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特表2024-525715生物製剤の生成物関連バリアントを決定するための質量分析法ベースの戦略
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】生物製剤の生成物関連バリアントを決定するための質量分析法ベースの戦略
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20240705BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 17/10 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 14/36 20060101ALI20240705BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K1/22
G01N30/88 J
G01N30/02 B
G01N30/72 C
C07K1/18 ZNA
C07K17/10
C07K14/36
C07K1/20
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501667
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 US2022036870
(87)【国際公開番号】W WO2023287823
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/221,436
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユエティエン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チェンキ
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA09
2G041JA13
2G041LA08
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA22
4H045GA23
4H045GA25
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、タンパク質特徴付けの分野に関し、特に、不十分な抗原による競合結合アッセイ及びその後のSCX-MSの使用を含むワークフローを実施することによって、宿主細胞で発現された治療用タンパク質の重要品質特性を特定するための方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けるための方法であって、
a.目的のタンパク質と前記目的のタンパク質の少なくとも1つの生成物関連バリアントとを含む試料を得ることと、
b.前記試料を、ビーズ上に固定化された不十分な標的を含む競合結合条件に接触させることと、
c.フロースルーを回収するために、前記ビーズを洗浄することと、
d.前記目的のタンパク質と前記少なくとも1つの生成物関連バリアントとを分離するために、前記フロースルーを液体クロマトグラフィー-質量分析法分析に供することと、
e.前記少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けるために、(d)からの前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量を、(a)の対照試料の液体クロマトグラフィー-質量分析法分析から得られた前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量と比較することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフィーが、強陽イオン交換クロマトグラフィーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビーズが、アガロースビーズ又は磁気ビーズである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フロースルーが、前記少なくとも1つの生成物関連バリアントについて濃縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(c)の前記フロースルーが、遠心分離を行うことによって回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
液体クロマトグラフィー-質量分析法分析の前に、(c)の前記フロースルーを消化条件に供することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーズが、ストレプトアビジン樹脂でコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記不十分な標的が、前記目的のタンパク質の約30%~約80%に結合することができる量の前記標的を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(b)の前記試料が、約1時間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(b)の前記試料が、ほぼ室温でインキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生成物関連バリアントが、サイズバリアントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記サイズバリアントが、前記目的のタンパク質の断片化バリアントである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記サイズバリアントが、前記目的のタンパク質の凝集バリアントである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記生成物関連バリアントが、前記目的のタンパク質の電荷バリアントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生成物関連バリアントが、前記目的のタンパク質の翻訳後修飾バリアントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記標的が、前記目的のタンパク質を対象とする抗原である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
(d)からの前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの前記存在量が、(a)の前記対照試料の前記液体クロマトグラフィー-質量分析法分析から得られた前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの前記存在量よりも顕著に多い場合、前記生成物関連バリアントが、重要品質特性として特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月13日に出願された米国仮特許出願第63/221,436号の優先権及び利益を主張するものであり、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、競合結合質量分析法ワークフローを使用して、生物製剤の構造及び機能を維持するために重要な生成物関連バリアントを決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
生物製剤は、がん、自己免疫疾患、感染症、及び心臓代謝障害の治療のための重要な薬物として出現しており、それらは製薬業界の最も急速に成長している製品セグメントの1つを表している。生物製剤は、非常に高い純度基準を満たさなければならない。したがって、薬剤の開発、生産、保管、及び取り扱いの、異なる段階で不純物を監視することが重要になる可能性がある。多くの場合、安全性及び有効性に関連し得る多数の品質特性の影響を完全に評価することは困難である。製造プロセスパラメータ及び材料特性の製品品質の変動に対する影響も、完全に特徴付けることは困難である。
【0004】
堅牢な製造業務のためには、製品のライフサイクル全体にわたって適切なリスク評価及び軽減策を実施するとともに、体系的なプロセスの特徴付けに基づいて、統合された制御戦略を開発し、時間をかけて改善することが重要である。したがって、設計基準による品質に対する必要性が存在する。国連の世界保健機関(WHO)は、事後に製品をテストするだけで効果的な品質管理を実施することは困難(かつ事実上不可能)であるため、設計上の品質を標準として推奨している。重要品質特性(CQA)は、設計実装によるほとんどの品質が中心となるベンチマークとして機能する。CQAは、所望の製品品質を確保するために適切な制限、範囲、又は分布内にあるべき物理的、化学的、生物学的、又は微生物学的特性又は特徴である。CQAは一般に、原薬、賦形剤、中間体(プロセス中の材料)、及び医薬品と関連している。生物製剤の場合、CQAは、製品又はプロセスに関連する不純物であり得る。生成物関連不純物には、サイズバリアント(凝集体又は断片)、翻訳後修飾を有するバリアント、又は電荷バリアントが含まれ得る。プロセス関連不純物は、宿主細胞のDNA又は宿主細胞タンパク質(HCP)、浸出物(プロテインAなど)、及びウイルスなどのプロセスの固有の部分である。最終医薬品中にこれらの不純物が存在すると、製品の純度、製品の有効性、及び安定性に影響を与える可能性がある。
【0005】
したがって、生物製剤のCQAを特定することは、複雑なプロセスとなる可能性がある。現在、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)、エレクトロスプレーイオン化-質量分析法(ESI-MS)、分画、又はバリアント特定は、インタクトな又は消化された生物製剤の物理化学的特徴付けに使用することができる。活性の特徴付けは、結合活性のために、ELISAベースのバイオアッセイ、細胞ベースのバイオアッセイ、又は表面プラズモン共鳴(SPR)若しくはバイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して行うことができる。これらの方法では、生成物関連CQAを、まず、強化又は単離し、次いで、個別に又は経験若しくは事前の知識に基づいて評価する必要がある。ワークフローに対するこのようなアプローチにより、スループットが低下する可能性がある。
【0006】
したがって、当技術分野では、そのような品質管理特性を決定するための効率的な方法に対する長年にわたる必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
概要
本明細書に開示される例示的な実施形態は、それらを強化することによって生成物関連CQAを特定するための方法を提供することで、前述の要求を満たす。
【0008】
本開示は、少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けることを提供し、当該方法は、
目的のタンパク質と当該目的のタンパク質の少なくとも1つの生成物関連バリアントとを含む試料を得ることと、
当該試料をビーズ上に固定化された不十分な標的を含む競合結合条件に接触させることと、
フロースルーを回収するために、当該ビーズを洗浄することと、
当該目的のタンパク質と当該少なくとも1つの生成物関連バリアントとを分離するために、当該フロースルーを液体クロマトグラフィー-質量分析法分析に供することと、
当該少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けるために、当該試料を当該競合結合条件に接触させる前に、当該少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量を対照試料の液体クロマトグラフィー-質量分析法分析から得られた当該少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量と比較することと、
を含む。
【0009】
この実施形態の一態様では、標的は、目的のタンパク質を対象とする抗原である。
【0010】
この実施形態の一態様では、結合条件は、ビーズ上に固定化された不十分な標的を提供する。この実施形態の同じ又は別の態様では、少なくとも1つの生成物関連バリアントは、当該不十分な標的との結合が損なわれている。
【0011】
この実施形態の一態様では、液体クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィーである。この実施形態の特定の態様では、液体クロマトグラフィーは、強陽イオン交換クロマトグラフィーである。
【0012】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である。この実施形態の特定の態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計である。
【0013】
この実施形態の一態様では、当該ビーズは、磁性である。この実施形態の別の態様では、当該ビーズは、非磁性である。更なる態様では、当該ビーズは、アガロースビーズである。更に別の態様では、当該ビーズは、ペプチド又はタンパク質でコーティングすることができる。
【0014】
この実施形態の一態様では、当該フロースルーは、当該少なくとも1つの生成物関連バリアントについて濃縮されている。
【0015】
この実施形態の同じ又は別の態様では、当該フロースルーは、遠心分離を行うことによって回収される。
【0016】
この実施形態の一態様では、当該標的は、当該ビーズ上に固定化する前にビオチン化される。この実施形態の同じ又は他の態様では、当該ビーズは、ストレプトアビジン樹脂でコーティングされる。この実施形態の特定の態様では、当該ビーズは、非磁性である。別の特定の態様では、当該ビーズは、磁性である。
【0017】
この実施形態の一態様では、当該不十分な標的は、当該標的の量が、目的のタンパク質の約30%~約80%の結合を可能にするようなものである。
【0018】
この実施形態の別の態様では、当該試料は、洗浄する前に約1時間インキュベートされる。この実施形態の同じ又は他の態様では、当該試料は、洗浄前に室温でインキュベートされる。
【0019】
この実施形態の一態様では、本方法は、2つ以上の生成物関連バリアントを特定することができる。特定の態様では、当該生成物関連バリアントは、サイズバリアントを含む。特定の態様では、当該サイズバリアントは、当該目的のタンパク質の断片化バリアントである。特定の態様では、当該サイズバリアントは、当該目的のタンパク質の凝集バリアントである。
【0020】
実施形態の一態様では、当該生成物関連バリアントは、当該目的のタンパク質の電荷バリアントを含む。特定の態様では、当該生成物関連バリアントは、当該目的のタンパク質の翻訳後修飾バリアントを含む。
【0021】
この実施形態の一態様では、当該少なくとも生成物関連バリアントの当該存在量が、当該試料を当該競合結合条件に接触させる前に、当該試料中の当該少なくとも生成物関連バリアントの当該存在量よりも顕著に多い場合、当該生成物関連バリアントは、重要品質特性として分類される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】サイズバリアント、電荷バリアント、及び翻訳後修飾(PTM)を含む、抗体の可能な異なる生成物関連バリアントの描写である。
図2】タンパク質薬物開発中にCQAを決定又は監視するために日常的に使用される方法の描写である。
図3A】例示的な実施形態による、少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法を示す。
図3B】例示的な実施形態による、少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法を示す。
図4】例示的な実施形態による、少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法の、方法設計及びワークフローを示す。
図5】例示的な実施形態による、抗原対抗体比を決定する方法設計及びワークフローを示す。
図6】例示的な実施形態による、抗原対抗体比を決定するために得られた滴定曲線を示す。
図7】例示的な実施形態による、mAb1の生成物関連バリアントについて濃縮されていない試料のクロマトグラムを示す。
図8】例示的な実施形態及び対照実験による、低減された結合親和性を有するmAb1の生成物関連バリアントについて濃縮された試料のクロマトグラムの比較を示す。
図9】例示的な実施形態による、低減された結合親和性を有する生成物関連バリアントについて濃縮されたmAb1の異なる生成物関連バリアントの抽出イオンクロマトグラム(XIC)と、対照実験との比較を示す。
図10】例示的な実施形態及び対照実験による方法を使用して特定された、mAb1の生成物関連バリアントの相対パーセンテージのチャートを示す。
図11】bsAb1の構造を示す。
図12】例示的な実施形態及び対照実験による、低減された結合親和性を有するmAb2の生成物関連バリアントについて濃縮された試料のXICの比較を示す。
図13】例示的な実施形態及び対照実験による方法を使用して特定された、bsAb1の脱アミド化バリアントの相対パーセンテージのチャートを示す。
図14】例示的な実施形態及び対照実験による方法を使用して特定された、bsAb1の生成物関連バリアントの相対パーセンテージのチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
生物製剤製品中の生成物関連バリアントの特定及び定量化は、製品の生産及び開発中に非常に重要であり得る。そのようなバリアントの特定は、安全で有効な製品を開発するために不可欠であり得る。したがって、CQAを特徴付けるための堅牢な方法及び/又はワークフローは有益であり得る。
【0024】
ICH Q8の付属書では、CQAを、所望の製品の品質、安全性/免疫原性、有効性、及び薬力学/薬物動態を確保するために適切な制限、範囲、又は分布内にあるべき物理的、化学的、生物学的、又は微生物学的な特性又は特徴として定義している。(US Food and Drug Administration.Guidance for industry:Q8(R2)pharmaceutical development.www.fda.gov/media/71535/download)。したがって、CQAは、所望の製品の品質、安全性、及び有効性を確保するために、適切な制限、範囲、又は分布内でなければならない。例えば、臨床活性のために分画結晶化可能(Fc)媒介エフェクター機能に依存するモノクローナル抗体治療薬について、Fcグリカンの末端糖は、安全性又は有効性にとって重要であることが示されている。そのようなCQAには、目的のタンパク質の結合に影響を与え得る、サイズ及び電荷のバリアントなどの生成物関連バリアントが含まれる。
【0025】
図1は、タンパク質の重要品質特性に影響を与え得るバリアントの非限定的な例を示す。図1に示される抗体の場合、生成物関連不純物は、断片化生成物(LMW)及び凝集生成物(HMW)のようなサイズバリアントであり得る。他の生成物関連不純物は、N末端ブロッキング、ジスルフィド結合形成、C末端クリッピング、Fcグリカン微小不均一性、又は翻訳後修飾によって形成される電荷バリアントであり得る。これらは、目的のタンパク質の結合の減少を引き起こす可能性があり、製造及び送達プロセスの様々な部分で監視される必要がある。
【0026】
従来の方法の1つは、強陽イオン交換クロマトグラフィー(SCX)の使用を含む。図2に、そのようなワークフローの1つを示す。これは、SCXによる目的のタンパク質及びそのバリアントの分離を行い、続いて、目的のタンパク質及びそのバリアントの結合アッセイを実施して、バリアントが、目的のタンパク質と比較して、損なわれた、すなわち、低減された結合親和性を有しているかどうかを特定することを含む。
【0027】
既存の方法の限界を考慮して、二量体種の特定及び定量化のための効果的かつ効率的な方法が開発された。
【0028】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似又は等価な任意の方法及び材料が、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料がここで記載される。言及される全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。
【0030】
一部の例示的な実施形態では、本開示は、目的のタンパク質を含む試料中の少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定する方法を提供する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、当技術分野で一般に「ポリペプチド」として知られる、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びその合成非天然に存在する類似体、関連する天然に存在する構造バリアント、及びその合成非天然に存在する類似体から構成されたポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含有し得る。タンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含むことができる。タンパク質は、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、ピキア属の種(Pichia sp.))、哺乳類システム(例えば、CHO細胞、及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの生産システムを使用して生産することができる。生物治療用タンパク質及びその生産を考察する総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(BIOTECHNOL.GENET.ENG.REV.147-175(2012))を参照されたい。一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含む。それらの修飾、付加物及び部分としては、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の色素などが挙げられる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類することができるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、リポタンパク質などの複合タンパク質、及び一次派生タンパク質、二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0032】
一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質であり得る。
【0033】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖、を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、CH2、及びC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼称される、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼称される、超可変性の領域へと更に細分することができる。各V及びVは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置された、3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。異なる例示的な実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の好適な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは、既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。DNAは、化学的又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な配置に配置するか、又はコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、追加若しくは削除することができる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続されている組換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的若しくは化学的に産生することができ、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生することができる。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、全体又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、必要に応じて、一本鎖抗体断片を含み得る。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、必要に応じて、多分子複合体を含み得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用可能な又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンから得ることができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の多種多様な技術を使用して調製することができる。
【0036】
本明細書で使用される「Fc融合タンパク質」という用語は、そのうちの1つが免疫グロブリン分子のFc部分であり、それらの天然状態で融合されていない、2つ以上のタンパク質の一部又は全部を含む。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合した特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88:10535,1991、Byrn et al.,Nature 344:677,1990、及びHollenbaugh et al.,“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合した受容体の1つ以上の細胞外ドメインのうちの1つ以上を含み、これは、一部の実施形態では、ヒンジ領域、続いて、免疫グロブリンのCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、1つの、または2つ以上のリガンドに結合する2つ以上の別個の受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合されたIL-1 RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト;米国特許第6,927,004号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合されたVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合されたVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するアフリバセプト、例えば、配列番号1;米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。
【0037】
本明細書で使用される場合、「標的」という用語は、薬理学的効果を達成するために治療用タンパク質と特異的に相互作用することができる任意の分子を指す。例えば、抗体の標的は、それが対象とする抗原であり得、リガンドの標的は、それが優先的に結合する受容体であり得、逆もまた同様であり得、酵素の標的は、それが優先的に結合する基質であり得る、などである。単一の治療用タンパク質は、2つ以上の標的を有することができる。様々な標的は、特定の用途に従って、本発明の方法における使用に好適である。標的は、例えば、細胞表面に存在してもよく、可溶性であってもよく、細胞質性であってもよく、又は固体表面に固定化されてもよい。標的は、組換えタンパク質であり得る。一部の例示的実施形態では、標的は、抗原であり得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「不純物」という用語は、タンパク質生物学的製剤製品に存在する任意の望ましくないタンパク質を含むことができる。不純物には、プロセス及び生成物関連不純物が含まれ得る。不純物は更に、既知の構造を有するか、部分的に特徴付けられるか、又は未特定であり得る。
【0039】
プロセス関連不純物は、製造プロセスから誘導することができ、3つの主要なカテゴリー:細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来、を含むことができる。細胞基質由来の不純物は、宿主生物由来のタンパク質及び核酸(宿主細胞のゲノム、ベクター、又は全DNA)を含むが、これらに限定されない。細胞培養由来の不純物は、誘導物質、抗生物質、血清、及びその他の培地成分を含むが、これらに限定されない。下流由来不純物としては、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の浸出性物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
生成物関連不純物(例えば、前駆体、特定の分解産生物)は、活性、有効性、及び安全性に関して所望の産生物のものと同等の特性を有しない、製造及び/又は保存中に生じる分子バリアントであり得る。そのようなバリアントは、修飾のタイプを特定するために、単離及び特徴付けにおけるかなりの努力を必要とし得る。生成物関連不純物には、切断形態、修飾形態、及び凝集体が含まれ得る。切断形態は、ペプチド結合の切断を触媒する加水分解酵素又は化学物質によって形成される。修飾形態としては、脱アミド化、異性化、ミスマッチS-S連結、酸化、又は改変共役形態(例えば、グリコシル化、リン酸化)が挙げられるが、これらに限定されない。修飾形態はまた、任意の翻訳後修飾形態を含み得る。凝集体には、所望の生成物の二量体及びより高い多量体が含まれる。(Q6B Specifications:Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products,ICH August 1999,U.S.Dept.of Health and Humans Services)。
【0041】
いくつかの生成物関連不純物又は生成物関連タンパク質バリアントは、結合親和性を損なっている。損なわれた結合親和性は、本明細書において、体内の目的のタンパク質又は目的のタンパク質のために設計された抗原の、標的に対する低減された結合親和性を含む。損なわれた結合親和性は、体内の目的のタンパク質の標的又は目的のタンパク質のために設計された抗原に対する目的のタンパク質の親和性よりも低い、任意の親和性であり得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般的な用語は、ポリペプチドがリボソーム合成の間(翻訳時修飾)又はその後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは概して、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位に存在する。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は、タンパク質の構造又は機能の何らかの側面に常に影響を及ぼす(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,published by Wiley and Sons,Ltd.,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾としては、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(通常、タンパク質のN末端でのアセチル基の付加)、アルキル化(通常、リジン又はアルギニン残基でのアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又はポリペプチド鎖間の共有結合架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンのヒドロキシル化並びにカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKは、γ-カルボキシグルタメート(グルタミン酸残基)の形成をもたらすグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子である)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(共有結合グリシン残基)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリシン、セリン、又はスレオニンのいずれかにグリコシル基を付加し、糖タンパク質をもたらす)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能基の付加)、ホスホパンテテイニル化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシンの生合成などにおけるコエンザイムAからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、及び硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾としては、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸への又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が挙げられるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾としては、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質切断(ペプチド結合でのタンパク質の切断)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の翻訳後修飾は、ISG化(ISG15タンパク質(インターフェロン活性化遺伝子)への共有結合)、SUMO化(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン関連修飾因子)への共有結合)、及びユビキチン化(タンパク質へのユビキチンの共有結合)などの他のタンパク質又はペプチドの付加を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、欧州バイオインフォマティクス研究所タンパク質情報リソース、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所、欧州バイオインフォマティクス研究所Drs-ドロソマイシン前駆体-Drosophila melanogaster(ショウジョウバエ)-Drs遺伝子及びタンパク質、http://www.uniprot.org/docs/ptmlist(最終訪問日:2019年1月15日)を参照されたい。
【0043】
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィー」という用語は、液体又は気体によって運ばれる化学的混合物が、静止した液相又は固相の周囲又はその上を流れる際の化学物質の分布の差の結果として、複数の成分に分離することができるプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)クロマトグラフィー、イオン交換(IEX)クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、及び順相(NP)クロマトグラフィーが挙げられる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「陽イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」を使用するクロマトグラフィー方法を意味する。更に、荷電基の性質に応じて、「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」は、例えば、スルホン酸基(S)又はカルボキシメチル基(CM)を有する陽イオン交換クロマトグラフィー材料の場合を指す。荷電基の化学的性質に応じて、「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」は、共有結合した荷電置換基の強度に応じて、強イオン交換クロマトグラフィー材料又は弱イオン交換クロマトグラフィー材料として更に分類することができる。例えば、強陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、クロマトグラフィー官能基としてのスルホン酸基を有する。
【0045】
例えば、「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」は、Bio-Rex、Macro-Prep CM(BioRad Laboratories、Hercules,Calif.,USAから入手可能)、弱陽イオン交換体WCX2(Ciphergen、Fremont,Calif.,USAから入手可能)、Dowex MAC-3(Dow化学企業、Midland,Mich.,USAから入手可能)、Mustang C(Pall Corporation、East Hills,N.Y.,USAから入手可能)、セルロースCM-23、CM-32、CM-52、hyper-D、及びpartisphere(Whatman plc、Brentford,UKから入手可能)、Amberlite IRC76、IRC747、IRC748、GT73(Tosoh Bioscience GmbH、Stuttgart,Germanyから入手可能)、CM1500、CM3000(BioChrom Labs、Terre Haute,Ind.、USAから入手可能)、並びにCM-Sepharose Fast Flow(GE Healthcare、Life Sciences、Germanyから入手可能)などの様々な名前で、多くの会社から入手可能である。加えて、市販の陽イオン交換樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、Bakerbond ABX、アガロースに固定化されたスルホプロピル(SP)(例えば、GE Healthcare-Amersham Biosciences Europe GmbH、Freiburg,Germanyから入手可能なSP-Sepharose Fast Flow又はSP-Sepharose High Performance、)及びアガロース上に固定化されたスルホニル(例えば、GE Healthcare、Life Sciences、Germanyから入手可能なS-Sepharose Fast Flow)が更に挙げられる。
【0046】
「陽イオン交換クロマトグラフィー材料」には、イオン交換及び疎水性相互作用技術の組み合わせを行う混合モードクロマトグラフィー材料(例えば、Capto adhere、Capto MMC、MEP HyperCell、Eshmuno HCXなど)、陰イオン交換及び陽イオン交換技術の組み合わせを行う混合モードクロマトグラフィー材料(例えば、ヒドロキシアパタイト、セラミックヒドロキシアパタイトなど)などが含まれる。本発明における陽イオン交換クロマトグラフィーに使用され得る陽イオン交換クロマトグラフィー材料としては、上に記載される全ての市販の陽イオン交換クロマトグラフィー材料が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施例では、陽イオン交換クロマトグラフィー材料として、YMC BioPro SP-Fカラムを使用した。
【0047】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を認識し、その正確な質量を測定できるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドが検出及び/又は特徴付けのために、その中に溶出され得る、任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器という3つの主要な部分を含む。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。検体の原子、分子、クラスタは気相に移行され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)イオン化される。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0048】
一部の実施形態では、質量分析計は、エレクトロスプレー質量分析計であり得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、溶液を含むエレクトロスプレーニードルの先端と対向電極との間に電位差を与えることによって発生する高電荷液滴の流れを大気圧下で形成して脱溶媒することにより、溶液中の陽イオン又は陰イオンが気相に移行するスプレーイオン化プロセスを指す。溶液中の電解質イオンから気相イオンを産生するには、一般に3つの主要なステップがある。これらは、(a)ES注入チップで荷電液滴を生成し、(b)溶媒の蒸発と繰り返しの液滴崩壊による荷電液滴の収縮により、気相イオンを生成することができる小さい高度に荷電した液滴を生成し、及び(c)メカニズムにより、非常に小さく、高度に荷電した液滴から気相イオンを生成する。段階(a)~(c)は通常、装置の大気圧領域で発生する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレー注入セットアップ」という用語は、タンパク質の質量分析に使用される質量分析計と適合性があるエレクトロスプレーイオン化システムを指す。エレクトロスプレーイオン化では、エレクトロスプレー針は、そのオリフィスが分光計の入口オリフィスの近くに配置される。目的のタンパク質を含有する試料は、シリンジ針を通してポンプで送ることができる。シリンジ針オリフィスと質量分析器につながるオリフィスとの間の電位は、溶液のスプレー(「エレクトロスプレー」)を形成する。エレクトロスプレーは、大気圧で実施することができ、溶液の高帯電液滴を提供する。エレクトロスプレー注入セットアップは、エレクトロスプレーエミッタ、噴霧ガス、及び/又はESI電源を含むことができる。セットアップは、必要に応じて、試料吸引、試料分配、試料送達を実行するために、かつ/又は試料をスプレーするために自動化することができる。
【0051】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であり得る。
【0052】
本明細書で使用される「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合、外部溶媒送達を使用しない、非常に低い溶媒流量、典型的には、数百ナノリットル/分以下の試料溶液におけるエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入セットアップは、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液の連続分析を行う。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、キャピラリーカラム及び溶媒送達システムを使用して、質量分析計による分析の前に混合物に対してクロマトグラフィー分離を行う。
【0053】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスタを分離することができるデバイスを含む。高速タンパク質配列決定のために用いられ得る質量分析計の非限定的な例は、飛行時間型(TOF)、磁気/電気セクタ、四重極質量フィルター(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及び加速器質量分析法(AMS)の技術である。
【0054】
一部の例示的な実施形態では、質量分析法は、ネイティブ条件下で行うことができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ条件」又は「ネイティブMS」又は「ネイティブESI-MS」という用語は、分析物中の非共有結合性相互作用を保存する条件下で質量分析法を行うことを含み得る。ネイティブMSについての詳細な総説については、総説Elisabetta Boeri Erba&Carlo Petosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 Protein Science 1176-1192(2015)を参照されたい。ネイティブESIと通常のESIの違いのいくつかを、表1及び図1に例示する(Hao Zhang et al.,Native mass spectrometry of photosynthetic pigment-protein complexes,587 FEBS Letters 1012-1020(2013))。
【0056】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、複数段階の質量選択及び質量分離を使用して試料分子の構造情報を取得する技術を含む。必要条件は、試料分子が気相に移行され得、インタクトなままイオン化され得ること、及びこれらの分子が、第1の質量選択ステップ後に、いくらかの予測可能かつ制御可能な方式でばらばらになるように誘導され得ることである。多段階MS/MS又はMSは、有意義な情報が得られ、又はフラグメントイオン信号が検出可能である限り、まず前駆体イオンを選択して分離し(MS)、断片化し、一次断片イオンを分離し(MS)、断片化し、二次断片イオンを分離し(MS)、などによって行うことができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に行われている。ある特定の用途にどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、速度だけでなく、サイズ、コスト、可用性など、多くの異なる要因によって決まる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、タンデムインスペースとタンデムインタイムであり、しかし、タンデムインタイム分析器が空間内で結合された又はタンデムインスペース分析器と結合されたハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源と、前駆体イオン活性化デバイスと、少なくとも2つの非捕捉質量分析器とを備える。特定のm/z分離関数は、機器の1つのセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで、生成イオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に送られるように設計され得る。タンデムインタイムでは、イオン源で生成された質量分析計イオンを同じ物理デバイス内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0058】
質量分析計によって特定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理代表として使用され得る。それらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質特徴付けのために使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特徴付けとしては、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定の決定、タンパク質デノヴォ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置決定、又は翻訳後修飾若しくは比較可能性分析の特定、あるいはそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在する可能性があるタンパク質配列の編集されたコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究される種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公的データベースは、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされるデータベースを含んでいた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるものを使用して検索することができる。バイオインフォマティクスツールは、データベース中の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、出力として、解釈された(アノテーションされた)MS/MSスペクトルを提供する。かかるツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic) 又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0060】
一部の実施形態では、少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法は、固体表面に固定化された不十分な抗原を用いた競合結合アッセイを使用することを含むことができる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「固体表面」という用語は、抗原に結合する能力を有する任意の表面を含むことができる。固体表面の非限定的な例としては、アビジン、ストレプトアビジン、又は中性アビジンなどの固定化されたタンパク質を有する、親和性樹脂、ビーズ、及びコーティングされたプレートを挙げることができる。
【0062】
一部の実施形態では、目的のタンパク質を含む試料は、競合結合アッセイの後、しかしそれをSCX-MSを通して評価する前に、消化することができる。
【0063】
一部の実施形態では、目的のタンパク質を含む試料は、還元剤を試料に添加することによって処理することができる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「還元すること」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元を指す。タンパク質を還元するために使用される還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。一部の特定の実施形態では、処理は、アルキル化を更に含むことができる。一部の他の特定の例示的な実施形態では、処理は、タンパク質上のスルフヒドリル基のアルキル化を含むことができる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「処理すること」又は「同位体的標識すること」という用語は、タンパク質を化学標識することを指すことができる。タンパク質を化学標識する方法の非限定的な例としては、4-plex、6-plex、及び8-plexなどの試薬を使用した相対定量化及び絶対定量化のための同重体タグ(iTRAQ)、アミンの還元的脱メチル化、アミンのカルバミル化、タンパク質のC末端上の18O-標識、又はアミン基若しくはスルフヒドリル基を標識するためのタンパク質の任意のアミン基若しくはスルフヒドリル基が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語とは、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解をいう。適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化を行うための複数の手法(例えば、酵素的消化又は非酵素的消化)が存在する。
【0067】
本明細書で使用される場合、「加水分解剤」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる薬剤のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、及びアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)のプロテアーゼが挙げられる。非酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、溶媒(非限定的な例はエタノール及びアセトニトリル)、固定化酵素消化(IMER)、磁性粒子固定化酵素、及びオンチップ固定化酵素が挙げられる。タンパク消化のための利用可能な技術を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(J.Proteome Research 2013,12,1067-1077)を参照されたい。加水分解剤のうちの1つ又はそれらの組み合わせは、配列特異的な様式でタンパク質又はポリペプチドにおけるペプチド結合を切断し、より短いペプチドの予測可能なコレクションを生成することができる。
【0068】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、目的のタンパク質を含む試料中の少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法を提供する。
【0069】
一部の例示的な実施形態では、本開示は、目的のタンパク質を含む試料中の少なくとも1つの生成物関連バリアントを特定するための方法を提供し、本方法は、
目的のタンパク質と少なくとも1つの生成物関連バリアントとを含む試料を競合結合条件に接触させることであって、結合条件が、ビーズ上に固定化された不十分な抗原を提供し、当該少なくとも1つの生成物関連バリアントが、当該不十分な抗原との結合が損なわれている、接触させることと、
当該試料を当該不十分な抗原とインキュベートすることと、
インキュベート後、洗浄からフロースルーを回収することと、
液体クロマトグラフィー-質量分析計を使用して、当該フロースルー中の少なくとも1つの生成物関連重要品質特性を特定することと、
を含む。
【0070】
一部の例示的な実施形態では、生成物関連バリアントは、目的のタンパク質の切断形態、修飾形態、及び凝集体のうちの1つ以上である。
【0071】
一部の例示的な実施形態では、生成物関連バリアントは、目的のタンパク質の脱アミド化、異性化、ミスマッチS-S結合、酸化、及び/又は変化したコンジュゲート形態(例えば、グリコシル化、リン酸化)である。
【0072】
一部の例示的な実施形態では、生成物関連バリアントは、翻訳後修飾形態である。
【0073】
一部の例示的な実施形態では、生成物関連バリアントは、損なわれた結合親和性を有し、損なわれた結合親和性は、目的のタンパク質の結合親和性の約90%、目的のタンパク質の結合親和性の約80%、目的のタンパク質の結合親和性の約70%、目的のタンパク質の結合親和性の約60%、目的のタンパク質の結合親和性の約50%、目的のタンパク質の結合親和性の約40%、目的のタンパク質の結合親和性の約30%、目的のタンパク質の結合親和性の約20%、又は目的のタンパク質の結合親和性の約10%である。
【0074】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であり得る。
【0075】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ネイティブな条件下で実行され得る。
【0076】
本方法は、前述のタンパク質、不純物、及びカラムのうちのいずれかに限定されず、特定又は定量化のための方法は、任意の好適な手段によって実施され得ることを理解されたい。
【0077】
図3A及び図3Bに、例示的な実施形態を例示する。必要に応じてタンパク質と場合によってはそのバリアントとを含む試料に、固定化された抗原を有するビーズを添加することができる。固定化された抗原を有するビーズの量は、目的のタンパク質(天然mAb)及びそのバリアントが全てそれに結合することができるわけではない量である。抗原に対する低減された結合親和性を有する任意のバリアントは、存在する抗原の量が限られているため、結合する可能性が低くなるであろう。フロースルー(非結合画分)は、SCX-MS又はペプチドマッピングを使用して回収及び分析することができる。対照(すなわち、固定化抗原結合アッセイステップのない試料)は、SCX-MS又はペプチドマッピングを使用して分析することもできる。フロースルーと対照との間の比較研究により、図3Bに例示されるようなクロマトグラムが得られる。低減された結合親和性を有する任意のバリアントは、フロースルー中により豊富に存在するであろう。そのように特定されたバリアントの量を比較すると、バリアントの相対的な割合が、その結合親和性の低下のために、対照よりもフロースルー中に多いことがわかる。
【0078】
このような実験は、図4及び図5に示されるワークフローを使用して考案することができる。
【0079】
本発明では、抗原と目的のタンパク質との比が非常に重要である。添加された抗原の量は、目的のタンパク質の約25%~約75%が抗原に結合することができるような量であり得る。一部の実施形態では、添加された抗原の量は、目的のタンパク質の約50%が抗原に結合することができるような量であり得る。
【0080】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字での連続した標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。
【0081】
特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文及び学術論文を含む様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用される参考文献の各々は、参照によって、その全体及び全ての目的のために、本明細書に組み込まれる。
【0082】
本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。それらは、実施例を例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0083】
材料。 脱イオン水は、MilliPak Express 20フィルター(Millipore Sigma、Burlington,MA)を装着したMilliQ一体型浄水システムによって提供された。mAb1、mAb2、mAb1抗原、及びmAb2抗原は、Regeneron(Tarrytown,NY)で社内で生成された。
【0084】
オンラインnSCX-UV/MS分析
YMC BioPro SP-F(YMC、Japan)を使用して、強陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。試料を分離するために使用した移動相は、20mMの酢酸アンモニウム、pH5.6(移動相A)、及び150mMの酢酸アンモニウム、pH7.4(移動相B)であった。線形pH勾配を使用して、mAb1の電荷バリアントを溶出し、280nmで検出した。
【0085】
試料注入の前に、カラム区画温度を45℃に設定し、強陽イオン交換カラム(100mm 4.6mm、5μm)(YMC、Japan)を、0.4mL/分の流量で、移動相A(20mMの酢酸でpHを5.6に調整した20mMの酢酸アンモニウム)で予備調整した。タンパク質試料のアリコート(10μg)を注入すると、勾配を、100%移動相Aで2分間保持し、続いて、16分間で100%移動相B(150mMの酢酸アンモニウム、pH7.4)に直線的に増加させる。勾配を、100%移動相Bで4分間保持し、次いで、100%移動相Aに戻して、次の注入の前に、7分間カラムを再調整した。メインピークよりも早い又は遅い相対滞留時間のピークは、オンラインMSを使用して特定される。
【0086】
質量分析では、分解能を17,500に設定し、キャピラリースプレー電圧を1.5kVに設定し、インソース断片化エネルギーを100に設定し、衝突エネルギーを10に設定し、キャピラリー温度を350℃に設定し、SレンズRFレベルを200に設定し、HCDトラッピングガス圧力を3に設定した。質量スペクトルを、2000~15000のm/z範囲ウィンドウで取得した。
【0087】
データ分析。 生データのデコンボリューションには、タンパク質メトリクスインタクトマスソフトウェアを使用した。Thermo Xcalibur Qualブラウザを、抽出イオンクロマトグラム分析に使用した。
【0088】
実施例1.
1.1 競合結合アッセイの最適化
結合が損なわれた目的のタンパク質のバリアントを区別するために、競合結合アッセイを開発した。mAb1を、例示的な目的のタンパク質として使用した。
【0089】
mAb1抗原を、ビオチン化試薬を使用してビオチン化した(NHS-ビオチンを使用して、室温で30分)。ビオチン化mAb1を、チューブ(micro BioSpin、Bio-Rad)中のストレプトアビジン樹脂(7nmolのビオチン結合能、Pierce)のベッド上にロードした。5分後、遠心分離によって濾過を行い、ゲルベッドを、100mMのTris(pH7.5)で洗浄し(約1分間インキュベーションしてスピンする)、次いで、精製水(Milli-Q、Millipore)で6回洗浄して、抗原固定化樹脂を得た。
【0090】
11の異なる漸増量の抗原固定化樹脂(1~40μL)を含む一連のチューブを、結合アッセイ緩衝液に懸濁した(結合アッセイ緩衝液は、TrisからPBS緩衝液まで何でもよい)。精製したmAb1を添加して、チューブを4℃で1時間インキュベートした。遠心分離し(すなわち、4℃で5分間、800×gでスピンダウンし)、上清を取り出し、NanoDrop UV-Vis分光光度計を使用して、フロースルーのタンパク質濃度を280nmで測定することによって、mAb1の総量に対する結合を分析した。図6に、得られた滴定曲線の例示的な実施形態を示す。抗原固定化樹脂の体積は、mAb1試料の全てを捕捉するには不十分であり、したがって、mAb1の任意の結合障害バリアントについて濃縮されたフロースルーを提供した。mAb1の50%結合を得るために必要な樹脂体積を、更なる競合結合アッセイのために選択した。
【0091】
1.2 競合結合nSCX-UV/MS分析。 mAb1について、上に記載のような競合結合アッセイを行った。
【0092】
図7に示されるように、mAb1のSCX-UV分析は、それが実質的な糖化バリアントを特徴とすることを示す。表1に示されるように、特定の糖化部位は、重鎖(HC)のリジン(K)98として特定された。この糖化は、以前に抗原結合に関与していると考えられていたが、その正確な影響は不明であった。
【0093】
【表1】
【0094】
糖化などのmAb1の主要なバリアントが抗原結合に影響を与えるかどうかを判断するために、SCX-UV分析を使用して、競合結合アッセイからのmAb1フロースルーをmAb1の対照試料と比較した。対照実験には、濃縮ステップなしで、安定性研究から得られたmAb1に対するSCX-UV/MSの使用が含まれた。図8に、2つのクロマトグラムの比較を示す。図8は、対照mAb1と比較して、競合結合アッセイからのフロースルー中のmAb1の糖化ピークの濃縮を明らかに示している。これは、糖化修飾により、実際に、mAb1のmAb1抗原への結合が損なわれることを実証し、したがって、製品開発において考慮されるべきCQAである。
【0095】
1.3 競合結合SCX-MSを使用した複数の重要品質特性の評価。 実施例1.2からの試料を更に質量分析法分析に供した。図9に、mAb1対照試料からの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及び競合結合アッセイのmAb1フロースルーを示す。いくつかのタンパク質バリアントは、比較されたXICにおいて特定可能であり、本発明の方法が、タンパク質結合に悪影響を及ぼすいくつかのCQAを同時に特定することができることを実証する。同時に、試料間の相対存在量に変化がないPTMは、CQAとして無視される場合がある。
【0096】
図10に、対照試料と比較した、競合結合アッセイのフロースルーにおけるPTMの濃縮の統計分析を示す。競合結合アッセイ実験を使用した比較から、いくつかの修飾物(例えば、HC K98糖化、HC K98カルボキシメチル化(CML)、及びHC K98グルクロニル化)は濃縮され、それらがmAb1のCQAとして特定されたが、他の修飾物(N末端のQ及びFcグリカンの末端ガラクトシル化)は濃縮されなかったことが明らかである。したがって、本方法は、mAb1のmAb1抗原への結合の低減を引き起こす重要品質特性及び生成物関連バリアントを特定することに成功し、それらを、結合に影響を及ぼさず、したがって、製品開発において無視することができる修飾と区別した。
【0097】
実施例2.
2.1 二重特異性抗体の競合結合SCX-MS分析
本発明の方法の有効性は、二重特異性抗体であるbsAb1の分析によって更に実証された。図11に、bsAb1の構造を示す。図11は、mAb2が、2つの別個のHC領域(HC及びHC*)を含むことを示す。
【0098】
bsAb1ロットの以前のnSCX-MS分析では、脱アミド化バリアントが顕著に特徴的であることが示されている。表2に示されるように、以前のペプチドマッピング分析は、HC N56での脱アミド化によって引き起こされる主要なバリアントを特定した。
【0099】
【表2】
【0100】
HC N56は、bsAb1の相補性決定領域(CDR)に位置し、その標的へのbsAb1の結合に悪影響を及ぼし得る可能性を高める。結合に対するbsAb1バリアントの任意の潜在的な影響を判断するために、bsAb1を、競合結合SCX-MS分析に供した。
【0101】
実施例1.1に記載されるように、抗原固定化樹脂を最適化及び調製した。bsAb1を、競合結合アッセイに供し、SCX-UV/MSを使用して、競合結合アッセイからのフロースルーを、bsAb1対照試料と比較した。2つのUVクロマトグラムの比較が図12に示される。図12は、図13に示されるように定量化される競合結合アッセイからのフロースルー中のbsAb1の脱アミド化バリアントの濃縮を明らかに示している。競合結合アッセイのフロースルーにおけるbsAb1の脱アミド化バリアントの濃縮は、脱アミド化がbsAb1の産生におけるCQAであることを実証する。
【0102】
2.2 競合結合SCX-MSを使用した複数の重要品質特性の評価。 bsAb1を、競合結合SCX-ペプチドマッピングMSを使用して、更なる分析に供した。対照実験からの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及び競合結合アッセイのフロースルーは、いくつかの異なるPTMを示した。対照実験及び競合結合アッセイ実験を使用して得られたバリアントの量の比較分析が図14に示される。バリアントの比較から、競合結合アッセイ実験を使用して、N56脱アミド化バリアントのみが濃縮され、したがって、これはおそらく、低減された結合親和性を有するbsAb1の唯一の特定された重要品質特性又は生成物関連バリアントであったことは明らかである。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
この実施形態の一態様では、当該少なくとも生成物関連バリアントの当該存在量が、当該試料を当該競合結合条件に接触させる前に、当該試料中の当該少なくとも生成物関連バリアントの当該存在量よりも顕著に多い場合、当該生成物関連バリアントは、重要品質特性として分類される。
[本発明1001]
少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けるための方法であって、
a.目的のタンパク質と前記目的のタンパク質の少なくとも1つの生成物関連バリアントとを含む試料を得ることと、
b.前記試料を、ビーズ上に固定化された不十分な標的を含む競合結合条件に接触させることと、
c.フロースルーを回収するために、前記ビーズを洗浄することと、
d.前記目的のタンパク質と前記少なくとも1つの生成物関連バリアントとを分離するために、前記フロースルーを液体クロマトグラフィー-質量分析法分析に供することと、
e.前記少なくとも1つの生成物関連バリアントを特徴付けるために、(d)からの前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量を、(a)の対照試料の液体クロマトグラフィー-質量分析法分析から得られた前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの存在量と比較することと、
を含む、方法。
[本発明1002]
前記液体クロマトグラフィーが、強陽イオン交換クロマトグラフィーである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記ビーズが、アガロースビーズ又は磁気ビーズである、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記フロースルーが、前記少なくとも1つの生成物関連バリアントについて濃縮される、本発明1001の方法。
[本発明1005]
(c)の前記フロースルーが、遠心分離を行うことによって回収される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
液体クロマトグラフィー-質量分析法分析の前に、(c)の前記フロースルーを消化条件に供することを更に含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記ビーズが、ストレプトアビジン樹脂でコーティングされている、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記不十分な標的が、前記目的のタンパク質の約30%~約80%に結合することができる量の前記標的を含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
(b)の前記試料が、約1時間インキュベートされる、本発明1001の方法。
[本発明1010]
(b)の前記試料が、ほぼ室温でインキュベートされる、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記生成物関連バリアントが、サイズバリアントを含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記サイズバリアントが、前記目的のタンパク質の断片化バリアントである、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記サイズバリアントが、前記目的のタンパク質の凝集バリアントである、本発明1011の方法。
[本発明1014]
前記生成物関連バリアントが、前記目的のタンパク質の電荷バリアントを含む、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記生成物関連バリアントが、前記目的のタンパク質の翻訳後修飾バリアントを含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記標的が、前記目的のタンパク質を対象とする抗原である、本発明1001の方法。
[本発明1017]
(d)からの前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの前記存在量が、(a)の前記対照試料の前記液体クロマトグラフィー-質量分析法分析から得られた前記少なくとも1つの生成物関連バリアントの前記存在量よりも顕著に多い場合、前記生成物関連バリアントが、重要品質特性として特徴付けられる、本発明1001の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0093
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0093】
【表1】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
【表2】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
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【国際調査報告】