(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】浸漬冷却システムにおけるリン酸エステル熱伝達流体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
C09K5/10 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500358
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 US2022035905
(87)【国際公開番号】W WO2023283117
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505006666
【氏名又は名称】ランクセス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・フレッチンガー
(72)【発明者】
【氏名】ニール・ミルン
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィス・ベナンティ
(57)【要約】
電気部品の浸漬冷却のための熱伝達流体は、特定のトリアルキルホスフェートエステル及びトリアリールホスフェートエステルの混合物を含む。更に開示されるのは、熱伝達流体を使用する浸漬冷却システム及び浸漬冷却システムを使用して電気部品を冷却する方法である。本開示のリン酸エステルの混合物は、低引火性、低流動点、高電気抵抗及びポンパビリティーのための低粘度等、循環浸漬冷却システムにおいて有利な特性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気部品の浸漬冷却のための熱伝達流体であって、
(a)式(I)
【化1】
(各Rは、独立してC
6~18アルキルである)の1種又は1種を超えるリン酸エステル、及び
(b)式(II)
【化2】
(各R'は、非置換フェニル及びC
1~12アルキル置換フェニルから独立して選ばれる)の1種又は1種を超えるリン酸エステル
を含む、熱伝達流体。
【請求項2】
前記リン酸エステル成分(a)の前記リン酸エステル成分(b)に対する質量比が10:1~1:10である、請求項1に記載の熱伝達流体。
【請求項3】
前記リン酸エステル成分(a)の前記リン酸エステル成分(b)に対する質量比が5:1~1:5である、請求項1に記載の熱伝達流体。
【請求項4】
成分(b)が、式(II)のリン酸エステルの混合物を含む、請求項1に記載の熱伝達流体。
【請求項5】
式(II)のリン酸エステルの前記混合物が、モノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、トリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及びトリフェニルホスフェートから選ばれる群からの少なくとも2種を含む、請求項4に記載の熱伝達流体。
【請求項6】
式(II)のリン酸エステルの前記混合物が、
(a)約30wt%~約95wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約5wt%~約50wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約0wt%~約20wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約0wt%~約30wt%のトリフェニルホスフェート
を含み、質量百分率が、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対するものである、請求項5に記載の熱伝達流体。
【請求項7】
式(II)のリン酸エステルの前記混合物が、
(a)約60wt%~約95wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約5wt%~約30wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約0wt%~約5wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約0wt%~約15wt%のトリフェニルホスフェート
を含み、質量百分率が、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対するものである、請求項6に記載の熱伝達流体。
【請求項8】
式(II)のリン酸エステルの前記混合物が、
(a)約30~約60wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約20~約50wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約2~約20wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約5~約30wt%のトリフェニルホスフェート
を含み、質量百分率が、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対するものである、請求項6に記載の熱伝達流体。
【請求項9】
式(I)中の各Rが、独立してC
6~12アルキルである、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱伝達流体。
【請求項10】
前記リン酸エステル成分(a)及び(b)が合計で、前記熱伝達流体の少なくとも70質量%を構成する、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱伝達流体。
【請求項11】
前記リン酸エステル成分(a)及び(b)が合計で、前記熱伝達流体の少なくとも90質量%を構成する、請求項10に記載の熱伝達流体。
【請求項12】
電気部品、
請求項1から11のいずれか一項に記載の熱伝達流体、及び
前記電気部品が貯槽内の前記熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている貯槽、及び
前記熱伝達流体を前記貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、前記貯槽内に戻して循環させることができる循環システム
を備える、浸漬冷却システム。
【請求項13】
前記電気部品がバッテリーを備える、請求項12に記載の浸漬冷却システム。
【請求項14】
前記バッテリーが、電気ビークルのためのバッテリーモジュールである、請求項13に記載の浸漬冷却システム。
【請求項15】
前記循環システムが、ポンプ及び熱交換器を含む、請求項12に記載の浸漬冷却システム。
【請求項16】
前記循環システムが熱伝達流体タンクを更に含む、請求項15に記載の浸漬冷却システム。
【請求項17】
電気部品、請求項1から11のいずれか一項に記載の熱伝達流体、及び前記電気部品が貯槽内の前記熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている貯槽を備える浸漬冷却システムを提供する工程、並びに
前記熱伝達流体を前記貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、前記貯槽内に戻して循環させる工程
を含む、電気部品を冷却する方法。
【請求項18】
前記電気部品がバッテリーを備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記バッテリーが、電気ビークルのためのバッテリーモジュールである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記循環システムが、ポンプ及び熱交換器を含み、前記熱伝達流体を循環させる前記工程が、前記熱伝達流体をポンピングして前記貯槽から出し、循環パイプラインに通し、前記熱交換器に通し、前記貯槽内に戻す工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記循環システムが、熱伝達流体タンクを更に含み、前記熱交換器を流れる前記熱伝達流体が、前記熱伝達流体タンク内にポンピングされ、前記熱伝達流体タンクから前記貯槽内に戻る、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気部品の浸漬冷却のための熱伝達流体及び熱伝達流体を使用する浸漬冷却システムに関する。熱伝達流体は、本明細書に記載されるように、リン酸エステルの混合物を含む。リン酸エステルの混合物は、低引火性、低流動点、高電気抵抗及びポンパビリティーのための低粘度等、循環浸漬冷却システムにおいて有利な特性を示す。
【背景技術】
【0002】
エネルギー若しくは電力を使用、貯蔵及び/又は発生する電気部品は、熱を発生し得る。例えば、リチウムイオンバッテリー等のバッテリーセルは、充電及び放電動作の間に多量の熱を発生する。伝統的な冷却システムは、空気冷却又は間接液体冷却を使用する。一般に、水/グリコール溶液が、間接冷却を介して熱を放散する熱伝達流体として使用される。この冷却技法において、水/グリコール冷却剤は、ジャケット等のチャネルを通って、バッテリーモジュールの周りを、又はバッテリー枠組内のプレートを通って流れる。しかし、水/グリコール溶液は、高導電性であり、且つ熱伝播及び熱暴走につながり得る短絡を引き起こすリスクのために、漏れを通じて等、電気部品に接触してはならない。加えて、高負荷(急速充電)、高容量バッテリーの需要が高まっているなか、間接冷却システムが熱を十分且つ効率的に除去することができるかどうか疑問が残っている。
【0003】
電気部品を冷却剤中に浸漬することによる冷却は、伝統的な冷却システムの有望な代替である。例えば、US2018/0233791A1は、バッテリーモジュールがバッテリーボックス内の冷却剤中に少なくとも部分的に浸漬されている、熱暴走を抑制するバッテリーパックシステムを開示している。冷却剤は、バッテリーボックスからポンピングされ、熱交換器に通され、バッテリーボックス内に戻ってもよい。冷却剤として、他の化学の中でも、トリメチルホスフェート及びトリプロピルホスフェートが述べられている。しかし、本出願に示されるように、トリメチルホスフェート流体又はトリプロピルホスフェート流体は低直流(DC)比抵抗を示し、それぞれは、各流体の引火性がそれを不適にするような低い引火点を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2018/0233791A1
【特許文献2】米国特許第2,008,478号
【特許文献3】米国特許第2,868,827号
【特許文献4】米国特許第3,859,395号
【特許文献5】米国特許第5,206,404号
【特許文献6】米国特許第6,242,631号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低引火性、低流動点、高電気抵抗及び低粘度を有する熱伝達流体、特に浸漬冷却システムのための熱伝達流体の開発に対する需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この需要を満たすために、リン酸エステルの特定の混合物を含む新しい熱伝達流体が本明細書に開示される。更に開示されるのは、本発明に開示される熱伝達流体を使用する浸漬冷却システムである。
【0007】
本開示によれば、電気部品の浸漬冷却のための熱伝達流体は、
(a)式(I)
【0008】
【0009】
(各Rは、独立してC6~18アルキルである)の1種又は1種を超えるリン酸エステル、及び
(b)式(II)
【0010】
【0011】
(各R'は、非置換フェニル及びC1~12アルキル置換フェニルから独立して選ばれる)の1種又は1種を超えるリン酸エステルを含む。
【0012】
更に開示されるのは、電気部品、本開示の熱伝達流体、及び電気部品が貯槽内の熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている貯槽、及び熱伝達流体を貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、貯槽内に戻して循環させることができる循環システムを備える浸漬冷却システムである。
【0013】
本開示は、電気部品を貯槽内の本開示の熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬する工程、及び熱伝達流体を貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、貯槽内に戻して循環させる工程を含む、電気部品を冷却する方法も含む。
【0014】
本開示の熱伝達流体、システム及び方法は、多種多様な電気部品の冷却に、特に、バッテリーシステムの冷却において適している。
【0015】
先の概要は、いかなる意味においても特許請求される発明の範囲を限定することが意図されない。加えて、前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも単に例示的且つ説明的であり、並びに特許請求される発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示による例示的な浸漬冷却システムのブロックフロー図である。
【
図2】本開示による例示的な浸漬冷却システムのブロックフロー図である。
【
図3】本開示による例示的な浸漬冷却システムの概略図である。
【
図4】本開示による例示的な浸漬冷却システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に指定されない限り、本出願における語「a」又は「an」は「1つ又は1つを超える」を意味する。
【0018】
電気部品の浸漬冷却のための熱伝達流体は、
(a)式(I)
【0019】
【0020】
(各Rは、独立してC6~18アルキルである)の1種又は1種を超えるリン酸エステル、及び
(b)式(II)
【0021】
【0022】
(各R'は、非置換フェニル及びC1~12アルキル置換フェニルから独立して選ばれる)の1種又は1種を超えるリン酸エステルを含む。
【0023】
熱伝達流体中のリン酸エステル成分(a)のリン酸エステル成分(b)に対する質量比はしばしば、35:1~1:35、30:1~1:30、25:1~1:25、20:1~1:20、12:1~1:12、10:1~1:10、8:1~1:8、5:1~1:5又は3:1~1:3等、40:1~1:40、しばしば39:1~1:39の範囲である。
【0024】
熱伝達流体は、式(I)及び(II)のもの以外のリン酸エステルを含んでもよい一方、リン酸エステル成分(a)及び(b)は典型的にはまとめて、熱伝達流体中のすべてのリン酸エステルの総質量に対して50質量%超、例えば、熱伝達流体中のすべてのリン酸エステルの少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99質量%を占める。
【0025】
リン酸エステル成分(a)の式(I)中、各Rは、そうである必要はないが、同じであってもよい。
【0026】
リン酸エステル成分(b)の式(II)中、各R'は、そうである必要はないが、同じであってもよい。いくつかの実施形態において、式(II)中の各R'は、C1~12アルキル置換フェニルから独立して選ばれる。更なる実施形態において、1個のR'基は、C1~12アルキル置換フェニルであり、残りの2個のR'基は非置換フェニルであるか、又は2個のR'基は、C1~12アルキル置換フェニルから独立して選ばれ、残りのR'基は非置換フェニルである。いくつかの実施形態において、C1~12アルキル置換フェニルから選ばれる2個のR基は同じである。
【0027】
式(I)中の「C6~18アルキル」としてのRは、指定数の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基であってもよい。しばしば、「C6~18アルキル」としてのRは、少なくとも8個の炭素原子を有する。好ましくは、C6~18アルキルとしてのRは、C6~12若しくはC8~12アルキル又はC6~10若しくはC8~10アルキルである。非分岐状アルキル基の例は、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、及びn-ドデシルを含む。分岐状アルキル基の例は、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、6-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、t-オクチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、7-メチルオクチル、2-ブチルヘキシル、8-メチルノニル、2-ブチルオクチル、11-メチルドデシル及び同種のものを含む。直鎖状アルキル及び分岐状アルキル基の例は、イソノニル、イソデシル、イソトリデシル及び同種のものと一般に呼ばれる部分も含み、接頭語「イソ」は、オキソ法から得られたもの等のアルキルの混合物を指すと理解される。
【0028】
式(II)中の「C1~12アルキル置換フェニル」としてのR'は、C1~12アルキル基で置換されたフェニル基を指す。アルキル基は、指定数の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基であってもよい。1個を超えるアルキル基がフェニル環上に存在してもよい(例えば、2個のアルキル基又は3個のアルキル基で置換されたフェニル)。しかし、しばしば、フェニルは、1個のアルキル基で置換される(すなわち、モノ-アルキル化される)。好ましくは、C1~12アルキルは、C1~10若しくはC3~10アルキル、より好ましくはC1~8若しくはC3~8アルキル、又はC1~6若しくはC3~6アルキルから選ばれる。そのようなアルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、t-ペンチル、2-メチルブチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、6-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、イソオクチル、t-オクチル、及びイソノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル、2-ブチルヘキシル、イソデシル、及び2-ブチルオクチル並びに同種のものを含む。アルキル化剤は、プロピレン、ブチレン、ジイソブチレン、及びプロピレンテトラマー等、ナフサのクラッキングから得られたオレフィンを含んでもよい。フェニル環上の前記アルキル置換は、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又はその組合せであってもよい。しばしば、アルキル置換は、パラ位であるか、又は主にパラ位である。
【0029】
成分(a)は、式(I)のリン酸エステル化合物の混合物を含んでもよい。例えば、成分(a)は、式(I)の化合物の異性体混合物を含んでもよく、例えば、そのようなリン酸エステルは、分岐状脂肪族アルコールの異性体の混合物に由来するような分岐状アルキル異性体を含む。
【0030】
しばしば、成分(b)は、式(II)のリン酸エステルの混合物である。例えば、成分(b)は、式(II)のリン酸エステルの異性体混合物を含んでもよく、例えば、そのようなリン酸エステルは、分岐状アルキル化フェノールの異性体の混合物に由来するような分岐状アルキル異性体を含む。
【0031】
更なる実施形態において、成分(b)は、トリキシレニルホスフェート、トリクレシルホスフェート及び同種のもの等、C1~12アルキル置換フェニルのオルト異性体、メタ異性体、及び/又はパラ異性体を含む式(II)のリン酸エステルの異性体混合物を含む。
【0032】
多くの実施形態において、成分(b)は、C1~12アルキル置換フェニルであるR'基の数が異なる式(II)の2種以上のリン酸エステルを含む。例えば、式(II)の化合物の混合物は、モノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、トリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及びトリフェニルホスフェート(「アルキルフェニル」は、本明細書に記載されるようなC1~12アルキル置換フェニルである)から選ばれる群からの少なくとも2種、しばしば3種又は4種すべてを含んでもよい。
【0033】
式(II)の化合物のそのような混合物は、例えば、
(a)約30wt%~約95wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約5wt%~約50wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約0wt%~、約2~又は約5wt%~約20wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約0wt%~又は約2wt%~約30wt%のトリフェニルホスフェートを含んでもよく、質量百分率は、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対する。
【0034】
多くの実施形態において、式(I)の化合物のそのような混合物は、
(a)約65~又は約70wt%~約85又は~約80wt%等、約60wt%~約95wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約10~又は約15wt%~約30又は~約25wt%等、約5wt%~約35wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約0~又は約1wt%~約5又は~約4wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約1~又は約2wt%~約10又は~約5wt%等、約0~又は約1wt%~約15wt%のトリフェニルホスフェートを含み、質量百分率は、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対する。
【0035】
多くの実施形態において、式(I)の化合物のそのような混合物は、
(a)約35~又は約40wt%~約55又は~約50wt%等、約30wt%~約60wt%のモノ(アルキルフェニル)ジフェニルホスフェート、
(b)約25~又は約30wt%~約45又は~約40wt%等、約20wt%~約50wt%のジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、
(c)約2~又は約4wt%~約15又は~約10wt%等、約2wt%~約20wt%のトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、及び
(d)約10~又は約15wt%~約25又は~約20wt%等、約5~又は約10wt%~約30又は~約25wt%のトリフェニルホスフェートを含み、質量百分率は、式(II)のすべてのリン酸エステルの総質量に対する。
【0036】
本開示の熱伝達流体は、鉱油、ポリアルファオレフィン、エステル等のような1種又は複数種の他の基油を含んでもよい。他の基油及びその量は、本明細書に記載されるような循環浸漬冷却流体に適した特性と一貫するように選ばれるべきである。典型的には、リン酸エステル成分(a)及び(b)はまとめて、熱伝達流体の50質量%超を占める。例えば、多くの実施形態において、リン酸エステル成分(a)及び(b)はまとめて、熱伝達流体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99質量%である。
【0037】
本開示の熱伝達流体は、1種又は複数種の性能添加剤を更に含んでもよい。そのような添加剤の例は、抗酸化剤、金属不活性化剤、流動添加剤、腐食抑制剤、発泡抑制剤、解乳化剤、流動点降下剤、及びその任意の組合せ又は混合物を含むが、これらに限定されない。完全に配合された熱伝達流体は、これらの性能添加剤のうちの1種又は複数種、しばしば複数種の性能添加剤のパッケージを典型的に含む。しばしば、1種又は複数種の性能添加剤は、熱伝達流体の質量に対して0.0001wt%~最大3wt%、又は0.05wt%~最大1.5wt%、又は0.1wt%~最大1.0wt%で存在する。
【0038】
熱伝達流体は、リン酸エステル成分(a)及び(b)並びに任意選択で1種又は複数種の性能添加剤から本質的になってもよい。いくつかの実施形態において、熱伝達流体は、リン酸エステル成分(a)及び(b)並びに任意選択で1種又は複数種の性能添加剤からなる。
【0039】
その混合物を含む本開示のリン酸エステルは、既知であるか、又は既知の技法により調製することができる。例えば、トリアルキルホスフェートエステルは、アルキルアルコールのオキシ塩化リン又は五酸化リンへの添加によりしばしば調製される。その混合物を含むアルキル化トリフェニルホスフェートエステルは、アルキル化フェノールのオキシ塩化リンへの添加等、様々な既知の技法に従って調製されてもよい。既知のプロセスが、例えば、米国特許第2,008,478号、第2,868,827号、第3,859,395号、第5,206,404号及び第6,242,631号に記載されている。
【0040】
リン酸エステル成分(a)及び(b)は、そのようなリン酸エステル成分をブレンドするための任意の適した技法に従って混合されてもよい。
【0041】
本発明に開示される熱伝達流体の物理的特性が、リン酸エステル成分(a)及び(b)中のアルキル化度に基づいて、且つ/又はリン酸エステル成分(a)のリン酸エステル成分(b)に対する質量割合に基づいて少なくとも部分的に調整又は最適化されてもよい。
【0042】
典型的には、本開示の熱伝達流体は、ASTM D92による190℃以上、好ましくは200℃以上の引火点;ASTM D445に従って40℃で測定される50cSt未満、好ましくは40cSt以下又は35cSt以下、より好ましくは30cSt以下の動粘度;ASTM D5950による-20℃以下、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-30℃以下の流動点;及びIEC 60247に従って25℃で測定される0.25GOhm-cm超、好ましくは0.5GOhm-cm超、1GOhm-cm超、又は5GOhm-cm超のDC比抵抗を有する。
【0043】
例えば、多くの実施形態において、本開示の熱伝達流体は、ASTM D92による200℃以上の引火点;ASTM D445に従って40℃で測定される30cSt以下の動粘度;ASTM D5950による-30℃以下の流動点;及びIEC 60247に従って25℃で測定される1GOhm-cm超又は5GOhm-cm超のDC比抵抗を有する。
【0044】
本開示の浸漬冷却システムは、電気部品、本明細書に記載されるような熱伝達流体、及び電気部品が貯槽内の熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている貯槽、及び熱伝達流体を貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、貯槽内に戻して循環させることができる循環システムを備える。
【0045】
電気部品は、安全な使用のために放散を必要とする熱エネルギーを発生する任意の電子機器を含む。例は、バッテリー、燃料電池、航空電子機器、マイクロプロセッサ等のコンピュータ電子機器、無停電電源(UPS)、パワーエレクトロニクス(IGBT、SCR、サイリスタ、コンデンサ、ダイオード、トランジスタ、整流器及び同種のもの等)、インバータ、DC-DCコンバータ、チャージャ(例えば、負荷ステーション又は充電ポイント内)、位相変化インバータ、電気モータ、電気モータ制御装置、DC-ACインバータ、及び光電池を含む。
【0046】
本開示のシステム及び方法は、電気ビークル(乗用及び商用ビークルを含む)内の、例えば、電気自動車、トラック、バス、産業用トラック(例えば、フォークリフト及び同種のもの)、大量輸送ビークル(例えば、列車又はトラム)及び電動輸送の他の形態内のもの等のバッテリーシステムを冷却するのに特に有用である。
【0047】
典型的には、電化輸送は、バッテリーモジュールにより給電される。バッテリーモジュールは、互いに対して配列又は積層された1個又は複数のバッテリーセルを包含してもよい。例えば、モジュールは、角柱形、パウチ又は円筒形セルを含んでもよい。バッテリーの充電及び放電(使用)動作の間に、熱がバッテリーセルにより典型的に発生され、それは、浸漬冷却システムにより放散することができる。浸漬冷却システムを介したバッテリーの効率的冷却は、安全な状態を維持し、且つ熱伝播及び熱暴走を回避しながら、高負荷での急速充電時間を可能にする。電動輸送における電気部品は、電気モータも含み、それは、浸漬冷却システムにより冷却することができる。
【0048】
本開示によれば、電気部品は、貯槽内の熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている。しばしば、電気部品は、(バッテリーモジュールの場合)バッテリーセル壁、タブ及び配線を浸漬するように、熱伝達流体中に実質的に浸漬又は完全に浸漬される。貯槽は、電気部品が浸漬される熱伝達流体を保持するのに適した任意の容器であってもよい。例えば、貯槽は、バッテリーモジュール容器又はハウジング等、電気部品のための容器又はハウジングであってもよい。
【0049】
浸漬冷却システムは、熱伝達流体を貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、貯槽内に戻して循環させることができる循環システムを更に備える。しばしば、循環システムは、ポンプ及び熱交換器を含む。動作中、例えば
図1に示されるように、循環システムは、加熱された熱伝達流体をポンピングして貯槽から出し、循環パイプラインに通し、そして熱交換器に通して熱伝達流体を冷却し、そして冷却された熱伝達流体をポンピングして循環パイプラインに通し、貯槽内に戻してもよい。このように、バッテリーの充電又は放電動作の間等、電気部品(貯槽内の熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されている)の動作の間に、浸漬冷却システムは、電気部品により発生された熱を吸収し、熱交換器内の冷却のために、電気部品により加熱された熱伝達流体を除去し、そして冷却された熱伝達流体を貯槽内に戻して循環させるように動作される。
【0050】
熱交換器は、加熱された熱伝達流体を特定の用途に適した温度まで冷却することができる任意の熱伝達ユニットであってもよい。例えば、熱交換器は、空気冷却(液体から空気)又は液体冷却(液体から液体)を使用してもよい。熱交換器は、例えば、電気ビークルにおける冷却/空調回路等、電気設備又はデバイス内の別の流体回路を伴う共有された熱伝達ユニットであってもよい。循環システムは、空気冷却及び液体冷却熱交換器等の複数の熱交換器を通じて熱伝達流体を流してもよい。
【0051】
循環システムの循環パイプラインは、電気設備又はデバイス内の放散を必要とする熱エネルギーを発生する他の電気部品に熱伝達流体を流してもよい。例えば、バッテリーの浸漬冷却に関して
図2に示されるように、バッテリーにより給電されている電気部品(例えば、電気モータ)の浸漬冷却及び/又はバッテリーの充電において使用される電気部品の浸漬冷却のために熱伝達流体が使用されてもよい。様々な電気部品の容器又はハウジングから流れ出る加熱された熱伝達流体が、1台又は複数の熱交換器内で冷却されてよく、冷却された熱伝達流体が、循環されて容器又はハウジングに戻ってもよい。
【0052】
循環システムは、大量の熱伝達流体を貯蔵及び/又は維持する熱伝達流体タンクを含んでもよい。例えば、熱交換器からの冷却された熱伝達流体が、熱伝達流体タンク内にポンピングされ、熱伝達流体タンクから貯槽内に戻ってもよい。
【0053】
本開示による浸漬冷却システムの一例が
図3に示されている。電気部品及び貯槽は、例示の目的のために拡大されている。システムは、電気部品1(この例において、バッテリーモジュールのバッテリーセルである)、熱伝達流体2、及び貯槽3を備える。電気部品1は、貯槽3内の熱伝達流体2中に少なくとも部分的に浸漬されている(
図3では、完全に浸漬されている)。循環パイプライン4、熱交換器5及びポンプ6を備える循環システムは、熱交換器5内の冷却のために、加熱された熱伝達流体2を貯槽から移動させ、冷却された熱伝達流体は、循環されて貯槽3内に戻る。循環システムは、
図4に示されるように熱伝達流体タンク7を含んでもよい。
【0054】
図3及び
図4に示されるような電気部品1の上及び周りの熱伝達流体2の示された流れは単に例示的である。電気部品は、電気部品のタイプ及び所期の用途に適した任意の方法で貯槽内に配列されてもよい。同様に、貯槽に出入りする熱伝達流体の流れ及び貯槽を通じた流れは、電気部品を確実に熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬されたままにするのに適した任意の方法で達成されてもよい。例えば、貯槽は、複数の入口及び出口を含んでもよい。熱伝達流体は、電気部品の所望の向き及びシステムの所望の流体流に応じて、貯槽の左右、上部から底部若しくは底部から上部に、又はその組合せで流れてもよい。貯槽は、電気部品の上及び/又は周りの熱伝達流体の流れを導くためのバッフルを含んでもよい。更なる例として、熱伝達流体は、貯槽の1つ又は複数の上部入口から電気部品上にスプレーされる等、スプレーシステムを介して貯槽に入ってもよい。
【0055】
本開示のシステム及び方法は、バッテリーモジュール等の電気部品の冷却に特に有用である一方、熱伝達流体中の電気部品の本発明に開示される浸漬配列は、流体が熱を電気部品に伝達して、低温環境における温度制御を実現することも可能にする。例えば、浸漬冷却システムは、熱交換器が「加熱モード」で動作してもよい
図2に示されるように、熱伝達流体を加熱するヒータが備えられてもよい。加熱された流体は、熱を浸漬された電気部品に伝達して、バッテリー充電に望ましい、又は最適な温度等、電気部品に望ましい、又は最適な温度を達成及び/又は維持してもよい。
【0056】
更に開示されるのは、電気部品を本明細書に記載されるような熱伝達流体中に少なくとも部分的に浸漬する工程、及び熱伝達流体を貯槽から出し、循環システムの循環パイプラインに通し、貯槽内に戻して循環させる工程を含む、電気部品を冷却する方法である。
【0057】
更なる非限定的な開示が以下の実施例に記載される。
【実施例】
【0058】
手順
本開示による熱伝達流体、並びに比較例の熱伝達流体を評価して、それらの引火点(ASTM D92)、40℃で測定される動粘度(ASTM D445)、流動点(ASTM D5950)、及び25℃で測定されるDC比抵抗(IEC 60247)を決定した。
【0059】
(実施例1a)
ブチル化TPPのトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートに対する質量比90:10の、トリフェニルホスフェート(2.5以上~25wt%未満の範囲内)とDurad(登録商標)220B、Reolube(登録商標)Turbofluid 46B、又はReolube(登録商標)HYD 46Bという名称で市販されているモノ(ブチルフェニル)ジフェニルホスフェート、ジ(ブチルフェニル)モノフェニルホスフェート、及びトリブチルフェニルホスフェートの混合物(75超~98.5wt%以下の範囲内)との混合物であるブチル化トリフェニルホスフェート(ブチル化TPP)、並びにDisflamoll(登録商標)TOFという名称で市販されているトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートを上記の手順に従って評価した。
【0060】
(実施例1b)
質量比75:25のブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物を上記の手順に従って評価した。
【0061】
(実施例1c)
質量比50:50のブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物を上記の手順に従って評価した。
【0062】
(実施例1d)
質量比25:75のブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物を上記の手順に従って評価した。
【0063】
(比較例1)
トリメチルホスフェートを上記の手順に従って評価した。
【0064】
(比較例2)
トリ-n-プロピルホスフェートを上記の手順に従って評価した。
【0065】
(比較例3)
トリイソプロピルホスフェートを上記の手順に従って評価した。
【0066】
(比較例4)
トリ-n-ブチルホスフェートを上記の手順に従って評価した。
【0067】
【0068】
上記の表に示されるように、実施例1a、1b、1c及び1dのそれぞれは、本開示に従って、200℃超の引火点、-30℃以下の流動点、35cSt未満、しばしば25cSt未満の40℃での動粘度、及び5GOhm-cm超の25℃でのDC比抵抗を有した。すなわち、実施例1a、1b、1c及び1dのリン酸エステルは、循環浸漬冷却システムにおいて、低引火性、低流動点、高電気抵抗、及びポンパビリティーのための低動粘度の好ましい特性を有した。対照的に、比較例1~4はそれぞれ、200℃をはるかに下回る低い引火点及び実施例1a~1dに比べて低いDC比抵抗を示した。
【0069】
上記の実施例1a~1dに加えて、好ましい物理的特性及び上記の通りの特性を有する実施例1cの質量比50:50のブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物を熱伝播釘試験(thermal propagation nail test)(実施例2)において評価して、本開示の熱伝達流体が、循環浸漬冷却システムにとって優れた粘度を有しながら、安全な状態を維持し、且つ熱伝播及び熱暴走を回避するのに効果的であることを実証した。
【0070】
(実施例2)
実施例1cの質量比50:50のブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物を熱伝播釘試験において評価して、熱暴走状態をシミュレートした。規格GB38031-2020に従って以下の通り試験を行った:互いに隣接する7個の円筒形セルを使用して、1個の中央のセル及び中央のセルの周囲の6個のセルを有するバッテリーモジュールをパックした。セルが試料流体中に完全に浸漬されるように、試料流体で充填されたバッテリー様ハウジング内にセルを収めた。試料流体の積極的な冷却はなかった。中央のセルに直接挿入されている釘により中央のセルが短絡し、釘打ちされたセル内の温度上昇及び釘打ちされたセルの破局的故障を結果として生じた。周囲のセルを観察して、釘打ちされたセル及びその関連する温度上昇が周囲のセルに関して熱伝播又は潜在的な暴走状態の引き金となるかどうかを評価した。ブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物に対して、熱暴走又は火災発生は周囲のセル内で起こらなかった。すなわち、周囲の6個のセルのすべてが無傷のままであり、並びに動作可能且つ全電圧のままであった。したがって、ブチル化TPP及びトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートの混合物は、効果的な熱放散を実現し、且つバッテリーモジュールを効果的に保護した。
【0071】
(比較例5)
実施例2に記載された熱伝播釘試験において基油を評価した。基油は、155℃の引火点、-48℃の流動点、及び10cStの40℃での粘度を有した。基油の存在下で、釘打ちされたセルの故障は、周囲のセルのうちの1個を損なうのに十分な熱を周囲のセルに伝達し、それは、その電圧を失った。したがって、基油は、効果的な熱放散を実現せず、且つバッテリーモジュールを効果的に保護しなかった。
【符号の説明】
【0072】
1 電気部品
2 熱伝達流体
3 貯槽
4 循環パイプライン
5 熱交換器
6 ポンプ
7 熱伝達流体タンク
【国際調査報告】