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特表2024-525717シュガーケンワックス(SUGARCANE WAX)(サトウキビ:Saccharum officinarum L.)から得られる高分子量化合物の混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】シュガーケンワックス(SUGARCANE WAX)(サトウキビ:Saccharum officinarum L.)から得られる高分子量化合物の混合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20240705BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240705BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K36/899
A61K31/19
A61K31/045
A61K31/11
A61P39/06
A61P25/00
A61K9/48
A61K9/20
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501681
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 CU2022050005
(87)【国際公開番号】W WO2023284902
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】CU-2021-0060
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505196864
【氏名又は名称】セントロ ナシオナル デ インヴェスティガシオンズ シエンチフイカス
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス カナバシオーロ,ビクトル ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ビセンテ ムリロ,ロクサーナ
(72)【発明者】
【氏名】サラハンジュ ゴンザレス,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】モリーナ クエバス,ビビアン
(72)【発明者】
【氏名】メンドーサ カスタニョ,サラリ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD02
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC01
4C076CC21
4C076DD41
4C076DD67
4C076EE32
4C076EE42
4C088AB73
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA18
4C088BA37
4C088CA09
4C088CA10
4C088CA22
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA01
4C088ZC21
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA07
4C206CB02
4C206DB06
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZC21
(57)【要約】
高分子量を有する化合物の混合物が明らかにされ、これは神経学的欠損を阻害することによって神経保護効果を示し、これは臨床症状の改善、神経細胞死の有意な減少、したがって死亡率の有意な減少をもたらす。さらに、それは、その神経保護効力を支持するのに寄与する抗酸化作用を有する。中枢神経系に関連する医学的状態、特にニューロンの悪化及び死を伴う神経変性疾患を管理するための栄養組成物又は医薬組成物として使用することができる、化合物の前記混合物を活性成分として含む経口投与用の組成物も開示される。この新規活性成分を構成する物質は、サトウキビ(Saccharum officinarum L.)ワックスから抽出及び精製された、アルカリ又はアルカリ土類塩の形態の26~36個の炭素原子の脂肪酸、24~34個の炭素原子の脂肪アルコール及び高分子量アルデヒドである。高分子量物質のこれらの3つの群の組み合わせは本発明によって明らかにされる特定の割合で、相乗効果が生じることを可能にし、それは所望の薬理学的効果を保証する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトウキビワックスから得られる高分子量の化合物の混合物であって、アルカリ又はアルカリ土類塩の形態の26~36個の炭素原子の脂肪酸と、24~34個の炭素原子の第一級脂肪族アルコールと、48個を超える炭素原子を有するαβ不飽和アルデヒドとから構成されることを特徴とする混合物。
【請求項2】
以下の比率のアルカリ若しくはアルカリ土類塩の形態の脂肪酸を60~80質量% :C26:0 0.3~5%、C27:0 0.3~5%、C28:0 20.0~40.0%、C29:0 1.0~3.0%、C30:0 12.0~25.0%、C31:0 0.5~2.0%、C32:0 5.0~15.0%、C33:0 0.5~3.0%、C34:0 5.0~18.0%、C35:0 0.3~1.5%、C36:0 1.0~8.0%;と
同様に、その中で1-オクタコサノールが優勢である、24~34個の炭素原子の、同種の第一級脂肪族アルコール(10~30重量%);と
その中で48個を超える炭素原子を有する不飽和αβが優勢である、アルデヒド(10~30重量%)、と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の高分子量化合物の混合物。
【請求項3】
請求項1及び2の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物であって、それが含有する物質が、未処理又は精製サトウキビワックス(Saccharum officinarum)から、ワックスをアルカリ性又はアルカリ土類水酸化物で、けん化し、続いて、脂肪酸の塩、アルコール及び高分子量アルデヒドの画分を、超臨界状態で有機溶媒又はCO2流体で抽出及び精製し、続いて、必要な濃度で前記化合物の濃度を最終的に標準化する工程を含む方法によって得られることを特徴とする混合物。
【請求項4】
神経保護及び抗酸化組成物におけるそれらの使用を特徴とする、請求項1~3の何れか一に記載の高分子量を有する化合物の混合物。
【請求項5】
食品産業によって受け入れられている賦形剤と共に、請求項1~4の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物を、投与単位あたり5~50mgの用量で含有することを特徴とする栄養組成物。
【請求項6】
経口使用のための錠剤又はカプセルの形態の、請求項5に記載の栄養組成物であって、高分子量化合物の混合物に加えて、充填賦形剤、接着剤、崩壊剤、滑剤及び着色剤を含有することを特徴とする栄養組成物。
【請求項7】
高分子量化合物の混合物に加えて、懸濁剤、防腐剤、着色剤、甘味剤、香味剤及び溶媒を含有することを特徴とする、経口使用のための懸濁液の形態の、請求項5に記載の栄養組成物。
【請求項8】
製薬産業によって受け入れられている賦形剤と共に、請求項1~4の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物を、投薬単位当たり5~50mgの用量で含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項9】
高分子量化合物の混合物に加えて、充填賦形剤、接着剤、崩壊剤、滑剤及び着色剤を含有することを特徴とする、経口使用のための錠剤又はカプセルの形態の請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
高分子量化合物の混合物に加えて、懸濁剤、防腐剤、着色剤、甘味剤、香味剤及び溶媒を含有することを特徴とする、経口使用のための懸濁液の形態の、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養サプリメント又は医薬製剤の活性成分(AI)として使用することができる、抗酸化作用及び神経保護作用を有する高分子量物質(HMWS)の混合物を提供することによる、食品産業及び医薬産業の技術分野に関する。前記AIは、サトウキビワックス(Saccharum officinarum L.)から得られ、精製された脂肪酸の塩、脂肪アルコール及び高分子量アルデヒドを、相乗効果を保証する特定の割合で含有し、ここで、本発明に記載される混合物の薬理学的効果は、それを構成する化合物の群の薬理学的効果の合計よりも優れている。
【0002】
神経系に関連するいくつかの疾患は生活の質に影響を及ぼし、患者の死をもたらし得るので、新しい、安全かつ有効な神経保護治療手段手段の必要性は、今日的課題である。神経系の細胞が影響を受ける多くの疾患の中で、本発明者らは、脊髄性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性脊髄球性筋萎縮症及び筋萎縮性側索硬化症に着目する。後者は致命的な予後を有するため、最もよく知られており、最も危険な神経変性疾患である。この状態は、科学者のStephen Hawking、運動選手のLou Gehrig、Gianluca Signorini、及びStefano Borgonovなどの有名な人格の死をもたらしたことで大衆領域で広く知られており、筋肉運動の原因となるニューロンの機能の漸進的な喪失及び最終的な死を特徴とし、進行性筋麻痺をもたらした。
【0003】
神経学的障害が生活の質に影響を及ぼし、一部は患者の死亡を引き起こし、世界的規模で重大な健康問題を構成する可能性があること、並びに既存の従来の治療法がそれらを治癒することも、又は所望の程度までそれらの進行を予防することもできないという事実を考慮に入れて、これらの医学的状態の予防及び治療のための新しい有効な神経保護剤を探索することが必要である。
【0004】
一方、抗酸化物質の探索も最近の話題である。活性酸素種及びフリーラジカルの生成は、通常、細胞代謝の間に起こり、正常な生理学的状態では、酸化還元バランス及び細胞生存を維持する抗酸化系によって修復される。それにもかかわらず、汚染物質及び環境への曝露、生活様式、並びに様々な病状などのいくつかの要因があり、これらはこのバランスを変化させ、酸化ストレス(OE)を引き起こすフリーラジカルの過剰及び蓄積を生じさせ得る(Poljsak、2011年)。OEは、アテローム性動脈硬化症、癌、心疾患及び神経栄養障害などの様々な慢性変性病理の発症及び進行において重要な役割を果たすことが示されている(Maldonado 2010, Farlane 2004, Guichardant 2009)。したがって、抗酸化物質の消費は、OEによって生成される生物の細胞及び官能基の劣化を防止又は低減することができ、前記病状の予防にさらなる利益をもたらす(Oxilia 2010)。
【背景技術】
【0005】
サトウキビワックス(S. officinarum L.)から抽出物を得ることに関するいくつかの特許及び刊行物があるが、神経保護及び抗酸化効果を有する混合物の調製は、本発明に示される組成物も、そのような効果も、共に開示されていない。公開された研究のほとんどにおいて、提示されているのは、脂質プロファイル、血小板の高凝集性及び冠状動脈の状態に関連する状態の治療のためのアルコールの純粋な混合物の取得である。これらと同じ目的で、アルコールと脂肪酸(脂肪アルコールが優勢)との混合物、脂肪酸の純粋な混合物、並びに前記物質と異なる薬物との組合せも、上記の薬理学的効果を増強する目的で調製されている。
【0006】
このトピックに関して発表された最初の研究の中で、我々はサトウキビワックスのけん化及び有機溶媒による抽出によって脂肪アルコールの混合物(≧90%)を得ることを見出し、これは、胃潰瘍を予防し、男性の性的活動を改善しながら、高コレステロール血症、血小板高凝集性、虚血及び血栓症などのアテローム性動脈硬化合併症の治療に有効である(Laguna, US5856316)。この混合物によって示された重要な薬理学的効果は、このワックスから、これらの同じ医薬目的のための高含量の脂肪アルコールとの他の混合物を得ること(Almagro, US20070295326A1, Ribeiro BRPI0702137A及びMatkin, US20060013842 A1)、並びに超臨界状態での流体抽出(Shintaku BRPI0701341A2)、多相加水分解抽出(Somaiya 1058/MUM/2005)及び触媒の存在下での水素とのワックスの反応(Somaiya WO2010103549)のような他の技術によって動機づけられた。
【0007】
低コレステロール作用、心保護作用及び抗血小板作用を有する医薬製品を提供する目的で、他の抽出物及び混合物もサトウキビワックスから得られており、例えば、26~36個の炭素原子の脂肪酸によって形成されるGonzales及び共同研究者(US6486205 B2);Kutney及びWessman(US20050234025)によって提示され、これらはこのワックスの少なくとも1つのアルコール又は脂肪酸と、ステロール及び/又はアスコルビン酸の誘導体(これらの物質間の割合を特定することなく)との組合せを提案しており;Matkin及び共同研究者(US20060013842)によって提案されたものは最低60%の脂肪アルコール、最高40%の脂肪酸及び場合によりサリチル酸との混合物を提案しており、これらは他のワックス、動物又は植物からも得ることができる。同様に、他の天然ワックス、例えば蜜ろう、ソルガム及びキビから、アルコール及び他の脂肪物質を含む抽出物が得られ、これは、上述の脂質プロファイルに対する同じ薬理学的効果が反映される(Perez EP1189605B1及びHargrove et al. US20060127449)。
【0008】
神経保護組成物における脂肪酸の使用に関して、本発明者らは、Miller(US20110280852A1)が18~22個の炭素原子の間の不飽和脂肪酸を、ニトロ酸又はケト酸として活性化することを提案し、Paquin及びRusell(US20020128316及びUS20090280199)がそれぞれ、他の物質と混合されたトリグリセリド(又はそれらの遊離酸)及びω-3脂肪酸の使用を提案したことを見出した。いかなる場合にも、特定の割合で高分子量の脂肪アルコール及びアルデヒドも含有する、特定の割合で塩の形態の26個を超える炭素原子を有する脂肪酸の混合物からなる神経保護組成物及び抗酸化組成物は、これまでに開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US5856316
【特許文献2】US20070295326A1
【特許文献3】BRPI0702137A
【特許文献4】US20060013842 A1
【特許文献5】BRPI0701341A2
【特許文献6】WO2010/103549
【特許文献7】US6486205 B2
【特許文献8】US20050234025
【特許文献9】US20060013842
【特許文献10】EP1189605B1
【特許文献11】US20060127449
【特許文献12】US20110280852A1
【特許文献13】US20020128316
【特許文献14】US20090280199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、神経障害は生活の質に影響を及ぼし、死に至る可能性がある重大な健康問題であるが、既存の従来の治療法はそれらを治癒することも、所望の程度までそれらの進行を予防することもできない。そのため、これらの医学的状態の予防及び治療のための新しい有効な神経保護剤を探索する必要がある。一方、種々の慢性変性病態の発症及び進行に影響を及ぼすフリーラジカルの過剰及び蓄積を生じるいくつかの因子が存在するので、抗酸化物質の探索も必要であり、今日的問題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本問題に対する可能な解決策として、本発明の主題である、抗酸化作用及び神経保護作用を有する高分子量物質(HMWS)の混合物が提示される。この混合物は、栄養サプリメント又は医薬製剤の活性成分(AI)として使用することができる。該AIはサトウキビ(Saccharum officinarum L.)ワックスから得られ、精製された、脂肪酸の塩、脂肪アルコール及び高分子量アルデヒドを、相乗効果を保証する特定の割合で含有しており、本発明に記載される混合物の薬理学的効果は、それを構成する化合物の群の個々の薬理学的効果の合計よりも優れている。
【0012】
(発明の概要)
本発明の対象物として提示されるAIは、以下の化合物群を特定の割合で含有することを特徴とする:脂肪酸(60~80重量%)、脂肪アルコール(10~30重量%)及び高分子量アルデヒド(10~30重量%)。
脂肪酸である、主成分は、アルカリ若しくはアルカリ土類塩として、次の割合で存在する:C26:0=0.3~5%、C27:0=0.3~5%、C28:0=20.0~40.0%、C29:0=1.0~3.0%、C30:0=12.0~25.0%、C31:0=0.5~2.0%、C32:0=5.0~15.0%、C33:0=0.5~3.0%、C34:0=5.0~18.0%、C35:0=0.3~1.5%、C36:0=1.0~8。
混合物中に存在する第一級脂肪族アルコールは、24~34個の炭素原子の間の相同化合物であり、その中で、1-オクタコサノール(C28)が好適であり、及び、アルデヒドは、48個を超える炭素原子を有する不飽和αβが好適である。
この新しいAIは、固体形態(錠剤、カプセル剤)又は液体(懸濁液)で経口投与用に製剤化することができ、そのために、それは、製薬産業によって受け入れられている賦形剤と混合される。
【0013】
本発明のAIの対象物において、高分子量物質が見出される割合は、単純な抽出及び精製プロセスによって自然には達成されないが、各画分が得られた純度に応じて、各物質群の抽出及び精製画分を特定の量で混合した結果であることに留意すべきである。このようにして、本発明の対象物である最終組成物は、薬理学的研究によって決定されたように、化合物の各群の内容物が、その成分と所望の薬理学的効果との間の相乗作用を保証するように、本明細書に記載の特定の濃度及び割合によってもたらされる、標準化プロセスの結果である。
【0014】
この点に関して、本組成物の強力な薬理学的効果は、本発明における3つの物質群を別々に投与する効果よりもはるかに優れており、このことは実施例において確認され、相乗効果の発生を実証しており、このことは、最新技術からは推測することができないものである。
したがって、本発明のAIの対象物は、脂肪酸抽出物及び脂肪アルコール及び高分子量アルデヒドの抽出物の両方の抗酸化剤としての薬理学的効果を著しく上回り、このIA(AI?)を構成する3種類の物質のいずれについても観察されない強力な神経保護効果を示す。
【0015】
本発明の医薬組成物である目的物を得るための手順は、アルカリ又はアルカリ土類水酸化物を用いて、未処理又は精製されたケーンワックスを加水分解する初期ステップ、続いて、アルコール及びアルデヒドの選択的抽出プロセス、並びに残りの塩、並びにアルコール及びアルデヒド画分の精製ステップを、全ての前述の段階で、有機溶媒、又は超臨界状態のCO2を用いて行い、特定の割合が記載されている物質の3つのグループの内容物の最終標準化を行い、所望の薬理学的効果を保証することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
他の既存の組成物(同様にサトウキビワックスから得られる)に対するこの組成物の利点は、抗酸化剤としてのより大きな有効性、及び先行する組成物のいずれにも存在しない神経保護効果を有することである。本発明は、産業的利用性を有し、組成物は新規であり、指定された比率及び濃度での3群の物質の混合物が、前記薬理学的利益と相乗効果を示すということは、技術水準から推論することができないため、独創的な特徴を有する。本発明は、得られた組成物が、酸化ストレスに対するその有益な効果のために栄養補助食品として、又、神経疾患を予防するための医薬として、及び酸化ストレス障害に関連するものとして使用され得るので、食品及び医薬産業分野に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0017】
神経保護作用及び抗酸化作用を有する高分子量物質(HMWS)の混合物の調製:
1kgの未精製ケーン(サトウキビ茎)ワックスを水酸化カリウムによる塩基性加水分解プロセスに供し、その後、けん化ワックスを超臨界状態でCO2による抽出に供し、CO2で抽出されたアルコール&アルデヒド画分と残存塩の混合物の両方をヘキサン及びアセトンによる精製工程に供した。得られた画分を、塩、アルコール及びアルデヒドの含有量を測定するためにガスクロマトグラフィー及び分光光度法によって分析し、ついで、次の割合を達成するために必要な割合で混合した:カリウム塩として76%脂肪酸、13%アルコール脂肪及び11%高分子量アルデヒド; ここで脂肪酸の割合は、C26:0 1.5%、C27:0 1.4%、C28:0 30.6%、C29:0 1.2%、C30:0 13.5%、C31:0 1.0%、C32:0 8.3%、C33:0 1.7%、C34:0 11.6%、C35:0 1.4%及びC36:0 3.8%であった。
【実施例2】
【0018】
神経保護作用及び抗酸化作用を有する高分子量物質(HMWS)の混合物の調製:
1kgの精製されたケーンワックスを、水酸化カルシウムによる塩基性加水分解プロセスに供し、その後、けん化ワックスを、熱ヘキサンによる抽出に供し、有機画分を冷却し、再結晶された固体を、エタノール&アセトンによる連続洗浄によるプロセス精製に供した。抽出され精製された画分及び残存塩の混合物の両方を、ガスクロマトグラフィー及び分光光度法によって分析して、塩、アルコール及びアルデヒドの含有量を決定し、続いて、以下の割合を達成するために必要な割合で混合した:カルシウム塩としての70%脂肪酸、19%脂肪アルコール及び11%高分子量アルデヒド;ここで脂肪酸は以下の割合であった: C26:0 1.2%、C27:0 1.1%、C28:0 26.3%、C29:0 1.1%、C30:0 15.3%、C31:0 0.7%、C32:0 6.9%、C33:0 1.5%、C34:0 11.4%、C35:0 1.0%、及びC36:0 3.7%であった。
【実施例3】
【0019】
脳虚血誘発モデルにおける神経保護作用及び抗酸化作用の評価:
本発明の対象物である高分子量物質の混合物の神経保護効果の評価のために、頸動脈の閉塞及び再潅流による全脳虚血の実験モデルを使用した。実施例1で得られた高分子量物質(HMWS)の組成物を、動物を用いた前臨床試験に供し、その薬理学的効果を、塩の形態の脂肪酸(AcGS)、脂肪アルコール(AlcG)及び高分子量アルデヒド(AldG)の純粋な抽出物の効果と比較し、これらを、それぞれが200mg/kgのHMWS活性成分中に存在する割合と同等の用量で投与した。さらに、HMWSの効果を、等用量で投与された純粋な遊離脂肪酸(AcGL)抽出物の効果と比較した。
【0020】
雄性スナネズミ(60~80g)を用い、実験室条件(温度20~25℃、相対湿度60±5%、明/暗サイクル12時間)に7日間適応させ、水と食物を自由に摂取させた。評価すべき種々の物質を、アカシア/水ビヒクル(1%)中の懸濁液として調製した。
【0021】
隔離が終了したら、アレチネズミを8群:単にビヒクルを投与され及び脳虚血(CI)が誘導されなかった陰性コントロール、及び誘導CIの7群、に分けた。誘導CI群の1つは、ビークルでのみ処理された陽性コントロールであり、他の6群はHMWS(200mg/kg)、AcGS(132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)、AldG(28mg/kg)、AcGL(200mg/kg)、及び参照物質としてアスピリン(60mg/kg)で処置した。全ての治療は、虚血の誘導の1時間前に胃内挿管(0.5mL/70g体重)を通して経口投与した。全脳虚血は、両側虚血と再潅流により誘発された。これを行うために、アレチネズミをハロタン雰囲気中で麻酔し、頸部の腹側正中線に切開を行い、2つの総頸動脈を露出させた。これらの動脈を単離し、それらの周りに黒い絹糸を配置することによって分離し、次いでそれらを30分間の麻酔から回復させた。この時間の末端に、絹糸を取り除き、圧力クリップを各頸動脈に配置して、5分間血流を完全に遮断した。次いで、クリップを除去して、24時間血液を再循環させた。
【0022】
神経機能の評価は、虚血/再潅流(McGraw, 1977に従う)の4時間後に、以下のように実施した:
0:症状の欠如;
1:胴体の湾曲又は毛髪の剛毛;
2:眼瞼下垂;
3:円の動き(回旋行動);
4:後脚の伸展及び
5:痙攣。
アレチネズミの自発運動活性を、虚血後24時間にてオープンフィールドで評価した(Katsumataら、2006年による)。これを行うために、各々のアレチネズミを、60.5cmの長さ×30cmの高さ×46cmの幅のボックスの中心に配置し、底部を14.5cm2の12象限(四分円)に分割した。6分間、アレチネズミが異なる四分円をそれらの前脚で横切った回数、及びそれらが停止又は傾斜した回数を定量化した。
【0023】
行動観察が完了したら、アレチネズミをハロタン雰囲気中で麻酔し、大静脈から血液サンプルを採取し、これをプラスチックチューブに集め、EDTA(10%)と混合した。その脳は、組織学的分析のために直ちに取り出された。血液を3000rpmで10分間遠心分離して血漿を得、そこで脂質過酸化及びタンパク質酸化の生化学的定量化を行った。脂質過酸化を決定するために、チオバルビツール酸(SRATB)に反応性の物質の形成を血漿中で定量し(Ohkawa et al., 1979に従う)、nmolマロンジアルデヒド(MDA)/mgタンパク質として表した。
【0024】
タンパク質酸化を決定するために、スルフヒドリル(SH)基を決定した(Miao-Lin Hu,1994に記載の技術)。50μLの血漿、950μLの10mM DTNBの、アリコートを採取した。それを室温で20分間インキュベートした。上清の吸光度を412nmで読み取った。ブランクをDTNBで調製し、13,600cm-1M-1の吸収率を用いて総数SH基を計算し、mmolで表した。タンパク質濃度は、改変Lowry法(Marxwell, 1987)によって決定した。
【0025】
組織学的分析のために、脳を10%緩衝ホルムアルデヒド中で固定し、脱水し、パラフィン中に包埋し、海馬を含む切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。各脳からの切片を、両側平均で海馬のCA1領域の錐体細胞への損傷を決定するために光学顕微鏡スコアリングシステムによって測定した。この組織病理学的スコアリングシステム(Bartusら、1998年に使用された手法に基づく)は、以下である;
0=丸い体細胞及びよく着色された中心核を有する、平常どおり着色された、密集した細胞;
1=細胞質の末梢環状によって囲まれた淡い染色質溶解領域を有する、細胞形の多少の収縮及び不規則性;
2=核濃縮細胞の領域をもつ、いくつかの明らかな細胞喪失;
3=中等度の細胞喪失及び核濃縮;
4=多数のミクログリアの中で、ニューロンの顕著な枯渇及び偶発のニューロンのみを示す、ニッスル物質の喪失。
【0026】
結果
全脳虚血は短期間であっても、脳の脆弱領域、例えば、海馬の皮質隣接(AC)領域における選択的神経変性をもたらす。特に、CA1錐体ニューロンは、虚血/再潅流損傷に対して最も脆弱な細胞である(Sharma, 2005及びKirino, 2000)。2つの総頸動脈の5分間の両側結紮及び24時間のそれらの再潅流によって誘導される全脳虚血のモデルは、虚血性脳卒中において有益な効果を有する可能性のある物質の評価における有用なモデルを構成する(Ravinder、2009年)。McGraw臨床症状スコアによる神経学的評価及びオープンフィールド試験で測定された自発運動活性の増加は、脳組織に対する組織学的損傷の指標を構成する(McGraw, 1977; Katsumata, 2006)。
【0027】
結果は、陽性コントロール動物における臨床症状の存在及び移動の増加、アスピリンによって拮抗される変化を示し、これは、このモデルについて報告されたものと一致し、本発明者らの実験条件におけるその妥当性を支持する。
本検討は、HMWS組成物(200mg/kg)が、モンゴルスナネズミにおける全脳虚血によって誘発される臨床症状(91.6%阻害)及び運動亢進(86.1%阻害)を有意に減少させる能力を有することを実証した。HMWSの、個々の成分の各純粋抽出物(AcGS、AlcG及びAldG)による治療は、陽性コントロール群と比較して、臨床症状スコア(それぞれ36.6、21.6及び11.6%阻害)及び運動亢進(それぞれ33.4、21.7及び11.1%阻害)において中程度であるが有意な減少をもたらした。HMWS (200mg/kg)とその個々の成分の各純粋抽出物との比較は有意であり、より大きな効力を示し、3つの抽出物の効果の合計よりも優れており、これは、AI HMWSにおいて一緒に処置された場合、3つの成分間の相乗効果又は増強効果を実証する。 (表1)
【0028】
一方、HMWS(200mg/kg)の投与は、純粋なAcGL抽出物(200mg/kg)よりも有意に高く、臨床症状における保護をもたらし、塩の形態の脂肪酸、脂肪アルコール及び脂肪アルデヒドの存在を組合せる抽出物による、より良好な神経学的保護を示す。
【0029】
表1:全脳虚血/再潅流(I/R)を有するモンゴルスナネズミにおける臨床症状スコア及び自発運動(開放電界)に及ぼす効果
【表1】

平均値±SEM(平均値の標準誤差)、SC:臨床症状
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001;陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してat p<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
I/R:全脳虚血/再潅流
HMWS:実施例で得られた高分子量物質
AcGL:純粋な遊離脂肪酸
AcGS:塩の形態の脂肪酸の純粋な抽出物
AlcG:脂肪アルコールの純粋な抽出物
AldG:高分子量アルデヒドの純粋な抽出物
ASA:アスピリン
【0030】
表2は、組織学的研究の結果を示す。陰性コントロール(陰性対照、とも記載)の脳は変化を示さなかったが、陽性コントロール(陽性対照、とも記載)のすべての脳はCA1領域における多数の錐体細胞の消失及び損傷を示した。参照物質であるアスピリン(60mg/kg)による処置は、中程度(32.4%)に、脳損傷の組織学的スコアを有意に減少させ、これは、本発明者らの実験条件における結果の正しさをサポートする。
【0031】
HMWS治療(200mg/kg)は、モンゴルスナネズミ(アレチネズミ、ともいう)における両側虚血再潅流によって誘導される脳損傷の組織学的スコアを有意に低下させた(89.8%阻害)。AcGS (132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)及びAldG(28mg/kg)を含む個々の純粋抽出物は、陽性コントロールと比較して組織学的スコアを有意に低下させた。HMWSとその個々の成分の抽出物のそれぞれとの間の比較は、それぞれの純粋な抽出物に関してだけでなく、3つの合計よりも大きな効力を示した。この結果は、臨床症状に関して観察されたものと一致し、AI HMWSに存在する3つの成分間の相乗作用の特徴を強化する。
【0032】
HMWS (200mg/kg)の投与は、又、組織学的損傷から保護するために純粋なAcGL抽出物(200mg/kg)よりも有効であり、これは、臨床症状に関して観察されたことを裏付け、塩の形態の脂肪酸、脂肪アルコール及び脂肪アルデヒドの存在を組み合わせる抽出物でのより良好な神経学的保護を裏付ける。(表2)
【0033】
表2:虚血/再潅流(I/R)を伴うスナネズミの脳の組織学的スコアに及ぼす効果。
【表2】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
【0034】
モンゴルアレチネズミにおける虚血及び再潅流によって誘発される全脳虚血プロセスに関連する酸化変数についての研究結果を表3に示す。虚血及び再潅流プロセスは、陽性コントロール群のMDA(脂質過酸化の指標)及びスルフヒドリル(SH)基(蛋白質酸化の指標)の血漿濃度を、陰性コントロール群の健常動物のそれと比較して増加させた。
【0035】
HMWS (200mg/kg)の経口投与は、陽性コントロール群と比較して、MDA及びSH基の血漿濃度の増加を有意に防止した(それぞれ97.7及び80%阻害)。AcGS (132mg/kg)及びAlcG(40mg/kg)を含む個々の純粋抽出物は、陽性コントロールと比較して、MDAの血漿濃度(それぞれ41.5及び25.9%阻害)及びSH基(それぞれ80及び36%阻害)を有意に低下させた。しかしながら、AldG(28mg/kg)を含む純粋な抽出物は、統計的有意性に達することなく、MDA(11%阻害)及びSH基(12%阻害)にわずかな減少をもたらした。HMWSとその個々の成分の抽出物のそれぞれとの間の比較は、それぞれの純粋な抽出物に関してだけでなく、3つの合計よりも大きな効力を示した。したがって、本発明者らは、この新規HMWS物質の抗酸化効果の存在下にあっては、脂質及びタンパク質構造の両方を保護し、その有効性はその3つの成分間の相乗効果を証明する。
【0036】
一方、AcGL抽出物(200mg/kg)は、陽性コントロールと比較して、MDA(40%阻害)及びSH基(36%阻害)の血漿値を有意に低下させることによって抗酸化効果も生じた。しかしながら、HMWS(200mg/kg)とAcGL(200mg/kg)との比較は、HMWSの優れた抗酸化効力を示し、これは、そのより大きな神経保護効力を支持しており、臨床症状及び組織学的脳損傷のスコアの両方においてこのことが実証された。
【0037】
ASA (60mg/kg)による処置は、その神経保護効力は、その抗血小板活性に基づいており、抗酸化作用に基づいていないので、その作用プロファイルに対応するこれらの酸化変数のいずれも修正せず、影響しなかった。
【0038】
表3:脳虚血/再潅流(I/R)を有するモンゴルスナネズミのMDA及びスルフヒドリル基の血漿濃度に及ぼす効果。
【表3】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
*p<0.05; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
【実施例4】
【0039】
脊髄虚血誘発モデルにおける神経保護効果の評価:
本発明の目的であるHMWS混合物の神経保護効果を、又、脊髄における虚血の誘導の実験モデルを用いて検討した。実施例2で得られた組成物を前臨床試験に供し、その薬理学的効果を、塩の形態の脂肪酸(AcGS)、脂肪アルコール(AlcG)及び高分子量アルデヒド(AldG)の純粋な抽出物の効果と比較し、それらのそれぞれの物質と同等の用量でHMWS活性成分200mg/kgを投与した。さらに、HMWSの効果を、等用量で投与された遊離脂肪酸の純粋抽出物(AcGL)の効果と比較した。
【0040】
雄のNew Zealandウサギ(1.8~2.2kg)を用い、実験室条件(温度20~25℃、相対湿度60±5%、明暗サイクル12時間)に15日間適応させ、水と食物を自由に摂取させた。
【0041】
物質HMWS、AcGS、AlcG、AldG、AcGL及びアスピリン(ASA)を、アカシア/水ビヒクル(1%)中の懸濁液として調製した。隔離が完了したら、ウサギを、8群に分けた:ビヒクルのみを投与し、虚血を誘導しなかった陰性コントロール、及び脊髄虚血を有する7群:ビヒクルのみで処置した陽性コントロール、並びに6群を、HMWS(200mg/kg)、AcGS(132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)、AldG(28mg/kg)、AcGL(200mg/kg)、及び参照物質としてアスピリン(2mg/kg)で処置した。全ての治療は、胃内チューブ(1mL/2kg体重)を介して10日間経口投与された。
【0042】
脊髄における虚血の誘発のために、ウサギをチオペンタール(20mg/kg i.v.)で麻酔した。腹部を脱毛し、消毒液を塗布し、腹側正中線を切開し、後腹膜腔を穿通した。大動脈及び左腎動脈を切開し、露出させた。大動脈を、左腎動脈の直下にクリップを20分間配置することによって結紮し、その後、それを除去し、再潅流期間を開始した。切開部を縫合した。再潅流の4時間及び24時間で、動物の神経学的欠損を、2人の独立した観察者によって盲検的に評価した(Zivinら、1982に従う)。使用したスケールは以下の通りであった:
グレード 0:完全麻痺
グレード1:部分的神経障害
グレード3:正常
【0043】
再潅流の24時間後に動物を屠殺した。組織学的分析のために、骨髄切片を抽出した。脊髄(腰椎)セグメントが抽出されたら、それらを10%緩衝ホルムアルデヒド中で固定した。試料を、濃度が増加するアルコール中で脱水し、パラフィン中に包埋し、水平のマイクロメータで4μmの切片に切断した。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。その後、それらをOlympus BH2顕微鏡下で観察した。脊髄病変は、De Girolami, 1982及びZivin, 1982に記載された基準を用いて盲検的に評価した。
3-傷害なし
2-軽度:1~10個の壊死性ニューロンのみが、関連する物質の33%未満で、灰白質試料において検出される場合。
1-中等度:10~20個の壊死性ニューロンのみが、関連する切片領域の33~66%で、灰白質試料中に検出される場合。
0-重度:灰白質試料が、関連する切片領域の66%超で、20個を超える壊死性ニューロンを含むことのみが検出される場合。
【0044】
結果:
腹部大動脈の閉塞及び再潅流は、ウサギに神経学的損傷をもたらし、後肢の麻痺及び跳躍不能をもたらす。表4は、神経学的欠損の臨床症状のスコア及び死亡率を示す。20分間の腹部大動脈の閉塞により、陽性コントロール動物は、この症状を示し、陰性コントロール群(健常動物)よりも有意に低いスコアを示し、80%の死亡率も示した。参照物質であるアスピリン(2mg/kg)の投与は、臨床症状及び死亡の両方を有意に保護し、実験条件で得られた結果を支持する。
HMWS (200mg/kg)の反復投与による治療は、腹部大動脈再潅流の4時間及び24時間で臨床症状スコアを有意に増加させ、全死亡率を低下させた。AcGS (132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)及びAldG(28mg/kg)による処置は4時間及び24時間で臨床症状から有意に保護したが、AcGSのみが陽性コントロール群(80%)と比較して死亡率を50%低下させた。
その個々の成分の純粋な抽出物に対するHMWS(200mg/kg)との比較も統計的有意性を示し、HMWSの有効性が各成分よりも高いことが示された。さらに、AcGL(200mg/kg)を含む抽出物も又、臨床症状及び死亡率から保護されたが、HMWSとの比較は、後者(HMWS)のより大きな有効性を示した。
【0045】
したがって、治療の結果間の比較は、再潅流の4時間後及び24時間後の臨床症状の改善において、並びに死亡率の低減において、他のものと比較して、HMWSのより大きな有効性を示した。HMWS組成物は、死亡を有意に保護し、その結果、この物質で処置された群における死亡の頻度(0.0%)は、陽性コントロール(80%)よりも有意に低く、保護効果の100%を示した。
【0046】
組織学的分析(表5)は、陽性コントロール群の動物の脊髄における重度の病変を示し、ニューロン壊死及びニューロピルの空胞化を特徴とした。アスピリンは、陽性コントロールと比較して、中程度であるが有意な保護をもたらした。
【0047】
HMWS (200mg/kg)による処置は、神経学的欠損によって引き起こされる脊髄における組織学的損傷を有意に阻害し、適用された全ての処置の最高の有効性を達成した(93.3%阻害)。AcGS (132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)、及びAldG(28mg/kg)による処置は組織学的損傷から中程度に保護され(それぞれ、40、24、及び11.6%阻害)、有効性はそれらのそれぞれよりHMWSは高く、HMWSでは3つの効果の合計よりもさらに大きい。この結果は、虚血及び再潅流を有するウサギの脊髄における神経学的欠損から保護するために、IA HMWSに存在する3つの物質の相乗効果の存在を示す。さらに、HMWSの保護は、純粋なAcGL抽出物で観察された保護よりも高く、この新しいAIの利点を実証した。
【0048】
結論として、HMWS組成物を用いた治療は、脊髄における臨床症状、死亡率、及び組織学的損傷スコアを効果的に低減する、神経保護利益を増強する利点を示した。
【0049】
表4:虚血/再潅流(I/R)により誘発された脊髄損傷を有するウサギにおける症状及び死亡率に対する効果。
【表4】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
+p<0.05; ++p<0.01;陽性コントロールとの比較
AcGS及びAcGLとの比較でc p<0.01;AlcG及びAldGとの比較でd p<0.05
(フィッシャー直接確率検定)
【0050】
表5:虚血/再潅流(I/R)ウサギの脊髄の組織学的スコアに及ぼす効果。
【表5】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
【実施例5】
【0051】
毒性物質で誘導されたニューロン損傷モデルにおける神経保護効果の評価:
本発明の対象物であるHMWS混合物の神経保護効果を、カイニン酸で誘導された神経損傷の実験モデルを用いて検討した。実施例2で得られた組成物を前臨床試験に供し、その薬理学的効果を、HMWS活性成分中のそれぞれの物質の用量に等しい用量で調製した、塩の形態の脂肪酸(AcGS)、脂肪アルコール(AlcG)及び高分子量アルデヒド(AldG)の純粋な抽出物の効果と比較した。さらに、それを遊離脂肪酸(AcGL)の純粋抽出物と比較した。
【0052】
雄Wistarラット(250~300g)を用い、実験室条件(温度20~25℃、相対湿度60±5%、明/暗サイクル12時間)に7日間適応させ、水と食物を自由に摂取させた。
【0053】
物質HMWS、AcGL、AcGS、AlcG、AldG及びアスピリンを、アカシア/水ビヒクル(1%)中の懸濁液として調製した。隔離が終了したら、ラットを7群に分けた:ビヒクルのみを投与したため、ニューロン損傷のない陰性コントロール、及び神経毒性を有する6群。後者のうち、1つはビヒクルのみで処置した陽性コントロールであり、他の5つの群は、HMWS(200mg/kg)、AcGS(132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)、AldG(28mg/kg)及びAcGL(200mg/kg)で処置した。神経毒性誘発の30分前に、全ての治療は、胃内挿管(5mL/kg体重)を通して経口投与した。
【0054】
ラットにカイニン酸(6mg/kg; i. p)を注射投与することにより神経毒性を誘導した。1時間後、ラットの診査的活性をオープンフィールドで評価した(Fernandez, 1987)。これを行うために、ラットを箱の中心(長さ60.5cm×高さ30cm×幅46cm、底部を14.5cm2の12象限に分割)に置き、異なる象限を横切った回数(C)、並びにそれらが装置に置かれた後6分間に停止又は傾いた(leaned)回数(P)を定量した。
【0055】
行動実験が完了したら、ラットをハロタン雰囲気中で屠殺し、脳を迅速に抽出し、10%緩衝ホルムアルデヒド中で固定した。続いて、接線(tangential)脳切片をパラフィンに包埋し、切断し、神経細胞死の検出のために1%酸フクシンで30秒間染色した(Lee, 2000)。好酸性ニューロンの存在(カイニン酸陽性)は、ニューロン損傷を示す変数である(Lee, 2002)。カイニン酸陽性細胞を計数するために、各ラットの海馬のCA1及びCA3の錐体ニューロンを、これらの領域の中心の250μm2の領域で、光学顕微鏡によって検討した(Savaskan, 2002)。
【0056】
結果:
カイニン酸は、グルタミン酸の類似体であり、全身又は脳内に注射投与されると、選択的神経変性による神経毒性を生じ、この物質の受容体が関与する(Coyle, 1983; Borg, 1991)。投与される用量に応じて、カイニン酸は、非痙攣性又は痙攣性発作を誘発することができ、その結果、非痙攣性用量は自発的行動の変化を誘発し、注意力の維持に関連するプロセスを損傷し、動物行動に対するこれらの効果を分析することを可能にする(Mikulecka, 1999)。
【0057】
カイニン酸の投与は、陰性コントロール群と比較して、診査的活性(交差及び停止)及び全体的診査的活性の両方の要素の減少を誘導し、これは、文献に報告されている行動変化に対応し、本発明者らの実験条件においてモデルに妥当性を与える。HMWS (200mg/kg)の単回の経口投与は、陽性コントロール群と比較して、両方の要素並びに総活性を増加させ、全ての治療の最高の有効性を達成した。AcGS (132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)及びAldG(28mg/kg)による処置は交差及び停止、並びに総活性を増加させたが、後者のみが、総活性よりも統計的有意に達した。HMWS (200mg/kg)は、その個々の成分(AcGS、AlcG及びAldG)のそれぞれよりも、測定された全ての行動変数に対してより効果的であり、3つの物質の効果の合計よりもさらに高かった。さらに、交雑、停止及びそれらの合計を増加させるHMWSの有効性はAcGL抽出物(200mg/kg)の有効性よりも高く、これはこの新しいAIの利点を裏付ける(表6)
【0058】
表7は、組織学的研究の結果を示す。予想通り、カイニン酸の全身投与は、海馬領域CA1及びCA3における錐体ニューロンの喪失を誘導することによって、ラット海馬においてこの興奮毒が誘導する効果に関連するニューロン喪失を生じた(Mikulecka, 1999; Perez, 1996)。HMWS (200mg/kg)の投与は、ニューロン死の程度を有意に減少させた(85.3%阻害)。AcGS (132mg/kg)、AlcG(40mg/kg)、及びAldG(28mg/kg)の純粋抽出物は、ニューロン死を中程度に減少させた(それぞれ、35、22.05、及び11.7%阻害)。HMWSの効果とその個々の成分のそれぞれとの間の比較は、3つの物質を組み合わせて提示する、この抽出物のより大きな有効性を示し、有意な差異を示した。同時に、その有効性は、各物質の個々の効果の合計よりも大きく、このモデルにおけるHMWSの神経保護における相乗効果の存在を示した。
【0059】
一方、AcGL抽出物(200mg/kg)は、カイニン酸によるニューロン死(30.8%阻害)に対して中程度に保護することによって神経保護効果も発揮したが、この場合、HMWS抽出物も有効性が優れていた。
【0060】
したがって、このモデルにおいて、HMWS組成物が神経細胞死から保護されるという事実は、前の実施例に記載されたモデルにおいて観察されるその神経保護効果、及び治療の残りの部分に対するその優れた有効性、並びにその成分間の相乗効果を裏付け、神経変性疾患の治療における潜在的な利点を表す。
【0061】
表6:カイニン酸(KA)誘発神経毒性ラットの探索的活性(オープンフィールド)に及ぼす効果。
【表6】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
【0062】
表7:カイニン酸(KA)誘発性神経毒性ラットにおける神経細胞死への影響。
【表7】
平均値データ± SEM(平均値の標準誤差)
(酸フシンア染色陽性細胞数の#)
*p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001 陽性コントロール群との比較
AcGS及びAcGLと比較してp<0.05、AlcG及びAldGと比較してb p <0.001
(マン・ホイットニーU)
【実施例6】
【0063】
錠剤の調製:
5kgの実施例1で得られた組成物を、5kgのカルボキシメチルセルロースナトリウム、30kgのラクトース及び10kgの微結晶性セルロースと、回転ステンレス鋼ドラム中で、5rpmで10分間混合した。続いて、1kgのステアリン酸マグネシウムを前の混合物に添加し、完全な顆粒剤を回転ドラム中にて、5rpmで5分間混合し続けた。最終混合物を打錠機で3万錠/時間の速度で打錠し、平均重量450mgの錠剤を得た。これらは、USP方法によれば、直径12mmの両側に丸い凸形状を有し、水中でのそれらの崩壊時間は20分未満であり、それらの破砕性は1%未満であり、それらの硬度は44~60Nであった。
【実施例7】
【0064】
錠剤のコーティング:
先の実施例で得られた錠剤をコーティングすることができる。これを行うために、それらをプロペラミキサー中で以下の成分と混合して、コーティング懸濁液を形成した:28%水溶液中の25kgのセルロースアセトフタレート、0. 6kgのタルク、0. 9kgの二酸化チタン。コーティングされた錠剤の最終重量は470mgであった。着色剤をコーティング溶液に添加することができ、コーティングされた錠剤をワックス又はパラフィンで研磨することができる。
【実施例8】
【0065】
カプセル剤の入手:
実施例7で得られた顆粒剤は、代替的にカプセル化することができる。この目的のために、サイズ1の硬ゼラチンカプセルに、実施例7で得られた顆粒剤430mgを充填し、それにより、以下の特徴:平均重量455.0+/-30mg、水中での崩壊20分未満、を有するカプセルを得た。
【実施例9】
【0066】
懸濁液の調製:
実施例2に示した組成物200g、40kgのソルビトール、5.00gの防腐剤(アルコールに溶解したメチルパラベンとプロピルパラベンの混合物)を、撹拌プロペラを備えたステンレス鋼反応器中で158リットルの水と混合した。続いて、2kgのリンゴエッセンスを添加し、撹拌を続けた。形成された懸濁液を、プラスチック蓋付きのアンバーガラス瓶に115mLの速度で包装し、1つの大さじ(15mL)を投与単位として推奨した。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトウキビワックスから得られる高分子量の化合物の混合物であって、アルカリ又はアルカリ土類塩の形態の26~36個の炭素原子の脂肪酸と、24~34個の炭素原子の第一級脂肪族アルコールと、48個を超える炭素原子を有するαβ不飽和アルデヒドとから構成されることを特徴とする混合物。
【請求項2】
以下の比率のアルカリ若しくはアルカリ土類塩の形態の脂肪酸を60~80質量% :C26:0 0.3~5%、C27:0 0.3~5%、C28:0 20.0~40.0%、C29:0 1.0~3.0%、C30:0 12.0~25.0%、C31:0 0.5~2.0%、C32:0 5.0~15.0%、C33:0 0.5~3.0%、C34:0 5.0~18.0%、C35:0 0.3~1.5%、C36:0 1.0~8.0%;と
同様に、その中で1-オクタコサノールが優勢である、24~34個の炭素原子の、同種の第一級脂肪族アルコール(10~30重量%);と
その中で48個を超える炭素原子を有する不飽和αβが優勢である、アルデヒド(10~30重量%)、と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の高分子量化合物の混合物。
【請求項3】
請求項1及び2の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物であって、それが含有する物質が、未処理又は精製サトウキビワックス(Saccharum officinarum)から、ワックスをアルカリ性又はアルカリ土類水酸化物で、けん化し、続いて、脂肪酸の塩、アルコール及び高分子量アルデヒドの画分を、超臨界状態で有機溶媒又はCO2流体で抽出及び精製し、続いて、必要な濃度で前記化合物の濃度を最終的に標準化する工程を含む方法によって得られることを特徴とする混合物。
【請求項4】
神経保護及び抗酸化組成物におけるそれらの使用を特徴とする、請求項1及び2の何れか一に記載の高分子量を有する化合物の混合物。
【請求項5】
食品産業によって受け入れられている賦形剤と共に、請求項1及び2の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物を、投与単位あたり5~50mgの用量で含有することを特徴とする栄養組成物。
【請求項6】
経口使用のための錠剤又はカプセルの形態の、請求項5に記載の栄養組成物であって、高分子量化合物の混合物に加えて、充填賦形剤、接着剤、崩壊剤、滑剤及び着色剤を含有することを特徴とする栄養組成物。
【請求項7】
高分子量化合物の混合物に加えて、懸濁剤、防腐剤、着色剤、甘味剤、香味剤及び溶媒を含有することを特徴とする、経口使用のための懸濁液の形態の、請求項5に記載の栄養組成物。
【請求項8】
製薬産業によって受け入れられている賦形剤と共に、請求項1及び2の何れか一に記載の高分子量化合物の混合物を、投薬単位当たり5~50mgの用量で含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項9】
高分子量化合物の混合物に加えて、充填賦形剤、接着剤、崩壊剤、滑剤及び着色剤を含有することを特徴とする、経口使用のための錠剤又はカプセルの形態の請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
高分子量化合物の混合物に加えて、懸濁剤、防腐剤、着色剤、甘味剤、香味剤及び溶媒を含有することを特徴とする、経口使用のための懸濁液の形態の、請求項8に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】