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▶ アビウム リミティド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】インサイチュー触媒の析出及び利用
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20240705BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240705BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240705BHJP
   C25B 9/15 20210101ALI20240705BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240705BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B9/15
C25B11/031
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500654
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 US2022073469
(87)【国際公開番号】W WO2023283580
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】63/218,681
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524008971
【氏名又は名称】アビウム リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】マーク アラン ドーアティ
(72)【発明者】
【氏名】ケビン チャールズ レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ロータームンド ラーソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョーセフ モハンマド バーフォロウシュ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA50
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA16
4K021BC03
(57)【要約】
OHと、水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はこれらの任意の組み合わせとを含む電解質であって、インサイチュー析出又は利用に用いられる電解質が本明細書に開示される。また、高い反応器効率を維持するために電気触媒を析出させるセパレーター電極接合体も本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OH及び電気触媒を含む電解質であって、前記電気触媒は、水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はこれらの組み合わせである、電解質。
【請求項2】
前記電解質は、所与の電流密度で水素発生反応又は酸素発生反応に必要な電圧を低下させるための有効量の電気触媒を含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記電気触媒は懸濁粒子を含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項4】
電極であって、前記電極は当該電極を貫通する複数の開口部を備える電極と;
セパレーターであって、前記電極は前記セパレーターと接触しており、前記セパレーターは前記複数の開口部によって画定された電解質露出表面を有するセパレーターと;
電気触媒であって、前記電気触媒は前記電極及び/又は前記セパレーターの前記電解質露出表面の上に析出しており、前記触媒が水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はそれらの任意の組み合わせである電気触媒と、
を備えるセパレーター電極接合体。
【請求項5】
前記電極は、複数の交差する導電性ワイヤーから形成されたメッシュ、導電性材料内の複数の細孔から形成されるフォーム、スロット状若しくは穴の開いた導電性プレート、又は膨張した金属を含む、請求項4に記載のセパレーター電極接合体。
【請求項6】
請求項1に記載の電解質及び電極を備える、アルカリ電解装置。
【請求項7】
電解質及び請求項4に記載のセパレーター電極接合体を備える、アルカリ電解装置。
【請求項8】
前記電解質はOH及び前記電気触媒を含む、請求項7に記載のアルカリ電解装置。
【請求項9】
請求項6に記載の電解装置及び前記電解装置を通して前記電解質を循環させるように構成されたポンプを備える、反応器システム。
【請求項10】
前記ポンプは、反応再循環ループ又は析出再循環ループを通して前記電解質を循環させるように構成されている、請求項9に記載の反応器システム。
【請求項11】
前記ポンプは、カソード析出再循環ループを通して前記水素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生触媒を循環させるように構成されたカソード析出ポンプと、アノード析出再循環ループを通して前記酸素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生触媒を循環させるように構成されたアノード析出ポンプとを含む、実施形態9に記載の反応器システム。
【請求項12】
電気触媒を析出させる方法であって、前記方法は、電極上に前記電気触媒を析出させるために十分な条件下で、電解装置を通して請求項1に記載の電解質を再循環させることを含む、方法。
【請求項13】
前記電極は、当該電極を貫通する複数の開口部を備え、前記電極はセパレーターと接触しており、前記セパレーターは、前記複数の開口部によって画定された電解質露出表面を有し、前記電気触媒は、前記電極及び前記セパレーターの前記電解質露出表面の上に析出する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解質は、反応再循環ループを通して再循環される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応と同時に生じる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電解質は、析出再循環ループを通して再循環される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応の前、最中及び/又は後に、前記電解装置のシャットダウン、分解又は再組立を必要とせずに生じる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記水素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生電気触媒は、カソード析出再循環ループを通して再循環され、前記酸素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生電気触媒は、アノード析出再循環ループを通して再循環される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応の前、最中及び/又は後に、前記電解装置のシャットダウン、分解又は再組立を必要とせずに生じる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記電解装置から前記電解質を排出し、前記電解質を第2の電解質と交換することを更に含み、前記第2の電解質が電極触媒を欠くか又は前記第2の電解質が前記電解質中の前記電極触媒とは異なる電気触媒を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる、2021年7月6日に出願された米国特許出願第63/218,681号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示の技術は、一般に電気触媒に関する。より詳細には、この技術は非炭素含有原料から高効率な水素生成を維持し、電解装置スタックを保守点検するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
世界が脱炭素経済に切り替わるため、水分解反応、すなわち水素発生反応(HER)及び酸素発生反応(ОER)に用いる効率的で地球上に豊富な電気触媒の開発はとても重要である。電解装置内では、カソード電極でHERが生じると同時に、アノード電極でОERが生じる。従来、カソード及びアノード並びにアノードとカソードに挟まれたセパレーターと、セル間のバイポーラーとを含むセルの繰り返しからなる電解装置スタックを組み立てる前に、電極を電気触媒で被覆する。操業のための周辺機器に一旦組み込まれると、スタックは通常保守点検ができず、経時で効率が低下するために最終的には全体を交換しなければならない。典型的なアルカリ電解装置のスタックの交換間隔は60,000時間から100,000時間の範囲である。スタックの寿命年数は初期値の約90%未満効率が落ちることにより典型的に特徴づけられる。スタックの交換には、全システムの初期資本コストの45%から50%の範囲のかなりの資本コストがかかる。スタックの交換には電解装置のシャットダウン、分解及び再組立も必要となる。したがって、スタックのシャットダウン、分解及び再組立を必要としない、高効率を維持しスタックを保守点検するための方法及びシステムが求められている。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に、電解装置スタックのシャットダウン、分解及び再組立てを必要としない、高効率を維持し電解装置スタックを保守点検するための方法、システム及び組成物が開示される。本発明の一つの態様は、OHと、水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はこれらの組合せとを含む電解質を提供する。
【0005】
本技術の他の態様は、電極であって、電極を貫通する複数の開口部を含む電極と;セパレーターであって、電極がセパレーターに接触し、セパレーターが複数の開口部によって画定された電解質露出表面を有するセパレーターと;電気触媒であって、電気触媒が電極及びセパレーターの電解質露出表面の上に析出しており、電気触媒が水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はそれらの任意の組合せである電気触媒と、を備えるセパレーター電極接合体を提供する。
【0006】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されたいずれかのセパレーター電極接合体及び/又はいずれかの電解質を含むアルカリ電解装置を提供する。
【0007】
本発明の別の態様は、電解装置を含み、電解装置を通して電解質を循環させるように構成されたポンプを更に含む反応器システムを提供する。
【0008】
本発明の別の態様は、電気触媒を析出させる方法を提供する。この方法は水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はこれらの組合せが電極上で析出するために十分な条件下で、本明細書に記載されたいずれかの電解質を電解装置又は反応器を通して再循環することを含み得る。実施形態の一部では、析出は水素発生反応又は酸素発生反応と同時に生じる。
【0009】
本発明のこれらの態様及び他の態様を更に本明細書で述べる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の非限定的な実施形態は添付図面を参照して例として述べるが、これらの図面は概略図であって、縮尺通りに図示することを意図したものではない。図面において、各同一又はほぼ同一の図示された構成要素は、通常単一の数詞によって表される。明瞭化を目的として、当業者が本発明を理解するために図示が必要でない場合には、全ての図面で全ての構成要素に符号が付されているわけではなく、本発明の各実施形態の全ての構成要素が示されているわけでない。
【0011】
用語を簡略化するため、通常の水分解操作の間にOERが生じる電極をアノード、HERが生じる電極をカソードと呼ぶ。触媒を析出させる目的のために、カソード電極又はアノード電極のいずれかに正又は負の電位を印加し得る。
【0012】
図1】アルカリ電解装置セルの概略図である。
図2A】アルカリ電解装置セルにおける電極の配置の概略図である。
図2B】導電性メッシュ電極110、生成ガスの混合を防ぎアノードとカソードの間のイオン移動を許容するセパレーター100及び電極とセパレーターの両方を被覆した触媒120を含むセパレーター電極接合体(SEA)の上面概略図である。
図2C】導電性メッシュ電極110、セパレーター100及び電極とセパレーターの両方を被覆した触媒120を含むセパレーター電極接合体(SEA)の断面概略図である。
図3】構成1の概略図であり、構成1では触媒は電解質と混合され、1つのポンプを使用することでシステムを通して送り出され、ОER、HER又はOER及びHERの両方の性能を向上させるために効果的である。性能の向上は、電気化学スラリー反応器としての運転、並びに/又は電極上及び/若しくはセパレーター上での触媒の析出によりなしえる。
図4】構成2の概略図であり、構成2ではОER触媒、HER触媒又はその両方であるОER及びHER触媒が利用され得る。各触媒は電解質と混合することができ、混合を防ぐための独立した再循環ループの対応する側を通して流すことができる。各触媒はそれぞれの側で性能を向上させる。性能の向上は、電気化学スラリー反応器としての運転、並びに/又は電極上及び/若しくはセパレーター上での触媒の析出によりなしえる。
図5A】構成3は複数ステップを有するプロセスを説明するために使われる。このようなプロセスには多くの構成が可能であり、これらの構成は異なるハードウェア構成を含み得る。ОER、HER又はその両方であるOERとHER触媒は、構成3のプロセスを使用してアノード電極及び/若しくはカソード電極及び/又はセパレーター上に析出させることができる。図5Aは、OER触媒が電解質と混合され、アノード電極に負の電位を印加するように設定された導線を用いて、所与の電流密度でシステムを通して循環される、構成3の析出プロセスの最初のステップの概略図である。導線は、負の電位がアノード電極に印加された状態で示されているが、最適な析出のために必要に応じてアノード電極に正の電位を印加するように切り替えることができる。アノード電極に負の電位が印加されると、析出の間にアノード電極で水素発生が生じる。
図5B】この構成3の析出の第2ステップでは、システム内を排出し、電解質と混合され、カソード電極に負の電位を印加するように設定された電極を用いて、所与の電流密度でシステムを通して循環されるHER触媒をシステムに再充填する。導線は、負の電位がカソードに印加された状態で示されているが、最適な析出のために必要に応じてカソード電極に正の電位を印加するように切り替えることができる。
図5C】この構成3のプロセスのステップ1と2が完了した後、電極及び/又は対応する触媒で被覆されたセパレーター、並びにクリーンな電解質(触媒の添加がない電解質)がポンプでシステムに送り込まれ、システムは新しく析出した触媒を有する電解装置として作動する。
図6】構成3の析出/再生のために組み込まれた装置を有する電解装置システム。
図7】本発明を使用したインサイチュースタック再生及びスタック交換法を使用した通常のアルカリ電解装置スタックの、経時のスタック効率の推定値。この推定値は同じ電流密度で作動する両方のスタックに基づく。
図8】触媒を有しない30重量%KОH水溶液中で異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー操作(正方形)に続いて、アノード電極を正極とし、構成1を使用した2.0%v/vのCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中でのクロノポテンショメトリー(三角形)。この方法で電圧低下は約0.2Vに達する。このデータは、チタン製のエンドプレート/フローフィールド及び1cmのNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A及び0.5Aでそれぞれ2分間かけて得られた(後図の記載では「0.1~0.5クロノポテンショメトリー運転」と略記する)。
図9】アノード電極を正極とし、構成1を使用した2.0%v/vのCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中で異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー操作。このデータは、チタン製のエンドプレート/フローフィールド及び1cmのNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A、0.5A、0.6A、0.7A、0.8A、0.9A及び1.0Aでそれぞれ2分間かけて得られた。より高い電流密度でのデータは1.1Aで6分間、その後に1.2A、1.3A、1.4A、1.5A、1.6A、1.7A、1.8A、1.9A及び2.0Aでそれぞれ2分間かけて測定された。このデータの一式は図8の説明で詳述した実験の続きである。0.1~2.0Aのクロノポテンショメトリー運転(正方形)に先立って、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転が2回(図示せず)行われた。0.1~1.0Aのクロノポテンショメトリー運転(菱形)に先立って、0.3Acm-2の電流密度でアノード電極を正極とし、構成1を使用した2.0%v/vのCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中で20時間の運転(図示せず)が行われた。
図10】アノード電極を正極とし、構成1を使用した触媒を有しない(正方形)、0.25%v/v(十字)、0.5%v/v(三角形)、1.0%v/v(星印)及び2.0%v/v(円)のCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中で異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー操作。初めにベースラインを確立するため、無触媒で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を6回電解装置で操作した(正方形、最も電圧の低い結果を示す)。次に0.1%v/vのCo触媒を有する30重量%KOH水溶液中で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回電解装置で操作した(図示せず)。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で0.25重量%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(十字)行い、次に0.5%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(三角形、最も電圧の低い結果を示す)行い、次に1.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を3回(星印、最も電圧の低い結果を示す)行い、次に2%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回(円、最も電圧の低い結果を示す)行った。このデータは電解質中の触媒の濃度が高くなるにつれてセル電位が低下することを示す。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1cmのNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A及び0.5Aでそれぞれ2分間かけて得られた。
図11】アノード電極を正極とし、構成1を使用した0.50%v/vのCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中でのクロノポテンショメトリーデータ。初めにベースラインを確立するため、無触媒で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回電解装置で操作した(図示せず)。次に0.1%v/vのCо触媒を有する30重量%KOH水溶液中での0.3Aで1時間の運転(図示せず)に続いて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(図示せず)電解装置で操作した。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で0.25重量%v/vまで上昇させ、0.3Aで24時間の運転(図示なし)に続いて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(図示せず)電解装置で操作した。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で0.5%v/vまで上昇させ、0.3Aで16時間のクロノポテンショメトリー(黒線)を行う前に、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(図示せず)電解装置で操作した。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で16時間かけて得られた。
図12】アノード電極を正極とし、構成1を使用した2.0%v/vのCo触媒を有する30重量%KОH水溶液中でのクロノポテンショメトリーデータ。このデータは図11の説明で詳述した実験の続きである。図11で詳述した一連の実験の後に、0.50%v/vのCo触媒を有する30重量%KOH水溶液中で0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を3回(図示せず)行った。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で0.75%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を5回(図示せず)電解装置で操作した。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で1.25%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を3回(図示せず)電解装置で操作した後、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回各電流(0.1、0.2、0.3、0.4及び0.5)を10分間ずつ印加(図示せず)した後、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(図示せず)電解装置で操作した。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で2.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を3回(図示せず)電解装置で操作した後、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回各電流においてそれぞれ9分間印加(図示せず)した後、0.3Aで16時間のクロノポテンショメトリー(黒線)を行う前に、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(図示せず)電解装置で操作した。0.5%のCo触媒を使用した図11に示されたデータと比べ、電圧の低下が観測される。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)において24時間かけて得られた。
図13】0.25%、0.75%、1.5%、2.0%及び4.0%のFeNi触媒を有する30重量%KOH水溶液中で異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー操作を構成3のプロセスに使用した。初めにアノード電極を正極とし、無触媒で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(図示せず)電解装置で操作した後、アノード電極を負極に切り替えた。アノード電極を負極とし、無触媒で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った(正方形、最も電圧の低い結果を示す)。次に0.25%v/vのFeNi触媒を有する30重量%KOH水溶液中で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(菱形、最も電圧の低い結果を示す)電解装置で操作した。FeNi触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で0.75%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回(三角形、最も電圧の低い結果を示す)電解装置で操作した。FeNi触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で1.5%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った後、0.3Aで15時間のクロノポテンショメトリー(図14に示す)を行い、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回(斜めの十字、最も電圧の低い結果を示す)行った。FeNi触媒の濃度を30重量%KOH水溶液中で2.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(星印、最も電圧の低い結果を示す)行い、次に4.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った後、0.3Aで23時間のクロノポテンショメトリー(図15に示す)を行い、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回(十字、最も電圧の低い結果を示す)行った。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A及び0.5Aでそれぞれ2分間かけて得られた。
図14】アノード電極を負極とし、1.5%v/vのFeNi触媒を有する30重量%KОH水溶液中でのクロノポテンショメトリーデータ。セル電位の低下はクロノポテンショメトリー中に触媒が析出したことを示唆する。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で16時間かけて得られた。実験の前歴については図13の説明を参照。
図15】アノード電極を負極とし、4.0%v/vのFeNi触媒を有する30重量%KОH水溶液中でのクロノポテンショメトリーデータ。1.5%のFeNi触媒を使用した図14のデータと比べ、電圧の低下が観測される。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で23時間かけて得られた。実験の前歴については図13の説明を参照。
図16】様々な電流レベルで体積当たり2.0%のCo、2.0%Co/0.25%FeNi及び2.0%Co/0.75%FeNi触媒を有する30重量%KOH水溶液中でのクロノポテンショメトリーデータ。このデータの一式は図12の説明で詳述した実験の続きである。図12の説明で詳述した一連の実験の後に、アノード電極を正極として、30重量%KOH水溶液中に0.20%v/vのCo触媒を使用する溶液を用いて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回(図示せず)行った後、アノード電極を負極として0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(正方形、最も電圧の低い結果を示す)行った。次に30重量%KOH水溶液に0.25%v/vのFeNiを添加して2.0%Co及び0.25%FeNiの両方を有する溶液を調製し、アノードを負極として0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(菱形、最も低い電圧の結果を示す)行った後、アノード電極を負極とし、0.3Aで1時間のクロノポテンショメトリー(図示せず)を行った。次に30重量%KOH水溶液に0.75%v/vのFeNiを添加して2.0%Co及び0.75%FeNiの両方を有する溶液を調製し、アノードを負極とし、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(三角形、最も低い電圧の結果を示す)行った後、アノード電極を正極に切り替えて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(斜めの十字、最も電圧の低い結果を示す)行った。これは電解質中に存在する2種の異なる触媒を同時に利用したことを示す。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A及び0.5Aでそれぞれ2分間かけて得られた。
図17】構成3のデータ。このデータの一連は図13、14及び15の説明で詳述した実験の続きである。アノード電極を負極とし、触媒を有しない溶液でのベースライン(正方形)は4.0%v/vのFeNi溶液(菱形)データと同様に、図13で示したものと同じである。図13、14及び15の説明で詳述した一連の実験の後に、4.0%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液を電解装置から排出し、2.0%v/vのCoを有する30重量%KOH水溶液に交換した。アノード電極を正極に切り替え、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(図示せず)行った後、0.3Aで76時間クロノポテンショメトリー(図示せず)を行い、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回(三角形、最も電圧の低い結果を示す)行った。次に2.0%v/vのCoを有する30重量%KOH水溶液を電解装置から排出し、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)に交換した。アノード電極を正極とし、222時間の経過時間で0.3Aのクロノポテンショメトリー(図18は41~167時間を示す)を行った後、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行い、各電流を10分間印加しながら0.1~2.0Aのクロノポテンショメトリー運転を1回(斜めの十字、0.1~0.5Aを示す)行った。アノード電極を正極とし、更に336時間の0.3Aのクロノポテンショメトリー(図19は最後の168時間を示す)を行った後、各電流を10分間印加しながら0.1~2.0Aのクロノポテンショメトリー運転を1回(星印、0.1~0.5Aを示す)行った。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、特に断りのない限り、0.1Aで6分間、その後に0.2A、0.3A、0.4A及び0.5Aでそれぞれ2分間かけて得られた。
図18図17の説明で詳述したアノード電極を正極として、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)を用いた操作。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で126時間かけて得られた。実験の全ての前歴については図13、14、15及び17の説明を参照。
図19図17の説明で詳述した、アノード電極を正極として、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)を用いた操作。実験の全ての前歴については図13、14、15及び17の説明を参照。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で168時間かけて得られた。
図20】アノード電極を正極として0.25Acm-2の電流密度を222時間(正方形)及び558時間(菱形)をかけたクリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)を用いた、様々な電流レベルにおけるクロノポテンショメトリーデータ。実験の全ての前歴については図13、14、15及び17の説明を参照。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて得られた。各電流(0.1Aから2.0Aまで)は10分間ずつ印加した。
図21】アノードを正極として、30重量%KOH水溶液中に4%v/vのFeNi触媒を用いた析出を示す構成1のクロノポテンショメトリー。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)において72時間かけて得られた。点線は、同じシステムで電解質にいずれの触媒も有さない、被覆のないNiメッシュ電極の一般的な性能の例を示す。
図22】アノード電極を正極とした、図21の説明で詳述した析出の後の、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)を用いたクロノポテンショメトリーデータ。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で297時間かけて得られた。
図23】4.0%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液中に0.25Acm-2で72時間かけて析出させ、クリーンな電解質(触媒が添加されていない電解質)を0.3A(0.25Acm-2)で425時間(正方形)、1394時間(三角形)及び5361時間(円)操作した後の、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)での様々な電流レベルにおけるクロノポテンショメトリーデータ。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて得られた。各電流(0.1Aから2.0Aまで)は10分間印加した。
図24】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するセパレーター電極接合体(SEA)のカソード側の走査電子顕微鏡写真。SEAの形成において、図に示すように触媒は電極を被覆し、セパレーター上に延出している。SEAは、電気伝導体(ニッケルメッシュ)、触媒及びセパレーターの間の密接な接続を提供する。触媒はニッケルメッシュ電極とセパレーターの間に橋を形成する。この種類の構造は、電極及びセパレーターの両方が存在する状態において、触媒が析出したときにしか形成されない。電極が単独で触媒に被覆される場合は形成できない。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図25】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するSEAのカソード側の走査電子顕微鏡写真。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図26】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するSEAのカソード側を被覆する触媒の走査電子顕微鏡写真。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図27】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するSEAのカソード側を被覆する触媒の走査電子顕微鏡写真。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図28】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するSEAのアノード側を被覆する触媒の走査電子顕微鏡写真。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図29】ニッケルメッシュ電極及びZirfon UTP 500+セパレーターを有するアルカリ電解装置を形成するSEAのアノード側を被覆する触媒の走査電子顕微鏡写真。実験の全ての前歴については実施例2、並びに図13、14、15及び17の説明を参照。
図30図21の説明で詳述した析出の後の、アノード電極を正極とし、クリーンなKOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)での長時間のクロノポテンショメトリーデータ。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて0.3A(0.25Acm-2)で5,361時間(円)かけて得られた。0.3A(0.25Acm-2)におけるクロノポテンショメトリーの後、1Acm-2で859時間かけて電解装置を操作した(星印)。示されたプロットは、全時間にわたるクリーンなKOHを用いた寿命試験である。一部の不規則さは短時間の停電に関連する。
図31】触媒と電極の間の結合の性質を測定するため、様々な条件下でのニッケルメッシュサンプル(カソードとアノードは約1mmの隙間で離れている)の異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー。サンプルは、4%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液中で2時間析出させることで作製した。4%v/vのFeNiを含有する電解質をクリーンな電解質に交換する前に、異なる電流レベルのクロノポテンショメトリーを行った(円)。別のクロノポテンショメトリーの一式をクリーンな電解質で行った(三角形)。電極を、クリーンなKOHに再び浸す前に、液体電解質から10分間取り除いた。最後のクロノポテンショメトリーの一式を行った(X字)。ベースライン(正方形)は、被覆する前のニッケルメッシュサンプルのデータである。
図32】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュアノードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは250μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図33】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュアノードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは25μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図34】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュアノードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは5μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図35】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュカソードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは250μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図36】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュカソードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは25μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図37】実施例12で記載した析出環境にさらされたニッケルメッシュカソードのSEM顕微鏡写真。スケールバーは5μm。ボックス挿入部はEDSで分析した範囲を示す。
図38】電位の印加をせずに、4%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液中に浸すことで作製されたニッケルメッシュサンプル(図40aに示すようにカソードとアノードは約1mmの隙間で離れている)の異なる電流レベルにおけるクロノポテンショメトリー(円)、及び電位を印加して、4%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液中に浸すことで作製されたニッケルメッシュサンプルの一般的な性能(三角形)。ベースライン(正方形)は、被覆する前のニッケルメッシュサンプルのデータである。
図39図21、22、23及び30に示すクロノポテンショメトリーデータに続く、アノード電極を正極として、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒が添加されていないKOH溶液)を用いたクロノポテンショメトリーデータ。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて1.2A(1Acm-2)で411時間かけて得られた。
図40A】電解質を循環させる撹拌子を用いて電解質に浸漬されるアノード電極及びカソード電極を示すアルカリ電解テストセルの概略図。
図40B】ゼロギャップ構成である、アノード電極及びカソード電極に挟まれたセパレーターを示すアルカリ電解テストセルの概略図。
図41】ベースラインデータ、4%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液電解質による初期の析出データ、及び経時的な電圧の上昇後クリーンな電解質への4%v/vのFeNiの添加による再生を示す、ゼロギャップ構成のアルカリ電解テストセルでのクロノポテンショメトリーデータ。
【発明の詳細な説明】
【0013】
本明細書で開示されるものは、電気化学反応が生じる間に電極上に触媒を析出させ、電解装置スタックのシャットダウン、分解又は再組立を必要とせずに当該スタック内で触媒を再生するための方法、システム及び組成物である。本明細書に記載された方法は、アルカリ電解装置内で電極上に未使用の触媒を適用することを可能にする。本技術はスタック製作コストを大幅に削減でき、電解装置スタックの現場再生を可能とし、スタックの効率を改善することができる。本技術は電解装置の全体の資本コストを大幅に削減できる可能性があり、またシステムの全体寿命においてスタックの効率が高い状態のままであることを保証するための定期的な触媒の再生を可能にする。
【0014】
本明細書に記載された方法の幾つかの実施形態もまた電解装置内の液体反応混合物中で働く固体触媒として触媒が機能することを可能とするため、電解装置内で不均一触媒作用を可能とする。これにより電気化学スラリー反応器としての電解装置スタックの操作が可能である。このモードは析出した触媒を用いた電解と独立又は並行して行うことができる。更に、電気化学スラリー反応器としての操作、触媒の析出、及び析出した触媒を用いた操作は全て独立して又は同時に行うことができる。同時操作は、操作中の触媒の自己再生を可能にする。
【0015】
アルカリ電解装置は水を酸素分子及び水素分子に転化するためのシステムである。一般的なアルカリ電解装置の操作を図1に示す。HERはカソード(すなわち、電解装置内の負に帯電した電極)で発生する。カソードでは、半反応で記載されるように、水が分解されて水素が生成される:
4HO + 4e → 2H + 4OH 式1
OERはアノード(すなわち、電解装置内の正に帯電した電極)で発生する。アノードでは、半反応で記載されるように、水酸化物イオンが酸素に転化される:
4OH → 2HO + O + 4e 式2
アノード及びカソード電極並びにアノードとカソードに挟まれたセパレーター(図2A)をそれぞれ備えた繰り返しセルからなるスタックを組み立てる前に、電極の片方又は両方が電気触媒で通常被覆される。操業のための周辺機器に一旦組み込まれると、スタックは通常保守点検ができず、経時で効率が低下するため、最終的には交換しなければならない。
【0016】
酸素への水の酸化は複雑な4電子/4プロトン移動を介して生じるため、ОER用の触媒の開発は特に難しく、多くの材料は触媒作用を促進するためにかなりの過電圧を必要とする。したがって、OERは通常、全体の水分解効率を制限する半反応である。
【0017】
本発明の幾つかの実施形態において、OER電気触媒はNi、Fe、Co、Mo、W、Cu、Mn、Ti、La、Sc、V、Y、Zr、Nb、Sr、Ba、Rb、Cs、In、Ce、Cr、Sb、Pb、Bi、Se、B、P、S、N、C、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Os、Au、Ir、Pt又はそれらの任意の組み合わせから構成される。幾つかの実施形態においてOER電気触媒は前述のいずれかの1種、2種、3種又は3種より多くから構成される。幾つかの実施形態において、OER電気触媒は2種、3種又は3種より多くの異なるOER電気触媒から構成される。
【0018】
幾つかの実施形態において、OER触媒は貴金属から構成されてもよい。例示的な貴金属はRu、Rh、Pd、Ir、Pt又はそれらの組み合わせを含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、OER電気触媒は金属電気触媒、金属酸化物電気触媒、金属オキシ水酸化物電気触媒、金属硫化物電気触媒、金属硫酸化物電気触媒、金属酸化物-硫化物電気触媒又はそれらの任意の組み合わせから構成されてもよい。幾つかの実施形態において、金属電気触媒、金属酸化物電気触媒、金属オキシ水酸化物電気触媒、金属硫化物電気触媒、金属硫酸化物電気触媒又は金属酸化物-硫化物電気触媒は、非貴金属から構成される。
【0020】
HERはエネルギー消費がより少ない、2電子移動反応である。幾つかの実施形態において、HER電気触媒はNi、Fe、Co、Mo、W、Cu、Mn、Ti、La、Sc、V、Y、Zr、Nb、Sr、Ba、Rb、Cs、In、Ce、Cr、Sb、Pb、Bi、Se、B、P、S、N、C、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Os、Au、Ir、Pt又はそれらの任意の組み合わせから構成される。幾つかの実施形態においてHER電気触媒は前述のいずれかの1種、2種、3種又は3種より多くから構成される。幾つかの実施形態において、HER電気触媒は2種、3種又は3種より多くの異なるHER電気触媒から構成される。
【0021】
幾つかの実施形態において、HER電気触媒は貴金属から構成されてもよい。例示的な貴金属はPt又は他の白金族元素を含む。
【0022】
幾つかの実施形態において、HER電気触媒は金属電気触媒、金属酸化物電気触媒、金属オキシ水酸化物電気触媒、金属硫化物電気触媒、金属硫酸化物電気触媒、金属酸化物-硫化物電気触媒又はそれらの任意の組み合わせから構成されてもよい。幾つかの実施形態において、金属電気触媒、金属酸化物電気触媒、金属オキシ水酸化物電気触媒、金属硫化物電気触媒、金属硫酸化物電気触媒又は金属酸化物-硫化物電気触媒は、非貴金属から構成される。
【0023】
幾つかの実施形態において、金属オキシ水酸化物電気触媒は1種、2種、3種又はそれより多くの金属前駆体を含む。電気触媒前駆体化合物の金属は特に限定されない。幾つかの実施形態において、金属は遷移金属である。鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)のような3d遷移金属を含む、様々な遷移金属を使用してもよい。しかし、他の遷移金属、例えばタングステン(W)を使用してもよい。ポスト遷移金属及びメタロイドのような13~16族の他の金属も使用してもよい。これらには例として、In、Sb、Pb及びBiが含まれる。
【0024】
他の実施形態において、金属オキシ水酸化物電気触媒は、Ni、Fe、Co、W、Cu、Mn、Mo又はそれらの任意の組み合わせのオキシ水酸化物を含んでもよい。幾つかの実施形態において、金属オキシ水酸化物電気触媒はNi、Fe、Co、W、Cu、Mn及び/又はMoの1種、2種、3種又は3種より多くから構成されるオキシ酸化物である。幾つかの実施形態において、金属オキシ水酸化物電気触媒は2種、3種又は3種より多くの異なる金属オキシ水酸化物電気触媒を含む。
【0025】
幾つかの実施形態において、金属酸化物電気触媒は、Ni、Fe、Co、W、Cu、Mn、Mo又はそれらの任意の組み合わせの酸化物を含んでもよい。幾つかの実施形態において、金属酸化物電気触媒は、Ni、Fe、Co、W、Cu、Mn及び/又はMoの1種、2種、3種又は3種より多くから構成される酸化物である。幾つかの実施形態において、金属酸化物電気触媒は2種、3種又は3種より多くの異なる金属酸化物電気触媒を含む。
【0026】
他の実施形態において、金属硫化物電気触媒はNi、Fe、Co、W、Cu、Mn、Mo又はそれらの任意の組み合わせの硫化物を含んでもよい。幾つかの実施形態において、金属硫化物電気触媒は、Ni、Fe、Co、W、Cu、Mn及び/又はMoの1種、2種、3種又は3種より多くから構成される硫化物である。幾つかの実施形態において、金属硫化物電気触媒は2種、3種又は3種より多くの異なる金属硫化物電気触媒を含む。
【0027】
例示的な金属オキシ水酸化物電気触媒及びその製造方法は米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に開示されている。金属オキシ水酸化物電気触媒の一部はHER又はOERに適しており、一部はHER及びOERの両方に適した二機能性の活性を有する。二機能性HER-OER触媒はCo、Ni、Fe又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0028】
本明細書で開示される電解装置、反応器及び方法において使用される電気触媒は、アルカリ電解質中で提供される。アルカリ電解装置は約20~45重量%のKOH、NaOH又はLiOH水溶液電解質の範囲で動作する傾向がある。幾つかの実施形態において、アルカリ電解質は25~32重量%のKOH、NaOH又はLiOH水溶液電解質から構成される。好適には、アルカリ電解質は約30重量%KOHを含んでもよい。
【0029】
本明細書に記載される電解質は効果的な量の1種又はそれより多くの電気触媒を含んでもよい。効果的な量の電気触媒は、所望の効果を達成するための電気触媒の量である。幾つかの実施形態において、所望の効果は、所与の電流密度における水素発生反応又は酸素発生反応に要する電圧を低下させることである。幾つかの実施形態において、所望の効果は、電極及び/又はセパレーター上に電気触媒が析出することでもよい。幾つかの実施形態において、所望の効果は、電気化学スラリー反応器としての電解装置スタックの動作でもよい。幾つかの実施形態において、所望の効果は、異なる所望の効果の組み合わせでもよい。電気触媒の効果的な量は電極触媒の組成、電解質の組成、電極触媒の粒径、電解装置の動作構成又は反応器システムの動作構成を含むが、これらに限定されない多くの異なる要因に依存し得る。
【0030】
幾つかの実施形態において電気触媒の効果的な量は約0.1~10.0%v/vでもよいが、より高い量の電気触媒もまた使用してもよい。好適には、効果的な量は約1.0~2.0%v/v、2.0~3.0%v/v、3.0~4.0%v/v、4.0~5.0%v/v、5.0~6.0%v/v、6.0~7.0%v/v、8.0~9.0%v/v又は9.0~10.0%v/vでもよい。
【0031】
電解質は電気触媒を含む懸濁液でもよい。幾つかの実施形態において、電解質中に懸濁された電気触媒の有効粒径は、約1nm~約10ミクロンであってもよく、これらの範囲の全ての値を含む。有効粒径は、当業者によって決定されることができ、例えば、状況に応じて、平均値、最頻値、中央値又は粒径分布であってよい。
【0032】
水性懸濁液中の電気触媒は、水性電解質で動作する電解装置内のインサイチュー析出及び利用と比類なく相性が良い。アルカリ溶液中におけるこれらの安定性のために、金属オキシ水酸化物(例えば米国特許第10,196,746号、同第10,961,631号)は、この方法によるアルカリ電解装置での使用に特に適している。
【0033】
電解質は以下のように調製してもよい。電気触媒は不均一触媒粒子を含む水性懸濁液として調製してもよい。100mL中の触媒粒子の質量は通常0.01gから100gの範囲であるが、水性懸濁液中における触媒の正確な量は本発明に重要ではない。電気触媒は米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に開示されているように準調製してもよい。これらの方法を使用する場合、電気触媒に加えて、硝酸ナトリウムもまた0.01~1Mの範囲で水性懸濁液中に存在してもよい。本方法で使用する金属前駆体化合物(例えば金属硝酸化物、金属亜硝酸化物、金属亜硫酸化物、金属硫酸化物、金属亜硫酸化物、金属スルファミン酸化物のような金属塩)及びゲル化剤(例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の重炭酸塩のような塩化合物)に応じて、他の副生成物もまた水性懸濁液中において存在してもよい。未反応の金属前駆体化合物及び/又はゲル化剤もまた水性懸濁液中において存在してもよい。実施例に記載されたvol%は液体100mL当たり約0.1~10gの触媒を含む水性触媒懸濁液を用いて得られている。この懸濁液を30重量%KOHのような水性電解質と混合して、報告されたvol%が得られる。例えば、30重量%KOH水溶液中における4.0%v/vFeNiオキシ水酸化物触媒の場合(実施例1及び2で報告されるような)、液体100mL当たり約1gの触媒を含む4mLの水性懸濁液を、30重量%KOHを含む96mLの水性電解質と混合した。他の触媒は、水又は他の溶液中に懸濁液として様々な濃度で混合することができ、又は触媒を水性電解質に直接添加できた。触媒と液体又は気体との様々な混合物は、電流を流す間に電解装置スタックを通して再循環させることができる限り、本発明の範囲内である。これは、広範囲の触媒及び/又は触媒の液体溶液/懸濁液を用いて達成することができる。
【0034】
本明細書に開示される方法は、電気化学反応が生じている間に、電気触媒材料をインサイチューで電解装置スタック内又は反応器内において析出させ、利用する方法である。本明細書に開示される技術は、スタックを開けることや分解することを必要とせずに、電解装置スタックの内部で触媒を析出させることを可能とする。本明細書に開示される技術は、電解質中に触媒を循環させながら電解装置の動作を可能とする。
【0035】
幾つかの実施形態において、電解装置内における電極の片方又は両方はセパレーターに接触又は接近しており、それによってセパレーター電極接合体(SEA)を形成することが可能である。セパレーターはアノードとカソードの間に位置する透過性又は半透過性材料であり、電極が離れた状態を維持し、回路の電気的な短絡を防ぎ、生成ガスの混合を防ぎ、電極間のイオン電荷キャリアの輸送を可能とする役割を果たす。セパレーターは、通常の動作条件下において、電極材料と同じように、電解質及びそのイオン電荷キャリアに関して化学的及び電気化学的に安定であるべきポリマー材料を含んでもよい。
【0036】
本技術での使用に適したセパレーターは、アルカリ水電解条件下で使用するものを含む。セパレーターはオープンメッシュを含んでもよく、任意に1種以上のポリマー又は無機酸化物で対称的又は非対称的に被覆されてもよい。例示的なセパレーターとしては、実施例で使用したZirfon UTP 500+セパレーターのように、ポリマー及び酸化ジルコニウムの混合物で対称的に被覆されたポリフェニレンスルファイド布帛のオープンメッシュから構成されたものが挙げられる。本開示技術での使用に適した他のセパレーターは、Zirfon UTP 220、プレーンアスベスト、ポリマー強化アスベスト、ポリテトラフルオロエチレン結合チタン酸カリウム、ポリマー結合ジルコニア、ポリフェニレンサルファイド、Fortron(登録商標)、TorconTM、Ryton(登録商標)、ポリベンゾイミダゾール系ポリマー電解質膜、アニオン交換膜、Fumasep FAA-3、Aemion+TM及びSustainion(登録商標) X37を含む。
【0037】
電解質及び/又はイオンをセパレーターに浸透させるため、セパレーターに接触する電極は、電極を貫通する開口部を有してもよい。電極を貫通する開口部は、セパレーターの表面上の電解質が露出する領域を画定する。幾つかの実施形態において、電極は複数の交差する導電性のワイヤーから構成されるメッシュである。複数の交差する導電性ワイヤーは、正方形、長方形、菱形、三角形、六角形又は他のパターンに編まれてもよい。他の実施形態において、複数の交差する導電性ワイヤーはパターンを全く有さない。他の例示的な電極としては、導電性材料内の複数の細孔から形成されるフォーム、穴の開いた又はスロット状の導電性プレート、及び膨張した導電性の金属が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
図2B及び図2Cはインサイチュー電気触媒析出後のSEAを図示する。SEAは、セパレーター100と接触する、直角に交差する導電性ワイヤーを備えた電極110から構成される。電極110を貫通する開口部は、電解質の通過を可能にし、セパレーター100の表面に電解質が露出する領域を画定する。電気触媒のインサイチュー析出の間、電気触媒120は電極110及びセパレーター100の両方に析出してもよい。これにより、電気触媒120はセパレーター100と直接接触することが可能となる。
【0039】
インサイチュー析出の間、触媒は電極を被覆し、電極とセパレーターの間に橋を形成し、図24のSEM画像に示すようにセパレーター上に延出する。SEM画像は、触媒がセパレーターだけでなくメッシュも被覆することを示す。SEAは導電体、触媒及びセパレーターの間の密接な接続を提供する。この種類の構造は、電極及びセパレーターの両方が存在する状態において、触媒が析出したときにしか形成されない。電極が単独で触媒に被覆される場合は形成できない。
【0040】
実施例で示されているように、電極及びセパレーター上における析出がシステムの性能を向上させる。反応の駆動に必要な電子は、触媒に密接に接触する電極から供給されるため、効率的な電子移動が行われる。触媒はセパレーターにも密接に接触するため、OHイオンが電子化学反応中に生成/消費されることから、OHイオンをセパレーターを介して効率的に送り、受け取ることのできる位置にある。
【0041】
水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はそれらの任意の組み合わせは、電極、フローフィールド、セパレーター又はそれらの任意の組み合わせ上に析出してもよい。
【0042】
本明細書に記載された電解質は、様々な電圧又は電流密度において利用してもよい。電圧又は電流密度は、ガス発生反応及び/又は電気触媒の析出を可能にするように選択してもよい。
【0043】
例えば、1.23~3Vの範囲の単セル電圧を0.1~5A/cmの電流密度で使用してもよい。電解装置内において、この条件下ではHERとOERは同時に生じる。
【0044】
析出には同様の電圧及び電流の範囲を使用してもよい。実施例で示したように、0.25A/cmの定電流操作において析出が達成された。これには通常、約1.75Vの電圧が必要とされる。カソード電極はアノード電極に対して-1.75Vの電位にバイアスされてもよく、アノード電極はカソード電極に対して+1.75Vの電位にバイアスされてもよい。導線を切り替えると、カソード電極はアノード電極に対して+1.75Vの電位にバイアスされ、アノード電極はカソード電極に対して-1.75Vの電位にバイアスされる。カソードとアノードの電位の符号は常に反対で、正の電位はアノード(酸化)電流を生じさせ、負の電位はカソード(還元)電流を生じさせる。
【0045】
本明細書に開示されるインサイチュー方法では、析出及びHER/OERを同時に達成してもよい。
【0046】
一実施形態において、アルカリ電解装置は懸濁した触媒を再循環電解質に混合した電気化学スラリー反応器として操作される。触媒が懸濁したままであることを保証するために、再循環ループに混合リザーバーを含めてもよい。
【0047】
本実施形態において、水に懸濁した触媒は、触媒がアノード又はカソードの表面に接触又は接近するときに、過電圧を減らした水分解を可能にする。予備データはこの機構の証拠を示してもよい。再循環アルカリ電解質中の懸濁した触媒の濃度が高くなるにつれて、所与の電流密度に必要な電圧は低下する。実施例で示したように、0.25Acm-2において複数回の14時間超の時間にわたり、様々な触媒による安定した性能が記録されている。
【0048】
図3は、電気触媒を有する電解質及び単一の再循環ループを用いるアルカリ電気化学スラリー反応器としての電解装置を操作する例示的な方法を図示する。アノード側及びカソード側の両方を通し、触媒を有する電解質を再循環することで、性能を向上させることができる。
【0049】
図4は、2つの別々の再循環ループを用いるアルカリ電気化学スラリー反応器としての電解装置を操作する代替的な実施形態を図示する。別々のポンプにより、HER又は二機能性水素/酸素発生触媒を懸濁した電解質はカソード側に再循環され、OER又は二機能性水素/酸素発生触媒を懸濁した電解質はアノード側に再循環される。
【0050】
他の実施形態において、触媒は、析出に使用される電解装置内又は反応器内においてインサイチューで、電極、フローフィールド、セパレーター又はこれらの任意の組み合わせに析出させることができる。析出は、負又は正のいずれかの電位下で生じることができ、所与の析出ステップのために極性を変えることによって、いずれかの電位下で触媒を析出させることが可能である。例えば、OER触媒にとって最も好ましい析出が負電位下で生じる場合、図5Aに示すように、電解質中にOER触媒を懸濁し、アノード電極に負の電位を印加した状態で電解装置又は反応器を運転することができる。これによりアノード電極を負電位にさせる。
【0051】
次に、電解装置スタック又は反応器を排出することができ、HER触媒を含む電解質で再充填することができる。HER触媒にとって最も好ましい析出が負電位下で生じる場合、図5Bに示すように、カソード電極に負の電位を印加することができる。最後に、HER触媒を懸濁した電解質はクリーンな電解質(触媒の添加がない電解質)に交換することができ、図5Cに示すように、OER触媒及びHER触媒がそれぞれアノード及びカソードを被覆した状態で電解装置を操作できる。実施例は、FeNiOERの析出及びCoHERの析出後、このような操作下で持続的な改善を示す。安定した性能は、0.25Acm-2において100時間超の複数回の運転で記録されており、0.25Acm-2において558時間操作した後のクロノポテンショメトリーデータに性能の劣化は見られない。
【0052】
更に別の実施形態において、図3に示すように、電解装置スタックのアノード及びカソードの両方に触媒を循環させながら、単一のステップにて電解装置スタック内又は反応器内においてインサイチューで、電極、フローフィールド、セパレーター又はそれらの任意の組み合わせに触媒を析出させることで、性能を向上させることができる。析出ステップの後、懸濁した触媒を有する電解質をクリーンな電解質と交換することができ、電解装置は正常に操作される。実施例は、FeNi析出後、このような操作下で持続的な改善を示す。安定した性能は、0.25Acm-2から1Acm-2の範囲の電流密度において合計6,000時間以上である複数回の100時間超の運転で記録されている(例えば、図30参照)。
【0053】
記載された方法は、電解装置スタックを完全に組み立てた状態で行うことができ、このことは、触媒劣化に起因するスタック効率の低下を防ぐための、その場における周期的な再生の可能性を生じさせる。図3又は図4のいずれかに図示するようなアルカリ電気化学スラリー反応器として電解装置を操作する場合、電解質を含む触媒を排出することができ、必要に応じてクリーンな電解質で洗い流すことができ、対応した触媒を含む新鮮な電解質と交換することができる。
【0054】
図5A~5Cに図示するように、OER及び/又はHER析出ステップが行われる並びにクリーンな電解質に交換する前に、電解質を排出することができ、必要に応じてクリーンな電解質で洗い流すことができる。アノード電極が負電位になるいずれかの析出ステップの間、水素と酸素の爆発的混合を避けるために注意が必要である。アノード電極が負電位になると通常酸素を発生する側で水素が発生し、通常水素を発生する側で酸素が発生するためである。
【0055】
図6に図示され、実施例3に記載された、その場における周期的な再生のための装置は、触媒粒子の蓄積及びシステム内の水素及び酸素の混合を防ぐため、主要な電解装置の周辺機器から分離した析出ステップを可能にする。更に、再生前に以前の被覆を清掃する又は除去する必要がある場合、酸性溶液(約1M)に短時間浸すことができる。
【0056】
図6は現場再生装置に組み込まれた例示的な電解装置システムを図示する。図6は電解装置スタック、ポンプ、フィルター、気液分離器及び熱交換器を含む電解装置システムの運転のための主要な再循環ループ(実線)を示す。OER(破線)及びHER(鎖線)の触媒析出ステップのための2つの独立した再循環ループも含まれる。析出及び再生ループは主要なループと全て同じ構成要素を備えてもよく、触媒粒子を除去することで析出工程を妨害しうるフィルターを除外してもよい。2つの独立した再循環ループは、主要な循環ループと異なるサイズの構成要素を含んでもよい。2つの独立した再循環ループは、異なる構成要素の配置を有してもよい。システム全体のいたる所にある一連のバルブは、3つの異なるモード:電解運転(図6の実線)、OER析出/再生(図6の破線)及びHER析出/再生(図6の鎖線)の操作を可能とする。電解運転では、バルブ1、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17を閉じ、残りのバルブを開く必要がある。これにより電解質は主要なシステムのみを通して流れることが可能となる。再生手順に移行する場合、バルブ1を開くことでリザーバーに電解質を排出してもよい。必要に応じてバルブ16を使用して、クリーン電解質リザーバーを排出し、新鮮でクリーンな電解質(触媒が添加されていない電解質)で充填してもよい。
【0057】
電解質中に懸濁したOER触媒を、主要な再循環ループ又はHER析出/再生ループと混合することなく、リザーバーからポンプで送り込めるように、バルブ4、7、8、9及び10を開き、バルブ1、2、3、6、12、13、15、16及び17を閉じる。一旦システムが電解質中に懸濁したOER触媒で充填されると、バルブ7を閉じることができ、関連する電流密度において析出/再生の完了に必要な時間でシステムを操作することができる。リード線は、アノード電極が正電位又は負電位のいずれかになるように、このプロセス用に配置してもよい。最後に、バルブ7を開くことができ、電解質中に懸濁したOER触媒をリザーバーに排出し戻してもよい。OER触媒リザーバーは、必要に応じてバルブ15を使用して排出し、電解質中に懸濁した新鮮なOER触媒を再充填してもよい。更に、OER触媒リザーバータンクは、析出/再生のために触媒をシステムにポンプで送り込む場合、触媒が電解質中に十分に懸濁されることを保証するためのミキサーを装備してもよい。
【0058】
電解質中に懸濁したHER触媒を、主要な再循環ループ又はOER析出/再生ループと混合することなく、リザーバーからポンプで送り込めるように、バルブ3、11、12、13及び14を開き、バルブ1、2、4、5、8、9、10、15、16及び17を閉じる。一旦システムが電解質中に懸濁したHER触媒で充填されると、バルブ11を閉じることができ、所望の電流密度において析出/再生の完了に必要な時間でシステムを操作することができる。リード線は、カソード電極が正電位又は負電位のいずれかになるように、このプロセス用に配置してもよい。最後に、バルブ11を開くことができ、電解質中に懸濁したHER触媒をリザーバーに排出し戻してもよい。HER触媒リザーバーは、必要に応じてバルブ17を使用して排出し、電解質中に懸濁した新鮮なHER触媒を再充填してもよい。更に、HER触媒リザーバータンクは、析出/再生のために触媒をシステムにポンプで送り込む場合、触媒が電解質中に十分に懸濁されることを保証するためのミキサーを装備してもよい。
【0059】
実際に、OER及びHER再循環ループは、主要なシステムに完全に組み込むことができ又は適切な相互接続を用いた周期的な現場再生のための主要なシステムの場所に輸送できる分離スキッドに据え付けることができる。OER触媒及びHER触媒の析出/再生の手順が完了したら、バルブ1を開けることでクリーンな電解質(触媒が添加されていない電解質)をシステム内にポンプで送り込み、さらなる再生が必要になるまで、上記のようにシステムを電解装置として操作することができる。
【0060】
図7は既存の典型的なスタック交換方法に対するインサイチュー析出を用いた操作データの図式的な例を示す。米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に開示された方法を用いて調製された触媒は典型的な電解装置よりも高い効率での操作を可能にし、本技術はまた、高いスタック効率を維持するための頻繁な再生を可能にする。しかし、示した方法は、異なる種類の触媒を用いて使用することができる。典型的な電解装置のスタック効率は、スタックの交換が認められるまで時間の経過とともに徐々に低下する。スタック交換の高い資本コストにより、通常7~10年で10~20%の効率の低下が許容される。図7は10年間隔でのスタックの交換及び操作中の直線的な効率の低下を示す。インサイチュー析出は、図7の一番上の曲線に示される頻繁な再生サイクルによって低下した効率の回復を可能とし、これは低コストで行うことができる。低コストの再生は、電解質中に懸濁した触媒を排出し、電解質中に懸濁した新鮮な触媒と交換することにより、アルカリ電気化学スラリー反応器操作を使用して、所望により行うことができる。
【0061】
アルカリ電気化学スラリー反応器としての運転は、経時的に生じうる触媒の剥離/失活により損失した触媒を電解質中の触媒で交換する自己修復効果を有してもよい。更に、操作中に劣化が観測された場合、電解質に触媒を添加することで自己回復を達成することができる。
【0062】
本明細書に開示される技術は、アルカリ電解装置又は反応器のような特定の電解装置又は反応器の種類に限定されない。好適には、固体酸化物形電解セル(SOEC)、アルカリ交換膜(AEМ)、メンブレンレス、クロルアルカリ、塩酸、尿素、窒素、アンモニア又はCO電解装置のような電解装置にも適用してもよい。更に、本技術は特定の種類の電気化学装置に限定されない。好適には、本技術は、フロー電池又はハイブリッド電気化学装置だけでなく、固体酸化物形燃料電池又はアルカリ燃料電池のような燃料電池に適用してもよい。
【0063】
水素発生反応及び/又は酸素発生反応触媒における初期に生じた触媒の析出に加えて、水素発生反応及び/又は酸素発生反応の継続中に生じる析出は、電解装置の操作中に触媒を自己修復する効果を有する。
【0064】
特に明細に言わない限り又は文脈によって示されない限り、「a」、「an」及び「the」という用語は、「1つ以上」を意味する。例えば、「a molecule」は、「1つ以上の分子」を意味すると解釈されるべきである。
【0065】
本明細書に使用される「about」、「approximately」、「substantially」及び「significantly」は、当業者によって理解され、それらが使用される文脈によりある程度異なる。用語が使用される文脈から当業者にとって明確でない用語の使用がある場合、「about」及び「approximately」は、特定の用語のプラス又はマイナス10%以下を意味し、「substantially」及び「significantly」は、特定の用語のプラス又はマイナス10%超を意味する。
【0066】
本明細書に使用される、「include」及び「including」という用語は、「comprise」及び「comprising」という用語と同じ意味を有する。「comprise」及び「comprising」という用語は、特許請求の範囲に記載された構成要素に更に追加的な構成要素を含めることを許可する「open」移行用語であると解釈するべきである。「consist」及び「consisting of」という用語は、特許請求の範囲に記載された構成要素以外の追加的な構成要素を含めることを許可しない「closed」移行用語であると解釈するべきである。「consisting essentially of」という用語は部分的に閉じており、特許請求の範囲に記載された主題の性質を本質的に変化させない追加的な構成要素のみを含めることを可能にすると解釈すべきである。
【0067】
本明細書に記載された全ての方法は、本明細書にて他に示されていない又は文脈から明らかな矛盾を生じない限り、いずれの適切な順序でも行うことができる。本明細書において提供されるあらゆる全ての実施例又は例示的な文言(例えば、「such as」)の利用は、本発明を単により理解することを意図し、特に特許請求の範囲に記載がない限り本発明の範囲を限定しない。本明細書の文言は、特許請求の範囲に記載されていない要素が本発明を実施するために必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0068】
本明細書に引用される刊行物、特許出願及び特許を含む全ての参考文献は、あたかも各参考文献が参照により組み込まれるように個々にかつ具体的に示され、その全体が本明細書に記載される場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
本発明を実施するための本発明者らに既知の最良の態様を含む本発明の好ましい態様を本明細書に記載する。これらの好ましい態様の変形は、前述の説明を読めば当業者には明らかになるだろう。本発明者らは、当業者がそのような変形を適宜採用することを期待しており、本発明者らは、本明細書に具体的に記載した以外の方法で本発明を実施することを意図している。したがって、本発明は、適用法によって許容されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載された主題の全ての修正物及び等価物を含む。更に、その全ての可能な変形における上述の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別段の記載がない限り又は文脈に明らかな矛盾がない限り、本発明によって包含される。
【本発明の実施形態】
【0070】
[実施形態1]
OH及び電気触媒を含む電解質であって、前記電気触媒は、水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はこれらの任意の組み合わせである、電解質。
[実施形態2]
前記電解質は、所与の電流密度で水素発生反応又は酸素発生反応に必要な電圧を低下させるための有効量の電気触媒を含む、実施形態1に記載の電解質。
[実施形態3]
前記電解質は、前記水素発生電気触媒を含み、前記水素発生電気触媒は金属オキシ水酸化物、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸化物、金属酸化物-硫化物、金属又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態1~2のいずれか1つに記載の電解質。
[実施形態4]
前記電解質は、前記酸素発生電気触媒を含み、前記酸素発生電気触媒は金属オキシ水酸化物、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸化物、金属酸化物-硫化物、金属又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態1~2のいずれか1つに記載の電解質。
[実施形態5]
前記電解質は、前記二機能性水素/酸素発生電気触媒を含み、前記二機能性水素/酸素発生電気触媒は金属オキシ水酸化物、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸化物、金属酸化物-硫化物、金属又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態1~2のいずれか1つに記載の電解質。
[実施形態6]
前記電気触媒は懸濁粒子を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の電解質。
[実施形態7]
前記粒子は、1nm~10ミクロンの有効粒径を有する、実施形態6に記載の電解質。
[実施形態8]
電極であって、前記電極は当該電極を貫通する複数の開口部を備える電極と;
セパレーターであって、前記電極は前記セパレーターと接触しており、前記セパレーターは前記複数の開口部によって画定された電解質露出表面を有するセパレーターと;
電気触媒であって、前記電気触媒は前記電極及び前記セパレーターの前記電解質露出表面の上に析出しており、前記触媒が水素発生電気触媒、酸素発生電気触媒、二機能性水素/酸素発生電気触媒又はそれらの任意の組み合わせである電気触媒と、
を備えるセパレーター電極接合体。
[実施形態9]
前記電極は、複数の交差する導電性ワイヤーから形成されたメッシュを含む、実施形態8に記載のセパレーター電極接合体。
[実施形態10]
前記電極は、前記酸素発生電気触媒又は前記二機能性水素/酸素発生電気触媒を含むアノードである、実施形態8~9のいずれか1つに記載のセパレーター電極接合体。
[実施形態11]
前記電極は、前記水素発生電気触媒又は前記二機能性水素/酸素発生電気触媒を含むカソードである、実施形態8~9のいずれか1つに記載のセパレーター電極接合体。
[実施形態12]
実施形態1~7のいずれか1つに記載の電解質と、電極とを備える、アルカリ電解装置。
[実施形態13]
電解質と、実施形態8~11のいずれか1つに記載のセパレーター電極接合体とを備える、アルカリ電解装置。
[実施形態14]
実施形態1~7のいずれか1つに記載の電解質と、実施形態8~11のいずれか1つに記載のセパレーター電極接合体とを備える、アルカリ電解装置。
[実施形態15]
実施形態12~14のいずれか1つに記載の電解装置と、前記電解装置を通して前記電解質を循環させるように構成されたポンプとを備える、反応器システム。
[実施形態16]
前記ポンプは、反応再循環ループを通して前記電解質を循環させるように構成されている、実施形態15に記載の反応器システム。
[実施形態17]
前記ポンプは、析出再循環ループを通して前記電解質を循環させるように構成されている、実施形態15に記載の反応器システム。
[実施形態18]
前記ポンプは、カソード析出再循環ループを通して前記水素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生触媒を循環させるように構成されたカソード析出ポンプと、アノード析出再循環ループを通して前記酸素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生触媒を循環させるように構成されたアノード析出ポンプとを含む、実施形態15に記載の反応器システム。
[実施形態19]
電気触媒を析出させる方法であって、前記方法は、電極上に前記電気触媒を析出させるために十分な条件下で、電解装置を通して実施形態1~7のいずれか1つに記載の電解質を再循環させることを含む、方法。
[実施形態20]
前記電極は、当該電極を貫通する複数の開口部を備え、前記電極はセパレーターと接触しており、前記セパレーターは、前記複数の開口部によって画定された電解質露出表面を有し、前記電気触媒は、前記電極及び前記セパレーターの前記電解質露出表面の上に析出する、実施形態19に記載の方法。
[実施形態21]
前記電解質は、反応再循環ループを通して再循環される、実施形態19~20のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態22]
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応と同時に生じる、実施形態21に記載の方法。
[実施形態23]
前記電解質は、析出再循環ループを通して再循環される、実施形態19~20のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態24]
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応の前、最中及び/又は後に、前記電解装置のシャットダウン、分解又は再組立を必要とせずに生じる、実施形態23に記載の方法。
[実施形態25]
前記水素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生電気触媒は、カソード析出再循環ループを通して再循環され、前記酸素発生電気触媒又は二機能性水素/酸素発生電気触媒は、アノード析出再循環ループを通して再循環される、実施形態19~20のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態26]
析出は、水素発生反応又は酸素発生反応の前、最中及び/又は後に、前記電解装置のシャットダウン、分解又は再組立を必要とせずに生じる、実施形態25に記載の方法。
[実施形態27]
前記電解装置から前記電解質を排出し、前記電解質を第2の電解質と交換することを更に含み、前記第2の電解質が電極触媒を欠くか又は前記第2の電解質が前記電解質中の前記電極触媒とは異なる電気触媒を含む、実施形態19~26のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態28]
前記電解質を前記第2の電解質と交換した後に、前記電解装置に印加される電圧の極性を反転させることをさらに含む、実施形態27に記載の方法。
【実施例
【0071】
全てのデータは、別段の定めがない限り、80℃、大気圧で操作している間に得られた。
【0072】
実施例1:米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に参照されるFeNiオキシ水酸化物触媒を、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、アノード電極を正極とし、析出を伴うアルカリ電気化学スラリー操作(図3参照)で利用した。FeNi触媒(米国特許第10,196,746号に参照される合成法で得られる懸濁液)を30重量%KOH水溶液に4%v/vで混合し、システム内にポンプで送り出した。この方法を用いて、硝酸ナトリウムも水性懸濁液中に約0.01~1Mの範囲で存在させた。未反応の金属前駆体化合物(硝酸ニッケル及び/又は硝酸鉄)及び/又はゲル化剤(炭酸水素ナトリウム)も水性懸濁液中に存在していてもよい。
【0073】
触媒を含む電解質を電解システムを通して再循環させつつ、0.3A(0.25Acm-2)を72時間印加し(図21)、FeNi触媒を析出させると同時に、被覆されていないニッケルメッシュ電極とクリーンな電解質(触媒の添加がない電解質)を用いた操作と比較して向上した効率で水素及び酸素を生成させた。析出操作の後、4%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液をクリーンな30重量%KOH水溶液(触媒の添加がないKOH水溶液)と交換し、0.3A(0.25Acm-2)を297時間印加した(図22)。クリーンな電解質で425時間、1394時間及び5361時間操作した後、様々な電流レベルでのクロノポテンショメトリーを行った(図23)。電解装置の操作は6,000時間以上継続されており(図30)、電気化学スラリー析出後のクリーンな電解質で良好な安定性を示した。幾らかの不規則さは短時間の停電と関連する。
【0074】
実施例2:米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に参照されるFeNiオキシ水酸化物触媒を、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、アノード電極を負極として利用した。FeNi触媒(米国特許第10,196,746号に参照される合成法で得られる懸濁液)を30重量%KOH水溶液に様々な割合で混合し、システム内にポンプで送り出した。
【0075】
0%、0.25%、0.75%、1.5%、2.0%及び4.0%のFeNi触媒を有する30重量%KOH水溶液で異なる電流レベルでのクロノポテンショメトリーを行った(図13)。この電解装置は、アノード電極を正極として、まず初めに無触媒で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行い(図示せず)、次にアノード電極を負極に切り替えた。アノード電極を負極として、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回、無触媒で行った(図13に最も電圧の低い結果を示す)。次に、30重量%水溶液中に0.25%v/vのFeNi触媒を用いた0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回、電解装置で行った(図13に最も電圧の低い結果を示す)。30重量%KOH水溶液中でFeNi触媒の濃度を0.75%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を4回実施した(図13に最も電圧の低い結果を示す)。30重量%KOH水溶液中でFeNi触媒の濃度を1.5%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を2回行った後に、0.3Aで15時間クロノポテンショメトリーを行い(図14に示す)、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を4回行った(図13に最も電圧の低い結果を示す)。30重量%KOH水溶液中でFeNi触媒の濃度を2.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を2回行い(図13に最も電圧の低い結果を示す)、次に4.0%v/vまで上昇させ、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った後に、0.3Aで23時間クロノポテンショメトリーを行い(図15に示す)、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を行った(図13に最も電圧の低い結果を示す)。
【0076】
この一連の後に、電極上にFeNiが析出しており、4.0%v/vのFeNiを有する30重量%KOH水溶液を電解装置から排出し、2.0%v/vのCo(米国特許第10,196,746号に参照される合成法で得られる懸濁液)を有する30重量%KOH水溶液と交換した。アノード電極を正に切り替え、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を2回行った(図示せず)後に、0.3Aで76時間クロノポテンショメトリーを行い(図示せず)、更に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った(図17に最も電圧の低い結果を示す)。次に、2.0%v/vのCoを有する30重量%KOH水溶液を電解装置から排出し、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒の添加がないKOH水溶液)と交換した。アノード電極を正極として、0.3Aでクロノポテンショメトリーを経過時間222時間(図18は41~167時間目を示す)行った後に、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回、各電流を10分間印加する0.1~2Aのクロノポテンショメトリー運転を1回行った(図17は0.1~0.5Aを示す)。アノード電極を正極として、0.3Aでクロノポテンショメトリーを更に336時間(図19は最後の168時間を示す)行った後に、各電流を10分間印加する0.1~2Aクロノポテンショメトリー運転を1回行った(図17を示す)。
【0077】
クリーンな電解質で合計558時間の操作の後、電解装置を分解すると、一体化したセパレーター電極接合体の形成があきらかとなった(図24及び図25)。アノード電極はセパレーターに接着しており、Zirfon UTP-500+セパレーターから手で剥がさなければならなかったが、カソードはセパレーターに固定されたままであり、アノード及びカソードの両方を走査型電子顕微鏡(SEM、図24~29に示す)で分析した。
【0078】
実施例3:米国特許第10,196,746号及び同第10,961,631号に参照されるCoオキシ水酸化物触媒を、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置にて、アノード電極を正極として、インサイチュー析出に利用した。電解装置は最初に、ベースラインを確立するため、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を4回、無触媒で操作した(図示せず)。Co触媒(米国特許第10,196,746号に参照される合成法で得られる懸濁液)を電解装置内で30重量%KOH水溶液に0.1%v/vで混合した。次に、電解装置を0.1%v/vのCo触媒を有する30重量%KOH水溶液を用いて0.3Aで1時間操作した後に(図示せず)、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回行った(図示せず)。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液で0.25%v/vまで上昇させ、電解装置を0.3Aで24時間操作した後に(図示せず)、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を1回行った(図示せず)。Co触媒の濃度を30重量%KOH水溶液で0.50%v/vまで上昇させ、電解装置を0.3Aで16時間クロノポテンショメトリー(図11)操作する前に0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った(図示せず)。次に、0.50%v/vのCo触媒を有する30重量%KOH水溶液を用いて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を更に3回行った(図示せず)。30重量%KOH水溶液中でCo触媒の濃度を0.75%v/vまで上昇させ、電解装置で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を5回行った(図示せず)。30重量%KOH水溶液中でCo触媒の濃度を1.25%v/vまで上昇させ、電解装置で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を3回行った後に(図示せず)、各電流(0.1A、0.2A、0.3A、0.4A及び0.5A)をそれぞれ10分間印加する0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回操作した後(図示せず)、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回操作した(図示せず)。30重量%KOH水溶液中でCo触媒の濃度を2.0%v/vまで上昇させ、電解装置で0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を3回操作した後に(図示せず)、各電流をそれぞれ9分間印加する0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回操作した後(図示せず)、0.3Aで24時間クロノポテンショメトリーメトリーを操作する前に(図12)、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を1回操作した(図示せず)。次に、アノードを負極に切り替え、2.0%v/vのCo触媒を有する30重量%KOH水溶液を用いて、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を4回行った後(図示せず)、0.1~0.5Aのクロノポテンショメトリー運転を2回行った(図16に最も電圧の低い結果を示す)。次に、30重量%KOH水溶液に0.25%v/vのFeNiを添加して2.0%Co/0.25%FeNiを作製し、アノード電極を負極として0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った後(図16に最も電圧の低い結果を示す)、アノード電極を負極として0.3Aで1時間のクロノポテンショメトリーを行った(図示せず)。次に、30重量%KOH水溶液に0.75%v/vのFeNiを添加して2.0%Co/0.75%FeNiを作製し、アノード電極を負極として0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った後(図16に最も電圧の低い結果を示す)、アノード電極を正極に切り替えて、0.1~0.5Aクロノポテンショメトリー運転を2回行った(図16に最も電圧の低い結果を示す)。
【0079】
実施例4:再循環電解質中の懸濁した触媒の濃度を高めると、図8、10、13及び16に示すように、所与の電流密度に必要な電圧が低下するという結果をもたらす。
【0080】
実施例5:本明細書に開示される方法及びシステムは、図9、11、12、14及び15に示すように、安定した性能を可能とする。
【0081】
実施例6:図17及び20は、0.25Acm-2で558時間操作した後のクロノポテンショメトリーデータに性能の劣化が見られないことを示す。
【0082】
実施例7:図18及び19はインサイチュー析出に続き、クリーンな電解質を用いて複数回にわたり0.25Acm-2で100時間超操作した後の安定した性能を示す。
【0083】
実施例8:図21は、0.25Acm-2で72時間定電流を印加しながら、アノード電極に正電位を印加し、4%v/vのFeNiオキシ水酸化物触媒を有する30重量%KOH水溶液をスタックを通して再循環させたときの析出からの性能の向上を示す。
【0084】
実施例9:図22は、72時間のFeNiの析出の後に、クリーンな30重量%KOH水溶液(触媒の添加がないKOH電解質)を用いた297時間運転で、安定した性能を示す。図23は、72時間のFeNiの析出の後に、クリーンな30重量%KOH水溶液を用いて425時間、1394時間及び5361時間の操作時間が経過した後のクロノポテンショメトリーデータを示す。
【0085】
実施例10:約8.5か月の寿命試験。アノード電極を正極として、30重量%KOH水溶液中で4%v/vのFeNi触媒を用いて、72時間の析出を示す構成1のクロノポテンショメトリーを有する図21のようにサンプルを調製した。システムは排出され、クリーンな30重量%KOH水溶液で再充填された。図30(丸印)に示すデータは、終始クリーンな電解質を用いた寿命試験である。このデータは、ステンレス製のエンドプレート/フローフィールド及び1.2cmNiメッシュ電極を備えたベンチスケールの電解装置で0.3A(0.25Acm-2)にて経過時間5,361時間かけて得られたものである。0.3A(0.25Acm-2)の寿命試験の後に、電解装置は1Acm-2で411時間操作された後(図39)、追加で1Acm-2にて448時間、合計859時間操作された(図30、星印)。幾らかの不規則さは短時間の停電と関連する。
【0086】
実施例11:触媒と電極との間の結合の性質を決定するために、図40Aに示すように、アルカリ電解テストセル中で撹拌しながら、30重量%KOH水溶液中で4%v/vのFeNi触媒を用いて2時間かけて触媒を析出させ、サンプルを作製した。クリーンな電解質と交換する前に、異なる電流レベルでのクロノポテンショメトリーを行った(図31、丸印)。別のクロノポテンショメトリーの一式を、クリーンな電解質で撹拌しながら行った(図31、三角形)。クリーンなKOH電解質に再び浸す前に、電極を10分間液体電解質から取り出した。最後のクロノポテンショメトリーの一式は、撹拌しながら行った(図31、X形)。明らかな電位が存在しないときにKOH電解質から取り出しても、触媒は電極に結合したままであったことから、静電結合だけではない何かが示唆された。
【0087】
実施例12:触媒と電極との間の結合の性質を更に決定するために、様々な濃度で種々の時間をかけてアノードを負電位に保持し、FeNi触媒をインサイチュー析出させた。次にシステムを排出し、30重量%KOH水溶液中の2%v/vのCo触媒で充填した。次にアノードを正電位に保持し、76時間かけてインサイチューでCo触媒をサンプルに析出させた。システムを排出し、クリーンなKOH電解質で再充填し、アノードを正電位に保持したまま558時間運転した。システムを排出し、電極を取り外して超純水で洗浄した。アノードをイメージングのためにSEAから剥がした。SEM及びエネルギー分散型X線分析(EDS)イメージングはアノード側とカソード側の両方で行った。EDSによって分析した範囲をボックス挿入部で示したSEM顕微鏡写真を図32~37に示す。SEM画像及びEDS画像は、FEI Versa 3D Dual Beam SEMを使用して得られた。洗浄したアノード及びカソードに存在するコバルトの割合を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
このデータは、コバルトがアノード及びカソード上の両方にそれぞれ平均8.0±0.84%及び7.7±4.5%存在することを示す。このコバルトは558時間以上運転した後も結合しており、洗浄後もカソード及びアノード上に残ったままでいた。アノードを正電位に保持し、正極のままで析出を行ったが、それにも関わらずコバルトはアノード及びカソード上の両方で観察され、析出の機構は静電力だけによって推進されるわけではないことを示している。
【0090】
実施例13:図40Aに示すように、アルカリ電解テストセルを用いて、電位を印加せずに、4%v/vのFeNi触媒を30重量%KOH水溶液中にて80℃で3時間40分間撹拌してサンプルを作製した。4%v/vのFeNi触媒を含む電解質を取り除き、クリーンな電解質に交換した。クロノポテンショメトリーの一式を行った(図38)。電位を印加せずに作製したサンプルの性能(丸印)と電位を印加して生成したサンプルの典型的な性能(三角形)を比較すると、これらの結果は、電解質中にFeNi触媒が存在する場合、電位を印加していないにも拘わらず性能が向上し、したがって触媒が結合していることを示す。
【0091】
実施例14:FeNi触媒の再生を示すために、図40Bに示すように、アルカリ電解テストセル内で撹拌しながら、30重量%KOH水溶液中で4%v/vのFeNi触媒を用いて析出させることでサンプルを作製した。析出の後、4%v/vのFeNi触媒を含む電解質を取り除き、クリーンな電解質に交換した。図41に示すように、時間の経過とともに電圧の上昇が観察された。クリーンな電解質に4%v/vのFeNi触媒を添加することにより再生が達成され、その結果、図41の約237時間で電圧降下が見られた。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40a
図40b
図41
【国際調査報告】