(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】DNAコード化ライブラリーの予め鋳型化された即時パーティション化
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20240705BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240705BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501748
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022037078
(87)【国際公開番号】W WO2023287957
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523436964
【氏名又は名称】フルーエント バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クーグラー, キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】メルツァー, ロバート
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS15
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS32
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本開示は、予め鋳型化された即時パーティションを、DNAコード化ライブラリー(DEL)技術と組み合わせて、最小限の試料調製および手頃な配列決定費用を必要とする方法を使用して、標的小分子相互作用を同定し、単一細胞解像度でその細胞内効果を分析する強力なスクリーニングプラットフォームを提供する。これらの方法は、単一の手頃な高効率ワークフローを用いて、新規標的結合分子の転写効果をスクリーニングしながら、それらを同時に検出することによって薬物候補を迅速に評価するのに非常に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一細胞を用いてDNAコード化ライブラリー(DEL)をスクリーニングするための方法であって、
細胞を、DNAタグに連結された小分子を含むDELと結合させること;
第1の液体を含有するチューブ中で、細胞を、捕捉オリゴを含む鋳型粒子と合わせること;
前記第1の液体と混和しない第2の液体を前記チューブに添加すること;
前記液体を剪断して、複数のパーティションを、前記チューブの内部に、ほぼ同時に作出することであって、実質的な数の前記パーティションが前記細胞のただ1つおよび前記鋳型粒子のただ1つを含有すること;ならびに
単一細胞分析のために、前記パーティション内部で前記単一細胞によって放出されるmRNAおよびDNAタグを、前記捕捉オリゴを用いてバーコード化すること
を含む、方法。
【請求項2】
結合アッセイにおいて候補DELを予備スクリーニングすること、および前記結合アッセイに基づいて、細胞結合のために使用されるDELを選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結合アッセイが、
複数の候補DELを標的と合わせること;
標的と結合した候補DELを富化すること;および
単一細胞分析のために前記富化された候補DELのサブセットを同定すること
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記サブセットが、前記富化された候補DELの第2の部分よりも高い標的結合親和性を有する前記富化された候補DELの一部を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記サブセットを同定することが、前記富化された候補DELと対応するDNAタグを配列決定して、配列読み取りデータを生成することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
DELの前記配列読み取りデータを定量して、結合親和性を評価することをさらに含み、より多い数の独自の読み取りデータが、より高い結合親和性と相関する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記DNAタグが、バーコードおよびプライマー結合配列を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記DNAタグのそれぞれ1つが、前記DELの小分子にとって独自のものである少なくとも1つのバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記小分子が、細胞表面受容体に対する薬物候補を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記鋳型粒子の前記オリゴが、細胞から放出されるmRNAまたはDNAタグを捕捉するためのバーコード、プライマー結合配列、または分子結合剤のうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記オリゴの少なくとも一部が、ポリT捕捉配列を含む分子結合剤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞によって放出されるバーコード化された前記mRNAおよびDNAタグを増幅させてアンプリコンを生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
増幅させることが、遺伝子特異的プライマーを用いて実施され、それによって、目的の遺伝子と関連するmRNAを増幅させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記目的の遺伝子が、薬物候補と関連する遺伝子発現経路に関与する遺伝子を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アンプリコンを配列決定して、複数の配列読み取りデータを生産することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記配列読み取りデータが、DELの小分子を、対応する単一細胞の転写出力物と関連付ける配列情報を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結合させた後に前記細胞を洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記小分子が、前記細胞の表面受容体に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
結合させることが、前記DELの少なくとも一部を前記細胞の内部に組み込むことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記DELが、細胞透過性リガンドをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記DELが、細胞型特異的タンパク質を標的とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、DNAコード化ライブラリーの転写効果をスクリーニングおよび評価するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
DNAコード化ライブラリー(DEL)は、標的特異的化学化合物をスクリーニングするための強力な手段を提供する。本質的には、DELは、それらが付着している小分子の容易な同定を可能にする独自のDNAタグと連結された小分子(例えば、薬物)である。DELは、ハイスループットにおいて標的特異的小分子を同定するその能力のため、創薬の初期段階で特に有益である。例えば、数十億個の小分子を含有するDELを、単一の実験において迅速にスクリーニングして、目的の標的と結合する新規薬物を明らかにすることができる。
【0003】
DELは、標的特異的小分子を同定するのに有用である。残念なことに、これらの分子が望ましい治療効果を有する保証はない。したがって、細胞に対する小分子の転写効果の精査が非常に望ましい。遺伝子発現の測定値は、所望の細胞内効果を惹起する小分子の能力に関する洞察を提供することができる。残念なことに、遺伝子発現に対するほんの少数の小分子の分析でも、とてつもない量の試料調製および配列決定が必要であり、そのような手法を法外に高価なものにしている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
本発明は、標的特異的小分子をスクリーニングし、単一細胞解像度でその細胞内効果を評価するためのロバストなプラットフォームを提供する。本発明は、最小限の試料調製および手頃な配列決定費用をもって、単一細胞に対する小分子の転写効果を分析するのに有用なワークフローのために、予め鋳型化された即時パーティションを、DNAコード化ライブラリー(DEL)技術と組み合わせる。したがって、これらの方法は、単一の手頃な高効率ワークフローを用いて、新規標的結合分子の転写効果をスクリーニングしながら、それらを同時に検出することによって薬物候補を迅速に評価するのに非常に適している。予め鋳型化された即時パーティションは、単一チューブ形式で、高効率でのリガンド-標的複合体の個別分析のために単一細胞を単離する均一なパーティションのほぼ即時の自己集合を可能にする。各パーティションは、大規模並列スケールで単一細胞から遺伝子発現ライブラリーを調製するための「反応チャンバー」として役立つ。ライブラリーを調製することは、DELメンバー特異的配列(DNAタグ)と一緒に各単一細胞の転写出力物(mRNA)を捕捉およびバーコード化し、それにより細胞の転写出力物を、細胞が処理された小分子の同一性と関連付けることを含む。ライブラリーを配列決定することによって生産されたデータは、全て単一の反応に由来するその対応する細胞内効果とのリガンド-標的相互作用を同定するのに有用である。さらに、本発明は、単一細胞配列決定分析に関する配列決定の負担を実質的に低減させる費用削減戦略を提供する。戦略は、DELおよび/または関心の高い遺伝子を選択的にプロセシングし、それにより有用な結果をもたらす可能性が最も高い分子に配列決定資源を集中させるワークフローを含む。したがって、本発明は、小分子をスクリーニングし、その細胞内効果を評価するための迅速で費用対効果のある手法を提供し、薬物探索から基礎研究に及ぶ用途にとって有用である。
【0005】
本発明は、薬物探索のための新しい機会を開き、DEL技術のための適用を拡大する手頃な単一細胞反応システムを提供する。本発明の方法は、機能的形態で発現および/または精製することができない標的に対する小分子のスクリーニングを可能にするために予め鋳型化された即時パーティションを使用する。そのため、本発明の方法は、不溶性、不安定性、または固有の障害に起因して従来のDEL調査が無効である困難な標的クラス、例えば、イオンチャネル、受容体、転写因子、タンパク質複合体、およびシグナル伝達経路に対して小分子をスクリーニングするための有用な戦略を提供する。
【0006】
一態様では、本開示は、小分子相互作用をスクリーニングし、単一細胞に対するその細胞内効果を分析するのに有用な方法を提供する。小分子は、細胞内効果を惹起する能力を有する、薬物または他の生物活性化合物を含む。例えば、小分子は、細胞表面受容体、例えば、イオンチャネル、Gタンパク質共役受容体、チロシンキナーゼ受容体などに対する薬物候補であってもよい。小分子は、DELの形態で細胞に送達される。したがって、小分子のそれぞれ1つは、DNAタグが付着している小分子を同定するのに有用な独自の増幅可能なDNAタグと連結される。本発明の方法は、DELを、生細胞の集団に結合させることを含む。好ましい実施形態では、DELは、細胞表面上に存在する細胞外受容体と結合する。
【0007】
本発明の方法は、高効率で個々のDEL-標的相互作用を単離し、分析するために、予め鋳型化された即時パーティションを使用する。予め鋳型化された即時パーティションは、単一のチューブ中で、多数(例えば、数千個、数百万個、またはそれより多く)のパーティションの形成を同時に鋳型化し、単一細胞分析のためにこれらのパーティション内に単一細胞を隔離するヒドロゲル鋳型粒子を含む。実質的な数の単一細胞がDELと結合する。各パーティションは、標的DEL相互作用を同定し、その転写結果を分析するための有用な発現データを提供する、遺伝子発現ライブラリーを調製するための単離された区画を提供する。
【0008】
具体的には、DELを細胞と結合させた後、本発明の方法は、細胞を、捕捉オリゴと連結された鋳型粒子と合わせることを含む。鋳型粒子は、最小限の試薬を使用し、かつ高価なマイクロ流体デバイスを用いずに、均一なパーティション、すなわち、液滴中への単一細胞のほぼ即時の自己集合を可能にする。細胞および鋳型粒子は、第1の液体、例えば、水性液体を含有するチューブ中で合わせられ、第1の液体と混和しない第2の液体(例えば、油)がチューブに添加される。細胞は、チューブの内部で、ほぼ同時に、非混和性液体を剪断して、複数のパーティションを作出することによって個々のパーティション中に単離され、この場合、実質的な数のパーティションが、細胞のただ1つおよび鋳型粒子のただ1つを含有する。
【0009】
単一細胞は、パーティションの内部で溶解される。遺伝子転写物(すなわち、mRNA)は、単一細胞から放出され(すなわち、遺伝子転写物)、鋳型粒子に付着した捕捉オリゴを有するパーティションの内部でDNAタグと共に捕捉およびバーコード化される。バーコードは、単一細胞のmRNAおよびDNAタグに独自の配列情報を割り当て、それにより特定の細胞に対して、mRNAとDNAタグとの間に追跡可能な会合を形成させる。本発明の方法は、単一細胞からの転写出力物を、転写出力を担う小分子を同定するDNAタグと関連付けるためのバーコード化されたオリゴを使用する。
【0010】
mRNAおよびDNAタグの情報が関連付けられるため、本発明の方法は、DELの結合の結果生じる表現型および遺伝子発現の変化を理解するための有用な手段を提供する。好ましい実施形態では、これらの表現型および遺伝子発現の変化は、バーコード化されたmRNAおよびDNAタグから形成された遺伝子発現ライブラリーを配列決定することによって生産された配列決定データを分析することによって明らかにされる。
【0011】
本発明の方法は、単一細胞配列決定の配列決定の負担を低減させる有用な方法を提供する。一部の実施形態によれば、方法は、目的の標的(例えば、細胞またはタンパク質)を用いた1つまたは複数の結合アッセイにおいてDELを予備スクリーニングすることを含む。DELはその標的と結合して、転写応答を惹起しなければならないため、標的結合親和性に関するDELを予備スクリーニングすることは、いかなる応答も惹起しない可能性があるDELの単一細胞ライブラリーをプロセシングする費用を低減させながら、所望の細胞応答を惹起する可能性が最も高いDELに配列決定資源を集中させるのに有用である。
【0012】
したがって、本発明の方法は、目的の標的に対する高い結合親和性を有するDELを同定するのに有用なワークフローを提供する。候補DELを、目的の標的と合わせることを含む結合アッセイによって、結合親和性を評価することができる。標的は、任意の目的の標的、例えば、細胞、タンパク質、ウイルスエピトープ、ペプチドグリカンなどであってもよい。DELを、結合を促進する条件下で標的と合わせ、インキュベートする。結合させた後、方法は、例えば、目的の標的と結合できなかった任意のDELを洗浄除去することによって、標的と結合した候補DELについて富化することを含む。方法は、富化された候補DELのサブセットを同定することをさらに含み、サブセットは、富化された候補DELの第2の部分よりも、目的の標的に対するより高い結合親和性を有する富化された候補DELの部分を含む。
【0013】
高い結合親和性を有するDELを同定することは、富化された候補DELのDNAタグの部分を配列決定することを含んでもよい。DNAタグは、第1のPCRプライマー結合部位、DEL特異的バーコード、独自の分子識別子、および第2のPCRプライマー結合部位を含む、ある特定の配列情報を含む。DNAタグを、配列決定アダプターを用いて増幅し、当技術分野で公知の任意の方法を使用して、例えば、次世代配列決定によって配列決定することができる。DNAタグを配列決定することは、配列決定読み取りデータを生成する。配列決定読み取りデータを、独自の分子識別子を使用して重複排除し、定量する、すなわち、計数することができる。より多数の独自の読み取りデータは、DNAタグが付着した小分子のより高い標的親和性と対応する。
【0014】
本発明の方法は、細胞を、その標的結合親和性について予め選択されたDELで処理することを含んでもよい。方法は、1つまたは複数の結合アッセイを用いて数千個~数百万個の小分子をスクリーニングすること、およびこれらのアッセイから、単一細胞分析における使用のためにその標的親和性に基づいて上位パーセンテージのDELを適格とすることを含んでもよい。
【0015】
さらに、本発明の方法は、細胞応答の最も有益であると予測される遺伝子転写物の選択的配列決定のための戦略を提供する。例えば、一部の例では、特定の遺伝子発現経路は、DEL標的の調節と関連する。DEL標的の経路に関与する遺伝子の遺伝子発現分析は、小分子によって誘発される転写応答への有用な洞察を提供することができる。任意の標的遺伝子発現経路に関与する遺伝子を、ゲノムデータベースに由来する既存のデータを分析すること、または例えば、マイクロアレイを用いる、予備遺伝子発現分析を実施することによって予め同定することができる。目的の遺伝子を同定した後、本発明の方法は、配列決定の前に捕捉された遺伝子転写物を増幅するための遺伝子特異的プライマーを設計することを含んでもよい。
【0016】
捕捉オリゴは、好ましくは、鋳型粒子の外表面に連結される。各捕捉オリゴは、5’末端での共有アクリル結合によって連結することができ、単一細胞からのmRNAおよびDNAタグの捕捉およびバーコード化のための遊離3’末端を含む。捕捉オリゴは一般に、単一細胞から放出されるmRNAまたはDNAタグを捕捉するためのバーコード、プライマー結合配列、および分子結合剤のうちの1つまたは複数を含む。捕捉オリゴの少なくとも一部は、ポリT捕捉配列を含む分子結合剤を含んでもよい。あるいは、オリゴは、特定の遺伝子転写物の一部と相補的な配列を有する分子結合剤を含んでもよい。例えば、鋳型粒子は、DELによって標的化される細胞シグナル伝達経路に関与する遺伝子などの、特定の遺伝子のパネルと相補的な分子結合剤を含む複数のオリゴを有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、DELの転写効果をスクリーニングするための単一細胞方法を示す。
【
図2】
図2は、DELの単一細胞分析のための方法を示す。
【
図3】
図3は、鋳型粒子を用いたmRNAおよびDNAタグの標的捕捉を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本開示は、小分子相互作用をスクリーニングし、単一細胞に対するその細胞内効果を評価するための予め鋳型化された即時パーティションを提供する。予め鋳型化された即時パーティションは、迅速で高効率な形式でDELで処理された細胞から単一細胞ライブラリーを迅速に調製するのに有用である。予め鋳型化された即時パーティションは、高価なマイクロ流体デバイスを用いずに、DELで処理された細胞からの、ほぼ無限数の単一細胞トランスクリプトームライブラリーの同時的集合を可能にする。むしろ、予め鋳型化された即時パーティションは、水中で油と混合し、ボルテックスまたは剪断した場合に油中水エマルジョン液滴を形成させる鋳型として働く予め作製されたヒドロゲル鋳型粒子を使用する。鋳型粒子は、遺伝子プロファイリングのためにそのパーティションの内部にDELで処理された単一細胞を隔離しながら、単一のチューブ内での複数のパーティションの形成を同時に鋳型化する。例えば、水性媒体(例えば、水、食塩水、緩衝剤、栄養ブロスなど)中に鋳型粒子およびDELで処理された細胞を含む反応チューブ中で、水性混合物を調製することができる。油をチューブに添加し、チューブを撹拌する(例えば、ボルテクサ-、別名ボルテックスミキサー上で)。粒子は、油によって取り囲まれた、水性液滴中に1個の粒子をそれぞれ含有する単分散液滴の形成における鋳型として作用する。
【0019】
液滴は全て、マイクロ流体チップ上での接合によって2つの液体を流動させることによる液滴の形成と比較して、ボルテックスの瞬間に、本質的には即時に形成する。かくして、各液滴は、油によって取り囲まれた、水性パーティションを提供する。本開示の重要な洞察は、パーティション内で有用な生物学的反応を促進する試薬を含む粒子を提供することができること、およびさらには、鋳型液滴の周囲でのパーティションの形成を引き起こす混合プロセスの間に逆転写を開始させることができることである。
【0020】
したがって、パーティションは、単一細胞および試薬が中に封入された個々の反応区画を提供する。個々の反応区画は、同時形式で単一細胞遺伝子発現ライブラリーを生成するのに有用である。ライブラリーは、鋳型粒子によってパーティション中に導入されたバーコード化されたオリゴと共に調製される。バーコード化されたオリゴは、鋳型特異的バーコード配列を含み、したがって、バーコード化されたオリゴへのハイブリダイゼーションの際に、DNAタグを介して、単一細胞の発現出力物(mRNA)を、対応する小分子の同一性と関連付けるのに有用である。
【0021】
本開示の方法は、cDNAライブラリーの作製においても有用である。cDNAライブラリーは、DELが結合した単一細胞中に存在するRNAから遺伝子発現情報を補足し、保持するのに有用な方法であり得る。例えば、DELが結合した1つまたは複数のインタクトな細胞を含む試料を、鋳型粒子と混合して、DELに結合した細胞を含むパーティション(例えば、液滴)を形成させることができる。細胞を溶解することができ、対応するDELのmRNAおよびDNAタグをバーコード化することができる。mRNAを、パーティションの内部または外部でcDNAに逆転写させることができる。DNAタグを、PCR反応によって増幅することができる。PCR反応は、鋳型粒子の捕捉オリゴの配列に特異的な少なくとも1つのプライマーを使用することができる。PCR反応は、DNAタグのアンプリコンを生成することができる。アンプリコンは、捕捉オリゴに由来するバーコード配列および小分子に特異的なDNAタグの識別配列を含む。
【0022】
配列決定データの分析は、単一細胞レベルで小分子の転写効果に関する有益な洞察を提供するのに有用であり、新薬の発見ならびに疾患を調節する遺伝子発現経路の研究および開発などの基礎研究者の適用にとって有用である。したがって、本発明は、小分子の転写効果を迅速に、かつ単一細胞レベルで評価するのに有用な費用対効果のある分析手段を提供し、かくして、小分子のより速くより安価な分析のための方法を提供する。さらに、本発明は、単一細胞RNA配列決定の負担を低減させる有用なワークフローを提供する。
【0023】
小分子(例えば、薬物または他の生物活性化合物)は、DNAコード化ライブラリー(DEL)の形態で細胞に導入される。DELは、コード化されたコンビナトリアル合成の産物であり、各ライブラリーメンバーの同一性および構造に関する独自の情報をコードするDNA配列(すなわち、DNAタグ)に付着した数百万個の異なる小分子を表す。DELは、主要な製薬企業によって広く採用されており、多数の薬物探索プログラムにおいて使用されている。DEL技術の適用は、標的化合物の同定のための費用、時間、および貯蔵空間の低減のため、薬物探索の初期において有利である。
【0024】
DELの従来の適用は、親和性選択アッセイを含む。親和性選択(例えば、結合アッセイ)および配列決定は、目的の標的を結合するDELメンバーを同定するために使用されることが多い。しかしながら、親和性選択アッセイにおけるDELの適用は一般に、不溶性、不安定性、または固有の障害に起因して、多くの重要な標的クラス(イオンチャネル、受容体、転写因子、タンパク質複合体、およびシグナル伝達経路)を、調査が無効なものにする、精製された標的を含む。
【0025】
本発明の方法は、ある特定のクラスの標的(例えば、イオンチャネル)を、標的結合によって難攻不落にする、精製された標的タンパク質を含む適用に限定されない。その代わりに、本発明の方法は、活性形態で発現および/または精製することができない困難な標的との小分子相互作用の調査を可能にする予め鋳型化された即時パーティションを使用する。したがって、本発明の方法は、細胞環境中に存在する標的に対するDELの調査を可能にする。標的は、表面受容体などの細胞外標的、またはDNAの複製および修復に関与するタンパク質などの細胞内標的を含んでもよい。
【0026】
図1は、DELの転写効果をスクリーニングするための単一細胞方法101を示す。方法101は最初に、DELを細胞の1つまたは複数の集団に結合すること105を含む。細胞は、任意の生細胞であってよい。細胞を、対象から採取した細胞組織から取得することができる。例えば、細胞は、腫瘍切除に由来する腫瘍細胞であってもよい。あるいは、細胞は、組織培養細胞であってもよい。細胞は、不死化細胞、例えば、HeLa細胞などの、接着性または非接着性培養細胞であってもよい。限定されず、細胞は、一次細胞、幹細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、またはニューロンであってもよい。好ましくは、細胞は、核を含有する真核細胞である。
【0027】
細胞結合105のために、DELを、有効な標的結合を促進する条件下で細胞と共にインキュベートする。一部の実施形態では、標的は、細胞表面受容体、例えば、イオンチャネル、Gタンパク質共役受容体、チロシンキナーゼ受容体などである。他の実施形態では、標的は、細胞内タンパク質であってもよい。標的が細胞内タンパク質である実施形態については、細胞膜を横切るDELの送達のために、細胞透過性ペプチドをDELに付加することができる。DELを、組織培養フラスコに直接添加し、通常の培養条件下で、例えば、摂氏37度で細胞と共にインキュベートすることができる。DELは、好ましくは、細胞10個あたり約1個のDELの濃度で添加されるが、DELの細胞に対する他の濃度、例えば、1:1、1:5、1:15、1:20、1:50、1:100、1:200、1:1000が望ましいこともある。DELを組織培養フラスコに添加した後、DELを、細胞がDELに対する転写応答を惹起するのに十分な期間インキュベートする。それは、2~12時間、好ましくは、少なくとも6時間であってもよい。
【0028】
DELを標的細胞に結合させた後、細胞を洗浄して、任意の未結合のDELを除去する。細胞を洗浄することは、単一細胞の遺伝子発現物および小分子の非標的会合を排除するのに役立つ。当技術分野で一般的に使用される任意の細胞洗浄溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの平衡化塩溶液を使用して、細胞を洗浄することができる。細胞を洗浄して未結合のDELを除去した後、例えば、トリプシンを使用して、細胞培養フラスコから細胞を取り出し、培地または平衡化塩溶液などの、水性液体内で鋳型粒子とチューブ中で合わせる110。以下で詳細に考察される鋳型粒子は、単一細胞によって放出される遺伝子転写物およびDNAタグを捕捉および指標化するのに有用なバーコード化されたオリゴと連結されたマイクロメートルサイズのヒドロゲル粒子を含む。
【0029】
一部の実施形態では、細胞を鋳型粒子と共にインキュベートして(例えば、室温で約5~10分)、鋳型粒子と細胞との間の表面相互作用を容易にし、それによって、混合物を剪断またはボルテックスする際の、別々のパーティションへの単一細胞の捕捉を改善する。その後、第1の液体と混和しない第2の液体を、チューブに添加する。第2の液体は、好ましくは、油である。第2の液体は、水性の第1の液体を覆ってもよい。一部の実施形態では、以下に記載される1つまたは複数の界面活性剤を混合物に添加して、液体を剪断することによって生成されるパーティションを安定化することができる。
【0030】
方法101は、液体を剪断して、パーティションを作出すること115を含む。好ましくは、液体は、ボルテックスすることによって剪断される。ボルテックスすることは、均一なサイズ分布のパーティションを確実に生成するその能力のため好ましい。パーティションの均一性は、各「反応チャンバー」に実質的に等量の試薬が確実に提供されるのに役立ち得る。ボルテックスすることはまた、容易に制御され(例えば、時間およびボルテックス速度を制御することによって)、かくして、より容易に再現可能であるデータをもたらす。ボルテックスすることを、参照により組み込まれる共同所有の米国特許出願第17/146,768号に記載された、標準的なベンチトップ型ボルテクサ-またはボルテックスするデバイスを用いて実施することができる。
【0031】
あるいは、パーティションを作出すること115は、振とう、ピペッティング、ポンピング、タッピング、超音波処理などの、制御された、または制御されていない撹拌の任意の他の方法を使用して、液体を含有するチューブを撹拌することを含んでもよい。撹拌した(例えば、ボルテックスした)後、複数(例えば、数千個、数万個、数十万個、100万個、200万個、1000万個、またはそれより多く)の水性パーティションが本質的に同時に形成される。ボルテックスすることは、液体を複数の単分散液滴中に分配させる。液滴の実質的部分は、単一の鋳型粒子および単一の標的細胞を含有する。1個よりも多い鋳型粒子もしくは標的細胞を含有する、または鋳型粒子も標的細胞も含有しない液滴を除去するか、破壊するか、またはそうでなければ無視することができる。全ての単一細胞がDELで処理されるわけではなく、そうする必要もない。単一細胞のmRNAおよびDNAタグの配列決定分析は、鋳型粒子によって導入された共通のパーティション特異的バーコードに基づいてDELで処理された細胞を明らかにするであろう。
【0032】
方法101の次のステップは、パーティション内部の単一細胞を溶解すること120を含む。細胞溶解を、例えば、溶解試薬、洗剤、または酵素などの刺激によって誘導することができる。細胞溶解を誘導する試薬を、内部区画を介して鋳型粒子によって提供することができる。一部の実施形態では、溶解することは、単分散液滴中に鋳型粒子の内部に含有された溶解試薬を放出するのに十分な温度に液滴を加熱することを含む。
【0033】
溶解すること120の際に、パーティション内部の細胞、mRNAおよびDNAタグは、鋳型粒子によって提供される捕捉オリゴを用いた捕捉のために、細胞からパーティション中に放出される。捕捉オリゴは、各鋳型粒子に特異的な独自のバーコードを含む。したがって、捕捉、すなわち、mRNAおよびDNAタグの、オリゴのそれぞれの相補的部分とのハイブリダイゼーションの際に、単一細胞のmRNAおよびDNAタグは、共通のバーコード配列によって有効に連結される。各パーティションはただ1つの単一細胞および1つの鋳型粒子を含むため、いずれか1つの鋳型粒子の独自のバーコード配列は、mRNAおよびDNAタグを、それらが導出される単一細胞と会合させるのに有用である。
【0034】
オリゴは、好ましくは、遺伝子転写物、すなわち、mRNAの標的捕捉のための遊離3’末端の捕捉配列(例えば、ポリT配列)と共に5’末端で鋳型粒子に付着される。オリゴの少なくとも一部は、ハイブリダイゼーション捕捉のためのDNAタグの少なくとも一部と相補的である捕捉配列を含む。オリゴは、PCRプライマー結合部位、例えば、配列決定分析の調製におけるmRNAおよびDNAタグのその後の増幅のためのフォワードおよびリバースプライマー結合部位をさらに含んでもよい。さらに、オリゴは、好ましくは、配列読み取りデータの重複排除を可能にする少なくとも1つの独自の分子識別子を含む。
【0035】
捕捉すること125の後、方法101は、捕捉されたmRNAをcDNAに逆転写することを含んでもよい。逆転写は、好ましくは、パーティションの外部で行われる。そのため、パーティションを破壊して、逆転写のためにDNAタグと共に捕捉されたmRNAを含む鋳型粒子を放出させることができる。パーティションを破壊するために、試料を、破壊緩衝剤で処理することができる。破壊されたら、鋳型粒子を洗浄緩衝剤(例えば、エタノール)で洗浄することができ、結合したmRNAおよびDNAタグを、逆転写のための試薬で処理して、鋳型粒子によって提供される配列情報(例えば、バーコード)を有するcDNAにmRNAをコピーすることができる。したがって、逆転写を実行して、ライブラリーの各配列読み取りデータを、mRNAおよびDNAタグが導出された単一細胞にさかのぼらせるバーコード配列を有するcDNAを含むライブラリーを生成することができる。バーコード化されたcDNAを含むライブラリーが生成されたら、例えば、PCRによってcDNAを増幅して、配列決定すること127のためのアンプリコンを生成することができる。
【0036】
DNAタグは、好ましくは、1つまたは複数のPCRプライマー結合部位、1つまたは複数のバーコード、および1つまたは複数の独自の分子識別子などの、機能的配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを含む。鋳型粒子の捕捉オリゴを用いたDNAタグの捕捉後、捕捉オリゴのPCRプライマー結合部位と相補的な第1のプライマーおよびDNAタグのPCRプライマー結合部位と相補的な第2のプライマーを使用するPCRによって、DNAタグを増幅する。以下で考察されるように、捕捉オリゴのPCRプライマー結合部位は、mRNA捕捉のために使用される捕捉オリゴ上のバーコードと対応する、鋳型粒子特異的バーコードの下流に位置する。PCRによる捕捉されたDNAタグのDNA増幅は、これらの鋳型粒子特異的バーコード配列を組み込んだアンプリコンを生成し、それによって、mRNAおよびDNAタグを追跡するのに有用な対応する配列情報により、単一細胞から放出されるmRNAおよびDNAタグを一緒に、それらが放出された単一細胞に会合させる。
【0037】
続いて、単一細胞のcDNAおよびDNAアンプリコンを、配列決定特異的プライマーを用いて増幅することができる。例えば、次世代配列決定(NGS)システムにおいて使用される配列決定プライマー、P5およびP7配列など。P5およびP7配列の含有は、cDNAおよびDNAアンプリコンを、商標ILLUMINAの下で販売され、参照により組み込まれるBowman, 2013, Multiplexed Illumina sequencing libraries from picogram quantities of DNA, BMC Genomics 14:46に記載されたNGS機器上で実施されるなどのNGS配列による配列決定に適したものにする。
【0038】
核酸分子を配列決定すること127を、当技術分野で公知の方法によって実施することができる。例えば、一般的には、Quail, et al., 2012, A tale of three next generation sequencing platforms: comparison of Ion Torrent, Pacific Biosciences and Illumina MiSeq sequencers, BMC Genomics 13:341を参照されたい。核酸分子の配列決定技術としては、標識されたターミネーターもしくはプライマーを使用する古典的なジデオキシ配列決定反応(Sanger法)およびスラブもしくはキャピラリー中でのゲル分離、または好ましくは、次世代配列決定法が挙げられる。例えば、配列決定を、それぞれ参照により組み込まれる、米国特許出願公開第2011/0009278号、米国特許出願公開第2007/0114362号、米国特許出願公開第2006/0024681号、米国特許出願公開第2006/0292611号、米国特許第7,960,120号、米国特許第7,835,871号、米国特許第7,232,656号、米国特許第7,598,035号、米国特許第6,306,597号、米国特許第6,210,891号、米国特許第6,828,100号、米国特許第6,833,246号、および米国特許第6,911,345号に記載された技術に従って実施することができる。配列決定後、配列決定データを、続いて分析のためにプロセシングすることができる。
【0039】
配列決定データをプロセシングするための1つのパイプラインは、次世代配列決定プラットフォームから配列決定された読み取りデータを含有するFASTQ形式のファイルを生成すること、これらの読み取りデータを、注釈付き参照ゲノムと整列させること、および遺伝子の発現を定量することを含む。これらのステップは、当業者であれば、本発明のステップを実行するために使用することができると認識するであろう、公知のコンピューターアルゴリズムを使用して日常的に実施される。例えば、参照により組み込まれる、Kukurba, Cold Spring Harb Protoc, 2015 (11):951-969を参照されたい。
【0040】
本発明の方法は、DELの小分子で処理された細胞から、単一細胞に由来する遺伝子発現データを生成するのに有用である。発現データは、遺伝子発現プロファイルを作製するのに有用である。一部の実施形態では、遺伝子発現プロファイルを、自由に利用可能な分析手段を使用して作製することができ、例えば、TopHat2(Johns Hopkins University for Computational Biology)、Cufflinks(University of Washington, Cole Trapnell Lab)、およびDESeq2(参照により本明細書に組み込まれる、Love MI, Huber W and Anders S, 2014, Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2, Genome Biology, 15, pp. 550を参照されたい)を使用して、RNA配列を整列させること、および発現レベルを決定し、DELと対応する示差的発現を同定することができる。発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子または試料中で測定される他の対照の発現レベルに対して正規化することができる。例えば、正規化された発現レベルを、DELに結合しなかった、またはDELで処理されなかった単一細胞に由来する閾値発現レベルと比較することができる。DNAタグバーコード配列が存在しない鋳型特異的バーコードに関連した配列読み取りデータを同定することによって、DELと結合しなかった単一細胞を、単一細胞配列決定データから同定することができる。
【0041】
任意の瞬間に、各細胞は、それが担持するほんのわずかの遺伝子からmRNAを作製する。遺伝子がmRNAを産生するために使用される場合、それは「オン」と考えられるが、そうでなければ、それは「オフ」と考えられる。遺伝子発現プロファイリングは、2つまたはそれより多い条件で発現されたmRNAの相対量を測定することを含んでもよい。例えば、遺伝子中で「オン」スイッチをもたらすと考えられるRNAガイド、遺伝子中で「オフ」スイッチをもたらすと考えられるRNAガイド、および遺伝子の変化をもたらさないと考えられるRNAガイドによって、細胞を改変することができる。遺伝子発現プロファイルは、DNA中のガイドRNAによって行われた変化が、実際に細胞の表現型にどのような結果もたらすのかに関する情報を提供する。遺伝子発現プロファイリングはまた、例えば、同じ「オン」スイッチを標的とする複数のRNAガイドが、様々なレベルの遺伝子発現レベル変化を評価するために並行して分析される場合、RNAガイドの編集能力に関する情報も提供することができる。
【0042】
遺伝子発現プロファイルは、DEL結合によって惹起される単一細胞の転写応答に関する有益な洞察を提供し、これは、小分子が望ましい、または望ましくない転写効果を惹起するかどうかを評価するのに有用である。DELで処理された単一細胞の遺伝子発現プロファイルを、特定のDELの表現型効果の理解を得るために処理されなかった細胞の遺伝子発現プロファイルと比較することができる。さらに、遺伝子発現プロファイリングは、DELの作用機構を同定する、例えば、示差的に調節される遺伝子経路を明らかにするのに有用であり得る。
【0043】
複数の小分子を用いた単一細胞トランスクリプトミクスは、必要とされる配列決定のため、大きな困難を示す。例えば、細胞あたり適度な50,000の配列決定読み取りデータを用いた、10倍のライブラリーカバー率、および例えば、1:100のDEL:細胞比での、細胞に対する10,000のDELメンバーのライブラリーのスクリーニングには、5000億の配列決定読み取りデータ、または約250個のNovaSeqレーンが必要であり得、これらはそれぞれ約5,000米ドルである。そのため、DELの単一細胞配列決定は、既存の先行技術の方法を使用すると法外に高価である。
【0044】
しかしながら、本発明の方法は、プロセシングのためにDELおよび/または目的の遺伝子を予め選択することによって配列決定の負担を実質的に低減させる有用な分析ワークフローを提供する。これらのDELおよび/または目的の遺伝子のみの予備選択プロセシングにより、配列決定の負担を、100倍を超えて低減させることができる。例えば、10,000のDELメンバーのライブラリーから、本発明の方法は、目的の標的に対するその結合親和性に基づいて、最も高い100個のDELを同定するのに有用である。標的に対する小分子のより高い結合親和性は、一般に、より高い機能性と対応する。1:100のDEL:細胞の比および細胞あたり50,000の配列決定読み取りデータを用いた100個の細胞で100個のDELのカバー率には、50億の配列決定読み取りデータ、または約2.5のNovaSeqレーンが必要であり得、実質的な低減である。
【0045】
一実施形態によれば、本発明の方法は、目的の標的(例えば、細胞またはタンパク質)を用いた1つまたは複数の結合アッセイにおいて候補DELを予備スクリーニングすることによって配列決定費用を低減させるのに有用である。次いで、目的の標的に対する最も高い結合親和性を有する候補DELを、単一細胞遺伝子発現分析のために選択する。DELは標的と結合して転写応答を惹起しなければならないため、標的に対するより高い結合親和性を有するDELの予備選択は、標的応答を惹起する可能性が低いDELのプロセシングと関連する費用を低減させながら、標的応答を惹起する可能性が最も高いDELを捕捉する可能性が高い。
【0046】
したがって、本発明の方法は、結合親和性に基づいて候補DELのサブセットを同定するための結合アッセイを実施することを含んでもよい。標的は、目的の任意の生物学的標的であってもよい。例えば、標的は、特定のタンパク質であってもよい。タンパク質を、固体基質(例えば、カラム)に結合させることができる。標的は、特定の細胞型、例えば、がん細胞であってもよい。標的は、細胞表面タンパク質であってもよい。標的は、ウイルスエピトープ、ペプチドグリカンなどであってもよい。
【0047】
方法は、実質的に等しい量の異なるDELメンバーのライブラリーを、結合を促進する条件下で目的の標的と共にインキュベートすることを含む。その後、未結合のDELおよび/または弱く結合したDELを、1つまたは複数の洗浄ステップを使用して洗浄除去して、標的の結合したDELから未結合のDELおよび/または弱く結合したDELを分離する。当技術分野で公知の任意の方法を使用して、その結合親和性を結合することによってDELを分離することができる。例えば、方法は、カラム洗浄、細胞ペレット化、磁気分離などを含んでもよい。一部の例では、洗浄条件のストリンジェンシーを調整して、洗浄の選択性を改変することができる。基質から未結合のDELおよび/または弱く結合したDELを洗浄除去した後、結合したDELを、例えば、アルカリ溶解、プロテアーゼ分解、ジスルフィド還元などによって標的から放出させることができる。DEL相互作用をスクリーニングするための方法に関するさらなる考察については、参照により組み込まれる、Jonker, 2011, Recent developments in protein-ligand affinity mass spectrometry, Anal Bioanal Chem, 399(8): 2669-2681を参照されたい。
【0048】
DELの目的の標的との結合相互作用をスクリーニングした後、目的の標的から放出されたDELを、その対応するDNAタグ配列に基づいて結合したDELの独自の配列決定読み取りデータの定量化によってさらに選択する。本発明の方法は、全ての標的に結合したDELの標的結合親和性を測定および比較するために配列読み取りデータの計数を使用する。より多数の独自の配列読み取りデータは、標的に対するDELメンバーのより高い親和性と相関する。放出されたDELのDNAタグを配列決定することは一般に、配列決定アダプターと共にDNAタグから独自のバーコードを増幅させて、アンプリコンを生成した後、アンプリコンを配列決定することを含む。独自のDELバーコードを配列決定することは、効率的な配列決定プロセスであり、標的に結合したDELの結合親和性を同定および比較するための十分な配列決定情報をもたらすために1回の25Mの読み取りデータのMiseq実験のみを必要とする。
【0049】
配列読み取りデータを、DNAタグから提供される独自の分子識別子に基づいて重複排除することができる。各DELメンバーに関する独自の読み取りデータを計数し、比較することができる。最も高い数の配列読み取りデータを有するDELメンバーを、単一細胞RNA配列決定分析によるさらなる分析のために同定する。
【0050】
別の態様では、本発明の方法は、目的の遺伝子転写物の選択的増幅および配列決定によって単一細胞RNA配列決定の配列決定費用を低減させるのに有用である。例えば、一部の実施形態では、特定の遺伝子発現経路を、候補DELによる調節のために標的化することができる。これらの例では、標的とされた発現経路に由来する遺伝子を増幅および配列決定し、細胞あたりに必要とされる膨大な量の配列決定深度を節約することができる。
【0051】
図2は、DELの単一細胞分析のための方法201を示す。方法は、DELの、細胞表面受容体との結合を容易にする条件下で、実質的に等量の様々なDELと共に細胞をインキュベートすること215を含む。標的細胞表面受容体と結合しない任意のDELを、細胞洗浄緩衝剤を使用する1回または複数の洗浄ステップによって洗浄除去する217。
【0052】
その後、細胞をDNA抽出のために収集する。Thermo Fisherによって提供されるDNAカラム抽出キットなどの、任意の市販のDNA抽出キットによって、細胞からDNAを抽出することができる。抽出されたDNAは、細胞表面受容体と結合したDELに由来するDNAタグの少なくとも一部を含有する。次いで、細胞表面受容体と結合したDELに由来するDNAタグを、例えば、以下で考察されるように、DNAタグのプライマー結合部位と相補的であるフォワードおよびリバースプライマーを用いるPCRによって増幅することができる。PCRによるDNAタグの増幅は、DNAタグのアンプリコンを生成する。アンプリコンは、タグが由来したDELライブラリーメンバーを同定するDNAタグに由来する独自の配列を含む。
【0053】
アンプリコンを、配列決定して221、配列読み取りデータを生成する。配列読み取りデータは、標的細胞表面タンパク質に対する特異性を有するDELを同定する配列情報を含む。配列決定すること221を、商標名Illuminaの下で提供され、参照により組み込まれるBowman, 2013, Multiplexed Illumina sequencing libraries from picogram quantities of DNA, BMC Genomics 14:466に記載されたような、次世代シーケンサーなどの任意のシーケンサーを使用して実施することができる。配列読み取りデータを分析して、「最良の結合剤」を同定する。最良の結合剤は、最も多い数の対応する独自の配列読み取りデータを有するDELである。
【0054】
次に、新鮮なバッチの細胞を、「最良の結合剤」を含むDELのキュレートされたライブラリーと共にインキュベートする227。最良の結合剤は、例えば、最良の結合剤の上位5パーセント、上位2パーセント、上位1パーセント、または上位0.5パーセントであってもよい。インキュベーション227後、細胞を洗浄し、収集し、単一細胞RNA配列決定分析のために調製する。
【0055】
単一細胞RNA配列決定分析は、参照により組み込まれるHatori, 2018, Particle-templated emulsification for microfluidics-free digital biology, Anal Chem 90:9813-9820に記載されたように、細胞を個々のパーティションに分配すること231を必要とする。簡単に述べると、水性液体(例えば、水、食塩水、緩衝剤、栄養ブロスなど)中に鋳型粒子および細胞を含む反応チューブ中で、水性混合物を調製する。非混和性液体(例えば、油)をチューブに添加し、チューブを撹拌する。粒子は、油によって取り囲まれた、水性液滴中に1個の鋳型粒子をそれぞれ含有するパーティションの形成を鋳型化するように作用する。
【0056】
一部の実施形態では、本発明の方法は、単一細胞から目的の標的遺伝子転写物を選択的に増幅するための遺伝子特異的プライマーを作製すること235を含む。目的の遺伝子は一般に、参照遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)およびDEL標的と関連する細胞プロセスを調節する遺伝子を含む。例えば、DELが細胞表面受容体を標的とするように設計される例では、目的の遺伝子は、標的化された細胞表面受容体の発現経路に関与する遺伝子であってもよい。標的受容体の発現経路に関与する遺伝子を同定することを、既存の遺伝子発現データベース、例えば、National Center for Biotechnology Informationによってウェブ上で自由に利用可能である、Gene、またはGene Expression Omnibusデータベースを調査することによって行うことができる。プライマーを作製すること235を、当技術分野で公知の方法によって実施することができる。あるいは、プライマーを第三者から購入することができ、例えば、目的の特定の遺伝子のためのプライマーを選択し、Biocompareから購入することができる。
【0057】
方法201は、パーティション内部の細胞を溶解すること251をさらに含む。細胞を溶解する251と、細胞の内容物はパーティション中に放出される。鋳型粒子と連結された捕捉オリゴは、細胞から放出されたmRNAおよびDNAタグにハイブリダイズする。具体的には、mRNAのポリアデニル化部分が、ポリT配列を含む捕捉オリゴの部分とハイブリダイズする。DNAタグは、相補配列を有する他の捕捉オリゴの部分とハイブリダイズする。捕捉オリゴは、共通の単一細胞から放出されたmRNAおよびDNAタグを一緒に関連付ける独自のバーコードを含む。捕捉されたmRNAおよびDELのDNAタグを逆転写して、細胞特異的バーコード情報を含む第1鎖cDNA分子を作出することができる。
【0058】
バーコード化された第1鎖cDNA分子を、全トランスクリプトーム増幅によって増幅する255。全トランスクリプトーム増幅の試薬およびプロトコールは、Sigmaによって商標名Rapid Amplification of Total RNAの下で販売されているRNA増幅キットなどの市販のキットから取得することができる。全トランスクリプトーム増幅反応に由来するアンプリコン産物を、2つのサイズ特異的集団に分割し、そこから配列決定ライブラリーを調製する。DELを、好ましくは、mRNA集団から別々に増幅して、配列決定中に等しい表示を確保する。次いで、DELおよびmRNAライブラリーを、等しい割合で合わせ257、配列決定する。配列読み取りデータを使用して、小分子に応答した遺伝子発現の変化を調査するための発現プロファイルを生成する。
【0059】
図3は、鋳型粒子303を用いたmRNAおよびDNAタグ301の標的捕捉を示す。mRNAおよびDNAタグ301の捕捉は、中に含有される単一細胞の溶解後、予め鋳型化された即時パーティション(示さず)の内部で起こる。鋳型粒子303は、捕捉オリゴと共有的に連結される(305、307)。捕捉オリゴは、5’から3’に向かって、PCRプライマー結合部位309、バーコード配列311、独自の分子識別子(UMI)313、および分子結合剤配列315を含む。鋳型粒子303は、異なる分子結合剤315と共に、少なくとも2種の捕捉オリゴ305、307を含む。1つの捕捉オリゴ305は、DNAタグの捕捉配列321と相補的であるヌクレオチド配列を有する分子結合剤を含む。第2の捕捉オリゴ307は、mRNAと相補的な配列を有する分子結合剤を含む。例えば、示されるように、分子結合剤は、ポリT配列を含んでもよい。あるいは、分子結合剤は、遺伝子特異的配列を含んでもよい。分子結合剤305、307は、相補的塩基対合によって、それぞれ、DNAタグ301およびmRNAとハイブリダイズする。
【0060】
ハイブリダイゼーション後、鋳型粒子に付着したmRNAのcDNA合成は、逆転写酵素335によって行われる。好ましくは、パーティションは、cDNA合成前に破壊される。cDNA合成中に、逆転写酵素335は、バーコード配列311を含むmRNA分子のコピーを作出する。バーコード配列311は、その鋳型粒子にとって独自のものであるヌクレオチドの配列を含む。したがって、バーコード配列311は、各ライブラリーの配列読み取りデータを、共通の鋳型粒子303にさかのぼらせることができる。
【0061】
DNAタグ301は、DELの一部309である。小分子339を、DNAタグ301の一方の末端に連結することができる。全てのDNAタグ301は、DELメンバー特異的配列323を含む。ライブラリーの全てのDELメンバーは、同一の小分子339を含む。かくして、配列323は、それが付着している小分子339を同定するのに有用な情報を含有する。DNAタグ301は1つまたは複数のPCR結合部位325をさらに含んでもよく、少なくとも1つのUMIをさらに含んでもよい。
【0062】
図4は、定型化されたDEL分子401を示す。DEL401は、DNAタグ405と連結された小分子403を含む。DNAタグ405は、小分子403を同定するために使用される少なくとも1つのDELバーコード配列409を含む。DELバーコード配列409は、好ましくは、PIP捕捉部分(例えば、ポリA配列)と相補的である捕捉部分411に隣接している。DELは、プライマー伸長部位413をさらに含む。DELがPIPバーコードによって捕捉される場合には、それは配列決定可能なDNA構築物を生成することができる。DELの相対的定量のために、UMIを使用することができるが、PIPによって提供されるのが好ましい。DELに由来する配列決定読み取りデータは、PIPバーコード(配列アダプター、PIPバーコード、UMI)およびDEL(DELバーコード、配列決定アダプター)から提供される配列情報を含んでもよい。
【0063】
本発明の方法は、リガンド-標的相互作用を検出し、手頃な高効率ワークフローを用いてこれらの相互作用の細胞的帰結を評価するのに有用である。有利には、本発明の方法はまた、天然の細胞環境におけるリガンド-標的相互作用を評価するのに有用である。一部の環境は、細胞内環境を含んでもよい。例えば、一部の例では、細胞は、細胞増殖を制御するための有用な治療標的であってもよい細胞内標的、例えば、DNA結合タンパク質、転写因子、DNA複製機構、DNA損傷タンパク質などを結合するDELで処理される。細胞内環境が標的とされるこれらの例では、DELを、細胞透過性ペプチドを用いて改変することができる。細胞透過性ペプチドを連結することにより、DELが細胞膜障壁を少なくとも部分的に横断することを可能にできる。細胞透過性ペプチドは、典型的には、リシンもしくはアルギニンなどの高い相対的存在量の正荷電アミノ酸を含有するか、または極性の荷電アミノ酸と非極性の疎水性アミノ酸の交互パターンを含有する配列を有するアミノ酸組成を有する。細胞透過性ペプチドは、低い正味電荷を有する無極性残基または細胞取込みにとって重要である疎水性アミノ酸基のみを含有する疎水性ペプチドであってもよい。
【0064】
他の実施形態では、DELを使用して、細胞膜タンパク質などの細胞外タンパク質を標的化する。標的膜タンパク質は、細胞膜の永続的部分であり、膜を貫通することができるか(膜貫通)、または膜の一方もしくは他方の側と会合する(内在性モノトピック)タンパク質である、内在性膜タンパク質であってもよい。標的化される他のタンパク質は、細胞膜と一過的に会合している末梢膜タンパク質であってもよい。一部の好ましい実施形態では、方法は、膜受容体タンパク質を標的とすることを含む。膜受容体タンパク質は、細胞の内部環境と外部環境との間でシグナルを中継するのに重要である。
【0065】
本発明の方法は、特定の細胞シグナル伝達経路を調査するのに特に非常に適している。細胞シグナル伝達経路は、細胞間連絡を含み、細胞の多くの基本的な活動を支配する。シグナルは、情報をコードするか、または伝達する実体である。生物学的プロセスは、多くのシグナルを含む複雑な分子相互作用である。細胞がその微小環境を認識し、それに正確に応答する能力は、発生、組織修復、および免疫、ならびに通常の組織恒常性の基礎である。シグナル伝達相互作用および細胞情報プロセシングのエラーは、がん、自己免疫、および糖尿病などの多くの疾患に関与している。細胞シグナル伝達を理解することにより、医師は疾患をより有効に処置することができ、理論的には、研究者は人工組織を開発することができる。本発明の方法により、研究者は、広い「仮説生成」実験を実施し、研究者が、細胞シグナル伝達経路およびそれらがトランスクリプトームのレベルで疾患においてどのように破壊されるかに関する標的とされた疑問を調査することができるデータを生産することができる。
【0066】
本発明の方法は、細胞シグナル伝達経路を調査するのに有用である。細胞シグナル伝達経路を調査することは、細胞表面受容体を標的とするDELを使用することを含んでもよい。受容体は、細胞シグナル伝達において重要な役割を果たす。受容体は、シグナル分子(リガンド)の認識に役立つ。受容体分子は、一般に、タンパク質である。受容体は、細胞表面に、または細胞質ゾル、オルガネラおよび核(特に、転写因子)などの細胞の内部に位置してもよい。通常、DELは、細胞の表面上の膜不透過性分子を結合する。
【0067】
標的細胞表面受容体にDELを結合することは、遺伝子発現経路によるシグナル伝達のさらなる伝達をもたらす、受容体におけるコンフォメーション変化を引き起こすことができる。コンフォメーション変化のため、受容体は、酵素活性(酵素受容体と呼ばれる)、またはイオンチャネル開口もしくは閉鎖活性(チャネル受容体と呼ばれる)を示してもよい。受容体自体は、酵素ドメインもチャネル様ドメインも含有しないこともあるが、それらは酵素または輸送因子と連結される。一部の受容体(核-細胞質スーパーファミリーなど)は、異なる機構を有する。DELが受容体と結合したら、それらは細胞内の遺伝子の発現を変更させる。これらの変更は、本明細書に記載される単一細胞RNA配列戦略を使用して測定可能である。遺伝子発現の測定は、所望の細胞内転写変化をもたらすDELを同定するために使用される。DELが所望の細胞内転写変化をもたらすかどうか決定することは、遺伝子発現データを、Gene Expression Databaseに由来するデータと比較することを含んでもよく、例えば、DELで処理された細胞の遺伝子発現プロファイルを、研究者が、DELががんなどの疾患に対して活性であるかどうかを同定するのを可能にする、Genomics and Drugs integrated Analysisデータベースと比較することができる。例えば、参照により組み込まれる、Caroli, 2018, GDA, a web-based tool for Genomics and Drugs integrated analysis, Nucleic Acids Research, Volume 46, Issue W1, Pages W148-W156に考察されている。
【0068】
DELを、細胞上の細胞表面受容体を標的とする小分子を用いて設計することができる。受容体は、膜貫通受容体であってもよい。DELは、好ましくは、これらの受容体の細胞外ドメインを標的化するために作製される。DELによって標的化される一部の受容体は、Gタンパク質共役受容体または1回通過膜貫通タンパク質を含んでもよい。他の受容体は、ニコチン性アセチルコリン受容体を含んでもよい。一部の例では、DELは、7TMスーパーファミリーのメンバーと会合する受容体を標的としてもよい。
【0069】
本発明の方法は、イオンチャネル、Gタンパク質共役受容体、およびチロシンキナーゼ受容体などの細胞表面受容体に対する潜在的な薬物候補を同定するのに特に適している。イオンチャネルは、チャネル孔をイオンが通過するのを可能にする孔形成性膜タンパク質である。イオン受容体に対する薬物候補の同定は、チャネロパチーを処置するのに有用であり得る。Gタンパク質共役受容体は、ホルモン、神経伝達物質および環境刺激剤に対する多くの生理学的応答を媒介する。Gタンパク質共役受容体の突然変異は、網膜色素変性症、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症、腎性尿崩症、いくつかの不妊症、およびさらには癌腫などの、後天性および遺伝性疾患を引き起こし得る。本発明の方法を使用して、突然変異受容体に対する標的薬物候補をスクリーニングして、後天性または遺伝性疾患を処置するための新薬を同定することができる。
【0070】
受容体チロシンキナーゼは、多くのポリペプチド増殖因子、サイトカイン、およびホルモンのための高親和性細胞表面受容体である。受容体チロシンキナーゼ(RTK)は、増殖、運動、分化、および代謝を含む様々な細胞プロセスにおいて重要な役割を果たしている。そのため、RTKシグナル伝達の調節不全は、様々な種類のヒト疾患、最も顕著には、がんをもたらす。本発明の方法は、DEL技術を、RTKと結合し、調節不全のRTKシグナル伝達経路を補正する望ましい転写効果を惹起し、それにより、基礎となる疾患を処置する小分子をスクリーニングするために、予め鋳型化された即時パーティションを使用する単一細胞分析ワークフローと組み合わせることができる。
【0071】
本発明の方法は一般に、DELによって改変された単一細胞からの遺伝子転写物の分析および配列決定に関する。方法は、全ゲノムトランスクリプトームの分析を含んでもよい。あるいは、配列決定費用を低減させるために、本発明の方法は、目的の特定の遺伝子と関連するmRNAの選択的増幅を含んでもよい。一部の好ましい実施形態では、目的の遺伝子は、標的化される細胞表面受容体と関連する遺伝子発現経路に関与する遺伝子である。目的の遺伝子を、遺伝子特異的プライマーを使用するPCR増幅によって増幅することができる。各核酸分子はパーティション、およびかくして、それが放出された単一細胞に独自のバーコードでタグ付けされるため、任意の遺伝子転写物を、パーティションおよび単一細胞にさかのぼらせることができ、それによって、特定のDELメンバーによって作出された遺伝子型改変の同定が可能になる。
【0072】
鋳型粒子は、標的捕捉およびポリアデニル化されたRNAのバーコード化のためのオリゴヌクレオチドを提供することができる。各鋳型粒子に特異的なバーコードは、群内の他のバーコードから識別可能であるヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド配列の任意の群であってもよい。したがって、鋳型粒子および単一細胞を封入するパーティションは、単一細胞から放出された各核酸分子に、バーコードの群に由来する同じバーコードを提供する。鋳型粒子によって提供されたバーコードは、その鋳型粒子にとって独自のものであり、他の全ての鋳型粒子によって核酸分子に提供されたバーコードと識別可能である。配列決定されたら、バーコード配列を使用することにより、単一細胞が一緒に分配された鋳型粒子によって提供されたバーコードに基づいて、核酸分子を単一細胞にさかのぼらせることができる。バーコードは、バーコードを、他のバーコードと識別するのに十分な任意の好適な長さのものであってよい。例えば、バーコードは、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25ヌクレオチドの、またはそれより多い長さを有してもよい。
【0073】
各鋳型粒子にとって独自のバーコードは、予め規定された、縮重性の、および/または無作為に選択されたものであってよい。核酸分子をバーコードで「タグ付け」することによって、バーコードを核酸分子に付加することができる。タグ付けを、バーコード付加のための任意の公知の方法、例えば、各核酸分子の1つまたは複数の末端へのバーコードの直接ライゲーションを使用して実施することができる。核酸分子は、例えば、バーコードの直接ライゲーションまたは平滑末端化ライゲーションを可能にするために末端修復されてもよい。また、例えば、本明細書の以下に記載されるような、捕捉用プローブを使用する、第1鎖または第2鎖合成によって、バーコードを核酸分子に付加することもできる。
【0074】
本発明の一部の方法では、インデックスまたはバーコード配列は、独自の分子識別子(UMI)を含んでもよい。UMIは、そのバーコードと共に、各核酸分子を独自のものに、またはほぼ独自のものにするために試料に提供することができるバーコードの種類である。1つまたは複数のUMIを、本発明の1つまたは複数の捕捉用プローブに付加することによって、これを達成することができる。適切な数のUMIを選択することにより、試料中の全ての核酸分子が、そのUMIと共に、独自またはほぼ独自のものになる。
【0075】
UMIは、それらを使用して、増幅の偏り、または増幅中の不正確な塩基対合などの、増幅中に作出されるエラーを補正することができるという点で有利である。例えば、UMIを使用する場合、試料中の全ての核酸分子が、そのUMI(単数または複数)と共に、独自またはほぼ独自のものであるため、増幅および配列決定後、同一の配列を有する分子は、同じ出発核酸分子を指し、それによって増幅の偏りを低減させると考えることができる。UMIを使用したエラー補正のための方法は、参照により本明細書に組み込まれる、Karlsson et al., 2016, Counting Molecules in cell-free DNA and single cells RNA", Karolinska Institutet, Stockholm Swedenに記載されている。
【0076】
鋳型粒子の一部の実施形態では、鋳型粒子の直径または最大寸法の変動は、鋳型粒子の少なくとも50%もしくはそれより多く、例えば、60%もしくはそれより多く、70%もしくはそれより多く、80%もしくはそれより多く、90%もしくはそれより多く、95%もしくはそれより多く、または99%もしくはそれより多くが、10未満の倍数、例えば、5未満の倍数、4未満の倍数、3未満の倍数、2未満の倍数、1.5未満の倍数、1.4未満の倍数、1.3未満の倍数、1.2未満の倍数、1.1未満の倍数、1.05未満の倍数、または1.01未満の倍数で直径または最大寸法において変化するようなものである。
【0077】
鋳型粒子は、多孔性または非多孔性であってもよい。本明細書の任意の好適な実施形態では、鋳型粒子は、追加の成分および/または試薬、例えば、本明細書に記載の単分散液滴中に放出可能であり得る追加の成分および/または試薬を含有してもよい、微小区画(本明細書では「内部区画」とも称される)を含んでもよい。鋳型粒子は、ポリマー、例えば、ヒドロゲルを含んでもよい。鋳型粒子は一般に、直径または大きい方の寸法で約0.1~約1000μmの範囲である。一部の実施形態では、鋳型粒子は、約1.0μm~1000μm(両端を含む)、例えば、1.0μm~750μm、1.0μm~500μm、1.0μm~250μm、1.0μm~200μm、1.0μm~150μm、1.0μm~100μm、1.0μm~10μm、または1.0μm~5μm(両端を含む)の直径または最大寸法を有する。一部の実施形態では、鋳型粒子は、約10μm~約200μm、例えば、約10μm~約150μm、約10μm~約125μm、または約10μm~約100μmの直径または最大寸法を有する。
【0078】
本明細書に記載の方法の実施において、鋳型粒子の組成および性質は変化してもよい。例えば、ある特定の態様では、鋳型粒子は、マイクロメートル規模のゲルマトリックスの球体である、ミクロゲル粒子であってもよい。一部の実施形態では、ミクロゲルは、アルギネートまたはアガロースを含む、水溶性である親水性ポリマーから構成される。他の実施形態では、ミクロゲルは、親油性ミクロゲルから構成される。他の態様では、鋳型粒子は、ヒドロゲルであってもよい。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、天然由来の材料、合成由来の材料およびその組合せから選択される。ヒドロゲルの例としては、限定されるものではないが、コラーゲン、ヒアルロナン、キトサン、フィブリン、ゼラチン、アルギネート、アガロース、硫酸コンドロイチン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリルアミド/ビスアクリルアミドコポリマーマトリックス、ポリアクリルアミド/ポリ(アクリル酸)(PAA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、およびポリ無水物、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)が挙げられる。
【0079】
一部の実施形態では、ここで開示される鋳型粒子は、正の表面電荷、または増加した正の表面電荷を有する鋳型粒子を提供する材料をさらに含む。そのような材料は、限定されず、ポリ-リシンまたはポリエチレンイミン、またはその組合せであってもよい。これは、鋳型粒子と、例えば、一般に、多くは負に荷電した膜を有する細胞との間の会合の機会を増加させ得る。
【0080】
特定の鋳型粒子形状の作出を含む、他の戦略を使用して、鋳型粒子-標的細胞会合の機会を増加させることができる。例えば、一部の実施形態では、鋳型粒子は、一般的な球体の形を有してもよいが、形は、球体の形における平坦な表面、クレーター、溝、突出部、および他の不規則性などの特性を含有してもよい。
【0081】
一部の実施形態では、鋳型粒子は、DELを用いて作製することができる。すなわち、鋳型粒子のヒドロゲルマトリックス内にDELが組み込まれた鋳型粒子を作製することができる。DELを担持する鋳型粒子を使用して、考察されるように、細胞を液滴中に分配することができる。DELは、単一細胞をパーティションの内部でDELと共にインキュベートすることができる鋳型粒子によって放出される。これは、DELおよび単一細胞を1:1の比でプロセシングするのに有用である。
【0082】
上に記載された戦略および方法、またはその組合せのいずれか1つを、ここで開示される鋳型粒子およびその標的ライブラリー調製のための方法の実施において使用することができる。鋳型粒子の生成、および鋳型粒子に基づく封入のための方法は、参照により本明細書に組み込まれる、国際特許出願公開WO2019/139650に記載された。
参照による組込み
特許、特許出願、特許公開、雑誌、書籍などの他の文献に対する参照および引用が、本開示全体を通して行われている。全てのそのような文献は、あらゆる目的のためにその全体がここに参照により本明細書に組み込まれる。
等価物
本発明および多くのさらなるその実施形態の種々の改変は、本明細書に示され、記載されたものに加えて、本明細書で引用される科学文献および特許文献に対する参照を含む、本文献の全内容から当業者には明らかとなるであろう。本明細書の主題は、その様々な実施形態および等価物において本発明の実施に適合させることができる重要な情報、例示および指針を含有する。
【国際調査報告】