(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】抗体薬物コンジュゲート及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240705BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20240705BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K45/00
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K31/4745
A61K47/68
A61P37/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500541
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 CN2022103592
(87)【国際公開番号】W WO2023280092
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】202110757803.1
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524007033
【氏名又は名称】チャンスー アルファマブ バイオファーマシューティカルズ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェイ,ティン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ピリン
(72)【発明者】
【氏名】グオ,カンピン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ,ヨンハオ
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ジャンジャン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
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4C086AA02
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4C086NA14
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4C086ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本願は、HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートに関する。本願は、当該抗体薬物コンジュゲートの製造方法及び使用、並びに上記抗体薬物コンジュゲートを含む医薬組成物に更に関する。本願に記載の抗体薬物コンジュゲートは、腫瘍を効果的に殺傷させることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項2】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項3】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の細胞外ドメインII及び/又はヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合する、請求項1又は2の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項4】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の軽鎖及び第2の軽鎖を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項5】
前記第1の軽鎖は、第1のLCDR1~3を含み、前記第1のLCDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項6】
前記第1のLCDR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項7】
前記第1のLCDR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む、請求項5又は6の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項8】
前記第1の軽鎖は、ペルツズマブの重鎖に結合することができる、請求項4~7の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項9】
前記第2の軽鎖は、第2のLCDR1~3を含み、前記第2のLCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~8の何れか1項記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項10】
前記第2のLCDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項11】
前記第2のLCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む、請求項9又は10の何れか1項記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項12】
前記第2の軽鎖は、トラスツズマブの重鎖に結合することができる、請求項4~11の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項13】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7~12の何れか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~12の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項14】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~13の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項15】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、配列番号13~18の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項4~14の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項16】
前記第1の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択され、及び/又は前記第2の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択される、請求項4~15の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項17】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、同一のアミノ酸配列を有する、請求項4~16の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項18】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項4~17の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項19】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、前記第1の軽鎖に正確に結合することができる、請求項1~18の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項20】
前記第2の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、前記第2の軽鎖に正確に結合することができる、請求項19に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項21】
前記第1の重鎖は、ペルツズマブの重鎖可変領域である第1の重鎖可変領域を含む、請求項19又は20の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項22】
前記第2の重鎖は、トラスツズマブの重鎖可変領域である第2の重鎖可変領域を含む、請求項19~21の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項23】
前記第1の重鎖及び前記第2の重鎖は、ヒトIgGの定常領域に由来する重鎖定常領域を含む、請求項19~22の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項24】
前記第1の重鎖及び前記第2の重鎖のFc断片は、配列番号25~57の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項19~23の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項25】
前記第1の重鎖は、配列番号21又は23に示されるアミノ酸配列を含む、請求項19~24の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項26】
前記第2の重鎖は、配列番号22又は24に示されるアミノ酸配列を含む、請求項19~25の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項27】
M-(L1)
a-(L2)
b-D(式1)に示される構造を含み、
そのうち、Mは、請求項1~26の何れか1項に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、
L1は、Mに連結するリンカーを表し、L2は、Dに連結するリンカーを表し、
a、bは、それぞれ0~10から独立的に選択され、
Dは、薬物を表す、
請求項1~26の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項28】
前記L1及び/又はL2は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される、請求項27に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項29】
前記L1と前記Mは、前記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介して連結される、請求項27~28の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項30】
前記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖及び/又は前記第2の重鎖は、前記L1に連結可能な連結部位を含む、請求項27~29の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項31】
前記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項30に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項32】
前記基は、前記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は前記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する、請求項31に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項33】
前記連結部位は、グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項30に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項34】
前記基は、前記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、前記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する、請求項33に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項35】
前記基は-N
3を含む、請求項33又は34の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項36】
前記グリコシル化修飾は、前記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む、請求項33~35の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項37】
前記L1は、SPAAC反応に関与することができる、請求項27~36の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項38】
前記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N及びDBCOからなる群から選択される、請求項27~37の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項39】
前記L1はDBCO-(PEG)
n1であり、そのうち、
n1は0~10の整数であり、又は前記L1はマレイミドである、請求項27~38の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項40】
前記L2は、ポリペプチド、VC-PAB、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタノアート(SPDB)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)2-スルホブタノアート(sulfo-SPDB)、N-スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、マレイミドPEG NHS、N-4-(マレイミドメチル)シクロヘキシルスクシンイミジルカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)、及び2,5-ジオキソピロリジニル-1-イル17-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-5,8,11,14-テトラオキソ-4,7,10,13-テトラアザオクタデカン-1-酸エステル(CX1-1)からなる群から選択される、請求項27~39の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項41】
前記L2はGGFGである、請求項27~40の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項42】
前記薬物は、腫瘍細胞を殺傷し、及び/又は腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有する、請求項27~41の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項43】
前記薬物は小分子薬物を含む、請求項27~42の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項44】
前記薬物は、V-ATPase阻害剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定剤、微小管不安定化剤、auristatin、dolastatin、メイタンシノイド、MetAP(メチオニンアミノペプチダーゼ)、タンパク質CRM1の核輸出阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリアにおけるリン酸転移反応阻害剤、タンパク質合成阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、DNA破壊剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤、DHFR阻害剤、ヌクレオシド類似体、HDAC阻害剤、アントラサイクリン、NAMPT阻害剤、SN-38グルクロン酸、エトポシド燐酸、ナイトロジェンマスタード、プロテアソーム阻害剤、サイトカイン、及びToll様受容体アゴニストからなる群から選択される、請求項27~43の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項45】
前記薬物は、DM1、exatecan、DXd、MMAE、SN-38、Calicheamicin、Anthracyclin-5G、DM4、微小管阻害剤SHR153024、PNU-159682、Duo5毒素、SN38誘導体、又はそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項27~44の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項46】
【化1】
からなる群から選択される構造を有する、請求項27~45の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項47】
約1~6の薬物/抗体比を有する、請求項1~46の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項48】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートを製造する化合物であって、
M-(L1)
a(式2)に示される構造を有し、そのうち、Mは、請求項1~26の何れか1項に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、
L1は、Mに連結するリンカーを表し、
aは、0~10から選択される、
化合物。
【請求項49】
前記L1は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される、請求項48に記載の化合物。
【請求項50】
前記L1と前記Mは、前記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介して連結される、請求項48又は49の何れか1項に記載の化合物。
【請求項51】
前記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖及び/又は前記第2の重鎖は、前記L1に連結可能な連結部位を含む、請求項48~50の何れか1項に記載の化合物。
【請求項52】
前記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項51に記載の化合物。
【請求項53】
前記基は、前記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は前記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する、請求項51に記載の化合物。
【請求項54】
前記連結部位は、グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項51に記載の化合物。
【請求項55】
前記基は、前記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、前記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記基は-N
3を含む、請求項54又は55の何れか1項に記載の化合物。
【請求項57】
前記グリコシル化修飾は、前記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む、請求項53~56の何れか1項に記載の化合物。
【請求項58】
前記L1は、SPAAC反応に関与することができる、請求項48~57の何れか1項に記載の化合物。
【請求項59】
前記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N、及びDBCOからなる群から選択される、請求項48~58の何れか1項に記載の化合物。
【請求項60】
前記L1はDBCO-(PEG)
n1であり、そのうち、
n1は0~10の整数であり、又は前記L1はマレイミドである、請求項48~59の何れか1項に記載の化合物。
【請求項61】
【化2】
からなる群から選択される構造を含む、請求項48~60の何れか1項記載の化合物。
【請求項62】
請求項48~61の何れか1項に記載の化合物を請求項1~47の何れか1項に記載の薬物に接触させるステップを含む、請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートの製造方法。
【請求項63】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートを含み、任意選択的に、薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項64】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者における腫瘍微小環境の調節方法。
【請求項65】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫応答の調節方法。
【請求項66】
薬物の製造における、請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物の使用であって、前記薬物は、腫瘍を予防及び/又は治療することができる、使用。
【請求項67】
前記腫瘍は、固形腫瘍及び/又は非固形腫瘍を含む、請求項66に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、バイオ医薬品分野に関し、具体的に、抗体薬物コンジュゲート及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HER受容体チロシンキナーゼファミリーは、細胞の増殖、分化及び生存の重要なメディエーターである。当該受容体ファミリーは、上皮成長因子受容体(EGFR、ErbB1、又はHER1)、HER2(ErbB2又はp185neu)、HER3(ErbB3)、及びHER4(ErbB4又はtyro2)を含む4つの特別なメンバーを含む。当該受容体ファミリーのメンバーは、様々なタイプのヒト悪性腫瘍に関与している。
【0003】
二重特異性抗体(Bispecific antibody、BsAbs)は、2つの異なるリガンド結合部位を含む免疫グロブリン分子である。これは、2つの異なるFab配列で古典的な抗体Fabの2本のアームが持つ同一の配列に置換するため、Y型の2本のアームは、異なるエピトープに結合することができる。癌の治療における二重特異性抗体の使用は、多くの文献(Carter 2001、Chames and Baty 2009、Chames and Baty 2009)に概説されている。
【0004】
癌細胞表面に発現し、細胞内に内在化し得る抗原に結合する抗体に細胞毒性を有する薬物を連結した抗体-薬物コンジュゲートは、薬物を癌細胞に選択的に送達することができ、癌細胞内に薬物を蓄積させ、癌細胞を死滅させることが予想される。
【発明の概要】
【0005】
本願は、HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートを提供する。上記抗体薬物コンジュゲートは、ヒトHER2のうちの少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ)のエピトープに特異的に結合することができる。本願に記載の抗体薬物コンジュゲートは、(1)抗体部分及び薬物部分が相乗的な腫瘍殺傷機能を発揮することができ、腫瘍細胞を効果的に殺傷する特性、(2)腫瘍細胞に特異的に結合する特性、(3)血清において良好な安定性を有する特性、(4)腫瘍細胞に対してより強力なバイスタンダー殺傷効果を有する特性、(5)良好なADCC効果を有する特性、及び/又は(6)良好なエンドサイトーシス効率を有する特性を有することができる。本願は、上記抗体薬物コンジュゲートの製造方法、上記抗体薬物コンジュゲートを含む組成物、及び上記抗体薬物コンジュゲート及び組成物の使用を更に提供する。
【0006】
一態様において、本願は、HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートを提供する。
一部の実施形態において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する。
一部の実施形態において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の細胞外ドメインII及び/又はヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合する。
【0007】
一部の実施形態において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の軽鎖及び第2の軽鎖を含む。
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖は、第1のLCDR1~3を含み、上記第1のLCDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1のLCDR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1のLCDR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖は、ペルツズマブの重鎖に結合することができる。
【0008】
一部の実施形態において、上記第2の軽鎖は、第2のLCDR1~3を含み、上記第2のLCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第2のLCDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第2のLCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第2の軽鎖は、トラスツズマブの重鎖に結合することができる。
【0009】
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7~12の何れか1つに示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、配列番号13~18の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む。
【0010】
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択され、及び/又は上記第2の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択される。
【0011】
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、同一のアミノ酸配列を有する。
一部の実施形態において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含む。
【0012】
一部の実施形態において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、上記第1の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、上記第1の軽鎖に正確に結合することができる。
一部の実施形態において、上記第2の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、上記第2の軽鎖に正確に結合することができる。
【0013】
一部の実施形態において、上記第1の重鎖は、ペルツズマブの重鎖可変領域である第1の重鎖可変領域を含む。
一部の実施形態において、上記第2の重鎖は、トラスツズマブの重鎖可変領域である第2の重鎖可変領域を含む。
【0014】
一部の実施形態において、上記第1の重鎖及び上記第2の重鎖は、ヒトIgGの定常領域に由来する重鎖定常領域を含む。
一部の実施形態において、上記第1の重鎖及び上記第2の重鎖のFc断片は、配列番号25~57の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第1の重鎖は、21又は23に示されるアミノ酸配列を含む。
一部の実施形態において、上記第2の重鎖は、22又は24に示されるアミノ酸配列を含む。
【0015】
一部の実施形態において、上記抗体薬物コンジュゲートは、
M-(L1)a-(L2)b-D(式1)に示される構造を含み、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、L2は、Dに連結するリンカーを表し、a、bは、それぞれ0~10から独立的に選択され、Dは薬物を表す。
【0016】
一部の実施形態において、上記L1及び/又はL2は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される。
一部の実施形態において、上記L1と上記Mは、上記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介してMに連結される。
【0017】
一部の実施形態において、上記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、上記第1の重鎖及び/又は上記第2の重鎖は、上記L1に連結可能な連結部位を含む。
一部の実施形態において、上記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含む。
【0018】
一部の実施形態において、上記基は、上記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は、上記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する。
一部の実施形態において、上記基はアミド基を含む。
【0019】
一部の実施形態において、上記連結部位は、グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含む。
一部の実施形態において、上記基は、上記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、上記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する。
【0020】
一部の実施形態において、上記基は-N3を含む。
一部の実施形態において、上記グリコシル化修飾は、上記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む。
【0021】
一部の実施形態において、上記L1は、SPAAC反応に関与することができる。
一部の実施形態において、上記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N、及びDBCOからなる群から選択される。
一部の実施形態において、上記L1はDBCO-(PEG)n1であり、そのうち、n1は0~10の整数であり、又は上記L1はマレイミドである。
【0022】
一部の実施形態において、上記L2は、ポリペプチド、VC-PAB、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタノアート(SPDB)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)2-スルホブタノアート(sulfo-SPDB)、N-スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、マレイミドPEG NHS、N-4-(マレイミドメチル)シクロヘキシルスクシンイミジルカルボキシレート(SMCC)、N-スルホ(4-マレイミドメチル)シクロヘキシルスルホスクシンイミジルカルボキシレート(スルホ-SMCC)、及び2,5-ジオキソピロリジニル-1-イル17-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル) -5,8,11,14-テトラオキソ-4,7,10,13-テトラアザオクタデカン-1-酸エステル(CX1-1)からなる群から選択される。
いくつかの実施態様において、上記L2はGGFGである。
【0023】
一部の実施形態において、上記薬物は、腫瘍細胞を殺傷し、及び/又は腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有する。
一部の実施形態において、上記薬物は、小分子薬物を含む。
【0024】
一部の実施形態において、上記薬物は、V-ATPase阻害剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定剤、微小管不安定化剤、auristatin、dolastatin、メイタンシノイド、MetAP(メチオニンアミノペプチダーゼ)、タンパク質CRM1の核輸出阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリアにおけるリン酸転移反応阻害剤、タンパク質合成阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、DNA破壊剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤、DHFR阻害剤、ヌクレオシド類似体、HDAC阻害剤、アントラサイクリン、NAMPT阻害剤、SN-38グルクロン酸、エトポシド燐酸、ナイトロジェンマスタード、プロテアソーム阻害剤、サイトカイン、及びToll様受容体アゴニストからなる群から選択される。
【0025】
一部の実施形態において、上記薬物は、DM1、exatecan、DXd、MMAE、SN-38、Calicheamicin、Anthracyclin-5G、DM4、微小管阻害剤SHR153024、PNU-159682、Duo5毒素、SN38誘導体、又はそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0026】
一部の実施形態において、上記抗体薬物コンジュゲートは、
【化1】
からなる群から選択される構造を有する。
【0027】
一部の実施形態において、上記抗体薬物コンジュゲートは、約2~6の薬物/抗体比を有する。
【0028】
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを製造する化合物であって、M-(L1)a(式2)に示される構造を有し、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、aは0~10から選択される、化合物を提供する。
【0029】
一部の実施形態において、上記L1は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される。
一部の実施形態において、上記L1と上記Mは、上記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介してMに連結される。
【0030】
一部の実施形態において、上記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、上記第1の重鎖及び/又は上記第2の重鎖は、上記L1に連結可能な連結部位を含む。
一部の実施形態において、上記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含む。
【0031】
一部の実施形態において、上記基は、上記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は、上記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する。
一部の実施形態において、上記基はアミド基を含む。
【0032】
一部の実施形態において、上記連結部位は、グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含む。
一部の実施形態において、上記基は、上記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、上記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する。
一部の実施形態において、上記基は-N3を含む。
【0033】
一部の実施形態において、上記グリコシル化修飾は、上記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む。
一部の実施形態において、上記L1は、SPAAC反応に関与することができる。
【0034】
一部の実施形態において、上記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N、及びDBCOからなる群から選択される。
一部の実施形態において、上記L1はDBCO-(PEG)n1であり、そのうち、n1は0~10の整数であり、又は上記L1はマレイミドである。
【0035】
一部の実施形態において、上記化合物は、
【化2】
からなる群から選択される構造を含む。
【0036】
別の態様において、本願は、本願に記載の化合物を本願に記載の薬物と接触させるステップを含む、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの製造方法を提供する。
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート又は薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0037】
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者における腫瘍微小環境の調節方法を提供する。
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫応答の調節方法を提供する。
【0038】
別の態様において、本願は、薬物の製造における、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物の使用であって、上記薬物は、腫瘍を予防及び/又は治療することができる、薬物を提供する。
一部の実施形態において、上記腫瘍は、固形腫瘍及び/又は非固形腫瘍を含む。
【0039】
当業者は、以下の詳細な説明から本願の他の態様及び利点を容易に洞察することができる。以下の詳細な説明には、本願の例示的な実施形態のみを示して説明する。当業者に明らかなように、本願の内容により、当業者は、本願にかかる発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示された具体的な実施形態を変更することができる。それに応じて、本願の図面及び明細書における説明は、限定的なものではなく、単に例示的なものである。
【0040】
本願にかかる発明の具体的な特徴は、添付される特許請求の範囲に記載される通りである。以下に詳細に説明する例示的な実施形態及び図面を参照することで、本願にかかる発明の特徴及び利点をよりよく理解することができる。図面の簡単な説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体のグリコシル化修飾反応を示す。
【
図2】グリコシル化修飾された本願に記載のHER2特異性を標的とする二重特異性のHPLCクロマトグラムを示す。
【
図3】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを得るための反応ステップを示す。
【
図4】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのHPLCクロマトグラムを示す。
【
図5】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを得るための反応ステップを示す。
【
図6】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのWaters Xevo G2-QTOF質量分析の結果を示す。
【
図7】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのWaters Xevo G2-QTOF質量分析の結果を示す。
【
図8】DS-8201における軽鎖部分のWaters Xevo G2-QTOF質量分析の結果を示す。
【
図9】DS-8201における重鎖部分のWaters Xevo G2-QTOF質量分析の結果を示す。
【
図10】FcγRIIIaに対する本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体の結合親和性を示す。
【
図11】FcγRIIIaに対する本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの結合親和性を示す。
【
図12】FcγRIに対する本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体の結合親和性を示す。
【
図13】FcγRIに対する本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの結合親和性を示す。
【
図14】腫瘍細胞に対する本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの結合能力を示す。
【
図15】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートによる3日間処理後の腫瘍細胞の殺傷能力を示す。
【
図16】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートによる5日間処理後の腫瘍細胞の殺傷能力を示す。
【
図17】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートによる3日間処理後の腫瘍細胞の殺傷能力を示す。
【
図18】SK-BR-3細胞に対する各実験群の増殖阻害結果を示す。
【
図19】MDA-MB-468細胞に対する各実験群の増殖阻害結果を示す。
【
図20】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのADCC活性を分析した結果を示す。
【
図21】PBMC系を利用して本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのADCC活性を測定するステップを示す。
【
図22】PBMC系を利用して本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのADCC活性を測定した結果を示す。
【
図23】PBMC系を利用して本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのADCC活性を測定した結果を示す。
【
図24】腫瘍細胞における本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのエンドサイトーシスを示す。
【
図25】腫瘍細胞における本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのエンドサイトーシスを示す。
【
図26】腫瘍細胞における本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのエンドサイトーシスを示す。
【
図27】腫瘍細胞における本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのエンドサイトーシスを示す。
【
図28】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの薬物動態学の研究結果を示す。
【
図29】本願に記載の抗体薬物コンジュゲートによるエンドサイトーシス誘導後のNCI-N87陽性細胞の比率結果を示す。
【
図30】ヒト胃癌PDX腫瘍モデルにおける各群のマウス腫瘍体積の生長曲線を示す。
【
図31】ヒト胃癌HER2 IHC-PDX腫瘍モデルマウス腫瘍体積の成長曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、特定の具体的な実施例により、本願の発明の実施形態を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容から本願の発明の他の利点及び効果を容易に理解することができる。
【0043】
用語の定義
本願において、「抗体薬物コンジュゲート」という用語は通常、ADC、即ち、1つ又は複数の化学薬品に連結される結合タンパク質(例えば、抗体又はその抗原結合断片)を指す。上記化学薬品は、任意の治療薬及び/又は細胞傷害性であってもよい。上記抗体薬物コンジュゲートは、抗体にコンジュゲートされた1~8の任意の数の薬物を有することができ、例えば、2、4、6又は8の薬物負荷種(drug loaded species)を含むことができる。本願において、上記薬物は、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍抗生物質、免疫調節剤、遺伝子療法用ベクター、アルキル化剤、抗血管新生剤、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法保護剤、ホルモン、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、光活性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、及び/又は放射線増感剤を含んでもよい。
【0044】
本願において、「薬物/抗体比」又は「DAR」という用語は通常、ADCの抗体に連結された薬物の数を指す。ADCのDARの範囲は、1~8であってもよく、より高い負荷(例えば、10)であってもよく、DARの範囲は、抗体上の連結部位の数によるものであってもよい。本願において、上記DARは、単一抗体に負荷された薬物の数であってもよい。上記DARは、ADCのセットの平均又は平均DARであってもよい。
【0045】
本願において、「HER2」という用語は通常、ヒト上皮成長因子受容体2(SwissProt P04626)を指す。本願において、上記HER2は、rbB-2、NEU、HER-2、又はCD340とも呼ばれてもよい。上記HER2は、腫瘍細胞を含む細胞によって天然に発現されるか、又はHER2遺伝子又はcDNAでトランスフェクトされた細胞によって発現される、HER2の任意の変異体、アイソフォーム、及び種相同体を含んでもよい。
本願において、「細胞外ドメイン」という用語は通常、I、II、III及びIVの4つの細胞外ドメインを含み得るヒトHER2(SwissProt P04626)の細胞外ドメインを指す。
【0046】
本願において、「抗体」という用語は通常、2対の同一のポリペプチド鎖(各対は、1つの「軽」(L)鎖及び1つの「重」(H)鎖を有する)からなる免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖は、κ軽鎖及びλ軽鎖として分類することができる。重鎖は、μ、δ、γ、α又はεとして分類することができ、抗体のアイソタイプを、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとして定義する。軽鎖及び重鎖において、可変領域及び定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖は、約3個以上のアミノ酸の「D」領域を更に含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、超可変性を有する領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)に細分することもできる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシル末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に並んだ3つのCDR及び4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VH及びVL)は、それぞれ抗体連結部位を形成する。各領域又はドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987 and 1991))、又はChothia&Lesk(1987) J. Mol. Biol. 196:901-917、Chothiaら(1989) Nature 342:878-883の定義に従う。「抗体」という用語は、抗体を産生する任意の特定の方法によって限定されない。例えば、これには、特に、組換え抗体、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。抗体は、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、又はIgM抗体などの異なるアイソタイプの抗体であってもよい。
【0047】
本願において、「抗原結合部分」という用語は、抗体が結合する同じ抗原(例えば、HER2)に結合する能力を保持し、抗原への特異的結合についてインタクトな抗体と競合する、全長抗体の1つ又は複数の部分を指す。一般に、Fundamental Immunology、Ch.7(Paul、W.,ed.,第2版、Raven Press,N.Y.(1989)を参照し、これは、全ての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、又は酵素的もしくは化学的に全抗体を切断することによって生成することができる。場合によっては、抗原結合部分は、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv、dAb及び相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(例えば、scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ(diabody)、並びにポリペプチドに特異的な抗原結合能を付与するのに十分な抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドを含む。抗体の抗原結合部分(例えば、上記抗体断片)は、当業者に公知の従来技術(例えば、組換えDNA技術又は酵素的もしくは化学的切断法)を用いて、所与の抗体(例えば、モノクローナル抗体2E12)から得ることができ、インタクトな抗体と同じ方法で抗体の抗原結合部分について特異的にスクリーニングすることができる。
【0048】
本願において、「Fd断片」という用語は、VH及びCH1ドメインからなる抗体断片を意味し、「Fv断片」という用語は、抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなる抗体断片を意味し、「dAb断片」という用語は、VHドメインからなる抗体断片を意味し(Wardら、Nature 341:544546(1989))、「Fab断片」という用語は、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる抗体断片を意味し、「F(ab')2断片」という用語は、ヒンジ領域上のジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む抗体断片を意味する。
【0049】
本願において、「抗体Fc」という用語は通常、抗体のパパイン切断に基づいて定義されるヒト免疫グロブリン鎖定常領域を指す。上記Fcは、免疫グロブリン重鎖定常領域のカルボキシル末端又はその一部であってもよい。例えば、免疫グロブリンFc領域は、重鎖CH2、CH3、CH4の2つ以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域との組み合わせを含んでもよい。重鎖定常領域のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスに分けることができ、主にIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMという5つのクラスの免疫グロブリンがあり、そのうちのいくつかは、IgG-1、IgG-2、IgG-3、IgG-4、IgA-1及びIgA-2のようなサブクラス(アイソタイプ)にさらに分類されてもよい。特定の免疫グロブリンのクラス及びサブクラスからの特定の免疫グロブリンFc領域の選択は、当業者に理解される範囲内である。例えば、上記Fcは、少なくとも1つの免疫グロブリンヒンジ領域、1つのCH2ドメイン、及び1つのCH3ドメイン、例えばヒトIgG1 Fcを含むことができる。
【0050】
本願において、「二重特異性抗体」という用語は通常、2つの抗原又はエピトープにそれぞれ結合することができる抗体を指す。上記二重特異性抗体は、第1の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の軽鎖及び重鎖、並びに第2の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の軽鎖及び重鎖を含んでもよい。本願の一実施形態において、上記二重特異性抗体において、第1の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の軽鎖、及び第2の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の軽鎖は、同じ配列を有する。本願の一実施形態において、上記二重特異性抗体において、第1の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の重鎖、及び第2の抗原又はエピトープに特異的に結合できる抗体の重鎖は、異なる配列を有する。
【0051】
本願において、「エピトープ」又は「抗原エピトープ」は通常、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。「エピトープ」は、当該分野において「抗原決定基」とも呼ばれる。エピトープ又は抗原決定基は通常、例えばアミノ酸又は炭水化物又は糖側鎖などの分子の化学的活性表面基からなり、且つ通常、特定の3次元構造特性及び特定の電荷特性を有する。例えば、エピトープは通常、独特の空間的立体構造で少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個又は15個の連続又は非連続のアミノ酸を含み、「線状」又は「立体構造」のものであってもよい。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、第66巻、G. E. Morris,、Ed.(1996)を参照する。線状エピトープにおいて、タンパク質と相互作用分子(例えば、抗体)の間の相互作用部位は全て、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って線状に存在する。立体構造エピトープにおいて、相互作用部位は、互いに分離したタンパク質のアミノ酸残基にわたって存在する。
【0052】
本願において、「特異的結合」という用語は通常、非特異的吸着に区別する結合を指す。結合が特異的であるか否かの判定基準として、例えば、解離定数(例えば、「KD」)が挙げられる。例えば、HER2タンパク質に対する上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片のKD値は、1×10-5 M未満、5×10-6 M未満、2×10-6 M未満、又は1×10-6 M未満、5×10-9 M未満、2×10-9 M未満、又は1×10-9 M未満である。上記結合は、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)法、ELISA法、RIA法などの既知の方法を用いて測定することができる。
【0053】
本明細書において「CDR」とは、相補性決定領域(CDR:Complementarity deterring region)を意味する。抗体分子は、重鎖及び軽鎖にそれぞれ3つのCDRを有することが知られている。CDRは、超可変領域(hypervariable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内で一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造で、それぞれ3箇所に分離している。本明細書において、抗体のCDRは、重鎖のCDRについては、重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と記載し、軽鎖のCDRについては軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と記載する。これらの部位は立体構造的に互いに近接しており、結合する抗原に対する特異性を決定する。
【0054】
本願において、20種の従来のアミノ酸及びその略語は、従来の用法に従う。Immunology A Synthesis(第2版、E.S. Golub及びD.R. Gren、Eds.、Sinauer Associates、Sunderland、Mass.(1991))を参照し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
本願において、「ペルツズマブ」という用語は通常、Perjetaの商品名で、2C4とも呼ばれるPertuzumabを指す。上記ペルツズマブの軽鎖及び重鎖可変領域のアミノ酸配列は、US20090285837A1の
図2を参照することができる。上記ペルツズマブは、上皮成長因子受容体2(HER2)の細胞外二量体化ドメイン(サブドメインII)に特異的に結合することができる組換えヒト化モノクローナル抗体である。上記ペルツズマブは、HER2に結合することにより、HER2と他のHER受容体のヘテロ二量体化を阻害することができ、腫瘍の成長を遅らせることができる。上記ペルツズマブは、HER2陽性転移性乳癌の治療に使用することができ、早期乳癌の治療に使用することもできる。
【0056】
本願において、「トラスツズマブ」という用語は通常、Trastuzumab、商品名ハーセプチン(登録商標)(Herceptin(登録商標))を指す。上記トラスツズマブの軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列は、US20090285837A1の
図16を参照することができる。上記トラスツズマブは、無菌培地に懸濁培養された哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO)から産生され得る組換えDNA由来ヒト化モノクローナル抗体である。上記トラスツズマブは、HER2の細胞外ドメインに特異的に結合することができ、身体自身の免疫細胞を刺激して腫瘍細胞を破壊することもできる。上記トラスツズマブは、HER2陽性の転移性乳癌、早期乳癌、及びHER2陽性の転移性胃腺癌、又は食道胃接合部腺癌の治療に使用することができる。
【0057】
本願において、「Exatecan」という用語は通常、CAS番号171335-80-1のDNAトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカン(DX-8951)を指す。DXdは、エキサテカン(DX-8951)誘導体であり、CAS番号1599440-33-1である。エキサテカン及びDXdは、薬物カンプトテシン誘導体の1つとして、中毒性薬物に属し、このような薬物は、ADCに適用されると、毒素の脱落による毒性副作用を低減することができる。
【0058】
本願において、「リンカー」という用語は通常、本願に記載の二重特異性抗体又はその抗原結合断片を本願に記載の薬物に連結するために使用される、二官能性又は多官能性の化学部分を指す。上記リンカーは、1つのカップリング成分を含んでもよく、又は複数のカップリング成分を含んでもよい。
【0059】
本願において、「腫瘍」という用語は通常、哺乳動物における無制御な細胞増殖を特徴とする生理学的状態を指す。上記腫瘍は、1つ以上の癌性細胞を含む。上記腫瘍は、固形腫瘍及び/又は非固形腫瘍を含んでもよい。
【0060】
本願において、「腫瘍微小環境」という用語は通常、腫瘍が存在する環境を意味し、この環境は、腫瘍内の非細胞領域、及び腫瘍組織のすぐ外側の領域であるが、癌細胞自体の細胞内区画には属さない領域である。腫瘍は、腫瘍微小環境と密接に関連し、連続的に相互作用することができる。例えば、腫瘍は、腫瘍の増殖及び拡散に影響を及ぼし得る腫瘍微小環境を変化させることができる。通常、上記腫瘍微小環境は、5.8~7.0の範囲の低いpHを有する。上記腫瘍微小環境は、より低い濃度のグルコース及び他の栄養素を有するが、より高い濃度の乳酸を有してもよい。なお、上記腫瘍微小環境の温度は、正常生理温度よりも0.3~1℃高くてよい。腫瘍微小環境は、Gilliesらによる「MRI of the Tumor Microenvironment」、Journal of Magnetic Resonance Imaging、第16巻、430~450頁、2002に記載されている。
【0061】
本願において、「治療」という用語は通常、治療的処置及び予防的又は予防的手段の両方を指し、この目的は、癌の成長、形成又は伝播のような高増殖性状態などの望ましくない生理学的変化又は病症を予防又は緩和(軽減)することである。本発明のために、好ましい又は望ましい臨床結果は、検出可能か検出不能かにかかわらず、これらに限定されないが、症状の寛解、疾患の程度の低下、疾患状態の安定化(即ち、悪化しない)、疾患の進行の遅延又は軽減、疾患状態の改善又は軽減、及びリハビリテーション(部分的か完全かにかかわらず)を含む。「治療」又は「処置」は、治療を受けない予想される生存と比較して生存を延長することを指すこともできる。治療を必要とする被験者には、疾患又は病症を以前に有する被験者、及び疾患又は病症に罹患する傾向がある被験者、又は状態もしくは病症を予防する被験者が含まれる。
【0062】
一態様において、本願は、HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートを提供する。
一部の実施形態において、上記抗体薬物コンジュゲートは、M-(L1)a-(L2)b-D(式1)に示される構造を含んでもよく、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、L2は、Dに連結するリンカーを表し、a、bは、それぞれ0~10から独立的に選択され、Dは薬物を表す。
【0063】
HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合部分
本願において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合することができる。例えば、ヒトHER2の2つの異なるエピトープに特異的に結合することができる。本願において、上記少なくとも2つのエピトープは、ヒトHER2タンパク質における同じドメインに位置してもよく、例えば、ヒトHER2タンパク質における少なくとも2つの異なるドメインに位置してもよい。
【0064】
例えば、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の細胞外ドメインII及び/又はヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合することができる。例えば、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の細胞外ドメインII及びヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合することができる。
【0065】
本願において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の軽鎖及び第2の軽鎖を含むことができる。
本願において、上記第1の軽鎖は、第1のLCDR1~3を含んでもよく、上記第1のLCDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第1のLCDR2は、配列番号5に示すアミノ酸配列を含んでいてもよい。
本願において、上記第1のLCDR3は、配列番号6に示すアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0066】
例えば、上記第1の軽鎖において、上記第1のLCDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、上記第1のLCDR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、上記第1のLCDR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第1の軽鎖は、ペルツズマブの重鎖に結合することができる。
【0067】
本願において、上記第2の軽鎖は、第2のLCDR1-3を含んでもよく、上記第2のLCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第2のLCDR2は、配列番号2に示すアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第2のLCDR3は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含んでもよい。
【0068】
例えば、上記第2の軽鎖において、上記第2のLCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、上記第2のLCDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、上記第2のLCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第2の軽鎖は、トラスツズマブの重鎖に結合することができる。
【0069】
本願において、上記第1の軽鎖及び/又は上記第2の軽鎖は、2つの元のモノクローナル抗体(例えば、既知のモノクローナル抗体であってもよい)から改変されてもよい。本願において、上記2つの元のモノクローナル抗体は、HER2を標的とすることができる。例えば、上記2つの元のモノクローナル抗体は、ヒトHER2の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合することができる。例えば、上記2つの元のモノクローナル抗体は、それぞれヒトHER2の2つの異なるエピトープに特異的に結合することができる。例えば、上記2つの元のモノクローナル抗体は、それぞれヒトHER2の細胞外ドメインII及びヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合することができる。例えば、上記2つの元のモノクローナル抗体は、トラスツズマブ及びペルツズマブであってもよい。
【0070】
例えば、上記第1の軽鎖及び/又は上記第2の軽鎖は、上記2つの元のモノクローナル抗体の何れかの軽鎖のアミノ酸配列と異なってもよい。また例えば、上記第1の軽鎖及び/又は上記第2の軽鎖は、上記2つの元のモノクローナル抗体の何れかの軽鎖のアミノ酸配列と同一であってもよく、又は、上記第1の軽鎖及び/又は上記第2の軽鎖のアミノ酸配列は、上記2つの元のモノクローナル抗体の何れかの軽鎖のアミノ酸配列に基づいて改変して得られたものであってもよい。例えば、上記改変は、アミノ酸配列改変を含んでもよい。例えば、上記改変の目的は、上記2つの元のモノクローナル抗体に対応する抗原又はエピトープに対する親和性を可能な限り維持することであってもよい。
【0071】
本願において、上記改変は、3個以下のアミノ酸、2個以下のアミノ酸、又は1個以下のアミノ酸の変異、欠失、又は付加などの変異、欠失、又は付加を含んでもよい。
本願において、上記第1の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、上記第2の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と同一であってもよい。
【0072】
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7~12の何れかに示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0073】
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、軽鎖定常領域を含んでもよい。上記軽鎖定常領域は、κ型又はλ型であってもよい。例えば、上記κ型軽鎖定常領域は、Km1、Km2、Km3などの様々なアロタイプを含み、上記λ型軽鎖定常領域は、CL1、CL2、CL3、CL6、及びCL7などの様々なアロタイプを含む。
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、配列番号13~18の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0074】
本願において、上記第1の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択されてもよい。本願において、上記第2の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択されてもよい。
本願において、上記第1の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体であってもよい。
本願において、上記第2の軽鎖は、トラスツズマブの軽鎖又はその変異体であってもよい。
【0075】
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、アミノ酸配列が同一であってもよい。
本願において、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0076】
本願において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の重鎖及び第2の重鎖を含んでもよく、上記第1の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、上記第1の軽鎖と正確に結合することができる。
本願において、上記第2の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、上記第2の軽鎖に正確に結合することができる。
【0077】
本願において、上記第1の重鎖は、ペルツズマブの重鎖可変領域であり得る第1の重鎖可変領域を含んでもよい。
本願において、上記第2の重鎖は、トラスツズマブの重鎖可変領域であり得る第2の重鎖可変領域を含んでもよい。
本願において、上記第1の重鎖及び上記第2の重鎖は、ヒトIgGの定常領域に由来し得る重鎖定常領域を含むことができる。
【0078】
場合によって、上記第1の重鎖定常領域、及び/又は上記第2の重鎖定常領域は、Fc領域を含んでもよい。上記Fc領域は、例えば、上記第1の重鎖及び上記第2の重鎖がヘテロ二量体を形成する割合を増加させることができるように改変されてもよい。
本願において、上記改変技術は、当業者に周知であり、例えば、Ridgway、Presta et al. 1996、Carter 2001、特許CN102558355A、特許CN103388013Aを参照することができる。
【0079】
本願において、上記第1の重鎖定常領域及び上記第二の重鎖定常領域は、重鎖のタイプが同一であってもよく、異なってもよい。例えば、上記第1の重鎖定常領域及び上記第2の重鎖定常領域は、2つの元のモノクローナル抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列と異なってもよい。また例えば、上記第1の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、上記元のモノクローナル抗体のうちの一方の重鎖定常領域のアミノ酸配列と同一であってもよく、及び/又は、上記第2の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、上記元のモノクローナル抗体のうちの他方の重鎖定常領域のアミノ酸配列と同一であってもよい。
【0080】
本願において、上記第1の重鎖及び上記第2の重鎖のFc断片は、配列番号24~57の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第1の重鎖は、配列番号21~24の何れか1つに示されるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、上記第1の重鎖は、配列番号21又は23に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
本願において、上記第2の重鎖は、配列番号21~24の何れか1つに示されるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、上記第2の重鎖は、配列番号22又は24に示すアミノ酸配列を含んでもよい。
【0081】
本願において、上記第1の重鎖は、配列番号21又は23に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、且つ上記第2の重鎖は、配列番号22又は24に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、本願において、上記第1の重鎖は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、且つ上記第2の重鎖は、配列番号22に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、本願において、上記第1の重鎖は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含んでもよく、且つ上記第2の重鎖は、配列番号24に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0082】
本願において、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、当該分野の従来の技術手段に従って得ることができる。例えば、宿主細胞から精製して得ることができる。上記精製方法としては、サイズ排除、イオン交換、アフィニティークロマトグラフィー、限外濾過などのクロマトグラフィー技術を含むことができる。
【0083】
薬物コンジュゲート及び化合物
本願において、上記抗体薬物コンジュゲートは、M-(L1)a-(L2)b-D(式1)に示される構造を含んでもよく、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、L2は、Dに連結するリンカーを表し、a、bは、それぞれ0~10から独立的に選択され、Dは、薬物を表す。
本願において、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを製造する化合物は、M-(L1)a(式2)に示される構造を有し、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、aは0~10から選択される。
【0084】
Mの修飾とL1との連結
本願において、上記L1と上記Mは、上記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介して連結されてもよい。
本願において、上記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含んでもよく、上記第1の重鎖及び/又は上記第2の重鎖は、L1に連結可能な連結部位を含んでもよい。
【0085】
本願において、上記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含んでもよい。
本願において、上記基は、上記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置していてもよく、及び/又は、上記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置してもよい。例えば、上記基は、アミド基を含んでもよい。例えば、上記アミノ酸Qを上記連結部位としてトランスグルタミナーゼ(TGs)を使用して、約2に等しいDARを有する上記抗体薬物コンジュゲートを形成することができる。
【0086】
本願において、上記連結部位は、グリコシル化修飾後に上記L1に連結可能な基を含んでもよい。
本願において、上記基は、上記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置してもよく、及び/又は、上記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置してもよい。重鎖のCH2ドメインにおいて、N299又はN300は、1つの保存されたグリコシル化部位を有することができる。部位特異的コンジュゲーションは、上記Nにおけるグリコシル化部位を利用して行うことができる。
【0087】
上記アミノ酸の位置の番号付けは、上記第1の重鎖及び/又は上記第2の重鎖のN末端のアミノ酸から出発して計算することができる。
【0088】
本願において、上記グリコシル化修飾部位は、グリコシル化修飾されてもよい。本願において、上記グリコシル化形態は、例えば、グリコシル化構造が変化した細胞においてタンパク質を発現させることによって達成されてもよい。変化したグリコシル化構造を有する細胞は、当該分野において記載されており、上記グリコシル化修飾を有するタンパク質(例えば、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)を発現するものとして使用することができる。
【0089】
タンパク質のグリコシル化は、タンパク質(例えば、本明細書に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)のアミノ酸配列及びタンパク質が発現される宿主細胞に依存することができる。異なる生物は、異なるグリコシラーゼ(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ及びグリコシダーゼ)を産生し、異なる利用可能な基質(ヌクレオチド糖)を有することができる。これらの要因により、タンパク質のグリコシル化パターン及びグリコシル化修飾部位の残基の組成は、特定のタンパク質が発現される宿主系に応じて異なる可能性がある。本願において有用なグリコシル残基は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、n-アセチルグルコサミン、及び/又はシアル酸を含んでもよい。例えば、上記グリコシル化修飾は、ヒトに適応したグリコシル化修飾のパターンを含んでもよい。
【0090】
本願において、上記グリコシル化修飾は、タンパク質(例えば、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)の特性を変化させることができる。
異なるタンパク質のグリコシル化は、異なるタンパク質特性(例えば、発現量、インビボ半減期、タンパク質フォールディング、溶解性、プロテアーゼに対する感受性、輸送、転移、区画化、分泌、他のタンパク質又は因子の認識、抗原性又はアレルゲン性などの特性の変化)に影響を与え、及び/又はそれらをもたらすことができる。
【0091】
本願において、上記タンパク質のグリコシル化の具体的な構造及び製造方法は、異なるグリコシル化目的に応じて調節することができ、当業者は、当業者の従来技術に基づいて調節することができる。いくつかの場合において、上記グリコシル化修飾は、ヒト及び/又は動物の種特異性に応じて調節することができる。いくつかの場合において、上記グリコシル化修飾は、グリコシル化酵素(例えば、宿主細胞由来の異種グリコシル化酵素)によって達成することができる。例えば、上記グリコシル化修飾は、ヒトタンパク質のグリコシル化特性を示すタンパク質(例えば、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)を得ることができる。上記グリコシル化酵素は、天然由来であっても、非天然由来であってもよい。
【0092】
本願において、上記グリコシル化修飾は、上記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含んでもよい。例えば、上記β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体(例えば、β-1,4-Gal-T1-Y289)は、修飾N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を組み込む能力を有することができ、タンパク質(例えば、HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)グリカン上の末端N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基に結合することができる。
【0093】
本願において、上記MをUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触させた後、上記Mは、本願に記載の基を含んでもよい。例えば、上記Mの上記第1の重鎖のN299位のアミノ酸Nの側基、及び/又は上記Mの上記第2の重鎖のN300位のアミノ酸Nの側基は、-N3基によって修飾され、グリコシル化修飾されたMとなることができる。
【0094】
例えば、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート及び/又は本願に記載の化合物において、上記MのFc領域は、上記基を介して上記L1に連結することができる。例えば、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート及び/又は本願に記載の化合物において、上記Mは、上記基を介して上記L1に連結することができる。例えば、上記グリコシル化修飾されたMは、上記L1と付加反応することができる。
【0095】
リンカー
本願において、上記aは、0~10から選択される整数であってもよく、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であってもよい。
本願において、上記bは、0~10から選択される整数であってもよく、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であってもよい。
【0096】
本願において、上記L1及び/又はL2は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択されてもよい。
本願において、上記L1及び上記L2は、いずれもリンカーに属すると考えることができる。
【0097】
本願において、上記リンカーは、例えば、抗体の活性部位の遮蔽を回避するか、又はADCの溶解性を高めるために、薬物連結を伸長させる部分であってもよい。上記リンカーは、ストレッチャー(stretcher)及び/又はアミノ酸単位を含んでもよい。
【0098】
本願において、上記リンカーは、抗体(例えば、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片)を上記薬物に(例えば、共有結合によって)コンジュゲートするために使用することができる。
例えば、上記コンジュゲートするのは、抗体のシステインチオール基又はアミン(例えば、N末端又はリシンなどのアミノ酸側鎖)を介して上記リンカーの官能基と結合を形成することができる。
【0099】
例えば、上記リンカーは、上記抗体上に存在する遊離システインと反応して、結合(例えば、共有結合)を形成できる官能基を有することができる。例えば、上記官能基は、マレイミド、ハロアセトアミド、α-ハロアセチル、スクシンイミドエステル、4-ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、酸無水物、酸塩化物、スルホニルクロライド、イソシアネート及び/又はイソチオシアネートなどの活性エステルを含んでもよい。
【0100】
いくつかの場合において、上記リンカーは、抗体上に存在する求電子基と反応できる官能基を含んでもよい。例えば、上記官能基は、アルデヒド、ケトカルボニル、ヒドラジン、オキシム、アミノ、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボン酸エステル、及び/又はアリールヒドラジドを含んでもよい。
【0101】
本願において、上記リンカーは、切断可能なリンカー及び切断不可能なリンカーを含んでもよい。例えば、上記リンカー(例えば、L2)は、上記薬物の放出を促進し得る切断可能な(例えば、自己切断可能な(self immolative))リンカーであってもよい。例えば、上記リンカー(例えば、L1)は、上記抗体に連結することができ、切断不可能である切断不可能なリンカーであってもよい。本願において、上記切断可能なリンカーは、細胞内の条件下で切断されてもよい。例えば、上記切断可能なリンカーは、酸不安定性リンカー(例えば、ヒドラゾンを含む)、プロテアーゼ感受性リンカー(例えば、ペプチダーゼ感受性)、光不安定性リンカー、及び/又はジスルフィド含有リンカーを含んでもよい。例えば、上記切断可能なリンカーは、細胞内プロテアーゼ(例えば、リソソームプロテアーゼ)及び/又は細胞内プロテアーゼによって切断され得るペプチドリンカーを含んでもよい。いくつかの場合において、上記リンカーは、細胞内環境下で切断可能である。例えば、上記リンカーの切断は、上記抗体薬物コンジュゲート中の薬物が有効な治療効果を発揮することを可能にすることができる。
【0102】
本願において、上記リンカーの構造及び/又は特性は、細胞外で安定である。本願に記載の抗体薬物コンジュゲートは、細胞内への輸送又は送達の前に、その構造が安定であってもよい。例えば、上記抗体薬物コンジュゲートにおいて、HER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、薬物とコンジュゲートしたままになる。
【0103】
いくつかの場合において、上記抗体薬物コンジュゲート中の上記リンカーが例えばHER2を標的とする上記二重特異性抗体又はその抗原結合断片の特異的結合特性を保持できると、上記抗体薬物コンジュゲートの送達に関与する、及び/又は、上記薬物の治療効果(例えば、細胞傷害性効果)を維持する。
【0104】
本願において、上記リンカーは、親水性リンカー(例えば、PEG4Mal及びスルホ-SPDB)及び疎水性リンカーを含んでもよい。例えば、上記親水性リンカーは、上記抗体薬物コンジュゲートがMDR(多剤耐性)又は機能的に類似のトランスロケータによって耐性癌細胞外にポンピングされ得る程度を低下させることができる。
【0105】
本願において、上記リンカーは、細胞成長及び/又は細胞増殖を直接的又は間接的に阻害する機能を発揮することもできる。例えば、上記リンカーは、上記切断において挿入剤として機能することができる。例えば、上記リンカーは、高分子の生合成を阻害するために、間接的な役割を果たすことができる。
【0106】
本願において、上記リンカーは、上記抗体薬物コンジュゲートの細胞内への進入を促進することができる(例えば、「内在化」作用を促進することができる)。本願において、上記リンカーは、上記抗体薬物コンジュゲートの安定性を改善するように設計することもできる。
【0107】
本願において、上記L1は、SPAAC反応に関与することができる。上記SPAAC反応は、アジド-アルキン環化付加反応である。SPAAC反応は、付加反応の1つとして、上記抗体薬物コンジュゲートの製造プロセスに適用することができる。
本願において、上記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N、及びDBCOからなる群から選択されてもよい。
【0108】
本願において、上記L1は、DBCO-(PEG)n1であってもよく、そのうち、n1は0~10の整数であり、又は上記L1はマレイミドである。例えば、上記L1は、DBCO-(PEG)4、DBCO-(PEG)3であってもよい。本願において、上記PEG分子は、上記抗体薬物コンジュゲートの親水性を増加させるために使用することができる。上記PEG分子は、L2(例えば、GGFG)の切断(例えば、酵素的切断)による空間距離の要件を満たすために使用することができる。
【0109】
本願において、上記L2は、ポリペプチド、VC-PAB、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタノアート(SPDB)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)2-スルホブタノアート(sulfo-SPDB)、N-スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、マレイミドPEG NHS、N-4-(マレイミドメチル)シクロヘキシルスクシンイミジルカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)、及び2,5-ジオキソピロリジニル-1-イル17-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル) -5,8,11,14-テトラオキソ-4,7,10,13-テトラアザオクタデカン-1-酸エステル(CX1-1)からなる群から選択されてもよい。
【0110】
本願において、上記L2は、GGFG、LP、VK、VC、GFG、GGFGG、GGFGS、GGFGGG、GGFGGE、GGFGGGFG、DGGF、DGGFG、Dd GGFG、DGMe GFG、DGGFS、DDGGFG、KDGGFG、KGGFG、EGGFG又はSGGFGであってもよい。例えば、上記L2は、GGFGであってもよい。カテプシンB切断可能なテトラペプチドGly-Gly-Phe-Gly(GGFG)は、親水性の高い(例えば、Gly-Phe-Leu-Glyよりも高い)リンカーである。
【0111】
薬物
本願において、上記薬物は、腫瘍細胞を殺傷させ、及び/又は腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有することができる。
本願において、上記薬物は、小分子薬物を含むことができる。
【0112】
本願において、上記薬物は、V-ATPase阻害剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定剤、微小管不安定化剤、auristatin、dolastatin、メイタンシノイド、MetAP(メチオニンアミノペプチダーゼ)、タンパク質CRM1の核輸出阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリアにおけるリン酸転移反応阻害剤、タンパク質合成阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、DNA破壊剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤、DHFR阻害剤、ヌクレオシド類似体、HDAC阻害剤、アントラサイクリン、NAMPT阻害剤、SN-38グルクロン酸、エトポシド燐酸、ナイトロジェンマスタード、プロテアソーム阻害剤、サイトカイン、及びToll様受容体アゴニストからなる群から選択されてもよい。
【0113】
本願において、上記薬物は、DM1、exatecan、DXd、MMAE、SN-38、Calicheamicin、Anthracyclin-5G、DM4、微小管阻害剤SHR153024、PNU-159682、Duo5毒素、SN38誘導体又はそれらの誘導体からなる群から選択されてもよい。
【0114】
本願において、上記薬物は、カンプトテシン又はその誘導体であってもよい。本願において、上記薬物は、DNAトポイソメラーゼI阻害剤であってもよい。
本願において、上記薬物は、エキサテカンExatecan(DX-8951)、DXd、デュオカルマイシン、マイトマイシンC、タリマイシン、メイタンシン、TLR7アゴニスト、TLR8アゴニスト、TLR7/8アゴニスト、又はTLR9アゴニストであってもよい。
【0115】
例えば、上記薬物は、
【化3】
の構造を有することができる。
【0116】
本願において、上記抗体薬物コンジュゲートは、
【化4】
からなる群から選択される構造を有することができる。
【0117】
本願において、上記抗体薬物コンジュゲートは、約2~6の薬物/抗体比を有することができる。例えば、上記薬物/抗体比は、約1、約2、約3、約4、約5、又は約6であってもよい。例えば、上記薬物/抗体比は4であってもよい。例えば、上記薬物/抗体比は3であってもよい。
【0118】
化合物及び製造方法
別の態様において、本願は、M-(L1)a(式2)に示される構造を有する、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートのための化合物を提供し、そのうち、Mは、本願に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、L1は、Mに連結するリンカーを表し、aは、0~10から選択される。
【0119】
本願において、上記化合物は、
【化5】
からなる群から選択される構造を含んでもよい。
【0120】
別の態様において、本願は、本願に記載の化合物を本願に記載の薬物と接触させるステップを含む、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートの製造方法を提供する。
いくつかの場合において、上記抗体薬物コンジュゲートの製造方法は、(1)本願に記載のL1、L2を上記薬物に接触させるステップと、(2)化合物(L1)a-(L2)b-Dを得るステップと、(3)本願に記載のMを上記化合物(L1)a-(L2)b-Dと接触させ、本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを得るステップとを含むことができる。例えば、ステップ(3)におけるMは、上記グリコシル化修飾が行われた。
【0121】
医薬組成物及び使用
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート又は薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0122】
本願において、上記医薬組成物は、「治療有効用量」又は「予防有効用量」の本願に記載の抗体薬物コンジュゲートを含んでもよい。上記「治療有効用量」は、必要な用量及び持続期間で所望の治療結果を達成するのに有効な量であってもよい。治療有効用量は、当業者によって決定することができ、例えば、疾患の状態、被験者の年齢、性別、体重、被験者において所望の応答を引き起こす抗体薬物コンジュゲートの能力などの要因に応じて変化することができる。上記「予防有効用量」は、必要な用量及び持続時間で所望の予防結果を達成するのに有効な量であってもよい。例えば、上記予防有効用量は、上記治療有効用量よりも低くてもよい。
【0123】
本願において、上記医薬組成物は、投与に適した形態(例えば、非経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内及び皮下、腫瘍内及び/又は粘膜投与に適している)に配置されてもよい。本願において、上記医薬組成物は、他の薬物活性成分を含んでもよい。
【0124】
本願において、上記薬学的に許容される担体は、生理学的に適合性のある任意の又は全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含むことができる。上記薬学的に許容される担体は、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組み合わせのうちの1つ又は複数を含んでもよい。上記薬学的に許容される担体は、等張剤、湿潤剤、乳化剤、防腐剤及び/又は緩衝剤をさらに含んでもよい。
【0125】
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者における腫瘍微小環境の調節方法を提供する。
別の態様において、本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫応答の調節方法を提供する。
【0126】
本願は、被験者の腫瘍微小環境を調節し、及び/又は被験者の免疫応答を調節することができる薬物の製造における、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物の使用を提供する。
本願は、被験者の腫瘍微小環境を調節し、及び/又は被験者の免疫応答を調節するための、上記抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を提供する。
【0127】
別の態様において、本願は、薬物の製造における、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物の使用であって、上記薬物は、腫瘍を予防及び/又は治療することができる、薬物を提供する。
本願は、本願に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物の製造薬物を被験者に投与するステップを含む、腫瘍を予防及び/又は治療する方法を提供する。
本願は、腫瘍を予防及び/又は治療するための、上記抗体薬物コンジュゲート、又は本願に記載の医薬組成物を提供する。
【0128】
本願において、上記腫瘍は、固形腫瘍及び/又は非固形腫瘍を含んでもよい。
例えば、上記腫瘍は、胃癌、乳癌(例えば、乳管癌)及び/又は膵臓癌を含んでもよい。例えば、本願の腫瘍は、HER2弱陽性腫瘍及び/又はHER2陰性腫瘍を含んでもよく、例えば、本願の技術案は、バイスタンダー殺傷効果を有することができる。
【0129】
いかなる理論によっても限定されることを意図するものではなく、以下の実施例は、本願の発明の各技術案を例示するためのものに過ぎず、本願の発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0130】
HER2を標的とする二重特異性抗体(以下、抗体Aと略称される)において、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、上記第1の軽鎖及び上記第2の軽鎖は、配列番号13に示されるアミノ酸配列を有し、上記第1の重鎖の重鎖可変領域は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を有し、上記第2の重鎖の重鎖可変領域は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を有する。上記第1の重鎖は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を有し、上記第2の重鎖は、配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する。
【0131】
抗体Aのアミノ酸配列に従い、抗体Aを人工的に合成し、単離・精製した。
DS-8201(T-DXdとも呼ばれ、商品名ENHERTU)は、第一三共、アストラゼネカが製造した。DS-8201は、抗HER2 IgG1モノクローナル抗体をリンカーを介してトポイソメラーゼI阻害剤DXdにコンジュゲートしたものである。
U3-1402を第一三共によって製造した。U3-1402は、HER3抗体Patritumabとトポイソメラーゼ阻害剤DXdを共有結合を介してコンジュゲートしたものである。
【0132】
[実施例1 抗体A-ADC1分子の製造]
(1)リンカー及び毒素を含む化合物の製造
DXd(即ち、exatecan DX-8951誘導体、聯寧生物から購入)、以下の構造式を有する、リンカー及び毒素を含む化合物1:DBCO-PEG4-GGFG-DXdが得られた:
【化6】
【0133】
(2)グリコシル化抗体Aの製造
UDP-GalNAzの存在下で、抗体Aをβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(β-1,4-al-T1)(上海保森生物から購入)に接触させた。そのうち、UDP-GalNAzの構造式は
【化7】
である。
【0134】
接触後、抗体Aにおける第1の重鎖のN299及び第2の重鎖のN300の部位において、-N
3基によって修飾され、グリコシル化修飾抗体Aとなった。抗体Aのグリコシル化修飾反応を
図1に示した。
得られたグリコシル化修飾抗体AをHPLCによって検出し、検出結果を
図2に示し、
図2の結果から分かるように、グリコシル化修飾抗体Aは、独特な特徴ピークを有し、分子量が148796 Daである。
【0135】
(3)抗体A-ADC1分子の製造
25~35℃の条件下ステップ(1)のDBCO-PEG4-GGFG-DXdをステップ(2)で得られたグリコシル化修飾抗体Aと10~15時間接触反応させ、DBCOは、グリコシル化修飾抗体Aにおける-N
3基とSPAAC反応し、抗体A-ADC1分子が得られた。
抗体A-ADC1分子を得る反応を
図3に示した。抗体A-ADC1をHPLCによって検出し、検出結果を
図4に示し、
図4の結果から分かるように、抗体A-ADC1分子は、独特な特徴ピークを有し、分子量が154299である。
【0136】
(4)Herceptin-ADC1分子の製造
実施例1に記載の方法に従ってHerceptinをグリコシル化修飾し、DBCO-PEG4-GGFG-DXdと反応させ、DARが8のHerceptin-ADC1分子が得られた。
【0137】
[実施例2 抗体A-ADC2分子の製造]
(1)リンカー及び毒素を含む化合物の製造
マレイミドをGGFG-DXdと反応させ、リンカー及び毒素を含み、以下の構造式を有する化合物2が得られた:
【化8】
【0138】
(2)修飾抗体Aの製造
抗体Aにチオール基(例えば、8個の-SH)が存在するように抗体AをTECPと反応させ、修飾抗体Aが得られた。
【0139】
(3)抗体A-ADC2分子の製造
ステップ(2)で得られた修飾抗体Aをステップ(1)で得られたリンカー及び毒素を含む化合物2と接触させ、抗体A-ADC2分子が得られた。
抗体A-ADC2分子を得る反応を
図5に示した。
【0140】
[実施例3 抗体Aを含むADC分子の安定性分析]
ヒト血清における実施例1で製造した抗体A-ADC1、実施例2で製造した抗体A-ADC2、及びDS-8201の安定性をそれぞれ考察した。
(1)血清における抗A-ADC1の安定性
血清に添加した抗体A-ADC1をProtein Lにより精製したところ、3日後、7日後に明らかなチオール交換は認められなかった。
【0141】
具体的な実験ステップは以下の通りである:それぞれ処理後のヒト血清を100 μL取って1.5 mLの遠心管に加えた後、抗体A-ADC1を加え、抗体A-ADC1の最終濃度を0.1 mg/mLにし、37℃のインキュベーターに入れてそれぞれ3、7日間インキュベートした。
20 μLのProtein L磁気ビーズ懸濁液を1.5 mLの遠心管に加え、磁気スタンドに置いて保存溶液を分離・除去した。200 μLのDPBSを加えて磁気ビーズを均一に混合し、磁気スタンドに置いて上清液を分離・除去した(このステップを2回繰り返した)。
【0142】
3日間又は7日間インキュベートした抗体A-ADC1を、磁気ビーズを有する1.5 mLの遠心管に加え、均一に混合し、室温でミキサーに1時間入れた後、磁気スタンドに置いて上清液を除去した。続いて、200 μLのDPBSを加え、均一に混合し、磁気スタンドに置いて上清液を分離・除去した(このステップを3回繰り返した)。最後に20 μLの溶出液(100 mMのGlycine、pH=2.8)を加え、磁気スタンドに置いて室温で均一に混合し、上清液を収集した後、収集した上清液に20 μLの中和緩衝液(200 mMのtris、pH=8.0))、その濃度を測定し、Waters Xevo G2-QTOF質量分析により精製後の抗体A-ADC1を分析した。
【0143】
結果を
図6に示した。
図6の結果から、ヒト血清において0日間、3日間、7日間インキュベートした後の抗体A-ADC1の分子量(約154299)は実質的に変化せず、血清での3日、7日後のDAR値は依然として4に維持され、コンジュゲート薬物分子は、血清で3日間、7日間インキュベートした後に明らかなチオール交換が発生しないことを示し、血清における抗体A-ADC1の安定性が良好であり、インビボ輸送中に毒素を血液に放出する場合が発生しにくく、コンジュゲートした小分子毒素薬物の腫瘍標的への輸送により有利となり、毒素分子の脱標的化による正常な生体組織に対する毒性及び副作用のリスクを低減させることができることを示した。
【0144】
(2)血清における抗A-ADC2の安定性
ステップ(1)に係る方法に従い、血清における抗体A-ADC2の安定性を検出した。
Waters Xevo G2-QTOF質量分析の結果を
図7に示した。
図7の結果は、抗体A-ADC2をヒト血清において0日間、3日間、7日間それぞれインキュベートした場合を示した。3日間インキュベートした後、軽鎖上のマレイミドは、開環加水分解により、ヒト血清において安定に存在することができ、一方、3日間インキュベートした後に重鎖のDAR値は6から2程度に減少し、7日間インキュベートした後に重鎖のDAR値はほぼ0であり、7日後に抗体A-ADC2の重鎖が血清において除去されることが示された。
【0145】
(3)血清におけるDS-8201の安定性
ステップ(1)に係る方法に従い、血清におけるDS-8201の安定性を検出した。
Waters Xevo G2-QTOF質量分析によるDS-8201の重鎖及び軽鎖を血清においてインキュベートした結果をそれぞれ
図8及び
図9に示した。
図8及び
図9の結果は、DS-8201をヒト血清においてそれぞれ0日間、3日間、7日間インキュベートした場合を示した。3日間インキュベートした後、軽鎖上のマレイミドは、開環加水分解により、ヒト血清において安定に存在することができ、一方、7日後に重鎖のDAR値は6から2程度に減少し、DS-8201の重鎖は血清において明らかに除去され、重鎖上の小分子毒素は、顕著に脱標的化された。
【0146】
[実施例3 抗体Aを含むADC分子とFcγRとの結合親和性の測定]
生物膜干渉法(BLI)(ダンナーヘルツ社製のFortebio高分子相互作用計)を用いてそれぞれ抗体A、実施例1で製造した抗体A-ADC1とFcγRI、FcγRIIIaなどとの親和性を測定した。
【0147】
親和性測定の具体的なステップ:
抗体A-WS-161018(親分子抗体A)又は抗体A-ADC1をFAB2G biosensorに固定し、硬化濃度は10 μg/mLであり、硬化高さは2 nmである。
FcγRIIIaを1000 nM、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMに希釈し、ベースラインを60秒、結合を30秒、解離を150秒とした。希釈液はキネティクス緩衝液であり、再生液はグリシン-HCl(pH1.7)であり、中和液は希釈液である。フィッティング時に解離時間を10秒でフィッティングし、実験結果を
図10~
図11及び表1に示した。
図10及び
図11は、それぞれ抗体A及び抗体A-ADC1とFcγRIIIaとの結合親和性の状況を示した。
【0148】
【0149】
抗体A-WS-161018(親分子抗体A)又は抗体A-ADC1をFAB2G biosensorに固定し、硬化濃度は10 μg/mLであり、硬化高さは2 nmである。
FcγRIを200 nM、100 nM、250 nM、50 nM、25 nMに希釈し、ベースラインを60秒、結合を30秒、解離を150秒とした。希釈液は0.02%PBST20であり、再生液はグリシン-HCl(pH1.7)であり、中和液は希釈液である。フィッティング時に解離時間を10秒でフィッティングし、実験結果を
図12~
図13及び表2に示した。
図12及び
図13は、それぞれ抗体A及び抗体A-ADC1とFcγRIとの結合親和性を示した。
【0150】
【0151】
以上の結果から分かるように、抗体A-ADC1とFcγRIIIaとの親和性は、親分子抗体Aと一致し、抗体A-ADC1は、FcγRIと高い結合親和性を有し、そのKD値が6.05×10-10 Mに達し、親分子抗体Aの親和性と類似した。
FcγR結合実験により、抗体A-ADC1が関与する部位特異的コンジュゲートは、ADCにおける抗体部分のFc機能に影響を与えず、抗体A-ADC1は、依然として親分子抗体AのFc機能を保持し、抗体A-ADC1における抗体部分は、毒素と相乗的に作用して腫瘍細胞を殺傷することができることを示した。
【0152】
[実施例4 腫瘍細胞に対する抗体Aを含むADC分子の結合能]
NCI-N87細胞に対する実施例1で製造した抗体A-ADC1、実施例2で製造した抗体A-ADC2、及び抗体Aの結合活性をそれぞれ考察した。
【0153】
具体的な試験ステップ:
(1)1% BSA/PBSで薬物を製造し、最高濃度120 μg/mL(作業濃度60 μg/mL)に製造し、低い順に3倍に希釈し、合計10子の濃度である。
(2)NCI-N87細胞(上海中科院から購入)を収集し、遠心分離し、計数し、5% BSA/PBSで15分間ブロッキングし、1.5 mLの遠心管の各々に2×10
5細胞/50 μLであり、各管に50 μLの抗体薬物を加え、4℃で1時間放置した。
(3)2000 rpm/5分で2回遠心分離・洗浄し、各洗浄に1000 μLの1% BSA/PBSを加え、最後に吸引乾燥し、各ウェルに1% BSA/PBSで希釈したAPC-IgG(1:100希釈)を90 μL加え、4℃で暗所で30分間放置した。
(4)2000 rpm/5分で2回遠心分離・洗浄し、各洗浄に1000 μLの1% BSA/PBSを加え、最後に吸引乾燥し、最後に各管に300 μLの1% BSA/PBSを加え、暗所でFACS検出を行った。
結果を
図14及び表3に示した。
【0154】
【表3】
図14及び表3の結果から分かるように、高濃度の抗体Aは、最も高い結合活性を示し、抗体A-ADC1は、抗体Aよりもわずかに低く、二者の平均蛍光強度(MFI)は、それぞれピーク値に達した後に安定する傾向があり、抗体A-ADC2は、活性が低かった。抗体A-ADC1及びその親分子抗体AのNCI-N87細胞への結合がより安定であることを示した。
EC50値からも同様に分かるように、HER2高発現のNCI-N87細胞との結合性に関して、抗体A-ADC1は、親分子抗体AのEC50と一致し、いずれも1.1 μg/mL程度であり、抗体A-ADC1及び親分子抗体AとHER2高発現のNCI-N87細胞との結合活性が一致することを示し、抗体A-ADC1のピーク値は、抗体A-ADC2よりも大きく、抗体A-ADC1とHER2高発現のNCI-N87細胞との結合活性が抗体A-ADC2よりもやや高いことを示した。
【0155】
[実施例5 腫瘍細胞に対する抗体Aを含むADC分子の殺傷能力]
NCI-N87細胞及びBT474細胞に対する実施例1で製造した抗体A-ADC1、実施例2で製造した抗体A-ADC2、抗体A、及びDS-8201の殺傷能力をそれぞれ考察した。
【0156】
具体的な試験ステップ:
(a)5日間処理した後のNCI-N87細胞について
(1)成長培地の製造:RPMI-1640+10%FBS+1%P/Sであり、NCI-N87細胞をパンクレアチンで消化し、96ウェルプレートに10000細胞/ウェル/150 μLで接種し、37℃で一晩培養した。
(2)実験培地の製造:RPMI-1640+0.1%FBS+1%P/Sであり、抗体A、抗体A-ADC1、抗体A-ADC2及びDS-8201をそれぞれ15 μg/mLの最高作業濃度に製造し、3倍希釈し、合計9個の濃度点である。
(3)1ウェルあたり150 μLの各濃度の薬物希釈液であり、陰性対照ウェルを設定し、37℃で72±3時間インキュベートした。
(4)1ウェルあたり70 μLの上清液を吸引し、捨てた。新たに製造した15 μg/mLの抗体A、抗体A-ADC1、抗体A-ADC2又はDS-8201を70 μL補足し、37℃で48±2時間インキュベートし続けた。
(5)96ウェルプレートに1ウェル当たり15 μLのCCK-8を加え、プレートを軽く叩いて均一に振り、37℃で約2時間放置した。
(6)650 nmを基準波長とし、450 nmで吸光値を読み取った。
【0157】
(b)3日間処理した後のNCI-N87、BT474細胞について
(1)成長培地の製造:RPMI-1640+10%FBS+1%P/Sであり、NCI-N87細胞又はBT474細胞をパンクレアチンで消化し、96ウェルプレートに10000細胞/ウェル/150 μLで接種し、37℃で一晩インキュベートした。
(2)実験培地の製造:RPMI-1640+0.1%FBS+1%P/Sであり、抗体A、抗体A-ADC1、抗体A-ADC2及びDS-8201をそれぞれ30 μg/mLの最高作業濃度に製造し、8倍希釈し、合計5個の濃度点である。
(3)1ウェルあたり150 μLの各濃度の薬物希釈液であり、陰性対照ウェルを設定し、37℃で72±3時間インキュベートした。
(4)96ウェルプレートに1ウェル当たり15 μLのCCK-8を加え、プレートを軽く叩いて均一に振り、37℃で約2時間放置した。
(6)650 nmを基準波長とし、450 nmで吸光値を読み取った。
【0158】
試験結果:
(1)NCI-N87腫瘍細胞の殺傷試験
NCI-N87細胞を3日間、5日間処理した後の試験結果をそれぞれ
図15、
図16に示した。
図15~
図16の結果により、上記方法ステップに従い、NCI-N87細胞をそれぞれ3日間処理した後、NCI-N87に対する抗体A-ADC1による阻害率は80%以上に達し、抗体Aはそれに続き、DS8201(Herceptin-ADC1)は最低であり、60%に過ぎないことを示した。NCI-N87細胞を5日間処理した後、抗体A-ADC1の阻害率は、依然として最高を維持し、その親分子及びDS-8201(Herceptin-ADC1)よりもわずかに高かった。このことから、NCI-N87細胞に対する抗体A-ADC1の殺傷効果は、DS-8201(Herceptin-ADC1)よりも有意に高いことが分かった。
【0159】
(2)BT474腫瘍細胞の殺傷試験
BT474細胞を3日間処理した後の試験結果をそれぞれ
図17に示した。
図17の結果により、上記方法ステップに従い、BT474細胞をそれぞれ3日間処理した後、BT474細胞に対する抗体A-ADC1の阻害率は55%に達し、抗体A-ADC2は36%に達し、DS-8201は23%に過ぎず、BT474細胞に対する抗体A-ADC1の阻害率は、抗体A-ADC2、DS-8201よりもはるかに優れており、殺傷力はDS-8201の2.4倍であることを示した。
NCI-N87、BT474腫瘍細胞の殺傷試験から、抗体A-ADC1及び抗体A-ADC2は、HER2高発現陽性腫瘍細胞(NCI-N87、BT474)細胞に対していずれも比較的高い殺傷能力を有し、抗体A-ADC1及び抗体A-ADC2は、HER2高発現陽性腫瘍細胞(NCI-N87、BT474細胞)に対してDS-8201よりも殺傷能力が優れていることを示した。
【0160】
[実施例6 HER2陰性細胞に対する抗体Aを含むADC分子のバイスタンダー殺傷効果]
ADC薬物は通常、まず細胞膜上の抗原に結合し、その後、抗体抗原複合体は、エンドサイトーシス作用によって細胞内に入り、封入体を形成し、続いて、封入体は、更に成熟し、リソソームに融合し、リソソームにおいて、細胞毒性薬物が放出され(カテプシンB(cathepsin B)などの、それに対応する特異的プロテアーゼによってリンカーを分解するか、又はADC薬物全体がリソソームで分解され)、生成された細胞毒性薬物は、リソソーム膜を貫通し、DNA又は微小管に結合して細胞のアポトーシスをもたらした。これらの薬物は、細胞膜上のタンパク質輸送によって腫瘍微小環境へとポンピングされ、隣接する腫瘍細胞に入り、それに対して殺傷効果を引き起こすこともでき、これは、「バイスタンダー効果」(Bystander Effect)をもたらすことができる。
【0161】
抗体A-ADC1は、HER2を標的とする二重エピトープ抗体の糖部位特異的コンジュゲート薬物であり、切断可能なlinkerを使用し、抗体A-ADC1のバイスタンダー効果を考察するために、それぞれ抗体A-ADC1、DS-8201を用いてSK-B-R-3(HER2高発現)単細胞系、MDA-MB-468(HER2非発現)単細胞系、SK-BR-3とMDA-MB-468(1:1)の混合細胞系を処理し、3日間処理した後、全てのサンプルウェル細胞を計数し、混合細胞系をAPC anti-CD340 Antibody蛍光抗体で染色し、フローサイトメトリーによって検出した。
【0162】
実験方法
T75培養フラスコにおける対数増殖期のSK-BR-3、MDA-MB-468細胞について、培地を捨て、PBSで2回洗浄した後、液体を完全に吸引し、2 mLのパンクレアチンを加えて消化し、37℃のインキュベーターに4分間置き、細胞消化液を15 mLの遠心管に移し、8 mLの成長培地を加えて消化を停止させると共に、細胞を単細胞懸濁液にピペッティングし、1000 rpmで5分間遠心分離し、上清液を捨て、3 mLの培地(RPMI-1640+1%FBS)を加えて細胞を再懸濁させ、20 μLの細胞懸濁液を吸引して20 μLの0.2%トリパンブルーと混合した。
【0163】
計数:単一細胞接種(mono-culture):培地(RPMI-1640+1%FBS)を用いて両方の細胞密度を1×105 cells/mLに調節した。それぞれ100 μL/wellで96ウェルプレートに接種し、1ウェル当たり1×104の細胞であり、37℃、5%CO2のインキュベーターで一晩培養し、混合細胞接種(co-culture):培地(RPMI-1640+1%FBS)を用いて両方の細胞密度を2×105 cells/mLに調節し、1ウェル当たり50 μLのSK-BR-3細胞及び50 μLのMDA-MB-468細胞を加えた。1ウェル当たりの細胞総数は2×104であり、37℃、5%CO2のインキュベーターで一晩培養した。
【0164】
抗体薬物の配置:1%FBSを含むRPMI-1640培地で試験サンプルを希釈し、最高作業濃度50 nMから低い順に5倍勾配希釈し、合計4個の濃度とし、同時に対照群、即ち薬物未添加群(Negative Control)を設定し、1ウェル当たりに上記希釈した試験サンプルを100 μL加え、対照群(Negative Control)にRPMI-1640+1%FBS培地を100 μL直接加え、37℃、5%CO2で72時間培養し、96ウェルプレートの上清液を吸引し、200 μLの1XPBSで1回洗浄した後、1ウェル当たりに20 μLのパンクレアチンを加えて消化し、37℃のインキュベーターに4分間置き、100 μLの培地(RPMI-1640+10%FBS)を加えて消化を停止させると共に、細胞を単細胞懸濁液にピペッティングし、1000 rpmで5分間遠心分離し、上清液を捨て、1ウェル当たりに40 μLの1XPBSを加えて細胞を再懸濁させ、20 μLの細胞懸濁液を吸引して20 μLの0.2%トリパンブルーと混合して計数し、計数後、混合細胞接種群の各ウェルに100 μL(1: 100倍の1XPBSで希釈したAPC anti-human CD340 Antibody)の蛍光抗体を加え、均一に混合した後、2~8℃で暗所で15分間インキュベートし、1000 rpmで5分間遠心分離し、上清液を捨て、1ウェル当たりに200 μLの1XPBSを加え、1000 rpmで5分間遠心分離して1回洗浄し、上清液を完全に吸引し、100 μLの1XPBSを加えて再懸濁させ、フローサイトメーターで検出した。
【0165】
図18は、SK-BR-3細胞に対する各実験群の増殖阻害の結果を示し、
図19は、MDA-MB-468細胞に対する各実験群の増殖阻害の結果を示した。結果から分かるように、(a)抗体A-ADC1及びENHERTU(即ちDS-8201)は、SK-BR-3単細胞系、SK-BR-3とMDA-MB-468の混合系におけるSK-BR-3細胞に対していずれもバイスタンダー殺傷効果を有し、(b)抗体A-ADC1及びENHERTUは、HER2陰性MDA-MB-468単細胞系に対して殺傷効果が明らかではなく、混合系におけるMDA-MB-468細胞に対して明らかな殺傷作用を有する。サンプル濃度が50 nM、10 nM、2 nM、0.4 nMである場合、混合細胞系におけるMDA-MB-468細胞に対する抗体A-ADC1の増殖阻害率は、それぞれ68.65%、46.87%、31.61%、-4.95%であり、混合細胞系におけるMDA-MB-468細胞に対するENHERTUの増殖阻害率は、それぞれ45.02%、25.4%、-20.02%、-22.08%である。濃度が50 nMである場合、HER2陰性細胞に対する抗体A-ADC1のバイスタンダー殺傷能力は、ENHERTUの約1.5倍であり、濃度が10 nMである場合、HER2陰性細胞に対する抗体A-ADC1のバイスタンダー殺傷能力は、ENHERTUの約1.8倍であり、濃度が2 nMである場合、抗体A-ADC1は、バイスタンダー殺傷能力が依然として31.61%であり、ENHERTUは、バイスタンダー殺傷能力を有さず、従って、抗体A-ADC1は、2~50 nmMの濃度で、ENHERTUよりも高いバイスタンダー殺傷能力を有する。
【0166】
以下の表は、CountStar細胞の計数結果を示した。
【0167】
以下の表は、混合細胞群のHER2陽性、HER2陰性細胞の比率結果を示した。
【0168】
以下の表は、SK-BR-3細胞の増殖阻害率の結果を示した。
【0169】
以下の表は、MDA-MB-468細胞の増殖阻害率の結果を示した。
【0170】
結果及び結論
濃度が50 nMである場合、HER2陰性細胞に対する抗体A-ADC1のバイスタンダー殺傷能力は、ENHERTU(即ちDS-8201)の約1.5倍であり、濃度が10 nMである場合、HER2陰性細胞に対する抗体A-ADC1のバイスタンダー殺傷能力は、ENHERTUの約1.8倍であり、濃度が2 nMである場合、抗体A-ADC1は、バイスタンダー殺傷能力が依然として31.61%であり、ENHERTUは、バイスタンダー殺傷能力を有さず、従って、抗体A-ADC1は、2~50 nMの濃度で、ENHERTUよりも高いバイスタンダー殺傷能を有する。
【0171】
[実施例7 抗体Aを含むADC分子のADCC活性分析]
(a)レポーター遺伝子系による抗体A-ADC1のADCC活性の測定
標的細胞NCI-N87、エフェクター細胞Jurkat-FcγRIIIa-V158-NFATを実施例1で製造した抗体A-ADC1と6時間共培養し、蛍光RUL値を検出することによってADCC活性を測定した。
【0172】
具体的な実験ステップ:
(1)反応培地の製造:2%FBS+1640。
(2)ステップ(1)で製造した反応培地を用いて異なる濃度の抗体A-ADC1、抗体A-ADC2及び抗体Aを製造し、濃度が最大15000 ng/mL(最終濃度10000 ng/mL)であり、9個の濃度まで4倍希釈した。
(3)NCI-N87細胞を収集し、ステップ(1)で製造した反応培地を用いて細胞数を1×106細胞/mLに調節し、Jurkat-FcγRIIIa-V158-NFAT細胞を収集し、ステップ(1)で製造した反応培地を用いて細胞数を4×106細胞/mLに調節した。
(4)25 μLのステップ(2)で製造した抗体A又は抗体Aを含むADC、25μLのN8細胞及び25μLのJurkat-FcγRIIIa-V158-NFAT細胞を96ウェルプレートに加え、インキュベーターに6時間置いた。
(5)各ウェルに10 μLのBio-GloTMluciferase substrateを加え、直ちに蛍光マイクロプレートリーダーで各ウェルのRLU値を検出した。
【0173】
結果を
図20に示し、1~3がそれぞれ抗体A、抗体A-ADC1及び抗体A-ADC2の結果を示す。実施例1で製造した抗体A-ADC1分子は、HER2陽性/高発現の細胞(NCI-N87細胞)においても依然として良好なADCC活性を保持し、そのADCC活性が親分子抗体Aの87.7%(抗体A EC50/ADC1 EC50)であり、実施例2で製造した抗体A-ADC2は、ADCC活性をほとんど失い、その活性が親分子抗体Aの37.2%(抗体A EC50/ADC2 EC50)のみである。コンジュゲート方法は、ADCのADCC活性に対して影響が大きいことが示された。
【0174】
(b)PBMC系を用いて抗体Aを含むADCのADCC活性の測定した。
具体的な試験ステップ(BT474細胞):
(1)IL-2で24時間活性化したPBMC(活性化培地:10%FBS+1640+300 IU/mL)を300 IU/mL収集し、10%FBS+1640+150 IU/mLで細胞数を4.5×106細胞/mLに調節した。
(2)活性化培地で異なる濃度の抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201及びヒトIgG1を製造し、濃度が最大3 μg/mL(最終濃度1 μg/mL)であり、3個の濃度まで10倍希釈した。
3、BT474細胞を収集し、活性化培地で細胞数を3×105細胞/mLに調節した。
4、96ウェルプレートに50 μLのステップ(2)で製造した抗体Aを含むADC、50 μLのBT474 、50 μLのPBMCを加え、インキュベーターに4時間置いた。
5、検出30分前に、TMRウェル及びVCCウェルに10 μLの細胞溶解物を加えた。
6、1500 rpm/5分で、50 μLの上清液を新しい96ウェルプレートに取り、1ウェル当たりに50 μLのLDH検出基質を加え、室温で30分間放置した。
7、490 nmでOD値を検出した。
【0175】
具体的な試験ステップ(NCI-N87細胞):
(1)IL-2で24時間活性化したPBMC(活性化培地:10%FBS+1640+300 IU/mL)を300 IU/mL収集し、10%FBS+1640+150 IU/mLで細胞数を4.5×106細胞/mLに調節した。
(2)活性化培地で異なる濃度の抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201及びヒトIgG1を製造し、濃度が最大3000 ng/mL(最終濃度1000 ng/mL)であり、5個の濃度まで6倍希釈した。
3、NCI-N87細胞を収集し、活性化培地で細胞数を3×105細胞/mLに調節した。
4、96ウェルプレートに50 μLのステップ(2)で製造した抗体Aを含むADC、50 μLのBT474 、50 μLのPBMCを加え、インキュベーターに4時間置いた。
5、検出30分前に、TMRウェル及びVCCウェルに10 μLの細胞溶解物を加えた。
6、1500 rpm/5分で、50 μLの上清液を新しい96ウェルプレートに取り、1ウェル当たりに50 μLのLDH検出基質を加え、室温で30分間放置した。
7、490 nmでOD値を検出した。
【0176】
上記方法ステップに従い、HER2高発現細胞系における抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201及び抗体AなどのADCC活性をそれぞれ測定し、標的細胞は、HER2高発現細胞であるBT747及びNCI-N87を選択し、エフェクター細胞は、2人のドナーの末梢血中のPBMC(PBMC-qc及びPBMC-z)である。検出フローを
図21に示し、検出結果を
図22~23に示した。
結果により、PBMC-qc:BT474(有効標的比15:1)細胞系、PBMC-z:NCI-N87(有効標的比15:1)細胞系における抗体A-ADC1の活性がいずれも抗体A-ADC2、DS-8201よりも高いことを示し、抗体A-ADC1は、HER2高発現細胞系においてDS-8201よりも高いADCC活性を示すことを示し、本願に記載のADCは、コンジュゲートした親分子抗体AのADCC活性を保持できることが分かった。
【0177】
[実施例8 腫瘍細胞における抗体Aを含むADC分子のエンドサイトーシス効率の検出]
具体的な実験ステップ(NCI-N87細胞、上海中科院から購入):
(1)10%FBSを含む1640培地を用いて各濃度の抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201及び抗体A(エンドサイトーシス試薬と混合する)を製造し、96ウェルプレートに50 μLの最終濃度がそれぞれ50 nM、10 nM、2 nMの抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201又は抗体Aを加えた。
(2)NCI-N87細胞を消化し、計数し、各薬物含有ウェルに4×104細胞/50 μL/ウェルで加え、インキュベーターに2時間、5時間、23時間置いた。
(3)96ウェルプレートの細胞の上清液を捨て、1ウェル当たりに50 μLのパンクレアチンを加えて5分間消化した。
(4)各ウェルに10%FBSを含む1640培地を200 μL加えて再懸濁させ、単細胞懸濁液にピペッティングした。
(5)1.5 mLのEP管に移し、FACS検出を行った。
【0178】
具体的な実験ステップ(BT474細胞):
(1)10%FBSを含む1640培地を用いて各濃度の抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201及び抗体A(エンドサイトーシス試薬と混合する)を製造し、96ウェルプレートに50 μLの最終濃度がそれぞれ40 nM、8 nM、1.6 nMの抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS8201又は抗体Aを加えた。
(2)BT474細胞を消化し、計数し、各薬物含有ウェルに4×104細胞/50 μL/ウェルで加え、インキュベーターに24時間置いた。
(3)96ウェルプレートの細胞の上清液を捨て、1ウェル当たりに50 μLのパンクレアチンを加えて5分間消化した。
(4)各ウェルに10%FBSを含む1640培地を200 μL加えて再懸濁させ、単細胞懸濁液にピペッティングした。
(5)1.5 mLのEP管に移し、FACS検出を行った。
【0179】
上記方法ステップに従い、抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS-8201、抗体Aなどの抗体-エンドサイトーシス試薬混合物を腫瘍細胞系においてそれぞれインキュベートした後、フローサイトメーターによって各分子に対する細胞のエンドサイトーシス効率を検出した。
【0180】
(1)NCI-N87腫瘍細胞におけるエンドサイトーシス作用
抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS-8201、抗体Aの各分子をNCI-N87細胞系においてそれぞれ2時間、5時間、23時間インキュベートした後、各分子に対するNCI-N87細胞のエンドサイトーシス作用をフローサイトメーターによって検出した。2時間、5時間、23時間インキュベートした結果をそれぞれ
図24、25、26に示した。
【0181】
(a)インキュベーションが2時間に達した場合、各分子に対する細胞のエンドサイトーシス効率は、抗体A>抗体A-ADC1>抗体A-ADC2>DS-8201であり、5時間インキュベートした場合、エンドサイトーシス効率は、抗体A=抗体AーADC1>>抗体A-ADC2>>DS-8201であり、この場合、抗体A-ADC1は、親分子抗体Aのエンドサイトーシス効率に相当し、DS-8201、抗体A-ADC2よりもはるかに高かった。抗体A-ADC1は、短期間のインキュベーション(5時間)にわたって親分子と同等の腫瘍細胞のエンドサイトーシス効果を保持し、DS-8201よりもはるかに優れていることが示され、本願に記載のADCは、腫瘍細胞表面のHER2に迅速に結合してエンドサイトーシスを実現し、HER2シグナル伝達経路を遮断し、腫瘍殺傷作用を発揮することができることが示された。
【0182】
(b)インキュベーションが23時間に達した場合、抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、抗体Aなどのエンドサイトーシス効率は同等であり、50 nMである場合にいずれも55%以上に達し、このエンドサイトーシス効率はDS-8201よりも優れており、本願に記載のADCを23時間投与した後、55%の薬物(50 nM)は、いずれもNCI-N87腫瘍標的細胞内に達し、腫瘍標的指向性がDS-8201よりもやや高いことを示した。
【0183】
(2)BT474腫瘍細胞におけるエンドサイトーシス作用
抗体A-ADC1、抗体A-ADC2、DS-8201をBT474細胞系において24時間インキュベートした後、フローサイトメーターによって検出した。24時間インキュベートした結果を
図27に示した。
【0184】
検出結果により、抗体A-ADC1は、抗体A-ADC2のエンドサイトーシス効率と同等であり、40 nMである場合にエンドサイトーシス効率が70%以上に達したことを示し、本願に記載の抗体Aを含むADCのエンドサイトーシス効率は、同等の条件下でDS-8201(30%)の2.33倍であり、同時にBT474細胞に対する前者の標的指向性はDS-8201よりもはるかに高いことが分かった。抗体A-ADC1は、標的媒介シグナル伝達経路に対してより高い阻害能力を有し、腫瘍殺傷能力がDS-8201よりもはるかに高く、腫瘍阻害能力がより高いことが示された。
【0185】
[実施例9 動物モデルにおける抗体Aを含むADC分子による腫瘍増殖の阻害]
群投与試験プロトコル:ヌードマウスの腋下にBxPC-3細胞を皮下注射してモデルを構築し、接種濃度は1×106/0.1 mL/匹である。腫瘍の大きさが平均約190 mm3に成長した時、腫瘍の大きさ及び体重に応じてランダムに群分けし、各群は4匹であり、雌性であった。ランダムに群分けした当日は0日と記した。0日目に試験薬物を腹腔内投与し、その後、試験薬物を投与量で3日に1回、計2回腹腔内投与した。未選択の動物をCO2安楽死させた。
【0186】
試験動物をA、B、Cの3群に分け、A群にPBSを投与し、B群に抗体A-ADC1(DAR=4)を投与し、C群にDS-8201(DAR=8)を投与した。具体的な群分け投与プロトコルを表4に示した。
【表4】
【0187】
上記試験プロトコールに従い、A、B、Cの3群の試験動物のマウスにそれぞれ3つの被験物を24日間投与した(群AのPBSにおいて2匹の動物が腫瘍の成長が大きすぎるため、被験物を20日間投与した後に安楽死させた)。BxPC-3腫瘍モデルに対する3つの被験物の腫瘍阻害曲線が得られた。
腫瘍阻害曲線の結果から分かるように、BxPC-3腫瘍モデル動物に抗体A-ADC1(DAR=4)及びDS-8201(DAR=8)を投与すると、腫瘍を大幅に阻害し、時間の経過と共に腫瘍阻害効果が明らかであり、抗体A-ADC1がDS-8201の腫瘍阻害効果と類似した。
【0188】
[実施例10 Balb/c-NuヌードマウスNCI-N87腫瘍モデルにおける抗体Aを含むADC分子の薬物動態研究]
Balb/c-Nuヌードマウスにヒト胃癌細胞NCI-N87を皮下接種し、NCI-N87腫瘍モデルを採用し、1 mg/kgの抗体A-ADC1、1 mg/kgのENHERTU(即ちDS-8201)を単回静脈注射(iv)投与し、異なる時点で血液サンプルを採取し、Elisa法によって動物血清サンプルにおける全抗体及びADCの含有量を検出し(方法1:ELISAによって、ADC及び裸抗体を含む全抗体の含有量を検出し、方法2:ELISAによって毒素放出後の裸抗体を含まないADC含有量(1~4個の薬物を含有するADCを含む)を検出した)、薬物動態パラメータをDAS(3.2.8)ソフトウェアノンコンパートメントモデルを使用して計算した。
【0189】
【表5】
NCI-N87腫瘍モデルマウスに抗体A-ADC1を単回静脈注射投与した後、全抗体及びADCのC
maxはそれぞれ45422.727 μg/L、70056.81675 μg/Lであり、AUC
(0-t)はそれぞれ1598292.175 μg/L*h、2098916.987 μg/L*hであり、T
maxはいずれも0.033時間、0.033時間であり、T
1/2はそれぞれ100.976時間、95.32時間である。
【0190】
NCI-N87腫瘍モデルマウスにENHERTU(即ちDS-8201)を単回静脈注射投与した後、全抗体及びADCのCmaxはそれぞれ12343.966 μg/L、19604.51225 μg/Lであり、AUC(0-T)はそれぞれ421103.345 μg/L*h、586509.313 μg/L*hであり、Tmaxはいずれも0.033時間、0.033時間であり、T1/2はそれぞれ86.744時間、65.384時間である。
【0191】
以上をまとめ、NCI-N87腫瘍モデルマウスに抗体A-ADC1、ENHERTUを単回静脈注射投与し、Elisa方法1(全抗体濃度)の結果により、T
1/2はそれぞれ100.976時間、86.744時間であり、抗体A-ADC1 T
1/2はENHERTUの1.164倍であり、CmaxはENHERTUの3.680倍であり、AUC
(0-t)はENHERTUの3.795倍であることを示した。方法2(抗体薬物コンジュゲートの含有量)の結果により、抗体A-ADC1及びENHERTU T
1/2はそれぞれ95.32時間、65.384時間であり、抗体A-ADC1 T
1/2はENHERTUの1.460倍であり、CmaxはENHERTUの3.574倍であり、AUC
(0-T)はENHERTUの3.580倍であることを示した。結果は、
図28を参照することができた。
【0192】
[実施例11 NCI-N87細胞表面HER2エンドサイトーシスに対する抗体Aを含むADCの影響]
Her2を標的とするモノクローナル抗体は、Her2の内在化分解を促進し、Her2の下流シグナル伝達を更に阻害し、細胞増殖を阻害することができた。本願のADC(抗体A-ADC1)は、抗体Aなど、HER2を標的とする二重エピトープ抗体に小分子DXdをコンジュゲートしたADC薬物であり、Her2が過剰発現するヒト胃癌細胞系NCI-N87細胞を選択することにより、抗体A-ADC1、抗体A及び市販の同系標的薬物DS8201のエンドサイトーシス効果を比較した。
【0193】
実験ステップ:
1) 実験Bufferの配置:1640+10%FBS培地。
2) N87細胞を350 gで5分間遠心分離した後、上清液を除去し、実験bufferで濃度を1*106 cells/mLに調節した。
3) 実験に必要な抗体を実験bufferで初濃度が200 nMとなるように希釈し、実験bufferでpHrodoを600 nMとなるように希釈した。
4) 希釈した200 nMの抗体と600 nMのpHrodoを体積1:1で混合して15分間インキュベートした後、実験Bufferで抗体とpHrodo混合物を5倍希釈し、合計3個の濃度点であり、5分間インキュベートした後に50 μLの細胞を加えた。
5) 抗体とpHrodoの50 μLの混合物及び50 μLの細胞をサンプルウェルに加えた。
【0194】
6) NCウェル:25 μLのBuffer+25 μLのPHrodo+50 μLのcell(1E5)。
7) BLANKウェル:50 μLのBuffer+50 μLのcell(1E5)、各ウェルの体積は100 μLであり、吹き付けて均一に混合した。
8) 37℃の細胞インキュベーターで5時間インキュベートした。
9) インキュベーション終了後に350 xgで5分間遠心分離した後、上清液を除去し、各ウェルにトリプシンを加えて細胞を消化し、培地を単細胞懸濁液に再懸濁し、350 xgで5分間遠心分離し、200 μL/ウェルで1xPBSを加えて再懸濁した。
10) 350 xgで5分間遠心分離した後、150 μL/ウェルで1xPBSを添加して細胞を再懸濁させ、細胞を新しい96ウェルプレートのフローサイトメーターに移した。
【0195】
実験結果:
抗体A、抗体A-ADC1及びDS8201は、いずれもNCI-N87細胞表面のHER2エンドサイトーシス作用を誘導することができ、抗体A-ADC1は、抗体Aのエンドサイトーシス効果と同等である。なお、抗体A-ADC1のエンドサイトーシス効果は、3つの濃度点でいずれもDS8201よりも明らかに高く、50 nM、10 nM、2 nMの濃度条件下で、抗体Aのエンドサイトーシス率は、それぞれ92.25%、91.82%、65.71%であり、抗体A-ADC1のエンドサイトーシス率は、それぞれ85.48%、84.65%、58.95%であり、DS8201のエンドサイトーシス率は、それぞれ34.79%、28.36%、21.26%であった。NCI-N87に対する抗体A-ADC1のエンドサイトーシス効果は、抗体Aと同等であり、DS8201よりも明らかに高かった。
【表6】
【0196】
表6は、抗体A、抗体A-ADC1及びDS8201のエンドサイトーシス後の陽性NCI-N87細胞の比率を示した。
図29は、抗体A、抗体A-ADC1及びDS8201によってエンドサイトーシスを誘導した後のNCI-N87陽性細胞の比率を示した。
【0197】
[実施例12 HER2弱陽性胃癌のPDX皮下異種移植NOD/SCIDマウスモデルに対する抗体Aを含むADC分子の阻害効果]
ヒトHER2弱陽性(2+)胃癌のPDX皮下異種移植NOD/SCIDマウス動物モデルにおける本願のADC(抗体A-ADC1)の抗腫瘍作用を、市販の陽性対照薬物ENHERTU(即ちDS-8201)と比較して評価した。
【0198】
モデル情報
以下の表は、ヒト胃癌のPDX異種移植モデルのサンプル情報を示した。
【0199】
実験手順
各例のPDXモデルから30匹の4~5週齢のNOD/SCID雌性マウスを選択し、その右前肩甲骨に直径2~3 mmの胃癌PDX腫瘍塊を皮下接種し、腫瘍の平均体積が213.40 mm3である場合、腫瘍の大きさ及びマウスの体重に応じてランダムに群分けし(以下の表を参照)、群分けの当日を1日目とし、群分け後に直ちに投与を開始し、投与の当日を投与後1日目とした。
【0200】
以下の表は、ヒト胃癌のPDX腫瘍モデルにおける試験薬物の抗腫瘍作用の実験的設計を示した。
【0201】
実験結果:
対照群及び試験薬物群は、初回投与の27日目(この時、対照群の腫瘍の長径の最大径はマウス実験の倫理上限1.5 cmに達した)に、各群内の動物が全て生存するため、試験薬物である本願のADC(抗体A-ADC1)の抗腫瘍効果を分析評価するためにこの時の腫瘍体積データを選択した。PBS対照群(CTL)マウスは、群分けして初回投与した後の27日目に平均腫瘍体積が725.39±190.25 mm
3であり、相対腫瘍体積が3.58±1.11であり、試験薬物である抗体A-ADC1(10 mg/kg)は、群分けして初回投与した後の27日目に平均腫瘍体積が112.89±61.65 mm
3であり、相対腫瘍体積が0.50±0.16であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)が86.05%であり、PBS対照群と比べて統計学的に有意差があり(p<0.0001)、陽性対照薬ENHERTU(即ちDS-8201)(10 mg/kg)は、群分けして初回投与した後の27日目に平均腫瘍体積が106.41±17.77 mm
3であり、相対腫瘍体積が0.50±0.11であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)が86.08%であり、PBS対照群と比べて統計学的に有意差があった(p<0.0001)。また、10 mg/kgの用量レベルで、群分けして初回投与した後の27日目に、試験薬物である抗体A-ADC1治療群において、平均腫瘍体積は、ENHERTU治療群の平均腫瘍体積と同程度であり、統計学的に有意差はなかった(抗体A-ADC1 VS ENHERTU、P=0.8362>0.05,ns.)。概して、抗体A-ADC1は、10 mg/kgの用量でヒトHER2 IHC 2+胃癌のPDX腫瘍モデルに対して顕著な腫瘍阻害作用を有し、DARが4の抗体A-ADC1は、DARが8の陽性対照薬物ENHERTUの抗腫瘍薬効と同等でした。
図30は、ヒト胃癌のPDX腫瘍モデルにおける各群のマウス腫瘍体積の成長曲線を示した。
【0202】
以下の表は、Case168ヒト胃癌PDX腫瘍モデルにおける各群の薬効分析表を示した。
【0203】
[実施例13 HER2陰性胃癌のPDX皮下異種移植NOD/SCIDマウスモデルに対する抗体Aを含むADC分子の阻害効果]
HER2発現陰性のヒト胃癌のPDX腫瘍皮下異種移植NOD/SCIDマウス動物モデルにおける本願のADC(抗体A-ADC1)の抗腫瘍作用を、市販の陽性対照薬物ENHERTU(即ちDS-8201)と比較して評価した。
【0204】
実験手順:
モデル情報
以下の表は、ヒト胃癌HER2 IHC2+ PDX異種移植モデルのサンプル情報を示す
【0205】
実験手順
各例のPDXモデルから30匹の4~5週齢のNOD/SCID雌性マウスを選択し、マウスの右前肩甲骨に直径2~3 mmの胃癌PDX腫瘍塊を皮下接種した。腫瘍の平均体積が166.53 mm3である場合、腫瘍の大きさ及びマウスの体重に応じてランダムに群分けし、群分けの当日を1日目とし、群分け後に直ちに投与を開始し、投与の当日を投与後1日目とした。
【0206】
以下の表は、ヒト胃癌のPDX腫瘍モデルにおける試験薬物の抗腫瘍作用の実験的設計を示した。
【0207】
実験結果:
対照群及び試験薬物群は、初回投与の17日目(この時、対照群の腫瘍の長径の最大径はマウス実験の倫理上限1.5 cmに達した)に、各群内の動物が全て生存するため、試験薬物である本願のADC(抗体A-ADC1)の抗腫瘍作用を評価するためにこの時の腫瘍体積データを選択した。PBS対照群マウスは、群分けして初回投与した後の17日目に平均腫瘍体積が629.24±146.59 mm
3であり、相対腫瘍体積が4.13±0.97であり、試験薬物である抗体A-ADC1(10 mg/kg)は、群分けして初回投与した後の17日目に平均腫瘍体積が238.32±84.57 mm
3であり、相対腫瘍体積が1.68±1.01であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)が59.41%であり、PBS対照群と比べて統計学的に有意差があり(p<0.0001)、陽性対照薬ENHERTU(即ちDS-8201)(10 mg/kg)は、群分けして初回投与した後の17日目に平均腫瘍体積が174.06±71.09 mm
3であり、相対腫瘍体積が1.02±0.34であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)が75.19%であり、PBS対照群と比べて統計学的に有意差があった(p<0.0001)。また、10 mg/kgの用量レベルで、群分けして初回投与した後の17日目に、試験薬物である抗体A-ADC1治療群において、平均腫瘍体積は、陽性対照薬物ENHERTU治療群の平均腫瘍体積よりもわずかに大きいが、統計学的に有意差はなかった(抗体A-ADC1 VS ENHERTU、P=0.526>0.05,ns.)。概して、抗体A-ADC1は、10 mg/kgの用量でヒトHER2-胃癌のPDX腫瘍モデルに対して顕著な腫瘍阻害作用を有し、DARが4の抗体A-ADC1は、DARが8の陽性対照薬物ENHERTUの抗腫瘍薬効と同等でした。
図31は、ヒト胃癌HER2 IHC-PDX腫瘍モデルのマウス腫瘍体積の成長曲線を示した(day1のみによる1回の薬物処理、尾静脈注射、10 mg/kg)。
【0208】
以下の表は、Case111ヒト胃癌のPDX腫瘍モデルにおける各群の薬効分析表を示した。
【0209】
上記の詳細な説明は、説明及び例示のために提供され、添付される特許請求の範囲を限定するものではない。現在、本願の例示的な実施形態に対する様々な変更は、当業者にとって明らかであり、添付される特許請求の範囲及びその均等物の範囲内に保持される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を含む、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項2】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項3】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2の細胞外ドメインII及び/又はヒトHER2の細胞外ドメインIVに特異的に結合する、請求項1又は2の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項4】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の軽鎖及び第2の軽鎖を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項5】
前記第1の軽鎖は、第1のLCDR1~3を含み、前記第1のLCDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項6】
前記第1のLCDR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項7】
前記第1のLCDR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む、請求項5又は6の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項8】
前記第1の軽鎖は、ペルツズマブの重鎖に結合することができる、請求項4~7の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項9】
前記第2の軽鎖は、第2のLCDR1~3を含み、前記第2のLCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~8の何れか1項記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項10】
前記第2のLCDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項11】
前記第2のLCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む、請求項9又は10の何れか1項記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項12】
前記第2の軽鎖は、トラスツズマブの重鎖に結合することができる、請求項4~11の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項13】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7~12の何れか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~12の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項14】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4~13の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項15】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、配列番号13~18の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項4~14の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項16】
前記第1の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択され、及び/又は前記第2の軽鎖は、ペルツズマブの軽鎖又はその変異体、及びトラスツズマブの軽鎖又はその変異体からなる群から選択される、請求項4~15の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項17】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、同一のアミノ酸配列を有する、請求項4~16の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項18】
前記第1の軽鎖及び前記第2の軽鎖は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項4~17の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項19】
HER2を標的とする前記二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、前記第1の軽鎖に正確に結合することができる、請求項1~18の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項20】
前記第2の重鎖は、生理学的条件下又はインビトロでのタンパク質発現状態下で、前記第2の軽鎖に正確に結合することができる、請求項19に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項21】
前記第1の重鎖は、ペルツズマブの重鎖可変領域である第1の重鎖可変領域を含む、請求項19又は20の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項22】
前記第2の重鎖は、トラスツズマブの重鎖可変領域である第2の重鎖可変領域を含む、請求項19~21の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項23】
前記第1の重鎖及び前記第2の重鎖は、ヒトIgGの定常領域に由来する重鎖定常領域を含む、請求項19~22の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項24】
前記第1の重鎖及び前記第2の重鎖のFc断片は、配列番号25~57の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項19~23の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項25】
前記第1の重鎖は、配列番号21又は23に示されるアミノ酸配列を含む、請求項19~24の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項26】
前記第2の重鎖は、配列番号22又は24に示されるアミノ酸配列を含む、請求項19~25の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項27】
M-(L1)
a-(L2)
b-D(式1)に示される構造を含み、
そのうち、Mは、請求項1~26の何れか1項に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、
L1は、Mに連結するリンカーを表し、L2は、Dに連結するリンカーを表し、
a、bは、それぞれ0~10から独立的に選択され、
Dは、薬物を表す、
請求項1~26の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項28】
前記L1及び/又はL2は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される、請求項27に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項29】
前記L1と前記Mは、前記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介して連結される、請求項27~28の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項30】
前記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖及び/又は前記第2の重鎖は、前記L1に連結可能な連結部位を含む、請求項27~29の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項31】
前記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項30に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項32】
前記基は、前記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は前記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する、請求項31に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項33】
前記連結部位は、グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項30に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項34】
前記基は、前記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、前記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する、請求項33に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項35】
前記基は-N
3を含む、請求項33又は34の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項36】
前記グリコシル化修飾は、前記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む、請求項33~35の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項37】
前記L1は、SPAAC反応に関与することができる、請求項27~36の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項38】
前記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N及びDBCOからなる群から選択される、請求項27~37の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項39】
前記L1はDBCO-(PEG)
n1であり、そのうち、
n1は0~10の整数であり、又は前記L1はマレイミドである、請求項27~38の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項40】
前記L2は、ポリペプチド、VC-PAB、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタノアート(SPDB)、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)2-スルホブタノアート(sulfo-SPDB)、N-スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、マレイミドPEG NHS、N-4-(マレイミドメチル)シクロヘキシルスクシンイミジルカルボキシレート(SMCC)、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)、及び2,5-ジオキソピロリジニル-1-イル17-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-5,8,11,14-テトラオキソ-4,7,10,13-テトラアザオクタデカン-1-酸エステル(CX1-1)からなる群から選択される、請求項27~39の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項41】
前記L2はGGFGである、請求項27~40の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項42】
前記薬物は、腫瘍細胞を殺傷し、及び/又は腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有する、請求項27~41の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項43】
前記薬物は小分子薬物を含む、請求項27~42の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項44】
前記薬物は、V-ATPase阻害剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定剤、微小管不安定化剤、auristatin、dolastatin、メイタンシノイド、MetAP(メチオニンアミノペプチダーゼ)、タンパク質CRM1の核輸出阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリアにおけるリン酸転移反応阻害剤、タンパク質合成阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、DNA破壊剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤、DHFR阻害剤、ヌクレオシド類似体、HDAC阻害剤、アントラサイクリン、NAMPT阻害剤、SN-38グルクロン酸、エトポシド燐酸、ナイトロジェンマスタード、プロテアソーム阻害剤、サイトカイン、及びToll様受容体アゴニストからなる群から選択される、請求項27~43の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項45】
前記薬物は、DM1、exatecan、DXd、MMAE、SN-38、Calicheamicin、Anthracyclin-5G、DM4、微小管阻害剤SHR153024、PNU-159682、Duo5毒素、SN38誘導体、又はそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項27~44の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項46】
【化1】
からなる群から選択される構造を有する、請求項27~45の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項47】
約1~6の薬物/抗体比を有する、請求項1~46の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項48】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートを製造する化合物であって、
M-(L1)
a(式2)に示される構造を有し、そのうち、Mは、請求項1~26の何れか1項に記載のHER2を標的とする二重特異性抗体又はその抗原結合断片を表し、
L1は、Mに連結するリンカーを表し、
aは、0~10から選択される、
化合物。
【請求項49】
前記L1は、切断可能なリンカー、切断不可能なリンカー、親水性リンカー、疎水性リンカー、荷電リンカー、非荷電リンカー及びジカルボン酸系リンカーからなる群から選択される、請求項48に記載の化合物。
【請求項50】
前記L1と前記Mは、前記M上のチオール基、アジド基、又はアミド基を介して連結される、請求項48又は49の何れか1項に記載の化合物。
【請求項51】
前記Mは、第1の重鎖及び第2の重鎖を含み、前記第1の重鎖及び/又は前記第2の重鎖は、前記L1に連結可能な連結部位を含む、請求項48~50の何れか1項に記載の化合物。
【請求項52】
前記連結部位は、脱グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項51に記載の化合物。
【請求項53】
前記基は、前記第1の重鎖の297位のアミノ酸Qの側基に位置し、及び/又は前記第2の重鎖の298位のアミノ酸Qの側基に位置する、請求項51に記載の化合物。
【請求項54】
前記連結部位は、グリコシル化修飾後に前記L1に連結可能な基を含む、請求項51に記載の化合物。
【請求項55】
前記基は、前記第1の重鎖の299位のアミノ酸Nの側基に位置し、及び/又は、前記第2の重鎖の300位のアミノ酸Nの側基に位置する、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記基は-N
3を含む、請求項54又は55の何れか1項に記載の化合物。
【請求項57】
前記グリコシル化修飾は、前記MがUDP-GalNAz、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はその変異体に接触したことを含む、請求項53~56の何れか1項に記載の化合物。
【請求項58】
前記L1は、SPAAC反応に関与することができる、請求項48~57の何れか1項に記載の化合物。
【請求項59】
前記L1は、マレイミド、スクシンイミド-3-イル-N、及びDBCOからなる群から選択される、請求項48~58の何れか1項に記載の化合物。
【請求項60】
前記L1はDBCO-(PEG)
n1であり、そのうち、
n1は0~10の整数であり、又は前記L1はマレイミドである、請求項48~59の何れか1項に記載の化合物。
【請求項61】
【化2】
からなる群から選択される構造を含む、請求項48~60の何れか1項記載の化合物。
【請求項62】
請求項48~61の何れか1項に記載の化合物を請求項1~47の何れか1項に記載の薬物に接触させるステップを含む、請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートの製造方法。
【請求項63】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲートを含み、任意選択的に、薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項64】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者における腫瘍微小環境の調節方法。
【請求項65】
請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫応答の調節方法。
【請求項66】
薬物の製造における、請求項1~47の何れか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート、又は請求項63に記載の医薬組成物の使用であって、前記薬物は、腫瘍を予防及び/又は治療することができる、使用。
【請求項67】
前記腫瘍は、固形腫瘍及び/又は非固形腫瘍を含む、請求項66に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
一部の実施形態において、上記抗体薬物コンジュゲートは、
【化1】
からなる群から選択される構造を有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
本願において、上記抗体薬物コンジュゲートは、
【化4】
からなる群から選択される構造を有することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0132
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0132】
[実施例1 抗体A-ADC1分子の製造]
(1)リンカー及び毒素を含む化合物の製造
DXd(即ち、exatecan DX-8951誘導体、聯寧生物から購入)、以下の構造式を有する、リンカー及び毒素を含む化合物1:DBCO-PEG4-GGFG-DXdが得られた:
【化6】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0137
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0137】
[実施例2 抗体A-ADC2分子の製造]
(1)リンカー及び毒素を含む化合物の製造
マレイミドをGGFG-DXdと反応させ、リンカー及び毒素を含み、以下の構造式を有する化合物2が得られた:
【化8】
【国際調査報告】