(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】新規なFab二量体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240705BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240705BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240705BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240705BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/18 ZNA
A61K39/00 H
A61K39/00 Z
A61P9/10
A61P35/00
A61P27/02
A61P27/06
A61K47/68
C12N15/62 Z
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501727
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022069594
(87)【国際公開番号】W WO2023285525
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509160867
【氏名又は名称】ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ザイドラー ラインハルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C085AA06
4C085AA26
4C085AA27
4C085BB22
4C085BB41
4C085CC05
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、第1のFab単量体と第2のFab単量体から構成されている新規な二量体に関するものであり、各Fab単量体はVH領域とVL領域を含み、ここで、そのようなVH領域またはVL領域のうちの2つは、それらのそれぞれのN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のFab単量体と第2のFab単量体から構成されている二量体であって、各Fab単量体がVH領域とVL領域を含み、ここで、
(i)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVL領域が、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(ii)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVH領域が、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(iii)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVH領域が、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;または
(iv)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVL領域が、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている、
二量体。
【請求項2】
VL領域またはVH領域のN末端にある、天然には存在しないシステイン残基がアミノ酸位置1またはアミノ酸位置2にあり、ここで、アミノ酸はVL領域またはVH領域のそれぞれN末端から数えられ、位置1はN末端での最初のアミノ酸である、請求項1に記載の二量体。
【請求項3】
前記第1のFab単量体と前記第2のFab単量体が同じであるか、または異なる、請求項1または2に記載の二量体。
【請求項4】
前記第1のFab単量体と前記第2のFab単量体が同じ標的に対して指向性である、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項5】
前記第1のFab単量体が第1の標的に対して指向性であり、かつ前記第2のFab単量体が第2の標的に対して指向性であり、前記第1の標的と前記第2の標的が異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項6】
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項7】
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項8】
前記第1のFab単量体のVH領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項9】
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項10】
前記第1のFab単量体のVH領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項11】
前記第1のFab単量体のVH領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む、請求項7に記載の二量体。
【請求項12】
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む、請求項8に記載の二量体。
【請求項13】
前記第1のFab vのVH領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む、請求項9に記載の二量体。
【請求項14】
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む、請求項10に記載の二量体。
【請求項15】
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 7に示されるVH領域およびSEQ ID NO: 8に示されるVL領域を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項16】
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 9に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域およびSEQ ID NO: 10に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項17】
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 11に示されるVH領域およびSEQ ID NO: 12に示されるVL領域を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項18】
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 13に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域およびSEQ ID NO: 14に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項19】
(a)請求項1~18のいずれか一項で定義される第1および第2のFab単量体を発現するCHO細胞を、定常期に達するまで培養すること;
(b)任意で、該CHO細胞培養物に酸化剤を添加すること;および
(c)該二量体を取得すること
により得られる、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項20】
第1および/または第2のFab単量体が、
(a)標識基;
(b)毒素;または
(c)抗腫瘍薬
に結合している、前記請求項のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の二量体を含む、組成物。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか一項に定義されるFab単量体をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
医薬として使用するための、請求項1~20のいずれか一項に記載の二量体または請求項21もしくは22に記載の組成物。
【請求項24】
低酸素症、固形腫瘍、または眼疾患を治療または抑止するための方法において使用するための、請求項1~20のいずれか一項に記載の二量体または請求項21もしくは22に記載の組成物。
【請求項25】
前記低酸素症が、腫瘍低酸素症、神経低酸素症、脳低酸素症、狭窄症および虚血から選択される、請求項24に記載の二量体または組成物。
【請求項26】
前記固形腫瘍が、肉腫、神経膠腫、癌腫、中皮腫、リンパ腫、腎腫瘍、肺腫瘍、乳腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、卵巣腫瘍、結腸直腸腫瘍、肝腫瘍、前立腺腫瘍、膵腫瘍および頭頸部腫瘍から選択される、請求項24に記載の二量体または組成物。
【請求項27】
前記眼疾患が、高眼圧症、緑内障、黄斑変性症、加齢黄斑変性症、ぶどう膜炎、網膜炎、X連鎖性網膜分離症および高血圧性網膜症から選択される、請求項24に記載の二量体または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のFab単量体と第2のFab単量体から構成されている新規な二量体に関するものであり、各Fab単量体はVH領域とVL領域を含み、ここで、そのようなVH領域またはVL領域のうちの2つは、それらのそれぞれのN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【背景技術】
【0002】
炭酸脱水酵素は、炭酸から重炭酸イオンとプロトン(水素イオン)への可逆的な水和反応を触媒しており、それゆえに体内のpH恒常性の維持に関与している酵素のファミリーである(Badger et al., Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Bio (1994), 45: 369-392)。触媒の非存在下では、この反応はかなりゆっくりと起こる。ほとんどの炭酸脱水酵素はそれらの活性部位に亜鉛イオンを含有するので、それらは金属酵素として分類されている。炭酸脱水酵素のファミリーには、いくつかのメンバーが含まれる。少なくとも5つの異なる炭酸脱水酵素サブファミリー(α、β、γ、δおよびε)が存在する。これらのサブファミリーは、顕著なアミノ酸配列の類似性がなく、たいていの場合、収斂進化の一例であると考えられている。α-炭酸脱水酵素(CA)は哺乳類に見られる。このサブファミリーのメンバーは、それらの動態、組織発現、および細胞内局在に関して区別することができる(Kivela et. al., World J Gastroenterol (2005), 11(2): 155-163)。
【0003】
α-CA酵素は、4つの広範なサブグループ、すなわち、細胞質CA(CA-I、CA-II、CA-III、CA-VIIおよびCA-XIII)、ミトコンドリアCA(CA-VAおよびCA-VB)、分泌型CA(CAVI)、および膜結合型CA(CA-IV、CA-IX、CA-XII、CA-XIVおよびCA-XV)に分けられる(Breton et al. (2001), JOP 2 (4 Suppl):159-64)。その上に、3つの「触媒」CAアイソフォーム(CA-VIII、CA-X、およびCA-XI)が存在しており、それらの機能はまだ不明である。これらの全てのCAには、いくつかのアイソフォームがさらに存在している。
【0004】
CA-II、CA-IXおよびCA-XIIは腫瘍形成プロセスと関連しており、それらは様々な腫瘍の組織学的バイオマーカーおよび予後バイオマーカーとなる可能性がある(Nordfors et al. (2010), BMC cancer; 10:148)。CA-IIはα-CA遺伝子ファミリーの中で最も広く発現しているメンバーであり、事実上あらゆるヒトの組織と臓器に存在している。それは触媒的には最も効率的な酵素の1つとして知られている。それは悪性細胞にある程度存在しており、興味深いことに、腫瘍新生血管の内皮細胞において異所的に発現していることが最近明らかにされた。膜貫通型酵素であるCA-IXは、正常な消化管組織だけでなく、いくつかのタイプのヒトがんにも発現している新規腫瘍関連抗原として最初に認識された。CA-IXは機能的には細胞接着、分化、増殖、および発がんプロセスと関連しており、その酵素活性はCA IIに匹敵している。別の膜貫通型CAアイソザイムであるCA-XIIは、正常な腎臓組織および腎細胞がんにおいて最初に発見された。さらなる研究により、それは他のいくつかの腫瘍に発現していることが示された(Ulmasov et al., PNAS (2000), 97(26): 1412-1417);しかし、それは結腸や子宮などのいくつかの正常な臓器にも発現している。ヒトCA-XIIのX線結晶構造解析からは、それがバイトピック型の二量体タンパク質であり、その短い細胞内C末端が活性部位ドメインの反対側に位置し、後者(活性部位ドメイン)の面が細胞外空間の方に向いていることが分かる。
【0005】
腫瘍、特に低酸素状態にある腫瘍でのCA-II、CA-IXおよびCA-XIIの高発現は、これらの酵素が機能的には、細胞外空間の酸性化によって促進される浸潤過程に関与している可能性がある、ことをさらに示唆している。この仮説を支持するものとして、CA阻害剤は、がん細胞の浸潤能力と増殖を低減させ得ることがインビトロで示されている(Manokaran et al. (2008), J Biomed Nanotechnol., 4(4):491-498)。特に、CA IXとCA XIIは、同様のメカニズムによって制御されているようである;なぜならば、これらのアイソザイムの転写は、低酸素誘導因子-1α(HIF-1α)が介在する経路を通じて、低酸素状態にある腫瘍で誘導されるからである(Chiche et al. (2009))。さらに、CA-XIIの発現は、乳腺腫瘍におけるエストロゲン受容体アルファ(ERα)と高度に相関していることが示されている(Barnett et al. (2008), Cancer Res 68:3505-3515)。がんの進行におけるCAの重要性をさらに詳しく説明すると、急速に増殖する腫瘍細胞は、最も近い血管(100~150μm)からの酸素の拡散が損なわれるほど、急速に過成長する。その結果、腫瘍細胞は低レベルの酸素を受け取り、局所的な低酸素中心と組織壊死を引き起こす。低酸素は細胞においてストレス状態に適応するための選択圧を生み出し、結果として、pH恒常性に関与する酵素を含めて、約50種類の追加のタンパク質の発現をもたらす(Potter et al. (2004), Gell Cycle, 3:164-167)。上で説明したように、後者は、少なくとも部分的には、選択された炭酸脱水酵素(CA)アイソザイム間の、特にCA-IIとCA-IXとCA-XII間の、複雑な連携(coordination)によって達成される。CA XIIとがんとの直接的なつながりは、Proescholdt et al. (2005), Neuro Onco 7:465-475によって証明されている。ここでは、CA XIIの発現が、正常な脳組織と比較して、内因性および転移性の脳腫瘍においてアップレギュレートされることが示されている。さらに、Ilie et al. (2011), In J Cancer, 128(7): 1614-23およびHynninen et al. (2006), Histopathology, 49:594-602は、それぞれ、切除可能な非小細胞肺がんおよび卵巣がん由来の組織におけるCA XIIの過剰発現を示した。Hsieh et al. (2010), Eur J Gell Biol, 89:598-606は、インビボおよびインビトロで、CA XIIが腫瘍細胞株の浸潤と転移に関連していることを明らかにした。
【0006】
その上、CA阻害剤、特にCA-IIおよびCA-XIIの阻害剤は、眼圧を低下させるため、それゆえに高眼圧症を治療するために使用されている(Al-Barrag et al. (2009), Clinical Ophthalomology 3:357-362)。また、CA阻害剤は緑内障の治療にも有用であることが示された(Haapasalo et al. (2008), Neuro Oncology 3:357-362およびVullo et al. 2005)。
【0007】
こうして、CA、特にCA-XIIは、低酸素症、がん、および眼疾患の一因となることが知られており、それゆえに治療的処置または診断のための重要な標的となる(Thiry et al 2008; Vulo et al 2005; およびHaapasalo et al. (2008), Neuro Oncology 3:357-362)。全身性の炭酸脱水酵素阻害剤は当技術分野で知られているが、それらは、酸-塩基平衡異常、過敏反応、致命的な再生不良性貧血といった、有害な副作用を伴う(Gross et al. (1988), Am J Opthamol.; Naeser et al. (1986), Acta Opthalmol., 64:330-337; Mastropasqua et al. (1998), 212:318-321; およびPassp et al. Br J Opthalmol. 1985; 69:572-575)。したがって、上記の疾患に対するさらなる治療および診断手段の開発に採用され得る、さらなる手段および方法が必要とされている。
【0008】
これらのおよびさらなる難点を克服する必要がある。したがって、本発明は、これらのニーズおよび技術的目標に対処して、本明細書に記載されかつ特許請求の範囲に定義されるような解決策を提供するものである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、第1のFab単量体と第2のFab単量体から構成されている二量体に関し、各Fab単量体はVH領域とVL領域を含み、ここで、
(i)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVL領域は、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(ii)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVH領域は、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(iii)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVH領域は、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;または
(iv)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVL領域は、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【0010】
本発明との関連で見出されたように、Fab単量体は、Fab単量体のVL領域および/またはVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のシステイン結合(ジスルフィド結合)を介して、二量体化された。したがって、本発明によれば、Fab単量体のVL領域および/またはVH領域のN末端において、天然には存在しない追加のシステイン残基が存在することで、Fab単量体間のシステイン結合(ジスルフィド結合)の形成が可能になり、本明細書に記載され提供されるようなFab二量体が構築される。驚いたことに、本発明との関連で見出されたように、また、本明細書に示されるように、システイン結合(ジスルフィド結合)を含むこれらのFab二量体は、このようなシステイン結合(ジスルフィド結合)を含まないか、VLおよび/またはVH領域のN末端において天然には存在しない追加のシステイン残基を含まない、それぞれのFab単量体(同じ標的構造(例えば、抗原)に指向する)と比較して、酸性環境における標的構造(例えば、抗原)に対して増大した結合親和性および/または結合活性を示す。本発明によれば、酸性環境における標的構造(例えば、抗原)に対するこの増大した結合親和性および/または親和力は、Fab二量体によって結合される標的構造(本明細書では標的とも呼ばれる;例えば、抗原)が、がんに存在するか、または腫瘍内の酸性微小環境のためにがんの治療もしくは診断に適している場合に、特に重要であり得る(例えば、Estrella et al., Microenviron Immunol (2013), 73(5): 1524-1535; Boedtkjer et al., Annual Rev Physiol (2020), 82: 103-126; Pillai et al., Cancer Metastasis Rev (2019), 38: 205-222; Ji et al., Cancer Metastasis Rev (2019): 38: 103-112; Gatenby et al., Nature Rev Cancer (2004): 891-899を参照されたい)。
【0011】
上記のことから、このような二量体が標的、例えば標的タンパク質に結合することができるということは、驚くべきことであった;なぜなら、2つのVH領域、2つのVL領域、VH領域とVL領域、またはVL領域とVH領域のいずれかのN末端を介した二量体化は、例えばCDRを保持する可変領域の立体障害のために、標的に結合できないと予想されたからである。
【0012】
実際、抗原結合を提供する可変領域のN末端に非常に近い二量体化、好ましくはN末端での直接の二量体化は、抗原結合部位(パラトープ)が標的タンパク質のエピトープに結合するのを立体的に妨げられる可能性があるため、抗原への結合に不利な影響を及ぼすと予想されていた。しかしながら、実施例で示されるように、2つのVH領域が本明細書に記載されるように二量体化されている本発明の二量体は、標的に結合する。それゆえに、2つのVH領域のN末端での二量体化だけでなく、本明細書に記載されるような2つのVL領域、またはVH領域とVL領域、またはVL領域とVH領域のN末端での二量体化も、標的への結合を可能にするということは、十分理にかなっている。
【0013】
実際に、他の抗体フォーマットでは、古典的なN末端-C末端融合によって、VH領域をVL領域と融合させることができ、例えば、VL領域のN末端をVH領域のC末端に融合させることもできるし、その逆もまたしかりである。しかし、N末端/N末端の融合は行われていない。同様に、ジスルフィド結合の導入は、例えば、抗体またはそのフラグメントを安定化させたり、二量体化させたりするための、好適な手段であり得るが、本発明者の知る限りでは、ジスルフィド結合が、可変領域のN末端のすぐ近くに、好ましくは可変領域のN末端に配置されることはない。それどころか、システイン残基は可変領域から遠く離れて導入される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概して、本発明との関連では、本明細書に記載されるFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基は、C末端よりもN末端に近い、それぞれのVLまたはVH領域内の任意の位置に存在し得る。本発明の一態様では、それは、それぞれのVLまたはVH領域の最初の10個のN末端アミノ酸以内にあってよく(それぞれのVLまたはVH領域の最初のアミノ酸がN末端の位置1として数えられる)、より好ましくは最初の3個のN末端アミノ酸以内にあり、最も好ましくは最初の2個のN末端アミノ酸以内にある。すなわち、本発明のこの態様では、VL領域またはVH領域のN末端にある、天然には存在しないシステイン残基は、アミノ酸位置1またはアミノ酸位置2にある;ここで、アミノ酸は、VL領域またはVH領域のそれぞれN末端から数えられ、位置1がN末端の最初のアミノ酸である。
【0015】
本明細書で使用され、当業者には容易に理解されるように、「Fab」(または「Fab分子」)は、例えば本明細書に記載されるような、抗体のフラグメントであり、当技術分野で広く知られている。それは、可変軽鎖(VL鎖)またはVL領域と可変重鎖(VH鎖)またはVH領域とを含み、これらが一緒になって、抗原またはエピトープなどの標的構造へのFabの結合を可能にする結合領域またはモチーフを形成している、結合性物質であり得る。「Fab」のVH鎖または領域とVL鎖または領域は、定常領域または定常領域の一部をさらに含んでいてもよい。本明細書で使用され、当業者に合理的に適用される「Fab」という用語は、F(ab')2、Fab'、Fv、scFv、Fd、dAb、および抗原結合機能を保持する他の抗体フラグメントをも含み得る。典型的には、そのようなフラグメントは抗原結合ドメインを含み、本明細書に記載されるFabと同じ特性を有するであろう。
【0016】
本発明との関連において、本明細書で使用する場合、本明細書に記載のFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にある「天然には存在しない追加のシステイン残基」との関連での「追加の」とは、以下を意味し得る:(i)各VLおよび/またはVH領域のそれぞれの基準(すなわち、天然)配列を構成しているアミノ酸のほかに、Fab単量体のVLおよび/またはVH領域のそれぞれのN末端においてシステイン残基が存在する(したがって、基準VLまたはVH領域のアミノ酸配列の全長を1アミノ酸だけ拡張する)、または(ii)各VLおよび/またはVH領域のそれぞれの基準(すなわち、天然)配列を構成しているアミノ酸のうちの1個を、システイン残基で置き換える(したがって、基準VLまたはVH領域のアミノ酸配列の全長に変化はないが、基準配列と比較して1個のシステイン残基が加わる)。本発明の好ましい態様では、「追加の」とは、前文の(i)に従って、各VLおよび/またはVH領域のそれぞれの基準(すなわち、天然)配列を構成している他のアミノ酸へのシステイン残基の付加を意味する。
【0017】
同様に、本発明との関連において、本明細書で使用する場合、本明細書に記載のFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にある「天然には存在しない追加のシステイン残基」との関連での「天然には存在しない」とは、追加のシステイン残基が、それぞれの基準VLまたはVH領域のアミノ酸配列において、この各位置もしくは全位置に存在しないか、またはこの各位置にも全位置にも存在しない、ことを意味し得る。
【0018】
本発明によれば、VLおよび/またはVH領域が、それぞれのVLおよび/またはVH領域のN末端にある天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合されている、第1のFab単量体と第2のFab単量体は、同じであっても、異なっていてもよい。いずれの場合にも、VLおよび/またはVH領域が、それぞれのVLおよび/またはVH領域のN末端にある天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合されている、第1のFab単量体と第2のFab単量体は、同じ標的に対して、または異なる標的(例えば、抗原)に対して指向性であり得る。一態様では、本発明によれば、VLおよび/またはVH領域が、それぞれのVLおよび/またはVH領域のN末端にある天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合されている、第1のFab単量体と第2のFab単量体は、同じであってよく、両方のFab単量体は、同じ標的に対して指向性である。本発明の別の態様では、VLおよび/またはVH領域が、それぞれのVLおよび/またはVH領域のN末端にある天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合されている、第1のFab単量体と第2のFab単量体は、異なっていてもよく、同じ標的に対して指向性である。本発明のさらに別の態様では、VLおよび/またはVH領域が、それぞれのVLおよび/またはVH領域のN末端にある天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合されている、第1のFab単量体と第2のFab単量体は、異なっていてもよく、異なる標的に対して指向性である。本発明の後者の態様では、第1のFab単量体は第1の標的に対して指向性であり、第2のFab単量体は第2の標的に対して指向性であり、第1および第2の標的は異なる。この場合、本明細書に記載され提供される二量体は、2つの異なる標的に対して指向性であるため、二重特異性Fab二量体となるであろう。
【0019】
本発明によれば、本発明のFab二量体が指向する標的は、タグ付け、マーク付け、中和、または他の方法での結合が望まれる任意の標的であり得る。本発明のいくつかの態様では、このような標的は、低酸素症もしくは眼疾患に罹患している対象に存在する抗原、がん性もしくは腫瘍性の細胞内または細胞上に存在する抗原、あるいはがん、特に固形腫瘍に罹患している対象に存在する抗原であり得る。このような標的は、抗体またはそのフラグメント(例えば、FabまたはF(ab')2フラグメント)が結合することのできる、抗原、またはペプチド部分、グリコシド部分および/もしくは他の部分を有する他の任意の構造であり得る。本発明の具体的な態様では、本発明の二量体が指向する標的は、α-炭酸脱水酵素XII(CA-XII)である。
【0020】
したがって、本発明の具体的な態様では、本明細書に記載され提供される二量体はCA-XIIに結合する(好ましくは、特異的に結合する)。これに関連して、本発明によれば、本明細書に記載され提供される二量体は、本明細書に記載される第1および第2のFab単量体の一方または両方で、好ましくは両方で、CA-XIIに結合する(好ましくは、特異的に結合する)ことができる。
【0021】
「特異的に認識する」という用語(本明細書では「特異的に結合する」、「~に指向する」または「~と反応する」と同様に使用される)は、本発明によれば、認識分子が、本明細書で定義されるエピトープの少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは少なくとも4個のアミノ酸と特異的に相互作用および/または結合することができる、ことを意味する。このような結合は、「鍵と鍵穴の原理」の特異性によって説明することができる。かくして、これとの関連での「特異的に」という用語は、認識分子が所定の標的エピトープに結合するが、他のタンパク質には本質的に結合しない、ことを意味する。「他のタンパク質」という用語には、認識分子が指向するエピトープに密接に関連するまたは該エピトープに相同であるタンパク質を含めて、あらゆるタンパク質が含まれる。しかしながら、「他のタンパク質」という用語には、認識分子が、その認識分子が生成された対する種とは異なる種からのエピトープと交差反応する、ことは含まれない。
【0022】
本明細書で使用される「本質的に結合しない」という用語は、本発明のエピトープ認識分子が、他のタンパク質と結合しない、すなわち、他のタンパク質と30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、特に好ましくは9、8、7、6または5%未満の交差反応性を示す、ことを意味する。
【0023】
特異的結合は、結合ドメインのアミノ酸配列中の特定のモチーフと抗原が、それらの一次、二次または三次構造の結果としてだけでなく、該構造の二次的修飾の結果として、互いに結合することによってもたらされると考えられる。抗原相互作用部位とその特定の抗原との特異的相互作用は、該部位と該抗原との単純な結合をもたらすこともある。さらに、抗原相互作用部位とその特定の抗原との特異的相互作用は、例えば、抗原のコンフォメーション変化の誘導、抗原のオリゴマー化などが原因で、シグナルの開始を代替的にもたらすこともある。本発明に合致する結合ドメインの好ましい例は、抗体である。通常、結合親和性が10-6Mより高い場合、結合は「特異的」とみなされる。好ましくは、結合親和性が約10-11~10-8M(KD)、好ましくは約10-11~10-9Mである場合、結合は特異的とみなされる。必要に応じて、結合条件を変えることによって、特異的結合に実質的な影響を与えることなく非特異的結合を低減させることができる。認識分子が上記で定義したように特異的に反応するかどうかは、とりわけ、認識分子とエピトープとの反応を、その認識分子と他のタンパク質(複数可)との反応と比較することにより、容易に試験することができる。
【0024】
本発明の一態様において、CA-XIIはヒトCA-XIIである。本発明によれば、さらに、記載され提供される二量体は、WO2011/138279に記載されるようなCA-XIIの細胞外ドメインの少なくとも1つのエピトープに、または好ましくはCA-XIIの不連続な触媒ドメインの領域にある少なくとも1つのエピトープに、結合するであろう。本発明による「細胞外ドメイン」という用語は、当技術分野でよく知られた用語であり、また、本発明との関連では、細胞外環境へと伸びるCA-XIIの部分に関係する。また、本発明による「触媒ドメイン」という用語も、当技術分野でよく知られた用語であり、本発明との関連では、炭酸から重炭酸イオンと水素イオンへの触媒反応が起こるCA-XIIの部分に関係する。
【0025】
「抗原」および「免疫原」という用語は、本明細書では相互交換可能に使用され、動物、好ましくはそれによって免疫化された非ヒト動物において免疫応答(好ましくは抗体応答)を引き出し(すなわち、その抗原は該動物において「免疫原性」がある)、かつ典型的には抗体またはその一部(例えば、本明細書に記載され提供されるFab単量体もしくは二量体、または本明細書に記載され当技術分野で知られたF(ab')2フラグメントもしくは他のFab分子)によって結合され得る分子または物質を指す。
【0026】
また、「エピトープ」という用語は、認識分子が結合する抗原上の部位を指す。好ましくは、エピトープは、認識分子、好ましくは抗体が産生されることになり、かつ/または抗体が結合することになる分子上の部位である。例えば、エピトープは、認識分子によって、特に好ましくはエピトープを決定づけている抗体によって認識され得る。「線状エピトープ」とは、アミノ酸の一次配列が認識されるエピトープを構成しているエピトープのことである。線状エピトープは、典型的には、ユニーク配列中に少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個、例えば約8~約10個のアミノ酸を含む。
【0027】
「立体構造エピトープ」とは、線状エピトープと対照的に、エピトープを構成しているアミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープの唯一の決定的構成要素ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、エピトープを決定づけている抗体によって必ずしも認識されないエピトープ)のことである。通常、立体構造エピトープは、線状エピトープに比べて増加した数のアミノ酸を含む。立体構造エピトープの認識に関して、認識分子は、抗原、好ましくはペプチドやタンパク質またはその断片、の3次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折りたたまれて3次元構造を形成すると、立体構造エピトープを構成している特定のアミノ酸および/またはポリペプチド骨格が並置されて、抗体がエピトープを認識できるようになる。エピトープの立体構造を決定づける方法としては、例えば、X線結晶構造解析、2次元核磁気共鳴分光法、部位特異的スピンラベル法、および電子常磁性共鳴分光法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片によって実質的または部分的にコードされる(1つまたは複数の結合ドメイン、好ましくは抗原結合ドメインを含む)1つまたは複数のポリペプチドから構成されているタンパク質である。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書では「抗体」と相互交換可能に使用される。広く認められた免疫グロブリン遺伝子には、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子だけでなく、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子も含まれる。
【0029】
特に、本明細書で使用される「抗体」は、典型的には、それぞれ約25kDaの2本の軽鎖(L鎖)と、それぞれ約50kDaの2本の重鎖(H鎖)から構成されている四量体のグリコシル化タンパク質である。抗体には、ラムダとカッパと呼ばれる2種類の軽鎖が存在し得る。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、5つの主要なクラス:A、D、E、G、およびMに割り当てることができ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、lgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2(ヒトの場合)にさらに分類することができる。IgM抗体は、5個の基本のヘテロ四量体単位と、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドから構成されており、10個の抗原結合部位を含む;一方、IgA抗体は、2~5個の基本の4鎖単位から構成されており、これらは重合して、J鎖と共に多価集合体を形成することができる。IgGの場合には、4鎖単位が一般的に約150,000ダルトンである。
【0030】
各軽鎖は、N末端の可変(V)ドメイン(VL)と定常(C)ドメイン(CL)を含む。各重鎖は、N末端のVドメイン(VH)と、3つまたは4つのCドメイン(CH)と、ヒンジ領域を含む。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関与していない。
【0031】
VHとVLが一緒に対合すると、単一の抗原結合部位が形成される。VHに最も近いCHドメインは、CH1と指定される。各L鎖は1つの共有結合性ジスルフィド結合によってH鎖に結合しているが、2本のH鎖はH鎖のアイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに結合している。VHドメインとVLドメインは、フレームワーク領域と呼ばれる比較的保存された配列の4つの領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)で構成されており、これらは超可変配列の3つの領域(相補性決定領域;CDR)のための足場を形成している。CDRには、抗体と抗原との特異的相互作用に関与する残基のほとんどが含まれている。CDRはCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる。したがって、重鎖上のCDR構成要素はH1、H2、およびH3と呼ばれ、一方、軽鎖上のCDR構成要素はL1、L2、およびL3と呼ばれる。「可変」という用語は、免疫グロブリン配列の可変性を示しかつ特定の抗体の特異性と結合親和性の決定に関与している、免疫グロブリンドメインの部分(すなわち「可変ドメイン(複数可)」)を指す。可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているわけではない;それは、重鎖および軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変」領域または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。天然に存在する重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主にβシート立体配置をとる4つのFRM領域を含み、これらのFRM領域は3つの超可変領域によってつながれている;超可変領域は、βシート構造をつなぐループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成している。各鎖の超可変領域は、FRMによってごく近接して一緒に保持され、もう一方の鎖の超可変領域と共に、抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat et al. 下記)。定常ドメインは、抗原結合には直接関与しないが、例えば、抗体依存性、細胞介在性細胞傷害、および補体活性化など、様々なエフェクター機能を示す。
【0032】
用語「CDR」およびその複数形「CDRs」は、相補性決定領域(CDR)を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特性を構成しており(CDRL1、CDRL2およびCDRL3;本明細書ではVL-CDR、VL-CDR2およびVL-CDR3とも呼ばれる)、また、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成している(CDRH1、CDRH2およびCDRH3;本明細書ではVH-CDR、VH-CDR2およびVH-CDR3とも呼ばれる)。CDRは抗体分子の機能活性に寄与しており、足場領域またはフレームワーク領域を構成するアミノ酸配列によって隔てられている。CDRの境界および長さの正確な定義づけは、様々な分類およびナンバリングシステムに応じて異なる。そのため、CDRは、本明細書に記載のナンバリングシステムを含めて、Kabat、Chothia、contactまたは他の境界定義によって言及され得る。境界が異なるにもかかわらず、これらのシステムのそれぞれは、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成する部分に、ある程度のオーバーラップ(重なり)を含んでいる。したがって、これらのシステムに従うCDRの定義は、隣接するフレームワーク領域に関して、長さと境界領域が異なる可能性がある。例えば、Kabat、Chothia、および/またはMacCallumを参照されたい(Kabat et al., loc. cit.; Chothia et al., J MoI Biol (1987), 196: 901; およびMacCallum et al., J MoI Biol (1996), 262: 732)。しかし、いわゆるKabatシステムに従うナンバリングが好適である。
【0033】
本発明の具体的な態様では、第1および第2のFab単量体は、特定のVLおよびVH領域を含むことができ、それぞれの領域は1つまたは複数の特定のCDR領域を含んでいる。例えば、本発明の一つの具体的な態様では、第1のFab単量体は、(A)SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3を含むか、あるいは(B)(A)のいずれか1つまたは全ての配列を含み、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1~6と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換、欠失または付加(好ましくは置換)されている。本発明の具体的な態様では、第1のFab単量体は、SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2およびSEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体は、SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3を含み、ここで、SEQ ID NO: 1~6のいずれか1つまたは全ての配列において、それぞれ、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換されており、該置換の少なくとも1つまたは(好ましくは)全てが保存的な置換または高度に保存的な置換である。
【0034】
本明細書で使用される「保存的」置換とは、本明細書の表Iに「例示的置換」として列挙される置換を意味する。本明細書で使用される「高度に保存的な」置換とは、本明細書の表Iの「好ましい置換」という項目に示される置換を意味する。
【0035】
【0036】
本明細書で別段の定めがない限り、本発明に従って使用される「位置」という用語は、本明細書に示されるアミノ酸配列内のアミノ酸の位置を意味する。本明細書で別段の定めがない限り、これとの関連で「対応する」という用語には、先行するヌクレオチド/アミノ酸の数によってのみ位置が決定されるわけではないことも含まれる。
【0037】
本明細書で使用される用語「アミノ酸」または「アミノ酸残基」は、典型的には、当技術分野で広く認識された定義を有するアミノ酸を指し、例えば、アラニン(AlaまたはA);アルギニン(ArgまたはR);アスパラギン(AsnまたはN);アスパラギン酸(AspまたはD);システイン(CysまたはC);グルタミン(GlnまたはQ);グルタミン酸(GluまたはE);グリシン(GlyまたはG);ヒスチジン(HisまたはH);イソロイシン(HeまたはI);ロイシン(LeuまたはL);リジン(LysまたはK);メチオニン(MetまたはM);フェニルアラニン(PheまたはF);プロリン(ProまたはP);セリン(SerまたはS);スレオニン(ThrまたはT);トリプトファン(TrpまたはW);チロシン(TyrまたはY);およびバリン(ValまたはV)からなる群より選択されるアミノ酸を指すが、修飾アミノ酸、合成アミノ酸、または希少アミノ酸を所望により使用することができる。一般的に、アミノ酸は、以下の側鎖を有するものとしてグループ分けすることが可能である:非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、He、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負に荷電した側鎖(例えば、Asp、Glu);正に荷電した側鎖(例えば、Arg、His、Lys);または荷電していない極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyr)。
【0038】
本発明によれば、それぞれの第1および第2のFab単量体のVLおよび/またはVH領域はまた、それらのN末端において分泌配列を含むこともできる。当技術分野で一般的に知られるように、このような分泌配列は、合成されたFab単量体がFab産生細胞から分泌されるようにするのに適切であり得る。例えば、本発明との関連では、第1および/または第2のFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にあるこのような分泌配列は、SEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16に示されるアミノ酸配列を含み得るか、または該配列からなり得、あるいはSEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16に示されるアミノ酸配列を含むか、または該配列からなり、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換、欠失または付加(好ましくは置換)されている。本発明の具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にあるこのような分泌配列は、SEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16に示されるアミノ酸配列を含み得るか、または該配列からなり得る。本発明の別の具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体のVLおよび/またはVH領域のN末端にあるこのような分泌配列は、SEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16に示されるアミノ酸配列を含み得るか、または該配列からなり得、ここで、SEQ ID NO: 15またはSEQ ID NO: 16に示されるアミノ酸配列と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換されており、該置換の少なくとも1つまたは(好ましくは)全てが、本明細書で定義されるような保存的な置換または高度に保存的な置換である。
【0039】
これに関連して、本発明の具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む。
【0040】
これに関連して、本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。
【0041】
本発明のより具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含み、かつ第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別のより具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含み、かつ第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別のより具体的な態様では、第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含み、かつ第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。本発明の別のより具体的な態様では、第1のFab単量体のVH領域および第2のFab単量体のVL領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含み、かつ第1のFab単量体のVL領域および第2のFab単量体のVH領域は、そのN末端においてSEQ ID NO: 15に示される分泌配列を含む。
【0042】
本発明の非常に具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 7に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 8に示されるVL領域を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 7に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 8に示されるVL領域を含み、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 7またはSEQ ID NO: 8と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換、欠失または付加(好ましくは置換)されている。後者に関連して、本発明の一態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 7に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 8に示されるVL領域を含み、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 7またはSEQ ID NO: 8と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換されており、該置換の少なくとも1つまたは(好ましくは)全てが、本明細書で定義されるような保存的な置換または高度に保存的な置換である。
【0043】
本発明の別の非常に具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 9に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 10に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含むか、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 9に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 10に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含み、ここで、SEQ ID NO: 9またはSEQ ID NO: 10のそれぞれの核酸配列と比較して、1~30個、好ましくは1~21個、より好ましくは1~12個、より好ましくは1~6個のヌクレオチドが、それぞれ、置換、付加または欠失(好ましくは置換)されている。後者の場合には、SEQ ID NO: 9またはSEQ ID NO: 10のそれぞれの核酸配列と比較して、1~30個、好ましくは1~21個、より好ましくは1~12個、より好ましくは1~6個のヌクレオチドが、それぞれ、置換されており、このような置換は、好ましくは保存的な置換、高度に保存的な置換、または、より好ましくはサイレント置換である。
【0044】
本明細書で使用される「サイレント」置換または変異とは、核酸配列によってコードされるそれぞれのアミノ酸配列を変化させない、核酸配列内の塩基置換を意味する。「保存的」置換とは、表Iに「例示的置換」として列挙される置換を意味する。本明細書で使用される「高度に保存的な」置換とは、表Iの「好ましい置換」という項目に示される置換を意味する。
【0045】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される「核酸」または「核酸分子」という用語は、「オリゴヌクレオチド」、「核酸鎖」などと同義的に使用され、例えば一本鎖または二本鎖の、1個、2個、またはそれ以上のヌクレオチドを含むポリマーを意味する。
【0046】
同様に、本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、同義的に解釈されるべきである。一般的には、核酸分子は、とりわけ、DNA分子、RNA分子、オリゴヌクレオチドチオホスフェート、置換リボ-オリゴヌクレオチドまたはPNA分子を含み得る。さらに、「核酸分子」という用語は、DNAもしくはRNA、またはそれらのハイブリッド、または当技術分野で知られているそれらの修飾体を指すことができる(修飾体の例については、例えば、US 5525711、US 471 1955、US 5792608またはEP 302175を参照されたい)。ポリヌクレオチド配列は、一本鎖または二本鎖、直鎖または環状、天然または合成であってよく、サイズの制限はない。例えば、ポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNA、ミトコンドリアDNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、またはこのようなRNAをコードするDNA、またはキメロプラスト(chimeroplast)であり得る(Gamper, Nucleic Acids Research, 2000, 28, 4332-4339)。該ポリヌクレオチド配列は、ベクター、プラスミド、またはウイルスDNAもしくはRNAの形態であってもよい。また、本明細書には、上記の核酸分子に相補的な核酸分子、および本明細書に記載の核酸分子にハイブリダイズできる核酸分子も記載される。本明細書に記載の核酸分子はまた、本発明との関連ではその核酸分子の断片であってもよい。特に、そのような断片は機能性の断片である。このような機能性断片の例は、プライマーとして機能し得る核酸分子である。
【0047】
本発明のさらなる具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 11に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 12に示されるVL領域を含む。本発明の別の具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 11に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 12に示されるVL領域を含み、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 11またはSEQ ID NO: 12と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換、欠失または付加(好ましくは置換)されている。後者との関連において、本発明の一態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 11に示されるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 12に示されるVL領域を含み、ここで、それぞれのアミノ酸配列SEQ ID NO: 11またはSEQ ID NO: 12と比較して、少なくとも1個、および最大5個、好ましくは最大4個、より好ましくは最大3個、より好ましくは最大2個、より好ましくは正確に1個のアミノ酸が置換されており、該置換の少なくとも1つまたは(好ましくは)全てが、本明細書で定義されるような保存的な置換または高度に保存的な置換である。
【0048】
本発明のさらなる具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 13に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域およびSEQ ID NO: 14に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含む。本発明のさらなる具体的な態様では、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 13に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域およびSEQ ID NO: 14に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含み、ここで、第1および/または第2のFab単量体は、SEQ ID NO: 13に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVH領域および/または(好ましくは、および)SEQ ID NO: 14に示されるヌクレオチド配列によってコードされるVL領域を含み、ここで、SEQ ID NO: 13またはSEQ ID NO: 14のそれぞれの核酸配列と比較して、1~30個、好ましくは1~21個、より好ましくは1~12個、より好ましくは1~6個のヌクレオチドが、それぞれ、置換、付加または欠失(好ましくは置換)されている。後者の場合には、SEQ ID NO: 13またはSEQ ID NO: 14のそれぞれの核酸配列と比較して、1~30個、好ましくは1~21個、より好ましくは1~12個、より好ましくは1~6個のヌクレオチドが、それぞれ、置換されており、このような置換は、好ましくは保存的な置換、高度に保存的な置換、または、より好ましくはサイレント置換である。
【0049】
本発明はさらに、
(a)本明細書で定義される第1および第2のFab単量体を発現する適切な細胞(例えば、CHO細胞またはHEK293細胞)を、定常期に達するまで培養すること;
(b)任意で、該細胞培養物に酸化剤(例えば、O2、1mM H2O2、および/または1mM MnO4
-)を添加すること;および
(c)該二量体を取得すること
により得られる、本明細書に記載され提供される二量体に関する。
【0050】
本明細書で使用される「定常期」とは、細胞数(例えば、分裂する細胞と死滅する細胞との間のバランスによる)のさらなる実質的な(例えば、2時間にわたって約2%以上、好ましくは約1%以上の)純増加がないこと、好ましくは細胞数のさらなる純増加がないことを意味し得る。
【0051】
さらに、本発明によれば、第1および/または第2のFab単量体は、例えば、診断または治療目的のために、他の化合物にカップリングすることができる。そのような化合物は、例えば、標識基、毒素、または抗腫瘍薬(例:フルオロクロム、酵素(ペルオキシダーゼなど)、放射性核種、ライジン(rizin)、オゾガマイシン、エムタンシン、モノメチルアウリスタチンE、α-アマニチン)を含み得る。このようなカップリングは、結合部位への抗体または抗原の発現後に化学的に行ってもよいし、カップリング産物をDNAレベルで本発明の抗体または抗原に工学的に組み込んでもよい。その後、本明細書で後述するように、DNAを適切な宿主系で発現させ、発現したタンパク質を回収し、必要であれば復元する。カップリングは、当技術分野で公知のリンカーを介して行ってもよい。特に、酸性もしくは還元条件下で、または特定のプロテアーゼへの曝露時に、毒素または抗腫瘍薬を放出する様々なリンカーを、この技術と共に採用することができる。
【0052】
特定の局面では、標識基、毒素、または抗腫瘍薬は、潜在的な立体障害を低減するために、様々な長さのスペーサーアームによって結合されることが望ましいかもしれない。
【0053】
本発明はさらに、本明細書に記載され提供される二量体を含む調合物(compound)に関する。本発明によれば、本明細書に記載され提供される二量体を含むそのような調合物は、追加的に、本明細書に記載され提供される1つまたは複数のFab単量体(非二量体型)を含むこともできる。本発明の一態様では、このような調合物は医薬として使用するためのものであり得る。例えば、本明細書に記載され提供される二量体を含む調合物は、薬学的組成物であり得る。
【0054】
別段の定めがない限り、本明細書で「二量体」について言及する場合、本明細書に記載されるFab二量体を意味する。同様に、「単量体」について言及する場合、本明細書に記載されるFab単量体を意味する。
【0055】
概して、本発明との関連において、本明細書に記載され提供される調合物は、本明細書に記載される1つまたは複数の二量体、および本明細書に記載される1つまたは複数の単量体を含み得る。例えば、本明細書に記載され提供される組成物において、二量体と単量体との比は、約100:0、約99:1、約90:10、約80:20、約70:30、約60:40、約50:50、約40:60、約30:70、約20:80、約10:90、または約1:99の範囲であり得る。具体的な例として、二量体と単量体の比は約40:60であり得る。
【0056】
(薬学的)組成物は、好ましくは、家畜やペットなどの哺乳動物に投与される。最も好ましくは、それはヒトに投与される。本明細書に記載の薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与され得る。本発明に従って使用するための薬学的組成物は、当技術分野で見出される方法に従って、1つまたは複数の生理学的担体または賦形剤を用いて慣例的に製剤化することができる;例えば、Ansel et al., "Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems", 7th edition, Lippincott Williams & Wilkins Publishers, 1999を参照されたい。(薬学的)組成物は、その結果、任意で従来の薬学的に許容される添加剤を含む、投与単位製剤として、経口的、非経口的、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、経皮的、経粘膜的、硬膜下に、イオントフォレシスを介して局所的もしくは外用に、舌下に、吸入スプレー、エアロゾルにより、または直腸などに投与することができる。経口投与の場合、本発明の(薬学的)組成物は、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態をとることができ、これらは、結合剤(例:アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例:ラクトース、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム)、滑沢剤(例:ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ)、崩壊剤(例:ジャガイモデンプン、グリコール酸デンプンナトリウム)、または湿潤剤(例:ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される添加剤を用いて従来の手段により調製される。(薬学的)組成物は、本明細書に記載されるように、生理学的に許容される担体と共に患者に投与することができる。「担体」という用語は、治療薬と一緒に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このような医薬用の担体は、無菌の液体、例えば水および油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などの、石油、動物、植物または合成起源の油であり得る。水は、(薬学的)組成物を静脈内投与する場合の好ましい担体である。生理食塩水、ならびにブドウ糖およびグリセロールの水溶液も、特に注射液用の、液状担体として利用することができる。適切な医薬用添加剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、ナトリウムイオン、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。該組成物は、必要であれば、少量の乳化剤またはpH緩衝剤を含むこともできる。こうした組成物は、溶液剤、懸濁液剤、乳濁液剤、錠剤、丸薬、カプセル剤、粉末剤、徐放性製剤などの形態であり得る。該組成物は、トリグリセリドなどの慣用の結合剤および担体を用いて、坐薬として製剤化することができる。経口製剤は、医薬品級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。適切な医薬用担体の例は、E.W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、治療に有効な量の前述の化合物、好ましくは精製された形態の該化合物を、患者に適切な投与形態を提供するような適量の担体と共に含有する。製剤は投与方法に適合する必要がある。
【0057】
本発明の薬学的組成物は、唯一の活性薬剤として投与することもできるし、他の薬剤、好ましくは問題の疾患の治療に適することが当技術分野で知られている薬剤と併用して投与することもできる。
【0058】
本発明によれば、本明細書に記載され提供される二量体、本明細書に記載され提供されるそのような二量体(および1つまたは複数のFab単量体(非二量体型))を含む組成物はまた、低酸素症、固形腫瘍、または眼疾患を治療または抑止するための方法で使用するためのものであり得る。
【0059】
本発明との関連において、例えば、低酸素症は、腫瘍低酸素症、神経低酸素症、脳低酸素症、狭窄症および虚血から選択され得る。これに関連して、「低酸素症」という用語は、身体全体(全身性低酸素症)または身体の一部(組織低酸素症)が十分な酸素供給を奪われている病理学的状態を指す。例えば、細胞レベルでの酸素供給量とその需要量とのミスマッチは、低酸素状態をもたらす可能性がある。酸素供給が完全に奪われた低酸素症は、無酸素症と呼ばれ、低酸素症という包括的な用語に包含される。
【0060】
本発明による「固形腫瘍」という用語は、通常は嚢胞または液状部を含まない、異常な組織塊を定義している。固形腫瘍は良性である(がんではない)こともあれば、悪性である(当技術分野ではしばしばがんと呼ばれる)こともある。様々なタイプの固形腫瘍は、それらを形成する細胞の種類に応じて名前が付けられている。本発明との関連において、例えば、固形腫瘍は、肉腫、神経膠腫、癌腫、中皮腫、リンパ腫、腎腫瘍、肺腫瘍、乳腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、卵巣腫瘍、結腸直腸腫瘍、肝腫瘍、前立腺腫瘍、膵腫瘍および頭頸部腫瘍から選択され得る。本発明の一態様では、固形腫瘍は神経膠腫または肺腫瘍である。本発明の具体的な態様では、固形腫瘍は神経膠腫である。
【0061】
本明細書で使用される「眼疾患」という用語は、その付属器を含む眼の病理学的状態または損傷を指す。眼疾患は、例えば、眼の天然水晶体の混濁または不透明化、例えば液体の漏れと蓄積に起因する、黄斑部の腫れまたは中心網膜の腫れ、網膜の下にヒアリン体(硝子体)の小さな蓄積、視神経の損傷、黄斑部の細胞の変性、視力低下または眼の結膜と角膜の炎症、および瘢痕組織の形成を伴うことがある。本発明との関連において、例えば、眼疾患は、高眼圧症、緑内障、黄斑変性症、加齢黄斑変性症、ぶどう膜炎、網膜炎、X連鎖性網膜分離症および高血圧性網膜症から選択され得る。
【0062】
本発明を特徴づける態様は、本明細書に記載され、図面に示され、実施例に例示され、そして特許請求の範囲に反映される。
【0063】
本発明はまた、以下の項目により特徴づけられる。
1.
第1のFab単量体と第2のFab単量体から構成されている二量体であって、各Fab単量体がVH領域とVL領域を含み、ここで、
(i)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVL領域が、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(ii)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVH領域が、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;
(iii)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVH領域が、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている;または
(iv)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVL領域が、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている、
二量体。
2.
VL領域またはVH領域のN末端にある、天然には存在しないシステイン残基がアミノ酸位置1またはアミノ酸位置2にあり、ここで、アミノ酸はVL領域またはVH領域のそれぞれN末端から数えられ、位置1はN末端での最初のアミノ酸である、項目1の二量体。
3.
前記第1のFab単量体と前記第2のFab単量体が同じであるか、または異なる、項目1または2の二量体。
4.
前記第1のFab単量体と前記第2のFab単量体が同じ標的に対して指向性である、前記項目のいずれかの二量体。
5.
前記第1のFab単量体が第1の標的に対して指向性であり、かつ前記第2のFab単量体が第2の標的に対して指向性であり、前記第1の標的と前記第2の標的が異なる、項目1~3のいずれかの二量体。
6.
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3を含む、前記項目のいずれかの二量体。
7.
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記項目のいずれかの二量体。
8.
前記第1のFab単量体のVH領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記項目のいずれかの二量体。
9.
前記第1のFab単量体のVL領域および前記第2のFab単量体のVH領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記項目のいずれかの二量体。
10.
前記第1のFab単量体のVH領域および前記第2のFab単量体のVL領域が、そのN末端においてSEQ ID NO: 16に示される分泌配列を含む、前記項目のいずれかの二量体。
11.
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 7に示されるVH領域およびSEQ ID NO: 8に示されるVL領域を含む、前記項目のいずれかの二量体。
12.
前記第1のFab単量体が、SEQ ID NO: 11に示されるVH領域およびSEQ ID NO: 12に示されるVL領域を含む、前記項目のいずれかの二量体。
13.
(a)請求項1~12のいずれか一項で定義される第1および第2のFab単量体を発現するCHO細胞を、定常期に達するまで培養すること;
(b)任意で、該CHO細胞培養物に酸化剤を添加すること;および
(c)該二量体を取得すること
により得られる、前記項目のいずれかの二量体。
14.
項目1~13のいずれかの二量体を含む、組成物。
15.
項目1~13のいずれかに定義されるFab単量体をさらに含む、項目14の組成物。
【0064】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含むことに留意すべきである。したがって、例えば、「試薬(a reagent)」への言及には、そのような様々な試薬のうちの1つまたは複数が含まれ、また、「方法(the method)」への言及には、本明細書に記載された方法を変更できるまたは該方法の代わりに使用できる、当業者に公知の同等のステップおよび方法への言及が含まれる。
【0065】
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の要素のあらゆる要素を指すと理解すべきである。当業者であれば、本明細書に記載された本発明の具体的な態様に相当する多くの均等物を認識するか、または日常的な実験だけを用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明に包含されるものとする。
【0066】
本明細書で使用される「および/または」という用語には、「および」と「または」と「前記用語により結び付けられた要素の全部または他の任意の組み合わせ」という意味が含まれる。
【0067】
本明細書とそれに続く特許請求の範囲全体を通じて、文脈上別段の指示がない限り、「含む(comprise)」という語、および「comprises」や「comprising」などの変形は、記載された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを包含することを意味するが、他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを排除することを意味しないと理解される。本明細書で使用される「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」または「含める(including)」という用語と置き換えることができ、時には本明細書で使用される「有する(having)」という用語と置き換えることもできる。
【0068】
本明細書で使用される「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要素に明記されていない要素、ステップ、または成分を排除する。本明細書で使用される「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えない材料またはステップを排除しない。
【0069】
本明細書中の各場合において、「含む」、「から本質的になる」、および「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えることができる。
【0070】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、試薬などに限定されるものではなく、それゆえに変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明するためだけのものであり、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0071】
本明細書の本文を通じて引用された全ての刊行物および特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、メーカーの仕様書、説明書などを含む)は、上記参照または下記参照にかかわらず、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利がない、ことを認めるものとして解釈されるべきではない。参照により組み込まれた資料が本明細書と矛盾するか、不整合である場合に限り、本明細書はそのような資料に優先するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図面
図面は以下を示す。
【0073】
(
図1-1)
図1: ベクター構造。
HitbasisHygro_ch6A10_LCおよびHitbasisNeo_ch6A10_HCベクター。
HitbasisHygro_ch6A10_LCの翻訳:
(太字=予測されるシグナル(分泌)配列)。
(
図1-2)
図1-1の説明を参照のこと。
(
図2)
図2: SDS-PAGE。
6A10 Fab二量体の還元SDS-PAGE解析では、6A10 Fabフラグメントの軽鎖と重鎖に対応する約25~30kDaの特徴的なバンドが示された。非還元条件下では、前駆単量体とホモ二量体形に対応する約50kDaと100kDaのバンドが検出される。
(
図3)
図3: LC-ESI-TOFによる「インタクト試験」。
単量体および該前駆体の二量体形のさらなる解析は、LC-ESI-TOFにより行われる。ホモ二量体は、軽鎖のN末端にある追加のシステインのジスルフィド結合によって形成される。さらに、追加のシステインまたはグルタチオンを伴うおよび伴わない単量体の異なる形が、変化する比率で検出される。
(
図4)
図4: CA12陽性ヒトA549肺がん細胞への単量体および二量体の結合。
フローサイトメトリーでは、pH7.4での単量体と二量体の結合挙動に有意な差は見られなかった。50.000個のA549細胞を単量体または二量体(6A10)の連続希釈液とインキュベートした。洗浄後、細胞をCy5標識二次抗体(ロバ抗ヒトIgG軽鎖および重鎖)とインキュベートした。二次抗体の結合を、BD FACSCantoおよびDIVAソフトウェアを用いて解析した。RU=相対発光量。
(
図5-1)
図5: フローサイトメトリー。
フローサイトメトリーから、固形腫瘍に典型的な酸性環境(pH5.5)では、単量体の結合挙動が劇的に低下するが、二量体(610A)の結合挙動は低下しないことが明らかになった。
(
図5-2)
図5-1の説明を参照のこと。
(
図5-3)
図5-1の説明を参照のこと。
(
図5-4)
図5-1の説明を参照のこと。
(
図5-5)
図5-1の説明を参照のこと。
(
図6)
図6: IgG分泌配列を伴うFab6A10のVHのアミノ酸配列、およびIgL分泌配列を伴うFab6A10のVLのアミノ酸配列を示す。
(
図7)
図7: N末端およびC末端の配列決定後のFab6A10のVHのアミノ酸配列、ならびにN末端およびC末端の配列決定後のFab6A10のVLのアミノ酸配列を示す。
【0074】
本出願はまた、本出願で言及される以下の配列を提供し、そのための配列プロトコルも作成され、それも本出願の一部である。ただし、以下の配列と配列表に示された配列との間に不一致がある場合には、以下の配列が優先する。
SEQ ID NO: 1 - Fab6A10のVH-CDR1:
GFSLTTYSVS
SEQ ID NO: 2 - Fab6A10のVH-CDR2:
RMWYDGDTV
SEQ ID NO: 3 - Fab6A10のVH-CDR3:
DFGYFDGSSPFDY
SEQ ID NO: 4 - Fab6A10のVL-CDR1:
RASQGISTSIH
SEQ ID NO: 5 - Fab6A10のVL-CDR2:
FASQSIS
SEQ ID NO: 6 - Fab6A10のVL-CDR3:
QQTYSLPYTF
SEQ ID NO: 7 - Fab6A10のVH:
(CDRは太字でボックス内、定常部分は下線付き)
SEQ ID NO: 8 - Fab6A10のVL:
(CDRは太字でボックス内、定常部分は下線付き)
SEQ ID NO: 9 - Fab6A10のVHの核酸:
SEQ ID NO: 10 - Fab6A10のVLの核酸:
SEQ ID NO: 11 - IgG分泌配列を伴うFab6A10のVH:
(分泌配列はイタリック体で太字、CDRは太字でボックス内、定常部分は下線付き)
SEQ ID NO: 12 - IgL分泌配列を伴うFab6A10のVL:
(分泌配列はイタリック体で太字、CDRは太字でボックス内、定常部分は下線付き)
SEQ ID NO: 13 - IgG分泌配列を伴うVH Fab6A10の核酸:
SEQ ID NO: 14 - IgL分泌配列を伴うVL Fab6A10の核酸:
SEQ ID NO: 15 - IgG分泌配列:
SEQ ID NO: 16 - IgL分泌配列:
SEQ ID NO: 17 - Fab6A10のVLのN末端フラグメント:
SEQ ID NO: 18 - Fab6A10のVLのN末端フラグメント:
SEQ ID NO: 19 - Fab6A10のVHのN末端フラグメント:
SEQ ID NO: 20 - Fab6A10のVLのC末端フラグメント:
SEQ ID NO: 21 - Fab6A10のVHのC末端フラグメント:
【0075】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示される。しかし、そこに記載された実施例および具体的な態様は、本発明をそのような具体的な態様に限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0076】
6A10 Fabフラグメントを産生するCHO細胞株の作製
6A10Fabを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)由来の細胞株クローンは、組換えDNA技術を用いて樹立した。産生用細胞株の構築は、Helmholtz Zentrum Muenchenの責任の下でFraunhofer ITEM, PhB, Braunschweigにより行われた。宿主懸濁細胞株CHO HITは、CHO K1(ECACC、No.85051005)から開発された。使用した6A10Fabは、
図6および
図7にそれぞれ示される配列を有する。
図6は、宿主細胞により処理される前の6A10 Fab単量体の配列を示す。
図7は、6A10Fab二量体の配列決定後に得られた配列を示す。
【0077】
ベクターHitbasisHygro_ch6A10_LCおよびHitbasisNeo_ch6A10_HC(
図1参照)を、CHO HIT細胞へのトランスフェクション用に作製した。この目的のために、6A10Fab軽鎖および重鎖のコード配列を、プラスミドpUC57-ch6A10 LCおよびpUC57-ch6A10 HCからPCR技術を用いて増幅した。6A10Fab軽鎖のcDNAをHITbasisHygroに挿入した。6A10Fab重鎖のcDNAをHITbasisNeoに挿入した。
【0078】
対応するベクターの構造を
図1に示す。制限酵素分析と部分的配列決定からの結果を組み合わせることで、プラスミドの正確さと完全性を証明した。
【0079】
発現ベクターをコンピテント大腸菌(E.coli)TopTen細胞に形質転換した後、その細胞を、アンピシリンを含むLB寒天培地にプレーティングした。耐性コロニーを選別し、プラスミドDNAを分離した。
【0080】
宿主細胞株を調製するために、CHO HIT宿主細胞株の1本のバイアルを解凍し、「宿主細胞増殖培地」(4mM GlutaMAXを含むProCHO5培地)に播種し、トランスフェクション用に拡大培養した。
【0081】
両発現ベクターの宿主細胞への(一緒のまたは連続的な)トランスフェクションは、AMAXAヌクレオフェクションシステム(LONZA社)をメーカーのマニュアルに従って用いて、エレクトロポレーションにより行った。トランスフェクトされた細胞を37℃でインキュベートした。
【0082】
トランスフェクションの2日後、細胞プールを「選択培地1」または「選択培地2」(4mM GlutaMAXと抗生物質を含むproCHO培地)に移し、生存能が回復して細胞が増殖し始めるまで継代培養した。容認される増殖を示したプールについては、SDS-PAGEのデンシトメトリー評価によって力価を決定し、細胞特異的生産性を推定した。単一細胞クローニングのために、細胞プール「MP P6-A4」を選択した。
【0083】
画像ベースのドキュメンテーションと組み合わせた限界希釈法を用いた画像支援クローニング法で、クローンを単離した。その後、増殖した全てのクローンを、後で5本のバイアルずつ凍結するために拡大培養した。PAIAアッセイで測定して最良の産物濃度を示すクローンを、振とうフラスコレベルにまで拡大培養した(9個のクローン)。クローン「P1D20」、「P1E20」、「P1H06」、および「P5E17」を優先的な産生用細胞株として選択し、発現安定性試験に使用した。発現安定性試験中に得られたデータに基づいて、クローン「P1E20」および「P5E17」を、表現型的に十分に安定しているとみなした。最終的には、細胞クローン「P1E20」が、量と質に基づいてUSP法の開発のために選択された。
【0084】
N末端およびC末端の配列決定
MALDI-TOF-MSによるN末端およびC末端の配列決定は、タンパク質のN末端およびC末端のアミノ酸配列を確認するための方法である。還元済みのサンプルを、1,5-ジアミノナフタレンを用いて研磨スチール製ターゲット上にスポットし、ポジティブイオンモードのMALDI-TOF-MSで測定する。ペプチドのアミノ酸骨格に沿って断片化すると、タンパク質のN末端およびC末端のアミノ酸配列に特異的な断片が生じる。理論上のアミノ酸配列は、実験的に測定された断片の分子質量を、理論的に予想された断片と比較することによって検証される。
【0085】
6A10Fab-CHX-A''-DTPAのアイデンティティを、MALDI-ISD-MSを用いたN末端およびC末端の配列決定により確認した。配列決定により、軽鎖のN末端にある追加のアルギニン(R)およびシステイン(C)アミノ酸が検出された;表2参照。このような付加も修飾も重鎖には観察されなかった。
【0086】
(表2)6A10Fab鎖(基準およびバッチ)のN末端およびC末端
【0087】
理論に束縛されるものではないが、軽鎖の最適な翻訳と分泌のために選択された予測シグナル配列は、シグナル配列ペプチダーゼ(SSP)酵素によって正しく切断されなかった。結果的に、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域は、第1のFab6A10単量体のVL領域のN末端および第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【0088】
上記の表2に見られるように、第1のFab6A10単量体は、VL領域のN末端において追加のシステイン残基(Cys)(上記SEQ ID NO: 18において下線)を含み、このシステイン残基は、第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端において存在する追加のシステイン残基(Cys)とジスルフィド架橋を構築することができ、その結果、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域との間にCys-Cys架橋が生じ、それによってFab6A10二量体が得られる。
【0089】
もちろん、シグナル配列ペプチダーゼ(SSP)酵素によって正しく切断されない可能性が高い結果としてジスルフィド結合が形成されるとしても、このようなジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、可変領域のN末端にあるシグナル/分泌配列を介して導入される可能性があるが、必ずしもそのように導入される必要はない。実際、当技術分野でよく知られるように、そのような可変領域をコードするヌクレオチド配列の対応するエンジニアリングによって、このようなシステイン残基を導入することも可能である。
【0090】
Fab二量体は、以前には見られない特異なジスルフィド結合を介して二量体を構築することができるという観察から、以下のことが合理的に推測され得る:
(i)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVL領域は、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合され得る;
(ii)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVH領域は、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合され得る;
(iii)第1のFab単量体のVL領域と第2のFab単量体のVH領域は、第1のFab単量体のVL領域のN末端および第2のFab単量体のVH領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合され得る;または
(iv)第1のFab単量体のVH領域と第2のFab単量体のVL領域は、第1のFab単量体のVH領域のN末端および第2のFab単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【0091】
CA12陽性ヒトA549肺がん細胞への単量体および二量体の結合
50.000個のA549細胞をFab6A10単量体またはFab6A10二量体の連続希釈液とインキュベートした。Fab6A10は次のCDRを有する:SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3。この実施例で使用したFab6A10二量体では、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域が、第1のFab6A10単量体のVL領域のN末端および第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【0092】
上記の表2に見られるように、第1のFab6A10単量体は、VL領域のN末端において追加のシステイン残基(Cys)(上記SEQ ID NO: 18において下線)を含み、このシステイン残基は、第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端において存在する追加のシステイン残基(Cys)とジスルフィド架橋を構築することができ、その結果、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域との間にCys-Cys架橋が生じ、それによってFab6A10二量体が得られる。
【0093】
使用した6A10Fabは、
図6および
図7にそれぞれ示される配列を有する。
図6は、宿主細胞により処理される前の6A10 Fab単量体の配列を示す。
図7は、6A10Fab二量体の配列決定後に得られた配列を示す。
【0094】
洗浄後、細胞をCy5標識二次抗体(ロバ抗ヒトIgG軽鎖および重鎖)とインキュベートした。二次抗体の結合は、BD FACSCantoおよびDIVAソフトウェアを用いて解析した。RU=相対発光量。
【0095】
図4は、CA12陽性A549細胞へのFab6A10二量体の結合が、pH7.4では単量体の結合に匹敵することを示している。
【0096】
フローサイトメトリー
CA12陽性A549細胞を、示されたpHで様々な量のFab6A10二量体またはFab6A10単量体とインキュベートし、続いて中性pH(約7.2)で適切なCy5標識二次抗体とインキュベートした。
【0097】
Fab6A10は次のCDRを有する:SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR2、SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR3、SEQ ID NO: 4に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 6に示されるVL-CDR3。この実施例で使用したFab6A10二量体では、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域が、第1のFab6A10単量体のVL領域のN末端および第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端にある、天然には存在しない追加のシステイン残基間のジスルフィド結合によって、共有結合されている。
【0098】
上記の表2に見られるように、第1のFab6A10単量体は、VL領域のN末端において追加のシステイン残基(Cys)(上記SEQ ID NO: 18において下線)を含み、このシステイン残基は、第2のFab6A10単量体のVL領域のN末端において存在する追加のシステイン残基(Cys)とジスルフィド架橋を構築することができ、その結果、第1のFab6A10単量体のVL領域と第2のFab6A10単量体のVL領域との間にCys-Cys架橋が生じ、それによってFab6A10二量体が得られる。
【0099】
使用した6A10Fabは、
図6および
図7にそれぞれ示される配列を有する。
図6は、宿主細胞により処理される前の6A10 Fab単量体の配列を示す。
図7は、6A10Fab二量体の配列決定後に得られた配列を示す。この二量体または単量体の結合をフローサイトメトリーで測定した。
【0100】
図5は、Fab6A10二量体の結合が、例えば腫瘍環境に見られるような低pHでは、単量体の結合よりもかなり優れていることを示している。
【配列表】
【国際調査報告】