(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、電池ユニット、電池パックおよび電気装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240705BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240705BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501264
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 CN2022124812
(87)【国際公開番号】W WO2023082918
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111350705.2
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉則利
(72)【発明者】
【氏名】韓昌隆
(72)【発明者】
【氏名】黄磊
(72)【発明者】
【氏名】張翠平
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050HA04
(57)【要約】
本出願は、リチウムイオン電池を提供する。リチウムイオン電池は、正極板と、負極板と、セパレータと、電解液とを含み、前記リチウムイオン電池の負極容量と正極容量との比がaであり、前記電解液には、含有量が電解液の総重量に対してb重量%であるチオ尿素系化合物が含有され、前記リチウムイオン電池が下記の関係式を満たす。
a<1.05、かつ25×(1.05-a)≦b≦100×(1.05-a)
電解液には特定量のチオ尿素系化合物が含有されるため、前記リチウムイオン電池は、CB値が比較的低いとともにサイクル性能が良好である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池であって、
正極板と、負極板と、セパレータと、電解液とを含み、
前記リチウムイオン電池の負極容量と正極容量との比がaであり、前記電解液には、含有量が前記電解液の総重量に対してb重量%であるチオ尿素系化合物が含有され、前記リチウムイオン電池が、
a<1.05、かつ
25×(1.05-a)≦b≦100×(1.05-a)
の関係式を満たす
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
a/bの値は、0.8~2であり、任意で1~1.8である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
aは、0.9≦a<1.05であり、任意で0.98~1.04である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
bは、0.2~5であり、任意で0.5~2であり、任意で0.5~1.0である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記チオ尿素系化合物は、構造式が下記の通りであり、
【化1】
RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
10アルキル基、C
1~C
10アルケニル基、フェニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基を表し、前記C
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基が任意で酸素基で置換され、任意で、RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
6アルキル基、C
1~C
6アルケニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基を表し、前記C
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基が任意で酸素基で置換される
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解液には金属の硝酸塩、フルオロエチレンカーボネートおよびビニレンカーボネートから選択される少なくとも1種の添加剤がさらに含有され、任意で、前記金属の硝酸塩は、硝酸リチウム、硝酸マグネシウムおよび硝酸銅(II)のうちの1種または複数種であり、任意で、前記添加剤の含有量は、前記電解液の総質量に対して0.5重量%~2重量%である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記リチウムイオン電池の前記負極板において、負極膜層の厚さが140μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項1に記載のリチウムイオン電池を含む
ことを特徴とする電池ユニット。
【請求項9】
請求項8に記載の電池ユニットを含む
ことを特徴とする電池パック。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池、請求項8に記載の電池ユニットまたは請求項9に記載の電池パックの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウムイオン電池の分野に属し、特にエネルギー密度が高いリチウムイオン電池、電池ユニット、電池パックおよび電気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は、応用範囲が広まっており、水力発電所、火力発電所、風発電所および太陽光発電所などのエネルギー貯蔵電力システム、電動工具、電動自転車、電気オートバイ、電気自動車、軍事装備、航空宇宙などの多くの分野に応用されている。
【0003】
従来の捲回型リチウムイオン電池に対して、コーナーリチウム析出の問題を解決するには、負極容量と正極容量との比(負極容量:正極容量)であるCB値(cell balance)が一般的に1.07以上と設定され、これによって、電池のサイクル性能を確保する。しかしながら、CB値が比較的高くなると、電池エネルギー密度が顕著に低下する。このため、リチウムイオン電池のCB値を低下させて電池のエネルギー密度を向上させるとともに、電池の良好なサイクル性能を確保できることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、CB値が低いとともにサイクル性能が良好であるリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本出願の第1局面は、リチウムイオン電池を提供する。前記リチウムイオン電池は、正極板と、負極板と、セパレータと、電解液とを含み、前記リチウムイオン電池の負極容量と正極容量との比がaであり、前記電解液には、含有量が電解液の総重量に対してb重量%であるチオ尿素系化合物が含有され、前記リチウムイオン電池が下記の関係式を満たす。
a<1.05、かつ25×(1.05-a)≦b≦100×(1.05-a)
【0006】
本出願において、電解液に上記の量のチオ尿素系化合物を添加することにより、電池のCB値が比較的低くても、電池が良好なサイクル性能を有する。
【0007】
任意の実施形態において、a/bの値は、0.8~2であり、任意で1~1.8である。この範囲に収めれば、リチウムイオン電池のエネルギー密度およびサイクル性能がさらに改善される。
【0008】
任意の実施形態において、aは、0.9≦a<1.05であり、任意で0.98~1.04である。この範囲に収めれば、リチウムイオン電池は、サイクル性能とエネルギー密度とのバランスがより良好である。
【0009】
任意の実施形態において、bは、0.2~5であり、任意で0.5~2であり、任意で0.5~1.0である。チオ尿素系化合物の含有量を選択することにより、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0010】
任意の実施形態において、前記チオ尿素系化合物は、構造式が下記の通りであり、
【化1】
RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
10アルキル基、C
1~C
10アルケニル基、フェニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基を表し、前記C
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基が任意で酸素基で置換され、任意で、RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
6アルキル基、C
1~C
6アルケニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基を表し、前記C
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基が任意で酸素基で置換される。
チオ尿素系化合物に対する選択により、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0011】
任意の実施形態において、前記電解液には金属の硝酸塩、フルオロエチレンカーボネートおよびビニレンカーボネートから選択される少なくとも1種の添加剤がさらに含有され、任意で、前記金属の硝酸塩は、硝酸リチウム、硝酸マグネシウムおよび硝酸銅(II)のうちの1種または複数種であり、任意で、前記添加剤の含有量は、電解液の総質量に対して0.5重量%~2重量%である。前記添加剤を添加することにより、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0012】
任意の実施形態において、前記リチウムイオン電池の負極板において、負極膜層の厚さが140μm以下である。この範囲に収めれば、電池のサイクル性能がさらに改善される。
【0013】
本出願の第2局面は、電池ユニットを提供する。前記電池ユニットは、本出願の第1局面によるリチウムイオン電池を含む。
【0014】
本出願の第3局面は、電池パックを提供する。前記電池パックは、本出願の第2局面による電池ユニットを含む。
【0015】
本出願の第4局面は、電気装置を提供する。前記電気装置は、本出願の第1局面によるリチウムイオン電池、本出願の第2局面による電池ユニットまたは本出願の第3局面による電池パックの少なくとも1種を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の模式図である。
【
図2】
図1に示す本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の分解図である。
【
図3】本出願の一実施形態による電池ユニットの模式図である。
【
図4】本出願の一実施形態による電池パックの模式図である。
【
図5】
図4に示す本出願の一実施形態による電池パックの分解図である。
【
図6】本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池を電源とした電気装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本出願に係るリチウムイオン電池、電池ユニット、電池パックおよび電気装置の実施形態を詳細に説明する。ただし、必須でない事項の詳細な説明が省略されることがある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同様な構成に対する重複説明が省略されることができる。これは、下記の説明が必要以上に長くなってしまうことを避け、当業者が容易に理解できるためである。また、図面および下記の説明は、当業者が本出願を十分理解するためのものであり、特許請求の範囲に記載される主題を限定するものではない。
【0018】
本出願に開示された「範囲」は、下限値および上限値により定義される。所定範囲は、下限値および下限値を選択することにより定義される。選択された下限値および上限値により、特定の範囲の限界が定義される。このように定義された範囲は、限界値を含む場合があるし、限界値を含まない場合があり、任意に組み合わせることができ、すなわち、任意の下限値と任意の上限値との組み合わせで範囲を定義することが可能である。例えば、特定のパラメータについて、60~120および80~110の範囲が挙げられた場合、60~110および80~120の範囲も予測可能なものであると理解されるべきである。また、下限値として1および2が挙げられ、上限値として3、4および5が挙げられた場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4、2~5のいずれかの範囲も予測可能なものである。本出願では、別途の説明がない限り、数値範囲の「a~b」は、実数aと実数bの間の実数の任意の組み合わせの省略表現である。例えば、数値範囲「0~5」は、明細書に記載の「0~5」の間のすべての実数を含み、「0~5」がこれらの数値の組み合わせの省略表現にすぎない。また、パラメータは、2以上の整数で表された場合、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などの整数が開示されたことに相当する。
【0019】
別途の説明がない限り、本出願のすべての実施形態および選択可能な実施形態を組み合わせて新しい技術案とすることが可能である。
別途の説明がない限り、本出願のすべての技術的特徴および選択可能な技術的特徴を組み合わせて新しい技術案とすることが可能である。
【0020】
別途の説明がない限り、本出願のすべてのステップは、順序に実行されてもよいし、ランダムに実行されてもよい。順序に実行されることが好ましい。例えば、方法がステップ(a)とステップ(b)とを含む場合、前記方法は、順に実行するステップ(a)とステップ(b)とを含んでもよく、順に実行するステップ(b)とステップ(a)とを含んでもよい。例えば、前記方法はステップ(c)をさらに含んでもよく、ステップ(c)が任意の順番で前記方法に組み込まれることができ、例えば、ステップ(a)、ステップ(b)およびステップ(c)の順のものを含んでもよく、ステップ(a)、ステップ(c)およびステップ(b)の順のものを含んでもよく、ステップ(c)、ステップ(a)およびステップ(b)などの順のものを含んでもよい。
【0021】
別途の説明がない限り、本出願に記載の「含む」および「包含」で指し示されるものは、開放形式の記載であってもよく、閉鎖形式の記載であってもよい。例えば、前記「含む」および「包含」で記載した場合、リストしていない要素を含みまたは包含してもよく、リストした要素だけを含みまたは包含してもよい。
【0022】
別途の説明がない限り、本出願では、用語の「または」は、広義な表現である。例えば、フレーズの「AまたはB」は、「A、B、またはAとB」を意味する。より具体的に、Aが成立(または存在)、Bが不成立(または非存在)である場合、Aが不成立(または非存在)、Bが成立(または存在)である場合、AとBがいずれも成立(または存在)である場合は、いずれも「AまたはB」という条件を満たす。
【0023】
従来のリチウムイオン電池において、負極容量と正極容量との比(負極容量:正極容量)、すなわちCB(cell balance)値が比較的高く、一般的に1.07以上であり、1.1を超える場合もある。CB値が比較的高い場合、負極容量が正極容量を大きく超えており、これによって、充放電過程においてリチウムに十分な空間を提供し、リチウムが負極の表面で堆積してデンドライトを形成することを防止することができ、したがって、電池はサイクル性能が比較的良い。しかし、CB値が比較的高い場合、負極の無駄になり、電池のエネルギー密度が比較的低い。このため、リチウムイオン電池のCB値を低下させて電池のエネルギー密度を向上させるとともに、電池の良好なサイクル性能を確保できることが望ましい。
【0024】
本出願は、リチウムイオン電池の電解液に特定量のチオ尿素系化合物を添加することにより、従来のリチウムイオン電池よりも低いCB値を有するリチウムイオン電池を得ることで該リチウムイオン電池は、サイクル性能が良好である。
【0025】
本出願の一実施形態において、本出願は、リチウムイオン電池を提供する。前記リチウム電池が正極板と、負極板と、セパレータと、電解液とを含み、前記リチウム電池の負極容量と正極容量との比がaであり、前記電解液には、含有量が電解液の総重量に対してb重量%であるチオ尿素系化合物が含有され、前記リチウムイオン電池が下記の関係式を満たす。
【0026】
a<1.05、かつ25×(1.05-a)≦b≦100×(1.05-a)
【0027】
詳細なメカニズムがまだ判明していないが、本出願人は、下記のことを発見した。本出願において、電解液に上記の量のチオ尿素系化合物を添加することにより、電池のCB値が比較的低くても、電池が良好なサイクル性能を有する。チオ尿素系化合物の含有量が低すぎると、サイクル性能を十分に改善することができなく、チオ尿素系化合物の含有量が高すぎると、チオ尿素が酸化されることに起因して保存している間に電池にガスが生成してしまう。上記のように設計されたリチウムイオン電池は、サイクル性能もエネルギー密度も良好である。
【0028】
電池の負極容量および正極容量は、それぞれ下記の方法で測定することができる。リチウムイオン電池に対して完全放電(例えば、本出願に係るリチウムイオン電池に対して、2.5Vまで放電する場合は完全放電となる)を行ったあと、電池を分解して正極板および負極板のそれぞれを得、正極板および負極板のそれぞれに対して、金属リチウムを対電極として使用してコイン型電池を組み立て、0.1mAで容量放電を行い、対応する容量を測定し、CB値測定の具体的な過程について本出願の実施例の測定方法が記載された部分を参照できる。
【0029】
いくつかの実施形態において、a/bの値は、0.8~2であり、任意で1~1.8である。この範囲に収めれば、リチウムイオン電池のエネルギー密度およびサイクル性能がさらに改善される。
【0030】
いくつかの実施形態において、aは、0.9≦a<1.05であり、任意で0.98~1.04である。この範囲に収めれば、リチウムイオン電池は、サイクル性能とエネルギー密度とのバランスがより良好である。
【0031】
いくつかの実施形態において、bは、0.2~5であり、任意で0.5~2であり、任意で0.5~1.0である。チオ尿素系化合物の含有量を選択することにより、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記チオ尿素系化合物は、構造式が下記の通りであり、
【化2】
RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
10アルキル基、C
1~C
10アルケニル基、フェニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基を表し、前記C
1~C
10アルキレン基またはC
1~C
10アルケニレン基が任意で酸素基で置換される。任意で、RおよびXは、それぞれ独立してH、C
1~C
6アルキル基、C
1~C
6アルケニル基から選択され、あるいは、RとXは一緒になってC
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基を表し、前記C
1~C
6アルキレン基またはC
1~C
6アルケニレン基が任意で酸素基で置換される。任意で、前記チオ尿素系化合物は、下記の構造のうちの1つを有する。
【化3】
チオ尿素系化合物に対する選択により、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記電解液には金属の硝酸塩、フルオロエチレンカーボネートおよびビニレンカーボネートから選択される少なくとも1種の添加剤がさらに含有される。任意で、前記金属の硝酸塩は、硝酸リチウム、硝酸マグネシウムおよび硝酸銅(II)のうちの1種または複数種である。任意で、前記添加剤の含有量は、0.5重量%~2重量%である。前記添加剤を添加することにより、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記リチウムイオン電池の負極板において、負極膜層の厚さが140マイクロメートル以下である。この範囲に収めれば、電池のサイクル性能がさらに改善される。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本出願に係るリチウムイオン電池、電池ユニット、電池パックおよび電気装置を説明する。
【0036】
本出願の一実施形態は、リチウムイオン電池を提供する。
一般的に、リチウムイオン電池は、正極板と、負極板と、電解質と、セパレータとを含む。電池の充放電過程において、活性イオンが正極板と負極板との間に繰り返し挿入されたり脱離されたりする。電解質は、正極板と負極板との間でイオンを輸送するものである。セパレータは、正極板と負極板との間に配置され、主に正極と負極の短絡を防止するとともに、イオンを通すことができるものである。
【0037】
[正極板]
正極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられた正極膜層とを含む。前記正極膜層は、本出願の第1局面による正極活性材料を含む。
例えば、正極集電体は、その厚み方向において対向する2つの表面を有し、正極膜層が正極集電体の対向する2つの表面のいずれか一方または両方に設けられる。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記正極集電体として、金属箔または複合集電体を使用する。例えば、金属箔として、アルミニウム箔を使用することができる。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基層の少なくとも1つの表面に形成された金属層を含んでいてもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に設けて形成することができる。
【0039】
いくつかの実施形態において、正極活性材料は、当分野周知の電池用正極活性材料を使用することができる。例えば、正極活性材料は、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、リチウム遷移金属酸化物およびそれらの改質化合物の少なくとも1種を含んでいてもよい。本出願は、これらの材料に限定されず、電池の正極活性材料として使用可能な他の従来の材料を使用してもよい。これらの正極活性材料は、単独で使用してもよく、2つ以上組み合わせて使用してもよい。そのうち、リチウム遷移金属酸化物の例として、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMnO2、LiMn2O4)、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(単にNCM333と称する場合がある)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(単にNCM523と称する場合がある)、LiNi0.5Co0.25Mn0.25O2(単にNCM211と称する場合がある)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(単にNCM622と称する場合がある)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(単にNCM811と称する場合がある)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えばLiNi0.85Co0.15Al0.05O2)およびそれらの改質化合物などの少なくとも1種を含むが、これらに限定されない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例として、リン酸鉄リチウム(例えばLiFePO4(単にLFPと称する場合がある))、リン酸鉄リチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO4)、リン酸マンガンリチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素の複合材料の少なくとも1種を含むが、これらに限定されない。
【0040】
いくつかの実施形態において、任意で、正極膜層にはバインダーがさらに含まれる。例えば、前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレンの三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレンの三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペンの共重合体およびフッ素含有アクリル樹脂の少なくとも1種を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、任意で、正極膜層には導電剤がさらに含まれる。例えば、前記導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびカーボンナノファイバーの少なくとも1種を含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、下記の方式で正極板を調製することができる。正極板を調製するための上記の成分、例えば、正極活性材料、導電剤、バインダーおよび他の任意の成分を溶媒(例えばN-メチルピロリドン)で分散させ、正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経て、正極板を得る。
【0043】
[負極板]
負極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも1つの表面に設けられた負極膜層とを含む。前記負極膜層に負極活性材料が含まれる。
例えば、負極集電体は、その厚み方向において対向する2つの表面を有し、負極膜層が負極集電体の対向する2つの表面のいずれか一方または両方に設けられる。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体として、金属箔または複合集電体を使用する。例えば、金属箔として、銅箔を使用することができる。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基材の少なくとも1つの表面に形成された金属層を含んでいてもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に設けて形成することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、負極活性材料は、当分野周知の電池用負極活性材料を使用することができる。例えば、負極活性材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料およびチタン酸リチウムなどの少なくとも1種を含んでいてもよい。前記シリコン系材料は、単体シリコン、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体およびシリコン合金から選択される少なくとも1種である。前記スズ系材料は、単体スズ、スズ酸化物およびスズ合金から選択される少なくとも1種である。本出願は、これらの材料に限定されず、電池の負極活性材料として使用可能な他の従来の材料を使用してもよい。これらの負極活性材料は、単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、任意で、負極膜層にはバインダーがさらに含まれる。前記バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)およびカルボキシメチルキトサン(CMCS)から選択される少なくとも1種である。
【0047】
いくつかの実施形態において、任意で、負極膜層には導電剤がさらに含まれる。導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびカーボンナノファイバーから選択される少なくとも1種である。
【0048】
いくつかの実施形態において、任意で、負極膜層には他の助剤がさらに含まれてもよく、他の助剤は、例えば増粘剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などがある。
【0049】
いくつかの実施形態において、下記の方式で負極板を調製することができる。負極板を調製するための上記の成分、例えば、負極活性材料、導電剤、バインダーおよび他の任意の成分を溶媒(例えば脱イオン水)で分散させ、負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経て、負極板を得る。
【0050】
[電解質]
電解質が正極板と負極板との間でイオンを輸送するものである。本出願では、電解質の種類に対して具体的に限定しなくてもよく、必要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、液体、ゲル状または全固体のものである。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記電解質として、電解液を使用する。前記電解液は、電解質塩と溶媒とを含む。
【0052】
いくつかの実施形態において、電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートおよびリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートから選択される少なくとも1種である。
【0053】
いくつかの実施形態において、溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸ジプロピル、メチルプロピルカルボネート、炭酸エチルプロピル、炭酸ブチレン、炭酸フルオロエチレン、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホンおよびジエチルスルホンから選択される少なくとも1種である。
【0054】
いくつかの実施形態において、任意で、前記電解液には他の添加剤がさらに含まれてもよい。例えば、添加剤は、負極成膜添加剤、正極成膜添加剤を含んでもよく、電池のある性能を改善できる添加剤を含んでもよく、例えば、電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤または電池の低温性能を改善する添加剤などが挙げられる。
【0055】
[セパレータ]
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、セパレータをさらに含む。本出願では、セパレータの種類に対して特に限定しなくてもよく、任意の周知の良好な化学的安定性および機械的安定性を有する多孔質構造のセパレータを使用することができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリフッ化ビニリデンから選択される少なくとも1種である。セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に限定されない。セパレータが多層複合薄膜である場合、各層の材料が同じであってもよく、異なっていてもよく、特に限定されない。
【0057】
いくつかの実施形態において、正極板、負極板およびセパレータは、捲回プロセスまたは積層プロセスにより電極アッセンブリーとして製造される。
【0058】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、パッケージを含む。該パッケージは、上記の電極アッセンブリーおよび電解質を封入するために用いられる。
【0059】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池のパッケージは、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼ケースなどの硬質ケースであってもよく、例えば袋状ソフトパックなどのソフトパックであってもよい。ソフトパックの材質は、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートおよびポリブチレンサクシネートなどのプラスチックとすることができる。
【0060】
本出願では、リチウムイオン電池の形状は、特に限定されず、円柱状、四角形または他の任意の形状であってもよい。例えば、
図1には、一例としての四角形構造のリチウムイオン電池5が示されている。
【0061】
いくつかの実施形態において、
図2に示すように、パッケージは、ハウジング51とカバープレート53とを含む。ハウジング51は、底板と底板に接続された側板とを含み、底板と側板とにより収容室を形成する。ハウジング51は、収容室と連通する開口を有し、カバープレート53は、前記開口を閉蓋するように設けられて前記収容室を密封することができる。正極板、負極板およびセパレータは、捲回プロセスまたは積層プロセスにより電極アッセンブリー52として形成される。電極アッセンブリー52が前記収容室内に密封される。電解液が電極アッセンブリー52に浸潤する。リチウムイオン電池5に含まれる電極アッセンブリー52の数は、1つであってもよく複数であってもよく、当業者が実際の要求に応じて選択することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、電池ユニットとして組み立てられることができ、電池ユニットに含まれるリチウムイオン電池の数が1つであってもよく複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池ユニットの応用および容量に応じて選択することができる。
【0063】
図3は、一例としての電池ユニット4を示している。
図3に示すように、電池ユニット4において、複数のリチウムイオン電池5が電池ユニット4の長さ方向において順次に配列して設置される。無論、他の任意の方式で配置してもよい。さらに、固定部材により該複数のリチウムイオン電池5を固定してもよい。
【0064】
任意で、電池ユニット4は、複数のリチウムイオン電池5を収容する収容空間を有する筐体をさらに備える。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記の電池ユニットは、電池パックとして組み立てられることができ、電池パックに含まれる電池ユニットの数が1つであってもよく複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池パックの応用および容量に応じて選択することができる。
【0066】
図4および
図5は、一例としての電池パック1を示している。
図5に示すように、電池パック1は、電池箱と、電池箱に設置される複数の電池ユニット4とを備える。電池箱は、上箱体2と下箱体3とを含み、上箱体2が下箱体3を覆うように設けられ、よって電池ユニット4を収容する密封空間を形成する。複数の電池ユニット4は、任意の方式で電池箱において配列される。
【0067】
さらに、本出願は、本出願に係るリチウムイオン電池、電池ユニットまたは電池パックの少なくとも1種を備える電気装置を提供する。前記リチウムイオン電池、電池ユニットまたは電池パックは、前記電気装置の電源として使用してもよく、前記電気装置のエネルギー貯蔵ユニットとして使用してもよい。前記電気装置は、携帯機器(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば、完全電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電車、船舶および衛星、エネルギー貯蔵システムなどを含むが、これらに限定されない。
【0068】
前記電気装置に対して、その使用要求に応じてリチウムイオン電池、電池ユニットまたは電池パックを選択することができる。
【0069】
図6は、一例としての電気装置を示している。該電気装置は、完全電気自動車、ハイブリッド電気自動車またはプラグインハイブリッド電気自動車などである。該電気装置のリチウムイオン電池に対する高レートおよび高エネルギー密度の要求を満たすため、電池パックまたは電池ユニットを使用することができる。
【0070】
他の例として、装置は、携帯電話、タブレット、ノートパソコンなどとすることができる。該装置は、一般的に軽量および薄いことが要求されるため、電源としてリチウムイオン電池を使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本出願の実施例を説明する。説明する実施例は、例示的なものであり、本出願を解釈するためのものにすぎず、本出願を限定するものではない。実施例において具体的な技術または条件を明記しないことについて、当分野の文献に記載された技術または条件または製品の仕様書に従って行うことが可能である。製造メーカーが明記されていない試剤または器械について、市販の従来品を使用することが可能である。
実施例および比較例に使用されたチオ尿素添加剤は、下記の通りである。
【0072】
【0073】
(比較例1)
[電解液の調製]
水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.25gのEC(炭酸エチレン)と、61.25gのEMC(炭酸エチルメチル)と、12.5gのLiPF6とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本比較例の電解液を得た。
【0074】
[正極板の製造]
正極活性材料のニッケルコバルトマンガン三元系材料(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、容量が180mAh/gであった)と、バインダーのポリフッ化ビニリデンと、導電剤のアセチレンブラックとを8:1:1の質量比で混合し、溶媒のNMP(N-メチルピロリドン)を添加し、真空撹拌機の処理で正極スラリーを得た。正極スラリーを0.2826g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ13μmの正極集電体用アルミニウム箔に均一に塗布し、該アルミニウム箔を室温条件で乾燥させたあと120℃のオーブンに入れて1時間乾燥させ、その後冷間プレス、分断を経て正極板を得た。
【0075】
[負極板の製造]
人造黒鉛(容量が350mAh/gであった)と、導電剤のカーボンブラックと、バインダーのアクリレートとを92:2:6の質量比で混合し、脱イオン水を添加し、真空撹拌機の処理で負極スラリーを得た。負極スラリーを0.1290g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布し、該銅箔を室温条件で乾燥させたあと120℃のオーブンに入れて1時間乾燥させ、その後負極膜層の厚さが100マイクロメートルであるまで冷間プレスを行い、分断して負極板を得た。
【0076】
[セパレータ]
セパレータは、Cellgard社から入手したものであり、型番がcellgard2400であった。
【0077】
[リチウムイオン電池の製造]
セパレータが正極板と負極板とを隔てるように正極板と、セパレータと、負極板とを順に積層して、捲回してベアセルを得た。ベアセルをパッケージ箔に入れ、調製された8.6gの電解液を乾燥後の電池に注入し、真空パッケージング、静置、化成、整形などの工程を経て、リチウムイオン電池を得た。
【0078】
(比較例2)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.1gのECと、60.9gのEMCと、12.5gのLiPF6と、0.5gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本比較例の電解液を得た。
【0079】
(比較例3)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.29gのECと、59.01gのEMCと、12.5gのLiPF6と、3.2gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本比較例の電解液を得た。
【0080】
(実施例1)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.95gのECと、60.55gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0081】
(実施例2)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.01gのECと、60.69gのEMCと、12.5gのLiPF6と、0.8gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0082】
(実施例3)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.8gのECと、60.2gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1.5gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0083】
(実施例4)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.9gのECと、60.4gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1.2gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0084】
(実施例5)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
負極スラリーを0.1315g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布した。そして、電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.07gのECと、60.83gのEMCと、12.5gのLiPF6と、0.6gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0085】
(実施例6)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
負極スラリーを0.1315g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布した。そして、電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.085gのECと、60.865gのEMCと、12.5gのLiPF6と、0.55gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0086】
(実施例7)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
負極スラリーを0.1315g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布した。そして、電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに26.1gのECと、60.9gのEMCと、12.5gのLiPF6と、0.5gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0087】
(実施例8)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
負極スラリーを0.1239g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布した。そして、電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.65gのECと、59.85gのEMCと、12.5gのLiPF6と、2gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0088】
(実施例9)
リチウムイオン電池の製造過程は比較例1と基本的に同じであったが、下記のことにおいて比較例1と相違している。
負極スラリーを0.115g(乾燥重量)/1540.25mm2の量で厚さ8μmの負極集電体用銅箔に均一に塗布した。そして、電解液の製造ステップ:水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.05gのECと、58.45gのEMCと、12.5gのLiPF6と、4gのチオ尿素系化合物1とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0089】
(実施例10)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、該実施例の電解液調製において添加されたチオ尿素系化合物がチオ尿素系化合物2であった点において実施例1と相違している。
【0090】
(実施例11)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、該実施例の電解液調製において添加されたチオ尿素系化合物がチオ尿素系化合物3であった点において実施例1と相違している。
【0091】
(実施例12)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、該実施例の電解液調製において添加されたチオ尿素系化合物がチオ尿素系化合物4であった点において実施例1と相違している。
【0092】
(実施例13)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、該実施例の電解液調製において添加されたチオ尿素系化合物がチオ尿素系化合物5であった点において実施例1と相違している。
【0093】
(実施例14)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、電解液の調製過程が下記の点において実施例1と相違している。
水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.35gのECと、59.15gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1gのチオ尿素系化合物1と、1gのFEC(フルオロエチレンカーボネート)と、1gのLiNO3とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0094】
(実施例15)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、電解液の調製過程が下記の点において実施例と相違している。
水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.35gのECと、59.15gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1gのチオ尿素系化合物1と、1gのFECと、1gのMg(NO3)2とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0095】
(実施例16)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、電解液の調製過程が下記の点において実施例と相違している。
水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.35gのEC、59.15gのEMC、12.5gのLiPF6と、1gのチオ尿素系化合物1と、1gのVC(ビニレンカーボネート)と、1gのLiNO3とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0096】
(実施例17)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、電解液の調製過程が下記の点において実施例と相違している。
水含有量が10ppm未満であるアルゴンガス雰囲気のグローブボックスにおいて、ビーカーに25.35gのECと、59.15gのEMCと、12.5gのLiPF6と、1gのチオ尿素系化合物1と、2gのLiNO3とを入れ、十分に撹拌して溶解することで、本実施例の電解液を得た。
【0097】
(実施例18)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、冷間プレスされた負極膜層の厚さが90マイクロメートルであった点において実施例1と相違している。
【0098】
(実施例19)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、冷間プレスされた負極膜層の厚さが140マイクロメートルであった点において実施例1と相違している。
【0099】
(実施例20)
リチウムイオン電池の製造過程は実施例1と基本的に同じであったが、冷間プレスされた負極膜層の厚さが150マイクロメートルであった点において実施例1と相違している。
【0100】
測定方法
1.CB値の測定
リチウムイオン電池を2.5Vまで放電したあと、電池を分解して負極板を得た。負極板に対して、金属リチウムを対電極として使用してコイン型電池を組み立てた。コイン型電池は、標準の2046ボタン電池用金属ケースを使用し、極板を直径14mmの円板に裁断し、金属リチウム板が直径16mmの円板を使用し、中間のセパレータが直径18mmのPPセパレータを使用した。上記のコイン型電池に対して、36mAで0.05Vまで放電し、その放電容量をN1として記録した。
【0101】
リチウムイオン電池を4.4Vまで満充電し、電池を分解して正極板を得た。正極板に対して、金属リチウムを対電極として使用してコイン型電池を組み立てた。コイン型電池は、標準の2046ボタン電池用金属ケースを使用し、極板を直径14mmの円板に裁断し、金属リチウム板が直径16mmの円板を使用し、中間のセパレータが直径18mmのPPセパレータを使用した。上記のコイン型電池に対して、18mAで3.0Vまで放電し、その放電容量をN2として記録した。
これによって、リチウムイオン電池のCB値(CB値=N1/N2)を得た。
【0102】
2.25℃でのサイクル性能評価
25℃の温度条件で、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.35Vまで充電し、その後電流が0.05Cになるまで定電圧で充電し、さらに0.5Cの定電流で2.8Vまで放電し、放電容量をU1として記録した。そしてリチウムイオン電池を25℃の環境で上記の充放電過程を600回繰り返し、600回目のサイクルの放電容量をU2として記録した。
リチウムイオン電池が25℃の温度で600回サイクル後の容量維持率=[U2/U1]×100%
【0103】
3.60℃での保存性能評価
60℃の温度条件で、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.35Vまで充電し、その後電流が0.05Cになるまで定電圧で充電し、リチウムイオン電池の厚さを測定してそれをh0として記録した。そしてリチウムイオン電池を60℃の恒温器に入れて30日保存したあとに取り出し、このときのリチウムイオン電池の厚さを測定してそれをh1として記録した。
30日保存されたリチウムイオン電池の厚さ膨張率=[(h1-h0)/h0]×100%
【0104】
4.エネルギー密度の測定
25℃の温度条件で、リチウムイオン電池を1Aの定電流で4.3Vまで充電し、その後電流が0.5A未満まで定電圧で充電した。そして、電池を1Aの定電流で2.5Vまで放電し、その後0.5Aの定電流で2.5Vまで放電し、その後0.1Aで2.5Vまで放電し、該電池の放電容量C(Ah)を記録し、容量の半分まで放電したときの電池の電圧値U(V)を記録した。
このとき、電池の重さを量ってその質量m(kg)を記録した。
電池エネルギーW=C×U、電池のエネルギー密度=W/m
【0105】
各実施例および比較例のそれぞれの性能の測定結果は、下記の表1~4に示されている。
【表1】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
比較例1~3および実施例1~20は、いずれも低いCB値を使用したが、比較例1~3に対して、実施例1~20においてより良好なサイクル性能が示された。また、比較例2においてチオ尿素系化合物の含有量が比較的低かったので、チオ尿素系化合物が全く含まれない比較例1に対してサイクル性能が向上したが、ある程度だけの向上であった。比較例3においてチオ尿素系化合物の含有量が比較的高く、サイクル性能が比較的大きく改善されたが、高温保存後の電池膨張率が高すぎた。実施例1~4、実施例5~7から分かるように、a/bの値が0.8~2、特に1~1.8に収められる場合、電池のサイクル性能がさらに改善される。aが0.9≦a<1.05、特に0.98~1.04に収められる場合、電池のサイクル性能がさらに改善される。したがって、bが0.5~2、特に0.5~1.0に収められる場合、リチウムイオン電池のサイクル性能がさらに改善される。
【0110】
実施例10~13から分かるように、他のチオ尿素系化合物を使用した場合も低いCB値であるとともに良好なサイクル性能が実現された。
【0111】
実施例14~17から分かるように、電解液に特定の他の添加剤をさらに添加する場合、電池のサイクル性能がさらに改善される。
【0112】
実施例18~20から分かるように、負極膜層の厚さを140μm以下にする場合、電池のサイクル性能がさらに改善される。
【0113】
本出願は、上記の実施形態に限定されない。上記の実施形態が例示的なものにすぎず、本出願の技術案の範囲内において、技術思想と実質的に同様な構成を有し、同様な効果を奏することができる実施形態も本出願の技術範囲に該当する。また、本出願の主旨を逸脱しない範囲内に実施形態に対して行った当業者が想到できる各種の変形や、実施形態の一部の構成要素を組み合わせてなした他の方式も本出願の範囲に該当する。
【符号の説明】
【0114】
1 電池パック
2 上箱体
3 下箱体
4 電池ユニット
5 リチウムイオン電池
51 ハウジング
52 電極アッセンブリー
53 カバープレート
【国際調査報告】