(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】リグニン分画
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20240705BHJP
【FI】
C08H7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501170
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022068997
(87)【国際公開番号】W WO2023281020
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512320560
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン
(71)【出願人】
【識別番号】524010332
【氏名又は名称】クラビン ソシエダ アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】ファルディム、ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】カイアド ガスパール、リタ
(72)【発明者】
【氏名】コエーリョ ドス サントス ムゲ ソアレス、マルセロ
(72)【発明者】
【氏名】ブリソラ ラヴァネロ、ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ ホルチュルハク、アラン
(57)【要約】
本発明は、可溶化リグニンを含む溶液からリグニン画分を単離する方法であって、可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液に水を添加することによりリグニンの一部が不溶性になるまでハイドロトロープ濃度を低下させる工程、ならびに不溶性のリグニンを単離する工程を含む方法に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶化リグニンを含む溶液から脂肪族OH含有量、フェノール性OH含有量または分子量範囲に富むリグニン画分を入手する方法であって、該方法は以下の工程を含み:
a)可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液に水を添加することによりリグニンの一部が不溶性になるまでハイドロトロープ濃度を低下させる工程、および
b)不溶性のリグニンを単離する工程、
工程a)およびb)を1回以上繰り返し、ハイドロトロープ濃度を水の添加によりさらに低下させる方法。
【請求項2】
可溶化リグニンが93wt%を超えるリグニンを含む方法。
【請求項3】
可溶化リグニンがクラフトリグニンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)が40℃未満の温度で実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液が、25または50から100または120g/リットルまでの間のリグニン濃度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液が、30wt%のハイドロトロープ濃度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ハイドロトロープがSXSまたはSCSである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ハイドロトロープがSXSであり、SXS濃度が段階的または連続的に10wt%SXSへ低下される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ハイドロトロープがSCSであり、SCS濃度が段階的または連続的に6wt%SCSへ低下される、典型的には段階的に低下される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む最初の溶液を水で3倍から5倍の間に希釈する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
リグニンの粗画分から脂肪族OH含有量、フェノール性OH含有量または分子量範囲に富むリグニン画分を高めるための請求項1~10のいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロトロープを用いたリグニン分画に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、セルロースの次に地球上で2番目に多く存在するバイオポリマーであり、ほとんどが紙およびパルプ産業やバイオリファイナリーの副産物として得られる。
【0003】
高付加価値用途の原料としてのリグニンの可能性は、その高い利用可能性、生分解性および生体適合性だけでなく、抗酸化性および抗菌性にもある。リグニンを原料として使用する際の主な欠点は、その不均一性および高い多分散性である。従って、リグニンを分画し、分子量(Mw)が明確で低分散性のポリマー画分を回収することは、リグニンの真価を認め新しい用途を開発する上で非常に重要な工程である。
【0004】
様々なタイプのリグニンの可能な用途としては、燃料としての利用、BTX(ベンゼン、トルエンおよびキシレン)および誘導体、バニリン、フェノールおよび有機酸などのファインケミカルの製造が挙げられる。さらに、セメント、発泡体、樹脂、接着剤、分散剤および吸着剤の主成分または成分のひとつとして使用することもできる。さらに、その興味深い生物学的特性と生体適合性から、薬物キャリアシステムや組織工学などの生体医学的用途にも使用される可能性がある。
【0005】
クラフトリグニンは、パルプ産業のクラフトプロセスに由来するもので、現在では世界中で年間数百万トンが生産される主なリグニン源である。このリグニンの大部分は燃料として燃やされるが、この副産物の高い利用可能性およびその興味深い性質が、黒液からクラフトリグニンを分離精製する研究の発展を誘発した。
【0006】
リグノブーストクラフトリグニン分画研究の関心は、分画において興味深い結果やこの分画されたリグニンの可能な用途を獲得している世界中のいくつかの研究グループにおいて高まっている。
【0007】
これまでのところ2つの方法が、有機溶媒分画[Jiang et al. (2017) ACS Sustain. Chem. Eng. 5, 835-842]または膜プロセス[Sevastyanova et al. (2014) J. Appl. Polym. Sci. (2014) 131, 9505-9515]によるクラフトリグニンの分画に関する文献に見られる。有機溶媒分画は、エタノール、メタノールおよびアセトンなどの特定の溶媒に対するMwの異なるリグニン画分の溶解度に基づく。一方、膜分離プロセスによる分画は、通常、黒液からの直接クラフトリグニンの分画、または限外ろ過膜を用いてリグノブーストとは異なるプロセスでの回収を伴う。
【0008】
ハイドロトロープは、特定の量を添加すると、水や他の溶媒に対する一定の溶質の溶解度を増加させる非毒性で、生分解性があり、再利用可能な有機塩である。ハイドロトロープを使用する主な利点は、溶液を特定の濃度に水で希釈することにより、必要な時にいつでも目的の溶質を回収し、溶質を再沈殿させることができることである。
【0009】
近年、リグニンをセルロースやヘミセルロースから分離するために、特定の条件下でハイドロトロピック溶液を用いることにより、様々な種類の針葉樹や広葉樹からリグニンが抽出されている。その後、リグニンの沈殿を生じる水で希釈してリグニンを回収し、ハイドロトロピック溶液はその機能を失う前に数回再利用することができる。この特殊なプロセスで最も使用されるハイドロトロープは、キシレンスルホン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸およびマレイン酸である。
【0010】
US3490990は、ハイドロトロープを含む溶液から水を加えてリグニンを沈殿させうることを開示する。Wang et al. (2020) Indust. Crops Prod. 150, 112423は、p-TsOHを11.5%未満の濃度に希釈することによりリグニンを沈殿させうることを開示する。Chen et al. (2017) Sci Adv 3 e 1701735)およびUS10239905は、約16%のp-TsOHから木材ポプラバイオマスからリグニンが沈殿し、それによって4%にさらに希釈すると沈殿したリグニンの量が増加することを開示する。
【発明の概要】
【0011】
リグニンのハイドロトロピック抽出は、異なる反応温度、ハイドロトロープ濃度および反応時間を用いることで、異なるMwや性質を有する異なるリグニン画分を得ることが可能であることを示す。
【0012】
一般に、リグノブーストクラフトリグニン(LKL)は水に不溶であるが、ハイドロトロピック溶液には可溶性である。本発明は、異なるハイドロトロピック濃度におけるリグニン画分の溶解度に基づいて、特定のMw、より低い分散性、および官能基の異なる含有量を有するリグニン画分を沈殿させるためのハイドロトロピック水溶液の使用を開示する。このプロセスに選択される好ましいハイドロトロープは、キシレンスルホン酸ナトリウム(SXS)とキュメンスルホン酸ナトリウム(SCS)である。そのうえ最終的なハイドロトロピック溶液は、蒸発によって再濃縮し、数回再利用することができる。
【0013】
本発明は、キシレンスルホン酸ナトリウム(SXS)およびキュメンスルホン酸(Cumenosulfonate)ナトリウム(SCS)のハイドロトロピック溶液に水を加えて希釈することにより、リグノブーストクラフトリグニン(LKL)を分画することが可能であることを示す。100g/LのリグニンのSXS溶液中への選択的沈殿は、ハイドロトロープ濃度が16wt%以下の場合に起こり、ハイドロトロープ濃度が16、14、12および10wt%の場合には4つの異なるフラクションを回収することが可能である。異なる画分の分子量(Mw)は、24kDaから7kDaの間であり、すべての画分で可視多分散性の値は減少していることがGPCにより確認された。
【0014】
SCSの溶液を用いた分画では、ハイドロトロピック濃度が10、8および6wt%に対して3つの異なる画分が得られた。これらの画分のMwは24kDaから19kDaの間である。NaOH溶液を用いたLKLの分画は不可能であった。
【0015】
FTIR-ATRおよびH-NMRによる該画分と元のLKLサンプルの特性評価により、LKLと得られた画分の全体的な構造を分析することができた。さらに、これら2つの特性評価法により、画分から残留ハイドロトロープを除去するための洗浄プロセスの効率を研究することができた。
【0016】
ハイドロトロープから画分を完全に洗浄するための水の量は、乾燥リグニン1重量部に対して水約200重量部である。しかし、ハイドロトロープは蒸発により回収することができ、洗浄水は最終的なハイドロトロピック溶液とともに、再利用することができる。
【0017】
さらに、定量C-NMRの結果による特性評価は、異なる画分はフェノール性および脂肪族OHおよびβ-O-4’結合の異なる含有量を有することを示す。ハイドロトロピック%が低い(Mwが低い)画分は、フェノール性OHの含有量が高く、脂肪族OHの含有量が低い。元素分析の結果、元のリグノブーストサンプルと異なる画分の間ではイオウ含有量に有意差が無く、画分から残留ハイドロトロープを除去することが可能であることを示していることが確認される。
【0018】
マスバランスは、16wt%SXSと8wt%SCS画分は、最初の溶液から回収されたリグニンの収率が最も高く、これらの画分においてそれぞれ約72%と約78%の溶解リグニンが回収されたことを示す。最終的なハイドロトロピック溶液には、元のリグニンの約10~13%が溶解したまま残っている。
【0019】
本発明はさらに下記説明に要約される:
1.可溶化リグニンを含む溶液からリグニン画分を単離する方法であって、該方法は以下の工程を含む:
a)可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液に水を添加することにより、リグニンの一部が不溶性になるまでハイドロトロープ濃度を低下させる工程、ならびにb)不溶性のリグニンを単離する工程。
2.工程a)およびb)を繰り返す、例えば5回まで繰り返す、説明1に記載の方法;
3.可溶化リグニンがクラフトリグニンである、説明1または2に記載の方法。
4.可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液のリグニン濃度が25または50から100または120g/リットルまでの間である、説明1~3のいずれか1項に記載の方法。
5.可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液のハイドロトロープの濃度が30wt%である、説明1~4のいずれか1項に記載の方法。
6.ハイドロトロープがSXSまたはSCSである、説明1~5のいずれか1項に記載の方法。
7.ハイドロトロープがSXSであり、SXS濃度を段階的または連続的に10wt%へ低下させる、説明1~6のいずれか1項に記載の方法。
8.ハイドロトロープがSCSであり、SCS濃度を段階的または連続的に6wt%まで低下させ、典型的には段階的に低下させる、説明1~6のいずれか1項に記載の方法。
9.最初の可溶化リグニンおよびハイドロトロープを含む溶液を水で3倍から5倍の間に希釈する、説明1~8のいずれか1項に記載の方法。
10.リグニンの粗画分から脂肪族OH含有量、フェノール性OH含有量または分子量範囲に富むリグニン画分を高めるための説明1~9のいずれか1項に記載の方法の使用。
11.説明1~9のいずれか1項に記載の方法により高められたリグニンの粗画分またはリグニン画分。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】元の乾燥リグニンサンプルのFTIR-ATRスペクトル。
【
図4】キシレンスルホン酸ナトリウム(SXS)を使用して選択的沈殿から回収されたリグニン画分のFTIR-ATRスペクトル。
【
図5】キュメンスルホン酸ナトリウム(SCS)を使用して選択的沈殿から回収されたリグニン画分のFTIRスペクトル。
【
図6】選択的沈殿(16wt%)により得られたリグニン画分および元のリグニンの間でのFTIR-ATRスペクトル比較。
【
図7】追加の洗浄後の選択的沈殿(16wt%)により得られたリグニン画分および元のリグニンの間でのFTIR-ATRスペクトル比較。
【
図8】純粋リグノブーストリグニン、純粋SCSおよび純粋SXSのH-NMRスペクトル。
【
図9】純粋リグニン、洗浄された16wt%SXS画分および残留ハイドロトロープを伴う同じ画分のH-NMRスペクトル。
【
図10】リグニン提供非アセチル化およびアセチル化針葉樹リグノブーストのC-NMRスペクトル。
【
図13】追加の洗浄前後の選択的沈殿(10wt%)により得られたリグニン画分および元のリグニンの間でのFTIR-ATRスペクトル比較。
【
図14】追加の洗浄前後の選択的沈殿(12wt%)により得られたリグニン画分および元のリグニンの間でのFTIR-ATRスペクトル比較。
【
図15】追加の洗浄前後の選択的沈殿(14wt%)により得られたリグニン画分および元のリグニンの間でのFTIR-ATRスペクトル比較。
【
図16】純粋ハイドロトロピックパウダー、SXSおよびSCSのFTIR-ATRスペクトル。
【
図17】SXS画分のアセチル化サンプルのC-NMRスペクトル。
【
図18】SXS画分の非アセチル化サンプルのC-NMRスペクトル。
【
図19】SCS画分のアセチル化サンプルのC-NMRスペクトル。
【
図20】SCS画分の非アセチル化サンプルのC-NMRスペクトル。
【
図21】純粋SCSおよび純粋SXSのC-NMRスペクトル。
【0021】
詳細な説明
リグニンは、p-ヒドロキシフェニル、グアヤシルおよびシリンギル単位として知られている、3つのモノマー単位から主に構成される三次元的で異成分から成るポリマーである。リグニンは、例えば、分子量、フェノール性OHの含有量、脂肪族OHの含有量に関しては様々である。典型的に使用されるリグニンは、本発明の方法において出発生成物として使用され、純粋なリグニン組成物であるクラフトリグニンを指す。
【0022】
より一般的には、本発明で使用される方法は、90wt%を超えるリグニン、93wt%を超えるリグニンまたは95wt%を超えるリグニンを含む組成物に対して実施される。
【0023】
かかる組成物は、少量のセルロース、ヘミセルロースまたは灰分、典型的には2.5wt%未満のセルロースまたは1wt%未満のセルロース、10wt%未満のヘミセルロース、5wt%未満のヘミセルロースまたは2.5wt%未満のヘミセルロースおよび2.5%未満の灰分、1wt%未満の灰分または0.5wt%未満の灰分を含む。
【0024】
リグニン、セルロース、ヘミセルロースおよび灰分に関する上記の値の任意の組み合わせを有する組成物が、本明細書に明示的に開示される。
【0025】
本発明の方法における原料として使用するための特定の組成物は、93wt%を超えるリグニン、1wt%未満のセルロース、5wt%未満のヘミセルロースおよび1wt%未満の灰分を含む。
【0026】
クラフトリグニンは当技術分野で公知であり、リグノセルロース系材料を水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムで処理するクラフトプロセスから得られるリグニンである。さらにまたリグニンは黒液から回収される。より具体的なタイプのリグニンは、リグノブースト(商標)プロセスを経て得られ、リグノブーストプロセスは、黒液からリグニンを沈殿および精製する方法としてCО2とH2SО4を使用する。このリグニンは、イオウ含有量が低く(1から3wt%の間)、灰分含有量が0.3から1.2wt%の間である。
【0027】
本発明の方法で使用される「水」は、飲料水、河川の水、地下水または工業プロセスからの工業排水などの溶液に関する。水は、本発明の方法の洗浄水であってもよく、特定の実施形態では、少量のハイドロトロープ(2wt%未満)を含んでもよい。
【0028】
本発明の実施例は、室温、すなわち20から25℃の間でリグニンの溶解を行った。従って、本発明の方法は、加熱又は加熱水を添加することなしに実施することができる。従って、本発明に記載のリグニンが処理される領域に依存して、工程a)およびb)は、10、20、または25度から30、35または40℃までの範囲の温度で実施することができる。上記の下限値および上限値のいずれかを有するすべての範囲が考慮され、本明細書に明示的に開示される。
【0029】
本発明は、針葉樹リグノブーストクラフトリグニン(LKL)などのリグニン調製物をSXSやSCSなどのハイドロトロープのハイドロトロピック溶液を用いて分画することが可能であることを示す。水で希釈してハイドロトロープ濃度を下げ、リグニンの溶解度を低下させることにより、さまざまな画分が得られる。不溶性のリグニン画分は遠心分離によって単離され、その後、残留ハイドロトロープを除去するために洗浄される。
【0030】
段階的希釈は、異なる化学組成のリグニンの分画を可能にする。
【0031】
FTIR-ATRおよびH-NMRによる元のリグニンおよび得られた異なる画分の特性評価により、各画分からすべてのハイドロトロピック残留物を除去するのに必要な水の量が決定された。
【0032】
GPCによる特性評価は、その後の段階的な沈殿が異なるMwと多分散性を持つ画分につながることを示す。ハイドロトロピック濃度が低いほど多分散度は低い。
【0033】
定量C-NMRによる特性評価は、異なる画分は異なる化学基の含有量を有し、低Mw画分ほどフェノール性OH基の含有量が高く、脂肪族OH基の含有量が低いことを示した。フェノール性基の含有量が高いリグニン画分は、通常、より反応性の高いリグニン画分を伴い、将来の用途のために、これらのリグニンにおいてさらに化学的または物理的に修飾するのに適している。元素分析では、元のリグニンのC、HおよびNの含有量と、SXSとSCSで分画した画分の間に有意差を示さない。イオウ含有量も原料と分画されたリグニンとの間に有意に相違せず、本発明の分画方法が有機的に結合したイオウを除去することを説明する。
【0034】
マスバランスは、16wt%のSXSと8wt%のSCSが最も収率の高い画分であり、それぞれ24kDaと21kDaという高いMwを持つ画分でもあることを示す。16wt%のSXS画分の分子量は元のリグニンのMwとほぼ同じであるが、多分散性指数は10.4から7.6へと大幅に低下している。10wt%のSXS画分からは約1%のリグニンしか得られないが、分子量は約7kDaと最も低い画分である。
【0035】
さらに、洗浄水からハイドロトロープを回収し、将来の分画に再利用することで、異なる分画を完了するために必要な水の量を減らすことができる。
【実施例】
【0036】
実施例1.
ハイドロトロピック溶液中のクラフトリグニンの溶解
ハイドロトロピック溶液中のリグノブーストクラフトリグニンの挙動はキシレンスルホン酸ナトリウム(SXS)、キュメンスルホン酸ナトリウム(SCS)水溶液中の凍結乾燥リグニンサンプルを溶解することにより試験した。
【0037】
ハイドロトロピック溶液に関しては、下記手順に従った:
1.室温で、脱イオン水でハイドロトロープを混合して、ハイドロトロープ濃度が10、20、30および40wt%のSXSおよびSCSの両水溶液をデュプリケートで調製した。
2.凍結乾燥リグニンを25g/Lの濃度で各溶液に加えた。脱イオン水のみの追加の対照溶液を含めた。
3.一方の溶液を25℃で撹拌し、もう一方の溶液を70℃のミキシングウォーターバスに15分間入れた。
4.溶解実験後、溶液を未溶解リグニンの存在のために分析した。
【0038】
ハイドロトロピック溶液中のクラフトリグニンの溶解限度
リグニンをハイドロトロピック溶液に25g/Lに溶解した後、溶液中のリグニン溶解限度を検証するために、リグニンの濃度を上げて同じ実験を繰り返した。ハイドロトロピック溶液に対しては30wt%のハイドロトロープ溶液を調製した。リグニンの濃度は、SXSとSCSの両ハイドロトロピック溶液について、35g/L、50g/L、100g/L、150g/L、200g/Lおよび250g/Lで試験した。リグニン濃度50g/Lと100g/Lには2wt%NaOH溶液を使用した。
【0039】
ハイドロトロピック溶液中のリグニンの選択的沈殿
両溶液タイプにおけるリグニンの溶解限度を求めた後、リグニン濃度100g/Lおよびハイドロトロープ濃度30wt%の溶液を6本調製し、水を加えてハイドロトロープ濃度を20、10および5wt%に希釈し、両ハイドロトロピック溶液におけるリグニンの再沈殿の可能性を検証した。
【0040】
価値設定化のためのクラフトリグニンの分画
ハイドロトロピック溶液に溶解したリグニンの沈殿の可能性を確認した後、どの範囲のハイドロトロピック濃度でリグニン画分が得られるかを検証するための実験を実施した。両方のハイドロトロープに対して、100g/Lを用いて新たに30wt%ハイドロトロピック溶液を調製し、脱イオン水の添加により前の濃度に基づいて濃度を20から6wt%に2wt%ずつ減少させて希釈した。沈殿物は、遠心分離によって残りのハイドロトロピック溶液から分離された。この手順は2つの異なる方法で実施した。第一に、30wt%から16wt%、または30wt%から10wt%など、元の30wt%のハイドロトロピック濃度から所望の濃度のそれぞれに直接希釈を実施することによって。
【0041】
さらに、「希釈系列」と名付けられた方法で分画を行い、例えば、元の30wt%ハイドロトロピック溶液を16wt%に希釈し、例えば遠心分離によって沈殿物を回収した。その後、溶解したリグニンが残った上清を次の希釈に使用することで、多分散性の低い画分を回収することが可能となった。
【0042】
リグニン画分の高度な特性評価
再収集された画分は、沈殿物に収集された水分を除去するために48時間凍結乾燥された。画分の高度な特性評価に関しては、様々な技術を採用した。
【0043】
FTIR-ATR特性評価
すべての化学構造を評価し比較するために、収集した画分と元のリグノブーストクラフトリグニンおよび純粋なハイドロトロープをFTIR-ATRで分析した。使用した装置はBruker Alphaであった。スキャン回数は24回、分解能は4cm-1であった。
【0044】
NMR 特性評価
SXSとSCSから回収したすべての画分、および元のリグニンサンプルについて、H-NMRと定量C-NMRを実施した。H-NMR分析では、約80mgのリグニンを0.55mLの重水素化DMSOに溶解し、Bruker Avance Ill HD 400にて25℃でスペクトルを記録した。
【0045】
定量C-NMRには、文献(litreature)に基づくサンプル調製手順を使用した[Balakshin et al. (2015) RSC Advances 5, 87187-87199]。リグニンのアセチル化は、すべてのリグニン画分と元のクラフトリグニンで実施した。このために、無水ピリジン/無水酢酸の1:1(v/v%)の混合溶液、合計4mLを乾燥リグニン150~200mgと混合した。溶液を室温で24h撹拌した。その後、エタノールを用いてピリジンおよび微量の無水酢酸を除去した。10mLのエタノールを加え、溶液をさらに30min間撹拌した。エタノールを蒸発させ、リグニンが完全に清浄で乾燥するまで、この手順を7~8回繰り返した。
【0046】
最後にサンプルを水で洗浄し、凍結乾燥した。
【0047】
C-NMR手順では、200mgのアセチル化または非アセチル化リグニンを0.50mLの重水素化DMSO、0.06mLの緩和剤溶液クロム(III)アセチルアセトネート(0.016M)、および内部標準(IS)のトリオキサン(IS:lignin比は1:10、w/w)と混合した。最終溶液をNMRチューブに移した。合計16サンプルをC-NMRで分析した。定量C-NMRスペクトルは、Bruker Avance 600 MHzにて25.0℃で記録した。逆ゲート検出と900パルス幅を使用した。1.1sの捕捉時間と2.0sの緩和遅延を用い、20000スキャンを収集した。スペクトルはフーリエ変換され、位相調整され、校正され、ベースラインは多項式関数を用いて手動で補正された。ベースラインの補正は、次のおおよその区間範囲を用いてゼロに調整して行った:(220-215ppm)-(185-182ppm)-(97-94ppm)-(5-(-20)ppm)。他の範囲は0に強制されなかった。スペクトルの芳香族領域(約100-163ppm)は積分され、600の値に校正された。このスペクトルの目的の領域のその後の積分は、「per 100 Ar」の単位で行われる。
【0048】
リグニンがmmol/gでの特定基の量の計算は、下記方程式に基づいて計算した:
【0049】
【0050】
ここで
X:特定部位の量
Ix、IISおよびIACは、それぞれ、特定部位、内部標準および全アセチル化基(全OHに対応)の共鳴値に対応する。
mligおよびmISは、リグニンおよび内部標準の重量である。
さらに、30は約92ppmに共鳴する3当量の炭素を持つIS(M:90g/mol)の等価質量であり、42は各OH基のアセチル化後のリグニンの質量の増分である。
【0051】
ゲル浸透クロマトグラフ(Chromatoqraphv)
GPC分析は、乾燥リグニンサンプルをDMSO/LiBr(0.5%w/v)に溶解し、一晩振とうして実施した。GPC分析の前に、溶液を0.45μmのPTFEシリンジフィルターでろ過した。使用した装置は、オートサンプラー、カラムオーブン、Dionex HPLC Pump Series P580 (Dionex Softron GmbH, Germering, Germany)を備えたUV検出器、785nmレーザーと屈折率検出器を備えたDawn HELEOS MALS検出器などが挙げられた。MALS検出器にはナローバンドパスフィルターを装備した。分離は、Agilent PolarGeI Mガードカラム(7.5V50mm)と3本のPolarGeI Mカラム7.5V300mm(5mm粒子径)を用いて実施した。
【0052】
元素分析
CHNSの元素分析のために、乾燥した元のリグニンおよびリグニン画分1~2mgを、イオウ分析のための酸化バナジウム(V)とともにスズカプセルに秤量した。使用した装置はFlash 2000 elemental analyserだった。
【0053】
分画の技術解析
マスバランスのために、回収したリグニン画分を水で洗浄し、FTIR-ATRおよびH-NMRで画分を分析して必要な水分量を調べ、画分中に残留ハイドロトロープがないことを保証した。
【0054】
画分を48時間凍結乾燥して全水分を除去し、各画分中の回収リグニン収率を次の方程式(方程式3)により算出した:
【0055】
【0056】
洗浄水については、下記の手順を使用した:
1.遠心分離で得られたハイドロトロピック画分に脱イオン水を加えて洗浄した。画分を、固体画分中の溶解したハイドロトロープが洗浄水に溶解することを保証するために撹拌した。
2.回収した画分と洗浄水を含む新しい溶液を再度遠心分離し、画分から洗浄水を分離した。
3.ハイドロトロープが溶解した各画分の洗浄水は、ハイドロトロープの回復のために保存した。
【0057】
洗浄水中に回収されたハイドロトロープの量を調べるため、各画分について洗浄水を別々に収集した。その後、一定量の洗浄水を完全に蒸発させ、最終的な洗浄水中のハイドロトロープ量を得た。
【0058】
最終的に洗浄水をハイドロトロープの最初の30wt%に濃縮した。
【0059】
SXS中10wt%、SCS中6wt%の最終的なハイドロトロピック上清は、蒸発によって最初の30wt%まで濃縮され、濃縮された洗浄水と混合され、出発溶液と同じ初期体積のハイドロトロピック溶液を得た。
【0060】
実施例2 ハイドロトロピック溶液中のクラフトリグニンの溶解
25g/Lのリグニンを異なる濃度のハイドロトロピック溶液に溶解した結果、ハイドロトロピック濃度が10wt%と20wt%(両ハイドロトロープとも)の場合、25℃と70℃の両実験とも、すべてのリグニンを完全に溶解することは不可能であった。これはハイドロトロピック濃度が30wt%と40wt%の場合にのみ達成できる。水だけの対照サンプルでは、リグニンは溶解しなかった。
【0061】
最終的な結果は、試験チューブの底の未溶解のリグニン量という点では25℃でも70℃でも同様であったが、70℃での実験では溶解プロセスがより速く、リグニンの全溶解により早く達することを可能にした。この現象は、溶液の色の変化によって観察された。25℃で調製した溶液は、すべてのリグニンが溶解し、溶液が暗褐色になるまで数時間、淡褐色であったが、70℃で調製した溶液は、15min間の加熱手順の後、すぐに暗褐色になった。ハイドロトロープ溶液の水への溶解限度は約40wt%であるため、ハイドロトロープの沈殿を避けるため、この濃度を最高濃度として使用した。さらに、リグニンの濃度が25g/Lの場合、すべてのリグニンが30wt%のハイドロトロピック溶液に溶解したため、次の実験ではこのハイドロトロピック濃度を選択した。下記ハイドロトロピック溶液実験の条件を決定した後、30wt%ハイドロトロピック溶液中のリグニンの溶解限度を試験した。結果は、両方のハイドロトロープにおいても、リグニンの最大濃度は150g/Lに達することが可能であることを示すが、これらの溶液は非常に粘性が高いため、次の実験では100g/Lの濃度を用いた。
【0062】
実施例3 ハイドロトロピック溶液中のリグニンの選択的沈殿
ハイドロトロピック溶液を低濃度に希釈してリグニン画分を回収する可能性を確認するため、リグニン濃度100g/Lを含む30wt%ハイドロトロピック溶液に脱イオン水を20、10および5wt%まで添加した。両溶液とも20wt%では沈殿はなかったが、元の溶解実験ではこのハイドロトロープ濃度ではリグニンは未溶解を示していたので、これは予想外であった。10wt%のキシレンスルホン酸ナトリウム水溶液では、黄色の透明な上清を伴う沈殿を示した。5wt%では、両方のハイドロトロピック溶液も10wt%のものと同様の上清を生成した。SXS溶液が20wt%と5wt%の間、SCS溶液が10wt%と5wt%の間で、異なるリグニン画分を得ることが可能かどうかを理解するために、別の一式の実験を実施した。
【0063】
実施例4.価値設定化のためのクラフトリグニンの分画
20wt%のSXS溶液から出発して、異なる画分を得る可能性を検証するために、室温で異なる希釈を行った。これらの実験結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
18wt%のSXS画分には沈殿はないが、20wt%溶液をより低濃度のハイドロトロープに希釈することにより、遠心分離により残液から分離したリグニン画分を回収することが可能である。
【0066】
SCSのハイドロトロピック分画実験では、沈殿は重量濃度10、8および6wt%でのみ可能であった。
【0067】
実施例5 リグニン画分の高度な特性評価
a)FTIR-ATR分析
リグニン画分および元のリグニンサンプルの高度な特性評価に関して、得られたFTIRスペクトルを
図3から
図7に示す。
【0068】
文献[Abdelaziz et al. (2017) Waste and Biomass Valorization 8, 859869; Chen et al. (2016) RSC Advances 6, 107970-107976]で見出された同様のスペクトルと比較することにより、元のリグニンスペクトルピークを同定し、これらのピークの同定を表2に示す。
【0069】
【0070】
回収したリグニン画分の化学構造がハイドロトロピック分画によってどのように変化したかを理解するために、これらの画分も凍結乾燥し、FTIRで分析した。
【0071】
図4は、すべての画分で得られたスペクトルが類似していることを示し、このことは、SXSによる分画から収集された異なる画分はすべて、その化学構造に大きな変化がないことを示す。
図5には、SCSによる分画で得られた画分の化学構造が示される。
【0072】
図6の16wt%SXS画分の例に見られるように、最初の画分にはハイドロトロープの残留物が含まれていた。残留ハイドロトロープを除去するために必要な水の量を、まずFTIRで分析し、その後HNMRで分析した。
【0073】
リグニン画分と元のリグニンの両スペクトルは、FTIRスペクトル全体を通して類似性を示すが(
図6)、当初、沈殿後に画分をさらに洗浄しなかった場合は、このようなことはなかった。
図6で同定された一定のピークは有意な違いを示した。沈殿物中に残留している名残のハイドロトロープの可能性を実証するため、両方のハイドロトロープをFTIRで分析し、異なるピークを元のハイドロトロープのスペクトルと比較した。数回洗浄した後、リグニン画分を再度凍結乾燥し、FTIRで分析した。追加洗浄の結果を
図7に示す。
【0074】
16wt%の再洗浄画分のFTIRスペクトルは、元のリグニンサンプルのスペクトルと実質的に同一であり、これは画分が残留ハイドロトロープから洗浄され、純粋なリグノブーストリグニンと同一の化学構造を提示することを示す。
【0075】
b)NMR分析
H-NMR分析に関して、リグニンサンプルに対するこの分析から得られる最も重要な情報は、洗浄して残留ハイドロトロープを除去した後の画分の純度である。FTIRは残留ハイドロトロープの存在を迅速かつ直接的に示すことができるが、400MHzの装置を用いたH-NMRはより感度の高い技術である。H-NMRでは、リグニンサンプルはアセチル化されていない。
【0076】
最初の純粋なリグニンのスペクトルと分画によって得られたサンプルのスペクトルの違いを理解するために、異なる画分のスペクトルを元のリグニンサンプルおよび純粋なハイドロトロープのH-NMRスペクトルと比較した。
図8は、純粋なリグノブーストリグニンならびに分画(SXSおよびSCS)に使用した純粋なハイドロトロープのスペクトルを示す。
【0077】
H-NMRのピーク同定は、文献[Amadou et al. (2015) BioResources 10, 4933-4946; Shiming & Lundquist. (2007) Nordic Pulp & 10 Paper Research Journal 9, 191-195]に基づいて行った。
【0078】
図9のスペクトルは、洗浄16wt%SXS画分のスペクトルとハイドロトロープ残留物を含む16wt%SXS画分のスペクトルの違いを示し、分画は、画分のリグニン構造には大きな変化を起こさないが、画分を十分に洗浄しない場合、スペクトルに見られる唯一の違いがハイドロトロープ残留物に関連するピークを示している。
【0079】
定量C-NMRの結果を考慮し、異なる部位に対するmmol/gリグニンの計算は、文献(Balakshin and Capanema (2015)、前掲)に基づいて行った。ほとんどの化学基の定量は、サンプルのアセチル化および非アセチル化スペクトルの両方から得られた値に基く。下記表(表3)には、元のリグノブーストリグニンの最も重要な部位の定量と、これらの部位が定義されているスペクトルの領域を含む。使用した特定のタイプのリグノブーストサンプルは、Sユニットを含まず、Hユニットの割合が低い針葉樹である。
【0080】
【0081】
定量C-NMRはリグニンに対する最も信頼性の高い特性評価技術の一つであり、クラフトリグニンの特性評価では、クラフトプロセス中にリグニン構造に変化が生じるため、常にさらなる課題が加わる。リグニンの分画を研究する際のこの特性評価法の主な目的は、リグニンの反応性に関連する脂肪族OH基、フェノール性OH基およびカルボキシル基の量を評価することである。文献(Wang, Luyao et al. (2020) ACS Sustainable Chemistry & Engineering 8(35), 13517-13526)に基づき、Mwが低いリグニン画分はフェノール性OH基とカルボキシル基の含有量が高く、脂肪族OH基の含有量が低いことが予想される。さらに、Mwの低いリグニン画分は、リグニン単量体単位間の最も一般的な結合であるβ-O-4’結合の含有量が低いことが予想される。文献によると、フェノール含有量が高いほど、より反応性の高いリグニンと関連し、これは将来の用途や化学修飾に有利であり得る。
【0082】
図10は、アセチル化および非アセチル化純粋リグノブーストサンプルのC-NMRスペクトルを、いくつかの目的の領域のスペクトル中の同定とともに示す。ハイドロトロピック分画で得られた非アセチル化およびアセチル化リグニン画分のスペクトルを収集した合計16個のC-NMRスペクトルとともに附属書に示す。
【0083】
図10に示すように、リグニンサンプルのアセチル化は、全OH基のスペクトルの2つの異なる領域への分離を可能にし、これにより、非アセチル化リグニンのスペクトルよりも明確な方法でこの部分を定量することが可能になる。
【0084】
表4と表5は、それぞれ異なる回収リグニン画分のフェノール含有量と脂肪族含有量、およびβ-O-4’結合の定量を示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表4と表5に示すように、異なる得られた画分は、異なる量の脂肪族OHとフェノール性OH、ならびにβ-O-4’結合を有する。Mwの減少に伴い、フェノール性OHの含有量が高く、脂肪族OHの含有量が低くなる傾向は、GPCの結果に提供されたセクションで証明される。
【0088】
c)ゲル浸透クロマトグラフ(Chromatoqraphv)(GPC)
異なる画分と元のリグノブーストリグニンのMwと多分散性は、特定のGPC技術によって測定された。技術的リグニン、特にクラフトリグニンのサンプルは、紫外線吸収後に蛍光を発することが知られ、このことが標準的なGPCシステムで得られる結果に影響を与え、正しい値ではなくMwが高くまたは低くなることがある。この分析では、この現象によるMwの干渉を避けるため、GPC装置に接続されたMALS検出器に蛍光フィルターを備えたシステムを使用した。この技術から、数平均分子量(Mn)、最高ピーク分子量(MP)、高次平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw)、多分散性指数(Mw/Mn)など、ポリマーの分子量分布を表すいくつかのパラメーターを得ることが可能となる。
【0089】
表6および表7は、それぞれSXSおよびSCSを用いてクラフトリグニンを分画し、得られた画分のGPC分析結果を示す。さらに、
図11および
図12は、両ハイドロトロープを用いて得られた画分の分子量分布のグラフを示す。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例は、ハイドロトロープSXSおよびSCSを用いたリグノブーストリグニンの分画が可能であり、それによりハイドロトロープ濃度が低いほど、画分のMwは低くなることを実証する。さらに、ハイドロトロープ濃度の低下とともに多分散性も低下する。GPCの結果をC-NMRの結果と比較すると、予想通り、Mwの低い画分は、フェノール性OH含有量が高く脂肪族OH含有量が低いことが示される。
【0093】
d)固有粘度および分子量
画分の相対分子量は、溶液の固有粘度とそのMWを関連づける間接的な方法で測定した。計算に用いたMark-Houwink-Sakurada定数は、Kとaについてそれぞれ0.4165と0.23であった。リグニン画分を2wt%NaOH水溶液に溶解し、30℃で粘度を測定した。結果を表8及び表9に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
これはMwを測定する絶対的な方法ではないので、画分のMwの結果は正確な分子量ではないが、依然として画分の相対分子量が異なることを確かめて、ハイドロトロピック溶液を用いた選択的沈殿によるクラフトリグノブーストリグニンの分画の仮説を確認することを可能にする。さらに、この方法は、GPC装置が利用できない研究室やパイロットプラントにおいて、プロセス中の画分のMwを知るために使用できる。
【0097】
元素分析
元素分析の結果を表10と表11に示す。
【0098】
【0099】
表10は、純粋なリグノブーストリグニンおよびSXSで分画して得られた画分の元素分析を示す。結果は、C、HおよびNについては、元のサンプルとSXSの画分との間に有意差はないことを示す。イオウ含有量については、16wt%のSXS画分のみが元のリグニンよりも高い含有量を示す。しかし、元素分析の前に、サンプル中に残留ハイドロトロープがないことを保証するために、事前にNMR分析が実施されたので、この追加量のイオウは、サンプル中の残留ハイドロトロープに由来するものではないはずである。14、12および10wt%のSXS画分中のイオウ含有量が元のリグニン中よりも低いのは、画分の広範な洗浄によって元素および無機イオウが除去され、有機的に結合したイオウだけが残ることにより生じうる。
【0100】
【0101】
表11のデータは、C、HおよびN含有量についても、元のリグニンと画分との間にも有意差はないことを示す。しかし、10wt%および8wt%のSCS分画は、元のリグニンよりもイオウ含有量が高く、このことは、これらのサンプルがMwの低い6wt%分画よりもイオウ含有量が高いことを示す。
【0102】
実施例6 分画の工学的分析
マスバランス
マスバランスの測定のため、回収したすべての画分を洗浄し、凍結乾燥した。次に、各画分の収率を、最初のハイドロトロピック溶液中のリグニンの最初の量に基づいて計算した。表12および表13に、SXSおよびSCS実験から得られた異なる画分の収率を示す。
【0103】
【0104】
【0105】
10から13%の間の元のリグニンは、最終上清に溶解したままである。この残存溶解リグニンを回収することは可能だが、10wt%SXSと6wt%SCSより下の濃度では画分の沈殿がないので、ハイドロトロピック濃度を2wt%の値まで下げる必要がある。2wt%のハイドロトロープに到達するのに必要な水の量は、回収されたリグニンを補うものではない。最終画分の回収後、SXSとSCSの両方においても、フィルター、メンブレンまたは遠心分離を用いて溶解リグニンを回収し、残りのハイドロトロピック溶液を30wt%まで濃縮し、新たな分画サイクルで再利用することができる。
【0106】
異なるリグニン画分から残留ハイドロトロープを完全に除去するために必要な乾燥リグニン1gあたりの水の割合は、乾燥リグニン1重量部に対して水約200重量部である。これは相当量の水であるが、この水は再利用できる。
【0107】
各分画とも、遠心分離工程後、湿潤リグニン画分(沈殿物)と上清に残存するハイドロトロープの濃度は同程度であり、このことは画分中に存在するハイドロトロープが水とともに除去され、この洗浄水に保持されていることを意味する。
【0108】
洗浄水に溶解したハイドロトロープを将来の分画に再利用するために、洗浄水溶液を蒸発させて最初のハイドロトロピック濃度30wt%まで濃縮し、その濃縮水を将来の希釈や洗浄工程に再利用することができる。つまり、最初の分画にはかなりの量の水が必要であるが、この水を回収して再利用することで、該プロセス水を効率的にし、このユーティリティに関連するコストを削減することができる。
【0109】
さらに、洗浄後の各沈殿画分は、約7.5%の固形リグニンを含む。各画分の残りは水であり、現時点では凍結乾燥によって除去される。
【0110】
溶媒回収および再利用
溶媒の回収と再利用はまだ調査中である。SXSでは10wt%、SCSでは6wt%の画分の上清に相当する最終的なハイドロトロピック溶液の回収はすでに可能であるが、ハイドロトロピック力を失うことなく、同じ画分を製造するためにこれらの溶液を再利用できる正確な回数はまだ研究中である。
【0111】
さらに、希釈した上清と洗浄水を最初の30wt%のハイドロトロピック濃度に濃縮するのに必要な蒸発工程から回収した水は、将来の希釈と洗浄工程に再利用し、このユーティリティによって将来のコストを削減し、より環境に優しいプロセスを提供することができる。
【0112】
実施例7 FTIR-ATR特性評価
FTIR-ATR特性評価では、異なる得られた画分のすべてのスペクトルを元のリグニンと比較した。以下の図は、元のリグニンと追加洗浄前後の画分のスペクトルの比較を示す。
【0113】
分画に使用した両方のハイドロトロープのFTIR-ATRスペクトルを
図16に示す。
【0114】
実施例8 定量C-NMRの追加スペクトル
下記図、
図17から
図20は、SXSとSCSを用いてクラフトリグニンを分画し、得られた異なる画分のアセチル化サンプルと非アセチル化サンプルのC-NMRスペクトルを示す。先に説明したように、アセチル化サンプルと非アセチル化サンプルのスペクトルの違いは、リグニン中のOH基がアセチル基によって変化しC-NMRスペクトルの異なる領域に現れることであり、脂肪族およびフェノール性OH基の定量をより簡単にする。
【0115】
SXSとSCSによる分画から得られた画分のスペクトルは、化学構造の観点から純粋なリグニンのスペクトルとほとんど等しく、主な違いは、ピークの積分とそれに伴うmmol/gリグニンでの部位の計算を行うときに見られるだけである。ピークの積分と計算はすべてTopSpinソフトウェアを用いて実施した。
【0116】
さらに、純粋なSXSと純粋なSCSのC-NMRスペクトルを記録し、回収された画分のスペクトルにハイドロトロープ不純物があるかどうかを把握した。これらのスペクトルを
図21に示す。
【国際調査報告】