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特表2024-525496R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用
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  • 特表-R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240705BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580820
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022100829
(87)【国際公開番号】W WO2023274034
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】202110723269.2
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523304098
【氏名又は名称】南通正海磁材有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】徐兆浦
(72)【発明者】
【氏名】李▲ドン▼▲ドン▼
(72)【発明者】
【氏名】蘇国棟
(72)【発明者】
【氏名】卜魏魏
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040AA19
5E040BC01
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB14
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN05
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN17
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG01
5E062CG03
5E062CG05
5E062CG07
(57)【要約】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用を提供する。本発明のR-Fe-B焼結磁石は、表面に、酸化物粘着被覆層を有し、上記R-Fe-B焼結磁石は、表面に複合拡散層を有するR-Fe-B磁石から低温熱処理と高温熱処理を交互に行うことを含む保温熱処理によって得られ、そのうち、低温熱処理の温度範囲は、750℃~830℃であり、上記高温熱処理の温度範囲は、830℃~970℃であり、表面に酸化物粘着被覆層を有するネオジム鉄ボロン素体を得る。本発明のR-Fe-B焼結磁石の製造方法により、R-Fe-B磁石の粒界拡散を最適化し、磁石の保磁力分布を向上させる。本発明は、自動車、風力発電、家庭用モータ、医療機器又はモバイル通信機器等の分野における上記R-Fe-B焼結磁石の応用を更に提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-Fe-B焼結磁石であって、
前記R-Fe-B焼結磁石表面に酸化物粘着被覆層を有し、且つ
前記R-Fe-B焼結磁石の磁石配向方向の磁石表面におけるHcjをH1とし、磁石表面から磁石配向方向に沿って磁石内部まで2.00mm±0.02mmの位置でのHcjをH2とし、前記H1及びH2は式(I)に示す関係を有る、
ことを特徴とするR-Fe-B焼結磁石。
H2-H1≦50kA/m (I)
【請求項2】
前記酸化物粘着被覆層の厚さは、20μm未満であり、好ましくは10μm以下であり、
好ましくは、前記酸化物粘着被覆層は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムのうちの少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項3】
前記R-Fe-B焼結磁石は、R-Fe-B磁石素体が保温熱処理によって得られ、前記R-Fe-B磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、前記複合拡散層は、前記R-Fe-B磁石表面に存在し、前記複合拡散層は、保温熱処理された後、そのうちの金属酸化物が酸化物粘着被覆層を形成し、
好ましくは、前記保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含み、
好ましくは、前記低温熱処理の温度範囲は、750℃~830℃であり、
好ましくは、前記高温熱処理の温度範囲は、830℃~970℃であり、
好ましくは、前記酸化物粘着被覆層は、非機械的研削の方法によって除去することができ、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、前記複合拡散層は、前記R-Fe-B磁石の表面に存在する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項4】
前記R-Fe-B磁石の磁石配向方向の厚さはZであり、且つZ≧3.95mmであり、好ましくは、15.05mm≧Z≧3.95mmであり、好ましくは、Zの寸法公差は±0.05mm、例えば、±0.03mmであり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Rは希土類元素であるNd、Pr、Tb、Dy、Gd、Hoから選ばれる何れか一種又は複数種であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Rの含有量が27wt%~34wt%であり
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Bの含有量が0.8wt%~1.3wt%であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石はFeとMを更に含み、そのうち、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ga、Cu、Si、Al、Zr、Nb、W、Moから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Mの含有量が0wt%~5wt%である、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項5】
前記複合拡散層の合計厚さは、200μm未満であり、
好ましくは、前記複合拡散層は、重希土類元素を含み、好ましくは、重希土類元素、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
好ましくは、前記重希土類元素は、金属ジスプロシウム、金属テルビウム、水素化ジスプロシウム、水素化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウムから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記有機固体は、ロジン変性アルキド樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラールから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記溶剤は、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤から選ばれる少なくとも一種であり、好ましくはアルコール系溶剤であり、例えばエタノールであり、
好ましくは、前記複合拡散層は、RH層とRL層を含み、そのうち、
RH層は、重希土類、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
RL層は、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
好ましくは、前記RH層及びRL層は、互いに独立して少なくとも一層であり、
好ましくは、前記RH層及びRL層は、順次に交互配置され、好ましくは、RH層とRL層とが交互に配置される場合、前記R-Fe-B磁石表面から離れた外層は、好ましくはRL層であり、
好ましくは、前記RH層の単層の厚さは、0.5μm~40μmから選ばれ、
好ましくは、前記RL層の単層の厚さは、0.5μm~15μmから選ばれ、
好ましくは、前記複合拡散層の重量は、前記R-Fe-B磁石の重量の0.1wt%~3wt%である、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法であって、
(1)R-Fe-B磁石表面に複合拡散層を塗布配置して、前記R-Fe-B磁石素体を形成するステップと、
(2)上記R-Fe-B磁石素体を真空又は不活性雰囲気で保温熱処理を行い、表面に酸化物粘着被覆層を有する焼結磁石を得るステップと、を含み、
好ましくは、熱保温処理は、低温熱処理と高温熱処理を交互に行うことを含み、そのうち、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、前記高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃であり、
好ましくは、前記熱保温処理の合計時間は、≧8hであり、
好ましくは、前記製造方法は、保温熱処理後、時効保温処理を行うことを更に含み、
好ましくは、前記時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に430℃~650℃まで昇温して時効処理し、1h~72h保温した後、更に室温まで急冷することを含む、
ことを特徴とするR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
複合拡散層を塗布配置することは、R-Fe-B磁石表面にスラリーを塗布した後、乾燥して複合拡散層を形成することを含み、
好ましくは、塗布方法は、ハケ塗布、ローラ塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等から選ばれる少なくとも一種の塗布方法を採用してもよく、
好ましくは、乾燥後、前記R-Fe-B磁石素体の重量は、R-Fe-B磁石の重量より、0.1wt%~3wt%増加し、
好ましくは、前記スラリーの固形分は、30wt%~90wt%であり、
好ましくは、前記スラリーは、RH層スラリー及び/又はRL層スラリーから選ばれる、
ことを特徴とする請求項6に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記RH層スラリーは、重希土類元素、有機固体、溶剤を含み、好ましくは、重希土類元素、有機固体、溶剤の質量比は、(40~70):(3~10):(20~50)であり、
好ましくは、前記RL層スラリーは、金属酸化物、有機固体、溶剤を含み、好ましくは、金属酸化物、有機固体、溶剤の質量比は、(30~70):(3~10):(20~50)であり、
好ましくは、前記スラリーの製造方法は、前記金属酸化物、重希土類元素、有機固体を溶剤に添加して撹拌し、均一なスラリーを形成することを含み、
好ましくは、前記RL層スラリーは、55wt%のジルコニア、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、40wt%のエタノールを含み、前記RH層スラリーは、60wt%のフッ化テルビウム、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、35wt%のエタノールを含み、
好ましくは、前記RL層スラリーは、50wt%の酸化アルミニウム、6wt%のロジン変性アルキド樹脂、44wt%のエタノールを含み、前記RH層スラリーは、55wt%のフッ化テルビウム、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、40wt%のエタノールを含み、
好ましくは、塗布することは、前記R-Fe-B磁石表面に複数回に分けて前記スラリーを塗布することを更に含み、好ましくは、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、前記スラリーは、同じであっても異なってもよく、好ましくは異なるスラリーであり、
好ましくは、乾燥後の複合拡散層は、RH層とRL層が交互に配置され、
好ましくは、前記保温熱処理又は時効保温処理は、真空又は不活性雰囲気で行う、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
自動車、風力発電、家庭用モータ、医療機器又はモバイル通信機器の分野、好ましくは新エネルギー自動車の分野における、
請求項1~5の何れか一項に記載のR-Fe-B焼結磁石の応用。
【請求項10】
請求項1~5の何れか一項に記載のR-Fe-B焼結磁石を含むモータであって、
好ましくは、前記モータは、パワーテイクオフモータ、ステアリングEPSモータ、及びマイクロモータを含み、好ましくは、前記マイクロモータは、電動ウォータポンプモータ、ステアリング連動フォグランプモータ、サンルーフモータ、エアコンモータ、ワイパーモータ等を含む、
ことを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年6月28日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202110723269.2であり、発明名称が「R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関し、希土類永久磁石材料の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
R-Fe-B磁石は、優れた特性を有するため、風力発電、家庭用モータ、医療機器、モバイル通信等の分野で広く応用されている。特に、最近の世界的な自動車技術の低炭素化のため、中国の新エネルギー自動車の保有量は既に世界一であり、将来10年~15年に亘ってハイエンドネオジム鉄ボロン永久磁石材料は急速な成長を迎え、焼結ネオジム鉄ボロンの市場応用が更に拡大すると予測されている。
【0004】
R-Fe-B磁石の保磁力は、永久磁石材料の磁気の大きさと保持時間の長さの決定的な要因であり、従来のプロセスにおいて、保磁力の向上は、主に重希土類元素であるDy、Tbを溶解炉に直接に添加されているが、重希土類元素の使用量が比較的大きく、且つこのような方法を採用して保磁力を向上させるのは、残留磁気の犠牲を代償とするため、保磁力の向上につれ、磁石の残留磁気は明らかに低下する。更に、重希土類元素の希少性が高価格を決定するため、磁石のコストを飛躍的に上昇させている。R-Fe-B分野では、粒界拡散法が量産化されており、磁石表面からDyやTb等の重希土類元素を粒界に沿って磁石内部に拡散させて粒界ミクロ組織を改善することにより、Nd-Fe-B焼結磁石の保磁力を向上させ、且つ粒界散乱場を効果的に減少し、磁気交換結合作用を弱めて、粒界を磁気硬化させ、磁石残留磁気をほとんど低下させずに保磁力を大幅に向上させ、現在、粒界拡散を実現する主な方法として、蒸着技術、アークイオンプレーティング技術、マグネトロンスパッタリング技術、ローラ塗布技術等がある(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)。上記方法では、異なる方法及び設備を採用して磁石表面に重希土類を配置することを実現し、そのうち、出願人は、特許文献5において、磁石表面に重希土類元素が含まれる有機層を配置することで磁石表面に重希土類元素を配置する効果を実現し、このような方法では、重希土類層の厚さ、均一性に対する制御が高く、脱落しにくく、量産化が容易であり、且つ重希土類粉末は、有機物質に包まれて、大気に放置されても酸化されにくく、熱処理過程において、有機物質が磁石から脱離し、粒界に沿って重希土類元素が磁石内部に拡散する。
【0005】
粒界拡散技術は、磁石表面に配置された重希土類を粒界に沿って磁石内部に拡散させることにより、Hcjの向上を実現するものであり、それは、高温での磁石表面と内部の重希土類の濃度差を拡散動力とし、厚さが比較的小さい磁石の場合に、重希土類が磁石の中心部位まで拡散しやすく、磁石表面と内部のHcj分布の均一性が比較的良いが、磁石の厚さが増加するにつれ、単に磁石表面により多くの重希土類量を配置する方法を採用しただけでは、磁石表面と内部におけるHcj差が明らかに増加し、且つ表面に配置された重希土類層が磁石表面状態を破壊し、後加工処理が必要になり、一方で、表面の比較的多い重希土類が結晶粒の内部に拡散しやすいため、磁石表面部の残留磁気が明らかに低下し、粒界拡散の効果が低下し、磁石表面部位に重希土類を配置する設備及び方法についての様々な開発に比べると、製品の厚さの比較的厚い磁石について、拡散の深さの向上と拡散後の磁石表面と内部のHcjとの一致性の向上が現在の早急に解決すべき課題となっている。
【0006】
上記先行技術に関連する特許文献は、以下の通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】CN101651038B
【特許文献2】CN101375352A
【特許文献3】CN100565719C
【特許文献4】CN101404195B
【特許文献5】CN106158347A
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術問題を解決するために、本発明は、R-Fe-B磁石素体を提供し、上記磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、上記複合拡散層は、上記R-Fe-B磁石表面に存在する。
【0009】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石の磁石配向方向の厚さはZであり、且つZ≧3.95 mmである。好ましくは、15.05 mm≧Z≧3.95 mmである。好ましくは、Zの寸法公差は、±0.05 mmであり、例えば、±0.03 mmである。
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、Rは希土類元素であるNd、Pr、Tb、Dy、Gd、Hoから選ばれる何れか一種又は複数種である。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、好ましくは、Rの含有量が27 wt%~34 wt%であり、例えば、27 wt%~30 wt%である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、好ましくは、Bの含有量が0.8 wt%~1.3 wt%である。
【0013】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石は、FeとMを更に含み、そのうち、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ga、Cu、Si、Al、Zr、Nb、W、Moから選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石は、Mの含有量が0 wt%~5 wt%であってもよく、好ましくは、0 wt%~3 wt%であり、例えば2 wt%である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層の合計厚さは、200 μm未満であり、例えば、10 μm~180 μmであり、例えば、50 μm、80 μm、100 μm又は150 μmである。
【0016】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層は、重希土類元素を含み、好ましくは重希土類元素、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記重希土類元素は、金属ジスプロシウム、金属テルビウム、水素化ジスプロシウム、水素化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウムから選ばれる少なくとも一種である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、上記金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも一種である。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記金属酸化物は、粉末形態であってもよく、例えば、上記金属酸化物の粒度は、0.5 μm~10 μmから選ばれる。好ましくは、上記金属酸化物において、粒度が0.5 μm~3 μmの間にある金属酸化物粉末の質量百分率は70%以上である。
【0020】
本発明の実施形態によれば、上記有機固体は、粉末形態であってもよく、例えば、上記有機固体はロジン変性アルキド樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラールから選ばれる少なくとも一種である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、上記溶剤は、アルコール系溶剤(例えばメタノール、エタノール)、エーテル系溶剤(例えばエチルエーテル)、芳香族炭化水素系溶剤(例えばベンゼン)から選ばれる少なくとも一種であり、好ましくは、エーテル系溶剤であり、例えばエタノールである。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層は、RH層とRL層を含み、そのうち、
RH層は、重希土類、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
RL層は、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含む。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記RH層及びRL層は、互いに独立して少なくとも1層であり、例えば、1層、2層、3層、4層、5層又はそれ以上から選ばれる。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記RH層及びRL層は、順次に交互配置される。好ましくは、RH層とRL層とが交互に配置される場合、上記R-Fe-B磁石表面から離れた外層は、好ましくはRL層である。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記RH層の単層の厚さは、0.5 μm~40 μmから選ばれ、例示的には、上記RH層の厚さは、20 μm±5 μm、25 μm±5 μmである。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上記RL層の単層の厚さは、0.5 μm~15 μmから選ばれ、例示的には、上記RL層の厚さは、3 μm±2 μmである。
【0027】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層の重量は、上記R-Fe-B磁性体の重量の0.1 wt%~3 wt%であり、例えば、0.9 wt%又は1.2 wt%である。
【0028】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石を更に提供し、上記R-Fe-B焼結磁石は、上記R-Fe-B磁石素体が保温熱処理によって得られ、上記複合拡散層は、保温熱処理された後、そのうちの金属酸化物が酸化物粘着被覆層を形成する。
【0029】
本発明の上記R-Fe-B焼結磁石の実施形態によれば、そのうち、
上記R-Fe-B焼結磁石表面に酸化物粘着被覆層を有し、且つ
上記R-Fe-B焼結磁石の磁石配向方向の磁石表面におけるHcjをH1とし、磁石表面から磁石配向方向に沿って磁石内部まで2.00 mm±0.02 mmの位置でのHcjをH2とし、上記H1及びH2は式(I)に示す関係を有する。
H2-H1≦50 kA/m (I)。
【0030】
本発明の実施形態によれば、上記酸化物粘着被覆層の厚さは、20 μm未満であり、好ましくは10 μm以下であり、例えば5 μmである。
【0031】
好ましくは、上記酸化物粘着被覆層は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムのうちの少なくとも一種を含む。
【0032】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B焼結磁石において、上述した定義及び含有量を有するR、B、Fe又はMのうちの少なくとも一つを含む。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含む。
【0034】
好ましくは、上記低温熱処理の温度範囲は、750℃~830℃である。
【0035】
好ましくは、上記高温熱処理の温度範囲は、830℃~970℃である。
【0036】
本発明の実施形態によれば、上記酸化物粘着被覆層は、非機械的研削、例えば、ハケ、超音波等の方法によって完全に除去することができる。
【0037】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石の製造方法を更に提供し、好ましくは、上述したR-Fe-B焼結磁石の製造方法であり、
(1)R-Fe-B磁石表面に複合拡散層を塗布配置して、上記R-Fe-B磁石素体を形成するステップと、
(2)上記R-Fe-B磁石素体を真空又は不活性雰囲気で保温熱処理を行い、表面に酸化物粘着被覆層を有する焼結磁石を得るステップと、を含み、
好ましくは、保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含み、そのうち、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、上記高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃である。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記製造方法は、粒界拡散を最適化することにより、磁石の保磁力分布を向上させる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、上記低温熱処理は低温拡散保温熱処理であってもよく、上記高温熱処理は高温拡散保温熱処理であってもよい。例示的には、上記保温熱処理は、第一低温拡散保温熱処理、第一高温拡散保温熱処理、第二低温拡散保温熱処理、及び第二高温拡散保温熱処理を含む。
【0040】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理の合計時間は≧8 hであり、そのうち、低温熱処理及び高温熱処理の時間は、同じ又は異なる。例えば、低温熱処理時間は≦5 hであり、高温熱処理時間は≦5 hである。
【0041】
好ましくは、低温熱処理から高温熱処理まで昇温する必要があり、昇温速度は4℃/min~10℃/minである。
【0042】
好ましくは、高温熱処理から低温熱処理まで更に冷却する必要がある。冷却は加熱出力なしの真空冷却法を採用する。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記方法は、保温熱処理後に時効保温処理を行うことを更に含む。本発明において、上記時効保温処理とは、合金ワークが固溶処理、冷間塑性変形又は鋳造、鍛造を経た後、比較的高温で放置するか又は室温でその性能、形状、寸法を保持し、時間と共に変化する熱処理プロセスを指す。
【0044】
本発明の実施形態によれば、時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に430℃~650℃まで昇温して時効処理し、1 h~72 h保温した後、更に室温まで急冷することを含む。例示的には、時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に500℃まで昇温して時効処理し、4 h保温した後、更に室温まで急冷することを含む。
【0045】
本発明の実施形態によれば、複合拡散層を塗布配置することは、R-Fe-B磁石表面にスラリーを塗布した後、乾燥して複合拡散層を形成することを含む。
【0046】
本発明の実施形態によれば、上記乾燥は、例えば真空乾燥機、送風乾燥機等の本分野で公知の乾燥設備によって実現することができる。上記乾燥の温度及び時間は、スラリーにおける溶剤を乾燥させることができる限り、特に限定されない。例として、乾燥温度は35℃~100℃であり、乾燥時間は5 s~600 sである。
【0047】
本発明の実施形態によれば、塗布方法は、ハケ塗布、ローラ塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等から選ばれる少なくとも一種の塗布方法を採用してもよい。例えば、形状が規則的な角型の磁石に対して、好ましくは、ハケ塗布、ローラ塗布等の塗布方法により、磁石表面に複合拡散層を形成させ、形状が不規則的な異型の磁石に対して、好ましくは、浸漬塗布、スプレー塗布等の塗布方法により、磁石表面に複合拡散層を形成させる。
【0048】
例示的には、浸漬塗布の塗布方法を選ぶ場合、上記R-Fe-B磁石全体をスラリーに1秒~10秒浸漬し、例えば3秒~5秒浸漬する。
【0049】
本発明の実施形態によれば、乾燥後、上記R-Fe-B磁石素体の重量は、R-Fe-B磁石の重量より、0.1 wt%~3 wt%増加し、例えば0.9 wt%又は1.2 wt%増加する。
【0050】
本発明の実施形態によれば、上記スラリーの固形分は、30 wt%~90 wt%であり、好ましくは40 wt%~60 wt%である。
【0051】
本発明の実施形態によれば、上記スラリーは、RH層スラリー及び/又はRL層スラリーから選ばれる。
【0052】
本発明の実施形態によれば、上記RHスラリーは、重希土類元素、有機固体、溶剤を含む。好ましくは、重希土類元素、有機固体、溶剤の質量比は、(40~70):(3~10):(20~50)、例えば60:5:35又は55:5:40である。
【0053】
本発明の実施形態によれば、上記RL層スラリーは、金属酸化物、有機固体、溶剤を含む。好ましくは、金属酸化物、有機固体、溶剤の質量比は、(30~70):(3~10):(20~50)、例えば、55:5:40又は50:6:44である。
【0054】
好ましくは、上記金属酸化物、重希土類元素、有機固体及び溶剤は、上述のとおりである。
【0055】
好ましくは、上記スラリーの製造方法は、上記金属酸化物、重希土類元素又は有機固体を溶剤に添加して撹拌し、均一なスラリーを形成することを含む。好ましくは、本発明において、上記金属酸化物、重希土類元素、有機固体及び溶剤の使用量は特に限定されないが、R-Fe-B焼結磁石の特性に応じて決定すればよい。好ましくは、本発明において、撹拌条件は特に限定されないが、均一なスラリーを形成できる撹拌方法であれば、何れも本発明に適用する。例えば、当該技術分野における通常の撹拌方法を採用して撹拌し、撹拌時間は、20 min、30 min、40 min、50 min、60 min、70 min、80 min、90 min又は上記何れか2つの数値の間の範囲であってもよい。
【0056】
例示的には、上記スラリーは、RH層スラリーとRL層スラリーから選ばれる。
【0057】
具体的な実施形態において、上記RL層スラリーは、55 wt%のジルコニア、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、40 wt%のエタノールを含み、上記RH層スラリーは、60 wt%のフッ化テルビウム、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、35 wt%のエタノールを含む。
【0058】
別の具体的な実施形態において、上記RL層スラリーは、50 wt%の酸化アルミニウム、6 wt%のロジン変性アルキド樹脂、44 wt%のエタノールを含み、上記RH層スラリーは、55 wt%のフッ化テルビウム、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、40 wt%のエタノールを含む。
【0059】
本発明の実施形態によれば、塗布は、上記R-Fe-B磁石表面に上記スラリーを複数回に分けて塗布することを更に含む。
【0060】
好ましくは、塗布は少なくとも2回、例えば3回、4回又は5回である。
【0061】
本発明の実施形態によれば、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、上記スラリーは同じであっても異なってもよく、好ましくは、異なるスラリーである。
【0062】
好ましくは、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、RH層スラリーとRL層スラリーをそれぞれ採用し、それぞれ交互に複合拡散層を塗布する。
【0063】
好ましくは、最終塗布の時、上記スラリーは、RL層スラリーを選ぶ。
【0064】
本発明の実施形態によれば、乾燥後の複合拡散層は、RH層とRL層が交互に配置される。
【0065】
好ましくは、乾燥後の複合拡散層において、単回塗布するRH層の厚さは、0.5 μm~40 μmであり、例えば、0.5 μm、1 μm、5 μm、10 μm、15 μm、20 μm、30 μm又は上記の何れか2つの数値の間の範囲である。
【0066】
好ましくは、乾燥後の複合拡散層において、単回塗布するRL層の厚さは、0.5 μm~15 μmであり、例えば、0.5 μm、1 μm、3 μm、5 μm、7 μm、10 μm、15 μm又は上記の何れか2つの数値の間の範囲である。
【0067】
本発明の実施形態によれば、スラリーを塗布する前に、更に上記R-Fe-B磁石を酸溶液、脱イオン水で順次に洗浄し、且つ乾燥処理してもよい。上記酸溶液は本分野で公知の酸溶液、例えば、塩化水素水溶液、硝酸水溶液等から選んでもよい。
【0068】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理又は時効保温処理は、真空又は不活性雰囲気で行われる。例えば、上記不活性雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス等から選ばれる。
【0069】
本発明の実施形態によれば、保温熱処理の場合、上記R-Fe-B磁石素体は、接触配列を採用することにより、省スペース化を図ることができる。
【0070】
本発明は、自動車、風力発電、家庭用モータ、医療機器又はモバイル通信機器の分野、好ましくは新エネルギー車の分野における、上記R-Fe-B焼結磁石の応用を更に提供する。
【0071】
本発明はモータを更に提供し、上記モータは上記R-Fe-B焼結磁石を含む。
【0072】
好ましくは、上記モータは、パワーテイクオフモータ、ステアリングEPSモータ、及びマイクロモータを含む。
【0073】
好ましくは、上記マイクロモータは、電動ウォータポンプモータ、ステアリング連動フォグランプモータ、サンルーフモータ、エアコンモータ、ワイパーモータ等を含む。
【発明の効果】
【0074】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法を提供し、R-Fe-B磁石表面に重希土類RH及び金属酸化物粉末RLが含まれる複合拡散層を交互に配置することにより、表面に配置された重希土類層の構造の改善を実現し、R-Fe-B磁石の粒界拡散を最適化し、磁石保磁力の分布の均一性を改善し、CN106158347Aに対し、本出願はRL層を交互に増加させることにより、磁石表面における重希土類RHの分布を改善し、拡散過程において、特定のRL層は、RH層と磁石内部の重希土類の拡散過程における濃度差を効果的に低減し、これにより粒界拡散過程における重希土類が磁石表面に沿って磁石内部への拡散過程の動力を低減する。また、粒界拡散段階で、高温低温交互保温の方法を採用して重希土類の拡散速度、濃度の調節を実現し、厚さが大きい拡散磁石の内部におけるHcj分布の均一性が悪く、重希土類が磁石表面に集中して磁石の中心に拡散しにくいという問題を最適化し、拡散磁石表面と中心位置におけるHcjの差を低減し、厚さ≧4 mmの磁石について、磁石表面における保磁力H1と磁石内部から2 mmの位置での保磁力H2の差が≦50 kA/mであり、磁石全体の角型性が改善され、それにより、磁石の耐熱性が向上し、また、選ばれた金属酸化物粉末を熱処理した後、磁石表面に酸化物粘着被覆層を形成し、高温処理過程における磁石の直接接触ブロッキングの問題を解決し、熱処理過程における投入量を増やし、量産に有利となり、且つ有機固体粉末、金属酸化物粉末が拡散後に磁石内部に進入しなくなるため、磁石におけるC、O元素の含有量に明らかな増加が見られなかった。
【0075】
CN106158347Aに対し、本出願において、RL層を交互に増加させることにより、磁石表面の重希土類RHの分布を改善し、拡散過程において、RL層はRH層重希土類の拡散過程における濃度差を効果的に低減し、磁石表面に重希土類が大量に凝集して結晶粒主相に進入することで磁石残留磁気を明らかに低下させることを防止する。実際の量産過程において、RL及びRH層数の合計が≦5層であり、交互配置された層数が多すぎる場合、生産コストが増加する一方、RL層が多すぎる場合、拡散速度が低下し、その結果、より長い拡散保温時間が必要となり、全体の拡散効率が低下する。且つ、RLとRHを交互に配置する過程において、最外層にRL層を配置することによってRH層を損傷から保護することができ、且つRL層は、熱処理後に磁石表面に酸化物粘着被覆層を形成することができ、酸化物粘着被覆層は磁石を隔離し、高温保温過程において、磁石のブロッキングを防止することができる。
【0076】
熱処理後、焼結磁石の表面に酸化物粘着被覆層を有し、厚さが20 μm未満であり、好ましくは10 μmであり、洗浄しやすく、例えば、ハケや超音波によって完全に洗浄することができ、機械的研削に頼らずに完全に除去することができ、酸化物粘着被覆層は、磁石が重なり合って拡散処理を行う場合、磁石の隔離を実現し、拡散投入量を増やすことができる。厚さでは、好ましくは、10 μm以下であり、より好ましくは、6 μm以下である。
【0077】
出願人は、高温熱処理過程において、金属酸化物粉末が重希土類RHと反応したり、その活性を低下させたりすることがなく、一方、金属酸化物粉末がネオジム鉄ボロン磁石と反応することがなく、高温状態で磁石表面に接触しても磁石表面状態を破壊しないことを見出した。選ばれた金属酸化物粉末の粒度が10 μmより大きい場合、高温拡散処理過程における磁石の間の相互接触により、過大な粒子が磁石の表面状態を破壊しやすく、磁石表面に凹みが形成され、製品外観を確保するために後処理過程において削り取る必要があり、一方、加工コストが増加し、且つベース素地の設計過程において、寸法の増加が必要となるため、大きな無駄が発生する。一方、粒度<0.5 μmである場合、金属酸化物粉末の粒度が小さすぎるために拡散速度を効果的に制御できず、拡散後の磁石表面と中心位置における重希土類の含有量の濃度差を効果的に低減することができず、且つ、金属酸化物粉末が小さすぎる場合、磁石間のブロッキングを低減する効果が低下し、磁石が粘付しやすくて離れにくくなり、0.5 μm~3 μmの粉末粒径範囲にある粉末が70%以上を占める場合、金属酸化物粉末の粒度が磁石の主相結晶粒度のサイズよりやや小さく、バッチ検証では、重希土類の拡散速度に対する金属酸化物粉末の粒度の効果的な制御を実現することができる一方、金属酸化物粉末の粒度が結晶粒度よりやや小さいため、拡散過程において、結晶粒表面の粒界に沿った重希土類の拡散を妨げず、且つ拡散高温環境で磁石表面状態を破壊することがない。
【0078】
本発明の有機溶剤は、エタノールを選ぶ場合、設備の密閉性、排気能力、安全性等に対する余分な負荷を更に低減し、設備コストを増大するのに役に立つ。
【0079】
本発明の上記複合拡散層の合計厚さは、200 μm未満であり、好ましくは、10 μm~100 μmである。複合拡散層の厚さを一定の範囲に制御するのは、厚さが小さすぎると、重希土類の分布が不均一となり、それにより、磁石全体に拡散した重希土類元素の分布が不均一になり、磁石表面に配置されたRL層が拡散濃度を調整する効果が明らかではなく、最終的に磁石の均一性が悪くなるためである。厚さが大きすぎると、一方、その重希土類の含有量が多すぎるため、熱処理過程において、過剰な重希土類が磁石内部に完全に拡散できず、磁石の表面に凝集物が形成され、磁石の表面を侵食し、磁石の表面状態に影響を与え、且つ磁石表面に堆積された重希土類が原料の浪費に繋がり、他方、含まれる有機物質が多すぎるため、熱処理過程において、大量の有機物質が脱離し、熱処理装置の雰囲気に影響を与え、磁石の炭素、酸素元素の増加を招き、最終的に磁石の性能に影響を与える。
【0080】
本発明の保温熱処理段階では、低温と高温の交互保温プロセスを採用し、表面に配置された重希土類が常に高濃度勾配で磁石内部に拡散することを保証し、拡散効率を向上させるために、拡散過程における拡散温度が比較的単一であるが、実際の拡散過程において、常に比較的単一の温度で拡散処理を行う場合、粒界チャネルが固定されているため、拡散過程において重希土類が主相に大量に進入し、最適な粒界拡散効果を実現できず、且つ、重希土類が主相に進入する場合、磁石残留磁気が明らかに低下し、特に厚さ≧4 mmの磁石について、磁石の厚さが比較的大きいため、単に、表面により多くの重希土類RH層を配置すること及びより高い拡散温度を採用する場合、拡散効果が低下し、重希土類RHの多くが磁石表面に近い粒界に分布し、且つ大量の重希土類が主相に浸透するため、磁石表面と内部のHcj差が大きく、且つ磁石残留磁気Brがベースに対して大きく低下する。本発明は、磁石表面にRLとRH層を交互に配置し、且つ低温、高温交互熱処理プロセスを採用することにより、高温熱処理保温段階において、粒界が十分な溶融状態にあり、重希土類RHに動力を与えて粒界に拡散させ、RL層によってRH層の構造を調節してRH層の濃度差を低減し、磁石表面のRH層が高温で磁石表面に堆積し、RHが主相内部に拡散して進入し、粒界拡散の効果を低減することを防止し、低温熱処理保温段階において、表面に配置されたRH層の磁石内部への拡散速度が低下し、この時、粒界に拡散して進入したRHは、粒界におけるNd元素と置換され、置換された粒界におけるNd元素が磁石外部に析出され、低温熱処理保温段階において、拡散して進入した磁石RHを低減することにより、粒界におけるTbがNd元素と置換され、且つNd元素の一部を磁石から析出することを完成し、拡散効率を向上させ、磁石におけるRH分布の均一性を向上させ、磁石内部へのRH拡散に有利である。
【0081】
通常の拡散プロセスの設定過程において、870℃~970℃の比較的高い拡散温度を採用する傾向があり、温度が高いほど提供された拡散動力が大くなるため、磁石表面に配置された重希土類を磁石に沿ってより深く拡散させることができると考えられているが、実際の測定過程において、4 mm以上の磁石に対して、拡散チャネルの結晶粒の間の粒界が固定されているため、拡散温度が比較的高い場合、主相に大量の重希土類が拡散して進入する一方、粒界における重希土類の堆積は、粒界に沿って磁石内部への拡散に不利になり、磁石表面Hcjの向上が比較的大きくなり、中心位置では粒界に沿った重希土類の拡散が阻害されるため、磁石表面と内部のHcj差が比較的大きくなる。出願人は、低温、高温交互熱処理の保温過程において、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃であり、低温、高温熱処理時間は≦5 hであり、保温熱処理時間は≧8 hであり、低温熱処理拡散過程において、保温温度が750℃未満である場合、磁石表面に配置された重希土類RHの温度が低すぎるため、効率的に拡散できず、830℃より高い場合、拡散効率が高すぎ、粒界におけるTbとNdが十分に置換されず、RH拡散の深さが低下することを見出した。高温熱処理拡散過程において、保温温度が970℃より高い場合、温度が高すぎるため、表面に配置された重希土類RHが主相に直接に進入し、粒界拡散の効果を実現することができない。
【0082】
且つ、上記磁石の配向方向の厚さが4 mmより小さい場合、磁石表面にRL層を配置して交互保温プロセスを採用しても、拡散後の磁石性能の改善は明らかではなく、磁石の厚さは>15 mmである場合、熱処理過程において、重希土類元素が液相である粒界を通じて磁石に拡散するため、拡散過程は、主に濃度差を駆動力とし、濃度差が低いと駆動力が大きくないため、拡散は緩慢な過程であり、磁石の厚さが15 mmより大きい場合、磁石表面に配置されたRHとRL層が比較的厚いため、拡散後に磁石表面と中心の磁気特性差が大きすぎ、磁石の角型性等の磁気性能が悪くなり、最終的に磁石の耐温度性に影響を与える。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】実施例1の焼結磁石の異なる位置における磁石EPMA分析である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【0085】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0086】
本発明における粒界相及び主相の構造分析方法は素地の断口をEPMAで走査し、EPMAのCP像をImagePROソフトで処理し、結晶粒界の幅、長さ等を分析した。
〔実施例1〕
まず、ネオジウム鉄ボロン磁石(R-Fe-B磁石)を準備し、磁石を加工して磁石シートを形成し、磁石シートを酸溶液、脱イオン水で表面を洗浄し、乾燥処理して、ネオジウム鉄ボロン磁石M1を得て、磁石シートの寸法は、40 mm×20 mm×6 mmであり、寸法公差は、±0.03 mmであり、磁石M1の配向方向の厚さがZ=6 mmであり、M1の組成が下記表に示す通りである。
【0087】
重希土類元素粉末水素化テルビウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRHスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ60 wt%、5 wt%、35 wt%であった。金属酸化物としてのジルコニア、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRLスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ55 wt%、5 wt%、40 wt%であった。浸漬熱風乾燥の方法を採用し、磁石表面にRH層とRL層を順次に配置し、RH層とRL層は、複合拡散層を形成し、R-Fe-B磁石素体を得て、そのうち、RH層の厚さは20 μm±5 μmであり、RL層の厚さは3 μm±2 μmであり、磁石M1に占める上記複合拡散層の重量百分率が1.2%±0.2%であった。
【0088】
表面に上記複合拡散層を含む処理済みの磁石素体を材料箱に置き、熱処理装置において拡散保温熱処理を行い、熱処理過程は真空状態であり、真空度≦10 Paの場合、加熱を開始し、拡散熱処理過程を以下のように設定した。
【0089】
(1)昇温:(50~780)℃×100 min、
(2)低温拡散熱処理:780℃×240 min、
(3)昇温:(780~920)℃×30 min、
(4)高温拡散熱処理:920℃×240 min、
(5)低温拡散熱処理:780×240 min(780℃まで冷却する段階では、熱処理のための加熱出力がない)、
(6)昇温:(780~920)℃×30 min、
(7)高温拡散熱処理:920℃×240 min。
【0090】
拡散熱処理終了後、急冷し、急冷終了後、500℃まで昇温して時効処理(時効処理とは、合金ワークが固溶処理、冷間塑性変形又は鋳造、鍛造を経た後、比較的高温で放置するか又は室温でその性能、形状、寸法を保持し、時間と共に変化する熱処理プロセスを指す)を行い、4 h保温後、更に常温まで急冷して焼結磁石M2を得た。熱処理過程において、磁石素体は接触配列を採用し、拡散後の焼結磁石はブロッキングがなかった。エネルギースペクトル測定により、M2の表面はジルコニア粉末粘着被覆層であり、平均の厚さは5 μmであった。
【0091】
上記製品を以下のように測定した。
【0092】
表1 焼結磁石M2と磁石M1の全体性能の比較
測定方法:磁石M1、M2から、7 mm×7 mm×6 mmのサンプルを採取した
測定設備:NIM-62000
【0093】
【表1】
【0094】
表2 焼結磁石M2の磁石表面位置でのHcjと磁石表面から2 mmの位置でのHcjとの比較
測定方法:図1に示すように、焼結磁石M2の表面、表面から2mmまでの箇所から、それぞれ1 mm×1 mm×1 mmのサンプルを採取し、それぞれH1、H2とした。H1とH2におけるHcjの差は39 kA/mであり、且つTb元素のEPMA分析により、H1で選ばれた視野1では、Tbが主に粒界に分布し、Tbが主相に多く進入することが見出されず、H2で選ばれた視野2では、粒界にTb元素が明らかに存在し、拡散後の粒界で、Tb元素の分布が比較的均一であることが分かった。
【0095】
測定設備:PFM06
【0096】
【表2】
【0097】
表3 焼結磁石M2と磁石M1の主要組成の比較
測定設備:分光器
【0098】
【表3】
【0099】
注:残部はFeである。
【0100】
以上の結果から示すように、このような方法を採用して、M2はM1に比べると、残留磁気Brが約0.011 Tだけ低下し、Hcjが約820 kA/m増加し、組成測定により、M2はM1に比べると、Tbが約0.41 wt%増加した。
【0101】
表4 焼結磁石M2と磁石M1のC、O元素の含有量の分析比較
測定設備:CSアナライザーONHアナライザー
【0102】
【表4】
【0103】
表4から示すように、磁石拡散前後のCSON元素の含有量に対する対比分析において、C、Oの含有量が何れも明らかな上昇を示さず、拡散過程においてスラリー中に生成した不純物元素が磁石内部に進入していなかったことが分かった。
〔実施例2〕
実施例1のネオジム鉄ボロン磁石M1と同様に、磁石シートの寸法は40 mm×30 mm×8 mmであり、寸法公差は±0.03 mmであり、その表面に複合拡散層を配置し、重希土類元素粉末フッ化テルビウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用して、RHスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ55 wt%、5 wt%、40 wt%であった。金属酸化物としての酸化アルミニウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRLスラリーを製造し、そられの重量百分率がそれぞれ50 wt%、6 wt%、44 wt%であった。ローラ塗布熱風乾燥の方法を採用し、磁石表面に、RH層とRL層を順次に配置し、RH層とRL層は複合拡散層を形成し、表面に酸化物を有するR-Fe-B磁石素体を得て、そのうち、RH層の厚さは25 μm±5 μmであり、RL層の厚さは3 μm±2 μmであり、磁石M1に占める上記複合拡散層の重量百分率が0.9%±0.2%であった。
【0104】
上記磁石素体を材料箱に置き、熱処理装置において拡散保温熱処理を行い、以下のように昇温過程を設定し、即ち、50℃~780℃×100 min+780℃×180 min+780℃~920℃×30 min+920℃×240 min+780 min×360 min(熱処理のための加熱出力がない)+780℃~920℃×30 min+920℃×360 min急冷し、急冷終了後、520℃まで昇温して時効処理を行い、4 h保温後、常温まで急冷し、磁石M3を得て、エネルギースペクトル測定により、M3の表面は酸化アルミニウム粉末粘着被覆層であった。熱処理過程において、磁石素体は接触配列を採用し、拡散後の焼結磁石はブロッキングがなかった。
【0105】
表5 焼結磁石M3と磁石M1の性能比較
【0106】
【表5】
【0107】
表5から示すように、このような方法を採用して、M3はM1に比べると、残留磁気Brが約0.015 Tだけ低下し、Hcjが約868 kA/m増加した。
【0108】
表6 焼結磁石M3の磁石表面位置でのHcjと磁石表面から2 mmの位置でのHcjとの比較
測定方法:焼結磁石M3の表面、表面から2 mmの位置から、それぞれ1 mm×1 mm×1 mmのサンプルを採取し、H1とH2におけるHcj差は38 kA/mであった。
【0109】
測定設備:PFM06
【0110】
【表6】
【0111】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。しかし、本発明の請求範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。当業者が本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われたあらゆる修正、同等置換、改良等は、何れも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-Fe-B焼結磁石であって、
前記R-Fe-B焼結磁石表面に酸化物粘着被覆層を有し、且つ
前記R-Fe-B焼結磁石の磁石配向方向の磁石表面におけるHcjをH1とし、磁石表面から磁石配向方向に沿って磁石内部まで2.00mm±0.02mmの位置でのHcjをH2とし、前記磁石表面における保磁力H1と前記磁石内部から2mmの位置での保磁力H2の差が≦50kA/mであり、
好ましくは、前記H1及びH2は式(I)に示す関係を有る、
ことを特徴とするR-Fe-B焼結磁石。
H1-H2≦50kA/m (I)
【請求項2】
前記酸化物粘着被覆層の厚さは、20μm未満であり、好ましくは10μm以下であり、
好ましくは、前記酸化物粘着被覆層は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムのうちの少なくとも一種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項3】
前記R-Fe-B焼結磁石は、R-Fe-B磁石素体が保温熱処理によって得られ、前記R-Fe-B磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、前記複合拡散層は、前記R-Fe-B磁石表面に存在し、前記複合拡散層は、保温熱処理された後、そのうちの金属酸化物が酸化物粘着被覆層を形成し、
好ましくは、前記保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含み、
好ましくは、前記低温熱処理の温度範囲は、750℃~830℃であり、
好ましくは、前記高温熱処理の温度範囲は、830℃~970℃であり、
好ましくは、前記酸化物粘着被覆層は、非機械的研削の方法によって除去することができ、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、前記複合拡散層は、前記R-Fe-B磁石の表面に存在する、
ことを特徴とする請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項4】
前記R-Fe-B磁石の磁石配向方向の厚さはZであり、且つZ≧3.95mmであり、好ましくは、15.05mm≧Z≧3.95mmであり、好ましくは、Zの寸法公差は±0.05mm、例えば、±0.03mmであり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Rは希土類元素であるNd、Pr、Tb、Dy、Gd、Hoから選ばれる何れか一種又は複数種であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Rの含有量が27wt%~34wt%であり
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Bの含有量が0.8wt%~1.3wt%であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石はFeとMを更に含み、そのうち、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ga、Cu、Si、Al、Zr、Nb、W、Moから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記R-Fe-B磁石において、Mの含有量が0wt%~5wt%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項5】
前記複合拡散層の合計厚さは、200μm未満であり、
好ましくは、前記複合拡散層は、重希土類元素を含み、好ましくは、重希土類元素、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
好ましくは、前記重希土類元素は、金属ジスプロシウム、金属テルビウム、水素化ジスプロシウム、水素化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウムから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記有機固体は、ロジン変性アルキド樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラールから選ばれる少なくとも一種であり、
好ましくは、前記溶剤は、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤から選ばれる少なくとも一種であり、好ましくはアルコール系溶剤であり、例えばエタノールであり、
好ましくは、前記複合拡散層は、RH層とRL層を含み、そのうち、
RH層は、重希土類、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
RL層は、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
好ましくは、前記RH層及びRL層は、互いに独立して少なくとも一層であり、
好ましくは、前記RH層及びRL層は、順次に交互配置され、好ましくは、RH層とRL層とが交互に配置される場合、前記R-Fe-B磁石表面から離れた外層は、好ましくはRL層であり、
好ましくは、前記RH層の単層の厚さは、0.5μm~40μmから選ばれ、
好ましくは、前記RL層の単層の厚さは、0.5μm~15μmから選ばれ、
好ましくは、前記複合拡散層の重量は、前記R-Fe-B磁石の重量の0.1wt%~3wt%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石。
【請求項6】
請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法であって、
(1)R-Fe-B磁石表面に複合拡散層を塗布配置して、前記R-Fe-B磁石素体を形成するステップと、
(2)上記R-Fe-B磁石素体を真空又は不活性雰囲気で保温熱処理を行い、表面に酸化物粘着被覆層を有する焼結磁石を得るステップと、を含み、
好ましくは、熱保温処理は、低温熱処理と高温熱処理を交互に行うことを含み、そのうち、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、前記高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃であり、
好ましくは、前記熱保温処理の合計時間は、≧8hであり、
好ましくは、前記製造方法は、保温熱処理後、時効保温処理を行うことを更に含み、
好ましくは、前記時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に430℃~650℃まで昇温して時効処理し、1h~72h保温した後、更に室温まで急冷することを含む、
ことを特徴とするR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
複合拡散層を塗布配置することは、R-Fe-B磁石表面にスラリーを塗布した後、乾燥して複合拡散層を形成することを含み、
好ましくは、塗布方法は、ハケ塗布、ローラ塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等から選ばれる少なくとも一種の塗布方法を採用してもよく、
好ましくは、乾燥後、前記R-Fe-B磁石素体の重量は、R-Fe-B磁石の重量より、0.1wt%~3wt%増加し、
好ましくは、前記スラリーの固形分は、30wt%~90wt%であり、
好ましくは、前記スラリーは、RH層スラリー及び/又はRL層スラリーから選ばれる、
ことを特徴とする請求項6に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記RH層スラリーは、重希土類元素、有機固体、溶剤を含み、好ましくは、重希土類元素、有機固体、溶剤の質量比は、(40~70):(3~10):(20~50)であり、
好ましくは、前記RL層スラリーは、金属酸化物、有機固体、溶剤を含み、好ましくは、金属酸化物、有機固体、溶剤の質量比は、(30~70):(3~10):(20~50)であり、
好ましくは、前記スラリーの製造方法は、前記金属酸化物、重希土類元素、有機固体を溶剤に添加して撹拌し、均一なスラリーを形成することを含み、
好ましくは、前記RL層スラリーは、55wt%のジルコニア、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、40wt%のエタノールを含み、前記RH層スラリーは、60wt%のフッ化テルビウム、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、35wt%のエタノールを含み、
好ましくは、前記RL層スラリーは、50wt%の酸化アルミニウム、6wt%のロジン変性アルキド樹脂、44wt%のエタノールを含み、前記RH層スラリーは、55wt%のフッ化テルビウム、5wt%のロジン変性アルキド樹脂、40wt%のエタノールを含み、
好ましくは、塗布することは、前記R-Fe-B磁石表面に複数回に分けて前記スラリーを塗布することを更に含み、好ましくは、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、前記スラリーは、同じであっても異なってもよく、好ましくは異なるスラリーであり、
好ましくは、乾燥後の複合拡散層は、RH層とRL層が交互に配置され、
好ましくは、前記保温熱処理又は時効保温処理は、真空又は不活性雰囲気で行う、
ことを特徴とする請求項6に記載のR-Fe-B焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
自動車、風力発電、家庭用モータ、医療機器又はモバイル通信機器の分野、好ましくは新エネルギー自動車の分野における、
請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石の応用。
【請求項10】
請求項1に記載のR-Fe-B焼結磁石を含むモータであって、
好ましくは、前記モータは、パワーテイクオフモータ、ステアリングEPSモータ、及びマイクロモータを含み、好ましくは、前記マイクロモータは、電動ウォータポンプモータ、ステアリング連動フォグランプモータ、サンルーフモータ、エアコンモータ、ワイパーモータ等を含む、
ことを特徴とするモータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年6月28日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202110723269.2であり、発明名称が「R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関し、希土類永久磁石材料の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
R-Fe-B磁石は、優れた特性を有するため、風力発電、家庭用モータ、医療機器、モバイル通信等の分野で広く応用されている。特に、最近の世界的な自動車技術の低炭素化のため、中国の新エネルギー自動車の保有量は既に世界一であり、将来10年~15年に亘ってハイエンドネオジム鉄ボロン永久磁石材料は急速な成長を迎え、焼結ネオジム鉄ボロンの市場応用が更に拡大すると予測されている。
【0004】
R-Fe-B磁石の保磁力は、永久磁石材料の磁気の大きさと保持時間の長さの決定的な要因であり、従来のプロセスにおいて、保磁力の向上は、主に重希土類元素であるDy、Tbを溶解炉に直接に添加されているが、重希土類元素の使用量が比較的大きく、且つこのような方法を採用して保磁力を向上させるのは、残留磁気の犠牲を代償とするため、保磁力の向上につれ、磁石の残留磁気は明らかに低下する。更に、重希土類元素の希少性が高価格を決定するため、磁石のコストを飛躍的に上昇させている。R-Fe-B分野では、粒界拡散法が量産化されており、磁石表面からDyやTb等の重希土類元素を粒界に沿って磁石内部に拡散させて粒界ミクロ組織を改善することにより、Nd-Fe-B焼結磁石の保磁力を向上させ、且つ粒界散乱場を効果的に減少し、磁気交換結合作用を弱めて、粒界を磁気硬化させ、磁石残留磁気をほとんど低下させずに保磁力を大幅に向上させ、現在、粒界拡散を実現する主な方法として、蒸着技術、アークイオンプレーティング技術、マグネトロンスパッタリング技術、ローラ塗布技術等がある(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)。上記方法では、異なる方法及び設備を採用して磁石表面に重希土類を配置することを実現し、そのうち、出願人は、特許文献5において、磁石表面に重希土類元素が含まれる有機層を配置することで磁石表面に重希土類元素を配置する効果を実現し、このような方法では、重希土類層の厚さ、均一性に対する制御が高く、脱落しにくく、量産化が容易であり、且つ重希土類粉末は、有機物質に包まれて、大気に放置されても酸化されにくく、熱処理過程において、有機物質が磁石から脱離し、粒界に沿って重希土類元素が磁石内部に拡散する。
【0005】
粒界拡散技術は、磁石表面に配置された重希土類を粒界に沿って磁石内部に拡散させることにより、Hcjの向上を実現するものであり、それは、高温での磁石表面と内部の重希土類の濃度差を拡散動力とし、厚さが比較的小さい磁石の場合に、重希土類が磁石の中心部位まで拡散しやすく、磁石表面と内部のHcj分布の均一性が比較的良いが、磁石の厚さが増加するにつれ、単に磁石表面により多くの重希土類量を配置する方法を採用しただけでは、磁石表面と内部におけるHcj差が明らかに増加し、且つ表面に配置された重希土類層が磁石表面状態を破壊し、後加工処理が必要になり、一方で、表面の比較的多い重希土類が結晶粒の内部に拡散しやすいため、磁石表面部の残留磁気が明らかに低下し、粒界拡散の効果が低下し、磁石表面部位に重希土類を配置する設備及び方法についての様々な開発に比べると、製品の厚さの比較的厚い磁石について、拡散の深さの向上と拡散後の磁石表面と内部のHcjとの一致性の向上が現在の早急に解決すべき課題となっている。
【0006】
上記先行技術に関連する特許文献は、以下の通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】CN101651038B
【特許文献2】CN101375352A
【特許文献3】CN100565719C
【特許文献4】CN101404195B
【特許文献5】CN106158347A
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術問題を解決するために、本発明は、R-Fe-B磁石素体を提供し、上記磁石素体は、R-Fe-B磁石と複合拡散層を含み、上記複合拡散層は、上記R-Fe-B磁石表面に存在する。
【0009】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石の磁石配向方向の厚さはZであり、且つZ≧3.95 mmである。好ましくは、15.05 mm≧Z≧3.95 mmである。好ましくは、Zの寸法公差は、±0.05 mmであり、例えば、±0.03 mmである。
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、Rは希土類元素であるNd、Pr、Tb、Dy、Gd、Hoから選ばれる何れか一種又は複数種である。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、好ましくは、Rの含有量が27 wt%~34 wt%であり、例えば、27 wt%~30 wt%である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石において、好ましくは、Bの含有量が0.8 wt%~1.3 wt%である。
【0013】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石は、FeとMを更に含み、そのうち、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ga、Cu、Si、Al、Zr、Nb、W、Moから選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B磁石は、Mの含有量が0 wt%~5 wt%であってもよく、好ましくは、0 wt%~3 wt%であり、例えば2 wt%である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層の合計厚さは、200 μm未満であり、例えば、10 μm~180 μmであり、例えば、50 μm、80 μm、100 μm又は150 μmである。
【0016】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層は、重希土類元素を含み、好ましくは重希土類元素、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記重希土類元素は、金属ジスプロシウム、金属テルビウム、水素化ジスプロシウム、水素化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウムから選ばれる少なくとも一種である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、上記金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも一種である。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記金属酸化物は、粉末形態であってもよく、例えば、上記金属酸化物の粒度は、0.5 μm~10 μmから選ばれる。好ましくは、上記金属酸化物において、粒度が0.5 μm~3 μmの間にある金属酸化物粉末の質量百分率は70%以上である。
【0020】
本発明の実施形態によれば、上記有機固体は、粉末形態であってもよく、例えば、上記有機固体はロジン変性アルキド樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラールから選ばれる少なくとも一種である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、上記溶剤は、アルコール系溶剤(例えばメタノール、エタノール)、エーテル系溶剤(例えばエチルエーテル)、芳香族炭化水素系溶剤(例えばベンゼン)から選ばれる少なくとも一種であり、好ましくは、エーテル系溶剤であり、例えばエタノールである。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層は、RH層とRL層を含み、そのうち、
RH層は、重希土類、有機固体及び存在してもよい溶剤を含み、
RL層は、金属酸化物、有機固体及び存在してもよい溶剤を含む。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記RH層及びRL層は、互いに独立して少なくとも1層であり、例えば、1層、2層、3層、4層、5層又はそれ以上から選ばれる。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記RH層及びRL層は、順次に交互配置される。好ましくは、RH層とRL層とが交互に配置される場合、上記R-Fe-B磁石表面から離れた外層は、好ましくはRL層である。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記RH層の単層の厚さは、0.5 μm~40 μmから選ばれ、例示的には、上記RH層の厚さは、20 μm±5 μm、25 μm±5 μmである。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上記RL層の単層の厚さは、0.5 μm~15 μmから選ばれ、例示的には、上記RL層の厚さは、3 μm±2 μmである。
【0027】
本発明の実施形態によれば、上記複合拡散層の重量は、上記R-Fe-B磁性体の重量の0.1 wt%~3 wt%であり、例えば、0.9 wt%又は1.2 wt%である。
【0028】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石を更に提供し、上記R-Fe-B焼結磁石は、上記R-Fe-B磁石素体が保温熱処理によって得られ、上記複合拡散層は、保温熱処理された後、そのうちの金属酸化物が酸化物粘着被覆層を形成する。
【0029】
本発明の上記R-Fe-B焼結磁石の実施形態によれば、そのうち、
上記R-Fe-B焼結磁石表面に酸化物粘着被覆層を有し、且つ
上記R-Fe-B焼結磁石の磁石配向方向の磁石表面におけるHcjをH1とし、磁石表面から磁石配向方向に沿って磁石内部まで2.00 mm±0.02 mmの位置でのHcjをH2とし、上記H1及びH2は式(I)に示す関係を有する。
H1-H2≦50 kA/m (I)。
【0030】
本発明の実施形態によれば、上記酸化物粘着被覆層の厚さは、20 μm未満であり、好ましくは10 μm以下であり、例えば5 μmである。
【0031】
好ましくは、上記酸化物粘着被覆層は、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ホルミウムのうちの少なくとも一種を含む。
【0032】
本発明の実施形態によれば、上記R-Fe-B焼結磁石において、上述した定義及び含有量を有するR、B、Fe又はMのうちの少なくとも一つを含む。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含む。
【0034】
好ましくは、上記低温熱処理の温度範囲は、750℃~830℃である。
【0035】
好ましくは、上記高温熱処理の温度範囲は、830℃~970℃である。
【0036】
本発明の実施形態によれば、上記酸化物粘着被覆層は、非機械的研削、例えば、ハケ、超音波等の方法によって完全に除去することができる。
【0037】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石の製造方法を更に提供し、好ましくは、上述したR-Fe-B焼結磁石の製造方法であり、
(1)R-Fe-B磁石表面に複合拡散層を塗布配置して、上記R-Fe-B磁石素体を形成するステップと、
(2)上記R-Fe-B磁石素体を真空又は不活性雰囲気で保温熱処理を行い、表面に酸化物粘着被覆層を有する焼結磁石を得るステップと、を含み、
好ましくは、保温熱処理は、低温熱処理と高温熱処理とを交互に行うことを含み、そのうち、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、上記高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃である。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記製造方法は、粒界拡散を最適化することにより、磁石の保磁力分布を向上させる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、上記低温熱処理は低温拡散保温熱処理であってもよく、上記高温熱処理は高温拡散保温熱処理であってもよい。例示的には、上記保温熱処理は、第一低温拡散保温熱処理、第一高温拡散保温熱処理、第二低温拡散保温熱処理、及び第二高温拡散保温熱処理を含む。
【0040】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理の合計時間は≧8 hであり、そのうち、低温熱処理及び高温熱処理の時間は、同じ又は異なる。例えば、低温熱処理時間は≦5 hであり、高温熱処理時間は≦5 hである。
【0041】
好ましくは、低温熱処理から高温熱処理まで昇温する必要があり、昇温速度は4℃/min~10℃/minである。
【0042】
好ましくは、高温熱処理から低温熱処理まで更に冷却する必要がある。冷却は加熱出力なしの真空冷却法を採用する。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記方法は、保温熱処理後に時効保温処理を行うことを更に含む。本発明において、上記時効保温処理とは、合金ワークが固溶処理、冷間塑性変形又は鋳造、鍛造を経た後、比較的高温で放置するか又は室温でその性能、形状、寸法を保持し、時間と共に変化する熱処理プロセスを指す。
【0044】
本発明の実施形態によれば、時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に430℃~650℃まで昇温して時効処理し、1 h~72 h保温した後、更に室温まで急冷することを含む。例示的には、時効保温処理は、保温熱処理後、室温まで急冷し、更に500℃まで昇温して時効処理し、4 h保温した後、更に室温まで急冷することを含む。
【0045】
本発明の実施形態によれば、複合拡散層を塗布配置することは、R-Fe-B磁石表面にスラリーを塗布した後、乾燥して複合拡散層を形成することを含む。
【0046】
本発明の実施形態によれば、上記乾燥は、例えば真空乾燥機、送風乾燥機等の本分野で公知の乾燥設備によって実現することができる。上記乾燥の温度及び時間は、スラリーにおける溶剤を乾燥させることができる限り、特に限定されない。例として、乾燥温度は35℃~100℃であり、乾燥時間は5 s~600 sである。
【0047】
本発明の実施形態によれば、塗布方法は、ハケ塗布、ローラ塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等から選ばれる少なくとも一種の塗布方法を採用してもよい。例えば、形状が規則的な角型の磁石に対して、好ましくは、ハケ塗布、ローラ塗布等の塗布方法により、磁石表面に複合拡散層を形成させ、形状が不規則的な異型の磁石に対して、好ましくは、浸漬塗布、スプレー塗布等の塗布方法により、磁石表面に複合拡散層を形成させる。
【0048】
例示的には、浸漬塗布の塗布方法を選ぶ場合、上記R-Fe-B磁石全体をスラリーに1秒~10秒浸漬し、例えば3秒~5秒浸漬する。
【0049】
本発明の実施形態によれば、乾燥後、上記R-Fe-B磁石素体の重量は、R-Fe-B磁石の重量より、0.1 wt%~3 wt%増加し、例えば0.9 wt%又は1.2 wt%増加する。
【0050】
本発明の実施形態によれば、上記スラリーの固形分は、30 wt%~90 wt%であり、好ましくは40 wt%~60 wt%である。
【0051】
本発明の実施形態によれば、上記スラリーは、RH層スラリー及び/又はRL層スラリーから選ばれる。
【0052】
本発明の実施形態によれば、上記RHスラリーは、重希土類元素、有機固体、溶剤を含む。好ましくは、重希土類元素、有機固体、溶剤の質量比は、(40~70):(3~10):(20~50)、例えば60:5:35又は55:5:40である。
【0053】
本発明の実施形態によれば、上記RL層スラリーは、金属酸化物、有機固体、溶剤を含む。好ましくは、金属酸化物、有機固体、溶剤の質量比は、(30~70):(3~10):(20~50)、例えば、55:5:40又は50:6:44である。
【0054】
好ましくは、上記金属酸化物、重希土類元素、有機固体及び溶剤は、上述のとおりである。
【0055】
好ましくは、上記スラリーの製造方法は、上記金属酸化物、重希土類元素又は有機固体を溶剤に添加して撹拌し、均一なスラリーを形成することを含む。好ましくは、本発明において、上記金属酸化物、重希土類元素、有機固体及び溶剤の使用量は特に限定されないが、R-Fe-B焼結磁石の特性に応じて決定すればよい。好ましくは、本発明において、撹拌条件は特に限定されないが、均一なスラリーを形成できる撹拌方法であれば、何れも本発明に適用する。例えば、当該技術分野における通常の撹拌方法を採用して撹拌し、撹拌時間は、20 min、30 min、40 min、50 min、60 min、70 min、80 min、90 min又は上記何れか2つの数値の間の範囲であってもよい。
【0056】
例示的には、上記スラリーは、RH層スラリーとRL層スラリーから選ばれる。
【0057】
具体的な実施形態において、上記RL層スラリーは、55 wt%のジルコニア、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、40 wt%のエタノールを含み、上記RH層スラリーは、60 wt%のフッ化テルビウム、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、35 wt%のエタノールを含む。
【0058】
別の具体的な実施形態において、上記RL層スラリーは、50 wt%の酸化アルミニウム、6 wt%のロジン変性アルキド樹脂、44 wt%のエタノールを含み、上記RH層スラリーは、55 wt%のフッ化テルビウム、5 wt%のロジン変性アルキド樹脂、40 wt%のエタノールを含む。
【0059】
本発明の実施形態によれば、塗布は、上記R-Fe-B磁石表面に上記スラリーを複数回に分けて塗布することを更に含む。
【0060】
好ましくは、塗布は少なくとも2回、例えば3回、4回又は5回である。
【0061】
本発明の実施形態によれば、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、上記スラリーは同じであっても異なってもよく、好ましくは、異なるスラリーである。
【0062】
好ましくは、スラリーを複数回に分けて塗布する場合、RH層スラリーとRL層スラリーをそれぞれ採用し、それぞれ交互に複合拡散層を塗布する。
【0063】
好ましくは、最終塗布の時、上記スラリーは、RL層スラリーを選ぶ。
【0064】
本発明の実施形態によれば、乾燥後の複合拡散層は、RH層とRL層が交互に配置される。
【0065】
好ましくは、乾燥後の複合拡散層において、単回塗布するRH層の厚さは、0.5 μm~40 μmであり、例えば、0.5 μm、1 μm、5 μm、10 μm、15 μm、20 μm、30 μm又は上記の何れか2つの数値の間の範囲である。
【0066】
好ましくは、乾燥後の複合拡散層において、単回塗布するRL層の厚さは、0.5 μm~15 μmであり、例えば、0.5 μm、1 μm、3 μm、5 μm、7 μm、10 μm、15 μm又は上記の何れか2つの数値の間の範囲である。
【0067】
本発明の実施形態によれば、スラリーを塗布する前に、更に上記R-Fe-B磁石を酸溶液、脱イオン水で順次に洗浄し、且つ乾燥処理してもよい。上記酸溶液は本分野で公知の酸溶液、例えば、塩化水素水溶液、硝酸水溶液等から選んでもよい。
【0068】
本発明の実施形態によれば、上記保温熱処理又は時効保温処理は、真空又は不活性雰囲気で行われる。例えば、上記不活性雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス等から選ばれる。
【0069】
本発明の実施形態によれば、保温熱処理の場合、上記R-Fe-B磁石素体は、接触配列を採用することにより、省スペース化を図ることができる。
【0070】
本発明は、自動車、風力発電、家庭用モータ、医療機器又はモバイル通信機器の分野、好ましくは新エネルギー車の分野における、上記R-Fe-B焼結磁石の応用を更に提供する。
【0071】
本発明はモータを更に提供し、上記モータは上記R-Fe-B焼結磁石を含む。
【0072】
好ましくは、上記モータは、パワーテイクオフモータ、ステアリングEPSモータ、及びマイクロモータを含む。
【0073】
好ましくは、上記マイクロモータは、電動ウォータポンプモータ、ステアリング連動フォグランプモータ、サンルーフモータ、エアコンモータ、ワイパーモータ等を含む。
【発明の効果】
【0074】
本発明は、R-Fe-B焼結磁石及びその製造方法を提供し、R-Fe-B磁石表面に重希土類RH及び金属酸化物粉末RLが含まれる複合拡散層を交互に配置することにより、表面に配置された重希土類層の構造の改善を実現し、R-Fe-B磁石の粒界拡散を最適化し、磁石保磁力の分布の均一性を改善し、CN106158347Aに対し、本出願はRL層を交互に増加させることにより、磁石表面における重希土類RHの分布を改善し、拡散過程において、特定のRL層は、RH層と磁石内部の重希土類の拡散過程における濃度差を効果的に低減し、これにより粒界拡散過程における重希土類が磁石表面に沿って磁石内部への拡散過程の動力を低減する。また、粒界拡散段階で、高温低温交互保温の方法を採用して重希土類の拡散速度、濃度の調節を実現し、厚さが大きい拡散磁石の内部におけるHcj分布の均一性が悪く、重希土類が磁石表面に集中して磁石の中心に拡散しにくいという問題を最適化し、拡散磁石表面と中心位置におけるHcjの差を低減し、厚さ≧4 mmの磁石について、磁石表面における保磁力H1と磁石内部から2 mmの位置での保磁力H2の差が≦50 kA/mであり、磁石全体の角型性が改善され、それにより、磁石の耐熱性が向上し、また、選ばれた金属酸化物粉末を熱処理した後、磁石表面に酸化物粘着被覆層を形成し、高温処理過程における磁石の直接接触ブロッキングの問題を解決し、熱処理過程における投入量を増やし、量産に有利となり、且つ有機固体粉末、金属酸化物粉末が拡散後に磁石内部に進入しなくなるため、磁石におけるC、O元素の含有量に明らかな増加が見られなかった。
【0075】
CN106158347Aに対し、本出願において、RL層を交互に増加させることにより、磁石表面の重希土類RHの分布を改善し、拡散過程において、RL層はRH層重希土類の拡散過程における濃度差を効果的に低減し、磁石表面に重希土類が大量に凝集して結晶粒主相に進入することで磁石残留磁気を明らかに低下させることを防止する。実際の量産過程において、RL及びRH層数の合計が≦5層であり、交互配置された層数が多すぎる場合、生産コストが増加する一方、RL層が多すぎる場合、拡散速度が低下し、その結果、より長い拡散保温時間が必要となり、全体の拡散効率が低下する。且つ、RLとRHを交互に配置する過程において、最外層にRL層を配置することによってRH層を損傷から保護することができ、且つRL層は、熱処理後に磁石表面に酸化物粘着被覆層を形成することができ、酸化物粘着被覆層は磁石を隔離し、高温保温過程において、磁石のブロッキングを防止することができる。
【0076】
熱処理後、焼結磁石の表面に酸化物粘着被覆層を有し、厚さが20 μm未満であり、好ましくは10 μmであり、洗浄しやすく、例えば、ハケや超音波によって完全に洗浄することができ、機械的研削に頼らずに完全に除去することができ、酸化物粘着被覆層は、磁石が重なり合って拡散処理を行う場合、磁石の隔離を実現し、拡散投入量を増やすことができる。厚さでは、好ましくは、10 μm以下であり、より好ましくは、6 μm以下である。
【0077】
出願人は、高温熱処理過程において、金属酸化物粉末が重希土類RHと反応したり、その活性を低下させたりすることがなく、一方、金属酸化物粉末がネオジム鉄ボロン磁石と反応することがなく、高温状態で磁石表面に接触しても磁石表面状態を破壊しないことを見出した。選ばれた金属酸化物粉末の粒度が10 μmより大きい場合、高温拡散処理過程における磁石の間の相互接触により、過大な粒子が磁石の表面状態を破壊しやすく、磁石表面に凹みが形成され、製品外観を確保するために後処理過程において削り取る必要があり、一方、加工コストが増加し、且つベース素地の設計過程において、寸法の増加が必要となるため、大きな無駄が発生する。一方、粒度<0.5 μmである場合、金属酸化物粉末の粒度が小さすぎるために拡散速度を効果的に制御できず、拡散後の磁石表面と中心位置における重希土類の含有量の濃度差を効果的に低減することができず、且つ、金属酸化物粉末が小さすぎる場合、磁石間のブロッキングを低減する効果が低下し、磁石が粘付しやすくて離れにくくなり、0.5 μm~3 μmの粉末粒径範囲にある粉末が70%以上を占める場合、金属酸化物粉末の粒度が磁石の主相結晶粒度のサイズよりやや小さく、バッチ検証では、重希土類の拡散速度に対する金属酸化物粉末の粒度の効果的な制御を実現することができる一方、金属酸化物粉末の粒度が結晶粒度よりやや小さいため、拡散過程において、結晶粒表面の粒界に沿った重希土類の拡散を妨げず、且つ拡散高温環境で磁石表面状態を破壊することがない。
【0078】
本発明の有機溶剤は、エタノールを選ぶ場合、設備の密閉性、排気能力、安全性等に対する余分な負荷を更に低減し、設備コストを増大するのに役に立つ。
【0079】
本発明の上記複合拡散層の合計厚さは、200 μm未満であり、好ましくは、10 μm~100 μmである。複合拡散層の厚さを一定の範囲に制御するのは、厚さが小さすぎると、重希土類の分布が不均一となり、それにより、磁石全体に拡散した重希土類元素の分布が不均一になり、磁石表面に配置されたRL層が拡散濃度を調整する効果が明らかではなく、最終的に磁石の均一性が悪くなるためである。厚さが大きすぎると、一方、その重希土類の含有量が多すぎるため、熱処理過程において、過剰な重希土類が磁石内部に完全に拡散できず、磁石の表面に凝集物が形成され、磁石の表面を侵食し、磁石の表面状態に影響を与え、且つ磁石表面に堆積された重希土類が原料の浪費に繋がり、他方、含まれる有機物質が多すぎるため、熱処理過程において、大量の有機物質が脱離し、熱処理装置の雰囲気に影響を与え、磁石の炭素、酸素元素の増加を招き、最終的に磁石の性能に影響を与える。
【0080】
本発明の保温熱処理段階では、低温と高温の交互保温プロセスを採用し、表面に配置された重希土類が常に高濃度勾配で磁石内部に拡散することを保証し、拡散効率を向上させるために、拡散過程における拡散温度が比較的単一であるが、実際の拡散過程において、常に比較的単一の温度で拡散処理を行う場合、粒界チャネルが固定されているため、拡散過程において重希土類が主相に大量に進入し、最適な粒界拡散効果を実現できず、且つ、重希土類が主相に進入する場合、磁石残留磁気が明らかに低下し、特に厚さ≧4 mmの磁石について、磁石の厚さが比較的大きいため、単に、表面により多くの重希土類RH層を配置すること及びより高い拡散温度を採用する場合、拡散効果が低下し、重希土類RHの多くが磁石表面に近い粒界に分布し、且つ大量の重希土類が主相に浸透するため、磁石表面と内部のHcj差が大きく、且つ磁石残留磁気Brがベースに対して大きく低下する。本発明は、磁石表面にRLとRH層を交互に配置し、且つ低温、高温交互熱処理プロセスを採用することにより、高温熱処理保温段階において、粒界が十分な溶融状態にあり、重希土類RHに動力を与えて粒界に拡散させ、RL層によってRH層の構造を調節してRH層の濃度差を低減し、磁石表面のRH層が高温で磁石表面に堆積し、RHが主相内部に拡散して進入し、粒界拡散の効果を低減することを防止し、低温熱処理保温段階において、表面に配置されたRH層の磁石内部への拡散速度が低下し、この時、粒界に拡散して進入したRHは、粒界におけるNd元素と置換され、置換された粒界におけるNd元素が磁石外部に析出され、低温熱処理保温段階において、拡散して進入した磁石RHを低減することにより、粒界におけるTbがNd元素と置換され、且つNd元素の一部を磁石から析出することを完成し、拡散効率を向上させ、磁石におけるRH分布の均一性を向上させ、磁石内部へのRH拡散に有利である。
【0081】
通常の拡散プロセスの設定過程において、870℃~970℃の比較的高い拡散温度を採用する傾向があり、温度が高いほど提供された拡散動力が大くなるため、磁石表面に配置された重希土類を磁石に沿ってより深く拡散させることができると考えられているが、実際の測定過程において、4 mm以上の磁石に対して、拡散チャネルの結晶粒の間の粒界が固定されているため、拡散温度が比較的高い場合、主相に大量の重希土類が拡散して進入する一方、粒界における重希土類の堆積は、粒界に沿って磁石内部への拡散に不利になり、磁石表面Hcjの向上が比較的大きくなり、中心位置では粒界に沿った重希土類の拡散が阻害されるため、磁石表面と内部のHcj差が比較的大きくなる。出願人は、低温、高温交互熱処理の保温過程において、低温熱処理の温度範囲は750℃~830℃であり、高温熱処理の温度範囲は830℃~970℃であり、低温、高温熱処理時間は≦5 hであり、保温熱処理時間は≧8 hであり、低温熱処理拡散過程において、保温温度が750℃未満である場合、磁石表面に配置された重希土類RHの温度が低すぎるため、効率的に拡散できず、830℃より高い場合、拡散効率が高すぎ、粒界におけるTbとNdが十分に置換されず、RH拡散の深さが低下することを見出した。高温熱処理拡散過程において、保温温度が970℃より高い場合、温度が高すぎるため、表面に配置された重希土類RHが主相に直接に進入し、粒界拡散の効果を実現することができない。
【0082】
且つ、上記磁石の配向方向の厚さが4 mmより小さい場合、磁石表面にRL層を配置して交互保温プロセスを採用しても、拡散後の磁石性能の改善は明らかではなく、磁石の厚さは>15 mmである場合、熱処理過程において、重希土類元素が液相である粒界を通じて磁石に拡散するため、拡散過程は、主に濃度差を駆動力とし、濃度差が低いと駆動力が大きくないため、拡散は緩慢な過程であり、磁石の厚さが15 mmより大きい場合、磁石表面に配置されたRHとRL層が比較的厚いため、拡散後に磁石表面と中心の磁気特性差が大きすぎ、磁石の角型性等の磁気性能が悪くなり、最終的に磁石の耐温度性に影響を与える。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】実施例1の焼結磁石の異なる位置における磁石EPMA分析である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【0085】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0086】
本発明における粒界相及び主相の構造分析方法は素地の断口をEPMAで走査し、EPMAのCP像をImagePROソフトで処理し、結晶粒界の幅、長さ等を分析した。
〔実施例1〕
まず、ネオジウム鉄ボロン磁石(R-Fe-B磁石)を準備し、磁石を加工して磁石シートを形成し、磁石シートを酸溶液、脱イオン水で表面を洗浄し、乾燥処理して、ネオジウム鉄ボロン磁石M1を得て、磁石シートの寸法は、40 mm×20 mm×6 mmであり、寸法公差は、±0.03 mmであり、磁石M1の配向方向の厚さがZ=6 mmであり、M1の組成が下記表に示す通りである。
【0087】
重希土類元素粉末水素化テルビウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRHスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ60 wt%、5 wt%、35 wt%であった。金属酸化物としてのジルコニア、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRLスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ55 wt%、5 wt%、40 wt%であった。浸漬熱風乾燥の方法を採用し、磁石表面にRH層とRL層を順次に配置し、RH層とRL層は、複合拡散層を形成し、R-Fe-B磁石素体を得て、そのうち、RH層の厚さは20 μm±5 μmであり、RL層の厚さは3 μm±2 μmであり、磁石M1に占める上記複合拡散層の重量百分率が1.2%±0.2%であった。
【0088】
表面に上記複合拡散層を含む処理済みの磁石素体を材料箱に置き、熱処理装置において拡散保温熱処理を行い、熱処理過程は真空状態であり、真空度≦10 Paの場合、加熱を開始し、拡散熱処理過程を以下のように設定した。
【0089】
(1)昇温:(50~780)℃×100 min、
(2)低温拡散熱処理:780℃×240 min、
(3)昇温:(780~920)℃×30 min、
(4)高温拡散熱処理:920℃×240 min、
(5)低温拡散熱処理:780×240 min(780℃まで冷却する段階では、熱処理のための加熱出力がない)、
(6)昇温:(780~920)℃×30 min、
(7)高温拡散熱処理:920℃×240 min。
【0090】
拡散熱処理終了後、急冷し、急冷終了後、500℃まで昇温して時効処理(時効処理とは、合金ワークが固溶処理、冷間塑性変形又は鋳造、鍛造を経た後、比較的高温で放置するか又は室温でその性能、形状、寸法を保持し、時間と共に変化する熱処理プロセスを指す)を行い、4 h保温後、更に常温まで急冷して焼結磁石M2を得た。熱処理過程において、磁石素体は接触配列を採用し、拡散後の焼結磁石はブロッキングがなかった。エネルギースペクトル測定により、M2の表面はジルコニア粉末粘着被覆層であり、平均の厚さは5 μmであった。
【0091】
上記製品を以下のように測定した。
【0092】
表1 焼結磁石M2と磁石M1の全体性能の比較
測定方法:磁石M1、M2から、7 mm×7 mm×6 mmのサンプルを採取した
測定設備:NIM-62000
【0093】
【表1】
【0094】
表2 焼結磁石M2の磁石表面位置でのHcjと磁石表面から2 mmの位置でのHcjとの比較
測定方法:図1に示すように、焼結磁石M2の表面、表面から2mmまでの箇所から、それぞれ1 mm×1 mm×1 mmのサンプルを採取し、それぞれH1、H2とした。H1とH2におけるHcjの差は39 kA/mであり、且つTb元素のEPMA分析により、H1で選ばれた視野1では、Tbが主に粒界に分布し、Tbが主相に多く進入することが見出されず、H2で選ばれた視野2では、粒界にTb元素が明らかに存在し、拡散後の粒界で、Tb元素の分布が比較的均一であることが分かった。
【0095】
測定設備:PFM06
【0096】
【表2】
【0097】
表3 焼結磁石M2と磁石M1の主要組成の比較
測定設備:分光器
【0098】
【表3】
【0099】
注:残部はFeである。
【0100】
以上の結果から示すように、このような方法を採用して、M2はM1に比べると、残留磁気Brが約0.011 Tだけ低下し、Hcjが約820 kA/m増加し、組成測定により、M2はM1に比べると、Tbが約0.41 wt%増加した。
【0101】
表4 焼結磁石M2と磁石M1のC、O元素の含有量の分析比較
測定設備:CSアナライザーONHアナライザー
【0102】
【表4】
【0103】
表4から示すように、磁石拡散前後のCSON元素の含有量に対する対比分析において、C、Oの含有量が何れも明らかな上昇を示さず、拡散過程においてスラリー中に生成した不純物元素が磁石内部に進入していなかったことが分かった。
〔実施例2〕
実施例1のネオジム鉄ボロン磁石M1と同様に、磁石シートの寸法は40 mm×30 mm×8 mmであり、寸法公差は±0.03 mmであり、その表面に複合拡散層を配置し、重希土類元素粉末フッ化テルビウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用して、RHスラリーを製造し、それらの重量百分率がそれぞれ55 wt%、5 wt%、40 wt%であった。金属酸化物としての酸化アルミニウム、有機固体ロジン変性アルキド樹脂粉末、エタノールを採用してRLスラリーを製造し、そられの重量百分率がそれぞれ50 wt%、6 wt%、44 wt%であった。ローラ塗布熱風乾燥の方法を採用し、磁石表面に、RH層とRL層を順次に配置し、RH層とRL層は複合拡散層を形成し、表面に酸化物を有するR-Fe-B磁石素体を得て、そのうち、RH層の厚さは25 μm±5 μmであり、RL層の厚さは3 μm±2 μmであり、磁石M1に占める上記複合拡散層の重量百分率が0.9%±0.2%であった。
【0104】
上記磁石素体を材料箱に置き、熱処理装置において拡散保温熱処理を行い、以下のように昇温過程を設定し、即ち、50℃~780℃×100 min+780℃×180 min+780℃~920℃×30 min+920℃×240 min+780 min×360 min(熱処理のための加熱出力がない)+780℃~920℃×30 min+920℃×360 min急冷し、急冷終了後、520℃まで昇温して時効処理を行い、4 h保温後、常温まで急冷し、磁石M3を得て、エネルギースペクトル測定により、M3の表面は酸化アルミニウム粉末粘着被覆層であった。熱処理過程において、磁石素体は接触配列を採用し、拡散後の焼結磁石はブロッキングがなかった。
【0105】
表5 焼結磁石M3と磁石M1の性能比較
【0106】
【表5】
【0107】
表5から示すように、このような方法を採用して、M3はM1に比べると、残留磁気Brが約0.015 Tだけ低下し、Hcjが約868 kA/m増加した。
【0108】
表6 焼結磁石M3の磁石表面位置でのHcjと磁石表面から2 mmの位置でのHcjとの比較
測定方法:焼結磁石M3の表面、表面から2 mmの位置から、それぞれ1 mm×1 mm×1 mmのサンプルを採取し、H1とH2におけるHcj差は38 kA/mであった。
【0109】
測定設備:PFM06
【0110】
【表6】
【0111】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。しかし、本発明の請求範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。当業者が本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われたあらゆる修正、同等置換、改良等は、何れも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】