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特表2024-525709脂質ナノエマルション粒子に吸着したRNAとその製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】脂質ナノエマルション粒子に吸着したRNAとその製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20240705BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240705BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K48/00
A61P37/04
A61K39/215
A61K39/39
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/06
A61K47/26
A61K47/69
C12N15/50 ZNA
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501633
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 IN2022050624
(87)【国際公開番号】W WO2023286076
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202121031414
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521268897
【氏名又は名称】ジェノバ バイオファーマスーティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GENNOVA BIOPHARMACEUTICALS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Block 1, Plot No. P-1 & P-2, I.T.B.T. Park Phase II, MIDC, Hinjawadi Pune 411057 Maharashtra (IN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シン, サンジェイ
(72)【発明者】
【氏名】カヴィラジ, スワルネンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】シン, アジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ラグワンシ, アルジュン シン
(72)【発明者】
【氏名】カルディル, パヴァン
(72)【発明者】
【氏名】シュクラ, シャル
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニ, アイシュワリヤー
(72)【発明者】
【氏名】アグラワル, プラビーン
(72)【発明者】
【氏名】ラウト, スニル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA19
4C076AA95
4C076CC06
4C076CC41
4C076DD01
4C076DD34F
4C076DD46
4C076DD48
4C076DD66
4C076FF36
4C076FF63
4C076FF68
4C076GG41
4C084AA13
4C084MA22
4C084MA24
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB091
4C084ZB092
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA71
4C085CC08
4C085EE03
4C085EE05
4C085EE06
4C085EE07
4C085FF14
(57)【要約】
脂質ナノエマルション粒子に吸着したRNAとその製剤。本発明は、脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体と複合化したRNAの液体製剤の調製方法に関する。特に、液体中における脂質ナノエマルション粒子に吸着したRNAの調製方法およびそのようなRNA複合体の製剤を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象に投与するためのRNAの液体製剤であって:
a) タンパク質をin vivoで発現できるRNAであって;
b) 脂質ナノエマルション粒子担体に吸着され;および
c) 前記RNAが長期保存時にその完全性を維持する安定なRNA複合体を形成するRNA;
を含む、製剤。
【請求項2】
複合体形成前の前記RNAの濃度が、0.1および1.5 mg/mLの間である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記RNAが、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質のバリアントを発現可能である、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記RNAが、70および95%の間の純度までin-vitro翻訳過程により調製される、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記RNAの量が、前記対象において有効な免疫応答を生じるレベルまで前記タンパク質を産生するのに有効である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記RNAの量が、前記RNAが標的とする感染症の臨床徴候を発症するリスクを低減するのに有効である、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記RNAが、HEK 293T細胞において自己複製可能なメッセンジャーRNAである、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記RNAが、in vivoで自己増幅するためのウイルス遺伝要素を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記ナノエマルション粒子担体が、液体脂質;カチオン性脂質;疎水性界面活性剤;親水性界面活性剤;および任意に免疫刺激性アジュバントを含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
前記担体が、水中油型エマルションを形成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記液体脂質が、3および40 mg/mLの間の濃度のスクアレンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記カチオン性脂質が、3および30 mg/mLの間の濃度のDOTAPである、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記疎水性界面活性剤が、3および40 mg/mLの間の濃度のソルビタンモノステアレートである、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記親水性界面活性剤が、3および40 mg/mLの間の濃度のポリソルベート80である、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記免疫刺激性アジュバントが、GLAまたはMPLアジュバントである、請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
前記担体が、50および70 nmの間の粒径を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
前記担体が、10および30 mVの間のゼータ電位を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
前記担体が、0.1および0.3の間の粒子分散度指数を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項19】
前記担体が、前記担体1 ug当たり30および50 ugの間のmRNAを吸着可能である、請求項1に記載の製剤。
【請求項20】
前記RNA複合体が、50および120 nmの間の粒径を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項21】
前記RNA複合体が、10および20 mVの間のゼータ電位を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項22】
前記RNA複合体が、0.2および0.4の間の粒子分散度指数を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項23】
前記担体と複合化した前記RNAが、RNAse処理に対して耐性である、請求項1に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体と複合化したRNAの液体製剤の調製方法に関する。特に、液体中における脂質ナノエマルション粒子に吸着したRNA、およびそのようなRNA複合体の製剤の調製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの治療関連の医薬用途において、核酸自体が治療や診断の目的で使用されている。例として、近年、RNAを用いた治療の分野で有望な結果が得られてきた。ここでは、様々なタイプのRNA分子が、多くの感染症や悪性疾患に対する予防的および治療的ワクチン接種と同様に、遺伝子治療のための重要なツールとみなされている。
【0003】
核酸は、DNAおよびRNAの両方が、ネイキッドまたは複合体の形で、遺伝子治療に広く用いられてきた。RNAの使用は現代の分子医学において有利であり、DNAの使用よりもいくつかの優れた特性を持っている。周知のように、DNA分子のトランスフェクションは深刻な合併症を引き起こす可能性があるが、こうしたリスクはDNAの代わりに特にmRNAを用いれば生じない。DNAではなくRNAを使用する利点は、ウイルス由来のプロモーターエレメントを生体内に投与する必要がないこと、および、ゲノムへの統合が起こらないであろうこと、そして、RNAが発現のために核まで移動する必要がないことである。
【0004】
RNA自体の医薬品としての使用は、その分解に対する感受性および、動物やヒト対象の体内への注射時の細胞膜を介した送達という問題のために制限されてきた。RNA分子は、その構造的特性から本質的に不安定であり、安定化されなければ一般的な条件下で急速に分解する。
【0005】
そこで、本発明の目的は、液体医薬製剤を形成する新規な脂質ナノエマルション粒子[ナノ担体とも呼ばれる]と組み合わせて疾患修飾mRNA分子を効果的に送達する方法を提供することであり、この方法は、臨床的に有効であり、安全であり、拡張可能であり、また、時間的およびコスト的に効率的である。したがって、本発明の目的は、前記脂質ナノエマルション粒子の組成物、および目的のmRNA分子を粒子と複合化する方法、および、細胞、組織、または生物に輸送される際に必要な治療効果または免疫学的効果を生成するようなRNA分子を提供することである。本発明のさらなる目的は、mRNA分子および前記製剤に適したナノ担体の調製方法を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は以下の態様を有する:
1.mRNA分子およびその調製;
2.脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体ならびにその調製;および
3.前記ナノ担体に吸着した前記mRNA分子の液体製剤の調製。
【0007】
第1の態様において、本発明は、ナノ担体を用いて生きた細胞内に送達されたときに、タンパク質またはペプチドを発現することが可能なRNAまたはmRNA分子の調製に関する。前記RNAは、治療的または予防的な性質を有し、医薬用途に有用である。前記mRNAは、目的の遺伝子の配列を有し、ウイルス、細菌、もしくは他の微生物、または高等生物の遺伝子に由来する抗原に関連し得る。
【0008】
好ましい実施形態では、前記RNAまたはmRNAは、50から50000ヌクレオチドからなり、好ましくは200から15000ヌクレオチドを有し、そしてより好ましくは500から12000ヌクレオチドを有する。メッセンジャーRNAの他に、リボソームRNAまたはトランスファーRNAのような非コード型、およびウイルスRNA、レトロウイルスRNA、自己複製RNA、低分子干渉RNA、マイクロRNA、低分子核RNA、低分子ヘアピンRNAもしくはそれらの組み合わせのような他のコードRNA分子が、本明細書に開示される発明において使用されてもよい。さらに、前記コードRNAまたは非コードRNAは、in vitroおよびin vivoでの安定性のような強化された特性を有する修飾RNAを含んでもよい。前記RNA修飾は、糖修飾または塩基修飾だけでなく、骨格修飾を含む化学修飾を指してもよい。
【0009】
本明細書において開示される発明において、前記RNAは、タンパク質またはペプチドまたは抗原をコードしていてもよく、それは、いかなる制限もなく、治療的に活性なタンパク質またはペプチドから選択されてもよく、アジュバントタンパク質から、腫瘍抗原、病原性抗原(例えば、動物抗原から、ウイルス抗原から、原虫抗原から、細菌抗原から選択されてもよい)、アレルゲン抗原、自己免疫抗原、またはさらなる抗原から、アレルゲンから、抗体から、免疫刺激性タンパク質もしくはペプチドから、または治療用途に適した他のタンパク質もしくはペプチドから選択されてもよい。
【0010】
ここで、修飾RNA分子は、ヌクレオチド類縁体/修飾体、例えば骨格修飾、糖修飾または塩基修飾を含んでもよい。本発明と関連する修飾は、in vitroで酵素を用いてRNA分子の5'-末端にキャッピングが行われる修飾である。
【0011】
好ましい実施形態において、本発明の前記液体製剤は、少なくとも1つのRNAを含み、そのRNAはmRNA分子であり、少なくとも1つのペプチドまたはタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを有する。さらに、前記修飾RNA分子は、ペプチドまたはタンパク質のための2つまたはそれ以上のオープンリーディングフレームを有し、これは、in vivoでの前記RNA分子の複製を補助し[自己複製mRNAとも呼ばれる]、そして好ましくは、このようなRNA分子のオープンリーディングフレームの配列は、本明細書に記載されるように修飾される。
【0012】
本発明において、前記組成物中に含まれる前記RNAは、5'-および/または3'非翻訳領域(それぞれ、5'-UTRまたは3'-UTR)を含む。好ましくは、少なくとも1つのRNAは、5'-UTR、3'-UTR、ポリ(A)配列および/またはポリ(C)配列からなる群から選択される少なくとも1つを含む。より好ましくは、少なくとも1つのRNAは5'-CAP構造を含む。
【0013】
本発明において、5'-UTRは、典型的には、タンパク質コード領域およびmRNAの5'-末端の間に位置するmRNAの部分である。mRNAの5'-UTRは、いかなるアミノ酸配列にも翻訳されない。5'-UTR配列は一般に遺伝子によってコードされ、遺伝子発現過程においてそれぞれのmRNAに転写される。本発明の文脈では、5'-UTRは成熟mRNAの配列に相当し、プロモーター配列の3'、タンパク質コード領域の開始コドンのすぐ5'に位置する。
【0014】
さらに好ましい実施形態において、本発明の前記RNAは、少なくとも1つの5'-UTRを含む。より好ましくは、少なくとも1つのRNAは、アルファウイルス遺伝子の5'-UTRに由来する核酸配列を含むか、またはからなる5'-UTRを含む。好ましくは、少なくとも1つのRNAは、半減期が向上したmRNAに関連する遺伝子から誘導可能であってもよい5'-UTRを含む。アルファウイルス遺伝子の5'-UTRエレメントのヌクレオチド配列は、すなわち、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)株TC-83由来のATAGGCGCGCATGAGAGAAGCCCAGACCAATTACCTACCCAAAである。
【0015】
本発明において、3'-UTRとは、典型的には、タンパク質コード領域およびmRNAの3'-末端の間に位置するmRNAの部分である。mRNAの3'-UTRは、いかなるアミノ酸配列にも翻訳されない。3'-UTR配列は一般に遺伝子によってコードされ、遺伝子発現過程においてそれぞれのmRNAに転写される。本発明の文脈では、3'-UTRは成熟mRNAの配列に相当し、タンパク質コード領域の停止コドンの3'、好ましくはタンパク質コード領域の停止コドンのすぐ3'に位置し、mRNAの3'-末端またはポリ(A)配列の5'側、好ましくはポリ(A)配列のすぐ5'のヌクレオチドまで伸長している。
【0016】
さらに好ましい実施形態において、本発明の前記RNAは、少なくとも1つの3'-UTRを含む。より好ましくは、少なくとも1つのRNAは、アルファウイルス遺伝子の3'-UTRに由来する核酸配列を含むか、またはからなる3'-UTRを含む。好ましくは、少なくとも1つのRNAは、半減期が向上したmRNAに関連する遺伝子から誘導可能であってもよい3'-UTRを含む。アルファウイルス遺伝子の3'-UTRエレメントのヌクレオチド配列は、すなわち、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)株TC-83由来のGGTGTCAAAAACCGCGTGGACGTGGTTAACATCCCTGCTGGGAGGATCAGCCGTAATTATTATAATTGGCTTGGTGCTGGCTACTATTGTGGCCATGTACGTGCTGACCAACCAGAAACATAATTGAATACAGCAGCAATTGGCAAGCTGCTTACATAGAACTCGCGGCGATTGGCATGCCGCCTTAAAATTTTTATTTTATTTTTTCTTTTCTTTTCCGAATCGGATTTTGTTTTTAATATTTCである。
【0017】
好ましくは、少なくとも1つの5'-UTRおよび少なくとも1つの3'-UTRは、細胞に送達されると、本発明の液体製剤中に含まれる前記RNAからのタンパク質産生を増加させるように相乗的に作用する。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明の前記RNAは、ポリ(A)配列をさらに含む。ポリ(A)配列の長さは様々であってよい。ポリ(A)配列は、約20から約300アデニンヌクレオチドまで、好ましくは約40から約200アデニンヌクレオチドの長さを有していてもよい。最も好ましくは、前記RNAは、約40から約60ヌクレオチド、最も好ましくは45アデニンヌクレオチドのポリ(A)配列を含む。
【0019】
好ましい実施形態では、前記RNAの合成のために、DNA鋳型が大腸菌細胞株で培養したプラスミドから調製される。プラスミドを菌体から単離し、酵素的に線状化してDNA鋳型を得るか、あるいは、少量のプラスミドまたは前記プラスミドを保有する菌体宿主を反応源として用いるポリメラーゼ連鎖反応によって前記DNA鋳型を得る。
【0020】
鋳型DNAの準備ができたら、T7 RNAポリメラーゼに限らず、適当なファージプロモーターの存在下でin vitro転写が行われる。RNAを分解から保護するために、RNAse阻害剤を使用してもよい。反応にはまた、不溶性のピロリン酸をin vitro転写の副産物である無機リン酸に変換するピロホスファターゼ酵素も使用する。DNA鋳型、酵素混合物、rNTPsを適切な条件下でインキュベートし、500から50000ヌクレオチドの間のサイズのmRNAを得る。
【0021】
mRNAの合成後、DNA鋳型は適切な条件下で塩の存在下、DNAse酵素によって反応混合物から分解される。次のステップは、5'キャッピングによるmRNAの保護である。これは化学的複合化または酵素反応によって達成できる。次に、粗mRNA調製物を最初にフロースルー方式のカラムクロマトグラフィーで精製し、mRNAが樹脂を流れる間に不純物を樹脂に結合させる。同様の不純物を除去するために、このフロースルーは次のステップのアフィニティークロマトグラフィー用に回収される。アフィニティーカラムからの溶出液は濃縮され、中空糸モジュールでダイアフィルターされ、さらにメンブレンフィルターで滅菌される。この生成物はナノ担体との複合化に使用される。
【0022】
第2の態様において、本発明は、脂質ナノエマルション粒子(ナノ担体とも呼ばれる)およびそれを液体中で調製する方法に関する。前記ナノ担体は、その表面に一本鎖mRNA分子を吸着する特性を含み、前記mRNA分子が細胞膜を越えて細胞内に送達されることを可能にする。
【0023】
特に好ましい実施形態において、前記ナノ担体は、少なくとも1つのカチオン性またはポリカチオン性脂質化合物、好ましくは本明細書で定義されるものを含み、前記カチオン性またはポリカチオン性化合物は、安定な脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体を形成する他の成分との複合体中に存在する。本発明の前記ナノ担体は、好ましくはカチオン性またはポリカチオン性脂質化合物、好ましくはDOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン)、DDA(ジメチルジオクタデシルアンモニウム)または類似のカチオン性/ポリカチオン性脂質を含む。
【0024】
好ましい実施形態において、用語「(複数の)ナノ担体」は、典型的には、カチオン性またはポリカチオン性化合物およびそのような複合体の形成および安定性を支持する他の成分を含む脂質ナノエマルション粒子[本明細書ではGNPsまたはその誘導体としても引用する]の組成物を指す。GNPsは、当該技術分野では、カチオンナノエマルション(CNEs)またはカチオン脂質ナノエマルション(CLNEs)としても知られている。
【0025】
好ましい実施形態において、前記ナノ担体は、好ましくは30から300nm、より好ましくは50から200nmの範囲の平均サイズを有する。特に好ましい実施形態において、複合化RNAを含む、またはからなるナノ担体の平均サイズは、50から100nmである。
【0026】
好ましい実施形態において、RNAが吸着した、または吸着していない前記ナノ担体は、0.150から0.300、より好ましくは0.170から0.230の範囲のサイズに関するポリ分散性指数[PDI]を有する。
【0027】
好ましい実施形態において、カチオン性またはポリカチオン性化合物を含むか、またはからなる前記ナノ担体は、-10から-50 mV、より好ましくは-25から-35 mVの範囲のゼータ電位値を有する。
【0028】
好ましい実施形態において、前記ナノ担体は、適切な溶媒中で安定なままである。好ましくは、前記RNAおよび本明細書で定義される緩衝剤などのような更なる成分の溶解を可能にする溶媒である。より好ましくは、溶媒は、好ましくは120℃より下の沸点を有し、揮発性である。さらに、溶媒は好ましくは非毒性である。好ましくは、溶媒は水溶液である。有機溶媒の場合、溶媒は好ましくは水と混和性である。提供される溶媒は、好ましくは本明細書で定義される緩衝液から選択される緩衝液を含んでもよい。
【0029】
好ましい実施形態において、提供される前記ナノ担体は、例えば、免疫賦活剤、金属化合物もしくは金属イオン、界面活性剤、ポリマーもしくは錯化剤、緩衝剤等、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分をさらに含んでもよい。
【0030】
好ましい実施形態において、提供される前記ナノ担体は、界面活性剤の群から選択されるさらなる成分をさらに含んでもよい。そのような群は、それらに限定されることなく、医薬組成物の調製に適した任意の界面活性剤、好ましくは、それらに限定されることなく、ポリソルベート、ソルビタンなどを含んでよい。
【0031】
好ましい実施形態において、提供される前記ナノ担体は、非特異的免疫刺激剤の群から選択されるさらなる成分をさらに含んでもよい。このような群は、それらに限定されることなく、医薬組成物の調製に適した任意の非特異的免疫刺激剤、好ましくは、それらに限定されることなく、スクアレンまたは任意の他の類似化合物を含んでもよい。
【0032】
好ましい実施形態において、提供される前記ナノ担体は、特異的免疫刺激剤の群から選択されるさらなる成分をさらに含んでもよい。このような群は、それらに限定されることなく、医薬組成物の調製に適した任意の特異的免疫刺激剤、好ましくは、それらに限定されることなく、モノホスホリルリピド-A[MPL]またはグルコピラノシルリピド-A[GLA]、または任意の他の類似のアジュバント化合物を含んでもよい。
【0033】
第3の態様において、本発明は、本明細書において以下に記載されるような脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体に吸着したmRNAを含む液体製剤であって、好ましくは0.1から1 mg/mLの間の濃度の前記mRNAを含む前記製剤に関する。
【0034】
好ましい実施形態において、液体製剤に含まれる前記RNAまたはmRNAは、前記ナノ担体に含まれるカチオン性またはポリカチオン性脂質と少なくとも部分的に複合化されている。部分的とは、少なくとも1つのRNA分子の一部のみがカチオン性またはポリカチオン性化合物と複合化され、少なくとも1つのRNA分子の残りの部分が非複合化形態(「遊離」)であることを意味する。好ましくは、複合化RNAと遊離RNAの比は25:1(w/w)および50:1(w/w)の間であり、より好ましくは約50:1(w/w)である。
【0035】
好ましい実施態様において、相対的完全性は、好ましくは、例えば、ソフトウェアベースのデンシトメトリーを用いて、好ましくはバックグラウンドノイズを控除した後、RNAの総量(すなわち、完全長RNAおよび分解RNA断片(ゲル電気泳動画像においてスメアとして現れる))に対する完全長RNA(すなわち、非分解RNA)の割合として決定される。好ましくは、本発明方法の液体製剤中の前記RNAの相対的完全性は、好ましくは少なくとも6ヶ月間凍結温度で保存した後、80 %、より好ましくは少なくとも90 %である。
【0036】
好ましい実施形態において、室温保存後の液体製剤の前記RNAの生物学的活性は、好ましくは、前記RNAの相対的完全性に関して上記で定義したように、調製したばかりのRNAの生物学的活性の好ましくは少なくとも70 %、より好ましくは少なくとも80 %、最も好ましくは少なくとも90 %である。生物学的活性は、好ましくは、例えば、哺乳動物細胞株または対象へのトランスフェクション後に、再構成RNAおよび調製されたばかりのRNAからそれぞれ発現されるタンパク質の量の分析によって決定される。あるいは、生物学的活性は、対象における(適応または自然)免疫応答の誘導を測定することによって決定されてもよい。
【0037】
さらに、開示された本発明は、医薬調製物またはワクチンの製造における本発明の方法および生成物の使用を提供する。本発明の一態様によれば、本発明の方法によって得ることができる液体製剤を含むか、またはからなる医薬製剤が提供される。好ましい実施形態において、本発明の医薬製剤は、少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される成分、例えば薬学的に許容される担体および/または媒体を含む。本発明の医薬製剤は、任意に、液体製剤に関して上記で定義したようなさらなる成分を添加されてもよい。本発明の医薬製剤は、全体として本発明の方法によって調製される。
【0038】
好ましくは、本発明の医薬製剤は、非経口注射によって投与されてもよく、より好ましくは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射によって投与されてもよい。本発明の医薬製剤の無菌の注射可能な形態は、水性懸濁液または油状懸濁液であってもよい。これらの懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて、当該分野で公知の技術に従って製剤化さてもよい。無菌注射調製物はまた、非毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒中の無菌の注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。これらの油溶液または懸濁液はまた、カルボキシメチルセルロースなどの長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤、またはエマルションおよび懸濁液を含む薬学的に許容される剤形の製剤化に一般的に使用される同様の分散剤を含有していてもよい。ツイーン、スパンなどの一般的に使用される界面活性剤、および薬学的に許容される剤形の製造に一般的に使用される他の乳化剤もしくは生物学的利用能増強剤もまた、本発明の製剤化の目的のために使用されてもよい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、典型的には、「安全かつ有効な量」の上記で定義した本発明の医薬製剤の成分、特に、本発明の方法によって得ることができる前記製剤中に含まれるような少なくとも1つのRNAを含む。本明細書で使用される「安全かつ有効な量」とは、本明細書で定義される疾患または障害の正の変化を有意に誘導するのに十分な少なくとも1つのRNAの量を意味する。しかしながら、同時に、「安全かつ有効な量」とは、重篤な副作用を回避するのに十分少ない量であり、すなわち、利点とリスクとの間の賢明な関係を可能にする量である。本発明の医薬製剤は、一般的な医薬製剤として、またはワクチンとして、ヒトおよび動物用医薬目的、好ましくはヒト用医薬目的で使用されてもよい。
【0040】
特定の実施形態によれば、医薬製剤はアジュバントを含む。この文脈において、アジュバントは、自然免疫系の免疫応答、すなわち非特異的免疫応答を開始または増大させるのに適した任意の化合物として理解され得る。言い換えれば、投与された場合、本発明のワクチンは、その中に任意に含有されるアジュバントにより、好ましくは自然免疫応答を誘発する。好ましくは、このようなアジュバントは、当業者に公知であり、本実施例に適した、すなわち哺乳動物における自然免疫応答の誘導を補助するアジュバントから選択されてもよい。この文脈において、アジュバントは、好ましくは、GLA[グルコピラノシル脂質アジュバント]またはMPL[グルコピラノシル脂質アジュバント]のようなヒトtoll様受容体-4[TLR4]に対する(リガンドとしての)結合親和性のために免疫刺激性であることが知られている化合物から選択される。
【0041】
本発明はさらに、開示された方法、本発明の医薬製剤、本発明のワクチン、または本発明のキットもしくは部品キットによって得ることができる製剤のいくつかの用途および使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
以下に示す図は単なる例示であり、本発明をさらに説明するものである。これらの図は、本発明をこれに限定するものと解釈してはならない。
図1】本発明で開示されるような異なる抗原のための自己複製mRNA発現カセットを有するpVEEプラスミド[pMB1プラスミドに基づいている]の一般的構造を示す。
図2】SEQ ID NO:1は、D614G変異を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質B.1バリアントに対応するタンパク質配列である。
図2-1】SEQ ID NO:2は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質Wuhan-Hu-1バリアント[GISAID Accession No.:EPI_ISL_402125 ウイルス名:hCoV-19/Wuhan/Hu-1/2019 収集日:2019年12月31日]に対応するタンパク質配列である。
図3】IVT過程におけるmRNAの品質を示す。[A]は、IVTの異なる工程を示す、IVT-A工程:レーン2[2時間インキュベーション]、3[3時間]および4[4時間];IVT-B工程:レーン5、およびIVT-C工程:レーン6。[B]はmRNAの精製の異なる工程を示し、レーン2はIVT-Cから調製した粗mRNA、レーン10は最終的に得られた回収液である。[C]は、回収液から得られた最終原薬を示す(レーン2)。どのゲルの分子量マーカーも同じで、最初のバンドは9 kb、6番目のバンドは3 kb、10番目のバンドは0.5 kbの一本鎖RNAである。
図3-1】実施例3に記載の精製mRNAバッチサンプルのクロマトグラフィープロファイルを示す。
図4】約8.15分の保持時間[RT]を有する約12kbの精製SAR-CoV-2スパイクタンパク質mRNA構築物のSEC-HPLCプロファイルを示す。
図5】異なるタイプの脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体への吸着後のmRNAの相対的完全性を示す。[A]は、ナノ担体へのmRNA分子の吸着を示し、電場中で前記mRNA分子が移動していないことを示している。[B]は、異なるナノ担体に結合したmRNA分子のRNAse保護を示す。結合したmRNA分子はRNAse処理後もインタクトなままである。
図5-1】in vitroのHEK 293T細胞における、ネイキッドmRNAおよびナノ担体に吸着または複合化したmRNAの発現プロファイルを示す。
図6】本明細書に開示される本発明の方法のmRNA分子およびナノ担体を含むワクチン製剤によって生じた免疫応答を示す。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を産生する自己複製mRNA構築物をナノ担体、すなわちGNP、GNP-MまたはGNP-Gに吸着させ、マウスに注射したとき、強固なIgG応答が生じた。
図7】本明細書に開示された本発明の方法のmRNA分子およびナノ担体を含むワクチン製剤によって生じた中和抗体応答を示す。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を産生する自己複製mRNA構築物をナノ担体、すなわちGNP、GNP-MまたはGNP-Gに吸着させ、マウスに注射したとき、強固なウイルス中和抗体が産生された。
【実施例
【0043】
以下に示す実施例は、本発明をさらに説明するための例示であり、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0044】
実施例1:mRNA分子の発現のためのプラスミド
細胞に送達したときに、コロナウイルスのスパイクタンパク質抗原、帯状疱疹ウイルスタンパク質抗原、マラリア原虫抗原などのような所望のタンパク質を発現するmRNA分子を産生することができるプラスミドを、標準的な分子生物学的技術によって調製した。これらのプラスミドは、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)の非構造タンパク質(NSP1からNSP4)を、所望のタンパク質抗原または目的の遺伝子のコード配列とシスに含んでいた。NSP遺伝子産物は、宿主細胞内でのmRNA分子の自己複製を助ける。例えば、NSP配列の下流にある場合、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする配列は、自己複製中に同時に転写され、次いで宿主細胞内でウイルスのスパイクタンパク質抗原を翻訳する。スパイクタンパク質の複製および持続的な発現と並行して、長期間持続するブースター免疫応答が生じる。すべてのプラスミドを、標準的なプロトコルを用いて大腸菌細胞内で定常的に維持した。代表的な図を図1に示すが、これは、他のウイルスおよび生物由来の目的のスパイクタンパク質または抗原関連遺伝子の他のバリアントの中でも、図2に示すようなB.1バリアントのSARS-CoV-2スパイクタンパク質遺伝子のD614G変異体などの、様々な目的の遺伝子を含むpVEEプラスミドの構造適要素を示している。Wuhan-Hu-1バリアント[図2-1参照]のそれぞれの基本スパイクタンパク質配列と共に使用されてもよいSARS-CoV-2スパイクタンパク質の種々の変異体またはバリアントを表1に示す。pVEEベクターは、当該技術分野で公知のpMB1プラスミドに基づいている。このベクターは、T7ポリメラーゼプロモーターエレメント、5'-UTRエレメント、自己複製非構造タンパク質(NSP1-4)のORF、シグナル配列、スパイクタンパク質などの目的の遺伝子、ポリAテールエレメントが連なった3'UTRエレメント、pMB1塩基プラスミドエレメントおよびカナマイシン耐性マーカーを含有する。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例2:mRNAの調製
実施例1に記載のプラスミドから得たDNA鋳型からmRNA分子を調製するために、in-vitro転写[IVT]プロトコルを使用した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質バリアントD614GのmRNA[以下の実施例はすべてこのmRNA分子に関連する]を産生するための約1200 mLのバッチサイズについて、調製を3つのパートに分けた。第1パートでは、約14 mLの高純度水を50mLの容器に取り、1.5 mLの1M Tris-HCL、pH8.0溶液で緩衝した。この反応物に約0.975mLの1M MgCl2溶液、約10.5 mLの25 mM rNTPs各溶液、および約0.375 mLの1Mジチオスレイトール溶液を加えた。さらに、前記反応物に約1.5 mLの50 mMスペルミジン溶液、約7.5 mLの250 ng/μL鋳型DNA溶液、および約0.75 mLの1 ug/μL無機ピロホスファターゼ溶液を加えた。これに続いて、約0.21 mLの1.5 μg/μL RNAse阻害剤溶液、および約0.28 mLの2μg/μL T7ポリメラーゼ溶液を加えた。得られた約38 mLの反応物を穏やかに混合し、約100 RPMのシェーカー上で約32℃で約4時間インキュベートした。このパートにより、DNA鋳型からmRNAを確実に合成することができた[図3Aレーン2から4参照、レーン1はRNA分子量ラダーで、最初のバンドは9 kb、および最後のバンドは0.5 kbである-これはすべての実験で同じである]。第2パートでは、反応時間の終了時に、前記38 mLの反応物を500 mLフラスコに移し、そこに約350 mLの高純度水を加えた。この反応物にさらに約0.2 mLの1M CaCl2溶液と約0.05 mLの2.5 μg/μL DNAse溶液を添加した。得られた約390 mLの反応物を穏やかに混合し、約100 RPMのシェーカー上で約32℃で約30分間インキュベートした。このパートで、第1パートで使用したDNA鋳型を完全に除去する[図3Aレーン5参照]。第3パートでは、反応時間の終了時に、前記390 mLの反応物を2000 mLのフラスコに移し、そこに約730mLの高純度水を加えた。この反応物にさらに、約58 mLの1M Tris-HCl、pH8.0緩衝液、約0.225 mLの1M MgCl2溶液、約2.5 mLの1M KCl溶液、約12 mLの100 mM GTP溶液、約7.5 mLの32 mM S-アデノシルメチオニン溶液、および約0.8 mLの1 Mジチオスレイトール溶液を添加した。さらに約0.2 mLの1.5 μg/μL RNAse阻害剤溶液および約0.75 mLの2 μg/μLグアニルトランスフェラーゼ溶液を加えた。得られた約1200 mLの反応物を穏やかに混合し、約100 RPMのシェーカー上で約32℃で約2時間インキュベートした[図3Aレーン6参照]。この方法により、約7時間の間に約150 μg/mLのin-vitro転写mRNAが得られた。ここで、mRNA合成は無菌かつヌクレアーゼフリーのクリーンエア条件下で行った。図3Aは、異なるパートで上記のように産生されたmRNAの品質を示す。
【0047】
実施例3:mRNAの精製
mRNA分子を含む実施例2の反応物を、クロマトグラフィー法および濾過法によるmRNA精製の対象とした。ここで、約1200 mLの前記質量に、最終濃度がpH8.0でTris-HClが10 mM、KClが250 mMとなるように、Tris-HClおよびKClのストック溶液を添加した。第1のクロマトグラフィー工程では、mRNA分子がフロースルー溶液中に回収される間に不純物がカラムに結合するフロースルーモードを用いた。ここで、前記希釈溶液を、オクチルアミンベースの高架橋アガロース樹脂[CaptoCore 700 - Cytiva]または類似の樹脂マトリックスを有する予め平衡化されたカラムに供し、前記mRNA分子を含むフロースルー画分を回収した[図3B、第1工程前のレーン2、第1工程後のレーン3参照;図3-1クロマトグラフA参照]。第2のクロマトグラフィー工程では、不純物がフロースルー画分と一緒に出てくる間に、mRNA分子がカラムに結合するアフィニティーモードを用いた。ここで、約1000 mLの第一工程の質量にTris-HCl、NaCl、EDTAのストック溶液を加え、最終濃度をpH8.0で10 mM Tris-HCl、0.8 M NaCl、および1 mM EDTAとした。次に、オリゴ(dT)25ベースの架橋ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)アフィニティー樹脂[POROS - ThermoFisher]または類似のアフィニティー樹脂マトリックスを有する予め平衡化されたカラムに供し、mRNA分子の結合が完了した後、pH6.5で10 mMクエン酸ナトリウムおよび0.8M NaClを含む洗浄バッファーで洗浄し、フロースルー画分を廃棄した[図3B、レーン4から7参照]。次に、結合したmRNA分子を、pH6.5で1 mMクエン酸ナトリウムを含む溶出バッファーで溶出した[図3B、レーン8参照;図3-1クロマトグラフB参照]。この工程で、精製mRNA分子を含む約800 mLの溶出液が得られた。第3工程は、30 kDa分子カットオフ膜の中空糸を用いた透析濾過システムを用いて、前記溶出液を濃縮し、約200 μg/mLの前記mRNAを含む約500 mLのRNA原薬と呼ばれる最終保持液とした[図3B、レーン10参照]。さらに、前記原薬を0.2μm膜濾過システムを用いて濾過滅菌し、使用するまで-80℃で保存した[図3C、レーン2参照]。さらに、標準的な方法で前記原薬に対してサイズ排除HPLC分析を行ったところ、前記原薬の保持時間は約8.15分であり、95 %超の分子純度を示した[図4参照]。RNA原薬を定型的に希釈または濃縮してmRNA濃度を0.1から1.5 mg/mLとし、さらに使用するまで-80℃で保存した。
【0048】
実施例4:脂質ナノエマルション粒子/ナノ担体の調製
ナノ担体またはGNPsの調製は、3つのパートからなる過程で行った。第1パートでは、前記担体の一部を形成するすべての疎水性物質を用いて油相を調製した。ここで、約4 mLの前記油相を調製するために、約3gのDOTAP、約3.7 gのソルビタンモノステアレート[SPAN-60]および約3.75gのスクアレンをガラス容器中で混合した。前記混合物は、すべての成分が均質な濃度でよく混合されるまで約65℃まで加温した。第2パートでは、約3.7 gのポリソルベート-80を約96 mLの10 mMクエン酸ナトリウム、pH6.0緩衝溶液と混合し、これを65℃に保温した。第3パートでは、油相と水相の両方を、約5000 RPMの高せん断ミキサーで約15分間混合した。続いて、この混合物を約30,000 psiの高圧ホモジナイザーに約10回通し、残りの水相でプライミングし、約100 mLのナノ担体溶液を得た。前記ナノ担体溶液は、MPLまたはGLAなどの免疫刺激物質を、所望により約0.5 μg/mLの量で任意に含有していた。ナノ担体GNPはMPLまたはGLAを含有しないが、GNP-MはMPLアジュバントを含有し、GNP-GはGLAアジュバントを含有した[表2参照]。
【0049】
実施例5:ナノ担体およびmRNA分子の調製複合体
mRNA分子の前記ナノ担体への吸着は、安定な複合体を形成する前記ナノ担体溶液に前記mRNA溶液を混合する非常に慎重かつ正確な過程で行った。ここで、窒素[DOTAP分子上に存在]とリン酸[RNA分子上に存在;N:P比]の比は、DOTAP分子は正に帯電しているのに対し、mRNA分子が負に帯電しており、それがmRNA分子の前記ナノ担体への吸着につながるため、前記mRNA分子の前記ナノ担体粒子への結合の尺度としてとられた。mRNA分子とナノ担体との安定な複合体を得るために、RNA量を一定に保ちながら、RNA量に対するDOTAP量のN:P比を1から150の間で種々試した。その結果、mRNAがナノ担体に吸着した安定な複合体を得るには、N:P比が5から15の間が理想的であることがわかった。したがって、前記複合体を調製するために、実施例4の前記ナノ担体溶液を10 mMクエン酸ナトリウム、pH6.0溶液でDOTAPを約6 mg/mLに希釈する。続いて、この希釈ナノ担体溶液約50 mLを1000 mL容器に取り、70および120 RPMの間で回転するオービタルシェーカーに置いた。その後、実施例3で調製したmRNA溶液[RNA原薬]約50 mLを、約2~8℃の温度で一定の撹拌条件下、シリンジポンプを用いて約5分間でゆっくりと添加した。その後、混合物を2~8℃で約30分間複合体を形成させ、さらに約540 mg/mLのスクロースを含有する20 mMクエン酸ナトリウム、pH6.0で1:1に希釈し、次いで前記複合体溶液を0.45 μmおよび0.22 μmのメンブレンフィルターで濾過し、無菌ワクチン溶液を得た。ナノ担体粒子に吸着したRNA分子の量および前記ナノ担体の特性の変化を測定するために、Zetasizer Nanoシステム[Malvern Panalytical]の動的光散乱によって平均粒径および粒度分布パラメーターを測定した。表2は、RNA分子の吸着に伴ってナノ担体の前記パラメーターに観察された変化を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例6:ナノ担体に吸着したRNAの完全性の測定
mRNA分子の完全性は、そのまま、またはナノ担体からの抽出後に、当該技術分野で公知の方法を用いたホルムアルデヒド変性アガロースゲル電気泳動によって測定した。簡潔に述べると、mRNAサンプルを、ホルムアルデヒド、臭化エチジウム、およびメチレンブルーなどの追跡色素を含むMOPS緩衝液中で、前記混合物を約70℃で約30分間加熱することにより調製した。その後、ゲル中のサンプルの所望の走行が完了した時点で、サンプルを1%アガロースゲル上で分離し、UV照明下で観察し、記録用に画像を保存した。ナノ担体からmRNA分子を抽出するために、前記複合体をフェノール-クロロホルム抽出の対象とした。その結果は図5Aに示されており、対照のネイキッドmRNAは約12kbのサイズに対応するゲル上を流れている[レーン3]が、ナノ担体と複合化したRNAはローディングウェル内に留まっている[レーン5- GNP、8 - GNP-M、および11- GNP-G]、一方、ナノ担体から抽出されたmRNA分子も約12 kbを走行し[レーン6 - GNP、9 - GNP-M、および12 - GNP-G]、その完全性が劣化することなく、ナノ担体と結合したmRNA分子の完全性が証明された。mRNAの完全性は、RNAse保護アッセイでさらに試験された。簡潔に述べると、ナノ担体を含むまたは含まないmRNAサンプルをRNAse処理の対象とし、ホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動で分析した。図5Bに示すように、ネイキッドmRNAをRNAseで処理したところ、レーン2の対照の未処理mRNAと比較して、レーン3は完全な分解を示した。レーン4は未処理のGNP、およびレーン5はRNAseで処理したGNPであるが、いずれの場合もRNAはGNP粒子に付着したままであり、ローディングウェル内に残っており、ナノ担体と複合化したmRNAが保護されていることを示している。RNAse処理したGNP粒子[レーン7、11、および15参照]と未処理のGNP粒子[レーン6、10、および14参照]から抽出したmRNAは、9 kbのマーカーバンドより少し上のバンドサイズを示し、前記複合体のRNAse処理後でさえ、前記mRNAが完全性を失うことなくインタクトであることを示している。
【0052】
実施例7:RNA定量
超高感度Qunati-IT RiboGreen RNA Assay Kit[ThermoFisher-Invitrogen]を用い、製造業者のプロトコルに従い、異なるサンプル中のmRNA量を測定した。簡潔に述べると、RiboGreen試薬は遊離mRNA分子に結合すると、それぞれ500 nmおよび525 nmに吸収極大および発光極大を持つ。この方法の検出感度は、溶液中RNAの1および200 ng/mLの間である。さらに、脂質ナノ担体粒子に結合した抽出RNAも、この方法を用いて容易に検出することができる。
【0053】
実施例7A:ナノ担体に吸着したRNAによるHek細胞でのタンパク質発現
GNP担体に吸着または複合化されたmRNAの効力を測定するために、HEK 293T細胞でin-vitroタンパク質発現解析を行った。図5-1のウェスタンブロット解析に示すように、組換えスパイクタンパク質を標準コントロールとして用い[レーン2]、未処理の細胞溶解液をネガティブコントロールとして用いた[レーン3]。リポフェクタミン試薬を用いて、ネイキッドmRNAを細胞にトランスフェクションし[レーン4]、GNP担体に吸着または複合化したmRNAを細胞培養液に添加し、開示したようにインキュベートした[レーン5]。スパイクタンパク質の強固な発現は、mRNAを導入し複合化してインキュベートしたサンプルで観察され、約170 kDのバンドとして走行していた。ここで、HEK 293T細胞を、細胞培養プレートに入れた1mLのFBS入りDMEM中で約24時間培養し、その後開示したように処理し、5 % CO2存在下、37℃で約48時間インキュベートした。培養後、細胞単層の上清を捨て、接着した細胞を200 μLの溶解バッファーで溶解した。溶解液をSARS-CoV-2(COVID-19)スパイク抗体を用いたウェスタンブロットに供し、発現したスパイクタンパク質を検出した。SARS-CoV-2(COVID-19)スパイク抗体を用いたサンドイッチELISAを行い、細胞溶解液中の発現スパイクタンパク質を推定した。
【0054】
実施例8:免疫原性試験
実施例5で得られたワクチン溶液を免疫原性試験に供し、前記ナノ担体に吸着したmRNA分子の免疫原産生特性を測定した。ここで、前記ワクチン溶液または対照溶液を、C57BL/6またはBALB/cマウス群に注射した。図6に描かれているように、1群につき約6匹のマウスを使用した。第1の対照群には、プレーン希釈液または緩衝液のみを注射した。第2対照群には、試験ワクチン溶液中に存在する量と等量のネイキッドmRNAを注射し、ナノ担体対照群には、試験ワクチン溶液中に存在する量と等量のネイキッドナノ担体GNPまたはGNP-MまたはGNP-Gを注射した。最初の試験群には、GNPと複合化したmRNA約5 μgを含有する試験ワクチン溶液約100 μLを注射した。第2試験群には、GNP-Mと複合化したmRNA約5 μgを含有する試験ワクチン溶液約100 μLを注射した。第3の試験群には、GNP-Gと複合化したmRNA約5 μgを含有する試験ワクチン溶液約100 μLを注射した。その後、すべての試験群について、前記物質の注射から14、28、および43日後に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する抗体の産生について試験した。図6に示すように、ワクチン溶液[すなわち、GNP、GNP-MまたはGNP-Gと複合化したmRNA]を注射したマウス群は、ネイキッドmRNAを注射した群と比較して、スパイクタンパク質に対する抗体の産生が顕著に増加したが、他の対照群はスパイクタンパク質に対する抗体を産生しなかった。異なる群のIgG抗体は、ELISAアッセイを用いた標準的なプロトコルによって検出された。このデータは、mRNAが脂質ナノエマルション粒子またはナノ担体に吸着したワクチン溶液の安定性、免疫原性、および臨床応用への適合性を開示している。
【0055】
実施例9:中和抗体試験
SARS-CoV-2代用ウイルス中和試験[sVNT]は、cPass SARS-CoV-2 Neutralization Antibody Detection Kit[Genscript]を用いて実施した。アッセイは製造業者のプロトコルに従って行った。簡潔に述べると、サンプルを希釈バッファーで10倍に希釈した。希釈した検体およびキットに付属の陽性対照と陰性対照を、等量のキットに付属の1000倍HRP標識RBDとインキュベートした。その後、37℃で約30分間インキュベートした。その後、キットに付属のACE-2タンパク質コートウェルに全検体および対照を約100 μL分取する。反応は37℃で約15分間暗所に置いた。15分後、ウェルを4回洗浄した後、キットに付属のTMB基質100 μLを加えた。暗所で15分間発色させた後、キットに付属の50μL塩酸溶液で反応を停止させた。プレートをプレートリーダーで450 nmで読み取った。阻害率は、(1-(サンプルのOD/陰性対照のOD))×100%として計算される。結果を図7に示す。mRNAをGNP、GNP-M、またはGNP-Gのような異なるナノ担体に吸着させた場合、SARS-CoV-2スパイクタンパク質中和抗体の産生が顕著に増加した。
図1
図2
図2-1】
図3
図3-1】
図4
図5
図5-1】
図6
図7
【国際調査報告】