(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】硫化リチウムの粉末を得るプロセス及びLPS化合物を調製するためのその使用
(51)【国際特許分類】
C01B 17/28 20060101AFI20240705BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C01B17/28
C01B25/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500241
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022068495
(87)【国際公開番号】W WO2023280797
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュ, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ダレンコン, ローリアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
(57)【要約】
本開示は、10μm未満のd50値、5m2/g超の比表面積、0.035cm3/g超の総細孔容積及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合を有する硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)を得るプロセスであって、a)10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程と、b)Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程とを含むプロセスに関する。本開示は、このようなプロセスから得られる硫化リチウムの粉末及び式(I):LiaPSbXc(式中、- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、- aは、3.0~6.0の数を表し、- bは、3.5~5.0の数を表し、及び- cは、0~3.0の数を表す)の固体化合物を調製するための、このようなLi2S粉末の使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10μm未満のd
50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)、5m
2/g超の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定)、0.035cm
3/g超の総細孔容積(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)を有する硫化リチウムの粉末(Li
2S粉末)を得るプロセスであって、
a)10μm未満のd
50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程、
b)前記Li
2S粉末を得るために、前記LiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程
を含み、前記LiOH粉末Aは、
- 10μm未満のd
50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H
2O)の粉末(LiOH粉末C)を得るために、10μm超のd
50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H
2O)の粉末(LiOH粉末B)を粉砕する工程及び前記LiOH粉末Aを得るために、前記LiOH粉末Cを180℃未満の温度で加熱する工程、又は
- 5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末D)を得るために、5重量%超の残留含水量を示す水酸化リチウム一水和物(LiOH.H
2O)の粉末を180℃未満の温度で加熱する工程及び前記LiOH粉末Aを得るために、前記LiOH粉末Dを粉砕する工程
によって得られる、プロセス。
【請求項2】
前記加熱工程は、170℃未満の温度、好ましくは150℃未満の温度で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
溶媒、及び/又は希釈剤、及び/又は触媒は、工程b)下での前記反応中に反応容器に添加されない、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
工程b)で使用される前記硫化物反応剤は、ガス状硫化水素(H
2S)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
工程b)は、
- 少なくとも1つの加熱手段を備えた反応器中、100℃~260℃で変動する温度において、及び/又は
- 反応器であって、前記反応器の底部にできるだけ近く且つ/又は壁にできるだけ近く配置される撹拌ブレード又は搬送撹拌機を備えた反応器中で前記LiOH粉末Aを撹拌しながら、及び/又は
- 水を除去することによって行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記Li
2S粉末は、それが、パラキシレン中でレーザー回折によって測定される、
- 0.05μm超のd
10値、及び/又は
- 50μm未満のd
90値
を有するようなものである、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
10μm未満のd
50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)を有する水酸化リチウムの粉末を得るプロセスであって、10μm超のd
50値を有する水酸化リチウム粉末を粉砕することを含み、前記水酸化リチウム粉末は、5重量%未満の残留含水量を示す、プロセス。
【請求項8】
10μm未満のd
50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)、5m
2/g超の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定)、0.035cm
3/g超の総細孔容積(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)を有する硫化リチウム粉末(Li
2S粉末)。
【請求項9】
- パラキシレン中でレーザー回折によって測定される、0.05μm超のd
10値、及び/又は
- パラキシレン中でレーザー回折によって測定される、50μm未満のd
90値
を有する、請求項8に記載の粉末。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセスによって得ることができる、請求項8又は9に記載の粉末。
【請求項11】
式(I):
Li
aPS
bX
c (I)
(式中、
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
- aは、3.0~6.0の数を表し、
- bは、3.5~5.0の数を表し、及び
- cは、0~3.0の数を表す)
の固体化合物を調製するためのプロセスであって、
- 請求項8~10のいずれか一項に記載の硫化リチウム粉末を含む、乾燥又はスラリー状態の出発材料を混合して、混合物を提供する工程と、
- 任意選択的に、前記混合物を乾燥させる工程と、
- 任意選択的に、前記得られた乾燥混合物をペレットに圧縮する工程と、
- 任意選択的に乾燥された前記混合物又は前記ペレットを、350℃~550℃に含まれる温度に少なくとも2時間の期間にわたって加熱する工程と
を含むプロセス。
【請求項12】
-200℃~10℃に含まれる温度T1で溶液S1を調製するための少なくとも1つの工程であって、前記溶液S1は、溶媒並びに少なくとも(PS
4)
3-の形態のP種、Li
+の形態のLi種、X
-の形態のX種及び請求項8~10のいずれか一項に記載の硫化リチウム粉末の形態の残りの硫黄を含む、少なくとも1つの工程、その後、前記溶液S1から前記溶媒の少なくとも一部を除去してLi
aPS
bX
cを得る工程を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
式(I):
Li
aPS
bX
c (I)
(式中、
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
- aは、3.0~6.0の数を表し、
- bは、3.5~5.0の数を表し、及び
- cは、0~3.0の数を表す)
の固体化合物を調製するための、請求項8~10のいずれか一項に記載の硫化リチウム粉末の使用。
【請求項14】
化合物(I)は、Li
6PS
5Cl又はLi
3PS
4である、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、欧州特許出願公開第21315122.8号で欧州において2021年7月7日に出願された優先権を主張し、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、10μm未満のd50値、5m2/g超の比表面積、0.035cm3/g超の総細孔容積及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合を有する硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)を得るプロセスであって、a)10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程と、b)Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程とを含むプロセスに関する。本開示は、このようなプロセスから得られる硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)及び式(I):
LiaPSbXc (I)
(式中、
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
- aは、3.0~6.0の数を表し、
- bは、3.5~5.0の数を表し、及び
- cは、0~3.0の数を表す)
の固体化合物を調製するための、このようなLi2S粉末の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、特に家電製品の電源として広く使用されている。このような二次電池では、有機溶媒が有機液体電解質として使用され、電池が充電中であるか又は放電中であるかに応じて、リチウムイオンが一方の電極からもう一方の電極に移動する。
【0004】
電解質として使用される溶媒は、引火性であるため、有機溶媒を使用しない全固体リチウムイオン電池は、非常に魅力的である。このような全固体リチウムイオン電池は、例えば、Li、P、S及びハロゲンを含む固体電解質を用いて電池全体を固体化することによって形成される。
【0005】
このような固体電解質を調製するための出発材料の1つは、硫化リチウム(Li2S)である。このような出発材料の技術的特徴(例えば、純度、粒径及び多孔性)は、高純度の固体電解質を得るために重要である。Li2Sの製造について、様々な方法が当技術分野で開示されている。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2020/165129A1号明細書(Albemarle)は、Li2S粉末及びその調製に関するものであり、このような粉末は、250~1,500μmの平均粒径及び1~100m2/gのBET表面積を有する。この調製方法は、a)平均粒径が150~2,000μmの範囲の水酸化リチウム一水和物を空気の非存在下において、温度制御された装置中で150℃~450℃の反応温度まで加熱し、形成された水酸化リチウムの結晶含有の残留水が5重量%未満になるまで、装置にわたり又は装置を通して不活性ガスを流すことと、b)硫黄源によって第1の段階で形成された水酸化リチウム無水物をオーバーフロー又は浸透させることとを含む。
【0007】
しかしながら、このようなLi2S粉末は、その高い平均粒径が100μmを超えるという欠点があり、特にこのようなLi2S粉末を電池部品の調製に使用する場合、使用前に更に処理する必要がある。
【0008】
米国特許出願公開第2015/0246811号明細書(Arkema France)は、アルカリ金属硫化物の調製方法を開示しており、この方法は、前記アルカリ金属硫化物の少なくとも1つの酸素含有化合物と、式(I)R-S(=O)n-Sx-R’の少なくとも1つの硫黄含有化合物との反応の少なくとも1つの段階a)を含む。前記段階a)を実行するための2つの実施形態が開示されている。第1の実施形態は、少なくとも1つの触媒の存在下において150℃~500℃、好ましくは150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃の温度で実施され、これは、反応の速度を高めることが目的である。第2の実施形態は、任意選択的に触媒の非存在下において、好ましくは300℃~800℃、好ましくは300℃~600℃の温度で実施される。段階a)では、水を添加することが好ましいか、又は水の代わりに水素を使用することができる。実施例では、予備段階は、窒素流下において550℃及び250℃の温度で行われる。このプロセスは、複合原料(R-S(=O)n-Sx-R’)及び触媒の使用又は高い反応温度の使用を必要とするという欠点がある。
【0009】
Ohsaki et al.(Powder Technology,387,July 2021,415-420)は、微細なLi2S粒子から始まる、液体相振とう法を使用してサブミクロン単位でサイズを制御するLi3PS4の固体電解質粒子の合成を記載しており、これは、Li3PS4の固体電解質粒子の調製に使用される前に湿式粉砕又は溶解沈殿プロセスを通して処理される必要がある。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0104916号明細書(Idemitsu Kosan Co.,Ltd.)は、アルカリ金属硫化物、1つ又は2つ以上の硫黄化合物及びハロゲン化合物を溶媒中で互いに接触させることを含む、固体電解質の製造方法を開示している。アルカリ金属硫化物、特にLi2Sの調製は、従来技術から知られている方法を参照して開示されている。例えば、炭化水素系溶媒中、70℃~300℃での水酸化リチウムと硫化水素との反応が開示されている。硫化リチウムは、極性溶媒を含む溶媒を用いて改質され得、それにより大きい比表面積が得られる。製造例1では、トルエンが使用されている。原料として使用されるアルカリ金属硫化物の粒径は、限定されないが、粒径を小さくする工程が費用の点で必ずしも有利であるとは限らないため、粒径は、実際に100マイクロメートルを超える場合もある。
【0011】
アノード材料及びその調製方法は、米国特許出願公開第2013/0295464号明細書(Idemitsu Kosan Co.,Ltd.)にも開示されている。原料として、硫化水素及びアルカリ金属水酸化物を用いることができる。製造例1は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中において130℃での水酸化リチウムと硫化水素との反応を開示している。
【発明の概要】
【0012】
本出願人は、Li2Sが、サイクル安定性が低く、低速性能であり、初期活性化電位が高いという欠点があることを認識している。
【0013】
加えて、本出願人は、市販のLi2Sが高価であり、粒径が10μmを超える大きいものであり、これが電池部品としてのその欠点を更に悪化させることを認識した。
【0014】
従って、本出願人は、Li2S粉末の新しい製造プロセスを提供するという問題に直面した。
【0015】
より具体的には、本出願人は、均一に分散した状態を維持できる小さいサイズのLi2S粒子の製造プロセスを提供するという問題に直面した。
【0016】
本発明は、10μm未満のd50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)、5m2/g超の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定)、0.035cm3/g超の総細孔容積(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法(Harkins and Jura method)による窒素ガス吸着によって測定)及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)を有する硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)を得るプロセスであって、
a)10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程、
b)Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程
を含み、LiOH粉末Aは、
- 10μm未満のd50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末(LiOH粉末C)を得るために、10μm超のd50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末(LiOH粉末B)を粉砕する工程及びLiOH粉末Aを得るために、このようなLiOH粉末Cを180℃未満の温度で加熱する工程、又は
- 5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末D)を得るために、5重量%超の残留含水量を示す水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末を180℃未満の温度で加熱する工程及びLiOH粉末Aを得るために、このようなLiOH粉末Dを粉砕する工程
によって得られる、プロセスに関する。
【0017】
本発明は、10μm未満のd50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)、5m2/g超の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定)、0.035cm3/g超の総細孔容積(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)を有する硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)にも関する。
【0018】
本発明は、式(I):
LiaPSbXc (I)
(式中、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
aは、3.0~6.0の数を表し、
bは、3.5~5.0の数を表し、及び
cは、0~3.0の数を表す)
の固体化合物を調製するためのプロセスであって、上に開示されたLi2S粉末の使用を含むプロセスにも関する。
【0019】
本発明は、本明細書に記載の方法によって得ることができる式(I)の化合物、特にLi6PS5Cl又はLi3PS4にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願では、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
- 要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に想定される関連する実施形態では、要素又は成分は、個々の列挙された要素又は成分のいずれか1つであり得るか、又は明示的に列挙された要素又は成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分もこのようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、
- 端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0021】
本発明は、硫化リチウムの粉末(Li2S粉末)を得るプロセスに関し、このような粉末は、アルギロダイトリチウムを含む、硫化リチウム電解質などの電池部品の調製に使用するのによく適した特定の特有の技術的特徴を有する。
【0022】
前記Li2S粉末を製造するための本発明のプロセスは、有利には、少なくとも、
a)10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程、
b)Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程
を含む。
【0023】
有利には、本発明のプロセスは、溶媒及び/又は希釈剤を含まない。換言すれば、工程b)下での反応中、溶媒及び/又は希釈剤は、反応容器に添加されない。これは、溶媒を除去するための工程が工業プロセスの複雑さ及びその全体の費用を増加させることから、有利である。
【0024】
本発明によるプロセスは、非常に少量の溶媒、即ち反応混合物の総重量に基づいて5重量%未満の量の溶媒の存在下で実施できることが理解される。好ましくは、この実施形態によれば、溶媒の量は、反応混合物の総重量に基づいて4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.01重量%未満又は0.001重量%未満の溶媒である。反応混合物の総重量は、反応剤の重量を加えることによって得られる。
【0025】
加えて、有利には、本発明のプロセスでは触媒が添加されない。本明細書及び以下の特許請求の範囲で使用される「触媒」という用語は、工程b)下での反応の速度を増加させることができる任意の化合物を示すことを意図する。例えば、前記触媒は、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化モリブデン及びこれらの混合物から選択することができ、例えばシリカ、アルミナ又は活性炭に担持されても又はされなくてもよい。
【0026】
本発明のプロセスは、少なくとも2つの工程:
a)10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末A)を提供する工程と、
b)Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させる工程と
を含み、LiOH粉末Aは、少なくとも2つの工程:粉砕する工程と、180℃未満の温度で加熱する工程との組み合わせによって調製される。
【0027】
粉砕及び加熱のこれらの2つの工程は、任意の順序で実行できる:粉砕し、次いで加熱するか、又は加熱し、次いで粉砕する。
【0028】
本発明のプロセスの重要な違いの1つは、水酸化リチウムの粉末を硫化物反応剤と反応させる工程b)の実施前に水酸化リチウムの粉末の粒径を小さくすることである。
【0029】
他の重要な違いの1つは、得られるLiOHが硫化物源に対して反応性が落ち、低温で乾燥が行われ、従来技術に記載のプロセスと比較して及びこれに対して水酸化リチウムの粉末が低温で加熱されることである。
【0030】
本発明のプロセスは、加熱工程が180℃以下の温度で行われ、これにより全体のプロセス費用が削減されるため、この点で有利である。本発明者らは、硫黄に対して反応性であるためにLiOH粉末を200℃超の高温に加熱すべきであるという意見に反して、水酸化リチウムの粉末を180℃未満の温度で加熱すると、式LiLiaPSbXcの高品質の固体化合物(I)を調製するための、細孔容積を含む有利な一連の特性を備えたLi2S粉末をもたらすことを実際に認識した。
【0031】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、この有利な一連の特性は、Li2Sプロセスで使用される前に水酸化リチウムの粉末を調製するための加熱及び粉砕工程の組み合わせによるものである。前記2つの工程下において、水酸化リチウムの粉末は、サイズが小さくなり、その細孔容積の測定によって決定される特有の凝集レベルを示す。低温の使用は、費用管理の観点から有利であるだけでなく、固体電解質の調製に使用するのによく適したLi2S粉末の製造も可能にする。
【0032】
好ましくは、本発明のプロセスの工程a)は、10μm未満のd50値を有し、且つ5重量%未満の残留含水量を示すLiOH粉末Aを提供する工程を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、LiOH粉末のd50値は、10μm未満、8μm未満、6μm未満、4μm未満又は更に2μm未満である。いくつかの実施形態では、LiOH粉末のd50値は、少なくとも100nm、少なくとも200nm又は更に少なくとも300nmである。
【0034】
いくつかの実施形態では、LiOH粉末Aの残留水含有量は、LiOH粉末の総重量に基づいて4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満又は更に0.1重量%未満である。いくつかの実施形態では、LiOH粉末Aの残留水含有量は、0.001重量%超又は0.01重量%超である。
【0035】
工程a)のLiOH粉末Aは、2つの代替実施形態によって得ることができる。
【0036】
第1の実施形態によれば、LiOH粉末Aは、少なくとも以下の2つの工程の組み合わせによって調製される:
1/10μm未満のd50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末(LiOH粉末C)を得るために、10μm超のd50値を有する水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末(LiOH粉末B)を粉砕する工程、及び
2/LiOH粉末Aを得るために、このようなLiOH粉末Cを180℃未満の温度で加熱する工程。
【0037】
第2の実施形態によれば、LiOH粉末Aは、少なくとも以下の2つの工程の組み合わせによって調製される:
1’/5重量%未満の残留含水量を示す水酸化リチウムの粉末(LiOH粉末D)を得るために、5重量%超の残留含水量を示す水酸化リチウム一水和物(LiOH.H2O)の粉末を180℃未満の温度で加熱する工程、及び
2’/LiOH粉末Aを得るために、このようなLiOH粉末Dを粉砕する工程。
【0038】
これらの2つの実施形態によれば、加熱工程は、180℃未満の温度で行われる。このような温度は、例えば、170℃未満、160℃未満、150℃未満、140℃未満、130℃未満、120℃未満、110℃未満及び更に100℃未満であり得る。加熱工程は、例えば、80℃の温度で行うことができる。
【0039】
好ましくは、このような加熱工程は、空気の非存在下で行われる。加熱工程は、有利には、真空下において且つ/又は粉末にわたって若しくは粉末を通して不活性ガスを流すことによって行われる。
【0040】
加熱工程の継続時間は、制限されず、予想される残留水量に到達するのに必要なだけ長くすることができる。例えば、加熱工程は、1~24時間継続することができる。
【0041】
これら2つの実施形態によれば、粉砕工程は、10μm未満のd50値を有する粉末が得られるように行われる。
【0042】
このような粉砕を行うには、あらゆるタイプの装置を使用できる。例えば、ローター-ステーターグラインダー、遊星ボールミル又はアトライタを参照することができる。
【0043】
粉砕工程の継続時間は、制限されず、予想されるd50値に到達するのに必要なだけ長くすることができる。例えば、粉砕工程は、1~24時間継続することができる。
【0044】
好ましくは、このプロセスの第2の工程b)は、Li2S粉末を得るために、このようなLiOH粉末Aを硫化物反応剤と反応させることを含む。
【0045】
工程b)は、好ましくは、100~260℃で変動する、例えば110~250℃又は120~240℃で変動する温度で行われる。
【0046】
硫化物反応剤は、硫化水素、元素硫黄、二硫化炭素、メルカプタン、窒化硫黄、有機硫化物及び有機二硫化物からなる群から選択することができる。硫化水素が好ましく、ガス状硫化水素(H2S)がより好ましい。
【0047】
反応は、LiOH粉末を硫化物反応剤、例えばH2Sガスと接触させる容器中で行われる。反応容器は、撹拌ブレードを備えることが好ましい。反応器は、反応剤が反応器の底部に配置される縦型容器であり得る。他のタイプの反応器、例えば乾燥機又は押出機などの横型反応器も使用することもできる。反応器は、密閉されていることが好ましい。反応器の容量は、制限されない。反応は、大気圧未満又は大気圧超の圧力で行われ得、例えば0.05MPaの圧力又は1MPaの圧力を使用することができる。反応器は、少なくとも1つの加熱手段を備える。加熱手段は、原料と接触する反応器の内壁の温度を維持する。反応器は、追加の加熱手段、例えば反応器の上部に位置することができる第2の加熱手段を備え得る。反応器には、硫化物反応剤、例えばガス状H2Sを注入する手段も備える。
【0048】
工程b)は、LiOH粉末Aを撹拌しながら行うことが好ましい。この場合、容器は、例えば、d/D>0.9(dは、撹拌ブレードのサイズであり、Dは、容器の内径である)を有する、反応器の底部にできるだけ近く且つ/又は壁にできるだけ近く配置される撹拌ブレード又は搬送撹拌機を備える。
【0049】
水は、工程b)中に除去することが好ましい。これは、容器のガス排出ラインに凝縮器を設置することで実現でき、この場合、気体状態にある水が液体になり(凝縮される)、容器の外で収集される。
【0050】
本発明のプロセスは、連続的であり得るか、又はそれは、バッチ式であり得る。
【0051】
本発明は、10μm未満のd50値(パラキシレン中でレーザー回折によって測定)、5m2/g超の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定)、0.035cm3/g超の総細孔容積(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)及び20%超の、20nm未満の直径の細孔で構成される総細孔容積の割合(FAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定)を有することを特徴とするLi2S粉末にも関する。
【0052】
このようなLi2S粉末は、特に、本発明のプロセスによって製造することができる。
【0053】
本発明者らは、追加の処理工程(例えば、粉砕)なしに、式LiaPSbXc (I)の固体化合物を調製するためのプロセスに直接使用する準備ができているLi2S粉末をもたらす原料及び工程の組み合わせを特定することができた。
【0054】
驚くべきことに、本発明によるプロセスから得られるLi2S粉末は、次世代電池構成要素として使用される、式LiaPSbXcの固体化合物の調製によく適した凝集度によって特徴付けられる。
【0055】
本発明に関連して、凝集粒子は、その細孔容積によって特徴付けられ、「凝集粒子」という用語は、より大きく機械的に強い粒子に組織化された結合した分割粒子を意味することを意図する。より正確には、粒子のこのような凝集度は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定される比表面積、両方ともFAAS補正を用いたBJHモデルのハーキンス及びジュラ法による窒素ガス吸着によって測定される総細孔容積及び直径20nm未満の細孔で構成される総細孔容積の割合の測定によって特徴付けられる。
【0056】
本発明のLi2S粉末は、パラキシレン中でレーザー回折によって測定されるそのd50値によって特徴付けられる。本発明によれば、Li2S粉末のd50値は、10μm未満、8μm未満、6μm未満、4μm未満又は更に2μm未満である。いくつかの実施形態では、Li2S粉末のd50値は、少なくとも100nm、少なくとも200nm又は更に少なくとも300nmである。
【0057】
本発明のLi2S粉末は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法による窒素ガス吸着によって測定されるその比表面積が高いことによって特徴付けられる。本発明によれば、Li2S粉末の比表面積は、5.0m2/g超、5.5m2/g超、6.0m2/g超、6.5m2/g超又は更に6.9m2/g超である。いくつかの実施形態では、Li2S粉末の比表面積は、40m2/g未満、35m2/g未満又は更に30m2/g未満である。
【0058】
本発明のLi2S粉末は、高い総細孔容積によって特徴付けられる。本発明によれば、Li2S粉末の総細孔容積は、0.035cm3/g超、0.039cm3/g超、0.042cm3/g超、0.045cm3/g超又は更に0.049cm3/g超である。いくつかの実施形態では、Li2S粉末の総細孔容積は、1.0cm3/g未満、0.80cm3/g未満又は更に0.50cm3/g未満である。
【0059】
本発明のLi2S粉末は、高い細孔分布によって特徴付けられる。本発明によれば、Li2S粉末の細孔分布は、20nm未満の直径の細孔の細孔容積が少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%又は更に少なくとも45%であるようなものである。いくつかの実施形態では、このような細孔分布は、100%未満、99%未満又は更に98%未満である。
【0060】
本発明のLi2S粉末は、以下の特徴のいずれか1つ又はいくつかによっても特徴付けられ得る:
- パラキシレン中でレーザー回折によって測定される、0.05μm超のd10値、例えば、0.07μm超、0.09μm超又は0.1μm超のd10値、
- パラキシレン中でレーザー回折によって測定される、50μm未満のd90値、例えば40μm未満、30μm未満、20μm未満又は15μm未満のd90値。
【0061】
従って、本発明は、粒子又は粉末の形態の新規なLi2S粒子を特徴とし、そのサイズ及び凝集度によって特徴付けられ、実質的に球状であり得る。このようなLi2S粒子は、更なる反応、例えば式LiaPSbXcの固体化合物(I)の調製に関与する際に分散及び解凝集の顕著な能力を示す。その導電性の低下につながる可能性があることから、本発明によるLi2S粉末から製造される固体化合物(I)の粒子は、電池配合物に使用する前に粉砕する必要がないため、これは、有利である。
【0062】
本発明の一態様は、式(I):
LiaPSbXc (I)
(式中、
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
- aは、3.0~6.0の数を表し、
- bは、3.5~5.0の数を表し、及び
- cは、0~3.0の数を表す)
の固体化合物を調製するためのプロセスであって、本発明の硫化リチウム粉末の使用を含むプロセスにも関する。
【0063】
明確にするために、a、b及びcの数は、整数又は非整数/小数であり得、範囲の端点及び均等物が範囲に含まれる。
【0064】
いくつかの実施形態では、このようなプロセスは、
- 本発明の硫化リチウム粉末を含む、乾燥又はスラリー状態の出発材料(水酸化リチウムの粉末、硫化物反応剤、リン含有材料及びハロゲン含有材料)を混合し、任意選択的に機械的エネルギーを加えて、混合物を提供する工程と、
- 任意選択的に、前記混合物を乾燥させる工程と、
- 任意選択的に、得られた乾燥混合物をペレットに圧縮する工程と、
- 任意選択的に乾燥された混合物又はペレットを、350℃~550℃に含まれる温度に少なくとも2時間、例えば4時間、6時間、8時間、10時間又は12時間の期間にわたって加熱する工程と
を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、このようなプロセスは、-200℃~10℃に含まれる温度T1で溶液S1を調製するための少なくとも1つの工程であって、前記溶液S1は、溶媒並びに少なくとも(PS4)3-の形態のP種、Li+の形態のLi種、X-の形態のX種及び本発明の硫化リチウム粉末の形態の残りの硫黄を含む、工程、その後、前記溶液S1から溶媒の少なくとも一部を除去してLiaPSbXcを得る工程を含む。
【0066】
これらの実施形態によれば、溶液S1は、本発明による硫化リチウム、硫化リン及びハロゲン化合物を溶媒中において、-200℃~10℃、好ましくは-110℃~-10℃、特に-100℃~-50℃に含まれる温度で混合することによって得ることができる。
【0067】
代わりに、溶液S1は、以下の工程から得ることができる:
1/本発明による硫化リチウム及びハロゲン化合物を溶媒中で混合することによって前駆体溶液を得る工程、及び
2/前記溶液S1を得るために、硫化リンを、-200℃~10℃に含まれる温度で前記前駆体溶液に添加する工程。
【0068】
S1から溶媒の少なくとも一部を除去するための工程は、30℃~200℃に含まれる温度で実施することができる。溶液S1の調製は、不活性雰囲気中、真空下又はH2S流下で行われる。
【0069】
このようにして得られたLiaPSbXcは、次いで、150℃~700℃に含まれる温度で熱処理され得る。
【0070】
このようなプロセスで使用される溶媒は、LiaPSbXc、硫化リチウム、硫化リン及びハロゲン化合物を溶解できることが好ましい。それは、例えば、エタノール、メタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される脂肪族アルコールであり得る。
【0071】
ハロゲン化合物は、LiCl、LiBr、LiI及びLiFからなる群から選択されることが好ましい。
【0072】
溶液S1は、溶媒に添加された硫化リチウムの総モル量に対してLi+の形態の少なくとも50モル%のLi種、好ましくはLi+の形態の少なくとも80モル%のLi種、より好ましくはLi+の形態の少なくとも95モル%のLi種を含み得る。
【0073】
溶液S1は、溶媒中に添加された硫化リンの総モル量に対して(PS4)3-の形態の少なくとも50モル%のP種、好ましくは(PS4)3-の形態の少なくとも80モル%のP種、より好ましくは(PS4)3-の形態の少なくとも95モル%のP種を含み得る。
【0074】
溶液S1は、溶媒に添加されたハロゲン化合物の総モル量に対してX-の形態の少なくとも50モル%のX種、好ましくはX-の形態の少なくとも80モル%のX種、より好ましくはX-の形態の少なくとも95モル%のX種を含み得る。
【0075】
本発明は、本明細書に記載の方法によって得ることができる、式LiaPSbXc (I)
(式中、
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
- aは、3.0~6.0の数を表し、
- bは、3.5~5.0の数を表し、及び
- cは、0~3.0の数を表す)
の化合物にも関する。
【0076】
本発明は、最終的に以下に関する:
- 本明細書に記載の方法によって得ることができるLi6PS5X(式中、Xは、ハロゲンである)、
- 本明細書に記載の方法によって得られるLi3PS4、
- 固体電解質としての、このようなLiaPSbXc、例えば本明細書に記載のLi6PS5X及びLi3PS4の使用、
- このようなLiaPSbXc、例えば本明細書に記載のLi6PS5X及びLi3PS4を含む固体電解質、
- LiaPSbXc、例えば本明細書に記載のLi6PS5X及びLi3PS4を含む電気化学デバイス、
- 本明細書に記載の固体電解質を含む固体電池、及び
- 本明細書に記載の固体電池を含む車両。
【0077】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【国際調査報告】