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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】水性ビニルポリマー分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 43/04 20060101AFI20240705BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240705BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240705BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08K 5/25 20060101ALI20240705BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20240705BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240705BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C08L43/04
C09D201/00
C09D5/02
C08K5/00
C08K5/25
C08F8/00
C08F230/08
C08F290/06
C08F2/24 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500067
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022057148
(87)【国際公開番号】W WO2023280449
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184402.2
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518326445
【氏名又は名称】オルネクス ネザーランズ ビー.ヴイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーヘイゲン、ニコール
(72)【発明者】
【氏名】ファン ゴーカム、アー.ペー.エム.
(72)【発明者】
【氏名】メスタック、ダーク エミール ポーラ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J038
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J002BC041
4J002BC081
4J002BC091
4J002BE041
4J002BE051
4J002BF011
4J002BF031
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG071
4J002BH021
4J002BJ001
4J002BQ001
4J002EF066
4J002EF076
4J002EF116
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4J002FD146
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(57)【要約】
本発明は、水性ビニルポリマー分散体に関し、水性ビニルポリマー分散体は、モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物と、1つ以上の架橋剤(B)とを含み、前記α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、1つ以上の多官能性エチレン性不飽和モノマー(iii)と、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、モノマー(i)~(iv)とは異なるさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーとを含む。本発明はさらに、前記水性分散体を含むコーティング組成物、及び前記コーティング組成物を含むコーティングされた基材を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性非フッ素含有ビニルポリマー分散体であって、
・モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物と、
・1つ以上の架橋剤(B)と、
を含み、
前記α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、
・架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・モノマー(i)~(iv)とは異なるさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーと、
を含む、水性非フッ素含有ビニルポリマー分散体。
【請求項2】
前記モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)が、α,β-エチレン性不飽和モノマーの合計に対して、
・架橋性基を有する1.0~10.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する0.5~5.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・0.5~3.0重量%の、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・0.5~5.0重量%の、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
を含み、
100重量%までの残りは、モノマー(i)~(iv)とは異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーである、請求項1に記載のポリマー分散体。
【請求項3】
前記モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)が、
・1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
をさらに含む、請求項1又は2に記載のポリマー分散体。
【請求項4】
前記モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、α,β-エチレン性不飽和モノマーの合計に対して、
・架橋性基を有する1.0~10.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する0.5~5.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・0.5~3.0重量%の、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・0.5~5.0重量%の、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・0.1~10.0重量%の、1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・0.1~5重量%の、1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
を含み、
100重量%までの残りは、モノマー(i)~(iv)及び(vi)とは異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーである、請求項3に記載のポリマー分散体。
【請求項5】
前記α,β-エチレン性不飽和モノマーが再生可能な供給原料から得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項6】
前記非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーが再生可能な供給原料から得られ、前記モノマーの総炭素含有量の20重量%を超えるバイオ系炭素含有量を有し、前記バイオ系炭素含有量がASTM D 6866-20規格を使用して決定されるか、又は前記非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーがリサイクルされたモノマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項7】
・前記モノマー混合物(A1)のモノマー組成が、前記モノマー混合物(A2)のモノマー組成とは異なり、
・前記混合物(A1)の乳化重合モノマーのコポリマーと前記混合物(A2)の乳化重合モノマーのコポリマーとの間のガラス転移温度の差が、少なくとも20℃であり、
・前記モノマー混合物(A1)の乳化重合モノマーから、又は乳化重合モノマー混合物(A2)から得られるコポリマーの一方のガラス転移温度が、少なくとも25℃であり、他方のコポリマーのガラス転移温度がより低い、
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項8】
前記1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)の架橋性基が、-CO-R’、-CO-CH-CO-CH及びCHOH(式中、R’はH又はC(1~4)アルキルである)からなる群から選択される部分を含むペンダント基である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項9】
前記1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)のシラン基が、式-(CH-Si(OR)(式中、Rは4個までの炭素を有するアルキル基であり、nは0~3の整数である)である、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項10】
前記1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)が、2つ以上の(メタ)アクリル基及び/又はアリル基及び/又はビニル基を有するモノマーを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項11】
前記1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)が、構造
【化1】

(式中、RはC6~C22アルキル基であり、nは1~30であり、XはSO3であり、MはNa、K、Li、NH 、プロトン化アミン、又は第四級アミンである)
のアニオン性共重合性界面活性剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項12】
前記1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)が、モノカルボキシル官能性(メタ)アクリルモノマー、オレフィン性不飽和ジカルボキシル官能性モノマー、硫酸含有モノマー、スルホン酸含有モノマー、スルフィン酸含有モノマー、リン酸含有モノマー、ホスホン酸含有モノマー、ホスフィン酸含有モノマー及びこれらの混合物からなる群から選択され、酸基が、全体的又は部分的にアルカリ金属及び/又はアンモニウム塩に変換される、請求項3~11のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項13】
前記1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)が、アミノ、ウレイド又はN-複素環基を含む、請求項3~12のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項14】
1つ以上の架橋剤(B)を含み、前記1つ以上の架橋剤(B)に対する前記重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の重量比が10から500の間に含まれる、請求項1~13のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項15】
前記1つ以上の架橋剤(B)が、カルボン酸、アミノ、チオール、メチロール、エーテル化メチロール、イソシアナート、アルデヒド、及びヒドラジドからなる群から選択される少なくとも2つの反応性部分を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項16】
前記1つ以上の架橋剤(B)がアジピン酸ジヒドラジドである、請求項1又は15のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項17】
重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)及び1つ以上の架橋剤(B)を含む25から65重量%の間の混合物を含み、前記混合物が、
・ISO 13321による、40nmから200nmの間に含まれるZ平均粒径、
・5から60℃の間に含まれる最小フィルム形成温度、
を特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー分散体を調製するための方法であって、
・供給容器(FA1)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び供給容器(FA2)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を調製する工程と、
・モノマー混合物(A1)を重合反応器に供給し、モノマー混合物(A1)を共重合し、続いて供給容器(FA2)からのモノマー混合物(A2)を重合反応器内に供給し、コポリマー(A1)の存在下でモノマー混合物(A2)を共重合する工程、又は
・モノマー混合物(A2)を重合反応器に供給し、モノマー混合物(A2)を共重合し、続いて供給容器(FA1)からのモノマー混合物(A1)を重合反応器内に供給し、コポリマー(A2)の存在下でモノマー混合物(A1)を共重合する工程と、
を含む、方法。
【請求項19】
・供給容器(FA1)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び供給容器(FA2)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を調製する工程と、
・モノマー混合物(A1)を供給容器(FA1)から重合反応器に供給し、その間に、同時に又は遅延後に、モノマー混合物(A2)を供給容器(FA2)から前記供給容器(FA1)に供給し、その間に前記重合反応器内で前記モノマーを共重合する工程、又は
・モノマー混合物(A2)を供給容器(FA2)から重合反応器に供給し、その間に、同時に又は遅延後に、モノマー混合物(A1)を供給容器(FA1)から前記供給容器(FA2)に供給し、その間に前記重合反応器内で前記モノマーを共重合する工程と、
を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー分散体を調製するための方法。
【請求項20】
a)供給容器(FA1)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び供給容器(FA2)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を調製する工程と、
b)供給容器(FA1)からの5から10%の間のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)とラジカル開始剤とを、脱塩水中の共重合性界面活性剤を含む重合反応器中に供給し、その間に温度を50~100℃の範囲内に維持する工程と、
c)供給容器(FA1)からの残りの90~95%のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)と開始剤とを一定流量(RA1)で3から6時間の間に含まれる期間内に前記重合反応器に供給し、その間に、供給容器(FA1)に、同時に又は遅延後に、供給容器(FA2)からのモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を、好ましくは流量(RA1)と同一である一定流量(RA2)で3から6時間の間に含まれる期間内に供給し、その間に前記モノマー混合物(A1)及び(A2)のモノマーを前記重合反応器内で50~100℃の範囲内の温度で連続的に混合及び重合する工程と、
d)40~90℃の範囲内の温度で、好ましくはレドックス開始剤系の存在下で、少なくとも30分間重合を完了させる工程と、
e)中和剤の添加によってpHを7.5と9との間に含まれる値に調整する工程と、
f)前記1つ以上の架橋剤(B)を添加する工程と、
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の方法に従って調製された、段階的な組成を有する分散粒子を含むポリマー分散体であって、
・前記重合反応器へのモノマー供給開始時の前記重合α,β-エチレン性不飽和モノマーのガラス転移温度と前記重合反応器へのモノマー供給終了時の前記重合α,β-エチレン性不飽和モノマーのガラス転移温度との差が少なくとも20℃であり、
・前記分散粒子が、少なくとも25℃のガラス転移温度を有する重合α,β-エチレン性不飽和モノマーを含み、
・前記コポリマーからのガラス転移温度の転移が連続的に段階的である、
請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー分散体。
【請求項22】
請求項1~17又は21のいずれか一項に記載のポリマー分散体と、レベリング剤、レオロジー剤、ブロッキング防止剤、流動制御剤、平坦化剤、顔料湿潤及び分散剤、界面活性剤、紫外線(UV)吸収剤、UV光安定剤、腐食防止剤、増粘剤、可塑剤、充填剤及び顔料からなる群から選択される1つ以上の添加剤とを含む、コーティング組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の組成物でコーティングされた、無垢材、エンジニアードウッド、金属、ポリマー、ガラス、複合材料、コンクリート、及びセラミックからなる群から選択され、好ましくは木質基材である、基材。
【請求項24】
コーティングされた基材を製造するための方法であって、
・請求項22に記載のコーティング組成物を、ブラッシング、スプレーコーティング、ドローダウン、ロールコーティング、コイルコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、ディップコーティング、フローコーティング、インクジェット、及び真空コーティングからなる群から選択されるコーティング技術によって、100μm以下の乾燥コーティング厚を得るように調整されたコーティング厚で基材上に塗布する工程と、
・20から180℃の間に含まれる温度で、30秒から30分の間に含まれる期間、前記コーティングを硬化させる工程と、
を含む、方法。
【請求項25】
無垢材、エンジニアードウッド、金属、ポリマー、ガラス、複合材料、コンクリート、及びセラミックからなる群から選択される基材をコーティングするための、請求項22に記載のコーティング組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ビニルポリマー分散体、前記水性分散体の調製方法、及び広範囲の基材、特に木質基材上での塗布及び硬化のための前記分散体から調製された水系コーティング配合物に関し、得られたコーティングは、改善された耐化学性、耐汚染性及び耐ブロッキング性の組合せを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
エチレン性不飽和モノマーのラジカル開始される乳化共重合によって作製されたビニルポリマーの水性分散体は、当技術分野で公知である。
【0003】
欧州特許第0758364号及び国際公開第2012/140042号は、ポリマー粒子形態を改変し、自己架橋機構を導入することによって、フィルム硬度を低い最小フィルム形成温度(minimal film formation temperature、MFFT)と組み合わせるアクリル分散体を開示する。自己架橋は、フィルム形成が行われた後に多官能性アミン又はヒドラジド官能性架橋剤と反応し得る、ビニルポリマー骨格に組み込まれたカルボニル官能性モノマーの反応に基づく。カルボニル官能性モノマーの例は、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリラート及びジアセトン(メタ)アクリルアミドである。
【0004】
米国特許第5,139,882号は、良好なアルコール耐性を有するコーティングの製造に使用することができるビニルポリマー分散体を開示する。これらの分散体中のコポリマーは、いわゆるコア-シェル逐次重合技術に従って多相ポリマーとして合成される。より詳細には、これらのコア-シェル分散体では、主に疎水性モノマーが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマー並びに極性及び親水性のウレイド又はイミダゾール基を有するエチレン性不飽和モノマーと共重合される。それらは、0~10重量%、好ましくは0.1~5重量%に等しい量で分散ビニルポリマーに組み込まれる。米国特許第5,139,882号では、フィルム形成後に架橋するための架橋性基を有する共重合エチレン性不飽和モノマーは言及されていない。
【0005】
欧州特許第0927198号及び欧州特許第1125949号は、カルボニル官能性モノマー、カルボン酸官能性モノマー、及びウレイドモノマー又は第三級アミン官能性モノマーなどの窒素含有モノマーを有するビニルポリマー分散体を開示する。分散粒子は勾配形態を有し、これは、重合反応器に投入されるモノマーに段階的な組成変化があることを意味する。ビニルポリマー分散体は、均一な又はコア-シェル形態を有するビニルポリマー分散体と比較して優れた特性を有すると主張されている。多官能性モノマーを共重合することにより、ビニルポリマー粒子に少量のゲルを生成させることができる。欧州特許第0927198号では、従来の界面活性剤が使用されている。欧州特許第1125949号では、界面活性剤は、エチレン性不飽和を有する共重合性界面活性剤の使用により、ビニルポリマー骨格の一部である。
【0006】
米国特許第5,468,800号、欧州特許第0722477号及びドイツ特許第4439457号は、ポリアルデヒド又はポリアセタールの添加によって室温で架橋されたフィルムをもたらすラテックスの合成におけるウレイド官能性モノマーの使用を開示する。あるいは、共重合性アルデヒド又はマスクされたアルデヒドも同様に使用することができる。共重合性アルデヒドは、ラテックスの合成の過程でウレイドモノマーと組み合わされ、2つのラテックスの混合物の形態ではない。
【0007】
米国特許第6,605,359号は、ビニルポリマー、ヒドラジド及びシランを含むコーティング組成物を開示する。ビニルポリマーは、カルボキシル、ヒドロキシル、エポキシ、アミノ、ケトン、シラン、シラノール、及びアルキルアミノ官能基であり得る少なくとも1つの反応性官能基を有する。特定の実施形態では、ビニルポリマーは、水性分散体又は「ラテックス」の形態で使用される。米国特許第6,605,359号は、ラテックス中のビニルポリマー粒子の形態について記載していない。
【0008】
米国特許第6,107,391号は、室温で架橋可能であり、熱処理によって後架橋可能であるコーティングをもたらすことができる共反応性ラテックスをベースとする一成分系であって、それぞれモノマー組成物A及びモノマー組成物Bの水性乳化共重合によって得られる2つの粒子分散体(A)及び(B)の混合物からなり、
(a)RN-CO-NHR官能基を含み、Rがエチレン性不飽和基を含有し、R及びRが水素又はC~C18アルキル基であり、R-Rが場合により5員環を形成する-CH-CH-である少なくとも1つのフリーラジカル重合エチレン性不飽和モノマーが、モノマー組成物Aに入り、
(b)マスクされたアルデヒド官能基を含む少なくとも1つのフリーラジカル重合エチレン性不飽和モノマーが、モノマー組成物Bに入る、
系を開示する。
【0009】
カナダ特許第2,203,438号は、
A)異なるモノマー組成物の2つの時系列的に連続する工程におけるフリーラジカル水性乳化重合によって得られ、ウレイド基を含む分散ポリマーAと、
B)ポリアルデヒド化合物と、
を含有する水性ポリマー分散体を開示する。
分散ポリマーAは、重合組成物1を含む生成物混合物の存在下でモノマー組成物2を重合する前に、モノマー組成物1をモノマー組成物1に対して少なくとも90重量%の転化率まで重合することから得られる。組成物1及び2は両方とも、-RN-CO-NHR官能基を含む少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーを有する接着促進モノマーを含み、R及びRは両方とも水素若しくはC~C-アルキルであるか、又は両方は一緒になって、C~C-アルコキシ及び/若しくはヒドロキシルによって一置換又は二置換され得る架橋C~C-アルキレン基を形成する。
【0010】
先行技術の水性ビニルポリマー分散体を含む水系コーティング系の好ましい特性を疑問視することなく、現在の最新技術のコーティング系の耐汚染性及び耐化学性に対処する場合、依然として改善が必要である。
【0011】
中国特許第107700216号は、無機ナノ材料をフッ素化ポリアクリラートなどの有機高分子系に導入する、ナノ改変フッ素含有布地仕上げ剤の調製方法を開示する。この文献では、有機フッ素含有量は当該技術分野で公知の既存の方法と比較して低減されているが、調製された布地仕上げ剤は、布地要件の撥水性及び撥油性を維持しながら、依然として相当量のフッ素を含有する。フッ素化化合物は、それらの環境への影響のために望ましくない(フッ素化化合物は分解できない)ので、非フッ素含有水系コーティング系を追求することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の欠点を示さないコーティング組成物用の水性分散体を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の目的は、現在の最新技術のコーティング系と比較して、耐汚染性、耐化学性及び耐ブロッキング性が改善された水性ビニルポリマー分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
・モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物と、
・1つ以上の架橋剤(B)と、
を含み、
前記α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)が、
・架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・モノマー(i)~(iv)とは異なるさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーと、
を含む、水性ビニルポリマー分散体を開示する。
【0015】
水性ビニルポリマー分散体は0.0%のフッ素を含む。
【0016】
本発明の好ましい実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を開示する。
・モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、
・1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
をさらに含む。
・モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、α,β-エチレン性不飽和モノマーの合計に対して、
・架橋性基を有する1.0~10.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する0.5~5.0重量%の、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・0.5~3.0重量%の、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・0.5~5.0重量%の、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・0.1~10.0重量%の、1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・0.1~5重量%の、1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
を含み、
100重量%までの残りは、モノマー(i)~(iv)及び(vi)とは異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーである。
・α,β-エチレン性不飽和モノマーは、再生可能な供給原料から得られる。
・非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、再生可能な供給原料から得られるか、又はリサイクルされたモノマーであり、好ましくは、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは再生可能な供給原料から得られ、モノマーの総炭素含有量の20重量%を超えるバイオ系炭素含有量を有し、バイオ系炭素含有量は、ASTM D6866-20規格を使用して決定される。
・モノマー混合物(A1)のモノマー組成は、モノマー混合物(A2)のモノマー組成とは異なる。
・混合物(A1)の乳化重合モノマーのコポリマーと混合物(A2)の乳化重合モノマーのコポリマーとの間のガラス転移温度の差は、少なくとも20℃である。
・モノマー混合物(A1)の乳化重合モノマーから、又は乳化重合モノマー混合物(A2)から得られたコポリマーの一方のガラス転移温度は少なくとも25℃であり、他方のコポリマーのガラス転移温度はより低い。
・1つ以上の架橋剤(B)に対する重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の重量比は、10から500の間に含まれる。
・1つ以上の架橋剤(B)は、アジピン酸ジヒドラジドである。
【0017】
本発明はさらに、水性分散体の調製方法であって、
・供給容器(FA1)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び供給容器(FA2)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を調製する工程と、
・モノマー混合物(A1)を供給容器(FA1)から重合反応器に供給し、その間に、同時に又は遅延後に、モノマー混合物(A2)を供給容器(FA2)から供給容器(FA1)に供給し、その間に重合反応器内でモノマーを共重合する工程、又は
・モノマー混合物(A2)を供給容器(FA2)から重合反応器に供給し、その間に、同時に又は遅延後に、モノマー混合物(A1)を供給容器(FA1)から供給容器(FA2)に供給し、その間に重合反応器内でモノマーを共重合する工程と、
を含む、方法を開示する。
【0018】
本発明はさらに、前記方法に従って調製された、段階的な組成を有する分散粒子を含む水性分散体であって、
・重合反応器へのモノマー供給開始時の重合α,β-エチレン性不飽和モノマーのガラス転移温度と重合反応器へのモノマー供給終了時の重合α,β-エチレン性不飽和モノマーのガラス転移温度との差が少なくとも20℃であり、
・分散粒子が、少なくとも25℃のガラス転移温度を有する重合α,β-エチレン性不飽和モノマーを含み、
・コポリマーからのガラス転移温度の転移が連続的に段階的である、
水性分散体を開示する。
【0019】
本発明はさらに、水性分散体を含むコーティング組成物、及び前記コーティング組成物を含むコーティングされた基材を製造するための方法を開示する。
【0020】
本発明はさらに、本発明の組成物でコーティングされた、無垢材、エンジニアードウッド、金属、ポリマー、ガラス、複合材料、コンクリート、及びセラミックからなる群から選択される基材、好ましくは木質基材を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物を1つ以上の架橋剤(B)と組み合わせて含む水性分散体を含むコーティング組成物が、当技術分野に記載のコーティング組成物と比較して、耐汚染性、耐化学性及び耐ブロッキング性が改善されたコーティングを提供することが見出された。
【0022】
本発明の水性ビニルポリマー分散体はフッ素を含有しない、すなわち、本発明の水性ビニルポリマー分散体は0.0%のフッ素を含む。
【0023】
本明細書の文脈において、「非フッ素含有水性ビニルポリマー分散体」は、0.0%のフッ素を含む水性ビニルポリマー分散体を指す。
【0024】
本発明のモノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、
・架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・モノマー(i)~(iv)とは異なるさらなるα,β-エチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
を含む。
【0025】
好ましくは、本発明の水性ビニルポリマー分散体は、α,β-エチレン性不飽和モノマーの合計に対して、
・1.0~10.0重量%、好ましくは1.5~9重量%、より好ましくは2~7重量%の、架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)、
・0.5~5.0重量%、好ましくは0.7~4重量%、より好ましくは0.9~2重量%の、シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・0.5~3.0重量%、好ましくは0.7~2.5重量%、より好ましくは0.9~2重量%の、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~3.0重量%、より好ましくは0.5~2重量%の、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
を含み、
100重量%までの残りが、モノマー(i)~(iv)とは異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーである、
モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物を含む。
【0026】
より好ましくは、モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、
・1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
をさらに含む。
【0027】
さらにより好ましくは、本発明の水性ビニルポリマー分散体は、α,β-エチレン性不飽和モノマーの合計に対して、
・1.0~10.0重量%、好ましくは1.5~9重量%、より好ましくは2~7重量%の、架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)と、
・0.5~5.0重量%、好ましくは0.7~4重量%、より好ましくは0.9~2重量%の、シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)と、
・0.5~3.0重量%、好ましくは0.7~2.5重量%、より好ましくは0.9~2重量%の、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)と、
・0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、より好ましくは0.5~3重量%の、1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)と、
・0.1~10.0重量%、好ましくは0.5~7重量%、より好ましくは1~5重量%の、1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)と、
・0.1~5重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、より好ましくは0.5~3.0重量%の、1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)と、
を含み、
100重量%までの残りは、(i)~(iv)及び(vi)とは異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーである、
モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)のフリーラジカル乳化重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の反応生成物を含む。
【0028】
本発明では、
・モノマー混合物(A1)及び(A2)の両方は、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)のすべてを含むか、又は
・モノマー混合物(A1)は、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)のうちの少なくとも1つを含み、前記エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)の残りは、モノマー混合物(A2)中に存在するか、又は
・モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)はそれぞれ、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)の一部を含み、エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)の一部は、モノマー混合物(A1)及び(A2)の両方に存在し、
ただし、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(iv)、好ましくは(i)~(vi)のすべてがα,β-エチレン性不飽和モノマー(A)中に存在することを条件とし、同じ又は異なる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーが両方のモノマー混合物(A1)及び(A2)中に存在することを条件とする。
【0029】
モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)の両方のα,β-エチレン性不飽和モノマー組成物は、好ましくは以下のように選択される。
・モノマー混合物(A1)のモノマー組成が、モノマー混合物(A2)のモノマー組成とは異なる、
・混合物(A1)の乳化重合モノマーのコポリマーと混合物(A2)の乳化重合モノマーのコポリマーとの間のガラス転移温度の差が、少なくとも20℃である(ガラス転移温度は、周知のFoxの式を使用して計算される)、
・モノマー混合物(A1)の乳化重合モノマーから、又は乳化重合モノマー混合物(A2)から得られるコポリマーの一方のガラス転移温度が、少なくとも25℃であり、他方のコポリマーのガラス転移温度が、より低い(ガラス転移温度は周知のFoxの式を使用して計算される)。
【0030】
より具体的には、モノマー混合物(A1)及びモノマー混合物(A2)の両方のα,β-エチレン性不飽和モノマー組成物は、好ましくは以下のように選択される。
・モノマー混合物(A1)の乳化重合モノマー(i)、(v)(存在する場合)、及びさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーのコポリマーと、
モノマー混合物(A2)の乳化重合モノマー(i)、(v)(存在する場合)、及びさらなるα,β-エチレン性不飽和モノマーのコポリマーと、
の間の(推定)ガラス転移温度Tgの差(Foxの式(下記参照)から得られる)が、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも30℃、最も好ましくは少なくとも35℃である、並びに、
・コポリマーが、
・モノマー混合物(A1)の乳化重合モノマー(i)、(v)(存在する場合)、及びさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマー、
・又はモノマー混合物(A2)の乳化重合モノマー(i)、(v)(存在する場合)、及びさらなる非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマー、
のいずれかから得られ、
一方のコポリマーの(推定)ガラス転移温度Tg(Foxの式から得られる)が、少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも35℃であり、
他方のコポリマーの(推定された)ガラス転移温度Tg(Foxの式から得られる)がより低い。
【0031】
本発明では、各コポリマーのガラス転移温度Tgの(推定された)値は、当該技術分野において周知の下記式で表されるFoxの式(T.G.Fox,Bull.Am.Phys.Soc.1,123(1956))を用いて算出される。
1/Tg=W(1)/Tg(1)+W(2)/Tg(2)+W(3)/Tg(3)+.....
(式中、W(1)、W(2)、W(3)、(等)は、コポリマー(等)を構成するモノマー(1)、(2)、(3)の重量分率であり、Tg(1)、Tg(2)、Tg(3)は、モノマー(1)、モノマー(2)、モノマー(3)のそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度である)Polymer Handbook,4th edition(editors:J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke,John Wiley&Sons,Inc.1999)に記載されているホモポリマーのガラス転移値を使用して計算を行う。計算されたケルビン単位のTgは、容易に摂氏に変換され得る。
【0032】
非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、ビニル芳香族モノマー、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、エチレン性不飽和二酸のジアルキルエステル、ビニルアルカノエート、グリセロールのホルマール又はケタールをベースとするモノマー、(メタ)アクリロニトリル、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0033】
したがって、本明細書の文脈において、ガラス転移温度Tgは、周知の(又は従来使用されている)Foxの式を使用して計算されるような、計算された(又は推定された)ガラス転移温度を指す。
【0034】
より好ましくは、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、ビニル芳香族モノマー、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、及びエチレン性不飽和二酸のジアルキルエステル、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0035】
非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、石油化学供給原料から得られる。
【0036】
あるいは、好ましくは、可能な場合、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、再生可能な供給原料から得られる(すなわち、例えばn-ヘプチルアクリラート、メタクリル酸イソボルニル、及び/又はメタクリル酸イソブチルなどのモノマーは、(バイオ)再生可能な供給源から部分的又は完全に得られる)。これらのモノマー中のバイオ系炭素の正確な量は、ASTM D6866-20に記載されている方法によって決定することができ、ここで、現代のバイオマス系投入から生じる炭素は、化石系投入から得られる炭素と区別され、バイオ系炭素含有量は、総有機炭素含有量(TOC)の画分として報告されている。再生可能な炭素の画分を決定するための他の標準化された方法は、ISO 16620-2及びCEN 16640である。
【0037】
本発明のポリマー分散体のカーボンフットプリントを低減するための別の代替方法は、その調製にリサイクルされたモノマーを使用することである。ポリ(メタクリル酸メチル)又はポリ(スチレン)などのポリマーは、それらの天井温度より高い温度で熱分解することができる。熱分解生成物を蒸留することにより、メタクリル酸メチル又はスチレンなどのリサイクルされたモノマーを得ることができ、次いで、これを本発明のポリマー分散体を調製するための乳化重合にさらに使用することができる。
【0038】
さらに別の代替形態では、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、石油化学供給原料及び/又は再生可能な供給原料から得られる、及び/又はリサイクルされたモノマーである。
【0039】
本明細書の文脈において、「バイオ系炭素含有量」はバイオ炭素含有量を指す。
【0040】
典型的なビニル芳香族モノマーとしては、スチレン;α-メチルスチレン;イソプロピルスチレン;オルト-メチル-パラ-イソプロピルスチレン;パラ-ターシャリー-ブチルスチレン;ビニルトルエン;オルト-、メタ-及びパラ-メチルスチレン;オルト、パラ-ジメチルスチレン;オルト-、メタ-及びパラ-エチルスチレン;オルト、パラ-ジエチルスチレン;パラ-クロロスチレン;及びオルト、パラ-ジクロロスチレンが挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリル酸の典型的なアルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリラート、エチル(メタ)アクリラート、n-ブチル(メタ)アクリラート、イソブチル(メタ)アクリラート、ターシャリーブチル(メタ)アクリラート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリラート、n-ヘプチル(メタ)アクリラート、n-オクチル(メタ)アクリラート、イソ-オクチル(メタ)アクリラート、ノニル(メタ)アクリラート、イソデシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、ステアリル(メタ)アクリラート、シクロヘキシル(メタ)アクリラート、及びイソボルニル(メタ)アクリラートが挙げられる。
【0042】
エチレン性不飽和二酸の典型的なジアルキルエステルとしては、ジメチルマレエート、ジブチルマレエート、ジイソオクチルマレエート、ジラウリルマレエート、ジエチルフマラート、ジメチルフマラート、ジエチルフマラート、ジイソプロピルフマラート、ジ-イソブチルフマラート、ジ-(n-ペンチル)フマラート、ジヘキシルフマラート、ジ(2-エチルヘキシル)フマラート、ドデシルフマラート、ジメチルイタコナート、ジエチルイタコナート、ジプロピルイタコナート、ジブチルイタコナート、ジブチルメサコナート及びジブチルシトラコナートが挙げられる。
【0043】
典型的なビニルアルカノエートとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル及びネオデカン酸ビニル(Hexionから入手可能な商品名VEOVA(登録商標)10)が挙げられる。
【0044】
グリセロールのホルマール又はケタールをベースとする典型的なモノマーは、グリセロールホルマールメタクリラート及びイソプロピリデングリセロールメタクリラートである。
【0045】
架橋性基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)は、好ましくは、ヒドロキシル官能性モノマー、モノマーを含むカルボニル基、及びモノマーを含む不飽和脂肪酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0046】
典型的なヒドロキシル官能性モノマー(i)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリラート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、2-,3-,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリラート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、1,2-プロパンジオール1-イソクロトナート、2-アリルオキシエタノール、及びメタクリル酸グリシジルなどの潜在的ヒドロキシ基(latent hydroxy group)を有するモノマーが挙げられる。ヒドロキシル官能基は、周囲温度からわずかに高温でポリイソシアナート(B)と架橋することができる。代替の架橋剤(B)としては、ブロック化ポリイソシアナート、尿素及びメラミンホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0047】
モノマー(i)を含む典型的なカルボニル基としては、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、4-ビニルベンズアルデヒド、ビニルC1~C4アルキルケトン、アクリルアミドピバルアルデヒド、メタクリルアミドピバルアルデヒド、3-アクリルアミドメチル-アニスアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリラート、レブリン酸とグリシジル(メタ)アクリラートとの付加物、ジアセトンアクリルアミドなどのケト含有アミド、並びにアセトアセトキシエチル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリラート、アセトアセトアセトキシブチルアクリラート及びアリルアセトアセタートを含むモノマーを含むアセトアセトキシ官能基が挙げられる。前述の官能基と組み合わせて使用するための架橋剤(B)は、ジ-若しくはポリアミン、カルボヒドラジド、及びジ-若しくはポリカルボン酸ヒドラジド又はそれらの混合物を含む。架橋は、周囲温度又はわずかに上昇した温度で起こり得る。
【0048】
モノマーを含む典型的な不飽和脂肪酸としては、オレイル(メタ)アクリラート、リノレイル(メタ)アクリラート、リノレニル(メタ)アクリラート、及び不飽和脂肪のビニルオキサゾリンジエステルが挙げられる。これらのモノマーは、金属カルボキシラートなどの金属乾燥剤と組み合わせて使用される場合、自動酸化乾燥特性を提供し、金属は、コバルト、鉛、鉄、マンガン、バナジウム、カルシウム、ストロンチウム、ジルコニウム、亜鉛、リチウム及びバリウムからなる群から選択される。
【0049】
好ましくは、架橋性基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)は、アセトアセトキシエチルメタクリラート若しくはジアセトンアクリルアミド、又はこれらの混合物であり、好ましくは架橋剤(B)としてのアジピン酸ジヒドラジドと組み合わせられる。架橋剤(B)は、合成中又は合成後にビニルポリマー分散体に添加してもよく、又は後の段階、例えばコーティングの配合中に添加してもよい。
【0050】
より好ましくは、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)の架橋性基は、-CO-R’、-CO-CH-CO-CH及びCHOH(式中、R’はH又はC(1~4)アルキルである)からなる群から選択される部分を含むペンダント基である。
【0051】
好ましくは、(有機官能性)シラン基を有する1つ以上のα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)は、式-(CH-Si(OR)(より具体的には、式-(CH-Si(-O-R))(式中、Rは4個までの炭素を有するアルキル基であり、nは0~3の整数である)のシラン基を有するビニル又は(メタ)アクリラートモノマーである。
【0052】
典型的なシラン基としては、ガンマ-プロピルトリメトキシシラン、ガンマ-プロピルトリエトキシシラン、及びガンマ-プロピルトリイソプロポキシシランが含まれる。
【0053】
好ましくは、シラン基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)は、ガンマ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0054】
好ましくは、1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)は、2つ以上の(メタ)アクリル基及び/又はアリル基及び/又はビニル基を有するモノマーを含む。
【0055】
1つ以上の多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)は、より好ましくは、トリアリルシアヌラート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ビニル(メタ)アクリラート、アリル(メタ)アクリラート、ジオールジ(メタ)アクリラート、トリオールトリ(メタ)アクリラート及びメチレンビス(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0056】
典型的なアリル(メタ)アクリラート(iii)としては、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリラートモノアリルエーテル、トリメチロールプロパン(メタ)アクリラートジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリラートモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリラートジアリルエーテル及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリラートトリアリルエーテルが挙げられる。
【0057】
代表的なジオールジ(メタ)アクリラート(iii)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリラート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、ブタン-1,4-ジオールジ(メタ)アクリラート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリラート、3-メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリラート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリラート及びヘキサンジオールジ(メタ)アクリラートが挙げられる。
【0058】
典型的なトリオールトリ(メタ)アクリラート(iii)としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート及びグリセリルトリ(メタ)アクリラートが挙げられる。
【0059】
好ましくは、多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)はジビニルベンゼンである。
【0060】
1つ以上の共重合性界面活性剤(iv)は、好ましくはアニオン性共重合性界面活性剤である。
【0061】
アニオン性及び非イオン性の両方の共重合性界面活性剤(iv)の典型的な例は、LaporteからのBISOMER(登録商標)MPEG 350 MA、第一工業製薬株式会社からのHITENOL(登録商標)BC-20、HITENOL(登録商標)BC-2020、HITENOL(登録商標)KH-10又はNOIGEN(登録商標)RN-50(APEO);CrodaからのMAXEMUL(登録商標)6106、MAXEMUL(登録商標)6112、MAXEMUL(登録商標)5010、MAXEMUL(登録商標)5011;SolvayからのSIPOMER(登録商標)PAM 100、SIPOMER(登録商標)PAM 200、SIPOMER(登録商標)PAM 300、SIPOMER(登録商標)PAM 600、SIPOMER(登録商標)PAM 4000、SIPOMER(登録商標)PAM 5000;AdekaからのADEKA REASOAP(登録商標)PP-70、ADEKA REASOAP(登録商標)NE-10、ADEKA REASOAP(登録商標)NE-20、ADEKA REASOAP(登録商標)NE-30、ADEKA REASOAP(登録商標)NE-40、ADEKA REASOAP(登録商標)SE-10N、ADEKA REASOAP(登録商標)SE-1025A、ADEKA REASOAP(登録商標)SR-10、ADEKA REASOAP(登録商標)SR-1025、ADEKA REASOAP(登録商標)SR-20、ADEKA REASOAP(登録商標)ER-10、ADEKA REASOAP(登録商標)ER-20、ADEKA REASOAP(登録商標)ER-30、ADEKA REASOAP(登録商標)ER-40;BASF SEからのPLURIOL(登録商標)A010R、PLURIOL(登録商標)A12R、PLURIOL(登録商標)A23R、PLURIOL(登録商標)A46R、PLURIOL(登録商標)A750R、PLURIOL(登録商標)A950R、PLURIOL(登録商標)A590I、PLURIOL(登録商標)A1190I、PLURIOL(登録商標)A590V、PLURIOL(登録商標)A1190V、PLURIOL(登録商標)A5890V、PLURIOL(登録商標)A308R、及びDAA ES 8761;花王株式会社からのLATEMUL(登録商標)S180A及びLATEMUL(登録商標)S180;三栄化成からのELEMINOL(登録商標)JS-2;第一工業製薬株式会社からのAQUARON(登録商標)HS-1025の商品名で市販されている。
【0062】
好ましい共重合性界面活性剤は、以下の構造を有する
【化1】

(式中、RはC6~C22アルキル基であり、nは1から30であり、XはSO であり、MはNa、K、Li、NH 又はプロトン化若しくは第四級アミンである)。
【0063】
場合により、共重合性界面活性剤(iv)は、界面活性剤の合計に対して最大50重量%、好ましくは最大25重量%、より好ましくは最大10重量%の従来の非重合性アニオン性及び/又は非イオン性界面活性剤と混合される。
【0064】
非重合性アニオン性界面活性剤の例は、ラウリン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びロジン酸ナトリウムである。非重合性非イオン性界面活性剤の例は、直鎖及び分枝アルキルポリエチレングリコールエーテル、及びチオエーテル、並びに1モルのトリデシルアルコールと5~50モルのエチレンオキシドとの付加物である。
【0065】
好ましくは、(共)重合性界面活性剤(iv)は、界面活性剤の合計の100重量%で使用され、追加の従来の非重合性界面活性剤の併用は省かれる(すなわち、好ましくは、(共)重合性界面活性剤(iv)は、0重量%の追加の従来の非重合性界面活性剤を含む)。
【0066】
1つ以上の酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)は、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、硫酸、スルホン酸及びスルフィン酸からなる群から選択される酸官能基を含む。
【0067】
α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)を含有する典型的な非カルボン酸基としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルグリシジルエーテルの亜硫酸水素塩への付加物、メタクリル酸2-スルホエチル、1-(アリルオキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸、モノアクリロキシエチルホスファート、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスファート、ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスホナート、ジメチル(2-メタクリロイルオキシプロピル)ホスホナート及びエチル2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサブチル]アクリラートが挙げられる。
【0068】
好ましくは、酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)は、1つ以上のカルボン酸基又はその前駆体、例えば無水物を含む。
【0069】
好ましくは、酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)は、(メタ)アクリル酸、2-ブテン酸、3-ペンテン酸、無水マレイン酸、マレイン酸又はそのハーフエステル、フマル酸又はそのハーフエステル、イタコン酸又はそのハーフエステル、メサコン酸又はそのハーフエステル、シトラコン酸又はそのハーフエステル、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0070】
好ましくは、酸基は、対応するアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩に全体的又は部分的に変換される。
【0071】
1つ以上の接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)は、アミノ、ウレイド又はN-複素環基を含み、好ましくは、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリラート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリラート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリラート、3-ジメチルアミノ-2,2-ジメチルプロピル-1(メタ)アクリラート、2-N-モルホリノエチル(メタ)アクリラート、2-N-ピペリジノエチル(メタ)アクリラート、N-n-オクチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノ-2,2-ジメチルプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-(4-モルホリノメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-アクリロキシエチルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N-(2-アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N-(メタクリルアミドメチレン)エチレン尿素、N-(アクリルアミドメチレン)エチレン尿素、N-(β-メタクリルアミドエチル)エチレン尿素、N-(β-アクリルアミドエチル)エチレン尿素、N-ビニルエチレン尿素、N-ビニルオキシエチルエチレン尿素、N-[β-(メタクリロイルオキシアセトアミド)エチル]-N,N’-エチレン尿素、N-[β-(アクリロイルオキシアセトアミド)エチル]エチレン尿素、1-[2-[[2-ヒドロキシ-3-(2-プロペニルオキシ)プロピル]アミノ]エチル]-2-イミダゾリドン、N-メタクリルアミドメチル尿素、N-メタクリロイル尿素、N-(3-[1,3-ジアザシクロヘキサン-2-オン]プロピル)メタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルエチレン尿素、N-アミノエチルエチレン尿素、N-(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)アミノエチルエチレン尿素、N-メタクリルアミノエチルエチレン尿素、N-アクリルアミノエチルエチレン尿素、N-メタクリロキシアセトキシエチルエチレン尿素、N-メタクリロキシアセトアミノエチルエチレン尿素、N-ジ(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)アミノエチルエチレン尿素、N-(2-アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N-メタクリルアミドメチル尿素、2-プロペン酸、2-メチル-2-(2-オキソ-1-ピロリジニル)エチルエステル又はアリルアルキルエチレン尿素からなる群から選択される。特に好ましいモノマー(vi)は、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素である。
【0072】
α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(vi)は、石油化学供給原料から得られる。あるいは、好ましくは、可能であれば、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(vi)は、再生可能な供給原料から得られる(すなわち、モノマー、例えば、イタコン酸及び/又は(メタ)アクリル酸のようなモノマー(v)は、(バイオ)再生可能な資源から部分的又は完全に得られる))。これらのモノマー中のバイオ系炭素の正確な量は、(前述のように)ASTM D 6866-20に記載の方法によって決定することができる。あるいは、リサイクルされたメタクリル酸メチル又はリサイクルされたスチレンなどのリサイクルされたモノマーを使用することができる。さらに別の代替形態では、α,β-エチレン性不飽和モノマー(i)~(vi)は、石油化学供給原料及び/又は再生可能な供給原料から得られる、及び/又はリサイクルされたモノマーである。
【0073】
好ましくは、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、再生可能な供給原料から得られるか、又はリサイクルされたモノマー(リサイクルされたメタクリル酸メチル又はリサイクルされたスチレンなど)である。
【0074】
より好ましくは、非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーは、再生可能な供給原料から得られ、モノマーの総炭素含有量の20重量%を超えるバイオ系炭素含有量を有し、バイオ系炭素含有量は、ASTM D6866-20規格を使用して決定される。
【0075】
モノマー(A)は、モノマー混合物又はモノマープレエマルションとして重合反応器に供給することができる。モノマープレエマルションは、モノマー(A)、共重合性界面活性剤(iv)の一部及び/又はある量の脱塩水と共に使用される従来の界面活性剤の一部からなる。モノマープレエマルションは、安定なエマルションが得られるまで混合物を激しく撹拌することによって得られ、好ましくはモノマープレエマルションが使用される。
【0076】
本発明の水性分散体で使用可能な架橋剤(B)は、好ましくは、カルボン酸、アミノ、チオール、メチロール、エーテル化メチロール、イソシアナート、アルデヒド、及びヒドラジドからなる群から選択される少なくとも2つの反応性部分を有する。
【0077】
本発明の水性分散体に使用される架橋剤(B)は、好ましくは、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸及び/又はイタコン酸、イソフタル酸、又はヒドラジンなどの脂肪族有機酸から調製された化合物を含むヒドラジド基であるが、他の方法を使用することもできる。化合物を含む別の有用なヒドラジド基は、架橋剤(B)としてのカルボヒドラジドである。
【0078】
化合物(B)を含む好ましいヒドラジド基は、アジピン酸ジヒドラジドである。
【0079】
典型的には、化合物(B)を含むヒドラジド基は、ビニルポリマーを含有する分散体に混合される。所望であれば、ヒドラジド基含有化合物は、ビニルポリマー分散体に添加する前に溶媒と混合することができる。
【0080】
典型的には、ヒドラジド基含有化合物は、架橋剤(B)を含む1つ以上のヒドラジド基に対する重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)の重量比が10から500の間、好ましくは20から200の間に含まれるような量で水性分散体に添加される。
【0081】
本発明の水性分散体は、好ましくは25重量%から65重量%の間、より好ましくは40重量%から55重量%の間の共重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)及び1つ以上の架橋剤(B)を含む混合物を含む。
【0082】
本発明の水性分散体は、
・ISO 13321による、40nmから200nmの間、好ましくは50から150nmの間、最も好ましくは60から120nmの間に含まれるZ平均粒径、及び
・5から60℃の間、好ましくは10から50℃の間、最も好ましくは15から40℃の間に含まれる最小フィルム形成温度、
を特徴とする。
【0083】
本発明の水性ビニルポリマー分散体の重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)は、場合により還元剤と組み合わせて、及び場合により1つ以上の連鎖移動剤と組み合わせて、1つ以上のラジカル開始剤を使用するフリーラジカル乳化共重合に従って調製される。
【0084】
好適なラジカル開始剤としては、アルカリ金属又は過硫酸アンモニウム、ビス(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボナート、ジ-n-ブチルペルオキシジカーボナート、t-ブチルペルピバラート、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル及び2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリルが挙げられる。
【0085】
例えば過硫酸塩又はヒドロペルオキシドと組み合わせて使用可能な適切な還元剤としては、メタ重亜硫酸ナトリウム、(イソ)アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートナトリウム、BRUGGOLITE(登録商標)FF6 M(Bruggeman GmbH&Co.KGから入手可能)、チオ硫酸塩、二硫酸塩、ヒドロサルファート、及び水溶性アミン、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、並びに還元塩、例えば硫酸コバルト、硫酸鉄、硫酸ニッケル及び硫酸銅が挙げられる。
【0086】
好適な移動剤としては、n-ブチルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、2-エチルヘキシルメルカプトプロピオナート、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプトプロピオナート、2-メルカプトエタノール、n-オクチルメルカプタン、イソデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、アリルメルカプトプロピオナート、アリルメルカプトアセタート、クロチルメルカプトプロピオナート及びクロチルメルカプトアセタートが挙げられる。非硫黄系連鎖移動剤としては、ハロゲン化炭化水素及び触媒連鎖移動剤が挙げられる。また、α-メチルスチレンダイマー又はα-メチルスチレンダイマー若しくはジアリールエテンのオリゴマー、例えばジフェニルエテンも使用することができる。
【0087】
モノマー混合物の共重合は、一般に、大気圧下、40から100℃の間、好ましくは60から90℃の間に含まれる温度で、好ましくは窒素などの不活性ガスの雰囲気下で行われる。しかしながら、所望であれば、高圧下、40から100℃の間に含まれる温度又は100℃より高い温度で共重合を行うことも可能である。
【0088】
第1の実施形態では、本発明の水性ビニルポリマー分散体は、コア-シェル技術に基づくフリーラジカル乳化重合に従って調製され、第1のモノマー混合物(A1)が共重合され、続いてコポリマー(A1)の存在下でモノマー混合物(A2)が共重合されるか、又はその逆に、第1のモノマー混合物(A2)が共重合され、続いてコポリマー(A2)の存在下でモノマー混合物(A1)が共重合される。
【0089】
第2の実施形態では、本発明の水性ビニルポリマー分散体は、モノマー混合物(A1)を供給容器から反応器に供給し、その間に、同時に又は遅延後に、モノマー混合物(A2)を供給容器に供給し、その間に反応器内でモノマーを重合することを含む、段階的な組成技術に基づく自動送りフリーラジカル乳化重合(power-feed free radical emulsion polymerization)に従って調製される。
【0090】
自動送りフリーラジカル乳化重合は、当技術分野で公知であり、K.L.HoyによるJournal of Coatings Technology,Vol.51,No.651,1979及び米国特許第6,617,389号(Akzo Nobel N.V.)などに記載されている。
【0091】
コア-シェル技術及び傾斜組成技術を介するいかなる技術に基づくフリーラジカル乳化重合の任意の実施形態も本発明の範囲内である。
【0092】
本発明の水性ビニルポリマー分散体は、好ましくは、
a)供給容器(FA1)内のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び供給容器(FA2)内のプレエマルションモノマー混合物(A2)を調製する工程と、
b)供給容器(FA1)からの5から10%の間のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)とラジカル開始剤とを、脱塩水中の共重合性界面活性剤を含む重合反応器中に供給し、その間に温度を50~100℃の範囲内に維持する工程と、
c)供給容器(FA1)からの残りの90~95%のモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)と開始剤とを一定流量(RA1)で3から6時間の間に含まれる期間内に重合反応器に供給し、その間に、供給容器(FA1)に、同時に又は遅延後に、供給容器(FA2)からのモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)を、好ましくは流量(RA1)と同一である一定流量(RA2)で3から6時間の間に含まれる期間内に供給し、その間にモノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)及び(A2)のモノマーを重合反応器内で50~100℃の範囲内の温度で連続的に混合及び重合する工程と、
d)40~90℃の範囲内の温度で、好ましくはレドックス開始剤系の存在下で、少なくとも30分間重合を完了させる工程と、
e)中和剤の添加によってpHを7.5と9との間に含まれる値に調整する工程と、
f)1つ以上の架橋剤(B)を添加する工程と、
を含むフリーラジカル乳化重合に従って調製される。
【0093】
好ましくは、総量の0.5~6.0重量%、より好ましくは0.75~5重量%、最も好ましくは1.0~4.5重量%の共重合性界面活性剤を、約20倍過剰の脱塩水中で、工程b)の開始前に重合反応器に添加する。
【0094】
好ましくは、モノマー混合物又はモノマープレエマルション(A1)は、モノマー(i)~(v)及び優勢な量の非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーを含む。好ましくは、モノマー混合物又はモノマープレエマルション(A2)は、モノマー(ii)~(vi)及び優勢な量の非イオン性α,β-エチレン性不飽和モノマーを含む。
【0095】
好ましくは、酸官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(v)は、それらの塩に部分的に変換される。
【0096】
好ましくは、水性ビニルポリマー分散体は、組成が段階的に変化する分散粒子を含み、粒子が2つの異なるガラス転移温度値のみを有するコポリマーを含有する古典的なコア/シェル分散体とは異なり、ポリマー粒子は異なるガラス転移温度を有する広範囲のコポリマーを含有する。
【0097】
本発明の方法から得られる段階的な組成を有する分散粒子は、
・モノマー供給開始時の重合α,β-エチレン性不飽和モノマーの(推定された)ガラス転移温度とモノマー供給終了時の重合α,β-エチレン性不飽和モノマーの(推定)ガラス転移温度との差が、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも30℃、最も好ましくは少なくとも40℃(ガラス転移温度は周知のFoxの式を使用して計算される)であることと、
・モノマー供給の開始からモノマー供給の終了までの(推定された)ガラス転移温度の転移が、連続的に緩やかであることと、
を特徴とする。
【0098】
本発明の方法から得られる段階的な組成を有する分散粒子は、分散粒子が、少なくとも25℃のガラス転移温度(ガラス転移温度は周知のFoxの式を使用して計算される)を有する重合α,β-エチレン性不飽和モノマーを含むことをさらに特徴とする。
【0099】
好ましくは、モノマー供給物の(推定された)ガラス転移温度の値は、モノマー供給の開始時から重合終了時の最低値まで徐々に低下する。理論に束縛されるものではないが、液体状態では、ポリマーと水相との間に最低の界面張力をもたらすコポリマー画分は粒子の外周部にあると想定される。経験則として、これは最も高い極性を有するコポリマー画分である。
【0100】
本発明の水性分散体は、好ましくは、フィルム形成を補助する1つ以上の有機溶媒、顔料(有機若しくは無機)、並びに/又は当技術分野で公知の他の添加剤及び充填剤をさらに含む水系コーティング組成物に使用される。
【0101】
有機溶媒の量は、低揮発性有機含有量(VOC)を有するコーティング組成物を提供するように選択されるものとし、使用準備完了形態でISO方法11890-2によって計算される場合、好ましくは130g/l未満(水を含む)、好ましくは100g/l未満(水を含む)の揮発性有機化合物を含む。
【0102】
水系コーティング組成物は、レベリング剤、レオロジー剤、ブロッキング防止剤、流動制御剤、平坦化剤、顔料湿潤及び分散剤、界面活性剤、紫外線(UV)吸収剤、UV光安定剤、腐食防止剤、増粘剤、可塑剤、充填剤及び顔料からなる群から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む。
【0103】
好ましくは、水系コーティング組成物は、0.0%のフッ素を含む。
【0104】
無機顔料の非限定的な例としては、酸化鉄顔料、酸化チタン顔料、酸化亜鉛顔料、ニッケル及びチタン酸ニッケルと共沈殿した酸化クロム顔料、スルホクロム酸鉛又はバナジン酸ビスマス鉛からの黄色顔料、スルホクロム酸モリブデン酸鉛からのオレンジ色顔料、及びカーボンブラックが挙げられる。
【0105】
適切な有機顔料の非限定的な例としては、アゾ顔料、金属錯体顔料、アントラキノノイド顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、特にチオインジゴ、キナクリドン、ジオキサジン、ピロロ、ナフタレンテトラカルボン酸、ペリレン、イソアミドリン(オン)、フラバントロン、ピラントロン、及びイソビオラントロンシリーズのものが挙げられる。
【0106】
有用な充填剤の非限定的な例としては、シリカ、例えばコロイド状シリカ、雲母、タルク、粘土、ケイ酸アルミニウム、クロライト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸マグネシウム及び陶土が挙げられる。
【0107】
本発明の水系コーティング組成物は、金属、ガラス、ポリマー(例えば、ポリイミドアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン又はポリベンズイミダゾール)、複合材料、コンクリート、セラミック、無垢材、及びエンジニアードウッド(例えば、中密度繊維板又は高密度繊維板、パーティクルボード又は配向ストランドボード)からなる群から選択される多種多様な基材に塗布することができ、ただし、前記基材は、焼付けサイクル条件に耐えるものとする。
【0108】
本発明の水系コーティング組成物は、ブラッシング、スプレーコーティング、ドローダウン、ロールコーティング、コイルコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、ディップコーティング、フローコーティング、インクジェット、真空コーティングなどの任意の適切な手順を使用して基材に塗布することができる。
【0109】
一般に、水系コーティング組成物は、100μm以下の乾燥フィルム厚を得るのに、好ましくは5から100μmの間、好ましくは10から80μmの間、より好ましくは15から70μmの間、最も好ましくは20から60μmの間に含まれる乾燥フィルム厚を得るのに適した液体コーティング厚で塗布される。
【0110】
基材に1つ以上の層で塗布された水系コーティング組成物は、硬化条件に供される。これらの条件の非限定的な例としては、空気乾燥及び焼成が挙げられる。硬化は、架橋しながら水系コーティングから水を除去することによって達成される。空気乾燥を使用してもよいが、例えば高速生産ライン(例えば、25m/分)では、熱硬化が好ましい場合がある。一般に、熱硬化は、大部分の水を除去するためのフラッシュオフ後に、コーティングされた物品を20℃~180℃の範囲、好ましくは30℃~150℃の範囲、より好ましくは40℃~100℃の範囲、さらにより好ましくは50℃~80℃の範囲の硬化温度にさらすことによって行われる。
【0111】
硬化温度は、水系コーティング組成物及び使用される基材の種類に応じて変化する。硬化時間は、使用される特定の成分、及び塗布されるコーティング層の厚さなどの物理的パラメータに応じて変化する。典型的な硬化時間は、0.5~30分、好ましくは1~25分、より好ましくは2~20分の範囲である。
【0112】
コーティングの溶媒蒸発及び硬化は、空気換気コンベクションオーブン(air ventilated convection oven)内で行われてもよい。あるいは、コーティングは、近赤外線、短赤外線又は中赤外線などの赤外線照射によって、又は誘導によって、又はそれらの組合せによって硬化されてもよい。赤外線又は誘導システムが使用される実施形態では、加熱システム又は加熱システムの組合せに応じて、焼付けサイクルは2から160秒の間に含まれる範囲内である。
【0113】
本発明はさらに、本発明の組成物でコーティングされた、無垢材、エンジニアードウッド、金属、ポリマー、ガラス、複合材料、コンクリート、及びセラミックからなる群から選択される基材、好ましくは木質基材を提供する。
【0114】
本明細書の文脈において、「木質基材」は、例えば家具などの、無垢材又はエンジニアードウッド(例えば、中密度繊維板又は高密度繊維板、パーティクルボード又は配向ストランドボード)の基材を指す。
【0115】
本明細書の文脈では、「家具」は、テーブル、椅子、食器棚などの家庭用及び工業用の任意の種類の家具を指す。
【実施例
【0116】
以下の例示的な例は、単に本発明を例示することを意味しており、本発明の範囲を限定又は定義することを意図していない。
【0117】
[試験方法]
<ビニルポリマー分散体の固形分>
不揮発分の含有量は、オーブン内で記載された条件下で加熱したときの試料の残留物の重量である。これは、元の試料重量のパーセンテージとして表される。この方法は、ASTM 4758-92及びISO 3251に従う。
【0118】
<最小フィルム形成温度(MFFT)の決定>
MFFTを、0℃~60℃の温度範囲を有するRhopoint MFFT-Bar 60を使用することによって決定した。フィルムを25ミクロンの湿潤フィルム厚で塗布した。MFFTは、フィルムがひび割れを示さない最低温度であった。
【0119】
<粒径の決定>
粒径を、Malvern ZetasizerモデルNano-S90を使用して動的光散乱によって決定した。Z平均値を粒径として報告した。Z平均直径は、平均流体力学的直径であり、動的光散乱に関する国際規格ISO 13321に従って計算される。
【0120】
<pHの決定>
pHを、DIN 19268に従ってProLine QIS pH計を使用して測定した。
【0121】
<ブルックフィールド粘度の決定>
ブルックフィールド粘度を、ISO 2555-1974に従って、23±1℃の温度でブルックフィールドRVT粘度計を用いて測定する。
【0122】
<バイオ系炭素含有量の決定>
バイオ系炭素の量を、ASTM D 6866-20に記載の方法によって決定する。
【0123】
[例1]
メカニカルスターラー、窒素供給源、冷却器、モノマー及び開始剤供給ライン用の入口を備えた二重壁反応器内で、797.1グラムの脱塩水及び48.0グラムのADEKA REASOAP(登録商標)SR-1025を秤量し、窒素ブランケット下で72℃に加熱した(=反応器の事前投入)。
ビーカー中で表1.1及び表1.2の成分をそれぞれ撹拌下で混合することによって、2つのモノマープレエマルション(A1)及び(A2)を作製した。
【0124】
【表1.1】
【0125】
【表1.2】
【0126】
反応器の内容物が72℃に達したら、5%のモノマープレエマルション(A1)を5分間にわたって添加した。13.9グラムの脱塩水中の1.45グラムの過硫酸アンモニウム溶液を反応器に添加すると(=シード開始剤)、発熱反応が起こった。発熱が収まったとき、0.18グラムのアンモニア(25%水溶液)を反応器に添加した(=1回目の中和)。79℃の温度に達するまで加熱を続けた。227.4グラムの脱塩水中の2.43グラムの過硫酸アンモニウムからなる開始剤溶液を調製した(=供給開始剤)。
プレエマルションモノマー混合物(A1)を240分間にわたって反応器に投入した。同時に、プレエマルションモノマー混合物(A2)を、プレエマルションモノマー混合物(A1)を240分間にわたって保持しているタンクに投入した。このタンクの内容物を連続的に混合した。投入が終了した後、80グラムの脱塩水を使用して、両方のモノマープレエマルションタンクをすすいだ。これらの洗浄水をバッチに添加した(=リンス)。
プレエマルションと同時に、供給開始剤溶液を反応器に投入した。
投入後、バッチを79℃でさらに30分間保持した。
反応器を65℃に冷却し、20.2グラムの脱塩水中の12.9グラムのアンモニア溶液(25%水溶液)でpHを調整すること(=2回目の中和)によって、反応を終了した。反応器の内容物を65℃で30分間保持した。6.3グラムの脱塩水中の1.8グラムのTRIGONOX(登録商標)AW-70溶液を反応器に添加し、続いて10.8グラムの脱塩水中の0.98グラムのBRUGGOLITE(登録商標)FF6 M溶液を15分間にわたって投入した。反応器の内容物を65℃でさらに30分間保持した。次いで、反応器に、25.9グラムのアジピン酸ジヒドラジド(架橋剤(B))を添加した。バッチを40℃未満の温度に冷却した。冷却中、11.7グラムの脱塩水に溶解した6.1グラムのアンモニア溶液(25%水溶液)(=3回目の中和)及び9.31グラムのPROXEL(登録商標)AQ(「殺生物剤添加」)を添加した。バッチをフィルターメッシュで濾過し、適切な容器に保存した。ビニルポリマー分散体の分析により、以下の結果が得られた。
ISO 3251による固形分:44.4%、pH:8.7、粒径(Z平均):84nm、ブルックフィールド粘度25.1cPa.s(スピンドルL2、速度50rpm)及びMFFT:27℃。
【0127】
[例2]
例1に概説されるプロセスに従って、表2の原料を反応させることによって第2の水性分散体を作製した。
【0128】
【表2-1】

【表2-2】
【0129】
ビニルポリマー分散体の分析により、以下の結果が得られた。
固形分44.6%、pH8.8、粒径91nm、ブルックフィールド粘度23,6cPa.s(スピンドルL2、速度50rpm)、MFFT=29℃。
【0130】
[比較例1及び2]
例1に記載されたプロセスに従って、2つの比較例を合成した。非重合性界面活性剤(RHODAFAC(登録商標)RS 710)を使用した比較例1(C1)、及びN-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素(vi)を含まない比較例2(C2)。原料を表3に示す。
【0131】
【表3-1】

【表3-2】
【0132】
比較例1及び比較例2の水性分散体の特徴を表4に報告する。
【表4】
【0133】
[比較例3~7]
例1に記載のプロセスに従って、さらなる比較例3~7((C3)~(C7))を合成した。
・比較例3(C3)は、シラン基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)を含まず、多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)を含まず、
・比較例4(C4)は、シラン基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(ii)を含まず、
・比較例5(C5)は、多官能性α,β-エチレン性不飽和モノマー(iii)を含まず、
・比較例6(C6)は、接着促進α,β-エチレン性不飽和窒素含有モノマー(vi)を含まず、
・比較例7(C7)は、架橋性基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(i)を含まず、架橋剤(B)を含まない。
組成を表5に示す。
【0134】
【表5-1】

【表5-2】
【0135】
比較例3~比較例7の水性分散体の特徴を表6に報告する。
【表6】
【0136】
[例3]
例1及び2並びに比較例1~7の水性分散体を、それぞれ水系クリア及び着色コーティングに配合した。
【0137】
<クリアコーティング調製物>
クリアコーティング調製物の場合、20グラムの脱塩水及び6グラムのブチルジグリコール、続いて1グラムのBYK(登録商標)024を、撹拌下で100グラムの結合剤(結合剤は共重合α,β-エチレン性不飽和モノマー(A)及び架橋剤(B)である)に添加した。次に、0.5~1.0グラムのBORCHI(登録商標)ゲルL75N/水 1:1(OMG Borchers GmbH)を、ブルックフィールド粘度が4000mPa.sの範囲で得られるまで撹拌しながら添加した。
【0138】
<白色着色コーティング>
顔料ペースト。適切なレシピエントにおいて、50.7グラムのSETAQUA(登録商標)6302(Allnex Netherlands BVから市販されているアクリル分散樹脂)を52.7グラムの脱塩水と混合した。低速撹拌下で、3.4グラムのブチルグリコールをゆっくり添加し、続いて0.4グラムのBYK(登録商標)024(Byk ChemieからのVOC非含有シリコーン含有消泡剤)を添加した。129.2グラムのKRONOS(登録商標)2190(Kronosからのルチル型二酸化チタン、吸油量(DIN EN ISO 787-5):18g/100g)、20.0グラムのCERIDUST(登録商標)9615A(Clariant Ltd.からのすべり摩擦抵抗性添加剤(slip and rub resistance additive))及び1.7グラムのCOAPUR(商標)830W(コーテックスからのポリウレタン増粘剤)を添加した。この混合物を、10μm未満の粉末度が得られるまで高速インペラ上で粉砕した。このプロセス中に温度を40℃を超えて上昇させることはできない。
コーティング配合物。27.7グラムの顔料ペーストに、59.2グラムの結合剤を添加し、続いて2.9グラムの脱塩水を添加した。結合剤の最小フィルム形成温度に応じて、4.8から6.0グラムの間の量のブチルジグリコールを添加し、続いて1グラムのTEGO(登録商標)AIREX 902 W(Evonikから入手可能な消泡剤)を添加した。最後に、1.3~2.1グラムのADDITOL(登録商標)VXW 6360(Allnexから入手可能なポリウレタン増粘剤)を含むDINカップ4を使用して粘度を55sに調整する。
【0139】
[例4]
例3のコーティング組成物を、スプレーコーティングによって下塗りされたMDFパネルに塗布した。コーティングの湿潤フィルム厚は150μmであった。23℃で60分間フラッシュオフした後、コーティングされたプレートを50℃で16時間硬化させた。
【0140】
[例5]
例3のコーティング配合に従って調製され、例4の塗布方法及び硬化プロファイルに従って塗布及び硬化された、例1及び2並びに比較例1~7の水性分散体のクリア及び着色コーティングを、EN 12720「カバースポット試験(covered spot test)」に従ってアルコール(48%水性)耐性、コーヒー耐性及び冷蒸留水耐性について試験した。試験液の1mlのスポットは、水平にコーティングされた基材上に配置され、23+/-2℃の温度及び50+/-5%の相対湿度で調整され、直ちに時計皿で覆われる。アルコール及びコーヒー試験液の接触時間は、それぞれ1及び6時間であった。蒸留水の接触時間は24時間であった。それぞれの接触期間の後、パネルをきれいに拭き取り、変色、光沢の変化、膨れ、軟化、膨潤、及び接着の喪失について、直後に、及び回収の16~24時間後(直後/回収後)に評価し、「5」は最良の結果(5=光沢、膨れ、接着性の変化などがない)を表し、「0」は最悪の結果(0=光沢、膨れ、接着性などの変化)を表す。評価結果(直後対回収後)を表7に示す(直後/回収後と表記)。光沢変化がきれいな拭き取りスポット位置で視覚的に観察される場合、これは表7の「g」によっても報告される。
初期耐ブロッキング性を、2つのコーティングされた表面を一定の圧力下で所与の時間及び温度で互いに接触させて配置することによって試験した。これらの実験では、コーティングを150μmの湿潤フィルム厚でLeneta試験チャートに塗布した。コーティングを室温で4時間乾燥させた。耐ブロッキング性を、50℃及び1kg/cm2の加圧力で4時間試験した。冷却後、2つの表面を分離し、検査した。ブロッキングの程度を、10~0のASTM数値に対応する一連の標準的な記述用語を使用してタック又はシールについて主観的に評価する。パネルが完全に接着されている場合、それは完全な失敗(0)である。問題なく分離できる場合、耐ブロッキング性は10と評価される。耐ブロッキング性の評価に関する指針は、ASTM D 4946-89(2017)、Standard Test method for Blocking Resistance of Architectural Paintsに見出すことができる。
ケーニッヒ硬度は、ASTM D 4366-95に従って測定した。コーティングをガラス上に100μmの湿潤層厚で塗布した。次いで、コーティングを室温で乾燥させ、続いて50℃で16時間乾燥させた。
【0141】
コーティング性能を表7に報告する。
【0142】
表7の結果から、本発明によるビニルポリマー分散体のみが、比較例の分散体と比較して、耐化学性、耐汚染性及び耐ブロッキング性が改善されたバランスのとれた性能を生じることが明らかである。
【0143】
【表7】
【0144】
[例8~9]
例1のプロセスに従って、バイオ系モノマーを含むビニルポリマー分散体を作製した。組成を表8に示す。
【0145】
【表8-1】

【表8-2】
【0146】
例8は、OLERIS(登録商標)Advanced Bio-materialsからのn-ヘプタノールをアクリル酸でエステル化することによって得られるn-ヘプチルアクリラートを含む。ヘプタノールはヒマシ油に由来し、完全にバイオ系である。
例9は、部分的にバイオ系のモノマーとしてメタクリル酸イソボルニル(バイオ系炭素含有量71%)及びメタクリル酸イソブチル(バイオ系炭素含有量70%)を使用する。これらのモノマーにおいて、アルコール部分は再生可能な供給源に由来する。
【0147】
例8及び9の特性を以下に示す。
【表9】
【0148】
[例10]
例8及び9からの部分的に再生可能なビニルポリマー分散体に基づくクリア及び着色コーティング配合物を、例3、4及び5において概説するように調製、塗布及び硬化した。使用した成分の正確な量を表10(クリアコーティング)及び表11(マット着色コーティング)に示す。
【0149】
【表10】
【0150】
【表11】
【0151】
クリアコーティングの評価結果を表12に示す。
【表12】
【0152】
クリアコーティングでの部分的にバイオ系の例8及び9の試験結果は、石油化学原料系のみの例2の結果に等しいと結論付けることができる。
【0153】
着色コーティングの評価結果を表13に示す。
【表13】
【0154】
マット着色コーティングにおける部分的にバイオ系の例8及び9の試験結果は、石油化学原料系のみの例2の試験結果と等しいと再び結論付けることができる。
【国際調査報告】