ロイコノストック属(Leuconostoc)菌、ペディオコッカス属(Pediococcus)菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)菌若しくはビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌又はこれらの任意の組合せを含むか又はこれらからなる。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ラクトコッカス属(Lactococcus)菌、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)菌、ラクチカゼイバチルス属(Lacticaseibacillus)菌、ロイコノストック属(Leuconostoc)菌、ペディオコッカス属(Pediococcus)菌若しくはビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌又はこれらの任意の組合せを含むか又はこれらからなる。
【0129】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)株、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)株、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)株、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)株、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)株、ラクトバチルス・デュルブレッキイ亜種ブルガリカス(Lactobacillus dulbrueckii subsp bulgaricus)株、プロピオニバクテリア・フロイデンライシイ(Propionibacteria freudenreichii)株、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)株、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)株及びラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株の1種若しくは複数種又は上に挙げたものの任意の組合せを含む。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)株、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)株、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)株、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)株、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)株、ラクトバチルス・デュルブレッキイ亜種ブルガリカス(Lactobacillus dulbrueckii subsp bulgaricus)株、プロピオニバクテリア・フロイデンライシイ(Propionibacteria freudenreichii)株、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici )株及びラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株の1種若しくは複数種又は上に挙げたものの任意の組合せを含む。
【0130】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、少なくとも1種のラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株を含む。例えば、スターター培養物は、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホールドニアエ(Lactococcus lactis subsp.hordniae)又はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)からの菌株等の、当該技術分野において知られているラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株のいずれかを含むことができる。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)株及び/又はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)株を含む。
【0131】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、1種又は複数種のラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株を含む。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)(DSMZ)にアクセッション番号 DSM 33650で寄託されたラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株DGCC1179又はその変異株を含み、変異株は、この寄託された材料を出発材料として得られるものである。幾つかの実施形態では、変異株は、DSMに番号DSM 336520で寄託された株の識別特性を全て有する株である。
【0132】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、1種又は複数種のストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株を含む。幾つかの実施形態では、スターター培養物は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)にアクセッション番号DSM 336521で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株DGCC11042又はその変異株を含み、変異株は、この寄託された材料を出発材料として得られるものである。幾つかの実施形態では、変異株は、DSMに番号DSM 336521で寄託された株の識別特性を全て有する株である。
【0133】
幾つかの実施形態では、スターター培養物は、1種又は複数種のラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)株及び1種又は複数種のストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株を含む。
【0134】
以下の実施例を参照することにより本発明を更に理解することが可能になるが、この実施例は説明のために提供されるものであって、限定を意図するものではない。
【0135】
G.組換えタンパク質を産生するように操作された細胞の増殖を向上させるための方法
本明細書では、組換えタンパク質を産生するように操作された細胞の増殖を向上させるための方法も提供する。操作された細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む培地で培養される。
【0136】
この細胞の増殖は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養された細胞と比較して、向上する。幾つかの実施形態では、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素(本明細書に開示する少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する酵素のいずれか等)は、培地に外因的に添加され、及び/又は操作された細胞により、第1組換えタンパク質に加えて、組換え的に発現される(即ち、同じ組換え細胞が、対象とする第1組換えタンパク質と、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素、例えば、配列番号:1、2、3、4、5及び/若しくは6によりコードされる1種若しくは複数種の酵素又は配列番号:1、2、3、4、5及び/若しくは6によりコードされる1種若しくは複数種の酵素との同一性が少なくとも約60%である(例えば、同一性が、約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のいずれかである)酵素等と、の両方を、同時に組換え発現することができる))。
【0137】
本明細書に開示する任意の細胞を、組換えタンパク質を産生するように操作し、本明細書に開示する方法に従い培養することができる。したがって、本明細書における特定の実施形態では、組換えタンパク質、1種又は複数種の異種タンパク質をコードする、特に宿主細胞(即ち、組換えタンパク質の発現用)への導入(例えば、形質転換)に適した組換えポリヌクレオチド(例えば、ベクター、発現カセット)及び同種のものを発現する細胞を提供する。
【0138】
したがって、特定の実施形態は、特に、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素の存在下に培養するための組換え宿主細胞の構築に使用するのに適した核酸、ポリヌクレオチド(例えば、プラスミド、ベクター、発現カセット)、調節エレメント及び同種のものに関する。したがって、本明細書において一般的に説明したように、本開示の組換え細胞は、当業者により、当該技術分野において知られている標準的且つ日常的な組換えDNA及び分子クローニング技法を用いて構築することができる。細胞を遺伝子改変するための方法は、(a)遺伝子内での1つ若しくは複数のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、若しくは遺伝子の転写若しくは翻訳に必要な調節エレメント内での1つ若しくは複数のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子の下方制御、(f)部位特異的変異誘発及び/又は(g)ランダム変異誘発を含むが、これらに限定されない。
【0139】
当業者は、ポリヌクレオチド配列を宿主細胞に導入するために適した方法に通じている。実際、プロトプラストの形質転換及び集合(congression)、形質導入、並びにプロトプラストの融合を含む形質転換等の方法が知られており、本開示における使用に適している。形質転換法は、本開示のDNA構築物を宿主細胞に導入するのに特に適している。
【0140】
慣用されている方法に加えて、幾つかの実施形態では、宿主細胞は、直接形質転換される(即ち、宿主細胞内に導入する前に、DNA構築物を増幅又はそれ以外の形でプロセシングするための中間体細胞が使用されない)。DNA構築物の宿主細胞内への導入には、DNAを、プラスミド又はベクター内に挿入することなく宿主細胞内に導入するための当該技術分野において知られている物理的及び化学的方法も含まれる。このような方法としては、塩化カルシウムによる誘起(precipitation)、エレクトロポレーション、裸のDNA、リポソーム等が含まれるが、これらに限定されない。更なる実施形態では、DNA構築物は、プラスミドに挿入することなく、プラスミドと共に同時形質転換される。更なる実施形態では、選択マーカーが、当該技術分野において知られている方法により削除又は実質的に切除される。幾つかの実施形態では、宿主染色体からのベクターの分割では、染色体内のフランキング領域を残し、一方、固有の染色体領域を除去する。
【0141】
グラム陽性細胞内での遺伝子の発現に使用するためのプロモーター及びプロモーター配列、そのオープンリーディングフレーム(ORF)及び/又はその変異配列は、一般に当業者に知られている。本開示のプロモーター配列は、概して、それらが宿主細胞内で機能するように選択される。
【0142】
幾つかの実施形態では、増殖の向上には、本明細書で議論したように、より高い光学濃度(OD)、より高いコロニー形成単位(cfu)/mL、減少した細胞溶解、より高い細胞増殖速度、増加した細胞量又はより多い細胞数の1又は複数が含まれる。他の実施形態では、増殖の向上には、組換えタンパク質産生量がより多いことが含まれる。
【0143】
したがって、幾つかの実施形態では、増殖の向上は、組換えタンパク質の産生量を測定することにより決定することができる。幾つかの実施形態では、組換え細胞は、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含む液体培地で培養した場合、少なくとも1種のヌクレオシド三リン酸を加水分解する1種又は複数種の酵素を含まない培地で培養した組換え細胞と比較して、組換えタンパク質の産生量が、少なくとも約10%~500%高くなり、例えば、組換えタンパク質の産生量が、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%、300%、325%、350%、375%、400%、425%、450%、475%若しくは500%のいずれか又はそれを超えて高くなる(これらの百分率の間に含まれるあらゆる値を含む)。
【実施例】
【0144】
実施例1:ホスファターゼの存在下に増殖されるビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacteriumanimalis)の増殖促進
この実施例は、アピラーゼの存在下に培養されるビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis)の増殖が向上することを示すものである。
【0145】
MRS培地に、一晩増殖させたビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)の培養液1%を接種した。5mMのATP(Sigma)又は100nMのジャガイモ由来アピラーゼ(ATPアーゼ;Sigma catalog#A6535)を添加して細胞を増殖させた。標準的なマイクロタイタープレートの1ウェル当たりの量を200μlとして実験を実施した。増殖を、OD600により、Synergy HTXマルチモードプレートリーダー(Bio Tek Instruments)を用いて24時間にわたり30分毎に評価した。各プレートを37℃でインキュベートし、30分に1回、読み取り直前に振盪した。
【0146】
図1に示すように、細胞増殖は外因的に添加されたATPの存在下で抑制された。ところが、外因的に添加されたアピラーゼを存在させると、外因的に添加されたATPの増殖阻害効果が打ち消された。外因的に添加されたアピラーゼのみが存在する場合の細胞増殖は、細胞のみの対照よりも高かった。理論に束縛されるものではないが、観測された増殖の向上は、培養された細菌により産生され、分泌されたATPが酵素によって除去された結果によるものと考えられる。
【0147】
実施例2:ホスファターゼの存在下に培養されたビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)による細胞外ATP(eATP)の産生
本実施例においては、ホスファターゼの存在下及び非存在下に培養された細胞により産生されたeATPの量を評価した。
【0148】
MRS培地に、一晩増殖させたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(B.animalis subsp.lactis)420の培養液1%を接種した。細胞をジャガイモ由来アピラーゼの存在下及び非存在下に37℃の嫌気条件下で増殖させた。ジャガイモ由来アピラーゼは100nMで使用した。異なる時点でサンプル200μlを回収した。5000rpmで5分間遠心分離することにより細胞を回収した。上清のATPのナノモル濃度を、Luciferase(登録商標)Reporter Assay System(Promega)を使用して推定した。
【0149】
ATPの測定は、0、7及び13時間後の時点で回収した上清について実施した。
図2に示すように、外因的に添加されたアピラーゼを含まない培養液からのサンプルは、増殖が進行するに従いATPが蓄積していった。それとは対照的に、外因的に添加されたアピラーゼを含む培養液にはATPは蓄積しなかった。それどころか、これらの培養液のATPのナノモル濃度は経時的に低下した(
図2)。理論に束縛されるものではないが、このデータから、実施例1で観測されたアピラーゼの増殖促進効果は、培養液からeATPが除去されることに起因することが示唆された。
【0150】
実施例3:加熱失活ホスファターゼの存在下で培養されたビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)の増殖促進
本実施例は、高温に曝露することにより失活させたアピラーゼの存在下で培養した場合のビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis)の増殖の向上を示すものである。
【0151】
MRS培地に、一晩増殖させたビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis)の培養液1%を接種した。細胞を、100nMのジャガイモ由来アピラーゼ(ATPアーゼ)又は100nMの熱処理された(95℃で10分間)ジャガイモ由来アピラーゼと一緒に増殖させた。標準的なマイクロタイタープレートの1ウェル当たりの量を200μlとして実験を実施した。増殖を、OD600により、プレートリーダーを用いて30分毎に評価した。
【0152】
図3に示すように、熱処理されたアピラーゼの存在下に培養した細胞は、
図1に示したような増殖の向上を示さず、アピラーゼのホスホリラーゼ活性が細胞増殖の向上に必須であることを示唆している。
【0153】
実施例4:様々な液体培地中でホスファターゼの存在下に培養した複数の細菌種及び酵母種の増殖の向上
異なる増殖培地に、一晩増殖させた様々な細菌種及び酵母種(表1に詳述)の培養液1%を接種した。細胞を、外因的に添加されたATPを5mM又はジャガイモ由来アピラーゼ若しくはウシアルカリホスファターゼ(ATPアーゼ)100nMの存在下に増殖させた。標準的なマイクロタイタープレートの1ウェル当たりの量を200μlとして実験を実施した。増殖を、OD600により、プレートリーダーを用いて48時間にわたり30分毎に評価した。酵母株であるカザツタニア・ユニスポラ(Kazachstania unispora)の細胞を好気的に28℃で増殖させたことを除いて、全ての実験を37℃で嫌気的に実施した。
【0154】
表1に示すように、複数の細菌株がeATPの存在に感受性を示し、その存在下で増殖が阻害された。ATPアーゼを添加することにより、細菌増殖が向上することが認められたが、これは、理論に束縛されるものではないが、細菌細胞又は培養培地が寄与してeATPが除去されたことによる。
【0155】
【0156】
結論として、液体培養における原核又は真核細胞の増殖は、eATPの存在に感受性を示し、この感受性は、ATPアーゼを存在させることによって軽減される。細胞が外部環境でATPを認識すると、eATPを含まないか又は低減された環境と比較して増殖が抑制される。eATPを除去すると、細胞増殖が向上する。
【0157】
実施例5.外因的に添加されたATPアーゼの存在下に培養されたCHO哺乳動物細胞の増殖の向上
外因的に添加されたATPアーゼ酵素の増殖効果を、樹立された哺乳動物(チャイニーズハムスター卵巣(CHO))細胞株で調査した。CHO野生型細胞株は、Creative Biogene(NY,USA)から、カタログNo.CSC-C3064のものを購入し、緑色蛍光タンパク質を構成的に発現するCHO細胞株(CHO-GFP)は、GenTarget,Inc(San Diego,CA,USA)から、カタログNo.SC039-Puroのものを購入した。野生型CHO細胞株は、懸濁液中で増殖させるために、CD OptiCHO(商標)(ThermoFisher)培地中に維持した。GFP発現CHO細胞株は、接着増殖させるために、RPMI 1640培地(ThermoFisher)中に維持した。細胞株を、加湿したインキュベーションチャンバーで、37℃、5%CO2で培養した。
【0158】
懸濁液中のCHO細胞に対する効果を測定するため、培養液を6ウェルプレートのウェルに1ウェル当たり1×10
4個播種し、12時間インキュベートした。次いで、ATPアーゼ(ジャガイモ由来アピラーゼ又は細菌酵素CRC22110(配列番号:1))をウェルに最終濃度が10nMになるように添加し、更に48時間インキュベートした。ジャガイモ由来アピラーゼ(CatNo.A6410)及びはSigmaから供給されている。組換えCRC22110(配列番号:1)酵素は、バチルス属菌(Bacillus)培養物から当該技術分野において知られているクロマトグラフィー法を用いて精製した。合計60時間培養した後、トリプシン処理により細胞を剥がし、トリパンブルーで染色し、Countess 3 FLシステム(Invitrogen)で計数した。
図4のデータは、ATPアーゼがCHO細胞の増殖に与える効果を示している。グラフ4Aは、添加されたジャガイモ由来アピラーゼが全細胞数に与える影響を示している。グラフ4Bは、添加されたCRC22110ホスファターゼが全細胞数に与える影響を示している。グラフ4Cは、添加されたジャガイモ由来アピラーゼが細胞の生存能力に与える影響をトリパンブルー色素排除法を用いて示したものである。
図4A及び4Bの結果は、ジャガイモ由来アピラーゼ又はCRC22110酵素を添加することにより、懸濁液中で60時間増殖させた後のCHO細胞数が3倍増加し、したがって、ATPアーゼを培養培地に添加することにより、懸濁液中のCHO細胞の増殖が支援されることを示している。
図4Cの結果は、アピラーゼが培養における生存細胞数も増加させることを示している。
【0159】
外因的ATPアーゼが哺乳動物細胞による組換えタンパク質の発現に与える効果を調査するためにCHO-GFP細胞株を使用した。CHO-GFP細胞を6ウェルプレートのウェルに1ウェル当たり1×10
4個播種し、12時間インキュベートした。次いで、ATPアーゼ(ジャガイモ由来アピラーゼ又は細菌酵素CRC22110)をウェルに最終濃度が10nMとなるように添加し、細胞を更に48時間インキュベートした。GFPの発現を可視化するために、ATPアーゼと一緒に60時間培養した後に、Invitrogen(商標)EVOS(商標)FL Imaging Systemを使用して細胞を画像化した。
図5は、ATPアーゼの存在下及び非存在下に増殖させたCHO-GFP細胞の視野を、GFPの発現を検出するために蛍光下で読み込んだものである。蛍光シグナルを示す細胞の数及び蛍光量はどちらも、外因的なATPアーゼであるジャガイモ由来アピラーゼ又はCRC22110と一緒に培養した培養液中で増加する。これらの画像は、ATPアーゼを添加することにより、CHO細胞における組換えGFP産生の増加が誘発されることを示唆している。
【0160】
配列
CRC22110(ガレシモナス・シアメネンシス(Gallaecimonas xiamenensis)3-C-1)の成熟型ポリペプチドの予測配列:
【化1】
CRC22110(ガレシモナス・シアメネンシス(Gallaecimonas xiamenensis)3-C-1)の成熟型ポリペプチドの予測配列:
【化2】
ジャガイモ由来アピラーゼの配列(太字=シグナル配列):
【化3】
成熟型ジャガイモ由来アピラーゼの予測配列:
【化4】
腸型アルカリホスファターゼ(ウシ)(太字=シグナル配列):
【化5】
成熟型腸型アルカリホスファターゼ(ウシ)の予測配列:
【化6】
【配列表】
【国際調査報告】