(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】分離媒体及びそれを用いたヌクレオチド及びヌクレオチド成分の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20240705BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240705BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12N15/10 112Z
B01J20/281 R
B01J20/281 X
B01J20/281 G
G01N30/26 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580874
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 US2022036740
(87)【国際公開番号】W WO2023287733
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591163214
【氏名又は名称】ドナルドソン カンパニー,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウ, ジンシャン
(72)【発明者】
【氏名】テンプルズ, グラハム
(72)【発明者】
【氏名】グオ, ビン
(57)【要約】
分離媒体は、膜と、膜上に固定化された複数のリガンドとを含み、複数のリガンドには、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、疎水性相互作用リガンド、又はそれらの組み合わせが含まれる。分離媒体はマルチモーダルであってよい。分離媒体は、反応混合物から、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、又はその類似体若しくは誘導体を含む標的分子を分離するように構成することができる。分離媒体は、有機溶媒と共に使用するように構成することができる。分離装置は分離媒体を含む。核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、又はその類似体若しくは誘導体を含む材料は、分離装置を使用して高速で精製することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜と;
前記膜上に固定化された複数のリガンドであって、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせを含む複数のリガンドと;
を含む分離媒体。
【請求項2】
ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体及び類似体、並びにそれらの組み合わせを含む標的分子を反応混合物から分離するように構成されている、請求項1に記載の分離媒体。
【請求項3】
有機溶媒と共に使用するように構成されている、請求項1又は2に記載の分離媒体。
【請求項4】
前記複数のリガンドが、隣接するアミン間に1~18個の炭素を含む脂肪族ジアミン又はトリアミンを含むアニオン交換リガンドを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離媒体。
【請求項5】
前記アニオン交換リガンドが、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項4に記載の分離媒体。
【請求項6】
前記複数のリガンドが、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むカチオン交換リガンドを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の分離媒体。
【請求項7】
前記カチオン交換リガンドが、アミノ基と酸又はスルホネート基との間に1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのスペーサーを含むアミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、3-アミノ-1-エチルスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項6に記載の分離媒体。
【請求項8】
前記複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、及び疎水性相互作用リガンドのうちの2つ以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の分離媒体。
【請求項9】
前記複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の分離媒体。
【請求項10】
前記複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは前記複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、請求項9に記載の分離媒体。
【請求項11】
ハウジングと;
前記ハウジング内に配置された分離媒体と;
を含む分離装置であって、前記分離媒体が、
膜と;
前記膜上に固定化された複数のリガンドと;
を含み、前記複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、疎水性相互作用リガンド、又はそれらの組み合わせを含む、分離装置。
【請求項12】
前記ハウジングがカセット又はカラムを含む、請求項10に記載の分離装置。
【請求項13】
反応混合物から核酸塩基を含む標的分子を分離するように前記分離媒体が構成されている、請求項11又は12に記載の分離装置。
【請求項14】
前記分離媒体が有機溶媒と共に使用するように構成されている、請求項11~13のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項15】
前記複数のリガンドが、隣接するアミン間に1~18個の炭素を含む脂肪族ジアミン又はトリアミンを含むアニオン交換リガンドを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項16】
前記アニオン交換リガンドが、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載の分離装置。
【請求項17】
前記複数のリガンドが、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むカチオン交換リガンドを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項18】
前記カチオン交換リガンドが、アミノ基と酸又はスルホネート基との間に1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのスペーサーを含むアミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、3-アミノ-1-エチルスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の分離装置。
【請求項19】
前記複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、及び疎水性相互作用リガンドのうちの2つ以上を含む、請求項11~18のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項20】
前記複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、請求項11~19のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項21】
前記複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは前記複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、請求項20に記載の分離装置。
【請求項22】
標的分子を含む溶液を膜クロマトグラフィー装置に通すことを含む、標的分子の精製方法であって、
前記標的分子が、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、又はその類似体若しくは誘導体を含み、
前記膜クロマトグラフィー装置が、
ハウジングと;
前記ハウジング内に配置された分離媒体と
を含み、
前記分離媒体が、
膜と;
前記膜上に固定化された複数のリガンドと
を含み、前記複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせを含む、方法。
【請求項23】
前記標的分子の合成後に反応混合物を含む溶液から前記標的分子が精製される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記分離媒体がアニオン交換膜を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記膜クロマトグラフィー装置内の前記溶液の滞留時間が60秒以下である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記標的分子がヌクレオチド又は核酸である、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記分離媒体が親硫黄性カチオン交換膜を含む、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記標的分子がヌクレオシド又は核酸塩基である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記親硫黄性カチオン交換膜が、親硫黄性官能基を有するカチオン交換リガンドを含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記溶液が有機溶媒を含む、請求項22~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは前記複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、請求項22~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶液、懸濁液、又は分散液からヌクレオチド、ヌクレオシド、又は核酸塩基などの生体分子及びイオンを分離するために有用な分離媒体に関する。本開示の分離媒体は、膜クロマトグラフィーにおける分離に使用することができる。本開示は、さらに、分離媒体の製造方法及び使用方法にも関する。
【0002】
優先出願
本出願は、2021年7月12日に出願された米国仮特許出願第63/203,198号に基づく利益を主張するものであり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
治療におけるヌクレオチド、ヌクレオシド、及びそれらの類似体の使用は、急速に成長している業界分野である。核酸治療薬が開発され、その生産が拡大するのに伴い、分離及び精製方法の改良が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
溶液、懸濁液、又は分散液から標的分子を分離するために有用な分離媒体が開示される。標的分子は、ヌクレオチド又はヌクレオシドを含む生体分子又はイオンであってよい。本開示の分離媒体は、膜クロマトグラフィーにおける分離に使用することができる。本開示は、さらに、分離媒体の製造方法及び使用方法にも関する。
【0005】
一実施形態によれば、分離媒体は、膜と、膜上に固定化された複数のリガンドとを含む。複数のリガンドには、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。分離媒体は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体及び類似体、並びにそれらの組み合わせを含む標的分子を反応混合物から分離するように構成することができる。分離媒体は、有機溶媒と共に使用するように構成することができる。
【0006】
複数のリガンドには、隣接するアミン間に1~18個の炭素を含む脂肪族ジアミン又はトリアミンを含むアニオン交換リガンドが含まれ得る。アニオン交換リガンドには、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。
【0007】
複数のリガンドには、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むカチオン交換リガンドが含まれ得る。カチオン交換リガンドとしては、アミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、3-アミノ-1-エチルスルホン酸、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0008】
複数のリガンドには、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、及び疎水性相互作用リガンドのうちの2つ以上が含まれ得る。複数のリガンドには、カチオン交換性官能基及び親硫黄性官能基を有するリガンドが含まれ得る。複数のリガンドには、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。好ましくは、複数のリガンドには、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムが含まれ得る。
【0009】
分離装置は、ハウジングと、ハウジング内に配置された分離媒体とを含み得る。分離媒体は、膜と、膜上に固定化された複数のリガンドとを含むことができ、複数のリガンドには、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。ハウジングは、カセット又はカラムを含み得る。分離媒体は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせを含む標的分子を反応混合物から分離するように構成することができる。分離媒体は、有機溶媒と共に使用するように構成することができる。
【0010】
標的分子を精製する方法は、標的分子を含む溶液を膜クロマトグラフィー装置に通すことを含み得る。標的分子としては、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。膜クロマトグラフィー装置は、ハウジングと、ハウジング内に配置された分離媒体とを含み得る。分離媒体は、膜と、膜上に固定化された複数のリガンドとを含むことができ、複数のリガンドには、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。ハウジングは、カセット又はカラムを含み得る。分離媒体は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせを含む標的分子を反応混合物から分離するように構成することができる。分離媒体は、有機溶媒と共に使用するように構成することができる。
【0011】
標的分子は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせの合成後の反応混合物を含む溶液から精製することができる。溶液は有機溶媒を含み得る。膜クロマトグラフィー装置内での溶液の滞留時間は60秒以下であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】一実施形態による分離媒体の概略図である。
【
図1B】
図1Aの分離媒体を含む分離装置の概略斜視図である。
【
図2】実施例3からの動的結合容量データのグラフ表示である。
【
図3A】実施例4からのデータのグラフ表示である。
【
図3B】実施例4からのデータのグラフ表示である。
【
図3C】実施例4からのデータのグラフ表示である。
【
図4】実施例4からの動的結合容量及び圧力データのグラフ表示である。
【
図5A】実施例5からの結合-溶出データのグラフ表示である。
【
図5B】実施例5からの結合-溶出データのグラフ表示である。
【
図6B】実施例6からのDBC
10%及び回収データのグラフ表示である。
【
図7A】実施例7からの動的結合容量データのグラフ表示である。
【
図8A】実施例8からの重ね合わせられたクロマトグラムである。
【
図8B】実施例8からのサンプルのTLCプレートである。
【
図9A】実施例9からの結合-溶出データのグラフ表示である。
【
図9B】実施例9からの結合-溶出データのグラフ表示である。
【
図9C】実施例9からの結合-溶出データのグラフ表示である。
【
図9D】実施例9からのクロマトグラムの比較である。
【
図10】実施例10からのデータのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本明細書で使用される全ての科学用語及び技術用語は、別段の規定がない限り、当該技術分野で一般的に使用される意味を有する。本明細書で示される定義は、本明細書で頻繁に使用される特定の用語を理解し易くするためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0014】
別段の指示がない限り、用語「ポリマー」及び「ポリマー系材料」には、有機ホモポリマー、コポリマー、例えばブロック、グラフト、ランダム、及び交互のコポリマー、ターポリマー、並びにそれらのブレンド及び変性物が含まれる。さらに、特に限定されない限り、「ポリマー」という用語には、材料の全ての可能な幾何学的配置が含まれるものとする。これらの配置には、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチック対称性が含まれる。
【0015】
「芳香環」という用語は、本開示では有機化合物の共役環系を指すために使用される。芳香環には炭素原子のみが含まれていてもよく、或いは酸素、窒素、又は硫黄などの1つ以上のヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0016】
「アルキル化」という用語は、本開示では、反応して化合物の水素原子又は負電荷がアルキル基で置換され、その結果アルキル基が化合物に共有結合した化合物を表すために使用される。
【0017】
「アルキル」という用語は、本開示では、アルカンのラジカルである一価の基を表すために使用され、直鎖、分岐、環式、及び二環式のアルキル基、並びにそれらの組み合わせが含まれ、無置換と置換のアルキル基の両方が含まれる。別段の指示がない限り、アルキル基は、典型的には1~30個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、アルキル基は、1~20個の炭素原子、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子、又は1~3個の炭素原子を含む。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、イソブチル、t-ブチル、イソプロピル、n-オクチル、n-ヘプチル、エチルヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。
【0018】
本明細書で使用される「核酸」及び/又は「オリゴヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖のいずれかの形態の少なくとも2つのヌクレオチド(例えばデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド)を含むポリマーを指し、DNA及びRNAが含まれる。「ヌクレオチド」は、糖、塩基(核酸塩基と呼ばれることもある)、及び連結基を含む。いくつかの実施形態では、糖は天然デオキシリボース又は天然リボース(例えばそれぞれDNA及びRNA)であってよい。ヌクレオチドは連結基を介して一体に連結され、オリゴヌクレオチドを形成する。いくつかの実施形態では、連結基はリン酸基であってよい。共有結合した連結基のポリマーは、骨格と呼ばれることがある。「ヌクレオシド」は、ヌクレオシドがリン酸基などの連結基を含まないことを除いてヌクレオチドと同様である。「塩基」又は「核酸塩基」には、プリン及びピリミジンが含まれ、これらにはさらに天然化合物であるアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシン、及び天然の類似体、並びにプリン及びピリミジンの合成誘導体が含まれ、これらにはアミン、アルコール、チオール、カルボキシレート、及びハロゲン化アルキルなどの新しい反応性基を配置する修飾が含まれる。ヌクレオチドには、修飾された又は類似した核酸塩基、修飾された若しくは類似した糖、及び/又は修飾された又は類似した連結基が含まれる。修飾された核酸塩基、修飾された糖、及び/又は修飾された連結基は、合成、天然、及び/又は非天然であってよい非標準的な/化学的に修飾された核酸塩基、糖、及び/又は連結基であってよく、それらは標準の核酸と同様の結合特性を有する。そのような類似した及び/又は修飾された塩基、糖、及び/又は連結基の例としては、限定するものではないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2’-O-メチルリボヌクレオチド、ロック核酸(LNA)、及びペプチド核酸(PNA)が挙げられる。
【0019】
デオキシリボオリゴヌクレオチドは、糖の5’及び3’の炭素でリン酸に共有結合して交互の非分岐ポリマーを形成しているデオキシリボースと呼ばれる五炭糖からなる。DNAは、例えばアンチセンス分子、プラスミドDNA、予め縮合されたDNA、PCR産物、ベクター、発現カセット、キメラ配列、染色体DNA、又はこれらの群の誘導体及び組み合わせの形態であってよい。リボオリゴヌクレオチドは、五炭糖がリボースである同様の繰り返し構造からなる。したがって、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語は、天然に存在する塩基、糖、及び糖間(骨格)結合からなるヌクレオチド又はヌクレオシドモノマーのポリマー又はオリゴマーを指す場合がある。
【0020】
「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語には、同様に機能する非天然モノマー又はその一部を含むポリマー又はオリゴマーも含まれ得る。そのような修飾又は置換されたオリゴヌクレオチドは、例えば細胞取り込みの向上、免疫原性の低下、及びヌクレアーゼ存在下での安定性の向上などの特性のため、天然型よりも好まれることが多い。「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語には、デオキシ及びリボヌクレオチドの両方の組み合わせ、又は本明細書に記載のものなどの骨格修飾と組み合わされたそれらのバリアントを含むポリマー及びオリゴマーも含まれ得ることが理解されるべきである。
【0021】
本明細書に記載のポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドには、非標準ヌクレオチド、非天然ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、及び/又は修飾ヌクレオチドを含む、1種以上のヌクレオチドバリアントが含まれ得る。修飾されたヌクレオチドの例としては、ジアミノプリン、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロロウラシル、β-D-ガラクトシルクエオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルクエオシン、5’-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、シュードウラシル、クエオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、2,6-ジアミノプリンなどが挙げられる。場合によっては、ヌクレオチドは、リン酸部位に三リン酸部位への修飾などの修飾が含まれることがある。そのような修飾の非限定的な例としては、より長いリン酸鎖(例えば4、5、6、7、8、9、10個、又はそれ以上のリン酸部位を有するリン酸鎖)及びチオール部位による修飾(例えばα-チオトリホスフェート及びβ-チオトリホスフェート)が挙げられる。
【0022】
本明細書に記載のポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、塩基部位(例えば相補的ヌクレオチドとの水素結合を形成するために典型的に利用可能な1つ以上の原子、及び/又は相補的なヌクレオチドと水素結合を典型的には形成することができない1つ以上の原子)、糖部位、又は連結基(例えば骨格)で修飾され得る。骨格修飾としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニラデート、ホスホロアミデート、及びホスホロジアミデート結合を挙げることができる。ホスホロチオエート結合は、リン酸骨格の非架橋酸素を硫黄原子で置換し、オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ分解を遅らせる。ホスホロジアミデート結合(N3’→P5’)は、ヌクレアーゼの認識及び分解を防止する。骨格の修飾には、骨格構造内のリンの代わりにペプチド結合(例えばペプチド核酸内のペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位)、又はカルバメート、アミド、並びに直鎖状及び環状の炭化水素基を含む連結基も含まれ得る。修飾された骨格を持つオリゴヌクレオチドは、Micklefield,Curr.Med.Chem.,8(10):1157-79,2001及びLyer et al.,Curr.Opin.Mol.Ther.,1(3):344-358,1999の中で概説されている。本明細書に記載の核酸分子は、天然に存在するヌクレオチドに存在するリボース若しくはデオキシリボースを含む糖部位、又は修飾された糖部位若しくは糖類似体を含み得る。修飾された糖部位としては、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル、2’-O-アミノエチル、2’-フルオロ、N3’→P5’ホスホルアミデート、2’ジメチルアミノオキシエトキシ、2’2’ジメチルアミノエトキシエトキシ、2’-グアニジニジウム、2’-O-グアニジニウムエチル、カルバメート修飾糖、及び二環式の修飾された糖が挙げられる。2’-O-メチル又は2’-O-メトキシエチル修飾は、オリゴヌクレオチドにおけるA型又はRNA様のコンホメーションを促進し、RNAへの結合親和性を高め、ヌクレアーゼ耐性を強化する。修飾された糖部位には、余分な架橋結合(例えばロック核酸中のリボースの2’-O原子と4’-C原子を連結するメチレン架橋)又はモルホリン環などの糖類似体を有すること(例えばホスホロジアミデートモルホリノ中のように)も含まれ得る。
【0023】
別段の指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示されている配列のみならず、保存的に修飾されたそのバリアント(例えば縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、及び相補配列も黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(又は全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.,19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.,260:2605-2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes,8:91-98(1994))。
【0024】
本開示の方法は、単離された又は実質的に精製されたヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸分子、及びそれらの分子を含む組成物の分離及び/又は精製を包含する。本明細書において、「単離された」又は「実質的に精製された」DNA分子又はRNA分子は、そのネイティブな環境から離れて存在するDNA分子又はRNA分子である。単離されたDNA分子又はRNA分子は、精製された形態で存在する場合があり、或いは例えばトランスジェニック宿主細胞などの非ネイティブ環境で存在する場合がある。例えば、「単離された」又は「精製された」核酸分子又はその生物学的に活性な部分は、組換え技術によって生成される場合には他の細胞材料又は培地を実質的に含まず、或いは化学的に合成される場合には化学前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない。一実施形態では、「単離された」核酸は、その核酸が由来する生物のゲノムDNAにおいて、天然に核酸に隣接する配列(すなわち核酸の5’末端及び3’末端に位置する配列)を含まない。
【0025】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語及びその文法的に等価な用語は、治療有効量の有効医薬成分を、1種以上の薬学的に許容される賦形剤、担体、及び/又は治療剤と共に含む混合物又は溶液であって、対象、例えばそれを必要とするヒトに投与するための混合物又は溶液を意味し得る。
【0026】
「コスモトロープ」という用語は、一般的に水-水相互作用を安定化させることによって水の秩序性の程度を高める溶質を表すために使用される。コスモトロープは、イオン性であっても又は非イオン性であってもよい。対照的に、「カオトロープ」という用語は、一般に、水-水の相互作用を不安定にすることによって水の秩序性の程度を低下させる溶質を表すために使用される。カオトロープは、イオン性であっても又は非イオン性であってもよい。
【0027】
本明細書で使用される「実質的に」という用語は、「有意に」と同じ意味を有し、その後に続く用語を少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約98%修飾すると理解することができる。特定の化合物を「実質的に含まない」という用語は、本発明の組成物が、言及された化合物を1,000パーツ・パー・ミリオン(ppm)未満しか含まないことを意味する。特定の化合物を「本質的に含まない」という用語は、本発明の組成物が、言及された化合物を100パーツ・パー・ミリオン(ppm)未満しか含まないことを意味する。特定の化合物を「完全に含まない」という用語は、本発明の組成物が、言及された化合物を20パーツ・パー・ビリオン(ppb)未満しか含まないことを意味する。前述した語句との関係において、本発明の組成物は、化合物自体が未反応形態で存在するか、又は1つ以上の他の材料と反応したかにかかわらず、前述した量未満の化合物を含む。
【0028】
本明細書で使用される「実質的ではない」という用語は、「有意ではない」と同じ意味を有し、「実質的に」の逆の意味を有する、すなわちその後に続く用語を25%以下、10%以下、5%以下、又は2%以下修飾すると理解することができる。
【0029】
「約」という用語は、本明細書では、当業者が予期する測定値の通常の変動を含むように数値と併せて使用され、「およそ」と同じ意味を有し、記載されている値の±5%のような典型的な誤差範囲を網羅すると理解される。
【0030】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」などの用語は、単一のもののみを指すことを意図しておらず、説明のために特定の例が使用され得る一般的な分類を含む。
【0031】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語は、「少なくとも1つ」という用語と同じ意味で使用される。「~のうちの少なくとも1つの」及び「~のうちの少なくとも1つを含む」という語句に続く列挙は、列挙されている項目のいずれか1つ、及び列挙されている項目の2つ以上の任意の組み合わせを指す。
【0032】
本明細書において使用される「又は」という用語は、内容が明確に別の指示をしていない限り、通常「及び/又は」を含む一般的な意味で使用される。「及び/又は」という用語は、列挙された要素の1つ又は全て、或いは列挙された要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0033】
端点よる数値範囲の列挙には、その範囲内に含まれる全ての数値が含まれる(例えば1~5には1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれ、或いは10以下には10、9.4、7.6、5、4.3、2.9、1.62、0.3などが含まれる)。値の範囲が「最大」又は「少なくとも」特定の値である場合、その値は範囲内に含まれる。
【0034】
本明細書で使用される「~を有する(have)」、「~を有する(having)」、「~を含む(include)」、「~を含む(including)」、「~を含む(comprise)」、又は「~を含む(comprising)」などは、オープンエンドの意味で使用され、一般に「~を含むがこれらに限定されない」を意味する。「~から本質的になる」、「~からなる」などは、「~を含む」などに包含されることが理解されるであろう。本明細書において、組成物、製品、又は方法などに関する「~から本質的になる」とは、組成物、製品、又は方法などの成分が、列挙された成分と、組成物、製品、又は方法などの基本的且つ新規な特徴に重大な影響を及ぼさない任意の他の成分とに限定されることを意味する。
【0035】
「好ましい」及び「好ましくは」という言葉は、特定の状況下で特定の利益をもたらし得る実施形態を指す。しかしながら、同じ又は別の状況下では、他の実施形態も好ましい場合がある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の列挙は、他の実施形態が有用ではないことを意味するものではなく、また特許請求の範囲を含む本開示の範囲から他の実施形態を除外することを意図するものではない。
【0036】
「上」、「下」、「左」、「右」、「上方の」、「下方の」など、本明細書で言及される任意の方向及び他の方向並びに配向は、図面を参照して明確にするために本明細書で説明されるものであり、実際の装置若しくはシステム又は装置若しくはシステムの使用を限定するものではない。本明細書に記載の装置又はシステムは、多くの方向及び配向で使用することができる。
【0037】
詳細な説明
本開示は、溶液、懸濁液、又は分散液から標的分子を分離するために有用な分離媒体に関する。標的分子は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせを含む生体分子又はイオンであってよい。本開示の分離媒体は、膜クロマトグラフィーにおける分離に使用することができる。本開示は、さらに、分離媒体の製造方法及び使用方法に関する。
【0038】
遺伝子及び細胞治療産業は、様々な壊滅的疾患を治療する有望な可能性のため、商業的プロセスへと急速にシフトしている。プラスミドDNA(pDNA)は、遺伝子治療や細胞治療で広く使用されているウイルスベクター、タンパク質、mRNAの製造における重要な構成要素である。大容量で高品質のpDNAの製造が緊急に必要とされている。しかしながら、pDNA製造のスケールアップは簡単ではないため、pDNA製造は業界のボトルネックになっている。現在、適格な契約製造業者は、高い需要に対応するために、長い待機リストと大量の残務を抱えている。他の多くの生物製剤の製造スキームと同様に、pDNAの製造には複数の工程と単位操作が含まれる。
【0039】
医薬組成物を調製するために、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせがますます利用されてきている。誘導体化には、例えば、フッ素化、糖の置換、様々な官能基部位の付加、又は他の多くの既知の又は新規の修飾が含まれ得る。このような誘導体化は、薬物動態の改善、輸送、プロドラッグへの状態の変化、又は疾患組織に固有の酵素経路のアップレギュレーションの利用によって、ヌクレオシド、ヌクレオチド、又は核酸塩基を、核酸治療のための主要なビルディングブロックへと、或いはより忍容性の高い又はより効果的な薬剤へと変換又は修飾するように設計することができる。このような医薬組成物は、HIV/AIDS治療及び癌治療を含む様々な状況で利用することができる。そのような類似体は、HIV又は癌産生細胞によってアップレギュレーションされる経路を利用するか、又はミスマッチ若しくは他の複製/翻訳エラーの誘発、分裂の停止、及び/若しくは細胞死の誘発を生じる類似体を含むことが多い。
【0040】
さらに、核酸治療の増加に伴い、安定性を改善したり、又は免疫原性の低下又はアップレギュレーションしたりすることによって治療薬の忍容性を改善するために、さらなる置換及び修飾が追求されている。例えば、シチジン及びウリジン塩基への修飾には、5-ヨードシチジン-5’-三リン酸、5-メチルシチジン-5’-三リン酸、2-チオシチジン-5’-三リン酸、6-アザシチジン-5’-三リン酸、5-ブロモシチジン-5’-三リン酸、5-アミノアリルシチジン-5’-三リン酸、シュードイソシチジン-5’-三リン酸、N4-メチルシチジン-5’-三リン酸、5-カルボキシシチジン-5’-三リン酸、5-ホルミルシチジン-5’-三リン酸、5-ヒドロキシメチルシチジン-5’-三リン酸、5-ヒドロキシシチジン-5’-三リン酸、5-メトキシシチジン-5’-三リン酸、チエノシチジン-5’-三リン酸、5-ブロモ-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-プロピニル-2’デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-ヨード-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-メチル-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、2’-デオキシ-P-ヌクレオシド-5’-三リン酸、5-ヒドロキシ-2’デオキシシチジン-5’-三リン酸、2-チオ-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-アミノアリル-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、シュードウリジン-5’-三リン酸、2’-O-メチルシュードウリジン-5’-三リン酸、N1-メチルシュードウリジン-5’-三リン酸、N1-エチルシュードウリジン-5’-三リン酸、N1-メチル-2’-O-メチルシュードウリジン-5’-三リン酸、N1-メトキシメチルシュードウリジン-5’-三リン酸、N1-プロピルシュードウリジン-5’-三リン酸、又はそれらの非リン酸化塩基が含まれ得る。チミジン及びグアニジン塩基についても同様の修飾を行うことが可能である。
【0041】
従来、下流の精製は高価で時間がかかり、スケールアップが困難であった。典型的なヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせの精製トレインには、濾過、限外濾過、及び1つ以上のタイプのクロマトグラフィーカラムを利用する様々なクロマトグラフィー分離などの様々なステップが含まれる。ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、又は核酸の精製に使用される典型的なクロマトグラフィーカラムとしては、例えばサイズ排除クロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィー用に構成された樹脂を備えた充填床カラムを挙げることができる。樹脂ベースのクロマトグラフィーカラムは、何十年にもわたり生物製剤の精製に採用されてきた代表的な存在である。しかしながら、大量のカラムクロマトグラフィーは非常に時間がかかることがある。樹脂カラムが十分に機能するためには長い滞留時間が必要であることが知られている。
【0042】
一実施形態によれば、分離媒体は官能化された基材を含む。官能化された基材は官能化された膜であってよい。樹脂カラムとは対照的に、膜吸着剤は短いカラム滞留時間でもよく機能し、生物製剤を迅速に分離する可能性がある。本開示は、様々なヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせの分離及び精製に適した膜を提供する。本開示の膜を使用して分離され得る目的化合物は、荷電(イオン化)状態であるか又は非荷電状態であるかにかかわらず、本明細書ではまとめて標的分子と呼ばれる。標的分子は、溶液、懸濁液、又は分散液中に存在することができる。簡潔にするために、本明細書では標的分子を含む液体を溶液と呼ぶ。液体は反応混合物であってよい。例えば、液体は、標的分子(例えばヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体又は類似体、及びそれらの組み合わせ)を調製又は合成するために使用される反応混合物であってもよい。分離媒体は、反応混合物から標的分子を精製するように構成することができる。分離媒体は、出発物質、中間体、及び他の反応生成物から標的分子を分離するように構成することができる。反応混合物は、水、有機溶媒、又はそれらの組み合わせなどの溶媒、及び溶媒に溶解した可溶性成分も含んでいてもよい。分離媒体は、有機溶媒と共に使用されるように構成されていてもよい。分離媒体は、有機溶媒を含む溶液から標的分子を分離又は精製するように構成することができる。
【0043】
本開示の官能化基材は、標的分子と相互作用する1つ以上の官能基を含む。いくつかの実施形態では、官能基は、標的分子に対する親和性を有し、標的分子に結合するか、又は膜を通って若しくは膜に沿って移動するのを遅らせることができる。
【0044】
一実施形態によれば、標的分子には、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体若しくは類似体、又はそれらの組み合わせが含まれる。ヌクレオチド及びヌクレオシドは、それらのビルディングブロックとして核酸塩基を含む。概して、本開示は、天然の核酸塩基/ヌクレオシド/ヌクレオチド、修飾された核酸塩基/ヌクレオシド/ヌクレオチド、核酸塩基/ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体などを含む、核酸塩基/ヌクレオシド/ヌクレオチドを精製するための膜及び方法を提供する。
【0045】
DNA内の4つの核酸塩基(アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T))と追加の塩基(ウラシル(U))は、疎水性成分、芳香族成分、水素結合供与体及び受容体、並びに/又は電荷を誘導することができる基を含む、精製トレインを強化するために利用することができるユニークな特性を有する。しかし、核酸塩基/ヌクレオシド/ヌクレオチドを修飾すると、これらの特性の一部が変化する可能性がある。例えば、分離では、アミン基を有する化合物は、tert-ブチルオキシカルボニル保護基(BOC)などの薬剤によって意図的に又は意図しないで保護される場合がある。保護基は、別の反応を妨げることから、官能基の特徴的な化学的性質を一時的にマスクするために合成で使用される。保護されたアミンは立体障害を持ち、水素結合供与部位が1つ少なくなるため、標準的なハイブリダイゼーションの規則が妨げられる。ただし、保護されたアミン基の影響を受ける場合と受けない場合がある、別のペアリング構成が存在し得ることに留意される。多くの場合、保護基を有するこのような塩基は、シリカゲルクロマトグラフィー、液-液抽出、液体/固体抽出、蒸留(一般的な保護基の吸入の危険性のために安全でないことが多い)などの医薬品製造現場でそのような核酸塩基類似体の精製のために採用される従来の化学分離技術では分離することが困難である。
【0046】
一実施形態によれば、本開示は、ヌクレオシド/ヌクレオチド並びにそれらの類似体及び誘導体を精製するためのハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションに基づく精製方法を利用する官能化基材(例えば官能化膜)を提供する。例えば、単一のヌクレオシド、ヌクレオチド、又はオリゴヌクレオチドは、ワトソンクリック塩基対形成などのハイブリダイゼーションを利用する方法に基づいて効果的に精製することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、ワトソンクリック塩基対形成の利用は、標的分子を高度に特異的に精製する。一実施形態では、ヌクレオチド、ヌクレオシド、又はオリゴヌクレオチドを基材上に固定してリガンドを提供し、その後、その相補的塩基を捕捉するために利用することができる。例えば、官能化された基材を製造するために、アデニン(A)又はその誘導体を基材上に固定化することができる。アデニンで官能化された基材は、チミン(T)、ウラシル(U)、及びそれらの誘導体を捕捉するために使用することができる。チミン(T)、ウラシル(U)、又はそれらの誘導体が、アデニン(A)及びその誘導体を捕捉するために支持体に固定化されてもよい。シトシン(C)を固定化してグアニン(G)及びその誘導体を捕捉してもよく、その逆も同様である。
【0048】
分離媒体のベース材料として使用される基材は、任意の適切な材料であってよい。いくつかの実施形態では、基材は、膜、樹脂、モノリス、ヒドロゲル、織布繊維質基材、不織布繊維質基材、又はそれらの組み合わせであるか、又はそれらを含む。一実施形態では、官能化基材は、膜であるか、又は膜を含む。一実施形態では、官能化基材は、織布若しくは不織布繊維質基材であるか、又はそれらを含む。基材は、リガンドと反応する前に反応性化学部位を含むように改質されていてもよい。これは、ePTFEなどの非反応性基材の場合に特に有用な場合がある。改質には、例えばプラズマ処理、ポリ(ビニルアルコール)による浸漬コーティング、コロナ処理などが含まれ得る。
【0049】
不織布基材(例えばウェブ)は、典型的には、メルトブロー、ウェットレイ、溶融紡糸、溶液紡糸、エアレイ、又はエレクトロスピニングによって形成される。不織ウェブは、さらに、カレンダー加工、エンボス加工、ニードルパンチ加工、又は水流交絡などの後処理工程を経て処理されてもよい。不織布基材は、生体分子に対する結合親和性が低い構造樹脂も含んでいてもよい。そのような樹脂は、典型的には不織ウェブの強度を高めるために使用される。多くの不織布基材は、繊維サイズと繊維材料の混合を含む。不織布基材及び織布基材を製造するために使用される繊維としては、ガラス、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系材料など、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。繊維は、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上の平均繊維サイズを有し得る。繊維は、100μm以下、50μm以下、25μm以下、10μm以下、又は8μm以下の平均繊維サイズを有し得る。平均繊維サイズは、0.1μm~50μm、又は1μm~25μmの範囲であってよい。キャピラリーフローポロメーターによって測定される平均細孔径は、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であってよい。平均細孔径は、100μm以下、50μm以下、25μm以下、10μm以下、又は8μm以下であってよい。適切な不織布基材の平均細孔径は、0.1μm~50μm、1μm~10μm、又は3μm~8μmの範囲であってよい。織布基材の平均細孔径は、不織布基材よりもわずかに大きくてよく、1μm~100μmの範囲であってよい。繊維質基材の目付は、1gsm(グラム/平方メートル)以上、10gsm以上、又は20gsm以上であってよい。繊維質基材の目付は、200gsm以下、又は80gsm以下であってよい。繊維質基材の目付は、1gsm~200gsm、又は20gsm~80gsmの範囲であってよい。
【0050】
一実施形態によれば、基材は膜であるか、又は膜を含む。膜は、全ての寸法方向にポリマー系材料の連続的な経路を有する材料のシートとして理解される。膜材料の例としては、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ナイロン、ガラス繊維、ヒドロゲル、ポリビニルアルコール、天然ポリマー、例えばセルロース、セルロースエステル、酢酸セルロース、再生セルロース、セルロースナノファイバー、セルロース誘導体、アガロース、キトサン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスルホン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
一実施形態によれば、有用な膜は、10μm以下、5μm以下、2μm以下、1μm以下、0.45μm以下、又は0.2μm以下の、キャピラリーフローポロメーターによって測定される平均細孔径を有する。膜は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.45μm以上、0.7μm以上、又は1μm以上の平均細孔径を有し得る。膜は、約0.1μm~10.0μm、0.1μm~0.2μm、0.1μm~0.45μm、0.1μm~1μm、0.1μm~2μm、0.2μm~0.45μm、0.2μm~1μm、0.2μm~2μm、0.2μm~10μm、0.45μm~1μm、0.45μm~2μm、0.45μm~10μm、1μm~2μm、又は1μm~5μmの範囲の平均細孔径を有し得る。膜は、500μm以上、250μm以上、100μm以上、80μm以上、50μm以上、又は30μm以上の厚さを有し得る。膜は、2500μm以下、1000μm以下、500μm以下、250μm以下、又は100μm以下の厚さを有し得る。膜の厚さは、30μm~500μm、50μm~500μm、80μm~500μm、100μm~500μm、250μm~500μm、30μm~250μm、50μm~250μm、80μm~250μm、100μm~2500μm、30μm~100μm、50μm~100μm、又は80μm~100μmの範囲であってよい。
【0052】
膜は、所定の用途の容量を増加させるために、多層構成に積層することができる。一実施形態では、膜の積層構成は、70μm以上、250μm以上、又は500μm以上の厚さを有する。膜の積層構成は、10,000μm以下、7,500μm以下、5,000μm以下、4,000μm以下、3,000μm以下、2,500μm以下、2,000μm以下、1,000μm以下、750μm以下、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下の厚さを有し得る。膜の積層構成は、厚さ70μm~10,000μm、70μm~100μm、70μm~200μm、70μm~300μm、70μm~400μm、70μm~500μm、70μm~750μm、70μm~1,000μm、70μm~2,000μm、70μm~3,000μm、70μm~4,000μm、70μm~5,000μm、250μm~300μm、250μm~400μm、250μm~500μm、250μm~750μm、250μm~1,000μm、250~2,000μm、250~3,000μm、250~4,000μm、250~5,000μm、500μm~1,000μm、500μm~2,000μm、500μm~3,000μm、500μm~4000μm、又は500μm~5000μmの範囲の厚さを有し得る。
【0053】
好ましい一実施形態では、膜は、厚さ約70μm~10,000μmの積層構成で0.2μm~5.0μmの細孔径、70μm~2,000μmの厚さを有する再生セルロース膜である。
【0054】
基材は精密濾過膜であってもよい。精密濾過膜は、典型的には相転換プロセス又は膨張プロセスによって形成される。膜の作製に使用される典型的な材料としては、PES、ナイロン、PVDF、酢酸セルロース、再生セルロース、ポリプロピレン、及び延伸PTFEが挙げられる。
【0055】
場合によっては、膜は多様な有機溶媒に耐えることができない。膜及びリガンドは、分離又は精製プロセスで使用される溶媒に膜が溶解しないように選択することができる。
【0056】
標的分子がヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドである実施形態では、精製プロセス中に標的分子を含む溶液に溶媒、塩、又は他の添加剤を添加して、ハイブリダイゼーションの発生を可能にするのに十分な関連するリン酸基の反発をスクリーニングすることができる。標的とリガンドとの間の電荷反発によって固定化塩基から標的分子を溶出させるために、異なる溶媒又は低導電率の緩衝液を使用することができる。適切な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、DMSO、及びDMFなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルが溶液に添加される。適切な溶媒は、溶液の重量に対して5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上の量で精製プロセス中に使用することができる。適切な溶媒は、溶液の重量の90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下の量で使用することができる。溶媒は、溶液の重量の10重量%~90重量%、20重量%~80重量%、30重量%~70重量%、又は10重量%~50重量%の溶液の範囲の量で使用することができる。
【0057】
溶液中に含まれ得る適切な塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化セシウム、トリス塩基、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及び硫酸アンモニウムなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、又は塩化マグネシウムが溶液に添加される。適切な塩は、溶液の重量の2重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、又は20重量%以上の量で添加することができる。適切な塩は、溶液の重量の20重量%以下、25重量%以下、又は30重量%以下の量で添加することができる。塩は、溶液の重量の2重量%~30重量%、又は5重量%~25重量%、又は5重量%~20重量%の範囲の量で添加することができる。
【0058】
標的分子がヌクレオシド/核酸塩基又は修飾ヌクレオシド/核酸塩基(ヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドとは対照的)であるいくつかの実施形態では、ヌクレオシドがリン酸基を含まないため、静電反発はより小さな要因になり、そのためリン酸-リン酸反発を緩和する技術はあまり関係しなくなる。
【0059】
標的分子が水素結合に関与する基又は立体障害となる位置に修飾を含んでいる場合、修飾された基は修飾された分子を捕捉して修飾されていない分子を通過させるか、又は修飾されていない分子を捕捉して修飾された分子を通過させるかのいずれかに利用できる形で結合において異なる挙動を示すため、官能化基材(例えば官能化膜)を使用して修飾されていない基と修飾された基を分離することが可能である。溶出の際に水素結合と競合する添加剤又は溶媒が使用されてもよい。水素結合と競合する添加剤及び溶媒の例としては、アセトニトリル、アルコール、水、糖、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
多くの実施形態では、標的分子は水溶液中に存在する。しかしながら、いくつかの実施形態では、A/T、A/U、及びC/G間の水素結合は、様々な溶媒の非水性環境においても有効なままである。そのような溶媒の例としては、アルコール、アセトニトリル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、標的分子は、1種以上のアルコール又はアセトニトリルなどの有機溶媒を含む溶液中に存在する。いくつかのそのような実施形態では、溶液は水と有機溶媒とを含む。溶液の大部分は水であってよい。或いは、溶液の大部分が有機溶媒から構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、溶液は非水性であり、例えば有機溶媒からなる。
【0061】
いくつかの実施形態では、標的分子は、標的分子(例えばヌクレオシド又はヌクレオチド)の水溶性を低下させる修飾を含む。そのような実施形態では、標的分子を溶液中に維持するのを助けて(特に疎水性修飾の場合)プロセスの生産性を高めるために、水性緩衝液-有機溶媒混合物を使用することができる。
【0062】
一実施形態によれば、分離媒体(官能化基材)は、速い流速で標的分子を精製するために使用することができる。例えば、分離媒体は、2分以下、1分(60秒)以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間で標的分子を精製するために使用することができる。滞留時間に望ましい下限はないが、実際には滞留時間は1秒以上である。分離媒体は、膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置として配置することができる。分離媒体のシート10が
図1Aに概略的に示されている。分離媒体であるシート10は、
図1Bに示される分離装置1(例えばクロマトグラフィーカラム)内に設けられてもよい。分離装置1は、装置内を通る流れを促進するための入口4と出口6とを備えたハウジング2を含む。分離装置(例えば膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置)は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間を提供することができる。一実施形態によれば、膜に基づく精製装置を使用することにより、生産性を大幅に向上させることができる。
【0063】
プロセスの生産性は、以下の式を使用して定義することができる。分母のV
totは、ロード、リンス、溶出、及び再生ステップを含むプロセス全体の間に分離媒体(例えばカラム又はカセット)を通過する溶液の総体積である。BVはクロマトグラフィー媒体床の体積(分離媒体基材の体積に相当)、τは滞留時間である。ローディング量は、クロマトグラフィーカラム媒体の動的結合容量に比例する。したがって、結合容量が増加し、滞留時間が減少すると、プロセスの生産性が向上する。
【数1】
【0064】
別の実施形態によれば、分離媒体はカチオン交換基材を含む。そのような基材は、標的分子(例えばヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸塩基、又はそれらの類似体若しくは誘導体)を精製するためのカチオン交換に基づくクロマトグラフィーで使用することができる。カチオン交換は、正に帯電した標的分子を標的とする負に帯電した官能基を利用する。
【0065】
カチオン交換リガンドは、官能基ハンドルを介して基材にコンジュゲートすることができる。官能基ハンドルは基材と共有結合することができる。いくつかの実施形態では、カチオン交換リガンドは二官能性分子から調製される。官能基の1つが官能基ハンドルとして機能することができる。通常、カチオン交換リガンドを含むリガンドは、以下の一般式(I)を有することができる。
Fh-Sp-Sg (I)
(式中、Fhは官能基ハンドルであり、Spはスペーサーであり、Sgは官能性分離基(例えばカチオン交換分離基)である)。官能基ハンドルにより、リガンド(例えばカチオン交換リガンド)を基材にコンジュゲートさせることができる。
【0066】
カチオン交換分離基は、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオチドの1つ以上の成分、それらの類似体、又はそれらの誘導体の分離を可能にする官能基である。複数の実施形態では、カチオン交換分離基は、1つのカチオン交換分離部位又は2つのカチオン交換分離部位を含み得る。
【0067】
スペーサーは、官能基ハンドルをカチオン交換分離基から分離する。スペーサーは、官能基ハンドル及び/又はカチオン交換分離基が意図した通りに機能できるようにする長さ及び/又は組成であってよい。
【0068】
官能基ハンドルは、基材上にある化学部位と反応して共有結合を形成することができる任意の反応性官能基を含むことができる。官能基ハンドルと基材上の反応性部位である基材反応性部位との反応により、カチオン交換リガンドが基材に共有結合し、これはコンジュゲートしたカチオン交換リガンドとも呼ばれる。コンジュゲートしたカチオン交換リガンドは、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオチドの1つ以上の成分、それらの類似体、又はそれらの誘導体の分離を可能にするために基材上に配置され得る。
【0069】
官能基ハンドルの反応性官能基が何であるかは、基材反応性部位が何であるかによって理解される。すなわち、反応性官能基ハンドルと基材反応性部位は、反応して共有結合を形成するように適合性を有していなければならない。例示的な基材反応性部位及び/又は例示的な反応性官能基としては、アミン;アルコール;トシル保護アルコール(例えば塩化トシル)などの活性化アルコール;エポキシド;イソシアネート;アルケン;アルキン;シクロアルケン;シクロオクチン;チオール;ジスルフィド;アジド;チオイソシアネート;N-ヒドロキシスクシンイミド;マレイミド;並びにカルボジイミド化合物(N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、及び1-シクロヘキシル-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、メト-p-トルエンスルホネート)を使用して活性化されたエステル又はカルボン酸などの活性化エステル及び/又はカルボン酸が挙げられる。当業者であれば、どの反応性官能基ハンドルと基材の反応性部位とが適合性を有するかを理解するであろう。
【0070】
基材にコンジュゲートすると、コンジュゲートしたカチオン交換リガンドは一般式(II)を有することができる:
【化1】
(式中、Sは基材であり、Rpは官能基ハンドルと基材の反応性部位との間の反応生成物であり、Spはスペーサーであり、Sgは分離基である)。いくつかの実施形態では、Rpは、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオチドの1つ以上の成分、それらの類似体、又はそれらの誘導体の分離を促進する第2の分離基であってよい。Rpが分離基ではなく、且つ第1の分離基(例えばSg)が単一の分離部位を含むいくつかの実施形態では、コンジュゲートしたリガンドは、カチオン交換モノモーダルリガンドなどのモノモーダルリガンドである。分離基は、酸、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、カルボキシレート、スルホネート、又はホスフェートであってよい。Rpが分離基ではなく、且つ第1の分離基(例えばSg)が2つの分離部位を含むいくつかの実施形態では、コンジュゲートしたリガンドは、コンジュゲートしたカチオン交換バイモーダルリガンドなどのバイモーダルリガンドである。Rpが第2の分離基であり、且つ第1の分離基(例えばSg)が単一の分離部位を含むいくつかの実施形態では、コンジュゲートしたリガンドは、コンジュゲートしたカチオン交換バイモーダルリガンドなどのバイモーダルリガンドである。Rpが第2の分離基であり、且つ第1の分離基(例えばSg)が2つの分離部位(例えば第1の分離部位と第2の分離部位)を含むいくつかの実施形態では、コンジュゲートしたリガンドは、コンジュゲートしたカチオン交換トリモーダルリガンドなどのトリモーダルリガンドである。
【0071】
反応生成物が何であるかは、反応性官能基と基材の反応性部位が何であるかに依存する。例として、反応生成物としては、限定するものではないが、エステル、エーテル、チオエーテル、アミド、アミン(例えば第一級、第二級、第三級)、アルケン、尿素、カルバメート、カーボネート、チオ尿素、及びトリアゾールが挙げられる。
【0072】
いくつかの実施形態では、分離基(Sg)は単一の分離部位を含み得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、分離基(Sg)は、2つの分離部位を含むことができ、一般式(III)のものであってよい
Sm1-Sp2-Sm2 (III)
(式中、Sm1は第1の分離部位であり、Sp2はスペーサーであり、Sm2は第2の分離部位である)。第1及び第2の分離部位は、酸、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、カルボキシレート、スルホネート、又はホスフェートであってよい。スペーサー(Sp/Sp2)は、長さがC1~C18、C1~C10、C1~C6、C1~C4、C1~C3、又はC2~C4の炭素鎖であってよく、任意選択的には炭素鎖に沿った1つ以上のエーテル、エステル、ベンジル、フェニル、又はアミドで置換されていてもよい。2つの分離部位を含む分離基の例としては、アミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、及び3-アミノ-1-エチルスルホン酸が挙げられる。カチオン交換基材は、最初にベース基材(例えば膜又は不織布基材)をリンカー活性化剤及び触媒の溶液にさらし(例えば浸漬し)、次いでリガンドと任意選択的な触媒とを含む溶液に基材をさらし(例えば浸漬し)、最後に基材をクエンチング緩衝液に浸漬して未反応のリンカーを不活性化することによって調製することができる。例示的な一実施形態では、リンカー活性化剤はN,N-ジスクシミジルカーボネート(DSC)であるか、又はこれを含み、触媒はトリエチルアミン(TEA)を含む。
【0074】
標的分子が核酸塩基/ヌクレオシド又は修飾された核酸塩基/ヌクレオシドである実施形態では、標的分子を溶解させるか若しくはその安定性を維持できるようにするために、又は望みのレベルの結合及び選択性を実現できるようにするために、標的分子を含む溶液に適切な溶媒、塩、又は他の添加剤が添加されてもよい。
【0075】
精製プロセス中に使用される適切な塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化セシウム、トリス塩基、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及び硫酸アンモニウムなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、又は塩化マグネシウムが溶液に添加される。適切な塩は、1mM以上、5mM以上、又は10mM以上、又は20mM以上の量で添加することができる。適切な塩は、100mM以下、50mM以下、又は30mM以下の量で添加することができる。塩は、1mM~100mM、1mM~50mM、5mM~30mM、又は5mM~20mMの範囲の量で添加することができる。
【0076】
精製プロセス中に使用される適切な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、DMSO、及びDMFなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルが溶液に添加される。適切な溶媒は、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上の量で添加することができる。適切な溶媒は、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下の量で添加することができる。溶媒は、10重量%~90重量%、20重量%~80重量%、30重量%~70重量%、又は10重量%~50重量%の範囲の量で添加することができる。
【0077】
標的とリガンドとの間の電荷反発によって固定化塩基から標的分子を溶出させるために、異なる溶媒又はより高い導電率の緩衝液を使用することができる。
【0078】
シトシン(C)及びグアニン(G)塩基は、ピリミジン環の4位にプロトン化可能な第一級アミンを含む。このアミンの電荷状態はプロトン化されて正電荷になり、その後これはカチオン交換クロマトグラフィー(CEX)基材(例えば膜)を使用して選択性を付与することができる。別の核酸塩基の電荷状態も、溶液のpHを操作することによって操作することができる。例えば、シトシンの4位の位置にあるアミンのpKaは約4.45である。グアニンについては、2位のアミンのpKaは約12.3であり、9位のアミンは約9.2であり、1位のアミドは約3.3である。チミジンのアミドのpKaは約9.96である。アデノシンのアミンのpKaは約3.5である。溶液のpHは、アミンをプロトン化し、カチオン交換クロマトグラフィーを利用するために、核酸塩基のpKa未満になるように調整することができる。
【0079】
カチオン交換クロマトグラフィーを使用して標的分子を分離又は精製する場合、分子をプロトン化された状態に維持するために、溶液のpHが標的分子のpKa未満に留まるように、溶液のpHを監視及び制御することができる。標的の分解を避けるために、pHを閾値より上に維持することもできる。pHの閾値は、分子ごとに異なり得る。例えば、BOCは反応性基を保護するために使用され、これはジオキサン中4MのHCl又は酢酸中1MのHClなどの非常に酸性の条件で脱保護することができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、標的分子上のアルコール基及び/又はヒドロキシル基は、アミンを標的としたコンジュゲートを可能にするために合成の際の攻撃から保護することができる。保護基は、典型的には、酸溶液を使用して除去することができる。精製中、脱保護(トリクロロ酢酸又は塩酸を用いて行われることが多い)のpHよりも高いpHを維持するために、溶液の酸性度を監視及び制御することが望ましい場合がある。他方で、標的分子のプロトン化を誘導又は維持してカチオン交換分離を利用するためには、溶液のpHが標的分子のpKa未満に維持されてもよい。
【0081】
カチオン交換リガンドと結合した分子は、例えば導電率を上げ、CEXクロマトグラフィー媒体と標的分子との間の静電引力をスクリーニングすることによって溶出させることができる。一実施形態では、溶出は、標的分子中のアミンのpKaを超えるpHに変更し、標的分子内に中性電荷を形成し、それにより電荷相互作用を減少させ、溶出を誘発することによって行うことができる。異なる標的分子(又は標的分子と他の分子)は、直線勾配溶出又は段階的アイソクラティック溶出を使用して溶出することができる。
【0082】
カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)基材を作製するために使用される基材は、任意の適切な材料であってよい。いくつかの実施形態では、官能化基材は、膜、樹脂、モノリス、ヒドロゲル、織布繊維質基材、不織布繊維質基材、又はそれらの組み合わせであるか、又はそれらを含む。一実施形態では、官能化基材は、膜であるか、又は膜を含む。一実施形態では、官能化基材は、織布若しくは不織布繊維質基材であるか、又はそれらを含む。適切な膜及び不織布繊維質基材については、本開示の他の箇所で説明される。
【0083】
一実施形態によれば、カチオン交換基材は、速い流速で標的分子を精製するために使用することができる。例えば、カチオン交換基材は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間で標的分子を精製するために使用することができる。滞留時間に望ましい下限はないが、実際には滞留時間は1秒以上である。カチオン交換基材は、膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置として配置することができる。膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間を提供することができる。一実施形態によれば、膜に基づく精製装置を使用することにより、生産性を大幅に向上させることができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、分離媒体はアニオン交換基材を含む。そのような基材は、標的分子(例えばヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸塩基、又はそれらの類似体若しくは誘導体)を精製するためのアニオン交換に基づくクロマトグラフィーで使用することができる。アニオン交換は、負に帯電した標的分子を標的とする正に帯電した官能基を利用する。
【0085】
アニオン交換リガンドは、官能基ハンドルを介して基材にコンジュゲートすることができる。官能基ハンドルは基材と共有結合することができる。いくつかの実施形態では、アニオン交換リガンドは、二官能性、三官能性、又は他の多官能性分子から調製される。官能基の1つが官能基ハンドルとして機能することができる。官能基ハンドルは、式(I)に関して上で説明した通りであってよい。コンジュゲートしたアニオン交換リガンドは、式(II)に関して上述したように、反応生成物Rp及びスペーサーSpを含み得る。コンジュゲートしたアニオン交換リガンドは、分離基Sgをさらに含む。
【0086】
分離媒体基材上に配置され得る適切なアニオン交換リガンドの例としては、第一級、第二級、第三級、及び第四級アミンが挙げられる。適切なアミンは、ジアミン、トリアミン、及びポリアミンであってよい。ジアミンは一般に次の式で表される:
【化2】
【0087】
いくつかの実施形態では、R1は、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の脂肪族炭素鎖である。第四級アミンでは、R2、R3、R4、R5、及びR6のそれぞれは、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さを有する脂肪族の直鎖、分岐鎖、又は環状の、置換又は無置換の炭素鎖から個別に選択される。第三級アミンでは、R5とR6は存在せず、R2、R3、及びR4は第四級アミンと同様である。第二級アミンでは、R5及びR6は存在せず、R2及びR3はHであり、R4は第四級アミンと同様である。第一級アミンでは、R5及びR6は存在せず、R2、R3、及びR4はHである。いくつかの実施形態では、ジアミンの窒素は異なるレベルの置換を有する。例えば、あるアミンは第二級アミンであってよく、またあるアミンは第一級、第三級、又は第四級アミンであってよい。適切なトリアミン及びポリアミンは、3つ(トリアミン)以上のアミン基を有する類似の構造を有し得る。
【0088】
第一級アミンの例としては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン(プトレシン)、ペンチルアミン、又はアミンの1つを介して共有結合している末端アミン間の1~18個の炭素を有する任意の脂肪族ジアミンが挙げられる。そのようなリガンドは、アミンのうちの1つを介して共有結合したエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンから製造することができる。
【0089】
第二級アミンの例としては、上述した通りに追加のR基で置換された、基材に固定化された前述したいずれかの第一級アミンを挙げることができる。ジアミンが使用される場合には、第二級アミンは、両方のアミンを基材に結合させる基材との共有結合相互作用によっても形成され得る。直鎖ポリエチレンイミン、スペルミジン、又はスペルミンなど、リガンドの構造を有する第二級アミンを含むリガンドも固定化することができる。さらに、非末端第一級アミン(例えば3-アミノペンタン)を含む基も、基材にコンジュゲートして第二級アミンになることができる。
【0090】
適切な第三級アミンの例としては、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又は1~6個の炭素の範囲の脂肪族炭素基で一方若しくは両方のアミンが置換されており、且つR1が末端アミン間に2~18個の炭素を有する、任意の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0091】
第四級アミンの例としては、四級化反応を受けて永久正電荷を持った前述した任意の第一級アミンが挙げられる。そのような反応は、ヨウ化メチルなどのアルキル基又はヨウ化ベンジルなどのアリール基を用いて行うことができる。第四級アミンとしては、さらに四級化反応を受けて永久正電荷を持った前述した任意の第三級アミンも挙げることができる。そのような反応は、ハロゲン化アルキルを使用して第三級アミンとの反応から第四級アンモニウム塩を形成するメンシュトキン反応によって説明することができる。そのような反応は、臭化ブチルなどの様々な長さのアルキル含有基、又は塩化ベンジルなどのアリール基、又はそれらの組み合わせを用いて行うことができる。さらに、第四級アミンを含む化合物を直接固定化することもできる。
【0092】
リガンドは、アミン基に加えて追加の官能基を含み得る。リガンドは、アミンと任意の他の官能基との間に、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのリンカーを含み得る。
【0093】
アニオン交換基材は、最初にベース基材(例えば膜又は不織布基材)をリンカー活性化剤及び触媒の溶液にさらし(例えば浸漬し)、次いでリガンドと任意選択的な触媒とを含む溶液に基材をさらし(例えば浸漬し)、最後に基材を緩衝液にさらす(例えば浸漬する)ことによって調製することができる。例示的な一実施形態では、リンカー活性化剤はN,N-ジスクシミジルカーボネート(DSC)であるか、又はこれを含み、触媒はトリエチルアミン(TEA)を含む。
【0094】
例示的な一実施形態では、アニオン交換基材は3段階のプロセスで製造される。1段階目は、ベース基材をリンカー活性化剤と触媒との溶液にさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、溶媒中に0.1mg/mL~120mg/mLのDSC、及び5μL/mL~100μL/mLのTEAを含み得る。溶媒としては、DMSO、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホルアミド、スルホラン、又は基材(例えば膜)を膨潤させる任意の他の溶媒/溶液を挙げることができる。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分間~1,800分間行うことができる。例えば、10mLのDMSOに溶解した300mgのDSC、139μLのTEAに、47mmの直径と70μmの厚さを有する膜を40℃で16時間浸漬することができる。
【0095】
この例示的な実施形態では、第2段階目は、リガンドと任意選択的な触媒とを含む溶液に基材をさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、溶媒中に約1μL/mL~100μL/mL、<100μL/mL、<75μL/mL、<50μL/mL、<20μL/mL、<10μL/mL、1μL/mL~10μL/mL、1μL/mL~20μL/mL、1μL/mL~50μL/mL、1μL/mL~75μL/mL、1μL/mL~100μL/mL、10μL/mL~20μL/mL、10μL/mL~50μL/mL、10μL/mL~75μL/mL、10μL/mL~100μL/mL、20μL/mL~50μL/mL、20μL/mL~75μL/mL、20μL/mL~100μL/mL、50μL/mL~75μL/mL、又は50μL/mL~100μL/mLのDMEDAを含む。溶媒は、DMSO、又は別の有機溶媒、例えばアセトニトリル、THF、DMF、ヘキサメチルホスホルアミド、スルホランなど、又は基材を膨潤させる任意の他の溶媒/溶液であってよい。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分~24時間行うことができる。例えば、15μL/mLのDMEDAのDMSO溶液に膜を室温で30分間入れることができる。
【0096】
この例示的な実施形態では、3段階目は、2段階目からの基材を緩衝液にさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、pH7.0~10.0で0.05M~4MのTrisを含み得る。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分~24時間行うことができる。例えば、膜は、pH8.0の1MのTris中に16時間入れられる。
【0097】
いくつかの実施形態では、アニオン交換基材は、米国特許出願公開第20200188859A1号明細書(Zhouら)に記載されている方法1に従って調製される。
【0098】
標的分子がヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドである実施形態では、標的分子を溶解させるか若しくはその安定性を維持できるようにするために、又は望みのレベルの結合及び選択性を実現できるようにするために、標的分子を含む溶液に溶媒、塩、又は他の添加剤が添加されてもよい。
【0099】
精製プロセス中に使用される適切な塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化セシウム、トリス塩基、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及び硫酸アンモニウムなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、又は塩化マグネシウムが溶液に添加される。適切な塩は、1mM以上、5mM以上、又は10mM以上、又は20mM以上の量で添加することができる。適切な塩は、100mM以下、50mM以下、又は30mM以下の量で添加することができる。塩は、1mM~100mM、1mM~50mM、5mM~30mM、又は5mM~20mMの範囲の量で添加することができる。
【0100】
精製プロセス中に使用される適切な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、DMSO、及びDMFなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルが溶液に添加される。適切な溶媒は、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上の量で添加することができる。適切な溶媒は、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下の量で添加することができる。溶媒は、10重量%~90重量%、20重量%~80重量%、30重量%~70重量%、又は10重量%~50重量%の範囲の量で添加することができる。
【0101】
標的とリガンドとの間の電荷反発によって固定化塩基から標的分子を溶出させるために、異なる溶媒又はより高い導電率の緩衝液を使用することができる。
【0102】
一実施形態によれば、標的を含む供給溶液のpHは、標的分子が正に帯電した状態を維持するように調整され、このpHは、通常そのような分子のpKaよりも高い。他方で、供給溶液のpHは、正の状態を維持するためにアニオン交換膜リガンドのpKaよりも低く維持される。例えば、弱アニオン交換膜を使用して供給溶液からアデノシン一リン酸を捕捉する場合、供給溶液のpHは3~7の範囲に調整され得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、分離媒体は、標的分子、不純物、又はその両方との疎水性相互作用を誘発する官能基を有する基材を含む。このような基材は、標的分子(例えばヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸塩基、又はそれらの類似体若しくは誘導体)を精製するために疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)で使用することができる。疎水性相互作用クロマトグラフィーは、標的分子上の疎水性基と相互作用する疎水性官能基を使用する。疎水性相互作用は、標的分子と存在し得る不純物と間の疎水性の違いを利用する。核酸塩基は、基材上のHICリガンドと相互作用することにより利用することができる疎水性の環を含む。
【0104】
一実施形態では、そのようなリガンドとしては、3個以上の炭素を有する脂肪族鎖(一般に使用される長さには、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシルが含まれる)、ベンジル、フェニル、フェノール、ピリジン、ボロン酸基、分岐ポリマー、例えばポリプロピレングリコール、硫黄含有親硫黄性リガンド、例えばプロパンチオール、2-ブタンチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、オクタンチオール、ベンジルメルカプタン、2-メルカプトピリジン、チオフェノール、1,2-エタンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、2-フェニルエタンチオールなど、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。疎水性相互作用リガンドは、式(I)に関して上述したように、官能基ハンドルを介して基材とコンジュゲートすることができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、標的分子は、核酸塩基若しくは修飾核酸塩基、ヌクレオシド若しくは修飾ヌクレオシド、又はヌクレオチド若しくは修飾ヌクレオチドである。リガンドと標的の両方に存在する疎水性基の相互作用によって結合が起こるようにするために、標的分子を含む溶液に溶媒、塩、又は他の添加剤が添加されてもよい。いくつかの実施形態では、コスモトロピック塩が溶液に添加される。場合によっては、コスモトロピック塩とカオトロピック塩との組み合わせが溶液に添加されてもよい。例えば、コスモトロピックアニオンとカオトロピックカチオンとの混合物を使用することができる。いくつかの実施形態では、コスモトロピック塩の割合を増加させ、且つ/又はカオトロピック塩の割合を減少させる。コスモトロピック塩は、水溶液中の非極性物質の溶解度を低下させる塩として知られている一方で、カオトロピック塩はその溶解度を増加させる。いくつかの実施形態では、溶液中の有機溶媒の割合を増加させることができる。別の実施形態では、溶液中の有機溶媒の割合を低下させることができる。別の実施形態では、コスモトロピック成分、カオトロピック成分、及び/又は有機溶媒の変化の組み合わせも使用することができる。
【0106】
標的分子を含む溶液に添加され得るコスモトロピック塩の例としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。適切なコスモトロピック塩は、0.1M以上、0.5M以上、又は1.0M以上、又は2.0M以上の量で添加することができる。適切なコスモトロピック塩は、6.0M以下、5.0M以下、又は4.0M以下の量で添加することができる。コスモトロピック塩は、0.1M~6M、0.5M~2.5M、又は0.5M~3.0Mの範囲の量で添加することができる。
【0107】
溶液中に存在し得るカオトロピック塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、カオトロピック塩の量は、1M以下、0.5M以下、又は0.1M以下に維持される。いくつかの実施形態では、溶液はカオトロピック塩を含まないか、又は実質的に含まない。
【0108】
精製プロセス中に使用される適切な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、DMSO、及びDMFなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルが溶液に添加される。適切な溶媒は、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上の量で添加することができる。適切な溶媒は、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下の量で添加することができる。溶媒は、10重量%~90重量%、20重量%~80重量%、30重量%~70重量%、又は10重量%~50重量%の範囲の量で添加することができる。
【0109】
標的とリガンドとの間の電荷反発によって固定化塩基から標的分子を溶出させるために、異なる溶媒又は低い導電率の緩衝液を使用することができる。
【0110】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)基材を調製するために使用される基材は、任意の適切な材料であってよい。いくつかの実施形態では、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)基材は、膜、樹脂、モノリス、ヒドロゲル、及び繊維などであるか、又はそれらを含む。一実施形態では、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)基材は、膜であるか、又は膜を含む。一実施形態では、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)基材は、不織布繊維質基材であるか、又は不織布繊維質基材を含む。
【0111】
一実施形態によれば、疎水性相互作用基材は、速い流速で標的分子を精製するために使用することができる。例えば、疎水性相互作用基材は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間で標的分子を精製するために使用することができる。滞留時間に望ましい下限はないが、実際には滞留時間は1秒以上である。疎水性相互作用基材は、膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置として配置することができる。膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間を提供することができる。一実施形態によれば、膜に基づく精製装置を使用することにより、生産性を大幅に向上させることができる。
【0112】
いくつかの実施形態では、分離媒体はマルチモーダル媒体を含む。マルチモーダル媒体は、基材上に2つ以上のタイプのリガンド又は官能基を含む媒体である。マルチモーダル媒体は、リガンドと標的分子との間の相互作用を強化することができる。いくつかの実施形態では、マルチモーダル媒体は、イオン交換リガンド又は官能基と、1つの他のタイプのリガンド又は官能基とを含む。いくつかのそのような実施形態では、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンドと、少なくとも1つの他のタイプの官能基とを含む。いくつかの実施形態では、マルチモーダル媒体は、アニオン交換リガンドと少なくとも1つの他のタイプの官能基とを含む。少なくとも1つの他のタイプの官能基は、カチオン交換基又はアニオン交換基と同じリガンドの一部であってよく、或いは別のリガンド内にあってもよい。例えば、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンド又はアニオン交換リガンドに加えて、疎水性相互作用基、水素結合基、親硫黄性基、又はそれらの組み合わせをさらに含み得る。一実施形態では、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンドと疎水性相互作用基との組み合わせを含む。一実施形態では、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンドと水素結合基との組み合わせを含む。一実施形態では、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンドと親硫黄性基との組み合わせを含む。マルチモーダル媒体は、3つ以上のタイプの官能基を含むこともできる。マルチモーダル媒体は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、並びにそれらの類似体及び誘導体を分離又は精製するために使用することができる。
【0113】
例示的な実施形態によれば、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンド及び親水性リガンドを含むリガンドを含む。
【0114】
例示的な実施形態によれば、マルチモーダル媒体は、カチオン交換リガンド及び疎水性相互作用リガンドを含むリガンドを含む。
【0115】
例示的な実施形態によれば、マルチモーダル媒体は、アニオン交換リガンド及び親水性リガンドを含むリガンドを含む。
【0116】
例示的な実施形態によれば、マルチモーダル媒体は、アニオン交換リガンド及び疎水性相互作用リガンドを含むリガンドを含む。
【0117】
いくつかの例では、マルチモーダル媒体は、親硫黄性官能基も含むカチオン交換リガンドを含む。分離媒体基材上に配置され得る適切な親硫黄性カチオン交換リガンドの例としては、メルカプトカルボン酸及びその塩が挙げられる。親硫黄性カチオン交換リガンドは、次の式で表すことができる:
【化3】
(式中、R
1はスペーサー基である)。R
1は、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素を含む、置換又は無置換の脂肪族又は芳香族基であってよい。R
1は、直鎖、分岐、又は環状であってよい。A
1は、カルボン酸(任意選択的には、安息香酸又はベンジル位などで芳香族基にコンジュゲートしている)又はスルホネート基である。
【0118】
適切な親硫黄性カチオン交換リガンドの例としては、メルカプト安息香酸(例えば2-メルカプト安息香酸又は4-メルカプト安息香酸)、並びにメルカプトスルホン酸及びその塩、例えば3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。リガンドは、硫黄含有官能基と他の(例えば酸)官能基との間に、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのリンカーを含み得る。
【0119】
親硫黄性カチオン交換基材は、最初にベース基材(例えば膜又は不織布基材)をリンカー活性化剤及び触媒の溶液にさらし(例えば浸漬し)、次いでリガンドと任意選択的な触媒とを含む溶液に基材をさらし(例えば浸漬し)、最後に基材を緩衝液に浸漬することによって調製することができる。例示的な一実施形態では、リンカー活性化剤はN,N-ジスクシミジルカーボネート(DSC)であるか、又はこれを含み、触媒はトリエチルアミン(TEA)を含む。
【0120】
例示的な一実施形態では、親硫黄性カチオン交換基材は3段階のプロセスで製造される。1段階目は、ベース基材をリンカー活性化剤と触媒との溶液にさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、溶媒中に0.1mg/mL~120mg/mLのDSC、及び5μL/mL~100μL/mLのTEAを含み得る。溶媒としては、DMSO、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホルアミド、スルホラン、又は基材(例えば膜)を膨潤させる任意の他の溶媒/溶液が挙げられる。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分間~1,800分間行うことができる。例えば、10mLのDMSOに溶解した300mgのDSC、139μLのTEAに、47mmの直径と70μmの厚さを有する膜を40℃で16時間浸漬することができる。
【0121】
この例示的な実施形態では、2段階目は、リガンドと任意選択的な触媒とを含む溶液に基材をさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、溶媒中に約0.1mg/mL~150mg/mL、1mg/mL~100mg/mL、又は10mg/mL~50mg/mLの3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含み得る。溶媒は、DMSO、又は別の有機溶媒、例えばアセトニトリル、THF、DMF、ヘキサメチルホスホルアミド、スルホランなど、又は基材を膨潤させる任意の他の溶媒/溶液であってよい。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分~24時間行うことができる。例えば、300mgの3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムと1mLのTEAとが10mLのDMSOに溶解している溶液中に、膜を40℃で16時間入れることができる。
【0122】
この例示的な実施形態では、3段階目は、2段階目からの基材を緩衝液にさらす(例えば浸漬する)ことを含む。これは、pH7.0~10.0で0.05M~4MのTrisを含み得る。さらすことは、約10℃~60℃の温度で約1分~24時間行うことができる。例えば、膜は、pH8.0の1Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)中に16時間入れられる。
【0123】
いくつかの実施形態では、目的とする標的は、核酸塩基若しくは修飾核酸塩基、ヌクレオシド若しくは修飾ヌクレオシド、又はヌクレオチド若しくは修飾ヌクレオチドである。標的分子を溶解させるか若しくはその安定性を維持できるようにするために、又は望みのレベルの結合及び選択性を実現できるようにするために、溶液に適切な溶媒、塩、又は他の添加剤が添加されてもよい。
【0124】
精製プロセス中に使用される適切な塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化セシウム、トリス塩基、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及び硫酸アンモニウムなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、又は塩化マグネシウムが溶液に添加される。適切な塩は、1mM以上、5mM以上、又は10mM以上、又は20mM以上の量で添加することができる。適切な塩は、100mM以下、50mM以下、又は30mM以下の量で添加することができる。塩は、1mM~100mM、1mM~50mM、5mM~30mM、又は5mM~20mMの範囲の量で添加することができる。
【0125】
精製プロセス中に使用される適切な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、DMSO、及びDMFなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルが溶液に添加される。適切な溶媒は、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上の量で添加することができる。適切な溶媒は、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下の量で添加することができる。溶媒は、10重量%~90重量%、20重量%~80重量%、30重量%~70重量%、又は10重量%~50重量%の範囲の量で添加することができる。
【0126】
標的とリガンドとの間の電荷反発によって固定化塩基から標的分子を溶出させるために、異なる溶媒又はより高い導電率の緩衝液を使用することができる。
【0127】
マルチモーダル媒体カチオン交換クロマトグラフィーを使用して標的分子を分離又は精製する場合、分子をプロトン化された状態に維持するために、溶液のpHが標的分子のpKa未満に留まるように、溶液のpHを監視及び制御することができる。また、標的の分解を防止するためにpHを閾値よりも高く維持することもでき、これはリガンドが負に帯電した状態を維持するためにマルチモーダルリガンドのpKaよりも上である。適切なpH範囲の例には、保護アルコールの有無にかかわらず、シチジン及びゲムシタビンのpH1~3が含まれる。
【0128】
マルチモーダル媒体のカチオン交換リガンドと結合した分子は、例えば導電率を上げ、カチオン交換リガンドと標的分子との間の静電引力をスクリーニングすることによって溶出させることができる。一実施形態では、溶出は、標的分子中のアミンのpKaを超えるpHに変更し、標的分子内に中性電荷を形成し、それにより電荷相互作用を減少させ、溶出を誘発することによって行うことができる。異なる標的分子(又は標的分子と他の分子)は、直線勾配溶出又は段階的アイソクラティック溶出を使用して溶出することができる。
【0129】
マルチモーダル媒体アニオン交換クロマトグラフィーを使用して標的分子を分離又は精製する場合、分子を脱プロトン化状態に維持するために、溶液のpHが標的分子のpKaを超えたままになるように溶液のpHを監視及び制御することができる。また、標的の分解を防止するためにpHを閾値よりも低く維持することもでき、これはリガンドが正に帯電した状態を維持するためにマルチモーダルリガンドのpKaよりも下でもある。適切なpH範囲の例には、アデノシン一リン酸精製についてのpH3~10が含まれる。
【0130】
マルチモーダル媒体のアニオン交換リガンドと結合した分子は、例えば、導電率を上げ、カチオン交換リガンドと標的分子の間の静電引力をスクリーニングすることによって溶出させることができる。一実施形態では、溶出は、標的分子中のpKaよりも低いpHに変更して電荷相互作用を減少させ、溶出を誘発することによって行うことができる。異なる標的分子(又は標的分子と他の分子)は、直線勾配溶出又は段階的アイソクラティック溶出を使用して溶出することができる。
【0131】
マルチモーダル媒体を製造するために使用される基材は、任意の適切な材料であってよい。いくつかの実施形態では、マルチモーダル媒体は、膜、樹脂、モノリス、ヒドロゲル、及び繊維などであるか、又はそれらを含む。一実施形態では、マルチモーダル媒体は、膜であるか、又は膜を含む。一実施形態では、マルチモーダル媒体は、不織布繊維質基材であるか、又は不織布繊維質基材を含む。
【0132】
一実施形態によれば、マルチモーダル媒体は、速い流速で標的分子を精製するために使用することができる。例えば、マルチモーダル媒体は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間で標的分子を精製するために使用することができる。滞留時間は分離装置の大きさにある程度依存し、小さな装置では滞留時間が1秒以下ほどに短い場合もある。滞留時間に望ましい下限はないが、実際には滞留時間は0.1秒以上である。マルチモーダル媒体は、膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置として配置することができる。膜クロマトグラフィーカラム、膜クロマトグラフィーカセット、又は他の膜クロマトグラフィー装置は、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、又は6秒以下の滞留時間を提供することができる。一実施形態によれば、膜に基づく精製装置を使用することにより、生産性を大幅に向上させることができる。
【0133】
例示的な実施形態
以下は、本開示による例示的な実施形態の非限定的なリストである。
【0134】
実施形態1は、膜と;膜上に固定化された複数のリガンドであって、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせを含む複数のリガンドと;を含む分離媒体である。
【0135】
実施形態2は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、それらの誘導体及び類似体、並びにそれらの組み合わせを含む標的分子を反応混合物から分離するように構成されている、実施形態1の分離媒体である。
【0136】
実施形態3は、有機溶媒と共に使用するように構成されている、実施形態1又は2の分離媒体である。
【0137】
実施形態4は、複数のリガンドが、隣接するアミン間に1~18個の炭素を含む脂肪族ジアミン又はトリアミンを含むアニオン交換リガンドを含む、実施形態1~3のいずれか1つの分離媒体である。
【0138】
実施形態5は、アニオン交換リガンドが、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態4の分離媒体である。
【0139】
実施形態6は、複数のリガンドが、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むカチオン交換リガンドを含む、実施形態1~5のいずれか1つの分離媒体である。
【0140】
実施形態7は、カチオン交換リガンドが、アミノ基と酸又はスルホネート基との間に1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのスペーサーを含むアミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、3-アミノ-1-エチルスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態6の分離媒体である。
【0141】
実施形態8は、複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、及び疎水性相互作用リガンドのうちの2つ以上を含む、実施形態1~7のいずれか1つの分離媒体である。
【0142】
実施形態9は、複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、実施形態1~8のいずれか1つの分離媒体である。
【0143】
実施形態10は、複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、実施形態9の分離媒体である。
【0144】
実施形態11は、複数のリガンドが、式(I):
Fh-Sp-Sg (I)
(式中、Fhは官能基ハンドルであり、Spはスペーサーであり、Sgは官能性分離基である)
を有するリガンドから形成され、
官能基ハンドルが、アミン;アルコール;活性化アルコール;エポキシド;イソシアネート;アルケン;アルキン;シクロアルケン;シクロオクチン;チオール;ジスルフィド;アジド;チオイソシアネート;N-ヒドロキシスクシンイミド;マレイミド;活性化エステル;及び活性化カルボン酸から選択され、
スペーサーが、任意選択的には炭素鎖に沿った1つ以上のエーテル、エステル、ベンジル、フェニル、又はアミドで置換されていてもよい、長さがC1~C18、C1~C10、C1~C6、C1~C4、C1~C3、又はC2~C4の炭素鎖であり、
官能性分離基が、カチオン交換分離基、アニオン交換分離基、疎水性分離基、又は親硫黄性分離基である、
実施形態1~10の分離媒体である。
【0145】
実施形態12は、官能性分離基が、酸、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、カルボキシレート、スルホネート、又はホスフェートを含む、実施形態11の分離媒体である。
【0146】
実施形態13は、官能性分離基が、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アミン、又はそれらの組み合わせを含み、任意選択的には、官能基ハンドルが、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アミンを含み、隣接するアミンが、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、1~4個の炭素、又は2~4個の炭素の脂肪族炭素鎖によって隔てられている、実施形態11の分離媒体である。
【0147】
実施形態14は、官能性分離基が、2個以上の炭素の長さを有する脂肪族鎖(任意選択的にはブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシル)、ベンジル、フェニル、フェノール、ピリジン、ボロン酸、分岐ポリマー(任意選択的にはポリプロピレングリコール)、硫黄含有親硫黄性リガンド(任意選択的にはプロパンチオール、2-ブタンチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、オクタンチオール、ベンジルメルカプタン、2-メルカプトピリジン、チオフェノール、1,2-エタンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、若しくは2-フェニルエタンチオール)、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態11の分離媒体である。
【0148】
実施形態15は、官能基ハンドルがチオールを含み、官能性分離基が、酸、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、カルボキシレート、スルホネート、又はホスフェートを含む、実施形態11の分離媒体である。
【0149】
実施形態16は、ハウジングと;ハウジング内に配置された分離媒体とを含む分離装置であって、分離媒体が、膜と;膜上に固定化された複数のリガンドとを含み、複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせを含む、分離装置である。
【0150】
実施形態17は、ハウジングがカセット又はカラムを含む、実施形態16の分離装置である。
【0151】
実施形態18は、反応混合物から核酸塩基を含む標的分子を分離するように分離媒体が構成されている、実施形態16又は17の分離装置である。
【0152】
実施形態19は、分離媒体が有機溶媒と共に使用するように構成されている、実施形態16~18のいずれか1つの分離装置である。
【0153】
実施形態20は、複数のリガンドが、隣接するアミン間に1~18個の炭素を含む脂肪族ジアミン又はトリアミンを含むアニオン交換リガンドを含む、実施形態16~19のいずれか1つの分離装置である。
【0154】
実施形態21は、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジメチルプロピレンジアミン、N,N-ジエチルプロピレンジアミン、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態20の分離装置である。
【0155】
実施形態22は、複数のリガンドが、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むカチオン交換リガンドを含む、実施形態16~21のいずれか1つの分離装置である。
【0156】
実施形態23は、カチオン交換リガンドが、アミノ基と酸又はスルホネート基との間に1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、又は2~4個の炭素の長さのスペーサーを含むアミノ安息香酸、アミノ二酢酸、アミノプロパン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、3-アミノ-1-エチルスルホン酸、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態22の分離装置である。
【0157】
実施形態24は、複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、親水性リガンド、及び疎水性相互作用リガンドのうちの2つ以上を含む、実施形態16~23のいずれか1つの分離装置である。
【0158】
実施形態25は、複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、実施形態16~24のいずれか1つの分離装置である。
【0159】
実施形態26は、複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、実施形態25の分離装置である。
【0160】
実施形態27は、複数のリガンドが、式(I):
Fh-Sp-Sg (I)
(式中、Fhは官能基ハンドルであり、Spはスペーサーであり、Sgは官能性分離基である)
を有するリガンドから形成され、
官能基ハンドルが、アミン;アルコール;活性化アルコール;エポキシド;イソシアネート;アルケン;アルキン;シクロアルケン;シクロオクチン;チオール;ジスルフィド;アジド;チオイソシアネート;N-ヒドロキシスクシンイミド;マレイミド;活性化エステル;及び活性化カルボン酸から選択され、
スペーサーが、任意選択的には炭素鎖に沿った1つ以上のエーテル、エステル、ベンジル、フェニル、又はアミドで置換されていてもよい、長さがC1~C18、C1~C10、C1~C6、C1~C4、C1~C3、又はC2~C4の炭素鎖であり、
官能性分離基が、カチオン交換分離基、アニオン交換分離基、疎水性分離基、又は親硫黄性分離基である、
実施形態16~26の分離装置である。
【0161】
実施形態28は、官能性分離基が、酸、スルホン酸、又はホスフェートを含む、実施形態27の分離装置である。
【0162】
実施形態29は、官能性分離基が、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アミン、又はそれらの組み合わせを含み、任意選択的には、官能基ハンドルが、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アミンを含み、隣接するアミンが、1~18個の炭素、1~10個の炭素、1~6個の炭素、1~4個の炭素、又は2~4個の炭素の脂肪族炭素鎖によって隔てられている、実施形態27の分離装置である。
【0163】
実施形態30は、官能性分離基が、2個以上の炭素の長さを有する脂肪族鎖(任意選択的にはブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシル)、ベンジル、フェニル、フェノール、ピリジン、ボロン酸、分岐ポリマー(任意選択的にはポリプロピレングリコール)、硫黄含有親硫黄性リガンド(任意選択的にはプロパンチオール、2-ブタンチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、オクタンチオール、ベンジルメルカプタン、2-メルカプトピリジン、チオフェノール、1,2-エタンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、若しくは2-フェニルエタンチオール)、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態27の分離装置である。
【0164】
実施形態31は、官能基ハンドルがチオールを含み、官能性分離基が、酸、スルホン酸、又はホスフェートを含む、実施形態27の分離装置である。
【0165】
実施形態32は、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、又はその類似体若しくは誘導体を含む標的分子を含む溶液を膜クロマトグラフィー装置に通すことを含む、標的分子の精製方法であって、膜クロマトグラフィー装置が、ハウジングと;ハウジング内に配置された分離媒体とを含み、分離媒体が、膜と;膜上に固定化された複数のリガンドとを含み、複数のリガンドが、アニオン交換リガンド、カチオン交換リガンド、親硫黄性リガンド、疎水性相互作用リガンド、親水性リガンド、又はそれらの組み合わせを含む、方法である。
【0166】
実施形態33は、標的分子の合成後に反応混合物を含む溶液から標的分子が精製される、実施形態32の方法である。
【0167】
実施形態34は、分離媒体がアニオン交換膜を含む、実施形態32又は33の方法である。
【0168】
実施形態35は、膜クロマトグラフィー装置内の溶液の滞留時間が60秒以下である、実施形態32~34のいずれか1つの方法である。
【0169】
実施形態36は、標的分子がヌクレオチド又は核酸である、実施形態32~35のいずれか1つの方法である。
【0170】
実施形態37は、分離媒体が親硫黄性カチオン交換膜を含む、実施形態32~36のいずれか1つの方法である。
【0171】
実施形態38は、親硫黄性カチオン交換膜が、親硫黄性官能基を有するカチオン交換リガンドを含む、実施形態32~37のいずれか1つの方法である。
【0172】
実施形態39は、溶液が有機溶媒を含む、実施形態32~38のいずれか1つの方法である。
【0173】
実施形態40は、複数のリガンドが、カチオン交換性官能基と親硫黄性官能基とを有するリガンドを含む、実施形態32~39のいずれか1つの方法である。
【0174】
実施形態41は、複数のリガンドが、メルカプト安息香酸、メルカプトスルホン酸、それらの塩、又はそれらの組み合わせを含み、好ましくは複数のリガンドが、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含む、実施形態32~40のいずれか1つの方法である。
【0175】
実施形態42は、分離媒体が実施形態1~15のいずれか1つによるものである、及び/又は分離装置が実施形態16~31のいずれか1つによるものである、実施形態32~41のいずれか1つの方法である。
【実施例】
【0176】
これらの実施例は、例示目的にすぎず、添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。実施例及び明細書の残りの部分における全ての部、パーセント割合、比などは、別段の明記がない限り重量基準である。
【0177】
様々なタイプの分離膜の性能を試験し、対照サンプルと比較して評価した。
【0178】
試験方法
10%破過時の動的結合容量(DBC10%)は、例えばCytiva AEKTA純粋高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)などの標準的なクロマトグラフィー法によって決定することができる。最初に、前記分離媒体をハウジングユニットに充填する。次いで、入れられた分離媒体をFPLCに接続する。次に、適切な波長のUVシグナルによって決定される標的の流出液濃度が供給濃度の10%に到達するまで、一定のカラム体積/分流速(CV/分)で供給材料を分離媒体に通す。最後に、FPLCシステム内の保持体積と分離媒体の体積に基づいて、DBC10%は以下の通りに計算される:
((10%破過-保持体積)×(供給液濃度))/(分離媒体の体積)=DBC10%(これは標的物質のmg/クロマトグラフィー媒体のmLとして表される)。
【0179】
サンプル試験
DBC10%は、上述した通りにクロマトグラフィーを使用して決定した。完全な結合-溶出クロマトグラフは、典型的には以下の4つのステップを含む:
ステップ1-平衡化:含まれている分離媒体を緩衝液Aで平衡化する。
ステップ2-ローディング:ローディング物質を、10%の破過が達成されるまで分離媒体を通して注入/ポンプ送液する。
ステップ3-洗浄:洗浄緩衝液を使用して媒体を洗浄する。洗浄緩衝液は、不純物の一部を洗い流すために単一の緩衝液又は複数の緩衝液であってよい。洗浄緩衝液には、緩衝液A又は異なる緩衝液B、或いは緩衝液A及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(C、D、E、Fなど)を含む緩衝液の組み合わせ、或いは緩衝液A及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(C、D、E、Fなど)の間の勾配遷移、或いは緩衝液A及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(C、D、E、Fなど)の組み合わせの間の勾配遷移が含まれ得る。
ステップ4-溶出:緩衝液Cを使用して、ローディング物質(標的及び不純物の一部など)を分離媒体から溶出する。溶出緩衝液には、緩衝液C又は異なる緩衝液B、或いは緩衝液C及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(A、D、E、Fなど)を含む緩衝液の組み合わせ、或いは緩衝液C及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(A、D、E、Fなど)の間の勾配遷移、或いは緩衝液C及び/又はB及び/又は追加の緩衝液(A、D、E、Fなど)の組み合わせの間の勾配遷移が含まれ得る。
【0180】
溶出液は、さらなる分析のために回収することができる。
【0181】
上記の4つの主要なステップに加えて、場合によっては、サイクルを再開する前に、ストリッピング及び/又は定置洗浄(CIP)ステップを行うこともできる。
【0182】
実施例1-AEX膜の作製
ジメチルスルホキシド(DMSO)10mLに溶解させたN,N-ジスクシイミジルカーボネート(DSC)300mgとトリエチルアミン(TEA)139μLとの溶液に、直径47mm、厚さ70μmの再生セルロース膜を40℃で16時間浸漬した。続いて、この膜を、DMSO 1mLあたり100μLのN,N-ジメチルエチレンジアミン(DMEDA)の溶液に室温で16時間入れた。最後に、膜をpH8.0の1MのTrisに16時間入れた。
【0183】
実施例2-親硫黄性CEX膜の作製
300mgのDSCと139μLのTEAとの溶液に、直径47mm、厚さ70μmの再生セルロース膜を40℃で16時間浸漬した。この膜を、10mLのDMSOに溶解させた300mgの3-メルカプトプロパンスルホン酸ナトリウムと0.5mLのTEAとの溶液に40℃で16時間浸漬した。最後に、膜をpH8.0の200mMのTrisに16時間入れた。
【0184】
実施例3-分離媒体のDBC
親硫黄性CEX分離媒体の動的結合容量を様々な流速で試験した。分離膜は実施例2に従って作製した。
【0185】
4層の24mmの円形分離膜をミニカラム(膜体積=0.1mL)に充填し、Cytiva AEKTA Pureに連結して動的結合容量を決定した。この実施例では、ローディング物質は、10mMリン酸、pH2.0中の0.8mg/mLのシチジンであった。シチジン溶液を、カラム体積/分(CV/分)で特定される様々な流速で、10%の破過まで膜に適用した。DBC
10%の結果を
図2にグラフで示す。
【0186】
図2から、流速が増加するとシチジンのDBC
10%が増加することが分かる。トランスカラム圧力(ΔC)圧力は110CV/分で0.06MPaであり、これは流速をさらに上げることができる可能性があることを示している。
【0187】
実施例4-有機緩衝液系を用いたシチジンの分離
有機緩衝系中でシチジンを分離するための親硫黄性CEX分離媒体の能力を試験した。分離膜は実施例2に従って作製した。2つの市販の製品、Marlborough,MAのCytivaから入手可能なHITRAP(登録商標)SP HPカチオン交換クロマトグラフィーカラムと、Natrix Separationsから入手可能なNATRIFLO(登録商標)HD-Sbカラムを比較サンプルとして使用した。HITRAP(登録商標)SP HPは樹脂ベースの強カチオン交換クロマトグラフィーカラム製品であり、NATRIFLO(登録商標)HD-Sbは疎水性相互作用基が強化されたヒドロゲルベースの強カチオン交換カラム製品である。
【0188】
結合-溶出クロマトグラフィー分離プロセスのために、8層の24mmの円形分離膜をポリプロピレンカラムハウジング(膜体積=0.2mL)に充填し、Cytiva AEKTA Pureに連結した。シチジンを、決定されたカラム体積/分流速(CV/分)で、10%の破過までロードした。分離プロセスでは表1に示す緩衝液のリストを使用した。
【0189】
【0190】
サンプルの分離膜、樹脂(HITRAP(登録商標)SP HP)、及びヒドロゲル(NATRIX(登録商標)HD-Sb)市販製品のクロマトグラムをそれぞれ
図3A、3B、3Cに示す。表2に、流速、DBC
10%、トランスカラム圧力(ΔC)を含む操作パラメータ及び出力がまとめられている。
【0191】
【0192】
カラムの結合容量が
図4で比較されている。分離膜は、表1の有機緩衝系を使用すると樹脂の結合容量の約2倍、ヒドロゲルの結合容量の約18倍の結合容量を有することが観察された。同じトランスカラム圧力では、分離媒体の流速は樹脂の流速よりも少なくとも20倍速い。
【0193】
実施例5-水性緩衝液系を用いたシチジンの分離
CEX分離樹脂が水性緩衝液系でシチジンを分離する能力を試験した。分離樹脂は、Cytivaから購入したHITRAP(登録商標)SP HP樹脂であった。
【0194】
完全な水系(2.48~1.99の範囲の様々なpHを持つ20mMのリン酸ナトリウム)で結合-溶出クロマトグラフィー分離プロセス行うために、1mLのHITRAP(登録商標)SP HP樹脂をCytiva AEKTA Pureに連結した。
【0195】
pH2.48又はpH1.99の溶液中の20mMリン酸ナトリウムに溶解したシチジンの結合-溶出プロファイルを
図5Aに示す。
【0196】
pH2.48でローディングした最初のサイクルでは、洗浄相のテールエンドで始まるブロード化したバイモーダルの溶出ピークが得られた。pH1.99の20mMリン酸ナトリウムを使用した
図5Aの結合-溶出プロファイルを
図5Bに示す。
【0197】
ローディングpHを2.48から1.99に下げると、pH2.48における結合-溶出サイクルで観察されるブロードなバイモーダルピークと比較して、溶出を単一のシャープな溶出ピークに分離できることが観察された。シチジン上のプロトン化アミンは酸性環境(低いpH)でより多く存在し、より高いpHで存在する脱プロトン化シチジンよりもCEXカラムへの吸着が強くなるという仮説が立てられる。樹脂を使用して精製を行うこともできたものの、精製は著しく遅い流速で行われたため、同じリガンドを用いた膜と比較してプロセス全体のクロマトグラフィーの生産性が低い。
【0198】
実施例6-DBC、及びAEXの回収
実施例1に従って、細孔径1μmのアニオン交換(AEX)分離媒体を調製した。8層の24mmの円形AEX膜をハウジングユニット(膜体積=0.2mL)に充填し、Cytiva AEKTA pureに連結して動的結合容量を測定した。この実施例では、ローディング物質は、平衡化緩衝液に溶解した0.25mg/mLのアデノシン-5’-一リン酸(AMP、96.98%)であった。AMPは、10%の破過に達するまで、異なるカラム体積/分流速(CV/分)でロードした。分離プロセスで使用した緩衝液のリストを表3に示す。
【0199】
【0200】
クロマトグラムの重ね合わせを
図6Aに示す。AEX分離媒体のDBC
10%及びAMP回収率を
図6Bに示す。
図6Bから、流速を増加させても前記AEX分離媒体の結合容量又はAMP回収率が低下しないことが分かる。
【0201】
実施例7-異なる導電率の緩衝液条件におけるAEXのDBC
8層の24mmの円形AEX膜をハウジングユニット(膜体積=0.2mL)に充填し、Cytiva AEKTA pureに連結して動的結合容量を決定した。膜は実施例1に従って作製した。この実施例では、供給液は、0、100mM、又は200mMのNaClを添加した平衡緩衝液中に0.25mg/mLのAMPを含むものであった。AMPは、10%の破過まで、異なるカラム体積/分流速(CV/分)でロードした。DBCを
図3に示す。分離プロセスで使用した緩衝液のリストを表4に示す。
【0202】
【0203】
異なる流速及び塩条件下におけるDBC
10%を
図7Aに示す。クロマトグラムの重ね合わせを
図7Bに示す。
図3から、各緩衝液条件において、流速を増加させても前記AEX分離媒体の結合容量は減少しないことが分かる。しかしながら、
図7Bに示されるように、塩濃度の増加により、前記AEX分離媒体の結合容量は大幅に減少する。10CV/mLでは、DBCは、塩の添加なしの38mg/mLから、200mMのNaClの添加での2mg/mLへと減少する。
【0204】
実施例8-有機緩衝系における様々なアルコール及びアミン保護を有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体中間体の分離
モノ及び/又はジ保護アルコール及び/又は保護アミンの組み合わせを有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体と、過剰の保護剤とを含む有機溶媒中の混合物(表3に記載の平衡化緩衝液で50倍に希釈)から、脱保護されたアミンを有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体中間体を分離するための、親硫黄性-CEX分離媒体の能力を試験した。分離膜は実施例2に従って作製した。
【0205】
8層の24mmの円形分離膜を膜ハウジング(膜体積=0.2mL)に充填し、結合-溶出クロマトグラフィー分離プロセスのためにCytiva AEKTA Pureに連結した。モノ及び/若しくはジ保護アルコール並びに/又は保護アミンと過剰の保護剤との組み合わせと、ジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体との混合物を有機溶媒中に含むサンプル(表3に記載の平衡化緩衝液で50倍に希釈)を、10%の破過に到達するまで、決定されたカラム体積/分流速(CV/分)でロードした。表5に列挙した緩衝液を分離プロセスで使用した。
【0206】
【0207】
このプロセスを10回繰り返し、それぞれのクロマトグラムを
図8Aで重ね合わせた。
【0208】
結合-溶出精製サイクルは実行間で一貫していることが分かった。5回の実行ごとにサンプルを採取し、NANODROP(商標)Lite UV-Vis分光光度計(Thermo Scientificから入手可能)を使用して260nmにおけるUV吸光度により濃度を評価した。収率は変動係数5.17%で一貫していることが分かった。
【0209】
薄層クロマトグラフィー(TLC)分析のために供給液と溶出液のサンプルも採取した。TLCプレートの写真を
図8Bに示す。左側が供給液サンプル、右側が溶出液サンプルである。
図8Bに示されているように、モノアルコール保護(下)、ジアルコール保護(中)、及びトリ(上)保護を有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体を表す粗供給液(左)中の3つの種が、供給液中のジ保護種のバンドと同じ位置にある溶出液(右)中の濃縮されたジ保護種の単一バンドへと減少した。このことは、部分的に有機溶媒系でのCEX精製のためのピリミジン上のアミンペンダント基の利用の成功を示唆している。ここでのトリ保護種とは、ジ保護アルコールと保護アミンとを有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体を指す。プロトン化されたアミンは、アミンが保護されていない保護なしのアルコール、モノ保護アルコール、及びジ保護アルコールの任意の組み合わせでのみ存在し、それにより保護されたアミンを持つ他のバリアントよりもCEXカラムに強く引き寄せられるという仮説が立てられる。アミンが保護された分子では、ペンダントアミンはプロトン化できないため、CEXメカニズムによるカラムへの吸着が非常に弱くなる。
【0210】
実施例9-比較試験
モノ及び/又はジ保護アルコール及び/又は保護アミンの組み合わせを有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体と、過剰の保護剤とを含む有機溶媒中の混合物(表3に記載の平衡化緩衝液で50倍に希釈)からの、脱保護されたアミンを有するジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体中間体の分離を、実施例2に従って作製したカチオン交換膜を使用して試験し、HITRAP(登録商標)SP HPカチオン交換樹脂カラムを試験した。
【0211】
試験は1mL/分の流速で行い、処理時間は12分であった。溶液は低導電率エタノール/リン酸塩混合物(低導電率)で希釈し、カラムは1MのNaCl(高導電率)で溶出した。
【0212】
樹脂カラムの樹脂体積は1mLであり、推定結合容量は8mg/mLであった。予測される大スケールでの滞留時間は、1サイクルあたり120分以上である。結合-溶出データを
図9Aに示す。
【0213】
膜カラムの媒体容量は0.1mLであり、推定結合容量は80mg/mLであった。予測される大スケールでの滞留時間は、1サイクルあたり約24分である。結合-溶出データを
図9Bに示す。
【0214】
両方のカラムからの結合-溶出データを
図9Cに重ねて合わせて示す。
【0215】
樹脂を使用して精製を行うこともできたが、流速が著しく遅いため、膜を用いて行った分離と比較して、プロセス全体のクロマトグラフィーの生産性が低くなった。
【0216】
HPLCにより純度を比較すると、樹脂を使用した精製よりも膜を使用した精製の方がわずかに純度の高い溶出液が得られた。
図9Dに、樹脂を用いて行った精製と膜を用いて行った精製の溶出液プールの純度を示すHPLCクロマトグラムを示す。さらに、溶出液の回転蒸発により、有機溶媒と保護剤を過剰に含む供給液から、ジ保護アルコールと保護されていないアミンとを有する標的のジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体の結晶が得られることが観察された。有機溶媒と保護剤を過剰に含む未精製の原料を回転蒸発させても結晶生成物は得られず、このことは、保護されていないアミンを有する目的の標的ジフルオロ置換ヌクレオシド誘導体が他の成分から分離されていることを示唆している。
【0217】
溶出は、塩濃度の増加と併せて有機溶媒組成を増加させることによって行うことができる。これは、下流の乾燥前の精製、又は低水分条件で行われる後続の合成工程に特に有利である。有機溶媒を使用すると、溶媒の割合が多くなって除去及び回収がより容易になるため、回転蒸発工程が加速される可能性がある。さらに、塩の使用が減ると、後続の精製工程で除去する必要がある物質が少なくなる。溶出は、95%エタノール中5%という低さの1MのNaClを含む緩衝液(最終濃度50mM)で行うことに成功した。
【0218】
実施例10-MCPのDBC
樹脂ベースのメルカプトピリジン(MCP)(Cytiva PlasmidSelect)が水性緩衝液系でシチジンを分離する能力を試験した。20mMの酢酸ナトリウム、3Mの硫酸アンモニウム、pH4.1の中の濃度0.3125mg/mLのシチジンを、樹脂ベースのMCP(Cytiva PlasmidSelect)カラムに適用し、20mMのTris、pH7.0での溶出による結合を評価した。
【0219】
結合と溶出のサイクルを行うことに成功し、
図10に示すような溶出ピークが観察された。精製時間の短縮による生産性の向上は、膜ベースのMCPを用いた同様の精製の結果であろうと予想される。さらに、これらの条件及び同様の条件が他のHICカラムにも適用できると仮説が立てられる。
【0220】
本明細書で引用された全ての参考文献及び刊行物は、本開示と直接矛盾する可能性がある範囲を除き、その全体が参照により本開示に明示的に組み込まれる。特定の実施形態が本明細書で図示及び説明されているが、本開示の範囲から逸脱することなしに、様々な代替及び/又は同等の実施によって示された及び説明された特定の実施形態が置き換えられ得ることが当業者に理解されるであろう。本開示は、本明細書に記載の例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されることを意図しておらず、そのような実施例及び実施形態は例示としてのみ示されており、本開示の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されていることが理解されるべきである。
【国際調査報告】