(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】体積膨張に対応可能なアノードフリー固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240705BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240705BHJP
H01M 10/0583 20100101ALI20240705BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240705BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240705BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M10/0583
H01M50/107
H01M4/66 A
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500021
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 US2022035944
(87)【国際公開番号】W WO2023278839
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521240527
【氏名又は名称】テラワット テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】星 肇
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅継
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
【テーマコード(参考)】
5H011
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011AA03
5H017AA03
5H017AS10
5H017EE01
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ07
5H029CJ16
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ16
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA07
5H050FA13
5H050GA09
5H050GA18
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA16
(57)【要約】
【課題】電池セル内の膨張量を減らすことができる。
【解決方法】本明細書では、アノードフリー電池セルの様々な構成が提示される。電池セルは、電解質層とアノード集電体との間に配置されたリチウムイオン緩衝層を備え得る。リチウムイオンは、電池セルが充電されたとき、リチウムイオン緩衝層内に吸蔵され得るため、電池セル内の膨張量を減らすことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードフリー電池セルであって、
電解質層と、
リチウムイオン緩衝層であって、
前記電解質層が、カソードと前記リチウムイオン緩衝層との間に配置され、
前記リチウムイオン緩衝層が多孔質であり、
前記リチウムイオン緩衝層がリチウムイオンと化学的に反応せず、
前記リチウムイオン緩衝層が前記電解質層と直接接触する、リチウムイオン緩衝層と、
前記リチウムイオン緩衝層と直接接触するアノード集電体であって、
前記アノードフリー電池セルの充電によって、リチウムイオンが前記アノード集電体上に堆積され、前記リチウムイオン緩衝層に吸蔵される、アノード集電体と、を備える、
アノードフリー電池セル。
【請求項2】
前記アノードフリー電池セルが充電されたとき、前記アノード集電体に向かって移動するリチウムイオンの50%~95%が、前記リチウムイオン緩衝層によって吸蔵される、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項3】
前記アノードフリー電池セルが充電されたとき、前記アノード集電体に向かって移動するリチウムイオンの残りの5%~50%が、前記アノード集電体上に堆積される、又は前記電解質層と前記リチウムイオン緩衝層との間に堆積される、
請求項2に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項4】
前記アノード集電体が銅箔層である、
請求項3に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項5】
前記リチウムイオン緩衝層が、前記アノードフリー電池セルを巻いてゼリーロール型電池セルにするために柔軟である、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項6】
円筒状電池セルハウジングであって、カソード集電体層、前記カソード、前記電解質層、前記リチウムイオン緩衝層、及び前記アノード集電体が、まとめて巻かれてゼリーロール型アノードフリー電池セルを形成し、前記円筒状電池セルハウジング内に挿入される、円筒状電池セルハウジングを更に備える、
請求項3に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項7】
前記リチウムイオン緩衝層の厚さが20μm未満である、
請求項3に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項8】
前記リチウムイオン緩衝層がグラファイトである、
請求項5に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項9】
前記アノードフリー電池セルが、少なくとも1000ワット時毎リットルの出力密度を有する、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項10】
前記アノードフリー電池セルが、少なくとも400ワット時毎キログラムのエネルギー密度を有する、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項11】
前記アノードフリー電池セルが完全に充電されたとき、前記電解質層を通って前記アノード集電体に向かって移動した前記リチウムイオンの少なくとも80%が、前記リチウムイオン緩衝層内に吸蔵される、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項12】
前記リチウムイオン緩衝層の気孔率が70%超である、
請求項1に記載のアノードフリー電池セル。
【請求項13】
アノードフリー電池セルの製作方法であって、前記方法が、
アノード集電体上に直接リチウムイオン緩衝層を配置することであって、
前記リチウムイオン緩衝層が多孔質であり、
前記リチウムイオン緩衝層がリチウムイオンと化学的に反応せず、
リチウムイオンが、前記アノード集電体上に堆積され、前記アノードフリー電池セルが充電されたとき、前記リチウムイオン緩衝層内に吸蔵される、ことと、
前記リチウムイオン緩衝層に直接当接して電解質層を配置することと、を含む、
アノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項14】
前記アノードフリー電池セルが充電されたとき、前記アノード集電体に向かって移動するリチウムイオンの50%~95%が、前記リチウムイオン緩衝層によって吸蔵される、
請求項13に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項15】
前記アノードフリー電池セルが充電されたとき、前記アノード集電体に向かって移動するリチウムイオンの残りの5%~50%が、前記アノード集電体上に堆積される、又は前記電解質層と前記リチウムイオン緩衝層との間に堆積される、
請求項14に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項16】
前記リチウムイオン緩衝層が、前記アノードフリー電池セルを巻いてゼリーロール型電池セルにするのに十分に柔軟である、
請求項13に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項17】
前記アノード集電体、前記リチウムイオン緩衝層、前記電解質層、カソード、及びカソード集電体をまとめて巻くことによって円筒状ゼリーロール型電池を製作すること、を更に含む、
請求項13に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項18】
前記アノードフリー電池セルを充電することと、
前記アノード集電体に向かって移動するリチウムイオンを、前記リチウムイオン緩衝層を用いて吸蔵することと、を更に含む、
請求項13に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項19】
前記リチウムイオン緩衝層の厚さが20μm未満である、
請求項14に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【請求項20】
前記リチウムイオン緩衝層がグラファイトであり、前記アノード集電体が銅箔層である、
請求項15に記載のアノードフリー電池セルの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2021年7月2日に出願された「Volume-Expansion Accommodable Anode-Free Solid-State Battery」と題する米国非仮特許出願第17/366,410号の優先権の利益を主張するものであり、同米国非仮特許出願の内容は、参照により、その全体があらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
[0002] エネルギー密度及び/又は出力密度が高いアノードフリー固体電池セルは、充電されたときに膨張する傾向がある。充電中、リチウムイオンなどのイオンが、電池のカソードから電池の電解質を通って電池のアノードに移動する。アノードフリー固体電池では、アノード集電体が、実質的にアノード及び集電体の両方の役割を果たす。電池セルが充電されたとき、イオンが電池のアノード集電体に堆積し、かなりの量の体積を占め得る。これらのイオンがアノード集電体に堆積することにより、電池セルが膨張し得る。この膨張は、大きな問題の原因となり得る。例えば、膨張により電池セル内に圧力がかかり、電池セル内の構成要素が劣化する可能性があり得る。この膨張によって、時間と共にアノード集電体が劣化し、これによりアノード集電体が割れたり、それにひびが入ったり、又はそれがばらばらに壊れたりし、ひいては電池セルの性能が低下し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
[0003] 本明細書では、アノードフリー固体電池セルの様々な構成が提示される。電池セルは、カソード集電体層を備え得る。電池セルは、カソード集電体層と積層されるカソードを備え得る。電池セルは、固体電解質層を備え得る。電池セルは、リチウムイオン緩衝層を備え得る。固体電解質層は、カソードとリチウムイオン緩衝層との間に配置され得る。リチウムイオン緩衝層は多孔質であり得る。リチウムイオン緩衝層は固体電解質層と直接接触し得る。リチウムイオンは、アノードフリー固体電池セルが充電されたとき、リチウムイオン緩衝層内に吸蔵され得る。アノード集電体は、リチウムイオン緩衝層と直接接触し得る。
【0004】
[0004] このようなアノードフリー固体電池セルの実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。リチウムイオン緩衝層は、導電性であり、また、アノードフリー固体電池セルを巻いてゼリーロール型電池セルにするのに十分に柔軟であり得る。アノード集電体は銅箔層であり得る。円筒状電池セルハウジングが存在し得る。カソード集電体層、カソード、固体電解質層、リチウムイオン緩衝層、及びアノード集電体は、まとめて巻かれてゼリーロール型アノードフリー固体電池セルを形成し、円筒状電池セルハウジング内に挿入され得る。リチウムイオン緩衝層の厚さは20μm未満であり得る。リチウムイオン緩衝層はグラファイトであり得る。アノードフリー固体電池セルは、少なくとも1000ワット時毎リットルの出力密度を有し得る。アノードフリー固体電池セルは、少なくとも400ワット時毎キログラムのエネルギー密度を有し得る。アノードフリー固体電池セルが完全に充電されたとき、固体電解質層を通ってアノード集電体に向かって移動したリチウムイオンの少なくとも80%が、リチウムイオン緩衝層内に吸蔵され得る。リチウムイオン緩衝層の気孔率は70%超であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】[0005]リチウムイオンを構造的に吸蔵するための緩衝層を備える電池セルの一実施形態を示す。
【
図2】[0006]緩衝層がリチウム堆積を構築するときのリチウム堆積を示す充放電サイクルの一実施形態を示す。
【
図3】[0007]リチウムイオンを吸蔵する緩衝層を有する固体電池の断面における充放電サイクルの一実施形態を示す。
【
図4】[0008]膨張量の減少を呈する電池セルの製作方法の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[0009] アノードフリー固体電池セルの寿命を延ばすために、充電サイクル中に発生する膨張量が減らされることがある。膨張量を減らすことによって、電池セル内の構成要素の充放電サイクルを経たときの劣化速度を遅くすることができる。例えば、アノードフリー固体電池(solid-state battery、SSB)のアノード及びアノード集電体の両方に銅箔が使用される場合、銅箔は、1回以上のサイクルで電池セルが膨張したことに起因してひび割れしやすくなり得る。更に、ゼリーロール型電池では、電池セルの層がまとめて巻かれ得るため、ゼリーロール内で電池セル層が何度も繰り返され得ることから、膨張量が増大し得る。
【0007】
[0010] 「アノードフリー」とは、アノード集電体に引き付けられたイオンを受け取る専用のアノードホストを持たない電池セルをいう。より具体的には、ホストは、グラファイト、シリコン、リチウムチタン酸化物、及びリチウム金属など、リチウムイオンを収容及び受け入れることができる任意の材料を含む。「アノードフリー」アーキテクチャでは、リチウム金属(リチウムイオン電池の場合)は、充電中に、典型的には銅又はステンレス鋼であるアノード集電体上に直接核を形成する(又は堆積する)。放電中、リチウム金属は、リチウムイオンとしてアノード集電体から抜け出し、電池セルのカソードに移動する。このアノード集電体上でのリチウム金属の核形成によって、膨張が引き起こされ得る。
【0008】
[0011] 膨張量を減らすために、多孔質の緩衝層がアノード集電体と固体電解質との間に形成され得る。緩衝層は、導電性、化学的に不活性、イオン伝導性(緩衝層内の空隙が真空であっても)、柔軟性、薄層、及びリチウムイオンを受け入れるのに十分に多孔性であることを含む特性を有し得る。緩衝層は、電池セルが充電されたときにリチウムイオンのための「吸蔵場所」を提供する足場として機能することにより、リチウムイオン核生成に対応し得る。リチウムイオンの大部分がアノード集電体の上に直接堆積してアノード集電体と固体電解質との間で膨張を引き起こすのではなく、リチウムイオンは緩衝層の多孔質構造内に吸蔵され得る。緩衝層は、充電中にアノード集電体に向かって移動するリチウムイオンを収容するための空隙が存在するのに十分に多孔性であり得る。イオンがこれらの既存の空隙を埋めることによって、膨張が大幅に回避される。イオンがこれらの既存の空隙を埋めるとき、リチウム金属と緩衝層との間に化学結合は形成されない。放電中、リチウムイオンが固体電解質を通ってカソードに向かって移動すると、緩衝材料内の空隙が再び空になる。したがって、緩衝層が存在する場合、緩衝材料、ひいては電池セル全体の体積が充放電サイクルによって示す膨張は小さくなり得る。緩衝層は、最初の充電サイクル中にリチウムイオン伝導性副生成物がその場で形成されることに起因して、(緩衝層内の空隙が電解質で満たされていなくても)イオン伝導性であり得る。イオン伝導性は、形成プロセス後、又は最初の充放電サイクルを通して、かなり高くなる。副生成物は、リチウム化合物から構成され、イオン伝導性である固体電解質相間界面(solid-electrolyte interphase、SEI)であり得る。
【0009】
[0012] このような実施形態の更なる詳細を、図面を参照しながら提供する。
図1は、リチウムイオンを構造的に吸蔵するための緩衝層を備える電池セル100の一実施形態を示している。電池セル100は、固体電池セルであり得る。更に、電池セル100はアノードフリー電池セルであってよく、これは、アノード集電体が集電体及びアノードの両方の機能を果たすことを意味する。電池セル100は、カソード集電体101と、カソード層102と、固体電解質層103と、緩衝層104と、アノード集電体105とを備え得る。このような電池セルは、少なくとも1000ワット時毎リットルの出力密度及び/又は少なくとも400ワット時毎キログラムのエネルギー密度を有するように設計され得る。
【0010】
[0013] 電池セル100は、層101~105が一体に積層された後、「ゼリーロール」型電池セルへと巻かれることによって作られ得る。巻かれた後、電池セル100の巻かれた層を収容するために円筒状ハウジングが使用され得る。電池セル100は巻かれ得るため、層101~105は、層が巻かれることによって層101~105が損傷を受けないように柔軟である必要があり得る。更に、ゼリーロール型電池セルにおいて膨張を減らすことは、電池セルの層がまとめて巻かれることから、特に有利であり得、すなわち、膨張が発生しても、電池セルの層がゼリーロール内で何度も繰り返されるために複合的となり得るためである。
【0011】
[0014] カソード集電体101及びアノード集電体105は、導電性であり、電気化学的安定性を呈する材料であり得る。カソード集電体101は、導電性であり、カソード層102と反応せず、カソード層102の動作電位で安定な金属層であり得る。例えば、カソード集電体101はアルミニウムで構成され得る。典型的には、薄いアルミニウム箔が使用され得る。同様に、アノード集電体105は、導電性であり、緩衝層104と反応せず、アノード集電体105が(電池セルのアノードとして)機能する際の動作電位で安定な金属層であり得る。例えば、アノード集電体105は銅から構成され得る。典型的には、薄い銅箔が使用され得る。
【0012】
[0015] カソード層102は、カソード集電体101と直接接触し得る。カソード層102は、様々な種類のカソード材料であり得る。例えば、カソード層102は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(「NCA」、LiNiCoAlO2)であり得る。NCM622、NCM811、及びOLOなど、他のニッケル系カソードもまた可能であり得る。
【0013】
[0016] 固体電解質層103はカソード層102と直接接触し得る。固体電解質層103は、様々な形態の有機又は無機固体電解質であり得る。使用され得る可能な電解質としては、LPS、LSPSC、LGPS、LBSO、LATSPO、LISICON、LICGC、LAGP、LLZO、LZO、LAGTP、LiBETI、LiBOB、LiTf、LiTF、LLTO、LLZP、LTASP、LTZPが挙げられる。
【0014】
[0017] いくつかの実施形態では、固体電解質層103の代わりに半固体電解質が使用され得る。半固体電解質は、重合度の異なるポリマーを電解質と混合することによりゲル化される液体電解質を含み得る。例として、LiBOB[ビス(オキサラート)ホウ酸]、LiB[C2O4]2(リチウムビスオキサラートホウ酸)、LIODFB(リチウムジフルオロ(オキサラート)ホウ酸)、硫酸リチウム、Li2SO4、LiBF4、LiCF3O3S(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、又はLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)がリチウム塩として使用され得る。これらのリチウム塩は、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-DME(ジメトキシエタン)、2,2-DMP(ジメトキシプロパン)、1,1-DMP、2,2-DMB(ジメトキシブタン)、2,3-DMBなどの有機溶液に、一部の架橋ポリマーと混合してゲル状態としてとどまり得る様々なフッ化水素エーテル(HFE)と混合して0.5~10Mの濃度で溶解され得る。
【0015】
[0018] 固体電解質層103とアノード集電体105との間にはリチウムイオン緩衝層104(「緩衝層104」)が配置され得る。緩衝層104は、導電性であり、リチウム及びリチウムイオンと反応せず、柔軟であり、高い気孔率を有し得る。緩衝層104の厚さは100nm~30μmであり得る。いくつかの実施形態では、緩衝層104の好ましい厚さは5μmであり得る。具体的には、緩衝層104の厚さは、電池セル100の体積又は重量を著しく増大させないように選択され得る。具体的には、緩衝層104が厚いほど、電池セル100のエネルギー及び出力密度は低くなり得る。したがって、緩衝層104の厚さは、エネルギー/出力密度と膨張を回避する能力とのバランスが取れるように選択され得る。
【0016】
[0019] 緩衝層104は、最小限のインターカレーション能力を持つ炭素足場であり得る。緩衝層バルクは、導電性であるが、イオン伝導性ではない。しかしながら、緩衝層104の表面はイオン伝導性であってもよく、その上に固体電解質又はゲル化電解質のいずれかが、例えばナノメートルから数マイクロメートルのオーダーで薄く覆われる。最初の充放電プロセスにおいて、リチウムイオンは緩衝層の表面からアノード集電体105まで輸送され、次いで堆積し、これにより緩衝層104の空隙を埋める。このプロセスにより、充放電プロセスにおけるカソードとアノードとの間のリチウムイオン輸送を確保しながら、空隙を体積膨張の対応部として利用することができる。最初の放電サイクルの後、緩衝層の表面はリチウムイオン導電性副生成物、すなわち固体電解質相間界面(SEI)によって覆われ、これにより、2回目の充放電サイクル以降、リチウムイオンは緩衝層上のSEIを通って(銅)集電体へより円滑に輸送され得る。このプロセスにより、緩衝層を通ってもリチウムイオンの輸送が確保される。
【0017】
[0020] 緩衝層104の厚さを求めるために、まず、予想されるリチウム堆積量が求められ得る。例えば、4mAh/cm2の容量は20μmのリチウムの堆積に相当する。よって、カソードが4mAh/cm2の容量を有する場合、アノード集電体に堆積されると予想されるリチウムの量は20μmである。20μmのリチウムの堆積に対応する緩衝層を作成するには、式1を用いることができる。
VB=P*TB (式1)
【0018】
[0021] 式1において、VBは緩衝層の体積を表し、Pは気孔率を表し、TBは厚さを表す。したがって、80%の気孔率を有する25μmの厚さの緩衝層により、ほとんど又はまったく膨張することなく、20μmのリチウムの堆積を緩衝層に吸蔵させることができる。
【0019】
[0022] 緩衝層104は、5%~90%などの高い気孔率を有し得る。いくつかの実施形態では、気孔率は70%超であり得る。気孔率は、使用される炭素材料の密度、スラリー固形分濃度、カレンダー圧力、使用される炭素材料のフィーチャサイズ分布、スラリー組成(炭素とバインダとの比率)などによって制御され得る。緩衝層104内の空隙は、充電中にアノード集電体105に移動するリチウムイオンを収容するのを助け得る。すなわち、リチウムイオンは、電池セル100が充電されるとき及び充電されたときに緩衝層104内の空隙を満たす。好ましくは、充電中にアノード集電体105に向かって移動するリチウムイオンの50%~95%が緩衝層104内にとどまる。残りの5%~50%又は5%~50%未満は、緩衝層104とアノード集電体105との間に堆積する、又は固体電解質層103と緩衝層104との間に存在若しくは堆積する。
【0020】
[0023] 緩衝層104は、電池セル100がゼリーロール状に巻かれるとき、緩衝層104への損傷がまったく、又は限定的にしか生じないように、十分に柔軟であり得る。具体的には、アノード集電体105の材料(例えば、銅)と緩衝層104との間の強力な電気的及び物理的界面が存在し続ける必要がある。
【0021】
[0024] 十分なレベルの気孔率、導電性、柔軟性、及び銅との界面形成能力を有する材料は、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、及びケッチェンブラック(KB)のうちの1つ以上を含み得る。これらの材料は、SBR-CMC、LiPAA、PvDFなどのバインダによって結合され得る。炭素は、繊維の形態(すなわち、炭素繊維)又はフレーク形態であってよい。他の形態の炭素又は上記のような材料であれば他の材料も、緩衝層104として使用され得る。電池セル100が製造されたとき、緩衝層104はアノード集電体105上に堆積され得る。例えば、緩衝層104は、リチウムの堆積に対応するのに十分な大きさの空隙を形成するために、グラフェン、CB、AB、及びKBの混合物であり得る。更に、グラフェン表面でのリチウム拡散は、Cレート性能の向上を助け得る。
【0022】
[0025]
図2は、緩衝層がアノード集電体に当接して存在する場合のリチウムイオンの吸蔵を示す充放電サイクルの実施形態200を示している。実施形態200では、電池セル100の一部のみが示されている。実施形態200では、アノード集電体105及び緩衝層104の高倍率拡大表現が示されている。
【0023】
[0026] 未充電の状態210では、緩衝層104は、緩衝層104の粒子により形成される空隙内にリチウムイオンが、あったとしてもわずかしかない状態で存在する。この図の実施形態では、緩衝層104の厚さは、厚さ211により示されるように約200nmである。充電が行われると、充電状態220に示すように、リチウムイオン201が緩衝層104の粒子により形成された空隙を満たす。したがって、リチウムイオンは依然としてアノード集電体105のみに直接堆積しているが、リチウムイオンの体積は、ほとんどが緩衝層104の粒子により形成された空隙内に存在する。図の実施形態では、リチウムイオンの堆積に起因してわずかな量の膨張が発生している。厚さ221は厚さ211より約3%~10%大きい。これはリチウムイオンの量が緩衝層104の空隙内の空間の量を超えるためである。他の実施形態では、緩衝層104は、電池セルが完全に充電されたときにリチウムイオンを完全に収容する、又はほぼ完全に収容するように、より厚くされ得る。
【0024】
[0027] 放電後、リチウムイオンはアノード集電体105からカソードに向かって移動する。リチウムイオンの堆積による膨張が元に戻り、緩衝層104の厚さは概ね厚さ211まで戻る。緩衝層104が存在する場合の膨張量は、緩衝層104が存在せず、多孔質のバッファが存在しない状態でリチウムイオンがアノード集電体105に堆積し得る場合より著しく少なくなり得る。
【0025】
[0028]
図3は、リチウムイオンを吸蔵するための緩衝層を有する固体電池の断面における充放電サイクルの実施形態300を示している。
【0026】
[0029] 放電状態310では、緩衝層104は、緩衝層104の粒子により形成された空隙内にリチウムイオンが、あったとしてもわずかしかない状態で存在する。厚さ302は、リチウムイオンの堆積によるいかなる膨張も含まない基本厚さを表す。同様に、厚さ301は、膨張が存在しないときの電池セルの基本厚さを表す。充電が行われると、充電状態320に示すように、リチウムイオンは緩衝層の粒子により形成された空隙を満たし、これにより緩衝層104及びリチウムの堆積を含む層330が作られる。厚さ303は、リチウムの堆積がいくらかの量の膨張を引き起こすことに起因して、厚さ302よりわずかに大きくなり得る。厚さ303は厚さ302より約3%~10%大きくなり得る。これはリチウムイオンの量が緩衝層104の空隙内の空間の量を超えるためである。同様に、厚さ302は厚さ301よりわずかに大きくなり得る。これはリチウムイオンの量が緩衝層104の空隙内の空間の量を超えるためである。他の実施形態では、緩衝層104は、電池セルが完全に充電されたときにリチウムイオンを完全に収容する、又はほぼ完全に収容するように、より厚くされ作られ得る。
【0027】
[0030] 放電中、リチウムイオンはアノード集電体105から固体電解質層103を通ってカソード層102に移動する。リチウムイオンの全部又はほとんどが移動すると、放電状態310が再び存在し得る。リチウムイオンの堆積による膨張が元に戻り、緩衝層104の厚さは概ね厚さ302まで戻る。同様に、電池セルの厚さは厚さ301に戻り得る。緩衝層104が存在する場合の膨張量は、緩衝層104が存在せず、多孔質のバッファが存在しない状態でリチウムイオンがアノード集電体105に堆積し得る場合より著しく少なくなり得る。
【0028】
[0031] SSBのアノード集電体に当接するイオン(例えば、リチウムイオン)緩衝層を有する電池セルを製作するために様々な方法が実行され得る。
図4は、充電されたときの電池セルの膨張を減少させるための方法400の一実施形態を示している。ブロック405において、アノード集電体層が製作され得る。このアノード集電体層は、銅箔、又はNi、Fe、Ni+Fe、炭素繊維シートなどの他の何らかの形態の導電性の柔軟な層であってよい。SSBは、「アノードフリー」SSBであってよく、したがって、アノード集電体はアノード及びアノード集電体の両方として機能し得る。ブロック405において、緩衝層はアノード集電体上に製作され得る。例えば、炭素粒子がアノード集電体箔上に堆積され得る。炭素層の厚さは100nm~30μmであり得る。
【0029】
[0032] ブロック410において、固体電解質層が緩衝層上に配置又は堆積され得る。ブロック415において、カソード及びカソード集電体が固体電解質層上に配置又は堆積され得る。いくつかの実施形態では、アノード集電体と緩衝層とを含む第1の層群が製作され得る。カソード集電体、カソード、及び固体電解質層を含む第2の層群が製作され得る。次いで、2つの層群は、一緒に積層され得る。他の実施形態では、固体電解質層は、第2の層群ではなく第1の層群に含められてもよいし、代わりに電池セルが組み立てられるときに2つの群間に積層されてもよい。
【0030】
[0033] ブロック420において、上記の層をまとめて巻くことによって、円筒状ゼリーロール型固体電池が製作され得る。結果として得られる円筒状ゼリーロールは、保存のために円筒状キャニスタなどの円筒状ハウジング内に挿入され得る。集電体につながる電気リード線は電池セルの端子に接続され得る。
【0031】
[0034] ブロック425において、電池セルが充電され得る。充電の結果、リチウムイオンはカソードからアノード集電体に向かって移動する。ブロック430において、イオンはアノード集電体に直接隣接する緩衝層の空隙内に吸蔵される。既に存在する層の空隙はイオンにより満たされているため、電池の膨張は、緩衝層が存在しない場合より著しく少なくなり得る。
【0032】
[0035] ブロック435において、電池は放電され得る。放電により、イオンは固体電解質を通ってカソードに移動し得る。したがって、緩衝層内の空隙は再び空になり得る。ブロック425~435は、何度も繰り返され得る。例えば、このような電池セルは、電気自動車の電池モジュールの一部として組み込まれてよい。
【0033】
[0036] 一例として、ブロック405~420により製作された電池セルは、7559Ahで充電され得る。電池セルは、初期クーロン効率82.4%の場合に6229Ahで放電し得る。この電池では、約86%の半径方向の体積膨張が起こり得る。
【0034】
[0037] 上述の方法、システム、及びデバイスは例である。様々な構成は、様々な手順又は構成要素を適切に省き、置換し、又は追加してもよい。例えば、代替的な構成では、本方法は、記載されているものとは異なる順番で行われてよく、並びに/又は様々な段階を追加し、省き、及び/若しくは組み合わせてもよい。また、特定の構成に関して記載された特徴を、他の様々な構成で組み合わせてよい。構成の異なる態様及び要素を同様の仕方で組み合わせてもよい。また、技術は進歩するため、要素の多くは例であり、本開示又は特許請求項の範囲を限定するものではない。
【0035】
[0038] 説明は具体的な詳細を提示して、例示的な構成(実装を含む)をよく理解できるようにしている。しかしながら、構成はこれらの具体的な詳細事項がなくても実施されてよい。例えば、周知の回路、プロセス、アルゴリズム、構造、及び技法が、構成を不明瞭にしないようにするために、不必要な詳細を含めずに示されている。この説明は、例示的な構成を提供しているにすぎず、特許請求項の範囲、適用可能性、又は構成を制限するものではない。むしろ、構成に関する上述の説明は、当業者に対し、説明される技法を実施することを可能にする説明を提供する。本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、要素の機能及び構成において様々な変更がなされ得る。
【0036】
[0039] また、構成は、フロー図又はブロック図として描かれるプロセスとして説明され得る。各々は動作を順次のプロセスとして説明し得るが、動作の多くは並行して、又は同時に行うことができる。それに加えて、動作の順序は並べ直されてもよい。プロセスは、図面に含まれない追加のステップを有していてもよい。
【0037】
[0040] いくつかの例示的な構成を説明したが、本開示の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、代替的な構成、及び均等物が使用され得る。例えば、上述の要素はより大きなシステムの構成要素であってもよく、本発明の適用には他のルールを優先しても、又はそれ以外に変更してもよい。また、上述の要素を考慮する前、考慮しているとき、又は考慮した後にいくつかの工程が取られてもよい。
【国際調査報告】