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特表2024-525766アミロイドベータオリゴマー化の阻害剤及びその治療用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】アミロイドベータオリゴマー化の阻害剤及びその治療用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20240705BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P25/28
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/55
A61K31/27
A61K31/445
A61K31/13 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501929
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 US2022073747
(87)【国際公開番号】W WO2023288284
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/203,245
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ビー.シルバーマン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム エル.クレイン
(72)【発明者】
【氏名】エリザベス エー.ジョンソン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB22
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB23
4C206FA29
4C206HA24
4C206KA09
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA16
4C206ZC75
(57)【要約】
必要とする対象におけるアミロイドβの生物学的活性に関連する疾患又は障害を治療及び/又は予防するための化合物、該化合物を含む医薬組成物、ならびに該化合物及び医薬組成物を使用する方法が開示される。開示される化合物は、アミロイドβオリゴマー化のようなアミロイドβの1つ以上の生物学的活性を阻害し得るシクロヘキサン1,3-ジオンを含む。このように、開示される化合物及び医薬組成物は、それを必要とする対象におけるアミロイドβ活性に関連する疾患又は障害を治療及び/又は予防する方法に利用することができ、この疾患及び障害はアミロイドβオリゴマー化に関連し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象におけるアルツハイマー病を治療するための方法であって、該対象に有効量の(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその適切な薬学的塩を投与して、該対象におけるアルツハイマー病を治療することを含む、方法。
【請求項2】
方法が対象における記憶喪失を治療する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象がアミロイド-βオリゴマー化を患っている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
必要とする対象におけるアミロイド-βオリゴマー化に関連する疾患又は障害を治療又は予防するための方法であって、該対象に有効量の(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその適切な薬学的塩を投与して、対象におけるアミロイド-βオリゴマー化に関連する疾患又は障害を治療することを含む、方法。
【請求項5】
疾患又は障害が、アルツハイマー病、脳アミロイド血管症(CAA)、炎症性脳アミロイド血管症、及び脳アミロイドーマから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
方法が対象における記憶喪失を治療する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
対象の脳におけるアミロイドβオリゴマー化活性を調節する方法であって、該対象に有効量の(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその適切な薬学的塩を投与して、対象の脳におけるアミロイドβオリゴマー化活性を調節する、方法。
【請求項8】
方法がニューロン結合アミロイドβオリゴマーの形成を阻害する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
方法が非結合アミロイドβオリゴマーの形成を促進する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
対象がアルツハイマー病を患っている、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
方法が対象における記憶喪失を治療する、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
対象が脳におけるアミロイドβオリゴマー化を患っている、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
対象が、約100mg/kg、75mg/kg、50mg/kg、25mg/kg、20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg若しくはそれ以下、又はいずれかのこれらの値を境界とする範囲内の化合物の1日投与量で投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
化合物が経口投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
コリンエステラーゼ阻害剤及び/又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を投与することをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
方法が、コリンエステラーゼ阻害剤を投与することを含み、コリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
方法が、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を投与することを含み、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤がメマンチンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
細胞の存在下でアミロイド-βオリゴマー化を調節する候補化合物を検出するための方法であって、
(i)候補化合物の存在下及び非存在下で細胞をアミロイドβペプチドとともに培養し、対照化合物の存在下及び非存在下で対照細胞をアミロイドβペプチドと接触させる工程;
(ii)工程(i)の細胞においてアミロイド-βのオリゴマー化に関連する1つ以上のパラメーターを検出する工程;
(iii)候補化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算し、対照化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算することにより、対照指標を生成する工程を含み、ここで、対照化合物が(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその薬学的に許容される塩であり、試験指数の値が対照指数の値と等しいか又は改善されている場合、候補化合物はアミロイド-βオリゴマー化を調節する、方法。
【請求項19】
細胞がニューロンであるか又はニューロンに由来する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞がE18海馬ニューロンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1つ以上のパラメーターが、細胞に結合したアミロイド-βオリゴマー(AβO)を検出することを含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
単位投与パッケージであって、
(i)(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその薬学的に許容される塩;及び
(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤
を含む単位投与パッケージ。
【請求項23】
コリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される、請求項22に記載の単位投与パッケージ。
【請求項24】
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤がメマンチンを含む、請求項22に記載の単位投与パッケージ。
【請求項25】
医薬組成物であって、
(i)(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその薬学的に許容される塩;
(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤;及び
(iii)薬学的に許容される担体又は賦形剤
を含む医薬組成物。
【請求項26】
コリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤がメマンチンを含む、請求項25に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月14日出願の米国特許出願第63/203,245号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体が参照により援用される。
【0002】
連邦政府資金による研究又は開発に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたAG061708及びAG050492に基づく政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
電子配列表への言及
電子配列リスト(702581.02174.xml;サイズ:5,531バイト;及び作成日:2022年7月13日)の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
本発明の分野は、アミロイドβ(Aβ)オリゴマー化の低分子阻害剤、及びAβオリゴマー化に関連する疾患及び障害の治療におけるその使用に関する。
【0005】
アルツハイマー病は現在、580万人の米国人を苦しめている。米国では、死亡原因の第6位となっている。アミロイドβペプチドのオリゴマー及び高リン酸化タウは、アルツハイマーの記憶喪失に深く関与している。アミロイドβオリゴマーは、アルツハイマー病患者の脳に観察される。これらのアミロイドβオリゴマーはニューロンに結合し、タウリン酸化及びニューロン損傷を誘導する。
【0006】
現在、アルツハイマー病の治療薬として承認されているFDAはなく、病気の進行を遅らせたり止めたりすることはできず、毒性オリゴマーに直接作用するものはない。したがって、病原性アミロイドβオリゴマーを標的とする治療薬に対するこの分野のニーズがある。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に開示されているは、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその薬学的に許容される塩の、アミロイド-βオリゴマー化の処置、調節、及び候補化合物の検出のための方法における使用である。また、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオンを含む医薬組成物又は単位投与パッケージ、又は薬学的に許容されるその販売も開示されている。(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオンは、次の構造式:
【0008】
【化1】
【0009】
を有し、NU-9と呼ぶこともできる。
【0010】
本開示の1つの実施形態において、それを必要とする対象におけるアルツハイマー病を治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン、又はその適切な薬学的塩を対象に投与して、対象におけるアルツハイマー病を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、対象の記憶喪失を処理する。いくつかの実施形態において、対象は、アミロイド-βオリゴマー化を患っている。いくつかの実施形態において、対象は、約100mg/kg、75mg/kg、50mg/kg、25mg/kg、20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg又はそれ以下の化合物の1日投与量、又はこれらの値のいずれかに制限される範囲内で投与される。いくつかの実施形態において、化合物は経口投与される。いくつかの実施形態において、本方法は、さらに、コリンエステラーゼ阻害剤及び/又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、コリンエステラーゼ阻害剤、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択されるコリンエステラーゼ阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤メマンチンを投与することを含む。
【0011】
本開示の別の態様において、それを必要とする対象におけるアミロイド-βオリゴマー化に関連する疾患又は障害を治療又は予防する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン、又はその適切な薬学的塩を対象に投与して、対象におけるアミロイド-βオリゴマー化に関連する疾患又は障害を治療することを含む。いくつかの実施形態において、疾患又は障害は、アルツハイマー病、脳アミロイド血管症(CAA)、炎症性脳アミロイド血管症、前頭側頭型認知症及び脳アミロイドーマから選択される。いくつかの実施形態において、本方法は、対象の記憶喪失を処理する。いくつかの実施形態において、対象は、約100mg/kg、75mg/kg、50mg/kg、25mg/kg、20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg又はそれ以下の化合物の1日投与量、又はこれらの値のいずれかに制限される範囲内で投与される。いくつかの実施形態において、化合物は経口投与される。いくつかの実施形態において、本方法は、さらに、コリンエステラーゼ阻害剤及び/又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、コリンエステラーゼ阻害剤、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択されるコリンエステラーゼ阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤メマンチンを投与することを含む。
【0012】
本開示の別の態様において、対象の脳におけるアミロイドβオリゴマー化活性を調節する方法が提供される。いくつかの実施形態において、方法は、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン、又はその適切な薬学的塩を、対象に投与して、対象の脳におけるアミロイド-βオリゴマー化活性を調節することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、ニューロン結合アミロイドβオリゴマーの形成を阻害する。いくつか実施形態において、本方法は、非結合アミロイドβオリゴマーの形成を促進する。いくつか実施形態において、対象は、アルツハイマー病を患っている。いくつかの実施形態において、本方法は、対象の記憶喪失を処理する。いくつかの実施形態において、対象は、脳におけるアミロイド-βオリゴマー化を患っている。いくつかの実施形態において、対象は、約100mg/kg、75mg/kg、50mg/kg、25mg/kg、20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg又はそれ以下の化合物の1日投与量、又はこれらの値のいずれかに制限される範囲内で投与される。いくつかの実施形態において、化合物は経口投与される。いくつかの実施形態において、本方法は、さらに、コリンエステラーゼ阻害剤及び/又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、コリンエステラーゼ阻害剤、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択されるコリンエステラーゼ阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤メマンチンを投与することを含む。
【0013】
本開示の別の態様において、細胞の存在下でアミロイド-βオリゴマー化を調節する候補化合物を検出する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、(i)候補化合物の存在下及び非存在下で細胞をアミロイドβペプチドとともに培養し、対照化合物の存在下及び非存在下で対照細胞をアミロイドβペプチドと接触させる工程;(ii)工程(i)の細胞においてアミロイド-βのオリゴマー化に関連する1つ以上のパラメーターを検出する工程;(iii)候補化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算し、対照化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算することにより、対照指標を生成する工程を含み、ここで、対照化合物が(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン又はその薬学的に許容される塩であり、試験指数の値が対照指数の値と等しいか又は改善されている場合、候補化合物はアミロイド-βオリゴマー化を調節する。いくつかの実施形態において、細胞は、ニューロンであるか、又はニューロンに由来する。いくつかの実施形態において、細胞は、E18海馬ニューロンである。いくつかの実施形態において、1以上のパラメーターは、細胞に結合したアミロイド-βオリゴマー(AβO)を検出することを含む。
【0014】
本開示の別の態様において、単位投与パッケージが提供される。いくつかの実施形態において、単位投与パッケージは、(i)(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン、又はそれらの薬学的に許容される塩;及び(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を含む。いくつかの実施形態において、コリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される。いくつかの実施形態において、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤は、メマンチンである。
【0015】
本開示の別の実施形態において、医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、(i)(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン、又はその薬学的に許容される塩;(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤;及び(iii)薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、コリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される。いくつかの実施形態において、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤は、メマンチンである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ニューロンへのオリゴマーの結合におけるNU-9の作用を示す。ニューロンを3μM NU-9で30分間前処理し、次にAβ42モノマーで24時間処理した。細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、AβO(NU4、緑色)について染色し、Ser396(pSer396、赤色)でリン酸化されたタウし、画像化前にスライド上に載せた。分析は、NU-9の存在が樹状突起に結合したAβOの数を有意に減少させることを示した(p=0.001,5試料)。
図2図2は、3μM NU-9で30分間前処理した後、Aβ42モノマーで26時間処理したニューロンを示す。細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、AβO(NU4、緑色)、Thr205でリン酸化されたタウ(pThr205、赤)、及び核(DAPI、青色)について染色し、画像化前にスライド上に載せた。分析は、NU-9の存在が樹状突起に結合したAβOの数を有意に減少させることを示した(p=0.0005,13-15試料)。
図3】ニューロンを3μM NU-9で30分間前処理し、次にAβ42モノマーで30分間処理した。細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、AβO(NU2、緑色)、β-IIIチューブリン(TUBB3、赤色)、及び核(DAPI、青色)について染色し、画像化前にスライド上に載せた。
図4】E18海馬ニューロンを21 divまで培養し、3、15、又は30μM NU-9で30分間前処理した後、500nM Aβ42で30分間処理した。細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、AβO(NU2、緑色)、β-IIIチューブリン(赤色)及び核(DAPI、青色)について染色し、63倍で画像化する前にスライド上に載せた。高濃度のNU-9ではAβOのより広範な抑制が観察された。
図5A】A)NU-9とAβを、細胞の不在下、F12培地中で混合し、37℃でインキュベートした。
図5B】B)AβOの濃度を、Aβの有無にかかわらず3μM NU-9を含む条件下で24時間後にドットブロットによりNU2抗体でプローブした。3μM NU-9及びアミロイドβを含む溶液とアミロイドβ及びベヒクルを含む溶液との間に有意差は認められなかった。
図6】細胞を含まない皿で、細胞培養を模倣した条件下で、3μM NU-9及び500nM Aβ42を30分間、3.7%ホルムアルデヒドで固定し、AβO(NU2、緑色)について染色し、63倍で画像化する前にスライド上に載せた。NU-9の存在はカバースリップに結合したAβOの数に有意な影響を及ぼさなかった(p=0.5)。
図7】NU-9は、5×FADの古いマウスの記憶喪失を軽減する。NU-9で4週間処置した11か月齢のマウスで得られた予備的結果。記憶性能は、ベヒクル又はNU-9による処理の前後に評価した。いずれの動物も正常な運動及び探索行動を示した;図示せず。
図8】NU-9は、アミロイドβモノマーを加える前に洗い流した場合でも有効である。成熟海馬ニューロンをDMSO対照(対照)又はNU-9で処理した。次に、NU-9又はベヒクルを洗浄除去し、アミロイドβを添加した(500nM、30分)。細胞をNU2(緑色、抗AβO)及びMAP2(赤色、抗樹状突起)で標識した。
図9】NU-9の効果は細胞の存在を必要とする。馴化培地を成熟海馬ニューロンから採取した。DMSO対照(対照)、Aβモノマー(Aβ)、又はNU-9、次にAβ(馴化培地中のNU-9+Aβ)を加え、AβOの濃度をドットブロットにより分析した。NU-9で処理したニューロンからも馴化培地を採取し、これにAβを添加した(細胞中のNU-9からの培地+アミロイドβ)。Aβはいずれの治療条件でも低下しなかった。0~1000fmolのAβOを用いて培地中で標準曲線を作成した。ドットブロットをNU2(抗AβO)で標識した。
図10-1】NU-9は、無細胞溶液中のAβモノマーからのAβO形成を減少させず、NU-9で処理した細胞から得た馴化培地も減少させない。(馴化培地)NU2でプローブしたドットブロットを用いて、DMSOベヒクル(対照)、Aβ、及びNU-9に続いてAβをそれぞれ30分間添加した調整培地の溶液中のAβO存在量を測定した。下段は、細胞を30分間NU-9で処理し、次に細胞外培地を除去し、Aβを培地に30分間添加した試料に対応する。上部の標準曲線は、0~1000fmolのAβOを予め形成したものから作成した。
図10-2】(新鮮培地)NU2でプローブしたドットブロットを用いて、DMSOベヒクル(対照)、Aβ、及びNU-9(3~300μM)に続いてAβをそれぞれ30分間添加した培養培地溶液中のAβO存在量を測定した。これらの溶液はそれぞれ3重にして調製した。上部の標準曲線は、0~1000fmolのAβOを予め形成したものから作成した。
図11】NU-9は、あらかじめ形成されたAβOのニューロンへの結合を減少させない。海馬ニューロンを3μM NU-9又はベヒクルで30分間処理し、次にAβモノマー又はあらかじめ形成されたAβOで24時間処理した。NU-9は、Aβモノマーで処理したニューロンではAβO結合を減少させることができたが、事前に形成したAβOで処理したニューロンでは減少させなかった。ニューロンをNU4(抗AβO抗体)で染色し、処理あたりの点数を定量した。
図12-1】NU-9は総Aβ種を減少させない。成熟海馬ニューロンをNU-9(3μM、30分間)、次にAβモノマー(500nM、30分間)で処理した。これらを6E10(抗総Aβ、緑色)及びMAP2(抗樹状突起)で標識した。
図12-2】Aβシグナル(IntDen)の蛍光強度と同様に画像あたりのAβ粒子の総数を定量した。
図13】リソソーム阻害は、シナプスに結合したAβOに対するNU-9の作用を阻害する。成熟海馬ニューロンを100nMのバフィロマイシンAで30分間、次に3μMのNU-9で30分間、最後に500nMのAβで30分間処理した。細胞培養物を固定し、NU2(抗AβO抗体)及びMAP2(抗樹状突起抗体)で標識した。樹状突起に沿って1ミクロンあたりに結合したAβOの数をSynPAnalを用いて定量した。
図14】シナプスに結合したAβOに対するNU-9の効果の潜在的なメカニズムとしてのリソソーム酸性化。NU-9の作用の可能性を橙色で示す。NU-9は、Aβモノマーのエンドソーム取り込み、Aβモノマー及び小型オリゴマーのエンドリソソーム輸送を活性化する可能性がある。あるいは、それはリソソームの酸性化と非結合オリゴマーの放出を活性化し、酸性度の低いエンドリソソーム小胞からの大きなオリゴマーの逃避を減少させるかもしれない。
図15-1】成熟海馬ニューロンをベヒクル又は3μM NU-9で30分間、次にベヒクル、200nM又は500nM AβOで30分間前処理した。次に、細胞を固定し、抗MAP2(緑色、樹状突起)、DAPI(青色、核)、及びNU2(赤色、AβO)を用いて標識した。いずれの濃度のAβOでも、NU-9は樹状突起への結合に影響を及ぼさなかった。
図15-2】グラフは、ベヒクル、200nM AβO、及び200nM AβO+9についての予備的定量化点/μm樹状突起を示す(10画像/条件の分析、***はp<0.001を示す)。
図16-1】リソソーム阻害はNU-9の作用を妨げる。成熟海馬ニューロンをベヒクル又は100nMのバフィロマイシンAで30分間前処理した後、ベヒクル又は3μMのNU-9でさらに30分間処理し、最終30分間、ベヒクル又は500nMのAβモノマーで持続させた。
図16-2】次に、細胞を固定し、抗MAP2(緑色、樹状突起)、DAPI(青色、核)、及びNU2(赤色、AβO)を用いて標識した。以前と同様に、バフィロマイシンAはNU-9の効果を有意に抑制した。グラフは、樹状突起に沿ったNU2点/μmの定量化を示している(15画像/条件の分析、***はp<0.001を示し、**はp<0.01を示す)。
図17-1】システインカテプシン阻害はNU-9の作用を阻害しない。成熟海馬ニューロンをまず10μMのE64又はベヒクルで24時間処理し、次に3μM NU-9で30分間処理し、最後に30分間500nM Aβモノマーで処理した。
図17-2】次に、細胞を固定し、抗MAP2(赤色、樹状突起)、DAPI(青色、核)、及びNU2(緑色、AβO)で標識した。グラフは、点状/μmの樹状突起の定量化を示す(20画像分析/条件、***はp<0.001を示し、**はp<0.01を示す)。
図18】成熟海馬ニューロンを溶媒又は100nM バフィロマイシンAで30分間処理し、次に示されるように、Lysotracker DND-99(赤色)で75nM、30分間又は50nMで2時間標識した。どちらの条件でも、小さな構造の明瞭な標識が得られた。75nM、30分の処理により、より明るいシグナルが得られた。
図19】成熟海馬ニューロンを最初に3μM 9で30分間処理し、次にA)30又はB)200nM LC AβOで30分間処理した。次に、細胞を固定し、抗MAP2、DAPI、及びNU2(AβO)で標識した。グラフは、斑点/μmの樹状突起の定量化を示す(30画像分析/条件、***はp<0.001、**p<0.01、p<0.05)。
図20】A)E18海馬ニューロンの成熟培養物を3μM NU-9で30分間前処理し、続いて500nM Aβを30分間添加した。B)グラフは、斑点/μm樹状突起の定量化(0画像分析/条件は)を示す。
図21】成熟E18海馬ニューロンに単量体Aβ1-42(500nM)を30分間添加すると、ドットブロット法で検出される非結合性の細胞外AβOが産生された。3μM NU-9による30分前処理は、上清(p=0.6)又は非遠心溶液(p=0.3)のいずれにおいても、樹状突起に結合した非結合細胞外AβOの数を有意に減少させなかった。各条件に対して3個の生物学的複製を行い、各々をドットブロット上に二重にスポットした。
図22】A)成熟海馬ニューロンの樹状突起(赤色、MAP2)に結合したAβO(緑色、NU2)の代表的画像。成熟海馬ニューロンに500nM Aβ42を適用し、3μM NU-9と30分前処理100nM MG132で30分前処理した場合としなかった場合、及びB)樹状突起に沿った1μmあたりのAβO斑点の定量化。これらはImageJを用いて行われた。n=30画像/条件。
図23】A)成熟海馬ニューロンの樹状突起(赤色、MAP2)に結合したAβO(緑色、NU2)の代表的画像。成熟海馬ニューロンに500nMのAβ42を適用し、3μM NU-9と1時間前処理の1μMのバクオリン-1での30分前処理の有無を問わない。B)は樹状突起に沿ったμmあたりのAβO点の定量化であり、ImageJを用いておこなわれた。n=30画像/条件。
図24-1】成熟E18海馬ニューロンを3μMのNU-9で処理し、続いてLysotrackerで標識した。A)全免疫蛍光(積分密度)、B)平均強度、C)酸性コンパートメントの平均サイズ、D)酸性コンパートメントの数。
図24-2】これらの値は、ニューロンの2つのカバーグラスにわたる10の画像からImageJを用いて計算され、異なる細胞培養における別の反復について同様の傾向が観察された。
図25】A)成熟E18海馬ニューロンを、最初に10μMのCA-074又は賦形剤で24時間、次に3μMで9分間、最後に500nMのAβモノマーで30分間処理した。次に、細胞を固定し、抗MAP2(緑色、樹状突起)、DAPI(青色、核)、及びNU2(赤色、AβO)で標識した。B)グラフは、斑点/μm樹状突起の定量化を示す(30画像分析/条件、***はp<0.001、**p<0.01、p<0.05)。
図26-1】A)0.0003~150μM NU-9を、カテプシンL基質Z-FR-AMCの存在下で精製カテプシンL酵素と組み合わせた。カテプシンL酵素活性は蛍光による7-AMC産生速度で測定した。変化率をグラフで定量化した。標準阻害剤Z-FY-CHOは同じ濃度範囲でカテプシンL活性を低下させた(図示せず)。
図26-2】B)成熟海馬ニューロンをNU-9で30分間処理し、次にマジックレッドを用いて細胞内カテプシンL活性をモニタリングした。細胞を3ウェルで処理し、9~22画像を条件ごとに分析した。
図27】カテプシンLを阻害すると、NU-9の作用に似たAβOの蓄積が抑制される。ニューロンをまず10μMカテプシンL阻害剤(Cayman)で1時間前処理し、次に3μM NU-9で30分間、最後に500nM Aβで30分間前処理し、次に細胞を固定し、抗MAP2(緑色、樹状突起)、DAPI(青色、核)、及びNU2(赤色、AβO)で標識した。グラフは、斑点/μmの樹状突起の定量化を示す。
図28-1】0.0003~30μM NU-9を、カテプシンB基質Z-RR-AMCの存在下で精製カテプシンB酵素と組み合わせた。カテプシンB酵素活性は蛍光による7-AMC産生速度で測定した。NU-9による割合の変化率をグラフで定量化した。標準カテプシンB阻害剤CA-074は、同じ濃度範囲でカテプシンL活性を低下させた(示さず)。
図28-2】B)成熟海馬ニューロンをNU-9で30分間処理し、次にマジックレッドを用いて細胞内カテプシンL活性をモニタリングした。細胞を3ウェルで処理した。
図29-1】カルパイン阻害はNU-9の作用を模倣することがある。21 divのE18海馬ニューロンを、10μM MDL-28170で30分間、次に3μM NU-9で30分間、最後に500nM Aβで30分間処理した。細胞を、AβO、NU2、及びニューロン樹状突起についての免疫蛍光によりMAP2で標識した。
図29-2】樹状突起に沿ったミクロンあたりのAβOの数を、各条件で30画像に対してImageJを用いて定量し、データをPrismを用いて分析した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、以下に記載されるように、及び本出願全体を通して、いくつかの定義を用いて本明細書に記載される。
【0018】
定義
開示された主題事項は、以下のような定義及び用語を用いてさらに記述することができる。本明細書で使用される定義及び用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、限定することを意図するものではない。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形を含む。例えば、用語「置換基」は、文脈が明確に他のことを指示しない限り、「1つ以上の置換基」を意味すると解釈されるべきである。
【0020】
本明細書で使用される場合、「約」、「およそ」、「実質的に」、及び「有意に」は、当業者によって理解され、それらが使用される文脈によってある程度変化するであろう。用語が使用される文脈が与えられた場合、当業者にとって明確でない用語の使用がある場合、「約」及び「およそ」は、特定の用語の±10%までを意味し、「実質的に」及び「有意に」は、特定の用語の±10%を超えるか又は超えることを意味する。
【0021】
本明細書で使用されるように、用語「含む(include)」及び「含んでいる(including)」は、用語「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」と、用語「含む」及び「含む」と、用語「含む」及び「含む」は、特許請求の範囲に記載されている構成要素にさらに追加の構成要素を含めることを可能にする、「開かれた」移行用語であると解釈されるべきである。用語「consist」及び「consisting of」は、クレームに記載された構成要素以外の追加構成要素を含めることを許容しない「閉じた」移行用語であると解釈されるべきである。「consisting essentially of」という用語は、部分的に閉じられていると解釈されるべきであり、クレームされた主題事項の性質を根本的に変化させない追加の構成要素のみを含めることができる。
【0022】
「そのような」という語句は、「例えば、含む」と解釈されるべきであり、さらに、「そのような」を含むがこれらに限定されない任意の全ての例示的な言語の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図しており、他に請求されない限り、本発明の範囲に制限を与えるものではない。
【0023】
さらに、「A、B、C等のうちの少なくとも1つ」に類似する慣例が使用される場合には、一般に、このような構成は、当該慣例を当業者が理解するという意味で意図される(例えば、「A、B、Cのうちの少なくとも1つを有するシステムは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの間、AとCの間、BとCの間、及び/又はA、B及びCのうちの少なくとも1つを有するシステムを含むが、これらに限定されない」)。明細書又は図面のいずれかにおいて、2つ以上の代替用語を提示する実質的に任意の分離語及び/又は語句は、用語のいずれか、又は両方の用語のいずれか、又はいずれかの用語の1つを含める可能性を考慮するように理解されるべきであることが、当業者によってさらに理解されるであろう。例えば、語句「A又はB」は、「A」又は「B」又は「A及びB」の可能性を含むと理解されるであろう。
【0024】
「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」等のようなすべての言語は、列挙された数を含み、続いて範囲及びサブ範囲に分解することができる範囲を指す。範囲は、各々個々のメンバーを含む。したがって、例えば、1~3のメンバーを有するグループは、1、2、又は3のメンバーを有するグループを指す。同様に、6個のメンバーを有するグループは、1、2、3、4、又は6個のメンバーを有するグループなどを指す。
【0025】
法動詞「may」は、同一内に含まれるいくつかの説明された実施形態又は特徴のうちの1つ又は複数のオプション又は選択の好ましい使用又は選択を指す。同じ中に含まれる特定の実施形態又は特徴に関する選択肢又は選択肢が開示されていない場合、法動詞は、同じ中に含まれる説明された実施形態又は特徴の製造又は使用方法及びアスペクトに関する肯定的な行為、又は同じ中に含まれる説明された実施形態又は特徴に関する特定のスキルを使用する確定的な決定を指すことができる。この後者の文脈では、モード動詞は法動詞「can」と同じ意味と意味を持ち、意味を持つことがある。
【0026】
本明細書で利用される「それを必要とする対象」とは、アミロイドβ活性及び/又は発現に関連する疾患又は障害の治療を必要とする対象を指すことができる。それを必要とする対象は、アミロイドβのオリゴマー化又は凝集を特徴とする疾患又は障害を有する対象を含み得る。本明細書で用いる「それを必要とする対象」には、アルツハイマー病、脳アミロイド血管症、炎症性脳アミロイド血管症、及び大脳アミロイドーマの治療を必要とする対象が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
用語「対象」は、「個体」及び「患者」という用語と互換的に使用することができ、ヒト及び非ヒト哺乳動物対象を含む。
【0028】
開示された化合物、医薬組成物、及び方法は、限定されるものではないが、アルツハイマー病、脳アミロイド血管症(CAA)、炎症性脳アミロイド血管症、及び脳アミロイド腫を含み得るアミロイドβオリゴマー化に関連する疾患及び障害を治療及び/又は予防するために利用することができる。
【0029】
開示された化合物は、アミロイドβのオリゴマー化活性を調節することを含めて、アミロイドβの生物学的活性を調節するために利用することができる。
【0030】
アミロイドβは、βセクレターゼ及びγセクレターゼ酵素によるアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の切断に由来するタンパク質を指す。アミロイドβペプチドは、長さが36~43アミノ酸であり得る。
【0031】
アミロイドβは、例えば、α及びγセクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解プロセシングによって産生される。次のアミノ酸配列は、APPの配列(配列番号1)の例である。
【0032】
【化2】
【0033】
したがって、APPからのタンパク質分解プロセシングによって生成されるアミロイドβのいくつかの可能なアイソフォームが、アミロイドβオリゴマー化に関連する疾患又は障害の治療及び/又は予防を必要とする対象に見出され得ることは、当業者には明らかであろう。以下は、アミロイドβアイソフォームの非限定的な例のためのアミノ酸配列である。
【0034】
アミロイドβ1-40(APPのaa 672-711)は、以下のアミノ酸配列(配列番号2)を有する。
【0035】
【化3】
【0036】
アミロイドβ1-42(APPのaa 672-713)は、以下のアミノ酸配列(配列番号3)を有する。
【0037】
【化4】
【0038】
アミロイドβは、N末端切断、例えばアミロイドβ(3-40)又はアミロイドβ(3-42)のようなN3アミロイドβと呼ばれる最初の2つのアミノ酸残基のN末端切断を含み得る。アミロイドβは、グルタミン酸残基を置換するピログルタミン酸残基(pE)を含み得る。いくつかの実施形態において、アミロイドβは、最初の2つのアミノ酸のN-末端切断及び第3の位置(N3pE)におけるピログルタミン酸残基(pE)を含み、ここでは第1の位置である。このようなアミロイドβは、(配列番号4)に記載される配列を有することができる。
【0039】
【化5】
【0040】
アミロイド-β(Ab)の種々のアイソフォームは凝集性が異なる。アミロイドβプールは、モノマー、可溶性オリゴマー、不溶性原線維の3つの主要なグループによって特徴づけられる。各プールは、様々な組織に基づく複数の構造を包含することができる。用語「アミロイドβオリゴマー化」は、可溶性オリゴマーの形成を指す。このような可溶性オリゴマーは、二量体、三量体、四量体、五量体、デカマー、ドデカマーなどの2つ以上のAβから成る異なる構造に組織化することができる。可溶性オリゴマーはまた、例えば、Aβ由来拡散性リガンド(ADDL)及びAβ*56を含み得る。
【0041】
毒性可溶性オリゴマーは、原線維のようなモノマー又はより高い凝集体とは異なり、AD脳において同定された。Aβ集合体の大きさとその毒性の強さとの間には逆相関がある。オリゴマー集合体のサイズが増加すると、その有害な効果は減少する。Aβ二量体は、神経毒性を有するプロトフィブリルと呼ばれるより安定な高分子量構造を形成することが示されている。このように、Aβの二量体単位は、毒性凝集体の構成要素として重要であると考えられてきた。したがって、Aβのオリゴマー化には、毒性アミロイドβオリゴマー(AβO)の形成が含まれる。
【0042】
AβOはニューロンにとって有害であり、例えばアルツハイマー病で観察される神経変性の原因物質である可能性がある。培養ニューロンなどの培養細胞や抗体と接触する細胞は、細胞表面に結合したAβOを産生する。しかしながら、本発明者らは、化合物NU-9が抗体オリゴマー化活性を調節することを発見した。
【0043】
本明細書で使用される場合、Abオリゴマー化活性に関して、「調節する」とは、Ab凝集に対する効果を指す。抗体の修飾は、Aβプールのモジュレーション(例えば、Abモノマー、可溶性オリゴマー、及び不溶性原線維間の相対的割合)、可溶性オリゴマーの修飾(例えば、二量体、三量体、四量体、五量体、デカマーなどの間の相対的割合)、可溶性オリゴマーの組織構造のモジュレーション、又はそれらの任意の組み合わせを指すことができる。
【0044】
実施例で示したように、NU-9は、細胞の表面に結合することができる抗体から産生されるAβOの病理学的種の数を効果的に減少させた(図2)。NU-9はまた、非結合オリゴマーの形成を促進した。本発明者らはまた、NU-9がリソソーム依存性機構を介して作用し、毒性AβOの形成を減少させることを発見した(図25-29)。したがって、いくつかの実施形態において、本方法は、ニューロン結合AβO又は毒性AβOの形成を阻害することを含む。
【0045】
使用方法
本開示の1つの実施形態において、それを必要とする対象におけるアルツハイマー病を治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、対象中のアルツハイマー病を治療するために、有効量のNU-9又はその適切な薬学的塩を対象に投与することを含む。
【0046】
本開示の別の態様において、それを必要とする対象におけるアミロイド-βオリゴマー化に関連する疾患又は障害を治療又は予防する方法が提供される。
【0047】
本開示の別の実施形態において、対象の脳におけるアミロイドβオリゴマー化活性を調節する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、対象の脳におけるアミロイド-βオリゴマー化活性を調節するために、有効量のNU-9又はその適切な薬学的塩を対象に投与することを含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、さらに、コリンエステラーゼ阻害剤及びN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗剤から選択される少なくとも1つの他の化合物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、コリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される。いくつかの実施形態において、NMDA受容体拮抗剤はメマンチンである。
【0049】
開示されているのは、化合物、化合物を含む医薬組成物、及びそれを必要とする対象におけるアミロイドβ生物学的活性に関連する疾患又は障害を治療及び/又は予防するための化合物及び医薬組成物を使用する方法である。開示された化合物は、アミロイドβオリゴマー化のようなアミロイドβの1以上の生物学的活性を阻害するシクロヘキサン1,3-ジオン、例えばNU-9及びその薬学的に許容される塩を含み得る。このように、開示された化合物及び医薬組成物は、アミロイドβオリゴマー化に関連する疾患及び障害であり得るアミロイドβ活性に関連する疾患又は障害を有する又は発症するリスクのある対象を治療する方法に利用することができる。
【0050】
開示された化合物は、シクロヘキサン1,3-ジオンを含む。シクロヘキサン1,3-ジオン及びシクロヘキサン1,3-ジオンを合成する方法は、当該技術分野で開示されている(例えば、Zhang et al., "Chiral Cyclohexan 1,3-diones as Inhibitors of Mutant SOD1-Dependent Protein Aggregation for the Treatment of ALS," ACS Medic. Chem. Lett., 20021, 3, 584-587を参照されたい;この内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。本明細書に開示される用途のための開示された化合物は、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン(NU-9)を含むが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態において、開示された方法は、疾患又は障害を治療及び/又は予防するために、限定されるものではないが、アルツハイマー病、脳アミロイド血管症、炎症性脳アミロイド血管症、前頭側頭型認知症及び脳アミロイドーマから選択される。いくつかの実施形態において、開示された方法は、アミロイドβ活性に関連する疾患又は障害の1つ以上の症状を治療及び/又は予防するために実施することができる。
【0052】
開示された方法は、対象における記憶喪失を治療及び/又は予防するために実施することができる。例えば、開示された方法は、アミロイドβオリゴマー化及び障害されたニューロン機能に関連する対象における記憶喪失を治療及び/又は予防するために実施することができる。
【0053】
開示された方法において、対象は、対象におけるアミロイドβオリゴマー化を治療及び/又は防止するために、開示された化合物の有効量を投与され得る。開示された方法のいくつかの実施形態において、対象は、約100mg/kg、75mg/kg、50mg/kg、25mg/kg、20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg又はそれ以下の開示された化合物の1日投与量、又はこれらの値のいずれかに制限される範囲内で投与される。
【0054】
開示された方法において、化合物及び医薬組成物は、アミロイドβオリゴマー化を示す対象内の部位に、又は対象の脳のようなアミロイドβオリゴマー化を受けるリスクがある対象内の部位に、開示された化合物の有効量を送達するために、任意の適切な経路によって対象に投与することができる。いくつかの実施形態において、化合物及び医薬組成物は、経口経路を介して投与される。
【0055】
医薬組成物
本開示の別の実施形態において、医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、(i)NU-9、又はその薬学的に許容される塩、及び(ii)薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、NU-9をアルツハイマー病の治療に使用するための別の化合物と組み合わせる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、(i)NU-9、又はその薬学的に許容される塩;(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤;及び(iii)薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、コリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される。いくつかの実施形態において、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤はメマンチンである。
【0057】
明細書に開示された組成物及び方法に使用される化合物は、医薬組成物として投与することができ、したがって、化合物を組み込んだ医薬組成物は、本明細書に開示された組成物の実施形態であると考えられる。そのような組成物は、薬学的に許容される任意の物理的形態をとることができ、例示的に、それらは経口投与される医薬組成物であり得る。このような医薬組成物は、有効量の開示された化合物を含み、この有効量は、投与されるべき化合物の1日用量に関連する。各投与単位は、与えられた化合物の1日用量を含んでもよく、又は各投与単位は、1日用量の分画、例えば、1/2又は1/3を含んでもよい。各投与単位中に含有されるべき各化合物の量は、部分的には、治療のために選択された特定の化合物の同一性、及びそれが与えられる適応などの他の因子に依存し得る。本明細書中に開示された医薬組成物は、周知の方法を使用することによって、患者への投与後に、活性成分の迅速な、持続的な、又は遅延した放出を提供するように製剤化することができる。
【0058】
本明細書に開示された方法による使用のための化合物は、単一の化合物又は化合物の組み合わせとして投与することができる。例えば、アミロイドβの生物学的活性を阻害する化合物は、単一の化合物として、又は別の化合物と組み合わせて投与することができ、アミロイドβの生物学的活性を阻害するか、又は異なる薬理活性を有する。
【0059】
上述のように、化合物の薬学的に許容される塩が企図され、開示された方法で利用することもできる。本明細書中で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、実質的に生体に対して毒性でない化合物の塩を指す。典型的な薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される無機酸若しくは有機酸、又は有機塩基若しくは無機塩基と本明細書に開示される化合物との反応によって調製される塩を含む。このような塩は酸付加塩及び塩基付加塩として知られている。本明細書に開示されている化合物の大部分又はすべては塩を形成することができ、医薬の塩形態は、しばしば遊離酸又は塩基よりも容易に結晶化及び精製されるため、一般に使用されることが当業者によって理解されるであろう。
【0060】
酸付加塩を形成するために一般的に使用される酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸などのような無機酸、及びp-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸などのような有機酸を含むことができる。適切な薬学的に許容される塩の例としては、硫酸塩、硫酸水素塩、重硫酸塩、リン酸二水素塩、リン酸塩、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリレート、ギ酸塩、二塩酸塩、カプロエート、ヘプタノール酸塩、シュウ酸塩、マロネート、コハク酸塩、セバレート、フマル酸塩、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキシン-1,6-ジオエート、安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、キシレンスルホネート、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、クエン酸塩、α-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩が挙げられる。ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩等が含まれ得る。
【0061】
塩基付加塩は、アンモニウム又はアルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などのような無機塩基から誘導されるものを含む。このような塩を製造するのに有用な塩基には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどがある。
【0062】
本明細書に開示されている化合物のいずれかの塩の一部を形成する特定の対イオンは、全体としての塩が薬理学的に受容可能であり、対イオンが全体としての塩に望ましくない性質をもたらさない限り、化合物の活性にとって重要ではない。望ましくない性質には、望ましくない溶解性又は毒性が含まれる。
【0063】
化合物の薬学的に許容されるエステル及びアミドはまた、本明細書に開示される組成物及び方法に使用することができる。適切なエステルの例としては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ドデシルエステル、ベンジルエステルなどのアルキル、アリール、及びアリールアルキルエステルが挙げられる。適したアミドの例としては、未置換アミド、一置換アミド、及び二置換アミド、例えばメチルアミド、ジメチルアミド、メチルエチルアミドなどが挙げられる。
【0064】
さらに、本明細書に開示された方法は、化合物又はその塩、エステル及び/又はアミドの溶媒和形態を使用して実施することができる。溶媒和物の形態としては、エタノール溶媒和物、水和物などが挙げられる。
【0065】
医薬組成物は、アミロイドβの生物学的活性に関連する疾患又は障害を治療する方法に利用され得る。本明細書で使用される場合、用語「治療すること」又は「治療する」は、各々、症状を緩和し、一時的又は永続的に、結果として生じる症状の原因を排除し、及び/又は名付けられた疾患又は障害の外観を予防若しくは遅らせ、又は結果として生じる症状の進行若しくは重症度を逆転させることを意味する。したがって、本明細書に開示される方法は、治療的投与及び予防的投与の両方を包含する。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「有効量」は、診断又は治療中の対象において所望の効果を提供する、対象への単回又は複数回投与時の化合物の量又は用量を指す。開示された方法は、アミロイドβの生物学的活性に関連する疾患又は障害を治療するための有効量の開示された化合物(例えば、医薬組成物中に存在するもの)を投与することを含み得る。
【0067】
有効量は、当業者として、公知の技術の使用及び類似の状況下で得られた結果を観察することによって、主治医によって容易に決定され得る。投与される化合物の有効量又は投与量を決定する際に、多くの因子、例えば、対象の種、その大きさ、年齢、及び全身の健康、関与の程度又は関与する疾患又は障害の重症度、個々の対象の反応、投与される特定の化合物、投与方法、投与される製剤のバイオアベイラビリティ特性、選択される投与法、併用薬の使用、及び他の関連する状況などが、主治医によって考慮され得る。
【0068】
典型的な1日用量は、本治療方法で使用される各化合物を約0.01mg/kg~約100mg/kg(例えば、約0.05mg/kg~約50mg/kg及び/又は約0.1mg/kg~約25mg/kg)含有することができる。
【0069】
組成物は、単位投与形態で処方することができ、各投与量は、約1~約1000mgの各化合物を個々に、又は約5~約300mg、約10~約100mg、及び/又は約25mgのような単一の単位投与形態で含有する。用語「単位投与形態」とは、適切な薬学的担体、希釈剤、又は賦形剤と関連して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性物質を各ユニットが含有する、患者に対する単位投与量として物理的に離散した適切な単位を指す。
【0070】
経口投与は、本明細書に開示された組成物及び方法に使用される化合物を投与する例示的経路である。他の例示的な投与経路には、経皮、経皮、静脈、筋肉内、鼻腔内、口腔内、くも膜下腔内、脳内、又は直腸内経路が含まれる。投与経路は、使用される化合物の物理的特性、及び対象及び介護者の利便性によって制限される、任意の方法で変更することができる。
【0071】
当業者であれば理解されるように、適切な製剤は、2つ以上の投与経路に適したものを含む。例えば、製剤は、髄腔内及び脳内投与の両方に適した製剤であり得る。あるいは、適切な製剤は、1つの投与経路のみに適したもの、及び1つ以上の投与経路に適したもの、しかし1つ以上の他の投与経路に適しないものを含む。例えば、製剤は、経口投与、経皮投与、経皮投与、静脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、口腔内投与、及び/又は髄腔内投与に適しているが、脳内投与に適していない製剤であり得る。
【0072】
医薬組成物の不活性成分及び製剤化方法は慣用的である。本明細書では、医薬科学において使用される通常の製剤化方法を使用することができる。錠剤、チュアブル錠剤、カプセル、溶液、非経口溶液、鼻腔内スプレー又は粉末、トローチ、座薬、経皮パッチ、及び懸濁液を含む、全ての通常のタイプの組成物を使用することができる。一般に、組成物は、所望の用量及び使用される組成物のタイプに依存して、全化合物の約0.5%~約50%を含有する。しかしながら、化合物の量は、「有効量」、すなわち、そのような治療を必要とする患者に所望の用量を提供する化合物の量として最も良く定義される。本明細書に開示された組成物及び方法に使用される化合物の活性は、組成物の性質に大きく依存するとは考えられず、したがって、組成物は、主として、又は単に便宜及び経済のために選択及び製剤化することができる。
【0073】
カプセルは、化合物を適切な希釈剤と混合し、適切な量の混合物をカプセルに充填することによって調製される。通常の希釈剤には、不活性粉末状物質(デンプンなど)、粉末状セルロース(特に結晶性及び微結晶性セルロース)、糖(フルクトース、マンニトール及びスクロースなど)、穀粉、及び類似の食用粉末が含まれる。
【0074】
錠剤は、直接圧縮、湿式造粒、又は乾燥造粒によって調製される。それらの製剤は、通常、希釈剤、結合剤、潤滑剤、及び崩壊剤(化合物に加えて)を含む。典型的な希釈剤は、例えば、種々のタイプの澱粉、ラクトース、マンニトール、カオリン、リン酸カルシウム又は硫酸塩、無機塩(塩化ナトリウムなど)、及び粉末糖を含む。粉末セルロース誘導体も使用できる。典型的な錠剤結合剤は、デンプン、ゼラチン、及び糖(例えば、ラクトース、フルクトース、グルコースなど)のような物質を含む。アラビアゴム、アルギン酸塩、メチルセルロース、ポリビニルピロリジンなどを含む天然及び合成ゴムを使用することもできる。ポリエチレングリコール、エチルセルロース、及びワックスも結合剤として役立つ。
【0075】
錠剤は、例えば、風味促進剤及びシーラントとして、糖でコーティングすることができる。化合物はまた、配合物中にマンニトールのような大量の快適な味覚物質を使用することによって、チュアブル錠剤として配合することもできる。例えば、患者が投薬形態を消費することを保証し、一部の患者が固形物を飲み込む際に経験する困難を回避するために、即時溶解性錠剤様製剤を使用することもできる。
【0076】
錠剤処方では、錠剤及びパンチがダイに付着しないように、潤滑剤を使用することができる。潤滑剤は、タルク、マグネシウム及びステアリン酸カルシウム、ステアリン酸及び水素添加植物油のような滑りやすい固体から選択することができる。
【0077】
錠剤も崩壊剤を含むことができる。崩壊剤は、錠剤を分解して化合物を放出するために湿らせたときに膨潤する物質である。デンプン、粘土、セルロース、アルギン、及びガムが含まれる。さらなる例として、トウモロコシ及びジャガイモデンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、木質セルロース、粉末天然スポンジ、陽イオン交換樹脂、アルギン酸、グアーガム、かんきつパルプ、ラウリル硫酸ナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースを使用することができる。
【0078】
組成物は、例えば、胃の強酸含量から活性成分を保護するために、腸溶性製剤として処方することができる。このような製剤は、酸性環境に不溶であり、塩基性環境に可溶性であるポリマーのフィルムで固体投与形態をコーティングすることによって製造することができる。例示的なフィルムは、酢酸セルロースフタレート、ポリ酢酸ビニルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートコハク酸を含む。
【0079】
経皮パッチを用いて化合物を送達することもできる。経皮パッチは、化合物が溶解又は部分的に溶解する樹脂組成物;及び組成物を保護し、樹脂組成物を皮膚に接触させて保持するフィルムを含むことができる。他のより複雑なパッチ組成物、例えば、薬物が浸透作用によってポンプで送り出される複数の孔を貫通した膜を有するものを使用することもできる。
【0080】
当業者には理解されるように、製剤は、製剤をヒトへの投与に適した特性(例えば、純度)を有する材料(例えば、賦形剤、担体(例えば、シクロデキストリン)、希釈剤など)で調製することができる。あるいは、製剤は、非ヒト対象への投与に適するが、ヒトへの投与に適さない製剤を提供する純度及び/又は他の特性を有する物質を用いて調製することができる。
【0081】
単位投与パッケージ
本開示の別の実施形態において、単位投与パッケージが提供される。単位投与パッケージは、NU-9のような第1の薬物又はその薬学的に許容される塩を含む第1の単位投与量を含む。単位投与パッケージはまた、第2の薬物を含む第2の単位投与量を含んでもよい。単位投与パッケージは、単位投与パッケージ中の1つ以上の薬物について、名称、強度、管理番号、有効期限、投与指示、又はそれらの任意の組合せを示す容器又はラベルを含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、単位投与パッケージは、例えばアルツハイマー病で観察されるように、アミロイド-βオリゴマー化を治療するためのNU-9又はその薬学的に許容される塩を含む。いくつかの実施形態において、単位投与パッケージは、(i)NU-9、又はその薬学的に許容される塩;及び(ii)コリンエステラーゼ阻害剤又はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤を含む。いくつかの実施形態において、コリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、リバスチグミン、及びドネペジルから選択される。いくつかの実施形態において、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗剤はメマンチンである。
【0083】
候補化合物を検出する方法
本開示の別の態様において、細胞の存在下でアミロイド-βオリゴマー化を調節する候補化合物を検出する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、(i)候補化合物の存在下及び非存在下で細胞をアミロイドβペプチドとともに培養し、NU-9又はその薬学的に許容される塩の存在下及び非存在下で対照細胞をアミロイドβペプチドと接触させる工程;(ii)工程(i)の細胞におけるアミロイドβのオリゴマー化に関連する1つ以上のパラメーターを検出する工程を含む。(iii)候補化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算し、対照化合物の存在下及び非存在下で培養された細胞間の1つ以上のパラメーターの変化を計算することにより、対照指標を生成する工程を含み、ここで、試験指数の値が対照指数の値と等しいか又は改善されている場合、候補化合物はアミロイド-βオリゴマー化を調節する。
【0084】
本明細書で使用される場合、語句「対照指数の値と比較して改善されたものとして」の使用は、減少された値が有益な効果と関連する状況において、より大きい値が有益な効果と関連するか、又は対照指数よりも減少された値と関連する状況において、制御指数よりも大きい値を有する試験指数を指す。この語句は、有益な効果に関連するいくつかの値が、対照化合物の存在下、例えば、非病理学的抗体種の産生において増加され得るか、又は対照化合物の存在下、例えば、病理学的AbO種の産生において減少され得ることを反映している。
【0085】
いくつかの実施形態において、オリゴマー化に関連する1以上のパラメーターは、細胞の表面上のAbOの量又は相対量を検出することを含む。細胞の表面上のAbOの量は、当該技術分野において公知である種々の技術、例えば、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、又は当該技術分野において公知である他の手段を介して、タンパク質を標識し、細胞の表面上で該タンパク質を検出するために決定することができ、例えば、透過型電子顕微鏡と共に放射性同位元素標識、金標識などである。
【0086】
いくつかの実施形態において、細胞は、神経前駆細胞(NPC)に由来する。NPCは中枢神経系の前駆細胞であり、中枢神経系に存在する多くの神経細胞又はグリア細胞を生み出す。NPCに由来する細胞は、限定されるものではないが、ニューロン、初代ニューロン組織から単離された細胞、ミクログリア、グリア細胞、星状細胞、オリゴデンドロサイトなどを含み、又はニューロンに由来する。本明細書で使用される場合、「ニューロン由来」とは、最初にニューロン組織から単離され、初代ニューロン細胞から形質転換されて1以上の不死化因子、例えばhTERT、又はニューロン組織中に発見された不死化細胞株を発現する任意の細胞を指す。いくつかの実施形態において、細胞は、E18海馬ニューロンである。
【実施例
【0087】
以下の実施例は例示的なものであり、クレームされた主題事項の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0088】
実施例1-Aβ42処理ニューロンへのAβO結合に対するNU-9の効果
アミロイドβペプチドで処理したニューロンでは、(S)-5-(1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)エチル)シクロヘキサン-1,3-ジオン(NU-9)は結合アミロイドβオリゴマーの数を減少させる。アルツハイマー病モデルマウスにおいて、この化合物は記憶喪失を緩和した。NU-9は、他の凝集種と同様に、毒性アミロイドβオリゴマーの蓄積を阻害する。
【0089】
NU-9は、神経突起に結合したアミロイドβオリゴマーの数を減少させる。細胞培養中の初代ラット海馬ニューロンをNU-9で30分間前処理し、次にアミロイドβ1-42(Aβ)モノマーで処理した。Aβモノマーを24時間(図1及び2)又は30分(図3)適用した後、この化合物による前処理は24時間後にニューロンに結合したアミロイドβオリゴマー(AβO)の数を劇的に減少させた。AβO形成に対するNU-9の用量反応効果を特徴づけるために、細胞をNU-9の増量(3、15、及び30μM)で前処理し、その後30分間Aβで処理した。画像の視覚的解析では、高用量のNU-9でアミロイドβがより大幅に減少した(図4)。
【0090】
細胞の非存在下では、NU-9はAβO形成に影響を及ぼさない。細胞非存在下でNU-9をAβモノマーと24時間混合したところ、AβO形成に変化は認められなかった(図5)。これは、NU-9が細胞ベースのメカニズムを介して作用することを示している。次に、細胞培養の条件に近い条件を用いて追跡実験を行った。カバースリップを、細胞培養のための通常通り、ポリ-D-リジンで被覆し、次に培地を用いて培養皿に置いた。細胞を添加しなかった。次に、3μMのNU-9及び500nMのAβOを30分間添加した。このアッセイでは、以前の結果が再現された。細胞なしでは、NU-9はAβO形成に影響を及ぼさなかった(図6)。
【0091】
アルツハイマー病のマウスモデルを用いた予備実験において、NU-9は記憶喪失を防いだ。12匹の5×FADマウスを、遅発性バックグラウンドで飼育した。これらの動物に、溶媒対照又はNU-9のいずれかを1ヵ月間、毎日強制経口投与(20mg/kg)した。対照群では、すべての動物が記憶タスクに失敗し、新規物体に対する好みを示さなかった。治療群では、4匹中3匹のマウスが記憶喪失から保護され、新規物体を好むことが示された(図7)。
【0092】
参考資料:
【0093】
【化6】
【0094】
実施例2-NU-9がAβOの形成とニューロンへの結合に影響を与えるメカニズムの研究
アミロイドβモノマー(500nM、30分間又は24時間)で処理する前にニューロンにNU-9(3μM、30分間)を添加すると、アミロイドβモノマー単独で処理した場合と比較して、シナプスでのアミロイドβOが著しく減少した。この結果を3つの別々の実験で再現した。減少率は81%であった(p=0.0005)。NU-9の効果をさらに特性化し、この効果の潜在的な候補メカニズムを絞り込んだ。
【0095】
最初に、NU-9の効果が細胞を必要とすることを示す以前の実験に拡張した。NU-9で細胞を前処理すると、Aβ単量体を添加する前にNU-9を洗い流した場合でも、樹状突起に結合したAβOが減少することが観察された(図8)。加えて、未処理細胞によって生産された馴化培地を収集し、培地にNU-9(3μM、30分間)を添加しても、Aβモノマー(500nM、30分間)から形成されたAβOの数は減少しないことを見出した(図9、p=0.4)。また、3μM NU-9で30分間処理した細胞によって産生された馴化培地を採取したところ、この培地は細胞非存在下でAβモノマーから形成されたAβOの数を減少させなかった(p=0.06)。ドットブロット分析において、AβモノマーへのNU-9の添加は、新鮮培地(p 0.85、3μM、30μM、0.18、300μM)又は馴化培地(p 0.88 NU-9+Aβ、細胞+Aβ中のNU-9由来培地の0.54)においてAβO形成を直接低下させなかった(図10)。この実験に基づいて、NU-9は細胞外AβO形成を阻害しないと結論した。興味深いことに、NU-9はアミロイドβとの直接的な相互作用や、アミロイドβ分解プロテアーゼの分泌を誘導したり、シャペロンの分泌を誘導してアミロイドβ単量体を安定化させたりすることはない。代わりに、NU-9は細胞膜又は細胞内で作用する。
【0096】
Pittらの以前の発表は、アストロサイトが、ニューロンシナプスからのAβOの放出を引き起こす、インスリン及びインスリン様増殖因子を放出することによって、AβOに対するニューロンの保護を与えることを示した。しかし、我々は以前に、NU-9がAβ単量体で処理したニューロンへのAβOの結合を減少させるが、前駆体AβOで処理したニューロンでは結合を減少させないことを見出した(図11)。このことは、NU-9がAβO放出を誘導することによってAβO結合を阻害しないことを示唆する。さらに、NU-9は、AβO結合に対する直接的な干渉、又は結合受容体の内在化の誘導によって作用しないことが示唆される。
【0097】
次に、NU-9がAβOのプロテアソーム分解を活性化しないことを示す結果に基づいて拡大した。我々は以前、プロテアソーム阻害がAβモノマー処理ニューロンによって産生されるAβOの数を増加させないことを見出し、プロテアソーム活性化が、NU-9が作用するメカニズムではないかもしれないという仮説を支持した。これを追跡するために、ニューロンをNU-9(3μM、30分間)で処理し、続いてアミロイドβモノマー(500nM、30分間)で処理し、ドットブロットにより総アミロイドβ種を観察した。しかし、総Aβ抗体(6E10)は、細胞培養培地との非特異的相互作用を示した。そこで、ドットブロット法を用いる代わりに、免疫蛍光法を用いて、総アミロイドβ種についてニューロンを標識した。このプロトコールを用いて、抗体と細胞培養培地との相互作用を避けることができ、特異的な標識を可能にした。免疫蛍光法を用いて、NU-9はニューロン培養で観察される総アミロイドβ種を減少させないことがわかった(図12、粒子についてp=0.9、IntDenについてp=0.4)。
【0098】
NU-9の有効性に対するリソソーム阻害の効果。細胞をまずリソソーム阻害剤(100nMバフィロマイシンA、30分間)、次にNU-9(3μM、30分間)、最後にAβモノマー(500nM、30分間)で処理した。次に、樹状突起に結合したAβO点を定量した。リソソーム阻害剤の非存在下でのNU-9処理はニューロン結合AβOの形成を軽減したが(p=2.6E-5)、リソソーム阻害剤の存在下でのNU-9処理はそのようなことができなかった(p=7.0E-6)(図13)。さらに、NU-9非存在下でのAβ及びリソソーム阻害剤による処理は、Aβモノマー単独による処理と比較して、有意に多くのニューロン結合性AβOの形成をもたらさなかったことから、リソソーム阻害はAβOを増加させず、化合物NU-9の効果を阻害するためにのみ作用することが示唆された。
【0099】
この結果は、NU-9が、リソソームがニューロン結合AβOを形成する代わりに非結合AβOの形成を促進する機構に作用することを示唆する。これはリソソームの酸性化が促進されたためと考えられる。Paredes-Rosanらは、より低いpH(≦5)では、より高い分子量のAβOよりも低い分子量のAβOがより安定であることを示した。一般に、高分子量オリゴマーは、ニューロンと強力に結合することが見出され、一方、低分子量オリゴマーは、そうすることができない。したがって、リソソームの酸性化は、ニューロン結合AβOの形成に対するNU-9の効果の合理的なメカニズムである可能性がある(図14)。
【0100】
将来、Lysotracker又は蛍光リソソーム基質は、NU-9によって誘導されるリソソーム活性の潜在的変化を測定するために使用されるであろう。AβOによって誘導されるシナプス棘の喪失に対するNU-9の作用に対処するために、以前に確立されたシナプス棘アッセイは、細胞脆弱性のマーカーの同時染色によって、又は潜在的にはドレブリン抗体のような他のシナプスマーカーを用いることによって、AβO誘導毒性に対する細胞の応答性を試験することによって最適化されるであろう。次に、スパインアッセイを用いて、AβO誘発毒性に対するNU-9の効果を決定する。
【0101】
参考文献:
【0102】
【化7】
【0103】
実施例3-NU-9がニューロン結合性AβO形成を抑制するリソソーム依存性メカニズムの特徴
このさらなる例において、著者らの焦点は、Aβ単量体(500nM、30分間又は24時間)の前にニューロンにNU-9(3μM、30分)を添加することによって、Aβ単量体単独での処理と比較して、シナプスでのAβOの55~80%の減少を引き起こすリソソームメカニズムを特徴付けることであった(3実験にわたるp=0.001~0.0005)。第1に、NU-9をAβモノマー添加前にウォッシュアウトしてもこの効果が維持されたこと、第2に、細胞を含まない培地では、NU-9はAβモノマーから形成されるAβOの数を減少させなかったこと(p=0.4)、第3に、NU-9で処理された細胞によって産生される馴化培地は、細胞の非存在下でAβモノマーから形成されるAβOの数も減少させなかったこと(p=0.06)を示した実験は、この効果のメカニズムが細胞内又は細胞膜に位置するという結論を支持している。
【0104】
さらに、NU-9はニューロン培養で観察される総アミロイドβ種を減少させず(p=0.4)、ニューロンにアミロイドβモノマーを塗布する前にニューロンをNU-9で処理しても、非結合性の細胞外AβOの数は減少しなかったが、実際には非結合性のアミロイドβOの数は2倍に増加した(p=0.003)ことから、NU-9はアミロイドβモノマー又はオリゴマーの分解を促進することなく、ニューロン結合性アミロイドβO種の形成を変化させることによって、又は細胞表面からアミロイドβO結合標的を除去することによって作用することが示唆された。最後に、NU-9の効果はリソソーム酸性化を必要とし、リソソーム酸性化阻害剤(バフィロマイシンA、p=7.0E-6)の存在下で消失した。これらの結果はすべて、NU-9がリソソーム依存性機構を介してニューロン結合AβO種の形成を抑制するという仮説を支持する。このメカニズムは、より毒性が高く、高分子量のAβOが不安定な1~3である低pHに直接的に起因する可能性がある。あるいは、NU-9によるリソソームカテプシンの活性化に起因している可能性があり、NU-9はAβ凝集にも影響を及ぼし、リソソームのpHが低4-7の場合に最も活性を示す。
【0105】
発明者らは、まず、NU-9がニューロンへの予め形成されたAβOの結合に影響を及ぼさないことを検証した。もしNU-9が既成のAβOに何らかの影響を及ぼしていれば、NU-9がNKAα3又はPRPなどのAβO結合標的を神経細胞膜8-10から除去するという別の仮説が支持されるであろう。これらの実験では、視覚的及び予備的定性的分析により、NU-9(3μM、30分間、30分間)が予め形成されたAβO(200及び500nM、30分間、図15)の結合に影響を及ぼさないことが確認された。これらの実験は、NU-9が、あらかじめ形成された結合能力のあるAβOの結合を妨げるだけでなく、ニューロン結合性AβOの特定の種の形成を抑制するという結論をさらに支持している。
【0106】
NU-9の効果がリソソーム酸性度に依存することを示す実験結果も検証した。今回の実験でこの結果の複製を観察した(図16)。以前と同様に、NU-9(3μM、30分間の前処理)はAβモノマーで処理したニューロンに結合したAβOを有意に減少させ(500nM、30分間)、リソソーム酸性化阻害剤(バフィロミシンA、100nM、NU-9の30分前)の存在はNU-9の効果を抑制した(p2.55E-5、0.008)。この結果は、NU-9の機能に対するリソソーム酸性度の重要性を強調する。
【0107】
NU-9のリソソーム依存性効果が重要なリソソーム酵素、システインカテプシン、システインカテプシン阻害剤の機能に依存するかどうかを試験するために、システインカテプシン阻害剤を使用した。最初に、成熟海馬ニューロンをシステインカテプシン阻害剤E64(10μM、24時間)、次にNU-9(3μM、30分間)、最後にAβモノマー(500nM、30間分)で処理した。予想通り、NU-9はニューロン結合AβOの形成を有意に減少させた(p 0.005)。E64はNU-9の有効性を有意に変化させなかった(p 0.8、図17)。異常に、E64単独でも結合AβOの数が有意に減少した(p 0.01)。E64とNU-9の効果は相加的ではなく、それらが同じメカニズム内で作用することを示唆した。しかし、リソソームの酸性度に対するNU-9の依存性は、それがシステインカテプシン阻害剤でもないことを示唆している。この結果に基づいて、NU-9は特定のシステインカテプシンのアクチベーターであり、E64と同じクラスの標的に対して異なる機構で作用する可能性がある。NU-9は、リソソームへの運搬のために、リソソームの酸性化、又はエンドソームによるアミロイドβの取り込みを単に活性化するだけである可能性もある。
【0108】
NU-9がエンドリソソーム酸性度を増強するかどうかを決定するために、Lysotrackerを用いたリソソーム活性アッセイの最適化も開始した。Lysotrackerは、酸性コンパートメントに優先的に取り込まれ、酸性度の増加に伴ってより強く蛍光を発する蛍光色素であり、リソソーム活性化のアッセイに一般的に使用される11-14。我々は、Lysotrackerを用いた75nM、30分間のインキュベーションを用いて、成熟ニューロンにおいて明確なリソソーム活性依存性シグナルが観察されることを見出した(図18)。50nM、Lysotrackerとの2時間インキュベーションを用いた場合にも、リソソーム活性依存性シグナルの強度は低かった。撮像前に細胞を固定すると、シグナルの重度の喪失が生じた。Lysotrackerの最適化を完了させるために、リソソーム活性化因子トルキニブを用いてリソソーム活性化が観察されるかどうかを決定する。
【0109】
この四半期の別の研究分野は、AβOの異なるサイズの形成に対するNU-9の影響であった。動物モデル及びヒト試料からのエビデンスは、いくつかの種のAβOは他の種よりも毒性が高く、特に高分子量オリゴマー(>50kDa)が最もAD関連種を含む可能性があることを示している15-16。NU-9が高分子量AβOsの形成を減少させるかどうかを調べるために、50及び100kDaの分子量カットオフフィルターを用いていくつかの実験を行った。しかし、異なるブロットから相反する結果が得られた。1件の実験では、小型種(<50kDa)の増加に伴い、50~100kDaの種の減少が観察された。別の実験では、小型種(<50kDa)を除いて、ほとんどの種で減少が観察された。これらの実験では、十分な生物学的複製と完全な混合が重要である。これらの実験は将来再検討されるかもしれないし、標的とするAβOのタイプの問題はプロテオミクスによって解決されるかもしれない。
【0110】
参考文献:
【0111】
【化8】
【0112】
【化9】
【0113】
【化10】
【0114】
実施例4-NU-9はリソソーム依存性機構を介して作用する
この実施例では、本発明者らはさらに、ニューロン上のAβO形成及び蓄積を防止するためのNU-9の作用メカニズムを調査する。
【0115】
NU-9は海馬ニューロンへのAβOの結合に影響を及ぼさなかった。この結果は、NU-9はあらかじめ形成されたAβOの結合を妨げるのではなく、AβOの形成と蓄積の明確な細胞メカニズムを妨げるという結論を支持するものである(図19)。
【0116】
この実験では、NU-9がAβモノマーの適用前にNU-9を洗い流した場合でも、NU-9が樹状突起に結合したAβOの数を減少させることが観察された。この結果は、NU-9の細胞機構を支持している(図20)。
【0117】
NU-9は、結合していない細胞外AβOの数を変化させず、毒性の細胞結合種の蓄積に特異的な影響を示唆していた(図21)。
【0118】
100nMのMG132を用いたプロテアソーム阻害は、AβOの形成又はNU-9によるAβO蓄積の減少に影響を及ぼさなかった。このことは、NU-9がプロテアソーム依存的には作用しないことを示唆している(図22)。
【0119】
ヴァクロリン-1によるリソソーム成熟とエキソサイトーシスの阻害はNU-9の有効性を妨げた。このことは、NU-9がリソソーム依存性機構を介して作用するという結論を支持している(図23)。
【0120】
NU-9の30分間の処理後、酸性リソソームを示すLysotrackerの統合蛍光密度は変化しなかったが、対照バフィロマイシンAの添加で有意に減少した。リソソーム数、サイズ、及び酸性度はNU-9で変化しなかった。これらの結果は、NU-9はリソソーム数又は酸性度を変化させることによって作用しないという結論を支持している(図24)。
【0121】
NU-9を添加する前に、ニューロンにカテプシンB阻害剤である10μMのCA-074を24時間添加すると、NU-9の効果が妨げられた。このことは、ニューロンへのAβO蓄積を減少させるNU-9の効果がカテプシンB依存性であるという結論を支持している(図25)。
【0122】
0.0003~150μM NU-9の効果は、精製カテプシンL酵素によるZ-FR-AMCからの7-AMCの産生速度で測定したカテプシンL活性には認められなかった。このアッセイでは、標準阻害剤Z-FY-CHOは同じ濃度範囲でカテプシンL活性を低下させた。この結果は、NU-9はカテプシンLを直接阻害しないという結論を支持するものであり、NU-9は海馬ニューロン培養で測定された細胞内カテプシンL活性を調節することも観察されなかった(図26)。
【0123】
カテプシンLの阻害は、NU-9の効果を模倣してAβO蓄積を防止する。ニューロンを、最初に10μMのカテプシンL阻害剤Z-FY-CHO(別名SB-412515、10μM)で1時間、次に3μMのNU-9で30分間、最後に30分間~500nMのAβで前処理した。カテプシンL阻害剤治療は、NU-9の効果を模倣した(p<0.0001)(図27)。この傾向は、別の細胞培養を用いた追跡実験で再現された。
【0124】
精製カテプシンB酵素の活性(Z-RR-AMCの7-AMCへの切断)に対するNU-9(0.0003~30μM)の最小効果が観察された。酵素活性の明瞭な阻害は、標準カテプシンB阻害剤CA-074の同じ濃度範囲にわたって観察された。この結果は、NU-9はカテプシンBを直接活性化しない可能性があるという結論を支持する。細胞ベースのアッセイでは、NU-9は海馬ニューロンのカテプシンB活性を変化させることは観察されなかった(図28)。
【0125】
カルパイン阻害はNU-9の効果を模倣するかもしれない。NU-9及びAβO蓄積の有効性に対するカルパイン阻害の効果を試験するために、特異的阻害剤MDL-28170を使用した。10μM MDL-28170を成熟海馬ニューロンに30分間適用し、次に3μM NU-9を添加し、最終的に500nM Aβ42を導入した。
カルパインの阻害は、NU-9の効果を模倣し、AβO蓄積も減少させることが観察された(p<0.0001)(図29)。カルパインとカテプシンLの両方によるAβO蓄積の減少は、AβO蓄積がこれらの細胞内システインカテプシンの活性に依存するという結論を支持する。
【0126】
本実施例はまた、NU-9と比較することによってアミロイド-βオリゴマー化を調節する候補化合物を検出する能力を示す。
【0127】
結論として、本発明者らは、NU-9がニューロンへのAβO結合を妨げることによってAβO毒性を低下させず、むしろNU-9が細胞のリソソーム依存性機構を介して作用してAβO毒性を予防することを発見した。
【0128】
前述の説明において、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、本明細書に開示される本発明に対して様々な置換及び改変を行うことができることは、当業者には容易に明らかであろう。本明細書に例示的に記載された本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素、要素、制限又は制限が存在しない場合に実施することができる。使用されてきた用語及び表現は、説明の用語として使用され、限定の用語として使用されず、このような用語及び表現の使用において、図示及び説明された特徴又はその一部の等価物を排除する意図はないが、種々の修正が本発明の範囲内で可能であることが認識される。従って、本発明は、特定の実施形態及び任意の特徴によって説明されているが、本明細書に開示された概念の修正及び/又は変形は、当業者によって利用され得、そのような修正及び変形は、本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0129】
多数の特許及び非特許文献への引用は、本明細書において行うことができる。引用された参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。引用文献中の用語の定義と明細書中の用語の定義との間に矛盾がある場合、その用語は明細書中の定義に基づいて解釈されるべきである。
図1
図2
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図5A
図5B
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図10-2】
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図28-2】
図29-1】
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【配列表】
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【国際調査報告】