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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/02 20060101AFI20240705BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240705BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240705BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240705BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B13/04 302
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500520
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2022068410
(87)【国際公開番号】W WO2023280760
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184449.3
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593194476
【氏名又は名称】アグフア-ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムース,ヴィレム
(72)【発明者】
【氏名】ツディスコ,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェルバエスト,ハンネ
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB49
4K021DB50
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
多孔質支持体(100)と、多孔質支持体上に設けられた多孔質層(200)とを備えるアルカリ電解のためのセパレータ(1)であって、明細書に記載される方法に従って測定されるセパレータの側方バブルポイントが、少なくとも0.2barであることを特徴とする、セパレータ。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体(100)と、多孔質支持体上に設けられた多孔質層(200)とを備えるアルカリ電解のためのセパレータ(1)であって、明細書に記載される方法に従って測定されるセパレータの側方バブルポイントが、少なくとも0.2barであることを特徴とする、セパレータ。
【請求項2】
側方バブルポイントが少なくとも0.5barである、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
多孔質支持体が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又はポリアリーレンポリマー布を含む、請求項1又は2に記載のセパレータ。
【請求項4】
多孔質支持体が、トルエン、フェノール、ブチロラクトン、ジクロロベンゼン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、クロロ-N-メチルアニリン及びオレイカミドからなる群から選択される少なくとも50ppmの残留溶媒を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項5】
セパレータが、多孔質支持体の一方の側に設けられた第1の多孔質層(250)と、多孔質支持体の他方の側に設けられた第2の多孔質層(250’)とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項6】
第1の多孔質層と第2の多孔質層が同じである、請求項5に記載のセパレータ。
【請求項7】
多孔質層が、ポリマー樹脂及び親水性無機粒子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項8】
ポリマー樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルフィドからなる群から選択される、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
親水性無機粒子が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化チタン及び硫酸バリウムからなる群から選択される、請求項7又は8に記載のセパレータ。
【請求項10】
親水性無機粒子が、0.7μm以下の粒子サイズD50を有する、請求項9に記載のセパレータ。
【請求項11】
セパレータの厚さ(t2)が100~500μmである、請求項1~10のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項12】
多孔質支持体が、100μm以下の厚さ(t1)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項13】
200~800l/bar/h/mの透水性を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項14】
カソードとアノードとの間に位置する、請求項1~13のいずれか一項に定義されたセパレータを含む、アルカリ水電解デバイス。
【請求項15】
ゼロギャップ構成を有する、請求書14に記載のアルカリ水電解デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、水素はいくつかの工業プロセス、例えば、化学工業における原料としての、及び冶金工業における還元剤としてのその使用において使用されている。水素は、アンモニア、ひいては肥料、及び多くのポリマーの製造に使用されるメタノールの製造のための基本的な構成単位である。水素が中間油生成物の処理に使用される製油所は、別の使用分野である。
【0003】
水素はまた、重要な将来のエネルギー担体と考えられており、これは水素がエネルギーを使用可能な形態で貯蔵及び送達できることを意味する。酸素との発熱燃焼反応によってエネルギーが放出され、それにより水を形成する。このような燃焼反応の間、炭素を含む温室効果ガスは排出されない。
【0004】
低炭素社会の実現のために、太陽光及び風力等の自然エネルギーを利用した再生可能エネルギーがますます重要になってきている。
【0005】
風力及び太陽光発電システムによる発電は、気象条件に大きく左右されるため、変動が大きく、電気の需要と供給のバランスが崩れてしまう。余剰電力を蓄えるために、電力が水素等の気体燃料を生成するために使用される、いわゆる電力対ガス技術は、近年多くの関心を集めている。再生可能エネルギー源からの電気の生成が増加するにつれて、生成されたエネルギーの貯蔵及び輸送の需要も増加する。
【0006】
アルカリ水電解は、電気が水素に変換される場合がある重要な製造プロセスである。
【0007】
アルカリ水電解セルでは、いわゆるセパレータ又はダイヤフラムを使用して異なる極性の電極を分離して、これらの電子伝導部品(電極)間の短絡を防止し、ガスクロスオーバーを回避することによって(カソードで形成された)水素と(アノードで形成された)酸素との再結合を防止する。これら全ての機能を果たす一方で、セパレータは、カソードからアノードへのヒドロキシルイオンの輸送のための高イオン伝導体であるべきである。
【0008】
セパレータは、典型的には多孔質支持体を含む。このような多孔質支持体は、特許文献1(Hydrogen Systems)に開示されているように、セパレータを補強し、それによってセパレータの操作及び電解槽へのセパレータの導入を容易にする。
【0009】
特許文献2(VITO)は、強化セパレータを調製するプロセスを開示している。このプロセスは、対称的な特性を有する膜をもたらす。このプロセスは、ウェブとしての多孔質支持体及び適切なドープ溶液を提供する工程と、ウェブを垂直位置に案内する工程と、ウェブの両側をドープ溶液で等しくコーティングして、ウェブでコーティングされた支持体を生成する工程と、ドープでコーティングされたウェブに、対称的な表面細孔形成工程及び対称的な凝固工程を適用して、多孔質支持体と、支持体の両側の2つの多孔質ポリマー層とを含む強化膜を生成する工程とを含む。
【0010】
特許文献3及び特許文献4(Agfa Gevaert及びVITO)は、特許文献2に記載されているような対称特性を有する強化膜を製造するための製造方法を開示している。
【0011】
特許文献5(Kawasaki、De Nora Permelec、Thyssen
Krupp)は、ドープ溶液を多孔質支持体の一方の側に適用した後、対称的な細孔形成工程を行い、セパレータの両面上に実質的に同一の細孔を有するセパレータをもたらすことにより製造されるセパレータを開示している。
【0012】
特許文献6(Nippon Shokubai)も、多孔質支持体で補強されたセパレータを開示している。
【0013】
しかしながら、多孔質ポリマー層と多孔質支持体との間の界面に位置する空隙が、セパレータ内部の気泡形成をもたらす場合があることが観察されている。気泡の形成は、セパレータを通したイオン伝導度の低下、ひいては電解効率の低下をもたらす場合がある。これらの気泡は、電解槽内に配置されたセパレータの上部に蓄積する場合があり(セパレータ中での気泡の側方移動)、いわゆるホットスポットをもたらし、又はセパレータの燃焼さえもたらす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第232923号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1776490号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/147084号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/147086号パンフレット
【特許文献5】欧州特許第3312306号明細書
【特許文献6】欧州特許第3660188号明細書
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、セパレータ内部での気泡の側方移動の低減により、より効率的な水電解が実現される場合がある、強化セパレータを提供することである。
【0016】
この目的は、請求項1に定義されるセパレータによって実現される。
【0017】
本発明のさらなる目的は、以後の記載から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明で使用されるセパレータの側方及び長手方向を概略的に示す。
図2】本発明によるセパレータの一態様を概略的に示す。
図3】本発明によるセパレータの別の態様を概略的に示す。
図4】多孔質層と多孔質支持体との間の界面における空隙(150)の存在(上)及び非存在(下)が示される比較例(上)及び本発明(下)のセパレータのSEM写真を示す。
図5】「ゼロギャップ」電解セルにおけるセパレータ中の気泡の側方拡散を概略的に示す。
図6】セパレータの厚さ方向における細孔径分布のいくつかの例を概略的に示す。
図7図3に示したセパレータの製造方法の一態様を概略的に示す。
図8図3に示したセパレータの製造方法の別の態様を概略的に示す。
図9】側方バブルポイントを決定するための測定方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
アルカリ水電解用セパレータ
本発明によるアルカリ電解のためのセパレータ(1)は、多孔質支持体(100)と、
多孔質支持体の側部に提供された多孔質層(200)とを備え、以下に記載する方法に従って測定されるセパレータの側方バブルポイントが、少なくとも0.2bar、好ましくは少なくとも0.35bar、より好ましくは少なくとも0.5barであることを特徴とする。
【0020】
図1は、本明細書で使用されるセパレータ(1)の側方(L1)及び長手(L2)方向を概略的に示す。
【0021】
図2は、多孔質層(200)が多孔質支持体(100)の側部に設けられた本発明によるセパレータの態様を概略的に示す。多孔質層(200)は、好ましくは、以下に記載されるように、多孔質支持体の側部に提供される。
【0022】
図3は、第1(250)の多孔質層が多孔質支持体(100)の一方の側に設けられ、第2(250’)の多孔質層が多孔質支持体(100)の他方の側に設けられた、本発明によるセパレータの別の態様を概略的に示す。第1(250)及び第2(250’)の多孔質層は、互いに同一又は異なる場合がある。多孔質層は、好ましくは、以下に記載されるように、多孔質支持体の両側に提供される。
【0023】
セパレータの厚さ(t2)は、好ましくは50~750μm、より好ましくは75~500μm、最も好ましくは100~250μm、特に好ましくは125~200μmである。セパレータの厚さの増加は、典型的にはセパレータの物理的強度の増大をもたらす。しかしながら、セパレータの厚さの増加はまた、典型的には、イオン抵抗の増大による電解効率の低下をもたらす。
【0024】
側方バブルポイントが収縮現象による影響を受けるため(以下参照)、セパレータの厚さは、側方バブルポイントに影響を与える場合がある。より小さい厚さは、典型的には、より高い側方バブルポイントをもたらす。
【0025】
セパレータは、好ましくは、80℃で30重量% KOH水溶液中で、0.1ohm.cm以下、より好ましく0.07ohm.cm以下のイオン抵抗を有する。イオン抵抗は、Xylemから入手可能なTetraCon 925導電率セルを備えた、Avantorの一部であるVWRから入手可能なInolab(登録商標) Multi 9310 IDS装置を用いて決定される場合がある。
【0026】
以下により詳細に記載されるように、本発明によるセパレータは、好ましくは、本明細書でドープ溶液とも称されるコーティング溶液を、多孔質支持体の片側又は両側に適用することによって調製される。
【0027】
ドープ溶液は、好ましくは、ポリマー樹脂、親水性無機粒子、及び溶媒を含む。
【0028】
次いで、ポリマー樹脂が三次元多孔質ポリマーネットワークを形成する転相工程の後に多孔質層が得られる。
【0029】
多孔質支持体の片側又は両側にドープ溶液を適用すると、ドープ溶液は、好ましくは多孔質支持体に含浸する。多孔質支持体は、より好ましくは完全にドープ溶液で含浸される。このような多孔質支持体へのドープ溶液の含侵は、転相後に、三次元多孔質ポリマーネットワークが多孔質支持体中にも延伸し、多孔質層と多孔質支持体との間の改善された接着をもたらすことを確実にする。
【0030】
しかしながら、セパレータの調製中に、おそらく収縮現象に起因して多孔質層と多孔質
支持体との間の界面に空隙が形成される場合があることが観察されている。支持体の両側に提供される、多孔質支持体(100)と多孔質層(250、250’)との間の界面におけるそのような空隙(150)の発生は、図4のSEM写真(上)から明らかである。
【0031】
空隙が十分大きい場合、そのような空隙内に気泡が形成される場合がある。これらの気泡は、空隙がセパレータの側方方向に相互接続された場合、電解セルの頂部に上昇する場合がある。この場合はゼロギャップ構成を有する、セパレータ「内部」でのそのような気泡の電解セルの頂部への拡散は、図5に示されている(LB)。電解セルの頂部での気泡の蓄積は、セルのその部分内のより高いイオン抵抗をもたらす場合がある。電解セルのその領域内のより低い冷却効率による温度上昇は、セパレータの燃焼さえもたらす場合がある。
【0032】
以下に記載されるように測定される側方バブルは、セパレータ内部での側方方向(L1)の気泡の拡散によって決定される。これは、セパレータの長手方向(L2)の気泡の拡散の尺度である、以下にも記載される一般に知られるバブルポイントとは対照的である。
【0033】
以下に記載される方法に従って測定して、少なくとも0.2bar、好ましくは少なくとも0.35bar、より好ましくは少なくとも0.5barの側方バブルポイントを有するセパレータを用いて、より少ない気泡がセパレータ内部で形成され、それによって、より少ない気泡(電解効率に負の影響を与える場合がある)が電解セルの頂部に蓄積されることが目下観察されている。
【0034】
上記に言及した側方バブルポイントは、以下による影響を受ける場合があることが見出された:
- ドープ溶液の組成;
- 多孔質支持体の組成及び構造;
- 多孔質支持体中の残留溶媒。
これらのパラメータは、以下により詳細に記載される。
【0035】
セパレータは細孔を含み、該細孔は、セパレータの長手方向のガスクロスオーバーを避けることによって水素と酸素の再結合を防止するのに十分小さい細孔径を有する。一方で、カソードからアノードへのヒドロキシルイオンの効率的な輸送を確実にするために、細孔径は、セパレータ中への電解質の効率的な浸透を確実にするように小さすぎない場合がある。
【0036】
細孔は、好ましくは米国材料試験協会標準(ASMT)法F316に記載されているバブルポイント試験法を用いて特徴付けられる。この技術は、不活性加圧ガスを適用することによって、セパレータに包埋された湿潤液体を移動させることに基づく。貫通細孔のみが、この方法で測定される。
【0037】
ガスが細孔経路全体に沿って液体を移動させるための最も困難な部分は、細孔スロートとしても知られる、細孔の最もくびれた部分である。バブルポイント試験法で測定される細孔の直径は、細孔スロートが細孔経路内のどこに位置するかにかかわらず、その細孔スロートの直径である。
【0038】
細孔は、好ましくは、バブルポイント試験法で測定される0.05~2μm、より好ましくは0.10~1μm、最も好ましくは0.15~0.5μmの最大細孔径(Pdmax)を有する。
【0039】
図6は、様々な形状を有する、いわゆる貫通細孔a~eを概略的に示す。本明細書で言
及される貫通細孔は、セパレータの一方の側からセパレータの他方の側への輸送を可能にする細孔である。細孔スロート(p)は、異なる細孔形状について示されている。明確にするために、セパレータの多孔質支持体と多孔質層は、図6では別々に示されていない。図6のセパレータは、図2又は図3に示したセパレータである場合がある。
【0040】
細孔スロートは、以下に位置する場合がある:
- セパレータのセパレータの外表面(a);
- セパレータの「内部」(b、c、e);又は
- セパレータの外表面及びセパレータの「内部」の両方(d)。
【0041】
好ましい態様によれば、細孔スロートは、セパレータの一方又は両方の外表面から距離d3及び/又はd4に位置している。距離d3及びd4は、互いに同一又は異なる場合がある。距離d3及びd4は、セパレータの外表面A”及びB”からそれぞれ、好ましくは0~15μm、より好ましくは0~10μmである。
【0042】
両方の外表面における細孔径は、互いに実質的に同一又は異なる場合がある。本明細書で言及される実質的に同一は、両表面の細孔径の比が、0.9~1.1であることを意味する。セパレータの外表面の細孔径はまた、欧州特許第3652362号に開示されているように、走査電極顕微鏡(SEM)で測定される場合がある。
【0043】
図6の細孔形状(a)については、セパレータの外表面にてSEMで測定された細孔径は、バブルポイント試験法で測定された最大細孔径PDmaxに対応するであろう。
【0044】
しかしながら、細孔スロートがセパレータ内部に位置する場合(図6の細孔形状(b)、(c)、(d)及び(e)を参照)、バブルポイント試験法で測定された最大細孔径(PDmax)は、SEMを用いて外表面で測定された細孔径と比較して小さくなる。
【0045】
バブルポイント試験法は、測定中にセパレータの一方の側を支持するグリッドを使用することにより、セパレータの両側の最大細孔径(Pdmax)を測定するように適合される場合がある。セパレータの他方の側を支持するグリッドを使用して、別の測定が行われる。
【0046】
また、セパレータの両側について測定されるPDmaxは、互いに実質的に同一又は異なる場合がある。
【0047】
バブルポイント試験法で測定して、両側が実質的に同一の細孔径を有する好ましいセパレータは、欧州特許出願公開第1776480号、特許文献3及び特許文献5に開示されている。
【0048】
バブルポイント試験法で測定して、両側が異なる細孔径を有する好ましいセパレータは、欧州特許出願公開第3652362号に開示されている。第1の多孔質層の外表面における最大細孔径PDmax(1)は、好ましくは0.05~0.3μm、より好ましくは0.08~0.25μm、最も好ましくは0.1~0.2μmであり、第2の多孔質層の外表面における最大細孔径PDmax(2)は、好ましくは0.2~6.5μm、より好ましくは0.2~1.50μm、最も好ましくは0.2~0.5μmである。PDmax(2)とPDmax(1)との比は、好ましくは1.1~20、より好ましくは1.25~10、最も好ましくは2~7.5である。より小さいPDmax(1)は、水素と酸素の効率的な分離を確実にする一方、PDmax(2)は、セパレータ中の電解質の良好な浸透を確実にし、十分なイオン伝導性をもたらす。
【0049】
セパレータの多孔度は、好ましくは30~70%、より好ましくは40~60%である。
【0050】
上記の範囲の多孔度を有するセパレータは、一般に、ダイヤフラムの細孔が電解液で連続的に満たされているため、優れたイオン透過性、及び優れたガスバリア性を有する。80%以上の多孔度は、セパレータの低すぎる機械的強度、及び電解質の高すぎる浸透をもたらし、後者はHTO(アノードで形成された酸素中に存在する水素の重量%)の増加をもたらすであろう。
【0051】
セパレータは、好ましくは、200~800l/bar.h.m、より好ましくは300~600l/bar.h.mの透水性を有する。
多孔質支持体
【0052】
多孔質支持体(100)は、セパレータを補強してその機械的強度を確保するために使用される。
【0053】
多孔質支持体の厚さ(t1)は、好ましくは350μm以下、より好ましくは200μm以下、最も好ましくは100μm以下、特に好ましくは75μm以下である。
【0054】
強化セパレータを通したイオン伝導度は、多孔質支持体の厚さが減少すると増加することが観察されている。
【0055】
しかしながら、強化セパレータの十分な機械的特性を確保するために、多孔質支持体の厚さは、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上である。
【0056】
多孔質支持体は、多孔質布及び多孔質セラミックプレートからなる群から選択される場合がある。
【0057】
多孔質支持体は、好ましくは多孔質布、より好ましくは多孔質ポリマー布である。そのような多孔質ポリマー布は、度々、ポリマーメッシュと称されている。
【0058】
多孔質ポリマー布は、織布又は不織布である場合がある。織布は、典型的には、より良好な寸法安定性と、開口面積及び厚さの均一性を有する。しかしながら、100μm以下の厚さを有する織布の製造は、より複雑であり、より高価な布をもたらす。不織布の製造は、100μm以下の厚さを有する布でさえも、比較的複雑ではない。また、不織布は、より大きい開口面積を有する場合がある。
【0059】
適切な多孔質ポリマー布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルホン(PS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド/ナイロン(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(s-PEEK)、モノクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレンとテトラフルオロエチレン(ETFE)又はクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)とのコポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレン及びm-アラミドから調製される。
【0060】
多孔質支持体は、好ましくは、高温及び高濃度アルカリ溶液に対する高い耐性を有し、また水電解プロセス中にアノードから発生する活性酸素に対して高い化学的安定性を有する。
【0061】
好ましい多孔質支持体は、ポリプロピレン(PP)、ポリ-フェニレンスルフィド(PPS)及びポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)から調製される。
【0062】
セパレータの側方バブルポイントは、セパレータがPEEK又はポリアリーレン多孔質支持体を含む場合に増大することが観察されている。
【0063】
多孔質支持体の開口面積は、支持体への電解質の良好な浸透を確実にするために、好ましく30~80%、より好ましくは40~70%である。
【0064】
多孔質支持体は、好ましくは、特許文献2及び特許文献3に開示されているような製造プロセスを可能にする連続ウェブである。
【0065】
ウェブの幅は、好ましくは30~300cm、より好ましくは40~200cmである。
【0066】
セパレータの調製に残留溶媒を含む多孔質支持体を使用すると、側方バブルポイントの増大がもたらされる場合があることが観察されている。
【0067】
残留溶媒は、多孔質支持体の製造プロセスの結果である場合があり、又は多孔質支持体を1種以上の溶媒で処理した結果である場合がある。
【0068】
残留溶媒は、好ましくは、トルエン、フェノール、ブチロラクトン、ジクロロベンゼン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、クロロ-N-メチルアニリン及びオレイカミドからなる群から選択される。
【0069】
残留溶媒は、より好ましくは、ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、クロロ-N-メチルアニリン及びオレイカミドからなる群から選択される。
【0070】
残留溶媒は、最も好ましくは、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、クロロ-N-メチルアニリン及びオレイカミドから選択される。
【0071】
残留溶媒の量は、好ましくは少なくとも25ppm、より好ましくは少なくとも50ppm、最も好ましくは少なくとも75ppm、特に好ましくは少なくとも100ppmである。
【0072】
多孔質支持体を処理する方法は、好ましくは以下の工程を含む:
- 多孔質支持体を、少なくとも1種の上述した溶媒中に浸漬し、
- 溶媒を多孔質支持体から部分的に除去する。
【0073】
浸漬工程における溶媒の温度は、溶媒のタイプ、特にその沸点に依存する。浸漬は、好ましくは少なくとも50℃の温度、より好ましくは少なくとも75℃の温度、最も好ましくは少なくとも100℃の温度で行われる。
【0074】
浸漬時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは1日以上、最も好ましくは1週間以上である。
【0075】
次いで、溶媒を多孔質支持体から部分的に除去して、所望の残留溶媒量を得る。除去は、溶媒を多孔質支持体から拭き取り、及び/又は多孔質支持体を乾燥することによって行われる場合がある。
【0076】
ポリマー樹脂
多孔質層は、好ましくはポリマー樹脂を含む。
【0077】
ポリマー樹脂は三次元多孔質ネットワークを形成し、これは、以下に記載されるように、セパレータの調製における転相工程の結果である。
【0078】
ポリマー樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリスチレン(PS)等の芳香族炭化水素樹脂から選択される場合がある。ポリマー樹脂は、単独で使用される場合があり、又はポリマー樹脂の2種以上が組み合わせで使用される場合がある。
【0079】
PVDF及びフッ化ビニリデン(VDF)-コポリマーは、それらの耐酸化性/還元性及びフィルム形成特性のために好ましい。これらの中で、VDF、ヘキサンフルオロプロピレン(HFP)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のターポリマーが、それらの優れた膨潤特性、耐熱性及び電極への接着性のために好ましい。
【0080】
別の好ましいポリマー樹脂は、その優れた耐熱性及び耐アルカリ性のために芳香族炭化水素樹脂である。芳香族炭化水素樹脂の例は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリアクリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドを含む。
【0081】
特に好ましいポリマー樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群から選択され、ポリスルホンが最も好ましい。
【0082】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンの分子量(Mw)は、好ましくは10000~500000、より好ましくは25000~250000である。Mwが低すぎると、多孔質層の物理的強度が不十分となる場合がある。Mwが高すぎると、ドープ溶液の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0083】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びそれらの組み合わせの例は、欧州特許出願公開第3085815号、段落[0021]~[0032]に開示されている。
【0084】
ドープ溶液中のポリマー樹脂の量は、側方バブルポイントに影響を与える場合があることが観察されている。ポリマー樹脂の量が少なすぎると、空隙形成及び/又は高すぎる多孔度がもたされる場合があり、両方とも低すぎる側方バブルポイントをもたらす。
【0085】
無機親水性粒子
多孔質層は、親水性粒子を含むことが好ましい。転相後、親水性多孔質ポリマー層が得られる。電解質によるセパレータの十分な湿潤を確実にするために、十分な量の親水性粒子が多孔質層に添加される。
【0086】
好ましい親水性粒子は、金属酸化物及び金属水酸化物から選択される。
【0087】
好ましい金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化セリウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される。
【0088】
好ましい金属水酸化物は、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン、水酸化ビスマス、水酸
化セリウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される。特に好ましい水酸化マグネシウムは、特許文献6、段落[0040]~[0063]に開示されている。
【0089】
他の好ましい親水性粒子は、硫酸バリウム粒子である。
【0090】
使用される場合がある他の親水性粒子は、周期表のIV族元素の窒化物及び炭化物である。
【0091】
親水性粒子は、好ましくは、0.05~2.0μm、より好ましくは0.1~1.5μm、最も好ましくは0.15~1.00μm、特に好ましくは0.2~0.75μmのD50粒子サイズを有する。D50粒子サイズは、好ましくは0.7μm以下、好ましくは0.55μm以下、より好ましくは0.40μm以下である。
【0092】
50粒子サイズは、粒子サイズ分布の中央径又は中間値としても知られている。D50粒子サイズは、累積分布における50%の粒径の値である。例えば、D50=0.1umの場合、粒子の50%は1.0umより大きく、50%は1.0umより小さい。
【0093】
50粒子サイズは、好ましくは、レーザー回折を用いて、例えばMalvern PanalyticalからのMastersizerを使用して測定される。
【0094】
多孔質層の総乾燥重量に対する親水性粒子の量は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%である。
【0095】
ポリマー樹脂に対する親水性粒子の重量比は、好ましくは60/40より大きく、より好ましくは70/30より大きく、最も好ましくは75/25より大きい。
【0096】
セパレータの調製
第1の態様によるセパレータの好ましい調製方法は、以下の工程を含む:
- 以下に記載されるドープ溶液を多孔質支持体(100)の側部に適用する工程;及び- 適用されたドープ溶液に対する転相を行うことによって多孔質層(200)を形成する工程。
【0097】
適用されたドープ溶液は、好ましくは、転相を行う前に、多孔質支持体に完全に含侵する。
【0098】
強化セパレータを製造する別の好ましい方法が、対称セパレータに関する特許文献2及び特許文献3、並びに非対称セパレータに関する欧州特許第3652362開示されている。これらの方法は、ウェブ補強セパレータをもたらし、ウェブ、即ち多孔質支持体は、セパレータの表面にウェブが出現することなく、セパレータに良好に埋め込まれている。
【0099】
使用される場合がある他の製造方法は、欧州特許出願公開第3272908号、特許文献6及び特許文献5に開示されている。
【0100】
ドープ溶液
ドープ溶液は、好ましくは上述のようなポリマー樹脂、上述のような親水性粒子、及び溶媒を含む。
【0101】
ドープ溶液の溶媒は、ポリマー樹脂を溶解させることができる有機溶媒であることが好ましい。さらに、有機溶媒は、水に混和性であることが好ましい。
【0102】
溶媒は、好ましくは、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N-エチル-ピロリドン(NEP)、N-ブチル-ピロリドン(NBP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリル、及びそれらの混合物から選択される。
【0103】
健康及び安全性の理由から、非常に好ましい溶媒は、N-ブチル-ピロリドン(NBP)及びメチル5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートである。
【0104】
使用される溶媒のタイプは、側方バブルポイントに影響を与える場合がある。
【0105】
ドープ溶液は、得られるポリマー層の特性、例えば、それらの多孔性及びそれらの外表面における最大細孔径を最適化するために、他の成分をさらに含む場合がある。
【0106】
ドープ溶液は、好ましくは、多孔質層の表面及び内部の細孔サイズを最適化するための添加剤を含む。そのような添加剤は、有機若しくは無機化合物、又はそれらの組み合わせである場合がある。
【0107】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある有機化合物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセロール、多価アルコール、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、イソノナン酸又はネオデカン酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、メチルセルロース及びデキストランを含む。
【0108】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある好ましい有機化合物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される。
【0109】
好ましいポリエチレングリコールは10000~50000の分子量を有し、好ましいポリエチレンオキシドは50000~300000の分子量を有し、好ましいポリビニルピロリドンは30000~100000の分子量を有する。
【0110】
多孔質層中の細孔形成に影響を及ぼす場合がある特に好ましい有機化合物は、グリセロールである。
【0111】
細孔形成に影響を及ぼす場合がある化合物の量は、ドープ溶液の総重量に対して、好ましくは0.1~15重量%、より好ましくは0.5~5重量%である。
【0112】
細孔形成に影響を及ぼす場合がある無機化合物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム及び硫酸バリウムを含む。
【0113】
細孔形成に影響を及ぼす2つ以上の添加剤の組み合わせを使用してもよい。
【0114】
多孔質支持体の両側に適用されたドープ溶液は、同じ又は異なる場合がある。
【0115】
ドープ溶液の適用
ドープ溶液は、いずれかの適用技術によって多孔質支持体の側部に適用される場合がある。
【0116】
周知の技術は、一時的な支持体上に適用されているドープ溶液中に多孔質支持体を含侵させることを含む。層分離工程の後、一時的な支持体を除去し、多孔質支持体(100)
及び多孔質支持体の側部に提供された多孔質層(200)を含むセパレータ(1)をもたらす。
【0117】
ドープ溶液は、好ましくは、いずれかのコーティング又はキャスティング技術によって多孔質支持体の側部に適用される。
【0118】
好ましいコーティング技術は、押出コーティングである。
【0119】
非常に好ましい態様では、ドープ溶液はスロットダイコーティング技術によって適用され、7つのスロットコーティングダイ(図7及び8、600及び600’)が、多孔質支持体の両側に位置する。
【0120】
スロットコーティングダイは、ドープ溶液を所定の温度で保持し、ドープ溶液を支持体上に均一に分配し、適用されるドープ溶液のコーティング厚さを調整することができる。
【0121】
剪断速度100s-1及び温度20℃で測定したドープ溶液の粘度は、少なくとも20Pa.s、より好ましくは少なくとも30Pa.s、最も好ましくは少なくとも40Pa.sである。
【0122】
ドープ溶液は、好ましくは剪断減粘性である。剪断速度100s-1での粘度に対する剪断速度1s-1での粘度の比は、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも2.5、最も好ましくは少なくとも5である。
【0123】
多孔質支持体は、好ましくは連続ウェブであり、これは好ましくは、図7及び図8に示すように、スロットコーティングダイ(600、600’)の間を下方に輸送される。
【0124】
適用の直後に、多孔質支持体はドープ溶液で含浸される。
【0125】
好ましくは、多孔質支持体は適用されたドープ溶液で完全に含浸される。
【0126】
ドープ溶液が支持体の一方の側のみに適用される場合、支持体の一方の側に位置する単一のスロットコーティングダイが使用される場合がある。
【0127】
転相工程
多孔質支持体上にドープ溶液を適用した後、適用されたドープ溶液を転相に供する。転相工程では、適用されたドープ溶液を多孔質層に変換する。
【0128】
好ましい態様では、多孔質支持体に適用された両方のドープ溶液は、転相に供される。
【0129】
適用されたドープ溶液から多孔質層を調製するために、いずれの転相機構も使用してよい。
【0130】
転相工程は、好ましくは、いわゆる液体誘導相分離(LIPS)工程、蒸気誘導相分離(VIPS)工程、又はVIPS工程とLIPS工程の組み合わせを含む。転相工程は、VIPS工程とLIPS工程の両方を含むことが好ましい。
【0131】
LIPS及びVIPSの両方は、非溶媒誘導転相プロセスである。
【0132】
LIPS工程では、ドープ溶液でコーティングされた多孔質支持体を、ドープ溶液の溶媒と混和性である非溶媒と接触させる。
【0133】
典型的には、これはドープ溶液でコーティングされた多孔質支持体を、凝固浴とも呼ばれる非溶媒浴中に浸漬することによって行われる。
【0134】
非溶媒は、好ましくは、水、水と、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルアセトアミド(DMAC)からなる群から選択される非プロトン性溶媒との混合物、PVP若しくはPVA等の水溶性ポリマーの水溶液、又は水とエタノール、プロパノール若しくはイソプロパノール等のアルコールとの混合物である。
【0135】
非溶媒は、最も好ましくは水である。
【0136】
凝固浴の温度は、好ましくは20~90℃、より好ましくは40~70℃である。
【0137】
コーティングされたポリマー層から非溶媒浴への、及び非溶媒からポリマー層への溶媒の移動は、ポリマー樹脂の凝固、及び三次元多孔質ポリマーネットワークの形成をもたらす。
【0138】
好ましい態様では、ドープ溶液でコーティングされた連続ウェブ(100)が、図7及び図8に示すように、凝固浴(800)に向かって、垂直位置で下方に輸送される。
【0139】
VIPS工程では、ドープ溶液でコーティングされた多孔質支持体は、非溶媒蒸気、好ましくは湿潤空気に曝露される。
【0140】
好ましくは、凝固工程は、VIPS工程とLIPS工程の両方を含んだ。好ましくは、VIPS工程は、LIPS工程の前に行われる。特に好ましい態様では、ドープ溶液でコーティングされた多孔質支持体は、水浴中に浸漬する(LIPS工程)前に、まず湿潤空気に曝露される(VIPS工程)。
【0141】
図7に示す製造方法では、VIPSは、スロットコーティングダイ(600、600’)と凝固浴(800)中の非溶媒の表面との間の領域400において行われ、この領域は例えば断熱金属板(500)を用いて環境から遮蔽される。
【0142】
VIPS工程における水の移動の程度及び速度は、空気の速度、空気の相対湿度及び温度、並びに曝露時間を調整することによって制御することができる。
【0143】
曝露時間は、スロットコーティングダイ(600、600’)と凝固浴(800)中の非溶媒の表面との間の距離d、及び/又は細長いウェブ100がスロットコーティングダイから凝固浴に向かって輸送される速度を変化させることによって調整される場合がある。
【0144】
VIPS領域(400)内の相対湿度は、凝固浴の温度、並びに環境及び凝固浴からのVIPS領域(400)の遮蔽によって調整される場合がある。
【0145】
空気の速度は、VIPS領域(400)内のベンチレータ(420)の回転速度によって調整される場合がある。
【0146】
セパレータの一方の側及びセパレータの他方の側で行われ、第7の多孔質ポリマー層をもたらすVIPS工程は、互いに同一(図2)であってもよく、又は異なる(図8)ものであってもよい。
【0147】
転相工程、好ましくは凝固浴中のLIPS工程の後、洗浄工程を行う場合がある。
【0148】
転相工程又は任意的な洗浄工程の後、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0149】
セパレータの製造
図7及び図8は、本発明によるセパレータを製造するための好ましい態様を概略的に示す。
【0150】
多孔質支持体は、好ましくは連続ウェブ(100)である。
【0151】
ウェブは、供給ローラ(700)から巻き出され、2つのコーティングユニット(600)と(600’)との間の垂直位置で下方に案内される。
【0152】
これらのコーティングユニットでは、ドープ溶液がウェブの両側にコーティングされる。ウェブの両側のコーティング厚さは、ドープ溶液の粘度及びコーティングユニットとウェブの表面との間の距離を最適化することによって調整される場合がある。好ましいコーティングユニットは、欧州特許出願公開第2296825号、段落[0043]、[0047]、[0048]、[0060]、[0063]、及び図1に記載されている。
【0153】
次いで、ドープ溶液で両側がコーティングされたウェブは、凝固浴(800)に向かって下方に距離dにわたって輸送される。
【0154】
凝固浴内では、LIPS工程が行われる。
【0155】
VIPS工程は、凝固浴に入る前にVIPS領域内で行われる。図7では、VIPS領域(400)はコーティングされたウェブの両側で同一であるが、図8では、VIPS領域(400(1))と(400(2))は、コーティングされたウェブの両側で異なっている。
【0156】
VIPS領域内の相対湿度(RH)及び気温は、断熱金属板を使用して最適化される場合がある。図7では、VIPS領域(400)は、そのような金属板(500)によって環境から完全に遮蔽されている。従って、RH及び気温は、主に凝固浴の温度によって決定される。VIPS領域内の空気速度は、ベンチレータ(420)によって調整される場合がある。
【0157】
図8では、VIPS領域(400(1))と(400(2))は互いに異なっている。金属板(500(1))を含むコーティングされたウェブの一方の側のVIPS領域(400(1))は、図7のVIPS領域(400)と同一である。コーティングされたウェブの他方の側のVIPS領域(400(2))は、領域(400(1))とは異なっている。VIPS領域(400(2))を環境から遮蔽する金属板は存在しない。しかしながら、VIPS領域(400(2))は、ここでは断熱金属板(500(2))によって凝固浴から遮蔽されている。さらに、VIPS領域400(2)内にはベンチレータが存在しない。このことは、他方のVIPS領域(400(2))のRH及び気温と比較して、より高いRH及び気温を有するVIPS領域(400(1))をもたらす。
【0158】
VIPS領域内の高いRH及び/又は高い空気速度は、典型的には、より大きい最大細孔径をもたらす。
【0159】
1つのVIPS領域内のRHは、好ましくは85%超、より好ましくは90%超、最も
好ましくは95%超である一方、別のVIPS領域内のRHは、好ましくは80%未満、より好ましくは75%未満、最も好ましくは70%未満である。
【0160】
相分離工程の後、強化セパレータは、次いで巻き上げシステム(750)に輸送される。
【0161】
セパレータの一方の側にライナーを提供した後、セパレータ及び適用されたライナーを巻き上げる場合がある。
【0162】
電解槽
本発明によるアルカリ水電解用セパレータは、アルカリ水電解槽内で使用される場合がある。
【0163】
電解セルは、典型的には、セパレータによって分離された2つの電極、アノード及びカソードからなる。電解質は、両方の電極間に存在する。
【0164】
電解セルに電気エネルギー(電圧)が印加されると、電解質のヒドロキシルイオンがアノードで酸素に酸化され、カソードで水が水素に還元される。カソードで形成されたヒドロキシルイオンは、セパレータを通ってアノードに移動する。セパレータは、電解中に形成された水素ガスと酸素ガスとの混合を防止する。
【0165】
電解質溶液は、典型的にはアルカリ溶液である。好ましい電解質溶液は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムから選択される電解質の水溶液である。水酸化カリウム電解質は、それらのより高い比導電率のために、しばしば好ましい。電解質溶液中の電解質の濃度は、電解質溶液の総重量に対して、好ましくは20~40重量%である。電解質溶液の温度は、好ましくは50℃~120℃、より好ましくは75℃~100℃である。
【0166】
電極は、典型的には、いわゆる触媒層が設けられた基材を含む。触媒層は、酸素が形成されるアノードと、水素が形成されるカソードとで異なる場合がある。
【0167】
典型的な基材は、ニッケル、鉄、軟鋼、ステンレス鋼、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族元素、グラファイト、及びクロムからなる群から選択される導電性材料から作製される。基材は、2つ以上の金属の導電性合金、又は2つ以上の導電性材料の混合物から作製される場合がある。好ましい材料は、ニッケル又はニッケル系合金である。ニッケルは、強アルカリ溶液中で良好な安定性を有し、良好な導電性を有し、比較的安価である。
【0168】
アノード上に設けられる触媒層は、高い酸素生成能を有することが好ましい。触媒層は、ニッケル、コバルト、鉄及び白金族元素を含むことが好ましい。触媒層は、元素金属、化合物(例えば、酸化物)、複合酸化物若しくは複数の金属元素からなる合金、又はそれらの混合物としてこれらの元素を含む場合がある。好ましい触媒層は、めっきニッケル、ニッケル及びコバルト若しくはニッケル及び鉄のめっき合金、LaNiO、LaCoO及びNiCo等のニッケル及びコバルトを含む複合酸化物、酸化イリジウム等の白金族元素の化合物、又はグラフェン等の炭素材料を含む。
【0169】
ラネーニッケル構造は、Ni-Al又はNi-Zn合金からアルミニウム又は亜鉛を選択的に浸出することによって形成される。浸出中に形成される格子空孔は、大きな表面積及び高密度の格子欠陥をもたらし、これらは電極触媒反応が起こるための活性部位である。
【0170】
触媒層はまた、耐久性及び基材に対する接着性を改善するために、ポリマー等の有機物質を含む場合がある。
【0171】
カソード上に設けられる触媒層は、高い水素生成能を有することが好ましい。触媒層は、ニッケル、コバルト、鉄及び白金族元素を含むことが好ましい。所望の活性及び耐久性を実現するために、触媒層は、金属、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物若しくは合金、又はそれらの混合物を含む場合がある。好ましい触媒層は、ラネーニッケル;複数の材料(例えば、ニッケル及びアルミニウム、ニッケル及びスズ)の組み合わせからなるラネー合金;プラズマ溶射によりニッケル化合物又はコバルト化合物を溶射することによって作製された多孔質コーティング;ニッケルと、例えば、コバルト、鉄、モリブデン、銀及び銅から選択される元素との合金及び複合化合物;高い水素生成能を有する白金族元素(例えば、白金及びルテニウム)の元素金属及び酸化物;それらの白金族元素金属の元素金属又は酸化物と、別の白金族元素(例えば、イリジウム又はパラジウム)の化合物、又は希土類金属(例えば、ランタン及びセリウム)の化合物との混合物;並びに炭素材料(例えば、グラフェン)から形成される。
【0172】
より高い触媒活性及び耐久性を提供するために、上述の材料は、複数の層に積層される場合があり、又は触媒層に含まれる場合がある。
【0173】
耐久性又は基材に対する接着性を改善するために、ポリマー材料等の有機材料が含まれる場合がある。
【0174】
いわゆるゼロギャップ電解セルでは、電極(カソード950及びアノード950’)は、セパレータ(1)と直接接触して配置され、それにより両方の電極間の空間を減少させる。メッシュ型又は多孔質電極は、セパレータに電解質を満たすことを可能にし、形成された酸素及び水素ガスを効率的に除去するために使用される。このようなゼロギャップ電解セルは、より高い電流密度で動作することが観察されている。このようなゼロギャップ電解セルは、図9に概略的に示されている。
【0175】
典型的なアルカリ水電解槽は、上述の電解セルのスタックとも呼ばれる、いくつかの電解セルを含む。
【実施例
【0176】
材料
以下の実施例で使用される全ての材料は、特に明記しない限り、ALDRICH CHEMICAL Co(ベルギー)及びACROS(ベルギー)等の標準供給源から容易に入手可能であった。使用した水は、脱イオン水であった。
【0177】
布1は、60ppmの残留溶媒を含むPPS布であり、そのうち33ppmはN-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン及びクロロ-N-メチルアニリン由来である。
【0178】
布2は、149ppmの残留溶媒を含むPPS布であり、そのうち96ppmはN-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン及びクロロ-N-メチルアニリン由来である。
【0179】
布3は、PEEK布である。
【0180】
布4は、ポリアリーレン布である。
【0181】
測定
側方バブルポイント
側方バブルポイントを測定する方法は、図9に概略的に示されている。
【0182】
セパレータを、その重量が一定になるまで、少なくとも2分間、Mettler水分計で乾燥し、正確な外側円形サイズ(300)に穿孔した。その後、より小径(10mm)の第2の穿孔を用いて、このサンプル中に同心円の穴(350)を準備した。
【0183】
ワッシャー形のサンプル(310)を、同じ外径(380)を有するテープ又は平らな閉じた円形シートによりその底側から覆った。
【0184】
次いで、この底部を覆ったワッシャー形サンプルをPorofil(商標)、ポロメーター湿潤液に浸し、「グリッド」(390)を下部に、ゴムOリング(370)を頂部に有して、ポロメーター3Gの測定セル内に配置した。ポロメーター湿潤液及びポロメーターの両方は、Quantachromeから市販されている。
【0185】
ポロメーターの増加するガス圧力が、目下、側方方向(図9の矢印を参照)に押し込まれ、細孔サイズ分布が内部(側方)構造にわたって測定される。
【0186】
セパレータS-1~S-7の調製
セパレータS-1~S-7を、40重量%のポリスルホン、10重量%の酸化ジルコニウム及び50重量%のN-ブチルピロリドン又はN-エチルピロリドンを含むドープ溶液を使用して、図7に概略的に示されるように、表1に従ってポリマー布上に調製した。
【0187】
スロットダイコーティング技術を用いて速度3m/分で、ドープ溶液をポリマー布の両側にコーティングした。
【0188】
次いで、コーティングした布を、65℃に保った水浴に向けて輸送した。
【0189】
VIPS工程は、水浴に入る前に閉鎖領域内で行われた。
【0190】
次いで、コーティングした支持体は水浴に2分間入り、その間、液体誘導相分離(LIPS)が起こった。
【0191】
得られたセパレータの厚さを、表1に示す。
【0192】
S-1~S-7の側方バブルポイント(LBP)及びバブルポイント(BP)を上述したように測定し、表1に示す。
【表1】
【0193】
表1の結果から、ポリマー布の残留溶媒含有量及びポリマー布のタイプが側方バブルポイントに影響を及ぼす一方、バブルポイントはほぼ一定のままであることが明らかである。
【0194】
また、より薄いセパレータも、より高い側方バブルポイントをもたらす。
【0195】
上述したように測定された少なくとも0.2barの側方バブルポイントを有するセパレータを用いた電解効率は、操作中に十分に保持されることが観察されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体(100)と、多孔質支持体上に設けられた多孔質層(200)とを備えるアルカリ電解のためのセパレータ(1)であって、明細書に記載される方法に従って測定されるセパレータの側方バブルポイントが、少なくとも0.2barであることを特徴とする、セパレータ。
【請求項2】
側方バブルポイントが少なくとも0.5barである、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
多孔質支持体が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又はポリアリーレンポリマー布を含む、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項4】
多孔質支持体が、トルエン、フェノール、ブチロラクトン、ジクロロベンゼン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、クロロ-N-メチルアニリン及びオレイカミドからなる群から選択される少なくとも50ppmの残留溶媒を含む、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項5】
セパレータが、多孔質支持体の一方の側に設けられた第1の多孔質層(250)と、多孔質支持体の他方の側に設けられた第2の多孔質層(250’)とを含む、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項6】
第1の多孔質層と第2の多孔質層が同じである、請求項5に記載のセパレータ。
【請求項7】
多孔質層が、ポリマー樹脂及び親水性無機粒子を含む、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項8】
ポリマー樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルフィドからなる群から選択される、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
親水性無機粒子が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化チタン及び硫酸バリウムからなる群から選択される、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項10】
親水性無機粒子が、0.7μm以下の粒子サイズD50を有する、請求項9に記載のセパレータ。
【請求項11】
セパレータの厚さ(t2)が100~500μmである、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項12】
多孔質支持体が、100μm以下の厚さ(t1)を有する、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項13】
200~800l/bar/h/m2の透水性を有する、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項14】
カソードとアノードとの間に位置する、請求項1に定義されたセパレータを含む、アルカリ水電解デバイス。
【請求項15】
ゼロギャップ構成を有する、請求書14に記載のアルカリ水電解デバイス。
【国際調査報告】