(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】鳥類における抗体干渉の克服
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240705BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240705BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240705BHJP
C07K 14/005 20060101ALN20240705BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/33 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
A61K39/12
A61K39/00 H
A61K47/68
A61P31/16
C07K14/005
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/33
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501558
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2022069513
(87)【国際公開番号】W WO2023285489
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・ハルテン,マリア・コルネリア・ヴィルヘルミナ
(72)【発明者】
【氏名】イクバル,ムニル
(72)【発明者】
【氏名】シュレスタ,アンギタ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC06
4C076EE59
4C085AA03
4C085BA51
4C085BA55
4C085BA59
4C085BA71
4C085BB11
4C085CC02
4C085DD62
4C085DD86
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF17
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、血清陽性鳥類のワクチン接種に使用することができ、それによって鳥類標的中の抗体がその組換えタンパク質に含まれる抗原に特異的である、組換えタンパク質、及びそのタンパク質を発現する組換えベクターを提供する。組換えタンパク質に、鳥類抗原提示細胞(APC)上の細胞表面タンパク質に結合することができるドメインも含めることによって、抗原はそれらのAPCに標的化される。この種のワクチンは、単回投与後であっても、非常に若い鳥類であっても、抗体レベルが非常に高い状況であっても、抗体干渉の悪影響を安全に克服することができることが分かった。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原と反応性である抗体を保有する鳥類を、前記抗原が由来する病原体から保護する方法において使用するための、前記抗原と、鳥類抗原提示細胞(APC)上の細胞表面タンパク質に結合することができる結合ドメインとを含む組換えタンパク質。
【請求項2】
前記鳥類APCが樹状細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための組換えタンパク質。
【請求項3】
前記細胞表面タンパク質がCD83であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のための組換えタンパク質。
【請求項4】
前記結合ドメインが一本鎖可変断片(scFv)であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組換えタンパク質。
【請求項5】
前記抗原が、感染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)ウイルスタンパク質2(VP2)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)融合(F)タンパク質、NDVヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質、感染性気管支炎ウイルス(IBV)スパイクタンパク質、鳥インフルエンザウイルス(AIV)ヘマグルチニン(HA)タンパク質、及びAIVノイラミニダーゼ(NA)タンパク質から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組換えタンパク質。
【請求項6】
前記抗原が、配列番号7、8及び9から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組換えタンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を発現することができる組換えベクターであって、前記組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原と反応性の抗体を保有する鳥類を、前記抗原が由来する病原体から保護する方法で使用するための組換えベクター。
【請求項8】
病原体から鳥類を保護するためのワクチンの製造のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えタンパク質の使用又は請求項7に記載の組換えベクターの使用であって、前記組換えタンパク質に含まれるか、又は前記組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原が前記病原体に由来し、前記鳥類が、前記抗原と反応性の抗体を保有することを特徴とする使用。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えタンパク質又は請求項7に記載の組換えベクターと、薬学的に許容される担体とを含むワクチンであって、前記組換えタンパク質に含まれるか、又は前記組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原と反応性の抗体を保有する鳥類を、前記抗原が由来する病原体から保護する方法で使用するためのワクチン。
【請求項10】
アジュバントを含むことを特徴とする、請求項9に記載の使用のためのワクチン。
【請求項11】
病原体から鳥類を保護するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えタンパク質、又は請求項7に記載の組換えベクター、又は請求項9若しくは10に記載のワクチンの使用であって、前記組換えタンパク質に含まれるか、又は前記組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原が前記病原体に由来し、前記鳥類が、前記抗原と反応性の抗体を保有することを特徴とする使用。
【請求項12】
病原体から鳥類を保護するための方法であって、請求項9又は10に記載のワクチンを前記鳥類に投与する工程を含み、前記ワクチンに含まれる抗原が前記病原体に由来し、前記鳥類が、前記抗原と反応性の抗体を保有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類のワクチン接種の分野に関し、より具体的には、本発明は、鳥類を保護する方法に使用するための組換えタンパク質であって、当該タンパク質中の抗原と反応性の抗体を有する組換えタンパク質に関する。具体的には、本発明は、当該方法で使用するための組換えタンパク質、組換えベクター、及びワクチンに関する。更に、本発明は、タンパク質、ベクター又はワクチンの投与による鳥類の治療のための使用及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養価が高く手頃な価格のタンパク質源として、鳥類の肉及び卵は、世界のほとんどのヒト集団の食事の重要な部分である。そのような経済目的で飼育される家禽の主な種は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びガチョウである。これらの鳥を、それらの健康と望ましい生活状態を維持しながら、必要とされる大量の鳥を飼育するために、養鶏業界は管理条件を最適化し、良好な獣医学的ケアを提供することに熱心である。この戦略の重要な部分は、感染症及び疾患を引き起こす可能性がある多種多様な鳥類病原体に対するワクチン接種による予防的保護であり、動物の健康や経営経済に壊滅的な影響を及ぼすことがある。長年にわたり、経済的関連性のある鳥類に影響を及ぼし得るウイルス性、細菌性及び寄生虫性の疾患のほとんどに対して多種多様なワクチンが市販されてきた。そのようなワクチンは、弱毒生、不活性化、サブユニット、核酸、ウイルスベクターなどの異なる種類のものであり得る。
【0003】
特に、非常に多く生産される家禽、すなわち肉用鳥(ブロイラー)については、できるだけ早く若鳥を保護することが一般的な慣行である。しかしながら、未熟な免疫系を有する非常に若い動物の能動的ワクチン接種は、多くの場合、あまり成功しない。したがって、効果的な次善策は、産卵期の前及びその間における母親へのワクチン接種によるものである。雌鶏によって産生された母体抗体は、卵黄を有する卵に移され、発育中の雛鳥によって内在化されるこのようにして、雛鳥は、既に孵化日には、様々な病原体に対するこれらの母性由来抗体(MDA)によって受動的に保護され得る。しかし、MDAのほとんどは、生物学的分解のために3週間で再び効果が薄れてしまうので、最初の数週間を経た後に適切な免疫保護を誘導するために成長中の雛鳥自体の能動的ワクチン接種も行わなければならない。その時点で、いくつかのMDAが依然として鳥の中に存在し得る。
【0004】
既存の抗体との関連におけるワクチン接種の同様の状況は、以前のワクチン接種によって誘導された抗体を有し、その効果が徐々に薄れるために、抗体価を保護レベルに回復させるためにブースターワクチン接種が必要とされる高齢の鳥の場合に生じる。
【0005】
重要な獣医学的及び科学的難問は、使用されるワクチンに含まれる抗原と反応性である抗体を既に保有している鳥にワクチン接種をいつ与えることができるかを決定する際に生じる。抗体価がほぼなくなったときのワクチン接種は、それらの抗体価の低下と能動免疫化からの保護の開始との間にギャップ期間が残るので、明らかに遅すぎる。このギャップ期間において、鳥は感染及び疾患に対して脆弱である。
【0006】
しかし、鳥が依然としてかなり高い循環抗体の力価を有する場合のワクチン接種は時期が早すぎ、というのも、多くの場合、そのことがワクチン接種の有効性に影響を及ぼすからであり、これはおそらく、それらの抗体が何らかの形でワクチン抗原に結合してこれを捕捉し、これによりワクチン抗原の分解を加速し、且つ/又はワクチン抗原が適切な免疫応答を誘導するのを妨げ得るために起こる。この最後の現象は「抗体干渉」と呼ばれ、MDAに関するその異なる表記は、「MDA干渉」である。これは、世界中の家禽産業に影響を及ぼす主な病原体に対する効果的なワクチン接種に関する周知の問題である。これらの主な病原体の例は、感染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV、ガンボロ病ウイルスとしても知られる)、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、及び鳥インフルエンザウイルス(AIV、家禽ペストウイルスとしても知られる)であり、最後の2つは、実にOIE[国際動物衛生機関]の届出疾患である。
【0007】
これらの疾患では、抗体干渉がワクチン接種の有効性を低下させることがよく知られており、特に鳥が近接し、且つ/又は鳥病原体の有病率が高い地域で飼育されている場合に、鳥を野外感染に対して脆弱にする。
【0008】
長年にわたり、保護のギャップを防ぎ、血清陽性の鳥類のワクチン接種を最適化するために、抗体干渉を克服するための多くの異なるアプローチが試みられてきた。抗体干渉を克服するためのより直接的な試みには、抗原用量を増加させ、且つ/又は(より強力な)アジュバントを使用するというワクチンへの適応が含まれた。より病原性が高い、又は弱毒化されていない生きているワクチン病原体の株も、抗体のより高い力価を突破することができ、ひいてはより早い時点で投与することができることを期待して試みられてきた。これらの方法は一般に満足のいくものではないので、より複雑な手法が試された。
【0009】
IBDVに対する若鳥の能動的ワクチン接種について、1つの方法は、鳥の試料の血清学的試験によるMDAレベルのモニタリングを行ってワクチン接種の最適な期日を決定することを含む。しかし、その結果、有効な能動的ワクチン接種は2~3週齢でしか適用することができず、大きな群れではばらつきがあるために多くの鳥において保護ギャップは避けられない。別法として、「複合型IBDVワクチン」(抗体が結合した弱毒生ワクチンウイルス)が若齢で投与されており、これによれば抗原は後の時点でのみ放出される。また、ウイルスベクター系、例えば、主たるIBDV抗原であるウイルスタンパク質2(VP2)を発現させるためのベクターとして、鶏痘ウイルス又は鳥ヘルペスウイルスを使用するウイルスベクター系が使用されている。これは、Muller et al.(2012,Avian Pathol.,vol.41,p.133-139)に総説されている。
【0010】
NDVについては、ワクチン接種における様々なアプローチが適用されているが、抗体干渉は今日でも依然として問題であり、総説については、Dimitrovら(2017,Vet.Microbiol.vol.206,p.126-136)を参照されたい。
【0011】
組換えベクターワクチンの使用であっても、例えば、抗体がベクターウイルス自体及び/又はそれが発現する抗原と反応する場合には、抗体干渉を被り得る。Huら(2020,Vaccines,vol.14,p.222,doi:10.3390)を参照されたい。ベクターとしてのNDVについて、考えられる解決策は、例えば、NDVベクターの血清学的プロファイルを変化させること(Steglich et al.,2013,PLoS One,vol.8,e72530)、又は抗NDV抗体による阻害が少ないとされるNDV株を選択することであった(欧州特許出願公開第2998315号明細書)。
【0012】
IBVについては、MDAは1日齢の雛鳥のワクチン接種を妨げることが周知である。Terreginoら、2008(Avian Pathol.,vol.37,p.487-493)を参照されたい。
【0013】
AIVについては、このウイルスはパンデミックの可能性を有するヒトの人畜共通感染症を引き起こす可能性があるため、有効なワクチン接種の関連性は、獣医学分野を超えてさらに広がる。長年にわたり、古典的な又は組換えAIVワクチンを使用する多くの異なるアプローチが試みられてきており、成功のレベルは様々である。D.Swayne、2009(Comp.Imm.Microbiol.and Inf.Dis.,vol.32,p.351-363)を参照されたい。しかしながら、いくつかの他のワクチンの状況と同様に、AIV反応性抗体による干渉に対処することは依然として問題である(Murr et al.,2020,Avian Dis.,vol.64,p.427-436)。
【0014】
その結果、鳥類ワクチン接種の分野で試された多くの異なるアプローチにもかかわらず、標的動物における既存の抗体が、これらの抗体が結合し得る抗原によるワクチン接種の有効性に対して有する負の効果を克服するための有効な方法に対する差し迫った必要性が依然として存在する。
【0015】
Shresthaら(2018,Vaccines,vol.6,p.75,doi:10.3390)は、抗原提示細胞(APC)への抗原の選択的標的化によって、鳥類標的のワクチン接種を改善するための選択肢について総説する。例えば、リガンド、抗体、ナノ粒子、ウイルスベクター、又は細胞透過性ペプチドを使用することによって、そのような標的化を達成するための多種多様な方法が記載されている。鳥類における抗体干渉を克服するための方法は記載も示唆もされていない。
【0016】
国際公開第2017/055235号には、抗原提示細胞(APC)への抗原標的化が記載されているが、抗原内在化を使用する。記載されている治療は、哺乳動物、特にネコ及びイヌ専用であり、アレルギーの軽減を目的としている。抗体干渉については述べられていない。
【0017】
Jaureguiら(2017,Res.Vet.Sci.,vol.111,p.55-62)には、ニワトリにおける樹状細胞へのAIV HA抗原の標的化が記載されている。精製されたH5 HA抗原を、Dec-205の1つのドメインに対するマウスモノクローナル抗体に化学的にコンジュゲートした。このコンジュゲートを用いて21週齢のニワトリにワクチン接種した。使用したすべてのニワトリは抗HA抗体(Jauregui、
図7、0日目を参照されたい)に対して血清陰性であったため、Jaurequiらは、血清陽性鳥類における抗体干渉の克服について記載も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2998315号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/055235
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Muller et al.,2012,Avian Pathol.,vol.41,p.133-139
【非特許文献2】Dimitrov et al.,2017,Vet.Microbiol.vol.206,p.126-136
【非特許文献3】Hu et al.,2020,Vaccines,vol.14,p.222,doi:10.3390
【非特許文献4】Steglich et al.,2013,PLoS One,vol.8,e72530
【非特許文献5】Terregino etal.,2008,Avian Pathol.,vol.37,p.487-493
【非特許文献6】D.Swayne,2009,Comp.Imm.Microbiol.and Inf.Dis.,vol.32,p.351-363
【非特許文献7】Murr et al.,2020,Avian Dis.,vol.64,p.427-436
【非特許文献8】Shrestha et al.,2018,Vaccines,vol.6,p.75,doi:10.3390
【非特許文献9】Jauregui et al.,2017,Res.Vet.Sci.,vol.111,p.55-62
【発明の概要】
【0020】
したがって、本発明の目的は、鳥類標的のワクチン接種における抗体干渉の悪影響を克服する効果的な方法を提供することによって、先行技術における1つ以上の欠点を克服することである。
【0021】
驚くべきことに、投与されるワクチンに含まれる抗原に反応する抗体を保有する鳥類を保護するための方法を提供することによって、すなわち抗原を鳥類のAPCに標的化することによって、この目的を満たすことができ、その結果、先行技術の1つ以上の欠点を克服することができることが見出された。
【0022】
以下に詳細に記載する実験では、抗体レベルが高い又は中程度のニワトリに、標的ワクチン又は非標的ワクチンのいずれかを投与した。結果は、標的抗原に有利なワクチン接種の有効性の著しい差を示す。対照的に、非標的ワクチン及び古典的対照ワクチンは、血清陽性鳥類において応答をほとんどもたらさなかった。その結果、血清陽性鳥類を保護するこの方法は、ワクチン接種における抗体干渉の負の効果を効果的に克服することができ、単回用量であっても、非常に若い鳥であっても、予想外に有効である。
【0023】
その結果、本発明者らは、全くもって驚いたことに、この抗原標的化が、特に既存の抗体との関係において、一方では免疫未成熟鳥類であっても良好に機能し、他方では免疫系の過剰刺激、自己免疫、又は寛容の誘導などによるワクチン増強疾患又はワクチン誘導性免疫障害を引き起こさないことを見出した。
【0024】
鳥類を保護するためのこの方法は、標的抗原を直接使用せず、組換えタンパク質を発現する組換えベクター、例えば、DNAプラスミド、RNA分子、又はベクターウイルスとして使用する場合にも同様に適用可能である。
【0025】
更に、この好ましい効果は標的化によって生じると考えられ、したがって使用される抗原とは無関係であるので、この方法は異なる抗原を使用しても同様に成功することが十分に考えられる。したがって、この方法は、通常ワクチン接種が抗体干渉を受ける様々な鳥類病原体、例えば、NDV、IBDV、AIVなどに対する保護を可能にする。
【0026】
このワクチン接種方法が、どのようにして、又はなぜ、高い抗体レベルを突破して、依然としてこのような有効な防御免疫応答を誘導することができるのか、正確には知られていない。本発明者らは、これらの知見を説明し得るいかなる理論又はモデルにも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、APCに対する既存の抗体による抗原の除去を何らかの方法で減少させるAPCへの抗原の標的化であると推測している。
【0027】
ワクチン抗原に対する既存の抗体を有する鳥類のワクチン接種において、APCへの抗原標的化の使用が成功することは、いかなる先行刊行物からも決して予測できなかった。これは主に、抗体干渉が作用する(ワクチン抗原のブロッキング、マスキング、架橋、中和など)機構が今日でもまだよく理解されていないからである。これは、十分に研究されていない動物系であるため、鳥類における抗体干渉に特に当てはまる。
【0028】
更に、抗原標的化に関する最初の研究については1980年に既に記載されていたが、これらはヒト癌の治療を目的としていた。後に、(主にヒト)ワクチン接種におけるより一般的な使用が検討された。これは、Kelerら(2007,Oncogene,vol.26,p.3758-3767)によって概説されている。
【0029】
また、いくつかの例では、(母親由来)抗体は、抗体依存性増強によるウイルス性疾患の増強に関与しており、これはワクチン増強疾患と呼ばれる。この効果は、レンチウイルス及びデングウイルスなどの様々なウイルスで観察されており(Huisman et al.,2009,Vaccine,vol.27,p.505-512)、最近ではSARS-CoV-2で観察されている(Lee et al.,2020,Nat.Microbiol.,vol.5,p.1185-1191)。したがって、標的ワクチン接種が、その後の対応する病原体との接触時にそのような望ましくない影響をもたらし得ることが真に懸念されていた。
【0030】
更に、哺乳動物/ヒトの場合と比較して、鳥類の免疫系の機能に関する情報がほとんどないため、哺乳動物から鳥類の状況への変換は決して容易ではない。また、Shresthaら(前出)の一般的な総説は、特定の方法を可能にしないか、又は抗原標的化を使用する際に当業者が抱くであろうすべてのためらいを拭い去るものではない。これは、一種の免疫障害を引き起こすことが懸念され、且つ/又は成熟した免疫系を必要とする可能性があるためである。
【0031】
合わせて、この情報の欠如、及び合併症の可能性により、APCへの抗原標的化を使用することは、ワクチン中の抗原と反応性である高レベルの循環抗体を有する鳥類のワクチン接種の選択肢として可能性の低いものとなった。更に、孵化時の鳥類の免疫系がまだ成熟しておらず、その結果、そのAPCがその表面に適切な標的タンパク質を既に提示し、そのような表面タンパク質への結合を動物の免疫系の生産的刺激に移すことができるほど十分に成熟しているかどうかは予測不可能であったため、若い鳥類にこのワクチン接種の方法を選択することについては、とりわけ確信の持てるものではなかった。
【0032】
したがって、一態様において、本発明は、抗原と反応性である抗体を保有する鳥類を、当該抗原が由来する病原体から保護する方法において使用するための、当該抗原と、鳥類抗原提示細胞(APC)上の細胞表面タンパク質に結合することができる結合ドメインとを含む組換えタンパク質に関する。
【0033】
「組換えタンパク質」は、そのアミノ酸配列が人工的に作製されたタンパク質である。本発明の場合、組換えタンパク質は、分子クローニング技術及び組換えタンパク質発現技術によって得ることができる。発現後、タンパク質を発現系から単離し、必要に応じて処理及び精製し、その後、本発明の保護するための方法での使用に適した組成物に製剤化することができる。あるいは、組換えタンパク質は、以下に記載されるように、組換えベクター、例えば、DNAプラスミド、RNA分子又はウイルスベクターを介して発現及び送達され得る。
【0034】
そのような技術は当技術分野で周知であり、Sambrook及びRussellの「Molecular cloning:a laboratory manual」(2001,Cold Spring Harbour Laboratory Press;ISBN:0879695773)や、AusubelらのCurrent Protocols in Molecular Biology(J.Wiley and Sons Inc,NY,2003,ISBN:047150338X)のような標準的な教科書に非常に詳細に開示されている
本発明に関して、「タンパク質」という用語は、「ペプチド」、「オリゴペプチド」及び「ポリペプチド」などの同様の用語を組み込む。
【0035】
本発明による使用のための組換えタンパク質は、異なる起源、例えば、いずれも本発明で定義される抗原及び結合ドメインに由来するポリペプチドで構成され、また、リンカー、マーカーなどの1つ以上のペプチドで構成されていてもよい、すべてが1つのアミノ酸鎖に連結されている、融合タンパク質である。
【0036】
本明細書で使用される「含む(comprising)」という用語(並びに「comprises」、「comprise」、及び「comprised」などの変形)は、この用語が使用されるテキストセクション、段落、請求項などによって網羅されるか又は含まれる、本発明について考えられるすべての要素及びあらゆる可能な組み合わせを指すことを、たとえ、そのような要素又は組み合わせが明示的に記載されていないとしても、意図しており、そのような(1又は複数の)要素又は組み合わせのいずれも排除することを意図するものではない。
【0037】
したがって、そのような任意のテキストセクション、段落、請求項などは、「含む(comprising)」という用語(又はその変形)は、「からなる(consisting of)」、「からなる(consists of)」、又は「から本質的になる(consist essentially of)」などの用語で置き換えられている1つ又は複数の実施形態にも関連し得る。
【0038】
「抗原」は、抗体やリンパ球などの免疫系の要素と相互作用することができる分子として一般に知られており、この相互作用は、体液性及び/又は細胞性免疫応答を生じ得る。
【0039】
免疫系によって認識される抗原の部分は「エピトープ」と呼ばれ、これは線状又は三次元型であり得る。3Dエピトープは、典型的には、より大きなタンパク質の折り畳みによって形成される。線状エピトープは、それ自体で、又は担体分子に連結されることによって、例えば、本発明による使用のための組換えタンパク質に含まれることによって、十分なサイズを有する、例えば、少なくとも5個のアミノ酸からなる必要がある。
【0040】
抗原はポリペプチドであり、すなわち抗原性ポリペプチドは、少なくとも1つのエピトープを含み、病原体に「由来する」。本発明の場合、「由来する」とは、典型的には病原体及びそのタンパク質レパートリーの遺伝情報の分析によって、特定の抗原のコード配列が選択される状態を指す。次いで、選択された配列は、本発明による使用のための組換えタンパク質をコードする構築物に再結合される。
【0041】
したがって、本発明の場合、選択される抗原は、病原体由来のタンパク質の全体又は一部であり得、病原体は、ウイルス、細菌、寄生生物及び真菌から選択される。
【0042】
抗原は、病原体由来の抗原の天然配列に由来し得るか、又は集合体であり得、例えば、発現される抗原のいくつかのホモログ、例えば、同じタイプのタンパク質などからのコンセンサスであるが、異なる種、血清型、サブタイプ、株、単離体などの病原体の変異体に由来するアミノ酸配列を有する。周知のように、そのようなコンセンサス配列を得るために、アミノ酸配列又はコードヌクレオチド配列のいずれかを比較することができ、その比較から、例えば、適切なコンピュータプログラムを使用していくつかのH9 HAヌクレオチド配列をアライメントすることによってコンセンサス配列を導出することができる。
【0043】
本発明の抗原はまた、生物学的に関連しているか否かにかかわらず、異なる抗原由来の集合部分からなるキメラ抗原であってもよい。更に、抗原をコードする配列は、以下に記載されるように、「コドン最適化」に供され得る。
【0044】
本発明では、抗原は、抗原が由来する病原体に対する防御免疫応答を生じさせることができるタンパク質から選択される。例えば、IBDV由来のVP2タンパク質、NDVの融合(F)-又はヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質、感染性気管支炎ウイルス(IBV)由来のスパイクタンパク質、及びAIVのHA-又はノイラミニダーゼ(NA)タンパク質から選択される。
【0045】
本発明の「結合ドメイン」は、免疫グロブリン分子の抗原結合部位に由来し、相補性決定領域の1つ以上を含む抗体の一部であり得、例えば、「一本鎖可変断片」(scFv)ポリペプチドであり得る。
【0046】
本発明では、結合ドメインは「結合することができる」。これは、特異的な結合、すなわち、任意の非特異的結合又はバックグラウンド結合とは異なる十分な親和性を有する結合を指す。特異的結合と非特異的結合との差は当業者に周知であり、例えば、インビトロ結合アッセイにおいて、結合ドメイン又はリガンドのいずれかを希釈することによって容易に区別することができ、非特異的結合は、典型的には、例えば、1:10又は1:100に希釈することで急速に失われるが、特異的結合は、より高い倍率で希釈しても残る。
【0047】
「APC」は、抗原性分子を処理して、それらの分子(の一部)をヒト又は動物の免疫系に提示することができるリンパ系の細胞であることがよく知られている。この提示は、防御免疫応答の基礎となる免疫成熟及び刺激をもたらす反応のカスケードを誘導する。APCは、例えば、Bリンパ球、樹状細胞、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞である。
【0048】
「鳥類APC上の細胞表面タンパク質」は、APCの細胞膜の外側に付着又は固定されているタンパク質である。これらのタンパク質は、検出及びシグナル伝達におけるAPCの機能において役割を果たす。APC上の細胞表面タンパク質の多くは、タンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。APC表面タンパク質の例は、例えば、CD83及びCD11cタンパク質である。「CD」の表記は、リンパ系の細胞上の表面タンパク質の分類及び同定に関する国際プロトコルである「分化クラスター」を指す。
【0049】
本発明の「鳥類」は、経済的又は(獣医学的)医学的関連性のある、分類学上鳥綱の任意の動物である。例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、ホロホロチョウ、パートリッジ、キジ、ハト、ハヤブサ及びダチョウ。
【0050】
「鳥類を保護する方法で使用するための」という用語は、本発明による使用のための、本明細書で定義される組換えタンパク質の医学的使用を指す。この使用は、タンパク質の直接的な使用であってもよく、又は組換えベクターからの発現を介した間接的なタンパク質の使用であってもよい。
【0051】
本発明では、適用される「方法」はワクチン接種を指す。
【0052】
「保護する」という用語は、本発明の方法の効果、すなわち本方法によって、すなわちワクチン接種によって誘導される防御免疫応答を指す。そのような免疫応答は、ワクチン接種された鳥類を、抗原(本発明による使用のための組換えポリペプチド中に存在する抗原)が由来する病原体によって引き起こされる感染及び/又は疾患から保護する。
【0053】
保護する方法は、全部又は一部を問わず、感受性鳥類の細胞及び器官における病原体による増殖性感染の確立又は増殖の軽減、又は疾患のその後の徴候の軽減に関する。これは、例えば、病原体の負荷を軽減するか、又は病原体の複製期間を短縮することによって達成される。そして、これは、鳥類における病原体による感染によって引き起こされ得る病変及び関連する疾患の臨床徴候の回数、強度、又は重症度の減少をもたらす。
【0054】
このような感染又は疾患の減少は、例えば、本発明による使用のための組換えタンパク質によるワクチン接種後の免疫学的応答をモニタリングすることによって、また、ワクチン接種された鳥類の(攻撃)感染後の臨床症状又は死亡率の状況を調べることによって、例えば、鳥類の疾患の徴候、臨床スコア、血清学的パラメータをモニタリングすることによって、又は感染病原体の再度単離することによって、容易に検出することができる。これらの結果は、偽ワクチン接種された鳥類における同様の感染に対する応答と比較することができる。主要な鳥類病原体の感染及び疾患の症状を評価するためのいくつかの方法は、当技術分野で周知である。
【0055】
本発明の方法による感染又は疾患からの保護は、免疫化された鳥類に健康、福祉、及び経済的性能の改善を提供する。これは、例えば、生活状態、生存率、成長率、飼料効率及び卵の生産の増加、並びに(獣医学的)ヘルスケアのためのコスト削減などのパラメータから評価することができる。
【0056】
本発明の方法によって保護される鳥類は、「抗体を保有する」。これは、本発明の方法が適用される時点、すなわちワクチン接種の時点に適用される。鳥類が実際にそのような抗体を有するかどうかは、例えば、ワクチン接種の前後に鳥類から血液試料を採取し、標準的な血清学的方法を使用して抗原に対する抗体の力価を決定することによって容易に決定することができる。しかしながら、これは、その既存の力価の値を決定すること自体、すなわちワクチン接種の前後に採取された血清試料に対する血清学的試験の実施、及び/又はその試験の結果の分析と解釈が、その時点で行われることを必要としない。同様に、これは、ワクチン接種時の既存の力価を、ワクチン接種のしばらく前に採取した試料で測定したレベルから計算して外挿することを妨げるものではない。
【0057】
本発明の場合、鳥類は、その鳥類由来の血清中の抗原に反応する抗体の力価がバックグラウンドレベルを超える場合、その抗原に対する抗体を「保有する」。そのようなバックグラウンドレベルは、典型的には、目的の抗原又は病原体に対してナイーブである同等の鳥類に存在するレベルである。本発明の場合、このバックグラウンドレベルは、好都合なことに、例えば、同じ年齢及び種のSPF(特定病原体を持たない)鳥類の血清中に存在する力価から得ることができる。
【0058】
既存の抗体は、典型的には卵黄を介して母親から得られる抗体の場合のように、受動的な移入によって生じ得る。そのような血清陽性鳥類は、「MDA陽性」又は「MDA+」と呼ばれる。これは、非常に若い年齢、例えば、孵化日(すなわち1日齢)から約3週齢の鳥類に適用される。あるいは、既存の抗体は、保護されるべき鳥類が以前に受け、それにより抗体の産生をもたらした能動的免疫化から生じ得、これは約3週齢以降の鳥類に適用される。
【0059】
「~と反応性である」という用語又はその同義語である「~に特異的である」は、特異的免疫認識によって、本発明による使用のための組換えポリペプチドに含まれる抗原と相互作用する既存の抗体の能力を表す。同様の用語はまた、特異的結合を指す限りにおいて、「結合することができる」、「認識することができる」などである。
【0060】
本発明の予想外の有利な効果は、(保護される鳥類における)既存の抗体が、本発明の組換えタンパク質に含まれる抗原と反応性である場合に顕著である。その状況では、通常、保護の有効性を低下させる抗体干渉が発生する。
【0061】
「当該抗原が由来する病原体」という用語は、本発明の方法が保護しようとする病原体が先に定義した抗原を含むことを示す役目を果たす。これには、抗原のホモログ及び/又は病原体の変異体も含まれる。
【0062】
当業者が理解するように、本発明による使用のための組換えタンパク質中の抗原と、鳥類を保護すべき病原体との間の一致は、誘導される防御免疫応答の基礎を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の実施形態及びさらなる態様の詳細を以下に説明する。
【0064】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、鳥類APCが、Bリンパ球、樹状細胞、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞から選択される。
【0065】
これらの細胞型の各々は、標準的な血清学的及び生化学的方法を使用して、例えば、以下に記載されるようにCDを指定したタンパク質に基づく判定を用いて明確に区別することができる。
【0066】
本発明による使用のための組換えタンパク質の好ましい実施形態では、鳥類APCは樹状細胞である。
【0067】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、鳥類APC上の細胞表面タンパク質は、分化クラスター83(CD83)、分化クラスター11c(CD11c)、及びエンドサイトーシス-205のための樹状細胞受容体(Dec205)から選択される。
【0068】
これらのタンパク質はすべて、この分野で周知であり、APC上の表面タンパク質であり、CD11cは、樹状細胞及びいくつかの他のAPC上の膜貫通タンパク質であり、好中球の活性化において役割を果たす。CD11c特異的scFvは、配列番号18のアミノ酸配列を含む。
【0069】
Dec-205は、樹状細胞及びリンパ球上のエンドサイトーシス受容体である。ニワトリDec-205の例は、GenBankアクセッション番号:AJ574899に示されている。Dec-205特異的scFvは、配列番号19のアミノ酸配列を含む。
【0070】
CD83は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する表面糖タンパク質である。これは主に樹状細胞上に発現され、リンパ球及びマクロファージ上にもより少なくではあるが発現される。これは、成熟樹状細胞の周知のマーカーである。鳥類CD83の例は、GenBankアクセッション番号XP_040519591に示されるタンパク質である。
【0071】
本発明による使用のための組換えタンパク質の好ましい実施形態では、細胞表面タンパク質はCD83である。
【0072】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、結合ドメインは抗体の抗原結合部位を含む。
【0073】
本発明による使用のための組換えタンパク質の好ましい実施形態では、結合ドメインは一本鎖可変断片(scFv)である。
【0074】
周知のように、scFvは、1つの完全な抗原結合ドメインを保持するがFc部分を欠く免疫グロブリンの最小部分である。scFvは、それ自体が融合構築物である単一のペプチドであり、1つの可変軽鎖(vL)、リンカー、及び1つの可変重鎖(vH)を含む。これらの要素の順序は、vL-リンカー-vH又はvH-リンカー-vLであり得る。いずれの場合においても、可変鎖は、(互いに対して)テール・トゥ・ヘッドの形で配向され、それにより、c末端側がテールとなる。
【0075】
好ましい実施形態では、scFv中の要素の順序はvH-リンカー-vLである。
【0076】
scFvのリンカー配列は、2つの可変鎖がそれら自体を配向させて抗原結合ドメインを形成することができるように、柔軟な領域をもたらす。好ましい実施形態では、scFvのリンカー配列は、グリシン及びセリン又はトレオニンというアミノ酸を含み、10から50アミノ酸長である。より好ましい実施形態では、scFvのリンカー配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列(Gly4-Ser)4を含む。
【0077】
scFvの2つの可変鎖の特異性は、両方が同じ抗原に対するものであってもよいし、又はそれぞれが異なる抗原に対するものであってもよい。好ましい実施形態では、2つの可変鎖は同じ特異性を有する。
【0078】
一実施形態では、scFvはCD83に特異的であり、言い換えれば、CD83-scFvである。好ましくは、scFvは、鳥類樹状細胞上のCD83に特異的であり、より好ましくは、scFvは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0079】
結合ドメインの実施形態では、scFvは2回以上存在し得る。
【0080】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、病原体は、鳥類に対して病原性である。より好ましくは、病原体はウイルスである。更により好ましくは、ウイルスはRNAウイルスである。更により好ましくは、RNAウイルスは、IBDV、NDV、IBV及びAIVから選択される。更により好ましくは、病原体は、IBDV、NDV、及びAIVから選択される。最も好ましくは、病原体はAIVである。
【0081】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原は、IBDV VP2タンパク質、NDV Fタンパク質、NDV HNタンパク質、IBVスパイクタンパク質、AIV HAタンパク質及びAIV NAタンパク質から選択される。より好ましくは、抗原は、AIV HAタンパク質及びAIV NAタンパク質のうちの1つから選択される。更により好ましくは、抗原はAIV HAタンパク質である。更により好ましくは、抗原は、H5型、H7型又はH9型のAIV HAタンパク質から選択される。
【0082】
これらのすべてのウイルスタンパク質抗原はこの分野で周知であり、それらのコード配列の多くのバージョンは、NCBIのGenBank及びEMBLのEBIなどの公開配列データベースでデジタルで容易に入手可能である。例は、AIV H9 HA:GenBank acc.nr.ACP 50708.1、NDV F:GenBank acc.nr.AAK 55550.1、NDV HN:GenBank acc.nr.MH 614933.1、IBDV VP2:GenBank acc.nr.KX 827589.1、及びIBVスパイク:GenBank acc.nr.AAA 66578.1、である。
【0083】
更に、HAタンパク質に関する詳細な情報は、Research Collaboratory for Structural Bioinformatics(RCSB)Protein Data Bank(PDB)のwww.rcsb.org、及びインフルエンザ研究データベースのwww.fludb.orgで入手可能である。
【0084】
抗原がAIV HAタンパク質から選択される、本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原はHAタンパク質の外部ドメインのみを含む。これにより、本発明による使用のための組換えタンパク質の発現に使用される細胞の細胞膜への付着を防止することができる。
【0085】
成熟AIV HAタンパク質の外部ドメインは、シグナル配列のないN末端部分及びHAタンパク質の中心部分を含み、したがってHA1ドメイン及びHA2ドメインを含むが、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含まず、典型的には、これらの最後の2つの部分が一緒になってHAのC末端の35~40アミノ酸を形成する。
【0086】
抗原がH5型、H7型、又はH9型のAIV HAタンパク質の外部ドメインである、本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原は、配列番号3、4、及び5から選択されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。
【0087】
抗原がAIV HAタンパク質由来のエクトドメインである、本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原は三量体化ドメインも含む。
【0088】
そのような三量体化ドメインは、HAの膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインの喪失を補償し、ホモ三量体を形成し、その天然の3D形状に類似する能力を回復することができる。更に、HA-エクトドメイン抗原を有する本発明の組換えタンパク質の溶解性及び安定性を改善する。
【0089】
本発明の場合、三量体化ドメインはペプチドであり、この機能に適していることが知られているいくつかのうちの1つ、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のGCN4転写活性化因子のイソロイシンジッパー3ドメイン、又はバクテリオファージT4フィブリチンタンパク質のFoldonドメイン(「Foldon」)であり得る。
【0090】
好ましい実施形態では、三量化ドメインは、Foldonであり、より好ましくは、Foldonは配列番号6のアミノ酸配列を含む。
【0091】
抗原がAIV HAタンパク質の外部ドメインであり、抗原が三量体化ドメインも含む、本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、三量体化ドメインはHA外部ドメインのC末端側(下流側)に位置する。
【0092】
好ましい実施形態では、HA外部ドメイン及び三量化ドメインは、介在するアミノ酸なしで、本発明による使用のために組換えタンパク質中に配置される。
【0093】
好ましい実施形態では、AIV H9 HA外部ドメイン及びFoldonを含む抗原は、配列番号7のアミノ酸配列を含む。
【0094】
本発明による使用のための組換えタンパク質では、抗原及び結合ドメインは、抗原又は結合ドメインのいずれかが本発明による使用のための組換えタンパク質のN末端により近い状態で、互いに対して2つの向きに配置され得る。これに関して、抗原がHA外部ドメインであるように選択される場合に使用され得る三量化ドメインは、抗原の一部と見なされる。
【0095】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原は、結合ドメインのN末端側(上流)で当該組換えタンパク質の中に位置する。
【0096】
代替の実施形態では、結合ドメインは、抗原のN末端側(上流)で当該組換えタンパク質の中に位置する。
【0097】
一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、それらの相互配向に応じて、抗原と結合ドメインとの間、又は結合ドメインと抗原との間に位置するリンカーを含む。好ましくは、当該リンカーは、1から30アミノ酸のサイズである。より好ましくは、リンカーはグリシン及びセリンというアミノ酸を含む。更により好ましくは、当該リンカーは、配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0098】
したがって、一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、
-AIV H5 HA外部ドメイン、三量化ドメイン、リンカー及びCD83-scFv、
-AIV H7 HA外部ドメイン、三量化ドメイン、リンカー及びCD83-scFv、並びに
-AIV H9 HA外部ドメイン、三量化ドメイン、リンカー及びCD83-scFv、
(ここで、示された要素は、N末端からC末端に向かって提示されている)
から選択される組み合わせのうちの1つを含む。
【0099】
好ましい実施形態では、AIV HA外部ドメインは、配列番号3、4、及び5から選択され、三量化ドメインは配列番号6であり、リンカーは配列番号8であり、CD83-scFvは配列番号2である。
【0100】
本発明による使用のための組換えタンパク質を発現、採取、定量及び(場合により)精製する目的で、組換えタンパク質はまた、生化学的又は血清学的マーカー(又はタグ)として機能する1つ以上のペプチドを含み得る。マーカーは同じであっても異なっていてもよい。マーカーは、組換えタンパク質中の異なる位置に配置することができる。
【0101】
周知のマーカーは、マルトース結合タンパク質(MBP)-タグ又はヒスチジン(His)-タグなどの親和性タグ、Mycタグ、Ctagタグ、V5タグ又はFlagタグなどのエピトープタグ、又はGFP若しくはYFPなどの蛍光タンパク質タグ、又はその一部であって、すべて当技術分野で周知である。
【0102】
マーカーは、検出及び定量目的のために、例えば、特異的抗体との検出又は結合のために、例えば、IFT又はELISAにおいて使用され得る。精製は、例えば、免疫又は金属アフィニティークロマトグラフィーを使用して行うことができる。
【0103】
Hisタグは、典型的には、4から10個のヒスチジンを有する。好ましくは、Hisタグは6×ヒスチジンタグであり、すなわち6個の連続したヒスチジンを有する。
【0104】
「Ctag」は、配列番号9を含み、パーキンソン病などの神経障害に見られる凝集物を引き起こすことが知られているα-シヌクレインタンパク質のC末端である。使用される場合、Ctagは、好ましくは、本発明の組換えタンパク質のC末端に含まれる。免疫アフィニティークロマトグラフィーによるCtagの精製は、例えば、発現系の培養物中にタンパク質による外乱がある場合、時としてHisタグの精製よりも実効性がある。
【0105】
V5タグは、シミアン・ウイルス5に由来する。好ましくは、V5タグは、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0106】
一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、マーカーペプチドを含む。より好ましくは、マーカーペプチドは、Ctag、Hisタグ及びV5タグから選択される1つ以上である。更により好ましくは、組換えタンパク質は、Ctag、Hisタグ及びV5タグからの2つ以上を含む。
【0107】
本発明による使用のための組換えタンパク質の発現のために、必要に応じていくつかのさらなる調整を行うことができる。そのような微調整又は最適化は定型的なものであり、当業者に周知である。例えば、タンパク質が発現系の宿主細胞によってどのように発現されるか、すなわち、細胞の内部に、細胞の表面に、又は細胞の外部に分泌されるかによって異なる。最後の2つの場合では、N末端側にシグナル配列を提供することができ、このシグナルは、使用される発現系の細胞において良好に機能する。一例は、S2細胞で発現する場合の分泌を可能にするための「キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)免疫グロブリン重鎖結合タンパク質」(BIP)シグナル配列の使用である。
【0108】
一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、シグナル配列を含み、好ましくは、シグナル配列は、BIPシグナル配列であり、より好ましくは、BIPシグナル配列は、配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0109】
本発明による使用のための組換えタンパク質の発現をもたらす核酸の構築プロセスの過程で、1つ以上の制限酵素(RE)部位が使用され得る。それらのRE部位が組換えタンパク質のコード領域に位置する場合、それらの残りのヌクレオチドは、数個のアミノ酸に翻訳され、その後、それらは本発明による使用のための組換えタンパク質を構成する要素のいくつかの間に位置する。
【0110】
例えば、本発明に使用される1つの構築物は、RE部位KpnI及びPacIを使用してH9 HA外部ドメイン-Foldonエレメントをサブクローン化し、RE部位NotI及びXbaIを使用してHA抗原-Foldon及び配列番号8のリンカーのC末端側のCD83-scFvをサブクローン化した。
【0111】
結果として、本発明による使用のための組換えタンパク質の一バージョンは、配列番号12のアミノ酸配列を含み、その詳細は表1に記載されている。
【表1】
リンカー及びCD83-scFvを含まない対照構築物を調製した。この構築物は、配列番号12のアミノ酸545~802の領域を欠き、配列番号13のアミノ酸配列を含んでいた。
【0112】
配列番号12及び13と同様の構築物は、他のHA抗原配列、すなわち、例えば、配列番号4及び5にそれぞれ示される、H5 HA外部ドメイン又はH7 HA外部ドメインのうちの1つを使用して容易に作製することができる。
【0113】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、抗原と反応性の抗体は、母体由来の抗体である。
【0114】
本発明では、既存の抗体が母体由来であるか否かを容易に確かめることができ、実際には、2~4週齢未満の雛鳥のみがMDAを有する。また、MDAは主にIgYからなり、これは哺乳動物IgGの機能的ホモログであるが、構造的に異なり、IgYはIgGの3つと比較して4つの重鎖定常ドメインを有する。
【0115】
本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、保護される鳥類は家禽である。より好ましくは、家禽は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びガチョウから選択される。更により好ましくは、家禽はニワトリである。
【0116】
本発明の場合、鳥類は、任意のタイプ、品種、又は亜種のものであり得、例えば、産卵鶏、種鶏、ブロイラー、雑種、又はそのような品種のいずれかの親系統であり得る。好ましい家禽の種類は、ブロイラー、種鶏及び産卵鶏から選択される。より好ましいのは、ブロイラータイプ及び産卵鶏タイプの家禽である。ブロイラー家禽が最も好ましい。
【0117】
記載されるように、本発明は、血清陽性鳥類を病原体から保護する方法に使用するための組換えタンパク質を提供する。この方法は、既存の抗体が以前の能動的ワクチン接種の結果である老齢の鳥、又は既存の抗体がMDAである若鳥のいずれかに有利に適用することができる。
【0118】
したがって、本発明による使用のための組換えタンパク質の一実施形態では、保護される鳥類は4週齢未満であり、好ましくは3週齢未満であり、より好ましくは2週齢未満であり、更により好ましくは1週齢未満であり、更により好ましくは1日齢(すなわち、孵化日)である。一実施形態では、保護される鳥類は、胚発生から約18日目(すなわち卵内)である。
【0119】
本発明による使用のための組換えタンパク質の代替実施形態では、保護される鳥類は2週齢以上である。
【0120】
記載されるように、本発明による使用のための組換えタンパク質は、間接的な使用によって、すなわち組換えベクター、例えば、DNAプラスミド、RNA分子又はウイルスベクターから組換えタンパク質を発現させることによって同様にうまく適用することができる。
【0121】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本発明による使用のための組換えタンパク質を発現することができる組換えベクターであって、当該組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原と反応性の抗体を保有する鳥類を、当該抗原が由来する病原体から保護する方法で使用するための組換えベクターに関する。
【0122】
「ベクター」は、適切な条件下、例えば、宿主細胞の中で、その発現を可能にする適切なシグナルと共に、ポリペプチドをコードするための遺伝情報(核酸配列)を運ぶ分子構造として本発明の分野で周知である。本発明に関して、「発現」は、遺伝情報から転写及び/又は翻訳によってタンパク質を発現する周知の原理に関する。
【0123】
そのようなベクターの、DNA又はRNAなどの核酸分子から、ウイルス様粒子及びレプリコン粒子などのより複雑な構造、ウイルスなどの組換え微生物の複製に至る多くの種類及び変形が公知であり、本発明に使用することができる。
【0124】
本発明による使用のための組換えベクターは、その遺伝情報のインビトロ操作によって変更された分子構成を有するので、「組換え」である。行われた変更は、ベクター及び/又はそれが発現するタンパク質の複製、発現、操作、精製、安定性及び/又は免疫学的挙動をもたらし、改善し、又は適合させるのに役立ち得る。これら及び他の技術は、Sambrook&Russell及びAusubelらの標準的な教科書(いずれも前出)、及びC.Dieffenbach&G.Dvekslerの「PCR primers:a laboratory manual」(CSHL Press,ISBN 0879696540)、並びに、J.Bartlett及びD.Stirlingによる「PCR protocols」(Humana press,ISBN:0896036421)に非常に詳細に説明されている。
【0125】
使用されるベクターの種類に応じて、シス(すなわち、組換えベクター自体の中に提供される)又はトランス(すなわち、別個の供給源から提供される)のいずれかで、多かれ少なかれシグナルを複製及び発現のために提供する必要があり、これはすべて周知である。
【0126】
当業者は、本発明による使用のための組換えベクターを適切な条件下で本発明による使用のための組換えタンパク質を「発現することができる」ようにするために、必要なシグナルを選択し、使用可能な組み合わせに組み合わせるための知識を有する。構築及びクローニングを補助する要素、例えば、制限酵素認識部位又はPCRプライマーの隣に、周知の要素を、プロモーター、終止コドン、終結シグナル、ポリアデニル化シグナル、7-メチルグアノシン(7mG)キャップ構造、並びに機能的スプライスドナー及びアクセプター部位を有するイントロンのうちの1つ以上から選択することができる。
【0127】
本発明による使用のための組換えベクターの実施形態では、組換えタンパク質の特徴、使用、方法、保護、鳥類、抗体、抗原及び病原体はすべて、本明細書で具体化される通りである。
【0128】
本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、それが発現する組換えタンパク質は、配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0129】
配列番号12のアミノ酸配列の発現に使用されるヌクレオチド配列は、配列番号14のヌクレオチド配列を含む。
【0130】
したがって、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、ベクターは配列番号14のヌクレオチド配列を含む。
【0131】
配列番号13の対照タンパク質は、配列番号15のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列によってコードされる。
【0132】
配列番号14及び15の両方は、これらの細胞における発現を最適化するための、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)S2細胞のコドン使用頻度表に対してコドン最適化されている。詳細は後述の通りである。
【0133】
記載されるように、本発明による使用のための組換えベクターは、いくつかの異なる形態を有し得る。
【0134】
したがって、一実施形態では、本発明による使用のための組換えベクターは、核酸、ウイルス及びレプリコン粒子(RP)から選択される。
【0135】
本発明では、核酸はDNA又はRNAであり得、一本鎖又は二本鎖であり得、天然又は合成起源であり得る。
【0136】
ベクターが核酸である、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、核酸は真核生物発現プラスミドである。
【0137】
通常DNAの「真核生物発現プラスミド」は、真核細胞において活性なプロモーターの操作制御下で、プラスミドに挿入される異種遺伝子の発現のための適切なシグナルを有する。次いで、プラスミドを、何らかのトランスフェクション方法によって、例えば、生化学物質をキャリアとして使用することによって、機械的手段によって、又はエレクトロポレーションによって真核生物宿主細胞又は宿主生物に挿入することができ、異種遺伝子挿入物の発現をもたらす。典型的には、そのような発現は、プラスミドが宿主細胞のゲノムへの安定な組み込みのためのシグナルを欠くので、一過性であり、したがって、そのようなプラスミドは、典型的には、宿主又は宿主細胞を形質転換又は不死化しない。これらの材料及び手順はすべて当技術分野で周知であり、ハンドブックに記載されている。
【0138】
そのような真核生物発現プラスミドは、様々な供給業者から市販されており、例えば、一連のプラスミド:pcDNA(商標)、pCR3.1(商標)、pCMV(商標)、pFRT(商標)、pVAX1(商標)、pCI(商標)、Nanoplasmid(商標)、pCAGGSなどである。
【0139】
好ましい実施形態では、真核生物発現プラスミドは、pFRTプラスミド(Thermo Fisher Scientific)又はpCAGGSプラスミド(Niwaら、1991,Gene,vol.108,p.193-199)である。
【0140】
真核生物発現プラスミドは、発現、精製などの調節のためのいくつかの特徴を含むことができる。1つの可能なシグナルは抗生物質耐性遺伝子であり、これは構築及びクローニングプロセス中の選択に使用され得る。しかしながら、ヒト又は動物標的への投与を意図する場合、そのような抗生物質を選択することは、抗生物質耐性を発生させる恐れのために望ましくない。
【0141】
ベクターが核酸であり、核酸が真核生物発現プラスミドである、本発明による使用のための組換えベクターの好ましい実施形態では、プラスミドは抗生物質耐性遺伝子を含有しない。
【0142】
本発明による使用のための組換えベクターは、真核生物発現プラスミドの形態で、宿主細胞又は標的生物に送達することができ、宿主細胞において本発明のHA幹ポリペプチドを発現する。発現プラスミドの送達は、いくつかの方法であり得、例えば、機械的又は化学的手段によって、裸のDNAとして、又はタンパク質、多糖、脂質若しくはポリマーなどの適切な(ナノ粒子)担体でカプセル化することができる。核酸担体の周知の例は、デンドリマー、脂質ナノ粒子、カチオン性ポリマー及びプロタミンである。
【0143】
本発明による使用のための組換えベクターの真核生物発現プラスミドとしての特別な形態は、プラスミドがレプリコンRNAの送達を可能にする場合である。
【0144】
したがって、ベクターが核酸であり、核酸が真核生物発現プラスミドである、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、プラスミドはレプリコンRNAをコードする。
【0145】
「レプリコンRNA」は、本発明の組換えポリペプチドをコードする核酸に加えて、レプリカーゼ遺伝子などのRNA複製に必要な要素を含む自己複製RNAである。しかし、レプリコン粒子(RP)とは異なり、レプリコンRNAはウイルス構造タンパク質によってパッケージングされないため、宿主細胞に単独で侵入する効率は低い。
【0146】
レプリコンRNAをコードするプラスミドは、タンパク質発現プラスミドと同じ方法で宿主細胞に送達することができる。
【0147】
レプリコンRNAをコードする真核生物発現プラスミドによるワクチン接種は、真核生物発現プラスミド発現タンパク質によるワクチン接種を超える利点をもたらす、というのも、レプリコンRNAによって増幅工程がなされる、すなわち、レプリカーゼの翻訳により、レプリコンRNAが本発明による使用のための組換えタンパク質をコードするサブゲノムメッセンジャーRNAを産生するからである。これは、宿主細胞及び標的鳥類のそれぞれにおいて、大量の組換えタンパク質の発現をもたらす。
【0148】
ベクターが核酸であり、核酸が真核生物発現プラスミドであり、プラスミドがレプリコンRNAをコードする、本発明による使用のための組換えベクターの好ましい実施形態では、レプリコンRNAは、アルファウイルスベースのレプリコンRNAであり、より好ましくは、アルファウイルスベースのレプリコンRNAはベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)ベースのレプリコンRNAである。
【0149】
VEEVレプリコンRNAをコードする真核生物発現プラスミドの例は、例えば、ヒトCMV前初期遺伝子1プロモーターなどの真核生物プロモーターによって駆動されるVEEV非構造タンパク質遺伝子1-4を含むpVAXプラスミド(Thermo Fisher Scientific)である。
【0150】
ベクターが核酸である、本発明による使用のための組換えベクターの代替実施形態では、核酸はRNA分子である。
【0151】
本発明のRNA分子は、異なる形態及び機能を有することができ、例えば、mRNAであってもよく、又はレプリコンRNAであってもよい。
【0152】
本発明による使用のためのRNA分子としての組換えベクターは、様々な方法で、例えば、機械的又は化学的手段によって鳥類又は宿主細胞に送達することができ、又は本明細書に記載されているように、タンパク質、多糖、脂質若しくはポリマーなどの適切な(ナノ粒子)担体でカプセル化することができる。安定化するために、RNAヌクレオチド類似体又は特定の化学修飾を、例えば、ヌクレオチド又はそれらの骨格に組み込むことができ、又は適用することができる。
【0153】
ベクターが核酸であり、核酸がRNA分子である、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、RNA分子はmRNAである。
【0154】
「mRNA」(メッセンジャーRNA)は、当技術分野で周知であり、典型的には、5’7-メチルグアノシン(7mG)キャップ及び3’ポリA尾部を有する。mRNAは、トランスフェクションによって、且つ/又は適切な担体、例えば、ポリマー若しくはカチオン性脂質を使用することによって、真核生物宿主生物又は宿主細胞に送達することができる。
【0155】
ベクターが核酸であり、核酸がRNA分子である、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、RNA分子はレプリコンRNAである。
【0156】
レプリコンRNAは、例えば、本明細書に記載のpVAXプラスミドを使用してインビトロで産生され、次いで任意の適切な方法を使用して宿主細胞又は標的生物に投与することができる。
【0157】
異種タンパク質の発現及び送達のための複製組換えウイルスベクターの形態の組換えベクターは、当技術分野で周知である。これらは、ウイルスベクターが標的鳥類において複製及び増幅するので、ワクチン接種の効率的な方法を提供する。組換えベクターウイルスの構築及び改変は定型的なものであり、標準的な分子生物学的技術を用いて行うことができる。
【0158】
したがって、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、組換えベクターはウイルスである。
【0159】
本発明の場合、ウイルスベクターは、鳥類において複製するウイルスである。多くの異なるウイルス種が、鳥類のための組換えベクターとして長きにわたって使用されてきた。
【0160】
ベクターがウイルスである、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、ウイルスは、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、パラミクソウイルス、及びアデノウイルスから選択される。
【0161】
鳥類用のベクターとして使用することができる好適なベクターウイルスの例は当技術分野で周知であり、例えば、ヘルペスウイルスの例は、七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)又は血清型1又は2のマレック病ウイルス(MDV)であり、ポックスウイルスの例は鶏痘ウイルスであり、パラミクソウイルスの例はNDVであり、アデノウイルスの例は家禽アデノウイルスである。
【0162】
ベクターがウイルスであり、ウイルスがヘルペスウイルスである、本発明による使用のための組換えベクターの好ましい実施形態では、ヘルペスウイルスは、HVT、MDV1及びMDV2から選択される。
【0163】
インフルエンザHA遺伝子を発現及び送達する組換えウイルスベクターの例は、国際公開第2012/052384号及び欧州特許第19218804.3号にベクターとしてのHVTについて記載されている。ベクターとしてのNDVについては、国際公開第2007/106882号に例が記載されている。
【0164】
組換えウイルスベクターの構築のために、典型的には、発現カセットがベクターのゲノム内の遺伝子座に挿入される。遺伝子座及びその挿入の向きを制御するために、様々な技術が利用可能である。例えば、ベクターのゲノムからの適切な隣接セクションを使用して、例えば、米国特許第5,961,982号に記載されているように重複Cosmidsを使用することによる相同組換えプロセスによってカセットの組み込みを指示することによって。あるいは、この組み込みは、CRISPR/Cas技術を使用して行われてもよい。
【0165】
「発現カセット」は、コードされたタンパク質の発現を可能にするために、少なくとも1つの異種遺伝子と、その遺伝子の転写を駆動する1つのプロモーターとを含む核酸断片である。転写の終了は、カセットのゲノム挿入部位によって提供される配列によってもたらされ得るか、又は発現カセット自体が転写ターミネーターなどの終結シグナルを含み得る。そのようなカセットでは、プロモーター及びターミネーターの両方が、それらが発現を調節する遺伝子に近接している必要があり、これは「作動可能に連結されている」と呼ばれ、それによって、転写の効果的な開始、終了のそれぞれに介入する有意な他の配列はそれらの間に存在しない。当業者には明らかなように、発現カセットは自己完結型発現モジュールであり、したがって、ベクターウイルスゲノムに対するその読み取り方向の向きは一般に重要ではない。
【0166】
本発明による使用のためのベクターとしてのウイルスの使用以外に、本発明による使用のための組換えベクターは、ビリオンに似た高分子構造によって鳥類に送達及び発現させることもできる。例は、ウイルス様粒子(VLP)又はレプリコン粒子(RP)である。「単一サイクル」感染性粒子として知られているこれらの構造は、宿主細胞に感染し、それが有する異種遺伝子を発現するのに必要な特徴を含むが、それらが構築されたウイルスゲノム(の関連部分)がないため、通常は完全なウイルス複製ができない。これは、組み込まれた安全機能として機能する。
【0167】
「RP」は周知であり、様々なタンパク質の発現及び送達のためのプラットフォームとしていくつかのRPが開発されている。RPとして好ましい基礎原料は、その広い宿主域及び迅速な複製のゆえにアルファウイルスである。もちろん、一部のアルファウイルスは野生型形態では病原性が高いため、そのようなRPの感染を弱め制御するために適切な安全対策を講じる必要がある。総説については、Kamrudら(2010,J.Gen.Virol.,vol.91,p.1723-1727)、及びVander Veenら(2012,Anim.Health Res.Rev.,vol.13,p.1-9)を参照されたい。
【0168】
したがって、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、ベクターはRPである。好ましくは、RPはアルファウイルスRPである。より好ましくは、アルファウイルスRPはVEEV RPである。
【0169】
好ましいアルファウイルスRPは、ヒト、ブタ、家禽及び魚用の組換えベクターワクチンとして適用されているVEEVに基づく。VEEVベースのアルファウイルスRPを構築し、試験し、使用するための方法及びツールは周知且つ入手可能であり、例としては、Pushkoら(1997,Virology,vol.239,p.389-401)及び国際公開第2019/110481号を参照されたい。好ましいVEEV RP技術は、SirraVaxsm RNA Particle技術(Harrisワクチン)である。
【0170】
RP用のRNAは、以下のようにインビトロで簡便に作製することができる。すなわち、DNAプラスミドを使用して遺伝子をRNAに翻訳し、これを回収し、VEEV構造タンパク質をトランスでコードするヘルパーRNAと共に宿主細胞にトランスフェクトする。
【0171】
記載されるように、本発明による使用のための組換えベクターは、例えば、その標的にワクチン接種する方法として、本発明による使用のための組換えタンパク質を鳥類に送達及び発現させるために有利に使用することができる。これは、ある段階で、そのベクターを鳥類に投与することを含み、例えば、その場合、ベクターはDNA発現プラスミド又はRNA分子などの核酸である。
【0172】
また、ベクターは、ベクターの増幅及び/又は組換えタンパク質の発現のためにインビトロで宿主細胞に導入されてもよく、その後、宿主細胞(ベクター及び/又はタンパク質を含む)が鳥類に投与され、例えば、その場合、ベクターはウイルスベクター、例えば、HVTである。
【0173】
更に、ベクターを組換えタンパク質の発現のための組換え発現系の細胞に導入し、タンパク質をその細胞培養物から回収し、上記のように鳥類にワクチン接種するために使用することができる。また、本発明による使用のための組換えベクターに感染し又はそれがトランスフェクトされ、本発明による使用のための組換えタンパク質を含有及び/又は発現する宿主細胞それ自体を、本発明の保護する方法に使用することができ、例えば、感染し又はトランスフェクトされた宿主細胞それ自体を鳥類のワクチン接種に使用することができる。
【0174】
適用されるベクターのタイプに応じて、宿主細胞へのその導入は、本明細書に記載されるように、担体又は何らかのトランスフェクション方法を必要とし得、又はベクター自体によって誘導され得る。
【0175】
したがって、さらなる態様では、本発明は、インビトロで維持される宿主細胞に関し、当該宿主細胞は、本発明による使用のための組換えタンパク質及び/又は本発明による使用のための組換えベクターを含む。
【0176】
本発明の「宿主細胞」は、本発明による使用のための組換えタンパク質の発現を可能にし、且つ/又は本発明による使用のための組換えベクターの複製を可能にする細胞である。
【0177】
本発明の宿主細胞は、インビトロで維持される初代細胞であり得、例えば、懸濁液中、単層中、又は組織中で維持され得る。
【0178】
あるいは、宿主細胞は、インビトロで維持される不死化細胞、例えば、ほぼ無限に成長及び分裂することができる確立された細胞株由来の細胞であり得る。宿主細胞のタイプに応じて、本発明のHA幹ポリペプチドの発現は、多かれ少なかれ広範囲の翻訳後プロセシング、例えば、シグナルペプチド切断、ジスルフィド結合形成、グリコシル化及び/又は脂質修飾を含むであろう。
【0179】
初代細胞と不死化宿主細胞は、同じ種又は異なる種のものであり得る。また、一方又は両方は、本発明の保護する方法の対象である鳥類と同じ種又は異なる種であってもよい。
【0180】
使用される宿主細胞の多くは線維芽細胞及びリンパ球である。本発明の組換えベクターウイルスとしてHVTを使用する場合、宿主細胞は好ましくは初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)であり、これは記載されているように使用及び保存することができ、例えば、国際公開第2019/121888号を参照されたい。
【0181】
本発明の宿主細胞の一実施形態では、当該宿主細胞は、好ましくは不死化鳥類細胞である。いくつかの不死化鳥類細胞株が、例えば、国際公開第97/044443号及び国際公開第98/006824号に記載されており、より好ましくは、本発明の不死化鳥類宿主細胞は不死化CEFであり、更により好ましくは、国際公開第2016/087560号に開示されている不死化CEFである。
【0182】
本発明の宿主細胞の一実施形態では、当該宿主細胞は、好ましくは組換え発現系の細胞である。発現系由来の細胞の例は、例えば、細菌、酵母、昆虫、鳥類、又は哺乳動物由来の細胞である。
【0183】
細菌発現系由来の細胞は、例えば、エシェリヒア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、サルモネラ属(Salmonella)、カウロバクター属(Caulobacter)又はラクトバチルス属(Lactobacillus)由来の細胞である。
【0184】
酵母発現系由来の細胞は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はピキア・パストレス(Pichia pastores)由来の細胞である。
【0185】
昆虫細胞発現系由来の細胞は、例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来の細胞、例えば、Schneider 2(S2)細胞、又はバキュロウイルス-昆虫細胞発現系で使用するための細胞、すなわち、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の細胞、例えば、Sf21細胞又はSf9細胞、又はTrichoplusia ni由来の細胞、例えば、High Five(商標)細胞である。
【0186】
哺乳動物発現系由来の細胞は、例えば、ハムスター由来の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0187】
これらのすべての細胞株及び組換え発現系におけるそれらの対応する使用は当技術分野で周知であり、定型的な技術及び材料を用いて使用することができる。
【0188】
本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質をコードする核酸はコドン最適化されている。
【0189】
コドン最適化は周知であり、発現系における遺伝子の発現レベルを改善するために適用され、これは典型的には遺伝子の起源のそれとは異なる状況である。最適化は、目的のアミノ酸をコードするためのヌクレオチド配列の適合を含むが、ある意味では、これは配列が発現される組換えベクター、宿主細胞、又は標的生物のコドン優先度(tRNAレパートリー)に対応する。その結果、適用されるヌクレオチド変異はサイレントである。
【0190】
したがって、本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、本発明を保護するための方法によって保護されることが意図されている鳥類生物に対してコドン最適化された核酸配列によってコードされる。好ましくは、コドン最適化は家禽に対するものである。より好ましくは、コドン最適化は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びガチョウから選択される家禽に対するものである。
【0191】
本発明による使用のための組換えベクターの一実施形態では、本発明による使用のための組換えタンパク質は、組換え発現系の細胞、好ましくは細菌、酵母、昆虫、鳥類、又は哺乳動物由来の細胞に対してコドン最適化された核酸配列によってコードされる。より好ましくは、核酸は昆虫細胞に対して最適化され、更により好ましくは、Drosophila Schneider 2(S2)細胞に対して最適化される。
【0192】
本発明による使用のための組換えタンパク質及び使用のための組換えベクターは、いずれも特定の管轄に適するように他の表現によって特徴付けることもできる。
【0193】
したがって、さらなる態様では、本発明は、病原体から鳥類を保護するためのワクチンの製造のための、本発明による使用のための組換えタンパク質の使用又は本発明による使用のための組換えベクターの使用に関し、それにより、当該組換えタンパク質に含まれるか、又は当該組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原は、当該病原体に由来し、当該鳥類が、当該抗原と反応性の抗体を保有することを特徴とする。
【0194】
本発明によるワクチンの製造のための組換えタンパク質又は組換えベクターの実施形態のいずれにおいても、組換えタンパク質、組換えベクター、保護、鳥類、病原体、抗原及び抗体の特徴は、すべて本明細書で実施される通りである。
【0195】
「ワクチン」は、薬学的に許容される担体の中に、保護的な免疫学的効果を誘導することができる少なくとも1つの化合物を含む組成物であることはよく知られている。本発明の「免疫学的に活性な化合物」は、本発明による使用のための組換えタンパク質又は本発明による使用のための組換えベクターである。
【0196】
本発明のためのワクチンの製造は、当技術分野で周知の定型的な方法及び手順を使用して行うことができる。医薬品製造のための周知の基準の下でワクチンの製造に適用される一般的な技術及び考慮事項は、例えば、政府の指令及び規制(薬局方、9CFR)並びに「Veterinary vaccinology」及び「Remington」(いずれも前出)などの周知のハンドブックに記載されている。一般に、そのようなワクチンは無菌で調製され、医薬品品質グレードの賦形剤を使用して調製される。
【0197】
そのような製造には、無菌性及び外来性薬剤の非存在に関する微生物学的試験が組み込まれ、有効性及び安全性を確認するためのインビボ又はインビトロでの実験が含まれ得る。品質、量、無菌性、安全性及び有効性についての試験が完了した後、ワクチンを販売することができる。これらはすべて当業者に周知である。
【0198】
例えば、本発明による使用のための組換えタンパク質が組換え発現系によって産生される場合、タンパク質は、発現系培養物から、例えば、全培養物として回収され得る。あるいは、回収物は、そのような培養物の一部、例えば、細胞培養物の遠心分離後の上清若しくは細胞ペレット、又は濾過後の濾液若しくは残余分であり得る。上清は、培養物が、例えば、一晩放置することによって重力沈降した後に、又は遠心分離によって得ることができ、濾液は、濾過時にフィルタを通過するものである。
【0199】
記載されているように、本発明による使用のための組換えタンパク質及び本発明による使用のための組換えベクターは、当該組換えタンパク質及び/又は当該組換えベクターを含むワクチンを介して、鳥類の保護においてそれらの有利な効果を達成する。
【0200】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本発明による使用のための組換えタンパク質を含むか又は本発明による使用のための組換えベクターを含むワクチン及び薬学的に許容される担体に関し、当該組換えタンパク質に含まれるか、又は当該組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原と反応性の抗体を保有する鳥類を、当該抗原が由来する病原体から保護する方法で使用するためのものに関する。
【0201】
本発明による使用のためのワクチンの実施形態では、組換えタンパク質、組換えベクター、使用、方法、保護、鳥類、抗体、抗原及び病原体の特徴は、すべて本明細書に具体化される通りである。
【0202】
「薬学的に許容される担体」は、ワクチンの安定化及び投与を助けることがよく知られており、その上、比較的無害であって、ワクチン接種者に忍容性が高い。そのような担体は、例えば、水又は生理学的塩溶液であり得る。より複雑な形態では、担体は、例えば、安定剤又は保存剤などのさらなる添加剤を含み得る緩衝剤であり得る。その詳細及び例は、例えば、「Remington:the science and practice of pharmacy」(2000,Lippincott,USA,ISBN:683306472)及び「Veterinary vaccinology」(P.Pastoret et al.ed.,1997,Elsevier,Amsterdam,ISBN 0444819681)などの周知のハンドブックに記載されている。
【0203】
本発明によるワクチンが複製ウイルスである組換えベクターを含む場合、薬学的に許容される担体は、好ましくは、そのウイルス、又はそのウイルスが含有される宿主細胞を安定化する組成物である。例としては、いくつかのウイルスワクチン希釈剤、及び典型的には、例えば、糖、アミノ酸、生理学的緩衝液(例えば、生理食塩水、PBS、又は50mM HEPES)、及び多くの場合アルブミン、ポリマーなどの嵩高い化合物を含む凍結又は凍結乾燥保存用の安定剤がある。例えば、ワクチンが組換えHVTベクターを含む場合、そのようなワクチンは典型的には細胞関連製品として市販されている。その場合、薬学的に許容される担体は、好ましくは、約10%血清及び約6% DMSOの培養培地の混合物である。この担体はまた、凍結中及び凍結保存中のHVT感染宿主細胞の安定化をもたらす。血清は、胎児又は新生仔ウシ血清などの細胞培養に定型的に使用される任意の血清であり得る。
【0204】
本発明によるワクチンが、核酸又はRPである本発明による使用のための組換えベクターを含む場合、薬学的に許容される担体は、単純な緩衝液、例えば、5%w/vスクロースを含むリン酸緩衝液であり得る。
【0205】
更に、本発明での使用のために組換えベクターを安定化及び/又は送達するために、例えば、核酸又はRPである本発明による組換えベクターをタンパク質、多糖、脂質又はポリマーなどの適切な(ナノ粒子)担体でカプセル化するために、追加の担体を添加することができる。好ましくは、RPである本発明による組換えベクターのための追加の担体は、国際公開第2012/165953号に記載されているような生分解性ポリアクリルポリマーであるナノゲルを含む。
【0206】
明らかに、組換えベクター又はそのようなベクターを含むインビトロ宿主細胞は、いずれも本発明において、生きたまま(すなわち、複製)又は死んだ状態で(非複製的、又は不活性化)本明細書で使用することができる。次に、組換えベクター又は宿主細胞の一部のみを、いずれも本発明においては、例えば、ペレット、上清、濃縮物、透析液、抽出物、超音波処理液、溶解物として、又はベクター及び/又は宿主細胞を含む組成物、例えば、培養物の一部として使用することができる。これはすべて当業者に周知である。
【0207】
本発明による使用のためのワクチンが本発明による使用のための組換えタンパク質を含む場合、ワクチンは、誘導された免疫応答を刺激するためのアジュバントを含むことができる。
【0208】
したがって、一実施形態では、本発明による使用のためのワクチンはアジュバントを含む。
【0209】
「アジュバント」は、標的の免疫応答を非特異的に刺激する周知のワクチン成分である。多くの異なるアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例は、完全又は不完全フロイントアジュバント、ビタミンE又はアルファ-トコフェロール、非イオン性ブロックポリマー及びポリアミン、例えば、硫酸デキストラン、Carbopol(商標)、ピラン、サポニン、例えば、Quil A(商標)又はQ-vac(商標)である。サポニン及びワクチン成分は、ISCOM(商標)中で組み合わせることができる。更に、ムラミルジペプチド、ジメチルグリシン及びタフトシンなどのペプチド。また、アルミニウム塩、例えば、Alhydrogel(商標)(Brenntag Biosector)、Rehydragel(商標)(Reheis)及びRehsorptar(商標)(Armour Pharmaceutical)として入手可能なリン酸アルミニウム又は水酸化アルミニウムなど。
【0210】
広く使用されているアジュバントは、油、例えば、鉱油、例えば、軽質(白色)鉱物(パラフィン)油、又は非鉱油、例えば、スクアレン、スクワラン、植物油又はその誘導体、例えば、オレイン酸エチルである。また、ISA(商標)(Seppic)又はDiluvacForte(商標)及びXsolve(商標)(両方ともMSD Animal Health)などの組み合わせ製品も有利に使用することができる。
【0211】
アジュバント並びにその使用及び効果に関するハンドブックは、「Vaccine adjuvants」(Methods in molecular medicine,vol.42,D.O’Hagan ed.,2000,Humana press,NJ,ISBN:0896037355)である。
【0212】
アジュバントは、いくつかの態様で、本発明による使用のためのワクチンに含まれ得る。アジュバントが油を含む場合、ワクチンは水性形態で提供することができ、また、油とのエマルジョンとして、異なる態様で、すなわち、油中水型(W/O)、水中油型(O/W)として、又はW/O/W若しくはO/W/Oのいずれかの二重エマルジョンとして、製剤化することができる。
【0213】
「エマルジョン」は、少なくとも2つの不混和性液体の混合物であり、それによって一方が他方に分散される。典型的には、分散相の液滴は、非常に小さく、マイクロメートル以下の範囲である。
【0214】
任意の規模でエマルジョンを調製するための手順及び装置は、当技術分野で周知である。エマルジョンを安定化するために、1つ以上の乳化剤を使用することができる。
【0215】
「乳化剤」は、両親媒性を有し、疎水性の側面と親水性の側面の両方を有する分子である。多くの乳化剤は、それらの様々な特性で当技術分野において公知である。ほとんどは、商業的に容易に入手可能であり、いくつかの純度のものがある。ワクチン用の一般的な乳化剤は、ソルビタンモノオレエート(Span(登録商標)80)及びポリオキシエチレン-ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80、又はTween(登録商標)80)である。
【0216】
乳化剤(の混合物)の特性を特徴付ける周知の方法は、HLB数(hydrophile-lipophile balance;Griffin,1949,J.Soc.Cosm.Chem.,vol.1,p.311-326)である。典型的には、HLB数が10未満の乳化剤又は乳化剤混合物はW/Oエマルジョンに都合がよく、HLB数が10~16の乳化剤(混合物)はO/Wエマルジョンに都合がよい。
【0217】
エマルジョン安定剤も添加することができ、その例は、ベンジルアルコール、トリエタノールアミンである。
【0218】
ワクチンがアジュバントを含む、本発明による使用のためのワクチンの好ましい実施形態では、アジュバントが油を含む。より好ましくは、油は鉱油を含む。更により好ましくは、鉱油は、軽質(又は白色)流動パラフィン油を含む。
【0219】
軽質流動パラフィン油の例は、Drakeol(登録商標)6 VR(Penreco)、Marcol(登録商標)52(Exxon Mobile)及びKlearol(登録商標)(Sonneborn)である。
【0220】
ワクチンがアジュバントを含み、アジュバントが油を含む、本発明による使用のためのワクチンの好ましい実施形態では、ワクチンは油中水型エマルジョンとして製剤化される。
【0221】
他の表現及び特定の管轄では、本発明のさらなる態様は以下のように定義することができる。
【0222】
さらなる態様では、本発明は、病原体から鳥類を保護するための、本発明による使用のための組換えタンパク質、又は本発明による使用のための組換えベクター、又は本発明による使用のためのワクチンの使用に関し、それにより、当該組換えタンパク質に含まれるか、又は当該組換えベクターによって発現される組換えタンパク質に含まれる抗原は、当該病原体に由来し、当該鳥類が、当該抗原と反応性の抗体を保有することを特徴とする。
【0223】
本発明による使用の一実施形態では、その使用は、本発明のすべての、組換えタンパク質、組換えベクター、又はワクチンの鳥類への投与を含む。
【0224】
本発明による使用の実施形態では、組換えタンパク質、組換えベクター、ワクチン、使用、方法、保護、鳥類、病原体、抗原、及び抗体の特徴はすべて、本明細書で具体化される通りである。
【0225】
さらなる態様では、本発明は、病原体から鳥類を保護するための方法であって、本発明による使用のためのワクチンを当該鳥類に投与する工程を含み、当該ワクチンに含まれる抗原が当該病原体に由来し、当該鳥類が、当該抗原と反応性の抗体を保有する、方法に関する。
【0226】
本発明による使用のためのワクチンは、典型的には、鳥類への投与に適し、所望の適用経路及び所望の効果に合った形態で調製される。
【0227】
本発明による使用のためのワクチンの適用経路に応じて、ワクチンの組成物を適合させることが必要な場合がある。これは十分に当業者の能力の範囲内であり、ワクチンの有効性又は安全性の微調整を全体的に含む。これは、ワクチンの用量、量、頻度、経路を適合させることによって、別の形態又は製剤のワクチンを使用することによって、又はワクチンの賦形剤(例えば、安定剤又はアジュバント)の1つを適合させることによって行うことができる。
【0228】
本発明によるワクチンは、原則として、鳥類に対して、異なる投与経路によって、それらの生存期間における異なる時点で与えることができ、具体的には、ワクチンは、本発明による使用のための組換えタンパク質中の抗原と反応性の抗体を保有する任意の年齢の鳥類に投与することができる。
【0229】
投与を可能な限り早期に投与する場合、孵化日(「1日目」)に、又は正に卵内で、例えば、胚発生から約18日間に投与することができ、これらはすべて当技術分野で周知である。
【0230】
工業規模での受精卵へのワクチンの自動注射のための装置は市販されている。これは、労働コストを最小限に抑えつつ、可能な限り早期の保護を提供する。卵黄嚢、胚、又は尿膜腔中など、卵内接種経路の異なるものが知られており、これらは、必要に応じて定型的に最適化することができる。
【0231】
本発明による使用のためのワクチンは、卵内又は非経口のいずれかでの注射に適した注射液として製剤化することができる。
【0232】
一実施形態では、本発明による使用のためのワクチンは、懸濁液、溶液、分散液、及びエマルジョンから選択される液体として製剤化される。
【0233】
一実施形態では、本発明による使用のためのワクチンは、非経口経路によって投与される。好ましくは、非経口経路は、筋肉内経路又は皮下経路によるものである。
【0234】
組換えタンパク質又は組換えベクターの正確な量は、いずれも本発明においては重要ではなく、異なる量の保護効果を比較することによって容易に確立することができる。
【0235】
また、本発明による使用のためのワクチンがウイルスベクターを含む場合、これはワクチン接種された鳥類において複製することができ、鳥類において増殖性感染を確立するのに十分な量で投与するだけでよい。
【0236】
例えば、本発明による使用のためのウイルスベクターが組換えHVTである場合、適切な接種用量は、動物用量あたり1×10^1~1×10^5プラーク形成単位(pfu)の本発明のHVTであり、好ましくは、1×10^2~1×10^4pfu/用量、更により好ましくは500~5000pfu/用量、最も好ましくは約1000~約3000pfu/用量である。本発明のHVTのウイルス粒子を計数する方法は周知である。
【0237】
本発明による使用のためのHVTベクターが細胞関連である場合、これらの量のHVTは感染宿主細胞の中に含まれる。
【0238】
本発明による使用のためのワクチンの動物用量あたりの体積は、意図された適用経路に従って最適化することができ、卵内接種は一般に0.01~0.5ml/卵の体積で与えられ、鳥類における非経口注射は一般に0.1から1ml/鳥の体積で与えられる。
【0239】
本発明によるワクチンの免疫学的有効量の決定、又は動物用量あたりのワクチンの体積の最適化は、いずれも十分に当業者の能力の範囲内である。
【0240】
本発明による使用のためのワクチンを鳥類に適用するための投与レジメンは、単回又は複数回用量であり得、ワクチンの製剤と適合する様式であり得、免疫学的に有効であろう量であり得る。
【0241】
好ましくは、本発明による使用のためのワクチンの投与のためのレジメンは、動物へのストレスを軽減し、労働コストを削減するために、標的鳥類が必要とし得る他のワクチンの既存のワクチン接種スケジュールに統合される。これらの他のワクチンは、それらの登録された使用に適合する様式で、同時に、並行して又は逐次様式で投与することができる。
【0242】
本発明は、様々な態様及び実施形態で本明細書に記載されている。当然のことながら、これらの任意の組み合わせは本発明の範囲内にあると考えられる。ただし、単に簡潔にするために、本明細書では、すべての可能な組み合わせを完全に概説するものではない。
【0243】
ここで、本発明を、以下の非限定的な実施例によって更に説明する。
【0244】
[実施例]
[実施例1]
AIV-MDA陽性ニワトリの作製
1.1.序論
血清反応陽性ニワトリのワクチン接種を試験できるようにするために、現場の実際の状況に似た動物モデルを作成した。具体的には、不活性化アジュバント添加ワクチンを使用して、親雌鶏の筋肉内のワクチン接種を繰り返すことによって、AIV MDA陽性の子孫を作製した。目的は、少なくとも5~7Log2という、現場のものに似た子孫のHI力価に到達することであった。
【0245】
1.2.材料及び方法
SPF白色レグホン産卵ニワトリにワクチン接種して、MDA陽性孵化幼鳥を作製した。すべてのニワトリを隔離室に収容して床飼いした。すべてのニワトリに、実験期間中、飼料及び水を自由に与え、獣医学的監視下で飼育した。
【0246】
1.2.1.MDA産生のためのワクチンの調製:
10日齢の胚性SPF鶏卵でH9N2亜型の鳥インフルエンザAウイルスを増殖させることによって、不活化AIVワクチンを作製した。具体的には、これは、AIV株:A/ニワトリ/パキスタン-/UDL-01/2008(「UDL-01」)であり、GenBank:ACP50708.1及び:Iqbalら(2009,PLoS One,vol.4:e 5788)を参照されたい。感染の72時間後、卵を4℃で冷蔵し、尿膜腔液を採取し、これを3.000rpmで20分間の遠心分離によって除去することによってウイルスを得た。ウイルスを、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞に対するプラークアッセイ又はTCID50によって滴定した。
【0247】
0.1%ベータ-プロピオラクトンを使用してウイルスを化学的に不活化し、その後、不活化を確認するために、10日齢の胚化SPF鶏卵で3回の盲検継代を行った。次いで、不活化ウイルス採取物を、4℃で2時間、27.000rpmでの超遠心分離によって濃縮した。次に、不活化ウイルスを液体軽パラフィン油でアジュバント化し、油中水型エマルジョンに製剤化した。得られたワクチンは、1040赤血球凝集単位(HAU)/mlの力価を有していた。
【0248】
1.2.2.雌鶏のワクチン接種及びMDA+孵化幼鳥の作製
17週齢の40匹のSPFホワイトレグホン産卵鶏群を使用した。ニワトリを個別に標識した。それらを、520 HAU/用量の不活性化アジュバント添加H9N2ウイルスワクチン0.5mlを使用し、それを脚にi.m.投与して免疫した。ワクチンの1回目の用量を17週齢(T=0)で投与し、続いて2回目及び3回目の用量をそれぞれ20週齢(T=1回目の用量の3週間後)及び41週齢(T=1回目の用量の24週間後)で投与した。
【0249】
発生中の抗AIV HI力価の血清学的モニタリングのために、0日目並びに最初の投与後5、11、18、29及び36週目に雌鶏の翼静脈から血液試料を採取した。5匹のSPF雄鶏を受精のための群に含めたが、これらは実際の実験の一部ではなかった。
【0250】
1回目のワクチン接種投与の36週間後から受精卵を採取した。これらを孵化するまでインキュベートするように設定した。10匹の孵化幼鳥を生まれて1日目(D0)に屠殺して、それらのMDAレベルを測定した。それらの孵化した仲間をMDAワクチン接種実験に使用した。
【0251】
1.2.3.HIアッセイ
HIアッセイについては、国際的指針(WHO 676 global influenza surveillance network:manual for the laboratory diagnosis and virological surveillance of influenza.153(2011))に従った。手短に言えば、25μlの血清を25μlのPBSと混合することによって、血清の二倍連続希釈液を調製した。次に、4HA単位のインフルエンザウイルスを希釈血清に添加し、37℃で1時間インキュベートした。最後に、50μlの1%ニワトリ赤血球を血清-ウイルス混合物に添加し、室温で45分間インキュベートした。HI力価は、4単位のウイルス赤血球凝集活性を完全に抑制した抗血清の最高希釈の逆数として表した。
【0252】
HIアッセイで使用したウイルスは、UDL-01株のAIV H9N2であった。
【0253】
1.3.結果
AIV MDA+子孫を生じさせる母鶏の過剰免疫化の結果を
図1に示す。相同UDL-01株を用いてHI滴定を行った。
【0254】
開始後18週間で雌鶏の血清中のHI力価の低下が観察されたときに、3回目のワクチン接種を行った。これにより、雌鶏において非常に高いHI力価がもたらされ、最後のサンプリング点までそのレベルが維持された。
【0255】
雌鶏の平均(n=10)HI力価が4096(12 Log2)である場合、受精卵を開始後36週(53週齢)に回収した。
【0256】
これらの結果から明らかであり、
図1に示されるように、T=11週目とT=18週目との間(p<0.05)及びT=18週目とT=29週目との間(p<0.001)でHI価に有意差があった。
【0257】
これらの雌鶏の(ワクチン非接種の)子孫においてMDAによって誘導されるHI力価を、孵化日及び経時的に、すなわち孵化後1日目、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目、42日目、56日目、70日目及び84日目に測定した。結果を
図2に示す。相同UDL-01株を用いてHI滴定を行った。
【0258】
1日目に、雛鳥のHI力価は平均して(n=10)、588(9.2 Log2)であった。この力価は、7日齢でわずかに(非有意に)低下していたが、14日齢では181(7.5 Log2)で半分を下回り、その後更に急速に低下し、35日目では、平均(n=10)HI力価は16(4 Log2)であり、42日齢ではHI力価はもはや検出できなかった。
【0259】
OIE(www.oie.int/fileadmin/Home/eng/Health_standards/tahm/3.03.04_AI.pdf)によって定義されるAIV死亡率から保護するための国際標準は、32のHI力価(5 Log2)である。ここで実験的に使用された孵化幼鳥は、28日齢で依然としてこの値付近のHI力価を有することが見出されたが、これらの雛鳥は、正常なMDAレベルをはるかに上回って始まった。したがって、追加の能動的ワクチン接種が通常必要とされる。
【0260】
確認のために、測定された抗体がAIV H9 HAに向けられていることを確実にするために、孵化幼鳥の抗体力価もELISAによって試験した。市販のキット、すなわち間接的ELISAであるID Screen(登録商標)Influenza H9 Indirect kit(ID Vet)を製造者の説明書に従って使用した。判明したELISAスコアは、HIスコアのパターンと厳密に一致した。これにより、孵化幼鳥において検出されたHI力価が、AIV H9 HAに特異的な抗体に由来することが確認された。
【0261】
[実施例2]
MDA+鳥類のためのワクチンの調製
2.1.序論
血清陽性鳥類のワクチン接種には3種のワクチンを使用した。
【0262】
陽性対照は、古典的な不活化全ウイルスワクチン:ノビリス(登録商標)インフルエンザH9N2+ND(MSD Animal Health)であった。この市販のワクチンは、サブタイプH9N2の不活化AIV、A株/ニワトリ/UAE/415/99(「UAE」)及び不活化ニューカッスル病ウイルス、クローン30株を含有する。
【0263】
AIV H9N2株UDL-01及びUAEのHAタンパク質は、それらの全長にわたってアライメントした場合、94%のアミノ酸同一性を有する。
【0264】
不活化ワクチン中のNDV成分は、AIVワクチン接種の有効性に有意な効果を有するとは考えられなかった。
【0265】
更に、組換えHA抗原ベースのワクチンの2つの変異体、すなわち、1つのバージョンは非標的変異体を、1つはCD83-scFvへの融合によってCD83を標的化した変異体を使用した。この最後のバージョンは、本発明による使用のための組換えタンパク質である。
【0266】
2.2.材料及び方法
2.2.1.HA抗原発現構築物の調製
ニワトリCD83(GenBank登録番号XM_040663657.1)に対する抗体を産生するマウスハイブリドーマを使用して、vL鎖配列及びvH鎖配列を得た。vL配列及びvH配列を含有する合成cDNAを(Gly4Ser)4リンカーペプチド配列によって連結し、Geneart(Thermo Fisher Scientific)によって商業的に製造した。次いで、vH-リンカー-vL cDNAを、NotI及びXbaI制限部位を使用して、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)発現ベクター:pMT-BIP-V5-His(商標)(バージョンA、Thermo Fisher Scientific社)にクローニングした。このベクターは、S2細胞における発現及び分泌のための、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)メタロチオネイン(MT)プロモーター及びキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BIP)分泌シグナルを提供する。更に、このプラスミドには、マルチクローニングサイト、組換えタンパク質検出のためのV5エピトープ、及び組換えタンパク質精製のための6xHisタグが設けられる。
【0267】
pMT-BIP-CD83-scFv-V5-Hisと命名された得られたベクターを使用して、HA遺伝子シグナルペプチド及びTMドメインを欠くH9 HA遺伝子の外部ドメインを挿入した。KpnI及びPacI制限部位を使用して、バクテリオファージT4由来の三量体タンパク質フィブリチンから29アミノ酸三量体化Foldon配列を付加した。このプラスミドは、MTプロモーターの操作制御下で配列番号14のヌクレオチド配列を含んでいた。
【0268】
この実験で使用したH9 HAは、COBRA技術(Giles et al.,2011,Vaccine,vol.29,p.3043-3054)にも密接に関連する、最小球面コンセンサス(MScon)法(Kim et al.,2015,abstracts from German Conference on Bioinformatics,Dortmund,September 27th-30th 2015,poster 20:PeerJ PrePrints 3:e1350v1)を使用して、G1様H9ウイルス系統の公開データベースからの2000を超えるH9 HA配列の分析から得られたH9N2ウイルスのHAのコンセンサス配列を組み込んで合成的に製造した。
【0269】
この合成HAは、UDL-01株(GenBankアクセッション番号:ACP 50708.1、HA1:aa 19-338及びHA2:aa 339-560)のH9N2ウイルスのHA外部ドメインと98%のアミノ酸配列同一性を有し、これは相同であると認められ、S2細胞に対してコドン最適化されている。
【0270】
CD83標的化シグナルを有しないH9 HA-Foldon抗原を同様の方法で調製して、プラスミドpMT-BIP-H9 HA-Foldon-V5-Hisを得た。このプラスミドは、MTプロモーターの操作制御下で配列番号15のヌクレオチド配列を含んでいた。
【0271】
2.2.2.組換え昆虫細胞の作製及び選択
S2細胞(Thermo Fisher Scientific)を、10% v/vウシ胎児血清を補充したSchneiderの昆虫培地(Merck GmbH Life Science)中で維持し、28℃で増殖させた。細胞を、1200rpmで10分間遠心分離することによって週に1回継代し、新鮮な完全S2細胞培地に再懸濁した。
【0272】
組換えタンパク質を、Drosophila Expression System(DES(登録商標)、Life Technologies)を使用して作製及び精製した。手短に言えば、プラスミドpMT-BIP-rH9 HA-V5-His及びpMT-BIP-rH9 HA-CD83-scFv-V5-Hisを、リン酸カルシウムトランスフェクションを用いてS2細胞にそれぞれ同時トランスフェクトした。トランスフェクションの前に、1×10^6/mLのS2細胞を、28℃で6から16時間、5mLの完全S2細胞増殖培地に予め播種した。60μLの2M CaCl2、32μgの発現プラスミドDNA、1.5μgのハイグロマイシンB耐性プラスミド(pCoHYGRO、Life Technologies)、及び滅菌水を加えて総体積を500μLにすることによって、トランスフェクション溶液を調製した。トランスフェクション溶液を等量の2×Hepes緩衝生理食塩水(HBS)にゆっくり添加し、室温で30分間インキュベートした。得られた溶液を、予め播種したS2細胞にゆっくり滴加し、28℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクション培地を新鮮な完全S2細胞培地と交換し、細胞を28℃で更に3日間インキュベートした。
【0273】
抗生物質選択によって安定なS2形質移入体を作製した、すなわち、250μg/mLのハイグロマイシンBを含有する完全増殖培地を少なくとも4週間にわたって毎週添加した。
【0274】
次に、限界希釈を介して単一細胞クローンを得た(Zitzmann et al.,2010,Biotechnol.Reports,vol.19,e00272)。手短に言えば、2×10^3のS2トランスフェクト細胞を、フィーダー細胞としてのガンマ線照射した10^6個の親S2細胞と混合した。100μLのこの細胞混合物を96ウェルプレートの各ウェルに播種した。各ウェル内の単一クローンは、28℃で4週間のインキュベーション後にはっきりと視認できるようになった。プラスミド構築物ごとに約10~15個の単一クローンをスクリーニングした。最大量の組換えタンパク質を発現する単一クローンを、H9 HAタンパク質についての間接的ELISAによって選択した。
【0275】
2.2.3.組換え抗原の発現及び精製
次いで、選択されたトランスフェクトS2細胞クローンを大規模に培養した。手短に言えば、大量のHA組換えタンパク質を発現する単一クローンを、発現及び精製のために400mLのEx-Cell(登録商標)420無血清培地(Merck GmbH Life Science)を含有する2リットルローラー瓶(Corning)の中で増殖させた。使用したプラスミド中のメタロチオネインプロモーターを、CuSO4を500μMの最終濃度まで添加することによって誘導した。誘導の4日後、細胞上清を1200rpmで20分間の遠心分離によって回収し、透析して過剰の銅イオンを除去した。合計で約2リットルのタンパク質発現上清を回収し、精製前に0.22μMフィルターステリカップ(Merck GmbH Life Science)に通して濾過した。
【0276】
Hisタグの使用により、金属親和性カラムクロマトグラフィーによる組換えタンパク質の精製が可能になった。手短に言えば、組換えタンパク質を含有する透析及び濾過上清を10mLのProfinity(商標)IMAC非荷電樹脂カラム(Bio-Rad)にロードし、5カラム体積の洗浄緩衝液で洗浄した。次いで、銅結合タンパク質を、増加する濃度のイミダゾール(25、50、100又は500mM)を含有する溶出緩衝液で溶出した。精製したタンパク質を、10% PAAゲルでSDS-PAGEを使用して分析し、続いてクーマシーブルー染色を行った。タンパク質画分を合わせ、15mL Amicon Ultra-15(商標)Centrifugal Filterカラム(3kDa MWCO、Merck GmbH Life Science)を用いて、4600rpmで30分間遠心分離することによって濃縮した。精製タンパク質の濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit(商標)(Life Technologies)を製造者の説明書に従って使用して求めた。
【0277】
作製した組換えタンパク質のH9 HA活性を赤血球凝集アッセイを用いて確認した。手短に言えば、35μgの組換えタンパク質を、V底96ウェルプレート中、PBSで2倍に段階希釈した。ニワトリ赤血球をPBSで1%に希釈し、各ウェルに添加した。次いで、プレートを4℃で1時間インキュベートし、バイオセーフティキャビネット内で90°傾けて赤血球凝集を可視化し、スコアを付けた。
【0278】
2.2.4.ワクチンエマルジョンの調製
組換えHA抗原ワクチンを、アジュバントとしての軽質流動パラフィン油(Marcol(登録商標)52)を用いて油中水型エマルジョンとして製剤化し、乳化剤としてポリソルベート80(Tween(登録商標)80)及びソルビタンモノオレエート(Span(登録商標)80)を含有させた。ワクチンの水:油重量比は45:55であった。すべてのワクチンを使用するまで4℃で保存した。
【0279】
組換えHAワクチンは、0.2mlの用量あたり、35μgの非標的化HA抗原又は49μgの標的抗原を含有した。この差は、scFvの添加を補償する等モル量を提供することであった。
【0280】
[実施例3]
血清陽性鳥のワクチン接種
3.1.序論
AIV感染及び疾患に対する防御は本質的に血清学的に決定され、主なAIV中和抗体はHA抗原に対するものであるので、抗HA抗体の発現について血清学的試験、すなわちHI力価を求めることは、AIVからのインビボ防御を予測する上で優れた判断材料となる。
【0281】
実施例1に記載したように作製した孵化幼鳥をワクチン接種実験に使用した、すなわち、1つの群に1日目にワクチン接種し、これらは、588(9.2 Log2)の非常に高い平均MDA HI力価を有しており、MDA++群と呼んだ。もう1つの群は、MDAレベルがいくらか低下した14日齢でのみワクチン接種し、これらは、181(7.5 Log2)の中程度の平均MDA HI力価を有しており、MDA+群と呼んだ。
【0282】
このアプローチにより、標的HA抗原又は非標的HA抗原によるワクチン接種の有効性に対する抗体干渉が「最悪の場合」と「平均的な場合」についての試験及び比較がそれぞれ可能になった。比較のために、古典的な不活化H9N2ワクチンを含めた。また、抗AIV H9 HA MDAレベルの自然な低下を追跡するために、ワクチン接種していない雛鳥の群を実験に含めた。
【0283】
3.2.材料及び方法
3.2.1.動物、サンプリング及びワクチン接種
使用したAIV H9 HA MDA陽性雛鳥は、実施例1に記載したようにして得た。使用したワクチンは、実施例2に記載の通りであった。
【0284】
環境病原体の侵入を回避するために、鳥は、高効率微粒子空気(HEPA)フィルタで濾過された空気が流入する陽圧隔離室に収容された。
【0285】
孵化後、健康かつ正常に見える雛鳥のみを使用した。これらは、入手時に群に割り当て、個々に番号付けした。健康及びパフォーマンスをモニタリングするために、毎日臨床観察を行った。各試験群は10匹の動物を有していた。
【0286】
すべてのワクチンは、使用時に周囲温度であり、均質性を確保するために使用直前にしっかりと混合した。
【0287】
すべての雛鳥は、1日目又は14日目のいずれかに、単回ワクチン接種のみを受けた。投与は、これらのタイプのワクチンの標準経路である皮下(sc)によるものであった。ノビリス(登録商標)ワクチンについては、公認用量であるので0.25ml/用量の量を使用し、組換えHA抗原ワクチンについては、0.2ml/用量を与えた。
【0288】
1日目にノビリスインフルエンザH9N2+NDワクチンをMDA++に投与した。H9HA-Foldon及びH9HA-Foldon-CD83-scFvワクチンを、1日目の「MDA++」雛鳥と、その時点で14日齢であった「MDA+」雛鳥の両方に与えた。
【0289】
血液試料を、ワクチン接種によって誘導された血清学的応答を調べるために、実験開始後6週目までは週に1回、開始後8、10及び12週目は2週間に1回採取した。
【0290】
1日目及び7日目の血液試料を安楽死後に採取し、14日目以降の試料を翼静脈から採取した。動物の体重が許容する量に応じて、採取する体積を2~3mlとした。血液試料を周囲温度で放置して凝固させ、遠心分離により血清を分離した。血清試料を56℃で30分間にわたって熱不活性化し、使用するまで-20℃で保存した。
【0291】
3.3.結果
この実験中にMDA++雛鳥及びMDA+雛鳥から採取した血清試料を用いたHI滴定の結果をそれぞれ
図3及び
図4に示す。
【0292】
ワクチン接種されていない対照は、実施例1及び
図2に記載されるように、HI力価のレベル及び分解パターンを示した。
【0293】
陽性対照は、日齢1日目に全不活化ウイルスワクチン(「ノビリスインフルエンザH9N2+ND」)を受けたMDA++雛鳥であった。このワクチン接種にもかかわらず、それらのHI力価は着実に低下し、ワクチン接種応答は検出できなかった。古典的ワクチン中のMDA及びHA抗原は異種であったので、これは注目に値し、MDAは、UDL-01株のH9 HAによく似たHA抗原に対して誘導されたが、ノビリスワクチンは異種H9 HA抗原、すなわちUDL-01 H9 HAタンパク質と94%のアミノ酸同一性を有するUAE株由来のものを含有した。その結果、HA抗原間のこの差のために、より低いレベルの抗体干渉が予想されるであろう。しかし、明らかに、MDA++雛鳥のHIレベルは非常に高く、異種H9 HAワクチンの有効性を妨げることさえあった。
【0294】
標的HA抗原(「H9 HA Foldon-CD83-scFv」)及び非標的HA抗原(「H9 HA Foldon」)によるワクチン接種は、MDA++雛鳥及びMDA+雛鳥の両方において、それらが誘導したHI力価において顕著な差を示した。
【0295】
非標的HA抗原をワクチン接種した雛鳥のHI力価は着実に減少し、MDA++雛鳥及びMDA+雛鳥のいずれにおいても、ワクチン接種後のいずれの時点でも、HI力価の有意な上昇を示さなかった。
【0296】
しかし、標的HA抗原は非常に高いHI力価を誘導した。MDA++群では、非常に高い開始値(9.7 Log2)からの最初の減少があったが、その後、HI力価は堅調に着実な増加を示し、ワクチン接種後(p.v.)4週間から明らかであり、p.v.5週間で有意性に達し、p.v.12週間で9.7 Log2に堅調に増加した。これは、このワクチンが、同種のMDAのレベルが非常に高い状況であっても、日齢1日目に適用することができ、それでもAIV感染及び疾患に対する強力な防御を誘導することができることを示している。
【0297】
MDA+群では、標的HAワクチンからのHI力価は、ワクチン接種の1週間後から既に高HI力価の急速な誘導を示した。ワクチン接種の4週間後から、HI力価は平均1835(10.8 Log2)に達した。
【0298】
両方の試験群において、標的ワクチンは、有意に増加したHI力価を誘導することができる唯一のものであった。また、標的ワクチン群で測定された最低HI力価は、MDA++群及びMDA+群でそれぞれ6.2及び6.9 Log2であった。これは、このタイプのワクチンを受けたすべての雛鳥が、実験期間中、保護のための5 Log2という閾値をはるかに上回ったままであったことを示している。
【0299】
この急速な免疫開始と長い期間は、保護にギャップを残すことなく、MDAレベルの低下を完全に補償する。
【0300】
再び間接的ELISAを血清に対して実施し、すべての抗体がH9 HA特異的であることを確認した。
【0301】
[実施例4]
非HA抗原の標的化
上記の実験と本質的に類似する実験が、本発明による使用のための組換えタンパク質、ただし、AIV HA以外の別の抗原を含む組換えタンパク質について準備中である。これらは、AIV HN、NDV F、NDV HN、IBDV VP2及びIBVスパイクである。手短に言えば、雌鶏に、これらの病原体:AIV、NDV、IBDV又はIBVのうちの1つに対する適切なワクチンを接種することができ、そのようなワクチンは一般に入手可能である。
【0302】
雌鶏は、2回又は3回のワクチン接種を受けることができ、産卵開始前に開始し、産卵期間に継続することができる。雌鶏において達成した特異的抗体価は、十分に高いことを確認することができる。次いで、卵を回収して、孵化させることができ、雛鳥を、調査すべき病原体に対して十分に高いMDAレベルを有することについて確認することができる。
【0303】
例えば、試験される抗原の1つをコードするヌクレオチド配列を含む発現プラスミドを構築することによって、上記のように、本発明による使用のための組換えタンパク質を含むワクチンを調製することができる。また、結合ドメイン、例えば、CD83、CD11c又はDec-205などの鳥類APCの表面タンパク質に向けられたscFvが含まれる。APCへの抗原の標的化の効果を評価するために、同様の構築物であるが結合ドメインを含まない構築物を、対照として機能するように調製することができる。
【0304】
プラスミドを、記載されるようにS2細胞にトランスフェクトすることができ、これらを選択し、増幅し、(標的化シグナルの有無にかかわらず)抗原を発現させるために使用することができる。次に、組換えタンパク質を回収することができる。
【0305】
CD83-scFvの例は、配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドである。
【0306】
CD11c又はDec-205に特異的なscFvの例は、配列番号16又は17にそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むペプチドである。
【0307】
発現される抗原の例は、以下から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0308】
-AIV H5 HAについては配列番号4、
-AIV H7 HAについては配列番号5、
-NDV Fについては配列番号18、
-NDV HNについては配列番号19、
-IBDV VP2については配列番号20、及び
-IBVスパイクについては配列番号21。
【0309】
これらの抗原をコードする対応する核酸は、好ましくは、S2細胞のコドン使用頻度表に対してコドン最適化される。発現構築物では、発現、分泌、及び精製を容易にするために、必要に応じて、シグナル配列、リンカー、及び1つ又は複数のタグなどの追加の要素を付加することができる。
【0310】
次に、特定のMDAを有する雛鳥にこれらの組換えタンパク質をワクチン接種し、それらの血清学を経時的にモニタリングする。
【0311】
これらの病原体については、インビボ保護と相関する特異的抗体のレベルが知られているので、ワクチン接種後の様々な時点で抗体レベルの血清学的試験を行えば、これらの病原体由来の抗原に対して血清陽性の鳥類における標的ワクチン接種の有効性について良好な印象を得るのには十分である。
【0312】
配列番号4のH5 HA配列は、AIV分離株:A/duck/エジプト/SS19/2017、H5N8、GenBank acc.nr.AXY 66755.1のHAに由来した。HA外部ドメインの511アミノ酸:HA1:17~340及びHA2:346~530を選択した。多塩基性切断配列をPLRからPQGに改変し、アルギニンの数を減らした。
【0313】
配列番号5のH7 HA配列は、AIV分離株:A/ニワトリ/江西省/JX4/2017、H7N9、GenBank acc.nr.ARG44105.1のHAに由来した。PKRからPKGに改変された多塩基性切断配列を有する、507個のアミノ酸からなるHA外部ドメイン:HA1:19-339及びHA2:1-186を選択した。
【0314】
配列番号18のNDV F配列は、本明細書に記載のMScon技術を使用して、公共データベース内の鳥類アブラウイルス1配列からの1200 Fを超えるアミノ酸配列からのコンセンサス配列である。コンセンサスFタンパク質は、最も近い天然の相対物:鳥類オルトアブルウイルス1 Fタンパク質、GenBank acc.nr.AHX 74055.1と98.5%のアミノ酸類似性を有する。Fタンパク質エクトドメインをaa.31-500から選択した。
【0315】
配列番号19のNDV HN配列は、本明細書に記載のMScon技術を使用して、公共データベースからのいくつかのHN配列と組み合わせた、GenBank acc.nr.AXK 59828.1のAvian orthoavulavirus 1由来のHNタンパク質から出発するコンセンサス配列である。HNからアミノ酸47-571を選択した。
【0316】
配列番号20のIBDV VP2タンパク質は、GenBank acc.nr.AMA 19770.1のIBDV VP2タンパク質のアミノ酸9~452を表す。
【0317】
配列番号21のIBVスパイクタンパク質は、GenBank acc.nr.ARS22410.1のIBVスパイクタンパク質のアミノ酸1~1096を表す。スパイクタンパク質を、2つのアミノ酸置換:Q859P及びL860Pを行うことによって安定化した。
【図面の簡単な説明】
【0318】
【
図1】AIV MDA+子孫を作製するために過剰免疫化された母鶏における抗体力価の結果の提示。詳細は実施例1に記載する。
【0319】
縦軸は、不活性化アジュバント化AIV H9N2ウイルスワクチン(UDL 01/08)による免疫化後の母鶏の血清中のHIアッセイによって測定された平均(n=10)HI力価を示す。実験開始後の週(0日目=17週齢)における時点を横軸に示す。ワクチン接種は、開始後0、3、及び24週目に矢印で示している。
【0320】
受精卵を開始後36週間後に回収し、ボックスは、追跡実験で使用した産卵時の雌鶏の血清中の平均(n=10)HI力価:HI=12 Log2(4096)を示す。
【0321】
データを平均(列)及び標準偏差(エラーバー)として示す。アスタリスクは、実験開始後11週及び18週並びに開始後18週及び29週におけるHI抗体価の有意差を表し、*=p<0.05及び***=p<0.001である。
【
図2】3回ワクチン接種された雌鶏由来のワクチン非接種の子孫におけるMDA由来HI力価の結果の提示。詳細は実施例1に記載する。
【0322】
抗H9 HA MDA力価を、孵化後1日目、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目、42日目、56日目、70日目及び84日目の血清試料のHIアッセイによって測定した。HI力価は、4 HA単位のウイルス赤血球凝集活性を完全に抑制した血清の最高希釈の逆数として表す。データは平均±SDとして示し、一元配置ANOVA、続いてテューキーの多重比較検定によって分析した。統計学的に有意に異なることを、****=p<0.0001として示す。
【0323】
水平の点線は、32(5 Log2)のHI力価の最小保護レベルを示す。
【
図3】高レベルのMDA(MDA++)を有する、日齢1日目にワクチン接種した雛鳥におけるHI力価の結果の提示。詳細は実施例3に記載する。
【0324】
縦軸はHI力価を示し、横軸はワクチン接種後の日数を示す。NB:縦軸にギャップがあり、発見された非常に高いHI力価を表示することができる。
【0325】
MDA++雛鳥群(n=10)に、3種のワクチン:全不活化ウイルスワクチン(「ノビリスインフルエンザH9N2+ND」)、非標的HA抗原(「H9 HA Foldon」)、又はCD83標的HA抗原(「H9 HA Foldon-CD83-scFv」)のうちの1つを日齢1日目にワクチン接種した。対照として、1群のMDA++雛鳥にはワクチン接種しなかった。
【0326】
抗H9 HA抗体力価を、HIアッセイにおいてUDL-01ウイルスを使用して、HIアッセイによって測定した。
【0327】
データを平均(列)及びSD(エラーバー)として示す。統計学的に有意に異なることがアスタリスクによって示され、この場合、***=p<0.001及び*=p<0.1である。
【
図4】14日目にワクチン接種した、中レベルのMDA(MDA+)を有する雛鳥のHI力価の結果の提示。詳細は実施例3に記載する。
【0328】
ノビリスワクチンを接種した群がなかったことを除いて、
図3と同様の提示。
【配列表】
【国際調査報告】