(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞およびそれに由来する産物の大規模バンキングのための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/04 20060101AFI20240705BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20240705BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12N1/04
C12M1/38 Z
C12M3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501911
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2022069424
(87)【国際公開番号】W WO2023285444
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルヴィンド・プラディップ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンネ・イェンセン
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・ワグナー・クリスティアンセン
(72)【発明者】
【氏名】アムナ・マグゾウブ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA93X
4B065AB01
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4B065BC50
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細胞バンクを確立するための方法であって、幹細胞または幹細胞由来細胞と凍結保存媒体とを含む細胞懸濁液のバッチを提供する工程と、細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持する工程と、ある量の細胞懸濁液を細胞懸濁液のバッチから1つ以上の貯蔵容器に移す工程と、を含み、細胞バンクを確立するには少なくとも(30)分かかる、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞バンクを確立するための方法であって、
a.幹細胞または幹細胞由来細胞と凍結保存媒体とを含む細胞懸濁液のバッチを提供する工程と、
b.前記細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持する工程と、
c.ある量の前記細胞懸濁液を前記細胞懸濁液のバッチから1つ以上の貯蔵容器に移して、前記細胞バンクを確立する工程と、を含み、
前記細胞バンクの確立が少なくとも30分かかる、方法。
【請求項2】
ある量の前記細胞懸濁液のバッチが、少なくとも10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000個の貯蔵容器に移される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度が、15℃、14℃、13℃、12℃、11℃、10℃、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、または4℃未満、好ましくは12℃未満、より好ましくは8℃未満で維持される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記温度が、0~15℃、好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃、より好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度が、前記細胞懸濁液の凝固点より高く維持される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が、0℃、1℃、2℃、または3℃より高く維持される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞バンクの確立が、少なくとも1時間、少なくとも2時間、または少なくとも3時間かかる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
d.前記量の前記細胞懸濁液を前記細胞懸濁液のバッチから移した直後に、前記貯蔵容器の各々を凍結する追加の工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各貯蔵容器に移された前記細胞懸濁液の量が、0.25~1000mlである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞懸濁液のバッチの体積が、少なくとも25ml、50ml、100ml、200ml、300ml、400ml、500ml、600ml、700ml、800ml、900ml、または1Lである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記幹細胞が、多能性幹細胞(PSC)であり、かつ/または前記幹細胞由来細胞が、ベータ様細胞、心筋細胞、またはRPE細胞である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞バンクの調製中に細胞懸濁液のバッチを冷却するための冷却装置(100)であって、外壁(102)を含むハウジング(101)と、冷媒を受けるように構成された第1の区画(104、105)と、前記細胞懸濁液のバッチを有する容器を保持するように構成された第2の区画(103)と、を備え、前記第1の区画(104、105)および前記第2の区画(103)が熱伝導要素(106、107)によって分離していることで、前記冷媒が前記第1の区画(104、105)に装填され、前記細胞懸濁液のバッチを有する前記容器が前記第2の区画(103)に装填されると、前記冷媒が、前記細胞懸濁液のバッチを冷却できる、冷却装置(100)。
【請求項13】
細胞懸濁液のバッチを冷却する方法であって、
i.請求項12に記載の冷却装置を提供する工程と、
ii.冷媒を前記冷却装置の前記第1の区画に装填する工程であって、前記冷媒の温度が、前記細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持するのに好適である、工程と、
iii.前記細胞懸濁液のバッチを含むフラスコを前記冷却装置の前記第2の区画に装填する工程と、
iv.前記細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持する工程と、を含む、方法。
【請求項14】
前記細胞懸濁液のバッチの温度が、0~15℃、好ましくは0~12℃、好ましくは0~10℃、好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞懸濁液のバッチから細胞バンクを調製するための、請求項12に記載の冷却装置の使用であって、前記細胞懸濁液のバッチの温度を、15℃未満、好ましくは0~12℃、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持することを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ヒト多能性幹細胞などの幹細胞、および幹細胞由来の細胞産物の分野に関する。具体的には、未分化hPSCバンクならびにhPSC由来原薬および薬物製品など、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から細胞バンクを確立するための方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
様々な病態の治療にhPSCを使用する見通しは非常に有望であると考えられる。生細胞ベースの治療を市場に近づける努力が払われているため、大規模および生産環境での製造を検討することは、ますます今日的な意味を帯びている。一部の適応症には、治療当たり推定108個の細胞が必要である。幹細胞ベースの産物の生産は、典型的には、出発点としてhPSCの分化を使用する。細胞株は、初期段階のヒト胚に由来してもよく、体細胞の人工的多能性に由来してもよい。その後、得られた細胞株を、細胞バンクの拡大および確立のために培養するが、これにおいて、細胞は、特定の細胞型の産物へのさらなる拡大および/または分化を受けるまで、貯蔵のために凍結保存される。
【0003】
長年にわたり、hPSCの凍結保存には大幅な改善がなされてきた。基本的な凍結保存原理は、他の哺乳動物細胞型に起源を持ち、この手順は、二糖類であるスクロース、マルトース、トレハロース、およびDMSOの有無を問わない他のものなどの凍結保存媒体中の化学物質に依存する。
【0004】
細胞死の主な原因は、低温での長期貯蔵自体ではなく、ガラス転移温度(Tg)超で細胞に発生する事象である。凍結中の細胞内結晶化および加温時の再結晶化は、毒性、細胞収縮、浸透圧不均衡のような他の既知の原因は別にして、細胞を最も損傷させることが知られている。細胞、特にhPSCに対するこれらの有害な事象に対抗するために、異なる凍結保存方法(ガラス化、低速冷却、急速融解など)および凍結保存媒体が開発されてきた。
【0005】
治療用細胞産生には、大型の細胞バンクを生成することを可能にする細胞の長期安定性および方法論が、成功のために必須である。したがって、適正細胞培養基準(good cell culture practice)(GCCP)および医薬品適正製造基準(current good manufacturing practice)(cGMP)を含む治療用薬物製品の要件に準拠しながら、特に、調製および/または大規模バンキングに起因して長い時間がかかる細胞バンクの確立から生じる問題に対処しながら、細胞生存率の高い細胞バンクを確立するための現在の方法を改善することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0006】
上で概説した目的は、本発明の態様によって達成される。加えて、本発明は、例示的な実施形態の開示から明らかとなるさらなる課題も解決し得る。
【0007】
本発明の第1の態様では、細胞バンクを確立するための方法であって、幹細胞または幹細胞由来細胞と凍結保存媒体とを含む細胞懸濁液のバッチを提供する工程と、細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持する工程と、ある量の細胞懸濁液を細胞懸濁液のバッチから1つ以上の貯蔵容器に移して、細胞バンクを確立する工程と、を含み、細胞バンクを確立するには少なくとも30分かかる、方法が提供される。本発明者らは、バイアルなどの幾多の貯蔵容器を細胞で充填することによって大型の細胞バンクを確立することには長い時間が必要とされ、その間に凍結保存媒体中の細胞の生存率が著しく減少することを理解した。細胞懸濁液のバッチが追加の調製時間を必要とする細胞バンクの確立の際にも、同じことが言える。細胞バンクを確立するプロセス全体にわたって細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持することにより、各バイアルの品質および細胞数が改善されることになる。
【0008】
さらなる態様では、細胞バンクの調製中に細胞懸濁液のバッチを冷却するための冷却装置であって、外壁を含むハウジングと、冷媒を受けるように構成された第1の区画と、細胞懸濁液のバッチを有する容器を保持するように構成された第2の区画と、を備え、第1の区画および第2の区画が熱伝導要素によって分離していることで、冷媒が第1の区画に装填され、細胞懸濁液のバッチを有する容器が第2の区画に装填されると、冷媒が、細胞懸濁液のバッチを冷却できるようになる、冷却装置、が提供される。本発明者らは、細胞バンクを確立しながら、細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持するのに好適な冷却装置を設計しており、本冷却装置の使用により、GCCPおよびcGMPの厳格な要件の遵守が容易になる。本冷却装置は、動作中にいずれの粒子も生成しないように設計されているため、この装置は、EU GMP Guidance Annex 1:Manufacturing of Sterile Medicinal Products and US Food and Drug Administration’s(FDA’s)Guidance for Industry:Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing Current Good Manufacturing Practiceの要件に準拠するグレードA(あるいはISO指定5)のクリーンルームエリア区分内で取り扱うことができる。
【0009】
したがって、本発明の別の態様は、細胞懸濁液のバッチから細胞バンクを調製するための冷却装置の使用であって、細胞懸濁液のバッチの温度を、15℃未満、好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃、より好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持することを含む、使用に関する。
【0010】
最後の態様では、細胞懸濁液のバッチを冷却する方法であって、上記の冷却装置を提供する工程と、冷媒を冷却装置の第1の区画に装填する工程であって、冷媒の温度が、細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持するのに好適である、装填する工程と、細胞懸濁液のバッチを含むフラスコを冷却装置の第2の区画に装填する工程と、細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持する工程と、を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の区画と第2の区画とを分離している温度伝導要素を有する冷却装置のハウジングを示す。
【
図2】
図2は、第1の区画と第2の区画とを分離している熱伝導要素を有する冷却装置の上面図を示す。
【
図3】
図3は、蓋、熱伝導要素、および第1の区画と第2の区画とを分離するように1つの熱伝導要素が取り付けられているハウジングを伴う、部分的に分解された冷却装置を図示する。
【
図4】
図4は、室温での凍結保存媒体(特にSTEM-CELLBANKER)への異なる曝露時間にわたるhESCのトリパンブルー排除法による生存率を示す。
【
図5】
図5は、細胞懸濁液を約4℃で維持した場合の凍結保存媒体(特にSTEM-CELLBANKER)への漸増させた曝露時間にわたるhESCのトリパンブルー排除法による生存率の実験を示す。
【
図6】
図6は、冷却装置の容器内の媒体の温度測定曲線を示す。
【
図7】
図7は、室温および摂氏約4度での凍結保存媒体(StemcellBankerなど)の異なる保持時間についてのNC-202によって測定したhESC由来ベータ様細胞の生存率%を示す。平均生存率%は、室温で82から66に低下し、4℃で89から85に低下する(5分から240分)。6~8本のバイアルを各時点について解凍し、3人の異なる操作者によって解凍した。二元配置ANOVA Sidakの多重比較検定を行って、室温と4℃とを比較した。
【
図8】
図8は、NKX6.1マーカーおよびIslet-1マーカーを発現する細胞のパーセンテージを比較するフローサイトメトリーのドットプロットを示す。49.5%は、ベータ細胞を示す2つのマーカーを共発現する。
【
図9】
図9は、室温および摂氏約4度での凍結保存媒体(StemcellBankerなど)の異なる保持時間に対するNC-202によって測定したhESC由来RPE細胞の生存率%を示す。生存率%は、室温で95から81に低下し、4℃で95から89に低下する(0分から240分)。8~10本のバイアルを各時点について解凍し、3人の異なる操作者によって解凍した。二元配置ANOVA Sidakの多重比較検定を行って、室温と4℃とを比較した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
別段の定めのない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の示唆がない限り、当業者に公知の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の従来の方法を用いる。
【0013】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0014】
本明細書で提示する任意およびすべての例または例示的な語句(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより明瞭にするという意図しかなく、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。
【0015】
一般的な定義
本出願全体を通して、細胞を分化させるためのプロセスを指す場合の「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用され得る。本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つまたは1つ超を意味し得る。本明細書に別段の示唆がない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する記載された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外されても省略されてもよいことを企図する。
【0016】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。大型の幹細胞バンクを確立するための方法が提供される。したがって、本方法は、幹細胞の使用においてオフセットされる。
【0017】
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己複製能力)を有するが、分化能を維持する細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞、およびこれらに類するものなどの亜集団を含む。本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」(PSC)という用語は、インビトロで培養することができ、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)および/または胚外組織(多能性)に属する任意の細胞系統に分化する能力を有する幹細胞を指す。本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」という用語は、すべての種類ではないが、複数の種類の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。本明細書で使用される場合、「単能性幹細胞」という用語は、特定の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。多能性幹細胞は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞、およびこれらに類するものから誘導され得る。多能性幹細胞(PSC)の例としては、胚性幹細胞(ESC)、EG細胞(胚性胚細胞)、人工多能性幹細胞(iPSC)、およびこれらに類するものが含まれる。間葉系幹細胞(MSC)から得られるミューズ細胞(多系統分化ストレス耐性細胞)、および生殖細胞(例えば、精巣)から産生されるGS細胞も、多能性幹細胞に包含される。本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」(iPS細胞またはiPSCとしても公知)という用語は、成体細胞から直接生成することができる一種の多能性幹細胞を意味する。本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞」という用語(hES細胞またはhESCとしても公知)は、単一の割球もしくは胚盤胞の内細胞塊のいずれかに由来するか、または単為生殖生物に由来する(例えば、国際公開第WO2003/046141号に記載されるとおり)多能性幹細胞のタイプを意味する。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、また市販もされている。好ましくは、本発明の方法および産物は、hPSC、すなわち、人工多能性幹細胞または単為生殖生物を含む胚性幹細胞のいずれかに由来する幹細胞に基づく。
【0018】
「NC-202」による生存率測定値とは、The NucleoCounter(登録商標)NC-202(商標)自動セルカウンター(NucleoCounter(登録商標)NC-202(商標)Leading Automated Cell Counter System(chemometec.com))を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「RPE細胞」という用語は、網膜色素上皮細胞を意味する。
【0020】
細胞バンクを確立するための方法
本出願の第1の態様では、細胞バンクを確立するための方法であって、a)幹細胞または幹細胞由来細胞と凍結保存媒体とを含む細胞懸濁液のバッチを提供する工程と、b)細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持する工程と、c)ある量の細胞懸濁液を細胞懸濁液のバッチから1つ以上の貯蔵容器に移して、細胞バンクを確立する工程と、を含み、細胞バンクを確立するには少なくとも30分かかる、方法が提供される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「細胞バンク」という用語は、典型的には、定義された条件下で誘導された個々の供給源から調製され、複数の容器に分注され、定義された条件下で貯蔵された、細胞の単一のプールのアリコートを指す。これはさらに、異なる細胞型のプールであってもよい。
【0022】
本明細書で使用される場合、「細胞懸濁液」という用語は、細胞が液状媒体中で自由に浮遊し、したがって、実質的に均一な濃度の細胞を維持することが可能となることを意味し、これにおいて、細胞を含む液状媒体のアリコートを移すことができる。細胞懸濁液中の細胞は、単一の細胞または細胞凝集体/球状物スフェロイドであってもよく、生体材料を伴う場合と伴わない場合とがある。
【0023】
本明細書で使用される場合、細胞懸濁液のバッチという用語は、1つ以上の貯蔵容器に移されることになる細胞懸濁液を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「幹細胞由来細胞」という用語は、分化されている幹細胞を意味する。多能性幹細胞に関する「分化」という用語は、細胞が未分化状態から特定の分化状態へ、すなわち、未成熟状態から比較的未成熟ではない状態または成熟状態へと進行するプロセスを指す。細胞相互作用および成熟における変化は、細胞が未分化細胞のマーカーを喪失するときまたは分化した細胞のマーカーを獲得するときに生じる。単一マーカーの損失または獲得は、細胞が「成熟または完全に分化」したことを示し得る。
【0025】
工程a)の「細胞懸濁液のバッチを提供すること」は、任意の好適な手段によって細胞懸濁液のバッチを得ることを意味する。一実施形態では、細胞懸濁液のバッチは、幹細胞または幹細胞由来細胞を、凍結保存媒体を用いて配合することによって提供される。一実施形態では、細胞懸濁液のバッチ中の細胞の濃度は、約1×105細胞/ml~約1×108細胞/mlである。一実施形態では、幹細胞はPSCである。さらなる実施形態では、幹細胞はhPSCである。幹細胞は、上述した任意の好適な方法によって提供されてもよく、例えば、幹細胞は、ヒト胚性幹細胞から誘導することによって提供されてもよい。当業者であれば、幹細胞を取得または提供するための好適な方法を認識することになるが、これには、幹細胞を割球または胚盤胞の内部細胞塊から誘導することが含まれてもよい。本明細書で使用される場合、「凍結保存媒体」は、凍結中に細胞を保存するのに好適な液状媒体組成物を意味する。一実施形態では、凍結保存媒体は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。好ましい実施形態では、凍結保存媒体は、化学的に定義され、異種性ではなく、GMPグレードである。好適な凍結保存媒体は、市販されており、例えば、STEM-CELLBANKERである。
【0026】
工程b)では、細胞懸濁液のバッチは、15℃未満の温度で維持される。一実施形態では、温度は、0~12℃、好ましくは0~11℃、好ましくは0~10℃、好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される。一実施形態では、温度は、15℃、14℃、13℃、12℃、11℃、10℃、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、または4℃未満、好ましくは8℃未満で維持される。 しかしながら、細胞懸濁液のバッチの温度は、細胞懸濁液の凝固点を下回ってはいけない。当業者であれば、細胞懸濁液の凝固点を容易に確立することができる。一実施形態では、温度は、細胞懸濁液の凝固点より上で維持される。さらなる実施形態では、温度は、0℃、1℃、2℃、または3℃より上で維持される。温度は、容器を細胞懸濁液のバッチを有する容器を冷却することによって、または細胞バンクが確立される周囲環境を冷却することによってなど、任意の好適な手段によって、該温度で維持され得る。一実施形態では、工程b)の細胞懸濁液のバッチは、振盪または攪拌などのかき混ぜに供される。細胞懸濁液のバッチは、磁気攪拌によってなど、任意の好適な手段によって攪拌され得る。攪拌により、均質な細胞懸濁液が容易になることで、工程c)で各バイアルに移される細胞の実質的に均一な濃度が確実になり得る。
【0027】
工程c)では、細胞懸濁液のバッチからのある量の細胞懸濁液が、1つ以上の貯蔵容器に移される。一実施形態では、ある量の細胞懸濁液は、少なくとも10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000個の貯蔵容器に移される。本明細書で使用される場合、「貯蔵容器」という用語は、細胞を貯蔵するのに好適な容器を指す。ガラスまたはプラスチック製の容器またはボトルまたはバッグなど、細胞を貯蔵するのに好適な任意の容器を使用することができる。一実施形態では、貯蔵容器は、バイアルまたは凍結保存バッグである。本明細書で使用される場合、「量」および「アリコート」という用語は、互換的に使用され、細胞懸濁液の初期体積よりも小さい体積を指し得る。ある量の細胞懸濁液を移すための任意の工程な方法を使用することができる。移すことは、典型的には、ピペットによって手動で実施されるが、ロボット支援によって自動化されてもよい。一実施形態では、各バイアルに移される細胞懸濁液の量は、0.25~1000mlである。一実施形態では、約1mlの量が、2mlの凍結保存バイアルに移される。一実施形態では、約20mlの量が、50mlの凍結保存バイアルに移される。一実施形態では、細胞懸濁液のバッチの体積は、少なくとも25ml、50ml、100ml、200ml、300ml、400ml、500ml、600ml、700ml、800ml、900ml、または1Lである。
【0028】
一実施形態では、細胞バンクを確立するには、少なくとも1時間、少なくとも2時間、または少なくとも3時間かかる。細胞懸濁液が定められた温度に維持される時間は、細胞バンクを確立するのにかかる時間、すなわち、ある量の細胞懸濁液を調製および/または定められた数のバイアルの各々に移すのにかかる時間に左右される。細胞懸濁液のアリコートを貯蔵容器に移す工程は、細胞懸濁液の残りのバッチを該温度に維持しながら実施されることが容易に理解される。ある量の細胞懸濁液を貯蔵容器に移したら、それ以降はこれを該温度に維持する必要はない。
【0029】
一実施形態では、本方法は、該量の細胞懸濁液を移した直後に、貯蔵容器の各々を凍結する工程d)をさらに含む。本発明者らによる発見に加えて、細胞懸濁液のアリコートを移した後の個々の貯蔵容器は、残りの細胞バンクを確立している間、例えば室温で放置してはいけないことが、容易に理解される。「直ぐ」という用語は、バイアルに移された細胞懸濁液が、移した後10分未満、好ましくは移した後8、6、4、または2分未満以内に凍結に供されることを意味する。当業者であれば、凍結のための好適な方法、ならびに貯蔵のための推奨される凍結温度を認識することになる。
【0030】
一実施形態では、本方法は、細胞懸濁液中の細胞の生存率を増加させるためのものである。
【0031】
一実施形態では、幹細胞または幹細胞由来細胞は、単一の細胞または凝集体である。別の実施形態では、細胞懸濁液のバッチは、生体材料をさらに含む。
【0032】
一実施形態では、工程a)の細胞懸濁液のバッチは、細胞培養用スピナーボトル内で配合され、この細胞培養用スピナーボトルは、本発明に従う冷却装置内に定置される。
【0033】
冷却装置
別の態様では、細胞バンクの調製中に細胞懸濁液のバッチを冷却するための冷却装置100であって、外壁102を含むハウジング101と、冷媒を受けるように構成された第1の区画104、105と、細胞懸濁液のバッチを有する容器を保持するように構成された第2の区画103と、を備え、第1の区画104、105および第2の区画103が熱伝導要素106、107によって分離していることで、冷媒が第1の区画104、105に装填され、細胞懸濁液のバッチを有する容器が第2の区画103に装填されると、冷媒が、細胞懸濁液のバッチを冷却できるようになる、冷却装置100、が提供される。
【0034】
一実施形態では、ハウジング101は、ナイロンから作製される。一実施形態では、ハウジング101は、SLS印刷を使用して3D印刷され、これにより、EtOH/IPAによる頻繁な消毒に対応できる不活性かつ堅牢な材料であるナイロン材料が得られる。
【0035】
一実施形態では、冷却装置100は、第2の区画103の両側に2つの第1の区画104、105を備える。その結果として、この実施形態では、両方の第1の区画104、105が、熱伝導要素106、107によって分離されるようになる。これにより、細胞懸濁液のバッチの冷却のより均一な分布がもたらされる。熱伝導要素106、107は、熱を伝導するための任意の好適な材料であり得る。一実施形態では、熱伝導要素106、107は、金属ブロック、好ましくはステンレス鋼ブロックである。一実施形態では、熱伝導要素106、107は、細胞懸濁液のバッチを有する容器と密接に合うように湾曲している。
【0036】
一実施形態では、本冷却装置は、1つ以上の第1の区画104、105を覆うために蓋200をさらに備える。
【0037】
本明細書で使用される場合、「冷媒」という用語は、冷却に好適な物質を意味する。一実施形態では、冷媒は、密封容器内にある。好ましい実施形態では、冷媒は、ゲルパックなどのバッグ内にある。一実施形態では、冷媒は、-20℃未満の温度に予冷される。
【0038】
本明細書で使用される場合、冷却装置に関連する「容器」という用語は、バイアルなどのより小型の貯蔵容器に分配されることになる細胞懸濁液のバッチを含む容器を指す。一実施形態では、細胞懸濁液のバッチを有する容器は、50ml~10L、好ましくは1Lの体積を有する。一実施形態では、細胞懸濁液のバッチを有する容器は、細胞培養用スピナーボトルである。
【0039】
好ましい実施形態では、本冷却装置は、GMPに準拠する。具体的には、クリーンルームクラスA環境についてのGMPに準拠する。
【0040】
細胞懸濁液を冷却する方法
その結果として、本発明の別の態様は、細胞懸濁液のバッチを冷却する方法であって、i)上記の冷却装置100を提供する工程と、ii)冷媒を冷却装置100の第1の区画104、105に装填する工程であって、冷媒の温度が、細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持するのに好適である、装填する工程と、iii)細胞懸濁液のバッチを含む容器を冷却装置100の第2の区画103に装填する工程と、iv)細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持する工程と、を含む方法に関する。
【0041】
一実施形態では、冷媒は、冷却パックである。本明細書で使用される場合、「冷却パック」という用語は、冷媒で充填されたプラスチックバッグなどの容器を意味する。一実施形態では、冷媒の温度は、第1の区画104、105への装填時に、-20~-80℃である。一実施形態では、細胞懸濁液の温度は、0~15℃、好ましくは0~12℃、好ましくは0~10℃、好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される。
【0042】
好ましい実施形態では、本方法は、GMPに準拠する。
【0043】
冷却装置の使用
本発明の別の態様は、細胞懸濁液のバッチから細胞バンクを調製するための上文に記載した冷却装置の使用であって、細胞懸濁液のバッチの温度を、15℃未満、好ましくは0~12℃、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持することを含む、使用に関する。好ましい実施形態では、細胞は、幹細胞であるか、または幹細胞に由来する。さらにより好ましい実施形態では、幹細胞は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)である。
【0044】
一実施形態では、細胞懸濁液のバッチの温度を低く維持するために、必要に応じて冷媒を交換する。
【0045】
特定の実施形態
これより、本発明の態様を以下の非限定的な実施形態によってさらに説明する。
1.大型細胞バンクの調製中に細胞懸濁液のバッチを冷却するための冷却装置(100)であって、外壁(102)を含むハウジング(101)と、冷媒を受けるように構成された第1の区画(104)と、細胞懸濁液のバッチを有する容器を保持するように構成された第2の区画(103)と、を備え、第1の区画(104)および第2の区画(103)が熱伝導要素(106)によって分離していることで、冷媒が第1の区画(104)に装填され、細胞懸濁液のバッチを有する容器が第2の区画(103)に装填されると、冷媒が、細胞懸濁液のバッチを冷却できるようになる、冷却装置(100)。
2.ハウジング(101)が、ナイロンから作製される、実施形態1に従う冷却装置。
3.熱伝導要素(106)が、金属ブロック、好ましくはステンレス鋼ブロックである、実施形態1または2に従う冷却装置。
4.冷媒が、ゲルパックなどの密封バッグ内にある、実施形態1~3のいずれか1つに従う冷却装置。
5.細胞懸濁液のバッチを有する容器が、50ml~10L、好ましくは1Lの体積を有する、実施形態1~4のいずれか1つに従う冷却装置。
6.細胞懸濁液のバッチを有する容器が、細胞培養用スピナーである、実施形態1~5のいずれか1つに従う冷却装置。
7.冷却装置が、GMPに準拠する、実施形態1~6のいずれか1つに従う冷却装置。
8.冷却装置が、第2の区画(103)の両側に2つの第1の区画(104、105)を備える、実施形態1~7のいずれか1つに従う冷却装置。
9.2つの第1の区画(104、105)の各々が、熱伝導要素(106、107)によって第2の区画(103)から分離している、実施形態8に従う冷却装置。
10.1つ以上の第1の区画(104、105)を覆うために蓋(200)をさらに備える、実施形態1~9のいずれか1つに従う冷却装置。
11.細胞バンクを確立するための方法であって、
a.幹細胞または幹細胞由来細胞と凍結保存媒体とを含む細胞懸濁液のバッチを提供する工程と、
b.細胞懸濁液のバッチを15℃未満の温度で維持する工程と、
c.ある量の細胞懸濁液を細胞懸濁液のバッチから1つ以上の貯蔵容器に移して、細胞バンクを確立する工程と、を含み、
細胞バンクを確立するには少なくとも30分かかる、方法。
12.
d.該量の細胞懸濁液を移した直後に、貯蔵容器の各々を凍結する追加の工程を含む、実施形態11に従う方法。
13.ある量の細胞懸濁液のバッチが、少なくとも10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000個の貯蔵容器に移される、実施形態11および12のいずれか1つに従う方法。
14.温度が、0~15℃、好ましくは0~12℃、好ましくは0~11℃、好ましくは0~10℃、好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される、実施形態11~13のいずれか1つに従う方法。
15.温度が、15℃、14℃、13℃、12℃、12℃、11℃、10℃、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、または4℃未満、好ましくは12℃未満、より好ましくは8℃未満で維持される、実施形態11~14のいずれか1つに従う方法。
16.温度が、細胞懸濁液の凝固点より上で維持される、実施形態11~15のいずれか1つに従う方法。
17.温度が、0℃、1℃、2℃、または3℃より上で維持される、実施形態11~16のいずれか1つに従う方法。
18.前記細胞バンクを確立するには、少なくとも1時間、少なくとも2時間、または少なくとも3時間かかる、実施形態11~17のいずれか1つに従う方法。
19.貯蔵容器が、バイアルおよび/または凍結保存バッグである、実施形態11~18のいずれか1つに従う方法。
20.方法が、細胞の生存率を増加させるためのものである、実施形態11~19のいずれか1つに従う方法。
21.細胞懸濁液のバッチ中の細胞の濃度が、約1×105細胞/ml~約1×108細胞/mlである、実施形態11~20のいずれか1つに従う方法。
22.凍結保存媒体が、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、実施形態11~21のいずれか1つに従う方法。
23.凍結保存媒体が、STEM-CELLBANKERである、実施形態11~22のいずれか1つに従う方法。
24.幹細胞が、多能性幹細胞(PSC)である、実施形態11~23のいずれか1つに従う方法。
25.幹細胞が、ヒト多能性幹細胞(hPSC)である、実施形態24に従う方法。
26.幹細胞または幹細胞由来細胞が、単一の細胞または凝集体である、実施形態11~25のいずれか1つに従う方法。
27.幹細胞由来細胞が、ベータ様細胞、心筋細胞、またはRPE細胞である、実施形態11~26のいずれか1つに従う方法。
28.細胞懸濁液が、生体材料をさらに含む、実施形態11~27のいずれか1つに従う方法。
29.細胞懸濁液のバッチの体積が、少なくとも25ml、50ml、100ml、200ml、300ml、400ml、500ml、600ml、700ml、800ml、900ml、または1Lである、実施形態11~28のいずれか1つに従う方法。
30.各貯蔵容器に移された細胞懸濁液の量が、0.25~1000mlである、実施形態11~29のいずれか1つに従う方法。
31.約1mlの量が、2mlの凍結保存バイアルに移される、実施形態11~30のいずれか1つに従う方法。
32.約20mlの量が、50mlの凍結保存バッグに移される、実施形態11~30のいずれか1つに従う方法。
33.工程a)の細胞懸濁液のバッチが、細胞培養用スピナーボトル内で配合され、細胞培養用スピナーボトルが、実施形態1~10のいずれか1つに従う冷却装置内に定置される、実施形態11~32のいずれか1つに従う方法。
34.工程b)の細胞懸濁液のバッチが、振盪または攪拌などのかき混ぜに供される、実施形態11~33のいずれか1つに従う方法。
35.攪拌のための手段が、磁気攪拌器など、細胞懸濁液のバッチ内にある、実施形態34に従う方法。
36.細胞懸濁液の少なくとも一部分が、細胞バンクを確立するためにかかる時間の間、該温度で維持される細胞懸濁液のバッチ内に留まる、実施形態11~35のいずれか1つに従う方法。
37.方法が、層流ワークステーションまたはクリーンルームで実施される、実施形態11~36のいずれか1つに従う方法。
38.細胞懸濁液のバッチから細胞バンクを調製するための実施形態1~10のいずれか1つに従う冷却装置の使用であって、細胞懸濁液のバッチの温度を、15℃未満、好ましくは12℃未満、好ましくは0~12℃、好ましくは0~11℃、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持することを含む、使用。
39.細胞懸濁液のバッチが、幹細胞を含むか、または幹細胞に由来する、実施形態38に従う使用。
40.幹細胞が、ヒト多能性幹細胞(hPSC)である、実施形態39に従う方法。
41.細胞懸濁液のバッチを冷却する方法であって、
i.実施形態1~10のいずれか1つに従う冷却装置を提供する工程と、
ii.冷媒を冷却装置の第1の区画に装填する工程であって、冷媒の温度が、細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持するのに好適である、装填する工程と、
iii.細胞懸濁液のバッチを含むフラスコを冷却装置の第2の区画に装填する工程と、
iv.細胞懸濁液のバッチの温度を15℃未満で維持する工程と、を含む、方法。
42.方法が、GMPに準拠する、実施形態41に従う方法。
43.冷媒が、冷却パックである、実施形態41および42のいずれか1つに従う方法。
44.冷媒の温度が、第1の区画に装填される時に-20~-80℃である、実施形態41~43のいずれか1つに従う方法。
45.細胞懸濁液のバッチが、該温度で少なくとも1時間維持される、実施形態41~44のいずれか1つに従う方法。
46.細胞懸濁液のバッチの温度が、0~15℃、好ましくは0~12℃、好ましくは0~10℃、好ましくは0~8℃、より好ましくは2~8℃、より好ましくは2~6℃、より好ましくは3~5℃、さらにより好ましくは約4℃で維持される、実施形態41~45のいずれか1つに従う方法。
【実施例】
【0046】
以下は、本発明を実施するための非限定的な実施例である。
【0047】
実施例1:大型細胞バンクを確立するためのプロトコル
調製中、バイアルを2~8℃で予冷する。冷却装置用のゲルパックおよび金属支持体は、凍結保存の前に少なくとも4時間、-20℃で一晩凍結する。
【0048】
最初に、hPSCを、STEM-CELLBANKER(SCB)凍結保存媒体中で配合する。次いで、適切なコンフルエンシーにある細胞を写真撮影し、細胞を採取して計数する。得られた生細胞総数に基づいて、例えばバイアル当たり1×106の総生細胞で充填することができるバイアルの数を決定する。次いで、計算された体積の細胞懸濁液を適切な滅菌円錐チューブに移し、低温で保つ。培養形式に応じて小さい細胞懸濁液体積および大きい細胞懸濁液体積について、300gで3分間および5分間遠心分離させて、細胞をペレット化する。バイオセーフティキャビネット(BSC)中で、上清を吸引した後、チューブを叩いて細胞ペレットをほぐす。細胞ペレットを、1~5mLのSCBで穏やかに再懸濁させる。例えば1×106細胞/mlの濃度が得られる体積になるまで、細胞懸濁液にさらなるSCBを加える。
【0049】
細胞懸濁液を1Lスピナーフラスコに移し、本発明に従う冷却装置に定置する。予め凍結した冷却パックおよび金属支持体を、冷却装置に挿入する。冷却装置を、細胞懸濁液とともに磁気攪拌器上に定置し、冷却装置が攪拌プレートの中心にあることを確実にする。混合を、必要に応じた速度に設定する。体積が減少するにつれて充填を行いながら、混合速度を適宜変更してもよい。
【0050】
卓上自動凍結保存バイアル処理システムであるFill-it System(Sartorius Stedim Biotech)を使用して、自動で、凍結保存バイアルの蓋を外し、バイアルを充填し、再度蓋をし、48個のチューブラックを充填するように設定した8方向の単回使用滅菌チューブを、スピナーフラスコ液体移送ポートチューブに接続する。次いで、必要な数の凍結保存バイアルを、システムの蠕動ポンプを使用して、1mLの充填体積で充填する。あるいは、凍結保存バイアルを、例えば血清用ピペットを使用して手動で充填することもできる。
【0051】
次に、凍結保存バイアルを、凍結保存のために速度制御した冷凍庫に移す。目標温度に達したら、凍結保存バイアルを、ドライアイス上、または予冷したラックに直接定置し、長期貯蔵のために液体窒素の気相に移す。あるいは、Mr.FrostyまたはBioCision CoolCell凍結保存容器を使用する。充填した凍結保存バイアルを有する凍結保存容器を、その後、-80℃の冷凍庫に4~48時間定置する。続いて、凍結保存バイアルを、長期貯蔵のために液体窒素の気相に移す。
【0052】
実施例2:異なる温度での細胞生存率の比較
本発明者らは、凍結保護剤へのより長い曝露時間が解凍後のhPSCに与える影響(生存率、プレーティング、および回収の%)を調査した。すなわち、試料を特定の時点で採取し、直ぐに凍結保存した後、追って解凍し、細胞試料の生存率を評価した。トリパンブルーによる生存率の評価は、例えば、Strober W.Trypan Blue Exclusion Test of Cell Viability.Curr Protoc Immunol.2015;111:A3.B.1-.A3.B.3.2015 Nov 2発行.doi:10.1002/0471142735.ima03bs111で十分に説明されている。
【0053】
実施例1に記載した方法に供したhPSCと、細胞懸濁液を12℃未満の温度で維持しなかった類似の方法との間で比較を実施した。凍結保存した細胞試料を解凍し、トリパンブルー排除法を使用して、生存率を試験した。
【0054】
図4は、2つの別々の実験における、室温(約20℃)での凍結保存媒体(特にSTEM-CELLBANKER)への異なる曝露時間にわたるhESCのトリパンブルー排除法による生存率を示す。明らかに、生存率は、hPSCが室温(RT)で維持した細胞懸濁液中にある時間が長いほど、減少する。データを表1に示す。
【表1】
【0055】
図5は、細胞懸濁液を約4℃で維持した場合の結果を、室温(RT)で維持した比較試料とともに示す。データを表2に示し、240分でそれぞれ4℃および室温で採取した試料との比較の統計資料を表3に示す。
【表2】
【表3】
【0056】
実施例3:凍結保存媒体の温度の測定
1つの実験では、本発明者らは、フラスコ内の凍結保存媒体の温度を、本発明に従う冷却装置に定置したときに測定した。2つの温度プローブをフラスコの上部および底部でそれぞれ使用した。STEM-CELLBANKERを、1Lスピナーフラスコ内で凍結保存媒体として、磁気攪拌を行いながら、媒体体積850mlで使用した。冷媒および金属プレートを、-20℃で実験の前に凍結させた。
【0057】
図6において、経時的な温度測定値を示す。0分直前に、STEM-CELLBANKERを約6℃の温度で加えた。実験中、冷媒の交換は行わなかった。
【0058】
実施例4:異なる温度での分化細胞(hESC由来ベータ様細胞)の細胞生存率の比較
StemCell Banker中で100E6 VC/mLの未成熟ベータ細胞、単一細胞の保持時間を試験するために、以下の実験をセットアップした:標準的なSC2BC分化プロトコルを使用して、1L DASgipバイオリアクターからBC03を採取した後。
図8は、NKX6.1マーカーおよびIslet-1マーカーを発現する細胞のパーセンテージを比較するフローサイトメトリーのドットプロットを示す。49.5%は、ベータ細胞を示す2つのマーカーを共発現する。1mLの100E6 VC/mLを含むQ0720882.1.8mLバイアルを、-80℃に移す前に、以下の条件で貯蔵した。
【表4】
【表5】
【0059】
翌日、すべてのバイアルを液体窒素に移す。解凍時、以下のプロトコルに従った。
【表6】
【表7】
【0060】
結果を
図7に示し、これは、室温および摂氏約4度での凍結保存媒体(StemcellBankerなど)の異なる保持時間についてのNC-202によって測定した生存率%を示す。平均生存率%は、室温で82から66に低下し、4℃で89から85に低下する(5分から240分)。6~8本のバイアルを各時点について解凍し、3人の異なる操作者によって解凍した。二元配置ANOVA Sidakの多重比較検定を行って、室温と4℃とを比較した(表6)。
【表8】
【0061】
実施例5:hESC由来RPE細胞の凍結保存
iMatrix-511(0.25mg/cm2、Nippi)上で培養したE1C3(NN GMP0050E1C3)を、Petrus-Reurer,Sandra et al.「Molecular profiling of stem cell-derived retinal pigment epithelial cell differentiation established for clinical translation.」Stem cell reports vol.17,6(2022):1458-1475.doi:10.1016/j.stemcr.2022.05.005で説明されているようにして、RPE細胞に分化させた。
【0062】
RPEでの異なる温度における凍結保存媒体保持時間、およびそれがRPEの生存率にどのように影響するかを試験するため。細胞を、-80℃の冷凍庫に移す前に、まずStem Cell Banker(室温および4℃で、後述する次の期間)中に保った。
室温:60分、120分、および240分
4C:10分、30分、60分、120分、および240分。
【0063】
陽性対照を調製した。これ(0分)は、-80℃に直接移した細胞で構成される。
【0064】
結果を
図9に示し、これは、室温および摂氏約4度での凍結保存媒体(StemcellBankerなど)の異なる保持時間についてのNC-202によって測定した生存率%を示す。生存率%は、室温で95から81に低下し、4℃で95から89に低下する(0分から240分)。8~10本のバイアルを各時点について解凍し、3人の異なる操作者によって解凍した。表7に示すように、二元配置ANOVA Sidakの多重比較検定を行って、室温と4℃とを比較した。
【表9】
【0065】
本発明のある特定の特徴を本明細書に例証および記載してきたが、そうした今、多くの修正、代用、変更、および均等物が当業者には想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるすべてのそのような修正および変更を網羅することを意図していると理解される。
【国際調査報告】