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特表2024-525689層間に改善された接着性を有する薄フィルム複合膜およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】層間に改善された接着性を有する薄フィルム複合膜およびその使用
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20240705BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20240705BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240705BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240705BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B01D71/70
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/26
B01D71/32
B01D71/82 500
B01D69/02
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/42
B01D71/68
B01D69/00
B01D63/10
B01D53/22
B32B5/18
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501526
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 US2022036284
(87)【国際公開番号】W WO2023287628
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/220,780
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516017868
【氏名又は名称】コンパクト メンブレイン システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マジュンダル, スディプト
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンバーグ, ロバート ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ロープレーテ, ケネス イー.
(72)【発明者】
【氏名】シャングアン, ニン
(72)【発明者】
【氏名】ゴンチャロフスキー, アイリーン
(72)【発明者】
【氏名】ワーゴ, ジェイコブ エー.
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA61
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MC21
4D006MC28X
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC43
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC72
4D006MC74
4D006MC87
4D006NA46
4D006NA54
4D006NA62
4D006PA02
4D006PB19
4D006PB20
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB68
4D006PC80
4F100AH05B
4F100AH06B
4F100AK02C
4F100AK17B
4F100AK18A
4F100AK18B
4F100AK19A
4F100AK27A
4F100AK54A
4F100AK55A
4F100AK70B
4F100AL01A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100DJ00A
4F100EJ37A
4F100JA05C
4F100JD02C
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
ある態様では、本明細書において提供されるのは、改善された薄フィルム複合膜および該複合膜を使用するガス分離方法である。複合膜は、置換されたポリアセチレン、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、または付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンから選択されるポリマー材料由来のガター層を組み込む。ガター層は、フッ素化イオノマーを組み込んだガス分離層に、改善された接着性を提供する。ある態様では、本明細書において提供されるのは、ガター層と、ガス分離層中のフッ素化イオノマーとの間に改善された接着性を有する、薄フィルム複合膜である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多孔質層支持体と、
b)フッ素化イオノマーを含むガス分離層と、
c)100℃よりも高いガラス転移温度を有するポリマー材料を含むガター層と
を備える薄フィルム複合膜であって、
前記ポリマー材料が、繰り返し単位構造(I)を含む置換されたポリアセチレン、繰り返し単位構造(II)を含む付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、または繰り返し単位構造(III)を含む付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネン:
【化5】
[式中、nは、重合度を定義する数字であり;Rは、アルキルまたは芳香族基を含み;Rは、芳香族基またはシリル基を含み;Rは、Hであるか、またはアルキル基、シリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはシリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはRがHである場合、Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含む]
から選択される、薄フィルム複合膜。
【請求項2】
前記ポリマー材料が、2800バーラー(8.04×10-13mol m/(m s Pa))よりも大きい二酸化炭素に対する固有透過度を有する、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項3】
前記置換されたポリアセチレンが、シリル置換されたポリアセチレンである、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項4】
前記付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネンが、付加重合されたおよびシリル置換されたポリノルボルネンである、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項5】
前記付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンが、付加重合されたおよびシリル置換されたポリトリシクロノネンである、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項6】
前記シリル置換されたポリアセチレンが、ポリ(1-トリメチルシリルプロピン)である、請求項3に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項7】
前記付加重合されたおよびシリル置換されたポリノルボルネンが、ポリ(5-トリメチルシリルノルボルナ-2-エン)である、請求項4に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項8】
前記付加重合されたおよびシリル置換されたポリトリシクロノネンが、ポリ(3,3-ビス(トリメチルシリル)トリシクロノナ-7-エン)である、請求項5に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項9】
前記フッ素化イオノマーが、スルホン酸銀、スルホン酸アンモニウム、アルキル-スルホン酸アンモニウム、スルホン酸リチウムまたはスルホン酸ナトリウムから選択されるスルホン酸またはスルホネート官能基を含む、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項10】
前記フッ素化イオノマーが、ペンダントスルホン酸またはスルホネート官能基を含むテトラフルオロエチレンおよびパーフルオロビニルエーテルモノマーの重合繰り返し単位を含む、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項11】
前記多孔質層支持体が、ポリフッ化ビニリデン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを含む、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項12】
前記ガター層の厚さが、0.1μmから1μmの間である、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項13】
ガス分離層の厚さが、0.02μmから0.5μmの間である、請求項1に記載の薄フィルム複合膜。
【請求項14】
請求項1に記載の薄フィルム複合膜を備える、スパイラル型膜モジュール。
【請求項15】
二酸化炭素を第1のガス混合物から分離するための方法であって、前記方法が、
a)送給側および透過側を有する、請求項1に記載の薄フィルム複合膜を用意するステップと、
b)前記送給側を、流動している前記第1のガス混合物に曝露するステップと、
c)前記薄フィルム複合膜を越えて駆動力を提供するステップと、
d)前記第1のガス混合物中における二酸化炭素の濃度よりも高濃度の二酸化炭素を有する第2のガス混合物を透過側で生成するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記第1のガス混合物が、窒素またはアルカンをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のガス混合物が、水蒸気をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
駆動力を提供するステップが、前記透過側に真空を印加することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
アルケンを第1のガス混合物から分離するための方法であって、前記方法が、
a)請求項1に記載の薄フィルム複合膜を用意するステップであって、前記薄フィルム複合膜が、スルホン酸銀官能基、送給側および透過側を含む、ステップと、
b)前記送給側を、流動している前記第1のガス混合物に曝露するステップと、
c)前記薄フィルム複合膜を越えて駆動力を提供するステップと、
d)前記第1のガス混合物中におけるアルケンの濃度よりも高濃度のアルケンを有する第2のガス混合物を透過側で生成するステップと
を含む、方法。
【請求項20】
前記第1のガス混合物が、窒素またはアルカンをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のガス混合物が、水蒸気をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月12日に出願された米国仮特許出願第63/220,780号の優先権の利益を主張する。
【0002】
政府の権利
本発明は、エネルギー省によって授与されたDE-SC0021881の下、政府の支援を受けて為された。政府は、本発明において、ある特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
膜は、エネルギー生産等の産業プロセスにおいて生成されるガス混合物の分離に使用されうる。これらの分離は、炭化水素精製所の操業におけるプロパンからのプロピレン等、アルカンからのアルケンの分離、メタン等の炭化水素(すなわち、バイオガス)からの二酸化炭素の分離、または炭化水素の燃焼による廃流(すなわち、排ガス)中における窒素からの二酸化炭素の分離を含むことができる。
【0004】
有用な膜は、透過性の増大のために高拡散速度層(ガター層)と接触している薄いガス分離層、ならびに全体的な強度および耐久性のために多孔質層支持体を有する、複合膜を含むことができる。しかしながら、ガター層と強く接着したままのガス分離層を有する複合膜に対する満たされていないニーズがある。例えば、弱く接着した層は、商業的応用のための大面積モジュールを作製するための加工プロセスにより剥離および損傷しやすい場合がある。剥離されたまたは損傷されたガス分離層は、より低いガス分離選択性による性能の低減を有しうる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
ある態様では、本明細書において提供されるのは、ガター層と、ガス分離層中のフッ素化イオノマーとの間に改善された接着性を有する、薄フィルム複合膜である。そのような膜は、ガター層のない同等の膜と比較して、より大きい透過度を有することができる。薄フィルム複合膜は、多孔質層支持体と;フッ素化イオノマーを含むガス分離層と;100℃よりも高いガラス転移温度を有するポリマー材料を含むガター層とを備える。ポリマー材料は、次の通りの、繰り返し単位構造(I)を含む置換されたポリアセチレン、繰り返し単位構造(II)を含む付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、または繰り返し単位構造(III)を含む付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネン:
【化1】
[式中、nは、重合度を定義する数字であり;Rは、アルキルまたは芳香族基を含み;Rは、芳香族基またはシリル基を含み;Rは、Hであるか、またはアルキル基、シリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはシリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはRがHである場合、Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含む]
から選択される。
【0006】
一部の実施形態では、置換されたポリアセチレンは、ポリ(1-トリメチルシリルプロピン)であることができ、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネンは、ポリ(5-トリメチルシリルノルボルナ-2-エン)であることができ、付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンは、ポリ(3,3-ビス(トリメチルシリル)トリシクロノナ-7-エン)であることができる。ポリマー材料は、2800バーラー(8.04×10-13mol m/(m s Pa))よりも大きい二酸化炭素に対する固有透過度を有することができ、ガター層の厚さは、0.1μmから1μmの間であることができる。ガター層のための多孔質層支持体は、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidine fluoride)、延伸ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを含むことができる。
【0007】
一部の実施形態では、フッ素化イオノマーは、ペンダントスルホン酸またはスルホネート官能基を含むテトラフルオロエチレンおよびパーフルオロビニルエーテルモノマーの重合繰り返し単位を含むことができる。スルホネート官能基は、スルホン酸銀、スルホン酸アンモニウム、アルキルスルホン酸アンモニウム、スルホン酸リチウムまたはスルホン酸ナトリウムから選択されうる。ガス分離層の厚さは、0.02μmから0.5μmの間であることができる。
【0008】
別の態様では、本明細書において提供されるのは、本明細書において記述される通りの薄フィルム複合膜を備えるスパイラル型(spiral-would)膜モジュールである。
【0009】
別の態様では、本明細書において提供されるのは、アルケンを第1のガス混合物から分離するための方法であって、スルホン酸銀官能基、送給側および透過側を有する、本明細書において記述される通りの薄フィルム複合膜を用意するステップと;送給側を、流動している第1のガス混合物に曝露するステップと;薄フィルム複合膜を越えて駆動力を提供するステップと;第1のガス混合物中におけるアルケンの濃度よりも高濃度のアルケンを有する第2のガス混合物を透過側で生成するステップとを含む方法である。一部の実施形態では、第1のガス混合物は、プロピレンおよびプロパンを含み、水蒸気をさらに含む。
【0010】
別の態様では、本明細書において提供されるのは、二酸化炭素を第1のガス混合物から分離するための方法であって、送給側および透過側を有する、本明細書において記述される通りの薄フィルム複合膜を用意するステップと;送給側を、流動している第1のガス混合物に曝露するステップと;薄フィルム複合膜を越えて駆動力を提供するステップと;第1のガス混合物中における二酸化炭素の濃度よりも高濃度の二酸化炭素を有する第2のガス混合物を透過側で生成するステップとを含む方法である。一部の実施形態では、第1のガス混合物は、窒素、メタンまたは水蒸気をさらに含む。駆動力を提供するステップは、透過側に真空を印加することを含みうる。
【0011】
本発明のこの概要は、本発明の実施形態の一部を紹介したものであり、限定であることを意図していない。本発明の変形形態および代替的な配置を含む追加の実施形態が、本発明の詳細な説明および実施例においてさらに記述される。本発明のある特定の例示的な実施形態は、本発明を例証することのみを目的として本明細書において記述されており、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明の他の実施形態、ならびに記述された実施形態のある特定の修正形態、組合せおよび改善は、当業者に想起されるものであろうし、すべてのそのような代替実施形態、組合せ、修正形態、改善は、本発明の範囲内である。
【0012】
本明細書において使用される場合、用語「を備える(comprises)」、「を備える(comprising)」、「を含む(includes)」、「を含む(including)」、「を有する(has)」、「を有する(having)」またはその任意の他の変形体は、非排他的な包含を網羅することが意図されている。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品または装置は、それらの要素のみに必ずしも限定されるとは限らないが、明示的に収載されてもおらず、そのようなプロセス、方法、物品または装置に固有でもない他の要素を含んでよい。加えて、「a」または「an」の使用は、本明細書において記述される要素および成分を記述するために用いられる。これは、利便性のためおよび本発明の範囲の一般的な意味のために為されるにすぎない。この記述は、1つまたは少なくとも1つを含むと読み取られるべきであり、単数形は、それが別の意味であることが明らかでない限り、複数形も含む。ある特定の追加の用語も使用され、それらの一部は、以下の本発明の詳細な説明内でさらに定義される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
複合膜のためのガス分離層は、米国特許第5,191,151号および米国特許第10,639,591号において開示されているもの等のスルホネートまたはスルホン酸官能基を含むフッ素化イオノマーから加工されうる。膜技術分野においてガター層としても公知である高拡散速度層は、全体的により大きい透過度を提供することができ、全体的により大きい強度および耐久性のために、ガス分離層と多孔質層支持体との間に位置している(層状になっている)場合がある。フッ素化イオノマー由来のガス分離層およびガター層を有する複合膜は、米国特許第10,399,044号および米国特許出願公開第2021/0016231号において記述されている。その中で、ガター層は、フッ素化溶媒に予め溶解したTeflon(登録商標)AF2400等のフッ素化ポリマー材料を、多孔質層支持体に溶液キャスティングすることによって調製された。ガス分離層はその後、非フッ素化溶媒からのフッ素化イオノマーを、ガター層の上にコーティングすること(すなわち、溶液キャスティング)によって加工された。
【0014】
フッ素化イオノマーは、親水性であり、液体水を吸収および透過することができ、一方、Teflon(登録商標)AF2400等のガター層は、フッ素化、疎水性でもあり、液体水をはじくが、水蒸気を透過することができる。両方の材料がフッ素化されていてよいが、このような性質は同様の性質に対して、加湿環境における良好な層接着および動作寿命には不十分である場合がある。スルホン酸銀官能基を有するフッ素化イオノマーからの弱く接着したガス分離層は、粘着テープで引き離すことによって等、ガター層から分離することができ、商業的応用のための大面積モジュールへの加工プロセスにより剥離および損傷しやすい場合がある。剥離されたまたは損傷されたガス分離層は、より低いガス分離選択性による性能の低減を有しうる。したがって、ガター層とガス分離層中のフッ素化イオノマーとの間に、ガター層のない同等の複合膜に対して複合膜について全体的により大きい透過度を持つ、改善された接着性を有する薄フィルム複合膜が望ましい。
【0015】
対照的に、本明細書において提供されるのは、ガス分離層中のフッ素化イオノマーとポリマー材料を含むガター層との間に驚くほど改善された接着性を有し、化学的に異種、非フッ素化および疎水性である、薄フィルム複合膜である。ガス分離層はガター層に積層されており、これは多孔質層支持体に積層されている。一部の場合において、ガス分離層およびガター層は、Teflon(登録商標)AF2400から作製されたガター層を有する複合膜とは異なり、ペインターズマスキングテープを使用して分離され(すなわち、剥がされ)ない。本明細書において、ガター層に組み込むためのポリマー材料は、置換されたポリアセチレン、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、または付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンから選択される。
【0016】
置換されたポリアセチレンは、ポリ(1-トリメチルシリルプロピン)(PTMSP)を含むことができるか、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネンは、ポリ(5-トリメチルシリルノルボルナ-2-エン)(PTMSN)を含むことができるか、または付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンは、ポリ(3,3-ビス(トリメチルシリル)-トリシクロノナ-7-エン)(PTCNSi2g)を含むことができる。これらの具体的なポリマー材料の構造を、それぞれ(1)、(2)および(3)に示す。ガス分離層とガター層との間の改善された接着性は、薄フィルム複合膜の大面積モジュールへの加工をより少ない欠陥で可能にする。一部の実施形態では、薄フィルム複合膜は、アルカンからのアルケンの分離または窒素等の他のガスからのアルケンの分離に有用である。一部の実施形態では、薄フィルム複合膜は、窒素、アルカンまたはアルケン等のガスからの、二酸化炭素の分離に使用されうる。
【化2】
【0017】
置換されたポリアセチレン、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、または付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンは、高い固有ガス透過度を有しうるが、低から中等度のガス分離選択性を有しうる。本明細書において、フッ素化イオノマーを組み込んだガス分離層と組み合わせた、ポリマー材料を組み込んだガター層は、多孔質層支持体上に直接フッ素化イオノマーを組み込んだガス分離層を有する複合膜と比べて、薄フィルム複合膜についての窒素を上回る同等の二酸化炭素ガス分離選択性を有することができる。アルカンからのアルケン分離について、薄フィルム複合膜は、少なくとも50%のガス分離選択性増大を有しうる。同等のまたは増大したガス分離選択性は予想外であり、何故なら、膜技術分野において、ガス分離選択性が付加的ではなく、ガター層が全体的な透過性を増大させうるがガス分離選択性の低減という考えうるコストを伴うと概して理解されうるからである。Teflon(登録商標)AF2400とは異なり、PTMSP、PTMSNおよびPTCNSi2gのそれぞれは、トルエン等の有機溶媒に可溶性である。この溶解度は、フッ素化溶媒の使用を回避し、これにより、製造を単純化し、溶媒回収のためのはるかに厳しい要件を回避し、強力な温室効果ガスでありうるフッ素化溶媒蒸気の放出のあらゆる可能性を排除することができる。
【0018】
ポリマー材料は、それらの繰り返し単位構造中に官能基を組み込むという点で置換されている。例えば、PTMSP、PTMSNまたはPTCNSi2gは、それらの繰り返し単位構造中にトリメチルシリル基を含有するシリル置換されたポリマー材料である。シリル置換は、ガス分離層中のフッ素化イオノマーとの接着を助けることができる。PTMSP、PTMSNおよびPTCNSi2gは、摂氏300度よりも高いガラス転移温度を有するガラス状のポリマー材料でもある。薄フィルム複合膜について予測される摂氏100度の最高動作温度よりも高いガラス転移温度は、ガス分離層とガター層との間の界面を安定化するのを助け、多孔質層支持体上に直接ガス分離層を持つ同等の膜と比べて、ガス分離選択性を保持するまたはおそらく増強するのを助けることができる。
【0019】
置換されたポリノルボルネンまたは置換されたポリトリシクロノネンは、付加重合されている。開環メタセシスまたはラジカル重合等の考えられる他の重合技術とは異なり、前記付加重合されたポリマー材料とのモノマー重合を伴う縮合環構造は、インタクトかつ再配置されないままである。したがって、縮合環構造は、付加重合でより嵩張り、高いガス透過度をもたらす。例えば、二酸化炭素について報告されているPTMSNおよびPTCNSi2gの固有透過度は、それぞれおよそ5,300および19,900バーラーである。PTMSPは、34,000バーラーの初期二酸化炭素透過度を有し、その合成は、付加重合ともみなされうる。しかしながら、PTMSPは縮合環構造を含有せず、その高い透過度は、代わりに剛性の(対嵩張る)主鎖構造の非効率的な鎖パッキングからの高い自由体積によるものである。PTMSN、PTCNSi2gおよびPTMSPは、Teflon(登録商標)AF2400について報告されている2800バーラー(8.04×10-13mol m/(m s Pa))よりも大きい透過度を有する好ましいポリマー材料である。
【0020】
他の置換されたポリアセチレン、他の付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネン、ならびに他の付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンは、少なくとも摂氏100度のガラス転移温度を有してよく、2800バーラーよりも大きい二酸化炭素に対する固有透過度を有してよく、ガター層への組み込みに好適であってよい。アルキル基に加えて、シリル置換、アルコキシ-シリル置換または芳香族置換を有するポリマー材料についての一般的な構造を、以下に示す。置換されたポリアセチレンは繰り返し単位構造(I)を含み、付加重合されたおよび置換されたポリノルボルネンは繰り返し単位構造(II)を含み、付加重合されたおよび置換されたポリトリシクロノネンは繰り返し単位構造(III)を含む。ポリマー材料は、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、式中、nは、重合度を定義する数字であり;Rは、アルキルまたは芳香族基を含み;Rは、芳香族基またはシリル基を含み;Rは、Hであるか、またはアルキル基、シリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはシリル基もしくはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含み;Rは、Hであるか、またはRがHである場合、Rは、シリル基またはアルコキシ-シリル基を含む。
【化3】
【化4】
【0021】
他の置換されたポリアセチレンは、Hu et al.によって"Synthesis and Properties of Indan-Based Polyacetylenes That Feature the Highest Gas Permeability among All the Existing Polymers" Macromolecules 2008, 41, 8525-8532において開示された、ある特定のインダン含有ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を含みうる。他の付加重合され置換されたポリノルボルネンは、Maroon et al.によって"Addition-type alkoxysilyl-substituted polynorbornenes for post-combustion carbon dioxide separations" Journal of Membrane Science, 595, February 2020, 117532において開示されているもの等のアルコキシシリル置換されたポリノルボルネンを含みうる。
【0022】
PTMSPは、Gelest(Morrisville、PA)から市販されており、トルエン、シクロヘキサン、ヘプタンおよびクロロホルムを含む有機溶媒に可溶性である。PTMSNは、Finkelshtein et al.によって"Addition-Type Polynorbornenes with Si(CH3)3 Side Groups: Synthesis, Gas Permeability, and Free Volume" Macromolecules 2006, 39, 7022-7029において開示されている通り、5-トリメチルシリル-2-ノルボルネンの付加重合によって合成されうる。PTMSNは、トルエンおよびクロロホルムを含む有機溶媒に可溶性である。PTCNSi2gは、Gringoltsらによってロシア国特許第2,410,397号において、またはChapala et al.によって"A Novel, Highly Gas-Permeable Polymer Representing a New Class of Silicon-Containing Polynorbornenes as Efficient Membrane Materials" Macromolecules 2015, 48, 8055-8061において開示されている通り、3,3-ビス(トリメチルシリル)トリシクロノナ-7-エンの付加重合によって合成されうる。PTCNSi2gは、トルエンおよびクロロホルムを含む有機溶媒に可溶性である。
【0023】
その後ガター層になる支持フィルムは、ポリマー材料の希薄溶液の、多孔質層支持体の表面上へのコーティング(すなわち、溶液キャスティング)によって調製されうる。多孔質層支持体は、フラットシート、中空糸、または他のチューブ状および多孔質構造の形態であってよい。中空糸または他のチューブ状および多孔質構造では、ポリマー材料の希薄溶液は、外表面(外殻)または内表面(内腔)にキャスティングされてよい。PTMSP、PTMSNまたはPTCNSi2gの希薄溶液は、有機溶媒中、2%未満または0.1%から1%の間である濃度で調製されうる。許容されるコーティング方法は、リングキャスティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スロットダイコーティング、ロールコーティング、メイヤーロッドコーティング、および射出コーティングを含むがこれらに限定されない。有機溶媒を蒸発させて、その後ガター層になるポリマー材料の支持フィルムを形成することができる。支持フィルム中に残っている残留または微量有機溶媒は、その後の加工ステップに干渉しないはずである。
【0024】
その後ガター層になる支持フィルムは薄く、0.05μmから5μmの間、または0.1μmから1μmの間であることができる。圧力正規化流束である透過は、典型的には、GPU×10×cm(STP)/(cm s cmHg)の単位を有するガス透過性単位(GPU)係数として報告される。透過度は、厚さについて正規化された透過性であり、典型的にはバーラーで報告され、ここで、バーラー透過度係数はpBarrer×1010×cm(STP)/(cm s cmHg)の単位を有する。まとめると、支持フィルムおよび多孔質層支持体は、25℃で測定した場合、少なくとも5000GPUの、または10,000GPUよりも大きいヘリウムまたは二酸化炭素透過性を有することができる。
【0025】
薄フィルム複合膜におけるガス分離層は、フッ素化イオノマーを含む。フッ素化イオノマーは、フッ素化主鎖と、スルホン酸、スルホネート、カルボン酸、カーボネート、ホスフェートまたはホスホニウム等のイオン性官能基を含む共有結合したペンダント基とを有する、フッ素化コポリマーである。スルホン酸またはスルホネート官能基を含むフッ素化イオノマーがより好ましい場合がある。スルホネート官能基に対するある特定の対イオン(カチオン)は、フッ素化イオノマーに高い透水性を付与することができる。好適なカチオンは、アルキルアンモニウム、アンモニウム、銀、リチウムまたはナトリウムカチオンを含む。カチオンが銀であるスルホネート官能基は、アルカンからのアルケンの実際の分離に使用されうる。フッ素化イオノマーの等価重量は、1モルのスルホネートまたはスルホン酸官能基を含有するフッ素化イオノマーの重量である。等価重量(EW)は、1モル当たり5000グラム未満、2000未満、または500から800g/モルの間であることができる。好適なフッ素化イオノマーは、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロビニルエーテルモノマー由来の重合繰り返し単位を含み、ペンダントスルホネートまたはスルホン酸官能基を有するもの、例えばNafion(登録商標)(Chemours、Wilmington DE)およびAquivion(登録商標)(Solvay、Houston TX)等を含むことができる。Aquivion(登録商標)は、Nafion(登録商標)よりも低い等価重量を有する。
【0026】
ガス分離層は、フッ素化イオノマーの希薄溶液をコーティングすること(すなわち、溶液キャスティング)によって加工されうる。希薄溶液は、5%(w/w)未満、2%未満または0.1%から2%の間である濃度で調製されうる。希薄溶液は、フッ素化イオノマーの予め形成され濃縮された市販の溶液を、混和性および非フッ素化の溶媒と混合することによって調製されうる。溶媒は、予め形成された溶液中の溶媒と同じであっても異なっていてもよく、故に、溶媒混合物を形成する。許容される希薄溶液コーティング方法は、リングキャスティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スロットダイコーティング、ロールコーティングおよびメイヤーロッドコーティングを含む。希薄溶液を、既に多孔質層支持体上にあってよい、ガター層となるフィルムの表面上にコーティングすることができる。溶媒または溶媒混合物は、蒸発等によって除去することができる。溶媒または溶媒混合物を蒸発させて、「乾燥」ガス分離層を適時に形成することができる。ガス分離層の厚さは、薄フィルム複合膜の透過性に対して有意な影響を有し、したがって、厚さ0.01μmから5μm、または0.02μmから0.5μmの間の薄いものである。
【0027】
多孔質層支持体は、薄いガター層およびガス分離層を補強することができ、薄フィルム複合膜が、スパイラル型または中空糸膜モジュールを含む複雑な形状に加工されうるように、複合を強化するのを助ける。多孔質層支持体は、フラットシート、中空糸、または他のチューブ状および多孔質構造の形態であってよい。多孔質層支持体のための好適な材料は、ポリフッ化ビニリデン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンを含むがこれらに限定されない。多孔質層支持体は、不織ポリエステルまたはポリプロピレンシート等の多孔質およびさらに強力な裏当て材を含んでもよい。多孔質シリカまたはアルミナシートまたはチューブ等の無機基材も、多孔質層支持体に好適な材料となりうる。多孔質層支持体は、ガター層よりも高い、例を挙げると、少なくとも2倍高い、または少なくとも5倍高い、ヘリウムまたは二酸化炭素透過性を有することができる。透過ガスは、少なくとも40%の孔隙率を有する多孔質層支持体を経由して、比較的遮られずに流動することができる。平均孔径は、それぞれおよそ50,000から200,000ダルトンの分子量カットオフに対応する、0.1μm未満または0.01から0.03μmの間であることができる。
【0028】
薄フィルム複合膜を熱処理ステップに供し、「アニール」して、機械的耐久性および長期間性能安定性を改善することができる。ガス分離層中のフッ素化イオノマーは、薄フィルム複合膜をフッ素化イオノマーのガラス転移温度付近またはそれよりも上まで加熱することによって、アニールすることができる。正確なガラス転移温度は、フッ素化イオノマーの組成に依存することになる。概して、フッ素化イオノマーのためのアニーリング温度は、一部の場合において、50から200℃の間、および75から150℃の間である。薄フィルム複合膜は、0.1から10分間にわたって、または1から5分間にわたって加熱されうる。適切なアニーリング温度および時間は、改善された薄フィルム複合膜の他の成分を劣化させないはずである。
【0029】
ガス分離層中にスルホン酸銀官能基以外のスルホン酸またはスルホネート官能基を含むフッ素化イオノマーは、最初は、アルカンからのアルケンの分離に不活性である。すなわち、薄フィルム複合膜は有意に選択透過性ではなく(選択性≦5)、アルケン透過性は低い(<25GPU)。薄フィルム複合膜は、ガス分離層中の銀とのプロトンまたは他のカチオン(対イオン)の交換によって活性化されうる。例えば、交換は、ガス分離層の露出面を、水ならびに硝酸銀等の可溶性およびイオン化可能な銀化合物を含む溶液と接触させることによって行われうる。十分なレベルの交換は、周囲(約23℃)温度における硝酸銀水溶液との1分間未満の接触後、プロピレンについてのプロパンを上回る高い透過性(>100GPU)および選択性(>25)から明らかなように、薄い(≦2μm)ガス分離層に迅速に起こりうる。
【0030】
薄フィルム複合膜は、Teflon(登録商標)AF2400からのガター層を有する比較用の複合膜と比べて、ガス分離層中のフッ素化イオノマーとガター層中のポリマー材料との間の改善された接着性を有する。改善された接着性は、下部のガター層からガス分離層を分離するためにペインターズマスキングテープを使用する剥離試験から明らかであり、ここで、フッ素化イオノマーは、スルホン酸銀、スルホン酸リチウムまたはスルホン酸ナトリウム等のスルホネート官能基を含む。3M(St.Paul、MN)によって製造されたもの等のペインターズマスキングテープは、一端を中心付近に置き、他端を縁部を越えて伸長させて、薄フィルム複合膜の円形サンプルの表面に適用される。次いで、テープを縁部からサンプルの中心に向けて剥がす。ガス分離層は、ポリマー材料を組み込んだガター層に付着したままである。ガス分離層は、テープと接着したままであり、Teflon(登録商標)AF2400を組み込んだガター層を有する比較用の複合膜との比較試験において剥がした。加えて、スルホン酸官能基は、本質的に粘着性であり、ペインターズマスキングテープと強く接着し、改善された接着性の良好な指標ではなかった。
【0031】
薄フィルム複合膜は、フッ素化イオノマーの対イオンが銀である場合、プロパンからのプロピレン等のアルカンからのアルケンの分離、または窒素からのアルケンの分離に有用となりうる。一部の実施形態では、薄フィルム複合膜は、窒素からの二酸化炭素の分離またはメタン等のアルカンからの二酸化炭素の分離に有用となりうる。対イオンが銀ではない実施形態では、薄フィルム複合膜は、エテン等のアルケンからの二酸化炭素の分離に有用となりうる。分離プロセスにおいて、薄フィルム複合膜は、アルケンまたは二酸化炭素を含む流動するガス状送給混合物に曝露される。「駆動力」は、薄フィルム複合膜を越えて提供され、ここで、送給側におけるアルケンまたは二酸化炭素の分圧は、薄フィルム複合膜の透過側におけるものよりも高い。駆動力は、透過側に真空を印加することを含んでよく、より低いエネルギー消費により、化石燃料を動力源とする発電所における排ガス中の窒素からの二酸化炭素の分離に好ましい場合がある。ガス状送給混合物からのアルケンまたは二酸化炭素のガス分離は、膜を経由して起こり、送給混合物よりも高濃度のアルケンまたは二酸化炭素を有する透過混合物を膜透過側において生成する。薄フィルム複合膜の性能は、送給混合物中に水蒸気を有すること、および必要に応じてスイープガス中に透過側において水蒸気を含むことによって増強することができ、これは、アルケンまたは二酸化炭素濃度を低減させることにより、駆動力を増大させるように機能することもできる。
【0032】
スパイラル型モジュールは、大規模膜分離に高度に有用であり、薄フィルム複合膜の大面積フラットシートをコンパクトな体積に組み立てるための効率的な手段である。スパイラル型モジュール設計および構築は、文献において十分に文書化されている。一般的に説明されているように、フラットシート膜は、送給側を外側に向けて、長方形およびわずかに非対称な膜リーフに折り畳まれている。膜は、透過ガス流のために内側にプラスチックメッシュスペーサー付きのポケット形状に三辺に沿って接合されている。非対称なポケット内の部分的に露出したスペーサーは、穴あきコアチューブまでその縁部に沿って密閉(接合)され、次いで、リーフ(単数または複数)は、送給流のための追加のインターリーブされた(interleafed)メッシュスペーサーとともに、コアチューブの周囲に巻き付けられる。巻き付けられたモジュールの外側は、モジュール成分を適所に保持するための粘着テープで包まれる。
【0033】
スパイラル型モジュールは、ガス分離のために圧力容器内に配置されてよい。加圧された送給ガス流は、送給スペーサーのオープンメッシュチャネルを、スパイラル型モジュールの長軸と平行に通過し、ある特定の成分が薄フィルム複合膜を透過する。透過した成分は、スパイラルリーフ内の透過スペーサーのオープンメッシュチャネルを経由して、長軸および送給流と垂直に流動する。透過した成分は、透過スペーサーを出て、コアチューブ中に収集される。他のスパイラル型モジュール設計は、スイープガスまたは流体を、コアチューブに加えて膜リーフの透過側を経由して循環させることになる同様の方式で構築されてよい。これは、流動配向要素を、コアチューブ、およびポケット形状のリーフの透過スペーサー内に添加することによって実現されうる。
【実施例
【0034】
(実施例1)
多孔質層支持体におけるPTMSPガター層またはTeflon(登録商標)AF2400ガター層の加工。ポリ(トリメチルシリルプロピン)(PTMSP)をヘプタン中0.5%(w/w)に溶解し、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過した。Teflon(登録商標)AF2400をOpteon(登録商標)SF10中0.5%(w/w)に溶解し、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過した。次いで、溶液を、縦型ロールコーターを使用し、不織ポリエステル裏当て(Synder、Filtration、Vacaville CA)上、100,000ダルトンの分子量カットオフを有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)限外濾過膜を含む100cm×200cmの多孔質層支持体において、別個にキャスティングした。溶媒を、乾燥窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガター層となる支持フィルムを形成した。PTMSP支持フィルムについての見かけの薄層厚(laminar thickness)は、塗布された溶液の質量、濃度、多孔質層支持体面積および0.77g/mLのPTMSP密度を使用して重量測定的に0.80μmと推定された。Teflon(登録商標)AF2400支持フィルム対照についての見かけの薄層厚は、1.67g/mLのTeflon(登録商標)AF2400密度を使用して、同様に0.25μmと推定された。各支持フィルムからの直径47mmのサンプルを、ステンレス鋼のクロスフローセル内に別個に置いた。支持フィルムを、周囲室温(約24℃)で、200mL/分(STP)での5から10psig送給圧力およびゲージ透過圧力にて、ヘリウム透過性について試験した。Agilent ADM流量計、モデルG6691Aを使用して、透過ガス流量を測定した。PTMSP支持フィルムは、5から10psigの間の圧力でおよそ5800GPUのヘリウム透過性を有していた。Teflon(登録商標)AF2400支持フィルムは、およそ7900GPUのヘリウム透過性を有していた。
(実施例2)
【0035】
PTMSPガター層またはTeflon(登録商標)AF2400ガター層対照におけるガス分離層加工。720g/モルの等価重量を有する水中Aquivion(登録商標)D72-25BS分散体(25%w/w)(Solvay、Houston TX)を、イソプロパノールで1.5%に希釈し、その後、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過して、フッ素化イオノマーの溶液を調製した。次いで、フッ素化イオノマーの溶液を、縦型ロールコーターを使用し、実施例1において調製したPTMSPフィルムまたはTeflon(登録商標)AF2400フィルム上に、別個にキャスティングした。イソプロパノールおよび水を、窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガス分離層を形成した。その後、各薄フィルム複合膜のためのガス分離層を、赤外線加熱によって120から130℃でおよそ1分間にわたってアニールした。PTMSPガター層におけるガス分離層についての見かけの薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、膜面積および2.07g/mLのSolvayが報告したAquivion(登録商標)密度を使用して重量測定的に0.62μmと推定された。Teflon(登録商標)AF2400ガター層対照におけるガス分離層についての見かけの薄層厚は、同様に0.69μmと推定された。
(実施例3)
【0036】
多孔質層支持体における直接のガス分離層加工。実施例2において調製した通りのフッ素化イオノマー溶液を、縦型ロールコーターを使用し、実施例1において記述された通りの100cm×200cmのPVDF多孔質層支持体に直接キャスティングした。イソプロパノールおよび水を、窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガス分離層を形成した。その後、薄フィルム複合膜におけるガス分離層を、赤外線加熱によって120から130℃でおよそ1分間にわたってアニールした。ガス分離層についての見かけの薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、膜面積および2.07g/mLのSolvayが報告したAquivion(登録商標)密度を使用して重量測定的に0.67μmと推定された。
(実施例4)
【0037】
ガス分離層の活性化、ヘリウム(He)透過性からの薄フィルム複合膜の厚さ、およびプロパンからのプロピレンの混合ガス分離のための寿命初期性能。実施例2および3において調製した薄フィルム複合膜のそれぞれからの円形サンプル(直径47mm)を、1分間にわたる0.15M硝酸銀水溶液への浸漬によって別個に活性化させた。過剰な硝酸銀溶液を乾燥空気で穏やかに吹き払い、円形サンプルをステンレス鋼のクロスフローセル内に別個に配置した。円形サンプルを、最初に、乾燥条件下、周囲室温(約24℃)で、200mL/分(STP)での30および50psig送給圧力ならびに大気圧透過にて、ヘリウム透過性について試験した。Agilent ADM流量計、モデルG6691Aを使用して、透過流量を測定した。ヘリウム(He)透過性は25GPU未満であり、ヘリウム透過性からの薄フィルム複合膜の厚さの推定値は、Baschetti et al.によって"Gas permeation in perfluorosulfonated membranes: Influence of temperature and relative humidity" International Journal of Hydrogen Energy 38 (2013) 11973-11982において開示されている、乾燥透過度を使用し、ガス分離層中におけるAquivion(登録商標)について22バーラー(Nafion(登録商標)について20バーラー)のヘリウム透過度を、測定されたヘリウム透過性で割ることによって算出した。
【0038】
その後、サンプルを、プロピレンおよびプロパンの50/50送給混合物の分離のための寿命初期性能について試験した。200mL/分(STP)での50/50送給混合物を、最初に周囲室温の加湿用水バブラーに通過させた後、同じく周囲室温のクロスフローセルに入れた。保持液出口における逆流圧力調整器により、送給圧力を60psigに維持した。ステージカットは5%未満であり、透過流量(大気圧における)は石鹸フィルム流量計を使用して測定した。透過組成物をガスクロマトグラフィーによって測定した。表1は、ヘリウム透過性から算出された薄フィルム複合膜の厚さおよび寿命初期分離性能をまとめたものである。各薄フィルム複合膜の少なくとも3つのサンプルを試験し、平均(Avg)値および標準偏差(SDev)を示す。PTMSPまたはTeflon(登録商標)AF2400ガター層を有する膜は、少なくとも75%高い期待される透過性増大に加えて、プロパン(C)よりも少なくとも50%高い平均プロピレン(C)分離選択性を有していた。
【表1】
(実施例5)
【0039】
多孔質層支持体におけるPTMSNまたはPTCNSi2gガター層加工:トルエン中のポリ(5-トリメチルシリルノルボルネン)(PTMSN)の5%(w/w)溶液を、ヘプタンで0.5%に希釈し、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過する。PTCNSi2gの0.5%(w/w)溶液をヘプタン中で調製し、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過する。次いで、溶液を、縦型ロールコーターを使用し、不織ポリエステル裏当て(Synder、Filtration、Vacaville CA)上、100,000ダルトンの分子量カットオフを有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)限外濾過膜を含む100cm×200cmの多孔質層支持体において、別個にキャスティングする。溶媒を、乾燥窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガター層を形成する。PTMSNおよびPTCNSi2gガター層についての見かけの薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、多孔質層支持体面積、ならびにそれぞれ0.88g/mLおよび0.85g/mLのPTMSNまたはPTCNSi2g密度を使用して重量測定的に0.75μmから0.85μmの間と推定される。支持フィルムのそれぞれから直径47mmの円を切り抜き、ステンレス鋼のクロスフローセル内に別個に配置する。支持フィルムを、周囲室温(約24℃)で、200mL/分(STP)での5psig送給圧力およびゲージ透過圧力にて、ヘリウム透過性について試験する。Agilent ADM流量計、モデルG6691Aを使用して、透過ガス流量を測定する。PTMSN支持フィルムのヘリウム透過性は少なくとも7500GPUであり、PTCNSi2g支持フィルムは少なくとも8300GPUである。
(実施例6)
【0040】
PTMSNまたはPTCNSi2gガター層におけるガス分離層加工およびガス分離層の活性化:720g/モルの等価重量を有する水中Aquivion(登録商標)D72-25BS分散体(25%w/w)(Solvay、Houston TX)を、イソプロパノールで1.5%に希釈し、その後、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過して、フッ素化イオノマー溶液を調製した。フッ素化イオノマー溶液を、ロールコーターを使用し、実施例5において調製した通りのPTMSNまたはPTCNSi2gフィルム上に別個にキャスティングする。イソプロパノールおよび水を、窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガス分離層を形成する。その後、薄フィルム複合膜におけるガス分離層を、赤外線加熱によって120から130℃でおよそ1分間にわたってアニールする。ガス分離層についての見かけの薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、PTMSNまたはPTCNSi2g支持フィルム面積および2.07g/mLのSolvayが報告したAquivion(登録商標)密度を使用して重量測定的におよそ0.6μmと推定される。PTMSNまたはPTCNSi2gガター層を有する薄フィルム複合膜のそれぞれからの直径47mmの円形サンプルを、1分間にわたる0.15M硝酸銀水溶液への浸漬によって別個に活性化させた。過剰な硝酸銀溶液を乾燥空気で穏やかに吹き払った。
(実施例7)
【0041】
テープ接着性試験。幅3/4インチのペインターズマスキングテープ(3Mによって製造されたもの)を、実施例4および6からの、その中で記述されている通りに硝酸銀で活性化された薄フィルム複合膜の追加の円形膜サンプルの表面に適用した。テープの一端を膜円の中心付近に置き、他端を縁部を越えて伸長させた。次いで、テープを縁部から中心に向けて剥がした。ガス分離層は、PTMSPからのガター層を有する円形膜サンプルについてはガター層に付着したままであり、PTMSNおよびPTCNSi2gからのガター層を有する円形膜サンプルについてはそれぞれのガター層に付着したままである。ガス分離層を剥がし、Teflon(登録商標)AF2400からのガター層を有する実施例4の薄フィルム複合膜からのテープに接着させた。
(実施例8)
【0042】
スパイラル型モジュール加工および分離性能。Teflon(登録商標)AF2400またはPTMSPのいずれかからのガター層を有する実施例2からの薄フィルム複合膜の30cm×100cmのシートを、実施例4において概説されている通りアルケン分離のために硝酸銀で活性化させた。本明細書において大まかに概説されている通り、単一のリーフを含むスパイラル型モジュールを、シートのそれぞれから別個に加工した。スパイラル型モジュールは、1500cmの活性面積を有していた。スパイラル型モジュールを圧力容器内に別個に配置し、透過性および潜在的な漏出について窒素で試験した。PTMSPガター層を有するスパイラル型モジュールは、1GPU未満の窒素透過性を有していた。Teflon(登録商標)AF2400からのガター層を有するスパイラル型モジュールは、およそ2GPUの窒素透過性を有していた。スパイラル型モジュールを含有する圧力容器を、アルケン/アルカン透過性および分離選択性について大面積モジュールを商業運転条件に近い状態で試験するために設計された装置内に別個に配置した。スパイラル型モジュールを、プロピレンおよびプロパンの加湿60/40混合物で、145psig送給圧力にて試験した。ステージカットは35%であり、透過圧力は2psigであった。Teflon(登録商標)AF2400からのガター層を有するスパイラル型モジュールは、50GPUのプロピレン透過性および5のプロパンを上回る選択性を有していた。PTMSPガター層を有するスパイラル型モジュールは、105GPUのプロピレン透過性および12のプロパンを上回る選択性を有していた。
(実施例9)
【0043】
PTMSPガター層においてNafion(登録商標)イオノマーを組み込んだガス分離層を有する薄フィルム複合膜。1000g/モルの等価重量を有する、Ion Power(New Castle、DE)から購入したn-プロパノール/水中のNafion(登録商標)D2020分散体(20%w/w)を、イソプロパノールで1.5%に希釈し、その後、1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過して、フッ素化イオノマー溶液を調製した。実施例1からのPTMSP支持フィルムの直径3インチの円を直径3インチのリングホルダー内に置き、フッ素化イオノマー溶液で覆った。リングホルダーをわずかに傾け、過剰な溶液をピペットで吸い出した。残っている湿ったフィルムを迅速に秤量し、次いで、水平位置で、乾燥窒素雰囲気下、周囲室温で乾燥させて、ガス分離層を形成した。その後、薄フィルム複合膜を、リングホルダーに入れたまま、120℃の強制空気オーブン内でおよそ3分間にわたって加熱処理した。ガス分離層についての薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、PTMSP支持フィルム面積および1.97g/mLのChemoursが報告したNafion(登録商標)密度を使用して重量測定的に0.88μmと推定された。薄フィルム複合膜を0.15M硝酸銀で活性化させ、次いで、実施例4において記述された通りのプロパンからのプロピレンの分離のための寿命初期性能のために、ステンレス鋼のクロスフローセル内に配置した。ヘリウム透過性からの膜の厚さは0.6μmであり、プロピレン透過性は90GPUであり、プロパンを上回る選択性は49であった。第2の薄フィルム複合膜を同じ方式で調製し、実施例7において概説されている通り、テープ接着性について試験した。ガス分離層は青色のペインターズテープで除去できず、ガター層に付着したままであった。
(実施例10)
【0044】
二酸化炭素(CO)透過性および窒素を上回る混合ガス選択性。それぞれPTMSPガター層を有するおよびガター層を有さない実施例2および3の薄フィルム複合膜の円形膜サンプル(直径47mm)を、ステンレス鋼のクロスフローセル内に別個に配置し、CO透過性および窒素を上回る選択性について試験した。COおよび窒素を、別個のガスシリンダーおよびマスフローコントローラーから送給し、次いで、混合した。ガス混合物は、2L/分(STP)で40%COを含有しており、周囲室温の加湿用水バブラーに通過させた後、同じく周囲室温のクロスフローセルに入れた。保持液出口における逆流圧力調整器により、送給圧力を60psigに維持した。ステージカットは2%未満であり、大気圧透過における透過流量はAgilent 1100流量計を使用して測定した。透過流中におけるCO濃度は、Landtec 5000バイオガス分析器を使用して測定した。PTMSPガター層を有する薄フィルム複合膜について算出されたCO透過性は500GPUであり、窒素を上回る選択性は40であった。ガター層を有さない薄フィルム複合膜について算出されたCO透過性は220GPUであり、窒素を上回る選択性は35であった。
(実施例11)
【0045】
スルホン酸銀官能基を有するフッ素化イオノマーからのガス分離層加工。720g/モルの等価重量を有する水中Aquivion(登録商標)D72-25BS分散体(25%w/w)(Solvay、Houston TX)を、イソプロパノールで2.5%に希釈し、スルホン酸官能基に対して1当量の炭酸銀とともに終夜撹拌した。その後、混合物を1μmのガラスマイクロファイバーに通して濾過して、スルホン酸銀官能基を有するフッ素化イオノマーの溶液から過剰な炭酸銀を除去した。次いで、フッ素化イオノマーの溶液を、縦型ロールコーターを使用し、実施例1において記述された通りに調製したPTMSP支持フィルム上にキャスティングした。イソプロパノールおよび水を、窒素雰囲気下、周囲室温で蒸発させて、ガス分離層を形成した。PTMSPガター層におけるガス分離層についての見かけの薄層厚は、塗布された溶液の質量、濃度、PTMSPガター層/多孔質層支持体面積および2.07g/mLのSolvayが報告したAquivion(登録商標)密度を使用して重量測定的に1.2μmと推定された。ガス分離層は、実施例7において記述された通り、青色のペインターズテープを使用してガター層から除去できなかった。円形膜サンプル(直径47mm)を、実施例4において記述された通り、プロパンからのプロピレンの寿命初期分離について、50℃で試験した。プロピレン透過性は110GPUであり、プロパンを上回る選択性は41であった。
【国際調査報告】