(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】リチウムリッチなニッケルマンガン酸化物電池のカソード材および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240705BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240705BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240705BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240705BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240705BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M10/0566
H01M10/052
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501148
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 US2022036082
(87)【国際公開番号】W WO2023283168
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524009864
【氏名又は名称】ストラタス・マテリアルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Stratus Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ウィットエイカー,ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】バーク,スベン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB05
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE02
5H029AJ05
5H029AK03
5H029HJ02
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
水中で活物質の粉体をクエンチングすることを含むリチウムイオン電池の正極材のための活性剤を形成する方法。水はその中で溶媒和された添加剤を含んでいてもよい。活物質は層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物を含んでいてもよい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の正極のための活物質を形成する方法であって、前記方法が水中にて活物質の粉体をクエンチングすることを含んで成り、水が該水中で溶解された添加剤を含んで成る、方法。
【請求項2】
クエンチングに先立って活物質の粉体を焼成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活物質が、少なくとも800℃の温度で焼成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水は、クエンチングに先立って室温におかれ、活物質の粉体は少なくとも1750℃/秒の割合でクエンチされることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
活物質は、層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物を含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
過剰なLi、NiおよびMnの原子は、遷移金属結晶格子サイトにて均一および一様に分布しており、3×3×3nmよりも大きな結晶体積が材料中になく、該材料にてバルク材料のNi、MnおよびLiの原子の平均比率と比較して、Ni、MnおよびLiの原子の比率間にて3%よりも大きい差がある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
活物質の粉体の粒子は、約0.1μm~約20μmの範囲の平均サイズを有する凝集体形状であり、活物質の粉体の凝集体が約25nm~約500nmの範囲の平均サイズを有する結晶子で構成されている、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
活物質の粉体は、クエンチング後に六方相および単斜相のコンポジットを含んで成り、LiMO
2 R-3mおよびLi
2MnO
3 C2/m相の組合せ(MはNiまたはMnの少なくとも一方である)を含んで成る、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
活物質の粉体は、主にまたは完全にC2/m対称性を有する結晶構造を有する固溶体を含んで成る、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
活物質の粉体は、主にまたは完全にR-3m対称性を有する結晶構造を有する固溶体を含んで成る、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
活物質は下記の式で表される、請求項5に記載の方法。
Li[Ni
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、0<x<0.5)
【請求項12】
活物質は、実質的にコバルトを含んでおらず、
前記活物質は下記の式で表される、請求項11に記載の方法。
Li[Ni
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、0.19<x<0.26)
【請求項13】
活物質は、実質的にコバルトを含んでおらず、
前記活物質は、下記の式で表される、請求項7に記載の方法。
Li[M
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、0.19<x<0.26、MはNiおよびTi、Fe、AlまたはCrの少なくとも一つを含んで成る)
【請求項14】
添加剤は、酸または炭水化物の少なくとも一方を含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
水は、0.01モル/L~1.0モル/Lの添加剤を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
添加剤は酸を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
酸は、硫酸、クエン酸、酢酸、リン酸、塩酸、リン酸アンモニウム、またはそれらの組合せから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
添加剤は、炭水化物を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
炭水化物は、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロース、またはそれらの組合せから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
負極および電解質をさらに含んで成るリチウムイオン電池セルの正極に活物質を配置することをさらに含み、
活物質は、電池の電気化学的サイクル前に六方相および単斜相を含んで成り、および
活物質の粉体は、電気化学的サイクル後に単斜相を含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項21】
電池セルの比放電容量が、室温で2V~4.8Vの電圧範囲において、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加し、
電池セルは、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクル後に少なくとも230mAh/gの比容量を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
負極、
電解液、および
層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物活物質を含んで成る正極
を含んで成り、
電池セルの比放電容量は、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加し、電池セルは、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクル後に少なくとも230mAh/gの比容量を有しており、
活物質の粉体の粒子は、表面に炭素コーティングまたは不動態化酸素結合の少なくとも一方を有する、リチウムイオン電池セル。
【請求項23】
電池セルの比放電容量は、室温で2V~4.8Vの電圧範囲において、C/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて2回の電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて2回の付加的な電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の付加的な電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加する、請求項22に記載のリチウムイオン電池セル。
【請求項24】
電池セルの平均放電電圧は、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、10%を超えて減少しない、請求項23に記載のリチウムイオン電池セル。
【請求項25】
活物質は、下記の式で表される、請求項22のリチウムイオン電池セル。
Li[M
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、0<x<0.5、MはNiまたはNiとNi、Al、FeまたはCrの少なくとも一つとの組合せを含んで成る)
【請求項26】
活物質は、実質的にコバルトを含んでおらず、
前記活物質は下記の式で表される、請求項25に記載のリチウムイオン電池セル。
Li[M
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、0.19<x<0.26、MはNiを含んで成る)
【請求項27】
活物質は、式y(LiMO
2)・(1-y)LiMnO
3(式中、yは0.8~1の範囲であり、MはNiおよびMnの少なくとも一方を含んで成る)で表される、請求項22に記載のリチウムイオン電池セル。
【請求項28】
活物質の粉体の粒子は、約0.1μm~約10μmの範囲の平均サイズを有する凝集体形状であり、活物質の粉体の凝集体は、約25nm~約500nmの範囲の平均結晶サイズを有する結晶子で構成される、請求項22に記載のリチウムイオン電池セル。
【請求項29】
過剰なLi、NiおよびMnの原子は、遷移金属結晶格子サイトにて均一および一様に分布しており、3×3×3nmよりも大きな結晶体積が材料中になく、該材料にてバルク材料のNi、MnおよびLiの原子の平均比率と比較して、Ni、MnおよびLiの原子の比率間にて3%よりも大きい差がある、請求項22に記載のリチウムイオン電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、リチウムイオン電池のためのカソード材に関し、より具体的にはリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物カソード材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトを含むリチウムイオン電池のカソード材は、現代の電池セルのコストのかなりの割合を占めており、コバルトはコストの主な要因である。コバルトは、サプライチェーンが複雑であり、そのため変動しやすい商品である。
【発明の概要】
【0003】
種々の実施形態によると、リチウムイオン電池の正極用の活物質を形成する方法は、活物質の粉体を水中でクエンチングする(または急冷する、quenching)ことを含む。水は、その中に溶媒和された添加剤を含んでいてもよい。活物質は層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物を含んでいてもよい。
【0004】
別の実施形態では、リチウムイオン電池セルは負極、電解液、および層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物活物質を含んで成る正極を含んで成り、電池セルの比放電容量は、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して(または、超えて)、少なくとも10%分増加し、電池セルは、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクル後に少なくとも230mAh/gのC/20放電レートにおける比容量を有している。活物質の粉体の粒子は、表面に炭素コーティング(carbon coating)または不動態化酸素結合(passivated oxygen bonds)の少なくとも一方を有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本明細書に組込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、本発明の例示的な実施形態を示し、上述の一般的な説明および以下に示す詳細な説明とともに、本発明の特徴を説明するのに供する。
【0006】
【
図1A】
図1Aは、初期の層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物(LLRNMO)の粉体における、インデックス付き正規化および補正XRDパターン(またはオフセットされたXRDパターン)を示す強度(任意単位)対角度2θ(度)のグラフである。
【
図1B】
図1Bは、グラフの上段に、格子定数“a”とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示し、グラフの下段に単相のリートベルトフィッティングを用いて得られた格子定数“c”とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示すものを含む。
【0007】
【
図2A】
図2Aは、式Li[Ni
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、ニッケル含量x=0.25)を有するリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物サンプルの、サイクルを通した比放電容量を示したグラフである。
【
図2B】
図2Bは、25Hqサンプルにおけるコインセルの、フル充電および放電曲線を示している。
【
図2C】
図2Cは、25Lqサンプルにおけるコインセルの、フル充電および放電曲線を示している。
【
図2D】
図2Dは、25Mqサンプルにおけるコインセルの、フル充電および放電曲線を示している。
【0008】
【
図3A】
図3Aは、x=0.17サンプルのサイクルを通した比放電容量を示したグラフである。
【
図3B】
図3Bは、17Hqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【
図3C】
図3Cは、17Lqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【
図3D】
図3Dは、17Mqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【0009】
【
図4A】
図4Aは、x=0.10サンプルのサイクルを通した比放電容量を示したグラフである。
【
図4B】
図4Bは、10Hqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【
図4C】
図4Cは、10Lqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【
図4D】
図4Dは、10Mqサンプルにおけるコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【0010】
【
図5A】
図5Aは、サイクル前後における25HqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、サイクル前後における25LqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5C】
図5Cは、サイクル前後における25MqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5D】
図5Dは、サイクル前後における17HqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5E】
図5Eは、サイクル前後における17LqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5F】
図5Fは、サイクル前後における17MqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5G】
図5Gは、サイクル前後における10HqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5H】
図5Hは、サイクル前後における10LqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【
図5I】
図5Iは、サイクル前後における10MqサンプルのLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【0011】
【
図6】
図6は、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードの、サイクル前後における50k×のSEM顕微鏡写真を含む。
【0012】
【
図7】
図7は、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードのサイクル前後における50k×のSEM顕微鏡写真を含む。
【0013】
【
図8】
図8は、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードのサイクル前後における5k×のSEM顕微鏡写真を含む。
【0014】
【
図9A】
図9Aは、x=0.25サンプルの第一(または最初)充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、x=0.17サンプルの第一(または最初)充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【
図9C】
図9Cは、x=0.10サンプルの第一(または最初)充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【0015】
【
図10A】
図10Aは、x=0.25サンプルの第二充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【
図10B】
図10Bは、x=0.17サンプルの第二充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【
図10C】
図10Cは、x=0.10サンプルの第二充電サイクルにおけるdQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【0016】
【
図11A】
図11Aは、25Hqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)C/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図11B】
図11Bは、25Lqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)C/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図11C】
図11Cは、25Mqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)C/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図11D】
図11Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルの、サイクルを通したサイクルあたりの平均放電電圧を示すグラフである。
【0017】
【
図12A】
図12Aは、17Hqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図12B】
図12Bは、17Lqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図12C】
図12Cは、17Mqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図12D】
図12Dは17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルの、サイクルを通したサイクルあたりの平均放電電圧を示すグラフである。
【0018】
【
図13A】
図13Aは、10Hqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図13B】
図13Bは、10Lqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図13C】
図13Cは、10Mqサンプルの初期(または最初の、もしくは第一)のC/2放電と最終(または最後の)C/2放電を示したグラフである。
【
図13D】
図13Dは10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルの、サイクルを通したサイクルあたりの平均放電電圧を示すグラフである。
【0019】
【
図14】
図14は、R-3m構造および格子定数a’>aを有する25Mqサンプル中の相不純物混入が、25Mqs(104)ピークの左側に見られるような二次ピークをどのように引き起こすかを示す模式図である。
【0020】
【
図15C】
図15Cは、凝集体中の結晶子(例えば結晶子粒)のより高い倍率におけるSEM顕微鏡画像である。
【
図15D】
図15Dは、凝集体中の結晶子(例えば結晶子粒)のより高い倍率におけるSEM顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載されるように、本開示の種々の態様は、例示的な実施形態および/または、本発明の例示的な実施形態が図示された添付図面を参照にして、説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形で具現化され得、図面に示され、または本明細書に記載される例示的な実施形態に限定されると解釈するべきでない。開示された種々の実施形態は、特定の実施形態に関連して記載された特定の特徴、要素またはステップを含み得ることが理解されるだろう。また、特定の特徴、要素またはステップは、特定の一実施形態と関連して記載されているが、図示されていない種々の組合せまたは順列において、代替の実施形態と交換または組合せができ得ることも理解されるであろう。
【0022】
種々の実施形態は、添付図面を参照して詳細に説明されるだろう。可能な限り、同じ参照番号は、図面全体を通して同一または類似部分を参照して、使用されるだろう。特定の例および実施態様への言及は、例示を目的としたものであり、本発明または特許請求項の範囲を限定するものではない。
【0023】
本明細書において、範囲は、ある特定の値の“約”から、および/または別の特定の値“約”までとして表すことができる。このような範囲が表されるとき、実施例はある特定の値から、および/または他の特定の値までが含まれる。同様にして、先行詞“約(about)”または“実質上(substantially)”を用いて、値が近似値として表されているとき、特定の値が別の態様を形成すると理解される。いくつかの実施形態では、“約X”の値は、+/-1%Xの値を含み得る。各範囲の端点は、他の端点との関連においても有意であると共に、他の端点から独立しても有意であることがさらに理解される。
【0024】
本開示の種々の実施形態は、層状リチウムリッチニッケルマンガン酸化物(“LLRNMO”)の、結晶学的に安定で、高い耐久性のある変種(variant)を迅速及び安価に製造する方法を供する。一つの実施形態では、LLRNMO材料は式Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2を有しており、ニッケル含量xは0<x<0.5、例えば0.125≦x≦0.425、好ましくは0.19<x<0.26の範囲である。LLRNMO材料の式を別の方法で書くと、Liz(MnyNi1-y)2-zO2であり、zは1.05よりも大きくかつ1.25未満であり、またyは0.55から0.83の範囲である(すなわち1.05<z<1.25、および0.55≧y≧0.83)。いくつかの実施形態では、LLRNMO材料は、Li:金属酸化物(MnおよびNi金属酸化物)の割合の範囲は、約1.4~約1.6であってもよい。この材料をさらに別の式で表すとy(LiMO2・(1-y)LiMnO3であり、yは0.8~1の範囲であり、MはNiまたはNiとAl、Ti、Fe、またはCrの少なくとも一つとを含む遷移金属の組合せである。すべての場合において、このリチウムリッチなカソード材群が製造されるとき、二相、二相のコンポジット(または複合材料、composite)または、典型的に三方晶LiMO2 R3-m(alpha-NaFeO2構造)型相及び単斜晶Li2MO3- C2/m相の共存の証拠がある固溶体構造のいずれかを通常示し、どちらもLi層と酸素層および遷移金属(およびある過剰Li)層から成る繰り返し層で構成される。この構造中の遷移金属サイトにおけるNi、Mn、およびLiの分布は、合成プロセスに依存していることがわかっている。特定の理論によって拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、遷移金属サイトにおけるLi、Mn、およびLiの原子の分布がより一様であると、より高容量で、より良好な移動速度論、より小さな容量低下、および放電中の平均電圧の損失がより少ないことを示す、電気化学的により安定な材料になると考えている。
【0025】
初期構造(初めて充電される前の状態)のLLRNMO材料は、二つの異なる相(例えば一つは六方相および二つめは単斜相)に一致するX線回折パターンを示している。六方相はまた、六方相として同じ空間グループを有する、菱面体相とも呼ばれる。本開示の実施形態の材料は、コバルトを必要とすることなく(例えばコバルトフリーのカソード材であり得る)、高い(>200mAh/g)比容量、および高い機能的な電位窓(2.0~4.8V)を証明している。一実施形態では、材料を超急速で冷却する水を含んで成る液体中でLLRNMO材料をクエンチングすることで、先に報告された先行技術文献に比べてエネルギー保存のための優れた結晶構造をもたらす。これらの二つの相は、材料内で相の異なる円形領域において共存してよく、または層状/超格子配置にて存在してよい。
【0026】
LLRNMO材料は、それらの構造、および電気化学的挙動についての多くの文献がある。この材料の主な欠点は、低レート能力、および材料が酸素ロスおよびサイクルを通して遷移金属イオン移動(または泳動)するといった構造的不安定さに起因する不十分な容量保持力である。骨格、ドーパント、または表面改質およびLLRNMOへのコーティングなどを用いたいくつかの複雑な合成ルートは、酸素ロスの軽減に役立ち、機能的に良くなる働きをする。さらに最近では、O2-タイプ酸素構造が、望ましくない不可逆の遷移金属イオン移動を阻み、それによって大幅に容量保持力を向上できることが実証されている。
【0027】
このような詳細な構造的研究および関連する高度な合成テクニックにも関わらず、使用される合成ルートに関してほとんど一貫性がない。表1は、LLRNMOカソード材合成ルート、クエンチング・テクニック、これらのサンプルを作成するために使用したx値およびこれらの研究のいくつかの性能指標を示す表である。表1において、“DC”は、放電容量を意味する。
【表1】
【0028】
表1は、通常採用されているLLRNMOカソードの3つの主な合成ルート:沈殿後に燃焼、水熱合成、ゾル―ゲル後に燃焼(本研究ではこれを使用)を示している。表1はまた、通常採用されている前駆体:硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、その他を示している。
【0029】
表1で分かるように、LLRNMOカソードの性能に対するニッケル組成への影響についての研究調査の数は、時間の経過に伴い減少しており、式Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2を有するカソードにおいて、複数のニッケル組成またはx=0.2未満のニッケル組成の研究調査はほとんどない。表1はまた、研究を通して採用された合成ルートにて大きな不一致があることを示している。さらに、LLRNMOカソードの性能に対する合成アプローチの影響に関する詳細な相対的評価を行った研究はほとんどない。LLRNMO材料では、遷移金属の秩序(ordering)および非秩序(disordering)が重要であり得るが、組成および合成テクニックの双方が構造的秩序および非秩序の程度に影響を与えるメカニズムを供し得る。これらの組成的および合成的変化がもたらす電気化学的挙動(例えば、異なる欠陥濃度等)は、LLRNMOカソードの性質に顕著に影響を及ぼし得る。
【0030】
特定の理論によって拘束されることを望むわけではないが、サンプルが液体窒素中でクエンチされたとき、粒子はライデンフロスト効果(Leidenfrost effect)に似た窒素ガスの絶縁領域(または絶縁エンベロープ、insulating envelope)によって直ちに遮蔽され、熱伝達率はかなり減少する。先行文献では、リチウムイオン電池用のリチウム含有カソード材は、水分との接触はもたらさないと考えられているが、それは、カソード材から水分がリチウムを溶出させ、材料上に水酸化物リチウムコーティングを形成するためである。さらに、例えばリン酸鉄リチウムカソード材を含むリチウムイオン電池等のリチウムイオン電池では、水は故障の原因と知られている。
【0031】
対称的に、本発明者らは、水のクエンチングが、LLRNMOカソードに悪影響を及ぼさず、そのようなLLRNMOカソードからリチウム溶出を引き起こさないことを予期せずに究明した。水のクエンチングはバブル核生成および消散の形で気化を引き起こし、実際に、熱伝達率を高めると考えられている。したがって、水によるクエンチングは、液体窒素クエンチングよりおよそ2桁大きい熱伝導率を有していると考えられている。さらに、水およびそれに溶媒和された添加剤(すなわち、水に溶解されていてもよい他の材料)は、クエンチに際して高温のLLRNMOと反応し得、それによりリチウムイオン電池で使う場合に有利な表面終端および/または電気化学的安定および耐久性を向上させるコーティングを形成する。
【0032】
加えて、上述した多くの先行文献でのクエンチルートは、クエンチングにより、より大きなボディ(例えば、センチメートルオーダーの幅を有するボディ)としてそのままの材料のプレス焼結(sintered)または部分焼結されたペレットに対して行われる。対照的に、
図15Aおよび15Bで示す本開示の実施形態では、クエンチングは、20ミクロン以下の平均直径、例えば0.1~20ミクロン(例えば平均直径が0.1~1ミクロンまたは1~20ミクロン)の形状の凝集体である粒子を有するルース・パウダー(loose powder)および/または破砕パウダー(milled powder)に対して行われ、粒子が、クエンチ液体(例えば水)と接触するに際して、すべての材料は急速にほぼ同じ割合(または速度)で冷却される。各凝集体は、
図15C~15Dに示されるように、約25nm~約500nm、例えば50nm~200nmの範囲の平均サイズを有する結晶子から構成される。各結晶子は、LLRNMO材料の単結晶を含んでいてよい。結晶子は、凝集体中で互いに部分的に融着(または溶融)または凝集体中で十分に融着(または溶融)していてよい。仮に結晶子が凝集体中(すなわち粉体粒子中)で十分に融着している場合、各結晶子は、粒界によって同じ粉体粒子中の他の単結晶粒から分離された粉体粒子の単結晶粒を含んで成る。粉体粒子の平均結晶粒サイズは約25nm~約500nm、例えば50nm~200nmの範囲であってよい。
図15Cに示すように、凝集体は、比較的多孔質であってよく、それにより水が凝集体内部の結晶子に到達することを許容する。
【0033】
カソード材の粉体の粒子は、少なくとも50℃/秒、例えば50℃/秒~10,000℃/秒の平均速度(または平均割合)でクエンチされてよい。例えば、カソード材は、87.5℃/秒~8750℃/秒の割合、例えば少なくとも1750℃/秒(例えば4375℃/秒~8750℃/秒を含む1750℃/秒~8750℃/秒)でクエンチされてよい。したがって、カソード材は、少なくとも900℃の焼成(または燃やす、firing)温度(例えば、焼結温度)から水含有クエンチング媒体(例えば、室温における25℃の水槽)の温度まで、10秒以下、例えば0.1秒~10秒、例えば0.2秒以下、例えば0.1~0.2秒を含む0.5秒以下でクエンチされてもよい。別法にて、カソード材は、900℃から室温(例えば25℃)に1~10秒間でクエンチされてよい。クエンチング・プロセスは、粉体が溶解炉環境から取り除かれ、素早くクエンチ槽環境に移動される際に起こる数秒の徐冷速度を含んでいてもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、クエンチ槽中の水は添加剤を含んでいてもよい。一実施形態では、クエンチングは、例えば硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リン酸、オルトリン酸、それらの組合せ、または同種のものなどの酸を、約0.01~約1.0モル/L、例えば約0.1~1.0モル/L、または約0.5~1.0モル/L含む水性クエンチング溶液中で起こるものであってよい。酸は、酸添加剤を含む水中でクエンチされたLLRNMO粉体粒子のダングリング結合および/またはOH末端基と反応および/または不動態化することによって、LLRNMO粒子の表面を安定化させるように構成されているものであってよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、酸クエンチングは、LLRNMO粉体粒子の表面において、スピネル構造(例えば表面層)の形成をもたらし得る。スピネル構造は、粒子を安定化およびリチウム拡散の三次元経路を供するフレームワーク(framework)を形成し得る。特に、酸が、粒子のLiイオンが酸のHイオンと交換され、それに続いて粒子の表面の構造変化がおこり、スピネル表面層が形成され得ると考えられている。
【0036】
別の実施形態では、クエンチング溶液は、酸添加剤に加えてまたは酸添加剤に代えて炭水化物添加剤を含んでいてもよい。例えば、炭水化物は糖、例えば、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロース、それらの組合せ、または同種のものを含み得る。いくつかの実施形態では、クエンチング溶液は、約0.01~約1.0モル/L、例えば、約0.1~1.0モル/L、または約0.5~1.0モル/Lの炭水化物添加剤を含み得る。炭水化物は、炭水化物粒子を含む水におけるクエンチング・プロセスの間において、LLRNMO粉体粒子の表面に親和性のある非晶質炭素コーティングを形成し得る。炭素コーティングは、Liイオンに対しては透過性を有するものであってよく、リチウムイオン電池の電解液に対しては不透過性であってよい。炭素コーティングは、電池の充電または放電中にLLRNMO結晶子中の容量変化が起こることを許容するものであってよい。
【0037】
水のクエンチング・プロセスは、従来のクエンチング法と比較すると、LLRNMO材料をより均一および急速に冷却する操作をし得る。クエンチング・プロセスは、所望の結晶構造および粒子サイズを有するLLRNMO材料粉体を製造し得る。例えば、クエンチされるLLRNMO材料は、約1μm以下の平均粒子サイズ、例えば、約0.02μm~約1μm、または約0.05μm~約0.5μmの範囲を有するルース・パウダーであってもよい。LLRNMO材料は、いくつかの実施形態では、平均結晶サイズが約25nm~約500nm、例えば約50nm~約300nmの範囲を有する結晶相および/または結晶子を含んでいてよい。各粉体粒子は、1つの結晶子または1より多い結晶子を含んでいてもよい。焼結およびクエンチされたルース・パウダー粒子は、バインダー(例えば炭素バインダー)に組込まれていてよく、リチウムイオン電池用のカソード電極を形成し得る。
【0038】
LLRNMO材料(例えば、焼結およびクエンチされたルース・パウダー粒子)は、六方主要相および単斜二次相を有していてよい。したがって、単斜相の含量に対する六方相の含量の割合は、1を超える、例えば少なくとも2、例えば2~20である。例えば、焼結およびクエンチされたLLRNMO材料が、単斜二次相の内層から分離された六方主要相層を含んだ超格子構造を有していてよい。別法にて、焼結およびクエンチされたLLRNMO材料が、単斜相ナノゾーン(すなわちミクロンよりも小さな幅を有する領域)を含有する六方相マトリックスを含んでいてもよい。MnおよびNiは、LLRNMO材料(例えば、過剰なMn、NiおよびLiは均一および一様に遷移金属結晶格子サイトに分布しているLLRNMO材料)の結晶構造内に均一に分布していてよい。
【0039】
形成されたLLRNMO材料としての結晶構造は、電気化学的サイクルによって変化され得る。例えば、LLRNMO材料が電気化学的セル内の活物質として含まれている場合、最初(または第一)の充電/放電サイクルの後に、単斜相は検出可能レベルとしてもはや存在しなくなり得る。単斜相は、Liイオンを挿入および/または引出す間に消費され得ると考えられる。
【0040】
材料合成
【0041】
種々の実施形態によると、いくつかのLLRNMO活物質の製造方法、およびそれらの結果生じる予期せぬ性能結果を以下にて説明する。いくつかの実施形態では、静的なバッチ焼成プロセス(fired process)は、活物質を形成するために用いられる。他の実施形態では、連続プロセスまたはハイブリッド・アプローチは、活物質を形成するために用いてよい。
【0042】
種々の実施形態によると、式Liz(MnyNi1-y)2-zO2(式中、z=1.16、およびy=0.7)で表されるカソード活物質が形成される。特に、ゲル/固体状態合成法を用いて、活性剤前駆体を作ってよい。活性剤の合成は、化学量論的Li(CH3COO)*2H2O) Mn(CH3COO)2*4H2O、およびNi(NO3)2*6H2Oを水中で混合して溶液を形成することを含んで成り、溶液は、ゲルが形成されるまで100℃で加熱される。ゲルは、専用のアルミナるつぼに注がれ、400℃で、90分間焼成されると、有機物がない灰が得られる。得られた灰は、粉砕され、るつぼの中で500℃、3時間再焼成され、次いで自然に冷却してから、再粉砕して粉体にする。粉体は、周囲ドラフト条件下の箱型炉で、900℃で24時間焼成(例えば、焼結)される。焼成された後、粉体はクエンチされる。特に、クエンチングは水クエンチング(Hq)を含んでおり、室温の水で満たされた撹拌槽よりも上でプロセスるつぼを反転させることによって実施される。いくつかの実施形態では、水は溶媒和される添加剤を含む。より一般的な比較変種として、他の二つのより遅いクエンチング法、金属プレートクエンチング(Mq)および液体窒素クエンチング(Lq)が使用される。Mqは、金属箔(または金属ホイル、metal foil)への材料の適用(または塗布)を含む。LqはHqの比較として、より遅いクエンチング法である。なぜなら、N2ガスはクエンチング時に高温材料周囲に絶縁領域を形成し、熱伝導が低くなると考えられるからである。クエンチング後、活物質はろ過され、50℃を超えない室温において、真空オーブンで乾燥される。
【0043】
表2は、種々の活物質サンプルと各サンプルを参照するために用いる命名法を示している。
【表2】
【0044】
材料の特徴
【0045】
図1Aは、式Li[Ni
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2(式中、ニッケル含量x=0.25)を有する初期のLLRNMO活物質粉体のインデックス付き正規化および補正XRDパターンを示している。この式は、Li
z(Mn
yNi
1-y)
2-zO
2(式中、z=1.16、およびy=0.7)としても記載され得、Hq、LqおよびMq(すなわち、それぞれ水、液体窒素および金属クエンチング法)を用いて形成されたものであり得る。
図1Bは、グラフの上段に格子定数“a”とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示し、グラフの下段に単相のリートベルトフィッティングを用いて得られた格子定数“c”とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示すものを含んでいる。
【0046】
図1Aで示すように、材料のX線回折評価は、材料が空間グループ(R-3m)を有するLiNiO
2に関連する六方相(例えば、菱面体晶)および空間グループ(C2/c)を有するLi
2NiO
3に関連する単斜相を有するものであったことを示している。これは、すべてのサンプルが予想された層状構造を有していたことを示唆している。注目すべきなのは、Hq法によって製造されたサンプルでは、単斜相回折ピークが最も明瞭であり、この手法はより優れた結晶構造を生成することを示唆している。
【0047】
22°付近にこの化合物群を示す超格子のピークも見られた。10Lqおよび10MqサンプルのXRDパターンはまた、(101)、(104)、(015)、(107)、および(108)ピークの左側に顕著なピークを有しており、バルク相よりも大きな格子定数をもち、類似構造を有する相不純物の存在を示唆している。他のピークがないことは、この場合、すべての不純物が材料のバルク相を有する等構造(isostructural)であることを示唆している。10HqサンプルのXRDパターンは、わずかに付加的な(107)、(108)、および(110)のピークがみられた。XRDパターンでは目立たないが、17Mqおよび25Mqサンプルもまた(104)、(107)ピークの各左側に小さな二次ピークがある相不純物が示された。加えて、25Mqサンプルの(108)ピークは、その左側にショルダー部分を有していた。(104)最大値についてさらに詳しく調べると、この二次ピークのセットは、25Hqおよび10Mqサンプルの二次ピークを有しているが、それらの間で違いがあることが示されており、10Lqおよび25Mqサンプルのピークが、秩序化された岩塩である可能性が高いのに対し、等構造不純物は、ニッケルリッチ層状構造である可能性が高いことが示唆されている。これらのデータから、ピークセットには二つの要因(一つは付加的な層状相ともう一つはコンタミ岩塩)が存在することを示している。本明細書では「二次層状相(または第二の層状相、secondary layered phase)」は、組成分布および対応する構造的ひずみをもつ局所的な領域、特にニッケル含量がより高く、結果として格子定数が大きな領域を指しており、「コンタミ(contaminates)」は、岩塩相を指す。
【0048】
図1Aの粉体格子定数は、単相ベースのリートベルト解析(精製、refinement)を使用して得られたものであり、すべてのサンプルは6未満の補正R値を有しており、既知の組成の格子定数は文献でみられる範囲内であった(オンライン版 stacks.iop.org/JES/167/160518/mmediaのS1を参照。なお、当該文献を参照することによって、その全体が本明細書に組込まれる)。解析は単一相に限定した。
図1Bは、クエンチング・テクニックに関係なく、格子定数“a” がサンプル中のニッケル含量とともに減少することを示している。この同じ傾向は、広義に格子定数“c”についても示唆されたが、液体窒素でクエンチしたx=0.10、0.17および0.25サンプルは、この傾向から乖離していた。x≧0.10のクエンチング法は、10Lqおよび17Lqサンプルを除いて、より遅いクエンチング法のほうが、格子定数“a”が大きくなり、格子定数“c”も同様の一般的な傾向になり得ることを示している。
【0049】
電気化学的試験
【0050】
合成されたLLRNMO活物質(すなわち、焼結およびクエンチされたルース・パウダー)は、Super-Pカーボンブラックおよびポリビニリデンフルオライド(PVFD)と8:1.2:0.8の割合で混合し、活性LLRNMOを全体の質量の80%とした。その後、得られたブレンドは、N-メチル1-2ピロリドン約15mlの中で最小1時間混合した。10分間の超音波工程を2回行い、その後得られたスラリーを、最小30分間100℃のホットプレートで混合させた後、100℃よりも高く加熱した10×10cm、厚さ10μmのアルミニウム箔にスプレーコーティングした。箔は、一晩中空気中にて、70℃で乾燥させた後、円形電極ディスクにサンプリングした。得られた抜型(またはパンチ、punch)を用いて、2032-タイプコインセルを作った。なお、当該コインセルはリチウム箔アノード、電解液として1.0M LiPF6 50/50エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液、セルガード電池セパレーター、0.5mmステンレス・スチール・スペーサー(stainless steel spacers)、およびセル内に機械的な接触を確保するためのカソード側の波型スプリングを含んで成るものであった。各コインセルは、乾燥した低酸素アルゴン雰囲気下にてコインセルプレスを使用して組立て、および密閉がされた。
【0051】
LAND電池テスターを使用し、上記のプロセスで製造されたコインセルにおいて、定電流を用いて電位制限ガルバノスタティックテスト(potential limited galvanostatic testing)を実施した。一変種につき最低3つのセルを、周囲温度で2.0V~4.8Vにおいて、サイクルさせた。カソード材を調整するため、セルを充電及び放電の双方約C/20レートにて2回サイクルさせた。その後、C/20充電レートおよびC/2放電レートにて充電および放電を、25サイクルした。これらの27サイクルを1ラウンドと称してよく、すべてのセルがサイクルの2ラウンドを経験した。
【0052】
図2Aは、サイクルを通したx=0.25サンプル(すなわちLi[Ni
xLi(
1/3-2x/3)Mn(
2/3-x/3)]O
2サンプル、式中、x=0.25)の比放電容量を示すグラフであり、
図2B~2Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqのサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
図3Aは、サイクルを通したx=0.17サンプルの比放電容量を示すグラフであり、
図3B~3Cは、17Hq、17Lqおよび17Mqのサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
図4Aは、サイクルを通したx=0.10サンプルの比放電容量を示すグラフであり、
図4B~4Cは、10Hq、10Lqおよび10Mqのサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示している。
【0053】
以下の表3は、サイクルを通したDC28/DC27のC/20:C/2割合とともにサンプルの放電容量(DC)を示している。レート能力はC/20放電容量およびC/2放電容量の割合、例えば、27および28サイクル目の放電容量をとることによってアクセスされたものである。留意すべきことは、放電サイクル1、2および28はC/20レートであるが、放電サイクル3、27および54がC/2レートである。
【表3】
【0054】
図2A~2Cを参照すると、異なるクエンチング法で合成したx=25サンプルは、第一充電4.5Vプラトーにおいて、異なる相対的な具体的充電容量を示した。具体的には、25Hqのプラトーは、第一充電容量の60.7%の割合を占め、25Lqプラトーは比容量の44.4%、および25Mqサンプルは34.5%の割合を占めるに過ぎなかった。
【0055】
25Hqの初期容量は、186mAhg-1を有して、x=0.25サンプルの中で最も高く、25Mqは127mAhg-1有して最も低かった。表3で見られるように、サイクルを通してすべてのx=0.25サンプルは、25Mqサンプルを除いて、容量が向上していることがわかる。25Hqはすべての3つのサンプルの中で、容量が最も増加していることがわかる。25Mqサンプルはまた、サイクルを通して3Vを下回り、シビアな電圧低下(voltage decay)を示している。25Hqおよび25Lqサンプルもまた、2.8Vにおける放電曲線で変曲点があり、これらのサンプルではシビアな電圧低下は見られない。25Hqおよび25LqサンプルのC/20放電において、電圧低下は見られなかったが、25MqサンプルのC/20放電では、電圧低下を経験した。0.25サンプルの平均放電電圧は、サイクルを通して最も低い平均電圧を有する25Mqおよび、25Hqよりもわずかに高い平均放電電圧を有する25Lqの電圧低下を反映している。
【0056】
レート能力に関しては、表3に見られるように、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルに対するC/20:C/2割合はそれぞれ1.19、1.25、および1.39である。
【0057】
図3A~3Dを参照すると、x=0.17サンプルの充電プロファイルは、初期充電容量の約56.8%を占める第一充電において、より標準的な単一平坦4.5Vプラトーを有する一方で、17Lqおよび17Mqサンプルは、どちらの場合も初期充電容量の約20%を占め、より明確でない4.5Vプラトーを示している。
【0058】
すべてのx=0.17サンプルの容量は、最初の2回のC/20放電の間におよそ10mAhg
-1増加するものであった。表3に見られるように、第二ラウンドのC/20放電では、17Hq、17Lqおよび17Mqにおいて、それぞれ31%、73%および91%の容量増加がみられるものであった。x=0.17サンプルの電圧低下挙動は、
図3で見ることができる。すべての3つのサンプルにおいて、ほぼ一様な電圧低下挙動があり、平均プラトー電圧は、サイクルを通して約0.4V低下した。しかしながら、電圧低下はこれらのサンプルのC/20放電曲線では見られなかった。x=0.17サンプルはまた、経時的に同様の平均放電電圧を有している。主な違いは、17Mqの平均電圧がサイクルの第一ラウンドでどのように増加するかであるが、サイクルの第二ラウンドでは17Hqおよび17Lqの電圧低下傾向とマッチすることである。
【0059】
図4A~4Dを参照すると、x=0.10サンプルの充電プロファイルに関して、10Hq充電プロファイルは、同様のプロファイルを有する10Lqおよび10Mqサンプルとは異なっている。10Hqサンプルだけは、明確な4.5Vプラトーを有しているものの、すべての3つのサンプルは、4.5Vにおいて持続的な変曲点を有し、10Hqの変曲点は消滅し、10Lqおよび10Mqサンプルは持続的に54サイクル目までの変曲点がある。10Mqサンプルの変曲点は最も顕著であった。
【0060】
表3で見られるように、すべてのx=0.10サンプルは、5mAhg-1オーダーで最初のC/20サイクル中に、初期容量が増加し、次いで10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルでは、それぞれC/20放電の第二ラウンドの容量が300%、60%および67%向上した。C/2放電の第一ラウンドの終了までに、すべてのx=0.10サンプルの容量は、初期C/20容量を上回る、または追いつくものであった。C/2放電の第二ラウンド間を通して、第一および第二ラウンドそれぞれ、10Hqは、197%および50%の容量増加がみられ、10Lqは、25%および16%の容量増加、10Mqは36%および20%の増加がみられた。10Lqおよび10Mqサンプルの放電プラトーは~3.0Vで始まっている一方で、10Hqサンプルのプラトーは3.2Vで始まっており、サイクルを通して10Hqの電圧挙動は、10Lqおよび10Mqと異なる。すべてのx=0.10サンプルの電圧挙動はレート依存性を有しており、すべての3つのサンプルのC/20放電の平均放電電圧は、サイクルを通して増加した。しかしながら、10Lqおよび10MqサンプルのC/2放電は、電圧低下の兆候が示され、一方10Hqでは示されなかった。
【0061】
付加的に、10Lqおよび10MqサンプルはC/20放電曲線にだけ存在する2.2Vの変曲点を有するものであった。これらのx=0.10サンプルの電圧挙動は、10Lqおよび10Mqサンプルの平均放電電圧が10Hqの平均放電電圧よりも高いことを示したものであるが、電圧低下の程度もより大きいこともまた表している。
【0062】
レート能力に関しては、表3に示すように、10Hq、10Lqおよび10MqサンプルのC/20:C/2の割合は、それぞれ1.27、1.60および1.67である。各サイクルの効果的な充放電もサイクルによって著しく変化するため、実質的に10HqのDC28/DC27割合はC/10:C/1割合となることを留意されたい。
【0063】
テスト中の種々の相転移は、サイクル間に観測された電圧プロファイル中に現れていた。x=0.25サンプルで見られる予期された電圧プラトーによって、予期された標準相転移が起こったことが示唆される。
【0064】
図5A~5Iは、25Hq、25Lq、25Mq、17Hq、17Lq、17Mq、10Hq、10Lqおよび10Mqの各サンプルにおける、サイクル前後のLLRNMO粉体の正規化および補正XRDパターンを示すグラフである。
【0065】
図5A~5Iを参照すると、サイクル後のすべてのx=0.25サンプルのXRDパターンは、2θ=22°の超格子ピークが消失しており、構造を平衡化するために遷移金属の移動があったに違いないことを示している。しかしながら、他のすべてのインデックス付きR-3mピークはそのまま残っており、全体的な構造は維持されたことが示唆される。x=0.17および10Hqサンプルも同様の結果が見られた。遷移金属秩序化に伴うこの消失は、酸素およびリチウムの損失と関連しており、それゆえ容量が減少し、
図2A~4Cで見られる容量増加は、これらのサンプルに対して、そうではないことを明らかにしている。したがって、これらのデータは遷移金属の移動がいつも容量損失を生じさせるわけではないことを示唆している。
【0066】
10Mqサンプルは、サイクルテスト後に、実質的に異なる結晶構造を有したが、10Mqおよび10Lqサンプルどちらもまだ目に見える22°ピークをいくつか有しており、さらに
図4A~4Cで見られる電気化学的相転移は、
図2A~3Cのサイクルデータで見られる変化とは同じではなかったことを示唆している。10Lqおよび10Mqで見られる代替相転移は、LLRNMOに存在するニッケル含量がおよそ0.17>x>0.10において、合成限界であることを示唆している。
【0067】
図6は、サイクル前後における、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードの、50k×SEM顕微鏡画像を含む。
図7は、サイクル前後における、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードの、50k×SEM顕微鏡画像を含む。
図8は、サイクル前後における、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルをスプレーコーティングしたカソードの5k×SEM顕微鏡画像を含む。
【0068】
図6~8を参照すると、
図6および7でみられる、製造時およびサイクル後のカソードの形態は、すべてのx=0.25およびx=0.17サンプルを通して一様(または均一)であった。一方で、
図8で見られるx=0.10サンプルの形態は一貫性がなかった。10Hqは、ニッケル含量がより高いサンプルと一貫(または一致)しており、10Lqおよび10Mqは互いに一貫(または一致)していた。すべてのサンプルは、電気化学的サイクルの結果、サイクル前後で一貫した形態を有しており、表面構造の変化や粒子形態が変化するという証拠はなかった。
【0069】
ニッケル含量およびクエンチ法の双方は、構造およびLLRNMOカソードの電気化学的挙動に影響を与える。結果は時に微妙に異なるものであったが、一般的に材料は、より高いニッケル含量および/またはより急速なクエンチ速度で合成されるとき、より容量が大きく、より標準的な電圧挙動をもつ。
【0070】
LLRNMO粉体のXRDパターンは、ニッケル含量とクエンチ法どちらにも構造的依存性を示した。種々のニッケル含量のサンプルを通して、わずかな結晶学的変化が、予測され、x=0.25およびx=0.17ならびに10Hqサンプル間で観察された。10Lqおよび10MqのXRDパターンは、10HqのXRDパターンにはない多数の二次ピークを有していた。10Lqおよび10Mqのパターンでみられた二次ピークは、25Mqおよび17MqサンプルのXRDパターンで見られた二次ピークと一致していた。これらの例は、クエンチ速度は、構造、相含量および相純度を決定するうえで重要であることが示唆している。
【0071】
多くのサンプルに見られる二次層状相は、局所的な比較的ニッケルリッチな不均一性と、それに対応する大きな格子定数の結果であってもよい。(110)ピーク分裂は、25Hqおよび25Lqを除くすべてのサンプルのXRDパターンで存在し、より遅いクエンチングがニッケルの不均一性を生じさせていることを明らかにしている。25Mqおよび17MqサンプルのXRDパターンは、10Lqおよび10Mqサンプルで見られる(101)、(104)、(107)の付加的な二次ピークを有している。しかし、25Mqおよび10Lqにおける(104)二次ピークは、コンタミから生じている可能性が高いことを留意しなければならない。これらの付加的なピークは、多様であるが、すべてのクエンチされた金属サンプルにおいて現れており、構造がどのようにニッケル含量とクエンチング双方に依存するかを示している。これらのデータは、より遅いクエンチ法が、偏析した(segregated)ニッケルリッチな相領域を生じさせるだけでなく、Ni含量に関わらず、材料中にコンタミを形成し、その結果サンプル中のニッケルの局在的な秩序が決定されるという概念を支持している。
図14は、二次層状相における構造案の概略図を示している。
【0072】
Ni
2+イオンはMnイオンよりも大きなイオン半径を有しているため、Niの存在量がより少ないほど、局所的な格子膨張が少ないと考えられる。ニッケル含量がより高いサンプルは、ニッケルイオンを分布する長距離秩序の程度がより高くなり、より好ましい秩序化によって格子定数が小さくなるものである。これらのサンプルを急速にクエンチングすることは、長距離秩序化およびより小さな格子定数を維持し、より遅いクエンチングは、コンタミの核生成およびニッケルの不均一性を生じさせ、その双方が、平均格子定数を変形させる。
図1Bで見られる格子定数”a”の交差点はx=0.11であり、これは合成限界0.17>x>0.10があることをさらに示唆している。
【0073】
ニッケル含量およびクエンチ法どちらも同じくらい、サンプルの電気化学的挙動に影響した。材料の最初の充電挙動は、純度および容量を示すものであり、より高性能な材料は、ニッケル触媒の酸素およびリチウムロスを介した相転移と一致する単一の強いプラトーを示すことが知られている。
【0074】
図9A~9Cは、x=0.25、x=0.17、およびx=0.10サンプルの最初の充電サイクルにおける、dQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
【0075】
図9A~9Cを参照すると、dQ/dVプロット上で見られる4.5Vピークは、すべてのサンプルがある程度、最初の4.5Vプラトーを有することを示している。しかしながら、
図2A~4Cは、いくつかのサンプルだけが、その後の充電で4.5Vに変曲点を有することを示している。これは、すべてのサンプルが、最初に同様の相転移を起こすことを示しているが、いくつかのサンプルでは変曲点が持続していることから、反応がいつも初期充電中に完了するとは限らないことを示唆している。これらのパターンの二次ピークを有するサンプルは、後のサイクルで変曲点を有するサンプルと同じであり、関連性があり得る。これはさらに、どのようにより高いニッケル含量が二次層状相ピークを初期ピークの左側にするかによってさらに裏付けられた。25Mqおよび10Lq等のサンプルは、岩塩コンタミの兆候を示しており、このコンタミが、他の相転移の可能性を排除するわけではないにもかかわらず、これらの転移は、より多くのサイクル数を通して起こり、徐々に低下し、最終的にはサンプルはまだ十分に、および不可逆的に転移することを示唆している。
【0076】
10Hqに加えて、非水クエンチ・サンプルに変曲点が存在することから、これらの変曲点が相の不均一性と関連しているという証拠がさらに供される。10Hqサンプルは、これらの変曲点を有するように開始しているが、第54サイクルまでには、その充電プロファイルは、元々似ていたx=0.10サンプルよりもx=0.17サンプルにより近くなる。これらのデータは、4.5V相転移を長引かせるニッケル不均性の発達と一致している。
【0077】
図10A~10Cは、x=0.25、x=0.17、およびx=0.10サンプルにおける、第二充電サイクルにおける、dQ/dV対Vデータの平滑化スプライン・フィットを示すグラフである。
図11A~11Cは25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルの初期C/2放電および最終C/2放電を示すグラフであり、
図11Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルに対するサイクル中のサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
図12A~12Cは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルの初期C/2放電および最終C/2放電を示すグラフであり、
図12Dは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルに対するサイクル中のサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
図13A~
図13Cは、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルの初期C/2放電および最終C/2放電を示すグラフであり、
図12Dは10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルに対するサイクル中のサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
【0078】
サンプルの放電プロファイルはまた、経時的なサイクル挙動が、ニッケル組成やクエンチ法によって影響されることを示している。
図10A~10Cを参照すると、水でクエンチされたサンプルのピークは、液体窒素や金属によってクエンチされたサンプルよりも、最初は平均してより低い電圧であり、ニッケルの不均一性が電圧に影響を与えることを示唆している。水でクエンチされたサンプルの平均放電電圧はまた、25Mqを除く同じ組成の他のサンプルよりも低い傾向にある。17Lqおよび17MqのdQ/dVパターン、および
図11A~13Dは、放電プロファイルが、サイクル中にどのように異なる挙動を示すかを示している。x=0.17サンプルの電圧は、最も電圧挙動が均一であり、電圧低下の程度もより大きいことがわかった。この例外は、サイクル中に電圧低下がみられた25MqサンプルおよびC/20放電においては電圧増加およびC/2放電においては電圧低下したx=0.10サンプルである。ほとんどのサンプルが経験した平均電圧低下は、サンプルの劣化とは対照的に、これらの電圧でより大きな容量を生じさせるものであることに留意することもまた重要である。サンプルに見られる放電挙動の顕著な違いは、クエンチ速度の違いもまた異なる電気化学的反応に表れていることを示唆している。
【0079】
25Hqおよび25Lqの電圧低下は、x=0.17サンプルの電圧低下と比べて小さく、関連する電圧プラトーもまた異なる電圧にある。より小さな25Hqおよび25Lqの電圧低下は、サイクル中にスピネル様相に相転移することとほぼ一致しており、それは3Vプラトーと関連している。x=0.17サンプルのよりシビアな電圧低下もまた、スピネル様相に相転移していることとほぼ一致している。どちらの場合においても、特にx=0.17の場合は、電圧プラトーは、マンガンリッチな環境におけるNi2+/3+/4+レドックス(または酸化還元)の平均電圧に近く、これらのプラトーはニッケルのレドックス、それゆえニッケルの分布によって生じることを示唆している。この電圧の損失およびニッケルの再分布は、スピネル様相を生じさせることとほぼ一致しており、主な不一致(または矛盾)は、容量の増加を有することであり、スピネル様相が生じることは、初期容量の増加および損失双方と関連している一方で、広く重大な構造劣化と関連しているようである。したがって、構造的にロバストな25Hq、25Lqおよびx=0.17サンプルの電圧低下は、スピネル様相を生じさせたことに全てが起因する可能性は低い。
【0080】
スピネル様相を生じさせることはまた、特にx=0.10サンプルにおいては、放電レート中の挙動の違いの主要因ではない。x=0.10サンプルのC/20放電は、電圧低下をしたサンプルに似た電圧から開始し、サイクル中に電圧は増加した。つまりx=0.10サンプルのC/2放電は、ある程度の電圧低下を経験した。サンプルのより低い初期電位は、より大きなマンガン濃度およびその後のニッケルレドックスの電位が低いことによる可能性が高く、特に容量の急速な増加を考慮すると、一貫性のない電圧挙動は、スピネル様相の形成によって全て説明することはできない。一方、25Mqのより低いマンガン濃度は、容量損失、および電圧低下がより急速であることから、スピネル様相の形成が示されている。これらの要因は、現実的にどのように放電電圧プラトーが3Vから始まるかであり、スピネル様相の発達と電圧低下メカニズムとは一致する。緩やかなクエンチの間に相不純が発達し、25Mqがスピネル様相の発達に対してより影響を受けやすくなった可能性がある。25Mqの電圧プラトーは、Mn3+/4+レドックス対(またはredox couple)の範囲内に収まり、マンガンおよびニッケルが、ハイブリッド・レドックス対(またはhybrid redox couple)を形成する可能性もあり、電圧低下を説明することもでき得る。10Lqおよび10Mqの放電プラトーは、25Mqと同様に3Vから始まることから、これらのサンプルはまた、ある程度のスピネル様相への転移を経験している可能性を示唆している。10Mqに加えて、すべてのサンプルのXRDは、R-3m層状構造を示すピークを有しており、さらにスピネル様相の発達が、電圧低下または容量変化の全体的な原因でないことを示唆している。
【0081】
図14は、R-3m構造および格子定数a’>aを有する25Mqサンプルでの相不純物包含が25Mq(104)ピークの左側に見られる二次ピークをどのように引き起こすかを示す概略図である。
図14で示すように、これらのプラトーの発達を引き起こすニッケルのレドックスは、経時的にニッケル含量が均一化することを示唆している。
【0082】
LLRNMOカソードの電気化学的サイクルデータは、25Mqを除いて、一貫した容量の増加がみられた。x=0.25サンプルは、容量のわずかな増加が見られた一方、x=0.17サンプルより大きい増加がみられ、x=0.10サンプルはさらに大きい増加が見られた。したがって、サイクルを通して比容量のパーセンテージの増加が、クエンチ法に関わらずニッケル含量と逆の関係(または、反比例関係)があることが示された。容量が最も大きく増加したのは10Hqサンプルで、その次に10Mqサンプルおよび10Lqサンプルであった。不純物は、ニッケルの不均一性と関連しているため、この関係は、容量増加が「電気化学的アニリング」プロセスを介して、サイクルを通じたニッケル含量の均一化によって、少なくとも部分的に引き起こされることを示唆している。
【0083】
サイクル後のカソード材と初期のカソード材のXRDを比較すると、サイクル後、10Lqおよび10Mqに加えて、すべてのサンプルを通して非常に似た挙動を示し、遷移金属超格子ピークが消失する。10Lqはサイクル後、いくつかの超格子ピークを維持し、10Mqサンプルは、いくつかの新しいピークの出現が見られ、2つのサンプル間には大きな違いがみられる。この違いは、クエンチ速度の重要性をさらに示しており、より遅いクエンチ条件下では、0.17>x>0.10となるLLRNMOの合成下限があるようである。しかしながら、10Hqサンプルの挙動は異なり、サンプルのより急速なクエンチングが、Ni含量がより高いサンプルと関係する安定性および長期性能をもたらす可能性があることを示している。
【0084】
これらの材料の電気化学的試験は、早いクエンチ材料が優れた容量および容量保持力を有しており、サイクル中に容量の増加を示す唯一の変種であることを示している。50回のフル充電/放電サイクルの後に、この材料はC/2レートにおいて230mAh/g近い比容量を示し、他の方法で冷却した材料よりもはるかに良好である。
【0085】
水中に浸水して合成する間、この種の材料をきわめて急速な冷却をすることで、より優れているおよび分化した(differentiated)結晶構造を有する材料だけでなく、今までに報告されていない電気化学的挙動をもたらすことを発見した。具体的には、この水でクエンチされた材料は:(a)50サイクルを通して容量の大きな増加が見られ、(b)報告された通常の電圧低下(使用を通してセルの平均放電電圧は大きく低下する)は見られず、(c)C/2レートにて25サイクルおよびC/2レートにて4サイクル後に250mAh/gを超える比容量を有し、(d)放電中の(例えば、
図11Dの例に示すように)平均電圧の損失が10%未満で、C/2レートにて50回サイクル後に、230mAh/g(例えば、231~240mAg/g)を超える比容量を有する。
【0086】
リチウムイオン電池の正極のための活物質の形成方法は、水中で活物質の粉体をクエンチングすることを含んでおり、活物質が層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物を含んで成る。
【0087】
一実施形態では、本方法には、クエンチングに先立って活物質粉体を焼成することも含んでいる。焼成(すなわち、焼結)は、少なくとも摂氏800℃の温度、例えば摂氏800~1000℃、例えば900℃で行ってもよい。一実施形態では、クエンチング前の水は室温である。活物質の粉体が、焼成(すなわち、焼結)温度の20%または20%以内である間に、焼成された活物質の粉体を、焼成(すなわち、焼結)後に直接的に水クエンチング槽に供給する。活物質の粉体は、少なくとも1750℃/秒の割合、例えば1750℃/秒~8750℃/秒でクエンチされてもよい。
【0088】
一実施形態では、活物質の粉体の粒子は、約0.1μm~約10μmの範囲の平均サイズ(例えば、平均直径)を有する凝集体の形状であり、活物質の粉体の凝集体は、約25nm~約500nmの範囲の平均結晶サイズを有する結晶子で構成される。活物質の粉体は、クエンチング後に六方相および単斜相を含んで成る。
【0089】
一実施形態では、過剰なLi、NiおよびMnの原子は、遷移金属結晶格子サイトにて均一および一様に分布しており、3×3×3nmよりも大きな結晶体積が材料中になく、該材料にてバルク材料のNi、MnおよびLiの原子の平均比率と比較して、Ni、MnおよびLiの原子比率間にて3%よりも大きい差がある。言い換えれば、仮にバルク材料(例えば、結晶子中または凝集体中)中のNi:Mn:Liの割合が、X:Y:Zとすると、3×3×3nmよりも大きな結晶体積が材料中になく、その材料におけるNi、MnおよびLiの原子比率間はX:Y:Zから3%よりも大きくなるように異なる。したがって、本実施形態では3×3×3nmよりも大きな結晶体積が材料中になく、その材料中にはNi、Mn、およびLi原子中のバルク原子比率の過剰または不足(+/-3%、オーバーまたはアンダー)がある。
【0090】
一実施形態では、活物質の粉体は、クエンチング後に、六方相および単斜相のコンポジットを含んで成り、LiMO2 R-3mとLi2MnO3 C2/m相との組合せ(MはNiまたはMnの少なくとも一方)である。一実施形態では、活物質の粉体は、主にまたは完全にC2/m対称性を有する結晶構造を有する固溶体を含んで成る。別の実施形態では、活物質の粉体は、主にまたは完全にR-3m対称性を有する結晶構造を有する固溶体を含んで成る。
【0091】
一実施形態では、活物質は、実質的にコバルトを含んでいない。言い換えれば、活物質は全くコバルトを含んでいない、不可避の不純物としてのコバルトを含むまたは0~0.5のコバルト原子%を含む。一実施形態では、活物質は式Liz(MnyNi1-y)2-zO2(zは、1.05より大きくかつ1.25未満であり、yは0.55~0.83の範囲である)で表される。別法にて、式Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(式中、0<x<0.5)で表される。一実施形態では、活物質は実質的にコバルトを含んでおらず、該活物質は式Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(式中、0.19<x<0.26)で表される。別の実施形態では、活物質は実質的にコバルトを含んでおらず、Li[MxLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(式中、0.19<x<0.26、MはNi、および、Ti、Fe、AlまたはCrの少なくとも一つを含んで成る)で表せられる。
【0092】
一実施形態では、クエンチ槽中の水は、そこで溶媒和された添加剤を含んで成る。例えば、水は0.01モル/L~1.0モル/Lの添加剤を含んで成る。
【0093】
一実施形態では、添加剤は、硫酸、クエン酸、酢酸、リン酸、塩酸、リン酸アンモニウム、またはそれらの組合せから選択される酸を含んで成る。別の実施形態では、添加剤は、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロース、またはそれらの組合せから選択される炭水化物を含んで成る。添加剤は、酸および炭水化物双方を含んでいてもよい。
【0094】
一実施形態では、活性剤は、バインダーと混合された後に、リチウムイオン電池の正極内にいれられる。セルは、さらに負極と電解質を含んで成る。電池セルの比放電容量は、室温で2V~4.8Vの電圧範囲において、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加している。活物質は、電池の電気化学的サイクルに先立って六方相および単斜相を含んで成り、および活物質の粉体は、電気化学的サイクルの後(例えば、第一サイクル後)単斜相を含まない。
【0095】
別の実施形態では、リチウムイオン電池セルは、負極、電解質、層状のリチウムリッチなニッケルマンガン酸化物活物質を含んで成る正極を有して成り、電池セルの比放電容量は、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加し、電池セルは、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクル後に少なくとも230mAh/gの比容量を有している。
【0096】
一実施形態では、電池セルの平均放電電圧は、C/2の放電レートにて、50回の電気化学的サイクルを通して、10%を超えて減少しない。例えば、電池セルの平均放電電圧は、例えが
図11Dに示すように、C/2の放電レートにて50回の電気化学的サイクルを通して、5%~10%だけ減少し得る。
【0097】
一実施形態では、電池セルの比放電容量は、室温で2V~4.8Vの電圧範囲において、C/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて2回の電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて2回の付加的な電気化学的サイクル、次いでC/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の付加的な電気化学的サイクルを通して、少なくとも10%分増加する。
【0098】
一実施形態では、電池セルは、C/2放電レートにおいて50回の電気化学的サイクルの後に少なくとも180mAh/g、例えば少なくとも230mAh/gの比容量を有している。例えば、電池セルは、C/2放電レートにおいて、50回の電気化学的サイクルの後に、180~240mAh/g、例えば230~240mAh/gの比容量を有している。
【0099】
一実施形態では、活物質は、バインダーに埋め込まれた粉体および約0.1μm~約10μmの範囲の平均粒子/凝集体サイズならびに約25nm~約500nmの範囲の平均結晶サイズを有する粉体を含んで成る。活物質の粉体の粒子は少なくとも スピネル表面層、炭素コーティング(例えば、クエンチ槽中の炭水化物添加剤に起因する炭素コーティング)および/または表面に不動態化酸素結合(例えば、クエンチ槽中の酸添加剤に起因する不動態化酸素結合)を有する。
【0100】
開示された態様に関する上述の説明は、当業者であれば誰でも、本発明を製造または実施できるようにするために供される。これらの態様に対する種々の改善は、当業者に容易に明らかであり、および本明細書で定義された一般的な原理が、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、他の態様に適用され得る。したがって、本発明は、本明細書で示された態様に限定されることを意味するものではなく、本明細書に開示された原理および新しい特徴と一致する最も広い範囲が認められることになる。
【国際調査報告】