(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】横紋筋細胞の弛緩を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20240705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240705BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P43/00 107
A61P21/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P9/10
A61K48/00
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500142
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022068936
(87)【国際公開番号】W WO2023280988
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ユロ,ジャン-セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルメールシュ,エヴァ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA371
4C084ZA372
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB221
4C084ZB222
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA37
4C086ZA94
4C086ZB22
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明者らは、心筋細胞のスティフネス増加に関連する心筋細胞の弛緩期における差異を効率的に検出できる条件を開発した。本発明者らは、健康なドナーからの、又は拡張機能傷害に典型的に関連する状態である肥大型心筋症のみならず、心筋細胞における受動的なスティフネス増加に関連する変異(すなわち、MYH7及びBRAF変異)を有するドナーからの、患者特異的ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)のライブラリーを使用した。本発明者らは、hiPSC由来心臓細胞にハイスループットスクリーニングを行って、心筋細胞の弛緩速度を改変することが可能なマイクロRNAを特定した。特に本発明者らは、miRNAスクリーニングを使用して大規模機能ゲノミクスを設定した。特定されたmiRNAはすべて、それらの心臓細胞の動き及びカルシウムトランジェントへの影響について試験された。最高の影響を有したmiRNAが特にECTに対して試験され、拡張機能における変化が測定され、細胞レベルで得られた結果と比較された。本発明者らは、一次アッセイ法と同様の読み出しを使用する3Dモデルにおいて最も興味深い「ヒット」を操作した。本発明者らは、力学モデル(探索の部で開発された)における正の「ヒット」の影響を試験し、特定された主なタンパク質の生理学的及び生化学的作用機作を確立する。本発明者らは、最終的に、横紋筋細胞の弛緩を改善するために、より一般的には、特に駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の状況で、横紋筋スティフネスに関係する症状を軽減するために使用することもできる2つの有望なmiRNAを特定した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-548u及びmiR-548vからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAの治療有効量を投与することを含む、それを必要とする対象における横紋筋細胞の弛緩を改善するための方法。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が、miR-548u又はmiR-548vのヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上同一である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
miRNAがmiR-548uであり、SEQ ID NO: 3に示されるステムループ配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
miRNAがmiR-548vであり、SEQ ID NO: 4に示されるステムループ配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
横紋筋スティフネスの処置のための、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのmiRNAが、筋弛緩薬と組み合わせて投与される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
筋弛緩薬が、ベシル酸アトラクリウム、バクロフェン、カリソプロドール、シスベシル酸アトラクリウム、ダントロレン、ミバクリウム塩化物、メトカルバモール、パンクロニウム臭化物、ロクロニウム臭化物、スキサメトニウム、チオコルチコシド、チザニジン、テトラゼパム又はベクロニウム臭化物である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
パーキンソン病によって誘導される横紋筋スティフネスの処置のための、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのmiRNAが、ドーパミン前駆体、ドーパミン作動薬又はドーパミン前駆体分解阻害薬と組み合わせて投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
心筋細胞の弛緩を改善するための、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
駆出率が保たれた心不全の処置のための、請求項10記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのmiRNAが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンジオテンシン、アルドステロン受容体拮抗薬(ARD)又はβ遮断薬と組み合わせて投与される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
それを必要とする対象における横紋筋弛緩を改善するための、miR-548u又はmiR-548vからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAを含む治療組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、医学、特に筋学の分野にある。
【0002】
発明の背景:
左心室(LV)の拡張機能は、心機能に重要な役割を果たし、主として心筋の弛緩効率によって決定される。健康なヒト心筋では、心筋弛緩速度は、低い充満圧を保ちながらLVを充満させる能力に直接影響する(1、2)。運動中などのより高い需要に応答して、頻脈により心室充満のために利用できる時間が短縮するにもかかわらず、弛緩スピードは拡張期のLV充満を加速させるために増加する(3、4)。相反的に、心筋弛緩速度の増加不十分として測定される拡張予備能障害は、心不全(特に駆出率が保たれた心不全(HFpEF)について)の特徴と考えられ、運動耐容能の漸減と関連する(2、4~6)。理論的に、心筋の弛緩を助長する薬理作用物質は、LVのコンプライアンスを改善し、拡張期機能障害の処置に理想的である。しかし、本発明者らの、心筋の弛緩を調節するメカニズムの理解は、特にヒトにおいて限定的である。
【0003】
心筋の弛緩は、少なくとも一部には心筋細胞が弛緩する能力(すなわち拡張機能)に依存する、複合多成分プロセスである。各収縮の後に、心筋細胞は、収縮によって誘導される力学的緻密化(mechanical compaction)の記憶なしにそれらの本来の配置に急速に戻るので、非線形粘弾性挙動を示す。加えて、拡張期に心臓に血液が充満するので、心筋細胞の(左心室壁内での)伸展は、かなりの粘弾性力を呼び起こす(7、8)。カルシウムサイクリングの影響に加えて、心筋細胞の急速な弾性応答は、筋フィラメント及び細胞骨格を構成する要素に依存すると提唱されている。例えば、巨大タンパク質タイチンは、筋フィラメントの拡張期張力の重要な決定因子(9、10)及び粘性力の寄与因子である(11)。タイチンのリン酸化の変化は、そのコンプライアンスを改変し、コンプライアンスは、より低い拡張期コンプライアンスを有する疾患で一般に変化している(12)。近年のデータは、心筋細胞の粘弾性における非サルコメア細胞骨格(微小管及びデスミン中間径フィラメントからなる)の重要性も示した。微小管の翻訳後脱チロシン化は、微小管ネットワークの安定性に影響し、それと筋細胞の細胞骨格及び中間径フィラメントネットワークとの架橋形成を促進する(13、14)。デスミン中間径フィラメントは、筋フィラメントZ板周囲の弾性要素として作用する。心不全では、脱チロシン化微小管及びデスミン中間径フィラメントの存在度が増加している(15、16)。デスミンにおける変異は、弛緩障害及び拡張期機能障害によって主に特徴付けられる拘束型心筋症につながる可能性がある(17、18)。
【0004】
心疾患における(特にHFpEFにおける)これらの要素のマルチスケールリモデリングは、拡張期充満を直接妨害する心筋粘弾性異常及び心室コンプライアンスの障害につながる可能性がある。さらに、心筋弛緩及びその調節の本発明者らの理解は、不完全なままである。組織及び細胞レベルで心筋粘弾性を特徴付けるための技術及び方法が、最近になってやっと出現したが、この分野は、特にヒト心筋細胞で全体的に研究不足である(understudied)。同様に、心機能の生理における心筋細胞の粘弾性特性の影響は、特にヒトにおいて理解されていない。マイクロRNA(miR)は、複数のメッセンジャーRNAと結合し、それを抑制することができる内因性22ヌクレオチド一本鎖RNAである。miRNAは、ほぼあらゆる細胞過程及びプロテオームの60%を制御すると推定されている(19)。したがって、miRNAライブラリーは、表現型スクリーニング戦略内で特異的表現型の調節因子を特定する魅力的なツールである(20)。
【0005】
本明細書において本発明者らは、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)に基づくヒトモデルに適用されたヒト起源合成miRNAライブラリーを使用して、心筋細胞(CM)の弛緩を強化するマイクロRNA(miR)を系統的に特定することを述べる。
【0006】
発明の概要:
本発明は、特許請求の範囲によって定義される。特に本発明は、横紋筋細胞の弛緩を改善するためのmiR-548u、miR-548v又はその前駆体の使用に関する。
【0007】
発明の詳細な説明:
本発明者らは、心筋細胞のスティフネス増加に関連する心筋細胞の弛緩期における差異を効率的に検出できる条件を開発した。本発明者らは、患者特異的ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)のライブラリーを使用した。本発明者らは、hiPSC由来心臓細胞にハイスループットスクリーニングを行って、心筋細胞の弛緩速度を改変することが可能なマイクロRNAを特定した。特定されたmiRNAはすべて、それらの心臓細胞の動き及びカルシウムトランジェントへの影響について試験された。本発明者らは、一次アッセイ法と同様の読み出しを使用する人工心組織(3Dモデル)において最も興味深い「ヒット」を操作した。本発明者らは、力学モデル(探索の部で開発された)における正の「ヒット」の影響を試験し、特定された主要タンパク質の生理学的及び生化学的作用機作を確立する。本発明者らは、最終的に、横紋筋細胞の弛緩を改善するために、より一般的には、特に駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の状況で、横紋筋のスティフネスを処置するために使用することもできる2つの有望なmiRNAを特定した。これらの2つのmiRNAは、miR-548u及びmiR-548vである。
【0008】
本発明の第1の目的は、miR-548u及びmiR-548vからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAの治療有効量を投与することを含む、それを必要とする対象における横紋筋細胞の弛緩を改善するための方法に関する。
【0009】
本明細書に使用される場合、「対象」又は「患者」という用語は、哺乳動物、特にヒトを意味する。典型的には、本発明による対象は、横紋筋細胞のスティフネスを患っている又は患いやすい任意の対象を指す。特定の実施態様では、対象は、特に駆出率が保たれた心不全の状況で、心筋細胞のスティフネスを患っている又は患いやすい。
【0010】
本明細書に使用される場合、「筋細胞」又は「筋肉細胞」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、収縮及び興奮性細胞を意味する。特に筋細胞は、本質的に、アクチン及びミオシンの筋フィラメントで構成された筋原線維を含む。アクチンフィラメントは、内部又は外部制約により形状を変化させる動的ネットワークに組織化される。ミオシンは、アクチンネットワークを介して筋収縮に関与するモータータンパク質である。より正確には、筋収縮は、アクチン及びミオシンフィラメントの相対的滑動が原因のサルコメア(すなわち横紋筋原線維の収縮機能単位)の短縮に対応する。
【0011】
本明細書に使用される場合、「横紋筋細胞(striated myocyte又はstriated muscle cell)」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、心筋細胞とも名付けられる心臓細胞、又はラブドミオサイト(rhabdomyocyte)とも名付けられる骨格細胞を意味する。これらの細胞は、高いエネルギー要求量を有するので、十分なATPを生成するために多くの筋粒体(すなわち、筋原線維に存在する専門のミトコンドリア)を含有する。横紋筋細胞は、エネルギーを物理的仕事に変換して力を生成し、収縮して呼吸、歩行運動及び姿勢などの動きを支援するか、又は身体全体に血液を送出する、高度に組織化された組織である横紋筋を形成する。横紋筋は、構造的に規則的なバンドル状に配置されたそれらのサルコメアのためにそう呼ばれる。横紋筋は、心筋又は骨格筋である。
【0012】
本明細書に使用される場合、「横紋筋の弛緩」という用語は、横紋筋細胞が低い静止張力を有する状態を意味する。異常な弛緩状態は、例えば、イオン勾配異常、チャネル機能障害、若しくは輸送体濃度異常のせいで異常な筋スティフネスにつながる可能性があり、又は、例えば、微小管重合若しくは動態の異常、翻訳後微小管修飾異常、タイチンのリン酸化異常、タイチンのより短い若しくはスティフネスのより大きなアイソフォーム、及びより一般的には、横紋筋細胞の粘弾性特性の喪失若しくは横紋筋細胞の高い静止張力につながるあらゆる原因のせいで筋細胞の硬さ異常につながる可能性がある。例として、このような弛緩は、インパルスエラストグラフィー、ミオストレッチング(myostretching)又は原子間力顕微鏡法で評価される場合がある。
【0013】
本明細書に使用される場合、「横紋筋の弛緩を改善する」という表現は、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上であることができる、横紋筋弛緩における改善を指す。
【0014】
したがって、本発明の本方法は、疾患、整形外科的外傷、神経学的原因の麻痺、例えば脳卒中、外傷性脳損傷、多発性硬化症、脊髄損傷、脳性麻痺、又は発生学的原因の拘縮、例えば、特定サブタイプの先天性多発性関節拘縮症に二次的な長期不動状態によって引き起こされる筋スティフネス、並びに非神経学的原因の筋痛及び関節スティフネス、例えば長期臥床、術後スティフネス、筋膜疼痛及び線維筋痛症、乱用、反復外傷によるもの、加齢性筋スティフネス及び糖尿病による筋スティフネスの処置に特に適している。より詳細には、本発明の方法は、脳卒中、脳性麻痺、脊髄損傷、及び多発性硬化症などの多くの神経学的障害後の共通の二次身体障害性状態である痙縮の処置に適している。なおより詳細には、本発明の方法は、パーキンソン病、テタヌス、筋テタニー、筋強直、ジストニア、痙攣質、硬化症、筋膜疼痛症候群、筋肉痛、リウマチ性多発性筋痛、線維筋痛症、髄膜炎、ループス、単核球症又はライム病によって誘導される横紋筋スティフネスの処置に適している。
【0015】
特に本発明の方法は、心筋細胞弛緩を改善するために特に適している。本明細書に使用される場合、「心筋細胞」という用語は、当技術分野におけるその一般的意味を有し、心筋(cardiac muscle、すなわちmyocardium)を構成する筋肉細胞(すなわち筋細胞)を意味する。心筋細胞は、介在板によって一緒に連結し、各心筋細胞は、自発的律動性脱分極を進めることができる。この分極/脱分極能力は、2つの代替サイクル:細胞が脱分極される収縮期(収縮)及び細胞が再分極される拡張期(弛緩)にある心臓活動電位を意味する。
【0016】
したがって、本発明の方法は、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の処置に特に適している。
【0017】
本明細書に使用される場合、「駆出率が保たれた心不全」又は「HFpEF」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、心不全(HF)の徴候及び症状並びに正常又は正常に近い左室駆出率(LVEF)によって特徴付けられる複合症候群を指す。より具体的な診断基準は、HFの徴候/症状、拡張期機能障害の客観的根拠、左室(LV)充満障害、器質的心疾患、及び脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇を含む。追加的な心異常は、収縮機能のわずかな変質、心房機能障害、変時性応答不全、又は血液動態の変質、例えば前負荷体積の上昇を含むことができる。この用語はまた、拡張期心不全とも称される。HFpEFを診断するために3つの主なステップを使用することもできる(Yancy et al., 2013):
- 心不全の臨床徴候又は症状;
- 左室駆出率が保たれている又は正常である(>45~50%)という根拠;及び
- 左室拡張期機能障害の異常の根拠。
【0018】
本明細書に使用される場合、「処置」又は「処置する」という用語は、疾患にかかるリスクのある又は疾患にかかった疑いのある患者のみならず、病気である、又は疾患若しくは医学的状態を患っていると診断された患者の処置を含む、予防的(prophylactic又はpreventive)処置と、治癒的又は疾患修飾処置との両方を指し、臨床的再発の抑制を含む。処置は、障害若しくは再発性障害の1つ以上の症状を予防する、治癒する、その開始を遅らせる、その重症度を低減する、若しくは回復させるために、又はこのような処置の非存在下で予想される期間を超えて患者の生存期間を延長するために、医学的障害を有する又は最終的に障害を獲得しうる患者に投与される場合がある。「治療レジメン」によって、病気の処置パターン、例えば、治療中に使用される投薬パターンが意味される。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含みうる。「導入レジメン」又は「導入期」という語句は、疾患の初回処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの普遍的目標は、処置レジメンの初期に患者に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、維持レジメンの間に医師が採用するよりも大きな用量の薬物を投与すること、維持レジメンの間に医師が薬物を投与するよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含みうる「負荷レジメン」を(部分的に又は全体として)採用する場合がある。「維持レジメン」又は「維持期」という語句は、病気の処置の間に患者を維持するために、例えば、患者を寛解に長期間(数ヶ月又は数年)保つために、使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、薬物を規則的間隔で投与すること、例えば、毎週、毎月、毎年など)又は間欠療法(例えば、断続性処置、間欠処置、再発時処置、又は予備決定された特定の基準達成時の処置[例えば、疼痛、疾患発現など])を採用する場合がある。
【0019】
本明細書に使用される場合、「miRNA」という用語は、低分子一本鎖ノンコーディングRNA分子を意味する。miRNAは、多細胞生物における遺伝子発現の転写後調節に関与する。miRNAは、翻訳抑制、mRNA切断又は脱アデニル化を誘導することによって遺伝子発現をダウンレギュレーションするように1つ以上のmRNAと少なくとも部分的に相補性である。
【0020】
本明細書に使用される場合、「miR-548u」という用語は、本発明に示されるように横紋筋細胞の弛緩を改善することができるmiRNAを意味する。miR-548uは、第6染色体に位置するMIR548U遺伝子(HGNC: 38316; Entrez Gene:100422884; ENSEMBL: ENSG00000212017; miRBase: MI0014168)によってコードされる。特に、「miR-548u」という用語は、成熟miR-548u配列並びにその相同体、変異体、及びアイソフォームを指す。miR-548uの成熟配列は、SEQ ID NO: 1によって表される。
【0021】
【0022】
本明細書に使用される場合、「miR-548v」という用語は、本発明に示されるように、横紋筋細胞の弛緩を改善することができるmiRNAを意味する。miR-548vは、第8染色体に位置するMIR548V遺伝子(HGNC: 38302; Entrez Gene:100422850; ENSEMBL: ENSG00000265520; miRBase: MI0014174)によってコードされる。特に、「miR-548v」という用語は、成熟miR-548v配列並びにその相同体、変異体、及びアイソフォームを指す。miR-548vの成熟配列は、SEQ ID NO: 2によって表される。
【0023】
【0024】
本発明に記載される方法は、miR-548u、miR-548v若しくはその前駆体のヌクレオチド配列、又はmiR-548u、miR-548v若しくはその前駆体のヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上同一のヌクレオチド配列を含む変異体の使用を含むことができる。当業者は、2つの核酸配列の同一性を決定する方法を容易に理解する。例えば、同一性は、同一性がその最高レベルになるように2つの配列を整列させた後に計算することができる。核酸についての配列同一性はまた、例えば、少なくとも核酸アライメントに関する資料について、参照により本明細書に組み入れられるZuker, M. Science 244:48-52, 1989、Jaeger et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:7706-7710, 1989、Jaeger et al. Methods Enzymol. 183:281-306, 1989に開示されたアルゴリズムによって得ることができる。典型的にはいかなる方法も使用できること、及び場合によってはこれらの様々な方法の結果が異なる場合があることが理解されているが、当業者は、これらの方法の少なくとも1つを用いて同一性が見い出されるならば、配列は、述べられた同一性を有し、本明細書に開示されると言われることを理解している。
【0025】
miRNAの投与は、複数の経路を介して起こることができる。miRNAを化学合成し、細胞に投与することができ、又はmiRNAを核酸配列中にコードすることができ、それがDNAベース発現ベクターを介して細胞中で発現される。
【0026】
化学合成されたmiRNAは、一本鎖RNA(ssRNA)又は二本鎖RNA(dsRNA)分子を含むことができる。RNA分子は、数百ヌクレオチド長であることができるプリ(pri)-miRNA、一般的に60~80ヌクレオチド長であるプレ(pre)-miRNA、又は一般的に18~23ヌクレオチド長である成熟miRNAを含むことができる。プリ-miRNA及びプレ-miRNAの細胞への投与は、結果として成熟miRNAの産生をもたらす。RNA分子は、DNAテンプレートからインビトロ合成することができ、又は商業的に合成することができ、Dharmacon, Inc.(Lafayette, Colo.)、Qiagen(Valencia, Calif.)、及びAmbion(Austin, Tex.)などの会社から入手可能である。いくつかの実施態様では、miRNAは、それぞれプレ-miR-548u又はプレ-miR-548vを模倣する合成miR-548u又はmiR-548v二重鎖である。いくつかの実施態様では、miRNAはmiR-548uであり、SEQ ID NO: 3に示されるステムループ配列を含む。
【0027】
【0028】
いくつかの実施態様では、miRNAはmiR-548vであり、SEQ ID NO: 4に示されるステムループ配列を含む。
【0029】
【0030】
本明細書に記載される方法は、miRNA並びに修飾miRNA誘導体、例えば、組成物の特異性及び/又は薬物動態などの特性、例えば、体内半減期を増加させる特性を変えるように改変されたmiRNA、例えば、架橋miRNAの両方を使用することができる。したがって、本発明は、2つの鎖が架橋するように2つの核酸相補鎖を有するmiRNAを含むmiRNA誘導体を投与する方法を含む。オリゴヌクレオチド修飾には、2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-O-メトキシエチル(methyoxyethyl)及びホスホロチオエート(phosphorothiate)、ボラノホスフェート、4’-チオリボースが含まれるが、それに限定されるわけではない。(Wilson and Keefe, Curr. Opin. Chem. Biol. 10:607-614 (2006);Prakash et al., J. Med. Chem. 48:4247-4253 (2005);Soutschek et al., Nature 432:173-178 (2004))。
【0031】
いくつかの実施態様では、miRNA誘導体は、その3’末端にビオチン分子(例えば、光切断性ビオチン)、ペプチド(例えば、Tatペプチド)、ナノ粒子、ペプチド模倣体、有機化合物(例えば、蛍光色素などの色素)、又はデンドリマーを有する。この方法でmiRNA誘導体を修飾することは、対応するmiRNAと比較して、結果として生じるmiRNA誘導体の細胞取り込みを改善する、又は細胞ターゲティング活性を強化することができ、細胞内のmiRNA誘導体の追跡に有用である、又は対応するmiRNAと比較してmiRNA誘導体の安定性を改善する。miRNA核酸組成物は、非コンジュゲート化することができる、あるいはナノ粒子などの別の部分とコンジュゲートさせて、組成物の特性、例えば、吸収、有効性、バイオアベイラビリティー、及び/又は半減期などの薬物動態パラメーターを強化することができる。コンジュゲーションは、当技術分野において公知の方法によって、例えば、Lambert et al., Drug Deliv. Rev. 47(1):99-112 (2001)(ポリアルキルシアノアクリレート(PACA)ナノ粒子に積載された核酸について記載する);Fattal et al., J. Control Release 53(1-3):137-43 (1998)(ナノ粒子の結合された核酸について記載する);Schwab et al., Ann. Oncol. 5 Suppl. 4:55-8 (1994)(介在作用物質、疎水性基、ポリカチオン又はPACAナノ粒子と連結された核酸について記載する);及びGodard et al., Eur. J. Biochem. 232(2):404-10 (1995)(ナノ粒子と連結された核酸について記載する)の方法を使用して達成することができる。
【0032】
あるいは、本発明のmiRNAをコードする核酸分子が使用されうる。miRNAをコードする核酸分子は、例えば、miRNAの発現及び/又は活性における増加が望ましい場合に有用である。miR-548u又はmiR-548vをコードする、場合により、発現ベクターを含む核酸分子を、例えば、選択されたmiRNAのインビボ又はインビトロ発現のために使用することができる。いくつかの実施態様では、発現は、細胞、例えば、miRNAが誤発現される細胞における選択されたmiRNAの機能を再構成するように特定の細胞型に限定することができる。選択されたmiRNAをコードする核酸を発現ベクターに挿入して発現構築物を製造することができる。いくつかの適切なベクター、例えば、組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルス-1、アデノウイルス由来ベクター、又は組換え細菌若しくは真核生物プラスミドを含むウイルスベクターが、当技術分野において公知である。例えば、発現構築物は、コード領域;プロモーター配列、例えば、選択され細胞型に発現を制限するプロモーター配列(すなわち、筋細胞特異的プロモーター若しくは心筋細胞特異的プロモーター、例えばそれぞれMEF2プロモーター若しくはcTnTプロモーター)、条件付きプロモーター、若しくは強力な一般プロモーター;エンハンサー配列;非翻訳調節配列、例えば、5’-非翻訳領域(5’-UTR)、3’-UTR;ポリアデニル化部位;及び/又はインスレーター配列を含むことができる。このような配列は、当技術分野において公知であり、当業者は、適切な配列を選択することができる。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M. et al. (eds.) Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10-9.14及び他の標準的な実験室マニュアルを参照されたい。
【0033】
臨床背景において、miR-548u又はmiR-548vをコードする核酸は、当技術分野において公知のいくつかの方法のいずれかによって患者に導入することができる。例えば、核酸送達システムを含む医薬品を、例えば静脈内注射によって全身的に導入することができ、標的細胞におけるmiRNAの特異的形質導入は、遺伝子送達媒体によって提供されるトランスフェクションの特異性、miRNAの発現を制御している転写調節配列に起因する細胞型若しくは組織型発現、又はそれらの組み合わせから主として起こる。いくつかの実施態様では、miRNAの初回送達は、動物への導入が極めて限局性であることから、より限定される。例えば、miRNA送達媒体をカテーテルによって(米国特許第5,328,470号を参照されたい)又は定位注射によって(例えば、Chen et al. (1994) PNAS 91: 3054-3057)導入することができる。
【0034】
本明細書に使用される場合、上記の「治療有効量」という用語は、治療効果を達成するために十分な量のmiR-548u又はmiR-548vの化合物を意味する(横紋筋細胞の弛緩を改善することによって横紋筋細胞のスティフネスを低減する)。しかし、本発明の化合物及び組成物の1日合計使用量は、健全な医学的判断の範囲内で担当医によって決定されることが理解されるだろう。任意の特定の対象についての特異的治療有効用量レベルは、処置されている障害及び障害の重症度;採用される特異的化合物の活性;採用される特異的組成物、対象の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食事;採用される特異的化合物の投与時間、投与経路、及び排泄速度;処置の持続期間;採用される特異的ポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知のその他の要因を含む多様な要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させることは、十分に当業者の技能の範囲内である。
【0035】
いくつかの実施態様では、本発明のmiRNAは、ベシル酸アトラクリウム、バクロフェン、カリソプロドール、シスベシル酸アトラクリウム、ダントロレン、ミバクリウム塩化物、メトカルバモール、パンクロニウム臭化物、ロクロニウム臭化物、スキサメトニウム、チオコルチコシド、チザニジン、テトラゼパム又はベクロニウム臭化物などの筋弛緩薬などの少なくとも1つの他の治療剤と組み合わせて投与される。少なくとも1つの他の治療剤の他の例は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンジオテンシン、アルドステロン受容体拮抗薬(ARD)又はβ遮断薬の場合がある。これらの治療剤は、通常、駆出率が保たれた心不全の状況で使用される。少なくとも1つの他の治療剤の他の例は、ドーパミン前駆体、ドーパミン作動薬、例えばアポモルフィン若しくはロチゴチン、又はドーパミン前駆体分解阻害薬、例えばカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害薬若しくはモノアミンオキシダーゼ阻害薬でありうる。これらの治療剤は、通常、パーキンソン病の状況で使用される。
【0036】
本発明のさらなる態様は、それを必要とする対象における横紋筋の弛緩を改善するためのmiR-548u又はmiR-548vからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAを含む治療組成物に関する。
【0037】
典型的には、miR-548u又はmiR-548vは、薬学的に許容し得る賦形剤、及び場合により徐放マトリックス、例えば生分解性ポリマーと組み合わされて、治療組成物を形成する場合がある。
【0038】
「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与された場合に、有害、アレルギー性又は他の不都合な反応をもたらさない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、無毒の固体、半固体又は液体の増量剤、希釈剤、封入材料又は任意の種類の製剤化補助物質を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物では、単独の、又は別の活性主薬と組み合わせた活性主薬は、単位投与剤形で、従来の薬学的支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与剤形は、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁物又は溶液、舌下及び口腔投与剤形などの経口経路剤形、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下腔内及び鼻腔内投与剤形並びに直腸投与剤形を含む。小腸又は結腸における特異的送達のためにガレノス適応が行われる場合がある。好ましくは、医薬組成物は、注射可能製剤のための薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは、特に等張無菌塩類溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど、又はこのような塩の混合物)、又は場合に応じて無菌水又は生理塩類溶液の添加時に注射液の構成を可能にする、乾燥組成物、特に凍結乾燥組成物でありうる。注射使用に適した薬学的剤形は、無菌水溶液又は分散物;ゴマ油、ラッカセイ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射液又は分散物の即時調製用の無菌粉末を含む。全ての場合で、剤形は無菌でなければならず、容易なシリンジ通過性が存在する程度に流動性でなければならない。これは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護されなければならない。本発明のmiR-548u又はmiR-548vを遊離塩基又は薬理学的に許容される塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水に入れて調製することができる。分散物は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びその混合物に入れて、並びに油に入れて調製することができる。通常の保管及び使用条件で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。本発明のmiR-548u又はmiR-548vは、中性又は塩形態で組成物に製剤化することができる。薬学的に許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と一緒になって形成する)を含み、これは、例えば、塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸、その他などの無機酸と一緒になって形成される。遊離カルボキシル基と一緒になって形成する塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン、その他などの有機塩基に由来することができる。担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール、その他)、その適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散物の場合は必要な粒子径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤(antifusoluble agent)、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、その他によってもたらすことができる。多くの場合に、等張化剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物の状態での使用によってもたらすことができる。無菌注射液は、必要量の活性ポリペプチドを、必要により上に列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒中に組み入れ、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般的に、分散物は、様々な無菌活性成分を、基本分散媒及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する無菌媒体中に組み入れることによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、事前に無菌濾過されたその溶液から、活性成分及び任意の追加的な所望の成分の粉末をもたらす真空乾燥及び凍結乾燥技術である。製剤化されたとき、溶液は、投薬製剤と適合する方法で、治療有効量で投与される。製剤は、上記注射液の種類などの様々な投薬剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども採用することができる。水溶液の状態の非経口投与のために、例えば、必要ならば溶液が適切に緩衝化され、液体希釈剤が十分な塩類溶液又はグルコースでまず等張化されるべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関連して、採用できる無菌水性媒質は、本開示に照らして当業者に公知である。例えば、1回投薬量を等張NaCl溶液1mlに溶解させ、皮下点滴液1000mlに添加するか、又は提案された注入部位に注射することもできる。処置されている対象の状態に応じて、必然的に投薬量に幾分の変動が起こる。多回用量も投与することができる。静脈内又は筋肉内注射などの非経口投与のために製剤化された本発明のmiR-548u又はmiR-548vに加えて、他の薬学的に許容し得る剤形は、例えば錠剤又は経口投与用の他の固形剤;リポソーム製剤;持続放出カプセル;及び現在使用されている任意の他の剤形を含む。
【0039】
本発明は、以下の図面及び実施例によってさらに例示される。しかし、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】miR陰性(最初の2つの棒線)、miR 548u(3及び4番目の棒線)及びmiR-548v(5及び6番目の棒線)をトランスフェクトされたECTにおけるhsa-miRNA-548u(1)及びhsa-miR-548v(2)の発現レベル。
【
図2】miR陰性(1)、miR 548u(2)又はmiR 548v(3)をトランスフェクトされたECTの自発拍動周波数に対するペーシング拍動周波数(Hz)。
【
図3A】電気刺激なしの(A)、又は0.6Hzのペーシング周波数を適用された(B)ECTによって発生された力(N)。ECT(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)の相対力を計算して正規化した(C)。
【
図3B】電気刺激なしの(A)、又は0.6Hzのペーシング周波数を適用された(B)ECTによって発生された力(N)。ECT(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)の相対力を計算して正規化した(C)。
【
図3C】電気刺激なしの(A)、又は0.6Hzのペーシング周波数を適用された(B)ECTによって発生された力(N)。ECT(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)の相対力を計算して正規化した(C)。
【
図4A】刺激なしの(A)、又は0.6Hzの周波数を適用された(B)ECTの平均弛緩速度。ECTの相対平均弛緩速度(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)を計算して正規化した(C)。
【
図4B】刺激なしの(A)、又は0.6Hzの周波数を適用された(B)ECTの平均弛緩速度。ECTの相対平均弛緩速度(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)を計算して正規化した(C)。
【
図4C】刺激なしの(A)、又は0.6Hzの周波数を適用された(B)ECTの平均弛緩速度。ECTの相対平均弛緩速度(トランスフェクション前に対するトランスフェクション後)を計算して正規化した(C)。
【
図5A】(A)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPSC由来心筋細胞における平均弛緩速度、平均収縮速度及び動きのピーク振幅。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされた心筋細胞から記録された拍動毎の動き(左)及び平均収縮/弛緩サイクル(右)の代表的な記録。
【
図5B】(A)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPSC由来心筋細胞における平均弛緩速度、平均収縮速度及び動きのピーク振幅。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされた心筋細胞から記録された拍動毎の動き(左)及び平均収縮/弛緩サイクル(右)の代表的な記録。
【
図6A】(A)トランスフェクションの3日後のhsa-miR-548vの発現レベルの評価。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhECTからの拍動毎の動きの代表的な記録。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたECTから記録された平均収縮/弛緩サイクル。(D)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対平均弛緩速度。(* p<0.05)。(E)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対発生力。
【
図6B】(A)トランスフェクションの3日後のhsa-miR-548vの発現レベルの評価。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhECTからの拍動毎の動きの代表的な記録。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたECTから記録された平均収縮/弛緩サイクル。(D)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対平均弛緩速度。(* p<0.05)。(E)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対発生力。
【
図6C】(A)トランスフェクションの3日後のhsa-miR-548vの発現レベルの評価。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhECTからの拍動毎の動きの代表的な記録。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたECTから記録された平均収縮/弛緩サイクル。(D)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対平均弛緩速度。(* p<0.05)。(E)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対発生力。
【
図6D】(A)トランスフェクションの3日後のhsa-miR-548vの発現レベルの評価。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhECTからの拍動毎の動きの代表的な記録。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたECTから記録された平均収縮/弛緩サイクル。(D)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対平均弛緩速度。(* p<0.05)。(E)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対発生力。
【
図6E】(A)トランスフェクションの3日後のhsa-miR-548vの発現レベルの評価。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhECTからの拍動毎の動きの代表的な記録。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたECTから記録された平均収縮/弛緩サイクル。(D)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対平均弛緩速度。(* p<0.05)。(E)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhECTにおける相対発生力。
【
図7】(A)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhiPSC-CMのカルシウムトランジェントの振幅。(B)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhiPSC-CMのカルシウムトランジェントの立ち上がりスロープ。(C)hsa-miR-548v又はmiR陰性対照のトランスフェクションの3日後のhiPSC-CMの立ち下がりスロープ。
【
図8】hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPS-CMにおける脱チロシン化アルファ-チューブリン及びGAPDHの代表的な定量。
【
図9A】(A)各増分が6μmのストレイン(5%の伸展)に相当する階段状プロトコル。(B)異なる伸展レベルでの力測定及び誘導されたパラメーター。(C)hsa-miR-548v及びmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPSC-CMの異なる伸展レベルに対する力学的応答。左:ピーク応力(粘性及び弾性応力);中央:定常状態応力(弾性応力);右:弛緩応力(粘性応答)。
【
図9B】(A)各増分が6μmのストレイン(5%の伸展)に相当する階段状プロトコル。(B)異なる伸展レベルでの力測定及び誘導されたパラメーター。(C)hsa-miR-548v及びmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPSC-CMの異なる伸展レベルに対する力学的応答。左:ピーク応力(粘性及び弾性応力);中央:定常状態応力(弾性応力);右:弛緩応力(粘性応答)。
【
図9C】(A)各増分が6μmのストレイン(5%の伸展)に相当する階段状プロトコル。(B)異なる伸展レベルでの力測定及び誘導されたパラメーター。(C)hsa-miR-548v及びmiR陰性対照をトランスフェクトされたhiPSC-CMの異なる伸展レベルに対する力学的応答。左:ピーク応力(粘性及び弾性応力);中央:定常状態応力(弾性応力);右:弛緩応力(粘性応答)。
【実施例】
【0041】
材料及び方法
分化
人工多能性幹細胞(iPSC)を2D分化プロトコルにより分化させた。使用したプロトコルは、Sharmaら(Sharma et al., 2015)から適応させる。簡潔には、B6皿が集密度80%に達したとき、ReLeSR(商標)(Stemcell, 05873)でiPSCコロニーを解離させ、マトリゲル(登録商標)(Corning, 354277)コーティング12ウェル培養プレート上のmTeSR(商標)1培地(Stemcell, 85850)中に蒔いた。次に、IPSを集密度80%~90%まで培養し、それから、RPMI1640(ThermoFisher, 72400054)+インスリン不含B27補充(ThermoFisher, A1895601)培地及び6μM CHIR99021(Abcam, ab120890)培地に48時間交換する。2日目にCHIR含有培地を、RPMI/インスリン不含B27培地に24時間交換する。3日目~5日目まで、培地を、5μM Wnt阻害薬IWR1(Sigma, I0161-5MG)を有するRPMI/インスリン不含B27に交換する。5日目に、培地をRPMI/インスリン不含B27に48時間交換し戻す。7日目に、細胞をRPMI+インスリン含有B27(ThermoFisher, 17504044)中で培養し、9日目に培地を同じ培地と交換した。分化後11日目に、各ウェル中の培地を低グルコース培地(B27補充グルコース不含RPMI1640(ThermoFisher, 11879020))に3日間交換する。14日目に、enzyme T(Miltenyi, 130-110-204)を使用して細胞を単細胞に解離させ、新しいマトリゲル(登録商標)コーティング12ウェルプレートに蒔いた(約1.2E6個細胞/ウェル)。15日目に、第2のグルコース欠乏サイクルのために培地を低グルコース培地にもう3日間交換し戻した。大部分の非心筋細胞は、この低グルコース培養条件で死滅する。18日目以降、RPMI/インスリン含有B27培地中で細胞を培養した。残りの細胞は、高度に精製された心筋細胞である。
【0042】
人工心組織(ECT)
人工心組織を製造するために、本発明者らは、細胞/コラーゲン/マトリゲルの1:8:1(v/v/v)混合物100μLを調製する。22日目に、enzyme Tを使用してIPS-CMを解離させた。同時に、本発明者らは、正常ヒト皮膚線維芽細胞を解離させ、IPS-CMを線維芽細胞と4:1の比で、RPMI+20%FBS(ThermoFisher, 10500064)中混合した。本発明者らは、細胞を遠心分離し、再懸濁して、心筋細胞1.2E8個/mLの濃度を得た。本発明者らは、2.6mg/mL 氷冷ラットコラーゲンIミックス:HEPES(Sigma H0887)100μL、MEM 10×(Sigma, M9288)100μL及び3.25mg/mL コラーゲンI(Sigma, 08-115)800μLを調製した。最後に、10個のECTを調製するために、本発明者らは、細胞 100μL、ラットコラーゲンIミックス(終濃度2.5mg/ml)800μL及び9mg/ml マトリゲル(Corning, 356231)100μLを混合し、100μLを各PDMS型(K. Costa's Lab (Turnbull et al., 2014))に充填した。次いで、本発明者らは、37℃、5% CO2で2時間インキュベートし、コラーゲンを重合させた。本発明者らは、10% FBS及び1% ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で2日毎に培地半分を交換して培養を維持した。鋳型の挿入物を48時間目に取り外した。
【0043】
トランスフェクション
13日の組織培養後、ECTを記録し、マイクロ-RNAをトランスフェクトした。表1に参照される25nMの各miRと共にLipofectamine RNAimax(Invitrogen, 13778-150)を用いてトランスフェクションを行った。トランスフェクションの24時間後に培地を交換し、トランスフェクションの3日後にECTの動きを記録した(ECTの16日目)。正規化された相対応答を計算するためにECTをそれら自体と比較した。
【0044】
弛緩期の特徴付け
本発明者らは、フレキシブルポリジメチルシロキサン(PDMS)ポストを力センサーとして使用し、本発明者らは、K. Costaの研究室によって開発されたLabViewスクリプトを用いてポストの動き及び屈曲を記録した。特注のMatlabアプリを使用して、本発明者らは、動きシグナルから変位の振幅、周波数及び速度を抽出した。弾性理論からの梁の曲げの式を使用して発生力を推定する:
【数1】
式中:
- Fは組織収縮力であり;
- E、R、Lは、それぞれ、PDMSポストのヤング率(1.33MPa)、半径(0.5mm)、及び長さ(3.5mm)を表し;
- aは、ポスト上の組織の高さであり;δは、測定された先端部たわみである。
電場刺激を行って又は行わずに37℃加温プレート上の本来の型内に維持されたECTを用いてこれらのシグナルを得た。
【0045】
qPCR
RNAを抽出するために記録後にECTを直接凍結乾燥した。miRNAeasyミニキット(Qiagen, 217004)を使用してRNAを抽出した。miRCury LNA miRNA SYBR Green PCR RTキット(Qiagen, 339340)を使用してcDNA合成及びqPCRを行った。使用したプライマーを表2に記載する。
【0046】
結果
トランスフェクトされたECTにおけるhsa-miRNA-548u及びhsa-miR-548vの発現レベル
miR陰性対照をトランスフェクトされたECTにおいて、miR-548u及びmiR-548vの最小発現を評価した。miR-548uをトランスフェクトした場合、ECTは、miR-548uの有意で特異的な過剰発現を示す。miR-548vをトランスフェクトした場合、ECTは、miR-548vの有意な過剰発現及びmiR-548u発現のわずかな増加を示す(
図1)。
【0047】
トランスフェクトされたECTの自発性拍動周波数に対するペーシング拍動周波数
図2に示すように、指示されたペーシングで3種のECTすべてが拍動した唯一の周波数は0.6Hzである。
【0048】
ECTによって発生した力
ECTに陰性miR、miR-548u又はmiR-548vをトランスフェクトした。miR-548u又はmiR-548vをトランスフェクトされたECTは、miR陰性をトランスフェクトされたECTと比較して発生力に増加を示した(
図3A、B、C)。
【0049】
ECTの平均弛緩速度
ECTに陰性miR、miR-548u又はmiR-548vをトランスフェクトした。miR-548u又はmiR-548vをトランスフェクトされたECTは、miR陰性をトランスフェクトされたECTと比較して弛緩速度に増加を示し、miR-548vについて最大振幅が観察された(
図4A、B、C)。
【0050】
結論
miR-548u及びmiR-548vの両方は類似の結果を示すが、一方で、それらの生化学経路は異なるように思われる。インシリコ分析により、miR-548uは、微小管の力学の制御に影響するように見え、一方で、miR-548vは、特に陽イオン輸送体に影響を及ぼすことによってカルシウムトランジェントに影響するように思われる(データは示さず)。一方で、miR-548uは、弛緩速度の増加及び収縮力の改善を示す。他方、miR-548vはまた、組織収縮力の増加と共に弛緩速度の増加を示す。横紋筋細胞の弛緩を改善することによって、miR-548u及びmiR-548vは、より詳細には駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の状況での、横紋筋スティフネスの処置のために使用することもできる。
【0051】
【0052】
【実施例】
【0053】
本発明者らは、ヒト人工多能性幹細胞に由来する心筋細胞(hiPSC-CM)ベースのヒトモデルに適用されたヒト起源の合成miRNAライブラリーを使用して心筋細胞(CM)の弛緩を強化するマイクロRNA(miR)を系統的に特定することに着手した。
【0054】
材料及び方法
hiPSC-CMを使用するハイスループットイメージングアッセイ法
本発明者らは、FUJIFILM Cellular Dynamicsから市販されているヒト多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)(iCell(登録商標)cardiomyocytes2)を使用した。384ウェルプレート(Perkin Elmer)中の10μg/mL フィブロネクチンコーティング(F1141, Sigma)上で製造業者の推奨に従い細胞を解凍した。播種の4時間後及びトランスフェクションまで2日毎に、培地を交換した。Perkin ElmerからのZephyr Liquid Handlerによって播種及び培地交換を行った。
【0055】
細胞に、OptiMEM培地(11058-21, Gibco)中でLipofectamine RNAiMax(13778-150, ThermoFisher)を使用してmirVana(商標)マイクロRNA模倣体ライブラリー(事前定義されたヒトv21, 4464074, ThermoFisher)をトランスフェクトした。このライブラリーは、2565個の模倣ヒトマイクロRNAから構成される。本発明者らは、miRNAの終濃度として25nMを使用した。トランスフェクションの24時間後に、培地を完全に交換し、トランスフェクションの72時間後に、37℃及び5% CO2で明視野の自動ハイコンテントスクリーニングシステム(Cell voyager CV8000, Yokogawa)を用いて細胞の明視野イメージングを行った。明視野光学顕微鏡を使用して、ビニング2で、ウェル毎に37画像/秒のフレームレートの10秒ムービーを記録し、500×500ピクセルの画像を生成した。
【0056】
hiPSC-CM1の収縮/弛緩の生画像シーケンスを分析するために、本発明者らは、オプティカルベクトルフロースクリプトを実行した(27)。次いで、各ベクトルの強さを算出し、画像全体にわたり統合し、フレームあたりの総収縮振幅を提供した。次いで、357個の振幅値を順次使用して最終シグナルを生み出した。
【0057】
特注のMatlabスクリプト(MatWorks)を用いてプレートのオプティカルベクトルフローシグナルを分析した。このスクリプトでは、数個の読み出しを抽出する:収縮の振幅、拍動周波数、最大及び平均速度、収縮-時間積分(曲線下面積)、振幅の10~90%の収縮までの時間、90%~10%の弛緩までの時間及びピーク持続時間。
【0058】
本発明者らは、オープンアクセスソフトウェアHCSアナライザー(28)を用いてプレートの結果を分析した。3つの独立した反復でアッセイを行った。3つの反復に関するそれらのZスコアによりヒットを選択した:Zスコアが少なくとも2つの反復で2を超え、かつ3つの反復の平均Zスコアが2を超えた場合にヒットを検証した。次式によりZスコアを計算した:
【数2】
式中、μは、プレート上の平均弛緩速度の平均であり、xは、miRNAの平均弛緩速度であり、σは、プレートの標準偏差である。
【0059】
hiPSC-CMベースの人工心組織
hiPSCの培養及び分化
3D培養のために、本発明者らは、以前に発表したように健康な45歳の志願者からのヒト皮膚線維芽細胞に由来するSKiPSC-31.3 hiPSC細胞株を使用した(29)。hiPSC細胞をマトリゲル上に播種し、mTeSR1培地(Stemcell Technologies)中で培養した。hiPSCが70%~80%の集密度に達したとき、細胞をピペットチップで掻き取ることによって凝集塊の状態で継代した。24時間毎に培地交換を行った。5% CO2を有する加湿インキュベーター中で培養物を37℃で維持した。本研究で使用されたhiPSC株を多能性について評価し、マイコプラズマについて日常的に試験した。
【0060】
集密になった後、小分子モジュレート分化及びグルコース飢餓を使用してhiPSC細胞を心筋細胞に分化させた(30)。簡潔には、mTeSR1培地(Stemcell Technologies)を、インスリン不含B27(ThermoFisher Scientific)及び6μM CHIR-99021(Abcam)を補充したRPMIに交換し、37℃の5% CO2インキュベーター中で48時間維持した。培地をインスリン不含RPMI-B27に24時間交換し、次いで、5μM IWR-1(Sigma)を補充したインスリン不含RPMI-B27に48時間交換した。5日目に、培地をインスリン不含RPMI-B27に48時間交換し戻した。7日目以降、細胞をインスリン含有RPMI-B27中に入れ、培地を2日毎に交換した。11日目に培地を低グルコース培地に3日間交換した。次いで、心筋細胞をインスリン含有RPMI-B27中に再播種した。15日目に、もう3日間の第2のグルコース欠乏のために培地を交換する。18日目から開始して、培地を2日毎にインスリン含有RPMI-B27と交換する。
【0061】
21日目に分化効率を評価するために、細胞をAPC抗心臓トロポニンT(TNNT2)抗体(130-106-689、Miltenyi Biotech;1:100)又はAPCアイソタイプ対照(130-104-615、Miltenyi Biotech;1:100)で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0062】
ヒト線維芽細胞の培養
本発明者らは、Lonzaから市販されているヒト線維芽細胞細胞株(CCC2511、ロット4888388)を使用する。線維芽細胞をT75フラスコ中で培養し、10% FBS及び1% ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したDMEM中で維持した。低い継代数(<7回)の細胞を使用した。
【0063】
hiPSC-CMベースの人工心組織
人工心組織(ECT)を構築するために、本発明者らは、組織毎にHEPES/MEM培地中120万個のhiPSC-CM、30万個の線維芽細胞、2mg/mL コラーゲンI(354249, Corning)及び0.9mg/mL マトリゲル(356231, Corning)の混合物を調製した。分化の22日目に、酵素消化(130-110-204, Miltenyi)により心筋細胞を、TrypLE Express Enzyme(12605028, ThermoFisher)により線維芽細胞を解離させた。
【0064】
細胞マトリックス混合物(100μL/型)をフレキシブルPDMS型内に播き、37℃、5% CO2に置いた(25、47、48)。2時間後、10% FBS、1% ペニシリン-ストレプトマイシン、及びカルシウム濃度2.3mMを補充したDMEMをECTに供給した。培地を2日毎に交換した。13日培養後、トランスフェクションの直前に収縮力を測定した。Lipofectine RNAimaxを使用して、OptiMEM中25nM マイクロRNA(miRNA陰性対照又はhsa-miR-548v)を使用してフォワードトランスフェクションを行った。トランスフェクションの24時間後に培地を交換し、トランスフェクションの72時間後に収縮力を測定した。
【0065】
K. Costaの研究室(31)によって開発された特注のLabVIEWソフトウェアがフレキシブルポストの先端の重心の動きを追跡する間、ハイスピードCCDカメラ(PL-D672MU, Pixelink)で収縮力の測定値を捕捉した。PDMSポストのたわみから弾性梁の曲げの式(31)によって力を変換した。HCSキャンペーンのために開発されたものと類似の特注のMATLABスクリプトを使用して、発生力及び平均弛緩速度を含むいくつかの読み出しを抽出した。
【0066】
定量PCR
製造業者の説明書によりQIAzol溶解試薬を使用してECTからRNA及びマイクロRNAを抽出し、miRNeasyミニキット(217004, Qiagen)を用いて精製した。次いで、製造業者の説明書によりmiRCURY LNA RTキット(339306, Qiagen)を使用して、抽出されたRNA及びマイクロRNA 10ngを逆転写に供した。結果として生じたcDNAを、Quant Studio 3 Real-Time PCRシステム(Thermo Fisher)上でSYBR Select Master Mix(4472908, Applied Biosystems)を以下の条件で使用するqPCRに供した:95℃2分間、95℃10秒間及び56℃1分間を40サイクル、続いて95℃10秒間及び60℃1分間。比較サイクル閾値(Ct)法を使用してhsa-miR-548vの相対発現を計算した。hsa-miR-548vのCtからRNU1A1のCtを引くことによって△Ctを計算し、一方で、試料の△Ctから、miR陰性対照をトランスフェクトされたECTの平均△Ctを引くことによって△△Ctを得た。
【0067】
hiPS-CM単細胞伸展性の測定
hiPS-CMのマイクロパターニング
桿状心筋細胞を促進するために、本発明者らは、マイクロパターニング技術を使用した(4DCell, Montreuil, France)。分化の35日後に、心筋細胞を長方形のマイクロパターン化カバースリップ(特製、サイズ:120μm×30μm)に播種した。マイクロパターン化基材は、細胞をマイクロメートルサイズの所定の領域にだけ接着させる。フォワードトランスフェクションの前にマイクロパターン化スライド上で細胞を5日間培養した。
【0068】
伸展性の測定
トランスフェクションの72時間後に、IonoptixからのMyostretcherシステムを使用してそれらの伸展特性を評価するために細胞を伸展させた。このシステムは、オプティカル力変換器(OptiForce, Ionoptix)及び圧電長さコントローラー(モータ)と接続された2つのマイクロマニピュレータから構成される。階段状プロトコルで細胞を異なる長さに伸展させた。
【0069】
細胞付着の手順
マイクロパターン化細胞をII型コラゲナーゼ(50U/mL)により37℃で20分間酵素的に解離させた。生物学的接着物質(Myotak, Ionoptix)を使用してその2つの遠位縁で細胞をMyostretcherの先端に貼り付けた。細胞をスライドから完全に剥離するために、本発明者らは、以前に記載したように(26)わずかな側方の動きを使用し、細胞を持ち上げて階段状プロトコルを開始した。
【0070】
トランスクリプトームワイド分析
RNA配列決定を行うために、本発明者らは、FCDIからのiCell cardiomyocytes2を使用した。培養6日後に、本発明者らは、miRNAのフォワードトランスフェクションを行い、トランスフェクションの3日後にRNAを抽出する。
【0071】
遺伝子発現の定量
STARを使用して、Gencode v31アノテーション(タンパク質コード遺伝子、アンチセンス及びlincRNAに制限される)での各遺伝子に関連するリード数を得た。試料毎の生カウントをR統計ソフトウェアにインポートした。抽出されたカウント行列をライブラリーのサイズ及び遺伝子のコード長について正規化して、FPKM発現レベルを算出した。
【0072】
教師なし分析
Bioconductor edgeRパッケージを使用して生カウントをR統計ソフトウェアにインポートし、正規化手順としてTMM(M値の重みつきトリム平均)を使用して正規化log2 CPM(100万マッピングリードあたりのカウント)を算出する。1000個の最も変異した遺伝子(標準偏差ベース)からの正規化発現行列を使用し、主成分分析(PCA)、階層的クラスタリング及びコンセンサスクラスタリングを使用してそれらの遺伝子発現パターンにより分類した。「ncp=10、scale.unit=FALSE」パラメーターを用いたFactoMineR::PCA関数によってPCAを行った。stats::hclust関数によって階層的クラスタリングを行った(ユークリッド距離及びward.D法を用いる)。ConsensusClusterPlus::ConsensusClusterPlus関数によってコンセンサスクラスタリングを行って、クラスターの安定性を調べた。本発明者らは、ユークリッド距離及びward.D法を用いて、階層的クラスタリングの1,000個の再サンプリング繰り返し(遺伝子の80%、試料の80%)に基づきK個のクラスター(K=2、3、…、8について)におけるデータセットのコンセンサス分割を確立した。次いで、関数の形状及びCDF曲線下面積の両方を考慮し、コンセンサス行列の累積分布関数(CDF)を使用して、クラスターの最適数を決定した(例えばK=3)。PCAオブジェクト(theta=0.0、perplexity=、max_iter=1000)に適用されたBioconductor Rtsneパッケージを用いてtSNE分析を行った。
【0073】
発現変動分析
Bioconductor edgeRパッケージを使用して、生カウントをR統計ソフトウェアにインポートした。Bioconductor limmaパッケージ及びvoom変換を使用して発現変動解析を行った。統計的分析力を改善するために、少なくとも1つの試料で発現された遺伝子(FPKM≧1)だけを考慮した。≦0.05のq値閾値及び最小変化倍率2を使用して発現変動遺伝子を定義した。metascapeウェブツール(32)を使用して、有意に下方発現された遺伝子に関する遺伝子セット及びカノニカル経路(KEGG及びGOターム)についてのエンリッチメントを分析した。
【0074】
カルシウムトランジェント解析
HCSシステムで細胞をイメージングした後、細胞にFluo4 Directカルシウムアッセイキット(F10471, ThermoFisher、0.5×終濃度)を負荷した。次いで、細胞を37℃で30分間に続いて室温で30分間インキュベートした。Hamamatsuからの機能的薬物スクリーンシステム(FDSS)を使用してカルシウムイメージングを2分間行った。次いで、HamamatsuからのWaveAnalysisソフトウェアを使用してシグナル解析を行った。
【0075】
免疫染色及びイメージング
培養7日後に、hiPSC-CMを4% パラホルムアルデヒド(PFA)(1573590, Electron Microscopy Sciences)で10分間順次固定し、次いで、PBS(ブロッキング溶液)中0.5% トリトンX-100(T-8787, Sigma)、2% ウシ血清アルブミン(BSA)(001-000-162, Jackson ImmunoResearch)で1時間、透過処理及びブロッキングを行った。続いて、1:10希釈したブロッキング溶液:心臓-トロポニンT(ab45932, Abcam;1:500)、アルファ-アクチニン(A7811, Sigma Aldrich;1:1000)、アルファ-チューブリン(ab7291, Abcam;1:200)中で一次抗体インキュベーションを4℃で一晩行った。洗浄後、Alexa Fluor 488(A10680, ThermoFisher;1:500)(712-545-153, Jackson ImmunoResearch;1:500)又は546(A11010, ThermoFisher;1:500)/DAPI(ThermoFisher)とコンジュゲートされた二次抗体ヤギ抗マウス、抗ウサギ又は抗ラット免疫グロブリンGと共に細胞をインキュベートし、Dako Faramount Aqueous Mounting(S3025, Agilent)を用いてマウントした。適宜63×対物レンズのLeica SPE共焦点顕微鏡で蛍光画像を捕捉した。ImageJを使用して画像処理及び解析を行った。
【0076】
結果
CMの弛緩速度を調節しているmiRNAについてのスクリーニング
本発明者らは、2565個のヒトmiRNA模倣体のライブラリー(miRbase配列データベースバージョン21)を使用してヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)におけるハイコンテンツ顕微鏡法ベースハイスループットスクリーニングを行った(データは示さず)。miRNA模倣体を、384ウェルプレート中で拍動中の単層として示されるhiPSC-CMの培養物にトランスフェクトした(フォワードトランスフェクション)。3日後に、本発明者らは、自動ハイコンテントスクリーニング顕微鏡を使用して各ウェル中のiPSC-CM拍動単層の高速ムービーを記録した。次いで、hiPSC-CM収縮の動きをモデル化し、弛緩及び収縮速度を測定するために、高性能コンピュータ(HPC)を用いるオプティカルベクトルフロー分析によってイメージのシーケンスを分析した(データは示さず)。スクリーニングを3つ組で行った。ヒト細胞株で試験され、特定可能な効果をもたらさないと証明されたランダム配列であるmiRNA陰性対照に加えて、本発明者らは、品質管理として各プレートに3つのmiRNA模倣体を組み入れた。本発明者らはまた、本発明者らの読み出しへのトランスフェクションの影響を評価するために異なるmiRNA濃度を試験した(データは示さず)。
【0077】
対照miRNAで処理されたhiPSC-CMと比較して、144個のmiRNAは、3つの独立したスクリーン反復のうちの少なくとも1つで平均弛緩速度を加速した(Zスコア>2、p値<0.05)(データは示さず)が、10個のmiRNAは、少なくとも2つの独立した反復で弛緩速度を有意に増加させた(データは示さず)。3つの独立したスクリーン反復において弛緩速度を有意に増加させたhsa-mir-548vで、弛緩期における最大で最も再現性のある変化が観察された(データは示さず)。最大弛緩速度を考慮したとき、類似の結果が得られた。それの弛緩への影響に加えて、hsa-miR-548vはまた、収縮速度、拍動振幅及び速度(
図5A)を増加させ、これは、心筋細胞の力学における全般的な改善を示唆している(
図5B)。
【0078】
hsa-miR-548vは、大型霊長類特異的miR-548ファミリーの一部であり、第8染色体に位置する。miR-548スーパーファミリーは、74個のmiRNAメンバーを有する、ヒトゲノムにおける最大のmiRNAファミリーである。少なくとも10個のmiRNA-548ファミリーメンバーのダウンレギュレーションを、駆出率が低減した心不全の患者からの末梢血単核球(PBMC)に関するゲノムワイド分析によって特定した(21)。しかし、心血管障害におけるhsa-miRNA-548vの意味についてほとんど分かっていない。本発明者らは、ヒトから決定された低分子ノンコーディングRNA発現組織アトラスであるTissue atlas2(22)を使用して、ヒト臓器におけるhsa-miR-548vの発現を探索し、探索された21個の臓器のいずれにも非常に低レベルの発現を見出した(データは示さず)。その上、Fantom5(23)は、内皮細胞においてhsa-miR-548vのエンリッチメントを示す(データは示さず)。これらのデータは、心筋細胞又は線維芽細胞においてhsa-miR-548vの基礎発現がない、又は限られていることを示唆している。
【0079】
したがって、このHC-スクリーニングの結果は、本発明者らが心筋細胞におけるその影響をさらに検討するように促す興味深い変弛緩効果をhsa-miR-548v導入が有することを示した。
【0080】
hsa-mir-548vは心弛緩を組織レベルで改善する
心筋細胞の機能は、細胞外マトリックス及び多細胞相互作用を含むそれらの3D環境におけるいくつかのパラメーターに依存する。さらに、hiPSC-CMは、2D単層培養物と比較して3Dオルガノイドにおいてより成熟した表現型を示す(24)。心機能に対するhsa-miR-548vの効果をさらに特徴付けるために、本発明者らは、hiPSC-CM人工心組織(hECT)に対するその影響を試験した。本発明者らは、コラーゲン及びマトリゲルマトリックス中に包埋された4:1の比のhiPS-CM:線維芽細胞によって構成され、心臓肉柱に類似の構造を形成する、以前に報告された3Dプラットフォーム(25)を使用した(データは示さず)。本発明者らはまた、90%を超えるTNNT2陽性細胞の産生をもたらした(データは示さず)分化プロトコルでHCSに使用されたものと異なるiPSC株を試験した(データは示さず)。培養13日後のmiRNAトランスフェクションの直前に、hECTをハイスピードカメラで記録して、それらの動きを捕捉し、それらの収縮性を評価した(データは示さず)。公的データベースから予測された発現と一致して、本発明者らは、対照hECTにおけるhsa-miR-548vの発現に基礎発現を見出さなかった。トランスフェクションの3日後に、本発明者らは、hsa-miR-548vをトランスフェクトされたhECTにhsa-mir-548vの発現を見出し、miR陰性対照をトランスフェクトされたhECTには見出さなかった(
図6A)。hECTを再度記録し(データは示さず)、トランスフェクション後パラメーターを使用して、ペーシング条件下で弛緩速度及び力に対する相対変化を評価した(データは示さず)。
図6B及び6Cは、トランスフェクションの3日後のhECTの代表的なシグナルを示す。HCSの結果と一致して、hsa-miR-548vをトランスフェクトされたhECTの弛緩速度は、miR陰性対照をトランスフェクトされたhECTと比較して、トランスフェクション後に2倍を上回った(
図6C及び6D)。hsa-miR-548vをトランスフェクトされたhECTでは発生力がより高いという有意でない傾向があった(
図6E)。これらのデータは、hsa-miR-548vの導入が組織レベルで形成された多細胞環境において心拡張機能を改善し、異なるiPS-CM細胞株におけるその弛緩への利益を再現することを示唆している。
【0081】
hsa-mir-548vはカルシウムトランジェントを変化させない
カルシウムは、心筋細胞における弛緩速度及び力発生への重要な寄与因子であるので、本発明者らは、次に、hsa-miR-548vがhiPSC-CMにおけるカルシウムハンドリングに影響しているかを決定した。本発明者らは、hsa-miR-548v又はmiR陰性対照で処理されたiPSC-CMであるWT-CMの基礎細胞内Ca2+([Ca2+]i)トランジェントを記録し、3日後にfluo-4、Ca2+指示薬を負荷した(データは示さず)。本発明者らは、カルシウムトランジェントの振幅にも(
図7A、データは示さず)、放出及び再取り込み動態パラメーターにも(
図7B及び7C)有意な変化を見出さなかったが、一方で、弛緩速度は、本発明者らの以前の結果と一致して、hsa-miR-548v処理hiPSC-CMにおいて有意に改善された(データは示さず)。全体的に見て、これらの結果は、hsa-miR-548vが、hiPSC-CMSのCa2+ハンドリング特性における変化に関与せずに心筋細胞の拡張機能を有意に変化させたことを示している。
【0082】
hsa-miR-548vは、機械的シグナル伝達に関連する細胞内構成成分の発現を変化させる
これらの結果は、心弛緩を調節できる他のプロセスを検討するよう本発明者らを促した。したがって、本発明者らは、miR陰性対照と比べてhsa-miR-548vをトランスフェクション後のhiPSC-CMのRNAをディープシーケンシングすることによって全般的トランスクリプトーム変化を評価した(データは示さず)。クラスタリング分析は、645個のダウンレギュレーションされた転写物(FPKM>1及び>2.0倍のダウンレギュレーション)及び365個のアップレギュレーションされた転写物(FPKM>1及び>2.0倍のアップレギュレーション)(データは示さず)を用いて群間の別個のプロファイルを明らかにした(データは示さず)。本発明者らは、最初に、NPPB(心筋伸展に応答して心室筋細胞によって分泌される周知のホルモンであるナトリウム利尿ペプチドBをコードする)が、hsa-miR-548vに応答して最もダウンレギュレーションされた遺伝子であることを観察した(log2変化倍率は-4.02、q値は4.8×10
-17、データは示さず)。本発明者らはさらに、心筋の弾性に典型的に寄与する心筋細胞の細胞内成分をコードする遺伝子のセットを評価するために、ダウンレギュレーションされた転写物のデータセットをさらに分析した(すなわち、カルシウムハンドリング、微小管ネットワーク、フィラメント及び細胞骨格タンパク質)(データは示さず)。本発明者らは、デスミン(log2変化倍率は-1.57、q値は3.2×10
-12)(データは示さず)、主な中間径フィラメント(データは示さず)のみならず、2つの重要な機械的センサー、心アンキリンリピートタンパク質ANKRD1/CARP1(log2変化倍率は-2.76、q値は1.6×10
-16)及びANKRD2/CARP2(log2変化倍率は-3.06、q値は4.6×10
-8)(データは示さず)の有意な下方発現を見出した。CARPは心筋細胞において高度に発現され、そこでCARPは、伸展感知機構の重要な調節因子として作用する中間径フィラメント(デスミン)タンパク質と相互作用する。他の構成成分は、群間でより低い差を示した(データは示さず)。主要チューブリンアイソタイプの発現は増加傾向にある。脱チロシン化微小管は筋細胞の収縮持続時間を増加させるので(13)、本発明者らは、miR陰性模倣体をトランスフェクトされたものと比較して、hsa-miR-548vをトランスフェクトされたhiPSC-CMにおける脱チロシン化α-チューブリンのレベルを評価し、hsa-miR-548vトランスフェクト細胞におけるこの微小管翻訳後修飾の有意な低減を見出した(
図8)。これは、脱チロシン化微小管の抑制が筋細胞における弛緩時間を改善することを示す以前の研究と一致している(13、26)。
【0083】
Metascape及び遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)は、645個の最も大きくダウンレギュレーションされた遺伝子が「心臓発生」又は「循環システム過程」のような心血管ネットワークにおいてエンリッチされ、これは、miRNA-548ファミリーのメンバーと心血管系発生との有意な関連を示す以前のインシリコ研究と一致することを明らかにした(21)。加えて、エンリッチされたカノニカル経路についてのさらなる分析は、典型的には専門の応力応答変換器として作用するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達カスケードの複数のメンバー及び調節因子のダウンレギュレーションを明らかにした(データは示さず)。全体的に見て、これらの結果は、hsa-miR-548vが、機械的力の伝播及び周期的変形への耐性に意味付けられている構造構成成分を含む複数の標的を調節不全にしたことを示している。
【0084】
hsa-miR-548vはヒトiPSC由来心筋細胞の内部伸展特性に単細胞レベルで影響する
本発明者らは、次に、hsa-miR-548v又はmiR陰性対照をトランスフェクトされた単細胞ヒトhiPSC由来心筋細胞の力学的特性を研究した(データは示さず)。力学的特性の尺度は、げっ歯動物及びヒト成体心臓から単離された心筋細胞において観察されるような典型的な桿状形態を必要とし、一方で、単離されたhiPSC-CMは、丸みを帯びた形態を有するように見える。したがって、本発明者らは、桿状形態を有する特異的に設計されたマイクロパターン化スライド上にhiPSC-CMを生成するプロトコルを開発した(データは示さず)。簡潔には、スライドに、接着防止剤(PMOXA)で囲まれたマトリゲルコーティング長方形アイランド(120μm×30μm)をスタンプした。播種後、hiPSC-CMは事前設計領域で成長し、桿状形態に達する(データは示さず)。この方法はまた、心筋細胞の一定サイズ、及び可変性を制限するバックグラウンドスティフネスを課す(データは示さず)。
【0085】
本発明者らは、細胞に付着させるためにBallan及び共同研究者(26)と類似のプロトコルを使用し、細胞を、それらの初期長の最大40%にうまく伸展させることができた(データは示さず)。長さ-張力関係を評価するために、本発明者らは、圧電モータが10秒毎に62.5μm/秒の伸展速度でゆっくりと6μm動かす階段状プロトコルを使用した(
図9A)。いかなる収縮阻害薬もなしに力測定を維持した。miR陰性対照又はhsa-mir-548vをトランスフェクトされた心筋細胞は両方とも、力が細胞伸展と共に増加し、正の長さ-張力関係を示した(Frank-Starlingの法則)(
図9B)。粘張力(弛緩応力)は、伸展が増加すると共に非線形的に増加した。本発明者らは、miR陰性対照がトランスフェクトされたものと比較して、hsa-miR-548vがトランスフェクトされた心筋細胞の有効張力(ピーク応力)及び静止張力(定常状態応力)の有意な増加を観察し(
図9C)、これらの群間差は、伸展が増加するにつれて顕著に増えた。粘弾性張力は、miR陰性対照トランスフェクト心筋細胞と比較してhsa-miR-548vトランスフェクト心筋細胞の伸展中に増加した。hsa-miR-548vは、弾性張力(P<0.001)及び粘性張力(P=0.0004)の両方を増加させる。このデータは、hsa-miR-548vがその弾性張力及び粘性張力の両方を増加させることによって伸展への粘弾性応答に影響することを示している。
【0086】
参考文献:
本出願にわたり、本発明が属する技術分野の現況を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、これにより参照により本開示に組み入れられる。
【0087】
【配列表】
【国際調査報告】