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特表2024-525710核酸および生体試料のための保存剤組成物ならびに使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】核酸および生体試料のための保存剤組成物ならびに使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20240705BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240705BHJP
   A01N 1/00 20060101ALI20240705BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20240705BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240705BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N15/09 Z
C12N5/071
A01N1/00
A01N37/44
A01N61/00 D
C12N9/99
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501635
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022037397
(87)【国際公開番号】W WO2023288115
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/222,394
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512082716
【氏名又は名称】エスアイオーツー・メディカル・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】2250 Riley Street,Auburn,Alabama 36832 U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ピッシリリ,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ワイカート,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】クリバノフ,アレクサンダー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヘキサム,ティア
(72)【発明者】
【氏名】ヌネズ,ブランディ
(72)【発明者】
【氏名】エイブラムス,ロバート エス.
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065BD12
4B065BD25
4B065BD50
4B065CA23
4H011BB06
4H011BB19
4H011CA05
4H011CB08
4H011DH03
(57)【要約】
本開示は、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。血液または他の生体試料中の核酸および/または細胞を保存する方法、ならびに血液または他の生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットもまた記述される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存剤組成物であって、
a.任意選択で一つ以上の浸透圧剤と、
b.一つ以上の酵素阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
d.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
e.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
f.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(d)または薬剤(e)が存在し、また前記任意選択の一つ以上の浸透圧剤および前記一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な組み合わせ量で存在する、保存剤組成物。
【請求項2】
保存剤組成物であって、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
e.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(c)または薬剤(d)が存在し、また一つ以上の酵素阻害剤が高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、保存剤組成物。
【請求項3】
血漿増量剤が存在しない、請求項1または2のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項4】
前記一つ以上の任意選択の細胞表面リモデリングポリマーが存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項5】
前記一つ以上の任意選択の薬剤が存在しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項6】
前記一つ以上の前記酵素阻害剤が浸透圧剤として追加的に機能する、請求項1に記載の保存剤組成物。
【請求項7】
浸透圧剤は存在せず、浸透圧剤として追加的に機能する一つ以上の酵素阻害剤が存在する、請求項2に記載の保存剤組成物。
【請求項8】
浸透圧剤として追加的に機能する前記一つ以上の酵素阻害剤、および前記浸透圧剤が高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、請求項6に記載の保存剤組成物。
【請求項9】
前記一つ以上の酵素阻害剤が、前記組成物の約0.5重量%~約30重量%、約1重量%~約10重量%、約1.5重量%~約5重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%の量で前記保存剤組成物中に存在する、請求項2または8に記載の保存剤組成物。
【請求項10】
前記一つ以上の酵素阻害剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジチオスレイトール(DTT)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、クエン酸、オキサラート、オーリントリカルボン酸(ATA)、酒石酸、およびグルカル酸、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される、請求項9に記載の保存剤組成物。
【請求項11】
前記酵素阻害剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその一価塩、二価塩、三価塩、もしくは四価塩である、請求項10に記載の保存剤組成物。
【請求項12】
前記EDTAまたはその塩が、前記組成物の約1.5重量%~約2.5重量%の量で存在する、請求項11に記載の保存剤組成物。
【請求項13】
前記一つ以上の任意選択の代謝阻害剤が、アジ化ナトリウム、チメロサール、プロクリン、またはクロロヘキシジンである、請求項1~12のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項14】
前記一つ以上の任意選択の薬剤がフィコールである、請求項1~4、または6~13のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項15】
前記フィコールがフィコール400である、請求項14に記載の保存剤組成物。
【請求項16】
前記任意選択の細胞表面リモデリングポリマーが界面活性剤である、請求項1~15のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項17】
前記界面活性剤がポロキサマーである、請求項16に記載の保存剤組成物。
【請求項18】
前記ポロキサマーが、ポロキサマーp188およびポロキサマーp407の一方または両方から選択される、請求項17に記載の保存剤組成物。
【請求項19】
前記ポロキサマーがポロキサマーp188である、請求項18に記載の保存剤組成物。
【請求項20】
前記ポロキサマーがポロキサマーp407である、請求項18に記載の保存剤組成物。
【請求項21】
前記ポロキサマーがポロキサマーp188およびポロキサマーp407の組み合わせである、請求項18に記載の保存剤組成物。
【請求項22】
前記ポロキサマーが、前記組成物の約10重量%~約50重量%、約10重量%~約40重量%、約10重量%~約35重量%、約10重量%~約25重量%、約10重量%~約20重量%、約15重量%~約20重量%、または約15重量%、または30重量%の量で存在する、請求項17~21のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項23】
前記ポロキサマーp188およびポロキサマーp407の各々が、前記組成物の約15重量%の量で存在する、請求項22に記載の保存剤組成物。
【請求項24】
前記任意選択のポリプロピレングリコール(PPG)が、前記組成物の約0.1重量%~約10重量%の量で存在する、請求項1~23のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項25】
保存剤組成物であって、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
前記一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、保存剤組成物。
【請求項26】
浸透圧剤が存在しない、請求項25に記載の保存剤組成物。
【請求項27】
血漿増量剤が存在しない、請求項25または26のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項28】
ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される薬剤が存在しない、請求項25~27のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項29】
前記一つ以上の酵素阻害剤が、前記組成物の約0.5重量%~約30重量%、約1重量%~約10重量%、約1.5重量%~約5重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%の量で前記保存剤組成物中に存在する、請求項25~28のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項30】
前記一つ以上の酵素阻害剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジチオスレイトール(DTT)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、クエン酸、オキサラート、オーリントリカルボン酸(ATA)、酒石酸、およびグルカル酸、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される、請求項29に記載の保存剤組成物。
【請求項31】
酵素阻害剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその一価塩、二価塩、三価塩、もしくは四価塩である、請求項30に記載の保存剤組成物。
【請求項32】
前記EDTAまたはその塩が、前記組成物の約1.5重量%~約2.5重量%の量で存在する、請求項31に記載の保存剤組成物。
【請求項33】
前記一つ以上の任意選択の代謝阻害剤が、アジ化ナトリウム、チメロサール、プロクリン、またはクロロヘキシジンである、請求項25~32に記載の保存剤組成物。
【請求項34】
前記細胞表面リモデリングポリマーが界面活性剤である、請求項25~33に記載の保存剤組成物。
【請求項35】
前記界面活性剤がポロキサマーである、請求項34に記載の保存剤組成物。
【請求項36】
前記ポロキサマーが、ポロキサマーp188およびポロキサマーp407の一方または両方から選択される、請求項35に記載の保存剤組成物。
【請求項37】
前記ポロキサマーがポロキサマーp188である、請求項36に記載の保存剤組成物。
【請求項38】
前記ポロキサマーがポロキサマーp407である、請求項36に記載の保存剤組成物。
【請求項39】
前記ポロキサマーがポロキサマーp188およびポロキサマーp407の組み合わせである、請求項36に記載の保存剤組成物。
【請求項40】
前記ポロキサマーが、前記組成物の約10重量%~約40重量%、約10重量%~約35重量%、約10重量%~約25重量%、約10重量%~約20重量%、約15重量%~約20重量%、または約15重量%、または30重量%の量で存在する、請求項36~39に記載の保存剤組成物。
【請求項41】
前記ポロキサマーp188およびポロキサマーp407の各々が、前記組成物に約15重量%の量で存在する、請求項40に記載の保存剤組成物。
【請求項42】
前記任意選択のポリプロピレングリコール(PPG)が、前記組成物の約0.1重量%~約10重量%の量で存在する、請求項25~41のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項43】
保存剤組成物であって、
a.1.57重量%のEDTAまたはその塩と、
b.15.00重量%のポロキサマーp188と、
c.15.00重量%のポロキサマーp407と、を含み、
前記EDTAまたはその塩が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、保存剤組成物。
【請求項44】
保存剤組成物であって、
a.2.5重量%のEDTAまたはその塩と、
b.15.00重量%のポロキサマーp188と、
c.15.00重量%のポロキサマーp407と、を含み、
前記EDTAまたはその塩が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、保存剤組成物。
【請求項45】
浸透圧剤も、血漿増量剤も、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される薬剤も存在しない、請求項43または44のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項46】
凍結乾燥乾燥粉末の形態である、請求項1~45のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項47】
水溶液の形態である、請求項1~45のいずれか一項に記載の保存剤組成物。
【請求項48】
請求項1~47のいずれか一項に記載の保存剤組成物と生体試料との組み合わせ。
【請求項49】
前記生体試料が、細胞または組織試料である、請求項48に記載の組み合わせ。
【請求項50】
前記生体試料が体液に由来する、請求項48に記載の組み合わせ。
【請求項51】
前記体液が全血またはその一つ以上の画分である、請求項50に記載の組み合わせ。
【請求項52】
前記生体試料が、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、または循環性腫瘍細胞を含む、請求項48に記載の組み合わせ。
【請求項53】
前記生体試料が、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む、請求項48に記載の組み合わせ。
【請求項54】
前記核酸が、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項53に記載の組み合わせ。
【請求項55】
前記核酸が、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項53に記載の組み合わせ。
【請求項56】
前記保存剤組成物の前記生体試料に対する比が、約1:10~約1:1v/vである、請求項50~55のいずれか一項に記載の組み合わせ。
【請求項57】
前記保存剤組成物の前記生体試料に対する比が、約1:5~約1:4v/vである、請求項58に記載の組み合わせ。
【請求項58】
前記組成物が、周囲温度で少なくとも2週間、生体試料中の前記核酸および/または細胞を保存することができる、請求項52~57のいずれか一項に記載の組み合わせ。
【請求項59】
請求項1~47のいずれか一項に記載の保存剤組成物と生体試料とを組み合わせる工程を含む、前記生体試料中の核酸および細胞のうちの一方または両方を保存するための方法。
【請求項60】
前記生体試料が、細胞または組織試料である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記生体試料が体液に由来する、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記体液が全血またはその一つ以上の画分である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記生体試料が、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、または循環性腫瘍細胞を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記生体試料が、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記核酸が、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記核酸が、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記保存剤組成物の前記生体試料に対する比が、約1:10~約1:1v/vである、請求項59~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記保存剤組成物の前記生体試料に対する比が、約1:5~約1:4v/vである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
生体試料中の核酸および細胞のうちの一方または両方を保存するためのキットであって、
a.請求項1~47のいずれか一項に記載の保存剤組成物と、
b.任意選択で、前記保存剤組成物の使用説明書と、を含む、キット。
【請求項70】
前記生体試料が、細胞または組織試料である、請求項69に記載のキット。
【請求項71】
前記生体試料が体液に由来する、請求項69に記載のキット。
【請求項72】
前記体液が全血またはその一つ以上の画分である、請求項71に記載のキット。
【請求項73】
前記生体試料が、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項69に記載のキット。
【請求項74】
前記生体試料が、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む、請求項69に記載のキット。
【請求項75】
前記核酸が、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項74に記載のキット。
【請求項76】
前記核酸が、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項74に記載のキット。
【請求項77】
生体試料中の核酸および細胞のうちの一方または両方を保存するためのキットであって、
a.任意選択の抗凝固剤の所定の量を、任意選択で含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.請求項1~47のいずれか一項に記載の保存剤組成物の所定の量を含有するシリンジと、
c.任意選択で、前記シリンジに取り付け可能な針と、を備える、キット。
【請求項78】
前記生体試料が、細胞または組織試料である、請求項77に記載のキット。
【請求項79】
前記生体試料が体液に由来する、請求項77に記載のキット。
【請求項80】
前記体液が全血またはその一つ以上の画分である、請求項79に記載のキット。
【請求項81】
前記生体試料が、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項77に記載のキット。
【請求項82】
前記生体試料が、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む、請求項77に記載のキット。
【請求項83】
前記核酸が、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項82に記載のキット。
【請求項84】
前記核酸が、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項82に記載のキット。
【請求項85】
生体試料中の核酸および細胞のうちの一方または両方を保存するためのキットであって、
a.抗凝固剤の所定の量を、任意選択で含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.請求項1~47のいずれか一項に記載の保存剤組成物の所定の量を含有する封止されたアンプルであって、前記アンプルが取り外し可能な閉鎖部を備え、かつ前記アンプルが、ユーザによる閉鎖部の取り外し時に分配手段を受容するように構成されている、封止されたアンプルと、を備える、キット。
【請求項86】
前記生体試料が、細胞または組織試料である、請求項85に記載のキット。
【請求項87】
前記生体試料が体液に由来する、請求項85に記載のキット。
【請求項88】
前記体液が全血またはその一つ以上の画分である、請求項87に記載のキット。
【請求項89】
前記生体試料が、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項85に記載のキット。
【請求項90】
前記生体試料が、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む、請求項85に記載のキット。
【請求項91】
前記核酸が、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項90に記載のキット。
【請求項92】
前記核酸が、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項90に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月15日に出願された米国仮特許出願第63/222,394号の利益、優先権を主張し、参照によりその全体が組み込まれるものとする。
【0002】
本開示は、血液または他の生体試料中の核酸および/または細胞を保存するための組成物、方法、およびキットに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの核酸ベースの試験を使用して、様々な診断目的のためにDNAおよびRNAの配列、構造または発現の変動を分析する。実際に、核酸は非侵襲的生物医学研究の一般的な検査標的である。しかしながら、生体試料が採取された後、その試料内の核酸、例えば、RNAおよびDNAは、細胞/ゲノムまたは無細胞にかかわらず、分解し始める。さらに、遺伝子誘導および遺伝子転写物の分解は、血液または他の生体試料の採取から数分以内に発生し始め、採取時点での試料の遺伝子発現を正確に分析することが困難になる。さらに、一般に、血液または他の生体試料が新鮮であるほど、その試料の核酸の品質はより良好である。これは、対象の血液または生体試料の核酸がいつ分析されるかの問題を提示する。血液および他の生体試料が、分析される場所および時点とは異なる場所および非常に異なる時点で採取されることがよくある。この理由から、血液または他の生体試料が採取された後、それらは分析される前に保存および輸送される必要がある。採取された後の血液および他の生体試料で発生する核酸の急速な分解に起因して、試料の核酸が分析される時点で高品質であることを確実にするために、試料中に存在する核酸を保存する組成物および方法に対するニーズがある。
【0004】
血液または他の生体試料中の無細胞核酸の場合、採取および分析の異なる場所およびタイミングは、細胞溶解というさらなる問題を呈する。採取された試料における細胞溶解は、細胞核酸による無細胞核酸プロファイルの汚染につながる場合があり、血液または生体試料中の無細胞核酸を正確に分析することを困難にする。血液または他の生体試料が採取された直後に細胞溶解が発生し始める。このことは、分析前に試料を長期間保存する必要がある場合に、問題を呈する。したがって、核酸の無細胞プロファイルが維持されるように血液および他の生体試料を保存するさらなるニーズがある。
【0005】
同様に、例えば生体試料中の循環性腫瘍細胞などの細胞の検出または分析に基づく診断用途については、それらの細胞のインタクトな形態での保存が重要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、様々な態様において、核酸および細胞保存剤組成物、それらの組成物を含有するキット、ならびに組成物およびキットを使用する方法を対象とする。
【0007】
第一の態様では、本開示は、
a.任意選択で一つ以上の浸透圧剤と、
b.一つ以上の酵素阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
d.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
e.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
e.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(d)または薬剤(e)が存在し、また任意選択の一つ以上の浸透圧剤および一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な組み合わせ量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0008】
第二の態様では、本開示は、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
e.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(c)または薬剤(d)が存在し、また一つ以上の酵素阻害剤が高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0009】
第三の態様では、本開示は、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0010】
第四の態様では、本開示は、本開示の保存剤組成物と生体試料との組み合わせを対象とする。
【0011】
第五の態様では、本開示は、本開示の保存剤組成物と生体試料とを組み合わせる工程を含む、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するための方法を対象とする。
【0012】
第六の態様では、本開示は、
a.本開示の保存剤組成物と、
b.任意選択で、保存剤組成物の使用説明書と、を含む、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0013】
第七の態様では、本開示は、
a.任意選択で抗凝固剤を含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.本開示の保存剤組成物を含有するシリンジと、
c.任意選択で、当該シリンジに取り付け可能な針と、を備える、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0014】
第八の態様では、本開示は、
a.任意選択で抗凝固剤を含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.本開示の保存剤を含有する封止されたアンプルであって、当該アンプルが取り外し可能な閉鎖部を備え、かつ当該アンプルが、ユーザによる閉鎖部の取り外し時に分配手段を受容するように構成されている、封止されたアンプルと、を備える、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0015】
一部の実施形態では、生体試料は体液に由来する。一部の実施形態では、体液は血液である。
【0016】
一部の実施形態では、核酸は、無細胞(「cf」)DNAである。本開示の他の実施形態では、核酸は、細胞(すなわち、ゲノムまたは「g」)DNAである。
【0017】
一部の実施形態では、核酸は、無細胞(「cf」)RNAである。本開示の他の実施形態では、核酸は、細胞(すなわち、ゲノムまたは「g」)RNAである。
【0018】
一部の実施形態では、細胞は、幹細胞、骨細胞、血液細胞(例えば、赤血球および/または白血球)、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、または循環性腫瘍細胞である。一部の実施形態では、細胞は、実験室由来細胞または改変細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書に別段の定義がない限り、本出願で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0020】
本出願、ならびにその様々な実施形態および態様全体を通して、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」、もしくは「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載された整数または整数の群を含み得るが、任意の他の整数または整数の群は除外され得ないと理解されるであろう。
【0021】
用語「含んでいる(including)」または「含む(includes)」は、「含むがこれに限定されない(including but not limited to)」ことを意味するために使用される。「含む」および「含むがこれに限定されない」は、互換的に使用される。
【0022】
「例えば(e.g)」または「例えば(for example)」という用語に続く例はいずれも、本開示を網羅または限定することを意図するものではない。
【0023】
文脈により別段の要求がない限り、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数を含むものとする。
【0024】
冠詞「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、本明細書では、その冠詞の文法的目的語の一つまたは二つ以上(すなわち、少なくとも一つ)を指すために使用される。
【0025】
本明細書に開示されるすべての範囲は、その中に包含されるあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10」の指定範囲は、最小値1と最大値10との間(これらを含んで)のあらゆる部分範囲、すなわち、1以上である最小値、例えば1~6.1で始まり、10以下である最大値、例えば5.5~10で終了するすべての部分範囲を含むとみなされるべきである。構成要素の重量パーセントまたは混合物のv/vの文脈で使用される場合、「約」という用語は、列挙された数の+/-10%を意味する。
【0026】
本開示の各実施形態は、単独で、または本開示の一つ以上の他の実施形態と組み合わせて行われてもよい。
【0027】
例示的な方法および材料が本明細書に記述されているが、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料も、本開示の様々な態様および実施形態の実施または試験に使用することができることが理解されるべきである。材料、方法、および実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0028】
本開示をより容易に理解するために、特定の用語が最初に定義される。これらの定義は、当業者によって理解されるように、本開示の残りの部分を考慮して読み取られるべきである。別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語のすべては、当業者によって一般的に理解される意味を有する。追加の定義は、詳細な説明全体を通して記載される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「浸透圧剤」という用語は、高張性、等張性、または低張性の溶液を生成する薬剤を指す。さらに、本明細書で使用される場合、酵素阻害剤は、浸透圧剤として追加的に機能し得る。浸透圧剤の例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩およびカルシウム塩、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、アミノ酸、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、スクロースもしくはグルコースなどの糖、酒石酸、およびグルカル酸、またはそれらのいずれかの塩が挙げられるが、これらに限定されない。浸透圧剤として追加的に機能し得る酵素阻害剤の例としては、限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジチオスレイトール(DTT)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、クエン酸、オキサラート、オーリントリカルボン酸(ATA)、酒石酸、グルカル酸、または限定されないがナトリウム塩およびカリウム塩を含む、それらのいずれかの塩が挙げられる。理論に束縛されることを望むものではないが、浸透圧剤は、血液または他の生体試料中の浸透圧を変化させる役割を果たし、例えば、血液または他の生体試料中に存在する細胞から水を放出させて不均衡を解消する。これは、例えば、細胞を収縮させ、それによって細胞溶解に対してより耐性を生じさせる、そうでなければ、この細胞溶解は生体試料の無細胞核酸を細胞核酸で汚染させるか、または細胞をアッセイおよび分析にあまり適さないようにする。さらに、血漿増量剤は、この効果を強化すると考えられる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「高張性溶液」という用語は、生理的濃度よりも高い溶質濃度を有する溶液を指す。高張性溶液の例としては、(重量基準で)約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、および25%のNaCl溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される場合、「低張性溶液」という用語は、生理的濃度よりも低い溶質濃度を有する溶液を指す。低張性溶液の例としては、(重量基準で)約0.10%、0.15%、0.20%、0.25%、0.30%、0.35%、0.40%、および0.45%のNaCl溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「等張性溶液」という用語は、生理的濃度にほぼ等しい溶質濃度を有する溶液を指す。等張性溶液の例としては、(重量基準で)約0.5%、0.7%、および1%のNaCl溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書で使用される場合、「酵素阻害剤」という用語は、単独で、または本開示の保存剤組成物中で、カルシウム、マグネシウム、マンガン、または亜鉛などの金属イオンと複合体を生成する薬剤を指し、これらの複合体は、血液凝固を低減し、ヌクレアーゼを阻害し、および/または酵素細胞溶解を低減すると考えられる。本開示の酵素阻害剤の例としては、限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジチオスレイトール(DTT)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、クエン酸、オキサラート、オーリントリカルボン酸(ATA)、酒石酸、グルカル酸、または限定されないがナトリウム塩およびカリウム塩を含む、それらのいずれかの塩が挙げられる。理論に束縛されることを望むものではないが、ヌクレアーゼの阻害は、生体試料内の無細胞核酸の分解を防止または低減する。本開示の酵素阻害剤が阻害する酵素の例としては、限定されないが、リゾスタフィン、ザイモラーゼ(zymolase)、プロテアーゼ、グリカナーゼ、または細胞溶解を誘導することが知られている他の酵素が挙げられ、それによって血液または他の生体試料の細胞を保存するように作用する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「代謝阻害剤」という用語は、単独で、または本開示の保存剤組成物中で、細胞呼吸、細胞代謝、および代謝機能などの細胞プロセスを阻害する薬剤を指し、この阻害は、無細胞核酸の分解を低減すると考えられる。理論に束縛されることを望むものではないが、本開示の代謝阻害剤は、細胞代謝機能を阻害すること、および細菌増殖を抑制することによって細胞の増殖を遅らせ、それによって、無細胞核酸の分解を低減すると考えられる。本開示の代謝阻害剤の例としては、アジ化ナトリウム、チメロサール、プロクリン、またはクロロヘキシジンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書で使用される場合、「血漿増量剤」という用語は、高張性(hyperoncotic)、または高張性(hypertonic)の溶液を生成する薬剤を指す。血漿増量剤の例としては、グリセロール、デンプン、タンパク質コロイド(例えば、アルブミン、オボアルブミン、およびゼラチン)、および非タンパク質コロイド(例えば、ヒドロキシエチルデンプン)が挙げられるが、これらに限定されない。理論に束縛されることを望むものではないが、血漿増量剤はまた、血漿または他の生体試料中の浸透圧を増加させる役割を果たし、細胞から水を放出させて不均衡を解消する。これは、細胞を収縮させ、それによって細胞溶解に対してより耐性を生じさせる、そうでなければ、この細胞溶解は生体試料の無細胞核酸を細胞核酸で汚染させるか、または細胞をアッセイおよび分析にあまり適さないようにする。
【0036】
本明細書で使用される場合、「細胞表面リモデリングポリマー」という用語は、共有結合相互作用、疎水性相互作用、または静電相互作用を介して、血液または他の生体試料中の細胞表面と、(例えば、細胞表面受容体に結合することによって、または細胞表面上の特定の官能基と反応することによって)相互作用するポリマーを指す。かかる相互作用は、一部の事例では、血液または他の生体試料中の細胞を沈降させると考えられる。理論に束縛されることを望むものではないが、生体試料中の細胞の沈降、および/または細胞表面とポリマーとの相互作用は、細胞溶解、およびその後の細胞核酸の試料への放出(これは、例えば試料内の無細胞核酸またはインタクトな細胞を汚染し得る)を防止または低減すると考えられる。核酸および/または細胞は、その後、当該技術分野で既知の従来の方法を介して単離および分析することができる。本開示の一部の実施形態では、「細胞表面リモデリングポリマー」は界面活性剤である。細胞表面リモデリングポリマーの例としては、N-ビニルピロリドン(NVP)とボロン酸とのコポリマー、アルギニルグリシルアスパラギン酸(RGD)トリペプチドポリマー誘導体(arginylglyclaspartic acid(RGD)tripeptide polymer derivative)、マングビーンフィトヘマグルチニン、ポロキサマー、およびマンノース6リン酸受容体の一つ以上のリガンドによって特徴付けられる合成糖ペプチド(例えば、複数のセリン-O-マンノース-6-リン酸(M6Pn)残基を有する糖ペプチド)が挙げられるが、これらに限定されない。マンノース6リン酸受容体に対する反復リガンドを有する糖ペプチドの例については、Banik,Steven;Pedram,Kayvon;Wisnovsky,Simon;Riley,Nicholas;Bertozzi,Carolyn(2019):Lysosome Targeting Chimeras(LYTACs)for the Degradation of Secreted and Membrane Proteins.ChemRxiv.Preprint.https://doi.org/10.26434/chemrxiv.7927061.v2を参照のこと。
【0037】
本明細書で使用される場合、「フィコール」は、スクロースとエピクロロヒドリンとの重合から形成される水溶性高分子量スクロースポリマーを指す。例えば、フィコール400およびフィコール70である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ポロキサマー」は、ポリオキシエチレンの二つの親水性鎖に隣接したポリオキシプロピレンの中央疎水性鎖を有する水溶性トリブロックコポリマーを指す。ポロキサマーの例としては、ポロキサマーp188およびポロキサマーp407が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書で使用される場合、「タンパク質コロイド」は、一つ以上のタンパク質が溶液中に分散される混合物を指す。タンパク質コロイドの例としては、アルブミン、オボアルブミン、またはゼラチンが挙げられるが、これらに限定されない。アルブミンは、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、またはオボアルブミンとして提供されてもよい。ゼラチンの例としては、尿素結合ゼラチン(例えば、Haemaccel(登録商標))、コハク化ゼラチン(例えば、Gelofusine(登録商標))、およびオキシポリゼラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用される場合、「非タンパク質コロイド」という用語は、一つ以上の大分子または超微細粒子が溶液中に分散している混合物を指す。非タンパク質コロイドの例としては、ヒドロキシエチルデンプン(HES)などのアミロペクチンの分岐天然ポリマー、ならびにデキストラン、例えばデキストラン40および/またはデキストラン70などの多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用される場合、「水溶性ポリマー」は、水溶液に可溶性であるポリマーを指す。水溶性ポリマーの例としては、以下に限定されないが、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリデキストロース、ポリグリシン、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドのポリマー、ジビニルエーテル-無水マレイン酸のポリマー、ポリオキサゾリン、ポリリン酸塩、ポリホスファゼン、キサンタンガム、ペクチン、キトサン誘導体、デキストラン、カラゲナン、グアーガム、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ヒアルロン酸、アルブミン、デンプン、またはデンプンベースの誘導体を含む。本開示の水溶性ポリマーのさらなる非限定的な例については、Betageri,G.V.,Kadajji,V.G.,Polymers,2011,3,pp.1972-2009を参照のこと。
【0042】
本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、リボ核酸(RNA)およびデオキシリボ核酸(DNA)の両方を含む。RNAおよび/またはDNAは、直鎖状もしくは分枝鎖状、一本鎖状もしくは二本鎖状、または断片化されていてもよい。RNAおよびDNAは、細胞RNA(すなわち、ゲノムRNA)、細胞DNA(すなわち、ゲノムDNA)、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせであってもよい。核酸は、生体試料、特に血液試料中に見出される。
【0043】
本明細書で使用される場合、「生体試料」という用語は、核酸および/または細胞を含む、実験室由来のまたは実験室で改変された細胞を含む、生物学的供給源から得られた試料を指す。生体試料は、細胞試料、培養物試料、または組織試料であってもよい。さらに、生体試料は、体液、例えば、血液、血漿、血清、尿、唾液、便、母乳、涙、汗、脳脊髄液、滑液、精液、膣液、腹水、羊水、または細胞培養培地などに由来してもよい。
【0044】
本明細書で使用される場合、「保存剤」という用語は、生体試料に添加され、その試料中の核酸の分解および/または細胞溶解を阻害、防止、または遅延させる組成物を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「処理された生体試料」という用語は、本開示の保存剤組成物と組み合わされた生体試料を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、血液または他の生体試料中に見出され得る任意の細胞を指す。細胞の種類には、幹細胞、骨細胞、血液細胞(例えば、赤血球または白血球)、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞(CTC)、ならびに実験室由来細胞および/または改変細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
本開示の保存剤組成物
本開示の組成物は、生体試料中の核酸および/または細胞の保存および安定化に有用である。本開示の保存剤組成物が、核酸および/または細胞を含有する生体試料に添加される場合、その試料中の核酸の分解および/または細胞溶解は、未処理の生体試料と比較して低減、遅延、または防止され、当技術分野で公知の従来の技術、特にハイスループット技術を介した、試料中の核酸および/または細胞のその後の単離およびより正確な分析を可能にする。さらに、本開示の保存剤組成物は、細胞溶解を阻害、遅延、または低減し、試料中の無細胞核酸が、長期間にわたって量および特徴においてより一貫したままであることを可能にする。本開示による処理された生体試料における細胞溶解の低減はまた、ヌクレアーゼの放出をも低減し、それによって試料内の核酸および/または細胞の分解をさらに防止または低減する。本開示の組成物によって保存され得る核酸は、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせを含む。RNAおよびDNAは、細胞性もしくは無細胞性、またはそれらの組み合わせ、すなわち、細胞RNA、細胞DNA、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせであり得る。好ましくは、DNAおよび/またはRNAは、無細胞DNAおよび/または無細胞RNAである。本開示の組成物および方法を使用して溶解が低減される細胞は、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞、および実験室由来細胞または改変細胞であり得るが、これらに限定されない。
【0048】
第一の態様では、本開示は、
a.任意選択で一つ以上の浸透圧剤と、
b.一つ以上の酵素阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
d.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
e.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
f.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(d)または薬剤(e)が存在し、また任意選択の一つ以上の浸透圧剤および一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な組み合わせ量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0049】
第二の態様では、本開示は、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.任意選択で一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択で、ヒドロキシエチルデンプン、N-ビニルピロリドン(NVP)のポリマー、フィコール、タンパク質コロイド、非タンパク質合成コロイド、エチレンジオール、プロピレングリコール、水溶性ポリマー、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される一つ以上の薬剤と、
e.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
少なくとも一つの細胞表面リモデリングポリマー(c)または薬剤(d)が存在し、また一つ以上の酵素阻害剤が高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0050】
第三の態様では、本開示は、
a.一つ以上の酵素阻害剤と、
b.任意選択で一つ以上の代謝阻害剤と、
c.一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーと、
d.任意選択でポリプロピレングリコール(PPG)と、を含み、
一つ以上の酵素阻害剤が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0051】
本開示の第一の態様の一部の実施形態では、酵素阻害剤のうちの一つ以上は、浸透圧剤として追加的に機能する。
【0052】
本開示の第一の態様および他の態様(本明細書で言及される第二から第八の態様に限定されない)の一部の実施形態では、任意選択の一つ以上の浸透圧剤が存在しないが、浸透圧剤として機能し得る一つ以上の酵素阻害剤が存在する。
【0053】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、血漿増量剤は存在しない。
【0054】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の酵素阻害剤は、組成物の約0.5重量%~約30重量%の量で、一部の態様では約0.5重量%~約5重量%の量で、および他の態様では約1重量%~約30重量%の量で、本開示の保存剤組成物中に存在する。一部の実施形態では、酵素阻害剤は、組成物の約1重量%~約20重量%の量で存在する。他の実施形態では、酵素阻害剤は、組成物の約1重量%~約10重量%の量で存在する。
【0055】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の酵素阻害剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジチオスレイトール(DTT)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、クエン酸、オキサラート、オーリントリカルボン酸(ATA)、酒石酸、およびグルカル酸、またはそれらのいずれかの塩からなる群から選択される。塩には、一価、二価、三価、もしくは四価のナトリウムおよびカリウム塩、またはそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の任意選択の代謝阻害剤は、組成物の約0.01重量%~約10重量%の量で本開示の保存剤組成物中に存在する。一部の実施形態では、任意選択の代謝阻害剤は、組成物の約0.01重量%~約5重量%の量で存在する。一部の実施形態では、任意選択の代謝阻害剤は、組成物の約0.01重量%~約2重量%の量で存在する。
【0057】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の任意選択の代謝阻害剤は、アジ化ナトリウム、チメロサール、プロクリン、またはクロロヘキシジンである。
【0058】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の任意選択の薬剤は、フィコールである。一部の実施形態では、フィコールは、フィコール-400である。
【0059】
理論に束縛されることを望むものではないが、フィコールは、クラウディング剤(crowding agent)として機能し、細胞を溶液から追い出すことにより、細胞溶解、およびその後の細胞の分解、またはさもなければ例えば試料内の無細胞核酸を汚染し得る試料中への細胞核酸の放出を、防止または低減する。次いで、核酸および/または細胞は、その後、当該技術分野で既知の従来の方法を介して単離され、およびより正確に分析され得る。
【0060】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、フィコールは、組成物の約10重量%~約50重量%の量で存在する。一部の実施形態では、一つ以上の薬剤は、組成物の約10重量%~約40重量%、または約15重量%~約35重量%、または約20重量%~約30重量%の量で存在する。
【0061】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーは、N-ビニルピロリドン(NVP)とボロン酸とのコポリマー、アルギニルグリシルアスパラギン酸(RGD)トリペプチドポリマー誘導体、マングビーンフィトヘマグルチニン、およびマンノース6リン酸受容体に対する反復リガンドを有する合成糖ペプチドからなる群から選択される。本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーのうちの一つ以上は界面活性剤である。
【0062】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーはポロキサマーである。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーは、ポロキサマーp188である。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーは、ポロキサマーp407である。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーは、ポロキサマーp188とポロキサマーp407との組み合わせである。
【0063】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーは、組成物の約10重量%~約40重量%の量で本開示の組成物中に存在する。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーがポロキサマーである場合、ポロキサマーは、組成物の約10重量%~約40重量%、約10重量%~約35重量%、約10重量%~約25重量%、約10重量%~20重量%、約15重量%~約20重量%、約15重量%、または約30重量%の量で存在する。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーがポロキサマーp188とポロキサマーp407との組み合わせである場合、組み合わせは、組成物の約10重量%~約40重量%、または約30重量%の量で存在する。一部の実施形態では、細胞表面リモデリングポリマーがポロキサマーp188とポロキサマーp407との組み合わせである場合、各ポロキサマーは、組成物の15重量%の量で存在する。
【0064】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーが存在し、任意選択の薬剤が存在しない。
【0065】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、一つ以上の任意選択の薬剤が存在し、一つ以上の細胞表面リモデリングポリマーもまた存在する。
【0066】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、任意選択のポリプロピレングリコール(PPG)は、組成物の約0.1~約10重量%の量で存在する。一部の実施形態では、任意選択のPPGは、組成物の約5重量%~約10重量%、または約1重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約1重量%の量で存在する。
【0067】
本開示の第一の態様および他の態様の一部の実施形態では、本開示の保存剤組成物の一つ以上の構成要素は、保存剤組成物の一つ以上の他の構成要素の役割または機能を果たし得る。
【0068】
本開示の態様の一部の実施形態では、保存剤組成物の一つ以上の構成要素は、保存剤組成物の一つ以上の他の構成要素の役割または機能を果たし得る。例えば、酒石酸またはグルカル酸またはEDTAもしくはその塩は、酵素阻害剤、浸透圧剤、またはその両方として本開示の組成物中に存在してもよい。
【0069】
一部の実施形態では、本開示は、
a.1.57重量%のEDTAまたはその塩と、
b.15.00重量%のポロキサマーp188と、
c.15.00重量%のポロキサマーp407と、を含み、EDTAまたはその塩が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0070】
一部の実施形態では、本開示は、
a.2.5重量%のEDTAまたはその塩と、
b.15.00重量%のポロキサマーp188と、
c.15.00重量%のポロキサマーp407と、を含み、EDTAまたはその塩が、高張性溶液を生成するのに十分な量で存在する、核酸および細胞保存剤組成物を対象とする。
【0071】
本開示の様々な態様による保存剤組成物は、凍結乾燥粉末、顆粒、錠剤の形態、または溶液(例えば、保存剤組成物が適切なビヒクル中で再構成される)であってもよい。凍結乾燥粉末、顆粒、および/または錠剤は、生体試料に直接添加されてもよく、または生体試料に添加される前に再構成されてもよい。凍結乾燥粉末、顆粒、および/または錠剤は、例えば、組成物を適切なビヒクルに溶解することによって再構成されてもよい。適切なビヒクルとしては、水、生理食塩水、リンゲル溶液、植物由来の固定油、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、エタノール、グリセリン、およびプロピレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、生体試料は、凍結乾燥粉末、顆粒、錠剤、または再構成組成物(すなわち、溶液)に直接添加されてもよい。一部の実施形態では、生体試料が体液に由来する場合、体液は、保存剤組成物を可溶化するための許容可能なビヒクルとして役立ち得る。例えば、保存剤組成物の凍結乾燥粉末、顆粒、および/または錠剤形態は、体液と組み合わされ、それによって体液によって可溶化され得る。一部の実施形態では、採取管または容器は、生体試料が管または容器に採取される前に、凍結乾燥粉末、顆粒、錠剤または溶液として保存剤組成物を含有する。
【0072】
一部の実施形態では、本開示の保存剤組成物は、水溶液の形態である。水溶液は、生体試料と組み合わされてもよく、または生体試料が、水溶液と組み合わされてもよい。
【0073】
保存剤組成物と生体試料との組み合わせ、ならびに生体試料の核酸および/または細胞を保存する方法
第四の態様では、本開示は、本開示の保存剤組成物と生体試料との組み合わせを対象とする。
【0074】
第五の態様では、本開示は、本開示の保存剤組成物と生体試料とを組み合わせる工程を含む、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するための方法を対象とする。
【0075】
第四および第五の態様の一部の実施形態では、生体試料は、細胞または組織試料である。
【0076】
第四および第五の態様の一部の実施形態では、生体試料は体液に由来する。一部の実施形態では、体液は、血液、血漿、血清、尿、唾液、便、母乳、涙、汗、脳脊髄液、滑液、精液、膣液、腹水、または羊水である。好ましい実施形態では、生体液は、血液、例えば、全血またはその画分である。生体試料は、細胞を含んでもよく、または無細胞であってもよい。
【0077】
第四および第五の態様の一部の実施形態では、生体試料は、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、または循環性腫瘍細胞を含む。
【0078】
第四および第五の態様の一部の実施形態では、生体試料は、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む。一部の実施形態では、核酸は、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、核酸は、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである。
【0079】
生体試料は、本開示の保存剤組成物と多くの方法で組み合わせることができる。例えば、生体試料は、適切な容器に採取され、その後、例えばシリンジまたはピペットによって、その容器に保存剤組成物が添加され得る。保存剤組成物は、代替的に、生体試料の採取前に、生体試料の採取に好適な容器に添加することができる。一部の実施形態では、保存剤組成物は、生体試料に添加される。一部の実施形態では、生体試料が、保存剤組成物に添加される。
【0080】
これらの様々な態様の開示はまた、保存剤組成物の構成要素が生体試料に同時にまたは別々に添加される方法を企図する。したがって、一部の実施形態では、本開示は、生体試料中の核酸および/または細胞を保存する方法を対象とし、当該方法は、任意の順序で、または同時に、本開示の保存剤組成物の構成成分と生体試料とを接触させることを含む。一部の実施形態では、生体試料の採取に好適な容器は、保存剤組成物の構成要素のうちの一つ以上を既に含有し、残りの構成要素は、順次にまたは同時に、採取された生体試料に添加される。例えば、適切な酵素阻害剤(例えば、酒石酸、またはEDTAもしくはその塩、またはグルカル酸)を既に含有する血液採取管を使用して、生体試料を採取してもよい。生体試料の採取に続いて、残りの構成要素を生体試料に添加してもよい。別の実施形態では、保存剤組成物の構成要素は、生体試料が採取された後、順次にまたは同時に生体試料に添加される。一部の実施形態では、容器が試料を採取するために使用される前に、保存剤組成物の必要な構成要素のすべて、および随意に任意選択の構成要素が、容器中に存在する。
【0081】
一部の実施形態では、試料採取に使用される容器は、凍結乾燥粉末形態の保存剤組成物を含有する。一部の実施形態では、試料採取に使用される容器は、粒形態の保存剤組成物を含有する。一部の実施形態では、試料採取に使用される容器は、錠剤形態の保存剤組成物を含有する。一部の実施形態では、試料採取に使用される容器は、保存剤組成物および適切なビヒクルを含有する。一部の実施形態では、試料採取に使用される容器は、保存剤組成物を水溶液として含有する。別の実施形態では、使用される容器は、血液試料採取用であり、抗凝固剤をさらに含む。抗凝固剤の例としては、EDTA(酵素阻害剤としても機能し得る)、クエン酸ナトリウム、クエン酸-テオフィリン-アデノシン-ジピリダモール(CTAD)、ヘパリンリチウム、ヘパリンナトリウム、フッ化ナトリウム、酸-クエン酸-デキストロード(ACD)、およびポリアントールスルホン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、適切な容器は、真空血液試料採取管である。
【0082】
生体試料と組み合わされ得る保存剤組成物の量は、日常的な実験を通して当業者によって決定され得る。一部の実施形態では、保存剤組成物の生体試料に対する比は、約1:10~約1:1v/vであってもよい。一部の実施形態では、保存剤組成物の生体試料に対する比は、約1:8~約1:2v/vである。一部の実施形態では、保存剤組成物の生体試料に対する比は、約1:6~約1:3v/vである。一部の実施形態では、保存剤組成物の生体試料に対する比は、約1:5~約1:4v/vである。
【0083】
生体試料が採取され、本開示の保存剤組成物と接触した後、核酸および/または細胞は、当業者に公知の方法を使用して分析のために生体試料から単離されてもよい。こうした方法は、抽出、遠心分離、およびクロマトグラフィー法を含み得る。当業者であれば、核酸および/または細胞を生体試料から単離するために使用することができる多くの方法があることを認識するであろう。
【0084】
本開示の保存剤組成物を使用して保存される核酸および/または細胞は、様々な温度条件下で長期間の貯蔵後に、処理された生体試料から単離することができる。一部の実施形態では、本開示の保存剤組成物と接触した生体試料は、周囲条件下、または低温のいずれかで、少なくとも1日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間保存することができる。一部の実施形態では、本開示の組成物は、約-20°C~約30°Cの範囲の温度で長期間、生体試料(すなわち、生体試料中の核酸および/または細胞)の保存を可能にする。一部の実施形態では、保存剤組成物は、周囲温度で少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、生体試料(すなわち、生体試料中の核酸および/または細胞)を保存することができる。一部の実施形態では、保存剤組成物は、周囲温度で少なくとも2週間、生体試料を保存することができる。一部の実施形態では、本開示の保存剤組成物は、4°Cで少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、生体試料(すなわち、生体試料中の核酸および/または細胞)を保存することができる。一部の実施形態では、本開示の保存剤組成物は、-20°Cで少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、生体試料(すなわち、生体試料中の核酸および/または細胞)を保存することができる。本開示の組成物および方法を使用して保存される核酸(RNAおよびDNA)は、RNA増幅能(amplifiability)について、良好な収率、純度、完全性を示す。
【0085】
生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキット
本開示による保存剤組成物は、ユーザによって受容されるキットの一部として提供されてもよい。キットは、本開示の保存剤組成物を生体試料と容易に組み合わせることを可能にし、その結果、当該生体試料中に存在する核酸および/または細胞は、長期間、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間保存される。保存剤組成物は、生体試料が採取された後に生体試料と組み合わされるように提供され得る。あるいは、保存剤組成物は、生体試料が採取された時点で生体試料と組み合わされるように提供される。
【0086】
一部の実施形態では、保存剤組成物は、分配手段において水溶液として提供される。一部の実施形態において、分配手段はシリンジである。一部の実施形態では、分配手段中の保存剤の量は、生体試料と組み合わされる保存剤組成物の比が、その試料の核酸および/または細胞を長期間にわたって保存することができるような所定の量である。キットは、前述のシリンジに取り付け可能な針をさらに備えてもよい。一部の実施形態では、キットは、血液試料中の核酸および/または細胞を保存するためのものであり、任意選択で抗凝固剤を含有する血液採取管をさらに含む。任意選択の抗凝固剤の量は、細胞または核酸が単離される前の採取された血液試料が低減されたまたは最小限の凝固を示すように、予め決定され得る。当業者は、従来の方法を使用してこれらの量を容易に決定することができる。
【0087】
一部の実施形態では、保存剤組成物は、封止されたアンプル内に提供され、当該アンプルは、取り外し可能な閉鎖部を備え、当該アンプルは、ユーザによって閉鎖部が取り外された時に分配手段を受容するように構成される。一部の実施形態において、分配手段はピペットまたはシリンジである。一部の実施形態では、キットは、血液試料中の核酸および/または細胞を保存するためのものであり、抗凝固剤を含有する血液採取管をさらに含む。
【0088】
追加的実施形態では、キットは、血液試料中の核酸および/または細胞を保存すること、および任意選択で本開示の所定の量の抗凝固剤、および所定の量の保存剤組成物を含有する血液採取管を含むことを目的とする。
【0089】
第六の態様では、本開示は、
a.本明細書に開示される保存剤組成物と、
b.任意選択で、当該保存剤組成物の使用説明書と、を含む、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0090】
第七の態様では、本開示は、
a.任意選択で抗凝固剤を含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.本開示の保存剤組成物を含有するシリンジと、
c.任意選択で、当該シリンジに取り付け可能な針と、を備える、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0091】
第八の態様では、本開示は、
a.任意選択で抗凝固剤を含有する、血液または他の生体試料採取管と、
b.本開示の保存剤を含有する封止されたアンプルであって、当該アンプルが取り外し可能な閉鎖部を備え、かつ当該アンプルが、ユーザによる閉鎖部の取り外し時に分配手段を受容するように構成されている、封止されたアンプルと、を備える、生体試料中の核酸および/または細胞を保存するためのキットを対象とする。
【0092】
第六~第八の態様の一部の実施形態では、生体試料は、細胞または組織試料である。
【0093】
第六~第八の態様の一部の実施形態では、生体試料は体液に由来する。一部の実施形態では、体液は、血液、血漿、血清、尿、唾液、便、母乳、涙、汗、脳脊髄液、滑液、精液、膣液、腹水、または羊水である。一部の実施形態では、体液は、全血またはその画分である。生体試料は、細胞を含んでもよく、または無細胞であってもよい。
【0094】
第六~第八の態様の一部の実施形態では、生体試料は、幹細胞、骨細胞、血液細胞、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、性細胞、膵臓細胞、癌細胞、腫瘍細胞、循環性腫瘍細胞、またはそれらの組み合わせを含む。
【0095】
第六~第八の態様の一部の実施形態では、生体試料は、RNA、DNA、またはそれらの組み合わせから選択される核酸を含む。一部の実施形態では、核酸は、無細胞RNA、無細胞DNA、またはそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、核酸は、細胞RNA、細胞DNA、またはそれらの組み合わせである。
【0096】
均等物
前述の説明および以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を詳述し、発明者らによって企図される本開示を実施する最良の方法を説明する。しかしながら、当然のことながら、前述の内容が文章でどのように詳細に記述されようとも、本開示は多くの方法で実施することができ、本開示は、添付の実施形態およびその任意の均等物に従って解釈されるべきである。
【0097】
本開示は、様々な用途、方法、化合物、および組成物に関して説明されてきたが、様々な変更および修正が、本明細書の開示から逸脱することなくなされ得ることが理解されるであろう。以下の実施例は、本開示をより良く例示するために提供され、本明細書に提示される教示の範囲を限定することを意図するものではない。本開示は、これらの例示的な実施形態に関して説明されてきたが、当業者であれば、これらの例示的な実施形態の多くの変形および修正が、過度の実験なしに可能であることを容易に理解するであろう。こうした変形および修正はすべて、本開示の範囲内である。
【実施例
【0098】
実施例1-組成物
本開示の保存剤組成物を表1に示す。
【表1】
【0099】
実施例2-血漿体積の分析
様々なドナーからの血液試料を血液試料採取管に採取して、本開示による保存剤組成物で処理された試料の血漿体積を評価する。保存剤組成物は、2mLの保存剤組成物を含有する管に血液試料を添加することによって試験される。
【0100】
次いで、保存剤組成物および血液試料の組み合わせを、室温で約15分間、425gで遠心分離し、その結果、採取管内にペレットが形成される。次に、分離された構成要素を乱すことなく、上部血漿層(上清)をピペットを使用して別個の採取管に移す。次いで、移された上清を、4°Cおよび16,000gで約15分間再び遠心分離して、不注意で移された細胞片または沈殿物を除去し、残留血漿の体積を測定する。測定された体積は、本明細書では「血漿体積」と呼ばれる。
【0101】
理論に束縛されることを望むものではないが、「血漿体積」は、ハイスループット用途における本開示の態様の使用を容易にする上で重要な因子であると予想される。これらの用途における自動化およびロボットの使用は、理想的には3~6mLの一貫した血漿体積を必要とする。
【0102】
上記の手順に従って処理され、組成物1~5、8~9、および11~12を含む管に保存された混合物の「血漿体積」は、2日後に4.3~4.9mL、7日後に4.1~5.2mL、14日後に4.2~5.0mL、および21日後に4.5~5.1mLの範囲であることが観察された。すべてが所望の範囲内である。
【0103】
実施例3-単離されたcfDNAおよびRNAの完全性の分析
様々なドナーからの血液試料を血液試料採取管に採取して、本開示の保存剤組成物の実施形態のcfDNAおよびRNAを保存する能力を評価する。保存剤組成物は、2mLの保存剤組成物を含有する管に血液試料を添加することによって試験される。
【0104】
cfDNAおよびRNAは、当技術分野で公知の抽出および分離技術を使用して試料から単離される。こうしたcfDNA抽出方法の一つは、MagMAX(商標)Cell-Free DNA Isolation Kitを使用することを伴う。こうしたRNA抽出方法の一つは、Beckman CoulterのRNAdvance Blood Kitに基づく手順を使用することを伴う。
【0105】
単離されたcfDNAおよびRNAは、1日目および様々な後続の日に分析され、血液は0日目に採取される。核酸の完全性を分析して、保存剤組成物の特性を評価する。
【0106】
cfDNAの完全性
cfDNAの完全性は、長いDNA断片および短いDNA断片のqPCRによって分析され、短い断片に対する長い断片の比(222bp/90bp)によって特徴付けられる。得られた比は、本明細書ではDNA完全性数(DIN)と呼ばれる。DINは、cfDNA品質の客観的測定基準である。DINが<0.5である場合、cfDNAは純粋であるとみなされる(すなわち、血漿がgDNA(細胞DNAまたはゲノムDNA)によって汚染されていない)。
【0107】
gDNAの10倍希釈系列(1ng/μL~0.01ng/μL)を、標準曲線用に調製する。5μLの100μMフォワードプライマー、5μLの100μMリバースプライマーを、90μLのヌクレアーゼを含まない水と混合することによって、フォワードプライマーおよびリバースプライマーミックスを、5μMの濃度で調製する。
【0108】
混合物#1中の1つの反応のために、それぞれ1μLの標準試料またはcfDNA試料、および8μLのヌクレアーゼを含まない水、ならびに混合物#2中の1つの反応のために、1μLのプライマー混合物および10μLの2X PowerTrack SYBR Green Master Mix(ThermoFisher Scientific)を用いて、二つの別個の混合物を調製する。9μLの混合物#1および11μLの混合物#2を、96ウェル光学プレートのウェルに添加して、リアルタイムPCRを実行する。熱サイクル条件を以下の表に記載する。
【表2】
【0109】
RNAの完全性
試料からのRNAの完全性は、アガロースゲル電気泳動を使用してBioAnalyzerによって分析され、RNA完全性数(RIN)によって特徴付けられる。RINは、10(高インタクトRNA)~1(完全に分解されたRNA)の範囲の総RNA品質の客観的測定基準である。
【0110】
表1の組成物を使用して保存された血液試料中のcfDNAの特性
組成物1~5、8~9、および11~12を含む管に保存された血液試料から抽出されたcfDNAの完全性(すなわち、DIN)は、概して高い。qPCRアッセイからの短い断片に対する長い断片の比(222bp/90bp)は、2日後に<0.1~0.5、7日後に<0.1~0.2、14日後に<0.1~0.2、および21日後に<0.1~0.21の範囲内であることが観察された。
【0111】
表1の組成物を使用して保存された血液試料中のRNAの特性
組成物1~5、8~9、および11~12を含む管に保存された血液試料から単離されたRNAのRINは、2日目に9.3~8.8、3日目に8.8~8.4、5日目に8.2~7.6、7日目に8.0~6.9、および10日目に7.4~5.2の範囲のRINを有することが観察されたため、概して高い。
【0112】
本明細書に列挙される個々の実施形態のいずれも、本発明の一つ以上の実施形態において個別に使用されてもよく、または組み合わせられてもよい。
【国際調査報告】