(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】シナプス伝達を増進させるためのSCO-スポンジン由来ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20240705BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240705BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240705BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20240705BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240705BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240705BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K38/16
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/30
A61P29/00
C07K7/08 ZNA
C07K14/435
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500371
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2022066615
(87)【国際公開番号】W WO2023280550
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518100421
【氏名又は名称】アクソルティス・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シグヒル・ブリュンヒルデ・アデリーン・ルマルション
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ゴドフラン
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ・クリスチーヌ・スリオー
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA26
4C084CA59
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA18
4C084ZB11
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA20
4H045BA32
4H045CA40
4H045EA21
4H045FA20
4H045FA52
(57)【要約】
本発明は、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を増加又は増進させるための、SCO-スポンジンに由来するポリペプチドに関する。更に特に、本発明は、精神障害;薬物依存症;ウイルス感染症(例えば、コロナウイルス、例えばSARS CoV2)関連神経症状;NMDA受容体(NMDAr)及び/又はAMPA受容体(AMPAr)欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎;植物状態、並びに低酸素性脳損傷を含む疾患又は状態において、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるための前記ポリペプチドに関する。本発明は、処置方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2
(式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
- N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性があるか、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性があるか、又はN末端アミノ酸がアセチル化され且つC末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある)
のペプチドであって、GluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を増進させること又は回復させることにおける使用のためのペプチド。
【請求項2】
AMPAr及びGluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を増進させること又は回復させることにおける使用のための、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
興奮性シナプス伝達を、損なわれたとき/場合に、特に低酸素中又は後に、増進させること又は回復させることにおける使用のための、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
アミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2
(式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
- N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性があるか、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性があるか、又はN末端アミノ酸がアセチル化され且つC末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある)
のペプチドであって、
統合失調症の処置若しくは予防における使用のための、
薬物依存症、特に、PCP、ケタミン若しくはスコポラミンにより生じる薬物依存症、の処理若しくは予防における使用のための、
抗NMDAr脳炎の処置における使用のための、
植物状態の処置における使用のための、又は
シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧及び/若しくは低酸素性脳損傷の処置若しくは予防における使用のための、
双極性障害の処置における使用のための、
ウイルス感染症の結果として生じる、特に、SARS CoV2における及びCOVID-19(特に、ロングホーラーの病人)における、シナプス欠損の処置若しくは予防における使用のための、
シナプトパチーのシナプス機能不全の処置若しくは予防における使用のための
ペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G (式中、A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなる)のペプチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
- A1が、G、V、S、P及びA、好ましくは、G、Sから選択され、
- A2が、G、V、S、P及びA、好ましくは、G、Sから選択され、
- A3が、R、A及びV、好ましくは、R、Vから選択され、及び/又は
- A4が、S、T、P及びA、好ましくは、S、Tから選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
A1及びA2が、独立して、G及びSから選択され、及び/又はA3-A4が、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
配列番号3~63の配列からなる群から選択される配列のペプチドである、請求項1から7のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項9】
直鎖状ペプチドであるか、又は2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドである、請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項10】
配列番号3の配列のペプチドであり、直鎖状ペプチドであるか、又は2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドであるか、又は両方の混合物である、請求項1から9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項11】
配列番号3の配列のペプチドであり、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドである、請求項1から9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項12】
興奮性シナプス伝達を増加させる、増進させる又は回復させる、請求項1から11のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項13】
興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防又は処置する、請求項1から11のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項14】
特に海馬における、興奮性シナプス伝達を増加させること、増進させること若しくは回復させることにおける使用のための、又は特に海馬における、興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防若しくは処置するための、請求項1から11のいずれか一項に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を増加又は増進させるための、SCO-スポンジンに由来するポリペプチドに関する。更に特に、本発明は、精神障害;薬物依存症;ウイルス感染症(例えば、コロナウイルス、例えばSARS CoV2)関連神経症状;NMDA受容体(NMDAr)及び/又はAMPA受容体(AMPAr)欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎;植物状態、並びに低酸素性脳損傷を含む疾患又は状態において、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるための前記ポリペプチドに関する。本発明は、処置方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
シナプス生理機能の障害は、神経回路を並びに認知及び意識等のより高次の脳機能の遂行を害する、重大な脳恒常性異常をもたらしうる。グルタミン酸は、ヒト脳に最も大量に存在する興奮性神経伝達物質であり、長期増強等のシナプス可塑性において極めて重要な役割を果たす(Hansenら、2017)。肝要な大脳回路におけるNMDA受容体媒介及び/又はAMPA受容体媒介グルタミン酸作動性の活動を選択的に増進するシナプス標的治療は、認知又は意識を変容させる障害又は状態、例えば、精神障害、薬物依存症、ウイルス、特にコロナウイルス感染症及びそれらの関連神経症状、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、並びに植物状態において、脳の活動を改善することができる。
【0003】
グルタミン酸作動性神経伝達機能障害は、多くの精神障害の一般的な特徴である(Tangら、2020)。統合失調症は、世界の人口の約1%に発症する慢性衰弱性精神疾患である。統合失調症におけるNMDA受容体機能低下は、正常な健常人へのNMDA受容体アンタゴニスト(フェンシクリジン(PCP)、ケタミン)の投与が、統合失調症患者により示されるもの似ている一連の精神病症状を及び認知機能障害を誘導することを示す臨床観察により裏付けられる(Prattら、2017;Hashimoto、2014)。
【0004】
海馬のグルタミン酸作動性機能は、双極性障害を有する対象においても変容され、海馬のある特定の領域においてイオンチャネルの開口に伴ってNMDA受容体の数の減少が観察された(Scarrら、2003;Chittyら、2015)。
【0005】
SARS CoV2ロングホーラーは、持続性認知機能障害をはじめとする有害な神経学的影響を被る(Kumarら、2021;Alnefeesiら、2020)。COVID-19患者からの脳組織の死後解析により、認知機能において極めて重要な役割を果たすことが公知の上層興奮性ニューロンにおけるシナプス欠損が証明された(Yangら、2021)。したがって、このニューロン集団は、COVID-19に罹患した星状膠細胞及びニューロンでの神経伝達の欠損に対して特に感受性が高い可能性がある。
【0006】
コカイン、アンフェタミン、オピオイド類、アルコール及び大麻等の多くの薬物は、シナプス伝達を変容させ、認知関連症状を誘導する(Gould、2010)。例えば、コカインの慢性的な乱用は、長期増強を変容させ(Keralapurathら、2017)、認知の柔軟性の欠損を生じさせる(Jedemaら、2021)。同様に、NMDA受容体アンタゴニスト(PCP及びケタミン)は、薬物として又は麻酔薬として使用されたとき、海馬におけるシナプス伝達及び長期増強を抑制し、それによって認知機能障害、とりわけ作業記憶欠損、が誘導される(Roussyら、2021;Medina-Kirchner及びEvans、2021;Luoら、2002;Prattら、2017;Hashimoto、2014;Stringerら、1983)。オピオイド類(モルヒネ及びヘロイン)の使用中止は、シナプス機能及び長期増強を変容させて、認知の硬直性をもたらす(Gould、2010;Puら、2002)。
【0007】
抗NMDA受容体脳炎は、グルタミン酸作動性シナプス伝達を大きく変容させる、脳内に存在するNMDArを標的とする自己抗体を特徴とする自己免疫疾患である(Wagnonら、2020;Tangら、2020;Finkeら、2012)。抗NMDAr脳炎は、コロナウイルス感染症関連疾患の際に(Sarigeciliら、2021;Alvarez Bravo及びRamio Torrenta、2020)、及び自己免疫性自閉症の際に(Tzangら、2019)、見られることがある。これは、自己抗体抗NMDArが検出される疾患及び状態、例えば、脳卒中(Stancaら、2015)、統合失調症(Pearlman及びNajjar、2014)、大うつ病性障害、認知症(Dossら、2014)、加齢関連認知低下(Busseら、2014)にまで及ぶ。
【0008】
植物状態は、外傷性及び非外傷性状態の結果として生じる、意識を規定する神経回路の活動の大幅な低下と定義される。視床は、皮質下領域と皮質領域の間の神経情報の統合及び伝達において中心的な役割を果たす。視床皮質投射のシナプス強度及び可塑性の変容は、植物状態の患者における意識の回復の大きな制約を意味する(Bagnatoら、2013;Pistoiaら、2010)。
【0009】
低酸素は、身体の一部の組織に酸素が欠乏している一般的な状態である。十分な酸素供給のそのような不足は、罹患組織全体に劇的な影響を及ぼしうる。とりわけ、脳への不十分な酸素の供給は、シナプス伝達の抑圧(通常は「シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧」と呼ばれる)を引き起こし、その上、低酸素への長期曝露は、ニューロンの細胞消失及び細胞死につながりうる。予防せずに又は治療せずに放置すると、脳の酸素枯渇により、結果として、低酸素性脳損傷が生じうる。
【0010】
シナプス機能の破壊は、大部分の神経変性障害、CNS損傷及び精神障害の主要決定因子の代表である。シナプス生理機能の障害は、脳恒常性のバランスを崩すことによって、神経回路の機能的統合性を並びに認知及び意識等のより高次の脳機能の遂行を害しうる。グルタミン酸は、長期増強(LTP)等のシナプス可塑性において極めて重要な役割を果たす[Hansen 2017]。したがって、肝要な神経回路網におけるα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)媒介及び/又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)媒介グルタミン酸作動性伝達を選択的に増進させるシナプス標的治療は、認知又は意識を変容する障害又は状態、例えば、精神障害[Hashimoto 2014、Tang 2020、Balu 2016、Nazakawa 2020]、薬物依存症[Luo 2021]、神経変性疾患[Benitez 2021;Conway 2020;Milnerwood 2010;Lepeta 2016]、ウイルス感染症(特に、コロナウイルス感染症及びそれらの関連神経症状)[Kumar 2021]、抗NMDAR脳炎[Finke 2012]、植物状態[Bagnato 2013]、又は加齢[Kumar 2019、Shi 2007]において、脳の活動を改善することができる。
【0011】
グルタミン酸作動性神経伝達を増加させうる、増進させうる又は回復させうる方法は、上記の治療の文脈に関連する状態に耐えている患者にとって非常に有益であろう。
【0012】
SCO-スポンジン由来ペプチドは、それらの神経保護特性及び神経再生特性について記載されている。脊髄損傷及びタウオパチーの処置のためのSCO-スポンジン由来ペプチドの使用は、動物モデルにおいて調査されている。しかし、これまでのところ、グルタミン酸作動性シナプス伝達を改善するそれらの能力についての役割は示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO-99/03890
【特許文献2】米国特許第6,995,140号
【特許文献3】WO2018146283
【特許文献4】WO 2017/051135
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Biophysical Journal Volume 95 November 2008 4879~4889頁
【発明の概要】
【0015】
本発明は、シナプス機能/機能不全に対するペプチドの効果を論じる。マウス脳スライスを用いて電気生理学を使用することにより、本発明者らは、NX218が、AMPAR及びGluN2A含有NMDAR(GluN2A-NMDAR)を介して興奮性シナプス後電流を増強し、基礎シナプス伝達(basal synaptic transmission)を増加させることを記載する。それに基づいて、フェンシクリジン(PCP)でのNMDARの遮断により誘導されるシナプス機能不全のマウス薬理学モデルにおけるNX218の単回急性全身投与は、空間作業記憶を改善する。更に、ペプチドの連日投与は、GluN2A-NMDARタンパク質レベルを上昇させ、NMDAR駆動シグナル伝達(リン酸化cAMP応答エレメント結合タンパク質;pCREB)のPCP誘導性減少を逆転させ、それによって記憶も回復される。
【0016】
本発明者らは、かくて、驚くべきことに、SCO-スポンジン由来ペプチドの新たな特性を同定した。本発明は、シナプス伝達、特に、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけ、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させることにおける使用のための、SCO-スポンジン由来ペプチド、又はそのようなペプチドの少なくとも1つを含有する医薬組成物に関する。公知であるように及び本明細書で説明されるように、グルタミン酸作動性伝達等のシナプス伝達の障害は、統合失調症、薬物依存症、特に、PCP、ケタミン又はスコポラミンによって生じる薬物依存症、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎、植物状態、シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧、低酸素性脳損傷等の、状態又は疾患の一般的な特徴である。これらの状態又は疾患は、前記治療的使用及び対応する処置方法により包含される病的状態である。
【0017】
シナプス伝達又は神経伝達に対するこの効果を、既存の完全に機能的なシナプスに対して、及び/又はその機能が害されている若しくは阻害されている既存のシナプスに対して、得ることができる。ペプチドは、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を増加させること、再構築すること又は保護することができる。下で説明されるように、これは、更に特に、NMDAr関連グルタミン酸作動性神経伝達、特に、GluN2Aサブユニットと関連しているもの(GluN2A-NMDAR神経伝達)、及び/又はAMPARと関連しているもの(AMPAR神経伝達)である。より正確には、効果は、GluN2A-NMDAR及びAMPAR興奮性シナプス後電流の増加による、異なる神経回路(即ち、海馬又は視床皮質シナプス)における神経伝達の強度の増加又は強化である。
【0018】
ある態様では、ペプチドは、基礎興奮性シナプス伝達の、即ち、シナプス前ニューロンからシナプス後ニューロンへのシグナルの伝播の、増加又は増進を誘導する。したがって、シナプス前末端の電気刺激により誘発されるシナプス後応答は、ペプチドを投与すると増加する。
【0019】
ある態様では、ペプチドは、より具体的には、グルタミン酸作動性神経伝達の増加、増進又は回復を誘導する。したがって、シナプス後ニューロンに記録されたグルタミン酸作動性応答は、ペプチド適用により、ペプチド適用前の同じニューロンに記録された応答に対して増加する。詳細には、実施例においてNMDAr電気シナプス後電流(EPSC)振幅:ペプチド曝露前の53pAに対してペプチドの存在下で101pA;AMPAr EPSC振幅:ペプチド曝露前の142pAに対してペプチドの存在下で163pAによって例証されるように、グルタミン酸受容体により媒介されるこれらのシナプス後電流の振幅の増加がある。このシナプス入力増加によって、シナプス後ニューロンにおける活動電位生成を回復させることが可能になりうる。このシナプス入力の増加は、シナプス後ニューロンに活動電位を発火させる可能性がより高いであろう。
【0020】
ある態様では、ペプチドによるNMDAr関連神経伝達の増加又は増進は、少なくとも特にGluN2Aサブユニットにより誘導される。GluN2Bサブユニットアンタゴニストを使用してGluN2A電流が単離されたとき、ペプチドの添加によってNMDAr電流の振幅が有意に増加することが示される(GluN2A EPSC振幅(対象に対する%):GluN2Bアンタゴニストで79%、並びにGluN2Bアンタゴニスト及びペプチドで91%、実施例を参照されたい)。それ故、GluN2Aサブユニットは、ペプチドにより媒介されるNMDAr電流の振幅の増加に関与する。逆に、GluN2Aサブユニットアンタゴニストを使用してGluN2B電流が単離されたとき、ペプチドの添加は、NMDAr電流に対して有意な効果を及ぼさないことが示される。それ故、GluN2Bサブユニットは、ペプチドにより媒介されるNMDAr電流の振幅の増加に関与しない。加えて、in silicoドッキングアプローチによって、特に、NMDArのGluN2Aサブユニット上への、及びAMPA受容体上への、ペプチドの結合が確認される。
【0021】
神経伝達又はシナプス伝達は、あるニューロンが、活動電位と呼ばれる形態の電気インパルスのもとで情報をコードする、別のニューロンと化学的に情報伝達を行うプロセスである。活動電位がニューロンの軸索の末端に達すると、それは、別のニューロン又は組織に移動される必要がある。これを達成するために、それは、シナプス前ニューロンとシナプス後ニューロン間のシナプス間隙を横断しなければならない。シナプス前ニューロン軸索終末の末端にシナプス小胞があり、これらは、神経伝達物質として公知の化学的メッセンジャーを含有する。シナプス前活動電位がこれらのシナプス小胞に達すると、それらは、神経伝達物質であるそれらの内容物を放出する。すると、神経伝達物質は、シナプス間隙を横断してシグナルを運ぶ。それらは、シナプス後ニューロン上の受容体部位に結合することによってシナプス伝達のプロセスを完了し、ひいては興奮性シナプス後電位(EPSP)(即ち、シナプス後膜の脱分極)をもたらし、ことによるとシナプス後活動電位の放出をもたらす。それらの中で、グルタミン酸は、ヒト脳内に最も大量に存在する興奮性神経伝達物質であり、それ故、グルタミン酸作動性神経伝達は、脳の活動において肝要な役割を果たす。
【0022】
電気生理学的方法を使用して、シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、の任意の変容又は増強を強調することができる。これは、グルタミン酸作動性シナプスにおけるシナプス強度の任意の変化を、電気シナプス前刺激に応答して誘発されるシナプス後電流を記録することによって、測定することにより、行うことができる(Pons-Bennacoeur及びLozovaya、2017)。
【0023】
「グルタミン酸作動性神経伝達を増加させること又は増進させること」とは、グルタミン酸作動性シナプス後電流が、ニューロン又はシナプスが本発明のペプチドの存在下にあるとき、予想されるものより(又は対照状態で記録されるものより)大きい振幅の電流になることを意味する。
【0024】
ピコアンペア(pA)で表されるNMDArシナプス後の電流振幅は、特に、ペプチド投与後に処置前状態又は対照条件に対して少なくとも約10~300%増加しうる。好ましくは、増加は、AMPA受容体媒介電流については約20~約40%の間であり、NMDA受容体媒介電流については、約60~約230%の間である。
【0025】
電流振幅(pA)は、実際には、実施例4及び5で開示されるもの等の公知の方法に基づいて成体マウスからの脳スライスを用いて電気生理学を使用して測定されうる。
【0026】
本発明のある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、精神障害、薬物依存症、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎、植物状態、並びに低酸素性脳損傷を含む疾患又は状態を予防又は処置することにおける使用のためのものである。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、増進させる又は回復させるため、これらの疾患のうちの1つに罹患している対象又は罹患するリスクがある対象にとって有益である。それは、前記神経伝達の増加が望まれる正常な対象にとっても有益である。したがって、ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達の改善(例えば、増加、増進又は回復)を可能にし、ひいては、ペプチドによりグルタミン酸作動性神経伝達が増加、再構築又は保護されるシナプスが関与する機能的又は知的能力の改善を可能にする。
【0027】
ある態様では、本発明は、特に海馬における、シナプス伝達に対する低酸素の有害効果(fEPSP勾配の大幅な減少により表されるシナプス伝達の抑圧)を予防又は処置するための、SCO-スポンジン由来ペプチドの、又はそのようなペプチドのうちの少なくとも1つを含有する医薬組成物の、使用である。脳低酸素は、虚血性脳卒中、一過性虚血発作又は結果として脳虚血となる任意の他の状態、外傷性脳損傷、心停止又は他の心臓の不具合、肺疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、気管支炎、肺炎及び肺水腫)、出生時低酸素性虚血性脳炎(HIE)、重症喘息発作、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満低換気症候群(OHS)、貧血、感染性呼吸器疾患(例えば、COVID-19症候群)、並びにより一般的には、長期又は反復性低換気につながる任意の急性又は慢性呼吸器不全、及び脳への不十分な酸素送達を生じさせる結果となる任意の状態等の、疾患の過程で又はその発症時に起こる低酸素でありうる。
【0028】
ペプチドは、特に、正常なシナプス機能を保つ若しくはほぼ正常に保つこと、及び/又は正常なシナプス機能を回復させること、又はシナプス伝達を増加させることを可能にしうる。
【0029】
ある態様では、ペプチドは、興奮性シナプス後電位(EPSP)を促進するために使用され、特に、抑圧からのEPSPの回復を促進する。実施例7及び8で提示されるように、そのような効果は、海馬スライスを用いて、確立された方法によるフィールドEPSP勾配の測定によって、測定されている。
【0030】
ある態様では、ペプチドは、シナプス伝達を保存するために及び/又は損なわれたとき/場合に(フィールド興奮性シナプス後電位の勾配の回復により示されるように)取り戻すために使用される。
【0031】
ある態様では、損なわれたとき/場合、シナプス伝達のより良好な且つより急速な回復を促進するために、ペプチドは使用される。
【0032】
ある態様では、ペプチドは、脳における低酸素の有害効果、特に、海馬等においてシナプス伝達に対して低酸素が誘導しうる有害効果を予防するために、及び/又は低酸素中若しくは低酸素後に正常なシナプス伝達を回復させることを可能にするために、有益でありうる。
【0033】
本明細書で開示されるペプチド、例えば、NX218は、in vivoでペプチドの反復投与後のpCREB脳内含有量の増加により示されるように、GluN2A-NMDAR及びAMPAR、及び更にはNMDAR駆動シグナル伝達によってシナプス伝達をもたらしたことが、本明細書で実証される。
【0034】
ある態様では、ペプチドは、シナプトパチーを処置又は予防するために使用される。
【0035】
本明細書で開示されるペプチド、例えば、NX218は、高次機能に関連する脳領域(即ち、皮質及び海馬)におけるAMPAR媒介及びGluN2A-NMDAR媒介神経伝達を助長する。そのようなペプチドでの処置は、シナプス機能不全の薬理学的マウスモデルにおいて実証されるように、NMDAR依存性シグナル伝達に関しても短期記憶に関しても好ましい変化を惹起する。全体的に見て、前記ペプチドによるGluN2A-NMDAR及びAMPAR機能の調節は、高齢者における、及び機能障害を引き起こすシナプスの異常又はシナプトパチーを伴うCNS障害に罹患している患者における、転帰を改善する治療機会を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
シナプス機能不全の検出:
今日では、ヒトにおけるシナプス機能不全を評定するために幾つかの技術が利用可能である。一部の電気生理学的測定法、イメージング技術及び流体バイオマーカー検査は、とりわけ、非侵襲的な方法での患者におけるシナプス機能不全の診断を可能にしうる。最も古い、最もよく知られている方法は、脳内のニューロンによって生じる電気的活動を記録するための電気生理学的モニタリング方法である脳波記録法(EEG)である(Cookら、1996)。この電気的活動は、異なるEEG周波数帯(アルファ、ベータ、ガンマ、シータ及びデルタ波と呼ばれる)により表される。ヒトEEG波は、異なるパラメーター値(主周波数、電圧及び形態)によってよく特徴付けられている。これによって医療専門家は任意の異常な脳の活動を迅速且つ容易に検出することが可能になる。
【0037】
特定の中枢神経系経路内での活動をより特異的に研究するために、誘発電位(EP)は、臨床医学においてよりいっそう有用でありうる。EPは、視覚刺激であろうと、聴覚刺激であろうと、感覚刺激であろうと、運動刺激であろうと、外部刺激への応答時の脳のある特定の領域における電気的活動を測定するために使用される。刺激と記録された電気的応答との間の遅延、及びその振幅が、健常な対象において通常得られる値と比較される。したがって、EPは、特定の神経系経路が通常に機能していないかどうかを知るのに非常に有用である。
【0038】
EPは、磁気共鳴画イメージング(MRI)に加えて有用でありうる:MRIは、可能性のある病変を検出することになり、その一方で、EPは、これらの病変の機能的影響に関する情報を提供することになる。より重要なこととして、EPによって、いずれの放射線学的異常が存在しなくても機能不全を診断することができる。
【0039】
つい最近、一部のイメージング技術がシナプス機能の研究用にカスタマイズされもした。これは、生体全体における機能的及び生理学的情報を提供するのに好適な、定量的イメージング技術である、ポジトロン放出断層撮影(PET)イメージングについての事例である。脳に関して、ヒト脳におけるシナプス機能を定量化するためのトレーサーが開発された。これまでに最も使用されているのは、シナプス前小胞に結合する、したがって、脳を横断して結合性の喪失を検出すること及び/又はシナプス機能の変化を追跡することを可能にする放射性トレーサーである、[11C]UCB-J PETである(Finnemaら、2016)。
【0040】
一部のCSFバイオマーカーを投与してシナプス機能を評価することもできる。過去十年におけるタンパク質検出方法の大きな進歩によって、生体液中のシナプス前及び後タンパク質を正確に定量化することが可能になった。今日現在で、シナプス機能の研究に使用される主なシナプスバイオマーカーは、成長関連タンパク質43(GAP-43)、シナプトソーム関連タンパク質25(SNAP-25)、シナプトタグミン-1及びニューログラニンである(Camporesiら、2020)。興味深いことに、多くの他のバイオマーカーが、目下、出現し続けている。
【0041】
本明細書で開示される使用及び方法のためのSCO-スポンジン由来ペプチド:
「SCO-スポンジン」は、中枢神経系に特異的な糖タンパク質であって、原索動物からヒトまで、脊椎動物の全てに存在する糖タンパク質である。それは、第三脳室の上側に位置する特異的器官である交連下器官により分泌される細胞外基質の分子として公知である。それは、サイズの大きい分子である。それは、4,500個を超えるアミノ酸からなり、マルチモジュール構成を有し、この構成は、様々な保存タンパク質パターンを含み、これには、特に、26のTR又はTSRパターンが含まれる。TSRパターンから始まるSCO-スポンジンに由来するある特定のペプチドが、神経又は神経系細胞において生物活性を有することは、公知である(特に、WO-99/03890に記載されている)。
【0042】
「TSR又はTRパターン」は、保存アミノ酸システイン、トリプトファン及びアルギニンのアラインメントに基づいて、おおよそ55~60残基のタンパク質ドメインである。これらのパターンは、血液凝固に関与する分子であるTSP-1(トロンボスポンジン1)において最初に単離された。その後、それらは、SCO-スポンジン等の非常に多くの他の分子に関して記載された。実際には、このトロンボスポンジン1型ユニット(TSR)は、これまでに研究された及び以前に言及されたタンパク質の全てにおいて、約55~60個のアミノ酸(AA)を含み、これらの一部、例えば、システイン(C)、トリプトファン(W)、セリン(S)、グリシン(G)、アルギニン(R)及びプロリン(P)は、高度に保存される。
【0043】
SCO-スポンジンペプチド又はペプチド化合物は、本発明を遂行する際に使用される(本発明の異なる目的は、使用のためのペプチド又は組成物、使用の方法、処置の方法、医薬の製造のためのペプチドの使用等を言う)。本発明によるペプチドのうちの少なくとも1つと薬学的に許容されるビヒクル、担体又は希釈剤とを含む医薬組成物も、使用される。
【0044】
特に、本発明は、配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2(配列番号1)
(式中、
A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成しているか又はしておらず、
X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性がある(例えば、H3CCOHN-を有する)か、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある(例えば、-CONH2を有する)か、又はN末端アミノ酸がアセチル化されている可能性もC末端アミノ酸がアミド化されている可能性もある)
のペプチドを使用する。
【0045】
ある実施形態では、配列番号1の式中、X1、又はX2、又はX1とX2の両方が、存在しない。ある実施形態では、X1及び/又はX2が存在しない場合、N末端Wは、アセチル化されており、及び/又はC末端Gは、アミド化されている。好ましくは、X1とX2の両方が存在せず、N末端Wは、アセチル化されており、及びC末端Gは、アミド化されている。
【0046】
特に、本発明は、配列
W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G(配列番号2)
(式中、
A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成しているか又はしていない)
のペプチドを使用する。
【0047】
配列番号1及び2の式についてのある実施形態では、ペプチドは、直鎖状ペプチドであり、又は配列番号1及び2のペプチド式上に出現するシステインは、ジスルフィド架橋(還元形態)を形成しない。
【0048】
好ましい実施形態では、配列番号1及び2のペプチド式上に出現する2個のシステインは、ジスルフィド架橋(酸化形態)を形成する。
【0049】
好ましくは、配列番号1及び2の式中、A1、A2、A3及び/又は、好ましくは及び、A4は、好ましくは、1又は2個のアミノ酸から、より好ましくは、1個のアミノ酸からなる。
【0050】
好ましくは、A1は、G、V、S、P及びA、より好ましくは、G、Sから選択される。
【0051】
好ましくは、A2は、G、V、S、P及びA、より好ましくは、G、Sから選択される。
【0052】
好ましくは、A3は、R、A及びV、より好ましくは、R、Vから選択される。
【0053】
好ましくは、A4は、S、T、P及びA、より好ましくは、S、Tから選択される。
【0054】
好ましくは、A1及びA2は、独立して、G及びSから選択される。
【0055】
好ましくは、A3-A4は、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択される。
【0056】
好ましくは、X1、X2、A1、A2、A3及びA4は、システインを含まない。
【0057】
X1が、1~6個のアミノ酸のアミノ酸配列であるとき、アミノ酸は、任意のアミノ酸であり、好ましくは、V、L、A、P、及びこれらの任意の組合せから選択される。
【0058】
X2が、1~6個のアミノ酸のアミノ酸配列であるとき、アミノ酸は、任意のアミノ酸であり、好ましくは、L、G、I、F、及びこれらの任意の組合せから選択される。
【0059】
ある実施形態では、配列番号1又は2のペプチドは、A1及びA2が、独立して、G及びSから選択され、A3-A4が、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択されるような、ペプチドである。
【0060】
特定のモダリティでは、このペプチドは、更にアセチル化及び/又はアミド化されている。ある実施形態では、ペプチドは、直鎖状ペプチドであり、又はシステインは、ジスルフィド架橋を形成しない。別の実施形態では、ペプチドは、ジスルフィド架橋(C末端環化)を形成する2個のシステインを有する。別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、両方の形態、酸化ペプチド及び直鎖状ペプチド、を含む。
【0061】
本発明では、用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を意味し、当業者には、常套的に、元のペプチドの機能又は有効性を保ちながらアミノ酸を変化させることが、天然アミノ酸から非天然アミノ酸に変化させることを含めて、できる。「天然アミノ酸」とは、天然タンパク質において見つけることができるL型のアミノ酸、即ち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン;グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンを意味する。「非天然アミノ酸」とは、それらのD型の前述のアミノ酸、並びにある特定のアミノ酸、例えばアルギニン、リシン、フェニルアラニン及びセリン、のホモ型、又はロイシン若しくはバリンのnor型を意味する。この定義は、他のアミノ酸、例えば、アルファ-アミノ酪酸、アグマチン、アルファ-アミノイソ酪酸、サルコシン、スタチン、オルニチン、デアミノチロシンも含む。ペプチド配列を記載するために使用される命名法は、1文字表記を使用する国際命名法であり、この命名法では、アミノ末端は左側に示され、カルボキシ末端は右側に示される。ダッシュ「-」は、配列のアミノ酸を連結する一般的なペプチド結合を表す。
【0062】
ある実施形態では、本発明によるペプチド、例えば、配列番号1~63の配列のペプチドのうちのいずれか1つは、N末端アセチル化、C末端アミド化、又はN末端アセチル化とC末端アミド化の両方を含む。
【0063】
異なる実施形態では、以下のアミノ酸配列(Table A(表1))から本質的になる、又はそれからなる、ポリペプチドの使用に関する。
【0064】
【0065】
【0066】
ある実施形態では、Table A(表1)で開示される配列番号3~34の配列のペプチドは、直鎖状ペプチドであり、又はシステインが、ジスルフィド架橋(還元ペプチド)を形成しない。別の実施形態では、Table A(表1)で開示される配列番号3~34の配列のペプチドは、ジスルフィド架橋(酸化ペプチド)を形成するように酸化されている2個のシステインを有する。別の実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、同じペプチド配列の両方の形態、酸化ペプチド及び直鎖状ペプチド、を含む。更に別の実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、配列番号3~34の配列から選択されるこれらの異なるペプチドのうちの少なくとも2つの混合物を含み、この混合物は、少なくとも2つの直鎖状ペプチドの混合物、又は少なくとも2つの酸化ペプチドの混合物、又は例えば同じアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの直鎖状ペプチドと少なくとも1つの酸化ペプチドの混合物でありうる。
【0067】
好ましい実施形態では、ペプチドは、アミノ酸配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号3)からなる。ある実施形態では、ペプチドは、直鎖状ペプチドであり、又はシステインは、ジスルフィド架橋を形成しない(NX210と呼ばれる還元形態)。別の実施形態では、ペプチドは、ジスルフィド架橋(酸化形態)を形成するように酸化されている2個のシステインを有し、それはNX218と呼ばれる。別の実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、酸化されている及び還元されている、両方の形態を含む。
【0068】
配列番号1のペプチドについてのある実施形態では、
- X1は、水素原子又はP又はA-P又はL-A-P又はV-L-A-Pを表し、及び/又は
- X2は、水素原子又はL又はL-G又はL-G-L又はL-G-L-I又はL-G-L-I-Fを表す。
【0069】
したがって、異なる実施形態では、本発明は、以下のアミノ酸配列(Table B(表2))からなる、又はそれから本質的になる、ポリペプチドの使用に関する。
【0070】
【0071】
ある実施形態では、Table B(表2)で開示される配列番号35~63の配列の、又はTable A+B(表1+2)で開示される配列番号3~63の配列の、ペプチドは、直鎖状ペプチドであり、又はシステインは、ジスルフィド架橋(還元ペプチド)を形成しない。別の実施形態では、ペプチドは、ジスルフィド架橋(酸化ペプチド)を形成するように酸化されている2個のシステインを有する。別の実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、同じペプチド配列の両方の形態、酸化ペプチド及び直鎖状ペプチド、を含む。更に別の実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、配列番号35~63又は3~63の配列から選択されるこれらの異なるペプチドのうちの少なくとも2つの混合物を含み、この混合物は、少なくとも2つの直鎖状ペプチドの混合物、又は少なくとも2つの酸化ペプチドの混合物、又は例えば同じアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの直鎖状ペプチドと少なくとも1つの酸化ペプチドの混合物でありうる。
【0072】
配列番号3~63の配列のペプチドのそれぞれが、アセチル化されていることがあり、アミド化されていることがあり、又はアセチル化且つアミド化されていることがある。
【0073】
本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、それらのアミノ酸配列で定義される。使用されるペプチドは、本明細書で開示される1つのペプチドであることがあり、又は本明細書で開示される少なくとも2つのペプチドの混合物であることがある。混合物は、同じ又は異なるアミノ酸配列の、直鎖状ペプチドと酸化ペプチドの混合物も包含する。100%純粋なペプチドが、本発明に従って使用されうる場合、ペプチドは、80%より高い、好ましくは85%より高い、より好ましくは90%より高い、よりいっそう好ましくは95、96、97、98又は99%以上の純度を有することが可能であり、本発明は、このことを包含する。従来の精製方法、例えば、クロマトグラフィーによる精製方法を使用して、所望のペプチド化合物を精製することができる。
【0074】
ある実施形態では、本発明において使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、両方の形態、酸化ペプチド(Op)及び直鎖状ペプチド(Lp)、を、例えば、同様の量で含むか、又は含まず、例えば、(数での%) Opが10、20、25、30、40、50、60、70、80若しくは90%であり、100%までの残部がLpである。組み合わせられる酸化ペプチド及び直鎖状ペプチドは、同じ配列のものであることもあり、又は異なる配列のものであることもある。例えば、配列番号3の配列のペプチドの酸化形態及び直鎖状の形態が、そのように、例えば上で開示された比率で、組み合わせられる(NX210及びNX218)。同じことが、配列番号4~34及び35~63の配列のペプチドのいずれか1つに当てはまる。
【0075】
一般的な態様では、本発明のペプチド及び医薬組成物は、興奮性シナプス伝達を増進させること及び回復させることにおける使用のためのものである。
【0076】
ある態様では、ペプチド及び医薬組成物は、基礎興奮性シナプス伝達、特に、グルタミン酸作動性神経伝達、更に特に、NMDAr関連グルタミン作動性神経伝達、特に、GluN2Aサブユニットと関連している前記神経伝達を増進させることにおける使用のためのものである。
【0077】
別の態様では、ペプチド及び医薬組成物は、興奮性シナプス伝達を、損なわれたとき/場合に、特に低酸素中又は後に、増進させること又は回復させることにおける使用のためのものである。
【0078】
特定の態様では、ペプチド及び医薬組成物は、
- 統合失調症を処置又は予防することにおける使用のためのもの、
- 双極性障害を処置又は予防することにおける使用のためのもの、
- 薬物依存症、特に、PCP、ケタミン若しくはスコポラミンにより生じる薬物依存症を、処置又は予防することにおける使用のためのもの、
- NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎を予防又は処置するためのもの、
- 植物状態を処置することにおける使用のためのもの、
- シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧を予防及び/又は処置することにおける使用のためのもの、
- 低酸素性脳損傷を予防及び/又は処置することにおける使用のためのもの、
-ウイルス感染症の結果として生じる、特に、SARS CoV2における及びCOVID-19(特に、ロングホーラーの病人)における、シナプス欠損を、処置又は予防することにおける使用のためのもの、
- 興奮性シナプス伝達を増加させること、増進させること又は回復させることにおける使用のためのもの、
- 興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防又は処置することにおける使用のためのもの、
- 特に海馬における、興奮性シナプス伝達を増加させること、増進させること若しくは回復させることにおける使用のための、又は特に海馬における、興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防若しくは処置するためのもの、
- NMDAr及び/又はAMPAr電気シナプス後電流(EPSC)、特にEPSC振幅、を増加させることにおける使用のためのもの、
- 並びにこれらの組合せ
である。
【0079】
統合失調症及び薬物依存症:
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、統合失調症を予防又は処置するために使用される。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるため、有益である。ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、再構築する、又は保護する。本明細書で開示されるように、PCP及びスコポラミン動物モデルは、統合失調症に適している有用なモデルである。
【0080】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、薬物依存症、例えば、PCP又はケタミン又はスコポラミンによって生じる薬物依存症を予防又は処置するために使用される。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるため、有益である。ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、再構築する、又は保護する。
【0081】
NMDA及び/又はAMPA及びアセチルコリン(ACh)受容体に拮抗することによりシナプス伝達をかなり変容することが公知である原薬は、本明細書で開示されるペプチドでの処置による恩恵を受けうる。グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させることは、これらの原薬により誘導されうる認知欠損を和らげるために肝要な役割を果たすことができる。これらの原薬は、精神活性物質、例えば、NMDArアンタゴニストであるPCP及びケタミン、並びにスコポラミン等のトロパンアルカロイドとしても公知の抗コリン剤を含む。
【0082】
PCP又はスコポラミンによるそれぞれグルタミン酸作動性又はコリン作動性シナプス伝達の薬理学的遮断は、推定向知性薬及び精神活性化合物を検査するための標準的なアプローチでもある。
【0083】
PCPモデルは、統合失調症及び薬物依存症にとって適切である。NMDA受容体アンタゴニストであるフェンシクリジン(PCP)の投与は、健常ボランティアにおいて統合失調症様症状を生じさせ(Domino及びLuby、2012)、それ故、齧歯動物において統合失調症を模倣するために使用されることが多い(Jonesら、2011)。齧歯動物におけるPCPの急性及び亜慢性投与の症状は、陽性及び陰性症状(それぞれ、運動過多及び引きこもり)、プレパルス抑制欠損並びに認知機能障害を含む(Youngら、2012;Jonesら、2011)。シナプス後ニューロンにおけるPCP及びケタミン(=PCP様化合物)等のアンタゴニストでのNMDA受容体依存性電流の遮断は、シナプス伝達を害し、これには、(1)とりわけ海馬における、長期増強を害し、それによって記憶が変容されること(Neillら、2010;Ingramら、2018;Stringer及びGuyenet、1983)、及び(2)ミスマッチ陰性電位を害し、それによって自動的な聴覚変化の検出が変わること(Garridoら、2009)が含まれる。
【0084】
スコポラミン急性モデルは、統合失調症にとって適切である。ムスカリン性ACh受容体アンタゴニストであるスコポラミンの投与は、健常ボランティアにおいて注意欠陥、作業記憶欠損及び学習獲得欠如を生じさせ、これは、統合失調症及び認知症患者により示されるものに似ている(Tang、2019;Gilles及びLuthringer、2007)。シナプス前ニューロンによるシナプスにおけるACh放出の低減は、とりわけ海馬における、長期増強を含む、シナプス伝達を害し、それによって記憶が変容される(Moreら、2016;Hirotsuら、1989)。
【0085】
他の応用:
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、とりわけ抗NMDAr脳炎、を予防又は処置するために使用される。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、並びに実施例4及び5によって裏付けられるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるため、有益である。ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、再構築する、又は保護する。
【0086】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、植物状態を処置するために使用される。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、及び実施例3によって裏付けられるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加又は増進させるため、有益である。ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、再構築する、又は保護する。
【0087】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧、及び/又は低酸素性脳損傷を処置するために使用される。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、並びに実施例7及び8によって裏付けられるように、興奮性シナプス伝達をより良好に且つより急速に回復させるため、有益である。ペプチドは、興奮性シナプス伝達を増加させる、再構築する、又は保護する。
【0088】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、双極性障害を処置するために使用される。
【0089】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、ウイルス感染症の結果として生じる、特に、SARS CoV2における及びCOVID-19(特に、ロングホーラーの病人)における、シナプス欠損を処置するために使用される。
【0090】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、シナプトパチー、更に特に、前記シナプトパチーにおけるシナプス機能不全を処置又は予防するために使用される。より正確には、シナプトパチーは、本明細書で開示されるような、グルタミン酸作動性神経伝達の障害、特に、NMDAr及び/又はAMPArと関連している前記神経伝達の障害を有するものである。
【0091】
ある態様では、ペプチド又は医薬組成物は、精神障害、例えば、自閉症、統合失調症、双極性機能不全、及びうつ状態を処置又は予防するために使用される。
【0092】
CREB:
転写因子c-AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)は、記憶形成を媒介する活動誘導性遺伝子発現に不可欠である(Silvaら、1998)。CREB経路は、ニューロンの活動の結果として生じるカルシウム増加に応答する。
【0093】
CREB発現の異常は、統合失調症に罹患している個体の脳に認められる(Wang 2018)。証拠は、患者の死後病理学的研究により提供される。統合失調症の脳内のCREBのタンパク質及び遺伝子レベル並びにCREBのCREへの結合活性は、帯状体において有意に減少された(Yuanら、2010;Renら、2014)。帯状体は、情動、学習及び記憶に関与し、統合失調症及び双極性障害を有する人々ではより小さく、神経活動低下があることが判明している、肝要な脳縁辺系構造である。それ故、CREB経路は、統合失調症及び双極性障害への革新的介入の開発のための有望な標的の代表でありうる。
【0094】
Tリンパ球中のリン酸化CREB(pCREB)の増加は、抗うつ薬で処置された患者における臨床改善に有意に関連している。ある研究において、著者は、直接的な薬理作用を排除するために心理療法のみで処置された患者を注視した。6週間の心理療法後、患者17名は療法に応答し、1週間後、pCREBが非応答者群と比較して有意に増加した。(Koch 2009)
【0095】
CREBの血清レベルは、精神医学的に健常な対象と比較して外傷後ストレス障害(PTSD)患者におけるほうが低い。CREBレベルは、PTSD患者における外傷のタイプによって異ならなかった。CREBは、PTSDの病態生理に関与する可能性がある(Olam 2019)。
【0096】
CREBシグナル伝達の機能障害は、依存症、パーキンソニズム、統合失調症、ハンチントン病、低酸素、プレコンディショニング効果、虚血、アルコール依存症、不安、及びうつ状態に関して文書で十分に裏付けられている(Sharma 2020)。
【0097】
CREBに対する本発明のペプチドの好ましい効果は、統合失調症、低酸素、双極性障害等の、本治療適応症において興味深い。
【0098】
医薬組成物:
本明細書で使用される場合の医薬組成物は、活性成分として前述のペプチド又はペプチドの混合物、例えば、異なるアミノ酸組成のペプチド又は酸化形態及び直鎖状の形態での同じアミノ酸組成のペプチドを含み、且つ、1つ又はそれより多くの薬学的に許容されるビヒクル、担体又は賦形剤を含む。
【0099】
本発明によるペプチド化合物は、本明細書で開示される、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を予防又は処置するための、医薬組成物において又は医薬の製造において使用されうる。
【0100】
これらの組成物又は医薬において、活性成分を、様々な形態で、即ち、溶液、一般に水溶液、の形態で、又は凍結乾燥形態で、又はエマルジョンの形態若しくは投与経路に適した任意の他の薬学的に及び生理的に許容される形態で、組成物に組み込むことができる。
【0101】
投与経路は、全身経路でありうる。特に、次の注射又は投与経路を挙げることができる:静脈内経路、髄腔内経路、腹腔内経路、鼻腔内経路、皮下経路、筋肉内経路、舌下経路、経口経路、及びこれらの組合せ。
【0102】
投与は、とりわけ、脳内経路、特に脳室内投与を使用して、局所的であることもある。
【0103】
本明細書で開示されるペプチドのうちの1つ又は複数を含有する組成物は、無菌である。これらの組成物は、患者への、例えば血液循環における、ペプチドの送達につながる投与に好適である。患者への送達は、ペプチドの十分な量の送達であり、この十分な量は、有益な効果と相関している。「薬学的効果」は、本明細書で開示されるように、グルタミン酸作動性伝達を増加又は増進させることを含みうる。
【0104】
一部の実施形態では、医薬組成物中の活性成分は、(1)本明細書で開示される直鎖状ペプチド、(2)本明細書で開示される酸化ペプチド、(3)NX210、(4)NX218又は(5)上で開示される、同様の量若しくはそうでない量での、直鎖状ペプチドと酸化ペプチド、例えば、特にNX210とNX218、の混合物からなる。
【0105】
活性成分は、従来の医薬支持体、担体、賦形剤又はビヒクルとの混合物として、単位投与形態で、動物及び人間に投与されうる。好適な単位投与形態は、経口投与形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁液又は溶液、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル;留置剤;皮下、経皮、局所的、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含む。
【0106】
好ましくは、医薬組成物は、患者に、例えば血流に、活性成分を送達するために投与されうる、例えば注射されうる、液体製剤に薬学的に許容される、担体、賦形剤又はビヒクルを含有する。これらは、特に、直ぐに使用できる溶液、例えば、等張、滅菌、食塩溶液(リン酸一ナトリウム若しくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム若しくはマグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は状況に応じて滅菌水若しくは生理食塩水を添加することによって投与可能な溶液を構成できる乾燥、特に凍結乾燥、組成物でありうる。
【0107】
医薬品形態には、滅菌水溶液又は水性分散液;ゴマ油、落花生油又は含水プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射用溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末が含まれる。全ての場合、形態は、無菌でなければならず、容易な注入性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造及び保管条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌等の微生物の夾雑作用に対抗して保存されなければならない。
無菌注射用溶液は、適切な溶媒に必要量の活性ポリペプチドを添合すること、続いて濾過滅菌することにより、調製される。
【0108】
製剤化されると、溶液は、投薬製剤に適合する様式で且つ治療的に有効であるような量で投与されることになる。製剤は、上記のタイプの注射用溶液等の様々な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセル等も利用されうる。
【0109】
水溶液での好適な投与のために、例えば、溶液を、必要に応じて好適に緩衝するべきであり、液体希釈剤を、先ず、十分な食塩水又はグルコースで等張にするべきである。これらの特定の水溶液は、投与、例えば、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に、特に好適である。これに関連して、利用されうる滅菌水性媒体は、本開示を踏まえて当業者には分かるであろう。静脈内又は筋肉内注射等の、注射投与用に製剤化される本発明の化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態としては、例えば、経口投与用の錠剤又は他の固体;リポソーム製剤;徐放性カプセル;並びに現在使用されている及び活性成分を送達する任意の他の形態が挙げられる。
【0110】
ペプチドの1用量は、患者体重(kg)当たりのペプチドの質量で表され、約1μg/kg~約1g/kg、特に、約10μg/kg~約100mg/kg、例えば、約50μg/kg~約50mg/kgの範囲でありうる。
【0111】
投薬レジメンは、単回投与又は反復投与を含みうる。ある実施形態によると、反復投与は、処置日当たり1用量、例えば、処置期間にわたって毎日又は2若しくは3日毎に1用量を投与することを含みうる。別の実施形態によると、反復投与は、処置日当たり少なくとも2用量、例えば、処置期間にわたって1日に2用量、3用量以上を投与することを含みうる。これらの実施形態では、処置期間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、15日、20日、25日、30日、35日、40日、45日以上(例えば、最大6ヵ月)でありうる。処置は、患者が、「期間」にわたってこの処理からの「恩恵」を保持するように設計される。「恩恵」は、上述の「薬学的効果」を含むことができ、ペプチドが、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、増進させる又は回復させるため、これらの疾患のうちの1つに罹患している対象又は罹患するリスクがある対象にとって有益であると言うことができる。したがって、ペプチドは、グルタミン酸作動性神経伝達の改善(増加、再構築又は保護)を可能にし、ひいては、ペプチドによりグルタミン酸作動性神経伝達が増加、再構築又は保護されるシナプスが関与する機能的若しくは知的能力又は認知の改善を可能にする。この「期間」は、投薬レジメンに、並びに患者自身、例えば、病気の重症度、及びレジメン用量に対する患者の応答性に、従属しうる。「改善」は、「部分的な改善」及び「完全な改善」を含む。「部分的」とは、対象においてそれが観察される場合、グルタミン酸作動性神経伝達の及び生理的機能の部分的な回復であって、処置前の対象の初期状態に対して、これらの有意な改善があるが、健康な対象に対してそれが有意に低いままであることを言う。「完全な回復」は、対象が、グルタミン酸作動性神経伝達及び生理的機能を回復したこと、又は彼らが、健常な対象と有意に異ならないことを意味する。
【0112】
処置方法:
ある態様では、本発明は、基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を増進させるためにそれを必要とする対象を処置する方法であって、SCO-スポンジン由来ペプチドの治療量及び薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【0113】
それを必要とする対象は、基礎興奮性シナプス伝達の低下、とりわけ、グルタミン酸作動性神経伝達(特に、NMDAr関連グルタミン酸作動性神経伝達、特に、GluN2Aサブユニットと関連している前記神経伝達)の低下を有する対象でありうる。特に、これの伝達又は神経伝達の低下は、正常未満のシナプス後電流を特徴とする。前の説明の通り、伝達又は神経伝達の増進は、シナプス後電流振幅の増加、少なくとも、NMDArシナプス後電流振幅の増加を特徴としうる。
【0114】
それを必要とする対象は、正常な基礎興奮性シナプス伝達、とりわけグルタミン酸作動性神経伝達、を有する対象であることもある。伝達又は神経伝達の増進は、基礎値より上への、シナプス後電流振幅の増加、少なくとも、NMDArシナプス後電流振幅の増加を特徴としうる。
【0115】
好ましくは、SCO-スポンジン由来ペプチドは、配列番号1又は2の配列のペプチドからなる群から選択される。更に特に、ペプチドは、配列番号3~63の配列のペプチドからなる群から選択される。好ましくは、ペプチドは、NX218である。
【0116】
本発明のある態様では、方法は、精神障害、薬物依存症、ウイルス、特にコロナウイルス感染症及びそれらの関連神経症状、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、植物状態、並びに低酸素性脳損傷からなる群から選択される疾患又は状態を処置する。特に、ペプチドは、本明細書で開示されるように、グルタミン酸作動性神経伝達を増加させる、増進させる又は回復させるため、有益である。
【0117】
一部の態様では、方法は、本明細書で開示されるように、統合失調症、薬物依存症(例えば、PCP、ケタミン及びスコポラミン)、NMDAr及び/又はAMPAr欠損症関連疾患、植物状態を処置する。
【0118】
一部の態様では、方法は、本明細書で開示されるように、シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧、又は低酸素性脳損傷を予防及び/又は処置する。
【0119】
ある態様では、本発明は、特に海馬における、シナプス伝達を増加させる、増進させる又は回復させるためにそれを必要とする対象を処置する方法であって、SCO-スポンジン由来ペプチドの治療量及び薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【0120】
ある態様では、本発明は、特に海馬における、興奮性シナプス後電位に対する低酸素の効果を予防又は処置するためにそれを必要とする対象を処置する方法であって、SCO-スポンジン由来ペプチドの治療量及び薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を対象に投与することを含む方法に関する。
【0121】
ペプチドは、特に、正常なシナプス伝達を保つ若しくはほぼ正常に保つこと、及び/又は正常なシナプス伝達を回復させること、又はシナプス伝達を増加させることを可能にしうる。
【0122】
ペプチドは、特に、正常なEPSPを保つ若しくはほぼ正常に保つこと、及び/又は正常なEPSPを回復させること、又はEPSPを増加させることを可能にしうる。
【0123】
本明細書で開示される他の特徴は、これらの処置方法に当てはまる。特に、記載される「使用のための」又は「ための使用」を、「使用方法」の基礎と見なすことができる。
【0124】
さらなる定義:
「ペプチド(単数)」又は「ペプチド(複数)」又は「ペプチド(単数又は複数)」の投与又は使用は、一般的な文言であり、本発明は、1つの単一ペプチド又は1つより多くの単一ペプチドの投与又は使用、即ち、本開示による少なくとも2つのペプチドの投与又は使用を包含する。したがって、本開示では、単数及び複数は、そうでない旨の指示がない限り限定されず、毎回、1つの単一ペプチド、又は少なくとも2つのペプチドを包含しうる。同じことが、同意義の文言「ペプチド化合物」に当てはまり、この文言は、同義で「ペプチド」に使用されうる。
【0125】
「処置すること」、「処置される」、又は「処置する」は、本発明によるペプチド化合物のある量を対象に送達することを意味する。本明細書で使用される場合のこれらの用語は、目的が、望ましくない生理的状態、障害若しくは疾患を遅らせる(軽減する)こと、又は有益な若しくは所望の臨床結果を得ることである、治療法を指す。本発明では、有益な又は所望の臨床結果は、グルタミン酸作動性神経伝達をモジュレートすること、安定化すること、好ましくは増加又は増進させること;グルタミン酸作動性神経伝達の障害の結果として生じる症状の減少;症状、状態、障害又は疾患の容態の安定化(即ち、悪化しないこと);症状、状態、障害又は疾患の発症の遅延又は進行の緩徐化;症状、状態、障害又は疾患の容態の改善;及びグルタミン酸作動性神経伝達の大幅な再構築又は状態、障害若しくは疾患の向上若しくは改善を伴う、寛解(部分的寛解であるか完全寛解であるかを問わない)を含むが、これらに限定されない。用語「処置すること」、「処置される」、又は「処置する」は、グルタミン酸作動性神経伝達と関連している疾患症状を予防すること、抑制すること、抑止すること、改善すること、又は完全に消失させることを含みうる。疾患を予防することは、グルタミン酸作動性神経伝達と関連している疾患症状の発症の前に、対象に本発明の組成物を投与することを含みうる。グルタミン酸作動性神経伝達と関連している疾患症状を抑制することは、疾患の誘導後、しかしその臨床的出現前に、対象に本発明の組成物を投与することを含みうる。グルタミン酸作動性神経伝達と関連している疾患症状を抑止すること又は改善することは、これらの疾患症状の臨床的出現後に、対象に本発明の組成物を投与することを含みうる。
【0126】
「治療有効量」等の、「有効量」、「十分な量」等は、別段の定義がない限り本明細書では同義で使用され、所望の治療結果を達成するために必要な期間にわたって有効な本発明のペプチド(単数又は複数)の投薬量を意味する。当業者は有効投薬量を決定することができ、有効投薬量は、個体の病状、年齢、性別及び体重、並びに個体において所望の応答を惹起する薬剤の能力等の因子によって変わりうる。本明細書で使用される場合のこの用語は、所望のin vivo効果、特に、グルタミン酸作動性神経伝達の安定化又は好ましくは増加を、対象において生じさせるのに有効な量も指しうる。治療有効量は、1又は複数回の投与(例えば、組成物が、予防的処置として、又は治療的に、任意の疾患進行ステージで、症状の前若しくは後等に、与えられうる)、適用、又は投薬で、投与されることがあり、特定の製剤、組合せ又は投与経路に限定されることを意図したものではない。ペプチドが、対象の処置の過程の様々な時点で投与されうることは、本開示の範囲内である。使用される投与回数及び投薬量は、幾つかの因子、例えば、処置の目標(例えば、治療すること対予防すること)、対象の状態等に依存することになり、当業者はそれを容易に決定することができる。治療有効量は、物質のいかなる毒性又は有害効果よりも、治療に有益な効果のほうが上回る量でもある。「予防有効量」は、必要な投薬量で必要な期間にわたって、所望の予防結果を達成するのに有効な量を指す。通常は、予防用量は疾患の前に又はより早期に対象に使用されるので、予防有効量は、治療有効量より少ないだろう。「有効量」、「十分な量」は、ペプチドの量を別々に考慮する場合に異なるペプチドの組合せも考慮に入れることがあり、及び/又は別の活性成分との組合せも、例えば、1若しくは2つの薬物の組合せでの用量が複合効果若しくは相乗効果の結果によって低下させることがあるため、考慮に入ることがある。
【0127】
用語「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有すること」、「有する」、「できる」、「含有する」、及びこれらの異表記は、本明細書で使用される場合、追加の行為又は製品、例えば、ペプチド、化合物若しくは薬物の可能性を除外しない、オープンエンドの移行句、用語又は語であることを意図したものである。単数形「1つの(a)」、「1つの(and)」及び「その(the)」は、文脈による別段の明確な指示がない限り、複数の言及を含む。本開示は、明示的に示されているか否かを問わず、本明細書で提示される実施形態又はエレメント「を含む」、「からなる」及び「から本質的になる」他の実施形態も、企図している。
【0128】
「患者又は対象」は、動物、特に、ヒトをはじめとする哺乳動物を意味する。ある実施形態では、対象は、ヒトである。他の実施形態では、対象は、ブタ若しくは家畜、伴侶動物(例えば、ネコ、イヌ)、又は競技用動物(例えば、ウマ)である。
【0129】
本使用又は処置方法についてのある実施形態では、次の疾患:パーキンソン病(PD)、多発性硬化症(MS)、ミオパチー、非脳神経系損傷、例えば、脊髄損傷(SCI)又は視神経損傷(ONI)、タウオパチー(即ち、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、タウ陽性前頭側頭型認知症、例えばピック病、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ニーマン・ピック病C型、慢性外傷性脳症(ボクサー認知症を含む)、脳炎後パーキンソニズムのいずれかを含む、タウ陽性神経変性疾患)のうちの1つ又は幾つかは、除外されることがあり;個別に、アルツハイマー病(AD);進行性核上性麻痺(PSP);タウ陽性前頭側頭型認知症、例えば、ピック病;レビー小体型認知症;大脳皮質基底核変性症;ニーマン・ピック病C型;慢性外傷性脳症(ボクサー認知症を含む);脳炎後パーキンソニズム;脳虚血;CNSニューロン外傷(即ち、脊髄又は脳損傷)病態;ウイルス性神経変性;筋萎縮性側索硬化症;脊髄性筋萎縮症;ハンチントン病;プリオン病;PSP;多系統萎縮症;副腎白質ジストロフィー;ダウン症候群が、除外されることがある。
【0130】
本発明は、次に、図を参照して非限定的な例を使用してより詳細に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【
図1】ビヒクル及びNX218ペプチドの存在下で視床腹側基底核(ventrobasal thalamic nucleus)の刺激後に体性感覚皮質において入出力(I/O)応答中に誘発されたfEPSPの正規化平均勾配を示す図である。データは、平均±SEMとして表されており、反復測定による二元配置ANOVA、続いてSidak事後比較検定を使用してデータを解析した。二元配置ANOVAを使用して、fEPSP勾配の統計学的増加を、NX218ペプチド適用後にビヒクル単独と比較して(処置群間でp=0.0027)、具体的には、150(*、p=0.049)、200(*、p=0.034)、250(*、p=0.044)、300(*、p=0.016)、350(**、p=0.009)、400(*、p=0.037)及び450(*、p=0.036)の刺激強度について、観察した。
【
図2】NX218の非存在下及び存在下で誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流の例を示す図である。
【
図3】NX218の非存在下及び存在下で誘発された単離したAMPA興奮性シナプス後電流の例を示す図である。
【
図4】NX218の非存在下及び存在下で誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流の振幅を示す図である。
【
図5】NX218の非存在下及び存在下で誘発された単離したAMPA興奮性シナプス後電流の振幅を示す図である。
【
図6】イフェンプロジル(3μM)(GluN2Bアンタゴニスト)及びNX218ペプチド(250μg/mL)の逐次的添加の前(ベースライン)及び後の誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流の正規化振幅を示す図である。NMDA EPSC振幅は、イフェンプロジル(3μM)の適用によって有意に減少される(絶対:****、p<0.0001;正規化:****、p<0.0001、RM一元配置ANOVA)。NX218(250μg/mL)の添加は、NMDA興奮性シナプス後電流を有意に増加させた(ベースライン対イフェンプロジル+NX218:絶対ns;正規化ns;イフェンプロジル対イフェンプロジル+NX218:絶対:#、p=0.0529;正規化:*、p=0.0263、RM一元配置ANOVA)。
【
図7】NVP-AAM077(0.4μM)(GluN2Bアンタゴニスト)及びNX218ペプチド(250μg/mL)の逐次的添加の前(ベースライン)及び後の誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流の正規化振幅を示す図である。NMDA EPSC振幅は、NVP-AAM077(0.4μM)の適用によって有意に減少される(絶対:****、p<0.0001;正規化:****、p<0.0001、RM一元配置ANOVA)。NX218(250μg/mL)の添加は、EPSC振幅に対して有意な効果がない(ベースライン対NVP-AAM077+NX218:絶対:***、p=0.0002;正規化:****、p<0.0001;NVP-AAM077対NVP-AAM077+NX218:絶対:ns;正規化:ns、RM一元配置ANOVA)。
【
図8】マウスにおけるスコポラミン誘導性空間短期作業記憶欠損に対するNX210又はNX218の腹腔内投与の効果:Y迷路歩行を示す図である。NX 210又はNX218をテストの24時間前に3用量(10、15及び20mg/kg)で投与した。ドネペジル(DPZ)をテストの1時間前に投与した(陽性対照)。用量は、kg当たりのmgで表されており、nは、1群当たり6である;***p<0.001対Veh / Veh群、###p<0.001対Veh/Scop群、一元配置ANOVA、続いてDunnett検定。
【
図9】ビヒクル(n=9)又は250μg/mLのNX218(n=9)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化を示す図である。黒い丸は、OGD誘導前、中及び後のビヒクル処置スライス(対照スライス、n=9)における応答を表す。灰色の三角は、OGD誘導前、中及び後のNX218処置スライス(処置スライス、n=9)における応答を表す。
【
図10】ビヒクル(n=9)又は250μg/mLのNX218(n=9)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の棒グラフを示す図である。白い棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、ビヒクル処置スライス(対照スライス、n=9)におけるf-EPSP勾配を表す。斜線の入った棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、NX218処置スライス(処置スライス、n=9)におけるf-EPSP勾配を表す。P値の概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図11】OGDの終了からビヒクル(n=10)又は250μg/mLのNX218(n=10)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化を示す図である。黒い丸は、OGD誘導前、中及び後のビヒクル処置スライス(対照スライス、n=10)における応答を表す。灰色の三角は、OGD誘導前、中及び後のNX218処置スライス(処置スライス、n=10)における応答を表す。
【
図12】OGDの終了時にビヒクル(n=10)又は250μg/mLのNX218(n=10)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の棒グラフを示す図である。白い棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、ビヒクル処置スライス(対照スライス、n=10)におけるf-EPSP勾配を表す。斜線の入った棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、NX218処置スライス(処置スライス、n=10)におけるf-EPSP勾配を表す。P値の概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図13】回復プラトー中、OGD開始後T=60分及びT=70分の時点に(1時点当たりn=1)、250μg/mLのNX218によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化を示す図である。
【
図14】ビヒクル及び250μg/mLのNX218によって逐次的に表面灌流した海馬スライスにおいてSchaffer側枝刺激後にCA1領域でI/O記録中に誘発されたfEPSPの正規化勾配を示す図である。異なる強度のシナプス前刺激(50μAのステップで0~850μA)に対してfEPSP勾配をプロットすることにより、入出力(I/O)曲線を得た。全てのデータを、対照条件(ビヒクル灌流)で記録されたfEPSP最大勾配から正規化した。データは、平均±SEMとして表されており、二元配置ANOVA、続いてSidak多重比較検定を使用してデータを解析した。スライスN=10/群。**対照に対してp<0.01。*対照に対してp<0.05。
【
図15】ビヒクル、ニコチン 0.4mg/kg 30分、NX218 5mg/kg 2時間(D14)、NX218 5mg/kg 24時間(D13)、NX218 5mg/kg 48時間+24時間+2時間(それぞれ、D12、D13及びD14)で処置した、ビヒクル及び亜慢性PCPマウスにおいて、空間記憶をT迷路自発的交替行動として評定したものを示す図である。データは、有意な外れ値がQuickCalcsによって同定されたNX218 5mg/kg 24時間の群(n=9)を除いて、全ての群についてn=10の平均±s.e.m.として表されている。一元配置ANOVA、続いて、一対比較についてのFisherの制約付き最小有意差:***亜慢性PCPに対してp<0.001。###対照に対してp<0.0001。***PCPに対してp<0.0001。
【
図16】PCPの亜慢性投与により誘導された認知欠損のマウスモデルの皮質試料におけるpCREBのタンパク質レベルを示す図である。結果は、平均+/-SEM(n=4~5)として、対照条件のパーセンテージとして表されている。一元配置ANOVA、続いて、Tukey検定(*、PCP群からのp<0.05を有意と見なした)。#対照に対してp<0.05。*PCPに対してp<0.05。
【
図17】PCPの亜慢性投与により誘導された認知欠損のマウスモデルの皮質試料におけるGluN2Aのレベルを示す図である。結果は、平均+/-SEM(n=4~5)として、対照条件のパーセンテージとして表されている。一元配置ANOVA、続いて、Tukey検定(*、PCP群からのp<0.05を有意と見なした)。#対照に対してp<0.05。**PCPに対してp<0.01。
【実施例】
【0132】
NXペプチドの合成
配列番号1、2の配列又は配列番号 3~63のいずれかの配列のペプチド、特に、実施例の部で使用するもの、例えばNX210(配列番号3)の製造プロセスは、ペプチドの組み立てにおいて基本単位としてN-α-Fmoc(側鎖)保護アミノ酸を利用する固相ペプチド合成に基づく。用いるプロトコールは、MBHA樹脂上のMPPAリンカーに結合されたC末端グリシンN-α-Fmoc保護アミノ酸のカップリング、続いて、Fmocカップリング/脱保護配列からなる。樹脂上でのペプチドの組み立て後、樹脂からのペプチドの切断とアミノ酸の側鎖の脱保護を同時に行うステップを行う。
【0133】
粗ペプチドを沈殿させ、濾過し、乾燥させる。分取逆相クロマトグラフィーによる精製の前に、ペプチドを、アセトニトリルを含有する水溶液に溶解する。溶液中の精製ペプチドを濃縮した後、イオン交換ステップに供してペプチドをその酢酸塩の形態で得る。
【0134】
当業者は、合成のさらなる詳細について米国特許第6,995,140号及びWO2018146283を、並びに本明細書で開示されるペプチドの酸化形態についてはWO 2017/051135を参照することができ、これらの参考特許文献の全てが参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
当業者は、N末端及びC末端改変又は保護ペプチドをはじめとする本発明の開示ペプチドのいずれかを生成するために標準的な方法を更に利用することができる。N末端及びC末端のペプチドのアセチル化及び/又はアミド化それぞれに関して、当業者は、標準的な技術、例えば、Biophysical Journal Volume 95 November 2008 4879~4889頁に記載されているものを参照することができ、この参考文献もまた参照により組み込まれる。
【実施例】
【0136】
環状NXペプチドの合成
配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gのポリペプチドをヒト血清アルブミン(HSA)に1:1比で添加し、1~3時間、空気中で撹拌しながら室温でインキュベートした。HPLCを使用することにより、本発明者らは、2個のシステインがジスルフィド架橋により連結されているポリペプチド配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gに対応するピークの形成を観察した。沈殿によるアルブミンの除去後に、生成物を精製し、HPLCにより解析した。アルブミンの配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gに対応するポリペプチドに対する異なる比の使用によって環化率及び環化の最終収率に影響を及ぼすことが可能になり、その上、アルブミンの量が少ないほど消失させることが容易であることは公知である。環化化合物は、NX218である。
【0137】
当業者は、合成のさらなる詳細についてWO2017051135を参照することができる。この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0138】
マウス脳スライスにおいて視床皮質領域で測定されるシナプス伝達に対するNX218の効果
視床皮質シナプス応答に対するNX218ペプチドの効果を決定すること。皮質のフィールド興奮性シナプス後電位(field excitatory postsynaptic potential; fEPSP)を、マウス脳スライスにおいて視床放線に対するNX218ペプチドの限局的な適用中の視床腹側基底刺激(ventrobasal thalamic stimulations)への応答時に記録した。対照条件でのシナプス後応答とNX218ペプチド条件でのシナプス後応答の比較を評定した。
【0139】
マウス脳スライスの調製:
5匹の(C57Bl6/J)雄マウス4~5週齢を、Charles River社、Franceから入手し、動物施設で飼育した。動物のケアは、国及び地方倫理委員会推奨基準を順守した。イソフルランの吸入によってマウスを深く麻酔し、その後、断頭した。214mMスクロース、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、26mM NaHCO3、2mM MgSO4、2mM CaCl2及び10mM D-グルコースを含有する、酸素負荷(95%O2/5%CO2)氷冷溶液に、切断した脳を素早く入れた。
【0140】
10個の視床皮質スライス(マウス1匹当たりスライス2個)を、Agmon及びConnors(1991)並びにVarelaら(2013)に記載されているように調製した。それを回収した後、背面が水平面と10度の角度を形成するまで、脳の尾側部分を評価することを可能にする支持体上に置いておいた。次いで、正中腺に対して55度で切開を行い、吻側部分を除去した。スライシングチャンバーにおいて、脳を切開面に接着した。次いで、400μmの厚さの脳のスライスを作製した。スライスを、直ぐに、124mM NaCl、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、26mM NaHCO3、2mM MgSO4、2mM CaCl2及び10mM D-グルコースにより構成されている人工脳脊髄液(aCSF)を満たした保持チャンバーに移した。保持チャンバーに継続的に酸素を供給し、保持チャンバーを35℃で維持した。30分の回収期間の後、スライスを室温で最低30分間インキュベートした。
【0141】
電気生理学的記録:
電気生理学的記録のために、単一スライスを記録用チャンバー(室温)に入れ、浸漬させ、実験の残部のためにガス負荷(95%O2、5%CO2)aCSFによって一定速度(2mL/分)で継続的に表面灌流した。
【0142】
双極タングステン刺激電極を、視床の腹側基底核(視床の腹側基底核は、主としてグルタミン酸作動性ニューロン及び少数のGABA作動性介在ニューロンを含有する)に配置し、ガラス管微小電極を使用して体性感覚皮質における細胞外フィールド電位を記録した。
【0143】
50μA間隔で0μA~850μAの範囲の刺激強度を使用して、シナプス伝達入出力(I/O)曲線を構築してシナプス伝達の変化を評定した。刺激強度の増加は、ビヒクル条件では最大プラトーまでの直線的な増加となる。
【0144】
シグナルをAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices社、Union City、CA)で増幅させ、Digidata 1322Aインターフェース(Axon Instruments、Molecular Devices社、US)によりデジタル化し、10kHzでサンプリングした。Clampex(Molecular Devices社)を使用して記録を獲得し、Clampfit(Molecular Devices社)で解析した。全ての実験について処置群を実験者に対して盲検化した。
【0145】
NX218薬物送達システム:
NX218又はビヒクルを高速限局的灌流により視床放線領域に送達した。システムは、マイクロマニピュレーターに搭載された死腔の少ないマニホールドに融合しているチューブラインを伴う、それぞれの溶液が入っているシリンジからなる。マニホールドに取り付けられた先端部(直径300μm)を標的領域の1mm未満の所望の距離内に配置し、流量はおおよそ0.2mL/分であった。DigiDataシステムから送信されるトランジスタ-トランジスタ論理シグナルによって開閉される電気式ピンチ弁とClampex 10.3における灌流及び記録プロトコールで設定したパラメーターとにより、チューブラインを制御した。
【0146】
結果:
Clampfitを使用して線形フィッティングによって個々のfEPSPの勾配を測定することにより、データを解析した。fEPSPの勾配を、異なる刺激強度(0~850μA)に対してプロットした。NX218効果をfEPSP勾配の変化により評定し、ビヒクル灌流中のI/O曲線の最大値のパーセンテージとして表した。10個の検証済みスライスからの結果をTable 1(表3)及び
図1に提示する。
【0147】
【0148】
この研究では、体性感覚皮質のfEPSPを、C57Bl6/Jマウスのex vivo脳スライスへのビヒクル及びNX218ペプチド適用中の視床腹側基底刺激への応答時に記録した。NX218適用後のfEPSP勾配の有意な増加が、ビヒクル単独と比較して、特に150~450μAの範囲の刺激強度について、観察された(
図1)。視床皮質の基礎シナプス伝達に対するNX218のこの効果は、刺激強度とは無関係であった。
【0149】
この結果は、NX218ペプチドが視床腹側基底核と体性感覚皮質間の基礎シナプス伝達を増進させることを示す。
【実施例】
【0150】
マウス脳スライスにおいてマウス海馬CA1ニューロンで記録されるNMDA-及びAMPA-受容体電流に対するNX218の効果
NMDA又はAMPA興奮性シナプス後電流(EPSC)に対するNX218ペプチドの効果を決定するために、全細胞パッチクランプ法を使用して対照条件で又はNX218の適用中に電気生理学的記録を行った。
【0151】
マウス脳スライスの調製:
12匹の(C57Bl6/J)雄マウス4~5週齢を、Charles River社、Franceから入手し、動物施設で飼育した。動物のケアは、国及び地方倫理委員会推奨基準を順守した。矢状断海馬脳スライスを、標準的な脳スライス作製方法を使用して得た(マウス1匹当たりスライスおおよそ6個)(Knoblochら 2007)。マウスをイソフルランで麻酔し、その後、断頭した。頭蓋から脳を切除し、直ちに、124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコースを含有する新たに調製した氷冷aCSF(pH=7.4)に浸漬し、継続的に合計3~4分間にわたって酸素を供給した。急性スライス(350μm厚)を、ビブラトーム(VT 1000S;Leica Microsystems社、Bannockburn、IL)を使用して調製した。切片を、記録する前に少なくとも1時間、標準aCSF中で、室温でインキュベートした。
【0152】
電気生理学的記録:
電気生理学的記録のために、単一スライスを記録用チャンバー(室温)に入れ、浸漬させ、実験の残部のためにガス負荷(95%O2、5%CO2)aCSFによって一定速度(2mL・分-1)で継続的に表面灌流した。
【0153】
第1の実験シリーズでは、GABA受容体アンタゴニストであるビククリン(20μM)、a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸及びカイニン酸(AMPA/KA)受容体アンタゴニストである1,2,3,4-テトラヒドロ6-ニトロ-2,3-ジオキソ-ベンゾ[f]キノキサリン-7-スルホンアミド(NBQX;10μM)の添加によって、EPSCのNMDAr成分を単離した。このシリーズの実験には、低Mg2+(0.1mM)溶液を使用した。同じ細胞外二価カチオン濃度を保つために、CaCl2:3.7mMを灌流媒体に含めた。
【0154】
第2の実験シリーズでは、NMDAr競合的アンタゴニストであるアミノリン酸(APV;20μM)、S)-1-(2アミノ-2-カルボキシエチル)-3-(2-カルボキシベンジル)ピリミジン-2,4-ジオンカイニン酸受容体アンタゴニスト(UBP-302;10μM)、及びGABA受容体アンタゴニストであるビククリン(20μM)の添加によって、EPSCのAMPAr成分を単離した。全ての化学試薬をAlomone社又はTocris Bioscience社から入手した。
【0155】
体細胞の全細胞記録のために、次の物を含有する溶液をパッチピペットに満たした:140mM K-グルコン酸塩、5mM NaCl、2mM MgCl2、10mM HEPES、0.5mM EGTA、2mM MgATP、0.4mM NaGTP、容積オスモル濃度305 Osm/L、pHをKOHで7.25に調整したもの。大きいCA1錐体ニューロンの体細胞を同定し、以前に記載されたように赤外線顕微鏡と微分干渉コントラスト顕微鏡の組合せを使用して記録ピペットの視認進入後にパッチクランプした(Jaffe及びBrown 1994b;Stuart及びSakmann 1994;Stuartら 1993)。満たされているとき、パッチ電極は、およそ5MΩの抵抗を有した。直列抵抗が40MΩを超えたときに記録を終了した。シグナルをデジタル化し、10kHzでローパスフィルタリングした。
【0156】
EPSCがSchaffer側枝刺激に応答して誘導された。EPSCの記録については、示されている保持電位(-60mV)での電圧クランプで記録を行った。刺激強度を、許容可能な振幅を有するEPSCを誘発するように調整した。
【0157】
シグナルをAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices社、Union City、CA)で増幅させ、Digidata 1550インターフェース(Molecular Devices社)によりデジタル化し、Clampex 10(Molecular Devices社)によりサンプリングした。Clampex(Molecular Devices社)を使用して記録を獲得し、Clampfit(Molecular Devices社)で解析した。下で言及するように、各マウスからの1又は複数個の細胞を使用し、データを平均した。全ての実験について処置群を実験者に対して盲検化した。
【0158】
実験のタイムライン及び記録群:
第1シリーズ:海馬CA1錐体ニューロンにおける単離したNMDAr電流に対するNX218ペプチドの効果
合計10個の検証済みニューロンを第1シリーズに含めた。
【0159】
各条件(安定化T10(10分)、NX218ペプチド条件T20(20分)及びウォッシュアウトT30(30分))で、10のEPSCが、Schaffer側枝刺激に応答して誘導され、それらを平均した。
【0160】
第2シリーズ:海馬CA1錐体ニューロンにおける単離したAMPAr電流に対するNX218ペプチドの効果
合計10個の検証済みニューロンを第2シリーズに含めた。
【0161】
各条件(安定化T10、NX218ペプチド条件T20及びウォッシュアウトT30)で、10のEPSCが、Schaffer側枝刺激に応答して誘導された。T10、T20及びT30で、10のEPSCが、Schaffer側枝刺激に応答して誘導され、それらを平均した。
【0162】
Clampfit(Molecular Devices社)を使用して各条件で振幅(平均10のEPSC)を測定することにより、データを解析した:
- 安定化(対照)
- NX218ペプチド
- ウォッシュアウト
【0163】
データを平均±SEMとして表す。Prism 8(Graph Pad社)を使用して、RM一元配置ANOVA、続いてTukey事後検定を使用して群平均の統計学的比較を行って有意差を評定した。P値概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。データのグラフ作成は、Prism 8(Graph Pad社)で行った。
【0164】
結果:
結果を
図2、
図3、
図4及び
図5に、並びに下のTable 2(表4)及びTable 3(表5)に提示する。
【0165】
NX218の非存在下及び存在下における誘発された単離したNMDA及びAMPA興奮性シナプス後電流のトレースの例を
図2及び
図3にそれぞれ提示する。
【0166】
誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流に対するNX218での処置の電気生理学的評価(第1シリーズ)
【0167】
【0168】
NX218は、誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流の振幅を有意に増加させた(*、p=0.0347、RM一元配置ANOVA、続いて、Tukey事後検定)。この効果は、10分のウォッシュアウト後に逆転されない(
図4)。
【0169】
誘発された単離したAMPA興奮性シナプス後電流に対するNX218での処置の電気生理学的評価(第2シリーズ)
【0170】
【0171】
NX218は、誘発された単離したAMPA興奮性シナプス後電流の振幅を有意に増加させた(*、p=0.0226、RM一元配置ANOVA、続いて、Tukey事後検定)。この効果は、10分のウォッシュアウト後に逆転されない(
図5)。
【0172】
結論:
この研究では、マウス海馬CA1ニューロンにおける誘発されたNMDA-及びAMPA-興奮性シナプス後電流(EPSC)を、対照条件での及びNX218ペプチドの適用中の、Schaffer側枝刺激への応答時に記録した。
【0173】
NX218ペプチドの適用は、NMDA-及びAMPA-EPSCを有意に増加させた。この増加は、10分のウォッシュアウト後に逆転されなかった。
【実施例】
【0174】
マウス海馬CA1ニューロンにおいて記録されるNMDA-受容体電流に対するNX218の効果に関与するGluN2サブユニットの決定
どのGluN2サブユニットがNMDAR興奮性シナプス後電流(EPSC)のNX218による増加の効果に関与するのかを決定するために、全細胞パッチクランプ法を使用した。250μg/mLのNX218の非存在又は存在下で及び10分のウォッシュアウト後に実験を行った。GluN2A及びGluN2Bサブユニットの選択的アンタゴニストも使用した。
【0175】
マウス脳スライスの調製:
12匹の(C57Bl6/J)雄マウス4~5週齢を、Charles River社、Franceから入手し、動物施設で飼育した。動物のケアは、国及び地方倫理委員会推奨基準を順守した。矢状断海馬脳スライスを、標準的な脳スライス作製方法を使用して得た(マウス1匹当たりスライスおおよそ6個)(Knoblochら 2007)。マウスをイソフルランで麻酔し、その後、断頭した。頭蓋から脳を切除し、直ちに、124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコースを含有する新たに調製した氷冷aCSF(pH=7.4)に浸漬し、継続的に合計3~4分間にわたって酸素を供給した。急性スライス(350μm厚)を、ビブラトーム(VT 1000S;Leica Microsystems社、Bannockburn、IL)を使用して調製した。切片を、記録する前に少なくとも1時間、標準aCSF中で、室温でインキュベートした。
【0176】
電気生理学的記録:
電気生理学的記録のために、単一スライスを記録用チャンバー(室温)に入れ、浸漬させ、実験の残部のためにガス負荷(95%O2、5%CO2)aCSFによって一定速度(2mL/分)で継続的に表面灌流した。
【0177】
GABA受容体アンタゴニストであるビククリン(20μM)、a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸及びカイニン酸(AMPA/KA)受容体アンタゴニストである1,2,3,4-テトラヒドロ6-ニトロ-2,3-ジオキソ-ベンゾ[f]キノキサリン-7-スルホンアミド(NBQX;10μM)の添加によって、EPSCのNMDAR成分を単離した。低Mg2+(0.1mM)溶液を使用した。同じ細胞外二価カチオン濃度を保つために、CaCl2 3.7mMを灌流媒体に含めた。
【0178】
実験を、下に示すように3相で行った。
【0179】
【0180】
研究の第0相は、NMDA EPSCに対するGluN2A及びGluN2Bサブユニットの選択的逐次的遮断の効果を示すことを目的とした。先ず、GluN2Aサブユニットを、GluN2AアンタゴニストNVP-AAM077(PEAQX四ナトリウム水和物)(0.4μM)(Liら 2007)を添加することにより、遮断した。NVP-AAM077は、比較的選択的なGluN1/GluN2Aアンタゴニストであり、GluN1/GluN2AをGluN1/GluN2Bに対して100倍を超えて優先的に遮断することが示されている(Aubersonら 2002)。次いで、GluN2Bサブユニットの付随する遮断を、よく認知されているGluN2Bアンタゴニストであるヘミ酒石酸イフェンプロジル(3μM)を使用して達成した(Liら 2007)。イフェンプロジルは、最も選択性の高いGluN2Bアンタゴニストの1つであり、GluN1/GluN2Bに対する選好性のほうがGluN1/GluN2A対する選好性より200倍を超えて高い(Williams 1993)。
【0181】
研究の第1相(GluN2Aサブユニットの関与の評価)のために、GluN2A媒介EPSCを、NX218ペプチド(250μg/mL)の灌流前(T10-T20)及び灌流中(T20-T30)のGluN2Bアンタゴニストイフェンプロジル(3μM)の添加によって単離した。
【0182】
研究の第2相(GluN2Bサブユニットの関与の評価)のために、GluN2B媒介EPSCを、NX218ペプチド(250μg/mL)の灌流前(T10-T20)及び灌流中(T20-T30)のGluN2AアンタゴニストNVP-AAM077(0.4μM)の添加によって単離した。
【0183】
全ての化学試薬をAlomone Labs社又はTocris Bioscience社から入手した(付属書類5を参照されたい)。
【0184】
体細胞の全細胞記録のために、次の物を含有する溶液をパッチピペットに満たした:140mM K-グルコン酸塩、5mM NaCl、2mM MgCl2、10mM HEPES、0.5mM EGTA、2mM MgATP、0.4mM NaGTP、容積オスモル濃度305mOsm/L、pHをKOHで7.25に調整したもの。大きいCA1錐体ニューロンの体細胞を同定し、以前に記載されたように赤外線顕微鏡と微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡の組合せを使用して記録ピペットの視認進入後にパッチクランプした(Jaffe及びBrown 1994b;Stuart及びSakmann 1994;Stuartら 1993)。満たされているとき、パッチ電極は、およそ5MΩの抵抗を有した。直列抵抗が40MΩを超えたときに記録を終了した。シグナルをデジタル化し、10kHzでローパスフィルタリングした。
【0185】
誘発シナプス後電流(EPSC)が、双極電極を使用するSchaffer側枝刺激に応答して誘導された。EPSCの記録のために、示されている保持電位(-60mV)での電圧クランプで実験を行った。記録を行う前に、液間電位を補正した。
【0186】
刺激継続時間は、0.1ミリ秒であり、許容可能な振幅(-40pAの振幅の範囲)を有するEPSCを誘発するように刺激強度を調整した。
【0187】
シグナルをAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices社、Union City、CA)で増幅させ、Digidata 1550インターフェース(Molecular Devices社)によりデジタル化した。Clampex 10(Molecular Devices社)を使用して記録を獲得し、Clampfit(Molecular Devices社)で解析した。各マウスからの2個の細胞を使用し、データを平均した。全ての実験について処置群を実験者に対して盲検化した。
【0188】
合計12匹のマウスを研究に捧げた。合計23個のニューロン(1群当たり10個(第1及び2相)及び対照相(第0相)において3個)を次のように記録した。各記録セッションにおいて、10のEPSCが、Schaffer側枝刺激に応答して誘導された。振幅の測定(平均10のEPCS)を評定した。第0相は、GluN2A及びGluN2Bが、Schaffer側枝刺激により誘発されるEPSCに関与する主たるNR2サブユニットであったことを確認することを目的とする、検証相に相当する。本発明者らは、第0相の終了時に残留電流が最小になると予想した。
【0189】
結果:
結果を、下のTable 4(表7)及びTable 5(表8)に、並びに
図6及び
図7に提示する。
【0190】
海馬CA1錐体ニューロンにおける誘発された単離したNMDA興奮性シナプス後電流に対するNVP-AAM077及びイフェンプロジルの逐次的適用の電気生理学的評価
NMDA EPSC振幅は、NVP-AAM077(0.4μM)、及びNVP-AAM077(0.4μM)+イフェンプロジル(3μM)の適用によって、有意に減少される(データ未記載)。
【0191】
CA1海馬ニューロンにおける単離した誘発されたNMDAR電流に対して観察されたNX218ペプチドの効果へのGluN2Aサブユニットの関与の評価(GluN2Bサブユニットをイフェンプロジルで遮断した)
【0192】
【0193】
CA1海馬ニューロンにおける単離した誘発されたNMDAR電流に対して観察されたNX218ペプチドの効果へのGluN2Bサブユニットの関与の評価(GluN2AサブユニットをNVP-AAM077で遮断した)
【0194】
【0195】
結論:
この研究では、薬理学的ツールを使用して、GluN2A含有NMDAR及びGluN2B含有NMDARにより媒介されるシナプス後電流を単離した。単離した誘発されたNMDAR電流を、マウス海馬CA1ニューロンにおいて全細胞パッチクランプ法を使用して、対照条件での、並びに250μg/mLのNX218ペプチドとGluN2A及びGluN2Bサブユニットの選択的アンタゴニストの適用中の、Schaffer側枝刺激への応答時に記録した。目的は、どのGluN2サブユニットが、NMDAR EPSC電流のNX218による増加の効果に関与するのかを決定することであった。
【0196】
この研究において、本発明者らは、以下のことを観察した:
- NVP-AAM077(0.4μM)及びイフェンプロジル(3μM)の逐次的適用後のNMDA EPSC振幅の有意な減少。これは、興奮性シナプス後電流が、イオンチャネル型グルタミン酸受容体によって主として媒介されることを示す。
【0197】
- イフェンプロジル(3μM)によるGluN2Bサブユニットの遮断後のNX218(250μg/mL)の添加は、NMDA興奮性シナプス後電流を有意に増加させた。それ故、GluN2Aサブユニットは、NMDAR EPSC電流のNX218による増加の効果に関与する。
【0198】
- NVP-AAM077(0.4μM)によるGluN2Aサブユニットの遮断後のNX218(250μg/mL)の添加は、NMDAR EPSC電流に対して有意な効果がなかった。それ故、GluN2Bサブユニットは、NMDAR EPSC電流のNX218による増加の効果に関与しない。
【実施例】
【0199】
健忘症のスコポラミンマウスモデルにおけるNX210及びNX218の効果の評価
スコポラミン誘導性学習及び記憶機能障害に対するNX210及びその環状バージョンNX218の効果を評価するために、健忘症のスコポラミンマウスモデルにおけるY迷路認知テストを使用した。
【0200】
方法:
JANVIER社(Saint Berthevin、France)からの体重30~35gの雄スイスマウスを群居飼育し、マウスは、行動実験中を除いて餌及び水を自由に摂取できた。マウスを、温度及び湿度が管理された動物施設において、12時間/12時間の昼/夜サイクル(07:00pmに消灯)で飼育した。マウスの尾に油性マーカーで印を付けることによってマウスに番号を付けた。全ての動物手順は、2010年9月22日の欧州連合指針(2010/63/UE)を厳守して行った。各ケージ(1ケージ当たりn=6)において、処置レジメンは同じであった。動物を無作為且つ盲検方式でテストした。
【0201】
NX210及びNX218化合物を注射用蒸留水(ビヒクル)に可溶化し、Y迷路(YM)テストの1、2、24又は48時間前に腹腔内投与した。
【0202】
陽性対照として使用したドネペジル(DPZ)は、YMテストの1時間前に1回、1mg/kgの用量で経口投与した。
【0203】
スコポラミンは、YMセッションの30分前に0.5mg/kgの用量で皮下注射により投与した。
【0204】
異なる時点での化合物の投与後、空間作業記憶の指標である、YMにおける自発的交替行動能力について、全ての動物をテストした。YMは、Itoh及び共同研究者(1993)並びにHiramatsu及びInoue(1999)に従って設計したものであり、灰色のポリ塩化ビニル製である。各アームは、長さ40cm、高さ13cm、最下部の幅3cm、最上部の幅10cmであり、同じ角度で合流している。各マウスを1つのアームの端に配置し、8分のセッション中、迷路の中を自由に移動させた。一連のアームへの進入を、起こりうる同じアームへの再来を含めて、目視でチェックした。交替行動を、連続して3つ全てのアームに入ることと定義した。したがって、最大交替行動数は、2を引いたアームへの総進入回数であり、交替行動のパーセンテージを(実際の交替行動数/最大交替行動数)×100として計算した。パラメーターは、記憶指数と呼ばれる、交替行動のパーセンテージ、及び探索指数と呼ばれる、アームへの総進入回数を含んだ(Mauriceら、1996、1988;Meunierら、2006;Villardら、2009、2011)。
【0205】
極端な行動(交替行動パーセンテージ<20%若しくは>90%、又はアームへの進入回数<10)を示す動物は、計算から切り捨てられることになった。それに基づいて切り捨てられた動物はいなかった。
【0206】
結果:
YMテストの24時間前のNX210又はNX218投与(10、15又は20mg/kgの投薬量での)の結果を、Table 6(表9)及び
図8に提示する。値を自発的交替行動%として表す。
【0207】
【0208】
結論:
スコポラミンは、YMで強調されるように空間短期作業記憶に対する健忘効果を誘導するコリン作動性遮断薬である。
【0209】
陽性対照として使用したドネペジルは、行動テストの1時間前に投与したとき、YMにおいて交替行動の点で欠損を有意に逆転させた。
【0210】
YMテストの24時間前に異なる用量で1回投与(24時間前処置)したとき、NX210及びNX218ペプチドは、急性スコポラミン投与により誘導された空間短期作業記憶欠損の予防に対する用量応答効果を示した。
【0211】
被検化合物NX210の有益な効果は、10mg/kgの用量から実証され、空間短期作業記憶機能障害に対する最大逆転効果が15mg/kgで示され、その後、低下したが、それでもなお20mg/kgで有意であった(釣り鐘型曲線)。NX210の用量を10mg/kg未満に低下させたときも、YMテストの2時間又は1時間前に投与したときも、効果を示さなかった(データ未記載)。YMテストの48時間前に投与したとき、NX210のポジティブな効果は、然程顕著ではなかったが維持され(データ未記載)、最高用量(15mg/kg)でのみ維持された。
【0212】
5mg/kgでの被検化合物NX218は、YMテストの24時間前に投与したとき空間短期作業記憶機能障害に対して完全な逆転効果を示した(データ未記載)。この回復は、テストの2時間前に投与したときは部分的でしかなく、YMテストの1時間前に投与したときにはゼロであった(データ未記載)。この認知テストの24時間前に投与したとき、有効性は、テストした最低用量、即ち2.5mg/kgで、既に実証され、10mg/kgで最大効果が観察された。2つの最高用量である15及び20mg/kgは、YMテストにより示されたようにスコポラミン誘導性記憶欠損を部分的にしか遮断しなかった(釣り鐘型用量応答曲線)。テストの48時間前に投与したとき、5及び15mg/kgでのNX218は、YMテストに対するスコポラミンの効果を部分的に遮断したのに対して、10mg/kg用量は、スコポラミン誘導性短期記憶欠損を完全に防いだ(データ未記載)。
【実施例】
【0213】
低酸素のin vitroモデルにおける機能回復に対するNX218の効果の評価
低酸素の急性エピソードは、多くの能領域においてシナプス活動の抑圧を引き起こしうる。前述の実施例において、本発明者らは、NX218(250μg/mL)が、GluN2Aサブユニットを介して、Schaffer側枝刺激後にCA1海馬ニューロンにおけるNMDA媒介電流振幅を増加させるように作用することを示した。この研究の目的は、NX218ペプチドが、低酸素のin vitroモデル(Hedouら、2008;Farinelliら、2012)において機能回復を改善することができるかどうかを決定することであった。この目標を達成するために、機能回復を、酸素-グルコース欠乏負荷(OGD)前及び後に、マウス海馬ニューロンにおける誘発フィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)を記録することにより評定した。NX218の効果を評価するために、NX218又はビヒクルで表面灌流した、異なるスライスを用いて実験を行った。
【0214】
実験計画:
【0215】
【0216】
方法:
動物
Charles River社、Franceから入手した4~5週齢雄C57Bl6/Jマウス(おおよそ20グラム)を用いて実験を行った。合計9匹をこの研究において使用した。各マウスからの2つのスライスを記録した(1つは対照条件について、もう1つはNX218条件について)。動物を、実験使用前13日間、研究所飼育条件に馴化させた。Standard Food(タイプa04、SAFE、France)を自由に摂取できた。濾過した水道飲料水(0.22μM)を自由に摂取できた。
【0217】
マウス脳スライスの調製
矢状断海馬脳スライスを、標準的な脳スライス作製方法を使用して得た(マウス1匹当たりスライスおおよそ6個)(Knoblochら 2007)。マウスを5%イソフルランで麻酔し、その後、断頭した。頭蓋から脳を切除し、直ちに、124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコースを含有する新たに調製した氷冷人工脳脊髄液(aCSF)(pH=7.4)に浸漬し、継続的に合計3~4分間にわたって酸素を供給した(95%O2、5%CO2)。急性スライス(350μm厚)を、ビブラトーム(VT 1000S;Leica Microsystems社、Bannockburn、IL)を使用して調製した。切片を、記録前に少なくとも1時間、標準aCSF(124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコース)中で、室温でインキュベートした。
【0218】
電気生理学的記録:
電気生理学的記録のために、単一スライスを記録用チャンバー(室温)に入れ、浸漬させ、実験の残部のためにガス負荷aCSF(95%O2、5%CO2;pH=7.4)によって一定速度(2mL・分-1)で継続的に表面灌流した。細胞外フィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)を、aCSFを満たしたガラスマイクロピペットを使用してCA1放線層において記録した。放線層に配置したガラス刺激電極(フィラメント、標準壁を有する、ホウケイ酸キャピラリーガラス;OD:1.5mm;ID:0.86mm;長さ:75mm;参照:Harvard Apparatus社からのW3 30-0060)による0.1Hz(即ち、10秒毎に単一パルス)でのSchaffer側枝-交連経路の電気刺激により、fEPSPを誘発した。
【0219】
各実験の開始時(安定したfEPSP応答に達したとき)に、実験の残部にわたって保持される刺激強度を決定するために、刺激強度の漸増(0から100μAへ、10μA間隔)によって入出力(I/O)曲線を得た。次いで、最大フィールド振幅(maximal field amplitude)の80%で刺激することにより、安定したベースラインfEPSPを10分間、記録した(10秒毎に単一パルス、即ち0.1Hz)。
【0220】
記録は、ビヒクル(WFI)又は250μg/mLのNX218で表面灌流したマウス海馬スライスにおいてOGD(10~15分)の前及び後に行った。酸素-グルコース欠乏負荷(OGD)後の誘発されたフィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)の回復の測定を、OGD誘導開始から90分間、継続した。
【0221】
シグナルをAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices社、Union City、CA)で増幅させ、Digidata 1322Aインターフェース(Axon Instruments、Molecular Devices社、US)によりデジタル化し、10kHzでサンプリングした。Clampex(Molecular Devices社)を使用して記録を獲得し、Clampfit(Molecular Devices社)で解析した。
【0222】
全ての実験について処置を実験者に対して盲検化した。両方の群におけるデータの厳密な比較可能性を確保するために、各マウスからの2つのスライスを使用した:1つを対照スライスとして使用し、もう1つを処置スライスとして使用した。
【0223】
酸素-グルコース欠乏負荷
10分の安定したベースラインの後、グルコースが枯渇した(0mMグルコース、等モル濃度のスクロースと交換された)及び95%N2、5%CO2のガスを負荷したスクロースaCSFでの灌流により、急性スライスを、10~15分の低酸素/無血糖条件に曝露した。f-EPSP勾配が、平均化ベースライン値の少なくとも10%未満に相当する値に達するまで、OGDをスライスに適用した。この時点で、本発明者らは、OGDの効果が誘導されると考えた。この研究では、平均OGD継続時間は、9.6±2.8分であった。
【0224】
データ処理及び統計解析
Clampfit(Molecular Devices社)を使用して各条件でf-EPSPの振幅を測定することにより、データを解析した。Prism 8(Graph Pad社)を使用して、二元配置ANOVA統計学的検定、続いて、Sidak多重比較検定を行って、有意差を評定した。P値概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。平均±SD(標準偏差)として表されるOGD平均継続時間を除いて、全てのデータを平均±SEM(標準誤差)として表す。
【0225】
結果
マウスにおける低酸素のin vitroモデルでの機能回復に対するNX218の効果の電気生理学的評価
結果を
図9、Table 7(表11)及び
図10に提示する。
【0226】
図9:ビヒクル(n=9)又は250μg/mLのNX218(n=9)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化。黒い丸は、OGD誘導前、中及び後のビヒクル処置スライス(対照スライス、n=9)における応答を表す。灰色の三角は、OGD誘導前、中及び後のNX218処置スライス(処置スライス、n=9)における応答を表す。
【0227】
【0228】
図10:ビヒクル(n=9)又は250μg/mLのNX218(n=9)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の棒グラフ。白い棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、ビヒクル処置スライス(対照スライス、n=9)におけるf-EPSP勾配を表す。斜線の入った棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、NX218処置スライス(処置スライス、n=9)におけるf-EPSP勾配を表す。P値概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0229】
結論
この研究において、本発明者らは、in vitroでの急性低酸素後の機能回復がNX218処置により向上されることを観察した。実際、Schaffer側枝-CA1シナプスでの大きなシナプス抑圧(即ち、fEPSP勾配の減衰)が、海馬スライスにおいてOGD誘導後に起こった。びっくりすることに、NX218(250μg/mL)での処置は、海馬スライスにおいてOGD後の回復を、OGD誘導の開始後の様々な時点で統計学的に増加させた:fEPSP勾配は、OGD誘導の早くも30~60分後にビヒクル処置スライスにおけるよりNX218処置スライスにおけるほうが有意に大きかった(ベースラインの%として表したfEPSP勾配:ビヒクルについての47.1±4.5に対してNX218については61.7±5.0;*;p=0.045)。この有益な効果は、60~90分で更に一層著しく(ビヒクルに付いての69.6±3.5に対してNX218については88.0±2.6;***;p<0.001)、OGD誘導後の最後の10分まで持続した(ビヒクルについての72.4±2.9に対してNX218については92.6±2.4;***;p<0.001)。
【実施例】
【0230】
低酸素のin vitroモデルにおける機能回復に対するNX218の効果の評価
低酸素のin vitroモデル(Hedouら、2008;Farinelliら、2012)において、本発明者らは、酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)の開始から添加したときにNX218(250μg/mL)がシナプス伝達の回復を促進することを、前に実施例7で示した。この研究の目的は、低酸素後の回復に対するこの有益な効果が、NX218を多少後に(OGDの終了後に)添加した場合であっても維持されうるかどうかを、決定することであった。低酸素に対するNX218の可能な治療能力を評価するために2つの追加のスライスも記録した。この目的に向けて、NX218をOGD後の回復プラトー中に、より正確には、OGD開始後T=60分及びT=70分に添加した。
【0231】
実験計画
【0232】
【0233】
方法
動物:実施例7を参照されたい。合計10匹をこの研究において使用した。追加のマウスを使用して、予備記録用の2つの追加のスライス(「被検スライス)」を得た。
【0234】
マウス脳スライスの調製:実施例7を参照されたい。
【0235】
電気生理学的記録:
次のことを除いて、実施例7の条件を使用する:
各スライスを、OGDの終了から、及び実験の終了まで、ビヒクル(WFI)又は250μg/mLのNX218のどちらかで表面灌流した。
【0236】
OGD後の誘発されたフィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)の回復の測定を、T0(OGD開始)から120分間、継続した。2つの「被検スライス」も、上記の実験計画に従って行った。
【0237】
酸素-グルコース欠乏負荷:実施例7を参照されたい。この研究では、平均OGD継続時間は、10.6±1.0分であった。
【0238】
データ処理及び統計解析:実施例7を参照されたい。
【0239】
結果
マウスにおける低酸素のin vitroモデルでの機能回復に対するNX218の効果の電気生理学的評価
結果を
図11、Table 8(表13)及び
図12に提示する。
【0240】
図11:OGDの終了からビヒクル(n=10)又は250μg/mLのNX218(n=10)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化。黒い丸は、OGD誘導前、中及び後のビヒクル処置スライス(対照スライス、n=10)における応答を表す。灰色の三角は、OGD誘導前、中及び後のNX218処置スライス(処置スライス、n=10)における応答を表す。
【0241】
【0242】
図12:OGDの終了時にビヒクル(n=10)又は250μg/mLのNX218(n=10)によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の棒グラフ。白い棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、ビヒクル処置スライス(対照スライス、n=10)におけるf-EPSP勾配を表す。斜線の入った棒は、OGD誘導の開始前(ベースライン)の、及び開始後の異なる時点の、NX218処置スライス(処置スライス、n=10)におけるf-EPSP勾配を表す。P値概要:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0243】
OGD後のニューロン活動に対するNX218の治療効果の評価(単一スライス記録を使用する予備試料研究;n=2):
結果を
図13に提示する。
【0244】
図13:回復プラトー中、OGD開始後T=60分及びT=70分の時点に(1時点当たりn=1)、250μg/mLのNX218によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいて酸素/グルコース欠乏負荷(OGD)中及び後にSchaffer側枝刺激により誘発された平均正規化f-EPSP勾配の経時変化。
【0245】
結論
ここで、本発明者らは、in vitroでの急性低酸素後の機能回復が、より遅延度の高い灌流を用いてもNX218によって向上されることを観察した(低酸素/無血糖条件、平均継続時間=10.6分;OGDの終了からNX218灌流)。実際、OGDの終了時のNX218(250μg/mL)での処置は、T= 90分以降に海馬ニューロン活動の回復を統計学的に増加させ(ビヒクルについての77.1±2.7に対してNX218については88.0±1.9;**;p=0.004)、OGD開始後120分の時点での実験終了まで維持した(ビヒクルについての79.3±2.7に対してNX218については90.3±2.7;**、p=0.01)。
【0246】
低酸素に対するNX218の治療能力を評価するために2つの追加のスライスも行った。OGD後、回復プラトー中(T=60分又はT=70分)の250μg/mLでのNX218の適用は、回復相の勾配を更にベースラインへと上昇することによって変更した。この予備研究は、低酸素後のNX218の潜在的治療効果を明らかにした。
【実施例】
【0247】
マウス脳スライスで測定される基礎海馬シナプス伝達に対するNX218の効果
マウス海馬のCA1領域における基礎興奮性シナプス伝達に対するNX218ペプチドの効果を決定するために、細胞外フィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)を、ビヒクルによって、次いで250μg/mLのNX218によって表面灌流したマウス海馬スライスにおいてSchaffer側枝刺激に対する応答時に記録した。対照条件でのシナプス後応答とNX218ペプチド条件でのシナプス後応答の比較を評定した。
【0248】
マウス脳スライスの調製:
5匹の(C57Bl6/J)雄マウス4~5週齢を、Charles River社、Franceから入手し、動物施設で飼育した。動物のケアは、国及び地方倫理委員会推奨基準を順守した。10個の矢状断海馬脳スライス(マウス1匹当たり2個)を、標準的な脳スライス作製方法(Knoblochら 2007)を使用して得た。マウスを5%イソフルランで麻酔し、その後、断頭した。頭蓋から脳を切除し、直ちに、124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコースを含有する新たに調製した氷冷人工脳脊髄液(aCSF)(pH=7.4)に浸漬し、継続的に合計3~4分間にわたって酸素を供給した(95%O2、5%CO2)。急性スライス(350μm厚)を、ビブラトーム(VT 1000S;Leica Microsystems社、Bannockburn、IL)を使用して調製した。切片を、記録前に少なくとも1時間、標準aCSF(124mM NaCl、3.75mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2、26.5mM NaHCO3、1.25mM NaH2PO4、10mMグルコース)中で、室温でインキュベートした。
【0249】
電気生理学的記録:
電気生理学的記録のために、単一スライスを記録用チャンバー(室温)に入れ、浸漬させ、実験の残部のためにガス負荷aCSF(95%O2、5%CO2;pH=7.4)によって一定速度(2mL・分-1)で継続的に表面灌流した。細胞外フィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)を、aCSFを満たしたガラスマイクロピペットを使用してCA1放線層において記録した。放線層に配置したガラス刺激電極(フィラメント、標準壁を有する、ホウケイ酸キャピラリーガラス;OD:1.5mm;ID:0.86mm;長さ:75mm;参照:Harvard Apparatus社からのW3 30-0060)による0.1Hz(即ち、10秒毎に単一パルス)でのSchaffer側枝-交連経路の電気刺激により、fEPSPを誘発した。
【0250】
10分の安定化後、基礎シナプス伝達を評定した。この目的のために、0.1Hz(即ち、10秒毎に単一パルス)で、0から850μAへの50μA刻みでの刺激強度の漸増を、刺激電極からもたらし、記録電極からのfEPSP勾配応答を定量化した。この手順を、各セッションについて30秒間隔で3回反復した。fEPSPの有理数に変換した平均勾配を刺激強度の関数としてプロットすることにより、シングルセッションの最終I/O曲線を得た。セッションをそれぞれ行った:
- A:10分のビヒクル灌流後、スライスをI/O記録中にビヒクルで更に表面灌流し続ける。
- B:10分のNX218灌流後、スライスをI/O記録中にNX218で更に表面灌流し続ける。
【0251】
シグナルをAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices社、Union City、CA)で増幅させ、Digidata 1322Aインターフェース(Axon Instruments、Molecular Devices社、US)によりデジタル化し、10kHzでサンプリングした。Clampex(Molecular Devices社)を使用して記録を獲得し、Clampfit(Molecular Devices社)で解析した。
【0252】
結果:
全てのデータを、対照条件で(ビヒクル浴適用中に)記録されたfEPSP最大勾配から正規化した。したがって、NX218条件について得られた結果を、このように対照条件(ビヒクル)に対して正規化した。除外のために次の基準を使用して潜在的外れ値を同定した:群平均からの両方向の>3標準偏差の外れ。10個の検証済みスライスからの結果をTable 9(表14)及び
図14に提示する。
【0253】
【0254】
この研究では、NX218で表面灌流したマウス海馬スライスにおいてCA3-CA1シナプスにおける基礎興奮性シナプス伝達の統計学的増加が、対照条件と比較して観察された。
【0255】
この結果は、NX218ペプチドが、基礎海馬シナプス伝達を増進させることを示す。
【実施例】
【0256】
マウスにおける亜慢性PCP誘導性認知欠損に対するNX218の効果
フェンシクリジン(PCP)は、NMDA受容体のアンタゴニストであり、健常人へのその投与は、統合失調症様症状を生じさせ、それ故、PCPは、齧歯動物において統合失調症を模倣するために使用されることが多い。マウスにおける亜慢性PCP誘導性認知欠損に対するNX218の効果を評価するために、T迷路連続的交替行動課題を使用した。加えて、脳試料をT迷路テストの直ぐ後に収集して、シナプス可塑性に関与する脳バイオマーカーのレベルを測定した。
【0257】
方法:
動物:
六十(60)匹の雄スイスCD-1マウスを馴化のために研究開始の1週間前にJanvier Labs社(Le Genest-Saint-Isle、France)から購入した。マウスを群居飼育し(Eurostandard社III型ケージ1個当たりマウス6~8匹)、餌及び水を自由に摂取できる、管理された温度(21~22℃)の部屋において12時間/12時間の昼夜逆サイクル(点灯:5:30 pm;消灯:05:30 am)で維持した。マウスの体重は、25.9~36.4gの範囲であった。
【0258】
動物の健康状態を毎日チェックした。動物及びそれらの活動についての一般的態様を毎日調べ、その一方で、体重をPCP及びペプチド投与の前にモニターした。全ての動物手順は、既存の法律及び法令(2013年2月18日に法令番号2013-118により補正された、フランス法に組み込まれている欧州指針2010/63/EU)を順守して行った。
【0259】
化合物の投与及び処置群の説明:
PCP(又は対照群については生理食塩水)を0.2mg/kgの用量で12日間(0日目~11日目)、1日2回、皮下注射により投与した。
【0260】
NX218を注射用蒸留水(ビヒクル)に可溶化し、5mg/kgの用量で、T迷路試験の48時間、24時間及び/又は2時間前に腹腔内投与した。
【0261】
陽性対照として使用したニコチンは、0.4mg/kgの用量でT迷路試験の30分前に腹腔内投与した。
【0262】
【0263】
実験手順:
異なる時点での化合物の投与後、T迷路における連続的交替行動課題について、全ての動物をテストした。T迷路装置は、灰色のプレキシガラス製であり、主要基部(長さ55cm×幅10cm×高さ20cm)、及び主要基部に対して90度に配置された2本のアーム(長さ30cm×幅10cm×高さ20cm)を有した。スタートボックス(長さ15cm×幅10cm)は、ギロチンドアによって主要基部から隔てられていた。強制選択交替行動課題中に特定のアームを閉めるために横並びのドアも設けられていた。実験プロトコールは、1回の「強制選択」試験で始まり、それに14回の「自由選択」試験が続く、1回のシングルセッションからなった(Gerlai、1998)。最初の「強制選択」試験では、マウスをスタートアーム内に5秒、閉じ込め、次いで、スライドドアを閉めることによって右又は左どちらかのゴールアームを遮断した状態で、解放した。すると、マウスは、迷路を通って歩き、最終的に開いているゴールアームに入り、そしてその後、出発位置に戻った。マウスが出発位置に戻ってきた直後に左又は右のゴールドアを開け(即ち、2つのゴールドアを開け)、マウスは、左又は右のゴールアームのどちらかを自由に選ぶことができた(第1の「自由選択試験」)。マウスの4本の足がアーム内に位置したとき、マウスがそのアームに入ったと見なした。次いで、反対側のゴールドアを、動物がスタートアームに戻るまで閉めておいた。次いで、閉じたゴールドアを開くこと(即ち、2つのゴールドアを開けた)により第2の「自由選択試験」が始まり、右又は左のアームのどちらかに入る選択をマウスに任せた。14回の自由選択試験が10分未満に行われ次第、セッションを完了と見なし、マウスを迷路から取り出した。これら14回の「自由選択」に達するために必要とした時間を記録した。除外基準となる、14回の選択を行うために10分より長くかかるマウスはいなかった。
【0264】
自発的交替行動のパーセントを、空間短期作業記憶指数である、自由選択試験の回数で割った自発的交替行動の数として計算した。各動物間にアルコール(70%)を使用して装置を清浄にした。尿及び糞便を迷路から除去した。試験中、動物に手で触れること及びオペレーターが目に見える程度をできる限り最小限に抑えた。動物を無作為且つ盲検方式でテストした。
【0265】
脳試料採取:
テストのおおよそ5分後、マウスを5%イソフルラン酸素混合物で麻酔した。脳を直ちに摘出し、次いで、各半球の皮質を収集した。右及び左の皮質を、清浄な事前にラベルを貼ったマイクロチューブに移し、各試料の正確な質量を記録した。最後に、試料をさらなる解析のために-80℃で保管した。
【0266】
タンパク質抽出及び自動解析:
CelLytic(商標)試薬と1%のプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害カクテルからなる、定義された溶解バッファー(1ウェル当たり60μL)で、脳試料を溶解した。溶解物を+4℃で処理し、実験の終了時に-80℃で保管した。各試料について、マイクロキットBCA(Pierce社)を使用してタンパク質の量を決定した。手短に述べると、溶解物を遠心分離し、PBSで1/20希釈し、マイクロBCAと等体積で混合した。60℃で1時間のインキュベーション後、分光光度計Nanovue(GE Healthcare社)を用いて562nmでタンパク質の量を測定し、ウシ血清アルブミン標準曲線(BSA、Pierce社)と比較した。
【0267】
WES(商標)システム(ProteinSimple(登録商標)社)を使用して自動タンパク質解析を行った:
WES(商標)での使用のための製造業者の推奨基準(ProteinSimple社、https://www.proteinsimple.com/wes.html)に従って、試薬を調製し、使用した。
【0268】
製造業者の推奨基準に従って実行を遂行した。次いで、キャピラリー、試料(GluN2Aについては0.2mg/mL及びリン酸化CREBについては2mg/mLでの3μLの溶液)、抗体及びマトリックスを、計器内に充填した。分離マトリックス、スタッキングマトリックス及びタンパク質試料を満たしたキャピラリーを用いて、単純なウェスタンを実行した。次いで、キャピラリーを、2時間、室温(23℃、±3℃)で、以下の一次抗体とともにインキュベートした:
- 抗pCREB抗体(Cell signaling社、9198S、43kDa)
- 抗全GluN2A抗体(Millipore Sigma社、M264-10UG、約180kDa)
【0269】
各タンパク質を独立して評価した。キャピラリーを洗浄し、二次抗体とコンジュゲートされた高感度ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とともに1時間、室温(23℃、±3℃)でインキュベートした。未結合の二次抗体の除去後、キャピラリーを室温(23℃、±3℃)でルミノール-S/過酸化物基質とともにインキュベートし、6つの異なる露光時間(30、60、120、240、480、及び960秒)でWES(商標)の電荷結合素子(CCD)カメラを使用して化学発光シグナルを収集した。データ解析は、WES(商標)でCompassソフトウェア(ProteinSimple社)を使用して行った。1条件当たり5つの試料(生物学的反復)を解析した。
【0270】
結果:
T迷路アッセイ:
亜慢性PCP誘導性認知欠損に対するNX218投与の結果を、Table 10(表16)及び
図15に提示する。
【0271】
【0272】
亜慢性PCP処置マウスは、T迷路において31%の自発的及び連続的交替行動能力を得点した。この能力は、生理食塩水処置マウス(66%)とは有意に異なり、この課題における亜慢性PCP誘導性欠損を反映する。
【0273】
D14日目におけるNX218での2時間の前処置は、53%の自発的交替行動率によって示されるように、マウスT迷路交替行動において亜慢性PCP誘導性欠損の有意な逆転を生じさせた。NX218の逆転効果は、PCPマウスが、D12、D13及びD14にそれぞれ行った3回の連続した前処置(48時間、24時間及び2時間)を受けたとき、よりいっそう大きかった(62%自発的交替行動)。その一方で、NX218での単回24時間前処置は、35%の自発的交替行動率によって示されるように、欠損に対して効果がなかった。まとめると、これらの結果は、NX218がマウスにおける亜慢性PCP誘導性認知欠損を逆転させたが2時間前処置の存在が極めて重要であるようであることを示す。
【0274】
並行してテストしたニコチン(0.4mg/kg)は、亜慢性PCP処置マウスとは有意に異なる、62%の自発的交替行動能力を生じさせた。
【0275】
脳バイオマーカーのレベル(自動WBにより測定したタンパク質発現):
PCPで慢性処置したマウスの皮質試料における関連脳バイオマーカーのレベルに対するNX218の効果を、table 11(表17)及びtable 12(表18)に並びに
図16及び
図17に提示する。
【0276】
【0277】
【0278】
PCP処置マウスの皮質におけるGluN2Aのレベルは、対照のものと比較して変更されなかった。しかし、総合的なGluN2Aの有意な増加が、NX218で慢性処置したマウスにおいて、対照マウスと比較して(2倍の増加)及びPCP処置マウスと比較して観察された。核内転写因子pCREBの有意な低減が、PCP処置マウスの皮質において観察され、それがNX218の慢性投与後に回復された。
【0279】
全体的に見て、結果は、NX218が、皮質におけるシナプス可塑性に関与するタンパク質のレベル及び/又はリン酸化を調節することができることを示す。
【0280】
結論:
最終的に、NX218は、マウスにおけるPCP誘導性認知欠損を逆転させることができる。ペプチドの反復投与又は認知課題の2時間前のNX218の単回急性投与の両方は、マウスの認知能力をロバストに向上させた。シナプスにおけるNX218の反復投与の効果は、CREBリン酸化の回復とともにGluN2Aサブユニット皮質含有量の増加に変換された。これら2つの関連した機序によって認知機能の回復が説明されうる。
【0281】
NX218は、異なる神経回路(即ち、海馬又は視床皮質シナプス)における神経伝達の強度を、恐らくGluN2A-NMDAR及びAMPAR興奮性シナプス後電流の増加によって、強化したことを、本明細書で示す。NMDARアンタゴニストであるフェンシクリジンの慢性投与によって誘導されたシナプス伝達不全を示すマウスモデルにおいて、NX218の単回急性全身注射は、空間作業記憶をロバストに向上させた。更に、NX218での反復連日処置は、GluN2A-NMDAR皮質含有量を増加させ、その一方で、CREBのNMDAR依存性リン酸化を回復させることによって記憶機能の完全な回復を支える。
【0282】
AMPAR及びNMDARは、興奮性シナプス伝達の主役であり、その持続的変化が、様々なCNS領域において分子カスケードによって、学習及び記憶又は神経内分泌機能等の必須機能を確実にするように可塑性を惹起する。機序的には、AMPARの活性化は、ニューロン間の電気的情報伝達を加速させるシナプス後膜の迅速な脱分極につながり、その一方で、NMDARの活性化は、AMPARにより誘導される長期変化を維持するようにニューロンの遺伝子発現を調節する。AMPAR及びNMDARサブユニット組成及び輸送の多様性は、多くの異なる形態のシナプス可塑性、例えば、LTP及び長期抑圧(LTD)(学習及び記憶過程にとって極めて重要)、恒常的可塑性又はメタ可塑性につながる。この研究で、本発明者らは、NX218がCA3~CA1海馬及び視床皮質シナプスにおける興奮性神経伝達の強度を強化するということの最初の証拠を提供する。したがって、NX218は、グルタミン酸作動性シナプス伝達が害される多様な障害及び状態、例えば、統合失調症又は更には正常な老化において、興奮性神経伝達を増進する治療機会を示す。加えて、グルタミン酸作動性系の活性の低下は、多くの場合、興奮性伝達と抑制性伝達とのバランスを維持するためのGABA作動性系の活性の低下と関連しており、したがって、両方の系の活性が、NX218の外生的供給により増進されうる。興奮性シナプス機能不全を処置する上での1つの大きな課題は、興奮毒性ニューロン死を促進することなく、迅速にCNS内の興奮と抑制のバランスを取り戻すことを達成することである。興味深いことに、本発明者らは、神経伝達とニューロン生存の両方を促進することが公知のサブユニットである、GluN2Aが、NX218の存在下で、EPSCの増加をもたらすことを観察した。
【0283】
上述の通り、NMDARは、シナプス伝達及び可塑性において並びに認知過程で極めて重要な役割を果たす。したがって、NMDARアンタゴニストPCPへの急性又は慢性曝露の結果として生じるグルタミン酸活性の短期又は長期低下は、齧歯動物、霊長類及びヒトにおいて短期空間記憶を害する。シナプスにおける興奮性電流及びその後の神経伝達に対するその効果に加えて、NX218は、in vivoでのこのペプチドの存在下でのpCREBレベルとGluN2A-NMDARタンパク質レベル両方の増加により示されるように、NMDAR駆動シグナル伝達及び可塑性も促進する。更に、本発明者らは、NX218の作用がマウスを短期記憶欠損から救うことの証拠も提供した。本発明者らは、シナプス可塑性及び関連機能(即ち、この研究では記憶)に対するNX218の効果が、グルタミン酸含有小胞におけるシナプス前放出の増加ではなくGluN2A-NMDARタンパク質レベルのシナプス後増加に関連している可能性があると考えている。
【0284】
まとめると、本発明者らの研究は、NX218が、高次機能に関連する脳領域(即ち、皮質及び海馬)におけるAMPAR媒介及びGluN2A-NMDAR媒介神経伝達を助長することを実証する。これらの知見と一致して、本発明者らは、NX218処置が、シナプス機能不全の薬理学的マウスモデルにおいて、NMDAR依存性シグナル伝達及び短期記憶の両方について好ましい変化を惹起することを観察した。全体的に見て、NX218によるGluN2A-NMDAR及びAMPAR機能の調節は、高齢者における、及び機能障害を引き起こすシナプスの異常を伴うCNS障害に罹患している患者における、転帰を改善する革新的な治療機会を意味する。
【0285】
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【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を増進させる又は回復させるための医薬組成物であって、アミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2
(式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
- N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性があるか、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性があるか、又はN末端アミノ酸がアセチル化され且つC末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある)
のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項2】
AMPAr及びGluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を
増進させる又は回復させるための、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
損なわれている興奮性シナプス伝達を増進させる又は回復させるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記伝達が、低酸素中又は後に損なわれる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
統合失調症の処置若しくは予防のための、薬物依存症の処置若しくは予防のための、抗NMDAr脳炎の処置のための、植物状態の処置のための、シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧及び/若しくは低酸素性脳損傷の処置若しくは予防のための、双極性障害の処置のための、ウイルス感染症の結果として生じるシナプス欠損の処置若しくは予防のための、又はシナプトパチーのシナプス機能不全の処置若しくは予防のための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ペプチドが、アミノ酸配列W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G (式中、A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなる)のペプチドである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項7】
- A1が、G、V、S、P及び
Aから選択され、
- A2が、G、V、S、P及び
Aから選択され、
- A3が、R、A及び
Vから選択され、及び/又は
- A4が、S、T、P及び
Aから選択される、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項8】
A1及びA2が、独立して、G及びSから選択され、及び/又はA3-A4が、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項9】
ペプチドが、配列番号3~63の配列からなる群から選択される配列のペプチドである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項10】
ペプチドが、直鎖状ペプチドであるか、又は2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項11】
ペプチドが、配列番号3の配列のペプチドであり、直鎖状ペプチドであるか、又は2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドであるか、又は両方の混合物である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項12】
ペプチドが、配列番号3の配列のペプチドであり、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成している環化ペプチドである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項13】
ペプチドが、興奮性シナプス伝達を増加させる、増進させる又は回復させる、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項14】
ペプチドが、興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防又は処置する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項15】
興奮性シナプス伝達を増加させる、増進させる又は回復させるために対象を処置するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
海馬における興奮性シナプス伝達を増加させる、増進させる又は回復させるために対象を処置するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防又は処置するために対象を処置するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
海馬における興奮性シナプス伝達に対する低酸素の有害効果を予防又は処置するために対象を処置するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
以下のアミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2
(式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
- N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性があるか、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性があるか、又はN末端アミノ酸がアセチル化され且つC末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある)
を有するペプチドであって、GluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を増進させる又は回復させるためのそれを必要とする対象の処置における使用のための、ペプチド。
【請求項20】
統合失調症の処置若しくは予防における使用のための、薬物依存症の処置若しくは予防のための、抗NMDAr脳炎の処置のための、植物状態の処置のための、シナプス伝達の低酸素誘導性抑圧及び/若しくは低酸素性脳損傷の処置若しくは予防のための、双極性障害の処置のための、ウイルス感染症の結果として生じるシナプス欠損の処置若しくは予防のための、又はシナプトパチーのシナプス機能不全の処置若しくは予防のための、請求項19に記載のペプチド。
【請求項21】
以下のアミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2
(式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は、存在せず;
- N末端アミノ酸がアセチル化されている可能性があるか、C末端アミノ酸がアミド化されている可能性があるか、又はN末端アミノ酸がアセチル化され且つC末端アミノ酸がアミド化されている可能性がある)
を有するペプチドの、GluN2A-NMDAr媒介グルタミン酸作動性神経伝達を増進させる又は回復させるための医薬の製造における使用。
【国際調査報告】